経理現場のインボイス対策!「売り手」と「買い手」の立場から必要な実務を最終確認

書いてあること

  • 主な読者:インボイス発行事業者の登録手続きを済ませた会社の経営者、経理担当者
  • 課題:取引先への登録番号などの通知など現場の準備が抜け漏れなく終わっているか不安
  • 解決策:売手(インボイスを発行する側)、買手(インボイスを受け取る側)の立場から現場ですべきことを整理する

1 いよいよインボイス! 対応漏れがあると消費税の負担増?

いよいよ2023年10月1日からインボイス制度が始まります。消費税の申告を行っている会社であれば、インボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)の登録は終わっていることでしょうが、対応はこれだけではありません。立場ごとにまとめると次のようになります。

1.売手(インボイスを発行する側)

  • インボイスの発行方法を決める
  • インボイスに必要な項目が記載されているか確認する
  • 簡易インボイス(簡易適格請求書)が発行できる業種かを確認する
  • 発行したインボイス(写し)の保存方法を決める
  • 取引先への登録番号や変更点を通知する

2.買手(インボイスを受け取る側)

  • 受け取ったインボイスの保存方法を決める
  • 会計システムがインボイス制度に対応しているか確認する
  • 経理上の注意点を担当者が認識しているか確認する
  • 免税事業者などへの対応を決める

3.売手・買手共通

  • 社員(特に、経理や営業部署の社員)への研修を実施する

これらに対応していないと、仕入税額控除(消費税額の計算上受けられる控除。以下「控除」)を受けられず、消費税の負担が増える恐れがあります。これでは意味がないですよね。そこで、この記事では、

インボイス発行事業者の登録届出後からインボイス制度開始までにすべきこと

をまとめますので、抜け漏れのチェックにご活用ください。

2 売手(インボイスを発行する側)の立場ですべきこと

1)インボイスの発行方法を決める

必要な項目(詳細は後述)が記載されていれば、請求書、領収書など、どの書類もインボイスになります。そのため、まずはどの書類をインボイスにするかを決め、追加しなければならない項目を確認しましょう。一般的には、現在使用している請求書にインボイスとして必要な項目を追加するケースが多いです。

また、契約書の締結だけで、毎月の請求書などを発行していない取引(オフィス賃貸料や会費など)がある場合は、インボイスとして必要な追加項目を記載した通知書を作成・送付し、契約書とともに保存してもらうようにしましょう。

また、インボイスを紙で発行するのか、電子データ(会計ソフトやPDFで作成したもの)で発行するのかを決め、取引先にも発行様式を伝えるようにしましょう。

2)インボイスに必要な項目は記載されているか確認する

インボイスには、今の請求書の記載項目に加えて、

  1. 適用税率
  2. 税率ごとに区分した消費税額等
  3. 適格請求書発行事業者の登録番号

を記載しなければなりません。記載項目に漏れがあるとインボイスとは認められず、受け取った側は消費税上の控除を受けられなくなるので注意が必要です。

画像1

3)簡易インボイス(適格簡易請求書)が発行できる業種かを確認する

インボイスの記載項目は厳密に決められていますが、一部の業種では記載項目を簡略化したインボイス(簡易インボイス)の発行が認められています。一定の業種とは、不特定多数の客と取引を行う次の業種です。

小売業、飲食店業、旅行業、タクシー業、写真業、駐車場業など

簡易インボイスでは、

相手の名称の記載が不要

です。現在のレシートなどに追加しなければならない項目は、

  1. 適格請求書発行事業者の登録番号
  2. 税率ごとに区分した消費税額等または適用税率

の2点です。従来のレシートにスタンプや手書きで対応することも認められているため、取引規模によっては、レジシステムなどの更新をしなくても問題ないかもしれません。

4)発行したインボイス(写し)の保存方法を決める

発行したインボイス(写し)は、取引日の課税期間の末日の翌日から2カ月を経過した日から7年間保存しなければなりません。3月末決算(2023年度)の会社の場合、2024年6月1日から2031年5月31日までの7年間です。

インボイスは、

  • 電子データで受けったものは電子データで保存(2023年12月末までは紙で保存も可)
  • 紙で受け取ったものは紙またはスキャナして電子データで保存

します。

消費税法上、インボイスの保存方法は紙でも電子データでも問題ありません。しかし、電子帳簿保存法により、2024年1月以降は、電子データで受けたったものは電子データで保存することになっています。これは、法人税と所得税に限った話ですが、実務上、インボイスと請求書が別々に送られてくることはほぼ想定されません。インボイス制度が始まる2023年10月までに電子保存の体制を整えなければならないわけではありませんが、半年後には電子保存の義務化にかかる宥恕規定が無くなるので、インボイスへの対応と同時に電子保存の対応も進めていくのが効率的です。

5)取引先への登録番号や変更点を通知する

こうしてインボイスの体裁や発行方法が決まったら、インボイス制度が始まる前に取引先に通知しましょう。インボイスが発行されるかどうか、税金の計算上で影響を受けるのは買手(受け取る側)です。買手の管理や社内手続きの都合上、インボイス制度が導入される前に、インボイス発行事業者かどうかを把握しなければならないと考えている会社もあります。

準備が整っているならば、2023年10月を待たず、通知も兼ねて前もってインボイスを発行しておくと、スムーズに対応できるでしょう。

3 買手(インボイスを受け取る側)の立場ですべきこと

1)受け取ったインボイスの保存方法を決める

受け取ったインボイスの保存方法は、前述した売り手側の「4)発行したインボイス(写し)の保存方法を決める」と同じです。

2)会計システムがインボイス制度に対応しているか確認する

インボイス制度が始まると、会計システムに入力する取引項目に「インボイスの有無」を追加しなければなりません。これに対応していない会計システムだと、消費税の納税額計算時に取引すべてについて、インボイスの確認作業が必要になります。会計システムについては、請求書の発行部分だけでなく、日々の取引を入力する部分についても、インボイス制度に対応しているか確認しましょう。

3)経理上の注意点を担当者が認識しているか確認する

インボイス制度が始まっているのに従来の請求書のままだったり、必要な記載項目が抜けていたりする場合、こちらは仕入税額控除(消費税額の計算上受けられる控除)を受けられず、消費税の負担が増えます。また、フリーランスや小規模事業者への影響の大きさから、経過措置(詳細は後述)という特別な取り扱いがあります。

これらを踏まえ、経理担当者は、

  • インボイスに必要な記載項目のチェック
  • 仕入先がインボイス発行事業者か、そうでないかの把握
  • 仕入先が免税事業者かどうかの把握
  • インボイスの保存が不要な取引かチェック

という、あらたな確認作業が必要になります。

なお、経過措置とは、免税事業者などインボイス発行事業者でない業者からの仕入れであっても、一定の要件を満たした帳簿を保存していれば、制度開始後6年間は一部控除が受けられるというものです。

画像2

また、自動販売機や公共交通機関など、不特定多数の利用者がいるような取引(かつ少額な取引)については、インボイスが不要です。主な取引に、

  • 3万円未満(税込)の公共交通機関の乗車券
  • 3万円未満(税込)の自動販売機や自動サービス機からの商品購入
  • 郵便切手の購入

などがあります。

4)免税事業者などへの対応を決める

経過措置で軽減されているとはいえ、インボイス制度が始まれば、インボイス発行事業者でない免税事業者などへの支払いについては、消費税の負担が増します。金額の大小や取引の重要性などを考慮して対応を決めなければなりません。考えられる対応には、

  • 消費税の負担増を受け入れ、これまでどおりの取引を行う
  • 消費税の負担増を考慮し、値下げ交渉を行う
  • インボイス発行事業者への移行をお願いする

などがあります。

自社で消費税の負担増を受け入れる場合は、事前に資金繰りへの影響をシミュレーションしておくことが大切です。また、値下げ交渉やインボイス発行事業者への移行のお願いについては、独占禁止法や下請法に違反しないよう注意が必要です。消費税の負担を超える値下げやインボイス発行事業者への移行について、強制的なやり方をした場合は違反となります。対等な立場で交渉するようにしましょう。

4 売手・買手共通ですべきこと

特に、経理や営業部署の社員への研修を実施しましょう。経理部に対して営業部や取引先からインボイスに関する問い合わせを受けるケースが増えてくるでしょう。まずは、

  • 自社のインボイス発行が始まる時期
  • 従来からの変更点(記載項目)

は押さえるようにしましょう。また、制度が始まる2023年10月以降は、新規取引先がインボイス発行事業者かどうか、免税事業者かどうかの確認も行わなければなりません。社内でインボイスに関する問い合わせの専任担当者を決めておくなど社内体制を整えておくと、スムーズな対応が可能になります。

以上(2023年7月作成)
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)

pj30164
画像:haruiro-Adobe Stock

【海外展開の手引(4)】無料の基礎データによる市場調査/ASEAN・中国・台湾・香港編

書いてあること

  • 主な読者:販路の拡大や生産コスト削減などのために、ASEAN諸国・中国・台湾・香港への海外展開を検討している経営者
  • 課題:現地の市場調査を本格的に始める前に、基礎的なデータを集めて検討したい
  • 解決策:まずは各国・地域の基礎的なデータを無料で入手できるウェブサイトを活用する

1 海外展開先の検討は、まず東南アジアや東アジアから

日本の企業が海外展開を検討する上で最初に対象となるのは、距離的に近く、国内産業との補完性が高い東南アジア・東アジア諸国でしょう。東南アジア諸国および中国との貿易額は、日本の貿易総額の4割程度に上り、経済的に密接な関係にあります。

また、人口規模や経済が拡大している国・地域が多く、販路開拓先としても労働力の供給元としても魅力的な市場といえます。

この記事では、ASEAN諸国・中国・台湾・香港(以下「対象国・地域」)への海外展開を検討する際に、各国・地域の基礎的なデータを無料で収集できる情報ソースを紹介します。

2 対象国・地域の統計機関ウェブサイト

ターゲットとする市場に関する詳細な情報を入手する先として、各国・地域の統計機関のウェブサイトが挙げられます。

総務省「外国政府の統計機関」などによると、対象国・地域の統計機関ウェブサイトは次の通りです。

■インドネシア:Badan Pusat Statistik(BPS)(インドネシア中央統計庁)■

https://www.bps.go.id/

■カンボジア:National Institute of Statistics(NIS)(カンボジア統計局)■

http://www.nis.gov.kh/index.php/en/

■シンガポール:Singapore Department of Statistics(DOS)(シンガポール統計局)■

https://www.singstat.gov.sg/

■タイ:National Statistical Office(NSO)(タイ王国統計局)■

http://www.nso.go.th/sites/2014en

■台湾:National Statistics Republic of China(Taiwan)(中華民国行政院主計総処)■

https://eng.stat.gov.tw/

■中国:National Bureau of Statistics of China(中国国家統計局)■

http://www.stats.gov.cn/english/

■フィリピン:Philippine Statistics Authority(PSA)(フィリピン統計機構)■

https://psa.gov.ph/

■ベトナム:General Statistics Office of Vietnam(ベトナム統計総局)■

https://www.gso.gov.vn/en/homepage/

■香港:Census and Statistics Department(香港特別行政区政府 政府統計処)■

https://www.censtatd.gov.hk/en/

■マレーシア:Department of Statistics Malaysia(マレーシア統計庁)■

https://www.dosm.gov.my/portal-main/home

■ミャンマー:Central Statistical Organization(CSO)(ミャンマー中央統計局)■

https://www.csostat.gov.mm/

■ラオス:Lao Statistics Bureau(ラオス統計局)■

https://www.lsb.gov.la/en/home/

3 対象国・地域の情報収集に活用できる主な専門機関(日本語)

1)ASEAN諸国に関する専門機関:日本アセアンセンター

日本アセアンセンター(正式名称:東南アジア諸国連合貿易投資観光促進センター)は、日本とASEAN諸国との貿易、投資、観光、交流の促進を目的としています。具体的な活動内容としては、各種セミナーやワークショップの開催、人的交流プログラム、各種情報提供などの事業を行っています。

同センターのウェブサイトでは、ASEAN各国の基本データや日本とASEAN諸国との関係、セミナーなどの各種イベント情報などを公開しています。

■日本アセアンセンター■

https://www.asean.or.jp/ja/

2)中国に関する専門機関:日中投資促進機構、日本国際貿易促進協会

日中投資促進機構は、日本企業の対中投資の拡大を通じて日中両国の健全かつ安定的な経済関係の発展に寄与することを目的としています。具体的な活動内容としては、中国への投資環境改善の要望、中国政府による外資政策や中国ビジネス実務などに関するセミナー活動、会員からの相談の受け付けなど、対中投資に関わる実務サービスを提供しています。

同機構では、会員向けに中国投資関連の法令の日本語訳なども提供しています。

■日中投資促進機構■

http://jcipo.org/

この他、日本国際貿易促進協会は、日中国交正常化前の1954年に創立された機関で、対中貿易や経済交流の促進を目的としています。具体的な活動内容としては、経済政策や日中の経済交流などに関して中国政府と意見交換を行ったり、中国での投資環境の視察を行ったりしています。

また、輸出入貿易などに関する相談に応じたり、中国の知的財産権などに関する情報収集およびアドバイスを行ったりしています。

■日本国際貿易促進協会■

https://japit.or.jp/

3)台湾に関する専門機関:日本台湾交流協会

日本台湾交流協会は、日本と台湾の間の交流関係の維持を目的としています。具体的な活動内容としては、日台間の外交面での実務に関わる業務や、貿易・経済・技術交流を支援する事業などを行っています。

同協会のウェブサイトでは、台湾の経済や日台関係などの情報を公開しています。

■日本台湾交流協会■

https://www.koryu.or.jp/

4)香港に関する専門機関:香港経済貿易代表部

香港経済貿易代表部(香港特別行政区政府 駐東京経済貿易代表部)は、香港の駐日代表機関として、主として日本と香港の経済・貿易関係や相互理解、文化・観光面での交流を深めることを目的としています。具体的な活動内容としては、日本における香港のPRおよび文化活動、要人の訪問支援、香港の投資環境に関する情報提供などを行っています。

2022年12月には「企業・人材誘致専門チーム」が設置され、ターゲットとなる企業や人材の香港への進出を促進するとともに、世界のトップ100大学と連絡を取って香港への人材受け入れ制度をPRしています。

同代表部のウェブサイトでは、香港の基本情報の他、香港での経済動向などに関するニュースレター「香港ライナー」などを公開しています。

■香港経済貿易代表部■

https://www.hketotyo.gov.hk/japan/jp/

以上(2023年6月更新)

pj80032
画像:unsplash

【海外展開の手引(3)】無料の基礎データによる市場調査/世界編

書いてあること

  • 主な読者:販路の拡大や生産コスト削減などのために、海外展開を検討している経営者
  • 課題:現地の市場調査を本格的に始める前に、基礎的なデータを集めて検討したい
  • 解決策:まずは各国・地域の基礎的なデータを無料で入手できるウェブサイトを活用する

1 海外の市場調査は、無料の基礎データの活用から

海外展開を行うには、国内では想定できないようなリスクもあります。ですから、検討するに当たって、想定する国・地域に関する市場規模、参入企業の動向、法規制などの基礎情報の他、言語や慣習など、さまざまな観点から情報を収集することが欠かせません。

本格的な検討段階になれば、外部コンサルタントなどの起用も視野に入れる必要がありますが、初期の検討段階であれば、

無料で収集できる基礎データを活用する

だけでも、一定の情報を集めることができます。

この記事では、世界各国・地域の海外市場に関する基礎的な情報を無料で収集するための情報ソースを紹介します。

2 世界各国・地域の市場に関する情報ソース(日本語)

1)外務省「国・地域」

外務省「国・地域」では、各国・地域の面積、人口、民族、言語、宗教などの一般情報の他、主要産業、GDP、物価上昇率などの経済に関する基礎データを公表しています。

■外務省「国・地域」■

https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/

2)総務省「世界の統計」

総務省「世界の統計」では、各国・地域の人口、経済、社会、環境などのデータを抽出してまとめた統計を公表しています。

なお、国際連合(UN)や国際通貨基金(IMF)などの国際機関が公表しているデータ(詳細は後述)は、多くが英語で作成されており、検索方法やデータの見方が分かりにくい場合があります。「世界の統計」では、こうしたデータの日本語訳が集約されています。

■総務省「世界の統計」■

https://www.stat.go.jp/data/sekai/

3)国際協力銀行「投資環境資料のご案内」

国際協力銀行(JBIC)「投資環境資料のご案内」では、日本企業の関心が高い国の投資環境を紹介するレポートを公表しています。国土、民族、社会、歴史などの概観をはじめ、経済概況や直接投資受け入れ動向、外資導入政策と管轄官庁、主要関連法規、許認可・進出手続き、税制、貿易管理・為替管理、労働事情、物流・インフラなどさまざまな角度から投資環境を紹介しています。

また、地域ごとの特徴や、付録として進出企業へのアドバイスや国内外での相談窓口なども紹介しています。作成年が古いものがあったり、紹介している国が限定されていたりしますが、関心のある国のレポートが見つかれば、有益な情報ソースとなるでしょう。

■国際協力銀行「投資環境資料のご案内」■

https://www.jbic.go.jp/ja/information/investment.html

4)日本貿易振興機構「国・地域別に見る」

日本貿易振興機構(ジェトロ)「国・地域別に見る」では、ジェトロが海外事務所などのネットワークを駆使して入手した各国・地域の経済、産業、統計、貿易・投資実務などに関する情報を、国・地域別、目的別、産業別に整理して公表しています。

また、特定の国・地域に関する資料・情報源や、ビジネスに関わるニュースなども見ることができます。

■日本貿易振興機構「国・地域別に見る」■

https://www.jetro.go.jp/world/

5)中小企業基盤整備機構「海外ビジネスナビ」

中小企業基盤整備機構「海外ビジネスナビ」では、海外展開に関する実務情報や取り組み事例を紹介しています。

また、海外ビジネス情報として、各地の現地レポートや調査レポートも掲載しています。

■中小企業基盤整備機構「海外ビジネスナビ」■

https://biznavi.smrj.go.jp/

6)海外投融資情報財団「海外投融資」

海外投融資情報財団(JOI)「海外投融資」では、主に会員向けに、隔月発行しているビジネス情報誌「海外投融資」の内容を、バックナンバーも含めて紹介しています。基本は会員限定ですが、一部のレポートが一般公開されています。

■海外投融資情報財団「海外投融資」■

https://www.joi.or.jp/magazine/

3 世界各国・地域の主な指標データに関する情報ソース(英語)

1)男女別・年齢階級別などの人口の推移

国際連合(UN)「Demographic Yearbook」では、各国・地域が国際連合に報告したデータに基づいた1948年以降の人口を公表しています。男女別・年齢階級別人口や主要都市別人口、人口動態(出生率、死亡率など)などを調べることができます。

■国際連合「Demographic Yearbook」■

https://unstats.un.org/unsd/demographic/products/dyb/

2)推計人口の推移および将来推計人口

国際連合(UN)「World Population Prospects 2022」では、1950年以降の推計人口の推移、2100年までの将来推計人口を公表しています。

■国際連合「World Population Prospects 2022」■

https://population.un.org/wpp/

3)国内総生産・消費者物価指数などの経済指標

国際通貨基金(IMF)「World Economic Outlook Database April 2023」では、国内総生産・消費者物価指数などの経済指標を公表しています。

■国際通貨基金「World Economic Outlook Database」■

https://www.imf.org/en/Publications/WEO/weo-database/2023/April

4)農作物、畜産物、水産物、林産物ごとの各国・地域の生産量などのデータ

国際連合食糧農業機関(FAO)「FAOSTAT」では、農作物、畜産物、水産物、林産物ごとの各国・地域の生産量などのデータを公表しています。

■国際連合食糧農業機関「FAOSTAT」■

https://www.fao.org/faostat/en/#home

5)労働力に関する情報(経済活動人口、就業者、失業者などのデータ)

国際労働機関(ILO)「ILOSTAT」では、労働力人口、就業者、失業者、賃金、労働時間、労働災害、社会保障などのデータを公表しています。

■国際労働機関「ILOSTAT」■

https://ilostat.ilo.org/

6)衛生状態や感染症に対する予防状況

世界保健機関(WHO)「THE GLOBAL HEALTH OBSERVATORY」では、各国・地域の基本的な衛生サービスを受けられている人の割合や、ヒブ、豚サーコウイルス3型といった感染症に対するワクチン接種率などを公表しています。

■世界保健機関「THE GLOBAL HEALTH OBSERVATORY」■

https://www.who.int/data/gho/data/countries

7)新型コロナウイルス感染症に関する情報

世界保健機関(WHO)「WHO Coronavirus(COVID-19)Dashboard」では、新型コロナウイルス感染症による各国・地域の感染者数および死者数に関する累計や週ごとの推移を公表しています。また、各国・地域の感染症対策やワクチン接種率も公表しています。

■世界保健機関「WHO Coronavirus(COVID-19)Dashboard」■

https://covid19.who.int/

以上(2023年6月更新)

pj80031
画像:pixabay

【海外展開の手引(2)】リスクの把握と市場調査で「想定外の出来事」を回避する

書いてあること

  • 主な読者:販路拡大や生産コスト削減などのために、海外展開を検討している経営者
  • 課題:海外展開に当たって「想定外の出来事」で失敗したくない
  • 解決策:想定されるさまざまなリスクを把握して対策を講じるとともに、さまざまな角度から現地調査を行った上で海外展開を検討する

1 情報さえあれば「想定外の出来事」は回避できる

相応のコストや労力を費やして実現した海外展開が、「想定外の出来事」によって損失を被り、撤退を余儀なくされることもあります。こうした事態を避けるには、海外展開を検討する段階で「想定の範囲」を広げておくことが大切です。そのために必要なのは、なるべく多くの情報を集めておくことです。特に重要なのは、

現地のリスクの把握と市場調査

です。

リスクを把握しておけば、事前にリスクを回避したり、損失を最小限に抑えたりするための対策を講じておくことができます。また、市場調査をしっかりと行うことによって、構想段階の見通しに近い成果を得られる可能性が高まります。

この記事では、海外展開を検討する際に想定すべきリスクおよびその対策と、市場調査を行う上でのポイントを紹介します。

2 海外展開を検討する際に想定すべきリスク

1)情報の不足そのものがリスク

土地勘がなく、対面でのコミュニケーションが難しい外国企業との取引は、日本国内で取引をする場合に比べ、情報が不足しがちです。

情報の不足は、契約不履行(商品の相違、送金遅れなど)、詐欺、取引相手の倒産、現地政府の政策による活動制限、その他商習慣の違いなどに起因するトラブルの発生につながりかねません。自社での情報収集を強化するだけでなく、現地事情に精通した、信頼できる専門家や専門機関を活用し、確かな情報を得られるようにしておきましょう。不足しがちな情報としては、取引相手(外国企業)の信用情報、カントリーリスク、商習慣や文化の違いなどがあります。

なお、帝国データバンクや東京商工リサーチでは、提携先の現地調査機関から取得した外国企業の信用情報を提供しています。

■帝国データバンク「海外企業信用調査」■

https://www.tdb.co.jp/lineup/overseas/index.html

■東京商工リサーチ「海外企業調査レポート(ダンレポート)」■

http://www.tsr-net.co.jp/service/detail/dun-report.html

2)カントリーリスク

海外展開を行う場合、現地の「カントリーリスク」を踏まえる必要があります。これは、個別の取引相手が持つ商業リスク(契約不履行、詐欺、倒産など)とは別に、取引相手国の政治・経済・社会環境に起因する損害発生のリスクのことです。

具体的なカントリーリスクとしては、次のようなものが挙げられます。

  • 著作権や商標権など、知的財産権の侵害が頻発している
  • 行政手続きが不透明なことによる輸入手続きの遅延や、法的根拠が不明な流通の差し止めが生じる
  • 政府が民間企業の経営や案件に介入することがある
  • 政権交代が経済の混乱につながりやすい
  • 民族や宗教の対立が根深く、紛争が起こりやすい
  • 衛生環境への取り組みや感染症対策が不十分で、感染症の影響を受けるリスクが高い

なお、日本貿易保険(NEXI)や日本商工会議所では、輸出に伴うカントリーリスクなどに対応した保険制度も運用しています。取引相手を取り巻く環境などを踏まえ、こうした保険制度の活用を検討してもよいでしょう。

■日本貿易保険(NEXI)「貿易保険」■

https://www.nexi.go.jp/service/

■日本商工会議所「輸出取引信用保険制度」■

https://www.ishigakiservice.jp/export-transaction

3)商習慣や文化の違い

海外企業との取引に当たっては、商習慣や文化の違いによるトラブルが生じる可能性があります。

画像1

ベースとなる考え方が違う以上、「常識的に考えれば○○してくれるであろう」という、以心伝心のコミュニケーションは海外企業との間では成立しません。

商習慣や文化の違いによるトラブルのリスクを低減するために、取引相手に求める詳細な事項を契約書に盛り込んで遵守させることが大切です。

4)手続きが煩雑

海外企業との取引においては、商品が輸出企業から輸入企業の手に渡るまでに多くの企業・機関が関与するため、手続きも煩雑になりがちです。しかし、手続きが滞ってしまうと、何らかの処罰の対象になったり、遵法意識が低いなどとして自社の信用低下につながったりするリスクがあります。

手続きに漏れがないよう、社内でのチェック体制を整える他、貿易取引の支援機関に照会するなどして、トラブルが発生しないようにしましょう。

5)輸出入の規制

貿易取引では、国内に持ち込まれると問題となる商品(病害虫が付いた農作物、偽ブランド商品、コメなど国の政策で保護されている農作物・工業製品)や、国外に持ち出すのが好ましくない商品(希少動植物など)については、輸出入が規制されています。

家庭用ゲーム機器など、通常の企業活動では取引の規制が想定しにくい商品でも、性能の高さや使われているソフトウエアなどを理由に、規制対象となっている場合もあります。もし輸出しようとした商品が規制の対象となっている場合、取引そのものが不履行となって損害が生じたり、十分な数量の輸出ができなくなったりします。

日本からの輸出が規制されている品目については、税関(財務省関税局)のウェブサイト「輸出入禁止・規制品目」で確認できます。また、輸出先で輸入が規制されている品目については、日本貿易振興機構(以下「ジェトロ」)がウェブサイト上で公開している「国・地域別に見る」で確認できます。

■税関(財務省関税局)「輸出入禁止・規制品目」■

https://www.customs.go.jp/mizugiwa/kinshi.htm

■ジェトロ「国・地域別に見る」■

https://www.jetro.go.jp/world/

6)為替レートの変動

海外企業との取引は、基本的に外貨によって行われます。当事者企業双方の利便性の観点から、米ドルやユーロなど基軸通貨(またはそれに準ずる通貨)を利用するのが一般的ですが、これらの通貨の為替レートは時として大きく変動します。

為替レートの変動への対応策としては、「円建てで取引する」「為替予約(一定時期後の外貨と円の交換を、事前にレートを決めて予約する金融取引のこと)をして事前に交換レートを確定させる」などが挙げられます。金融機関では為替レート変動対策の金融商品を提供している場合があるので、渉外担当者に確認してもよいでしょう。

7)感染症の影響を受けるリスク

展開する国や地域によっては、衛生環境への取り組みや感染症対策が不十分なため、マラリアやデング熱などの感染症にかかるリスクがあります。感染症対策に伴って、商取引に影響が出る可能性がある他、国内での行動が制限されたり、国外との行き来が困難となったりすることも考えられます。

外務省のウェブサイトの他、対象となる国や地域の保健衛生を管轄する部署などを通じて、事前の情報収集に努めましょう。

■外務省 海外安全ホームページ「医療・健康関連情報」■

https://www.anzen.mofa.go.jp/kaian_search/

3 市場調査を行う上でのポイント

1)仮説を立てる

海外展開を検討する際に、市場調査は不可欠です。とはいえ、全部の国・地域を対象に調査をするのは時間的にも資金的にも無理があります。そのため、「文化が近いから自社製品が受け入れられそう」「『現地で自社製品に近いものが好評を博している』と聞いたので、市場として有望」「1人当たりの実質GDPが高水準なので、購入してもらえそう」といった仮説を立て、調査対象国・地域や調査すべきテーマを絞るようにします。

2)実際に調査してみる

仮説を立てたら、それに基づいて海外展開を想定する国・地域についての市場調査を行います。国内での情報収集ルートは、統計データの確認、書籍や雑誌などの文献調査、インターネットでの検索、関係者へのヒアリング、支援機関などが開催するセミナーへの参加などがあります。市場調査の項目例として、次のようなものが挙げられます。

画像2

なお、市場調査の基本となる各国・地域の基礎データを無料で収集するための方法を、次のコンテンツで紹介しています。

国内での一定程度の調査を終え、海外展開の見通しが立つようであれば、現地に直接足を運び、生の情報を仕入れることも必要です。現地を直接見ることで事情を把握し、事前に調査した情報が正確なのか確認することができます。さまざまな国で開催されるメッセ(見本市)などに足を運ぶのもよいでしょう。

以上(2023年6月更新)

pj80099
画像:unsplash

現場の業務をDXで効率化!「ブルーカラー」の働き方改革を促す現場改善テック

書いてあること

  • 主な読者:現業職が多い職場(製造業の工場、小売業の実店舗など)の管理者
  • 課題:紙ベースでのやり取りが当たり前。業務が属人化しており、DXが進まない
  • 解決策:外部ツールの使用に限らず、自社開発も視野に入れてDXを進めていく

1 「現場」にこそDXによる業務効率化が必要

突然ですが、御社の現場では次のような課題はないでしょうか?

  • 紙によるアナログな管理で、情報の閲覧や検索が困難になっている
  • 社員各々の経験に業務を頼っていて、ノウハウが共有されていない
  • 社員が現場に1人で出ており、情報共有や社員間の連携がうまくいかない

こうした課題を解決できるのが、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」です。例えば、紙による資料管理をデジタル化するだけでも記録ミスの削減や社員の作業負担が軽減され、残業時間の削減が期待できます。ただ、DXを進めるために市販の外部システムを使おうとすると、中小企業の規模では必要のない機能が含まれていたり、コスト面の負担が大きかったりして、一歩を踏み出せないケースもあります。

そこで、この記事では、システムを自社開発することでDXを実現した企業の事例を中心に、具体的にDXを進めていく際の参考事例を紹介します。

2 自社開発による「現場改善テック」事例

1)作業日報をアプリで見える化:サンコー技研(大阪府東大阪市)

1.取り組み内容

プリント基板や光学部品、フィルム部材製作などを手掛ける同社では、日報・生産管理アプリの「スマファク!」を自社開発し、販売もしています。利用者は、個人別に作成されたQRコードをスマートフォンのアプリで撮影することで、その日の作業記録を入力できるだけでなく、1日の時間や案件ごとにグラフ形式で作業時間を確認できます。

2.取り組みのきっかけ

これまで同社では、生産実績やトラブルなどの記録を手書きの日報で作成しており、その作業自体に負担がかかることや、過去の情報を見直しづらいことが課題でした。そのため、作業日報のデジタル化を検討したものの、既存のシステムでは必要のない機能も含まれている上、ライセンスコストの負担が大きかったことから自社開発に至ったといいます。開発に当たっては、大阪府IoT推進ラボが運営する「IoTマッチング」を使ってサン・エンジニアリング(大阪府大阪市)と協働し、アプリ開発に取り組みました。

3.取り組みの成果など

日報が手書きからモバイル端末での入力に変わったことで、記録業務の手間や記録ミスの削減、工程ごとの正確な時間管理ができるようになったといいます。

また、2020年4月から「スマファク!」の外販を始め、中小規模の町工場に限らず、大手企業からの引き合いもあるといいます。

2)納期管理や進捗管理を見える化:日本ツクリダス(大阪府堺市)

1.取り組み内容

金属加工、システム開発・販売などを手掛ける同社では、納期管理・進捗管理システムの「エムネットくらうど」を自社開発し、販売もしています。仕事の優先順位や進み具合を知るための納期管理・進捗管理を重視したシステムで、紙の図面の情報をシステムに入力し、発行したバーコードを図面に貼り付け管理する仕組みとなっています。

2.取り組みのきっかけ

町工場での納期管理・進捗管理はホワイトボードや経営者の頭の中だけで把握していることが多く、情報共有が難しいという課題がありました。

また、既存の製造業向けの生産管理システムは、町工場で使うには複雑で必要のない機能も入っており、導入コストも高いことから、必要な機能だけをそろえたシステムを自社開発することに至ったといいます。

3.取り組みの成果など

工程の進捗状況が誰でも見られるようになったことで、クライアントからの進捗確認の問い合わせに対して、作業現場まで聞きに行かずとも素早く回答できるようになり、クライアントからの信頼度が向上したそうです。また、作業効率が上がったことで完全週休2日制も実現できたといいます。

なお、外販した「エムネットくらうど」は現在100社以上の導入実績があり、導入企業の約8割が従業員30人以下の町工場としています。

画像1

3) 顧客管理ツール開発でDX化を実現:三和鍍金(群馬県高崎市)

1.取り組み内容

メッキ、塗装、研磨などの金属表面処理を手掛ける同社では、顧客管理ツールの「見積り案件管理表」を自社開発し、運用しています。

2.取り組みのきっかけ

紙ベースでの管理方法では、必要なデータをすぐに引き出せない、資料を保管するスペースが圧迫される、火災などが起きたときに紛失する危険があるなどの課題がありました。

一度は有料の販売管理システムを導入したものの、社員数などの会社全体の規模感が見合わなかったり、管理項目が難解だったりすることを理由に数カ月で利用を取りやめ、自社開発に至ったといいます。

3.取り組みの成果など

身の丈に合った丁度いいシステムになっているので、何よりも継続的に使用するにあたってストレスが限りなくゼロに近いというメリットがあります。これは自社開発だからこそ実現できたと考えています。

システムを導入することによって、月あたりおよそ40~50件の新規お問い合わせに対して営業2人で管理ができる体制が構築されました。案件の共有も即座にでき、また過去データ(図面・処理内容・見積り単価等)を確認することも容易であるため、営業と事務間のコミュニケーションが円滑化され、生産管理の効率が飛躍的に上昇したといいます。

画像2

4)顧客管理などの業務プロセスをデジタル化:サーフエンジニアリング(神奈川県綾瀬市)

1.取り組み内容

旋盤による機械加工、ガス事業者向け特殊機械製造などを手掛ける同社では、町工場でも使える案件管理アプリを開発、導入したことで、見積もり作成、顧客管理、納期管理、図面管理などの業務プロセスのデジタル化を実現しています。

2.取り組みのきっかけ

同社では、これまで図面をアナログ管理しており、顧客から問い合わせが入ると、過去の類似案件を探したり、熟練者の記憶に頼ったりして見積もりを作成していたこと、納期も受注メールを遡って確認するといった手間が課題になっていました。

また、市販の業務管理ソフトを試したものの、自社のニーズと合わず、価格も高額になることから、同社のウェブサイトを作成したジェイネクスト(神奈川県横浜市)と共同での開発に至ったといいます。

3.取り組みの成果など

アプリの導入前と比較して、見積もり作成時間が45%、顧客への納期回答時間が90%短くなったほか、納期遅れが95%削減できたとしています。

5)社内向けポータルサイトでDXを実現:NISSYO(東京都羽村市)

1.取り組み内容

業務用トランス・リアクトル・制御盤の設計・製造などを手掛ける同社では、自社制作したクラウド型のポータルサイトの「アスヨクDX」を用いたデータドリブン経営(データを活用してビジネス上の意思決定を行う経営手法)に取り組んでいます。全社員にiPadを配布し、残業時間の確認、社内規定、Q&Aなどのデータを集め、Looker Studio(GoogleのBIサービス)でデータの見える化を図っています。

2.取り組みのきっかけ

2017年に発表した経営計画の社長コメントで、バックヤードをデジタル化で簡素化していくことを宣言したこと、売り上げの増加に伴い、業務量が増えたことで慢性的な人材不足になっていたことをきっかけに、iPadを正社員全員に配布し、ペーパーレス化やクラウド上に社内のデータを集める取り組みを始めました。

3.取り組みの成果など

クラウド上に図面データをアップロードし、各自が持っているiPadで見るという取り組みによって、年間約60万枚のペーパーレスを実現しているといいます。

また、同社はDX推進の準備が整っていることを国が認定する「DX認定事業者」に認定されている他、日本の中小企業の規範となるDX推進態勢を構築したとして、2022年のITコーディネータ協会表彰で優秀賞(独立行政法人情報処理推進機構理事長賞)を受賞した実績があります。

3 外部サービスの導入による「現場改善テック」事例

1)音声認識で安全な接客サービスの提供を実現:BONX(東京都渋谷区)

音声コミュニケーションプラットフォーム・ヒアラブルデバイスの企画開発などを手掛ける同社では、音声通信・音声認識ツールの「BONX WORK」を提供しています。スマートフォンアプリと専用のワイヤレスイヤホンを使うことで通信距離の制限や混線の心配がなく、ハンズフリーでの会話が可能です。

また、会話内容の文字起こしや、音声を認識し、データ化する機能もあります。導入事例として、松屋銀座では「音声採寸ソリューション」として、紳士服の採寸で「肩幅43センチ」などと声に出すと、そのまま顧客データベースに入力されるシステムが採用されています。

このシステムの導入によって、今まで2人1組でやっていた採寸を1人でできるようになり、フロア内の密を防いだり、スタッフの人数を減らしたりしつつも安全な接客サービスの提供につながったといいます。

このサービスは、接客・作業中でもハンズフリーで会話ができることや、事務所からフロアまで足を運ばずに情報共有ができることから、介護業、飲食業、宿泊業の現場でも導入実績があります。

2)デスクレスワーカーの情報共有を効率化:サイエンスアーツ(東京都新宿区)

同社では、ライブコミュニケーションプラットフォーム「Buddycom」を提供しています。スマートフォン、タブレット用のアプリと専用のイヤホン、ヘッドセットを使うことで、現場の状況をLIVE動画で共有しながらのグループ通話、通話内容の音声テキスト化などの機能を利用することができます。

導入事例として、GENDA GiGO Entertainment(東京都港区)が運営するゲームセンターでは、ワスド(東京都中野区)が提供するスタッフ呼び出しサービスの「デジちゃいむ」と機能を連携させ、接客業務の効率化を図っています。このシステムは、問い合わせをしたい利用客がゲームの筐体に設置された二次元コードをスマートフォンで読み取り、問い合わせ内容を送ると、問い合わせ内容がスタッフ全員に音声形式で通知され、そのままBuddycomを使ってスタッフ同士で会話をして、素早く対応方法を決められるという仕組みです。

この結果、利用客を待たせる時間が問い合わせ1件当たり10秒程度削減されたといいます。

3)社内文書をクラウド上で作成:クイックス(愛知県刈谷市)

マニュアル制作、システム・プログラム開発などを手掛ける同社では、業務手順書、社内規程書、業務マニュアルなどの社内文書作成を効率化できるツールの「i-ShareRDX」を提供しています。

社内文書の作成に必要なフォーマットがそろっており、クラウド上で文書が作成できます。そのため、人によって文書のレイアウトやデザインにバラツキが出ない、文章を見ているユーザーが文書の作成者や管理者にコメントを残してフィードバックできる、文書を管理する際のバージョンや改訂履歴が残るといった特徴があります。

また、パソコン、タブレット、スマートフォンから場所を選ばず社内文書を閲覧できるだけでなく、紙での出力も可能となっています。

4 参考:DX導入に役立つ情報

1)独立行政法人情報処理推進機構(IPA):DX SQUARE

DXに関する情報を発信するウェブサイトです。DXの基礎知識や用語集をはじめ、自社のDXレベルを測るための指標、業種ごとのDX推進事例などを紹介しています。

■DX SQUARE■

https://dx.ipa.go.jp/

2)IPA:マナビDX

デジタルスキルに関する学習コンテンツを紹介するウェブサイトです。DXの基礎的な講座をはじめ、社員のキャリアアップや企業研修に活用できる講座の情報をまとめています。

■マナビDX■

https://manabi-dx.ipa.go.jp/

3)中小企業基盤整備機構:ここからアプリ

中小企業がDX推進に関して、導入しやすい業務用アプリを紹介するウェブサイトです。アプリの概要だけでなく、実際の企業による導入事例なども紹介しています。

■ここからアプリ■

https://ittools.smrj.go.jp/

4)経済産業省:DXセレクション

中堅・中小企業などのモデルケースとなるような優良事例を「DXセレクション」として紹介する取り組みです。優良事例を選定・公表することで、地域内や業種内での横展開をはじめ、中堅・中小企業などにおけるDXの推進や取り組みの活性化につなげていくことを目的としています。

■DXセレクション■

https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/investment/dx-selection/dx-selection.html

以上(2023年6月作成)

pj40069
画像:metamor works-Adobe Stock

【経理人材の育成(2)】経理の「実務3種の神器」を活用して、効率的に改善を行う

書いてあること

  • 主な読者:経理人材の育成や、経理部全体の効率化に悩む中小企業のマネジメント職
  • 課題:「属人化の排除」や「作業の標準化」といった本来は改善活動の手段(通過点)にすぎないことが、目的にすり替わってしまうケースがよく見られる
  • 解決策:経理の「実務3種の神器」であるフォーマット、分担表、スケジュール表を改善し、活用することで効率的な改善活動を行うことができる

1 改善のための「手段」が「目的」になっていないか

業務改善と人材育成を両立させることが経理管理職にとって大変重要です。具体的には、実務で使うことが多いフォーマットやスケジュール表などを用いて、どのように業務改善しながら、人材育成につなげるのかが肝になってきます。まず業務改善に取り組む際は、

手段と目的を取り違えない

ことです。

よく、「属人化の排除」とか「作業の標準化」といったキーワードが、経理部内で業務改善に取り組む際に聞かれます。しかし、これらはあくまでも、通過点にすぎないということを常に覚えておいてください。これらを通じて本来達成したいことは、

効率化や正確性の向上

ではないでしょうか。手段であるはずの「属人化の排除」や「作業の標準化」が目的にすり替わってしまったケースを実際に見かけます。例えば、年に1回しか発生しない年度決算の作業について、完璧なマニュアルを1週間かけて作成したメンバーに皆さんはなんと声を掛けますか?

このような事態に気がつき止めることができるのは、管理職の皆さんだけです。自分のチームが、効率化のために「非効率」な改善活動を行うことがないよう、豊富な経験と部全体を見渡せる広い視野を使って、正しい方向に導いていきましょう。

2 経理部門の「実務3種の神器」とは

それでは、効率的な改善活動とは、どんなことを行えばよいのでしょうか。

おすすめは、経理の「実務3種の神器」と私が呼んでいる3種類の資料を中心に、見直すことです。その3つとは、

  1. フォーマット(経理作業の過程や結果を記録したエクセルなどのワークシート)
  2. 業務分担表
  3. スケジュール表

です。フォーマットはもちろん、残り2つも皆さんの会社でも使われているのではないでしょうか。

改善に失敗しないポイントはここにあります。

新しいものを作らず、「ありもの」を手直し

します。多忙な中で業務改善を進めるには、ハードルを下げすぎるくらいに下げたほうがよいのです。そうでないと途中で挫折してしまいます。まじめな方ほど、「せっかくの機会だから、今使っているスケジュール表をゼロから見直したい」と思うかもしれません。その気持ちはよく分かります。しかし、私たちには十分な時間はないのです。そのために改善に取り組んでいるのですから。特に管理職の皆さんは、そのことを常に頭に入れて、自分もチームも「完璧主義」を目指さずに、代わりに「効率化」や「正確性向上」という本来の目的からブレないよう取り組んでいきましょう。

3つの資料のうち、とくにフォーマットはメンバーの業務の内容や方法を改善するのに直接効果があります。具体的には、

作業時間の短縮やミスの再発防止

につながります。なぜなら、フォーマットは、何を(WHAT)どう(HOW)やるかが記録された資料だからです。

一方、業務分担表とスケジュール表は、皆さん管理職にとって非常に役立つ資料です。これらを使えば、

チーム全体について客観的かつ網羅的に把握する

ことができます。

業務分担表は誰が(WHO)やるかを示し、スケジュール表はいつ(WHEN)やるか、を表します。このように、人手と時間という私たちに圧倒的に足りない2大資源を活用するには、まずは現状を捉えることが必要です。そのためにはこの2つが羅針盤として役立つことは想像できると思います。

3 神器その1:フォーマット

フォーマットは、経理作業の過程や結果を記録した資料です。会社ごと、ときには個人ごとに異なるものをお持ちだと思います。そこで、フォーマットについて、シンプルで実践しやすい改善ポイントをお伝えします。皆さん自身がフォーマットを作成するときはもちろん、メンバーにOJT(On the Job Trainingの略で、実際の仕事を通じて、業務上の知識やスキルなどを身に付けさせる育成方法)で指導するときの参考にしてください。

まず、

フォーマットの上で、出力箇所と入力箇所をはっきり分かる見た目に整えること

です。例えば、エクセルシートでどのセルが最終結果なのか、そしてそのためにデータを入力したのはどのセルか、一目で分かるよう、セルの色を使って色分けするのもいいでしょう。

この方法は、セルだけでなく、シートに対しても使えます。経理が作成するフォーマットは複数枚のシートにわたることも多いため、シートタブの色分けをすることで、シート間の流れが分かりやすくなります。

まさに、作業の流れが分かるようにすることが目的なのです。その結果、管理職である皆さんがフォーマットの中身を確認しやすくなり、ミスの発見につながります。さらに、担当を変更する際の引き継ぎもスムーズになりますので、属人性をなくす効果もあります。

フォーマットについては、「マニュアルを作った方がいいか」という質問もよくいただきます。わたしは、必ずしも必須ではないと考えています。確かに属人性をなくす効果は高いのですが、作成にかかる工数が多いため、前述の「非効率な効率化」になりがちだからです。

立派なマニュアルを作る代わりに、フォーマットに直接書き込むこと

をおすすめします。例えば、入力箇所のそばのセルに直接書き込んだり、メモ機能を使ったりするのもよいでしょう。このとき、必ず書いてほしいのは、

「どの資料から」「どの数字を」持ってくるか

の2点です。わたしたちの仕事は数字を扱うため、どこかから数字を入手して、それを加工する作業が非常に多いのです。

完璧を目指さずに、メリハリつけてこれらの点を押さえるだけでも、6~7割程度の課題は改善されると私の経験上感じます。つまり、フォーマット次第で、業務の正確さと効率は大きく変わるのです。皆さんも、口頭だけでは引き継ぎを受けた内容を記憶して実践するのは難しいという経験をお持ちではないでしょうか。「目に見える」フォーマットというのは、後から誰が見ても、理解し実践することができるのです。

目に見えるものが残り、引き継がれていく。

業務の属人性や正確さを改善したい管理職の方は、この大原則をぜひ覚えておいてください。

4 神器その2:分担表

分担表は、誰がどのような業務を担当しているかを一覧にした資料です。なかには作っていないというケースもあるかもしれません。その場合には、とりあえず6割のものを作ることから始めてみてください。気付いたときに内容を更新して、精度を上げていけば十分です。

分担表の目的は、

業務の全体を俯瞰(ふかん)すること

にあります。例えば、特定のAさんに作業の遅れが目立つ場合、分担表でAさんの業務を確認することで、業務の量や質がすぐに分かります。管理職であれば、誰がどのような業務をしているかは、頭の中に入っているという方もいるでしょう。しかし、私自身の管理職経験を考えても、目立つ業務は覚えているものの、すべての業務を把握するのは難しいと感じます。何か問題が生じたときには、もれなく状況を把握する必要がありますので、自分の勘や記憶に頼るべきではありません。

さらに、私自身が役に立ったと感じたのは、実は業務量が少ないメンバーを見つけることができた点です。日頃とても忙しそうにしていたので当初は気が付かなかったのですが、分担表を改めて確認したところ実はそれほど業務が割り当てられていなかったという経験があります。業務負荷が大きい場合には減らし、逆に小さい場合には能力なども見つつ増やすという、まさにチーム運営のツールに使えます。

また、ある人が同じ業務を長い期間やっていることに気が付く場合もあるでしょう。その場合には分担を替えるなど、人材育成の観点でも活用できます。特に若い方はキャリアアップに熱心ですので、上司として、各人の成長をサポートする方法を考える必要性を強く感じます。キャリアの話から入るのはハードルが高いと思いますので、ぜひ馴染みのある分担表をきっかけに会話を重ねてみてはいかがでしょうか。

5 神器その3:スケジュール表

スケジュール表は、いつどの業務が予定されているかが一覧できる資料です。会社によっては、分担表とまとめて1枚のこともあります。

スケジュール表の目的は、

作業間の関連を明確にしたり、ボトルネックを特定したりすること

です。経理の仕事は、期限が決まっていることが多いため、もし特定の作業が遅れた場合にどのような影響があるのかを把握し、対処するのに役立ちます。

同時に、メンバーのマネジメントの観点からも意味が大きいものです。業務量が多くなる時期がいつなのかがあらかじめ分かれば、メンバーに労働時間を増やしてもらったり、可能であれば臨時の人手を入れたりすることもできるかもしれません。メンバーにとって不満要因になりやすいのは、想定外に負荷がかかることです。あらかじめ時期や忙しさが見通せて、実際にその範囲でおおむね収まれば、繁忙期であっても意外に不平不満にはつながらないと、経験から感じます。そこで、計画としてスケジュール表を作るのも大事ですが、実績を記録して、計画との違いを把握し、対処をすることで改善しましょう。決算数値に対して行う予算実績比較と同じです。

管理職の皆さんにとって分担表とスケジュール表は、業務の改善と人材育成の両面から、大きな武器になります。とくに、分担表はメンバーの満足度を上げるために、スケジュール表は不満要因を減らすのにつながります。現状に何か課題を感じている場合には、これらのありもののツールをまずは眺めてみるところから、ぜひ始めてみてください。

以上(2023年6月作成)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 代表取締役・公認会計士 梅澤真由美)

pj35151
画像:Kittiphan-shutterstock

戦後日本を代表する作家・司馬遼太郎。彼が次世代に託した一言、そして彼の言う「根っこの感情」とは?

例えば、友達がころぶ。ああ痛かったろうな、と感じる気持ちを、そのつど自分の中でつくりあげていきさえすればよい

司馬遼太郎氏は、戦後を代表する日本の作家で、「竜馬がゆく」「国盗り物語」「坂の上の雲」など、歴史を舞台にした小説やエッセイなど数多くの作品を残しています。1923年の生まれで、2023年に生誕100周年を迎えても今なお、司馬作品は多くのファンから愛され続けています。

司馬作品の根幹には、司馬氏が第二次世界大戦の際に従軍した経験から、戦争に対するアンチテーゼがあるといわれています。登場人物のいきいきとした描写や、文章の読みやすさはもちろんですが、根幹にある司馬氏の思いの「深さ」が、作品をより魅力的にしているのかもしれません。

冒頭の言葉は、1989年に司馬氏が小学校6年生の教科書のために書いたエッセイに記されている言葉です。司馬氏は、歴史上の数多くの人物を描いてきた経験などから、人間とは何かを突き詰め、未来を担う子供たちに、幾つかのメッセージを伝えました。そのメッセージの1つが、人間は助け合って生きているものだということです。そして、助け合いの基となる「根っこの感情」こそ、他人の痛みを感じることであり、子供たちがその訓練をするよう、冒頭の言葉を記したのです。

また、司馬氏は冒頭の言葉に続けて、「根っこの感情」がしっかりと根づいていけば、「多民族へのいたわりという気持ちもわき出てくる」「二十一世紀は人類が仲よしで暮らせる時代になるのにちがいない」と記しています。さて、21世紀に入って20年以上がたちましたが、私たちは司馬氏の言葉をどれだけ実践できているでしょうか。

1989年に司馬氏の言葉を教科書で読んだ小学6年生は、もう40代後半になっています。会社の中核を担う立派なビジネスパーソンに成長した人も多いでしょう。ですが、司馬氏の言う「根っこの感情」を、今もなお大事にしている人がどれだけいるかというと、残念ながら全員ではないでしょう。私たちは、自分がどれだけ他人を思って行動できているのか、もう一度問い直してみる必要があります。

転んだ友人の痛みを分かってあげられていると思えるのであれば、同じ会社の社員が困っているときに手を差し伸べられているでしょうか。自社の利益を重視するのはもちろんですが、自社の製品・サービスは本当にお客さまを幸せにしているのか、常に気にしているでしょうか。取引先とWIN-WINな関係が続けられるように、最善を尽くしているでしょうか。街で見かけた、困っていそうな人に声を掛けられているでしょうか。地域や社会のために、何か貢献できているでしょうか。世界各地の不幸なニュースに無関心になっていないでしょうか。後世の人たちが私たち以上の暮らしができるよう、「負の遺産」を残さないように心掛けているでしょうか。

もう一度原点に立ち返って、司馬氏の言う「根っこの感情」が根づくように、訓練し直してみませんか。

出典:「二十一世紀に生きる君たちへ」(司馬遼太郎、世界文化社、2001年2月)

以上(2023年6月)

pj17609
画像:Lighthouse17-Adobe Stock

【自社株(2)】自社株の評価方式は会社規模と株主区分で決まる

書いてあること

  • 主な読者:自社に適用される自社株の評価方式を知りたい経営者
  • 課題:自社に適用される自社株の評価方式が、どのように決まるのか分からない
  • 解決策:税務上の評価は「会社規模」と「株主区分」で決まる。ただし、M&Aの場合は事業の成長性など別の視点でも評価する

1 自社に有利な自社株評価

自社株は「売買(売った側に、所得税などが課税される)」「相続(受け取る側に、相続税が課税される)」「贈与(受け取る側に、贈与税が課税される)」によって引き渡されます。自社株の評価が高ければ税金は高く、逆の場合もしかりです。

自社にとって有利な評価方式を選びたいところですが、採用される評価方式は、

  1. 会社規模:株式の発行会社(以下「評価会社」)の従業員数など
  2. 株主区分:評価会社の経営支配力を有しているか否かなど

によって決まります。この記事で、相続・贈与における具体的な考え方を説明します。なお、評価方式の詳細な内容(計算式など)や評価方式ごとの評価額の引き下げ方法については、以下の記事でまとめています。

80145 【自社株(1)】自社株の評価方式とそれぞれの計算式

80093 【自社株(3)】自社株の評価額を引き下げる方法

2 会社規模の判定

会社規模は、

  • 第1次判定:従業員数
  • 第2次判定:総資産価額(帳簿価額)
  • 第3次判定:取引金額

の3つで判定します。分かりやすいポイントは、従業員数70人以上だと大会社、従業員数70人未満だと第2次判定と第3次判定で決まるということです。従業員数は、

  1. 週30時間以上の勤務時間で、直前期1年間継続して勤務していた者を「1人」
  2. 直前期末以前1年間の労働時間の合計を1800時間で除した数

を足して求めます。使用人兼務役員は従業員として含めますが、使用人兼務役員以外の役員は含めません。なお、第2次判定の従業員数に端数が生じた場合、例えば5.1人なら「5人超」、4.9人なら「5人以下」となります。

画像1

以下では、従業員数70人未満の判定を紹介します。なお、表中の「L値」とは、

純資産価額方式と類似業種比準方式を併用する場合の類似業種比準方式の割合

です。

1.卸売業の会社規模

画像2

2.小売・サービス業の会社規模

画像3

3.卸売・小売・サービス業以外の業種の会社規模

画像4

3 株主区分の判定

1)株主のグループ化

株主区分の判定では、まず株主を同一株主グループに分けます。同一株主グループとは、

親兄弟などの親族をはじめ、一定の関係にある者を含めたグループ

のことで、具体的には次のようになります。

画像5

さまざまな同一株主グループがある場合、議決権割合(持株状況)の合計が最も高いグループを筆頭株主グループといいます。こうして各グループの議決権割合を把握します。議決権割合は、

常に株主の異動後の状態で判定

します。例えば、売買によって株主が異動した場合は、売買後の状態で判定します。

2)株主区分の判定図

同一株主グループごとの議決権割合が分かったら、次のチャートで株主区分を判定します。なお、図表の中に出てくる用語の説明は次の通りです。

1.同族株主

まず、法人税法施行令第4条に定める「特殊の関係にある個人または法人」を同族関係者といいます。同族株主とは、

議決権割合の50%超を保有する同一株主グループに属する株主とその同族関係者

のことです。

なお、どの株主グループも議決権総数の50%超を持っていない場合は、

議決権割合の30%以上を保有する同一株主グループに属する株主とその同族関係者

が同族株主となります。

2.同族株主等

同族株主等とは、

同族株主のいない会社の株主で、議決権割合の15%以上(取得したことに伴って15%以上となった場合を含む)を保有する同一株主グループに属する株主

のことです。

3.中心的な同族株主

中心的な同族株主とは、

同族株主の1人並びにその株主の配偶者、直系血族、兄弟姉妹および1親等の姻族の有する議決権の合計が、議決権総数の25%以上である当該株主およびその同族株主

のことです。

4.中心的な株主

中心的な株主とは、

株主の1人とその同族関係者の有する議決権の合計が、議決権総数の15%以上である同一株主グループで、なおかつ1人で議決権総数の10%以上を有している株主

のことです。

5.役員

社長や理事長の他、次の者です。

【法人税法施行令第71条第1項(抜粋)】

第1号 代表取締役、代表執行役、代表理事及び清算人

第2号 副社長、専務、常務、その他これらに準ずる職制上の地位を有する者

第4号 取締役(指名委員会等設置会社の取締役及び監査等委員である取締役に限る)、会計参与及び監査役並びに監事

6.原則的評価方式

原則的評価方式とは、類似業種比準方式、純資産価額方式、両者の併用方式のいずれかのことです。

7.特例的評価方式

特例的評価方式とは、配当還元方式のことです。

画像6

4 取引相場のない株式等の評価方式

以上の結果を踏まえ、いよいよ評価方式が決まります。繰り返しますが、取引相場のない株式等の評価方式は会社規模と株主区分の組み合わせで決まり、その結果は次の通りです。

画像7

前述した通り、原則的評価方式には、

  1. 類似業種比準方式
  2. 純資産価額方式
  3. 両者の併用方式

の3種類があります。会社規模に応じた評価方式と同族株主の評価方式は、原則的評価方式となります。一方、同族株主以外の株主は「配当還元方式」となります。

また、株主区分について補足しておきます。同族株主は経営支配の中心にあり、会社の財産はそのまま個人の財産であると言えるほど密接かつ重要な地位にあります。そのため、同族株主の持株は、会社の大きさに応じた原則的評価方式を適用します。一方の同族株主以外の株主には配当還元方式が適用されますが、その評価額が原則的評価方式を適用した場合を超えると、原則的評価方式が適用されます。

この記事はこれで終わりです。評価方式の詳細な内容(計算式など)については、以下の記事でまとめています。

80145 【自社株(1)】自社株の評価方式とそれぞれの計算式

以上(2023年6月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

pj30097
画像:pixabay

【自社株(1)】自社株の評価方式とそれぞれの計算式

書いてあること

  • 主な読者:自社に適用される自社株の評価方式の計算内容を知りたい経営者
  • 課題:評価方式が幾つもあり、それぞれ計算式が複雑で分かりにくい
  • 解決策:評価方式は4種類。専門家に相談して自社に適用される評価方式の基本を把握する

1 評価方式は株主区分や会社規模で異なる

上場していない会社の株式は「取引相場のない株式等」といわれ、財産評価基本通達(以下「評価通達」)に基づいて税務上の評価をします。具体的な評価方式は次の通りです。

  • 原則的評価方式:類似業種比準方式、純資産価額方式、両者の併用方式
  • 特例的評価方式:配当還元方式

どの評価方式が適用されるかは株主区分(少数株主または同族株主でない株主であるか)や会社規模(従業員数、総資産価額、取引金額)で決まりますが、いずれにしても、

親族内承継ならば評価を低くしたいし、M&Aなら評価は高くしたい

ものです。実際、さまざまな方法で評価額の調整が行われますが、そのためには評価方式の内容を知っておく必要があります。

そこで、この記事では、それぞれの評価方式の計算式などを紹介します。なお、自社に適用される評価方式の決定方法や評価方式ごとの評価額の引き下げ方法については、以下の記事でまとめています。

30097 【自社株(2)】自社株の評価方式は会社規模と株主区分で決まる

80093 【自社株(3)】自社株の評価額を引き下げる方法

なお、以降で記述のある「大会社」「中会社」「小会社」は、評価通達に定められている会社規模の判定に基づいた会社区分です。例えば、ここでいう大会社は従業員70人以上の会社、または従業員数35人超で業種ごとに定められている一定以上の取引金額と総資産価額を有している会社をいいます。

2 類似業種比準方式(原則的評価方式)

1)類似業種比準方式の基本

類似業種比準方式は、大会社に適用される方式です。基本的な考え方は、

大会社を上場会社に準ずる規模とみなし、事業内容が類似している上場会社の株価を参考に算出した株価に比準して株式の評価額を求める方式

となります。具体的には、

国税庁が公表する業種目別株価に、評価する会社の1株当たりの「配当金額」「利益金額」「純資産価額」の3つの要素を比準して評価

します。なお、納税者の選択により大会社でも後述の純資産価額方式を選択することもできます。

画像1

2)計算式の「A~D」の解説

A~Dの数値は、国税庁から発表されています。類似業種は、その業種目が小分類に区分されていたら小分類の業種目、そうでなければ中分類の業種目を選択します。ただし、納税義務者の選択により、小分類にある業種目については、その業種目が属する中分類を類似業種として選択できます。また、中分類にある業種目については、その業種目が属する大分類を類似業種として選択することができます。

3)計算式の「b」の解説

直前期末以前2年間の剰余金の配当金額(特別配当、記念配当等は除く)の合計額の2分の1に相当する金額を、直前期末における発行済株式総数(1株当たりの資本金等の額を50円とした場合の発行済株式総数。以下の「c」「d」についても同じ)で除した金額です。

4)計算式の「c」の解説

次のいずれか低い金額です。

  • 直前期末以前1年間の法人税の課税所得(固定資産売却益などの非経常的な利益を除く)に、その所得の計算の際に益金に算入されなかった剰余金の配当等の金額(所得税額に相当する金額を除く)および損金に算入された繰越欠損金の控除額を加算した金額(その金額がマイナスならゼロ)を、直前期末における発行済株式総数で除した金額
  • ただし、納税者の選択により、直前期末以前2年間の各事業年度について、それぞれ法人税の課税所得を基に、上記に準じて計算した金額の合計額(その合計額がマイナスならゼロ)の2分の1に相当する金額を、直前期末における発行済株式総数で除した金額

5)計算式の「d」の解説

直前期末における資本金等の額と利益積立金額(法人税申告書別表五(一)の「差引翌期首現在利益積立金額」)の合計額を発行済株式総数で除した金額です(マイナスならゼロ)。

3 純資産価額方式(原則的評価方式)

1)純資産価額方式の基本

純資産価額方式は、小会社に適用される方式です。基本的な考え方は、

評価する会社を個人企業に近いものと捉えて、原則として1株当たりの純資産価額によって評価する方式

となります。ただし、納税者の選択により中会社に適用される併用方式を選択することもできます。

画像2

2)総資産価額

課税時期における会社所有の資産を、相続税評価額で評価した価額の合計額です。

3)負債の金額

課税時期における会社の負債の合計額です。貸倒引当金、退職給与引当金(旧法人税法第54条第2項に規定する取崩残高を除く)、納税引当金その他の準備金および引当金に相当する金額は含めませんが、次のものは含めます。

  • 課税時期が属する事業年度の法人税額、消費税、事業税額、都道府県民税および市町村税のうち、その事業年度開始の日から課税時期までの期間に対応する未払金額
  • 課税時期以前に賦課期日のあった固定資産税の未払税額
  • 被相続人の死亡により、相続人その他の者に支給することが確定した退職手当金、功労金、その他これに準ずる給与の金額

4)評価差額に対する法人税等に相当する金額

評価差額は資産の含み益で、これに「37%」を乗じて法人税額等を算出します。この37%は、清算所得に対する法人税等の税率の合計に相当する割合です。小会社であっても、株式である以上は会社の資産を所有することに変わりはなく、評価の均衡を図っています。

なお、含み損の場合は考慮しません。

5)発行済株式数

課税時期における発行済株式数(自己株式を除く)です。

4 併用方式(原則的評価方式)

1)併用方式の基本

併用方式は、中会社に適用される方式です。基本的な考え方は、

大会社と小会社の中間にある中会社に合わせ、類似業種比準方式と純資産価額方式を併用する方式

となります。下の計算式にある「L」の割合を見ると分かるように、中会社の大は類似業種比準方式の部分が多く、中会社の小は純資産価額方式の部分が多くなっています。

画像3

議決権割合が50%以下の同族株主が取得した株式を評価する場合、算式中の純資産価額は20%の評価減が適用されます。

また、類似業種比準価額が1株当たりの純資産価額を超える場合の併用方式は、

純資産価額×Lの割合+純資産価額×(1-Lの割合)

となります。この場合、議決権割合が50%以下の同族株主が取得した株式については、上記算式の前半部分「純資産価額×Lの割合」の純資産価額に対する20%の評価減は適用されません。ただし、上記算式の後半部分「純資産価額×(1-Lの割合)」の純資産価額に対する20%の評価減は適用されます)。

2)小会社の併用方式の計算式

原則として、小会社は純資産価額方式が適用されますが、納税者の選択により併用方式を選ぶこともできます。この場合、次の1と2のいずれか低い方が評価額となります。

  1. 類似業種比準価額×0.5+純資産価額×0.5
  2. 純資産価額

なお、議決権割合が50%以下の同族株主が取得した株式を評価する場合、算式中の純資産価額は20%の評価減が適用されます。

5 配当還元方式(特例的評価方式)

同族株主以外の株主の株式の評価は「配当還元方式」で行います。ただし、その評価額が原則的評価方式を適用した場合よりも高いと、原則的評価方式が適用されます。つまり、

配当還元方式と原則的評価方式のいずれか低い方

ということです。

画像4

  1. 1株当たりの年配当金額は、1株当たりの資本金等の額を50円として計算する
  2. 1株当たりの年配当金額は、直前期末以前2年間の平均値による
  3. 特別配当、記念配当等の臨時的に支払われた配当は除外する
  4. 1株当たりの年配当金額が2円50銭未満の場合、及び無配の場合は2円50銭とする

6 その他の留意点

1)株式保有特定会社の株式の評価

総資産価額に占める株式、出資、新株予約権付社債(株式等)の合計額が50%以上の場合、株式は純資産価額方式で評価します。なお、納税者の選択で、株式等は純資産価額方式で評価し、それ以外の財産は会社規模に応じた原則的評価方式により評価することもできます。

2)土地保有特定会社または開業後3年未満の会社の株式の評価

土地保有割合が一定以上の会社(土地保有特定会社)については、原則として純資産価額方式で評価します。なお、土地保有割合は会社の区分ごとに決められています。

画像5

また、開業後3年未満の会社の株式は、純資産価額方式により評価します。

3)比準要素数1の会社や比準要素数0の会社の株式の評価

直前期末を基準に判定した「1株当たり配当金額」「1株当たり利益金額」「1株当たり純資産価額」のうち2つの要素の金額がゼロで、なおかつ直前々期末を基準に判定した場合も2つ以上の金額がゼロの場合、原則として、純資産価額方式で評価します。ただし、納税義務者の選択により、類似業種比準方式を25%、純資産価額方式を75%の割合で併用することもできます。

ちなみに、3つの要素ともゼロの場合は純資産価額方式により評価します。

この記事はこれで終わりです。評価額の引き下げ方法については、以下の記事でまとめています。

80093 【自社株(3)】自社株の評価額を引き下げる方法

以上(2023年6月更新)
(監修 南青山税理士法人 税理士 中田真希子)

pj80145
画像:Africa Studio-Adobe Stock

【朝礼】気が進まないときは「形」から入ってみよう

「最近、太ってきたので、ウオーキングをはじめようと思っています。ただし、運動は大の苦手。三日坊主にならないか不安です。せっかくはじめるのだから、長く続けたいのですが…」

どこにでもあるような話ですが、もし、これが皆さん自身のことだったら、どのようにウオーキングを続ける工夫をするでしょうか。

例えば、「コースやスケジュールなど、事前にしっかりとした計画を立てる」とか、「『目指せ!体重マイナス5キログラム』など明確な目標を立てる」という人もいるでしょう。また、中には、「1カ月続けることができたら、『自分へのご褒美』として欲しい物を買う」というやり方でモチベーションを高める方法を考える人もいるかもしれません。このほかにもいろいろな方法がありますが、意外と見落とされがちなのが「形から入る」ということです。ウオーキングであれば、まずはスポーツウエアとウオーキングシューズなど、ひと通りの道具を買いそろえることからはじめてみるのです。

「『形』なんて、うわべだけのことじゃないか」と思う人もいるでしょう。しかし、「形から入る」ということは意外と効果があるものです。ウオーキングの例でいえば、道具を新調するだけで「これからウオーキングをはじめるんだ」と、気持ちが盛り上がってくるものです。また、「せっかく買ったウエアとシューズを使いたいから、ウオーキングを続けよう」という思いが湧いてくるかもしれません。

些細なきっかけですが、こうして少しずつ続けていくうちに、やがて、自分なりのウオーキングの楽しみを発見したり、次第にウオーキングが生活の一部として習慣化したりしてウオーキングを続けることができるようになるものです。

これは仕事でも同じです。例えば、企画書を作成するときです。「取り掛かる前に、まずはアイデアを整理しよう」「よいアイデアが浮かんでから企画書を作ろう」などと考えているうちに、時間だけが過ぎてしまったという経験は誰にもあると思います。

そんなときは、とにかくパソコンのスイッチを入れて、最初に「企画書」という文字を打ってみるのです。そして、今の時点で思い付いたことを何でもいいから書き出してみましょう。いわば、企画書を作成するために「形から入る」のです。

最初はまとまりがなくても、とにかく体裁を整えていくうちに、ふっと湧いたアイデアが次のアイデアを呼び起こしたり、それまではバラバラだった考え方が少しずつ整理されてきて、次第に「企画書」として形になっていくものです。

仕事でも、私生活でも、苦手なことや何となく気が進まないことに取り組むときには、「形から入る」ということを試してみてください。時としてそれがきっかけとなって、物事が順調に進むこともあると思います。

以上(2023年6月)

pj16582
画像:Mariko Mitsuda