2023年5月からコロナが5類に。 感染者の自宅待機やマスク着用のルールはどうなる?

書いてあること

  • 主な読者:2023年5月以降のコロナ対策について知りたい経営者、労務担当者
  • 課題:就業制限などが緩和されるらしいが、あまり社員に自由に行動されるのも不安
  • 解決策:感染リスクはなくならないので、会社が自宅待機やマスク着用のルールを決める

1 制限が緩和されるからこそ明確なルールが必要

感染症法という法律では、新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)などの感染症を、脅威のレベルなどに応じて8つの感染症類型に分け、類型ごとに感染症をまん延させないためのルールを定めています。

コロナについては、2023年5月8日から感染症類型が「新型インフルエンザ等感染症(2類相当)」から「5類」に引き下げられ、就業制限などのルールが次のように緩和されます。

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ただ、感染症類型が引き下げられても、コロナに感染するリスク自体がなくなるわけではないですし、社員としてもいきなり「会社を休むかなどはあなたの自由です。自分で判断してください」と言われても困ってしまいます。そうした意味では、会社が自宅待機やマスク着用のルールを決めてあげたほうが安心です。以降で、5類移行後の労務管理のポイントを紹介します。

なお、この記事で紹介する情報は、2023年4月14日時点の内容に基づいています。

2 社員への自宅待機の命令は有効?

従前は、社員がコロナに感染した場合は原則7日間、濃厚接触者になった場合は原則5日間の自宅待機が必要でしたが、5類移行後はこの自宅待機期間のルールが適用されなくなります(濃厚接触者については、一般に保健所から「濃厚接触者」として特定されることもなくなります)。

とはいえ、労働契約法上、会社には社員の安全を守る「安全配慮義務」があるので、健康保持や感染防止のために社員に自宅待機を命じても、違法にはなりません。

社員が感染者になった場合、自宅でリモートワークができる状況であれば、

  • 感染者(有症状)の場合、原則就業を禁止する(休ませる)
  • 感染者(無症状)の場合、リモートワークで就業させる

を基本として、一定期間自宅待機させるという対応が考えられます。

問題は自宅待機の期間をどのぐらいの長さに設定するかですが、これについては厚生労働省から5類変更後の対応についての情報が随時発表されていますので、参考にするとよいでしょう。厚生労働省「感染症法上の位置づけ変更後の療養について(2023年4月14日)」では、

「発症日を0日目として5日間、かつ症状が軽快してから24時間程度を経過するまで」を外出を控えることが推奨される期間

としていますので、これに倣い「発症後5日間経過し、かつ症状が軽快してから1日経過するまで」を自宅待機期間とするといった具合です。感染者(無症状)の場合は、「症状が軽快してから……」の部分は考慮せず、「検体採取日から5日」を自宅待機期間とするなどします。

3 社員を休ませる場合、欠勤扱い(無給)は適法?

社員がコロナで発熱したり、無症状だけど業務上リモートワークが難しかったりする場合、その社員は休んでもらうことになります。

一般的には就業できない日数分、労働基準法の年次有給休暇や会社独自の有給休暇などを取得するよう促すことになります。注意しなければいけないのが、

有給休暇が取得できない社員(新入社員など)や、有給休暇の取得を望まない社員が出勤を希望する場合

です。会社が社員に対して自宅待機を命じることは可能ですが、労働基準法に、

会社側の事情で社員を休ませる場合、社員に平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならない

というルールがあるからです。

従前は、感染症法により感染者の就業制限が求められていたため、これらに該当する社員を休ませても「会社側の事情」とはみなされなかったのですが、5類移行後のコロナは、こうした措置の対象外になるため、休業手当の支払いが必要になります。

4 社員へのマスク着用の命令は有効?

マスク着用については、2023年3月13日より「屋内・屋外を問わず、着用の判断を原則個人に委ねること」とされています。一方で、

感染対策上や事業上必要な理由等がある場合、会社が社員にマスクの着用を求めることは許される

とされています。

社員にマスクの着用を求める必要があるケースとしては、

  • 不特定多数の人間と接する受付業務など、マスクを着用しないことが顧客や他の社員に不安感を与える恐れがある
  • すでに感染者が出ていて、感染拡大の可能性がある
  • 体調が優れず、咳などの症状が見られる社員がいる
  • 高齢者など感染による重症化リスクの高い人と多く接する業務に従事する

などが考えられます。

逆にマスク着用を求める必要がないケースとしては、

  • 他者と十分な距離を取ることができる状態で仕事をする
  • 他者と十分な距離を取れない状態で仕事をするが、会話はほとんどしない

などが考えられます。

なお、マスク着用を拒む社員に対しては、まずは着用の必要性を理解してもらえるよう丁寧に説明することが望ましいでしょう。仮にマスク着用の命令に従わない社員などがいたとしても、懲戒処分などの対応は慎重に判断する必要があります。

以上(2023年4月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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画像:peopleimages.com-shutterstock

自動運転バスが交通インフラを支える!/2023年4月の道交法改正で加速する自動運転の最前線(後)

書いてあること

  • 主な読者:過疎地などの交通インフラの動向に影響を受ける運輸業者
  • 課題:自動運転バスの導入を検討するために、実用化に向けた動きを知りたい
  • 解決策:自動運転バスの実用化に向けた最新の動きと、2023年4月の道路交通法改正の内容を把握し、実用化に備えておく

1 自動運転バスが過疎地などの交通インフラの救世主に!?

2023年4月の改正道路交通法(以下「道交法」)の施行で、

  • 遠隔監視の自動配送ロボット
  • 過疎地などでの自動運転バス(カートも含む)

が公道で走行すること、つまり「自動運転レベル4」が認められました。

このシリーズでは、実用化へ大きく前進した自動運転について、道交法改正の内容と、実用化に向けた取り組みの最新事情を、2回にわたって紹介します。前編の第1回では、物流のラストワンマイルの担い手として期待される、遠隔監視の自動配送ロボットについて紹介しました。

後編となる今回は、採算割れや人手不足で交通インフラ崩壊の危機にある過疎地などでの活用が期待されている、自動運転バス(カートを含む)を紹介します。紹介するのは、次の3つの取り組みです。

  • 国内初の実用化でモデルケースに(福井県永平寺町)
  • 2025年大阪・関西万博で世界にお披露目を(Osaka Metro)
  • コミュニティバスへの導入で持続的な社会へ(愛知県日進市)

政府は2022年12月の閣議決定で、

自動運転移動サービスを2025年度めどに50カ所程度、2027年度に100カ所以上実現させる

ことを掲げ、「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト(RoAD to the L4)」などを通じて、地方自治体や民間会社の取り組みを後押ししています。

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2 地元の許可があれば自動運転バスが営業可能に

2023年4月に施行された改正道交法および関係法令で、自動運転レベル4(場所や時間など特定条件の下での完全自動運転)に相当する、運転者がいない状態での自動運転(特定自動運行)が許可制になりました。許可に関しては次のような項目が定められており、今回の改正は、主に過疎地などで特定ルートを自動運転バスが運行するサービスが想定されています。

  • 速度、走行ルート、走行時間、走行できる天候など、走行環境や使用条件を限定する
  • 許可をするのは都道府県公安委員会で、許可をしようとする際は、当該の市町村長などの意見を聞く
  • 許可を受けた事業者は、申請時に届け出た「特定自動運行計画」に基づいて運行する
  • 許可を受けた事業者は、遠隔監視もしくは車内に乗った「特定自動運行主任者」を配置する

また、運行する車両は、道路運送車両法に基づき、国土交通省から認可を受けたものに限られます。国土交通省は、自動運転車の車体後部に、ステッカーを貼付することをメーカーに要請しています。

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それでは、実用化に向けて進んでいる実証実験などの取り組みについて、実際に携わった担当者の話を紹介します。

3 国内初の実用化でモデルケースに(福井県永平寺町)

自動運転の実用化で先行しているのが、福井県永平寺町です。2023年3月に国土交通省から車両が認可されたことを受けて、2023年4月にも福井県公安委員会に許可申請を行う方針です。

1)自動運転カートの概要

事業主体:福井県永平寺町、まちづくり株式会社ZENコネクト
開発者:国立研究開発法人産業技術総合研究所、ソリトンシステムズ、三菱電機、ヤマハ発動機
運行予定:自動運転レベル3を2021年3月から継続中
     自動運転レベル4の許可申請を行う予定
運行場所:京福電気鉄道永平寺線の廃線跡地(永平寺町)の町道「永平寺参(まい)ろーど」の一部(約2キロメートルの自転車歩行者専用道路)
運行の概要:道路に敷設した電磁誘導線上を、時速12キロメートルを上限に走行。遠隔監視は1人で3台を監視
使用する自動運転車両:ヤマハ発動機の電動カート(乗客7人までの自家用有償旅客運送)

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2)担当者の話(国立研究開発法人産業技術総合研究所)

1.技術面の状況

自動運転レベル3で運行していた際もレベル4に相当する技術で運行していたので、問題なく運行できると思っています。

レベル4でもレベル3のときと同様に、大雨や濃霧など、レーザーセンサー機能が働かなくなった場合は運行しない条件を付けています。ただし、レベル4で運行する場合のセンサーは、レベル3のときより高性能の「ミリ波レーダー」を使う予定ですので、大雨や濃霧などには強くなります。永平寺町の場合、大雨や降雪などのときの交通需要が少ないので、これ以上はセンサー機能を高めて運行条件を広げる必要はないと考えています。

レベル4では、落ち葉や木の揺れなどにセンサーが反応してしまう「過検知」など、運用上のエラーが起きた場合、車内に対応できる人がいませんので、対応に時間がかかることが想定されます。このため、こうしたエラーを極力減らしていくための技術的な調整を続けていくことになります。安全のために、止まるべきときに止まれない「未検知」を避けるために、ある程度「過検知」が起きるのは仕方ないのですが、あまり頻度が高いと運行上の問題になります。運行する方たちが受容できる程度にまで減らせるかどうかがポイントになると思っています。

2.遠隔監視とコスト面の状況

レベル4でも1人で3台の車両を遠隔監視することに問題はないと思っています。レベル3で運行していたときよりもシステムを強化しており、遠隔監視する地元の担当の方には、サービスが提供できるようにトレーニングしてもらっています。

今後、運行のために必要な人員が減り、遠隔監視の業務負担も軽減できるようになっていけば、人件費のコストは削減できると思います。遠隔監視の業務負担の軽減が進めば、遠隔監視をしながら他の業務もできるようになったり、一定のトレーニングを受けさえすれば遠隔監視ができるようになったりしていくでしょう。

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コスト削減に関して、今回のレベル4の車両の開発メーカーには、量産化・市販化を目指してもらっています。自家用車の運転支援に用いられているセンサーやECU(エレクトロニックコントロールユニット)などを、走行環境に合わせて上手く活用できれば車両の価格を抑えることができると思います。また、自家用車などにも自動運転が広がっていけば、センサーや制御に関する技術を流用することで、さらにコストが下がると期待しています。

3.利用者などの反応

レベル3での運行を2年ほどやっていますので、乗客の方には利用方法を理解していただいています。乗員がいなくても遠隔監視員と音声でやり取りができますので、乗客の方のトラブルにも一定の対応が可能です。

4.他地域への技術の転用や普及に関して

他地域で自動運転バスを運行させるには、それぞれの地域の要求に応じた技術を適用する、「ローカリゼーション」が必要になります。レベル4の走行環境のうち、路面が凍結した際などの対応は難しいですが、その他の条件に関しては、技術的な対応策を準備しています。

例えば夜間も運行するのであれば、通常のカメラではなく、赤外線カメラを搭載してAIにより人を認識する機能などを使って、センサー機能を高めることができます。大雨や降雪の場合でも、ミリ波レーダーを導入すれば対応できます。ただし、その分の費用は掛かりますので、導入するかどうかはコストとの兼ね合いになると思います。

永平寺町では、自転車歩行者専用道路を使い、ゴルフのカートなどで長年の使用実績のある電磁誘導線を道路に敷設して走行するという、最も確実性の高い運行方法を採用しています。技術的には一般道路でも対応可能ですが、実用化するには安全面や受容面での実証を行っていく必要があるでしょう。

一般道路を走行するには、他の交通参加者がどのような振る舞いをするのかを予測することの難しさがあります。例えば、駐車車両を避ける場合、車両の駐車の仕方によって避け方を変える必要があります。その他にも、追い越し車両が急に自動運転車両の前に入ってきたり、交通ルールを守らずに交差点に進入したりするなど、交通ルールを守らないような車両に対して、どの程度まで対応できるようにするのかなどの難しい課題を決めていく必要があると感じています。

政府の2025年度に50カ所、2027年度に100カ所というレベル4の普及目標に向けては、自動運転移動サービスのベースになる電動化を含めた車両の国内開発などの課題があります。永平寺町での運行によって、目標達成に少しでも寄与できるようなモデルケースを示し、他地域での事業化を加速させるのが私たちの使命だと思っています。

4 2025年大阪・関西万博で世界にお披露目を(Osaka Metro)

大阪市などが出資する大阪市高速電気軌道(以下「Osaka Metro」)は、2025年に大阪市で開催される2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の来場者の輸送サービスに、レベル4の自動運転バスの導入を目指し、実証実験を進めています。

1)自動運転バスの概要

1.事業の概要

事業主体:Osaka Metro
運行予定:2025年4月~10月(万博開催期間)
運行場所:万博会場内の外周道路と、周辺拠点から万博会場間(大阪府大阪市)
運行の概要:GPSやセンサーなどを組み合わせ、公道は法定速度を上限に走行する想定
使用する自動運転バス:会場内は小型バス、周辺拠点から会場までは大型バスを想定

2.実証実験の概要(直近の第2回実証実験)

実験日:2022年12月~2023年1月
実験の協力企業:あいおいニッセイ同和損害保険、NTTコミュニケーションズ、凸版印刷、日本信号、パナソニック コネクト、BOLDLY
実験場所:舞洲実証実験会場内テストコース(400メートル)と周辺公道
実験の概要:テストコースは自動運転レベル4、公道は自動運転レベル2での走行。GPSと一部の道路上に塗った特殊塗料(自動運転車両に搭載しているセンサーが認識できる塗料)を使い、信号機からのデータ受信に対応する「信号協調」も実験
使用した自動運転バス:フランスのNAVYA(ナビヤ)社のARMA(アルマ、11人乗り)と小型バス(ポンチョ)

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2)担当者の話(Osaka Metro)

1.技術面の状況

現時点では幾つか課題がありますが、今後も実証実験を行っていき、2025年の実用化に向けて課題をクリアできると思っています。自動運転バスの技術を高めていくことに加えて、道路インフラにもセンサーやカメラを付けての走行支援が必要になると考えています。

運行ルートや、万博の開催時の交通の流れにもよりますが、交差点での安全な運行や、路上駐車への対応が課題だと感じています。交差点での具体的な課題は、歩行者が横断歩道を渡るのか渡らないのかの見極め、対向車の速度を踏まえた安全な右折などがあります。

今回の実証実験では、時速50キロメートルでの小型バスの走行ができているため、法定速度での運行を目指しています。貨物車両がスピードを出して前方に割り込んでくるケースもありましたが、人が運転するときと同様に、自動ブレーキで対応できています。

2022年3月から4月に行った前回の実証実験と今回の2回の実証実験で、どの技術を主軸にして位置情報を把握するのか試しました。今後も可能な限り多くの方法を試して、想定される環境の中で一番確実な方法を組み合わせたいと考えています。トンネル内の走行によって夜間の運行はGPSとレーザーセンサーで対応可能であることが実証できましたが、雨粒はレーザーセンサーが障害物と判定してしまいますので、これを補う技術の導入も必要になります。

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2.遠隔監視とコスト面の状況

実証実験では、1人で2車種・3台を遠隔監視しました。実用化したときの運行ダイヤにもよりますが、レベル4で公道走行実験を行う際は、まず1人で1台を遠隔監視することから始めて、どこまで増やせるのかを警察などと協議することになると思います。

コスト面を踏まえると、将来的には1人で複数台は監視できるようにしたいです。エラーが同時に発生することがあると1人が監視できる台数が制限されるので、並行してエラーが出る確率を下げていかないといけないと思っています。

まだ実証実験の段階ではありますが、世界の方々が集まる万博で自動運転バスをご披露する意義も含めて考えており、将来的には、運転士がいない利点を活かし、採算も取れるようにしていきたいと思っています。

当社が都市型Maas構想「e Metro」で目指す、「大阪に住む人、訪れる人に移動の自由を提供し続ける」という使命のためには、運転士不足や運転士の労働時間に縛られないモビリティの実現が必要だと考えています。万博というイベントで自動運転バスを運行することは、当社グループが将来的に自動運転の社会実装の実現を目指していることのアピールにつながると思います。

3.利用者などの反応

実証実験に参加していただいたモニターの方からは、「乗ってみたら安心できた」などの声が聞かれ、マイナスの意見は少なかったです。

4.他地域への技術の転用や普及に関して

また、当社だけにとどまらず、世間に注目される万博での自動運転バスの運行が、国内のさまざまな地域で自動運転に向けた取り組みが広がる契機になればいいと思っています。

当社は将来的に、市街地での自動運転バスの導入も目指していますが、実用化するには、さらに二段、三段のクリアすべき課題があると思います。コスト面はもちろんですが、歩行者や自転車が多い状態での安全性の確保、さまざまな気候や天候を想定した対応など、万博会場での運行よりも運行条件は厳しくなるでしょう。

交通ルールを守らない人や車両への対応は、警察など関係各所の協力を仰がないといけないと思っています。レベル4を広げていくには、事業者は行政や警察、事業開発側などと連携体制を作っていく必要があると思います。

5 コミュニティバスへの導入で持続的な社会へ(愛知県日進市)

愛知県日進市は、2024年にコミュニティバスへのレベル4の自動運転の導入を目指しています。名古屋市と豊田市に挟まれた同市は、人口増を続けているものの、市内に中心核のない分散型ベッドタウンとなっています。このため、「既存公共交通網と自動運転バスのベストミックスによる新たな公共交通システム」によって、住民が世代や居住地を問わず自由に移動でき、将来にわたり安心して住み続けられる街の実現を目指しています。

1)自動運転バスの概要

1.事業の概要

事業主体:愛知県日進市
運行予定:2024年からの運行開始を目指す
運行場所:日進市内
運行の概要:コミュニティバスの路線のダイヤに自動運転バスを導入する
使用する自動運転バス:フランスのNAVYA(ナビヤ)社のARMA(アルマ、乗客10人まで)

2.実走実験の概要

実験日:2023年1月~3月
実験の参加者:BOLDLY、名鉄バス、セネック、マクニカ、名城大学
実験場所:日進市役所から名古屋鉄道日進駅(日進市)の往復(約5.7キロメートル)
実験の概要:自動運転レベル2での走行。GPSとレーザーセンサーを使って時速20キロメートルを上限に走行
使用した自動運転バス:フランスのNAVYA(ナビヤ)社のARMA(アルマ、乗客10人まで)

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2)担当者の話(運行管理プラットフォームを提供しているBOLDLY)

1.技術面の状況

実走実験では、走行した道路が歩道と車道の分離がされており、路上駐車がほとんどなかったことから、高い自動運転率を実現できました。

バスの乗員が手動介入をした主な要因は交差点でした。信号機との連携ができていないため、信号判断の部分で手動操作が行われました。2023年度以降は、信号機から得たデータで対応する「信号協調」を検証する予定で、信号機との連携が実現すれば、レベル4に近づくと考えています。

駐車車両や歩行者などの認識については問題がありませんでしたが、まだ車両や人の行動予測まで行った制御にはなっていません。歩行者が道路上で立ち止まり続けるなど、周りの交通参加者が通常と異なる意思を持って行動してくる場合には、バスの車内のオペレーターが適宜対応している状況です。

レベル4を始めるために、まずは敷地内でのプロジェクトとして実施することを目指しています。実用化する際は、レベル4での自動運転区間を限定的に始めて、課題やリスクを確認しながら徐々に拡大していきたいと考えています。

2.遠隔監視とコスト面の状況

現時点ではバスの車内に対応者がいるレベル2の運行であるため、まだ遠隔監視によるコストメリットは生まれていません。

自動運転バスが浸透する過渡期においては、バスの車内に対応者が存在することによる安心感が大きいです。このため、仮にレベル4が技術的に可能となったとしても、自動運転バスが一般に受け入れられるまでは、対応者が車内にいる状況が望ましいと考えています。

1人で何台まで遠隔監視が可能になるかは、車両の性能にもよるので一概には言えません。現状では、3~4台程度までは可能になるのではないかとの感覚を持っています。

3.利用者などの反応

時速20キロメートルを上限に走行しましたが、「乗車してみると思ったより速い」という声が多く聞かれました。後続車などからは、「渋滞の原因となるかもしれない」などの声は聞かれましたが、直接の苦情という形では届いていません。渋滞を減らすために側道のルートを走行できるように設定するなど、交通の流れへの影響には配慮しています。

4.他地域への技術の転用や普及に関して

当社は、レベル4の実現には2つのマイルストーンがあると理解しています。

  • 車両が技術的にレベル4で走行できるタイミング
  • 利用者が無人で走ってくる自動運転車を躊躇(ちゅうちょ)なく利用できるようになるタイミング

仮にレベル4が実現しても、当面は1.が実現されただけであり、利用者が無人で走行してくる自動運転車を利用するのは、心理的な抵抗が大きく、安心して使えないことを想定しています。この過渡期においては、無人で走行させるのではなく、車内に対応者を配置して走行させることが望ましいと思っています。

よってレベル4が実現したとしても、コストメリットが得られるのは、2.のタイミングであり、将来的に実現すると理解しています。

レベル4での走行の可否は、車両の性能と走行環境の組み合わせによって決まるため、どのような場所であれば走行できるのかは、一概には言えません。ただ、定性的には、

  • 道路の幅員が広い
  • 他の交通や路上駐車が少ない
  • 他車の走行速度が遅い

場合は、レベル4が実現しやすい環境だと考えています。

速度に関しては、NAVYA社のARMAは道路運送車両法の保安基準を満たしておらず、国土交通省から基準緩和認定を受けてナンバーを取得した車両であるため、時速20キロメートルが上限になります。ただし、保安基準を満たしている路線バスなどが自動運転化される場合には速度制限がないので、レベル4でも時速20キロメートルが上限にはならないと認識しています。

3)担当者の話(日進市役所)

採算面に関しては、公共交通において、運行費用を独立採算で考えるというのは限界が来ていると思っています。自動運転バスであってもコストはゼロになりませんので、コストが削減されたとしても、公共交通の収入からコストに見合うものを回収するのは現実的に困難であると言わざるを得ません。

海外でも、フランスのように公共交通を公費で大部分を負担している国もあります。日本においても、独立採算を継続するのであれば、必然的に路線バスの廃止・減便となることは明白であり、生き残る路線は大都市の一部路線だけになってしまいます。

今後も日本の国全体での成長を期待し、地方における生活の足を確保したいのであれば、公共交通の費用負担について考え直すべき時期が来ていると考えています。

以上(2023年5月)

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画像:Kinwun-shutterstock

従業員エンゲージメントの向上のために

昨今、多くの企業が人材流出、人材不足に苦慮しており、少子高齢化と人口減少が顕著になった社会において、採用を含めた人材確保が難しい状況になっています。こうしたことから、「人材マネジメント」に特化した課題を克服するために、エンゲージメントへの関心が高まっています。

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従業員エンゲージメントの向上のために

昨今、多くの企業が人材流出、人材不足に苦慮しており、少子高齢化と人口減少が顕著になった社会において、採用を含めた人材確保が難しい状況になっています。こうしたことから、「人材マネジメント」に特化した課題を克服するために、エンゲージメントへの関心が高まっています。

ここでの「エンゲージメント(engagement)」は、従業員の会社に対する愛着や思い入れの意味合いになります。従業員が仕事に没頭し、モチベーションを感じている「エンゲージメントが高い状態」は、企業の業績向上や従業員の定着に大きな効果があります。

本稿では、企業におけるエンゲージメントの実態を把握し、エンゲージメントを向上させるための主な施策をご紹介いたします。

1 エンゲージメントの現状

2022年度(2021年12月~2022年11月)に(株)ヒューマネージが実施したエンゲージメント・サーベイ(68,659名のデータ)の分析結果によると、若年層(20代)の社員のエンゲージメントが最も低く、年代が上がるほどエンゲージメントが高くなっています。

さらに、エンゲージメントの3つの状態(楽しみ/興味・関心/意義)について、年代別に見ると、特に20代、30代の若手従業員は、仕事に対して、「興味・関心」と「意義」は感じられているが、「楽しみ」は感じられていないという状態が読み取れます。

エンゲージメント・サーベイの分析結果

エンゲージメント・サーベイ

((株)ヒューマネージ「エンゲージメント・サーベイの分析結果」)

2 エンゲージメント向上の施策

企業が今以上に従業員のエンゲージメントを向上させるには、下記のような施策を講じることが、有効となります。

エンゲージメントの現状把握

従業員が仕事に対してどのような意識を持ち、会社にどのような印象を持っているのか、社内アンケートなどで現状把握する。

経営層からのメッセージ発信

社長や経営者から、企業理念や今後の展望についてメッセージを伝え、会社全体で統一されたビジョンを共有する。

相応しい人事評価制度の構築

従業員に不公平感を感じさせない納得感のある評価基準を設け、客観的で明確な人事評価制度を構築する。

コミュニケーションの活性化

従業員がオープンに意見を言い合える風通しの良い企業風土を形成し、心理的安全性を高め、会社への帰属意識の向上を図る。

快適に働ける職場環境の構築

従業員が各々に適した業務に就けるよう適材適所の配置を行い、全ての従業員が健全に働けるように労働環境を整備する。

ワークライフバランスの向上

家事や育児・介護との両立ができる働き方の改革や福利厚生の充実を図り、プライベートも大事にしながら働ける会社にする。

3 さいごに

2023年3月期決算以降、上場企業などを中心に人的資本情報の開示が義務化され、「エンゲージメント」は、開示が望ましい19項目のひとつにも挙げられました。このように「エンゲージメント」は、人材マネジメントにおける重要な概念としてその立ち位置を強めています。

人材の流動化や労働力人口の減少で人材の確保が難しくなっている現代において、企業と従業員の関係性を深め、生産性や定着率の向上を目指す取り組みは、企業が成長するための最優先課題の一つと言えるかも知れません。まずは自社で取り入れられる施策から着手してみてはいかがでしょうか。

※本内容は2023年4月13日時点での内容です
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

経営者・役員の退職金制度の税務・財務のポイント

基本的に役員退職金は法人の損金として計上が可能であるため、所有と経営が一致しているオーナー会社等では、恣意的なお手盛り計算が行われる可能性があります。そのため、法人税法においては「不相当に高額」な部分については損金不算入とされています。役員退職金の税法上の基本的な考え方や適切な計算方法、対策について解説していきます。

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【朝礼】そっくりそのまま真似てみろ

皆さんは、マニュアルをそっくりそのまま真似したことがありますか。皆さんの中に「マニュアルなんて大して役に立たない」と考えている人がいるなら、その考えは改めて欲しいと思います。

私は、マニュアルやお手本といったものはとても重要だと思っています。もし、皆さんが何かを習得しようとしているならば、マニュアルやお手本をすべて暗記し、そっくりそのまま真似できるようになってください。マニュアルやお手本は物事の基本を押さえ、そして解説しているものです。だから、これらを覚え、真似できれば、基本を身に付けることができます。

「学ぶ」という言葉の語源は「まねる」だといわれています。例えば、書道を習得するには、誰でも、お手本を忠実に書き写すことから始めます。噺家は師匠の噺を聞いて、それを見て聞いて覚え、自分のものとします。将棋は最善とされる手順や駒組みである定跡を覚え、その定跡通り指し進めることを繰り返します。剣道・柔道などの武道をはじめ、野球・サッカーなどのスポーツは、基本の動きができるようになるまで繰り返し練習します。このように早く上達するコツは、上級者の形や考え、動きを真似ることです。

この段階では、「なぜ、そうするのか」を分からなくてもよいのです。形を真似る、話し方・身振り・手振りを真似る、指し手を真似る、動きを真似ることができれば、その理由を分からなくても、上達できるからです。サッカーが上手になりたい子供が、有名サッカー選手の真似をするのは、実は理にかなっているのです。

この「真似る」という行為は、本当に奥が深いのです。先にマニュアルの話をしましたが、マニュアルはできる人の行為を、文書化したものと考えてください。マニュアルを正確に真似るだけで、皆さんのビジネススキルが上達するのです。

皆さんが、仕事ができるビジネスパーソンになりたいのであれば、モデルとなる人物を見つけて、真似をしてください。身近にモデルとなる人物がいなければ、尊敬する人物の書籍を読み、その人物の考え方や物事への取り組み姿勢を真似てください。

身近なところ、例えば、上司や先輩にモデルとなる人物がいたら、とても幸せなことです。「仕事ができるようになりたいのです。挨拶の仕方から、仕事に対する姿勢、コミュニケーションの方法などすべてを教えていただけますか。教えはすべて受け入れます」とお願いしてみましょう。間違いなく、その上司や先輩はあなたのことを可愛がってくれます。はじめのうちは、何のためにそうするか、どうしてそのように考えるのかは分からなくてよいのです。上司や先輩を真似ているうちに、上司や先輩の言うことをすべて聞いているうちに、いずれその意味が分かってきます。

こうして仕事に対する考え方や時間の使い方などすべてをそっくりそのまま真似てみると、1年後、自分自身がビジネスパーソンとして成長していることに気付くでしょう。そして、1年前には分からなかった「なぜ、そうするのか」が分かるようになり、謎が解けるのです。

以上(2023年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

リフレクションを学びにつなげよう

1 リフレクションとは?

近年、人材育成の場面でリフレクション(reflection)が注目されています。リフレクションは直訳すると“反射”という意味ですが、人材育成におけるリフレクションは、経験や自分の内面を客観的・批判的に振り返る“内省”という意味で使われます。経済産業省が提唱する「人生100年時代の社会人基礎力」においても、あらゆるスキル習得の前提となる力と位置付けられており、リフレクションを鍛えることで、経験から自ら学び、自分をアップデートする力を身に付けることができると考えられています。

2 自分で気づけば主体的に学習できる

リフレクションによって自分で考え、自分で学べるようになることは、人に言われて学ぶよりもモチベーションが保ちやすいといわれています。

子どものころ周囲の大人から「宿題しなさい」と言われ、やる気がなくなった記憶がある人は多いでしょう。他人から指摘されたり強制されたりすると、自分で始めた場合よりもモチベーションが下がりがちです。他人から言われる前に自分で改善点を見つけ主体的に行動できれば、成長しやすくなるでしょう。

3 無意識に行っているリフレクション

リフレクション=内省(振り返り)というと、何となく哲学の用語のようで、難しそうな印象を受けるかもしれません。しかし、実は誰もが意識せずに自然にリフレクションをしています。

例えば、仕事で頼まれていた資料を提出期限までに作成できなかったら、誰に言われなくても遅れてしまった理由を考えるでしょう。できごとの原因と結果を推測するのも、リフレクションの1つです。

本稿では、こうしたわたしたちが自然に行っているリフレクションの内容を改めて整理し、経験から多くを学ぶための考え方を紹介します。

4 リフレクションと“経験学習モデル”

リフレクションの具体的な内容を説明する前に、リフレクションが注目された背景を理解するため、デイヴィッド・コルブが提唱した“経験学習モデル”を紹介します。経験学習モデルは、人が経験したことを振り返って学んでいくプロセスを示した理論です。

経験学習モデルとは、4つのプロセスを繰り返すことで、ただ経験を重ねるだけよりも大きな学習効果を得られると考えています。

1.でまず経験をしたら、2.では俯瞰(ふかん)的な視点でその経験からいったん離れ、自分の行為や感情、できごとの意味を整理します。3.では2.で得られた教訓や法則を整理し、4.で実際の業務や次のアクションに落とし込みます。

リフレクションは、この4つのプロセスのうち、2.のプロセスに当たります(3.や4.のプロセスを含めることもあります)。リフレクションの力を鍛えることで、一見しただけでは分からない問題の本質に気づき、経験したことがない問題を解くヒントを得られるようになります。

5 リフレクションの4つのレベル

リフレクションは、過去の経験を未来に活かすことが目的です。リフレクションの日本語訳である“内省”と似た言葉に、“反省”がありますが、反省は過去の失敗や過ちに対して行うのに対し、リフレクションはポジティブなできごと(成功体験)に対しても行います。失敗したか成功したかにかかわらず、経験を知恵に変えることが大切だからです。

1つの経験から複数の教訓を得るには、できごとの原因と結果を整理するだけでは不十分です。また、問題の原因を他者や環境に求めるだけでは、有効な対策をとることはできません。そこで、リフレクションは学びの質を向上させるため、次の4つのレベルに分けて行います(注)。

(注)ディスカヴァー・トゥエンティワン「リフレクション = REFLECTION : 自分とチームの成長を加速させる内省の技術」(熊平美香、2021年3月)を参考にしています。

レベル1:結果のリフレクション

できごとや結果についてのリフレクションです。事実を正しくとらえることは大事ですが、このレベルのリフレクションに終始していると、経験を学びに変えることはできません。

レベル2:他責のリフレクション

他者や環境についてのリフレクションです。一見正しい有意義な学びですが、他者や環境に原因を求めていては、未来を変えるヒントを得ることはできません。

しかし、実際には多くの人がこのレベル2にとどまってしまいます。なぜなら「指導に時間を費やしているのに部下が育たない」というような課題があった場合、部下の課題ばかりに目が行って、自分の関わり方や指導方法に目を向けるのは難しいからです。

他責

レベル3:行動のリフレクション

自分の行動についてのリフレクションです。自らの行動を振り返り、結果と結びつけることで、次にとるべき行動が見えてきます。

とはいえ、「自身の行動を振り返っても、状況を変えることができない」と悩んだ経験がある人も多いでしょう。経験を振り返っても、次の打ち手を試してみても課題を解決できないときは、経験の前提にある内面に意識を向ける必要があります。

レベル4:内面のリフレクション

自分の内面・持論についてのリフレクションです。私たちの行動の前提には、「こうすれば、うまくいくはずだ」という考えがあります。意識せずとも、過去の経験で培った知恵を活かし、日々行動しているのです。そうした行動の前提にある持論を振り返ることで、行動の前提にある自分の価値観を俯瞰します。

自分の行動が他者や結果にどんな影響を与えたか、もし適切な行動がとれなかったとしたらそれはなぜなのか、ということまでリフレクションを深めることで、望ましい結果を導く適切な行動をとれるようになります。

変化の激しい時代には、前例を踏襲するだけではうまくいく保証はありません。そのため、現代は自己の内面を振り返るレベル4のリフレクションの重要性が高まっているといわれます。

6 なぜ感情や価値観と向き合うことが大切なのか

自覚するのは簡単ではありませんが、わたしたちの行動や考え方には、感情や価値観が深く関わっています。例えば、仕事ができる人がマネジャーになると、部下に仕事を任せるべきだと分かっているのに「自分でやったほうが早い」と、なかなか仕事を周囲に振れないことがあります。頭では、部下に仕事を任せる方法を学ばなければならないと分かっていても、できないのです。

そうした人の話を詳しく聞いてみると、実は「人に指示を出す口先だけの人より、自分で率先して動いて解決する人のほうがかっこいい」といった価値観を持っていることがあります。いまの状況に合った行動ではなく、自分の価値観に合った行動を無意識に選んでいるのです。

できごとの原因と結果を正しく認識するだけでは、自分の行動や考え方を変えられないのはこのためです。しかも、この価値観の根っこにその人のご両親が忙しく働いていた姿などがある場合、本人にはなかなか自覚できないのです。

リフレクションによって自分でも忘れてしまった価値観に自覚的になると、変化を受け入れやすくなります。

【参考文献】
ディスカヴァー・トゥエンティワン「リフレクション = REFLECTION : 自分とチームの成長を加速させる内省の技術」(熊平美香、2021年3月)

以上(2023年5月更新)

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一人でリフレクションをしてみよう

1 リフレクションで学びを加速する

1)思い込みが学習を邪魔する

朝、上司の顔を見た瞬間に「機嫌がよさそう/悪そうだ」と判断することはありませんか? それはこれまでの上司との付き合いから無意識にしているからです。このように、これまでの経験や知識・ものの見方などを基にした判断は無意識に行えるので早く思考できますが、信ぴょう性が薄い知識を基にすると、現状に合っていないものの見方で判断してしまうことも少なくありません。

実際、過去の常識にとらわれて、本当は見えているはずの徴候が見えなくなることがあります。「現代は技術の進歩が速い」と何度も聞いていたのに、新型コロナウイルス感染症が拡大するまで、多くの企業においてリモートワークが実現できるとは思っていなかった人がほとんどでしょう。リフレクションは、わたしたちが無自覚に行っているこうした認知・判断のプロセスを客観的・批判的に振り返ることで、新しい知識・考え方を取り入れやすくするといわれています。

2)自分の思い込みをつくる認知の4点セット

思い込みはどうやってできるのかを理解するため、意見ができる過程を考えてみましょう。わたしたちは同じものを見ても、背後にある価値観が違えば全く別の意見を持つことがあります。その際の価値観は、過去の経験やそのときの感情などに基づいています。

例えば、犬が好きな人と嫌いな人の認知の違いを見ましょう。同じ犬について考えているのに、過去の経験やそのときの感情によって、全く異なる意見になっています。

犬が好きな人と嫌いな人の例

こうして4つの視点で俯瞰(ふかん)してみると、自分の意見がどうやってできたか、また他の人の意見がなぜ違うかを理解しやすくなります。

この4つの視点は、次のように言い換えることもできます。

  • 意見:考え・学び・思ったこと
  • 経験:意見の背景にある経験(意見の根拠)、情報
  • 感情:その経験や知識に対してどのような感情を抱いているか
  • 価値観:判断に用いた基準や尺度、ものの見方

この4つの視点を意識して多角的な見方ができれば、1つの意見に固執することが少なくなるので、1つの経験から複数の教訓が得られ、学習のスピードも速くなるでしょう。

犬好き猫好き

2 一人でリフレクションするときのポイント

人材育成の場面では、会社の上司や同僚とリフレクションすることが多いかもしれません。確かに一人でリフレクションをすると、自分以外の意見や経験には触れられないというデメリットはありますが、自分自身と落ち着いて向き合えるというメリットもあります。

リフレクションにあまり慣れていない人が、一人で始める場合のポイントを紹介します。

1)記録をとる

リフレクションは、経験や自分の内面を客観的に見ることと、変化が分かるようにすることが大切です。ノートに書いたり、スマホに打ち込んだりしてみましょう。また、リフレクションを行う頻度・期間(毎日、毎週、2週間ごと、1カ月ごとなど)を決め、その間に起きたできごとを上述した4つの視点に分けて分析します。文字にすることで客観視でき、後から見返すことで自分の変化に気づいたり、逆に未解決のまま放置されている課題が見つかったりします。

2)昔の経験から学ぶ

リフレクションの基本は、自分が感じていることを当たり前と思わず、「なぜこんなふうに感じたのだろう。他の感じ方はないだろうか」と自分に問いかけてみることです。振り返る対象を、最近経験したできごとだけではなく、もっと前のできごとやこれまでの人生に広げてみると、思わぬ発見があるでしょう。

例えば、昔は失敗だと思っていたことが今の自分には大きな糧になっていたり、逆に成功体験だと思っていたことから、間違った学習をしていたりします。当時は正しかった価値観が現状に合わなくなっていると気づくこともあるでしょう。

また、自分の感情に注目してリフレクションしてみると、役立つ法則が見つかるかもしれません。頑張れた経験や夢中になれた経験には、自分で自分のモチベーションを上げるヒントが隠れています。

3)問いかけでリフレクション力をアップする

リフレクションに慣れてきたら、自分が結果、他責(他者・環境)、行動、価値観のどこについてリフレクションすることが多いのかをチェックしてみましょう。リフレクションのレベルを上げることで、自分で自分の価値観をアップデートし、変化に対応できる力が身に付いていきます。

リフレクションのレベルを上げるための問いかけの例

【参考文献】
ディスカヴァー・トゥエンティワン「リフレクション = REFLECTION : 自分とチームの成長を加速させる内省の技術」(熊平美香、2021年3月)

以上(2023年5月更新)

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チームでリフレクションをしてみよう

1 リフレクションで学びを加速する

1)思い込みが学習を邪魔する

朝、上司の顔を見た瞬間に「機嫌がよさそう/悪そうだ」と判断することはありませんか? それはこれまでの上司との付き合いから無意識にしているからです。このように、これまでの経験や知識・ものの見方などを基にした判断は無意識に行えるので早く思考できますが、信ぴょう性が薄い知識を基にすると、現状に合っていないものの見方で判断してしまうことも少なくありません。

実際、過去の常識にとらわれて、本当は見えているはずの徴候が見えなくなることがあります。「現代は技術の進歩が速い」と何度も聞いていたのに、新型コロナウイルス感染症が拡大するまで、多くの企業においてリモートワークが実現できるとは思っていなかった人がほとんどでしょう。リフレクションは、わたしたちが無自覚に行っているこうした認知・判断のプロセスを客観的・批判的に振り返ることで、新しい知識・考え方を取り入れやすくするといわれています。

2)自分の思い込みをつくる認知の4点セット

思い込みはどうやってできるのかを理解するため、意見ができる過程を考えてみましょう。わたしたちは同じものを見ても、背後にある価値観が違えば全く別の意見を持つことがあります。その際の価値観は、過去の経験やそのときの感情などに基づいています。

例えば、犬が好きな人と嫌いな人の認知の違いを見ましょう。同じ犬について考えているのに、過去の経験やそのときの感情によって、全く異なる意見になっています。

犬が好きな人と嫌いな人の例

こうして4つの視点で俯瞰(ふかん)してみると、自分の意見がどうやってできたか、また他の人の意見がなぜ違うかを理解しやすくなります。

この4つの視点は、次のように言い換えることもできます。

  • 意見:考え・学び・思ったこと
  • 経験:意見の背景にある経験(意見の根拠)、情報
  • 感情:その経験や知識に対してどのような感情を抱いているか
  • 価値観:判断に用いた基準や尺度、ものの見方

この4つの視点を意識して多角的な見方ができれば、1つの意見に固執することが少なくなるので、1つの経験から複数の教訓が得られ、学習のスピードも速くなるでしょう。

2 チームでリフレクションする前の留意事項

リフレクションは、人材育成の場面で使われることの多い言葉です。会社で聞いて知ったという人も多いでしょう。リフレクションをチームで行うと、他人の意見を知ることで自分の意見を相対化し、事実関係を俯瞰して見やすいといったメリットがあります。

ただし、チームでリフレクションをするなら、次の点を理解しておく必要があります。特に、会社で業務として行う場合は、せっかくの時間を無駄にしないよう事前準備も必要です。

1)会社が何を求めているのか

会社やチームの状態などによって、リフレクションの目的は違います。一般的にはメンバーの考える力や自律性を高めるために行いますが、リフレクションの日本語訳である“内省”には似た意味の言葉に、“振り返り”があります。

振り返りは、“過去のできごとなどを客観的に振り返る”という意味ではリフレクションと同じですが、リフレクションより現実に取り組んでいる業務や活動の改善にフォーカスして使われることが多いようです。会社によっては振り返りとリフレクションを区別せずに使っている場合がありますが、実際に会社・チームでリフレクションをする場合は、メンバーに何を期待するかを整理し、きちんとメンバーに説明するようにしましょう。

2)リフレクションは他のメンバーと信頼関係を築く力や対話力が求められる

チームでリフレクションをする場合、メンバー同士が本音で話し合える信頼関係が必要です。

仕事をするときは通常、感情をコントロールし、相手に自分の感情を見せないようにしています。しかし、リフレクションでは自分の意見をはっきり伝えたり、感情を表現したりしなければなりません。さらに、メンバー同士の意見が食い違った場合、感情をコントロールしながら自分と違う意見を持った人の話を聞き、話し合う対話力も求められます。

チームリフレクション

こうした能力は誰にでもはじめから備わっているわけでなく、身に付けるのは決して簡単ではありません。さらに、メンバーに役職の違いや利害の対立があることもあります。なかなか本音で話せないのを前提にし、いくつかの段階を踏むのがよいかもしれません。

例えば、メンバーが本音で話せる関係を築くことを目標にし、次のような点に配慮して始めてみてもよいでしょう。

  • 参加者を希望者だけにし、3~4人など少人数で始める
  • 定期的に、時間を決めて行う
  • 4つの視点(意見・経験・感情・価値観)を共有するだけにする
  • リフレクションの4つのレベル(結果・他責・行動・内面)のうち、結果に集中する
  • 結果に至るまでの過程で起きたできごとをチームで話し合い、時系列で並べる。起きたできごととともに、自分がどのような気持ちだったかを共有する
  • リフレクションは成果が見えにくく、時間がかかることを理解する
  • 意見が対立して感情的になることがあっても、対話の練習になったとプラスに捉える

このような点を押さえて会話をするだけでも、相手が感情的になるポイントや大切にしている価値観を知ることができ、お互いの理解が進み、だんだんと本音を言いやすくなるはずです。

また、リフレクションの手法はいくつか種類があるので、複数の方法を試してみてもよいかもしれません。

3 チームでリフレクションするときのポイント

リフレクションにあまり慣れていない人たちが、チームとして行う場合のポイントを紹介します。

また、チームでリフレクションする場合でも、一人でリフレクションする時間をとってみるとよいでしょう。チームのリフレクションでは対話が中心となり、自分自身についてのリフレクションがおろそかになることがあります。

1)メンバーの意見を取り入れる

チームでリフレクションをする大きなメリットは、他人の意見を聞けることです。一人では見逃していたできごとや自分にはないものの見方はそれだけで刺激になります。

ただし、自分と意見が異なる人の話を聞くと自分が否定されたと感じ、感情的になることがあります。冷静に話し合えず、気まずくなることもあるかもしれません。しかし、それはリフレクションをしていれば起こり得ることです。“正解は1つである”という考えから抜け出て、違う意見があることを受け入れましょう。

その上で、冷静に相手の話を聞き対話をする努力をします。対話によって自分の意見が変わったら、柔軟に思考できるようになったとポジティブに考えましょう。普段わたしたちはたくさんの会議をしますが、それは集合知によって一人で考えるよりも優れた答えを導くためです。自分の意見に固執する必要はありません。

意見にまったく共感できないと思っても、最初から決めつけず相手の話の4つの視点に分けてしっかり聞き、共感するよう努力をします。最終的に受け入れないと決めたとしても、そうした意見を踏まえて結論を出したほうが、自分が最初に持っていた意見が洗練されるはずです。

2)自分と会社の関係を見直す

リフレクションのレベルが上がってきたら、メンバー個人の価値観と、会社の理念や価値観を結びつけて考えてみましょう。わたしたちのモチベーションの源泉は、大事にしている価値観や強い感情です。なぜこの会社で働くのか、何を実現したいのかをはっきり自覚することは、困難に直面したときでも自分の理想に向かって努力する助けになるでしょう。

ただしそのためには、メンバーだけではなく会社自体のビジョン・目的がはっきりしていなければなりません。もし会社が何を目指し、どのように実現したいのかが曖昧なのであれば、まずはそれについて議論してみてもよいでしょう。

【参考文献】
ディスカヴァー・トゥエンティワン「リフレクション = REFLECTION : 自分とチームの成長を加速させる内省の技術」(熊平美香、2021年3月)
翔泳社「アジャイルなチームをつくるふりかえりガイドブック: 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット」(森一樹、2021年2月)

以上(2023年5月更新)

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【朝礼】そうだ、人は見た目だ

相手に好印象を持ってもらうためには、見た目がとても大切です。

皆さんが一緒に仕事をしたいと思う人はどのような人なのかを考えてください。やはり、だらしない服装であったり、清潔さが感じられなかったりする人よりは、身なりが清潔で、明るくハキハキしている人と一緒に仕事をしてみたいと思うでしょう。

また、話を聞くにしても、いいかげんな身なりの人の話は、なんとなく信用できない気持ちになります。これほどまでに、外見が人に与える印象は大きいのです。

「足下を見る」という言葉もありますが、初対面でもその人の服装を見れば、大体の経済力や職業など、いろいろなことを推測できます。

随分昔のことですが、中高生といった思春期のころには、外見を気にするようになります。その当時、自分では精一杯おしゃれをしたつもりなのですが、大人から見れば、だらしない髪形や服装ということがしばしばあります。当時、高校の生活指導の先生は、ある生徒に「先生は人を見た目で判断するのですか」と問われ、「そうだ。人は見た目だ」と断言しました。高校生の私は「そんなことはないだろう。言いすぎだ」と思いました。

しかし、今では、生活指導の先生が言っていたことが理解できます。世の中では、見た目で判断される(する)ことがあまりに多いためです。

人を判断する際には、第一印象が強く影響します。実際、皆さんも初対面の人と会ったときに抱いた印象は、後々まで残っているでしょう。

そして、その第一印象を決定付けるのが外見なのです。

初対面の際、名刺交換しただけでほとんど会話ができない場合、その人の印象は外見だけしか残りません。例えば、初対面がさわやかな人で好印象であれば、その印象に大きな変化はありません。そう考えると、出会った瞬間に相手に対して与える印象を良くすることは、ビジネスを良い方向に結びつけるためにとても大切であることが分かります。

では、相手に好印象を持ってもらうためにはどうしたらよいでしょうか。よく、内面が外見ににじみ出る、という表現がされますが、内面を磨き上げるのには時間がかかります。

一方、外見を変える、例えば、「制服に着替える」「スーツや礼服を身に着ける」と気持ちが引き締まる効果があります。この変化は、外見を整えることで内面にも変化をもたらしているという良い例です。

まずは、外見に気を配りましょう。具体的には「身なりを整える」「姿勢を正しくする」「礼儀正しく振る舞う」「人と会う前には鏡で服装をチェックする」などです。そうすることによって他人に与える印象だけでなく、自らの心構えも変わっていきます。

内面は外見についてきますから、いずれは、モノの考え方や日常的な態度に変化が表れてきます。外見に気を配ることで、人として成長もできるのです。

以上(2023年5月)

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画像:Mariko Mitsuda