新人・若手社員の社内研修におけるOJT(職場実習)は、ほとんどの企業で行なわれているプログラムであり、新人に業務を覚えてもらい、実務的なスキルを身に付ける上で非常に有効な教育手段と言えます。
本稿では、新人・若手社員のOJTを行なう上で、企業が抱く問題点とその改善策をご紹介するとともに、企業にとって、より効果的なOJTの進め方を解説いたします。
新人・若手社員のOJTに関する問題点と改善策
新人・若手社員の社内研修におけるOJT(職場実習)は、ほとんどの企業で行なわれているプログラムであり、新人に業務を覚えてもらい、実務的なスキルを身に付ける上で非常に有効な教育手段と言えます。
本稿では、新人・若手社員のOJTを行なう上で、企業が抱く問題点とその改善策をご紹介するとともに、企業にとって、より効果的なOJTの進め方を解説いたします。
1 OJTの主な課題
(株)日本能率協会マネジメントセンターが実施した「新人・若手社員のOJTに関するアンケート」によると、回答企業(回答者数1000名)の約9割が「OJTに課題がある」と考えていることが明らかになりました。その課題(複数回答)感は次の通りです。
■OJTにどのような課題があると感じていますか。(複数回答)
((株)日本能率協会マネジメントセンター「新人・若手社員のOJTに関するアンケート」)
この通り、主に「指導者側」に課題があることが明らかになっています。
2 有効な改善策
近年のOJT指導者は人材不足などにより若年化傾向にあり、新入社員とそれほど職歴が変わらない若手社員が担当することも増えています。こうした状況において、より効果的なOJTを行うにはどうしたら良いか、下記の視点に着目してみましょう。
①社内組織の連携強化
「新人・若手社員」「OJT担当者」「上司・会社」の連携を強化する。面談などでコミュニケーションを図り、定期的な状況把握やフォローを行うなど、職場全体でサポートできる環境を構築する。
②OJT教育のマニュアル化と指導者研修
OJT担当者の指導スキルのばらつきなどを出さないために、OJT実施マニュアルなどを作成し、それを元に「教える技術」の研修(勉強会)を行い、指導者としてのレベルアップを図る。
③OJTの目的設定
研修プログラム(育成計画)の設計のみならず、指導を行う上での指針を明確化し、最終ゴール(目的)の設定にとどまらず、中間ゴールを設定して、どんなステップで必要な成果をあげ、スキルを身に付けるか、都度分解し検証していく。
④マインドセットの把握と指導
「マインドセット」とは、考え方や物事の見方の「癖」のようなものを意味します。新人・若手社員のマインドセットを把握し、企業のマインドセット(企業理念や組織文化、行動規範、経営戦略などの社風)を意識させながら、同じ目的・方向に向けて行動できるようにOJT指導を行っていく。
3 さいごに
OJTの効果を高める上では、企業組織として、社内間の連携強化、OJTのマニュアル化、指導者研修、育成計画作成などの事前の準備が重要となります。OJT品質の底上げを図るため、前述の改善策も参考としながら検討してみては如何でしょうか。
※本内容は2022年11月11日時点での内容です
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)
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不動産の処分時に役立つ「不動産M&A」とは?
書いてあること
- 主な読者:不動産の処分を検討している経営者
- 課題:不動産を処分したいが、どのような方法があるのか分からない
- 解決策:不動産を処分する1つの方法として、不動産M&Aを検討する
1 知っていますか? 不動産処分で活用できる「不動産M&A」
不動産M&Aとは、
会社が保有する不動産を切り離して新会社を設立し、その新会社の株式を売却する
ことです。
本業とは関係のない不動産(賃貸ビルやマンションなど)がある場合、資金調達のために不動産の処分を検討することがあります。近年の不動産価格は上昇傾向にあるので、多額の含み益が出る不動産もあるでしょう。あるいは、廃業を考えている経営者は、会社が保有する不動産の処分を検討します。
会社が不動産を処分する場合、通常は買手と不動産譲渡契約を締結して、不動産自体を売却する方法が考えられますが、それ以外に「不動産M&A」という方法もあるのです。不動産の処分を検討している経営者は、この記事を読んでみてください。不動産M&Aの方法、不動産売却と比較した場合の税金面の違いなどを説明します。なお、この記事では、不動産に含み益があることを前提としています。
2 不動産M&Aと不動産売却の違いは?
早速、不動産M&Aの肝を紹介します。
不動産M&Aでは、会社分割によって事前に不動産を新会社に切り離す必要があります。会社分割とは、
既存の会社の事業を別の会社(新会社または別の既存の会社)に切り離すM&Aの手法の1つ
です。事業を新会社に切り離す会社分割の場合は、1つの会社が2つの会社になるわけです。また、その会社分割には、2つの会社が兄弟関係となる会社分割(「分割型」といいます)と、2つの会社が親子関係となる会社分割(「分社型」といいます)があります。
ここでは、一般的な不動産売却と2つの会社分割の方法の概要とともに、お金(売却代金)の流れについて説明します。
1)不動産売却
A社は、保有する不動産を買手であるB社に売却します。売却代金はA社に入ってきます。後日、オーナーに対し売却代金相当の配当を実施することで、最終的に売却代金相当はオーナーに入ってきます。
2)分割型の会社分割+株式売却
事前に、会社分割(分割型)の方法により、不動産を新会社(兄弟会社)に移管します。この会社分割に伴い、オーナーは新会社の株式を取得します(分割型の場合はオーナーが新会社を直接的に支配)。その後、オーナーは取得した新会社(兄弟会社)の株式を、買手であるB社に売却します。売却代金は直接、オーナーに入ってきます。
3)分社型の会社分割+株式売却
事前に、会社分割(分社型)の方法により、不動産を新会社(子会社)に移管します。この会社分割に伴い、A社は新会社の株式を取得します(分社型の場合はA社が新会社を直接的に支配)。その後、会社は、新会社(子会社)の株式を買手であるB社に売却します。売却代金はA社に入ってきます。なお、後日、オーナーに対し売却代金相当の配当を実施することで、最終的に売却代金相当はオーナーに入ってきます。
4)3つの方法の比較
この3つの方法をご覧いただくとお分かりだと思いますが、売却代金の入ってくる流れが異なります。
- 「2)分割型の会社分割+株式売却」では、オーナーに直接売却代金が入ってくる
- 「1)不動産売却」と「3)分社型の会社分割+株式売却」では、会社に売却代金が入ってくるため、配当を実施しないとオーナーに売却代金相当は入ってこない(もし、資金調達が目的であれば、配当を実施する必要はありません)。さらに、配当を実施すると、配当金を受けたオーナーは配当所得として課税が生じる
それでは、税金のことを考えると「2)分割型の会社分割+株式売却」の方法が一番良いのでしょうか。次の章では、税金の観点から3つの方法を説明します。
3 不動産M&Aと不動産売却の税務の取扱いは?
1)不動産売却
A社は、不動産の売却により売却益を計上するため、法人税等の納税が必要となる可能性があります。
不動産売却後に配当を実施する場合、オーナーが受領する配当金は配当所得に区分され、原則として、確定申告(総合課税)が必要となります。この場合の所得税の税率は最高45%です(さらに復興特別所得税と住民税がかかります)。
2)分割型の会社分割+株式売却
税務上、会社分割による不動産の切り離しは、
不動産を売却したものとみなされ、売却益(分割譲渡益)を計上
します。そのため、A社は法人税等の納税が必要となる可能性があります。
会社分割に伴いオーナーは一旦、新会社株式を取得しますが、税務上はみなし配当(配当名目での金銭の受け取りはありませんが、配当があったとみなされること)として認識します。このみなし配当は、金銭による配当と同様に配当所得に区分され、原則として確定申告(総合課税)が必要となります。この場合の所得税の税率は最高45%です。さらに復興特別所得税と住民税がかかります。
オーナーによる新会社株式の売却は、譲渡所得に区分されますが、原則として、税務上は売却損益が出ないように計算(株式譲渡原価と株式売却代金が同額となるように計算)がされます。
3)分社型の会社分割+株式売却
税務上、会社分割による不動産の切り離しは不動産を新会社に売却したものとみなされ、売却益(分割譲渡益)を認識します。そのため、A社は法人税等の納税が必要となる可能性があります。
A社による新会社株式の売却については、原則として、税務上は売却損益が出ないような計算(株式譲渡原価と株式売却代金が同額となるように計算)がされます。
新会社株式売却後に配当を実施する場合の取扱いは、「1)不動産売却」と同じです。
4)3つの方法の比較
3つの方法の課税関係について整理しますと、いずれの方法も、
- 不動産の売却または切り離しにより売却益を認識し、法人税等が課税される
- オーナーは配当所得に対して所得税が課税される
ことになります。
厳密な計算をすると、3つの方法の納税額に相違は生じるとは思いますが、基本的な課税関係はいずれも同じです。特に、「2)分割型の会社分割+株式売却」の方法は、A社に売却代金が入ってこないにも関わらず、法人税等を納付することになる可能性があります。
ちなみに、不動産の売却に伴い、不動産を取得した買手に対し、不動産取得税と不動産登録免許税が課されます。会社分割により不動産を切り離した場合においても、不動産を取得した新会社は、原則として、不動産取得税(一定の要件を満たす会社分割については、不動産取得税が非課税となる可能性があります)と、不動産登録免許税が課されますが、通常は買手に負担してもらいます(買手との交渉が必要です)。
4 不動産M&Aと不動産売却の手続き比較
1)不動産売却
- 他の方法と比較すると手続きが簡単。契約は不動産譲渡契約書のみ
- 他の方法と比較すると、経理処理や税金計算が簡単
2)分割型の会社分割+株式売却と、分社型の会社分割+株式売却
- 分割契約書(計画書)と株式譲渡契約書の2つの契約が必要。また、会社分割については債権者保護手続きなどの法的手続きが必要
- 会社分割手続きと不動産移転登記手続きが完了しないと、株式売却ができない
- 「1)不動産売却」と比較すると、経理処理や税金計算が複雑
以上のことを考えますと、実際には税金シミュレーション等による比較検討が必要となりますが、基本的な課税関係は同じであり、手続きについては、不動産売却が最も容易であるということになります。
5 税負担が軽く済む不動産M&Aの応用的な方法
最後に、応用的な方法として上記の方法以外の方法をご紹介します。この方法は、不動産の処分による売却益を認識しないため法人税等が課税されず、また、オーナーは配当所得ではなく、譲渡所得による課税となりますので、大幅に税金負担が軽く済む余地がある方法となります。
その方法とは、
会社分割により不動産を切り離すのではなく、不動産以外の事業を新会社に切り出して、A社(旧会社)自体を売却する方法
です。
事前に、会社分割(分割型の会社分割)の方法により、不動産以外の事業を新会社(兄弟会社)に移管します。その後、オーナーは、不動産のみとなったA社の株式を買手であるB社に売却します。売却代金は直接、オーナーに入ってきます。
税務上、一定の要件を満たす会社分割に該当する場合は、課税が生じない分割(適格分割)になり、事業の切り出しによる売却益(分割譲渡益)を認識しません。この場合、オーナーはみなし配当を認識しません。
オーナーによるA社株式の売却は譲渡所得に区分され、売却益に対して20%の所得税及び住民税が課税されます。さらに復興特別所得税がかかります。
不動産の移管(株式の売却のみで、不動産はA社所有で変わらない)をしないことから、買手であるB社に対しても、不動産取得税および不動産登録免許税が課税されません。
上記の通り、不動産の含み益に対して課税されず、オーナーに対して約20%の課税のみとなります。しかしながら、主な留意事項として次の点が考えられますので、実際にこちらの方法を採用する場合には、必ず、税務や法律の専門家のアドバイスを受けるようにしてください。
- 課税が生じない会社分割は、税務上、一定の要件を満たす必要があります。いくつかある要件のうち、特に注意すべき事項として、会社分割後に事業の廃業や新会社の売却が見込まれている場合は、会社分割時に、A社は、事業を売却した場合と同様に売却益(分割譲渡益)を認識することとなります。場合によっては、不動産売却の方法を取った場合よりも多くの納税が必要となる可能性があります
- 買手は、不動産自体や不動産を保有する新会社を取得するのではなく、株式取得を通じて、もともと事業を行っていたA社を取得することになりますので、A社に過去から蓄積された潜在的リスクがある場合には、買手はリスクの低い不動産売却の方法を選択する可能性があります
以上(2022年11月)
(執筆 アクシアパートナーズ税理士法人 税理士 大塚行親)
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【朝礼】面倒なことをお願いされる人になりましょう
皆さんは、上司や取引先様から「ちょっと難しいな」と思うことを頼まれる機会はありますか。「そういった機会がまったくありません」という人は、日ごろの言動を見直してください。すでに、面倒なことや難しいことを、よく頼まれるという人は、こうした頼まれごとについて、これからもしっかりと応えてください。
人は、本当に面倒なことや難しいことは、信頼している相手にしか頼まないものです。逆にいうと、そうしたことを頼まれているということは、相手から信頼されている証拠であり、非常に喜ばしいことなのです。
このことを友人関係に置き換えて考えてみてください。親しい友人には、面倒なことや難しいことでも、申し訳ないと思いつつも、お願いできるものです。場合によっては「お願い」でなく、「相談」かもしれません。こうしたお願いや相談を受けた友人は、「自分は頼りにされている」と感じるでしょう。頼りにされていることが分かるからこそ、「仕方ないな。一肌脱ぐか」となる訳です。
こうした関係はビジネスでも成り立っています。ですから、上司に面倒なことや難しいことを頼まれたときは、上司が自分を信頼しているのだと理解し、笑顔で「はい、分かりました」「はい、やってみます」と答えてください。
もし、頼まれた仕事の進め方がイメージしにくい場合には、「はい」と答え、その後に「もう少し詳しく教えてください」と指示を仰ぎましょう。
上司は部下の能力を、皆さんが思っている以上に分かっています。だからこそ、性格が素直で粘り強い部下や仕事のできる部下に面倒なことや難しいことを頼むのです。
相手が社外の人でも、これは同じです。仮に、取引先様があなたに難しいことを頼んできたとしたら、それは取引先様があなたの力量を認めていることの証です。まずは、しっかりと話を聞いてあげてください。
仕事ができるといわれるビジネスパーソンは、相手の期待に応えることがとても大事であることを知っています。だからこそ、相手から面倒なことや難しいことを頼まれても、それに応えるように努力するのです。
皆さんが面倒なことや難しいことを引き受けるようになれば、次の機会には、相手からもっと高度なことを頼まれるようになります。そんなときでも「それは大変だ」と思わないでください。これは相手とより強い信頼が築けるチャンスと思ってください。
程度の差こそあれ、ビジネスはギブアンドテイクです。面倒なことや難しいことを頼まれ、それに応え続ける人は、いつの間にか、自分が困ったときに頼む相手がたくさんできています。こうした活きた人脈はビジネスパーソンの宝です。
最初は簡単なことで構いません。人から頼みごとをお願いされるようになりましょう。信頼が強まれば、いずれ面倒なことや難しいことを頼まれるようになります。そして、それに応えていくことで、自分自身にも、面倒なことや難しいことを頼むことができる人脈が築かれていくのです。
以上(2022年11月)
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【朝礼】見切り品や型落ち品は堂々と買えばいい
私はスーパーマーケットで、いわゆる閉店前の「見切り品」を買うのが好きです。仕事帰りに立ち寄ったときに、総菜や生鮮品が10%引き、30%引きといった商品が売られていると、ここぞとばかりに買います。とはいえ、自分でも「ちょっとセコいな」と思っていて、見切り品ばかり買わずに通常価格の商品も買うようにしていました。
ところが、あるスーパーマーケットで、ふと値引きのラベルを見たときに、「食品ロス削減にご協力いただき、ありがとうございます」と書かれているのに気付き、私は考え方が変わりました。
私はものを買うときに、自分の欲しいものを、なるべく安い価格で買うことだけを考えていました。ですが、売る側のスーパーマーケットにとっては、私がものを買うことで売り上げとなり、利益の一部が店員の方々の給料になり、その家族の生活を支えるわけです。閉店前の、売れ残ってしまうかもしれない見切り品が売れることで、通常価格の商品まででなくても、いくらかの利益を得ることができますし、食品を廃棄せずに済みます。
そう考えると、ものを買うという行為は、一見すると利己的なことのように思いますが、実は世の中にとって意味がある、社会貢献につながる行為なのだということを、私は改めて感じました。特に見切り品や型落ち品を買うことは、ロス削減にも貢献する行為ですので、堂々と買えばいいのではないかと思うようになりました。
それと同時に、買い物をするときには、商品の品質や価格だけでなく、自分が買うものは、誰がどのようにつくって、買うと誰の生活に影響するのかも意識するようになりました。いわゆる「エシカル消費」まではいきませんが、どうせ買うなら、少しでも社会に貢献したい、社会に貢献していることを感じたい、と思うようになりました。
それから、ものを買うということが社会に貢献することだとするならば、逆にものを売るということは、社会に貢献する機会を提供しているのではないかと思うようにもなりました。だとすれば、ものを買う人と売る人の関係は、「買ってあげる人」と「買ってもらう人」だけではなく、「売ってもらう人」と「売ってあげる人」と見ることもできるはずです。結局、ものを買う人も売る人も、共に社会に貢献している、対等な関係なのではないでしょうか。
今までの話は私の個人的なことですが、これは仕事でも活かせることです。たとえ大切な取引先であっても、社会に貢献するという意味では、対等な関係になっていいと思います。また、これから取引をする際には、商品・サービスの魅力や価格だけでなく、この商品・サービスを買うとこんな社会貢献ができます、というアプローチの仕方でも説明しようと思います。そのためには、もっと自社の商品・サービスのルーツや社会的な意義をしっかりと学び、取引先にも説明できるようになろうと思います。
以上(2022年11月)
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画像:Mariko Mitsuda
痴漢や飲酒運転で社員が逮捕!?会社はこう対応しよう!
書いてあること
- 主な読者:社員が逮捕されたときの初動対応を知りたい経営者
- 課題:うかつに懲戒処分にするとトラブルになる。社員が身柄を拘束されている間の業務のフォローなども心配
- 解決策:誰から、どのような情報を入手すればいいのかを押さえる。逮捕後の刑事手続の流れ・スケジュールを知る
1 社員が逮捕されるケースを想定したことはありますか?
もし、社員が痴漢や飲酒運転で逮捕されたら……。「ウチの社員に限ってそんなことはない」と思いたいものですが、万が一、社員の家族などからそうした連絡があったら、皆さんは落ち着いて対処できるでしょうか。
感情的になって、「犯罪に手を染めるような社員は許せない」と懲戒処分にするのはNGです。逮捕された時点では、社員が本当に有罪なのかは分かりませんし、有罪だとしても相手にどの程度の被害を与えたのかなどを確認しておかないと、後々トラブルになります。
また、社員が逮捕された後は、取り調べなどで身柄を拘束される関係で、働けない期間が発生します。働けない期間について、社員の賃金をどうするのか(賃金の出ない欠勤とするか、有給休暇を消化させるか)、業務のフォローをどうするのかなどを検討する必要がありますが、そのためには、どのぐらいの期間働けないのかなどを知っておかなければなりません。
この記事では、社員が逮捕されたときの初動対応のポイントとして、
- 誰から、どのような情報を入手すればいいのかを押さえる
- 逮捕後の刑事手続の流れ・スケジュールを知る
の2点を紹介します。
2 誰から、どのような情報を入手すればいいのかを押さえる
社員が逮捕された場合、通常は社員の家族や弁護人から、会社に連絡が入ります。業務中に逮捕された場合や被害者が同じ会社の社員である場合、警察官から連絡が入ることもあります。
また、社員本人については、勾留決定後であれば会社の担当者が接見できることがあります。ただし、接見禁止処分が付されている、取り調べ予定が入っている、捜査で警察署外に出ているといった場合は認められません。
「1.『社員が逮捕された』と連絡があったとき」「2.勾留決定後に社員本人に接見するとき」に確認しておくべき内容としては、次のようなものがあります。
なお、1.については、「家族が、気が動転していて情報を正しく収集できない」「弁護士や警察官が守秘義務の関係で、知りたいことを教えてくれない」といったケースがあるので、直接連絡をくれた相手だけでなく、複数の相手から情報を入手したほうがよいでしょう。
3 逮捕後の刑事手続の流れ・スケジュールを知る
社員が逮捕された場合、一般的な逮捕後の流れ・スケジュールは次のようになっています。なお、「逮捕・送検」「勾留」「起訴・不起訴」などの詳細について知りたい場合、第4章をご確認ください。
社員が逮捕された場合、検察官が起訴・不起訴といった終局処分を決定するまでに、
最大23日間(72時間+20日間)身柄を拘束される恐れ
があります。ただし、必ず23日間身柄拘束されるわけではありません。
例えば、自動車運転過失致死傷罪(交通事故)の場合、早期に釈放されて在宅で処理されることが比較的多いです。また、痴漢や盗撮などの条例違反の場合、本人が自白しており、身分がはっきりしていて逃走の恐れがない場合などは、逮捕後、検察官送致前の48時間以内に釈放されたり、検察官が勾留請求しても裁判所が勾留請求を却下したりする事例もあります。
4 逮捕後の刑事手続に関する用語
1)逮捕・送検(最大72時間)
逮捕されると、警察の取り調べ後、48時間以内に検察官に事件が送られます。これを「送検」といいます。送検後、検察官は、それから24時間以内に取り調べをした上で、「勾留の理由」と「勾留の必要性」が認められる場合には、裁判所に「勾留請求」を行います。
- 勾留の理由:被疑者について、罪を犯したと疑うだけの理由があり、かつ「1.住所不定」「2.証拠隠滅の恐れあり」「3.逃亡の恐れあり」のいずれかに該当すること
- 勾留の必要性:事案の軽重、被疑者の年齢、被疑者の体調などを勘案して、勾留が必要だといえること
検察官が、上のような事情が認められないと判断した場合、勾留請求を行わずに被疑者は釈放されることもあります。
2)勾留(最大20日間)
検察官から勾留請求がされると、裁判官が被疑者に被疑事実を弁解させる機会を与えるために「勾留質問」をし、勾留するか否かを決めます。勾留が認められると、
- 原則として、勾留請求された日から10日間身体の自由が奪われる
- 10日間で捜査が終わらない場合、さらに10日間以内で勾留延長される
ことになっています。つまり、勾留期間は最大20日間です。この勾留期間内に、警察や検察などの捜査機関が被疑者に対して「取り調べ」を行います。
3)起訴・不起訴
1.起訴・不起訴の決定
勾留期間内に捜査が終わると、検察官は被疑者を「起訴」するか、「不起訴」とするかを決めます。勾留期間内に捜査が終わらなければ、被疑者は一旦釈放された後に、起訴されることもあります。起訴された場合、被疑者は裁判所で裁判を受けます。また、呼び名がこれまでの「被疑者」から「被告人」に変わります。不起訴の場合、被疑者は釈放されます。
2.起訴(「正式裁判」「略式手続」「即決裁判手続」)
正式裁判とは、
公開された法廷で審理が行われる刑事裁判の原則的なもの
です。被疑者が容疑を認めている事件(自白事件)であれば、通常、起訴日の約1カ月半後に公開の法廷で第1回期日が開かれ、その約1~2週間後に判決の言い渡しとなります。容疑を認めていない場合、判決までに証拠調べや証人尋問などが必要になるため、さらに時間がかかります。
略式手続とは、
事案が明白で簡易な事件について、公開裁判によらず、検察官の提出した書面を基に、簡易裁判所が罰金・過料の金額を、法定刑の範囲内で決めるもの
です。被疑者は裁判所が決めた金額を、いつ・どこに納めるかを指定され(略式命令)、罰金・科料を納めることで刑の執行が完了します。なお、略式手続を行うには被告人の同意が必要で、また、懲役・禁錮刑や100万円を超える罰金を科すことはできません。
即決裁判手続とは、
事案が明白であり、軽微で争いがなく、執行猶予が見込まれる事件を対象としたもの
です。起訴からできる限り早い時期(東京地方裁判所では14日以内)に第1回公判期日が指定され、原則として1回の審理で即日執行猶予判決を言い渡されます。即決裁判を行うには、被告人と弁護人の同意が必要で、また、死刑または無期もしくは短期1年以上の懲役もしくは禁錮を科すことができる事件については、即決裁判で審判することができません。
3.不起訴
検察官が不起訴処分を下す主な理由として、「嫌疑不十分」と「起訴猶予」とがあります。
嫌疑不十分による不起訴とは、
被疑事実につき、犯罪の成立を認定すべき証拠が不十分なときに行う処分
のことです。
起訴猶予による不起訴とは、
被疑事実が立証できる場合であっても、被疑者の性格、年齢および境遇、犯罪の軽重および情状並びに犯罪後の状況(示談や被害弁償、被疑者の反省の態度など)により、検察官の裁量であえて起訴しない場合に行う処分
のことです。
4)保釈
起訴された時点で勾留されている被疑者は、そのまま身柄拘束(勾留)が続きますが、「保釈」が認められると、判決までの間、自由になることができます。保釈は、被告人が逃げたり、証拠を隠したりする恐れなどがないと裁判官が認めたときに、相当の保釈保証金を納付して初めて許されます。
5)正式裁判(公判)
裁判所は、起訴された事実について審理を行った後、有罪か無罪かの判決を下します。有罪の場合は、懲役、禁錮、罰金などの刑が宣告されますが、前科がなく、3年以下の懲役もしくは禁錮刑などの言い渡しを受けたときに、被告人に有利な特別な事情がある場合には、刑の執行が猶予(執行猶予)されることがあります。
執行猶予付きの判決の場合には、
被告人は釈放され、執行猶予期間中に被告人が他に犯罪行為をしなければ、刑の執行を受けなくても済む
ことになります。ただし、前科がつきます。
以上(2022年11月)
(監修 弁護士 坂東利国)
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【財務会計】すぐに分かる! キャッシュ・フロー計算書のポイント解説
書いてあること
- 主な読者:キャッシュ・フロー計算書を作成していない、あるいは確認していない経営者
- 課題:損益計算書の損益と現金の動きには乖離(かいり)があり、資金繰りに問題が生じることがある
- 解決策:営業活動、投資活動、財務活動で現金の動きを確認する。特に、営業活動と投資活動で得られた「フリー・キャッシュ・フロー」は大事
1 キャッシュ・フロー計算書が大切な理由
キャッシュ・フロー計算書(以下「C/F」)とは、
会社の現金の流入(収入)と流出(支出)を示す財務諸表
です。企業会計では「発生主義の原則(現金の流入出に関係なく、経済的に費用や収益が発生したときに決算書に計上するという考え)」による損益計算が行われるので、
- 現金の流入を伴わない未収収益、現金の流出を伴わない未払費用が計上される
- 土地・建物などを取得する際の現金支出は、費用ではなく資産として計上される
こととなり、「勘定合って銭足らず」の状況が起こり得ます。そこでC/Fを確認すれば、実際の現金の動きが分かるので、見た目だけの損益に惑わされることはなくなります。
この記事では、C/F概要と改善ポイントを説明します。中小企業にC/Fの作成義務はありませんが、資金繰りを強化するために作成を検討してみてください。
2 C/F(間接法)のイメージ
詳細は後述しますが、C/Fではキャッシュ・フローを次の3つに分けます。
- 営業活動によるキャッシュ・フロー(以下「営業CF」)
- 投資活動によるキャッシュ・フロー(以下「投資CF」)
- 財務活動によるキャッシュ・フロー(以下「財務CF」)
また、C/Fの様式には直接法と間接法とがあります。
- 直接法:営業活動によるキャッシュの収入(商品の販売など)や支出(仕入れ、経費、給料の支払い)などを、総額で表示する方法
- 間接法:損益計算書をもとに、税引前当期純利益(法人税等控除前の当期純利益)から一定の調整項目を加減して表示する方法
ここでは実務で使われることが多い間接法で説明をします。そのイメージは次の通りです。
3 営業CFの概要と改善ポイント
1)営業CFとは
営業CFは、営業活動を通じて得られる資金です。次のようなものが該当します。
- 商品販売および役務の提供による収入
- 商品および役務の購入による支出
- 従業員および役員に対する給与および報酬の支出
- 利息の受け取りによる収入
- 税金の支払いによる支出
本業が健全であれば営業CFはプラスに、苦戦すればマイナスになります。基本的に、営業CFは税引前当期純利益や運転資金に直接影響する増減項目を調整して計算します。従って、営業CFの改善策を検討する際は、利益項目と運転資金項目に分けて考えます。
2)営業CFの改善:利益項目
営業CFの最大の源泉である利益を向上させるには、売上高の増加を図るか、コストを削減するかとなります。理想は従来の利益率を維持しながら売上高を伸ばすことですが、規模が拡大しているのにコストを変えないことは現実的ではないので、売上の増加率よりもコストの増加率を抑えることを検討します。
なお、過去の投資資金の回収である減価償却費は実際に流出するわけではないため、C/Fでは加算項目となります。
3)営業CFの改善:運転資金項目
運転資金の増減も営業CFに影響を与えます。具体的には売上債権、在庫、仕入債務であり、これらにメスを入れることで営業CFが改善します。
1.売掛金の回収サイトを短く
売上高が増加すれば売掛金も増加します。そこで、売掛金の管理を徹底して回収サイトの短縮に努めます。「売掛金は得意先への資金貸し付けと同じ」というくらいの意識を持つことです。
2.買掛金の支払サイトを長く
売掛金と反対の考え方です。買掛金の支払サイトと売掛金の回収サイトが同程度ならよいですが、買掛金の支払サイトのほうが短いと、売れれば売れるほど資金繰りが厳しくなり、営業CFが不足します。
3.在庫をできる限り減らす
在庫は、売らなければ現金化することはなく、資金が寝ている状態といわれます。また、在庫としての期間が長引けば、その分倉庫などでの保管費用がかさみ、さらに陳腐化による損失の可能性も高まります。そのため、在庫管理を徹底して、資金が寝てしまうことやコスト増などを防ぎます。在庫は自社の経営努力によって、適正在庫量を見直すことができます。
4 投資CFの概要と改善ポイント
1)投資CFとは
投資CFは、固定資産の取引、現金同等物に含まれない短期投資の取引、すなわち「土地・建物の取得・売却」「投資有価証券の取得・売却」「貸付金の実行・回収」などから得られる資金です。次のようなものが該当します。
- 有形固定資産の取得による支出
- 有形固定資産の売却による収入
- 投資有価証券の取得による支出
- 投資有価証券の売却による収入
- 貸付金による支出
- 貸付金の回収による収入
投資CFはマイナスになるケースが多いです。それは、企業が将来の利益拡大のために設備投資を行うからです。
2)投資CFの改善
将来の営業CFを獲得するために、いかに効率良く投資を行うかがポイントです。投資を判断する際に、「将来、その投資がどれだけ営業CFを生み出すか」という視点を持たないといけません。もちろん、企業の体力に見合った投資を行うことが鉄則です。
5 財務CFの概要と改善ポイント
1)財務CFとは
財務CFは、資金の調達および返済のように企業の財務活動に関わるもの、すなわち「借入金による調達・返済」「社債の発行・償還」「増資・有償減資」などから得られる資金です。次のようなものが該当します。
- 借入による収入
- 借入金の返済による支出
- 株式の発行による収入
- 自己株式の取得による支出
- 配当金の支払いによる支出
- 社債の発行による収入
- 社債の償還による支出
財務CFは、営業CFと投資CFとの関連で発生するといえます。例えば、
営業CFと投資CFの合計である「フリー・キャッシュ・フロー」で、それを借入金返済に充てれば財務CFはマイナス
となります。
2)財務CFの改善
財務CFを改善するには、営業活動および投資活動を維持するために、どの程度の資金を条件良く調達したかに注目します。企業の財政状態をより健全にするためには、設備資金をこれまでより長期の資金で調達する必要があります。また、資金調達方法は多岐にわたるので、補助金やクラウドファンディングなども検討してみましょう。
以上(2022年11月)
(監修 税理士 石田和也)
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画像:pixabay
【朝礼】亀との競走に負けたうさぎは、いかに名誉を挽回したか
来年のえとは「卯(う)」、つまりうさぎです。そこで、今日はうさぎにまつわる話を紹介します。
皆さんは子どもの頃、イソップ物語の「うさぎとかめ」を読んだことがあると思います。亀と競走をすることになったうさぎが、自分の足の速さにうぬぼれて途中で居眠りをし、その間に亀に追い抜かれて負けてしまうストーリーです。今さら説明する必要もないぐらい有名な話ですが、実はこの物語に続きがあるのをご存じでしょうか。1971年に作家の斎藤隆介(さいとうりゅうすけ)氏が書いた「まけうさぎ」という童話です。
ストーリーはこうです。亀との競走に負けたうさぎは、仲間のうさぎたちからバカにされ、故郷を追い出されてしまいます。しかし、ひょんなことから、おおかみが故郷の子うさぎを狙っていると知ったうさぎは、これを名誉挽回のチャンスと考え、仲間たちに「自分がおおかみを倒す」と宣言します。1匹でおおかみの元に向かったうさぎは、おおかみに「子うさぎを連れてくるが、あなたの顔を見ると怖がるだろうから後ろを向いていてほしい」と頼み、おおかみが背中を向けている間に崖から突き落とすことに成功します。おおかみを倒したうさぎは、故郷に戻ることができ、仲間たちから英雄としてたたえられたそうです。
「うさぎとかめ」とは全くテイストの違う話で少し戸惑いますが、2つの作品を読んでみると、うさぎが戦う姿勢の違いが分かります。
うさぎは亀との競走では油断をして負けましたが、おおかみに挑む際は慎重に作戦を立てて、目的を達成しました。うさぎがおおかみに対して油断しなかった理由は単純で、相手が一歩間違えば自分を食べてしまう恐れのある強敵だからです。そして、おおかみを倒したうさぎは、亀との競走では見せず、恐らく仲間のうさぎたちも知らなかったであろう、度胸と知恵を証明しました。
ここから、私たちの仕事に置き換えて考えてみます。皆さんは、それぞれ仕事において自分の得意分野を持っていると思います。頼もしいことですが、長い間同じ仕事を続けていると、どこかで油断が生まれてくるものです。もちろん、「うさぎとかめ」の話を教訓として、得意な仕事でも油断せずに進めてほしいのですが、単に自分に言い聞かせるだけでは、なかなか効果が出ないという人もいるでしょう。
そんなときは、自分から環境を変えてみてください。あえて難しい仕事にチャレンジし、全力を尽くして成功を目指すのです。自分の実力を大きく飛躍させる機会になりますし、良い緊張感が生まれ、普段の仕事に対する姿勢も変わるでしょう。「もし、チャレンジが失敗したら」などと考える必要はありません。皆さんが諦めない限り、たとえ失敗したとしても「まけうさぎ」の話のように名誉挽回のチャンスはやってきます。今年はうさぎのように大きく跳ねる、躍動の年にしてください。皆さんのチャレンジに期待しています。
以上(2022年11月)
pj17129
画像:Mariko Mitsuda
そろそろ本気で勉強したい「脱炭素」
書いてあること
- 主な読者:脱炭素に関心はあるけれど、具体的な内容は詳しく知らない経営者
- 課題:脱炭素に向けた世界や日本の動きなど、基本的な知識を得たい
- 解決策:脱炭素に向けた動きを知ることで、会社や個人として、脱炭素とどのように関わっていくべきかを考えるきっかけにする
1 脱炭素は自分事? 何から知っていけばいいだろう
なにかと話題になっている「脱炭素」。大企業や国が取り組む問題だと、少し人ごとになっていませんか?
脱炭素とは、
二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスの排出量を削減し、植物の光合成による吸収量などを差し引きして実質ゼロにする
という考え方、取り組みです。同じような意味で「カーボンニュートラル」とも呼ばれます。
地球温暖化による気候変動の影響で、異常気象に伴う自然災害が頻発する中、脱炭素の実現に向け、世界中でさまざまな取り組みが行われています。
この記事では、今、押さえておくべき脱炭素の世界的な動向、脱炭素に向けて発表されているさまざまな目標設定について理解するために、
- 脱炭素の世界的な動向が俯瞰(ふかん)できる、温室効果ガス実質ゼロへの道のり
- 世界や欧州、日本の削減目標はどう決められていったのか
- 脱炭素をめぐるさまざまな団体、指標、政策などの用語
について紹介します。
2 脱炭素の世界的な動向を俯瞰してみよう
1)世界の取り組み
世界が脱炭素に大きくかじを切ったきっかけは、2015年のパリ協定です。そこに至るまでにさまざまな枠組みを決める国際会議がありました。パリ協定は京都議定書の後継という位置付けですし、SDGsは2000年に開催された国連ミレニアム・サミットで採択された、ミレニアム開発目標(MDGs)の後継です。また、脱炭素に向けて多くの機関が設立され、排出量の規制や経済・投資活動のルール作りが行われました。それぞれのつながりを年表で見ていきましょう。
2)EUの取り組み
EUはサステナブル・ファイナンス(持続可能な社会に向けて、環境問題や社会課題の解決を金融面から支援する活動)の枠組みを設け、域内での運用を行っています。特に、パリ協定以降、活発にルール作りが進められました。EUは脱炭素に向けたルール作りを主導するキープレーヤーの一角といえますので、パリ協定以降のEUの脱炭素の取り組みを年表で紹介します。
3)日本の取り組み
1997年に締結された京都議定書は2005年に効力が発生し、批准した先進国30カ国に温暖化ガス排出削減の義務などが生じました。日本は1998年に地球温暖化対策推進法を成立させて各種の法整備を進め、2012年までに1990年比で温室効果ガス6%削減という努力義務に対して、8.4%削減を達成しました。パリ協定以降は、2020年の菅義偉前総理大臣の所信表明演説から脱炭素に向けた取り組みが本格化しました。
3 脱炭素をめぐる用語集
1)国際会議での枠組み作り
1.IPCC(気候変動に関する政府間パネル)
各国の気候変動に関する政策に、最新の科学的知見を提供する政府間組織です。京都議定書やパリ協定などの条約採択、国際交渉の議論のベースとして重視されています。UNFCCC(国連気候変動枠組条約)は、IPCCの報告を受けて採択されました。
2.UNFCCC(国連気候変動枠組条約)
地球温暖化対策に世界全体で取り組むことを定めた、国際的な条約(締約国数:197カ国・機関)です。国連の下、大気中の温室効果ガスの排出量と森林などによる吸収量を安定化させることを目標としています。
3.COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)
国連気候変動枠組条約の最高意思決定機関で、UNFCCCの締約国が地球温暖化に対して話し合います(年1回開催)。第1回(COP1)はベルリンでの開催で、2000年以降の排出量について目標を立てていくと合意されました。第3回(COP3)で京都議定書、第21回(COP21)でパリ協定が採択されました。
4.京都会議(COP3)
先進国全体で、2020年までの温室効果ガスの削減を定めた「京都議定書」が採択されました。第一期(2008~2012年)と第二期(2013~2020年)に分かれ、先進国全体で少なくとも5%削減(1990年比)させることが目標となりました。
5.パリ会議(COP21)
「京都議定書」の後継となる新たな法的枠組み「パリ協定」が採択されました。「パリ協定」は、先進国だけでなく、加盟国全てが共通目標を掲げて取り組むことが採択された画期的なものでした。共通目標は以下の通りです。
- 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
- そのため、できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
6.1.5℃特別報告書(IPCC)
2050年までに気温上昇を1.5℃に抑えるためには、2030年までに2010年比で45%の排出削減、2050年には実質ゼロにする必要があることを科学的知見としてまとめた、IPCCによる報告書です。
その過程でSDGsを達成することは、脱炭素社会のより良い実現につながる
としています。
7.グリーンリカバリー
コロナ禍からの復興にあたって、経済最優先ではなく、パリ協定やSDGsに沿ったものでなければならないとする考えです。2020年に複数の国際会議、機関投資家グループ、都市・地方政府が、提言やスローガンを出すなどしています。
8.グラスゴー会議(COP26)
世界の平均気温上昇を、産業革命以前に比べて1.5℃に抑えることが事実上の目標となりました(パリ協定では努力目標)。CO2排出量は、世界全体で2030年に45%削減(2010年比)、今世紀半ばには実質ゼロにする必要があること、石炭火力発電の段階的な削減などが確認されました。他にも排出量取引の実施ルールも合意されました。
2)非政府組織による枠組み作り
1.GHG(温室効果ガス)プロトコル
温室効果ガス排出量の算定と報告の国際基準の開発・利用を目的に、WBCSD(世界環境経済人会議)とWRI(世界資源研究所)によって設立されました。2001年に初版が発行され、2011年には「Scope3基準」を正式発表。企業の排出量算定の国際スタンダードとなっています。
2.ESG投資
環境(Environment)・社会(Social)・企業統治(Governance)要素を考慮した投資を指します。国連で各国の金融業界や機関投資家に対して、ESGの視点を組み入れる「責任投資原則」が提唱されたことで、広く認知されました。
3.WMB(We Mean Business)
企業や投資家の温暖化対策を推進している国際機関やシンクタンク、NGOなどが構成機関となって運営している非営利同盟。カーボンプライシングや再エネ、省エネに関する国際的なイニシアチブと企業・投資家を結ぶ役割を果たしています。「We mean business」とは、「私たちはビジネスを通じて気候変動に本気で取り組む」という意味。
4.RE100(Renewable Energy 100%)
WMBの取り組みのひとつ。事業活動で消費するエネルギーを、100%再生可能エネルギー(以下「再エネ」)に切り替えていくことを目標とする企業連合として設立されました。参加要件には、遅くとも2050年までに100%再エネ化を達成する目標を立てることが求められます。
5.SBT(Science Based Targets)
WMBの取り組みのひとつ。企業が、パリ協定が求める目標に整合するように、「科学的根拠に基づいた削減目標」を定めているか認定をします。SBT認定を受けると、パリ協定に整合している企業であるとアピールできます。
6.TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures=気候関連財務情報開示タスクフォース)
持続可能性に配慮した企業を投資先に選定する判断材料として、どのような情報を、どのような形で開示させたいかをまとめるために設立されました。2017年に報告書が提出され、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」に沿って情報開示することが推奨されました。
7.EP100(Energy Productivity 100%)
WMBの取り組みのひとつ。エネルギー効率の高い技術や取り組みを導入し、省エネ効率を50%改善させるなど、事業のエネルギー効率を2倍にすることを目標に掲げる企業が参加しています。
8.EV100(Electric Vehicle 100%)
WMBの取り組みのひとつ。2030年までに電気自動車への移行、またはインフラ整備などの普及に積極的に取り組む企業を増やそうというものです。
9.CA100+(Climate Action 100+)
温室効果ガスの排出量の多い投資先企業や加盟企業、グループ企業、取引先に対し、対話を通じて、2050年までに脱炭素の実現を要求する投資家グループとして発足しました。
10.ネットゼロAOA(Net-Zero Asset Owner Alliance)
2050年に温室効果ガスをネットゼロ(排出量と吸収量が同量でバランスがとれていること)にすることを目指し、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP-FI)と国連責任投資原則(PRI)の主導により設立。
11.TSVCM(Taskforce on Scaling Voluntary Carbon Markets=自主的炭素市場の拡大に関するタスクフォース)
ボランタリークレジット(NGOや民間が主導する炭素クレジット)市場の拡大を目的として設立。2050年のネットゼロ社会実現のために、現在の炭素クレジット市場を15倍以上にする必要性を提言しました。
12.GFANZ(Glasgow Financial Alliance for Net Zero=ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟)
ネットゼロを目指す金融機関の連合体。2022年には投融資先企業に排出削減を働きかけたり、企業の排出削減に向けた取り組みを支援したりすることで、脱炭素に向け100兆ドル(約1京3300兆円)の資金を拠出できると公表しました。
13.ISSB(International Sustainability Standards Board=国際サステナビリティ基準審議会)
IFRS(国際会計基準財団)の下部組織として発足し、ESGなどを含む非財務情報の開示を行う際の、統一された国際基準の策定を行っています。
3)SDGsの取り組み
1.国連ミレニアム・サミット
国際社会共通の目標としてミレニアム開発目標(Millennium Development Goals: MDGs)が採択されました。極度の貧困と飢餓の撲滅など、2015年までに達成すべき8つの目標を掲げました。
2.国連持続可能な開発サミット
MDGsの後継である「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択されました。これに記載されたのが、2030年をゴールとしたSDGs (Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)です。17のゴールと169のターゲットから構成され、地球上の「誰一人取り残さない」ことを誓っています。SDGsとパリ協定という2つの世界共通の指針が示されたことで、各国が脱炭素に向けて動きだしました。
4)押さえておきたい脱炭素用語
1.カーボンプライシング
炭素に価格をつけて排出抑制を図るものです。CO2の排出量に比例して課税を行う炭素税、排出量の上限に規制をかける排出量取引制度、削減することに価値をつけ証券化し、市場で取引するクレジット取引、企業が独自に自社のCO2排出量に対し、価格をつけるインターナル・カーボンプライシングなどがあります。
2.サプライチェーン排出量
原料調達から製造、物流、販売、廃棄などの事業活動における一連の流れで発生する、温室効果ガス排出量のことです。「Scope1(燃料の燃焼など自社の直接排出)」「Scope2(電気、ガスなど供給された間接排出)」「Scope3(事業者の活動に関係する他社の排出量)」の3つの総和で排出量が算出されます。Scope3はGHGプロトコルが2011年に初版を発行し、格付け機関の調査項目に入れられるなどしています。
以上(2022年11月)
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【規程・文例集】「マイナンバー(特定個人情報)取扱規程」のひな型
書いてあること
- 主な読者:マイナンバーやマイナンバーを含む個人情報(特定個人情報等)の適正な取り扱いを徹底させるに当たって「取扱規程」のひな型が欲しい経営者
- 課題:具体的に何を定めればよいかが分からない
- 解決策:特定個人情報等の取得、利用、保存、提供、削除・廃棄への対応などについて定める
1 マイナンバー制度への対応
「給与所得に係る源泉徴収票作成事務」「雇用保険関係届出事務」「健康保険・厚生年金保険関係届出事務」など、企業がマイナンバーを取り扱うこととなるケースは多岐にわたります。
個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」により、社員数が100人超の企業は、マイナンバーやマイナンバーを含む個人情報(特定個人情報等)の具体的な取り扱いを定めた規程を作成することが義務付けられています。
社員数が100人以下の企業は、取扱規程の策定は義務ではありませんが、「特定個人情報等の取扱い等を明確化する」こととされています。結局のところ、
特定個人情報等の取得、利用、保存、提供、削除・廃棄への対応などについて具体的に定めた「取扱規程」を整備しておく
に越したことはありません。
なお、マイナンバー制度に関する解説などは、個人情報保護委員会の以下のページが参考になります。
■「マイナンバーガイドライン入門(事業者編)」「はじめてのマイナンバーガイドライン(事業者編)」■
https://www.ppc.go.jp/legal/policy/document/
■特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)■
https://www.ppc.go.jp/legal/policy/my_number_guideline_jigyosha/
■「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」及び「(別冊)金融業務における特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン」 に関するQ&A■
https://www.ppc.go.jp/legal/policy/faq/
2 マイナンバー(特定個人情報)取扱規程のひな型
以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
【マイナンバー(特定個人情報)取扱規程のひな型】
第1章 総則
第1条(目的)
本規程は、当社における個人番号および特定個人情報(以下「特定個人情報等」という)の取り扱いについて、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下「番号利用法」という)、「個人情報の保護に関する法律」および個人情報保護委員会が定める「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」(以下「マイナンバーガイドライン」という)を遵守し、適正に取り扱うための基本事項を定める。
第2条(用語の定義)
本規程において各用語の定義は、次に定めるところによる。なお、本規程における用語は、他に特段の定めのない限り、番号利用法その他関連法令の定めに従う。
1.個人番号
番号利用法の規定により、住民票コードを変換して得られる番号であって、当該住民票コードが記載された住民票に係る者を識別するために指定されるものをいう。
2.特定個人情報
個人番号をその内容に含む個人情報をいう。
3.特定個人情報等
個人番号および特定個人情報をいう。
4.個人情報ファイル
個人情報データベース等、ある特定の個人情報について容易に検索することができるように体系的に構成した情報の集合物をいう。
5.特定個人情報ファイル
個人番号をその内容に含む個人情報ファイルをいう。
6.本人
個人番号によって識別される特定の個人をいう。
7.従業員等
当社の役員、正社員、嘱託社員、契約社員、パート社員、アルバイト社員および派遣社員をいう。
第3条(適用範囲)
1)本規程は、当社の全ての従業員等に適用する。
2)本規程は、当社で取り扱う全ての特定個人情報等を対象とする。
第4条(個人番号を取り扱う事務の範囲)
1)当社が個人番号を取り扱う事務の範囲は次の通りとする。
1.雇用保険関係届出事務
2.健康保険・厚生年金保険関係届出事務
3.給与所得・退職所得に係る源泉徴収票作成事務
4.報酬、料金、契約金および賞金の支払調書作成事務
5.配当、剰余金の分配および基金利息の支払調書作成事務
6.不動産の使用料等の支払調書作成事務
2)番号利用法に規定される利用範囲において、第1項各号に定める事務の範囲を超えて個人番号を取り扱う場合、あらかじめ利用目的を明らかにし、本人に通知しなければならない。
第5条(特定個人情報等の範囲)
第4条において当社が個人番号を取り扱う事務において使用される特定個人情報等の範囲は、個人番号、および個人番号とともに管理される氏名、生年月日、性別、住所、電話番号、電子メールアドレスとする。
第2章 特定個人情報等の取り扱い
第6条(特定個人情報等の取り扱いに関する基本方針)
1)当社における特定個人情報等の取り扱いに関する基本方針は次の通りとする。
1.特定個人情報等の取り扱いについて、番号利用法、関連法令およびマイナンバーガイドライン等、国が定める指針その他の規範を遵守し、本規程に従って運用する。
2.特定個人情報等を取り扱う事務の処理に携わる従業員等を明確にする。これに含まれない従業員等は本人もしくはその扶養親族以外の特定個人情報等を取り扱わないものとする。
3.特定個人情報等の漏洩、滅失または毀損(以下「情報漏洩等事案」)を防止するために必要な安全管理措置を講じる。
4.特定個人情報等の取り扱いを外部に委託する際には、別途定める「外部委託管理規程」(省略)に従って、委託先の選定、契約、監督を行う。委託を受けた者が再委託する場合にも当社が同様の監督を行う。
5.特定個人情報等の取り扱いに関する質問・苦情等を受け付ける窓口を設置し、対応に当たる。
2)上記基本方針は、社内に掲示する、もしくはイントラネットに掲載することによって従業員等に周知する。
第7条(個人番号の提供の求め)
1)当社は、第4条に定める個人番号を取り扱う事務を処理するために必要があるときに限り、本人に対し、本人およびその扶養親族の個人番号の提供を求めることができる。
2)第1項にかかわらず、当社は、本人との法律関係等に基づき、第4条に定める個人番号を取り扱う事務の発生が予想される場合には、その時点で個人番号の提供を求めることができるものとする。
3)本人が、個人番号の提供要求または第8条に基づく本人確認を拒む場合には、法令で定められた義務であることを周知し、提供および本人確認に応じるよう促すものとする。
第8条(本人確認)
1)本人から個人番号の提供を受ける場合、別途定める個人番号確認手順および個人番号届出書(省略)に従って、当該本人の個人番号の確認および身元確認を行うものとする。
2)本人の代理人から個人番号の提供を受ける場合、別途定める個人番号確認手順および個人番号届出書(省略)に従って、当該代理人の代理権の確認および身元確認を行い、本人の個人番号の確認を行うものとする。
3)個人番号届出書には、番号利用法の規定により提示を受けることとされている書類またはその写しを添付するものとする。
4)個人番号が変更された場合、本人は速やかに第10条第2項に定める事務取扱責任者に申告するものとする。
5)当社が一定の期間ごとに個人番号の変更の有無を確認する際、本人はその確認に協力するものとする。
第9条(目的外利用の禁止)
当社は、第4条に定める個人番号を取り扱う事務を処理するため以外に、特定個人情報等の取り扱いは一切行わない。ただし、番号利用法に特別の規定がある場合を除く。
第3章 組織的安全管理措置・人的安全管理措置
第10条(組織体制)
1)人事部を特定個人情報等を管理する責任部署とする。
2)人事部長を事務取扱責任者とする。
3)人事部長以外の人事部の従業員等および各部署において個人番号が記載された書類等を受領する担当者を事務取扱担当者とする。
4)法務部長を特定個人情報監査責任者とする。
第11条(事務取扱責任者の責務)
事務取扱責任者は、次の業務を所管する。
1.特定個人情報等の安全管理に関する教育・研修の企画および実施
2.事務取扱担当者の監督
3.特定個人情報等の取り扱い状況の把握
4.特定個人情報等の利用申請の承認および記録等の管理
5.特定個人情報等の取り扱いを外部に委託する場合の、委託先の選定
6.特定個人情報等の取り扱いを外部に委託する場合の、委託先における特定個人情報等の取り扱い状況等の監督(実地調査を含む)
第12条(事務取扱担当者の責務)
1)事務取扱担当者は、本規程およびその他の社内規程並びに事務取扱責任者の指示した事項に従い、十分な注意を払って特定個人情報等を取り扱うものとする。
2)事務取扱担当者は、情報漏洩等事案の発生またはその兆候を把握した場合、速やかに事務取扱責任者に報告するものとする。
3)各部署において個人番号が記載された書類等を受領する事務取扱担当者は、個人番号の確認等の必要な事務を行った後、速やかにその書類等を第10条第1項に定める責任部署に受け渡すこととし、自分の手元に個人番号を残してはならない。
第13条(運用状況の記録)
1)事務取扱担当者は、本規程に基づく運用状況を確認するため、次の事項を記録するものとする。
1.特定個人情報等の取得および特定個人情報ファイルへの入力
2.特定個人情報ファイルの利用・出力
3.特定個人情報等が記録された電子媒体または書類等の持ち出し
4.特定個人情報ファイルの削除・廃棄
5.特定個人情報ファイルの削除・廃棄を委託した場合、委託先から受領した証明書等
2)特定個人情報ファイルを情報システムで取り扱う場合、事務取扱担当者の情報システムの利用状況(ログイン実績、アクセスログ等)を記録するものとする。
第14条(取り扱い状況の確認手段)
1)責任部署の事務取扱担当者は、特定個人情報ファイルの取り扱い状況を確認するための手段として、特定個人情報管理台帳に次の事項を記録するものとする。
1.特定個人情報ファイルの種類、名称
2.責任者、取り扱い部署
3.利用目的
4.削除・廃棄の状況
5.アクセス権限を有する者
2)特定個人情報管理台帳には、特定個人情報等を記載してはならない。
第15条(情報漏洩等事案への対応)
1)事務取扱責任者は、情報漏洩等事案が発生したことを知った場合、またはその可能性が高いと判断した場合、適切かつ迅速に対応しなければならない。
2)事務取扱責任者は、情報漏洩等事案が発生したと判断した場合は、その旨を速やかに代表取締役に報告し、事実関係の調査および原因の究明に努めるものとする。
3)事務取扱責任者は、情報漏洩等事案によって影響を受ける可能性のある本人に対し、事実関係の通知、原因関係の説明等を速やかに行うものとする。
4)事務取扱責任者は、情報漏洩等事案が発生した場合、個人情報保護委員会および主務大臣等に対して必要な報告を速やかに行うものとする。
5)事務取扱責任者は、情報漏洩等事案が発生した原因を分析し、再発防止に向けた対策を講じるものとする。
6)二次被害の防止、類似事案の発生防止等の観点から、必要に応じて、事実関係および再発防止策等を公表する。
第16条(教育・研修)
1)事務取扱責任者は、特定個人情報等の安全管理に関する教育・研修を実施し、事務取扱担当者および従業員等に本規程を遵守させるものとする。研修の内容および実施時期は、毎年、事務取扱責任者が定める。
2)事務取扱担当者は、事務取扱責任者が実施する特定個人情報等の安全管理に関する教育・研修を受けなければならない。
第17条(監査)
1)特定個人情報監査責任者は、特定個人情報等を管理する責任部署その他各部署における特定個人情報等の取り扱いが、番号利用法、関連法令、マイナンバーガイドライン等国が定める指針その他の規範および本規程と合致していることを定期的に監査する。
2)特定個人情報監査責任者は、事務取扱責任者および事務取扱担当者以外の者から監査員を指名し、監査を指揮することができる。
3)特定個人情報監査責任者は、特定個人情報等の取り扱いに関する監査結果を代表取締役に報告するものとする。
第18条(取扱状況の確認並びに安全管理措置の見直し)
代表取締役は、監査結果に照らし、必要に応じて特定個人情報等の取り扱いに関する安全対策、諸施策を見直し、改善しなければならない。
第4章 物理的安全管理措置
第19条(特定個人情報等を取り扱う区域の管理)
特定個人情報ファイルを取り扱う情報システムを管理する区域(以下「管理区域」)および特定個人情報等を取り扱う事務を実施する区域(以下「取扱区域」)を明確にし、それぞれの区域に対し、次の措置を講じる。
1.管理区域
ICカード、ナンバーキー等による入退室管理システムの設置等により入退室管理を行うものとする。また、管理区域に持ち込む機器および電子媒体等の制限を行うものとする。
2.取扱区域
事務取扱担当者以外の者の往来が少ない場所や、取り扱いを後ろからのぞき見される可能性が低い場所への座席配置等、情報漏洩等事案を防止するための工夫を施すものとする。また、必要に応じて壁または間仕切り等を設置するものとする。
第20条(機器および電子媒体等の盗難等の防止)
管理区域および取扱区域における特定個人情報等を取り扱う機器、電子媒体および書類等の盗難または紛失等を防止するために、次の措置を講じる。
1.特定個人情報等を取り扱う機器、電子媒体、書類等は、施錠できるキャビネット・書庫等に保管する。
2.特定個人情報ファイルを取り扱う情報システムが機器のみで運用されている場合は、セキュリティーワイヤ等により固定する。
第21条(電子媒体等を持ち出す場合の漏洩等の防止)
1)特定個人情報等が記録された電子媒体または書類等の持ち出しは、次に掲げる場合を除き禁止する。なお、「持ち出し」とは特定個人情報等を、管理区域または取扱区域の外へ移動させることをいい、事業所内での移動等であっても持ち出しに該当するものとする。
1.第4条に定める個人番号を取り扱う事務に関して、行政機関等に対しデータまたは書類等を提出する場合
2.第4条に定める個人番号を取り扱う事務を委託する場合であって、事務を実施する上で必要と認められる範囲内で委託先に対しデータを提供する場合
2)第1項により、特定個人情報等が記録された電子媒体または書類等の持ち出しを行うときには、次の安全策を講じるものとする。ただし、提出方法に関して行政機関等による指定がある場合は、それに従う。
1.特定個人情報等が記録された電子媒体の持ち出しを行う場合
・持ち出しデータの暗号化、パスワードによる保護
・施錠できる搬送容器の使用
2.特定個人情報等が記録された書類等の持ち出しを行う場合
・封かん、目隠しシールの貼付
3)第1項による持ち出しを行う場合には、移送する特定個人情報等の特性に応じて、追跡可能な移送手段を利用する等、適切な方法を選択することとする。
第22条(個人番号の削除、機器および電子媒体等の廃棄)
1)第4条に定める個人番号を取り扱う事務を行う必要がなくなった場合で、所管法令等の法定保存期間を経過したときは、事務取扱担当者は速やかに次のいずれかの方法で個人番号を復元できないように削除または廃棄する。
1.特定個人情報等が記載された書類等を廃棄する場合
・復元不可能な程度に細断可能なシュレッダーの利用
・焼却または溶解
2.特定個人情報等が記録された機器および電子媒体を廃棄する場合
・専用のデータ削除ソフトウエアの利用
・物理的な破壊
2)事務取扱担当者は、特定個人情報ファイル中の個人番号または一部の特定個人情報等を削除する場合、容易に復元できない手段を用いるものとする。
3)特定個人情報等を取り扱う情報システムにおいては、関連する法定調書の法定保存期間経過後に個人番号を削除することを前提として、情報システムを構築するものとする。
4)個人番号が記載された書類等については、関連する法定調書の法定保存期間経過後に廃棄するものとする。
5)事務取扱担当者は、個人番号もしくは特定個人情報ファイルを削除した場合、または電子媒体等を廃棄した場合には、削除あるいは廃棄した記録を保存するものとする。また、これらの作業を委託する場合には、委託先が確実に削除または廃棄したことについて証明書等により確認するものとする。
第5章 技術的安全管理措置
第23条(アクセス制御)
特定個人情報等へのアクセスについて、次の通り制御する。
1.個人番号とひも付けてアクセスできる情報の範囲を、アクセス制御により限定する。
2.特定個人情報ファイルを取り扱う情報システムを、アクセス制御により限定する。
3.ユーザーIDに付与するアクセス権限により、特定個人情報ファイルを取り扱う情報システムを使用できる者を、事務取扱責任者および事務取扱担当者に限定する。
第24条(アクセス者の識別と認証)
特定個人情報等を取り扱う情報システムは、ユーザーID・パスワード等により、事務取扱責任者、事務取扱担当者が正当なアクセス権限を有するものであることを識別した結果に基づき、認証するものとする。
第25条(外部からの不正アクセス等の防止)
情報システムを外部からの不正アクセスまたは不正ソフトウエアから保護するため、次の対策を講じ、適切に運用する。
1.情報システムと外部ネットワークとの接続箇所にファイアウオールを設置し、不正アクセスを遮断する。
2.情報システムおよび機器にセキュリティー対策ソフトウエア(ウイルス対策ソフトウエア等)を導入する。
3.導入したセキュリティー対策ソフトウエア等により、入出力データにおける不正ソフトウエアの有無を確認する。
4.機器やソフトウエア等に標準で備わっている自動更新機能等を活用し、ソフトウエア等を最新の状態にする。
5.ログ等の分析を定期的に行い、不正アクセス等を検知する。
第26条(情報漏洩等の防止)
特定個人情報等をインターネット等により外部に送信する場合、通信経路における情報漏洩等および情報システム内に保存されている特定個人情報等の情報漏洩等を防止するため、次の措置を講じる。
1.通信経路における情報漏洩等の防止
・通信経路の暗号化
2.情報システム内に保存されている特定個人情報等の情報漏洩等の防止
・データの暗号化またはパスワードによる保護
第6章 その他
第27条(罰則)
従業員等が故意または重大な過失により、本規程に違反した場合、就業規則または契約および法令に照らして処分を決定する。
第28条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。
附則
本規程は、○年○月○日より施行する。
以上(2022年11月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)
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