データ分析に役立つ! 正規分布をマスターしよう

書いてあること

  • 主な読者:データの分析に正規分布を利用したい経営者
  • 課題:用語が難しく、具体的な使い方が分からない
  • 解決策:平均や最頻値、分散と標準偏差など、正規分布を理解するのに前提となる知識を把握した上で、身近なことを事例に挙げて具体的な使い方を覚えていく

1 3分の2の顧客の目線に合う価格帯と、品ぞろえの割合は?

突然ですが、質問です。あなたは紳士服店を運営しており、図表1の過去の売り上げデータに基づいて、紳士服の価格帯ごとの品ぞろえを見直そうと思っています。紳士服の購入を考えている顧客のうち、3分の2の人の目線に合う価格帯で品ぞろえをするには、どうすればよいでしょうか? また、それぞれの価格帯ごとの紳士服の品ぞろえの割合は、どのように配分すればよいでしょうか?

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この答えを推測するときに活用できるのが正規分布です。正規分布は統計学における確率分布の一つで、

平均値に該当するものの数が最も多く、平均から外れる度合いに応じて、一定の割合で該当するものの数が減っていく

ことを前提としたモデルです。このため、正規分布をグラフにすると、中心が高く盛り上がって、両端に行くほど緩やかに低くなっていく、左右対称で釣り鐘のような形になります。

この記事では、データ分析の際に正規分布を活用できるようになるために、正規分布の前提となる「分散」と「標準偏差」の考え方を含めて解説します。なお、冒頭の質問の答えは、この記事を読んでいくうちに分かるようになっています。正規分布は統計学では基本的な分野であり、考え方を押さえておくと、日ごろのビジネスシーンでも活用できます。ぜひ参考にしてみてください。

2 平均と最頻値

「平均」はデータを全て足した合計値を、そのデータ数で割った値になります。また、最頻値とは、そのデータの中で最も頻繁に出現する値になります。

図表1の紳士服の平均販売単価は、次の式で算出することができます。

19,800(円)×40(着)+29,800(円)×90(着)+39,800×50(着)+
49,800(円)×20(着)/200(着)=32,300(円)

販売数量は合計200着、販売金額は合計646万円です。紳士服1着当たりの平均販売単価は3万2300円となります。また、4つの価格帯で最もよく売れているのは2万9800円の90着です。この場合、販売数量の最も多い2万9800円が最頻値となります。

しかしながら、3分の2の顧客の目線に合う価格帯で販売するには、この4つの価格帯でよいのでしょうか? それを推測するのに役立つのが、「分散」と「標準偏差」です。

3 分散と標準偏差

データのばらつきを表す尺度として、分散と標準偏差があります。聞き慣れない言葉かもしれませんが、試験でおなじみの「偏差値」で説明すると身近に感じられるでしょう。

例えば、100人が受けたある試験の得点と偏差値の一覧を表すと次の通りになります。

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偏差値は「高い、低い」といった具合に使われます。偏差値はその試験を受けた人の中で、自分がどのくらいの位置にいるかを知るのに便利です。ここでは偏差値を利用してデータのばらつきについて、また、データのばらつきを表す標準偏差について説明します。

偏差値は受験者の中での位置を示します。偏差値50が受験者全体の中心で、平均点が偏差値50になります。平均点に対して得点が高いか低いかで、偏差値が50超か以下かに分かれます。

偏差値は次の式で算出することができます。

偏差値=(得点-平均点)/標準偏差×10+50

標準偏差は統計値のばらつきを表す数値で、標準偏差を2乗したものを分散といい、同様に統計値のばらつきを表します。分散と標準偏差は次の式で算出することができます。

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例えば、最高点98点と平均点(56.82点)の差は41.18点(98点-56.82点)です。この41.18点を標準偏差(17.63)で割ると2.34となります。2.34に10を乗じて50を加えると偏差値73.4を算出することができます。

偏差値は、得点が平均点からどれだけ離れているかの標準偏差を尺度として測り、分かりやすくするために平均を50、1標準偏差を10として算出しています。

98点は平均点から標準偏差2.34個分離れていることを表しています。つまり、偏差値73.4(23.4+50)と表示しています。偏差値10ポイントは標準偏差1個分に相当します。逆算すれば、偏差値73.4は平均である50から23.4個分離れたところに位置しており、これは10の2.34個分(23.4/10)に相当します。

図表2【試験の得点と偏差値の一覧】の試験の得点の分布は次の通りです。

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得点の分布は50~59点が最も多く、得点が高く、または得点が低くなるほど、数は減っています。なお、試験の内容が簡単すぎる場合には平均点は上がり、逆に難しすぎる場合には平均点は下がります。また、得点の分布によって標準偏差は大きくもなれば小さくもなります。

標準偏差はデータのばらつきを表し、標準偏差が大きいほどデータのばらつきが大きく、標準偏差が小さいほどデータのばらつきが小さいことを示します。

4 正規分布を使って、3分の2の顧客の目線に合う紳士服の価格帯を算出する

さて、分散と標準偏差について説明しましたので、この記事の冒頭で質問した「3分の2の顧客の目線に合う紳士服の価格帯」を算出してみましょう。

正規分布の標準偏差で覚えておくべきルールとして、

平均値から標準偏差±1の範囲内に含まれるデータは全体の68.26%を占める
平均値から標準偏差±2の範囲内に含まれるデータは全体の95.44%を占める

ことを押さえておきましょう。これは正規分布表を説明する際に詳述します。

まず、図表1【1カ月当たりの紳士服の販売数量と販売金額】のデータを基に、販売価格の分散と標準偏差を算出します。

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標準偏差は8874円となりました。標準偏差の上下1の価格帯で3分の2の顧客が収まりますから、平均販売価格である3万2300円の上下8874円、つまり2万3426円から4万1174円の価格帯であれば、およそ3分の2の顧客の目線に合うことが推測できます。

従って、3分の2の顧客を意識するのであれば、1万9800円、3万9800円の紳士服は品ぞろえする必要がないということになります。代わりに2万3426円と4万1174円の紳士服を品ぞろえすることにします。

では、新たな4つの価格帯の紳士服は、何着ずつ品ぞろえすればよいのでしょうか? そのためには、正規分布表について理解する必要があります。

5 正規分布表

1)正規分布の基本

社会現象や自然現象の中に表れるばらつきの多くは釣り鐘形をした正規分布になる傾向があります。身近なものでは身体測定や健康診断のデータ(身長・体重・血圧・脈拍数など)は正規分布になります。

以降では、男性の身長を事例に挙げて解説していきます。17歳男性の平均身長が170.7センチメートル、標準偏差が5.73センチメートルであると仮定します。これを基に身長の分布図を示すと次の通りです。

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図表6では標準偏差を便宜上σ(シグマ)という記号で表しています。1σ=5.73センチメートルです。

正規分布では、平均から1σの範囲にデータの34.13%が分布し、同様に平均から2σの範囲に47.72%、平均から3σの範囲に49.87%が分布するとされています。詳しくは後述する正規分布表で確認することができます。

従って、170.7~176.43センチメートルの間には全体の34.13%が分布し、170.7~182.16センチメートルには47.72%が分布することになります。同様に164.97~170.7センチメートルには34.13%が分布し、159.24~170.7センチメートルには47.72%が分布することになります。

例えば、17歳男性が1000人いるとした場合、身長が182.16センチメートルを超える男性は25人(1000人×{100%-(50%+47.42%)}=25.8人)いると推測できます。

図表6の身長の分布図の平均を0とした場合の身長の分布図を示すと次の通りです。

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2)正規分布表の見方

例えば、身長が180センチメートルを超える17歳男性の割合はどの程度かを調べる場合、次のようにします。

(180センチメートル-平均身長)/標準偏差
=(180-170.7)/5.73=1.62

1.62σを超える男性の割合、図表8の黒い網掛け部分の割合が分かればよいのです。

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図表9は正規分布表です。表の利用方法について説明します。

まず、1.62σを1.6と0.02に分けます。表左側の網掛け部分の列0.0~2.0の中から1.6を探します。次に表上段の網掛け部分の行0.00~0.09の中から0.02を探します。そして、1.6と0.02が交差する部分が0.9474(網掛け部分)となっています。

これは、身長が180センチメートル以下の男性は、全体の94.74%を占めることを示しています。従って、身長が180センチメートルを超える男性の割合は5.26%(100%-94.74%)ということが分かります。

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図表9は平均を0としています。0.0と0.00の交差する部分は0.5000であり、平均値以下には50%が分布していることを意味しています。

3)正規分布表の応用

続いて、正規分布表の応用として、身長165~170センチメートルの男性の割合を推測してみましょう。

平均身長と標準偏差を使って、身長165センチメートルは平均身長(170.7センチメートル)から標準偏差(5.73センチメートル)の何個分離れているか、また、170センチメートルは平均身長(170.7センチメートル)から標準偏差(5.73センチメートル)の何個分離れているかを調べます。

平均身長から身長165センチメートルまでの標準偏差の数
=(165-170.7)/5.73=-0.99
平均身長から身長170センチメートルまでの標準偏差の数
=(170-170.7)/5.73=-0.12

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正規分布は平均を中心として左右対称なので、身長165~170センチメートルの男性の占める割合は、下表(正規分布表)の0.1と0.02の交差する0.5478、0.9と0.09の交差する0.8389を基に、次の通り推測することができます。

0.8389-0.5478=0.2911→29.11%

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6 正規分布表を使って、新たな価格帯の紳士服を何着ずつ品ぞろえすればよいかを算出する

それでは最後に、正規分布表を使って算出した新たな価格帯(2万3426円、2万9800円、3万9800円、4万1174円)の紳士服を、合計200着で換算すると何着ずつ品ぞろえすればよいのかを図表で示します。

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つまり、3分の2(標準偏差1)の顧客の目線に合わせて2万3426円、2万9800円、3万9800円、4万1174円の4つの価格帯の紳士服を販売する場合、正規分布表を基にした適正な品ぞろえは、合計200着で換算すると、それぞれ52着、70着、42着、36着ということになります。

以上(2021年10月)

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画像:Andrey Popov-Adobe Stock

テレワークの実施率と今後の在り方について

1 コロナ禍におけるテレワーク実施率の推移

先般、総務省が公表した「提言:ポストコロナの働き方「日本型テレワーク」の実現」関連資料によると、企業のテレワーク実施率は、2020年3月の17.6%(3月2日から8日)から、1回目の緊急事態宣言終了の頃には、56.4%(5月28日から6月9日)に上昇しました。

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しかし、緊急事態宣言解除後は低下し、11月には30.7%(11月9日から16日)まで低下しました。2回目の緊急事態宣言時には38.4%(2021年3月1日から8日)へ再上昇しましたが、1回目の緊急事態宣言の際の実施率とは水をあけられている状況です。

2 直近のテレワーク実施率

それでは、オリンピックを間近に控えた6月のテレワークの実施状況はどのようになっているでしょうか? 株式会社東京商工リサーチの直近の調査結果を見ると38.3%(6月1日から9日)となっており、3月調査とさほどの変化は見られませんでした。

もう少し、掘り下げて調査結果を見てみると、在宅勤務を「現在、実施している」企業のうち、「従業員の何割が在宅勤務を実施していますか?」の問いについては、最多は「1割」の25.6%(1,013社)、続いて「2割」14.05%(555社)、「10割」13.72%(542社)となっています。

政府は「出勤者数7割削減」を呼びかけていましたが、達成している企業は29.0%(1,149社)でした。規模別では、7割以上の削減は、大企業23.8%(1,051社中、251社)、中小企業は30.9%(2,898社中、898社)という結果となっています。

3 おわりに

前述の通り、昨年の緊急事態宣言の発令の際に、急速な広がりを見せたテレワークですが、それ以降のテレワーク実施率は、緊急事態宣言に多少反応しつつも、落ち着いた数値となっているようです。

パーソル総合研究所が本年7月30日から8月1日に行った「第五回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」によれば、テレワークを行っていない理由として、「会社がテレワークに消極的で、実施しにくい」という理由が10.3%を占めています。このことは、十分な準備を行わないまま、テレワークが導入された結果、テレワーク本来の良さやテレワークで出来るようになったことよりも、生産性の低下等の課題にフォーカスされてしまったからではないでしょうか。

しかしながらテレワークは、感染症対策の観点だけでなく、長時間労働の抑制やワークライフバランスなどの観点からも、働き方の選択肢として維持されることが望まれます。そして、近時の求職者も高い関心を示していることから、今後はテレワーク制度の有無も企業選びの際のポイントのひとつになるかもしれません。

コロナ禍はいずれ終わります。しかしながら、労働力の不足は長期的に企業の人材戦略に影響を及ぼすでしょう。出勤抑制が求められるからではなく、将来を見据えたテレワークの定着、改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。

※本内容は2021年9月2日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

強風・大雨時の運転(2021/10号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

今年も本格的な台風シーズンになりました。昨今は台風が大型化、強力化しているだけでなく、局所的な集中豪雨による被害も大きくなっています。

台風や集中豪雨などの気象予報については事前に情報収集し、強風・大雨が予想される地域、時間帯の運転は避けるようにしましょう。それでも運転せざるを得ない場合の注意点について以下にまとめてみました。強風・大雨時に運転する場合には、いつも以上に注意を払って運転しましょう。

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1.強風時の運転

■ 強い横風でハンドルを取られやすくなるので、十分に減速して慎重にハンドル操作を行いましょう。特に高速で走行しているときに注意が必要です。トンネル出口、切通し出口、橋の上や大型車の横を通過する時などは、あおられやすいので減速するなど注意しましょう。

■ 市街地を走行していると看板やトタン板などの飛来物があるかもしれません。被害を受けないよう、できるだけ幹線道路を走行しましょう。

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2.大雨時の運転

■ 大雨は視界を悪化させます。対向車の跳ね上げた水しぶきを浴びると一瞬視界を奪われ、周囲の危険を認知しづらくなります。ブレーキの効きも悪くなります。大雨時には十分に速度を落とし、車間距離を広めに取りましょう。また、周囲を走る車や歩行者等に自分の存在を知らせるためにも、昼間でもヘッドライトを点灯して走行しましょう。

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■ 高架下や地下トンネルなどの低い場所は冠水する恐れがあります。冠水した道路を進行すると、エンジンが故障して動けなくなる可能性があります。周囲の地面より低くなっているような場所の通行はできるだけ避けましょう。

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■ 土砂災害や高波、河川の氾濫に巻き込まれないよう注意が必要です。山沿いや海岸・河川の近くを走るのは危険です。できるだけ避けた経路を選択して下さい。

【参考】気象庁では、大雨による「土砂災害」「浸水害」「洪水災害」の危険度分布をリアルタイムで公開しており、以下の政府広報オンラインサイト※が参考になります。

※ 2021年6月2日 この雨、大丈夫? 迫る災害を一目で確認!危険度分布「キキクル」
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202008/1.html

3.台風通過後の運転

■ 強風による飛散物・落下物が道路に散乱していることが想定されます。早めの出発、慎重な運転を心がけましょう。

■ 排水の悪い箇所では冠水状態が続いている場合もあります。冠水場所の通行には注意しましょう。

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以上(2021年10月)

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画像:amanaimages

【従業員が交通事故!】責任割合はどうなる? ②一時停止のある交差点

書いてあること

  • 主な読者:社有車の事故防止に力を入れたい経営者や運行管理責任者ならびに運転者
  • 課題:交通事故の基本的な責任割合や未然防止策を知りたい
  • 解決策:過去の裁判例に基づく基本的な責任割合と場所や状況に応じた事故防止策を理解する

1 事故事例と状況を把握します。

今回の事故状況はこちらです。A(自社の青い車)が、交差点でB(相手方の赤い車)と接触してしまいました。Aの進行方向に、一時停止の標識があったそうです。

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【A車:自社車両 B車:相手方車両】

前回の交差点での確認ポイントをおさらいしてみましょう。

①信号の有無
②双方の道路幅
③交通規制の有無
④センターラインの有無
⑤双方の速度

また、最近ではドライブレコーダーを搭載した車両も多くなってきました。ドライブレコーダーの映像は責任割合を決定するうえで非常に有効ですが、機種によっては時間経過するとデータが自動消去されるものや、走行すると上書きされてしまうものもありますので、事故を録画したデータの保全も重要です。

2 今回の事故事例の基本的な責任割合を見てみましょう。

1)責任割合の決まり方は?

双方に責任が生じる事故の場合、主に加入している保険会社の担当者が窓口となり、類似した過去の裁判例をもとに、実際の事故状況に応じて双方の責任割合に修正を加えながら決定していきます。

2)今回の責任割合は?

過去の裁判例より、A(自社の青い車)80%:B(相手方の赤い車)20% が基本の責任割合となります。

今回はどちらの道路も同じ幅でセンターラインが無く、双方同程度のスピードで接触した場合の基本の割合です。

道路交通法では、一時停止の規制がある場合、車両等には停止線の直前での一時停止義務が定められています。また、交差する道路を走行する車両等の進行を妨げてはいけない(道路交通法43条)とも定められています。

一方、相手方にも、交差点を通行する車両に対する注意義務(道路交通法42条1項)があるため、20%の責任が発生します。

※実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容とは異なる結果になる場合もあります。

3 今回の事故事例を未然に防ぐポイントとは。

一時停止の規制標識や停止線が、交差点より少し手前に設定されていることが多いのには理由があります。建物やブロック塀などで見通しの悪い場所から突然、歩行者や自転車が進行してくる可能性もあるため、少し手前で停止しないと接触してしまう危険があります。

  • まずは、一時停止の標識や停止線で必ず停止
  • 次に、左右の安全が確認できる地点まで、減速しつつ慎重に進む(カーブミラーも活用)

車の運転は一人で行う業務のため、運転者本人が「事故を絶対に起こさない。」という意識を強くもち、事故を起こさない運転行動を自主的に行うことが重要です。

また、管理者は運転者に対し、組織的なサポート・指導・管理を行う必要があります。

例えば、ある運送会社では、事故に繋がりやすい性格や心理状態を診断する無料のサービスを運転者全員が受検し、心の穏やかさや慎重さなどの各運転者の診断結果を踏まえたきめ細やかな指導を行っています。

その他、ドライブレコーダーを活用した安全運転指導や教育サービス、無料の安全運転セミナーを提供している機関もありますので、それらを利用して自動車事故防止活動をしていくのも良いでしょう。

以上(2021年10月)

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本記事で紹介している責任割合は、過去の裁判例を参考にした基本的な割合です。実際は、それぞれの事故状況に応じて個別に決定されます。そのため、記載の内容と異なる結果になる場合もあります。

【朝礼】思ったことをそのまま口に出してはいけません

「伝え方」に関する書籍がベストセラーになるなど、ビジネスでは「自分の考えを相手に正確に伝えるスキル」が重要視されます。特にある程度の役職で影響力が大きかったり、法人対法人で取引する際の窓口担当者になったりした場合、伝える力は一層大事になります。

例えば、この会社で最も影響力が大きい私が相手に対する伝え方を間違えると、それだけで取引が終わってしまう恐れがあります。一方、窓口担当者の場合は、伝え方を間違えたくらいではいきなり取引がなくなることはないかもしれません。しかし、相手の社内における当社の評判は、確実に悪くなります。この恐ろしさが分かるでしょうか。相手にとって「当社が大切ではない」ということになれば、何かの対応は他よりも後送りにされますし、いざというときに本気で助けてくれません。

先日、社長仲間で話をしていたとき、その中の1人の社長の会社に届いたメールが話題になりました。そのメールには、「取引を終わらせようとしているのか?」と思えるような、辛辣な内容が書かれていました。しかし最後に、「怒りにまかせて、失礼なことを言ってしまいました」と謝罪をしています。相手としては、この最後の謝罪で、それまでの内容をご破算にできると思ったのかもしれませんが、甘い話です。法人対法人の継続取引で、一方的に売ったけんかを、たった1行の謝罪で勝手に終わらせることなどできません。

それでもその社長は、相手がそこまで立腹しているのだからと自分たちの落ち度を反省し、すぐに今後の対策などをまとめて、相手の意見や要望を確認するメールを返信したそうです。しかし、それには何の返事もなく、相手はこれまで通りに取引を続けています。恐らく、一時の怒りの感情をメールで送って、すっきりしたのでしょう。

さて、この話をしていた場には、その社長と私の他にも、同業界の社長が数名いました。つまり、その怒りのメールを送ってきた相手の会社のことは、私たちの中ですっかり共有されました。それどころか、今、私が皆さんにお話ししているのと同じように、他の社長も、自社の社員や別の社長に話しているはずです。

今どきは、ネットの世界におけるネガティブ情報の拡散が問題になりがちですが、今回のようなリアルの世界では、情報は当事者の感情が込められて伝わります。ひとたび悪評が立てば、もはや“火消し”をすることはできないかもしれません。

「伝え方」に関する書籍では、シーン、話す順番、言葉の選択などが多く紹介されています。しかし、テクニックを意識するよりも大切なのは、「思ったことをそのまま口にしたり、メールで送ったりしない」ことです。特にネガティブな話をするときは、必ず一呼吸おいて、自分がこれから口にしようとしている内容を吟味してから、判断してください。当たり前ですが、これはビジネスでとても大切なことなのです。

以上(2021年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

パートナーシップによる価値創造/経済性と社会性を両立させる中小企業のSDGs(3)

書いてあること

  • 主な読者:SDGsに本格的に取り組みたいけれど、企業としての損得勘定も気になる経営者
  • 課題:経済性と社会性を両立させるSDGsの取り組み方を知る
  • 解決策:SDGsのポイントはパートナーシップにある。自社の取り組みに自己満足せず、課題解決のためのつながりを広げていく

1 「自己満足」に陥らないSDGsを目指す

前回は、SDGsで経済的なメリットを享受するまでの「成果」と「出口戦略」を決める方法について、お話をさせていただきました。

企業が社会課題解決に取り組むときに陥りがちなのが、「自己満足」です。

設定した成果は、誰が幸せになっているのでしょうか? 誰が褒めてくれるのでしょうか? 出口戦略では、その「誰」を事前にしっかり決めておくことだとお伝えしました。最終回となる今回は、この、

自社のSDGsによって幸せになる人や、自社のSDGsを褒めてくれる人が「誰」なのかを深めることが、自社のSDGsの価値を高め、そして新たなイノベーションを生む

ことをお話ししたいと思います。

2 自社だけで取り組むSDGsは「真のSDGs」ではない

SDGsのゴール17に、「パートナーシップで目標を達成しよう」というゴールがあります。その他の16の政策的なゴールに比べると、ちょっと忘れがちですが、一般社団法人SDGsマネジメント(以下「SDM」)では、SDGsの中で最も重要なゴールであると位置付けています。

そもそも国連がSDGsを定める際に、なぜゴール17を設定したのでしょうか? それは、SDGsのゴール1~16を達成するためには、世界中の国の政府、国民、技術者、地域、企業といった、ありとあらゆる人たちが結束してSDGsに取り組むことが必要だからです。つまり、誰かがやってくれるのを待つだけでは達成されないし、主体的に取り組むにしても自分一人では達成できないのがSDGsなのです。

「自社だけでSDGsをやっている」と語る企業は、本質的にやり方を間違っている

のです。

では、どのようにパートナーシップを構築したらよいのでしょうか? SDMは、団体フィロソフィーに、「社会課題に対して、あらゆるパートナーと連携し、ビジネスという手法を通じて、新しい価値を生み出し解決をする」と定義しています。

変化が激しく、社会課題も複雑な現代において、中小企業が単体の機動力で対応することは、人的資源、経済的資源の観点から考えても困難です。だからこそ、SDGsのゴール17を活用し、それぞれの機関や立場の人の強みを活かした「オールスターチーム」を組むほうが、柔軟性と創造性が増すと考えております。

3 産官学の「オールスターチーム」を組む方法

では、具体的にはどのようにオールスターチームを組めばよいのでしょうか?

SDMでは、産官学モデルを推奨しています。もちろん、皆さんの会社は「産」の立場でパートナーシップを作っていくことになります。

ここでポイントなのは、

自社だけがもうかるための、上下関係のパートナーシップは作らない

ということです。

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1)社会課題だけを抽出した団体を立ち上げれば、「産」同士が連携できる

パートナーシップの中心となるのは企業の利益ではなく、社会課題解決です。そこでSDMでは、社会課題解決のための団体を立ち上げることをお勧めしています。

前回も触れましたが、SDMの共同代表である西岡徹人さんが経営するSUNSHOW GROUP(以下「SG」)の事例を紹介しましょう。SGでは、SDGsゴール5:「ジェンダー平等を実現しよう」のために、女性活躍や働き方改革を推進する団体として一般社団法人WOMAN EMPOWERMENT PLATFORM(WEP)を立ち上げ、女性社員が理事長を務められています。

確かにSGのSDGsゴール5に対する取り組みは先進的ですが、1社だけでは本質的な解決はできません。とはいえ、企業体であるSGの活動に、SGとは利害関係のない他の企業が関わるというのも難しい話です。

そこで、社会課題だけを企業体から抽出することで、利害関係のない他の企業もSGの取り組みに賛同しやすい仕掛けを作っているのです。

2)「産」同士が連携すると「学」と連携しやすくなる

社会課題解決のための団体の立ち上げは、「産」のパートナーシップだけに効果を発揮するものではありません。

次にパートナーシップを作るのは、大学や研究機関などの専門家・研究者といった「学」です。SDGsに関わる研究を進めている専門家は、多くの企業事例を求めていますので、本来、「産」と「学」はもっと積極的に交流すべきです。

なぜ中小企業と「学」との連携が進まないかというと、中小企業は自社の事例だけしか提供できないため、研究対象になりにくいからです。その課題を解決するのが、前述した社会課題解決のための団体です。「産」で集めた社会課題解決の企業事例を「学」に提供することで、社会課題解決の企業事例が、専門家の研究のための「エビデンス(数値的な根拠)化」するのです。

3)「産」「学」連携は「官」にとっても好都合

実は、企業事例が研究のためのエビデンス化するというのは、「官」である政府や行政にとっても好都合なのです。政府や行政の官僚にとって一番重要なのは、自分たちの政策の成果が出ることです。そのため、政策を立案するに当たっては十分な事例を検討する必要がありますが、政府などは中小企業との強いネットワークがあるわけではありません。

社会課題解決のための団体である「産」の私たちの事例が、「学」によってエビデンス化され、「官」に情報提供される仕組みができれば、より大きな社会課題解決のパートナーシップが構成されるようになるのです。

4)オールスターチームのラインアップ表を作成

SDMでは、この産官学モデルのパートナーシップを構築することを大前提として、オールスターチームのラインアップ表を作るようにしています。「産」で共に社会課題解決に協力してくれる企業は誰か? 「学」でその社会課題に対して研究をしている専門家は誰か? 「官」では、政府や地方自治体で、この社会課題に取り組んでいる担当部署はどこか? またその政策作りを担当しているのは誰か? などを調べ上げるようにしています。

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ラインアップ表ができたら、ラインアップした機関や人を巻き込む仕掛け作りをします。仕掛けは、例えば次のようなものがあります。

  • 企業と専門家による社会課題検討をするためのワーキンググループなどを主催する
  • 自社などの企業事例を専門家に研究材料として提供する
  • 専門家の最新研究を自社に取り込み、自社で社会実験を実装してみる

中小企業のSDGsにおいて、最大の課題は情報とネットワークであると考えています。産官学モデルを参考にしていただき、パートナーシップの考え方の視座を上げていただけると、今までにない価値創造ができると思います。

4 まとめ

経済性と社会性を両立していく取り組みについて、中小企業だからこそできるSDGsをイメージすることはできましたでしょうか? ポイントになるのは、社会課題と政策への感度を高め、成果と出口戦略を設定し、そして自社だけでない幅広いパートナーシップを構築することです。

最後に、SDGsの思考フローを整理してみます。

1.経営者の想い、事業計画を深める

経営者の事業への想いを社会課題とマッチングさせながら深めていきます。また既存の事業計画においても、問題意識を共有できるようにします。

2.行政の掲げる政策を読み込む

「経済財政運営と改革の基本方針(=骨太の方針)」や、自社の商圏の総合計画・マスタープラン・政策集を読み込みます。それによって、日本や商圏の現状と未来と課題を捉えることができるとともに、自社の事業にマッチングする行政セクションを探すことが可能になります。

3.成果を決める

自社が具体的にどんな社会課題=指標に対して、明確な変化を起こすのか? を決めます。そのときには、経営者の想いと総合計画・政策集との整合性を考え、対外から見た視点でも、分かりやすい成果設定をします。この場合の成果設定は、政策の実施計画に合わせて、長期的な指標と1年で達成できる短期的な指標を作ることが望ましいです。長期指標だけだと具体性が乏しくなり、また短期指標だけだと目線が下がってしまって、目的を見失う可能性があります。

4.誰とやるのかを決める

成果が決まったら、共に運動をしてくれそうなパートナーを探します(図表1の産官学モデルをご参照ください)。政策から導く場合には、政策を担当している省庁や市町村の担当課にアプローチをします。その際、公的機関は一企業だけの利益になるような情報提供はしないため、ビジネスという目線だけではなかなか話を聞いてもらえないケースがあります。その場合には、社会課題解決に特化した一般社団法人の設立なども視野に入れた上で、パートナーシップ構築をすることをお勧めします。

5.運動を決める

成果を残すための具体的な運動(推進事業または提言事業)を決めます。お勧めは行政の政策と連動した推進事業です。それを展開する中で、政策の弱点も見えるようになりますので、提言事業につなげるとよいでしょう。

6.出口を決める

一生懸命に取り組んだ運動の成果について、誰に自社を評価してほしいのかを明確にストーリーにします。「この社会課題解決を通じて誰かからの評価が高まる」→「自社の評価が高まり、経済的な利益を得る」→「経済的な利益を得られるので、さらに社会課題解決に取り組む」という連鎖を起こし、結果的にビジネスに好影響を与えるという解釈(すなわち「事業のローカライズ」)をします。

ここまでできたら、あとはやり切るだけです。途中で多くの問題に突き当たるとは思いますが、ぜひそのプロセスを記録しておいてください。記録を広く公開することで、他社の参考になるだけでなく、自社の知名度や評価を高めることにもつながります。

記録する媒体は、一般社団法人サステナブルトランジションが提供する「Platform Clover」がお勧めです。自社のSDGsの取り組みについて、アクティビティの発信、プロジェクトの管理・評価が体系的に行えるオンラインプラットフォームです。

■Platform Clover■
https://platform-clover.net/

SDGsはゴールを宣言するだけでは意味がありません。ゴールに向かって経済性と社会性の両立をマネジメントすることで、まさに社会課題解決の取り組み自体を持続可能な形で発展させていくことが、これからのSDGsには求められています。

以上(2021年10月)

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画像:Sakosshu Taro-Adobe Stock

【朝礼】批判を受け止める勇気、受け止めた上で前に進む勇気

おはようございます。突然ですが、クイズを出します。今から約120年前に創設された、世界初の受賞者の国籍を問わない賞といえば何でしょう? 答えは「ノーベル賞」です。ノーベル賞は、発明家アルフレッド・ノーベル氏の「人類に最大の利益を与えた人々に賞を授けるため、自分の遺産を使ってほしい」という遺言に基づき、1901年に第1回授賞が行われました。現在は物理学、化学、医学生理学、文学、平和、経済学の6分野において、世界最大級の貢献をした人々に賞が贈られています。今日はノーベル賞がどうやって生まれたのかを、ノーベル氏の生涯と共に紹介します。

ノーベル氏は1833年、スウェーデンのストックホルムに生まれました。後の自分と同じく発明家だった父の影響もあって、幼い頃から化学に興味を持っていたノーベル氏は、あるとき知人から爆薬の一種であるニトログリセリンを紹介されます。当時のニトログリセリンは、爆発しやすく扱いが難しいとされていましたが、彼はその爆発を制御し、建設工事などの平和利用に役立てようと研究に没頭します。こうして発明されたのが、皆さんもご存じの、ダイナマイトです。

ノーベル氏は、この発明により莫大な財産を築きますが、後にそのダイナマイトが戦争に利用され、自身にも「死の商人」のレッテルが貼られていることを知ります。人類を豊かにするための発明が、全く逆の受け取り方をされていたことに、ノーベル氏はショックを受けます。

やがてノーベル氏は、自分の発明について彼なりの結論を出します。彼は、「この世の中で悪用されないものはない」と、ダイナマイトに人命を奪う負の側面があることを認め、その上で自身の発明が正しく使われることを願って、平和のための運動に積極的に参加するようになります。一方で、人類のための発明がうがった見方をされることなく正当に評価されるシステムをつくりたいとも考えるようになります。こうした発明への思いから誕生したのが、ノーベル賞というわけです。

私がノーベル氏をすごいと思うのは、批判の声に真っ向から向き合い、一方で、その声に押し潰されず、発明への思いを生涯大事に持ち続けた点です。彼が批判の声を「関係ない」と無視していたとしても、逆に「自分は死の商人だ、悪だ」と絶望して発明家をやめてしまっていたとしても、恐らくノーベル賞は生まれなかったでしょう。

私たちのビジネスでも、サービスや商品の内容、コミュニケーションなどについて、自分の意図とは裏腹に、相手から厳しい言葉を浴びることがあります。そんなときはぜひとも深呼吸して、「相手の言うことにも一理あるのではないか」と、批判に向き合ってみてください。そして、批判の声を受け止めつつ、それでも自分が貫きたい思いがあるなら、それを貫くことを簡単に諦めないでください。批判を受け止める勇気、受け止めた上で前に進む勇気、この2つが備わったとき、皆さんはさらに大きく成長できるはずです。

以上(2021年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

「地道さ」は才能を超える/ ローマ史から学ぶガバナンス(7)

書いてあること

  • 主な読者:現在・将来の自社のビジネスガバナンスを考えるためのヒントがほしい経営者
  • 課題:変化が激しい時代であり、既存のガバナンス論を学ぶだけでは、不十分
  • 解決策:古代ローマ史を時系列で追い、その長い歴史との対話を通じて、現代に生かせるヒントを学ぶ

1 地道さの重要性

最先端の技術を駆使した画期的なビジネスモデルをひっさげて、短期間で好業績を上げる企業。その姿を見ているだけでワクワクします。しかしながら、そういう企業の中には、すぐに業績が下降していき、あっという間に消えてしまうところも少なくありません。

これとは対照的に、事業内容に派手さがなく、メディアなどで取り上げられることがない企業でも、創業から100年を超え、今も好業績を続けている優れた老舗が数多くあります。こうした企業は、時代に合った業態にしなやかに変化し続けています。

いずれにしても、真に強い企業は地道に本業の基礎を磨き続け、同時に組織を鍛え上げています。レバレッジを効かせたビジネスやサービス化によるストック型のビジネスを展開する企業も、突如として現れるのではなく、地道に差別化要素を磨き続けた上で、その差別化要素を生かして築き上げたものがほとんどで、それを守り続けるためにまた更なる地道な努力を継続しています。こうした部分こそ評価し、大事にしなければなりません。

歴史を眺めても、同じようなことがいえそうです。長い年月の経緯を現在に伝えるためには致し方ないことですが、教科書では、象徴的な出来事やそれを担った変革者など、派手で目立つ事象や人物のみを取り上げ、かいつまんで説明されるにとどまります。

その裏側にある地道な取り組みなどは取り上げられないのですから、ご本人からは、納得がいかない、自分はもっと評価されるべきだ、という声が聞こえてきそうです。私は、ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスも、そんな歴史上の人物の一人ではないか、と思います。

2 後世のアウグストゥスの扱い

ローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの歴史的な意義や価値は、アレクサンドロスやユリウス・カエサルにも匹敵するほどといえますが、アウグストゥスについての書籍は意外なほど少ないというのが実情です。

映画もほとんどがカエサル、クレオパトラ、アントニウスが中心で、アウグストゥスは端役として登場する程度です。これだけの偉業を残しているのになぜなのかとも思うのですが、彼の施政を眺めるとその理由が分かります。

簡単に言ってしまうと、あまりに地味で地道なので、物語や映画にする題材としては面白みに欠け、ふさわしくないのです。

19歳で執政官となり、35歳で皇帝という立場になるアウグストゥスは、一つ一つの施策をじっくりと進めていく時間がありました。ドラスティックな改革には激しい抵抗や反発を招くことがあることを理解していたアウグストゥスは、何事も段階的に時間をかけて進めていきました。

従って、後世の私たちから見ると、彼の改革の進め方には華やかさがありません。しかし、改革の内容は当時では画期的で驚嘆に値するものであり、76歳で亡くなる日まで地道に進めてきた多くの施策、改革、事業は、まさに偉業というべきものなのです。

次章では、組織論的な観点から、私なりに象徴的と思う事象をかいつまんでご紹介したいと思います。

3 組織と戦略

経営学者のアルフレッド・チャンドラーは、「組織は戦略に従う」という言葉を残しています。例えば、単一製品を大量に製造・販売して、規模の経済を追求する戦略をとる場合には、営業、開発、製造といった機能別組織を志向します。製品や地域を多角化し、範囲の経済を追求する戦略をとる場合には、複数の事業が分権的に意思決定する事業部別組織を志向します。

このように、戦略によって築くべき組織は違うわけですが、一方で、チャンドラーは、組織は戦略のみに従うものではなく、また組織が戦略に影響を与えることがあることも指摘しています。

競合企業に対する対応など、外部環境の変化によって組織形態が変わった場合などは、とるべき戦略も変わっていくというのです。つまり、組織と戦略は、互いに深く関連し合い、影響を受け合う関係にあると説いているのです。

アウグストゥスの施政を見ていくに当たっては、この組織と戦略の関係性という視点が重要になります。カエサルの基本方針が「寛容」であったのに対し、アウグストゥスの基本方針は、自らの安定的かつ長期的な施政を含意する「平和」でした。

これは、アウグストゥスの、あるいはローマ国家の新たな戦略であり、この戦略と、組織体制とがその時々の情勢によって影響し合う様が見てとれます。例えば、軍の再編成は、その代表的な例といえるでしょう。

内戦終結後の軍事力は50万を超えるほどでしたが、アウグストゥスはこれを16万8000にまで削減します。これは文章にしてしまうと、それほど難しいことのようには思えないかもしれませんが、ただ除隊させるというわけではなく、次の職や退職金も用意しなければなりませんし、植民都市に行かせるならば、国家戦略として、どこにどの規模で入植させるのかといったことも決めなければなりません。兵士たちの不満が生まれるようであれば、それは政情不安に直結しますから、慎重に事を進めなければなりません。

こうした組織改革は、軍事のみならず、元老院の他、税制、通貨、食糧、安全保障などの改革と併せて、それらに関わる行政機関にも及びました。領土拡張の時代から領土維持の時代に入り、周辺国との防衛線を維持することが重要になったという点でいえば、周辺国という外部環境の変化によって組織と戦略を見直すことも繰り返し行われました。時間をかけ、慎重に、そして地道に、様々な組織改革が進められていったのです。

4 自身の身の回りの組織

こうした幅広い戦略的かつ組織的な対応は、アウグストゥス一人の手でなされたわけではありません。アウグストゥスは、国家組織を見極めるのと同様に、自分の足りない部分や不安な部分を冷静に分析し、信頼できる人材によって補強することを怠りませんでした。世の中で名が知られている経営者や企業家の中には、一見、万能に見える人物もいますが、必ずといっていいほど「右腕」と呼ばれる人材を備えています。

アウグストゥスに欠けている軍事面を補うために、カエサルが見いだしたアグリッパは、アウグストゥスの右腕と称すべき人物でしょう。アグリッパはアウグストゥスと同い年で、17歳から51歳で亡くなるまで、アウグストゥスとともに歩みました。

軍事面では、期待どおり、優れた戦略と指揮で数々の勝利をもたらしました。その後は、防衛戦略網の構築、公共施設の建築等を担っただけでなく、アウグストゥスの血脈を守るために離婚までして彼の娘を妻に迎え入れ、5人の子供を残しました。公私にわたってアウグストゥスを補佐したアグリッパは、アウグストゥスにとって特別な存在だといえます。

アグリッパが右腕ならば、左腕はマエケナスです。マエケナスはアウグストゥスの1、2歳年上で、20代前半のときに2人は出会いました。教養豊かで状況把握に優れていたマエケナスは、アウグストゥスの相談役であるとともに、外交交渉、宣伝広報、文化助成を担いました。

ちなみに、芸術・文化支援を意味するメセナの語源は、マエケナスの名が由来といわれています。アウグストゥスは、休養と称してたびたびマエケナス邸で過ごしたといいますから、心を許せる相手だったのでしょう。マエケナスもまた62歳で亡くなるまでアウグストゥスのそばにいました。

こうした右腕、左腕を備え、自身の身の回りを固める組織を作り、施政に邁進した点こそ、アウグストゥスがたたえられるべきところだろうと思います。また、このような組織を備えたからこそ、数々の偉業を成し遂げられたのです。

5 ローマ国家の組織風土

組織には、機能的な側面もありますが、やはり風土や文化としての側面があります。企業が抱える課題や問題は様々ですが、そのほとんどは、組織風土に起因するともいわれています。これは言い過ぎのように思われるかもしれませんが、課題や問題の原因を突き詰めていけば、ほぼ必ず組織風土にたどり着きます。

企業の組織風土は、企業組織の構成員によって育まれますが、多くの組織体が権限上、役割上の階層構造を持つ以上、上位者たる経営層が示す制度やルールが組織風土を育む土壌となっていることは否めません。制度やルールは、ともすると小手先の手段となりますが、上位者の基本的な思いや魂が反映された土壌にもなり、それをもとに組織風土が構成員によって育まれるのです。

歴代ローマ皇帝の中で最長の在位40年を誇ったアウグストゥスは、しっかりと時間をかけて新たな制度や規制を導入していきました。少子化問題と倫理問題を解決すべく「ユリウス姦通罪・婚外交渉罪法」「ユリウス正式婚姻法」を成立させ、健全な国家の礎を成す健全な家庭人を法によって定めました。

また、先ほど触れた軍備の削減を進める一方で、防衛力の維持・強化を目的に、常備軍の設置、兵士の退職金制度の導入、ローマ市民からなる軍団兵と非ローマ市民からなる補助兵の制度化等を図りました。

これらはいずれも、ローマ市民が強さと自覚を持ち、ローマ市民が帝国の中核となって平和を築いていくという思いと魂が色濃く表れており、紆余曲折がありながらもじっくりと作られた土壌といえるでしょう。そしてこの土壌の上で200年以上続く「パクス・ロマーナ(ローマの平和)」という風土がローマの人々によって育まれていきました。

歴史上、アウグストゥスは、才能において、カエサルに劣ると評されています。しかし、カエサルがたどり着くことができなかった世界に到達したのは、地道に戦略と組織に向き合い、施政に努めたアウグストゥスでした。こうしたことからも、アウグストゥスはもっと注目されるべきですし、私たちも彼から学ぶべき点が多くあるように思うのです。

以上(2021年10月)
(執筆 辻大志)

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画像:unsplash

【カンタン経済講座】2022年1月の発効目指す「RCEP」 中韓との連携で日本企業に大きな効果

書いてあること

  • 主な読者:ヒト・モノ・カネに関して直接的、間接的に海外と関係している企業の経営者
  • 課題:海外との取引における自由化および円滑化に関する政策の方向性を知りたい
  • 解決策:中国、韓国が参加するRCEPが2022年1月に発効した場合の効果を確認する

1 2022年1月にも発効するRCEP ポイントになる3つの意義

2021年9月、日本、中国、韓国、ASEAN(東南アジア諸国連合)の経済担当相による共同声明で、

地域的な包括的経済連携(以下「RCEP」)協定について、2022年1月初旬までの発効を目指す

ことが発表されました。既に参加する15カ国(日本、中国、韓国、ASEAN10カ国、豪州、ニュージーランド(以下「NZ」))による署名を2020年11月に終えており、あとは各国の国内手続きの完了を待つだけです。具体的には、RCEPはASEAN10カ国のうち6カ国以上、その他5カ国のうち3カ国以上が国内手続きを終えて批准書を寄託した60日後に発効します。2021年9月30日時点で既にシンガポール、中国、日本などが国内手続きを完了しています。

日本企業にとって、RCEPに関して意義の大きいポイントは、次の3点です。

  • 人口・GDPともに世界の約3割を占めるメガ経済圏が誕生
  • 日本が中国、韓国との間で結ぶ初めての経済連携協定
  • 当初は交渉に参加していたインドが2019年11月に離脱

この記事では、2021年9月30日時点で明らかになっている情報に基づいて、RCEPの発効が日本企業にとってどのような影響を受けることが想定されるのかを紹介します。

2 人口・GDPともに世界の約3割を占めるメガ経済圏が誕生

図表1のように、RCEPの参加15カ国を合わせた2020年の人口や名目GDPは、世界の約3割を占めます。仮にインドが復帰した場合、人口は36億人を超え、世界のおよそ半分を占める規模になります。

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3 日本が中国、韓国との間で結ぶ初めての経済連携協定

日本の企業にとってRCEPの最大の意義は、中国および韓国との間で初めて経済連携協定を結ぶということでしょう。

TPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)や日EU経済連携協定をはじめ、日本はさまざまな国との間で経済連携協定を結んでいます。ところが、隣国の中国および韓国とは、経済連携協定を結んでいませんでした。RCEP参加15カ国のうち、日本が経済連携協定を結んでいないのは中国と韓国だけです。

2012年11月に日中韓自由貿易協定に関する交渉開始が宣言されましたが、2019年11月の第16回の交渉会合まで交渉が続いています。RCEPは、3国間交渉に先んじる形で発効する可能性が高まっています。

なお、香港およびマカオは現時点ではRCEP協定の適用対象外となっています。

1)日本の輸出入総額の約3割が中国、韓国との貿易

隣国という地理的なメリットや、産業の補完関係にある部分も多いことから、日本は貿易面で中国、韓国の2カ国への依存度が高くなっています。

図表2からも分かるように、2020年の日本の相手国別の輸出入総額で見ると、中国は1位で世界の約24%を占めています。また、韓国も米国に次ぐ第3位で、この2カ国で日本の輸出入総額の約3割を占めています。

輸出入総額からも、RCEP協定の発効は日本にとって大きな影響があることが分かります。ちなみに、RCEPの参加15カ国を合計すると、日本の輸出入総額のほぼ半分を占めています。

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2)日中、日韓貿易の関税撤廃が進む

RCEPによって、中国や韓国と貿易する場合、無税となる品目の割合が大幅に増加します。特に工業製品の輸出に関しては、中国では発効前の8%から86%、韓国では19%から92%へと増えます。中国、韓国を合わせた2019年の貿易ベースでは、16兆円分の工業製品が無税になるといいます。

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財務省、経済産業省、農林水産省が2021年3月に公表した機械的試算によると、RCEPによって減少する関税の支払額は、発効した初年は工業製品が3054億円、農林水産品が33億円となります。段階的な関税の引き下げが全て終えた後は、工業製品が1兆1294億円、農林水産品が103億円に上ると試算しています。

4 当初は交渉に参加していたインドが2019年11月に離脱

交渉の開始当初は参加していたインドが離脱した影響は、どの程度大きいのでしょうか。

経済的な面では、日本は既に2011年にインドとの間で日本インド包括的経済連携協定(日インドCEPA)を結んでいます。このため、関税撤廃率などに関して大きなデメリットが生じることは想定されません。

インドの離脱は、経済的というよりも政治・外交的な影響が大きいとみられます。そもそもRCEPは、日本が提唱したASEANプラス6(日本、中国、韓国、インド、豪州、NZ)による「東アジア包括的経済連携(CEPEA)」と、中国が提唱したASEANプラス3(日本、中国、韓国)による「東アジア自由貿易圏(EAFTA)」の2つの構想を抱合する形で交渉が始まったという経緯があります。

RCEPにおける中国の強い影響力を、インドが加わることによって薄められるかどうかは、日本が提唱してきた「自由で開かれたインド太平洋」構想や、日本、米国、豪州、インドによる安全保障や経済について協議する枠組み「Quad(クアッド)」にも関連する、国際関係上の綱引きという側面が大きいといえそうです。

また、2027年にも中国の人口を超すと予測されるインドの加入によって、参加各国にとっては自国の成長に結びつけたいという思惑もあるとみられます。

こうした背景などから、2020年11月の署名の際に公表された「インドのRCEPへの参加に係る閣僚宣言」には、インドの復帰を促すための次のような内容が盛り込まれました。

  • インドはいつでもRCEPに加入できる(インド以外の国は発効から18カ月以降)
  • いつでもインドとの交渉を開始する
  • インドはRCEPの会合にオブザーバーとして参加できる
  • RCEP協定の下で参加国によって実施される経済協力活動に、インドは参加できる

以上(2021年10月)

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画像:pixabay

【カンタン経済講座】英国・中国・台湾の加入申請で「TPP11」は何が変わる?

書いてあること

  • 主な読者:ヒト・モノ・カネに関して直接的、間接的に海外と関係している企業の経営者
  • 課題:海外との取引における自由化および円滑化に関する政策の方向性を知りたい
  • 解決策:英国、中国、台湾が加入の申請を行ったTPP11の最新動向を押さえる

1 英・中の2大国などの加入申請が続くTPP11

2018年12月に発効したTPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定、CPTTP)が、2021年に生じた3つの出来事によって、新たなステージを迎えました。3つの出来事とは、

  • 6月、英国の加入交渉の開始が決定
  • 9月、中国が加入を申請
  • 9月、台湾が加入を申請

です。

米国の離脱で一時は頓挫しかけたTPP11(当時はTPP12)ですが、GDP(2020年)の世界2位(中国)と5位(英国)の経済大国、さらに台湾が相次ぎ加入申請をしたことで、世界的な枠組みに発展していく可能性が見えてきました。これにより、

  • 英国、中国、台湾が加入した場合、人口は20億人超、名目GDPは世界の約34.2%となる
  • 英国が加入した場合、単なる地域連携の枠を超えつつあるともいえる
  • GDPの面で日本中心だった体制が変わり、各国の思惑が入り乱れる

といった状況になります。

日本の中小企業にとって、TPP11の拡大は貿易や投資を行う上で大きなチャンスになり得ます。政府もTPP11の発効に合わせて、輸出促進や海外進出支援、国際競争力の強化などの政策を打ち出しています。海外との取引を行っている、もしくは行おうとしている中小企業の経営者にとって、TPP11の動向は人ごとでなく、最新の情報を押さえておくべきテーマの1つです。

この記事では、2021年9月24日時点で明らかになっているTPP11に関する新たな動きと、その影響などについて紹介します。

2 加入の意向を示す国・地域が相次ぐ

まず、発効前後からのTPP11をめぐる世界各国・地域の動きを確認しておきましょう。この他に、タイ、インドネシア、コロンビアなどが加入に関心を示しているとの報道もありました。

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3 TPP11が拡大するとどうなるのか?

TPP11の参加国を個別に見ると、先進国・中進国・新興国、第1次産業・第2次産業・第3次産業に強みを持つ国など多様な顔ぶれとなっており、相互補完が期待できる関係にあるといえます。

別の見方をすると、11カ国の名目GDPの合計の約半分を日本が占めており、米国の離脱後は日本が主導することで発効までこぎ着けた経緯もあって、「日本を中心とする、環太平洋の経済的な連携の枠組み」という位置付けが否めませんでした。そこに英国や中国が加入した場合、顔ぶれがさらに多彩になるとともに、日本を中心とした枠組みから一歩前に踏み出すことになるといえるでしょう。

ここでは、TPP11が拡大すると、何が変わるかを紹介します。

1)英中台が加入すると世界の3分の1超のGDPを占める巨大経済圏に

TPP11は、モノやサービスの貿易・投資の自由化および円滑化を進めるとともに、幅広い分野で新たなルールを構築することを目的としています。他の経済連携協定と同様、日本にとっては海外の成長市場を取り込むことが期待できます。

図表2のように、TPP11の参加国を合わせた2020年の人口は5億人を超え、名目GDPは世界の約12.8%を占めています。仮に英国、中国、台湾が加入した場合、人口は20億人超、名目GDPは世界の約34.2%を占めることになります。

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2)アジア太平洋地域の枠を超えた広域連携に

ASEAN(東南アジア諸国連合)やRCEP(地域的な包括的経済連携)は地域内の経済連携であり、地域外の国々と線引きをすることでのメリットを重視しています。TPP11も元来はアジア太平洋地域内の経済連携としてスタートしましたが、英国の加入申請により、単なる地域連携の枠を超えつつあるともいえるでしょう。

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3)多国間の“自由で公正な21世紀型のルール”の定着へ前進

そもそもTPP11は、単なる地域内の経済連携だけを目的とするのではなく、「自由で公正な21世紀型のルール」作りを掲げたものでした。協定は30章からなり、モノやサービスの貿易や電子商取引に関する項目をはじめ、投資、ビジネスに関するヒトの移動、競争政策や規制、知的財産など多国間のルールを多岐にわたって取り決めています。

このため、加入を申請している中国に関しては、当面はTPP11のルールに対応するのは困難との見方もあるようです。

例えば、最終的な関税撤廃率について、日本は95%、日本以外の10カ国は99~100%とするなど、既存の地域内経済連携よりレベルの高い内容にしているといったように、保護主義的な傾向に対抗する方向性を明確に打ち出しています。

また、地域内の経済連携と異なり、広く加入国を募っているのも特徴です。2018年3月の署名式では、次のような閣僚声明(仮訳)も発表しています。

本協定に加入することを希望する他の多くのエコノミーによって示された関心を歓迎する。この関心は、本協定を通じ、将来の広い経済統合のための高い水準を促進するプラットフォームを創出するという我々の共通の目標を確認するものである

TPP11の拡大は、こうしたTPP11の理念に沿ったものだといえそうです。

4)議長国日本のかじ取りは難しく

TPP11への加入は、原則として全参加国の同意が必要になります。かつては米国の主導で進められてきたTPP11(当時はTPP12)に中国が加入を申請したことに対しては、歓迎する国もあれば、TPP11が中国主導になることを警戒する国もあるとみられます。

また、中国が国家として認めていない台湾が中国に追随する形で加入申請したことで、中国が反発を強めるなど、政治問題に発展する可能性があります。

さらに、仮に加入交渉に至った場合も、英国と中国という大国の意向がTPP11の協定内容に影響することが考えられます。参加国にとっては、TPP11の拡大と理念の尊重というバランスをどう取るのか、難しい選択を迫られるかもしれません。

特にTPP11の中心的存在であり、2021年の議長国でもある日本にとっては、3カ国・地域の加入申請の取り扱いは、政治的な面でも難しいかじ取りを迫られるとみられます。

以上(2021年10月)

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画像:metamorworks-Adobe Stock