融資かリースか? 自社に有利な調達方法を判断する材料

書いてあること

  • 主な読者:新たな設備投資について融資かリースかを検討している経営者
  • 課題:融資とリースのどちらが有利なのか、どう判断すればよいのか分からない
  • 解決策:固定資産税はリースがお得だが税制次第。その他、金利や企業の信用状況によって異なるため、都度、判断するしかない

1 融資とリースでどちらがお得か?

機械などの設備投資には多額の資金が必要で、自己資金だけで賄いきれないことがあります。そうした場合は、

  • 金融機関から設備資金の融資を受けて設備を購入する
  • リースまたはレンタルで調達する

ことが一般的です。経営者が知りたいのは、「融資とリースではどちらがお得か?」ということですが、結論は、設備投資の都度、判断するしかありません。なぜなら、

固定資産税の負担はリースが有利ですが、支払利息の負担は金利や企業の信用状況によって異なります。また、税制も変わります。そのため、設備投資の都度、税制、金利、企業の信用状況などを総合的に勘案する必要がある

ということです。この記事では、こうした結論に至るまでの考え方を紹介します。

2 融資を受けて購入する場合

融資を受けて設備を購入する場合、損益に影響する項目は、

減価償却費、支払利息、租税公課(固定資産税)

です。注目するのは減価償却費です。代表的な減価償却方法には、

  • 定額法:耐用年数にわたり一定の減価償却費を計上
  • 定率法:取得当初に多額の減価償却費を計上

があります。いずれを選択しても最終的な減価償却費は同じですが、途中の事業年度の損益に与える影響が異なります。定額法と定率法における減価償却費の推移(イメージ)は次の通りです。

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3 リースで導入する場合

1)ファイナンスリースとオペレーティングリース

会計上のリースとは、

特定の物件の所有者たる貸手が当該物件の借手に対して、リース期間にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は貸手にリース料を支払う取引

です。専門的でとっつきにくい印象を受けるかもしれませんが、内容はリースに関する世間一般の認識と異なるものではありません。また、会計上のリースは、ファイナンスリースとオペレーティングリースとに区分されます。

ファイナンスリースは、リース期間の中途で契約解除ができないリース、またはこれに準ずる取引です。借手が当該リース物件からもたらされる経済的利益を実質的に受け、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担します。ファイナンスリースに該当するか否かについては、「リース取引に関する会計基準の適用指針」で詳細に規定されています。ファイナンスリースは、「売買取引」に準ずる取引とみなすため、設備を導入した企業は、リース資産を購入した場合に準じた会計処理を行います。なお、ファイナンスリースは所有権移転ファイナンスリースと所有権移転外ファイナンスリースに区分されますが、わが国のファイナンスリースは所有権移転外ファイナンスリースであることが多いため、以降では所有権移転外ファイナンスリースを前提とします。

一方、オペレーティングリースは、ファイナンスリース以外のリースをいい、リース取引を「賃貸借取引」に準ずる取引とみなすため、設備を導入した企業は、リース資産を賃貸借した場合に準じた会計処理を行います。現在、オペレーティングリースの会計基準(日本基準)の見直しが検討されていて、今後、資産計上が必要になる可能性があります(2021年9月17日時点)。この記事では、現時点の会計基準(日本基準)を基に、「賃貸借取引」に準じた会計処理として紹介しています。

会計上、ファイナンスリースとオペレーティングリースのどちらに該当するかの判断は、次のように行われます。

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2)損益に与える主な影響(費用化)

ファイナンスリースの場合、

減価償却費と支払利息

が損益に影響する項目になります。ファイナンスリースの減価償却方法は、通常はリース期間を耐用年数としたリース期間定額法となります。一方、オペレーティングリースの場合、

支払リース料

が損益に影響する項目になります。

4 融資とリースでキャッシュフローが有利なのはどっち?

融資とリースでキャッシュフローが有利なのはどちらなのか、次の条件で比較します。

  • 売上高:1500万円
  • 導入資産の取得価額:1000万円
  • 耐用年数:7年
  • リース期間:5年
  • 融資の場合の借入金利:年2.0%
  • リースの場合の割引率(支払利息の計算に適用される利率):年2.8%

融資とリースの場合の、損益計算書とキャッシュフロー計算書は次の通りです。

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この条件のキャッシュフローの合計は、融資が4480万円、リースが4490万円となり、リースのほうが10万円有利になります。その理由は次の通りです。

  • 固定資産税負担がない:40万円
  • 支払利息負担が多い:マイナス26万円(融資2.0%、リース2.8%)
  • 上記による税負担の増加:マイナス4万円((40万円-26万円)×30%)(万円未満切捨)

融資とリースの比較の場合、固定資産税の負担ではリースが有利です。一方、支払利息の負担では、金利動向や企業の信用状況によって結果が変わります。そのため、いずれが有利かの判断は画一的には決定できず、設備調達の都度、税制、金利、企業の信用状況など総合的に勘案して決定することが大切です。

5 (参考)それぞれの会計処理

1)融資を受けて設備を購入する場合の会計処理

融資を受けて設備を購入する場合の会計処理を紹介します。なお、購入する設備は機械設備とし、取得価額は1000万円(耐用年数7年、定額法、消費税は考慮しません)、金融機関からの借入金返済期間は5年、利率は年2.0%とします。

1.融資を受けたとき

現金預金を借方に計上(資産の増加)し、借入金を貸方に計上(負債の増加)します。

(借方)現金預金 1000万円 /(貸方)借入金 1000万円

2.設備の購入時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、機械設備を借方に計上(資産の増加)します。

(借方)機械設備 1000万円 /(貸方)現金預金 1000万円

3.金融機関に対する元本および利息の支払時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、借入金を借方に計上(負債の減少)するとともに、支払利息も借方に計上(費用の計上)します。

(借方)借入金  192万円 /(貸方)現金預金 212万円

(借方)支払利息 20万円 /

4.購入した設備の減価償却費計上

減価償却費を借方に計上(費用の計上)し、機械設備を貸方に計上(資産の減少)します。これは、機械設備の取得価額に、使用による価値の減少を反映するものです。

(借方)減価償却費 143万円 /(貸方)機械設備 143万円

5.固定資産税の支払時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、租税公課(固定資産税)を借方に計上(費用の計上)します。これは、設備等に課された固定資産税(固定資産評価額×標準税率1.4%)を反映するものです。

(借方)租税公課 12万円 /(貸方)現金預金 12万円

2)ファイナンスリースにより設備を導入する場合の会計処理

ファイナンスリースにより設備を導入する場合、次のような会計処理になります。なお、リース資産の取得価額は1000万円、リース期間は5年、支払利息は利息法(毎事業年度のリース債務未返済残高に一定の利率を乗じて、支払利息を計上する方法)によるものとし、割引率は年2.8%、消費税は考慮しません。

1.リース資産の導入時

リース資産を借方に計上(資産の増加)し、リース債務を貸方に計上(負債の増加)します。

(借方)リース資産 1000万円 /(貸方)リース債務 1000万円

2.リース会社に対するリース料の支払時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、リース債務を借方に計上(負債の減少)するとともに、支払利息も借方に計上(費用の計上)します。

(借方)リース債務 189万円 /(貸方)現金預金 217万円

(借方)支払利息   28万円 /

3.リース資産の減価償却費計上

リース資産を貸方に計上(資産の減少)し、減価償却費を借方に計上(費用の計上)します。これは、リース資産の取得価額に、使用による価値の減少を反映するものです。

(借方)減価償却費 200万円 /(貸方)リース資産 200万円

ファイナンスリースを売買取引に準ずる取引とみなすため、企業はリース資産を購入した場合と同様に資産計上し、リース期間にわたって減価償却費を計上していきます。ただし、リース資産の所有権はリース会社にあるため、固定資産税はリース会社が負担します。

3)オペレーティングリースにより設備を導入する場合の会計処理

リース料の支払いの都度、支払リース料を借方に計上(費用の計上)し、現金預金を貸方に計上(資産の減少)します。

(借方)支払リース料 217万円 /(貸方)現金預金 217万円

オペレーティングリースを賃貸借取引に準ずる取引とみなすため、設備を導入しても、資産計上する必要はありません。また、ファイナンスリース同様に、固定資産税はリース会社が負担します。

なお、レンタル会社から設備をレンタルする場合の会計処理も、賃貸借取引であることから、オペレーティングリースと同様の会計処理(費用科目は賃貸料など)となります。そのため、別途説明は省略します。

以上(2021年10月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

pj35027
画像:pixabay

【朝礼】リモートワークで「進化し続ける組織」になるために

皆さん、おはようございます。今日も全員リモートワークですので、チャットやオンラインツールでしっかりコミュニケーションを取って、仕事を進めていきましょう。

さて、当社がリモートワークに切り替えてからもうすぐ1年半がたちます。この1年半、皆さんが頑張ってくれたおかげでリモートワークで仕事が回るようになり、この新しい働き方も浸透しました。これからも試行錯誤が続くかもしれませんが、皆さんの協力と頑張りには心から感謝しています。ありがとうございます。

当社では今後もリモートワークを続けていくつもりですので、今日は皆さんに改めて伝えておきたいことがあります。皆さんは、これから言う数字が何を指しているか分かるでしょうか?

「リモートワーク前は週に5時間、

リモートワーク後は月に5時間」

これは、私自身が改めて振り返った、「自分が新しいことを学ぶためにセミナーに費やした時間」です。リモートワークになる前は、新しい領域の対面セミナーに少なくとも週に5時間は参加していました。それが、リモートワークになってから、なんと「月に5時間」に減ってしまっていたのです。リモートワークに切り替えた当初の3、4カ月ほどは、多くのセミナーがオンラインに切り替わり、移動時間もなく便利なので、それこそ週に10時間くらいは参加していました。

しかし、リモートワークやオンラインセミナーに慣れた最近は、自ら積極的にセミナーなどに参加する機会が減っていることに気付いてがくぜんとしました。

自宅でリモートワークをしていると、通信状態さえ整っていれば仕事環境としては最高です。極端に言えば、起きてすぐから寝る直前まで仕事ができますし、移動せずにクライアントや社内外の人とオンラインでミーティングもできます。

その一方で、リモートワークでは「自ら新しいことを学ぼうとしなければ、その機会は減ってしまう」のも事実です。皆さんはどうでしょうか?

出社していたときは上司や同僚、社外の人と触れ合えるので、自分の知らなかった新しいことを学ぶ機会がまさに「転がっていた」はずです。しかしリモートワークでは、自分で情報を取りに行く、違った領域に触れに行くことをしなければ、新しい知識を身に付けたり学んだりするのは難しいでしょう。そうして自分自身が進化できなくなってしまうのです。さらに、何より恐ろしいのは、「自分が進化していないことに気付かなくなっていく」ことです。

当社は、「進化し続ける組織」を目指しています。これからもリモートワークを続けていく当社だからこそ、一人ひとりが自分で「新しいことを学ぼう」とする姿勢が大切です。皆さん、ぜひ「新しく学ぶこと」を決めて、今日、それをスタートさせましょう!

以上(2021年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

帝政ローマと“今”の会社機構は似ているか/ローマ史から学ぶガバナンス(9)

書いてあること

  • 主な読者:現在・将来の自社のビジネスガバナンスを考えるためのヒントがほしい経営者
  • 課題:変化が激しい時代であり、既存のガバナンス論を学ぶだけでは、不十分
  • 解決策:古代ローマ史を時系列で追い、その長い歴史との対話を通じて、現代に生かせるヒントを学ぶ

1 会社機構と国家機構

粉飾決算、不正融資、損失補填、利益供与、入札談合など、これまで数多くの企業不祥事が報じられてきました。あまりなじみのなかった不祥事の用語もすっかり聞き慣れたものとなり、程なくまた、次の新たな不祥事の用語が表れ、報道されます。

こうした企業不祥事のたびに、コーポレート・ガバナンスの話になります。コーポレート・ガバナンスは、元来、企業の不正行為の防止だけでなく、企業の競争力・収益力の向上も含め、長期的な企業価値の増大に向けた企業経営の仕組みのことを意味します。企業不祥事が発生すると、当然、不正行為の防止に主眼を置いたコーポレート・ガバナンスの議論がなされます。そして、コーポレート・ガバナンスの強化に向けた法規制が施され、会社機構が見直されることになります。

お気付きの方も少なくないと思いますが、会社機構は、国家機構を模写して制度設計がなされているため、よく似たところがあります。現代日本の国家機構に対しては、様々な意見もあるかと思いますが、会社と同じく、抑制と均衡が求められる形態として変遷してきた国家機構の思想から、会社機構に取り入れられた機関や規制は幾つもあります。

国家機構と会社機構の最も単純な相似性でいえば、立法・行政・司法という三権について、国家機構では国会・内閣・裁判所という構成であるのに対し、会社機構では株主総会・取締役会・監査役会という構成でできていることが挙げられます。ここでは細かな点は割愛しますが、国家機構における様々な工夫や思想が、会社機構の機関や規制に生かされており、従って似たところがあるのです。

しかし、どうも腑に落ちないところもあります。参考にすべきところを取り入れ、似たところがあるとはいえ、現代の国家と会社は、やはり本質的に異なります。現代日本の国家機構は、民主主義を体現するにふさわしい形態として設計され、見直されているはずであり、株式会社をはじめとする会社機構が目指す姿や実際の社会での役割とは大きな違いがあります。企業は、顧客、市場、従業員などの声に耳を傾けるべきではありますが、決して民主主義的とは限らず、むしろ、民主主義的な運営が弊害となる場合すらあります。そんなことから、現代日本の国会機構と対比するより、帝政ローマの形態と対比するのがよいのかもしれないと直感的に思い、考えてみました。少なくとも、コーポレート・ガバナンスや会社機構を見つめ直す際に、一つのアナロジーとして帝政ローマの形態を眺めてみることには意味がありそうです。

2 帝政ローマの機構・形態

以前、ご紹介した通り、ガイウス・ユリウス・カエサルから後継者指名を受けたオクタヴィアヌス(のちのアウグストゥス)は、時間をかけて、ひっそりと帝政ローマという形態を築きました。合法的に得られたものを組み合わせ、政治的に調和された皇帝という地位がいつの間にか、気付かぬうちに存在していたのです。

このようにして創設された帝政ローマは、実に微妙なバランスの上で成り立っていました。皆さんがイメージされる帝政や王政といった君主政は、圧倒的な軍事力、経済力、統治力によって築かれた厳然たる地位に一人の権力者が就き、平民のことなど顧みず、横暴も許されるような形態かもしれません。そういった君主政も実際、存在しました。

しかし、帝政ローマは、そのような形態ではありません。帝政ローマの皇帝という地位は、合法的に得られたもの、すなわち、元老院からの権力委託の承認、市民からの権力委託の承認、軍団からの忠誠誓約が組み合わされて築かれているため、厳然たる地位とは言い難く、バランスを上手に取らなければ簡単に転げ落ちてしまうのです。

これを会社に当てはめてみます。比較的大きいBtoC企業をイメージすると分かりやすいかもしれませんが、皇帝を経営者に、元老院を株主・株主総会に、市民を一般消費者に、軍団を従業員に置き換えて考えてみましょう。

共和政期に比べると、元老院の権威は低下しましたが、経済的な実利を握り、承認機関としての政治的な権限も有していました。少なくとも紀元2世紀あたりまで、皇帝は、強大な権力を持ちながらも、元老院の権威を尊重し、統治を行っていました。資本構成などにもよりますが、経営者が株主(総会)からの意見に耳を傾け、信頼に応えつつ、経営においては裁量を持って手腕を振るう姿と重なるところがあります。

皇帝は、市民からの世論や人気に支えられていましたが、BtoC企業においても、一般消費者からの支持や人気、それに基づく購買行動は、経営状況に直接的に好影響を及ぼすだけでなく、経営に対する評価として、経営者の地位を支える働きがあります。皇帝が市民のご機嫌取りのために「パンとサーカス」、すなわち食糧と娯楽を提供していたことは、市民を政治的盲目にさせたといわれるところではありますが、経営者が一般消費者に受け入れられるように、いろいろな工夫やアイデアを実践する姿と似ているといえるでしょう。

次に、皇帝と軍団の関係を見てみましょう。軍団は皇帝に対して忠誠を誓約し、国家の繁栄と防衛のために働き、皇帝はその働きに対する対価を与えるだけでなく、軍事的意義や価値を示し、士気を高めるよう振る舞います。最近では、働き方が多様化しており、会社と従業員との関係が変わってきていますが、経営者は、従業員に対して給与を支払うだけでなく、会社としてのビジョンや事業が有する価値をうたい、従業員がやる気を持って高いパフォーマンスを発揮できるよう働きかけます。このように当てはめてみると、アナロジーの一つとして考えられないでしょうか。

3 微妙なバランスがもたらす長期的な健全性

会社の経営者は、多くの場合、皇帝ほど微妙なバランスの上で成り立っている存在ではないかもしれません。多くの経営者は、資本政策や多数派形成などにより、安定的な地位を築いている場合のほうが多いでしょう。しかし、それは健全といえるでしょうか。

微妙なバランスの上で成り立つためには、高度な経営力を要します。株主総会、一般消費者、従業員の三方のバランスを上手に取り、三方が納得する経営があって初めて、経営者としての地位を保てることになります。三方のいずれかにおいて、不満や反対が起こり、経営として落第点が付いたら、次の経営者にバトンが渡される。そのほうが会社にとっては健全といえるのではないでしょうか。

そんな不安定な地位を自ら作る経営者はいないでしょうが、この微妙なバランスのほうが、より長く健全に会社が存続するように思います。経営者が盤石な地位にいると、三方のバランスが崩れていても、その悪い状態を抱えたまま経営が続きます。そして、会社としては破綻することすらあるのです。そのように考えると、株主総会、一般消費者、従業員の三方の微妙なバランスの上で成り立つ形態というのは、とても貴重なように思われるのです。

帝政ローマでは、皇帝が実に微妙なバランスの上で成り立つという形態であったために、次から次へと新たな皇帝にバトンが渡される時代がありました。愚帝の時代、混乱の時代などといわれていますが、帝政ローマの形態は維持されていきます。少々駆け足になりますが、そんな時代を振り返ってみましょう。

4 ローマの混乱期

ティベリウスが亡くなり、皇帝の座に就いたのは、24歳のカリグラでした。カリグラは、初代皇帝アウグストゥスの血を引く、若く美しい青年で、元老院からも市民からも大きな歓迎を受けて皇帝になったのですが、その人気に固執したためか、剣闘士試合や戦車競走のスポンサーになるなど、人気取り政策のために莫大な国費を使い、財政を破綻させてしまいます。そして、皇帝を守るための近衛軍団の手によって暗殺されました。

そして、近衛軍団に担がれて、50歳のクラウディウスが皇帝に就任します。クラウディウスは、皇位継承の候補者からは外れていて、それまで歴史研究だけに没頭してきた人物でしたが、皇帝になると財政を見事に立て直し、ブリタニア(イギリス南部)遠征を成功に導くなど、着々と責務を果たしました。しかし、クラウディウスの性格や生来のハンディなどから周囲から畏敬の念を抱かれることがなく、臣下や近親者の横暴を止めることができませんでした。最後は、4番目の妻である小アグリッピーナに毒殺されたといわれています。

実子ネロをクラウディウスの養子とさせていた小アグリッピーナの思惑通り、16歳のネロが新皇帝に就きました。暴君として有名なネロですが、当初は、哲学者のセネカや近衛軍団だったブッルスの補佐を受け、元老院からも市民からも支持される政治を推進していました。しかし、セネカが引退すると、キリスト教徒迫害の先鞭となった「ローマの大火」をはじめ、悪行に悪行を重ねていきます。このようなネロに対して、次々と暗殺や反乱が企てられました。そして、最後は、近衛軍団も反ネロに加わり、元老院もネロを「国家の敵」と宣告し、市民もネロを見限ります。皇帝としての正当性を失ったネロは自死しました。

ここまでで初代皇帝アウグストゥスの血統による皇帝は終わります。この後も混乱が続き、ガルバは7カ月で暗殺、オトーは3カ月で自死、ヴィテリウスは8カ月で処刑という危機的状況に陥りますが、常識的で責任感のあるヴェスパシアヌスが皇帝に就いたことで、一時的に秩序が回復されました。

皇帝という微妙なバランスの上に成り立つ最高権力者が次々と代わり、混乱が続きましたが、帝政ローマという形態は維持されました。これは帝政ローマという形態が機能したからこそ、皇帝にふさわしくない者が打倒され、次の担い手にバトンが渡されていった結果といえるかもしれません。

5 アナロジーとしての歴史

現代に生きる私たちにとって、帝国や帝政というと、邪悪なイメージがあります。映画などでも、民主主義、自由主義、平和主義の真逆にいる敵として、帝国や皇帝が描かれています。しかし、人類の歴史を振り返れば、過去2500年間、世界で最も一般的な国家機構は、帝国や帝政と呼ばれる形態でした。現代の国家観としてはいかなものかとは思いますが、先ほども申し上げた通り、現代の会社と、帝国や帝政を見比べてみると、興味深い気付きがあります。特に、帝政ローマについては、共和政から微妙なバランスの中で生まれたという背景もあり、民主主義を体現する現代国家の中にある会社と、符合する点が見られます。

歴史の中の人物や組織、出来事などは、現代の私たちの社会とは大きく異なる環境ならではという側面もありますが、やはり同じ人間として似たようなところがあります。これらをアナロジーとして捉え、現在の自分たちに置き換えてみることで、新たな発見があるように思うのです。

以上(2021年10月)
(執筆 辻大志)

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画像:unsplash

アンケート結果を理解するための数字の見方

書いてあること

  • 主な読者:顧客の考えを知り、次の施策に活かしたいマーケティング担当者、営業担当者
  • 課題:顧客アンケートの結果を効果的に理解したい
  • 解決策:散布図を利用して自社のやるべきことを把握する

1 回収したアンケート結果を自社の戦略に活かすには…

あらゆるビジネスにおいて、顧客の考えを知ることは極めて重要です。顧客を理解するときに有効な方法の一つがアンケートです。アンケートは、顧客や見込み客、その他一般の消費者、企業などの考えを知るツールとして、さまざまなシーンで活用されています。特に今どきは、インターネットを通じて、簡単かつ安価にアンケートを実施することも可能になりました。

そうして実施したアンケートの後には多くのデータが得られますが、その内容を理解し、自社の戦略に反映することができているでしょうか。

今回はアパレル商品に対する顧客アンケートを参考に、アンケートの大量の回答の中から、次の戦略のヒントを見つけ出す「散布図」について解説します。顧客の声を、次の施策に活かす際のご参考にしてください。

2 アンケート結果から相関関係を見抜く

今回は、次の図表1の1~10の質問項目についてアパレル商品に関する「満足度」を聞き取り、点数を平均化します。そこに別途質問するアパレルブランド全体に対する満足度の点数を「総合満足度」とします。この総合満足度と1~10の質問の満足度の相関係数を算出し「重視度」を設定しています。

相関係数をざっと説明すると、2つの異なる数値データ同士の関連の強さを表す指標です。相関係数は、-1から1の範囲を取り「相関係数が0から1の場合は、正の相関がある(一方のデータが大きくなればなるほど、もう一方のデータの値も大きくなる関係)」と言います。一方で「相関係数が-1から0の場合は負の相関がある(一方のデータが大きくなればなるほど、もう一方のデータの値は小さくなる関係)」といいます。

相関係数はエクセルの「CORREL関数」を使って算出できます。算出したいデータの範囲を選択し、関数の中から「CORREL」を選択します。

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質問1(商品の種類)とアパレルブランド全体に対する質問の相関係数が0.3で、質問2(デザインセンス)とアパレルブランド全体に対する質問の相関係数が0.7だったとします。この場合、商品の種類よりもデザインセンスに満足している顧客のほうが、ブランド全体に対しても満足している傾向が強いということになります。つまり、このブランドは商品の種類よりもデザインセンスを重視している顧客が多いと解釈できます。

1)散布図を使ってみる

図表1のアンケート結果を「見える化」するための方法として、ここで散布図の登場です。散布図は2つの項目の関係を明らかにするために用いられる図表です。縦軸と横軸の目盛り上のデータが該当する場所に点をプロット(打点)することでグラフに情報を反映していきます。

注意点としては、散布図で分かるのは「2つの量の間に見た目の関係性があるか」ということで、「2つの項目に因果関係がある」とは言えません。

今回は、平均満足度を縦軸に、重視度を横軸に取って散布図を作成します。例えば、質問1「商品の種類」に関する平均満足度と重視度は次の通りです。

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平均満足度と重視度の算出例によると、質問1「商品の種類」の平均満足度は78.75、重視度は0.44なので、散布図上の該当する位置にマークと「商品の種類」と表示しています。

また、一般に相関係数が0.2以下の場合は、ほとんど相関がないといわれているので、今回は重視度が0.2以下の質問は散布図の対象外とします。散布図の軸の表示範囲の基準となる平均満足度や重視度の平均値も、対象外とした項目の値を除いて算出した値を使用するようにします。

残りの質問の結果も、散布図に反映していくと、次のような図表3が出来上がります。

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この散布図の結果を、次のような項目で分類すると、このアパレルブランドが取り組むべきことが見えてきます(図表4ご参照ください)。

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1から5のそれぞれの領域が意味するところは次の通りです。

1.最重要改善項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が低く重視度が高い」領域です。顧客はこの領域の質問が示す内容に対し、重要視しているにもかかわらず不満に思っているという危険な状態を意味します。

つまり、この領域に属する質問が示す内容は最も重要で、企業にとって、早急に改善を要する内容といえます。今回の例では、質問6「他の商品との組み合わせ」が該当します。

2.品質維持項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が高く重視度も高い」領域です。この領域は、顧客はこの領域に属する質問が示す内容に対し、重要視していてかつ満足しているといえます。

この領域に属する質問が示す内容は、企業にとって、今の品質を維持すべき内容です。今回の例では、質問2「デザインセンス」、質問3「着心地」、質問4「色合い」が該当します。

3.戦略再考項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が高く重視度が低い」領域です。この領域に属する質問が示す内容に対し、顧客は満足してはいるが重要視していないといえます。

この領域に属する質問が示す内容は、顧客にとって当たり前になっている可能性があるので、顧客があまり重要視していないからといって安易に品質を下げるのは危険ですが、企業にとって他の質問が示す内容と比較して、力の入れ具合を再考すべき内容といえます。今回は、質問1「商品の種類」が該当します。

4.見極め項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が低く重視度も低い」領域です。顧客はこの領域に属する質問が示す内容に対し、不満に思っているが重要視していないといえます。

企業は、この領域に属する質問が示す内容について、アンケートの自由回答の内容などからこれから重要視される可能性があるかどうかを見極める必要があります。

例えば、顧客が長い間重要視していたが、一向に変化がないので今は諦めているといったような可能性がある場合は、その質問が示す内容を改善することで顧客にかつての期待を呼び起こし、ブランド全体の満足感を高めることができる可能性があります。

今回の例では、質問8「値段」、質問9「店頭従業員の提案内容」、質問10「販売店の立地や数」が該当します。

5.中間項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度も重視度も平均的」な領域です。企業はこの領域に属する質問が示す内容に対し、基本的には品質の維持を心掛けて余裕があれば改善するというスタンスでよいでしょう。

今回の例では、質問5「肌触り」、質問7「耐久性」が該当します。

2)分析結果の実効性を高めるには

これまで紹介したように、アンケートの結果から、質問ごとに顧客の重視度を算出し、散布図で分かりやすく図示することで、調査対象の商品やサービスが抱える問題や優先的に改善すべき内容を直感的に分かるように明らかにすることができます。

重点的に改善すべき質問が決まったら、その質問について顧客が記したフリーコメントを抽出してみましょう。そのコメントの内容を分類し、顧客が特に重視していることや不満に思っていることをさらに深く掘り下げることで、より効果のある具体的な改善策の立案に役立てることができます。 

さらに、アンケートの回収数が多ければ、年齢や性別、アンケート実施店舗など顧客の属性ごとに散布図を作成することで、顧客ターゲットごとに最適な改善策を立案することができます。

今回紹介した方法は、アンケートに総合満足度を聞く質問を1つ入れるだけで、簡単に実施できます。ぜひ一度お試しください。

以上(2021年10月)

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画像:pexels

【朝礼】朝礼が減った今こそ考えるコミュニケーション

昔、先輩から教えてもらったことがあります。

「電話をしているとき、相手からこちらの姿が見えないからと油断せず、会っているとき以上に丁寧に接するように」

そう言われて周囲を見渡すと、椅子にふんぞり返っている人など一人もいませんでした。それどころか、皆、電話を切る際は「ありがとうございました!」と深々と頭を下げていました。「あぁ~、私は素晴らしい会社に入社したんだな」と感じた瞬間でした。

本気であれば自然と背筋が伸びるものです。皆、仕事に真剣だったわけで、電話にも手を抜いていなかったのです。先輩は、「もし、あなたが椅子にふんぞり返って電話をしているなら、仕事や相手との向き合い方を反省しなさい」と教えてくれたのでしょう。

心には「根っこ」があって、その根っこが健全なのか、腐っているのかによって態度が変わってきます。これまでは毎日のように朝礼をしていましたから、お互い顔を見ながら話すことができました。同僚の話を聞き、また自分も話す中で刺激を受け、自分の「根っこ」が健全かどうかを無意識のうちに確認できたはずです。

しかし、今や朝礼は不定期となりました。クライアントとのコミュニケーションでも対面はおろか電話も減り、メールやチャットのやり取りが当たり前になってきています。

こんな時代だからこそ、私は先に話した先輩の教えがとても重要だと感じています。姿も見えず、声も聞こえない。ある意味で制約の多いテキストのコミュニケーションが中心になっている今、皆さんはどうやって自分の真剣さを伝えますか?

例えば、同じ「はい」という返事でも、「はい」「はい?」「はい!」「はい……」といったようにたくさんの種類があります。

昔、私は先輩によく誘われて、ご飯をおごってもらっていました。先輩が「ご飯食べに行こう!」と誘ってくれたとき、「はい」と言うだけの同僚もいましたが、私は「いつもありがとうございます! ぜひ、お願いします!!」と笑顔で答え、よく飲み食いしていました。おもねるわけではなく、ただ自分の気持ちを言葉に乗せていただけです。しかし、先輩にとって、私は誘いがいのある後輩であったことは間違いありません。食事の席で仕事の話をいろいろしてくれましたし、何かと気にかけてくれました。

松下電器産業(現パナソニック)の創業者で、経営の神様と称される故・松下幸之助さんは、採用基準の一つに「愛嬌(あいきょう)」を加えていたそうです。愛嬌があれば人から嫌われることなく、いろいろなところに呼んでもらえるので、仕事の輪も広がるということでしょう。

皆さんの心の「根っこ」は健全ですか。言葉や態度に愛嬌はありますか。同じ「はい」にも、たくさんの種類があることを知ってください。

以上(2021年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】管理職に伝えたい「つもり違い十カ条」

先日、私は、長年の大切なお客様から、「先週の日曜日、電車の中でお見かけしましたよ。混んでいたのでご挨拶もできず、大変失礼しました」と言われました。

それを聞いて私は、とても心配になりました。先週の日曜日、私はどのような格好をしていただろうか、電車の中でだらしのない姿勢で座っていなかっただろうか。お客様は「混んでいたので」と言ってくださいましたが、実は私が険しい顔をしていたので、声を掛けてはいけないと思ってしまったのではないか。そうしたことが頭をよぎり、大げさではなく、肝を冷やす思いでした。

中学校教師をしている私の友人は、よく、「生徒や父母がどこで見ているか分からないから、たとえ家の近所だろうとも、誰かに見られて恥ずかしい言動は絶対にしないように気を付けている」と言っています。つまりそれは、「公人である」という意識を持って行動しているということだと思います。お客様から「お見かけしましたよ」と言われたことで、私も、改めて自分自身を戒めようと心に誓いました。

このことは、皆さんにも当てはまります。特に「公人」の意識を持ってほしいのは、管理職です。管理職の日ごろの言動は、部下に見られているからです。例えば、お客様からの難しい要望に管理職が感情的になって「面倒だ」「やりたくない」と言うのを聞けば、部下はその仕事をネガティブに捉えます。やりがいを感じるはずがありません。

逆に、管理職が「言ってもらえてよかった。これは我が社がステップアップするチャンスだ!」と言うのを聞けば、部下は、前向きに取り組むべき大切な仕事だと感じるでしょう。

管理職の皆さん、日ごろの言動において「部下に見られている」ことを意識していますか。そうでない人は、今日からすぐに改めましょう。

とはいえ、自分の行動を改めたり戒めたりするのは簡単なことではありません。そこで、今から善光寺の元住職が作ったとされる「つもり違い十カ条」をお伝えします。自分自身を振り返り、見直すために必要なことばかりなので、管理職の皆さんは「自分はこうした『つもり違い』をしている」と思って、謙虚な気持ちで聞いてください。

  • ・高いつもりで、低いのが教養
  • ・低いつもりで、高いのが気位
  • ・深いつもりで、浅いのが知識
  • ・浅いつもりで、深いのが欲望
  • ・厚いつもりで、薄いのが人情
  • ・薄いつもりで、厚いのが面の皮
  • ・強いつもりで、弱いのが根性
  • ・弱いつもりで、強いのが自我
  • ・多いつもりで、少ないのが分別
  • ・少ないつもりで、多いのが無駄

「公人」である管理職の皆さんには、私から、もう一カ条、付け足しておきましょう。「軽いつもりで、重いのがあなたの言動」です。このことを忘れないでください。

以上(2021年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

「差分」でシンプルに比較するファイナンスは経営の味方/経営者のためのファイナンス講座(8)

書いてあること

  • 主な読者:将来の意思決定に役立つファイナンス思考を身に付けたい経営者
  • 課題:経営者は日々、意思決定の連続。判断の一助となるシンプルな基準が欲しい
  • 解決策:比較対象を明確にし、「差分」を見るというシンプルな思考が大切

1 経営者の意思決定の裏に、ファイナンス思考あり

経営は、大きなことから小さなことまで、日々、意思決定の連続です。新規の得意先を開拓するかどうか、増えつつある管理業務を誰にやってもらうかなど。私自身も小さな会社を経営していますので、決めなくてはいけないことの多さに、夕方にはへとへとになることもしばしばです。ただ数が多いというだけならまだしも、大事な意思決定に対する判断を間違えてしまうと、経営に打撃を与えることになります。

ファイナンスはこのような状況を解決するのに、とても役に立つツールです。あまたある意思決定を正しく、また負担を減らしてくれます。お金を尺度として情報を整理することで状況が理解しやすくなり、判断のポイントが見えてくるのです。

シリーズの最終回となる今回は、ファイナンスのベースにある考え方を見てみましょう。ファイナンスに限らず、広く意思決定を行う場合にも使える、とても便利な考え方ですので、押さえておくといいと思います。

2 比較を制する者が、ファイナンスを制する

ファイナンスのベースにあるのは、

「比較」というとてもシンプルな考え方

です。日常生活でも、天気予報に出てくる気温情報に比較が用いられています。「明日の最高気温30度」に加えて、前日比+2度といった比較が必ずセットで表示されます。30度という実数だけでは、多くの人は正しく情報を理解できないのです。自分が過ごした今日と比べることで、「明日の方が少し暑い」と理解できます。このように、私たちは日常でも比較を活用しているのです。

とあるデータサイエンティストが、「分析とは比較すること」と言っているのを聞いたことがあります。これは、財務数値を扱うファイナンスでも同じです。比較という一見シンプルな手法は、多くのことを教えてくれます。

3 メリハリをつけて、差分だけに注目する

比較するときには、差分だけに注目すると効率的です。例えば、シリーズ第4回(意思決定時に欠かせない「機会コスト」と「埋没コスト」/中小企業経営者のためのファイナンス講座(4))で紹介した機会コストと埋没コストいうファイナンス特有の用語も、差分の性質を扱っています。それだけ、ファイナンスは差分を大事にしているのです。

工場の機械が老朽化し、取り換えが必要な場合を考えてみましょう。機械Aと機械Bが候補に上がっているなら、両者の違いだけに目を向けます。機械Aは年間保守料が100万円だけど、機械Bは80万円であれば、機械Bの方が20万円お得ですので、この差分は押さえておく必要があります。一方、耐用年数がどちらも5年で同じということであれば、耐用年数に関してはどちらを選んでも変わらないわけです。購入相手からは、年間保守料など差分の部分を中心に説明を受けたり、交渉したりすればよく、差分のない耐用年数については根掘り葉掘り聞く必要はないでしょう。

4 比較対象を間違えない

仮に、現在稼働している機械の年間保守料が50万円だったとしましょう。これに比べると、機械A、機械Bどちらも高くなります。しかし、このことは意思決定においては考慮しません。この機械が主力製品を製造するのに使用しているもので、老朽化したのであれば、取り換えのために投資せざるを得ないからです。

どうしても通常の感覚では、比較対象を現在に置きがちです。しかし、それはファイナンスの観点からは正しくありません。気持ちとしては、今より高くなるというのはがっかりしますが、感情と理性を切り分けます。理性の面から、現状維持という選択肢がない以上、現実として選び得る案だけを検討対象にしましょう。余計なことに頭と時間を使う余裕は、中小企業にはありません。

5 見えないコストこそ、見落とさない

もし機械Aと機械Bで稼働させるために必要な工数が異なるようであれば、それも考慮する必要があります。保守費用や耐用年数はパンフレットなどに書いてあるので目がいくと思いますが、見落としがちなのが、付随して発生する社内のコストの差分です。もし機械Aは、機械Bよりも作業員が関わる時間が少なくて済むのであれば、保守費用が高くても採用すべきかもしれません。

シリーズ第2回(ファイナンス特有の「見えないコスト」の考え方/中小企業経営者のためのファイナンス講座(2))で、現金を管理することに伴うコストの話をしましたが、これと同じです。社内ですでに発生している人件費などのコストの変化に気が付かず、機械本体の代金など、請求書によって実際に支払いが生じるものばかりに目がいきがちです。このような社内的なコストが漏れなく把握されているのか、慎重に検討しましょう。

6 シンプルに考えることが、意思決定では一番大事

ファイナンスはお金を尺度として考えることが特徴であり、中小企業の意思決定の場面での使い方をこれまで見てきました。一方で、そのベースにあるのは、今回ご紹介したような普遍的で何にでも使える、とてもシンプルな比較という考え方です。

よく通販の広告では、サプリメントから通信講座まで、「1日当たり〇〇円」という表示を見かけます。これも、お金を尺度としながらも、身近な1日という単位を用いることで、買い手がその金額感を理解し、比べやすくし、さらには購入という意思決定を促すことを目的としています。

シンプルに考えることこそが、意思決定を間違えずに、かつスムーズにする最大のポイントなのです。情報量が多いことは一見良いことに思えますが、多くから1つの結論を選び出す意思決定においては、むしろ逆です。意思決定だけに時間を避けるわけではありません。また、経営には中小企業であっても多くの人が関わります。さらには、膨大な数値情報を一度に処理できるほど、人間は賢くありません。このような状況の中で、最小限の時間で間違いのない結論に至るカギは、単純さにあるのです。

7 気負わず、まずはできるところから取り組もう

全8回にわたって見てきましたファイナンスは、数字を使うことで、私たち中小企業にとって意思決定を楽にしてくれる、味方のツールです。「ファイナンス」を気負わずに、どうやって楽ができるかという視点で、経営者や管理部門の皆さんに興味を持っていただけたらと思います。最も大事なのは、激変する環境の中で多忙な日々をなんとか乗り切っていくことです。「これならできそう」という簡単なことから、ぜひ取り組んでみていただけたら幸いです。

以上(2021年10月)
(執筆 管理会計ラボ 代表取締役 公認会計士 梅澤真由美)

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画像:pixta

「二代目」の役割/ローマ史から学ぶガバナンス(8)

書いてあること

  • 主な読者:現在・将来の自社のビジネスガバナンスを考えるためのヒントがほしい経営者
  • 課題:変化が激しい時代であり、既存のガバナンス論を学ぶだけでは、不十分
  • 解決策:古代ローマ史を時系列で追い、その長い歴史との対話を通じて、現代に生かせるヒントを学ぶ

1 事業承継に見られる「お家騒動」と「二代目」

経済やビジネスのニュースを見ていると、時折、企業の事業承継での「お家騒動」が取り上げられます。江戸時代の大名家における内部抗争を指す「お家騒動」という言葉が使われているあたりも含め、面白おかしく、滑稽な話のように扱われていますが、古今東西、こうした問題は数多くあり、どんな企業にでも起こり得る話です。

こうした「お家騒動」は、初代の創業者やカリスマ的な経営者から、次の担い手に引き継がれる際に起こることが多く、ここ数年、マスコミを賑わせた「お家騒動」もまさにそうでした。

そうした中で「二代目」というテーマが取り上げられ、いろいろな論評がなされるわけですが、これも面白おかしく取り上げたいからか、親子や親族内での事業承継の「二代目」について多く書かれています。

しかし、本来的に考えるべき「二代目」論は、親子や親族内の話に限定することではなく、また順番として二番目に該当する者に限ることもなく、もう少し実態的に広く捉えて考えるべきでしょう。

すなわち、初代の創業者や、初代でなくともカリスマ的な経営者から事業を引き継ぐ次の担い手という、広義かつ実態的な「二代目」です。さらに身近なイメージで言えば、画期的なアプローチで素晴らしい功績を作った先輩上司から業務を引き継いだ、担当者も含めるべきかもしれません。

いずれにせよ、こうした「二代目」に円滑に引き継ぎ、引き継がれ、さらに成功の軌道に乗せて走らせることは大変難しく、ビジネス上、慎重を要すべき重要なテーマなのです。

2 「二代目」の難しさ

では、「二代目」にはどのような難しさがあるのでしょうか。一般的に企業には、半永久的に継続していくという社会的責任があると考えられており、理念上も会計上もゴーイングコンサーン(継続企業)の前提が置かれています。こうした前提の下、「二代目」は、前任者が成功の基礎として築き上げた手法や仕組みが、属人性を排してもなお、永続性を持って維持していくことが求められるのです。

前任者が成功という結果を出している以上、大きな変更を加えることにはリスクが伴います。しかしながら、前任者が担っていたときと、環境や状況が変化していれば、勇気を持って変えていかなければなりません。

また、前任者の属人的な能力や性格などに依存していた部分は、曖昧さを排除し、客観性のある規範を定め、補完しなければなりません。こうして前任者の手法や仕組みに手を加えている中で、業績が下がってしまうと、それは全てこの「二代目」の責めに帰するわけですから、強靭な精神力がなければ、とても務まりません。

属人性を排することを進める一方で、「二代目」は、前任者の一身に寄せられていた信頼を、前任者とは異なる形で築かなければなりません。これは相矛盾するようなことではありますが、「二代目」は地位や権限をポンと与えられたかのように見られがちなので、属人性を排するという組織運営上正しい変化であったとしても、信頼が醸成されない中で、それを進めようとすれば、前任者の信奉者たちを中心に反対勢力が作られてしまいます。前任者の輝かしい功績がある中で、前任者とは異なる形であっても、信頼を醸成していくことは、時間も工夫も努力も必要で、この点でも強靭な精神力が求められます。

3 重要な鍵を握る「二代目」の役割

歴史を振り返ってみても、「二代目」が重要な鍵を握っているように思われます。何代にもわたって続いた王朝、国家などを見てみると、地味ながらも「二代目」が為政者として君臨したからこそ、その後の長い治世が続いていったように思えます。

私たち日本人にとって分かりやすいのは、江戸幕府の二代将軍徳川秀忠でしょうか。大河ドラマなどでの扱われ方からも分かりますが、初代将軍家康や三代将軍家光ほどの存在感はないものの、無難にバトンをつないだイメージが浮かびます。実際、江戸幕府の基礎を固めた為政者として高く評価する意見も少なくありません。

ローマ史においても「二代目」が重要な鍵を握っています。初代皇帝アウグストゥスも、ユリウス・カエサルのビジョンを引き継いだという点では「二代目」に当たるでしょう。カエサルが描いた絵を、アウグストゥスが現実に構築したという関係です。

ただし、この現実に構築されたローマ帝国を元首として引き継いだのは第二代皇帝ティベリウスで、当たり前ですが、彼こそが「二代目」です。歴史上、あまり取り上げられることがなく、賛否両論ある皇帝ですが、人間の強さも弱さも持ち合わせており、「二代目」を考える上での好材料のように思います。

4 ティベリウスの「二代目」としての手腕

ティベリウスは、「二代目」になるべくしてなったのではなく、消去法的に選ばれてしまった皇帝でした。アウグストゥスは、血縁者を後継者とすることに執着していたのですが、後継者候補が次々と亡くなってしまい、66歳になって、妻リヴィアの連れ子で45歳になるティベリウスに後継を託すことにします。アウグストゥスとティベリウスの間には、この後継者問題を含め、微妙な経緯や複雑な関係があったので、引き継ぐほうも引き継がれるほうも、お互いに難しい決断と決意が必要でした。

アウグストゥスは、ティベリウスの実力も実績も認めていましたが、血のつながりのないティベリウスを後継者にすること自体、大きな失意の中で決めたことでした。一方、ティベリウスも、消去法的に選ばれ、かつ甥に当たるゲルマニクスが皇帝になるまでの中継ぎでしかないことが公然と示されている中で、強大な権力と地位を引き継がねばならないという責任と重圧がありました。しかし、実直なティベリウスは、何度か固辞したものの、自分の責任と使命を理解し、これを仕方なく引き受けたのです。

皇帝となったティベリウスは、アウグストゥスの基本方針を継承しつつも、全く異なる形で政治を進めます。これは、「二代目」としてはそうせざるを得なかったといえるでしょう。アウグストゥスの治世においては、街道、水道、橋、港湾、浴場、劇場等の建設といった公共工事が積極的に進められましたが、ティベリウスはこれらを最小限に留め、もっぱらそれらの保守に徹しました。

ローマ市民と元老院の承認に支えられた皇帝という地位を考えれば、人気取り政策としての新たな公共工事が当たり前であった中で、緊縮財政を旨としたティベリウスの判断は、ローマ市民には異様に映ったかもしれません。剣闘士試合や競技会のスポンサーを降り、元老院議員への経済的援助を制限し、賜金というローマ市民へのボーナスも打ち切りました。増税はしないという信念の下で進められた数々の緊縮財政政策は、より大切なものを維持し、未来につなぐために進められたのですが、多くの不評を買うことになりました。

しかし、ティベリウスは意に介さず、着実に進めていったのです。ローマ国家としての方向性は維持しつつも、国家の財政状況や社会環境の変化に合わせて、勇気を持って、異なるアプローチを取った点は、「二代目」として求められる絵姿ではないでしょうか。

5 「二代目」が作ってしまった恐怖政治

しかし、前任者とは異なる形で、信頼を醸成していくという点では難があったようです。カエサルやアウグストゥスが独裁的な国家運営を志向したのに対して、ティベリウスは、帝政という政体を継承しつつも、元老院と協力し合う独裁的ではない国家運営を理念として強く持ち、それを志向しました。

先帝アウグストゥスから権力を譲られた形のティベリウスは、自身の才能や力量に不安を覚え、元老院に真摯に協力を求めたのです。そして、そのための努力も重ね、互いの信頼を築こうとしました。しかし、元老院にはもはやその意欲も気概も能力もありませんでした。

自分たちの利害にだけ関心を示し、重要な国政については皇帝に委ねるだけとなっていた元老院を目の当たりにし、ティベリウスは深い失望と幻滅で嫌気が差してしまい、ローマから遠く離れたカプリ島に引き籠もってしまいます。今で言えば、「二代目」の社長が取締役たちに失望して、出社しなくなってしまったようなものです。

しかし、ティベリウスは、決して責務を投げ出したわけではありませんでした。責任感の強いティベリウスは、情報収集と命令伝達の仕組みを使い、実に的確に遠隔から統治を続けたのです。しかし、この的確な遠隔統治は、元老院など不要だということを突き付けたに等しく、皮肉なことに、皇帝による独裁的な国家運営の強化という結果を招きます。

遠隔からの指示に従う忠実な手足が必要だったティベリウスは、その筆頭に近衛軍団長官セイアヌスを抜てきし、この手足を使って、皇帝に敵対する親族一派を一掃します。その後、セイアヌスの陰謀情報をつかんだティベリウスは、セイアヌスを奸計(かんけい)に陥れて処刑し、その一族一派を徹底的に粛清しました。

こうした混沌の中で恐怖に駆られた元老院議員たちは、自らも恐怖政治に加担するかのように、告発合戦による潰し合いを始めますが、人員整理にはちょうどいいと考えたのか、ティベリウスは静観し、放置しました。

6 成果や実績を評価することの難しさ

これら晩年のティベリウスの治世は、恐怖政治として歴史に刻まれています。確かに、統治者として、リーダーとして、これらの振る舞いは非難されて当然です。しかしながら、より大きな流れで見た場合、「カプリ島から出ずとも敵を一掃できる力を示し、恐怖と脅威を与えたことで、皇帝の権威を高め、帝政という政体を揺るぎないものにした」という評価も可能であり、ローマ帝国を盤石にした「二代目」として論じることもできるのです。

人々に恐怖を植え付けたティベリウスの死は、ローマ市民に歓喜をもたらしたそうです。一方、19世紀の歴史家モムゼンは、ティベリウスを「ローマが持った最良の皇帝の一人」と称賛しています。どちらの評価が正しいのでしょうか。

大きな業績を残し、評価が高かった経営者でも、任を退いた後、業績が落ち込み、長期的な戦略ミスを問われることがあります。ある時点において真実だった評価も時間の経過とともに変化し得るのです。一つ一つの判断がどのような結果を導き、どのように評価され、またそれがどのように変化するのかは、誰にも分からないのです。

ティベリウスはどのように思っているのでしょうか。歴史に残されたティベリウスの行動などを見ていると、評価などは気にせずに、そのときそのときの自分の判断を大事にした、と言いそうな気がします。そういうところが「二代目」に必要なのかもしれません。

以上(2021年10月)
(執筆 辻大志)

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問題社員“円満”退職のための「退職合意書」作成のポイント

1 はじめに

能力不足や業務命令違反、規律違反等の問題がある社員について、雇用の継続が困難なときも、企業は、解雇ではなく、合意による退職で解決することが必要です。つまり、退職勧奨による解決が原則です。解雇による解決は、不当解雇であるとして訴訟を起こされた場合、裁判所で解雇が無効と判断されてしまい、多額の金銭の支払いと雇用の継続を命じられるリスクが大きいからです。筆者は、問題社員対応に悩む顧問先を訪問し、問題社員と直接話し合いをし、合意による退職での解決を実践してきました。

では、問題社員に対する退職勧奨による解決の場面で、どのような点に注意すべきでしょうか。本稿では、退職合意書の作成のポイントに焦点を絞ってご説明します。退職合意書については、最近の裁判例で、退職合意書にいわゆる「清算条項」を入れていても、退職後の従業員による割増賃金請求を認めたものが出ている点等にも注意を要します。

以下で、退職届とは別に退職合意書を作る必要性や、退職合意後にトラブルにならないようにするための個別の事案ごとの作成上の注意点について解説していきます。それでは見ていきましょう。

2 「退職合意書」作成の必要性

退職合意書の作成が必要になる理由としては、大きく分けて以下の4つを挙げることができます。

  • 問題社員が退職後に転職先が決まらず、「退職は意思に反するもので、解雇だ」と主張して復職を求めてきた場合でも、復職を断れるようにするため
  • 問題社員からの退職後の金銭請求や訴訟提起を防ぐため
  • 退職後の会社に対する誹謗中傷や退職条件についての第三者への口外を防ぐため
  • 退職を会社が承諾したことを明確にし、退職の撤回を防ぐため

(1)「退職は意思に反するもので、解雇だ」と主張してくるリスクに対応する

退職勧奨の結果、問題社員との間で退職の合意が成立したとしても、退職届も退職合意書も作成していなければ、そもそも、従業員の意思に基づく退職だったことを明確に示す証拠がありません。つまり、意思に基づく「退職」なのか、会社による「解雇」なのかを示す証拠がありません。そして、解雇について「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」は、従業員は解雇の無効を主張して雇用の継続を求めることができます(労働契約法16条)。

口頭で問題社員から「退職に応じます」と言われて、その時は円満に退職してもらったと思っていても、退職届や退職合意書がなければ、会社は安心するべきではありません。退職した問題社員が、後になって「会社から不本意な扱いを受けた」という気持ちが芽生え、さらに次の職も決まらなければ、退職を取り消したいという気持ちになり、「自分は不当に解雇された」と主張し始めることはよくあることです。そして、退職届や退職合意書などの書面が作成されていないときは、「口頭で従業員との間で退職の合意が成立していた」という会社側の主張が認められることは稀です。

過去の裁判例でも、社長が「新しい事務員も雇ったことだし、残業をやめてくれ。残業を付けるならその分ボーナスから差し引く」、「来月からは残業代は支払えない。残業を付けないか、それが嫌なら辞めてくれ」と告げたところ、従業員が「それでは辞めさせてもらいます」と応じた事案が問題になりました。一見すると従業員の意思による退職ともいえそうですし、会社はそのように主張しましたが、裁判所は、自発的意思による退職とはいえないと判断し、社長の発言は解雇の意思表示に当たるとして、解雇予告手当の支払いを命じています(大阪地裁判決平成10年10月30日)。

解雇ではなく従業員の意思に基づく退職であったということを明確にするためには、退職届あるいは退職合意書を作成することが必須です。

(2)問題社員からの退職後の金銭請求や訴訟提起を防ぐ

では、退職届があれば退職合意書は必要ないかといえばそうではありません。退職に向けた話し合いの場面で、問題社員の側から、例えば未払い残業代を請求されるケースもあります。仮に、会社がこれに応じて、未払い残業代分を300万円支払い、従業員から退職届を提出してもらったとします。この場合、退職合意書がなくても、会社から300万円の振込みをした履歴は残りますが、振込みの履歴だけでは300万円が何のお金かはわかりません。

その結果、退職後に問題社員から「あの300万円は退職金だ。残業代が未払いになっているので残業代を払え」という要求がされ、支払いを断れば、訴訟に発展するリスクがあります。こういった退職後の金銭請求や訴訟提起のリスクに対策するためには、退職後に一切の請求を認めないことを内容とする退職合意書の作成が必要です。このような後日の金銭請求の禁止については、退職届で対応するよりも、退職合意書に記載するほうが対応しやすく、退職届とは別に退職合意書の作成が必要になる理由の大部分を占めます。

(日本法令ビジネスガイドより)

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