「いくらの印紙を貼るのか?」を分かりやすくまとめています

書いてあること

  • 主な読者:実務で印紙を取り扱う営業担当者、経理担当者
  • 課題:印紙が必要な文書、印紙の金額が分からない
  • 解決策:本稿で印紙が必要な文書の種類と、金額の一覧表を示す

1 課税文書とは

印紙税とは、「契約書」「手形」「領収書」などの文書(印紙税法別表第一の「課税物件表」に掲げる文書)に対して課される税金です。印紙税は、これらの文書を作成した人が、文書ごとに決められている金額の収入印紙を文書に貼り付け、消印して納付します。

印紙税が課税される文書を「課税文書」と呼びます。課税文書には「売買契約」「金銭消費貸借契約」「請負契約」などがあり、20種類(1号文書~20号文書)の区分で分けられています。その区分や記載された契約金額などによって印紙税額が異なります。ここで、国税庁「印紙税額一覧表」などを基に印紙税額をまとめているので、「いくらの印紙を貼ればよいか?」が分かります。

なお、印紙税の概要や実務上のポイントについては、以下のコンテンツをご参照ください。

▶ 30040 「印紙税」の概要と税理士が教える実務のポイント

2 課税文書に係る印紙税額

1)1号文書

1号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶、航空機または営業権の譲渡に関する契約書(不動産売買契約書など)
  • 地上権、土地の賃借権の設定または譲渡に関する契約書(土地賃貸借契約書など)
  • 消費貸借に関する契約書(金銭借用証書、金銭消費賃貸借契約書など)
  • 運送に関する契約書(運送契約書、貨物運送引受書など)

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1号文書「不動産の譲渡に関する契約書」のうち、1997年4月1日から2022年3月31日までに作成されたものについては、契約書の作成年月日と記載された契約金額に応じ、次の通り印紙税額が軽減されています。

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2)2号文書

2号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 請負に関する契約書(工事請負契約書、工事注文請書、物品加工注文請書、広告契約書、映画俳優専属契約書、請負金額変更契約書など)

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「請負に関する契約書」のうち、建設工事(一定のものを除く)の請負に係る契約に基づき作成されるもので、1997年4月1日から2022年3月31日までに作成されるものについては、契約書の作成年月日および記載された契約金額に応じ、次の通り印紙税額が軽減されています。

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3)3号文書

3号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 約束手形、為替手形

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4)4号文書

4号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 株券・出資証券、社債券、投資信託、貸付信託、特定目的信託もしくは受益証券発行信託の受益証券

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5)5号文書

5号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 合併契約書または吸収分割契約書もしくは新設分割計画書

印紙税額:4万円
非課税文書:なし

6)6号文書

6号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 会社設立のときに作成される定款(原本)

印紙税額:4万円
非課税文書:株式会社または相互会社の定款のうち公証人法の規定により公証人の保存するもの以外のもの

7)7号文書

7号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 継続的取引の基本契約書(売買取引基本契約書、特約店契約書、代理店契約書、業務委託契約書など)

印紙税額:4000円
非課税文書:なし

8)8号文書

8号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 預金証書、貯金証書

印紙税額:200円
非課税文書:信用金庫その他特定の金融機関の作成するもので記載された預入額が1万円未満のもの

9)9号文書

9号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 倉荷証券、船荷証券、複合運送証券

印紙税額:200円

10)10号文書

10号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 保険証券

印紙税額:200円
非課税文書:なし

11)11号文書

11号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 信用状

印紙税額:200円
非課税文書:なし

12)12号文書

12号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 信託行為に関する契約書

印紙税額:200円
非課税文書:なし

13)13号文書

13号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 債務保証に関する契約書

印紙税額:200円
非課税文書:「身元保証ニ関スル法律」に定める身元保証に関する契約書(雇用関係のある経営者と従業員などとの間で、従業員などの行為により経営者が受けた損害を賠償することを約したもの)

14)14号文書

14号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 金銭または有価証券の寄託に関する契約書

印紙税額:200円
非課税文書:なし

15)15号文書

15号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 債権譲渡または債務引受けに関する契約書

印紙税額(記載された契約金額が1万円以上):200円
印紙税額(契約金額の記載のないもの):200円
非課税文書:記載された契約金額が1万円未満のもの

16)16号文書

16号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 配当金領収証、配当金振込通知書

印紙税額(記載された配当金額が3000円以上):200円
印紙税額(配当金額の記載のないもの):200円
非課税文書:記載された配当金額が3000円未満のもの

17)17号文書

17号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 売上代金に係る金銭または有価証券の受取書(商品販売代金の受取書、不動産の賃貸料の受取書、請負代金の受取書、広告料の受取書など)

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  • 売上代金以外の金銭または有価証券の受取書(借入金の受取書、保険金の受取書、損害賠償金の受取書、補償金の受取書、返還金の受取書など)

印紙税額:200円
非課税文書:上記同様

18)18号文書

18号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 預金通帳、貯金通帳、信託通帳、掛金通帳、保険料通帳

印紙税額:200円(1年ごと)
非課税文書:次の通り。

  • 信用金庫など特定の金融機関の作成する預貯金通帳
  • 所得税が非課税となる普通預金通帳など
  • 納税準備預金通帳

19)19号文書

19号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 消費貸借通帳、請負通帳、有価証券の預り通帳、金銭の受取通帳などの通帳(18号の通帳を除く)

印紙税額:400円(1年ごと)
非課税文書:なし

20)20号文書

20号文書には、次の種類の文書が含まれます。

  • 判取帳

印紙税額:4000円(1年ごと)
非課税文書:なし

以上(2020年10月)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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中小企業が連結納税を導入する際の留意点

書いてあること

  • 主な読者:M&Aを検討している中小企業の経営者
  • 課題:連結納税制度の効果や具体的な手続きを知りたい
  • 解決策:その企業グループに属するそれぞれの法人の所得と欠損を通算して、グループ全体の所得金額を計算し、法人税額を求める

連結納税制度とは、100%親子関係(企業が別の企業の発行済株式の100%を保有している関係など)にある企業グループを一つの企業(納税単位)とみなして法人税の申告・納税を行う仕組みです。連結納税を導入するか否かは企業が決められるため、その効果や影響を理解して決定しましょう。

ちなみに、連結納税を導入した企業グループ(以下「連結納税グループ」)の親会社を「連結親法人」、その連結親法人に発行済株式の100%を直接または間接に保有される一定の国内子会社を「連結子法人」といいます(内国法人に限る)。連結納税を導入した場合には、適用対象の子会社を選ぶことはできず、連結子法人に該当する子会社は全て連結納税が強制で適用されます

なお、2020年度税制改正により、2022年4月1日以降に開始する事業年度から、連結納税制度は廃止され、新たに設立されるグループ通算制度(本稿では詳細な説明は省略)へ自動的に移行されます。グループ通算制度は連結納税制度と異なり、企業グループ内のそれぞれの企業が一つの納税単位となり、企業ごとに申告・納税を行うことになります。ただし、連結納税制度のメリットである企業グループ内の損益通算(詳細は後述)は行われるなど、引き継がれる点と変更される点が多々あるため、改正時の影響を考慮する必要があります。

1 連結納税制度の主な効果~黒字と赤字の相殺~

連結納税を導入した場合、連結納税グループ内のそれぞれの法人(そのグループの親会社およびその親会社に発行済株式の100%を直接または間接に保有される一定の国内子会社に限る)の所得と欠損(税金計算上の利益と損失)を通算して、グループ全体の所得金額を計算し、法人税額を求めます。

例えば、連結納税グループ内に黒字会社と赤字会社が両方ある場合、グループ内の黒字と赤字を相殺できるため、グループ全体の納税負担が軽減されます。つまり、同一グループ内に納税ポジションにある会社(黒字で納税が必要な会社)と、欠損ポジションにある会社(赤字で納税が不要で、欠損金を有する会社)がある場合は、連結納税制度を導入して黒字会社の所得と赤字会社の欠損金を通算させることができるのです。

加えて、連結納税導入時に、連結親法人において自社単体では消化しきれない繰越欠損金(過去分の欠損金で一定期間内のもの)を有している場合には、連結納税では、グループ内の連結子法人の課税所得から、これを繰越控除することが認められています。

2 連結納税の導入に当たっての検討事項

1)子会社が所有する一定の資産を時価で評価する

連結子法人となる子会社は、原則として、連結納税を導入する直前の事業年度末に所有している一定の資産(以下「特定資産」)を、時価評価しなければなりません。

これは、連結納税適用前の期間(以下「単体納税制度期間」)に生じた特定資産に係る含み損益(時価と帳簿価額の差額)を認識し、単体納税制度期間における課税関係を清算した後に連結納税制度へ移行させるためです。この含み損益は、税務申告においてのみ認識されるものであるため、財務諸表には反映されません。

なお、連結親法人に発行済株式の全部を5年超継続保有されている子会社など、一定の事由に該当する子会社(以下「特定連結子法人」)は、上記の時価評価をしなくてよいことになっており、含み損益を認識する必要がありません。

2)子会社が連結納税導入直前に有する繰越欠損金の制限措置

連結納税を導入した場合、原則として、連結子法人となる子会社が連結納税導入直前に有している繰越欠損金は、繰越控除することはできず、切り捨てられます。なお、地方税法(事業税・住民税)においては、切り捨てられることはなく、引き続き繰越控除の適用が認められます。

なお、特定連結子法人が有する繰越欠損金については、切り捨てられることなく、連結納税導入後においても、その特定連結子法人の単体所得(特定連結子法人単体で計算した税務上の利益)を限度として、繰越控除の適用が認められます。

3)みなし事業年度

連結納税を導入した場合、その連結納税グループに属する子会社(連結子法人)は、税務上、連結親法人となる親会社の事業年度に合わせて税務申告を行う必要があります。従って、親会社と決算期が異なる連結子法人については、「税務申告のための決算」と「会社法で定められる決算」を実施しなければなりません。そのため、事務手続きが煩雑となることから、事前に決算期の変更を検討しておくなどの対策が必要です。

なお、親会社と決算期が異なる連結子法人では、連結納税導入直前と導入後において、次の通り、みなし事業年度が生じることとなります。

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3 連結納税導入の手続き

連結納税を導入しようとする親会社および子会社は、連結納税の承認申請書を、親会社の納税地を所轄する税務署長を経由して、国税庁長官に提出しなければなりません。また、子会社はその承認申請書を提出した旨の届出書を、各所轄税務署長に提出する必要があります。

承認申請書の提出期限は、最初に連結納税制度を適用しようとする親会社の事業年度開始の日の3カ月前の日までです。

4 連結納税導入による中小企業特例税制への影響

1)中小法人の軽減税率

資本金が1億円以下の法人(以下「中小法人」)においては、所得金額のうち年800万円まで軽減税率を適用することが認められています。単体納税制度ではそれぞれの法人においてその適用が認められていますが、連結納税制度では、連結納税グループ全体で連結所得のうち年800万円までしかその適用が認められていません。従って、連結納税を導入することにより、企業グループで軽減税率が適用できる所得金額の総額が減少するため、納税負担の増加要因となる可能性がある点に留意が必要です。

なお、連結納税制度における軽減税率の適用判定は、連結親法人の資本金で行われるため、その連結親法人の資本金が1億円を超える場合には、連結納税グループ全体で軽減税率が適用されないこととなります。

2)交際費等に係る定額控除限度額制度

中小法人においては、年800万円に達するまでの交際費等については、損金の額に算入することが認められています。単体納税制度ではそれぞれの法人においてその適用が認められていますが、連結納税制度では、連結納税グループ全体で年800万円までしかその適用が認められていません。従って、上記4の1)と同様、企業グループで本制度の適用を受けることができる交際費等の総額が減少するため、納税負担の増加要因となる可能性がある点に留意する必要があります。

また、本制度の適用判定は、上記4の1)と同様に連結親法人の資本金で行われるため、その連結親法人の資本金が1億円を超える場合には、原則として、連結納税グループ全体で支出された交際費等の全額が損金の額に算入されないこととなります。

3)貸倒引当金

中小法人には、「貸倒引当金の損金算入制度」および「一括評価金銭債権に係る法定繰入率」の適用が認められています。これらは、適用を受けようとするそれぞれの法人ごとの資本金の額で判定されるため、その適用可否について、連結納税の導入が影響を及ぼすことはありません。

ただし、同一の連結納税グループに属する会社に対する金銭債権については、貸倒引当金の設定の対象外とされる点に留意する必要があります。

4)欠損金の繰戻し還付

連結納税を導入した場合であっても、連結親法人が中小法人に該当する限り、欠損金の繰戻し還付を適用することができます。なお、「繰戻し還付」または「繰越控除」のいずれを適用するかは、連結グループ全体で統一して選択する必要があります(それぞれの法人が個別にどちらかを選択することは認められない)。

5)留保金課税の不適用措置

中小法人には、留保金課税が課されません。連結納税制度を導入した場合には、連結納税グループ全体で留保金課税が課されることとなりますが、連結親法人の資本金が1億円以下である限り、留保金課税は課されません。

従って、単体納税導入時に留保金課税が課されていた資本金1億円超の子会社については、資本金1億円以下である親会社を連結親法人とする連結納税制度を導入することにより、結果的に留保金課税が課されなくなるといったケースも想定されます。

5 連結納税を導入する場合の留意点

1)増資による影響

上記で述べた通り、連結納税導入後も中小企業特例税制を適用することは認められていますが、その適用に際しては、連結親法人の資本金が1億円以下であることが要件とされています。

連結親法人について、資本金1億円超とする増資を行う場合には、連結納税グループ全体で中小企業特例税制(貸倒引当金を除く)を適用することができなくなるため、事前に十分な検討が必要です。

2)事務負担およびコストの増加

連結納税制度は単体納税制度に比べ、所得計算および税額計算が煩雑であり、かつ、高度な専門性が要求されます。加えて、連結納税グループに属する全ての会社の個別所得計算が終了しない限り、連結納税申告書を作成することができません。導入に際しては、連結納税に関する社内研修、経理業務のスケジュールやフローに与える影響、全社的な税務管理体制(税務情報の収集・計算システムなど)の見直しを事前に検討しておく必要があります。

また、連結納税申告書の作成に当たっては、専用ソフトの選定やその導入コストの検討が必要です。さらに、連結納税制度に精通した税務アドバイザーのサポートが必要な場合もあるので、新たに発生する専門家報酬等の追加コストの検討も欠かせません。

3)連結納税の取りやめ

連結納税の導入は、納税者自らの判断に委ねられていますが、その取りやめは原則として認められていません。従って、一旦導入した場合には、自らの判断で単体納税制度に戻ることはできないので、それを踏まえた上で事前の検討が必要です。

4)M&Aへの影響

近年、中小企業が関与するM&Aは増加傾向にあります。中小企業が買い手として他社を買収する場合、または、売り手として他社に買収される場合においても、選択される買収手段の大半は「株式取得」であるのが現状です。

連結納税を導入している会社が、100%株式取得により他社を買収する場合には、原則として、その買収対象とされる他社が有している資産について時価評価し、含み損益を認識しなければならず、含み益があるとその分、納税負担が増えることになります。また、その買収した他社が繰越欠損金を有している場合には、その繰越欠損金が切り捨てられてしまいます。状況によっては、買収スキームの選定に重要な影響を及ぼす可能性も想定されます。

今後、M&Aを予定しているのであれば、連結納税制度の導入が買収戦略にどのような影響を及ぼすか、専門家を交えて事前に十分な検討をしておくことが大切です。

以上(2020年10月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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スケジュール管理を阻む「先延ばし癖」を改善

書いてあること

  • 主な読者:先延ばし癖で、スケジュール管理がうまくいかないことに悩むビジネスパーソン
  • 課題:先延ばし癖があることは分かっているが、改善方法が分からない
  • 解決策:先延ばしにするメカニズムを知った上で、退屈に感じている場合は次に重要な仕事と入れ替えるなど工夫をする

1 スケジュール管理に悩んでいませんか?

2020年は多くの企業がリモートワークを実施していますが、家族がいるので集中しづらいなどの理由から、スケジュール管理に悩んでいるという人も多いのではないでしょうか。そもそも、あらゆる仕事には締め切りがあり、スケジュール管理は仕事の基本です。とはいえ、スケジュール管理を苦手とする人は大勢います。スケジュール管理ができない理由として、仕事の見込み時間が甘いなどが考えられますが、「先延ばしにしてしまう」というのもその1つです。

産業心理学者が記した「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」(*)によると、さまざまな調査において、「約95%の人が物事を先延ばしにすることがある」「約4人に1人が先延ばしが慢性的になっており、自分の特徴の1つである」と回答していることが紹介されています。先延ばし癖を改善することが、スケジュール管理の重要なポイントだといえるでしょう。

2 先延ばし癖を改善するための要素

先延ばし癖は、心理学や行動経済学などの分野でも関心を集めており、対策が研究されています。対策の1つとして挙げられるのが、モチベーションのコントロールです。高いモチベーションを保てれば、物事を先延ばしにすることなく、適切に対応できます。

前述した「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」によると、モチベーションを左右するのは、「価値の大きさ」「努力が報われる大きさ」「時間の長さ(遅れの大きさ)」という要素です。

日々の仕事においても、次のように感じる仕事は、先延ばしにしていないでしょうか。

  • 自分の成長につながるとは思えない(価値が小さい)
  • すぐやらなくても大丈夫(時間に余裕があるので、問題が切実に感じられない)
  • 自分には難し過ぎて解決できない(努力が報われない可能性が大きい)

以降では、「価値の大きさ」「時間の長さ(遅れの大きさ)」「努力が報われる大きさ」の各要素に注目しながら、先延ばし癖を改善するための行動を紹介します。

3 あえて先延ばしにする

組織への貢献度や緊急度が高い重要な仕事であっても、あまり自分が得意とすることでない場合、着手する気になれないことがあります。こうしたケースの改善策として、締め切りが目前に迫っている場合は別ですが、あえて少しだけ先延ばしにし、他の重要度の高い仕事と組み替える方法があります。こうすることで、結局何にも着手できない状態を防ぐことができます。

ただし、組み替える場合は、仕事の優先順位を正しく付けていることが前提です。組織への貢献度や緊急度が低い仕事ばかりに取り組んで達成感を得ることがないようにしましょう。

4 具体的にイメージする

「すぐやらなくても大丈夫」など、時間の余裕がある仕事は先延ばしにしがちです。しかも、余裕があることを言い訳にして、自分を甘やかしてしまいます。

これを避けるためには、「週の後半頑張れば間に合うだろうから、前半は違う仕事に取り組もう」とぼんやりと先延ばしするのではなく、何時間先延ばしにするのか、着手しない間にどのような仕事に取り組むのかを、明確にイメージします。

ある喫煙習慣に関する研究では、被験者に毎日1箱たばこを吸い続けるよう求めたところ、本数を減らす指示をしていないのに、全体的な喫煙量が徐々に減ったという結果があります。これは毎日同じ本数を吸い続けなければならないと自覚したことで、自制心が働いた結果だと考えられます。

何時間先延ばしにし、その間どんな仕事に取り組むのかを具体的にイメージすることで、「優先度の低い仕事に取り組んで、無駄な時間を過ごしている場合ではない」と認識することができます。また、先延ばしをしたことで起こるかもしれないトラブルやミスについても具体的にイメージするとよいでしょう。

5 仕事を小分けにしてみる

「自分には難し過ぎて解決できない」など、努力が報われないと諦めを感じる仕事は、先延ばしにしがちです。これを避けるためには、仕事を小分けにして取り組みます。

1つの固まりだと難しく感じる仕事でも、小分けにしてみると、思っていたよりも簡単だったということがあります。また、小分けにして1つずつ終わらせることで、進歩を感じられ、達成感が生まれます。

この際、取り組みやすい課題から少しずつ始めてみるのがコツです。例えば、企画書の作成に着手するなら、「グラフだけでも完成させる」などの視点で取り掛かります。

6 先延ばしが良い効果を生むことも?

先延ばし癖を克服することは簡単ではなく、改善策に取り組んでも劇的にスケジュール管理がうまくいくとは限りません。効果がすぐに表れないと、モチベーションを保つのが難しいと感じるかもしれませんが、諦めてはいけません。

人は年齢を重ねるほど、先延ばしにすることが減るという研究結果があります。これは年齢を重ねて物事の因果関係が理解できるようになることで、若い頃は無意味に感じていたことにも、意味を見いだせるようになるからだと考えられています。

任せられた仕事の中には、なぜ自分が取り組まなければならないのか、その目的を理解するのが難しいものがあるかもしれません。その場合、自分で考えることに加え、上司に相談して、目的やスケジュールを組み立てる際の難所などについて確認しましょう。上司はより高い視点から仕事を捉えているため、気付きを得られるはずです。

また、上司はスケジュール管理を教えるということにとどまらず、部下により多くの経験を積ませるようにします。経験に基づく広い視点は、計画倒れにならないスケジュール管理につながるでしょう。

一方、先延ばしには、悪い効果だけでなく、良い効果もあると説く人もいます。例えば、アイデアを出すといったような、創造性を発揮する類いの仕事の場合、先延ばしによってアイデアの質を高めることができるとの研究もあるようです。

しかし、単に先延ばしをするのではなく、「3時間後に、アイデア出しの時間をつくる」といったように、課題を認識した上で、一旦その仕事から離れて、息抜きをするなど他のことをするのが効果的だとされています。

【参考文献】

(*)「ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか」(ピアーズ・スティール(著)、池村千秋(訳)、阪急コミュニケーションズ、2012年7月)
「予想どおりに不合理 行動経済学が明かす『あなたがそれを選ぶわけ』」(ハヤカワ文庫 NF)(ダン・アリエリー(著)、熊谷淳子(訳)、早川書房、2013年8月)
「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューオンライン(2017年10月31日)」(ダイヤモンド社、2017年10月)

以上(2020年10月)

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資金繰り表の分析方法と読み方

資金繰り表を作成してもその読み方が分かっていなければ、安定した経営につなげることはできません。資金繰り表を作ることの本来の目的は、当面の資金繰りに困らないことだけではなく、事業活動の継続や財務体質の強化にあります。
そこで今回は、資金繰り表の分析方法と読み方について解説します。

なお、エクセルでできる、資金繰り表作成のポイントについては、以下のコンテンツをお読みください。

1 資金繰り表の構造を理解しよう

会社資金の収支は大別すると、「経常収支」「経常外収支」「財務収支」の3種類です。資金繰り表も、この3階構造に分かれています。

  • 経常収支
    本業の事業活動(売上や仕入、経費の支払いなどの営業に関する取引)による収入および支出。営業収支と呼ぶ場合もある
  • 経常外収支
    本業以外(助成金や保険金などの収入、設備投資費用など)の収入および支出
  • 財務収支
    財務活動(借入や借入金返済などの財務や投資に関する取引)による収入および支出

なお、経常外収支は頻繁に発生しないという会社もあるかもしれません。次に示した資金繰り表の一例のように、「経常外収入(支出)」を「その他収入(支出)」として経常収入(支出)の中に含めてもよいでしょう。

そもそも資金繰り表は、前月分から繰り越された資金、つまり手元に残っている資金に加え、当月内の収入と支出を加算・減算し、翌月繰越残高がどれだけあるかを確認するのが目的です。その構造をA、B、C……と赤字で示しましたのでご参考にしてください。

資金繰り表の構造を示した画像です

翌月繰越(Hの部分)の金額がマイナスになっている場合は資金ショートを意味し、そのままではお金が回らない状態です。「どの収支がマイナスなのか」を分析し、早めの対策を取りましょう。

2 資金繰り表から問題点を探る

1)経常収支がマイナスになっていないか?

経常収支は、本業の事業活動における収支です。例えば商品やサービスを販売や提供して得る収入に対し、商品や材料などの仕入や外注への支払い、人件費や家賃、水道光熱費、消耗品費などさまざまな経費の支払いがあります。

経営上は経常収支が常にプラスになっていることが、最も望ましい状態です。しかし多くの企業ではそう簡単にはいかず、経常収支がマイナスとなっているケースも少なくありません。経常収支がマイナスになっている場合には、次の2つのどちらに原因があるのか確認してみましょう。

  • 資金繰りに問題がある

経常収支がマイナスで、「損益計算書(P/L)」上は黒字という場合、資金繰りに問題があると考えられます。例えば、「手形割引を行う」「売掛金の回収サイクルと買掛金の支払サイクルを変更する」など、資金繰り改善策を検討してみましょう。

ただし売掛金の回収と買掛金の支払サイクル変更は、取引先からの信用不安を引き起こす可能性もあります。自社で行える対策を優先し、取引先との交渉は最後の手段としましょう。

  • 事業活動自体に問題がある

「損益計算書(P/L)」が赤字の場合、事業活動自体に問題があると考えられます。「前期比で売上は落ちていないか」「対売上で経費は適切か」など、さまざまな視点で分析し、経費削減や売上向上といった利益向上を図ることが必要です。

2)3カ月後の翌月繰越がマイナスになっていないか?

「翌月繰越(Hの部分)」がマイナスになっている場合は、会社の資金が不足している状態です。そのため、会社の債務(買掛金、人件費、諸経費、借入金返済など)が支払えないことになります。

こうした事態を避けるためには、事前に対策できるよう3カ月先の状況を確認することが大切です。入金増を目指して、経常収支の改善も含め、次のような対策を検討してみましょう。

  • 資産を売却する
  • 公的融資、銀行融資を利用する
  • ファクタリングや手形割引で将来の売上を先に資金化する
  • 取引先に入金タイミング変更(短縮)の交渉をする

出金減には、次のような対策を検討してみましょう。

  • 不要な経費の削減をする
  • 融資返済のリスケジュール(返済条件の変更)を交渉する
  • 借入金の借り換えなどで返済額の軽減を図る
  • 取引先へ支払いタイミング変更(延長)の交渉をする

ただし取引先への支払いや融資の返済を待ってもらっても、そもそも入金状況が改善されなくては、債務の先延ばしをしているにすぎません。不要なコストをカットしながら、入金を増やす対策を心掛けましょう。

3)財務収支(借入金返済)が経常収支を上回っていないか?

財務収支の中心となる項目は、「借入金」と「借入金返済」による収支です。財務収支がマイナスの場合であっても必ず問題があるわけではありません。「借入金返済をしている(借入金が減っている)」状態である場合には、問題ありません。

会社によっては、経常収支のマイナスを埋めるために借入金で賄うケースもあります。このとき、借入金の返済が経常収支を上回っているときは問題です。この場合の経常収支のマイナスは、資金繰りや事業活動に問題があることを意味します。その穴埋めのためだけに自社の財務状況では補えきれない金額の借入をしても、会社の存続をより危うくすることになります。先述したような経常収支の改善や、融資のリスケジュールなどで対策を図ることが急務でしょう。

4)設備投資の投資対効果を確認する

「投資に対するリターン(入金)が計画通りか」確認してみましょう。例えば、売上拡大を目指し店舗数を増やしたり製造機械を購入したりする場合は、上表の「その他支出(青字(1)の部分)」に当たります。投資後の本業に関わる入金状況(Bの部分)が増えているかを確認します。

投資をしてからリターン発生までには期間差があります。予測と実績のチェックを綿密に行いましょう。

3 資金繰りに関する主な財務分析

1)売上債権回転期間(月)をチェックする

資金繰りを安定させるためには、売上回収を確実に行うことが何よりも重要です。売掛金の回収は、取引先との関係などによっても異なります。確実な回収がなされているか、売上債権回転期間をチェックしてみましょう。必要な金額は、貸借対照表(B/S)の売掛金と受取手形の金額、および損益計算書(P/L)の売上高となります。

  • 売上債権回転期間=売上債権(=売掛金+受取手形)÷平均月商

売上債権回転期間が短い場合は、売上債権が現金化できるまでの期間が短くなるため、資金繰りがスムーズに行われているといえるでしょう。売上債権回転期間の目安は業種や企業規模により異なり、財務省(財務総合政策研究所)から発表されている2018年度を例(以下、同例)とした場合、全業種・全規模の平均は1.85月となっています。

2)仕入債務回転期間(月)をチェックする

資金繰りをコントロールするためには、「仕入債務(買掛金や支払手形)の回転期間が適正かどうか」の確認も大切です。仕入債務が月商の何カ月分あるのかを表す指標として、仕入債務回転期間をチェックしてみましょう。必要な金額は、貸借対照表(B/S)の買掛金と支払手形の金額、および損益計算書(P/L)の売上高となります。

  • 仕入債務回転期間=仕入債務(=買掛金+支払手形)÷平均月商

仕入債務回転期間の指標が短く売上債権回転期間が長い場合は、資金繰りは悪化します。仕入債務回転期間の目安は業種や企業規模により異なりますが、全業種・全規模の平均は1.37月(例:2018年度)です。

3)棚卸資産回転期間(月)をチェックする

「在庫の維持が適正か」についてもチェックしてみましょう。月商の何カ月分の棚卸資産を保有しているかを表す指標として、棚卸資産回転期間があります。必要な金額は、貸借対照表(B/S)の棚卸資産の金額、および損益計算書(P/L)の売上高(月商に換算)となります。

  • 棚卸資産回転期間=棚卸資産÷平均月商

棚卸資産回転期間の指標が長いほど、売上に対して在庫が多いことになり、資金繰りが悪化します。棚卸資産回転期間の目安は、業種や企業規模により異なりますが、全業種・全規模の平均は0.95月(例:2018年度の例)です。

4 資金繰り表の管理・運用のコツ

資金繰り表を作成する時点では、将来の予測に基づいて入出金を記載します。しかしその後は月ごとに実績が出るため、毎月更新していかなくてはなりません。例えば、2020年9月分として記載している入出金および繰越額の予測額は、10月になるとその実績が出てきます。

一般的に実績と予測には差異があります。「なぜその差異が発生したのか」を検証し、10月以降の予定額を修正することが重要です。「予測→実績→差異の原因分析→再予測」を繰り返し行っていきましょう。

経営上の問題点が明らかになれば、そこから経営改善につなげることが期待できます。今回紹介した分析のポイントを参考に、経営基盤を強化していきましょう。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年10月30日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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分かりやすい資金繰り表の作り方−ポイントとメリットを解説

事業を行う上で、経営者が気に掛けなければならないことの1つが資金繰りです。業績が順調に伸びていても、資金繰りがスムーズにいかない場合、事業に支障を来たしかねません。資金の全体の流れを把握して上手にコントロールするためにも、資金繰り表を作成してみましょう。

資金繰り表は、定期的に更新したり確認したりを繰り返すものなので、シンプルで分かりやすいことが大切です。そこで今回はエクセルでできる、資金繰り表作成のポイントについて解説します。

なお、資金繰り表の読み方や資金繰りに関する財務分析については、以下のコンテンツをお読みください。

1 資金繰り表とは

資金繰り表とは、一定期間の資金の動きを一覧にして、手持ち資金の過不足を可視化できるようにしたものです。

そもそも「資金繰り」とは、入ってくるお金と出ていくお金のやりくりのことをいいます。事業活動におけるお金のやりくりでは、売上から入金または仕入から支払いまでのタイミングがずれることが多くあるのは経営者ならご存じでしょう。

例えば販売活動でいうと、通常、「仕入」が「売上」に先行します。これを自社のお金の流れで考えてください。実際には買掛金の支払期間(仕入から現金で支払うまでの期間)と売掛金の回収期間(売上から現金が入金されるまでの期間)がそれぞれどのように設定されているかにもよるものの、仕入をするとその支払いが販売の入金に先行するため「支払」と「入金」に時間差が生じ、その部分は自社資金で賄うことになります。

資金繰りのイメージ例の画像です

お金の出入りと現状を把握して資金をうまく回せるようにしておかなければ、帳簿上は利益が出ているにもかかわらず資金が足りなくなり、債務の返済や給料、必要経費などの支払いができなくなる恐れがあります。この状態が続くと黒字倒産になりかねません。

東京商工リサーチの調べによると、2019年(1月~12月)に倒産した545社のうち285社は最新期で営業黒字でした。この実態は資金繰りの重要さを浮き彫りにしているともいえそうです。

つまり、科目別にある一定期間の資金の動きを書き記し、手持ち資金の過不足が分かるようにすることは経営上とても大切なことなのです。それを一覧にしたものが資金繰り表です。

2 資金繰り表の作成メリット

1)将来の一定時期に向けて必要な対策を打てる

事業活動の継続、拡大を目指すためには、資金調達、営業強化、商品力向上、投資の実施とさまざまな対策が必要です。その一方で、「投資に使えるお金はどのくらいあるか」「いつごろなら投資や採用を実施できそうか」「今投資すれば資金繰りが悪化してしまうのではないか」など、資金上の不安を感じる経営者も少なくありません。

資金繰り表を作って、月々の収支や残高を早めに予測することができていれば、余裕を持って資金調達、営業強化、商品力向上、投資の実施といった対策に集中できるでしょう。

2)財務状況を悪化させない対策が取れる

「1週間後」や「今月末まで」というような時間に余裕のない資金調達が必要になった場合、会社が取れる手段は限られます。そのような場合、高い金利の融資に頼ったり、決済見込みのない手形を発行せざるを得なくなったりするのではないでしょうか。このような資金調達は、将来的に財務状況を厳しくする要因となります。

最低でも3カ月先、できれば6カ月先まで余裕を持った資金繰り予測をしておくことで、仕入を抑制したり、在庫処分を試みたり、当座貸越などの短期借入を活用するなど、財務状況にダメージを与えない対策を検討しやすくなるでしょう。

3 資金繰り表をエクセルで作成

ここからは具体的に資金繰り表を作成する方法について見ていきましょう。資金繰り表に決まった様式はありませんが、大切なポイントは「シンプルで分かりやすいこと」と「更新しやすい」ことです。そのため、自動計算や項目の並び替え、セルの挿入などがしやすいエクセルを利用するのもおすすめです。

まずは枠組みを作ります。事業活動におけるお金の出入りには、

  • 売上や仕入、経費の支払などの営業に関する取引=経常収支
  • 借入や借入金返済などの財務や投資に関する取引=財務収支

があります。

エクセルの資金繰り表でも経常収支と財務収支に分け、それぞれ何に対するお金の出入りか分かるように項目を書き込んでいきます。このとき、例えば売上や仕入の項目で取引先ごとに行を設けたり、融資の項目では銀行ごとに分けたりして記載する場合も多いようですが、行数が多くなるほど見にくくなってしまいます。前述したように「シンプルで分かりやすいこと」が大切なポイントですから、細かく分け過ぎず、かつ収支の内容が分かるような表作りを心掛けましょう。

資金繰り表の一例を記載しますので参考にしてください。一般的な項目例を載せていますが、自社の事業内容や取引状況に合わせてカスタマイズしても構いません。なお、細かく言えば、助成金や保険金などの収入、設備投資費用など本業以外の収入および支出である経常外収支もあります。ここでは財務収支の中の「その他収入(支出)」として記載しています。

資金繰り表の例の画像です

1)売上代金の回収予定(上記資金繰り表のピンク色部分)

売上が上がればその金額を資金繰り表に入力することになりますが、売上から代金を回収するまでには、いくつかのパターンがあります。すぐに代金を回収できる場合もあれば、売掛金となって後日回収となる場合などさまざまです。

資金繰り表はあくまで現金の入・出金の動きを表すものですから、上記資金繰り表のピンクの部分は代金を回収する予定の月に、回収方法別に、回収予定金額を入力していきます。

  • 現金売上:売上後、代金をすぐに回収した金額
  • 売掛金回収:売掛金で回収する金額
  • 手形期日:手形決済日に回収する金額
  • 手形割引:手形割引で回収する金額

なお、前受金が支払われる場合、「前受金」欄に金額を入力します。

2)その他収入予定(上記資金繰り表のオレンジ色部分)

売上代金以外に予定のある入金を入力します。例えば、助成金を受給する場合や保険金の受取り予定などがあります。

3)仕入代金(上記資金繰り表のブルー色部分)

販売する商品の仕入や製品を製造する際の原材料の仕入の金額を資金繰り表に入力します。代金の支払いまでには、いくつかのパターンがあるのは売上の場合と同様です。実際に代金を支払う予定の月に、支払方法別に支払予定金額を入力していきます。

  • 現金仕入:現金で仕入れた金額
  • 買掛金支払:買掛金を支払った金額
  • 手形決済:手形決済で支払った金額

4)人件費(上記資金繰り表のグリーン色部分)

給与・賞与・退職金・法定福利費など、人件費として支払う予定の金額を入力します。なお、給与や賞与から天引きする社会保険料や税金なども人件費の欄に入力しますが、年金事務所や税務署に納める月と従業員に給与・賞与(天引き後)を支払う月が異なる場合もあります。その場合には、それぞれ支払い予定月に、それぞれの金額を入力するようにしましょう。社会保険料や税金は概算額でも構いません。

5)販売費・管理費・その他支出(上記資金繰り表のパープル部分)

販売費や一般管理費など、人件費以外の経費、利息支払いなどを入力します。経費は例えば「水道光熱費」、「消耗品費」、「運賃」、「燃料費」などというように細かく項目を作っても構いません。自社で分かりやすいように工夫して作成しましょう。また、支払利息は財務支出に含めても構いません。自社でルールを決めましょう。

経費の支払いは、例えば家賃を前月の末日までに支払う場合など、経費の種類や支払い先によって前払いの場合や後払いの場合があります。資金繰り表には実際に支払いをする月に金額を入力していきましょう。

6)税金支払(上記資金繰り表のベージュ色部分)

法人税等(法人税、法人住民税、事業税)と消費税の支払い予定を入力します。中間納付する場合など、支払い月や金額を顧問税理士に確認してみましょう。

7)借入金、借入金返済、その他財務収入・財務支出(上記資金繰り表のグレー色部分)

借入予定があれば財務収入の「借入金」に入力します。また、財務支出の「借入金返済」欄には借入先からもらう返済予定表などから各月の返済予定額を転記していきます。

定期預金や定期積金は、普通預金・当座預金のようにいつでも引き出しできる預金ではないため、財務収支に含めます。定期預金・定期積金の預入・取り崩しがある場合には、その他収入・支出欄に入力しましょう。別途項目を設けても構いません。

4 資金繰り表作成の注意点

一通り入力できたら資金繰り表の完成です。各月の資金残高がマイナスになっていないか確認してみましょう。マイナスの場合は資金不足の状態ですから、早めの対策が必要です。なお、入力時に売上高や仕入、経費などの予測が甘く、資金不足が予測できなくなってしまっては、せっかくの資金繰り表もその役割を果たせません。少し厳しめの予測をするのがポイントです。

プラスになっている場合でも継続的にプラスとなっていることや、経常収支のプラスが財務収支のマイナスを補えているかなど、さまざまな視点で確認することも大切です。資金ショートを起こさないためのレーダーとして、上手に資金繰り表を利用してみてください。

以上

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【資金調達】エクイティ・ファイナンスで必ず押さえておきたい資本政策

企業の主なファイナンスの手法は、

  • 投資家から出資を募り、その対価として株式を発行するエクイティ・ファイナンス
  • 金融機関等からの借り入れを行うデット・ファイナンス

に大きく分けられます。スタートアップの事業の場合、事業の新規性ゆえ、不確実性が高く、与信を得にくいため、エクイティ・ファイナンスを用いることが主流です。
起業家が目指すものに、事業の成功がありますが、ハードな環境に耐えて事業を成功させたリターンとしてエグジットの際に適切なキャピタルゲインを得るべきです。また、円滑な意思決定を実現するためには、起業家が一定の持株比率を維持しておく必要もあります。そのためには、エグジット時に想定される起業家の持ち株比率から逆算して、創業当初から資本政策を意識しなければなりません。
後に解説する通り、資本政策は、ほぼ不可逆なものです。そのため、特に、共同創業者が存在する場合には、エグジット時の持ち株比率を想定しながら創業当初の持ち株比率を決定し、創業者間の関係性が悪化した場合などにも備えておく必要があります。
そこで、今回は、スタートアップのファイナンスを考える上で、はじめに意識しておくべき、創業者の株式についての考え方をご紹介します。

1 創業者間の持ち株比率と資本政策

いきなり身も蓋もない話をすると、創業者間の持ち株比率等について、これといった正解はありません。どのような持ち株比率であっても成功する企業もあれば、失敗する企業もあります。もっとも、創業者の持ち株比率は、資本政策を考える上で初めの基礎になるので、それがどのような意味を持つのか、また、どのような要素を考慮してこれを決めるべきかについては、意識しておく必要があります。
創業者の持ち株比率を決める上で考慮すべき要素は、大きく

  • キャピタルゲインの分配
  • 会社の意思決定の円滑性

に分かれます。

前者のキャピタルゲインの分配という要素は、各創業者の事業に対する役割や寄与の仕方、人間関係などさまざまな事情が関係するため、法的な観点で捉えられる問題ではなく、創業者間で考えを擦り合わせた上で決める他ありません。
一方で、会社の意思決定の円滑性という要素は、主に株主総会での意思決定を意味しており、その決議要件は会社法に定められていることから、法的な問題といえます。株主総会の決議要件については、おおむね下表の通りですが、株式発行時の募集事項の決定や定款変更は、多くのスタートアップにおいて必要となるものであるため、これらの決議において必要となる特別決議の決議要件(議決権数の3分の2)については、エグジットまでの持ち株比率の希釈化を想定し、意識しておく必要があります。
従って、法的な観点からいえば、創業期において、代表者が議決権の3分の2を切ってしまうような持ち株比率の定め方には、その後、代表者単独で会社の意思決定ができなくなるリスクがあるといえます。

株主総会の決議要件を示した画像です

2 創業者株主間契約

1)創業者株主間契約とは

創業者間で各創業者が保有する株式の有事の取り扱いについて定める契約として、「創業者株主間契約」というものがあります。創業者株主間契約の目的は、主に、何らかの事情で創業者の一部が事業から脱退する際の株式の取り扱いを定めることにあります。従って、関係性が良好な創業期において、これを締結しようと持ちかけるのには高い心理的ハードルがあるように思います。
もっとも、創業者の一部が事業から脱退することは珍しくないので、創業者株主間契約を締結する意義は大きく、内容の濃淡は置くとしても、できるだけ締結すべきものと考えます。
それでは、創業者株主間契約ではどのような内容の契約を結ぶべきなのでしょうか。創業者株主間契約で定めるべき事項としては、主に、

  • 脱退する創業者の株式の譲渡
  • 譲受人
  • 譲渡価額

があります。

2)脱退する創業者の株式の譲渡

一般的には、リバースベスティングと呼ばれる定めを設けて、一定期間内に創業者が脱退した場合には、在職期間に応じて、強制的に保有する株式の一定数を譲渡させる方法がとられています。
特に決まりがあるわけではありませんが、在職期間に応じた株式の譲渡割合は、以下のような割合で定めることが多いです。もっとも、あくまで、これは持ち株比率の少ない創業者に対する定めとして機能するものです。例えば5:5で持ち株比率を定めた創業者について同様の考え方をとった場合に、一方が4年目以降に脱退すると、会社としての意思決定が困難となる可能性があるので、持ち株比率や状況に応じて定める内容を考慮する必要があります。

在職期間に応じた株式の譲渡割合の例を示した画像です

3)譲受人

脱退する創業者の株式を誰が譲り受けるかについては、他の創業者または他の創業者の指定する者などとすることが一般的です。会社の株式ならば、会社で譲り受ければよいのではないか、という疑問も湧くかもしれませんが、自己株式の取得は、剰余金の配当等の場合と同様に、会社法上の分配可能額が存在していなければできないため、スタートアップにとっては容易ではありません。
減資を行うことにより分配可能額が生じる場合もありますが、既に第三者からの資金調達を経ている場合、株主間契約等の定めにおいて、減資が投資家による事前承諾事項とされていることが多いので、ここでも高いハードルが生じます。

4)譲渡価額

譲渡価額についてはどのように考えるべきでしょうか。譲り受ける側の創業者としては、低廉で済むに越したことはなく、逆に脱退する創業者としては高ければ高いほど良いはずです。
しかし、事はそう簡単ではありません。特に譲り受ける側の創業者の立場として低廉な価格を定めた場合、注意すべきは税金です。バリュエーションがさほど上昇していない時点における譲渡であれば、多少低廉な譲渡であっても贈与税は大きな金額にはなりません。しかし、成長するスタートアップのシリーズA以降からエグジットにかけてのバリュエーションの伸びは急激であるため、後のラウンドで創業者が脱退すると、その金額は計り知れないものとなる可能性があります。
また、逆に、脱退する創業者が会社に株式を譲渡する場合に、時価の2分の1以下で行うと、時価と譲渡価額の差額に課税されるため、脱退する創業者にとっては、譲渡価額が低廉なばかりでなく、課税の負担まで負わされるという結果にもなりかねません(会社の受贈益に対する課税については、自己株式の取得の場合か否か等の事情により、課税の有無が異なり得るため、税理士等の専門家への相談が必須となります)。
このように、譲渡価額の決定に際しては、譲渡人と譲受人の双方の課税負担についても考慮しなければならないのに加え、その負担を負うことができるか否かは、創業者の脱退時点における会社のバリュエーションにも左右されるため、事前に確定的な内容を定めておくことには、いずれかに大きなリスクとなる可能性があります。
実際には、譲渡価額について、譲受人となる創業者等の負担を考慮して、「当該株式の取得価額」などと定められているケースもあり、後に話し合いで収拾がつかなくなる可能性を見越すと、このような定め方にも一定の合理性があるものと考えます。もっとも、私見としては、将来の時点におけるリスクの大きさ、およびそのリスクがどちらに生じるものであるかという点について、予測可能性が低いため、「双方協議により合理的な価額を定める」といった決め方が穏当なところではないかと考えています。

3 創業者の持ち株比率と資本政策の不可逆性

資本政策は基本的に不可逆なものですが、特に創業者の持ち株比率は、創業以降の資本政策のベースになるものであるため、より不可逆な要素が強いといえます。株式を譲渡してもらえば、やり直しが利くのではないかと思われるかもしれませんが、既に述べた通り、バリュエーションの上昇や税務上の負担などの観点から、現実的に譲渡が困難となる可能性もありますし、実際には、気持ちなどの面から、株式の譲渡に応じてもらうことは容易ではありません。
また、創業者株主間契約においてリバースベスティングが付されている場合には、一定の割合で脱退する創業者が株式を保有し続けることになるため、株式を取り戻して完全に資本政策をやり直すことはできません。
なお、創業者の持ち株比率が希釈化し過ぎてしまった場合に、主に株主総会における意思決定の円滑性を保持するために、持ち株比率を回復させる手段がないわけではありません。ある程度の規模に成長したスタートアップでは、バリュエーションの上昇により、創業者が自ら普通株式の払込価額を支払う資力がないことがほとんどでしょう。
そこで、劣後株式という残余財産の分配等の株式の内容について、普通株式よりも劣る条件を付した株式を低廉な価格で発行し、持ち株比率を回復させるという手段があります。もっとも、普通株式よりも内容が劣後することを理由として、低廉に設定した価格が、果たして株式の適正な価格といえるのか、すなわち、実質は普通株式と経済的な価値は変わらず、普通株式と劣後株式の差額が、引受人の経済的な利益となる結果、課税の対象とならないのか、という点も問題となります。劣後株式にはこうした税務上の懸念もある他、劣後株式の発行やその内容について、既存株主のコンセンサスを得るという負担も生じることから、やはり、資本政策のやり直しが可能であるという前提で、持ち株比率を決めることは得策ではないといえます。

4 終わりに

今回は、スタートアップのファイナンスを考える上で、初めの基礎となる、創業者の株式についての考え方をご紹介しました。冒頭で申し上げた通り、創業者の持ち株比率等については、正解はありませんが、資本政策は不可逆なものであるため、慎重に検討すべきテーマといえます。
次回は、実際にエクイティ・ファイナンスを行う上で、実務上注意すべき点について、代表的なスキームを紹介しながら解説したいと思います。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年10月27日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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世界トップレベルの新卒人材をリモートインターンで採る〜雇用のボーダーレスの現状を知る〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、大野 理恵さん(Career Fly 株式会社 代表)です。

今年(2020年)に入り、ビジネスをとりまく環境において一気に変化が起きたのは周知の通り。『オフィスに行かなくても仕事ができる』という価値観の変化、『DX(デジタル・トランスフォーメーション)への対応が急速に進化、発展、浸透しオンラインツール、社内コミュニケーションツールが常態化』というテクノロジーの発展、『リモートワーク、副業の一般化、フリーランスの増加、ワーケーション、選択できる働き方の多様化』。どこにいても仕事ができる環境が整い、働き方の慣習自体が変化している、世界中で文化慣習の変容が起きている。

  • 価値観の移り変わり
  • テクノロジーの発展
  • 働き方への文化慣習の変容

この3つの変化から、【雇用のボーダーレス化】を進展させる環境が整い、採用する人材の国籍や居住に関わらず雇用が可能となることが常識化していく、この常識化をいち早く中小企業が取り入れていくことで、事業成長、発展を手にしていくことが大切になる、雇用のボーダーレス元年と位置づけているCareer Fly 株式会社の大野さんに最新の外国人人材事情についてお話を伺いました。
世界中で動き出している【リモートインターン】の状況、リモートインターンを活用している企業の事例、海外理系女子に特化している、求職者に特徴を持っている尖った事業概要、なぜこの事業に至ったか、大野さんの経験から見えてきた社名に込めた想いまでお伝えできればと思います。
最初に大野さんの人となりご経歴について。

1 大野さんとのエピソード、ご経歴について

1)なんて行動力がある人なんだと感心しました

大野さんにお会いしたのはおおよそ5年近く前。でも初対面では懇親会の中で名刺交換で軽くお話しする程度。そこからご縁はなく、しかしその数カ月後に驚くことが起きました。
それは、私が大野さんと出会った懇親会の中で参加者の皆さんに『こんな面白い会社があり、そのプロジェクトでこんなことをされています』とさらっと情報提供させていただいたこと。
大抵の方々は、『ふーん』、『へー』って感じで終わるのが世の常。その懇親会から半年後ぐらいに私がお話した会社、プロジェクトのことでその社長さんから、『杉浦さんが元々話の発端の大野さんと大きなイベントやるんですよ!』と連絡がありました。『大野さんってどなたですか?』と聞き返すほど私は忘れておりました。

私がさらっとお伝えしたことに、興味を持って、直接連絡を取り、自身で企画をクライアント企業に提案、数百名規模のイベントを実行する。そして後から私が知る。こんな経緯から、すごい人がいるもんだ、行動力があるとはまさにこのこと。そこから親しくしてくださっています。

2)インドの方々から私へもたくさんコンタクトが。。。ある日突然増えてビックリ。

今年の夏頃に、突然異国の方々から、Facebook上で友達申請が毎日のように増えてきた事がありました。特にインド人の男性から。多い日には10名近くの方々からコンタクトがありました。全く意味が分からずその申請者と共通の友人に大野さんが必ず入っていて、またビックリ。大野さんにお聞きしますと、ビジネスSNSのLinkedInやFacebook上でインドの方々とは1万名単位でつながっているとのこと。さすが国際派と思いました。

インタビュー時には、Career Fly 社 = インド、 大野理恵 = インド と言い切れるくらいに関係が深いと笑顔で話されていました。現在、Career Fly 社と事業パートナーがインド本国に7社あり、来年インドに進出も計画中とのことです。

3)ご経歴、そこから会社理念に通じること

大野さんの自己紹介時、ご自身の写真にオーストラリアとインドの国旗を掲示されています。日本の環境に馴染めなかった。昔から、言いたいことを言ってしまうタイプ。意見が食い違うこともしばしば、それを容認しない日本の特性に辟易としていた、息が詰まる感じの中で育ってきたと話します。社会人になって、オーストラリアで留学を経験。その時に、多種多様な人々と出会い、自分を受け入れてくれる、多民族共生の文化に魅了されていったそうです。そしてインドも同様に。この経験から国籍、ジェンダー、年齢に関係なく本来の能力で認められ活躍できる社会環境を創出したい、採用の領域で雇用ボーダーレスを実現していきたいと自社の事業に向き合っていらっしゃいます。Career Fly 社のミッション(目指すこと)に掲げる、【ちがい-Uniqueness-を創り、世界でCareer Flyする個と企業の創出を目指す】というところに現れていると感じます。

社名のCareer Flyが、キャリア(人生)の飛躍を後押しする会社、関わる全ての人のキャリアフライを実現するハブエージェンシーとなる、この辺りの事業定義についてもご自身の経験から明文化している事が理解できます。

2 海外理系女子に特化して事業を展開

1)85カ国5000名が人材データベースに登録

人材紹介、人材派遣の業界で13年ほど勤務の後にCareer Flyを起業、ありきたりな人材紹介業ではない尖った領域で事業を展開されています。それがHPの冒頭の言葉【海外女子が日本企業に違いを生み出す。】その理由、同社の強みは、以下の2点。

・量で違いを生み出す!

理工系分野教育を受けた女性は、各国に大量に存在するそうで、IT人材が不足している日本の労働人口において、理工系海外女子人材が量をカバーすることができると。ミャンマー、ブルネイ、ベトナム、インドのような新興途上国を中心に理工系学部を専攻する女性の割合は高いそうで、日本で理工系人材育成が遅れている状況を顧みると、第4次産業を牽引する理工系人材確保は急務であり、海外女子は数を補う救世主となるはずです。と謳っています。

実際、大野さんは、ミャンマーの工科系女子大学に赴き、授業まで請け負っていらっしゃいます。

・質で違いを生み出す!

→ダイバーシティ・文化形成:日本企業においては、ちがいを持ちすぎる海外女子を自社にて受け入れることでドラスティックな企業文化と社員意識の変革実現が可能
→新サービス創出・既存サービス改革:STEM分野の最新技術と知見を企業へ伝えることで、新規ビジネス創出を実現する(ASEANは理系女子が数を占める)
→強固な組織作りに貢献:たった一人の海外女子加入により海外進出の足がかりができる理工系脳も持ち合わせながら高い渉外力も兼ね備えている

異質な文化をいかに取り入れることができるか、企業の変化対応力がまさにコロナ禍で劇的に変わってきていますが、人材からその変化を起こしていくことが重要な時期になったと感じます。

日本国内だけで、今まで通り、慣れた環境で人材紹介業をやっていれば正直簡単なお話ですが、大野さんはあえて、企業体質変化にまで想いを巡らし、【採用】→【受け入れ(日本国内で)】→【定着】と一手間増やすだけのレベルではなく、幾重にも幾重にも丁寧にクライアント企業と向き合い、海外女子の日本での活躍の支援の実績を積み上げて来られてきました。かなり人材紹介の枠組みを超えて頑張っていらっしゃいます。これはクライアント企業側も今までとは違った経営、挑戦、ボーダーレスの取り組みの枠を超えていくことが今まさに必要に感じます。

現在大野さんに会社で把握している(登録している)、海外理系女子(主に、ITエンジニア・メカエンジニア・グローバル人事・グローバル営業職)は85カ国5000名を突破しています。年齢層は22〜34歳のジュニア世代、おおよそ58%が自国に居住、42%が日本に居住している人が登録しているそうです。

2)実際に海外理系女子を受け入れている企業について

私からのご縁で大野さんと仲良くしてくださっている方が何社かあります。その中で、2社が大野さんの会社HPに登場してくださっています。

・大成株式会社 加藤専務

→記事中のコメントより、『外国籍社員雇用で企業風土を変えていく』ことを目指しており、数カ国語を操る外国籍社員の方を積極雇用されています。既存社員の意識を変えていくには、まず風土を変えていく、その先に個人レベルの意識改革を実現させていく。外国籍社員採用に関して、当初反対の声が挙がっていたがやってみることで会社の空気感を「外国籍社員いいね。」に変える=風土変革を生み出し、改革へとつなげています。中国、韓国、インドネシア、エジプトなど多国籍社員が活躍する大成社においては、今後も国内外の各事業を牽引する優秀人材雇用を前向きに捉え進化し続けていくと考えています。

同社の記事はこちらです。

・株式会社空色 中嶋社長

→記事中のコメントより、『事業の継続性や海外展開を考えていくと、外国籍人材採用は必ず選択肢として挙がります。労働人口の減少により、採用競争は加熱し競争力の高い会社に人は流れます。この競争に打ち勝てるとは限らない会社は、日本人採用が難しくなるため外国籍採用を避けて通れなくなります。

繰り返しになりますが、私が思うには外国籍人材採用をやらない理由がないと思います。』と中嶋さんからも当たり前の時代が到来している認識を感じ取れます。

同社の記事はこちらです。

3 リモートインターン最前線について

1)グローバル企業では当たり前になっているリモートインターン

・海外とのインターンに関しての取り組みの違いを知る

日本企業、特に大手企業は採用に結びつく、紐つくインターンプログラムは実施していない(ワンデイインターン等の短期間である場合も)。海外では1カ月、数カ月が当たり前、履歴書にキチンとインターンの経験を書けることがかなり重要なことと大野さんは話します。

インターンプログラムに関するインド全土の状況を示した画像です

インドのインターンは内定をもらうために行くのが主流。コロナ後63%が既にリモートインターンに移行しています。これにより都会、地方、国のエリアは、オンラインツールの恩恵からもリモート化に影響してきています。

インドチェンナイVerolle大学の説明を示した画像

・Amazonが8,000名、EYが15,000名のインターンのうち半数をリモートインターンで実施すると発表

インドチェンナイVellore工科大の事例では、インテルなど大手通信企業が同校学生111名に対してリモートインターンオファーを出したり、2020年8月より10カ月のプログラム実施することを決定。その他25社のグローバル企業がリモートインターンプログラム参画を表明(Volvo Novartis Philipsなど)。これは優秀な学生は世界レベルで争奪戦に。日本の学生が置いていかれる、競争に取り残される状況がもう目の前に。月額5、6万円のインターンのアルバイト料、その後の入社した場合初任給が日本とインドとの違いがほぼ無い、変わらないレベルに、ボーッとしているうちに優秀な学生を世界レベルで採用できないことになる。競合他社は日本国内ではなくて海外企業との戦いなってきている、海外での採用で日本企業同士が闘う必要、雇用形態の多様性、自分たちの会社のプロモーションを海外に向けて発信していく。とやるべきことが山積していることが顕在化してきています。

海外にはインターンのプラットフォームがすでに存在していて、英語さえできれば、米国から英国へ、さらにリモートとなればアジアから欧米の国々でのインターンが気軽にできるように。日本も早く追いつかないとだめですね。

2)優秀人材をリモートインターンで採用した日本企業の実際

インド工科大学といえば、インド最高峰の工科大学、その優秀な大学生が集う大学からリモートインターンを実施した企業が、株式会社Diverta社。その加藤社長のコメントには、インターンへの考え方、実施の意味、採用へつながることへのポイントが明確化されていると感じました。そのコメントから以下に抜粋したいと思います。

  • インターンシップの目的は、仕事をしてもらうのではなく、一緒に働きたいかどうかを確認することです。その適性を、うまく引き出して評価できるかを一番懸念していました。
  • 一番工夫したことは、コミュニケーションです。一番の課題もコミュニケーションでした。コミュニケーションがなぜ課題になるかというと、情報を企業側が積極的に取りに行く必要があるからです。もちろん対面で仕事をしていても、コミュニケーションは大切です。ですが、オフィスでインターンシップができる場合、横にいるだけで様々な情報が目に入ります。「集中できていないな?」「調べ物してるのかな?」などです。また、行動傾向もわかります。例えば、考えるときに腕を組んで目の前の問題と向き合い考えるのか、行動しながら考えるのか、などです。
  • 適応力・改善力です。まだ学生なので、知識やスキルを求める必要はありません。

    こちらからの指摘やアドバイスに対して、どれだけ柔軟に改善ができるかや、適切なタイミングで質問ができるかなどを評価しました。自信を持って全てを評価できたとは言えませんが、少なくともこの適応力や改善力があれば、入社後も柔軟に変化ができるということなので、問題ないと思います。

→上記のコメント抜粋はこちらの記事から引用しています。

リモートインターン成功の秘訣について、大野さんに聞いてみますと、面白い回答がありました。『DXの導入と全く同じこと。それはトップのやる気があること、やり切る意識が経営トップになければ、DX導入を失敗することとリモートインターンの成功の鍵は全く同じです』現場任せでは良い人材は採れないということですね。

3)リモートインターンの実際と流れ

実際に上記の株式会社Diverta社でリモートインターンを実施、来年入社の意志を固めている、Jhalakさん。まずは、Jhalakさんのインタビュー動画を御覧ください。

この動画を拝見していて、やる気に火をつけることの大切さって大事ですね。リモートでありながらも信頼関係、コミュニケーションの構築ができれば、多少の時差、大きな距離感は関係ないのだと思い知りました。

Jhalakさんの日本での活躍を期待したいと思いました。

リモートインターンの様子を示した画像です

リモートインターン実施の流れについて、

  • 株式会社Diverta社とCareer Fly社がインターン生の要件選定
  • 現地で大学生向けにリモートインターンの説明会を実施 200名規模で参加
  • Career Fly社が作った、独自のプログラミングテストと適性検査を組み合わせたテストを実施(短時間で正しく文章を読み取り的確なアウトプットを出す、読解力、構造化思考、論理思考を測るもの)
  • 数名に絞った候補者と、株式会社Diverta社側とで面接を実施。

一連のプロセスを見ていると丸投げに近い状況までCareer Fly側が対応していることが理解できます。

4)大野さんから今後について語っていただきました。

大野氏・杉浦氏の画像です

「外国籍人材雇用をもっと手軽に気軽に!」

    今後、多くの日本企業が外国籍人材雇用に乗り出し、「ちょっといいかも!」と楽しんで取り組んでもらいたいです。外国籍社員っていいね!外国籍社員と一緒に働くの楽しいじゃん!、そんな風にポップに感じ採用を新たなフェーズに持っていっていただきたい。決して、ハードルが高い取り組みではないです。そのために、弊社のようなエージェントが存在します。

    「雇用ボーダーレス」は2020年を皮切りに加速化します。5年後、国内企業の職場を想像してみてください。自分のデスクの「横を見れば、中国籍の同僚が座っている。左を見ればインド国籍の上司がいる。」このような環境が常態化する可能性は大いにあります。日本に居ながらです。

    企業は、今後どのマーケットで勝負をかけ、どのような人材を雇用していくのか、今一度熟考することをお勧めします。膨れ上がるインドマーケットで勝負をするならば、インド事情のわかるインド国籍社員を採用した方が良いのではないか?継続して日本市場で勝負をかけ続けるのであれば、新規事業を立ち上げ、それに精通する人材を雇用する必要があるのでは?など、経営戦略をもとにマーケット選定や人員確保を行います。一方、国内労働人口減少は待ったなし。そこを何でカバーするか今のうちに策を講じた方が良いでしょう。

    外に目を向けると、70億人のマーケットが存在します。労働人口はその半分36.5億人です。豊富な労働力がグローバル市場に存在するにも関わらず、外国籍人材採用を始めない理由はないのではないでしょうか。少なくとも数の担保はできるわけです。

    現在、外国籍の方に対する米国のビザ支給条件がかなり厳しくなっています。米国に希望を持ち就業を試みていた多くの若者が自国へ戻らざる終えなくなっています。日本にとって、この状況はチャンスです。米国へ流れていた優秀層を獲得することができる、そんなタイミングだと捉え今このタイミングに一歩を踏み出してみるのはいかがでしょうか。

    最後に、弊社は2021年にインドへ進出する予定です。新たなマーケットに挑戦することは、多くのことを得ることに(良いことも悪いことも)なります。この新たな試みにワクワク感を持ち事業活動を継続してまいります。そして、今以上にキャリアフライすることを実現していきたいです。

大野さんのコメントのとおり、Career Fly社がますます飛躍する時代が来ようとしています。日本の未来に貢献できる会社としてご活躍をインタビューを通して、強く期待したいと思いました。

大野氏・杉浦氏のインタビュー時の画像です

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年10月23日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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本人による保有個人データの開示等の請求への対応

個人情報保護法(以下「法」)では、「保有個人データの開示等の請求」が定められています。保有個人データの開示等の請求とは、本人が事業者に対して、事業者が保有している当該本人が識別される個人情報(以下「保有個人データ」)の開示や、訂正・追加・削除、利用停止・消去、第三者提供の停止を請求することです。

2020年6月の法改正で(施行は2022年予定)、開示等の請求ができる情報の範囲や、事業者に対して保有個人データの利用停止・消去などを請求できるケースが拡大されました。
そこで、この記事では、本人による保有個人データの開示等の請求について、基本的事項の理解と対策に役立つ知識を解説します。

1 保有個人データの開示等の請求の一覧

保有個人データの開示等の請求には、幾つかの類型があります。まずは一覧で確認してみましょう。

保有個人データの開示等の請求等一覧を示した画像です

これらのうち、訴訟にまで発展しやすいのは、本人が事業者に保有個人データの開示を求める「開示請求」です。事業者は、開示請求を受けたときは、本人に対し、原則として遅滞なく当該保有個人データを開示しなければなりません(法第28条)。
本人は事業者が保有している自分の個人情報の内容を把握していないことが多いので、まず個人情報の開示を請求して、間違いがないか、不当に利用されていないか、違法に第三者に提供されていないかを確認することになります。このように開示請求は、他の請求をする前提となります。
以降では、「開示請求」を中心に解説することにします。

2 開示請求のポイント

1)本人以外の個人情報は開示しない

本人に開示するのは、「当該本人が識別される保有個人データ」です。ここでは「保有個人データ」の詳細は割愛しますが、「事業者が管理している個人情報」と考えておけば十分です。
さて、大切なのは「当該本人が識別される」という点です。本人の氏名、住所、購買履歴などの本人が識別される個人情報は開示の対象となりますが、家族の氏名など「他人が識別される」個人情報は対象外なので、開示しないことができます。家族であっても、本人以外の者による開示請求は、その者が正式な代理人でない限り、プライバシーや個人情報保護の見地から、応じるべきではありません。

2)取得元や取得方法の開示

保有個人データの開示請求は個人情報の開示を求めるものですから、個人情報ではない「個人情報の取得元や取得方法」は、開示の対象ではありません。
ただし現実には、消費者から「いったいどこから、どうやって私の個人情報を手に入れたの?」などの問い合わせを受けるケースは多いものです。これを拒否すると、クレームに発展する場合があるので注意が必要です。
個人情報保護委員会が公表しているガイドラインでも、消費者など本人の権利利益保護の観点から、当該保有個人データだけでなく、事業活動の特性、規模および実態を考慮して、個人情報の取得元または取得方法を、可能な限り具体的に明記し、本人からの求めに一層対応していくことが望ましいとしています。
多くの場合、取得元の具体的な名前や名称を明らかにしなくても、取得方法を知らせれば本人は納得するでしょう。そのため、求められたら取得方法の開示までは検討したほうがよさそうです。ただし、開示することで取得元に迷惑が掛かってしまう場合は、次の「開示を拒否できる場合」をご確認ください。

3)開示を拒否できる場合

次の場合には、開示請求を拒否できます(法第28条第2項但書)。

  • 本人または第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害する恐れがある場合
  • 当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼす恐れがある場合
  • 他の法令に違反することとなる場合

1.の典型例として、医療機関などで病名を開示することにより、本人の心身状況を悪化させる恐れがある場合が挙げられます(本人の生命、身体を害する恐れがある)。

    【参考:平成29年8月31日東京高裁判決】
     患者Xが病院に対し、友人Bが病院に持参したXの病状に関する資料について保有個人データ開示請求をしたのに対し、本件においては、Xが開示により新たな事実を認識することで、改めてBに対する悪感情が募り、Bの利益を害する行動に出る恐れがあるというほかないから、「第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害する恐れがある場合」に当たり、病院がXに開示しないことは相当であるとした。

2.の該当例は、多くあります。

  • 試験実施機関において、採点情報の全てを開示することによって、試験制度の維持に著しい支障を及ぼす恐れがある場合
  • 同一の本人から複雑な対応を要する同一内容について繰り返し開示の請求があり、事実上問い合わせ窓口が占有されることによって他の問い合わせ対応業務が立ち行かなくなるなど、業務上著しい支障を及ぼす恐れがある場合
  • 反社会的勢力に関する保有個人データであって、当該反社会的勢力による業務妨害や従業者への危害を招く恐れがある場合
  • 企業秘密が明らかになるような場合
  • 与信審査内容など、本人に関する評価または判断の開示請求を受けた場合

    【参考:平成27年5月21日東京高裁判決】
     勤務先を懲戒解雇された元従業員が、勤務先に対し、保有個人データ開示請求として、懲戒解雇がされた経緯に関する元従業員の個人情報の開示を求めた。
     判決は、懲戒解雇に関する資料には、使用者および関係者らの評価および判断が含まれているのが通常であるから、懲戒解雇に関する資料が本人に開示されることになれば、適正な評価と処分の決定に影響を及ぼしたり、本人に無用の反発を生じさせたりして、公正かつ円滑な人事の確保ができなくなり、当該本人を雇用していた勤務先の人事管理に係る「業務の適正な実施に著しい支障を及ぼす恐れがある」ことは明らかであり、勤務先はこれを開示しないことができるとした。

3.の該当例は、刑法第134条(秘密漏示罪)や電気通信事業法第4条(通信の秘密の保護)に違反する場合などが挙げられますが、実際に該当するケースは少ないでしょう。

3 開示請求への対応

本人からの開示請求に対する当該個人情報取扱事業者の対応は、次のいずれかになります。

1)開示する
2)開示しない旨を通知する(開示を拒否できる場合)
3)存在しない旨を通知する(本人が識別できる個人情報が存在しない場合)

1)開示する場合

請求に応じて開示する場合は、遅滞なく、保有個人データを開示しなければなりません(法第28条第2項本文)。
原則として、書面の交付によって開示します。具体的には、「回答書」などの書面に、開示する保有個人データの内容(保有している氏名・住所・電話番号・メールアドレスなどの情報)を記載して通知します。
本人が同意すれば、メールや電話による開示も認められます。そのため、本人が電話で開示請求をしてきた場合に電話で回答しても、本人が異議を述べなければ、開示として認められます。ただし、本人確認は慎重に行う必要があります。

2)開示しない場合

事業者は、請求に対して保有個人データの全部または一部について開示しない旨の決定をしたときは、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければなりません(法第28条第3項)。
開示しない旨を通知する場合は、開示しない理由を説明するよう努めます(法第31条)。努力義務なので、理由を説明しなくても違法ではありませんが、クレーム予防なども考慮して慎重に判断しましょう。

3)存在しない場合

開示請求された保有個人データが存在しないときも、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければなりません(法第28条第3項)。

4 対応の準備

開示請求に当たっての準備は重要です。開示請求は、請求が事業者に到達した日から2週間を経過したら訴訟提起ができるとされているので(法第34条)、スピード感を持って対応できるようにしておかなければなりません。

1)回答書の準備

開示請求に対しては、開示する場合、開示しない場合、存在しない場合のいずれにおいても、本人に対してその旨を通知しなければなりません。多くの場合は、書面回答になるはずなので、回答書のひな型を用意しておくとよいでしょう。例えば、次のようなひな型です。

○○様が識別される保有個人データを
 □ 保有しております。
 □ 保有しておりません。

(開示する場合)当社の保有個人データは以下の通りです。
 [保有個人データの記載欄]

(開示しない場合)以下の理由により、ご請求の保有個人データについて開示しない旨を決定しました。
 □ 本人または第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害する恐れがあるため
 □ 当社の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼす恐れがあるため
 □ 他の法令に違反することとなるため
 □ その他(            )

2)開示請求を受け付ける方法の定めをする

事業者は、保有個人データの開示請求を受け付ける方法を定めることができます(法第32条)。そうすると、本人が決められた手続きに従わずに開示請求を行った場合、事業者は、開示を拒否することができます。反対に方法を定めていない場合、本人は、電話その他の自由な方法で開示請求をすることが認められ、事業者は、個別に本人と相談しながら対応しなければならなくなります。
事業者が定めることができる事項は、開示請求の申出先、提出すべき書面等の様式その他の開示請求の方式、開示請求をする者が本人または代理人であることの確認の方法です。

事業者が定めることができる事項の一覧を示した画像です

なお、開示請求を受け付ける方法を定めた場合は、その内容を「本人の知り得る状態(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む)」に置かなければならないとされています(法第27条第1項第3号)。
多くの事業者は、プライバシーポリシー(個人情報保護方針)に記載して公表することで対応しています。

3)手数料の定めをする

事業者は、開示請求の実施に関して手数料を徴収することができます(法第33条)。手数料額を定めた場合、「本人の知り得る状態(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む)」に置かなければならないとされています(法第27条第1項第3号)。
手数料額については、「実費を勘案して合理的であると認められる範囲内において定めなければならない」としか規定されていません(法第33条第2項)。個人情報保護委員会が公表しているQ&Aでも、「実費を予測して平均的単価を算出して定めることが望ましいと考えられます」「例えば、郵便で開示請求に応じる場合、配達証明付の書留料金を勘案するなど適切な金額をご検討ください」とするにとどまっています。
実際は、手数料を500円程度とする事業者が多いようです。

5 まとめ

以上、本人による保有個人データの開示請求を中心に解説しました。開示等の請求は2015年と2020年の個人情報保護法改正において重要な改正点となっており、事業者が保有する個人情報に対して本人が関与しやすくする流れが明確になっています。
この機会に、開示等の請求への対応準備ができているかを再確認し、不十分であれば早急に整備することをお勧めします。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年10月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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もし社員がユニオンに駆け込んだら?

書いてあること

  • 主な読者:「合同労働組合」(以下「ユニオン」)から団体交渉の申し入れがあった際、落ち着いて対応したい経営者
  • 課題:中小企業の多くは労働組合を持たないため、団体交渉に不慣れである
  • 解決策:専門家(弁護士や社会保険労務士)に交渉のポイントをヒアリングする

労働者が労働組合を結成し、労働条件の改善などを求めて使用者側と交渉を行うことを「団体交渉」といいます。「ウチには労働組合がないから、団体交渉とは無縁だ」と思ったら大間違いです。「ユニオン」といって、所属する企業に関係なく、個人単位で加入できる労働組合があるのです。

解雇、ハラスメント、賃金未払いなどの労働トラブルが発生すると、中小企業の社員がユニオンに駆け込み、そのユニオンが団体交渉という形で、企業に対し解雇の撤回などを求めてくることがあります。中小企業の経営者は、団体交渉に不慣れかもしれません。そこで、本稿ではユニオンから団体交渉の申し入れが来たときの対応のポイントを紹介します。

Q1 そもそもユニオンって何?

企業ごとに組織され、その企業の社員のみを組合員とする労働組合を「企業別労働組合」と呼びます。大企業で組織されることがほとんどで、中小企業で組織されることは少ないです。ユニオンは、こうした企業別労働組合を持たない中小企業の社員などが、所属する企業に関係なく、個人単位で加入できる労働組合です。

ユニオンの種類はさまざまで、全国規模で活動し、業種や雇用形態に関係なく加入できるものもあれば、特定の地域のみで活動し、特定の業種や雇用形態(パート、派遣社員など)の社員のみが加入できるものもあります。

ユニオンは、企業別労働組合と同様、労働組合法に基づき、団体交渉などの組合活動を行います。団体交渉の内容は、解雇、ハラスメント、賃金未払いなどの労働トラブルに関するものが多く、賃上げなどの待遇改善に関するものは少ないようです。

Q2 なぜ今、ユニオンへの対応が必要なの?

新型コロナウイルス感染症の影響で解雇や雇止めをされた労働者は増え続けており、2020年9月11日現在で累計5万4817人(見込み数を含む)に上ります。社員も、万が一解雇や雇止めをされたときのために情報を集めており、その過程でユニオンに行き当たる可能性があります。特に昨今は、スマホから無料で相談できるオンライン形式のユニオンなどが登場しており、相談のハードルが下がってきています。

解雇や雇止めが現状発生していないという企業も油断はできません。例えば、感染対策としてリモートワークを実施している企業では、労働時間を把握しにくいために賃金未払いが発生することがあります。リモートワークの“過渡期”は我慢していた社員も、いつまでたっても状況が改善されないようであれば、ユニオンに駆け込むかもしれません。

Q3 どうして社員はユニオンに駆け込むの?

一般的には、企業の処分(解雇など)や対応(ハラスメントの相談に応じてくれないなど)に不満のある社員が、「企業と直接話し合ってもらちが明かない」と、ユニオンに駆け込みます。

ユニオンの中には、担当する団体交渉の内容や実際の活動報告を組合ウェブサイトなどに掲載しているところがあり、労働トラブルに悩む中小企業の社員などは、こうした媒体を通じてユニオンに相談に行き、加入しているようです。

また、ユニオンに加入するには、組合費(月額数百円から数千円程度)を定期的に支払う必要があります。弁護士に依頼するよりも廉価に労働トラブルを解決できる可能性があるため、収入面に不安のある社員などが、弁護士の代わりにユニオンを頼るケースがあります。

この他、経営者に近い地位にいる管理職などが経営者とトラブルになり、社内に相談できる人間がいないために、ユニオンに加入するケースもあります(管理職向けのユニオンも存在します)。

Q4 ユニオンから団体交渉の申し入れがあったら?

社員がユニオンに加入すると、社員から事情を聞いたユニオンから企業に対し、「団体交渉申入書」が送付されます。通常は郵送やFAXで送付されてきますが、企業の交渉窓口担当者宛てに「団体交渉申入書」を添付したメールが送られてくるケースもあるようです。

団体交渉申入書の書式はユニオンによって異なりますが、その内容はおおむね次の通りです。

  • 団体交渉の日時・場所(企業側で決定するよう求められることもあります)
  • 要求内容(解雇の撤回、ハラスメントへの補償、未払い賃金の支払いなど)
  • ユニオンの連絡先
  • 回答の期限

企業は正当な理由なく団体交渉を拒否することができません。例えば、「団体交渉申入書が届いていることを知りながら放置する」ことは許されません。

団体交渉申入書が企業に届いたら、まず回答の期限を確認します。期限は「団体交渉申入書の到着から7〜10日程度」など、短いのが通常です。団体交渉に臨む前に、要求内容に関連する書類を集めるなどの事前準備が必要なため、次はユニオンに回答の期限の延長を依頼します。

具体的には、「回答書」という書面(書式は任意)で「期限までに回答することが難しい」ことをユニオンに伝えます。要求内容によって、団体交渉の事前準備にかかる時間が異なるため、「いつまでに回答するか」は具体的に記載せず、「めどが立ち次第、回答する」程度にとどめておくのが無難です。

回答の期限の延長を依頼したら、次のようにユニオンの要求内容に関連する書類を集めます。

  • 解雇:解雇理由証明書、就業規則(解雇事由に関する部分)のコピーなど
  • ハラスメント:ハラスメントの事実確認を行っている場合、記録のコピーなど
  • 賃金未払い:賃金台帳、タイムカードのコピーなど

上の書類は一例であり、労働トラブルの内容によって必要な書類が異なります。実務では、弁護士や社会保険労務士などの専門家に、必要な書類について相談するのが無難です。書類集めが終了し、団体交渉の準備が整ったら、再度回答書を作成し、団体交渉の日時・場所などをユニオンに連絡します。

Q5 団体交渉の日時・場所などはどうする?

団体交渉申入書には、団体交渉の日時・場所が記載されていることがありますが、企業には、団体交渉申入書の内容に従う義務まではありません。また最近は、日時・場所について、企業側で決定するよう求めてくるユニオンも多いようです。そこで、回答書に記載する団体交渉の日時・場所などのポイントを見ていきましょう。

1)日時

日時については、要求内容に関連する資料など団体交渉の準備が整っており、同席を求める場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家の都合のよい日程を選択するのがよいでしょう。

2)場所

場所については、外部の貸し会議室などを選択する企業が多いようです。企業のオフィスやユニオンの組合事務所を選択すると、いつまでも交渉が終わらないケースがありますが、外部の貸し会議室であれば、交渉の時間を区切ることができるからです。貸し会議室の利用料は、企業負担となることが多いようです。

なお、最近では、新型コロナウイルス感染症予防の観点から、貸し会議室などを利用せず、チャットツールなどを使ってオンラインで団体交渉を行うケースも少なくありません。

3)出席者

出席者については、経営者のように、ユニオンの要求内容に関する決定権限を持つ人が出席しないようにします。団体交渉の場で、要求内容の即時決定を求められないようにするためです。交渉役として適任なのは、人事労務担当者など、事情を理解していて交渉を進める能力はあるが、要求内容に関する決定権限を持たない人です。

また、交渉は2人以上で臨み、1人が交渉役、1人が書記を担当し、交渉役が話し合いに集中できるようにします。交渉に不安がある場合は、弁護士や社会保険労務士などの専門家に同席してもらうのもよいでしょう。

ただし、弁護士以外の専門家が企業に代わって交渉を行うことは非弁行為に当たるため、社会保険労務士などがユニオンと交渉することはできません。社会保険労務士などが同席する場合、受けられるサポートは企業の担当者への指導・アドバイス、情報提供などに限定されます。

Q6 団体交渉の流れは?

団体交渉当日、交渉役は団体交渉申入書のコピー(またはユニオンの要求内容が分かるもの)、要求内容の関連書類を持参します。この他の書類として、ユニオンから事前に就業規則のコピーなどを持ってくるよう求められる場合がありますが、直ちに応じる義務はないため、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談して対応を決めましょう。

団体交渉には、企業とユニオンが事前に選出した人間が出席します。なお、ユニオン側はユニオンの交渉役と、社員本人が出席するのが通常です。

団体交渉は1回で終了することもありますが、企業もユニオンの要求全てに同意できるわけではないため、通常は何回か交渉を重ねて落としどころを見つけることになります。

例えばハラスメントの場合、ユニオンから企業に対して、社員に対する謝罪を求める傾向があります。しかし、ハラスメントに該当するかの法的判断は難しいものです。ここで安易に謝罪してしまうと、ユニオンは「企業がハラスメントを認めた」ことを活動報告などで発表するため、企業のイメージ失墜につながる恐れがあります。

一概には言えませんが、ハラスメントに当たるかが法的に明らかでない場合などは、「意図せず社員を傷つけた」という理由で、金銭を支払って決着させるのが妥当なケースもあります。

交渉のポイントは、企業がある程度ユニオンに歩み寄る姿勢です。例えば、交渉が何回目かに及んだ段階で、可能な範囲でユニオンの要求に応じる姿勢を見せると、ユニオンもある程度譲歩してくれることがあります。落としどころが見つかれば、団体交渉は終了し、企業は交渉結果の内容に基づく対応(上のハラスメントの例であれば、金銭の支払いなど)を取ります。

一方、何度交渉を重ねても、企業とユニオンの主張が相いれなければ団体交渉は打ち切りとなります。その後は労働審判や訴訟に移行することがあります。ただし、労働審判や訴訟に移行すると、ユニオンは労働トラブルに介入できなくなるため、できる限り団体交渉を継続しようとするユニオンも少なくありません。

Q7 団体交渉などでのNG行動は?

団体交渉で注意すべきなのは、ユニオンが労働協約(労働条件などについて、労働組合と使用者との間で締結する書面の協定)への署名を求めてきた場合です。「労働協約」と書かれておらず、「協定書」「合意書」「議事録」などの名称でも、企業とユニオンの双方の署名があれば、労働協約として成立し得ます。

問題なのは、労働協約の内容が労働条件になってしまうことです。労働協約に定める労働条件などに違反する労働契約は、その部分について無効となり、労働協約の基準が適用されます。労働協約の基準が適用されるのは、そのユニオンに加入している社員のみですが、仮にユニオンに自社の他の社員が加入すれば、その社員も適用対象となるのです。

もちろん、労働協約の内容が、企業とユニオンが合意した内容であれば問題ありません。しかし、例えば団体交渉の途中などで安易に労働協約に署名してしまうと、労働条件などが企業の意図しないものになってしまう恐れがあります。

この他、ユニオンに駆け込んだ社員への接触にも注意しましょう。社員にユニオンからの脱退を促すことは、不当労働行為となります。直接脱退を促さなくても、ユニオンの目の届かないところで「会って話をしよう」などと持ちかけると、不当労働行為を疑われる恐れがあるので、業務上必要な場合などを除き、当該社員への接触は避けたほうが無難です。

以上(2020年10月)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:unsplash

セールス時に要注意。消費者への説明義務は守っていますか?

書いてあること

  • 主な読者:BtoC、消費者相手のビジネスを展開する企業
  • 課題:消費者契約法の改正が頻繁に行われており、改正内容を十分にフォローできていない
  • 解決策:契約の取り消しに関する規定が強化される流れ。特に「過量契約の取り消し」「不実告知の契約取り消しにおける重要事項」の2つを押さえておく

1 見直しが進む消費者契約法

消費者契約法とは、消費者を保護すべく、不当な勧誘による契約の取り消しと不当な契約条項の無効等を規定している法律です。近時の改正で重要なのは2017年6月から適用された、「過量契約の取り消しの新設」「不実告知の契約取り消しにおける重要事項の拡大」の2つです。これらの概要と事業者の対応方法を紹介します。

なお、消費者契約法は2019年6月にも改正が行われていますが、基本的には2017年6月施行の改正法と同様に、不当な勧誘行為等をする悪質な事業者に対する規制を、より強化する方向の見直しです。この改正については、巻末で紹介していますので、併せてご確認ください。

2 過量契約の取り消し

1)過量契約とは

過量契約とは、「消費者が事業者から受ける物品、権利、役務などが、当該消費者にとっての通常の分量、回数、期間(以下「分量等」)を著しく超える」ケースを指します。取り消しの対象となる過量契約は、次のような場合です。

1つは、一度に大量の商品を販売する場合です。1回の販売における分量等が、消費者にとっての通常の分量等を著しく超えると過量契約になります(消費者契約法4条4項前段)。

  • 例:独居の高齢者であることを知っていながら、1人では消化することができない量の食品を販売するなど

もう1つは、同じような種類の商品を繰り返し販売する、いわゆる「次々販売」の場合です。過去に販売した分量等の合計が、消費者にとっての通常の分量等を著しく超えると過量契約になります(消費者契約法4条4項後段)。

  • 例:社交の場にほとんど出ない高齢者に、同じような種類の服を次々に販売するなど

2)事業者が勧誘の際に過量契約であることを知っていたかがポイント

過量契約の取り消しが認められるためには、「事業者が勧誘の際に過量契約に該当することを知っていたこと」が要件とされています。過量契約の取り消しは、合理的な判断をすることができない事情がある消費者に対し、その事情につけ込んで契約を締結させるという、事業者の行為の悪質性に着目したものです。そもそも事業者が過量契約であることを知らなければ、事業者の行為に取り消しを認めるまでの悪質性はないといえます。

例えば、消費者が自らレジに商品を持ってきた場合や、インターネットやテレビショッピングで購入した場合などについては、事業者は注文を受け付けただけで勧誘を行っていないため、過量契約にはならないことが多いといえます。

また、事業者が消費者の生活の状況など(独居であること、認知症であることなど)を把握しておらず、過量契約となることを知り得ない場合も過量契約にはなりません。なお、事業者に消費者の生活状況などを調査する義務はありません。

3)過量契約か否かを判断する際の視点

1.内容(性質、性能、大きさ、用途など)

例えば、生鮮食品のようにすぐに消費が必要なものは、缶詰のように比較的長期間の保存が前提とされるものと比べて、過量契約になりやすい傾向があります。

2.取引条件(価格、景品類提供の有無など)

例えば、何十万円もする高価品は、100円の商品と比べて、当該消費者にとっての通常必要とされる分量等が少なくなり、過量契約になりやすい傾向があります。

3.消費者の生活の状況(職業、世帯構成、交友関係、趣味嗜好等)

例えば、独居の消費者の場合、通常必要とされる分量等が少なくなり、過量契約になりやすい傾向があります。ただし、友人が遊びに来るなどの一時的な事情で大量購入をする場合もあるため、個別具体的な検討が必要になります。

4.消費者の認識

例えば、消費者が1カ月後の友人の来訪予定を翌日と勘違いして大量の食品を購入した場合などは、過量契約にはならないと考えられます。

ただし、その消費者が認知症などで合理的な判断ができず、来訪予定を誤認していることを事業者が客観的に分かっているような場合には、過量契約になると考えられます。

4)過量契約にならないよう事業者は何をすべきか?

誠実な企業活動をしている事業者が過敏になる必要はないでしょう。前述したように、過量契約の取り消しは、高齢者など合理的な判断ができない消費者につけ込む、事業者の行為の悪質性に着目して設けられた規定だからです。

過量販売規制の対応として、事業者は、取扱商品の内容や取引条件、ターゲットとなる消費者の特徴を社内で共有するようにしましょう。その上で、過去の販売実績と比べて明らかに販売量が多いケースでは、消費者に事情を確認する、現場の営業担当者が独断せずに必ず上司に相談するなどの方法で対応します。

3 不実告知の契約取り消しにおける重要事項

1)不実告知の重要事項とは

不実告知とは、事業者が消費者に対し、重要事項について、事実と異なることを告げることです。不実告知の「重要事項」の範囲は、次の通りです(消費者契約法4条1項1号)。

  • 物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容、および対価その他の取引条件であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの(消費者契約法4条5項1号及び2号)
  • 当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情(消費者契約法4条5項3号)

2)不実告知となるケース

例えば、事業者が事実に反して、「(実際はシロアリがいないにもかかわらず)床下にシロアリがいて家が倒壊する恐れがある」として、リフォームをしたほうがよいと勧誘し、消費者とリフォーム契約を締結したとします。

「床下にシロアリがいる」ことは家が倒壊する恐れがあるので、「消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益に対する損害や危険を回避するために必要な情報」といえます。この例のように、そうした事実がない場合、消費者は不実告知を理由に契約を取り消すことができます。

なお、不実告知は、それが故意であるか過失であるかを問いません。上の事例であれば、事業者が「床下にシロアリがいる」と勘違いして消費者にリフォームを勧めた場合でも、実際シロアリがいなければ不実告知になります。

3)重要事項を告知しなかった場合

事業者が、消費者の不利益となる事実について、偽るのではなく、あえて秘匿して告げなかった場合はどうなるのでしょうか。この場合は、消費者契約法の「不利益事実の不告知」に該当します(消費者契約法4条2項)。

不利益事実の不告知とは、事業者が消費者に対し、重要事項について利益となることだけを告げ、不利益になることを故意又は重大な過失によって伝えないことです。

例えば、事業者が「眺望・日当たりの良いマンション」の賃貸契約を消費者と締結する際に、「近い将来、眺望・日当たりを阻害する大きな建物が建つ」という情報を知っているにもかかわらず、あえて秘匿した場合、不利益事実の不告知となります。

ただし、不実告知の場合と異なり、不利益事実の不告知は、事業者が消費者の不利益となる事実について知らなかったために消費者に情報が伝わらなかった場合は、事業者に重大な過失があった場合を除き、契約の取り消しの対象とはなりません。すなわち事業者の故意又は重大な過失があったかどうかがポイントです。

また、不利益事実の不告知の場合、重要事項の範囲は「物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容、及び対価その他の取引条件であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」に限られます。「当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害または危険を回避するために通常必要であると判断される事情」が重要事項に含まれない点も、不実告知とは異なります。

4)不実告知にならないように企業は何をすべきか?

事業者が悪意なく不実告知をしてしまう恐れがあるケースとして、次の2つが考えられます。

1つは、成果を上げたい営業担当者が、ついつい自社にとって都合の良い方便を言ってしまうケースです。

もう1つは、経験の浅い営業担当者が自社の商品やサービスの内容、契約内容等について事実誤認をしているケースです。

いずれにしても、事実とは異なる情報や誇張された情報を消費者に伝えて勧誘することは、正しい企業活動とはいえませんし、企業のレピュテーションを下げる行為にすぎず、長期的な視点から見ても、企業にとってメリットはありません。営業担当者に対する再教育や情報提供を行う必要があります。

なお、「消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益に対する損害または危険を回避するために必要な情報」に明らかに該当しない、ちょっとした社交辞令などは問題なく、むしろ消費者との関係構築に必要な場合もあります。ただし、そうした社交辞令などであっても、それをどのように受け取るかは消費者次第です。無用なトラブルを避けるためにも、適切な営業活動を心掛けることが大切だといえるでしょう。

4 2019年6月施行の改正内容

2019年6月の改正は大幅な改正点が盛り込まれたわけではありません。基本的には、不当な勧誘行為等をする悪質な事業者に対しての規制を、より強化する方向の見直しが行われました。

2019年6月の改正では、実際の被害事例などを踏まえています。また、2022年4月より民法が改正され、成年年齢が引き下げられます。これまで未成年者取消権で保護されていた18歳、19歳の若者が保護の対象から外れることになるため、消費者契約などの被害が拡大することが懸念されていることも踏まえて、次の内容が盛り込まれました。

  • 「不安をあおる告知」など取り消しうる不当な勧誘行為の追加
    例:就活中の学生の不安を知りつつ、「このままでは一生成功しない、この就職セミナーが必要」と告げ勧誘
  • 「事業者が自分の責任を自ら決める条項」など無効となる不当な契約条項の追加
    例:当社が過失のあることを認めた場合に限り、当社は損害賠償責任を負う
  • 「解釈に疑義が生じない明確で平易な条項の作成」などの事業者の努力義務の明示

以上(2020年10月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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