年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、アンナ・クレシェンコさん(Flora株式会社 代表取締役)です。
「頑張ればできます」
シンプルな言葉が胸に響きます。実際に確かな結果を出してきている人の言葉だからこその説得力。この言葉を発したのは、Anna Kreshchenko(アンナ・クレシェンコ)さん(以降、本記事ではアンナさん)です。
2017年にウクライナから日本に留学したアンナさん、礼儀正しくて姿勢も良く、そして日本語がとても上手です。「上手」と表現するのがためらわれるくらい「普通」に、美しい日本語を話します。なんとアンナさん、京都大学法学部を日本語だけで卒業しています。法学部を日本語で! どれだけ勉強熱心かつ、日本語に精通しているかが分かります。
アンナさんは、2020年に日本で、Femtech(フェムテック)分野の会社「Flora株式会社」を立ち上げました。Floraでは、アプリなどを使って女性の心身の健康課題を可視化し、女性一人ひとりの「なりたい自分」の実現をサポートしています。近畿経済局のJ-Startup KANSAIのスタートアップ企業にも選定されている、日本を代表するフェムテックスタートアップです。
アンナさんたちの大きな強みは「女性たちから集めたビッグデータを持っている」ところです。このデータがあることで、toCだけでなくtoBにおいても、女性の働く環境を整える、新商品を開発するなどの文脈でアンナさんたちFloraは注目されており、提携する企業は増えています。2023年12月には、約1.5億円の資金調達を達成しました(後でもご紹介します)。
日本では今、不妊治療の保険適用範囲の拡大、卵子凍結をサポートする保険の販売開始などのニュースが日々聞こえてきます。生理や不妊治療、更年期障害とどう向き合って働くかも、少しずつオープンに話されるようになってきています。AIなどテクノロジーを使い、データドリブンで女性の健康課題を解決し生き方をサポートするアンナさんたちの取り組みは、経営者なら一度は必見。ビジネスアイデアの宝庫です。
1 女性約8万人約60万件のビッグデータ! toB向けに活用
冒頭でご紹介した「頑張ればできます」は、アンナさんが京都大学法学部を日本語で卒業したことに対して、素晴らしいですねと伝えたところ、アンナさんが言った言葉です。地に足のついた、とても真実味のある言葉です。
こうしたアンナさんの地に足のついた感じは、下記のFloraのビジョンにも表れています。

(出所:Floraのホームページ)
Floraのビジョンは、「Empowering women through data=データを通じて女性をエンパワーする」というものです。この「データを通じて」というのがポイントです。アンナさんが語る話や会社でやっていることは、ベースにデータがあるので真実味、説得力、重みが違います。
アンナさんに教えてもらったところ、世界中では39.6%もの女性がなんらかの産婦人科の病気を抱えているそうで「その数値は、実は心臓病の数値を大きく上回っています。WHOでも女性の産婦人科の病気を、目に見えないパンデミックだと言っています」と続けるアンナさん。
さらに、女性は受診率も意識も低いことを、アンナさんは問題だととらえています。
「例えば日本の場合、女性特有の課題、約1000万人が月経困難症(腹痛や倦怠感など月経に伴って起こる状態)を抱えてると推定されていますが、診断されていないのが91%です。子宮内膜症の場合も、同じく大半の女性たちは診断されていません。
根本的な課題として、女性が自分の体を理解できていない。そもそも理解する機会が与えられていないのでセルフケアや予防に取り組んでいないのです」
アンナさんがデータ(数字)とともに語る実情は、なかなかに衝撃的です。アンナさんは、こうした事態を改善し、次のような世界観を目指していると語ります。
「例えば、避妊したい、妊娠したい、生理痛から開放されたい、更年期障害をやわらげたいなど、女性一人ひとり、本当に【なりたい自分】は違う。
そこでFloraでは、自社の強みであるデータ、AI、機械学習やコンテンツを活かして、女性が自分の体の状態をちゃんと理解できる、そして女性の一人ひとりの【なりたい自分】を実現する。そういう世界観を目指しています」
まず、女性本人が自分の体を理解できていないところからして大きな課題です。「データがあれば自分の体のコンディションに気づきやすい」ということで、Floraでは、女性向けに自分の体の状態をデータで可視化&セルフケアもできるアプリを開発。月経や妊活のためのソリューションを提供するこのアプリ、なんと約8万人のユーザーがいるそうです。
●Flora App:toC向けのアプリ
https://www.flora-tech.jp/flora-app

(出所:Floraのホームページ)
アプリはUI/UXにもこだわった分かりやすい操作感。そして、AIなどを使った独自のアルゴリズムによりパーソナライズ感も実現しています。
すごいのは、それだけではありません。このアプリを通じて、ユーザーである女性のデータがたくさん集まってきているのがポイントです。それこそ思春期から更年期まで幅広く。生理周期のパターン、症状のパターン、女性特有疾患の発症可能性、どういう化粧品使っているか、どういう食べ物を食べているかなど。量としては、
女性約8万人のデータ約60万件(2023年12月)
が集まっており、ビッグデータプラットフォームを構築しています。
こうしたビッグデータは、企業向けに女性の働く環境改善ソリューションやコンサルティングなどを提供する「flora biz」や、フェムテック分野の新規事業をワンストップでサポートする「Flora Expert」など、FloraのtoB向けのサービスに活かされています。
●flora biz:法人向けサービスを大手銀行、保険会社、地域金融機関、商社など50社で導入
https://florabiz.flora-tech.jp/


(出所:Floraのホームページ)
●Flora Expert:大企業からスタートアップまで30社以上の支援実績
https://www.flora-tech.jp/floraexpert/

(出所:Floraのホームページ)
「データがあること」は、FloraのtoB向けソリューションでとても大きな意味を持ちます。
「女性の働きやすさや女性活躍は、使い回しのソリューションが存在しない」
と言うアンナさん。
その会社の働き方、あるいは工場なのか営業現場なのか、社員の年齢層、業界、業種などによって会社の文化はそれぞれ違います。その会社ごとのソリューションが必要であって、当たり前のことながら、ソリューションの使い回しはできない。そう言うアンナさんは、Floraのソリューションの強みについて、次のように語ってくれました。
「現場の人たちは何に困っているのか、まず数字で徹底的に可視化します。また弊社の場合はBtoCで女性の症例やデータも持っているので、相対化も出来ます。
そうすると、例えば、『あなたの会社の女性社員は、生理痛の割合が平均と比べて高いので、まずはその課題を解決する必要がある。この生理の課題に関連して労働損失額がこのくらい発生しているのでまずそこから着手しましょう』とか、業界的なベンチマークと数値を比べてどうか、対策を実施している会社と比べてどうか。そういうデータドリブンでその会社の状況を可視化して、それに合ったソリューションを提案する。イデオロギー的な女性活躍や人的資本経営の話をするのではなくて、ちゃんとデータ、数値に基づいて話をして対策を進めていきます。弊社はそういうソリューションを提供しています。
例えば、ある会社では、40代、特に更年期障害の社員は自分の体に関することを『相談しにくい』『話したいくない』と答えている一方で、20代の社員は逆に『話したい』と答えている例があります。この会社では、ジェネレーションギャップがあり、年代同士で理解のある関係がちゃんと成り立っていないのがまず課題なので、そこから始めましょうというデータドリブンでコンサルすることができます」
「使い回しのソリューションは存在しない」「データに基づいて会社ごとの状況・課題を把握することがまず大事」などは、「当たり前であってそれほど特別なことではない」と言うアンナさん。それらは、多くの人が、大事だと分かっていながらも実現できていないことであり、決して当たり前のことではなく、地道に実施しているアンナさんたちは本当にすごいと思います。

2 起業のきっかけを振り返る
コツコツと努力する、積み重ねる。当たり前のことを継続してやり続ける。アンナさんのこうした芯の通った歩み方は、幼いころから空手をやってきたことも関わっているかもしれません。ここでは、アンナさんのこれまでや起業のきっかけなどを振り返ってみましょう。
なんと、ウクライナ代表として空手の世界大会に出場するくらいにまで強くなったアンナさん。日本に留学してきたのは、日本の清水選手(東京五輪では銀メダルを獲得)と一緒に練習がしたいという思いもあったからといいます。空手も勉強も、アンナさんはとにかく文武両道。そして清々しい礼儀正しさ、姿勢の良さ、気持ちのまっすぐさ。これらは、アンナさんがコツコツと努力を積み重ね続けてきたからこそだと思います。
2020年に起業したアンナさん、起業のきっかけとしては、シリコンバレーに短期留学したことと、アンナさんのいとこに起きた出来事を話してくれました。
「大学2回生の時に短期留学でシリコンバレーに行かせていただいて、そこで本当にすばらし過ぎる人たちに出会って、自分も周りにそういう人がいたら人間として成長できるのかもしれない、自分も社会起業をしたいと思いました。
そのころ、私のいとこが妊娠していて産前うつを発症し、妊娠合併症にもかかりました。そして出産の後、第二子は亡くなってしまいました。こうした出来事を機に、婦人科や婦人科系のメンタルな領域には解決されてない課題が多くあることを知りました。そこで、この課題を解決するために、フェムテック分野で起業したいと思いました。妊婦さんへの支援から始まって、試行錯誤し、ユーザーにもヒアリングなどを行いながら、今のビジネスにいたっています」
空手も起業も、その後のビジネスも、データをしっかりベースにしているところも、アンナさんの、生きがいのある人生を自ら創っていく姿勢、より高いところを目指す志が背景にあることを感じます。「自分自身を『何者か』にできるのは、自分自身なのだ」「自分の人生は自分だけが創ることができるのだ」ということを体現しているように見えます。
3 仲間集め、そして今後のこと
日本で起業しビジネスを形にしているアンナさんは、日本語がとにかく堪能で、日本のことをよく知っています。女性活躍推進企業を認定する「えるぼし認定」のことなども。母国を離れ日本で起業し、そして実績を上げているアンナさん、なんと日本代表のスタートアップ企業としてシリコンバレーに行ったこともあるそうです。これは本当にすごいことではないでしょうか。その他にも、数々の受賞歴があります。

(出所:Floraのホームページ)
日本を、そして特に日本ではまだまだ多くはないフェムテック分野を代表するスタートアップ企業を創り出しているアンナさんには、本当にただただ頭が下がります。
素晴らしい実績に関しても、アンナさんは「共同創業者など仲間がいてくれるから」と言います。京都で偶然出会った生体物理工学博士の共同創業者(CTO)イワンさん、SNSで知り合った日本人のCOOなど、チームメンバーは日本にも、世界中にもいて、年代もさまざま。エンジニアも、データドリブンなFloraの要(かなめ)、データサイエンティストもいます。
「チームの半分ぐらいは海外の人で海外在住の人たちもいますし、20代の人もいますし40代の人もいますし、また顧問も入れると70代の方もいらっしゃいますので、本当にダイバーシティを体現したチームになってます」
と語るアンナさん。すばらしいですね! 今の、そしてこれからの時代の会社のあり方、働き方だと思います。
2023年12月には、約1.5億円の資金調達を達成し、豊田通商と資本業務提携をしたことを発表したアンナさんたちFlora株式会社。アンナさんが見ているのは日本だけではありません。今後は東南アジアなど、グローバルに展開していくと発表しています。
世界中の女性一人ひとりが、そして女性に限らずすべての人一人ひとりが「なりたい自分」を実現する未来。アンナさんを見ていると、強い意志で努力を積み重ね、そうした未来を本当に実現していくのだなと感じました。未来を創るアンナさん! 有り難うございます!
●フェムテック事業でシリーズA約1.5億円の資金調達!Flora株式会社が豊田通商と資本業務提携を発表(PR TIMES)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000024.000072971.html
以上(2024年3月作成)
賃上げの影響を受けにくい 「基本給非連動型」の賞与・退職金制度
目次
1 賃上げの影響範囲を把握できているか?
人手不足や物価高の影響を受け、「賃上げ」に向けた動きが活発化しています。一般的には、
- 年齢や勤続年数に対応した賃金テーブル(賃金表)や人事考課の結果に基づき、定期的(毎年1回など)に賃金を引き上げる「定期昇給」
- 賃金テーブルを書き換えて賃金水準を一斉に引き上げる「ベースアップ」
のいずれか(または両方)で賃上げを実施する会社が多いです。

経営者は「頑張っている社員に報いたい」と思って賃上げを検討しますが、人件費への影響は無視できません。例えば、
基本給をベースに賞与・退職金の支給額を決める「基本給連動型」の場合、賃上げによって基本給が上がると、賞与や退職金の支給額まで変わる可能性
があります。一度賃上げをすると、簡単には賃金を引き下げられないので、賃上げはその影響範囲を把握した上で、慎重に実施する必要があります。そこで、この記事では、
賃上げの影響を受けにくい「基本給非連動型」の賞与・退職金制度
を紹介します。
2 基本給連動型と基本給非連動型
基本給連動型では、基本給をベースに賞与や退職金を計算します。具体的には、
- 賞与の支給額=賞与支給時の基本給×支給率(支給月数や資格等級に応じた係数)
- 退職金の支給額=退職時の基本給×支給率(退職事由や勤続年数に応じた係数)
などのように計算します。基本給がベースなので、前述した通り賃上げの影響を大きく受けます。特に「能力や会社への貢献度が高い社員には、賞与や退職金を手厚くしたい」と考えている場合、注意が必要です。
例えば、ベースアップを実施する場合、全社員の基本給が一斉に引き上げられるので、
能力や会社への貢献度が低い社員であっても、ベースアップに伴い賞与や退職金の支給額が大きくなる
という問題が出てきます。定期昇給の場合は、人事考課の結果を昇給に反映することもできますが、基本給に占める年功給(年齢や勤続年数に基づく部分)の割合が大きいと、人事考課の結果を反映しにくくなります。
一方、基本給非連動型では、
会社の業績や社員の勤務成績など、基本給以外の要素をベースに支給額を計算
します。制度の内容にもよりますが、賃上げの影響を受けにくく、能力や会社への貢献度を支給額に反映しやすい面があります。この記事では、代表的な制度として「業績連動型賞与」「ポイント制退職金制度」を紹介します。
3 基本給非連動型の例その1:業績連動型賞与
業績連動型賞与では、会社の業績と社員の勤務成績をベースに賞与を計算します。計算方法はさまざまですが、例えば、賞与原資を会社の業績によって決定するという前提のもと、次のような計算式にすれば、業績や勤務成績を賞与に反映できます。
賞与の支給額=賞与原資を踏まえた基準額×社員個人の勤務成績に基づく支給率
賞与原資は、次のように会社が重視する業績指標に一定率を掛けて計算します。一般的には、営業利益や経常利益などの「利益」がよく用いられます。部門ごとに決定する例や会社の業績と部門の業績の双方を勘案する例もあります。
- 「売上高」基準(売上高、生産高など)
- 「利益」基準(営業利益、経常利益、当期純利益など)
- 「付加価値」基準(付加価値)
- 「キャッシュ・フロー」基準(営業CFなど)
- 「株主価値」基準(ROA、ROE、ROIなど)
支給率は、人事考課などの勤務成績を基に設定します。
- 人事考課(A評価なら配分率○%など)
- 資格等級(○級なら配分率○%など)
- 出勤率(週○時間勤務なら配分率○%など)
4 基本給非連動型の例その2:ポイント制退職金制度
ポイント制退職金制度では、一定のルールに基づいて社員にポイントを付与し、そのポイント累計にポイント単価と支給率を掛けて退職金を計算します。
退職金の支給額=退職時のポイント累計×ポイント単価(1ポイント当たり1万円など)×支給率(退職事由や勤続年数に応じた係数)
ポイントには次のような種類があり、一般的に複数のポイントを組み合わせて運用します。
- 勤続ポイント(勤続年数に応じて付与)
- 等級ポイント(資格等級などの格付けに応じて付与)
- 業績ポイント(会社の業績の良し悪しに応じて付与)
- 職務ポイント(個人の業務の難易度や責任に応じて付与)
- 個人ポイント(人事考課の結果などに応じて付与)
ポイントの組み合わせ次第で、例えば「等級ポイントや個人ポイントの比率を上げて、能力重視の退職金制度にする」「職務ポイントの比率を上げて、職務重視(ジョブ型)の退職金制度にする」といった運用が可能です。
支給率は、例えば「勤続5年で自己都合退職した場合は○%」など、退職事由や勤続年数に応じた係数を設定します。この辺りは、一般的な退職金制度と変わりません。
5 労働条件の不利益変更に注意
賞与・退職金制度を変更する場合、付いて回るのが「労働条件の不利益変更(労働条件を現状よりも引き下げること)」の問題です。例えば、
現状の制度であれば年齢や勤続年数などに基づいて確実にもらえる額があるのに、制度変更によってその部分の額がもらえなくなったり減額されたりする可能性がある場合
などが不利益変更に当たります。
通常、賞与や退職金のルールは就業規則(本則、賃金規程、退職金規程など)で定めますが、労働条件の不利益変更を行う場合、原則として各社員との合意が必要です。例外的に、就業規則を変更して不利益変更を行うことも可能ですが、その変更は合理的である必要があります。具体的には、次の要素に照らして合理性を判断します。
- 社員の不利益が大き過ぎないか
- 労働条件を変える必要があるか(経営上の理由など)
- 内容は適切か(変更の相当性、不利益の緩和のための経過措置、一般的な同業他社の状況など)
- 労働組合等との交渉を行っているか
- その他、就業規則の変更に当たって考慮すべき事情を見落としていないか
年齢や勤続年数などによって確実にもらえていた部分の額がもらえなくなる(または減額される)というのは、金額によっては大きな不利益となり得ます。ですから、
- 業績連動型賞与の場合、業績に関係なく支給する最低保障額を決めておく
- ポイント制退職金制度の場合、等級ポイントや職務ポイントの比率を高めにしつつも、勤続ポイントもある程度計算に含める
など不利益を小さくする措置や、段階的に制度を変更するなどの経過措置を検討しましょう。
以上(2024年3月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)
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画像:ChatGPT



























