【事業承継】後継者育成における経営者の役回り

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を検討していて、後継者をどのように育成するか悩んでいる経営者
  • 課題:後継者の任命、育成に当たって必要なことを整理したい
  • 解決策:経営手法と経営ノウハウの具体化。後継者の意見の尊重

1 経営者の役回り

1)後継者の経営能力を社員に示す

企業は経営者と社員の集合体といえ、両者が認め合い、有機的に結合することで大きな力を発揮します。社員は、事業承継によって新たな経営者となった後継者の経営能力や人格を推し量っています。

そのため、後継者候補(以下「後継者」)となっている人は、事業承継前から社員の信用を得る必要があり、そのためには現経営者の長所と短所を踏まえた上で、自身のスタイルを確立していく必要があります。

2)経営手法と経営ノウハウを徹底的に落とし込む

経営者は最終的な意思決定権者です。そのため、後継者が現経営者に対して「自分のやり方でやらせてくれ」と意見することは悪いことではありません。

ただ、長きにわたる経験によって培われてきた現経営者の経営手法と経営ノウハウは、これから経営を行う後継者が知っておかなければならないことです。時流や経営環境が変化したとしても変わらない普遍的なものがあります。現経営者は、後継者の意思を尊重しつつ、これまでのやり方を押し付けるのではなく、後継者に自身の経営手法と経営ノウハウを教えていきましょう。その際、経営ビジョンなどの全体像だけではなく、事業拡大期など過去の重要な局面で行ってきた判断や結果、そして、なぜその時期にどのような経緯で決断したかといったことまで、後継者に教えることが重要です。

現経営者が持つこうした経営手法と経営ノウハウは、現経営者の頭の中だけにあることが多いので、現経営者は、これらをできるだけ体系化し、文書化することが求められます。場合によっては、社内の適任者か社外のコンサルタントの活用を検討するとよいでしょう。

3)自らの経営手法を確立するには長い期間が必要

現経営者の経営手法や経営ノウハウを後継者が理解する過程で、両者の考え方の違いが明確になり、衝突することもあります。このような場合、現経営者が後継者の意見を引き出して議論することで、後継者に広い視野で論理的に考えるきっかけを与えます。

現経営者と議論を重ねて後継者が導き出した経営方針やプロジェクトなどを、事業承継前に試せる場が必要です。後継者が実際に自らの考えを試してみることで、現経営者もその実施過程と結果を見てアドバイスができます。この際、必要な権限は後継者に委譲し、同時に責任も課します。後継者が自由に動ける環境で自らの考えを実行できて初めて後継者は自らの能力を自覚し、結果に対して素直に向き合うことができます。

また、経営者とは常に重責を担う立場であり、事業承継前とはいえ後継者が失敗した場合は、役員報酬をカットするなどして経営者としての結果責任の重要性を認識させる必要があります。このように、現経営者が後継者に徐々に権限を委譲し、実力を試せる場を広げていくことが、後継者の経営者としての自覚の養成と自らに適した経営手法の確立につながっていきます。

2 社内の体制づくり

1)非協力的な幹部社員の扱い

現経営者と会社を支えてきた幹部社員の中には、自身より年齢の若い後継者を下に見たり、自身が後継者に選ばれなかったことを妬ましく思ったりする者がいるかもしれません。このような幹部社員は、新たな経営者に不満を持つことがあります。

こうした場合、まずは現経営者が幹部社員に説得してみます。それでもその幹部社員の姿勢が改まらなければ処遇を考えざるを得ません。その際、幹部社員はそれまで企業を支えてきた功労者であることも考慮することを忘れてはなりません。

一方、幹部社員としてイエスマンだけを残せばいいわけではありません。企業の発展のために後継者への諌言をいとわない幹部社員や、これまでの豊富な経験に基づいて適切なアドバイスができる幹部社員が必要です。

ただし、こうした良い面を持つ幹部社員も、後継者から見れば自分より社内事情に通じている年配者であり、ある意味扱いにくい存在です。現経営者は、後継者とよく話し合い、こうした幹部社員の有用性を伝えた上で、後継者がこうした幹部社員と信頼関係を築いていけそうかを判断しましょう。

2)新たな幹部社員の任命

新たに経営者という立場になる後継者にとって、同時期にパートナーとなる幹部社員がいることはとても頼もしいものです。自身に似通った境遇に置かれた幹部社員の存在は自身を客観的に見るきっかけとなります。同時に、抜てきされた幹部社員の気持ちも高揚させることができるでしょう。人選については当然のことながら後継者に一任し、現経営者は後継者が気兼ねすることなく、自分の意思で決定できるように配慮しましょう。

3)事業承継のいち早い告知

後継者の経営能力の向上や幹部の刷新には、5年程度の時間がかかることが予想されます。現経営者は、自分が健康で気力が充実しているうちに、前もって後継者の育成と体制づくりに着手すべきです。そして、現経営者は後継者の育成にめどが立ったら、後継者と事業承継の時期をいち早く社内に告知しましょう。告知後、退職する幹部社員が出てくる可能性なども考慮し、告知の時期は事業承継の2年ほど前に行ったほうがよいと考えられます。

また、早期の告知は、後継者による事業承継をよしとしない社員に対して、退職を促すことにもつながり、事業承継時の一斉退職による混乱を避ける効果が期待できます。

4)社員への印象づくり

どのような経営者にも良い面と悪い面があります。現経営者は、社員が良く思っていなかった自身の姿勢や社風・制度、改善しようと思っていたができなかったことを後継者に伝えましょう。事業承継後に、その一部を後継者が改善することで、重要な経営のスタート時に、社員に良い印象を与えることができます。

改善する内容は、経営者と社員がコミュニケーションを取れる仕組みを設ける、人事評価制度を変えるなど、さまざまなことが考えられます。ただし、賃金の一律引き上げなど明白な機嫌取りは、恒久的に実施できるものではなく、社員に過大な期待とその後の落胆を招きかねないため、注意が必要です。

以上(2021年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】貴重な「斜め上」の先輩

皆さんの中にはご存じの方がいるかもしれませんが、私はこの会社の先輩である○○さんに、よくお世話になっています。けさは、この場を借りて○○さんに感謝の気持ちを伝えるとともに、上司の方々には、日ごろは目に見えないかもしれませんが、○○さんは後輩の面倒見が良いという部分でも会社に貢献していることを知っていただきたいと思います。また、若手の皆さんには、私にとって○○さんのような先輩を持つことが、いかに自分にとってプラスになるか、参考にしていただければと思います。

○○さんと私は、業務が違いますので、一緒に仕事をさせていただく機会はほとんどありません。話をするようになったきっかけは、廊下で擦れ違ったときに、○○さんに「ちょっと元気ないんじゃないの?」と声を掛けていただいたことでした。そのときの私は、仕事で行き詰まっていて、難しい顔をしていたのだと思います。それ以来、事あるごとに話しかけていただくようになり、次第に打ち解けてくると、飲みにも誘っていただくようになりました。

○○さんとは業務での上下関係がないので、評価を気にすることもなく、気兼ねなく相談事を聞いてもらえます。また、直属の先輩や上司に相談すると、「こうしたほうがいいよ」というアドバイスをいただけるのはありがたいのですが、私の場合、具体的なアドバイスよりも、共感や励ましをもらいたいときが少なからずあります。

そんなときこそ、○○さんに相談します。すると、○○さんは、まずはじっくりと話を聞いて、「分かるよ。僕も昔、同じようなことで悩んだことがあったから」と共感してくれます。その上で、「僕の場合は、こう考えるようにしたら、うまくいくようになったよ」と、あくまでも参考程度といった形でヒントを与えてくれるのです。

たまに○○さんは、私の直属の先輩や上司のエピソードも話してくれます。その話を聞いて、「あの先輩も、昔はそんなことで苦労していたんだな」と、少しホッとしたりもします。

今だから言えますが、会社を辞めたいと思ったときに相談したのも○○さんでした。○○さんに励ましてもらわなかったら、今の私はありません。○○さんには、本当に感謝しています。

今では○○さんとは、互いにプライベートの相談もしていますし、○○さんから「君と同年代の人たちは、この新企画についてどう思っているの?」といったことを聞かれたりもしています。

最近知ったのですが、私と○○さんのような、直接の上下関係ではない先輩との関係を、「斜め上」の関係というそうです。私にとって、「斜め上」の○○さんは、非常に貴重な存在です。そして、私は○○さんにしていただいていることのお返しができるよう、なるべく「斜め下」の後輩に声を掛けるようにしています。直属の先輩や上司には言いにくい悩みを抱えている人がいたら、ぜひ私を聞き役として使ってください。

以上(2021年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

ノリの悪い上司の下で仕事は楽しいか?

書いてあること

  • 主な読者:チーム力を高めて結果を出したい管理職
  • 課題:結果ばかりが気になってしまい、チーム全体の雰囲気づくりが疎かになっている
  • 解決策:管理職が率先して動き、良いノリをつくってチームを勢いづける

1 雰囲気を悪くしているのは誰だ?

季節外れの人事異動を命じられた中堅社員のAさん。営業部から企画開発部への異動です。企画開発部でAさんが担当するのは新規事業の開拓です。とても楽しそうな仕事に、Aさんはワクワク感を抑え切れません。

しかし、企画開発部に配属されて数日勤務してみると、異動前に抱いていたイメージと現実が全く違うことを知ります。一言で言うと、企画開発部は“ノリ”が悪いのです。そして、その原因は企画開発部のB部長にあります。

B部長は後ろ向きの性格なうえ、機嫌が悪くなるとすぐに態度に出します。また、オンライン飲み会などのイベントにもほとんど参加しません。こうしたB部長が発する良くない雰囲気がメンバーにも波及し、企画開発部全体をどんより暗いものにしています。

企画開発部は、今年度末に新規事業の計画を社長にプレゼンテーションします。今のタイミングは、新年に向けてメンバーを勢いづける大事な時期です。本来ならばB部長がスピーチし、力強い言葉でメンバーを鼓舞するべきです。しかし、B部長にそうした考えはないようで、いつもどおり振舞っています。「こんな環境で仕事をしても楽しくない……」。Aさんは、ビジネスにおけるノリの大切さを実感し始めていました。

2 ビジネスにおけるノリの効果

一般的にノリというのは、そのときの雰囲気や流れに乗って勢いをつけることを意味します。調子づいて羽目を外すなど、「悪ノリ」の意味でも用いられます。

悪ノリは、ビジネスでも発生します。調子に乗って、言わなくてもいいことを言ってしまったという経験は誰にもあるでしょう。また、相手のペースにまんまと乗せられて、不利な条件を受け入れてしまうことがあるかもしれません。こうしたことは、特に権限のある管理職は、避けなければなりません。

逆に、管理職は、「良いノリ」を率先してつくるべきです。例えるなら、波に乗って組織に勢いを与えるイメージです。例えば、新しいチャレンジなど会社やチームの状況、新年度、年末年始などの時期などを踏まえつつ、「ここだ!」というときに自らの言葉で波を起こし、チームを乗せるのです。

うまく波に乗ることができれば、チームは明るい雰囲気で満たされ、活力も生まれます。メンバーは仕事を楽しむことができるので、パフォーマンスも高まります。マネジメントに優れた管理職は、こうしたビジネスにおけるノリの大切さを理解しており、良いノリをつくる努力を惜しみません。

3 率先垂範で明るい組織をつくる

ノリの悪い管理職が自分を変えようとする際に確認したいのは、「管理職はチームを任された『公人』であり、常に周囲から見られている」という認識です。

一つの例を挙げてみます。近年は社員満足度を高めるための仕掛けをする会社が増えています。まだリアルで集まれたころの例ですが、ある会社がこうしたイベントを開催し、余興でダンスをすることになりました。ここで役員や管理職のノリが分かれました。「よし、やろう!」と積極的に参加するグループと、「こういうの苦手で……」とダンスの輪から遠ざかるグループが出てきたのです。

イベントの参加者は、役員や管理職がどのように行動するかを観察しています。ダンスが下手でも関係ありません。社長以下、管理職は全員参加で、楽しくダンスをするのが好ましい姿です。そうした姿を見たイベントの参加者は、「明るくて一体感のある会社」だと感じるからです。これは会社全体のイベントの例でしたが、部門単位でも本質は同じです。

4 会議のノリを悪くする管理職

管理職が積極的なのは好ましいですが、注意しないと意図せず周囲を畏縮させてしまうことがあります。ありがちなのは会議です。会議で管理職が発言するのは良いことですが、誰も発言を制しないのをよいことに “独演会”になっていないでしょうか。また、管理職は“少しだけ”厳しく言ったつもりが、周囲が過剰に反応してしまい、恫喝(どうかつ)と受け取られてはいないでしょうか。

周囲がどう受け取るかは、普段の管理職のノリで違ってきます。日ごろから明るく前向きな姿勢を保ち、部下に意見を出させ、真剣に議論することが大切です。このような管理職の言葉なら部下も耳を傾けるでしょうし、少々厳しくされたくらいで、恫喝されているとは感じないでしょう。

5 ノリが仕事を楽しくする

「孫子」の中に「激水のはやくして石を漂わすに至るは、勢なり(兵勢篇)」という一節があります。管理職なら、大きな岩をも押し流すほどの勢いを自分のチームに取り入れたいと考えるはずです。特に、既存のビジネスが絶好調なとき、新規事業など新しいことにチャレンジするとき、逆境を克服するときなどの「勝負どころ」ではそうでしょう。

そして、勝負どころでチームが“戦う態勢”になれるか否かを決める要素に、管理職のノリがあります。そのため、管理職は良いノリをつくらなければならないのです。とはいえ、良いノリが突然生まれ、チームに定着するわけではありません。管理職が日ごろから努力を重ねる必要があるのです。

以上(2021年8月)

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画像:milanmarkovic78-Adobe Stock

同一労働同一賃金への対応や人事政策の視点から検討する手当の廃止・見直しの考え方

(日本法令ビジネスガイドより)
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片手で殴り合いながら、片手で握手をする

書いてあること

  • 主な読者:入社3〜5年目でさらに成長したい中堅社員と、それを見守る経営者
  • 課題:ビジネスの状況を一面的にしか見ることできない
  • 解決策:自分の立ち位置や感情にこだわりすぎず、高所から目的を確認する

1 競合他社と業務提携。その理由は?

中堅社員のAさんは、上司であるB部長の営業方針が理解できません。最近、Aさんの会社は競合C社の参入で浮足立っているのですが、B部長はそのC社と業務提携しようと画策しているのです。

確かにC社と業務提携をすれば、正面から争うことはなくなるかもしれません。しかし、先日、Aさんは自身が担当する顧客をC社に奪われたばかりで、心情的にC社を受け入れられません。たまりかねたAさんは、B部長に直談判しました。「B部長、C社の件ですが、本当に業務提携が最善策なのでしょうか? 正面から戦いましょう!」。するとB部長は次のように返しました。

「Aさんの気持ちは分かる。誤解しないでもらいたいのは、私を含め、当社が戦う姿勢を失ったわけではないよ。より大きな市場をつくり、当社がさらに成長するためにC社と提携するほうがよいと判断したんだよ」

2 一見矛盾する相手との付き合い方

上司も部下に限らず、当事者には意見があり、衝突することもあるでしょう。人と人が密接に関わるシーンにおいて一方の主張が100%通ることはほぼなく、分かり合える領域、分かり合えない領域、その中間にある調整が可能な領域が混在しています。

競合先であっても、100%利害が不一致であるとは限りません。実際、ビジネスでは「先行企業がいたほうが、新規参入が楽である」「後続企業がいたほうが、市場が広がりやすい」といったことがあります。戦うことで一緒に市場を広げるイメージです。

こうした状況を、「片手で殴り合いながら、片手で握手をするようなもの」と表現することがあります。自分の立ち位置や感情にこだわりすぎず、高所から目的を再確認できれば、一見矛盾する相手との付き合い方が見えてきます。

3 交渉や議論からは結果が得られない

競合先と業務提携を判断する一つの基準は、競争領域と協調領域が明確に線引きでき、なおかつその業務提携によって自社に利益がもたらされるか否かです。このイメージがないと、交渉や議論を重ねても活路が見いだせないことがよくあります。かといって、力押しをすれば関係は破綻するでしょう。

この状況を突破するには、ある程度こちらが折れて、相手が求めるものを差し出すことです。ただし、そうすることで自社が大きな損害を被るだけでは意味がありません。今は厳しくても、将来の可能性が広がるかを分析し、したたかに進める必要があります。

また、業務提携が成立した後も大変です。双方が勝手な解釈をして動き始めると、そもそもの協調領域が崩壊してしまいます。慎重に相手との距離感を測りながら、粛々と目的を達成するための活動を続ける忍耐力が求められます。

4 使えるものは何でも使う

ビジネスは関係者に動いてもらうことで成立します。管理職など、組織の中での立場が上になればなおさらで、社内外の多くの人を巻き込んでいく必要があります。相手が競合先であっても例外ではありません。

仕事に対する情熱があり、理想があるからこそ競合であっても業務提携を進めることができます。そして、相手に合わせつつも、一つ一つの言動を数字に裏付けられたものとして行います。これは、なかなか高度なテクニックだといえるでしょう。

立場が上になれば、難しい局面を乗り越えなければならないことも増えます。“使えるものは何でも使う”という感覚を持ち、自分が動かすことのできる関係者を増やしていくことが、ビジネスの可能性を広げることにつながります。

以上(2021年8月)

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画像:rodjulian-Adobe Stock

「デジタル」でシニアの生活を変革 “高齢者テック”最新事情

書いてあること

  • 主な読者:高齢者向けの新サービスを展開したい経営者
  • 課題:高齢者の悩みに応えるサービスを知りたい
  • 解決策:国内外の事例を参考にし、他社にないサービス展開の参考とする

1 高齢社会の課題をテクノロジーで解決

スマートフォン(スマホ)、テレビを使って高齢者向けのサービスが続々と登場しています。国内では、離れた土地に住む子供や孫とリアルタイムに会話ができるサービスや、長年の仕事の経験を活かせる仕事のマッチングサービスなどが注目されています。

また、海外のスタートアップからは、クレジットカードの詐欺を防止するデビットカードを提供するサービスや、子供の独り立ち後の空き部屋をレンタルできるサービスなどが登場し、「高齢大国ニッポン」が直面する課題を解決できそうなものもあります。

この記事では、続々登場している高齢者向けのデジタル技術「高齢者テック」の動向を追います。

2 国内外で登場した最新の高齢者テック

今回紹介する「高齢者テック」の特徴を、「人や社会との関わりをもつ」「健康や安全な生活を送る」「仕事や資産形成に役立てる」「余暇や趣味を楽しむ」で分類してみると次のようになります。

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1)孫の様子をスマホで確認「まごチャンネル」

動画配信サービスを手掛けるスタートアップのチカクは、スマホのアプリで撮影した孫の動画を、祖父母のいる実家のテレビに送信し、テレビで孫の様子を楽しめる「まごチャンネル」を提供しています。

核家族化が進み、子供を連れて実家に帰省する回数も限られる現代、親世代は手軽にスマホで子供の動画を記録・視聴できるようになった一方、スマホに不慣れな祖父母世代は引き続きテレビが主な視聴デバイスとなっています。同社はこの世代間のギャップを「まごチャンネル」で埋めることに成功しました。

実家のテレビに専用の受信ボックスを接続し、テレビリモコンで「まごチャンネル」に合わせるだけで、送られてきた動画を視聴できることから、スマホやアプリに不慣れな高齢者でも簡単に操作できます。送信されてきた動画を視聴すること自体はスマホでも可能ですが、老眼で小さいものが見づらい高齢者も多く、大きな画面のテレビで見る臨場感が好評なようです。

2)孤独解消にご近所さんをマッチング「Buddy Hub(バディーハブ)」

Buddy Hubは、英国で高齢者向けの多世代間コミュニティーサービスを提供しています。Buddy Hubに登録すると、家の近隣に暮らす、共通の関心事や経験を持つ異なる世代の3人のユーザーとマッチングしてもらえます。ユーザーには、高齢者と3週間に1度は会うことが推奨され、スケジュールが合わない場合は他のユーザーが穴埋めをすることになります。

英国では、65歳以上の高齢者のうち約150万人が日ごろから孤独を感じており、慢性的な孤独が早死にするリスクを高めるともいわれています。こうした中で、同社のサービスにより、高齢者とその他の世代間のコミュニティーづくりを活性化させ、より良い社会の実現につながると期待されています。

なお、マッチングには性格やコミュニケーションスキル、好みなどに加え、犯罪歴の有無なども審査されます。これには、サービス内容には買い物や料金の支払いの援助なども含まれ、高齢者の中には介護などの支援が必要とされる場合もあるといった理由があります。

3)デジタルスキルを学び直し「MENTER(メンター)」&「複業留学」

エクセルやデータ分析、情報セキュリティー知識などのデジタルスキルの学習サービスを提供するWHITEは、ベンチャー企業での副業を支援するエンファクトリーとともに、シニア人材のデジタルスキル学習支援「MENTER」と、企業への人材マッチング「複業留学」を複合させたサービスを開始しました。

両社の共同事業の背景として、新型コロナの影響を受けてリモートワークの広まり・デジタル人材の需要が高まったこと、シニア人材にもデジタルスキルの学習を支援することで、新たなキャリア構築の支援を行うためとしています。

70歳までの就業機会の確保が企業に求められていく中で、これまでの社会人経験を活かしつつ、時代に合ったスキルを身に付けたシニア人材をベンチャー企業に供給していく仕組みです。スキルアップのためのオンラインでの学習プログラムをMENTERが、本業に影響が出ない範囲での実際の就業機会を複業留学がそれぞれ提供します。就業の際は、報酬型の「複業タイプ」、研修形式の「研修タイプ」のどちらかを選択できます。

4)ベテラン社員のノウハウを企業とマッチング「inow(イノウ)」

転職サイトなどを運営するアトラエは、ベテラン人材と、彼らの豊富な経験を業務に活かしたい企業をマッチングさせるプラットフォーム「inow」を、2021年5月から提供しています。

inowでは、ユーザー(ベテラン人材)の経験や人脈、自身の興味のある分野などを登録し、関連する求人を掲載している企業とマッチングすることができます。企業側が掲載する求人は、ベテラン社員のノウハウや顧問としての意見を求めるようなものを想定しています。inowの特徴として挙げられるのは、単なる求人マッチングだけでなく、週1日の業務委託や長期の顧問契約なども柔軟に決められることです。

マッチングの肝となる人材と案件の検索は機械学習を用いて、ユーザーの経験と企業の人材ニーズのマッチングの精度を高めています。さらに、ユーザーの興味や関心を機械学習することで、ユーザーが想定していないマッチング候補の提案も行えるようです。

副業や人材の流動化が進み、高齢者雇用安定法により高齢者の雇用がこれまで以上に求められる中で、ベテラン人材のノウハウの活用は、ユーザーと企業の双方にとって今後も要注目といえそうです。

5)使わなくなった空き部屋を貸し出す「Homesharing(ホームシェアリング)」

米国のSilvernestは、高齢者の住む家や空き部屋を若者とシェアする「Homesharing」を提供しています。これは、自宅をシェアするルームメイトをマッチングさせる高齢者のためのプラットフォームです。一般的な賃貸と異なり、自身は家に住みながら、使わなくなった空き部屋を貸し出し、リビングなどを共有します。こうすることで、貸し手である高齢者は、使わない部屋を収益化でき、同時に審査を通過した同居人と時間をシェアすることが可能です。同居人となるユーザーとしても、通常の部屋を借りるよりも安価に住まいを確保できるメリットがあります。

同居人の候補とのマッチングには、貸し手のプロフィールや質問事項への回答内容、部屋の詳細などを基に候補者とのマッチング度がランク付けされます。また、家賃を安定的に確保するために、同社ではリース契約や家賃の自動引き落としなどにも対応しています。

6)単身高齢者向け見守りサービス「ドシテル」

日立グループの日立グローバルライフソリューションズは、高齢の親の生活をセンサーで検知し、スマホで様子を見守るサービス「ドシテル」を提供しています。

これは、高齢の親のリビングなどにセンサーを設置し、日々の動きを「活動量」として検知し、活動量の程度に応じてユーザーのスマホにアニメーションとして表示されます。こうすることで、親の在宅・不在や、活動量の増減が把握できます。日々のデータも蓄積されることから、「起床時間になっても冷蔵庫を開けていない」「夜になっても外出から戻っていない」などの、いつもと異なる行動もプッシュ通知で設定できることから、万が一のときの備えにもなります。

活動量を計測するセンサーには、監視するカメラなどはついていないため、親のプライバシーを守ることもできます。親の様子はアニメーションで表示されるので、ユーザー側も「監視している」感覚を最低限に抑えることができます。

7)認知症を事前に検知し、脳トレで予防「Neurotrack(ニューロトラック)」

米国のシリコンバレー発のスタートアップNeurotrackは、スマホで認知機能のテストを行い、アルツハイマーなどの認知症の早期発見と脳機能の維持・改善を行うアプリを提供しています。

記憶や脳機能が徐々に失われるアルツハイマーなどの進行を止めたり、予防したりする薬は開発段階です。また、認知症は実際に目に見える症状が現れる10年以上も前から徐々に進行しており、症状が現れたときにはもう手遅れともいわれます。

Neurotrackは、こうした予兆をアプリで把握し、症状が現れる前に脳のトレーニングを行うことで、予防・改善を目指しています。臨床的に実証されている同社の認知機能のテストでは、スマホやパソコンのカメラで、ユーザーの視線を解析し、処理速度や注意力などの異常を検知します。そして、認知機能の改善に効果的とされる生活習慣の改善プログラムを提案し、テストを繰り返すことで認知機能の改善・向上を図ります。

同社は既に日本企業とも業務提携を始めており、第一生命ホールディングスやSOMPOホールディングスに認知機能に関するアプリの提供を行っています。

8)クレジットカードや銀行口座を管理する「True Link(トゥルーリンク)」

米国のTrue Linkは、高齢者や障害者など、自身でクレジットカードや銀行口座の管理が難しい人を対象とした、利用制限付きのプリペイドカードを提供しています。同社の「The True Link Visa Prepaid Card」は、カードが使える商品や店舗、金額などを本人以外がコントロールすることができます。

そうすることで、例えば、オンラインショッピングで高額商品を買うのを家族がブロックしたり、健康を損なう恐れのあるお酒やタバコの購入を制限したりできます。また、物忘れのために「頼んでもいないのに注文してしまった」というようなアクシデントも防げます。利用履歴はオンライン上で見られ、不正利用や使いすぎなども確認できます。

日本では、高齢者を狙った架空請求詐欺や振り込め詐欺が後を絶たない状況で、こうしたサービスへの期待が今後高まってくる可能性があります。一方で、高齢者のお金の使い道を制限することにもなり、導入するには丁寧な説明が必要になりそうです。

3 高齢者テック関連データ

前述の通り、高齢者向けのさまざまなサービスが世の中に登場しています。こうしたサービスのユーザーである高齢者の、インターネットの利用や日常生活の動向を見てみましょう。

1)総務省「令和2年通信利用動向調査」:年齢層別のインターネット利用機器

総務省「令和2年通信利用動向調査」によると、年齢層別のインターネット利用機器の状況は次の通りです。

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この調査結果から、60歳未満の層ではスマホの利用が高く(おおむね80%以上)、パソコンの利用率も20~59歳では60%を超えています。一方、60~80歳以上の層を見ると、年齢層とともにスマホやパソコンなどの利用率は減少するものの、「スマホとパソコンの利用率の差(緑の丸枠)」が縮小しています。高齢者向けのデジタルサービスを提案するには、画面が大きく、現役時代に操作することのあったパソコンでの利用を考慮した仕様にする必要があるかもしれません。

2)東京都「令和2年度東京都福祉保健基礎調査」:日常生活に必要なサービス

東京都では、65歳以上を対象とした高齢者の生活実態に関する調査を実施しています。それによると、回答者の57.2%が、身の回りの世話などの「日常生活支援サービス」の利用意向があると回答しています。

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同調査では、「生きがいを感じるとき」についても調査しており、回答者の40%以上が、「趣味やスポーツに熱中しているとき」「夫婦や孫など家族との団らんのとき」「友人や知人と交流しているとき」「テレビを見たり、ラジオを聴いたりしているとき」と回答しています。

同調査から、「ちょっとした家のお手伝い」や「気軽な話し相手」など、「人とのつながりを得るためのサービス」へのニーズがあることが伺えます。

前述の「まごチャンネル」や「Buddy Hub」のようなサービスは、今後のさらなる成長が期待できそうです。

以上(2021年8月)

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画像:deagreez-Adobe Stock

座学だけでなく実践を! 「70:20:10」の法則で部下を育てる

書いてあること

  • 主な読者:入社3〜5年目でさらに成長したい中堅社員と、それを見守る経営者
  • 課題:一生懸命に勉強しているのに、なかなか実際のビジネスに活かせない
  • 解決策:座学だけではなく、実際に「経験」できる機会をどんどん与える

1 部下が育たない……

「あぁ~、もう! 何度言ったら分かるの!! ビジネスは相手の立場も考慮しながら進めないとトラブルになるよ。社内も社外も同じ。『次工程はお客様』って言うでしょ」。こう語気を強めているのは、営業を担当する中堅社員のAさん。

Aさんは、日々、部下に営業の姿勢を指導していますが、なかなか成果があがりません。そこでAさんは、上司であるB本部長に相談しました。「部下がなかなか育ちません。本を読ませたり、セミナーに行かせたりしているのに……。今のままではとても現場に出すことは難しいです」。するとB本部長は、次のように返しました。

「Aさんが教育熱心なのは分かっているよ。部下もそれを分かっているから、Aさんが厳しくてもついてくるんだよ。でもね、Aさん。人は受け身の座学だけでは成長できないんだよ」

2 「70:20:10」の法則

社員教育の現場でしばしば話題に上る、「70:20:10」の法則というものがあります。これは、

人の成長に影響を与えるのは、70%の経験、20%の教え(上司などからの)、10%の座学(研修など)である

ことを示しています。

教えや座学も大事だけれど、実際に自分で経験してみなければ身に付かないことが多いというのは感覚で分かります。特に、失敗は貴重な経験で、次の挑戦に生かすことができます。ところが、部下の教育に熱心な上司ほど“30%の壁”にぶつかります。「まずは基礎固めから」「失敗しないように慎重に」などの思いから、20%の教えと10%の座学という、足して30%の教育(教えと座学に偏った教育)ばかりを実行してしまうのです。

その理由は、

実は教えと座学に偏った教育は、上司にとっては達成感がある

からです。そもそも座学の機会を与えているのは自分(上司)です。同様に、自分の指示に従っている部下を見ることで、自分の教えが浸透していると誤解します。しかし実際は、上司の言葉の字面しか理解していない部下は少なくないものです。

足して30%の教育で成長できるのは、自ら率先して行動できる人だけです。そうでなければ、「頭ではある程度理解しているが、経験が浅いため現場に出ると何をしてよいのか分からずに動けない」ことにあります。冒頭のAさんが直面しているのは、まさに“30%の壁”です。自分(上司)としては十二分に教えているのに、いつまでたっても部下が現場で通用するほどには育たない。そんな困った状況にあるわけです。

3 もう少し問題を掘り下げる

足して30%の教育がもたらす問題をもう少し掘り下げてみましょう。部下は上司の下で成長できないばかりか、将来に向かって「勇気(ゆうき)」「当事者意識(とうじしゃいしき)」「やる気(やるき)」という、ビジネスで大切な3つの“き”を失います。

まず、経験がなければ、現場で一歩を踏み出す勇気が湧いてきません。そうしたときに、上司が常にフォローしていれば当事者意識をなくします。そして最後は、「どうせ自分は仕事ができない」とやる気を失うのです。

こうした状況が長く続くほど、事態は深刻になります。そして、上司は簡単な仕事さえ任せることができなくなり、本来は上司がやるべきではない仕事をいつまでも引き受けることになります。上司が上司としての仕事をしなければ、組織は停滞します。

4 経験しながら学ぶ機会が大事

「70:20:10」の法則を考慮すれば、部下の成長を促すためには経験が大切です。そこで、部下には小さな経験からしてもらい、上司は少しずつ難しい局面を設定するようにします。例えば、最初は上司が同行している商談の場でサービスの提案をさせ、その後に価格交渉など利害が衝突しやすい局面を経験させます。

難しいのは、冒頭のAさんが遭遇したような、「相手のことを考えて行動する」といった類いのつかみどころのない内容です。これは個人によって考え方が異なるもので、世代によっても“常識”が違います。個人の考え方を教えるのは難しく、それが良いともいえません。また、仮に上司の考えを隅々まで教えられたとしても、同じような考え方をするメンバーが多い組織に多様性はありません。

そこで、上司のほうが部下の多様な考え方を受け入れるという発想の転換が必要かもしれません。もちろん、守らなければならない接客の基準などがあって、その部分については議論の余地はないわけですから、徹底的に教え、経験させましょう。

以上(2021年8月)

op20317
画像:fizkes-Adobe Stock

【朝礼】残念な「時間の感覚」を改善する2つのコツ

つい先日、社外の人とオンライン会議の日程調整をしているときに、「マナーがなっていない」と感じることがありました。初めてお会いする相手だったので、私も気を使い、候補日を3つ提示しました。各日それぞれ3時間の範囲から選んでもらう想定でしたので、合計9時間です。相手の日程調整がなかなか進まず、結局、1週間もかかりました。しかも決まったのは、最初の候補日の前日ギリギリです。その間、私は仮予定として9時間をブロックされたままです。こういう時間の感覚は本当に良くないと改めて思った次第です。

今挙げた例は極端ですが、「自分のところで仕事を止めてしまい次工程が遅れる」「リアクションが遅く相手を待たせてしまう」なども同様に良くない時間の感覚です。これでは物事が停滞し、前に進められないからです。

どうですか。皆さんもやりがちなことではないですか?

特に、リモートワークをしている当社では時間の感覚がとても重要です。この感覚が適切でないと大きなミスにつながりますし、全体的に緩い雰囲気となれば、組織の成長の妨げにもなります。これまでも繰り返してきましたが、改めて言います。皆さん、時間の感覚をバージョンアップさせてください。そのためのコツが2つあります。

1つ目は「早く返す」ことです。メールの他、チャットやSNSツールなど、リモートワークではさまざまな形でメッセージが届きます。

いずれの場合も、まずは早くリアクションしてください。特別な理由がなければ、長くても、待って1日です。すぐに答えられなくても、「確認が必要なので明日の17時までに回答します」と返すことはできるでしょう。特にチャットの場合、半日過ぎたら遅いくらいです。立て込んでいる場合は、「本日は16時ごろまで他案件で立て込んでおりリアクションできません。それ以降に確認します」と返しておけばいいのです。相手を「どうなっているか分からない状態のまま待たせる」のは、相手の時間を奪っているものと認識してください。

2つ目は「早く放出する」ことです。これは、60%でいいのでとにかく早く相手に出す、見せることです。「自分の中でメドがついてから」「完璧にしてから」と考えてため込んでいると物事は停滞します。相手も状況が分かりません。リモートワークにある意味慣れてきた皆さんの中には、「まだメドがついていないし、催促されていないから黙っていよう」という人が出てきています。これは大きな間違いです。催促されないことほど怖いことはありません。社内外問わず、「この人のところで仕事が止まる」というレッテルを貼られている可能性のあることを自覚してください。

時間の感覚のバージョンアップは、組織のバージョンアップにつながります。むしろ、そうしていかなければ、皆さん自身も、当社も生き残れません。ぜひ、今日から実践してください。

以上(2021年7月)

pj17061
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】人を動かすために知っておくべき、たった1つのこと

今朝は管理職の方に集まってもらいました。日ごろ皆さんと話をしていると、思うように部下とコミュニケーションが取れないという相談をよく受けるので、その点をテーマに取り上げたいと思います。

皆さんが部下を褒めたり叱ったりするのは、部下に何かを伝えるためです。こうした行為を一般的にコミュニケーションと呼びますが、コミュニケーションと伝えることは同じではありません。ビジネスにおけるコミュニケーションの目的は、相手に動いてもらうことであり、伝えることの一歩先になります。部下とのコミュニケーションを良くするための方法として、伝える言葉を吟味して、伝える回数を増やし、伝えるシーンにもこだわることを推奨する書籍があります。これらは大切なことですが、表面上のテクニックとして実践するだけでは、部下は動いてくれないでしょう。

まず、部下を動かすためには、教えることと促すことが必要だと理解してください。教えることとは、AがAであることを部下のレベルや成長度合いに応じて効率的に教え、理解してもらうことです。一方、促すこととは、Aをしなければならない理由、あるいはAをしてはいけない理由を伝え、実際にそう動いてもらうことです。

正しい知識を教え、そこから派生する問題を部下の“自分事”として伝えて行動を促せば、部下は動いてくれるでしょう。これが上司と部下の理想的なコミュニケーションです。

こうしたコミュニケーションができるか否かで大きな差がつきます。

今、我が社は「自己啓発」を重視しています。部下に自己啓発の大切さを教え、実際に取り組むように促すのは上司の役割ですが、上司によって部下の行動に大きな違いが生じています。ある上司の部下は積極的に自己啓発に励み、別の上司の部下は全く自己啓発に取り組もうとしません。

個々の部下の姿勢による違いはあります。しかし、それを凌駕するようなコミュニケーションを上司が取れていないということでもあります。

大切なのは、促す力です。なぜなら、ここで教えるのは「どうして、会社が自己啓発を求めているのか」「会社の方針に合った自己啓発はなにか」といったことであり、誰が説明をしてもそれほど大きな違いはないからです。

上司は部下と真正面から向き合い、本気で自己啓発に取り組んだ場合に、部下の活動フィールドがどのように広がっていくのかを伝えなければなりません。部下の行動を促すには、部下が理想とする具体的なキャリアと、その実現に自己啓発が不可欠であることを伝える必要があります。これは、日ごろから部下のことを真剣に考えている上司でなければ分からないことです。

部下とのコミュニケーションは、時間をかけて良くなっていくものです。日ごろから良い関係づくりを心掛けつつ、教え、促してください。

以上(2021年8月)

op16842
画像:Mariko Mitsuda

従業員を海外赴任させるときの源泉税・住民税の取り扱いは?

書いてあること

  • 主な読者:従業員の海外赴任を検討している中小企業の税務担当者
  • 課題:海外進出を検討する際の税務上の問題点を把握したい
  • 解決策:従業員の源泉所得税・住民税の取り扱いに注意が必要

1 海外赴任と税金

コロナ禍により、一時的に海外往来はストップしているものの、近年は大企業だけでなく中小企業においても、海外進出が増えており、海外赴任をする従業員も珍しくない時代です。本記事では、従業員を海外に赴任させる際におけるその従業員に関する税金の取り扱いを解説していきます。

なお、本稿における海外赴任とは、企業等に属する個人が辞令等により日本国外の関係会社もしくは支店等に1年以上の長期にわたり勤務する行為をいい、短期の出張等に関しては海外赴任に含めないものとします。

2 海外赴任に関連する国内の主な税金

1)所得税

所得税法では、1年以上日本国内に住所等(住民票の有無にかかわらず、居所や生活の本拠地等実情に基づいて総合的に判断)を有しない者を「非居住者」といい、居住者(永住者、日本国内に住所等を有する者)と比べて、所得税の課税範囲が異なります。

居住者に対する所得税の課税範囲が、全世界所得(国内源泉所得+国外源泉所得)であるのに対して、非居住者に対する課税範囲は、国内源泉所得に限定されます。

なお、国内源泉所得とは、国内で生じた所得(収入)をいい、具体的には国内勤務の対価として支払われる給与や国内に所在する不動産から生じた賃貸料収入、国内の銀行から受ける利息や国内の企業から受ける配当などがあります。

2)住民税

住民税はその年の1月1日時点で日本国内に住所等を有する場合に課税されます。そのため、12月31日に海外赴任により出国した場合には翌年の住民税について課税は生じませんが、1月1日に出国した場合は課税関係が生じることになります。なお、普通徴収の未納分(あるいは特別徴収未済分)については、海外赴任をしても納税が免除されるわけではないので、出国前に全て納付するなどの留意が必要です。

3)国外転出時課税制度

海外赴任者が、出国時に多額の金融資産(株式などで時価が1億円以上)を所有している場合は、「国外転出時課税制度」が適用されることがあります。そのため、多額の金融資産を有する同族会社のオーナー一族の人などが海外赴任をする際には留意が必要です。なお、国外転出時課税の申告が必要な海外赴任者が、国外転出のときまでに一定の手続きを行った場合には、国外転出の日から5年間(延長の届出により最長10年間)納税が猶予されます。

(注)「国外転出時課税制度」とは、1億円以上の金融資産を保有している者が国外に転出する場合に、その金融資産の未実現利益(含み益)に対して課税を行う制度です。

3 赴任先における税金負担(所得税)

送り出し企業が海外赴任者に対して留守宅手当等の名目で支給する給与については、原則的には国外源泉所得として日本での課税が生じない代わりに、通常は赴任先の国等において課税が生じることになります。ただし、赴任者が従業員でなく「役員」である場合には、留守宅手当等の名目で送り出し企業が支給しているものであっても、国内源泉所得として源泉徴収が必要になるので注意が必要です。なお、国外支店等において役員としてではなく「使用人」として赴任する場合は、通常の従業員と同様にその給与は国外源泉所得として日本では課税されません。

また、赴任先における課税範囲や課税方法は各国等の税法等により異なるため、どのような税負担や申告、納税方法を採用しているか確認し、赴任後に思いがけない課税等が生じることのないよう、事前の対応が必要です。

各国等における代表的な課税範囲の取り扱いを例示すると、赴任先での業務に係る給与の全て(現地払い分+現地以外(日本)払い分+経済的利益)を対象としていることが多く、この場合、現地払い給与のみを申告している際などは特に留意しなければなりません。実際、適切な申告をせずペナルティーが科せられる事例や、国等によっては未納等がある場合には出国(帰任)できないなどの事例もあるようです。

このように税金の取り扱いについては、国等によってさまざまであるため、実際の対応については、海外進出支援を行っている税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

4 海外赴任者に係る税務手続きに関する留意点

1)海外赴任前の国内の給与所得等に関する留意点(所得税の精算)

海外赴任者が1カ所の給与所得のみで、その収入総額が2000万円以下の場合は、送り出し企業はその者の出国時までに、年末調整により所得税を精算する必要があります。なお、出国前までの期間(国内勤務期間)に相当する賞与を「出国後に支給」した場合は、国内勤務期間に相当する部分の金額は、非居住者に対する国内源泉所得として通常の給与(居住者時代の給与)とは異なる税率で源泉徴収が必要になります。このような複雑な実務を回避する方法として、出国までに賞与を支給し、出国時に年末調整を実施することなどが考えられます。

また、2カ所以上からの給与や不動産所得など、給与所得以外の国内源泉所得を有する海外赴任者は、出国時までに納税管理人を選定し、所轄の税務署および住所のある市町村に届け出ます。納税管理人は法人・個人いずれでも届け出ることができ、海外赴任者の代理人として確定申告をすることになります。なお、納税管理人を選定しない場合は、出国時までに自分自身で確定申告をしなければなりません。

その他、参考として、海外赴任者がNISA口座を保有している場合の留意点を紹介します。以前は、非居住者(国内に恒久的施設を有しないもの)はNISA口座を保有できないこととなっていたため、赴任前に証券会社にて出国に係る諸手続きを経てNISA口座を廃止し、お金を払いだす必要がありました。しかし、2019年度税制改正に伴い、NISA口座については、証券会社にて一定の手続きを取ることにより、継続保有が可能となっています。ただし、非居住者については証券口座自体の保有を認めていない証券会社もあり、これらの取扱いは各証券会社で異なるため、各自で事前に確認する等の留意が必要となります。

2)非居住者に係る源泉所得税の納付書に関する留意点

非居住者に対して支給する役員報酬や、出国後に支給される出国前の国内勤務期間に係る賞与等は国内源泉所得に該当するため、20.42%の源泉所得税の徴収が必要です。また、この際の納付書は通常の給与に係る納付書と様式が異なります。

3)非居住者の確定申告(納税管理人の届出有り)に関する留意点

前述した一定の国内源泉所得を有する非居住者で、納税管理人の届出書を提出した場合は、申告期限(原則3月15日)までに、納税管理人を通じて確定申告書を提出し納税します。当該確定申告に係る課税範囲は国内源泉所得に限られ、また適用される所得控除は、基礎控除、寄附金控除及び雑損控除(国内資産から生じたもの)に限られます。

4)帰任時の留意点

赴任者が帰任(一時的なものを除く)した場合には、帰国した日の翌日から居住者となり、通常の従業員と同様の方法で、給与に対する源泉徴収が必要になります。また、帰任後に現地勤務に起因する給与や賞与が支給された場合においても、日本の課税対象となりますので、現地勤務に起因する給与等は帰国前にすべて支給し、現地で納税を済ませることで二重課税を避けるといった工夫が必要です。なお、二重課税が生じた場合も、確定申告で外国税額控除(詳細な説明は省略)を適用することにより、一定の額について二重課税を排除することが可能となる場合があります。

その他、納税管理人を選定している場合は、納税管理人の解任手続きが必要です。また、国外転出時課税制度の納税猶予を届け出ている場合には、課税の取り消しや更正の請求手続き等に留意が必要です。

なお、2019年度税制改正により、5年以内の海外転勤であればNISA口座の継続利用が可能になったため、出国の段階で証券会社に「継続適用届出書」を提出していた場合には、帰国後に「帰国届出書」を提出する必要があります。

5 【参考】短期滞在者免税(租税条約)

海外赴任ではなく、自社の業務等で海外に出張したときにも、その出張先の国等によっては、現地で課税が生じることがあります。この場合、同じ所得に対して、日本と出張先の国等の双方で課税関係が生じることになります(二重課税)。この二重課税の排除を目的として租税条約において「短期滞在者免税」という規定があります。この短期滞在者免税の要件を満たす場合は、現地での課税が免除されます。そのため、日本と出張先の国等との間に租税条約が締結されているかどうかや、その免除条件を確認することも重要です。

以上(2021年7月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森 浩之)

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