雇用している労働者が仕事中のけがで休業した場合、会社は所轄の労働基準監督署に「労働者死傷病報告」を提出しなくてはなりません。しかし、労災保険の給付申請は行っても、労働者死傷病報告の提出を忘れる中小・零細企業が少なくありません。本稿では、労働者死傷病報告について詳しくお伝えします。
「経費」「費用」「損金」とは? 似ているけど決定的に違う意味
目次
1 理解していますか? 「経費」で落とすことの大切な意味
「この支払いは経費で落ちる?」
経営者や社員が経理・会計担当者によく聞く内容ですが、この質問の意図は立場によって大きく違います。
社員がこの質問をするのは、「会社のお金で経費を精算できるか」、つまり自腹を切らずに済むかを確かめたいからでしょう。一方、経営者の場合は、社員と同じように経費精算できるかを聞く意味合いもありますが、それ以上に「1円でも多くのお金を設備投資や人材採用に使いたい」という思いがあります。
では、なぜ支払いが経費で落ちると事業のために使える資金が増えるのでしょう?
経費で落ちるということは、会社のお金で支払うということですから、逆に事業で使えるお金は減りそうなものです。
このカラクリは会計制度の違いからきていて、経営者は「税務会計」を意識して質問をしています。
一体、どういうことなのか。詳しく見ていきましょう。
2 中小企業の会計は税務会計が基準
会計には「財務会計」「税務会計」「管理会計」の3つがあり、目的や作成される書類などが違います。

3つの会計の関係性を示すと、次のようになります。

一般的な中小企業には、上場会社のように財務諸表を広く外部に公表する義務がありません。一方、納税の義務は会社の規模に関係なく生じます。そのため、
中小企業の会計は税務会計が中心になる
ことになります。
なお、管理会計は社内の意思決定のために行うものなので、実施するか否かは任意ですし、納税額の計算にも直接的な影響はありません。
会計の種類とそれぞれの役割がお分かりいただけたと思います。ここからは、財務会計と税務会計という、2つの制度会計を中心に説明していきます。
3 「経費」「費用」「損金」の正しい定義とは?
早速、財務会計と税務会計でもうけを計算する仕組みを確認してみましょう。

財務会計では「利益」「収益」「費用」、税務会計では「所得」「益金」「損金」の関係になります。これは言葉の違いだけではありません。多くの項目はほぼ同じ取り扱いではあるものの、一部、取り扱いが違うものがあり、それこそが「税務調整」の対象となります。
具体的には、税務計算では財務会計上の収益・費用に一定の調整(税務調整)を加えて、益金・損金とし、所得を計算する流れになります。
このあたりの詳細は、以下の記事で紹介しているので、ご確認ください。
ところで、皆さんは疑問に感じませんか?
財務会計にも税務会計にも「経費」という言葉が出てきません。実は、
経費とは、財務会計上の費用の一部を指す会計用語
なので、先のもうけの計算では登場しなかったのです。ただし、個人の場合は所得税法上の用語として経費という言葉が使われます。確定申告をしたことがある方にはなじみが深いでしょう。
経費と費用と損金の関係を示すと、次のようになります。

まとめると、次のようになります。
経費とは、一般的に財務会計上の費用の一部を指す会計用語で、費用のうち販売や管理目的で支払われる支出を指すことが多い。
費用とは、財務会計上の利益を計算する上で、マイナス項目となる支出のこと。
損金とは、税務会計上の所得を計算する上で、マイナス項目となる支出のこと。
ここで冒頭の質問に戻ります。経営者は税務会計を意識して、「この支払いは経費で落ちる?」と聞いているわけですが、その真意は次の通りです。
経費が増えると費用が大きくなる。その中で損金に算入できるものがあれば、税務会計上の損金も大きくなって所得が小さくなり、税金負担が軽減される。その分、会社により多くのお金が残るので事業に使える。
法人税は、前述した「所得」に税率を乗じて計算するので、所得が小さければ税額は減少するのです。ただし、経費が増えれば「必ず」税負担が減少するわけではなく、損金になるものは限られています。
次章で、損金に算入できるか否かの判断に迷いやすい代表的な費用として、福利厚生費、交際費、備品などの購入費、減価償却を取り上げます。
4 福利厚生費、交際費、備品などの購入費、減価償却の損金算入
1)福利厚生費
福利厚生費とは、社内のコミュニケーションの円滑化や社員のモチベーション向上のために行われるイベント開催費や物品購入費などです。
基本的に、福利厚生費は全額を損金に算入できます。ただし、支出の目的が曖昧だったり、金額が一般的に見て高額すぎたりする場合、福利厚生費とは認められず、損金に算入できません。福利厚生費の詳細は、次の記事を参照ください。
2)交際費
交際費とは、取引先など社外の人との飲食費や、贈り物をした場合の物品購入代などです。
交際費は、原則として損金に算入できません。ただし、飲食費については、参加者1人当たりの代金が1万円以下(2024年3月31日以前のものは5000円以下)であれば、交際費ではなく、会議費などとして損金に算入できます。
また、資本金が1億円以下である中小企業の場合、社外の人との飲食費の50%までの金額(飲食費の金額を問わない。社内飲食費は除く)、もしくは飲食費に限らず年間800万円までの交際費のどちらか一方を選択し、損金に算入できる特例があります。交際費と会議費の詳細は、次の記事を参照ください。
3)備品などの購入費
備品などの購入費は、金額の大小や、どのくらいの期間使い続けられるものかなどによって考え方が変わってきます。
例えば、使用可能期間が1年未満、または取得価額が10万円未満のものであれば、消耗品費として、全額をその物品を使い始めた日に損金に算入でます。この他にもさまざまなルールがあるので、備品などの購入費の詳細については、次の記事を参照ください。
4)減価償却
減価償却とは、資産計上される備品など(以下「固定資産」)の損金処理の方法です。
会社の成長・発展のためには設備投資が欠かせず、数千万や数億円を使うこともあります。このように高額な固定資産については、使用の実態に合わせて、少しずつ損金処理していくルールがあり、それが減価償却です。
固定資産の減価償却は、種類・仕様・用途など、さまざまな要素ごとに細かく減価償却方法や償却期間(耐用年数)が決まっていて、その通りに計算しなければなりません。
ややこしいのは、財務会計では認められるが、税務会計では認められない方法などがあるため、税務会計の限度額を超えて減価償却費を計上してしまうことがあります。しかし、税務会計の限度額を超えた部分については損金に算入できないので注意が必要です。減価償却の詳細については、次の記事を参照ください(備品などの購入費のところで紹介しているのと同じ記事です)。
5 「経費・費用」と「損金」と経営者に必要な視点
いかがでしたか。普段何気なく使っている「経費」「費用」「損金」という言葉には、明確な違いがあることをお分かりいただけたと思います。
そして、「この支払いは経費で落ちる?」という質問には、単に会社から経費分のお金が戻ってくるということだけではなく、「それが損金に算入できたら税務会計上の所得が減り、税負担の減少につながる」という意味もありました。
一方、税負担を減らすという点だけに重きを置きすぎことは危険です。確かに損金に算入できれば税負担は減少します。しかし、そもそも備品などを購入するために支払った費用が会社に戻ってくるわけではないので、当たり前のことですが、会社の成長に効果のないお金の使い方、つまり無駄遣いはしてはいけません。
事業に必要な費用は使わなければなりませんが、何が必要で、何が不要なのかを判断するのは経営者です。しかも、その基準は会社の経営ステージによって変わります。経営者の計数感覚が試されるところです。
以上(2024年3月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)
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取引先との飲み代は損金になる? 交際費や会議の取り扱いと「5000円ルール」の変更
目次
1 交際費、会議費、福利厚生費の違いとは?
「取引先との食事会や、社員との懇親会をしたときの飲食費は経費で落ちるのか(損金に算入できるのか)」。とても気になるところです。
損金に算入できるとすると、候補は交際費、会議費、福利厚生費となりそうですが、税務上、それぞれの取り扱い(損金に算入または不算入)は厳密に決まっています。まずはそのルールを以下のチャートで確認してください。
なお、交際費は「交際接待費」と呼ばれることも多いですが、交際接待費は法律上の用語ではなく俗称です(正式には「交際費等」)。交際費には、文字通り、接待などに伴う費用も含まれるので、このように呼ばれるようになったのでしょう。

このように、交際費や会議費は、それが会議に該当するのかどうか、参加者は社員のみかどうかなど支出ごとに判断することになっています。
以降で、交際費や会議費などの取り扱いついて個別に紹介していきます。いわゆる「交際費の5000円ルール」が変更されることについても説明しています。なお、福利厚生費の取り扱いは以下の記事で紹介しているので、ご確認ください。
2 交際費は原則、損金に算入できないが…
1)交際費とは
税務上、交際費とは「交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人が、その得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のために支出する費用」をいいます。この記事では読みやすさを考慮し、税法上の交際費等を交際費と記載しています。
交際費の具体例には、取引先を接待するための飲食費、お中元やお歳暮代、手土産代などがあります。支出の対象は取引先などの社外の人に限られず、役員や社員など社内の人も含まれます。そのため、取引先と一緒に社員が数名参加して食事会をした場合は、取引先の分だけでなく、社員の分も交際費に該当します。
2)「交際費の5000円ルール」が「交際費の1万円ルール」に変わる
交際費は基本的に損金に算入できません。ですが、「この費用って交際費になる?」と聞く人がいます。質問の意図は経費で落ちるか、つまり損金に算入できるかということですが、実は質問内容とその意図があべこべになっています。「この費用って交際費になる?」は、「この費用って経費で落ちないよね(損金にならないよね)?」という意味になってしまうからです。ですから、今後はシンプルに「この費用って経費で落ちる?」とするのがいいですね。
さて、交際費は基本的に損金に算入できないと説明しましたが、例外があります。
飲食費に該当する交際費は、
1人当たり1万円以下(2024年3月31日以前のものについては5000円以下)
であれば、交際費の範囲から除かれ、会議費などとして損金に算入できます。そして、いわゆる「交際費の5000円ルール」とは、1人当たりの交際費を5000円以下に抑えれば損金に算入できることを示したビジネスの決まり文句のようなものでした。このルールは2024年4月1日からは変わり、「交際費の1万円ルール」になります。
3)中小企業は交際費を全額損金に算入できる?
ここまで交際費の扱いを説明してきましたが、中小企業はあまり気にしなくてもよいでしょう。なぜなら、中小企業には次の「交際費課税の特例措置」があるからです。
資本金が1億円以下の中小企業は、取引先など社外の人との飲食費の50%までの金額(飲食費の金額を問わない。社内飲食費は除く)、もしくは飲食費に限らず年間800万円までの交際費のどちらか一方を選択し、損金に算入できる。
また、飲食費の中には、料理そのものだけでなく、テーブルチャージ、会場代など、飲食をするために必要な費用が含まれる。
中小企業の交際費が年間800万円を超えることはあまりないでしょう。そのため、多くの中小企業では、交際費の全額が損金に算入されています。むしろ、中小企業の場合は、金額以上に、その飲食や行為などの目的が業務内のものなのか、業務外(私用)のものなのかを判断するシーンが多くなります。
3 会議費は全額を損金に算入できる
税務上、会議費とは「会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する飲食物を供与するために通常要する費用」をいいます。
取引先との商談、社内会議などで提供された飲食費、会議で使用された会場代や資料代などの費用が対象です。支出の対象者は、交際費と同様、クライアントや取引先、社員などが含まれます。
こうした会議費は、全額損金に算入できます。具体的な金額の基準はなく、「通常要する費用」が対象となります。前述した通り、1人当たり1万円以下(2024年3月31日以前のものについては5000円以下)の飲食費は、会議費として損金に算入できます。会社によっては、雑費など会議費以外の科目を用いていることもあります。
以降では、ビジネスでありがちなケースを取り上げ、交際費または会議費に該当するか否かを紹介していきます。
4 取引先とゴルフに行った際の費用は交際費に該当するのか?
取引先とゴルフをしたり、その流れで食事をしたりすることがあります。この場合の交際費と切り離し、食事代を会議費などとできるのでしょうか?
取引先とのゴルフのプレー代など、全ての費用は交際費に該当します。一連の行為のうち、「飲食」の費用だけを切り出して会議費などとすることはできません。
交際費の対象外となる飲食費(損金に算入できる飲食費)は、あくまで「飲食」が目的でなければならず、ゴルフなどが目的となっている場合はこれに該当しません。
5 取引先への手土産代は交際費に該当するのか?
取引先を訪問する際に、お菓子などの手土産を渡すことがあります。お中元やお歳暮代なども同様です。この場合の費用は交際費に該当するのでしょうか?
お菓子の購入代は交際費に該当します。ただし、食事会をしたお店の料理を手土産として持ち帰る場合、1人当たり1万円以下(2024年3月31日以前のものについては5000円以下)であれば、会議費などに該当します。
6 1次会と2次会の合計が、1人当たり1万円を超えたら交際費に該当するのか?
取引先との食事会で、1次会、2次会と続くことがあります。そこで、1次会と2次会の費用の合計が1人当たり1万円を超えた場合、会議費ではなく、交際費に該当するのでしょうか?
1次会と2次会の合計が1人当たり1万円を超えても、各店舗での支払いが1人当たり1万円以下であれば、交際費ではなく、会議費などに該当します(ここでいう1万円は、2024年3月31日以前のものについては5000円以下となります)。
ちなみに、「3次会までいくと、その費用は会議費などにできない」という話を聞きます。結論としては、3次会であっても条件さえ満たせば会議費などとして損金に算入できます。とはいえ、1次会、2次会、3次会と進むごとに参加人数は減り、個人的な付き合いの性質が強まってきます。ですから、業務外(私用)の費用として、会社の経費としては認められないケースも少なくありません。
7 会議の後の飲食費は、交際費に該当するのか?
会議の後に、参加メンバーで食事をすることがあります。この場合の費用は、会議費ではなく交際費に該当するのでしょうか?
会議の後の飲食費は会議費とはならず、交際費に該当すると考えられます。会議費は、あくまでも会議中の飲食が対象であり、会議後の飲食は懇親会や慰労会などの意味合いが強いからです。
なお、会議の開催場所については具体的な定めがないので、飲食店で会議をしても問題ないと考えられます。
いずれにしても、会議費として損金に算入する場合、会議の実態が問われます。税務調査で指摘を受けたときのために、議事録などを残しておくとよいでしょう。
8 食事会に向かう際のタクシー代は交際費に該当するのか?
取引先を接待するお店までタクシーで移動したり、取引先に帰りの「お車代」を渡したりすることがあります。この場合の費用は旅費交通費ではなく、交際費に該当するのでしょうか?
取引先を接待するお店までタクシーで移動した場合のタクシー代や、帰りの際に渡した「お車代」は旅費交通費ではなく、交際費に該当します。これらの支払いは接待のために必要なものとみなされるからです。
9 被災した取引先に送った支援金は交際費に該当するのか?
2024年1月に発生した能登半島地震など日本では地震などの災害が多く、取引先が被災してしまうケースもあるでしょう。被災した取引先に支援金を送った場合、交際費に該当するのでしょうか?
復旧や救援のための支援金は、基本的には交際費には該当せず、「災害見舞金」などに該当します。災害見舞金などは損金に算入できます。ただし、支援金の金額が被災状況や取引規模などから見て、あまりにも多額だと、贈与などに該当する恐れがあるので注意が必要です。
以上(2024年3月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)
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役員報酬を損金に算入するための基本ルールと役員住宅を使った税金対策
目次
1 役員報酬を損金に算入できなければ資金繰りに影響が出る?
役員報酬は、従業員給与と違い、税務上のさまざまな取り決めがあります。例えば、従業員給与は基本的に全額を損金に算入できますが、役員報酬は毎月同額でなければならないなど、一定の方法で支払われたものでなければ損金に算入できません。
役員報酬は金額が大きいので、取り扱いを間違えて損金に算入できないと想定外に税負担が重くなり、資金繰りにも影響します。このような事態を避けるためにも、役員報酬に関する税務上の取り扱いを正確に把握しましょう。
また、役員関連で活用できる税金対策に「役員が居住用に借りている自宅の社宅化」があります。一般的には社宅家賃の5割程度が損金に算入できるといわれています。ただし、一定の取り決めなどが必要になりますので、決められた取り決め通り正確に実施することが大切です。
この記事では役員報酬の基本的なルールと、役員社宅に関する税金対策について分かりやすく紹介していきます。
2 損金に算入できる3つの役員報酬
税務上、損金算入できる役員報酬は、以下のいずれかに限られています。なお、業績連動給与を損金に算入できるのは有価証券報告書の提出企業(いわゆる上場企業)などに限られるので、中小企業は、定期同額給与か事前確定届出給与で支給するのが通常です。
- 定期同額給与
- 事前確定届出給与
- 業績連動給与
仮に、いずれにも該当しない役員報酬を損金に算入して確定申告をしてしまった場合、税務調査などで指摘を受け、役員報酬分に係る法人税を支払うことになります。役員個人には支給時に所得税が課税されているので、損金に算入できないこの役員報酬には法人税と所得税が二重に課されることになります。
3 定期同額給与とは?
定期同額給与とは、毎月同額を給与として支給するものです。例えば、3月決算の会社の場合、4月から翌年3月までの12カ月の支給時期における支給額が同額でなければなりません。

定期同額給与の金額を変更できるのは、原則として事業年度の開始から3カ月以内に限られます。例えば、3月決算の会社であれば、6月30日までに改定されて支給される役員報酬が該当します。役員報酬の支給金額変更には株主総会での普通決議が必要です。

なお、役員の職制上の地位の変更など一定の理由(臨時改定事由や業績悪化改定事由)がある場合は、期中でも役員報酬の減額が認められ、毎月同額でなくなった場合も全額損金として認められます。とはいえ、損金に算入するためには、定められた期間内の支給額を同じ額にする必要があります。
では、事業年度の開始から3カ月が過ぎ、期中に増額・減額をした場合(臨時改定事由や業績悪化改定事由がない場合に限る)はどうなるのでしょうか。答えは次の通りです。
- 3月決算の会社が、12月以降の役員報酬を月20万円「増額」した場合、「20万円×4カ月間(12月~3月)=80万円」を損金に算入できない
- 3月決算の会社が、12月以降の役員報酬を月20万円「減額」した場合、「20万円×8カ月間(4月~11月)=160万円」を損金に算入できない

また、役員報酬は給与所得であるため、法人税のルールにかかわらず所得税の対象になります。つまり、損金とすることができない役員報酬額の部分には、法人税と所得税が二重に課されることになります。
4 事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、いわゆる役員賞与に当たり、支給するためには原則として一定の届出が必要です。
具体的には、株主総会等の決議をした日から1カ月以内など、定められた期限内に税務署へ届出書を提出し、その届出書に記載した対象者・支給日・支給金額の内容通りに支給します。手続きは煩雑ですが、支給額や支給時期を自由に決めることができます。ただし、届出書に記載した対象者・支給日・支給金額の内容通りに支給しなければ、その全額が損金に算入できなくなってしまうので注意が必要です。
事前確定届出給与のイメージ(四半期支給の場合)は次の通りです。

また、事前確定届出給与を前述した定期同額給与と組み合わせて、役員賞与を設定する場合があります。

5 役員報酬を変更する場合のスケジュール
ここまで触れてきたように、定期同額給与と事前確定届出給与を変更する際は、その期限を守らなければなりません。3月決算の会社を例にとると、役員報酬を変更するスケジュールは次のようになります。

3月決算の場合、定時株主総会は6月末までに開催することになっています。定期同額給与の変更は、原則として事業年度開始の日から3カ月以内なので、6月末が期限です。
事前確定届出給与は、定時株主総会による決議から1カ月以内、または事業年度開始の日から4カ月以内のいずれか早い日が届出期限です。例えば、6月20日に株主総会が開催された場合、7月20日と7月31日を比較し、早い日である7月20日が届出期限となります。
6 ルールを守っていても高額すぎるとみなされた部分は損金に算入できない
ここまで紹介してきたルールにのっとって役員報酬を支給していても、役員の職務内容や会社の業績などと照らし、高額すぎるとみなされた場合、その高額とみなされた部分の金額は損金に算入できません。
支給額が高額かどうかの判断は、金額のみで判断されるわけではなく、実質基準と形式基準の2つの基準に従って総合的に判断されます。
- 実質基準:役員の職務内容、会社の収益状況、従業員に対する給与の支給状況、類似する会社の役員給与の支給状況などから判断する
- 形式基準:定款の定めまたは株主総会の決議によって決定した役員報酬の金額の限度額に照らす
役員報酬の支給額を変更する際には、その検討過程を詳細に説明できるよう、議事録などの関係書類を作成しておくようにしましょう。
7 損金に算入できる役員社宅の賃借料
役員が居住用に借りている自宅については、通常、役員個人が賃貸借契約をしています。これを会社の賃貸借契約に変更すると、会社が借りた住居を社宅として役員に貸し付けるかたちとなり、会社が支払う家賃と役員から受け取る家賃の差額を損金に算入できます。このメリットは大きく、
一般的に、社宅家賃の5割程度が損金に算入できる
といわれます。

ただし、役員の家賃負担額には一定の基準があります。役員は、国税庁が定めた「一定額の家賃」以上の額を会社に支払うことで、税務署に社宅であると認めてもらえます。この定められた額より少ないと、上記の損金に算入できる部分は損金に算入できない役員報酬とみなされ、課税対象になります。
具体的には、役員が支払う家賃については、床面積などから次の3つの住宅に区別して計算されることになっています。
- 小規模な住宅
- 小規模な住宅に該当しない住宅
- 豪華社宅
1)小規模な住宅
小規模な住宅とは、建物の法定耐用年数が30年を超える場合は床面積が99平方メートル以下、30年以下の場合には、132平方メートル以下の住宅のことです。次の1~3の合計額が、役員が支払う家賃になります。
- (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
- 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))
- (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%
2)小規模な住宅に該当しない住宅
小規模な住宅に該当しない場合、次の2種類に分けて役員の家賃を計算します。
1.自社所有の社宅の場合
次のa.とb.の合計額の12分の1
a.(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%(建物の法定耐用年数が30年を超える場合は10%)
b.(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%
2.他から借りた住宅を社宅にする場合
会社が支払う家賃の50%の金額と1.で算出した金額の、いずれか多い金額
3)豪華社宅
豪華社宅は家賃の全額が役員の負担となるので、税金対策ができません。豪華社宅に該当するか否かは、
床面積が240平方メートルを超える場合で、かつ物件価格・家賃・内装や外装の設備の状況などを考慮した総合的判断
となります。また、床面積が240平方メートル以下でも、プールなど役員の個人的な嗜好が反映されている設備があると豪華社宅とみなされます。
なお、家賃負担額以外にも、光熱費、駐車場代などは、役員本人の負担となり、もし会社が負担すると役員報酬として課税対象になります。
留意点も多少ありますが、居住用の自宅を社宅化することで役員報酬を減額すれば、会社が負担する社会保険料を抑えることができます。また、役員個人としての家賃負担が軽減されるので、結果として手取り額が増えるのと同じ効果を得られます。
以上(2024年3月更新)
(監修 エスコート税理士法人 税理士 林孝行)
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棚卸資産や固定資産の評価損は損金に算入できるのか?
1 評価損に関する財務と税務の違い
会社にはさまざまな資産があります。例えば、販売目的の棚卸資産、商品を製造するための機械装置、オフィス家具やパソコンなどの器具備品などです。これらの資産(棚卸資産を除く)は、通常1年以上の長期間にわたって使用し続けます。また、棚卸資産についても、売れ残った場合は在庫として、長期間保有し続けることがあります。
長い間、固定資産を使ったり、棚卸資産を保有したりすると、経年劣化はもちろん、新製品の発売や新技術の開発などによって価値が陳腐化することもあります。会計上、これらの価値の減少は「評価損」として財務諸表上に反映します。
一方、税務上は、原則として評価損は損金(税務上の費用)に算入できませんが、特定の事情がある場合は例外として、損金に算入できます。それは「もう売れそうにないから」「技術が古くなってしまったから」といった経営者の感覚で決めるものではなく、明確なルールがあるので、確認していきましょう。
2 棚卸資産の評価損は損金に算入できるのか?
1)棚卸資産の評価損を判断するルール
棚卸資産の評価損は、次のいずれかの事実によって価値が減少した場合に限り、損金に算入できます。

このチャートを見ると、「著しく損傷した」や「著しく陳腐化した」という曖昧な表現になっていて判断に迷います。特に「陳腐化」の判断は難しいところですが、
資産そのものに欠陥が生じたわけではないが、経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、今後回復しないと認められる状態にあること
をいいます。
2)棚卸資産の評価損を損金に計上できるケース
「著しく陳腐化したこと」の例として、
流行がある季節商品で、これまでの実績などから、今後、通常の価額では販売することができないことが明らかな場合
があります。
例えば、はやり廃りが激しいアパレル商品や、モデルチェンジが早いパソコンなどが売れ残ってしまった場合、
「今後、通常の価額では販売することができない」という過去の実績
が必要となります。そのため、バーゲンセールで割引販売しても売れ残ってしまった事実を正確に記録しておくとよいでしょう。
なお、あくまでも「著しく陳腐化したこと」が要件なので、物価変動、過剰生産などを理由にバーゲンセールをしても、評価損は損金に算入できません。
3)必ず損金経理の処理をする(評価損として会計処理を行う)
棚卸資産の評価損を損金に算入するには、損金経理が要件となっています。損金経理とは、費用・損失として会計処理をすることをいいます。つまり、
評価損は損失(売上原価ではない)として財務諸表上に計上
しなければなりません。
この要件が問題となるのは、経営者や現場担当者が陳腐化して売れないと判断した商品を、誤って売上原価として計算してしまった場合です。会計上、この商品は、評価損として売上原価とは別に処理しなければなりませんが、売上原価に含まれてしまうことになります。
売上原価は、あくまで販売に対応した商品などの原価であり、評価損を含めて処理してはいけません。そのため、期末の在庫にカウントして、売上原価には含めず、評価損として別の項目で損益計算書に記載しなければなりません。最終的な利益(所得)に与える影響は同じであっても、会計上の処理を正確に行うようにしましょう。
3 固定資産の評価損は損金に算入できるのか?
1)固定資産の評価損を判断するルール
固定資産の評価損は、次のいずれかの事実によって価値が減少した場合に限り、損金に算入できます。なお、固定資産には、機械装置や器具備品のような有形固定資産だけでなく、ソフトウエアのような無形固定資産も含みます。

棚卸資産と同様、固定資産も「著しい損傷」や「著しい変化」という曖昧な表現がなされているので、実務上の判断が難しくなります。
なお、「所在場所が著しく変化したこと」とは、地盤沈下や土壌汚染などが生じたことで地価が下落した場合などをいい、バブル崩壊やリーマンショックのような経済環境の悪化による地価変動などは含まれません。
また、会社が意図的に評価損の計上や、その金額を調整することを防ぐために、次のような事情に基づく評価損は損金に算入できません。
- 過度の使用又は修理の不十分等により当該固定資産が著しく損耗していること
- 当該固定資産について償却を行わなかったため償却不足額が生じていること
- 当該固定資産の取得価額がその取得の時における事情等により同種の資産の価額に比して高いこと
- 機械及び装置が製造方法の急速な進歩等により旧式化していること
2)固定資産に係る評価損の留意点
1.写真など価値が低下したことを客観的に証明できる資料を保存する
固定資産の評価損については、その固定資産の状態や使用状況などによって評価損を損金に算入できるか否かを判断します。税務調査などで、評価損の正当性を証明するためには、評価損を計上した時点の状況を正確に、かつ客観的に説明できなければいけません。固定資産がどのような状態にあるのか、写真や詳細な稼働記録など、価値が低下したことを客観的に証明できる資料を保存しておくことが大切です。
2.経済的な環境変化などを理由に評価損を計上しない
電化製品の新モデルが発売された場合など、既存の製造用機械装置の価値が著しく低下した場合(陳腐化)、その機械装置に係る評価損は損金に算入できません。
棚卸資産とは違い、固定資産は減価償却によって毎期費用計上されており、価値の低下は減価償却の範囲内で行うことになっています。
固定資産の価値が著しく低下した場合(陳腐化)には、評価損としてではなく、耐用年数の短縮(税務署長の承認が必要)により、その事業年度に損金算入できる減価償却費の額を増やす方法があります。
以上(2024年3月更新)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)
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全額が損金算入できる福利厚生費。押さえておきたいルールとは?
目次
1 福利厚生費は一石二鳥。社員は喜び、税負担も減る!
福利厚生費は、社員のモチベーション向上やコミュニケーションの円滑化のために必要な費用です。この支出には、「働きやすい会社にしたい!」という経営者の思いや、社員への感謝の気持ちが込められています。
税金計算においても、福利厚生費は全額を損金に算入できます。つまり、
福利厚生費を使えば社員が喜び、所得を減少させることもできて一石二鳥になる
のです。
ただし、経営者は福利厚生の目的で支出したつもりでも、全てが損金に算入できるわけではなく、あくまでも税法のルールにのっとって福利厚生費として認められるかが決まります。。例えば、社員の昼食代を負担した場合、会社の飲み会で2次会や3次会に行った場合などはどうなのでしょうか。
この記事では、迷いやすい福利厚生費の判断基準や、シーン別の留意点を紹介していきます。
2 損金に算入できる福利厚生費とは?
福利厚生費について、税法上の明確な定義はありません。しかし、税金の計算上、福利厚生費を損金に算入するには、次の要件を全て満たす必要があります。
- 会社の全社員(役員を含む。以下「社員等」)を対象とするものであること
- 支出する金額がおおむね一律で費用が社会通念上(常識的に)高額ではなく、通常要する費用として一般的な範囲内であること
- 原則、現金支給ではないこと
明確な金額の基準がなく、「社会通念上」や「通常要する費用として一般的な範囲内」など曖昧な面がありますが、とにかく上記の全ての要件を満たさないと、原則、福利厚生費として損金に算入できません。
なお、福利厚生費にならない費用は、支出の背景や用途などをもとに他の費用に振り分けられます。例えば、社内の特定の人だけに弁当を支給した場合や、豪華過ぎる懇親会などは、税務上の交際費として処理します。交際費の取り扱いは福利厚生費とは大きく異なり、一部しか損金に算入できなせん。
また、懇親会の費用などを、直接、社員等に現金で支給している場合、それは給与の一部支給となり、給与課税(源泉所得税として徴収)されます。福利厚生費と給与課税の関係については、次の記事でも紹介しています。
3 新年会や忘年会の飲み代は損金に算入できるか?
1)飲み会の費用に関する税務上の取り扱い
新年会、忘年会、歓迎会、送別会など、会社ではさまざまな飲み会が開かれます。いずれも社内の親睦を目的としたイベントですが、その費用を損金に算入するためには、前述した「損金に算入できる福利厚生費の要件」を全て満たす必要があります。
そのため、特定の社員等だけを対象にした懇親会や、残業で会社に残っている社員等を連れて飲みに行った場合(全員が残業している場合を除く)などは、社内の飲み会とはいえ、福利厚生費ではなく交際費となり、損金に算入できません。
2)2次会、3次会が実施された場合
そのときの流れで、飲み会が2次会、3次会と続くこともあります。この場合、福利厚生費として損金に算入できるかどうかの判断基準のポイントは、
前述した「損金に算入できる福利厚生費の要件」に加えて、お店の業態などの状況が会社のイベントとして社会通念上一般的であるか
です。
ただ、3次会まで行くと福利厚生費か交際費かという以前に、会社の経費として認められないケースが少なくありません。
3)参加人数が少ない場合
会社のイベントには参加したがらない社員もいます。実際、飲み会の連絡は全員にしたものの、参加した社員は少数だったということもあるでしょう。このようなケースでも、その飲み会費用は福利厚生費として損金に算入できます。
重要なのは参加人数ではなく、全員に飲み会があることを通知しているか否かにあるからです。なお、飲み会の告知は、口頭ではなくメールやチャットなど後から確認できる方法で行いましょう。
4 社員等の昼食代などを会社が負担するケース
次に、同じ飲食でも飲み会とは取り扱いが違うケースとして、社員等の昼食代(食事価額)などを会社が負担するケースを紹介します。昼食代などが損金に算入できるか否かについては、国税庁のタックスアンサーで明確な基準が示されています。
国税庁タックスアンサー「No.2594 食事を支給したとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2594.htm
1)食事価額を損金に算入するための要件
会社が社員食堂を運営する場合や、まとめて弁当を注文して社員等の昼食代を負担する場合があります。社員等のための支出とはいえ、全額を無条件で損金に算入できるわけではありません。会社が負担した食事代を福利厚生費として損金に算入するためには、次の要件を満たす必要があります。
- 社員等が食事価額(以下「食事代」)の半分以上を負担していること
- 次の算式により計算した金額が1カ月当たり3500円(税抜き)以下であること
食事代-役員または社員が負担している金額
なお、食事価額とは、例えば弁当支給の場合における仕出し弁当業者に支払う価額、社員食堂にて食事を提供している場合には、食事の材料費や調味料などの食事を作るために直接かかった費用の合計額になります。
例えば、1カ月当たりの食事代が5000円で社員等の負担が1000円の場合、上記の1つ目の要件(社員等が食事代の半分以上を負担していること)を満たしていません。この場合、食事代と社員等の負担の差額である4000円(5000円-1000円)は給与課税の対象となり、会社は源泉所得税を徴収しなければなりません。
2)休日出勤や深夜残業の際の食事代を負担した場合
休日出勤や残業をしている社員等に夜食を提供した場合、原則として福利厚生費として損金に算入できます。
ただし、食事が豪華過ぎる場合などは、現物給与と見なされかねません。そのため、社内規定等により食事を提供する際の価額(通常の飲食としての範囲内)などをあらかじめ定めて社員等に通知しましょう。
3)社員食堂で社員等に無料で食事を提供した場合
無料の社員食堂を設置している会社があります。人材の確保やコミュニケーションの円滑化、健康経営の実践などが目的ですが、前述した「食事価額を損金に算入するための要件」を満たしていなければ給与課税されます。
そのため、「無料」をうたっている場合でも、実際は給与課税されているケースがあります。それでも会社と社員等の双方が望むのであれば、給与課税されるとしても、会社の経費(追加の給与)として検討する価値があるでしょう。
5 社員等の冠婚葬祭時に慶弔金を支給した場合
1)慶弔金に関する基本的な税務上の取り扱い
結婚祝い、出産祝い、香典、病気見舞いなど、社員等の冠婚葬祭時に会社が慶弔金を出す場合があります。あらかじめ「慶弔見舞金規程」に定められた慶弔金は現金支給であっても、福利厚生費として損金の額に算入することができます。
注意点は以下の通りです。
- 社員等の間で不公平がないこと
- 支給額は「慶弔見舞金規程」の範囲内で、役位別または勤続年数別、支給する親族の範囲別などにより世間相場からかけ離れていないこと
2)領収書等がない場合
慶弔金の支給については領収書がないケースが多いと思います。実務上、領収書がなくても支払いの事実が分かるメモ書きなどがあれば問題ありませんが、慶弔に関する案内状など、支給の事実が分かるものと一緒に保存しておくのが無難です。
以上(2024年3月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)
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家康がくれた宝「プラモデル産業」を未来へつなげ! ~「聖地巡礼」事業のススメ 後編
1 「聖地巡礼」事業のキホン
まずは、前編で押さえた「聖地巡礼」事業の大切な3つのポイントをおさらいしてみましょう。具体的には以下の3つです。
1.好きになることからはじめよう
自らが作品やキャラクターのファンになり、ファンが本当に求めているサービスなどを理解する
2.地域も人も巻き込もう
行政や中小企業が志を共有し、協力する。業界や分野を問わず、さまざまな分野を巻き込んで街全体で取り組みをはじめる
3.長期的に付き合ってゆく覚悟を持とう
実質的な効果が出始めるまでは時間がかかる場合が多いので、一度始めたら長期的なスパンでイベントを続ける
前編では【キャラクターと共に育ってゆく】【地域全体で協力する】をキーワードに、「福島県飯坂温泉×温泉むすめ」の事例を紹介しました。後編では、【地元の産業を活かす】【伝統をつないでゆく】をキーワードに、静岡県静岡市がはじめた斬新な「静岡市プラモデル化計画」の事例を紹介します。
※この記事は後編です。前編は下リンクからどうぞ!
2 【静岡市×プラモデル】“聖地”で歴史と技術をつなぐ

早速「静岡市プラモデル化計画」の成功の秘訣をひもといていきましょう。プラモデルのアツいファンと静岡市がどのように結びついてきたのかがポイントです。
1)「ホビーの聖地」静岡市

静岡市内には一風変わったモニュメントがたくさんあります。「プラモニュメント」と名付けられたもので、その名の通りプラモデルを模したモニュメントです。中には公衆電話や郵便ポストと一体化しているなど、実用性を兼ねて設置されているものもあります。
静岡市経済局 産業振興課 プラモデル振興係の石川 直哉(いしかわ なおや)氏によると、2024年7月現在、静岡市にあるプラモニュメントは全部で12基。2年後の2026年度までに、30基の設置を目指しているそうで
す。このプラモニュメントは地元の産業とのコラボレーション。実は、
日本全国のプラモデル製造品出荷額の8割以上を静岡市が占めている
のです。タミヤ(株式会社タミヤ)、アオシマ(青島文化教材社)、バンダイホビーセンター(株式会社BANDAI SPIRITS ホビー事業部)、ハセガワ(株式会社ハセガワ)など、プラモデルで有名な企業は、そのほとんどが静岡市に拠点を置いています。
では、なぜ静岡市にこんなにもプラモデルメーカーが集まっているのか?――その答えは、歴史の中にありました。
2)家康からつないできたプラモデルの歴史

上図の通り、静岡市のプラモデル産業は江戸時代から受け継がれる流れであり、職人が懸命に積み上げてきた地域技術の結晶です。しかし、これから先もプラモデル産業を盛り上げてゆくためには、次のような大きな課題がありました。
- 静岡市と言えばプラモデル、というイメージが浸透していないこと
- 製造者もファンも年齢層が上がってきていること
かくして、「本来のファン層以外にプラモデルのことを知ってもらい産業自体の認知度を上げること」、そして「地元の次世代を担う若者たちにプラモデルに興味を持ってもらうこと」を目的に、視覚的に訴えかけるプラモニュメントの制作と設置がはじまりました。
何よりこのプロジェクトの“キモ”は、
地元の自治体と企業がしっかりと手を組み、協力している
ことです。次のパートでは、静岡市のプラモデル企業や他業種の地元企業がこのプロジェクトにどう関わっているのか、そして企業同士の連携などについて紹介します。
3)未来のために連携する企業たち

はじめに、プラモニュメントについて。元来のプラモデルファンが「聖地」を訪れたときに満足できるよう、プラモニュメントはたとえ裏側であっても決して手は抜かずに、ファンをして「細かすぎる!」と言わしめるほど細部にまでこだわっています。
実際のプラモデルについているパーツを忠実に再現し、目にした瞬間にワクワクするようなデザインにすることで、ファンの心を魅了するのはもちろん、広告電通賞最高賞(2023年、自治体が受賞するのは全国初)やJAA広告賞(2023年 屋外・交通広告部門)など、多くの場で評価されています。
これは地元のプラモデルメーカーの全面的な協力と監修あってのこと。
自治体と地元企業が協力し、本気で「聖地巡礼」事業に取り組んでいることが良く分かります。

次に、他業種との連携について。静岡市に本店を構える静清信用金庫では、設置するプラモニュメントの製造を静岡市内の製造業者に依頼することで、地域経済の活発化にも貢献しています。
静岡市主催の地域創生プロジェクトに、静岡市に本社を置く信用金庫が参加し、静岡市内のメーカーに制作を依頼し、静岡市内の企業が監修する――「静岡市プラモデル化計画」は、街中に次々と登場するプラモニュメントを通して、「聖地巡礼」事業にとっての理想の姿を実現しているように見えます。

また、特筆すべきは、このプロジェクトは単なるモニュメント設置だけのために存在しているのではないということ。静岡市のもう一つの目的として挙げられるインナーブランディング――技術を承継する人材の育成についても、地元企業は大々的に協力しています。
同プロジェクトではプラモデルメーカーが行う地元小学校への出張授業や、静岡市で開かれる日本有数のホビーショーへの地元小中高生の特別招待なども、官民一体となって取り組まれています。静岡市の子どもや若者がプラモデルに興味を持つこと、やがてその中からプラモデルに関わる人材を輩出することを目指して、プラモデルメーカーが精力的にプロジェクトに参加しています。
静岡市の取り組みは「フォトジェニック」な対外的なプロジェクトのように思われがちですが、新規の観光客をはじめ、外部だけに地域の魅力をアピールしているわけではありません。内部(地元)へ向けてのアプローチも大きな目的であり、地元が誇る産業を引き継いでゆく人材を育てることを目標としているのです。
将来的にはプラモデルが静岡市民の生活に浸透し、静岡市の誇るべき産業が循環して永続的に続き、静岡市が百年先も「世界一のプラモデルの街」であり続けるように……
今日も静岡市と地元企業は、地元の未来のために奮闘しています。
3 「三方よし」のプロジェクトを目指す
ここまで紹介してきたものの他にも、埼玉県久喜市(「らき☆すた」)、茨城県大洗町(「ガールズ&パンツァー」)、静岡県沼津市(「ラブライブ! サンシャイン!!」)など、「聖地巡礼」事業で地域創生に成功した例はたくさんあります。
また、アニメツーリズム協会専務理事の鈴木 則道(すずき のりみち)氏によると、昨今は作品の制作段階から、アニメの舞台となる地域と手を組みプロジェクトを推進してゆくケースも多いとのこと。作品の制作側にとっても、作品の聖地で定期的にイベントを開催することでファンの心を捉え続け、作品の人気が持続することはメリットといえます。
「三方よし」は多くの事業にとっての理想の姿ですが、それを実現するのはなかなか困難を極めるもの。しかし「聖地巡礼」事業は、
地域(自治体や地元企業など)とファンと作品制作側、全員が満足できる可能性を秘めた取り組み
なのです。
自治体と地元の中小企業が手を組み本気で向き合えば、「聖地巡礼」事業は、経済効果が見込めるほか、地元住民同士がコミュニケーションを取るきっかけになる、次世代の産業の担い手を育成することにもつながるといった、大きなチャンスにもなり得ます。自分たちの地元のために何ができるのか、検討してみる価値は十二分にあるでしょう。
以上(2024年7月作成)
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