【朝礼】趣味がないなら、ボランティアをやってみなさい

私は日ごろから皆さんに、「仕事以外の趣味に費やす時間を大切にしてほしい」と伝えています。それは、没頭できる趣味というのは人生を豊かにするし、職場以外の場所で得た経験というのは、仕事に活かせることも多いからです。

けれど、残念ながら当社には、「趣味は特にありません」という社員が少なくありません。そんな人にお勧めしたいのが、ボランティアです。

知っている人もいると思いますが、私はここ数年、休日を利用して地元の老人ホームで、「傾聴ボランティア」というものをやっています。75~90歳の幅広い年齢の方々から、これまでの体験や日々思っていることを伺うのです。

老人ホームの方々はご高齢なので、聞き取りが難しく、普段の会話よりも時間がかかります。けれど、戦中戦後の体験や私が生まれる前の地元の話を伺うと、驚きや感動があります。

また、老人ホーム内の恋の話を聞くと、いつになっても恋は人を元気にさせるものだなと感心するとともに、「老人ホームの方々に比べたら、私は若輩者。もっと若い気持ちでいなければ」と励まされることがあります。

歌が好きでいきなり歌い出す方や、お手玉が得意で80歳を過ぎて4つ、5つ投げられる方もいて、ヒヤヒヤしつつ、楽しく充実した時間を過ごせます。最後には皆さんからとても感謝されますので、うれしさと満足感を覚えて、気分もリフレッシュします。

そして、最初にお話ししたように、ボランティアは単に人生を豊かにするだけでなく、仕事に活かせることもたくさんあります。

老人ホームでの体験談は、誰もが関心を持って聞いてくれるので、仕事の打ち合わせの際のアイスブレークとして非常に役立っています。また、人生の先輩方のお話から、新しいビジネスのヒントを得ることもあります。

例えば、指が震えてスマホの画面を上手にタップできないとか、箸でうまく食べ物が持てないといった話を聞くと、手入力ではなく音声入力の精度を高めるスマホや、ピンセットのようなバネ付きの箸があるといいなとか、思いますよね。目の前で困っていることがあると、解決してあげたいと思うのが人情で、そういう目線で見ると、高齢者というのはアイデアの宝庫ともいえます。すでに商品化されているものも多いですが、このように、ボランティアの最中にビジネスに関するアイデアがひらめくことがよくあります。さらに、同じボランティア仲間を通じた人脈づくりも進んでいます。

どうでしょう? ボランティアは皆さん自身にとっても、会社にとっても、メリットがあると思いませんか? 社内で学んだことができるようになるだけでは、会社にとって新たな力にはなりません。けれど、皆さんが社外で学んだことを社内に持ち込んでくれれば、会社は新しい力を得ることができ、もっと成長するはずです。 

以上(2022年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】あなたの仕事力を決めるのは「段取り力」です

皆さんは「段取り7分・仕事3分」という言葉を知っていますか。これは仕事のできる大工さんの条件で、「腕の良い大工は、段取り7分・仕事3分」といわれるそうです。能率的で、良い仕事をするためには、事前の段取りが大切であり、段取りをしっかり組める人こそが、腕の良い大工さんであるということです。確かに、大工さんに限らず、仕事ができる人というのは、仕事前のちょっとした時間を使ってうまく段取りを組んでいるものです。段取りが上手な人と一緒に仕事をすると、自分もテキパキと動くことができ、大変だと思われた仕事もあっという間に片付いてしまったという経験はみなさんもあるのではないでしょうか。

段取りを上手に組める能力を「段取り力」といいます。皆さんにも段取り力を上げていただいて、こうした「段取り上手な人」になってもらいたいと思っています。そこで、今日は、私なりの段取り力向上のためのコツをお伝えしようと思います。簡単なことですので、ぜひ、参考にしてみてください。

それは、「常に逆算して段取りを組む」ということです。仕事には必ず「いつまでに終わらせなければならない」という期限があります。ですから、期限から逆算して、それぞれの仕事をいつスタートすれば間に合うかを判断した上で、それらを整理しながら段取りを組むのです。

「そんなの、当たり前のことじゃないか」と思うかもしれません。確かに、これは社会人としてのイロハのイです。しかし、肝心なのは、ただ「逆算して段取りを組む」ことではありません。これが「常にできる」ことこそがこのコツの要点となる部分です。毎日の仕事は、上司からの指示、お客様からのクレームへの対応など、急な用件が次々と入ってきます。このように、あわただしく仕事をしているときにこそ、皆さんの段取り力の真価が問われます。

段取り力の足りない人は、急な仕事が重なると、余裕を失って「逆算して段取りを組む」ことができなくなってしまいます。そして、気持ちばかりが焦って、「とにかく仕事を片付けなければ」とバタバタと目の前の仕事から片付けようとするでしょう。しかし、段取りを忘れたこんな仕事の進め方は、思うようにはかどらない上にミスも発生して、能率が悪いことこの上ありません。

一方、段取り力の高い人は、どんな状況でも焦らず「逆算して段取りを組む」ことを忘れません。ですから、忙しいときでも、次から次へと着実に仕事をこなしていくのです。

「私は、バタバタしがちだな」。そう思う人は、忙しいときに、仕事から離れて5分程度の短い休憩を取るようにしてください。すると、焦っていた気持ちが落ちつくはずです。そうしたら、「常に逆算して段取りを組む」ということを思い出して、冷静な頭で仕事の段取りを組んでみましょう。

すると、その仕事がどんなに大変であったとしても、今まで以上に能率的にこなせるようになるはずです。

以上(2022年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

居眠り運転防止に向けて(2022/10号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

秋の行楽シーズンを迎え、長時間の運転も増えるのではないでしょうか。そこで気を付けたいのが居眠り運転です。運転中に眠気を経験したドライバーも多いと思いますが、運転中の居眠りは重大な事故を招きかねず大変危険です。

今回は、居眠り運転の原因と防止策について取り上げます。

居眠り運転防止に向けて

1.居眠り運転の原因

居眠り運転は、危険への注意や回避ができず、死亡事故など重大事故につながる可能性があります。では、なぜ居眠り運転をしてしまうのか、主な原因を考えてみましょう。

(原因1)睡眠不足

まず最初に睡眠不足があげられます。睡眠は7時間程度が理想と言われています。睡眠時間が短くなるほど事故発生率が高まります。 (図1)

また、睡眠不足が続くと、疲労が蓄積し、居眠り運転や漫然運転を誘発し、信号の見落としや追突事故などを起こしかねません。

睡眠時間による事故発生率

出典:米高速道路交通安全局と全米自動車協会交通安全財団の調査データから当社作成

(原因2) 眠気のリズム

人には12時間周期の眠気のリズムがあり、2~4時と14~16時(起床から8時間後)は眠気が強くなる時間帯です。また、人の生体リズムにより夜半~早朝は眠くなる時間帯です。居眠り運転での死亡事故は
これらの時間帯に多く発生しています。(図2)

なお、これらの時間帯は交通量が比較的少なくなるため、ドライバーは単調な運転になりがちです。

居眠り運転死亡事故の発生時間帯

出典: (警察庁委託調査研究)「睡眠障害と安全運転に関する調査研究報告書」(平成19年3月)から当社作成

(原因3)道路状況

人は単調な環境のもとでは2時間ごとに眠気を感じると言われています。居眠り運転は、空いている道路や直線道路で多く発生しています。(図3)

高速道路などを長時間運転する場合は、居眠り運転に十分注意する必要があります。

居眠り運転発生時の道路状況

出典:公益財団法人 高速道路調査会 平成27年3月「高速道路での居眠り運転防止に向けた効果的な対策に関する調査研究報告書」

2.居眠り運転の防止策

居眠り運転を防ぐには、日頃から適度な睡眠を確保することが大事です。

規則正しい生活を送ることで質の良い睡眠を取ることができます。また、睡眠不足で蓄積した疲労は、睡眠をまとめて取得しても解消しにくいと言われています。

日頃から生活のリズムを意識して、睡眠を7時間程度取得するようにしましょう。

睡眠を確保

運転中に眠気が生じた場合は、以下のような対策をお薦めします。

・仮眠(15分程度)を取得

運転中の眠気の解消には15分程度の仮眠の取得が効果的です。

仮眠が30分以上になると深い眠りに入り、逆効果になりますので注意しましょう。

仮眠を取得

・カフェイン(コーヒーなど)を摂取

カフェインには疲労回復、集中力向上、眠気抑制などの効果があると言われています。ただし、効果が現れるまでに15分程度かかります。

仮眠の前にカフェインを摂取するのもよいでしょう。

カフェインを摂取

・ガムを噛むなど五感を刺激

ガムを噛むと脳の血行が良くなり、眠気を抑えられます。目薬をさす、水を飲む、ストレッチをする、声を発するなど五感を刺激することで眠気を抑えられます。

・長時間運転する場合は、こまめに休憩

長時間の運転では、2時間ごとに眠気が生じやすくなります。この生体リズムを意識して、無理をせず、こまめに休憩するようにしましょう。

3.睡眠時無呼吸症候群

眠気対策をいろいろ試しても、日中に強い眠気を感じる場合、「睡眠時無呼吸症候群」の可能性があります。

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に気道が塞がれ、いびきや無呼吸を繰り返す症状があり、その影響で日中に強い眠気を感じ、居眠り運転が発生しやすくなります。

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に症状が現れるため、本人では気づきにくい病気と言われています。家族からいびきを指摘されたり、日中に強い眠気を感じるようになった場合は、早めに専門医の診断を受けるようにしましょう。

早期発見で適切に治療をすれば、症状の改善が期待できます。

【参考】

公益財団法人 国際交通安全学会のビデオアーカイブのサイト内にある以下の動画をご紹介します。

  • 「睡眠時無呼吸症候群運転絵巻」
  • 「睡眠時無呼吸症候群と交通事故」

https://www.iatss.or.jp/movie/

以上(2022年10月)

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画像:amanaimages

旺盛なインバウンドを取り込め! 「ウィズコロナ」のお勧め旅行企画とPR手法

書いてあること

  • 主な読者:インバウンドの動向が気になる宿泊業者や新規参入を検討している経営者
  • 課題:訪日希望者が期待する旅行企画を知りたい
  • 解決策:自然や歴史・景観など、地元の特徴を活かしたアクティビティを見つけ、インターネットを利用して訪日希望者にアピールする

1 再開するインバウンドの需要を取り込むために

コロナ禍の外国人受け入れ禁止(2020年12月28日から)などで大きな打撃を受けたインバウンドですが、2022年10月11日から全面解禁となりました。

観光庁によると、コロナ前までのインバウンドは右肩上がりの産業で、2019年の訪日外国人旅行消費額は4兆8135億円に上っていました。いったんはコロナでしぼみましたが、外国人の受け入れが本格化すれば、再び大きな経済効果をもたらしてくれるはずです。

この記事では、「ウィズコロナ」の状況下での、

  • インバウンドのニーズを知り、需要を取り込む企画作り
  • 訪日意欲の強いインバウンドに届けるプロモーション

について解説し、インバウンドの需要を中小企業が取り込むための企画や方法を紹介していきます。

2 インバウンドのニーズを知り、需要を取り込む企画作り

1)体験したいことは、「アウトドア・アクティビティ」や「自然や風景の見物」

外国人が日本旅行で体験したいことは、新型コロナウイルス感染拡大前と比べて変化があります。日本政策投資銀行(DBJ)・日本交通公社(JTBF)の調査によると、最も大きな変化は、「アウトドア・アクティビティ」や「自然や風景の見物」など、自然への興味・関心が高くなっていることです。

訪日希望者が日本旅行でしたいこと×コロナ流行前からの変化

また、新型コロナウイルス感染拡大を契機として、都心のホテルより自然環境に触れる旅行地のニーズが高まっている傾向もみられます。

2)持続可能な観光への意識が高まっている

海外旅行を検討する際、サステナブルな取り組みを重視する意向も強まっています。日本政策投資銀行(DBJ)・日本交通公社(JTBF)の調査では、サステナブルな取り組みによる宿泊単価の値上げに対して、全体の7割に許容の意向があります。

値上げが許容できる取り組みの具体例としては、「ゴミの分別・削減」、「食料廃棄の削減」、「公共交通機関の利用」、「プラスチック利用の自粛」などの環境への影響に加えて、「地域ならではの精神性の体験」や「地元の人との対話・交流」といった地域のコミュニティや歴史・風土に関わるものもあります。

また、観光庁が旅先での過ごし方について尋ねた調査では、回答者の約7割が「現地の文化を代表するような本格的な体験」や「旅行中に使ったお金を現地コミュニティに還元」に意欲を示しています。

旅先での過ごし方

3)地域の特徴を活かしたアクティビティを企画しよう

ウィズコロナでの旅行は、「アウトドア・アクティビティ」「自然」「サステナブル」がキーワードになりそうです。

これらのキーワードを基にした旅行企画は、大手旅行会社でなくても実現可能です。

例えば、寿司店が自店舗を使って寿司握り体験教室を開く、海外の日本酒ブームに合わせて酒蔵で酒造りを見学する、日本茶の産地で茶葉の手もみ体験をする、日本情緒のある景観が楽しめる場所でのテント泊、山村でのマタギ体験、数百年以上の歴史を持つ神社めぐりなどです。

これらのアクティビティや景観、名所めぐりは、地元では「当たり前すぎて観光資源になることに気付いていない」ものがたくさんあります。他の地域のアクティビティや景観めぐりが紹介されているウェブサイトを参考にするなどして、地元の良さを見つめ直してみるのもいいでしょう。

3 訪日意欲の強いインバウンドに届けるプロモーション

インバウンドを取り込む旅行企画を作ったら、それをPRすることが大切です。どんなに魅力的な旅行企画であっても、プロモーションに失敗すれば「企画倒れ」になりかねません。

海外に向けて発信するのであれば、何より重要なのが、インターネットを活用した、英語などの多言語によるPRです。

1)海外のインフルエンサー(SNSで大きな影響力を持つ人)に協力を呼びかける

海外に影響力を持つ外国人インフルエンサーを活用することで、世界に向けて情報発信することができます。

大田原ツーリズム(栃木県大田原市)は、農村を観光資源として活用し、農家民泊を軸に、地元住民らと交流しながら農作業などを体験する「グリーンツーリズム」を行っています。同社では海外のインスタグラマーやユーチューバーに向けて常に情報提供を行い、イベントに招待して現地向けの情報を発信してもらっているそうです。農作業や伝統的な暮らしの体験、自然を活用したアクティビティなどを、インフルエンサー自らが体験することで、臨場感のある情報発信につながります。

外国人インフルエンサーを活用する際は、インフルエンサーのフォロワーが、PRしたいターゲットと重なっていることを確認しましょう。日本のことを紹介するインフルエンサーのフォロワーの大半が日本人だったりすることもありますので、注意が必要です。事前にターゲットを決めてからインフルエンサーを選定するようにしましょう。

外国人インフルエンサーを紹介してくれる業者の一例は次の通りです。なお、PR会社に相談する場合は、さまざまなノウハウも提供してくれますが、相談料やインフルエンサーへの報酬も必要になります。

1.Tokyo Creative

30人以上の在日外国人インフルエンサーが所属しています。在日外国人ユーチューバーがツアーのスポット選定から、ローカルガイドの魅力発信まで依頼主と共に行うことで集客率の向上を行ったりしています。また、同社は訪日インバウンドのコンサルティングも行っています。

■Tokyo Creative■
https://www.tokyocreative.jp/ja/

2.インバウンドONE

複数のインフルエンサーマネジメント会社とのネットワークを持つ訪日外国人の旅行手配を行っています。海外から来日し取材・体験した上での情報配信や、紹介してほしい商品をインフルエンサーへ送りレビューを投稿してもらうなど、依頼主ごとに対応しています。

■インバウンドONE■
https://www.jointone.biz/

3.共同ピーアール

日本の観光事業を紹介した実績を持つ外国人インフルエンサーとネットワークを持ち、ターゲットの国や言語、タイミングにあわせて最適なインフルエンサーを紹介します。また、専用ECサイトも持ち、投稿記事と連動した商品を案内し、購入してもらうまでの効果も測れます。

■共同ピーアール■
https://www.kyodo-pr.co.jp/

2)アクティビティサイトを利用する

アクティビティサイトを利用してPRする方法です。アクティビティサイトへの初期の掲載費用やページ制作費などがかからない代わりに、サイトを経由して予約があった場合に成果報酬費用をサイト運営者に支払うケースが多いようです。

このため、宿泊施設・小売店などの事業者は、まずは低額のプロモーション費用で反応を試してみることが可能です。また、アクティビティサイトの運営側としても、初期の掲載費用を無料にしてハードルを低くすることで、多様なアクティビティ情報の集積ができます。

アクティビティサイトの一例は次の通りです。

1.アクティビティジャパン

H.I.S.の子会社であるアクティビティジャパンが運営しています。登録事業者数は約6000で、掲載プラン数は1万6000を超えています(2022年8月現在)。H.I.S.の店舗や販売網を使ってアクティビティの紹介・仲介、電話予約も行っています。

掲載に当たっては、初期掲載費用・初期ページ制作費・広告宣伝費用は無料で、同サービスを経由した予約に対して送客手数料・オンライン決済手数料がかかります。

■アクティビティジャパン■
https://activityjapan.com

2.asoview!(アソビュー)

アソビューが運営しています。累計体験人数は1000万人、掲載プラン数は2万を超えています(2018年9月現在)。掲載に当たっては、原稿の登録・作成・修正費用・予約管理システム利用料は無料で、ウェブサイトを経由した予約に対して10%の成果報酬費用が差し引かれます。

■asoview!(アソビュー)■
https://www.asoview.com/

3.Viator(ビアター)

500以上の提携サイトを持つアクティビティ特化のプラットフォームで、サイト訪問者は累計すると4.5億人以上を数えます。また、世界有数の旅行口コミサイトであるトリップアドバイザーの傘下にあり、同サイトに無料で掲載でき口コミを管理できます。

■Viator■
https://www.viator.com/

4 インバウンドが復活する要因

1)高い訪日意欲に加え、円安効果も後押し

観光庁によると、医療崩壊を防ぎ、感染対策と社会活動の両立を図る「ウィズコロナ」のなかで、新型コロナウイルス感染症が落ち着いた後に訪日意欲を持つ人は73.2%に上ります。

ポストコロナの訪問意欲

前出のDBJ・JTBF「アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(第3回 新型コロナ影響度 特別調査)」(2022年)」でも、「次に海外旅行したい国・地域」の第1位は日本でした。

また、円安効果もあります。2019年の米ドル円の為替は、1米ドル=110円程度でした。現在1米ドル=140円台で推移していて、2019年より2割ほどの円安となっています。すでに自国で買うよりも日本で買ったほうが安い状況も生まれているため、外国人の消費意欲が高まっています。

2)国もインバウンド誘致に積極的

インバウンドの掘り起こしには国も力を入れています。観光庁は観光インバウンドの回復を見据えて、「インバウンド回復に向けた戦略的取組」の2023年度の予算要求額を98億7900万円としました。その大半を占めるのが「戦略的な訪日プロモーションの実施」の93億円(2022年度の決定予算は65億4200万円)です。

観光庁の戦略的な訪日プロモーションに向けた取り組み

以上(2022年10月)

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画像:unsplash

女性活躍の実態と情報公表などの義務化

厚生労働省は今年7月、「令和3年度雇用均等基本調査」の結果を取りまとめ、公表しました。この「雇用均等基本調査」は、男女の均等な取り扱いや仕事と家庭の両立などに関する雇用管理の実態把握を目的に、毎年実施されている調査となります。
本稿では、公表された「令和3年度雇用均等基本調査」の概要を紹介するとともに、関連して「改正女性活躍推進法」に基づき義務化される情報公表などの内容をお伝えします。

1 令和3年度雇用均等基本調査

令和3年度は、全国の企業と事業所を対象に、管理職に占める女性割合や、育児休業制度の利用状況などについて、10月1日時点での状況が調査されました。実施された調査結果の一部を次にご紹介します。

〇【企業調査】正社員・正職員の採用状況

令和3年春卒業の新規学卒者を採用した企業割合は 21.3%と、前回調査(令和2年度20.6%)に比べ 0.7ポイント上昇しました。採用した企業について採用区分ごとにみると、総合職については「男女とも採用」した企業の割合が 45.2%と最も高く、次いで「男性のみ採用」が 41.8%となっています。限定総合職では「男性のみ採用」が 49.6%と最も高く、「男女とも採用」は 25.6%、「女性のみ採用」は 24.8%となっています。一方、一般職では「男性のみ採用」が 35.2%、「女性のみ採用」が 32.7%となっており、採用状況にあまり差はみられませんでした。

〇【企業調査】管理職に占める女性の割合

管理職に占める女性の割合は、部長相当職では 7.8%(令和2年度 8.4%)、課長相当職では 10.7%(同 10.8%)、係長相当職では 18.8%(同 18.7%)となりました。規模別にみると、いずれの管理職割合においても 10~29人規模が最も高く、部長相当職の女性管理職割合が 14.0%、課長相当職が 18.2%、係長相当職が 23.8%となっています

〇【事業所調査】育児休業取得者の割合

育児休業取得者の割合は、女性が85.1%(令和2年度81.6%)、男性が13.97%(同12.65%)となっています

2 女性の活躍に関する情報公表の義務化

今年の4月から「改正女性活躍推進法」に基づく一般事業主行動計画の策定・届出と情報公表が、101人以上300人以下の企業にも義務化されました。
前項のような自社の女性の活躍に関する状況について、以下の項目から1項目以上選択し、求職者等が簡単に閲覧できるように情報公表することが必要とされています。詳細は厚生労働省のHPなどでご確認ください。

女性の活躍に関する情報公表

厚生労働省リーフレット「令和4年4月1日から女性活躍推進法に基づく行動計画の策定・
届出、情報公表が101人以上300人以下の中小企業にも義務化されます」(令和4年1月)

3 さいごに

義務化された企業規模は101人以上とされていますが、100人以下の企業でも、女性活躍・両立支援に積極的に取り組み、ポジティブな結果を得ている企業もあります。厚生労働省が紹介している好事例集によると、ガスサービス業の会社において、男性中心の営業部門に女性を積極的に配置することで女性従業員の業務の幅を拡大させ、また昼休みを含め3時間まで中抜けできる中抜け休憩制度や子どもを連れた出勤を可能にすることで、職場の雰囲気が変わり、従業員の満足度が向上し、また女性の新卒応募者も増加する効果が得られたと紹介されています。人手不足が深刻化する中、女性が活躍できる職場への改善取組は、人材の確保・活用の観点で、社内外から高い評価を受けることが期待できますので、積極的に取り組んでみてはいかがでしょうか。

※本内容は2022年9月9日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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女性活躍の実態と情報公表などの義務化

厚生労働省は今年7月、「令和3年度雇用均等基本調査」の結果を取りまとめ、公表しました。この「雇用均等基本調査」は、男女の均等な取り扱いや仕事と家庭の両立などに関する雇用管理の実態把握を目的に、毎年実施されている調査となります。
本稿では、公表された「令和3年度雇用均等基本調査」の概要を紹介するとともに、関連して「改正女性活躍推進法」に基づき義務化される情報公表などの内容をお伝えします。

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【朝礼】習慣を変えて、柔軟な視点を持とう

みなさんは、仕事や普段の生活のなかで「なんとなく行き詰まってしまった」と感じることはありませんか? 仮に、行き詰まりとまではいかなくても、ワンパターンの行動が毎日続き、「自分はいつも同じようなことを繰り返している」と思っている人はいるでしょう。そして、なんとなく毎日の仕事や生活に充実感が感じられないという人もいるのではないかと思います。

そんなときは、考え方が硬直して広い視野でものを見られていない可能性が高いように思えます。

人間は習慣の動物です。ある程度行動を習慣化してしまえば、精神的にも肉体的にも慣れてしまうため、その方が心理的にも楽だからです。運動や勉強など、よいことは習慣づけるべきだといわれるのも、そうすることで楽に続けることができるからでしょう。しかし、こうした人間の心理にこそ、大きな落とし穴があるのです。

実は、仕事にせよ、生活にせよ、あまりにも習慣化が過ぎると、周りで起こる出来事を固定観念でしか解釈できなくなるという弊害が起こってしまいます。先ほど、人間は硬直した考え方にとらわれがちであるといいましたが、言い換えれば、普段の習慣からくる思い込みが考え方の幅を狭め、それが仕事や生活での行き詰まり感や充実感の喪失につながっていくのです。

ここで、みなさんに心がけていただきたいことがあります。それは、自分の固定観念にとらわれずに、柔軟な視点を持とう、ということです。

柔軟な視点を持つといっても、簡単にできるものではないように思えるかもしれません。確かに、それはある意味で人間の心理に逆らうということですから、決してやさしいことではないでしょう。

そこで、私から一つ提案があります。それは、「自分のこれまでの生活習慣を少しだけ変えてみませんか」ということです。例えば、朝少しだけ早く起きて、いつもとは違うニュース番組を見るのもよいでしょうし、通勤のときに通る道を、時々変えてみるのもよいかもしれません。きっと、何か新しい発見があるでしょう。環境が許す方ならば、犬を飼えば、散歩などで以前とは行動範囲が変わってきますし、それまでは気付かなかったペット商品に注意がいくようになるかもしれません。

習慣を変えるのは仕事のときでも構いません。これまで、週ごとにまとめてやっていた伝票処理を毎日行ったり、午後に訪問することが多かったお客様を午前中に訪問してみるなど、お客様や仕事の効率に支障が出ない限り、ちょっとした習慣を変えることで、新しい何かが見えてくると思います。

有名な画家のピカソは、一生の間に何回か作風を大きく変えています。彼は、初期に高い評価を受ける作風を完成させたにもかかわらず、ある段階でそれまでの自分の作風を壊して、全く新しい作風を再構築しました。

これは、固定観念を捨てて柔軟な視点を持てた人の一例だと思います。私たち普通の人であっても、こうした変化を求める意識を少しでも持つことで、新しいものが生み出せるのだと、私は信じています。

以上(2022年10月)

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【朝礼】豊臣秀長に学ぶ「支えてくれる人のありがたみ」

今日は、部下を持つ管理職の方々に集まってもらいました。本題に入る前に、まず皆さんにはお礼を言います。皆さんは日ごろ、自分が持っている業務で多忙な中、時間の合間を縫って部下の面倒をよく見てくれています。彼らがしっかりと仕事をこなせているのは、皆さんのおかげです。

ここから本題になりますが、一方で、皆さんに考えてほしいことがあります。それは、皆さんが部下を支えているだけでなく、皆さんも部下から支えられていることを意識してほしいのです。今日はそれを考えてもらうために、戦国時代の武将、豊臣秀長(とよとみひでなが)の話をします。

秀長は、天下を統一した豊臣秀吉の実の弟です。秀吉と同じく農民の出身だったといわれていますが、農民から織田家の家臣になった秀吉にスカウトされ、彼の下で働きます。秀長は、秀吉が明智光秀に勝利した山崎の戦いなど、負けられない重要な戦いに数多く関わっていて、そのたびに与えられた役割を着実にこなし、兄の勝利に貢献してきました。

秀長は秀吉をサポートする補佐役に徹していたため、兄に比べると目立ちませんでしたが、その温和な人柄で多くの人に好かれていて、諸大名と秀吉の間を取り持つ仲裁としての役割、秀吉が行き過ぎた際にいさめるストッパーとしての役割など、彼にしか果たせない仕事を数多くこなしていたようです。だからこそ、秀長が病死した後、豊臣家の雲行きは怪しくなっていきます。

秀長というストッパーを失った後の秀吉は、家臣に理不尽な切腹を命じる、中国侵攻をもくろんで諸大名に朝鮮出兵を命じるなどの失策が目立っていきます。もし秀長の死後に、秀長に代わる人材がいれば、豊臣家が徳川家康に天下を奪われることはなかったかもしれません。

私は、秀吉は秀長に対して、「弟だから支えて当たり前」という甘えもあったのではないかと推測します。もし秀吉が秀長の役割を、一人の部下として評価していたら、秀長亡き後に「第二の秀長」を育てようとしたのではないかと思います。

さて、仕事の話に戻りますが、改めて管理職の皆さんに考えてほしいのは、部下に対して「面倒を見てやっている」「何かをしてやっている」という思いばかりが先行し、彼らへの感謝を忘れてはいないか、ということです。皆さんがいてくれるから部下は仕事をこなせますが、部下の人たちも、ただ与えられた仕事だけをしているわけではありません。彼らもまた、皆さんの指示をさらにかみ砕いて、自分より若手の社員に伝えたり、目に見えないところで皆さんの雑務を引き受けてくれたりしています。そうした1つ1つの働きによって、会社は回っているのです。

私にとって管理職の皆さんはなくてはならない存在であるように、皆さんにとっても部下はかけがえのない存在なのです。私も含め、自分を支えてくれる人のありがたみをかみ締めて、改めて業務にまい進していきましょう。

以上(2022年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

円安の追い風も! 外国人観光客の受け入れ再開で到来したビジネスチャンス

書いてあること

  • 主な読者:コロナ前にインバウンドの恩恵を受けた宿泊・観光事業者、インバウンドの本格再開を見込んで新規参入を狙う事業者
  • 課題:インバウンドは今後どれくらい期待できるのか、取り込むために必要なことは何か
  • 解決策:2019年当時の訪日者数に戻れば旅行消費額は6兆円超の可能性も。コロナで変化した外国人観光客のニーズに対応するとともに、感染症などのリスクに備えておく

1 外国人観光客の受け入れが全面解禁!

新型コロナ感染症対策のために制限されてきた外国人観光客の入国が、2022年10月11日から全面解禁となりました。こうなると、期待したいのがインバウンドによる経済効果であり、その背景には次の3つがあります。

  • コロナ前は訪日外国人数が右肩上がりだった実績
  • 外国人の旺盛な訪日ニーズ(“リベンジ消費”も含む)
  • 円安の追い風で「爆買い」復活の予感

この記事では、インバウンドによる経済効果を期待できる背景と、想定されるインバウンドによる経済効果についてご説明します。また、インバウンドを取り込むためのポイントとなる、コロナ前と比べて変化した外国人観光客のニーズの傾向や、感染症対策などのリスクへの備えについても触れます。

2 インバウンドの効果を期待できる3つの理由

1)コロナ前は訪日外国人数が右肩上がりだった実績

図表1のように、コロナ前の日本は、訪日外国人数が右肩上がりに増えていました。2003年以降で前年よりも減ったのは、リーマンショックの影響を受けた2009年と、東日本大震災が発生した2011年だけです。2015年には訪日する外国人の数が出国する日本人の数を逆転しています。

国連世界観光機関(UNWTO)によると、2019年の3188万人で、日本を訪れる外国人数は世界12位、アジアでは中国、タイに次いで3位に入っており、世界の上位にランクしていました。さらに、同年の国際観光収入は461億米ドルで世界7位、アジアではタイに次ぐ2位に入っていました。

訪日外客数と出国日本人数の推移

政府が2016年3月に策定した「明日の日本を支える観光ビジョン」では、2020年の訪日外国人旅行者数を4000万人、2030年には6000万人という目標を掲げていました。コロナ禍によって東京五輪が延期および外国人の観戦者の受け入れが見送られたこともあり、目標は遠く及ばなくなってしまいましたが、今後の状況改善が期待できます。

2)外国人の旺盛な訪日ニーズ(“リベンジ消費”も含む)

日本政策投資銀行と日本交通公社が2021年10月にインターネットで行った「DBJ・JTBF アジア・欧米豪 訪日外国人旅行者の意向調査(第3回 新型コロナ影響度 特別調査)」(2022年2月公表)によると、「次に海外旅行したい国・地域」の1位は日本(アジア居住者67%、米国・英国・フランス・豪州居住者37%)でした。日本を訪れたい理由で最も多かったのは、「以前も旅行したことがあり、気に入ったから」(88.0%)で、コロナ禍の間もしっかりとファンの心をつかんでいたことが分かります。

この調査では、「コロナ収束後の海外観光旅行の意向」について、「思う」と回答した人が66%いることや、「今後6カ月以内にしそうなレジャー」として、飛行機で5時間以内の海外旅行を「実施する」「恐らく実施する」と答えた人が49%に上っています。コロナ対策で行動制限を受けた“リベンジ消費”を含め、海外旅行へのニーズが高いことがうかがえます。

また、「ダボス会議」で知られる年次総会を開催する「世界経済フォーラム(WEF)」が2022年5月に公表した「旅行・観光開発指数」に関するレポートでは、世界117カ国・地域のうち、日本(31.8%)が2位の米国(30.7%)を押さえて世界1位に評価されました。旅行・観光にふさわしい「環境(ビジネス面、安全性、衛生面、ICT化など)」「政策と状況(開放性、価格競争面など)」「インフラ」「需要喚起(自然や文化などの観光資源」「持続可能性(環境面、社会経済的な回復力、旅行・観光需要の高まりに対する許容度など)」という5項目について、112の指標を分析して評価したものです。世界的に観光地としての日本が評価されている証しともいえます。

3)円安の追い風で「爆買い」復活の予感

足元の円安も追い風です。2019年は1米ドル=110円程度でしたが、2022年9月は140円台で推移しています。外国人観光客にとっては、日本円で販売されている製品を、米ドルに換算すると2019年と比べて2割以上安い価格で買える計算になります。既に来日した観光客の中には、「自国で買うよりも割安」と、日本で大量に買い物をしているとの報道もあります。

円安が続けば、かつて中国からの観光客を中心に席巻した日本製品の「爆買い」現象が、世界各国の観光客の間で復活する可能性もありそうです。

3 インバウンド再開で見込まれる経済効果

1)コロナ前のインバウンドの水準に戻れば旅行消費額は6兆円超も

観光庁の推計によると、2019年の訪日外国人(約3188万人)旅行消費額は、4兆8135億円でした。前述のように、当時と現在の為替レート(2019年は1米ドル=110円、現在は1米ドル=140円)を踏まえて、仮に訪日外国人が自国通貨に換算した消費額と同額の消費を行ったとしたら、旅行消費額は6兆1263億円に上ります。

2)宿泊・観光事業者だけではない波及効果

経済産業省は、前述の観光庁の推計を基にした訪日外国人旅行消費額の生産波及効果を、7兆7756億円と試算しています。これに伴う付加価値誘発額は4兆230億円となり、2019年の名目GDP(553兆9622億円、二次速報値)の0.7%に相当します。さらに、二次波及効果を加えた付加価値誘発額は5兆円となり、名目GDPを0.9%押し上げた計算になります。

波及効果は宿泊・観光事業者や飲食サービス事業者だけにとどまらず、商業・農林業・金融・保険など幅広い業種に及びます。

また、インバウンドに伴う日本円に対する需要の高まりや、経常収支の黒字幅が拡大することによって、円安マインドに一定の歯止め効果が出れば、円安で苦しむ企業に恩恵をもたらす可能性もあります。

4 コロナ前から変化した外国人観光客のニーズ

インバウンドを取り込むには、コロナによって変化した外国人観光客のニーズを押さえることが大切です。インバウンドを取り込むための旅行企画やPR方法は、以下のコンテンツを参照ください。

また、以下のコンテンツでは、ウィズコロナの状況下で外国人観光客のニーズに応えた特徴ある宿泊施設を紹介しています。

5 リスクに備える:感染予防や感染者が出た場合の対応

コロナへの感染リスクがなくならない中で、外国人観光客が訪日する際の最大の懸念は、何といっても日本で感染が確認された場合の対応でしょう。外国人観光客が感染などの病気・けがに見舞われた際の対処方法について、以下のコンテンツで紹介しています。

6 参考:外国人の入国制限の緩和に関する主な施策

日本政府による、外国人の入国制限の緩和の流れは次の通りです。

外国人の入国制限の緩和に関する主な施策と訪日外国人数の推移

政府は2020年2月に指定感染症に定め、中国湖北省の滞在履歴者のある外国人などの入国を禁止して以降、禁止対象エリアを広げ、2020年12月28日から全ての国・地域からの新規入国を禁止しました。その後も入国規制の緩和と強化を繰り返しましたが、観光客の受け入れ禁止は一貫して続けていました。

以上(2022年10月)

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画像:bbernard-shutterstock

外国人観光客が感染・病気・けがをしたら、どう対応する?

書いてあること

  • 主な読者:外国人観光客に感染症の陽性反応が出たときや、その他の病気やけがをしたときの対応に不安のある宿泊施設運営者
  • 課題:事前の準備は何をすべきか、実際に発症したらどう対応すればよいのか分からない
  • 解決策:症状に応じて外国人対応が可能な医療機関や薬局を紹介するなどの対応を行う。感染症の疑いがある場合は同行者も含め客室内に待機してもらい、相談窓口に伝える

1 外国人観光客の感染・傷病の備えをしておこう

新型コロナ感染症対策のために制限されてきた外国人観光客の入国が、2022年10月11日から全面解禁となりました。今後、外国人観光客を受け入れる宿泊施設にとって課題になるのが、「外国人観光客が感染症や病気・けがに見舞われること」です。

外国人観光客を受け入れている宿泊施設は、症状の確認や、医療機関の紹介などの対応が求められますが、まず直面する課題は、

  • 外国人対応ができる医療機関が分からない(旅行業者)
  • 会話対応・通訳が十分できない(宿泊施設)
  • 施設現場に医療的な専門知識を有する人材がいない(宿泊施設)

ことです。

そこでこの記事では、こうした課題を解決するために、押さえておくべき宿泊施設の準備態勢と、実際に発症者が出た際の対応方法を紹介します。

2 事前準備と対応方法

外国人観光客の病気・けがに対する準備と対応について、フローチャートで紹介します。

外国人観光客の病気・けがに対する準備と対応のフロー

感染症の対応のフロー

以降では、外国人観光客の「受け入れ前の準備」「受け入れ時の対応(病気・けがをする前)」「実際に病気・けがをした場合の対応」の3つのシーンに分けて紹介します。

3 受け入れ前の準備

1)外国人対応可能な医療機関や薬局などを調べる

日本政府観光局(JNTO)のウェブサイト「日本を安心して旅していただくために 具合が悪くなったとき」では、新型コロナに対する相談窓口や医療機関の検索、医療機関のかかり方などが、日本語、英語、韓国語、中国語(繁体中文、簡体中文)で公表しています。

事前に近隣の医療機関を検索し、

かかりつけとなる医療機関の連絡先を2~3カ所程度確認

しましょう。医療機関名・連絡先・所在地の他、タクシーを使った場合の所要時間などについても調べ、「連絡先一覧」としてまとめておきます。

■日本政府観光局(JNTO)「日本を安心して旅していただくために 具合が悪くなったとき」■
https://www.jnto.go.jp/emergency/jpn/mi_guide.html

薬局については医療機関と違って、積極的に外国語対応ができることを公表していないことが多いようです。一般社団法人「くすりの適正使用協議会」では、患者に分かりやすい表現で要約した薬情報サイト「くすりのしおり」(英語版)と、市販薬を検索できる「おくすり検索」(英語版)を公開しています。

■「くすりのしおり」(英語版)■
https://www.rad-ar.or.jp/siori/english/index.html
■「おくすり検索」(英語版)■
https://search.jsm-db.info/sp_en/index.php

2)外国人対応のコールセンターを控える

医療機関の情報提供や電話医療通訳(医療機関専用)を無料で提供しているAMDA国際医療情報センター、外国人旅行者向けコールセンター「Japan Visitor Hotline」が利用できます。連絡先を受付に用意する他、ポスターやチラシを施設内に貼ったり、プリントアウトして外国人旅行者に配布したりといった準備も大切です。

■AMDA国際医療情報センター 東京オフィス■
https://www.amdamedicalcenter.com/
■外国人旅行者向けコールセンター「Japan Visitor Hotline」■
https://jsto.or.jp/news/info-190304/

全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会の竹村奉文氏は、コールセンターとの連携を深めることが大切だと言います。

「まずは外国人旅行客―宿泊施設―コールセンター―医療機関の連携を進めていくことが必要です。医療は専門用語が多いし、宿泊施設のスタッフの多くは、病気の判断をできる能力をもっていません。現場で勝手な判断ができないのだから、すぐに保健所や医療機関、医療サービス会社などへ相談すべきです」

3)各種コミュニケーションツールの準備

1.救急車利用ガイド

スタッフに周知し、フロントの目のつく場所に掲示しておきます。消防庁では、16言語の「訪日外国人のための救急車利用ガイド」を作成しているので、用意しておきましょう。

■訪日外国人のための救急車利用ガイド■
https://www.fdma.go.jp/publication/portal/post1.html

また、「救急車を呼んだほうがよいか」、「今すぐ医療機関に行ったほうがよいか」など、判断に迷ったときは、

「#7119」(または地域ごとに定められた電話番号)に電話する

と、救急電話相談を受けられます。医師、看護師、トレーニングを受けた相談員などが電話口で傷病者の状況を聞き取り、「緊急性のある症状なのか」や「すぐに医療機関を受診する必要性があるか」などを判断します。

2.指さしシート

実際に外国人観光客が病気・けがに見舞われた場合、「救急車を呼ぶか」「どの診療科を紹介するか」などを判断するために、「指さしシート」を用意しておきましょう。

日本政府観光局のウェブサイト「具合が悪くなったときに役立つガイドブック」には、「症状・病状説明のための指さしシート」が収録されているので活用できます。

参考:日本政府観光局の指さしシート

■具合が悪くなったときに役立つガイドブック■
https://www.jnto.go.jp/emergency/jpn/support.html

3.ヒアリングシート

外国人旅行者から体調不良について相談を受けたら、症状・状況を可能な範囲で聴き出して、ヒアリングシートに記入します。救急車を要請するときや医療機関を受診するときは、ヒアリングシートに基づいて必要な情報を提出してください。

4)多言語音声翻訳システム導入の検討

多言語音の音声翻訳ができるツールを利用するのもお勧めです。ツールの一例を紹介します。

1.「VoiceTra(ボイストラ)」:情報通信研究機構

話しかけると外国語に翻訳してくれる無料の音声翻訳アプリです。翻訳できる言語は31言語ですが、声で入力できる(20言語対応)、何語かを自動判別もできる(10言語対応)、音声が出力される(18言語対応)など、機能によって対応できる言語の数が異なります。

2.「VoiceBiz(ボイスビズ)」:凸版印刷

スマートフォンやタブレット用の専用アプリとクラウドサーバ上の翻訳エンジンが連動し、多言語音声翻訳サービスを提供します。自治体窓口、学校、観光といった、訪日外国人の受け入れや在留外国人の対応で多く使われる業界用語、定型文を標準搭載しています。

3.「POCKETALK(ポケトーク)」ポケトーク

70言語間では音声とテキストによる通訳機能が使え、12言語では音声で入力した翻訳結果のテキスト表示が可能な翻訳機です。複数の端末がありますが、翻訳はインターネット上のAIが行うので、どの端末でも同レベルの翻訳結果が得られます。

5)スタッフへの研修・教育

各種ツールを用意するだけでは、いざというときに対応できません。実際の対応を想定して、スタッフへの研修・教育を実施しましょう。とはいえ、病気・けがを治療するのは医療機関なので、複雑な対応を考える必要はありません。

基本的には、「緊急性の有無」によって、「どのような対応をするか(救急車を呼ぶ・医療機関を紹介する・薬局を紹介する)」「対応の責任者や、対応した情報の共有」などを確認しておきます。

6)補足:地元自治体の医療ガイドラインも確認してみる

前出の竹村氏は、自治体により地域性や人口規模に違いがあるため、都道府県が医療ガイドラインを独自に作っていることも多いとして、次のように話しています。

「地域の事情や地元自治体の医療ガイドラインに沿って、宿泊施設ごとに対応していく必要があります。まずは地元の保健所や消防署に確認してください。また、東京都などはファストドクターと連携しています。このように自治体側も外国人への対応を進めているので、自治体の動向をチェックしておくのも重要です」

ファストドクターは24時間365日体制で活動している、全国の医療機関から構成された総合窓口です。症状に応じて救急医療機関案内や夜間休日往診、オンライン診療なども行っています。

4 受け入れ時の対応(病気・けがをする前)

1)旅行保険加入の有無の確認

宿泊する外国人観光客には、旅行保険加入の有無を確認しておきましょう。旅行保険に加入していれば、日本入国後にした病気やけがの治療費を補償してくれます。他にもコールセンターに電話をすると、適切な医療機関の紹介を受けることができますし、提携医療機関を受診した場合には、保険会社が直接医療機関に治療費を支払いますので、キャッシュレス診療を受けることができます。

宿泊施設側が外国人観光客に対して、訪日外国人向け旅行保険をセットにした宿泊プランを販売するケースもあります。こうした保険に加入しておけば、宿泊施設の手間を減らせるメリットがあります。

2)「コールカード」「ガイドブック」などの配布

宿泊する外国人観光客には、「コールカード」を配布しましょう。これは「救急車を呼んでください」などの内容が、複数の言語で記載されている名刺サイズのカードです。参考に三重県志摩市消防本部のコールカードを紹介します。

参考:コールカード

また、氏名・連絡先・性別・言語といった基本情報や、既往歴、服薬中の薬などの情報を書き込んでもらう「ガイドブック」も配布するとよいでしょう。日本政府観光局のウェブサイトでは、基本情報や既往歴などが書き込めるものがアップされています。

■日本政府観光局「具合が悪くなったときに役立つガイドブック」■
https://www.jnto.go.jp/emergency/jpn/support.html

5 実際に病気・けがをした場合の対応

1)症状と本人の意向を確認

翻訳ツールやヒアリングシートを利用してみましょう。ヒアリングが難しい場合は、できるところまで確認し、保健所やコールセンター、かかりつけ医などに連絡しましょう。

1.救急車を呼ぶ

119番しましょう。ヒアリングができた場合は、その情報を基に救急隊員に伝えましょう。前述したとおり、「救急車を呼んだほうがよいか」、「今すぐ医療機関に行ったほうがよいか」など、判断に迷ったときは「#7119」(または地域ごとに定められた電話番号)に電話しましょう。

2.医療機関を紹介する

医療保険の有無を確認し、事前に決めた医療機関の「連絡先一覧」に沿って医療機関に連絡しましょう。受診の際には、パスポートと旅行保険証書を持参するように伝えてください。

3.薬局を紹介する

薬を買いたいという本人の意思がはっきりしている場合は、営業中の薬局・ドラッグストアを探しましょう。

2)外国人観光客の症状、医療機関・薬局などの対応を確認し、自施設内で情報共有

医療機関などを紹介した後は、宿泊施設などが積極的に準備・対応することはありません。ただ、紹介した医療機関・薬局などがどのような対応をしたか確認しておき、同様の対応が必要になった外国人観光客に紹介する際の参考にしましょう。

6 外国人観光客からコロナの陽性反応が出たら?

全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会・日本旅館協会・全日本ホテル連盟は、「宿泊施設における新型コロナウイルス対応ガイドライン(第2版)」を2021年11月22日に示しています(下記参照)。外国人に限ったことではありませんが、指標として確認しておきましょう。

滞在客に新型コロナ陽性の疑いが発生した場合の対応

  • 利用者から発熱や体調不良の申し出があった時にすぐに案内できるよう、最寄りの医療機関または保健所や受診・相談センターの連絡先が事務所内やフロントデスクなどですぐに見られるようにしておく
  • 利用者または従業員の感染が判明した場合、保健所の積極的疫学調査に協力できるよう、過去1カ月以内の利用者(代表者)のすぐに連絡がつく携帯電話等の緊急連絡先を記録・保存しておく
  • 発熱や呼吸困難、けん怠感など、感染の疑われる宿泊客がいる場合、客室内で待機し、マスク着用及び客室外に出ないように依頼する(同行者も同様)
  • 事前に待機する部屋等を決めておく
  • 食事も部屋に届けるなど、他者との接触を極力避け、対応するスタッフも限定する。対応時にはマスク及びフェイスシールド、ゴーグル等を着用
  • 近隣の医療機関や受診・相談センターに連絡し、感染の疑いのある宿泊客の状況や症状を伝え、その後は保健所からの指示に従う
  • 当日の宿泊者名簿を確認し、保健所への提出に備える
  • 館内の他の宿泊客への情報提供は、保健所の指示に従う

なお、観光庁は「外国人観光客の受入れ対応に関するガイドライン」を2022年9月に改定しています。外国人観光客の全面受け入れにより、ガイドラインも改定されるとみられます。最新情報をチェックしつつ、外国人観光客の対応をしていきましょう。

以上(2022年10月)

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画像:unsplash