時効/改正民法が分かる(2)

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像を知りたい
  • 解決策:時効のポイントを紹介(シリーズの他のコンテンツもあります)

1 原則的な消滅時効期間と起算点の改正

1)消滅時効とは

消滅時効とは、一定期間行使されない権利を消滅させることです。改正民法第166条第1項では、次のいずれか早い時点で消滅時効が完成すると定められました。

  • 旧民法と同じく、権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間の時効期間
  • 権利を行使することができることを知った時(例えば、代金などを請求することができることを知った時。債権者の主観を基準とするので、主観的起算点という)から、「5年」が経過した場合

まず、確定期限の定めのある債権です。これは、合意内容として弁済期が○年○月○日と定まっている場合であり、債権者は具体的な弁済期を認識しています。弁済期に支払いがなければ、即座に債務者に対して支払いを命じることができます。つまり、「権利を行使することができることを知った時」が、弁済期(厳密には弁済期が経過した翌日)であり、この日から5年間で消滅時効が完成します。

次に、不確定期限の定めのある債権や条件の定めのある債権です。例えば、Aさん(債務者)が新しい車を買ったら、Bさん(債権者)に古い車をあげるという約束をしたとします。Bさん(債権者)は、Aさん(債務者)から車を買ったと聞いて初めて、条件の成就を知ります。この場合、「債務者が車を購入したときから10年間」「債務者が車を購入したことを知ったときから5年間」のいずれか早いタイミングで消滅時効が完成します。

最後に、期限の定めのない債権です。例えば、代金について、いつでも請求されたら支払うと合意した場合です。この場合、原則としていつでも権利を行使でき、債権者もそのことを合意時から知っているので、合意時から5年間で消滅時効が完成します。

2)実務上の留意点

時効期間と起算点の判断は複雑ですが、債権者は「これまでの消滅時効期間に加えて、『知った時から5年』という消滅時効期間が追加された。これによって消滅時効の完成が早くなることがある」ことを押さえておきましょう。また、条件が成就した場合や期間の定めがない場合、この事実を債権者に知らせることで、そこから5年で消滅時効が完成するという点も重要です。

補足ですが、改正民法では商行為によって生じた債権についての規定は削除され、同債権についても改正民法第166条第1項が適用されます。

3)経過措置

2020年4月1日より前に債権が生じた場合またはその発生原因である法律行為が既に行われている場合、その債権の消滅時効の期間については、旧民法が適用されます(附則第10条第4項、第1項)。

2 職業別の短期消滅時効の廃止

旧民法で定められていた、職業別の短期消滅時効については廃止され、前述した「1 原則的な消滅時効期間と起算点の改正」の内容に統一されました。職業別の短期消滅時効とは、「医師の診療報酬債権や工事に関する債権は3年間、生産者や卸売商人・小売商人が売却した代金債権などは2年間、旅館や飲食店の宿泊料や飲食料については1年間」とされていた消滅時効のことです。

3 生命・身体侵害による損害賠償請求の消滅時効の改正

改正民法では、人の生命または身体の侵害による(債務不履行を理由とする)損害賠償請求権の消滅時効は、「主観的起算点から5年間、権利を行使することができる時から20年間」とされました(改正民法第167条)。生命・身体という法益の重要性を考慮し、これらの侵害による損害賠償請求権の行使については長い消滅時効期間が定められました。

また、人の生命または身体を害する「不法行為を理由とする」損害賠償請求権についても、「1.被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から5年間」「2.不法行為の時から20年間」の、いずれか早い時点という時効期間が設けられています(改正民法第724条の2および改正民法第724条)。旧民法より時効期間が長くなり、被害者救済の余地が広がりました。

なお、改正民法第724条の2の規定については、経過措置に注意しましょう。旧民法の3年の短期消滅時効が改正民法の施行日(2020年4月1日)時点で完成していない場合、時効期間は5年間になります(改正民法が適用されます)。

4 協議を行う旨の合意による時効の完成猶予の新設

改正民法では、協議が行われている場合に、時効が完成しないよう猶予する制度が新設されました(改正民法第151条)。この制度を利用する場合、「協議を行う旨の合意が存在すること」および「その合意が書面でされること」が必要です(合意は電磁的記録によるものも含みます(改正民法第151条第4項))。この合意があれば、次のいずれか早い時まで時効は完成しません。

  • その合意があった時から1年を経過した時(改正民法第151条第1項第1号)
  • 合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る)を定めたときは、その期間を経過した時(改正民法第151条第1項第2号)
  • 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6カ月を経過した時(改正民法第151条第1項第3号)

なお、この制度を利用して書面で合意したものの協議が整わず、さらに協議を続けたい場合は、猶予期間中に再度書面による合意をすることで、猶予期間をさらに延長することができます。延長は通算して5年間までです(改正民法第151条第2項)。

時効完成が迫っているが協議が継続している場合、これまでのように訴訟提起をするのではなく、協議の合意書面を作成します。合意書面の例は次の通りです。

【協議合意書(例)】

甲および乙は、甲が乙に対して主張する○○に係る○○請求権(以下「本件請求権」という。)につき協議が続いているところ、本件請求権の時効の完成猶予のため、本件請求権の存否、内容、履行条件などについて協議を行う旨を以下の通り合意する。

第1条
甲および乙は、本件請求権について協議を行う旨相互に確認する。

第2条
甲および乙は、本合意書締結日から10カ月が経過するまで(【○年○月○日まで】)または協議が成立するまでのいずれか短い期間、前条の協議を行う。

第3条
甲および乙は、乙が、本合意により、本請求権につき何らの承認をしたものでもなく、消滅時効の援用権を放棄したものでもないことを確認する。

本合意書の締結を証するため本書2通を作成し、甲乙記名捺印の上各自1通を保有する。

○年○月○日
  甲・・・
  乙・・・

なお、この規定は、改正民法の施行日前に権利についての協議を行う旨の合意が書面でなされた場合は適用されません(附則第10条第3項)。

5 天災などによる時効の完成猶予の改正

時効期間の満了前に、天災その他避けることができない事変のために時効中断手続きを行うことができないときは、その障害が消滅した時から一定期間が過ぎるまで、時効は完成しません。改正民法では、この時効完成猶予期間を、「その障害が消滅した時から3カ月を経過するまでの間」としました(改正民法第161条)。実務上も、その障害が消滅したときから3カ月以内に、時効中断のための対応を行う必要があります。

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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保証、定型約款、錯誤/改正民法が分かる(1)

書いてあること

  • 主な読者:2020年4月に改正された民法のポイントを知りたい経営者
  • 課題:改正の断片的な情報しか把握していないので、全体像を知りたい
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1 保証の改正

1)個人根保証契約とは

保証契約とは、主債務者がその債務の支払をしない場合に,主債務者に代わって支払をする義務を負うことを約束する契約です。保証契約にはいくつか種類があり、その中でも根保証契約とは、一定の範囲に属する不特定の債務について保証する契約をいいます。個人根保証契約とは、個人(保証人が法人ではないもの)の根保証契約のことです。根保証とは、継続的な取引から生じる不特定の債務(保証の対象となる債務、主債務のこと)を保証するものです。

旧民法第465条の2では、根保証契約のうち、個人貸金等根保証契約についてのみ、極度額を付す必要がありました。個人貸金等根保証契約とは、貸金等債務(金銭の貸し渡しまたは手形割引を受けることによって負担する債務)について個人が根保証するものです。改正民法では、これに限らず、全ての個人根保証契約で極度額を定めなければならず、これがなければ、保証の効力は生じません(改正民法第465条の2第2項)。

例えば、不動産賃貸借契約、継続的取引契約における代金支払債務などでは、個人が根保証しているケースが多いので、極度額の設定が必要になります。ただし、極度額があまりに高額だと公序良俗違反(改正民法第90条)として無効になる恐れがあるので、弁護士などの専門家のアドバイスを受けるとよいでしょう。

なお、2020年3月以前に締結された契約は旧民法が適用されますが、更新または再契約の場合は留意が必要です。このタイミングで新たな根保証契約が締結されたものと評価されるのであれば、保証の効果が失われないように極度額を定める必要があるからです。

2)事業資金の個人保証における公正証書の作成

事業のために負担した貸金等債務を個人保証する場合や、主たる債務の範囲に事業のために負担する貸金等債務が含まれる個人根保証をする場合、原則として、契約締結日前1カ月以内に作成された公正証書で保証債務を履行する意思を表示していなければ、保証契約の効力は生じません。

この改正は、保証人の保護のために行われました。事業資金の貸付金の保証や、事業のための債務の根保証は金額が大きくなりがちですが、それを十分に認識しないまま保証を行った結果、生活の破綻を余儀なくされるケースがあります。そこで、保証債務履行の意思を厳格な手続きで確認することになったのです。

ただし、例外があります。いわゆる「経営者およびこれに準ずるもの(主債務者が法人の場合における理事や取締役等、主債務者が個人の場合における共同事業者等)」が保証人となる場合は、公正証書を作成しなくても保証契約を締結できます(経営者保証等の例外・改正民法第465条の9の各号)。

3)主債務者の情報提供

改正民法では、主債務者は、事業のために負担する債務について保証人になることを委託する場合は、相手(個人のみ)に、財産・収支・負債の状況などの事項に関する情報を提供する義務が定められました(改正民法第465条の10第1項)。提供すべき情報は次の通りです。

  • 財産および収支の状況
  • 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額および履行状況
  • 主たる債務の担保として他に提供し、または提供しようとするものがあるときはその旨およびその内容

主債務者が情報提供をしなかったり、事実と異なる情報を提供したりしたために、委託を受けた保証人がその事項について誤認をし、それによって保証契約を締結したとします。この場合、債権者が、主債務者の情報不提供や不実情報提供の事実を知りまたは知ることができたときは、保証人による保証契約を取り消すことができます(改正民法第465条の10第2項)。

このような理由による取消しの主張を防ぐため、保証契約締結の際の手続きに注意しましょう。同時に、保証契約書の中で係る義務が履行されたことを確認する文言を入れ、手続きが正しく履行された旨を書面に残すといった対応を検討するべきでしょう。

2 定型約款の新設

1)定型約款とは

大量の定型的な取引を迅速かつ効率的に行うため、一方の契約当事者があらかじめ一定の契約条項を定めた約款を用いる取引が広く行われています。しかし、旧民法には、約款に関する規定がなく、法的拘束力を認める根拠が明らかではありませんでした。

そこで、改正民法では、一定の要件を満たす約款を「定型約款」とし、法的拘束力を認めることとしました(改正民法第548条の2ないし第548条の4)。定型約款とは、次の要件に該当するものをいいます(改正民法第548条の2第1項柱書)。

  • ある特定の者が、不特定多数を相手方とし、
  • 取引内容の全部または一部が画一的であることが双方にとって合理的な取引において
  • 取引契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体

具体的な取引類型としては、鉄道・バス・航空機などの旅客運送、電気・ガス・水道の供給取引、保険取引、預金取引が挙げられる他、旅行、宿泊、ソフトウエア購入ライセンス、上記1、2を満たすインターネット経由の取引なども考えられます。

2)みなし合意の要件と不当条項

上記1)の1、2を満たす「定型取引」を交わすことに合意した者は、次のいずれかの要件を満たすことで、定型約款の各条項について合意があったとみなされます。

  • 定型約款を契約の内容とする旨の合意をした場合(改正民法第548条の2第1項第1号)
  • 定型約款を準備した者が、あらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していた場合(同項第2号)

1、2のいずれかの場合は、当事者が定型約款の個別の条項を把握していなくても、定型約款の各条項について合意したものとみなされます(「みなし合意」。改正民法第548条の2)。ただし、定型約款に不当な条項があると衡平の観点から問題が生じます。そこで、改正民法では、定型約款に不当条項が含まれている場合、その条項に対するみなし合意は成立しないこととしています。具体的には、次を満たすものが不当条項に当たります(改正民法第548条の2第2項)。

  • 相手方の権利を制限し、または相手方の義務を加重する条項であって、
  • その定型取引の態様およびその実情並びに取引上の社会通念に照らして、
  • 民法第1条第2項に規定する基本原則(信義誠実の原則)に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるもの

なお、本条と似た規制が消費者契約法第10条にもありますが、判断基準が異なります。消費者契約法では、「民法、商法、その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合と比べて」不当性が判断されますが、定型約款については上記2の通り、「その定型取引の態様およびその実情並びに取引上の社会通念に照らして」不当性が判断されます。消費者取引に約款を用いる企業としては、消費者契約法と改正民法の両方を確認する必要があります。

3)実務上の留意点

契約書と別に約款を用いている場合、約款が定型約款の要件を満たしているかを確認しましょう。定型約款に当たる場合、みなし合意の成立要件を満たしているか確認します。例えば、定型約款を契約の内容とすることをあらかじめ示しているかなど、契約手続き・手順を見直します。

具体的には、契約書に「本契約には、契約締結時点の定型約款『○○』が適用されます」という文言があるかを確認します。また、インターネット上で契約をする場合は、合意画面までの画面遷移の中で、「本契約には、契約締結時点の定型約款『○○』が適用されます」という表示をしているか確認する必要があります。約款を表示して、同意のチェックボックスのクリックを求めるほうが確実です。

4)経過措置

定型約款については、経過措置があります。附則第33条第1項により、改正民法第548条の2から4までの規定は、2020年3月以前に締結された定型取引に係る契約についても適用するとされています。ただし、例外として、契約の一方当事者により反対の意思表示が、改正民法施行日前までに書面または電磁的記録でされた場合は、改正民法は適用されません(附則第33条第2項、第3項)。

定型約款を用いる企業は、相手方の同意なく定型約款の変更ができる(改正民法第548条の4)ため、当該変更を予期していなかった相手方を保護するための決まりです。顧客から改正民法施行日前までに約款の適用反対通知が届いた場合(メールも含む)は、当該顧客との関係では改正民法が適用されず、定型約款の効力を巡って争いが生じ得る旨を認識しておきましょう。

3 錯誤(意思表示の瑕疵)の改正

改正民法では、意思表示の規定(旧民法第93条~第98条の2、心裡留保、錯誤、詐欺、強迫、遠隔者に対する意思表示)についても改正されました。「錯誤」については、法的効果が改められており、実務上影響があるので簡単に触れます。

錯誤とは、意思表示の主体が、内心と意思表示との不一致を知らない場合や、法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する場合をいいます。商品Aを買おうと思っているのに、「Bを下さい」と言ってしまう場合や、ある目的を達成するために商品Aを購入しようとしているが、実際はAの機能を全く誤解していた場合です。

このような場合、旧民法では意思表示自体が、原則「無効」とされています(旧民法第95条)。しかし、改正民法では、錯誤による意思表示の効果が、「無効」から「取消し」となりました。「無効」は、何らの行為等がなくても当然に意思表示の効力が発生しません。「取消し」は、取消しの意思表示を行うことで初めて当該意思表示の効力を否定することができます。また、取消権は期間制限(追認することができるときから5年間。改正民法第126条前段)を受けます。

以上(2020年11月)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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用語が分かれば理解しやすい! 民法改正を読み解く用語集

書いてあること

  • 主な読者:分かるようで分からない民法の用語を正しく理解したいビジネスパーソン
  • 課題:日常で使用している用語と意味が違ったり、聞き慣れなかったりする用語が多い
  • 解決策:弁護士がピックアップした、要注意な用語から押さえる

このシリーズでは、民法で頻出する次の用語の意味を、前後編に分けてご紹介しています。

  • 前編で紹介している用語
    法律全般(内容証明郵便、公正証書、供託、確定期限、条件付法律行為(停止条件・解除条件)、信義則、権利の濫用、善意、悪意、権限、権原、重過失、錯誤、心裡留保、取消し、無効、地位の移転、地位の留保、特定物・不特定物)、時効(時効、時効期間、時効の完成、時効の完成猶予と更新)、保証(保証、根保証、極度額、個人貸金等根保証契約)
  • 後編で紹介している用語
    債権総論(債権者代位権、詐害行為取消権(債権者取消権))、取引総論(無過失責任、契約不適合責任、危険負担、不可抗力、反対給付)、契約各論(双務契約、要物契約、有名契約(典型契約)、無名契約(非典型契約)、定型約款、消費貸借契約、委任契約、請負契約)、執行・保全(仮差押え、差押え)
本稿は前編です。
後編については、次のコンテンツに記載されています。合わせてお読みください。

1 法律全般

1)内容証明郵便

内容証明郵便とは、郵便局が、1.いつ、2.誰に対して、3.どのような内容の郵便を発送したかを証明してくれるサービスです。なお、通常は内容証明郵便を発送する際、書留郵便として、配達証明を付けます。そうすると、4.相手にそれがいつ届いたのかも明らかになるため、契約解除や金銭請求、時効に関する通知などについて、裁判を見据えた効果的な証拠として発送することができます。

2)公正証書

公正証書とは、公証人がその権限に基づいて作成する文書です。公証人は、裁判官、検察官、弁護士あるいは法務局長や司法書士など長年法律関係の仕事をしていた人の中から法務大臣が任命します。公正証書は、改ざんや変造の心配がなく、また、内容によっては裁判を経ずに強制執行が可能となることから、金銭消費貸借や債務弁済、遺言、離婚などの場面において作成されることがよくあります。

3)供託

供託とは、金銭・有価証券などを供託所に提出して、その管理を委ね、最終的には供託所がその財産をある人に取得させることによって、一定の法律上の目的を達成するための制度です。例えば、賃借人が、賃貸人から賃料の受領を拒否されたり、賃貸人が行方不明になったり、誰が賃貸人か分からなくなったような場合に、供託をすると賃料債務を履行したことと同じ効果が生じます。

4)確定期限

確定期限とは、到来する期日が確定している期限をいいます。

5)条件付法律行為(停止条件・解除条件)

条件付法律行為とは、条件の成否が確定すると、効力が確定する法律行為をいいます。条件には大きく停止条件と解除条件があります。

  • 停止条件
    法律行為の効力の「発生」が将来の不確実な事実にかかっている場合を停止条件といいます。
  • 解除条件
    法律行為の効力の「消滅」が将来の不確実な事実にかかっている場合を解除条件といいます。

6)信義則

信義則とは、信義誠実の原則のことを指し、具体的には、契約関係等にある当事者は、「相互に相手から期待される合理的な行動を取るべきであり、相手方の信頼を不当に害さないようにしましょう」といった行動準則のことをいいます。法律では十分に具体化されていない点を補うための法理として使用されることがあります。

7)権利の濫用

権利の濫用とは、信義則と同様、人々の行動準則になるもので、外見上は単純な権利の行使のように見えるものの、実際には権利の行使として認めることが社会的に妥当とはいえないため、権利行使を認めるべきではないような場合に当該権利行使を禁止する法理として用いられます。信義則と同様、法律では十分に具体化されていない点を補うための法理として使用されます。

8)善意

法律効果に一定の影響を及ぼす可能性のある事実等を知らないことをいいます。一般的な場面では他人のためを思う親切心など道徳的な評価の意味合いで使用されますが、法律用語として使用する場合は、単に「知っているか/知らないか」という意味になります。

9)悪意

前述した善意の反対の意味で、法律効果に一定の影響を及ぼす可能性のある事実等を知っていることをいいます(善意の用語解説もご参照いただければと思います)。

10)権限

契約や法律等に基づいて、他人に対して行うことができる権利・権力のことをいいます。

11)権原

ある特定のことを行うことができる、法律上の原因、法的根拠をいいます。

12)重過失

法律上、契約上の義務違反や不注意の程度が大きい場合をいいます。どのような場合に重過失となるかを一般的に説明することは難しいのですが、容易に結果を予見できる(予見すべき)危険な事象や契約違反を漫然と見過ごして(もしくは予見しておきながら)、そのような結果が生じないように結果を回避することを怠った場合(ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態)といえるでしょう。

13)錯誤

1.Aを購入しようとして、誤ってBを購入してしまったように、何らかの意思表示をした人が意思表示に対応する意思を欠いていたり、2.Aには特別な機能が付いていると考えて購入したものの、実際には特別な機能が付いていなかったりした場合のように、法律行為の基礎とした事情についての認識が真実に反するような場合、一定の要件の下、錯誤に基づく法律行為があったとして、当該法律行為を取り消すことができます。

14)心裡留保

売買契約をするつもりがないのに、冗談で「君と契約をしてあげるよ」などと述べる場合のように、意思表示を行う者が、自己の真意と意思表示の内容が食い違っていることを知りながら意思表示を行うことを心裡留保といいます。このような意思表示も原則として有効ですが、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、または知ることができたときは、その意思表示は無効とされています。

15)取消し

いったん有効に効果が生じた法律行為を、一定の事由が生じたことを理由に、取消権者の意思表示によって遡及的に無効とすることを「取消し」といいます。後述する無効と異なり、いったん有効に効果が生じているため、取消権を放棄して効果を確定的なものにすることもできます。これを「追認」といいます。

16)無効

法律行為や意思表示があったものの、そもそも法律効果が発生するための要件を満たさないため、最初から効果が生じないことを「無効」といいます。取消しと異なり、無効事由は、当初から問題があって法律効果が発生していないため、追認をしても有効にはなりません。もっとも、その追認があったときに、あらたな行為をしたものと見なして、その行為が有効に成立することはあります。

17)地位の移転

契約に基づいて、当事者間に発生する全ての権利・義務関係を、包括的に第三者に移転し、契約当事者を実質的に交代することをいいます。契約上の地位の移転には、原則として契約の相手方の承諾を要します。ただし、不動産賃貸借契約における賃貸人たる地位の移転については、一般的に賃借人が不利益を被ることはないと考えられていることから賃借人の承諾は不要とされています。

18)地位の留保

民法改正により、不動産賃貸借の場面において、賃貸人の地位の留保という規定が新設されました。これは、賃貸不動産の売買取引がなされる場合において、旧所有者と新所有者との間で、賃貸人たる地位を留保する旨の合意に加えて新所有者を賃貸人、旧所有者を賃借人とする賃貸借契約を締結した場合、賃貸人たる地位は譲受人に移転することなく譲渡人に留保されることになります。これが地位の留保になります。

19)特定物・不特定物

特定物とは、当事者が物の個性(同じ物がなく、代替できないなど)に着目して取引した物をいいます。

不特定物とは、当事者が種類、数量、品質などにのみ着目し、物の個性には着目せずに取引した物をいいます。

2 時効

1)時効

時効とは、一定の事実状態が一定期間継続することにより、権利を取得するあるいは消滅させる制度のことです。

時効には、一定の要件の下、他人の物を一定期間占有することによって権利を取得する「取得時効」と権利を行使しないまま一定期間が経過した場合にその権利を消滅させる「消滅時効」があります。なお、民法改正によって、これまで存在していた職業別の短期消滅時効が廃止されるなど、時効制度の見直しがありました。

2)時効期間

取得時効については、これまでと同様、20年間所有の意思をもって平穏かつ公然に他人の物を占有した場合、または10年間所有の意思をもって平穏かつ公然に他人の物を占有した者でその占有の始めに善意かつ無過失であれば認められることになります。

一方、消滅時効については、民法改正によって、次のいずれか早い時点で消滅時効が完成することになりました。

  • 権利を行使することができるとき(客観的起算点)から10年間の時効期間
  • 権利を行使することができることを知ったとき(例えば、代金などを請求することができることを知ったとき。債権者の主観を基準とするので、主観的起算点という)から、5年が経過した場合

3)時効の完成

時効の完成とは、時効により権利を取得する、あるいは消滅させるために必要な一定の期間が経過することをいいます。なお、時効の完成によって当然に権利を取得したり消滅したりするわけではなく、時効を援用する必要があります。

4)時効の完成猶予と更新

分かりづらかった時効の中断や停止という概念で説明されていたことが、民法改正によって時効の完成猶予と更新という概念に整理されました。すなわち、時効期間が形式的に経過しても時効が完成したことにはならない場合を「時効の完成猶予」(例:催告、天災によって権利行使に障害が発生する場合など)、時効期間がリセットされ、改めてゼロから時効期間を起算する場合を「時効の更新」(例:承認など)といいます。

3 保証

1)保証

保証とは、債務者が債務を履行しない場合に、債務者に代わってその債務を履行するよう約束することをいいます。保証債務には次の3つの性質があります。

  • 主債務が存在しないときは、保証債務も存在しないという附従性
  • 主債務者が債務を履行しないときに初めてその債務を履行する責任を負うという補充性
  • 主債務が譲渡されるなどして債権者が変更となる場合、保証債務の債権者も変更になるという随伴性

2)根保証

根保証とは、継続的な取引から生じる不特定の債務(保証の対象となる債務、主債務のこと)を保証することをいいます。改正民法では、個人が根保証契約を締結する全ての場合において、極度額を定めなければならず、これがなければ、保証の効力は生じないことになりました。

3)極度額

極度額とは、保証人が保証すべき債務の限度額をいいます。

4)個人貸金等根保証契約

貸金等債務(金銭の貸し渡しまたは手形割引を受けることによって負担する債務)について個人が根保証するものをいいます。

「債権者代位権」「無過失責任」などは次のコンテンツに記載されています。合わせてお読みください。

以上(2020年11月)
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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顧客層の拡大で急成長する プロテイン・高たんぱく食品市場

書いてあること

  • 主な読者:新商品の投入や新たな客層の獲得を目指す食品事業の経営者
  • 課題:自社の新商品開発や新たな客層の獲得は、どうすれば成功するのか
  • 解決策:市場が拡大するプロテインの傾向、事例を把握し、顧客獲得の参考にする

1 コンビニでもプロテインがたくさん

最近、コンビニエンスストアの棚にもプロテインや高たんぱくをアピールする商品を目にする機会が増えてきました。

プロテインを製造、販売する明治の資料(詳細は後述)によると、国内の市場は2015年~2019年で2倍以上に拡大しているようです。

直近では、新型コロナウイルス感染症の拡大による外出自粛期間中に、改めて人々の健康への意識が高まり、体に必要な栄養素の一つとしてプロテインやサプリメントなどが注目されています。

本稿では、プロテインや高たんぱく食品(以下、「プロテイン」)の普及の背景や、どんな層が市場をけん引しているのかをまとめています。

人々のライフスタイルが大きく変わっている今、こうした変化に対応した商品の開発によってビジネスチャンスをつかんでいる事例は、他の業種の経営者にとっても参考になるのではないでしょうか。

2 プロテインの消費者の広まり

1)健康意識の高まりが追い風に

プロテインは、もはや「筋肉ムキムキのマッチョだけのもの」ではなくなっています。プロテインの消費者は、スポーツを日常的に行ったり、ジムを定期的に利用したりする若者、歩行機能の維持に取り組む高齢者などにも拡大しています。

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2)ライト層(一般的なジム利用者、健康意識の高い若者)の認識

アサヒグループ食品が健康意識の高い女性に対して行った調査によると、プロテインを飲んでいる人は、プロテインのイメージとして「筋肉が増加しそう」(69.4%)「栄養補給ができる」(52.4%)「健康に良い」(28.5%)などが回答の上位を占めています。

その一方、プロテインを飲んでいない人は、「筋肉が増加しそう」(77.5%)「栄養補給ができる」(39.2%)に加え、「お金がかかる」(29.5%)「美味しくない」(27.4%)「男性が飲むイメージ」(25.4%)「筋肉隆々の人が飲む」(22.1%)などのイメージがあり、こうした見方がプロテインの敬遠につながっているようです。

3)ライト層確保には「お手軽さ」がポイント ~消費者の声~

では実際に、ライト層の消費者は、どのような理由でプロテインを飲んでいるのでしょうか。普段からジムに通い、プロテインを飲んでいる女性などによると、以下のような意見が聞かれました。こうした意見は、ライト層を獲得する際の「ストーリーマーケティング」(例:粉末からドリンクへのシフト)の参考になるでしょう。

  • 飲むきっかけ:
    運動不足解消やダイエットを目的にジムに通い始めた。基礎代謝を上げ、脂肪を燃焼しやすい体を作る上でたんぱく質が必要と知り、プロテイン(粉末)を飲み始めた
  • 飲んで気づいたこと(飲む前~飲んだ後):
    プロテイン(粉末)は、大きな袋や缶に入っており、飲むたびに計量カップで計測し、専用のシェーカーに入れて混ぜる必要がある。空気が入りうまく溶け切らないこともある。飲み終わったシェーカーの洗浄も面倒で、中身が溶け切らずにシェーカーにこびり付き、なかなか取れないこともある
  • 飲んで気づいたこと(保存):
    トレーニングができずに日数がたつと、プロテイン(粉末)は湿気を吸収し、飲めなくなることもある。また、キッチンや冷蔵庫の中でスペースを占めるため、継続的に消費する必要がある

こうしたライト層の認識や実際の声を考慮すると、以下のような工夫は、ライト層の取り込みに効果的といえるのではないでしょうか。

  • 女性向けを意識し、脂肪ゼロのアピールや、カラフルなパッケージを提案する
  • 大容量の缶やパックでなく、容量を減らして価格を抑え、消費しやすくする
  • 普段の食生活に無理なく取り入れられるよう、お菓子やヨーグルトなどで販売する

3 客層の拡大とともに広がるプロテインの主な商品群

ライト層が加わることでプロテインの裾野が広がる中、実際に各社から新たなニーズに対応したさまざまな商品が発売されています。従来のプロテイン(粉末)だけでなく、そこから派生して、オフィスで間食として食べられるバーや、朝食に向いた消化の良いヨーグルトなどもあります。

裾野が広がったプロテインの特徴をまとめると、以下のようなものとなります。図表内のオレンジ色の網掛けの従来の商品から、青の網掛けの新興の商品が派生しています。

こうして見ると、一部のコアな層向けだったプロテインが、さまざまな層向けの幅広い商品群となって活躍しているのが分かります。

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1)プロテイン(粉末)

プロテイン(粉末)は、既に広く普及している商品です。従来、ボディービルダーやアスリートなどが筋肉の増強を目的に飲んできました。近年ではライト層にも普及しており、それに合わせて、飲みやすいようにヨーグルト味や各種のフルーツ味などが登場したり、筋肉の増強よりも体の引き締めを主な目的とした商品などが登場したりしています。国内では、1980年に発売された明治の「ザバス」シリーズが大きなシェアを占めています。

■明治 ザバス■
https://www.meiji.co.jp/sports/savas/

2)サプリメント

サプリメントは、筋肉の増強に不可欠なたんぱく質を構成するアミノ酸を効率的に摂取できます。既にたんぱく質よりも細かな単位まで分解されているため、プロテインよりも早く体内に吸収されます。アミノ酸には、体内で生成が可能なグルタミン酸やグリシンなどの「非必須アミノ酸」と、食物などから摂取する必要があるバリンやロイシンなどの「必須アミノ酸」があります。多くのサプリメントは、両者が最適なバランスで配合されています。

DNSなどの、プロテインを主な商品として製造、販売する企業が比較的多くのラインアップを取りそろえています。

■DNS■
https://www.dnszone.jp/index.php

3)プロテイン(ドリンク、お菓子など)

従来のプロテイン(粉末)にありがちなイメージ、「作る手間が面倒」「粉っぽくてまずい」「気軽に買えない」などの弱点を克服するような商品として、近年急速に普及しているタイプです。また、パッケージもカジュアルなものが多く、ドリンク以外にも朝食や間食にできるヨーグルトやシリアルバーなども販売されています。

多くの商品が、たんぱく質を5~15グラム程度含んでいるため、普段の食事で不足するたんぱく質をカバーすることができます。この商品群には、明治などのプロテインを長年製造、販売してきた企業だけでなく、食品メーカーや製菓メーカーなども数多く参入しています。

■明治 ザバス MILK PROTEIN■
https://www.meiji.co.jp/dairies/milk_drink/savas-milk/#top
■アサヒグループ食品 1本満足バーシリーズ■
https://www.asahi-fh.com/products/balanced-food/1pon-manzoku/#protein

4)機能性表示食品

プロテインや高たんぱく質の商品の中には、機能性表示食品をアピールするものも登場しています。機能性表示食品とは、事業者の責任で、科学的根拠に基づいた機能を表示した食品で、販売前に食品の安全性や機能性に関する情報を消費者庁長官へ届け出る必要があります。

マツモトキヨシは、プライベートブランド「matsukiyo LAB」から、日本初とされる機能性表示食品のプロテインバーを2020年9月から販売しています。このプロテインバーは、肥満度を表す指標であるBMI(ボディ・マス指数)の数値を下げる効果があるローズヒップ由来のティリロサイド(ポリフェノールの一種)を含んでいます。

■マツモトキヨシ matsukiyo LAB■
https://www.matsukiyo.co.jp/mkc/matsukiyolab/index.html

5)高たんぱく 調味料

普段の食事に加えることで、たんぱく質を効率的に取ることができる調味料も販売されています。この調味料は、さまざまな料理に応用することができます。

例えば、美容や健康に対する意識の高い消費者向けに植物由来のプロテインなどを販売するソライナは、えんどう豆から抽出した「えんどう豆プロテイン」をふりかけとして販売しています。「納豆風味」「味噌風味」「カレー風味」の3種類があり、米に不足する必須アミノ酸のリジンを摂取することができます。

また、UHA味覚糖も、糖質を抑えたノンオイルの高たんぱくドレッシング「プロドレ」を販売しています。

■ソライナ■
https://solaina.jp/
■UHA味覚糖 プロドレ■
http://prodre.com/

6)高たんぱく 食品

近年のプロテインブームを背景に、日本人になじみのある食品が、高たんぱく質食品としてのイメージを打ち出しています。コンビニで販売されている「サラダチキン」が、高たんぱく食品として注目を集め、健康意識の高いサラリーマンなどのランチとして販売されています。

また、一昔前までは、つまみのイメージがあったサバ缶や魚肉ソーセージなどにも注目が集まっています。魚介類が原料のため、たんぱく質やカルシウム、DHAなどの栄養が豊富に含まれています。

例えば、吉永鰹節店(高知県)は、カツオを使った生節「超鰹力」(ちょうかつりょく)を販売しています。従来の生節と異なり、若者に受け入れられやすいイラストを採用し、高たんぱくや低脂肪、DHA含有などをアピールしています。

■吉永鰹節店(ウェブサイト「土佐のかつお屋」で販売)■
https://www.tosano-katsuoya.co.jp/

4 プロテイン市場の拡大要因

最後に、プロテイン市場の拡大要因を整理し、グラフで市場規模を確認してみましょう。

1)さまざまな要因で市場拡大

プロテイン市場拡大の背景には、フィットネスブームや健康意識・環境意識の高まり、プロテインの品質向上など、さまざまな要因があります。

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2)「コンビニプロテイン」が市場をけん引

日本国内のプロテインの市場規模は、各市場調査会社によりばらつきがあるものの、数百億円規模といわれています。

明治のプレスリリースによると、日本国内のプロテインの市場規模は次の通りです。なお、同社の資料では、プロテインの区分が明示されていないため、本稿で紹介する商品が含まれていない可能性があります。

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同社は、2019年の市場規模を555億円と推計しています。特に、2015年以降は拡大が急ピッチに進んでいることが分かります。2015年は、同社がそれまで販売してきたプロテイン「ザバス」シリーズ初となるプロテインドリンク「ザバス MILK PROTEIN」が市場に投入されました。

この商品は、1本当たり15グラムのたんぱく質を含んだプロテイン(ドリンク)で、プロテイン(粉末)の「袋から粉末をカップで計量し、容器に入れて水と混ぜる」手間をなくすことができました。さらに、コンビニなどの一般消費者の目に付く店舗で販売をしたことで、ライト層の認知度が高まり、急速に広まりました。

同社によると、2019年のザバス MILK PROTEINなどの「ザバスミルク」の売上高は134億円に達しています。ザバスミルクのみで、プロテインの市場全体の約24%を占めていることになります。

明治の動向から、ザバスミルクのような「コンビニプロテイン」が市場の中で大きなシェアを占めてきているといえるでしょう。

以上(2020年11月)

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画像:pexels

PL法(製造物責任法)の概要と改正に伴い製造業者が留意すべきこと

書いてあること

  • 主な読者:製造業者や輸入業者の経営者
  • 課題:2020年のPL法改正の内容を理解し、製造業者や輸入業者がどのような対策を取らなければならないかを考える
  • 解決策:従来よりも消費者の権利を保護する方向で、PL法が運用されることとなるので、社内の製品安全管理体制と品質保証体制を再度見直し整備する。特に、書類の保存期間と製品の指示・警告表示の見直しは早急に行う

1 民法改正に伴い製造物責任法が改正されました

製造物責任法(Product Liability Act(以下「PL法」)は、製造物の欠陥が原因で、人の生命、身体、財産に被害が生じた場合、製造業者等に対して損害賠償を求められる法律です。

民法改正に伴いPL法が一部改正され、2020年4月1日から施行されました。本稿では、PL法の概要と改正のポイント、改正に伴い製造業者が留意すべきことなどをご提案します。

2 PL法の概要

1995年7月にPL法が施行されてから25年が経過しました。PL法施行以前は、欠陥商品による損害賠償の裁判において、民法の不法行為を根拠にせざるを得ませんでした。

不法行為では、加害事業者の「過失」の存在を被害者が主張立証しなければなりません。しかし、近代的な工場における製造工程のどこでどのような過失があったかということを、被害者である消費者に立証させることは、現実的には不可能を強いるに等しいことでした。

PL法の制定によって、被害者は「過失」に代わって、「通常有すべき安全性を欠いていること」という「欠陥」の存在を主張立証すればよいこととなり、被害者救済の道が開けていきました。裏を返せば、製造業に携わる方は、通常通り製造していただけであっても、「欠陥」の存在を主張立証された場合には、無過失であっても法的責任を負わなければなりません。

「欠陥」は、「製造上の欠陥」、「設計上の欠陥」と「指示・警告上の欠陥」の3つに分類されます。

3 どのような「製造物」がPL法の対象なのか

「製造物」とは、「製造又は加工された動産」のことです。家電製品、家具、食品や医薬品など幅広い製品を含みます。ただし、不動産やソフトウエアなどの無体物は、PL法の対象となりません。

また、「製造又は加工」されていない自然産物、例えば未加工の農林畜水産物はPL法の対象となりません。しかし、原材料に加熱、味付けなどをした場合はPL法の対象となります。

なお、「修理」などは、「動産」に本来存在する性質の回復や維持を行うことと考えられ、「製造又は加工」には当たらないと考えられています。

4 責任を負うのは「製造業者」だけではありません

PL法においては、製造業者だけではなく、輸入業者も責任を負います。なぜなら、輸入品の場合、消費者が直接海外の製造業者を訴えることは困難であるため、欠陥のある製造物を国内に持ち込んだ者が責任を負うことが合理的と考えられたからです。

また、自ら製造、加工又は輸入を行っていない場合であっても、「製造元〇〇」、「輸入元〇〇」などの肩書きで自己の氏名などを付している場合や、特に肩書きを付することなく自己の氏名・ブランドなどを付している場合なども、製造業者と同じ責任を負います。

5 民法改正に伴い消滅時効が改正されました

1)人の生命又は身体の侵害によるPL法に基づく損害賠償請求権の時効期間の長期化

人の生命又は身体の侵害によるPL法に基づく損害賠償請求権の時効期間は、被害者またはその法定代理人が損害および賠償義務者を「知った時から3年」でしたが、改正により「知った時から5年」に長期化されました。

人の生命又は身体という利益は、財産的な利益などと比べて保護すべき度合いが強いこと、被害が生じた後、通常の生活を送ることが困難な状況に陥るなど、被害者の速やかな権利行使が困難な場合が少なくないためです。

2)PL法に基づく損害賠償請求権に関する長期10年の権利消滅期間の意味の明記

PL法に基づく損害賠償請求権に関する権利消滅期間は「その製造業者等が当該製造物を引き渡した時から10年を経過したとき」とされています。この長期10年の権利消滅期間は、従前は「除斥期間」と考えられていましたが、「時効期間」であることが明記されました。

除斥期間の場合、時効期間と異なり原則として中断や停止が認められず、期間経過により権利は消滅してしまいます。そのため、長期間にわたって加害者に対する損害賠償請求をしなかったことに真にやむを得ない事情がある事案において、被害者の救済を図ることができないおそれがありました。「時効期間」と明記することで、そのような事案においても被害者の救済を図ることができるようになりました。

6 PL法改正に伴い製造業者が留意すること

今回の改正は、消費者側の権利をより強く保護するものです。加害者となり得る製造業者は、今回の改正を契機として、今まで以上に厳しい姿勢で、社内の体制や製品の表示を見直す必要があります。

1)製造業者におけるPL対策とは

製造業者におけるPL対策とは、「社内の製品安全活動が日常業務になっていれば、おのずからPLリスクの低い製品を市場に出せるという観点から、製品安全評価とISO9000シリーズ規格(注)による品質保証の方針を明らかにし、それを実施するための社内の製品安全管理体制と品質保証体制を整備・確立し、愚直に実践すること」でしょう。そして、具体的には、以下の多面的対策が必要と考えられます。

  • 製品事故の防止や安全性に関する法規や制度を、商品の企画担当者や研究者が熟知し、確実に遵守すること
  • 研究開発の段階で製品の安全性確保の検討を十分に行うとともに、必要な安全性試験を全項目行い、事前に危険を排除すること
  • 実際に使われる場における安全性評価を行い、問題点が見つかれば直ちに改善すること
  • 「指示・警告上の欠陥」は、比較的短期間かつ少ないコストでPL対策を実行できるという側面を持つので、検討すること
  • 消費者教育や啓発活動で、必要な情報を提供するなど、消費者自身に危険回避の努力をしてもらう活動を行うこと
  • 販売後、消費者から寄せられるクレームや問い合わせは、実際に使われる場における使用テストであると考え、その意見を商品の改善に活かすこと

(注)ISO9000シリーズとは品質保証の国際規格、つまり「よりよい製品やサービスを提供するための仕組みを評価するガイドライン」のことです。認証の対象は製品自体ではなく、製品の生産に使われる品質システム(生産の仕組み、あるいはプロセス)であることが大きな特徴です。その認証取得・登録は海外貿易の前提条件となっています。

2)PL法が適用された判例

「製造物の特性」を考慮して「欠陥」を判断した裁判で、裁判所の判断が分かれた判例があります。判断を分けたのは、具体的対策4.の内容である「指示・警告上の表示」が十分であるか否かです。

1.給食食器の破片により女児の右眼視力が低下

国立小学校に在学していた3年生の女児が、給食食器片付けの際、落とした強化耐熱ガラス製ボウルの破片を右眼に受けて角膜裂傷などを負った事案です。

裁判所による判断の概要は次の通りです(奈良地判平成15年10月8日)。

  • 商品カタログや取扱説明書等において、本件食器が陶磁器等よりも「丈夫で割れにくい」といった点を特長として、強調して記載するのであれば、併せて、それと表裏一体をなす、割れた場合の具体的態様や危険性の大きさをも記載するなどして、消費者に対し、商品購入の是非についての的確な選択をなしたり、また、本件食器の破損による危険を防止するために必要な情報を積極的に提供するべきである。
  • 本件食器が破損した場合の態様等について、取扱説明書等に十分な表示をしなかったことによりその表示において通常有すべき安全性を欠き、製造物責任法第3条にいう欠陥があるというべきである。

2.こんにゃく入りゼリーを喉に詰まらせ1歳児が死亡

1歳9カ月の幼児がこんにゃくゼリーを食べて喉に詰まらせて窒息し、その後に死亡した事案です。

裁判所による判断の概要は次の通りです(大阪高判平成24年5月25日)。

  • 本件警告表示においては、子どもや高齢者がこれを食すると喉に詰まらせる危険性があることが、外袋のピクトグラフ等の記載や外袋裏側の警告文に明確に表示されており(これは赤枠で一見しても相当に目立つ警告文であることが分かる。)、しかも、通常のゼリー菓子ではなく、こんにゃく入りであることも、外袋の表にも裏にも記載され、特に、子どもや高齢者は食べないでくださいと明確に表示されていたもので、本件こんにゃくゼリーの食べ方についての留意事項については、警告文として特に不十分な点はない。
  • 本件こんにゃくゼリーは、通常有すべき安全性に欠けていたとまではいえない。

3)PL法改正に伴い製造業者が行うべきこと

  • 長期10年の権利消滅期間が「除斥期間」ではなく「時効期間」と明記されたため、書類の保存期間を今までより長くしなければならない可能性があります。この機会に、保存する書類の内容と保存期間を見直しましょう。
  • 「指示・警告上の欠陥」は、紹介した判例のように、裁判で主張されることが多い半面、比較的短期間かつ少ないコストでPL対策を実行できるという側面を持ちます。検討しましょう。
  • 今後は、従来よりも消費者の権利を保護する方向でPL法が運用されます。社内の製品安全管理体制と品質保証体制を見直し、整備しましょう。必要ならば、PL法に詳しい弁護士などの専門家に協力してもらいましょう。

7 参考

1)民法改正に伴うPL法改正の説明を読みたい方に

■消費者庁「民法(債権関係)改正に伴う製造物責任(PL)法の一部改正」■
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/product_liability_act_amendment/

消滅時効においては、以下のように経過措置にも注意してください。

  • 生命又は身体を侵害した場合のPL法に基づく損害賠償請求権の消滅時効の期間は、2020年4月1日の施行日の時点で消滅時効が完成していない場合には、改正後の新しいPL法が適用されます。
  • 施行日において長期の権利消滅期間(10年)が経過していないときも、改正後の新しいPL法が適用され、除斥期間ではなく時効期間とされます。

2)PL法の詳しい解説が読みたい方に

■消費者庁「製造物責任(PL)法の逐条解説」■
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/product_liability_act_annotations/
■国民生活センター「製造物責任法(PL法)を学ぶ」■
https://warp.ndl.go.jp/

国立国会図書館 インターネット資料収集保存事業のウェブサイトで「製造物責任法(PL法)を学ぶ」でキーワード検索をかけると読めます。

3)PL法に基づく訴訟情報が見たい方に

■消費者庁「製造物責任(PL)法に基づく訴訟情報の収集」■
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/other/product_liability_act/

4)論考

『製造業におけるPL対策について』花王株式会社 小西一生
繊維製品消費科学 Vol.35 No.11(1994)584-589
https://doi.org/10.11419/senshoshi1960.35.584

以上(2020年11月)
(執筆 のぞみ総合法律事務所 弁護士 片岡由紀)

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「自宅の階段から転倒」など。事例で考えるリモートワークの労災

書いてあること

  • 主な読者:自宅でのけがや病気が労災に当たるかを知りたい経営者
  • 課題:自宅は仕事とプライベートの境目が曖昧で、労災の判断基準が分かりにくい
  • 解決策:「業務遂行性」「業務起因性」の基本を知り、事例で労災のイメージをつかむ

1 会社は安全衛生に配慮しているつもりなのに……

リモートワークは、オフィスに比べ社員の働きぶりが見えにくいため、会社は安全衛生にとても気を使います。チャットツールで体調の悪そうな社員がいないか確認したり、社員が就業環境(PC、机など)を整えられるようリモートワーク手当を支給したりといった具合です。

しかし、そうした配慮をしても、社員がリモートワーク中にけがや病気をすることがあります。内容によっては、労災を主張し、会社に損害賠償を求めてくる社員もいるかもしれません。

もちろん本当に労災であれば、会社としてしかるべき対応をしなければなりませんが、リモートワークは仕事とプライベートの境目が曖昧になりやすく、労災に当たるのかの判断が難しいケースが多くあります。特に判断が難しいのは、生活空間でもある自宅で被災した場合です。

そこで、「飲み物を取りに行こうとして階段から転倒したら?」「PCや机が身体に合わず腰痛になってしまったら?」など、自宅でのけがや病気が労災に当たるのかを検討していきます。

2 労災は「業務遂行性」「業務起因性」を基準に判断する

具体的な事例に入る前に、労災の基本を確認しておきましょう。労災には、業務上の事由により発生する「業務災害」と、通勤上の事由により発生する「通勤災害」とがあります。本稿で取り上げる、自宅でのリモートワーク中に発生する労災は、業務災害に当たります。

業務災害は、「業務遂行性」「業務起因性」という2つの条件を満たすと労災として認定されます。なお、病気の場合の「被災」とは、病気を発症する危険(有害因子)にさらされることをいいます。

  • 業務遂行性:社員が会社の支配下にあるときに被災したこと
  • 業務起因性:業務と被災との間に因果関係があること

業務遂行性は、業務に従事している場合、業務の準備や生理的行為(飲水、用便など)といった業務に付随する行為をしている場合に認められます。休憩やその他私用のために業務を中断している間に被災したときは、原則として対象外です(リモートワークの場合)。

ただし、業務遂行性が認められても、業務起因性が否定されれば、労災には当たりません。例えば、就業時間中なのにこっそり私用をしていてその行為が原因で被災した場合、故意に災害を発生させた場合などは、業務起因性が否定されます。

次章からはこの考え方を基に、自宅で発生し得るけがや病気が「労災に当たるのか」を検討していきます。なお、以降で紹介する内容は1つの考え方ですので、実務で同様の労災案件が発生した場合は、必ず所轄労働基準監督署などに判断を仰いでください。

3 飲み物を取りに行こうとして自宅の階段から転倒したら?

1)事例

Aさんは、自宅の2階にある自分の部屋でリモートワークをしています。ある日の就業時間中、喉が渇いたAさんは、自分の部屋を出て冷蔵庫のある1階に、飲み物を取りに行こうとしました。

しかし、1階に下りようとした際、誤って階段から転倒し、足首を捻挫してしまいました。

2)労災に当たる可能性:高い(業務遂行性:○、業務起因性:○)

喉が渇いたため飲み物を取りに行くことは生理的行為に該当し、業務に付随する行為ですので、業務遂行性が認められます。また、業務起因性が否定される事情もなく、本件が労災に当たる可能性は高いと考えられます。

なお、生理的行為の範囲については現状、明確な基準がありません。中央労働基準監督署へのヒアリング(2020年10月16日)によると、「例えば、喫煙するためにベランダに出ようとして転倒した場合、喫煙が生理的行為に該当するのかは現状明らかでない。実際に労災案件が発生した場合に個別に判断することになる」ということでした。

4 PCや机が身体に合わず腰痛になってしまったら?

1)事例

Bさんは、コロナ禍の影響で半年以上前からリモートワークをしています。しかし、リモートワークで使用するPCが小さく、さらに机の高さがオフィスよりも低いこともあって、腰をかがめた姿勢で仕事をする癖が付いてしまいました。

腰に負担が蓄積されていたBさんは、ある日の就業時間中にふと椅子から立ち上がろうとした際、ぎっくり腰になってしまいました。

2)労災に当たる可能性:低い(業務遂行性:○、業務起因性:×)

不適切な姿勢を継続したことによって腰に負担が蓄積され、それが原因で就業時間中にぎっくり腰を起こしているので、業務遂行性は認められるでしょう。一方、業務起因性が否定される事情があるため、本件が労災に当たる可能性は低いと考えられます。

腰痛の業務起因性の考え方については、厚生労働省「業務上腰痛の認定基準」に定められています。同基準では、腰痛を「災害性の原因による腰痛」(腰への外傷などによるもの)と「災害性の原因によらない腰痛」(蓄積された腰への負荷によるもの)とに区分しています。

災害性の原因による腰痛について業務起因性が認められるためには、次の条件をいずれも満たす必要があります。

  • 腰部の負傷または腰部の負傷を生ぜしめたと考えられる、通常の動作と異なる動作による腰部に対する急激な力の作用が、業務遂行中に突発的な出来事として生じたと明らかに認められるものであること
  • 腰部に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症もしくは基礎疾患を著しく増悪させたと医学的に認めるに足りるものであること)

本件は、椅子から立ち上がるという日常的な動作で生じたものなので、該当しません。

次に、災害性の原因によらない腰痛について業務起因性が認められるためには、次の条件のいずれかを満たす必要があります。

  • 次のような業務に約3カ月以上従事し、筋肉等の疲労を原因とした腰痛を発症した場合
    イ)20キログラム上の物品または重量が異なる物品を中腰姿勢で、繰り返し取り扱う業務(港湾荷役など)
    ロ)毎日数時間、腰に負担がかかる不自然な姿勢のまま行う業務(配電工など)
    ハ)長時間座ったままの姿勢で行う業務(長距離トラック運転手など)
    ニ)腰に大きな振動を継続して受ける業務(車輌系建設用機械の運転業務など)
  • 次のような業務に約10年以上従事し、骨の変化を原因とした腰痛を発症した場合
    イ)労働時間の約3分の1以上に及び、30キログラム以上の物品を取り扱う業務
    ロ)労働時間の半分以上に及んで、20キログラム以上の物品を取り扱う業務

リモートワークで行うデスク業務などの場合、一見、1.のハ)が該当するように思われますが、通常、業務の合間に立ち上がって腰を伸ばしたりできるケースがほとんどなので、業務起因性は否定される可能性が高いと考えられます。

5 リモートワークの孤独感からうつ病になってしまったら?

1)事例

Cさんは、コロナ禍の影響で半年以上前からリモートワークをしています。当初は、通勤せずに自宅で作業できる環境をありがたく思っていましたが、リモートワークが長引くにつれ、他のスタッフとのコミュニケーションが少ないことにストレスを感じるようになりました。

次第に疲労感や不眠などの症状が見られるようになっていたCさんは、医師の診断の結果、うつ病と診断されました。会社が念のためCさんの業務状況を調査したところ、発病の直前6カ月について毎月30時間の時間外労働が発生していることが分かりました。ただし、顧客や他の社員とのトラブルなど、他に業務上ストレスになりそうなことはありませんでした。

また、友人・家族関係など業務以外の人間関係でストレスになりそうなこともなく、精神障害の既往歴などもありませんでした。

2)労災に当たる可能性:低い(業務遂行性:○、業務起因性:×)

就業環境の変化によるストレスが原因でうつ病を発症しているため、業務遂行性は認められ得るでしょう。一方、業務起因性が否定される可能性が高く、本件が労災に当たる可能性は低いと考えられます。

うつ病などの精神障害の業務起因性の考え方については、厚生労働省「心理的負荷による精神障害の認定基準」に定められています。同基準では、次の3つを全て満たす場合に精神障害の業務起因性が認められるとしています。

  • 認定基準の対象となる精神障害を発病していること
  • 認定基準の対象となる精神障害の発病前約6カ月の間に業務による強い心理的負荷が認められること
  • 業務以外の心理的負荷や個体側要因(既往歴など)により発病したと認められないこと

うつ病は、1.の精神障害に該当します。また、本件では業務以外の事情による精神的負荷や、精神障害の既往歴などもないため、3.についても満たすことになります。

2.については、まず発病前約6カ月の間に同基準の「特別な出来事」に該当する出来事があるかを検討します。特別な出来事には、生死にかかわる業務上のけがをしたこと、発病直前の1カ月に160時間超の時間外労働を行ったことなどが該当します。本件では、これらの特別な出来事はないので、次に「特別な出来事以外の出来事」について検討します。

特別な出来事以外の出来事については、同基準の中に、労働者に心理的負荷を与えると思われる出来事の類型と、類型ごとの心理的負荷の評価基準(強・中・弱の3段階で判断)が設定されているので、それに実際に起きた出来事を当てはめて判断します。

例えば、「勤務形態に変化があった」という出来事の類型がありますが、この類型の心理的負荷は原則として「弱」とされています。本件の場合、Cさんは就業環境の変化によりストレスを感じていますが、強い心理的負荷があるとは考えにくいということです。

また、時間外労働については、「1カ月に80時間以上の時間外労働を行った」という類型が設定されており、時間外労働が月80時間未満の場合、心理的負荷は原則として「弱」とされています。本件の場合、発病の直前6カ月の時間外労働は月30時間なので、これについても強い心理的負荷があるとは考えにくいということになります。

以上(2020年11月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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もし社員がユニオンに駆け込んだら?

書いてあること

  • 主な読者:「合同労働組合」(以下「ユニオン」)から団体交渉の申し入れがあった際、落ち着いて対応したい経営者
  • 課題:中小企業の多くは労働組合を持たないため、団体交渉に不慣れである
  • 解決策:専門家(弁護士や社会保険労務士)に交渉のポイントをヒアリングする

労働者が労働組合を結成し、労働条件の改善などを求めて使用者側と交渉を行うことを「団体交渉」といいます。「ウチには労働組合がないから、団体交渉とは無縁だ」と思ったら大間違いです。「ユニオン」といって、所属する企業に関係なく、個人単位で加入できる労働組合があるのです。

解雇、ハラスメント、賃金未払いなどの労働トラブルが発生すると、中小企業の社員がユニオンに駆け込み、そのユニオンが団体交渉という形で、企業に対し解雇の撤回などを求めてくることがあります。中小企業の経営者は、団体交渉に不慣れかもしれません。そこで、本稿ではユニオンから団体交渉の申し入れが来たときの対応のポイントを紹介します。

Q1 そもそもユニオンって何?

企業ごとに組織され、その企業の社員のみを組合員とする労働組合を「企業別労働組合」と呼びます。大企業で組織されることがほとんどで、中小企業で組織されることは少ないです。ユニオンは、こうした企業別労働組合を持たない中小企業の社員などが、所属する企業に関係なく、個人単位で加入できる労働組合です。

ユニオンの種類はさまざまで、全国規模で活動し、業種や雇用形態に関係なく加入できるものもあれば、特定の地域のみで活動し、特定の業種や雇用形態(パート、派遣社員など)の社員のみが加入できるものもあります。

ユニオンは、企業別労働組合と同様、労働組合法に基づき、団体交渉などの組合活動を行います。団体交渉の内容は、解雇、ハラスメント、賃金未払いなどの労働トラブルに関するものが多く、賃上げなどの待遇改善に関するものは少ないようです。

Q2 なぜ今、ユニオンへの対応が必要なの?

新型コロナウイルス感染症の影響で解雇や雇止めをされた労働者は増え続けており、2020年9月11日現在で累計5万4817人(見込み数を含む)に上ります。社員も、万が一解雇や雇止めをされたときのために情報を集めており、その過程でユニオンに行き当たる可能性があります。特に昨今は、スマホから無料で相談できるオンライン形式のユニオンなどが登場しており、相談のハードルが下がってきています。

解雇や雇止めが現状発生していないという企業も油断はできません。例えば、感染対策としてリモートワークを実施している企業では、労働時間を把握しにくいために賃金未払いが発生することがあります。リモートワークの“過渡期”は我慢していた社員も、いつまでたっても状況が改善されないようであれば、ユニオンに駆け込むかもしれません。

Q3 どうして社員はユニオンに駆け込むの?

一般的には、企業の処分(解雇など)や対応(ハラスメントの相談に応じてくれないなど)に不満のある社員が、「企業と直接話し合ってもらちが明かない」と、ユニオンに駆け込みます。

ユニオンの中には、担当する団体交渉の内容や実際の活動報告を組合ウェブサイトなどに掲載しているところがあり、労働トラブルに悩む中小企業の社員などは、こうした媒体を通じてユニオンに相談に行き、加入しているようです。

また、ユニオンに加入するには、組合費(月額数百円から数千円程度)を定期的に支払う必要があります。弁護士に依頼するよりも廉価に労働トラブルを解決できる可能性があるため、収入面に不安のある社員などが、弁護士の代わりにユニオンを頼るケースがあります。

この他、経営者に近い地位にいる管理職などが経営者とトラブルになり、社内に相談できる人間がいないために、ユニオンに加入するケースもあります(管理職向けのユニオンも存在します)。

Q4 ユニオンから団体交渉の申し入れがあったら?

社員がユニオンに加入すると、社員から事情を聞いたユニオンから企業に対し、「団体交渉申入書」が送付されます。通常は郵送やFAXで送付されてきますが、企業の交渉窓口担当者宛てに「団体交渉申入書」を添付したメールが送られてくるケースもあるようです。

団体交渉申入書の書式はユニオンによって異なりますが、その内容はおおむね次の通りです。

  • 団体交渉の日時・場所(企業側で決定するよう求められることもあります)
  • 要求内容(解雇の撤回、ハラスメントへの補償、未払い賃金の支払いなど)
  • ユニオンの連絡先
  • 回答の期限

企業は正当な理由なく団体交渉を拒否することができません。例えば、「団体交渉申入書が届いていることを知りながら放置する」ことは許されません。

団体交渉申入書が企業に届いたら、まず回答の期限を確認します。期限は「団体交渉申入書の到着から7〜10日程度」など、短いのが通常です。団体交渉に臨む前に、要求内容に関連する書類を集めるなどの事前準備が必要なため、次はユニオンに回答の期限の延長を依頼します。

具体的には、「回答書」という書面(書式は任意)で「期限までに回答することが難しい」ことをユニオンに伝えます。要求内容によって、団体交渉の事前準備にかかる時間が異なるため、「いつまでに回答するか」は具体的に記載せず、「めどが立ち次第、回答する」程度にとどめておくのが無難です。

回答の期限の延長を依頼したら、次のようにユニオンの要求内容に関連する書類を集めます。

  • 解雇:解雇理由証明書、就業規則(解雇事由に関する部分)のコピーなど
  • ハラスメント:ハラスメントの事実確認を行っている場合、記録のコピーなど
  • 賃金未払い:賃金台帳、タイムカードのコピーなど

上の書類は一例であり、労働トラブルの内容によって必要な書類が異なります。実務では、弁護士や社会保険労務士などの専門家に、必要な書類について相談するのが無難です。書類集めが終了し、団体交渉の準備が整ったら、再度回答書を作成し、団体交渉の日時・場所などをユニオンに連絡します。

Q5 団体交渉の日時・場所などはどうする?

団体交渉申入書には、団体交渉の日時・場所が記載されていることがありますが、企業には、団体交渉申入書の内容に従う義務まではありません。また最近は、日時・場所について、企業側で決定するよう求めてくるユニオンも多いようです。そこで、回答書に記載する団体交渉の日時・場所などのポイントを見ていきましょう。

1)日時

日時については、要求内容に関連する資料など団体交渉の準備が整っており、同席を求める場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家の都合のよい日程を選択するのがよいでしょう。

2)場所

場所については、外部の貸し会議室などを選択する企業が多いようです。企業のオフィスやユニオンの組合事務所を選択すると、いつまでも交渉が終わらないケースがありますが、外部の貸し会議室であれば、交渉の時間を区切ることができるからです。貸し会議室の利用料は、企業負担となることが多いようです。

なお、最近では、新型コロナウイルス感染症予防の観点から、貸し会議室などを利用せず、チャットツールなどを使ってオンラインで団体交渉を行うケースも少なくありません。

3)出席者

出席者については、経営者のように、ユニオンの要求内容に関する決定権限を持つ人が出席しないようにします。団体交渉の場で、要求内容の即時決定を求められないようにするためです。交渉役として適任なのは、人事労務担当者など、事情を理解していて交渉を進める能力はあるが、要求内容に関する決定権限を持たない人です。

また、交渉は2人以上で臨み、1人が交渉役、1人が書記を担当し、交渉役が話し合いに集中できるようにします。交渉に不安がある場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家に同席してもらうのもよいでしょう。

ただし、弁護士以外の専門家が企業に代わって交渉を行うことは非弁行為に当たるため、社会保険労務士などがユニオンと交渉することはできません。社会保険労務士などが同席する場合、受けられるサポートは企業の担当者への指導・アドバイス、情報提供などに限定されます。

Q6 団体交渉の流れは?

団体交渉当日、交渉役は団体交渉申入書のコピー(またはユニオンの要求内容が分かるもの)、要求内容の関連書類を持参します。この他の書類として、ユニオンから事前に就業規則のコピーなどを持ってくるよう求められる場合がありますが、直ちに応じる義務はないため、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談して対応を決めましょう。

団体交渉には、企業とユニオンが事前に選出した人間が出席します。なお、ユニオン側はユニオンの交渉役と、社員本人が出席するのが通常です。

団体交渉は1回で終了することもありますが、企業もユニオンの要求全てに同意できるわけではないため、通常は何回か交渉を重ねて落としどころを見つけることになります。

例えばハラスメントの場合、ユニオンから企業に対して、社員に対する謝罪を求める傾向があります。しかし、ハラスメントに該当するかの法的判断は難しいものです。ここで安易に謝罪してしまうと、ユニオンは「企業がハラスメントを認めた」ことを活動報告などで発表するため、企業のイメージ失墜につながる恐れがあります。

一概には言えませんが、ハラスメントに当たるかが法的に明らかでない場合などは、「意図せず社員を傷つけた」という理由で、金銭を支払って決着させるのが妥当なケースもあります。

交渉のポイントは、企業がある程度ユニオンに歩み寄る姿勢です。例えば、交渉が何回目かに及んだ段階で、可能な範囲でユニオンの要求に応じる姿勢を見せると、ユニオンもある程度譲歩してくれることがあります。落としどころが見つかれば、団体交渉は終了し、企業は交渉結果の内容に基づく対応(上のハラスメントの例であれば、金銭の支払いなど)を取ります。

一方、何度交渉を重ねても、企業とユニオンの主張が相いれなければ団体交渉は打ち切りとなります。その後は労働審判や訴訟に移行することがあります。ただし、労働審判や訴訟に移行すると、ユニオンは労働トラブルに介入できなくなるため、できる限り団体交渉を継続しようとするユニオンも少なくありません。

Q7 団体交渉などでのNG行動は?

団体交渉で注意すべきなのは、ユニオンが労働協約(労働条件などについて、労働組合と使用者との間で締結する書面の協定)への署名を求めてきた場合です。「労働協約」と書かれておらず、「協定書」「合意書」「議事録」などの名称でも、企業とユニオンの双方の署名があれば、労働協約として成立し得ます。

問題なのは、労働協約の内容が労働条件になってしまうことです。労働協約に定める労働条件などに違反する労働契約は、その部分について無効となり、労働協約の基準が適用されます。労働協約の基準が適用されるのは、そのユニオンに加入している社員のみですが、仮にユニオンに自社の他の社員が加入すれば、その社員も適用対象となるのです。

もちろん、労働協約の内容が、企業とユニオンが合意した内容であれば問題ありません。しかし、例えば団体交渉の途中などで安易に労働協約に署名してしまうと、労働条件などが企業の意図しないものになってしまう恐れがあります。

この他、ユニオンに駆け込んだ社員への接触にも注意しましょう。社員にユニオンからの脱退を促すことは、不当労働行為となります。直接脱退を促さなくても、ユニオンの目の届かないところで「会って話をしよう」などと持ちかけると、不当労働行為を疑われる恐れがあるので、業務上必要な場合などを除き、当該社員への接触は避けたほうが無難です。

以上(2020年10月)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:unsplash

日本の水道崩壊、今そこにある危機を明らかに〜AI技術を活用したFractaの日本における取り組みについて〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、樋口 宣人さん(Fracta 日本法人代表)です。

道路上から突然水が吹き上がる、道路が陥没する、そんなニュースを毎年何度か見かけます。例えば今年の1月には横浜磯子区での水道管の破裂で、3万世帯で断水がありました。その記事はこちらです(読売新聞電子版から引用)。この破裂した水道管が敷設されたのは1973年、記事中にもある通り1973年から一度も交換していないそうです。
我々が最低限生きていくための大切な最後のインフラであるのが水道。世界トップレベルで誇らしい、日本の水道インフラ、安心安全、衛生的、その誇らしい水道に危機的状況が迫っている。そんな現状とこの社会課題と向き合い、日本のために、水道事業の未来のため、次世代に水道のツケをまわさないために、シリコンバレーが発端の日本人シリアルアントレプレナーが米国で起業、奮闘し導入が進んだAI技術を日本で展開中のFracta社、その日本法人の代表である樋口さんにお話を伺いました。

【Fracta 日本法人代表 樋口 宣人さん】

1 日本の水道の財務インパクトについて

1)日本の水道の年間予算について

危機だ、危機だと煽るつもりはありませんが、今の現状を把握しておくことは重要ですね。まずはアウトラインを。日本の水道における【2050年】と【水道崩壊】について。

◆マクロ要因としての人口減少

  • 2010年の1億2,800万人をピークに、2065年には8,800万人へ
  • 3兆2,450億円の水道料金収入は、2兆2,200億円へ
  • 水道資産をこのまま維持しようとすれば、水道料金は47%もの引き上げが必要

◆管路の老朽化

  • 水道関連資産の7割を占める水道管は老朽化が進む
  • 水道局の約4割で、水道管を中心とした台帳管理の整備がままならない状況に
  • 将来30年間の更新費は年平均約1兆6千億円、修繕費は同約2.3千億円との試算
    出所:令和元年度全国水道関係担当者会議資料 (2019)その1(会議資料)その2(パワーポイント資料編)

◆都会と地方の格差拡大

  • 人口密集度の違いが水道料金の総量の大小に直結
  • 一方で、配管の総延長は必ずしも地域の人口密集度に比例しない
  • 人口減は地方においてこそ顕著であり、半減すらあり得る (水道料金は2倍に)
  • 地方の水道局から経営は逼迫

上記のみならず、台風、地震などの自然災害、コロナウィルス等々への対処も今後増えていくことも考えれば危機が増大していることは明白ですね。

2)財務インパクトを解りやすく

こちらの動画をご覧ください。左右の違いをお解りいただけると思います。

【上記は3年前に行ったサンフランシスコのシミュレーション今後50年後】

街の有様が左と右でどう違うか一目瞭然だと思います。
 まだまだ健全な水道管を押し並べて交換していてしまうとコストは莫大に次代に掛かってしまいます。その財務インパクトを、Fracta社が2017年に試算しました。

サンフランシスコ(約270万人、約2,000km)にFractaを適用すれば、最大40%のコスト削減、すなわち年間20億円の削減を期待できます(※)。つまり50年で単純に計算すると最大20億円×50年で1,000億円のコストを下げていくこと、財務インパクトは莫大ですね。この長期間におけるインパクト、この理解が未来のために大切に感じ、対策を講じていくことが重要に思います。

  • ※試算方法

    ・サンフランシスコ(SFPUC)の給水収益は、500億円(2017年度)
    ・SFPUCの管路更新費30~50億と推測*
    →仮に管路更新費を40%**コスト削減できれば、最大20億円の削減となる。
    注1)*SFPUCからのヒアリングに基づいて、FRACTAが推計した。事業規模がほぼ同じ大阪市と対比しても、ほぼこの水準だと考えられる。

    注2)**SFでのタイムシフトスタディで得たFRACTA検証結果(2018)

3)日本の水道事業が抱える課題(行政とのジレンマ)

実際に同社を導入する際の予算感について、これがすごく簡単。

  • →1キロ10,000円程度(初期費用を除いて)
  • これに対して実際に道路を掘り起こして埋設された水道管を交換する費用は?
  • →1キロの水道管交換費用1億円
  • 市町村における水道管ってどのくらいの長さ?
  • →10万人都市の管路延長は約500~800キロ。FRACTAへ依頼した場合のコストは500〜800万円となります。これが毎年かかる費用となります。

米国でも相当の実績を引っ下げて、日本に持ち込んでいるこの技術、しかしながら、樋口さんは市町村の行政の壁もあると感じています。

行政側の方々と話していると、立場、立場で現状の認識が異なり、技術論に終始し、本来のあるべき姿に議論が及ばないことが見受けられます。技術的な優劣比較ではなく社会コストをいかに下げるか、全体最適の見地でもっとディスカッションができることを望んでいます。行政側の未来への財務戦略の根幹でもある水道インフラ、まさに茹でガエルにならないように早めの決断をしていくべきタイミングに感じます。

2 事業化までのスピード、Fracta社の米国での展開について

1)米国での展開、その当初から私は存じていました

私がなぜFracta社と懇意か? それは、創業者の加藤さんが仲良くしてくださっているからなんです。

【こちらは今年の1月に加藤さんが帰国された際の写真です。笑顔が爽やかですね。】

加藤さんとは、Google社に東大発ロボットベンチャーを売却後すぐにある方のご縁でお会いさせていただきました。かれこれ、6年ほど前になります。その後、私が独立する際、私を慮って連絡をいただきご自身の著書【未来を切り拓くための5ステップ―起業を目指す君たちへ―】を進呈くださり、応援、エールを贈ってくださいました。思い出すたびにアツいものが込み上がります。

それから、あらゆる管の中を自由に進んでいくロボットベンチャーに関わるようになった加藤さん、当初は日本発で活動されていましたが、海外で!ということから米国へ旅立つことに、その際にもお会いさせていただきました。米国の広い大地を縦横無尽に張り巡らされている【管】、その調査用にこの自律走行ロボットで事業化をしていこうと頑張っていたのですが、その自律走行するにも図面が必要だった、その図面データを作ること自体に【価値】があり大事だった。その図面データをアナログからデジタル化できれば大きなマーケットがある、大きな事業化が見えてくる、そこで自律走行ロボットからAIによる水道管調査へピボットしたことから快進撃がスタートとなります。そこから加藤さんの突進力、米国の水道事業者への突撃に次ぐ突撃で現在は全米27州63の水道事業者が採用、既に約12万kmの水道管データを学習済みだそうです。

2)AI技術を活用し水道管劣化を防ぐことはヘルスケアに似ている

 樋口さんのお話の中から、このAIによる水道管調査って、人の【ヘルスケア】に似ていると。私もそのとおりと思いました。私も受診している健康診断。3年に1度とかではなく毎年受診することで、経年のデータ状況がわかりやすくなっています。なにも過去データがなく、当てスッポのように年数ベース古い方から交換している現状は、米国、日本もほぼ同じ。ヘルスケア、健康診断と同様にAI調査を毎年受けることでどの部分から補修するのか、交換するのかを選択して工事計画を立てていく。まさに冒頭の動画シミュレーションの結果に繋がることだと思います。

樋口さんからもシミュレーションができることが大きい、手術するのか、しないのか、将来に向かって、今まさに健康診断をやるかやらないかで、水道での大切な部分の色分け、エリアによっては、優先的にまもるべき病院、工場、発電所、介護施設どこを優先するのかの判断軸もこの調査でえられることになります。

話を伺っていて、私は水道管のピンピンコロリを目指すものだと認識しました。

米国事例 ミシガン州における漏水リスクの予測診断の画像です

広大なエリアのミシガン州、同社の予測診断情報をサイト上でも開示しています。
 そのサイトはこちらです。

3 日本国内で進む事例

1)樋口さんはなぜ、Fracta社にジョインしたのか?

樋口さんとお会いしていて、米国にいる加藤さんと同じ様に、アツい感性をお持ちであることを感じます。その樋口さんのプロフィールについて。

Fracta 日本法人代表
東京大学工学部卒、スタンフォード大学院経営工学修士(MS)。
1990年三菱総合研究所入社。専門はオペレーションズリサーチ、意思決定分析。官公庁の政策立案並びに企業の戦略策定に関わる調査研究、コンサルティングに従事。その後、2000年ケンコーコム(株)を共同創業し常務取締役COO、2015年(株)ウォーターダイレクト代表取締役などベンチャー企業経営者を歴任。2019年9月よりFractaに参画。日本における事業開発責任者として事業統括にあたる。

樋口さんと以前にお話していて、官公庁向けの未来の街づくりに関するお仕事、スタートアップの立ち上げや中小規模の会社経営全般の切り盛り、水に関わること、そして最先端技術に関わること今までのご経験が今のお仕事の布石となり、巡り巡ってこれをやるべしって感じの縁が重なったものと仰っていました。

2)ファーストペンギンが出始めている日本の地方行政での実績について

2019年から日本では実証検証がスタートし、アメリカ同様日本においても有用性を確認しているそうです。実際の役務としての業務委託は今年から始まっていて10以上の自治体で何かしらの【実績】があります。インタビュー時点の9月初旬は2021年度の予算組が始まっているところにアプローチをしている状況だそうです。

実際の事例について。

・愛知県豊田市の事例。同市の発表サイトはこちら。こちらの事例については水道産業新聞記事【豊田市上下水道局の新展開ルポ】から抜粋いたします。豊田市は、愛知県のほぼ中央に位置する人口42万4000人の中核都市。水道は昭和31年に給水開始し、導・送・配水管の総延長は約3,656キロ。現在の年間整備・更新延長は約40キロで総延長に対する整備・更新率は1.1%となっている。豊田市担当者のFRACTA社導入へのコメントとして、『より具体的にどの路線から更新を行っていくのかの優先順位を決定するにあたって、前回の管網機能評価を実施してから5年が経過していることから、旧簡水地区も含めて再度行うことも検討しました。しかし、従来の手法で行う管網機能評価は、職員の経験によるところが大きいですが、旧簡水地区の漏水箇所を熟知している職員は少数であるため、十分な精査を行うことが不可能な状況です。加えて、今年度からストックマネジメント計画が開始し、整備路線の選定は市民などから注目される可能性が高く、優先順位付けの根拠を定めておく必要があるなかで、過去の漏水箇所と行った客観的な要因と土壌環境などの事実に基づいて破損確率を高精度に解析するAIを活用した水道管劣化予測に注目しました』さらに今回の取り組みが持続可能な水道経営につながることを期待し、『市民の皆さんに対して将来にわたって安全・安心な水道水を供給できるよう、今回の結果を上手く活用して効率的に管路の更新を進めていきたいと思います』と結んでいます。まさに決断をしたからこそ言えるコメントと感じますね。

・福島県会津若松市の事例。同市の資料はこちらです。会津若松市は上下水道局では、水道管更新計画の立案にあたり、工事台帳や竣工図面を基にして、布設年度や管種、管継手種類、漏水修理記録から導いた事故(漏水)率といった間接的な情報により、管路更新の優先度を決定してきた。優先度の高い管路は布設年度が古い管に偏っているが、古い管と位置づけられるものでも機能を維持している管路は多く、古い管は更新することにすぐに結び付けにくいのが現状となっている。そのため、有収率向上や管路更新の適正化を図るため、AIを用いた管路劣化度調査を行い、またその結果を基に新たな管路維持管理手法を策定することとした。同局担当者は、効率的な管路更新に向けて、『今回のAIによる診断法は、管路診断法のうち、市がこれまで実施困難だった直接診断法にとって代わる手法として位置づけられるもの。間接的な情報とAIによる診断の結果を組み合わせ、管路更新をの優先順位決定のための1つの要素とすることにより、管路劣化情報が加味された、より多角的な視点で捉える効率的な管路更新を目指したい』とコメントしています。(以上今年7月20日付水道産業新聞より)

福島民報の6月11日(論説)の最後には、市はスマートシティ会津若松の実現に向け、ICTオフィスを軸に事業を展開している。着実に成果を挙げているが、市民の隅々までスマートシティの恩恵が行き渡っているとは言えない状況にある。生活に身近な水道事業へのAIやICTの活用は、市民の理解に大きな役割を果たすだろう。と書かれています。

記事を拝見していて、スマートシティ構想にも合致し、まさに水道インフラのDX(デジタルトランスフォーメーション)を行うものであり、都市デザイン、都市開発への影響度も高いことを感じます。

3)Fracta社の日本における展開について

今年の8月に私のご縁で、樋口さんに登壇していただいたことがあります。そのイベントはこちらです。このイベントの企画開催者である平林さんに樋口さんのこと当日の感想をお聞きしました。『樋口さんは謙虚でクレイジーな方という印象でした。まず自分の話よりも人の話をよく聞いて、誰からでもなにかを学び取る姿勢が本当にステキな方だなと。一旦話し始めると淡々と話しているんですがよくよく聞いているとクレイジーな発想で現実にまで落とし込まれているのがとても印象的でした。例えば、いまの水道管診断のAI技術を他業界への展開のお話(この日本に導入しはじめのタイミングでそこまで描いているのか?)など』という平林さんも一瞬で樋口さんのファンになったのだと感じました。

    Fracta社の想いについて

  • 社会を支えるインフラが、社会の問題にならないために。
  • 多くの課題を解決し、社会益を創り出すために。
  • イノベーションで世界を変えていく

上記の想いを水道インフラからまず実現していく、日本国中で社会益を実現しながら。この挑戦を初めたばかりですが、8月の終わりにまた新たなリリースも有りました。【フラクタ、AIで水処理のコスト削減 栗田工業と:日本経済新聞】記事はこちら。このスピード感と展開力まさにワクワクドキドキの連続、楽しみが尽きない感じです。水道管ビジネスを基礎にこの先には、ガス管、下水道、さらにトンネル、橋梁、人がなかなか近づけないようなインフラにもこの技術は転用可能と感じます。

このようなフルスロットルで駆け抜ける米国発スタートアップ企業と日本の自治体が取り組みを加速すること、またここに地域金融機関とも連携強化することで地方の活性化が進むことを願いたいと思います。

以上(2020年9月作成)

この勘定科目が危ない?勘定科目ごとの税務調査対策

書いてあること

  • 主な読者:税務調査のポイントを勘定科目ごとに知りたい経営者・経理担当者
  • 課題:どういった視点で調査するのかを知りたい
  • 解決策:勘定科目ごとの指摘の特徴を知る。とはいえ、日ごろから、しっかり運営することが最も重要

税務調査とは、申告内容に間違いがないかを確認する手続きです。日ごろから会計・税務を正しく認識した上で処理を継続していれば過度に心配する必要はありませんが、それでも経営者が気になるのは、「どの費用が危ないの?」といったところでしょう。本稿では、税務調査の際に指摘を受けやすい点を勘定科目ごとに整理します。

なお、新型コロナウィルスの影響により、今後の税務調査の方法が変わる可能性があります。2020年4月に緊急事態宣言が発出された際は、一時的な措置ではあるものの、会社の同意のもと、調査官と会社が双方にアクセスできるサーバーに必要書類を保存するといった形で資料の提示や質問のやり取りをする方法が取られた事例もありました。この辺りの動向についても注視しておきましょう。

1 勘定科目別 税務調査のポイント

1)売上・仕入・棚卸資産の主なポイント

1.期ずれ

物品の引渡しや役務の提供が完了しているものは、原則、その完了した時点で「売上」 として計上する必要があります。これに従わず、請求書が発行された日や売上代金が入金された日で売上計上している場合、税務調査で指摘される恐れがあります。税務職員は、売上計上のタイミングのずれを納品書や在庫表等で確認し、経理処理の誤りを指摘してきます。

また、原則として「仕入」は売上に対応して計上する必要があり、まだ計上されていない売上に対する「仕入」は、決算時には「棚卸資産」として経理処理しなければなりません。

2.売上の除外・仕入の架空計上

税負担は決して軽いものではありません。そういった中で税負担を回避しようと「売上」を意図的に除外、または架空の「仕入」を計上することをもくろむ経営者がまれにいます。税務職員は、反面調査や入金記録等さまざまな観点から調査を行い、巧みに売上除外や架空経費を検出することにたけています。税務調査でこれらが検出された場合、悪質であるとして、本来納める税金から当初納めた税金の差額(不足額)に加えて、重加算税が課されます。

2)人件費の主なポイント

1.役員給与

役員給与は、税務上のルールが厳格に定められています。役員への給与は「定期同額給与」「事前確定届出給与」「業績連動給与」のいずれかに該当しないと、税務上の費用(以下「損金」)として認められません。例えば「定期同額給与」は、原則として会計期間開始の日から3カ月を経過する日までに1回だけ改定することが認められています。この時期以外で役員に対して特別手当の支給や、報酬を改定した場合には、原則としてその改定した額等は、損金の額に算入されません。

2.その他の人件費

経営者の親族等に給料を払うケースはよくあることですが、実際に業務に携わっていない人に支給した給料や、業務に見合っていない高額な給与は損金の額に算入されません。税務調査時には、タイムカードの提示や業務内容の聴取等が行われます。

また、給与は経営者の親族等に限らず雇用している従業員等全てにおいて、一定額を超えて支払う場合、「源泉所得税」を徴収する必要があり、定期的に税務署に納めなければなりません。いくら徴収するかは、給与が支給される者の状況および支払額により決定されます。日雇い等、単発で支払う給与についても源泉所得税を徴収する必要があります。徴収していない場合、税務調査時において源泉徴収義務違反として指摘されます。

3)販売費及び一般管理費の主なポイント

1.交際費

交際費は損金として扱うことに対して、一定の制限が設けられています。会計上は交際費として経理処理していなくても、支出の内容が、接待・供応・慰安・金品贈与等に該当すると認められる場合には、税務上の交際費として取り扱われます。

また、交際費のうち、「社外の者との飲食その他これに類する行為のために要する費用」に該当する場合は、帳簿書類で次の事項を記録しておく必要があります。

  • その飲食があった年月日
  • その飲食に参加した取引先・得意先の氏名や名称と接待側との関係
  • その飲食の支払金額と支払先の名称および所在地
  • その他飲食費であることを明らかにするために必要な事項

2.修繕費

保有する固定資産等を修理して多額の出費があった場合、費用ではなく、資産として計上しなければならないケースがあり、これを資本的支出といいます。具体的には、固定資産の価値を高め、または、耐久性が増すことになると認められる部分がある場合は、資本的支出として資産計上しなければなりません。資本的支出に該当する場合、減価償却資産として、適正な耐用年数に従って毎期償却します。

3.退職金

退職金を支給した場合には、退職金を受給した従業員から「退職所得の受給に関する申告書」を受領しておく必要があります。これを受領することにより、退職金に対する源泉徴収税額の優遇措置が適用されます。もし、受領していない場合は、一律20.42%(復興特別所得税含む)の税率による源泉徴収を行う必要があります。なお、受領した申告書は税務署への提出は不要で、会社で保管します。

4.役員の個人的支出

会社の事業に関係のない個人的な支出は、損金として認められません。また、役員の支出した経費が、税務調査により個人的な支出であると指摘された場合、その支出が損金として認められないだけでなく、その役員に対する給与(賞与)であると指摘される恐れもあります。この場合、会社において源泉所得税の徴収漏れを指摘される他、その役員の所得税・住民税について追徴課税が行われることになります。

4)固定資産の取得、売却に関連する主なポイント

固定資産を取得した場合、その取得代金の他、取付工事費用や運搬費等の付随費用も、資産の取得価額(資産に計上する価額)に含まれる点に留意しましょう。また、耐用年数が適正に定められているか、減価償却が事業の用に供した日から正しく実施されているかという点も、税務調査の対象とされます。

固定資産を売却する場合、売却価格は時価とする必要があります。第三者へ売却する場合には、明らかな寄附・受贈の意思がない限り、通常、取引当事者間で交渉して決定される価格が時価として認められます。一方、グループ法人や親族等の同族関係者間で行われる売買については、取引価格を決定する過程において恣意性が働きやすいことから、その売買価格の妥当性が税務調査の対象とされます。

5)ソフトウエア、研究開発に関連する主なポイント

支出した金額が税務上の研究開発費(試験研究費)に該当する場合は、その支出金額は支出した時点で損金として取扱われます。

ソフトウエアの制作に要した支出であっても、税務上の研究開発費に該当する場合は、支出した時点で損金として取扱われます。それ以外のソフトウエアの制作に要した支出は固定資産に該当し、自社で制作した場合は、原材料費だけでなく労務費や間接経費も取得原価を構成します。

実務上、税務調査で無用な疑義を持たれないよう、開発しているソフトウエアごとにプロジェクトコードを付し、プロジェクトごとに開発フェーズ(研究→開発→製造)を分け、支出したコストをプロジェクト別および開発フェーズ別に配分し、適正な原価計算が行われる管理体制を構築しておくことが重要と考えられます。

2 税務調査時の最近の傾向や、経営者の心構え

近年は問題点の所在をつかむためにヒアリングする時間が増えていると感じます。これは、2013年1月の国税通則法の改正により、税務職員は納税者から提出された資料を、必要に応じて預かることができるようになったことが影響していると考えられます(それまでの現場での調査は資料閲覧が中心だった)。加えて、税務署側も納税者側への説明責任が強化されたことから、反面調査の割合も増え、その分、調査終了までの期間が長くなってきているとも感じます。

また、国税通則法を理解しないまま、税務調査の対応をしている税務職員や税理士がいることも確かです。ルールにのっとっていない税務調査には、経営者として対応する必要はありません。財務・経理の担当者は、税務職員から誤解を受けることのないようにポイントを押さえた会計・税務処理を心掛け、健全な税務調査対応を意識する必要があると考えられます。

何よりも大切なのは、指摘される事項がないように心掛け、また、それをチェックする体制を構築しておくことです。

なお、税務調査の全体の流れや税務調査後の手続き、税理士に聞いた税務調査の舞台裏については、以下のコンテンツをご参照ください。

▶ 30080 「税務調査」がよく分かる 手続きの流れを徹底解説
▶ 30092 税務調査で指摘されたら? 税務調査後の手続き
▶ 30034 ウソかホントか? 税務調査の舞台裏
▶ 30051 続・ウソかホントか? 税務調査の舞台裏

以上(2020年9月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:igorstevanovic-shutterstock

目標管理で最も大切な「目標」の設定方法

書いてあること

  • 主な読者:アフターコロナに勝ち残るために社員の底上げをしたい経営者
  • 課題:目標管理制度が機能不全を起こしている上に、社員も学習しない
  • 解決策:上司と部下の相性を踏まえる。学習して目標を達成した社員は厚遇する

多くの会社が導入している目標管理が、機能不全を起こしています。皆がオフィスで働くのが当たり前だったこれまでは、上司のサポートを受けながら目標を達成する部下が多かったのですが、リモートワークなど働き方が劇的に変わる中で、指導の仕方が変化してきました。

また、そもそも目標管理が形骸化しているという問題もあります。目標を達成しなくても、給料や賞与がそれほど減るわけではないため、自分の目標さえ覚えていない社員がいる状況ですが、こうした社員は今後、戦力にならなくなるでしょう。

経営者は管理職としっかり話し合い、今後の目標管理を見直す必要があります。目標管理が機能するか否かによって、会社の業績は影響を受けるでしょう。

1 上司と部下が格好をつけずに「自分のタイプ」を宣言する

リモートワークなどが進む中で、「これまでのような密接な指導が難しくなった」という話をよく聞きますが、少し誤解があります。確かに対面する機会は減りましたが、オンラインでも部下を指導することはできます。実際、さまざまなツールを駆使して、むしろこれまで以上に密接にコミュニケーションを取っているケースがあります。

またもう1つ大事なことは、リモートワークなど働き方が変わる中で、次のような論調が高まっていることです。

  • 上司は、もっと自由に部下の可能性を引き伸ばさなければならない
  • 部下は、もっと自発的に自分と会社の可能性を広げなければならない

こうなると、例えば、本当は細かく部下を管理したい上司が、「マイクロマネジメントをする自分は格好良くない」と無理をしてしまいます。同様に部下も、本当は細かく指示をしてもらいたいのに、「指示がなければ動けない自分は格好良くない」と無理をしてしまいます。

上司と部下が無理をすることでコミュニケーションが難しくなっている面があるのは確かなので、上司も部下も世間のはやりに流されることなく、自分のタイプを再認識し、明らかにしましょう。

その上で、上司と部下のタイプ別の相性をまとめると次のようになります。

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経営者は、少なくとも「?」がつく組み合わせを、チーム編成の変更によって変える必要があります。例えば、委任型の上司が受動型の部下を指導すると、上司は「任せた!」と部下に権限を与えますが、部下は1人では何も動くことができません。同様に、管理型の上司が能動型の部下を指導すると、上司は「あれはどうなった?」と細かく連絡を取りますが、部下にとっては口うるさい限りでしょう。

オフィスにいれば、対面のコミュニケーションによってこうした問題はある程度解決されますが、リモートだとそれが難しくなります。そのため、上司と部下が本来のタイプを宣言した上で、チームを変える必要があります。

ただし、上司も部下も、格好をつけたがって、なかなか自分のタイプを正直に宣言しないかもしれません。経営者が1on1などで、「あなたはどのタイプか」をしっかりと聞くことも必要です。

もう1つ、読者にお伝えしたい重要な問題があります。それは、そもそも管理職としての資質がない社員の処遇です。管理職にもまた、それをフォローする上級の管理職がいます。例えば、部下に業務をうまく割り振れない管理職を見かねて、上級の管理職が業務の割り振りについて積極的に指示を出すといった具合です。

こうした人材は、上級の管理職のサポートを受けながら仕事をしているだけなのに、さも「自分は管理職としての責務を果たしている」かのような振る舞いをしていることが多くあります。しかし、そうした管理職を放置しておくと、プロジェクトは滞り、人材も育ちません。場合によっては、降格などの厳しい処遇も検討しなければならないでしょう。

2 スペシャリストもゼネラリストも必要

目標管理は、自社における既存の職務の習熟に主眼が置かれます。その結果、自社だけで通用する常識を習得することにあります。それを「たすき掛け、マルチタスク」の名の下に複数担当することになると、ゼネラリストが育ちます。今のところ、ゼネラリストの存在は貴重なのですが、今後のキャリアについては検討の余地があり、目標管理と密接に関係してきます。

図表2は、メディア事業を営む会社の職務の例ですが、ウェブ制作などいわゆるエンジニア領域を除いたものです。縦軸のレベルは、数字が大きいほど専門性が高まることを意味します。

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ありがちな目標管理では、「営業から登録(コンテンツの登録)まで、ある程度対応できる人材」を育てようとします。各職務のレベルがせいぜい2~3といったところですが、一応、一貫して対応できる、いわゆるゼネラリストです。そして、足りない部分(レベル4~5)はエース級の人材がカバーします。この体制は潰しが利きますが、これは「対面のコミュニケーションによって各人の忙しさを細かく管理し、人材を上手に融通できる場合」というのが前提です。つまり、全体のプロジェクトマネジャーがいて、うまくやりくりしているイメージです。

しかし、今、状況は変わってきています。まず、「ジョブ型」と呼ばれるように特定の職務についてレベル5までこなせる人材が必要となります。執筆でいえば、内容が薄く、専門性もなく、編集長から真っ赤に修正されるような原稿しか書けない人材は、今後戦力になりにくくなるでしょう。

また、図表2では、マーケティングという職務を加えています。これは1つの例ですが、これまであまり意識していなかった領域にも踏み込んでいかなければ、会社は勝ち残れません。例えば、これまで触ったこともない「マーケティングオートメーション」に習熟したり、さまざまな指標を分析し、施策を立案したりすることが求められるのです。

3 学習に基づく目標の設定

目標を設定する際は、実務レベルについて説明できるように落とし込むのが前提です。会社の中期経営計画などからドリルダウンしているものの、曖昧な目標だと、冒頭で紹介したように目標管理が形骸化してしまうからです。

  • 良い例:ツールに習熟し、○○メディアでコンバージョンを○件獲得する
  • 悪い例:デジタルマーケティングに対応できるように学習する

これを踏まえた上で、目標の設定には2つの方向性があります。1つはスペシャリストとして職務の専門性を高め、いわゆる「T型人材」を目指すことです。もう1つは、図表2で示したマーケティングのように、新しい職務領域を開拓することです。

そして、このいずれにも共通しているのは、「学習」です。1つの分野を掘り下げるにしても、新しい分野を開拓するにしても、実際に一定の時間を費やして学習しなければ達成できないものです。この目標管理を1回行ってみると、本当に学習する社員と口だけの社員が明確になってきます。

なお、一概には言えませんが、学習する社員の目標管理は、図表1の分類でいえば、次のような組み合わせで行うのがよいでしょう。

  • 自ら学習できる社員:委任型の上司と能動型の部下
  • 学習したいが自分で進めるのが難しい社員:管理型の上司と受動型の部下

問題は、学習しない社員です。専門分野がない場合、こうした社員は他の社員のサポートに回ってもらうしかありません。これが中途半端なゼネラリストの今後の役割となっていくでしょう。しかし、こうした社員が行う職務は業務効率化の中で廃止されたり、外部委託されたりする可能性があります。特に中高年社員の場合、自らの価値観をなかなか変えられないこともあるようなので、経営者はじっくりと話し合い、学習する癖をつけてもらう必要があります。

4 できたか、できなかったかが基準となる

目標を設定したら、それを達成できたか、できなかったかという基準で評価し、しっかりと報酬などに反映する必要があります。「達成できていないが、頑張っている」のは大切ですが、あくまでも評価の基準は、

  • できたか、できなかったか

であり、できた社員には、評価が分かりやすく伝わる処遇をするのが理想です。

以上(2020年9月)

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画像:NicoElNino-shutterstock