【中堅社員のスピーチ例】「ノーサイド」が意味する本当の“勝者”

おはようございます。いま、私が最も関心を持っているイベントが、2023年9月からフランスで開催されるラグビーワールドカップ2023です。私も多くの日本人と同様に、4年前の2019年に日本で開催された前回大会での日本代表の活躍に感動して、「にわか」ファンになった一人です。

前回大会の開催前は、ラグビーの簡単なルールさえ知りませんでしたが、試合や関連番組をテレビで観戦するうちに、ルールだけでなく、ラグビーの“哲学”のようなものも知ることができました。ご存じの方も多いでしょうが、けさは、その中でも私が最も感銘を受けている「ノーサイドの精神」について、私の考えを話したいと思います。

ご存じのように、多くのスポーツでは試合終了のことを「ゲームセット」と呼びますが、ラグビーの場合は「ノーサイド」と呼びます。つまり、敵と味方に分かれていた2つのサイドがなくなるということです。ラグビーでは、試合が終わると、互いに健闘をたたえ、感謝し、同じラグビー愛好者として友情を深めることが当たり前になっています。これは選手に限らない話で、観客も、ひいきのチームの枠を超えて友情を深めます。

ノーサイドの精神は、ただ日本代表が試合に勝つことを願っていた私に、ラグビーをする、もしくは応援する本当の目的を考えさせてくれました。試合に勝つことも大事ですが、試合を通じてラグビーを愛する多くの人と友達になれれば、人生はより豊かなものになるのです。

もちろん、勝つことは大事ですし、勝利を目指して真剣に戦った相手でなければ、健闘をたたえて感謝することもできません。ですが、ノーサイドの精神を踏まえると、たとえ試合では“敗者”になったとしても、試合を通じて得るものがあるのなら、その人も“勝者”といえます。

私は、「ノーサイドの精神」を知ってからのこの4年間、仕事でもノーサイドの精神を意識するようにしてきました。

例えば、ライバル会社との顧客獲得競争に関してです。もちろん、ライバル会社に顧客を奪われれば悔しいですし、逆に顧客を奪えればうれしいです。ですが、顧客獲得競争が一段落した後にノーサイドの精神で振り返ってみると、顧客獲得競争の本当の意義は、当社とライバル会社がしのぎを削り、互いの製品やサービスをレベルアップしていくことで、お客さま、ひいては社会の役に立っていくことではないかと思うようになりました。それは、競争があるからこそできることです。

「自社の製品・サービスをいかに売るか」はもちろん大切です。ですが、競争の勝ち負けしか見えていない人には、その先がありません。大事なのは「自社の製品・サービスをいかにお客さま、社会のために役立てるか」です。たとえ一時の競争で“敗者”になったとしても、競争によってその大事な目的のために得るものがあったなら、私たちは“勝者”です。皆さんも、ノーサイドの精神を忘れずに競争してみませんか。

以上(2023年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

職場に知られたくない「不妊治療」。社員が支援制度を利用しやすくなる 2つのポイント

書いてあること

  • 主な読者:社員の不妊治療を支援して、離職防止や採用時のPRなどにつなげたい経営者
  • 課題:デリケートな問題ゆえに、支援制度を設けても社員が利用しにくいかもしれない
  • 解決策:各社員に不妊治療に対する正しい知識を身に付けさせる。不妊治療のことを知られたくない社員の気持ちに寄り添う

1 なぜ、「不妊治療」の支援が求められるのか?

今、仕事と子育ての両立支援の中で強く求められているのが「不妊治療」の支援です。少子化対策が会社の社会的な責任ということもありますし、何より、

不妊治療を受ける社員のうち15.8%が、仕事と治療を両立できずに離職する

という驚愕の事実があります。

改めて確認すると、不妊とは、健康な男女が避妊をせず性交しているのに一定期間(通常1年)妊娠しないこと、不妊治療とは、不妊を解決するためのタイミング法、体外受精などの治療のことを指します。不妊治療には時間がかかり、また精神面の負担も大きいため、仕事と不妊治療の両立を諦める社員が多いのです。

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皆さんの会社の状況はどうですか。会社が不妊治療の支援制度を整備することの意義は大きいです。また、不妊治療はデリケートな問題なので、制度を利用しやすい工夫をすることも大切です。具体的には、次の2つのポイントを押さえることです。

  1. 組織が不妊治療の正しい知識を身に付ける
  2. 不妊治療のことを知られたくない社員に配慮する

2 組織が不妊治療の正しい知識を身に付ける

皆さんは、「通常、不妊治療には2年ほどかかること」「男性も不妊治療を受けるケースがあること」をご存じですか? 不妊治療について正しい知識がないと、不妊治療を受ける社員に「休み過ぎだよ」「男のくせに不妊治療?」などと心無いことを言ってしまう恐れがあります。

ですから、不妊治療を支援するための第一歩は、会社全体が正しい知識を身に付け、支援に前向きな風土をつくることです。

1)不妊の原因は3つ

不妊に悩む夫婦が医療機関を受診した場合、まず不妊の原因を探るための検査をします。不妊には、

  • 男性側に原因がある不妊
  • 女性側に原因がある不妊
  • 原因が分からない不妊

があり、それぞれ治療法は図表2のように異なります。

なお、2022年3月までは、原因が分かる不妊のみが保険適用の対象でしたが、2022年4月からは、原因が分からない不妊の治療にも保険が適用されています。ただし、「第三者の精子・卵子等を用いた生殖補助医療」については、法規制の在り方などについて議論があり、現状は保険適用外です。

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2)不妊治療は2年程度

通常、不妊治療にかかる期間は2年程度です。ただ、治療期間は受診開始から妊娠・出産まで、あるいは治療をやめるまで続くので、個人差があります。治療内容によって通院日数などに違いがありますが、1回の不妊治療で妊娠・出産に至らなければ、月経周期に合わせて繰り返し治療を受けます。

治療にかかる通院日数の目安は図表3の通りです。

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3)不妊治療の平均費用は約32万円

厚生労働省によると、不妊治療にかかる費用は平均で約32万円です。また、治療内容ごとの費用は、「人工授精」で約3万円、「体外受精」で約50万円、「精巣内精子採取術」で約17万円、「顕微鏡下精巣精子採取術」で約30万円です(厚生労働省「令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業『不妊治療の実態に関する調査研究』」)。

4)不妊の原因の約半数が男性

WHO(世界保健機関)によると、不妊の約半数は男性に原因があるとされています。男性の場合は性交障害、精液異常など、女性の場合は排卵因子(排卵障害)、卵管因子(閉塞、狭窄、癒着)などが不妊の主な原因として挙げられます。

3 不妊治療のことを知られたくない社員に配慮する

主な不妊治療の支援制度は図表4の通りです。図表4の支援制度の具体的な内容を知りたい場合は、次のマニュアルをご確認ください。

■不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル■

https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001073885.pdf

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通院のために休暇が取れたり、会社が治療費を補助してくれたりすると、社員は喜ぶでしょう。一方、会社に不妊治療を受けている(またはその予定がある)ことを知られたくない社員もいるので、次のような配慮が必要になります。

1)必要最低限の範囲に情報をとどめる

社員の不妊治療を支援するためには、その社員が報告してもらわないとなりません。社員は必要最低限の範囲で、不妊治療について報告したいと考えるかもしれないので、その気持ちに寄り添いましょう。言うまでもないことですが、不妊治療は機微に触れるような個人情報なので、情報の取り扱いには細心の注意を払います。

また、厚生労働省推奨の「不妊治療連絡カード」を利用するのも有効です。不妊治療連絡カードとは、社員の主治医が不妊治療に当たって会社が配慮すべき事項などを記載するカードです。このカードを上司などに提出すれば、社員は上司などと直接面談しなくても、必要な情報を伝えられます。

■不妊治療連絡カードをご活用ください!■

https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/30b.pdf

2)不妊治療だと悟られにくくする

どうしても不妊治療のことを知られたくない社員に配慮するのであれば、経営者が個別に相談を受け、「不妊治療連絡カード」の情報を基に特別休暇を与えることも考えられます。とはいえ、個別に判断するようにすると制度化しにくいため、「不妊治療」を含めた家族支援の休暇制度をつくるほうが制度化しやすいでしょう。

例えば、「不妊治療」であることがすぐに分かるような「不妊治療休暇」などの名称にするのではなく、「ファミリーサポート休暇制度」などとして、育児や看護、介護にも利用できるようにすることで、不妊治療だと悟られにくくなります。また、「フレックスタイム制」と「テレワーク」を同時に適用すれば、社員は不妊治療の間だけ席を外し、治療後に仕事に戻るという働き方ができます。

3)相談窓口を設置する

不妊治療を受けている社員が相談できる窓口を設定しましょう。とはいえ、誰に相談するか問題です。特に女性の場合、妊娠・出産の経験者である実母や義母にも悩みを分かってもらえず、相談できないことがあるそうです。

そこで、専門家による個別カウンセリング窓口や外部の相談機関などの情報提供をすることを検討します。会社が社員と専門家の仲介をする場合は、相談場所は申し込みがあった本人のみに通知し、開催時間帯も離席しやすい時間帯(昼休みに近い12時から14時の間など)にするといった配慮があるとよいでしょう。

4 補足:政府が実施している不妊治療支援

1)両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)

両立支援等助成金(不妊治療両立支援コース)とは、次のいずれか、または複数の制度を導入し、社員に利用させた中小企業に支給される助成金です。

  1. 不妊治療のための休暇制度(多目的・特定目的とも可)
  2. 所定外労働制限制度
  3. 時差出勤制度
  4. 短時間勤務制度
  5. フレックスタイム制
  6. テレワーク

支給額は

A:最初の社員が休暇制度・両立支援制度を合計5日(回)利用した/30万円

B:Aを受給し、社員が不妊治療休暇を20日以上連続して取得した/30万円

となっています。支給はともに1回限りとなります。

■両立支援等助成金■

https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/000928925.pdf

2)くるみん認定プラス

2023年4月から、次世代育成支援対策推進法に基づく3種のくるみん認定(くるみん認定、プラチナくるみん認定、トライくるみん)に、仕事と不妊治療を両立できていることを証明する「くるみん認定プラス」が追加されました。すでに3種のくるみん認定のいずれかを受けている会社が、政府の基準を満たすことで「くるみん認定プラス」の認定を受けることができます。自社ウェブサイトなどに掲載すれば、会社のPRなどにつながるでしょう。

■くるみん認定・トライくるみん認定・プラチナくるみん認定を目指しましょう!!!■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/pamphlet/26.html

以上(2023年8月作成)

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【上手な話の聞き方】聞く力と認知バイアス

1 もっと聞く力を伸ばしたい

聞く姿勢ができてくると、同じ話を聞いても得られる情報、気づきが増えていきます。話し手の声のトーンや表情、視線や姿勢、言葉遣いのちょっとした違いなどから、言外のニュアンスがつかめるようになるのです。すると、少しずつ相手に合わせた反応を取れるようになり、予想外の話を聞かせてもらえることが増えていきます。会話が前よりももっと楽しくなるはずです。

とはいえ、人は常に変化するので、傾聴は奥深く、いくら努力しても決して完璧にはなりません。いくら上達しても失敗することはありますが、不確実なところも含めておもしろいのです。もっと聞く力を伸ばしたいという熱意があれば、どこまでも努力できるでしょう。

聞くときに注意すべき点は、目的によって変わります。例えば、ケアを目的に話をする心理療法の場合は、一般的には対話の型があり、型に沿って進みます。治療の質を一定にし、仮説と振り返りのサイクルを回すためです。コーチングなら、話し手が自分で気づき、やる気を引き出すように促すでしょう。他の人が知らないおもしろい話を引き出すインタビューなどであれば、方法はもっと自由です。

さまざまな聞き方に共通して大切なことは、聞き手が自分のバイアスを自覚することです。話し手と真剣に向き合ううちに、自分の思い込みで相手を判断しないことがどれだけ難しいか気づいてきます。自分のバイアスに合わせて、相手を誘導するような発言をしてしまうからです。

この記事では、注意すべき自分のバイアスについて紹介します。

2 思い込みがあることを前提にする

人間は自分で自覚できていない思い込みや傾向性を持っています。パートナーのことはよく知っていると思っていたら実はすれ違ってしまっていた、部下のせいでイライラしていると思ったら実は自分の寝不足や飲みすぎが原因だったということがあります。人間の意識の90%以上は無意識といわれるほど、私たちは自分に無自覚なのです。

思い込みを持って聞く

「この人は●●な人だ」「この職業の人は●●すべきだ」という思い込みは誰でも持っています。また、体調が悪いといつもの食事をおいしくないと思うように、自分の体調や感情によって相手に違った印象を持ちます。

こうした思い込みや傾向性を完全に無くすことはできません。自分にどんなバイアスがあるのか、どういうときに感情が揺れやすいかを知り、そういう場面では慎重に判断する方法を用意しておくのです。

3 バイアスの種類

思い込みや傾向性、経験や固定観念によって判断することを、認知バイアスといいます。認知バイアスには次のような種類があります。

  • 確証バイアス:自分の思い込みを補強する情報ばかりに意識がいく
  • ネガティビティバイアス:ネガティブな情報に注意を向けやすい
  • 同調バイアス:みんなの意見に流されやすい
  • ハロー効果バイアス:顕著に目立つ特徴に引きずられて評価がゆがめられる
  • 生存者バイアス:成功した人・組織の事例ばかり注目する
  • 根本的な帰属の誤り:誰か、何かのせいにする
  • 後知恵バイアス:物事が起きてから、それが予測可能だったと考える
  • 正常性バイアス:予期せぬ出来事に鈍感に対応する

バイアスがあるおかげで、わたしたちは全ての出来事を一から十まで判断する手間を省き、状況に素早く対応できます。こうしたバイアスは全て悪いと考える必要はないのです。

しかし、こうしたバイアスに無自覚だと、偏った考え方をしがちになります。人間にはこういう傾向があると自覚し、自分が感情的になりやすい話題や、信じやすい話題などを自覚するようにしましょう。そして、そのような場面に遭遇したら、悪い方向にバイアスが働いていないか、冷静に考えてみるのです。

自分のバイアスを自覚し、確認する方法について知りたい人は、次の資料が参考になります。

【参考文献】

「観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか」(佐渡島庸平、SB新書、2021年9月)

以上(2023年8月)

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【上手な話の聞き方】聞く姿勢を整えよう

1 いつもは自分の興味で聞いている

人と距離を縮めるには聞くことが大切ですが、普段人と話しているとき、実は私たちは相手の話をほとんど聞いていません。一度、会話を録音してみると、自分が相手の話から、自分の興味のある部分だけを切り取って話していることに気づき、驚くはずです。相手が言いたいことではなく、自分が聞きたい部分を切り取り、自分の都合で解釈しているのです。

例えば、友人から「福岡に異動になったんだ」と言われた例を見てみましょう。

友人はこう続けます。「単身赴任だよ。子どもも中学生になるし、妻も都内で仕事をしてる。家のローンも残っててさ。住宅手当は出るけど、月数万円は自腹になりそうだ。ただ、福岡支社の支社長は面識もあっていい人だから、そこはよかったよ。今の上司とは相性が悪くて、前に具合が悪くなったこともあるからね」

友人は頭をかきながら、ちらりと視線をこちらに向けます。少し早口で、声のトーンは何となく明るい気がしました。

こんな友人に対して、あなたは何と声をかけるでしょうか? 最初の部分を抜き取って「単身赴任か、大変だな」と答えるでしょうか。もしくは、「福岡か。しばらく会えそうにないな」「お子さん、受験するのか?」と聞くこともできます。

つまり、聞いた内容のうち、どこを深掘りするか決めるのは聞き手なのです。自分の興味がある質問をするのは簡単ですが、もし、友人の視線や声の明るさに気づいたなら、あなたは彼が何を聞いてほしいのか察して、こうたずねるでしょう。

「転勤は慣れるまで大変そうだけれど、福岡に異動したらその支社長の直属で働けるのか?」

すると、友人は「ああ、実は副支社長に昇進したんだ」と答えるはずです。

このように、相手が聞いてほしい質問をするには、「話し手はなぜ、この話を私に聞かせているのだろう?」と自問する習慣をつけるのが大切です。相手の声のトーン、視線などに注目していると、少しずつ相手が隠している思いや、他人には伝わらないと思っているこだわりに気づけるようになります。

すると、話し手が思いもよらない話をしてくれることが増え、いつもよりも互いの距離がぐっと縮まった感覚になるはずです。

2 テクニックよりも大切なのは「聞く姿勢」

聞く力を伸ばすには、カウンセリングをする心理療法士やインタビューをするアナウンサーなど、聞く専門家と呼ばれる人々しか知らない特別なテクニックが必要なのでしょうか? もちろんそれに越したことはありませんが、もっと基本的な姿勢、態度に注意するだけで、相手の反応はまったく違います。

よく、人の話を聞くときは「否定しない」「受け止める」「穏やかに接する」ようにといわれますが、実はこの基本的な姿勢が整っているだけでも十分よい聞き方だといえるのです。

なぜ、聞く姿勢がそれほど大切なのでしょうか? その理由は、就職や仕事で面接をしたことを思い返すと分かるはずです。面接官が自分のあら探しをしていると感じたら、本音を隠して話そうとするでしょう。何を聞かれても当たり障りのない建前の話だけ語り、本音は見せません。否定的な態度で向き合うと、相手はそれを敏感に察知して、自分を隠してしまいます。

そして、日常会話の中でこうした「否定的な態度」になりやすいのは、私たちが悩みや愚痴、自分と違った意見などを聞くときです。「アドバイスしよう」「話し手が言っているのは事実か」「自分の意見を擁護しよう」など、知らず知らずのうちに上から目線になったり、相手を疑ったりします。特に、自分と反対の意見の人がいると、イライラして相手の主張の半分も聞けなくなるでしょう。

3 穏やかな気持ちで話を聞く方法

穏やかな気持ちで聞く

1)基本は「今の相手の話」に集中すること

「考えながら聞かないと、相手にアドバイスも質問もできない」と心配になるかもしれませんが、それは「次に何を言おう」と思いながら聞いているからです。言い換えれば、相手ではなく自分が、今ではなく未来について考えている状態です。

今の相手の話以外に注意がいくと何が問題なのでしょうか? 例えば、研修などで「相手から聞いた話をまとめて、最後に発表してください」と指示された場合を想像してみてください。発表のことが気になって、しゃべっている人の「後で発表しやすい部分」に注意がいってしまうのです。

「アドバイスしよう」などと考えるのも同じです。相手の気持ちやよいところではなく改善できる点、つまり悪い点に目がいきます。「今の相手の話」に集中するのは、こうしたバイアスを避けるためなのです。

2)「自分の雑念」と見分けるポイント

「今の相手の話」に集中すると言っても、最初はピンとこないかもしれません。なぜなら、普段の私たちは自分の思考にあまり注意しておらず、浮かんできたことをそのまま受け入れているからです。

では、どんな思考が「今の相手の話」で、何が「自分の雑念」なのでしょうか。見分けるときの基準は「自分の心が穏やか」であるかどうかです。緊張したり、怒りが湧いてきたりするのは、自分の雑念だと判断しましょう。

また、「この人は我慢強い人なんだな」と相手をプラスに評価することも、雑念の一種です。自分のこれまでの価値観で「我慢強い」と評価するのと、「わがまま」と感じるのは実は同じことだからです。

3)穏やかな気持ちになるためのプロセス

最初は自分の雑念の多さにショックを受けるかもしれません。しかし、私たちが話を聞きながら別のことを考えてしまうのは、相手の話に興味がないからではなく、話すスピードと考えるスピードの違いが主な原因です。

一般的に会話のスピードは1分で300文字前後ですが、わたしたちの脳はもっと速く情報を処理できます。余った処理能力で他のことを考えてしまうのは、むしろ当たり前のことなのです。

「またこの話か」「相手の髪がぼさぼさだな」など、「今の相手の話」以外の思いが浮かんだと気づいたら、その事実を受け入れ、落ち着いてその思考を一旦脇におきます。そして、もう一度相手の話に集中します。すると、次第に悩み相談や愚痴でも感情的にならず、穏やかな気持ちで聞けるようになってきます。

この練習を始めるときは、最初は5分間くらいの短い時間に区切ってやってみます。余裕があれば、一呼吸おいて、もう一度やってみましょう。聞き手が穏やかな気持ちでいると、話し手は自己正当化する必要がなくなり、素直な気持ちで話せるようになります。

聞き手は相手の話していることについて、無理に自分の意見を言う必要はありません。「あなたが言いたいことはこういうこと?」と、自分の解釈を確認するだけでも、話し手にしっかり話を聞いていると伝わります。

なお、話を聞きながら穏やかになるプロセスにもっと知りたい場合は、以下の書籍が参考になります。

【参考文献】

「やっぱり、それでいい。: 人の話を聞くストレスが自分の癒しに変わる方法」(細川貂々 (著)水島広子(著)、創元社、2018年11月)

以上(2023年8月)

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【上手な話の聞き方】人間関係と聞く力

1 人との距離を近づける「聞く力」

「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」といわれるほど、私たちは周囲とよい関係を築きたいと望んでいます。周囲からの評価を気にして身だしなみを整えたり、伝え方を工夫した経験はきっと誰にでもあるでしょう。

それでも人の人とすれ違いはなくなりません。人間関係にはよく「話し方」「伝え方」が大事だといわれますが、自分の考えを相手に知ってもらうだけでは、相手に「私の立場を理解し、尊重してほしい」と言っているようなものです。ボタンの掛け違いをなくすには、自分が相手の話を聞いて、相手の感情、考えを受け止める努力も必要になります。

「話す」が自分の気持ちや意見を描写して伝える行為だとすると、「聞く」は反対に自分が相手を受け止め、共感し、新しい気づきを得る行為です。つまり、相手に興味を持ち、自分から近づくことといえます。

聞く力がなければ相手の気持ちのほとんどを取りこぼしてしまいますが、意識しているうちに段々とうまくなっていきます。聞く力を伸ばすことで、良い人間関係をつくりやすくなるでしょう。

2 それでも「聞く」のはつらい?

人類学者のロビン・ダンバーによると、人間にとっての会話(雑談やおしゃべり)は、霊長類が行うグルーミングに当たるといいます。

グルーミングとは、お互いをなでて身づくろいすることです。グルーミングによって、霊長類はお互いを知って好感を育み、エサを分け合ったり、敵から守り合ったりする関係性をつくっています。一方で、人間はグルーミングの代わりに雑談やおしゃべりをして、相手との距離を縮めています。「雑談には意味がない」という意見を聞くことがありますが、雑談自体が目的なのです。

グルーミング

しかし、雑談があまり好きではないという人は少なくありません。人を笑わせる「鉄板ネタ」を持っていれば、最初は楽しく過ごせますが、自分の話はいつか尽きるので、途中からは相手の話を聞くことになります。相手によっては、自分に興味がない話や悩みごとばかり話してくるかもしれません。お互いが何に興味があるかを知り、心地よいと感じる関係性を築けなければ、「この人の話を聞いてもつまらない」「話すと疲れる」と感じ、次第に疎遠になってしまうのです。

3 「聞く力」で自分も相手も楽にする

他人と無理して付き合う必要はありませんが、人には嫌な面も良い面もあります。会話はお互いにつくりあげていくものなので、聞き方しだいで相手の話し方、内容も変化します。自分で相手の良い面、おもしろい面を引き出せると、人の話を聞くのが楽しくなるのです。

イギリスの哲学者であるポール・グライスによると、人と人とが会話をするときに、話し手と聞き手がお互いに守ることを期待している4つのルールがあるそうです。

  • 質 真実と思うことを伝え、受け取る。真実でないと分かっていることや確信していないことを正しいと誤解させない、しないようにする。
  • 量 必要な情報を過小でも過剰でもない量だけ交換する。新しい情報は聞き手が圧倒されない程度の量だけにする。
  • 関係 会話の内容に関係がある情報を伝達する。
  • 様式 曖昧で不明瞭な表現は好まず、適度に簡潔で順序立った話を望む。

つまり、聞き手は話し手が会話の目的や話の流れを無視した発言をすると会話に集中しにくくなり、話し手は聞き手が自分の発言を曲解したり、必要な情報を聞き漏らしていると感じたりするとイライラしやすいのです。

聞く力を伸ばしたいなら、話し手が自分の望む話し方をしてくれないときでも、意識して聞き続ける努力が必要です。また、話し手は自分の話が誤解されていると感じると、正しく伝えようと同じ話を何度も繰り返したり、途中で理解してもらうことを諦めたりすることがあります。よい会話ができなかったからといって、自分を責める必要はありませんが、自分の話し方や聞き方が相手にネガティブな影響を与えていないか、自問自答してみるとよいでしょう。

【参考文献】

  • 「LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる」(ケイト・マーフィ (著)、篠田真貴子(監訳)、松丸さとみ(訳)、日経BP、2021年8月)
  • 「やっぱり、それでいい。: 人の話を聞くストレスが自分の癒しに変わる方法」(細川貂々 (著)水島広子(著)、創元社、2018年11月)
  • 「元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書」(吉田尚記(著)、アスコム、2020年8月)
  • 「観察力の鍛え方 一流のクリエイターは世界をどう見ているのか」(佐渡島庸平(著)、SB新書、2021年9月)
  • 「聞く力―心をひらく35のヒント」(阿川佐和子(著)、文春新書、2012年1月)

以上(2023年8月)

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「白ナンバー車の飲酒チェック」 もう待ったなし!アルコール検知器の使用義務化がスタート

書いてあること

  • 主な読者:業務で白ナンバー車を使用している会社の経営者、安全運転管理者
  • 課題:飲酒チェック時のアルコール検知器の使用義務化に対応したい
  • 解決策:アルコール検知器の運用に注意。検知器を入手していない場合、早急に購入する

1 2023年12月からアルコール検知器の使用義務化がスタート

2021年6月、千葉県八街(やちまた)市で下校中の小学生の列に飲酒運転の自家用トラックが突っ込み、5人が死傷する痛ましい交通事故が発生しました。この事故を受けて道路交通法が改正され、2022年4月から、業務で一定の台数以上の白ナンバー車を使用する事業者に対して、ドライバーへの運転前後の酒気帯び確認(飲酒チェック)が義務付けられました。そして、

2023年12月から、飲酒チェック時のアルコール検知器の使用義務化がスタート

します。

この影響を受けるのは、安全運転管理者の選任義務がある事業所(自動車5台以上、または定員11人以上の車両1台以上を使用している事業所。自動二輪車は0.5台として計算)です。その数は全国約35万事業所、管理下にある運転者数は約808万人に上ります(2022年3月末時点)。

既にアルコール検知器の使用が義務化されている事業用自動車(緑ナンバー車)を使用する運送事業者だけに限ったことではなく、

一般の事業会社でも、業務で一定の台数以上の白ナンバー車を使用する場合、アルコール検知器を整備し、実際に運用しなければならない

ことになります。

2 安全運転管理者の業務としてアルコール検知器が必要

安全運転管理者の業務は、従来の7つの業務に加え、2022年4月1日から、白ナンバー車の運転者に対する「運転前後の酒気帯び確認」「酒気帯び確認の記録の保存(1年)」が義務付けられました。

そして、2023年12月1日からは、白ナンバー車の運転者に対する「アルコール検知器を用いた運転前後の酒気帯び確認」が義務付けられます(図表の網掛け部分参照)。

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新たに加わる業務(図表の網掛け部分)について、もう少し詳しく見ていきましょう。

改正後は「運転しようとする運転者及び運転を終了した運転者に対し、酒気帯びの有無について、当該運転者の状態を目視等で確認するほか、アルコール検知器(呼気に含まれるアルコールを検知する機器であって、国家公安委員会が定めるものをいう)を用いて確認を行うこと」とされています。

ポイントは、

安全運転管理者が、運転者に対して、酒気帯び確認を運転前後の2回、目視等で行うことに加え、アルコール検知器を使わなければならない

ということです。

警察庁によると、酒気帯び確認は対面での目視で行うのが原則です。ただし、運転者が直行直帰する場合など対面での確認が困難なときは、運転者に携帯型アルコール検知器を携行させた上で、次のような方法も認められます。

  • カメラ、モニター等によって、安全運転管理者が運転者の顔色、応答の声の調子等とともに、アルコール検知器による測定結果を確認する
  • 携帯電話、業務無線その他の運転者と直接対話できる方法によって、安全運転管理者が運転者の応答の声の調子等を確認するとともに、アルコール検知器による測定結果を報告させる

この他、改正府令の解釈・運用については「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令の施行に伴うアルコール検知器を用いた酒気帯びの有無の確認等について(通達)」(令和5年8月15日警察庁丁交企発第201号、丁交指発第93号)に示されています。

■警察庁「警察庁の施策を示す通達(交通局) 交通企画課」■

https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu.html#kouki

3 アルコール検知器の性能要件

アルコール検知器として国家公安委員会が定めるものは、「呼気中のアルコールを検知し、その有無又はその濃度を警告音、警告灯、数値等により示す機能を有する機器」とされています。

呼気検査でアルコールが検出されたときに、何らかを表示する機能があればよいわけですが、

酒気帯び確認の記録を1年間保存しなければならないことを踏まえると、検査結果を記録する機能を持つアルコール検知器を選ぶほうが運用上の手間を減らせる

といえるでしょう。

アルコール検知器の有効性は、安全運転管理者が自ら確認することになります。「アルコール検知器」や「アルコールチェッカー」といったキーワードで検索すると、500円台のものから30万円超のものまでさまざまな製品があります。

検知器メーカー等で構成する業界団体のアルコール検知器協議会では、「アルコール検知器機器認定制度」を設け、検定に合格した製品を認定し、認定機器の使用を推奨しています(2023年9月1日時点で認定機器として合格しているのは22団体、55機種)。

なお、国民生活センターが2014年8月~2015年1月に実施したテストによると、アルコール検知器のセンサーには寿命があり、見かけ上の動作に問題がなくても、感度が変わっていたり、アルコールを検知しなくなっていたりする場合があるため注意が必要です。

また、飲酒していなくてもアルコール検知器が反応することもあります。アルコール検知器協議会では、「飲食物や体調により反応する場合がある他、薬の服用、喫煙、洗口剤使用や歯磨き後等でも反応する場合があります。また、ノンアルコールビール等、アルコール成分を含まないと思われがちな食品類にも微量のアルコールを含んでいる場合がありますのでご注意ください。アルコール検知器の使用環境や保管環境が機器に影響を及ぼす場合がありますので、メーカーが定めた環境での使用や保管をお願いします」と、ウェブサイトで呼び掛けています。

4 参考ウェブサイト

1)アルコール検知器メーカーを調べたい

検知器メーカー等で構成する業界団体「アルコール検知器協議会」のウェブサイトです。会員各社の紹介の他、同協議会が検定に合格した製品を認定する「アルコール検知器機器認定制度」などについて掲載されています(認定機器の多くは検査結果を記録する機能があるものです)。

■アルコール検知器協議会■

https://j-bac.org/

2)飲酒運転ゼロに向けて情報を収集したい

飲酒運転根絶に向けた警察庁のウェブサイトです。飲酒運転による交通事故の発生状況などが紹介されています。

■警察庁「みんなで守る『飲酒運転を絶対にしない、させない』」■

https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/insyu/info.html

アルコール検知器協議会の会員企業、東海電子が管理運営するオウンドメディアです。運輸安全、運行管理、点呼などに関する記事や、各種セミナー情報が掲載されています。

■東海電子「運輸安全Journal」■

https://transport-safety.jp/

アルコール・薬物・その他の依存問題を予防し、回復を応援するNPO法人「ASK(アスク)」の情報発信サイトです。飲酒運転防止のために欠かせない知識などが紹介されています。

■ASK「飲酒運転防止」■

https://www.ask.or.jp/article/8683

以上(2023年12月更新)

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画像:photo-ac

【朝礼】大リーグのルール変更、2つの賛成理由

けさは、私が好きな野球の大リーグ(メジャーリーグ)の話をします。ご存じの方も多いでしょうが、大リーグでは、2023年シーズンから「ピッチクロック」というルールが導入されました。簡単に言うと、一定の動作を行うための時間に制限を設けるというものです。例えば、投手は、ボールを受け取った後、ランナーがいない場合は15秒以内、いる場合は20秒以内に投球動作を始めることとされ、ランナーへの牽制球は実質2回までに制限されました。一方、打者は、投手が投球動作を始めるまでの制限時間の残り8秒の時点までに、投手に注意を向けなければなりません。

このルール変更により、投球間隔の長い投手などは、今までの自分のペースではプレーできなくなり、少なからぬ影響を受けました。実際に、“二刀流”の大谷翔平選手は、投手としても打者としてもペナルティーを科された最初の選手になってしまいました。

もちろん、こうした影響はルール変更前から予想できていましたので、当初、選手会はこのルール変更に反対したのですが、運営側の強い意向によってルール変更が決まったのです。私も最初は、選手のプレーに悪い影響が出るのを懸念して、ルール変更には否定的な考えを持っていました。

ですが、今ではむしろルールを変更してよかったと思っています。理由は2つあるのですが、いずれも、仕事をする上で自分たちへの戒めにしなければいけないことと重なるように思います。

1つ目の理由は、大リーグ全体の将来のためです。そもそも、ルール変更の目的は、試合時間の長さによるファン離れを防ぐことでした。野球は他の多くのスポーツと違って時間制限がなく、一試合の平均時間が相対的に長いことから、若い世代を中心に飽きられやすいと以前から指摘されていました。実際にピッチクロックの導入によって試合時間の「時短」に効果が出ているようです。私も、会社の将来のために必要な変更であれば、自分の都合は二の次に考えて、むしろ変更を後押しするぐらいになりたいと思いました。

2つ目の理由は、たとえ自分に不利な変更であったとしても、変更されたルールの下で結果を出すことこそ、プロとしてあるべき姿だと思うからです。突然の条件や仕様の変更は、仕事の上でもよくあることです。こうした変更への対応力も、プロとしての大事な能力なのだと思いました。特に、ルール変更にしっかりと対応して活躍している大谷選手は、良いお手本になると思います。

そもそも世の中に、自分のペースでできる仕事というものは、ほとんどありません。仕事というものは、常にお客さまや取引先、同僚など、さまざまな人がいて成り立っているものですから、自分の都合だけ考えていては、とても回りません。

自分の仕事に関係する人の都合を考える。そして、変更があってもそれに負けず、プロとして結果を出す。どちらもこなせるビジネスパーソンを目指して頑張りたいと思います。

以上(2023年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

地球温暖化で深刻化する水害リスクへの対応~水害リスクのアセスメントと具体的対応策~

1 水害リスクの増加について

水害とは、洪水、高潮など水による災害の総称であり、水災とも言います。毎年、梅雨の季節や台風シーズンには全国で多くの被害が出ていますが、近年は積乱雲が列をなし、線状に伸びた地域に大雨を降らせる線状降水帯による被害も増加しており、今後も地球温暖化の影響を受けて、水害を伴う自然災害が多発することが想定されています。そのような中、国も気候変動適応型の水災害対策への転換が必要との認識を持ち、施設能力を超過する洪水が発生することを前提に、社会全体で洪水に備える水防災意識社会の再構築を進め、気候変動の影響や社会状況の変化などを踏まえ、あらゆる関係者が協働して流域全体で行う、流域治水への転換を推進し、防災・減災が主流となる社会を目指しています。また、災害等に対する最後の砦である保険についても、火災保険が自然災害の増加により高騰している現状があり、益々企業の水災対策が重要性を増してきています。水害の発生はある程度予測が可能であることから、今後は台風や大雨による対策が不十分で損害を拡大し、ステークホルダーにマイナス影響を与えた場合には、経営者が責任を問われるケースも考えられるため注意が必要です。

国土交通書「水害レポート」

https://www.mlit.go.jp/river/pamphlet_jirei/suigai_report/index.html

2 水害の特徴と種類について

日本列島は、山地の多い地形に加え、台風・豪雨が発生しやすいアジア・モンスーン地域に位置し、風水災による被害を受けやすく、近年は宅地開発等によって山林の保水力が低下し、土砂崩れ等も発生しやすい状態になっています。さらに都市化の進展によって、人口や資産が洪水・集中豪雨の被害を受けやすい地域に集中しており、多くの企業・個人が大きな損失を被る可能性があります。尚、水害は大きく高潮・洪水・土砂災害の3つに分類されますが、高潮は台風や発達した低気圧が海岸部を通過する際に生じる海面の高まりを言い、特に太平洋沿岸が被害を受けやすいと言われています。また、洪水には内水氾濫と外水氾濫がありますが、外水氾濫とは、河川の水量の急激な増加によって堤防が決壊・破損し、水が提内地に流出する事で発生します。中小河川は流域面積が小さく、治水整備が遅れているため、被害に繋がりやすいと言われています。一方、内水氾濫とは、大雨時の増水により大河川の水位が高くなり、都市部の中小河川から本川に雨水を流す事が出来ず、市街地の水が排水出来ないため地表に水が溢れ出る事を言います。最後の土砂災害とは、地すべり・崖崩れ・土石流による災害であり、土砂の移動が強大なエネルギーを持ち、突発的に発生するため、家屋等に壊滅的な被害を与えるほか、人的被害をもたらす可能性があります。このように同じ水害であっても様々な形態があり、どの水害を想定するかによって対策も変わってきます。

1時間降水量50mm以上の年間発生回数

1時間に50ミリの雨ってどんな雨?

出典:国土交通省「水害レポート2022」、気象庁 リーフレット「雨と風(雨と風の階級表)」

3 水害のリスクアセスメント

水害の起こりやすさの場所的な特徴としては、九州・沖縄等は台風襲来の可能性が高く、同じ地域でも物件の所在する場所・地形によってリスク状況が大きく異なります。沿岸地域は高潮、河川の流れが屈曲する場所や支流の合流地点は外水氾濫、都市部の低地では集中豪雨による内水氾濫、山地の凹地や傾斜地では土砂災害が起きやすいと言われています。また、海の最高潮位や河川の氾濫推移よりも地盤髙・床高の低い建物は水災による被害を受けやすいので注意が必要です。損失の大きさについては、建物等の資産や水に弱い商品・製品の有無、事業中断が発生した場合の影響などを考慮する必要がありますが、水害の特徴として、被害を受けた場合は復旧に時間が掛かる可能性があり、電気・ガス・水道・交通網等のライフラインが寸断されると直接被害を受けていない企業も大きな影響を受ける可能性があるため注意が必要です。近年においては、国が準備したハザードマップや水害リスクマップがあるため、それらを参考にしながら自社のリスクについて正しく認識した上で対策を検討することが求められます。

ハザードマップの例(東京都江東区)

出典:「ハザードマップポータルサイト」を加工して作成

https://disaportal.gsi.go.jp/

4 水害リスクのコントロール対策について

水害対策については、国や地域で河川の改修やダムの事前放流による治水対策や洪水情報のプッシュ型配信等による防災・減災の取り組みが数多く行われておりますが、それだけでは十分ではないため、自社を守るために自社のリスクに応じた対策を検討することが求められます。基本的には一企業が水害の発生を防ぐことは困難であることから、被害を受けないためには、事業所を危険な地域から移転したり、被害に遭う財物等をなくす回避対策を行う事が求められます。また、被害を小さくするための対策としては、設備等の分散や建物や設備の高所への設置、排水設備の充実や土嚢・砂袋・防水版の準備や設置等が考えられます。また、実際に水害が発生した場合に備えて、事業継続力強化計画(ジギョケイ)やBCPを策定し、リスクを最小限に抑える取組が求められます。水害リスクは、ハザードマップや水害リスクマップ、台風情報や気象情報によりある程度は事前に予測が可能であるため、自然災害が状態化する中、対策をしていないこと自体が企業としての姿勢を問われ、信頼を失う事に繋がるため注意が必要です。

5 水害リスクのファイナンス対策について

水害は企業に致命的なダメージを与える可能性が高いため、基本的には保険を活用するケースが多いですが、その保険料が自然災害の増加によって高騰しています。具体的には、損害保険料率算出機構は住宅向け火災保険料の目安となる「参考純率」を全国平均で13%引き上げ、損保各社は24年度から保険料に反映させる予定であり、参考純率は2000年に比べ5割程度上がる計算になります。また、料率改定のほか、全国一律の水災保険の保険料も24年度以降は水災が起きる危険度に応じて市区町村別に5段階に分ける予定であり、高リスク地域の保険料の急上昇を抑えるため、緩和策を導入しても料率差は1.50倍に拡大する予定です。そのため、今後はリスクコントロール対策を強化したり、財務力を付けることよって免責金額を設定し、保険の効率化を図ることが求められるでしょう。また、水害時の事業中断が想定される場合には、営業継続費用保険や利益保険等も必要となりますし、危険な状況下で従業員が被災した場合、安全配慮義務違反を問われて、高額な賠償責任が発生する可能性もありますので、注意が必要です。

以上(2023年8月)

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画像:photo-ac


提供:ARICEホールディングスグループ( HP:https://www.ariceservice.co.jp/
ARICEホールディングス株式会社(グループ会社の管理・マーケティング・戦略立案等)
株式会社A.I.P(損保13社、生保15社、少額短期3社を扱う全国展開型乗合代理店)
株式会社日本リスク総研(リスクマネジメントコンサルティング、教育・研修等)
トラスト社会保険労務士法人(社会保険労務士業、人事労務リスクマネジメント等)
株式会社アリスヘルプライン(内部通報制度構築支援・ガバナンス態勢の構築支援等)

歩行者等との安全な間隔(2023/8号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

夏休みシーズンになると、子供の行動範囲が広がるとともに帰省や旅行などで人の往来が増えるため、道路の状況が普段と異なります。これに伴い懸念されるのが歩行者等との交通事故の増加です。

歩行者等との交通事故を防ぐには、ドライバーは歩行者等の動きに十分注意を払い、歩行者等の側方を通過するときは、安全な間隔をとることが大切です。

歩行者等との安全な間隔

1.歩行者の交通死亡事故

◆交通事故死者数は歩行中が最も多い

令和4年の交通事故の状態別死者数の割合をみると、歩行中の死者数が自動車乗車中の死者数を上回り、一番多くなっています。歩行中と自転車乗用中を合わせた割合は約50%となっています。

状態別死者数

状態別死者数

◆歩行者の死亡事故は横断歩道以外でも多い

歩行者について、事故類型別死亡事故件数の割合をみると、道路の横断中が合算して約68%と多い状況ですが、発生場所では、横断歩道以外の場所が約74%を占めており、様々なところで死亡事故が発生しています。

歩行者の事故類型別死亡事故件数

歩行者の事故類型別死亡事故件数

◆事故発生要因はドライバーの不注意が多い

歩行者との交通死亡事故において、ドライバー側に多い法令違反は、「安全不確認」、「漫然運転」、「脇見運転」の3つです。いずれも運転に集中できていないことが原因といえます。

原付以上運転者の法令違反別死亡事故件数(第二当事者:歩行者)

原付以上運転者の法令違反別死亡事故件数

出典:一般社団法人日本自動車連盟(JAF)「ロードサービス救援データ」から当社作成

歩行者の急な道路横断や飛び出しなどによる交通死亡事故を防ぐため、ドライバーは常に運転に集中し、歩行者の動きに十分注意を払い、歩行者の保護に努めなければなりません。

2.歩行者との安全な間隔

歩行者は交通事故に遭うと被害が甚大になりやすく、死亡事故につながるおそれもあります。

このため、自動車側の責任は大きく、歩行者保護の観点が求められており、ドライバーは常に運転に集中し、歩行者の存在やその動きに十分注意を払うことが大切です。

道路交通法は、第38条および第38条の2で横断歩道等における一時停止や横断歩道のない交差点における歩行者優先を定めています。また第18条で歩行者の側方を通過するときの安全な間隔の確保または徐行を定めています。

道路外からの歩行者の急な道路横断や飛び出しなどに備えることはもちろんのこと、視界にいる歩行者に注意を払うことも大切です。歩行者の中には自動車の接近に気が付かない人が多くいることを忘れてはなりません。

歩行者の急な道路横断など不測の危険に対処するには、歩行者の側方を通過するときに安全な間隔が必要です。特に子供、高齢者、前を歩く歩行者、 「歩きスマホ」の歩行者に対しては、自動車の接近に気が付いていない可能性が高いため、間隔を長めにとる必要があります。

歩行者等との安全な間隔

安全な間隔については、歩行者がこちらに気が付いているときは1m以上、気が付いていないときは1.5m以上と言われています。これを参考として歩行者の予期せぬ行動にも対応できるような安全な間隔を意識して運転しましょう。

3.自転車等との安全な間隔

道路交通法で定めはありませんが、 歩行者と同様に自転車に対してもその動きに注意を払い、安全な間隔をとって運転することが大切です。

近年、シニアカー(電動カート)を公道で見かけるようになり、また7月の法改正により電動キックボードの利用が広まっています。タンデム自転車(二人乗り自転車)も東京都で解禁され、全国の公道で走行が可能になりました。道路の様相が少しずつ変化しています。

これに伴い、交通リスクも多様化しています。自転車等が急に進路を変えるなど不測の危険に対応するには安全な間隔をとる必要があります。

電動キックボード

シニアカー

歩行者や自転車等との安全な間隔を意識することは、相手への思いやりでもあります。

以上(2023年8月)

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【朝礼】プレゼンやスピーチで必要な「語彙力」と「表現力」を鍛える方法

皆さんはプレゼンやスピーチをする際、言葉に詰まってしまった、あるいは一生懸命話しているのに、言いたいことがうまく相手に伝わらなかった経験はありませんか? それは「語彙力」と「表現力」が足りていないからかもしれません

語彙力は、知っている言葉の数とそれらを適切に使う力。表現力は、言いたいことを効果的に相手に伝える力です。どちらもビジネスには不可欠ですが、仮に今の段階でこれらの能力が足りていなくても落ち込む必要はありません。どちらもちょっとしたトレーニングで鍛えられるからです

ここで、1つの実験をしてみましょう。今から30秒以内に、「花」の名前を10個思い浮かべてみてください。口に出すと隣の人に聞こえてしまうので、頭の中に思い浮かべるだけで結構です。では、スタート! ……ハイ! 30秒たちました。花の名前は10個浮かんだでしょうか?

実はこの実験、私が最近読んだ広告代理店のスピーチライターの書籍(*)で紹介されていた、語彙力を鍛えるトレーニングなのです。花の名前のように、冷静に考えれば必ず10個出てくるような言葉でも、短い時間の中で思い浮かべろと言われるとなかなか難しいもの。だからこそ、言葉を瞬時に脳から引き出せるトレーニングをして、知っている言葉を適切なタイミングで使う語彙力を身に付けるのです。このトレーニングを継続すれば、プレゼンやスピーチの際に言葉に詰まることもなくなっていくでしょう。

では、もう1つ、今度は表現力のトレーニングを紹介します。それは「形容詞を使わないで話す」というものです。例えば、面白い映画を見たときなどは、「面白かった」「すごかった」といった表現を多用しがちですが、これを我慢し、「ベテランの役者が年齢を感じさせない機敏なアクションをしていた」など面白いと思った理由を掘り下げたり、「髪の毛が逆立つかと思った」などすごさを自分の身体感覚で表したりしてみるのです

ビジネスの場でも、例えば、「この新製品は、旧製品に比べて、とても使いやすいです」と言っても、どこが使いやすくなったのか伝わりません。ですが、「旧製品に比べて重量を10%軽くし、片手でも開閉できる機能を付けましたので、お子さま連れのお客さまにも扱いやすくなりました」と表現すれば、新製品の使いやすさがしっかりと伝わります。

私も昔はプレゼンやスピーチが苦手でしたが、語彙力と表現力を高めることを意識してトレーニングを継続するうちに、人前で話をするのが好きになっていきました。今日紹介したトレーニングは楽しみながらできるものですから、ぜひ継続的に取り組んで「プレゼンやスピーチのマスター」を目指してください!

【参考文献】(*)「博報堂スピーチライターが教える5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(ひきたよしあき、大和出版、2019年4月)

以上(2023年8月)

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画像:Mariko Mitsuda