安全運転義務違反(2022/02号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

交通ルールの遵守は、交通安全を確保するために必要なことですが、様々な交通違反により交通事故が発生しています。

特に安全運転義務違反は、多くの交通事故の背景に潜んでおり、重大事故につながりかねないたいへん危険な行為です。安全運転の義務を理解し、安全運転に努めることで交通事故の発生を防止しましょう。

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1.安全運転義務違反とは

(1)安全運転義務違反とは

ドライバーには、自動車の装置を確実に操作する義務と、周囲の状況を適切に確認・判断し安全に運転する義務があります。

つまり、ハンドル等の操作を誤ったり、相手への注意や状況判断が十分でないことで、事故を起こしたような場合、安全運転義務違反となります。

参考:道路交通法第70条(安全運転の義務)
「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」

(2)安全運転義務違反の割合

警察庁の統計(下のグラフ)によると、令和2年中に発生した原付以上の車両による交通事故のうち、安全運転義務違反が72%を占めており、いかに危険であるかが分かります。

逆にいうと、もしも安全運転義務に留意していれば、未然に防げた交通事故も多くあったということになります。

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(3)交通違反点数と反則金

安全運転義務違反には下表の違反点数と反則金が課せられます。反則金は車種別で異なりますが、大型車であっても原付であっても歩行者からすると危険であることに変わりありません。

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2.安全運転義務違反の内訳

令和2年中の安全運転義務違反の内訳を見ると、「安全不確認」、「脇見運転」、「動静不注視」、「漫然運転」、「運転操作不適」の5つが大半を占めています。

これを運転の「認知」、「判断」、「操作」のプロセスにあてはめて考えると以下の通りです。

①安全不確認(45%)・・・「認知」
前方、後方、左右の確認不十分で他車や歩行者等を見落とし事故に至るケース

②脇見運転(19%)・・・「認知」
脇見をして、前方への注意が不十分となり事故に至るケース

③動静不注視(14%)・・・「判断」
他車や歩行者等を認識しつつも、その動静への注意を怠ることで事故に至るケース

④漫然運転(11%)・・・「認知」
考えごと等をして運転への注意が緩慢になり事故に至るケース

⑤運転操作不適(9%)・・・「操作」
ブレーキの踏み間違え、ウィンカーの不使用、片手運転等で事故に至るケース

「認知」に関するものを合計すると75%を占めています。これは、誰にでもあるちょっとした油断や慢心が運転への注意をおろそかにし、事故の原因になりやすいことを表していると考えられます。

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3.安全運転を実践するための対策

安全運転義務違反での事故はすべてのドライバーに起こり得ると言えます。今まで大丈夫だったからといって油断や慢心は禁物です。絶対に事故を起こさないという心構えをしっかり持って、安全運転意識の維持向上に努めましょう。

  • 運転中は適度に緊張感を持ちながら運転に集中するよう心がけましょう。
  • 周りの自動車や歩行者等の動きを常に意識し、「かもしれない」の危険予測運転を心がけましょう。
  • 冷静な判断を持続できるよう体調に気を配り、十分な睡眠時間・休憩時間をとりましょう。

交通事故の加害者・被害者にならないよう、いま一度「安全運転義務」の観点から「運転」について振り返り、交通安全につなげてください。

以上(2022年2月)

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画像:amanaimages

【管理会計】当期の業績に変化はありましたか?

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけでなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:当期の業績の変化をどう見たらいいのか分からない
  • 解決策:当期の月次推移表を確認する。数値の整理後に、変動結果になった理由や状況について把握する

1 質問:月次推移表から変化を読み取れますか?

月次決算では「月次推移表」を作成します。月次推移表は、毎月の数字を勘定科目ごとに並べたもので、これを見ていると数字の小さな変化にも敏感になれます。経営者はその変化が「一時的なものか、継続的なものか」ということだったり、その後の業績への影響を考慮して、戦略を見直したりします。

早速、月次推移表を見てみましょう。次の月次推移表は人件費と地代家賃を示したものですが、どのような業績の変化がありそうでしょうか。自分なりの仮説を立てた上で、読み進めてみてください。

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2 数字の変化の理由を探る

4月から8月までを見ると、

  • 人件費:8月だけ2500千円と、他の月より1000千円多い
  • 地代家賃:7月だけ500千円と、他の月より500千円少ない

ことが分かります。大切なのは、そのような変化をしている理由ですが、例えば、次のような仮説が立てられます。

  • 会計仕訳を入れ忘れたか、二重に入れてしまった
  • 季節的な要因で増減している
  • 特別なイベントがあった

この仮説を検証するためには、次のような確認をすることになります。

  • 経理の仕訳にミスがないかを確認する
  • 前年同月の数字を確認する
  • 経営者が把握していないイベントなどを確認する

また、このような変動の原因となるイベントを確認するために一覧表に記録しておきましょう。エクセルにまとめてもよいですし、Googleカレンダーなどを使うこともできます。例えば、工場の新設など多額のコストが発生する出来事があった場合、その時期、内容、会計上の影響を記録しておきます。

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よくあることですが、起こった年はよく覚えているのですが、翌年になるとみんな記憶が曖昧になってきます。出来事カレンダーを作成すると、思い出す時間の無駄がなくなります。

3 月次推移表は自社用にカスタマイズする

月次推移表は、多くの会社で使っている会計システムの標準メニューにあります。まずは貸借対照表と損益計算書の月次推移表を使ってみましょう。

そのときに、勘定科目を補助科目に細分化するなど切り口を変えてみると、業績の変化が見えてきます。さらに詳細に管理したい“重要な”勘定科目が出てきたら、Excelで資料を作成することを検討してもよいでしょう。ここで“重要な”と書いたのは、すべてにおいて細かく管理する必要はないからです。業績に重要な影響がある勘定科目を抜粋することで作成にかかる時間や検索する時間を短縮し、より効率的な管理会計の仕組みを自社に取り入れることに繋がります。

以上(2022年2月)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 取締役・公認会計士 福原俊)

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画像:apinan-Adobe Stock

「お手本」だった同業大手に会社発展の夢を託す/社長が語る 私はこうして後継者不在の問題を解決した(前編)

書いてあること

  • 主な読者:後継者不在の問題で悩んでいる50代以上の社長
  • 課題:社員のためにもできれば廃業したくないが、M&Aによる事業譲渡や社員への承継にもやや抵抗感がある。他社の社長がどう考え、行動したのかを参考にしたい
  • 解決策:事業譲渡、社員への承継のいずれも、成功の秘訣はとにかく早く動き出すこと

1 事業譲渡とは、会社の発展という「自分の夢」を託すこと

悩んだ末に会社の譲渡を決断して社長が最初に行ったのは、自らが事業のお手本としていた同業大手の社長に、会社を譲り受けてもらうための「直談判」。それは、「会社を存続、発展、成長させるという、自分の夢を実現してくれる人に会社を託したい」という思いからでした。希望がかなった今では、会社の明るい将来にワクワクする日々を過ごしています。

2 このまま「座して死を待つ」のは嫌だ!

「社長、サインしてください。会社の譲渡先を仲介するための契約書です」
「はい、します……。ちょっと待ってください」

後継者のいない自社の譲渡先探しをM&A仲介会社に依頼する契約書類。それらを目の前にして、豆腐の製造販売「山下ミツ商店」(石川県白山市)の山下浩希社長は、どうしてもサインができませんでした。結局、この問答はこの後、2年間繰り返されることになります。

「頭の中では、会社がこれからも続いていくには、この方法しかないのは分かっていた。しかし、やはり、他人に会社を渡すということに抵抗があったのかもしれない」。約3年前の自分を振り返って、山下さんは苦笑いします。

契約書類にサインをしたきっかけは、山下さんが人生の節目と考えていた60歳目前の59歳になった2020年秋、本を読んでいた際に目に留まった、ある言葉でした。

座して死を待つ

「これは、今の自分のことだ」。自分が高齢になって豆腐が作れなくなり、会社が誰にも見向きをされないまま消えていく。そんな光景が頭に浮かび、山下さんは決断しました。

サインをした後、山下さんはM&A仲介会社に1つの希望を伝えます。それは、まず山下さん自身が1社だけ、自社を譲り受けてくれないか相談してみることでした。その1社とは、山下さんが豆腐の移動販売のお手本にしていた同業大手「染野屋」(茨城県取手市)です。山下さんが染野屋の小野篤人社長に直接メールを送ったことで、山下ミツ商店の運命は大きく変わりました。

3 豆腐の製造販売に特化して急成長と挫折を経験

今から130年以上前の明治20年(1887年)、山下ミツ商店は食料・雑貨店として石川県白峰村(現・白山市)で創業しました。山下家が代々営んできた、当時は名前も特にない個人商店で、朝は豆腐作り、昼は食品や酒類販売など、朝6時半から夜8時まで開いている店でした。

店を長年切り盛りしていたのは、山下さんの祖母、ミツさんです。子供の頃からかわいがられ、大好きだったという祖母が80歳を過ぎ、「もう年だし疲れたからやめる」という言葉を口にしたことから、山下さんは家業の承継を決意。1985年10月、1年半勤めたスーパーマーケットを24歳で退職して6代目となり、社名には祖母の名前を付けました。「山下ミツ商店」です。

会社を成長、発展させるため、試行錯誤の末に山下さんが取った戦略は、自社で製造していた豆腐事業への特化でした。埼玉県内の同業者に教えを請い、国産大豆と天然ニガリを使った豆腐を学び、2年ほどかけて独自の製法を開発。1992年2月に完成した1丁1000円の豆腐「記まじめ!」シリーズのヒットにより、会社は急成長します。1995年4月に金沢市内のデパ地下に進出し、1997年12月の法人化を機に社員の雇用を開始します。2001年11月に増産のために工場を新設すると、売り上げは1億6000万円に達しました。「絶対に俺は伸び続ける」と、寝る間も惜しんで働いた30~40代でした。

ところが、2000年代後半になると、急成長の影の部分が表面化します。契約農家の大豆の不作と価格高騰、社員の待遇改善の必要性、そのための価格転嫁。最もダメージを受けたのは、デパ地下の店舗の売り上げが、デパート改装に伴う場所替えにより4割も減ってしまったことです。

社内の組織にもヒビが入っていました。「社員に対して、自営業者上がりだった自分たちと同じような、朝から晩までというむちゃな働き方を当たり前のように要求してしまった」ことで、後継者候補と見込んで頼りにしていた社員が、相次いで辞めていってしまったのです。

追い詰められた山下さんが選択したのは、以前から空いた時間に試して手応えを感じていた、トラックで豆腐を移動販売することへの「事業転換」でした。50歳を目前にした山下さんは、「もう他のものには目移りせず、あと10年を移動販売に懸ける」と腹をくくりました。

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4 残された最大の問題は後継者不在

倒産の危機を免れた山下さんにとって、残された最大の問題が、後継者不在でした。

問題を意識したきっかけは、50歳となった2011年に、やはり後継者が不在で悩んでいた6歳年長の知り合いの社長から、「自分の会社を、どのようにして周りの方に迷惑を掛けずに畳もうか考えている」と聞かされたことでした。山下さんは、「うちにも後継者がいない。自分も60歳くらいになったら、同じことを考えなくてはいけなくなる」と危機感を持ったといいます。

子供のいなかった山下さんにとって、後継者の最後の希望は妹の息子(甥(おい))でした。高校生の夏休みに小遣い稼ぎに移動販売を手伝っていた甥が楽しそうにお客さんと話す姿を見て、ひそかな期待をしていた山下さん。ですが、大学3年生になって就職活動を始めた甥に声を掛けることはできませんでした。当初は手応えがあった移動販売ですが、トラックの台数は2台のままで、新しい社員を雇っても、職場に定着しなかったり、交通事故などのトラブルを起こしたり。「成長している会社であれば誘えたのでしょうが、業績を伸ばす手段が分からない状態で、甥に背負わせることはできなかった」

5 何もしなければ、会社はなくなってしまう

山下さんが会社の譲渡に向けて動き出す決め手となったのは、2017年ごろ、親しかった金沢市内の同年代の社長が会社を譲渡して、同業大手の傘下に入ったことでした。

山下さんにとって、彼の会社は「仕事ができる社員がそろっていて羨ましい」存在でした。ところが、その社長から、「店長は育てられたけれど、跡を継げる経営者は育てられなかった。会社を存続させ、成長させるには、M&Aの話に乗るべきだと考えた」と打ち明けられ、ショックを受けます。当初は「M&Aで会社を譲渡することには、買収されるとか身売りするとかいうイメージがあり、彼の決断がすぐには理解できなかった」と言いますが、1年ほど考えるうちに、同様の選択をする会社が意外と多いことも分かりました。その頃には、毎日欠かさず行う祖母の墓参りの行き帰りに、「自分には子供がいないので、山下家はこれで終わる。会社もこのまま何も手を打たなければ終わってしまう。自分は何も残せなかったことになる」との思いが頭をよぎるようになっていました。

こうして山下さんは2018年、顧問税理士が所属する会計事務所のグループだったM&A仲介会社に、顧問税理士を通じて連絡しました。顧問税理士の全面協力の下、仲介会社の担当者は山下ミツ商店の強みや弱みまで子細に記した資料を、すぐに作成してきました。後は山下さんのサインを待つばかり。そして話は、2020年秋の「染野屋の小野社長に宛てたメール」につながっていきます。

6 「お手本」にしていた同業大手に傘下入りを直談判

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M&A仲介会社に譲渡先を仲介してもらう契約を結んだ山下さんは2020年11月、同業の染野屋の小野社長に、山下ミツ商店での半生と、後継者のいない会社の将来に対する不安をつづったメールを送りました。

山下さんにとって染野屋は、山下ミツ商店と同じコンセプトで、国産大豆と天然ニガリを使った豆腐を作り移動販売で成長を続けている、いわば移動販売のお手本というべき存在でした。山下さんは、まず染野屋の小野社長に相談した理由を、こう語ります。

「ただ会社と社員、工場を守るだけなら、譲渡先はどんな会社でもいい。でも、どういう会社に譲りたいかを考えたときに、その答えは染野屋さんでした。移動販売で多くの人にこの豆腐を食べてもらうという、自分ができなかったことを実現してくれるのは、染野屋さんしかないと思ったからです」

7 トントン拍子で譲渡が決まる

山下さんの思いは、小野社長の心を動かしました。約1週間後に2人で直接会って話すと、小野社長は最後に「真剣に検討します」と受け合ってくれました。

コロナ禍のため、小野社長をはじめとする染野屋の幹部が山下ミツ商店のオフィス、工場、移動販売のトラックなどをくまなく視察したのは、2021年5月になりました。ですが、その数日後に染野屋から「前向きに進めます」との連絡があると、トントン拍子で譲渡交渉が進みます。

譲渡に関する条件は、株式の譲渡額も含めて、染野屋が全て山下さんの希望をのんでくれたといいます。山下さんは、「染野屋に譲渡できたのは本当に運が良かった。もし小野社長に断られていたら、どんどん希望のハードルを下げることになって、豆腐のこだわりやブランド、会社そのものもなくなっていたかもしれない。まだ山下ミツ商店に価値があるうちに譲渡の話をしたことが重要だった」と語ります。

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8 「能力のある人材が来てくれた」

2021年10月、山下ミツ商店は染野屋の完全子会社となりました。山下さんは社長を退いて取締役会長となり、小野社長が山下ミツ商店の社長を兼務、染野屋の幹部が新たな役員に就きました。

調印を終えた直後に山下さんが自社の社員に説明した、「山下ミツ商店は、今までよりも、良い会社になります」という言葉は、山下さんの本心でした。「小野社長もトラックが10台になるまでは苦労したと聞きました。販売員を採用したら次の日に来なかったとか、毎月のようにトラックの交通事故のために警察署に行ったとか、小野社長は全部経験済みで、それをどのように克服するかも分かっているんです。そのノウハウを注入してもらえるのは、本当にありがたいと思っています」

説明の後、山下さんはある社員から、「社長も年を取っていき、いつまで豆腐が作れるのか心配していました」と告げられました。それを聞いて山下さんは、「社員に安心して働いてもらえていなかったことを知り、社長としての自分の鈍さ、無神経さ、至らなさにへこんだ」と言います。

染野屋の傘下となった山下ミツ商店では、社名も社員の待遇も豆腐の製法もブランドも変わっていません。その一方で、事務管理業務などは、副社長などが毎月来社して染野屋方式に変更しているといいます。また、売り上げに応じて販売員にインセンティブを付けたり、染野屋が開発した商品を販売したりするための準備も進めています。

染野屋が作成した「山下ミツ商店5カ年計画」には、3年で北陸3県、5年で新潟県も含めた全北陸地方をカバーする方針が記載されているそうです。「やはり、スケールが違う。勘違いなのかもしれませんが、会社を譲渡したので染野屋の能力のある人材が山下ミツ商店に関わってくれて、これから会社として発展していくのだろうという気持ちでいます。私自身もワクワクしていますし、頑張らないといけないと思っています。なにより、小野社長が自信満々なのが心強い」。山下さんは目を輝かせて、夢の続きを語ります。

山下さんへのインタビューはこれで終わりです。後編では、ほぼ最年少社員にもかかわらず会社の跡継ぎ候補として手を挙げ、引き継ぎ直前の社長の急逝という不幸に見舞われながらも会社の承継に成功した、高田組の高橋純さんへのインタビューを紹介します(2022年2月8日公開予定)。

以上(2022年2月)

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画像:山下さん提供

第32回 非上場金融業界を”民主化”する新たな資金調達方法 「株式投資型クラウドファンディング」とは/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

インターネットを通じて多くの人から少額ずつ資金を集める「株式投資型クラウドファンディング」が注目を集めています。

スタートアップの新たな資金調達方法として期待が高まっている一方、仕組みやメリット・デメリットがわからず活用を躊躇されているという企業も多いのではないでしょうか。

今回は、日本初の株式投資型クラウドファンディングサービスのプラットフォームである「FUNDINNO」を運営するFUNDINNO(旧:株式会社日本クラウドキャピタル) COO・大浦 学氏に、株式投資型クラウドファンディングの仕組みと特徴、成功させるためのポイントなどをお聞きします。

皆さまが資金調達方法を検討する上でのヒントとなれば幸いです。
大浦さん、貴重な学びのシェアを愛りがとうございます!(愛+ありがとう)

1 「株式投資型クラウドファンディング」とは

1)本場はイギリス。日本では2017年に国内初のサービスがスタート

冒頭で触れた通り、株式投資型クラウドファンディングとはインターネットを通じて多くの人々から少額の資金を集める新しい資金調達の方法です。

2011年にイギリスで初めて登場し、2020年には、イギリス国内で年間800億円規模のマーケットへと成長しています。

従来、日本では金融商品取引法の規制により、非上場企業がインターネット上で募集を行うことができませんでした。しかし、2015年の法改正により解禁され、2017年に国内初となる株式投資型クラウドファンディングサービス「FUNDINNO」がスタートしました。その市場規模は、年々急速に拡大しています。

FUNDINNOのロゴ画像です

(画像提供:株式会社FUNDINNO)

2)テクノロジーによる非上場金融業界の”民主化”

従来、非上場企業の金融業界に参加するプレーヤーは、ベンチャーキャピタルや銀行といった一部の「金融業界のプロフェッショナル」に限られていました。
 VCや銀行が非上場企業を審査し、どこへどれだけのお金を出すのか決めるというのが通例で、一般の個人はアクセスする手段がなかったのです。

しかし、株式投資型クラウドファンディングの台頭により、一個人であっても、インターネットを通じて非上場企業へ投資することが可能となりました。

これは言わば、技術革新による非上場金融業界の”民主化”と言える、大きな変化です。

2 株式投資型クラウドファンディングの特徴

1)実績ではなく「集合知」による投資

非上場の金融業界が一般に開かれることで、何が変わるのでしょうか。
最も大きな変化は、プロには判断がつかない・投資しにくい新しい領域や、実績の少ないアーリーステージの企業であっても、投資が受けられるようになる点です。

従来、VCや銀行といった金融のプロたちは、企業へ投資するか否かを判断する際、過去の実績をその判断材料としてきました。

そのため、企業が挑戦しようとしているビジネスが新しいものであればあるほど、前例がないため、「市場へ受け入れられるのか」「どれだけ成長するのか」といった先行きが読みにくく、投資がしにくい領域となっていました。
「新しいビジネスをPMF(プロダクト・マーケット・フィット(注))させるための資金が欲しい」と考えて資金調達を目指すスタートアップ企業と、「もう少し実績が出るか、PMFしたら投資したい」と考える金融のプロとの間に、”死の谷”と呼ばれる大きなギャップができていたのです。

一方、株式投資型クラウドファンディングの場合には、インターネットを通じて行われることで、アクセス数から市場の注目度がわかるなど、さまざまな情報を得ることができます。
投資家はこれらの集合知から投資判断を行うため、新しい領域やアーリーステージであっても資金調達の可能性が大いにあるのです。

(注)企業が提供するサービス・製品が、適切な市場で受け入れられている状態を指します。

2)募集を行う事業者が多種多様

株式投資型クラウドファンディングの2つ目の特徴は、募集を行っている事業者が多種多様である点です。

株式投資型クラウドファンディングサービス「FUNDINNO」で資金調達を目指している企業の内訳は、最も多いIT分野で15〜20%、AI・IoTなどのテクノロジーがその次に多く、以下メドテック、バイオテックと続いており、業種の幅はとても広くなっています。

また、一般的にVCなどからの調達が難しいとされる、社会課題の解決を目的とするソーシャルビジネスやスポーツ・エンターテイメントなどのファンビジネスでの成功事例が多いことも特徴的です。

VCの場合、利益の見込める投機性の高い事業であるかどうかが判断する上で重要な材料となりますので、どれだけ社会貢献性が高くとも、リターンが判断しにくいソーシャルビジネスの領域は、投資を受けにくい状況にありました。

しかし、株式投資型クラウドファンディングで投資をする個人の投資家たちは、必ずしもリターンだけを求めているわけではありません
彼らを動かすものは事業への共感であり、社会貢献性の高い事業は共感が集まりやすいのです。

スポーツやエンターテイメントといったファンビジネスの領域でも、同じことが起こります。「チームを盛り上げたい」「スポーツを通して、チームの本拠地となっている地元を盛り上げたい」といった共感の力で、プロジェクトが盛り上がるケースは増えてきています。

また、エリアに関しても、東京だけでなく地方企業が募集を行うケースが多いという特徴があります。
VCなどによる資金調達の場合、調達に成功する企業の9割近くは本社を東京に置いていると言われていますが、FUNDINNOでは東京が65%、それ以外のエリアが35%を占めています。

3)投資家が企業のファンとなりやすい

株式投資型クラウドファンディングは従来の資金調達とは異なり、個人投資家から資金を集めています。

先ほども触れた通り、個人投資家は、リターンだけでなく、その企業が「どんなビジョンを持っていて、どのような世界を実現しようとしているのか」という点に重きを置いて、投資の判断をする傾向にあります。

そのため、事業内容を理解し、ビジョンに共感し、投資を行うというプロセスの中で、投資家は徐々に企業への思い入れを強め、ファンとなっていくことが多いのです。

ファン化した投資家は、toB/toCに関わらず同社のサービス・製品を利用してくれたり、顧客を紹介してくれたりするようになるため、企業にとっての大きな財産となります。

3 株式投資型クラウドファンディングを成功させるポイント

株式投資型クラウドファンディングで資金調達に成功している企業には、どのような共通点があるのでしょうか。

成功のポイントは大きく2つあります。

1)スケール性(より多くの社会課題を解決する、広がりのある事業かどうか)

「このビジネスが成功すれば、これだけ大きな社会課題を改善・解決できる」という世界観を見せることが、資金調達を成功させる1つ目のポイントです。

繰り返しとなりますが、株式投資型クラウドファンディングは、個人投資家がビジョンに共感して、投資判断をする傾向にあります。

そのため、現代社会が抱える課題を解決する事業であることは重要なポイントです。個人投資家は、その社会課題に対して「お金を払ってでも解決の手助けをしたい」と思えるかどうかを見ています。

さらに、そのビジネスがより大きな社会課題を解決するサービスへとスケールしていくかどうかというのも重視されます。

2)ユニーク性(その企業にしかない強みがあるか)

2つ目のポイントは、ユニーク性です。
その企業が作ろうとしている商品・サービスに競合や代替品がある場合は、企業独自の強み・競争優位を示すことが重要です。

独自技術や特許といったわかりやすい強みがあれば理想的ですが、そうでない場合は、代表やメンバーの経歴などを強みとして打ち出すこともできます。

例えば、「代表がこれまでの経歴で、その領域に関するノウハウを多く有している」「高い営業力を持ち、それを証明できるような経歴を持つメンバーがいる」などのようにです。

4 株式投資型クラウドファンディングの課題

社会課題を解決したいと考えるスタートアップにとって、非常に魅力的な資金調達方法である株式投資型クラウドファンディング。しかし、今後さらに一般化させていくためには、乗り越えていかなくてはならない課題もあります。

1)日本は後発。欧米と比較すると規制が厳しい状況

株式投資型クラウドファンディングの歴史で見ると、日本は欧米よりも後発で、いまだに法規制が厳しい状況にあります。
具体的には、企業側が調達できる金額の上限が1億円、投資家側が投資できる金額が50万円までなど、法律上の制限があります。

欧米諸国では、投資家は資産状況に応じて上限なしで投資ができる仕組みとしている国も多く、企業側の上限に関してもアメリカでは5億円、イギリスでは上限がないなど、市場の拡大と共に自由度も高くなっています。

日本で株式投資型クラウドファンディングがより広く活用されるためには、欧米諸国に近いレベルでの規制緩和が必要であると考えられます。

株式投資型クラウドファンディングの投資金額の画像です

(画像提供:株式会社FUNDINNO)

2)シード段階の企業には使いにくい傾向

株式投資型クラウドファンディングのサービスを展開する企業は、金融商品取引法上では証券会社の立ち位置となります。

そのため、監査的な目線で個人投資家に対して「蓋然性(確実かどうかの度合い)」が説明できる必要があるのです。

例えば、IT企業があるプロダクトを作るために資金調達をしながら、「プロダクトの開発に失敗してしまった」「開発したもののユーザーが1人もいない」という事態は避けなくてはなりません。

そのため、α版・β版であってもプロダクトが一定レベルで完成していたり、ファーストユーザーがいたりする状態でなければなりません。

アイデア段階のシードでは株式投資型クラウドファンディングへの参加は難しく、アーリーフェーズが最も馴染みやすいタイミングです。

FUNDINNOでは、バリュエーション3億円程度、3000万円くらいの調達を集めるような段階でのご利用が最も多くなっています。

5 株式投資型クラウドファンディングサービスの選び方

市場の拡大に伴い、株式投資型クラウドファンディングサービスも次々に登場しています。

ここでは、資金調達をしたい企業が、どのサービスを活用するかを選定する上で、チェックしておくべきポイントをご説明します。

1)独立系か、大手傘下系か

株式投資型クラウドファンディングのサービスを提供している企業は、大きくこの2つに分類されます。

大手傘下系とは、既存の大手クラウドファンディング企業が別事業として運営をしていたり、大手金融機関の子会社であったりするケースです。
親会社とも連携を深めたいという目的がある場合は、これらの大手傘下系を見ていくのもよいでしょう。

一方で独立系は、大手傘下よりも障壁なく、幅広い金融機関と提携していることが強みとなります。

2)実績などの情報開示は行われているか

過去の資金調達の事例や投資家の属性を開示しているかどうかは押さえておくべきポイントの1つです。

エンジェル投資家がどのくらいいるのか、過去にどのような企業が調達に成功しているかは、自社の目的達成の可能性をはかる上で大きなヒントとなります。

3)資金調達後のサポート体制の有無

資金調達が成功した後の成長をサポートしてくれるかどうかというのも、1つの判断基準となります。

特に、株式投資型クラウドファンディングで投資をしてくれた個人投資家は企業にとって大きな財産です。個人投資家との関係づくりをサポートしてくれるようなサービスがあれば、活用しない手はありません。

例えばFUNDINNOでは、システム上で株主総会や株主の管理などができる「FUNDOOR」というサービスも展開しており、企業はFUNDOORを活用して定期的な事業の進捗情報や、PR情報、「最近こんなことで困っている」というお困りごと情報などを発信し、投資家とコミュニケーションを取り続けてもらっています。

6 投資家と企業が共感でつながる世界へ

最後に、株式投資型クラウドファンディングの台頭により、投資家と企業の関係性が変わりつつあるという点についても触れさせていただきます。

株式投資型クラウドファンディングで投資をしてくれる個人投資家の方々は、企業のファンですので、「成長のためにできることがあるなら手伝いたい」と考えてくれています。

資金調達をして終わりではなく、関係性はその後も続き、個人投資家から投資以外の支援をしてもらえるケースも多々あります。

例えば、「氷点下でも凍らない冷凍庫」を販売している企業の事例。
 同社を支援する個人投資家の中に、飲食店経営者や地方の道の駅を経営されている方などがいらっしゃいました。結果的に、投資をしてくれるだけではなく、同社の製品である冷凍庫を実際に購入してくれる方も多くいました。
 また、個人投資家の方のネットワークから、新しい顧客をご紹介してくださるなど、同社のファンの輪が広がっていったそうです。

新しい資金調達の方法というだけでなく、資家と企業の新しい関係性を作りうる株式投資型クラウドファンディング。
 その仕組みやメリット・デメリットを理解いただいた上で、経営に活かしていただければ幸いです。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2022年2月1日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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【朝礼】人として一流を目指せ

昨今、SDGsという言葉を多く耳にするようになりました。利益至上主義だった私の若かった頃と比べると、たとえ民間の会社であっても、自社だけのことを考えるのではなく、共生社会を目指すべきだという風潮に変わってきています。この機会に、今まで私がずっと心に掲げてきた人生の目標をお伝えしたいと思います。それは、「ビジネスパーソンとしてだけでなく、一人の人間としても一流になる」ことです。

私が目指している一流の人間とは、「仕事だけがデキる人間」ではなく、「仕事もデキる人間」です。仕事の結果を出すことは重要ですが、それ以前に、まず「人として正しいと思うことを優先できる人間」こそ、一流だと思います。分かりやすく極端な例えで言えば、大事な仕事の待ち合わせに向かう電車の中で、倒れている人を介助できるか、会社の不正を発見したら、それを正すことができるか、といったことがあるでしょう。

人として一流を目指すために、私は日ごろから、自分が正しいと思う生き方ができているか顧みるようにしています。具体的には、他人にも自分にも嘘をついていないか、誰にでも誠実であるか、私利私欲だけに走っていないか、自分の身近な人たちである家族や同僚を大切にできているか、世の中の役に立てているか、自分たちの今の利便性だけを考えて、後世にその「つけ」を回していないか、次世代の人たちに胸を張ってバトンタッチできるか、といったことです。

私は、他人を評価する際にも、人として一流であるかどうかを基準にしてきました。どんなに偉い肩書を持っていて、大きなお金を動かせる人であっても、人間的に尊敬できないような人とは深いお付き合いをしてきませんでした。逆に、どのような職業、どのような年齢の人であっても、人として尊敬できるのであれば、親しくお付き合いし、応援できる部分は応援してきました。

このような評価の方法は、結果として会社経営の面でもプラスになったと思います。一流の人とのお付き合いの中からビジネスのやり方を学び、役に立ったことが少なからずありました。また、人として尊敬できない人がトップにいる会社と、取引をしていなくて助かったというケースがしばしばありました。

私自身は、まだまだ人として一流になれているとは思っていません。常に自らを顧みて、一流を目指し続けていく必要があると思っています。そして皆さんにも、人として一流になることを目指してほしいと願っています。自分の価値観をビジネスパーソンという枠にはめず、一人の人間として正しいと思うことを優先する生き方をしてください。

皆さんと一緒に、ぜひ「この会社には一流の人間がそろっています」と、胸を張って言える会社を目指しましょう。そのような会社こそ、社会との共生が重視される時代にふさわしいのだと思います。

以上(2022年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

【第3弾】「売れる」科学 行動経済学を活用して売上をアップさせるマーケティング手法と実践例

書いてあること

  • 主な読者:感情や直感など消費者の心に働きかけて売上アップにつなげたい経営者
  • 課題:人間の行動を分析した行動経済学を理解し、売上アップのための施策に活用したい
  • 解決策:時間不合理性やフレーミング効果など、行動経済学の理論を活用した身近なマーケティングの実践例を学び、導入してみる

1 「時間不合理性」を活用して、消費者の心を動かす

1)どちらがお得に感じる?

今回も行動経済学を体感していただきながら進めていきます! 早速やってみましょう!

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多くの方が、「2):いま1万円もらう」を選んだのではないでしょうか。でもよく考えてください。1)を選べば利息が5%もつきます。経済合理的に考えれば、1)を選んだほうがお得なはずです。

これは、行動経済学で「時間不合理性」といい、

時間が遠いほど、自身の中で割引(マイナス)を設定してしまう

というものです。将来の利得より、目先の利得を選んでしまうのは人間の心情、言われてみればそうだよなという理論ですよね。

2)キャンペーンなどの特典付与時期は「近い時間」を設定しよう

お店の売上アップを支援する現場での話。そのお店では、最近、多くのお店で活用が進んでいる「LINE公式アカウント」を導入することになりました。来店された方にお店のLINEに登録していただき、そこにメッセージ配信やクーポン配信を行って再来店を促進する狙いです。重要になるのは、まずお店のLINEに登録してもらうことです。そこで登録促進のために特典をつけようという話になりました。

店長が考えた特典は、「いまLINEに登録すると、次回来店時に使えるドリンク券プレゼント」でした。私は、その特典に反対し、「『いまLINEに登録して画面を見せてもらえれば、本日ドリンクを無料で提供します』にすべきです」と助言しました。

あなたが客の立場だったら、どちらを選びますか? 恐らく「本日ドリンク無料」のほうに反応するのではないでしょうか? 次回という、いつになるか分からない将来よりも、いますぐという特典を選ぶのは、先ほどご説明した「時間不合理性」があるからです。

2 伝え方を変えれば、相手の心が動く

1)表現の仕方で反応が異なる?

続いては、次の2つの質問にお答えください。

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私が行動経済学のセミナーで質問をすると、質問1ではほぼ全員の方が、「1):手術をする」と答えます。一方で質問2になると、「2):手術をしない」を選択する人が多くなります。

お気付きのように、質問1では、「90%の確率で手術は成功します」と言っていますが、裏を返せば「10%の確率で手術は失敗します」と言っているのと同じです。質問2では、90%の成功というポジティブな要素を伝えずに、10%の失敗というネガティブな要素を伝えています。つまり、同じ内容でも「表現の仕方」で選択が異なるということです。

人は、利益(ポジティブ)と損失(ネガティブ)をてんびんに掛け、「ネガティブ要素が少ない」よりも「ポジティブ要素が多い」を選ぶ傾向にあります。

この心理現象のことを行動経済学で「フレーミング効果」といい、ある事柄を説明するにあたり、

伝え方・表現を変えることで、相手に与える印象を変えられる

ことをご理解いただけたと思います。

2)マイナスをプラスに転換する「リフレーミング」で売上アップ

栄養ドリンクのテレビCMで、こんなフレーズがあります。

「ファイトー! 一発! タウリン1000mg配合」

このCMでのフレーズ、以下だったらいかがでしょうか。

「ファイトー! 一発! タウリン1g配合」

「なんだか、効き目なさそう……」。そう感じられた方は多いのではないでしょうか。

1g=1000mgですので、同じ量です。フレーミング効果によって、伝え方・表現ひとつでこんなにも受ける印象が違うのです。

売上アップのためにフレーミング効果を活用するためのポイントは、

マイナスをプラスに転換する

ことです。これを「リフレーミング」といいます。先ほどご説明したように、人はポジティブな要素に反応しやすい傾向があります。自社の強みを打ち出したり、キャッチコピーを作成したりする際には、いかにポジティブな要素を入れるかを意識してみるとよいでしょう。

当社では年に1回、「マーケ大カンファレンス」というマーケティングのセミナーイベントを開催していますが、その際にリフレーミングを活用して成功したことがあります。そのイベントでは、マーケティングの最前線で活躍する講師6人が登壇するのですが、イベントの最後に全員が登壇し、1講師10分で講義のエッセンスをプレゼンするという時間があります。

第1回の開催時は、このコーナーを最終盤に実施することから「エンディングセッション」とご案内していました。ところが、なんと半分近くの方がエンディングセッションの前に帰ってしまったのです。

「エンディング」というネガティブなイメージが影響を与えたのだと考え、第2回の開催時は、このコーナーの名前を「スーパープレゼンテーション」と変更してご案内しました。すると、9割以上の方にお残りいただき、最後までイベントにご参加いただけました。

「エンディングセッション」と「スーパープレゼンテーション」。同じ内容でも表現にポジティブな要素を入れるだけで、こんなに反応が違うのかと、リフレーミングの威力を体感した出来事でした。

3 タダほど強いものはない? ~無料の威力~

最後の質問です。

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行動経済学のセミナーで挙手を求めると、だいたい半々に分かれます。ですので、販売促進の効果を考えると、2つの施策は同じくらいであると考えてもよいでしょう。

次に、このテレビを100人に販売した場合、それぞれの施策がどれだけ予算がかかるか計算してみます。

  • A店:5万円×100人×5%=25万円
  • B店:5万円×2人(無料)=10万円

A店の場合、ポイント還元により再来店を促すメリットがあったり、付与したポイントが使われない可能性があったりしますので単純に比較はできませんが、明らかにB店のほうが費用対効果の高い販促施策を展開しているといえるのではないでしょうか。

この「○○に1人がタダ」というキャンペーンは、航空会社や家電量販店で実施され大成功した例として知られています。「数字は見せ方によって、受け手の印象を大きく変えられる」ことを学ぶ好事例といえるでしょう。

行動経済学では、「無料の威力」という実証から導き出した理論があります。

無料、つまりタダに人は反応しやすい

というものです。当然、なんでも無料にしたら商売になりませんが、上記のキャンペーンのように、無料という要素をうまく活用して集客を図ることができます。

「見積もりは無料!」「無料サンプルのお申し込みはフリーダイヤルへ!」など、テレビ通販では常とう手段で使われていますよね。「タダほど怖いものはない」ともいわれますが、売上を伸ばすためには「タダほど強いものはない」ということもできるのです。

4 行動経済学を使って売上アップ

これまで行動経済学とその活用についてお伝えしてきましたが、いかがでしたか。「言われてみればそうだよね!」「それなら自分も取り組んでいるよ!」といった内容が多かったと思います。それもそのはず、行動経済学の理論は、私たちの日常生活や購買行動の実験・分析から生まれているものだからです。

いままで経験則でやっていたことも、行動経済学の理論的な裏付けがあると自信を持って実践できますし、施策に対する周囲の理解も得られやすいですよね。

ぜひ、今回ご紹介した行動経済学を、ご商売の現場でご活用いただければ幸いです。

以上(2022年1月)

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画像:Master1305-shutterstock
執筆者サイト:https://glocal-marketing.jp/

【朝礼】徳川家康に学ぶ「本当の忍耐力」

皆さんにとってこの2年ほどはまさに「忍耐」が求められているのではないでしょうか。新型コロナウイルス感染症流行の影響で、仕事、私生活ともこれまで当たり前にできていたことがままならず、さまざまな苦労や戸惑いを感じていることも多いはずです。今日は、そんな皆さんに、徳川家康のエピソードを紹介します。

家康は、三河国(みかわのくに)を統治する松平家の嫡男として生まれました。当時の三河国は、東西を織田家、今川家という強大な勢力に挟まれており、松平家存続の方策として、家康は少年時代の多くを今川家の人質として過ごしました。しかし、家康は人質となった自分の運命を悲観することなく、学問や武術に真摯に取り組みました。そして、17歳の頃に初陣を飾った際は、今川義元(いまがわよしもと)を喜ばせるほどの戦功を立てます。

やがて、織田信長が義元を破ると、家康は故郷である三河国に帰り、信長と同盟を結んで大名として成長していきます。順調に勢力を拡大していた家康ですが、信長の死後、その家臣であった豊臣秀吉に従うことを余儀なくされ、故郷から遠く離れた関東への領地替えを命じられてしまいます。当時の関東は荒れ放題で、あまり良い土地ではなかったそうですが、家康はこの領地替えを受け入れ、土地開発に真摯に取り組み、力を蓄えていきます。

そして、秀吉の死後、家康は10年以上の年月を費やして豊臣家を滅ぼし、73歳になって、ようやく天下を統一します。人生50年といわれたこの時代に、高齢になっても天下を取ることを諦めなかった家康の忍耐力には、類いまれなるものがあるといえるでしょう。

なぜ家康は、これほどまでに苦難に耐えることができたのでしょうか? さまざまな意見があると思いますが、私は家康が「苦難をつらいものではなく、むしろチャンスとして捉えていたからではないか」と考えています。例えば、人質として自由のなかった少年時代については、「自由が制限されている分、自分を律して鍛えるチャンス」と思っていたのかもしれません。秀吉から関東への領地替えを命じられた際も、「自分を荒れた土地に移して秀吉が安心している今こそ、力を蓄えるチャンス」と考えていたのかもしれません。

思い通りに仕事ができないときというのは、必ずやってきます。そんなときこそ、「これまでの自分を変えるチャンス」だと思ってください。仕事の進め方を見直す、勉強し直して知識を蓄えるなど、できることはいくらでもあります。ただ苦難が過ぎ去るのを待つのではなく、苦難の向こうにある、手に入れたい未来をつかむために、水面下で自分を磨き続ける。それが「本当の忍耐力」であると、私は考えます。

以上(2022年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

【財務会計】損益計算書にある「収益」の基本

書いてあること

  • 主な読者:会計の基礎を勉強したい人で、損益計算書の「収益」について知りたい人
  • 課題:利益の種類がいくつもあって紛らわしい
  • 解決策:本業か否か、売上に直結するか否か、臨時的か否かで考えると整理しやすい

1 収益とは

収益とは、

会社が事業活動により稼いだ成果

です。損益計算書では、利益計算上のプラス項目として記載されます。収益は、本業か本業以外か、また定期的か臨時的かといった発生の背景により区分されます。損益計算書を見る際、それぞれの利益の意味を知ることはとても重要です。利益は収益から費用を差し引いて計算されるので、収益項目の性質を知ることで、利益の意味も理解できます。

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2 収益項目に書かれていること

損益計算書の収益の項目は次の通りです。なお、全ての会社の損益計算書に次の全項目が記載されているわけではありません。

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1)売上

売上は、自社が本業とする商品やサービスの販売対価をいいます。本業の判断基準の1つは、定款上の事業目的に記載されているか否かです。また、定款に記載されていなくても、経営者が本業として行った業務であれば売上に計上されます。

2)営業外収益

営業外収益は、預金や金銭の貸し付けをしている場合に受け取る利息や、株や債券を保有した場合の受取配当金など、本業とは関係のない活動から得た収益です。

3)特別利益

特別利益は、固定資産売却益など、その事業年度だけ臨時的に生じる利益(収益)です。

3 収益を使用する主な財務指標

1)売上高利益率

売上高利益率とは、売上高と利益の比率を表す割合です。

売上高利益率(%)=(当期純利益or営業利益or経常利益)÷売上高×100

売上高利益率は、売上高のうち利益がどの程度占めるのかを示す指標として用いられます。この指標が高ければ高いほど、経営の収益性が高いと見られます。

2)総資本回転率

総資本回転率とは、総資本(負債+純資産)と売上高の比率を表す割合をいいます。計算式で示すと、次の通りです。

総資本回転率(%)=売上高÷総資本×100

総資本回転率は、総資本を使ってどれだけの売上を上げることができたのかを示す指標として用いられます。この指標が高ければ高いほど、経営の効率性が高いと見られます。

3)ROAとROE

ROAは、総資本を使ってどの程度の利益を生み出すことができたかを示す指標です。この指標が高ければ高いほど、会社が保有している資産を使って効率的に利益を獲得したことを示します。

ROEは、株主が拠出した自己資本を使って株主のためにどれだけの利益を上げたかを示す指標です。自己資本利益率が高ければ高いほど、投資が効率的に行われたことを示します。

不特定多数の株主から投資を受ける大企業の場合は株主の視点を重視したROEが重要ですが、中小企業のように少数かつ特定の人で株主が構成されている場合はROAのほうが有用ともいえます。ROAを分解すると、前述の売上高利益率と総資本回転率の2つの指標の組み合わせであることが分かります。

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ROAに財務レバレッジを組み合わせると、ROEになります。なお、財務レバレッジとは、自己資本と総資本の割合をいい、負債を利用して、自己資本の何倍の資金が事業に投入されているかを示す指標として用いられます。この指標が低ければ低いほど、経営の安全性が高い(返済義務のある資金調達が少ない)と見られます。

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このように財務指標を目標の1つに掲げる場合は、計算式をより細かく分解することで、現場担当者がどのような点を改善すればよいのかが理解しやすくなります。

以上(2022年1月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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【財務会計】貸借対照表にある「負債」の基本

書いてあること

  • 主な読者:会計の基礎を勉強したい人で、貸借対照表の「負債」について知りたい人
  • 課題:負債には、流動や固定などたくさんの種類があって整理しにくい
  • 解決策:負債は会社が外部から調達した返済義務のある資金。性質により2種類に分かれる

1 負債とは

負債とは、

会社が調達した資金で、銀行からの借入金や債務(買掛金など)など

が該当します。負債は貸借対照表の右側上部に表示され、次の2つがあります。

  • 流動負債:短期間(1年以内)に返済期限が到来する債務など
  • 固定負債:返済期限が長期間(1年超)になる債務など

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2 負債の部に書かれていること

貸借対照表の負債の部に記載される主な項目は次の通りです。全ての会社の貸借対照表に次の全項目が記載されているわけではなく、逆にここでは紹介していない項目が記載されていることもあります。あくまでも、会社の状況次第です。

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1)流動負債

流動負債とは、返済期限が1年以内に到来する債務などで、支払手形・買掛金・短期借入金・未払法人税等などが記載されます。流動負債は運転資金に与える影響が大きく、日々の資金繰りを考える上で重要な項目になります。

なお、賞与引当金(将来発生する賞与の支払いに対して設定される引当金)は、実際に賞与が支払われる時期が1年以内に到来するため、流動負債に記載されます。

2)固定負債

固定負債には、返済期限が1年を超える債務などで、社債・長期借入金・リース債務などが記載されます。

なお、退職給付引当金(将来発生する退職金の支払いに対して一定の計算を基に設定される引当金)は、基本的に1年を超える将来に支払われるものであるため、固定負債に記載されます。

また、詳細な説明は省略しますが、繰延税金負債は会計上の利益と税務上の利益(所得)の差を調整するための会計処理(以下「税効果会計」)を適用した場合に生じる負債項目です。税効果会計の適用により生じた繰延税金負債は全て固定負債に計上することになっています。

3 負債を使用する主な財務指標から分かること

1)安全性

1.流動比率

流動比率とは、短期的な支出である流動負債と流動資産の比率です。計算式で示すと次の通りです。

流動比率(%)=流動資産÷流動負債×100

流動比率は、1年以内に支払わなければならない負債(以下「流動負債」)に対して、1年以内に現金化できる流動資産がどれくらいあるのか(流動負債を返済する能力)を示します。この指標が高いほど安全性は高くなり、業界によって平均値は大きく異なりますが、一般的には200%以上あれば安全とされます。

2.当座比率

当座比率とは、流動負債と当座資産の比率です。当座資産は、現金及び預金、売掛金、受取手形、有価証券(すぐに売却可能なもの)の合計額になります。なお、売掛金、受取手形は、貸倒引当金を控除した後の値を用います。貸倒引当金とは、取引先の倒産などにより回収ができなくなる可能性がある金額を見積もった値です。計算式で示すと次の通りです。

当座比率(%)=当座資産÷流動負債×100

当座比率は、流動負債に対して、すぐに現金化できる当座資産がどれくらいあるのかを示します。この指標が高いほど安全性は高くなり、一般的には100%以上が目安です。

3.負債比率

負債比率とは、会社の自己資本(純資産の部)に占める負債の比率をいいます。自己資本は、株主資本に評価・換算差額等を加えたものです。計算式で示すと次の通りです。

負債比率(%)=負債÷自己資本×100

負債比率は、返済義務のある負債と返済義務のない純資産のバランスから、会社の安全性を示す指標です。この指標が低いほど安全性は高くなり、一般的には100%以下が目安です。

2)効率性

1.総資本利益率(ROA、Return On Asset)

総資本利益率とは、利益を自己資本(純資産の部)と他人資本(負債の部)の合計額(総資本)で除した比率をいい、一般的にROAと呼ばれます。計算式で示すと次の通りです。

総資本利益率(%)=(当期純利益or営業利益or経常利益)÷(自己資本+他人資本)×100

総資本利益率は、総資本を使ってどの程度の利益を生み出せたかを示し、効率性を見る指標です。この指標が高いほど、利益を効率的に生み出せていると見ることができます。

2.仕入債務回転率

仕入債務回転率とは、売上原価を仕入債務(買掛金と支払手形の合計額)で除した比率をいいます。計算式で示すと次の通りです。

仕入債務回転率(%)=売上原価÷仕入債務×100

仕入債務回転率は、会社の仕入債務の支払いが、どの程度効率的に行われているかを示します。この指標が低いほど、仕入日から代金支払日までの期間が長いと判断できます。支払日までの期間が長いということは、その分キャッシュに余裕が生まれ、資金繰りの観点から良い状況といえます。ただし、資金繰りが悪化して仕入債務の支払いを延ばしていることで仕入債務回転率が低下している場合もあるため、注意が必要です。

以上(2022年1月)
(監修 税理士AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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著作権~自社や他者の表現やプログラムの侵害を防ぐために必要な知識~/意外と知らない「知的財産権」シリーズ6

書いてあること

  • 主な読者:デザインなどの著作物に関する著作権の侵害や保護について知りたい経営者
  • 課題:著作権侵害の話題はよく耳にする。どのような侵害に注意すべきか?
  • 解決策:自社の他者に対する著作権侵害を防ぐためには、外注先などの管理も必要。自社の著作物を保護するためには、商標権などとセットで保護することも検討

1 最も身近な知的財産権である著作権

メールを書いたり、写真や動画を撮ったりと、私たちの日常生活は表現行為にあふれています。これらの行為を法的に保護してくれるのが著作権です。著作権は、特許権や商標権と異なり、

権利を取得するために特許庁に出願して審査を受ける必要がありません。

その意味では私たちに最も身近な知的財産権ということができます。この記事では、身近でかつ、知らないとすぐに大きなトラブルに発展しかねない著作権について、最近よく見られる下記の点を解説します。自分たちに当てはまるところがないか確認しておきましょう。

  • デザインの外注
  • 動画配信(ゲーム実況も含む)
  • ソフトウエアの違法コピー
  • 事業活動に使われるキャラクター
  • ロゴマーク(海外での事例も含む)

2 外注先のデザインで発注者が著作権侵害の責任を負う可能性も

商品の包装や広告のデザイン制作を外部のベンダーなどに委託することがあると思います。その制作過程や納品された成果物について、他人の著作権を侵害していないか調査・確認を行っている企業は少ないでしょう。しかし、著作権侵害があった場合、

発注者である自社の責任も問われる可能性がある

ことを認識しておきましょう。

例えば、ある食品加工会社が外注先のデザイン会社に商品パッケージのデザイン制作を委託。納品されたパッケージのデザインで商品を販売していました。ところが、実はそのデザインは第三者の著作権を侵害するものであったため、その著作権者から差止め・損害賠償の請求を受けました。

この事案において、食品加工会社側は「外注先のデザイン会社の制作するデザインを全て管理することは事実上困難だ」と主張しました。

しかし、裁判所は、要約すると次のように判断して、この食品加工会社の責任を認めています(東京地判平成31年3月13日)。

  • 被告イラストの作成経過を確認するなどして、他人のイラストに依拠していないかを確認すべき注意義務を負っていたと認めるのが相当
  • 食品加工会社が上記のような確認をしていれば、著作権および著作者人格権の侵害を回避することは十分に可能であったと考えられる。にもかかわらず、食品加工会社は、確認を怠ったものであるから、上記の注意義務違反が認められる

とはいえ、発注元の企業が、外注先によるデザイン制作の過程を十分に管理するのは困難です。そのため、著作権侵害があった場合に備えて、

損害賠償の範囲、額、著作権侵害行為がないことの表明・保証などについて、あらかじめ契約で定めておく

ことが重要となってきます。

また、自社でデザインを制作する場合でも、ネット上に散見されるフリー素材を利用する機会があると思います。その際は、利用規約で商業利用についてまで許諾されているか必ず確認しておきましょう。許諾範囲が個人的な利用にとどまる場合は、これを安易に商用利用などすると、無許諾での利用として著作権侵害となる可能性があります。実際、ネット上で著作権侵害の画像などを探し出しては、高額請求をしてくる企業も存在するので注意しましょう。

3 動画配信の注意点

1)街頭での「写り込み」は問題ない?

最近は企業が自社紹介のために、本社ビルや自社イベントの様子などを動画や写真で配信するのをよく見かけます。これに他人の著作物やロゴマークが写り込んでしまうことがありますが、このような場合も、著作権侵害になるのでしょうか?

この点については、著作権法上、動画の配信などでは、「正当な範囲内」であれば、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」を除き、「利用することができる」こととされています。

従って、

背景に意図せず小さく写り込んだ絵画や写真、映像、あるいは、たまたま取り込まれた街中の音楽などに関しては、そのまま著作権者の許諾なく配信できる場合が多い

と思われます。

これに対して、漫画のキャラクターなど、それ自体の顧客吸引力を利用する態様で写り込んだ写真や動画の利用については、著作権者の許諾が必要となるものと考えられますので注意が必要です。

2)「ゲーム実況」は著作権侵害の場合も

最近では、ゲーム画面をそのまま動画として配信する、いわゆる「ゲーム実況」が人気を得ており、著名なゲームタイトルでは、企業間のイベントやコンテストなども盛んに開催されているようです。ゲームについては、映画の著作物として著作権法による保護の対象になると考えられていますから、著作権者(通常はゲーム会社)から動画配信に関する利用許諾を受ける必要がある、というのが原則的な考え方です。

もっとも、実際には多くのゲームタイトルで動画配信に関するガイドラインが定められていますので、まずはそちらを確認しておくのがよいでしょう(ガイドラインの内容はゲーム会社やタイトルによってもまちまちのようです)。

なお、イベントによっては、ゲーム会社とのコラボにより、再生される他人の音楽が配信動画中にうっかり入ってしまうことがあります。音楽についても、ゲーム同様に著作権の利用許諾が必要なので注意しましょう。

4 ソフトウエアの違法コピー

著作権法の保護対象には、音楽、映画、写真、小説などの伝統的な著作物に加えて、コンピュータープログラムも含まれています。この点に関して、特に中小企業の経営者にとって無視できないのは、ソフトウエアの違法コピーに関する問題です。

ソフトウエアの違法コピーについては、通常、著作権者側でもそのソフトウエア自体に対策を組み込んでいます。そのため、会社ぐるみでも従業員の単独行動でも、違法コピーは著作権者側に知られてしまうと考えておいたほうがよいでしょう。そして、ひとたび著作権侵害と分かれば、

違法ソフトの使用中止は当然のことながら、これまでに著作権者側に生じた損害を賠償する責任を負うこととなります。場合によっては刑事責任を問われること

もあります。

例えば、会社の従業員が海賊版サイトにアクセスして、あるソフトAを違法にダウンロードしようとしたとします。そのソフトA以外の類似・関連する海賊版ソフトまで含まれたセットでダウンロードした場合、実際にはソフトAだけをインストールして使用していたとしても、そのセットに含まれていた全ての海賊版ソフトについて、著作権侵害として扱われることになる点に留意しなければなりません。

これは「複製権」の侵害に当たる行為ですが、プログラムの「複製」は、ダウンロード行為によって完成しており、その後にインストールしたかどうかや、インストール後にアンインストールしたかどうかなどは問題ではないからです。このため、セット内の全ての海賊版ソフトが賠償の対象となり、金額が極めて高額となることも珍しくありません。

実際、ソフトウエアメーカーからの報告によると、違法コピーによる著作権侵害事件の1事案当たりの平均和解額は1200万円を超えているようです。さらに、会社役員は、株主代表訴訟において会社が負担した賠償額を求償される可能性もあります。ソフトウエアの違法コピーに対する賠償額は、正規品の小売価格相当額を基準とするのが裁判例の示すところではあるものの、訴訟を避けて和解するためには小売価格相当額を超えて、さらに多くの解決金を支払わなければならなくなる場合も少なくありません。

なお、プログラムを作成するためのプログラム言語、規約、解法には保護は及びませんので、検索機能に関するアルゴリズム、コーディングルール、インターフェース規約などは著作権法の保護対象ではありません。また、AI開発に関しては、元データ、学習データ、学習済みモデルなどをどう扱うかといった問題があり、一定の場合には著作権法の保護対象となり得ますが、この問題については回を改めて検討したいと思います。

5 キャラクターの法的保護

会社や自治体で、ゆるキャラなどのイメージキャラクターを利用して、さまざまな事業活動を行うことが一般的になっています。キャラクターをかたどった具体的な描画などが著作権法の保護対象となり得ることは確かですが、

キャラクターそのものは著作権法の保護対象ではない

という点については理解しておく必要があります。

この点について裁判所は、漫画のキャラクターに関して、「キャラクターといわれるものは、漫画の具体的表現から昇華した登場人物の人格ともいうべき抽象的概念であって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又は感情を創作的に表現したものということができない」としています。

さらに、「一定の名称、容貌、役割等の特徴を有する登場人物が反復して描かれている一話完結形式の連載漫画においては、当該登場人物が描かれた各回の漫画それぞれが著作物に当たり、具体的な漫画を離れ、登場人物のいわゆるキャラクターをもって著作物ということはできない」と、著作物性を否定する判断を示しています(最高裁判所平成9年7月17日第一小法廷判決)。

また、原作のキャラクターを登場させたいわゆる同人誌の事案において、同様にキャラクターには著作物性がなく、「本件各漫画のキャラクターが原著作物のそれと同一あるいは類似であるからといって、これによって著作権侵害の問題が生じるものではない」と判断しています(令和2年10月6日知財高裁判決)。

このため、自社のゆるキャラなど、キャラクターに関する盗用行為に対して効果的に対処するためには、

著作権だけでなく、商標権や意匠権等の権利も有効に組み合わせて行使すること

などが必要です。

6 ロゴマーク

1)著作権だけではロゴマークを保護できない

企業のロゴマークは、商標登録によって保護を受けることが多いと思いますが、ロゴマークに創作性が認められるときは、著作権でも保護されます。それならば、創作性のあるロゴマークについては、わざわざ特許庁へ手数料を支払って商標登録までしなくともよいと思われるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。

日本の商標法は、著作権侵害を直接の理由として商標登録を拒絶するという建て付けにはなっていません。ですから、

ロゴマークについて著作権で保護されていても、それを第三者が勝手に商標登録してしまう可能性

があります。その結果、著作権者はロゴマークを商標として無断で使用することができなくなる一方で、商標権者もそのロゴマークを複製などして無断で使用することができないという、非常にややこしい状況になってしまうのです。このような理由から、創作性を有するロゴマークであっても、やはり商標登録しておくのが最も望ましいと考えられるわけです。

2)中国での冒認商標には著作権登録で対抗することも可能

商標は、商品や役務を指定して登録する必要があり、区分数に応じて費用を支払わなければならないため、どうしても出願は後回しになってしまいがちです。このため、特に中国では著作権者以外の第三者が、他人のロゴマークやキャラクターを無断で商標出願することも少なくありません。

この問題に対する対策として、中国における著作権登録制度(作品登記制度)を利用するという方法が考えられます。中国においては、著作物を登録機関に登録することで、自己がその著作権を有することについての初歩的証明に用いることができることとされています(最高人民法院による著作権民事紛争事件審理上の法律適用の若干問題に関する解釈7条、著作権行政処罰実施弁法19条)。

そして、中国商標法32条は、「商標登録出願は、先に存在する他人の権利を侵害してはならない」と規定しています。「先に存在する他人の権利」には出願前の他人の著作権が含まれることから、

あらかじめ中国でロゴマークやキャラクターについて著作権登録を行っておくことにより、仮に他人の冒認出願が登録を受けてしまったとしても、同条を根拠に異議申立てや無効審判で争うことができる

ことになるのです。

しかも、著作権登録は商標出願とは異なり、商品・役務を指定して行う手続ではないため効力範囲が広く、かつ安価で登録できます。それに加えて、手続に要する期間も1カ月程度と短いため、中国における冒認対策として非常に効果的といえます。

実際に、ある企業の下記ロゴマーク(「Z」を図案化したもの)が中国で冒認出願・登録された事例において、北京市高級人民法院はロゴマークの著作物性を認め、「既存の権利」が侵害されたことを理由に、係争商標の取消を認めたという事例がありますので参考になります(案件番号:(2008)高民終字第121号、出典:北京法院網)。

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以上(2022年1月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

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