令和2年の交通事故死者数等の特徴と対策(2021/05号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

警察庁から公表されている「令和2年における交通事故の発生状況等について」によると、全体の死者数は減少傾向にあるものの、高齢者が占める割合が増加したことや歩行者・自転車乗用者の事故類型・法令違反の状況が示されています。
また、この状況を受けて令和3年の「本年の主な取組」もあわせて公表されていますので、この機会に確認いただき、日頃の安全運転に役立ててください。

1.交通事故死者数の推移と高齢者の割合

令和2年の交通事故死者数は、2,839人で昨年より376人減少し、警察庁が発表を始めた昭和23年以降の統計で最少人数となりました。

そのうち、65歳以上の高齢死者数は、1,596人で昨年より186人減少していますが、その割合をみると、0.8%増加し56.2%となりました。

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※警察庁「令和2年における交通事故の発生状況等について」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/jiko/R02bunseki.pdf
(2021.4.19.閲覧)

令和2年の交通事故死者数を事故状態別でみると、「歩行中」が1,002人で最も多くなっています。
そのうち、65歳以上の高齢者は、743人でその割合は74.2%と高い状況です。

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2.交通事故の発生状況における主な特徴

(1)「歩行中」の交通事故死者数の特徴

道路横断中の死者数が約7割を占めます。(69.3%)
※65歳以上の高齢者では、その割合は75.6%と高まります。

・道路横断中の事故において、横断者側に横断違反や信号無視があった割合は過半を占めます。(51.8%)

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(2)「自転車乗用中」の交通事故死者・重傷者数の特徴

・自動車との事故を類型別にみると、出会い頭の事故が過半を占めます。(54.7%)

・自動車との出会い頭事故において、自転車側に法令違反があった割合は約8割を占めます。(78.0%)

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※警察庁「令和2年における交通事故の発生状況等について」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/jiko/R02bunseki.pdf(2021.4.19.閲覧)

3.本年の主な取組

警察庁は「本年の主な取組」として以下の3点を掲げています。

  • ○ 歩行者の安全確保に向けた交通安全教育や運転者に対する指導取締り
  • ○ 自転車の遵法意識の向上に向けた交通安全教育・指導取締りの推進
  • ○ 生活道路における安全確保
※警察庁「令和2年における交通事故の発生状況等について」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/jiko/R02bunseki.pdf(2021.4.19.閲覧)

≪ドライバーの皆さんへ≫

  • ◎予測運転の実践
    歩行者やランナーの急な道路横断や出会い頭での自転車の飛び出しにも対応できるよう常に周囲の状況を確認し、慎重に運転しましょう。
  • ◎思いやり・ゆずり合い運転の実践
    歩行者や自転車は、優先意識があったり、交通ルールを詳しく知らず法令違反をしてしまうことがあることを念頭に、常に冷静に、思いやりやゆとりをもって運転しましょう。

以上(2021年5月)

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【朝礼】これからが、これまでを決める

「今の行動が未来を決める」
例えば、何かに本気で取り組めば成功の確率は高まりますし、失敗したとしても、その経験は非常に貴重です。逆に、今、何も本気で取り組んでいなければ未来は開けません。このことをもう一歩踏み込んで考えてみましょう。そうすると、今の行動が未来を変えるのなら、「今の行動は過去も変える力を持っている」ことに気付きます。

「これからが、これまでを決める」
これが、とても大事なポイントです。

何事もそうですが、新しいことに挑戦すると、リスクが高まります。会社経営でいえば、私の知り合いの経営者もたくさん失敗しています。ただ、この失敗とは、より良い未来を目指すために挑んだチャレンジの結果であり、称賛されるべきことです。にもかかわらず、失敗をした後の人々の言動には大きな違いが出てくるもので、そこが大きな分かれ道です。

失敗をすると周囲に迷惑をかけてしまいますが、迷惑をかけてしまった相手に真摯に謝罪する人がいます。こうした人は、過去の頑張りが前向きに評価され、未来に向けた新たなチャレンジの応援もしてもらえます。

一方、失敗を他人のせいにして言い訳ばかりする人もいます。こうした人は、「言い訳ばかりだ。どうせ思いも軽く、適当にやっていたのでは?」などと過去の努力が否定されます。次のチャレンジの応援もしてもらえないでしょう。

これは、今の行動で過去が肯定されることも否定されることもある例ですが、皆さんに伝えたい大切なポイントは、「今を真摯に生きていれば、過去の行動も評価され、応援が得られ、未来に向けた強力な推進力になる」ということです。

「失敗したくないから」という理由でチャレンジができない人を私はたくさん知っています。しかし考えてみてください。失敗した後も真摯に生きていれば、必ず次のチャレンジができるのです。私たちは、目先の成功や失敗にとらわれがちですが、むしろ大切なのは成功や失敗をした後といえるでしょう。

少し楽観的に、「たった今も人生の一瞬」と考えてみるとよいでしょう。人生は短く、できるだけ無駄な時間は過ごしたくありません。一方、人生は100年といわれるほど長く、今の失敗はほんの一瞬のことでもあります。要は「都合よく考えていい」ということです。今、当社は大きなチャレンジをしていますが、うまくいっている部分も、そうでない部分もあります。偶然の発見や出会いが想定外の出来事を引き起こしている面もあります。私は、こうした偶然や想定外を前向きに受け入れる懐の深さが重要であると考えています。

偶然や想定外はビジネスに限らず、皆さんが生きている間、起こり続けます。失敗を恐れず、それらとうまく付き合うことで、皆さんは過去を前向きに捉えることができ、未来に向けた強力な推進力を身に付けられるのです。

以上(2021年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

「人」と「コスト」のファイナンス的考え方/経営者のためのファイナンス講座(3)

書いてあること

  • 主な読者:将来の意思決定に役立つファイナンス思考を身に付けたい経営者
  • 課題:会社の中で最も大きな割合を占める人にかかるコスト。人件費=給与と考えている人も多く、ファイナンスで必要な正確なコスト計算ができていない。
  • 解決策:社員の人件費(福利厚生費なども含める)を時給換算し、外部サービスの単価と比較することが大切

1 外部サービスを使いますか? 社員に頼みますか?

例えば、本日中に取引先から資料をオフィスまで届けてもらわなければならないときに、あなたならバイク便を使いますか? 社員に直接届けるよう頼みますか?

実際に、取引先の社員の方が私のオフィスに直接資料を届けに来たことがありました。往復1時間半かかるわけですが、事情を聞くと「バイク便だと3000円もして高いから」と返事が。確かに、郵便や宅配便の料金と比べれば、バイク便の3000円は高いです。しかし、今回のような郵便などでは間に合わないケースでは、ファイナンス上どう考えたらいいのでしょうか。

2 社員が直接届けるほうがコスト高になる

結論からいうと、社員が直接届けるほうがコスト高になることが多いのです。

まず、社員に支払っている給料を時給換算して考えてみましょう。中小企業の社員の1時間の働きには、約2000円程度のコストがかかります。中小企業の社員の平均年収(賞与含む)は411万円(厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」、男女計を基に算定)ですので、これを基に、1日の労働時間が8時間、月の労働日数を20日として計算します。すると、

411万円÷(8時間×20日×12カ月)=2141円/時間

となります。しかも、会社がこの人を雇うために必要なコストはこれだけではありません。会社は給料だけではなく、社会保険料(会社負担分)や福利厚生費、制服の支給代など社員に対する支払いがいろいろあります。社会保険料の会社負担分だけ考えても、給料の15%程度かかりますので、この分を考慮しましょう。実質的な時給は、2141円×115%=2462円となります。

もし、届けるのに往復1時間半かかるのであれば、バイク便の3000円と比較すると、社員が届けるほうがコスト高なのが分かります。社内には社員にしかできない業務があることを考えれば、バイク便を頼んでしまったほうがいいともいえます。

3 それでも社員に届けさせる理由

しかし、このような場合に、実際にはバイク便を使う会社は少ないのです。社員自身が「自分でもできることをわざわざお金を払って外に頼むなんてもったいない」と考えているからです。このように考えてしまうのは、お金が出ていくことに目が行き過ぎているためです。社員に届けてもらえば支払いは発生しないのに、バイク便を頼んだら支払いが発生する。確かに、バイク便ではお金を支払うことにはなりますが、社員は他の業務に当たることができます。

近年は、働き方改革や新型コロナウイルス感染症関連の対応を経て、以前よりも従業員の労働時間が限られてきています。その貴重な労働時間でどのような業務に当たってもらったらいいかを考えるのが、ファイナンス的にも重要なのです。その証拠に、棚卸専門会社の利用が以前より増えているのを感じます。小売業であれば必須の在庫棚卸のカウント作業を、外部に頼みます。もちろん、自社で行うこともできますが、社員の貴重な時間を最も有効な業務に充てたいと考える会社が増えたことの表れだと感じます。

このように、時代の変化を受けて、「自社でできるからやる」のではなく、「自社でやるべきことだけをやる」経営に変わりつつあります。この発想の転換には、実は先ほど説明したファイナンス的な考え方が存在します。

自社の場合の平均時給を一度計算してみるといいでしょう。そうすれば、時給換算でいくら以下のコストなら外部に依頼するといったように、経営者や管理職が判断しやすくなると思います。

4 レターパックの普及も、自社でやるべき業務に注目したから

ペーパーレス化が進んでいるとはいうものの、まだまだ紙でのやり取りが多く存在しています。最近は郵便物の送付に、切手が必要な紙封筒ではなく、レターパックという大型封筒をよく見かけるようになりました。赤や青で印刷されたボール紙製の大型封筒です。

これを使うことで、総務担当者の郵便・宅配便などの発送の手数を減らすことができます。分厚い資料を送る場合には、通常は計測や計量をして切手を貼る必要があります。従来は総務担当者の業務の1つでしたが、レターパックを使えば、レターパックの購入代金に郵送費が含まれていますので作業が楽になります。

5 お金を払って、社員の業務時間の価値を上げる

バイク便もレターパックも、自社の手数をかけない、または最小限にするという点で共通しています。これらサービスが近年普及したことは、偶然ではありません。先ほど述べたように労働時間が限られてきた結果、社員一人ひとりの生産性を上げざるを得なくなったことと整合するのです。

日本では最低賃金が定められていることや、一度決めた給料を下げるのが難しいことを考えると、社員の労働価値を最大化させる判断は必須です。できる限り貴重な自社の人材の時間は、必要性が高いことに充てるべきなのです。

6 人件費を圧倒的に下げた新たなビジネスも多い

このことは、自社のコスト削減につながるだけではなく、新たな事業を考えるヒントにもなります。

例えば、オフィスグリコという置き菓子は、お菓子の購入時に、商品の近くにある貯金箱に利用者自身がお金を入れる形式です。いわば、無人販売のお菓子版といえます。もちろん、中には料金を支払わずに商品を持っていく心ない人もいるようで、盗難によるコストも生じます。しかし、このコストを考慮しても、わざわざ人を配置して、管理やお金の受け取りをしないほうがファイナンス的には得なのだといいます。これなら、商品の補充や貯金箱からの集金だけしか、人件費がかかりません。つまり、人件費を最小限に抑えることこそが、この事業の鍵なのです。

都心部などで普及しているシェアサイクルやカーシェアも同じです。従来のレンタカーやレンタサイクルの貸出・返却時には人が対応していました。しかし、それを省くことで、拠点を増やして利便性を上げ、かつ低単価を可能にしています。

つまり、高い人件費に注目し、なるべくこれを下げるような事業を設計することで、従来にない事業のアイデアにつながります。

以上(2021年5月)
(執筆 管理会計ラボ 代表取締役 公認会計士 梅澤真由美)

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画像:pixta

【朝礼】浦島太郎の結末は本当に「バッドエンド」なのか

今朝は、皆さんもご存じの浦島太郎の昔話について話をしたいと思います。

私は子供の頃から、浦島太郎の結末に違和感を覚えていました。亀を助けるという善い行いをしたはずの浦島太郎が、最後にひどい仕打ちを受けるからです。竜宮城にいた間に何百年もタイムスリップしてしまい、家があった場所は荒れ果てていました。両親が心配で帰ってきたのに、会うこともできません。揚げ句の果てに、土産にもらった玉手箱を開けると老人になってしまい、踏んだり蹴ったりです。子供ながらに「なんて理不尽な結末なんだ」と思いましたし、「この昔話から、何の教訓が得られるのだろうか」と疑問にも感じました。ですが、「もし今の時代に浦島太郎のような人がいたら」と考えると、教訓を得られるばかりか、必ずしもこの昔話はバッドエンドではないのではないか、とも思えてきます。

私が浦島太郎の昔話で教訓にしたいのは、「心の若さ」についてです。自分の家が荒れ果て、両親を含めて知人が全くいなくなってしまったことを悟った浦島太郎は、絶望し、自暴自棄になって、乙姫から「絶対に開けないで」と言われていた玉手箱を開けてしまいます。確かに、今まで自分が築いてきた人間関係や生活の場を失ってしまうのは、本当にショッキングなことです。

しかし私は、もし彼に「心の若さ」があったのなら、たとえ一度は絶望したとしても、新たな人生を踏み出せたのではないかと思っています。

なぜなら、浦島太郎ほどではないにせよ、現代の私たちも、世界の大きな変化を味わっているという点で、似通った部分があると思うからです。

皆さんご存じのように、今、世界の大きな変化は、仕事のやり方や仕事で使うツールだけでなく、生活様式にまで及んでいます。私たちは、日々の変化に関心を持ち、変化に合わせて自分も変わろうとしていかなければ、あっという間に変化に取り残されてしまう状況にあります。今ほど新しいものを受け入れる「心の若さ」が必要な時代は、あまりないと思います。

確かに、これまでの生き方を変えるという行為には必ず苦痛が伴います。ですが、見方を変えれば、新たな世界を知ることができるチャンスでもあるわけです。そう思えるかどうかが、「心の若さ」と「老い」の分かれ目ではないでしょうか。

浦島太郎は残念ながら、「自分の知らない世界=絶望」と考えたまま、新たな時代で生きる決心ができませんでした。老人の姿になってしまったのは本来悲しいことですが、私には、「老いた心」を持った若者でいるより、心と同程度の年齢の肉体になったほうが、むしろ幸せだったかもしれない、とすら思います。

一方、今を生きる私たちは、心も肉体も若い、玉手箱を開ける前の浦島太郎です。心持ち次第でどんな世界にも行くことができます。常に自分自身の「心の若さ」をチェックし、変化を受け入れられる心を持ち続けるようにしましょう。

以上(2021年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

【オーナー企業必読】利益ではなく内部留保に法人税が課される「留保金課税制度」とは

書いてあること

  • 主な読者:オーナー一族で経営を行っている資本金等1億円超の会社経営者など
  • 課題:一定のオーナー企業には内部留保に対して法人税が課される
  • 解決策:資本金等が1億円以下ならば適用外であることや、設備投資を行うなどして過度な内部留保を減らすといった対策がある

1 社内に残ったお金に課税する「留保金課税制度」とは

留保金課税は、オーナ一やその親族などが支配している一定の会社(以下「特定同族会社」。詳細は後述)のみに追加で課税される法人税の仕組みで、利益そのものにではなく、社内に留保されたお金(以下「内部留保」)に対して課税されます。

一般の会社では、利益が出た場合に株主に対して配当を行いますが、特定同族会社では、利益の配当を受け取る株主はオーナーやその親族自身です。配当所得には所得税が課税されますが、配当の時期を遅らせたり、全く配当を行わずに内部留保したりすることで所得税を納めずに、自身が経営する会社でお金を使うことができるようになります。このように、一般の会社と特定同族会社とで、課税の公平がとれないという観点から設けられた特例です。

この特例は、通常の税金対策とは違った視点が必要です。オーナー企業の経営者はまず、この特例が自身の会社に適用されるかどうか確認するようにしましょう。

2 内部留保が課税される特定同族会社とは

特定同族会社とは、次の要件の全てに当てはまる会社です。

  • 資本金の額等が1億円を超えていること。ただし、資本金の額等が1億円以下であっても、資本金の額等が5億円以上の会社に100%支配されている(完全支配関係にある)など、大会社と一定の支配関係にある会社を含む
  • 被支配会社であること
  • 上記2.の判定の基礎となる株主グループの中に被支配会社に該当しない会社が含まれているときは、その会社を除いて判定しても被支配会社に該当すること

被支配会社とは、会社の株主の1人と同族関係者(株主の親族である個人だけでなく、その株主が50%超の持株割合などを有する他の会社も含まれます)が、その会社の発行済株式総数の50%超を保有している会社をいいます。

少々分かりにくいのですが、簡単に言うと、オーナーとその親族や、オーナーの支配力の強い会社だけで過半数超の持株割合を占めている場合には、おおよそ特定同族会社に該当することになります。なお、持株割合の判断には複雑なケースも含まれることから、税理士などの専門家に確認するようにしましょう。

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3 そもそも内部留保とは

内部留保とは、利益から税金・配当金などを支払った後に会社に蓄積されたものです。実際の計算で使う内部留保と完全に一致はしませんが、貸借対照表「純資産の部」の「利益剰余金」をイメージするとよいでしょう。

内部留保という言葉から、会社に現金預金をため込んでいるような印象を受けるかもしれませんが、現金預金とは全く別物です。例えば、製造機械などの固定資産を購入した際(全額現金払いとします)には、現金預金は購入金額の全額が差し引かれますが、利益の計算では購入金額の全額は差し引かれず、減価償却費として毎年購入金額の一部が差し引かれます。そのため、購入金額と未償却部分の差額が、現金預金と利益では一致しません。

4 留保金課税制度への税務対策

資本金の額等が5億円以上である会社による完全支配関係がある場合などを除けば、留保金課税制度に対する最も有効な対策は、資本金の額等を1億円以下にすることです。これにより、中小企業者等の法人税率の特例(年800万円以下の所得について、軽減税率が適用されます)などの優遇措置を受けられるといった副次的な効果も見込まれます(これらの中小企業向け各租税特別措置の適用を受けることができるかどうかについては、別途検討が必要です)。ただし、資本金は税務面だけでなく、経営上さまざまなシーン(資金調達や取引前の与信調査など)で重要になる項目です。資本金の減額については、税務以外の専門家も交えて慎重に検討するようにしましょう。

また、設備投資を行うことにより内部留保金を減少させることも対策の1つです。ただし、設備投資は耐用年数にわたって減価償却費として費用化されるものなので、支出金額の全額が支出年度の内部留保金額からマイナスされるわけではない点に注意しましょう。

5 参考:留保金課税の計算

留保金課税の計算は非常に複雑であるため、ここでは参考として紹介します。

留保金課税に対する法人税は次の算式により計算されます。

留保金課税に対する法人税=(当期留保金額-留保控除額)×特別税率

1)当期留保金額

留保金課税の課税標準のベースとなるのは、当期の所得等の金額のうち留保された金額です。この留保金額は次の算式により計算されます。

留保金額=(所得等の金額のうち留保した金額)-{(当期の所得に係る法人税額)+(地方法人税額)+(その法人税額に係る道府県民税・市町村民税の額)}

1.所得等の金額のうち留保した金額

法人税申告書別表四の48「所得金額又は欠損金額」欄の、「留保」欄の金額です。

具体的には、まず、その事業年度の所得の金額に、受取配当等の益金不算入額、繰越欠損金の損金算入額等を加算して「所得等の金額」を求めます。

この「所得等の金額」から、その事業年度中に行った利益の配当により支出した金額、及び役員給与の損金不算入額、寄附金の損金不算入額、交際費等の損金不算入額、法人税額から控除される所得税額等の社外流出項目を減算して、「所得等の金額のうち留保した金額」を算出します。

2.当期の所得に係る法人税額

その事業年度の所得の金額に、税率(本則23.2%)を乗じて算出した法人税額(法人税申告書別表一(一)の2欄「法人税額」)から、所得税額の控除額・外国税額の控除額(法人税申告書別表一(一)の13欄「控除税額」)等を減算して、「当期の所得に係る法人税額」を算出します。

3.地方法人税額

上記2.で求めた法人税額に税率(10.3%)を乗じて、「地方法人税額」を算出します。

4.その法人税額に係る道府県民税・市町村民税の額

上記2.で求めた法人税額に税率(10.4%)を乗じて、「その法人税額に係る道府県民税・市町村民税の額」を算出します。

2)留保控除額

留保金額から差し引く留保控除額は、次の金額のうち最も多い金額となります。

  • 積立金基準額=期末資本金額×25%-期首利益積立金額
  • 所得基準額=所得等の金額×40%
  • 定額基準額=20,000,000円×当期の月数/12

3)課税留保金額

課税留保金額=当期留保金額-留保控除額

4)留保金課税に係る税額

留保金課税に係る税額=課税留保金額×10%

以上(2021年5月)
(執筆 南青山税理士法人 税理士 山嵜浩平)

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画像:Nishihama-Adobe Stock

従業員が仕事を楽しみ始める、経営者の「対話術」(3)~人間関係がエンゲージメントを築く~

書いてあること

  • 主な読者:自社の従業員がイキイキと働いていないと感じる経営者
  • 課題:社内のコミュニケーションが良好でなく、職場に活力がない
  • 解決策:活発な議論などにより社内の人間関係を良好にすることで、従業員は会社に貢献する喜びを感じるとともに、会社が「人生設計ができる場」となり活力が生まれる

1 人間関係が良好な職場には活力がある

1)社内コミュニケーションを重視したグーグルのオフィス

従業員のやりがいや成長の度合いを測るスケールとして、エンゲージメントが注目されるようになった今、再びコミュニケーションの重要性が見直されています。

グーグルは、なぜオフィスをユニークな造りにしているのでしょうか。それは、人間関係を中心としたエンゲージメントを重視し、従業員間のコミュニケーションが自然に生まれるような空間づくりをしているからだといいます。

複数あるマイクロキッチンには、それぞれに異なるドリンクが置いてあるといいます。あえてどこでも同じドリンクにしていないのは、従業員に自分の飲みたいドリンク目当てに、遠くのマイクロキッチンまで足を運ばせるためということです。いつもと違う場所に行って、普段は顔を合わせない従業員との交流が生まれることを狙っているようです。

こうした試みは「外資系だから……」と捉えられるかもしれませんが、全社を挙げて社内コミュニケーションの改善に取り組んでいる日本企業もあります。

2)自由で活発な議論が職場に活力を生み出す

日本のある会社の経営者と話していて、会社組織としてのエンゲージメントとはどのようなことかという話題になったことがあります。そこで一致したのが、「エンゲージメントが高い会社は、マネジャーがしっかりしているだけでなく、会社の雰囲気が良くて、従業員に活力がある」ということです。従業員の表情がニコニコしているとか、仲が良さそうだという意味ではありません。会話が少なく緊張感が漂う雰囲気だとしても、空気がよどんでおらず、一体感のようなものが感じられる。それが「活力」です。

その経営者の会社では、チームのマネジメントのためにマネジャーだけがエンゲージメントを学び、それを活用するように指示していました。しかし、あるときから方向転換しました。エンゲージメントの概念を書いたカードを作成し、それを従業員にも渡して、「エンゲージメントを高めるために、こうしたほうがいいと思うことがあれば、誰でも自由に発言していい」というやり方に変えたのです。その結果、明らかに職場の雰囲気が変わりました。活発な議論が生まれ、意見の対立があっても人間関係が壊れなくなった。つまり、職場に活力があふれるようになったというのです。

経営トップ自らが「誰もが発言していい」と明言したことにより、みんなが職場の問題を自分事として捉えるようになり、ミーティングでも発言数が増えたそうです。もちろん、発言が活発になったからといって、すぐに仕事の効率や業績アップにつながるとは言えないかもしれません。恐らく定量的な効果は後から出てくるのでしょう。それより前に職場の雰囲気が良くなるなど、質的な変化が表れたのです。

これは、エンゲージメントというキーワードを入り口に、職場での対話が広がった好例であると言えます。逆に言えば、活力のない、停滞している職場には「対話」がありません。

2 良好な人間関係は会社のパフォーマンスを高める

1)笑いはビジネスにメリットをもたらす

社内の良好な人間関係とエンゲージメントには、密接な関係があることを分かっていただいたと思います。また、人間関係が良ければ職場に自然と笑みが生まれるものですが、クスクス笑いや大笑いはビジネスにおいてもメリットがあるそうです。

「笑うことは、ストレスや退屈さを軽減して、エンゲージメントや幸福感を向上させる。創造性を高め、協力を促すうえ、分析の精密さや生産性の向上をもたらすのである」
(アリソン・ビアードがハーバードビジネスレビューに寄せた論文「Leading with Humor」)

2)貢献することへの喜びが能力を引き出す

ラグビーファンの方であれば「One for All, All for One」という言葉をよくご存じでしょう。ラグビーにおけるチームプレーの大切さを説いた言葉です。この言葉が持つ重みは、ビジネスでも同じです。お互いが率先して協力し合う職場は、一人ひとりのエンゲージメントが高く、個人やチームのパフォーマンスが向上し、イノベーションも起こりやすくなります。

そして、「One for All」を意識することで、発揮できる能力そのものも引き上げられるのです。他者への貢献を自分の喜びとすることで、人は自分の限界値を上げてポテンシャルを発揮できるようになります。自分の能力以上のばか力が発揮できるのです。

ここで考えたいのは、「One for All」のAllは誰かという問題です。真っ先に思い浮かぶのは、普段一緒に働いている仲間や、いつも支えてくれる家族や友人の顔でしょう。ただ、身近な個人にとどまらず、彼ら彼女らを含むチーム、組織へとAllの射程を広げてみるのもいいと思います。自分が会社に貢献したいと思い、会社のほうもあなたの貢献を望み、その貢献に正当な評価で応える。これはまさしくエンゲージしている状態であり、パフォーマンスのさらなる向上が見込めるでしょう。

3)社会と相思相愛の会社は強い

可能なら、さらにその向こうまでAllの対象を広げたいところです。具体的には、会社の事業を通してつながっている顧客や取引先、業界、市場、地域、国、そして地球……。ここではそれらを総称して「社会」と呼ぶことにしますが、自分が社会の役に立ちたいと思い、社会からもそれを求められ、実際に貢献できている実感を得られれば、これほど強いエンゲージメントはありません。

自分が社会に貢献することを望み、社会からもそれを求められて、相思相愛でつながっている実感を、私たちは「ソーシャル・エンゲージメント」と呼んでいます。自分の仕事を通じて直接的に社会貢献できれば、ソーシャル・エンゲージメントと同時に、ワーク・エンゲージメントを高めることができるので一挙両得です。

3 自分を高める「人生設計ができる場」は活力を生む

バイタリティーを感じさせる中小企業の組織を観察してみると、共通した傾向があります。それは、会社が働く場であると同時に、「人生設計ができる場」になっているということです。

そのような中小企業の特徴とは、どのようなものでしょうか? 共通している特徴は、従業員に仕事を提供するだけでなく、個人のプライベートの時間、そして思考力を高めることを大切にしているのです。給料では大企業に及ばないかもしれません。しかし、小さい家族的な組織の中でお互いの個性を尊重し、会社の成功と自分の幸せという人生の本質をしっかり議論し、お互いを高め合って人として成長できる職場であれば、それは、従業員にとってかけがえのないものになるのです。従業員は職場で常に自分を高め、「人生設計」をすることができているからです。

こうした中小企業では、従業員の強みを伸ばすワークショップ、勉強会、相互コーチングなど、従業員を成長させる仕組みを業務以外で用意しています。さらに、次世代のリーダーを育成し、そのまた次の世代の可能性にも投資しているので、将来にも期待が持てます。すると従業員はますます会社の将来にワクワクします。こうした中小企業はまさにエンゲージメントのあるべき姿を体現しています。

4 終わりに:中小企業でもエンゲージメントは高められる

エンゲージメントの向上というと、大企業の人事部主導の活動という印象を受けるかもしれませんが、実はエンゲージメントの波は中小企業にも及んでいます。

中小企業には、企業規模が小さいからこそエンゲージメントを築くための施策を取り入れやすい環境があり、実際に取り入れてうまくいっている会社も数多くあります。

経営トップの決断が組織全体に大きく影響する中小企業では、経営トップが施策を素早く推し進めることができます。しかも、ある程度エンゲージメントが定着すると、早いタイミングで組織として自走し始めるケースが非常に多い印象です。ぜひ取り組んでみてください。

【参考文献】

「楽しくない仕事は、なぜ楽しくないのか?」(土屋 裕介、小屋 一雄 2020年2月)

以上(2021年5月)
(執筆 日本エンゲージメント協会 佐々木拓哉、小屋一雄)

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画像:Gutesa-shutterstock

2021年6月に義務化 事例で見る「HACCP」対応

書いてあること

  • 主な読者:義務化されたHACCPに対応したい経営者
  • 課題:中小企業がHACCPに対応する際の進め方、課題を知りたい
  • 解決策:実例を基に、自社での対応の参考にする

1 2021年6月、ついにHACCP義務化!

HACCP(ハサップ:Hazard Analysis and Critical Control Point)とは、食品事業者が自ら原材料の受け入れから製造、製品の出荷までの全ての工程において、食中毒などの健康被害を引き起こす可能性のある危害要因(ハザード)を科学的根拠に基づいて管理する方法です。このHACCPが、2021年6月についに義務化されます。

HACCP義務化の対象範囲は、食品製造・加工業者や、飲食店・小売店など、一部を除き、食品関連のほぼ全てとなります。対象外となるのは、缶詰やインスタントラーメンだけを販売する店舗など、食品衛生上のリスクが低い事業者に限られます。コロナ禍で一気に普及したフードデリバリー事業者の一部でも、加盟する飲食店に対してHACCPに基づいた衛生管理を推進する動きが出てきています。

「知っているけど、対応はまだ」ではもう済まされないHACCP。本稿では、HACCP対応の実例やポイントなどを紹介します。

2 HACCP対応のポイント

HACCP対応を支援するコンサルタントによると、中小企業がHACCP対応の際に直面する課題としては、以下のようなものがあるそうです。

1)課題

  • 小規模の食品等事業者の工場の場合、大手の食品等事業者の工場に比べ、各工程の動線が整理されていなかったり、作業する従業員が同一で、同じ器具を別工程で使い回したりすることがあるため、衛生管理の実施が難しいことがある。
  • こうした小規模の食品等事業者は、各工程の動線以外にも、顧客と従業員のトイレの分離や、危害を及ぼす恐れのある微生物や異物の空気を介した食品への付着を防ぐための陽圧室の導入の有無など、ゾーニングに関する課題を抱えている場合が多い。

2)HACCP対応の秘訣

  • まずは経営者が旗振り役となり、HACCP対応チームのリーダーを指名し、ともに対応計画を策定する。策定した対応計画を現場に落とし込むため、現場の従業員からリーダーを指名し、実際の業務の中で回していけるのかを確認・調整することが重要。
  • 従業員にHACCP対応を定着させるためには、HACCPの基本や各業界団体が作成した手引書を理解する必要があるが、実際に業務中に学ぶ時間を取ることは難しい。そのため、シフトを調整して一部の従業員ごとに研修の時間を設けたり、手引書を見ながら実際の業務を行って、改善点をその場で洗い出したりするなどの工夫が必要。

3)実際の例

コンサルタントによると、対応を進める流れとして、次のような実例がありました。

【おこわ・団子製造業者(従業員約10名)】

  • HACCPチームの編成(社長、正社員1名、パートのリーダー1名の計3名)
  • 業界団体が作成する手引書を参考に、実際の作業の洗い出し
  • 作業手順のマニュアル化(手順を口頭でしか説明、確認できなかったため)
  • 作業の流れに沿って、実際にどんな異物混入リスク・微生物汚染リスクがあるのかを確認
  • 明らかになった異物混入リスク・微生物汚染リスクに対して、科学的な観点から対処法を検討する(熱処理、設備の増設など)
  • 上記の対処法が効果があるのかを、食品検査センターなどで科学的な観点から検証する
  • 上記の対処法の効果を確認できた場合、全工程の作業手順および処理方法の記録、モニタリング体制の整備を行う
  • 全工程の作業手順および処理方法の記録、モニタリング体制の整備が実際の業務の中で無理なく進めていくことが可能であれば、HACCP認証機関に申請するための書類を作成する

3 小規模事業者はHACCP対応を簡略化できる

実際のHACCP対応に取り組む際には、大規模事業者や、と畜場などは、「HACCPに基づく衛生管理」に沿った衛生管理を行います。また、以下のような中小規模の事業者(小規模事業者)は、各業界団体が作成する手引書を参考に、簡略化された手法「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」に沿って衛生管理を行います。

  • 食品を製造し、または加工する事業者で、店舗に併設した設備で食品を製造・加工した食品を小売販売する場合
    (例:菓子の製造販売、豆腐の製造販売、魚介類の販売など)
  • 飲食店や喫茶店などの運営を行う事業者、その他の食品を調理する事業者
    (例:そうざい製造業、パン製造業(消費期限がおおむね5日程度のもの)、学校・病院向け以外の集団給食施設など)
  • 容器包装に包装された食品のみを保存、運搬、販売する事業者
  • 分割して包装された食品を小売販売する営業者
    (例:八百屋、米屋、コーヒーの量り売りなど)
  • 食品を製造、加工、保存、販売、処理する事業者で、食品などを取り扱う従業員数が50人未満の事業場(食品の取り扱いに直接従事しない者はカウントしない)

厚生労働省では、業態ごとの手引書を公開しています。

■厚生労働省 HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(五十音順)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00005.html

4 大企業も支援に乗り出す

農林水産省が2020年6月に公表した調査(「食品製造業におけるHACCPの導入状況実態調査結果」)によると、2019年10月時点でHACCP対応済みと回答したのは、全体の22.5%にとどまっています。その一方で、「導入については未定」が18.9%、「HACCPに沿った衛生管理をよく知らない」は19.7%に上っています。義務化が間近に迫っているにもかかわらず、対応がスムーズに進まない状況を受けて、大企業が導入支援に乗り出しています。

1)中部電力ミライズ:HACCP対応支援コンサルティング

中部電力グループの電力・ガス小売事業者の中部電力ミライズは、愛知県名古屋市内の食をテーマにした複合施設「BAUM HAUS(バウムハウス)」内でHACCP対応を支援するコンサルティングサービスを行っています。

ここでは、食品事業者の困り事をサポートする「Food DX Salon」を設け、HACCPに関する情報提供やセミナーの開催、コンサルティングサービスの提供を行っています。

2)パナソニック産機システムズ:HACCP対応の作業省略化サービス

パナソニックグループで業務用機器などの販売・メンテナンスを行うパナソニック産機システムズは、HACCP対応に必要な文書・帳票の作成や、従業員の健康状態、機器の温度計測などの記録を支援するクラウドサービス「エスクーボフーズ」を提供しています。

エスクーボフーズは、HACCP対応で必須となる日々の温度管理・データの保存などの煩雑な作業を自動化し、クラウド上で保存することができ、データの見える化や作業効率化が期待できそうです。

以上(2021年5月)

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画像:stocksnap

【朝礼】昼食後の歯磨きで、自分自身も磨こう

私は最近、自分の業務遂行能力を高めようと、あることを始めました。それは「昼食後の歯磨き」です。「何で歯磨き?」と思うかもしれませんが、これを習慣として取り入れてみると、仕事に役立つさまざまな恩恵が得られるのです。私が考える恩恵は3つあります。

1つ目は、「健康管理」です。普通、虫歯や歯周病予防といった口内の健康管理は、歯が痛まない限り後回しにされがちです。しかし、例えば歯周病にかかると、糖尿病をはじめとするさまざまな疾患を発症する恐れがあるといわれます。逆に健康な歯をたくさん持っていると、よくかんで食べる癖がつくため、肥満予防やバランスの良い栄養摂取につながるそうです。つまり、昼食後の歯磨きを習慣的に行うことで、仕事をする上で必須となる、健康な肉体を保てます。

2つ目は、「時間管理」です。昼食は「ながら」作業ができても、歯磨きはそうはいきません。日中は仕事が立て込むことが多い中で、毎日5分程度の時間を捻出する必要が生じるため、逆算してテンポ良く作業をこなすようになります。また、特にリモートワークの場合、公私の時間の区別が不明確でダラダラと作業をしてしまいがちですが、歯磨きを作業の区切りに挟むことで、メリハリをつけることができます。さらに、「日々の健康管理」という、緊急ではないけれど重要な要素を1日のスケジュールに組み込むことは、仕事の優先順位を考え直すきっかけにもなり得ます。

3つ目は、「整理整頓」です。これは会社で歯磨きをする人が対象になりますが、多くの人が使用する社内の共有スペースの中に、歯ブラシなどを置く場所を確保するというのは、簡単なようで意外と難しいことです。歯ブラシを乾かすためには、清潔でそれなりに広い空間が必要ですし、会社に訪問されるお客様に歯ブラシを見せるわけにはいきません。自宅だとあまり整理整頓を意識しないという人も、人目がある会社では逆に整理整頓を意識するようになるのではないでしょうか。

健康管理、時間管理、整理整頓はどれも社会人にとって初歩的なことですが、それだけにおろそかになりがちです。また、歯磨きがこれら3つの改善につながるといっても、地味で効果がすぐには見えにくいため、「やってみよう」という気は起きにくいかもしれません。ですが歯磨きには、すぐに、簡単に始められるというメリットもあります。今年度、さらなる成長を目指し、「ささいなことでもよいから、自分自身を磨いていきたい」という人には、ぜひお勧めします。

先ほど紹介した通り、歯磨きは虫歯や歯周病の予防になりますし、口中がさわやかになって気分転換にもなるなど、仕事以外の部分でもメリットがあります。歯磨きのために鏡で自分の姿を見ることで、身だしなみの乱れも正せます。

歯磨きのようなささいなことでも、自分を磨くために少しでも有益だと思えることであれば、皆さんも積極的に取り入れていきましょう。

以上(2021年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

【先進企業の事例付き】今からSDGsを始める中小企業が、まず知っておきたいこと

書いてあること

  • 主な読者:SDGsに取り組んでみたいと考えている経営者
  • 課題:あまり資金や労力をかけないことから始めたいが、何から取り組むべきか分からない
  • 解決策:公開されているSDGs Industry Matrixや、経営者自身の社会課題解決への想いを基にマッピングし、SDGsの何を目標にして、どのような取り組みを行うか導き出す

1 「SDGsはもうかるの?」はもう通用しません

SDGsに関わる取り組みをしていると回答した企業は、大企業が約90%であるのに対し、中堅企業では約60%、中小企業では約40%にとどまっています。なぜ、中小企業のSDGsが加速しないのでしょうか?

私が共同代表を務める一般社団法人SDGsマネジメント(以下「SDM」)が中小企業のSDGs導入の支援をさせていただいている中でよくいわれるのが、「SDGsはもうかるの?」という質問です。正直にお答えすると、必ずもうかるとは言えませんが、正しく理解すれば、お金をかけずに実践できますし、やらないよりも良い結果につながると思っております。SDGsの取り組みの成果を数値化して発信できれば、自社の事業価値を再定義することができ、ブランド力が高まることで、融資面や採用面、企業間の連携でも有利になります。

これから学校の現場では、ESD(Education for Sustainable Development=持続可能な開発のための教育)が本格的にスタートします。若い世代はSDGsネーティブといわれる世代で、SDGsが当たり前の状態で社会を見ます。企業がSDGsについて考えなければならなくなる時代は、すぐそこまで来ています。良い意味で諦めて、SDGsを早く始めてみましょう。日本のSDGsは、まだまだこれからですので、今からでも遅くありません。

2 「何に取り組むか」を決めるヒントと先進事例

1)SDGsを進めるための3つのフェーズ

では、SDGsを始める際の手順を整理してみましょう。企業のSDGs導入書といわれている「SDG Compass」では5つのステップ(SDGsを理解する、優先課題を決定する、目標を設定する、経営へ統合する、報告とコミュニケーションを行う)があると言っていますが、SDMでは5つのステップをもう少し簡単に考えるために、3つのフェーズにまとめて導入のオススメをしております。

  • SDGsの理解
  • マッピングとストーリー
  • 発信

今回は、SDGsの具体的な取り組みに直結する、2番目のマッピングとストーリーについてお話をしたいと思います。マッピングとは何かというと、自社の取り組みをSDGsの17ゴールに当てはめることです。マッピングには2通りの方法があります。

2)産業別のSDGs導入のヒント

マッピングの1つ目の方法は、産業別のSDGs導入の手引書を参照するものです。例えば、一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンとKPMGあずさサスティナビリティが監訳・監修した「SDGs Industry Matrix」では、7つの産業別にSDGs導入のヒントを記載しています。少し難しい表現ですが、ゴール別に取り組み事例が記載されているので、自社の取り組みに近いものを探してみてもよいと思います。また、建築業界であれば、「建築産業にとってのSDGs―導入のためのガイドライン―」というハンドブックが販売されていますので、それを参照されるとよいでしょう。

■グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン「SDGs Industry Matrix日本語版」■
https://www.ungcjn.org/activities/topics/detail.php?id=204
■日本建築センター「建築産業にとってのSDGs―導入のためのガイドライン―」■
https://www.bcj.or.jp/publication/detail/111/

3)低価格住宅の提供でゴール1:「貧困をなくそう」に取り組むSUNSHOW GROUP

マッピングの2つ目の方法は、経営者自身の想いを基に、独自のSDGsストーリーを組み上げていくものです。社会課題に対する経営者自身の想いを基に、自社の事業を再定義し、そこから取り組む内容を導き出す方法です。

まずは、政府のSDGs推進本部による第2回のジャパンSDGsアワードを受賞したSUNSHOW GROUP(岐阜県岐阜市、以下「SG」)を紹介します。SGの西岡徹人社長は、青少年育成などの奉仕活動によって社会課題解決を進めてきた青年会議所での経験から、SDGsの取り組みに興味を持ちました。

SGの取り組みでユニークなのは、各事業部がSDGsに基づいてブランディングしていることです。例えば、低価格住宅の販売を手がける事業部は、SUNSHOW夢ハウスというブランドを展開し、ゴール1:「貧困をなくそう」、ゴール10:「人や国の不平等をなくそう」に貢献しています。

低価格の商品を売ることは、価格競争で勝つことを目的にしてしまいがちです。それに対してSGでは、「全ての人にマイホームを」という社会課題解決を目的としています。このため、例えばローンが承認されにくい人には、審査が通るまでの手続きや、無理のない返済計画づくりのお手伝いなどもしています。この取り組みは、日本人のみならず、岐阜に在住する外国人にも好評です。外国人が、日本で持ち家を持つことによって、コミュニティーに参画ができるようになり、外国人に対する不平等が是正されるようになりました。

ここで重要になるのが、社会課題解決のストーリーです。SGでは、日本の社会問題や商圏である岐阜の地域課題を調査し、背景を明確に設定します。ゴール1に対しては、子供の貧困問題の背景や、解決に向けた指標や数値も記載されている政府の「子供の貧困対策に関する大綱」および岐阜県による「岐阜県子どもの貧困対策アクションプラン」を参照にしています。その上で、SGの本業である建築業という強みを活かし、それらの社会課題を解決するための新たな価値として、低価格住宅を提供すると再定義しています。

■SUNSHOW GROUP(三承工業株式会社)ウェブサイト■
https://www.sunshow.jp/

4)健康経営の推進でゴール3:「全ての人に健康と福祉を」に取り組む大平経営会計事務所

大平経営会計事務所(愛知県豊橋市)では、経営者である大平佳宏さんの「経営者は健康であってほしい」との想いを、自社の事業として再定義しました。経営者が心身ともに健康であることは、企業の健康や従業員の健康にもつながり、ひいては持続可能な企業への成長に結び付く、との考えに基づいています。

その結果、同社ではゴール3:「全ての人に健康と福祉を」を中心として、「経営者に寄り添い持続可能な経営のお手伝いができる会計事務所」を目標に掲げ、健康経営の推進、教育、ITの活用による働きがいのある環境づくりなどに積極的に取り組んでいます。

具体的な取り組みとして、まずは自社の職場改善から始めています。健康経営の推進としては、定期健康診断で再検査となった従業員へのフォローや、ストレスチェックとそのアフターケアなどを行っている他、従業員の定期健康診断の受診率100%、1日7000歩の運動といった数値目標を掲げています。この他、ゴール4:「質の高い教育をみんなに」では従業員の勉強会の参加を月1回以上、セミナー参加を年1回以上とし、ゴール9:「産業と技術革新の基盤をつくろう」では、コピー用紙使用率の30%削減を数値目標に掲げるなどしています。

事業内容だけでマッピングをしようとすると、会計事務所の場合などは、デジタル化や効率化といった内容に偏ってしまうことがあります。経営者の想いにフォーカスして、その企業がお客様や社会にどんな価値を提供したいのかを深掘りすることで、SDGsのゴールにマッピングをしていくことができる事例といえます。

■大平経営会計グループのSDGs宣言■
https://odaira.com/sdgs/

5)女性の活躍推進でゴール5:「ジェンダー平等を実現しよう」に取り組む神美

神美(東京都渋谷区)は、「THE PERFECT LINE」というエステブランドを展開しています。経営者の田中由佳さんは、女性の経済的エンパワーメントに対する意識が低いことについて問題意識を持ちました。そこで、「女性の精神的自立は金銭的自立から」との考えに基づき、女性が活躍しやすい環境を整備し、男女の所得格差解消を進めることで、ゴール5:「ジェンダー平等を実現しよう」に取り組んでいます。

具体的には、年齢や経歴を問わず、全ての社員を対象としたキャリアアッププランを構築し、女性管理職の登用を図っています。また、「変わりたい女性に行動を起こさせ、女性が輝き活躍する社会の実現」をビジョンに掲げ、未経験者である「変わりたい女性」を優遇し、積極的に正社員として中途採用しています。

さらに、固定給と別にインセンティブ制度(年6回)を導入し、全社での表彰式を2カ月に1回行うなど、社員が自己成長感を持つことによってやりがいを感じる、長く働ける環境づくりにも取り組み、ゴール8:「働きがいも経済成長も」に貢献をしています。

また、田中さんのSDGsの取り組みで面白いのは、自社の取り組みをもっと広くさまざまなパートナーを巻き込む仕掛けとして、一般社団法人Women’s Independence Forumを立ち上げられたことです。SDGsはゴール17でも掲げているように、パートナーシップで目標を達成することが求められています。しかし、一般的な自社を取り巻くパートナーシップとは、利害関係を軸とするサプライチェーンでのつながりであります。自社の利益を中心とする考えではなく、視座を高めて、志を中心とする団体や協会を設立することで、多様な企業連携のみならず、今までになかった官公庁や大学・研究所とのパートナーシップを構築することが期待できます。

■神美ウェブサイト「SDGs」■
https://synbi.jp/sdgs/

3 取り組みの成果を発信してメリットを得る

1)成果の数値化が、SDGsに取り組む企業にメリットを生む

SDGsはマッピングするだけで終わりではありません。SDGsはゴールであるので、具体的に達成目標が設定されるべきであります。

SDGsの構造をご説明すると、SDGsは17のゴールの下に169のターゲットがあり、さらに、その下に250近くのグローバルインディケーター(指標)があります。今、日本でSDGsの旗振り役になっている人たちの間では、このインディケーターへの注目度が高まっています。なぜなら、企業がSDGsに取り組むには、社会にとっても企業にとっても、その成果を評価する仕組みが大きな意味を持つからです。

グローバルインディケーターは外務省のウェブサイトで公表されていますが、世界各国の共通指標であるために、日本の実情に合っていない指標も多くあります。そのため、SDMでは法政大学デザイン工学部建築学科の川久保俊教授とともに、グローバルインディケーターをローカライズし、日本、そして地域ごとの社会課題に合った指標を設定する取り組みを進めています。ローカライズされた指標と、企業が取り組むSDGsを関連付けることによって、その企業が事業を継続すればするほど、社会により良い影響を与えるという関係性を数値化することができます。

さらにSDMと川久保教授は、その数値を基に、中小企業への金融(クラウドファンディングや制度融資など)が加速される仕組みを構築しようと、関連機関と研究を重ねています。中小企業にも、SDGsへの貢献度によって融資面での格差が生じる時代が来ているのです

2)SDGsへの取り組みのアピールが、採用や企業間の連携に有利に

格差が生じるのは融資面だけではありません。前述の通り、これからの若い世代は、SDGsネーティブといわれる世代です。企業にとっては、少子化で採用困難が予想される中で、自社のSDGsへの取り組みをより多くの人に発信していくことが急務であります。

そのためにも、これからSDGsに取り組もうとしている企業の皆様に使っていただきたいサービスが、一般社団法人サステナブルトランジションが提供する「Platform Clover」です。2021年8月の大幅アップデート後は、自社のSDGsの取り組みを体系的に発信できるだけでなく、プロジェクトの管理・評価もできるオンラインプラットフォームになります。SDGsに取り組むためのマッピングができたら、このプラットフォームに登録することをオススメいたします。

また、SDGsはゴール17で掲げているように、パートナーシップで目標を達成するものであり、そこにイノベーションの可能性があります。「Platform Clover」では今後、SDGsに関する自社のニーズと他社のシーズをマッチングする仕組みもできますので、大いに活用してほしいと思っております。

■サステナブルトランジション「Platform Clover」■
https://platform-clover.net/

4 終わりに

「経済なき道徳は戯言(ざれごと)であり、道徳なき経済は犯罪である」(二宮尊徳)

私は日本で最初にSDGsの精神を説いた偉人は、二宮尊徳であると思っております。まきを背負って勉強した勤勉な人として語られていますが、尊徳は各地で農村再建をしました。当時の経済基盤は農業でした。尊徳の教えは「報徳仕法」といい、過去の収穫高(収入)と、年貢(支出)を洗い出し、また天候による飢饉(ききん)の可能性を考えた備蓄(貯蓄)をするために、生産効率を上げ、持続可能な生活スタイルを定着させようとしました。

その仕法を各地で授けるに当たり、上記のような言葉を残しています。大変厳しい言葉でありますが、これはSDGsの次のステップを指し示している言葉であると思います。私たちは、SDGsを通じて経済性と社会性を両立させ、日本のビジネスを「道徳ある経済」に進化させていくことが求められています。

以上(2021年5月)

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画像:Sakosshu Taro-Adobe Stock