労働事件における要件事実の知識と実務

1 安全配慮義務の根拠

労働者が業務従事中に事故により死傷等した場合において、最高裁は、使用者は、「労働者が労務提供のため設置する場所、設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき業務を負」う(川義事件・最判昭和59年4月10日)との判断を示し、これを受けて、労働契約法5条が「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」明記するに至りました。よって、労働者は会社に対して、労働契約法5条に基づき、労働契約上の債務の不履行として、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求ができることになります。

2 請求原因

(1)安全配慮義務の存在

一般に、債務不履行を理由として損害賠償請求する場合、債権者において、債務者が債務を負っていることを主張・立証しなければならず、安全配慮義務に基づく損害賠償請求をする場合でも同様です。よって、労働者側から会社が安全配慮義務を負っていることを主張・立証しなければなりません。上述したように、安全配慮義務は、労働契約に基づいて、法律上当然に発生しますから、労働者側は、労働契約を締結した事実を主張・立証すれば足りることになります。

(2)安全配慮義務違反

次に、債務不履行を理由として損害賠償請求をする場合には、債権者において、債務が履行されていないことを主張・立証しなければならないため、労働者側から義務違反に該当する具体的事実を主張・立証しなければなりません。そのため、労働者としては、会社側は具体的にいかなる安全配慮義務を負っていたかを特定したうえで、どのようにかかる義務に違反したかを具体的に主張・立証する必要があり、抽象的に生命、身体を害しないようにする義務を負っているという程度の主張では足りません。

そして、安全配慮義務の具体的な内容については、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等安全配慮義務が問題となる具体的状況等によって異なるとされ(前掲川義事件)、具体的な状況を、①物的な環境に関するもの、②人的な環境に関するもの、③体制としての環境に関するもの、の3通りに分類すれば1、具体的内容として以下のようなものが考えられます2

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(3)損害・因果関係

加えて、損害および安全配慮義務違反と損害との間の因果関係を主張・立証する必要があります。

(4)小括

以上を整理すると、請求原因としては、以下の通りとなります。

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1酒井正史「職場環境に関する安全配慮義務をめぐる裁判例と問題点」判タ1192号64頁

2國井和郎「第三者惹起事故と安全配慮義務」判タ529号196頁

(日本法令ビジネスガイドより)

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令和3年版過労死等防止対策白書の公表

社員らに「過労死ライン」の月100時間以上の時間外労働をさせていたとして、人気の洋菓子店を運営する会社が、是正勧告を受けていたことが、ニュースで報道されました。勧告は3年間で2度行われており、改善が見られなかったことから、長時間労働は常態化していたとみられています。

このニュースと前後して、厚生労働省から「令和3年版過労死等防止対策白書(以下、白書)」が公表されました。これは、「業務による過重な負荷」「業務における強い心理的負荷」による死傷病にまつわる現況を取りまとめた年次報告書で、前述の労働時間やメンタルヘルス対策の状況など幅広い内容を網羅したものになっています。本稿では公表された白書のうち、精神障害の労災補償状況とその中から「カスタマーハラスメント」の状況をピックアップして、お伝えします。

1 精神障害の労災補償状況

過労死等の労災認定基準は、脳血管疾患・心疾患と精神障害の2つに大別されます。そのうち精神障害の労災補償状況については、請求件数は長期的に増加傾向にあり、令和2年度は微減の2,051件となっています。一方支給決定件数は過去最多の608件となり、うち自殺(未遂含む)件数は81件となっています。

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精神障害の発症について、令和2年度の出来事別の労災支給決定(認定)件数は、「上司などから身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が99件と最も多くなっています。

長時間労働が含まれる項である「仕事の量・質」に関しては、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」が58件、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」が31件、「2週間以上にわたって連続勤務を行った」が41件となっており、合計の608件のうち「仕事の量・質」に関する出来事は、全体の約21%を占めています。

2 カスタマーハラスメント

近年話題となっている、顧客から受ける理不尽な要求・クレームなどを指す「カスタマーハラスメント」も、本白書の中で取り上げられています。

前述の精神障害の労災支給決定(認定)件数のなかでは、「顧客や取引先からクレームを受けた」は11件となっています。また「令和2年度労働安全衛生調査」によれば、「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる」労働者のうち、その内容が「顧客、取引先等からのクレーム」と答えた労働者の割合は18.9%となっています。このように、カスタマーハラスメントでも、労災認定が行われているという実態には目を向ける必要があります。

来年から、いわゆるパワハラ防止法が中小企業にも適用されることになりますが、その法律が定められた国会の附帯決議として「自社の労働者が取引先、顧客等の第三者から受けたハラスメント及び自社の労働者が取引先に対して行ったハラスメントも雇用管理上の配慮が求められること」(衆議院)との指摘がなされました。今後、各企業においても、カスタマーハラスメントを受けた場合にどのように対応するか、あるいはカスタマーハラスメントを行わないようにどのように管理を行うかが問われるようになるでしょう。

3 おわりに

厚生労働省では、令和3年にカスタマーハラスメントへの対策を推進するため、対応事例を含めたカスタマーハラスメント対策企業マニュアルを策定し、広く周知を行うなど具体的な取組支援を行うとしています。

このように、時代の流れに応じてフォーカスされる要因は変わり、都度対策が立てられていくことでしょう。しかし、企業は業務に行う従業員の健康を守る義務があるという根幹は変わりません。健康を害する要素は企業それぞれです。従業員アンケートを取る等、継続的に課題を洗い出しながら、対策を立てていくことが望まれます。

※本内容は2021年11月12日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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運転中の感情コントロール(2021/12号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

新型コロナウイルス感染者数の減少に伴い、経済活動が再開され、また年末が近づくにつれ交通量の増加が予想されます。これからの時期、交通渋滞などにより運転中にストレスを感じる機会も多くなり、ついイライラしてしまうということもあると思われます。

運転中のストレスやイライラなどの感情は、安全運転に支障をきたすものであり、交通事故に繋がるリスクがあります。

本号では、運転中のストレスやイライラといった感情と、その対処法について考えたいと思います。

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1.運転中のストレス・感情

自動車の運転は、周囲の交通状況を認知し、適切な判断と的確な操作を繰り返し行うため、常にストレスがかかります。

ある調査※1によると、運転中のストレス・感情には、「立腹・イライラ」、「事故不安」、「焦り」が多くを占めます。

その原因としては、強引な割込みなど他のドライバーの行動や自転車や歩行者の危険な行動、そして渋滞といった周囲の交通環境などがあげられます。

※1 公益財団法人国際交通安全学会 平成20年度研究調査報告書「ドライバーの感情特性と運転行動への影響」における調査。グラフは調査結果をもとに当社作成。

運転中のストレス・感情の構成比率

実際、他車が交通ルールを守らない、あるいは他車の強引(または危険)な運転に遭遇すると、相手車に対してイライラを感じるドライバーは少なくないようです。

ある調査※2では、90.2%のドライバーが運転中にイライラしたことがあり、このうち約40%のドライバーが、あおり運転をしてしまったと感じる経験があるとのことです。

※2 日本アンガーマネジメント協会 2019年5月28日発表「あおり運転と怒りの関係性」調査結果
https://www.angermanagement.co.jp/press_release/pr20190528 (2021.11.11閲覧)

トラックの前に強引に割り込む軽自動車

昨今、ドラレコの普及と報道の影響で「あおり運転」や「妨害運転」が表面化し、その違法性が周知され、警察の取り締まりも強化されています。

ドライバーは、より一層、運転中のストレス・感情と上手に向き合うことが求められています。

2.感情のコントロール

「ハンドルを握ると人格が変わる」という言葉がありますが、ひとは誰しも自動車の運転に集中すると、交感神経が高まり、感情が現れやすくなるものです。特にストレスをため込んでいると感情に支配されやすくなります。

感情のコントロールは、安全運転に求められる重要な技能の一つです。いくら運転技能に優れていても、感情を上手くコントロールできなければ、強いストレスがかかった際、運転への集中が阻害され、重大事故に繋がる危険な運転をしてしまう可能性があります。

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3.イライラ等への対処法

運転中のイライラ等に対して、予め自分なりの対処法を考え、身に着けておきましょう。

<対処法の例>

  • 事前に渋滞情報などを確認し、時間に余裕を持って早めに出発する。
  • 好きな音楽やラジオを聴いて、リラックスできる車内環境を作る。
  • イライラを感じたら、深呼吸をする、ガムをかむ、または甘いものを摂るようにする。 など

また、周囲のドライバーをイライラさせないことも、交通事故やトラブルを防ぐうえで重要です。次のような「交通コミュニケーション」(※)の高い運転を実践しましょう。

  • 交通ルールを守りましょう。
  • 「急」のつく運転操作を避けましょう。
  • 早めの合図、わかりやすい合図を励行しましょう。

※交通コミュニケーション:車、人、自転車など道路交通の参加者同士のコミュニケーション

以上(2021年12月)

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【朝礼】北里柴三郎に学ぶ「仕事の信念」

政治、経済、社会、技術……私たちのビジネスを取り巻く環境は常に変化しています。皆さん一人ひとりが周囲の変化に敏感にならなければ、会社は生き残ることができません。しかし、周囲がどう変化していても、進むべき道を決めるのは私たち自身です。私たちの中にビジネスの確固たる「信念」がないと、結局、周囲の変化に流されるだけで終わってしまいます。今日は、そんな信念に関する話として、医学者の北里柴三郎(きたさとしばさぶろう)氏のエピソードを紹介します。

北里氏は、明治時代に感染症医学の発展に貢献した、「近代日本医学の父」として知られる人です。熊本県の庄屋の息子に生まれた北里氏は、両親からさまざまな教育を受ける中、18歳のときにあるオランダ人医師と出会い、西洋医学に強い興味を持ちます。大学を卒業後、内務省衛生局で働くことになった北里氏は、33歳のときにドイツに留学し、病原微生物学研究の第一人者、ローベルト・コッホ氏に師事します。そして、世界で初めてとなる破傷風菌の純粋培養に成功し、国際的にその名を知られることになります。

さて、幼い頃に伝染病で兄弟を失う体験をした北里氏には、医学者として生涯持ち続けた1つの信念がありました。それは「医学は、病気の診断や治療に役立つものでなければならない」というものです。北里氏は、この信念に合わないことについては、周囲の意見がどうであっても、頑として首を縦に振りませんでした。

例えば、脚気(かっけ)という病気の菌が発見されたニュースが発表された際、北里氏は医学的見地から「脚気は伝染病ではない」と否定しました。菌を発見したのは北里氏に細菌学を教えた恩師で、医学界に大きな影響力を持つ大学の医学者でしたが、北里氏は真実を明らかにするほうが大切であると、行動を起こしました。結果、北里氏は大学から疎まれることになりますが、この行動のおかげで、菌が脚気とは無関係であることが証明され、医学の発展に大きく貢献しました。

また、北里氏が所長を務める伝染病研究所が、内務省衛生局から文部省の管轄に移り、医科大学の下に入ることが決定した際、北里氏は研究所を辞めることを決意します。これは、北里氏の「大学では学問を学ぶことはできても、実践的な研究ができない」という考えによるものでしたが、これに感銘を受けた多くの門下生たちが、北里氏とともに辞表を提出し、別の研究所を立ち上げ、医学の発展に尽くしていくことになります。

北里氏は、「医学は、病気の診断や治療に役立つものでなければならない」という信念があったからこそ、重要な局面で周囲に流されず、自身で進むべき道を決めることができました。皆さんの中に、「何のために仕事をするのか」「何を大切にしたいのか」といった信念はありますか? もしあるのであれば、一生ものの財産です。いざ重要な決断を迫られたとき、皆さんの力になりますから、ぜひその信念を大切にしてください。

以上(2021年11月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】ビジネスの勝ち負けを判断する基準を持ちなさい

物事の勝ち負けはさまざまな形で表れます。結果が分かりやすいのは、点数やタイムを競うスポーツです。点数が高いほうや、タイムが速いほうの勝ちであることは一目瞭然です。

同様にビジネスにも勝ち負けがありますが、勝ち負けの判断は簡単にはつきません。それは、ビジネスの結果には、勝った部分と譲った部分が混在するからです。例えば、交渉事をイメージすると分かりやすいでしょう。交渉の当事者は、絶対に勝ち取りたい条件と、譲歩してもよい、つまり負けてもよい条件を決めてから交渉に臨みます。そして、交渉結果には双方の勝ち負けが複雑に絡み合うため、当事者でなければ結果を判断することはできないのです。

このことは、「ビジネスは勝ち負けの明確な基準を持って臨まなければならない」ということの示唆でもあります。これができていないと、目指すべき目標や、どこまでなら譲ってもよいというラインが曖昧になり、場当たり的な対応になってしまうからです。

また、目標に向かって正しい努力ができないことも問題です。皆さんがプロのサッカー選手になりたいのなら、サッカーの練習を一生懸命にやるべきであり、囲碁の指し方を学んでも意味がないわけです。これを聞いてサッカーと囲碁を間違えるような根本的な問題が起こるはずはない、そう感じた人が多いでしょう。しかし、実際にこのような間違いがビジネスでは起こっています。

簡単な例を挙げてみましょう。1000万円の資金を渡され、それを使って事業部の利益を1年以内に10%向上させることを命じられたら、皆さんは何をしますか。

試す価値のある施策はたくさんありますが、ここで「利益を1年以内に10%向上させる」ということにとらわれ過ぎては駄目なのです。ビジネスの結果には勝ち負けが混在し、100%思い通りになることは稀です。このケースで言うなら、「1年では期間が短すぎるが、2年なら達成できそうだ。そのため、1年目に利益が5%向上していればよいペースである」という考え方もあり得ます。目標を都合よく解釈しているわけではなく、実現可能な勝ち負けの基準を設定しただけのことです。

しかし、こうした考え方ができない人は、とにかく何とかしなければと場当たり的な対応を始めます。言うなれば、絶対に勝ち取りたい条件を決めずに交渉のテーブルにつくようなものです。当然、正しい努力もできません。

今、私はビジネスの基本についてお話ししました。幅広い選択肢の中から、何をするのか、あるいは何をしないかを決め、チャレンジするのがビジネスです。自分自身の目標を再確認してください。その目標は、皆さんが「勝算あり」で設定しているもののはずです。勝ちを手中に収めるプランにぬかりはありませんか。1年間、正しい努力を積み重ねる覚悟はありますか。新年度の始まりはすぐそこまで来ています。

以上(2021年12月)

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画像:Mariko Mitsuda

大混戦の物流ラストワンマイル 新規参入・多様化・連携で競争が激化

書いてあること

  • 主な読者:宅配サービスを実施、もしくは検討中の小売店や飲食店などの経営者
  • 課題:自社にとっても、消費者にとっても、使いやすい配送方法が分からない
  • 解決策:各社のサービス事例などを参考に検討する

1 ラストワンマイル市場は大混戦

商品を顧客の手元に届ける「物流のラストワンマイル」市場は、コロナ禍における宅配ニーズなどによって急速に拡大しています。ラストワンマイルに新規参入する事業者も相次ぎ、大混戦の様相を呈しています。現状を理解するためのポイントは次の4つです。

  • フードデリバリーは先行する2強と新規参入した外資系・IT系の競争になっている
  • ラストワンマイルの担い手と、それを利用する販売事業者がそれぞれ多様化している
  • 大手のECモールと大手の配送業者との連携が進んでいる
  • ドローン・無人走行ロボットによる無人配送の実証実験が進んでいる

この記事では、「物流のラストワンマイル」をめぐる最新の動きを紹介します。宅配サービスを実施している、もしくは検討している事業者の方は、自社や消費者にとって利便性の高い配送方法を選択するための参考になるでしょう。

2 フードデリバリーは2強と外資系・IT系の競争に

飲食店の飲食物を宅配するフードデリバリーは、近年、市場拡大を続けています。ICT総研が2021年4月に公表したフードデリバリーサービスの市場規模の推計では、2023年には2021年の約1.2倍に拡大する見通しです。

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フードデリバリーの多くは、単発の仕事を請け負うギグワーカーなどの登録者をマッチングして配送を行っています。フードデリバリーで先行するのは、出前館による「出前館シェアリングデリバリー」と、Uber Japanによる「Uber Eats」です。この2強が営業地域を拡大するとともに、都市部などに外資系を含む新興勢力が相次ぎ参入し、大混戦となっています。

競争激化に伴い、消費者や飲食店を囲い込むための先行投資も必要になっています。出前館は2021年9月に、同社を持分法適用会社としているZホールディングスから約830億円の出資を受け、マーケティング活動などのための資金を調達しました。

なお、2021年2月には業界団体である「日本フードデリバリーサービス協会設立」が発足し、2021年11月2日時点で正会員は14社となっています。

1)2強は全都道府県へ進出

出前館による「出前館シェアリングデリバリー(以下「出前館」)」とUber Eatsは、コロナ下での飲食店の営業制限に伴うデリバリー需要の拡大に乗る形で、急速に営業地域を拡大しました。出前館は2021年6月、Uber Eatsは2021年9月に、全国47都道府県への進出を達成しています。

出前館は2016年8月に、配送代行モデルをスタートさせました。配送を担うのは、直営の配送拠点のアルバイトと、各拠点の配達パートナーの企業などです。配達パートナーには、地元の運送会社などの他、朝日新聞の販売店「ASA」も参加しています。2020年4月末時点の事業エリアは14都道府県でした。

一方のUber Eatsは、ギグワーカーを中心とした配達パートナーが配送を行うサービスです。2016年9月に東京エリアで事業をスタートして以降、2020年2月末時点の事業エリアは10都府県の都市部にとどまっていました。

2)新興も相次ぎ参入

先行する2強が攻勢をかける一方で、フードデリバリーに新たに参入する動きも相次いでいます。新規参入業者は2強よりも手数料を安く設定するなどして、飲食店の取り込みを図っているようです。

競争の激化に伴い、再編の動きも出始めてきています。外資系では、2021年3月にドイツのDelivery Heroと韓国のWoowa Brothersがアジア太平洋地域での戦略的パートナーシップを締結したことに伴い、FOODNEKOがfoodpandaに統合されています。国内企業では、Zホールディングス(出前館)、KDDI(menu)、楽天(楽天ぐるなびデリバリー)というIT系の3社が出資する3陣営に集約される兆しもあります。

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3)フード「じゃない」商品もデリバリー

フードデリバリーの競争激化に合わせて、宅配する商品を飲食店の飲食物以外に広げる動きが進んでいます。フードデリバリーにとっては収益基盤を広げるとともに、顧客の利便性向上により、囲い込みを図る狙いがあるようです。

多店舗展開するチェーンストアと提携するケースが多く、提携先はコンビニエンスストアやドラッグストアをはじめ、日用品、化粧品、書籍、小物家電など多岐にわたっています(事例は図表3を参照)。

foodpandaは販売事業者との提携以外に、自社で独自に食料品や日用品を調達し、配送するサービス「pandamart」を開始しました。配送拠点として、商品を置いてあるものの一般客は入れず、配送のみを行う店舗「ダークストア」を活用しています。

4)新たなラストワンマイルの担い手の呼び込みも

フードデリバリーの事業者に頼らず、独自にラストワンマイルの担い手を呼び込む動きもあります。日本マクドナルドは2021年4月、マックデリバリーサービスを、読売新聞の販売店「YC」の配達網を全国的に活用することを公表しました。

また、回転すしチェーンのスシローは2021年2月、買い物代行アプリ「PickGo」の受け取りサービスを活用した「スシローの宅配」を開始しました。

5)タクシーは競合を避け高級化路線に

コロナ禍を発端に、タクシー事業者も飲食店で販売される飲食物の有料でのデリバリー(食品等の有償貨物運送)に特別措置として参入し、2020年10月から参入許可が恒久化されましたが、その後は競争環境の激化によって苦戦をしているようです。

国土交通省貨物課によると、フードデリバリーの許可を受けているタクシー事業者は、2021年9月末時点で345社(1万5212台)あります。恒久化される直前に当たる2020年9月末の1754社(5万4528台)と比べると、事業者数は大幅に減っています。

タクシー運転手の人件費やタクシーの維持費を踏まえると、コスト面ではギグワーカーなどを活用するフードデリバリー事業者に対して劣勢にならざるを得ません。同課によると、2021年春にフードデリバリーの許可を取得している事業者に対して行ったアンケートでは、半数程度の事業者が「フードデリバリーの継続意向がない」と回答したそうです。

逆境の中で、ホテルなどの高級レストランや「デパ地下」グルメなど、比較的高額な飲食物を、相応の配送料でデリバリーする高級化路線にかじを切った事業者もいます。タクシーによる配送は、ギグワーカーによる自転車などを使ったフードデリバリーに比べて、丁寧に運べるというメリットを活かしたものです。

例えば、日本交通が2021年5月から運営開始したタクシーでのフードデリバリー専用アプリ「Go Dine」は、店舗を名店に厳選した「プレミアム・フードデリバリー」を強調しています。

百貨店とタクシーによるフードデリバリーも相性が良いようです。松屋銀座は2020年11月から、タクシー事業者のチェッカー無線と提携した買い物代行サービス「松屋御用聞き」を開始しました。電話を受けて、生鮮食品をタクシーで即日配送(午後1時までの注文)しています。

3 ラストワンマイルの担い手も配送商品も多様に

ラストワンマイル市場は、フードデリバリーという画一的なビジネスモデルの事業者だけが増加しているわけではありません。ラストワンマイルの担い手の配送手法も、取り扱う配送商品も、多様化しながら市場が拡大しています。

1)ラストワンマイルの担い手の区分

ラストワンマイルの担い手と配送商品の多様化を説明するに当たって、まずは多様化を続けているラストワンマイルの担い手を、大きく区分して紹介します。

1.自社販売・自社配送

自社商品のみを自社の配送網で配送しています。飲食店の個店による出前や、宅配ピザチェーン、新聞配達、牛乳配達などが該当します。

2.配送

販売店から配送業務を請け負って自社の配送網で配送を行います。宅配便などの配送業者やタクシーなどが該当します。

3.配送マッチング

販売店から配送業務を請け負いますが、自社では配送を行わず、アプリなどを使って配送の担い手をマッチングさせます。販売店の配送ニーズと、ギグワーカーや個人および小規模の配送事業者などを仲介する役割を果たしています。

4.受け取り代行

購入者が家で受け取れない場合などに、配送された商品の受け取りを代行します。最終的には購入者が出向いて受け取ります。宅配ロッカーおよび宅配ボックスの運営事業者のように、自社で受け取り代行をする事業者だけでなく、受取先となる店舗を募ってマッチングさせている事業者なども該当します。大手の配送業者やECモールなどには、こうした受け取り代行事業者を利用せず、独自に受け取り代行システムを構築したり、置き配を前提として配送したりしているところもあります。

5.配送プラットフォーム

顧客からの注文を、受け付けから契約している販売事業者の配送業務まで請け負う、オールインワンのプラットフォーマーです。配送方法は、自社の配送網と、マッチングによる配送の2種類があります。フードデリバリーや買い物代行アプリ運営事業者の他、一部のタクシー事業者も独自のアプリを活用してプラットフォーマーになっています。

6.自社販売・配送システム

自社で配送は行いませんが、配送事業者との契約によって独自の配送網を築いている販売店です。アマゾンジャパン(以下「アマゾン」)が該当しますが、アマゾンは他の販売店の配送の受託も始めています。

2)多様な販売事業者が宅配サービスを開始

コロナ禍に伴う宅配ニーズの増加に伴い、さまざまな販売事業者が宅配サービスを開始するようになりました。消費者の宅配ニーズの増加とともに、ラストワンマイルの担い手が増えたことも、宅配サービスの開始を後押しする要因になっているとみられます。

コンビニエンスストアやスーパーマーケットの中には、従来は自力でネットショッピングを行うチェーンもありましたが、近年は増加するラストワンマイルの担い手と提携するケースが増えています。

また、家電量販店は従来から大型家電などの配送サービスを行っていますが、電球や乾電池などの消耗品やシェーバーや充電器などの小物家電、日用品などの配送は、購入頻度の比較的高い商品を短時間で入手したい人々のニーズに対応した、新しい宅配サービスといえます。

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3)商業施設や商店街が一体となった宅配サービスも登場

商業施設が一体となり、ラストワンマイルの担い手を活用して宅配サービスを行うケースも見られます。

東京ドームシティは2021年7月から、配送プラットフォームのエニキャリと提携して、ドームシティ内のレストラン24店舗の近隣へのデリバリーを開始しました。ドームシティ内の該当店舗の商品であれば、まとめて1回の配送料で配送を行います。

商店街でも一体となった宅配サービスを行う動きがあります。東京都港区の芝商店会は、東京都や港区からの補助金を活用し、2021年3月から「芝デリ」を開始しました。近隣の住人向けに、商店会の複数の店舗の飲食物をまとめて配送します。

4 大手ECモールと大手配送業者との連携が進む

配送量が膨大な大手ECモールは、大手配送業者と連携し、配送網を確保する動きを進めています。一方、ECモールのガリバー的な存在となっているアマゾンは、独自に配送網を構築することにかじを切っています。

1)ECモールと配送業者の強者連合

ECモールのヤフーやZOZOを傘下に持つZホールディングスは2020年3月、ヤマト運輸を傘下に持つヤマトホールディングスと、物流・配送の強化に向けた業務提携に基本合意しました。提携によって、ヤマト運輸がヤフーのECモールへの出店者に対して、受注からピッキング、梱包、配送までの業務を請け負うサービスを始めました。

また、ECモールの楽天グループは2020年12月、日本郵便と物流領域における戦略的提携に基本合意しました。楽天グループの物流拠点を日本郵便の配送網に組み込むことなどを盛り込んでおり、2021年5月には両社の合弁会社であるJP楽天ロジスティクスを設立しています。

この他、アパレルや雑貨などのECサイトを展開するフェリシモは2020年4月、セイノーホールディングス(以下「セイノーHD」)などとの共同出資会社「LOCCO(ロッコ)」を通じて、配送事業を開始しました。ラストワンマイルを担うのは、セイノーHD傘下のフリーペーパー配布会社に登録しているギグワーカーで、置き配に限定することでコストを削減しているのが特徴です。フェリシモ以外のECサイト事業者からの配送ニーズにも対応しており、配送エリアは首都圏を皮切りに、2021年11月5日時点で都市部を中心とした15都道府県にまで拡大しています。

2)アマゾンは独自の配送網を構築

一方、ECモール大手のアマゾンは、個人配送業者を「Amazon Flex」として募集したり、地域の配送業者と契約したりすることで、独自の配送網を構築しています。さらに、構築した配送網を利用して、ライフやバローといったスーパーマーケットのネットショッピングの配送も請け負っています。

5 間近に迫るドローン・無人走行ロボットによる無人配送

次世代の物流のラストワンマイルを担うといわれているのが、ドローンや無人走行ロボットを活用した無人配送です。現在は実証実験が行われており、商用化が進むと、ラストワンマイルの勢力図を塗り替える可能性を秘めています。

1)配送業者大手が山間部などでドローンの実証実験

佐川急便は2021年1月、香川県土庄町、島根県美郷町などとともに、ドローンで荷物を運ぶ実証実験を行いました。

セイノーHDは2021年4月から、エアロネクストと山梨県小菅村で、ドローンを使った定期配送などを行っています。ドローンデポと呼ばれる集荷所に集められた荷物を、小菅村の集落のドローンポイントに配送しています。

前述した楽天グループと日本郵便による提携では、ドローンや自動運転ロボットによる次世代の配送についても協働で取り組むことを盛り込んでいます。2021年8月から9月にかけて、長野県白馬村でドローンの実証実験を行いました。

ヤマト運輸は2021年10月、ドローンを活用した医薬品輸送の可能性を検証するために、岡山県和気町、徳島県那賀町と連携協定を結びました。

2)配送業者以外もドローンの実証実験を実施

ドローンによる配送の実証実験は、大手配送業者以外も進めています。

KDDIは2020年8月、長野県伊那市で地元のケーブルテレビ会社とともに、ドローンなどを活用した買い物代行サービスを開始しました。ケーブルテレビを使って注文された商品を、近隣の公民館まで運ぶサービスです。

ANAホールディングスは2022年度の事業化に向けて、ドイツのWingcopter社と業務提携し、実証実験を進めています。

3)無人走行ロボットも実証実験

無人走行ロボットに関しても、配送事業者を含むさまざまな事業者が、パナソニックやZMPが開発したロボットなどを使って、公道での実証実験を進めています。

以上(2021年11月)

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【朝礼】会社の社長に、私はなる!

突然ですが、今日この場をお借りして、私は宣言させていただきます。

私は、この会社の社長になることを目指します!

薄いリアクション、ありがとうございます。「何をばかなことを」「また冗談を言っている」とあきれていらっしゃる上司の方や諸先輩も多いと思いますが、私は本気も本気です。とにかく、私がどうして社長を目指すことにしたのか、その理由について説明させてください。

私はこれまで、自分なりに一生懸命に仕事をしてきたつもりでした。今では中堅と呼ばれるような立場になり、会社に対してそれなりに貢献できるようになったと、ひそかに自負していました。

ところが先日、ある先輩から「君は中堅社員としての自覚が足りない」とのご指摘を受けました。私としては非常に心外だったのですが、話をお聞きするうちに、確かに自分の自覚が足りなかったことに気付かされました。

私が足りなかったものは、「会社を支える」という考え方です。私は今まで、自分にできることを精いっぱいやって会社に貢献してきました。ですが、それは「自分にできるか、できないか」が基準であって、「会社に支えてもらっている」ことを前提にした考え方でした。先輩から、「中堅社員として『会社を支える』一員になったからには、『会社にとって必要か、そうでないか』という基準で仕事を選ぶべきだ」と諭されたのです。

私は、「会社を支える」とはどういうことか、自分なりに考えました。会社を支えている一番の存在は誰かといえば、社長です。

私は今まで、社長というのは「会社で一番偉くて、自分の思い通りに会社や社員を動かせる」という、いわば“特権”を持った人だと思っていました。ですが、「会社を支える」ことを基準に考えると、社長というのは「会社の将来に対して最も責任を持ち、会社を最も支えている」人なのだと理解しました。

そこで私は、会社を支える一番の存在、つまり社長を目指そう、と考えるようになったのです。もちろん、今の私にはすぐに社長になれるほど、会社を支えられる力はありません。ですが、少なくとも自分が社長になったつもりで、そして将来は社長になるつもりで、「この会社には何が足りないのか」「そのために私に何ができるのか」を考えて、仕事に取り組んでいきたいと思います。

ここで皆さんに、特に私よりも若い人たちにご提案したいのですが、皆さんも、私と一緒にこの会社の社長になることを目指しませんか? もし、この会社の全員が社長になることを目指して、会社にとって必要なことは何かを考えながら仕事に取り組むようになれば、この会社はもっとすごい会社になると思います。

でも、20年後に社長になるのは、私です! 会社を支える一番の存在になれるように、これからも精進したいと思います。

以上(2021年11月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】お客さまの前でこそ部下を褒めよう

先日、クラシックコンサートに行ったときのことです。演奏後の指揮者の姿がとても印象に残りましたので、その話を、部下を持つ管理職の皆さんに、ぜひお伝えしたいと思います。

それは、カーテンコールでの出来事でした。演奏が終わり、一度退場した指揮者は観客の大きな拍手喝采に応え、再び舞台に登場しました。そしてその指揮者は、自らも拍手をしながら楽器の間を縫うようにして奏者一人ひとりに歩み寄り、「この人を称賛してください」と言わんばかりに、観客にアピールしたのです。

私は、それほどクラシックコンサートに行き慣れているわけではありませんが、これまで見た指揮者はカーテンコールのとき、指揮台のあたりから特に素晴らしい演奏をした奏者のいる位置を手で指して、彼らに拍手を送るよう観客に促すだけでした。しかし、今回の指揮者は、一人ひとりにわざわざ歩み寄って観客に拍手を求めたのです。笑顔で歩み寄る指揮者を、奏者も皆、満面の笑みで迎え、時には手を取り合っていたのがとても印象的でした。

この指揮者の行動は、素晴らしい演奏をしてくれた奏者に対する感謝の気持ちが自然に表れた結果だったのでしょう。私はこうした指揮者の姿に感動すると同時に、あることに思い至りました。

それは、「指揮者が奏者に対して最大限の感謝を伝えたいのであれば、その場所は、観客の前をおいて他にない」ということです。

長時間の演奏を終えた奏者の目の前で、指揮者が「あなたがいてくれたから演奏が成功した」と感謝し、さらに観客が称賛してくれる。奏者が感じる達成感と自信は、舞台袖に戻った後や打ち上げでは、決して味わえないものでしょう。

私は、日ごろから感謝の気持ちを表すことの大切さを社内で伝えており、特に管理職の皆さんは、率先して部下に「ありがとう」と言ってくれています。とても良いことだと思う一方で、部下が簡単なルーティン業務を行っただけで何度も「ありがとう」と言うのは、逆に部下に失礼だとも感じています。それでは「ありがとう」の価値が薄れてしまうと思うのです。

管理職から部下への「ありがとう」は、感謝の気持ちを伝えるためだけのものではありません。部下が自信を持ち、自分の力で前に進めるようになるための「エール」でもあるのです。

管理職の皆さん、先ほどの指揮者のように、ぜひお客さまの前で、部下に感謝の気持ちを表し、褒めてください。プレゼンを成功させた部下がいたら、お客さまの前で、「彼は御社に喜んでいただけるよう、一生懸命に準備をしていました」などと頑張りを伝えるのもいいでしょう。

部下がここぞという舞台で成功したときこそ、日ごろの感謝を最大限に伝えるチャンスです。皆さんの一言が自信につながり、部下は、大きな一歩を踏み出せるようになるのです。

以上(2021年11月)

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画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】中小企業の家族手当のモデル支給額と就業規則の規定例

書いてあること

  • 主な読者:家族手当を設置している会社の経営者
  • 課題:「家族手当の支給を見直す会社が多いと聞くが、廃止したほうがよいのか」「支給を続けるにしても、どのぐらいの支給額が妥当なのか」などが分からない
  • 解決策:「従業員の育児や介護をサポートしたい」など、経営者の思いがあって設置しているなら廃止する必要はない。支給額については東京都労働相談情報センター「中小企業の賃金・退職金事情」などを参考にする

1 家族手当の支給を見直す会社は多いけれど……

「家族手当」は、結婚や出産によって家族構成が変わり、生活費などが増加する従業員の生活をサポートするために支給される手当です。支給額の決定方法は会社によって異なりますが、基本的には、配偶者・第1子・第2子など家族別に支給額が決定されます。

家族手当のような、いわゆる「生活」関連の手当の多くは、年功主義や終身雇用が当たり前だった時代に設置されたものです。近年は成果主義の導入やジョブ型雇用、転職や副業・兼業など、1社で働き続けることにとらわれないワークスタイルなどが浸透してきており、支給を見直す会社が増えています。

とはいえ、家族手当の方針を決定するのは、あくまで経営者です。例えば、経営者に、

「ウチの会社には育児や介護をしている従業員が多いからサポートしたい」

「ウチは従業員の家族まで大切にする会社でありたい」

といった思いがあるのであれば、家族手当を残すことには大きな意味があります。手当は支給目的が明確なため、会社が仕事や福利厚生で何を重視しているかを表すバロメーターになります。他社の動向を見て都度、方針を変えるのではなく、経営者自身が重要と思うものを選択していきましょう。

ここまでをご理解いただいた上で、この記事では、中小企業における家族手当のモデル支給額と就業規則の規定例を紹介します。

2 東京都内にある会社の家族手当の支給額

東京都労働相談情報センター「中小企業の賃金・退職金事情(令和2年版)」によると、東京都内にある会社の家族手当の支給額は次の通りです。

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「家族により異なる(家族別支給)」の調査産業計に注目してみましょう。配偶者に対する支給額が最も高くなっていますが、近年は少子化もあって、子供に対する支給額が高くなる傾向にあります。

3 就業規則の規定例

家族手当の内容(対象となる家族・支給額など)によって異なりますが、就業規則の一般的な記載例は次の通りです。実際に就業規則を作成・変更する際は、社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。

第○条(扶養家族の範囲)
扶養家族がいる従業員本人の申請により所定の家族手当を支給する。扶養家族とは次の各号のいずれかに該当する者をいう。

  • 従業員の収入によって生計を維持されている配偶者
  • 従業員の収入によって生計を維持されている18歳未満の子供
  • 従業員の収入によって生計を維持されている60歳以上の父母

第○条(家族手当の支給額)
家族手当の支給額は「扶養家族の区分」に応じて次の通りとする。

1号:

従業員の収入によって生計を維持されている配偶者
1万1000円

2号:

従業員の収入によって生計を維持されている18歳未満の子供
5500円

3号:

従業員の収入によって生計を維持されている60歳以上の父母
4000円

(注1)1号は年間収入が130万円未満で、従業員の年間収入の2分の1未満の場合(同一世帯に属していないときは、年間収入が130万円未満で、被保険者からの援助による収入額より少ない場合)。

(注2)2号は人数による制限はない。

(注3)3号は年間収入が180万円未満で、従業員の年間収入の2分の1未満の場合(同一世帯に属していないときは、年間収入が180万円未満で、被保険者からの援助による収入額より少ない場合)。

第○条(家族手当の支給申請と支給開始)
1)家族手当の支給を希望する従業員は、所定の「家族手当支給申請書(以下「申請書」)」に必要事項を記入の上、毎月5日までに人事部に提出しなければならない。
2)申請書の記載内容に誤記などがない場合は、当該申請書の提出日が属する月の翌月から家族手当を支給する。ただし、申請書の記載内容に誤記があるなどで、通常よりも確認に長い時間を要した場合は、家族手当の支給開始がこれよりも遅れることがある。
3)会社は、申請書の内容を確認するために必要な書類の提出を求めることがある。

第○条(扶養家族の異動届と支給停止)
1)従業員は、家族手当の支給事由となっている扶養家族が、第○条(扶養家族の範囲)各号のいずれにも該当しなくなった場合は、速やかに所定の「扶養家族異動届(以下「異動届」)」に必要事項を記入の上、人事部に提出しなければならない。
2)異動届が賃金締切日(就業規則第○条の賃金の締切日を参照)よりも前に提出された場合は、当該異動届の提出日が属する月の翌月から該当の家族手当の支給を停止する。ただし、異動届が賃金締切日の後に提出された場合は、当該異動届の提出日が属する月の翌々月から家族手当の支給を停止すると同時に、家族手当の過誤払いがあるときはこれを控除する。

第○条(不正受給)
偽りその他の不正により家族手当の支給を受けていた従業員には、その返還を命じるとともに、就業規則第○条の懲戒処分の対象とする。

以上(2021年11月)

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画像:ESB Professional-shutterstock

【第1弾】「売れる」科学 行動経済学を活用して売上をアップさせるマーケティング手法と実践例

書いてあること

  • 主な読者:感情や直感など消費者の心に働きかけて売上アップにつなげたい経営者
  • 課題:人間の行動を分析した行動経済学を理解し、売上アップのための施策に活用したい
  • 解決策:ハロー効果やハーディング効果など、行動経済学の理論を活用した身近なマーケティングの実践例を学び、導入してみる

1 行動経済学なら、コロナ禍で人流の抑制を徹底できた!?

「人流の抑制」との戦いともいえるコロナ禍。緊急事態宣言が発出される中、政治家、行政、メディアはひたすら「STAY HOME」を訴えましたが、その効果は日ごとに薄れてしまったのは、皆さんもご承知のことと思います。

では、あなたは、どのように訴えれば「STAY HOME」が徹底できたと思いますか? 例えば、次のような手法はいかがでしょうか。

  • 国民的アイドルグループを起用して訴えてもらう
  • 多くの国民が家にいる様子を伝える
  • お勧めの「家での過ごし方」を紹介する
  • ここまで頑張ったのに、ここで緩んだら頑張ったことが台無しになると訴える

実は、4つの手法は全て、「行動経済学」という経済理論に裏付けられた科学的な手法なのです。それぞれ、「ハロー効果」「ハーディング効果」「決定回避」「コンコルド効果」といいます(詳細は後ほど説明します)。

行動経済学の理論を活用すれば、人間の行動パターンを捉え、人間の心理に効果的にアプローチすることが可能となります。つまり、行動経済学は、人流の抑制だけでなく、消費者の購買行動に影響を与える「武器」になり得るのです。そのため、近年は行動経済学をマーケティング活動に活かし、売上アップを図ろうとする動きが加速しています。

このシリーズでは、行動経済学の理論を活用したマーケティング手法を導入することで、売上アップにつなげる方法を紹介します。第1回となる今回は、そもそも行動経済学とはどのような学問であるかを簡単に解説した上で、先ほどの4つの手法が行動経済学のどのような理論に裏付けられ、どうやって売上アップにつなげられるのかをご説明します。

2 人間を分析するのが「行動経済学」

まずは、行動経済学について簡単にご説明します。「行動経済学の基本的な考え方はもう知っている」「理論的なことよりも売上アップのための実践例が知りたい」という方は、この章を飛ばして次の章に進んでください。

1)行動経済学とは

行動経済学とは、

人間の日常生活における経済行動について、心理学を交えて分析する学問

のことです。感情や直感など「心の動き」に注目し、人間の行動を分析した行動経済学は、「人間の意思決定は非合理である」という前提に立っています。

2)ナッジ理論

行動経済学を一躍有名にしたのが、ナッジ理論を提唱し、2017年にノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のリチャード・セイラー教授です。

ナッジ(nudge)とは、「肘で軽く突く」という意味で、

強制的に人間の行動を変えるのではなく、人間の心理的傾向を捉え、行動を誘導する手法

です。空港の男性トイレの便器にハエのシールを貼ったら、多くの利用者がハエをめがけて小便をするようになり、空港の清掃費が劇的に削減できたという事例が有名です。コロナ禍でも、ディスタンスを取ってもらうために足跡シールを貼るなど応用がされています。

伝統的な経済学は数学的モデルを用い、人間を「合理的な生き物」として理論を構築します。ですが、行動経済学はそれに異を唱え、「人間的な要素」を多分に反映しています。

ノーベル経済学賞受賞に際のインタビューで、ノーベル賞の賞金の使い道を聞かれたセイラー教授は、「できるだけ非合理的に使うようにしたい」と答えました。セイラー教授がいかに「人間らしさ」を研究してきたかを物語るエピソードです。

3 行動経済学を使った売上アップの手法を実践してみよう

では、冒頭でご紹介した行動経済学の4つの手法を、マーケティング活動でどのように活用できるか見ていきましょう。

1)ハロー効果

ハロー効果とは、

何かを評価する際に、目立つ特徴に引きずられるようにその他の評価が歪められてしまうこと

をいいます。

ハロー効果の「ハロー(Halo)」とは、英語で「後光」や「光輪」といった意味合いを持ちます。テレビコマーシャルで好感度の高い俳優がPRする商品は、良い商品だと思い込んでしまうことがよくあります。俳優の好感度の高さという光輪を利用し、商品・サービスそのものを良く見せようという手法は、マーケティングの常とう手段になっています。

「うちは中小企業だから有名俳優なんか起用できない」という経営者の方は、身近でお金をかけずに光輪を利用できる要素はないか考えてみてください。

実践例1
ある引っ越し屋が、動物を会社のキャラクターに設定し、「親しみやすい引っ越し屋」というイメージを確立しました。

実践例2
ある製品が「大学との共同開発」であることをアピールし、科学的で性能が良く、高品質であるというイメージを得ることができました。

2)ハーディング効果

ハーディング効果とは、

周りと同じ行動を取ることに安心して、周りに合わせてしまう心理的傾向のこと

をいいます。

人間は多くの人々と同じ行動を取ることに安心感を抱き、他人の行動に追随しやすい傾向があります。マーケティング活動において、「みんなが利用していますよ!」というメッセージを伝えることによって、同調行動を促すことができます。

あなたの会社の商品・サービスを多くの人が利用していることを示す材料はないでしょうか。業界内のシェアや実績などを整理して伝えることで、同調行動を促し、お客さまの増加につなげることが可能となります。たくさんのお客さまの声や、お客さまが商品・サービスに群がる様子を伝えることも有効です。

実践例
ある学習塾では、「〇〇中学校の入学生の7割が通っています」とPRすることで、多くの受験生を獲得しています。「みんなが通っているなら、うちの子も通わせなくては」という親の心理を突いたPR方法です。

3)決定回避

決定回避とは、

選択肢がありすぎるとどれも選べなくなり、決定を回避する傾向にあること

をいいます。

決定回避に関して、「ジャムの法則」と呼ばれる有名な実験があります。アメリカのスーパーマーケットで、ジャムの試食販売による実験が行われました。ある週には6種類のジャム、別の週には24種類のジャムを並べて、試食した人と購入した人の割合を調べました。

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種類の多いほうは、試食した人の割合は高いのですが、購入した人の割合は明らかに低くなっています。この実験結果から、「人間は選択肢が多いと行動を起こせない」ということが明らかにされています。

まず、皆さんの販売・営業現場において、たくさんの商品・サービスを見せすぎて、お客さまが選べなくなり、購買行動を阻害していないかチェックが必要です。

その上で、お客さまが購買行動をしやすくするために、選択肢を示してあげることが大切です。簡単にできる手法が、「売れ筋ランキング」や「お薦めランキング」です。

実践例1
書店で、ジャンルごとに「売れ筋ランキング」のコーナーを設けます。前述のハーディング効果もあり、「みんなが買っているのなら自分も買ってみようかな」という行動につながりやすくなります。

実践例2
ネットショップで、「初めての方向けのお試しセット」を用意することで、売上を伸ばせるケースがあります。ターゲットを明確にして、「あなたにお薦め」を伝えていくことで、より行動を起こしやすくなります。

4)コンコルド効果

コンコルド効果とは、

このまま投資を進めると損失が出ると分かっていても、これまでに投資した分を惜しみ、ついつい投資を継続してしまう心理的傾向のこと

をいいます。

サンクコスト(埋没費用)ともいいますが、要は「もったいない」と思う心理的傾向のことで、超音速旅客機コンコルドの商業的失敗を由来としています。経営者としては、結果の出ない新規事業や新商品開発から「もったいない」となかなか手を引けずに、損失を重ねてしまうことは避けなければなりません。

一方で、マーケティング活動では、この「もったいない」という心理を捉えることで、販売につなげることができます。お客さまを「もったいない」という気持ちにさせて、継続的に商品・サービスを利用してもらうような仕組みを検討してみましょう。

実践例1
ネットショップで「あと○○円買うと送料無料」というメッセージを表示し、お客さまがもう1品購入するための背中を押します。

実践例2
来店者に「次回使えるクーポン」を発行することで、「使わないともったいない」という気持ちにさせ、次回の来店を促すことができます。

実践例3
雑誌の創刊号を特別価格で提供してまずは購入してもらい、「一度買い始めたのだから購入をやめるのはもったいない」という心理にさせて、最終号まで買ってもらいます。

「言われてみればそうだよな」というものがたくさんあったのではないでしょうか。行動経済学は人間の分析であり、ビジネスでいえばお客さまの分析です。人間の非合理的な行動の癖をうまく捉え、アプローチすることで売上アップに結び付けることができます。日常の消費行動やビジネスの中でも、人間の行動の癖に注目してみてください。

次回も、行動経済学の理論と、その実践例を紹介します。

4 補足:行動経済学を売上アップに結び付けるのに欠かせないマーケティングの視点

いかに行動経済学の理論を活用した販売手法を使っても、的はずれな相手に、的はずれな手法でPRしても効果がありません。そこで、マーケティングについて簡単におさらいしたいと思います。

マーケティングとは、

「売れる仕組み作り」を行うことであり、具体的には「誰に」「何を」「どのように」売るかを設計すること

です。

この、「どのように」売るかを設計するための1つの手法が、行動経済学の理論ということになります。行動経済学の理論を活用すれば、人間の行動パターンを捉え、効果的にお客さまにアプローチすることが可能となります。

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以上(2021年11月)

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画像:Master1305-shutterstock
執筆者サイト:https://glocal-marketing.jp/