寄附金の範囲と損金算入限度額

書いてあること

  • 主な読者:適正な税務処理を徹底したい経営者
  • 課題: 税務上の寄附金は、一般的に使われているものよりも広い意味で使われる上、取り扱いも明確に規定されている
  • 解決策:税務上、損金に算入できる寄附金の金額は計算や、子会社の損失負担や債務免除など税務特有の寄附金の事例を紹介

1 法人税法上の寄附金の6つの分類

1)一般の寄附金(法人税法第37条第7項、第8項)

寄附金とは、事業に直接関係ない者に対する金銭などの資産を贈与または経済的な利益を贈与または無償で供与した場合の資産または経済的利益をいいます。なお、交際費、接待費、福利厚生費などは除きます。資産の譲渡または経済的な利益の供与をした場合に、その対価の額が時価に比べて低いときにはその差額は寄附金の額に含まれます。

2)国または地方公共団体に対する寄附金(法人税法第37条第3項第1号)

その名の通り、国または地方公共団体に対する寄附金です。ただし、寄附した者がその寄附によって設けられた設備を専属的に利用するなど、特別の利益が寄附をした者に及ぶと認められる場合を除きます。

3)指定寄附金(法人税法第37条第3項第2号)

指定寄附金とは、公益社団法人、公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人または団体に対する寄附金のうち、広く一般に募集されること、教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に寄与するための支出で、緊急を要するものに充てられることが確実であるものとして、財務大臣が指定した寄附金のことです。

4)特定公益増進法人に対する寄附金(法人税法第37条第4項)

特定公益増進法人とは、公共法人、公益法人等、その他特別の法律により設立された法人のうち、教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして、政令で定めるものに対する当該法人の主たる目的である業務に関連する寄附金のことです。

5)特定公益信託に対する寄附金(法人税法第37条第6項)

特定公益信託とは、「公益信託ニ関スル法律第1条(公益信託)」に規定する公益信託で、信託終了のときにおける信託財産がその信託財産に係る信託の委託者に帰属しないことおよびその信託事務の実施につき政令で定める要件を満たすものであることについて証明がされたものをいいます。特定公益信託の信託財産とするために支出した金額は寄附金の額とみなし、原則として一般の寄附金として、損金算入限度額の範囲内で損金算入を認めます。

6)認定NPO法人に対する寄附金(租税特別措置法第66条の11の2)

認定NPO法人(認定特定非営利活動法人)とは、特定非営利活動促進法第2条第3項に規定する特定非営利活動法人のうち、その運営組織および事業活動が適正であり、公益の増進に資するものとして所轄庁の認定を受けたものをいいます。

2 寄附金の損金算入限度額

1)寄附金の損金算入限度額の算出方法

国または地方公共団体への寄附金、指定寄附金は全額が損金となりますが、一般の寄附金や特定公益増進法人に対する寄附金などは、それぞれ限度額を超える金額を損金に算入することができません(法人税法施行令第73条第1項、第77条の2第1項)。

一般の寄附金の損金算入限度額(特定公益信託を含む)と特定公益増進法人に対する寄附金の特別損金算入限度額の算出式は次の通りです。

1.一般の寄附金の損金算入限度額(特定公益信託を含む)

一般の寄附金の損金算入限度額(特定公益信託を含む)の算出式は次の通りです。

  • 損金算入限度額=(A+B)×1/4
  • A=(事業年度の所得金額+損金経理の寄附金)×2.5/100
  • B=(資本金の額+資本積立金額)×当期の月数/12×2.5/1000

2.特定公益増進法人に対する寄附金の特別損金算入限度額

特定公益増進法人に対する寄附金の特別損金算入限度額の算出式は次の通りです。

  • 損金算入限度額=(A+B)×1/2
  • A=(事業年度の所得金額+損金経理の寄附金)×6.25/100
  • B=(資本金の額+資本積立金額)×当期の月数/12×3.75/1000

2)寄附金の損金算入限度額の算出例

次の前提条件を基に寄附金の損金算入限度額を算出してみます。

  • 当期利益金額:5000万円
  • 資本金:7000万円
  • 一般寄附金:120万円
  • 特定公益増進法人への寄附金:60万円
  • 指定寄附金:150万円
  • 寄附金支払額計:330万円(120万円+60万円+150万円)

損金算入限度額は次のように算出することができます。

1.一般寄附金の損金算入限度額

  • 一般寄附金の損金算入限度額
  • ={(5000万円+330万円)×0.025+7000万円×12/12×0.0025}×1/4
  • =37万6875円

2.特定公益増進法人への損金算入限度額

  • 実際の特定公益増進法人への寄附金支出額=60万円
  • 特定公益増進法人への損金算入限度額
  • ={(5000万円+330万円)×0.0625+7000万円×12/12×0.00375}×1/2
  • =179万6875円
  • 寄附金支出額60万円<損金算入限度額179万6875円
  • ∴特定公益増進法人への損金算入限度額=60万円

3.指定寄附金の損金算入限度額

  • 指定寄附金の損金算入限度額=指定寄附金の全額=150万円

4.寄附金の損金算入限度額

1.2.3.より、寄附金の損金算入限度額は、次のようになります。

  • 損金算入限度額=37万6875円+60万円+150万円=247万6875円

従って、損金算入限度超過額は、次のようになります。

  • 330万円-247万6875円=82万3125円

(注)100%出資グループ法人(法人による完全支配に限ります)間の寄附金は全額損金不算入です。

3 法人税基本通達に見る寄附金規定

1)子会社などを整理する場合の損失負担など

法人がその子会社などの解散、経営権の譲渡などに伴い、当該子会社などのために債務の引き受けその他の損失負担または債権放棄などをした場合、その損失負担などをしなければ今後より大きな損失を被ることが社会通念上明らかであると認められるため、やむを得ずその損失負担などをするに至ったことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担などにより供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しません。

子会社などには、当該法人と資本関係を有するものの他、取引関係、人的関係、資金関係などにおいて事業関連性を有するものが含まれます(法人税基本通達9-4-1)。

2)子会社などを再建する場合の無利息貸付など

法人がその子会社などに対して金銭の無償もしくは通常の利率よりも低い利率での貸し付けまたは債権放棄などをした場合において、その無利息貸付などは寄附金の額に該当します。

しかし、業績不振の子会社などの倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものであるなど、その無利息貸付などをしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付などにより供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとします。

合理的な再建計画かどうかについては、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性および支援割合の合理性などについて、個々の事例に応じ、総合的に判断します。例えば、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として、合理的なものとして取り扱います(法人税基本通達9-4-2)。

3)個人の負担すべき寄附金

法人が損金として支出した寄附金で、その法人の役員などが個人として負担すべきものと認められるものは、その負担すべき者に対する給与とします(法人税基本通達9-4-2の2)。

4)仮払い経理した寄附金

法人が各事業年度において支払った寄附金の額を仮払金などとして経理した場合には、当該寄附金はその支払った事業年度において支出したものとします(法人税基本通達9-4-2の3)。

5)未払いの寄附金、手形で支払った寄附金

未払いの寄附金については、各事業年度の所得金額の計算上、その支払いがされるまでの間、寄附金の支出は無かったものとします(法人税法施行令第78条)。

同様に当該寄附金の支払いのための手形の振り出し(裏書譲渡を含む)も、現実の支払いには該当しません(法人税基本通達9-4-2の4)。

6)国または地方公共団体に対する寄附金

国または地方公共団体に対する寄附金とは、国または地方公共団体において採納されるものをいいます。国立または公立の学校などの施設の建設または拡張などの目的を持って設立された後援会などに対する寄附金であっても、その目的である施設が完成後遅滞なく国または地方公共団体に帰属することが明らかなものは、これに該当します(法人税基本通達9-4-3)。

7)最終的に国または地方公共団体に帰属しない寄附金

国または地方公共団体に対して採納の手続きを経て支出した寄附金であっても、その寄附金が特定の団体に交付されることが明らかであるなど、最終的に国または地方公共団体に帰属しないと認められるものは、国または地方公共団体に対する寄附金には該当しません(法人税基本通達9-4-4)。

8)公共企業体などに対する寄附金

日本中央競馬会などのように全額政府出資により設立された法人、または日本下水道事業団などのように地方公共団体の全額出資により設立された法人に対する寄附金は、国または地方公共団体に対する寄附金には該当しません(法人税基本通達9-4-5)。

9)災害救助法の規定の適用を受ける地域の被災者のための義援金など

法人が災害救助法第2条の規定により知事が指定した区域の被災者のための義援金などの募金を行う募金団体(日本赤十字社、新聞・放送などの報道機関等)に対して拠出した義援金などについては、その義援金などが義援金配分委員会等に拠出されることが募金要綱、募金趣意書などにおいて明らかにされているものであるときは、地方公共団体に対する寄附金に該当するものとします(法人税基本通達9-4-6)。

10)災害の場合の取引先に対する売掛債権の免除など

法人が、災害を受けた得意先などの取引先に対して、その復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間内に売掛金、未収請負金、貸付金その他これらに準ずる債権の全部または一部を免除した場合には、その免除したことによる損失の額は、寄附金の額に該当しないものとします。

既に契約で定められたリース料、貸付利息、割賦販売に関わる賦払金などで、災害発生後に授受するものの全部または一部の免除を行うなど契約で定められた従前の取引条件を変更する場合、および災害発生後に新たに行う取引につき従前の取引条件を変更する場合も、同様とします。

得意先などの取引先には、得意先、仕入先、下請工場、特約店、代理店等の他、商社などを通じた取引であっても価格交渉等を直接行っている場合の商品納入先など、実質的な取引関係にあると認められるものが含まれます(法人税基本通達9-4-6の2)。

11)災害の場合の取引先に対する低利または無利息による融資

法人が、災害を受けた取引先に対して低利または無利息による融資をした場合、当該融資が取引先の復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間内に行われたものであるときは、当該融資は正常な取引条件に従って行われたものとします(法人税基本通達9-4-6の3)。

12)自社製品などの被災者に対する提供

法人が不特定または多数の被災者を救援するために緊急に行う自社製品等の提供に要する費用の額は、寄附金の額に該当しないものとします(法人税基本通達9-4-6の4)。

以上(2019年4月)
(監修 税理士法人コレド会計 税理士 石田和也)

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パートを採用する際に知っておきたい基本

書いてあること

  • 主な読者:パートの採用を予定している企業の経営者、人事担当者
  • 課題:これまでパートを採用したことがなく、採用活動を進めるポイントが分からない
  • 解決策:パートが必要な理由や配置先、募集するターゲットなどを明らかにした上で、募集方法や面接時のポイントなどを押さえる

1 パートを採用する際の基本ポイント

1)パートが必要な理由と配置先を明らかにする

パートに限らず、企業が人材を採用するのには理由があります。パートを募集する際も、「新店舗の出店に伴ってホールスタッフが必要」など、パートが必要な理由と配置先を明らかにした上で、本当にパートが必要かを確認することが重要です。

パートであっても、採用活動やその後の教育に時間とコストが掛かります。そのため、採用活動は慎重に、無駄なく進めましょう。

2)配置時期と人数を明らかにする

パートの配置時期と人数を明らかにします。募集から採用までの期間は短くとも3カ月は掛かるでしょう。また、募集人数が多い場合は、求人誌や求人サイトヘの掲載、店頭チラシの掲示など複数の方法で募集しなければ、応募者の人数が集まりません。そのため、パートの募集は専任の採用担当者を配置して、計画的に実施することが重要です。

3)募集するターゲットを明らかにする

パートの中心は、近隣の主婦や通学の途中に立ち寄ることができる学生です。パートが担当する職務内容によっても異なりますが、オーソドックスなターゲットは主婦です。一般的に学生よりも社会経験が豊富だからです。

また、昨今は働き方改革の影響で、副業・兼業をすることが社会的に容認されてきており、会社員が本業と掛け持ちでパート勤務を希望するケースも珍しくありません。パートというと、正社員の補助的なイメージが強いかもしれませんが、こうした人材は即戦力として、正社員と同等以上の働きが期待できるケースもあります。

4)賃金を明らかにする

パートの賃金は時給制が一般的です。時給は近隣の相場などを参考に決定します。パートタイム労働法では、賃金は正社員などとの均衡待遇を図ることが労働条件に含まれており、「パートである」という理由だけで正社員よりも低い賃金を支払うことはできません。簡単に言うと、パートに支払う賃金のうち基本給や賞与、役職手当など職務に関連の深いものについては、その職務内容や成果、意欲などを勘案して均衡待遇を確保することが求められます。

パートの人件費を抑える場合は、パートが担当する職務を正社員とは明らかに異なる単純作業などの業務に限る必要があります(ただし、パートであるからといって、賃金を不当に低く設定してよいわけではありません)。

2 募集方法を検討する

1)求人誌への掲載

求人誌への掲載は最も一般的な募集方法であり、主婦や学生など幅広い属性の応募者に求人情報を伝えることができます。また、これまでは有料求人誌が中心でしたが、最近はフリーペーパーが求人媒体として定着してきています。

2)求人サイトへの掲載

フリーペーパーと並び、近年、大きな注目を集めている募集方法が求人サイトです。求人サイトにはパソコン用と携帯電話用があり、特に携帯電話用の求人サイトは、手軽に利用できることから広く普及しています。

3)店頭チラシの掲示

「パート募集」のチラシを内製して店頭などに掲示する方法です。これは、特別な費用が掛からない手軽な募集方法といえますが、求人誌や求人サイトに比べると求人情報の伝達先が制限される点に注意が必要です。

店頭チラシには、チラシを見つけた時点で応募できるという特徴があり、「いつからかは決めていないが、パートとして働こう」と考えている主婦などの応募者が就職を決意するきっかけとなります。そのため、店頭チラシは住宅地にある飲食店などがパートを募集する際に大きな効果を発揮することがあります。

4)パートからの紹介

求人誌や求人サイトへの掲載など、主なパートの募集方法と特徴について紹介してきましたが、この他の募集方法として「紹介」を検討するとよいでしょう。

これは、既に働いているパートから友人・知人を紹介してもらう方法です。企業から友人・知人の紹介をお願いされたパートの多くは、「真面目な人」を紹介してくるものです。また、紹介によりパートになった人は、既に働いているパートと知り合いであるため、採用後に職場でのコミュニケーション不和などの問題が起こりにくい点もメリットです。

3 面接時の基本ポイント

応募者が集まったらいよいよ面接です。面接では、企業が応募者の能力ややる気を見極めるのと同時に、応募者も職場の雰囲気を観察しています。明るく気持ちの良い態度で面接に臨みましょう。また、企業と応募者の条件のミスマッチがないかをしっかりと確認することも重要です。

1)歓待を心掛ける

応募者は、これから働くかもしれない企業がどのような所なのかについて敏感になっています。そのため、応募者からの問い合わせの電話を受ける際などは注意し、誰が電話に出ても気持ちよく対応し、「雰囲気の良い職場」であるという印象を持ってもらえるようにします。

2)応募者シートの用意

面接は、応募者と直接話をすることができる貴重な時間です。面接を効率的かつ効果的に行うために、履歴書や職務経歴書だけでなく、企業側が質問したい項目をまとめた「応募者シート」などを用意するとよいでしょう。その応募者シートに、応募者の発言などをメモしておけば選考時の貴重な資料となります。

3)面接時間に余裕を持つ

採用面接の段階で十分に時間を掛け、互いの希望をじっくりと話し合い、その後に調整することが重要です。

応募者の中には、「パートなので、いつ辞めても大きな問題ではない」と考える人もいます。しかし、たとえパートであっても、採用した人材が早期離職してしまうことは大きな損失です。企業は、面接の時間を有効に活用して、「応募者が本気で応募してきているのか」を見極めることが重要です。

以上(2019年4月)

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「役職名」の基礎知識

書いてあること

  • 主な読者:役職名の変更などを検討している企業の経営者、取引先などの役職で、どのような役割や責任があるのかを知りたいビジネスパーソン
  • 課題:他社がどのような考えの下、役職名を決めているのか参考にしたい
  • 解決策:役職名はビジネスの潮流や各社の価値観が表れるものであり、その役職名にどのような役割があるのかを考えたり、知ったりすることが重要

1 ビジネスの潮流などを反映する役職名

企業規模、業種、企業風土、経営戦略などさまざまな要素を考慮して、各企業は組織形態とそれに応じた役職名を採用しています。

従来、日本企業の多くは、「社長」「本部長」「部長」「次長」「課長」「係長」「主任」など、上位から下位に向けて命令が伝達される部課制(ライン組織)を採用してきました。しかし、最近では迅速な意思決定や対応を行うことを目的に、役職の階層を減らして組織のフラット化を進める企業もあります。

また、「CEO」といった役職名を目にする機会が増えています。こうした役職名はもともと経営の意思決定・監督機関としての取締役会と、意思決定に基づく業務執行機能を分離した制度(以下「執行役員制」)を採用する外資系企業などで使用されていました。現在では日本企業でも一般的になってきています。執行役員制を導入する企業などで使用されている代表的な役職名は次の通りです。

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これらの役職名は社内規定に基づく呼称ですが、会長兼CEOなどといったように使われるケースが増えてきています。また、自社のブランドや価値観などを創造し、社内外に発信・浸透させていくCCO(Chief Culture Officer、最高文化責任者)や、健康経営を推進する企業などがCHO(Chief Health Officer、最高健康責任者)を設けるなど、自社が重視する価値観を表したユニークな役職を設けている企業もあります。

このように企業における組織とそれに応じた役職名の在り方は、その時々のビジネスの潮流を反映していたり、自社の重視する価値観を反映したりするものでもあります。

以降では、企業でよく使用されている役職名について紹介します。役職名の新設や変更を考える際、あるいは自社と異なる役職名を目にしたときに、どのような役割や権限があるのかを確認する際の参考としてください。

2 部課制における役職名

1)中間的な役職名

部課制(ライン組織)は、日本企業の多くで採用されている組織形態です。役職としては、「社長」「本部長」「部長」「課長」「係長」などがあり、そこに中間的な役職が加わって組織が形成されています。

中間的な管理職の代表的な役職名としては、「副本部長」「副部長(部長代理・部長補佐)」「次長・副次長(次長代理・次長補佐)」「副課長(課長代理・課長補佐)」「副係長(係長代理・係長補佐)」などがあります。

2)その他の役職名

中間的な管理職の他にも、「顧問」「相談役」「非常勤取締役」「参事」などという役職があります。また、支社(支店)・営業所・工場においては、部長クラスに代わる役職として「支社長(支店長)」「所長」「工場長」などを置いている場合があります。

本社・営業所を問わず「係長の代わりに主任」としている企業や、その下に「班長」がいる場合もあります。一方、事業部制を採用している企業では、「事業部長」という役職があり、社内的には取締役と同等の立場である場合もあります。

3)執行役員について

経営と業務の執行の分離が重要視されるようになり、さまざまな企業で社内体制として執行役員制が設立されたことから、多くの「執行役員」が選出されました。執行役員制は会社法の規定によるものではありません。そのため、社内体制や権限などについては各企業によって異なります。また、執行役員は現場のトップということもあって、本部長や営業部長を兼ねている場合が多いようです。

3 グループ制における役職名

グループ制とは、従来のピラミッド型の組織から、課や中間的な役職を除いた体制です。組織のフラット化を図り、意思決定や判断の迅速化を進めることを目的としています。

具体的には、「部を部門に変更し、部門の下にグループまたは室を置く」という体制です。役職は、次長クラス、係長クラスを廃止して、部長クラスは「部門長」「グループマネジャー」「主席」などに、課長クラスは「グループリーダー」「室長」「主査」などとなります。また、企業によっては室長や部長クラスがグループリーダーになっているケースもあります。

部課制・部門室制・グループ制の組織(例)は次の通りです。

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4 マトリックス組織の概要

部門室制やグループ制などと並行して、業務遂行のためにプロジェクトチーム制を設けている企業もあります。プロジェクトチーム制では、各部門やグループから担当者が集まってチームを構成することによって、何らかの目的を果たすために業務を遂行していきます。スポーツメーカーを例に取ると、ユニフォームチーム、シューズチームなどとなり、各チームは企画・開発・販売・宣伝など各部門やグループから数名ずつ担当者が任命されて構成されています。

その際、各チームにチームリーダーが配置されます。この組織形態は、各スタッフがグループとチームの双方に所属するため、マトリックス組織とも呼ばれます。

例えば、資生堂では、世界の地域ごとに強いブランドを育成するため、5つのブランドカテゴリーと6つの地域を掛け合わせたマトリックス組織を発足させています。

マトリックス組織(例)は次の通りです。

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5 専門職について

従来の人事制度では、管理職に就くことで高い賃金やキャリアを得ることが一般的でした。しかし、中には管理職に就くよりも、現場で高い専門性を発揮するほうが、企業にとって高い付加価値を生む人材もいます。また、消極的な理由として、管理職ポストが不足している場合に、専門職ポストを設ける場合もあるようです。

専門職は、部課制(ライン組織)上の役職とは異なり、部下を持たずに(持つ場合も少数)業務を遂行します。

専門職の仕事は、技術や営業・販売に関しては各企業の扱う製品やサービスによって異なるため一概にはいえません。ただし一般的には、研究開発に携わる研究者や技術者、法務・税務などの分野に関連した資格を持つ者、営業・システムエンジニアやコンサルタントなど、高度な専門性が求められる職種が挙げられます。

また、専門職は部課制(ライン組織)やグループ制において新しく課やグループをつくるに至らない(規模が小さい)場合にも有効な手段として導入されています。

この他、最近は高年齢社員の技能を活用するための専門職を設ける企業も増えています。こうした高年齢社員には、「シニアアドバイザー」「シニアマネジャー」などの役職が設けられ、一般の従業員とは別の基準で処遇されています。

以上(2019年4月)

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今どきの新入社員教育法―「父親型」か「友達型」か?

書いてあること

  • 主な読者:新入社員の教育に悩む上司
  • 課題:最近の新入社員は上司に対し、自分の話を聞いてもらうことや、一人ひとりに対して丁寧に指導することを期待する傾向にある。しかし、新入社員がどのような考えを持っていようと、理屈抜きで覚えてもらわなければならない内容もある
  • 解決策:上司が強いリーダーシップで引っ張る「父親型」と新入社員の考えに耳を傾ける「友達型」の2つの指導法を状況に応じて使い分ける

1 「父親型」の上司と「友達型」の上司

新入社員は、右も左も分からない社会人の“赤ちゃん”のような存在です。上司にとっては当たり前の「社会人としての常識」が通じないことも多いため、「どこから教えればよいのか?」と迷ってしまうことがあります。また、今どきはパワハラが問題になることも多く、「どうやって伝えればよいのか?」という心配もあるかもしれません。

上司や新入社員の性格、仕事の内容、局面によって好ましい指導スタイルは変わってきますが、少々極端に分けた場合の1つのイメージは次の通りです。

  • 父親型:
    「私の言うことを聞け!」と強いリーダーシップで新入社員を引っ張って業務を遂行させるスタイル
  • 友達型:
    「君はどうしたい?」と新入社員の意見や考えていることに耳を傾け、二人三脚で業務を遂行するスタイル

最近の新入社員は上司に対し、自分の話を聞いてもらうことや、一人ひとりに対して丁寧に指導すること、つまり友達型の指導を期待する傾向にあるようです。

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とはいえ、上司が指導しなければならない内容は多岐にわたり、時には新入社員に「理屈抜きで覚えてもらわなければならない」こともあります。

父親型と友達型のどちらの指導法が適しているかはケース・バイ・ケースです。大切なのは新入社員の性格はもちろん、仕事の内容や局面を考慮しながら、父親型と友達型の指導方法を上手に使い分けていくことです。

2 ジェネレーションギャップを乗り越えろ!

ジェネレーションギャップは年代に限らず存在するため、比較的年配の上司が新入社員とうまくコミュニケーションを取るのは簡単ではありません。「何を考えているかよく分からない」と、上司同士で愚痴をこぼし合うこともあるでしょう。

しかし、それだけでは根本的な解決になりません。新入社員の教育に悩む上司は、まず今どきの新入社員の育った環境からその特徴を整理してみるとよいでしょう。

最近の新入社員には、次のような特徴がよく見られるようです。

  • 上昇志向が低く、そこそこの成績や賃金で満足する
  • 普段付き合いのない人間との会話に慣れておらず、挨拶や敬語、報告・連絡・相談ができない
  • 「目立つと集団内で孤立する」と考える傾向があり、自分から発言をしない
  • 叱られることに慣れておらず、上司が少し注意しただけで落ち込む
  • 考えて行動するのが苦手で、「指示待ち人間」になりやすい

このようなことを理解した上で、それを上司自身が育った環境と比較してみると、「自分にとってはしっくりきた指導方法は、今の新入社員に向いているのだろうか……」と気付くことができるかもしれません。

3 父親型の指導のポイント

1)マナーや社会常識は父親型で指導する

父親型の指導は、マナーや社会常識など、社会人として不可欠な技術や知識を短い時間で確実に覚えさせるためのものです。これは理屈抜きで必要なことですが、上から目線で伝えるだけでは、新入社員は腹落ちしません。

大切なのは、「なぜ、そのような立ち振る舞いをするのか?」という理由や目的を伝えることです。新入社員が間違えたときも、ただ叱るのではなく、その間違いが仕事にどのような影響をもたらすのかを伝えるようにすると、新入社員も失敗の重さに気付くことができるでしょう。

また、注意をした後は、「次からは○○と言ったほうがいい」と具体的な改善方法を教えることも欠かせません。そうしたほうが新入社員も納得しやすく、「否定された」ではなく、「上司が自分を指導してくれた」という印象が心に残りやすくなります。

指導が一段落したら別の明るい話題に切り替えたり、全員の前で叱るのではなく、別室に呼んで指導したりするなどの配慮も大切です。指導されたことを引きずり過ぎないようにすると、新入社員は次の課題に向き合いやすくなります。

2)父親型から友達型へのシフト

入社したばかりの新入社員に、「自分で考えて仕事をしてくれ」と指示をしてもうまくいきません。新入社員が初めて携わる業務などは、まずは父親型で指導して経験を積ませる必要があります。その上で、新入社員の知識・経験などを考慮しながら、徐々に友達型に移行し、新入社員の自主性を育てる指導に切り替えていきましょう。

例えば商品のチラシの作成であれば、記載する事項はもちろん、色使いや文字のサイズ、フォント、時にはソフトの使い方まで上司が細かく指示を出さなければなりません。

そうして、ある程度知識や経験を積んだら、次は「以前チラシを作ってもらった商品○○のリニューアル版が出た。基本的なデザインは以前のチラシを踏襲しようと考えているが、新しい機能をアピールできるような説明を自分で考えて追加してみてくれ」と指示してみましょう。

新入社員の成長度合いや依頼する業務内容を勘案しつつ、父親型と友達型の指導のバランスを調整していくことで、新入社員の考える力が効果的に身に付いていくでしょう。

4 友達型の指導のポイント

1)考える力が要求される業務は友達型で指導する

友達型の指導は、「社員として必要な考える力を、ゆっくりと時間をかけて身に付けさせる」ためのものです。

友達型の指導が必要なのは、主体的に動こうとしない「指示待ち人間タイプ」や、報告・連絡・相談(以下「報連相」)ができない新入社員です。なかには「主体的に動きたい」「上司に相談したい」と思っていても、仕事・職場生活に対する疑問や不安が原因で実行に移せない新入社員もいます。

こういった新入社員の不安を解決して成長を促すための指導のポイントを、新商品のプレゼン資料を作ることを例にして紹介します。

2)仕事の目的を明らかにする

非合理的なことを嫌う最近の新入社員は、依頼された仕事について「この仕事に本当に意味があるのだろうか」という疑問を抱きがちです。仕事をする目的を伝え、新入社員の仕事に対するモチベーションを維持しましょう。

新商品のプレゼン資料を作る場合、「購入を検討している顧客に新商品のデザインや機能をPRするため」「自社の営業会議で、新商品をどのようなターゲットに向けて展開していくか協議するため」といったように、目的を具体的に伝えましょう。

3)上司と新入社員のギャップを見える化する

新入社員に仕事を任せても、上司の要求水準に達しなかったり、方向の誤った努力をしてしまったりすることはよくあります。上司がこと細かに指示を与えれば認識のギャップは生まれませんが、それでは新入社員の考える力が身に付きません。こういった場合は、上司と新入社員のギャップを見える化してみましょう。

新商品のプレゼン資料の作成では、取り掛かる前に資料全体の構成や盛り込む情報を、サマリーなどの形式で新入社員に報告させるとよいでしょう。サマリーを基に上司が確認することで、新入社員と上司の認識が合っているかどうかが分かります。

また、途中報告の期限についても「20%できた段階」などの曖昧な表現ではなく、「第○章までを○日の○時まで」と具体的に提示することで、計画的に仕事が進められます。

4)上司から新入社員に声を掛けて業務の進捗を確認する

上司が忙しそうで、報連相を行うタイミングが分からないという新入社員に対しては、上司のほうから積極的に声を掛けてみましょう。そうすれば、新入社員にとっても「この上司は話を聞いてくれる」という安心感が生まれ、報連相を行いやすくなります。

新入社員に声を掛ける際は、曖昧な質問をしないようにしましょう。例えば「業務の進捗はどう?」と聞かれても順調なのかどうか判断できない、「何か分からないことはない?」と聞かれても何を質問すればよいのか分からない、という新入社員もいます。

そのため、「第○章までを、今日の14時までに完成させてほしいのだけど、できそう?」「どこにデータがあるか分からずに困っているものはない?」などと質問することで、新入社員は疑問点が整理しやすくなります。

5 コミュニケーションの目的は?

上司が新入社員とコミュニケーションを取る目的は、新入社員に正しい行動を起こしてもらうこと、そして理想的には成果を上げてもらうことです。結果は同じでも、そこに導くためのプロセスは幾つもあり、父親型と友達型の指導はどのようなプロセスをたどるのかについての選択肢の1つにすぎません。

上司の重要な仕事は部下を導くことであり、特に企業の貴重な財産である新入社員の教育は、企業の成長のために欠かせない取り組みです。少しずつ仕事に慣れてきた新入社員は、徐々に“自分らしさ”を出してくるようになります。これは良いことですが、今どきの新入社員に対して先入観を持っていると、せっかく新入社員が表し始めた個性を、「生意気だ!」と感じ、抑え込んでしまうこともあり得ます。

新入社員の自主性を潰さないよう、まずは先入観を取り払ってフラットな視点で見てみましょう。新入社員は何に困り、どのようなサポートを求めているのか、おのずと見えてくるのではないでしょうか。

以上(2019年4月)

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出向社員を受け入れる側の留意点

書いてあること

  • 主な読者:親会社から出向社員を受け入れる予定のある企業の経営者
  • 課題:出向について親会社に確認すべきことや出向社員への対応のポイントが分からない
  • 解決策:親会社には出向期間・賃金・賞与・労働条件などを確認する。出向社員とトラブルにならないよう出向者を受け入れる際の覚書を用意する(本稿でひな型を紹介)

1 人事権の基本的な考え方

使用者には、出向など労働者の地位の変更に関する事項について、その裁量で決定できる権利、すなわち「人事権」が認められています。ただし、人事権は使用者が自由に行使できるわけではありません。個々のケースで解釈が異なる場合があるものの、基本的な考え方を確認していきましょう。

使用者と労働者が締結している労働契約の条件は、就業規則などで定められています。人事権は労働契約に基づく指揮命令の一つであると解釈されていることから、「就業規則などで定められた範囲で行使することができる権利である」と考えることができます。そのため、出向などについて、就業規則で定められた範囲を逸脱した決定を下すと、使用者の人事権の濫用と判断されてしまうことがあります。

加えて、就業規則などの定めだけを根拠とする人事権が問題となることがあります。就業規則などに、出向などに関する定めがあったとしても、それが「業務上の必要性があること」「不当な目的によるものでないこと」などの要件を満たしていない場合、使用者の人事権の濫用と判断されてしまうことがあります。

この点については、労働契約法でも定められており、使用者が出向を命じることができる場合であっても、その必要性や対象となる労働者の選定の方法などを考慮し、それが使用者の権利濫用であると認められるときは出向命令を無効にするとしています。

2 出向の種類と主な目的

1)在籍出向と転籍出向

1.在籍出向

在籍出向とは、労働者が出向元(出向を命じる会社)との労働契約を維持したまま、出向先(出向する労働者を受け入れる会社)と労働契約を交わして労働する形態です。労働者の立場から見ると、就業場所が変わるイメージです。

2.転籍出向

転籍出向とは、労働者が出向元との労働契約を終了した後、新たに出向先と労働契約を交わして労働する形態です。労働者の立場から見ると、勤め先の会社が変わるイメージです。

通常、人事権の範囲に含まれると解釈されるのは在籍出向までです。労働者との労働契約が消滅する転籍出向は人事権の範囲には含まれず、これを命じる場合は労働者の同意が必要となります。

以降では、在籍出向に注目し、その特徴などを紹介していきます。

2)会社が労働者に出向を命じる主な目的

1.新会社の経営の早期安定

新分野に進出する際に新会社を設立することがあります。新会社の経営を早期に軌道に乗せるために、優秀な労働者を出向させることがあります。

2.人材開発

人材の育成を目的として、若手や幹部候補の労働者をグループ会社などに出向させることがあります。

3.雇用の維持

親会社での雇用が困難になった場合、子会社に出向させることで雇用を維持するケースがあります。

3 出向者を受け入れる際の留意点

出向先が、出向者を受け入れる際の主な留意点を紹介します。

1)出向期間

出向者を受け入れる際の条件はさまざまですが、まずは出向期間を明確にしなければなりません。例えば、優秀な出向者が短期間で出向元に呼び戻されてしまったら、出向先は業務の引き継ぎなどに苦労します。逆に、優秀ではない者の出向が長期にわたる場合は雇用負担が重くなります。また、出向先は出向期間に応じて、出向者の教育ペースや配置を考えるものです。仮に、「3年間」といったように出向期間を明確にすることが難しい場合は、出向期間を1年単位とした上で、更新の3カ月~6カ月前までに、次期の出向の有無を決定するようにします。

2)賃金・賞与などの支払い

出向期間中の出向者に対する賃金・賞与などの支払い方法は次に大別されます。

  • 出向元か出向先のどちらかが全額を負担するケース
  • 出向元と出向先が負担割合を決めて負担するケース

特に、出向元と出向先が負担割合を決めて負担する場合は、負担割合を明確にしておくことが大切です。

3)出向者の労働条件

出向元よりも、出向先の労働条件のほうが低いことがあります。このような場合、出向者のためにも出向元の労働条件を適用することが理想的です。これが難しい場合、あらかじめ出向者に、出向元と出向先の労働条件の違いを伝え、同意を得ることが不可欠です。

4)親会社が出向者の受け入れを要請してきた場合の対応

親会社が子会社に出向者の受け入れを要請してきたケースを考えてみましょう。

出向元(親会社)が出向者の受け入れを要請してきた場合、基本的に出向先(子会社)はこれを受け入れることになるでしょう。出向者の受け入れによる人的交流を図ることで出向元との関係強化が期待できるからです。

とはいえ、労働者を一人雇用する際の負担はとても大きなものです。そのため、出向先は、前述した出向期間・賃金・賞与・労働条件を十分に確認しなければなりません。これに加え、出向の目的についても確認しておきます。出向元が出向者の受け入れを要請する目的は、ポスト不足・技術支援・雇用調整の布石などさまざまで、これによって出向先の対応も異なります。仮に、出向元が出向者を高く評価しており、幹部候補として送り込んでくるのであれば、出向先もそれなりの処遇をしなければなりません。

また、こうした出向元との条件確認に加え、出向先は自社の労働者に対する説明もしなければなりません。「親会社からの出向者を受け入れる」ことについて、出向先の労働者は高い関心を持っています。出向者を受け入れた後の円滑なコミュニケーションを実現するためにも、出向先は労働者に対して「出向者を受け入れる理由と活用の方針」を説明しておく必要があるかもしれません。

一方、雇用負担やポスト不足などを理由に、出向元からの出向要請を断らざるを得ない場合は、出向元との円満な関係を維持するために、十分に話し合います。その際は、「出向者を受け入れることができない理由」を明確に伝えることが重要です。

4 出向者受け入れに関する覚書のひな型

出向者を受け入れる際の覚書のひな型を紹介します。なお、次のひな型は一般的な定めを紹介したものであるため、実際にこうした覚書を作成する際は弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。

【出向社員受け入れに関する覚書のひな型】

○○株式会社(以下「甲」)と△△株式会社(以下「乙」)とは、甲から乙へ出向の取り扱いを受ける甲の従業員◇◇◇◇(以下「丙」)の労働条件その他について、以下の事項を確認し、その証として本書を交換する。

第1条
この出向により、甲と丙の労働契約が終了することはなく、出向期間中も丙は引き続き甲の従業員としての地位を維持する。

第2条
出向期間は○年○月○日より○年○月○日までとする。ただし、甲乙の協議により出向期間が変更されることがある。この場合、甲は丙の同意を得た上で出向期間を変更する。

第3条
出向期間中、丙は乙の指揮命令に従って労働する。

第4条
出向期間中の丙の労働条件は乙の就業規則に基づくものとする。

第5条
出向期間中、甲は丙に所定の給与、賞与、通勤費実費を支給する。

第6条
丙の健康保険、介護保険、厚生年金保険および雇用保険などの社会・労働保険については、甲において引き続き加入する。

第7条
丙の安全衛生および災害補償義務は乙が負い、丙の労災保険料は乙が負担する。

第8条
丙が乙の指揮命令による業務の従事中、過失などにより乙または第三者に損害を及ぼしたときは、乙はその責任においてこれを処理し、甲に対して何ら請求をしない。

第9条
出向により、丙が何らかの不利益を被ることがある場合は、甲乙並びに丙が協議してその解決を図るものとする。

第10条
本書の解釈などに疑義のあるときは、その都度、甲乙協議のうえで決定する。

本書締結の証として、2通を作成し甲乙各々その1通を保有する。

○年○月○日

以上(2019年4月)

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心理学で見る「ゆとり社員」の特徴

書いてあること

  • 主な読者:いわゆる「ゆとり教育」を受けた「ゆとり社員」とのコミュニケーションに悩む上司や先輩社員
  • 課題:もっとやる気を持って仕事に取り組んでほしいが、強く注意すると逆にやる気を失うような気がして、うまく指導できない
  • 解決策:「自身にとって必要なことには真面目に取り組む」「成長意欲が高い」など、仕事に対する原動力になり得る特性を押さえる

1 若手社員の中に「ゆとり社員」がいたら……

世代間のギャップはいつの時代にもあるもので、企業の組織においても例外ではありません。例えば、入社して間もないのにすぐに辞めようとしたり、自ら進んで仕事に取り組もうとしなかったりする社員を見ると、上司や先輩社員は「今どきの若者は……」と思うでしょう。

こうした「今どき」の若い社員は、1990年代から2000年代初頭に行われたいわゆる「ゆとり教育」を受けた世代と重なるため、現在では「ゆとり社員」と呼ばれることが多いようです。

とはいえ、ゆとり社員とのコミュニケーションの問題は、上司や先輩社員が、物事の伝え方、言葉の選び方、接し方を少し注意するだけで解決することもあります。「ゆとり社員」の特徴を、心理学的視点から考えていきましょう。

2 自分の居場所はここじゃない~青い鳥症候群~

1)青い鳥症候群とは

青い鳥症候群とは常に現状に不満を持ち、新しい居場所を求め続ける状態で、童話「青い鳥」にちなんで名付けられました。仕事に当てはめると、「自分にはもっと適した仕事があるはずだ」と転職を繰り返す、ということなどになります。

「最近の若者は忍耐力が足りず、1つの仕事が続かない」などといわれますが、そうした人は、青い鳥症候群の可能性があります。

青い鳥症候群は、挫折経験が少ない人や、自分の能力に自信を持っている人がなりやすいようです。にもかかわらず、入社直後は先輩社員のサポートなど地味な仕事ばかり任されるので、「自分の能力が適正に評価されていない」と不満を抱くのです。

2)青い鳥症候群にならないためには

上司や先輩社員は、青い鳥症候群の部下を「どこに行っても同じ」などと説得します。しかし、青い鳥症候群になっている部下は、「もっと自分に向いた仕事があるはず」と信じているため、それを受け入れることはできません。

青い鳥症候群にならないためには、「より良い場所」への憧れを捨てさせるのではなく、現状に対する不満を軽減させることが重要です。ゆとり社員の不満は、多くが「自分は適正に評価されていない」「自分の能力が発揮できない」というものです。

この不満を軽減させるには、まず「ゆとり社員が現在行っている仕事の意味をしっかりと伝える」ことです。地味に思える仕事でも、企業全体の中では重要な意味を持っているのだということを伝えます。

さらに「評価していることを示す」ことも重要です。「地味に思える仕事だが、君がこの仕事をやってくれるので、とても助かっている」などと声を掛けることで、ゆとり社員が仕事に意味を見いだせるようになるでしょう。

なお、ゆとり社員の中には、成長意欲がとても強く、ごく短期間でのキャリアアップを望む人もいます。「早く結果を出したい」と考えているため、目に見える成果を実感しにくい仕事の意味を理解しないことがあります。

このような場合は、一度難しい仕事を任せて失敗させるのも1つの方法です。ゆとり社員に意図的に挫折を経験させた上で、現在の仕事が成長のために不可欠であること、結果だけでなく取り組み姿勢などを総合的に評価していることを説明するのです。

3 誰かがやるだろう~責任の分散~

1)責任の分散とは

責任の分散とは、複数の人間が1つの問題に向かい合うことで、個人が感じる責任の程度が軽減され、積極的な行動を取らなくなることをいいます。企業に当てはめると、「自分の仕事は行うが、担当者が決まっていない仕事には取り組まない状態」といえます。

例えば、共用スペースのゴミを「誰かが拾うだろう」と自分では拾わなかったり、代表電話を「誰かが出るだろう」と自分では出なかったりする場合です。

責任の分散は、ゆとり社員だけに限ったことではありません。ただし、入社から日の浅いゆとり社員の場合、重い責任を負った経験が少なく、責任の分散が起こりやすいといえます。

2)責任の分散を防ぐには

責任の分散を防ぐためには、担当者を決めて各人の責任を明確にすることが有効です。しかし、全ての活動の担当者を決めるのは困難です。また、仮に全ての活動の担当者を決めたとすると、担当者以外はその活動に参加しなくなるかもしれません。

特に、問題発見や新たな提案などは、社員全員が随時取り組むべきもので、これを行う社員を決めてしまうことは好ましくありません。担当者を決めずに責任の分散を防ぐためには、各社員に「自分自身が問題に向き合っている」という意識を持たせることです。具体的には、次のような方法が考えられます。

  • 経営者や上司が各社員に個別に声を掛けるなどすることで、大勢いる社員の中の1人ではない「個人としての意識」を高める
  • 担当者が定まっていない活動に自ら取り組んだ社員を朝礼で称賛するなど、きちんと評価していることを伝える
  • 360度人事評価(多面評価)を導入するなど、他者の目を意識させる

4 ゆとり社員を戦力化するためには

ゆとり社員の共通の特性として、「自身にとって必要なことには真面目に取り組む」「無駄なことはしたがらない」「成長意欲が高い」「他者から認められたいという欲求が強い」といった面があるようです。

これらは、仕事に対する原動力になり得るものです。表面的な態度などから、つい「やる気がない」などと判断してしまいがちですが、意識をうまく仕事に向けさせると、ゆとり社員は大変な集中力と意欲を持って仕事に取り組むでしょう。

入社して間もないゆとり社員は、企業にとっては次代を担う大切な人材です。表面的な態度だけから、「最近の若い社員は駄目だ」と決め付けて、彼らの意欲をなくさせるのは企業にとって大きな損失です。ゆとり社員の特性を理解した上で、次代を担う戦力へと成長させていくマネジメントを心掛けましょう。

以上(2019年1月)

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労使コミュニケーションがうまくいく5つの取り組み

書いてあること

  • 主な読者:社員に会社を好きになってもらいたい経営陣
  • 課題:経営陣と社員は気持ちがすれ違う、分かりあえないところが多い
  • 解決策:労使コミュニケーションのきっかけは経営陣がつくり、主役を社員にするのが大切。「伝える」「示す」「聞く」「交わす」「育てる」の5つで実践しよう

1 理想的な労使コミュニケーションとは

経営陣と社員との意思の疎通を指す「労使コミュニケーション」。労使コミュニケーションの重要性は会社(経営陣)も社員も理解していますが、なかなかうまくいかないのが実情です。

労使コミュニケーションが良好な状態とは、会社と社員が“両思い”にあることです。会社は全ての社員に感謝し、そして社員が意欲的に仕事に取り組むことができるよう教育します。さらに、チャンスを与え成長を促します。

それに対して社員も会社に感謝し、会社の目標(理念)を理解した上で、会社の成長にどのように貢献できるかを自分で考え、それを行動に移します。これを社員が当たり前に行っていれば、労使コミュニケーションは理想的な姿といえるでしょう。

2 伊那食品工業(長野県)の例

良好な労使コミュニケーションで知られている伊那食品工業(長野県)は、業績と働きがいが両方ある会社として有名な寒天メーカーです。

伊那食品工業は社員はもちろん、地元の人も「あの会社はいい会社だ」と自慢するほどで、日本銀行やトヨタ自動車のトップなども視察に訪れ、伊那食品工業の会社としての在り方などを学んでいます。

伊那食品工業の会長である塚越寛氏は、社員を幸せにすることを会社の目的としており、「いい会社をつくりましょう」(*)という社是を掲げています。また、社員が自ら考え行動できるようにしようと、トップの考え方や生きざまを朝礼などで伝えています。

良好な労使コミュニケーションは一朝一夕に実現できるものではありません。特に現在、労使コミュニケーションで悩みを抱えている会社であれば、腹を据えて年単位で取り組んでいくことが求められます。

それでは、伊那食品工業のような良好な労使コミュニケーションを実現するためにはどうしたらよいのでしょうか。ここでは、「伝える」「示す」「聞く」「交わす」「育てる」の5つの要素から考えていきます。

3 大切な5つの要素

1)伝える

例えば、今年度の事業方針説明会などを行って、会社の現状、今後の方針、今年度の計画、具体的な目標などを社員に伝えます。これは、社員に自分が取り組んでいる仕事が全体像のどの部分か、どのような意味があるのかを認識してもらうためです。

また、「伝える」ことには、トップの考え方や思いを社員に明確に伝えるという意味もあります。京セラ創業者の稲盛和夫氏は、トップと現場の社員が経営目標を共有することの重要性を説いており、自身も経営に対する思いを熱く社員に語ったといいます。

稲盛氏は、このことについて、社員に「エネルギーを転移する」(**)という言葉を使っています。社長など経営陣が全身全霊をささげて本気で思いを伝えることで、社員の意欲を鼓舞することができるのかもしれません。

2)示す

労使コミュニケーションが良好だと、経営陣と現場で働く社員の考えが一致するようになります。それを実現するには、経営陣のほうから社員に「よりどころ=行動指針」となる明確な基準を示すことが大切です。

例えば、ヤマト運輸には、創業者の小倉昌男氏が残した「サービスが先、利益は後」(***)という言葉があります。コストが掛かっても、お客様の要望に応えようとする姿勢が社員のよりどころになっているといいます。

このように、社員にとって分かりやすい言葉をつくり、それを「我が社の品質基準=行動指針」とすることも、労使コミュニケーションの一環といえるでしょう。行動指針は、社員にとって分かりやすく覚えやすいのが一番です。

例えば、「ダントツ」という言葉を社内外に浸透させた小松製作所の相談役である坂根正弘氏のように、社長をはじめ経営陣が、社員が覚えやすい新しい言葉をつくったり、あるいは造語を考えたりしてもよいかもしれません。

3)聞く

良好な労使コミュニケーションを実現するために、経営陣が社員側の考え方や意見を聞くことも大切です。例えば、直属の上司が部下の考え方・意見を聞く機会を増やし、それを上司が経営陣に伝えられる仕組みをつくるとよいでしょう。

とはいえ、部下である社員の話を聞くのは“つらい”と感じる経営陣や上司は少なくありません。部下の話は、主語がない、事実と意見が混在している、主観的過ぎて視野の狭い発言が多いなどの改善すべき点が多いためです。

加えて、経営陣や上司は多忙です。主語がなかったり事実と意見が混在していたりして分かりにくい部下の話を、「もっと分かりやすく話をして」などと、毎回聞き直してじっくり聞いている時間は確保しにくいでしょう。

そこで、月に一度など定期的に経営陣や上司が「部下の話を聞く日」をつくって徹底的に聞いてみましょう。その際、部下の話をできるだけさえぎらずに、最後まで“聞き切る”ことを心掛けることが大切です。

もちろん、日ごろから部下に、人に物事を話したり伝えたりするときには、主語・目的語・結論・時間軸などを明確にするなど、分かりやすく整然と話すよう指導することも忘れてはなりません。

4)交わす

社員が生き生きと働く会社の多くは、まず、気持ちの良い挨拶が実践できています。社員同士は「今日も一緒に頑張ろう、よろしくお願いします」という気持ちを込めているのでしょう。

社員同士が気持ち良く挨拶ができる会社は、社外の人が訪れた場合も同じように挨拶ができます。社外の人を迎える社員が、「我が社に来てくださってありがとうございます」という感謝の気持ちを込めて挨拶することができるのでしょう。

こうした挨拶を交わすことを社員に浸透させるには、まず、社長自らが明るく気持ち良く挨拶をしなければなりません。そして、それに他の取締役や上司も倣っていくことが大切です。

社長をはじめ経営陣や上司は、挨拶をしている自分の姿を鏡で毎朝確認したり、自分で録画したりして、「本当に明るく気持ち良く挨拶ができているか」をチェックしてみるのもよいでしょう。

気持ちの良い挨拶が全社員に浸透するには時間がかかります。経営陣や上司は、たとえどのようなことがあったときでも、まずは、明るく気持ちの良い挨拶を毎日欠かさず続けましょう。

また、意見・議論を「交わす」ことも必要です。前述した「聞く」にも通じますが、社員と積極的に意見・議論を交わすには、部下の話を聞く日を設けるなど、まず、経営陣や上司が部下の意見を聞く姿勢、議論する姿勢を見せなければなりません。

5)育てる

本稿では、労使コミュニケーションを実現する「伝える」「示す」「聞く」「交わす」を紹介してきました。大切なのは、これらの取り組みを実践できるような組織風土を醸成すること、そしてその組織風土を維持することです。

つまり、風土と社員を常に「育てる」ことが欠かせないということです。多くの会社が「育てる」ことの重要性を分かっていますが、実現できている会社は少ないのではないでしょうか。実現するにはまず、社長の言動が必要です。

社長が毎日気持ち良く挨拶をし、「社員が生き生きと働くことのできる会社にしよう」と決め、社員の話を聞きます。そして、時には本気で議論することを実践していかなければなりません。社員はその姿を見て育ちます。

前述の伊那食品工業の場合は、積雪の多い長野県にあるため、本社前の道路脇の溝に自動車がはまってしまうことがあるそうです。それを見た社員が他の社員に呼び掛けると、「困っている人を助けるのに理由は要らない」と、何人もの社員が自動車を引き上げるといいます。

伊那食品工業の社員がこうしたことを実践するのは、社員をはじめ会社に関わる人全てに「いい会社だ」と言ってもらえる会社になろう、という塚越氏の理念に基づきます。こうした“生きざま”を社員が常に見ていて、「自分たちもそうしよう」と思っている証しです。

4 労使コミュニケーションという呼び方が変わる?

社員の働き方は、テレワークなどに代表されるように多様化しており、今後は毎日出社する必要がない会社が増えていくかもしれません。会社と社員の関係も変わりつつある時代だからこそ、経営陣と社員が強い信頼関係を築くことがますます重要になるでしょう。

なぜなら、たとえ会社の外で仕事をしていようと、経営陣と離れたところで仕事をしていようと、自ら意欲的に仕事に取り組み、会社や同僚のことを考えて行動できるような社員を増やしていかなければならないからです。

伊那食品工業には、労働組合がありません。塚越氏は、社長と社員は「労使」ではなく、社員全員の幸せを目指す「同志」だからと言っています。これからは、“労使コミュニケーション”という呼び方も、新しく変わっていくのかもしれません。

【参考文献】

(*)「いい会社をつくりましょう」(塚越寛(著)、大久保寛司(監修)、文屋、2012年5月)
(**)「燃える闘魂」(稲盛和夫、毎日新聞社、2013年9月)
(***)「小倉昌男 経営学」(小倉昌男、日経BP社、1999年10月)
「ダントツ経営 コマツが目指す『日本国籍グローバル企業』」(坂根正弘、日本経済新聞出版社、2011年4月)
「月曜日の朝からやる気になる働き方 成功より成長を楽しむ」(大久保寛司、かんき出版、2008年12月)

以上(2019年1月)

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シーン別に押さえる「伝え方」の流儀/「断り方」編

書いてあること

  • 主な読者:ビジネス上で「断る」のが苦手なすべての人
  • 課題:なかなか相手の立場に立つことができない
  • 解決策:「意図を明確にする・気持ちを伝える・スピード感を持つ」の3つがポイント。本稿では、悪い例と良い例を具体的に挙げているので、今日からでも実践できる

1 なぜ、うまく伝えられないのか

ビジネスにおいて、「伝え方」はとても大切です。立場や考え方、仕事の進め方など、さまざまなことが異なる者同士が互いに意図を伝え、認識を共有し合って物事を判断し、進めていくのがビジネスの基本だからです。

しかし、うまく伝えられない人は少なくありません。その理由の1つに、「相手のことを考えられていない」ことがあります。伝える際の基本は、「どうすれば相手が理解しやすいか、行動に移しやすいか」と、相手の立場で考えることです。

「伝え方」の中でも、特に難しい、苦手だと感じることが多いのは「断る」ときでしょう。本稿では、「断り方」について、「意図を明確にする」「気持ちを伝える」「スピード感を持つ」という3点で考えていきます。日ごろのやり取りの参考になれば幸いです。

2 意図を明確にする

ビジネス上の依頼や誘いなどを断るときの悪い例は、回りくどいことです。断るならば、その意思を明確に伝えなければなりません。こちらは相手に気を使っているつもりでも、伝わりにくいと、相手は「どっちなの?」とかえって混乱してしまいます。

メールなど文章だけで伝えるときは、特に難しいものです。基本は誤解がないようにはっきり断りますが、機械的にならないことです。まず、悪い断り方の例を見てみましょう。このようなメールを受け取ったとして、「断っている」と分かりますか?

    • 【悪い例(1)】
    • お話、誠にありがとうございます。弊社としても親和性があるお話で、いろいろな方法が考えられると思います。ただし、申し訳ありませんが、弊社のリソース面を考慮すると、ご希望の通りに対応するのは、もしかしたら難しいかもしれません。
    • 素晴らしいお話をいただきまして大変感謝しておりますので、その分野に強い方をご紹介することはできるかもしれません。来月になれば、その方と一度お会いすることになっていますので、少しお待ちいただければ幸いです。

相手に失礼のないように配慮しているのは分かります。しかし、断っているのか、可能性があるのか、相手が分からないのでは問題です。「少しお待ちいただければ」と相手の行動を止めているのもよくありません。相手は、次のように感じるかもしれません。

    • 【悪い「断り方」をされた相手の気持ち(1)】
    • 結局、どっちなの? 本当は断りたいのに、断ったらこちら側がマイナスの評価をするとでも思っているのだろうか。それとも、少しでも自分たちのビジネスにつなげようとしているのか。意図が分からないから次に進めにくい。困る。

時と場合にもよりますが、本当に相手のことを考えるなら、明確に断るべきでしょう。こちらの「断る」という意図が伝われば、相手は、別の方法を考えるなど次の行動に移すことができます。それを妨げるようなことをしてはなりません。

また、相手との関係性にもよりますが、相手に「断りにくいのだろうか」と思わせてしまったら、それも失礼です。相手は、「言うべきことを言える間柄ではないのか」と失望してしまうかもしれません。例えば、次のような文章で明確に断るとよいでしょう。

    • 【良い例(1)】
    • お話、誠にありがとうございます。とても光栄なのですが、リソース面を考えると、お引き受けするのは難しいのが現状です。せっかくの機会、お引き受けできず、本当に申し訳ありません。またお役に立てそうな機会がありましたら、お声掛けいただけましたら幸いです。

3 気持ちを伝える

内容や相手との関係性にもよりますが、「断る」ときには、「気持ちを伝える」ことも必要です。依頼や誘いなどは、相手が期待してくれている、こちら側のことを考えてくれていることの表れです。「断る」ときでも、感謝の念をしっかり伝えましょう。

とはいえ、「断る」のは気まずいもので、相手との関係が微妙に変化することもあります。そのため、「断る」行為をすぐに終わらせたいと思うあまり、次のような「そっけない」メールを出してしまうことがあります。しかし、これはよくありません。

    • 【悪い例(2)】
    • ご案内いただきまして、誠にありがとうございます。いただきました内容について、社内で情報共有させていただきますが、今すぐには対応させていただくのが難しいのが現状です。大変申し訳ありませんが、必要があればこちらから改めてご連絡いたします。

今回はお断りをしても、今後も相手との付き合いを続けたいのなら、文章を改める必要があります。丁寧な言葉で感謝や断ることのおわびを示してはいますが、事務的で気持ちが伝わらず、相手は次のように感じるでしょう。

    • 【悪い「断り方」をされた相手の気持ち(2)】
    • そっけなく断られてしまった。忙しいところを邪魔してしまったのだろうか。それとも、何か意に沿わないことをしてしまったのかもしれない。かえって申し訳ないことをしてしまった。おわびしよう。今後は、こうした案内は控えたほうがいいのかもしれない。

相手にこうしたことを思わせないためにも、気持ちはしっかり伝えましょう。難しく考えることはありません。「光栄です」「うれしいです」「残念です」といった感情を一言添えるだけでもいいのです。例えば、次のようにです。

    • 【良い例(2)】
    • ご案内、ありがとうございます。弊社のことをとても考えてくださった内容で、本当に光栄です。ただ、今のところすぐには対応が難しいのですが、今後もこうしたご案内は、ぜひお願いしたいので、引き続きよろしくお願いいたします!

4 スピード感を持つ

「断る」ときは、スピード感も重要です。ビジネスでは、自分がボールを持ったらできるだけ早く打ち返すのが基本ですが、特に、断ったり良くない話を伝えたりするときほど速さが大切です。そのほうが、相手が次の一手を早く打てるようになるからです。

局面によりますが、話を聞いた段階で断る可能性が高いと思ったら、その場でそれを伝えます。また、相手が返事を待ってくれている段階で、断る可能性が出てきたら、それを“先出し”するのも一策です。全ては、相手が次の行動を取りやすくするためです。

「伝え方」は、使う言葉や言い回しなどテクニックで上達するわけではありません。相手の状況や立場、気持ちを想像し、常に「どのようにすれば相手が前に進みやすいか」を思って伝えることが大切です。これこそが、上手な「伝え方」の一番大切な流儀です。

以上(2019年4月)

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「やる気」のメカニズムを理解して成果の上がる指導を実践しよう

書いてあること

  • 主な読者:部下のやる気を引き出したい上司
  • 課題:部下が思ったような成果を上げてくれない
  • ポイント:本稿で紹介する意思決定のマトリクスを活用して、部下の考えを知り、指導に活かす

1 部下の「やる気」を引き出せ!

1)部下が成果を上げるために必要な5つの要素

部下を持つ上司に求められる役割の中で、最も重要なことは「部下に成果を上げてもらうこと、そして会社・部・課などが掲げている目標の達成に貢献する」ということです。しかし、上司がいくら、日々努力しても、部下が期待するような成果を上げてくれるとは限りません。むしろ、期待通りにいかないことのほうが多いと悩んでいる上司も多いのではないでしょうか。

その原因は、視点を変えて部下の立場から考えると分かりやすいかもしれません。部下が上司の期待通りの成果を上げるためには、次の5つの要素が必要です。

  • 上司が指示した業務の内容や、期待されている成果に対する理解力
  • 業務を遂行し、期待されている成果を実現できるだけの能力
  • 上司(あるいは企業)に対して「上司(あるいは企業)の期待に応えたい」という思い(貢献意欲)
  • 実際の行動に移す意思
  • より良い成果を上げるために、そのプロセスにおいて工夫・調整・継続などの努力を行う意欲(創意工夫)

部下が期待通りの成果を上げるためには、5つの要素全てが重要ですが、本稿では、「4.実際の行動に移す意思」と「5.より良い成果を上げるために、そのプロセスにおいて工夫・調整・継続などの努力を行う意欲(創意工夫)」のポイントを紹介します。

2)「やる気」を引き出すことの難しさ

「部下が期待通りの成果を上げるために必要な5つの要素」のうち、「4.実際の行動に移す意思」と「5.より良い成果を上げるために、そのプロセスにおいて工夫・調整・継続などの努力を行う意欲(創意工夫)」に共通しているのは、「意思」や「意欲」という言葉が示すように、部下の「やる気」が関係していることです。

「やる気の問題」ほど、上司にとって厄介な問題はありません。能力の問題であれば、経歴・経験などから、ある程度客観的に判断して、適材適所の配置を行うことができます。また、指導・教育を通じて能力向上のための工夫もできます。

しかし、やる気はそう簡単にはいきません。例えば、上司の手前もあり、口先では「やる気があります!」と部下は言うものの、本心ではやる気がなく、結局、期待通りの成果を上げられなかったという経験をしたことがある人は少なくないでしょう。

2 やる気のメカニズム

1)意思決定の基本マトリクスとやる気の関係

仕事に限らず、人はさまざまな意思決定を行い、それが行動となって表れます。例えば、今日のランチは何を食べるかということについて、「カレーライスにしよう!」と意思決定を行い、実際に食べに行くという行動となって表れます。そのため、やる気を理解するには、まず、人の意思決定の仕組みから考えることが必要です。

意思決定を「メリットとデメリットを比較した結果」に基づいて考えてみます。意思決定を基本マトリクスにすると次の通りです。なお、本稿では「やる気」をテーマにしているので、便宜上、意思決定の内容を「やる場合」「やらない場合」と表記します。

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4つの象限の中には、「やる」という意思決定の促進要因(AとD)と、「やらない」という意思決定の促進要因(BとC)があります。例えば、「やる」という意思決定の促進要因について見ると、「A.やる場合のメリット」があれば、「やる」という意思決定を促進する要因となります。また、「D.やらない場合のデメリット」があれば、そのデメリットを避けるために「やる」という意思決定を促進する要因となります。「やらない」という意思決定の促進要因は、これと逆になります。

人は「やる」と「やらない」という意思決定の促進要因を比較して、意思決定を行います。これを“意思決定の公式”として整理すると次のようになります。

  • A+D>B+Cの場合:「やる」という意思決定をする
  • A+D≦B+Cの場合:「やらない」という意思決定をする

(注)A+D=B+Cの場合は、「やっても、やらなくても同じ」状態なので、「やらない」という意思決定をすることになります。

2)簡単な例で考えてみる

例えば、「新規顧客を開拓する」という新たな業務に対する部下の思いを「意思決定の基本マトリクス」に従って整理すると次の通りとなります。

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なお、人の意思決定は「やる場合」「やらない場合」という単純な二者択一ではありません。同じ「やる場合」でも、「積極的にやる」「最小限の範囲でやる」といったようにやる気には濃淡があります。この差は、「やる」という意思決定の促進要因と、「やらない」という意思決定の促進要因の差として考えることができます。

例えば、「A+D>B+C」であれば人は「やる」という意思決定をしますが、同じ「A+D>B+C」の状態であっても次のような場合では、後者のほうが、より積極的に「やる」ことになります。

  • 「A+D=5」>「B+C=4」
  • 「A+D=10」>「B+C=1」

もちろん、人の意思決定をこのように単純化して考えることはできません。しかし、まずは、こうした考え方を押さえておくことが、部下に期待通りの成果を上げさせるための第一歩となるのです。

3)部下のやる気を高めるための基本的な指導方針

ここまで紹介したことから、部下のやる気を高め、期待した成果を上げさせるために上司が取るべき基本的な指導方針として次のような点が明らかになります。

  • 「A.やる場合のメリット」と「D.やらない場合のデメリット」を最大化する
  • 「B.やる場合のデメリット」と「C.やらない場合のメリット」を最小化する

前述した新規顧客開拓における指導方針(例)は次の通りです。

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3 期待した成果を上げさせるために上司が注意すべきこと

1)部下の考えや思いを把握するよう努力する

部下を効果的に指導するためには、最初に部下の考えや思いをできるだけ正確に把握することが必要です。人はメリットとデメリットを比較して意思決定を行っていても、「何がメリット(デメリット)なのか」といった判断は、意思決定を行う人(この場合は部下)の主観によって異なります。

そのため、部下の考えや思いを把握することができれば、より効果的な指導が行えるようになります。とはいえ、部下の考えや思いを知ることは容易ではありません。特にやる気を低下させる要因となる「B.やる場合のデメリット」や「C.やらない場合のメリット」については注意が必要です。

これらは「部下に積極的に仕事に取り組み、成果を上げてもらいたい」という上司の考えと相反するものです。そのため、上司が直接話を聞いても、部下は本音を話しません。従って、上司は、直接聞いた話はもちろんですが、日ごろの言動など部下に関するあらゆる情報を基に部下の考えや思いを把握する必要があります。

また、「自身が部下の立場だったらどう思うか」ということを考えてみることも大切です。部下の考えや思いを知るためには、このようにさまざまな角度から考えてみるようにしましょう。

2)指導の基本的な方向性を理解する

部下の考えや思いを把握したら、それに見合った指導を行います。基本的には「『A.やる場合のメリット』と『D.やらない場合のデメリット』を最大化する」ことと、「『B.やる場合のデメリット』と『C.やらない場合のメリット』を最小化する」ことになります。一般的には、最初の第一歩を踏み出してもらいたいときにはA、B、Cを重視した指導、継続的に取り組んでもらいたいときにはA、Bを重視した指導を、それぞれ行うとよいでしょう。

また、いずれの場合にも「D.やらない場合のデメリット」を最大化する指導は好ましくありません。「D.やらない場合のデメリット」は罰則を科すなど、脅しが中心です。脅しは簡単に行え、期待した成果も得られやすい指導方法です。しかし、脅しによって開始、継続された行動は、部下の本心からのものではないので、自発性や発展性は望めません。また、上司に対する感情的な反発や、面従腹背の恐れがあります。場合によっては、パワハラと言われて問題となる可能性もあるため注意が必要です。

従って、「D.やらない場合のデメリット」を取り入れた指導は、非常事態を除いて、避けたほうがよいでしょう。

3)冷静な指導を心掛ける

本稿で紹介した内容を踏まえて部下に対する指導を行おうとしても、「指導内容をうまく伝えることができない」、あるいは「適切な指導を行ったと思っていたものの、部下には指導内容が正確に伝わっていなかった」ということもあるかもしれません。その一因は、上司が自身の感情に流されてしまうことにあるようです。部下には、必要なことを、適切な話し方で伝えなければなりません。しかし、「ついカッとなる」「くどくど叱る」、あるいは「面倒くさい」「必要ないことまで話したいという気持ちを抑えられず話してしまう」など、感情に流されてしまうことが多いようです。

部下への指導は、自分の感情をコントロールし、冷静に行う必要があります。もちろん、時には「叱る」という行為も必要です。しかし、それは「冷静に目的を認識し、言葉や口調にも注意を払いながら叱る」ようにし、決して感情的対処となってはいけません。常に冷静な気持ちで部下に接し、伝えるべき内容をしっかりと伝えるということが、適切な指導を行う上では重要となるのです。

以上(2019年7月)

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画像:pixabay

採用率がアップする人材紹介の使い方

書いてあること

  • 主な読者:人材紹介を使って採用をしたい経営者、採用担当者
  • 課題:こちらの意図した人材が紹介されてこない。また、相手の担当者をうまくコミュニケーションが取れない
  • 解決策:人材紹介の仕組みを理解し、上手く求職者に情報を伝達するようにする

1 採用率を上げるキーパーソンは誰だ?

成功報酬型の「有料人材紹介サービス」(以下「人材紹介」)は、求職者の紹介を受けるだけなら費用は掛からず、採用に至った場合は、年収の30~35%を紹介料として企業が人材紹介会社に支払う仕組みです。

紹介料は決して安くありませんが、人材採用難の中、今では人材紹介を取り入れる中小企業が急速に増えています。ところが、人材紹介を使いこなしている中小企業の経営者は多くないようです。

人材紹介では多くのプレーヤーが登場するため、うまく使わないと“伝言ゲーム”になってしまいます。そして何より、自社を担当する「企業担当者」とのコミュニケーションが大事です。

2 人材紹介は企業担当者を介した“伝言ゲーム”

1)基本的なスキーム

企業と求職者を結び付けるという意味では、人材紹介の仕組みはシンプルです。しかし、そのスキームには数多くのプレーヤーが登場し、さまざまな情報が“伝言ゲーム”のようにやり取りされます。基本的な人材紹介のスキームを確認してみましょう。

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企業サイドには企業担当者、求職者サイドには「キャリア・アドバイザー」(以下「CA」)が付いて、それぞれの活動をサポートします。人材紹介会社によって企業担当者やCAの名称は異なりますが、役割は同じです。

また、企業担当者にはアシスタントが付きます。アシスタントは、主に企業とCAの間に入って面接などのスケジュール調整を行います。通常は、複数の企業担当者に1人のアシスタントが付く体制になっています。

2)“伝言ゲーム”の流れ

企業の求人票や、求人票では表現しにくい職場の雰囲気などの情報は、企業担当者からCAに伝えられ、CAが求職者に紹介します。求職者が自社に応募してきたら、その情報はCAから企業担当者に伝えられ、企業担当者が企業に紹介します。

求職者の応募後、企業は本格的な選考に入ります。この段階で重要になるのは、面接では明らかにされにくい求職者の本音や、併願先の選考状況などの情報です。これらの情報は、CAが求職者から聞き出して、企業担当者を通じて企業に伝えられます。

企業は、そうした情報を基に情報戦を繰り広げます。例えば、求職者が「働きやすさ」を重視していることが分かったら、企業担当者を通じて、社内イベントで社員が和やかに談笑している画像などを求職者に提供し、自社をアピールします。

3)企業担当者は企業の味方

このように、企業担当者は企業の情報源であり、宣伝係であり、アドバイザーでもあります。そして、企業担当者は良好な関係を築いている企業を強く応援します。そのため、企業は企業担当者と積極的にコミュニケーションを取ったほうが有効的なのです。

では、企業担当者と良好な関係を築くためにはどうしたらよいのでしょうか。次章で、大手人材紹介会社で働く複数の企業担当者から聞いた、「企業担当者がサポートしやすい企業」の特徴を紹介します。

3 企業担当者がサポートしやすい企業とは

1)事業内容を丁寧に説明する

人材紹介は、企業が企業担当者に事業内容と採用したい人材像を伝えることからスタートします。企業担当者の業界知識はほぼ期待できません。事業内容は、会社案内やウェブサイト、実際の商品などを見てもらいながら、時間を掛けて丁寧に説明します。

執務スペースや工場も見学してもらい、できれば2~3人の社員と話をする機会を設けましょう。企業担当者は、現場の雰囲気を体感することで企業に対する理解が深まり、パートナーとしての意識も高まります。

2)「人柄や性格に関する軸」は実際に会って判断する

採用したい人材像は、「キャリアに関する軸(中途採用の場合、職務経験や希望年収など)」と「人柄や性格に関する軸(明るく元気である、勤勉であるなど)」に分けて伝えると、企業担当者が整理しやすくなります。

ただし、人柄や性格に関する軸を満たすのは難しいものです。求職者は自分を良く見せるために、明るさや勤勉さを必ずといってよいほどアピールしてきますが、本当にその通りなのは一部だからです。

人柄や性格は会って確かめるしかありません。そのため、書類選考の合格基準は少し低めに設定するのも一策です。会ってみると、意外と優秀な求職者に出会えることがありますし、企業担当者も多様な求職者を紹介しやすくなります。

3)難題でもぶつけてみる

かなうかどうかは別として、企業が採用したい人材像は「言ったもの勝ち」のところがあります。例えば、「育児が一段落して、もう一度働き始めようとしている女性」といった一見難しそうな人材像でも、企業担当者に伝えればそれなりに探してくれます。

人材紹介を使い慣れていない企業は、企業担当者に遠慮して、このような難題をぶつけません。しかし、企業担当者の印象はこれとは違っていて、「難題をぶつけられるほど、自分は頼りにされている」と意気に感じることが多いものです。

4)携帯電話に連絡をする

大手人材紹介会社に勤める中小企業マーケットの企業担当者の場合、1人当たり100社以上のクライアント(企業)を受け持っています。そのため外出が多く、人材紹介会社に電話をしてもつかまりにくいため、携帯電話に連絡するのが基本です。

また、比較的遅い時間に連絡をしても大丈夫なことが多いようです。現職がある求職者との面接は18時以降になることが多いのですが、面接後に企業担当者と携帯電話で作戦会議をすることも珍しくありません。

5)アドバイスに耳を傾ける

企業担当者は、「自分が担当するクライアント(企業)の採用活動をサポートしたい」という強い思いを持っています。個人差はありますが、「自分のアドバイスが奏功してクライアント(企業)が採用に成功する」ことが高いモチベーションになっています。

それにもかかわらず、企業が自分のアドバイスに聞く耳を持ってくれなければ、企業担当者は、自分のアドバイスは必要とされていないと考え、求職者を紹介するだけになります。こうなってしまうと、収集できる情報が限られ、採用活動に支障を来します。

企業には採用に対する独自の考えがあり、それが企業担当者のアドバイスと違うこともあります。ただし、企業担当者は採用のプロです。アドバイスを実践するか否かは別として、企業担当者のアドバイスに聞く耳を持ったほうが得になるのです。

6)良好な関係を築こうとしている

中小企業の場合、社長が企業担当者と打ち合わせをすることが多く、打ち合わせ後、そのまま2人で飲みに行くことも珍しくありません。こうした場を持つことで、企業担当者との関係性が強化されることもあります。

この他にも、以前にその人材紹介会社を通じて採用した社員が元気に働いている姿を見せるのも、企業担当者の“やる気をくすぐる”良い方法です。企業担当者は、自分が紹介した人材が幸せに働いているのかを気にしているものです。

7)CAを味方にする

以上のポイントに配慮する企業のことを、企業担当者は「働きやすそう」「オープンな社風」などと高く評価し、これをCAに伝えます。CAは良い企業を求職者に紹介したいため、企業担当者からの情報を踏まえて、評判の良い企業を求職者に紹介します。

4 企業担当者を代えてもらう

前章で「企業担当者がサポートしやすい企業」を紹介したのは、企業担当者に迎合するという意味ではなく、人材紹介のスキームでは、企業担当者がとても重要な役割を担っていることを説明したかったからです。

もう一面から考えると、理解力やコミュニケーション力などが乏しい企業担当者は、企業のパートナーとして不適切です。企業担当者が次の項目に幾つも当てはまり、指摘をしても改善されないなら、人材紹介会社に変更を申し出ることもやむを得ません。

  • 何度説明しても、事業内容を正しく理解してくれない
  • 何度説明しても、紹介されてくる求職者が自社の希望に近付かない
  • 約束した日時に連絡をしてこない。ひどい場合には忘れている
  • 連絡を避けてほしいと伝えた時間帯でも、お構いなしで連絡をしてくる
  • 紹介されてくる求職者の面接キャンセルが多い
  • 面接後、催促をしなければ求職者の感想を教えてくれない
  • CAとの連携がうまくいっていないようだ
  • 求職者に伝えてほしいと依頼した内容が伝わらない
  • 求職者の併願先の情報がほとんど上がってこない
  • 1カ月間の紹介が0件でも、一切連絡をしてこない

企業担当者に情が移ることもありますが、頼りにならない企業担当者と付き合っていても採用のチャンスを逃すだけです。こうした意味でいうと、人材紹介を使う際、企業が最初に採用するのは、求職者ではなく企業担当者ということになります。

5 企業担当者と連携した採用活動

1)まずは求職者の本音を引き出す

企業担当者とのやり取りが重要になってくるのは、本格的な選考に入ってからです。特に中途採用の場合、求職者には「自社に転職する、併願先に転職する、転職をやめて現職にとどまる」という3つの選択肢があります。

自社に入社してもらうために、企業はライバルとなる併願先や求職者の現職よりも自社のほうが優れているポイントを見つけ、求職者にアピールしなければなりません。そのために、求職者の本音と自社の印象を企業担当者に質問し、情報を得ましょう。

すると、「併願先はA社とB社です。また、他の人材紹介会社を通じた先もあるようです。面接後のアンケートでは御社を第1候補と回答していますが、恐らくA社の意欲が高く、御社は2番手だと思います」といった情報を得られることがあります。

次に企業担当者に質問するのは、求職者が転職に際して重視している軸です。求職者が年収アップを重視しているのなら、募集条件の変更を検討します。そうではなく、キャリアアップを重視しているのなら、キャリアプランを提示します。

2)併願先の弱点を突く

併願先の弱点も、企業担当者を通じて探ります。例えば、「併願先A社の人事部は厳しい。求職者が現職のトラブルで面接に10分遅刻したところ、事前に連絡していたにもかかわらず『始末書』を書かされた」といったケースがあったとします。

併願先A社のような不寛容な姿勢を、企業担当者とCAは快く思っていないはずです。そこで、自社はそれを逆手に取り、真摯で寛容な姿勢を示すことで企業担当者とCAを味方に付け、自社のことを求職者に強く勧めてもらいます。

求職者に家族がいたら、その意向も探ります。転職先選びには、家族の意向も影響します。もし、家族も併願先A社の対応を嫌悪していたら、次の面接の際、「ご家族にも当社のオープンな社風をお伝えください」と一言添えて、家族にも自社をアピールします。

3)交渉に応じるか否かを決める

企業担当者が求職者に面接のアドバイスをすることもあり、求職者の心理をある程度理解しています。例えば、求職者が年収アップを提示するのはよくあることです。企業担当者は、それが譲れない条件なのか、軽い気持ちなのかを感覚的に判断しています。

企業にとって年収は重要な募集条件です。求職者が年収アップを提示してきたら、企業担当者の意見を聞いてみましょう。すると、「『そうなったらいいな』くらいの気持ちのようなので、聞き流していいと思います」といった回答を得られることもあります。

4)求職者に直接メッセージを送る

人材紹介の仕組みでは、面接以外の場で企業が直接求職者と話をすることはできません。一方、最後の一押しなど、どうしても自分の言葉で求職者に伝えたいことがあります。そのような場合は、手紙やメールを書き、企業担当者を通じて求職者に送ります。

こうしたメッセージは、面接をした直後であったり、週末に考えてもらうために金曜日の夜であったりと、送るタイミングも重要です。企業担当者に意図を伝え、指定した時間に送ってもらうようにします。

5)貴重な情報を聞き出せるかも?

企業担当者は、口頭なら教えてくれそうでも、文書やメールには残せない情報を持っています。関係が良好なら、飲みにケーションなどのときに、さわりだけ教えてくれるかもしれません。その情報は採用活動を進める上で有益なものになるでしょう。

6)全ては企業担当者との良好な関係があってこそ

人材紹介を使って採用率をアップするためのキーパーソンは、企業担当者であることがお分かりいただけたことでしょう。企業は、付き合っていく企業担当者を妥協せずに選び、さまざまな情報を引き出しながら採用活動を進めていくことが大切です。

以上(2019年10月)

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