商店街活性化の第一歩は「固定会費を止めること!」 福井駅前の家賃を実質2倍にしたまちづくりの仕掛け人が語る、商店街活性化の“4つの秘訣”/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、竹本祐司さん(一般社団法人EKIMAE MALLの代表理事)です。

「ものすごい熱量で、商店街活性化を【ビジネス】にしている方」。それが竹本さんです。他の人には思いつかないような企画力、やると決めたら実現するまでやり切る行動力、そしてしっかりとマネタイズも見据える戦略力。そうした竹本さんの土台には、「福井駅前商店街を活性化させる」というブレずに燃え続ける情熱と、数々の壁や失敗など語り尽くせないくらいのご経験がありました。

1 福井駅前の家賃を、実質2倍にした竹本さん

竹本さんの実現してこられたことは、内容も実績も「すごい」の連続です。まず衝撃的だったのは、福井駅前のテナント家賃についてのお話です。なんと家賃を実質2倍にされたというから驚きです!

もともとシャッター街だった福井駅前では、指定家賃の2分の1くらいで貸し出していました。2015年3月、竹本さんが福井駅前に「美容系の11店舗同時開業」を達成されたことでメディアに取り上げられ、それをきっかけに4カ月後(2015年7月)には家賃が通常に戻った、つまり「実質2倍」になりました。

その後、福井駅前の駐車場料金も値上がりしていったそうで、例えば福井駅前のコインパーキングでは、料金が1.5倍ほど値上がりしたといいます。竹本さん曰く、車社会の福井県では「駐車場にお金を払うのはありえない」とお考えの方も多いそうですが、福井駅前の駐車場に関しては、有料にもかかわらず需要が増えて足りなくなってしまったくらい、変わりました。駅前の雰囲気もとても良くなったそうです。人々の意識や雰囲気を変えた、これはすごいことですね!

なぜこうしたことが実現できたのか竹本さんにお聞きしたところ、

    「エリアの価値が上がったのが要因」

ということでした。そこで竹本さんから、福井駅前の「エリアの価値が上がるまでの流れ」を教えていただきました。

まず、インパクトのある「美容系の11店舗同時開業」をきっかけに、福井駅前にさまざまな店舗の出店が増え雰囲気が良くなり、福井駅前で面白いことを仕掛けるプレーヤーも多くなっていきました。ビアガーデンなども出てきたそうです。そうすると、夜、福井駅前に人が集まるようになり、今度は大手居酒屋チェーンが出店してきました(それまで福井駅前には大手チェーンは来なかったとのこと)。この大手居酒屋に多くの福井県民が詰めかけます。そうすると混んで入れない人も出てくるので、そういう人たちは近辺の飲食店に流れます。その結果、夜の飲食店が増え、集まる人も増え、福井駅前というエリアの価値がどんどん上がっていったと竹本さん。やはり、活性化には「エリアの価値を上げる」のが非常に重要なのだと思います。お話をお聞きしていると、さっそく福井駅前に行きたくなります!

2 20代、30代(今)が“濃い”竹本さんのプロフィール

福井駅前を活性化することに全力を注いでおられる竹本さん。もともとはクラブイベントの企画などをやっていましたが、26歳ころにはまちづくりに時間も労力も費やすようになり、30歳を過ぎたころには、まちづくり一本でやっていこうと決意されたそうです。竹本さんのプロフィールを拝見しますと、20代、30代(今)でかなり色々なことをやっておられるのが分かります。濃いですね! 「2300人合コン」なんて、他に聞いたことがありません……。

竹本さんのプロフィールを示した画像です

(出所:竹本さんからいただいた資料より抜粋)

3 竹本さんの「商店街活性化」の盛りだくさんな事例

竹本さんが今やっておられる商店街活性化、まちづくりのことを色々とご説明していただきました。特に、福井駅前のイベントなどソフト事業に強みがある竹本さん、内容、熱量ともに盛りだくさんでユニークなものばかり。例えば駅前商店街と商業施設の対決イベント(駅前モールVSエルパ)などはなかなか思いつかない発想ですし、他の地域でも参考になりそうです。

●竹本さんが手がけた200以上のソフト事業のうちの一部

竹本さんが手がけた200以上のソフト事業のうちの一部を示した画像です

(出所:竹本さんからいただいた資料より抜粋)

竹本さんは現在、複数の会社を通して商店街活性化、まちづくりをされています。まず、2016年10月に立ち上げられたのが一般社団法人EKIMAE MALLです。今5期目を迎えている民間のまちづくり会社で、事業のメーンは「福井駅前の活性化」。福井県民が一番来やすい福井駅前で商業を活性化し、エリア価値を高めるための仕掛けを実践しておられます。

1)一般社団法人EKIMAE MALLの取り組み「情報インフラ整備」

竹本さんたちは、消費者と商店街の両方に対して情報インフラ整備をされています。例えば、消費者の方々には福井駅前情報だけのフリーペーパーを毎月1万3000部発刊しており、SNSも。チラシをうまく届けられないなど、商店街は情報発信力が弱いのが課題と考えていた竹本さん。「福井駅前の広告代理店」として、商店街全体を取りまとめて販促しています。

フリーペーパーはビアガーデンや忘年会特集などテーマを絞った内容が特徴で、宣伝したい店舗側の費用負担は5万5000円。フリーペーパーは竹本さんたちが市役所などに設置、手配り、21カ所の専用ラックに置いている他、EKIMAE MALLのウェブサイトでも閲覧できます。

●フリーペーパーの一部

フリーペーパーの一部画像です

(出所:一般社団法人EKIMAE MALLのウェブサイトより抜粋)

一方、商店街の各店舗に対しても、「情報インフラ整備」をされている竹本さん。福井駅前には6つの商店街がありますが、お互いに何をしているか分からない……。そこで、お互いに実施している販促などの情報を分かるように「エキマエモール情報便」としてまとめ、440店舗の商店主さんにお届け。SNSのグループもつくっておられます。

●「エキマエモール情報便」やSNSグループ

「エキマエモール情報便」やSNSグループを示した画像です

(出所:竹本さんからいただいた資料より抜粋)

2)福井県まちづくりセンターの取り組み プレイヤーの育成

竹本さんは、別会社「福井県まちづくりセンター」で、福井県の地域活性化を担うプレイヤーの育成も行なっています。「地域活性化は【人】が大事である」という思いからです。

福井県まちづくりセンターの取り組み プレイヤーの育成を示した画像です

(出所:福井県まちづくりセンターウェブサイトより抜粋)

「福井駅前を盛り上げたいというワークショップはよくあるが、皆で集まって一つのことをワイワイ決めるのは無理がある。決まったとしても妥協したものになる」と語る竹本さん。マネタイズも含め、信念を持ち、しっかりと考え抜いて実行していくプレイヤーが欠かせないと考える竹本さんは、福井県が主催する「ワクワクチャレンジプランコンテスト」への応募者の事業支援、コンサルも行なっておられます。

このコンテストの賞金は100万円ですが、竹本さんとしては「たとえ賞金で100万円もらえたとしても、その事業を継続していくのが難しい」と感じているため、継続して100万円を生み出せるようにコンサルしておられるそうです。コンテストの勝ち負けだけで終わるのではなく、「自分たちで事業を継続していく力を付ける」のは非常に重要なことだと思います。

●福井県まちづくりセンター「ワクワクチャレンジプランコンテスト」コンサル

福井県まちづくりセンター「ワクワクチャレンジプランコンテスト」コンサルを示した画像です

(出所:竹本さんからいただいた資料より抜粋)

●福井県まちづくりセンター活動実績の一例

福井県まちづくりセンター活動実績の一例を示した画像です

(出所:竹本さんからいただいた資料より抜粋)

3)美のまちプロジェクト

竹本さんがやってこられた商店街活性化の中でも、美容系の11店舗同時開業(2015年3月)などインパクトのある取り組みが満載なのが「美のまちプロジェクト」です。これは、「福井駅前の空きテナントを減らそう」という目的でスタートしたものです。

福井駅前活性化を図るため、若者向けに「2300人合コン」というものすごいイベントなどを開催していた竹本さん。その後、商店主さんの意識改革にも努めながら、一緒に「空きテナントを埋める」ためにさまざまなことを考えました。中でも、エステやリラクゼーションといった美容系業態は飲食店などに比べてリスクが低いこともあり、“福井駅前をジャック”して、「ここ(福井駅前)に行けばビューティー系がある!」と消費者に思ってもらえるようにしようと考えました。

そして、「美容系の11店舗同時開業」を仕掛け、メディアにもプレスリリースを打ち出しました。メディアの注目度はかなり高かったようです! この美のまちプロジェクトでは、13カ月で実に22店舗もの美容店舗が出店したということです。

●「美のまち祭」のパンフレット

「美のまち祭」のパンフレットを示した画像です

(出所:竹本さんからいただいた資料より抜粋)

4 商店街活性化の秘訣は4つの“竹本節”

竹本さんに、ご経験や現在の商店街活性化事業をお聞きしていく中で、「竹本節」が色々と飛び出しました。商店街活性化に取り組む方々には目からウロコのお話もあると思いますし、成功の秘訣が凝縮されています。ここでは次の4つをご紹介させていただきます!

  • 商店街活性化を成功させる第一歩は「固定会費」をなくすこと
  • 「一人で始めろ!」
  • 1万人の賛同者より大切なもの
  • 大事なのは継続してマネタイズできる「ビジネス」にすること

1)商店街活性化を成功させる第一歩は「固定会費」をなくすこと

竹本さんが商店街活性化のために、まず取り組んだほうがいいと教えてくださったのは、「商店主さんが月々いくら払う、という固定会費(販促などソフト面に関する固定会費)を止めること」でした。商店街の会費は大きく分けると、アーケードやゴミ処理などにかかる「ハード費」と販促などにかかる「ソフト費」がありますが、竹本さんは「ハード面にかかる固定会費は残す必要があると思いますが、ソフト費のほうは止めていいと思います」とのことでした。そのわけは、竹本さんの言葉をお借りすると、次の理由からです。

    「商店街にはさまざまな業種がある。そうした中で(商店主)皆が販促に1万円の会費を払うような仕組みでは、効果的な販促ができるわけがない。これが地域を問わず商店街の大きな課題です。結局、スタンプラリーなど抽象的、全体最適なものになってしまう。
    スタンプラリーが悪いわけではないが、お金を出してやりたい販促の取り組みは、店舗ごとに違うはず」

そこで竹本さんが実践しているのは、竹本さんたちの会社が「企画」を用意し、いいと思った商店主からお金をもらうという方法です。従来の固定会費制の商店街単位ではなく、竹本さんたちの会社が企画し、それに対していいと思った商店主がお金を支払うこの方法は、いわゆる民間の広告代理店(竹本さんたち)とその顧客(商店主)と同じ構図です。

言葉を選ばずに言えば、広告代理店なのですから、竹本さんたちは消費者を惹きつける企画を必死で考えますし、商店主側もやりたければお金を払います。やりたくないのに、実績が上がらないのにとりあえず会費を払っている状態とは全く違います。そして消費者も、練った面白い企画、分かりやすい情報を受け取れるわけです。消費者、参加者(商店主)、企画側、まさに「三方よし」の仕組みといえます。竹本さんは、次のように続けます。

    「商店主さん全員が満足する企画なんて、おそらくあり得ません。固定会費(ソフト面)でやらなければ、という固定概念の枠を取り払うことがとても大切」

これは目からウロコで、驚きつつも「実は真似したい」方がおられるのではないでしょうか。

2)「一人で始めろ!」

竹本さんは、商店街活性化を進める組織についても、ご自身の考え方をお話くださいました。「商店街活性化は、まずは一人で始めろ」。これが、竹本さんの薦めです。

    「一人でやりたいことを必死で考え抜き、コンセプトを詰めて決める。そうしてブレないコンセプトを決めてから仲間を集める。この順番が逆になると成功が難しい」

最初から人数だけ集めてしまうとスピード感も遅くなりますし、物事が決まらなくなります。また、何人も集まったとしても、結局ちゃんと動いているのは決まった数人、もしくは一人だけ、ということも起きがちです。コンセプトを決めないで友達同士で始めてしまうのも、途中で揉めてしまう可能性があるとのこと。こうしたことは、起業と通じるところがあるかもしれません。会社のコンセプト、やることをしっかり決めてから仲間を集めないと、会社も方向性が右往左往する、人が離れていくなど揉めがちです。

「まずは一人で始めろ」と同様に、「一緒にじゃなくて連携」も大事な考え方だと、竹本さんは教えてくださいました。実際に、とある別々のイベント開催のときに、関連がある内容だからと販促を一緒にやることにしたそうです。しかし、チラシは一緒で良くても、肝心の「ネーミング」が困ってしまったようです。別々のイベント2つの内容なのに、どういうネーミングにしてチラシに載せるのか、など。最初から「連携」という形にして、合うところだけ共同、難しいところは別々に実施する、と最初から決めておくことが大切と竹本さんは語ります。

3)1万人の賛同者より大切なもの

「一人で始めろ」ともつながりますが、商店街活性化を実現するために大切なのは、

    「1万人の賛同者よりも一人の覚悟です」

と真っ直ぐに語ってくださる竹本さん。

この言葉には、これまで色々なことがありつつも福井駅前の商店街活性化を地道に実現されてきた竹本さんの実体験が込められており、とても心に刺さります。色々なことがあっても「やり切る」という竹本さんの覚悟、その覚悟を持ってやり切ってきた実績があるからこそ出てくる、まさに「血と汗の結晶、厚みのある言葉」です。
 もちろん、失敗したこと、成し遂げられなかったことも多いとおっしゃる竹本さん。そうしたさまざまなことも全部、今の竹本さんをガッチリ支える土台になっているのを感じます。

    「周りにどれほど無理だと言われても、僕ができると思ったらできる」

こうおっしゃる竹本さん。言葉だけ聞くとかなりパワーがありますが、竹本さんご自身は自然体で変な「力み」がありません。本当に実践してきたからなのでしょう。かつて1500人合コンをすると竹本さんが打ち出したとき、「できるわけがない」「人が集まるわけがない」と皆から言われたそうですが、蓋を開けてみるとイベントの3週間前には枠が完売したそうです。

もっと言うと、竹本さんは24歳で運転代行会社を立ち上げましたが、それまで運転代行で働いたこともなければ、代行車に乗ったこともありませんでした。そのため周りから「絶対にうまくいかない」と言われていたそうです。しかし、立ち上げからおよそ3年後、竹本さんの運転代行会社は、福井県内でトップクラスの保有台数にまで上り詰めました。

「結局は自分自身がやると覚悟を持って決めて、それを実行する。それに尽きる」ということを、竹本さんは実際のご経験から教えてくださっていると思います。竹本さんの言葉や姿は、商店街活性化だけでなくすべてのビジネス、ひいては人生にも通じるのではないでしょうか。

4)大事なのは継続してマネタイズできる「ビジネス」にすること

覚悟を持ってやり切ることが大前提ではありますが、「商店街活性化は、単なる精神論だけでうまくいくわけではない」とも語る竹本さん。商店街活性化を継続していくには何が大事か、次のようにお話してくださいました。

    「商店街活性化、まちづくりは正義の押し付けになってはいけない。ちゃんと利益などメリットを出す【ビジネス】にすることが大事」

確かに、こうしたメリットがなければ継続していくことは難しいでしょう。竹本さんは、全国の商店街で店舗加盟率が減少している今こそ、専属の事務局(例えば竹本さんたちのような商店街活性化を実現する民間会社)がしっかりと「生産性のある企画」を立て実現し、利益を出していかなければならないと言います。

商店主自身が販促を行なっている場合、本業もあって販促に注力するのが難しいため、なかなかうまくいかないことも多いようです。そうなると、思うように販促の成果が上がらず、皆の不満が溜まってしまいます。これでは悪循環です。まちづくり=マネタイズするビジネスと位置付け、それを専門に行う事務局(民間会社など)を持ち、「ビジネスとして」まちづくりをしていく。これが、商店街活性化を継続して実現していく大きな秘訣といえるでしょう。

5 「今後」に向けて

最後に、竹本さんに今後の展望などをお伺いしたところ、福井駅前など福井県で実績を積まれている商店街活性化を、他の都道府県にも展開されていくとのことでした。既にお話されている地域もあるそうです。竹本さんのものすごいご経験と発想が、次はどこの地域で発揮されるのか、本当に楽しみです!

また、全国の行政に対しても、次のような思いがあると竹本さん。

    「今はまだ地域活性化が産業になっていないが、今後は産業化が進んでいく。そうなるとソフト事業はスピードが重要なので、行政は自分たちでやるよりも、【ソフト事業に対して投資してプロジェクトを育てる】ことが必要」

竹本さん風に言うと、「まちづくりでメシ食ってます」。そう当たり前に言い切れる会社、組織などのプレイヤーが増えていき、日本全国で活躍することが、「継続できる商店街活性化の実現」には欠かせないといえるでしょう。

めちゃくちゃ失敗したからこそ、そのノウハウを実感を持って人に伝えることができる、「まちづくりに関わる物理的、精神的な大変さ」を経験し乗り越えてきたからこその「まちづくりコンサル」を実践されている竹本さん。
 竹本さんのお話をお聞きしていたら、竹本さんたち、そして竹本さんたちがコンサルするプレイヤーが増えれば、日本全国各地の未来は明るい、そう思える心持ちになりました! 商店街活性化を、まちづくりを、利益を生み出す当たり前のビジネスに変えていこうとしている竹本さんはまさに「まちづくりのイノベーター」、心から応援したいと思います。有り難うございます!

以上(2021年10月作成)

事務管理部門の生産性が向上しない22の理由と対策

書いてあること

  • 主な読者:事務管理部門の生産性を向上させたいと考えている経営者
  • 課題:事務管理部門の業務は個人の裁量に任されていることが多く、効率化しにくい
  • 解決策:厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」を参考に、自社の生産性が向上しない理由に該当する対策を実行し、社員の意識や仕事のやり方を改革する

1 事務管理部門の生産性が向上しない理由にはパターンがある

業務効率化やコストダウンの推進は重要な経営課題ですが、事務管理部門に関して言うと、業務が個人の裁量に任されていることも多く、改善が進みにくい面があります。一方で、事務管理部門の業務の内容はどの企業も大体同じなので、改善が進みにくい理由も似通ってきます。

そこで紹介したいのが、厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」です。同サイトでは、社員の働き方・休み方に関してありがちな、具体的な課題とその解決策を示しています。

この記事では、同サイトから事務管理部門の生産性向上に関する部分をピックアップし、生産性が向上しない22の理由(課題)とその対策を紹介します。「うちも困っている」という経営者の皆さんは、ぜひご確認ください。

■厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」■
https://work-holiday.mhlw.go.jp/

2 働き方の実態把握に問題あり

1)働き方の実態が把握できていない

【理由1】自己申告による時間管理を行っており、正確な労働時間の実態把握ができていない
【対策】適切に労働時間を把握するためのシステムを導入する

タイムカードや勤怠管理システムを設置し、労働時間を正確に把握します。直行・直帰する社員、リモートワークをする社員などについては、始業・終業時刻を電話やSNSで報告させたり、ノートPCから打刻可能な勤怠管理システムを活用したりして対応します。自己申告での労働時間管理を続ける場合、PCログをチェックするなどして労働実態の把握に努めましょう。

【理由2】長時間労働や年次有給休暇の取得が低調な部署、個人の原因がわかっていない
【対策】所定外労働(残業)の時間数、年次有給休暇(年休)の取得状況を一覧にする

まずは部署ごとの残業の時間数、年休の取得状況を一覧にして状況を整理します。そして、長時間労働が続いている、あるいは年休の取得が滞っている部署や個人に対して、その要因を明らかにするための調査を行います(ヒアリングなど)。調査する内容は、

  • 顧客および業務の状況(顧客数、担当業務、各業務の所要時間など)
  • 残業が多い要因、年休の取得が滞る要因(業務量が多い、業務用ツールが古いなど)
  • 改善のために実施している取り組み内容(業務の分担、業務用ツールを見直すなど)
  • 問題点(業務の分担を見直したが、どの社員も業務量が多く改善につながらないなど)

などです。また、もしも残業削減や年休の取得促進に成功している部署が他にある場合、その成功理由をヒアリングし、改善が滞っている部署に適用できないか検討します。

  • 成功理由(アウトソーシングによって部署内の総合的な業務量を削減した上で、業務の分担を見直し、社員ごとの業務量を平準化することに成功したなど)

2)働き方に関するデータと業績の関係が不明確

【理由3】経営層に取り組みのメリットがない(業績ダウンにつながる)のではと指摘される
【対策】働き方・休み方に関するデータと業績の関係、組織単位の生産性などを分析する

残業削減や年休の取得促進の効果に疑問を抱く経営層には、データなど客観的な情報で説得を試みましょう。例えば、厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」では、残業削減や年休の取得促進に関する各社の成功事例が、具体的な数字(取り組み前後の残業時間の変化など)とともに紹介されているので参考になります。

3 管理職や社員の意識に問題あり

1)管理職の意識が低い

【理由4】管理職の意識やモチベーションが低く、各職場に業務効率化の動きが浸透しない
【対策】トップからメッセージを発信し、管理職を巻き込んだ推進体制を構築する

業務効率化に消極的な管理職に対しては、経営者から「そのような姿勢ではダメだ」とメッセージを発信し、意識の変化を促しましょう。また、経営者を中心に、業務効率化に取り組むプロジェクトチームをつくり、管理職をメンバーに加えるというのも一策です。

【理由5】管理職に長時間労働の傾向がある場合、部下も長時間労働となる傾向にある
【対策】管理職の長時間労働を解消する仕組みを導入する

管理職を対象とした定時退社推奨日、定時退社推奨月間の設定など、管理職に対して定時退社を促す仕組みを検討しましょう。

2)長時間労働が評価される(と感じている)組織風土がある

【理由6】「付き合い残業」が常態化している
【対策】管理職による所定外労働の事前承認制を設ける

所定外労働を行う場合は、管理職への事前申請・承認を要することとし、部下は、終業時刻前に、「業務内容と残業する理由」「残業予定時間」を上司に申請するルールを設けます。なお、リモートワークなどの場合、事前申請・承認の手続きを嫌がる社員が、定時で終業したように見せかけて仕事を続ける「隠れ残業」が発生しがちです。こうした場合、残業時間の上限(1日○時間、1カ月□時間など)を社員ごとに設定し、その範囲内で残業を認めるのも一策です。

【理由7】「成果を出すためには長時間労働も仕方がない」「長時間労働が評価されるはず」と考えている社員がいる
【対策】効率指標としての「時間当たり成果」を人事評価項目に加える

「時間当たり成果」を人事評価項目に加え、「時間」ではなく「効率性」で評価するように制度設計することで、社員の行動パターンの変化を促しましょう。

【理由8】長時間働くことを評価する意識が残っている部署・個人が存在する
【対策】現場の仕事の進め方を改革し、効率的な業務遂行に向けたインセンティブを付与する

組織業績の評価項目として、人件費を削減して付加価値を高める、時間当たりの売上高を高めるといった指標を組み込み、効率的な業務遂行を評価します。その際、部署メンバーの賞与へ反映させるなどして、所定外労働の削減により賃金に影響が及ばないようにします。

【理由9】フレックスタイム制を導入しているが、一部に夜遅くまで勤務する社員がいる
【対策】朝型勤務を奨励する

1日で終わらせる必要のない業務であれば、早めに終業し、翌朝の早い時間帯に業務を回すよう奨励しましょう。コアタイムの時間帯を前倒しし、朝の時間帯に働きやすい状況を整えるのも一策です。なお、フレキシブルタイムの開始・終了時刻は労使協定で決まっているので、その時刻を超えて働く社員には、管理職への事前申請・承認を義務付けるようにしましょう。

3)社員が長時間労働をいとわない

【理由10】仕事にやりがいを感じており、退社して特段やりたいこともないため、長時間労働に対する問題意識を持っていない
【対策】社員向けの教育・研修を行う

長時間労働と健康・仕事効率の関係などを社員に認知してもらうため、全社員の受講を義務とする教育・研修を行いましょう。例えば、過労死ライン、インターバル(休息)と生産性の関係、社内全体における割増賃金の支払い状況などについて説明することが考えられます。

【対策】オフの時間確保とそれによる社外のさまざまな活動への参加の推奨

定時退社や年休取得により、家族と過ごす時間を大事にし、自己啓発や休養、趣味なども含めて人間性を高め、自分の仕事を見つめ直すことを推奨します。必要に応じて、それら活動の情報提供を求めましょう。オフの活動の際の社員の生き生きした姿や、活動によって得られるものなどの情報について、社内報などを通じて提供することで効果が高まります。

4 仕事の特性、仕事のやり方に問題あり

1)業務が標準化されていない

【理由11】繁忙期に外部人材を雇用しても業務内容の説明に労力がかかり、うまく活用できない
【対策】業務の棚卸しを行う、業務手順書を作成する

業務の棚卸しを行い、業務手順書を作成しましょう。作成した業務手順書を、繁忙期などに新規人材の教育に活用します。ただし、経験や知識を基に感覚的な判断が求められる「属人的な業務(採用面接のノウハウなど)」は、マニュアル化に向かないので対象から外します。

2)業務(時間)の無駄、重複が多い

【理由12】決裁などに手間をかけすぎる部分がある
【対策】組織運営・決裁権限を見直す

現在の組織運営のあり方を再度検討し、特に決裁権限について企業経営上の観点、リスク対策、事業運営の効率性の観点などから簡素化を図りましょう。例えば、現場で決裁できる業務を増やす、紙からオンラインでの決裁に切り替えることなどが考えられます。

【理由13】退職や人事異動、育児休暇取得時など、業務の引き継ぎに時間を取られる
【対策】引継書を作成して業務引き継ぎの効率化を図る

引継書を作成して、上司が事前に承認しておきます。引継書は過去に作成したものをベースに作成するので、半期や四半期、プロジェクトの節目などに改訂を行っておくとよいでしょう。引継書は、業務全体を俯瞰(ふかん)できるものとし、業務の流れ、社内外の関係者とのつながりなどを明示します。資料がある場合、資料一覧と格納先をリストアップしておきます。

3)アウトプットの品質を過剰に追求する

【理由14】社内向け説明資料でも必要以上に質の高い資料を作成するため、手間がかかる
【対策】社内資料の内容について再検討を行う、資料内容の簡素化および枚数の上限を設定する

社内資料は要点が理解できるのであれば、デザインや分量にこだわる必要はありません。例えば図の色は白黒とする、枚数は○枚以内にするなどルールを決め、作成時間を短縮します。

4)必要ではないメール、会議が多い、会議が効果的に行われていない

【理由15】ミーティングやメールが多い(減らない)ことがネックとなっている
【対策】会議の効率化を図る

会議で明確な意思決定を行うことや、会議に必要な人のみが出席するなどの取り組みを徹底しましょう。また、決められた会議時間内に決定をする、資料は紙ではなくデータで連携し参加者がノートPCで内容を確認するなど、具体的なルールを設定します。

【対策】会議を開かないという選択肢を検討する

これまで会議を行ってきた議事事項について、決定権限を委譲するなどして会議の開催を省略することを検討します。

【対策】メールに関わる時間の削減・効率化を図る、メール数そのものの削減を図る

メールの宛先について、TOは返信をしてほしい相手、CCはやり取りを知っておくべき相手に限定するなどして、送受信や確認作業の手間を減らします。また、社内の簡易な連絡については手間がかからないSNSで行うなどして、メール数そのものの削減を図ります。

【理由16】会議で意見が出ず、会議の機能を果たしていない
【対策】会議の活性化を促進する

会議の前に、その会議の目的、議題、決めるべきことなどを明確にし、会議参加者に伝えるようにします。参加者には、問題意識を持って会議に参加するように促します。会議によっては会議中のメールや電話の使用を禁じることも検討しましょう。

5)IT化(効率化)に対する忌避感がある

【理由17】業務効率化のためにIT機器を導入したいが、IT機器に対する忌避感が強い社員が多く導入が難しい
【対策】IT機器に対する忌避感がある社員向けに、通常のマニュアルとは別の簡易マニュアルを作成する

IT機器を使用する際に活用できる、図付きのマニュアルを作成しましょう。手順通り行えば従来通りに業務が行え、時間場所を選ばず報告ができるなどのメリットがあることも伝えましょう。IT機器の使い方を習得するための研修機会を設けるとよいでしょう。

6)特定の部署・社員に仕事が集中している

【理由18】社員各人の業務負荷が把握できていない
【対策】業務の棚卸しを行う

業務の棚卸しをすることで、各人の業務負荷を「見える化」しましょう。長時間労働につながる負荷が重い業務は、業務分担の調整を行い、業務を平準化します。

【理由19】月の所定外労働60時間以上のリストに挙げられている社員が常連化している
【対策】実態や状況を把握し、フォローアップを進めて改善を推進する

担当部署に改善報告書を作成させ、

  • 原因が的確に分析されているか
  • 改善対策は分析した原因に対応したものとなっているか
  • 改善対策は実現可能なものであるか、改善目標の達成期日は設定されているか
  • 設定された期日に無理はないか

を精査します。改善報告書を基に、報告した所属長をリーダーとして、改善報告書に記載した内容に取り組みます。

取り組み結果の報告を基に、効果を上げていない取り組みについて、その原因を分析して対策を講じましょう。該当部署だけで推進することが難しい取り組みについては、企業全体で対策を推進するための体制の整備について検討すべきです。

7)周囲の社員が業務を代替しにくい

【理由20】知識やスキルの違いから、職場内で特定社員の仕事を分担できない状況が発生し、仕事が属人化している
【対策】周辺領域も含めた、広めの専門性の育成と業務の標準化

社員に対して、周辺領域を含めた広めの専門性の育成を行いましょう。標準化できる業務については、マニュアルなどを作成し、業務の平準化を図ります。

【理由21】全社的に「自分の持っている業務を他人に頼む」という考えが根付いておらず、個人で抱え込みがちである
【対策】業務の組織的遂行体制の構築(ペア制など)

主担当が不在の場合は副担当がバックアップする「ペア制」を導入するなど、組織的に対応する体制を構築しましょう。人事評価において、個人業績に加えて部門の業績を評価の対象とするように検討します。

【対策】複数業務を経験させ、多能工型の育成を行う

ある程度複数の業務を経験させ、多能工型の社員の育成を図りましょう。業務範囲を他のメンバーと重複させるなどして、協力し合う体制づくりを進めます。

8)中間管理職がプレイングマネジャーになっている

【理由22】部下の残業を減らすために、業務を引き受けた課長がプレイングマネジャーになっており、生産性向上を考える十分な時間が取れない
【対策】上長職が課長職への支援を行う、上長職の人事評価項目にワーク・ライフ・バランスの項目を盛り込む

課長の顧客に対する折衝に上長が立ち会うなど、無理な働き方の防止や計画的な業務遂行が可能となるよう、課長職を支援しましょう。また、上長職の人事評価項目にワーク・ライフ・バランスについての項目を盛り込むことで、上長職本人および課長職を含む部下の長時間労働の抑制や年休の取得を促進させることにつながります。

【対策】業務の棚卸しにより課長級の業務負荷を軽減させる

課長職が担っている業務の棚卸しを行って業務が必要かどうかを選別し、不要な業務を廃止しましょう。それでも負荷の軽減が足りない場合は、必要な業務のうち課長職が行うべき業務を選別し、一部の業務を上司や部下に振り分けましょう。プレーヤーとしての仕事とマネジャーとしての仕事の割合を、ある程度決めておくことも一策です。

以上(2021年10月)

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画像:pixabay

ダイレクト・メールを活用したマーケティングを再考する

書いてあること

  • 主な読者:若年層などに「刺さる」宣伝活動をしたい一般消費者向けサービスの提供者
  • 課題:今のやり方では競合他社との差異化が図れない。もっと宣伝効率を高めたい
  • 解決策:紙媒体のダイレクト・メールを再活用する。提供するサービスの特性と目的に合わせて送付先を絞り、ターゲットの心を掴む仕様のものを送付すれば効果が見込める

1 紙媒体のダイレクト・メールは、若年層には受けが良い?

SNSなどが普及した今、企業や店舗から送られてくる紙媒体のダイレクト・メール(以下「DM」)は、「古い」と思われがちかもしれませんが、そう決めつけるのは早計です。意外なことに、

DMは20代の男女や30代の女性への訴求力が強い

ことを示唆する調査結果もあります。例えば下記のデータです。

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日本ダイレクトメール協会の「DMメディア実態調査2020」によると、DMを見て何らかの行動をした人は15.1%で、そのうち商品やサービスを購入・利用した人の割合は2.1%です。

この「何らかの行動をした人」の割合を性別と年代で見ると、20代男性は37.1%、20代女性は31.6%、30代女性は27.7%です。同協会では、調査結果から、比較的若い世代のほうがDMを見て何らかの行動をする傾向にあるとしています(30代男性は7.7%、40代男性は8.9%、50代男性は14.5%、40代女性は17.8%、50代女性は9.2%)。また、世帯年収別が高い層ほど、何らかの行動をする人の割合が高くなる傾向もあるようです。

また、DMにはその他にも次のような「追い風」があります。

  • コロナ禍の影響で在宅率が高まり、手に取る、あるいは目に入る可能性が高まった
  • デジタルの宣伝手法が増えたことで、アナログはユニークな存在になりつつある
  • 個人情報保護法の改正でDMのハードルが高くなり、逆に「特別感」が増している
  • デジタルマーケティングの手法が広がり、顧客分析や効果検証が容易になっている

この記事では、アナログな手法であるDMを見直すべき理由を解説した上で、分析などを行って戦略的にDMを活用することで宣伝効果を高める考え方を紹介します。改めてDMの活用を検討する際のご参考にしてください。

2 DMが若年層に「刺さる」3つの理由

前述の「DMメディア実態調査2020」を行った日本ダイレクトメール協会によると、「若年層のDMに対する行動喚起率の高さは、5~6年ほど前から顕著に見られる傾向」だといいます。

同協会ではその理由や背景について確認するために、2018年に「若年層のDM意識」を調べるグループインタビューを実施しました。その結果、若年層の開封率および行動喚起率が高い要因として、次の3点を確認できたといいます(2018年調査時点の内容です)。

1.デジタルネイティブ世代にとってのDMは特別感がありインパクトもある

「(電子メールは)1日で200~300通は届いている。量が多すぎて、全くさばききれていない」(40代男性)
「(DMは)欲しい情報が向こうから来てくれるので、うれしい。それがアクションするきっかけになる」(30代女性)
「手に取ったときにインパクトがあるのは“企業からの手紙”ならではなので、テンションが上がる」(20代男性)

2.自分のために手間とコストを掛けて印刷物を送ってくれたことに価値を感じる

「自分がいよいよ大人になった、お金を使う立場になったと認識するきっかけになった」(20代男性)
「5年前の美容院からのDMをまだ取ってある。オシャレだし、店員さんのメッセージも書かれていたので」(20代女性)
「スポーツショップからDMを受け取ったとき、そのショップとの付き合いの長さを初めて実感した。企業から『お得意様』として認めてもらえたことがうれしくて、また利用したいと思った」(20代男性)

3.電子メールよりも見やすく分かりやすいため、お得情報が印象に残る

「スマホでは件名も最初の何文字かしか見えない。前半に「クーポン」とか入っていなければスルー」(30代女性)
「電子メールだとスクロールしなければならないが、DMは開くと全ての情報が一覧できる」(20代男性)
「紙だからからこそ、周辺の興味がなかった情報を知るきっかけになるし、内容が頭に残りやすい」(30代男性)

3 DMで狙える効果と活用事例

このように、若年層に受けが良いかもしれないDMについて、実際にどのような効果が狙えるのか、どのような活用方法があるのか確認しましょう。

DMは、最終的には提供するサービスの販売につなげることが目的ですが、1通のDMで販売を目指すことだけが活用方法ではありません。自社が提供するサービスの特徴によって、効果のある活用方法が異なります。例えば、次の通りです。

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自社が提供するサービスの特徴を踏まえた上で、どのような目的で(Why)、誰に(ターゲット、Whom)、どのようなタイミングで(When)、どのような(What)DMを送るのか、検討することが大切です。次章で「4W(Why、Whom、When、What)」を見てみましょう。

4 DMの効果を高めるために必要な「4W」

1)目的を明確にする(Why)

第3章で触れたように、DMは提供するサービスによって効果が異なります。自社が提供するサービスの特徴に合わせて、「優良顧客の囲い込み」「顧客との関係維持」「休眠顧客の掘り起こし」「新規顧客の開拓」など、DMを送付する目的を明確にしましょう。

また、DMをそのままサービスの販売に結び付けるのか、「来店してもらう」「ウェブサイトにアクセスしてもらう」「会員登録してもらう」「アプリをダウンロードしてもらう」「まずは認知してもらう」といった段階を踏むのかなど、細かい目的も決めておきましょう。そのほうが訴求力のある内容が考えやすくなります。

2)ターゲットを絞る(Whom)

1通のDMにもコストが掛かるので、送付先は可能な限り絞るようにしましょう。DMの目的を踏まえて、性別や年齢層はもちろん、住所、これまでの自社のサービスの利用頻度などに基づいてターゲットを絞ります。新規顧客を獲得したいときなど、自社の顧客リストが活用できない場合は、送付先の属性を絞ってDMを送付してくれる「ターゲティングDM」事業者に相談してみてもよいでしょう。

3)送付のタイミングを選ぶ(When)

送付のタイミングも、DMの目的に沿った形で選びましょう。イベントやセールなど期間限定の内容であれば開始直前が理想的です。時候の挨拶やバースデーカードであれば、そのタイミングをずらさないようにしましょう。タイミングを逸したDMは、逆に顧客の心象を悪くしないとも限りません。

4)DMの内容にこだわる(What)

せっかく送付したDMが、郵便受けからゴミ箱に直行してしまうような内容では意味がありません。簡単ではありませんが、パッと見も詳しい内容も、ターゲットのハートを掴み、目的とする行動を促しやすいDMづくりをしたいものです。予算にもよりますが、外部のデザイナーなどに相談するのも一策です。

前述の日本ダイレクトメール協会による2018年の「若年層のDM意識」では、「特に若年層の女性はデザイン性の高さや豪華さにときめく」という結果も出たそうです。

予算や費用対効果との兼ね合いにもよりますが、場合によっては試供品やノベルティグッズを同封したり、簡単なクイズによる懸賞を付けたり、アンケートを返信してくれた人に粗品をプレゼントしたりするなど、送付先にメリットを与えることで注目度を高めることも検討してよいでしょう。

この他、宛名や大切なメッセージの部分を手書きにするなど、送付先によって「パーソナライズ」させることや、「丁寧さ」を大切にすることもおすすめです。

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日本郵便が主催する全日本DM大賞では、毎年応募のあったDMの中から優れた作品を選定し、表彰しています。全日本DM大賞のウェブサイトでは、表彰されたDMを画像入りで紹介していますので、デザインなどを検討する際に参考になるでしょう。

■日本郵便「全日本DM大賞」■
https://www.dm-award.jp/

5 DM送付後の対応でさらなる効果が期待できる

1)送付後の検証が次回以降の効果を高める

DMを送りっぱなしでは、DMを送付するメリットを享受できているとは言えません。DMの効果について検証を徹底することで、DMの効果を高めることにつなげられるようになります。

DMの目的が明確になっていれば、効果の検証もやりやすくなります。今回のDMが目的の達成のためにどの程度効果を発揮したのか、データを基に確認しましょう。効果を検証する視点としては、次のようなものがあります。

  • DM送付前後の客数や売り上げなどの変化
  • 客数や売り上げなどの変化が、費用や作業量に見合ったものだったのか
  • DMで効果のあった客層の属性にはどのような特徴があるか
  • そもそもDMの「4W」が正しかったのか
  • DMのどこを改善すれば、もっと効果が高まるという仮説が立てられるか

また、例えば当初からDMの内容を2種類にする、送付時期を分けるなど「ABテスト」を実施して効果の高い送付方法を検証してみてもよいでしょう。

2)顧客リストをアップデートする

顧客リストを基にDMを送付している場合、顧客リストをアップデートすることが大事です。不達の送付先を顧客リストから削除することはもちろんですが、DMへの反応があったかどうか、購買行動につながったかなどの情報も付加するようにしましょう。

顧客の属性とDMに対する反応をひも付けてデータ化していけば、自社のサービスをDMでプロモーションするには、どのような属性の人をターゲットにすれば効果が高いかも把握できるようになるでしょう。

3)個人情報の取り扱いには注意を

個人情報の漏洩があっては、サービスの販売どころか企業の信頼にも影響します。自社内だけでなく取引先を含めた、情報管理の徹底に留意しましょう。

  

以上(2021年10月)

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画像:unsplash

融資かリースか? 自社に有利な調達方法を判断する材料

書いてあること

  • 主な読者:新たな設備投資について融資かリースかを検討している経営者
  • 課題:融資とリースのどちらが有利なのか、どう判断すればよいのか分からない
  • 解決策:固定資産税はリースがお得だが税制次第。その他、金利や企業の信用状況によって異なるため、都度、判断するしかない

1 融資とリースでどちらがお得か?

機械などの設備投資には多額の資金が必要で、自己資金だけで賄いきれないことがあります。そうした場合は、

  • 金融機関から設備資金の融資を受けて設備を購入する
  • リースまたはレンタルで調達する

ことが一般的です。経営者が知りたいのは、「融資とリースではどちらがお得か?」ということですが、結論は、設備投資の都度、判断するしかありません。なぜなら、

固定資産税の負担はリースが有利ですが、支払利息の負担は金利や企業の信用状況によって異なります。また、税制も変わります。そのため、設備投資の都度、税制、金利、企業の信用状況などを総合的に勘案する必要がある

ということです。この記事では、こうした結論に至るまでの考え方を紹介します。

2 融資を受けて購入する場合

融資を受けて設備を購入する場合、損益に影響する項目は、

減価償却費、支払利息、租税公課(固定資産税)

です。注目するのは減価償却費です。代表的な減価償却方法には、

  • 定額法:耐用年数にわたり一定の減価償却費を計上
  • 定率法:取得当初に多額の減価償却費を計上

があります。いずれを選択しても最終的な減価償却費は同じですが、途中の事業年度の損益に与える影響が異なります。定額法と定率法における減価償却費の推移(イメージ)は次の通りです。

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3 リースで導入する場合

1)ファイナンスリースとオペレーティングリース

会計上のリースとは、

特定の物件の所有者たる貸手が当該物件の借手に対して、リース期間にわたりこれを使用収益する権利を与え、借手は貸手にリース料を支払う取引

です。専門的でとっつきにくい印象を受けるかもしれませんが、内容はリースに関する世間一般の認識と異なるものではありません。また、会計上のリースは、ファイナンスリースとオペレーティングリースとに区分されます。

ファイナンスリースは、リース期間の中途で契約解除ができないリース、またはこれに準ずる取引です。借手が当該リース物件からもたらされる経済的利益を実質的に受け、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担します。ファイナンスリースに該当するか否かについては、「リース取引に関する会計基準の適用指針」で詳細に規定されています。ファイナンスリースは、「売買取引」に準ずる取引とみなすため、設備を導入した企業は、リース資産を購入した場合に準じた会計処理を行います。なお、ファイナンスリースは所有権移転ファイナンスリースと所有権移転外ファイナンスリースに区分されますが、わが国のファイナンスリースは所有権移転外ファイナンスリースであることが多いため、以降では所有権移転外ファイナンスリースを前提とします。

一方、オペレーティングリースは、ファイナンスリース以外のリースをいい、リース取引を「賃貸借取引」に準ずる取引とみなすため、設備を導入した企業は、リース資産を賃貸借した場合に準じた会計処理を行います。現在、オペレーティングリースの会計基準(日本基準)の見直しが検討されていて、今後、資産計上が必要になる可能性があります(2021年9月17日時点)。この記事では、現時点の会計基準(日本基準)を基に、「賃貸借取引」に準じた会計処理として紹介しています。

会計上、ファイナンスリースとオペレーティングリースのどちらに該当するかの判断は、次のように行われます。

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2)損益に与える主な影響(費用化)

ファイナンスリースの場合、

減価償却費と支払利息

が損益に影響する項目になります。ファイナンスリースの減価償却方法は、通常はリース期間を耐用年数としたリース期間定額法となります。一方、オペレーティングリースの場合、

支払リース料

が損益に影響する項目になります。

4 融資とリースでキャッシュフローが有利なのはどっち?

融資とリースでキャッシュフローが有利なのはどちらなのか、次の条件で比較します。

  • 売上高:1500万円
  • 導入資産の取得価額:1000万円
  • 耐用年数:7年
  • リース期間:5年
  • 融資の場合の借入金利:年2.0%
  • リースの場合の割引率(支払利息の計算に適用される利率):年2.8%

融資とリースの場合の、損益計算書とキャッシュフロー計算書は次の通りです。

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この条件のキャッシュフローの合計は、融資が4480万円、リースが4490万円となり、リースのほうが10万円有利になります。その理由は次の通りです。

  • 固定資産税負担がない:40万円
  • 支払利息負担が多い:マイナス26万円(融資2.0%、リース2.8%)
  • 上記による税負担の増加:マイナス4万円((40万円-26万円)×30%)(万円未満切捨)

融資とリースの比較の場合、固定資産税の負担ではリースが有利です。一方、支払利息の負担では、金利動向や企業の信用状況によって結果が変わります。そのため、いずれが有利かの判断は画一的には決定できず、設備調達の都度、税制、金利、企業の信用状況など総合的に勘案して決定することが大切です。

5 (参考)それぞれの会計処理

1)融資を受けて設備を購入する場合の会計処理

融資を受けて設備を購入する場合の会計処理を紹介します。なお、購入する設備は機械設備とし、取得価額は1000万円(耐用年数7年、定額法、消費税は考慮しません)、金融機関からの借入金返済期間は5年、利率は年2.0%とします。

1.融資を受けたとき

現金預金を借方に計上(資産の増加)し、借入金を貸方に計上(負債の増加)します。

(借方)現金預金 1000万円 /(貸方)借入金 1000万円

2.設備の購入時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、機械設備を借方に計上(資産の増加)します。

(借方)機械設備 1000万円 /(貸方)現金預金 1000万円

3.金融機関に対する元本および利息の支払時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、借入金を借方に計上(負債の減少)するとともに、支払利息も借方に計上(費用の計上)します。

(借方)借入金  192万円 /(貸方)現金預金 212万円

(借方)支払利息 20万円 /

4.購入した設備の減価償却費計上

減価償却費を借方に計上(費用の計上)し、機械設備を貸方に計上(資産の減少)します。これは、機械設備の取得価額に、使用による価値の減少を反映するものです。

(借方)減価償却費 143万円 /(貸方)機械設備 143万円

5.固定資産税の支払時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、租税公課(固定資産税)を借方に計上(費用の計上)します。これは、設備等に課された固定資産税(固定資産評価額×標準税率1.4%)を反映するものです。

(借方)租税公課 12万円 /(貸方)現金預金 12万円

2)ファイナンスリースにより設備を導入する場合の会計処理

ファイナンスリースにより設備を導入する場合、次のような会計処理になります。なお、リース資産の取得価額は1000万円、リース期間は5年、支払利息は利息法(毎事業年度のリース債務未返済残高に一定の利率を乗じて、支払利息を計上する方法)によるものとし、割引率は年2.8%、消費税は考慮しません。

1.リース資産の導入時

リース資産を借方に計上(資産の増加)し、リース債務を貸方に計上(負債の増加)します。

(借方)リース資産 1000万円 /(貸方)リース債務 1000万円

2.リース会社に対するリース料の支払時

現金預金を貸方に計上(資産の減少)し、リース債務を借方に計上(負債の減少)するとともに、支払利息も借方に計上(費用の計上)します。

(借方)リース債務 189万円 /(貸方)現金預金 217万円

(借方)支払利息   28万円 /

3.リース資産の減価償却費計上

リース資産を貸方に計上(資産の減少)し、減価償却費を借方に計上(費用の計上)します。これは、リース資産の取得価額に、使用による価値の減少を反映するものです。

(借方)減価償却費 200万円 /(貸方)リース資産 200万円

ファイナンスリースを売買取引に準ずる取引とみなすため、企業はリース資産を購入した場合と同様に資産計上し、リース期間にわたって減価償却費を計上していきます。ただし、リース資産の所有権はリース会社にあるため、固定資産税はリース会社が負担します。

3)オペレーティングリースにより設備を導入する場合の会計処理

リース料の支払いの都度、支払リース料を借方に計上(費用の計上)し、現金預金を貸方に計上(資産の減少)します。

(借方)支払リース料 217万円 /(貸方)現金預金 217万円

オペレーティングリースを賃貸借取引に準ずる取引とみなすため、設備を導入しても、資産計上する必要はありません。また、ファイナンスリース同様に、固定資産税はリース会社が負担します。

なお、レンタル会社から設備をレンタルする場合の会計処理も、賃貸借取引であることから、オペレーティングリースと同様の会計処理(費用科目は賃貸料など)となります。そのため、別途説明は省略します。

以上(2021年10月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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画像:pixabay

【朝礼】リモートワークで「進化し続ける組織」になるために

皆さん、おはようございます。今日も全員リモートワークですので、チャットやオンラインツールでしっかりコミュニケーションを取って、仕事を進めていきましょう。

さて、当社がリモートワークに切り替えてからもうすぐ1年半がたちます。この1年半、皆さんが頑張ってくれたおかげでリモートワークで仕事が回るようになり、この新しい働き方も浸透しました。これからも試行錯誤が続くかもしれませんが、皆さんの協力と頑張りには心から感謝しています。ありがとうございます。

当社では今後もリモートワークを続けていくつもりですので、今日は皆さんに改めて伝えておきたいことがあります。皆さんは、これから言う数字が何を指しているか分かるでしょうか?

「リモートワーク前は週に5時間、

リモートワーク後は月に5時間」

これは、私自身が改めて振り返った、「自分が新しいことを学ぶためにセミナーに費やした時間」です。リモートワークになる前は、新しい領域の対面セミナーに少なくとも週に5時間は参加していました。それが、リモートワークになってから、なんと「月に5時間」に減ってしまっていたのです。リモートワークに切り替えた当初の3、4カ月ほどは、多くのセミナーがオンラインに切り替わり、移動時間もなく便利なので、それこそ週に10時間くらいは参加していました。

しかし、リモートワークやオンラインセミナーに慣れた最近は、自ら積極的にセミナーなどに参加する機会が減っていることに気付いてがくぜんとしました。

自宅でリモートワークをしていると、通信状態さえ整っていれば仕事環境としては最高です。極端に言えば、起きてすぐから寝る直前まで仕事ができますし、移動せずにクライアントや社内外の人とオンラインでミーティングもできます。

その一方で、リモートワークでは「自ら新しいことを学ぼうとしなければ、その機会は減ってしまう」のも事実です。皆さんはどうでしょうか?

出社していたときは上司や同僚、社外の人と触れ合えるので、自分の知らなかった新しいことを学ぶ機会がまさに「転がっていた」はずです。しかしリモートワークでは、自分で情報を取りに行く、違った領域に触れに行くことをしなければ、新しい知識を身に付けたり学んだりするのは難しいでしょう。そうして自分自身が進化できなくなってしまうのです。さらに、何より恐ろしいのは、「自分が進化していないことに気付かなくなっていく」ことです。

当社は、「進化し続ける組織」を目指しています。これからもリモートワークを続けていく当社だからこそ、一人ひとりが自分で「新しいことを学ぼう」とする姿勢が大切です。皆さん、ぜひ「新しく学ぶこと」を決めて、今日、それをスタートさせましょう!

以上(2021年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

帝政ローマと“今”の会社機構は似ているか/ローマ史から学ぶガバナンス(9)

書いてあること

  • 主な読者:現在・将来の自社のビジネスガバナンスを考えるためのヒントがほしい経営者
  • 課題:変化が激しい時代であり、既存のガバナンス論を学ぶだけでは、不十分
  • 解決策:古代ローマ史を時系列で追い、その長い歴史との対話を通じて、現代に生かせるヒントを学ぶ

1 会社機構と国家機構

粉飾決算、不正融資、損失補填、利益供与、入札談合など、これまで数多くの企業不祥事が報じられてきました。あまりなじみのなかった不祥事の用語もすっかり聞き慣れたものとなり、程なくまた、次の新たな不祥事の用語が表れ、報道されます。

こうした企業不祥事のたびに、コーポレート・ガバナンスの話になります。コーポレート・ガバナンスは、元来、企業の不正行為の防止だけでなく、企業の競争力・収益力の向上も含め、長期的な企業価値の増大に向けた企業経営の仕組みのことを意味します。企業不祥事が発生すると、当然、不正行為の防止に主眼を置いたコーポレート・ガバナンスの議論がなされます。そして、コーポレート・ガバナンスの強化に向けた法規制が施され、会社機構が見直されることになります。

お気付きの方も少なくないと思いますが、会社機構は、国家機構を模写して制度設計がなされているため、よく似たところがあります。現代日本の国家機構に対しては、様々な意見もあるかと思いますが、会社と同じく、抑制と均衡が求められる形態として変遷してきた国家機構の思想から、会社機構に取り入れられた機関や規制は幾つもあります。

国家機構と会社機構の最も単純な相似性でいえば、立法・行政・司法という三権について、国家機構では国会・内閣・裁判所という構成であるのに対し、会社機構では株主総会・取締役会・監査役会という構成でできていることが挙げられます。ここでは細かな点は割愛しますが、国家機構における様々な工夫や思想が、会社機構の機関や規制に生かされており、従って似たところがあるのです。

しかし、どうも腑に落ちないところもあります。参考にすべきところを取り入れ、似たところがあるとはいえ、現代の国家と会社は、やはり本質的に異なります。現代日本の国家機構は、民主主義を体現するにふさわしい形態として設計され、見直されているはずであり、株式会社をはじめとする会社機構が目指す姿や実際の社会での役割とは大きな違いがあります。企業は、顧客、市場、従業員などの声に耳を傾けるべきではありますが、決して民主主義的とは限らず、むしろ、民主主義的な運営が弊害となる場合すらあります。そんなことから、現代日本の国会機構と対比するより、帝政ローマの形態と対比するのがよいのかもしれないと直感的に思い、考えてみました。少なくとも、コーポレート・ガバナンスや会社機構を見つめ直す際に、一つのアナロジーとして帝政ローマの形態を眺めてみることには意味がありそうです。

2 帝政ローマの機構・形態

以前、ご紹介した通り、ガイウス・ユリウス・カエサルから後継者指名を受けたオクタヴィアヌス(のちのアウグストゥス)は、時間をかけて、ひっそりと帝政ローマという形態を築きました。合法的に得られたものを組み合わせ、政治的に調和された皇帝という地位がいつの間にか、気付かぬうちに存在していたのです。

このようにして創設された帝政ローマは、実に微妙なバランスの上で成り立っていました。皆さんがイメージされる帝政や王政といった君主政は、圧倒的な軍事力、経済力、統治力によって築かれた厳然たる地位に一人の権力者が就き、平民のことなど顧みず、横暴も許されるような形態かもしれません。そういった君主政も実際、存在しました。

しかし、帝政ローマは、そのような形態ではありません。帝政ローマの皇帝という地位は、合法的に得られたもの、すなわち、元老院からの権力委託の承認、市民からの権力委託の承認、軍団からの忠誠誓約が組み合わされて築かれているため、厳然たる地位とは言い難く、バランスを上手に取らなければ簡単に転げ落ちてしまうのです。

これを会社に当てはめてみます。比較的大きいBtoC企業をイメージすると分かりやすいかもしれませんが、皇帝を経営者に、元老院を株主・株主総会に、市民を一般消費者に、軍団を従業員に置き換えて考えてみましょう。

共和政期に比べると、元老院の権威は低下しましたが、経済的な実利を握り、承認機関としての政治的な権限も有していました。少なくとも紀元2世紀あたりまで、皇帝は、強大な権力を持ちながらも、元老院の権威を尊重し、統治を行っていました。資本構成などにもよりますが、経営者が株主(総会)からの意見に耳を傾け、信頼に応えつつ、経営においては裁量を持って手腕を振るう姿と重なるところがあります。

皇帝は、市民からの世論や人気に支えられていましたが、BtoC企業においても、一般消費者からの支持や人気、それに基づく購買行動は、経営状況に直接的に好影響を及ぼすだけでなく、経営に対する評価として、経営者の地位を支える働きがあります。皇帝が市民のご機嫌取りのために「パンとサーカス」、すなわち食糧と娯楽を提供していたことは、市民を政治的盲目にさせたといわれるところではありますが、経営者が一般消費者に受け入れられるように、いろいろな工夫やアイデアを実践する姿と似ているといえるでしょう。

次に、皇帝と軍団の関係を見てみましょう。軍団は皇帝に対して忠誠を誓約し、国家の繁栄と防衛のために働き、皇帝はその働きに対する対価を与えるだけでなく、軍事的意義や価値を示し、士気を高めるよう振る舞います。最近では、働き方が多様化しており、会社と従業員との関係が変わってきていますが、経営者は、従業員に対して給与を支払うだけでなく、会社としてのビジョンや事業が有する価値をうたい、従業員がやる気を持って高いパフォーマンスを発揮できるよう働きかけます。このように当てはめてみると、アナロジーの一つとして考えられないでしょうか。

3 微妙なバランスがもたらす長期的な健全性

会社の経営者は、多くの場合、皇帝ほど微妙なバランスの上で成り立っている存在ではないかもしれません。多くの経営者は、資本政策や多数派形成などにより、安定的な地位を築いている場合のほうが多いでしょう。しかし、それは健全といえるでしょうか。

微妙なバランスの上で成り立つためには、高度な経営力を要します。株主総会、一般消費者、従業員の三方のバランスを上手に取り、三方が納得する経営があって初めて、経営者としての地位を保てることになります。三方のいずれかにおいて、不満や反対が起こり、経営として落第点が付いたら、次の経営者にバトンが渡される。そのほうが会社にとっては健全といえるのではないでしょうか。

そんな不安定な地位を自ら作る経営者はいないでしょうが、この微妙なバランスのほうが、より長く健全に会社が存続するように思います。経営者が盤石な地位にいると、三方のバランスが崩れていても、その悪い状態を抱えたまま経営が続きます。そして、会社としては破綻することすらあるのです。そのように考えると、株主総会、一般消費者、従業員の三方の微妙なバランスの上で成り立つ形態というのは、とても貴重なように思われるのです。

帝政ローマでは、皇帝が実に微妙なバランスの上で成り立つという形態であったために、次から次へと新たな皇帝にバトンが渡される時代がありました。愚帝の時代、混乱の時代などといわれていますが、帝政ローマの形態は維持されていきます。少々駆け足になりますが、そんな時代を振り返ってみましょう。

4 ローマの混乱期

ティベリウスが亡くなり、皇帝の座に就いたのは、24歳のカリグラでした。カリグラは、初代皇帝アウグストゥスの血を引く、若く美しい青年で、元老院からも市民からも大きな歓迎を受けて皇帝になったのですが、その人気に固執したためか、剣闘士試合や戦車競走のスポンサーになるなど、人気取り政策のために莫大な国費を使い、財政を破綻させてしまいます。そして、皇帝を守るための近衛軍団の手によって暗殺されました。

そして、近衛軍団に担がれて、50歳のクラウディウスが皇帝に就任します。クラウディウスは、皇位継承の候補者からは外れていて、それまで歴史研究だけに没頭してきた人物でしたが、皇帝になると財政を見事に立て直し、ブリタニア(イギリス南部)遠征を成功に導くなど、着々と責務を果たしました。しかし、クラウディウスの性格や生来のハンディなどから周囲から畏敬の念を抱かれることがなく、臣下や近親者の横暴を止めることができませんでした。最後は、4番目の妻である小アグリッピーナに毒殺されたといわれています。

実子ネロをクラウディウスの養子とさせていた小アグリッピーナの思惑通り、16歳のネロが新皇帝に就きました。暴君として有名なネロですが、当初は、哲学者のセネカや近衛軍団だったブッルスの補佐を受け、元老院からも市民からも支持される政治を推進していました。しかし、セネカが引退すると、キリスト教徒迫害の先鞭となった「ローマの大火」をはじめ、悪行に悪行を重ねていきます。このようなネロに対して、次々と暗殺や反乱が企てられました。そして、最後は、近衛軍団も反ネロに加わり、元老院もネロを「国家の敵」と宣告し、市民もネロを見限ります。皇帝としての正当性を失ったネロは自死しました。

ここまでで初代皇帝アウグストゥスの血統による皇帝は終わります。この後も混乱が続き、ガルバは7カ月で暗殺、オトーは3カ月で自死、ヴィテリウスは8カ月で処刑という危機的状況に陥りますが、常識的で責任感のあるヴェスパシアヌスが皇帝に就いたことで、一時的に秩序が回復されました。

皇帝という微妙なバランスの上に成り立つ最高権力者が次々と代わり、混乱が続きましたが、帝政ローマという形態は維持されました。これは帝政ローマという形態が機能したからこそ、皇帝にふさわしくない者が打倒され、次の担い手にバトンが渡されていった結果といえるかもしれません。

5 アナロジーとしての歴史

現代に生きる私たちにとって、帝国や帝政というと、邪悪なイメージがあります。映画などでも、民主主義、自由主義、平和主義の真逆にいる敵として、帝国や皇帝が描かれています。しかし、人類の歴史を振り返れば、過去2500年間、世界で最も一般的な国家機構は、帝国や帝政と呼ばれる形態でした。現代の国家観としてはいかなものかとは思いますが、先ほども申し上げた通り、現代の会社と、帝国や帝政を見比べてみると、興味深い気付きがあります。特に、帝政ローマについては、共和政から微妙なバランスの中で生まれたという背景もあり、民主主義を体現する現代国家の中にある会社と、符合する点が見られます。

歴史の中の人物や組織、出来事などは、現代の私たちの社会とは大きく異なる環境ならではという側面もありますが、やはり同じ人間として似たようなところがあります。これらをアナロジーとして捉え、現在の自分たちに置き換えてみることで、新たな発見があるように思うのです。

以上(2021年10月)
(執筆 辻大志)

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アンケート結果を理解するための数字の見方

書いてあること

  • 主な読者:顧客の考えを知り、次の施策に活かしたいマーケティング担当者、営業担当者
  • 課題:顧客アンケートの結果を効果的に理解したい
  • 解決策:散布図を利用して自社のやるべきことを把握する

1 回収したアンケート結果を自社の戦略に活かすには…

あらゆるビジネスにおいて、顧客の考えを知ることは極めて重要です。顧客を理解するときに有効な方法の一つがアンケートです。アンケートは、顧客や見込み客、その他一般の消費者、企業などの考えを知るツールとして、さまざまなシーンで活用されています。特に今どきは、インターネットを通じて、簡単かつ安価にアンケートを実施することも可能になりました。

そうして実施したアンケートの後には多くのデータが得られますが、その内容を理解し、自社の戦略に反映することができているでしょうか。

今回はアパレル商品に対する顧客アンケートを参考に、アンケートの大量の回答の中から、次の戦略のヒントを見つけ出す「散布図」について解説します。顧客の声を、次の施策に活かす際のご参考にしてください。

2 アンケート結果から相関関係を見抜く

今回は、次の図表1の1~10の質問項目についてアパレル商品に関する「満足度」を聞き取り、点数を平均化します。そこに別途質問するアパレルブランド全体に対する満足度の点数を「総合満足度」とします。この総合満足度と1~10の質問の満足度の相関係数を算出し「重視度」を設定しています。

相関係数をざっと説明すると、2つの異なる数値データ同士の関連の強さを表す指標です。相関係数は、-1から1の範囲を取り「相関係数が0から1の場合は、正の相関がある(一方のデータが大きくなればなるほど、もう一方のデータの値も大きくなる関係)」と言います。一方で「相関係数が-1から0の場合は負の相関がある(一方のデータが大きくなればなるほど、もう一方のデータの値は小さくなる関係)」といいます。

相関係数はエクセルの「CORREL関数」を使って算出できます。算出したいデータの範囲を選択し、関数の中から「CORREL」を選択します。

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質問1(商品の種類)とアパレルブランド全体に対する質問の相関係数が0.3で、質問2(デザインセンス)とアパレルブランド全体に対する質問の相関係数が0.7だったとします。この場合、商品の種類よりもデザインセンスに満足している顧客のほうが、ブランド全体に対しても満足している傾向が強いということになります。つまり、このブランドは商品の種類よりもデザインセンスを重視している顧客が多いと解釈できます。

1)散布図を使ってみる

図表1のアンケート結果を「見える化」するための方法として、ここで散布図の登場です。散布図は2つの項目の関係を明らかにするために用いられる図表です。縦軸と横軸の目盛り上のデータが該当する場所に点をプロット(打点)することでグラフに情報を反映していきます。

注意点としては、散布図で分かるのは「2つの量の間に見た目の関係性があるか」ということで、「2つの項目に因果関係がある」とは言えません。

今回は、平均満足度を縦軸に、重視度を横軸に取って散布図を作成します。例えば、質問1「商品の種類」に関する平均満足度と重視度は次の通りです。

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平均満足度と重視度の算出例によると、質問1「商品の種類」の平均満足度は78.75、重視度は0.44なので、散布図上の該当する位置にマークと「商品の種類」と表示しています。

また、一般に相関係数が0.2以下の場合は、ほとんど相関がないといわれているので、今回は重視度が0.2以下の質問は散布図の対象外とします。散布図の軸の表示範囲の基準となる平均満足度や重視度の平均値も、対象外とした項目の値を除いて算出した値を使用するようにします。

残りの質問の結果も、散布図に反映していくと、次のような図表3が出来上がります。

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この散布図の結果を、次のような項目で分類すると、このアパレルブランドが取り組むべきことが見えてきます(図表4ご参照ください)。

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1から5のそれぞれの領域が意味するところは次の通りです。

1.最重要改善項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が低く重視度が高い」領域です。顧客はこの領域の質問が示す内容に対し、重要視しているにもかかわらず不満に思っているという危険な状態を意味します。

つまり、この領域に属する質問が示す内容は最も重要で、企業にとって、早急に改善を要する内容といえます。今回の例では、質問6「他の商品との組み合わせ」が該当します。

2.品質維持項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が高く重視度も高い」領域です。この領域は、顧客はこの領域に属する質問が示す内容に対し、重要視していてかつ満足しているといえます。

この領域に属する質問が示す内容は、企業にとって、今の品質を維持すべき内容です。今回の例では、質問2「デザインセンス」、質問3「着心地」、質問4「色合い」が該当します。

3.戦略再考項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が高く重視度が低い」領域です。この領域に属する質問が示す内容に対し、顧客は満足してはいるが重要視していないといえます。

この領域に属する質問が示す内容は、顧客にとって当たり前になっている可能性があるので、顧客があまり重要視していないからといって安易に品質を下げるのは危険ですが、企業にとって他の質問が示す内容と比較して、力の入れ具合を再考すべき内容といえます。今回は、質問1「商品の種類」が該当します。

4.見極め項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度が低く重視度も低い」領域です。顧客はこの領域に属する質問が示す内容に対し、不満に思っているが重要視していないといえます。

企業は、この領域に属する質問が示す内容について、アンケートの自由回答の内容などからこれから重要視される可能性があるかどうかを見極める必要があります。

例えば、顧客が長い間重要視していたが、一向に変化がないので今は諦めているといったような可能性がある場合は、その質問が示す内容を改善することで顧客にかつての期待を呼び起こし、ブランド全体の満足感を高めることができる可能性があります。

今回の例では、質問8「値段」、質問9「店頭従業員の提案内容」、質問10「販売店の立地や数」が該当します。

5.中間項目

この領域は他の領域に比べて「平均満足度も重視度も平均的」な領域です。企業はこの領域に属する質問が示す内容に対し、基本的には品質の維持を心掛けて余裕があれば改善するというスタンスでよいでしょう。

今回の例では、質問5「肌触り」、質問7「耐久性」が該当します。

2)分析結果の実効性を高めるには

これまで紹介したように、アンケートの結果から、質問ごとに顧客の重視度を算出し、散布図で分かりやすく図示することで、調査対象の商品やサービスが抱える問題や優先的に改善すべき内容を直感的に分かるように明らかにすることができます。

重点的に改善すべき質問が決まったら、その質問について顧客が記したフリーコメントを抽出してみましょう。そのコメントの内容を分類し、顧客が特に重視していることや不満に思っていることをさらに深く掘り下げることで、より効果のある具体的な改善策の立案に役立てることができます。 

さらに、アンケートの回収数が多ければ、年齢や性別、アンケート実施店舗など顧客の属性ごとに散布図を作成することで、顧客ターゲットごとに最適な改善策を立案することができます。

今回紹介した方法は、アンケートに総合満足度を聞く質問を1つ入れるだけで、簡単に実施できます。ぜひ一度お試しください。

以上(2021年10月)

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ターゲット顧客の「見える化」を図るペルソナの概要

書いてあること

  • 主な読者:ターゲット顧客に合わせて企業活動を効率化させたい中小企業の経営者
  • 課題:自社にとって最も重要な顧客モデルを、社内で共有できていない
  • 解決策:ペルソナを社内で共有する効果と、作成の手順を解説する

1 顧客のイメージ像を作り上げる「ペルソナ」

経営資源が少ない中小企業が顧客からの支持を獲得するには、幅広い顧客層のニーズに応えるより、顧客層を絞り込んで活動するほうが、効率的な場合があります。

狙いを定めた顧客層をイメージしやすくするために、架空の顧客「ペルソナ」を作成してみる方法があります。

ペルソナ(Persona)は、ラテン語で仮面や人格、人物などを意味しますが、ビジネスシーンでは「企業が提供する製品・サービスにとって最も重要で象徴的な顧客モデルのこと」とされており、ターゲット顧客とほぼ同じ位置付けのものです。

ペルソナは、綿密な調査などから得られたターゲット顧客に関するさまざまな情報を基に、平均的な特徴などを抽出し、1人の人物像として象徴的なターゲット顧客のイメージを具体的に表現します。

2 ペルソナを利用する効果

ペルソナの作成では、年齢や性別だけでない、ターゲット顧客に関するさまざまな情報を集め、実在する人物のように生き生きと描写することで、次のような効果があります。

ターゲット顧客の明確化と共有化の促進

企業の中には、ターゲット顧客の定義が不明瞭だったり、ターゲット顧客の情報が共有されていなかったりすることが少なくありません。

ペルソナを作成する過程では、年齢・居住地などのプロフィール的な要素に加え、価値観や嗜好といった、より詳細な情報も含まれます。こうすることで、ターゲット顧客の姿が明確になり、社内でも共有されやすくなります。

一貫性のある組織の実現

ペルソナを作成し、社内で共有することで、社内のあらゆる部署で「お客様」の姿がよく見えるようになります。

顧客の姿を「見える化」することで、販売活動を行う現場担当者以外で、顧客とあまり対面することのない部署の社員も顧客をイメージしやすくなります。社内の意識を一貫して顧客に製品・サービスを提供することで、製品の問い合わせ、購入、アフターサービスなどの顧客との接点を円滑化させることができます。

顧客の立場に立った製品・サービスの実現

ペルソナを通じてターゲット顧客の特徴、価値観、嗜好などを明確にすると、顧客の立場に立った活動ができる上に、「他とは違う」サービスの提供などで、他社との差異化を図るきっかけにもなります。

例えば、自動車メーカーが新型SUVを開発しようとしたときに、ターゲット層を「25~35歳の男性」とした場合よりも、「大都市郊外に住む25~35歳の独身男性で、ファッションに関心があって旅行やアウトドアが好き」と深掘りしたほうが、ファッション誌での特集記事の掲載や、アウトドアブランドとのタイアップイベントなどの、より効果的な商品PRが期待できそうです。

3 ペルソナの作成時の基本的ステップ

ペルソナに必要な要素には、次のようなものがあります。

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これらの基本的な要素に加えて、目的に合わせて項目を追加してもよいでしょう。ただし、あまり要素が増え過ぎると、複雑で記憶に残りにくくなるため、情報量は詰め込み過ぎないようにしましょう。要素を集めたら、次のような手順でペルソナを作成します。

1)ペルソナの作成目的の確認とチームの編成

「ペルソナの作成自体」は、それが目的ではなく、何らかの目的を達成するための手段です。また、目的によってペルソナとして表現される内容は異なるので、ペルソナを作成する目的を明確にする必要があります。

同時に、作業を担当するチームの編成もこの段階で行います。複数人でチームを編成し、多様な意見を反映させることで、ペルソナ作成時の客観性を維持することができます。

適切な人数などは、一概にはいえませんが、関連する異なる部署から最低1人は参加してもらい、部署間でペルソナのイメージを共有することが重要です。

2)情報の収集

ペルソナの基礎となる顧客に関する情報を収集します。ここで重要なのは、特定の情報源や限られた情報のみを参考にするのではなく、幅広い情報源から多くの情報を収集することです。

主な情報源を1次データ(ペルソナ作成のために独自に実施したアンケートなどの調査データ)と2次データ(既存のデータ)に区分すると次の通りです。

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3)ペルソナの骨組み「スケルトン」の作成

収集した顧客情報に基づき、ペルソナの骨組みとなる「スケルトン」を作成します。スケルトンはペルソナを特徴づける要素を箇条書きにしたものです。スケルトンを作成するためには、収集した多数の情報を統合していく必要があります。比較的簡単な方法として、KJ法(親和図法)があります。

KJ法では、最初に調査結果から得られた顧客特性を「付箋」などに書き出し、それらを関連するグループ同士にまとめていくことで、顧客特性を整理します。また、性別や購入頻度など顧客特性が明らかに異なる場合は、事前にこうしたカテゴリーに分類した上で、おのおのKJ法によって情報を整理します。

整理した情報を基にスケルトンを作成しますが、この段階では、無理に1人のスケルトンにまとめる必要はありません。作成するペルソナは1人とは限らないので、「現在のターゲット顧客」「今後取り込みたい顧客」といったように、スケルトンが複数あっても問題ありません。

4)面接調査を実施し、ペルソナを作り込む

スケルトンを作成するまでは定量的な情報が中心で、それをペルソナに落とし込むときには定性的な情報を収集する必要があります。定性的な情報を収集するには、ペルソナに近い人を対象にしたインタビュー形式の面接調査を実施します。

手順としては、スケルトンを基に簡易的なペルソナを作成しながら調査が必要な項目を明確にした後に、面接調査を実施します。その結果を基に、簡易的なペルソナに情報の追加・修正などを行って確度を高めていきます。面接調査中には必要な項目を調査するのに加えて、作成したペルソナの妥当性を確認します。

調査の際に、その場で自社製品を使ってもらうことで、製品の長所や短所を「本音で」聞き取ったり、想定していなかった使い方などを発見したりすることもできます。

その際に効果的な進め方として、「師匠と弟子」とよばれる手法があります。この方法は、調査対象者が師匠、調査担当者が弟子のようになり、調査対象者には普段通りに行動してもらい、行動について不明な点があれば、「なぜ、そうしているのですか」といった質問を投げかけることで、調査対象者が無意識に行っていることの理由などを明らかにしていくものです。

5)ペルソナの決定・周知

作成したペルソナの中から、自社が優先する順位に沿って、活用するものを決定します。ペルソナを複数にする場合は、数が多過ぎると顧客像がブレてしまうので、2~3人程度に絞り込むようにします。また、メーン・サブなど優先順位も決定します。

決定したペルソナは、全社員や関係部門などに公表し、共有化します。ペルソナの役割や内容などに関する説明会や、社内報などで周知することも効果的です。

関係者がターゲット顧客について話をする際に、「ターゲット顧客は……」ではなく「○○さん(ペルソナの名前)は……」とペルソナの名前が主語となり、関係者の間で認知され、顧客像を見失いそうなときには常にペルソナに立ち返る雰囲気ができれば、共有化が進んだ一つの目安といえるでしょう。

6)ペルソナのメンテナンス・廃棄

完成したペルソナは絶対的な存在ではありません。常に変化する顧客のニーズに合わせて、必要に応じて適宜ペルソナの内容を修正する必要があります。また、顧客像が大きく変化した場合など、ペルソナがペルソナとしての役割を果たせなくなったら廃棄しなければなりません。

当初編成したチームは、「5)ペルソナの決定・周知」の段階で、その役割はほぼ終了しますが、別途メンテナンスや廃棄の担当者を決定しておく必要があります。

4 ペルソナの精度をさらに高めるには

ここまで、ペルソナの作成手順の概要を紹介しましたが、自社の力だけでペルソナを細かく設定するのは骨が折れます。市場調査やインタビューは費用や手間、期間が掛かり、質が高く客観的な意見がどのくらい集約できるか未知数なこともあります。

しかし昨今では、意外と簡単に、ある程度のアンケートやインタビューを行うことができるようになってきました。

簡単なアンケートであれば、オンラインのアンケートツールを使ってみるのも効果的です。各社が提供しているオンラインのアンケートなどは「質問数×アンケート回答者数×10円」などのような料金体系もあり、予算と相談しながら調査を行うことができます。

簡単なアンケートで顧客の傾向をつかみつつ、より深く顧客を理解したい場合は、オンラインのインタビューや、特定の業界に特化した専門家とのマッチングプラットフォームなども検討してみましょう。

新型コロナウイルス感染症を背景にオンラインツールが広く普及したこともあり、時間調整や面接会場を準備する負担の少ないオンラインのインタビューは、今後の定性調査の一つの流れになるかもしれません。

以上(2021年10月)

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【朝礼】朝礼が減った今こそ考えるコミュニケーション

昔、先輩から教えてもらったことがあります。

「電話をしているとき、相手からこちらの姿が見えないからと油断せず、会っているとき以上に丁寧に接するように」

そう言われて周囲を見渡すと、椅子にふんぞり返っている人など一人もいませんでした。それどころか、皆、電話を切る際は「ありがとうございました!」と深々と頭を下げていました。「あぁ~、私は素晴らしい会社に入社したんだな」と感じた瞬間でした。

本気であれば自然と背筋が伸びるものです。皆、仕事に真剣だったわけで、電話にも手を抜いていなかったのです。先輩は、「もし、あなたが椅子にふんぞり返って電話をしているなら、仕事や相手との向き合い方を反省しなさい」と教えてくれたのでしょう。

心には「根っこ」があって、その根っこが健全なのか、腐っているのかによって態度が変わってきます。これまでは毎日のように朝礼をしていましたから、お互い顔を見ながら話すことができました。同僚の話を聞き、また自分も話す中で刺激を受け、自分の「根っこ」が健全かどうかを無意識のうちに確認できたはずです。

しかし、今や朝礼は不定期となりました。クライアントとのコミュニケーションでも対面はおろか電話も減り、メールやチャットのやり取りが当たり前になってきています。

こんな時代だからこそ、私は先に話した先輩の教えがとても重要だと感じています。姿も見えず、声も聞こえない。ある意味で制約の多いテキストのコミュニケーションが中心になっている今、皆さんはどうやって自分の真剣さを伝えますか?

例えば、同じ「はい」という返事でも、「はい」「はい?」「はい!」「はい……」といったようにたくさんの種類があります。

昔、私は先輩によく誘われて、ご飯をおごってもらっていました。先輩が「ご飯食べに行こう!」と誘ってくれたとき、「はい」と言うだけの同僚もいましたが、私は「いつもありがとうございます! ぜひ、お願いします!!」と笑顔で答え、よく飲み食いしていました。おもねるわけではなく、ただ自分の気持ちを言葉に乗せていただけです。しかし、先輩にとって、私は誘いがいのある後輩であったことは間違いありません。食事の席で仕事の話をいろいろしてくれましたし、何かと気にかけてくれました。

松下電器産業(現パナソニック)の創業者で、経営の神様と称される故・松下幸之助さんは、採用基準の一つに「愛嬌(あいきょう)」を加えていたそうです。愛嬌があれば人から嫌われることなく、いろいろなところに呼んでもらえるので、仕事の輪も広がるということでしょう。

皆さんの心の「根っこ」は健全ですか。言葉や態度に愛嬌はありますか。同じ「はい」にも、たくさんの種類があることを知ってください。

以上(2021年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】管理職に伝えたい「つもり違い十カ条」

先日、私は、長年の大切なお客様から、「先週の日曜日、電車の中でお見かけしましたよ。混んでいたのでご挨拶もできず、大変失礼しました」と言われました。

それを聞いて私は、とても心配になりました。先週の日曜日、私はどのような格好をしていただろうか、電車の中でだらしのない姿勢で座っていなかっただろうか。お客様は「混んでいたので」と言ってくださいましたが、実は私が険しい顔をしていたので、声を掛けてはいけないと思ってしまったのではないか。そうしたことが頭をよぎり、大げさではなく、肝を冷やす思いでした。

中学校教師をしている私の友人は、よく、「生徒や父母がどこで見ているか分からないから、たとえ家の近所だろうとも、誰かに見られて恥ずかしい言動は絶対にしないように気を付けている」と言っています。つまりそれは、「公人である」という意識を持って行動しているということだと思います。お客様から「お見かけしましたよ」と言われたことで、私も、改めて自分自身を戒めようと心に誓いました。

このことは、皆さんにも当てはまります。特に「公人」の意識を持ってほしいのは、管理職です。管理職の日ごろの言動は、部下に見られているからです。例えば、お客様からの難しい要望に管理職が感情的になって「面倒だ」「やりたくない」と言うのを聞けば、部下はその仕事をネガティブに捉えます。やりがいを感じるはずがありません。

逆に、管理職が「言ってもらえてよかった。これは我が社がステップアップするチャンスだ!」と言うのを聞けば、部下は、前向きに取り組むべき大切な仕事だと感じるでしょう。

管理職の皆さん、日ごろの言動において「部下に見られている」ことを意識していますか。そうでない人は、今日からすぐに改めましょう。

とはいえ、自分の行動を改めたり戒めたりするのは簡単なことではありません。そこで、今から善光寺の元住職が作ったとされる「つもり違い十カ条」をお伝えします。自分自身を振り返り、見直すために必要なことばかりなので、管理職の皆さんは「自分はこうした『つもり違い』をしている」と思って、謙虚な気持ちで聞いてください。

  • ・高いつもりで、低いのが教養
  • ・低いつもりで、高いのが気位
  • ・深いつもりで、浅いのが知識
  • ・浅いつもりで、深いのが欲望
  • ・厚いつもりで、薄いのが人情
  • ・薄いつもりで、厚いのが面の皮
  • ・強いつもりで、弱いのが根性
  • ・弱いつもりで、強いのが自我
  • ・多いつもりで、少ないのが分別
  • ・少ないつもりで、多いのが無駄

「公人」である管理職の皆さんには、私から、もう一カ条、付け足しておきましょう。「軽いつもりで、重いのがあなたの言動」です。このことを忘れないでください。

以上(2021年10月)

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画像:Mariko Mitsuda