経理担当者はもちろん、営業担当者も知っておくべき「決算整理仕訳」

書いてあること

  • 主な読者:初めて決算仕分けを行う新任経理担当者や営業担当者など
  • 課題:「会社の決算書の数字」と「自分の業務」のつながりを理解したい
  • 解決策:決算の期間に売上や費用を合わせて考えるようにする

1 日々の仕訳と何が違う? 「決算整理仕訳」とは

決算と聞くと、多くの人は貸借対照表、損益計算書などの決算書や、株主総会での決算発表をイメージするでしょう。しかし、同じ質問を経理担当者にすると、恐らく「決算整理仕訳」という膨大な仕訳を思い浮かべます。この決算整理仕訳が、決算の始まりであり、土台となる作業になります。決算整理仕訳では日々の仕訳では出てこない項目を整理し、それぞれの勘定を決算日時点の数値に確定します。

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決算整理仕訳には、売上原価の計算や、減価償却や、収益費用の見越し・繰延べなど、財務会計を学ぶ上でも重要な考え方が詰まっています。また、決算整理仕訳で、文字通り、数字が確定するため、経営者はもちろん、営業担当者なども決算仕訳の基本は知っておくべきです。

2 決算整理仕訳に必要なこと

決算整理仕訳では、一般的には次の項目を整理します。

売上原価の算定、収益費用の見越し・繰延べ、減価償却の計上、貯蔵品(切手・印紙など)

貸倒引当金の計上、有価証券の評価

これらの仕訳を処理するためには、さまざまな情報が必要です。例えば、「収益費用の見越し・繰延べ」では、売り上げた商品がいつ発送または納品され、その売上に対する費用はどの支出なのかを正確に把握しなければなりません。この情報は、商品管理担当部署や営業部署などから聞き出さなければなりません。もし、今期中に取引先に発送・納品されていない商品や、完了していないサービスに対する費用が計上されていると、売上がないのに費用だけが先に決算書に記載されてしまい、正確な数値となりません。これは、決算書を基に計算される税金計算にも影響することになり、税務調査でもよく指摘される「期ズレ」の原因となります。

このように、決算整理仕訳の背景を知ることは、会社の決算書の数字と自分の業務のつながりを知る上でも重要なのです。以降では、経理部署以外の部署にも関連する主な決算整理仕訳として、売上原価、収益費用の見越し・繰延べ、減価償却に注目します。

3 主な決算整理仕訳の内容と留意点

1)売上原価の算定

売上原価とは、会社の売上に直接対応する費用をいいます。例えば、小売業であれば、売り上げた商品の仕入額が売上原価です。一般的に、売上原価は売上の都度把握するのではなく、決算整理仕訳により、年間の売上に対応する売上原価を次の算式で計算します。

売上原価=期首商品棚卸高+当期仕入高-期末商品棚卸高

例えば、期首商品棚卸高が100万円、当期仕入高が3000万円、期末商品棚卸高が150万円だった場合、売上原価は2950万円(100万円+3000万円-150万円)となります。決算整理仕訳として、期首商品棚卸高、当期仕入高、期末商品棚卸高を次の仕訳で処理すると、貸借対照表(以下「BS」)と損益計算書(以下「PL」)にそれぞれ次のように反映されます。

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実務上、重要になるのが、決算日に商品管理部署などで行われている実地棚卸です。実地棚卸により、期末商品棚卸高(翌期の期首商品棚卸高)を把握します。特に、決算日直近に発送した商品は期ズレの原因になりやすいので注意しましょう。

なお、近年は会計ソフトの発達により決算整理仕訳が月次決算として毎月落とし込まれている企業も多くなっています。月次決算での在庫は帳簿棚卸の数字を利用し、年度末決算時のみ実地棚卸の数字を利用します。

2)減価償却

減価償却とは、固定資産の取得価額のうち、その期に対応した分を一定のルールに基づいて一部ずつ費用に計上していくことをいいます。建物、機械装置などの固定資産は数年間にわたって使用することで売上に貢献すると考えた場合、多額な固定資産の取得価額を購入時に一括で費用化すると、期間ごとの利益を正確に計算できません。そのため、会社の固定資産は、決算時に一定の計算方法で、減価償却費を計算します。

例えば、A社では決算日において、建物附属設備250万円、機械装置70万円、器具備品30万円の減価償却費が計上された場合、減価償却費分、それぞれの固定資産の帳簿価額から控除した金額が、決算日における固定資産の会計上の価値を表すことになります。決算整理仕訳として、減価償却費を次の仕訳で処理すると、BSとPLにそれぞれ次のように反映されます。

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実務上、重要になるのが、決算日時点において、それぞれの固定資産がどのような状態にあるのか正確に把握することです。例えば、従業員に貸与されるノートパソコンのように会社から持ち出し可能なものは、決算日時点でそのもの自体が使える状態であるのか、期中に廃棄したものはないかなどの棚卸が必要です。また、新しく購入したものは、いつから使い始めたかによって、その期の減価償却費も変わってきます。そのため、固定資産を貸与されたり、使用したりしている部署については、その使用状況を固定資産台帳に記載するなどして経理部署と共有する必要があります。

なお、月次決算では、年度内に計上見込みの減価償却費を月次按分した金額で各月に計上します。

3)収益費用の見越し・繰延べ

収益費用の見越し・繰延べとは、決算日をまたいで影響する収益と費用について、その1年間(3月末決算会社であれば、4月1日から3月31日)に計上すべき収益費用の金額に調整することをいいます。それぞれの内容は次の通りです。

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以降では、それぞれ事例を挙げて、最後にまとめて行う仕訳例と、BSとPLにどう反映されるのかを紹介します。なお、いずれの事例も×2年3月31日が決算日のA社を前提とし、期中には収益費用を分割計上せず、現金の受け取り・支払い時点に一括して収益・費用を計上しているものとします。

1.収益の見越し

A社は、B社に提供しているサービス料金(240万円)を、毎期9月に過去の1年間分を後払いで受け取っています。そのため、決算日時点では、今期6カ月分の120万円(×1年10月から×2年3月分)が、まだ計上されていない収益となります。なお、決算整理仕訳前のPLには、前期×0年9月に受け取ったサービス料金の当期分120万円のみが計上されています。

2.費用の見越し

A社は、C社に委託しているウェブサイトの保守料金(60万円)を、毎期1月に過去の1年間分を後払いしています。そのため、決算日時点では、今期3カ月分の15万円(×2年1月から×2年3月分)が、まだ計上されていない費用となります。なお、決算整理仕訳前のPLには、前期×0年1月に支払った保守料金の今期分45万円のみが計上されています。

3.収益の繰延べ

A社は、D社に提供しているサービス料金(120万円)として、毎期10月に次の1年間分を前払いで受け取っています。そのため、決算日時点では、翌期6カ月分の60万円(×2年4月から×2年9月分)が、今期に計上されている収益となります。なお、決算整理仕訳前のPLには、前期×0年10月に受け取ったサービス料金の今期分60万円と、×1年10月に受け取った1年間分のサービス料金120万円の合計額180万円が収益に計上されています。

4.費用の繰延べ

A社は、備品の賃借料(12万円)として、毎期1月に次の1年間分を前払いで支払っています。そのため、決算日時点では、翌期9カ月分の9万円(×1年4月から×1年12月分)が、今期に計上されている費用となります。なお、決算整理仕訳前のPLには、前期×0年1月に支払った賃借料の当期分9万円と、×1年1月に支払った1年間分の賃借料12万円の合計額21万円が計上されています。

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実務上、重要になるのが、それぞれの収益・費用に関連する部署(例えば、売上金であれば営業部署など)において、契約内容を正確に請求書の摘要欄などに反映してもらうなど、取引先とのやり取りや、担当者が前払いや後払いについての認識を経理部署と共有することです。

以上(2021年3月)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:Andrey Popov-Adobe Stock

「シェア経済」時代に知っておくべき 所得税の確定申告

書いてあること

  • 主な読者:フリマアプリやインターネットオークションで所得がある人
  • 課題:副業で得た所得でも納税義務があるのか分からない
  • 解決策:給与以外で20万円を超える所得がある場合、基本的に所得税の確定申告が必要

1 副業収入が20万円を超える人は要注意

近年、いわゆる「フリマアプリ」やインターネットオークションによる個人間の売買、民泊、仮想通貨、カーシェアリングなどの取引が拡大しており、これらの取引によって多額の所得が生じる人もいます。副業を認める会社が増えていることも相まって、従業員の中にも初めて自分で確定申告をしなければならない人も出てくるでしょう。

1カ所の勤務先からの給与所得・退職所得(以下「給与所得等」)以外に所得のない従業員は、年末調整によって所得税は精算され、基本的には所得税の確定申告をする必要はありません。しかし、副業などによって、その年の給与所得等以外の所得の金額が20万円を超える場合、翌年の3月15日(2020年分は、2021年4月15日)までに所得税の確定申告をしなければなりません。

今まで年末調整のみで確定申告を行う必要のなかった人が、新たに給与所得等以外の所得を得た場合には、申告義務が発生したことに気付かず、確定申告書の提出が遅れたり、未提出のままとなってしまったりするケースがあります。

2 注意しておきたい取引と所得税法上の取り扱い

1)フリマアプリやインターネットオークションによる個人間の売買

フリマアプリやインターネットオークションによる個人間の売買により生じた所得は、基本的に譲渡所得に該当します。ただし、生活の用に供する家具や使用しなくなった衣服など(以下「生活用動産」)の売買により生じた所得については、所得税は課税されないものの、1単位当たりの金額が30万円を超える貴金属や美術品の売買による所得については課税されます。一方、当初から転売を目的として購入した資産の売買により生じた所得については課税されると考えられます。

2)民泊による不動産の貸し付け

不動産を民泊によって貸し出したことにより生じた所得は、原則として所得税が課税されます。個人が空き部屋などを有料で旅行者に宿泊させるいわゆる「民泊」は、一般的に、利用者の安全管理や衛生管理、また、一定程度の観光サービスの提供等を伴うものなので、単なる不動産賃貸とは異なり、その所得は、不動産所得ではなく、雑所得に該当する旨、注意喚起しています。

3)カーシェアリングによる自家用車の貸し付け

カーシェアリングアプリやウェブサイトなどを介して、自家用車を貸し出したことにより生じた所得は、基本的には雑所得に該当すると考えられます。

4)家事・育児代行や技術の提供などリソースの提供

プライベートレッスンや、家事・育児代行など、リソース(人手など)の提供によって生じた所得は、基本的には雑所得に該当すると考えられます。

5)仮想通貨の売買

ビットコインをはじめとする仮想通貨の売買や使用によって生じた所得は、原則として雑所得に該当します。ただし、仮想通貨を売却せずに保有している場合における含み益に関しては、課税されません。

3 確定申告を忘れてしまった場合

確定申告をしなければならない人が確定申告をすることを忘れてしまった場合、期限後申告という形で申告をすることができます。

期限後申告をした場合、原則として、納税額の15%相当額の無申告加算税が課されます。また、納期限の翌日から納付する日までの間において、納税額の年8.9%(納期限の翌日から2カ月を経過する日までの期間については、年2.6%)により計算される延滞税が課されます。このため、確定申告の対象とされる副業などによる所得がある場合において、確定申告期限までに確定申告をせず、期限後申告をしたときは、別途、ペナルティーが課される点に留意する必要があります。

もし、確定申告の提出を忘れていたことに気付いたときは、なるべく早く申告書を提出するようにしましょう。

4 副業時に知っておくべき給与所得以外に生じる主な所得

所得税の対象となる所得には、給与所得等以外に事業所得・不動産所得・利子所得・配当所得・雑所得・譲渡所得・一時所得・山林所得を含めて計10種類の所得があります。ここでは、副業などにより、給与所得等以外に生じる主な所得として、「譲渡所得」「不動産所得」「雑所得」の内容を紹介します。

1)譲渡所得

譲渡所得とは、資産の譲渡により生じる所得をいいます。譲渡所得に係る所得税の計算方法は、譲渡した資産の種類により異なります。

不動産・有価証券以外の資産に係る譲渡所得は、他の所得と総合して所得税を計算します(以下「総合課税」)。一方、不動産・有価証券の譲渡による譲渡所得は、他の所得と分離して所得税を計算します(分離課税)。不動産・有価証券の譲渡による譲渡所得に対する税率は、原則として15%(復興特別所得税0.315%および住民税5%を合計すると、計20.315%)です。

譲渡所得の計算方法は、次の通りです。

譲渡収入-(取得費+譲渡費用)

総合課税の場合は、上記により計算した金額から特別控除額(限度額:50万円)が控除されます。このため、総合課税の対象となる譲渡による利益が50万円以下の場合には、譲渡所得は生じないことになります。

2)不動産所得

不動産所得とは、不動産の貸し付けにより生じる所得をいいます。不動産所得は、総合課税により所得税を計算します。

不動産所得の計算方法は、次の通りです。

不動産収入-必要経費

不動産所得については、事前に、青色申告の承認申請書を提出することにより、青色申告特別控除(最高65万円)などの特典を受けることができます。

3)雑所得

雑所得とは、利子所得・配当所得・不動産所得・事業所得・給与所得・退職所得・山林所得・譲渡所得・一時所得のいずれにも該当しないその他の所得をいいます。雑所得は、総合課税により所得税を計算します。

雑所得の計算方法(公的年金等以外)は、次の通りです。

収入金額-必要経費

毎年確定申告を行う必要がある個人事業主等に比べ、給与所得者は確定申告をすることを忘れることも珍しくないと思われることから、注意が必要です。

また、年末調整の対象外である医療費控除などの適用を受けるために確定申告を行う場合には、副業などによる所得の金額が20万円以下であっても、確定申告の所得計算にその金額を含める必要があります。

以上(2021年3月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:pixabay

決算前に確認したい「棚卸」基本を分かりやすく解説

書いてあること

  • 主な読者:実地棚卸の重要性を社内に周知したい経営者・経理担当者
  • 課題:棚卸資産の管理が不十分だと在庫の過大・過少計上が生じる
  • 解決策:経営判断と不正防止の観点から実地棚卸が不可欠

1 棚卸とは

棚卸とは、ある時点における在庫の種類・数量などを調査し、実際に保有している数量を確定し、棚卸資産の金額を正確に把握することです。これにより、適正な損益計算を行うことができます。棚卸の実施方法には以下があります。

  • 帳簿棚卸:帳簿記録に基づき調査を行う
  • 実地棚卸:現物を実際に調査する

帳簿棚卸で状況は簡単に把握できるものの、「棚卸差異(在庫数量と実在庫数量の誤差)」が生じていても発見できません。その点を実地棚卸により補完することになります。以降では、実地棚卸の基本や目的、手順を紹介します。なお、棚卸に資産評価(単価の決定)まで含める場合もありますが、本稿では含めません。

2 実地棚卸の基本

1)実地棚卸の対象資産

実地棚卸の対象資産は、商品、製品、半製品、原材料、仕掛品、貯蔵品などです。企業がその営業目的を達成するために所有し、かつ売却を予定する資産の他、売却を予定していない資産であっても対象となります。具体的には、短期間に消費される事務用消耗品等があります。

2)実地棚卸の実施頻度

実地棚卸の頻度は、年1回(年度末だけ)、半期、四半期、毎月、毎日など様々です。実施頻度は、棚卸資産の金額的および質的重要度の観点に基づいて決定します。また、実施日は月末日や決算日に行われることが多いですが、決算日等の前後で行う場合は、実地棚卸当日の帳簿在庫から決算日等の帳簿在庫まで受払記録を照合できるようにすることが重要です。

3 実地棚卸は何のために必要なのか

1)帳簿数量を実在庫数量へ修正

帳簿棚卸は棚卸差異を発見することができないデメリットがあることは、すでに紹介しました。そこで実地棚卸により実際の在庫数量を把握できれば、帳簿上の在庫数量を実在庫数量へ修正することができます。

2)滞留在庫などの把握や棚卸差異の分析

実地棚卸を行うことで不良品や滞留在庫(売れる見込みのない在庫)を見つけ出し、通常の在庫と区分することができます。また、棚卸差異を把握した後、記録ミス、在庫の紛失・破損・盗難、減耗損などの発生原因別に分析するための基礎情報を集められるので、その後の予防に役立ちます。

3)損益の確定

棚卸差異に係る金額は、原則として会計上は売上原価(棚卸資産の製造に関連し不可避的に発生する場合は製造原価)に計上されます。ただし、大規模な自然災害など臨時的な事象によって多額の棚卸差異が生じた場合には、特別損失に計上されることもあります。このように棚卸資産にかかる費用・損失を正確に把握し、一定期間の(段階)損益を確定するために、実地棚卸が必要です。

4)会計不正の防止

売上原価は「期首在庫+当期仕入高-期末在庫」で算定されるため、期末在庫を正しく把握することは、正確な売上原価の算定につながります。そして、売上総利益(粗利益)は「売上高-売上原価」で算定されます。このように、期末在庫の把握は適正な損益計算を支える重要な作業です。

一方、期末在庫を実際の有高より大きく見せる(売上原価が小さくなり、利益は大きくなる)など、会計不正に用いられてしまうこともあります。これを防止するために、実地棚卸は有効です。定期的な現物のチェックに加え、帳簿上の在庫数量との差額の期間比較などをすることで、異常値を把握できます。

4 実地棚卸と(管理)会計との関係

1)在庫から生じるコストや資金負担

在庫は保有するだけで、管理のための人件費、倉庫の賃借料、水道光熱費、運送費、保険料、在庫が陳腐化した場合の処分費用などのコストが生じます。また、在庫は企業の資金が形を変えた資産と解釈できるため、在庫を保有している間は自由に使える資金が減っていることを意味します。仮に在庫でなく現金として保有していたなら、他の資産などに投資することでリターンを得られるかもしれないからです。

さらに、当該資金を借入金や株主資本で賄っていれば、その在庫を保有している期間の負債コスト(金融機関などからの借り入れにかかる金利)や株主資本コスト(株主が出資に対して要求する期待利回り)が発生しています。こうした在庫とコストの関係を現場に理解してもらうことは管理部門の責務といえます。

2)最適在庫量の基礎情報

在庫を保有することはデメリットばかりではありません。在庫を保有することで欠品による損失(受注機会損失)を回避できます。また得意先からの急な注文に対して対応できたほうが、長期的な信用を得るために有利です。このため欠品を防ぎながら在庫量を減らせる限界在庫量、いわゆる「最適在庫量」で管理できれば、利益を最大化することが可能です。最適在庫量の求め方の解説は本稿では省略しますが、最適在庫量を決定するにあたり、実地棚卸から得られる情報は、在庫の実態を知る上で非常に重要です。

5 実地棚卸の方法

1)実地棚卸の種類

実地棚卸は、ある時点で工場・店舗・企業等が保有する全ての在庫を一度に棚卸する「一斉棚卸」と、作業や業務を止めることなく一部の棚や在庫の種類などに分類し、順番に棚卸を実施する「循環棚卸」とに分かれます。循環棚卸は作業を止めずに行え、棚卸実施者も少なくて済むメリットがあるものの、日ごろから高い精度の在庫管理が要求されるため、実地棚卸を実施する際の難易度が高くなります。従って、循環棚卸を採用している企業の多くは、自動倉庫やPOSレジのような高度な在庫管理を行うことのできるシステムを導入しています。

2)実地棚卸のカウント方法

実地棚卸(一斉棚卸)は、在庫のカウント方法の違いにより「リスト方式」と「タグ(棚札)方式」とに分けられます。

リスト方式は、システムから出力されたリストに基づき、実際の在庫数量と一致していることを確認する方法であり、リストを新たに作成する手間が必要ありません。そのため、比較的短時間で棚卸ができるメリットがあります。しかし、リストに記載されていない在庫は調査対象から漏れるため、網羅性の確保という点に多少のデメリットがあります。

タグ方式は、タグ(棚札)を用いた実在庫数量の確認方法です。この方法はタグの貼り付けおよび回収作業に時間がかかるというデメリットがありますが、実在庫を網羅的にカウントできるメリットがあるため、タグ方式を採用する企業が多いです。

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3)実地棚卸の手順

ここでは、実務上手順の多いタグ方式について紹介します。

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以上(2021年3月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 鬼丸真史)

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画像:thebigland45-Adobe Stock

安く仕入れたい。しかし、行き過ぎた“値切り交渉”は法令違反

書いてあること

  • 主な読者:有利な条件で取引するために、強めの値切り交渉をしがちな経営者や営業担当者
  • 課題:他社との条件を引き合いに出して値切ることもあるが、法的に問題はないのか
  • 解決策:他社情報を勝手に話すのは秘密保持契約違反。虚偽の情報は論外

1 危険な値切り交渉をしていませんか?

少しでも有利な条件で取引したい。その気持ちは分かりますが、誠実さを欠くと法令に違反する恐れがあります。例えば、ボリュームディスカウントで価格が安いA社の例を挙げ、ボリュームディスカウントのことを告げず、B社に「御社はA社より高い!」などと値切り交渉をすると詐欺行為に該当する可能性があります。

「何とかして安くしたい」という気持ちからのことですが、日頃のちょっとした交渉が問題になることがあるので、注意が必要です。本稿では独占禁止法と下請法に注目します。

2 その値切り交渉は「独占禁止法」違反かも?

1)独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)とは

独占禁止法は、私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法などを禁止し、公正かつ自由な競争を促進するために定められた法律です。独占禁止法において禁止されている「不公正な取引方法」として、優越的地位の濫用が挙げられます。優越的地位の濫用とは、取引上で優越した地位にあることを利用し、相手方に対して、正常な商慣習に照らして、不当に不利益を与えるような行為をすることを禁止する目的で規定されたものです。

例えば、他の取引先との条件を引き合いに出しつつ、不況時や為替変動時に協力依頼などと称して大幅な価格低減を一方的に要求する場合や、大量発注を前提とした見積もりの後、発注数が大幅に減ったにもかかわらず見積もり時の単価で発注するような交渉を行う場合などが、優越的地位の濫用に該当する恐れがあります。

以下で、優越的地位の濫用として問題になりそうな値切り交渉と対策を紹介します。

2)品質が劣る安価な他社製品と比較しながら、値切り交渉を行う

他社製品と比較すること自体は必ずしも問題ではありませんが、品質が劣る製品と比較することは問題です。品質や仕様、発注量などを勘案して、同様のグレードの他社製品と比較して価格交渉をする必要があります。

3)量産打ち切り後の補給品として発注したのに、他の取引先は量産時と同じ価格で対応してくれたなどと他社と比較することで、量産時と同じ単価で取引をするよう値切り交渉を行う

量産開始前の契約締結時点で、(量産打ち切り後の)補給品を発注する場合の単価などについて合意しておく必要があります。また、他の取引先が量産時と同じ価格で対応したという結果だけを示して、強引な価格交渉をするのはよくありません。他の取引先がどういった方法、条件協議を経て、同じ価格で対応することができたのかという経緯も考慮し、合理的な根拠を示しながら値切り交渉をしましょう。

ただし、他の取引先との取引条件などについては、契約上、秘密保持義務を負っているのが通常なので、開示する情報には配慮が不可欠です。

4)価格カルテルにご用心

この他、独占禁止法において禁止されている「不当な取引制限」にカルテルがあります。カルテルとは、他の事業者と共同して、価格、数量、取引先の獲得などといった競争上の重要な事項を相互に拘束することで、一定の取引分野の競争を実質的に制限することを禁止するために規定されています。そのため、他社の情報を使った値切り交渉は、価格カルテルになることがあります。

例えば、同一製品を発注している複数の取引先で価格差がある場合、「一番安価な取引先やその価格を具体的に提示して、取引先同士で金額が異なる対応とならないよう協議してほしいなどと交渉し、それを取引先が受け入れて取引先間で連絡を取って価格の調整をしてしまうケース」です。

価格カルテルに該当するケースは少ないですが、取引先に低価格での統一を求めることはよくあります。かかる行為が問題になる恐れがあることを、頭の片隅に置いておくとよいでしょう。また、この問題を避けるには、他社を特定して取引情報を伝えることは避けるべきです。

3 その値切り交渉は「下請法」違反かも?

1)下請法(下請代金支払遅延等防止法)とは

下請法では、独占禁止法によって禁止されている優越的地位の濫用に該当する行為形態のうち、適用対象や違反行為を類型化して規制しています。個別具体的な判断が必要な優越的地位の濫用に該当し得る行為を類型化することで、簡易迅速に下請事業者を保護することを目的とします。

詳細は割愛しますが、同法においては、下請代金の減額や買いたたきが明確に禁止されています(下請法第4条第1項第3号、第5号)。そのため、例えば、協力金などの名目で下請代金の額から一定の金額を差し引くような交渉を行ったり、他の取引先の条件を示して、発注者の事情で指値発注を要請したりすることは下請法違反となる恐れがあります。

以下で、問題になりそうな値切り交渉と対策を紹介します。

2)給付の内容に知的財産権が含まれているにもかかわらず、他の取引先の契約内容を例に示しつつ、当該知的財産権の対価を考慮しないで価格交渉を行う

発注者と受注者との間で、知的財産権について別途対価を考慮すべきかを協議する必要があるでしょう。一般的に、発注した商品とは別に知的財産権のみを独自に活用することがない場合は、知的財産権の対価を別途支払う必要はないと思います。

また、知的財産権については、企業にとって秘匿性が高い内容を含んでいます。そのため、既に公開されている権利であればよいですが、未公開の知的財産権の取り決めを交渉材料として具体的に話してしまうことには、細心の注意が必要です。

このような値切り交渉は、他の取引先との契約における秘密保持義務違反となっている恐れがあります。すなわち、他の取引先との条件や内容は秘密保持義務が課せられているのが通常であり、それを値切り交渉で引き合いに出すことは問題なのです。これを回避するためのポイントを確認していきます。

4 値切られる側になったときのための防御

取引が開始される前の見積もりの時点で、仕様追加・変更等の具体的な金額の算定方法を明記しておきましょう。見積書に明確に記載をし、これに合意をして発注を受けたにもかかわらず、合理的な理由なく減額交渉が行われた場合は、相手方が自社よりも強い立場になるならば独占禁止法・下請法に抵触している可能性が高いといえます。

また、具体的な契約締結の際は、相手から様々な条件が提示される前に、こちらからある程度具体的な取引条件が記載されている契約書などを提案します。いったん相手方から取引条件が提示されてしまうと、どうしても相手方のペースで交渉をすることになってしまいがちだからです。

以上(2021年3月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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画像:pathdoc-shutterstock

「三方よし」の新形態 非営利のコミュニティーにスポンサーとして参加する

書いてあること

  • 主な読者:自社にも「見返り」がある社会貢献がしたい経営者
  • 課題:自社だけが得をするつもりはないが、相応の具体的な「見返り」が欲しい
  • 解決策:資金などを提供するのだから、スポンサー企業が見返りを求めるのは当然のこと。それは相手も理解しており、遠慮せずに目的を伝えたほうが良い結果を得やすい

1 社会貢献をしつつ、自社も具体的なメリットを得る方法

社会貢献をしたいし、するからには自社にも相応の「見返り」が欲しい。そのような経営者にご提案するのが、趣味やスポーツのサークル、同窓会、学生のサークルや部活動といった非営利のコミュニティーに、スポンサーとして参加する方法です。こうしたコミュニティーのメンバーは共通の目的を持ち、属性も似ていることがあります。自社と相性の良いコミュニティーを選んで協賛すれば、コミュニティーの活動支援を通じて社会貢献しつつ、次のような見返りを得ることが期待できます。

  • ターゲットの客層にピンポイントでアプローチできる
  • 潜在顧客に自社を認知してもらえる
  • 自社のイメージアップにつながる
  • 製品やサービスに対する具体的なフィードバックが得られる
  • 口コミ効果が得られる
  • 欲しい人材の採用につながる

また、非常に重要なポイントは、スポンサーとなる以上、相手のコミュニティーに見返りを求めるのは当然ということです。コミュニティーのメンバーも、資金などの提供を受ける以上、スポンサー企業が営利目的であると認識しています。そのため、企業の目的をはっきりとコミュニティーに伝えたほうが、メンバーの協力を得やすくなります。

それでは、次章でスポンサーになることを検討したい狙い目のコミュニティーを紹介します。

2 狙い目のコミュニティー4選+番外編

1)社会人向けサークル

メリハリ消費が広がる中、消費者は趣味や娯楽など、こだわりのある分野への出費を惜しまない傾向を強めています。そうした人が集まる社会人向けサークルアプローチできたら、営業上の効果が期待できます。

社会人向けサークル運営支援プラットフォームの「つなげーと」は、「自社のサービスや製品を提供してサークルを協賛できる企業」と「つなげーとに登録しているサークル」をマッチングするサービスを提供しています。スポンサー企業は、オーディションで選定したサークルを「アンバサダー」に任命し、そのサークルに協賛します。つなげーとのウェブサイトでは、協賛の内容とスポンサー企業のメリットの例として、次の2つを挙げています。

  • シュークリーム専門店が、シュークリーム作り体験やサークル割引などのイベントを開催して「ママ友の会」「スイーツ会」「カフェ会」を支援することで、口コミが広がる
  • 飲料メーカーが、サンプルの配布や自社の工場見学を「飲み友の会」「スポーツ観戦会」「バーベキュー会」に提供することで、製品へのファンが広がる

この他、スポーツ系のサークルに対して自社主催のスポーツカップを提供することや、サークルのメンバーに対して自社製品やサービスに対するアンケートを実施することなども提案しています。

2)地域コミュニティー

本社所在地の地域コミュニティーなどと接点を持つことができれば、「地元愛」も相まって自社の製品やサービスの固定ファンを獲得できる可能性が高まります。固定ファンの増加は、安定して収益を上げるために重要な取り組みです。

KOMURU(コミュル)は、地域コミュニティーがイベントを行う際に、「資金や場所を提供するスポンサー企業」と「そのコミュニティー」をマッチングするサービスを提供しています。コミュニティーの代表は、KOMURUにコミュニティーの目的や年齢層、参加者数などを登録します。企業はそうした登録情報を確認し、条件があえば協賛します。

そうすると、スポンサー企業はイベント会場でチラシを配布する、テーマに沿ったイベントを開催する、コミュニティーのウェブサイトやSNSで自社を取り上げてもらうなどの見返りが得られます。

3)同窓会

学校の同窓会は、年齢、学歴、場合によっては職種や居住地も近いという、非常に似通った人たちが集まるイベントであり、マーケティング担当者にとっては大きなチャンスです。

同窓会の幹事代行を営む「笑屋」は、「スポンサー企業」と「同窓会」をマッチングするサービスを提供しています。同社のウェブサイトによると、スポンサー企業が協賛するスポンサーフィーの75%が、対象となる同窓会の会費に充てられます。同窓会は会場や飲食などに掛かる会費を抑えられ、企業は同窓会の場で自社をPRできるメリットがあります。

例えば、大学の医学部の同窓会に自動車の販売店や不動産投資会社が自社を売り込む、子育て世代が集まる同窓会で学習塾や英会話教室が生徒を募集する、タクシー会社が運転手を募集する、といった事例があるようです。

4)学生サークル

一般的に、学生には「時間はあり、将来的に自社の顧客や社員になる可能性がある」といった魅力があります。スポンサー企業にとって、学生はマッチングしやすいターゲットといえます。

1.協賛金額に応じて要求できることが増える

「カレッジ」は、スポンサー企業と協賛金を受け取りたい学生の団体をマッチングするサービスを提供しています。スポンサー企業は、協賛金に応じて、学生の団体に次のことを求めることができます。

  • SNSで自社や製品、サービスを宣伝する
  • 学生サークルのイベントで、パンフレットやチラシに企業のロゴマークなどを記載する
  • 学生を対象にアンケートを実施できる

2.自社製品での協賛も可能

「ガクセイ協賛」は、お金だけではなく、スポンサー企業の製品などの物品で協賛できるサービスを提供しています。スポンサー企業が、会員登録やアンケートなど、実施してほしい「協賛プラン」を提案し、それに応じた学生サークルに協賛金や物品を提供します。

3.採用活動にも活用できる

「サークルアップ」は2021年4月から、スポンサー企業が学生を採用するきっかけとなるサービスを提供します。具体的には、企業説明や学生との個人面談などを実施できます。

企業は、サークルアップに登録しているサークルを検索し、サークルやサークル内のメンバーの属性を参考にして、特定のサークルに直接「オファー」をすることができます。企業がサークルを検索する際、オファーの内容に応じてサークルがレコメンドされる機能もあります。例えば、技術者を採用したい企業がプログラミングのサークルや理科系大学のサークルに絞ることや、社会貢献の観点を重視する企業がボランティアサークルを選ぶことも可能です。

オファーを受けたサークルは、オファーの内容やサークルアップの利用度などに応じて、1ポイント1円相当の「サークルポイント」や「マイポイント」を受け取ることができます。

5)番外編:高校の部活動

プロスポーツチームとスポンサー契約を結ぶことは一般的ですが、近年は高校の部活動のスポンサーになる企業も現れ始めています。全国高等学校体育連盟(以下「高体連」)の見解は、「高校の部活動は教育活動の延長であるため、企業のスポンサーが付くのはふさわしくない」というもので、競技者規程でも「スポーツ活動を行うことによって、物質的な利益を自ら受けない」と定められています。

一方、日本サッカー協会が主催する「高円宮杯 JFA U-18 サッカープレミアリーグ」の場合、出場校はユニフォームに企業のロゴマークを付けて参加することができます。大会に参加しているJリーグのユースチームがユニフォームに企業のロゴマークを付けていることや、出場校の経済的な負担軽減(移動など)などを理由に、高体連も「日本サッカー協会との協議の上で、特例として認めている」(高体連事務局)としています。

3 より良い「見返り」を得るための補足

企業がコミュニティーのスポンサーになるメリットは、属性を選べることに尽きるでしょう。コミュニティーの目的、規模、メンバーの属性を押さえた上で、支援先を検討することが第一歩となります。

また、スポンサー企業とコミュニティーには相性などで、当たり外れが生じます。例えば、スポンサー企業がアンケートを行った場合、自由回答欄にたくさん書き込んでくれるコミュニティーも、そうでないところもあります。もし相性が良くて協力的なコミュニティーと出会えたら、長く付き合えるような関係を構築するようにしましょう。長く付き合うほど、コミュニティーのメンバーもスポンサー企業のことを理解するので、さらに良い結果を生み出します。

以上(2021年3月)

pj80104
画像:Pixel-Shot-shutterstock

【朝礼】管理職がスピードアップする3つのコツ

今日は管理職の皆さんに、「スピードアップ」についてお話しします。

先日、私は管理職と個人面談をして、新年度に向けた課題や抱負を聞きました。多くの管理職が「仕事のスピードを上げたい」「もっと効率的に仕事を進められるようにしたい」と語っていましたが、残念ながら、それを成し遂げるために、何をどう改善するかを説明できていませんでした。

はっきり言って、このことについて、私は大いに不満です。今年度、当社は新規事業や新しい働き方を進めてきました。ところが今年度が終わろうとしている今ごろになっても、まだ具体的なスピードアップ策を講じられていないのは、それこそ遅すぎます。そんなスピード感からは早く脱却する必要があることを、まずは認識してください。

仕事の内容にもよりますが、管理職の皆さんに実践してほしいスピードアップのコツは3つです。

まず1つ目は、「今、決める」です。管理職は日々、メンバーから相談されたり、判断や指示を求められたりしますが、その際「検討して後で回答します」と、判断を先延ばしにしている様子が多々見られます。ビジネスは次から次へと動きます。担当している案件も1つではありません。判断を先延ばしにしていると、そこで進みが遅くなりますし、「後で判断すべきこと」が山積みとなれば時間が足りず、結局何もかも遅れます。

もちろん内容にもよりますが、管理職は、その場で決めて回答することを心掛けてください。

例えば、「この件は誰に振るのか」「いつまでに完了すればいいのか」などは、その場で決められるはずです。「早く決める」のは管理職の重要な仕事と心得ましょう。

2つ目は、「自分の手から離す」です。例えば、社内外のメンバーに仕事をお願いするとき、準備にひどく時間がかかっている管理職が多いように見えます。時間と手間をかける必要はありません。社内外のメンバーに仕事をお願いするときに管理職がすべきことは、「ルールとスケジュールを決めて通知する」ことです。それさえできれば、後は次工程に任せたほうが仕事は早く進みます。とにかく、早く自分の手から離すのがスピードアップのコツです。

そして最後、3つ目は、「状況を早く発信する」です。「忙しい」「困っている」などの状況を早く周りに発信してサポートをお願いするなど、物事が滞らないようにしましょう。仕事が多い管理職ほど、状況を積極的に発信しなければなりません。私は、ある尊敬する人から、「相手に自分の居場所を発信するのは最低限の礼儀です」と言われたことがあります。「居場所」とは、文字通りの「場所」のことだけでなく、「今、手が空いているか、塞がっているか」などの状況も含まれると思っています。さて、管理職の皆さん、この3つのことを、今日から実践してください。そして、新年度を迎える前に、今よりスピードアップできるようになりましょう!

以上(2021年2月)

pj17043
画像:Mariko Mitsuda

【経理担当者向け】意外に複雑な商品(棚卸資産)会計

書いてあること

  • 主な読者:棚卸資産の会計処理の基礎を身につけたい経理担当者
  • 課題:棚卸資産の会計処理は複雑で、貸借対照表の金額の根拠が分からない
  • 解決策:期首から期末までの処理を一通り把握する

1 棚卸資産の会計処理は複雑

棚卸資産(商品など)は取得から売却まで一定の期間を有するため、会計上さまざまな取り決めがあります。特に在庫については、期末に評価方法の選定や実地棚卸、原価法・低価法と複雑な会計処理をしなければなりません。

複雑な棚卸資産の会計を理解するため、事例を用いて期首から期末までの棚卸資産に係る会計上の取り扱いや留意点を紹介します。なお、会計上の棚卸資産には商品以外に、製品・半製品・原材料・仕掛品などが含まれますが、本稿では、商品のみを対象にしています。

2 事例を見ながら1年間の会計処理の流れを押さえよう

1)期首

小売業を営むA社は、期首に100万円(商品α10個、単価10万円)の棚卸資産を持っています。

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期首の貸借対照表上の「棚卸資産(資産)」勘定には、前期末の棚卸資産の金額が記載されています。

2)棚卸資産の取得時

A社は、期中に商品β100万円(20個、単価5万円)を掛けで仕入れ、運送費など1万円を負担しました。

棚卸資産を取得したときには、取得原価を算定して、次の仕訳を行います。また、商品有高表などに取得数量などの記録を行います。

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棚卸資産を取得したときには、損益計算書の「仕入(費用)」勘定に計上し、直接「棚卸資産」勘定を増減させる仕訳は行いません。そのため、貸借対照表上の「棚卸資産(資産)」勘定に変動はありません。

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なお、商品有高表などへの取得数量・販売数量の記録方法には、「継続記録法」と「棚卸計算法」の2つがあります。

継続記録法とは、棚卸資産を取得したときには取得数量を、販売したときには販売数量を継続的に記録し、棚卸資産の在庫数量を常に帳簿上に反映しておく方法です。棚卸計算法とは、棚卸資産を取得したときには取得数量を記録しますが、販売したときには記録を行わず、期末に実地棚卸を行って期末の在庫数量を把握します。在庫数量から取得数量を差し引くことによって、間接的に販売数量を計算する方法です。

一般的には、継続記録法で、取得と販売の都度記録を行い、期末に実地棚卸を行う方法が多く採用されています(継続記録法と棚卸計算法の併用)。

3)棚卸資産の販売時

A社は期中に仕入れた商品β10個を単価15万円で販売しました。

商品を販売したときは、次の仕訳を行います。また、商品有高表などに販売数量などの記録を行います。

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棚卸資産を売却したときには、損益計算書の「売上(収益)」勘定に計上し、直接「棚卸資産」勘定を増減させる仕訳は行いません。そのため、貸借対照表上の「棚卸資産(資産)」勘定に変動はありません。

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なお、商品有高表などに記録する際の販売単価の計算方法には、個別法・先入先出法などがありますが、それぞれの方法には決算の期末在庫の評価方法と関連するため、詳細は後述します。

4)決算時

A社は決算を迎え、決算日における在庫(以下「期末棚卸資産」)の数量と単価を正確に把握して、期末棚卸資産の評価を行います。そして、正確な期末棚卸資産を基に、売上原価を算定します。

会計上、期末棚卸資産の評価に関する主な決算処理は次のプロセスで行われます。

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1.商品有高表などの書類から期末棚卸資産の金額を集計する

まず、商品有高表などから決算日における期末棚卸資産の数量を把握します。そして、次のいずれかの方法で算出した金額を取得価額とみなして期末の帳簿価額とします。

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なお、本事例においては個別法を用いて期末棚卸資産を評価します。その場合、A社の期末棚卸資産の評価額は次のようになります。

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2.実地棚卸を行い、帳簿上の数量と比較して減耗損の計算をする

帳簿上の数字だけでは、紛失や盗難などによる減少を把握することはできません。そのため、実際に期末棚卸資産の数量を数えて(実地棚卸)、帳簿上と実際の期末棚卸資産の数量の差額を期末棚卸資産の評価額に反映させます。

実地棚卸を行い、帳簿上の期末棚卸資産の数量(図表8)と実際の期末棚卸資産の数量が一致しない場合には、減耗損を把握して、帳簿上の期末棚卸資産の数量を調整し、実際の期末在庫数量に合わせます。

例えば、A社が決算日に実地棚卸を行った結果、実際の期末棚卸資産の数量は商品αが8個、商品βが10個だった場合には、減耗損を次の通り計算します。

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3.期末棚卸資産の単価の評価(原価法と低価法)

期末棚卸資産の単価を評価する方法には、原価法と低価法の2つがあります。

原価法は期末棚卸資産の単価を、上記の個別法・先入先出法などで算出した単価とする方法をいいます。低価法は期末棚卸資産の単価を、原価法による単価と、期末時点の時価とを比較して、いずれか低いほうの金額とする方法をいいます。

大企業などが適用する会計基準(「棚卸資産の評価に関する会計基準」)では、低価法の採用が強制されています。ただし、中小企業が適用する会計基準(「中小会計指針」「中小会計要領」)では、原価法と低価法の選択適用が認められています。しかし、原価法を採用した場合でも、時価が著しく下落し、回復の見込みがない場合には、評価損を計上しなければなりません。

例えば、原価法を採用しているA社が決算日に期末の在庫の時価を調べた結果、前期から売れ残っていた商品αの時価が4万円だと判明した場合(時価が著しく下落、かつ回復の見込みなし)には、評価損を次の通り計算します。

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4.売上原価を算定する

売上原価は次の算式で計算されます。なお、減耗損や原価法などによる評価損については、発生原因ごとに売上原価、営業外費用、特別損失(災害など臨時の事象が原因で発生し、多額である場合など)のいずれかに該当します。なお、本事例では売上原価に該当するものとします。

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売上原価を算定したのち、損益計算書では売上総利益(売上高-売上原価)が計算され、貸借対照表には期末の棚卸資産が「棚卸資産(資産)」として計上されます。

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3 経理担当者が知っておきたい会計処理上のポイント

1)取得時の付随費用の計上漏れ

棚卸資産を取得した際に、取得原価に含めなければならない付随費用の取り扱いには注意が必要です。付随費用は棚卸資産の取得のために支払った諸費用をいいます。付随費用は、商品の性質や購入取引の流れによって異なるため、具体的にどのような費用が該当するのかを商品ごとに把握しておかなければなりません。

また、税務上では付随費用が少額(棚卸資産の購入金額のおおむね3%以内の金額)であれば、取得原価に算入しなくてもよいため、その取り扱いには注意が必要です。

2)未着品・預け在庫などの計上漏れ

期末に棚卸資産を集計する際に注意したいのが、未着品・預け在庫といった決算日に自社の倉庫にない棚卸資産です。

未着品とは決算日前に注文したものの、翌期以後に入荷される棚卸資産をいいます。また、預け在庫とは外部の倉庫業者や外注先に預けている棚卸資産をいいます。これらの棚卸資産は、決算日に自社の倉庫に商品がないため、集計忘れが起こりやすく、その結果、期末棚卸資産の計上漏れにつながります。また、商品の取引の流れを正確に把握していなかったり、業務の引き継ぎがされていなかったりする場合もあるため、自社の倉庫以外にも棚卸資産がある可能性を認識する必要があります。

以上(2021年3月)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:Fusionstudio-shutterstock

会計の基本ルール 7つの一般原則と3つの考え方

書いてあること

  • 主な読者:会計をこれから勉強しようとしている人や、基礎をもう一度確認したい人
  • 課題:会計処理の判断に迷った際、どのようなことを基準に判断すればよいのか知りたい
  • 解決策:会計処理の判断は、7つの一般原則と3つの考え方(主義)が基軸となる

会計は、会社で行う取引を記録し、決算書などの報告書にまとめて、株主や取引先(利害関係者)に報告するためのものです。

もし、その記録が事実でないもの(粉飾)であったり、決算書に記載された金額が独自ルールにのっとったもの(不適切会計)であったりした場合、会計は全く意味をなしません。そのため、会計には処理を行う上で外してはいけない基本原則や考え方(主義)があります。それが、以下で紹介する7つの一般原則と、3つの考え方(主義)です。会社の経理を行う上で何が正しいか迷ったり、自身の部署の営業利益などを考えたりする際にも役立ちます。

1 7つの一般原則

1)真実性の原則

企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない。

言葉の通り、決算書上に載せる会計情報は、すべて真実なものでなければなりません。

2)正規の簿記の原則

企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない。

正規の簿記とは「すべての取引」を、「客観的に検証できる証拠(契約書や請求書など)」に基づき、「複式簿記のルール」に従って記録することをいいます。会計帳簿(試算表や総勘定元帳など)は、正規の簿記により記録されたデータを基に作成しなければなりません。

3)資本取引・損益取引区分の原則

資本取引と損益取引とを明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない。

資本取引とは主に株式の発行により会社財産が増減する取引をいいます。損益取引とは商品やサービスの売買による損益(売上-費用)により、会社財産が増減する取引をいいます。

貸借対照表上では、出資による財産の増減と、事業活動の成果である損益による財産の増減を、明確に区別して記載しなければなりません。

4)明瞭性の原則

企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない。

どの利害関係者でも分かるように、一般的に用いられている勘定科目で示すことや、ひと目で分からない部分は注記(決算書の下に記載する注意書き)することで、利害関係者の判断にミスリードが起きないよう、明瞭に表示しなければなりません。

5)継続性の原則

企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない。

例えば、固定資産の減価償却方法には定額法や定率法など幾つかの方法が認められていますが、一度採用した償却方法は、よほどの理由がない限り変更してはいけません。定額法と定率法では減価償却費として計上される金額が異なります。もし年ごとに変更ができてしまえば、利益を大きく見せたいときは、定率法に比べ減価償却費を少なく計上できる(購入初期の場合に限る)定額法を採用するなど、利益操作が可能になってしまいます。

また、年ごとに計算方法が異なる金額では、期間比較をすることもできません。そのため、一度採用した会計処理の原則や手続きは、継続して適用しなければなりません。

6)保守主義の原則

企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない。

保守主義では、売上などの収益は遅く少なめに、費用や損失は早く多めに見積もって会計処理を行うことが求められています。つまり、自社にとって良いことは遠慮気味に、悪いことは早めに公表するということになります。もちろん、上記の真実性をゆがめるような会計処理をしてはいけません。

具体例には、取引先が倒産しそうという情報が入ったときに、なるべく早く貸倒引当金を計上して、将来生じそうな損失を利害関係者にいち早く報告することがあります。

7)単一性の原則

株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならない。

会社が作成する決算書は1つだけしか認められません。例えば、株主総会用には利益を大きく、税務申告用には利益を小さくした2種類の決算書を作ることなどを禁じています。もちろん、裏帳簿や二重帳簿と呼ばれる複数の帳簿も作ってはいけません。

2 3つの考え方(主義)

1)発生主義

すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。

費用と収益は、現金のやり取りではなく、取引が発生した事実に基づいて認識する考え方です。例えば、掛け仕入れや掛け売上をした際には、現金の支払いや受け取りは生じていません。しかし、掛け仕入れや掛け売上をした時点で費用や収益が発生しているとして、会計上の仕入(費用)や売上(収益)に計上されることになります。

また、身近な例で言えば、立替経費があります。自身が立て替えた電車代やタクシー代などの経費(費用)は、月次決算を組んでいる会社であれば、その月に計上しなければなりません。経費精算の締め切りが厳守されているのは、決算書を作る上でこの発生主義を守らなければならないからです。

2)実現主義

未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。

実際に実現したものだけを収益として確定する考え方です。売上に関しては、いつ実現したのかを判断するために、納品基準(商品を納品したときに実現したとする)、出荷基準(商品を出荷したときに実現したとする)、検収基準(納品された商品に不良がないと認められたときに実現したとする)などの基準を設け、それぞれの時点で売上に計上されることになります。

上記の発生主義では、商品などの受け渡しがなくても、口約束だけで売上が計上できてしまうなど、利益操作が行われやすいというデメリットがあります。そのため、売上に関しては計上できる時期をより厳格になるように、発生主義ではなく実現主義で認識することになります。

3)費用・収益対応の原則

費用及び収益は、その発生源泉に従って明瞭に分類し、各収益項目とそれに関連する費用項目とを損益計算書に対応表示しなければならない。

特定の売上に対して個別に対応可能な費用は、売上の計上に合わせて認識する考え方です。例えば、建築やソフトウエアの開発など完成までに1年を超える事業がある場合、建築や開発にかかった費用は建設仮勘定(ソフトウエア開発の場合は、ソフトウエア仮勘定)などに一旦資産計上し、完成・納品(工事進行基準の場合は進捗度合い)などにより売上が立ったときに、費用計上(製造原価や減価償却など)することになります。

以上(2021年3月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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画像:MR Gao-Adobe Stock

経営効率化を図る「持株会社化」のメリットと具体的な手法を解説

書いてあること

  • 主な読者:持株会社を活用した経営統合を検討している経営者
  • 課題:持株会社化のメリットとデメリット、具体的な手法を知りたい
  • 解決策:現在の組織体制、株主との関係、各事業の好不調に応じて適切な方法を選択する

1 経営の先行きが不透明な中でのグループ経営

持株会社とは、他社の株式の相当割合を保有し、子会社として支配・管理することを主たる事業とする会社で、一般的には、

  • 純粋持株会社:子会社の活動を支配・管理することを主たる事業とする
  • 事業持株会社:子会社の支配・管理を行うだけでなく、自らも何らかの事業を行う

といったように分類されます。本稿では、持株会社が子会社の株式を100%保有して経営統合することを「持株会社化」とします。持株会社化によって、グループ間の役割を分離する、好調な事業への投資をする、不調な事業から徹底するなどの判断がしやすくなります。

持株会社化のメリットとデメリットを整理した上で、具体的な手法として「株式移転」「株式交換」「会社分割」の概要を紹介します。

2 持株会社化の一般的なメリットとデメリット

1)戦略立案と事業遂行を分離した効率化。ただし、運営が複雑になることも?

持株会社化の最大の特徴は、経営戦略と個別事業の分離です。グループ全体の経営戦略を持株会社が担い、個別事業の執行を子会社に委ねることで、権限・責任の明確化とグループ全体の戦略の最適化が図れます。

一方、子会社はグループ全体の方針や意思決定に従うため、この点で経営の自由度は低下します。また、重要な意思決定は、子会社のみならず、持株会社(場合によっては他の子会社)との調整が必要になります。会社法上も、取締役会等の機関は持株会社・各子会社に設置することになり、この点も経営判断の遅れや手続の煩雑化などの原因になります。

2)管理部門の効率化が見込める。ただし、管理体制の整備が不可欠?

子会社に配置すべき人事や総務、法務といった管理部門等を持株会社が包括して担当するなどして、グループ全体の業務を効率化できます。

ただし、グループ全体の管理体制が整っていないとこのメリットは享受できず、逆に混乱を招きます。そのため、管理部門等の重複業務の効率化という視点から、シェアードサービスを提供するなど、最適化を図る必要があるでしょう。

3)各企業が独立できる。ただし、一体感の醸成は困難?

持株会社化で個々の企業を傘下に収めることで、一体的な経営ができます。合併との違いは、企業文化の融合や人事制度の擦り合わせが不要な点です。つまり、個々の企業の個性を生かしつつ、経営の一体化が図れます。こうした特徴を踏まえ、将来の合併を見据えつつ、その前段階として持株会社化を図るケースなどがあります。

半面、グループとしての一体感の醸成を阻害することにもなります。こうした傾向は、意思決定の迅速化や各企業の自主性を重視して権限委譲を進めるほど顕著になりがちです。

4)機動的な事業再編が可能になる。ただし、維持には相応の負担が掛かる?

持株会社化によって、グループ内の事業の再構成を機動的に行えます。例えば、事業の拡大を図るために他社を取り込む場合、持株会社傘下の一事業会社とすることができます。また、不採算事業を切り離すときも、事業ごとに会社を分けておけば、その不採算事業を担当する会社の株式譲渡等を行って事業を切り離すことができます。

一方、持株会社の維持には相応の負担が生じます。純粋持株会社の収益源は子会社から受け取る剰余金の配当、子会社が支払う経営指導料やブランド使用料などに限られてしまいます。事業持株会社には本業の収益がありますが、費用の相当部分は子会社負担が一般的です。

5)税制上のメリットを受けられる

1.グループ法人税制の適用

子会社の株式を100%保有すると、グループ法人税制が強制的に適用されます。詳細は省略しますが、グループ法人税制では、100%グループ内における一定資産の譲渡に関する譲渡損益の繰り延べ、受取配当金の益金不算入、寄附金の損金・益金不算入等が定められています。

2.連結納税の導入

所定の手続をすれば、持株会社化によって法人税の連結納税ができます。連結納税とは、企業グループ内の個々の企業の所得と欠損を通算して法人税を課税する仕組みです。「景気動向の影響を受ける企業と常に安定している企業の損益を通算し、景気後退時の納税額を抑える」ことなどが可能です。

ただし、連結納税制度の適用を受ける際は、一定の要件に該当する連結子法人の繰越欠損金を引き継ぐことができない、子会社が保有する一定の資産については時価評価をする必要があるなどのデメリットもあります。

6)事業承継対策に活用することができる

純粋持株会社化は事業承継対策の面で効果が期待できます。詳細は省略しますが、純粋持株会社の株価評価は、純資産価額法となるため、純粋持株会社化することで株価の評価額を引き下げられる場合があります。また、複数の事業会社がある場合、相続の対象となる株式を純粋持株会社の株式のみにできるので、株式の分散防止や相続時の手続の簡素化などが図れます。

3 「株式移転」による持株会社化

株式移転とは、1または2以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることです。子会社の株主には、持株会社の株式などを交付することで、持株会社の傘下に複数の完全子会社を置くことが可能です。株式移転による持株会社化を「株式移転方式」ということもあります。

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株式移転の特徴は、持株会社(A社)を新設する点であり、持株会社と子会社はいずれも株式会社でなければなりません。また、子会社の株主に株式の対価として交付するものは、持株会社の株式や社債などとされています。一般的には、組織再編税制における適格要件を充足するために、持株会社の株式のみを交付することが多いようです。組織再編税制における適格要件は、1.完全支配関係内(100%グループ内)の組織再編、2.支配関係内(50%グループ内)の組織再編、3.共同事業を形成するための組織再編でそれぞれ異なります。しかし、いずれの場合であっても、対価要件(株式移転等の対価として、移転後の持株会社の株式等以外の資産が交付されないこと)が課されています。

これに加え、1.と2.の場合においては従前の支配関係継続が要件となります。また、2.と3.の場合には事業継続と従業者の引き継ぎ(おおむね80%)も要件となり、3.の場合はさらに事業の関連性、発行済株式の80%以上の継続保有、事業規模5倍以内または特定役員の継続就任が要件となります。

株主・債権者への対応としては、子会社の反対株主の株式買取請求権が認められています。

一方、債権者保護手続については、特定のケースに限定されています。債権者保護手続とは、合併などを行う場合、債権者に対して事前にその旨を知らせ、異議を述べる機会を設ける手続です。異議申立のあった債権者に対しては弁済などの措置を取らなければなりません。株式移転における債権者保護の対象は、交付される持株会社の新株予約権が、新株予約権付社債に付された新株予約権である場合の、新株予約権付社債権者に限られます。

4 「株式交換」による持株会社化

株式交換とは、株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社または合同会社に取得させることです。株式交換は、株式移転と同様、持株会社の100%子会社化により持株会社化を図るための方法です。株式移転と違うのは、持株会社は既存の会社であることです。株式交換は、主に事業持株会社化をするときに利用されます。

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子会社の株主に株式の対価として交付するものは、株式や社債などに限定されておらず、現金を交付することができます。ただし、組織再編成税制における適格要件の1つに、持株会社の株式のみとする旨が定められているのは株式移転と同じです。

株主・債権者への対応としては、株式移転と同様、子会社の反対株主の株式買取請求権が認められているだけでなく、持株会社の反対株主の株式買取請求権も認められています。

一方、債権者保護手続については、株式移転と同様、子会社の新株予約権付社債権者に対して必要である他、子会社の株主に株式移転の対価として持株会社の株式等以外の財産(現金等)を交付する場合は、持株会社の既存の債権者に対しても必要となります。

5 「会社分割」による持株会社化

会社分割とは、株式会社または合同会社が事業に関して有する権利義務の全部または一部を、分割後に他の会社に承継させる手続です。会社分割には、

  • 新設分割:事業に関して有する権利義務を新たに設立する新設会社に承継させる
  • 吸収分割:事業に関して有する権利義務を既存の承継会社に承継させる

といった手法があります。「新設分割」は、複数の事業部門を有する会社を事業部門ごとに分社化して独立採算制とする(カンパニー制)場合などに使われます。一方、「吸収分割」は、グループ会社において実質的に重複する事業を行っているケースなどにおいて、1つの会社に同一事業を集中して経営効率を上げる場合などに使われます。

会社分割では、純粋持株会社を創設させるための方法として「抜け殻方式」と呼ばれる方法があります。抜け殻方式とは、事業に関する権利義務の全部を他の会社に承継させて、親会社はグループ統括のみを行うようにする方式です。

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会社分割には、会社の一部の事業を切り分けて分社化する際に煩雑な手続を回避できるという大きなメリットがあります。

会社の一部の事業を他の会社に譲渡する方法には「事業譲渡」もあります。しかし、事業の包括承継ではないため、譲渡する事業に係る契約を全て個別に結び直す必要があります。債務も当然には承継されないため、個別の債権者の同意が必要です。これに対して、会社分割は事業を包括承継できるため、事業に関する契約は当然に引き継がれますし、個別の債権者の同意も不要です。また、事業承継の対価として必ずしも資金を用意する必要はなく、株式を割り当てることができます。

以上(2021年3月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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【文例付き】渋沢栄一、豊臣秀吉の「名言」を使った若手社員に向けたスピーチ

書いてあること

  • 主な読者:朝礼などで若手社員に期待することを伝えたい経営者
  • 課題:若手社員は「失敗」や「目立つこと」を極度に嫌がるとの調査結果もあり、意識のギャップがある
  • 解決策:若手社員の傾向に配慮しつつ、先達の名言なども引用して伝えていく

1 「失敗」や「目立つこと」を極度に嫌がる令和の新入社員

清少納言や吉田兼好も随筆でこぼしていた、「最近の若者は……」という愚痴。世代間に意識のギャップがあるのは、いつの時代にも共通した人類の永遠のテーマなのかもしれません。とはいえ、若者は会社の未来を担う重要な存在。経営者の熱い思いを伝え、一緒に会社の未来を作っていきたいものです。そのためには、まずは若手社員との意識のギャップがあることを知っておくことが大切です。

日本能率協会マネジメントセンターが2020年11月に公表した「イマドキ若手社員の仕事に対する意識調査2020」(以下「若手社員の意識調査」)によると、最近の若手社員は、他の世代の人たちと比べて、「失敗」や「目立つこと」を極度に嫌がる傾向があるようです。一方の経営者には、若いうちにどんどん失敗してほしい、遠慮なく自分の意見を主張してほしいなどと考え、やはり両者にはギャップがあるかもしれません。

そこで本稿では、若手社員のこうした傾向を踏まえた上で、彼らの意識の変化を促すようなスピーチを、先達の名言を使った文例も添えて紹介します。

2 文例1 「成功か失敗か」より重要なことを気付かせる言葉

「成功失敗の如きは、謂わば丹精した人の身に残る糟粕(そうはく)のやうなものである」(渋沢栄一*)

1)文例

皆さんも理解されていると思いますが、社会人は結果が全てというのは、正しい考えです。ですが、その「結果」というものが何なのか、もう一度考え直してみてください。なぜなら私は、一時的な成功で利益を上げたり、プロジェクトを成功させたりすることだけが、結果だとは思っていないからです。

明治時代に金融業や鉄道・運輸業、製造業、エネルギー産業、宿泊業など約500社もの設立に関わった渋沢栄一は、「論語と算盤(そろばん)」の言葉で知られるように、ビジネスマンに倫理観や公益性を強く求めた人物です。

その渋沢は、「成功失敗の如きは、謂わば丹精した人の身に残る糟粕のやうなものである」と語っています。成功や失敗というものは、人としての責務を全うし、努力をした人の体に残った酒かすのように、価値の低いものだというのです。つまり、結果はどうであれ、それまでの努力が大切だということです。

私は渋沢の考えに賛同します。むしろ、真剣に向き合ってどんどん失敗してほしいと思います。失敗は失敗した人だけが経験できる貴重なものであり、その経験は次のチャレンジで必ず活きてくるからです。皆さんが高い志を持って努力し、自分を磨いていくことのほうが、会社にとってははるかに好ましいことなのです。

2)解説:「失敗=悪=恥」という意識にとらわれた若手社員を解放する

若手社員の意識調査によると、若手社員ほど「失敗を恐れない」人の割合が低く、「失敗したくない」人の割合が高くなっています。その背景には、「恥をかきたくない」「他人からの評価が気になる」といった思いもあるようです。

今の若手社員は、バブル崩壊で経済が長年低迷し、中国にGDPで抜かれ、少子高齢社会への対策が遅れるなど、日本の「失敗する姿」ばかりを見続けて育ちました。閉塞感から抜け出せない雰囲気の中で、世の中の厳しさを強く感じてきた若者たちが、「失敗=恥」と考えるのは自然なことでしょう。逆に、今の若手社員は、結果を出すことの重要さを痛感している、危機感をしっかりと持った世代、と見ることもできます。

かといって、「成功=善」「失敗=悪」という二元論にとらわれ過ぎることは、好ましくありません。自分の夢に向かって進むことや高い志を持つこと、挑戦すること、経験を積むことなど、二元論以外にも考え方があることを示してあげるのが大切です。

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3 文例2 「目立つ」ことや「主張する」ことを後押しする言葉

「自分が気に入らぬからといって、ほかの者も気に入らぬとはかぎりますまい」(豊臣秀吉**)

1)文例

織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の中で1人だけ採用するとしたら、私は迷わず秀吉を選びます。なぜなら、秀吉は「人たらし」との異名があるように、愛想がよく、周囲の人たちに気遣いができる人だったからです。ですが、人に合わせるだけでは自分がありません。空気を読む力を持っていた秀吉ですが、あえて空気に逆らうこともできたことが秀吉の素晴らしいところです。

秀吉が最初に仕えたのは、今川義元の家臣である松下之綱(ゆきつな)でした。一説によると、秀吉は之綱の配下として能力を発揮し出世するのですが、同僚たちの妬みを受け、無実の罪で訴えられます。秀吉は無実を主張し、之綱も無実だと分かっていましたが、「大勢の家臣には替えられない」と、秀吉を解雇したといいます。その後、信長の配下で秀吉が大活躍し、之綱の仕える今川家が没落したのは、皆さんご存じの通りです。

組織である以上、同僚に合わせることは必要ですが、その前提は各人が自分の意見を持ち、議論した結果です。之綱は秀吉のことを指して、「あのような男を誰が召し抱えるのか」と言ったそうです。秀吉はこれに反発し、「(あなたは)大将たるべき器量をお持ちでない方だ。自分が気に入らぬからといって、ほかの者も気に入らぬとはかぎりますまい」と言い返したそうです。

同僚に合わせるというのは、「自分を曲げる」ということではありません。皆さんも秀吉のように、正しいと思ったことは、私を含めたあらゆる社員に対して、遠慮せずに意見してください。この会社では、同僚の妬みという心配も無用です。秀吉のように、「きっと誰かが自分を評価してくれる」と信じて、自分の能力を存分に発揮してください。

2)解説:集団の空気に逆らう勇気も

若手社員の多くは、SNSを使いこなし、オンラインで「人とつながる」ことの経験が豊富です。グループ内で良好な関係を維持することにたけているといえます。彼らはメッセージの文面や絵文字だけでも集団の空気を読み、自らが目立つことを避け、相手に合わせ、主張しないことを身に付けてきたのです。

若手社員の意識調査でも、若手社員ほど目立つことや主張することを控え、周囲と同調しようとする傾向が顕著となっています。その点では、会社という組織で活動するには、非常に適した人材だといえるでしょう。

しかし、先々、会社の屋台骨を支える人材に成長してもらうには、周囲と同調しているだけでは困ります。価値観の違い、と言ってしまえばそれまでですが、時にはあえて空気に逆らって、自分が正しいと思った意見を主張する、周りから抜きん出る、ということの重要さも伝えておきたいものです。

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【参考文献】

(*)「青淵百話 乾」(渋沢栄一、国書刊行会、1986年4月)
(**)「名将言行録 現代語訳」(岡谷繁実、北小路健・中澤恵子訳、講談社、2013年6月)

以上(2021年3月)

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