2024年問題と物流業界 解決すべき課題と対策は?

トラック、タクシー、バスなどの自動車運送は、私たちの生活や経済活動を支えています。
ところが、その自動車運送業界は現在、危機に瀕しています。ドライバーの時間外労働の上限を規制する「改善基準告示」の改正が2024年4月に施行されるためです。

この問題は現在、自動車運転業界、特にトラック運転者が担う物流に深刻な影響を与えます。
これがいわゆる「2024年問題」です。

その最大の問題とはなんでしょうか。
また、その問題を解決するためには、どのような取り組みが必要でしょうか。

本記事では、自動車運送業界のうち物流に対象を絞り、2024年問題によって物流が直面する課題について解説し、国の打ち出した対策を中心に、そのソリューションを明らかにします。

2024年問題の概要と物流業界

まず、2024年問題の概要についてみていきましょう。

背景

持続可能な物流の実現に向けてドライバーの安定的な確保は大切ですが、トラック業界は、ドライバー不足という大きな課題を抱えています。*1

2022年9月の求人倍率は、全職業平均が1.20であるのに対して、トラック運転者は2.12と、約1.8倍に上っています(図1)。

図1 トラック運転者の求人倍率の推移

図1 トラック運転者の求人倍率の推移
出所)国土交通省「国民のみなさまへ トラック運転者手の仕事を知ってみよう 統計からみるトラック運転者の仕事」
https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/work

こうしたドライバー不足の大きな要因として、他業種に比べて厳しい労働環境にあることが挙げられます。
全産業平均に比べて、労働時間が約20%長いのにもかかわらず、賃金は約5~10%安く、業務内容が厳しい現場もあります。

労災請求・支給決定の件数も、こうした道路貨物運送業の長時間・過重労働を物語っています。*2
2022年度の脳・心臓疾患の労災請求件数は133件、労災支給決定件数は50件に上り、ともに全業種の中で最多です。

こうした労働環境を改善するためには、物流現場での働き方改革が必要です。また、自動車運転者の過重労働を防ぐことは、労働者自身の健康確保だけでなく、国民の安全確保の観点からも重要です。*3

「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(以後、「改善基準告示」)の見直しは、こうした状況を背景にしています。

改善基準告知の改正内容

改善基準告示は、法定労働時間の段階的な短縮を踏まえて見直しが行われた1997年以降、改正が行われていませんでした。*3

しかし、2022年12月に自動車運転者の健康確保などの観点から見直しが行われ、トラック、バス、ハイヤー・タクシーなどの自動車運転者について、労働時間などの労働条件の向上を図るため、拘束時間の上限、休息期間、運転時間などについて新たな基準が定められました。

労働基準法改正による時間外労働の上限規制では、年間960時間と定められていたものの、これまで適用が猶予されていました。したがって、違反しても罰則はありませんでしたが、2024年4月からは違反した場合、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が科されることがあります(図2)。*2

図2 労働基準法改正による時間外労働の上限規制の適用

図2 労働基準法改正による時間外労働の上限規制の適用
出所)公益社団法人 全日本トラック協会「解説 トラック運転者の改善基準告示ー2024年4月適用ー」p.1
https://jta.or.jp/pdf/kaizen/kaizen_text.pdf

この960時間は将来的には一般労働者と同じ720時間にすることを目指しています。

次に、下の表1は、トラックの改善基準告示見直しのポイントです。*3

表1 トラックの改善基準告示見直しのポイント

表1 トラックの改善基準告示見直しのポイント
出所)厚生労働省「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト>トラック運転者の改善基準告示>改善基準告示とは?」
https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/notice

こうした改正の施行が2024年4月1日であることから、この改正とその影響は「2024年問題」と呼ばれています。

物流業界最大の問題とは?

では、この2024年問題で、物流業界に想定される最大の問題とはなんでしょうか。
それは、輸送力不足です。

国は施策がない場合、需要に対して、2024年には14%、2030年には34%、輸送力が不足すると試算しています。*4

その背景となる状況を、厚生労働省による「自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果」(2021年度)からみていきましょう。

1年の拘束時間

表1でみたように、「改善基準告示」の改正では、1年の拘束時間(「労働時間」+「休憩時間」)の上限を、現行より216時間短い3,300時間に定めています。

しかし、1年の拘束時間が3,300時間を超えるトラック運転者の割合は21.7%に上ります(図3)。*5

図3 トラック運転者の1年の拘束時間

図3 トラック運転者の1年の拘束時間
出所)厚生労働省「資料1 自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果(概要)」p.3
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000883703.pdf

1日の休息期間

休息期間はどうでしょうか。
「改善基準告示」では、1日の休息期間(業務終了時刻から、次の始業時刻までの時間)を、継続11時間を基本とし、下限を9時間と定めています。

しかし、継続11時間を超えるのは全体のわずか31.1%で、下限の継続9時間を超えるのも52.4%にすぎません(図4)。

図4 トラック運転者の1日の休息期間

図4 トラック運転者の1日の休息期間
出所)厚生労働省「資料1 自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果(概要)」p.11
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000883703.pdf

足元のトラック運転者不足

上述したように、改善基準告示の改正は、ドライバーの健康確保の観点から、労働時間などの労働条件の向上を図るためです。それは、ドライバー不足の大きな要因である厳しい労働環境を改善することにもつながります。

しかし、1年の拘束時間と1日の休息期間の実態からもわかるように、改正された改善基準告示を遵守するためには、ドライバーの労働時間を現在よりかなり削減する必要があります。
その影響で短期的には人手不足がさらに厳しくなり、輸送力不足という深刻な状況をまねくことが危惧されています。

これが「2024年問題」最大の課題です。

不足する人手…取り組むべき対策とは

2024年2月16日、国は「2024年問題」の対策指針を示した「2030年度に向けた政府の中長期計画」(以後、「中長期計画」)を公表しました。
その内容を中心に、物流業者がとるべき対策についてみていきましょう。

賃金の引上げ

まず、2024年に、運転者確保のための賃上げを図ります(図5)。*6

図5 賃上げの効果

図5 賃上げの効果
出所)内閣官房「物流革新及び賃上げに向けた政府の取組」p.9
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/ik_dai1/siryou.pdf

トラック事業者が受け取る「標準的運賃」を8%引き上げるほか、荷物の積み下ろし作業にも適正な対価を求め、これらの対応によってトラック事業者の収益を改善させ、運転者の賃金を2024年度に10%前後引き上げることを目指します。

逆にいえば、これらの施策をとらず、賃上げの達成ができない物流業者は、今以上に深刻な人手不足に陥る可能性が高いといっていいでしょう。

政策パッケージ

国は「政策パッケージ」を打ち出し、さまざまな施策を積み上げれば、輸送力の不足分を補えるという試算を示しました(表2)。*6

表2 政策パッケージの効果

表2 政策パッケージの効果
出所)内閣官房「物流革新及び賃上げに向けた政府の取組」p.9
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/ik_dai1/siryou.pdf

パッケージの内容を概観していきましょう。

(1)荷待ち・荷役の削減

荷主や物流事業者を対象に、自動化・機械化設備・システム投資を支援することで、2030年度までに運転者の荷待ちや荷役の時間を2019年度比で1人あたり年間125時間削減する。

(2)積載率向上・物流の効率化

共同輸配送や帰り荷確保を促進する取り組みなどによって、2030年度までに積載率を44%にまで増加させる。また、自動運転やドローンなどデジタル技術を活用し、物流の効率化を図る。

(3)モーダルシフト

鉄道(コンテナ貨物)や内航海運(フェリー・RORO船など)の輸送量を今後10年程度で倍増することを目指し、トラックなどの自動車で行われている貨物輸送を環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換する。

(4)再配達削減

コンビニ受け取りや置き配、ゆとりある配送日時の指定など、物流負荷の低い受取方法を選択した消費者に対しポイントを還元する実証事業などを行い、再配達を現在の12%から6%に削減する。

(5)トラック輸送力拡大など

大型トラックの法定速度を2024年4月に90km/hに引き上げる。また、トラック輸送の省人化の促進や労働生産性の向上に向けて、1台で通常のトラック2台分の輸送を可能とする「ダブル連結トラック」の導入を推進し、その運転に必要な大型免許の取得を促進するなどの取り組みをする。

物流業者は、今後、以上のような施策が実施されることを睨み、それに対応可能な体勢を整えることが重要です。

おわりに

物流は国民の生活と経済活動を支える重要な社会インフラです。
そのため、国も2024年問題を解決するために、中長期計画をとりまとめ、有益な対策を講じようとしています。
物流業者には、そうした対策に歩調を合わせ、対応することが求められることになります。

最後に、中長期計画に盛り込まれていない点に言及したいと思います。
それは、2024年問題は、長期的な観点に立てば、今まで採用できなかった優秀な人材を採用するチャンスとも捉えられるのではないかということです。

たとえば、トラック運転者は男性がなるものというイメージがありますが、国は「トラガール促進プロジェクト」と銘打った取り組みを推進しています。*7
「トラガール」とはトラック・ガール、つまり女性のトラック運転者のことです。

国土交通省「トラガール促進プロジェクト」

トラック運送業界では近年、女性をトラック運転者として積極的に採用する動きが広がってきました。そのため、トイレや更衣室など施設の改修や力仕事の必要のない車両の整備、ライフスタイルに合わせた働き方が選べる制度の創設、福利厚生の充実など、さまざまな取り組みを進めています。*8

そうした観点からみれば、改善基準告示の改正・施行も、中長期計画も、女性が働きやすい環境の整備とも通じます。

国の打ち出した対策とともに、こうした視点を備えることも必要ではないでしょうか。

資料一覧

*1
出所)国土交通省「国民のみなさまへ トラック運転者の仕事を知ってみよう 統計からみるトラック運転者の仕事」
https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/work

*2
出所)公益社団法人 全日本トラック協会「解説 トラック運転者の改善基準告示ー2024年4月適用ー」p.2, p.1
https://jta.or.jp/pdf/kaizen/kaizen_text.pdf

*3
出所)厚生労働省「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト>トラック運転者の改善基準告示>改善基準告示とは?」
https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/notice

*4
出所)内閣官房「2030年度に向けた政府の中長期計画(ポイント)」(2024年2月16日)p.2
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/pdf/20240216.pdf

*5
出所)厚生労働省「資料1 自動車運転者の労働時間等に係る実態調査結果(概要)」(2021年)p.3, p.11
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000883703.pdf

*6
出所)内閣官房「物流革新及び賃上げに向けた政府の取組」p.9, p.5, p.6, p.8, p.7
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/ik_dai1/siryou.pdf

*7
出所)国土交通省「トラガール促進プロジェクト」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/tragirl/index.html

*8
出所)国土交通省「トラガール促進プロジェクト>トラガールの魅力」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/tragirl/miryoku/

以上(2024年3月)

sj09108
画像:photo-ac

経理・総務なら知っておきたい「給与所得者異動届出書」手続きの流れ

従業員が退職・転職・休職・死亡等によって特別徴収の対象外となった際に、その旨を自治体へ通知する「給与所得者異動届出書」は、異動があった従業員の住む自治体ごとに書類の入手や提出プロセスが異なり、煩雑な作業となりがちだ。そこで、「給与所得者異動届出書」作成の業務の負担を軽減するためのポイントやツールを説明・紹介する。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf


「災害支援枠」が新設!小規模事業者持続化補助金のご紹介

中小企業等を支援する国や自治体の補助金・助成金事業では、雇用・人材開発・IT補助・コロナ支援など幅広いジャンルの支援があります。
本レポートでは、おすすめの補助金・助成金について支援の内容や対象条件、申請方法等についてわかりやすく紹介します。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf


被災地を応援する「寄附金や義援金」は、いくらまで損金算入できるのか?

書いてあること

  • 主な読者:被災した地域などに寄附金を送りたいと考えている人
  • 課題:寄附金の税務上の取り扱いは、誰が誰に寄附をしたかによって異なるため複雑
  • 解決策:「誰が誰に寄附するか」を明確にして、税務上のルールを確認する

1 寄附金や義援金で被災地を応援したい

2024年1月に発生した能登半島地震は甚大な被害をもたらしました。自然災害が多く、「災害大国」ともいわれる日本。被災地支援のために「寄附金や義援金」(以下「寄附金」)を送りたいと考える経営者も多いことでしょうが、その際は税務上の取り扱いに注意しましょう。

結論から言うと、誰が誰に寄附するのかによって税金の種類が違ってきますし、どこに寄附するのかによって税務上の取り扱いも変わってきます。以下の図表は、被災地や被害を受けた人、団体などに寄附した場合の取り扱いを、大まかにまとめた早見表です。

画像1

この記事では、上の早見表ごとに金銭を寄附するケースを想定して、税務上の取り扱いを紹介します。なお、寄附金の税務上の取り扱いは非常に複雑なため、実際に寄附する際には、事前に税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

2 法人として寄附金を送った場合

1)国や地方公共団体に寄附金を送った場合

法人が国や地方公共団体に寄附金を送った場合、法人税の計算上、寄附金の全額を損金算入できます。

なお、災害に関するものとは限らないため詳細な説明は省略しますが、地方公共団体が企画した地方創生のプロジェクトに対して寄附金を送った場合は、法人税・地方税の計算上、税額控除を受けられます(企業版ふるさと納税)。

2)日本赤十字社に寄附金を送った場合

法人が、一定の期間内(例年は4月1日~9月30日まで)に財務大臣が指定した日本赤十字社の事業に寄附金を送った場合、寄附金の全額を損金算入できます。

また、法人が通年において日本赤十字社に寄附金(上記以外のもの)を送った場合、法人税の計算上、通常の寄附金の損金算入限度額(以下「損金算入限度額」)と、特別損金算入限度額の合計額を上限に損金算入できます。

  • 損金算入限度額

画像2

  • 特別損金算入限度額

画像3

例えば、資本金等の額1000万円、所得の金額2500万円、当期の月数が12カ月の場合には、16万2500円(損金算入限度額)と80万円(特別損金算入限度額)の合計額96万2500円となります。このように、法人の資本金や出資金の額、所得の金額が影響してくるので、資本金の額が少ない場合、思ったよりも損金算入額が少ないケースがあります。

3)NPO法人に寄附金を送った場合

法人がNPO法人に寄附金を送った場合、法人税の計算上、そのNPO法人が認定NPO法人かそうでないかで、損金算入限度額が違います。

認定NPO法人の特定非営利活動事業に関連する寄附金を送った場合、損金算入限度額と特別損金算入限度額の合計額を上限に損金算入できます。

  • 損金算入限度額

画像4

  • 特別損金算入限度額

画像5

認定NPO法人以外のNPO法人に寄附金を送った場合、特別損金算入限度額の適用はなく、損金算入限度額が損金算入の上限となります。

  • 損金算入限度額

画像6

認定NPO法人以外のNPO法人に寄附金を送った場合の損金算入限度額は、日本赤十字社や認定NPO法人に寄附金を送った場合よりも少額です。例えば、前述の事例同様、資本金等の額1000万円、所得の金額2500万円、当期の月数が12カ月の場合には、16万2500円になります。

寄附先の法人が特別損金算入限度額、損金算入限度額のいずれの対象となるかは、該当法人のウェブサイトなどで確認するようにしましょう。

4)民放テレビの義援金専用口座に寄附金を送った場合

法人が民放テレビの義援金専用口座に寄附金を送った場合、最終的な寄附先がどの団体等になるのかで判断されます。最終的に日本赤十字社や認定NPO法人に寄附されることが多いようで、この場合は前述した取り扱いと同じになります。

なお、最終的な寄附先は、民放テレビ各社のウェブサイトなどで確認することができます。

5)得意先に見舞金を送った場合

法人が直接得意先に見舞金を送った場合、寄附金ではなく交際費になります。中小法人(資本金の額が1億円以下の法人で一定の法人)の場合、交際費は原則として年間800万円以下まで、損金の額に算入できます。

ただし、見舞金が災害に関連したものは交際費には該当しないものとされ、災害見舞金として全額が損金に算入できます。ただし、金額があまりに過大だと、税務調査などで交際費に該当すると指摘される恐れがあります。明確な金額の基準がない分野のため、金額については、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

6)従業員に見舞金を送った場合

法人が従業員に見舞金を送った場合、寄附金ではなく福利厚生費になります。福利厚生費は、法人税の計算上、全額損金に算入できます。ただし、金額があまりに過大だと、税務調査などで給与に該当すると指摘される恐れがあります。あらかじめ慶弔・見舞金規程などを整理し、それに基づいて支給するようにしましょう。

7)被災した経営者の母校に寄附金を送った場合

法人が被災した経営者の母校に寄附した場合、その母校が取引先である場合を除き、原則として、法人の費用ではなく個人の支出とみなされ、経営者の役員報酬になります。役員報酬は、毎月同額であること(定期同額給与)など一定の基準に基づいていなければ損金算入できません。被災地への寄附金のように突発的に生じた役員報酬は、損金算入できません。

なお、母校が取引先である場合には、前述の得意先に見舞金を送ったケースと同様の取り扱いになります。

3 経営者が個人として寄附金を送った場合

1)国や地方公共団体に寄附金を送った場合

個人として、国や地方公共団体に寄附金を送った場合、所得税の計算上、次の算式により計算した金額を所得金額(税率を乗じる前の金額)から差し引くことができます(以下「寄附金控除」)。

画像7

なお、寄附金控除を受けるためには、個人で確定申告をする必要があります。ただし、寄附先が都道府県・市区町村の場合で、かつ、ふるさと納税として寄附金を送った場合は、ワンストップ特例により、確定申告をしなくても寄附金に係る控除を受けることができます(年収が2000万円を超える場合など、確定申告をしなければならない人を除きます)。

2)日本赤十字社に寄附金を送った場合

個人として、日本赤十字社に寄附金を送った場合、所得税の計算上、前述の国や地方公共団体に寄附金を送ったケースと同様に、寄附金控除額を所得金額から差し引くことができます。

画像8

3)NPO法人に寄附金を送った場合

個人として、NPO法人に寄附金を送った場合、所得税の計算上、そのNPO法人が認定NPO法人かそうでないかで、取り扱いが変わってきます。

認定NPO法人に寄附金を送った場合は、寄附金控除(所得控除)と、税額(税率を乗じた後の金額)から直接減額できる寄附金特別控除(税額控除)の選択適用が認められています。いずれが有利かは、税理士などの専門家に相談してみるとよいでしょう。

  • 寄附金控除

画像9

  • 寄附金特別控除

画像10

認定NPO法人以外のNPO法人に寄附金を送った場合、寄附金控除・寄附金特別控除のいずれも受けることはできません。

4)民放テレビの義援金専用口座に寄附金を送った場合

考え方は法人の場合と同じです。

個人として、民放テレビの義援金専用口座に寄附金を送った場合、最終的な寄附先がどの団体等になるのかで判断されます。最終的に日本赤十字社や認定NPO法人に寄附されることが多いようで、この場合は前述した取り扱いと同じになります。

なお、最終的な寄附先は、民放テレビ各社のウェブサイトなどで確認することができます。

5)得意先に見舞金を送った場合

個人として、得意先に見舞金を送った場合は、所得税の計算上、寄附金控除・寄附金特別控除のいずれも受けることはできません。

また、個人の場合は、その寄附金が災害に関連したものでも、控除を受けられません。

6)被災した経営者の母校に寄附金を送った場合

個人として、被災した経営者の母校に寄附金を送った場合、所得税の計算上、寄附金控除の対象となります。また、私立の学校法人に対する寄附については、認定NPO法人に対する寄附と同様に寄附金控除と、寄附金特別控除の選択適用もできます。

4 寄附金を受け取った側の税務上のルール

ここまで、寄附する側の税務上のルールを説明してきました。今度は、寄附金を受け取った側のルールを紹介します。

法人が寄附金を受け取った場合、法人税の計算上、

原則として、益金(法人税法上の収益)に算入

されます。つまり、商品の売上などと同様に、所得(法人税法上の利益)を増やすことになります。

一方、個人が寄附金を受け取った場合、

  • 勤務先の法人から受け取る場合、給与とみなされて所得税が課される可能性
  • 個人から受け取る場合、贈与とみなされて贈与税が課される可能性

があります。なお、受領した金額が年110万円以下の場合は、贈与税は課されません。ただし、被災等によって寄附金(見舞金を含む)を受け取った場合、受贈者の社会的地位や贈与者との関係、被災状況などに照らして、一般的に多過ぎないと判断されれば、所得税および贈与税は課税されません。いずれにしても、明確な金額の基準がないため、金額については、事前に税理士などの専門家に相談しましょう。

なお、国や地方公共団体から配分を受けた寄附金に関しては、金額の大小を問わず、所得税の課税の対象とはなりません。

以上(2024年3月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

pj30099
画像:photo-ac

【朝礼】「スマイル0円」こそが最強である

皆さん、おはようございます。今朝は「『スマイル0円(ぜろえん)』こそが最強である」というテーマでお話しします。

若い人にはなじみが薄いかもしれませんが、マクドナルドには「スマイル0円」というサービスがあります。いつ始まったのかは分かりませんが、私が最初に知ったのは学生の頃でした。ただ、当時の私は未熟で、「接客だから、笑顔で対応するのは当たり前。それより、ハンバーガーをタダにしてほしい」と茶化(ちゃか)していて、「スマイル0円」の大切さに気付こうとしませんでした。

しかし、今は「スマイル0円」の大切さが分かります。それは、「人を引きつける力」と「自分と相手に幸せを与える力」の2つに尽きます。

目の前に笑顔の人と機嫌が悪そうな人がいたら、笑顔の人に話しかけますよね。これと同じで、皆さんが笑顔でいれば、相手のほうから皆さんに近寄ってきます。新しい出会いが生まれ、何かが始まります。また、脳科学の分野では、笑顔になると、神経伝達物質の「セロトニン」などが多く分泌されるという研究があります。「セロトニン」は幸せホルモンとも呼ばれるものですから、皆さんの笑顔に触れた相手も笑顔になれば、一緒に幸せになれるのです。

難しく考えなくても、私たちは、日ごろから笑顔の力に触れています。例えば、ちょっと入ったお店の店員さんが笑顔で接してくれたら、とても穏やかないい気分になりますよね。

しかし近年は、ネット通販やキャッシュレス決済が増え、以前よりもお店の人と直接コミュニケーションを取る機会が減りました。また、「お客さまは神さまだから、決して逆らってはならない」という誤解や、カスタマーハラスメントの問題もあって、互いにどこか構えている「乾いた接客」が増えてしまいまいた。

これは、日ごろのコミュニケーションでも同じです。相手を尊重するのは良いことですが、一方で衝突を恐れて相手のテリトリーに立ち入ることがなくなったので、それこそ名刺情報のレベルまでしか相手を知ることができません。これはとても残念なことです。

『人を動かす』や『道は開ける』などの書籍でも知られるデール・カーネギー氏の言葉に、

笑顔は1ドルの元手もいらないが、100万ドルの価値を生み出してくれる

というものがあります。私が皆さんに伝えたいことを示した言葉です。

ただ、もはや笑顔はタダではなくなりつつあります。お店がお客を選ぶようになってきた今、笑顔は特定のお客に対する特別な対応になりつつあります。つまり、高いお金を払ったり、何度も訪れたりする常連に向けての、限られたサービスになりつつあるのです。笑顔の価値が高まっていると感じますよね。だからこそ、むしろ、私たちは笑顔を絶やさない集団でいましょう。100万ドル以上の価値が得られます!

以上(2024年3月作成)

pj17173
画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】「賃金引き下げに関する労働協約と個別の同意書」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:社員の賃下げを検討している経営者
  • 課題:労働組合や社員とトラブルにならないよう、法令にのっとって手続きを進めたい
  • 解決策:専門家が監修した賃金引き下げに関する労働協約や個別の同意書を使用する

1 労働条件の不利益変更を行うのに必要な書面とは?

会社の業績が悪化したり、社員の成果が著しく低かったりなどで、「賃下げ」を検討せざるを得ないケースがあります。ただ、賃下げは「労働条件の不利益変更」になるので、実行するには次のいずれかの手続きが必要です。

  • 労働組合の同意を得て、労働協約を変更する
  • 合理的な内容であることなどを前提に、就業規則を変更する
  • 個々の労働者の同意を得て、労働契約を変更する

その際、1.については「賃金引き下げに関する労働協約」、2.と3.については「賃金引き下げに関する個別の同意書」といった具合に、手続きに応じた書面を用意しておくのが望ましいです。2.については本来、就業規則の変更内容が労働契約法第10条の要件を満たす合理的なものであれば個別の同意書は不要なのですが、賃下げは何かとトラブルになりやすいので、やはり用意しておいたほうが無難です。

以降で専門家が監修した労働協約や個別の同意書のひな型を紹介するので、ご確認ください。

2 賃金引き下げに関する労働協約のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の会社によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした協約を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【賃金引き下げに関する労働協約のひな型】

株式会社○○○○(以下「甲」)と△△△△労働組合(以下「乙」)は相互に協力して会社の発展を図るため、会社が従業員に支払う賃金について次の通り労働協約を締結する。また、本協約は就業規則その他、会社と従業員間における全ての協定または契約に優先する。

第1条(目的)

本協約は会社が従業員に支払う賃金支給水準の変更について定めるものであり、これに関連して賞与、退職金の算定基準となる賃金も変更される。

第2条(定義)

本協約において各用語の定義は、次に定めるところによる。

1.賃金:別途定める「賃金規程」(省略)第○条の年功給、職能資格給、技能給のことをいう。

2.賞与:賃金規程第○条の賞与をいう。

3.退職金:別途定める「退職金規程」に基づく退職金をいう。

4.従業員:就業規則第○条の従業員をいう。

第3条(賃金の改定)

本協約の締結後の最初に到来する賃金支払日より、会社は本協約「別表」(省略)に基づいて計算した賃金を従業員に支払う。

第4条(賞与の改定)

本協約の締結後最初に到来する賞与支給月より、会社は本協約「別表」(省略)に基づいて計算した賞与を従業員に支給する。ただし、本協約により賞与の支給月数が変更されることはない。

第5条(退職金の改定)

本協約の有効期間中に生じる退職金の算定は、本協約「別表」(省略)に基づいて行うものとする。

第6条(有効期間)

本協定の有効期限は○年○月○日から1年間とする。

締結日 ○年○月○日

甲 株式会社○○○○  
代表取締役 〇〇〇〇

乙 △△△△労働組合  
委員長 〇〇〇〇

3 賃金引き下げに関する個別の同意書のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の会社によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした同意書を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【賃金引き下げに関する個別の同意書のひな型】

△△△△(従業員氏名)は、本同意書で定める賃金改定について、○年○月○日、別紙説明資料の提示を受けた上で、会社から十分な説明を受けてその内容を理解し、同意した。本同意書の締結後、会社が支給する賃金、賞与、退職金が次の通り変更される。

1.賃金

  • 年功給:    円
  • 職能資格給:  円
  • 技能給:    円

2.賞与

本同意書の締結後、賞与の計算の基礎となる賃金は本同意書「別表」(省略)に定める額に基づく。

3.退職金

本同意書の締結後に生じる退職金の計算の基礎となる賃金は、本同意書「別表」(省略)に定める額に基づく。

締結日 ○年○月○日

甲 株式会社○○○○   

乙 △△△△(従業員氏名)

以上(2024年3月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)

pj00406
画像:ESB Professional-shutterstock

中小企業に賃上げは必要? 会社負担が少ない「手当」を使ったアプローチ

書いてあること

  • 主な読者:賃上げの必要性は感じるが、経営の先行きは不透明な経営者
  • 課題:基本給を一度引き上げると簡単には下げられない
  • 解決策:会社負担が少ない「手当」で実質的な賃上げを実施する

1 賃上げムードでも判断は慎重に!

物価高の影響などから、賃上げ(定期昇給やベースアップ)に向けた動きが活発化しています。2023年10月以降の地域別最低賃金は、全国加重平均額で1004円(過去最高額、初の1000円超え)となりました。2024年春闘では、「みんなで賃上げ。ステージを変えよう!」をスローガンに、賃上げ目標を「5%以上(定期昇給相当分を含む)」とする方針が打ち出されています。

ただ、中小企業の経営者の多くは、

「賃上げはしたいけど、先行きを考えると簡単には踏み切れない……」

と考えているのではないでしょうか。賃上げは簡単でも、賃下げは「労働条件の不利益変更」の問題などがあって難しいので、どうしても慎重にならざるを得ません。

この記事では、そのような経営者に次の2つをご提案します。

  1. 今の賃金水準を確認し、賃上げの必要があるかを判断する
  2. 「手当」で実質的な賃上げをする

2 今の賃金水準を確認し、賃上げの必要性を判断する

今の賃金水準が世間相場を上回っていれば、無理に賃上げに取り組む必要はないでしょう。そこで、

厚生労働省が毎年3月ごろに公表する「賃金センサス(賃金構造基本統計調査)」

で御社の賃金水準を確認してみてください。賃金センサスでは、賃金や賞与に関するデータが、会社の規模や産業、社員の属性(性別、年齢、勤続年数、役職、職種など)に応じて細かく分けられています。

■厚生労働省「賃金センサス」■

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

例えば、社員数50人の小売業の会社が、社員の所定内賃金(毎月必ず支給する賃金、残業代などを含まない)を同業他社のデータなどと比較したい場合、社員の属性に合わせて、賃金センサスのデータを次のように検索します。

Aさんの所定内賃金であれば、40歳男性(勤続15年)の平均35万1700円や、40歳男性(課長級)の平均38万1300円と比較します。なお、これは月給の比較となりますので、賞与なども加味することを忘れないでください。

画像1

御社の賃金水準が世間相場を上回っているなら、それを社員に伝えましょう。社員は世間相場以上の賃金をもらっていることを喜ぶでしょう。逆に、御社の賃金水準が世間相場を下回っているなら、賃上げを検討する必要があります。

ただし、前述した通り、「賃上げは簡単でも、賃下げは難しい」のが実情です。基本給を引き上げると後が大変かもしれないので、それ以外で調整したいところです。そこでご提案するのが、「手当」を使って実質的な賃上げを実施する方法です。

3 「手当」で実質的な賃上げをする

基本給と違い、手当は「就業規則等で定める要件を満たす場合のみ支給する」のが基本です。要件を満たさなくなれば支給は止まるので、基本給を一律に引き上げるよりも、新しい手当をつくって社員に支給したほうが、人件費が経営を圧迫するリスクを回避しやすくなります。

また、「基本給を引き上げる代わりに、賞与で調整する」という方法を取る会社は多いですが、賞与は多くの場合、6カ月に1回の支給です。それよりも、毎月の手当で実質的な賃上げをしたほうが社員は喜ぶかもしれません。

具体的な手当の例は次の3つです。

1)インフレ手当

冒頭でお話しした物価高の影響で、2022年ごろから注目を集めているのが、

物価高が続く間、社員の生活費を補填するために支給する「インフレ手当」

です。社員が生活に困らないようにするための手当ですが、物価高が続いていることが支給の前提条件なので、経済情勢が変わってきたら支給を打ち切ることもできます。就業規則等で

「支給期間は○年○月○日から1年間とする。ただし、物価変動の状況などを考慮して会社が必要と認めた場合、支給を継続することがある」

など、あらかじめ支給期間を決めつつ必要に応じて延長する定めをすることが考えられます。

支給額については、「基本給×○%」などで設定するケース、総務省が公表している「消費者物価指数」を基準に決めるケースなど、会社によってさまざまです。ちなみに、帝国データバンクが、2022年11月にインフレ手当を導入している会社について毎月の支給額を調査したところ、

最も多かった回答は「3000円~5000円未満」「5000円~1万円未満」(ともに30.3%)

でした(帝国データバンク「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」)。

2)業務代替手当(育児休業など)

育児休業などで社内に長期間欠員が出る場合、導入を検討したいのが、

休業者のフォローに回る社員に対して支給する「業務代替手当」

です。通常時はさほど賃金に不満がない社員でも、社内に欠員が出て急に業務量が増えると、「今の賃金では割に合わない、もっと金額を上げてほしい」と考えるようになります。こうした場合に役立つのが業務代替手当です。

例えば、休業者が育児休業に入る前に、休業者の担当業務を他の社員に割り振り、新担当者に業務代替手当を支給するようにします。育児休業中の休業者の賃金を無給にしている会社であれば、その分の額を業務代替手当として、フォローに回る社員に分配することができます。育児休業が終了し、休業者が元の業務に復帰したら、業務代替手当の支給は終了します。

なお、育児休業については、2024年1月から

業務代替手当を支給した会社に対し、手当総額の原則4分の3(上限10万円×最大12カ月)を助成する「両立支援等助成金 育休中等業務代替支援コース」

が始まっています(業務体制の整備や育児休業等に関する情報公表について別途支給あり)。

■厚生労働省「両立支援等助成金 育休中等業務代替支援コース(下記URL中段)」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html

2)インセンティブ報酬

運用次第で会社の業績アップにもつながる可能性があるのが、

社員が特定の目標を達成した場合に支給する「インセンティブ報酬」

です。いわゆる「歩合給」と似ていますが、歩合給は販売件数などの実績に応じて一律に支給するのに対し、インセンティブ報酬は「社員が設定した目標を達成した場合にのみ支給する」という特徴があります。

「社員の頑張りに応じて支給するなら、賞与でいいじゃないか」と思うかもしれませんが、インセンティブ報酬のほうが、社員のモチベーションアップにつながりやすいケースもあります。

例えば、毎月の賃金に上乗せしてインセンティブ報酬を支給する場合、

社員は毎月目標を立て、インセンティブ報酬を獲得するため、その達成に全力で取り組む

ことになります。期首に大きな目標を立てて、期末に達成度合いを確認するだけだと、時間が経つうちに目標が有名無実化してしまうこともありますが、1カ月ごとなどの短いスパンで小さな目標を都度立てるのであれば、緊張感も継続します。経営者としても、目標を達成して会社に貢献してくれる社員が増えるのは喜ばしいことです。

インセンティブ報酬をうまく運用すれば、賃金体系を成果重視のものへと切り替えていくことができます。ただし、今まで賞与として支給していた分の額などをインセンティブ報酬に振り替える場合、その変更が「労働条件の不利益変更」にならないよう注意する必要があります。

以上(2024年4月更新)

pj00668
画像:Yellow_man-shutterstock

賃金の悪平等をなくす「調整給」はどこまで自由に支給できるか?

書いてあること

  • 主な読者:現在の賃金ルールの見直しを考えている経営者
  • 課題:賃金規程通りに賃金を支給すると、社員の能力を反映しきれない場合や、転職や定年再雇用による賃金低下に対応しきれない場合がある
  • 解決策:調整給で賃金を調整する。ただし、支給するケースや期間などを明確に決める

1 調整給(調整手当)とは?

一般的に、調整給(調整手当)とは、

賃金規程の通りに賃金を支払うことが妥当でない場合に支給する手当

です。例えば、

  • 社員の能力が想定より高く(低く)、ルール通りの賃金だと世間相場とかけ離れる
  • 前職や定年前などに比べて賃金が下がり過ぎてしまう

などのケースです。図で表すと次のようなイメージになります。

画像1

調整給を支給すれば、このズレを解消できるので、経営者にとってはまさに「魔法の杖」のような賃金です。一方、調整給はルールが曖昧になりがちで、悪平等を解消するつもりが、かえって不平等になってしまうことがあります。そこで、この記事ではトラブルにならない調整給の運用ポイントを紹介します。

2 調整給を支給するケースを想定しておく

調整給も賃金なので、支給に関するルールを就業規則等に定める必要があります。あまり詳細に定めると運用しにくくなるため、

「調整給は、会社が必要と判断した社員に対し、一定期間支給する」

など、シンプルな記載にとどめるのが一般的です。とはいえ、「困ったら何でも調整給で対応すればいい」と安直に考えてはいけません。就業規則等で詳細を定めないということは、

調整給の金額や決定方法を個別に社員に説明し、同意を得て支給しなければならない

ということです。場当たり的な運用では、社員に納得のいく説明ができないでしょうから、

  • 社員の能力が想定より高い(低い)場合
  • 前職や定年前などに比べて賃金額が下がる場合
  • 賃金体系の変更で賃金額が下がる場合

など、経営者の中で「どのようなケースに調整給を支給するのか」をあらかじめ想定し、ケースごとの支給ルールを決めておく必要があります。

3 いつまで調整給を支給するのかも重要

調整給には、

支給事由が消滅したら、支給を停止したほうがよいケース

があります。具体的には、次のような場合です。

  • 社員の能力が想定より高いため、調整給を支給していたが、定期昇給によって本来の賃金額(調整給を除く金額)が上がった場合
  • 定年再雇用で賃金が下がったため、調整給を支給していたが、老齢年金をもらえる年齢になって生活が安定してきた場合

こうしたケースで調整給を支給し続けると、対象の社員は「賃金をもらいすぎている」状態、つまり他の社員にとって不公平な状態になります。ですから、調整給を支給する場合、

いつまで調整給を支給するのかとその理由を、個別に社員に説明し、同意を得る

ようにしましょう。また、いきなり調整給の支給を停止すると、支給額によっては社員の生活などに影響することもあるので、その場合、

昇給額などに応じて段階的に調整給を引き下げていく

といった対応も検討しましょう。

4 調整給を支給する代表的な3つのケース

1)社員の能力が想定より高い(低い)場合

基本給には「下方硬直性」といって、一度高い金額を設定すると減額がしにくい性質がありす。この点を考慮して、社員を採用する際の賃金は、

実際に仕事をしてもらわないと能力が分からないので、基本給を高く設定しにくい

というケースがほとんどです。そこで登場するのが調整給です。具体的には、

基本給を低めに設定し、調整しやすい調整給で上乗せする

という方法がとられます。例えば、入社時は「低めの基本給+調整給」を支給しておき、試用期間の終了とともに調整給を打ち切って社員の能力に応じた金額を基本給に振り替えるといった運用が考えられます。

画像2

同様に、既存社員についても能力を賃金に反映しきれない場合などに、調整給を用いることがあります。例えば、賃金額全体に占める勤続給の割合が高い会社では、若手社員は能力が高くても賃金額が低くなってしまうため、調整をかける必要があります。この場合、

調整給は人事考課のタイミングで都度、支給額を見直し、継続的に支給する

といった運用が考えられます。

2)前職や定年前などに比べて賃金額が下がる場合

中途採用者の賃金額が前職よりも下がってしまう場合、調整給をプラスして低下分を補填します。社員の生活水準を維持することが目的なので、他の社員との公平性を考慮して、

調整給は社員の定期昇給時に徐々に減額していき、調整給を除く賃金額が前職の賃金額に追い付いたら支給を停止する

といった運用も可能です。ただし、その場合、実質的な賃金額が入社時から変化しないことになるので、入社時に社員に説明して同意を得ておく必要があります。

社員が定年後に嘱託などとして再雇用され賃金額が下がる場合、社員の生活を考慮して調整給を支給するケースもあります。この場合、原則65歳になると、老齢年金が支給されるので、そうなったら調整給の支給を停止することなどを検討します。

3)賃金体系の変更で賃金額が下がる場合

「年功給重視から職務給重視の制度に変わった」「等級制度を見直した」などのように、賃金体系に変更があった場合、それによって社員の賃金額も変動します。ただ、会社側のルール変更を理由に、いきなり社員の賃金額を変動させると生活などに影響します。この場合、

一定期間、賃金額が下がる社員については調整給をプラスする

といった運用が考えられます。

注意すべきは、調整給の支給期間です。影響範囲が全社員なので、いつまで調整給を支給するのか、慎重に考える必要があります。もともと実力重視の会社で成績などの評価がシビアなら、調整給の支給期間は1年など短くてよいかもしれませんが、そうでない場合は数年など長めの支給期間を設けます。自社の風土や社員の声などを検討して決めましょう。

もう1つ重要なのが、経営者のメッセージです。調整給に支給期間を設けるのは、

一定期間賃金を保証する代わりに、新しい賃金体系に対応した社員になってもらうため

です。社員が制度の上にあぐらをかかないよう、支給期間を設ける意味と、どんな社員に成長してほしいかを、経営者が積極的に発信するようにしましょう。

以上(2024年3月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

pj00620
画像:ChatGPT

ケアしていますか? 社長の「家族の健康」リスク

書いてあること

  • 主な読者:自分はもちろん、配偶者の健康管理も行って経営リスクを低減したい経営者
  • 課題:社長の妻であることを、配偶者がなかなか理解してくれない
  • ポイント:自分たちだけではなく、社員やその家族にも影響が及ぶことを伝える

1 社長の家族が病気になったら……

会社経営に影響する健康リスクといえば、社長や社員の健康を思い浮かべますが、見逃されがちなのが、

社長の家族、特に配偶者の健康リスク

です。配偶者が病気などで倒れたらどういった状況に陥るのかについては、既に多くの経営者は経験済みのはずです。例えば、配偶者がインフルエンザや新型コロナウィルスなどに感染したときのことを考えてみてください。社長が配偶者の看病や家事をする必要もあるので、働ける時間は短くなります。

インフルエンザなどは10日もすればある程度は落ち着くでしょうが、もっと重い病気だったらそれどころではありません。実際、家族の看病を優先して引退した著名な社長もいます。

もともと社長に労働時間という概念はなく、昼夜を問わず働いています。不規則で、ある意味で自分勝手な働き方ができるのは、配偶者をはじめとする家族の理解と支えがあってのことです。ですから、社長は家族の健康をケアすることがとても大切なわけです。

2 まずは対話とフォロー

1)家族に立場を理解してもらう

社長は、万一のリスクを考慮して自身の健康管理を心がけるものですが、これは社長の家族についても同じです。

そのため、必要以上に改まる必要はありませんが、配偶者としっかり話し合って、

自分(配偶者)の家族だけではなく、社員やその家族にも影響が及ぶ

ということを理解しておいてもらわなければなりません。社長は「公人」であり、その配偶者もまた「公人」といえる面があることを伝えましょう。

2)対話を心がける

健康リスクには、うつ病など精神疾患もあります。そのきっかけに早めに気づき予防するためにも、社長は普段から配偶者(子供がいる場合は、子供についても同様)とよく対話することが大切です。

もしかすると、配偶者から相談したいことがあっても、生活のリズムが合わないために擦れ違っているかもしれないので、社長のほうから意図的に会話の時間を作るようにしましょう。

3)幹部社員との話し合い

幹部社員とも話し合っておくのが理想です。そして、誰かがこれまでのように働けなくなった場合の対策を決めておきましょう。特に社長は、自分が一線を退かざるを得なくなった場合に、誰がトップに立って指揮を執るのかを明確に決めて周知します。突然、社長が働けなくなると社内が混乱することは避けられませんが、その影響を最小限に抑えるためです。

また、社長は自分が行っている仕事を整理し、重要なポイントやリスクを幹部社員に説明しておきましょう。いざというときに、幹部が速やかに社長の仕事を引き継げるようにするためです。

3 健康診断の実施など

1)全国健康保険協会の費用補助

具体的な健康ケアとして身近なのは健康診断です。健康保険の場合、社長は被保険者、配偶者は被扶養者となりますが(生計維持関係などが問われますが、ここでは割愛します)、健康保険には健康診断に関する給付がありません。

ただし、全国健康保険協会が運営する「協会管掌健康保険」では、年度内に1回に限り、被保険者が受ける健康診断の費用の一部が補助されます。協会管掌健康保険に加入している中小企業では、この費用の補助を利用するとよいでしょう。また、40歳から74歳までの被扶養者についても、「特定健康診査」の費用の一部も補助されます。項目は限られますが、血液検査などには対応しています。

2)健康経営の推進

健康経営の一環で人間ドックの受診を取り入れる会社があります。社長など役員とその親族だけを対象にすると給与等として課税されますが、全社員が対象ならば福利厚生費となります。

また、「成人病の予防のため、年齢35歳以上の希望者の全て」など、年齢など一定の要件で絞り込む場合も福利厚生費となることがあります(国税庁「人間ドックの費用負担」)。

健康リスクは社長とその家族だけではなく、社員とその家族にも及びます。会社の規模や負担可能な費用にもよるものの、健康経営の一環として、幅広く社員やその家族が人間ドックを受診できるようにすることも、一考に値するかもしれません。

4 「第二の患者」をつくらないために

がん患者の家族を、「第二の患者」と呼ぶことがあります。病状の変化で精神的に追い詰められ、看病で肉体的な疲労が蓄積し、実際に家族が体調を崩してしまうこともあります。

配偶者など社長の家族が病気になり、社長がこれまでのように働けなくなったら、会社の状況は大きく変わります。社長の仕事は幹部社員に引き継がれ、幹部社員の仕事はその部下に引き継がれる……。

こうして社員の負担が重くなります。その状態が長期にわたる場合、仕事の内容や進め方を根本的に見直さなければ、いずれ立ち行かなくなります。社長自身も、家族を心配する心と社員に申し訳ないという気持ちの板挟みになってしまうかもしれません。

このように、社長の家族が病気になると、「第二の患者」を生み出してしまう恐れがあります。社長は、社長の責務として、自分のことと同じように、家族の健康管理に努めることが大切なのです。

以上(2024年3月更新)

pj60032
画像:pexels

女性約8万人約60万件のビッグデータを持つ日本を代表するFemtechスタートアップのすごいところは、徹底した「データドリブン」な女性の健康課題解決ソリューション。スーパー頑張り屋のCEOアンナ・クレシェンコさんは空手と日本語の達人!/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、アンナ・クレシェンコさん(Flora株式会社 代表取締役)です。

「頑張ればできます」

シンプルな言葉が胸に響きます。実際に確かな結果を出してきている人の言葉だからこその説得力。この言葉を発したのは、Anna Kreshchenko(アンナ・クレシェンコ)さん(以降、本記事ではアンナさん)です。

2017年にウクライナから日本に留学したアンナさん、礼儀正しくて姿勢も良く、そして日本語がとても上手です。「上手」と表現するのがためらわれるくらい「普通」に、美しい日本語を話します。なんとアンナさん、京都大学法学部を日本語だけで卒業しています。法学部を日本語で! どれだけ勉強熱心かつ、日本語に精通しているかが分かります。

アンナさんは、2020年に日本で、Femtech(フェムテック)分野の会社「Flora株式会社」を立ち上げました。Floraでは、アプリなどを使って女性の心身の健康課題を可視化し、女性一人ひとりの「なりたい自分」の実現をサポートしています。近畿経済局のJ-Startup KANSAIのスタートアップ企業にも選定されている、日本を代表するフェムテックスタートアップです。

アンナさんたちの大きな強みは「女性たちから集めたビッグデータを持っている」ところです。このデータがあることで、toCだけでなくtoBにおいても、女性の働く環境を整える、新商品を開発するなどの文脈でアンナさんたちFloraは注目されており、提携する企業は増えています。2023年12月には、約1.5億円の資金調達を達成しました(後でもご紹介します)。

日本では今、不妊治療の保険適用範囲の拡大、卵子凍結をサポートする保険の販売開始などのニュースが日々聞こえてきます。生理や不妊治療、更年期障害とどう向き合って働くかも、少しずつオープンに話されるようになってきています。AIなどテクノロジーを使い、データドリブンで女性の健康課題を解決し生き方をサポートするアンナさんたちの取り組みは、経営者なら一度は必見。ビジネスアイデアの宝庫です。

1 女性約8万人約60万件のビッグデータ! toB向けに活用

冒頭でご紹介した「頑張ればできます」は、アンナさんが京都大学法学部を日本語で卒業したことに対して、素晴らしいですねと伝えたところ、アンナさんが言った言葉です。地に足のついた、とても真実味のある言葉です。

こうしたアンナさんの地に足のついた感じは、下記のFloraのビジョンにも表れています。

Floraのビジョン

(出所:Floraのホームページ)

Floraのビジョンは、「Empowering women through data=データを通じて女性をエンパワーする」というものです。この「データを通じて」というのがポイントです。アンナさんが語る話や会社でやっていることは、ベースにデータがあるので真実味、説得力、重みが違います。

アンナさんに教えてもらったところ、世界中では39.6%もの女性がなんらかの産婦人科の病気を抱えているそうで「その数値は、実は心臓病の数値を大きく上回っています。WHOでも女性の産婦人科の病気を、目に見えないパンデミックだと言っています」と続けるアンナさん。

さらに、女性は受診率も意識も低いことを、アンナさんは問題だととらえています。

「例えば日本の場合、女性特有の課題、約1000万人が月経困難症(腹痛や倦怠感など月経に伴って起こる状態)を抱えてると推定されていますが、診断されていないのが91%です。子宮内膜症の場合も、同じく大半の女性たちは診断されていません。
 根本的な課題として、女性が自分の体を理解できていない。そもそも理解する機会が与えられていないのでセルフケアや予防に取り組んでいないのです」

アンナさんがデータ(数字)とともに語る実情は、なかなかに衝撃的です。アンナさんは、こうした事態を改善し、次のような世界観を目指していると語ります。

「例えば、避妊したい、妊娠したい、生理痛から開放されたい、更年期障害をやわらげたいなど、女性一人ひとり、本当に【なりたい自分】は違う。
 そこでFloraでは、自社の強みであるデータ、AI、機械学習やコンテンツを活かして、女性が自分の体の状態をちゃんと理解できる、そして女性の一人ひとりの【なりたい自分】を実現する。そういう世界観を目指しています」

まず、女性本人が自分の体を理解できていないところからして大きな課題です。「データがあれば自分の体のコンディションに気づきやすい」ということで、Floraでは、女性向けに自分の体の状態をデータで可視化&セルフケアもできるアプリを開発。月経や妊活のためのソリューションを提供するこのアプリ、なんと約8万人のユーザーがいるそうです。

●Flora App:toC向けのアプリ

https://www.flora-tech.jp/flora-app

Flora App:toC向けのアプリ

(出所:Floraのホームページ)

アプリはUI/UXにもこだわった分かりやすい操作感。そして、AIなどを使った独自のアルゴリズムによりパーソナライズ感も実現しています。

すごいのは、それだけではありません。このアプリを通じて、ユーザーである女性のデータがたくさん集まってきているのがポイントです。それこそ思春期から更年期まで幅広く。生理周期のパターン、症状のパターン、女性特有疾患の発症可能性、どういう化粧品使っているか、どういう食べ物を食べているかなど。量としては、

女性約8万人のデータ約60万件(2023年12月)

が集まっており、ビッグデータプラットフォームを構築しています。

こうしたビッグデータは、企業向けに女性の働く環境改善ソリューションやコンサルティングなどを提供する「flora biz」や、フェムテック分野の新規事業をワンストップでサポートする「Flora Expert」など、FloraのtoB向けのサービスに活かされています。

●flora biz:法人向けサービスを大手銀行、保険会社、地域金融機関、商社など50社で導入

https://florabiz.flora-tech.jp/

flora biz

flora biz

(出所:Floraのホームページ)

●Flora Expert:大企業からスタートアップまで30社以上の支援実績

https://www.flora-tech.jp/floraexpert/

Flora Expert

(出所:Floraのホームページ)

「データがあること」は、FloraのtoB向けソリューションでとても大きな意味を持ちます。

「女性の働きやすさや女性活躍は、使い回しのソリューションが存在しない」

と言うアンナさん。

その会社の働き方、あるいは工場なのか営業現場なのか、社員の年齢層、業界、業種などによって会社の文化はそれぞれ違います。その会社ごとのソリューションが必要であって、当たり前のことながら、ソリューションの使い回しはできない。そう言うアンナさんは、Floraのソリューションの強みについて、次のように語ってくれました。

「現場の人たちは何に困っているのか、まず数字で徹底的に可視化します。また弊社の場合はBtoCで女性の症例やデータも持っているので、相対化も出来ます。
 そうすると、例えば、『あなたの会社の女性社員は、生理痛の割合が平均と比べて高いので、まずはその課題を解決する必要がある。この生理の課題に関連して労働損失額がこのくらい発生しているのでまずそこから着手しましょう』とか、業界的なベンチマークと数値を比べてどうか、対策を実施している会社と比べてどうか。そういうデータドリブンでその会社の状況を可視化して、それに合ったソリューションを提案する。イデオロギー的な女性活躍や人的資本経営の話をするのではなくて、ちゃんとデータ、数値に基づいて話をして対策を進めていきます。弊社はそういうソリューションを提供しています。
 例えば、ある会社では、40代、特に更年期障害の社員は自分の体に関することを『相談しにくい』『話したいくない』と答えている一方で、20代の社員は逆に『話したい』と答えている例があります。この会社では、ジェネレーションギャップがあり、年代同士で理解のある関係がちゃんと成り立っていないのがまず課題なので、そこから始めましょうというデータドリブンでコンサルすることができます」

「使い回しのソリューションは存在しない」「データに基づいて会社ごとの状況・課題を把握することがまず大事」などは、「当たり前であってそれほど特別なことではない」と言うアンナさん。それらは、多くの人が、大事だと分かっていながらも実現できていないことであり、決して当たり前のことではなく、地道に実施しているアンナさんたちは本当にすごいと思います。

アンナさん

2 起業のきっかけを振り返る

コツコツと努力する、積み重ねる。当たり前のことを継続してやり続ける。アンナさんのこうした芯の通った歩み方は、幼いころから空手をやってきたことも関わっているかもしれません。ここでは、アンナさんのこれまでや起業のきっかけなどを振り返ってみましょう。

なんと、ウクライナ代表として空手の世界大会に出場するくらいにまで強くなったアンナさん。日本に留学してきたのは、日本の清水選手(東京五輪では銀メダルを獲得)と一緒に練習がしたいという思いもあったからといいます。空手も勉強も、アンナさんはとにかく文武両道。そして清々しい礼儀正しさ、姿勢の良さ、気持ちのまっすぐさ。これらは、アンナさんがコツコツと努力を積み重ね続けてきたからこそだと思います。

2020年に起業したアンナさん、起業のきっかけとしては、シリコンバレーに短期留学したことと、アンナさんのいとこに起きた出来事を話してくれました。

「大学2回生の時に短期留学でシリコンバレーに行かせていただいて、そこで本当にすばらし過ぎる人たちに出会って、自分も周りにそういう人がいたら人間として成長できるのかもしれない、自分も社会起業をしたいと思いました。
 そのころ、私のいとこが妊娠していて産前うつを発症し、妊娠合併症にもかかりました。そして出産の後、第二子は亡くなってしまいました。こうした出来事を機に、婦人科や婦人科系のメンタルな領域には解決されてない課題が多くあることを知りました。そこで、この課題を解決するために、フェムテック分野で起業したいと思いました。妊婦さんへの支援から始まって、試行錯誤し、ユーザーにもヒアリングなどを行いながら、今のビジネスにいたっています」

空手も起業も、その後のビジネスも、データをしっかりベースにしているところも、アンナさんの、生きがいのある人生を自ら創っていく姿勢、より高いところを目指す志が背景にあることを感じます。「自分自身を『何者か』にできるのは、自分自身なのだ」「自分の人生は自分だけが創ることができるのだ」ということを体現しているように見えます。

3 仲間集め、そして今後のこと

日本で起業しビジネスを形にしているアンナさんは、日本語がとにかく堪能で、日本のことをよく知っています。女性活躍推進企業を認定する「えるぼし認定」のことなども。母国を離れ日本で起業し、そして実績を上げているアンナさん、なんと日本代表のスタートアップ企業としてシリコンバレーに行ったこともあるそうです。これは本当にすごいことではないでしょうか。その他にも、数々の受賞歴があります。

アンナさんのプロフィール

(出所:Floraのホームページ)

日本を、そして特に日本ではまだまだ多くはないフェムテック分野を代表するスタートアップ企業を創り出しているアンナさんには、本当にただただ頭が下がります。

素晴らしい実績に関しても、アンナさんは「共同創業者など仲間がいてくれるから」と言います。京都で偶然出会った生体物理工学博士の共同創業者(CTO)イワンさん、SNSで知り合った日本人のCOOなど、チームメンバーは日本にも、世界中にもいて、年代もさまざま。エンジニアも、データドリブンなFloraの要(かなめ)、データサイエンティストもいます。

「チームの半分ぐらいは海外の人で海外在住の人たちもいますし、20代の人もいますし40代の人もいますし、また顧問も入れると70代の方もいらっしゃいますので、本当にダイバーシティを体現したチームになってます」

と語るアンナさん。すばらしいですね! 今の、そしてこれからの時代の会社のあり方、働き方だと思います。
2023年12月には、約1.5億円の資金調達を達成し、豊田通商と資本業務提携をしたことを発表したアンナさんたちFlora株式会社。アンナさんが見ているのは日本だけではありません。今後は東南アジアなど、グローバルに展開していくと発表しています。

世界中の女性一人ひとりが、そして女性に限らずすべての人一人ひとりが「なりたい自分」を実現する未来。アンナさんを見ていると、強い意志で努力を積み重ね、そうした未来を本当に実現していくのだなと感じました。未来を創るアンナさん! 有り難うございます!

●フェムテック事業でシリーズA約1.5億円の資金調達!Flora株式会社が豊田通商と資本業務提携を発表(PR TIMES)

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000024.000072971.html

以上(2024年3月作成)