社員の頑張りに報いるための経営・財務戦略/「人を大切にする経営」で業績アップ(5)

書いてあること

  • 主な読者:業績は上がらないし、社員は生き生きと働いていない。会社の経営指針を根本的に見直したいと考えている経営者
  • 課題:社員の幸福や会社の社会的意義も大事だが、業績が悪ければそれどころではない
  • 解決策:会社に関係する全ての人の幸福を最優先する「人を大切にする経営」を実践する。社員の頑張りに報いることができるための経営・財務戦略を行う

1 社員の頑張りに、きちんと報いられていますか?

前回は「“人財”を育てるための働き方改革」をテーマに、創造性やモチベーションの高い“人財”を育て、活用するための方法や実践事例を紹介しました。

第5回となる今回は、経営戦略や財務戦略といった観点から、人を大切にする経営を進めていくための方法を、実践事例を交えつつ紹介していきたいと思います。

「社員を大切にしているのに、業績が良くなりません」

「給与を上げたのに、社員は何も変わりません」

実際に、人を大切にする経営に取り組み始めた経営者の言葉です。この言葉が意味するのは、

単に「給与を上げる」「福利厚生を良くする」だけでは、人を大切にする経営は成立しない

ということです。

1)人を大切にする経営が、経営・人事・財務の3戦略の統合基盤に

人を大切にする経営における経営戦略とは、言い換えれば、

社員が頑張れば、きちんと報いることができる利潤が確保されるビジネスモデルを構築しているかどうか

です。これは、ただ社員の待遇を改善するのではなく、社員が会社の成長発展を自分事と捉えて頑張り、その成果として報酬を受け取るというプロセスを経るものです。

会社が継続して成長発展していくとは、すなわち、提供する商品やサービスが顧客に支持され、適正な利益を計上し、社員に業界平均以上の賃金を支払える状態を維持していかねばなりません。そのためには、どのような環境変化にも対応できるように経営戦略を体系化させ、将来の発展のための利益を計上できるビジネスモデルを構築することが必要となります。端的にいえば、自社の事業領域において価格決定権を有する、独自の付加価値で取引できるビジネスモデル構築です。

さらに、そのビジネスモデルを運営していくためには、働き方や評価制度などの人事戦略(前回の第4回で触れました)と、どんな不況になってもびくともしない財務戦略の両輪が必要となります。つまり、経営戦略、人事戦略、財務戦略という3つの戦略が統合されることで、より大きな効果を発揮できるのです。そして、3つの戦略を統合させるための基盤になるのが、人を大切にする経営なのです。

2)ビジネスモデルを再構築し続ける新宿区のレーザー機器卸売会社

レーザー機器の卸売業界は、為替変動など外部環境の変化が激しく、10年生き残るのが難しいといわれています。その中で、東京都新宿区にあるレーザー機器卸売会社は、28年連続で黒字を計上し、成長を続けています。

成長を支えている同社の経営戦略が、「市場の選択と構造変化への対応」です。外部環境は常に変化するものと捉え、日々、ビジネスモデルを再構築し続け、製品・サービス領域の拡張とシフトを積極的に行っています。具体的には、かねてからの主力製品である最先端の理化学用レーザー分野から、産業分野へと領域を拡張しました。さらに近年では、環境、センサー、医療など、常にその事業領域を先取りして展開しています。

この会社の経営戦略の基盤には、「規模をどうスケールさせるか」「いかにもうけるか」ではなく、人を大切にする経営があります。それは、同社が2007年に日本で初めて、経営者と社員とが出資して親会社から分離・独立するMEBO(マネジメント・エンプロイー・バイアウト)を行った会社だということから、お分かりいただけるかと思います。

2 人を大切にする経営で重視する4つの財務指標や考え方

では、人を大切にする経営を行う上で取るべき財務戦略についてご説明します。財務戦略を立案するために重視すべき4つの財務指標や考え方と、そのポイントについて解説します。

1)自己資本比率を50~60%に高める

自己資本比率は、貸借対照表の「自己資本/総資産(他人資本+自己資本)」で求められます。長期的視点で経営を良くしていく、社員とその家族を守っていくためには、最も重要な指標です。

この指標が低い場合は、財務基盤が外部環境の変化に弱いことを示唆します。自己資本比率を高めることで、「社員に安心感を与える」「長期的ビジョンで投資を行う」ことなどが可能になります。

人を大切にする経営を実践している会社では、この指標が平均して50~60%、高い会社では80%に達するという事例も枚挙にいとまがありません。その結果、同業他社がまねできない設備投資や、お客さまへの手厚いサービスが可能になるのです。

当然ながら社員の待遇も他社より良くすることができ、やる気のある人が自ら入社を希望してきますので、高い採用コストを掛ける必要もなくなるという好循環が生まれます。

2)「未来経費」は必要経費

「未来経費」とは、未来への投資を意味する経費であり、いうなれば将来への種まきです。商品・サービス開発などの研究・試作費や、社員の能力向上に資する社員教育費・研修費などが該当します。

上場企業においては、これらの経費は一定額が年間の事業計画に盛り込まれていますが、中小企業においては、ゼロという会社も少なくありません。“人財”育成費や研究開発費は必要経費として計画すべきで、景気の変動などによって削ってしまうのは、成長を目指す企業としては本末転倒です。

投資判断をするに当たって、財務のことを知っている人ほど、どうしても「もうかるか、もうからないか」「投資に対するリターン」という視点で考えてしまいがちです。「社員を幸せにできるかどうか」で考えるのが、人を大切にする経営の正しい在り方です。「人員を減らして効率化を図るための投資」では、将来への種まきどころか、将来の芽を摘んでいるようなものです。

3)社員1人当たり利益額を高める

労働生産性を高めることは、働き改革とも連動しており、社員の幸せに直結します。

労働生産性の指標としては、売上高対比の労働生産性や付加価値対比の生産性がありますが、この2つの指標では、社員1人当たりどれだけ実利を稼ぎ出しているのかが分かりません。重要なのは、粗利益や経常利益を、社員1人当たりいくら稼いでいるかです。この指標を年々高めていく経営を行っていくことで、真の労働生産性の向上を図ることができます。

4)経常利益率は7~10%が理想

利益についての考え方としては、利益は「目的」ではなく、会社の活動によって得られた「結果」ですので、短期的な変動に一喜一憂しないことが重要です。目先の利益を増やすために人員を減らそうなどとは、くれぐれも考えないことです。とはいえ、利益を上げていかなければ、長期的に社員とその家族を幸せにはできません。

「うちは経常利益率20%です」などと、利益率が高いことを自慢げに話す経営者もいます。しかし、その会社の財務状況を詳しく見てみると、社員の給料が地域平均や業界平均に比べて低いことが多々あります。これではいくら利益が出ていても、「良い会社」とは到底言えません。

指標とするべき利益率は、経常利益率で7~10%といったところでしょう。このレベルの経常利益率があれば、上記の3つの指標を満たしながら財務基盤を確立していくことが可能です。

第3回でもご紹介した、神奈川県横浜市にある新築やリフォームの工事および企画設計を行う会社は、顧客の口コミで企業業績は安定して推移し、利益も業界内では驚くような金額を計上しています。しかし、同社ではたとえ10%以上の経常利益率を出せる年度であっても、社員に還元することで7%程度に抑えるようにしています。社員に還元することで、更なるモチベーションの向上を図ることと、財務基盤のバランスを取っているのです。まさに、利益を目的としない、お手本のような財務戦略です。

3 社員に財務状況を開示して「自分事」に

中小企業、特にオーナー経営の会社は、幹部にすら決算データを開示していない会社がまだまだ多数派です。その背景には、「どうせ開示しても社員には理解できないし、もっと給与を上げろという社員が増えるだけ」との考えがあるようにみえます。

しかし、社員の側からすれば、「自分があとどれだけ頑張ればボーナスが増えるのか」や、「経営計画の目標に対してどれぐらい進捗しているのか」を知れば、モチベーションが高まります。会社の財務状況を知ることで、会社の業績が自分事になるのです。

先ほど紹介した、神奈川県横浜市にある新築やリフォームの工事および企画設計を行う会社では、社員の誰もが財務の「試算表」を閲覧できる状態にしています。同社の経営者は、「財務データを経営幹部が分からないような会社が、人を大切にする経営などできるわけがない」と語っています。

そのため、同社では新入社員や中途社員が入社した際には必ず、決算書の読み方の勉強会を計6時間行っています。勉強会で、これから働く自社の損益状況や内部留保がいくらあるかを学びます。これまで決算書など見たこともなかった社員は、口をそろえて「初めて見ました」「入社してこのような勉強会があるとは驚きました」と話すそうです。

4 社員が株主になると業績がアップする

先ほどMEBOの話をしましたが、人を大切にする経営を実践する会社では、社員に自社の株式を持たせるケースが増えています。社員の会社への帰属意識を強めることで、「自分の会社」という認識が生まれるとともに、経営への参画意識も高まります。

岡山県岡山市のソフトウエア開発会社は、2014年に社長が設立した会社が、経営幹部が設立した「役員等持株会」とともに、全株式を取得するMBO(マネジメント・バイアウト)を実施しました。この時点で、社長が51%、役員等持株会が49%の持ち分となりました。

そして、最後の仕上げとして2020年、新たに「従業員持株会」を設立し、役員等持株会とともに、社長の持ち分を全て取得する形でMEBOを実施しました。MEBO実施後の持ち株比率は、役員等持株会82.5%、従業員持株会17.5%です。同社はウェブサイトで、MEBOの目的とメリットについて、次にように説明しています。

トップダウンだけで意思決定を行わず、社員一人ひとりが考えて行動する「セルフヘルプ型」の組織経営によって、ボトムアップが行われます。ボトムアップが浸透すれば、社員はさらに自主的に行動し、経営に対しても当事者意識、参画意識を持てるようになります。つまりオーナーシップカルチャーの醸成が実現します。

同社の経営理念は「社員の幸福を実現する」であり、経営戦略として次の5つを掲げています。まさに、人を大切にする経営の見本のような会社だといえるでしょう。同社の業績は、社員の高いモチベーションと生産性を背景に、安定して推移しています。

  • 経営判断においては、業績優先ではなく、社員の幸福実現を優先する
  • WTI(お客さまが喜んでお金を払いたくなる気持ち)創造を心掛け、長期的に着実に利益が上がる仕組みを構築することを目指す
  • 非価格競争領域の業務拡大を目指す
  • 社員のリストラは行わない
  • 社員一人ひとりの可能性を信じ、創造性を引き出すことを目指す

5 人を大切にする経営で実現する「心のM&A」

今、日本の中小企業を取り巻く最大の課題は、後継者不足です。黒字会社の約半数で後継者が不在とされ、社長の平均年齢は年々高齢化しています。こうした状況の中で、中小企業が将来的な経営戦略、財務戦略を検討する上で避けて通れないのが、M&Aという選択肢です。

1)社員の幸せを優先する経営が、「買収してほしい」と請われる要因に

群馬県前橋市に、環境コンサルティングビジネスを手掛ける会社があります。同社はこれまで、5件のM&Aを実施して、グループ企業としての成長を続けてきました。ただし、M&Aの在り方や手法は、従来の規模の拡大や資本の論理に基づいたものとは大きく異なります。

同社によるM&Aは、規模の拡大を目的にして自分たちから仕掛けたのではなく、先方から請われる形で、友好的に実施してきました。

同社の経営理念は、「全社員の幸せを通して、世の中に貢献(ありがとう)の輪を広げ、幸福総和No.1企業を創る」であり、社員の幸せを第一に考えた経営を行っています。そのような経営スタイルは業界において認知度も高く、同業他社などから「御社で事業を引き継いでほしい」「再生企業の支援企業として名乗りを上げてほしい」と要請されるようになったのです。

2)買収の目的は「一人でも多くの社員とその家族を幸せにすること」

ご存じの通り、M&Aで最も難しいとされるのは、買収側と被買収側の組織統合です。多くのM&Aの場合、被買収側の社員のモチベーションは下がります。しかし、同社によるM&Aの場合、被買収側の社員は、逆にモチベーションは上がります。

なぜなら、同社がM&Aを実施する目的は、規模の拡大ではなく、「一人でも多くの社員とその家族を幸せにすること」であり、「心のM&A」を行うからです。同社の経営者は被買収会社の社員に敬意を表し、一人ひとりの価値を認め、彼らの意見に耳を傾けるようにしているそうです。そして、まずは彼ら自身に、自社をどうすればよいのか考えてもらい、自分たちで考えた改善プランを経営に反映させていきます。それによって、被買収側の社員にも経営への参加意識が醸成され、グループ全体の改革や改善にも積極的に取り組むようになります。

さらに、もし被買収側の給与水準が業界平均よりも低いと判断した場合、買収側の役員報酬をゼロにしてでもベースアップを行うといいます。買収当初の改善プランで生み出した利益の増額分も、被買収側の社員に還元されます。

結果として、買収側と被買収側の双方が成長しますし、組織統合は円滑に進むことになります。被買収側の社員の一人は、「初めは疑っていた。しかし、言行一致を目の当たりにするにつれ、信じてついていってもいいんだなと思えるようになった」と話します。

この事例は、M&Aを成功させるのも、人を大切にする経営理念や社員のモチベーションが重要であることを示唆しています。そして、M&Aを、売り上げや利益の拡大ではなく、幸せな社員を増やすために活用するという考え方の有効性も示しています。

会社はどこまでいっても社会的存在であり、業界や地域社会に対する配慮を欠かしてはいけません。後継者不足が深刻化することが想定されるこれからの時代は、「新しい体制になって雇用が増え、地域が活性化し、納税額が増えた」と言ってもらえるような、「人を大切にするM&A」が必要とされているのです。

以上(2022年8月)
(執筆 人を大切にする経営学会事務局次長 坂本洋介、水沼啓幸)

【著者紹介】
坂本洋介(さかもと ようすけ)

1977年静岡県生まれ。東京経済大学大学院経営学研究科修了。株式会社アタックス「強くて愛される会社研究所」所長、コンサルタント。人を大切にする経営学会事務局次長。著者画像1
主な著書に「社員にもお客様にも価値ある会社」(かんき出版)、「小さな巨人企業を創りあげた 社長の『気づき』と『決断』」(かんき出版)「実践:ポストコロナを生き抜く術!強い会社の人を大切にする経営」(PHP研究所)他、連載、執筆多数。

水沼啓幸(みずぬま ひろゆき)
1977年栃木県生まれ。法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科修了(MBA)。株式会社サクシード代表取締役。人を大切にする経営学会事務局次長。作新学院大学客員教授。中小企業診断士。地域特化型M&Aプラットフォーム「ツグナラ」運営。著者画像2
主な著書に「地域一番コンサルタントになる方法」(同文舘出版)、「キャリアを活かす!地域一番コンサルタントの成長戦略」(同文舘出版)、「実践:ポストコロナを生き抜く術!強い会社の人を大切にする経営」(PHP研究所)他、「近代セールス」等連載、執筆多数。

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画像:fizkes-Adobe Stock

若手・中堅社員が最も上司にしたい/したくない戦国武将は、信長・秀吉・家康の中の誰?

書いてあること

  • 主な読者:若手・中堅社員が上司に対してどのように思っているのか知りたい経営者
  • 課題:若手・中堅社員にとっての理想の上司像、絶対に持ちたくない上司像を知る
  • 解決策:20代、30代の社員への、戦国武将に例えた理想の上司、絶対に持ちたくない上司に関するアンケート結果を参考にする

1 若手・中堅社員が抱く理想の上司像を知る

「あの社員は上からの評価は高いが、上司として若手・中堅社員に慕われているのだろうか?」

経営者の皆さんは、こんなことを考えたことがあるかもしれません。一社員として優秀なことと、上司として優秀なことは別の話ともいえます。

そこで、20代、30代の社員551人に「最も上司にしたい戦国武将」「最も上司にしたくない戦国武将」をアンケートで聞いてみました(2022年6月実施)。以降で戦国武将のランキングと、社員がその武将を選んだ理由を紹介しますので、上司に部下指導のアドバイスをする際や、ご自身が若手・中堅社員と接する際の参考にしてください。

なお、アンケートは2022年6月に、インターネットを通じて行いました。

2 最も上司にしたい戦国武将は、僅差で織田信長

1位 織田信長(71人、12.9%)    6位 黒田官兵衛(21人、3.8%)

2位 徳川家康(70人、12.7%)    7位 明智光秀(18人、3.3%)

3位 豊臣秀吉(50人、9.1%)     8位 伊達政宗(17人、3.1%)

4位 上杉謙信(30人、5.4%)     9位 毛利元就(14人、2.5%)

5位 武田信玄(27人、4.9%)    10位 北条氏政(9人、1.6%)

1)上司にはリーダーシップを発揮してほしい(織田信長、伊達政宗)

最も上司にしたい戦国武将で1位となったのは、織田信長です。信長のリーダーシップを評価する声が多く聞かれました。

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織田信長を最も上司にしたい理由

  • 「リーダーシップがありそう」(30代女性、30代男性)
  • 「指導力がありそう」(20代女性)、「カリスマ性がある」(30代男性、20代男性)
  • 「決断力がある」(30代男性)、「アクティブ」(20代女性)
  • 「頼りになる」(30代男性)、「一番凛々(りり)しくて、強そう」(20代女性)
  • 「革新的」(30代女性)、「チャレンジャーそうだから」(20代男性)

8位の伊達政宗についても、上司にしたい理由にリーダーシップを挙げる人が多く見られました。

伊達政宗を最も上司にしたい理由

  • 「リーダーシップに憧れる」(30代男性)
  • 「ついて行きたいと思った」(30代女性)
  • 「率先して物事に取り組んでくれそう」(30代男性)
  • 「威厳がある」(20代男性)

2)安心感のある環境で気持ちよく働きたい(徳川家康)

織田信長にわずか1票差で2位となった徳川家康を支持した人からは、その我慢強さからくる温厚なイメージや安心感を評価する声が多く聞かれました。

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徳川家康を最も上司にしたい理由

  • 「穏やかな感じがする」(30代男性、30代女性)、「大人(おとな)しそう」(30代男性)
  • 「一番温厚そうで賢い印象がある」(30代女性)
  • 「失敗しても許してくれそう」(30代男性)
  • 「優しそう」(30代女性、20代女性、20代男性、30代男性)
  • 「忍耐の心情が自分に合っている気がする」(20代女性)
  • 「安定感がある」(30代男性)、「心に余裕がありそう」(20代男性)
  • 「落ち着きがあってじっくりと評価してもらえそう」(30代男性)
  • 「何でも要望を聞いてくれそう」(20代男性)

3)賢い上司からの良きアドバイスが欲しい(豊臣秀吉、黒田官兵衛)

3位の豊臣秀吉や6位黒田官兵衛を支持する人からは、その賢さを評価する声が多く聞かれました。特に秀吉は、良いアドバイスをしてくれることへの期待が寄せられました。

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豊臣秀吉を最も上司にしたい理由

  • 「賢そう。自分では出せない発想でアドバイスをくれそう」(30代男性)
  • 「何かあったら自分で解決策を考えてくれそう」(30代女性)
  • 「アイデアがある」(30代男性)
  • 「頭がどれだけ良いのか見てみたい」(30代男性)

黒田官兵衛を最も上司にしたい理由

  • 「戦略的に物事を考えそう」(30代女性)、「策士だから」(30代男性)
  • 「頭を使い適材適所に配置する」(30代男性)
  • 「知的で納得がいく」(20代男性)、「穏やかそうで頭が切れそう」(30代女性)
  • 「時代の流れを読むのがうまく、感情的にならず虎視眈々(たんたん)と目標を狙えるところ」(30代女性)

4)誠実で信じられる上司がいい(上杉謙信)

戦国時代の3英傑に続く4位には、上杉謙信がランクインしました。謙信の誠実で廉直な人間性が評価されています。

上杉謙信を最も上司にしたい理由

  • 「信頼できそう」(30代男性)
  • 「誠実」(20代女性)、「義の人だから」(30代女性)
  • 「嫌なイメージがない」(30代女性)

5)頼れる上司の下で働きたい(武田信玄、毛利元就)

5位の武田信玄、9位の毛利元就に対しては、人望があって頼りになることを理由に挙げる声が多く聞かれました。

武田信玄を最も上司にしたい理由

  • 「内政に強く人望も厚い」(30代男性)、「情にあふれていそう」(30代男性)
  • 「威厳があって頼りになりそう」(30代女性)、「守ってくれそう」(20代女性)
  • 「部下を大切にしそう。包容力がありそう」(20代女性)
  • 「なんとなく強そうだし頭が良さそう」(30代女性)

毛利元就を最も上司にしたい理由

  • 「人望がありそう」(30代男性)、「貫禄」(30代男性)
  • 「臨機応変に対応してくれる」(30代男性)
  • 「どんな困難にも立ち向かっていきそうだから」(30代男性)

6)勝ち馬に乗っかりたい(家康、秀吉、謙信)

最も上司にしたい戦国武将を挙げたその他の理由として、「結果的に勝者であること」という回答も見られました。出世する上司に引き上げてもらいたい、というのが会社員の心情というものでしょうか。

徳川家康を最も上司にしたい理由

  • 「天下を統一したから」(30代男性)、「天下人だから」(30代男性)
  • 「自力で幕府を開いたから」(20代女性)

豊臣秀吉を最も上司にしたい理由

  • 「出世したから」(30代男性)

上杉謙信を最も上司にしたい理由

  • 「負けないから」(30代男性)

7)その他:上司はかっこよさも大事(信長、謙信)

この他、織田信長と回答した6人と、上杉謙信と回答した3人の理由は「かっこいい」というものでした。中には「生き方がかっこいい」という回答もありましたが、20代、30代の人の中には、ゲームや漫画などを通じて戦国武将のビジュアルイメージを持っている人がいることも想定されます。上司たるもの、身だしなみにも注意して、部下に「かっこいい」と思われたいものです。

3 最も上司にしたくない戦国武将は、ダントツで織田信長

1位 織田信長(143人、26.0%)    6位 北条氏政(13人、2.4%)

2位 豊臣秀吉(41人、7.4%)    7位 上杉謙信(10人、1.8%)

3位 徳川家康(39人、7.1%)    7位 毛利元就(10人、1.8%)

4位 明智光秀(21人、3.8%)    9位 伊達政宗(8人、1.5%)

5位 武田信玄(17人、3.1%)    10位 黒田官兵衛、宇喜多直家(6人、1.1%)

1)怖い、理不尽、パワハラ上司は嫌だ(信長)

最も上司にしたい戦国武将は意見が分かれましたが、最も上司にしたくない戦国武将については、全体の4分の1以上の人が織田信長と回答しました。圧倒的な理由が、「怖い」というもので、「理不尽」「パワハラ」など、心理的安全性を感じられないことが低評価につながっています。最も上司にしたい戦国武将に徳川家康を選んだ70人のうち、4割近い27人が最も上司にしたくない戦国武将に信長を挙げているのは、それを裏付けているといえるでしょう。

ちなみに、最も上司にしたい戦国武将に明智光秀を選んだ18人も、うち10人が最も上司にしたくない戦国武将に信長を挙げています。ある意味、「歴史の必然」とでもいえるでしょうか。

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織田信長を最も上司にしたくない理由

  • 「ミスしたら厳しく罰せられそう」(30代男性)、「ミスするのが命懸け」(30代女性、20代男性)
  • 「暴君」(30代男性)、「あまりに残虐」(30代男性)、「横暴そう」(30代女性)
  • 「ワンマンな気がする」(30代男性)、「我が道を貫きそう」(30代男性)
  • 「逆らうと殺されそう」(30代男性、20代女性)、「切り捨てタイプの上司は怖い」(20代女性、30代男性)、「信頼してもらえなさそう」(20代女性)
  • 「ノルマがきつそう」(30代男性)、「無茶振りされそう」(30代男性、30代女性)
  • 「個性が強すぎて、一度嫌われたら復活できなさそう」(30代女性)
  • 「自分以外の人間を見下していそう。気分次第で部下を叱責したりして、近くにいて身が持ちそうにない」(30代女性)

2)感情的、気まぐれなど人間性に欠陥がある(信長)

信長を最も上司にしたくない理由には、上司としての資質だけでなく、人間性に関するものも多く挙がっています。

織田信長を最も上司にしたくない理由

  • 「感情的なイメージだから」(20代女性)、「冷静さに欠ける」(30代男性)、「短気そう」(30代女性、30代男性、20代男性)、「キレそう」(30代女性)
  • 「自分勝手」(30代女性)、「気まぐれそう」(30代女性)、「気分の浮き沈みが激しそう」(20代女性)
  • 「弱い人の気持ちが分からなさそう」(20代女性)、「有能すぎるがゆえに人の感情や立場をかえりみないサイコパスのようなイメージがある」(20代男性)
  • 「気が強そうで上司にすると苦労しそう」(30代女性)
  • 「考えていることが分からない」(30代女性)

3)偉いのに“小物感”がある(秀吉)

2位の豊臣秀吉に対しては、“小物感”を嫌がる回答がありました。「人たらし」の能力で、日本史上、最大の出世を果たしたものの、それだけに上司に媚(こ)びたという印象もあるようです。上司には堂々としていてもらいたいということでしょうか。

豊臣秀吉を最も上司にしたくない理由

  • 「媚びた人は嫌だ」(30代男性)、「ヘコヘコしている」(30代男性)
  • 「ずる賢そう」(20代女性)、「ケチそう」(30代女性)
  • 「わがままそう」(20代女性)、「自分のことしか考えてなさそう」(30代女性)
  • 「せっかちで考え方が浅いイメージがある」(30代女性)

4)腹黒い上司は付き合いづらい(家康)

3位の徳川家康は、「狸親父(たぬきおやじ)」の異名の通り、腹黒いイメージから上司にしたくないと考える人もいました。

徳川家康を最も上司にしたくない理由

  • 「腹黒い」(30代男性)
  • 「ずる賢い」(30代男性)、「ずるいイメージ」(20代女性)
  • 「仕事のできない人にも、うだうだ言いそう」(30代女性)
  • 「臆病だから」(20代男性)

5)裏切る上司、卑怯な上司はNG(明智光秀)

4位に入った明智光秀には、どうしても「裏切り者」「謀反人」という経歴がついて回ってしまいます。光秀を最も上司にしたくない若手・中堅社員の心情は、「上司は信頼したい」「上司には自分を守ってほしい」という気持ちが強いということの裏返しでしょう。

明智光秀を最も上司にしたくない理由

  • 「裏切られるかもしれない不安があるから」(20代女性、30代男性、20代男性)
  • 「部下の失敗を助けてくれなさそう」(30代女性)
  • 「やり方が姑息(こそく)だから」(30代女性)、「卑怯(ひきょう)者」(30代男性)
  • 「時流が読めなさそう」(30代男性)

以上(2022年8月)

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画像:illustAC そげ

いまさら聞けないマーケティングの基本

書いてあること

  • 主な読者:「マーケティング」を意識できる組織を作りたい経営者
  • 課題:マーケティングの概念は幅広く、どこから学べばよいのか分からない
  • 解決策:マーケティングの基本として「マーケティング・ミックス」を学ぶ

1 マーケティングは「売るための取り組み」

マーケティングについては多くの専門家や団体が定義していますが、まとめるならば、

製品やサービスを販売するための一連の取り組み

といえます。そして、その具体的な取り組みがデジタル化の進展やコロナ禍などによって変化しているのです。

一方、マーケティングの重要性は認識しつつも、その専門的な知識がないため、過去と同じ手法の営業を続けている企業が少なくありません。どこまでマーケティングに集中するかは経営者の考え次第ですが、基本は押さえておきたいものです。この記事では、マーケティングの基本を紹介します。

2 マーケティングの基本構造

1)「主体」「対象」「目的」を明確にする

マーケティングには、外部の多様な対象に対して行われる活動が含まれます。マーケティングを「主体」「対象」「目的」の3つに分けた基本構造は次の通りです。

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マーケティングの主体である「企業」は、「市場創造(需要の開拓と拡大)」を実現するために、主要な対象となる「市場(ターゲット顧客)」に、さまざまな形で働き掛けます。

企業が市場にアプローチする際に、企業自身がコントロールできる要素として、「製品」「価格」「プロモーション」「流通チャネル」があります。これらの要素を「マーケティング・ミックス」(以下「MM」)と呼び、これらを組み合わせながら狙った市場にアプローチします。

2)自社内の他の活動と一体化させるための3つの適合性

マーケティングは、企業理念や企業目標を実現するための活動である必要があり、マーケティングは他の企業活動と一体的なものでなければなりません。次の3つの適合性を確保しながら、活動を行うことが重要です。

  • MM間の適合性
  • マーケティングの対象とMMの適合性
  • マーケティングと他の企業活動との適合性

3 市場(ターゲット顧客)の決定

1)3つの基本方針で市場(ターゲット顧客)を開拓する

マーケティングの目的である「市場創造(需要の開拓と拡大)」を実現するため、市場細分化基準を用いて市場調査を行い、対象となる市場を決定します。市場の特徴ごとに、次の3つの基本方針で参入します。

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1.マスマーケティング

ターゲット顧客や市場を特に指定せず、単一のMM(「製品」「価格」「プロモーション」「流通チャネル」を組み合わせたもの)で対応します。大量生産・大量消費を狙った製品やサービスを市場に投入する際などに使われます。大量生産や流通網の統一などでコストを抑え、市場で大きなシェアをつかむ際に取られる手法ですが、予算がかかるため、大企業向けの戦略といえます。

2.差別化マーケティング

画一的な手法のマスマーケティングに対し、差別化マーケティングは、市場を細分化し、その市場に最適なMMを提供することで、他社との差別化を図るものです。細分化した市場のニーズに合致した製品やサービスを提供することができれば、マスマーケティングとの激しい価格競争にも巻き込まれずに済みます。一方で、細分化した市場ごとに製品を作り、マーケティング手法も変えていかなければならないため、それをカバーできる経営資源が必要です。

3.集中的マーケティング

差別化マーケティングと同様に、1つのターゲット顧客層や地域市場などに経営資源を集中させる取り組みです。ターゲット顧客を絞り込むことで、他社よりも効率的に活動できる一方、ターゲット顧客を慎重に選ぶ必要があります。また、市場そのものが縮小・消滅するリスクも念頭に置かなければなりません。

2)市場細分化基準

差別化マーケティングや集中的マーケティングでは、市場細分化基準によって市場を分類します。市場細分化基準には、「デモグラフィック変数(人口動態的変数)」「サイコグラフィック変数(心理的変数)」があります。

デモグラフィック変数には、年齢、性別、学歴、職業、所得水準などの変数があります。しかし、市場の成熟化やそれに伴う消費の多様化などによって、同じ年齢層でもニーズが異なるなど、これのみで市場を細分化するのは困難になりつつあります。

こうしたデモグラフィック変数の問題点をカバーするものが、サイコグラフィック変数です。サイコグラフィック変数には、ライフスタイル、パーソナリティー、価値基準、購買動機などがあり、顧客のニーズを明確にすることができます。

4 マーケティング・ミックス(MM)で市場にアプローチする

MMは、先に紹介したそれぞれの市場(ターゲット顧客)に実際にアプローチするときの取り組みです。代表的な例として「4P」があります。これは、以下の「製品(Product)」「価格(Price)」「プロモーション(Promotion)」「流通チャネル(Place)」の4つの観点から、具体的な取り組みを組み合わせます。

1)製品(Product)

ターゲット顧客に提供する製品を検討します。製品そのものだけではなく、顧客にどういった利益(価値)を与えるかという視点からも検討します。具体的には、コンセプト、開発・製造方法、仕入れ方法、品質保証、アフターサービス、ブランドなどです。

2)価格(Price)

製品の販売価格を検討します。顧客に「製品には価格以上の価値がある」と思ってもらうことが重要です。なお、価格を下げるのは簡単ですが、価格は収益に直接的な影響を与えるので、安易な低価格販売は避けなければなりません。

3)プロモーション(Promotion)

販売促進やブランドの構築・維持のために、広告や販売促進方法などを検討します。プロモーションの手法には、テレビ・ラジオ・新聞などがあります。製品にもよりますが、動画を使ったインターネット広告も効果的です。

4)流通チャネル(Place)

製品の販売場所などを検討します。例えば、卸売業者を経由するか否か、または顧客に直接販売するか否かを考えます。小売店で販売する際にも、店舗をGMS(総合スーパー)のような大型店にするのか、小型の専門店にするのかなどを検討します。

以上(2022年8月)

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中小企業の経営者が知っておきたい 事業承継のお金や税金に関すること

前回は中小企業の事業承継で何を引き継ぐのか、概要を解説したが、今回はより具体的に、事業承継のお金や税金に関することを中心として、制度や特例にも触れていく。また、親族内承継と親族外承継の違いと問題点や解決策についても解説する。

(日本法令ビジネスガイドより)
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70歳雇用継続時代を見据えた 定年後再雇用者の活用と有期特措法第二種計画認定

今後ますますニーズが高まるであろう、有期雇用特別措置法の第二種計画認定の手続きについて解説するだけでなく、第二種計画認定を単なる手続きで終わらせない、自社の高齢労働者を活かすための措置の実施についても検討していきます。

(日本法令ビジネスガイドより)
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精神障害に関する労災を防ぐために

6月に厚生労働省より、令和3年度「過労死等の労災補償状況」が公表されました。これは過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害の状況について、労災請求件数や、「業務上疾病」と認定し労災保険給付を決定した支給決定件数などを、取りまとめたものになります。
本稿では、本資料の傾向を読み解きながら、労災に関するリスクについてご案内いたします。

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精神障害に関する労災を防ぐために

6月に厚生労働省より、令和3年度「過労死等の労災補償状況」が公表されました。これは過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスが原因で発病した精神障害の状況について、労災請求件数や、「業務上疾病」と認定し労災保険給付を決定した支給決定件数などを、取りまとめたものになります。
本稿では、本資料の傾向を読み解きながら、労災に関するリスクについてご案内いたします。

1 労災補償状況の傾向

公表資料を見ると、「脳・心臓疾患」に関する事案の労災支給決定件数については、減少傾向がみられるものの、「精神障害」に関する事案については、増加傾向かつ過去最高の件数となっており、喫緊の対策が求められていることが見て取れます。

■脳・心臓疾患の労災補償状況

脳・心臓疾患の労災補償状況

■精神障害の労災補償状況

精神障害の労災補償状況

2 「精神障害」の労災支給決定の原因となった出来事

それでは、増加が懸念される「精神障害」に関する事案について、具体的にどのような出来事を原因として労災が認定されているのでしょうか。資料を見ると、ハラスメントに関わる支給決定件数が約3割を占めていることが見て取れます。

■精神障害の出来事別決定及び支給決定件数一覧

精神障害の出来事別決定及び支給決定件数一覧

※支給決定件数上位6件を記載
※「特別な出来事」は、心理的負荷が極度のもの等の件数

3 ハラスメントが発生する職場の特徴

昨年公表された「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」では、パワハラを受けた方がいる職場の特徴として次のものがあがっています。

■職場の特徴(パワハラ経験有無別)現在の職場でパワハラを受けた方の数値

職場の特徴(パワハラ経験有無別)現在の職場でパワハラを受けた方の数値

※上位5件を記載

4 さいごに

パワハラという一事を取り上げましたが、前述の労災認定の出来事すべてにおいても、上司と部下との職場のコミュニケーションがあれば、「精神障害」の労災を回避できる可能性は高まるのではないでしょうか?今一度、職場のコミュニケーションを見返し、活性化を図ってみることをお勧めします。

※本内容は2022年7月12日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

【中小企業のためのM&A】財務デューディリジェンスの調査ポイント

書いてあること

  • 主な読者:対象会社(売り手)の財務上のリスクを把握したい買い手の経営者
  • 課題:対象会社の財務上のリスクを把握したいが、どのようにすればよいのか分からない
  • 解決策:財務デューディリジェンスで対象会社の財務・会計上のリスクを把握する

1 なぜ、財務デューディリジェンスが必要なのか

M&Aにおいて、対象会社(売り手)は何らかの目的や課題があって会社や事業を売却します。ですから、買い手は相手の実態を正確に把握しなければならず、その一環が「デューディリジェンス(以下「DD」)」です。DDの直訳は、「正当な・相当な(Due)、努力・注意(Diligence)」ですが、噛み砕くと、

買い手が、対象会社やその事業の実態を事前に把握し、価格や取引について適切な判断をするための調査

となります。

DDの分野はいくつかありますが、この記事では「財務DD」を取り上げます。財務数値は、

M&Aの可否に加えて、買収価格の決定などに大きく影響

します。ただし、一般的に財務DDは範囲が広い上に期間が短いです。また、対象会社から提出される財務数値は、企業の実態を正確に表していないケースが少なくなく、その判断に専門知識が多く必要とされるため、外部の専門家に依頼するのが通常です。

2 財務DDの進め方

財務DDでは主に次の3つのことが実施されます。

  • 資料の閲覧
  • 対象会社の経営者・実務担当者へのインタビュー
  • 上記1.と2.の情報の分析など

通常、財務DDの期間は3~4週間です。この期間内に、買い手と対象会社との間でやり取りし、情報開示が行われます。

インタビューは、経営者の他、必要に応じて経理等の実務担当者にも行うことがあります。ただ、M&Aは公にせずに実行されることが少なくないので、通常、情報共有の範囲は限定されます。実務担当者にもインタビューする場合は、情報漏洩の可能性に十分留意しましょう。

3 財務DDで調査されること

財務DDには、一般的な調査対象事項と呼ばれる項目はありますが、厳密に決まっているわけではありません。そのため、

経営者が「こんな情報があればM&Aの可否を検討できる」という情報の調査・分析が必要

ということになります。そうした意味では、対象会社にある財務・会計上の潜在的なリスクを調査し、その結果に応じて次のように対応を検討します。

  • 買収価格に反映する:正常収益力(事業そのものが生み出す実態の収益)などを基に企業価値を算定し、買収価格に反映する
  • スキームを変更する:簿外債務を引き継いでしまうリスクがあるので、株式譲渡から事業譲渡にスキームを変更する
  • 買収契約書または買収後の統合作業のプランニングなどに反映する:保有している不動産の収益性が低いので、売却する旨を契約書に反映する

では、具体的に財務DDの主な調査対象事項・分析手法を確認していきましょう。

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各分析手法の詳細や、実施に当たってよく見られる問題点を以降で紹介します。

4 財務DDで注意すべきこと

1)対象会社に対する理解

対象会社に対する理解では、対象会社の人員、管理体制の状況などを確認します。

この分析を実施することで、限られた財務DDの期間中にどの項目にリスクがあるかを把握しやすくなります。

よく見られる問題点は次の通りです。

  • 事業規模に比して、経理部門の人員が著しく不足している
  • 仕訳の作成と承認を同一担当者が行うといったように職務権限の分掌が十分でない
  • 対象会社が採用している会計方針が会計基準に則していない

2)純資産分析

純資産とは、

資産から負債を差し引いた正味の財産で、投資家からの出資金や利益の積み立て分など

です。純資産分析では、貸借対照表の各項目を精査し、含み損や簿外債務などがないかを調査します。そして、含み損などがあった場合、それを一定の基準日時点の対象会社の簿価純資産に加味し、調整します。

この分析を実施することで、買収後に買い手側の財務諸表に計上される、のれんの計上額および償却額の分析や、対象会社の貸借対照表において簿価と時価との差額が生じている項目を把握します。

よく見られる問題点は次の通りです。

  • 回収困難な売上債権について、貸倒引当金の計上や貸倒処理などの必要な処理がされていない
  • 長期間滞留している、または陳腐化している棚卸資産について、評価減などの必要な処理がされていない
  • 減損が必要な固定資産について、必要な処理がされていない
  • 支払義務のある仕入債務が計上されていない
  • 貸借対照表に計上されていない簿外債務の存在や、係争中で判決の結果によっては負債を負う可能性のある偶発債務の存在が考慮されていない

3)純有利子負債(ネットデット)分析

純有利子負債(ネットデット)とは、

有利子負債残高から現金および現金同等物を差し引いた正味(ネット)の有利子負債

です。純有利子負債分析では、有利子負債や余剰現預金に加え、

  • 将来のキャッシュフローに影響を及ぼす恐れがある非経常的な残高(デットライクアイテム)
  • 対象会社の事業遂行にあたり不要な資産(非事業用資産)
  • 一定の条件下で顕在化する可能性のある簿外債務(コミットメントや偶発債務)

を特定します。

この分析を実施することで、買収価格の決定に必要な情報が得られます。買収価格の決定には株式価値が最終的に大きな影響を与えますが、この株式価値は企業価値から純有利子負債(ネットデット)を差し引いたものになります。

よく見られる問題点は次の通りです。

  • 有利子負債の大部分をグループ会社からの借入に依存している
  • 確定給付型の退職給付制度を採用しており、退職給付会計上、貸借対照表に計上されていない退職給付債務が多額に存在する
  • 簿外債務の存在や訴訟等結果によっては負債を負う可能性のある偶発債務の存在がある

4)運転資本分析

運転資本とは、

事業運営上、短期的に計上・決済されることにより回転している資産および負債

です。一般的には、営業取引関連の運転資本である売上債権、棚卸資産、仕入債務の他、 未払金、前払金、その他流動資産、その他流動負債が含まれます。運転資本分析では、過去の運転資本残高の季節的変動やトレンドを分析し、正常的な運転資本水準を算出します。

この分析を実施することで、事業上、最低限必要とされる運転資本の水準が把握できます。

よく見られる問題点は次の通りです。

  • 回収可能性に疑義のある長期滞留売上債権や、販売可能性に疑義のある長期滞留在庫が存在する
  • 仕入先への支払条件や得意先からの回収条件が悪化し、必要となる運転資本金額が増加している
  • 運転資本水準の季節的変動が大きいため、買収のタイミングによっては、買収後に追加の出資が必要になる可能性がある

5)固定資産・設備投資分析

固定資産・設備投資分析では、過去に実施された設備投資や事業計画達成のために、将来的にどの程度の設備投資が必要かを明らかにします。具体的には、設備投資を新規投資と既存設備の維持・保守投資とに区分し、それぞれがどのような水準で推移しているか、また、対象会社の規模や業種に基づいて必要な投資サイクルを把握します。それを実績と比較し、必要な投資が先延ばしにされていないかを検証します。さらに、現行の生産能力や稼働率等を理解し、余剰の生産能力および投資予定の新規設備による生産能力の増強と事業計画上の前提が整合しているかの検証を行います。

この分析を実施することで、新たな設備投資や不要な固定資産の売却などを検討できます。

よく見られる問題点は次の通りです。

  • 事業継続上、必要性が高い設備投資が、資金的な理由により先延ばしになっている
  • 不採算店舗閉鎖後に、他の用途に転用できていない遊休状態の土地、建物や設備がある
  • 減損会計における資産のグルーピングの方法次第では、減損が必要な可能性がある

6)収益性分析

収益性分析では、調査の対象期間において同じ会計方針で財務諸表が作成されていることを前提に、過去の損益構造を理解するために、収益力の把握において有効な指標の特定やその変動要因を分析します。その上で、過去実績(非経常的要因が含まれている場合には調整を実施)と、事業計画の財務情報における比較可能性や一貫性を検討して、対象会社の収益性を分析します。

この分析を実施することで、対象会社が持つ稼ぐ力の実力値が把握できます。

よく見られる問題点は次の通りです。

  • 過去実績において一時的または非経常的な要因による収益が多額に計上されており、対象会社の「本来の実力値」である正常化損益に影響を与えている
  • 調査対象期間にわたって、適用されている会計処理や会計方針に一貫性がない、もしくは誤りがある
  • 多角化事業を営んでいる対象会社の場合、コア事業に関連しない事業や赤字が継続している事業がある

7)事業計画検証

事業計画検証では、対象会社が作成した事業計画の前提条件が過去の実績や現状と整合しているか、現状の余剰生産能力および新規の投資計画による生産能力増強分に比較して過度に乖離していないかなどを把握します。

この分析を実施することで、今後の事業運営を検討したり、企業価値を評価する際に使う情報が得られたりします。

よく見られる問題点は次の通りです。

  • 事業計画上、リリースされたばかりの新製品の売上に大きく依拠している
  • 計画期間における販売原価に原材料や人件費の増加分を見込んでいない
  • 生産計画が、既存設備及び新設設備による生産能力を遥かに上回っている

上記は比較的よく検出される懸念事項の一例に過ぎません。財務DDにおいて、ディールに重要な影響を及ぼす種々のリスクが出てくることも少なくないため、M&Aにおける財務DDのプロセスは非常に重要であることを改めてご認識いただければと思います。

以上(2022年8月)
(執筆 公認会計士・米国公認会計士 碓田篤史)

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画像:Bits and Splits-Adobe Stock

駐車場での事故防止(2022/08号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

駐車場は安全だと思い込んでいませんか?

歩行者が少なく、車も低速で走行する駐車場では、事故の危険を想定していないドライバーも多いと思います。しかし、車両事故の約3割は駐車場で発生しているとも言われており、駐車場には事故の危険が多く潜んでいます。

今回は、駐車場に潜む事故の危険と、事故を防ぐためのポイントについてお伝えします。

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1.駐車場事故の発生状況

令和3年の交通事故件数について、交通事故全体と駐車場での事故における人対車両事故の占める割合を比較すると、駐車場での事故は約2.5倍になっています。

また、車両相互事故件数について、後退時の事故が占める割合を比較すると、駐車場での事故は約13.5倍になっており、駐車場での車両相互事故の半分以上が後退時の事故です。

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出典:公益財団法人交通事故総合分析センター令和3年版「事故類型別(詳細)・昼夜別 道路線形別 全事故件数」より当社作成

駐車場で人対車両や後退時の事故の割合が多い理由として、以下の要因が考えられます。

【環境】

  • 歩行者や車の動きが不規則である。
  • 駐車車両や柱等の構造物による死角が多い。

【心理】

  • 駐車場に入ると、緊張がほぐれ油断しやすい。
  • 駐車スペースを探すことだけに集中してしまい、周囲の状況が見えにくくなる。

【操作】

  • 狭いスペースへのバック駐車など、運転操作が複雑である。
  • 車の前後左右の距離感を見誤る。

※公益財団法人交通事故総合分析センターの統計は人身事故の集計となっています。
※駐車場の定義は、公益財団法人交通事故総合分析センターの交通事故統計において「一般交通の場所」(「一般の交通の用に供するその他の※道路」に該当する場所及び事故が発生した道路が高速道路、国道、都道府県道等に付属して設けられているサービスエリア、パーキングエリア※等の場合をいう)としています。

2.駐車場に潜む事故の危険について

駐車場でよくある事故の事例から、駐車場に潜む危険について考えてみましょう。

【事例1】

駐車車両の死角から現れた歩行者との事故

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駐車場には駐車車両や柱等の構造物による死角が多く、歩行者が思いがけないところから現れたりします。

駐車場内の歩行者は、ドライバーが予測しにくい行動をすることがあります。

【事例2】

バック駐車時の駐車車両との接触事故

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狭いスペースへのバック駐車では、アクセル・ブレーキ・ハンドルの操作が頻繁となり、見落としや見誤りが生じるおそれがあります。

後続車が待っていると、「早く駐車しなければ」と焦りも生じ、安全確認が疎かになることがあります。

【事例3】

駐車場通路でのバックによる後続車との接触事故

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駐車スペースから出る車のために不用意にバックをすると、後続車と接触するおそれがあります。

駐車場通路でバックしたときに後続車等とぶつかってしまったというケースも少なくありません。

3.駐車場での事故を防止するためのポイント

駐車場では、以下の点に留意して、安全運転を心がけましょう。

  • 駐車場も道路の一部と考えて、油断したり気を抜いたりしない。
  • 駐車場では、常に徐行する。
  • バック駐車をするときは徐々にバックし、少しでも接触の危険を・感じた時は、無理をせず、もう一度やり直す。
  • バックモニターやクリアランスソナーが装備されている場合でも、それに頼り切らず、必ず自分の目でも後方の安全を確認する。
  • 発進するときは、両脇の車両との間隔に注意するとともに、通行・車両や歩行者がいないか、必ず確認する。

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バック駐車する時は歩く速度で慎重に!

以上(2022年8月)

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【朝礼】上を向こう。下も見よう。小さなことを見逃すな

1960年代に大変な人気を集めた、坂本九さんという歌手がいらっしゃいました。この方の代表的な歌で、アメリカでも大ヒットした「上を向いて歩こう」という曲があります。歌詞は、「上を向いて歩こう、涙がこぼれないように、思い出す春の日、一人ぽっちの夜」という、どちらかといえば悲しい気持ちを歌ったものです。これは、作詞を担当した永六輔さんが、つらいことがあって落ち込んでいたときに、ある人から「泣きたいときこそくよくよしないで上を向きなさい」と励まされた体験が基になってできた歌詞だといいます。

悲しいことやつらいことがあったときこそ、上を向いて、希望を持ち、前向きでいようというこの歌は、私たちにとっても、生きていく上で大切な気持ちの在り方を教えてくれていると思います。

こうした気持ちを持ち続けることができれば、ビジネスパーソンとしてもよい仕事ができるでしょう。ただし、ビジネスパーソンは上を向いているだけでは十分ではありません。上だけでなく、下もしっかり見ておくことが求められます。

ここで、私がいう下とは何か、それは決して「落ち込んだときにはしょぼくれていい」ということではありません。「毎日の仕事や生活の中で起きている、見逃してしまいがちな小さな出来事から目をそらさず、しっかりと見つめて何かに気づくことが大切だ」ということです。

毎日の出来事とは、例えば営業の仕事であれば、営業活動の中で聞くことができたお客様のちょっとした要望や不満、自社の商品を自分で使ってみた感想などがそれに当たるでしょう。

製造現場の仕事であれば、気づいてはいてもなんとなく見逃してしまっていた作業手順の非効率さや、逆に小さな工夫で効率を上げることができることはないかという、小さなアイデアがそれに該当するかもしれません。生活の中で気づいた「こんな商品があったらいいな」というちょっとした気付きも、そんな小さな出来事の一つでしょう。

要するに、毎日の仕事や生活の中で「足元で起きている小さな出来事をしっかりと見ることが大切である」ということを忘れないでほしいのです。

人はもちろん、前向きに上を向いて歩いていくべきだと思います。そうしなければ、仕事の上でもみなさんのプライベートな生活の上でも進歩や向上は得られないでしょうし、私自身もそうありたいと努力しています。けれども、ただやみくもに上ばかりを見て、自分自身の足元を見ないのは「高望み」のように思えます。足元が見えていなくては、逆につまらない石ころにつまずいて転んでしまうことにもなりかねません。

ビジネスでも生活でも、より良いものを作り出す、あるいは良いものへと育てていくための種は、小さな気付きだと私は思っています。その種は、目を凝らしていなければ見えないとても小さなものかもしれません。その小さな種を見逃さないためにも、自分自身の身の回りにあることに気を配り、常に足元を見ることを忘れないようにしましょう。

足元を固めているからこそ、上を向いて、希望を持ち、前向きでいることに自信が持てるのです。

以上(2022年8月)

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画像:Mariko Mitsuda