インターネットを通じて多くの人から少額ずつ資金を集める「株式投資型クラウドファンディング」が注目を集めています。
スタートアップの新たな資金調達方法として期待が高まっている一方、仕組みやメリット・デメリットがわからず活用を躊躇されているという企業も多いのではないでしょうか。
今回は、日本初の株式投資型クラウドファンディングサービスのプラットフォームである「FUNDINNO」を運営するFUNDINNO(旧:株式会社日本クラウドキャピタル) COO・大浦 学氏に、株式投資型クラウドファンディングの仕組みと特徴、成功させるためのポイントなどをお聞きします。
皆さまが資金調達方法を検討する上でのヒントとなれば幸いです。
大浦さん、貴重な学びのシェアを愛りがとうございます!(愛+ありがとう)
1 「株式投資型クラウドファンディング」とは
1)本場はイギリス。日本では2017年に国内初のサービスがスタート
冒頭で触れた通り、株式投資型クラウドファンディングとはインターネットを通じて多くの人々から少額の資金を集める新しい資金調達の方法です。
2011年にイギリスで初めて登場し、2020年には、イギリス国内で年間800億円規模のマーケットへと成長しています。
従来、日本では金融商品取引法の規制により、非上場企業がインターネット上で募集を行うことができませんでした。しかし、2015年の法改正により解禁され、2017年に国内初となる株式投資型クラウドファンディングサービス「FUNDINNO」がスタートしました。その市場規模は、年々急速に拡大しています。
2)テクノロジーによる非上場金融業界の”民主化”
従来、非上場企業の金融業界に参加するプレーヤーは、ベンチャーキャピタルや銀行といった一部の「金融業界のプロフェッショナル」に限られていました。
VCや銀行が非上場企業を審査し、どこへどれだけのお金を出すのか決めるというのが通例で、一般の個人はアクセスする手段がなかったのです。
しかし、株式投資型クラウドファンディングの台頭により、一個人であっても、インターネットを通じて非上場企業へ投資することが可能となりました。
これは言わば、技術革新による非上場金融業界の”民主化”と言える、大きな変化です。
2 株式投資型クラウドファンディングの特徴
1)実績ではなく「集合知」による投資
非上場の金融業界が一般に開かれることで、何が変わるのでしょうか。
最も大きな変化は、プロには判断がつかない・投資しにくい新しい領域や、実績の少ないアーリーステージの企業であっても、投資が受けられるようになる点です。
従来、VCや銀行といった金融のプロたちは、企業へ投資するか否かを判断する際、過去の実績をその判断材料としてきました。
そのため、企業が挑戦しようとしているビジネスが新しいものであればあるほど、前例がないため、「市場へ受け入れられるのか」「どれだけ成長するのか」といった先行きが読みにくく、投資がしにくい領域となっていました。
「新しいビジネスをPMF(プロダクト・マーケット・フィット(注))させるための資金が欲しい」と考えて資金調達を目指すスタートアップ企業と、「もう少し実績が出るか、PMFしたら投資したい」と考える金融のプロとの間に、”死の谷”と呼ばれる大きなギャップができていたのです。
一方、株式投資型クラウドファンディングの場合には、インターネットを通じて行われることで、アクセス数から市場の注目度がわかるなど、さまざまな情報を得ることができます。
投資家はこれらの集合知から投資判断を行うため、新しい領域やアーリーステージであっても資金調達の可能性が大いにあるのです。
(注)企業が提供するサービス・製品が、適切な市場で受け入れられている状態を指します。
2)募集を行う事業者が多種多様
株式投資型クラウドファンディングの2つ目の特徴は、募集を行っている事業者が多種多様である点です。
株式投資型クラウドファンディングサービス「FUNDINNO」で資金調達を目指している企業の内訳は、最も多いIT分野で15〜20%、AI・IoTなどのテクノロジーがその次に多く、以下メドテック、バイオテックと続いており、業種の幅はとても広くなっています。
また、一般的にVCなどからの調達が難しいとされる、社会課題の解決を目的とするソーシャルビジネスやスポーツ・エンターテイメントなどのファンビジネスでの成功事例が多いことも特徴的です。
VCの場合、利益の見込める投機性の高い事業であるかどうかが判断する上で重要な材料となりますので、どれだけ社会貢献性が高くとも、リターンが判断しにくいソーシャルビジネスの領域は、投資を受けにくい状況にありました。
しかし、株式投資型クラウドファンディングで投資をする個人の投資家たちは、必ずしもリターンだけを求めているわけではありません。
彼らを動かすものは事業への共感であり、社会貢献性の高い事業は共感が集まりやすいのです。
スポーツやエンターテイメントといったファンビジネスの領域でも、同じことが起こります。「チームを盛り上げたい」「スポーツを通して、チームの本拠地となっている地元を盛り上げたい」といった共感の力で、プロジェクトが盛り上がるケースは増えてきています。
また、エリアに関しても、東京だけでなく地方企業が募集を行うケースが多いという特徴があります。
VCなどによる資金調達の場合、調達に成功する企業の9割近くは本社を東京に置いていると言われていますが、FUNDINNOでは東京が65%、それ以外のエリアが35%を占めています。
3)投資家が企業のファンとなりやすい
株式投資型クラウドファンディングは従来の資金調達とは異なり、個人投資家から資金を集めています。
先ほども触れた通り、個人投資家は、リターンだけでなく、その企業が「どんなビジョンを持っていて、どのような世界を実現しようとしているのか」という点に重きを置いて、投資の判断をする傾向にあります。
そのため、事業内容を理解し、ビジョンに共感し、投資を行うというプロセスの中で、投資家は徐々に企業への思い入れを強め、ファンとなっていくことが多いのです。
ファン化した投資家は、toB/toCに関わらず同社のサービス・製品を利用してくれたり、顧客を紹介してくれたりするようになるため、企業にとっての大きな財産となります。
3 株式投資型クラウドファンディングを成功させるポイント
株式投資型クラウドファンディングで資金調達に成功している企業には、どのような共通点があるのでしょうか。
成功のポイントは大きく2つあります。
1)スケール性(より多くの社会課題を解決する、広がりのある事業かどうか)
「このビジネスが成功すれば、これだけ大きな社会課題を改善・解決できる」という世界観を見せることが、資金調達を成功させる1つ目のポイントです。
繰り返しとなりますが、株式投資型クラウドファンディングは、個人投資家がビジョンに共感して、投資判断をする傾向にあります。
そのため、現代社会が抱える課題を解決する事業であることは重要なポイントです。個人投資家は、その社会課題に対して「お金を払ってでも解決の手助けをしたい」と思えるかどうかを見ています。
さらに、そのビジネスがより大きな社会課題を解決するサービスへとスケールしていくかどうかというのも重視されます。
2)ユニーク性(その企業にしかない強みがあるか)
2つ目のポイントは、ユニーク性です。
その企業が作ろうとしている商品・サービスに競合や代替品がある場合は、企業独自の強み・競争優位を示すことが重要です。
独自技術や特許といったわかりやすい強みがあれば理想的ですが、そうでない場合は、代表やメンバーの経歴などを強みとして打ち出すこともできます。
例えば、「代表がこれまでの経歴で、その領域に関するノウハウを多く有している」「高い営業力を持ち、それを証明できるような経歴を持つメンバーがいる」などのようにです。
4 株式投資型クラウドファンディングの課題
社会課題を解決したいと考えるスタートアップにとって、非常に魅力的な資金調達方法である株式投資型クラウドファンディング。しかし、今後さらに一般化させていくためには、乗り越えていかなくてはならない課題もあります。
1)日本は後発。欧米と比較すると規制が厳しい状況
株式投資型クラウドファンディングの歴史で見ると、日本は欧米よりも後発で、いまだに法規制が厳しい状況にあります。
具体的には、企業側が調達できる金額の上限が1億円、投資家側が投資できる金額が50万円までなど、法律上の制限があります。
欧米諸国では、投資家は資産状況に応じて上限なしで投資ができる仕組みとしている国も多く、企業側の上限に関してもアメリカでは5億円、イギリスでは上限がないなど、市場の拡大と共に自由度も高くなっています。
日本で株式投資型クラウドファンディングがより広く活用されるためには、欧米諸国に近いレベルでの規制緩和が必要であると考えられます。
2)シード段階の企業には使いにくい傾向
株式投資型クラウドファンディングのサービスを展開する企業は、金融商品取引法上では証券会社の立ち位置となります。
そのため、監査的な目線で個人投資家に対して「蓋然性(確実かどうかの度合い)」が説明できる必要があるのです。
例えば、IT企業があるプロダクトを作るために資金調達をしながら、「プロダクトの開発に失敗してしまった」「開発したもののユーザーが1人もいない」という事態は避けなくてはなりません。
そのため、α版・β版であってもプロダクトが一定レベルで完成していたり、ファーストユーザーがいたりする状態でなければなりません。
アイデア段階のシードでは株式投資型クラウドファンディングへの参加は難しく、アーリーフェーズが最も馴染みやすいタイミングです。
FUNDINNOでは、バリュエーション3億円程度、3000万円くらいの調達を集めるような段階でのご利用が最も多くなっています。
5 株式投資型クラウドファンディングサービスの選び方
市場の拡大に伴い、株式投資型クラウドファンディングサービスも次々に登場しています。
ここでは、資金調達をしたい企業が、どのサービスを活用するかを選定する上で、チェックしておくべきポイントをご説明します。
1)独立系か、大手傘下系か
株式投資型クラウドファンディングのサービスを提供している企業は、大きくこの2つに分類されます。
大手傘下系とは、既存の大手クラウドファンディング企業が別事業として運営をしていたり、大手金融機関の子会社であったりするケースです。
親会社とも連携を深めたいという目的がある場合は、これらの大手傘下系を見ていくのもよいでしょう。
一方で独立系は、大手傘下よりも障壁なく、幅広い金融機関と提携していることが強みとなります。
2)実績などの情報開示は行われているか
過去の資金調達の事例や投資家の属性を開示しているかどうかは押さえておくべきポイントの1つです。
エンジェル投資家がどのくらいいるのか、過去にどのような企業が調達に成功しているかは、自社の目的達成の可能性をはかる上で大きなヒントとなります。
3)資金調達後のサポート体制の有無
資金調達が成功した後の成長をサポートしてくれるかどうかというのも、1つの判断基準となります。
特に、株式投資型クラウドファンディングで投資をしてくれた個人投資家は企業にとって大きな財産です。個人投資家との関係づくりをサポートしてくれるようなサービスがあれば、活用しない手はありません。
例えばFUNDINNOでは、システム上で株主総会や株主の管理などができる「FUNDOOR」というサービスも展開しており、企業はFUNDOORを活用して定期的な事業の進捗情報や、PR情報、「最近こんなことで困っている」というお困りごと情報などを発信し、投資家とコミュニケーションを取り続けてもらっています。
6 投資家と企業が共感でつながる世界へ
最後に、株式投資型クラウドファンディングの台頭により、投資家と企業の関係性が変わりつつあるという点についても触れさせていただきます。
株式投資型クラウドファンディングで投資をしてくれる個人投資家の方々は、企業のファンですので、「成長のためにできることがあるなら手伝いたい」と考えてくれています。
資金調達をして終わりではなく、関係性はその後も続き、個人投資家から投資以外の支援をしてもらえるケースも多々あります。
例えば、「氷点下でも凍らない冷凍庫」を販売している企業の事例。
同社を支援する個人投資家の中に、飲食店経営者や地方の道の駅を経営されている方などがいらっしゃいました。結果的に、投資をしてくれるだけではなく、同社の製品である冷凍庫を実際に購入してくれる方も多くいました。
また、個人投資家の方のネットワークから、新しい顧客をご紹介してくださるなど、同社のファンの輪が広がっていったそうです。
新しい資金調達の方法というだけでなく、資家と企業の新しい関係性を作りうる株式投資型クラウドファンディング。
その仕組みやメリット・デメリットを理解いただいた上で、経営に活かしていただければ幸いです。
以上
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