ものづくり中小企業の夢! 「開放特許」を使ってコスパよく自社製品を開発した2社の事例

書いてあること

  • 主な読者:自社製品を作るという夢をかなえたい、ものづくり中小企業の経営者
  • 課題:自社だけでは、新しい技術を開発する時間、人、技術がない
  • 解決策:大企業や大学、研究機関などが公開している未活用の「開放特許」を利用する

1 「開放特許」を使って自社製品を開発しよう!

多くのものづくり中小企業にとって、自社製品の開発は1つの夢といっても過言ではないでしょう。時間やコストを掛け、失敗を乗り越えた先に広がる世界には、新たな可能性が広がっています。この夢をお手伝いする手段として紹介したいのが「開放特許」です。開放特許とは、

大企業や大学、研究機関などの特許権者が公開している未活用の特許

です。特許権者は、未活用の特許を第三者に使用してもらうことでライセンス収入を得ることなどを目的としているため、前向きにこちらの提案を聞いてくれる可能性があります。

この記事では、

  • 開放特許を活用するメリット
  • 売れる特許技術の見つけ方
  • 佐々木工機の「真空吸着ツールスタンド」
  • マイスの部品定数供給装置「パーツカウンター」
  • 事業化するまでの流れ

について紹介していきます。

2 開放特許を活用するメリット

特許庁「特許行政年次報告書 2022年版」によると、国内特許約166万件の半数に当たる約80万件が未活用特許です。これらのうち、「市場規模が合わない」「経営方針が変わった」などの理由で未活用になっている特許が、開放特許として公開されることがあります。こうした開放特許をうまく活用することができれば、中小企業は次のようなメリットを享受できるかもしれません。

  • 開発期間の短縮や費用の削減ができる
  • 大企業の技術者から特許技術を直接学べる
  • 大企業の特許技術を活用することで製品の信用・ブランド力が向上する
  • 大企業との協業関係が深まり、新しい事業展開の可能性も広がる

大企業にとっても、放っておけば何も生み出さない開放特許で、ライセンス収入が得られます。

3 売れる特許技術の見つけ方

1)開放特許データベースから探す

開放特許は、独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)が運営している「開放特許データベース(以下「データベース」)」から探すことができます。データベースの登録件数は約2万3000件です(2023年2月時点)。

膨大な開放特許から自社が活用できそうな情報を見つけるのは大変ですが、データベースでは、複数の開放特許を組み合わせてパッケージ化したアイデアを含めて紹介していたり、開放特許の活用事例集を紹介していたりします。

■独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)「開放特許データベース」■
https://plidb.inpit.go.jp/

2)地元の産業振興団体に相談する

データベースから探す以外に、地元の産業振興団体に相談する方法もあります。東京都知的財産総合センターの製品化コーディネーターである木村勝己さんは、

「各都道府県にある発明協会や自治体の産業振興課、産業振興団体、商工会・商工会議所、地元の金融機関などの産業支援機関に『特許技術を活用した新製品を開発したい』と相談するほうが、データベースから探すより近道になる場合が多い。なお、各支援団体の専門職員の一部は、自治体特許流通コーディネーターとして特許庁の認定を受け、相互の情報交換や新規開放特許情報などを得ながら活動しています」

と言います。また、各都道府県の産業振興に関わる部署には、特許庁から専門の職員が派遣されているケースもあるので、その人につなげてもらうことも有効だそうです

同センターは東京都内の中小企業と大企業とのマッチング支援をしています。マッチング支援では、数十社参加から数社参加のセミナー・マッチング会の開催や、特許技術を使えそうな技術を持った中小企業を大企業にピンポイントで引き合わせる活動などをしています。

こうしたマッチング会・セミナーは、多くの産業支援機関が自治体ごとに開催しています。新しい自社製品を開発するためにも、このような場を交流活動の一環として考え、定期的に参加することも一策です。

ピンポイントでの引き合わせは、担当者の知識と経験による目利き力だと木村さんは言います。

「まず特許を見て、その技術を使って製品化できそうな中小企業を探し、コンタクトしていきます。あの会社なら製品化できそうだと判断するのは、製品化コーディネーターの目利き力によります」

日頃から交流している企業であれば、「あの企業ならこの技術を活用できそうだ」と思いつくこともあるそうです。

次章からは、開放特許を活用して、自社製品を開発し、事業化に成功した2社を紹介します。

4 佐々木工機の「真空吸着ツールスタンド」

1)会社と開放特許の概要

1.会社名:佐々木工機(神奈川県川崎市、従業員6人)

アルミやステンレス、プラスチックなどの素材を取り扱い、各種機械装置の設計から製作・組み立て・調整・据付などを取り扱っています。特に、空気を動力とした機器の制御(空圧制御)を得意としています。

■佐々木工機■
https://www.sasaki-koki.co.jp/index.htm

2.開発製品:「真空吸着ツールスタンド」(2015年発売)

佐々木工機は、ミツトヨの特許「真空吸着ツールスタンド」を活用し、さまざまな素材の定盤(じょうばん)に固定できる測定用ツールスタンド(以下「ツールスタンド」)を製品化しました。

従来の定盤は鉄製のものが多く、マグネットで固定して測定していましたが、鉄製はさびや温度によって体積が変化するなどの欠点があり、これらの欠点のない石やセラミックの定盤が増えてきています。そのため、マグネットに代わる、固定できる測定器が求められていました。

製品化したツールスタンドは、空気圧で吸着するため、鉄製以外の定盤にも固定することができ、測定の効率を向上させました。

左はミツトヨの特許「真空吸着ツールスタンド」を活用した佐々木工機の製品。右は真空吸着ツールスタンドに比べ排気音を静音化し、固定器具として用途を広げた新製品「Air-fix(画像中央~画像下部)」 (写真提供:佐々木工機)

2)インタビュー(代表:佐々木政仁さん)

1.マッチングに至る経緯

2013年に川崎市の職員と川崎市産業振興財団の知的財産コーディネーターから「ミツトヨさんの真空吸着技術は、空圧技術を持つ御社なら活かせるのではないか」と紹介されたのがきっかけです。

資料を見て、技術的には作れると思いましたが、売れるのかどうかは、分かりませんでした。それでも、ミツトヨさんと協業できることは宣伝になるし、技術交流にもつながるので、当社として大きなメリットになると思い、契約を締結しました。

2.試作の繰り返し

契約後はひたすら試作品作りです。試作品を作り、実験し、それを特許の発明者に見ていただきました。そこで、さまざまな指摘を受けて、修正していくことで、製品をブラッシュアップしていくコツを学びました。

3.大企業と組むメリット

完成に至るまで、ミツトヨさんとは、さまざまな意見交換をしました。そうしたやり取りのなかで信頼関係が深まり、ツールスタンドをミツトヨさんの展示会に一緒に展示してもらったり、ミツトヨさん側から新しく取得した特許を使った製品開発の相談をいただいたりして、ついには佐々木工機・ミツトヨの両社でアイデアを出して作った技術を共同で出願するまでになりました。

また、川崎市内でのミツトヨさん初の開放特許活用事例ということで、川崎市長の記者会見で発表してもらったことでマスコミにも取り上げられ、大企業と組むメリットは予想以上に大きいと実感しました。

4.開放特許を活用したメリット

ものづくりをしている中小企業の共通の夢は、自社製品の開発だと思います。当社はもともと図面通りに金属を加工する会社でした。図面通りには加工できるけれど、図面あっての事業です。そうではなく、自社でコンセプトから製品開発、販売価格まで決め、収益を得ていくのは、中小企業にとってなかなか難しい。開放特許はものづくり中小企業の夢をかなえる1つのツールなのだと思います。

5 マイスの部品定数供給装置「パーツカウンター」

1)会社と開放特許の概要

1.会社名:マイス(神奈川県川崎市、従業員6人)

工業製品の生産に使用される組立機、検査装置、部品供給装置などの自動化装置を作成しています。特に、顧客の要望に応じて開発、設計から組立、配線、制御、据付までを、オーダーメイドで対応する高い技術力が強みです。

■マイス■
https://www.mice1991.co.jp/

2.開発製品:部品定数供給装置「パーツカウンター」(2015年発売)

マイスは、日産自動車追浜工場(神奈川県横須賀市)で試作された特許技術である小型部品定数供給装置の原理を活用して、金属ボルトの部品定数供給装置「パーツカウンター」を製品化しました。

自動車メーカーの生産ラインでは、従来から作業員が車種に応じて必要な数のボルトやナットを取り出していたため、作業の滞りやボルトの締め忘れなどが発生していました。しかし、同製品を導入することで、取りこぼしがなくなり、部品を数える手間などが削減でき、ある自動車メーカーでは、約20%の生産性向上につながったそうです。

同製品は日産自動車に限らず、トヨタ自動車、SUBARU、いすゞ自動車などの自動車会社にも多数導入されています。2017年には、樹脂(プラスチックファスナー)用のパーツカウンターも発売しました。

日産の部品定数供給装置を活用して開発したパーツカウンター。左が「金属ボルト用」、右が「樹脂 (プラスチックファスナー) 用」(写真提供:川崎市産業振興財団)

2)インタビュー(代表:秋山昌宏さん)

1.マッチングに至る経緯

川崎市の知財マッチングイベントで知的財産コーディネーターに紹介され、日産自動車さんと個別面談を行いました。その後、日産自動車追浜工場の自動車生産ラインで部品供給装置の試作品を見たところ、改良も製品化もできると思いました。製品は日産自動車さんに購入してもらえば販路も確保できると思い、契約を締結しました。

2.試作の繰り返し

当社にとって自動車業界との取引は、今回が初めてだったので、原理通りには作れるけれど、自動車ラインがどういうもので、製品はどの場所に設置し、どれくらいの大きさであると一番いいのかも分かりませんでした。そこでヒアリング、試作品開発、テストを何度も繰り返しました。

3.大企業と組むメリット

10人に満たない中小企業は、市場調査もできないので、技術はあっても製品をどう売っていいか分かりません。そのため、大企業の知名度と信用力を活用できるのは、販売面では大きなメリットを感じました。「日産自動車の特許を使った技術」と伝えると話を聞いてくれるケースがよくありました。

6 事業化するまでの流れ

開放特許を活用して、事業化していくために必要なのは「販売ルートを考えること」だと、川崎市産業振興財団の知的財産コーディネーターである西谷亨さんは強調します。

「開放特許を活用するとしても、製品化を目標にするのではなく、どういうルートで売るのかを考えないと、せっかく作ったものが売れないということになりかねません。必ず、販路や客層を確保してから、ライセンス契約を結ぶようにしてください」

また、「自社の事業を洗い出し、強みを見つけることが重要」だそうです。

「自社の強みや本業を活かす技術を探すほうが、実現する可能性は高いと思います。残念ながら大企業とマッチングまで成立しても、製品化や販売にたどり着かないケースもあります。そうならないためにも、まずは自社の強みを見つけてください」

なお、川崎市産業振興財団は下記図表のような流れでサポートしているといいます。これは一例ですが、参考にしてください。

川崎市産業振興財団の中小企業サポートの一例

以上(2023年4月)

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画像:naum-Adobe Stock

【朝礼】自分の仕事は「ローリスク・ハイリターン」だと思えば何でもできる

新年度が始まりました。今年度は皆さん1人1人が新しいことに挑戦し、会社を盛り上げる1年にしてほしいと思っています。営業先の新規開拓、新たなプロジェクトの立ち上げ、製造ラインの見直しなど、どんなことでも構いません。ぜひ、積極的に手を挙げてチャレンジしてください。

ただ、そうはいっても何かを始めるときというのは、「本当に大丈夫かな」「失敗したら怖いな」といった不安が付いて回るものです。そんな不安を感じたときは、ぜひこう考えてみてください。皆さんの仕事は、「ローリスク・ハイリターン」であると。「いやいや、リスクはあるだろう」と思う人もいるでしょうが、大切なのは気の持ちようです。試しに、経営者である私と比べてみてください。

私の主な仕事は、事業のあらゆる局面で最終的な決定を下す「経営判断」です。もちろん些細(ささい)な決定事項もありますが、重要な事項を決めるときは常に「ハイリスク・ハイリターン」です。正しい判断をすることで得られるものは大きいですが、判断を誤れば、場合によっては会社を潰し、皆さんを路頭に迷わせてしまうことだってあります。かといって、何もリスクを取らず、動かないままでは会社を存続させられません。経営者として、会社のためにリスクを取って勝負しなければならないときもあります。ですから、自分で言うのもなんですが、常に慎重に、不安と戦いながら仕事をしているのです。

もちろん社員の皆さんも、会社の中で成長するにつれて重要な仕事を与えられ、責任が重くなっていきます。とはいえ、仮に皆さんが仕事で失敗をしたからといって、会社を潰すほどの影響を与えるのかといえば、基本的には「ない」でしょう。権限の問題もありますが、皆さんの仕事の中で想定し得る程度の失敗であれば、大抵は私や幹部の人たちでフォローできるからです。ですから、皆さんの仕事は「ゼロリスク」とはいかないまでも、「ローリスク」といえるわけです。

そして、皆さんが失敗を恐れずに挑戦することには「ハイリターン」があります。チャレンジに成功すれば、それは皆さんの自信となり、仕事にも一層張りが出ます。成果を上げて会社の中での立場が変われば、お給料だって変わってくるでしょう。仮にチャレンジに失敗したとしても、新しいことに挑戦するために皆さんが身に付けた知識や技術は、その先も皆さんを助けてくれます。そして、皆さんの挑戦によって会社の事業に新しい可能性が見えれば、私たちや私たちの家族、地域の人々など、多くの人の未来が明るくなります。

いかがでしょうか。自分たちの仕事は「ローリスク・ハイリターン」だと割り切れば、リスクを取って新たなことに挑戦しようという気になりませんか。私は、皆さんが挑戦するための提案を、時間を惜しまずに聞くつもりです。今年度は、皆さんが私に、素晴らしい挑戦を提案してくれることを期待しています。

以上(2023年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

自動配送ロボが歩道を行き交う日常は間近!?/2023年4月の道交法改正で加速する自動運転の最前線(前)

書いてあること

  • 主な読者:ラストワンマイルの動向に影響を受ける販売事業者や運送・運輸業者
  • 課題:自動配送ロボットの導入を検討するために、実用化に向けた動きを知りたい
  • 解決策:2023年4月の道路交通法改正の内容と、自動配送ロボットの実用化に向けた最新の動きを把握し、実用化に備えておく

1 遠隔監視の自動配送ロボットが歩道を走れるように!

世界中で自動運転の実用化に向けた動きが進んでいますが、日本でも2023年4月に、大きな前進がありました。改正道路交通法(以下「道交法」)の施行により、

  • 遠隔監視の自動配送ロボット
  • 過疎地などでの自動運転バス

が公道で走行することが認められたのです。

そこで、このシリーズでは、実用化へ大きく前進した自動運転について、道交法改正の内容と、実用化に向けた取り組みの最新事情を、2回にわたって紹介します。

前編となる第1回は、物流のラストワンマイルの新たな担い手として期待されている、自動配送ロボットについてです。

2 自動配送ロボは「歩行者と同様のルール」に

2023年4月に施行された改正道交法および関係法令では、自動配送ロボットが該当する「遠隔操作型小型車」のルールが定められています。

道交法や関係法令が定める「遠隔操作型小型車」のルール

なお、「遠隔操作型小型車」には、標識を付けることが義務付けられています。

「遠隔操作型小型車」に付ける標識

それでは、実用化に向けて進んでいる実証実験などの取り組みについて、実際に携わった担当者の話を紹介します。

3 実証実験1:都市部でのラストワンマイル事業への参入(ENEOSホールディングス)

1)実証実験の概要

実験主体:ENEOSホールディングス(東京都千代田区、エネルギー事業など)、ZMP(東京都文京区、ロボット開発)、エニキャリ(東京都千代田区、ラストワンマイル物流サービス)
実験日:2022年12月~2023年3月(自動配送ロボット4台を稼働。荒天時を除く11時から20時)
実験場所:東京都中央区の佃・月島・勝どきエリア(約1万7000戸)
実験の概要:アプリを通じて注文を受けたエリア内の飲食店やスーパーの商品を、注文者のマンション下まで配送。到着すると注文者の携帯電話に、自動配送ロボットの扉を開けるURLとともに通知
使用した自動配送ロボット:ZMPの「DeliRoR(デリロR)」

2)担当者の話(ENEOSホールディングス)

物流のラストワンマイル問題は社会課題であり、ビジネスチャンスでもあると認識しています。今回の実証実験を踏まえて、2023年度中に、このまま事業として始めるか、事業エリアを変えるなどビジネスモデルを一部変更して始めるか、商用化の時期を延期するか、いずれかの決定をする予定です。

実証実験で使用したDeliRo®(ENEOSホールディングス提供)

実証実験では、お客さまから注文を受けると、自動的に自動配送ロボットにアサインし、ロボットを稼働させるという一連のシステムを機能させることができました。ただ、1人の監視員が複数台のロボットを監視する実験は、走行時間が足りないなどの理由で行えませんでした。

また、自転車などが道を塞いでいて自動運転だけでは対応できず、人による操作が必要になったケースや、注文データとロボットの稼働を連携させるシステムがうまくいかずにロボットが止まってしまうケースなどがありました。歩行者や自転車が進路を遮ってしまった場合でも、ロボットの前面には表情がついており、「道を開けてください」などとしゃべることでコミュニケーションしながら対応することができますので、地域の皆さまに受け入れていただけたように思います。

事業を始める場合、都心部の人口密度の高い地域が対象になると思っています。ロボットは時速6キロメートルが上限ですので、1時間以内で配送できるのは約1キロメートル以内が目安となります。どのような商品を運ぶかにもよりますが、売り上げを確保するには、一定程度の人口密度が必要になります。その他、特定のエリア内の、例えばショッピングセンターやテーマパークでも活用の可能性はあると思います。過疎地にも買い物が困難な高齢者などのニーズは確実にあるのですが、ロボットの運用コストが下がったり、例えば見守り機能など何らかの付加価値を付けたりしなければ、現状では持続可能なサービスにするのは難しいと思っています。

採算性の観点から、現時点では1人の遠隔監視員が、少なくとも8台程度のロボットを同時に遠隔監視することが必要だと分析しています。それを可能にするためには、ロボットが高い安定稼働率で走行することや、画面をポップアップさせるなどして遠隔監視員にアラートするような機能を持つような複数台監視を可能にするモニタリングシステムが必要になると思います。

サービスステーションを基点に配送を実施(ENEOSホールディングス提供)

自動配送ロボットが今後普及していくポイントは、鶏と卵の関係ではありませんが、利用ニーズと、外資を含めたロボット開発会社の参入の両方が増えていくことだと思います。海外にはさまざまな機能やコスト感のロボットがあり、ロボットの運用コストが日本の半額以下のサービスもあります。2023年4月の道交法改正を機に、多くの開発会社が参入して、選択肢が広がることを期待しています。自動配送ロボットが普及すれば、遠隔監視員の担い手も増えていくので、遠隔監視員の人件費も下がるでしょう。

3)担当者の話(ZMP)

今後のDeliRoR(デリロR、以下「デリロ」)販売台数の見込みなどの公表は控えますが、道交法改正によって届け出で公道を使用できるようになるのは、クライアントの拡大につながると思っています。

デリロは、人口が多い都市部はもちろん、過疎化が進む地域での人手不足にも役立ちます。デリロは揺れや傾きが少ないのが特徴で、例えば汁物であっても、しっかりと封をすれば配送が可能だと考えています。段差は5センチメートルまでは超えることができ、坂道は8度までの傾斜が対応可能です。ちなみに、一般的な車いす用のスロープのほうがもっと緩やかです。重量は50キログラムまで対応可能です。電波条件については、スマートフォンの基地局があれば対応できます。

配送物の受け取りなどの操作については、スマートフォンが使える程度のリテラシーがあれば、問題ありません。

東京都中央区での実証実験(ZMP提供)

4 実証実験2:自社の飲食物の配送(関西フーズ)

1)実証実験の概要

実験主体:関西フーズ(兵庫県姫路市、神戸市や姫路市で回転寿司「力丸」14店舗を展開)
実験日:2023年2月(10日間、1時間に1件を上限に、約30件を配送)
実験場所:姫路駅周辺
実験の概要:JR姫路駅前店から指定した姫路駅前エリアの9カ所に寿司を配送。顧客が携帯電話で注文および決済。到着すると注文者の携帯電話に通知
使用した自動配送ロボット:ZMPの「DeliRoR(デリロR)」

2)担当者の話(関西フーズ)

現在、実証実験の課題を精査していますが、できれば2023年夏から、姫路駅周辺で実用化したいと考えています。今後も人件費は上昇していくでしょうし、人手不足の問題もあるので、自動配送ロボットは今後の有力なデリバリー方法になると思っています。

実証実験で、安全性に関してはクリアしました。人が近くに来ると、きちんと停止するプログラムも機能しました。

姫路駅前という人通りの多い場所で実証実験を行ったことから、観光客などもいて、写真を撮りにロボットに近づく人もいました。そのたびに停止するので、配送に時間がかかることもありました。通行人がロボットに見慣れるまでは、このようなことは起こることが想定されます。実用化の際には、その辺も計算しなければならないと思いました。

どれくらいの件数を配送できれば採算的に見合うのか、これから精査します。姫路駅周辺でも、配送には往復で30分はかかるでしょう。導入する台数、1時間で運べる件数や、1回の配送で運べる量なども勘案する必要があります。

件数を多くこなすために、まずは店舗の近くで、需要の多い地域から始めます。とはいっても、売り上げを伸ばすためには、エリアを拡大していく必要もあると思っています。

競合としては、ウーバーイーツや出前館などのフードデリバリー事業者を想定しています。自動配送ロボットは、配送速度では勝てません。ですので、正確性や価格など、他の面で勝つしかないと思っています。このため、お客さまの利便性についても、実証実験の結果を精査していきたいと思っています。

5 実証実験3:山間部を想定した配送(広島県北広島町)

1)実証実験の概要

実験主体:広島県北広島町、Yper(東京都品川区、置き配バッグを製造販売)、コムズ(広島県広島市、中国地方でショッピングセンター8店舗を管理など)
実験日:2021年10月(5日間、規定のコースを18往復して配送)
実験場所:北広島町
実験の概要:北広島町のショッピングセンターの搬入口から、町有地を通って300メートル先の町役場に設置した特設BOXに、宅配物とショッピングセンターのスーパーでの購入品を配送。到着すると注文者の携帯電話に通知され、QRコードでBOXを開ける
使用した自動配送ロボット:Yper(現在はLOMBYが事業を継承)の「LOMBY(ロンビ-)」

実証実験で使用したLOMBY(北広島町役場提供)

2)担当者の話(北広島町)

北広島町は山間部にあり、高齢化が著しく、担い手も不足していますので、ラストワンマイルの課題解決の必要性を感じています。子育て世代の利便性も向上しますので、実証実験は町の課題解決につながる可能性のある取り組みだと考えています。

ただ、実証実験では、課題も感じました。実証実験では公道を使用しませんでしたが、公道の場合、特に中山間地域では、必ずしも路面状況が良いわけではありません。車道と歩道の境など、路上の段差やくぼみもあります。北広島町は冬が寒く、路面の凍結や積雪もあります。

また、実証実験では交通整理をしていたので安全性が確保されていましたが、公道では急に飛び出してくるような人もいるでしょうから、対応ができるのかどうか未知数の部分もありました。

実証実験では数名の町民にモニターになっていただきましたが、若い世代の方が多かったのもあって、配送物の受け取りでの混乱はありませんでした。

現時点では実用化に向けた計画はありませんが、先ほどお話ししたラストワンマイルの課題は認識しているので、機会があれば実用化したいとは思っています。ただし、やはり費用面が一番大きな問題になると思います。他の方法と比較して、費用対効果の高い方法を選択していくことになるでしょう。

広島県北広島町での実証実験(北広島町役場提供)

6 自動配送ロボットの開発会社を紹介

紹介した実証実験以外にも、自動配送ロボットの実用化に向けた取り組みが進んでいます。自動配送ロボットの開発会社と主な取り組みをまとめて紹介します。関心のある方は、開発会社に問い合わせてみてもよいでしょう。

1.パナソニックホールディングス

自動配送ロボット:X – Area Robo
主な取り組み:茨城県つくば市でスーパーの商品を個人宅に配送(2022年5月~7月)
神奈川県藤沢市で医薬品や冷蔵品を個人宅に配送(2021年3月)

■パナソニックホールディングス「エリアモビリティ向けソリューション」■
https://holdings.panasonic/jp/corporate/mobility/solutions/areamobility.html

2.ZMP

自動配送ロボット:デリロ
主な取り組み:東京都中央区で飲食店とスーパーの商品を配送(2022年12月~2023年3月)
兵庫県姫路市で回転寿司店の商品を配送(2023年2月)

■ZMP「宅配ロボットDeliRo (デリロ)」■
https://www.zmp.co.jp/products/lrb/deliro

3.川崎重工業

自動配送ロボット:FORRO(フォーロ)
主な取り組み:東京都新宿区で飲食店やスーパーの商品を配送(2023年1月~2月)
東京都墨田区で介護者向けの日用品や食事を個人宅に配送(2021年11月~12月)

■川崎重工業「屋内用配送サービスロボット『FORRO(フォーロ)』」■
https://forro-service.com/

4.本田技術研究所

自動配送ロボット:本田技術研究所が開発した車台に、楽天グループが開発した商品配送用ボックスを搭載
主な取り組み:茨城県つくば市の筑波大学構内や一部公道の約500メートルを走行(2021年7月~8月)

■本田技研工業「自動配送ロボット 実証実験の取り組み」■
https://www.honda.co.jp/future/EngineerTalk_deliveryrobo/

5.LOMBY

自動配送ロボット:LOMBY
主な取り組み:広島県北広島町で宅配物とスーパーの商品を配送(2021年10月)

■LOMBY■
https://lomby.jp/

以上(2023年4月)

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画像:onlyyouqj-Adobe Stock

【朝礼】上司は魚を与えるのではなく、魚の獲り方を教えましょう

「飢えている人がいたら、魚を与えるのではなく、魚の獲り方を教えてあげなさい」ということわざがあります。魚を与えれば、その人は1日は飢えをしのげるでしょう。しかし、魚の獲り方を教えれば、その人は一生飢えないでいられます。

1900年代前半に活躍したシュヴァイツァー博士は、アフリカの赤道直下の国ガボンにおいて、当地の住民への医療などに生涯を捧げたことで、高く評価されています。ただ、ひとつだけ残念なことに、博士には現地人に医学の知識を与えて、医師に育成し、医療環境を整えるという発想がありませんでした。そのため、現地人の中から医師が生まれることはありませんでした。仮に、現地人の中から医師が育っていく環境を実現できていれば、博士の死後もアフリカにおける医学は大きく進歩したことでしょう。

一方、アフリカの人に井戸の掘り方を教えた日本人がいます。その人は、初めはアフリカに行って自ら井戸を掘ったそうです。しかしあるとき、自分が井戸を掘るのではなく、現地の人に掘り方を教えてあげるべきだと気がついて、日本式の井戸の掘り方を教えたのです。そして、掘り方がうまくいかないときの対処法や井戸の修理方法も教えておいたため、現地の人は自分たちで井戸の管理・維持ができるようになったそうです。

これらのことを、ビジネスに置き換えてみましょう。分かりやすいのは、上司と部下の関係です。

上司が部下に与えなければならないのは「金銭」ではなく「方法」です。金銭は一度使ってしまえばなくなりますが、方法はいくら使ってもなくなりません。手取り足取りして面倒見の良い上司がいますが、先のことわざでいえば、それは「魚」を与えているだけで、部下の成長の機会を奪っているといえます。

魚を直接「与える」よりも「獲る方法」を教えるほうが、真に部下のためになり、部下の将来が開けることになるのです。

ここでいう「魚の獲り方を教える」とは、相手が欲していることに対して、ただ与えるのではなく、「どうすれば求めるものにたどり着くことができるのか」を教えてやることです。

上司が部下の仕事を手伝う場合とそうでない場合を比較してみましょう。部下の仕事を手伝う場合は、部下の仕事を手伝う→部下の仕事は速く進む→上司の仕事が遅れる→必死で上司は仕事を終わらせようとする→部下の仕事がまた遅れる→2人とも仕事が遅れる。結果としては2人とも仕事が遅れてしまいます。

一方、仕事を手伝うのではなく、部下の仕事がなぜ遅いのかを観察し、効率良く仕事ができる方法を教えた場合はどうでしょうか。この場合、上司は部下の仕事をチェックして問題点を把握する→部下にはいったん仕事を止めさせて、上司が問題点を説明する→上司は解決方法を部下に自分で考えさせる→さらに良くなる点があれば上司はアドバイスする→部下は自分で効率良く仕事ができるようになる→そして、その部下が効率良く仕事ができる方法をほかの人に教えることで組織全体の効率が上がる。こんな具合にいけば理想的です。

魚の獲り方を教えるのは、魚を与えるよりはるかに根気が必要で、面倒なことです。しかし、上司の仕事とは、人や組織をよく観察して、そこで働く人たちが高い能力を発揮できる方法を教えることなのです。

上司の皆さんは「やり方」を教えることに徹してください。

以上(2023年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

知って得する「申告期限の延長制度」で罰金に似た加算税は回避!

書いてあること

  • 主な読者:決算月、決算作業月に決算が間に合わない理由が生じた会社の経営者
  • 課題:何も申請せずに申告期限を過ぎると、加算税や延滞税を徴収されてしまう
  • 解決策:大きな災害だけでなく、会社の火災など個別事情であっても申請書を提出することで申告期限を延長することができる

1 税金の申告期限は延長できる

法人税や消費税は、申告期限までに必要な申告書を税務署に提出しなければなりません。これを怠ると、

本来支払うべき税金の他、加算税や延滞税といった罰金のようなものが徴収

されます。会社としては避けたい事態ですが、「やむを得ない事情」もありますよね。

実際、経理担当者が新型コロナウイルス感染症で休職してしまったような場合は、申告期限の延長が認められることがあるので、基本を押さえておきましょう。ポイントは、

  • 申告期限の延長は税金ごとに取り扱いが異なること
  • 申告期限は自動的に延長される場合と一定の申請書を税務署に提出する場合があること

です。以降で詳しく確認していきましょう。

2 法人税と消費税の申告期限等の延長

法人税と消費税の申告期限は、原則として、

事業年度終了の日の翌日から2カ月以内

です。つまり、3月末決算なら5月31日までに申告書を提出しなければなりません。しかし、次の場合は申告期限が延長されることがあります。

  • 被災地が広範囲にわたる災害などやむを得ない事情が発生した場合
  • 会社が火災にあうなど、申告・納付が申告期限内にできない事情が発生した場合
  • 定款で定められている定時株主総会が、申告期限後に行われる場合

1)被災地が広範囲にわたる災害などやむを得ない事情が発生した場合

東日本大震災のような被災地が広範囲にわたる災害が発生した場合、国税庁が申告や納付ができないと判断します。延長が認められる地域や対象者は国税局が決定し、官報に掲載されたり、国税庁ホームページで公表されたりします。

最近では、新型コロナウイルス感染症の影響を受けて、2020年3月15日に申告期限を迎えた申告所得税(いわゆる所得税の確定申告期限)が一律4月15日に延長された例がありました。

なお、延長するか否かは国税庁が判断して公表するので、会社が自ら申請手続きをする必要はありません。また、この制度では、

申告期限だけでなく、税金の納付期限も併せて延長

されます。

2)会社が火災にあうなど、申告・納付が申告期限内にできない事情が発生した場合

火災によって帳簿書類が消滅した場合など、会社の個別事情を加味して延長される制度です。最近では、次のようなケースで、この制度を利用して延長が認められたことがありました。

  • 経理担当やその周辺に、新型コロナウイルス感染症の感染者や濃厚接触者が多数出たことで部署を閉鎖したケース
  • 顧問税理士が新型コロナウイルスに感染して会計事務所が長期間閉鎖したケース

なお、国(税務署)は会社の個別事情は分からないので、この延長を受けるためには、会社が自ら申請手続きをする必要があります。申請期限は

やむを得ない理由がやんだ後、相当の期間内

とされていますが、明確な期日は定められていません。なお、原則的な申告期限が過ぎた後でも申請できます。ただし、申請したからといって必ず認められるわけではないため、申請にあたっては事前に税務署へ相談するといったことも必要になるでしょう。

なお、この制度による延長についても、

申告期限だけでなく、税金の納付期限も併せて延長

されます。

3)定款で定められている定時株主総会が、申告期限後に行われる場合

定款に「定時株主総会を事業年度終了後、3カ月以内に行う」と定めている場合、定時株主総会を実施するまで決算の数値が確定しないため、事業年度が終了してから2カ月以内(原則的な申告期限)に申告できないケースがあります。

このような会社は、

延長の適用を受けようとする事業年度終了の日までに申請書を提出する

ことで申告期限の延長が認められます。なお、法人税と消費税では申請用紙が別のため、法人税用と消費税用の申請を別々に行う必要があるので注意しましょう。

この制度による延長は、

申告期限は延長されるが、納付期限は延長されない

ので、税金そのものは概算で計算し、原則通りの期限までに納付(見込納付)しておく必要があります。なぜなら、納税が遅れると、

利子税という利息のようなものが課される

ことになるからです。

3 源泉所得税の納期限の延長

会社が、従業員に支払う給与などから源泉徴収を行った場合、原則として、給与を支払った月の翌月10日までに納付しなければいけません。つまり、4月25日に給料を支払い、源泉徴収を行った場合には、5月10日までに源泉徴収した金額を納付しなければなりません。しかし、

  • 被災地が広範囲にわたる災害などやむを得ない事情が発生した場合
  • 会社が火災にあうなど申告・納付が申告期限内にできない事情が発生した場合
  • 給与の支給人員が常時10人未満の会社の場合

は納期限が延長されます。なお、1.および2.の内容と手続きは法人税や消費税と同じなので、ここでは「3.給与の支給人員が常時10人未満の会社の場合」について解説します。

規模が小さい会社(給与の支給人員が常時10人未満の会社)については、

源泉徴収した所得税を、半年分まとめて納付してよい

という特例があり、これを「納期の特例」といいます。この特例を受けた場合、納期限は年に2回、7月10日と翌年1月20日です。

半年分の源泉徴収分の納期限

この特例を受けるためには、所定の届出書を提出する必要がありますが、提出期限は特に定められていません。原則として、届出書を提出した月の翌月徴収分から適用となるので、4月に届出書を提出した場合、納付済みかつ特例適用前の1~4月分を除く、5・6月分(2カ月分)を7月10日までに納付することになります。

以上(2023年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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発行日の決め方は? 紛失した場合は? 請求書で知っておきたい基本情報

書いてあること

  • 主な読者:請求書の取り扱いに慣れていない経理担当者
  • 課題:現場ではイレギュラーなことが起こり、意外と請求書の取り扱いに迷うことがある
  • 解決策:請求書の発行は契約上の義務ではないが、トラブル回避のために重要。また、インボイス制度では必須となる

1 なぜ、面倒なのに請求書が発行されるのか?

何かを売ったら請求書を発行するのが当たり前ですが、実は法律上は請求書を発行しなくても契約は成立します。にもかかわらず会社が請求書を発行するのは、請求する側とされる側に次のような理由があるからです。

請求する側の立場では、取りっぱぐれは困ります。もし、請求書を発行しないことで相手の経理部に支払情報が伝わらず、代金の入金が遅れたり、入金がされなかったりする事態を避けるため請求書を発行します。また、請求書を発行しておけば、認識の相違によるトラブルを事前に回避できるでしょう。

支払う側の立場では、社内の支払手続きで不便が生じたり、納税額が増えたりしたら困ります。特に、消費税の仕入税額控除(消費税を計算する上で控除できる項目)を受けるためには、課税仕入れなどに関する帳簿や請求書などを保存しなければなりません。そのため、通常は相手に請求書の発行を要求することになります。

このように、正確な取引代金の入出金やトラブル回避、適正な税金計算を行うために請求書の発行が日々行われているのです。

2 請求書の発行日はいつにするか?

請求書の発行方法には、掛売方式と都度方式があります。

  • 掛売方式:月ごとなどの決まった時期に請求。相手の支払締め日に合わせて請求書を発行
  • 都度方式:商品の販売やサービスの提供が終了した都度請求。商品の販売やサービスの提供が終了した日を発行日とする

前述した仕入税額控除の関係から、請求書には取引年月日を記載しなければなりません。そのため、通常は取引年月日に合わせて発行日を設定しますが、取引年月日が明示されていれば、取引年月日と請求書発行日を一致させる必要はありません。

3 再発行する場合の注意点は?

取引先が請求書を紛失してしまった場合など、請求書の再発行を依頼されることがあります。この場合、取引先の求めに応じて請求書を再発行することになりますが、

二重請求・二重支払いが起きないよう「再発行」と明記する

必要があります。発行日については、当初の発行日のままとするのが一般的です。

再発行する請求書(イメージ)

4 期日が来ても入金がない場合はどうする?

請求書を発行したのに、支払期日になっても入金されないことがあります。そういうときには、まず相手に催促の連絡をします。通常は電話やメールで連絡をとり、支払期日が過ぎている事実を伝え入金を依頼することになります。相手先の単純ミスによる支払い漏れであれば、入金してもらうことで問題は解決します。

単純ミスではなく相手先との間で請求内容に認識の相違がある場合は、お互いに話し合うことで問題解決を図る必要があります。相手先の資金繰りが厳しいことで入金が遅れている場合には、資金を回収できなくなるリスクが高いため、担当者レベルでなく会社として対策が必要です。対策は相手先の状況によりますが、新規の取引を制限する、回収のため法的措置(裁判所を通じた督促状の送付や民事調停の申立など)を検討するなどが考えられます。

5 インボイス制度はどんな制度?

2023年10月1日に始まるインボイス制度とは、消費税に関係する制度で、

請求書には、消費税率や消費税額など、法律で決まっている項目をすべて記載し、相手方に適切に知らせないといけない

というものです。

インボイス制度が導入されると、制度で決まっている項目がきちんと記載されている請求書を受け取った場合に限り、仕入税額控除が取れることになります。つまり、請求書を受け取っても記載事項に漏れがあると仕入税額控除が取れなくなるのです。

仕入税額控除が取れないと、会社が納めなければならない税金の額が増えることになります。仕入税額控除が取れるものの中には、材料費や機械の購入などはもちろん、個々の社員の経費精算の対象となるような交通費や消耗品の購入なども関係してきます。経理担当者だけでなく、その他の従業員も、請求書を受け取る際には記載事項に漏れがないか確認することが非常に重要になってきます。

では、最後にインボイス制度の導入後の請求書に必要な記載事項を確認しておきましょう。

請求書への記載事項

1から5までは今までの請求書にも記載されていることが一般的でしたので、請求書を受け取ったら、6から9までの記載事項について注意しましょう。

また、インボイス制度が導入された後の請求書のひな型は次の通りです。

請求書ひな型(イメージ)

以上(2023年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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経営者・役員の退職金制度導入と規程作成のポイント

経営者・役員向けの退職金制度。給与を抑えて、退職時に退職金で大きく現金支給することには経営者・役員本人にも、会社にもメリットがあり、それ故これを導入する例も多いようです。一方で会社側にはデメリットもあるので、導入に当たっては一定留意する必要があるでしょう。

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従業員の退職金 導入、規程作成、見直しのポイント

今回のレポートでは、従業員向けの退職金について、初めて導入する際の手順、退職金規程の作成ポイントについて解説します。また、現在の退職金制度を見直す場合の注意点もお伝えします。

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【朝礼】私って「働かないおじさん」?

おはようございます。突然ですが、皆さんはちまたで「働かないおじさん」というワードが広まっているのを知っていますか? 先日インターネットで見つけたのですが、「職場での働きが悪く、影の薄い中高年社員」のことを、働かないおじさんとか「妖精さん」と呼ぶそうです。年齢的にはおじさんといえる私も人ごとはでないので、今日はこれをテーマに話をしたいと思います。

初めて働かないおじさんというワードに触れたとき、私は文字通り「仕事をサボっている人」を想像したのですが、書籍や記事を読んでみると、実はそうした人は少数で、むしろ仕事自体は真面目にコツコツやっているけれど、会社が期待するほどの活躍ができていない、いわゆる「ローパフォーマー」に対して多く使われているようです。

中高年社員がローパフォーマーになってしまう理由はさまざまで、例えば「ある程度安定したポジションにいるため、与えられた仕事はそつなくこなすけど、それ以上の何かを成し遂げようという気概がない」「古い知識や仕事のやり方にしがみつき、新しいことを学ぼうとしないので能力が伸びない」「プレーヤーとしては優秀だけど、マネジメント業務が苦手で、管理職としては仕事のできない人に見えてしまう」などがあります。

そして、書籍や記事を読む中で、私は気付きたくないことに気付いてしまいました。それは、「私自身が働かないおじさんかもしれない」ということです。

自分で言うのもなんですが、私はこの会社で長く勤めるうちに、新人の頃よりも周りの動きに目を配る余裕が出てきました。その結果、自分の本来の仕事をこなすだけでなく、先輩や後輩を積極的にサポートしつつ、社内書類の整理など、人の気付かない小さな仕事にも取り組むようになりました。それなりに忙しい日々を送っており、こうした姿勢で仕事をしていると、周りから感謝されるので、やりがいがあります。

ただ、そうした日々を送ることに満足すると同時に、「忙しいから」という理由を付けて、この会社をよりよく変えていくために積極的に自分を磨くことを怠るようになっていたのだと思います。周りから感謝されるポジションにいることで、「私は今のままでいいんだ」という、ある種の居心地の良さを感じるようになっていたのかもしれません。そう気付いた私は、今の自分は会社の期待に応えられているのか、本当はもっと成長しているべきだったのではないかと考え、とても不安な気持ちになりました。

そこで、私は今年度の目標を、「働きものおじさん」になることにしました。与えられた仕事には100パーセントでなくプラスアルファを付けて応え、知らないことがあれば「もっと自分は成長できる」と思って勉強し直します。もし、私と同じような不安を抱えている中高年の方がいたら、一緒に新入社員の頃の気持ちに戻りましょう。人生にいつだって「遅い」はないのです。

以上(2023年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

ゼロゼロ融資の返済開始に伴うリスクと対応

1 アフターコロナに伴うリスクについて

新型コロナが5類に移行することになり、ようやく元の社会に戻りつつありますが、アフターコロナの社会に向けた環境変化のリスクにどう向き合い、対応するのか?元に戻すべきものと戻さないものの取捨選択の判断を適切に行うことが求められます。具体的には、行動制限や非接触の意識等を変えられない場合、景気回復の遅れやコミュニケーション不全による生産性の低下につながる可能性があります。一方で、コロナ禍で根付いたオンライン面談やテレワーク等は、DXを推進して生産性を高めていく上でも、柔軟な働き方を受け入れ優秀な人材を採用・確保するためにも重要と考えられます。

そして、アフターコロナにおいても、コロナ禍で背負った負の遺産までが消え去る訳ではありません。その代表格がコロナ禍において倒産防止のために行われたゼロゼロ融資です。借入である以上は、当然のことながら返済が必要となる中で、返済に追われ、息切れ倒産となるケースが増加しています。今回はゼロゼロ融資の返済がピークを迎える中で、その現状と共に、国の資金繰り支援の対応措置や取引先企業の倒産リスクへの対応について解説をさせていただきます。

2 ゼロゼロ融資について

ゼロゼロ融資とは、新型コロナウイルス感染症の拡大で売上が減った企業を支援するために2020年に始まった融資です。一定の要件を満たす企業に対して、金融機関に支払う利子を公的機関が3年間負担し、返済できない場合も信用保証協会が肩代わりするもので、実質無利子(利子ゼロ)・無担保(担保ゼロ)であるため、「ゼロゼロ融資」と呼ばれています。融資総額は2022年9月末時点で計約43兆円にのぼり、2023年7月~2024年4月に返済開始の山場を迎えます。元々は、コロナ禍において企業の窮地を救うための措置でしたが、基本的に売上減少による運転資金に対する借入であるため、借入金は既に人件費や家賃等の支払いに消えています。そのため、多くの企業がコロナよる環境変化に対応するための経営改善を行うことが出来ない中で、従来の経営を続けながら、利益の中から返済を行う事が求められています。しかし、環境変化の中で、コロナ前は返済に必要な利益を出していた企業でさえ利益を出すことが難しい中で、そもそも返済に必要な利益を出していなかった企業は、返済の目途が立たないことも想定されます。

3 ゼロゼロ融資の返済開始に伴う現状

東京商工リサーチが発表した2月の全国企業倒産件数は前年同月比26%増の577件となり、リーマン・ショック前後の2009年4月以来、13年10カ月振りに11か月連続で前年を上回り、ゼロゼロ融資を利用した企業の倒産も48件と2・5倍に増加しました。最長3年間の利子補給期間が4月から順次終了し、返済が本格化する中で、環境変化に対応した経営改善が進んでいない企業が多いとなると、今後も倒産件数は増加することが想定されます。また、ゼロゼロ融資の返済に加えて、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻、円高等の影響による燃料・原材料価格の高騰、人手不足が追い打ちをかけており、経営再建を断念する息切れ型の倒産も広がっています。実際に、物流業界では燃料の高騰で賃上げがかなわず、運転手不足が加速しており、営業を続けるホテル・旅館でも人手不足の課題を抱え、需要の回復にも拘らず、人員不足のためサービスを十分に提供できず、売上を拡大することが出来ないケースが目立ち始めています。

※企業の倒産情報

https://www.tsr-net.co.jp/news/status/monthly/202302.html

東京商工リサーチ調べ 全国の企業倒産件数

4 ゼロゼロ融資の継続支援策

そのような厳しい現状の中で、中小企業庁は民間のゼロゼロ融資からの借り換えに加え、他の保証付融資からの借り換えや、事業再構築等の前向き投資に必要な新たな資金需要にも対応する新しい借換保証制度(コロナ借換保証)を創設しました。

この制度の保証限度額は民間ゼロゼロ融資の上限額の6,000万円を上回る1億円となっており、保証期間は10年以内で据置期間は5年以内、金利は金融機関所定となりますが、保証料率は0.2%と非常に低い水準となっています。

しかし、売上または利益率が前年比5%以上減少していることや、金融機関による伴走支援と経営改善に向けた具体的な経営行動計画書の作成等が条件となっており、現状では2024年3月31日までに信用保証協会に保証申込を行う必要があります。

本制度は、新型コロナの影響で債務が増大した中小企業者の収益力の改善等を支援するための措置であり、要件を満たす企業の場合は、有利な資金調達ができるため、活用することをお勧めします。また、本制度の対象とならない企業についても、今後の様々マイナス影響を想定し、早期に財務戦略を決定し、返済計画を立てる事が求められます。

・コロナ借換保証の詳細は以下のURLを参照下さい。

https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/sinyouhosyou/karikae.html

5 取引先の倒産リスクへの対応

そして、倒産が増加する局面において非常に重要となるのが取引先の与信管理です。しかし、中小企業では与信管理に多くの人員を割くわけにもいかず、ましてコロナ禍において急速に変化した取引先の状況を適切に把握することは困難と考えられます。そのような中で、財務リスク対策として注目されるのが、取引先の倒産などに備える取引信用保険であり、損害保険大手4社の契約件数も2022年度に前年度比で1割増の大幅な増加となる見通しです。

取引信用保険は取引先の倒産などにより売掛金・受取手形が回収不能になった場合に、貸倒損失に対して保険金を支払う仕組みです。景気後退局面で加入が伸びる傾向にあり、ゼロゼロ融資の返済が本格化して倒産企業が増加する中で、売掛金を回収できずに連鎖倒産に至るリスクを回避するための財務対策として非常に有効な保険です。取引信用保険の活用メリットとしては、貸倒時に資金調達がスピーディーにできる点と、保険会社による与信管理機能の活用によって、貸倒損失の補填のみならず営業戦略にも活用できる点であり、特に中小企業に有用な保険と考えられます。

以上(2023年4月)

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株式会社アリスヘルプライン(内部通報制度構築支援・ガバナンス態勢の構築支援等)