有能な大蔵大臣として名高い高橋是清。波乱万丈な人生の中、常に信念を貫いた彼の”志”が分かる一言とは?

すべての不幸は虚栄の心から生ずる

日露戦争の資金を海外から調達して金銭面で戦勝に貢献し、世界恐慌時には大胆な財政出動策で世界に先駆けて危機を脱するなど、高橋是清は明治後期から昭和初期にかけて、数々の功績を残してきました。とはいえ、彼はエリート街道とは無縁で、米国で奴隷として売られたり、ペルーの銀山開発に失敗して全財産を失ったりと、浮き沈みの激しい人生を歩みました。

そんな是清が、どんな状況でも自分自身を見失わずにいられたのは、地位や資産で見えを張るような「虚栄心」は捨て、常に信念を貫き、自分に恥じない“志”を持った生き方をしたからです。

世の中に、虚栄心ほど人の心を弄び、不幸を招くものはないかもしれません。例えば、SNSでプライベートを投稿するケースでは、投稿者が少しでも自分を良く見せようと無理な贅沢(ぜいたく)で自分を飾り立て、さらに、その投稿に嫉妬した人が対抗心から、似たような投稿をするといったことがあります。

しかし、地位の高さや資産の多さ、他者との比較でないと自分の存在価値や評価ができなくなるのは、不幸でしかありません。なぜなら、物質的な欲望には限りがなく、常に他者を羨望し、自分の現状に不満を抱き、心が満たされることなく思い悩む人生を続けることになるからです。そもそも、地位や資産は他者への羨望だけで、自らの人生経験に裏打ちされた“志”とは別物のはずです。

虚栄心が不幸を招くのは、企業についても当てはまります。

例えば、人材採用に関して、募集した企業側、応募した人材のいずれかが、虚栄心によって本来よりも良く見せようとしすぎると、ミスマッチが生じます。企業も、入社した人材も、不幸な結果になりかねません。また、企業間の取引の開始前に都合の良い話ばかりをしていると、後でトラブルになるということも、よくある話です。

企業が目指すべき姿を考える際にも、虚栄心は捨て去るべきでしょう。決算で売り上げや利益を増やすことは、果たして誰の幸福に結びついているのでしょうか。近年では、「業績だけを追い求めるのは、経営者の虚栄心を満たすことでしかない」と言い切る経営者も現れてきています。業績を上げるために、社員に必要以上に無理を強いているのだとしたら、それは不幸を招いていると言わざるを得ないでしょう。

近年の起業家の多くは、「いかに稼ぐか」ではなく、「いかにして社会課題を解決するか」という視点でビジネスを立ち上げています。そうした企業が事業を通じて得ているものは、売り上げや利益以上に、「自分の存在価値を実感できる」という充実感です。社員たちは、そのような充実感で満たしてくれる自社や自分の業務に誇りを持つことでしょう。そういう“志”を持った企業と競合していくために、自社に虚栄心が潜んでいないか、一度確認してみてはいかがでしょうか。

出典:「随想録」(高橋是清、中央公論新社、2010年11月)

以上(2023年1月)

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抜け毛と生活習慣の意外な関係

抜け毛

1 抜け毛と生活習慣との関係

☆毛が抜ける原因とは?

遺伝による薄毛など先天的な要因からくるものもありますが、生活習慣に由来することが多いようです。

☆生活習慣の主な原因

●ストレス

頭皮の毛細血管が収縮し、栄養の供給が停滞すると髪が抜けやすくなる。

●脂肪の摂り過ぎ

動物性たんぱく質や脂肪の摂り過ぎは頭皮の血管を詰まらせ髪の成長を妨げる。

●栄養不足

血液中の栄養分は髪に運ばれるのが一番最後になるため、食事でしっかり栄養を摂らなければ髪まで栄養が行き渡らず、栄養不足に。

●たばこ

タバコに含まれるニコチンが自律神経を刺激し血管を収縮させ血流が悪くなり、血行不良を招き髪への栄養不足となる。

●お酒の飲みすぎ

体の機能バランスが崩れ、栄養分が体に行き渡らなくなり頭皮・髪の栄養不足を招く。

●睡眠不足

髪は夜に成長するので睡眠不足は髪にも良くない。
生活習慣を見直す事が抜け毛防止につながります。
体も髪の毛も健康を目指しましょう。

2 快適な睡眠のために

前日の疲れが残っていて、目覚めが悪いという方もいらっしゃるのではないでしょうか?
健康を維持するためには、食生活や運動だけではなく、休養にも目を向けることが大切です。
厚生労働省が定めている「健康づくりのための睡眠指針」によると、快適な睡眠のための7箇条として、下記の7つのポイントが挙げられています。

●快適な睡眠でいきいき健康生活

適度な運動で熟睡を促し、起床をしたら朝食を食べることで、身体を目覚めさせましょう。

●睡眠は人それぞれ、日中元気ハツラツが快適な睡眠のバロメーター

快適な睡眠のための睡眠時間、睡眠パターン等は個人差があります。
大切なことは、日中にしっかり目覚めて過ごせているかです。

●快適な睡眠は、自ら創り出す

睡眠の質の低下につながるので、寝る前のアルコールやカフェインは避けましょう。
寝室は、不快な音や光を防ぐ環境にし、自分にあった寝具を使うなどの工夫することも大切です。

●眠る前に自分なりのリラックス法、眠ろうとする意気込みが頭をさえさせる

睡眠前はゆっくり入浴をする、ストレッチ、音楽、軽い読書等、自分にあった方法で心身共にリラックスするよう心がけると熟睡を促します。

●目が覚めたら日光を取り入れて、体内時計をスイッチオン

目が覚めたら適度な日光を浴びるようにしましょう。
休日の寝だめや、夜更かしは、翌日の朝がつらくなるので、注意が必要です。

●午後の眠気をやりすごす

長い昼寝、夕方以降の昼寝は、夜の睡眠に悪影響を及ぼすことが多いです。
20分前後の短い昼寝でリフレッシュし、うまく午後の眠気をやりすごしましょう。

●睡眠障害は、専門家に相談

寝付けない、しっかり寝ても日中の眠気が強い等が続くような場合、一人で悩まず医療機関へ相談をしましょう。

睡眠

以上(2023年1月)

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【朝礼】朝からはつらつと仕事をするためのコツ

できるビジネスパーソンは、朝からはつらつとしています。人は目覚めてから頭が働くようになるまでには時間がかかるものですが、できるビジネスパーソンは、出社後すぐに頭をフル回転させられるよう体調をコントロールしています。皆さんはどうですか。今すぐフル回転できますか。

朝、目覚めた途端に元気はつらつという人はまずいません。朝はいつもなんとなくぼんやりとしているという人のほうが圧倒的に多いと思います。ですが、中には元気はつらつで出社してくるビジネスパーソンがいるのも事実です。そうした人は朝目覚めてから出社するまでの間に、心身をぼんやりモードからはつらつモードに切り替えているのです。

私の知人に、朝、起きたらベッドの上で、目覚めのストレッチをする人がいます。体が軽くなり、すっきりと目が覚めるといいます。この知人は、ベッドから出るときには、既にはつらつモードになっているというから驚きです。

多くの人は、顔を洗う、歯磨きをする、朝食を食べる、通勤時間を利用するなどして、出社するまでの間に、心身をぼんやりモードからはつらつモードに切り替えていることでしょう。

皆さんの中に、出社してからぼんやりモードを徐々にはつらつモードに切り替えるという人がいるかもしれませんが、これでは困ります。午前中は試運転の時間ではないのです。

私は皆さんに、朝からはつらつと仕事をしてもらいたいと思っています。

それには、どうすればよいでしょうか。答えは、早起きです。例えば、いつもより1時間ほど少し早めに起きて、ストレッチで体を動かすとか、散歩をするなどして、体をしっかりと目覚めさせます。シャワーを浴びるのも効果があるようです。体が目覚めれば、頭もすっきりと目覚めます。

朝食をしっかり食べるのはもちろんですが、朝食に果物を加えてみるのもよいでしょう。「朝の果物は金」ともいわれるように、朝食で果物を食べることは体によいとされています。

そして、時間に余裕を持って出社してください。始業前に一息つく時間があれば、始業と同時に全力で仕事に取り組めます。例えば、始業時間の15~30分前に出社し、コーヒーを飲みながらメールのチェックなどをして過ごせば、始業後すぐに仕事に取りかかることができます。朝の時間を有効に活用して、できるビジネスパーソンを目指してください。

朝からはつらつと仕事をするためには、「早く寝る」「早く起きる」「家を出る前にしっかりと活動できるモードにする」「余裕を持って出社する」「会社で一息つく時間を持つようにする」ことです。そして最も大切なポイントは「これらを続ける(習慣にする)」ことです。

今日、そして明日から、毎日はつらつと仕事に取り組みましょう。

以上(2023年1月)

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全社員が持てる“経営的視点”(2)~組織はつながって強くなる~/武田斉紀の『誰もが身に付けておきたい“経営的視点”』(6)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験があるのではないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問があるのではないでしょうか
  • 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けることができれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであることが分かるはずです

1 全社員が持てる“経営的視点”の観点の2つ目は、会社の【組織力】

シリーズ『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』の第6回です。

私からご提案する誰もが持てる、全社員が持てる“経営的視点”の観点は次の3つです。
1)会社の【成長】
2)会社の【組織力】
3)会社の【存在意義】

前回は1)会社の【成長】についてお話ししました。

■毎年給料を上げたいのであれば、全員が、自分が1年後にいるべきピラミッドの高い位置から常に物事を見て、仕事を進めていかなければならない

給料は1年たったからといって当たり前には上げられるものではなくて、一人ひとりが1年で1年分以上成長して、ようやく上げられる。だからこそ全員が、自分が1年後にいるべきピラミッドの高い位置から常に物事を見て、仕事を進めていかなければならない、ということでした。

今回は “経営的視点”の身に付け方の2つ目「会社の【組織力】」について、“組織はつながってこそ強くなる” というお話をします。

2 会社組織に最も多く見られる、ピラミッド型の階層組織

前回も触れましたが、大抵の会社組織はピラミッド型の山のようにできています。

頂上に社長がいて、山頂付近に取締役や部長がいて、中腹に課長がいて、裾野にそれ以外の一般社員がいて、お客様や現場の第一線と対峙するという階層構造です。

各社で役職の呼び方や階層数などはさまざまでしょうが、ここでは分かりやすくするために「社長」「役員・部長」「課長」「一般社員」の4階層のピラミッド型をイメージして話を進めていきます。

もちろん組織構造はピラミッド型以外にも存在します。

少人数の場合は、リーダー1人で後はメンバーというパターン、全員が交代でリーダーをやるパターンなども存在します。スペシャリストの集団である宇宙飛行士のクルーは後者の形と聞きます。万が一の事態で1人のリーダーが不在となっても、機能し続けないといけないからです。

多人数でも最近は、トップマネジメント以外は階層のない鍋蓋のようなフラット構造の組織や、個人が完全に独立して相互につながるネットワーク型組織なども存在します。

ピラミッド型組織のくくり方は、機能別(企画、開発、製造などの部門単位)、製品や顧客で分けた事業部別、地域で分けた地域別、それらの組み合わせが存在します。ちなみにマトリックス組織といわれるものは、例えば機能別組織の弱点を補うために、横軸に製品別機能も持たせる考え方です。

ピラミッド型組織は会社組織に限りません。

太古から人間はコミュニティーの人数が増えてくると、やがてピラミッド型組織を形成してきました。村の長(おさ)が頂点にいて、村に必要な機能ごとにまとめ役のリーダーを置き、その下にメンバーが連なる。地域が広い場合は地域ごとのリーダーを置いて、地域の人たちはそこに所属する。

では一体、我々は何のためにピラミッド型組織を形成してきたのでしょうか。

大きな理由の1つは外敵からの防御でしょう。資源が限られていれば奪い合いの争いが起こります。自分たちの命と生活を守るためには外敵からの攻撃に耐え、時には戦わなければなりません。

1対1では人間の力に限界がある。役割を分けて“組織”を形成し、組織が一体となって戦えば、人数以上の力を発揮できると知っていたのです。

3 組織は一人ひとりが有機的につながってこそ強くなる

組織的なチームスポーツといわれるサッカー、ラグビー、バレーボール、バスケットボールなどに共通するのは、チームにものすごくうまい選手が1人いても、必ずしも勝てないという点です。

例えばサッカーは1チーム11人で点を取り合う競技ですが、チームに点取り屋のストライカーであるプロ選手が1人加わったらどうでしょう。オフサイドにならないようにゴール近くで待機していたとしても、チームメートがまず相手チームからボールを奪った上で、前まで運んでくれなければ、いつまでたっても点を取れません。

ならばと自ら相手チームからボールを奪って、1人で相手ゴールに向かおうとドリブルを始めても、たどり着くまでに何度も相手チームに囲まれて、さすがにプロでもボールを失ってしまいます。

バレーボールでいえば、プロのアタッカーが1人いても、相手のサーブを受けるレシーバーや、それをアタッカーの打ちやすい所にトスできる人がいなければ、いつまでたっても点を取れません。アタッカーでなくプロのレシーバーが1人だけいても同じです。

大事なのは、1人の秀でた人がいるよりも、組織の一人ひとりが自分の役割分担をしっかりとこなせて、前の人と後ろの人と連携できることなのです。

連携といっても単純ではありません。ボールを出す相手の経験や特徴を知って受け方を考えたり、次に渡す相手は誰で、やはり特徴や右利きか左利きかで渡す場所を変えたり、敵と味方の陣形の変化を見ながら一瞬で判断して渡すタイミングを変えたり。

相手と自分の状況を瞬時に察知してケース・バイ・ケースで一人ひとりが判断し、対応を変えていく…それこそが“有機的につながっている”状態です。

日本で人気の野球を挙げませんでしたが、野球はプロのピッチャーとその球を受けられるキャッチャーがいれば、必ず勝てる場合があります。また、プロのバッターが1人いれば、ホームランを重ねて勝てる場合もあるでしょう。見ていて面白いかどうかは別ですが。

しかしながら野球においても、実際はカテゴリーごとに拮抗しているチーム同士の戦いが多いわけです。攻撃側は走者がいればバッターとの連係も必要ですし、守備側は打たれ方を予想し、失点につなげない連係したプレーが重要です。

そして最後は、組織力のあるチームが勝つのです。

4 ピラミッド型組織におけるつながり、連携とは?

組織的なチームスポーツを例に、「組織は一人ひとりが有機的につながってこそ強くなる」わけをお話ししてきました。

会社におけるピラミッド型組織は多くの場合、チームスポーツよりも人数も多く、役割も複雑ですが、連携のあるなしで総体としての力が違ってくる点では共通しています。

チームメートがフラットな関係のチームスポーツに対して、会社のピラミッド型組織ではどのようにつながり、連携すれば強くなれるのか。次回、詳しくご説明したいと思います。

第6回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回も引き続き、「2)会社の【組織力】」について後半のお話をします。

<ご質問を承ります>
最後まで読んでいただきありがとうございます。ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

以上(2022年12月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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画像:NicoElNino-shutterstock

経営者も人事労務担当者も必見! 横領を隠して退職した不届き者から退職金を取り戻す方法

書いてあること

  • 主な読者:不届きな社員に支払ってしまった退職金を取り戻したい経営者、人事労務担当者
  • 課題:取り戻すための方法やポイントが分からない
  • 解決策:民法の「不当利得返還義務」に基づいて返還請求する。就業規則の「退職金の支給制限や返還の定め」を確認する。不祥事の内容と長年の功労を照らし合わせる

1 不届きな社員から退職金を取り戻す方法

退職金は社員の在職中の功労に報いるものです。そんな厚意を踏みにじる不届きな社員には、厳格に対応しなければなりません。例えば、

横領を隠したまま転職し、退職金を受け取る社員

がいたらどうですか?

退職時に在職中の不祥事を発見できない場合に、こうした問題が生じるのですが、次の3つのポイントを押さえれば、退職した社員に、退職金の返還を適正に請求することができます。以降で詳しく見ていきましょう。

  • 民法の「不当利得返還義務」を理解する
  • 就業規則の「退職金の支給制限や返還の定め」を確認する
  • 不祥事の内容と長年の功労を照らし合わせる

2 民法の「不当利得返還義務」を理解する

不祥事を隠して退職した社員に対し、支払ってしまった退職金の返還を請求できる根拠は、民法の「不当利得返還義務」です。これは、

法律上正当な理由がないのに、他人の損失と引き換えに利益を受けた者(受益者)は、損失を受けた者(損失者)に、受けた利益を返還しなければならないという義務のこと

です。損失者が「受益者の受けた利益が不当利得であること」を立証し、利益の返還を請求した場合、受益者はこれを拒否できません。ただし、返還請求を行えるのは、「不当利得が生じた時点から10年間(損失者が不当利得に気付いた場合は、その時点から5年間)」です。

退職金の場合、「不祥事を起こした社員には、退職金の全部または一部を支払わない」というルールであれば、本来、不支給(または減額)となるはずの社員が退職金を満額受け取った場合、その社員は会社の損失と引き換えに利益を受けていることになります。

問題は、「退職金を満額受け取ることに、法律上正当な理由があるか」ですが、こちらについては労働基準法により、「退職金制度を設ける場合、退職金の支給対象者、金額の決定・計算・支払いの方法、支給時期を、就業規則で定めなければならない」とされています。つまり、

就業規則の内容が、法律上正当な理由があるかを判断する基準になるということであり、そこで、次に紹介する「退職金の支給制限や返還の定め」が重要になってくる

というわけです。

3 就業規則の「退職金の支給制限や返還の定め」を確認する

退職金の返還請求に関して、就業規則に次の2点を定める必要があります。

  • 退職金の支給制限:懲戒事由に相当する背信行為をした社員には、退職金の全部または一部を支払わない
  • 退職金の返還:懲戒事由に相当する背信行為をした社員に、既に退職金を支払ってしまっている場合、当該社員に退職金の全部または一部の返還を命じる

過去に、

就業規則に退職金の支給制限や返還に関する規定がなければ、懲戒事由に相当する問題が後日発覚したとしても、支給を差し止めることはできない

と判断した裁判例(東京地裁平成9年5月12日判決)があるため、必ず定めておきましょう。

【規定例】
第○条(退職金の支給制限)

1)就業規則第○条で定める懲戒規定に基づき懲戒解雇された従業員または懲戒事由に相当する背信行為を行った従業員には、退職金を支給しない。
2)就業規則第〇条で定める懲戒規定に基づき諭旨解雇され自己都合退職した従業員には、退職金を一部支給しないことがある。

第○条(退職金の返還)
退職金支給後において、前条で定める退職金の支給制限に該当した者については、既に支給済の退職金の全額または一部の返還を命じる。この場合、返還を命じられた者は誠実にこれに応じなければならない。

上の規定例の場合、「退職金の支給制限」「退職金の返還」の対象となるのは、いずれも懲戒解雇または諭旨解雇に相当する不祥事を起こした社員です。

退職金の減額・不支給が有効と判断されるには、それに相当するだけの非違・背信行為が行われたことが必要

であるため、懲戒処分のうち重大なものに限るものとしています。

4 不祥事の内容と長年の功労を照らし合わせる

就業規則に退職金の支給制限や返還の定めがあっても、請求額の全額が回収できるとは限りません。

支給制限の話になりますが、過去の裁判例では、

懲戒解雇であっても、退職金を不支給とすることは、長年の功労を打ち消す重大な背信行為がなければ合理的とはいえないので、減額などにとどめるべき

と判断したもの(東京高裁平成15年12月11日判決)があります。この裁判では、痴漢行為が原因で懲戒解雇された社員の退職金を不支給とすることの可否が争われ、最終的に70%の減額が妥当と判断されました。判決文では、

  • 退職金の不支給が認められ得るのは、原則として業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為があった場合である
  • 直接の背信行為とはいえない非違行為については、それが会社の名誉、信用を著しく害し、会社に大きな現実的損害を生じさせるほどの強度な背信性が認められる必要がある

という旨が示されています。

退職金の返還請求についても同様です。どの程度の額の返還が認められるかは、社員の不祥事の内容と長年の功労を照らし合わせた上で判断されます。

なお、社員の不祥事によって会社が損害を受けた場合、退職金の返還請求とは別に、受けた損害に関する損害賠償請求が認められる可能性があるので、必要に応じて検討しましょう。

5 (参考)同業他社に転職した社員の退職金は?

参考として、社員が退職後、就業規則の競業避止義務に違反して、同業他社に転職した場合の退職金の返還請求について説明します。

競業避止義務違反を理由に退職金の返還請求が認められるかについては、退職した社員側の職業選択の自由の問題などもあって判断が難しいですが、「同業他社に転職した場合、退職金の半額を返還させる」という就業規則の規定の有効性等が争われた過去の裁判例では、

就業規則の競業避止義務に違反することで、勤務中の功労に対する評価が減殺される

として、退職金の一部の返還請求を認めたもの(最高裁第二小法廷昭和52年8月9日判決)があります。

ただ、競業避止義務違反は不祥事よりも悪質性が低いといえるため、仮に返還請求が認められたとしても、回収できる額は退職金の一部にとどまると考えられます。なお、就業規則に競業禁止に関する定めがあっても、これに違反した場合に退職金の返還を命じる旨の定めがなければ、退職金の返還請求は原則として認められません。

以上(2022年12月)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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現パナソニックホールディングス創業者・松下幸之助。現代社会にも通じる、労使に関する一言の真意とは?

対立しつつ調和する

SDGs、ESG、CSRといった言葉が浸透する前から「企業は社会の公器」と公言していた、現在のパナソニックホールディングス(旧松下電器産業)創業者の松下幸之助氏。その松下氏が労使関係について語る際に用いたのが、冒頭の言葉です。松下氏は、労使の関係は一面においては対立するものの、労働者の幸福は企業や社会にとっても好ましく、根本的に労使双方の利害は一致しているという認識を持つべきなので、大きくは協調していくように説いています。

世の中には、さまざまな対立関係があります。国際政治や経済格差のような大きなものから、社内ないし家庭内の人間関係に至るまで、事の大小を問わず、対立関係は人の心を悩ませるものです。時には暴力沙汰や事件となってしまうこともありますし、お互いにとって良くない結果を招くことも少なくありません。

とはいえ、もともと立場や価値観・好みが異なる組織や人間同士が、対立関係を根本からなくすのは、容易なことではありません。そこで重要になってくるのが、松下氏の、「対立しつつ調和する」という考え方です。

対立関係を和らげるための第一歩は、お互いが交渉のテーブルに着いて、「対等」の立場で議論することです。片方が一方的に意見を押し通したり、抑圧したりしている状態は、「対等」な関係ではないので、対立関係を修復する機運も醸成されません。お互いに相手の話を聞く準備ができていることが大前提です。

次のステップでは、お互いが譲れないと考えている「対立のポイント」を、極力小さくします。例えば、上司が部下に対して一方的に、「黙って俺の言うことに従っていればいいんだ」と叱ることがあります。これでは、対立のポイントは、上司と部下という、「人と人との対立」になってしまいます。ですが、上司が部下の言い分も聞いて、互いの意見の違いを認めた上で説得を試みれば、対立のポイントは、「あるテーマに関する、上司の意見と部下の意見との対立」へと、小さくすることができます。

最後のステップでは、お互いの考えがある程度一致している「調和のポイント」を、極力大きくします。例えば、上司と部下が対立していても、共に「会社を成長させたい。そのために部下を活躍させたい(部下自身は、会社のために自分が活躍したい)」という考えで一致していることが往々にしてあります。お互いに大きなポイントでは一致していることさえ確認できていれば、一致点に向かうために、どれだけ譲歩し合えばよいかについて議論しやすくなるはずです。

そして、松下氏の言葉で何より重要なのは、対立を完全に解消する必要はないということです。互いの違いを認めた上で、互いにそれを受け入れ、違いを残したまま共存する。それが「対立しつつ調和する」ということなのです。

出典:「実践経営哲学」(松下幸之助、PHP研究所、2001年5月)

以上(2022年12月)

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【朝礼】事実を伝え、本心を語ろう

人事や広告に携わったことのある人なら、誰もが知っている求人広告を紹介します。

「求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒(ごっかん)。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証なし。成功の暁には名誉と賞賛」

これは、南極点を目指した冒険家アーネスト・ヘンリー・シャクルトンが南極探検隊の人材を募集したときの広告といわれています。

実は、この求人広告が本当に掲載されたかは定かではありません。しかし、これまで多くの人に語り継がれ、ビジネス書などにも紹介されたことで、歴史上もっとも有名な求人広告となりました。

「求む男子」や「生還の保証なし」という表現は今の時代では使えませんが、「至難の旅」や「僅かな報酬」など他の言葉は使えるでしょう。浮いた言葉はどこにもありません。成功した場合にも、多額の報酬ではなく、名誉と賞賛を得るだけです。にもかかわらず、多くの人の気持ちを惹(ひ)きつけたのです。要は「面白そうだ」「やってやろう」という気にさせたのです。

相手をその気にさせるには、まず自分が「事実」と「本心」を明らかにしなければなりません。そうしないと、伝えたいことを伝えられないのです。

先ほどの求人広告は、まさに「事実」と「本心」が記されています。だからこそ、これまで語り継がれてきたのだろう、と私は考えています。

コミュニケーションは、伝えたいことを言葉にして「話す」こと、次は「文章に記す」ことです。伝えたいことが相手にうまく伝わらないのは、話し手が格好を付けて話すため、本心が見えないからです。

私の場合、特にその傾向が強いので、困っていました。この求人広告のおかげで、伝えたいことを伝え、皆さんをやる気にさせるには、(経営者である、責任者である)私が皆さんに遠慮しないで、事実を伝え、本心を語る必要があると気づきました。

事実を伝え、本心を語るのはとても勇気のいることです。例えば、私が皆さんの仕事ぶりをしかるときは、これまでとても遠慮していました。私だけでなく、上司や先輩が部下や後輩をしかるときは、私と同じように遠慮していたでしょう。その一方で、部下や後輩は上司や先輩に「言いたくても言えない」ことが数え切れないほどあったでしょう。

でも、言わなければなりません。遠慮する必要はないのです。会社のため、上司のため、部下のため、先輩のため、後輩のため、同僚のため、自分のために、事実を伝え、本心を語ってください。

ただし、そのときに一つだけ留意してほしいことがあります。それは、本心を伝える際の話し方です。相手をほめるときはよいのですが、相手に注意を促すときは、話し方によっては、相手を傷つけたり、怒らせたりするかもしれません。本心を伝えるときには、より丁寧な言葉遣いを心がけてください。

今日から、私は事実と本心を、遠慮なく皆さんに伝えるようにします。皆さんもそうしてください。事実と本心を語りあうことのできる会社(組織)は元気に満ち溢れてくるはずです。

以上(2022年12月)

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世界的に有名な物理学者・アインシュタイン。彼の一言から考える、会社の「価値」とは?

成功者になろうとするのではなく、価値のある人間になるよう努めるべきです

ノーベル物理学賞を受賞したアインシュタインは、相対性理論の発表など科学者として高い名声を得ましたが、「科学技術が人々にどのように利用されているのか」についても、強い関心を持っていました。終戦後の1955年に、核兵器廃絶や科学技術の平和利用を各国に訴える「ラッセル・アインシュタイン宣言」を発表したのは、その一例です。

冒頭の言葉は、そんなアインシュタインの姿勢を象徴するものといえます。「人間」だけでなく、これからの会社の方向性を考える上でも、参考になる言葉ではないでしょうか。

今、世の中の価値観が急速に変わる中で、「会社」とは何か、「働く」とはどういうことか、についても見直され、変化しています。

会社は、「社会的な公器」としての責任を求められるようになってきています。また、働く目的は人それぞれで多様化し、「働き方改革」「ワーク・ライフ・バランス」といった言葉が頻繁に用いられるようになりました。会社を経営する上で、社員に何を与えることがよいことなのか、社員にどこまで求めればよいのか、判断が難しくなってきています。

そこで、アインシュタインの言葉を踏まえて考えてみましょう。会社にとって「成功」とは、これまでの価値観であれば、売り上げを増やし、利益を上げ、会社を大きくすることでしょう。東証プライム市場に上場することも含まれるかもしれません。

一方、「価値のある会社」とは、何を指すのでしょうか。一概には言えないかもしれませんが、分かりやすく、「人の役に立っている会社」と考えてみましょう。

例えば、顧客のニーズに応える商品やサービスを提供することも「価値」です。社内制度を変えて社員から「働きやすい」「自分の夢を実現できる」と思ってもらえる会社になることも「価値」です。環境活動に投資して地域を良くすることだって「価値」です。

このように言うと、“何でもあり”のように聞こえるかもしれません。しかし、もしその「価値」が自社だからこそ提供できる、何物にも代え難いものだとしたらどうでしょう。多くの人に「この会社があって助かった」「この会社がないと困る」と思ってもらえます。それは会社の存在意義(パーパス)であり、会社が活動していくための原動力となります。

「成功」を目指すのであれば、自分本位に、自社の目標さえ達成すれば、それで完結です。ですが、「価値のある会社」になるためには、常に世の中の価値観の変化を感じながら、「自社が本当に人の役に立っているのか」をいつも意識しておく必要があるのです。

 

出典:「アインシュタインにきいてみよう:勇気をくれる150の言葉」(アインシュタイン述、弓場隆編訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2006年4月)

以上(2022年12月)

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アイデア続々 トラック移動販売が広さを武器に顧客のもとに快走する!

書いてあること

  • 主な読者:既存事業の販路拡大や新規事業の開拓を考えている経営者
  • 課題:トラック移動販売で事業展開できるかを知りたい
  • 解決策:トラックはアイデア次第でワゴン車よりも多様なサービスが展開できるが、販路の確保が困難。コンセプトを決め、販売場所と顧客を早めに確保する

1 ビジネスの可能性を広げるトラックの移動販売

商品やサービスを顧客に届ける方法はさまざまで、「移動販売」もその1つです。移動販売は古くから行われていて、都心ではワゴン車などの小型車両を使ったキッチンカーをよく見かけます。移動販売の問題の1つはスペースが狭いことですが、この問題を解消しようと、

「トラック」を使って服飾店、カウンター付きバー、学習塾、美容室、整体サービスなどを展開する事例

が続々と登場しています。小型車両、中~大型車両、固定店舗の特徴を比較すると次のようになります。

小型・中~大型車両の移動販売と固定店舗の比較

この記事では、トラックやキャンピングカーを活用した移動販売の事例を紹介します。皆さんのアイデア次第でビジネスの可能性が広がります。

2 参考にしたいトラック移動販売の好事例

1)車内で試着ができ、服の製作者と顧客が直接話せる軽トラック

ユニセックス系のファッションブランドalls(オールズ)代表の清田良氏が、個人で運営する移動店舗「RARELY SEE OWLS」。2019年から毎週金曜日に開いていたアトリエショップを2021年6月に閉店。その後、移動販売へと転換しました。コロナ禍により途絶えた顧客との接点を作るには移動販売が最適だったそうです。

「セレクトショップへの卸しやネット販売では、お客さまとお話しすることができませんが、移動販売では、直接話ができます。服選びやトラック内での試着の合間に、服を作るまでのストーリーや思いなどを話し、納得して購入していただけている実感があります。トラック内での試着は、非日常的で新鮮に感じているお客さまが多いのも、移動店舗ならではですね」(清田氏)

試着室を完備した中古の軽トラックの購入・改造費は、およそ120万円。衣服の製作や仕入れ、什器(じゅうき)などを含め、初期費用は200万円ほどになるそうです。

「RARELY SEE OWLS」の移動店舗。試着の際は扉を閉める(写真提供:alls)

2)昼はカフェ、夜はバーになるトラック

4トントラックに本格的なバーカウンターと客席を備えた移動型バー「TLUX」。昼間は協賛会社の商品を販売するポップアップカフェ、夜はバーとして、渋谷の月決め駐車場で営業しています。

「トラックのカウンターで、静かにお酒を飲む経験が珍しいようで好評です。2020年春、渋谷で通常の店舗として開業しようとした矢先に緊急事態宣言が発出されました。しかし、開業を諦めきれず、どういう形でやるかを検討した結果、トラックバーとなりました。最大14席しかないので、バー以外でも収益を確保する仕組みを考えてからスタートしました」(「TLUX」を運営するBAR TRUCK MEDIA TLUX 代表 篠崎友徳氏)

トラックの改造費など初期費用は非公開ですが、仕入れや人件費、駐車場利用などの固定費を含めた費用は、ポップアップカフェやイベント・パーティーなどの貸し切りレンタル、バーのオリジナル商品のEC販売など、複数の収益によって賄っており、黒字化しているそうです。

カウンターと客席を備えた移動型バー「TLUX」(写真提供:BAR TRUCK MEDIA TLUX)

3)早朝や深夜も学びの場になるキャンピングカー

家庭教師だった藤原篤史氏が個人で運営しているキャンピングカー塾。岡山県内で「近くに塾がない」「送り迎えができない」「家庭教師を通す部屋がない」「深夜に勉強したい」「不登校の生徒がいる」といった家庭向けに、キャンピングカー内で学習指導を行っています。

「キャンピングカーでの授業は家庭教師と違い、家の片付けなどの必要がありません。そのうえ、こちらから訪問するので『送迎の手間がかからない』と喜ばれています。また、家の敷地や近くの空きスペースに停まっていると、早朝(6~8時)や深夜(23~25時)の時間帯でもご迷惑にならないようで、高校生を持つご家庭に好評です」(藤原氏)

キャンピングカーは家庭用エアコンが搭載されているタイプをおよそ600万円で購入。改造費はかかりませんでしたが、エアコンの電源確保のため、大容量ポータブル電源を2つ買ったそうです。

キャンピングカーが珍しいのか、車体の看板を見て問い合わせをしてくることもあるという(写真提供:キャンピングカー塾)

4)高齢者がオシャレを楽しめる移動美容室

海外を含めて9店の美容室を展開しているデレディール。同社の移動美容室は、高齢者を対象としているため、車椅子専用のリフト付きです。またボディが横に広がり、美容スペースとなる拡幅式の3トントラックを用いています。車内ではパーマ、カラー、シャンプーなどが、全てできるそうです。

「介護を必要とする方々もオシャレをしたい気持ちを持っています。それをかなえるには、美容室に行くというワクワク感覚が大切なので、内装も外装も本格的な美容室を作りました。見て、中に入って、オシャレするワクワク感を味わっていただけるようにしています」(デレディール 広報担当 小西氏)

初期費用は非公開ですが、一般的に理美容設備のある中古の2トントラックの場合は450万円ほど、3トントラックの場合は1000万~1300万円ほどになるといわれています。

車椅子のまま乗り降りができるように改装された移動美容室(写真提供:デレディール)

5)自社の新商品や事業のPRのために移動車両を使う

販売よりも事業やサービスの紹介などの宣伝が目的で、トラック移動販売を利用するケースもあります。

1.自社のサービスをPRし、ECサイトへの誘導を図る

集英社が女性向けに商品やライフスタイルを提案する「HAPPY PLUS STORE」。固定店舗とECサイトを展開していますが、2022年11月7日に車内で試着や骨格診断などができるトラック4台を用意して、初の移動販売を行いました。出店エリアは、子育て世代向けに東京都江東区の高層マンション周辺(11月7~8日)と豊洲公園(11月12~13日)、ビジネスウーマン向けに東京都中央区日本橋にある屋外イベントスペース(11月10~11日)です。

「トラックの中で試着や服選びをする体験はあまりないので、注目されると期待しています。移動販売をしてみて、地域ごとの特性が分かれば、地域の客層に合う商品やカタログを店舗や書店に置けるようになります。それを見てサイトへの誘導率を高めていきたいです」(集英社 デジタルソリューション部 中谷みどり氏。なお、コメントは出店初日のもの)

高層マンションの下で展開する集英社の「HAPPY PLUS STORE」

2.ECサイトだからこそ、顧客のリアルな声を聞くために出店

腸内細菌の研究をベースに腸内ケア商品を開発・販売するAuB(オーブ)。ブランドの認知拡大と自社ECサイト「AuB STORE」への誘導、顧客のリアルな声を聞くことを目的に移動販売を展開しています。そのため、出店費用は広告宣伝費と考えているそうです。

「話を聞くと、『腸内ケアに興味を持っていたけど、何をしたらいいか分からない』『気になっていたが買うまでには至らない』というケースが多いことが分かりました。実際にコミュニケーションをとったお客さまからのリアルな声を、今後のPRのヒントにできそうです」(AuB  PR・メディアリレーション 上田彰氏)

PRとして、行き交う人に声がけをしているAuB

3.自社の出張サービスを知ってもらい、後日の注文につなげる

固定店舗と出張での整体サービスを展開しているスマイルクリエイト。新たな販路を求めてトラックを施術所にし、東京・湾岸エリアの公園や商業施設に出店しています。

「出張サービスをやっているのを知ってもらうと、個人や企業から施術に来てほしいと言われることもあります。移動販売は、利益よりも認知の機会が増えることを重視しています」(スマイルクリエイト 代表取締役社長 伊藤賢治氏)

車内が施術所となっているトラック(写真提供:スマイルクリエイト)

なお、集英社、AuB、スマイルクリエイトの各社は、いずれも後述するShare Tomorrow「&MIKKE!」の移動販売サービスを利用しています。

ここで紹介したもの以外にも、

  • 視力検査・測定機材を搭載した、メガネの移動型店舗
  • 本格的な厨房設備を搭載して、野外でレストランを開くキッチンバス
  • トレーニングマシンを設置し、車内でレッスンができるフィットネストラック

などの移動販売サービスを提供している事例があります。

3 移動販売で大切な「許認可」

1)路上や公園での販売は許可が必要

アイデア次第でさまざまな業種で展開できる移動販売ですが、全ての土地は誰かの所有物です。出店するには土地の所有者に許可を得る必要があります。特に、

路上での販売は、道路交通法により禁止

されていて、無許可で路上販売をすると駐車違反となります。路上販売には、出店したい地域を所管する警察署の「道路使用許可」が必要ですが、道路使用許可が下りるのは基本的にお祭りやイベントなどの場合であり、単独で許可を得るのは難しいと考えたほうがよいでしょう。

公園での販売は都市公園法により、公園管理者から営業許可を得る必要があります。公園管理者は国土交通省や地方自治体、地方公共団体など、公園によって異なります。

また、固定店舗と同じですが、業態によって公的資格や保健所、警察署などへの申請等が必要になります。事業を始めるに当たり、許認可が必要となる主な業種を紹介します。

2)一部の業種は、公的資格や申請等の手続きが必要

公的資格や申請等の手続きが必要なのは、主に次の業種です。

公的資格と行政の許認可などが必要な主な業種

3)公的資格や申請等の手続きが必要のない業種もあるが、要注意

2)に該当しない業種の場合、公的資格や申請等の手続きは原則不要ですが、一部注意が必要なものもあります。例えば、小売業の移動販売の場合、商品によっては、

  • 未開栓の酒類を販売できない
  • たばこは、たばこ小売業の許可を得ていないと、移動販売(出張販売)の申請ができない

といった特有のルールがあります。また、

  • リラクセーション(足つぼ、もみほぐし、ストレッチ、エステサロンなど、治療を目的とせず、身体の疲労回復を目的としたもの)
  • ジム(フィットネス、スポーツなど)

などの業種には、独自の民間資格があります。取得すれば専門知識を得られ、顧客の信用につながります。

4)移動販売で使える保険

移動販売を行う際には、交通事故などへの備えも大事です。必要に応じて、次のような保険への加入を検討するとよいでしょう。

  • 自動車保険:交通事故などで被害者への賠償や車の修理費用などが必要なとき
  • 施設賠償責任保険:施設の欠陥や偶然の事故で被害者や従業員への賠償が必要なとき
  • PL保険(生産物賠償責任保険):製造・販売した商品で顧客に損害を与えたとき

4 トラックで移動販売を始める4つのステップ

移動販売を始めるには、どんな店舗にするのかコンセプトを決め、車両の用意、販売場所や顧客の確保をしていきます。特に車両が大型になると出店できる場所が限られます。コンセプトが決まったら、

車両の用意と販売場所や顧客の確保を同時に進め、車両の完成と営業の開始のタイミングが合うように段取りを組む

ようにしましょう。営業にかかる時間のロスが減ります。

1)非日常感を演出できるコンセプトを決める

ワゴンや軽トラック、中型車両など多くの車両がひしめく場所に出店する場合、個性の強い店づくりが必要になります。移動販売の支援や出店場所とのマッチングサービスを行っているMellowの代表取締役・石澤正芳氏は、

「非日常感を演出することが大切」

と言います。例えば、

  • 名物販売員や商品の製作者を配置する
  • 製作過程を目の前で見られるようにする
  • 外装を商品の雰囲気に合わせて派手にする
  • 天候に合わせて商品構成を変える

などのアイデアです。

2)車両の用意

販売車両は、中古車両を購入して自ら改造する以外にも、移動販売の知識のある専門業者から移動販売に特化した車両を購入したり、レンタルしたりすることもできます。

ダイハツは、2022年9月から、軽トラックと荷台に乗せる取り外し可能な箱をセットにした「Nibako」のレンタルを始めています。レンタル料は1日1万3200円から。月額の場合は6万6000円です。

小物類、食器類の物販、衣料品販売から、生花、野菜、菓子、総菜など、さまざまな業種・業態で対応できるように取り外し可能なレールや棚穴が付いています。

軽トラックの荷台に取り外し可能な箱を搭載したダイハツのNibako(写真提供:ダイハツ)

3)出店場所の確保

出店場所を確保するには、次のような方法があります。

  • 駐車場や商業施設などの空きスペースを利用する
  • マッチング会社の出店サービスを利用する
  • マッチングサイトに登録する

1.駐車場や商業施設などの空きスペースを利用する

・駐車場を利用する
駐車場を確保できれば、長期間の出店が可能です。例えば、第2章で紹介したBAR TRUCK MEDIA TLUXは、渋谷で営業するために、月決めの駐車場を2年間契約したそうです。また、キャンピングカー塾は、生徒を乗せて、駅前の市営有料駐車場などに駐車して学習指導を行うことがあるそうです。

・商業施設やアミューズメントストア、住宅展示場などのスペースを利用する
定期的にイベントを開催する常設の催事場や道の駅、サービスエリアなどは、大型車両が入れるスペースもあります。主催者側が出店募集をしている場合もあり、スペースが空いていれば、利用料を払うことで出店できるかもしれません。

・自ら空きスペースを探し、直接交渉する
>出店したいエリアがある場合、空きスペースを見つけ、地権者と直接交渉するのも1つの方法です。利用料を払い、空いたスペースや時間が有効活用できることを伝え、交渉します。大きな音を出さない、片付けを徹底するなどの取り決めは必要ですが、貸主が見つかれば、そのエリアの顧客を独占できるかもしれません。

2.マッチング会社の出店サービスを利用する

移動販売について、出店場所の提供、出店申請、販売ノウハウの紹介、車両のレンタルなどをサポートするサービスが登場しています。

・Mellow「SHOP STOP」:空きスペースと移動販売車をマッチング
出店者一人ひとりに専属アドバイザーがついて、店舗に見合った出店場所を紹介してくれます。また、登録ユーザーの位置情報と連動して出店情報を教えてくれる「SHOP STOPアプリ」による販促や、移動販売全般のサポートを行っています。出店費用は売上の15%です。リース車両の提供もしていて、車両代、車両保険、施設賠償、生産物賠償責任保険、同社の売上データを活用したアドバイスも含めて月額8万5000円から利用できます。

■SHOP STOP■
https://www.mellow.jp/shopstop/kitchencar-navi

・Share Tomorrow「&MIKKE!」:販売車両から場所の提供までフルパッケージで支援
出店者の商品やサービスに合った「出店場所」と「移動販売車両」「レジ・什器などの備品」をフルパッケージで提供しています。出店料は1日2万円程度で、さらに出店前の安全運転講習や、営業開始後のサポートもサービスに含まれているため、車両やノウハウがなくても、移動販売を素早くスタートできます。

■&MIKKE!■ 
https://www.mikke-spot.com/opening

3.マッチングサイトに登録する

出店スペースと出店者をマッチングさせるサイトを使って、出店場所を探す方法もあります。車両サイズにより出店できない場合もあるので、事前に確認が必要です。

・自由市場
無料で会員登録でき、出店費用はスペース料金のみです。地図や期間から全国の出店場所を検索できる他、人気スペースのキャンセル待ちなども可能です。

■自由市場■
https://www.jiyu18.jp/

・軒先ビジネス
無料で会員登録でき、出店費用はスペース料金のみです。悪天候の場合、出店時間前までの連絡でキャンセルできます。

■軒先ビジネス■
https://business.nokisaki.com/

・出店情報ナビ
無料で会員登録でき、出店費用はイベントごとに異なります。イベントの出店募集や商業施設、オフィス街での出店など、移動販売の募集情報が掲載されています。

■出店情報ナビ■
http://www.omatsuri.info/

4)顧客の確保

最後に、顧客を確保するための参考事例を紹介します。

1.口コミを活用する

キャンピングカー塾は、車体の看板を見た人から、停車中に声をかけられることがよくあるそうです。また、生徒の保護者の間で成績向上の噂が口コミで広がる効果もあり、初めて連絡してきた家庭には、初回のみ学習指導を無料体験できるサービスを行っているそうです(ほぼ100%の確率で有料サービスの利用につながるとのこと)。

2.これまでの付き合いを活用する

デレディールは、1995年に開業して以来、地域の顧客と長年付き合ってきました。顧客の中には、介護施設や老人ホームなどへ入所する人もいます。そこで入所施設へ出向く目的で、移動美容院をスタートさせました。このため、顧客は全て紹介を通じて獲得しているそうです。

3.事前に顧客を確保してから開業

高齢の買い物難民を対象に、自宅まで訪問する移動スーパーとくし丸は、連携する販売パートナーとスーパーに対し、開業の際、顧客の需要調査を依頼しています。

「開業前に1~2カ月かけて需要調査を行ってもらい、買い物に困るお客さまを120人以上見つけてもらうようにしています」(とくし丸 広報担当 小川奈緒美氏)

とくし丸の販売パートナーが顧客開拓で家を回る軒数は、1~2カ月で数千軒に上ることもあるそうです。実際の対面販売を始めてからは、信頼を得るために、約束した商品は次の移動販売のときに持ってくる「御用聞き」、消費しきれない量の買い物をしていたら売るのをやめさせる「売りやめ」、顧客の様子を見て、時に通院などを促す「見守り」などをしているそうです。おかげで、訪問時の顧客の購入率は「ほぼ100%」だそうです。

事前に120人以上の顧客を見つけてから移動販売をスタート(写真提供:とくし丸)

以上(2022年12月)

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【朝礼】今年もあと1週間、最後の苦労をしてみよう

今年も残すところあと1週間です。この1年間、皆さん、ありがとうございました。今年は、我が社にとってとても厳しい1年であり、皆さんには大変ご苦労をおかけしました。忘れてしまいたいことが数多くあった年でもあります。

昨今の厳しい環境の中、我が社が多くのお客様から支持されているのは、皆さんの日々の努力があればこそです。皆さん一人ひとりが持てる力を発揮していただいたおかげで、今年を乗り越えることができました。心から感謝しています。

今日は、我が社の忘年会です(先週、我が社の忘年会は終わりました)。忘年会の忘年は「その年の苦労を忘れる」という意味だそうです。この1年、全く苦労を感じなかったという人は1人もいないでしょう。「仕事を進めるについて思い通りいかなかった」「人間関係に苦慮した」「上司に叱(しか)られてばかりだった」など、さまざまな苦労があったと思います。中には苦労ばっかりだったという人もいるかもしれません。

苦労とは「心身を苦しめる」または「物事がうまくいくように、あれこれと気や体を使うこと」で、決して楽なことではありません。

しかし、この苦労が皆さんを成長させているのです。皆さんの中には、年々、苦労が多くなっていると感じている人もいるでしょう。けれども、苦労が多いということは、多くの人の役に立ち、周りの人を楽にしているのだと考えてください。会社の中では、上司が頑張った人に「ご苦労様」と声をかけます。ご苦労様が一番多かった人が、会社に最も貢献しているのです。

特に、今年我が社に入社された方は慣れない環境でたくさんの苦労を経験されたでしょう。その苦労は来年も続くと思います。また、ベテランと言われる方も、業務の高度化や多様化に対応するために、来年は今年より苦労が多くなるでしょう。

そうした苦労が、私たちや会社を成長させてくれるのですから、苦労を歓迎しようじゃありませんか。

先に、忘年は「その年の苦労を忘れる」という意味だと言いましたが、我が社の忘年は、「その年の苦労を忘れるのではなく、その年の苦労を労(ねぎら)い、来年くる苦労を歓迎する」ことにしましょう。

そして、これから仕事納めまでの1週間を、1年の苦労の総決算の週にしてほしいのです。皆さんに最後にしていただきたい苦労は、大それたものではありません。皆さんが、今年中にやろうと思ってできなかったことを、この1週間だけでもやってもらいたいのです。

例えば、「毎日ぎりぎりに出社している人は、明日から10分前に出社する」「机の周りが整理整頓できていない人は、今日から机を整理して帰る」「業務が遅れがちな人は、少しでも早く業務を進める」「部下や後輩を持つ人は積極的に彼らに声をかける」「タバコを吸う人は、業務時間中の喫煙本数を減らしてみる」などです。

今年は残りたった1週間です。きっとできるはずです。

以上(2022年12月)

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画像:Mariko Mitsuda