「桜」のあれこれ

1 日本人に愛されてきた「桜」

日本に現存する最古の歌集である万葉集にも桜を詠んだ歌が残されており、古くから人々の生活の中に桜があったことが分かります。

しかし、当時、桜より好まれていたのは、現在の中国より伝来した梅でした。

平安時代に入ると、支配者階級の儀式などで桜が好まれるようになりました。そして812年、嵯峨天皇(さがてんのう)が行幸した平安京の神泉苑において、日本で初めて天皇の観桜の宴が行われたといわれます。その後、桜をめでるという習慣は宮中から公家や武家、そして庶民へと広がり、桜は春の花の代名詞となります。

以来、日本人と桜の間には特別な関係があります。本稿では、「花見」のほか、「和歌」「絵画」など桜にまつわる文化について紹介します。

2 桜といえば、やはり「花見」

1年のうち、わずかな時間しか花を咲かせない桜。その桜を眺めながら、家族や仲間などが集まり、食事やお酒を楽しむ花見は、春のイベントの中では一番のメジャーどころかもしれません。

かつて、花見を行うのは貴族や武士など特権階級に限られていました。しかし、江戸時代になると、庶民の間にも花見を行う風習が広まります。江戸の代表的な桜の名所といえば上野でしたが、徳川家の菩提寺・寛永寺の境内であるため、酒を飲んで大騒ぎする場所としては不適切でした。そこで、8代将軍徳川吉宗は飛鳥山(現在の東京都北区にある飛鳥山公園)に千株以上の桜を植樹させ、行楽地として庶民に開放しました。

飛鳥山での花見では飲酒、仮装、唄、踊りなどが許可されたため、多くの庶民が集い、思い思いに花見を楽しんだといわれています。

3 「和歌」「絵画」「食文化」

1)和歌

古来、桜は多くの和歌に詠まれてきました。それらの中でも有名な歌としては、以下のものなどが挙げられます。なお、訳には諸説があります。

・「世の中に たえて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし」
(訳:もし世の中に桜がなければ、春はどんなにのどかに過ごせるだろう(桜があれば、散ってしまうことが心配になるため))(在原業平)

・「願はくは 花のしたにて 春死なん そのきさらぎの 望月の頃」
(訳:満開の桜の下、釈迦が入滅した2月15日頃に死にたいものだ) (西行)

桜の柔らかく、儚(はかな)い美しさには、日本人の美意識に強く訴えかける「もののあわれ」があります。このため、多くの歌人に好まれました。また、「潔く散る姿」には、武士の生き方の理想が表れているとされ、武士にも愛されました。

2)絵画

絵画の分野では、我が国独自の大衆美術として、江戸時代前期に浮世絵が誕生しました。当初、浮世絵は、役者を描いたものが多く見られましたが、その後、旅の様子や風景など、さまざまな光景が描かれるようになりました。

のちに大家といわれるようになった作家の作品にも、「八重桜に小鳥」(歌川広重) 、「鷽(うそ)に垂桜(しだれざくら)」(葛飾北斎) といった桜をモチーフとした作品が残されています。しかし、浮世絵と桜の結びつきはそれにとどまりません。実は、浮世絵の版木は桜の木から作られているのです。江戸時代より、浮世絵版画を制作する際の板は、通常、ヤマザクラの木が用いられています。ヤマザクラの木はとても堅いため、細い線を彫ることができ、また大量に刷っても摩耗しにくいという性質があります。このため、浮世絵の制作にはヤマザクラが欠かせないものとなっています。

3)食文化

桜は食文化とも深いつながりを持っています。桜を用いた食べ物といえば、塩漬けの桜の葉で餡(あん)入りの餅をくるんだ桜餅が有名です。また、塩漬けにした桜の花に湯を注いだ桜湯は、主に祝いの席などで飲まれます。最近では、桜を使ったアイスクリームやゼリー、ジャムなども登場しています。

多くの場合、桜に関する食べ物は、桜の持つ気品ある明るい色合いから祝いの象徴として用いられます。

桜餅

以上(2023年3月)

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【文例付き】中堅社員の成長を促す経営者のメッセージ

書いてあること

  • 主な読者:入社3~5年目の中堅社員を一段バージョンアップさせたい経営者
  • 課題:中堅社員の成長を促すための、経営者の思いがなかなか伝わりにくい
  • 解決策:中堅社員に何を期待するのかを明確に示す。伝え方は、自らの失敗談や身近な話、ことわざ、漫画のエピソードなどを引用して、親しみやすく具体的な事例を交える

1 中堅社員の成長が会社のこれからを決める

皆さんの会社の中堅社員は頼れる存在に育っていますか? 中堅社員の成長は、会社の今後に影響します。その理由は、主に4つ挙げられます。

  • 会社の戦力の底上げを図るためには、中堅社員の「伸びしろ」が重要になる
  • 中堅社員は、ベテラン社員と若手・新入社員とのつなぎ役として欠かせない
  • 中堅社員と年齢などが近い若手・新入社員の成長にも影響する
  • これから先、今の中堅社員が会社を動かす幹部になる可能性がある

自分で仕事を回せるようになってきた中堅社員に対して、細かくあれこれ口出しするようなメッセージの伝え方は反発を招きかねません。経営者のメッセージは、テーマを絞って、

経営者が伝えたい思いや、中堅社員に期待していることを明確

にする必要があります。

また、メッセージを伝える際は、単なるお説教にならないよう、自らの失敗談、身近な話、ことわざ、漫画のエピソードなど、親しみやすく具体的な事例を交えるとよいでしょう。

この記事では、中堅社員の成長を促す経営者のメッセージの例を紹介します。

2 「自分で考え行動する」ことを伝える

会社のこれからを担う中堅社員を成長させるには、若手・新入社員の頃のように、上司に言われた業務をこなすだけの状態から変わる必要があります。経営者は中堅社員に、「会社と自身の成長のために、自分で考えて行動する」ことを伝えましょう。この思いを伝えるには、中堅社員が失敗を恐れずに行動できるように、その背中を押す内容が好ましいです。

ただし、単に「自分で考えて行動せよ」と言うだけでは、中堅社員は何をしてよいか分かりませんし、“上から目線”と感じるかもしれません。そこで、経営者自身の失敗談なども織り交ぜながら、中堅社員に勇気を与えることが大切です。

【文例:自らの失敗談を交えて「自分で考え行動する」ための背中を押すメッセージ】

若い頃、私はたくさんの失敗をしました。特に忘れられないのは、マニュアル通りの対応しかせず、お客さまに嫌な思いをさせてしまったことです。言われたことだけをやればいいと考えていた私は、お客さまをきちんと見ていなかったのです。

このときから私は、「本当にお客さまが望んでいることは何か」をしっかり考えて行動しようと決心しました。そこで、当時の上司に直談判し、月に1度はお客さまに必ず会いに行って直接話を聞くことを徹底したのです。

中堅社員の皆さんも同じです。日ごろ仕事で、「もっとこうしたほうがよいのでは」と思うことや、「こうすればよかったかもしれない」と悔やんだことがきっとあるはずです。そうしたことは声に出し、ぜひ自ら実践してみてほしいのです。

3 「周りのことを考える」ことを伝える

中堅社員は、ベテラン社員と若手・新入社員とのつなぎ役として貴重な存在です。ですから、自分や目の前のことだけでなく、周りのことも考えるようにしてもらいたいものです。

こうした場合は、「お客さまに対するのと同じような丁寧さで、次工程の担当者が仕事を進めやすいようにする」という趣旨の「次工程はお客さま」など、中堅社員にとっても身近な事例を用いるとよいでしょう。

【文例:分かりやすい身近な例から「周りのことを考える」ことを伝えるメッセージ】

後輩は、皆さんが思っている以上に、皆さんの仕事ぶりから学ぼうとしています。皆さんが「次工程はお客さま」と思って丁寧に仕事をしていれば、後輩もそれに倣うでしょう。特に離れた場所で仕事をしているリモートの場合、「次工程はお客さま」という思いで丁寧に仕事をしているか否かは、すぐに分かります。皆さんは後輩に対して、「自分と同じようにやればいい」と自信を持って言えますか?

4 「教えることが自分の学びにつながる」ことを伝える

若手・新入社員は、自分と最も年齢の近い中堅社員の後ろ姿を常に見ていますし、中堅社員を相談相手に求めるケースも多いでしょう。新入社員の離職率を下げるためにも、中堅社員の存在は重要です。中堅社員にとっても、後輩の面倒を見る経験は、部下を持つ立場になったときに必ず役立ちます。

そこで、ともすれば自分の仕事にかかりきりになりがちな中堅社員に対して、後輩の面倒を見ることの重要さを伝えましょう。押し付けがましくならず、自発的に若手・新入社員に接してもらえるように、ことわざを使うことも1つの方法です。

【文例:ことわざを使って、教えることが自分の学びにつながることを伝えるメッセージ】

皆さんは、「教えるは学ぶの半ば」という言葉を知っていますか? 教えるということは、自分が学ぶことにもなるという意味です。英語でも「teaching is learning twice」(教えることは2度学ぶこと)という言葉もありますので、世界共通の認識といってもよいでしょう。

皆さんはこの言葉を忘れずに、ぜひこれまで身に付けてきた知識やノウハウを、積極的に若手・新入社員に教えてあげてください。自分では「何となく分かっているつもり」でも、他人に教えられない程度しか理解していないのであれば、役には立ちません。自分の身に付けてきた知識やノウハウを本当に使える武器にするために、周りに教えることで学んでいってください。

5 「将来の自分の姿をイメージする」ことを伝える

今の中堅社員はこれから先、会社を動かす幹部になる人たちです。今から将来の自分の姿をイメージすることで、長期的な視点で「自分には何が足りないのか」「今、何をすべきか」を考えることができるようになります。

とはいえ、若い世代の人たちに、自分の今後の姿を想像してもらうのは難しいものです。そこで、難しい話をするときほど、親しみやすい事例を用いてみてはいかがでしょうか。人気の漫画のエピソードを引用してみるのも手です。

【文例:漫画を引用して、将来の自分の姿をイメージすることを伝えるメッセージ】

皆さんの中のほとんどの人は、人気漫画「One Piece」をご存じでしょう。主人公は、事あるごとに「海賊王に、俺はなる」と宣言します。漫画の主人公は数多くの試練を味わいますが、この主人公は自分自身が海賊王になることをイメージできているので、その試練に立ち向かうことができるのだと私は思います。

皆さんも、周囲に宣言する必要はありませんが、自分が将来、何になりたいのか、なって何をしたいのかをイメージする癖をつけてみてください。自分のイメージを持っている人といない人とでは、日々の仕事に対する取り組み方が違いますし、成長のスピードも大きく変わるものです。何より、毎日が楽しくやりがいのあるものに感じられるでしょう!

以上(2023年2月)

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幕末・明治に活躍した勝海舟。いつでも大局を見据えて行動した彼の、物事に固執しない価値観が表れた一言とは?

主義だの、道だのといって、ただこればかりだと、極(き)めることは、私は極く嫌いです

勝海舟(かつかいしゅう)は、江戸時代には幕臣でありながら、明治維新後の新政府でも要職に就いた政治家です。明治維新の際には西郷隆盛との直談判によって江戸城の無血開城を実現させるなど、政権の円滑な移行に尽力し、欧米列強による侵略から日本を守るのに貢献しました。

幕末から明治維新にかけては、倒幕派、佐幕派、公武合体派、開国派、攘夷(じょうい)派など、幕府や諸藩のみならず、同じ藩内でもさまざまな考えを持つ人が入り乱れ、対立し、多くの血が流れました。そんな中で海舟は、日本を欧米列強による侵略から守るということを最優先し、国内での衝突を最小限に抑えるという、大局的な観点で日本の将来を考えることができた数少ない人物だったといえます。冒頭の言葉は、海舟にそれを可能にした大きな要因といえるでしょう。

「主義」とは、「こうあるべきだ」という理想、「道」とは、「このようにすべきだ」という方法論といえ、いずれも「価値観」に含まれる要素です。これらの価値観を絶対的なものだと決め付けてしまうことは、組織にとって押し付けと固執という、2つの弊害を生んでしまいます。

組織のメンバー全員の価値観が同じということは、現実的にあり得ません。1つの価値観を無理に押し付けようとすると、反発する人も出るでしょう。だからといって異なる価値観を持つ人を組織から排除してしまっては、多様な人材は集まりません。いずれにしても、多様な価値観を認められない組織は、組織として成立しません。

かつては、強力なリーダーシップを発揮して、自らの掲げる価値観をメンバーに浸透させた「カリスマ」が数多くいました。ですが、今は社会の価値観が多様化し、急速に変化している時代です。無理にメンバーの価値観をそろえて仮に能率が上がったとしても、個性が失われ、持ち味を活かせない機会損失のほうが大きいかもしれません。

また、1つの価値観に固執した組織は、その価値観が陳腐化した際に対応できないという弱点があります。新たな価値観を取り入れられる柔軟性と多様性を持たない組織は、長くは持ちません。

組織やトップが固執すべきなのは、最終ゴール、言い換えれば最も大きな理念だけです。そのゴールの認識さえ一致していれば、組織のメンバーそれぞれの主義や道などの価値観は、互いに認め合い、尊重するべきです。海舟であれば、ゴールは「日本を守る」ということでした。旧幕臣でありながら、明治政府にも参加した海舟を「変節漢」と呼ぶ声もありましたが、海舟からすれば、それも日本を守るため。主義や道にとらわれて、本当に大事なことを守れなければ、本末転倒です。

企業で働く社員には、一人ひとりに生きる上での理想があり、理想に基づいた働く目的があり、働く目的に基づいた働き方があります。企業を成長させ、永続させるというゴールさえ一致していれば、協力し合えるはずです。

出典:「海舟座談」(勝海舟述、巌本善治編、岩波書店、1983年2月)

以上(2023年2月)

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【役員報酬】生命保険を活用した役員退職金の準備方法

書いてあること

  • 主な読者:生命保険を使って役員退職金の準備をしたい経営者
  • 課題:具体的な商品の特徴や税務上のルールを知りたい
  • 解決策:生存退職金と死亡退職金に対応し、退職時期もイメージしながら決定する

1 事前に準備をしないと経営を圧迫する

役員退職金は多額なので、事前に支払い準備をしておかなければなりません。それは、

退職時に準備をせずに払ったり、借入金で賄ったりすると、自社の経営を圧迫するケースがある

からです。それに、根拠なく勝手に決めると、税務上で否認される(損金に算入できない)恐れがありますし、そうした前例をつくることはガバナンス的にも好ましくありません。

役員退職慰労金には、生存しているうちに本人が受け取る「生存退職金」と、在任中に亡くなった場合に遺された家族が受け取る「死亡退職金」とがあり、この点も考慮しておく必要があります。

この記事では、中小企業で一般的な生命保険を活用した準備方法についてご紹介します。生命保険を活用すると、契約内容にもよりますが、保険料の一定割合が損金算入できるなどのメリットがあります。

2 生命保険を活用した準備

1)定期保険

定期保険は、

一定期間内に被保険者が死亡した場合に死亡保険金が支払われるもの

です。保障期間の満期時の満期保険金はありません。

契約形態が、

  • 契約者:法人
  • 被保険者:役員
  • 死亡保険金の受取人:法人

の場合、支払保険料の税務上の取り扱いは、解約返戻率がピークに達するときの割合(最高解約返戻率)によって次のように異なります。

定期保険の税務上の取り扱い

2)第三分野保険

第三分野保険は、

医療保険、がん保険、介護保険などが該当し、被保険者が病気やけがをした場合に保険金・給付金が支払われるもの

です。定期保険と同様に保障期間の満期時の満期保険金はありません。

支払保険料に対する税務上の取り扱いは、保険の種類によって次のように異なります。

  • 定期:定期保険と同じ取り扱い
  • 終身(全期払い。保険料を一生涯払い続けるもの):定期保険と同じ取り扱い
  • 終身(短期払い。保険期間よりも短い期間で保険料の支払いが終了するもの):年間保険料によって異なる

定期保険と取り扱いが異なる終身(短期払い)のものに係る税務上の取り扱いは、次の通りです。

第三分野保険(終身、短期払い)の税務上の取り扱い

3)養老保険

養老保険は、

被保険者が死亡した場合は死亡保険金、保険契約期間が満期となった場合は満期保険金が支払われるもの

です。途中解約の場合は解約返戻金が支払われます。契約時に設定した保険金額がそのまま満期時の受取金額(満期保険金額)となるので、何年後にいくら受け取れるかが明確です。生存退職金と死亡退職金のいずれにも備えることができます。

通常、養老保険の保険料は全額を資産計上しますが、契約形態が、

  • 契約者:法人
  • 被保険者:役員・従業員全員(普遍的加入)
  • 死亡保険金の受取人:被保険者の遺族
  • 満期保険金の受取人:法人

の場合、福利厚生費として支払保険料の1/2を損金算入できます。

一方、養老保険を使って役員退職慰労金(生存退職金)の準備をする場合、役員の退職時期が当初の予定より延期されると、会計上、満期保険金(保険料積立金等の資産計上額を取り崩して受け取った保険金との差額)は収益(益金)となります。

養老保険の支払保険料の取り扱いは次の通りです。

【養老保険の支払保険料の取り扱い】

法人が契約者となり、役員又は使用人を被保険者とする養老保険に加入して支払った保険料は、保険金の受取人に応じて次の通り取り扱われます。

1.死亡保険金及び生存保険金の受取人が法人の場合

その支払った保険料は、全額資産に計上します。

2.死亡保険金の受取人が被保険者の遺族、生存保険金の受取人が被保険者の場合

その支払った保険料は、被保険者である役員又は使用人に対する給与として損金に算入します。ただし、役員給与には、損金算入に関する種々の制約があるので注意が必要です。なお、給与とされた保険料は、その役員又は使用人の生命保険料控除の対象となります。

3.死亡保険金の受取人が被保険者の遺族、生存保険金の受取人が法人の場合

その支払った保険料のうち、1/2に相当する金額は資産計上し、残り1/2に相当する金額は期間の経過に応じて損金に算入します。ただし、役員又は部課長その他特定の使用人のみを被保険者としている場合には、それぞれ役員又は使用人に対する給与になります(給与とされた保険料の取り扱いについては上記2.と同様となります)。

なお、持病で養老保険に加入できない場合や、「入社半年以上の社員」など客観的で合理的な基準に基づく制度導入の場合は、普遍的加入とみなされます。基準については、顧問税理士や保険会社担当者などに相談するとよいでしょう。マイナス金利が導入された現在、養老保険は必ずしも有利な選択ではなくなってきました。払い込んだ保険料と比べて、満期保険金のほうが少ないことがほとんどです。

(注)傷害特約などの特約があり、その特約部分の保険料の額が生命保険証券などで区分されている場合は、その特約部分の保険料の額を期間の経過に応じて損金の額に算入します。ただし、役員又は部課長その他特定の使用人のみを傷害特約等に係る給付金の受取人としている場合には、その特約部分の保険料の額は、その役員又は使用人に対する給与とします。

以上(2023年2月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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【朝礼】上司は「ありがとう」を口癖にしよう

社会人になると、仕事で褒められたり、感謝されたりすることが少なくなります。仕事というのはできて当たり前のことですから、当然と言えば当然です。

このことについて、知人の会社の女性社員から聞いたことを思い出しました。

その女性社員はお客さんが帰られた後の茶器を給湯室で洗っていました。そこには茶器以外にも、何人かが置いていったマグカップがありました。冬場で水しか出ない給湯室の作業はつらいのですが、それらを仕事と割り切り、淡々と洗っていました。

ところが、ふと、さも当然のように置いてあるマグカップを見て、「本当に自分がこの仕事をする必要があるのか」ということが頭の中をよぎったそうです。そして「別に、この仕事は私でなくとも誰でもできることだし、そもそも置いた人が洗えばいい。それならば私がする必要はないし、その間に別の仕事ができる」と考えていると、最終的には、「本当にこの会社で仕事を続けていいのか」と思うようになり、もんもんとしてしまったのだそうです。

この話を聞いたとき、私には思い当たるふしがありました。皆さんが毎日仕事に従事してくれるおかげで、会社は成り立っています。にもかかわらず、皆さんを褒めることもなく、感謝や労いの言葉すらかけていません。

私が「いつもありがとう」という感謝の言葉を口にしないため、皆さんの上司も、そうした言葉を口にしないようです。

先の女性社員の話には続きがあります。その女性社員が茶器などを洗い終わり、食器棚に片付けていると、ある人から「いつもありがとう」と声をかけられたのだそうです。その人は、いつも給湯室の流しにマグカップを置いていく人でした。今までそんなことを言われたことがなかったので、女性社員は驚きで「はい…」と返事をすることしかできませんでした。同時に、地味で目立たないことですが、こんな小さなことでも見てくれている人のいることが分かった上、感謝の言葉をかけられて、とてもうれしかったそうです。そして、「たとえ小さな仕事でも、それまで続けてきた努力はどこかで見てくれている人がいる。手を抜かず、着実に毎日の仕事をやり遂げよう」と思ったそうです。

皆さんも、慣れた仕事を毎日のようにしていると、本当にこの仕事をやっていていいのか、他にもっと面白い仕事があるのではないかと思うことがあるかもしれません。しかし、皆さんが行っている仕事はどんな小さなものでも大切な意味を持っています。どの仕事も一人ひとりが丁寧に着実に進めていくことで、会社が成り立っているのです。

このことは、私も皆さんの上司も分かっています。ただ、分かってはいても、皆さんへ「ありがとう」の感謝の言葉を伝えることができていませんでした。上司の皆さんは、部下の仕事のすべてに目を配り、そして「ありがとう」と言ってください。私も今日から「ありがとう」を口癖にします。

以上(2023年2月)

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これでは売れない……社員のプレゼン力に不満を覚えたら

書いてあること

  • 主な読者:社員のプレゼン力や売る力に物足りなさを感じている経営者
  • 課題:資料が美しくないなどの問題もあるが、そもそも「熱量」が感じられない
  • 解決策:経営者が考える良いプレゼンを「要件定義」する。その上で経営者に近い視点を持てる社員を選抜して教育する

1 社員の「プレゼン力」に不満を覚えたら

社員の「プレゼン」が全然ダメ……

この記事は、こんな不満を持つ経営者の参考になるように、

組織のプレゼン力を高める方法

をご提案するものです。ここでいうプレゼン力は、「売る力」や「伝える力」と読み替えていただいても大丈夫です。

プレゼンについて解説した書籍やネット記事は数多く、セミナーも頻繁に開催されています。それに、中小企業では営業同行などで経営者と社員が一緒に行動することが多いので、社員は経営者の振る舞いを見られる機会が多いです。

にもかかわらず、社員のプレゼン力が高まらないのはなぜなのでしょうか?

2 良いプレゼンを「要件定義」する

もっともありがちな問題は、

一般的に社員のプレゼンは合格点なのに、経営者は物足りなさを感じている。ただ、物足りないポイントが曖昧で、何をすれば合格するのか誰も分からない状況

です。

かつて、筆者は知り合いの経営者Aから「社員の資料が分かりにくいので、資料作りの勉強会をしてほしい」と相談されたことがあります。経営者Aは「資料の作り方がバラバラで読む気になれない」ことを強調していました。そこで、「資料の構成、色使い、フォントの種類、文字数の配慮」などのルールを決めて徹底し、一般的に見て分かりやすい資料作りができるようにしました。

その結果、経営者Aも資料が改善されたと感じてくれましたが、不満は解消されませんでした。というのも、問題は資料の見やすさではなく、「社員の伝え方や伝える内容」であったと気付いたからです。そこで、次は「話し方や情報の整理術」についての勉強会もすることになりました。

この事例のようなケースは珍しくありません。ですから、経営者の皆さんは、

合格ラインとなる良いプレゼンの「要件定義」

をして、社員に伝えなければなりません。ゴールが曖昧なままでは、いつまでたっても組織のプレゼン力は向上しません。

3 熱量のある社員を選抜する

早速「要件定義」をしていきたいところですが、ここで課題になるのが「人」です。プレゼンを極端に分けると、

  • 綺麗な資料で、トークもスムーズ。だけど、表面的で冷たいプレゼン
  • 武骨な資料で、トークも“噛(か)み噛み”。だけど、すごい熱量が伝わるプレゼン

といったようになります。ケースバイケースとはいえ、筆者の経験上、

リアルのビジネスで通用するのは後者のプレゼン

です。すごいテクニックがあっても熱意が伝わらなければ、相手の心の琴線に触れることはできないということです。

そして、テクニックについて学ぶ機会はいくらでもありますし、要件定義も簡単です。しかし、プレゼンに熱量を込められるかどうかは社員次第となります。そのため、経営者は、

プレゼンを担当する社員を選抜

しなければなりません。

4 深掘りする力を養う

熱量のある社員を選抜したら、次は物事を深掘りする習慣を身につけましょう。熱量があっても、話していることが独りよがりだったり、視点が低かったりすると、聞いているほうはきついです。聞き手に配慮できない社員はこのようになりがちです。

改めて定義すると、プレゼンにおいて深掘りする力とは、

どうすればこちらの意図が相手に伝わりやすいか

を考えることです。未来も見据えて、こちらの形と相手の形を合わせるために、双方の利益を深く考えなければなりません。

深掘りする力を鍛える方法として、

文章の報告書を作る

方法があります。世間的には「効率化」が重視され、必要な情報が箇条書きにされた資料が歓迎されています。しかし、箇条書きだと、なぜ、社員がその項目を選んだのか、社員の思考が明らかになりません。それに、書く側の社員としても、深く考えずに何となくポイントを箇条書きにすることで形にできてしまいます。

これが文章の場合はそうはいかず、自分の書いていることに矛盾がないかを確認したり、本当にそれが伝えたいことなのかを確認したりして、物事を深く考えます。このため、文章の報告書で深掘りする力を鍛えることができ、実際、これを取り入れている会社もあります。

5 実践しながら擦り合わせる

あとはプレゼンを実践しながら、経営者の理想と社員の実態とのギャップを埋めていきましょう。経営者と全く同じ考え方をする必要はありませんが、

経営者と同じ問題に反応できるようになる。つまり、経営者に近い視点の高さと視野の広さを持つための感度を高める

ことが大切です。そのためには、経営者がクライアントなどと食事をする席に参加させ、そのような場でどのような話をしているかを聞かせることも重要です。

また、経営者が何を考えているのかを知ってもらうために、社内SNSに「社長チャンネル」(仮称)を開設し、そこに経営者の考えを投稿するのも一策です。

以上(2023年2月)

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【朝礼】あなたはヤマメか、サクラマスか

今日は皆さんに、問題を出したいと思います。皆さんはヤマメという魚と、サクラマスという魚の違いを知っていますか?

ちょっと意地悪な問題なのですが、正解は、「違わない」のです。生物学的には、両方ともサケ科の同じ種類の魚です。しかし、その生き方は全く異なります。川に一生住み続ける“陸封(りくふう)型”と呼ばれるのがヤマメで、川を下って海で育つのがサクラマスです。

では、ヤマメとサクラマスとの運命の分かれ道はどこにあるのでしょうか? その答えは、両者が生まれて約1年後に激烈を極める、縄張り争いにあります。体の小ぶりなヤマメが争いに敗れ、居場所を失って川を下るそうです。

海に出たヤマメは、川よりも天敵の数も種類も多い海で、危険にさらされながら生きることになります。ですが、海には餌となる小魚が豊富にいます。川に居続けるヤマメの大きさが20~30センチメートルほどなのに対して、海で生き延びたヤマメ、つまりサクラマスは、2倍以上の70センチメートル程度にまで成長します。そして海に出てから約1年後、産卵のために生まれた川に“凱旋”するのです。

ヤマメと比べて体の大きなサクラマスのほうが産み落とす卵の数は多く、子孫を残せる可能性が高くなります。つまり、一度は競争に負けたヤマメが約1年後にサクラマスとなり、川に残っていたヤマメに逆転勝ちするのです。

皆さんはこの話を聞いて、ヤマメとサクラマスのどちらになりたいと思いましたか? 私はかつてサクラマスの生き方に憧れて、積極的に広い世界に出て、学び、成長したいと考えたものです。

しかしながら、今の考えは違います。私が今、なりたいのは、ヤマメでもサクラマスでもありません。ヤマメやサクラマスを育む、川になりたいのです。

この会社にも、さまざまなタイプの人がいます。1つの仕事をコツコツやり遂げるヤマメタイプの人もいますし、社外でいろいろと学んでスキルアップをしたいと考えているサクラマスタイプの人もいます。

どちらの生き方も素晴らしいことですし、私はそれぞれの生き方を応援したいと思っています。今の仕事の専門性を高め、極めたいと考えている人には、それにふさわしい場所を与えられるようにします。外の広い世界で学び、成長したいのであれば、むしろ積極的に後押しして送り出したいと思っています。ヤマメは川で、サクラマスは海で、それぞれ精いっぱい生きているのですから、どちらも胸を張ってよいのではないでしょうか。

私はこの会社を、ヤマメやサクラマスが生き生きと泳げる、川のような会社にしたいと思っています。皆さんは、自分の思うような生き方をしてください。そして、自分と生き方や考え方の違う人とも、認め合える関係を築いていってください。

以上(2023年2月)

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【朝礼】時間についても、自分に厳しく、人に優しく

約束した時間を守ることは、ビジネスパーソンとしてとても重要なことです。これはマナーではなくルールであると考えてください。

皆さんの多くは、毎朝、遅刻することなく出社してくれます。また、会議や簡単な打ち合わせさえ遅刻することはありません。私はこのことをとても誇らしく思っています。

しかし、遅刻はしないものの、いつも時間ぎりぎりにならないと現れない人もいます。こうした人はいずれ遅刻するのではないかと心配になってしまいます。

ビジネスパーソンが商談に遅刻するようでは、相手に「時間すら守れないような人は信頼できない。一緒に仕事をすることはできない」と思われても仕方ありません。約束した時間に遅れてしまったことが原因で商談が台なしになってしまうこともあるのです。

約束した時間を守るためには、「10分前行動」を徹底しましょう。例外を作らず、どのようなときも、早めに余裕を持って行動するのです。

例えば、とりわけ遠いところまで商談に行く場合は、早い時間から近くの場所まで行っておくなど、遅れないように準備しましょう。そうすることで道路の渋滞や交通機関の遅延など不測の事態で移動に時間がかかってしまった場合でも、遅れることを防ぐことができます。

仮に、商談の時間に間に合わなそうな場合には、「遅刻すると分かった時点ですぐに連絡する」「誠実に謝罪する」といった対応が大切です。

それでは、相手が商談に遅刻した場合はどのように対応したらよいのかを考えてみましょう。

自分が時間を厳守する人は、相手にもそれを求めがちです。しかし、相手が商談に遅刻してきたからといって、皆さんは厳しく接したり、不機嫌な態度をとったりしてはいけません。相手には「きっとやむを得ない事情があったに違いない」と考えて、笑顔で対応してください。

遅刻してきた相手は、皆さんに対して申し訳ない気持ちでいっぱいのはずです。そのため、その商談は交渉が始まる前から皆さんにとって、つまり我が社にとって有利な状況になっています。これは、皆さんが時間を守り、相手の遅刻を許したからにほかなりません。

昔からよく「自分に厳しく、人に優しく」といわれますが、時間についても同じことがいえます。自分は絶対に遅刻しないように気を付け、そして、相手の遅刻には寛容に接するように心がけましょう。

以上(2023年2月)

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いまさら聞けない働き方改革シリーズ2「同一労働同一賃金とは?」

1 同一労働同一賃金とは?

今回のテーマは、「同一労働同一賃金」についてです。

これは、前回のテーマ「2024年問題」と同様に2017年3月に策定された「働き方改革実行計画」で挙げられた日本の労働制度の3つの課題のうちの「正規非正規の不合理な処遇格差」の解消を目的として法律改正がされたものです。

これまでは、有期雇用労働者(非正規)については労働契約法第20条で、短時間労働者(パートタイム)については短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第8条、第9条で、派遣労働者については労働者派遣法第30条で、待遇の相違は不合理と認められるものであってはならないと規定されていました。2021年4月に有期雇用労働者と短時間労働者については、短時間・有期雇用労働法に統一され、派遣労働者は労働者派遣法の改正によって不合理な待遇相違、差別的な取り扱いの禁止を定めています。

2 法律改正の背景

2016年8月、安倍首相(当時)の記者会見で「同一労働同一賃金」について言及したのが始まりで「同一労働同一賃金」という言葉は注目されるようになりました。2018年6月には働き方改革関連法案が成立し、上述のとおり同一労働同一賃金を定める各種法律が改正され、2020年4月から大企業、2021年4月から中小企業も同一労働同一賃金に関する法律が順次適用されています。

では、なぜ当時の安倍政権が「働き方改革法」において「同一労働同一賃金」を掲げたのでしょうか?これまでも正規非正規の賃金格差が社会問題になってはいましたが、実は単純にその賃金格差を解消するためだけではなかったのです。

その理由は大きく2つです。

1つ目は、日本が抱える最大の問題である人口減少に伴う「生産年齢人口(15歳から64歳)」の減少です。政府としては、性別や年齢に関係なく働き手を確保したいのです。短時間であっても働きたい人や副業を持ちたい人は多くいますが、短時間だからという理由だけで正社員と同じ仕事をしているのにも関わらず時給換算をしたら大きな賃金格差が生じれば働く意欲は低減します。労働者の働き方も変化しつつありますので、より柔軟な雇用形態を提供することで一人でも多くの労働人口を確保しようというのが政府の考えです。

2つ目は「ジョブ型」の雇用システムへのシフトです。厚生労働省が平成30年版「労働経済の分析」を発行していまして、その内容をみると日本はG7の国々と比較して労働生産性が最下位という結果でした。なぜ日本の労働生産性が低いのでしょうか?その原因を「メンバーシップ型」と呼ばれる日本独特の雇用システムであることを挙げています。「メンバーシップ型」とは、新卒の社員を一斉に採用して、それぞれの能力とはかけ離れた業務であっても、長期間にわたって働いてキャリアを積めば年功序列で賃金が増えていくという日本独特の雇用形態です。ジョブローテションという名のもとに社員の能力とまったく関係ない業務を強制させることが労働生産性の低下という結果を露呈させてしまいました。「メンバーシップ型」はいわゆる「就社」であって「就職」ではないといわれます。仕事や業務内容に人をあてはめる「ジョブ型」という雇用システムへのシフトが同一労働同一賃金のもう1つの目的です。

労働生産性(実質・名目)のG7各国比較

出典:厚生労働省 平成30年版 労働経済の分析 -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について-

3 法律改正の3つのポイント

同一労働同一賃金に関する法律改正のポイントは3つです。

まずは、均待遇、均待遇、まさに同一労働同一賃金の内容です。次に、労働者への説明義務です。企業が社員やパートアルバイトを採用する際には、その労働条件についてきちんと説明すること、さらに既存の社員が労働条件について説明を求めた場合も企業はその社員へ説明する義務があるという内容です。最後に、同一労働同一賃金に関して企業と労働者との間でトラブルになった場合に迅速な解決に向けたADR制度(裁判以外の紛争解決手段で無料且つ非公開)が用意されたということです。

待遇というのは、例えば、正社員と契約社員、正社員とパートタイマーと比較して、業務の内容と責任の程度、配置変更の範囲について、まったく同じ場合には「差別的取扱いをしてはならない」と禁止しています。ただ、実際には正社員と契約社員、正社員とパートタイマーとの間で、業務の内容や責任の程度、配置変更の範囲が全く同じということはほとんどありません。その場合には、「その他の事情」を考慮して労働条件に差をつけても問題はありませんが、その差が「不合理と認められる相違は設けてはならない」ということを求めたのが均待遇ということになります。

4 5つの最高裁判決

すでにご存じの方も多いと思いますが、同一労働同一賃金に関する最高裁の判決を整理してみます。この判決は「働き方改革関連法」改正前の労働契約法第20条を前提にした裁判ではありますが、今後の判決にも影響を及ぼすと思われますので紹介します。

2018年(平成30年)6月1日判決の長澤運輸とハマキョウレックスの事例と、2020年(令和2年)10月13日判決の大阪医科薬科大学、メトロコマース、同年10月15日判決の日本郵便の事例です。これらの最高裁判決で不合理認定として違法だと判断されたのは一部の「手当」と「休暇」にとどまっています。「基本給」「賞与」「退職金」については違法ではないという判断です。「手当」や「休暇」は支給する趣旨目的が特定しやすく、事業主側が待遇差の理由を明確に説明ができなければ不合理(違法)であると判断されやすいということです。その一方、「基本給」「賞与」「退職金」については、事業主側の裁量が大きく認められる傾向にあります。しかし、判決文には「個別事情に基づく判断をします」とあるので、直ちに「処遇に差があっても違法じゃない」という最高裁判決がどこでも通用するような一般化されたものではありませんのでご注意ください。

その個別事情とは何であったかを最高裁判決文から読み解いていくと、正社員の「基本給」を非正規社員と格差をつけることや、正社員に「賞与」「退職金」を支給する趣旨目的は、事業主側が「正社員としての人材を確保したい」「その定着を図りたい」ということにある「有為人材確保論」「正社員人材確保論」ということに該当するといわれています。メトロコマースも大阪医科薬科大学でも「正社員への登用制度が存在していた」ということが判決の決め手にもなっています。

5 企業の対応方法

すでにほとんどの企業で正規非正規社員が同じ職場で働いています。それでは、企業としてどのような対応をすればいいのでしょうか?

企業としての対応方法については、厚生労働者が「パートタイム・有期雇用労働法 対応のための取組手順書」というパンフレットを作成していますのでこれを参考にすることをお勧めします。このパンフレットでは、労働者の雇用形態から、待遇の状況確認、待遇に違いがある場合にはその理由はなにか?を手中通りに進めていけば整理することができます。また違いを設けている理由の事例も紹介されているので、是非活用することをお勧めします。また社員向けに説明するモデル様式も掲載されています。さらに厚生労働省では「同一労働同一賃金ガイドライン」「不合理な待遇差解消のための 点検・検討マニュアル」を公表しています。各種資料は充実してはいますが、自社ですべての資料を読み込んで、現状把握から解決策を構築するのには限界がありますので、専門家による指導アドバイスが必要になるでしょう。

2021年にパートタイマーを雇用している事業所のうち、直近5年間に正社員とパートタイマーとの間の不合理な待遇差をなくすための取組を「実施した」かどうかを東京都が調査しました。「実施した」という事業所は約30%。しかし、一方、パートタイマーの人たちにもアンケートを実施していて、正社員との間に何らかの不合理な待遇差があるか?と質問したところ、「改善した」と回答したパートタイマーはわずか8%、「改善していない」という回答が31%です。

不合理な待遇差をなくすための取組の実施状況

パートタイマーの処遇改善に関する実感

出典:東京都 令和3年度 中小企業労働条件等実態調査「パートタイマーに関する実態調査」結果について

今後も同一労働同一賃金に関する判決の動向は注視していく必要はありますが、企業にとっては正規非正規、パートタイマー、さらには外国人労働者の雇用において、各種手当の設定については慎重に対応していくことが求められます。すでに厚生労働省は、非正規労働者の待遇改善に向けて、全国の労働基準監督官の増員を進めています。各都道府県労働局への相談内容を踏まえて、企業への報告徴収(実態把握)も実施しています。2021年(令和3年度)は、全国6,377社を対象に報告徴収を実施して、違反が確認をされた4,470社70.1%)に対して、1万738件の是正を行ったとあります。そのため、就業規則の整備、賃金体系の確認は専門家に相談をして企業の実態に応じて修正していくことをお勧めします。

以上(2023年2月)
日本社会保険労務士法人(SATOグループ) 特定社会保険労務士 山口 友佳
SOMPOビジネスソリューションズ株式会社 社会保険労務士 西田 明弘


【著者紹介】
山口 友佳(やまぐち ゆか)

日本社会保険労務士法人(SATOグループ) 特定社会保険労務士
慶応義塾大学卒業。地方紙記者を経て2008年、社会保険労務士試験合格。
2009年、日本社会保険労務士法人設立とともに入所。2010年、社員(役員)に就任。2021年、特定付記。
労務相談部門責任者として中小企業、大企業に対する労務コンサルを担当。
就業規則諸規程のコンサル、判例に基づいた実務的なアドバイスなど経験多数。

西田 明弘(にしだ あきひろ)
SOMPOビジネスソリューションズ株式会社 社会保険労務士
明治大学商学部卒業
1995年安田火災海上保険株式会社(現 損害保険ジャパン株式会社)入社
自動車メーカーや大手電機メーカーの営業部隊で各企業の海外現地法人を包含した保険プログラム構築を担当。
また約10年間の海外勤務では海外現地法人の経営にも携わる。現在、保険代理店を対象にした研修講師を担当。
2021年社会保険労務士試験合格 2022年社会保険労務士事務所を開設し、社会保険労務士としての業務も同時に行う。

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画像:illust-ac

職場でマルチ商法や宗教勧誘はやめて! 根拠は就業規則の「服務規律」です

書いてあること

  • 主な読者:社員にマルチ商法や宗教勧誘をやめさせたい経営者
  • 課題:プライベートにどこまで関与できるか分からない。特に宗教は信教の自由がある
  • 解決策:プライベートでも「企業秩序」を乱す活動には毅然と対応する。就業規則に「社員としての地位」を利用して行われる活動を規制する規定を設ける

1 就業規則に定めて迷惑な勧誘をストップする!

社員が仕事以外のことも気軽に話せるのは良いですが、もし、マルチ商法や宗教勧誘をしている社員がいたらどうでしょうか。誘われた社員は、上司や同僚との関係性を考え、不本意ながら誘いに応じてしまうかもしれません。

会社としての建前は「プライベートは本人の自由」ということになるでしょうが、マルチ商法や宗教の問題が後を絶たないのは事実ですから、静観するだけというわけにもいきません。では、会社は社員によるマルチ商法や宗教勧誘をやめさせられるのでしょうか。

大切なのは、就業規則でルールを定めることです。具体的には、

「企業秩序」を乱すようなマルチ商法や宗教勧誘を禁止

します。なお、企業秩序とは、会社が存立し、事業を円滑に運営し続けるために守るべき秩序のことをいいます。

企業秩序は漠然とした概念ではありますが、就業規則で明確にルールを定め、マルチ商法や宗教勧誘が企業秩序にどのような影響をもたらすのかを整理していけば、会社としての対応方針はおのずと定まります。以降で詳しく紹介していきます。

2 大切なのは就業規則の「服務規律」

1)企業秩序を乱してはならないことを「服務規律」で定める

通常、企業秩序のルールは

就業規則の「服務規律(社員が守るべき基本的な行動規範)」

で定めます。社員は会社と労働契約を結んだ(雇用された)時点で、服務規律などで定めた企業秩序のルールを遵守する義務を負い、社員がこれに違反した場合、会社は就業規則の規定により懲戒処分を科すことができると解されています(最高裁第三小昭和54年10月30日判決など)。

プライベートに就業時間の服務規律が適用されるのかが気になりますが、過去に最高裁が

職場外での職務遂行に関係がない行為であっても、企業秩序に直接の関連を有するものもあり、それが規制の対象となることも許される

と判断した例があります(最高裁第一小昭和49年2月28日判決など)。つまり、プライベートでのやり取りでも、企業秩序を乱すものについては、服務規律を適用できるのです。

2)「社員としての地位を利用」がキーワード

社内とプライベートの両面で企業秩序を乱す活動を規制したい場合、就業規則に次のような規定を設けることが考えられます。

【規定例】

第○条(服務規律)
社員は、次の各号に掲げる事項を守り、服務に精励しなければならない(下記以外の号は省略)。

  • 会社の許可なく、会社構内および施設において、政治活動、宗教活動、社会活動、物品の販売、勧誘活動、集会、演説、貼紙、放送、募金、署名、文書配布その他業務に関係のない活動を行わないこと(就業時間外および事業場外においても、社員としての地位を利用して、他の社員または取引先等に対して同様の活動を行わないこと)

黒字部分は、マルチ商法や宗教勧誘のうち、「就業時間中、社内(事業場内)での活動」を規制するもの、赤字部分は、「プライベート、社外(事業場外)での活動」を規制するものです。ポイントは赤字の「社員としての地位を利用して」という文言です。これは、

会社に雇用されることで生じる人間関係(上司、同僚、部下など)を利用する

という意味です。前述した通り、

社員から社員に対して行われるマルチ商法や宗教勧誘は、社内の人間からの誘いだからこそ断りにくい

という面を持っています。一部の社員がそうした断りにくさに付け込むことを防ぐというのが、この文言の趣旨です。

また、規定例では社内の人間だけでなく、社外の取引先等を相手とする活動も規制の対象としているので、例えば、外回りの社員などが自分の取引先や顧客に迷惑行為を働くような事態も防ぐことができます。

3)企業秩序を乱した場合、懲戒処分の対象とすることは可

服務規律に違反して企業秩序を乱した社員については、就業規則の懲戒事由に該当すれば、懲戒処分の対象とすることができます。

一般的な懲戒処分の内容は、次の通りです。

  • 懲戒解雇:即時に解雇する。懲戒処分の中では最も重い処分となる
  • 諭旨解雇:退職願の提出を勧告した上で、解雇とする
  • 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
  • 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
  • 減給:一定期間、賃金支給額を減額する
  • けん責:始末書を提出させ、将来を戒める

ただし、社員の違反内容に照らして重すぎる懲戒処分は認められません。例えば、マルチ商法や宗教勧誘によって社内から苦情が出たとしても、それを理由に直ちに「懲戒解雇」や「諭旨解雇」などを科すことは「重すぎる」という判断になります。

ケース・バイ・ケースですが、基本的には

1回目の違反については、原則として単なる「注意」または「けん責」処分とし、以降も改善が見られなければ、その内容に応じて処分を引き上げる

という対応になるでしょう。なお、処分を引き上げる場合は、

社員の活動内容が「法律に違反しているか否か」

が1つの判断基準になります。次章で、マルチ商法、宗教勧誘、投票依頼を例に、法律のルールと会社としての対応を紹介するので、確認していきましょう。

3 法律のルールと会社としての対応

1)マルチ商法(連鎖販売取引)

マルチ商法とは、特定商取引法で規制されている「連鎖販売取引」の通称で、

個人を販売員として勧誘し、さらにその個人に次の販売員の勧誘をさせるという形で、物品の販売などを連鎖的に拡大していく取引のこと

をいいます。「他の人を入会させるだけで紹介料がもらえるから短期間で稼げる」などと言って個人を勧誘し、一方でその個人に取引を行うための条件として金銭を負担させるといった特徴があります。

特定商取引法では、

  • 勧誘の際は、「自分や事業者の名前」「勧誘を目的としていること」「商品等の種類」を相手に明示しなければならないこと
  • 「商品内容、取引の利益・負担、契約解除の方法などについて嘘をつく(または隠す)」「相手を威嚇する」「公衆の出入りしない場所で勧誘や契約締結を行う」といった行為をしてはならないこと

などが定められていて、これらに違反するマルチ商法は違法になります。逆に言うと、これらに違反しなければ一応合法ですが、このあたりはマルチ商法を行う事業者が合法に運営するための体制を整えていても、販売員の熟練度などによってはトラブルが起きることもあります。

会社としては、

  • 法律違反となるマルチ商法だけでなく、それに類似する取引についても、「不安に思う社員がいるかもしれないから」という理由で許可しない
  • 無許可で活動を行った社員については、注意またはけん責処分にし、以降も同様の活動を繰り返すようであれば、その内容に合わせて処分を引き上げる

といった対応が考えられます。

2)宗教勧誘

宗教勧誘とは一般的に、

特定の宗教に入信している人が、無宗教の人などを入信させる目的で勧誘すること

をいいます。

日本国憲法では「信教の自由」として、個人が自分の支持する宗教を信仰する自由や、宗教活動を行う自由が保障されています。宗教勧誘も宗教活動の一環であり、それ自体は禁止されていません。一方で、宗教勧誘を受ける側の人間にも信教の自由があるため、これを抑圧して入信させることは認められません。

「入信しないことを伝えているのに、宗教勧誘をやめない」など、宗教に関する嫌がらせを「レリジャスハラスメント(レリハラ)」と呼ぶことがあります。レリハラは、法律で定義されたハラスメントではありませんが、このように他人の信教の自由を抑圧することは、

民法の不法行為(故意・過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害する行為)

に該当する可能性があります。

会社としては、

  • 就業時間中は、社員は職務に専念する義務があるので、就業時間中や事業場内における宗教勧誘は全面的に禁止する
  • プライベートでの宗教勧誘は禁止しないが、社内に迷惑行為を受けた社員のための相談窓口を設置し、レリハラなどの相談があった場合は宗教勧誘をやめるように指示する
  • 1.で就業時間中や事業場内において宗教勧誘を行った社員、2.で会社の指示を受けたにもかかわらず宗教勧誘をやめない社員については、注意またはけん責処分にし、以降も同様の活動を繰り返すようであれば、その内容に合わせて処分を引き上げる

といった対応が考えられます。

3)投票依頼

投票依頼とは一般的に、

選挙のタイミングで、知人などに対し特定の党、政治家への投票を依頼すること

をいいます。

投票依頼については、公職選挙法により、

  • ウェブサイト上での依頼文の掲示、SNSのメッセージ機能などによる依頼は可
  • 電子メール(携帯電話のショートメッセージを含む)による依頼は不可(候補者や政党からのメールを転送することも不可)

とされています。

なお、日本国憲法では「思想および良心の自由」が定められていて、誰に投票するかは本来自由であり、投票依頼に応じない相手に対してしつこく投票を迫ることなどは、場合によっては民法の不法行為(前述)に該当する可能性があります。

会社としての対応は、宗教勧誘の場合と基本的に同じです。

以上(2023年2月)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:えつ-Adobe Stock