全社員が持てる“経営的視点”(1)~組織は毎年歳を取る~/武田斉紀の『誰もが身に付けておきたい“経営的視点”』(5)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:経営幹部や管理職の方はもちろん、若手社員の方でも「経営的視点で見るように」と社長や上司から求められた経験があるのではないでしょうか。その場でうなずきはするものの、「経営的視点とは何か?」「それは社長以外の社員に必要なのか?」「会社員として働く上で、人生において価値があるのか?」「そもそもどのように身に付けていけばいいのか?」といった疑問があるのではないでしょうか
  • 解決策:課題で挙げたさまざまな質問に対して、『“経営的視点”の身に付け方』というテーマで、全国で多くの講演を行っている筆者が明快に回答します。“経営的視点”はこれからの時代において新入社員から求められる視点であって、より早く身に付けることができれば、その分、仕事においても人生においてもプラスであることが分かるはずです

1 社長だけの“経営者の視点”と、全社員が持てる“経営的視点”を分けた上で

シリーズ『武田斉紀の「誰もが身に付けておきたい“経営的視点”」』の第5回です。

このシリーズでは、社長や上司から「“経営的視点”を持て!」と言われるけれど…「経営的視点って何?」「社長以外の社員にも必要なの?」「会社で働く上で、人生において価値があるの?」「そもそもどうやって身に付ければいいの?」。こうした疑問にお答えしています。

さらには、『“経営的視点”の身に付け方』の具体的なノウハウと、経営における効用、働く側のメリットなどを、事例も交えながらご紹介していきます。

“経営的視点”はこれからの経営や働き方において、新入社員から求められる視点であり、誰にとってもより早く身に付けられれば、その分、仕事においても人生においてもプラスになるといえるでしょう。

前回まで3回にわたって、“経営者の視点”とは何かについて詳しくお話ししてきました。“経営者の視点”はトップである社長だけが持てるものであり、“経営的視点”とは異なるとご理解いただきたかったからです。

社長や上司が「“経営的視点”を持て!」と言いながら、もしも“経営的視点”ではなく、“経営者の視点”を求めているとしたら、それは無理な話です。でも、“経営的視点”なら全社員が持てます。

さて、今回からは“経営者の視点”ではなく、本題の“経営的視点”の身に付け方のノウハウについて解説していきたいと思います。

私からご提案する誰もが持てる、全社員が持てる“経営的視点”の観点は次の3つです。
1)会社の【成長】
2)会社の【組織力】
3)会社の【存在意義】

1)と2)については少し視点を意識して見直すだけで、比較的簡単に“経営的視点”を身に付けられます。3)は、理解し、身に付けるのに少し時間がかかりますが、身に付けた際は会社にとって、社員一人ひとりにとって得られる効果は絶大です。

2 会社組織は全員が毎年1歳、歳を取る

まずは「1)会社の【成長】」の観点からお話ししていきましょう。前提となるのは「会社組織は全員が毎年1歳、歳を取る」という事実です。

現状、日本の多くの企業が採用しているのが、「年功序列型賃金制度」と「終身雇用制度」です。

入社時点では一人ひとりが担当する職種や専門分野が決まっておらず、異動によりさまざまな部署での経験を積みながら成長していくので、「メンバーシップ型(職能型)」人事制度とも呼ばれています。

「年功序列」とは言葉の通り、勤続年数や年齢が増すにつれて給料が上がっていくことを意味します。けれど給料はどこから出てくるのでしょう。説明するまでもなく、会社として経済活動を行って残した利益が原資ですね。

しかしながら、もしも社員一人ひとりの能力(稼ぐ力)が今年度と来年度で全く変わらなかったとすれば、会社全体の利益は変わりません。となると、社員が「年功序列で1年たったのだから、その分の給料を上げてくれ」といくら要求しても、会社としては支払えないのです。

ない袖は振れません。

大抵の会社組織はピラミッド型にできています。山の頂上に社長がいて、山頂付近に取締役や部長がいて、中腹に課長がいて、裾野にそれ以外の一般社員がいて、お客様や現場の第一線と対峙しています。

先ほど触れたように「会社組織は全員が毎年1歳、歳を取る」ので、放っておくとどんどん高齢化していきます。そこで人事的には一定年齢に達した社員には定年制度で会社組織の山から去ってもらい、その分を裾野に若い新入社員を採用して補い、組織の平均年齢が上がらないようにしています。

社員一人ひとりの能力(稼ぐ力)が、今年度と来年度で全く変わらなかったとすればどうなるでしょうか。平均年齢は変わらず会社組織全体では問題ないように見えますが、平均能力では前年度より1年分落ちているのです。

しかも、一人ひとりがピラミッドの1年上の立場に上がったのに、役割に応じた能力が発揮できず機能不全に陥ってしまうでしょう。

すなわち、会社組織においては、全員が1年で1年分以上成長しないと給料は上げられない。自分自身はもとより、社会人1年目の新人も含めて、自分の部下も全員責任を持って1年分育てて初めて給料を上げられるのです。

ここまで理解できたら、あなたは次の意味がわかるでしょう。

■毎年給料を上げたいのであれば、全員が、自分が1年後にいるべきピラミッドの高い位置から常に物事を見て、仕事を進めていかなければならない。

3 話題の「ジョブ型」人事制度ではどうなるか

コロナ禍がきっかけで、リモートワークが一気に日本企業に浸透して、働き方に変化が生まれ、同時に会社や上司には新たなマネジメント上の課題が発生しました。日々近くにいて仕事の進捗確認や指導、時間管理が難しくなったのです。

片や少子高齢化で縮小市場となった国内から海外へのグローバル化の流れも相まって、欧米型といわれる「ジョブ型(職種型)」人事制度が注目されています。

大手企業の一部ではコロナ前からすでに一部導入、あるいは完全導入が始まっていて、他の大手や中堅中小企業でも「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への転換を検討するところが増えているようです。

日本政府も「年功序列を見直し」て、「ジョブ型」への移行を経済界に推奨し始めています。法律が後手では現場は混乱するだけですから、本気で取り組む覚悟なら掛け声より法整備を先行しなければなりません。

とはいえ、日本企業のすべてが「ジョブ型」に一気に変わって、はたしてうまく機能するのか、生産性が上がって成長軌道に乗れるのか。その点は十分に検討されているのでしょうか。

「ジョブ型」は魔法の杖ではありません。比較調査データで提示される生産性の低さや教育投資の低さは、全て年功序列や「メンバーシップ型」が原因なのでしょうか。私にはどちらを選ぶかは各社の考え方次第でよく、問題はその運用方法にあるように思えます。

さて、「ジョブ型」は仕事ありき。あらかじめ仕事の要件を明確にしておいて、それをできる人を専門家として採用します。仕事と目標を定めてあるので、プロセスや時間を管理しなくとも、できたかできなかったかの結果で評価すればよい仕組み。リモートワークのマネジメントとも親和性があるとわかります。

その仕事ができるであろう人を採用するので、「メンバーシップ型」のような新卒一括採用主体ではなく、中途採用が中心となります。

前説が長くなりましたが、「ジョブ型」では、「1)会社の【成長】」の観点における前提=「会社組織は全員が毎年1歳、歳を取る」はどうなるでしょうか。

「ジョブ型」人事制度が浸透している世界では、働く側は年功序列のように「1年たったのだから、その分の給料を上げてくれ」とは言いません。もちろん世の中の物価が上がれば給料を上げてくれないと生活ができないとは言いますが、その点は「メンバーシップ型」も同じ。

「ジョブ型」で働く人たちは、「能力が以前より上がった(のでより高い成果を出せるはずだ)」から「成果を以前より出した」から、「その分の給料を上げてくれ」と言うのです。ピラミッドの上のポジションに就かない限り、給料は上がらないと知っているからです。

後は、会社側が賃上げ要求に応じるか、転職して他社により好条件で採用されでもしなければ、何年真面目に働いても仕事内容は変わらず、給料は1円も上がりません。

日本企業のOJT(On the Job Training)のように、上司や周りの誰かがいちいち面倒を見てくれるわけではありません。求める仕事ができないなら、他の人を募集して入れ替わってもらうだけです。

だから自身の給料を上げたい人は、会社や上司がいちいち先ほどのように説明しなくても自ら動きます。能力を上げるために学び直して(リスキリングやリカレント教育)、何とかチャンスをつかんで成果を上げ、それをアピールして昇給や上のポジションに就こうとするのです。

上司の仕事は、現場を回すのに必要な部分(そこもできれば非正規か外部委託化してコストを下げたい)以外は、現状維持ではなく、より高い成果を出そうと意欲のある人材に入れ替えることです。前年度以上の成果を上げるようにと「ジョブ」として求められているからです。

4 どうすれば、「会社の【成長】」の観点から“経営的視点”が持てるのか

2つの人事制度と比べて見てみると、会社としては「ジョブ型」のほうが楽なように思えませんか。自身の給料を上げたい意欲のある人さえ連れてくれば、会社や上司がいちいち説明しなくても、彼らは自ら成長し、前年度よりも高い成果を上げてくれそうです。

ところがそうした人材は世の中に豊富にいるわけではありません。

結局は優秀な人材ほど争奪戦となり、好条件を提示できる企業以外は、なかなか描いた理想通りにはいかないのが現実でしょう。

好条件を提示できない会社の上司は、意欲の高い人材を採用したつもりがそうでもなくて、結果を出せずに入れ替えてばかり。部署としての結果を出せていないと、揚げ句は自分自身が上から入れ替えられる。これでは会社の成長はイメージできません。

であるならば、社長や上司が「メンバーシップ型」の全員を説得していったほうが早いといった考え方もあるでしょう。

「給料は1年たったからといって当たり前には上がりません。一人ひとりが1年で1年分以上成長して、ようやく上げられるのです」「だからこそ全員が、自分が1年後にいるべきピラミッドの高い位置から常に物事を見て、仕事を進めていかなければならないのです」と。

第5回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回は全社員が持てる“経営的視点”の観点の2つ目、「会社の【組織力】」についてお話しします。

<ご質問を承ります>
最後まで読んでいただきありがとうございます。ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

以上(2022年11月)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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画像:NicoElNino-shutterstock

紅葉のふしぎ

1 紅葉のメカニズム

1)3つの紅葉

紅葉とは葉が落ちる前に黄や橙(だいだい)、赤などに色づくことをいいます。細かく分類すると、次のように分けられます。

  • 狭義の紅葉:赤や橙に色づくこと
  • 黄葉:黄色に色づくこと
  • 褐葉:褐色に色づくこと(褐色に色づくのが早いこと)

ただし、厳密にこれらを分けることは困難であるため、まとめて「紅葉」といわれる場合がほとんどです。

紅葉

2)葉の色づき方

緑色にみえる葉には、クロロフィルという緑色の色素とカロテノイドという黄色の色素の2種類が含まれます。紅葉するときには、これらの色素に変化が現れます。

  • 黄色く色づく場合
    黄色くなる黄葉は、秋になると緑の色素であるクロロフィルが先に分解されるため、黄色くみえるようになります。

  • 赤く色づく場合
    紅葉は、葉のクロロフィルが分解され、アントシアンという赤色の色素に変わることで起きます。クロロフィルがすべて分解されてしまう前にアントシアンができ始めるため、紫色に近い紅葉がみられます。その後、クロロフィルがアントシアンに完全に変わることで赤く色づきます。これが狭義の紅葉です。

紅葉するまでのイメージ

2 紅葉と気温・標高の関係

1)気温との関係

紅葉が始まる主な条件は次の通りです。

  • 紅葉が始まるのに適した気温
  • 適度な湿度
  • 十分な光

この中で最も重要な条件なのが気温です。一般的に最低気温が8度以下で色づき始め、5~6度になると一気に色づきます。また、昼夜の寒暖差が大きいときれいに色づきます。一般的に都心部よりも山岳地のほうが紅葉が美しいといわれるのはこのような理由からです。

2)標高との関係

紅葉は標高の高いところから始まり、徐々に低地に向かっていきます。

  • 高地の紅葉
    北海道では主に標高500メートル以上の山でみられますが、本州では日本アルプスや東北地方の一部の、標高1500メートル以上の山でみられるといわれます。気温差が大きく、紫外線が強いため、非常に鮮やかな紅葉がみられます。常緑針葉樹も少なくないので、紅葉の時期には、ナナカマドやタカネザクラなどの赤色、ミネカエデなどの黄色とのコントラストが鮮やかです。

  • 山地の紅葉
    北海道から九州までの雪が積もるような寒い地域でみられる紅葉です。落葉広葉樹林が広がる地域で、さまざまな種類の樹木による紅葉がみられます。そのため、紅葉の名所と呼ばれる場所が多いのが特徴です。代表的な樹木としては赤色がカエデ類やヤマウルシ、ヤマブドウ、黄色はブナやカラマツなどがあります。

  • 低地の紅葉
    特に関東以西の暖地でみられる紅葉です。寒暖の差が小さいため、鮮やかに色づくものは限られますが、常緑樹とのコントラストが美しいものが多くなっています。代表的な樹木としては、赤色がイロハモミジやケヤキ、ツツジ類などで、黄色はイチョウなどがあります。

3 主な紅葉の紹介(赤色に色づくもの)

紅葉する樹木にはさまざまなものがあります。以降では、その中でも代表的な種を紹介します。

1)高山などでみられるもの

  • ナナカマド(バラ科)
    ナナカマドは、北海道や東北では街路などにも植えられています。小さな真っ赤な葉が羽のように並び、一つの大きな葉を形成する独特の形をしています。小さな赤い実がつくのも特徴で、葉が落ちた後も枝に残っています。

2)山地、低地でみられるもの

  • カシワ(ブナ科)
    カシワは、日本全国の山地を中心に、庭木としても植えられる樹木です。鮮やかな橙に色づきますが、条件が良いと濃い赤になります。

  • ケヤキ(ニレ科)
    ケヤキは、木によって、赤や橙、黄など異なる色になるのが特徴の木です。しかし褐色になるのが早く、落ち葉もすぐにくすんでしまうため、いわゆる「褐葉」の代表格でもあります。本州から九州までの山地や低地に広く分布しており、公園の樹木や街路樹としても植えられています。

3)低地でみられるもの

  • イロハモミジ(ムクロジ科/旧カエデ科)
    イロハモミジは、低地でみられる赤い紅葉の代表格です。日陰では黄色くなるものの、全体的に鮮やかな赤に色づきます。低地での紅葉の名所ではよく植えられている種です。

  • ヤマザクラ、ソメイヨシノ(バラ科)
    ヤマザクラおよびソメイヨシノは、低地に植えられるサクラの代表格です。ヤマザクラは主に林や低地に植えられ、橙や赤に色づきます。ソメイヨシノは街路や公園によく植えられ、ヤマザクラより濃い赤や橙に色づくのが特徴です。どちらも日照によって色づきに差が出てしまい、葉によっては赤く色づく部分と黄色の色づきのどちらも現れるものが出るほどです。

  • ツタ(ブドウ科)
    ツタは、木の幹をはじめとして、建物の壁や塀をびっしりと覆うことが多いツル植物です。若い枝は丸い葉が多く、成長していくにつれ葉に切れ込みが入るようになります。成長した葉には強い光沢があり、全体的に赤くなりますが、中には紫に近い色のものもあります。童謡「まっかな秋」に歌われていることでも知られています。

4 主な紅葉の紹介(黄色に色づくもの)

1)山地などでみられるもの

  • ブナ(ブナ科)
    ブナは、寒い地方の森林や全国各地の山林でよくみかける木です。紅葉し始めた当初は黄色ですが、紅葉が進むにつれ橙から赤茶色に変化していきます。しかし、鮮やかな色は長続きせずに葉が落ちるころには褐色になってしまいます。

  • カラマツ(マツ科)
    カラマツは寒冷地を中心に山地でよくみられる木で、日本原産の針葉樹の中で唯一の落葉樹です。ごく短い枝に、多数の細長い葉がついている独特の姿が特徴です。紅葉すると色鮮やかな黄色に色づき、秋が深まると黄土色に変わっていきます。

2)山地、低地でみられるもの

  • コナラ(ブナ科)
    コナラは、低地や山地などを中心に、よくみかける木の一つです。特によくみられるのは身近な雑木林です。初めは黄色ですが、紅葉が進むにつれ橙から赤茶色に変化します。

  • イタヤカエデ(ムクロジ科/旧カエデ科)
    旧カエデ科の仲間は赤く色づくものが多いですが、中には黄色く色づくものもあります。黄色く色づくものの代表格がイタヤカエデで、特に山地で多くみられます。なお、若木は橙や淡い赤に色づくこともあり、成長した木に比べ葉の形に深い切れ込みが入るのが特徴です。

3)低地でみられるもの

  • イチョウ(イチョウ科)
    イチョウは黄色に色づく木の中でも代表的なものの一つで、全国各地に植えられています。見ごろの時期になると、低地でも鮮やかな黄色をみることができます。全体的に高木になるのが特徴です。

  • エノキ(ニレ科)
    エノキは都市部を中心に、公園や寺社など身近でみられる樹木の代表格です。葉の色は濃い黄色で、全体的によく色づくのが特徴です。

以上(2022年11月更新)

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【規程・文例集】「私有スマートデバイス取扱規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:従業員に私有スマートデバイスの業務利用(BYOD)を認めるに当たって、「取扱規程」のひな型が欲しい経営者
  • 課題:具体的に何を定めればよいかが分からない
  • 解決策:私有スマートデバイスで会社の情報システムに接続する際のルールや、適切な情報管理の方法などについて定める

1 BYODを活用するための環境整備

従業員が私有スマートデバイス(ノートPC、スマートフォン、タブレット端末など)を業務に使うことを、

BYOD(Bring Your Own Device)

といいます。

業務に使うスマートデバイスを全て会社が用意すれば包括的に管理でき、セキュリティのリスクも低減されます。しかし、スマートデバイスの導入費用は小さなものではないですし、従業員も使い慣れたスマートデバイスのほうが業務を効率的に進められます。そうした中で、

従業員にBYODを認めることが現実的

という判断が出てきているのです。

BYODの最大の課題はセキュリティです。スマートデバイスの紛失による情報漏洩、業務外の経路からウイルスに感染するなどのリスクがある以上、従業員の私物でも管理しなければなりません。

BYODのセキュリティ対策の手始めは、取扱規程を策定して従業員に周知徹底することです。この記事では、私有スマートデバイスで会社の情報システムに接続する際の取り扱いと情報管理について定めた規程を、ソフトウェア協会「私有スマートデバイス取扱規程サンプル」を基に紹介します。

2 「私有スマートデバイス取扱規程」のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の会社によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【私有スマートデバイス取扱規程のひな型】

第1条(目的)
本規程は、私有スマートデバイスで会社の情報システムに接続する際の取り扱いと情報管理について定めるとともに、私有スマートデバイスの紛失による情報漏洩、盗難、外部侵入などの危機に際しての行動指針を定め、会社の情報セキュリティの維持・向上並びに業務効率の向上を通じて、顧客の信頼を確保することを目的とする。

第2条(適用範囲)
1)本規程は、役員および従業員(以下「従業員等」)に適用されるものとする。
2)会社の業務委託を受けて、会社の情報システムに接続する委託事業者および派遣社員等が、私有スマートデバイスから会社の情報システムへ接続することは原則禁止とする。

第3条(用語の定義)
スマートデバイスとは、スマートフォン、タブレット端末等の携行可能な情報通信機器もしくは会社が判断した機器をいう。

第4条(利用許可)
1)利用許可を得た従業員等に限り、会社の許可条件に従い、私有スマートデバイスで、会社の電子メール、業務で使用する情報資産、顧客情報、業務アプリケーションの使用等、もしくはVPN、有線LAN、無線LAN等へ接続、使用することができる。なお、利用許可の範囲は、会社が認めた所定の範囲とする。
2)従業員等は、業務遂行において私有スマートデバイスを利用しようとする場合、所定の「私有スマートデバイス利用許可申請【新規】」(略)を提出し、承認を得なければならない。
3)会社は、利用状況等に鑑み、いつでも前項に規定する利用許可を解除することができる。
4)会社は、第2項に規定する利用許可に当たり、許可申請のあった私有スマートデバイスに会社の機密情報であって、持ち出し・複製・第三者への開示が禁止された情報が含まれている場合には、従業員等に当該情報を消去させることができる。
5)従業員等は、会社が定めた私有スマートデバイス利用許可申請に記載されている内容および本規程の全てを遵守しなければならない。
6)従業員等は、会社が実施する私有スマートデバイスに関する教育プログラムを受講し、受講報告書を提出しなければならない。
7)従業員等は、業務遂行において私有スマートデバイスを追加する場合、所定の「私有スマートデバイス利用許可申請【機器追加】」(略)を提出し、承認を得なければならない。
8)従業員等は、退職や業務遂行において私有スマートデバイスを利用する必要がなくなった場合、所定の「私有スマートデバイス利用解除申請」(略)を提出し、承認を得なければならない。なお、従業員等は利用解除に当たり、事前に利用していた私有スマートデバイスにある会社業務に関する全ての情報を消去するものとする。
9)従業員等は、機種変更などの事由により業務遂行において私有スマートデバイスを変更する場合、初めに「私有スマートデバイス利用解除申請」(略)を提出した後、改めて「私有スマートデバイス利用許可申請【新規】」(略)を提出し、承認を得なければならない。
10)利用許可を得ていない従業員等は、私有スマートデバイスによる会社の電子メール、業務で使用する情報資産、顧客情報、業務アプリケーションの使用等、もしくはVPN、有線LAN、無線LAN等への接続、使用を一切禁止する。

第5条(費用負担)
1)会社は、従業員等が利用する私有スマートデバイスの通信費用、保守費用、データバックアップ費用、紛失等での再取得費用等を原則として一切負担しない。
2)私有スマートデバイスで会社の情報システムに接続する従業員等は、業務で使用した分の通話費用を明確にした請求書を作成し、部門長、総務部門を経由して経理部門に届け出るものとする。その場合、加入電話会社が提供する通話記録の明細書を添付しなければならない。
3)第2項の請求分は毎賃金計算期間の末日に締め切り、別途「賃金規程」(略)に定める賃金支払日に支給する。

第6条(善管注意義務)
1)私有スマートデバイスで会社の情報システムに接続する従業員等は、個人情報保護、不正競争防止、情報管理における一般的な知識の下、法令を遵守し、善良なる管理者の注意をもって私有スマートデバイスを管理、運用しなければならない。
2)従業員等は、本規程、その他情報セキュリティに関連する全ての規定等(以下「情報セキュリティ等の規定等」)の改定、変更に注意を払い、常に最新の情報セキュリティ等の規定等を十分に理解するよう努めなければならない。
3)従業員等は、私有スマートデバイスの管理、運用に当たり、業務で利用する情報と私用で利用する情報を、明確に分けておかなければならない。
4)従業員等は、私有スマートデバイスを紛失し、もしくは盗難に遭った場合、またはコンピューターウイルスに感染し、もしくはその恐れがあると判断した場合には直ちに上長等に報告しなければならない。

第7条(監査)
1)私有スマートデバイスで会社の情報システムに接続する従業員等は、会社の求めに応じて、情報セキュリティ等の規定等に関する適用状況について、監査を受けなければならない。
2)私有スマートデバイスで会社の情報システムに接続する従業員等は、監査において、デバイスの安全性や設定状態、業務情報の保存状態の開示、これらを確認するための操作に協力しなければならない。

第8条(緊急措置)
1)会社は、会社のデータやプログラム、もしくは情報システム、または顧客のデータ(以下「データ等」)の保護のため必要と判断される場合、従業員等の私有スマートデバイスによる会社の情報システムへの接続を解除することができる。
2)従業員等は、本規程に違反し、もしくはその恐れがあると判断された場合、速やかに私有スマートデバイスの利用を中止し、上長等に報告するとともに、本規程で定められた手順、もしくは上長等の指示にのっとり、私有スマートデバイスにあるデータ等の消去など、適切な処置を講じなければならない。
3)第2項の私有スマートデバイスにあるデータ等の消去には、状況に応じて私有スマートデバイスに保存された私用で利用する情報が含まれる場合がある。
4)上長等は第1項および第2項に規定する措置を実施するに際し、合理的かつ有効な措置を従業員等とともに講じなければならない。
5)従業員等が第2項にあるデータ等の消去などを速やかに行わない、もしくはそれらの措置を講じることが困難な場合、会社は強制的にデータ等の消去などを行える権利を有するものとする。

第9条(免責)
従業員等は、業務遂行において私有スマートデバイスを利用するに当たって生じるリスクについて、全ての責任を負うものとし、会社は一切責任を負わないものとする。これには、会社が第8条第3項にある私有スマートデバイスに保存された私用で利用する情報などを消去した場合を含む。

第10条(賠償)
従業員等が本規程に違反し会社に損害を与えた場合、会社は当該従業員等に対して相当分の賠償を求めることがある。

第11条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則に照らして処分を決定する。

第12条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則
本規程は、○年○月○日より実施する。

3 参考

会社が認めた業務に限ってBYODを活用するためには、あらかじめ利用目的と業務範囲を明確にし、申請と承認の仕組みを作ることが大切です。

次のウェブサイトやガイドラインなどを参考に、自社の状況に合わせたルール・社内規程の整備を検討してみてはいかがでしょうか。

■ソフトウェア協会「『BYOD』導入検討企業向け情報提供ページ」■
https://www.saj.or.jp/activity/support/sample/byod.html
■総務省「テレワークセキュリティガイドライン第5版・中小企業等担当者向けテレワークセキュリティの手引き(チェックリスト)第3版」■
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/telework/
■経済産業省「テレワーク時における秘密情報管理のポイント」■
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/teleworkqa_20200507.pdf
■情報処理推進機構(IPA)「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」■
https://www.ipa.go.jp/security/keihatsu/sme/guideline/
■情報処理推進機構(IPA)「サイバーセキュリティ経営可視化ツール」■
https://www.ipa.go.jp/security/economics/checktool/

以上(2022年11月)

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画像:ESB Professional-shutterstock

脳・心臓疾患の労災認定基準の改正に伴う労災認定の変化

脳・心臓疾患の労災認定基準が昨年9月に改正されました。それに伴って、改正以前の労災についても、労災認定される事例が出てきています。
本稿では、脳・心臓疾患の労災認定の改正内容をなぞりながら、近時の労災認定事例についてご紹介いたします。

1 労災認定基準の改正

脳・心臓疾患の労災認定基準が以下の通り改正されました。

脳・心臓疾患の労災認定基準(改正)

2 労災認定の事例

前項の認定基準の変更に伴って、本年労災認定された事例には、以下のようなものがあります。いずれの事例も以前の認定基準では否定されてきた事由となっています。

労災認定された事例

3 さいごに

厚生労働省では、11月に「過労死等防止啓発月間」の一環として「過重労働解消キャンペーン」を行います。そのなかで「長時間労働が行われていると考えられる事業場等に対する重点監督」を実施し、法違反への是正指導を行うとともに、重大・悪質な法違反の場合には、送検し公表するとしています。しかしながら、厚生労働省の取り組み以前に、不幸な事故を未然に防止するということは、事業主の安全配慮義務として当然にして取り組むべきことでしょう。

労働時間ならタイムカード等により適切な管理を行っていれば、数字として問題を把握することが可能です。しかし、心理的、身体的な負荷についての把握となると、機械的に確認することは困難です。連続勤務を含めた労働時間管理を適切に行うのはもちろんのこと、コミュニケーションを密にしながら、労働者の負荷要因を減らすべく取り組みを進めることが肝要です。

※本内容は2022年10月12日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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脳・心臓疾患の労災認定基準の改正に伴う労災認定の変化

脳・心臓疾患の労災認定基準が昨年9月に改正されました。それに伴って、改正以前の労災についても、労災認定される事例が出てきています。
本稿では、脳・心臓疾患の労災認定の改正内容をなぞりながら、近時の労災認定事例についてご紹介いたします。

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オンラインで「労働条件の不利益変更」を行う場合のポイント

書いてあること

  • 主な読者:労働条件の不利益変更をオンラインで行いたい経営者
  • 課題:対面との違いが分からない。それに、オンラインだときちんと伝わるか不安
  • 解決策:基本ルールは同じ。オンラインの「伝わりにくさ」を考慮して慎重に進める。必要に応じてWeb会議ツールや電子契約書ソフトを使用する

1 オンラインの「労働条件の不利益変更」は慎重に

「業績が悪化したので、基本給を引き下げる」「ジョブ型の人事制度にするので、仕事との関係性が薄い手当(住宅手当など)を廃止する」。会社には十分な理由があってのことでも、

社員から見ると損をするような労働条件の変更を「労働条件の不利益変更」

と呼びます。労働条件の不利益変更には、

  • 個々の社員の同意を得た上で、「就業規則」や「労働契約」を変更するのが原則
  • 就業規則については、合理的な変更であれば、個々の社員の同意を得なくても変更可

というルールがあります。労働組合がある会社の場合、「労働協約」の変更で対応することもできますが、中小企業で労働組合が組織されているケースは少ないため、ここでは割愛します。

特に注意すべきは「リモートワークをしている会社」です。オンラインで就業規則や労働契約の変更手続きを進める場合、

  • 通信環境が悪く、肝心の変更箇所がうまく社員に伝わらない
  • Web会議ツールの仕様で、労働条件について質問をしたがっている社員が見えにくい

といった理由から会社と社員の意思疎通がうまくいかないケースがあります。以降で、オンラインでの変更手続きのポイントを紹介しますので、確認していきましょう。

2 オンラインでの変更手続きのポイント

1)Web会議ツールを使って社員説明会を行う

オンラインで就業規則や労働契約を変更する場合、Web会議ツールなどを使って社員説明会を開催し、変更箇所やその理由の説明、質疑応答を行います。通信環境の問題などで内容がうまく社員に伝わらないことがあるので、

  • 事前に新旧対照表などのデータを配布し、社員説明会ではそれを「画面共有」しながら説明する
  • 社員が質問のタイミングをつかめないと困るので、質疑応答の時間を設ける(「チャット」の機能を使うのもよい)
  • 通信環境の都合で社員がツールから「落ちる(離脱する)」ことがあるため、社員説明会の内容を「レコーディング」して、後から内容を確認できるようにする

などして対応します。

また、質疑応答で反対意見や批判的な意見が出た場合、「なぜ、就業規則や労働契約の変更が必要なのか」を改めて丁寧に説明します。必要に応じて、個別の説明も行いますが、その場合、1対1ではなく、会社側から複数人が参加して「言った/言わない」の問題が生じるのを防ぎます。

2)電子契約書ソフトを使って社員の同意を得る

就業規則の不利益変更を行う場合、可能であれば「就業規則変更に関する同意書」を会社側が用意し、社員に署名捺印してもらって個別の同意を得ます。しかし、リモートワークをしている場合、書面で同意を得るのが手間です。

こうした場合、電子契約書ソフトで電子署名をしてもらうのが現実的です。一般的には、

  • 会社は、同意書などをPDFにして電子契約書ソフトにアップロードし、電子署名をする欄を設けた上で、各社員のメールアドレス宛てに送信する
  • 社員は、電子契約書ソフトからメールが届いたら、メールに記されたURLから同意書にアクセスして電子署名をする

という流れになります。

電子署名がされた書面は電子契約書ソフト内に保管されます。なお、電子契約書ソフトは、書面を用意する会社側のPCでのみ導入すればよく、社員側は特段の手続きは必要ありません。

3)e-Govを使って変更後の就業規則を電子申請で届け出る

就業規則を変更した場合、変更後の就業規則に就業規則(変更)届出書、過半数代表の意見書(社員の過半数で組織する労働組合がない場合)を添えて、所轄労働基準監督署に届け出なければなりません。

これらの書面は、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」を使用できる環境にあれば、直接所轄労働基準監督署に行かなくても、電子申請で届け出ることができます。電子申請の手続きで使用できるアカウントは、次のいずれかです。

  • e-Govアカウント(e-Govのウェブサイト上で取得できるアカウント)
  • GビズID(行政サービス全般にログインできるアカウント)
  • Microsoftアカウント

なお、e-Govから電子申請を行う場合、手続きの内容によっては、会社の電子署名と電子証明書(所定の認定局に申請)が必要になるケースがありますが、

2021年4月1日以降、就業規則の届け出については電子署名と電子証明書が不要

となっています。

4)電子契約書ソフトを使って雇用契約書を再締結する

雇用契約書の再締結も、電子契約書ソフトを使います。雇用契約書は「労使の合意」という形を取りますので、会社側、社員側双方が電子契約書ソフトを経由して署名捺印をします。

雇用契約書を再締結する際は、従前の契約書が変更されたことが明確になるよう、

「従前の雇用契約書を合意解約し、〇年〇月〇日以降の労働条件は本雇用契約書による」

などの文言を、備考欄に必ず入れましょう。

なお、雇用契約書は必ずしも書面で保管する義務はありません。しかし、労使間でトラブルが発生した場合に雇用契約書は重要な証拠書類となるので、

電子契約書ソフト内の他、経営者や人事部だけがアクセスできるクラウドストレージなどにもバックアップ

しておきましょう。

以上(2022年10月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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画像:pixabay

町中華の経済学 多品種、丼勘定は本当か?

書いてあること

  • 主な読者:飲食店や小売業など多品種少量販売の事業を行う経営者
  • 課題:原材料の値上げやコロナ禍の影響を受ける中、事業を継続するヒントを知りたい
  • 解決策:丼勘定ではなく、管理会計でポイントを押さえる

1 丼勘定は本当か?

「安い・うまい・早い」の三拍子そろった町中華。どこの街にでもありますが、長く続く秘訣は何でしょうか? 低価格で、客数はさほど多くもなさそう。でも潰れない。

町中華探検隊として町中華を食べ歩くライターの北尾トロ氏は、町中華を「昭和以前から営業し、1000円以内で満腹になれる庶民的な中華店。単品料理主体や、ラーメンなどに特化した専門店と異なり、麺類、飯類、定食など多彩な味を提供する。カレーやカツ丼、オムライスを備える店も。大規模チェーン店と違ってマニュアルは存在せず、店主の人柄や味の傾向もはっきりあらわれる」と定義づけています(「町中華とはなんだ 昭和の味を食べに行こう」北尾トロ、下関マグロ、竜超著、KADOKAWA、2018年9月)。

丼勘定のイメージがありますが、本当にそうでしょうか? 町中華がいかにして生き残っているのかを探り、他の飲食店や小売業などの経営者が、管理会計で押さえるべきポイントを紹介します。

2 町中華が強い3つの秘訣

1)多品種に対応できる使い回しが利く仕入れ

町中華の特徴は豊富なメニューです。しかし、原材料となる食材は実は共通の食材が多いのです。町中華によくあるメニューと食材の例を挙げました。

町中華のメニュー例と主な原材料

こうして見ると、豚バラ肉など汎用性の高い食材が多く使われていることが分かります。仕入れや在庫管理の工夫はあるのでしょうか。公認会計士・税理士で、自身も青森県八戸市でラーメン店を経営し、『会計の基本と儲け方はラーメン屋が教えてくれる』(日本実業出版社)の著書もある石動龍氏は次のように教えてくれました。

「お客さんへ魅力を感じてもらえるよう、豊富なメニューを用意するとしても、食材のロスのないよう、メニュー構成や、原材料の仕入れ、管理を工夫する必要があります。例えばレバニラ炒めにしか使わないレバーを大量に仕入れるわけにはいかないでしょう。共通の食材で、いかに幅広いメニューを用意するか。食材のロスがないように仕入れ、管理するか。品質を保ちながら冷凍保存するのも一案でしょう」

2)適正な利益を確保できる価格設定

価格帯が異なるメニューが共存できるのも町中華の強みであると、石動氏は指摘します。中華料理には、北京ダックやフカヒレスープ、つばめの巣といった高級メニューがあります。町中華でもエビチリくらいはラインアップとしてあるところも少なくないでしょう。町中華でチャーハンが750円でエビチリが1500円で販売されていても違和感はありませんよね。一方、よほどのマーケティング的な狙いがない限り、価格帯の大きく異なるメニューを並べるのは、ラーメン屋やファストフード店では難しいでしょう。1杯750円が相場のラーメン屋に、1500円のラーメンがあったら違和感を覚えますよね。つまり、

町中華は適正な利益を確保できる価格設定がしやすい業態

ともいえるわけです。

3)居心地の良さが利益を生む

町中華に行くと、おつまみを数品頼んでお酒を飲んでいるお客さんを見かけます。この点も町中華の強みであると、石動氏は自著で述べています。つまり

長居をしてもらって、原価率が低いおつまみやお酒を頼んでもらうことで利益を確保

しているのです。例えば800円の炒め物が原価率30%だとして(粗利560円)、加えておつまみとお酒を2000円分オーダーし、その原価率が10%だったとします(粗利1800円)。そうすると、客1人当たりの限界利益は2360円になります。

町中華の店主がそのように狙っているかは分かりませんが、町中華には手軽な「居酒屋」という側面もあります。ファストフード店などが努力して取り込もうとしている居酒屋需要が町中華にはあるのです。

3 ココだけは押さえたい管理会計のポイント

1)FLR比率に注目する

本当に丼勘定でやっていると、自分の店が苦戦している理由として、固定費が高いのか、原材料費が高いのかすら分からなくなります。一般的に、飲食店経営で大切な指標といえばFLRコストです。それぞれ、

  • F(Food):食材費
  • L(Labor):人件費
  • R(Rent):賃料

を指しています。店の状況によってさまざまですが、一般的に、

F比率は30%程度、FL比率は60%程度、FLR比率は70%程度

に抑えるのが理想とされています。

FLR比率=(食材費+人件費+賃料)÷売上

とはいえ、R(Rent/賃料)は、都市部と地方とで大きな差があります。都市部の好立地では、賃料は高くなりますが、それに見合う人通りもあります。ちなみに、昔ながらの商店街で数十年と続いている町中華がありますが、

「そのような店の多くは、持ち物件で営まれているのかもしれませんね。さらにもし家族経営だったとすれば、それだけで固定費の大半がカットできます。コストはほぼ食材のみとなり、あとは利益となるのです」(石動氏)

2)固定費と変動費に分ける

コストには、売上高に関係なく発生する固定費と、売上高に応じて発生する変動費があります。FLRコストに注目すると、

  • 固定費:人件費、賃料
  • 変動費:食材費

となります。これを軸に考えると、

月の売上高から食材費を引いたものを「限界利益」と呼び、この限界利益で人件費や賃料を賄えるか否か

が重要となります。これは、一般的な損益分岐点の考え方です。

3)利益構造を把握する

石動氏によると、押さえておきたいポイントは、

  • 客単価
  • 来客人数
  • コスト:固定費(主に人件費、賃料)
  • コスト:変動費(主に食材費)

です。客単価をベースとして、何人の来客数があれば、コストがどれくらいかかり、どれくらいの利益が残るのかという利益構造を把握していれば、食材費などが高騰したときも、どこに影響が出て、どこをやりくりすれば賄えるのかという打ち手がイメージできるようになります。

例えば、麺の仕入れ価格が、1玉当たり5円値上がりしたとすると、

5円×月の来客数=月の原材料コストがいくら上がるか

がすぐに分かり、ダメージの小さいうちに対処することができるのです。町中華の店主は、このあたりの計数感覚を自然と身に付けているのかもしれません。

以上のようなポイントを押さえ、管理会計を経営に活かしましょう。

以上(2022年10月)

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画像:和久 澤田-Adobe Stock

【朝礼】よい結果を出すために、気持ちを共有しよう

「皆さんにお願いがあります。明日の午後3時までに、皆さんが日々行っている業務内容を箇条書きにした資料を上長に提出してください」

ではもう一つ、「皆さんにお願いがあります。皆さんが日々行っている業務を整理し、業務の効率化につなげたいと考えています。本人以外が知らない細かな作業を、簡単なことでも把握したいと思います。そこで、明日の午後3時までに、皆さんの業務内容を箇条書きにした資料を上長に提出してください」

どうでしょう。前者と後者、どちらの方が、より正確な資料を作ることができそうですか? もちろん後者です。

前者では、私は単に必要な項目を提示しただけであり、それが何のために必要なのか、何に使うものなのかについて一切言っていません。これでは、資料を作る皆さんはきっと「これから一体何が起こるのか」と不安に思うでしょう。

vビジネスで頻繁に話題となる「見える化」というテーマは、簡単にいうと「現場における目に見えない活動の様子を目に見える形にしようとする取り組み」です。スタートからゴールに至るまでの過程を明らかにすることで、よりよい結果を出そうとする試みでもあります。

例えば、上司が部下に対して「新商品についてまとめたプレゼン資料を作っておくように」などといったように、作成すべきものだけを指示したとしましょう。部下は上司に指示された通りの資料を作成するわけですが、用途や目的が分からないままなので、部下は「これでよいのだろうか?」という疑問を抱くでしょう。自分なりの創意工夫や提案を盛り込むことにもちゅうちょしてしまうかもしれません。これでは上司が満足する資料ができない可能性があるだけでなく、部下にとっても経験・成長する機会にならず、お互いにとってよい仕事ができません。

そこで、上司が「来週、取引先を訪問する際に新商品を案内したい。新商品の概要をまとめたプレゼン資料を作ってほしい。特に機能面をアピールしたい」と伝えればどうでしょう。これなら部下は上司の意図や目的を理解できますから、それに沿うように自分で考え、調べ、工夫するでしょう。結果として、期待以上の資料が完成する可能性も高くなります。

このように、スタートからゴールに至るまでの過程を明らかにし、周囲の人と共有することは、自分以外の人に対して自分の考えを説明・説得するときにとても大切なことです。

人の気持ちや考えは当人にしか分かりません。他人が皆さんの頭や心をのぞくことはできないのです。ですから、皆さんが誰かに何か指示や依頼をするときは、相手がその意図を理解し、理由について納得できる話をするように努めましょう。過程とゴールを相手と共有できれば、必ずよい結果が出るはずです。

以上(2022年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】マラドーナ選手の“神の手”ゴールを批判から伝説に変えたプレー

けさは皆さんに、1986年にメキシコで開催されたサッカーワールドカップ(以下「W杯」)でのエピソードを話したいと思います。昔の話ですから知らない人も多いでしょうが、優勝したアルゼンチン代表のディエゴ・マラドーナ選手のプレーは、映像で見たことがあるかもしれません。

中でも有名なのが、準々決勝のイングランド戦で、ボールを手に当ててゴールを決めたプレーです。本来は反則ですので、ゴールは無効となるべきで、イングランド側から審判に対して抗議があったのですが、審判は判定を覆さずにゴールとして認めてしまいました。このプレーは、試合後にマラドーナ選手自身が、「ただ神の手が触れた」とコメントしたことで、“神の手”ゴールと呼ばれるようになりました。

当時はビデオによる判定が制度化されていなかったという事情はありますが、テレビの視聴者も明らかにハンドだと分かったくらいですから、試合後に審判やマラドーナ選手に対する批判が集まってもおかしくない状況だったと思います。

ちなみに、W杯の主催者であるFIFA(国際サッカー連盟)ですら、2004年の創立100周年を記念して制作したDVDの中で、W杯での「10大誤審」の第1位に“神の手”ゴールを選んでいます。

ところが、“神の手”ゴールは、後に「伝説のプレー」と呼ばれるようになったものの、審判もマラドーナ選手も、強く批判されることはありませんでした。

その大きな理由は、“神の手”ゴールのわずか4分後に、マラドーナ選手自身が世界中を魅了した、さらなる「伝説のプレー」を披露したことでした。ビデオで映像を見たことのある人も多いと思いますが、約60メートルをドリブルで独走し、相手ディフェンスを5人も抜き去ってゴールを決めたプレーです。そのプレーがあまりにも印象的だったため、その前の“神の手”ゴールに対する批判のトーンは一気に和らぎ、2つのプレーがセットになって「伝説」となっていったのです。

このエピソードは、サッカーに限らず、私たちが仕事をする上での心構えにも通じるものがあります。皆さんは多かれ少なかれ、仕事で失敗をして、クライアントに迷惑をかけてしまった経験があるかもしれません。大きな失敗であれば、人によっては、「クライアントの信頼を失った……もうダメだ」と思うこともあるでしょうが、素直に自分の誤りを認めて真摯(しんし)に謝罪し、ミスを帳消しにするぐらいの活躍を見せれば、クライアントの信頼は取り戻せるのです。

仕事に失敗はつきもので、特に前例がない、難しい業務をやるときはなおさらです。もちろん、誰しも失敗したくありませんが、仮に失敗しても、立ち止まって落ち込むのではなく、「取り返そう」と前を向ける意志の強さこそが大切です。間もなく今年も終わりです。来年も細心の注意を払いつつ、しかし失敗を恐れることなく、仕事に取り組んでください。期待しています。

以上(2022年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

POS情報の連携やクラウドファンディングなど「6次産業化テック」最前線/新技術で変わる農林水産業(5)

書いてあること

  • 主な読者:業務の効率化や人手不足の解消を図りたい農林水産業者
  • 課題:どのようにすれば効率化や人手不足の解消が図れるのか分からない
  • 解決策:事例を参考に、生産者が生産だけでなく、販売・流通までの新技術を取り入れる

1 テクノロジーで6次産業化の課題を解決「6次産業化テック」

近年、農林水産業を営む企業で、人工知能(AI)やドローンなどのテクノロジーを取り入れる動きが出てきています。体力勝負のこまめな管理や、自然環境の影響を大きく受けるこれらの業界では、次のような課題が挙げられています。

  • 高齢化による人手不足、ノウハウの継承
  • 変化する自然環境への対応
  • 効率的、持続的な生産・収穫・漁獲・販売体制の確立

このシリーズでは、農林水産業を営む企業が直面する課題を解決するための最新テクノロジーの動向と、その活用事例を紹介します。これまで4回にわたって第1次産業である農林水産業に関する最新テックを紹介してきました。最終回となる第5回は、農林水産業者が、6次産業化を目指す中で直面する課題を解決するための「6次産業化テック」です。具体的には、

  • POSシステムを取り入れたリアルタイムの情報連携で、補充漏れや誤発注を回避
  • 産直サイトなどを通じた消費者とのコミュニケーションで中間マージンを削減
  • クラウドファンディングを活用した資金調達とファンづくり

といった取り組みを紹介します。

2 「6次産業化テック」取り組み事例

6次産業化テックで実現すること

1)生産者・食品加工業者・飲食店×POS連携=フードロスの回避

ブエナピンタ(徳島県鳴門市)が運営する6次化支援施設「THE NARUTO BASE(ナルトベース)」は、生産者による農産物や加工品の直売所を提供している他、生産者が持ち込む農産物の加工場やレストランを展開しています。ナルトベースは販売情報を個別に管理するPOS(Point Of Sales=販売時点情報管理)システムを取り入れて、生産者や施設内の加工場、レストラン、直売所、契約レストランなどとリアルタイムの情報連携を行っています。当日の追加補充の必要性や、週ごとにどのくらい仕込めばよいのかが分かるので、「売れ筋」商品を早期に把握できるとともに、補充漏れや誤発注などのロスが回避できます。

また、加工場は、規格外で既存の流通では廃棄されてしまう農作物や魚介類を、近隣の生産者から買い取り、新鮮なままペースト加工・瞬間冷凍などにより商品化します。商品は首都圏の契約レストランをはじめ、全国の飲食店や個人に販売します。地元の加工場で新鮮な食材を低コストで調理することで、人件費や土地代の高い首都圏で下ごしらえをするコストの削減につながります。地元生産者にとっても、もともと廃棄するものが商品として販売できるので、利益になる仕組みです。

2)生産者と消費者×ネットワーク=消費者との直接のコミュニケーションの実現・配送のコストダウン

ビビッドガーデン(東京都港区)は全国の生産者から、消費者が直接食材を購入できるオンライン直売所「食べチョク」を運営しています。通常の流通では、生産者が作った食材は農協がまとめて購入し、卸売―仲卸―小売店―消費者といった流通ルートを通すため、生産者の取り分は小売価格の30%ほどといいます。その一方で「食べチョク」は、生産者がサイトに自分のページを作り、値段も自分で決めて、直接消費者へと送ります。そのため、売り上げ手数料である20%を差し引いた80%ほどが粗利益となります。

「食べチョク」は、収穫から最短24時間以内に発送を行っているので、鮮度の高い食材が届くことや、農家が自分のページを持つことで、生産者と消費者が直接コミュニケーションできることが特徴です。「食べチョク」の登録ユーザー数は70万人、登録生産者数は7500件に上ります(2022年7月22日時点)。

生産者と直接つながることで、消費者は「生産者とつながっているから安心できる」という声が多いそうです。また、生産者は「こういう料理に使いやすい」といった情報や、手書きの「ありがとう」メッセージを入れるなどして、ファンづくりをしているといいます。

やさいバス(静岡県牧之原市)もECサイト「やさいバス」を通して地域内の生産者と消費者を結び付けていますが、独自の配送システムで野菜を効率的に流通させる仕組みも提供しています。

生産者は「やさいバス」を利用することで、受発注の記録が流通の過程で自動的に残るため、伝票を書いたり、集計したりする必要がなくなり、事務作業が大幅に効率化したそうです。また、通常の市場流通では、農家に価格決定権はありませんが、「やさいバス」では、農家側が価格を提示できるので、こだわって作った野菜を、適切な価格で早く消費者の元へ届けることが可能です。サイトにはSNS(交流サイト)もあり、そこで農家と購入者が直接コミュニケーションできます。例えば、こだわりの農産物の栽培農家を探す際にSNSを活用し、好みの農家と出会い、土壌や栽培方法などを聞くことで付加価値に気付いたり、農家側も購入者の声を聞くことで、栽培する野菜を見直したりすることもできるようになったそうです。

同社は、地域内の複数の場所に「バス停」を開設。消費者から注文を受けた農家が最寄りの「バス停」に野菜を持ち込むと、当日中に同社の地域巡回冷蔵トラックが消費者の最寄りの「バス停」に配送します。利用料は、2022年9月時点で農家の販売手数料が売り上げの15%で、購入者の配送手数料が1ケース385円(税込み)です。従来は、農家が宅配事業者を利用して取引先に配送しようとすると、配送料が野菜と同程度になることもあったので、大幅にコストダウンできたそうです。

3)自治体の支援×クラウドファンディング=資金調達とファンづくりに貢献

鹿児島県は2021年に、県内の6次産業化に取り組む農林漁業者や県産農林水産物の食品加工事業者に対して、「クラウドファンディング」の支援を行いました。17事業者が参加し、全事業者が目標金額を達成できました。

同県は参加した事業者に対し、2回の活用セミナーと、ウェブサイトの作り方や返礼品の設計などをオンラインによる個別指導を実施しました。それを基に、参加した事業者の多くがウェブサイトに、「顔写真があり、自分の気持ちや生い立ちを説明した自己紹介」や「商品へのこだわり」を掲載しました。その他、「鹿児島県ならではの歴史や地域性」「事業者の家族やグループメンバーの紹介」「レシピ集」など、事業者と商品を関連付けてストーリー化したPRでファンづくりにつなげました。

4)取引業務アプリ×LINE=数多くの取引先とのやり取りを効率化

Kikitori(東京都文京区)は、スマホやタブレットなどの端末を使って卸売事業者や仲卸業者といった、流通業者と生産者の取引業務が効率化できるアプリ「nimaru」を提供しています。

生産者は、「nimaru」を利用する流通業者とLINEで友だち登録するだけで、新たな流通業者とつながることができるのが特徴です。一方、流通業者の中には、営業担当者1人につき100件を超える生産者・出荷者と取り引きをしているところもあります。生産者ごとに電話、FAX、メール、SMSといった連絡手段が違うと、日々相場が変化する市場取引では、集計や報告作業が煩雑になり、報告漏れやミスの原因となります。

しかし、流通業者と生産者の双方が「nimaru」を利用すれば、入力した入出荷予定情報は、即時に流通業者と生産者の間で共有されるので、情報集約のための作業負担が大幅に軽減されたといいます。

3 6次産業化テック関連のデータ:ニーズと課題など

1)市場は緩やかに拡大

これまで見てきたように、さまざまなシーンで「6次産業化テック」導入の動きが始まっています。農林水産省などの資料から、求められているニーズや課題などの状況を見てみましょう。6次産業化の農業生産関連事業の年間総販売金額は2018年度まで緩やかに拡大していましたが、2019年度は、前年度と比べて267億円減少し、2兆773億円となりました。

農業生産関連事業の年間総販売金額

2)6次産業化に取り組んだ事業者の売上額は増加傾向となる

政府は2010年3月に「地域資源を活用した農林漁業者等による新事業の創出等及び地域の農林水産物の利用促進に関する法律」(六次産業化・地産地消法)を成立させました。

農林水産物などの生産や加工、販売を一体的に行う事業計画を「総合化事業計画」と呼び、認定を受けた事業者は「総合化事業計画認定者」として、無利子融資資金の貸し付けや新商品開発、販路開拓などに対する補助、農林水産省による媒体掲載、仲間づくり、情報提供などの支援を受けることができる法律です。

総合化事業計画の認定件数は2020年度末時点で2591件となりました。農林水産省が行った認定事業者を対象としたフォローアップ調査によると、5年間総合化事業に取り組んだ事業者の総合化事業で用いる農林水産物等と新商品の売上高平均額は、増加傾向となっています。

農林水産物等と新商品の売上高平均額

以上(2022年10月)

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