【朝礼】整理整頓ができなければ、思い切って捨ててしまえ

オフィスを見回すと、デスクの上が片付いている人、片付いていない人がいます。デスクが雑然としていると、必要なときに探し物が見つからず、仕事の効率が悪くなります。中には「片付けなくても、私はどこに何があるか分かっている」という人がいるかもしれません。そういう人に聞いてみましょう。「デスクの上や引き出しの中には何があるのかすべて覚えていますか? 必要なものをすぐに取り出せますか?」。どうですか? すべてを把握している人はいないでしょう。

仕事を効率的に進めるためにも不要なものを整理し、使い勝手よく整頓することは欠かせませんが、整理整頓が苦手な人もいるようです。私がみたところ、そんな人の多くは不要なものを捨てることができていないようです。そういう人は「不要なものを保管しておくのは、収納スペースがもったいない、探し物をする時間と労力がもったいない」と、視点を変えて整理整頓に取り組んでみてはどうでしょうか。

ここで、私が実際に整理整頓を実践する際の秘訣を紹介したいと思います。整理整頓は、まず不要なものを捨てることからスタートしますが、人によって要不要の判断基準は異なると思います。私はまず、それがすぐに使うものかどうかという点でそれを判断します。例えば、毎日使うカレンダーをデスクにしまい込む必要はありませんが、3カ月に一度しか使わない画びょうをデスクの上に出したままにしておくのはおかしいですね。

もし、すぐに使うかどうか判断に迷う場合は、しばらく置いておくのもよいでしょう。その場合もただ置いておくのではなく、判断に迷うものを入れる箱を用意して、そこに入れて1週間たっても使わないようなら片付けるか、捨ててしまいます。

また、資料などであれば、すぐに手に入るか否かで判断します。インターネットで簡単に入手できる資料を印刷して保存するのは無駄ですが、図書館に行かなければ手に入らないものはファイリングして保存しておく必要があります。

このほか、なくしてしまいがちで、整理が面倒なメモ書きなどはバラバラに保管したり、ノートに内容を書き写したりするよりも、スキャナでパソコンに取り込んだり、ノートにまとめて張り付けてしまうのもよいでしょう。

不要なものをためこんでしまうから、デスクは雑然としてしまい、肝心なときに必要なものを見つけられなくなってしまいます。要不要を判断して、不要なものは思い切って捨ててしまうことです。そして、要不要の基準は、頻繁に使うものか、再度入手することが容易なものかです。さらに、バラバラなものはとにかくまとめてしまう。これが、私の整理整頓の秘訣です。

デスクやオフィスの収納スペースには限りがあります。もったいないと思わず、思い切って捨ててしまいましょう。今日紹介した要不要の判断基準や、自分なりの判断基準を基に整理整頓に努めて、仕事の効率化につなげていただきたいと思います。

以上(2022年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

男女の賃金差異、どこからが違法な「男女差別」?

書いてあること

  • 主な読者:男女の賃金差異の公表が義務化され、賃金の方向性について考えている経営者
  • 課題:男女の平均年齢の違いなど、やむを得ない賃金差異もある。どこまで対処すべき?
  • 解決策:「性別の違いだけを理由に賃金に差を付ける」「産休(産前・産後休業)などを取った女性の賃金を極端に下げる」など、違法な賃金差異がないかを確認する

1 常時301人以上の会社では、男女の賃金差異の公表が義務化

2022年7月8日より、女性活躍推進法の厚生労働省令が改正され、

社員数が常時301人以上の会社では、自社が雇用する男女の賃金差異を、事業年度ごとに公表することが義務化(社員数が常時300人以下の場合、公表は任意)

されました。具体的には、新年度の開始からおおむね3カ月以内に、図表の赤字の内容(前年度の実績)を、厚生労働省「女性の活躍推進企業データベース」などで公表する必要があります。

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中小企業は公表義務の対象外ですが、男女の賃金差異に無頓着でいると、「女性に優しくない、時代遅れの会社」などのレッテルを貼られ、人材採用などにも影響が出るかもしれません。

男女の賃金差異が生じる理由はさまざまで、なかには「男女の平均年齢の違いから、年功給の平均額に差異が出る」など、やむを得ないケースもあります。一方で、確実に対処しなければならないのが、違法な「男女差別」による賃金差異です。主なものは、次の3つです。

  • 性別の違いだけを理由に賃金に差を付ける(労働基準法)
  • 性別の違いだけを理由に職務に差を付ける(男女雇用機会均等法)
  • 産休などを取った女性の賃金を極端に下げる(男女雇用機会均等法、育児・介護休業法)

いずれも社員とトラブルになった場合、民法の損害賠償請求などを受ける恐れがある他、1.については、労働基準法違反の罰則(6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金)もあります。

「令和の時代に、こんな露骨なことをする会社があるのか」と思うかもしれませんが、まだ法整備が進んでいない頃に作られた社内規程が見直されないまま、知らず知らずのうちに「男女差別」に当たる運用をしてしまうケースなどもあるので、念のため確認しておきましょう。

2 ケース1:性別の違いだけを理由に賃金に差を付ける

労働基準法には、「性別の違いだけを理由に賃金に差を付けてはならない」というルールがあります。「賃金に差を付ける」ケースに当たるのは、例えば、

  • 男女で基本給の額が異なる
  • 特定の手当を男性にだけ支給し、女性に支給しない
  • 男女別の賃金表を設けており、勤続年数に応じて昇給額が異なる

などです。

労働基準法では、何をもって「性別の違いだけを理由に賃金に差を付けている」と判断するのかが明らかになっていませんが、過去の裁判(東京地裁平成4年8月27日判決)では、

男女の「職務内容・責任・能力が同じ」で「勤続年数や年齢も比較的近い」場合、賃金に差を付けるのは違法(性別の違いだけを理由に差を付けていると判断できる)

という考えが示されています。要するに「男女の働き方が同じなら、賃金も男女平等にしなければならない」ということです。

なお、労働基準法では、

賃金について、女性を男性よりも「不利に扱う」だけでなく「有利に扱う」のも違法

とされています。最近は、女性が働きやすいように福利厚生の充実に取り組む会社が多いですが、例えば、「育休(育児休業)期間のうち、最初の○日間は有給とする」という制度を設ける場合、「女性の育休は有給とするが、男性の育休は無給とする」といった運用はできません。

3 ケース2:性別の違いだけを理由に職務に差を付ける

男女雇用機会均等法には、「性別の違いだけを理由に、次の内容について差を付けてはならない」というルールがあります。

  • 配置転換(業務の配分、権限の付与を含む)、昇進、降格、教育訓練
  • 住宅資金の貸付けなどの福利厚生の措置
  • 職種、雇用形態の変更
  • 退職勧奨、定年、解雇、労働契約の更新

第2章の労働基準法のルールだけにのっとると、「男女で職務が違う場合、賃金差異があっても違法ではない」といえそうですが、この男女雇用機会均等法のルールがあるため、

合理的な理由もなく、男女で就くことのできる職務に差を付け、その結果、男女の賃金差異が生じる場合は違法

になります。

過去の裁判(東京地裁平成14年2月20日判決)では、「総合職」「一般職」のコース別人事を設けていた会社が、賃金の高い総合職には男性ばかりを、賃金の低い一般職には女性ばかりを当てはめていて違法と判断されたことがあります。社内規程上は男女双方に開かれたポストであっても、実際にそのポストに就いている社員(過去に就いていた社員を含む)の性別が極端に偏っている場合、配置の見直しが必要かもしれません。

なお、個人の経験や能力の違いによって職務に差を付けることは問題ありませんが、その裏で「会社として、職務に就くために必要な能力を身に付ける教育訓練を実施しているが、教育訓練の対象を男性に限定している」といった運用がされている場合は、違法になります。

4 ケース3:産休などを取った女性の賃金を極端に下げる

男女雇用機会均等法と育児・介護休業法には、「妊娠や出産をしたり、産休や育休を取ったりしたことを理由に、不利益な取扱いをしてはならない」というルールがあります。賃金に関する不利益な取扱いの例としては、

  • 基本給を引き下げる
  • 賞与支給額や昇給額の一部または全部をカットする

などが挙げられます。不利益な取扱いが禁止されているのは、産休や育休などの制度の利用を妨げないためですが、賞与支給額や昇給額の一部または全部をカットするケースについては、少し判断が複雑です。例えば、賞与の査定期間中に産休を取った女性がいる場合、

その女性は、休業しなかった他の社員よりも査定期間中の仕事量が少なくなる

ため、その点を賞与支給額に反映しないと、他の社員にとって不公平になる

という問題があります。

過去の裁判(最高裁第一小法廷平成15年12月4日判決)では、ある学校が「賞与の査定期間の90%以上を勤務しない場合、賞与は支給しない」というルールに基づき、査定期間中に産休を取った女性の職員に賞与を支給せず、トラブルになったケースがあります。裁判では、

  • 賞与の査定期間の出勤すべき日数に、産休の日数を算入することは、法令で認められた休業制度の意義を失わせるので違法である
  • 賞与支給額を、産休による欠勤日数の分だけ減額すること自体は違法でない

という判断がされています。つまり、

女性が査定期間中に産休や育休を取っていても、出勤した分の仕事については評価して賞与を支給しなければならない

ということです。

5 (補足)違法ではないものの、見直しが必要なケース

ここまで「賃金差異が違法なケース」を紹介してきましたが、これ以外に「違法ではないものの、見直しが必要なケース」というものもあります。

例えば、第1章で紹介した「男女の平均年齢の違いから、年功給の平均額に差異が出る」というケースは、賃金制度の運用と直接関係がなく違法とはいえませんが、仮にその裏に「男性に比べて女性の平均勤続年数が明らかに短い」という事情がある場合、見直しが必要です。

女性が定着しない会社によく見られるケースとしては、

  • 産休や育休などの制度は整備されているものの、「職場が常に忙しく、妊娠や出産を歓迎する雰囲気がない」などの理由で、制度を利用しにくい
  • 女性の管理職が少なく、キャリアアップが見込めない雰囲気がある

などが挙げられます。対策としては、

  • 会社として女性の活躍推進に積極的に取り組みたい旨を、経営者が進んでPRする
  • 産休や育休などの制度の存在を、定期的に社内に周知する
  • 産休や育休を取る社員には、出産・育児の妨げにならない範囲で、職場の状況などを共有する機会を設け、休業終了後にスムーズに職場復帰できるようにする
  • 社員とキャリア形成に関する面談を定期的に実施し、キャリアアップの希望を聞く

などが挙げられます。なお、一番最後の「キャリア形成に関する面談」については、女性自身がキャリアアップを希望しないケースもありますが、それが本人の生活事情や価値観によるものなのか、あるいは「女性は○○職に就けない」などの誤解をしているからなのかは、慎重に確認する必要があります。

上のようなケースは、「賃金差異が違法なケース」に比べると対処の優先度は低く、また是正にもそれなりの時間を要しますが、冒頭でも触れた通り、世間全体が男女の賃金差異に注目している状況ですので、やはり計画的に是正に取り組む必要があります。

以上(2022年10月)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:gugu-Adobe Stock

りそな総合研究所が展開する「対話」と「信用」を基盤とした銀行系シンクタンクならではの経営サポート〜「SDGs」「DX」「事業計画」など幅広い支援に迫る【代表取締役社長 米谷高史氏インタビュー】

りそなグループのコンサルティング・ファームであるりそな総合研究所(以下「りそな総研」)。りそな総研では、経営や人事、IPO、事業承継などのコンサルティング、プライバシーマーク認定取得などの取得支援、会計・法律問題に関する相談や経営情報の提供、ビジネスセミナー運営など、幅広く中小企業の経営支援を行っています。
りそな銀行の常務執行役員を経て、2022年4月にりそな総研の代表取締役社長に就任した米谷高史氏(よねたに・たかし。以下インタビューでは「米谷」)に、中小企業から寄せられている悩みや課題解決について伺いました。

※インタビュー担当:りそなCollaborare事務局(以下「事務局」)

1 中小企業の経営者から増えている相談は「SDGs」と「レギュレーション」

事務局

最近、中小企業・ベンチャー企業などから寄せられる相談で多いテーマは何ですか?

米谷

傾向としては大きく2つに分かれます。
1つ目は、「SDGs」に関する相談が増えてきました。比較的社歴が長く規模の大きな企業はサプライチェーンからの要請もあるようですが、今後は幅広い企業に影響してくる重要なテーマだと考えています。
もう1つはレギュレーション、つまり「法令対応」です。足元で言いますと、いわゆる「パワハラ防止法」(労働施策総合推進法)や「電子帳簿保存法」(電帳法)、2023年から始まる「インボイス制度」(適格請求書保存方式)の相談が増えています。
いずれにしても、ベースになる相談と、そのときに話題になっているテーマの相談があり、本当に幅広いです。

事務局

SDGsについては不明瞭なところもある一方、パワハラ防止法などについては明確なルールがあり、やるべきこともはっきりしているという印象です。そうして考えると、SDGsについては、「なぜ、やらなければならないの?」「やるとしても、どこから着手すればいいの?」という考え方もありそうですね。

米谷

SDGsについては見えてきているところも多いのです。ただ、具体的に求められる対応やスケジュールなどは業種によって異なるので、感度や対応に違いが出てくるのは当然です。例えば、EUは厳しい規制がありますから、そうした地域と取引している企業の場合、自発的というよりも、取引先から要請される形で対応せざるを得ないケースもあります。
また、今は「脱炭素」が一つのキーワードとなっていますが、大企業については「人的資本」など、これまでとは異なる情報の開示が求められるようになっています。こうしたことも、今後はサプライチェーンに波及していくかもしれません。

米谷さん写真その1です

事務局

企業が置かれている状況によって異なるということですね。

米谷

はい。状況の見極めが大事です。SDGsに限らず対応にはコストがかかりますから、いずれ対応が必要だとしても、「今ではない」ということもあります。そのため、企業の業種や取引関係、ステージに合わせたアドバイスを心がけております。

2 中小企業・ベンチャー企業が注視すべき分野は?

事務局

SDGsの他にも、さまざまなルールや枠組みができています。りそな総研として、そうした動向やビジネスの可能性をお客さまである企業に伝えたりしているのでしょうか?

米谷

はい。テーマは次から次へと出てきますし、情報はお伝えしています。

事務局

さまざまなテーマがある中で、今、中小企業・ベンチャー企業の経営者が特に注意したほうがよい分野は何ですか?

米谷

これも、企業の業種やステージによって変わってきます。法令遵守は当然のことですので、ある程度、経営の枠組みが出来上がっている企業の場合、改めて自社の対応状況を確認してみる必要があります。
 また、全般的にいえることですが、明確なレギュレーションは後から定まってきます。大枠が先行して決まり、詳細は後からということなので、先にお話ししたように、「自社がいつ対応すべきか」という判断は企業ごとに異なるものであり、当社はそうした検討のお手伝いもしております。


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3 事業計画の作成支援で終わらず、「対話」しながら伴走する

事務局

りそな総研として、注力している経営支援サービスは何ですか?

米谷

今、注力しているサービスの一つに「事業計画の作成支援」があります。
経営者の方は、業界動向や自社のポジションはもちろん、それらの変化を日々実感しながら計画されています。けれども、多くの中小企業・ベンチャー企業は、それを事業計画書に落とし込んでいません。
リソース不足など事業計画が作成されない要因はさまざまですが、今でいうと外部環境の変化が激しすぎるので、事業計画を作成すること自体に懐疑的な方もいるのでしょう。

事務局

確かに、事業計画を作ってもその通りにならないことのほうが多いです。

米谷

それでもベースのシナリオを作っておくと、不測の事態に備えることができます。例えば、1年前に今のようなエネルギー問題や食糧問題が起こるなんて思ってもみませんでしたよね。想定外のことが起きるのが世の常ですが、自分たちがイメージしていたことと実際に起きたことのギャップを確認することは大事で、そこから対策も生まれてくるわけです。
実際、事業計画を作成された経営者の方からは、「計画を持っておいてよかった」というお言葉をいただくことが多いです。

事務局

事業計画を作成したきりで終わってしまうという話も聞きます。事業計画の実行をサポートするために、企業との継続的なコミュニケーションが必要だと思いますが、具体的に取り組んでいることはありますか?

米谷

はい。まさにそこがポイントであり、経営者と継続的に「対話」できることが銀行系シンクタンクの強みだと思っています。
経営者(企業)と銀行は近い存在です。経営者の方から直接ご相談を受けることもありますし、銀行経由でご相談をいただくこともあります。複数のルートから、経営者のお悩みを聞ける関係は非常に好ましいことであり、もっと多くのご相談をいただけるように工夫していきたいと考えています。

事務局

お客さまである中小企業と対話する上で重要なことは何だとお考えですか?

米谷

金融は手段でしかなく、目的は別にあります。ですから、しっかりとお客さまの事業計画に入っていかなければ見えてこないものがあります。多角化をしたいのか、効率化をしたいのか、経営の課題や目的は本当にさまざまです。そこをお聞きして、具体的なご提案をしていきます。
私が銀行の営業だった頃、事業承継など繊細な問題についてもご相談を受けましたが、そうしたときは本当にうれしかったです。

事務局

少し話はそれますが、銀行で働く上でのやりがいはどのようなところにあるでしょうか?

米谷

人によって違いますね。私は「営業」の仕事に長く携わってきました。営業の仕事は、真摯にお客さまと向き合うことで結果がついてきますし、何といっても、本当にさまざまな業界や立場の人と話をすることができます。多様な経営者の考えや、あまり接点のなかったビジネスの構造を知ることはとても楽しいですし、それがコンサルティングの幅を広げているのだと思います。

4 金融機関の「信用」をキーにサポートの幅を広げる

事務局

そうしたご経験もあり、さまざまな取り組みを手掛けられているのですね。

米谷

そうかもしれません。好奇心といいますか、「なぜだろう?」というひっかかりを大事にしています。
 例えば、自分が中小企業の経営者だったとすると、玉石混交の中からどうやって良質な情報を収集するのか悩みます。そうした思いが「りそなcollaborare」(りそなコラボラーレ)の開設につながりました。
また、新しい取り組みとして「りそなデジタルハブ」も立ち上げました。売上の上げ方は100社あれば100通りですが、間接業務のやり方はほぼ決まっています。中小企業・ベンチャー企業も間接部門に一定のリソースを費やしていますが、そうした人材を育てるのは簡単ではないですし、離職してしまったときの影響も大きいです。であれば、間接業務は「信用」できる相手に任せればよく、そうした仕組みとして立ち上げたのがデジタルハブです。
銀行には先人たちが築いてくれたものも含め、企業との長いお付き合いの中で培ってきた「信用」があります。その信用をキーに考えれば、中小企業・ベンチャー企業にお役立ていただけるサービスがまだまだあると思いますし、銀行にとってもビジネスチャンスになります。

事務局

確かにそうですね。

米谷

それに、お客さまと銀行との関係は長く続きます。例えば、お客さまが会社を売却したら法人としてのお取引はなくなりますが、個人としてのお取引は続きます。長いお付き合いができることは銀行の強みであり、そこから信用もうまれくると思います。

事務局

信用をキーにすると、さまざまなサポートができそうですね。

米谷

 ここまでお話ししてきたSDGsや法令対応、間接業務のサポートもそうですし、組織作りというものもあります。30人、50人、100人と規模が拡大していく中でマネジメントも難しくなっていきますから、成長に応じた組織作りのお手伝いもしております。

事務局

 それはどのようなものですか?

米谷

 大企業と中小企業の人材の橋渡しになるような取り組みにチャレンジしています。先ほどの間接業務の例でいいますと、中小企業・ベンチャー企業で番頭クラスの社員が離職したら大変ですから、そこに経験と知識が豊富な大企業の人材を派遣することを考えており、関係各所とも話をしています。
 本格化するまでには時間がかかるかもしれませんが、この取り組みは、中小企業・ベンチャー企業はもちろん、大企業にとっても重要なものになっていくと考えています。

米谷さん写真その2です

5 DXは年長者が若年者の意見を聞くことが大事

事務局

今話題のDXについては、どのようにお考えですか?

米谷

ペーパーレス化が進んでいないとか、なぜ印鑑を押す必要があるのかなど、いろいろ言われていますよね。これは笑い話ですが、住所のフリガナもそうです。「木場(キバ)」(東京都江東区の地名)に「モクバ」とフリガナを振っても「モクバ」とはなりません。選択肢がないのに、なぜフリガナを振ってもらう必要があるのかということです。
ただ、DXをしなくても現状の仕組みで回っているという事実があり、そこから出る怖さというか、面倒臭さがDXのブレーキになっているのでしょうね。

事務局

DXを進めている企業では、それによって浮き彫りになった非効率に嫌気して、若手が離職してしまうこともあるとか。

米谷

昔、聞いた話に、「天動説」が常識だった世の中が、どうやって「地動説」に変わったのかというものがあります。天動説を唱えている年長者に「この資料を見てください」と説得しても、「そうか!」と地動説の支持に変わる人は一人もいなかったというのです。
 しかし、仮に50代以上は天動説の支持が100%、40代は天動説と地動説が50%ずつ、30代以下は地動説が100%だった場合、世代交代によって自然に「地動説」が常識になっていきます。つまり、パラダイムシフトとは世代交代なのです。ですから、DXについて年長者は若年者の話を聞くことが大切だと思います。スマホで経費精算できないと嫌がる若手も少なくないとか。月末に紙で経費精算していた年長者がスマホの経費精算を始めてみるだけでも、DXのきっかけになるかもしれません。

事務局

少し飛躍しますが、メタバースなど新しい話題もあります。こうしたことについても、若年者の声に耳を傾けてみるのが大事だということでしょうか?

米谷

まず、「世の中は変わる」と認識することが大事です。現時点でメタバースについて実感が湧いている人は限られるかもしれません。しかし、振り返ってみると、今から20年前に「四六時中、電話機を手放せなくなるぞ」と言ったとしても、何を言っているのだろうという感じだったはずです。同じように、未来は「バーチャルが居心地よい」という世界になっているかもしれず、そうなってもよい準備をしておくことが大切ではないでしょうか。
 ただし、経営者は経営判断をしなければなりません。どのようなリスクをテークするのかということです。新しいことへのチャレンジも、得意分野を深掘りすることも戦略ですから、変に時代の流れに巻き込まれる必要はありませんよね。

6 モヤモヤを解消してもらうために背中を押す

事務局

これからのりそな総研の取り組みについて聞かせてください。

米谷

そうですね。経営者には、日頃からモヤモヤしている課題がたくさんあります。ですが、今日の売上など目先のことを優先しなければならず、なかなか課題解決に着手できません。ここを何とかサポートしたいと思い、実際に経営者に話を聞いたり、当社のコンサルタントと議論したりしました。そうしたら、一つの可能性が見えてきました。

事務局

それは、どのようなものですか?

米谷

「社長交代」や「周年」が課題解決に取り組む一つのタイミングになっていることが分かったのです。我々はとかく企業の数字を見ながら話をすることが多いのですが、それだけでは不十分だったのです。
 考えてみれば、私が家を買ったのも、貯金ができたからではなく、子供の成長に合わせてのことでした。これを企業に置き換えれば、課題を解決するのによい「区切り」はたくさんあるわけです。これから、そうしたタイミングをとらえたご支援を提案していく計画です。

事務局

面白いですね。

米谷

はい。ただ、お客さまと同様に、我々にも課題があります。例えば、人事制度の構築などベースとなるご支援はもちろんですが、そこに留まらず、新しい分野にも専門領域を広げていきたいと考えています。
 また、銀行系シンクタンクとして、たくさんのお客さまに相談していただけるようになりたいと思っています。銀行の営業担当者を経由したご相談があるのは強みですが、「伝言ゲーム」も生じます。ですから、もっとダイレクトにご相談いただけるような体制を作っていきたいと思います。

米谷さん写真その3です

7 中小企業は意思決定の速さが最大の強み

事務局

最後に、りそなCollaborareの会員さまへメッセージをお願いします。

米谷

中小企業・ベンチャー企業の強みは、何といっても「意思決定の速さ」だと思います。混沌とした世の中ですが、経営者の方が世の中の流れをしっかり見て、さまざまな分野へチャレンジをしていただけたらと思います。りそな総研も、中小企業のお取り組みをサポートさせていただきます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年9月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

DXの“なんでも”相談先 あなたの会社の「DX分室」になる「りそなデジタルハブ」をご紹介します

会社の未来のために欠かせないDXですが、人的リソースが限られている会社にとっては、まだハードルが高く、本音は次のようなものかもしれません。

「うちの会社の仕事内容を分かった上で、“うちの会社用のDX”に必要なアプリケーションや機能を用意してくれて、日々の運用もサポートしてくれる人、いないかな。そうすればDXが実現できるのに。むしろ、そうじゃないと実現は難しい」

こうした方に朗報です。実は、限りなく近いことが実現できる形があります。それが、りそなHD(ホールディングス)が2022年4月に設立した「りそなデジタルハブ株式会社」(ITベンダー、ITコンサルティングなども出資)のDX支援です。

りそなデジタルハブはさまざまなITベンダーと連携し、りそな銀行のお客さまである中小企業のDXを、「会社の未来の姿をどう描くか?」から始まって、アプリケーション導入後も定期的なレビューやサポートを行い、支援します。単なるITベンダー紹介にとどまらない、お客さまの事業をも考えて伴走支援するりそなデジタルハブ。DXの困り事を抱える会社にとって、まさに「うちの会社のDX分室」になり得るものです。
本記事では、りそなデジタルハブがお客さまに提供したいと考えていることや実現したい世界などを、立ち上げに携わったりそな銀行の担当者の話をメインにご紹介します。DX推進に課題のある方は、一度、りそなデジタルハブにご相談してみてはいかがでしょうか。

●りそなデジタルハブのコーポレートサイトはこちら

1 「ワンストップ」「中長期的」が肝

りそなデジタルハブの大きな特徴は、「ワンストップで中長期的にDX支援を行うこと」です。DXについてはよく次のような問題がありますが、りそなデジタルハブでは、これらを解消することができます。

「業務によって色々なアプリケーションを導入する。問題が起きては各ベンダーの問い合わせ先にオンラインで相談するもリアクションが遅く、対応に時間がかかる。業務効率化や生産性向上を目指してDXしたはずなのに、かえって管理の手間が増える」

りそなデジタルハブのメイン事業はアプリケーションの販売代理や仲介です。それに付随して、お客さまの運用や定着化を支援するコンサルティング、ビジネスマッチングなどで中長期的にサポートするため、「ワンストップで中長期的なDX支援」が実現できます。
社名「デジタルハブ」には、こうした「DXなら、全て当社にご相談いただければ、ワンストップで解決します」という事業コンセプトと、「さまざまなITベンダーとお客さまをつなぐハブになりたい」という思いが込められています。この思いを体現し、りそなデジタルハブでは、5年間で累計1500社へのDX支援を目指しています。

2 2つの大切な核「目指すべき姿の共有」「成功への伴走」

りそなデジタルハブで大切にしているのが、

  • 目指すべき姿の共有
  • (お客さまの)成功への伴走

の2つです。

1)「目指すべき姿の共有」とは

りそなデジタルハブでは、お客さまに「何も制約がなければ、5年後どうありたいですか?」と、目指す未来から現在までを逆算するアプローチをしています。5年後、10年後にお客さまが実現したいビジョンを共有し、そこに向けてDXを進めていくやり方です。

逆に、単に目の前のことから進めていくと、場当たり的な対応になりかねません。例えば、「経費精算をDXしたい」とアプリケーションを導入し、次にまた別のニーズが出てきたから別のアプリケーションを入れて……と、連携しないアプリケーションがバラバラに出てきてしまいます。それが10種類あったとすると、10個のIDとパスワードを管理することになる上に、人事異動があれば、設定変更もそれだけ発生することになり、かえって生産性や効率を低下させてしまいます。

「DXは小さな成功の積み重ねです。お客さまの目指す未来像へのビジョンを描きながら、それに向けて1つずつステップを踏み進めていく。そうでないと、単なるデジタル化でしかなく、変革には程遠いでしょう。ともすれば、デジタル化ですらないという事態にもなりかねません。場当たり的にバラバラにアプリケーションを入れて、なんとなく終わってしまうのは価値がありません。目指すべき姿を共有した上で、本当にお客さまの成長につながるものにしなければいけません」

「お客さまに寄り添いつつも、お客さまの視野だけで考えるのではなく、お客さまが考えつかない視野からの提案をしていきたい。それがDXにつながることになります」

というのが、りそなデジタルハブとしての思いです。

2)「成功への伴走」とは

共有した目指すべき姿に近づくには、導入したアプリケーションをしっかりと使いこなす必要があります。しかし、なかなかそのリソースを確保できないのが実情ではないでしょうか。そこでりそなデジタルハブでは、中小企業のDX推進を、

  • テクニカルサポート
  • コンサルティング

の2つの面で継続的にサポートしていきます。

1.テクニカルサポート

りそなデジタルハブでは、基本的にIDを1つ持ってお客さまの環境に入り、画面共有をしながらテクニカルサポートを行います。販売代理店として、購入してもらったアプリケーションについて、お客さまの環境に入り、ワンストップで初期設定から具体的な操作までをサポートする。これは、他ではなかなか見られないサポートです。

また、お客さま各社に対し、専任のテクニカルサポート担当者を置き、OSのアップデートへの対応や、社内のIDのうち幾つが実際に稼働しているのか、30日以内にログインしていないIDがどれくらいあるかといった、定量的なレビューなども行います。

2.コンサルティング

りそなデジタルハブが、ITベンダーや他のDX支援と一線を画すものの1つが、「独自のコンサルティング要素」です。

システム構築前の「目指すべき姿の共有」の段階から、構築中、そして構築後も、協業しているみらいコンサルティングや、テクニカルサポートを担うITベンダーのセラクの知見を活かし、お客さまの困り事や悩みに寄り添い、伴走します。例えば、運用していく中で、経営者のやりたいことと現場の要件定義などでズレが生じ、違う方向へいってしまう場合もあるでしょう。そうしたときも、りそなデジタルハブの担当者がミーティングにも同席し、調整を図ります。

りそなデジタルハブはアプリケーションの販売代理がメインですが、導入したらおしまいではなく、お客さまの事業を成功に近づけるよう導入後も伴走を続けます。「お客さまの社内にいるDX推進プロジェクトリーダーに、りそなデジタルハブを、自分たちのスタッフのように使ってほしい」というのが、りそなデジタルハブの考えです。中小企業でDX推進を担うプロジェクトリーダーは、さまざまな社内業務を見て社内調整を行う上に、ITベンダーなど社外とも調整するため、非常に大変です。「自分のスタッフのように使える」りそなデジタルハブがあれば、プロジェクトリーダーにとって、心強いことは間違いありません。

3 テストマーケティングから見えてきた「現場の課題感」に対応

りそなデジタルハブの立ち上げに際して、りそな銀行では2021年5月から、東西4支店のお客さまを対象にテストマーケティングを行いました。半分以上のお客さまが、DXについて「何かしなければならない」と意識していることが分かりました。一方、色々な課題も見えてきたといいます。まずは、やはり「人的リソース不足」です。例えば、導入に向けてプロジェクトを進める人や、その後の運用管理をする人がいない。そのため社長が漠然とイメージしていることはあるが、アウトプットして実現することができない。この課題は、多くの中小企業があてはまるかもしれません。

また、それ以前の問題として、「『今までのやり方でうまくいっているのに、なぜ変えなければならないのか』という声が社内で上がっている」「古参の社員が反対している」「社員がそもそもDXに懐疑的」といった会社も少なくなかったといいます。

古参の社員が反対している会社に対して、りそなデジタルハブとしては、古参の方でも使いやすい簡単で便利なアプリケーションからスタートして、「便利だ、これはあったほうがいい」と感じていただくところから始めることをお勧めしています。その後、できることを徐々に広げ、「気付いたらDXになっていた」という組み方が良いと提案しています。

一方、お客さまの社内での懐疑的な声に対しては、銀行グループが長年培ってきた信用力が活かされるとも考えています。銀行は経営者と距離が近い存在です。経営者と直接会って将来のビジョンを聞くことができるので、ITベンダーよりも商談スピードが速く、事業課題についてもより深く理解することができるでしょう。経営者から直接聞いた「目指すべき姿」に基づいたDXの提案・支援であれば、お客さまの社内でも納得感を持って進めることができるかもしれません。

4 実現したい理想の世界、今後

 りそな銀行が、りそなデジタルハブを通して実現したい理想は、次のようなものです。

「お客さまには、売上増加に直結している営業部門や生産部門へ、より注力していただきたいと思っています。そのために、財務や経理、人事といった間接業務を全て、当社(りそなデジタルハブ)へアウトソースしていただければ、お客さまの成長につながるのではと考えています」

全ての間接業務について、りそなデジタルハブにアウトソーシングできて、伴走もしてもらえるとなると、会社としては、相手が銀行グループということもあって安心感があります。「うちの会社のことをよく分かってくれている」となり、DXだけではなく他にも色々と相談したくなるでしょう。会社が銀行を信頼してさまざまなことを相談し、それに応えて銀行グループ側は、お客さまのために色々と提案して一緒に成長を目指す。これはある意味、昔の銀行がやっていたこと、銀行の本来のあるべき姿ではないでしょうか。

将来的に間接業務を全てアウトソーシングしてもらうことを想定すると、間接業務がデジタル化しているのが望ましいですが、まだまだ紙で対応している中小企業も少なくありません。将来の「オールアウトソーシング」のためにも、まずは一社一社へのDX支援によるデジタル変革が大事だと、りそなデジタルハブでは考えています。

こうした、りそなデジタルハブならではのDX支援について、今後は、地方銀行などへもパートナーを広げていくことが、りそなデジタルハブとしての意向です。地域の大きな課題である地方創生も、まずは地元の会社が強くならなければなりません。そのためにも、地方銀行と組み、地元の会社に対してDX支援をしっかりやっていきたい。それがりそなデジタルハブが考える今後の展開です。

 りそなデジタルハブの築く未来へ、期待が寄せられます。

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【特別企画】Z世代起業家がZ世代の学生に向けて「起業」を語る講座/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回ご紹介するのは、
特別企画、埼玉大学で行われた講座「実践ベンチャー論:Z世代スタートアップ実践の実情を聞く」(2022/6/24開催)です。

この講座は、「Z世代に向けて、Z世代起業家がスタートアップの実情を語る」内容で、他では聞くことのできない、志も高く実績もある起業家4名による講義です。事業や起業の実情を詳しく語った4名の起業家。そして、真剣に耳を傾け、時間が足りなくなるほど質問もたくさんしてくれていた埼玉大学の学生などの聴講生。講義後、「起業の志が固まりました!」と決意も新たに顔つきがすっかり変わった聴講生もいたほどです。
本当に大げさでなく、聴講生たち(年齢問わず)の今後の人生に影響を与えたであろう、かけがえのない暑いアツい夏の一日が凝縮されていました。この記事では、講義の中で4名のZ世代起業家がお話してくださった内容を一部ご紹介します(とても伝えきれない、盛りだくさんで素晴らしい内容と熱量!)。なお、起業家4名の中には、かつてこの「岡目八目シリーズ」でご紹介した方々もおられます。後ほどそれぞれの岡目八目シリーズ記事へのリンクもご案内しますので、ぜひ覗いてみてください。

●登壇 Z世代起業家
後藤 学氏 :株式会社Helte 代表取締役
福田 駿氏 :株式会社Diary 代表取締役、就活YouTuber
西側 愛弓氏:株式会社COXCO 代表取締役
大槻 祐依氏:株式会社FinT  代表取締役

●モデレート
杉浦 佳浩氏:代表世話人株式会社 代表取締役

1 どのような事業をしているか?

まずは自己紹介を兼ねて、「どのような事業をやっているか」「なぜその事業をやっているか」といったことを最初にそれぞれお話してくださいました。そこからしてもう、面白くて勉強になる情報が満載です。お話してくださった順番にご紹介します。

1)大槻さん 株式会社FinT

大槻さんの株式会社FinTでは、主に、メルカリなどの企業のSNSマーケティング支援や運用、ライブ配信、メディア運用などを行っています。とにかく勉強家で実績もあり、突破力も実行力もハンパない大槻さん。ビジコンで優勝したこともある大学時代には、インターンながら一事業部を担当し、力強く仕事をして社員のマネジメントもしていたそうです。
 ビジコン優勝特典でシリコンバレーに行ったり、シンガポールに1年間留学したり、大学3年のうちに起業したりとさまざまな経験をしてきた大槻さん。聴講生向けにさっそく「私自身、たくさんチャレンジしてたくさん失敗してきました。皆さんも多くのチャレンジと失敗をしてください。今私たちの会社は、インターン生20人くらい社員40人くらいで、インターン生もすごく活躍していて年齢は関係ないなと感じてます。ぜひ頑張ってください」と激励を。場作り、リーダーシップも素晴らしいと感じました。
 会社としてのパーパスを変えたという大槻さん。その思いを次のように話していました。
「今のパーパスは“みんなの強みを活かして、日本を世界を前向きに”です。日本を、世界を前向きにしたい、それが今一番やりたいこと。日本の技術など日本の『何か』を使ってグローバルスタンダードをつくっていけるようにしようとしています」

●株式会社FinTのウェブサイトはこちら

大槻さんの画像です

2)後藤さん 株式会社Helte

後藤さんの株式会社Helteでは、日本のアクティブシニア層と海外の人たちがオンライン上で、“日本語で”交流できるプラットフォーム「Sail」を開発展開しています。「Sail」はまさに、すぐに海外とつながれる、自分の世界を広げる窓。参加国は実に154カ国、総利用者数は26,000人以上(2022年9月時点)とすごい数です。海外の人たちを集めるために、コネ無し知り合い無しの状態でタイなどの海外を“飛び込み”で回った泥臭いガッツの後藤さん。その様子を、まるで当たり前のように飄々と語る感じがまた、聴講生を惹きつけていました。
「Sail」を使って交流した後の分析にハマっているという後藤さん、そうした中で海外の人が日本で就職する際の支援のようなこともやっているそうです。
また、東京大学と一緒に、「Sail」を使ったことによる人の行動変容(ICTの理解度が上がった、海外の人に対する偏見が減ったなど)の分析なども行っており、これに関心を持った自治体などとも連携が実現。これからもどんどん全国各地、そして世界に拡がっていきそうです。
 海外の人たちが参加した日本語スピーチコンテストを実施した後藤さん。こう語ります。
 「今回は、全世界80カ国を超える1500人が参加、日本語でビジコン的にプレゼンしてもらいました。彼らの大きな夢を日本語で聞いて本当に感動した。これからの日本を支えるのはきっと彼らのような海外の人たち。ぜひ一緒に色々な事業ができたらと思います」

●株式会社Helteのウェブサイトはこちら

後藤さんの画像です

3)福田さん 株式会社Diary、就活YouTuber

福田さんは株式会社Diaryの代表かつ、就活生向けのYouTubeチャンネル「しゅんダイアリー」を持つ就活YouTuberでもあります。YouTubeで11万人、TikTokで9.7万人の登録者がいて(2022年9月時点)、そこを軸に就活サービスを展開。また、企業の採用広報も手掛けています。
YouTuberとして、日頃から色々な人にインタビューもしている福田さん、今回の講義でも自分の話をしつつも聴講生に「しゅんダイアリーって聞いたことある人、手を挙げてもらっていいですか?」とインタラクティブに展開。
続けて「僕は石川県金沢市出身で金沢大学に行っていて、留学もインターンもしたことなかったんです。でもどうしても東京の大学に来たかったし、東京で仕事したかった」「埼玉大学と金沢大学はなんか雰囲気が似ていてめちゃめちゃ親近感あります」「中学生のころから起業を考えていたけれど、自分は何者でもないし何もできないので、とりあえずYouTubeで結果を残したいと思った」「最初は旅行系の動画とか配信してまったくうまくいかず、『自分の言いたくないことを言おう』と仮面浪人に失敗した体験談をアップしたら初めて10万回再生」「仮面浪人人口は2万人しかいないと気づいて、大学3年の就活タイミングで就活系に切り替えて、毎週東京に行って東京の会社で自分がガチで面接を受ける様子を動画にしたらちょっとずつウケて今につながる」などなど、聴講生から見るととても分かりやすく親近感がわく、そしてぐんぐん引き込まれるストーリー。聴かせます。福田さんは目指す未来もしっかり語ります。
 「僕は中学生のころから世界と戦いたいと思ってきた。時価総額という会社の『企業価値』というものがありますが、時価総額10兆円の会社にすることが今の目標であり課題です」

●株式会社Diaryのウェブサイトはこちら

福田さんの画像です

4)西側さん 株式会社COXCO

今回、西側さんはなんと、フィリピンからのオンライン参加でした。こういうスタイルも、聴講生にとってはとても良い刺激になります。
西側さんが展開するのは社会課題と向き合うアパレルブランドです。西側さんは「服の形をしたメディア」とも表現しています。「大学時代にバックパッカーをした経験から、貧困問題などさまざまな社会課題を肌で感じた」という西側さん、ファッションを通して社会にとっていいことをしたいと考えるようになったそうです。例えば、不要になった繊維(洋服)からつくられた再生ポリエステルを使って、できるだけ長く愛されるデザインの服を仕立てる、しかも受注生産で気に入ってくれた人にだけ提供するなどを行っています。
そして今は、「フィリピンでファッションスクールをつくる」というチャレンジもしているそうです。
フィリピンではファッションショーも開催している西側さん、その思いを語ります。
 「2015年から、フィリピンで暮らす子どもたちが思い出になる場所をつくろうと、ファッションショーをやっています。今回で8回目になります。ファッションを通してみんなで夢を描く、みんなで胸を張って生きていこうという体験をつくりたいです」

●株式会社COXCOのウェブサイトはこちら

西側さんの画像です

「挑戦」。4名の自己紹介含めた事業の話からまず感じるのはこの言葉です。グローバルな目線を持っている、そもそも生き方が枠にとらわれていない。そして難しいこと、でもやりたいことに果敢に挑み続けていることがうかがえます。

2 なぜ、どうやって起業したか? 起業ストーリー

起業の理由、起業ストーリーも各者各様で、特に今回は起業を志す聴講生も多かったため、かなり聞き応えがあったのではないでしょうか。「海外留学」「バックパッカー」といった、世界に触れられる環境も起業要因の一つと思いますが、そうした環境以上に「これをやりたい、やってみる。やり切ってみる」という志、そして行動することがとても大事だと感じました。ここでは、それぞれが講義で語っていた濃い起業ストーリーの特徴的な点をご紹介します。

●大槻さん

●後藤さん

●福田さん

●西側さん

3 キラキラばかりではない。課題、失敗の連続。それでもその先を考える

インターン、海外留学、バックパッカー、起業、スタートアップなどのキーワードから、何も知らないとキラキラしたイメージを持ちそうですが、それだけではありません。というより、そうではありません。課題も失敗もたくさんあります。それが実情です。この4名のZ世代起業家もそうです。そして、課題や失敗がどれほどあろうとも、今後の展開を考え続け、前に進み続けます。それぞれの課題感、そして今後について印象的な点をご紹介します。

●大槻さん

「課題はたくさんあります。常にあります。起業をしていてとても面白いと感じるのは、目の前に毎回、壁が出てくること。例えば、組織がよくない感じになっているという壁があったとして、やっとその壁をよじ登って超えたと思ったら、また別の壁が出てくる。それが病みつきになります。これをずっと繰り返す、成長ってそういうもんだなあと楽しくて、社長やっててよかった、起業してよかったと思います」
「今後3〜4年後には海外展開というか、日本のものを海外に出していく軸もつくりたいです」

●後藤さん

「日々の仕事に追われてインプットが難しいときがあるのが課題。余白が生まれたほうが新しいチャレンジやコミュニケーションの方法などが分かってきて、それが事業につながると思うので、そういう余白があるようにしたい」
「今後はグローバル展開のギアを上げていきたい。今年に入ってから、積極的に英語やフランス語でプレゼンするようにしている」
「会社も、インド人やフランス人など色々な人がいるようになってきたので、そういう色々な考え方をまとめて編集して力を付けていく、これも課題」

●福田さん

「僕らの一番の課題は採用。自分たちよりも優秀で素直な人を仲間にしていくのが課題。凡人が後天的に努力していく、そういう仲間。自分たちもそうありたい」
「採用するときは一緒に山に登る。山登りは苦しいから本音が見える。スマホも使えないので、みっちり話ができる」
「採用するときは、親にも会いに行って、娘さんおよび息子さんを私にください、一緒に社会をよくする会社をつくっていくと伝える」
「今後は、世の中の人に行動してもらえるようにWeb3の領域で事業展開も考えている。試験的にやっていることもある」

●西側さん

「起業するとお金周りも課題になると思う。お金を借りるとなると大きな責任も負うし、本当に大変」
「起業はキラキラしたイメージかもしれないが、実際に人に見せないところで起業家は皆大変だし、根気がいること」

4 講座の最後。途切れない質疑応答

もっともっと話を聞いていたいところでしたが、最後の質疑応答へ。4名のZ世代起業家の話に、質問したい聴講生がたくさん。もしかしたら、今までにない質問の多さだったかもしれません。中には、4名の会社でインターンをしてみたいという聴講生もいました。
 聴講生からの質問は、例えば次のようなものでした。登壇してくださったZ世代起業家、熱心に参加されていたZ世代が中心の聴講生。本当にアツくて濃い時間、有り難うございました!

●聴講生からの質問例

集合写真です

以上(2022年10月作成)

変化の時代だからこそ、経営リスクの確認とその備えが重要です!! りそな銀行がそのお手伝いをします!!

経営者に万が一のことがあっても事業を継続できるように、いわゆる「法人保険」(事業保険、経営者保険)に加入している会社は多くあります。
もし、御社が法人保険に加入している場合、定期的に保障内容を確認し、必要に応じて見直しているでしょうか。物価高(仕入れ費の高騰)や円安など、経営を取り巻く環境が激変する中、改めて「いざというとき、いくら必要なのか?」をシミュレーションし、確保しておくことが大切です。折しも、さまざまな法人保険をめぐる課題が指摘される中で、法人保険に対する意識は、本来の機能である「保障」へと変わってきています。

この記事では、法人保険の目的を再確認した上で、保障額を決める際の基本的な考え方などを紹介します。御社の法人保険の保障内容について、見直す際のヒントになりましたら幸いです。

●法人保険など保険関係でお困りごとがある方はこちらのアンケートからご入力ください。
りそな銀行が見直しのお手伝いをします。

1 「保障」を重視する流れ

中小企業経営者向けの法人保険については、2019年2月以降、規制が強化されてきました。また、2022年7月には、金融庁は行き過ぎた募集活動があったとして、大手生命保険会社に対して、保険業法に基づく行政処分、業務改善命令を出しました。

法人保険の本来の機能は保障です。保険加入でリスクを移転することで金銭的な憂いをなくし、経営者に万が一のことがあったとしても、経営者の家族、社員とその家族、顧客を守ることができます。いま一度、経営リスク全般の点検を行い、法人保険について、改めて考える時期にきているといえるでしょう。

なお、法人保険の損金算入については、以下の記事に、法人保険の種類ごとにルールをまとめています。法人保険を見直す際には、こうしたルールの確認も重要です。

【2022年版】法人保険に加入する前に読む 種類ごとにまとめる損金ルール

2 必要な保障額の考え方

 経営者に万が一のことがあったときの「保障額」については、主に「運転資金」「借入金返済資金」「納税準備資金」「役員退職金・弔慰金」の4点について考える必要があります。

シミュレーションの画像です

1)運転資金

運転資金は会社を経営していく上で必要な資金です。一般的に、運転資金の目安は、次の計算式で求められます。

運転資金=売掛金+棚卸資産(在庫)−買掛金

分かりやすく言うと、これから入ってくる予定のお金(売掛金+棚卸資産(在庫))から、これから出ていく予定のお金(買掛金)を引いたものが運転資金です。また、この他に、会社経営には人件費、家賃などの固定費もかかります。
会社の状況にもよりますが、経営者に何かあった場合、売上が減少し、資金繰りが悪化するかもしれません。そこで、運転資金や人件費など固定費分の財源確保が必要になってきます。
どれくらい先まで見越した保障額にするかについては、「3カ月分」「6カ月分」「12カ月分」などさまざまな意見があります。これは経営者の考え方次第であり、経営状況と財務状態から判断することになります。

運転資金の計算方法と資金繰り改善のシミュレーション

2)借入金返済資金

経営者に何かあった場合でも、金融機関などに対する「借入金の返済」が滞らないように、返済原資を確保しておく必要があります。「どこから、どのような条件で、いくら借りているか、返済期日はいつか」を整理した上で、保障額を検討しましょう。以下は、ビジネスローンを例に必要な返済額の考え方を示したコンテンツです。基本的な考え方は同じですので、参考にしてみてください。

ビジネスローンなどの返済計画の考え方と返済シミュレーション

なお、借入金返済資金については、短期借入金(1年以内に返済期日が到来するもの)だけでなく、長期借入金(返済期日が1年を超えるもの)も視野に入れましょう。

3)納税準備資金

生命保険で「運転資金」「借入金返済資金」を準備する場合、その保険金収入は課税の対象となるので、納税のための資金を考慮しておく必要があります。法人実効税率を33〜34%として計算するとよいでしょう。

4)役員退職金・弔慰金

経営者に何かあった場合に、会社として、経営者の家族の生活などのために支給する役員退職金・弔慰金を準備しています。いくら準備するかは規定によりますので、それに従った備えが必要です。

ここまで見てきた保障額で必要な4点のうち、特に「運転資金」「借入金返済資金」については、会社の状況や経営者の考え方などによって金額が変わってくるでしょう。このあたりは、御社の財務状況などをよく分かっている金融機関に相談するのも一策です。

3 誰に相談して加入あるいは見直しを検討するか

法人保険の加入あるいは見直しについては、保険会社(代理店を含む)、金融機関など、誰に相談するかが重要です。既に加入している法人保険を見直す際は、「世の中の動き」「今の会社の状況」を踏まえた上で、「今の保険契約は本当に適正な保障額か?」について、こちら側(中小企業経営者側)に立って考えてくれる人が望ましいです。
また、運転資金や借入金についてもしっかりと知識があり、かつ御社の財務状況が分かっている人、言ってみれば毎月の資金繰りも相談できるくらいの人が理想的です。そうした意味では、やはり金融機関に相談するのが安心かもしれません。定期的にコミュニケーションを取り、御社の状況をよく分かってもらうようにしておくとよいでしょう。

法人保険に加入してから時間がたっている場合には、会社を取り巻く環境が大きく変化している可能性があり、保障内容を確認するいいタイミングかもしれません。昨今では、変額保険や有配当保険、外貨建保険などさまざまな選択肢が増えています。ニーズに合わせて見直しを検討してはいかがでしょうか。

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なぜに、そこまで残業を嫌うのか問題/今どきの若手社員のトリセツ~上司や先輩に贈るストレスマネジメントの処方箋 Vol.7

近年、職場の上司や先輩(いわゆるオトナ世代)は、若手社員の言動を理解できないイライラ、腑に落ちないモヤモヤを抱えつつも、指導の際は「パワハラ」と感じさせないように、気遣いや遠慮が求められるようになりました。
そもそもオトナ世代が若手にストレスを感じる原因は、オトナの考えと、若手の行動とのすれ違いによるものがほとんどです。しかし、若手に対して「けしからん!」と怒ったり、「理解できない!」と嘆いたりしていたことを、冷静に分析するだけでスッキリすることもあります。

本連載は、拙著「イライラ・モヤモヤする 今どきの若手社員のトリセツ」を一部抜粋し再構成してお届けします。

  • オトナ世代が違和感をもつ若手社員の言動を具体的にピックアップ
  • ギャップやストレスの正体を分析
  • 円滑なコミュニケーションや適切な指導法を考察

という3ステップで、指導の妨げとなるストレス解消のヒントを探っていきます。

1 たった1時間も残業できないの……?

オトナのイライラ
明日中に仕上げる予定だった会議資料。議長だった上役に緊急の仕事が入り、会議の時間が早まってしまった。部下に頼むのは気が進まないが、どう考えても手分けして作成しないと間に合わない。そしたら案の定、「明日の朝から取り掛かるのでいいですか?」って。それじゃギリギリ過ぎるから頼んでるってのに……。

若者のホンネ
もちろん残業はイヤですよ。でも、どうしても残業しなきゃダメなときはやってるつもりです。でも今回の資料って、明日の朝イチからやっても間に合いそうじゃないですか。そりゃギリギリかもしれないけど、間に合うんなら、今日は帰ってもよくないですか?

ギリギリだと資料の完成度が不安。何かミスがあったときの手直しが効かない。だから、定時の鐘が鳴っても、夜のうちに作業して今日中に資料を仕上げておくべきだと考えるオトナ世代。
 逆に、ギリギリでも間に合うのなら、定時後の時間を費やしてまで資料を仕上げる必要はないと考える若手社員。残業をめぐるお互いの価値観の溝。これも、なかなか埋まらない溝でしょう。

昔は、とにかく長時間働くことが美徳であり正義でした。今から30年以上も前、平成に入ったばかりの頃に、「24時間戦えますか?」というCMのキャッチコピーが大流行しました。また「5時からオトコ」という健康ドリンクのCMもバンバン流れていました。
 ちなみに「5時からオトコ」というのは、5時までは適当に仕事をこなして、会社終わりの5時から元気になるサラリーマンのこと。今どきの若者から、「じゃ、5時まではなんだったんすか?」とツッコミが入りそうです。

2 24時間戦わない時代

当時はスマホなんかないから、1回会社を出れば何をしようが見つからない。夕方までうまくサボりつつ、夕方になって会社に戻って残業して頑張ってますアピール。
当時の評価は仕事量。たくさん働ける(と見える)馬力は、出世に必須の時代でした。
つまり5時からオトコは、24時間戦う前提の社会における必然的ワークスタイルだったのです。こうやって振り返ってみると、相当歪んだ時代だったように感じませんか。

一方で、今の時代は「労働時間」に対して、強く意識する必要に迫られています。リーマンショック以降右肩上がりに景気が回復、人手不足が広がる中で長時間労働が横行しました。こうした過重労働に歯止めを掛けるためにも、2019年に働き方改革関連法案が施行され、職場では厳格な残業規制が運用されることになりました。

この働き方改革の流れ、生産性を大事にする若者の価値観と相性がいいのは明らかですよね。今の職場では、残業嫌いの若手社員のほうが正当化されがちです。「同じ量の仕事を、昔より短い時間でやらないといけない。昔の人はいくらでも時間をかけられたが今は違う」。オトナからすると、なんか生意気な発言に聞こえますが、大義名分としては彼らのほうに分があります。

若手が残業を嫌う理由は、もう1つあります。5時からの過ごし方が、昔とはまったく違うんです。彼らは、SNSで何百人とか千人超というフォロワーとつながり、いくつものコミュニティに所属して、マルチに活動しています。
だからこそ、仕事を効率良くこなし、自分がやりたい活動のためにどうやって時間を生み出すか。彼らは常に時間を気に掛けているのです。

そして時間を貴重な資源だと感じて大切にする若者が、残業(=夜遅くまで仕事すること)と並んで嫌うのが朝礼(=朝早くから会社に行くこと)です。


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3 朝礼で時間を奪われたくない

オトナのイライラ・モヤモヤ
朝礼ってのは、仕事のスイッチを入れるためにあるわけでさ。みんなが集まって、顔を見合わせることで士気を高めていく。そこに意味があるんだから、連絡事項を話すだけならメールでいいとか、そういうことじゃないんだよね。話す内容は極論すればどうでもいいんだよ。

若者のホンネ
朝礼なんて要らないと思う。連絡事項をみんなの前で話すだけならメールでよくね? フレックスタイムとかテレワークとか、柔軟な働き方が大事だといわれる時代に、朝から拘束されるって、どうなのよ?

あなたの会社では「朝礼」は行われているでしょうか。始業時に部署ごとに集まって、現在の成績、今後の目標、今日の予定が共有され、上司からの訓示が述べられる。かつては、どこの会社でも見られる風景でした。

しかし、今どきの若手社員は、明らかに朝礼には否定的です。ある企業が新社会人への意識調査を行ったところ、無駄に感じる時間として朝礼がトップでした。理由としては「上司の訓示が長い」「スローガンの連呼に意味があると思えない」「その時間を仕事に充てたい」「スピーチさせられるのが嫌だ」などなど。
 そんな若手の気持ちを代弁するかのように、朝礼を廃止する企業も少なくはありません。情報がメールなどで共有できるようになったこと、フレックスタイムの導入で始業の時間がそろわなくなったこと、などがその理由の大半です。

4 異彩を放つ朝礼に学ぶ

一方で、オトナ世代は、朝礼が当たり前で育ってきました。朝礼には、「顔を見て声を聞いてこそ、組織としての団結が強まる」「情報共有だけが目的ではない」などなど、組織としての意思統一が図れることや、気分のスイッチが切り替わることといった精神面での効能を感じている人が少なくありません。そういうオトナは、朝礼がない(なんとなく出社して、なんとなく仕事を始める)風景に、物足りなさや不安を感じてしまいます。

朝礼に逆風が吹き荒れる中、実はユニークな朝礼で注目を集めている企業もあります。全国にチェーン展開するある飲食店は、外部から多くの見学者を集めるほどの朝礼を行っています。朝礼時間は15分。内容としてはスピーチ、ナンバーワン宣言、あいさつとハイの訓練、最後に店の目標の宣言と一本締め。それこそ若者が嫌がる朝礼の典型的な例です。

あまりにテンションが高いこともあり、この会社の朝礼に賛否両論があるのは、筆者も知っています。しかし、ここで論点にしたいのは、その内容ではなく「漫然としたルーティンとしての朝礼」ではなく、「明確な目的ももった朝礼」を開催していること。だからこそ、見学者の一部からは「自分の職場でも同じような朝礼をやりたい」などといった声が出てくるのだと思うのです。

真逆に、「ローテンション型の朝礼」で、朝礼を工夫している企業もあります。あるコンサルティング企業では、「感謝」を中心に据えた朝礼を行っていて、一緒に働いたスタッフに感謝する内容のスピーチをするのです。急激に効果が出たわけではないものの、感謝し感謝されることで、少しずつ社内の雰囲気が良くなっていったといいます。

5 イライラ・モヤモヤ解消法

オトナ世代には仕事に費やせる時間がたっぷりあったけど、自分たちは違う。今どきの若手社員たちは、こういう感覚で日々仕事しています。
職場に流れる時間の感覚が、オトナと若手で大きく違うんです。ところが、それを理解できていないオトナは、自分の時計で若者を縛ってしまいます。上司の時間も部下の時間も平等に流れている。せめてこの認識は必要かもしれません。これは筆者自身、自戒の念も込めて言っています。

そういった意味からも、残業をお願いする場合は、なぜ、この残業が必要なのかを語るべきです。もちろんダラダラ働くのではなく、濃ゆい時間にする前提で、です。
また朝礼を行う場合には、若者にその意味を納得してもらうことが必要です。だからこそ、漫然とした朝礼ではなく、目的を持った有意義な集まりにする意識を持ってください。
 もちろん、その内容は、職場それぞれのカルチャーによって違っていいと思います。いずれにせよ、情報の共有だけならメールで可能な時代だからこそ、目的をもった工夫を施す。それが実践できれば、今どきの若手社員にとっても、朝礼は必要なものに変わっていくかもしれません。

以上

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Z世代に聞いてみた どんな会社で働きたい?

書いてあること

  • 主な読者:Z世代を採用したいが、なかなか応募をしてもらえないと悩む経営者
  • 課題:会社として、どんな対策や準備をすればZ世代が関心を持つのか分からない
  • 解決策:Z世代を特別扱いせず、迎合もせず、会社としての「ありのまま」を伝える。ただし、「中で働く人」にフォーカスするなど、伝え方や届け方には工夫が必要

1 Z世代を採用するにはまず、「Z世代の声」を聞いてみよう 

会社の今後のためにも「若い人を採用したい」と、Z世代(この記事でのZ世代は10代から25歳くらいまで)に注目している経営者は多いものです。Z世代は、どのような価値観やキャリア観、人生観を持ち、どのような会社で働きたいと考えているのでしょうか。

Z世代といっても考え方は人それぞれで、環境によっても違います。実際にZ世代の方々に話を聞くと、中学・高校の頃から起業を意識し、そのための勉強をしている人、何か一つに特化した中小企業で働きたい人、大企業がいい人、芸術分野に進みたい人などさまざまです。

「Z世代」とひとくくりにするのはもはやナンセンスかもしれませんが、一方で、世代が離れているからこそ、「どんなふうにアプローチすれば響くのか、せめて傾向が知りたい」という人もいるでしょう。

そこで今回は、自らもZ世代であり、就活YouTuberとしてご活躍し、日ごろからたくさんのZ世代と接している株式会社Diaryの代表取締役社長、福田駿(ふくだ しゅん)さんにお話をお聞きしました。この記事では、その内容をまとめてご紹介します。

取材を通して見えてきたのは、変にZ世代に迎合せず、会社や経営者のリアルや本音、情熱を、嘘偽りなく発信し伝えることの大切さでした。

なお、記事の最後には、Z世代に「どんな働き方をしたいか」などを聞いたアンケート結果も掲載していますので、考え方の傾向についてご参考になれば幸いです。

2 「人検索」の信頼度。人とのつながりに価値を置くZ世代

1)Z世代の選択肢に入るには? SNS活用が有効

昔からある、学生の人気企業ランキング。大企業、世に名の知られたITベンチャーやコンサルティング会社などが上位に入っているイメージです。今のZ世代の場合はどうでしょうか。

結論からいうと、昔から変わらず、

「大企業」「知名度の高い会社」に行きたい

というニーズは、Z世代にもあります。

ただし、注意したいのは、

単にそういう会社しか知らないから、「その他」が選択肢に入らないというだけである

ということです。

「そもそもあまり世の中の会社を知らない」人たちに自社を認知してもらうには、フォローが必要です。その手段としてSNS、YouTubeなどは有効に活用したいものです。

一方で、福田さんによると「もう一つの軸として、ベンチャー企業やスタートアップ企業に入社したい人も増えています。その中でも、やはり見せ方やブランディングが上手な会社は、志望されやすいと思います」とのこと。

例えば、社員の働いている様子を伝えるSNSやYouTube、TikTokなどの動画配信をやっている会社は、新卒や第2新卒の採用に強い印象があるといいます。実際に、Z世代222人に「就職・転職に関する情報の入手方法」をアンケートしたところ、「SNSで入手する」が28.4%。これは、「就職・転職サイトで入手する」の47.3%に次いで、実に、2番目に多い回答でした(アンケートは2022年9月に実施)。

2)つながりが大切な「人検索」の時代

また、人とのつながりに価値を感じるZ世代は、「人検索」も大切にするのだと福田さんは教えてくれました。人検索とは、文字通り「人を軸にした検索」で、

  • 先輩がいる会社だから
  • 友達がインターンシップに参加した会社だから

といった「人とのつながり」から、情報を求めていくことをいいます。

Z世代の間で、人検索の信頼度はどんどん増しているといい、

  • 「あの人」が言っているから
  • 「あの人」がメディアで紹介していたから

などに価値を感じる人が多いそうです。

「人検索」はある意味、中小企業にとってチャンスな面もあります。大企業の場合、すぐに上長からの許可が下りなくて、SNS運用や動画配信がやりにくいかもしれませんが、中小企業だと、こまやかな配慮をしつつ、「小回りの利く運用」がやりやすいのではないでしょうか。

また、従来のサイト検索では、どうしても知名度の高い大企業しか検索されませんでした。しかし「知らないから検索されようがない」というところから、「人検索」であれば、人を介することで、認知される可能性があるのです。

3)情報感度が高い=若手を受け入れる態勢があるのでは

会社を検索しても、文字や写真だけでは、いまひとつ実態は伝わりづらいものです。恐らく多くの会社で、アットホームな雰囲気の写真や言葉が並んでいることでしょう。

文字と写真だけでは伝わらないものを、いかに伝えるか。SNSを活用するとしても、それぞれをどう使うのか。リアルに会う機会を設ける工夫なども必要です。

福田さんいわく、例えばTikTokなどを経営者がやっていると、「情報感度がかなり高い、ということは若手を受け入れる態勢があるんじゃないか」とも感じるそうです。ワンクリックで簡単にエントリーできてしまう時代ですから、「この会社に入ってみたい」という、ある意味「ファン」をどれだけ増やせるかが重要なのかもしれません。

また、社会的な信頼度が高いとされるメディアから、取材を受けたり紹介されたりした場合も、その事実をSNSや動画で発信することが大切です。それぞれの会社にもともとついているフォロワーを介して、興味のある学生に拡散される可能性があるからです。第三者という「人」、あるいは社会的な信用のあるところから発信されたことが、さらなる信用を築きます。

なお、Z世代の就活生は、次のような傾向があるそうです。

  • OB・OG訪問など、自分のなりたい人、憧れている人が受けていた会社を志望する
  • ランキングやリサーチを見て会社を選ぶ
  • 人材系のエージェントを利用し、ベンチャーなどを受ける

いずれにも共通しているのは、Z世代側は情報感度が高く、とてもよく調べているということです。やはり、Z世代に届く可能性を広げられるよう、SNSなどでこまめに情報発信するのが効きそうです。

4)近い世代と和気あいあいと働きたい。会社の平均年齢も重要な要素?

実際にZ世代の方に話を聞くと、「大企業は人間関係が難しそうだからあまり行きたくない」という声もありました。これは、どういったイメージを抱いているのでしょうか。

考えられる理由の一つとして、会社の規模が大きいと、一緒に働く人を選びにくい(どういう人と一緒に働くのか分からない)など、恐れを感じているというのがあるかもしれません。

また、社員の平均年齢も、Z世代が気にかける要素の一つだといいます。「ちょっと年の近い若い先輩がいたほうがよい」という声は多く聞かれます。

50代の社員しかいない会社に、20代前半の新卒社員が入社するとしたら、仕事の内容ややりがいなど、よほどの動機が必要なはずです。会社の状況にもよるので一概にはいえませんが、段階的に会社の平均年齢を下げていくというのも一策かもしれません。

5)裁量を大きく、休日しっかり、副業も。憧れる働き方のモデルは?

では、Z世代が憧れる働き方のモデルは、どのようなものなのでしょうか。

「人検索」にもあったように、やはり「憧れる会社」という面でも「人」は大事なようで、福田さんからは、Z世代が魅力を感じる会社の一つは、「憧れる人が働いている会社、かもしれません」という答えが返ってきました。

具体的には、自分たちが普段使っているサービスを運営する会社で、かつ若手の頃から裁量権を持って活躍している人が多い会社は、憧れの対象になるといいます。例えば、入社3年目で事業責任者の立場など、上の役位で物事を動かしている人。かつ休みもしっかり取り、週休3日で副業もといった働き方は、憧れられるそうです。ただ、福田さんはこう続けます。

「裁量権があるかどうかは、よく就活生から気になると言われることではあります。でも、それを意識しすぎて、実態と乖離(かいり)している情報を伝えたりするのはよくないですよね。やはり、リアルを伝えるというのが大事だと思います」

3 キラキラは必要ない。本音やリアルな実態を発信

ここまでZ世代の気持ちを考えてきましたが、とはいえ福田さんも言っていたように、彼らに迎合し、無理をして「キラキラ」に見せようとするのはよくありません。大切なのは、やはり、

本音やリアルな実態を、偽ることなく伝えること

です。無理をしてZ世代の気に入る感じに見せ、それで採用に至ったとしても、いざ実際に一緒に働けば、どこかでほころびは出るはずです。それは労使双方にとって不幸でしかありません。

「うわべだけのきれいごとを言っているようでは、信用できないと感じてしまう。本音をきちんと言っているのか、リアルな実態を発信しているのかを、包み隠さず伝える。そういうところは『この会社に入りたい』と思う要素として、とても大きいはずです」

結果としてエントリー数が少なかったとしても、それが本音やリアルな実態を伝えた上でエントリーしてきた人たちならば、「辞退率は低いのでは」と福田さん。

福田さんの言葉を借りると、変にZ世代を意識したり、短絡的に「憧れられる」会社や経営者、社員を目指したりする必要はありません。それよりも、ありのままを、熱意を持ってきちんと伝えることが重要です。デジタルに慣れており、プロモーションも見慣れているZ世代相手だからこそ、嘘をつかない、妙にきれいに見せない伝え方や発信の仕方が大切です。

経営者や社員が「うちの会社はこういうことを実現したいから、一緒にやりたい人、ぜひ1週間でもいいから、まず見にきてほしい」「私はうちの会社のこういうところ(仕事でも雰囲気でも)、めちゃ好きなんです。一緒に盛り上げてください!」くらいのほうが、臨場感や熱量が伝わり、Z世代の胸に迫るものがあるのではないでしょうか。

また、インターンシップを取り入れて、1週間など実際に一緒に働いてみると、お互いに実情が分かっていいかもしれません。その様子を経営者、社員、インターンシップ生(Z世代)がSNSや動画配信すると、リアルな姿が伝わりやすいでしょう。

株式会社Diary 代表取締役社長、就活YouTuber:福田 駿(ふくだ しゅん)さん

福田 駿

■株式会社Diary■
https://diary-inc.com/
■YouTubeチャンネル「しゅんダイアリー」(チャンネル登録数11万人以上)■
https://www.youtube.com/channel/UCdo3Z5oFt04IDMjpjaXN5hw

補足:Z世代に「就活・働き方」について聞いたアンケート

アンケート結果はあくまで一例です。世の中の全てのZ世代にあてはまるわけではありませんが、傾向を知るヒントになるかもしれません。会社を選ぶときには、やりがいや業種などもそうですが、給与の他、休日日数や勤務時間、勤務地といった働く環境も大切にしたいようです。

会社の何を見るか

「有名ではないが業績が安定している中小企業」で働きたいと考えるZ世代も多いようです。

働きたい会社

切磋琢磨(せっさたくま)し合えることより、「和気あいあい」を重視しているようです。

働きたい会社の雰囲気

どちらかといえば、人のサポートをする仕事のほうが望ましいようです。

希望の働き方

以上(2022年10月)

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画像:j.ennifer-shutterstock

武田斉紀の『誰もが身に付けておきたい“経営的視点”』(4)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験があるのではないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問があるのではないでしょうか
  • 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けることができれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであることが分かるはずです

1 トップの社長だけが見ている5つの“経営者の視点”

シリーズ『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』の第4回です。

社長や上司が「“経営的視点”を持て!」と言いながら、もしも“経営的視点”ではなく、“経営者の視点”を求めているとしたら、それは無理な話であるとこれまで申し上げてきました。相手が一般社員ならもちろん、管理職や取締役など幹部クラスであってもです。

なぜなら、

“経営者の視点”は会社のトップとしての経営者になって初めて身に付けられるもの。会社のトップとしての経営者になればおのずと身に付くものの、ならない限り簡単には身に付かないからです。

では一体、“経営者の視点”とはどんなものなのか。

“経営者の視点”の違いを次の5つに集約して説明してきました。
1)高さ(広さ)
2)時間(時空)
3)スピード
4)お金の流れ
5)人と組織

第2回では1)高さ(広さ)と2)時間(時空)について、第3回では3)スピードと4)お金の流れについてご紹介しました。社長がともすると「ノロノロやってるんじゃない、もっと早くできるはずだ!」と叱責してしまう原因の根っこを知っていただけたでしょうか。

今回は最後の5)人と組織について触れて、まとめてみることにします。

さて、このシリーズでは、社長や上司から「“経営的視点”を持て!」と言われるけれど…「経営的視点って何?」「社長以外の社員にも必要なの?」「会社で働く上で、人生において価値があるの?」「そもそもどうやって身に付ければいいの?」。こうした疑問にお答えしています。

さらには、『“経営的視点”の身に付け方』の具体的なノウハウと、経営における効用、働く側のメリットなどを事例も交えながらご紹介していきます。

“経営的視点”はこれからの経営や働き方において、新入社員から求められる視点であり、誰にとってもより早く身に付けることができれば、その分、仕事においても人生においてもプラスになるといえるでしょう。

2 社長は「人と組織」における“人事の最終決定権者”である

皆さんの会社で「人事権」を持っている人はどの役職からでしょうか。そもそも人事権とはどういうものでしょう。

全日本情報学習振興協会の定義によれば、

〇最も広義には、労働者を企業組織の構成員として受け入れ、組織のなかで活用し、組織から放逐する一切の権限

〇より狭義には、採用、配置、異動、人事考課、昇進、昇格、降格、求職、解雇など、企業組織における労働者の地位の変動や処遇に関する使用者の決定権限

とあります。

私なりに言い換えると、「人事権」とは社員の「採用と配属」およびその後の「評価と処遇」を決定する権限となるでしょうか。

評価によっては昇給や昇進・昇格もあれば、降給や降等・降格、時には解雇もあり得ます。

会社の役職を大きく社長、役員・部長、課長、一般社員(主任・係長も含む)の4段階に分けた場合、多くの会社では人事権は部長以上に与えられているのではないでしょうか。

課長クラスも関わってはいても現場の意見を具申するまでで、非正規社員の採用をはじめとする人事権を除いては、決定権までは与えられていないことが多いようです。

人事権を持つ部長クラスが考えて提案した組織案、人事案を役員が覆すことはあるものです。そして、最終的には社長が決裁をする。つまり、社長が「人と組織」における“人事の最終決定権者”なのです。

3 社長は「人事を最終決定」する責任を、役員以下は「実行」する責任を負う

もちろん、社員数十人の会社ならまだしも、数百人、数千人も抱える会社においては、社長が社員一人ひとりの「採用と配属」「評価と処遇」まで見て決裁するわけではありません。

知り合いの社長はとても社員想いの方で、社員一人ひとりに寄り添っていきたいと、アルバイトやパートも含めた全員の顔と名前、主な個人情報を覚えようと努力していました。社長室の壁に顔写真とメモをずらりと並べて、時間があればそれをいつも眺めていたそうです。

それでもある程度人も入れ替わっていく中で、300人くらいまでが限界で、会社の成長とともに難しくなって諦めました。同時に、一人ひとりを覚えるのも大事な仕事ではあるけれど、会社全体を良くしていくことで、全従業員の期待に応えるほうがより重要だと悟ったようです。

社長が経営で目指すべきゴールは、経営理念やビジョンとして表している場合はその実現であり、それに向けて業績を拡大しながら、株主、顧客、従業員、取引先や社会といったステークホルダーに、より多くの価値を提供し続けていくことです。

そのために社長は中長期の「事業戦略」や毎年の「経営計画」を策定し、同時にそれらを実現し得る人事を決定します。経営学者アルフレッド・チャンドラーのいう「組織は戦略に従う」の具現化です。

とりわけ重要なのは、組織案を考え提案する側近幹部や、主要事業の実行を担うキーパーソンの人事です。社長はそれらを中心に、全体のバランス、抜けや弱点がないかも含めて人事案をチェックし最終決定します。

「実行」するのは役員以下の仕事です。

人事を決定した後は、指揮する役員や部長を信じて任せます。進め方にいちいち口を出したり、マイクロマネジメントをしたりせず、進捗の報告を待って、必要に応じた戦略や戦術、人事の修正を行うのがトップの本来あるべき姿でしょう。組織の頂上から全社を俯瞰(ふかん)できる、唯一の立場として。

スタートアップや中小企業においては、人材も潤沢ではなく、社長も「実行」に関わらざるを得ない現実はあります。

実行できる人がいない、実行しないと会社が存続できないとなれば、当然やらざるを得ないでしょう。

しかしながら、会社組織として事業拡大を目指す選択をした時点で、本来「実行」は社長の仕事ではなく、それ以外の幹部を含めた社員の仕事です。

実際、社長が「実行」に深く関わっている会社では、社長が将来や事業拡大に向けた時間が持てず、業績が低迷したり、変化に対応できずにいたりといったケースが目立ちます。

いずれにしても、社長が“人事の最終決定権者”であることに変わりはなく、だからこそ最終的な経営責任も同時に負っています。それ以外の人たちは組織や人事についての案を提案しても、最終決定権は持っておらず、決定した人事に従って戦略を「実行」する責任を負っています。

「5)人と組織」においても、1)~4)と同じように、唯一社長だけが“経営者の視点”を持って会社を見ているのです。

4 社長は昔を思い出し、自分以外は“経営者の視点”を持てないことを自覚するべき

第2回から今回の第4回まで、トップの社長だけが見ている5つの“経営者の視点”についてご説明してきました。繰り返しますが、

“経営者の視点”は唯一、トップである社長だけが持てるのです。

ところがいざ社長になってしまうと、社長自身がそのことに気付いていながら忘れがちなようです。

社長になった瞬間は、「自分が社長になって今見ている視点は、これまでと全然違うぞ」とはっと気付くのです。けれどもそれが日常になっていくと、自分の見ている“経営者の視点”が当たり前になってしまい、ついつい同じ視点を幹部や社員たちに求めてしまうのです。

社長には折につけ昔の自分を思い出し、自分以外の人は“経営者の視点”を持てないことを自覚するべきです。

難しいのは、社長自身に社員の経験がほとんどないままに起業したケースでしょうか。最初から“経営者の視点”でしか見たことがないので、それ以外の視点で見るということが想像できず、悩み、苦労をされているようです。

第4回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回からはいよいよ“経営者の視点”ではなく、“経営的視点”の身に付け方のノウハウについて解説していきたいと思います。

<ご質問を承ります>
最後まで読んでいただきありがとうございます。ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

以上(2022年10月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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画像:NicoElNino-shutterstock

新しいマーケティング戦略のヒントになる ターゲットに「自然に届く」新しくユニークな広告手法

書いてあること

  • 主な読者:新たな手法や意外な媒体で広告を出稿して、競合他社と差をつけたい経営者
  • 課題:より「自然な形」でターゲットの目に留まり、費用対効果の高い広告出稿をしたい
  • 解決策:少額からスタートできる新しい広告手法も含めて比較検討し、自社のターゲット層へ最も訴求できそうな手法を選ぶ

1 広がる広告の選択肢。音声広告や多様な屋外広告も登場!

コロナ禍で2020年から一時期落ち込んでいた広告出稿ですが、新たな広告手法の登場により、ターゲットへの訴求力の高い広告の選択肢が広がりを見せています。「広告白書2022年度版」(日経広告研究所)によると、次のような新しい動きもあります。

  • テレワーク中の「ながら聴き」需要やワイヤレスイヤホンの普及により、ターゲティング可能なデジタル音声広告の市場が伸長
  • 外出制限の緩和により、街中の人流が戻りつつあることから、屋外広告の出稿はデジタルサイネージを中心に回復基調にある

その一方で、

  • インターネット上の「リスティング広告」などについては、ユーザーのプライバシー保護の観点から、世界的に規制を強化する方向に進んでいる

ため、プライバシー保護の問題に抵触せず、「自然な形」で届く広告手法が求められています。

この記事では、こうしたニーズに応える、新しくユニークな広告手法を紹介します。ターゲットに不快感を抱かせずに「刺さる」広告手法を活用して、潜在顧客の獲得を狙ってみてはいかがでしょうか。

2 新しくユニークな広告手法

近年登場した、新しくユニークな広告手法の一例は次の通りです。次章から、それぞれの広告手法の詳細を説明します。

新しくユニークな広告手法の例

3 リアルな広告メディア

1)デジタルサイネージ広告

デジタルサイネージとは、デジタルサイネージコンソーシアムによると、ディスプレーなどへ映像による情報を表示させるメディアのことです。屋外や店頭、交通機関などで、電子掲示板・看板の役割を果たしているものを見かける機会も増えてきたのではないでしょうか。情報発信のメディアにとどまらず、広告に利用することも可能です。デジタルサイネージには、規模や大きさ、場所など、さまざまな選択肢があり、今後成長の見込める広告手法です。

1.オフィス内サイネージ広告

社内の情報共有ツールやコミュニケーションツールとして、オフィス内サイネージを導入する企業が増えていますが、例えば応接室や受付などに設置したサイネージでは、来客者向けに自社や商品のPRを流すのも一案です。

■エレコム「オフィス向けサイネージサービス」■
https://www.elecom.co.jp/solution/contents/signage/office/

オフィスに専用の冷蔵庫を設置し、健康的なサラダやフルーツ、総菜などを定期的に届ける「置き社食」のサービスである、KOMPEITOの「OFFICE DE YASAI」。同社は、「OFFICE DE YASAI」の冷蔵庫に設置したタブレット端末をサイネージメディアとして広告配信する「OFFICE DE MEDIA」も展開しています。オフィスで働くビジネスパーソンの目に留まりやすいのが特徴です。また、オフィスで働く人を対象に、冷蔵庫を活用したサンプリングやアンケート、テストマーケティングなどを行うことも可能です。食品会社がサラダ用のソースやドリンクをサンプリングし、アンケートを行って販促へ活かすといった活用がなされています。

■「OFFICE DE MEDIA」(KOMPEITO)■
https://www.officedeyasai.jp/lp/media/

2.スーパー店頭サイネージ広告

スーパーの店頭に置かれたサイネージメディアは、店舗内の販促情報と広告とが交互に映されるため、目に留まりやすく、購買の促進を期待できる広告手法です。広告以外にも、コロナ禍では、店舗の混雑状況や感染症対策の案内、レジ袋の有料化や、キャッシュレス決済のレジ案内などの告知にも一役買いました。大日本印刷のスーパー店頭サイネージは、2018年に京王ストアが導入したのを皮切りに、Odakyu OXや東武ストア、リブレ京成といった鉄道会社系列のスーパーで広がりました。

また、NTTテクノクロスが提供する店舗サイネージには、スケジュールの予約ができるものがあり、タイムセールなどの情報提供もタイムリーに行うことが可能です。

スーパーを訪れるのは、近隣に勤務先や住まいのある人であり、また家計の管理者であることも多いと考えられます。さらに駅前のスーパーであれば人通りも多いでしょう。そのため、地域の主婦層をターゲットとしたい企業や店舗にとって有効な広告手法です。

■大日本印刷■
http://www.dnp-signage.jp/
■NTTテクノクロス「ひかりサイネージ」店舗サイネージ■
https://www.hikarisignage.net/usecase/usecase_shop/

3.エレベーター内・エントランス設置型サイネージ広告

ビルやマンションのエレベーター内やエントランスに設置するサイネージもあります。不動産関連企業や、ビルメンテナンス、リフォームやリノベーションなどの企業に向いています。

エレベーター内サイネージについては、大日本印刷の実証実験で「マンション住民の6割以上が配信内容を見た」という回答が得られています。また、同社のエレベーター内サイネージには、カメラがついていることから、個人を特定せずに、広告を見ている人数や属性、広告を見た人の反応も把握できます。このため、より詳細なターゲティングができることと、インプレッションベースの広告料金が設定可能なことが大きな特徴です。

サイネージサービスを展開する東京という企業は、エレベーター内サイネージ、エレベーターホール向けサイネージ、また、エントランス向けに「無人コンシェルジュ」というユニークなサイネージサービスを提供しています。

NTTテクノロスが提供する、ビルのエントランスやロビーに設置するサイネージは、オフィスビルの従業員や利用者へ向けた広告手法です。一括集中管理のできるサイネージであれば、設置箇所が複数あっても、それぞれの場所に合わせたコンテンツを配信することが可能です。

■大日本印刷■
http://www.dnp-signage.jp/
■東京■
https://tokyo-inc.com/
■NTTテクノクロス「ひかりサイネージ」ビル・マンション■
https://www.hikarisignage.net/usecase/usecase_building/

4.タクシーの車窓サイネージ広告

タクシー車両の後方サイドガラスに広告を映し出す、車窓モビリティサイネージサービスです。歩道の通行人に対し、熱中症や天気予報、紫外線情報などの情報を織り込みながら広告を掲載していますので、UVケア用品や雨具など、気象に関連する商品やサービスを取り扱う企業に向いています。

「THE TOKYO MOBILITY GALLERY Canvas」は、気象情報会社のウェザーニューズと共同で、天気連動型の車窓サイネージ広告を提供しています。ウェザーニューズが「WxTech」(ウェザーテック)サービスとして提供する1kmメッシュの高精度な気象データ(他社は5kmメッシュ)を活用しているのが特徴です。紫外線指数とUVケア用品の広告を車窓サイネージに掲出し、車内ではUVケア用品のサンプリングやアンケートを行うというような連動も可能です。

■「THE TOKYO MOBILITY GALLERY Canvas」(ニューステクノロジー)■
https://canvas-tokyo.jp/

2)ウインドウビジョン広告

建物の窓に映像を映し出すウインドウビジョンという広告手法があります。全面ガラス張りの病院や不動産会社、カフェなどでよく利用されています。目に留まりやすい窓のある社屋や店舗を持つ企業にお勧めです。LEDを活用した事業を展開するLED TOKYOで提供しているウインドウビジョンは、サイズを選ばず、かつ外光を遮らないことで、開放的な空間を保ちながら広告を掲出することが可能です。

■LED TOKYO■
https://led.led-tokyo.co.jp/works_category/window_vision/

3)消火栓標識広告

街中の公道の上方に、赤い支柱に「消火栓」と書かれた円形の標識があります。地下に設置された消火栓の目印で、消防車が位置を見つけやすく、一般車両の駐車や物を置かれるのを防ぐためのものです。消火栓を設置している「消火栓標識」は、標識の下にある四角いスペースを、広告板として出稿者を募集しています。

通行者の目に留まりやすく、道路占用・道路使用および屋外広告物などの許可の取得手続きも不要です。広告料は月額5000円からで、広告料で標識の設置・維持管理費用も賄っていますので地域貢献にもつながり、地域に密着した企業や店舗にお勧めの広告手法です。

■消火栓標識■
http://www.syokasen.co.jp/

4)シャッター広告

空き物件のシャッターに広告を出稿する手法も登場しています。

メルカリが展開するオンラインショップ「メルカリShops」は、「3D店舗」と銘打ち、東京・渋谷センター街の空き物件のシャッターに、オンラインショップに登録した出店者の広告を掲載しました。広告に掲載している二次元コードから商品を購入できる仕組みになっています。

広告を出稿したのは4社で、いずれも地方の食品製造販売業者です。中には初めてオンラインショップに参入した、創業180年の味噌しょうゆ製造販売業者も名を連ねています。

■「メルカリShops」3D店舗(シャッター広告)■
https://about.mercari.com/press/news/articles/20211007_ooh/

4 ウェブ広告メディア

ウェブ広告に関しては、後述するApple、Googleの動向(第5章)によって、これまでの広告ターゲティングが難しくなることから、それに代替する広告手法を選択する必要性が高まっています。

1)SNS広告(Facebook、Twitter、Instagram、TikTok、LINE、YouTube)

細かくターゲティングできることと、少額からスタートできるという利点から、デジタル広告では、まずSNS広告やアプリ広告が選択肢となるでしょう。各SNSの国内アクティブユーザーの数(推定)や特徴は、次の通りです。

各SNSの国内アクティブユーザー数(推定)と特徴

広告のターゲットについて、年齢や性別、地域、関心のある分野、広告掲出時間・期間などを設定し、予算に応じた出稿を行うことができます。

2)アプリ内広告

個人情報保護の観点から、Apple、Googleが自社のブラウザであるSafari・Chromeで、サードパーティーによるクッキーの受け入れを制限する流れとなっています。その影響を受けにくい広告として、アプリ内に掲出する広告が挙げられます。

■Googleアプリ内広告「AdMob」■
https://admob.google.com/intl/ja/home/

3)TVer広告

TVerは、時間や場所にとらわれず、アプリやインターネットに接続したテレビ(コネクテッドテレビ)などから、過去に放送されたテレビ番組を視聴できるアプリです。2015年10月に登場しましたが、2019年7月から2022年7月までの約3年間で総ダウンロード数が2000万件から5000万件へと急増しています。

近年は、特にコネクテッドテレビでTVerを視聴する層が伸びており、コネクテッドテレビで視聴した動画が25%を超えています(2022年3月時点)。テレビの視聴者層の中で、該当するテレビ番組を視聴する目的を持った人だけに広告を配信することができるため、従来のテレビ広告よりも詳細にターゲティングすることが可能になりました。テレビCMを出稿するほどの予算はかけられなくても、テレビCMのような広告出稿を望む企業にお勧めです。

■TVer広告■
https://biz.tver.co.jp/

4)デジタル音声広告

デジタル音声広告は、音楽配信のSpotifyやラジオ番組を聴取できるradiko、ネットで音声配信できるPodcastなどへ、音声で出稿できる広告です。また、YouTube動画へ音声と静止画で出稿することも可能です。

デジタル音声広告市場は、AirPodsに代表されるワイヤレスイヤホンの普及や、Podcastが市民権を得たこと、またコロナ禍のテレワーク中の「ながら聴き」需要に大きく後押しされ、大きく成長しました。2020年の日本国内のデジタル音声広告市場は、前年比229%の成長を見せ、16億円規模となっています(デジタルインファクトの調査予測)。

オトナルは、デジタル音声広告に特化したサービスを展開しています。同社の八木太亮社長は、「デジタル音声広告の強みは、『ながら聴き』のように、ユーザーの生活と共存できること。また隙間時間に入れること」と言います。また、視覚広告よりも押しつけがましくなく、ユーザーに抵抗なく認識されやすい利点もあります。

中でもSpotifyは、利用開始時に性別と年齢を入力するシステムのため、ターゲティングがしやすいのが特徴です。また、若年層の利用の割合が高いことから、事例として、芸能人が語るラジオトークのような予備校の広告など、学習塾・予備校や大学からの出稿が多いといいます。さらに、商圏ごとのターゲティングも可能で、長野県のスキー場の広告では、県内向けと県外向けの2種類の広告を出しわけています。

■オトナル■
https://otonal.co.jp/

5 補足:Apple、Googleの動向に見るウェブ広告の今後

従来のインターネットによる広告ターゲティングには、ブラウザのクッキーや、端末の広告識別子が利用されてきました。しかし、これらの情報を取得するにあたっては、ユーザーのプライバシー保護の観点から、ユーザーの事前同意を得ることなど、規制を強化していく流れにあります。

Appleは2017年より、ブラウザ・Safariでサードパーティーによるクッキーの受け入れを制限し、現在は完全に停止しています。またiOS14.5(2021年4月26日リリース)から、全てのiOSアプリに対し、Appleが端末に割り当てているランダムなIDによるトラッキングについて、ユーザーの事前同意を得るよう義務付けました。なお、日経広告研究所「広告白書2022年度版」によると、2021年12月時点で、アプリのトラッキングを許可したユーザーは、全世界で24%にとどまりました(スマホアプリ調査会社Flurryの調査、Appleは非公開)。2022年4月、Metaは「トラッキング規制によって、2022年の売上高が100億ドル減る」との見通しを発表しています。

日本においては、iOSのシェアは63.6%と、世界平均の27.7%の2.3倍(2022年4月。調査会社Statconter)で、より影響は大きいものと考えられます。

一方、Googleもブラウザ・Chromeでのサードパーティークッキー受け入れ制限を、2024年後半までに行うとしています。2022年2月には、Androidで提供していた広告識別子の利用制限を前提に、代替技術の開発を進めると発表しています。

以上(2022年10月)

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画像:zapp2photo-Adobe Stock