先急ぎ運転に注意!(2023/11号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

年末が近づくにつれ何かと慌ただしくなると、車の運転も早く目的地に着こうと先急ぎ運転になりがちです。先急ぎ運転は、ちょっとしたことで焦りやイライラを感じ、スピードを出す、安全確認を疎かにするなど危険な運転行動をしてしまうため、事故を起こす危険が高まります。

これから年末に向けて事故を起こさないよう先急ぎ運転に注意しましょう。

先急ぎ運転に注意

1.「急ぎの心理」と先急ぎ運転

月別交通事故件数は、例年10月から12月にかけて増加傾向にあります。その一因として先急ぎ運転が考えられますが、その背後には「急ぎの心理」があると言われています。

月別交通事故件数

出典:公益社団法人交通事故分析センター 令和4年版「交通事故統計年報」から当社作成

①「急ぎの心理」

太古から人類は、“急ぐこと”で外敵などの危険から身を守ったり、貴重な食料を獲得したりして生存競争を生き抜いてきました。そのため、人間のDNAには、“急ぐこと”が本能として刷り込まれているそうです。
例えば、運転中に誰かに追い越されただけで不快に感じる、それは「急ぎの心理」によるものと考えられます。

②先急ぎ運転の危険

目的地に早く着こうと急いでいる場面で、前にノロノロ運転している車がいたり、渋滞に巻き込まれたりするなどちょっとしたきっかけで、潜在している「急ぎの心理」が顔を出すと言われています。
「急ぎの心理」が顔を出すと無意識に先急ぎ運転になってしまいます。先急ぎ運転は、焦りやイライラの感情が生じやすく、危険な運転行動を誘発するため、事故を起こす危険が高まります。

<先急ぎ運転における危険な運転行動>

  • スピードを出す。
  • 前の車との車間距離を詰める。
  • 無理な追い越しや割り込みをする。
  • 注意が散漫になり、安全確認を疎かにする。
  • 信号の変わり目に強引に交差点を通行する。
  • 車線変更を繰り返す。

など

2.先急ぎ運転への対処法

目的地に早く着こうと先を急いでも、事故を起こしては取り返しがつきません。「急ぎの心理」になることで、事故の当事者とならないようにするための対処法をご紹介します。

◆先急ぎ運転の要因を作らない

運転するときは、時間に余裕を持って、早めに出発することを心がける。

約束の時間に遅れそうなときは、早めに先方へ連絡することを習慣づける。

先急ぎ運転

◆「急がば回れ」を意識する

先を急いでも到着時間はさほど短縮されないと考える。先急ぎ運転は危険な運転行動につながることはあっても、決して得になることはないため、「急がば回れ」を意識する。

◆自分の運転特性を把握した運転をする

「運転適性診断」を受診し、自分の運転特性(運転のクセ)を把握する。性格面で感情的な傾向がみられる場合は、診断のアドバイスを踏まえて運転を見直す。

自分の運転特性を把握した運転

◆エコドライブを習慣化する

エコドライブを習慣化することによって、急加速や急減速などを減らし、「急ぎの心理」が顔を出したとしても先急ぎ運転になりにくくする。(日頃からエコドライブを実践する。)

3.運転中にイライラを感じたら

近年注目されている「アンガーマネジメント」に「6秒ルール」があります。

人の怒りのピークは6秒と言われており、「6秒ルール」とは、6秒をやり過ごすことで冷静さを取り戻すというものです。

6秒の間に深呼吸をしたり、あるいは子どもの名前やペットの名前などを口に出したりすると効果的です。

もしも運転中に焦りやイライラを感じたら、「6秒ルール」を試すことをおすすめします。

6秒ルール

出典:一般社団法人日本アンガーマネジメント協会「アンガーマネジメントイライラ・怒りのコントロール術」から当社作成

以上(2023年11月)

sj09094
画像:amanaimages

年収の壁・支援強化パッケージについて

厚生労働省は、年収が一定額を超えると手取りが減ることから、パートタイム労働者等が就労調整をする事例がみられる、いわゆる「年収の壁問題」の支援強化パッケージを発表し、「106万円の壁」「130万円の壁」への当面の対応策を示しました。

年金制度の改正が予定される令和7年度までの措置として、令和5年10月から実施していくとのことです。

本稿では、厚生労働省から公表された「年収の壁・支援強化パッケージ」について、説明いたします。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

年収の壁・支援強化パッケージについて

厚生労働省は、年収が一定額を超えると手取りが減ることから、パートタイム労働者等が就労調整をする事例がみられる、いわゆる「年収の壁問題」の支援強化パッケージを発表し、「106万円の壁」「130万円の壁」への当面の対応策を示しました。

年金制度の改正が予定される令和7年度までの措置として、令和5年10月から実施していくとのことです。

本稿では、厚生労働省から公表された「年収の壁・支援強化パッケージ」について、説明いたします。

1 年収の壁とは

厚生労働省が実施した「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」によると、会社員などの配偶者で扶養されていて保険料の負担がない「第3号被保険者(社会保険上の被扶養配偶者)」のうちおよそ4割が就労していることが明らかになっています。

第3号被保険者の手取り収入の変化(イメージ)

(厚生労働省「令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」)

上記のように、一定以上の収入増となった場合、新たに発生する社会保険料の負担や収入要件が定められている配偶者手当等が無支給となるなど、手取り収入が減少することを恐れ、就業調整をしている方が存在します。

これにより、本人の働く意欲が阻害され、さらには企業にとっても貴重な労働戦力を有効活用できないジレンマが常態化していました。

2 支援強化の内容

厚生労働省は、「年収の壁・支援強化パッケージ」の中で、大きく分けて3つの対応を行うとしております。

年収の壁・支援強化パッケージ

(厚生労働省「年収の壁・支援強化パッケージ」)

3 さいごに

厚生労働省が発表した具体的な施策の概要は、次の通りとなります。

  1. キャリアアップ助成金「社会保険適用時処遇改善コース」の新設
  2. 社会保険適用促進手当の標準報酬算定除外
  3. 事業主の証明による被扶養者認定の円滑化
  4. 企業の配偶者手当の見直し促進
  5. 業務改善助成金の活用促進

同省は、この「年収の壁・支援強化パッケージ」の各対応策について、今後所要の手続きを経た上で、関係者と連携し、着実に進めていくこととしています。企業は、このパッケージの趣旨や制度内容を良く理解し、適切に活用していきましょう。

※本内容は2023年10月6日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

sj09093
画像:photo-ac

他人に自社の名刺を持たせると、思わぬ「損害賠償」を求められる?

1 他人に自社の名刺を持たせてはいけない?

IT会社(いわゆる「SIer(エスアイアー)」)が、要件定義や開発の一部を下請け業者に委託する際、下請け業者の社員に自社の名刺を持たせているケースも見受けられます。しかし、これには問題があります。具体的には、

下請け業者の社員が起こしたトラブルの責任を負うことになったり、偽装請負とみなされたりする

ことがあるのです。自社の社員以外に自社の名刺を持たせなければよいのですが、営業上、なかなか難しいこともあります。この記事では、他人が自社の名刺を持つリスクについて、具体例を交えて紹介しますので、まずはそちらを確認した上で、慎重にご判断いただければと思います。

2 ありがちな事例で考えてみる

下請け業者の社員に自社の名刺を持たせている「ITベンダーA社」の事例です(この事例は架空のものです)。

A社は、ネット通販を行うB社のサイト運用・保守の業務委託を受けています。ただし、実際にB社のサイトの保守を担当しているのは、A社の下請けであるC社の山田さんです。下請けに任せるのはよくあることで、A社は特に違和感などはありませんでした。

そんなある日、B社ではサイトがダウンしたため、山田さんから貰った名刺を見て、山田さんに「サイトがダウンしているので、至急、復旧してほしい」と連絡を試みました。急ぎの対応が必要ですが、山田さんとなかなか連絡がつかず、結局、サイトの復旧まで1日を費やしました。

復旧後、A社はB社に提出した顛末(てんまつ)書において、山田さんが下請けであるC社の社員であることを明らかにしました。今回のサイトのダウンでB社には少なからぬ損害が生じており、その賠償について今も話し合いがされています。

画像1

さて、この事例において、A社、C社、山田さんにどのような法的責任を追及することができるのでしょうか。それぞれの立場から、生じ得る法的責任を説明します。

3 A社(ITベンダー)に生じ得る法的責任

1)再委託契約の規定があるか?

A社とB社が準委任契約を交わしていた場合で考えます。準委任契約とは、

当事者の一方が法律行為でない事務を相手方に委託し、相手方がこれを承諾することを内容とする契約

です。請負契約が成果物を納品するなど仕事の完成を目的とするのに対して、準委任契約は規定された業務を行うことを目的としています。

サイトの運用・保守は、請負契約ではなく準委任契約に基づいて行われることが多いですが、ITサービス関連の契約では、請負契約、準委任契約のどちらの場合もあり得ます。契約内容として、請負契約と準委任契約のどちらの契約なのか、また、運用・保守の範囲についてもトラブルになりやすいため、あらかじめ明確にしなければなりません。

原則として、準委任契約の場合、再委託は認められていません。準委任契約の目的は、規定された業務を行うことです。事例でいえば、B社はA社の業務遂行能力に期待して契約を結んでいるのであり、B社に断りなく、A社は他社にB社の業務を委託することはできません。

そのため、A社がC社に再委託する場合は、あらかじめA社とB社の間との契約で、再委託を認める規定がなければ契約違反となります。当然、C社所属の山田さんをA社所属の社員であるかのように名刺を持たせて業務を行わせることも契約違反です。

2)名板貸し責任

B社は山田さんがA社の人間であると信じて、サイトの復旧をお願いしていました。山田さんのミスでサイトの復旧が遅れてしまい、損害が発生したとしても、山田さんはC社の社員であるため、B社が山田さんの責任をA社に追及するのは難しいようにも思われます。とはいえ、それでは、A社の名刺を持つ山田さんを信じたB社は厳しい立場となります。

こうした問題を避けるため、会社法では「名板(ないた)貸し責任」という規定があります。具体的には、「自己の商号を使用して事業または営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社が当該事業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う」(会社法第9条)というものです。

A社は、山田さんに自社の名刺を持たせていたので、自社の商号使用を許諾していたといえ、山田さんをA社所属の社員と誤認したB社に対して名板貸し責任を負います。名板貸し責任が認められると、

その範囲には制限がなく、取引によって生じた債務を全て連帯して負う

ことになります。他人に自社の名刺を持たせて業務をさせることについては、相当のリスクがあることを認識しなければなりません。

3)偽装請負

A社とC社が業務委託(準委任)契約を交わしている場合、A社が山田さんに「他よりも優先してB社サイトを復旧して」などのように行うべき業務を直接指示すると、「偽装請負」となる恐れがあります。

A社が山田さんに指揮命令を下すには、C社が派遣業として許可を受けて、A社に山田さんを派遣しなければなりません。仮に偽装請負に当たると判断された場合、A社・C社とも会社名が公表されたり、労働局から是正措置命令などの行政処分が下されたりすることになります。

4 C社に生じ得る法的責任

A社がB社に対して名板貸し責任を負う場合、C社も連帯して責任を負います。対外的には、C社はA社と連帯してB社に対する責任を負う形となります。ただし、山田さんのミスでB社に対して責任を負うことになった場合、A社とC社との内部的な責任割合は等分ではなく、C社が相応に負うべきケースもあり得ます。その場合、C社はA社に対して求償債務を負います。

なお、C社が山田さんに、A社の名刺を持って業務を行わせることに関する雇用者としての法的責任についてですが、A社から承諾を受けている限り、ほとんど考えられません。

5 山田さんに生じ得る法的責任

最後に、山田さん自身についての責任です。所属していない会社の名刺を持つことについて、捉え方によっては経歴を詐称しているようにも思われます。しかし、山田さんがこれによってB社から財産上の利益を得るなどしていない限り、詐欺などで刑事責任を追及することは難しいといえます。

以上(2023年10月更新)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

pj60080
画像:pexels

笹島建設創業者・笹島信義。黒部ダム建設の際、リスクを伴う事業の継続を決めた彼の使命感が分かる一言とは?

我々には、いかに困難で危険な工事であっても、成し遂げなければならない事情があった

笹島信義(ささじまのぶよし)氏は、1956年から1963年にかけて行われた黒部ダムの建設において、最も困難な工事といわれる「大町2号トンネル工事」を成し遂げた作業班の中心人物です。この工事が難航を極めた理由は、作業班が着工2年目に遭遇した破砕帯(はさいたい)にあります。破砕帯とは、岩盤の中で岩が細かく砕けた、通常よりもろく崩れやすい地層のことですが、1957年、その破砕帯から人が吹き飛ばされるほど大量の地下水と土砂が噴出し、トンネル工事は中断を余儀なくされたのです。

冒頭の言葉は、笹島氏が自身の著書の中で、トンネル工事の今後を検討する委員会が開かれたときのことを振り返って述べた言葉です。委員会には、学者や技術者などの有識者が招かれましたが、破砕帯の脅威が未知数だったことなどから、工事の続行については否定的な意見が飛び交いました。しかし、笹島氏は有識者の前でも、「冬になれば、水が減り、トンネルを掘れるようになると思う」と言って、工事の続行を強く望みました。

笹島氏の心の内には、ある使命感がありました。それは「戦後の荒廃と虚脱から抜け出し、日本の産業を興隆させるために、何としても電力不足を解消する」というもの。当時の日本は日常的に停電が繰り返され、工場は停電のたびに作業を休止しなければならないなど、深刻な電力不足に陥っていました。だから、笹島氏は「この工事の本当の発注者は、国家であり国民である」と考えて、文字通り命がけで工事に取り組んでいたのです。

冬になると、笹島氏の言った通り坑内の水が減少し、工事再開が可能となりました。そして、破砕帯との遭遇から7カ月後、最後まで諦めなかった作業班はついに破砕帯を突破、1958年に大町2号トンネルは無事開通したのです。

ビジネスでは、経営者が会社の進むべき道を決める際、常に何らかのリスクが付いて回ります。ノーリスクで成功を得られるケースはゼロに等しく、時には「社員に負担を強いるかもしれない」「失敗したら会社が傾くかもしれない」といった大きなリスクを背負いつつ、困難なことに挑戦しなければならないケースもあります。

そんなときに経営者を支えるのは、「わが社はこの事業を通じて、社会のためにこんなことを成し遂げるんだ」という強い使命感です。笹島氏は、破砕帯との遭遇によりトンネル工事の危険性が新聞などで取り沙汰されるようになった際、作業員たちが家族から反対されて現場を離れてしまうことを危惧しましたが、実際はほとんどの作業員が現場に残ったそうです。それは、「自分たちがトンネル工事で日本を支えるんだ」という笹島氏の使命感が、作業員たちの誇りとなり、自分事として共有されていたからです。いつの時代も、経営者の本気の思いは社員を突き動かし、困難な壁を突破する力となるのです。

出典:「おれたちは地球の開拓者:トンネル1200本をつくった男:大事にしたい日本人の生き方」(笹島信義、ベストブック、2010年10月)

以上(2023年10月作成)

pj17613

画像:JOWNAKA-Adobe Stock

事業承継やM&Aの事前準備としての効用も!中小企業にも求められる内部監査

1 なぜ、中小企業も内部監査を行ったほうがよいのか?

内部監査とは、

  1. 社内規程や業務マニュアルなどの自主ルールが、現状と照らして適切かの検証
  2. 企業の中の組織や個人が、当該ルールを守っているかの検証
  3. 当該ルールを逸脱した実務が行われている場合などに、改善や予防のための助言や勧告

を行う取り組みです。上場企業や会社法上の大会社にとって内部監査は義務ですが、中小企業は任意です。実際、内部監査を行っている中小企業は少ないのですが、この記事では、次のような理由から中小企業に内部監査の実施をご提案いたします。特に、長い間、担当者や業務の遂行方法が変わっていないような中小企業は、この記事を読んでみてください。

  • 内部監査がないと不祥事が長期間見過ごされ、発覚したときの被害が甚大になる
  • 事業承継やM&Aを控えている場合、後継者や買収元へ引き継ぐ会社の状態をチェックする意味合いで有用になる

2 内部監査の実施フロー

画像1

1)年度計画の立案

内部監査を担当する部門の年度計画を策定します。とはいえ、人的・時間的リソースには限りがあるので、

リスクの高い順番に内部監査の対象とする(リスク・アプローチ)

ようにします。通常、年度計画には、

  • 内部監査のテーマ
  • 内部監査の対象
  • 内部監査を行う部門の社員(以下「内部監査部員」)
  • 内部監査の実施に必要な費用

が織り込まれ、適切な承認者(経営者や取締役会など)に報告の上、承認を得ます。なお、内部監査は独立性の確保が重要になるため、内部監査部員は、監査を受ける部門とは関連のない人物にする必要があります。

2)業務計画の立案

業務計画は、年度計画で絞り込まれた内部監査のテーマのうち、重点的に見るべき具体的な項目を要約したものです。ここでも前述したリスク・アプローチに基づいて実施します。

リスクの高い項目を絞り込む際は、監査対象となる拠点の概要を把握する必要があるため、拠点の担当者に事前に監査があることを伝え、

予備調査:概要インタビューや関連規程類の閲覧

を行って、スムーズに本調査につなげることがあります。ただし、不正調査の場合は、事前通知をしないこともあります。

3)事前準備

計画が策定されたら、

  • 内部監査部員の作業内容や作業に対応するリスクなどをまとめた内部監査手続書の作成
  • 監査実施通知書(内部監査の概要)の作成と監査対象拠点への通知
  • 監査対象拠点との日程調整

を行います。

限られたリソースで一定の要求水準を満たすには、内部監査部員の努力はもちろん、監査対象となる拠点が質問に正確に回答したり、依頼された資料をきちんとそろえたりするなど協力が不可欠です。

4)監査現場作業

実際に監査対象となる拠点に赴き、予備調査で得た情報と、事前準備で作成された内部監査手続書に基づいて監査手続を実施します。監査手続の手法はさまざまで、例えば、次のような作業が挙げられます(下記以外にも、再実施、分析、計算調べなどがあります)。

  1. 質問:内部監査部員が監査対象となる拠点の責任者や担当者に質問して、回答を得る
  2. 閲覧:関連規程やマニュアルなどの文書を読み、ルールの存在を確認する
  3. 照合:一致すべきデータ同士を突き合わせ、整合性を確認する
  4. 観察:実際に業務を実施している現場に赴き、業務・設備などの状況を確認する

「最もスムーズにリスクを確かめられる手続きはどれか?」を意識しながら選択するのですが、内部監査手続書通りに監査手続を進めても、想定外のリスクが判明するケースがあります。その場合、新たに判明したリスクの内容とその重要性を勘案しながら、追加の監査手続を実施すべきか否かを検討します。

また、内部監査は限られたリソースで行うため、全ての項目・取引に対して漏れなく監査手続を実施することは難しいです。そのため、取引全体の母集団からサンプル(判断に必要な一部の資料)を抽出して、監査手続を実施する「サンプリング」を採用するのが一般的です。

5)監査調書の作成

監査調査とは、

実施した内部監査手続とその結果を記録し、経営者に提出される内部監査報告書上の結論のベースとして使用されるもの

です。監査調書は、

  • 個別の監査手続の実施内容と結果が記載される個別監査調書
  • 個別監査調書の内容をまとめた総括監査調書

に大別されます。

個別監査調書は、実施された監査手続によって監査調書のフォーマットも変わりますが、例えば、次のような形式が挙げられます。

  • 議事録:質問実施日、出席者・回答者、質問項目や議題、回答内容などをまとめたもの
  • フローチャート:質問などによって把握した業務の流れを図にして可視化したもの
  • 照合シート:照合した書類の結果をまとめたもの

監査手続が終了した段階で個別監査調書が作成され、総括監査調書に転記・要約します。総括監査調書は、内部監査部門の責任者が内部監査報告書の作成に際して、各監査項目について問題点が識別されたか否かを正確に判断できるように、簡潔に記載します。

6)結果の検討と報告書の作成

現場作業の最終日、監査現場作業の結果について、監査対象の拠点の責任者などと協議する講評会を開きます。特に、

不備事項に関する事実確認や、不備を解消するための改善活動(効果的かつ実現可能であること)

は重要な協議事項です。十分な協議を行わずに事実確認を誤ってしまうと、本来は不備ではない内容や、非現実的なスケジュール感での改善活動の実施案が報告書に記載されてしまいます。

講評会や監査調書をベースとして、最終成果物である内部監査報告書を作成・発行します。内部監査報告書のフォーマット例を紹介しますので、参考にしてください。

画像2

7)改善指示、フォローアップ監査

報告書に記載された不備が放置されたままでは問題です。そのため、拠点において計画通りに改善活動が行われているかを確認する、フォローアップ監査を実施します。フォローアップ監査では、

報告書に記載された「何を」「いつまでに」実施するかの改善案に基づいて、改善活動が行われているかを確認

します。フォローアップ監査も内部監査の一環であることを認識しましょう。

8)コンサルティング業務への発展

ここまで紹介してきた内部監査の実施フローは、主に整備された業務が想定通りに運用されているか否かを確認・報告する機能(保証機能)です。この他、内部監査には、会社の発展にとって最も有効な改善策を助言・勧告する機能(助言機能)もあります。特に「6)結果の検討と報告書の作成」において、報告書に改善提案を記載した場合は、助言機能の一例になります。

さらに、もう一歩進んだ助言機能として、コンサルティング業務も考えられます。さまざまな拠点などを独立した立場で把握する内部監査では、多くのノウハウが蓄積されるため、そのノウハウを活かしたコンサルティングを依頼されるケースが想定されます。例えば、

  • 新規業務プロセスに必要な内部統制についてのコンサルティング
  • 社内講師としてリスク管理体制、内部統制に関連した研修を実施

などが挙げられます。

なお、コンサルティング業務においては次の留意点を念頭に置きましょう。

  • コンサルティング業務を受けても、当該部門が内部監査の範囲より外れることはない
  • コンサルティング業務実施側が最終意思決定者になることは客観性を害するため、行った助言を最終的に採用するかの意思決定は当該部門の責任者が行う
  • 独立性維持の観点より、コンサルティング業務を行った内部監査実施者は、対象部門の監査実施者から一定期間外すような工夫が必要

3 内部監査を意義あるものにするために必要なこと

1)内部監査の要件

内部監査の結果を歪めないために、

  • 独立性
  • 職業的懐疑心(入手した情報をそのままうのみにせず、客観的な判断を心掛けること)
  • 専門的知識
  • 会話・文章力

などが必要です。「内部監査人は、良心と信念に基づき、公正・普遍の立場で監査を行い、いかなる圧力にも負けない」ことが重要なので、特に独立性の確保に努めましょう。

そのために、内部監査部門を経営者直属にします。こうすることで、他部門の指揮命令系統から外れ、不必要な干渉を排除できるからです。また、リソースが限られた中小企業では難しい面もありますが、内部監査部門と他の部門との兼任は認めないのが基本です。

2)内部監査の体制

中小企業が単独で内部監査を実施することが、リソースや知識の面から難しいことがあります。その場合、公認会計士や弁護士などに内部監査をアウトソーシングすることが考えられます。外部委託の範囲によって、

  1. 内部監査に関する教育の支援のみ委託するパターン
  2. 特定分野の内部監査支援を委託するパターン
  3. 内部監査実施の全面的支援を委託するパターン

が考えられます。

3)内部監査に必要な規程の整備

内部監査の根拠となる規程の整備が必要です。一般的に、内部監査規程は、

  1. 総則
  2. 内部監査の計画
  3. 内部監査の実施
  4. 内部監査結果の報告

といった項目で構成されます。内部監査規程は会社の基本規程の1つです。そこでは詳細な内容は入れられないので、別途、内部監査マニュアルなどを作成して実務的なことを記載します。

4 子会社の内部監査

1)子会社の内部監査全般

最後に、難易度がやや上がる子会社の内部監査について触れておきます。中小企業でも子会社を持っているケースがあり、内部監査の対象とすることがあります。しかし、

親会社が子会社を自由に内部監査できる法令はないため、子会社は拒否できる

ことになっています。こうした問題を回避するために、あらかじめ親・子会社間で、親会社が監査を行うことを認める契約を締結するなど、スムーズに内部監査を行える環境作りが必要です。

子会社を内部監査する場合は、

  • 親会社の内部監査部門が全ての子会社を一括して内部監査する方法
  • 各子会社に対して内部監査部門を設置する方法
  • 各地域に統括会社を設置して、その中に内部監査部門を持たせる方法

などがあります。どの方法を採用するにしても、内部監査の方針や要求水準が一定になるように注意しましょう。具体的には、規程やマニュアルの統一、定期的な品質評価レビューなどが挙げられます。

2)海外子会社の内部監査

海外に拠点を持つ中小企業も少なくないのですが、海外子会社の内部監査は国内子会社に比べて難しい面があります。距離や言語の壁が高く、対応できる人材の確保もままならないからです。ただ、壁が高いほど目が届きにくくなるということで、逆に内部監査が必要になってきます。

海外子会社に対する内部監査で最大の注意点は、法制度や商慣習が違うことです。内部監査の主目的の1つは法令遵守ですが、肝心の法制度を理解していないと、目指すべきところが明確になりません。その国独自の法制度を調べるのはなかなか難しいため、必要に応じて現地法務に精通した弁護士に相談することも検討します。

また、文化、価値観、言葉の違いにも注意しましょう。内部監査手続の多くはコミュニケーションや書類の閲覧によって行われるため、使用可能な言語(日本語、英語もしくは現地語)の確認と、通訳の要否などを検討する必要があります。

なお、これらの問題をクリアすることが難しい場合には、外部の専門家である公認会計士や弁護士に委託することも検討しましょう。

以上(2023年10月更新)

pj60341
画像:vladwel-Adobe Stock

あなたの会社にも起こり得る不正会計~その検知と対策

身近にある? 不正会計

不正会計と聞くと、ニュースをにぎわすような巨額な不正をイメージし、自社には関係ないと思っていませんか?

しかし、それは間違いかもしれません。なぜなら、経営者自身の何気ない一言が不正会計につながったり、思いもよらない従業員の不正が生じたりすることがあるなど、想像できない

不正会計は意外と身近にある

からなのです。また、コロナ禍や国際情勢の不安定化など、経済環境が悪化する時期は、不正会計が生まれやすい時期でもあります。昨今のテレワークの浸透により内部統制が脆弱化している会社は少なくないと思われます。

では、経営者が不正会計の兆しをキャッチしたり、防止したりするために、どのような知識が必要なのか、現場を知る公認会計士に不正会計の実態やその防止策などを聞きました。

Q1 代表的な不正会計とは?

不正会計とは、

決算書(貸借対照表や損益計算書など)に虚偽の表示をすること

です。代表的な不正会計は、「粉飾決算」「資産の流用」によるものです。

粉飾決算とは、

意図的に決算書(貸借対照表や損益計算書など)を操作して、会社の財務状況や損益状況を実際よりも良く見せること

です。詳細はQ2で解説しますが、「売上の水増し計上」や「売上の前倒し計上」による方法があります。粉飾決算によって赤字を黒字に見せる極端なケースもあります。

資産の流用とは、

会社の資産を盗み取ること

です。詳細はQ3で解説しますが、現金預金の「横領」、物的資産の「窃盗」などが挙げられます。多くは従業員の犯行で、この場合の被害は比較的少額です。しかし、資産の流用を容易に偽装できる経営者層が関与すると、被害が多額になることもあります。

Q2 粉飾決算の具体的な方法とは?

売上の水増し計上とは、

本来の取引金額に架空の取引金額を水増しして、売上を計上すること

です。売上の水増し計上では、その計上した売上の相手勘定として「売掛金」を用いることが一般的です。そのため、貸借対照表には架空の売掛金も計上されます。

売上の前倒し計上とは、

本来は決算日後(将来)に計上されるべき売上を、決算日前(現在)に計上すること

です。売上の前倒し計上では、決算日をまたいで売上の計上が前後するだけであるため、全体(年度で区切らず全ての期間)としては損益計算や代金の入金額は変わりません。しかし、決算日後(将来)の売上を取り込んでしまうため、当年度の決算と翌年度の決算のいずれの決算書も虚偽の表示となります。

売上の水増し計上、売上の前倒し計上ともに、会社の利益をよく見せることが目的で行われる不正会計です。例えば、決算時点で赤字が明らかである場合、既存取引の売上の水増し計上をすることでその原価を差し引いた利益が本来の利益に上乗せされ、赤字決算を黒字決算へと変えてしまうことができます。

中小企業の場合、融資元の金融機関や、入札審査を受ける際の官公庁に対して、会社の業績を少しでも良く見せようとして、粉飾決算に手を染めるケースがあります。

Q3 資産の流用(横領や窃盗)の具体的な方法とは?

横領とは、

自らの職位を利用して会社の資産を盗み取ること

です。例えば、出納業務と記帳業務を兼務する経理担当者が、無断で預金を解約してそれを盗み取るなどの行為です。業務によっては、同一人物が担当することで横領の発生リスクが高まります。

窃盗とは、会社の物品を盗み取ることです。例えば、会社の収入印紙や切手などを盗み取ることなどの行為です。なお、総務部の鍵のないロッカーに収入印紙や切手を保管している状況の中で、誰でも自由に取り出せるような場合には、窃盗の発生リスクが高まります。

これらの動機はさまざまで、個人的な事情(多額の借金を抱えている、遊ぶお金が不足しているなど)から実行されることが多いようです。

Q4 不正会計の基本的な防止策とは?

不正会計の防止策を考える上で重要な概念は「不正のトライアングル」です。不正のトライアングルとは、

不正を引き起こす3つの要素(動機・機会・正当化)のこと

です。これらを考慮した不正防止の仕組みをつくることが有効です。

1.動機

「従業員が行動を起こす、または行動を方向付ける」ことです。不正の防止策として、例えば従業員個人や部署に対して過度な目標が課されている場合、この目標が過大なプレッシャーになっていないかを見直します。

2.機会

「不正会計を起こせる立場にあり、それを実行できる能力がある」ことです。不正の防止策として、例えば職務分掌を明確にして、重要な決定についてはチェック・承認制度を社内ルール化することや業務相互チェックを掛けるなどのけん制機能を設けるようにします。

3.正当化

「不正会計をすることは悪くない≒仕方がない」と思うことです。不正の防止策として、例えば従業員に対して定期的に社内研修などを行い、不正会計の影響(個人・会社のダメージ)を啓蒙するようにします。

Q5 経営者が粉飾決算を防止するためにすべきことは?

売上の水増し計上は、

貸借対照表の「売掛金」に発見の糸口

があります。なぜなら、

その売掛金は架空のものであり、何もしなければ、現金回収されることなくいつまでも貸借対照表に計上し続けることになるから

です。仮に、本来の回収期間が過ぎて長期間滞留しているような売掛金が存在する場合には、売上の水増し計上が疑われます。また、

売上の前倒し計上を行った場合にも、上記同様「売掛金」がポイント

です。売上を前倒し計上すると、その分の売掛金残高が増えます。しかし、この増加は、当年度及び前年度の各月末の売掛金残高と比べることで異常な増加として発見することができます。

Q6 経営者が資産の流用を防止するためにすべきことは?

横領では、やはり、

担当者間のチェック体制が重要なポイント

です。経理担当者が出納業務と記帳業務の双方を兼務しているような場合、お金を取り扱う担当者(出納係)と、帳簿をつける担当者(記帳係)を分ける必要があるでしょう(職務分掌)。なお、人員が不足し、どうしても兼務しなければ業務が回らないような場合は、他者が定期的にチェック・照合することによって代替することもできます。

窃盗は、

適切な現物(切手や収入印紙など)の管理を行うことが最も重要

です。具体的には、現物を鍵の掛かる場所に保管し、現物を取り出した者が都度、日付・数量・氏名などを管理簿に記入し、総務担当者などが日々管理簿に照らして在庫数量を確認する体制が必要です。また、他者が定期的に管理簿を閲覧して異常な記録がないか確認しましょう。

Q7 不正会計の疑いがある場合、経営者がとるべき対処は?

「社内に不正会計の疑いがあるかもしれない」という情報を耳にしたら、経営者は、まずこの情報が正しいものであるかどうかを確かめましょう。相手の言うことをうのみにしてしまったり、逆に聞き流してしまったりしては後々大きな問題になりかねません。また、場合によっては刑事事件に発展する可能性もあるため、早めに顧問弁護士などに相談することが賢明です。

不正が事実だった場合は、被害が大きくならないうちに早めの対処が必要です(初動が大切)。また、不正は意図的に仕組まれ、見つからないように巧妙かつ複雑な手口で隠されていることがあるため、外部の専門家を交えてその対処方法(対象者へのヒアリング方法や被害額の算定方法など)を検討するのが望ましいでしょう。

Q8 専門家の立場から、中小企業の経営者にアドバイスを!

コンプライアンスとは、法令遵守を意味し、コーポレートガバナンス(企業統治)の基本原理の1つになります。

会社が企業活動を続けていくためには、会社の業績を維持・拡大していくことが必要で、基本的に会社は利益を追求していくことになります。しかし、利己的な利益追求をしていくと、法令すれすれ(グレーゾーン)の行動を取らざるを得ないこともあります。

さらに、目先の利益追求のために倫理観を失った行動を取れば、社会的な信用を大きく損ねてしまい、極端なケースでは会社の存続が危うくなることもあります。そうならないために、経営者が先頭に立ってコンプライアンスの重要性を社内に認識させることが求められます。

また、コンプライアンスの強化に励むことは、会社の存続に関わる重大問題の発展を事前に防止することのみならず、対外的にも社会的信用の認知度を高める積極的な取り組みと考えることもできます。

以上(2023年10月更新)

pj60130
画像:polkadot-Adobe Stock

その会計処理にピンときたら!不適切な会計処理の兆候と防止手段

1 不正会計は「嘘つき会計」

決算書は、

  • 社内や社外の関係者に業績を示す資料
  • 経営者が経営判断をする材料

になる重要な情報です。決算書は正直に作成されなければなりませんが、中には「嘘つき」な決算書もあります。これを「不正会計」(不適切な会計処理)といいます。意図的な不正会計は論外ですが、意図せず結果として不正会計になってしまっていることもあります。

しかし、関係者はそうした背景に関係なく、不適切な会計処理をした会社を信用しなくなります。そうならないためにも、経営者は典型的な方法とその兆候を知り、具体的な防止手段を取っておかなければなりません。この記事では、そのためのポイントを紹介します。

2 起こりやすい不適切な会計処理

1)売上高を大きく見せる方法

1.売上高の前倒し計上

売上高計上のタイミングは、

対象となる物品やサービスが受け渡された日

です。そのため、このタイミングより早く売上高を計上することで売上高を大きく見せることができます。これは、実際の販売取引に対して、売上高計上のタイミングのみを操作することが特色です。例えば、売買契約締結日や手付金受取日に売上高を計上することが考えられます。

画像1

2.売上高の架空計上

売上高の架空計上は、実際の販売取引がないにもかかわらず決算書でのみ売上高があったかのように会計処理するものです。売上高の前倒し計上と異なり、実際の販売取引自体を仮装していることが特色です。

なお、全くの架空販売取引として売上高を計上することの他に、実際の販売取引の金額に上乗せして架空の売上高を計上するケースも見られます。

画像2

2)費用を小さく見せる方法

1.棚卸資産の過大計上

対象となる物品の購入対価は販売されるまでの間、棚卸資産として資産に計上され、販売されたときに売上原価(費用)に振り替えられます。

棚卸資産の過大計上とは、販売されたものの、棚卸資産から売上原価への振り替えを過小とすることで、売上原価を減少させて差引としての利益を大きく見せるものです。売上原価への振り替えが過小であるため、振り替え後の棚卸資産は過大計上される結果となります。

画像3

2.架空資産の計上

会社運営に必要な諸費用は、その費用が発生した期の損益計算書に計上する必要があります。架空資産の計上とは、費用として計上すべきものを資産勘定として貸借対照表に計上することで、費用を減少させて差引としての利益を大きく見せるものです。資産勘定には計上されているものの実際の資産は存在しないため、架空資産となります。

例えば、本来は損益計算書の費用に計上される交際費を仮払金(資産)で、修繕費(費用)を固定資産(資産)で計上することが考えられます。

画像4

3 不適切な会計処理の兆候

1)売上高を大きく見せる場合

1.売上高の前倒し計上の兆候

売上高計上のタイミングが本来のタイミングより早いため、

売上高の相手勘定である売掛金が回収されるまでの期間が徐々に長期化

します。例えば、決済条件が月末締め翌月末払いのケースの場合、本来は翌月末には入金があり売掛金残高はなくなりますが、前倒しで売掛金が計上されると、取引先は本来の決済条件で支払うため入金は翌月末より後になり、回収までの期間が本来の決済条件よりも長期化します。回収までの期間が長期化している売掛金がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。

2.売上高の架空計上の兆候

実際の販売取引がなく決算書のみで計上された売上高のため、取引先からの代金の支払いはありません。

架空売上高に対応する売掛金は回収できないことから、滞留債権となり長期間にわたって残高が減少しない

こととなります。残高が長期間にわたって減少しない売掛金がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。

なお、架空売上の事実を隠蔽するため、正当な取引による回収代金を架空売上高の売掛金回収に充当することで、滞留債権化を回避することも考えられますが、この場合、正当な取引により発生した売掛金の回収までの期間が長期化するという影響が表れます。

2)費用を小さく見せる場合

1.棚卸資産の過大計上の兆候

売上原価に振り替えることなく棚卸資産として計上され続けるため、

滞留棚卸資産となり長期間にわたって残高が減少しない

こととなります。滞留している期間と、通常の販売までの期間とを比較して、不合理に長期化している棚卸資産がある場合は、その原因を慎重に究明する必要があります。

なお、棚卸資産の過大計上を隠蔽するため、過大な棚卸資産残高を棚卸減耗損や棚卸評価損によってなくすことが考えられます。不合理な棚卸減耗損や棚卸評価損が計上されている場合には、その原因を慎重に究明する必要があります。

2.架空資産の計上の兆候

現物が確認できない仮払金勘定が利用されることが多く、相手先や支出内容が不明な残高が徐々に増加します。

仮払金勘定は、一時的な支出を仮に処理する勘定科目のため、長期間にわたって多額な残高がある場合

には、その原因を慎重に究明する必要があります。

また、架空資産として固定資産勘定を利用する場合、不自然な金額が不自然なタイミングで計上されることが多くなります。

固定資産としては少額な金額が定期的に計上されている場合や決済されていない固定資産支出が計上されている場合

には、その原因を慎重に究明する必要があります。

4 不適切な会計処理の防止手段

不適切な会計処理の防止のためには、適切な内部統制を構築することが有効です。特に

職務分掌(仕事の役割分担や権限を明確にすること)の徹底

は、シンプルではありますが効果的と考えられます。例えば、伝票起票者と伝票承認者が区分されていれば、相互けん制によって不適切な会計処理は実行しにくくなります。また、資金担当者と記帳担当者が区分されていれば、入金内容を意図的に変更させて経理処理することは難しくなります。さらに、担当者の変更により後任者が前任者の不適切な会計処理に気付くことがありますので、人事異動を定期的に実施することも、不適切な会計処理の防止に効果的です。

特定の1人に任せきりにしないことが最も重要なポイントとなりますが、中小企業のように限られた人員で管理業務を実施している場合、複数名での対応が難しいことも考えられます。その場合、十分とはいえないまでも、例えば、

監査役などが既述の事項を重点的にヒアリングする

ことによって一定のけん制効果が期待できます。

以上(2023年10月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 米山泰弘)

pj60044
画像:pexels

中小企業のコンプライアンス経営~信頼の獲得と不正の防止

書いてあること

  • 主な読者:組織全体にコンプライアンスの意識を浸透させ、強化したい経営者
  • 課題:「知らなかった、これくらいよいだろう」では済まされない。問題の芽を摘みたい
  • 解決策:経営者がリーダーシップを発揮して、コンプライアンス経営を実践する

1 中小企業がコンプライアンス経営に取り組む意義

皆さんはコンプライアンス違反が原因で倒産する企業がどれくらいあると思いますか? 帝国データバンク「特別企画:コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2022年度)」によると、2022年度は実に300件の倒産がコンプライアンス違反で発生しています。長年にわたる粉飾決算の他、足元ではコロナ禍における助成金の不正受給も問題となっています。

「やってはいけないことだと知らなかった」「これくらいならいいだろうと思っていた」など、ちょっとした油断もあるでしょう。しかし、悪気がないといっても、不正は知らなかったでは済まされません。「不名誉な敗者」にならないためには、コンプライアンス経営が必要です。コンプライアンス経営とは、

法令や規則を遵守することはもちろん、社会規範に照らして企業としての倫理を遵守していくことで、広義には法令遵守などのために企業内の体制を整備することまで含む経営

であり、攻守の効果があります。

画像1

企業の不祥事が後を絶たない中、消費者は不誠実な企業に厳しい目を向けています。同時に、「ステークホルダー(利害関係者)や環境に配慮しながら持続可能な成長を目指す企業」を評価する傾向はますます強まっています。

この記事では、中小企業が想定すべきコンプライアンス違反のリスクにはどのようなものがあるかを押さえた上で、コンプライアンス経営を具体的にどのように進めていけばよいのか紹介します。最も大切なのは、経営者の強いリーダーシップです。経営者が社員の模範になるとともに、朝礼などの場を利用して企業(自社)が社会の一員として果たすべき役割を伝えましょう。

なお、会社法は、大企業(資本金5億円以上または負債200億円以上の株式会社)には法令遵守などのために企業内のコンプライアンス体制を整備することを義務付けています。事故や不祥事を防止するために経営者が組織の全ての活動を直接把握するのは現実的でないため、経営者が間接的に組織を監督するための体制の整備を求めるという趣旨です。

一方、中小企業にはこの義務はありません。しかし、中小企業であっても、コンプライアンス体制が機能した際には、業務品質や顧客対応の向上、事故や不祥事の防止が期待できますから、企業規模を問わず、体制を整備するのが望ましいといえるでしょう。

2 中小企業におけるコンプライアンス経営の進め方

1)リスクの想定と事例研究

コンプライアンス経営を行うにあたり、まずは自社の経営に関連する主な法令とリスクを想定しましょう。これにより、対策すべきリスクが明確になります。

加えて、過去に不祥事を起こした企業の「調査報告書」(不祥事の発生原因や状況が克明に記載された報告書)を研究すれば、コンプライアンス経営の参考になります。調査報告書では、「ワンマンな経営者」「利益至上主義」などさまざまな問題が指摘されています。これらの企業と同じ問題点があるとすれば、不祥事が起こる前に対策を取る必要があるかもしれません。

2)「内部通報窓口」設置の効果

経営者が独断で判断せず、現場の社員の声を聞く必要があります。そのために有効なものとして「内部通報窓口」があります。これは、社内でコンプライアンス違反などを発見した社員が通報をするための仕組みです。内部通報窓口については、改正「公益通報者保護法」により、2022年6月1日から社員301人以上の企業に設定が義務付けられています。

内部通報窓口や通報に適正に対応する体制が整っていない場合、社員が事故や不祥事などのコンプライアンス違反を突然社外に通報・公表する可能性があります。その場合には、自社による事実調査や、通報が事実であった場合の社内外への対応をどうするかなどといった必要な検討を行う妨げとなる上、企業の社会的信用が著しく低下するなどの事態もあり得ます。

また、社員300人以下の企業にとって内部通報窓口の設置は努力義務ですが、実際は設置する企業が増えています。

3)社内規程やマニュアルの整備

コンプライアンス経営のよりどころとなる書類(規程)を整備します。整備する書類はさまざまですが、「コンプライアンスガイドライン(企業倫理規程)」などと呼ばれる、コンプライアンス経営の目的や行動規範を定めたものが中心となります。この他、業務ごとに「業務遂行マニュアル」が作成されることもあります。こうした規程やマニュアルは、社員の日ごろの活動のよりどころにもなります。

4)社員教育

コンプライアンスガイドライン(企業倫理規程)などの書類は、整備するだけでは不十分です。そこで明らかにされている企業のコンプライアンス経営の考え方が、日々の活動に活かされなければなりません。企業は社員がコンプライアンスに対する高い意識を持つことができるよう、コンプライアンス教育を行う必要があります。

5)モニタリング

モニタリングとは、実際にコンプライアンス経営が行われているかを確認・改善する行為です。顧問弁護士に一任するとよいでしょう。なお、社内に法務部門のある企業では、法務がコンプライアンス部門を兼務する場合もありますし、コンプライアンスを別部門とする企業もあります。自社で無理なく機能できる手段を取りましょう。

3 ISO26000に基づくコンプライアンスへの対応

「ISO26000」は、ISO(国際標準化機構)が発行する国際規格です。規格の認証は不要で、民間・公的・非営利のさまざまな組織を対象とした「社会的責任に関する手引」として利用できます。組織の規模を問わず活用できるように作成されており、中小企業でもISO26000を参考としながら、自社に合わせた柔軟な対応が可能です。なお、ISO26000を基にした日本産業規格(JIS)「JIS Z 26000」も制定されています。

ISO26000では、社会的責任にまつわる課題とその説明、課題の解決に向けた行動や組織に期待されること、組織が社会的責任を遂行するための具体的な行動などが規定されています。組織が果たすべき社会的責任のうち、特に重要性が高い7項目は「社会的責任の中核主題」として、主題の解説・実践に当たってのポイント・具体的な取り組み方法がまとめられています。

ISO26000の中核主題ごとに、中小企業の留意すべき点と取り組み例は次の通りです。

画像2

4 コーポレートガバナンス

ここまで説明してきたコンプライアンスと同じく耳にする言葉として、コーポレートガバナンス(企業統治)というものがあります。定義は人によってさまざまですが、一般的には経営者の暴走を未然に防ぐため、経営者を監視・監督する体制をいいます。

経営者がコーポレートガバナンスの下で適正な経営を行っても、社員が経営者の意向を無視してコンプライアンスに反する不正を行えば企業に損失が出ます。コンプライアンス体制が構築されていても、経営者が暴走し不適切な事業を行えば同じことです。従って、コーポレートガバナンスは、コンプライアンスと併せて、企業の健全な運営・中長期的な成長のための両輪といえます。

日本取引所グループは、このコーポレートガバナンスの指針として「コーポレートガバナンス・コード」というものを発表しており、企業が上場する際にはガバナンスの構築・整備状況が審査対象になります。

他方、コーポレートガバナンス体制の構築・実施や、コーポレートガバナンス・コードの実施は、法的な義務ではありませんし、短期的に売上・利益の向上に直結するものでもないため、比較的小規模な企業がはじめから大企業のような重厚な体制を構築する必要はありません。中小企業が、コーポレートガバナンスにどの程度の手間やコストをかけるかは、企業の中長期的成長に不可欠なものだという観点から、規模・成長ステージに応じて、構築・整備していくことが重要です。

以上(2023年10月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 鈴木章太郎)

pj60026
画像:pixabay

【朝礼】自分の悪いイメージを払拭するたった1つの方法

私たちは、仕事やプライベートで関わる人に対し、無意識のうちに「〇〇な人」というイメージを持つことがあります。優しい人、怖い人、面白い人、退屈な人、いろいろありますね。ただ、それらのイメージはあくまで自分がつくり上げたもので、実態とかけ離れていることも少なくありません。歴史上の人物を例に一つ話をします。

皆さんは、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という言葉を聞いて、誰を思い浮かべますか。おそらく、多くの人が「マリー・アントワネット」と答えるでしょう。18世紀にフランス王妃となるも、フランス革命により処刑台に追いやられた悲劇の女性です。大変な浪費家だったとされ、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」は、王妃としてぜいたくな日々を送る彼女が「民衆がパンを食べられずに苦しんでいる」と告げられた際に発した言葉として有名です。

ですが、実はこれは誤りとされています。先ほどの言葉は、フランスの思想家ルソーの自伝に記されたものですが、それが出版された頃のマリー・アントワネットは、まだフランス王妃になる前の10歳ぐらいの少女なのです。にもかかわらず、彼女の「浪費家」というイメージが強すぎるせいで、本当は他の誰かが口にした言葉が、彼女が言ったものと200年以上誤解されているのです。ちなみに、彼女が本当に浪費家だったのかも実は定かではなく、飢饉の際、彼女が宮廷費を削って寄付をしたという話もあるのです。

このように、「〇〇な人」というイメージは、大きな誤解を生むことがあります。ビジネスでも、意図せずに相手から悪いイメージを持たれてしまうケースというのはよくあります。

例えば、若手社員が上司に同行して、取引先との商談に臨む場面を想像してみてください。商談は上司メインで話が進むため、若手社員は「上司の邪魔にならないように」と、口を挟まず黙っています。しかし、相手は、若手社員が全く話に入ってこないのを見て、「この人は全く発言しないけど、何しに来たのかな」「話に入ってこないということは、半人前なんだな」と、ネガティブなイメージを持つかもしれません。

こうしたネガティブなイメージを払拭するための方法は、たった1つ。相手と積極的に話して、相手が自分に対して抱いている「○◯な人」というイメージを塗り替えるのです。「怖いと思っていた人が、話してみたら意外と優しかった」というのはよくある話です。

先ほどの商談であれば、事前に上司に相談して自分がメインで話をするパートをつくってもらったり、気になる点を相手に質問してみたりするとよいでしょう。多少拙い部分があっても、一生懸命話そう、話を聞こうとしてくる人には、相手も好意的なイメージを持つものです。「もしも嫌われたら……」と何もしないでいるのが一番よくありません。自分のイメージは自分から相手にアタックしてつくるのです。

以上(2023年10月)

pj17159
画像:Mariko Mitsuda