【オーナー企業必読】利益ではなく内部留保に法人税が課される「留保金課税制度」とは

書いてあること

  • 主な読者:オーナー一族で経営を行っている資本金等1億円超の会社経営者など
  • 課題:一定のオーナー企業には内部留保に対して法人税が課される
  • 解決策:資本金等が1億円以下ならば適用外であることや、設備投資を行うなどして過度な内部留保を減らすといった対策がある

1 社内に残ったお金に課税する「留保金課税制度」とは

留保金課税は、オーナ一やその親族などが支配している一定の会社(以下「特定同族会社」。詳細は後述)のみに追加で課税される法人税の仕組みで、利益そのものにではなく、社内に留保されたお金(以下「内部留保」)に対して課税されます。

一般の会社では、利益が出た場合に株主に対して配当を行いますが、特定同族会社では、利益の配当を受け取る株主はオーナーやその親族自身です。配当所得には所得税が課税されますが、配当の時期を遅らせたり、全く配当を行わずに内部留保したりすることで所得税を納めずに、自身が経営する会社でお金を使うことができるようになります。このように、一般の会社と特定同族会社とで、課税の公平がとれないという観点から設けられた特例です。

この特例は、通常の税金対策とは違った視点が必要です。オーナー企業の経営者はまず、この特例が自身の会社に適用されるかどうか確認するようにしましょう。

2 内部留保が課税される特定同族会社とは

特定同族会社とは、次の要件の全てに当てはまる会社です。

  • 資本金の額等が1億円を超えていること。ただし、資本金の額等が1億円以下であっても、資本金の額等が5億円以上の会社に100%支配されている(完全支配関係にある)など、大会社と一定の支配関係にある会社を含む
  • 被支配会社であること
  • 上記2.の判定の基礎となる株主グループの中に被支配会社に該当しない会社が含まれているときは、その会社を除いて判定しても被支配会社に該当すること

被支配会社とは、会社の株主の1人と同族関係者(株主の親族である個人だけでなく、その株主が50%超の持株割合などを有する他の会社も含まれます)が、その会社の発行済株式総数の50%超を保有している会社をいいます。

少々分かりにくいのですが、簡単に言うと、オーナーとその親族や、オーナーの支配力の強い会社だけで過半数超の持株割合を占めている場合には、おおよそ特定同族会社に該当することになります。なお、持株割合の判断には複雑なケースも含まれることから、税理士などの専門家に確認するようにしましょう。

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3 そもそも内部留保とは

内部留保とは、利益から税金・配当金などを支払った後に会社に蓄積されたものです。実際の計算で使う内部留保と完全に一致はしませんが、貸借対照表「純資産の部」の「利益剰余金」をイメージするとよいでしょう。

内部留保という言葉から、会社に現金預金をため込んでいるような印象を受けるかもしれませんが、現金預金とは全く別物です。例えば、製造機械などの固定資産を購入した際(全額現金払いとします)には、現金預金は購入金額の全額が差し引かれますが、利益の計算では購入金額の全額は差し引かれず、減価償却費として毎年購入金額の一部が差し引かれます。そのため、購入金額と未償却部分の差額が、現金預金と利益では一致しません。

4 留保金課税制度への税務対策

資本金の額等が5億円以上である会社による完全支配関係がある場合などを除けば、留保金課税制度に対する最も有効な対策は、資本金の額等を1億円以下にすることです。これにより、中小企業者等の法人税率の特例(年800万円以下の所得について、軽減税率が適用されます)などの優遇措置を受けられるといった副次的な効果も見込まれます(これらの中小企業向け各租税特別措置の適用を受けることができるかどうかについては、別途検討が必要です)。ただし、資本金は税務面だけでなく、経営上さまざまなシーン(資金調達や取引前の与信調査など)で重要になる項目です。資本金の減額については、税務以外の専門家も交えて慎重に検討するようにしましょう。

また、設備投資を行うことにより内部留保金を減少させることも対策の1つです。ただし、設備投資は耐用年数にわたって減価償却費として費用化されるものなので、支出金額の全額が支出年度の内部留保金額からマイナスされるわけではない点に注意しましょう。

5 参考:留保金課税の計算

留保金課税の計算は非常に複雑であるため、ここでは参考として紹介します。

留保金課税に対する法人税は次の算式により計算されます。

留保金課税に対する法人税=(当期留保金額-留保控除額)×特別税率

1)当期留保金額

留保金課税の課税標準のベースとなるのは、当期の所得等の金額のうち留保された金額です。この留保金額は次の算式により計算されます。

留保金額=(所得等の金額のうち留保した金額)-{(当期の所得に係る法人税額)+(地方法人税額)+(その法人税額に係る道府県民税・市町村民税の額)}

1.所得等の金額のうち留保した金額

法人税申告書別表四の48「所得金額又は欠損金額」欄の、「留保」欄の金額です。

具体的には、まず、その事業年度の所得の金額に、受取配当等の益金不算入額、繰越欠損金の損金算入額等を加算して「所得等の金額」を求めます。

この「所得等の金額」から、その事業年度中に行った利益の配当により支出した金額、及び役員給与の損金不算入額、寄附金の損金不算入額、交際費等の損金不算入額、法人税額から控除される所得税額等の社外流出項目を減算して、「所得等の金額のうち留保した金額」を算出します。

2.当期の所得に係る法人税額

その事業年度の所得の金額に、税率(本則23.2%)を乗じて算出した法人税額(法人税申告書別表一(一)の2欄「法人税額」)から、所得税額の控除額・外国税額の控除額(法人税申告書別表一(一)の13欄「控除税額」)等を減算して、「当期の所得に係る法人税額」を算出します。

3.地方法人税額

上記2.で求めた法人税額に税率(10.3%)を乗じて、「地方法人税額」を算出します。

4.その法人税額に係る道府県民税・市町村民税の額

上記2.で求めた法人税額に税率(10.4%)を乗じて、「その法人税額に係る道府県民税・市町村民税の額」を算出します。

2)留保控除額

留保金額から差し引く留保控除額は、次の金額のうち最も多い金額となります。

  • 積立金基準額=期末資本金額×25%-期首利益積立金額
  • 所得基準額=所得等の金額×40%
  • 定額基準額=20,000,000円×当期の月数/12

3)課税留保金額

課税留保金額=当期留保金額-留保控除額

4)留保金課税に係る税額

留保金課税に係る税額=課税留保金額×10%

以上(2021年5月)
(執筆 南青山税理士法人 税理士 山嵜浩平)

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画像:Nishihama-Adobe Stock

従業員が仕事を楽しみ始める、経営者の「対話術」(3)~人間関係がエンゲージメントを築く~

書いてあること

  • 主な読者:自社の従業員がイキイキと働いていないと感じる経営者
  • 課題:社内のコミュニケーションが良好でなく、職場に活力がない
  • 解決策:活発な議論などにより社内の人間関係を良好にすることで、従業員は会社に貢献する喜びを感じるとともに、会社が「人生設計ができる場」となり活力が生まれる

1 人間関係が良好な職場には活力がある

1)社内コミュニケーションを重視したグーグルのオフィス

従業員のやりがいや成長の度合いを測るスケールとして、エンゲージメントが注目されるようになった今、再びコミュニケーションの重要性が見直されています。

グーグルは、なぜオフィスをユニークな造りにしているのでしょうか。それは、人間関係を中心としたエンゲージメントを重視し、従業員間のコミュニケーションが自然に生まれるような空間づくりをしているからだといいます。

複数あるマイクロキッチンには、それぞれに異なるドリンクが置いてあるといいます。あえてどこでも同じドリンクにしていないのは、従業員に自分の飲みたいドリンク目当てに、遠くのマイクロキッチンまで足を運ばせるためということです。いつもと違う場所に行って、普段は顔を合わせない従業員との交流が生まれることを狙っているようです。

こうした試みは「外資系だから……」と捉えられるかもしれませんが、全社を挙げて社内コミュニケーションの改善に取り組んでいる日本企業もあります。

2)自由で活発な議論が職場に活力を生み出す

日本のある会社の経営者と話していて、会社組織としてのエンゲージメントとはどのようなことかという話題になったことがあります。そこで一致したのが、「エンゲージメントが高い会社は、マネジャーがしっかりしているだけでなく、会社の雰囲気が良くて、従業員に活力がある」ということです。従業員の表情がニコニコしているとか、仲が良さそうだという意味ではありません。会話が少なく緊張感が漂う雰囲気だとしても、空気がよどんでおらず、一体感のようなものが感じられる。それが「活力」です。

その経営者の会社では、チームのマネジメントのためにマネジャーだけがエンゲージメントを学び、それを活用するように指示していました。しかし、あるときから方向転換しました。エンゲージメントの概念を書いたカードを作成し、それを従業員にも渡して、「エンゲージメントを高めるために、こうしたほうがいいと思うことがあれば、誰でも自由に発言していい」というやり方に変えたのです。その結果、明らかに職場の雰囲気が変わりました。活発な議論が生まれ、意見の対立があっても人間関係が壊れなくなった。つまり、職場に活力があふれるようになったというのです。

経営トップ自らが「誰もが発言していい」と明言したことにより、みんなが職場の問題を自分事として捉えるようになり、ミーティングでも発言数が増えたそうです。もちろん、発言が活発になったからといって、すぐに仕事の効率や業績アップにつながるとは言えないかもしれません。恐らく定量的な効果は後から出てくるのでしょう。それより前に職場の雰囲気が良くなるなど、質的な変化が表れたのです。

これは、エンゲージメントというキーワードを入り口に、職場での対話が広がった好例であると言えます。逆に言えば、活力のない、停滞している職場には「対話」がありません。

2 良好な人間関係は会社のパフォーマンスを高める

1)笑いはビジネスにメリットをもたらす

社内の良好な人間関係とエンゲージメントには、密接な関係があることを分かっていただいたと思います。また、人間関係が良ければ職場に自然と笑みが生まれるものですが、クスクス笑いや大笑いはビジネスにおいてもメリットがあるそうです。

「笑うことは、ストレスや退屈さを軽減して、エンゲージメントや幸福感を向上させる。創造性を高め、協力を促すうえ、分析の精密さや生産性の向上をもたらすのである」
(アリソン・ビアードがハーバードビジネスレビューに寄せた論文「Leading with Humor」)

2)貢献することへの喜びが能力を引き出す

ラグビーファンの方であれば「One for All, All for One」という言葉をよくご存じでしょう。ラグビーにおけるチームプレーの大切さを説いた言葉です。この言葉が持つ重みは、ビジネスでも同じです。お互いが率先して協力し合う職場は、一人ひとりのエンゲージメントが高く、個人やチームのパフォーマンスが向上し、イノベーションも起こりやすくなります。

そして、「One for All」を意識することで、発揮できる能力そのものも引き上げられるのです。他者への貢献を自分の喜びとすることで、人は自分の限界値を上げてポテンシャルを発揮できるようになります。自分の能力以上のばか力が発揮できるのです。

ここで考えたいのは、「One for All」のAllは誰かという問題です。真っ先に思い浮かぶのは、普段一緒に働いている仲間や、いつも支えてくれる家族や友人の顔でしょう。ただ、身近な個人にとどまらず、彼ら彼女らを含むチーム、組織へとAllの射程を広げてみるのもいいと思います。自分が会社に貢献したいと思い、会社のほうもあなたの貢献を望み、その貢献に正当な評価で応える。これはまさしくエンゲージしている状態であり、パフォーマンスのさらなる向上が見込めるでしょう。

3)社会と相思相愛の会社は強い

可能なら、さらにその向こうまでAllの対象を広げたいところです。具体的には、会社の事業を通してつながっている顧客や取引先、業界、市場、地域、国、そして地球……。ここではそれらを総称して「社会」と呼ぶことにしますが、自分が社会の役に立ちたいと思い、社会からもそれを求められ、実際に貢献できている実感を得られれば、これほど強いエンゲージメントはありません。

自分が社会に貢献することを望み、社会からもそれを求められて、相思相愛でつながっている実感を、私たちは「ソーシャル・エンゲージメント」と呼んでいます。自分の仕事を通じて直接的に社会貢献できれば、ソーシャル・エンゲージメントと同時に、ワーク・エンゲージメントを高めることができるので一挙両得です。

3 自分を高める「人生設計ができる場」は活力を生む

バイタリティーを感じさせる中小企業の組織を観察してみると、共通した傾向があります。それは、会社が働く場であると同時に、「人生設計ができる場」になっているということです。

そのような中小企業の特徴とは、どのようなものでしょうか? 共通している特徴は、従業員に仕事を提供するだけでなく、個人のプライベートの時間、そして思考力を高めることを大切にしているのです。給料では大企業に及ばないかもしれません。しかし、小さい家族的な組織の中でお互いの個性を尊重し、会社の成功と自分の幸せという人生の本質をしっかり議論し、お互いを高め合って人として成長できる職場であれば、それは、従業員にとってかけがえのないものになるのです。従業員は職場で常に自分を高め、「人生設計」をすることができているからです。

こうした中小企業では、従業員の強みを伸ばすワークショップ、勉強会、相互コーチングなど、従業員を成長させる仕組みを業務以外で用意しています。さらに、次世代のリーダーを育成し、そのまた次の世代の可能性にも投資しているので、将来にも期待が持てます。すると従業員はますます会社の将来にワクワクします。こうした中小企業はまさにエンゲージメントのあるべき姿を体現しています。

4 終わりに:中小企業でもエンゲージメントは高められる

エンゲージメントの向上というと、大企業の人事部主導の活動という印象を受けるかもしれませんが、実はエンゲージメントの波は中小企業にも及んでいます。

中小企業には、企業規模が小さいからこそエンゲージメントを築くための施策を取り入れやすい環境があり、実際に取り入れてうまくいっている会社も数多くあります。

経営トップの決断が組織全体に大きく影響する中小企業では、経営トップが施策を素早く推し進めることができます。しかも、ある程度エンゲージメントが定着すると、早いタイミングで組織として自走し始めるケースが非常に多い印象です。ぜひ取り組んでみてください。

【参考文献】

「楽しくない仕事は、なぜ楽しくないのか?」(土屋 裕介、小屋 一雄 2020年2月)

以上(2021年5月)
(執筆 日本エンゲージメント協会 佐々木拓哉、小屋一雄)

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画像:Gutesa-shutterstock

2021年6月に義務化 事例で見る「HACCP」対応

書いてあること

  • 主な読者:義務化されたHACCPに対応したい経営者
  • 課題:中小企業がHACCPに対応する際の進め方、課題を知りたい
  • 解決策:実例を基に、自社での対応の参考にする

1 2021年6月、ついにHACCP義務化!

HACCP(ハサップ:Hazard Analysis and Critical Control Point)とは、食品事業者が自ら原材料の受け入れから製造、製品の出荷までの全ての工程において、食中毒などの健康被害を引き起こす可能性のある危害要因(ハザード)を科学的根拠に基づいて管理する方法です。このHACCPが、2021年6月についに義務化されます。

HACCP義務化の対象範囲は、食品製造・加工業者や、飲食店・小売店など、一部を除き、食品関連のほぼ全てとなります。対象外となるのは、缶詰やインスタントラーメンだけを販売する店舗など、食品衛生上のリスクが低い事業者に限られます。コロナ禍で一気に普及したフードデリバリー事業者の一部でも、加盟する飲食店に対してHACCPに基づいた衛生管理を推進する動きが出てきています。

「知っているけど、対応はまだ」ではもう済まされないHACCP。本稿では、HACCP対応の実例やポイントなどを紹介します。

2 HACCP対応のポイント

HACCP対応を支援するコンサルタントによると、中小企業がHACCP対応の際に直面する課題としては、以下のようなものがあるそうです。

1)課題

  • 小規模の食品等事業者の工場の場合、大手の食品等事業者の工場に比べ、各工程の動線が整理されていなかったり、作業する従業員が同一で、同じ器具を別工程で使い回したりすることがあるため、衛生管理の実施が難しいことがある。
  • こうした小規模の食品等事業者は、各工程の動線以外にも、顧客と従業員のトイレの分離や、危害を及ぼす恐れのある微生物や異物の空気を介した食品への付着を防ぐための陽圧室の導入の有無など、ゾーニングに関する課題を抱えている場合が多い。

2)HACCP対応の秘訣

  • まずは経営者が旗振り役となり、HACCP対応チームのリーダーを指名し、ともに対応計画を策定する。策定した対応計画を現場に落とし込むため、現場の従業員からリーダーを指名し、実際の業務の中で回していけるのかを確認・調整することが重要。
  • 従業員にHACCP対応を定着させるためには、HACCPの基本や各業界団体が作成した手引書を理解する必要があるが、実際に業務中に学ぶ時間を取ることは難しい。そのため、シフトを調整して一部の従業員ごとに研修の時間を設けたり、手引書を見ながら実際の業務を行って、改善点をその場で洗い出したりするなどの工夫が必要。

3)実際の例

コンサルタントによると、対応を進める流れとして、次のような実例がありました。

【おこわ・団子製造業者(従業員約10名)】

  • HACCPチームの編成(社長、正社員1名、パートのリーダー1名の計3名)
  • 業界団体が作成する手引書を参考に、実際の作業の洗い出し
  • 作業手順のマニュアル化(手順を口頭でしか説明、確認できなかったため)
  • 作業の流れに沿って、実際にどんな異物混入リスク・微生物汚染リスクがあるのかを確認
  • 明らかになった異物混入リスク・微生物汚染リスクに対して、科学的な観点から対処法を検討する(熱処理、設備の増設など)
  • 上記の対処法が効果があるのかを、食品検査センターなどで科学的な観点から検証する
  • 上記の対処法の効果を確認できた場合、全工程の作業手順および処理方法の記録、モニタリング体制の整備を行う
  • 全工程の作業手順および処理方法の記録、モニタリング体制の整備が実際の業務の中で無理なく進めていくことが可能であれば、HACCP認証機関に申請するための書類を作成する

3 小規模事業者はHACCP対応を簡略化できる

実際のHACCP対応に取り組む際には、大規模事業者や、と畜場などは、「HACCPに基づく衛生管理」に沿った衛生管理を行います。また、以下のような中小規模の事業者(小規模事業者)は、各業界団体が作成する手引書を参考に、簡略化された手法「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」に沿って衛生管理を行います。

  • 食品を製造し、または加工する事業者で、店舗に併設した設備で食品を製造・加工した食品を小売販売する場合
    (例:菓子の製造販売、豆腐の製造販売、魚介類の販売など)
  • 飲食店や喫茶店などの運営を行う事業者、その他の食品を調理する事業者
    (例:そうざい製造業、パン製造業(消費期限がおおむね5日程度のもの)、学校・病院向け以外の集団給食施設など)
  • 容器包装に包装された食品のみを保存、運搬、販売する事業者
  • 分割して包装された食品を小売販売する営業者
    (例:八百屋、米屋、コーヒーの量り売りなど)
  • 食品を製造、加工、保存、販売、処理する事業者で、食品などを取り扱う従業員数が50人未満の事業場(食品の取り扱いに直接従事しない者はカウントしない)

厚生労働省では、業態ごとの手引書を公開しています。

■厚生労働省 HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書(五十音順)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00005.html

4 大企業も支援に乗り出す

農林水産省が2020年6月に公表した調査(「食品製造業におけるHACCPの導入状況実態調査結果」)によると、2019年10月時点でHACCP対応済みと回答したのは、全体の22.5%にとどまっています。その一方で、「導入については未定」が18.9%、「HACCPに沿った衛生管理をよく知らない」は19.7%に上っています。義務化が間近に迫っているにもかかわらず、対応がスムーズに進まない状況を受けて、大企業が導入支援に乗り出しています。

1)中部電力ミライズ:HACCP対応支援コンサルティング

中部電力グループの電力・ガス小売事業者の中部電力ミライズは、愛知県名古屋市内の食をテーマにした複合施設「BAUM HAUS(バウムハウス)」内でHACCP対応を支援するコンサルティングサービスを行っています。

ここでは、食品事業者の困り事をサポートする「Food DX Salon」を設け、HACCPに関する情報提供やセミナーの開催、コンサルティングサービスの提供を行っています。

2)パナソニック産機システムズ:HACCP対応の作業省略化サービス

パナソニックグループで業務用機器などの販売・メンテナンスを行うパナソニック産機システムズは、HACCP対応に必要な文書・帳票の作成や、従業員の健康状態、機器の温度計測などの記録を支援するクラウドサービス「エスクーボフーズ」を提供しています。

エスクーボフーズは、HACCP対応で必須となる日々の温度管理・データの保存などの煩雑な作業を自動化し、クラウド上で保存することができ、データの見える化や作業効率化が期待できそうです。

以上(2021年5月)

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画像:stocksnap

【朝礼】昼食後の歯磨きで、自分自身も磨こう

私は最近、自分の業務遂行能力を高めようと、あることを始めました。それは「昼食後の歯磨き」です。「何で歯磨き?」と思うかもしれませんが、これを習慣として取り入れてみると、仕事に役立つさまざまな恩恵が得られるのです。私が考える恩恵は3つあります。

1つ目は、「健康管理」です。普通、虫歯や歯周病予防といった口内の健康管理は、歯が痛まない限り後回しにされがちです。しかし、例えば歯周病にかかると、糖尿病をはじめとするさまざまな疾患を発症する恐れがあるといわれます。逆に健康な歯をたくさん持っていると、よくかんで食べる癖がつくため、肥満予防やバランスの良い栄養摂取につながるそうです。つまり、昼食後の歯磨きを習慣的に行うことで、仕事をする上で必須となる、健康な肉体を保てます。

2つ目は、「時間管理」です。昼食は「ながら」作業ができても、歯磨きはそうはいきません。日中は仕事が立て込むことが多い中で、毎日5分程度の時間を捻出する必要が生じるため、逆算してテンポ良く作業をこなすようになります。また、特にリモートワークの場合、公私の時間の区別が不明確でダラダラと作業をしてしまいがちですが、歯磨きを作業の区切りに挟むことで、メリハリをつけることができます。さらに、「日々の健康管理」という、緊急ではないけれど重要な要素を1日のスケジュールに組み込むことは、仕事の優先順位を考え直すきっかけにもなり得ます。

3つ目は、「整理整頓」です。これは会社で歯磨きをする人が対象になりますが、多くの人が使用する社内の共有スペースの中に、歯ブラシなどを置く場所を確保するというのは、簡単なようで意外と難しいことです。歯ブラシを乾かすためには、清潔でそれなりに広い空間が必要ですし、会社に訪問されるお客様に歯ブラシを見せるわけにはいきません。自宅だとあまり整理整頓を意識しないという人も、人目がある会社では逆に整理整頓を意識するようになるのではないでしょうか。

健康管理、時間管理、整理整頓はどれも社会人にとって初歩的なことですが、それだけにおろそかになりがちです。また、歯磨きがこれら3つの改善につながるといっても、地味で効果がすぐには見えにくいため、「やってみよう」という気は起きにくいかもしれません。ですが歯磨きには、すぐに、簡単に始められるというメリットもあります。今年度、さらなる成長を目指し、「ささいなことでもよいから、自分自身を磨いていきたい」という人には、ぜひお勧めします。

先ほど紹介した通り、歯磨きは虫歯や歯周病の予防になりますし、口中がさわやかになって気分転換にもなるなど、仕事以外の部分でもメリットがあります。歯磨きのために鏡で自分の姿を見ることで、身だしなみの乱れも正せます。

歯磨きのようなささいなことでも、自分を磨くために少しでも有益だと思えることであれば、皆さんも積極的に取り入れていきましょう。

以上(2021年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

【先進企業の事例付き】今からSDGsを始める中小企業が、まず知っておきたいこと

書いてあること

  • 主な読者:SDGsに取り組んでみたいと考えている経営者
  • 課題:あまり資金や労力をかけないことから始めたいが、何から取り組むべきか分からない
  • 解決策:公開されているSDGs Industry Matrixや、経営者自身の社会課題解決への想いを基にマッピングし、SDGsの何を目標にして、どのような取り組みを行うか導き出す

1 「SDGsはもうかるの?」はもう通用しません

SDGsに関わる取り組みをしていると回答した企業は、大企業が約90%であるのに対し、中堅企業では約60%、中小企業では約40%にとどまっています。なぜ、中小企業のSDGsが加速しないのでしょうか?

私が共同代表を務める一般社団法人SDGsマネジメント(以下「SDM」)が中小企業のSDGs導入の支援をさせていただいている中でよくいわれるのが、「SDGsはもうかるの?」という質問です。正直にお答えすると、必ずもうかるとは言えませんが、正しく理解すれば、お金をかけずに実践できますし、やらないよりも良い結果につながると思っております。SDGsの取り組みの成果を数値化して発信できれば、自社の事業価値を再定義することができ、ブランド力が高まることで、融資面や採用面、企業間の連携でも有利になります。

これから学校の現場では、ESD(Education for Sustainable Development=持続可能な開発のための教育)が本格的にスタートします。若い世代はSDGsネーティブといわれる世代で、SDGsが当たり前の状態で社会を見ます。企業がSDGsについて考えなければならなくなる時代は、すぐそこまで来ています。良い意味で諦めて、SDGsを早く始めてみましょう。日本のSDGsは、まだまだこれからですので、今からでも遅くありません。

2 「何に取り組むか」を決めるヒントと先進事例

1)SDGsを進めるための3つのフェーズ

では、SDGsを始める際の手順を整理してみましょう。企業のSDGs導入書といわれている「SDG Compass」では5つのステップ(SDGsを理解する、優先課題を決定する、目標を設定する、経営へ統合する、報告とコミュニケーションを行う)があると言っていますが、SDMでは5つのステップをもう少し簡単に考えるために、3つのフェーズにまとめて導入のオススメをしております。

  • SDGsの理解
  • マッピングとストーリー
  • 発信

今回は、SDGsの具体的な取り組みに直結する、2番目のマッピングとストーリーについてお話をしたいと思います。マッピングとは何かというと、自社の取り組みをSDGsの17ゴールに当てはめることです。マッピングには2通りの方法があります。

2)産業別のSDGs導入のヒント

マッピングの1つ目の方法は、産業別のSDGs導入の手引書を参照するものです。例えば、一般社団法人グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンとKPMGあずさサスティナビリティが監訳・監修した「SDGs Industry Matrix」では、7つの産業別にSDGs導入のヒントを記載しています。少し難しい表現ですが、ゴール別に取り組み事例が記載されているので、自社の取り組みに近いものを探してみてもよいと思います。また、建築業界であれば、「建築産業にとってのSDGs―導入のためのガイドライン―」というハンドブックが販売されていますので、それを参照されるとよいでしょう。

■グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン「SDGs Industry Matrix日本語版」■
https://www.ungcjn.org/activities/topics/detail.php?id=204
■日本建築センター「建築産業にとってのSDGs―導入のためのガイドライン―」■
https://www.bcj.or.jp/publication/detail/111/

3)低価格住宅の提供でゴール1:「貧困をなくそう」に取り組むSUNSHOW GROUP

マッピングの2つ目の方法は、経営者自身の想いを基に、独自のSDGsストーリーを組み上げていくものです。社会課題に対する経営者自身の想いを基に、自社の事業を再定義し、そこから取り組む内容を導き出す方法です。

まずは、政府のSDGs推進本部による第2回のジャパンSDGsアワードを受賞したSUNSHOW GROUP(岐阜県岐阜市、以下「SG」)を紹介します。SGの西岡徹人社長は、青少年育成などの奉仕活動によって社会課題解決を進めてきた青年会議所での経験から、SDGsの取り組みに興味を持ちました。

SGの取り組みでユニークなのは、各事業部がSDGsに基づいてブランディングしていることです。例えば、低価格住宅の販売を手がける事業部は、SUNSHOW夢ハウスというブランドを展開し、ゴール1:「貧困をなくそう」、ゴール10:「人や国の不平等をなくそう」に貢献しています。

低価格の商品を売ることは、価格競争で勝つことを目的にしてしまいがちです。それに対してSGでは、「全ての人にマイホームを」という社会課題解決を目的としています。このため、例えばローンが承認されにくい人には、審査が通るまでの手続きや、無理のない返済計画づくりのお手伝いなどもしています。この取り組みは、日本人のみならず、岐阜に在住する外国人にも好評です。外国人が、日本で持ち家を持つことによって、コミュニティーに参画ができるようになり、外国人に対する不平等が是正されるようになりました。

ここで重要になるのが、社会課題解決のストーリーです。SGでは、日本の社会問題や商圏である岐阜の地域課題を調査し、背景を明確に設定します。ゴール1に対しては、子供の貧困問題の背景や、解決に向けた指標や数値も記載されている政府の「子供の貧困対策に関する大綱」および岐阜県による「岐阜県子どもの貧困対策アクションプラン」を参照にしています。その上で、SGの本業である建築業という強みを活かし、それらの社会課題を解決するための新たな価値として、低価格住宅を提供すると再定義しています。

■SUNSHOW GROUP(三承工業株式会社)ウェブサイト■
https://www.sunshow.jp/

4)健康経営の推進でゴール3:「全ての人に健康と福祉を」に取り組む大平経営会計事務所

大平経営会計事務所(愛知県豊橋市)では、経営者である大平佳宏さんの「経営者は健康であってほしい」との想いを、自社の事業として再定義しました。経営者が心身ともに健康であることは、企業の健康や従業員の健康にもつながり、ひいては持続可能な企業への成長に結び付く、との考えに基づいています。

その結果、同社ではゴール3:「全ての人に健康と福祉を」を中心として、「経営者に寄り添い持続可能な経営のお手伝いができる会計事務所」を目標に掲げ、健康経営の推進、教育、ITの活用による働きがいのある環境づくりなどに積極的に取り組んでいます。

具体的な取り組みとして、まずは自社の職場改善から始めています。健康経営の推進としては、定期健康診断で再検査となった従業員へのフォローや、ストレスチェックとそのアフターケアなどを行っている他、従業員の定期健康診断の受診率100%、1日7000歩の運動といった数値目標を掲げています。この他、ゴール4:「質の高い教育をみんなに」では従業員の勉強会の参加を月1回以上、セミナー参加を年1回以上とし、ゴール9:「産業と技術革新の基盤をつくろう」では、コピー用紙使用率の30%削減を数値目標に掲げるなどしています。

事業内容だけでマッピングをしようとすると、会計事務所の場合などは、デジタル化や効率化といった内容に偏ってしまうことがあります。経営者の想いにフォーカスして、その企業がお客様や社会にどんな価値を提供したいのかを深掘りすることで、SDGsのゴールにマッピングをしていくことができる事例といえます。

■大平経営会計グループのSDGs宣言■
https://odaira.com/sdgs/

5)女性の活躍推進でゴール5:「ジェンダー平等を実現しよう」に取り組む神美

神美(東京都渋谷区)は、「THE PERFECT LINE」というエステブランドを展開しています。経営者の田中由佳さんは、女性の経済的エンパワーメントに対する意識が低いことについて問題意識を持ちました。そこで、「女性の精神的自立は金銭的自立から」との考えに基づき、女性が活躍しやすい環境を整備し、男女の所得格差解消を進めることで、ゴール5:「ジェンダー平等を実現しよう」に取り組んでいます。

具体的には、年齢や経歴を問わず、全ての社員を対象としたキャリアアッププランを構築し、女性管理職の登用を図っています。また、「変わりたい女性に行動を起こさせ、女性が輝き活躍する社会の実現」をビジョンに掲げ、未経験者である「変わりたい女性」を優遇し、積極的に正社員として中途採用しています。

さらに、固定給と別にインセンティブ制度(年6回)を導入し、全社での表彰式を2カ月に1回行うなど、社員が自己成長感を持つことによってやりがいを感じる、長く働ける環境づくりにも取り組み、ゴール8:「働きがいも経済成長も」に貢献をしています。

また、田中さんのSDGsの取り組みで面白いのは、自社の取り組みをもっと広くさまざまなパートナーを巻き込む仕掛けとして、一般社団法人Women’s Independence Forumを立ち上げられたことです。SDGsはゴール17でも掲げているように、パートナーシップで目標を達成することが求められています。しかし、一般的な自社を取り巻くパートナーシップとは、利害関係を軸とするサプライチェーンでのつながりであります。自社の利益を中心とする考えではなく、視座を高めて、志を中心とする団体や協会を設立することで、多様な企業連携のみならず、今までになかった官公庁や大学・研究所とのパートナーシップを構築することが期待できます。

■神美ウェブサイト「SDGs」■
https://synbi.jp/sdgs/

3 取り組みの成果を発信してメリットを得る

1)成果の数値化が、SDGsに取り組む企業にメリットを生む

SDGsはマッピングするだけで終わりではありません。SDGsはゴールであるので、具体的に達成目標が設定されるべきであります。

SDGsの構造をご説明すると、SDGsは17のゴールの下に169のターゲットがあり、さらに、その下に250近くのグローバルインディケーター(指標)があります。今、日本でSDGsの旗振り役になっている人たちの間では、このインディケーターへの注目度が高まっています。なぜなら、企業がSDGsに取り組むには、社会にとっても企業にとっても、その成果を評価する仕組みが大きな意味を持つからです。

グローバルインディケーターは外務省のウェブサイトで公表されていますが、世界各国の共通指標であるために、日本の実情に合っていない指標も多くあります。そのため、SDMでは法政大学デザイン工学部建築学科の川久保俊教授とともに、グローバルインディケーターをローカライズし、日本、そして地域ごとの社会課題に合った指標を設定する取り組みを進めています。ローカライズされた指標と、企業が取り組むSDGsを関連付けることによって、その企業が事業を継続すればするほど、社会により良い影響を与えるという関係性を数値化することができます。

さらにSDMと川久保教授は、その数値を基に、中小企業への金融(クラウドファンディングや制度融資など)が加速される仕組みを構築しようと、関連機関と研究を重ねています。中小企業にも、SDGsへの貢献度によって融資面での格差が生じる時代が来ているのです

2)SDGsへの取り組みのアピールが、採用や企業間の連携に有利に

格差が生じるのは融資面だけではありません。前述の通り、これからの若い世代は、SDGsネーティブといわれる世代です。企業にとっては、少子化で採用困難が予想される中で、自社のSDGsへの取り組みをより多くの人に発信していくことが急務であります。

そのためにも、これからSDGsに取り組もうとしている企業の皆様に使っていただきたいサービスが、一般社団法人サステナブルトランジションが提供する「Platform Clover」です。2021年8月の大幅アップデート後は、自社のSDGsの取り組みを体系的に発信できるだけでなく、プロジェクトの管理・評価もできるオンラインプラットフォームになります。SDGsに取り組むためのマッピングができたら、このプラットフォームに登録することをオススメいたします。

また、SDGsはゴール17で掲げているように、パートナーシップで目標を達成するものであり、そこにイノベーションの可能性があります。「Platform Clover」では今後、SDGsに関する自社のニーズと他社のシーズをマッチングする仕組みもできますので、大いに活用してほしいと思っております。

■サステナブルトランジション「Platform Clover」■
https://platform-clover.net/

4 終わりに

「経済なき道徳は戯言(ざれごと)であり、道徳なき経済は犯罪である」(二宮尊徳)

私は日本で最初にSDGsの精神を説いた偉人は、二宮尊徳であると思っております。まきを背負って勉強した勤勉な人として語られていますが、尊徳は各地で農村再建をしました。当時の経済基盤は農業でした。尊徳の教えは「報徳仕法」といい、過去の収穫高(収入)と、年貢(支出)を洗い出し、また天候による飢饉(ききん)の可能性を考えた備蓄(貯蓄)をするために、生産効率を上げ、持続可能な生活スタイルを定着させようとしました。

その仕法を各地で授けるに当たり、上記のような言葉を残しています。大変厳しい言葉でありますが、これはSDGsの次のステップを指し示している言葉であると思います。私たちは、SDGsを通じて経済性と社会性を両立させ、日本のビジネスを「道徳ある経済」に進化させていくことが求められています。

以上(2021年5月)

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画像:Sakosshu Taro-Adobe Stock

カギを握る構造化面接:Web面接中編/2022年新卒採用必勝法〜優秀なコア人材を採用するなら今がチャンス〜(4)

超売り手市場から一転し買い手市場となったウィズコロナの今、採用のポイントは「量」ではなく「質」にシフトしています。不況期に採用投資が有効なのは、自社の未来を担っていく「優秀なコア人材」を獲得しやすいからに他なりません。この好機を逃さないために重要となる取り組みが“採用のオンライン化”です。中でもWeb面接のスキルを磨くことは不可欠です。

前回は、モニター越しの会話に発生しがちなコミュニケーション特性を紐解き、その特性にあった面接手法について述べました。それが「構造化面接」です。連載4回目の本稿ではWeb面接のカギを握る構造化面接について、その進め方や重要なポイントを具体的に解説させていただきます。

1 あのGoogleも構造化

構造化面接とは、面接のやり方や質問内容、評価の基準などをあらかじめ設定するという“採用面接のマニュアル化”を指します。そもそも対面面接かWeb面接かにかかわらず、面接を構造化することは、見極めの精度を高めるといわれていました。優秀な人材を獲得することにものすごく貪欲なあのGoogleも採用している面接手法であるといえば、その説得力も増すはずです。
しかし、構造化面接がいまひとつ普及していないのには理由があります。面接自体が盛り上がりにくいといった側面があり、面接官にとっても候補者の学生にとっても、あまりウエルカムな面接手法ではなかったのです。

ところがWeb面接では、会話のキャッチボールがしづらく、そもそも対面面接ほどの盛り上がりは期待できません。その場のノリがイマイチなぶん、きちんと決まった質問を投げかけやすくなる。面接官にとっては見極めやすくなるし、候補者は自分の資質を伝えやすくなる。そういった意味でもWeb面接と構造化面接は極めて相性が良いといえます。
今、構造化のノウハウを学ぶことで、「Web面接は対面面接に比べ選考しにくい」と感じている他企業に大きく差をつけることができます。

2 質問項目を構造化

前回もお伝えしましたが、おさらいの意味も込め「構造化面接の全体像」を紹介しておきます。構造化のポイントは以下の4つです。

  • 求める人物像の特定
  • 質問の固定化
  • 詳細な質問内容の特定
  • 評価基準の特定

どのポイントも重要ですが、オンラインコミュニケーションと関連するのは、2と3の質問項目の構造化になります。「質問の固定化」において、主となるのが「過去の行動に対する質問」と「仮説に対する質問」の2種類です。ちなみに、前述のGoogleもこの2つを組み合わせているとのこと。
その上で「詳細な質問内容を特定」に進んでいきます。たとえば、「大学生活でもっとも苦労した経験を教えてください」といった質問を皮切りに、順に掘り下げて聞いていきます。当時の状況(Situation)、そのとき抱えていた課題(Task)、どのような行動(Action)をとったか、どのような成果(Result)が出たのか、について聞くことが有効とされ、これらのアルファベットの頭文字を取って「STAR面接」とも呼ばれます。

STAR面接の例

    Situation(状況):
    「どのようなチーム体制でしたか」
    「そのなかであなたはどんな役割でしたか」
    「どのような責任と権限を持っていましたか」

    Task(課題):
    「どのようなトラブルだったのですか」
    「問題発生のきっかけは何でしたか」
    「いつまでに解決しなくてはいけなかったのですか」

    Action(行動):
    「その課題をどうやって解決しようとしたのですか」
    「とった行動を順に聞かせてください」
    「チーム内外とどのように関わりましたか」

    Result(成果):
    「課題はどれだけ解決できましたか」
    「成果に対する周囲の反応はいかがでしたか」
    「取り組みの後、どのような変化がありましたか」

過去の行動は候補者の資質や性格から生まれてきた事実です。行動を分析できれば、その背後に隠れている真の能力や志向性、誠実さなどを測りやすくなります。分析の確度を上げるためにも、このSTAR面接というフレームを活用するのは効果的です。
ただしS・T・A・Rに沿って順に掘り下げると、どうしても面接が淡々と進みがちです。この質問の仕方が“構造化面接が盛り上がらない”という理由の正体です。しかし ここまでも再三お伝えしてきたように、そもそも“Web面接自体盛り上がらない”わけです。“面接にノリを求めるのは諦めよう”と開き直ってしまえば、STAR面接の手法は、Web面接の大きな味方になってくれます。

3 想定質問と誘導質問の罠

一方で、聞きたいことは聞けたはずなのに、終わった後に振り返ってみると、聞いた内容が浅くて候補者の見極めに迷ってしまう。面接でこうした経験をしたことがある方も少なくないのではないでしょうか。これは「想定質問」や「誘導質問」が多くなっていた可能性があります。

想定質問とは、候補者が事前に準備できる質問のことです。たとえば、「自社の志望理由を聞かせてください」「入社したらどんなことをしたいですか」といった質問は、候補者が「きっと聞かれるだろう」と想定し、適切な答えを用意して面接に臨んでいるケースが大半です。自分を少しでもよく見せようと入念に準備をしてくる候補者がほとんどなわけですから、面接で見せる姿や言動は取り繕ったものになりがちで、こうした想定質問だと候補者の真の能力は見えづらくなります。

誘導質問は、企業側が期待している答えが相手に伝わってしまう質問のことです。たとえば「地方への転勤は可能ですか」といった質問は、「転勤してほしい」という企業の希望が暗に伝わってしまうため、とにかく入社したいと考えている候補者は、本心では転勤したくなくても「はい、可能です」と答えてしまうでしょう。その結果、内定を出した後に「やはり転勤できない」と内定を辞退されることもあります。

細かなルールを設けず、面接官がノリ重視で自由に面接を行うと、なんとなく出てきがちなのが、これらの想定質問や誘導質問だったりします。候補者の本質を見極めるにあたっては、やはり構造化面接を取り入れるべきです。

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4 求める人物像との紐づけ

STAR面接は応募者の内面を掘り下げるのに有用ですが、質問の意図が明確でなければ、自社の採用要件に合う人物かどうかを見極めることはできません。質問項目を具体的に考える前に、応募者のどんな価値観を見極めたいのかを明確にしておく必要があります。
構造化面接の全体像にも記しましたが、質問項目の構造化だけでなく「求める人物像を明確に描き」「採用において重視する評価基準を設定する」こともあわせて設計をすることで、はじめて構造化といえます。この2点から“逆算”してどのような質問を用意しておくべきか。重要なのは、求める人物像や評価基準と紐づけた質問項目の構造化なのです。

見極めたいポイントを明確にした上で、STAR面接に則って質問を掘り下げていく。ここからはそういう面接シーンの実践例をいくつか紹介しましょう。

「バイト先のシフトトラブルを乗り越えて成果を出せた過去の経験」について、見極めたいポイントに沿った掘り下げ方の例

    Actionについての質問で、関係の構築力について見極めようとする掘り下げ方
    面:「シフトのトラブルを解決するために、まず何をしましたか?」
    応:「緊急に対応するためスタッフの増援に奔走しました」
    面:「誰かに助けを求めましたか?」
    応:「同じ管轄エリアの他店のチームリーダーに応援してもらえるよう頼みました」
    面:「今まであまり業務で関わったことがない人もいましたか?」
    応:「はい。火急の事態であることを伝えて、また店長からも事情を話してもらい、とにかく必要人員を早急に手配しました。今まで関わったことがないメンバーには、まず自分から個別に背景を説明してスタッフを貸し出す納得感に配慮しました」

    Resultについての質問で、トラブルを成長の糧にできそうか見極めようとする掘り下げ方
    面:「あなたが実行した今回のシフトトラブル対応は、上手くいきましたか?」
    応:「はい、お客様からクレームがくることもなく、お店を回すことができました」
    面:「いま振り返ってみて、別のもっと良い方法はありますか?」
    応:「お客さんからのクレームはなかったのですが、当然、他のお店には迷惑をかけてしまいました。こうした事態に備えるためには、自分の店舗で緊急対応できるスタッフを確保しておけばよかったと反省しています」
    面:「このトラブルから学んだことはありますか?」
    応:「こういうトラブル時は、どうしても店長に頼りきりになってしまいます。自分だけでなく他のバイトリーダーであってもスムーズに対応できるよう、対応マニュアルを整備しておく必要があると感じました」

構造化面接法で行う質問自体は目新しいものではないので、「日頃からやっている」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、それは個人の話であって、誰が面接官を務めても同じように実行できるよう標準化している企業は多くないと思われます。面接官によって評価基準がバラつくことに悩まされている企業にとっては、面接クオリティの均質化という意味でも、構造化面接は大きなメリットがあります。

5 そして動機形成へ

ここまでは、候補者が自社に合う人物かどうかを見極める「選考」についてお伝えしてきました。Web面接の選考では、アイコンタクト、服装、表情などの非言語的手がかりが減少するこことで、会話の中身に集中できることがわかりました。さらに面接の進め方や質問内容、評価の基準等をあらかじめ体系化する面接の構造化を行うと、Web面接は精度の高い見極めができるということも紹介しました。

しかし採用面接にはもうひとつ、「動機形成」という目的があります。候補者が企業に求めるものを把握し、それに合わせて自社の魅力をアピールしたり、候補者の不安要素を取り除いたりして、候補者が「入社したい」「この会社ならば、活躍できそうだ」と感じられるよう働きかける。要は口説きです。

優秀な人材を採用する最終関門にあたる「動機形成」をオンライン上でどうやって行えばよいのか。いよいよ最終回となる次回、そのノウハウを解説させていただきます。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年5月10日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

第20回 株式会社コンセラクス代表取締役 住友 滋氏/森若幸次郎(John Kojiro Moriwaka)氏によるイノベーションフィロソフィー

かつてナポレオン・ヒルは、偉大な多くの成功者たちにインタビューすることで、成功哲学を築き、世の中に広められました。私Johnも、経営者やイノベーター支援者などとの対談を通じて、ビジョンや戦略、成功だけではなく、失敗から再チャレンジに挑んだマインドを聞き出し、「イノベーション哲学」を体系化し、皆さまのお役に立ちたいと思います。

第20回に登場していただきましたのは、商品共創、事業共創、人材共創、社会共創など、新しい成長事業の創出に取り組む株式会社コンセラクス 代表取締役 住友 滋 氏(以下インタビューでは「住友」)です。

1 「人生のビジョンは『次世代の子どもたちが、楽しい夢を見られる社会をつくること』」(住友)

John

本日は、住友さん、ご多忙の中、お時間をいただき本当に愛りがとう(愛+ありがとう)ございます!
住友さんは、さまざまな企業の経営に携わられていらっしゃいます。

あらためて、現在のお役職についてお伺いできますか?

住友

ありがとうございます。
さまざまな肩書がありますが、私の仕事を一言で表現するならば「インタープレナー(Inter+preneur)」です。(参考:https://www.interpreneur.jp/

インタープレナーとは、新事業や新産業の創出に向け、企業や組織の枠を超えて協働する「複業者」を意味します。

人生のビジョンは「次世代の子どもたちが、楽しい夢を見れる社会をつくること」。そんな社会を目指して、新しい成長事業の創出と、新たな事業を生み出すためのエコシステムの創出などに取り組んでおり、複数の企業で代表取締役、取締役、社外アドバイザーなどを務めています。

John

「楽しい夢を見れる社会」、すばらしいお考えですね!
そのような価値観が形成されたのは、どのようなご経験からなのでしょうか?

学生時代から遡って、ご経歴を教えてください。

住友

私は小学校からキリスト教である青山学院大学の付属校へ通い、そのまま中学・高校・大学へと進みました。

私の価値観をつくり上げた要素の1つに、小学校の担任の先生の「チャンスさんは人生で3回やってくる」という言葉があります。

「チャンスさんは前からゆっくり歩いてくるが、前髪しかない。通り過ぎてしまうと、もうつかむことはできない。だから、目の前に来たら迷わずつかめ」というお話でした。

それから私は「チャンスがあればつかむ」ということを意識して、小学6年に台湾で2ヵ月間ホームステイを経験し、高校時代には米国への交換留学に応募するなど積極的に挑戦をするようになりました。

しかし、そんなチャレンジの中には何度かの挫折もありました。
高校で留学をしたのは、ちょうど世界的なジャパン・バッシングの時代。
日本の急速な経済成長を受け、米国を中心とした各国で経済摩擦が起こり、反日感情が高まっていた時期です。

留学先では日本人であることで差別され、つらい経験もしました。

また、留学から帰国後に実家で営んでいた家業が破綻したことも、当時の自分にとっては大きな経験でした。曽祖父が創業した材木商社が、東南アジアの材木輸出制限などの影響で、経営難に陥ってしまったのです。

その時は家族みんなが内向きになり、消極的になりました。

逆説的ではありますが、こうした体験から内向きになること・消極的になることが人間にとって1番よくない状況であると学び、夢を見ることの大切さを学べたのだと考えています。

John

学生時代のチャレンジと挫折の中で、現在の人生観が培われたのですね。

2 「インターネットの台頭により、全てのハードウエアがネットワークによってつながる世界へ、そしてハードウエアよりも優れたソフトを持つことが重要になってきたのです」(住友)

John

学生時代に台湾や米国で海外経験を積まれ、大学卒業後にはSONYへ入社されたのですよね。なぜ、SONYを選ばれたのですか?

住友

SONYを選んだ理由は、高校時代の留学経験がきっかけです。

先ほども申し上げた通り、当時は激しいジャパン・バッシングの時期。
事あるごとに私に差別的な言葉を投げかけてくるいじめっ子のような同級生もいました。

そんな同級生がある時、学校にSONYのウォークマンを持ってきて、私にこんなことを言うのです。

「米国には、こんなすばらしい製品をつくるSONYという会社がある。日本人には、こんな製品は作れないだろう」と。

当然、SONYは日本の会社です。それを聞いた時、私は「米国人がSONYを自国の会社だと思い、誇りにまで思っているなんて」と、とても衝撃を受けました。

それをきっかけにSONYに興味を持つようになったのです。

John

いかにSONYというブランドが米国で浸透しており、製品の評価が高かったかが分かるエピソードですね。

入社後はどのようなキャリアを積まれたのですか?

住友

入社した時から、海外で経験を積める部署を希望していました。
希望がかなって3年目でシンガポールへ赴任し、東南アジアの価値観を学ぶことができました。

その後、会社からのバックアップを受け、MIT(マサチューセッツ工科大学)のビジネススクールへの留学も経験させてもらいました。
MITのビジネススクール(MIT Sloan Fellows Program)は、MBAプログラムの祖と呼ばれるもので、世界20ヵ国から約60名の経営幹部候補が集うグローバルなクラスでした。
彼らと共に、世界的に著名な教授陣や経営者たちから学びを得られたことは貴重な財産です。

MIT Sloan School卒業式の画像です

MIT Sloan School卒業式

John

さまざまな国の人々と共に学び合う経験は、その後の自分の生き方にも大きな影響を与えてくれますよね。私も海外のビジネススクールやアクセラレーターで学ぶ中で新たな発想が持てるようになりましたし、現在のビジョンである「Innovations for a healthier life」(世界中、日本中の人々のより健やかな人生のためにイノベーションを起こす)が生まれるきっかけにもなりました。

住友さんは、帰国後は、どのようにご活躍されたのでしょうか?

住友

帰国後はそれまでの学びと経験を生かし、新しいSONYをつくるプロジェクトのメンバーにアサインされました。

時代はインターネットビジネスの黎明期で、ものづくりからサービスの時代へと移り変わっていた頃です。インターネットの台頭により、全てのハードウエアがネットワークによってつながる世界へ、そしてハードウエアよりも優れたソフトを持つことが重要になってきたのです。
変化がいち早く起こったのは、音楽業界。AppleのiTunesがそれを体現したものでした。

SONYも時代の変化に対応するために新たなSONYをつくるべく動き始めました。ハードウエアもソフトも全て自社製の「ALL SONY(My Sony)」というコンセプトを打ち出したのです。

しかし、当時から私はこの戦略に疑問を感じていました。

John

具体的に、どのような疑問を感じてらっしゃったのですか?

住友

当時、私は「ALL SONY」よりも「OPEN SONY」であるべきだと提案していました。
ALL SONYの考え方は、SONYの創業者である井深氏・盛田氏が提唱していた「カスタマーに寄り添い、ライフスタイルを創造する」という考え方とは異なる道へ進んでいると思ったからです。
よりカスタマーに寄り添って、ALL SONYで囲い込むのではなく、SONYというプラットフォーム上で自由に価値交換をできる世界観を目指しました。

結果的に当時のSONYはそのようなプラットフォームを実現できませんでしたが、私がここで言いたいのは、今も言われている「インダストリー4.0」「IoT」「DX」といったワードで表せられる変革は、当時から既に起きていた継続事象だ、ということなのです。

その本質はクロステックでありビジネス・エコシスム。インターネットという新たなテクノロジーの台頭による既存産業のトランスフォーメーションです。
それが音楽産業をはじめとし、各産業で順に起こってきたのだと私は見ています。

John

なるほど。ソフトに近いハードウエアの領域にいた住友さんは、その変化を初期から見てきたということですね。

3 「私が提唱しているのは、『リバース・オープンイノベーション』顧客起点・未来起点のイノベーションです」(住友)

John

長年イノベーションに関する問題に取り組んでいる住友さんから見て、これから変化が起こる業界は特に何を考え、どう行動すべきだとお考えですか?

住友

1番大切なのは「顧客起点(顧客の行動起点)」に立ち返ることだと考えます。

イノベーションや新たな事業創出という話になると、多くの企業は「これまでの技術や強みをどう生かすか」「いかに顧客を囲い込むか」といったことばかりに目を向けてしまいます。

しかし必要なのはそうした企業起点の目線をいったん横に置いて、「顧客はこれから何を求めるのか、どう行動しようとするのか」「その上で、自社は何をすべきか」そんな逆転発想に転換できるかどうかです。それが、明暗の分かれ目だと感じます。

John

確かに今「DX」といった言葉も出てきていますが、既存の仕組みや事業をデジタルへ置き換える、という企業目線の発想が主ですね。そこで終わらずに、顧客目線で捉え直す必要があるということですね。

住友

そうなのです。
多くの企業では、イノベーションといったときに何をやるかといえば、自社またはベンチャー企業やパートナー企業を起点とし、どんな知見やノウハウが眠っているかの棚卸しをします。しかし、これでは過去(の在庫)に目を向けた状態からスタートすることになります。

料理に例えるなら、いくつかの冷蔵庫(=企業)を開けて眠っている食材を探し、まかない料理を作るようなものです。
当然、顧客が何を食べたいかは後回しです。

一方、私が提唱しているのは、「リバース・オープンイノベーション」。顧客起点・未来起点のイノベーションです。
「顧客が食べたい料理を発見してから冷蔵庫を開けましょう」という考え方なのです。

John

過去から考えるイノベーションは「まかない料理」! 非常にユニークな発想ですが、おっしゃる通りですね。

住友さんは、顧客起点のイノベーションを実現するために、具体的にどのようなご支援をされているのですか?

住友

まず、自分たちのビジネスを「顧客の行動起点で再定義する」というのを大企業と共に行っています。(参考:https://curations.jp/

コロナ禍以降、企業の新規事業部門・オープンイノベーション部門のようなところからではなく、本業の事業部門からお問い合わせを頂くケースが増えています。

「自分たちの既存ビジネスを生かした新たなビジネス」という考えから、「自分たちの既存ビジネスを再定義し、生まれ変わらせる」という考えに、少しずつですが変わってきているのです。
これはとても良い兆候だと思います。

ビジネスを再定義して方向性が見えた後は、私たちが受託者となって、新しいビジネスを作る部分まで手を動かして支援するケースもあります。
このモデル(出島型)は特に、ステークホルダーが多く、各所との調整が必要でスピーディーに動けない大企業から好評を頂いています。

4 「いま顧客がどのような行動を取っていて、どのような課題を感じているのか。これから顧客はどう行動したくて、どのような課題に直面するのか。そして、それらをどう解決すべきかを真剣に考えることが必要だと思います」(住友)

X-Tech Matchup 2019の画像です

X-Tech Matchup 2019

John

多くの企業のイノベーションを支援されている住友さんから見て、日本でイノベーションを起こす際の難しさは何だとお考えですか?

住友

やはり、「誰が求めていて、誰に届けたいのか」といった顧客の視点が足りていないケースが多いことだと思います。

日本のオープンイノベーションと言われるものは、本業には手を着けないケースが多い。新たなビジネスを、既存の顧客層ではなく若者や女性などの新たな顧客に届けようとしているケースも多いです。

しかし、本来は自社の既存の顧客にももっと目を向けて、いま顧客がどのような行動を取っていて、どのような課題を感じているのか。これから顧客はどう行動したくて、どのような課題に直面するのか。そして、それらをどう解決すべきかを真剣に考えることが必要だと思います。
例えばコロナ前は、デジタル事業の企画といえばミレニアル世代とかZ世代をターゲットにするという話が多かった訳です。しかしコロナ禍によって、全ての人がデジタルシフトした訳ですから、一番切実にサポートを必要としているのはデジタルリテラシーの低い高齢世代なのではないでしょうか?

そして、この世代をターゲットにすることは日本のチャンスにもなります。

John

「イノベーションを通してお客様のお困りごとを解決する」という視点に立って考えることで、先入観に囚われずに、本当に必要な人に必要なサービスを提供できるようになりますよね。日本は高齢化社会という点では世界の課題先進国ですから、まず日本からイノベーションによる幸せに歳を重ねられる社会を実現をしていきたいですね。

方向性が決まってからもなかなか動けない、進まないというケースでは、何が課題となっているとお考えでしょうか?

住友

私は、2つの課題があると思っています。

1つ目は、株式価値を最優先とする商習慣。日本に限らずですが、上場企業は四半期ごとに成果を求められ、株主の目も厳しい。
そのため、カスタマーに寄り添うチャレンジがしにくいという事態が起こっています。

米国ではこうした大企業を見て、上場をなるべく先延ばしにするベンチャーも多いですよね。

2つ目は、経営者の問題。
サラリーマン従業員の中から経営者を選出したケースと、創業社長というのは同じ経営者でも大きく異なります。

日本の大企業は前者が多いように思いますし、彼らは創業社長と比べて、より厳しく株主からの視線を感じているでしょう。

特に日本企業では、合議制で物事を決める体質に加えて、米国流のガバナンスやコンプライアンスによって物事が非常に決めにくくなり、過去の延長戦上にないチャレンジするには厳しい環境に置かれていると思います。

John

どんな会社もいずれは創業社長から代替わりする時が来るわけですが、そこがイノベーションを難しくしてしまうこともある、ということですね。

歴史が長く、創業社長・オーナー社長が存命でない大企業では、新たな価値を生み出すことは難しいのでしょうか?

住友

成功した会社は、投資家サイドに回るというのも1つの方法だと私は思います。

大企業が自社内で0→1が生み出しにくい状況にあるなら、代わりにベンチャーへ投資して社外から取り入れる。そして時には、投資先のベンチャーから大企業の経営を舵取りできる人材を見つけ、新陳代謝を起こす。そんなケースがもっと生まれるべきでしょう。「取り入れる」ところが大きな課題です。

あらゆる産業がエコシステム型のビジネスモデルに変化していく中、1社だけでできることは益々限られていきます。だからこそ、日本の大企業は「まかない料理にならない」正しい事業共創を社外のスタートアップ企業と進めることが不可欠なのです。

私たちも、そうした新しいエコシステムの構築や、複数社が連携するモデルづくりを進めています。(参考:https://sundred.co.jp/

John

複数社が連携した具体的な事例などはありますか?

住友

ユニークなところで言いますと、「デジタル聴診器」を起点とした遠隔診療のエコシステム(ユビキタスヘルスケア産業)に取り組んでいます。

例えば、飛行機の上や離島にいる患者さんに、看護師さんが聴診器を当てて、それを地上や本土にいる医師が聴き、診断に生かすというものです。

実現するためにはハード、システム、医療業界などさまざまなプレイヤーが関わってきますので、それらを束ねるコンソーシアムをつくって取り組んでいます。

もう1つ例を挙げると、陸上養殖産業。私たちは「フィッシュファーム産業」と呼んでいます。
「もっとサステイナブルに、陸地で魚を生産しよう」というコンセプトの下、養殖業者や企業などを巻き込んで進めています。

今は国内プロジェクトが多いですが、プロトタイプは日本でつくり、実証実験は海外で行うなど、先々は世界にも目を向けていきたいと考えています。

5 「『日本にいられて幸せ』、そう思える人々を増やしたいです」(住友)

John

住友さん個人として、1番解決したい社会課題というのはあるのでしょうか?

さまざまな新たな事業を生み出されていますが、それらを生み出すパッションはどこから来るのかを知りたいです。

住友

根幹にはやはり「楽しい未来を夢見れる社会」、これをつくりたいという思いがあります
そのためには、経済指標の成長から「幸せ指標の成長」に行動目的を変える発想の転換も必要です。そこでこの課題解決にも取り組んでいきたいと考え、「ハピネスキャピタル産業」というプロジェクトも進めています。

日本は現在、豊さの指標を国内総生産GDP(Gross Domestic Product)で測っていますが、そもそも国内人口が減っている中、GDPの成長が減少するのは必然です。

これから目を向けていくべき経済指標は国民総所得GNI(Gross National Income)。

この指標には、例えば海外でつくったジョイントベンチャーからの配当や、海外への技術提供・ライセンス契約などで生まれる収入も含まれます。

日本の収入を増やすためには、国内だけでなくグローバルに目を向ければ良く、GNIはそれを測る指標の1つです。

そして、同時に国民総幸福量GNH(Gross National Happiness)も向上させていくことが大切です。
GNHとは国に対する満足度・幸福度を測る指標。「日本にいられて幸せ」「日本にいると未来が楽しみ」、そう思える日本にしていきたいですね。

John

私も「豊かさ」の考え方というのは今後変えていくべきだと思っています。
時代によって何に幸せを感じるかも変わって行きますから、住友さんがおっしゃるように、時代に即した新たな指標を用いることも必要ですよね。

その点、若者たちを見るとヒントがあり、就職活動をする学生たちが企業選びをする際に重要だと思う点として「プライベートな時間が確保できるか」と言う点が挙がるそうです。自由な時間があることに豊かさを感じていると言うのは、さまざまなサービスやアプリが無料で使えるようになった現代を象徴する1つであると感じます。

さらに、経済面でもただ稼げば良いと言うのではなく、地方に移住して固定費を下げると言う考えもコロナの影響を受けて加速していますね。地方にいながら世界中を相手に仕事をするということも可能な時代になりましたから、これまでとは違うチャンスや豊かさをつかむ人々が増えると良いと願っています。

住友

そうですね。
今、私たちを取り巻くビジネス環境はすごく恵まれていると思います。

AIによって通訳・翻訳ソフトは劇的に進化しており、海外との言語による壁はほぼなくなってきました。(参考:https://kotozna.com/

そしてビデオ会議やチャットツール等を使い、世界中の人とオンラインでビジネスを進める環境と商習慣も確立されました。既に世界が机上にあるんです!

また、産学連携・行政との連携など多くの地域でスタートアップ・エコシステムが確立されつつあり、ベンチャーはかなり立ち上げやすくなっている。誰にでもチャンスがある環境です。

私は、日本人は「こうやれば良い」というのが分かれば一気に動く力がある、と思っています。

コロナ禍にある今はまだ「こうやれば良い」という新しいロールモデルが見えていない状態ではありますが、仕組みは整っているので、必要なのは最後のきっかけだけではないでしょうか。

ちなみに、今の私のビジネステーマは「世界×日本」「アジア×九州」です。微力ですが、グローバルな視座で日本の新しいロールモデルづくりに貢献したいと考えています。(参考:https://conselux.co.jp/

John

日本のよさを残すことは大切です。それと同時にグローバルにビジネスを展開する力、海外とスムーズに協業する力が求められていますね。そのためには、世界基準のコミュニケーション力を持つ人材が欠かせませんし、私自身も世界と日本の架け橋になりたいと考えています。住友さん、ぜひ今後ともよろしくお願い致します。

それでは、最後の質問となります。
住友さんにとっての、イノベーションの哲学を教えてください。

住友

私が大切にしているのは「プルーラリティ(複数性)」です。
多様性を意味する「ダイバーシティ」はかなり日本に浸透してきていますが、ダイバーシティには互いに尊重し合うフェアネスまでは担保されていないと感じます。「多様性の存在は認めるが、本心では受け入れない」という意味です。

日本はもともと多神教、アニミズムの国。同時に複数の神を受け入れられます。

そのためか他国の文化をうまくセレクトして受け入れるだけでなく、ブレンドし、オリジナルのものへと昇華させることを得意としています。長い歴史の中で複数性を内包してきた国のはずです。

私は、複数性を育くむことが、多様性に苦しむ世界に対してのソリューションにもなるのではないかと考えています。

これから私たちがやるべきは、グローバルに目を向け、プルーラリティ(複数性)を育み互いに協調し合う。そして「まかない料理」ではなく、「顧客起点・未来起点」のリバース・オープンイノベーションを実現する。そんな文化を未来に残していくことではないでしょうか。

ビジネスにおいても、女性や若手、グローバルな人材がチームとして複数性の精神でフェアに協働することで、本質的なイノベーションを促進できるのではないかと期待しています。

John

住友さん、本日は貴重なお話を愛りがとうございました!

住友氏のイノベーションフィロソフィーを示した画像です

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年5月10日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

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【規程・文例集】「リモートワーク規程」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:リモートワークに対応した就業規則のひな型が欲しい経営者、労務担当者
  • 課題:就業規則のどこを見直せばよいか分からない、定め方が分からない
  • 解決策:オフィスワークとリモートワークの労務管理上の違いに注目する。就業規則本則に委任規定を設け、リモートワーク規程などでルールの詳細を定める

1 就業規則の中で見直しが必要な項目は?

リモートワークのルールを就業規則で定める場合、「オフィスワークとリモートワークは労務管理上何が違うのか?」という視点で考えると、就業規則の中で見直しが必要な項目が分かります。具体的には、対象者、就業場所、服務規律、労働時間管理の方法、通勤手当、費用の負担、通信機器などです。以降で、リモートワークに対応した就業規則のひな型を紹介します。

なお、リモートワークに対応した就業規則を整備する際のポイントについては、次の記事をご確認ください。

2 就業規則本則の委任規定

リモートワークのルールは、就業規則本則、またはリモートワーク規程などの別規程で定めます。分かりやすさで考えれば、就業規則本則に「別規程に定めがあります」との委任規定を設け、詳細はリモートワーク規程で定める方法がお勧めです。委任規定の例は次の通りです。

第〇条(適用範囲)
1)本規則の適用を受ける従業員は、第〇条および第〇条の手続きを経て、会社と期間の定めがない労働契約を交わした従業員とする。
2)期間に定めのある労働契約を交わした短時間勤務従業員は別途定める「パートタイマー就業規則」(省略)の適用を、期間に定めのある労働契約を交わした従業員は別途定める「契約従業員用就業規則」(省略)の適用を受けるものとする。
3)従業員のリモートワークに関する事項については、本規則の他「リモートワーク規程」の定めるところによる。

3 リモートワーク規程のひな型

以降で紹介するひな型は、一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした規程を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【リモートワーク規程のひな型】

第1章 総則

第1条(目的)
本規程は、従業員がリモートワークで勤務する場合の必要な事項について定める。なお、本規程に定めのない事項は、就業規則の定めるところによる。

第2条(リモートワークの定義)
本規程におけるリモートワークとは、従業員が情報通信機器を利用し、オフィス以外の就業場所で業務に従事することをいう。

第2章 リモートワークの許可・利用

第3条(リモートワークの対象者)
1)本規程においてリモートワークの対象者は、就業規則第〇条に規定する従業員であって次の各号の条件を全て満たした上で、会社が認めた者とする。

  • リモートワークを希望する者
  • 雇用形態に関係なく、業務内容、業務遂行能力その他の事情を勘案して会社が適正と認める者

2)リモートワークを希望する者は、所定の許可申請書に必要事項を記入の上、1週間前までに所属長から許可を受けなければならない。
3)会社は、業務上その他の事由により、第2項によるリモートワークの許可をしないことがある。また、取り消すことがある。
4)第2項によりリモートワークの許可を受けた者がリモートワークを行う場合は、前日までに所属長へ利用を届け出なければならない。
5)会社は、災害・感染症その他の事由により特に必要があると認める場合、第1項から第4項の規定にかかわらず、従業員に対してリモートワークを命じることがある。

第4条(リモートワーク時の就業場所)
リモートワークの就業場所は、原則として従業員の自宅とし、それ以外の就業場所を希望する場合は、第3条第2項の許可申請の際に、会社に申し出て許可を得るものとする。なお、騒音が著しい場所、リモートワークに使用する端末が故障・紛失する恐れのある場所、セキュリティ保持に支障をきたす場所、その他リモートワークの実施に支障が生じる恐れのある場所等はリモートワークとしての就業場所に相応しくないため禁止する。

第5条(リモートワーク時の服務規律)
リモートワークに従事する者(以下「リモートワーク勤務者」という。)は就業規則第〇条およびセキュリティガイドラインに定めるものの他、次の各号を遵守しなければならない。

  • リモートワークの際に所定の手続きに従って持ち出した会社の情報および作成した成果物を第三者が閲覧、コピー等しないよう最大の注意を払うこと
  • リモートワーク中は業務に専念すること
  • 第1号に定める情報および成果物は紛失、毀損しないように丁寧に取り扱い、セキュリティガイドラインに準じた確実な方法で保管・管理すること
  • リモートワーク中は自宅および会社が許可した場所以外の場所で業務を行ってはならないこと
  • リモートワークの実施に当たっては、会社情報の取扱いに関し、セキュリティガイドラインおよび関連規程類を遵守すること
  • リモートワーク中に事故・トラブルが発生したときは速やかに電話・電子メール・その他適宜の方法で会社に連絡すること

第3章 リモートワーク時の労働時間等

第6条(リモートワーク時の労働時間・休憩時間・休日)
1)リモートワーク時の労働時間・休憩時間・休日については、就業規則第〇条の定めるところによる。
2)リモートワーク勤務者は就業規則第〇条の規定にかかわらず、勤務の開始および終了について次の各号のいずれかの方法により報告しなければならない。

  • 電話
  • 電子メール
  • 勤怠管理ツール
  • SNS(LINE等)

3)リモートワーク勤務者は、会社の承認を受けた場合、第1項の規定にかかわらず始業時刻、終業時刻および休憩時間の変更をすることができる。
4)第3項の規定により所定労働時間が短くなる者の給与については、労務提供のなかった時間分に相当する額を控除する。

第7条(時間外および休日労働等)
1)リモートワーク勤務者が時間外労働、休日労働、深夜労働を行う場合は、所定の手続きを経て所属長の許可を受けなければならない。
2)時間外労働、休日労働、深夜労働について必要な事項は、就業規則第〇条の定めるところによる。
3)時間外労働、休日労働、深夜労働については、給与規程第〇条に基づき、時間外勤務手当、休日勤務手当、深夜勤務手当を支給する。

第8条(欠勤等)
1)リモートワーク勤務者が、欠勤をし、または勤務時間中に私用のために勤務を一時中断する場合は、事前に申し出て許可を得なくてはならない。ただし、やむを得ない事情で事前に申し出ることができなかった場合は、事後速やかに届け出なければならない。
2)第1項の欠勤、勤務中断の賃金については給与規程第〇条の定めるところによる。

第4章 リモートワーク時の給与等

第9条(給与)
1)リモートワーク勤務者の給与については、給与規程第〇条の定めるところによる。
2)第1項の規定にかかわらず、リモートワーク勤務者に対しては、毎月支給する通勤手当は支給しない。ただし、臨時に通勤が発生する場合は、実際の通勤に要した費用を支給する。

第10条(費用の負担)
1)会社が貸与する情報通信機器を利用する場合の通信費は会社負担とする。
2)リモートワークに伴って発生する水道光熱費はリモートワーク勤務者の負担とする。
3)業務に必要な郵送費、事務用品費、消耗品費その他会社が認めた費用は会社負担とする。
4)その他の費用についてはリモートワーク勤務者の負担とする。なお、会社は従業員負担軽減のため、給与規程第○条に基づき、リモートワーク手当を支給する。

第11条(情報通信機器・ソフトウエア等の貸与等)
1)会社は、リモートワーク勤務者が業務に必要とするパソコン、プリンター等の情報通信機器、ソフトウエアおよびこれらに類するものを貸与する。なお、当該パソコンに会社の許可を受けずにソフトウエアをインストールしてはならない。
2)会社は、リモートワーク勤務者が所有する機器を利用させることができる。この場合、セキュリティガイドラインを満たした場合に限るものとし、費用については話し合いの上決定するものとする。

第12条(緊急時対応)
リモートワーク勤務中における事故やトラブル発生時には、第5条第6号の規定に従い速やかに会社に連絡を入れるものとする。なお、リモートワーク勤務者は不測の事態が生じた場合に確実に連絡を取れる方法をあらかじめ会社に届け出ておかなければならない。

第13条(災害補償)
リモートワーク勤務者が自宅での業務中に災害に遭ったときは、就業規則第〇条の定めるところによる。

第14条(安全衛生)
1)会社は、リモートワーク勤務者の安全衛生の確保および改善を図るため必要な措置を講ずる。
2)リモートワーク勤務者は、安全衛生に関する法令等を守り、会社と協力して労働災害の防止に努めなければならない。

第15条(改廃)
本規程の改廃は、取締役会の承認による。

以上(2021年4月)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:ESB Professional-shutterstock

事業承継前に考えたい 自己株式を取得することのメリット・デメリット

書いてあること

  • 主な読者:事業承継の準備などのために、自己株式の取得を検討している経営者
  • 課題:自社株を取得するメリット・デメリットと、手続きの基本が知りたい
  • 解決策:後継者の負担が減る一方、自己資本が減少する。また、全ての株主を対象にする場合と特定の株主を対象にする場合がある

1 自己株式の取得について知っておくべき理由

安定的に経営をしている中小企業が自己株式の取得を検討する機会は少ないでしょう。しかし、自己株式の取得によって事業承継時の納税資金を確保したり、創業当時から株式を保有している株主に換金機会を与えたりすることができます。中小企業に多い「株式譲渡制限会社(非公開会社)」の場合、これらのメリットは一層大きくなります。そろそろ事業承継を考えなければならない経営者などにとっては、自己株式の取得は押さえておくべき重要なテーマです。

自己株式の取得によるメリット・デメリットは、「後継者の負担が減ったり、経営権・支配権が安定する一方、キャッシュアウトしたり、自己資本が減少する」ことが基本です。これを押さえた上で、次章のメリット・デメリットを確認してください。その後の手続きも紹介します。

2 自己株式の取得によるメリット

1)事業承継時の納税資金の確保と株式の分散防止

事業承継において、後継者が換金性のない大量の株式を相続しなければならず、納税資金の確保に窮することがよくあります。この場合、会社が自己株式を取得することで納税資金が確保できます。また、後継者ではない相続人の株式を取得することで株式の分散が防げます。

そうでなくても、社歴が長く、相続が繰り返されている会社では、経営と関係ない人に株式が分散され続けます。そうした自己株式を取得すれば、経営権や支配権の確保につながります。

2)株式の換金機会の提供

株主に株式の換金機会を与えることができます。特定の株主から決まった条件(株式数、価額)で買い取るのが一般的です。しかし、株主からの申込総数が株主総会の決議した取得総数を超えた場合、案分比例分の株式の譲受けを承諾したものとみなされます。

3)株式持ち合いのスムーズな解消

株式持ち合いを解消したい場合、互いの株式を自己株式として取得(譲渡)すればスムーズに解消できます。ただし、相手の株主総会でその件が否決されると自社が一方的に自己株式を取得することになってしまいます。そのため、自社の株主総会の決議において「相手の会社での議案可決を条件」とすることがポイントとなります。

4)配当負担金の減少と効率化

配当を出している会社の場合、自己株式には配当請求権がないので配当金の負担が減ります。また、ROE(株主資本利益率)やEPS(1株当たり利益)を算出する際、自己株式は算定式の分母から除かれるため、見た目上の効率性が改善されます。

3 自己株式の取得によるデメリット

1)財務体質の弱体化

自己株式を取得すると自己資本(純資産)が減少し、財務体質が弱体化します。また、資金が豊富な会社ならば自己株式を取得することで株主管理などが効率化されますが、資金に余裕がない会社だと手元資金が減り、資金繰りに窮する恐れもあります。

また、自己資本(自己資本比率)の減少によって、金融機関の格付けが下がる恐れがあります。金融機関との金銭消費貸借契約における財務制限条項(コベナンツ)に抵触すると、借入金の繰り上げ返済や利率の引き上げを要求される恐れもあります。

2)相続税評価額の上昇を招く

相続税評価額が上昇する恐れがあります。自己資本(総資産)の減少度合いによっては、株式の相続税評価額を算定する際の会社区分が「大会社→中会社→小会社」と変わります。そうすると、一般的に株式の評価額が高くなり、税負担が上昇します。

4 自己株式を取得する手続きの概要

会社法では、会社が自己株式を取得できる事由を、

  • 会社と株主の合意による取得
  • それ以外の取得(法令・定款の定めに基づく株主の請求など)

に大別しています。また、会社と株主との合意による取得は、株主全てに売却の機会を与える場合と特定の株主のみに売却の機会を与える場合とに分かれます。それ以外の取得については、定款に定めた相続人などに売渡しの請求をする場合に注目します。

1)会社と株主の合意による取得。株主全てに売却の機会を与える場合

株主との合意により有償で自己株式を取得することは、株主に対する財産分配の一形態なので、原則として株主総会の授権決議が必要です。株主全てに売却の機会を与える場合は、普通決議で足ります。株主との合意取得のフローは次の通りです。

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株主総会で決議する事項は次の通りです。株式を取得できる期間は、決議のときから1年以内で自由に定めることができます。

  • 取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては株式の種類および種類ごとの数)
  • 取得と引換えに交付する金銭等の内容およびその総額
  • 株式を取得することができる期間(1年を超えることができない)

通知を受けた株主は、譲渡しを申し込む株式数を明らかにして申し込みします。会社は、決定事項として定めた申込期日において株式の譲受けを承諾したものとみなされます。株主からの申込総数が決定事項で定めた取得総数を超える場合、案分比例分の株式(取得総数を申込総数で除して得た数に株主が申し込みをした株式数を乗じて得た数)の譲受けを承諾したものとみなされます。

2)株主との合意による取得。特定の株主のみに売却の機会を与える場合

次に、特定の株主だけに売却する場合です。株主総会で譲渡人となる株主の氏名(名称)を決議することで、自己株式を有償で特定の株主から取得することができます。特定の株主からの取得における株主総会の授権決議は、特別決議が必要です。また特定の株主は、その決議において原則として議決権を行使できません。株主との合意取得のフローは次の通りです。

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株主総会で決議する事項は次の通りです。株式を取得できる期間は、決議のときから1年以内で自由に定めることができます。

  • 取得する株式の数
  • 取得対価の内容とその総額
  • 取得期間

会社は、原則として株主総会の2週間前までに、株主に「売主追加請求」(株主が「自身にも売却機会を与えてほしい」と請求すること)ができる旨の通知をします。通知を受けた株主は、原則として株主総会日の5日前までに(定款の定めにより短縮可)、特定の株主に自己を加えることを請求できます。こうした希望があった場合、会社がこれに応じることが株主平等原則に沿うといえます。なお、種類株式発行会社が特定の種類の株式を取得する場合、売主追加請求ができる旨の通知は、取得する株式と同じ種類の株式を有する株主にだけ行えば大丈夫です。

なお、次の場合には、売主追加請求権に係る規定は適用されません。

  • 市場価格のある株式を市場価格より安価で取得する場合
  • 株主の相続人その他の一般承継人からその相続その他一般承継により取得した株式を取得する場合

会社が株主からの売主追加の議案変更請求権を排除したい場合、定款に売主追加に係る議案変更請求権の規定を適用しない旨を定めます。ただし、株式の発行後に定款変更をする場合、当該株式を有する株主全員の同意が必要となります。

3)定款に定めた相続人などに対する売り渡しの請求をする場合における取得

会社は、相続その他の一般承継(包括承継)によって譲渡制限株式を取得した者に対し、「当該株式を会社に売り渡すことを請求できる旨」を定款で定めることができます。これにより、相続による株式の分散が防止できます。

定款に基づいて会社が売り渡しの請求をするときは、その都度、株主総会の特別決議により、「請求をする株式の数」「株式を有する者の氏名または名称」を定めます。会社がこの事項を定めたときは、一般承継人に対し、当該株式を売り渡すことを請求できます。売り渡しの請求は、会社が一般承継を知った日から1年以内です。

当該株式の売買価格は、会社と一般承継人との協議によって決めますが、この協議がうまくいかない場合は、請求があった日から20日以内に裁判所に対し売買価格の決定の申立てをし、裁判所が定めた額が株式の売買価格となります。

5 「取得財源規制」とは?

自己株式の有償取得は、実質的には株主に対する払戻しといえ、無制限に認めると、会社財産が散逸し、会社の債権者が債権回収できなくなる恐れがあります。そこで、会社法では株主に対する払戻しに関する財源規制が定められています。株主との合意による取得、相続人などに対する売り渡しの請求をした場合の取得においても、株主に交付する金銭など(当該株式会社の株式を除く)の帳簿価額の総額は、当該行為がその効力を生ずる日における分配可能額を超えることはできません

以上(2021年4月)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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画像:pixabay