1 徳島県上勝町に行ってみた!
この記事でご紹介するのは、徳島県上勝町が進めている「ごみゼロ」に向けた取り組みです。人口1500人に満たない小さな町ですが、2003年9月に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」(ごみゼロ宣言)をしました。これをきっかけに世界から大いに注目を集め、移住者も増えたことで、2024年には、いわゆる「消滅可能都市」からも脱却しました。
「ゼロ・ウェイスト宣言」で掲げた目標を達成するための活動の中心地は、「?」の形をした「上勝町ゼロ・ウェイストセンター”WHY”」(以下「センター」)です。実際にセンターを訪れてみると、そこには様々な仕掛けがありました。
思いだけでは成し遂げ難いゼロ・ウェイスト。上勝町が「ゼロ・ウェイスト宣言」をした背景や、町の小学生が考えた循環経済の仕組みなどを、センターで働く徳重 尚(とくしげ ひさし)さんに教えていただきました。企業がESGやSDGsに取り組む際のヒントが満載です。

2 環境意識が高かったわけではない
「ゼロ・ウェイスト宣言」とは聞き慣れない言葉ですが、次のような意味を持ちます。
上勝町は日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」をした町で、現在、なんとごみを43種類に分別しています(2024年4月までは45種類)。こう聞くと、「上勝町は、古くから環境配慮の意識が高い先進的な町なのだな」と感じてしまいますが、この活動は近年、役場職員や住民、ゴミステーションスタッフの試行錯誤によって生まれたものだそうです。
「実はこの場所は1975年前後から1997年までは野焼き場でした。ここで穴を掘ってごみを燃やしていたのです」と教えてくれたのは、センターの徳重さん。
上勝の財源規模では処理設備を整える余裕はなく、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)」によって野焼きが禁止されていました。にも関わらず、なかなか野焼きをやめることができずにいたところ、県から「野焼きをやめて適切に処理をしてください!」と注意され、1997年から容器包装リサイクル法施行に伴い分別制度を導入し、1998年に小型焼却炉を2基設置しました。
これで安心と思いきや、2年後の2000年に、「ダイオキシン類対策特別措置法」が施行され、せっかく設置した焼却炉の1基が規制の対象になってしまいました。もともと小型で容量が小さいこともあり、そのままではごみを処理することができなくなりました。徳重さんいわく、「やむにやまれずというか、要は町の中ではごみがどんどん出てくるので、その量を減らす方向に進めていくしかなかった」というのが実情のようです。
「上勝町はもともと環境意識が高い町だった!」というわけではなく、環境変化に自らを適応させてきたということです。このあたりは、企業がESGやSDGsに取り組む背景にも似ていると感じます。

3 「ゼロ・ウェイスト宣言」に至った意外な背景
上勝町が「ゼロ・ウェイスト宣言」をしたのは2003年9月のことですが、この2カ月前に、セントローレンス大学のポール・コネット化学博士が上勝町を訪れています。上勝町の状況について相談をしている中で、「ゼロ・ウェイスト宣言をしたらどうだろう」と博士から提案され、そこからわずかな期間で、下の宣言をするに至りました。
未来の子どもたちにきれいな空気やおいしい水、豊かな大地を継承するため、2020年までに上勝町のごみをゼロにすることを決意し、上勝町ごみゼロ(ゼロ・ウェイスト)を宣言します。
- 地球を汚さない人づくりに努めます。
- ごみの再利用・再資源化を進め、2020年までに焼却・埋め立て処分をなくす最善の努力をします。
- 地球環境をよくするため世界中に多くの仲間をつくります!
平成15年9月19日
徳島県勝浦郡上勝町
(上勝町「ゼロ・ウェイスト政策」)
徳重さんいわく、「ポール・コネットさんの提案がなかったら、ここまで大きな上勝町の転換はなかったと思います」とのこと。わずかな期間で宣言までこぎ着けるために、上勝町役場では急いで町民にゼロ・ウェイストについて説明をしたり、特定非営利活動法人ゼロ・ウェイストアカデミーを立ち上げたりしたそうです。
4 ごみをお金に換える仕組みが必要だ!
上勝町では、「ゼロ・ウェイスト宣言」において、
目標として2020年までにごみをゼロにする
という目標を掲げています。
しかし、現代的な生活をしている限り、ゼロ・ウェイストの達成は非常に難しいということが、2003年からの取り組みで分かりました。そもそも分別の負担もあります。自治体によってごみ分別の種類は違いますが、上勝町は43種類です。分別の種類が一気に増えるタイミングでは、うまく分別することができずにごみがたまってしまう家もあったようです。そのような場合は、ゼロ・ウェイストアカデミーなどが相談に乗りながら、解決していったそうです。
こうした現状にあって、次の展開をどうするかと考えたときに、町外の人とも連携していかなければならないと思い、そのシンボルとしてセンターを立ち上げ、そこから情報を発信していこうということになったのです。
センターを見学して気が付いたのは、ごみの「入」と「出」が円単位で確認できるプレートが設置されていることです。例えば、「紙」ごみは町にとって収入になり、具体的に何円なのかを「入」として示しています(写真は、ライターとその他の布類の例)。逆に、町の支出になるごみもあり、それは「出」として示されています。まさにごみの収支の「見える化」ということですが、これはごみを徹底的に分別して資源を取り出し、それを「入」として示しているからこそできることです。「入」と「出」を示したプレートは、
面倒な分別をしなければならない理由を、町民に分かりやすく伝える役割
を果たしているわけです。金額が手書きで示されているところも、何か身近で温かい印象を受けます。

分別するための道具として、ハサミやカッターが置いてある作業エリアもありました。紙ごみを縛るときは必ず紙ひもにすることで回収業者の負担を減らし、「入」を大きくする工夫もされています。新聞紙をまとめるなど分別の作業が大変なときは、センターの方がお手伝いしているそうです。
5 牛乳パックを捨てたら何円もらえる?
センターでさらに面白いエリアを見つけました。その名も「ちりつもPoint」。上勝町にはごみ収集車が走っていないので、町民が自らごみを持ち込まなければなりませんし、43分別に取り組まなければなりません。これは大変なことです。そこで、インセンティブとして、「ちりつもPoint」が機能しています。

ポイントは分別種類の多い紙類や、企業連携によって回収を行っている資源を対象にポイントが付与されています。まず1種類のごみを持ってくるごとに1ポイントがもらえます。
例えば、牛乳パックを1個持ってくると1ポイントが付与されます。10個持ってきても、種類は1つなので、もらえるのは1ポイントです。そうであれば、10回に分けて持ってきたほうが多くのポイント(1種類のごみを10回に分けて持ち込むので10ポイント)をもらえることになります。これが、小まめにごみを持ち込むインセンティブです。他にも、町内事業所でリユースやリデュースに取り組んだ際にもポイントが付与される仕組みになっています。また、貯まったポイントは環境にやさしい日用品や学用品等と交換ができるようになっています。例えば、学校で使える上履きは50ポイントと交換ができます。
気になるポイント単価ですが、これがなかなかお値打ちです。50ポイントなら50円相当というのが多くのポイント制の交換レートですが、センターでは、
なんと1ポイント10円相当のレートになっていて、50ポイントごとに500円相当の商品券と交換することが可能
です。ちなみに、センターにごみを持ち込めるのは町民だけなので、町外の人はごみを持ち込むことはできません。
6 なぜ、ごみ処理センターなのに臭わない?
町民以外の人は、センターに併設されたホテルに宿泊して、ごみの分別を体験することができます。自治体や企業が研修で宿泊するのはもちろん、有名人が宿泊することもあるそうです。

ここで徳重さんからクイズが!
ごみ処理場(センター)にホテルを併設できるのはなぜだと思いますか?
他のごみステーションとは異なる特徴がそこにはあります。
答えは、センターでは「生ごみ」を引き取っていないので、臭いがないということです。取材当日は風が強かったので気が付きにくかったですが、確かに臭いが一切ありませんでした。これならセンターにホテルを併設できるわけです。
生ごみは、町民がコンポストなどを使って家庭で処理をしています。コンポストなどの購入費用の一部は、上勝町が補助をしているそうです。
7 どうしても燃やさなければいけないごみ
現在、上勝町のごみリサイクル率は80%を超えていますが、100%ではありません。これだけ徹底的に分別し、様々な仕掛けを施して町ぐるみでゼロ・ウェイストを目指していますが、その達成は非常に難しいのです。
これだけ努力しても、焼却ごみ・埋立ごみが排出されます。上勝町では、これを焼却ごみとは呼ばず、
どうしても燃やさなければいけないごみ・どうしても埋め立てなければならないごみ
と言っています。たとえ燃やすとしても、そこに至るまでの多くの人の協力と努力を大切にしている呼び方ですね。
8 くるくるショップでリユースを促進!
次に案内されたのは、「くるくるショップ」というおしゃれな空間です。高い天井からつり下げられた空き瓶のシャンデリア、きれいに陳列された陶器などが印象的でした。


ショップと書かれていますが、陳列されている物品は無料です。町民がまだ使える陶器や子供服などを持ち込み、ここを訪れた人(町民でない人も含みます)は無料で持ち帰ることができるのですが、このネーミングを地元の小学生が考えたというのですから驚きです。ゼロ・ウェイストの町に暮らしていると、こういったリユースのアイデアが浮かんでくるものなのでしょうか。こうした子供たちが成長していくと、環境に優しい生活スタイルが自然と定着していくのだと感じます。
さて、くるくるショップでは、これまで持ち帰られたリユース品の重さが紹介されているのですが、ここで徳重さんから再びクイズが!
取材日時点で、持ち帰られたリユース品の重さは、下の画像のように「534キログラム」でした。これはどれくらいの期間で到達した重さでしょうか?

筆者は、直感的に「年単位だろうな」と思ったのですが、答えはなんと1カ月。わずか1カ月で「534キログラム」がリユースされるとは、改めてゼロ・ウェイストの町の底力を感じました。
写真にも写っているのでお気づきかもしれませんが、くるくるショップの建具は規格がバラバラです。これらの建具は町内で公募をして集められたものです。数百の建具が集まったそうで、上勝町の職員もサイズを測りながら採用する建具を決めていったそうです。また、建物の構造材には町内産の杉が使われています。施工業者が決まってからだと、杉は乾燥などに時間がかかるので、施工業者を決める1年くらい前から、上勝町が町内産の杉を調達したそうです。
くるくるショップの仕組み自体も素晴らしいのですが、建物も地産地消、リユースの考え方が取り入れられています。「スタイリッシュ」な空間には、本当にいろいろな工夫が施されていて、手間をかけて丁寧に造られていました。
9 取材後記
ごみゼロの町と聞けば「すごい」と思いますが、正直なところ実感が湧きません。ごみを43種類に分別する経験がないので、想像がつかないのです。
しかし、実際にセンターを訪れ、そこで働く人などの話を聞いてみると、きれい事だけではない町の事情や、世の中の変化に巧みにキャッチアップしてきた歴史がありました。人を集め、情報を発信するためにスタイリッシュに造られた建物にもストーリーがあり、何より町の小学生のアイデアでくるくるショップが生まれたことには驚きました。

長い時間をかけてジワジワと上勝町になじんできたゼロ・ウェイスト。企業がESGやSDGsに取り組む際のヒントがここにあると思います。外部の要請を受け、トップダウンで一気に進めなければならないタイミングもありますが、それを定着させるには、企業文化として根付かせていく仕掛けが必要だと感じます。
自然と共存して暮らす人々の魅力と、可能性に満ちた上勝町。この町が目指す未来を体感するため、ぜひ再訪したいと思いました。
以上(2025年4月作成)
(取材 日本情報マート 代表取締役 松田泰敏)
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画像:上勝町ゼロ・ウェイストセンター”WHY”