【朝礼】その成功の理由を探せ

「上司に褒められた」「プレゼンテーションがうまくいった」「新しい顧客を獲得した」「資格試験に合格した」「ダイエットでウエストが5センチ細くなった」など、人生にはさまざまな成功があります。

成功したときのいいようもない充実感、達成感、高揚感は非常に心地よいものです。人生においても、仕事においても成功体験が多いほど楽しいものであり、一つでも多くの成功体験を重ねていきたいものです。

よく「失敗から学ぶ」という言葉を聞きますが、「成功から学ぶ」ことも同じように重要です。また、「過去の成功体験を忘れろ」もよく聞く言葉ですが、忘れる前にすることがあります。それは、その成功をしっかりと分析することです。

世の中には「高い確率で成功できる人」がいます。こうした人は「成功の理由をとことん追究して次に生かしている」のです。失敗したときに「なぜ、失敗したのか」を分析するのと同じように、成功した次にやるべきことは、「なぜ、成功したのか」を分析し、理由を追究することです。成功を「あのときはラッキーだった」で終わらせてしまっては次の成功につながりません。成功に至った理由を追究して自分の頭と体に叩き込み、それを自分の「成功法則」にすることができれば、次も成功に導けるかもしれません。

自分の「成功法則」を整理するために、今日から二つのことを実践してください。

一つは、上司、同僚、家族、友人など身の回りの人に自分の成功体験を話してください。そうすることで、「あのとき、自分はこう思っていた」「相手の気持ちをこうして察した」など、成功した理由が客観的な言葉になって整理されてきます。

中には後付け的に出てくる理由もあるでしょうが、問題ではありません。それは、自分の成功を自分自身が分析した結果だからです。また、皆さんの話を聞いた上司や同僚などがいろいろと質問してくるでしょう。それに答えていくことによって、自分では気づかなかった新しい視点も生まれます。そして、このときに、話し相手の成功体験を聞くようにしましょう。人の成功体験は思った以上に刺激になります。

もう一つは、成功体験を「原因と結果」で整理して一冊のノートにまとめることです。この「私の成功ノート」には、成功の秘訣が文字で記されます。文字にすることで、成功がより具体化します。

経営の神様といわれた松下幸之助氏は「成功している会社はなぜ成功しているか。成功するようにやっているからだ。失敗している会社はなぜ失敗しているか。失敗するようにやっているからだ」といいました。

皆さんが成功するためには、これまで成功した理由を知り、そこから成功の法則を見つけ出し、その法則通りにやるより方法はありません。

最後に、成功するためにはチャレンジし続ける勇気を持つことも忘れてはなりません。大きな成功をした後ほど、「次は前ほどうまくいかないかもしれない」と気持ちが後ろ向きになりがちです。しかし、人生にもビジネスにも、かならず次のチャレンジが到来します。当たり前のことですが、チャレンジがなければ成功もありません。成功と失敗を多く経験し、その都度、理由を追究して自分のものにしていくことでしか、自分の「成功法則」を完成させることはできません。

以上(2022年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

センサーで健康状態の把握、データ解析で収益最大化など「畜産テック」最前線/新技術で変わる農林水産業(3)

書いてあること

  • 主な読者:業務の効率化や人手不足の解消を図りたい畜産業の経営者
  • 課題:どのようにすれば効率化や人手不足の解消が図れるのか分からない
  • 解決策:事例を参考に、センサーやAI、ビッグデータ解析などの新技術を取り入れる

1 テクノロジーで畜産業の課題を解決「畜産テック」

近年、農林水産業を営む企業で、人工知能(AI)やドローンなどのテクノロジーを取り入れる動きが出てきています。体力勝負のこまめな管理や、自然環境の影響を大きく受けるこれらの業界では、次のような課題が挙げられています。

  • 高齢化による人手不足、ノウハウの継承
  • 変化する自然環境への対応
  • 効率的、持続的な生産・収穫・漁獲体制の確立

このシリーズでは、農林水産業を営む企業が直面する課題を解決するための最新テクノロジーの動向と、その活用事例を紹介します。第3回の今回のテーマは、畜産業が直面する課題を解決するための「畜産テック」です。具体的には、

  • センサーを使った監視による分娩事故の防止
  • ウエアラブルデバイスからのデータ取得で、家畜の健康状態や繁殖情報を把握
  • AI解析により外観だけで判定する体重測定
  • ビッグデータの解析による、収益を最大化させるための飼育方法の最適化

といった取り組みを紹介します。

2 「畜産テック」取り組み事例

畜産テックによって、繁殖、個体の把握、飼育などで、次のようなことが可能になります。

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1)体内温度センサー・IoT/AI×分娩監視(牛)

牛の出産時の「子取り」に失敗する、いわゆる「分娩事故」によって子牛が死亡してしまうと、畜産農家にとっては大きな損失となります。このため、畜産農家は24時間体制で親牛を見守ることが少なくありませんでした。

リモート(大分県別府市)の「モバイル牛温恵」は、親牛の体内に入れた温度センサーによって、「分娩の約24時間前」や「1次破水時」などを検知してメールで通知します。

また、ノーリツプレシジョン(和歌山県和歌山市)の「牛わか」は、分娩房に設置したカメラが分娩を予定している親牛を監視し、分娩データを学習したAIが分娩前の特徴的な行動を検知してメールで通知します。

こうしたテックを活用することで、畜産農家が長時間親牛を見守っていなくても、分娩事故を減少させることが可能になるといいます。

2)ウエアラブルデバイス・AI×個体把握(牛)

牛の健康状態や繁殖状況をしっかりと把握するには、畜産農家に1頭ずつ観察する手間と経験が求められていました。特に繁殖に関しては、3分の2程度の牛の発情時刻が午後6時から午前6時までの間ともいわれており、授精のタイミングを逃してしまうことが少なくありません。牛は発情を1回逃すと、次の発情(平均21日後)まで約2万円の餌代がかかる他、乳量にも影響することから、受胎率の向上はコスト削減に効果があるといいます。

富士通Japan(東京都港区)の「牛歩SaaS」は、牛に取り付けた歩数計から自動的に集まる時間当たりの歩数を基に、発情開始時間・授精適期・受胎・未受胎・疾病などを判断します。一般的に発情開始時期に歩数が多くなるといわれており、発情兆候を検知して畜産農家にメールで通知します。また、過去の繁殖情報を分析し、繁殖作業予定の牛をカレンダー形式で表示します。

ファームノート(北海道帯広市)の「Farmnote color」は、牛に付けたウエアラブルデバイスで活動を24時間把握し、その情報をスマートフォンなどにリアルタイムで通知してくれます。具体的には、AIで個体差を把握した上で、それぞれの牛の活動量を解析。活動の低下や起立困難といった異常の際に通知をしてくれます。繁殖に関しては、発情や分娩の兆候に加え、授精の最適時刻も解析してくれます。飼育する牛に関する全てのデータはグラフなどで「見える化」されるので、妊娠率や発情見逃し頭数などを基に、繁殖に関する課題を把握することも可能といいます。

デザミス(東京都江東区)の「U-motion(ユーモーション)」も、牛に付けるタグに内蔵された複数のセンサーから、牛のデータをクラウドに収集、分析します。採食、飲水、反すう、動態、起立、横臥(おうが)、静止の7つの行動を、24時間リアルタイムで「見える化」しています。これらの行動データを分析することで、牛の発情、分娩、疾病といった兆候や、起立困難のアラート提供を行い、適切な処理や見回りの軽減に役立つといいます。

米国企業の日本法人MSDアニマルヘルス(東京都千代田区)の「SenseHub Dairy(センスハブデイリー)」は、牛の耳や首に取り付けるタグを使って、クラウド飼育管理システムを提供しています。世界で600万頭の牛のビッグデータに基づく解析も活用し、生産性の最大化をサポートしているのが特徴です。

3)非ウエアラブルデバイス・AI×個体把握(牛)

ウエアラブルデバイスを使わずに牛の状態を把握するテックもあります。

コンピューター総合研究所(茨城県水戸市)の「MOH-CAL(もーかる)」は、牛舎に取り付けた監視センサーで牛の採食時間、水飲み時間、立位・座位時間を1時間単位で集計します。同時に牛の行動変化をデータ化し、分娩兆候、起立困難状態を検出してメールで通知します。

太平洋工業(岐阜県大垣市)の「CAPSULE SENSE(カプセルセンス)」やThe Better(東京都新宿区)の「LiveCare(ライブケア)」は、温度と活動量を測定するカプセルを牛の胃の中に滞留させることで、牛の繁殖状況や健康状態を監視します。カプセルセンスは、一度牛の中に入れれば5年間はメンテナンスが不要な点が、ライブケアはカプセルケースがサトウキビ由来の材料を使用している点が、それぞれ特徴です。

4)AI×体重測定(豚)

豚の体重を1頭ずつ計測するには、時間も人手もかかります。また、体重は取引価格に影響しますし、体重の誤差は等級付けの際の「格落ち」の要因にもなります。このため、従来より豚の外観から体重を推定する「目勘(めかん)」と呼ばれる方法がありますが、長年の経験が求められる上に、ばらつきも生じてしまいます。

NTTテクノクロス(東京都港区)との共同研究で開発した伊藤忠飼料(東京都江東区)の「デジタル目勘(めかん)」は、専用の端末で豚を撮影して、外観から体重を推定します。真上から見た豚の体形や体長、体幅などの特徴量と、AIによって体重推定モデルを照合して算出します。実際の体重との誤差は4.5%以内といいます。

この他、アイピー通商(徳島県名西郡)の「eYeGrow(アイグロウ)」は、赤外線3Dカメラを使って豚舎内の豚の群の平均体重を計測し、データをスマートフォンなどに送信します。出荷時期の予測や飼育方法の最適化などに役立つといいます。

5)ロボット×飼育の自動化・省力化(牛、鶏)

ロボットなどを活用して、人力で行っている飼育作業を軽減するテックも開発されています。

オリオン機械(長野県須坂市)は酪農家の作業を軽減するために、自動搾乳ロボットや給飼機、哺乳機、牛床を清潔に保つための乾牧草やワラなどの敷料を自動で散布する敷料散布機、ふん尿搬出機といった、作業の自動化や省力化のための機械を販売しています。

東西産業貿易(東京都文京区)の「レイヤーウオッチャー」は、自動走行ロボットが撮影した画像をAI分析して、鶏舎内で死んでいる疑いのある鶏とそのゲージ列番号を表示します。表示されたゲージ列の段情報を選択すると、10秒間の検知動画を見ることができ、死んでいる鶏のチェックのための時間を従来の5分の1に削減するといいます。

6)人工衛星/ドローン×牧草地管理(牛)

国際航業(東京都新宿区)の「天晴れ(あっぱれ)」は、人工衛星やドローンからの画像を解析して、牧草地の生育状況を分析します。酪農家は牧草地を全て歩いて生育状況をチェックする必要がなくなり、草地更新の際は経年数ではなく、雑草の繁茂状況で牧草地を選ぶことなどが可能となるといいます。

7)ビッグデータ解析×飼育方法の最適化(牛、豚)

これまで牛や豚の飼育は人の経験や勘によって行われていたため、ムラやムダがつきものでした。これを改め、多くの畜産農家の飼育に関するデータを収集し解析することにより、収益を最大にするための飼育方法の最適化を進める取り組みが、民間・非民間団体ともに進んでいます。

酪農家向けには、家畜改良事業団(東京都江東区)が主体となって運営する「全国版畜産クラウド」が、2018年から始まりました。クラウド上のデータベースに牛の生産者団体からの個体識別情報、乳量・乳成分情報、人工授精情報、疾病履歴情報などのビッグデータを蓄積・解析して、効率的な畜産経営のための情報提供を行うシステムです。情報を提供している酪農家は無料で利用できます。このシステムを利用すると、例えば、個体識別情報を基に分娩間隔の長い牛を発見し、飼養改善や治療を行うことが可能になります。

養豚農家向けのサービスもあります。日本養豚開業獣医師協会(JASV)と農業・食品産業技術総合研究機構(茨城県つくば市)が開発した養豚農場の生産性評価システム「PigINFO」は、養豚農家の出荷頭数や販売金額などのデータを四半期ごとに集めて、ベンチマーク解析します。解析結果を基に、養豚農家は獣医師と連携して飼育方法などの改善に取り組めます。養豚農家の抗菌剤使用量などのデータ「PigINFO Bio」や、食肉衛生検査所での病気の検査データ「PigINFO Health」と連携させることで、抗菌剤の削減や疾病対策などにもつなげられるそうです。

この他、Eco-Pork(東京都墨田区)の養豚農家向けの経営管理システム「Porker(ポーカー)」は、繁殖や肥育など養豚に関するデータをスマートフォンなどから入力し、クラウドで管理します。飼育方法を最適化させるための分析を行い、経営改善に貢献するといいます。また、同社による豚舎の環境のモニタリングサービス「Porker-Sense-(ポーカーセンス)」は、IoTセンサーによって豚舎内の温度や湿度などをモニタリングします。異常時にはメールなどでのアラートによって豚の死亡事故を防ぐ他、生産成績と肥育環境をひも付けて分析してくれます。

3 畜産テック関連のデータ:ニーズと課題、需給など

これまで見てきたように、さまざまなシーンで「畜産テック」導入の動きが始まっています。農林水産省などの資料から、求められているニーズや需給などの状況を見てみましょう。

1)畜産テックのニーズ

全日本畜産経営者協会は2018年度から2019年度にかけて、「スマート畜産調査普及事業」を実施し、スマート畜産技術ニーズなどに関する畜産経営者へのアンケート調査を行いました。その報告書によると、酪農、肉用牛、養豚、採卵鶏、ブロイラーの各農家の畜産テックのニーズは、次のようなものが挙げられています。

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2)飼養頭(羽)数と飼養戸数の推移

農林水産省「農林水産統計」によると、国内の畜産農家の飼養頭(羽)数と飼養戸数の推移は次の通りです。飼養頭(羽)数はやや増加している一方で、飼養戸数が減少していることが分かります。

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以上(2022年8月)

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画像:shutterstock-Luke SW

【マーケティング】いまさら聞けないプロモーション戦略のポイント

書いてあること

  • 主な読者:「マーケティング」を意識できる組織を作りたい経営者
  • 課題:マーケティングの概念は幅広く、どこから学べばよいのか分からない
  • 解決策:マーケティングの基本として「マーケティング・ミックス」を学ぶ

1 プロモーション戦略の検討

プロモーションは、自社製品の販売を促進するための取り組みです。企業が行うべきことは多岐にわたりますが、この記事では、

  • 標的市場とプロモーション戦略の目的の決定
  • プロモーション・ミックスの取り組み方

という大切な2点を中心に紹介します。

2 標的市場とプロモーション戦略の目的の決定

プロモーションを実施する「標的市場」の設定は、事業ドメイン(企業が事業を展開する領域)を検討したり、新製品を開発したりする際などに行う「ターゲット顧客の設定」と同様の考え方で取り組むことができます。

注意すべきは、「プロモーション戦略の目的」です。プロモーションの目的は、消費者に自社製品を購入してもらい、売り上げを拡大させることです。すると、プロモーション戦略の目的が、とにかく「売り上げ増加」ということになりがちです。

しかし、消費者は「製品に対するニーズを感じたら、すぐに製品を購入する」といったように単純ではありません。例えば、自動車などの高額製品や、消費者の関与度(こだわり度)の高い製品は、次のプロセスを経て製品の購入に至るといわれています。

  • 認知段階:製品に関する情報収集などを通じて「製品について知る段階」
  • 情動段階:収集した情報などを基に「製品を評価する段階」
  • 行動段階:評価した結果を基に「実際に製品を購入する段階」

認知段階では、製品の名称や特長などを消費者に知ってもらうことが大切です。情動段階では、自社製品が消費者のニーズを十分満たすものであることをアピールし、自社製品に対して好意を抱いてもらい、良い製品であると認識してもらうことが大切です。

そして、行動段階では、自社製品に対して好意を抱いている消費者の購買行動を促すことが大切です。逆に「値引き」などのセールスプロモーションは、「行動段階」においては効果があり、「認知段階」での効果は薄いといわれています。

ただし、消費者の購買プロセスは一様ではありません。関与度(こだわり度)の高い製品は上記のプロセスを経る場合が多いのですが、日用品など関与度が低い製品は、知っている製品を購入し、その使用経験から評価するというプロセスを経ることがあります。つまり、「認知段階→行動段階→情動段階」というプロセスです。

プロモーション戦略の目的を設定する際は、その製品カテゴリーにおける消費者の購買プロセスの特徴や、自社製品に対する消費者の認知度などを勘案した上で検討する必要があります。

3 広告

1)訴求内容に基づく広告の分類1:製品広告と制度(企業)広告

製品広告は特定の製品について行われる広告で、私たちが多く目にするものです。一方、制度(企業)広告とは、製品そのものを売るためではなく、企業の姿勢、考え方などを広告し、それによって人々に好意や好感を持ってもらい、親密度や信頼度を高めようとするものです。自社のイメージ向上などを目的に行われるケースが一般的です。

2)訴求内容に基づく広告の分類2:情報提供型広告と説得型広告

革新的な製品については、最初に、その製品が消費者にもたらすメリットや製品の使用方法などを消費者に理解してもらう必要があります。こうした内容を中心に訴求している広告を情報提供型広告といいます。一方、説得型広告とは、自社製品の特長などを訴求し、多くの競合する製品の中から自社製品を選択してもらうために行うものです。

3)訴求内容に基づく広告の分類3:その他の広告

その他の広告には、比較広告とリマインダー広告があります。比較広告は、競合他社の製品と自社製品を比較したり、自社の旧製品と新製品を比較したりするなどして、自社製品あるいは新製品が優れていることを訴求するものです。リマインダー広告は、既に構築されているブランドや、消費者の間に浸透している認知度を維持するためのものです。

4 パブリシティー

パブリシティーとは、広報活動のことをいい、新聞・雑誌の記事やテレビの特集コーナーなどを通じて、自社の情報をマスメディアに取り上げてもらうよう働き掛ける取り組みです。

第三者による客観的な視点から評価された情報であるパブリシティーは、信頼性の高い情報として消費者に認識されます。企業はパブリシティーを通じて自社の情報を発信したいところですが、取り上げる情報を決定する権限はメディア側にあります。

従って、パブリシティーを活用するためには、情報の発信者であるメディアに注目してもらわなければなりません。そのためには、「メディアが注目しそうな情報を積極的に発信する」ことが大切です。

発信する情報には、新製品情報の他に、ボランティア活動などの社会貢献活動、経営者など社内人材に関する情報(執筆した出版物)などがあります。展示会や期間限定のイベントなどを行い、メディアが注目する話題づくりに取り組むことも有効です。

5 人的販売

人的販売とは、販売員が消費者と直接コミュニケーションを図りながら製品を販売することです。人的販売を行う販売員の役割は、「オーダーゲッター」「オーダーテイカー」「ミッショナリー」の3つに大別できます。

オーダーゲッターは新規顧客の開拓が役割、オーダーテイカーは既存取引先との関係性の維持が役割、ミッショナリーは受注の獲得ではなく、消費者との良好な関係構築や、消費者が必要としている情報の提供などが主な役割です。

営業部門の施策をこうした視点で見直すと、取り組みが不十分な点が分かることがあります。例えば、「新規顧客の獲得1件につき○円支給」といったように、オーダーゲッターに対してはインセンティブ制度を設けている企業は多いものの、その他の役割には、こうした施策を検討していない企業もあります。これでは不満が出てしまうでしょう。

6 セールスプロモーション

セールスプロモーションは、広告、パブリシティー、人的販売以外の手法で、消費者や流通業者などの需要を刺激する全ての取り組みのことをいいます。消費者に直接働き掛ける「消費者プロモーション」と、製造業者などが小売店などの取引先企業に対して働き掛ける「企業間プロモーション」があります。

消費者プロモーションには、試供品の提供、クーポンの配布、景品のプレゼント、陳列POPによるアピールなどがあります。企業間プロモーションには、アローワンス(小売業者などが自社の意図に従って行動してくれたときに金銭を還元するプロモーション。「陳列アローワンス」など)、優遇条件による特別出荷、販売奨励策などがあります。

7 プロモーション・ミックスの取り組み方

1)プロモーション・ミックスの検討事項

プロモーションの手法は多岐にわたり、効果もさまざまです。一般的に企業がプロモーションを行う場合、自社の目的に合ったプロモーション手法を選択し、複数の手法を組み合わせて(プロモーション・ミックス)取り組んでいくことになります。

自社の目的に合ったプロモーション手法を検討する際には、「製品のタイプ」「プロモーション戦略の基本方針(「プッシュ戦略」と「プル戦略」)」「消費者の購買プロセス」「製品ライフサイクルの段階」の4つの視点から考えることが基本です。

2)製品のタイプ

生産財のプロモーションは「人的販売」「セールスプロモーション」「広告」「パブリシティー」の順、消費財のプロモーションは「広告」「セールスプロモーション」「人的販売」「パブリシティー」の順に効果が高いといわれています。

3)プロモーション戦略の基本方針(「プッシュ戦略」と「プル戦略」)

プッシュ戦略は、製造業者が小売業者などに対して、自社製品を積極的に販売してもらう戦略です。人的販売や企業間プロモーションが重要になります。

一方、プル戦略は、消費者に自社製品の魅力を直接訴求することで、購買意欲を喚起して、「自社製品の指名買い」を促す戦略です。広告や消費者プロモーションが重要になります。

4)消費者の購買プロセス

「認知段階」「情動段階」「行動段階」に応じて、効果の高いプロモーション手法は異なります。「認知段階」では、多くの情報を提供できる広告や、「第三者の信頼できる情報」であるパブリシティーの効果が高いといわれています。

そして、製品に対する認知が深まると、消費者は詳細な情報を求めるようになるため、対話を通じて必要な情報を得ることができる人的販売の効果が高くなります。製品の評価を行う「情動段階」でも、同様に人的販売の効果が高くなります。

実際に製品を購入する「行動段階」では、値引きなど製品の購入を促す効果の高いセールスプロモーションが有効です。また、購入するか否か迷っている消費者に、「最後の一押し」を行う存在として人的販売の効果が高いといわれています。

5)製品ライフサイクルの段階

製品には、新規に開発されて市場に登場する「導入期」から「成長期」「成熟期」を経て「衰退期」を迎えて市場から消えていく、製品ライフサイクル(Product Life Cycle、以下「PLC」)という考え方があります。

「導入期」は製品に対する十分な知識がない消費者の多い段階です。製品のもたらすメリットや製品の使用方法などさまざまな情報を伝えたり、製品自体の認知度を向上させたりすることのできる広告やパブリシティーの効果が高くなります。

「成長期」は企業間競争が比較的穏やかな段階です。製品の認知度が高まっていることもあり、プロモーションの規模を縮小することができます。

「成熟期」は企業間競争の激しくなる段階です。消費者の購買行動を促すセールスプロモーションの効果が高くなります。また、多くの競合製品の中から自社製品を購入してもらうために、消費者に自社製品を強く印象付ける広告も重要です。

「衰退期」は市場が縮小している段階です。消費者から見ると、機能面など製品自体の持つ魅力(メリット)などは小さくなっています。そのため、値引きなどのセールスプロモーションの効果が大きくなります。

以上(2022年8月)

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画像:unsplash

【SDGs】(前編)中小企業がSDGsで「稼ぐ」ための3つのステージ

書いてあること

  • 主な読者:SDGsに関心はあるけれど、二の足を踏んでいる経営者
  • 課題:会社としてSDGsに取り組むメリットが分からない
  • 解決策:SDGsを会社の利益に結びつけるための3つのステージを実践する

1 中小企業はSDGsで利益を出せます

  • 商品に「売り上げのうち1円を地元の自治体に寄付します」と表示したら、売り上げが飛躍的に増えた
  • 自社のショールームと工場見学通路にSDGsの取り組みを掲示してSNSなどで発信したら、県内の小・中・高校からの工場見学が殺到した
  • 県が認定するSDGs推進建設企業登録制度に認定登録して自社のウェブサイトでPRしたら、引き合いが増えた

これらは、私たちがSDGs活動に関してコンサルティングをさせていただいた中小企業で、実際にあった話です。中小企業の多くの経営者の方は、SDGsの話になると、真っ先に「SDGsでどうやって稼げるの?」というご質問をされます。その答えは、

SDGsは、やり方次第で利益を出すことができます。逆に今からSDGsをやっておかないと、今後は商機を失ってしまうかもしれません

ということです。背景には、製品やサービスを買う際の判断基準として、ビジネスを通して社会や環境に良い影響を与えていることが重視される時代に進んでいることがあります。

このシリーズでは、中小企業がSDGsで利益を出すために必要な3つのステージを、私たちがコンサルティングをさせていただいている中小企業の具体例も交えながら、2回にわたって紹介します。

中小企業がSDGsで利益を出すためにクリアすべき3つのステージは次の通りです。

  • 第1ステージ:SDGsを知り、社内の活動を全てSDGsにひも付ける
  • 第2ステージ:SDGsに関する自社の強みと課題を明確にして活動方針を決める
  • 第3ステージ:SDGsに関する活動を社内業務の利益・社会貢献の発信に結びつける

よくあるのは第1ステージだけで終わってしまうケースです。自社がSDGsを行っていることが分かっただけで、それ以上何も行わないのでは、「稼ぎ」につながりません。社内で自社の強みと課題を共有することによって、強みから利益を生み出すとともに、課題から見えた社会貢献活動への取り組みを発信して認知度を高めることが肝要です。

2 SDGsの考え方や仕組みの最重要ポイント

3つのステージをご紹介する前に、SDGsの考え方や仕組みについて、「SDGsで稼ぐ」ための最も重要なポイントだけご説明いたします。

1)SDGsにはマイナスのイメージがほとんどない

SDGsという言葉にマイナスのイメージを持つ人は、皆無といっていいでしょう。当たり前のように思えますが、実は企業活動にとって強力な「魔法」になり得るものです。

どのような企業活動でも、営利目的である以上、見方によってはマイナスの側面が出てきてしまうものです。ところが、SDGsは前面に押し出しても、こうした懸念は不要です。自社のさまざまな活動について、SDGsという「魔法」をかけて発信することで、その企業が社会課題解決を担う、持続的可能で将来有望な企業だと認知されることになります。

ある意味で自社がSDGsに取り組んでいることは、「アピールした者勝ち」といえます。自社のウェブサイトの他、顧客向け、求人向けなど、あらゆる場面で宣伝すべきです。

2)「SDGsやってるの?」から「SDGsやってないの?」の時代に

大企業や金融機関などは、SDGsの取り組み実績に応じて取引先の選定を行うようになってきており、仕事の可否を決めるようになり始めています。

私たちはSDGsに関するコンサルティングをさせていただいていますが、近い将来、「SDGs監査」が行われるのではないかと想定し、監査ツールの構築を行っています。つまり、遠からず、企業が「SDGsやってるの?」と聞かれる時代から、「SDGsやってないの?」と聞かれる時代がやってくるということです。

SDGsは、「ヒト・モノ・カネ」という企業経営の全てに関連しており、しかも世界の共通言語になってきています。「モノ・カネ」に続いて人的資本の開示が求められていく時代において、SDGsは企業価値を判断するための、明確で分かりやすい指標になってきているのです。

3 第1ステージ:社内の活動を全てSDGsにひも付ける

1)企業活動におけるSDGsの範囲を知る

それでは第1ステージとして、SDGsを知り、社内の活動を全てSDGsにひも付けることから始めましょう。社内の活動をSDGsに置き換えることを前提にした「SDGsを知る」ということは、企業活動をSDGsの活動として捉えてみることが大事です。環境省によるSDGsガイドは、企業活動をSDGsにひも付けるのに役立ちます。

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SDGsの17のゴールには、それぞれ企業活動にも連想されるターゲットキーワードがあります。例えばゴール1「貧困をなくそう」であれば、貧困・災害・社会的保護・土地・レジリエントなど、ゴール8「働きがいも経済成長も」であれば、雇用・生産性・働きがい・労働・女性・障がい者などがターゲットキーワードです。これらのターゲットキーワードを、社内の活動をSDGsにひも付けるための参考にしましょう。

SDGsを知るには、外部の講師を招いてセミナーを開催するのもよいでしょう。社員にもSDGsに対する関心を持ってもらうことが大切です。

2)給茶機の導入や社員の地元の祭りへの参加もSDGsとひも付け

SDGsについて知ったら、いよいよ社内の活動を全てSDGsにひも付けていきましょう。

「うちの会社はSDGsなんて何もしていない」と言っている会社でも、実はSDGsにひも付けできる活動を行っているのに、気付いていないだけです。

実例としてご紹介させていただくのが、私たちが1年以上にわたりコンサルティングさせていただいた、作業工具製造のマルト長谷川工作所(新潟県三条市)です。同社はウェブサイトにSDGsへの取り組みを掲載していますが、自社の事業や業務改善、社員教育などの営利活動だけでなく、給茶機の導入などにまでSDGsにひも付けています。以下に一部例を紹介します。

  • 生産性向上への取り組み:ゴール8「働きがいも経済成長も」、ゴール9「産業と技術革新の基盤をつくろう」
  • 社員教育(若手への技術伝承):ゴール4「質の高い教育をみんなに」
  • 自社で製造している爪切りを活用した独自のネイルケア方法を啓蒙する事業:ゴール3「すべての人に健康と福祉を」
  • 給茶機の導入:ゴール2「飢餓をゼロに」、ゴール6「安全な水とトイレを世界中に」
  • 社員が地元の祭りに参加している:ゴール11「住み続けられるまちづくりを」
  • 社員が除雪車で近所の道路も除雪している:ゴール11「住み続けられるまちづくりを」

「給茶機の導入もSDGsなの?」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。ですが同社では、給茶機の導入によって捨てるお茶がなくなり、節水にもなっていることをしっかりとアピールしています。まさに、「物は言いよう」、少し強引であってもいいので、SDGsの魔法をかけてしまいましょう。

3)会社の経営方針とSDGsもひも付け

多くの中小企業は、経営理念や社是、社訓などの「経営方針」があります。そうした経営方針を、社内の活動と同様にSDGsとひも付けていくことで、社内外の人たちに分かりやすくアピールすることができます。

先ほど紹介したマルト長谷川工作所の企業理念は、「一人ひとりが輝く人づくりでつながりと感謝の心を育みます」「世界を駆けめぐる物づくりで縁のある全ての人を幸せにします」という2つです。先ほどのSDGsへの取り組みを紹介するウェブサイトでは、最初に「世界を駆けめぐる物づくりを通じて持続可能な社会実現に向けて、SDGsの達成に貢献いたします」と、企業理念とSDGsをひも付けています。こうすることで、「私の会社は企業理念にもSDGsの精神を掲げています」ということを、しっかりと社内外にアピールすることができています。

4 第2ステージ:SDGsに関する自社の強みと課題を明確にして活動方針を決める

社内の活動を全てSDGsにひも付ける作業が終わったら、その中での自社の強みと課題を明確にし、活動方針を決めます。そのためには、まずはSDGsにひも付けた社内の活動を分類し、分類ごとに優先順位を付けて活動方針を決めることが必要になります。

1)企業によるSDGsを4類型に分類する

ひも付けした社内の活動は、4つの類型に分類することができます。

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左上の「社内での全社の活動(社内環境)」は、主に社内の環境づくりを表しています。働き方改革に基づく労働環境の改善や、社員の権利の強化などが該当します。マルト長谷川工作所の事例では、1.の生産性能向上への取り組みや、2.の社員教育が含まれます。残業削減や休暇の取り方、育児介護休暇などの推進、健康経営や会社が定めるホワイトマーク認定など、働く人の心理的安全性を高めることで働く人のやる気を引き出すことにもつながります。

左下の「社内での個人の活動(会社生活)」は、社内での個人によるSDGsの取り組みです。会社が社員のSDGsへの取り組みを支援するもので、マルト長谷川工作所では4.給茶機の導入や、6.社員が除雪車で近所の道路も除雪していることが該当するでしょう。

右上の「社外での業務の活動(会社業務)」は、社外での営利活動です。マルト長谷川工作所では3. 自社で製造している爪切りを活用した独自のネイルケア方法を啓蒙する事業が該当します。この記事のテーマである、SDGsで「稼ぐ」ことの早期実現を目指すのであれば、この

「社外での業務活動」にSDGsのための資源を集中させる

ことが重要です。他の社内活動よりも、自社の営利活動が社会課題の解決につながることを明確にして、SDGsのいずれかのゴールにひも付いた形にすることを優先させるのです。

右下の「社外での外部の活動(個人活動)」は、マルト長谷川工作所では5.社員が地元の祭りに参加していることが該当するでしょう。

自社の「稼ぎ」を考えた場合、「社外での業務の活動」「社内での全社の活動」の優先度が高いといえます。残りの「社内での個人の活動」「社外での外部の活動」は、採用活動やイメージアップなど、長期的な利益向上のための取り組みだということを認識しておきましょう。

優先順位の低い2つの類型については、自社だけで取り組むのでなく、関わる人を増やすことで、「SDGsの共通コスト削減(注)」につなげましょう。

(注)SDGsをコストに見立て、活動を行うたびにコストが削減するという意味で用いています

2)自社の強みと課題の抽出

SDGsに取り組むといっても、17のゴール全てに取り組み、全てをアピールする必要はありません。自社の活動に最も合ったゴールだけを前面に押し出すようにしましょう。

前述したように、特に優先するのは、4類型の区分けをした中の「社外での業務の活動(会社業務)」に該当するものです。この中で、自社の強みであり、コストが掛からず即時に効果の上がる、つまり利益増加と社会課題の解決に結び付きやすい活動を選定して優先的に行うことが大切です。

逆に、利益増加と社会課題の解決に結び付きにくい活動は、なぜ結び付きにくいのかという課題が見えてくるはずです。

今回はこれで終わりです。後編では、第3ステージの解説と、私たちがコンサルティングをさせていただき、実際にSDGsで利益やメリットを得ている中小企業の成功事例について紹介させていただきます。

以上(2022年8月)

【著者紹介】
井上浩仁(いのうえ ひろひと)

NAコンサルティンググループ代表 https://na-consulting-group.jp/
著者画像1
【働く人の安全と健康をモットーに社会に還元奉仕する】を信条とし、ワークライフバランスの実現をはじめとするホワイト企業戦略に基づくSDGs経営・健康経営・業務効率化・人事評価制度構築・安全衛生・ハラスメント対策など多様な従業員の環境づくりと人的資本コンサルティングにおける企業の目指す目的に沿った中長期的な人財デザインを行っている。県内外中小企業・各商工会議所・経済団体・学校などの共催セミナーなども開催しており、社会で輝く人財づくりに尽力している。

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画像:shutterstock-brutto film

中小製造業が生まれ変わる DtoCビジネスを始めるときにまず知っておくべきこと

書いてあること

  • 主な読者:中小製造業で新しくDtoCビジネスに取り組みたい経営者
  • 課題:DtoCビジネスとはどのようなものか、従来の製造業と何が違うのか理解したい
  • 解決策:DtoCビジネスの成功エッセンスを活かし、新しい視点で製品づくりに取り組むことで、事業領域を広げる可能性が高まる

1 従来の製造業とは全く異なる「DtoC」ビジネス

皆さまは、DtoCという言葉を聞いたことはあるでしょうか。DtoCとは、Direct to Consumer(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)の略で、

メーカーが自社で企画した製品を店舗や仲介業者を通すことなく、自社ECサイトなどを用いて、顧客に直接販売する手法

のことです。D2Cとも表記される場合もあります。この定義だけだと、いわゆる「直販」と同じようにも思えますが、決定的な違いは、

DtoCは、メーカーが顧客と直接、双方向でつながっている

ということです。このDtoCならではの特徴を活かすと、従来の製造業とは違う「新しい製造業」に生まれ変わる可能性を秘めています。なぜなら、DtoCビジネスでの成功事例を分析すると、従来の製造業にはなかった5つのエッセンスが挙げられるからです。

  • 商品化前の段階から顧客の意見を聞いて、顧客とともに創る
  • 自社の理念を込めた製品づくりで従業員も自社や製品のファンにする
  • 製品が生まれたストーリーを伝えて顧客の共感を得る
  • 顧客データを活用して顧客のより細かいニーズに対応する
  • 社会課題の解決につながる「ソーシャルグッド」の要素を入れて支持を得る

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この記事では、DtoCビジネスとはどのようなものか、従来の製造業と何が違うのかをご説明します。DtoCビジネスの特徴である新たな視点で製品づくりに取り組むことで、事業領域を広げるための参考にしていただければと思います。

2 DtoCビジネスを始めるメリット

DtoCビジネスが、従来の製造業とも、いわゆる直販とも違うということはご理解いただけたかと思います。では、次に事業戦略的な側面から、中小製造業者がDtoCビジネスを始めるメリットについてご説明いたします。

1)場所の制限がない

中小製造業者の中には、地域社会に根ざして製造販売を行っている企業も多いのではないかと思います。つまり、地域の流通網に商品を流し、販売をする方法です。こうした中小製造業者が生き残るためには、マーケットを広げていく必要があります。DtoCビジネスであれば、販売エリアは制限がなくなり、全国・世界を対象として販売をすることができます。

また、コロナ禍などでオンライン化がますます進み、オンライン商談会、商品説明会などが盛んに行われていますので、ニーズに合った顧客は全国から獲得することができます。今や製品を購入するための要件として、製品が自分の近くにある必要がないのです。

2)顧客の反応を試してから商品化できる

DtoCビジネスを行う企業には、クラウドファンディングで資金を集めてから製品をつくるケースも多く見られます。

このような製造手順は、債権回収リスクを減らすこともメリットですが、最大のメリットは、製品をつくる前に市場に受け入れられるかどうか検証できることです。事前に注文数も分かるので、受注生産のような形となり、在庫リスクを減らすこともできます。

クラウドファンディングサイトでは、次々と新しい製品の販売テストが行われており、実際のユーザーの声を基にして製品を進化させるという作業が繰り返されています。

3)製品を常に改良していくことが前提になっている

従来の製造業では、製品開発にじっくりと時間をかけ、「完成品」にしてから市場に出すことが一般的です。これに対してDtoCビジネスの場合は、製品は顧客の声を基に常に改良され、変化することを前提としています。つまり、「永遠のベータ版」であるといえます。

その根底には、DtoCビジネスの成功事例のエッセンスでも触れたように、DtoCを行う企業と顧客との共創関係があります。この関係があることによって、顧客の声を聞いて製品を改良するという取り組み自体が、「自分の意見が取り入れられた」と感じた顧客をファンにすることにもつながります。

ただし、製品は改良しても、製品に込められたストーリーや強い思いは変えないことが大切です。そのコンセプトに製品をより近づけるために変化した、という理解を得られるからです。コンセプトさえ変わらなければ、製品自体は必ずしも固定されていなくても顧客に受け入れられるものですし、逆に固定していないことが価値になる、ということもあるのです。

3 DtoCビジネスで成功する5つのエッセンスと事例

DtoCビジネスを始めるメリットをご理解いただいた上で、冒頭でも触れた、DtoCビジネスの成功のための5つのエッセンスについて、事例を交えながら詳しく解説いたします。

1)お客さまとつくる~顧客との共創~

通販で販売されている製品の誕生のきっかけを探ってみると、大手のメーカーが独自に持ち合わせている成分を使ってサプリメントにした、といったものが多く見られます。いわゆる「プロダクトアウト型」の高付加価値商品です。

これに対して、DtoCでは究極の「マーケットイン型」の製品をつくることができます。

アパレルDtoCのALL YOURS(オールユーアズ)は、「インターネット時代のワークウェア」をコンセプトに、クラウドファンディングで製造資金を得て立ち上がった会社です。製品が出来上がる前に、まず製品のコンセプトと製品案を発表し、ファンに受け入れられることを確認してから実販売につなげる点は、まさに新しいビジネスモデルであるといえるでしょう。

ALL YOURSでは、顧客のことを「共犯者」と呼んでいます。

大事になってくるのは、コンセプトに共感し、応援してくれる顧客です。この顧客を共犯者と呼ぶことで、ブランドとの一体感が生まれ、一緒にブランドを共創していく意識が芽生えているのです。

DtoCの良いところは、顧客と直接つながれることです。直接つながることで、つながりはより強くなります。この強いつながりを活かせば、意見をもらったり、口コミで広げてくれたりできます。そして、この強いつながりが、「ファン」を作り、ファンとの関係をより長く続けていくことを可能にするのです。

2)熱い思い~強い「理念」のあるプロダクト~

ほとんどのDtoCブランドは、製品づくりに「理念」を込めています。そして、製品が生まれた背景や、その製品によって起こしていきたいこと、社会をどのようにしていきたいか、そういった気持ちを言葉で明記し、ECサイトの分かりやすい場所に表記しています。例えば、先ほどご紹介したALL YOURSであれば、ウェブサイトに「オールユアーズの価値観」を掲載しています。

最近は、「理念経営(ビジョナリー経営)」が大きな注目を浴びています。経営理念を中心にした行動方針を策定していくことで、従業員のエンゲージメントを高め、生産性の高い組織を目指すという考え方です。DtoCの世界でも、理念に直結した製品をつくり、広めていくことで、従業員もファンの一員として活躍することができるようになります。

3)ストーリー~スペックや機能ではなく共感を売る~

前述のファン作りにも近い考え方ですが、DtoCビジネスにはストーリーが非常に重要です。スペックや機能ではなく、地域への思いや開発のストーリーなど、さまざまな「共感」を製品にすることで販売に結びつける手法です。

サッポロビールが行っているビールのDtoC「HOPPIN’ GARAGE(ホッピンガレージ)」は、顧客の「人生ストーリー」をコンセプトにして製品を生み出す「ストーリーブリューイング」という手法で製品づくりをしています。

今まで、ビールといえば味や喉越し、最近では健康に配慮した糖質ゼロなど、さまざまな機能で販売することが主流でした。これに対してHOPPIN’ GARAGEは、誰か(顧客であり企画者)のストーリーを種にしたビールを、ストーリーブックとともに届けるというサービス全体で一つの製品となっています。

例えば、「IGUSA(イグサ)」という製品は、熊本県の名産で、畳に使われる「い草」を原料とした、ほのかに畳の香りが感じられる製品です。熊本県の顧客が企画に応募して製品化されたものですが、熊本地震からの復興への願いや、もっと熊本を知ってほしいという思いをコンセプトにして開発されました。

4)データ活用~行動データを事業に活用~

「データベースマーケティング」といわれるように、顧客から得られるデータを活用することは当たり前になってきています。特に近年は顧客のニーズが多様化しており、かつてのように「王道商品」だけが売れるという時代ではありません。より細かなニーズに対応することで、販売が伸びるケースも少なくありません。

おやつのDtoC「スナックミー」は、自分の好みを幾つか答えると、好みに合いそうなお菓子が定期的に送られてくるサブスクリプション(定期購買)モデルです。食べ終わった後、そのお菓子が好みだったかどうかの反応をフィードバックすることで、次回の配送に反映されるのが特徴です。

こういった手法は「パーソナライズ」といわれますが、一人ひとりの好みに合わせた製品が送られてくることで、画一的な体験ではなく、一人ひとり異なる体験ができるという点で、ファンを作りやすくなっています。

パーソナライズしていない製品であっても、顧客の声やNPSR「Net Promoter Score(ネットプロモータースコア、顧客ロイヤルティーを測る指標)」などを計測し、より良い製品やサービスづくりに活かしていくことがビジネス成功の鍵となっています。

5)ソーシャルグッド~事業モデルそのものが社会貢献~

「ソーシャルグッド」という言葉をご存じですか? 社会課題の解決につながり、社会に対して貢献をしているかどうかを表す言葉です。SDGsに対する関心の高まりを反映して、最近使われるようになってきました。

企業に対する評価基準は、従来は売り上げや利益だけでしたが、今は社会に配慮した成長をしているかどうかに変わってきており、顧客が製品を選ぶ際の理由にもなっています。

「βace」によるチョコレートのDtoC「Minimal(ミニマル)」は、カカオ豆の選定から自社で行う「Bean to Bar(ビーン・トゥ・バー)」というコンセプトでチョコレートを製造販売しています。Minimalの特徴は、世界中のカカオ農家の貧困などの問題を解決するために、農家から直接、正当な対価で仕入れを行って製品をつくっていることです。また、カカオ農家に対して、高品質なカカオ豆を生産できるように技術支援も行っています。

このようなソーシャルグッドなビジネスは、価格やスペックなどの価値を超え、支持をされる傾向にあります。

4 DtoCビジネスの第一歩は、その製品が世の中にどのような効果があるかを問い直すこと

DtoCビジネスについての理解が深まったところで、では、DtoCビジネスを始めるにはどうすればよいのかご説明します。先ほどお伝えした5つの成功エッセンスを大切にするために、「コンセプトワーク」を行いましょう。

コンセプトワークとは、「誰に、何を、どのように販売するか」を決めることですが、最も重要なのは「何を販売するか」です。従来の製造業では、「誰に販売するか」が重視されがちでしたが、「何を販売するか」という目的重視に視点を変更するところから始めてみましょう。

その製品が、世の中にどういった効果をもたらすのかを考え、提案していくこと

が、市場に受け入れられるDtoCビジネスを行うためのポイントです。

そのためには、身近な社会課題に向き合ったり、近くの「困った」を助けるビジネスができないかを考えてみたりすると、良いきっかけになるでしょう。

「どのように販売するか」については、クラウドファンディングを利用することもできますし、最近では無料で導入できるECカートシステム(ECサイトで顧客が購入する仕組み)も増えてきています。

DtoC市場は、今後ますます拡大していくと考えられます。中小製造業者の皆さま、ぜひ始められるところからトライしてみてください。

以上(2022年8月)
(執筆 倉橋美佳)

【著者紹介】
倉橋美佳(くらはし みか)

株式会社ペンシル 代表取締役著者画像1
ペンシル入社後、通販サイトを中心にサイトの企画運用・プロモーション設計・運用等、総合的なWebコンサルティングに従事。仮説と検証に基づく改善を実施するため、サイト分析ツール「スマートチーター」プロジェクトを主導し自社開発を行う。2016年、代表取締役社長、及び、台湾現地法人「台灣朋守有限公司」の総経理に就任し、グローバル展開を含めたペンシルグループ全体のWebコンサルティング事業を率いる。セミナーや講演活動を積極的に実施。
株式会社ペンシル https://www.pencil.co.jp/

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【マーケティング】いまさら聞けない価格戦略のポイント

書いてあること

  • 主な読者:「マーケティング」を意識できる組織を作りたい経営者
  • 課題:マーケティングの概念は幅広く、どこから学べばよいのか分からない
  • 解決策:マーケティングの基本として「マーケティング・ミックス」を学ぶ

1 価格戦略の検討

価格戦略は、自社の売上高や利益を最大化するためのものです。大切なのは、

  • 企業の視点:コスト構造、適正利益など
  • 顧客の視点:顧客の購買力など
  • 競合他社の視点:価格水準など

のバランスを取ることです。

仮に、企業の視点が欠如していると、製品は売れても利益を確保できません。また、顧客や競合他社の情報は収集するのが難しい場合もあるので、必要に応じて外部機関に市場調査を依頼することも検討しましょう。

「いくらで販売するか?」というのは、とても難しい判断です。前述した3つの視点を考慮しながら、強気(高く販売したい)でいくか、弱気(安く販売したい)でいくかを決定する必要があるからです。この記事では、価格戦略のポイントを紹介していきます。

2 需要の価格弾力性

価格を検討する際、「需要の価格弾力性」に注目します。企業の売上高は「売上高=価格(製品単価)×販売量」と考えることができます。一般的に、価格を安く設定すると販売量は増加し、価格を高く設定すると販売量は減少します。

しかし、価格の変化によって販売量が変化する割合は製品によって異なります。この割合を「需要の価格弾力性」といい、次の式で表すことができます。また、需要の価格弾力性は、現在の価格の妥当性など、重要な視点を与えてくれます。

需要の価格弾力性=需要の変化率÷価格の変化率

需要の価格弾力性の絶対値が1よりも大きければ、「需要の価格弾力性が大きい」ということになります。この場合、価格を下げるとそれ以上の割合で販売量が増加するため、値下げすることで売り上げ増加の期待が高まります。

一方、需要の価格弾力性の絶対値が1よりも小さければ、「需要の価格弾力性が小さい」ということになります。この場合、価格を上げてもそれ以上の割合で販売量が減少しないことから、値上げすることで売り上げ増加の期待が高まります。

3 複数の製品の関連性を考慮

1)バンドリング

バンドリングとは、複数の製品をセットにして、それら個々の価格の合計金額と異なる価格で販売する方法で、「セットによる割引販売」が一般的です。ただし、例えば、希少価値の高いシリーズの書籍を、全巻セットで割高で販売するケースもあります。

バンドリングでは、関連性の高い製品をセットにすることが基本です。洋服であれば、夏物のTシャツと短パンがセットになります。つまり、相乗効果が期待できる製品でなければ、あまり意味がないということです。

2)ロスリーダー

一部の製品を非常に安く設定して“目玉”とし、集客を狙うことがあります。こうした“目玉”をロスリーダーといい、この手法は小売業で頻繁に用いられています。スーパーマーケットで「本日の特売品」と売り出されるのが典型例です。

ロスリーダー単体の収益率は非常に低く、時には赤字になります。しかし、消費者がロスリーダー以外の製品も併せて購入することで、全体としては企業の収益が向上します。そのため、ロスリーダー以外の製品の購入を促進することが重要になります。

4 時間軸を考慮

1)繁忙期・閑散期を考慮した価格戦略

消費者の需要が特定の時間・曜日・月などに変化することがあります。例えば、観光地にあるホテルの需要は週末や夏休み・冬休みの時期に集中します。しかし、ホテルの部屋数には限りがあるため、それを超えた需要には対応できません。

このようなケースでは、繁忙期には価格を高く、閑散期には価格を低く設定する「繁忙期の収益を拡大させるとともに、繁忙期の需要を閑散期に誘導する(需要の平準化)」ことで、収益の拡大を図る場合があります。

2)製品ライフサイクルを考慮した価格戦略

製品には、新規に開発されて市場に登場する「導入期」から「成長期」「成熟期」を経て「衰退期」を迎えて市場から消えていく、製品ライフサイクル(Product Life Cycle、以下「PLC」)という考え方があります。

「導入期」は競合他社が少ないので、高めの価格を設定できます。「成長期」は参入企業が増えるので、価格は低くなります。「成熟期」は市場の成長が鈍化して競争が一層激しくなるので、価格は最も低くなります。「衰退期」は生産量の減少などによるコスト上昇や競合他社の撤退などがあるので、成熟期よりも価格は高くなりがちです。

この考え方は一般論であり、実際の価格水準の推移は、個々の製品や業界動向などによって異なります。しかし、業界内における価格水準の推移を予測する上で、PLCを意識することは大切です。

5 購入量などを考慮

製品の購入量や利用回数に応じて価格を変える戦略です。例えば、大量購買による割引が代表的な例です。また、顧客を購入金額や来店頻度で区分し、優良顧客に特別な価格で販売するフリークエント・ショッパーズ・プログラム(FSP)も一例です。

この戦略は、「まとまった量を販売することで、原料・輸送などのコストが削減できる」「購入量・利用回数などに応じて価格を割り引くことで、自社製品を継続的に購入させるインセンティブを提供できる(優良顧客を囲い込むことができる)」といった場合に有効です。

6 消費者の心理を考慮

1)端数価格

「Tシャツ1枚1980円」など、小売・サービス業などの店頭には「8」や「9」の付いた価格の製品が多く並んでいます。こうした価格を端数価格といいます。金額的には20円しか違わないTシャツでも、1980円と2000円では印象が全く異なります。

多くの消費者は、1980円のTシャツに対して「1000円台の安い価格である」という印象を持つものです。また、「1」や「2」といった数字ではなく、「8」や「9」という点も重要なポイントです。

「8」や「9」が付いた価格に対して、消費者は「最大限に値引きされたお買い得な製品」という印象を抱く傾向があるようです。端数価格を付けると需要の価格弾力性は大きくなり、特に食品や日用雑貨などの最寄り品に有効とされています。

2)威光価格(名声価格)

購入頻度が低い宝飾品などの場合、消費者は、製品の品質を適切に判断できないことがあります。サービスについても、初めて利用するときは、事前にその品質を判断することができません。

こうした場合、消費者は「高価格=高品質」「低価格=低品質」として、価格を重要な品質の判断基準とします。このような傾向を鑑みて、「高品質」を訴求するために、あえて高い価格を設定するのが威光価格(名声価格)です。

3)慣習価格

業界内の価格が統一的であったり、1つの製品を長期間にわたって同一価格で販売していたりすると、消費者の心の中に「この製品の価格は○○円である」というように、固定観念が形成される場合があります。こうした価格を慣習価格といいます。

慣習価格に対して、わずかでも高い価格を設定すると、消費者は「この製品は高い」と感じるため、需要は激減してしまいます。また、製品によりますが、慣習価格よりも低い価格を設定しても、それほど需要量は増加しない傾向があるようです。

7 過度な価格競争を避ける

競合他社が多い業界では、価格競争が起こりがちです。価格競争が過熱し、どの企業も引くに引けない状況に陥ってしまうと、勝った企業ですら疲弊してしまう「勝者なき戦い」に至ります。

これを避けるためには、価格以外の面で差異化を図り、競争の軸足を他に移さなければなりません。方策としては、「製品の機能やデザインによる差異化」「付随サービスによる差異化」「製品や企業のブランド力向上による差異化」などがあります。

ただし、差異化が図れるようになるまでには時間がかかります。そこで、過度の価格競争を回避するための即効性のある方法の1つとして、「過度の価格競争を行わない」というシグナルを市場に発信することが重要になります。

例えば、相手が値下げを行っても、対抗的な値下げをしないというのも一策となるでしょう。また、「自店の価格が他店より高ければ、他店の価格より安くします」といったメッセージも有効です。

これは一見、「値引きには、更なる値引きで応じる」という徹底抗戦に感じます。しかし、一方で「価格で競争しても無意味ですから、お互い過度な価格競争はやめましょう(できれば、同程度の価格で販売しましょう)」という意味も含んでいるのです。

こうしたメッセージは、顧客に対しては「常に最安値で製品を提供します」という自社の姿勢を明確にする一方で、競合他社との過度な価格競争を抑制する役割を果たすという点で効果的です。

以上(2022年8月)

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画像:photo-ac

【朝礼】計画と準備があなたの人生を充実させる

夏の時期は、夜になっても暗くなる時間が遅く、午後6時はまだ夕方という感覚です。逆に、冬になると午後5時過ぎにはすっかり暗くなり、夜になるのは早いものだなと思います。

こんな具合に、1日の長さの感じ方というのは季節ごとに変わるものですが、実際には1日の時間は24時間であり、これは1年を通して変わることはありません。

この1日の時間、24時間というのは、誰にとっても同じです。決して、人によって長くなったり短くなったりすることはありません。つまり、時間はすべての人に平等に与えられているということなのです。そして、仕事を進める上でも、皆さん自身が何かを勉強するときでも、この限られた時間をどのように使うかが、何よりも大切なことなのです。

時間を上手に使うための方法として皆さんに心がけていただきたいのが、「計画」と「準備」を怠らないということです。

考えてみてください。皆さんが、家族や友人と旅行やレジャーに出かけるときは、入念に下調べをして、計画を立てませんか? 行き当たりばったりの旅が楽しいという方もいるかも知れませんが、限られた時間の中で最大限に旅行やレジャーを楽しむならば、事前に宿や交通機関、旅行先のお店などの情報を集めた方が、確実に効率がよいはずです。

このことを、仕事に置き換えて考えてみましょう。皆さんは毎日、行き当たりばったりで仕事をしていますか? きっと、そんなことはないと思います。

突発的な仕事が入ることはあったとしても、基本的には、仕事のスケジュールというのはある程度決まっているはずです。では、その仕事を効率的にこなすためには何が必要なのか。それが、「計画」と「準備」なのです。

今週は何の仕事をしなければならないのか、優先順位はなんなのか、それを常に考えてください。そして、できるだけムダのない方法や手順で仕事を進める計画を立ててください。そして、計画を立てたら、仕事を効率的に進めるための準備からとりかかってください。

例えば、営業提案書を作成している途中で資料が不足していることがわかって、慌てて集めに走る。あるいは、製造の途中で部品が足りなくなってしまう。これは、明らかに計画と準備の不足が生んだムダであり、あらかじめ避けることができる性質のものです。

こうしたムダがなくなれば、仕事の効率は上がり、時間をもっと有効に使うことができます。そしてそれは、皆さん自身のプライベートの時間が増えるということでもあります。

私は、皆さんには仕事を頑張っていただくのと同じくらい、個人的な勉強や私生活も充実させていただきたいと考えています。そのためにも、計画と準備を意識して、ムダのない仕事、ムダのない時間の使い方をしていただきたいと思います。

以上(2022年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】“良く”見せるか、“リアル”を見せるか

少し気が早いですが、来年の大河ドラマ「どうする家康」が6月よりクランクインとなったそうです。主人公は皆さんもご存じの徳川家康。織田信長、豊臣秀吉の跡を継いで、戦国の世の最終勝利者となり、約260年続く江戸時代の礎を築いた人物です。ところでこの家康、「どうする家康」の前にも過去2回、大河ドラマの主人公になったことがあります。1983年の「徳川家康」と、2000年の「葵(あおい)徳川三代」です。どちらも名作ですが、面白いのは家康という同じ人物を扱っていながら、そのキャラクター像が大きく異なるという点です。

1983年の「徳川家康」では、戦国の世を終わらせて天下泰平を成し遂げようとする求道者のような人物として描かれました。家康の生涯最後の戦いとなった「大坂冬の陣・夏の陣」でも、敵方である豊臣秀頼の命を助けようとするなど、慈悲深くヒロイックな面が強調されていました。従来のたぬきおやじのイメージを脱却した“良い”家康像は、当時としては斬新で話題になりました。

一方、2000年の「葵徳川三代」では、戦国の世を長年生き抜いてきた老獪(ろうかい)な戦略家として描かれ、徳川家の天下を盤石にするためには手段を選ばない非情な一面が強調されました。大河ドラマでは視聴者の共感を得るため、主人公の暗い側面は控えめに描写されることが多いのですが、この作品ではあえてそれらを前面に押し出した“リアル”な家康像が評判になりました。

私は、このキャラクター像の違いは、家康という人物をどの側面から描くかというところからきていると思っています。家康を約260年間の平和をもたらした人物という側面から掘り下げるなら、「徳川家康」のような描き方になるでしょうし、豊臣家から天下を奪った人物という側面から掘り下げるなら、「葵徳川三代」のような描き方になるのでしょう。

ビジネスでも同じようなことがいえます。私たちは当社の商品・サービスに誇りを持っていますが、もちろん商品・サービスは完全無欠というわけではなく、長所もあれば短所もあります。問題は、例えばお客さまや取引先と、商品・サービスについて話をする場合、どの側面を強調するかです。

恐らく皆さんの多くは、商品・サービスの話をする場合、いかに長所を強調するか、つまり“良く”見せるかが大事と考えているでしょう。もちろん、そういうケースも多いですが、お客さまや取引先の中には、長所ばかりを強調されると、うさん臭く感じて警戒する人もいます。そうした場合、あえて腹を割って短所についても話をする、つまり“リアル”を見せた上で、商品・サービスを利用するメリットをお伝えしたほうが、相手の信頼が得られることがあります。どの商品・サービスをお薦めするかだけでなく、その説明の仕方についても、お客さまや取引先が何を望んでいるかを考えながら対応してください。

以上(2022年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

【マーケティング】いまさら聞けない製品戦略のポイント

書いてあること

  • 主な読者:「マーケティング」を意識できる組織を作りたい経営者
  • 課題:マーケティングの概念は幅広く、どこから学べばよいのか分からない
  • 解決策:マーケティングの基本として「マーケティング・ミックス」を学ぶ

1 製品戦略の検討

製品戦略は、製品間の相互関係を考慮しながら製品ごとに検討します。大切なのは、

  • 製品アイテム:個々の製品。例えば、カップラーメンなど
  • 製品ライン:特定のカテゴリーの製品アイテム群。例えば、しょうゆ味や塩味など
  • 製品ミックス:企業が扱う複数の製品ライン群。例えば、レトルト食品など

の視点で考えることです。

これらについて、対象製品の現在の収益性と成長性を考えつつ、他の製品アイテム・ラインとのシナジー効果や相互依存性などを確認します。例えば、カップラーメンの「しょうゆ味」は収益性と将来性が乏しくても、最もベーシックな製品をラインアップから外すことは難しいので、「製品アイテム」「製品ライン」から補完性を考えます。

2 新製品の種類

移り変わりの激しい市場に対応するには、自社の製品アイテム・ラインに、より市場動向を捉えた新製品を加えていく必要があります。新製品には「市場にとっての新製品」と「企業にとっての新製品」とがあります。

「市場にとっての新製品」は、他の企業が製品化していない新製品です。一方、「企業にとっての新製品」は、市場にある製品に新機能を追加した製品などです。社会的には「市場にとっての新製品」のほうが重要ですが、企業としてはハイリスク・ハイリターンになります。しかも、これを次々と開発するのはほぼ不可能なので、「企業にとっての新製品」も重視する必要があります。

3 新製品開発の基本プロセス

1)アイデアの創出

新製品に関するアイデアの源泉は、社内由来と社外由来に分かれます。社内由来は、従業員の意見やアイデアが中心です。一方、社外由来は、消費者や取引先からの意見、競合他社の動向などがあります。

2)スクリーニング

アイデアが新製品としてふさわしいか否かを検討します。スクリーニングは、最初に経営戦略との整合性を確認して不適切なものを排除します。次に、調査やシミュレーションで事業性分析を行い、有望なアイデアを見いだしていきます。

3)製品開発とテスト

スクリーニングで残ったアイデアを基に、製品(試作品)を開発し、テストを実施します。テストは、機能や品質といった製品本体に関するものの他、テストマーケティングも含まれます。

テストの結果に応じて製品の改良などを行います。また、試作品の開発とは異なる量産品向けの製造工程の構築(素材の仕入れ先、製造ライン、製造委託先、物流など)についても、十分に検討しなければなりません。

4)市場導入

「新製品」を市場に導入します。その際、タイミングに注意しましょう。市場動向といった外部要因や、事前のプロモーションの進捗状況など企業の内部要因などを見極めた上で、最適なタイミングで市場に導入します。

ここで紹介したのは、一般的なプロセスです。実際は「『テスト』の段階で行った消費者への調査が芳しくないため、製品開発を初めからやり直す」といったように、さまざまな形で進行します。

4 製品差異化の基本的視点

差異化は、製品の品質・デザイン・機能だけではなく、価格・チャネル・プロモーションといったマーケティングの構成要素、あるいはブランドなど、さまざまな要因の組み合わせで実現されます。ここでは製品に限定した考え方を紹介します。

製品差異化を検討する際は、消費者が求めるベネフィットである「製品の核」を見直し、それを実現するために必要な「製品の形態」「製品の付随的機能」を考えます。

製品差異化というと、とかく既存製品にはない新たな機能(「製品の形態」や「製品の付随的機能」)の付加が考えられがちです。しかし、それを追求した結果、消費者が求めるベネフィットとは無関係の機能が付加されることもあります。

例えば、インターネットサービスの中には、セキュリティー確保のために何段階もの承認を求めるものがあります。こうしたサービスは、セキュリティーの高さで他と差異化が図られていますが、消費者は面倒だと感じ、支持していない可能性があります。

「製品の核」から見直して製品差異化に取り組むことは、こうした問題を防ぎ、消費者が本当に求めるベネフィットを提供し、消費者から支持される差異化製品を生み出す上で効果的です。

また、「製品の核」から見直された差異化製品は、必ずしも新たな機能が付加されたものではないことがあります。逆に、製品自体をシンプルにして成功している企業もあります。

このように、製品差異化のポイントは、「新たな機能の付加」を目的とするのではなく、最初に「製品の核」を見直し、それを実現するために必要となる「製品の形態」や「製品の付随的機能」を、ゼロベースで検討することにあります。

5 ライフサイクル

1)製品ライフサイクルとは

製品には、新規に開発されて市場に登場する「導入期」から「成長期」「成熟期」を経て「衰退期」を迎えて市場から消えていく、製品ライフサイクル(Product Life Cycle、以下「PLC」)という考え方があります。

「導入期」は新製品が市場に投入された段階です。企業は、さまざまなプロモーションなどを通じて、投入した新製品の認知度向上と市場拡大を図ります。

「成長期」は導入期のさまざまな企業努力が実を結び、市場が急速に拡大していく段階です。市場の成長性などを見た競合他社の参入が増加します。

「成熟期」は市場の成長が鈍化して、頭打ちになる段階です。既に多くの競合他社が参入しているため、市場内での企業間競争が激化します。

「衰退期」は市場が急速に縮小する段階です。その要因は、消費者ニーズの変化、技術の発展などによる代替製品の登場など、いろいろとあります。

2)軌跡はさまざま

PLCに準拠した過程をたどる製品が少なくないことから、PLCは製品戦略を検討する際の重要な視点を与えてくれる考え方といえます。ただし、全ての製品がPLCのような軌跡をたどるわけではありません。

新製品として市場に投入したものの、消費者の支持が得られずに市場から消えていく製品があります。つまり、「成長期」「成熟期」を迎えることなく「衰退期」に至るわけです。

3)製品ライフサイクルの留意点

PLCは、製品戦略に関して広く普及している考え方の1つです。しかし、この考え方を実際の製品戦略に活かすためには問題があります。例えば、実際に販売されている製品が、PLCのどの段階に位置しているかを把握することは簡単ではありません。

PLCには「売上高が○カ月間、横ばいで推移したら『成熟期』である」といったような明確な基準がありません。個々の製品によってPLCの時間軸が異なるため、現在、販売している製品がPLCのどの段階にあるのかを明確に把握することは容易ではないのです。

また、PLCは、消費者ニーズや技術動向の変化などによる「製品の寿命」という、企業の外的要因が及ぼす影響を重視した考え方です。しかし、実際の売上高は、こうした外的要因の影響のみによって決定するわけではありません。

例えば、マーケティング戦略の優劣によっても売上高は変わります。従って、売上高が低下傾向にあるからといって、「この製品は衰退期(あるいは成熟期後期)である」と安易に判断すると、可能性のある製品の寿命を企業自ら縮めてしまう恐れがあります。

6 陳腐化政策

1)計画的陳腐化

製品戦略の一般的な考え方は、製品の寿命を長く保ち、多くの収益を上げることです。計画的陳腐化はその逆で、製品の寿命を意図的(計画的)に短くしつつ、新製品を投入して消費者の買い替え需要を刺激して、売り上げを上げるというものです。

代表的な例は、毎年異なる流行色やデザインの製品を販売しているアパレル業界です。「寒さをしのぐ」「肌を隠す」というような、服本来の目的を果たす上では、前シーズンに購入した服でも十分なはずです。

しかし、前シーズンと異なる流行色やデザインを取り入れた服を新たに販売して、前シーズンの服を計画的に「流行遅れ」とすることによって、新たな需要を喚起しているのです。

2)計画的陳腐化の留意点

計画的陳腐化は、買い替え需要を促進する有効な手法の1つですが、注意も必要です。例えば、計画的陳腐化を実施できるのは、「買い替え需要は、自社が販売する代替製品に集まる」ことが前提です。

当然ですが、計画的に陳腐化した製品の売り上げが減少する上に代替製品も売れなければ、企業として収益を確保する道が断たれてしまいます。こうした予想が立てにくいならば、既存製品をてこ入れしたほうがよいでしょう。

また、消費者の目にも注意しましょう。計画的陳腐化は社会的なムダを意図的に発生させるものでもあります。環境保護など企業の社会的責任に対する消費者の視線が厳しくなる現在、計画的陳腐化によって企業が社会的な批判にさらされる恐れがあります。

以上(2022年8月)

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知的財産の活用~AI・ビッグデータの流用・転用を防ぐ~/意外と知らない「知的財産権」シリーズ11

書いてあること

  • 主な読者:外部への委託開発によりAIやビッグデータを活用している経営者
  • 課題:自社で蓄積したAIの学習済みモデルやデータの流用・転用を防ぎたい
  • 解決策:著作権、特許権、営業秘密などで一部保護される可能性はあるが、完全ではない。取り扱いや流用・転用の可否などについて、しっかりと契約で定めておく

1 自社のデータで学習させた売上予測システムが無断流用!

【モデルケース】

あなたは全国コンビニチェーンAの経営者です。あなたは、全国にある店舗レジから収集したPOSデータと、日時、曜日、天気、気温、イベントの有無その他の多様な社会データとをひも付けて、AIを使って機械学習させることにより、いつ何がどのセグメントに売れるかを高い精度で予測できる学習済みモデルを開発しました。

ただし、実際に開発したのは委託先のシステム開発会社Bであり、Bから納品されました。

その後、Bはあなた(A)に無断で、以下の行為をしていることが発覚しました。

  • AのPOSデータを学習させて開発した学習済みモデルを、Aと競合する別のコンビニチェーンCに利用させて料金を受領した。
  • Aと競合するCから委託を受けて、AのPOSデータを学習させて開発した学習済みモデルに、さらにCのPOSレジデータを学習させ、短期間に安いコストで、より精度の高い派生モデル(第二次学習済みモデル)を開発した。
  • AのPOSデータそのものをデータベース化して、システム開発会社Dに提供した。

あなた(A)は、Bの各行為に対して、どのような対応をとることができるでしょうか?

2 AI解析モデルやデータの法的保護、その限界と対処方法

1)AIの学習済みモデルやデータは知的財産権だけでは保護できない!

冒頭のモデルケースについて、結論からいうと、あなた(A)ができる対応は、非常に限られたものになる可能性があります。なぜなら、

AIの学習済みモデルやデータは、著作権、特許権、営業秘密などでは完全に保護されることはない

からです。ですから、

事前に当事者間(B)の契約で、学習済みモデルやデータについての取り扱い、流用・転用の可否などについて、しっかりと定めておく

必要があります。

2)データは所有権の対象外

そもそも、

データは、単に情報を提示する無体物ですから、所有権の対象ではありません。

従って、有体物の所有者のように、故意・過失の侵害者に対して、その返還、妨害排除、妨害予防を請求することはできません。このため、

実質的にデータにアクセスできる者は、自由にそのデータを利用できるのが原則

ということになります。まずは、このことをきちんと理解しておく必要があります。

3)AI解析やデータの経済的価値の向上に法整備が追いつかず

AIやIoTを活用して付加価値の高いサービスや商品を提供したり、競争優位性を獲得、維持したりしていくことは、ビジネスを遂行していく上で不可欠の視点となっています。

その開発過程においては、生データ(ユーザーやベンダーから取得する一次的なデータ)、AIの学習用データセット(対象となる学習方法による解析を容易にするための二次的な加工データ)、AIの学習済みモデル(学習済みパラメータを組み込んだ推論プログラム)など、非常に高い経済的価値を持つ成果物が生成されます。

その一方で、それらの成果物に対する、法律上の権利関係や法的保護はまだ十分に整備されているとはいえません。ただし、AIの学習済みモデルやデータなどを守るために、法律上は、いくつかの「ツール」を利用することができます。どんなツールがあるのか、また、それぞれのツールの強みと弱みは何なのか、これらをしっかりと理解しておくことが、ビジネスを長期的に成功させるためには非常に重要です。

次章以降では、AIの学習済みモデルやデータを守るための「ツール」としての著作権、特許権、営業秘密、契約について詳しく解説します。

3 AI解析モデルやデータには基本的に「著作権」はない

「学習済みモデル」や「生データ」にも著作権がありますよね、というご相談を受けることがあります。しかし、結論からいえば、残念ながら、基本的には著作権はない、と考えておく必要があります。

著作物として認められるためには、著作権法上、「思想または感情を創作的に表現したもの」(著作権法第2条第1項第1号)である必要があります。ところが、その本質が関数である「学習済みモデル」や、単なる情報の提示に過ぎない「データ」は、「アルゴリズム」や「プログラム言語」などと同様に、通常は創作的表現とは認められません。従って、著作物には当たらないと考えられます(注)。

(注)なお、学習済みモデルのプログラム部分(推論プログラム)は、そのソースコードについてプログラムの著作物(著作権法10条1項9号)として、著作権法上の保護を受けられる可能性もあると考えられています(経産省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」参照)。

従って、冒頭のモデルケース1.~3.では、あなた(A)のデータではあるものの、通常は、当該データ、学習済みモデル、派生モデルについて著作物性は認められませんので、

あなた(A)が著作権に基づいてBの各行為に異議を述べることは難しい

ということになります。

ただし、学習用データセットのように、一定のルールや分類に従って整理されたデータであって、それらを電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものについては、「データベースの著作物」(著作権法第12条の2)として、著作物性が認められる場合があります。

4 AI解析モデルやデータには原則として「特許権」もない

AIの学習済みモデルやデータについては、原則として、特許権も成立しません。なぜなら、単なるデータや関数そのものは、特許法上の発明の定義である「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条第1項)に該当しないからです。

もっとも、データが構造を有することによりコンピュータにおいて一定の処理が可能となる場合には、発明性が肯定される可能性はあります。また、学習済みモデルも、具体的な処理に組み込まれるなどして「プログラム」と認められる場合や、コンピュータの処理を規定するものとして「プログラムに準ずるもの」といえる場合には、特許法上の発明に該当する可能性はあります。

従って、冒頭のモデルケース1.~3.では、仮にデータ構造や学習済みモデルに特許権が成立したとしても、その創作はBが行っているわけですから、あなた(A)が契約などでデータ構造や学習済みモデルについて特許権を取得しておかない限り、

あなた(A)がBの各行為に異議を唱えることはできない

ということになります。

5 AI解析モデルやデータは「営業秘密」として守られるか?

不正競争防止法(以下「不競法」)では、「営業秘密」について、その不正な開示や利用、提供などを行うことが違法とされています。生データは、一定の要件のもとでは、不競法上の「営業秘密」(不競法第2条第6項)ないし「限定提供データ」(不競法第2条第7項)として保護対象となり得ます。

従って、冒頭のモデルケース3.では、あなた(A)が提供するPOSレジデータが営業秘密等に該当する場合には、

あなた(A)は、BがDにデータベースを提供する行為について、阻止できる可能性がある

ということになります。

しかし、仮にPOSレジデータが営業秘密等に該当するとしても、これを学習して生成された学習済みモデルそのものには、すでにAのデータは含まれていません。このため、冒頭のモデルケース1.および2.では、

あなた(A)は、Bが学習済みモデルを流用または転用する行為を、直接的に不競法を根拠に阻止することは難しい

ということになります。

6 AI解析モデルやデータの保護には、事前の「契約」が重要

以上の通り、AIの学習済みモデルやデータについては、特許権、著作権、営業秘密などで一部保護される可能性はありますが、どれも完全ではありません。

一方で、当事者間の契約で定める場合には、こういった点は、契約の中でかなり自由に定めることができます。従って、前述しましたが、学習済みモデルやデータについての取り扱い、開発完了後の追加開発や流用・転用などの可否、これらデータの保存方法などについては、しっかりと契約で定めておく必要があります。

契約で定めるという場合も、一般的なひな型を用いて、「開発の結果得られた知的財産権は共有とする」といった条項では、全く不十分です。なぜなら、前述したように、AIの学習済みモデルやデータに対しては「知的財産権が生じない」場合も多くあり、仮に特許権が生じたとしても、それが共有になると共有特許は各共有者が自由に自己実施できます。結果として、相手方に無断で流用されてしまうような事態を回避できないからです。

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こうして見ていくと、データに関しては、クラウドアクセス権を持つ者が優位に立てることが分かります。ですから、AIやデータに関する開発や共同利用を行う際は、「開発後のビジネスモデル」「データ」「学習済みモデル」を、それぞれがどのように利用できるかといった点について、しっかりと契約スキームを作り、それを契約で取り決めておくことが重要と言えます。

AIとビッグデータを活用する際は、事前に契約をしっかりと作りこむ。経営者はこのことを忘れずに、ビジネスをよりブーストアップしていきたいところです。

以上(2022年7月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

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