社員の意識が変われば会社は立て直せる/千葉ロッテを黒字転換させた前球団社長の組織再建術(後)

書いてあること

  • 主な読者:会社の再建を成功させたい経営者
  • 課題:資金も戦力もないところから、どのように立て直せばよいのか分からない
  • 解決策:社員とのコミュニケーションを一番大切にし、社員が楽しく働ける環境を作って意識改革を促す

この記事は、千葉ロッテマリーンズ(以下「千葉ロッテ」)の前球団社長・山室晋也氏へのインタビューの「後編」です(前編は下記)。前編に続き、後編は山室氏が、社員の意識や人事制度を大きく変えていったお話をお伺いしています。経営者の皆さまの会社再建、組織再建の参考になれば幸いです。

1 社長はオーケストラの指揮者たるべし

当たり前のことですが、社長1人で会社の業績を上げることはできません。社長というのは、プロフェッショナルである社員たちをうまく機能させる、オーケストラの指揮者のような存在であるべきだと思っています。

会社を再建するには、社員一人ひとりの意識を変えて、業績を上げてもらうしかありません。ですが、形骸化した理念やビジョンを押し付けても社員の意識は変わりません。社員が働きやすい環境を作る、つまり、社員が楽しみながら仕事ができるような状況を作ることが必要です。そのためには、1人の人間として社員の気持ちを考え、1人の人間として当たり前の対応をすることが大切だと思っています。

2 成功体験で承認欲求が満たされれば、楽しみながら仕事ができるようになる

社員が楽しみながら仕事ができるようにするには、次の3つのサイクルが機能することだと思っています。

  • 自分(社員)がやりたいことを提案し、採用される
  • 自らの提案を実現させ、成功体験を得る
  • 会社の利益になることで周囲から評価され、承認欲求が満たされる

社員一人ひとり、社員としてその会社に勤めているからには、何かしらやってみたい「夢」があるはずです。社員にとっては、自分がやりたいと思っているアイデアを提案し、組織や上司を動かし、あの手この手を使ってそのアイデアを実現(クリア)していくことは、夢の実現とともに、ゲーム感覚的な楽しさが味わえます。

そして、第1ステージをクリアした後は、さらに困難で大きな課題を提案しようという気持ちになるでしょう。このサイクルが機能すると、組織は大きく動き出します。社長の役目はそれを後押しし、サポートすることですが、さまざまなことに気を使わなければなりません。

また、楽しんで仕事をするといっても、会社全体の利益にならなければ、ただの自己満足になってしまいます。それを明確に区別するためには、周囲からの評価と、その評価を適正に反映させた人事が必要になります。

3 まずは社員に提案してもらう

以前にも話しましたが(前編を参照)、会社の再建のための提案は、できれば社長からではなく、社員から提案してほしいと思っています。ですから、社員には「もっと言ってほしい」という思いがありました。そこで、社員からアイデアを引き出すために、まず社長は社員が提案をしやすい環境を作る必要があります。

1)全社員へのヒアリングと部署ごとの頻繁なショートミーティング

私が社長に就任して最初に行ったのが、全社員へのヒアリングです。また、部署ごとのショートミーティングも1、2週間に1回程度のペースで頻繁に行いました。社内の課題を把握することも大きな目的ですが、社員が目指す夢や社員像はどのようなもので、会社についてどのように考え、どのように改善したいと思っているかを知ることが重要なポイントです。

また、部署ごとのショートミーティングは15分程度の短いもので、基本的に楽しく、雑談だけで終わることもあります。誰かを責めるような形にしないことも重要です。千葉ロッテでは、ショートミーティングの中からアイデアが飛び出してくることが多かったと思います。

こうしたことにはかなりの時間が取られますが、全社員の話を均等に聞く機会を設け、本音で話してくれるような関係を築くのに必要な時間です。

中にはいきなり主張してくれる社員もいますが、多くの社員は、新社長に対してすぐには本音を出しにくかったと思います。私もどちらかというと口下手なほうなので、1回のショートミーティングではなかなか本音は聞けないものです。ですが、少なくともトップが聞く姿勢を持っているということを示すことはできます。

2)本音を引き出す関係作りは日ごろのコミュニケーションが大切

お互いの気心が知れるようになるには、日ごろのちょっとした会話の積み重ねだと思いますので、社員とのコミュニケーションには気を使いました。事あるごとに、「昨日はご苦労さま」とか、「あれ、良かったよ」「この間の件、おめでとう」といった声をかけることで、社員に「とんでもないことを言っても、この人は怒らない」「失敗しても怒られない」ということが浸透していきました。それで人間としての信頼感のようなものを得ていき、次第にやりたいことなどを話してくれるようになりました。

社員にとっては社長との会話は緊張するかもしれないので、会話の中では緊張をほぐすようなこともしています。半分冗談、どこまで本気か分からないほうが、楽しいと思っています。ビジネスの世界はロジカルで厳格なものですが、人間ですので、それだけだと息が詰まってしまいます。ところどころにユーモアや遊びというものがあったほうがいいと思います。人間というのは、伸び伸びしているほうが力を発揮できるという面がありますので。

社員数が50~60人くらいであれば、一人ひとりの社員に目が届くと思います。千葉ロッテ時代は正社員で60~70人程度の規模でした。社長室に閉じこもっていると何も情報が入ってきませんが、オープンな席で仕事をしていましたので、情報は集めやすかったと思います。「隅っこのほうで何か笑い声が聞こえる」「バタバタと電話がかかってきて、おわびをしている」といった状況は、何となく見えます。そこは常にアンテナを張っておいて、「どうしたの?」と声をかけに行くようにしました。

問題が起きたときも、失敗を責めるようなことはしませんでした。もちろん、失敗の原因となった行為や考え方は注意しますが、反省をしている人に追い打ちをかけてもマイナス効果しかありません。またチャレンジしようと思えるように誘導することが大切だと思います。

3)社長が社員の好き嫌いを見せるのは厳禁

社員とのコミュニケーションを重視するのと矛盾するかもしれませんが、私は一緒に飲みに行くなど、社員と社外で付き合うことはしないようにしています。特定の社員と仲良くしていると、入ってくる情報が偏ってしまうからです。

特に中小企業では、固定したメンバーで業務をするので、好き嫌いというものはどうしても出てしまいます。ですが、社長は社員の好き嫌いは絶対に表に出さないよう、ものすごく意識しないといけないと思います。それを表に出してしまうと、固定した人からのフィルターのかかった意見しか入ってこなくなってしまいます。大きな会社であれば人の入れ替わりもありますし、さまざまなルートから情報が入ってきますが、中小企業のオーナー社長はかなり強力な権限を持っていますので、ただでさえ限られたルートでしか情報が入ってきません。

社員同士の間でも、「この人は社長のお気に入りだ」「この人は社長から疎んじられている」といったバイアスが加わると、無用な派閥ができたり、社員の関係がギスギスしたりしてしまいます。

私自身の反省も含めてなのですが、社長は社員の評価に関することをオープンな場で話すのは避けるべきです。ただでさえ社員は、他の社員の評価に関する情報に聞き耳を立てています。社員の評価に関する話は、第三者に聞かれないように注意しなければいけないと思います。

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4 提案に真摯に耳を傾け、なるべく実現させる

1)「社員の提案の95%は検討する価値がある」と思い、詳しく聞く

社員から出される提案の中には、単なる思い付きだけの浅いものや、まだモヤモヤしたものもあります。ですが、社員の提案の95%は検討する価値があると思っています。もちろん、95%を採用するということではありません。

少なくとも提案をするからには、その社員が提案する何らかの背景があるわけです。最初は突飛(とっぴ)に思える提案であっても、まずは提案の背景と、どうすれば提案が実現できると思っているのかを聞いてみることが大切です。

中には、私が「それはどういうこと? 非常に面白いけどお金がかかるから、普通に考えたらできないけど」と聞くと、「実はお金をかけなくてもできる方法があるんです」と話してくれる社員や、「こうすれば、もしかしたらできるのではないかと思うのですが、具体的にはちょっとまだ思い浮かばないんです」と打ち明けてくれる社員もいます。実現方法を考えていないような社員には、「それはアイデアじゃなくて、思い付きだろ」と指摘します。

提案の背景と実現性を確認した上で、採用できない理由を説明すれば、提案した社員も納得はできると思います。そして、「確かに、やるとなるとものすごく大変だ。ちょっと自分でやれる自信はないな」という気付きを得て、少なくとも当事者意識を持ってくれるようになります。

2)採用したら、まずは提案者にやらせてみる

採用できそうな提案に対しては、基本は「では、君やってみて」という形で、提案者に任せることにします。ただし、途中で難しいように見えた場合は、サポートを付けたり、上司などが引き取ったりすることがあります。

これまでほとんど提案をしてこなかった人が提案をした場合などは、少し厳しそうだけどやらせてみよう、ということもあります。もちろん、小さなところから始めていくのですが、まず成功体験を積ませてみよう、ということで採用したこともあります。

社長に就任してすぐに採用したのが、ファンサービス担当の社員がヒアリングシートに記入した、「ファン感謝祭で選手とファンと千葉ロッテの社員で一緒にダンスを踊りたい」という提案でした。私の見たことのないダンスでしたが、とても楽しそうに踊っていたので採用を即決しました。即採用されたことにはその社員も呆気(あっけ)に取られたようでしたが、この企画は動画サイトでも拡散されるほどの大成功を収めました。この成功体験をきっかけに、千葉ロッテでは数多くの話題を呼ぶファンサービスが生まれることになりました。

また、「どうせ無理だけど、東京ドームでできたらいいのにな~」という社員のつぶやきが発端で、2016年7月に東京ドームでの初の主催試合を開催しました。東京ドームやフランチャイズ権を持つチームからの許可などに1年半をかけて実現に至りましたが、結果として満員御礼となり、1試合での集客と収益としては球団史上最高を記録しました。

3)数多くのアイデアが社員からの提案で実現

その他、ここでは社員からの提案で実現した代表的なものを紹介します。特にファンサービスの面では、社員の豊富なアイデアに助けられました。実は、これらの中の多くのアイデアが、私の社長就任前にも提案されたものの、ほぼ門前払いで却下されていたようです。

また、私の社長就任前までは年1回程度、形式的に行われていた選手会と社員とのミーティングを原則毎月開催するようにして、選手と社員との相互理解と協力体制ができたことで実現した提案もあります。

  • 「謎の魚」という公式キャラクター
  • 毎月行うファン感謝試合「マリンフェスタ」
  • ビールの売り子がアイドル活動を行う「マリーンズカンパイガールズ」と売り子選手権
  • ヒーローインタビュー表彰
  • 勝利後の選手とファンとのコール「WE ARE!」
  • ユニホームの名前と場内アナウンスのコールをニックネームにした試合の開催

5 能力と実績に応じた公平な人事評価・人事制度に改革

1)有名無実化していた「人事評価制度」を大きく変えた

これも当たり前ですが、社員が楽しく仕事をするには、社員の能力と実績に報い、周囲からの納得感も得られる人事評価と人事が必要です。

実は私が社長に就任する前の千葉ロッテには、人事制度があってないようなものでした。しっかりとした評価制度がなく、年功序列的な形になっていました。また、社内にはロッテHDからの出向者、球団独自の採用者、業務委託契約者など、さまざまな属性の人が集まっていて、そこの垣根もありました。会社再建のためには、その部分を変えることが必要でした。

私が採用した人事評価制度は、簡単に言うと年齢や勤務年数、属性などの違いを全てフラットに評価するというものでした。とはいえ大半の業務は数値化できないので、360度評価のように、上司や部下、関係部署などから広く意見を聞いて、なるべく合議制の形で評価をするようにしました。それほど社員の数も多くないので、周りから見ていても、誰が仕事ができるのか、というのは分かってくるもので、大きく評価がずれることはないと思います。

人事に関しても、色を付けずに純粋に能力に応じたポジションを充てる、ということを行いました。頑張れば、能力があれば昇進・昇格・昇給するという、普通の会社にとって当たり前のことをしただけです。

2)ビールの売り子が部長に

能力と実績に応じた人事に改めて、「大抜てき」に見える人事も行われるようになりました。例えば、ビールの売り子のアルバイトだった人が、契約社員、正社員となり、部長に昇進したケースもあります。また、契約社員から本部長になった人も3人います。

私としては、さまざまな人の意見を聞きながら、マネジャーとしての見識や能力など総合的に判断して、あるべきポジションに収めた、という感覚でいます。特段、むちゃくちゃに抜てきしたという気持ちもありません。ステップを踏んで徐々に昇進していますし、周囲の評価と照らしても、納得感がある人事だったと思います。

一番大事な評価のポイントは、アイデアを出して、それをきちんと実行できることです。プロジェクトマネジャーとして、きちんとプロセス管理ができる人を一番評価します。

中小企業の場合、社長の目が全社員に届きやすいので、社員はプレーヤーに徹することが多いのではないでしょうか。千葉ロッテの場合もプレーヤーばかりで、もう少しマネジメントをやってほしいという気持ちがありました。

自分は一歩下がって部下たちの力が発揮できるようにするとか、他部署との調整をするとか、どこにターゲットを絞って攻めるべきかを考えられるような人材です。千葉ロッテでは、自分の仕事だけをすればいいという傾向がありましたので、自分最適ではなく、会社の全体最適化を考えられるプレーヤーの育成に努めました。

そのために、個別にかなり密にコミュニケーションを取るようにしました。「それでは他部署との連携がうまくいかない」「こうすれば収益が2倍になる」「その情報は自分だけでなく、社内で共有したほうが大きな反響を得られる」といったことを、オンザジョブで指摘していきました。

3)小さな表彰制度を活用

2:6:2の法則というか、組織としてやはりどうしても2割か3割の人が大半の仕事を行う、という状況になってしまいます。ただ、残りの8割なり、下位の2~3割の人を放置しておくというのは、非常にもったいない話です。

そういった人たちのモチベーションが上がるための制度が、表彰制度です。「その人のポジションや能力からすると、ちょっとチャレンジしたね」という場合に、表彰によってスポットを当てることをしました。これは、組織全体の活性化に大きく役立ったと思います。

表彰は、日ごろ目立たない部門なども含めて、全社員に公正に行き届くことが大切です。例えば、難しい案件を早く上司に回して決裁をした人に「上司への書類キラーパス賞」、スマホアプリなどの集客企画を実施してファンをスマホ依存症にした人に「スマホ依存賞」など、型にはまらずに表彰しました。賞品は500円程度の図書カードなどの安価なものですが、皆の前で表彰されて、拍手をされながら受け取ることに意味があります。

こうした表彰は非正規社員やアルバイトも対象にしました。それによって、警備員が愛想良く誘導するようになり、清掃のアルバイトが来場者に笑顔で挨拶をするようになるといった効果がありました。

さらに、上司にとっては毎月の表彰者探しが義務となりましたので、部下の良いところを探すために部下に関心を持つようになる、という意義も大きかったと思います。

4)中小企業に特有の「役職インフレ」

年齢や勤続年数と人事の逆転現象は生じてしまいます。逆転された人も腐ってしまわないようにするには、基本的なことですが、コミュニケーションを取ることを心掛けました。

それから、現実的な対応として、肩書を与えてモチベーションアップを図ることもしました。恐らくどこの中小企業もそうだと思うのですが、「役職インフレ」になっているのではないでしょうか。給料ではなかなか報いることができないので、何で報いるか、ということを考えると、肩書で報いるということになってしまいがちです。

特にプロスポーツ事業会社の場合、管理職が4割くらいになってしまっています。千葉ロッテの場合も、そこら中に本部長、部長、課長がいて、課長の下にはほとんど誰もいないような部署が多くありました。

本来は大企業のような三角形の組織体を目指したいので、この問題ではいろいろと考えたのですが、日本人の感覚として肩書を重んじる文化があるので、ある程度は肩書で報いるものとして割り切ることにしました。理想と現実のギャップができるのは仕方ないと思っています。

6 指揮者であっても自分の背中を見せて社員を引っ張る

1)「ここ一番」では絶対に逃げない

社長はオーケストラの指揮者であるべきだと言いましたが、そうは言ってもやはり中小企業の場合、社長が率先垂範しないと誰も付いてきてくれません。立派なロジックであったり夢であったり理想だったりを語っているだけでは、社員の心に響きません。

中小企業の場合、社長にもプレイングマネジャー的な役割が求められると思います。しかし、やりすぎてしまうと、時間も限られていますし、部下が育ちません。毎回社長が出ていくと、全部「社長お願いします」となってしまいます。ちょっと背中を見せるというか、「ここ一番」というときに出ていくのが理想だと思います。ただし、その「ここ一番」というところでは、絶対に逃げずに必ず出ていくということが大事です。

私はシーズンの開幕・閉幕の際に、球団を代表してファンに向けたメッセージを必ず公表するようにしていましたが、チームの成績が悪かったときは、逃げ出したい気持ちを抑えてメッセージを伝えていました。

2)ホームグラウンドでの試合の開門時にハイタッチで出迎え

私が社長就任期間を通じて欠かさなかったことに、「開門時のハイタッチ」があります。これは、ホームグラウンドでの試合の日の開門時に、入場ゲートの前でマスコットや社員とともに来場者をハイタッチで出迎えるというものです。

「千葉ロッテは、ファンが早くから来場することを社長がこんなに喜び、歓迎する球団だ」ということを、ファンや社員に伝えるために始めました。「どうせ長続きしないだろう」といった冷ややかな声もありましたが、社長として「お客さま第一主義」を掲げた以上、信念を貫き、方針に沿った行動を続けることが、社長としての責任の取り方だと考えて続けました。

ハイタッチを続ける私の信念は、ファンだけでなく、多くの人に共感していただくことができました。私の姿勢を評価してくれたスポンサーから協賛金を増額してもらったり、地元の千葉市の担当者が私の意見を尊重してくれるようになったり、選手がハイタッチなどのファンサービスに不満を言わなくなったり、という影響があったと思っています。

また、ファンの方に私の顔を覚えていただき、来場者から直接クレームなどのご意見をいただけるようになったことも、良い効果だったと思います。

7 社員の意識さえ変われば、結果はついてくる

実は、開門時のハイタッチは、業務を発注している別会社の若い男性社員の発案でした。彼は、社長に就任して間もない、会社を変えようと張り切っている私と雑談をしていた際に、「いつも社長なんて、そうやって変えると言うだけで、結局変わらないんですよ」と言ってきた人物です。私としては、「俺は絶対変えてやるから見ててくれ」と返答したものの、つらくもありましたし、「現場の人たちは、私の意気込みをその程度にしか捉えていないのだろう。むしろ『迷惑だな』と思っている人もいるだろう」という気付きを与えてくれもしました。

そんな彼の遠慮のない提案を聞いて、私は彼を球場のホスピタリティ改善の実質的な責任者に任命しました。その後、彼は多くの提案をしてくれましたし、もともと彼は決して愛想が良いほうではなかったのですが、率先して笑顔でファンを出迎える役割を果たしてくれました。

最初に直言されてから2、3年たって、彼から「会社がすげー変わって、本当に良かったです。こんなに変わると思っていなかったし、僕自身も変わりました。ありがとうございました」と言われました。私が千葉ロッテの社長になって、一番うれしかった言葉でした。

本来、「できない社員」というのはいません。意識さえ変われば社員は大きく成長しますし、収益を出そうと一生懸命やってくれます。そうなればおのずと結果がついてきて、会社は立ち直るのだと思います。

【参考文献】
「経営の正解はすべて社員が知っている」(山室晋也、ポプラ社、2021年2月)

山室晋也(やまむろ しんや)
1960年1月25日、三重県生まれ。エスパルス代表取締役社長。
1982年に立教大学経済学部卒業後、大手銀行に入行。4店の支店長を経て、2011年4月から執行役員。2013年4月、銀行子会社の代表取締役社長に就任。
2013年11月に千葉ロッテマリーンズ顧問に就任し、2014年1月から取締役社長。2019年12月、退任。
2020年1月、清水エスパルスを運営するエスパルス代表取締役社長に就任し、現在に至る。
著書に「経営の正解はすべて社員が知っている」(ポプラ社、2021年2月)。

以上(2021年12月)

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画像:千葉県

【チェックリスト付き】社員が定年退職したときに必要な労務と税務の手続き

書いてあること

  • 主な読者:定年退職する社員がいる中小企業の労務担当者、経理(税務)担当者
  • 課題:会社が行う手続きと、社員が行う手続きとがあるので、抜け漏れなく進めたい
  • 解決策:会社用と社員用の手続きチェックリストを作り、相互に確認しながら進める

1 定年退職する社員に関する労務と税務の手続き一覧

社員が定年退職した場合、しなければならない労務と税務の手続きがたくさんあります。しかし、中小企業の場合、毎年定年退職者が出るわけではないので、抜け漏れが生じがちです。そこで、次のようなチェックリストを作ってしっかりと対応したいものです。

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労務や税務の知識がある方は、このリストを確認用として使っていただければ大丈夫です。一方、手続きの内容などを改めて確認したい方は、この後の説明をお読みください。各手続きの後ろにある(会社)や(社員)は、手続きをする主体を示しています。

2 労務の手続き:社会保険(健康保険・厚生年金保険)

社会保険は、定年退職後の社員の働き方に応じて、必要な手続きが次のように異なります。

  • 定年退職後、再雇用され、社会保険の被保険者要件を満たす場合:1)、2)、3)
  • 定年退職後、再雇用され、社会保険の被保険者要件を満たさない場合:1)、2)、4)
  • 定年退職後、再雇用されない場合:1)、2)、4)

1)保険証の回収(会社)

会社は、社員の退職時に、社員とその被扶養者の保険証(健康保険被保険者証)を回収します。 万が一、社員などが保険証を紛失していたら、回収不能届(健康保険被保険者証回収不能届)を作成し、紛失した旨を記載します。

2)資格喪失届と保険証の提出(会社)

会社は、社員が退職した日の翌日から5日以内に、資格喪失届(健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届)と保険証(紛失した場合は回収不能届)を、所轄年金事務所に提出します。手続きが終わると、年金事務所から資格喪失の通知が会社に送られてくるので、退職日から2年間、会社が保管します。

なお、会社が資格喪失届と保険証の提出を怠ったり虚偽の届け出をしたりした場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が、会社に科せられます。

3)再雇用時の資格取得届の提出(会社)

定年退職と同時に再雇用された社員が、社会保険の被保険者要件を満たし、かつ再雇用後の給与が大幅に下がる場合、「同日得喪」の手続きを行うことで、再雇用された月から標準報酬月額を変更できます。

同日得喪を行う場合、会社は、社員が退職した日の翌日から5日以内に、資格喪失届、保険証と併せて資格取得届(健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届)を、所轄年金事務所に提出します。被扶養者がいる場合、被扶養者(異動)届(健康保険被扶養者(異動)届)も一緒に提出します。手続きが終わると、年金事務所から資格取得の通知と新しい保険証が会社に送られてきます。資格取得の通知は、再雇用後の労働契約が更新されず終了する日から2年間、会社が保管し、新しい保険証は社員に交付します。

なお、会社が資格取得届の提出を怠ったり虚偽の届け出をしたりした場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が、会社に科せられます。

4)公的医療保険に加入(社員)

社員は、退職した後も所定の期日までに、健康保険などの公的医療保険に必ず加入しなければなりません。公的医療保険については、再就職先で健康保険に加入する場合を除くと次のような選択肢があり、それぞれ加入などに必要な手続きなどが異なります。

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3 労務の手続き:雇用保険

雇用保険は、定年退職後の社員の働き方に応じて、必要な手続きが次のように異なります。

  • 定年退職後、再雇用され、雇用保険の被保険者要件を満たす場合:手続きは原則不要
  • 定年退職後、再雇用され、雇用保険の被保険者要件を満たさない場合:1)、2)、3)
  • 定年退職後、再雇用されない場合:1)、2)、3)

1)離職証明書の作成(会社)

会社は、社員の退職時に、離職証明書(雇用保険被保険者離職証明書)を作成します。離職証明書は、退職した社員が離職票をもらうために必要な書類で、社員が59歳以上の場合、作成は義務です。離職証明書を作成したら、社員に離職理由に異議がないことなどを証明するための署名をしてもらいます。

2)資格喪失届と離職証明書の提出(会社)

会社は、社員が退職した日の翌日から10日以内に、資格喪失届(雇用保険被保険者資格喪失届)と離職証明書を所轄ハローワークに提出します。手続きが終わると、ハローワークから「資格喪失の通知(会社と社員の控え)」「離職証明書(会社の控え)、離職票」が送られてきます。資格喪失の通知(会社の控え)と離職証明書(会社の控え)は、退職日から4年間、会社が保管します。資格喪失の通知(社員の控え)と離職票は、到着後、速やかに社員に送付します。

なお、会社が資格喪失届と離職証明書の提出を怠ったり虚偽の届け出をしたりした場合、またはこれらの書類を社員に送付しない場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が、会社に科せられます。

3)雇用保険の求職者給付の受給手続き(社員)

社員が再就職を希望する場合、住所地を管轄するハローワークで手続きをすることで、求職活動中、雇用保険の求職者給付が受けられます。退職時の年齢が65歳未満か否かによって給付の種類が次のように異なります。

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4 税務の手続き

1)退職所得の受給に関する申告書の提出(社員)

退職金を受け取る社員は、退職金の支払いを受ける日までに、「退職所得の受給に関する申告書」(以下「申告書」)を会社に提出します。

2)退職する社員の所得税の計算(会社)

会社は、申告書を受領後、原則として次の算式で計算した金額(課税退職所得金額)を基に所得税を計算します。

課税退職所得金額=(退職手当等の額-退職所得控除額)×1/2

なお、税制改正により、勤続年数が5年以下である社員に300万円を超える退職金を支給する場合、その300万円を超える部分については上記算式の「1/2」を適用することができなくなるので注意が必要です(2022年1月1日以降に支給する退職金から適用されます)。

退職手当等の額から控除できる退職所得控除額は、原則として次の通りです。

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社員が申告書を提出しない場合、会社は、退職金の金額に対して20.42%の税率で源泉徴収をしなければなりません。この場合、当然ながら、社員は退職金の支給時に退職所得控除などを受けられないため、社員が自分で確定申告することによって精算する必要があります。

3)住民税未納分の支払い(会社)

在職中、住民税は給与から特別徴収されていますが、社員が退職した場合、退職の時期によって処理の方法が違います。住民税には普通徴収と特別徴収があり、その概要は次の通りです。なお、会社勤めの場合は、原則、特別徴収となります。

  • 普通徴収:納税者本人が、市区町村に住民税を納めること
  • 特別徴収:会社が給与から住民税を天引きし、市区町村に住民税を納めること

では、社員が退職する時期に応じた住民税の処理を説明します。

1.1月1日から4月30日までに退職する場合

この場合、会社が退職月から5月分までの住民税を一括で、最後の給与または退職金から天引きし、市区町村に一括で納めます(一括徴収)。なお、給与または退職金から、住民税が多すぎて控除しきれなかった場合は、その金額については社員自身が普通徴収で市区町村に納めることになるため、本人に知らせる必要があります。

2.5月1日から5月31日までに退職する場合

この場合は、通常通り、5月分の給与から住民税を天引きし、市区町村に納めます。

3.6月1日から12月31日までに退職する場合

この場合は、退職月から翌5月分までの住民税は、退職した社員がすぐに再就職する場合を除き、次のいずれかの方法で手続きします。

  • 会社が、最後の給与または退職金から一括で天引きして市区町村に納める
  • 退職時に普通徴収に切り替えて、退職する社員が市区町村に納める方法

4)退職所得の源泉徴収票と給与所得の源泉徴収票の作成(会社)

会社は、社員が退職後1カ月以内に、退職所得の源泉徴収票と給与所得の源泉徴収票を作成して、社員に交付します。なお、退職するのが役員の場合には、役員に交付するのに加えて、税務署と退職する役員が住む市区町村に退職所得の源泉徴収票を提出(原則退職後1カ月以内)しなければなりません。

また、会社が退職所得の源泉徴収票や給与所得の源泉徴収票を退職した社員に交付しない場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が、会社に科せられます。

以上(2021年12月)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ 特定社会保険労務士 諸富一子)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Dmytro Zinkevych-shutterstock

【従業員が交通事故!】責任割合はどうなる? ⑤前方車両の急ブレーキ

書いてあること

  • 主な読者:社有車の事故防止に力を入れたい経営者や運行管理責任者ならびに運転者
  • 課題:交通事故の基本的な責任割合や未然防止策を知りたい
  • 解決策:過去の裁判例に基づく基本的な責任割合と場所や状況に応じた事故防止策を理解する

1 事故事例と状況を把握します。

今回の事故状況はこちらです。A(自社の青い車)が、一般道でB(相手方の赤い車)に追突してしまいました。Bが突然急ブレーキをかけて車間距離が一気に詰まってしまったため、Aの停止が間に合わなかったそうです。

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【A車:自社車両 B車:相手方車両】

安全な場所に停止している自動車への追突事故や、法定速度の範囲内で通常の走行をしている自動車への追突事故の場合は、追突された側に過失(不注意やミス)がないため、責任割合はA100%:B0%となることが一般的です。

これは「車両等は、同一の進路を進行している他の車両等の直後を進行するときは、その直前の車両等が急に停止したときにおいてもこれに追突するのを避けることができるため必要な距離を、これから保たなければならない。」(道路交通法26条1項)と定められているためです。

今回のケースでは「後ろから煽られている感じがして、イライラしてブレーキを踏んだ」とBが言っていたそうです。

2 今回の責任割合を、見てみましょう。

1)責任割合の決まり方は?

双方に責任が生じる事故の場合、それぞれの保険会社を窓口として交渉することが一般的です。過去の裁判例の責任割合を参考に、実際の事故状況を踏まえて話し合い、決定していきます。

2)今回の責任割合は?

過去の裁判例より、A(自社の青い車)70%:B(相手方の赤い車)30%が基本の責任割合となります。

Bの急ブレーキの事実に争いがなく、かつ正当な理由もなくブレーキをかけたことが明らかになっている場合の基本の割合です。

前述のとおり、追突された側に過失がない場合の責任割合はA100%:B0% ですが、今回の事故状況における基本の責任割合には、道路交通法で「車両等の運転者は、危険を防止するためやむを得ない場合を除き、その車両を急に停止させ、又はその速度を急激に減ずることとなるような急ブレーキをかけてはならない」(同法24条)と定められていることに基づいて、Bの過失を認めています。

※実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容とは異なる結果になる場合もあります。

3 今回の事故事例を未然に防ぐポイントとは。

今回は追突事故において、追突をされた側にも責任が問われるケースをご紹介しましたが、追突事故の発生を予防するには、

  • 安全な車間距離を維持する(一般道での安全な車間距離の目安は、例えば時速40キロで走行の場合は25メートル、時速60キロで走行の場合は45メートルと言われています)
  • 渋滞時には前方車だけではなく、2台前の車の動きや横からの車の割り込みなども注視して前方車の動きを予測する

ことが重要です。

その他、ドライブレコーダーを活用した安全運転指導や教育サービス、無料の安全運転セミナーを提供している機関もありますので、それらを利用して自動車事故防止活動をしていくのも良いでしょう。

以上(2021年12月)

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本記事で紹介している責任割合は、過去の裁判例を参考にした基本的な割合です。実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容と異なる結果になる場合もあります。

【従業員が交通事故!】責任割合はどうなる? ④信号のある交差点(赤×青)

書いてあること

  • 主な読者:社有車の事故防止に力を入れたい経営者や運行管理責任者ならびに運転者
  • 課題:交通事故の基本的な責任割合や未然防止策を知りたい
  • 解決策:過去の裁判例に基づく基本的な責任割合と場所や状況に応じた事故防止策を理解する

1 事故事例と状況を把握します。

今回の事故状況はこちらです。A(自社の青い車)が、交差点でB(相手方の赤い車)と接触してしまいました。Aは赤信号、Bは青信号だったそうです。

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【A車:自社車両 B車:相手方車両】

今回のポイントは「信号機の色」です。

信号機の色は双方の主張が食い違うことがありますので、周囲の方の目撃情報などの協力を仰ぐことも有効です。

もしドライブレコーダーが搭載されている場合は、事故を録画したデータの保全をしておく事が重要です。ドライブレコーダーの機種によっては、時間経過するとデータが自動消去されるものや、走行すると上書きされてしまうものもありますので注意しましょう。

2 今回の事故事例の基本的な責任割合(過失割合)を見てみましょう。

1)責任割合の決まり方は?

双方に責任が生じる事故の場合、それぞれの保険会社を窓口として交渉することが一般的です。過去の裁判例の責任割合を参考に、実際の事故状況を踏まえて話し合い、決定していきます。

2)今回の責任割合は?

過去の裁判例より、A(自社の青い車)100%:B(相手方の赤い車)0% が基本の責任割合となります。

信号機のある交差点では、通行する車両は信号に従わなければならない(道路交通法7条1項)ため、赤信号で進入したAに100%の責任が生じます。

ただし、Bが前方に対する注意を払っていれば容易に事故を回避できた場合や、信号の変わり目に事故が起こった場合は、Bも責任を問われることがあります。

※実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容とは異なる結果になる場合もあります。

3 今回の事故事例を未然に防ぐポイントは?

信号無視の主な原因としては、①信号の見落とし ②信号の誤認 ③タイミング 等が考えられます。

①信号の見落とし・・疲労や考え事、同乗者との会話などにより集中力を欠如しない。
②信号の誤認・・黄色は「止まれ」の意味。矢印表示などの変則信号機では慎重に、誤って一つ先の信号と勘違いしないよう気を付ける。
③タイミング・・黄色信号で交差点へ進入しない。

赤信号で交差点に進入した場合の事故はスピードが出ていることが多く、双方の車が大破したり、横転や怪我など大きな事故につながりやすく危険です。無理な交差点進入は避け、心と時間に余裕を持って運転することを心掛けましょう。

その他、ドライブレコーダーを活用した安全運転指導や教育サービス、無料の安全運転セミナーを提供している機関もありますので、それらを利用して自動車事故防止活動をしていくのも良いでしょう。

以上(2021年12月)

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本記事で紹介している責任割合は、過去の裁判例を参考にした基本的な割合です。実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容と異なる結果になる場合もあります。

【従業員が交通事故!】責任割合はどうなる? ③一方が優先道路の交差点

書いてあること

  • 主な読者:社有車の事故防止に力を入れたい経営者や運行管理責任者ならびに運転者
  • 課題:交通事故の基本的な責任割合や未然防止策を知りたい
  • 解決策:過去の裁判例に基づく基本的な責任割合と場所や状況に応じた事故防止策を理解する

1 事故事例と状況を把握します。

今回の事故状況はこちらです。A(自社の青い車)が、交差点でB(相手方の赤い車)と接触してしまいました。Bの進行道路には、交差点を貫通するセンターラインがあったそうです。

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【A車:自社車両 B車:相手方車両】

今回のポイントは、センターラインです。

①実線(繋がっている線)か破線(点線)かどうか
②交差点の中心を貫通しているかどうか
③A側から見た時、中央線が視認できるか

などを確認します。

もしドライブレコーダーが搭載されている場合は、事故を録画したデータの保全をしておく事が重要です。ドライブレコーダーの機種によっては、時間経過するとデータが自動消去されるものや、走行すると上書きされてしまうものもありますので注意しましょう。

2 今回の事故事例の基本的な責任割合を見てみましょう。

1)責任割合の決まり方は?

双方に責任が生じる事故の場合、それぞれの保険会社を窓口として交渉することが一般的です。過去の裁判例の責任割合を参考に、実際の事故状況を踏まえて話し合い、決定していきます。

2)今回の責任割合は?

過去の裁判例より、A(自社の青い車)90%:B(相手方の赤い車)10% が基本の責任割合となります。

道路標示により中央線が交差点の中まで連続して設けられている(貫通している)道路は、「優先道路」として認められます。

道路交通法では、優先道路を通行している車両が見通しのきかない交差点を通行する時には徐行義務は無い(道路交通法42条1号)と定められています。しかしその場合でも、交差道路を通行する車両等に注意し、できる限り安全な速度と方法で進行する義務が求められている(道路交通法36条4項)ため、Bにも10%の責任割合が発生します。

※実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容とは異なる結果になる場合もあります。

3 今回の事故事例を未然に防ぐポイントとは。

皆さんは「二段階停止」や「多段階停止」という言葉を聞いた事がありますでしょうか。

一度停止するだけではなく、安全を確認できる場所で二度、三度と停止して慎重に進んでいく運転方法です。安全確認に加えて、他の車などに自車を認知させる意味もあります。

今回のA側の注意点としては

  • カーブミラー等を活用し、多段階停止をしながら慎重に進む
  • 交通の往来が多い場所では無理に横断しようとせず、まずは左折し迂回してできるだけ安全なルートも検討する

ことで、事故のリスクを軽減することができます。

また優先道路のB側においても、交差点がある場合にはカーブミラー等で進入車の有無を確認しましょう。「優先道路だから大丈夫」と過信せず、前方を注視して減速するなど、構えることも大切です。

その他、ドライブレコーダーを活用した安全運転指導や教育サービス、無料の安全運転セミナーを提供している機関もありますので、それらを利用して自動車事故防止活動をしていくのも良いでしょう。

以上(2021年12月)

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本記事で紹介している責任割合は、過去の裁判例を参考にした基本的な割合です。実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容と異なる結果になる場合もあります。

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\経営者のための/
リスクマネジメントマニュアル ~ハラスメント対策編~

「ハラスメント対策」できていますか?

「自社でハラスメントは起こらない」と、油断してはいませんか? 事が起きてからでは遅い、リスクを認識するところから始めましょう!

本資料では、企業が知っておくべきハラスメント事例や対策をご紹介します。

昨今の法改正からハラスメントによる影響まで網羅的に記載しており、経営者みなさまの基礎知識としてはもちろん、従業員研修などにもお使いいただけます。

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\経営者のための/
リスクマネジメントマニュアル ~休業リスク対策編~

休業リスクに対する備えは、万全ですか…?

「事業所の建物・設備の損壊により、一時休業せざるをえなくなったら…」

「取引先が台風被害に遭ってしまい、部品が納入されなくなったら…」

経営における、休業リスクの多い国、日本。例えば、近年多発する台風・集中豪雨・地震などの大規模な自然災害による被害額は実に世界の14.3%※ にのぼるともいわれています。

本資料では、様々なリスクソリューションを提供する損保ジャパンの視点と調査データをもとに「他社はどうしている?」の疑問にお答えします。

※『2019年版中小企業白書』(中小企業庁編) | https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/00Hakusyo_zentai.pdf

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【業種別データ】ブリキ缶・その他のめっき板等製品製造業の動向

書いてあること

  • 主な読者:各業種の産業規模、経営指標などを知りたい経営者
  • 課題:さまざまなデータを集める必要があり、時間や手間がかかる
  • 解決策:事業所数や製造品出荷額等から近年の動向を把握する。経営指標で各業種の平均値を知る

1 業界動向

2019年のブリキ缶・その他のめっき板等製品製造業の事業所数は196事業所(対前年比100.5%)、従業者数は7402人(対前年比98.3%)、製造品出荷額等は2907億8700万円(対前年比96.6%)となっています。

1事業所当たりの従業者数は38人(対前年比97.8%)、現金給与総額は1億6500万円(対前年比99.4%)、原材料使用額等は10億900万円(対前年比96.3%)、製造品出荷額等は14億8400万円(対前年比96.1%)、付加価値額は4億700万円(対前年比93.4%)となっています。

従業者1人当たりの現金給与総額は438万円(対前年比101.7%)、製造品出荷額等は3928万円(対前年比98.3%)、付加価値額は1076万円(対前年比95.5%)となっています。

製造品出荷額等に占める原材料使用額等比率は68.0%(対前年比100.2%)、同付加価値額比率は27.4%(対前年比97.2%)、同現金給与総額比率は11.1%(対前年比103.5%)となっています。

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2 品目別・都道府県別出荷金額ランキング(2019年実績)

品目別・都道府県別出荷金額ランキング(2019年実績)は次の通りです。

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3 経営指標

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以上(2022年1月)

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画像:pixabay

【業種別データ】加工紙製造業の動向

書いてあること

  • 主な読者:各業種の産業規模、経営指標などを知りたい経営者
  • 課題:さまざまなデータを集める必要があり、時間や手間がかかる
  • 解決策:事業所数や製造品出荷額等から近年の動向を把握する。経営指標で各業種の平均値を知る

1 業界動向

1)業界全体

2019年の加工紙製造業の事業所数は284事業所(対前年比98.3%)、従業者数は1万1820人(対前年比97.1%)、製造品出荷額等は5100億5500万円(対前年比97.2%)となっています。

1事業所当たりの従業者数は42人(対前年比98.8%)、現金給与総額は1億9800万円(対前年比100.9%)、原材料使用額等は11億7600万円(対前年比99.6%)、製造品出荷額等は17億9600万円(対前年比98.9%)、付加価値額は5億4500万円(対前年比98.6%)となっています。

従業者1人当たりの現金給与総額は476万円(対前年比102.1%)、製造品出荷額等は4315万円(対前年比100.1%)、付加価値額は1309万円(対前年比99.8%)となっています。

製造品出荷額等に占める原材料使用額等比率は65.5%(対前年比100.8%)、同付加価値額比率は30.3%(対前年比99.7%)、同現金給与総額比率は11.0%(対前年比102.0%)となっています。

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2)塗工紙製造業(印刷用紙を除く)

2019年の塗工紙製造業(印刷用紙を除く)の事業所数は136事業所(対前年比101.5%)、従業者数は7957人(対前年比99.9%)、製造品出荷額等は3863億600万円(対前年比99.1%)となっています。

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3)段ボール製造業

2019年の段ボール製造業の事業所数は91事業所(対前年比100.0%)、従業者数は2392人(対前年比89.5%)、製造品出荷額等は810億6800万円(対前年比86.8%)となっています。

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4)壁紙・ふすま紙製造業

2019年の壁紙・ふすま紙製造業の事業所数は57事業所(対前年比89.1%)、従業者数は1471人(対前年比95.7%)、製造品出荷額等は426億8100万円(対前年比102.1%)となっています。

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2 品目別・都道府県別出荷金額ランキング(2019年実績)

品目別・都道府県別出荷金額ランキング(2019年実績)は次の通りです。

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3 経営指標

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以上(2021年12月)

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画像:industrieblick-Adobe Stock

商標~ブランドを守る。商品名・ロゴ・音・色彩など、多様な商標の世界と中小企業でもできる活用法~/意外と知らない「知的財産権」シリーズ5

書いてあること

  • 主な読者:名称やロゴマークなどを「商標」として権利化したい経営者
  • 課題:名称やロゴマークしか保護されない? 他にはない独特な形状、色の組み合わせなどについても保護したい
  • 解決策:立体商標、色彩のみからなる商標など、さまざまな商標が保護の対象。商標は意匠などと異なり、半永久的に権利が保護されるので上手に活用する

1 商標によって半永久的な保護が可能に

商標とは、

自社の商品やサービスを、自社のものであると消費者に認識してもらうために表示する標識

です。会社の名称やロゴマーク、商品やサービスのネーミングなどの登録がよく知られています。商標の存続期間は設定登録日から10年ですが、更新手続きを行えば、

何度でも権利の更新が可能で、半永久的に権利が保護される

のが特徴です。

また、商標が保護するものは名称にとどまらず、例えば「きのこの山」のお菓子の形状など、

形状・動き・ホログラム・音・色彩・位置など、さまざまなものが商標として保護される

のです。

ブランドに対する顧客の信頼や愛着は、長い時間をかけて蓄積されます。長く権利を独占できる商標を上手に活用することで、それが実現できます。

2 「きのこの山」の形状も商標。アイデアやデザインも同時に保護できる「立体商標」

商標法の保護を受けられるものに、商品等の形状そのものを登録することで、その形状を独占する「立体商標」があります。立体商標は、文字商標(文字だけで構成される商標・「SONY」のロゴマークなど)や図形商標(図形のみから構成される商標・「ヤマト運輸のクロネコ」のロゴマークなど)ほどは活用されていないようにみえます。

ただし、立体商標は次のような点で非常に高い有用性を発揮することがあります。

  • 特許法、実用新案法、意匠法といった他法域で保護されるべきアイデアやデザインを併有できる
  • 登録商標として保護を受けることで、同時にこれに具体化されたアイデアやデザインについても、半永久的に他者に対して優越的な地位を得られる

立体商標の具体例は次の通りです。

1)「きのこの山」

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これは誰もが知っている「きのこの山」です。明治は「きのこの山」という文字商標の登録(登録第1330075号)に加え、その形状も立体商標として登録しています。これによって商品のネーミングのみならず、この形状のお菓子そのものを独占的に製造・販売できる法的地位を手にしています。

お菓子を含む「物の形状」に対する法的保護としては、一つには意匠登録による保護が考えられるところですが、意匠権の存続期間は出願日から25年であり、更新はできないとされています。一方、商標権の存続期間は設定登録日から10年ですが、更新によって半永久的に保護を受けられるため、保護期間の面でかなりメリットが大きいといえます。

もちろん商標登録を受けるには、登録要件としてその商標に識別力が備わっている必要があります。そのため、ありふれた形状だとなかなか識別力を認めてもらえず、立体商標としての登録は容易ではないでしょう。実際「きのこの山」の立体商標も、一度は審査段階で識別力欠如による拒絶理由を通知されましたが、使用による識別力の獲得を主張して登録を得ています。いずれにしても、ひとたび識別力を肯定されれば、以後その形状を独占できるのですから、かなり強力なブランディングとなります。

2)食パンの袋のクリップ

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こちらもよく知られる、食パンの袋についているあのクリップです。あまりにも生活の中に溶け込んでいるため意識しませんが、これ自体も登録商標です。一見して分かる通り、それは、クリップに対して一般的に求められる「留めやすくはずれにくい」形状をしています。そのため、やはり審査では識別力の問題を指摘され、これに反論して商標登録を得たという経緯があるようです。

この立体商標は、商標であると同時に、「留めやすくはずれにくい」形状という、クリップの構造に関するアイデアを具体化したものでもあります。登録商標としてこの形状そのものを独占しながら、併せて技術的アイデアについても、保護を受けられるかのような効果を得ている点において優れています。

なお、技術的アイデアは本来特許で保護されるのが一般的ですが、特許権の存続期間は出願日から20年で更新ができず、この期間が過ぎると消滅してしまいます。しかし、商標は、前述の通り更新を繰り返すことで半永久的に保護が受けられるので、この点は非常に大きなメリットです。

3 動き・ホログラム・色彩などなど。立体以外も保護される

2014年(平成26年)の法改正によって、新たに「動き商標」「ホログラム商標」「色彩のみからなる商標」「音商標」「位置商標」が加わりました。こちらについても代表的なものを幾つか紹介します。

1)動き商標

文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標です。

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2)ホログラム商標

文字や図形等がホログラフィーその他の方法により変化する商標です。

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3)色彩のみからなる商標

単色または複数の色彩の組み合わせのみからなる商標(これまでの図形等に色彩が付されたものではない商標)で、輪郭なく使用できるものです。

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4)音商標

音楽、音声、自然音等からなる商標であり、聴覚で認識される商標です。

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5)位置商標

図形等を商品等に付す位置が特定される商標です。

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このように、文字や図形以外にも商標として機能するものがたくさんあります。顧客の目線に立ったとき、皆さんが提供されている商品やサービスの中にも、ブランディング戦略につながる価値を持つ商標がきっとあると思います。

4 商標を登録する際の課題。記述的な商標や他者と同じ商標はどう考える?

ところで、商品やサービスの名称として、どのような商標を採択するのが望ましいのでしょうか? 例えば、今までになかった全く新しい商品・サービスを開発した場合、その商品等の性質やコンセプトを顧客にアピールするようなネーミングを採択することが少なくないと思います。「アスクル」「スーパードライ」「ヒートテック」などがそのような商標に当たるといえるでしょう。

このような商標は、今後同種の商品等で市場に参入しようとする後続事業者にとっては、誰もが使いたい商標です。これを商標登録して独占しておくことは重要な戦略です。

ただし、そのような記述的な商標は、

単に商品等の性質を説明するにすぎないとして、識別力の問題を突き付けられる

のが通常でしょう。では、記述的であっても、なお商標登録を受けられる商標かどうかについては、どのような点に注意したらよいのでしょうか。

1)「加圧トレーニング」の名称は商標登録できるのか?

腕と足の付け根に適正な圧力を加え、血流量を制限した状態でトレーニングをすると、通常の場合と比べて少ない負荷でも、大きな効果が得られることを発見したとします。これを新たなトレーニング方法としてビジネス展開するに当たって、そのネーミングを「加圧トレーニング」として商標出願した場合、これは登録を受けられるでしょうか、それとも、一般名称にすぎないとして拒絶されるでしょうか。

この「加圧トレーニング」の名称については、実際に出願された事例があります(商願2005-96978)。この出願は、審査で一度拒絶され、不服審判で認容審決を得て商標登録を受けたものの、第三者から異議申立てを受けるなど、識別力について再三争われました。しかし、最終的に特許庁は、「現代用語の基礎知識」や「知恵蔵」などの文献に「加圧筋力トレーニング」という記載はあるものの、「加圧トレーニング」という記載はないことを根拠に、「加圧トレーニング」は特定の商品の品質や役務の質を直接的、かつ、具体的に表示するものではないとして、識別力を認める判断をしています。

すなわち、

判断基準はその商標が商品の品質等を「直接的、かつ、具体的に」表示するものか否かであって、間接的・抽象的にとどまるものについては識別力が肯定される

ことになります。この観点により、間接的・抽象的・暗示的な商標を検討していくのがよいといえるでしょう。

2)同じ単語(文字列)が使われている商標は登録できるのか?

企業のイメージやコンセプトを表現した図形等を用いて構成される「ロゴマーク」を商標登録する場合、どのように商標を構成するのがよいか、これもまた難しい問題を含んでいます。もちろん、図形要素と文字要素を分け、さらに文字要素については重ねて標準文字でも登録しておくのが理想的であるのは言うまでもありません。

ただし、出願件数に応じてその費用も2倍、3倍とかかってきますから、コスト面を勘案して、図形と文字を組み合わせた一つの商標として出願・登録することも少なくないでしょう。しかし、これには注意が必要です。例えば、次の例をご覧ください。

1.「WORLD」

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2.「STAGE」

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3.「LPGA」

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4.「やんちゃ」

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1.から4.に示した商標は、いずれも「WORLD」「STAGE」「LPGA」「やんちゃ」といった文字列部分が明らかに共通しています。しかし、いずれも非類似と判断され、すべて併存して登録を受けているのです。

ロゴ図形と文字列を組み合わせた商標によって商標登録を受ける場合は、

その文字列部分のみを使用する者に対して、商標権の効力が及ばない可能性が十分にあり得る

ということを念頭に置かなくてはなりません。

そして、この点に関する検討には十分なリサーチが不可欠となりますので、判断に迷った際には、ぜひ知財を専門とする弁護士等にご相談されることをお勧めします。

どのようなマークによって顧客に認識してほしいのか、商標によるブランディング戦略を考える際には、いつもこのテーマに立ち返る必要があります。

以上(2021年12月)
(執筆 明倫国際法律事務所 弁護士 田中雅敏)

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画像:areebarbar-Adobe Stock

【朝礼】今年の進化と来年の進化を考えてください

今日は私から皆さんに2つ、提案があります。1つ目は、「今年を振り返って、去年に比べて自分が進化した点は何か考えること」。2つ目は、「来年、今年よりも進化したい点を決めること」です。今年もあとわずかで終わりますので、ぜひ年内にやってみてください。

この提案をしようと思ったのは、お付き合いのあるデザイナーさんから聞いた「口紅の話」がきっかけです。化粧品メーカーでは、口紅の色合いや品質を常に研究してバージョンアップしているので、同じ赤でも、数年前に出した商品と今年出した商品では、色や質感がかなり異なるそうです。そのため、若い頃から愛用している口紅を変えずに使い続けていると、「妙に古臭いメーク」に見えてしまいます。言葉を選ばずに言えば、「昭和感のあるメーク」です。

デザイナーさんいわく、「口紅で新しい赤が出ている上に、化粧品以外のさまざまな商品でも赤が変化しているのに、自分の口紅だけが十何年も前からの赤であれば、当然古く見える」のだそうです。身の回りの商品やはやりなどの変化に伴って、世の中全体の色彩感覚も変化しているから、ということなのでしょう。

色に着目したデザイナーさんらしい面白い視点です。これに加えて私が思うのは、世の中全体の色彩感覚の他にも、当然、「自分の顔が変化したのに同じ口紅を使い続けている」のも、古臭いメークに見える要因ではないかということです。

これはつまり、自分の顔が変化していることを認識できていないともいえます。毎日鏡で見ていると、確かに変化に気付きにくいでしょう。

このことは、私たち一人ひとりの仕事、生き方、人生にも通じるところがあります。毎日同じ環境で同じ仕事をしていると、自分の変化はなかなか認識できません。「前よりこの仕事の処理速度が上がった」「クライアントへの話の仕方が変わって反応が良くなった」など、実は、変化というより良い方向に進化していることでさえ、意識していないと気付かないことが多いのです。

また、人間は惰性の生き物です。「意識する」という点で言うと、そもそも、自分を進化させようと意識して行動していなければ、前に進んでいくことはできないでしょう。

そこで冒頭の提案です。皆さん、今年の進化を振り返り、そして来年の進化の目標を、自分で意識して決めてください。ちなみに私は、今年は社外の人に対してオンラインセミナーでお話しする機会が多い年でした。そのため、オンラインの最初の1分で引きつけるコツを前より身に付けたと思いますし、画面越しにファシリテーションする能力も上がったように感じます。来年は、これをさらに進化させて、定期的な動画配信にチャレンジしようと考えています。見た目も大事なので、ジョギングも始めようと思います。そう考えると、来年が楽しみで仕方ありません! 皆さんもぜひ、考えてみてください。

以上(2021年12月)

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画像:Mariko Mitsuda