ショートステイ市場の動向

書いてあること

  • 主な読者:ショートステイの概要、ビジネスチャンスを探りたい経営者
  • 課題:サービス内容、需要動向が分からない
  • 解決策:高齢化に伴う要介護者数の増加などから、需要が上がると見られている。今後、事業者の参入活性化によって、居宅介護の中心的役割を担うことが期待されている

1 ショートステイの概要

1)ショートステイとは

ショートステイ(短期入所生活介護・短期入所療養介護)とは、「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(以下「基準」)によると、それぞれ次の要件を満たした介護サービスです。

1.短期入所生活介護

特別養護老人ホームなどの施設で短期間、生活してもらい、その施設で行われる、入浴、排せつ、食事等の介護、その他の日常生活を送る上で必要となるサービスおよび機能訓練をいいます。

要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話及び機能訓練を行うことにより、利用者の心身の機能の維持並びに利用者の家族の身体的及び精神的負担の軽減を図るものでなければなりません(基準第120条)。

2.短期入所療養介護

介護老人保健施設などの施設で短期間、生活してもらい、その施設で行われる、看護、医学的な管理の必要となる介護や機能訓練、その他必要となる医療、日常生活上のサービスをいいます。

要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことにより、療養生活の質の向上及び利用者の家族の身体的及び精神的負担の軽減を図るものでなければなりません(基準第141条)。

短期入所生活介護および短期入所療養介護は、介護保険制度に基づき「介護給付(要介護1~要介護5)」によって給付が行われます。

なお、予防給付によるサービス「介護予防短期入所生活介護」「介護予防短期入所療養介護」は、「指定介護予防サービス等の事業の人員、設備及び運営並びに指定介護予防サービス等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準」に定められています。

2)ショートステイのサービス概要

ショートステイのサービスは、介護保険の給付対象となります。

特別養護老人ホームなど福祉系の施設におけるサービスが「生活介護」で、介護療養型医療施設などの医療系の施設や介護老人保健施設における医療系のサービスが「療養介護」となります。

ショートステイで行われるサービスは、食事・入浴・排せつ介助・機能訓練・生活相談などで、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)や介護老人保健施設などの施設入所者に対して行われるサービスとほとんど変わりません。いずれも目的は、「利用者の介護」と「利用者の家族を日々の介護から解放してリフレッシュしてもらうこと」とされています。

3)ホテルコスト(居住費および食費)は利用者負担

ホテルコストとは、「居住費(滞在費:家賃・光熱費)」と「食費」を指し、ショートステイを含め施設系・入所系のサービスにおいては利用者負担となっています。ホテルコストの概要は次の通りです。

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居住費(滞在費)は次の4つに分けられ、それぞれ利用額が異なります。

  • ユニット型個室:リビング(共同生活室)を併設した個室
  • ユニット型準個室:リビング(共同生活室)を併設した、固定壁だが天井との隙間がある個室
  • 従来型個室:リビングを併設しない個室
  • 多床室:定員4人以下の部屋

原則、ショートステイを利用した場合の居住費や食費の金額は、利用者と施設との契約によります。ただし、市町村民税非課税世帯などの利用者の場合は、申請により負担限度額が適用され、負担が軽減されます。

4)介護報酬

多くの種類があるショートステイの基本報酬のうち、その一部を紹介します。

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2 ショートステイ市場の現状と今後

1)ショートステイの事業所数

ショートステイ事業所数の推移は次の通りです。

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2017年度は、介護予防短期入所生活介護、介護予防短期入所療養介護(老健)、短期入所生活介護を行う事業所数が増加しています。

2)ショートステイに対する介護報酬支払状況

ショートステイサービスにおける介護費の推移は次の通りです。

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2017年度のショートステイサービスにおける介護費は増加している一方、短期入所療養介護(病院等)は、介護療養型医療施設の他施設への転換などを背景に減少傾向にあります。

3)民間企業の参入の必要性と今後

厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」によると、ショートステイの運営主体別事業所数(2016年10月1日時点)は次の通りです。

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ショートステイの運営主体のうち、企業の占める割合はそれほど高くありません。これは、もともとショートステイ事業が社会福祉法人が運営する介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)内、または介護老人保健施設内でのサービスという枠内で設定されていたので、企業やNPOなどがショートステイ専門の施設を作ろうとしても採算を取るのが難しいためだと考えられます。今後は、企業の参入によって利用しやすいショートステイが増加していくことが期待されています。

4)ショートステイの見通し

ショートステイは介護者の身体的・精神的負担を軽減させるためにも必要不可欠なサービスであることから、今後、ショートステイへの需要はますます高まることが予想されます。その要因としては次が挙げられます。

  • 高齢化に伴う要介護者数の増加
  • 介護老人福祉施設の入所待ち利用者による「つなぎ」としての需要

ショートステイは需要のあるサービスであり、事業者の参入活性化によって、今後の居宅介護の中心的役割を担っていくことが期待されます。

以上(2018年10月)

pj50207
画像:GagliardiPhotography-shutterstock

グリーン経営認証制度の概要と中小運輸事業者による取得メリット

書いてあること

  • 主な読者:グリーン経営認証制度の取得を検討する経営者
  • 課題:取得による効果、取得までの流れ、取得にかかるコストが分からない
  • 解決策:取得に際し、自社の環境改善に向けた取り組みを洗い出し、認証基準を満たす改善策を打ち出すことが先決

1 グリーン経営認証制度とは

環境負荷の少ない事業運営を「グリーン経営」といいます。国土交通省では、「環境行動計画」を策定し、環境貢献型経営(グリーン経営)を促進しています。運輸業界においては、中小規模の事業者でも環境改善に向けた自主的で継続的な活動を行うことが求められています。

グリーン経営認証は、トラック事業者、バス事業者、タクシー事業者、旅客船事業者、内航海運事業者、港湾運送事業者、倉庫事業者を対象として、交通エコロジー・モビリティ財団(以下「交通エコモ財団」)が認証機関となり、グリーン経営推進マニュアルに基づいて、一定のレベル以上の取り組みを行っている事業者に対して、審査の上、認証・登録を行うものです。

グリーン経営推進マニュアルは、環境マネジメントシステムに関する国際規格であるISO14000シリーズに基づいて作成されたもので、同マニュアルに従うことで、中小規模の事業者でも環境改善に向けた取り組みの目標設定とその評価が容易になります。

環境負荷の低減に関して第三者機関が取り組みを審査・認証するという点で、グリーン経営認証制度は、環境マネジメントシステムに関する国際規格「ISO14001」と似ていますが、実際は異なります。

ISO14001は環境改善を図るための組織体制や書類の整備といったマネジメントシステムの適合性を審査するものですが、グリーン経営認証制度は、環境改善の取り組み結果(環境パフォーマンス)を審査するものです。また、グリーン経営認証制度では、認証後のレベルアップを図るため、認証機関である交通エコモ財団が指導・助言も実施します(ISO14001では認証機関による指導・助言は禁止されています)。

中小規模の事業者はコスト的・人的な問題からISO14001の認証を取得しにくいのが現状です。グリーン経営認証制度はこうした点を考慮した制度であり、中小規模の事業者でも取り組みやすいようにコストや手続きの面で配慮されています。

■交通エコロジー・モビリティ財団「グリーン経営認証制度」■
https://www.green-m.jp/

2 グリーン経営の認証取得までの基本的な流れ

グリーン経営の認証取得までの基本的な流れは次の通りです。

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本稿では、トラック事業者に注目し、グリーン経営認証を取得するまでの主なポイントを紹介していきます(基本的に、トラック・バス・タクシーなど輸送モードによる手続きの大きな違いはありません)。

1)申請書などの入手

まずは、申請書とともに自社の取り組み状況のチェックリスト(以下「チェックリスト」)やグリーン経営推進マニュアル(以下「マニュアル」)を入手することから始まります。チェックリストは、トラック事業者がグリーン経営認証を取得できる状態にあるかを確認するための重要な書類です。マニュアルには、トラック事業者が環境負荷低減を推進するために重要な「グリーン経営の意義や進め方」などが記載されています。

いずれも、交通エコモ財団のウェブサイトからダウンロードすることができます。

2)チェックの実施と改善の取り組み

トラック事業者は、交通エコモ財団のチェックリストを使って、自社の環境負荷低減の取り組みを確認します。

チェックリストは、環境保全やエコドライブなどに関するチェック項目があり、全てYesかNoで回答できるようになっています。各チェック項目はレベル1~3の3段階に分かれていて、レベル3で要求される活動が最も高度です。

なお、チェック項目の中で特定のレベルが網掛けになっているものがあります。網掛けは、認証基準と連動しており、網掛けのレベルに到達していなければグリーン経営認証を取得することはできません。

トラック事業者向けのチェックリスト(一部抜粋)は次の通りです。

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チェックの結果、認証基準に到達し、認証基準の解説にある資料が整備されていれば、交通エコモ財団にグリーン経営認証の審査を申請できます。認証基準に到達していない場合には、認証基準を満たすよう改善の取り組みを行います。

3)認証審査申請

交通エコモ財団にグリーン経営の認証審査を申請します。申請の際は、次の書類に必要事項を記入して交通エコモ財団に郵送します。なお、次の書類は、全て交通エコモ財団のウェブサイトからダウンロードすることができます。

  • 認証審査申請書
  • 審査登録対象事業所一覧表
  • (注)認証登録連盟事業者一覧表(ただし、旅客船事業者、内航海運事業者、港湾運送事業者、倉庫事業者のみ)

  • 審査申請用チェックリスト記入用紙

4)実地審査と是正処置

審査員(交通エコモ財団のスタッフなど)が、実際にグリーン経営の認証を申請したトラック事業者を訪問して、その活動を審査します。審査に要する時間の目安は、1つの事業所(事業者ではありません)につき4~5時間程度です。

仮に、認証基準に達しない不適合事項が発見された場合、トラック事業者は「是正処置」として、60日以内に不適合事項を是正して交通エコモ財団に報告します。

5)審査結果の判定と認証・登録

審査員が作成した「実地審査報告書」に基づき、交通エコモ財団が判定します。交通エコモ財団が、認証基準の全てを満たしていると判断した場合、トラック事業者はグリーン経営の認証を取得することができます。

グリーン経営の認証を取得するトラック事業者は、交通エコモ財団に審査料などの費用を支払わなければなりません(審査料などの詳細は後述します)。

こうしてグリーン経営の認証を取得したトラック事業者は、環境に優しいトラック事業者として登録され、交通エコモ財団のウェブサイトで事業者名が公表されます。

6)定期審査

定期審査は、新規登録日または更新登録日から1年目に実施されます。トラック事業者は、チェックリストおよび関連書類を交通エコモ財団に提出し、書類審査を受けます。

7)更新審査

更新審査は2年ごとに実施されます(定期審査の1年後)。グリーン経営の認証の有効期間は2年間なので、更新審査を受けなければグリーン経営認証を維持することができません。更新審査では、トラック事業者は新規取得の際と同様の実地審査を受けます。

3 グリーン経営の認証取得などに必要な費用

グリーン経営の認証取得などに必要な費用は次の通りです。トラック事業者は、新規登録時、および2年ごとの更新時に表の金額を一括して支払うこととなります(表中の交通費以外は消費税別です)。また、2年ごとの更新の間の1年は書類審査が行われます。

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4 グリーン経営の認証を取得することの効果

1)グリーン経営認証の登録件数

交通エコモ財団ウェブサイト公表資料によると、業種別のグリーン経営認証登録事業所数(2018年9月1日時点)は次の通りです。

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2)グリーン経営の認証取得の効果

トラック事業者などの運輸事業者がグリーン経営の認証を取得する(登録を受ける)メリットには、次の点が挙げられます。

  • 交通エコモ財団のウェブサイトなどで事業者名が公表される
  • 登録証、ロゴマークが交付され、車両に貼り付けるなど自由に使える
  • 交通エコモ財団から環境保全活動に関する情報提供や指導、助言が受けられる

また、交通エコモ財団が2018年4月に発表した「グリーン経営認証取得による効果(トラック、バス、タクシー、倉庫、港湾運送)-平成28年度版-」によると、運輸事業者は、グリーン経営の認証取得によって、「燃費の向上」「電気/燃料使用量削減」「職場モラルの向上」「お客様からの評価の向上/取引上の優遇」「リーダー層の人材育成」「交通事故件数の減少」「車両故障件数の減少」など、さまざまなメリットを感じているようです。

■グリーン経営認証取得による効果(トラック、バス、タクシー、倉庫、港湾運送、旅客船、内航海運)-平成28年版-■
http://www.green-m.jp/greenmanagement/result.html

3)運輸事業者がグリーン経営の認証を取得することの意義

運輸業界には「環境・安全」が一層強く求められており、荷主・一般消費者は、「環境・安全」に悪影響を及ぼしてはならないとの意識を強めています。

激化する競争の中、今後、勝ち残る事業者となるためには、「環境・安全」への取り組みがさらに重要となるという意識を持たなければなりません。その際、グリーン経営認証取得は、「環境・安全」への取り組みを進める上で1つのきっかけとなるでしょう。

なお、自治体や都道府県トラック協会の中には、グリーン経営認証料金の助成制度を実施しているところがあり、また、金融機関などの低金利融資制度・保険料割引制度もあるので、確認してみるとよいでしょう。

以上(2018年10月)

pj50208
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介護老人福祉施設の開設を考える

書いてあること

  • 主な読者:介護老人福祉施設の運営を検討する経営者
  • 課題:介護老人福祉施設の開所および運営を行いたい
  • 解決策:必要な申請や条件、収支モデルを参照する

1 介護老人福祉施設の概要

1)介護老人福祉施設とは

介護保険法において、「介護老人福祉施設」とは、「特別養護老人ホーム(入所定員30人以上)」であって、当該特別養護老人ホームに入所する要介護者に対し、施設サービス計画に基づいて入浴・排せつ・食事などの介護、日常生活上の世話、機能訓練、健康管理、療養上の世話をする施設をいいます(介護保険法第8条第27項)。なお、入所定員が29人以下の施設は、「地域密着型介護老人福祉施設」と規定されています(介護保険法第8条第22項)。

市町村は、都道府県知事が指定する介護老人福祉施設により行われる介護福祉施設サービス(注)に要した費用について、施設介護サービス費を支給します(介護保険法第48条第1項)。

(注)介護福祉施設サービスとは、介護老人福祉施設に入所する要介護者に対し、施設サービス計画に基づいて行われる、入浴、排せつ、食事などの介護、日常生活上の世話、機能訓練、健康管理、療養上の世話をいいます。

介護老人福祉施設は、まず、「老人福祉法」において「特別養護老人ホーム」の設立許可を受け、次いで、「介護保険法」において「介護老人福祉施設」の指定を受ける必要があります。

厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査の概況」によると、介護老人福祉施設の施設数の状況は次の通りです。

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また、同調査によると、介護老人福祉施設の施設数・定員・在所者数の状況は次の通りです。

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2)特別養護老人ホームの設置認可

市町村および地方独立行政法人以外で、特別養護老人ホームを設置する場合、まず、設置主体は社会福祉法人である必要があります。また、老人福祉法第15条第6項では、「都道府県知事は、社会福祉法人による認可の申請があった場合において、当該申請に係る区域における特別養護老人ホームの入所定員の総数が、都道府県が老人福祉計画において定めるその区域の特別養護老人ホームの必要入所定員総数にすでに達している場合または特別養護老人ホームの設置によってこれを超えることになる場合には設置の認可をしないことができる」と規定されています。

社会福祉法人が特別養護老人ホームの設置認可の申請をするときには、次の事項を記載した申請書を、施設を設置しようとする地の都道府県知事に提出しなければなりません(老人福祉法施行規則第2条第1項)。

  • 施設の名称、種類および所在地
  • 施設の地理的状況
  • 建物の規模および構造並びに設備の概要
  • 特別養護老人ホームの設備および運営に関する基準に規定する施設の運営についての重要事項に関する規程
  • 入所者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要
  • 職員の勤務の体制および勤務形態
  • 協力病院の名称および診療科名並びに当該協力病院との契約の内容
  • 施設の長その他主な職員の氏名および経歴
  • 事業開始の予定年月日
  • 地方独立行政法人が設置する場合にあっては、資産の状況を記載した書類

3)介護老人福祉施設の指定

入所定員が30人以上の指定介護老人福祉施設の指定は、都道府県知事(指定都市・中核市は各市長)が行います(介護保険法第86条第1項、第203条の2)。一方、入所定員が29人以下の地域密着型介護老人福祉施設の指定は市町村長により行われます(介護保険法第78条の2第1項)。

指定を受けようとする者は、次の事項を記載した申請書・書類を施設の開設を所管する都道府県知事に提出しなければなりません(介護保険法施行規則第134条)。

  • 施設の名称および開設の場所
  • 開設者の名称および主たる事務所の所在地並びに代表者の氏名、生年月日、住所および職名
  • 当該申請に係る事業の開始の予定年月日
  • 開設者の定款、寄附行為等およびその登記事項証明書または条例等
  • 特別養護老人ホームの認可証等の写し
  • 併設する施設がある場合にあっては、当該併設する施設の概要
  • 建物の構造概要および平面図並びに設備の概要
  • 入所者の推定数
  • 施設の管理者の氏名、生年月日および住所
  • 運営規程
  • 入所者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要
  • 当該申請に係る事業に係る従業者の勤務の体制および勤務形態
  • 当該申請に係る事業に係る資産の状況
  • 協力病院の名称および診療科名並びに当該協力病院との契約の内容
  • 当該申請に係る事業に係る施設介護サービス費の請求に関する事項
  • 介護保険法第86条第2項各号に該当しないことを誓約する書面(誓約書)
  • 役員の氏名、生年月日および住所
  • 介護支援専門員の氏名およびその登録番号
  • その他指定に関し必要と認める事項

2 施設基準

特別養護老人ホームの施設基準は、「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(以下「基準」)」に定められています。同基準に定められているユニット型施設の主な内容を紹介します。

1)運営規程(基準第34条)

ユニット型特別養護老人ホームは、次に掲げる施設の運営についての重要事項に関する規程を定めておかなければなりません。

  • 施設の目的および運営の方針
  • 職員の職種、数および職務の内容
  • 入居定員
  • ユニットの数およびユニットごとの入居定員
  • 入居者へのサービスの提供の内容および費用の額
  • 施設の利用に当たっての留意事項
  • 非常災害対策
  • その他施設の運営に関する重要事項

2)共同生活室を設ける場合の施設の基準(基準第35条)

ユニット型特別養護老人ホームの建物は、耐火建築物でなければなりません。ただし、入居者の日常生活に充てられる場所を2階以上の階および地下のいずれにも設けていないユニット型特別養護老人ホームの建物は、準耐火建築物とすることができます。

ユニット型特別養護老人ホームには、次の各号に掲げる設備を設けなければなりません。ただし、他の社会福祉施設等の設備を利用することにより当該ユニット型特別養護老人ホームの効果的な運営を期待することができる場合であって、入居者へのサービスの提供に支障がないときは、次の各号(1.を除く)に掲げる設備の一部を設けないことができます。

  • ユニット
  • 浴室
  • 医務室
  • 調理室
  • 洗濯室または洗濯場
  • 汚物処理室
  • 介護材料室
  • 前各号に掲げるもののほか、事務室その他の運営上必要な設備

1つの居室の定員は、1人とします。ただし、入居者へのサービスの提供上必要と認められる場合は2人とすることができます。

居室は、いずれかのユニットに属するものとし、当該ユニットの共同生活室に近接して一体的に設けなければなりません。ただし、1つのユニットの入居定員は、おおむね10人以下としなければなりません。

居室は地階に設けることはできません。1つの居室の面積は10.65平方メートル以上を標準とします。ただし、2人部屋の場合にあっては、21.3平方メートル以上を標準とします。

居室には寝台またはこれに代わる設備を備えなければなりません。1つ以上の出入口は、避難上有効な空地、廊下、共同生活室または広間に直接面して設けなければなりません。床面積の14分の1以上に相当する面積を直接外気に面して開放できるようにしなければなりません。必要に応じて入居者の身の回り品を保管できる設備を備え、ブザーまたはこれに代わる設備を設けなければなりません。

3)職員の配置の基準(基準第12条)

特別養護老人ホームには、次の各号に掲げる職員を置かなければなりません。ただし、入所定員が40人を超えない特別養護老人ホームにあっては、ほかの社会福祉施設などの栄養士との連携を図ることにより、入所者の処遇に支障がないときは、栄養士を置かないことができます。

  • 施設長:1人
  • 医師:入所者に対し健康管理および療養上の指導を行うために必要な数
  • 生活相談員:入所者の数が100人またはその端数を増すごとに1人以上
  • 介護職員または看護職員(看護師もしくは准看護師)
    • イ.介護職員および看護職員の総数は、常勤換算方法で、入所者の数が3人またはその端数を増すごとに1人以上
    • ロ.看護職員の数は、次の通りとすること
    • 入所者の数が30人を超えない場合、常勤換算方法で1人以上
    • 入所者の数が30人を超えて50人を超えない場合、常勤換算方法で2人以上
    • 入所者の数が50を超えて130人を超えない場合、常勤換算方法で3人以上
    • 入所者の数が130人を超える場合、常勤換算方法で3人に、入所者の数が130人を超えて50人またはその端数を増すごとに1人を加えた数以上
  • 栄養士:1人以上
  • 機能訓練指導員:1人以上
  • 調理員・事務員その他の職員:当該特別養護老人ホームの実情に応じた適当数

3 開業収支を考える

1)前提条件

1.売上高

年間売上高は、施設定員80人(10人×8ユニット)として3億5503万円とします。算出式は次の通りです。

  • {介護サービス費28万7400円×12カ月+ホテルコスト(1970円+1380円)×365日)}×定員80人×稼働率95%=3億5503万円

厚生労働省「介護給付費実態調査月報(2019年4月審査分)第7表、介護サービス受給者1人当たり費用額、サービス種類・都道府県別」によると、介護福祉施設サービスの介護サービス受給者1人当たり費用の平均月額は28万7400円となっています。

また、ここではホテルコストとして滞在費を1日当たり1970円、食費を1日当たり1380円としました。

厚生労働省「介護報酬の算定構造(2018年4月以降適用)」によると、ユニット型介護福祉施設サービス費(I)(ユニット型個室)(1日当たり)は次の通りです。

  • 要介護1:636単位
  • 要介護2:703単位
  • 要介護3:776単位
  • 要介護4:843単位
  • 要介護5:910単位

2.原価率

原価・変動比率は、後掲表(介護老人福祉施設の収支)の介護事業費用のうち(4)その他を参考に27.7%とします。

3.人件費

また、固定費は同じく後掲表(介護老人福祉施設の収支)の介護事業費用のうち(1)給与費63.8%を参考に2億2651万円(3億5503万円×63.8%)とします。

4.施設整備・設備整備費用

施設整備費を8億8000万円(1000坪×88万円)、設備整備費を7200万円とします。

その他の諸条件は次の通りです。

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2)収支シミュレーション

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4 介護老人福祉施設の1施設1カ月当たり収支

厚生労働省「平成28年度介護事業経営概況調査結果」によると、介護老人福祉施設の収支は次の通りです。

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介護事業費用は、(1)給与費、(2)減価償却費、(3)国庫補助金等特別積立金取崩額、(4)その他に分類されています。なお、(4)その他には、水道光熱費、燃料費、給食の材料費、賃借料、旅費交通費、通信費、消耗品費、雑費などが含まれます。

以上(2019年10月)

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空き家を活用した高齢者や障害者等向け賃貸住宅

書いてあること

  • 主な読者:要配慮者向け賃貸住宅の流通を考える経営者
  • 課題:今後の中古住宅関連市場の動向を知りたい
  • 解決策:住宅セーフティネット制度の概要を把握し、要配慮者向け賃貸住宅の潜在需要を考える

1 住宅確保要配慮者に対する住宅供給の新制度

有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の整備が進む一方で、未届け有料老人ホームが増加してきました。2017年6月30日時点で、有料老人ホームとしての届け出施設数1万2608施設に対し、未届け施設数は1046施設となっています。

未届け施設の中には劣悪な環境のものもあり、社会問題になっています。未届け施設が増える背景には、整備が進められてきた有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の賃料や利用料が比較的高額であることが挙げられます。

このため低廉な賃料で利用できる賃貸住宅が求められています。また、これは高齢者に限った問題ではありません。低額所得者、被災者、障害者、子どもを養育する者、その他の住宅の確保に配慮を要する人向けの住宅についても整備が求められています。

そのような中、2017年4月に住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律(以下「改正法」)が成立し、2017年10月に施行されました。本稿では、改正法による新たな住宅セーフティネット制度の概要と広がる潜在需要について紹介します。

2 住宅確保要配慮者向け賃貸住宅の位置付け

住宅確保要配慮者(以下「要配慮者」)とは、低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子どもを養育する者、その他国土交通省令で定める者です。

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要配慮者向け賃貸住宅は、住宅セーフティネットとして位置付けられるため、賃料は有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅より低くなります。また、他に低額所得者、被災者、障害者、子どもを養育する者等も入居者となる点で各種高齢者向け施設と異なります。

3 新たな住宅セーフティネット制度の概要

1)住宅確保要配慮者円滑入居賃貸住宅の登録

要配慮者の入居を受け入れることを表明している賃貸住宅は、住宅確保要配慮者円滑入居賃貸住宅(以降「登録住宅」)として都道府県知事の登録を受けることができます。

この登録を受けることで、全国の登録住宅の情報を集めたウェブサイトに掲載されたり、居住支援協議会に参画する各種団体や自治体などが入居希望者を紹介してくれるため、入居者が確保しやすくなるなどのメリットがあります。

また、一定の要件のもと、改修費などの補助も受給できます。さらに、今後、増加が予想される高齢者や外国人等を受け入れる際のノウハウや支援団体とのネットワークを得られることで経営の安定化も見込まれます。

登録を受けるには、住宅の位置・戸数・規模・構造及び設備等の事項を記載した申請書を都道府県知事に提出することになります。

2)住宅確保要配慮者居住支援法人

賃貸人(登録住宅)と賃借人(要配慮者)が安心して賃貸借契約を結ぶには、登録住宅の入居者の家賃債務保証が不可欠です。また、賃貸住宅の情報提供や入居に当たっての相談、見守り等の要配慮者への生活支援も必要になります。

改正法により、これらの業務を行う法人として住宅確保要配慮者居住支援法人(以下「支援法人」)が誕生しました。支援法人はNPO法人や一般社団法人、一般財団法人等営利を目的としない法人、または要配慮者の居住の支援を行うことを目的とする会社で、都道府県知事がこれを指定します。

支援法人の業務内容は「登録住宅入居者の家賃債務保証」「賃貸住宅への円滑な入居の促進に関する情報提供、相談その他の援助」「要配慮者の生活の安定及び向上に関する情報提供、相談その他の援助」「その他の附帯業務」とされており、要配慮者向けサービス提供の窓口として位置付けられます。

支援法人が債務保証業務を行う場合、債務保証業務規程を定め、都道府県知事の認可を受けなければなりません。

3)住宅金融支援機構

住宅金融支援機構は、登録住宅を改修する際に要する資金の貸し付けを行います。また、家賃債務保証保険契約に係る保険の引き受けを行います。

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図表2では支援法人が家賃債務保証をしていますが、従来の家賃債務保証会社も住宅金融支援機構の保険引き受けの対象となります。

家賃債務保証会社は賃借人(要配慮者)と家賃債務保証委託契約を結び、賃貸人(登録住宅)と家賃債務保証契約を結びます。賃借人が賃料の支払いができなくなると、家賃債務保証会社が賃借人に代わって賃料を賃貸人に代位弁済します。そして、家賃債務保証会社は賃借人に対して求償権を行使することになります。

しかし、賃借人が支払い不可能になった場合、家賃債務保証会社に損失が発生します。住宅金融支援機構の家賃債務保証保険契約は、家賃債務保証会社に発生した損失(のうち70%相当)をカバーするための保険です。これにより、家賃債務保証会社のリスクを低減することができます。

4)住宅確保要配慮者居住支援協議会

地方公共団体、支援法人、宅地建物取引業者等は、住宅確保要配慮者居住支援協議会(以下「居住支援協議会」)を組織することができます。

居住支援協議会は、要配慮者または民間賃貸住宅の賃貸人に対する情報提供、要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居の促進に関する必要な措置を協議します。協議が調った事項については、居住支援協議会の構成員は、その協議の結果を尊重しなければなりません。

5)新たな住宅セーフティネット制度のイメージ

新たな住宅セーフティネット制度のイメージは次の通りです。

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4 広がる潜在需要

1)登録住宅の潜在需要

2020年の一人暮らし高齢者世帯は702万5000世帯、2035年には841万8000世帯と推計されています(国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(2018年推計)」)。高齢世帯の持ち家率は約80%であるため、2020年で140万5000世帯分、2035年時点で168万3600世帯分が有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、登録住宅の潜在需要として捉えることができます。

また、2018年6月時点の被保護(生活保護)世帯数は163万6327世帯となっています(厚生労働省「被保護者調査」)。被保護世帯の約50%が賃貸住宅の居住者であるため、被保護世帯を要配慮者とした場合、その潜在需要は約81万8164世帯となります。

改正法では要配慮者を、低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子どもを養育する者、その他国土交通省令で定める者としています。今後、国土交通省令で定める者の対象が外国人、失業者、ホームレス等と広がっていくと、潜在需要はより大きなものとなります。

2)期待される空き家の有効活用

2013年の世帯数5245万世帯に対して住宅ストックは6063万戸と、818万戸が空き家となっています(総務省「住宅・土地統計調査」)。セーフティネットとしての賃貸住宅の賃料は低廉である必要があります。

この場合、新たに施設を開設するよりも、空き家を有効活用したほうが経済的です。また、共同居住型住宅も登録の対象となるため、アパートやマンションに限らず戸建住宅であっても、登録住宅とすることが可能です。

登録住宅は、2020年度末までに17万5000戸を計画しています。ただし、現状では順調に登録が進んでいるとは言えない状況です。登録住宅の情報を集めたウェブサイトであるセーフティネット住宅によると、2018年9月20日現在、全国で3692件の登録住宅が掲載されています。

こうした課題を解決するため、国土交通省では、2018年7月、セーフティネット住宅の登録を促進するために申請書の記載事項や添付書類などを大幅に削減するなど、施行規則を改正しました。

3)要支援者の登録住宅への入居を円滑化するために

要支援者が登録住宅に円滑に入居するためには、居住支援協議会等による活動が重要になります。こうした活動を担う居住支援協議会等に対し、国からの補助が行われています(補助限度額:協議会当たり1000万円)。

また、登録住宅の改修費の一部を国・地方公共団体が補助する予定です。そして、地域の実情に応じて、要配慮者の家賃債務保証料や家賃低廉化のために国・地方公共団体が補助する予定です。

4)必要とされるさまざまなサービス

賃貸人(登録住宅)と賃借人(要配慮者)にとって家賃債務保証と同様に重視されるのが、見守りサービスと万が一への対応です。

1.見守りサービス

一人暮らしの高齢者が倒れても、なかなか気付いてもらえない場合があります。そこで安否を確認するため、次のような見守りサービスが必要になります。

  • 訪問タイプ(定期的に自宅を訪問し、安否を確認)
  • 通報装置タイプ(室内に通報装置やモーションセンサーを設置し、居住者の異常を緊急センターに通報)
  • コールサービスタイプ(毎日指定した時間に、オペレーターからの電話や音声メッセージで安否を確認)
  • 機器動作確認タイプ(ガスや魔法瓶等の使用状況から、居住者の安否を確認)

2.万が一への対応

入居者が亡くなった場合、残存家財の整理、葬儀等が必要になります。そのため、万が一への対応を考えると、次のような少額短期保険等が必要になります。

  • 賃貸住宅内で入居者が孤独死した場合等に家主が被る家賃の損失と、事故箇所の原状回復費用を補償
  • 入居者が死亡した場合の残された家財の片付け費用、居室内の修繕費用、葬儀費用等を補償

その他、掃除・洗濯・買い物・配食サービス等の家事関連サービスが必要な人もいるでしょう。

地域の空き家が登録住宅となり入居者が増えれば、物販やサービスの提供等新たな需要が生まれます。人の流入は地域の活性化につながります。

また、登録住宅は、地域包括ケアの中で、医療・介護・生活支援等を効率良く展開するための重要な拠点としても期待できます。

以上(2018年10月)

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画像:unsplash

新しい市場が広がる「キャンプ」関連業界の動向

書いてあること

  • 主な読者:従来のキャンプ場との差異化を検討する経営者
  • 課題:グランピングの動向、事例、留意点などを把握したい
  • 解決策:さまざまなタイプのグランピング施設を参考に、他社には無いサービスを提供する

1 10年に1度のビッグトレンド

大自然の中で、食事や宿泊を楽しむ。こうした自然に親しむという従来のキャンプの良さを残す一方で、豪華なインテリアに囲まれ、ホテル並みのサービスを受けられる「グランピング」が注目されています。

グランピングは、キャンプに興味はあるが未経験の層や、キャンプにそれほど関心がなかった層を取り込み成長しています。国内外の観光・レジャー業界では、「10年に1度のビッグトレンド」ともいわれています。

国や自治体もこれに注目し、地方創生の観点からグランピング事業を手掛けるDMO(地域と協同して観光地域作りを行う法人)のプロジェクトや事業者に対して補助金を交付するなどしており、ビジネスの裾野が広がっています。

2 グランピングの関連データ

グランピングという言葉は、グラマラス(Glamorous、魅惑的な)とキャンピング(Camping)を組み合わせた造語です。「テント設営や食事の準備などの煩わしさから旅行者を解放した『良い所取りの自然体験』」と定義されています(日本グランピング協会)。

グランピングの市場規模などに関する統計はありません。しかし、日本オートキャンプ協会「オートキャンプ白書2017」で示されている「オートキャンプの参加人口」の中には、グランピング施設の宿泊者も含まれているので参考になります。

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オートキャンプの参加人口が増加している背景には、30~40代のいわゆる「団塊ジュニア世代」の参加の他、グランピングやアウトドア要素を取り入れたインテリアなどの普及などがあるようです。

オートキャンプ白書では、グランピングへの興味についても調査しています。年齢が若く(20代が35.0%、30代が30.6%)、キャンプの経験年数が浅い対象者(1年の対象者が36.2%、2~3年が28.6%)ほど、関心が高くなっています。

3 グランピングのポジショニング

1)キャンパーの裾野を広げるグランピング

オートキャンプの参加人口は2016年では830万人にすぎず(オートキャンプ白書)、顧客層の拡大が業界の課題です。キャンプは自然に触れることが醍醐味です。一方、準備の煩わしさなどが参加の妨げになっているため、この問題を解消しなければなりません。

例えば、キャンプ用品などを手掛けるスノピークでは、「自宅とテントを行き来する」をコンセプトに、普段着としても違和感のないアウトドアに対応した衣料品の販売や、インテリアや料理にキャンプの要素を取り入れたレストランの運営などをしています。

これと同じ感覚で、グランピングは非キャンパーがキャンプに関心を持つきっかけとなり得ます。従来のキャンプ市場と成長余地を取り込もうとするグランピング市場の関係をポジションマップにまとめると、次のようになります。

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豪華な設備や充実したサービスが提供されることから、グランピングの利用料金は高額です。ただし、細かく見ていくと提供可能なアクティビティ、設備の充実度などで、主にターゲットとする顧客に違いも見られます。

ハイエンド志向タイプのグランピング施設にヒアリングしたところ、中心顧客は30~40代のカップルで、夏休みなどは家族連れも来るとのことです。同様に、雰囲気体験タイプの中心顧客は20代のカップルで、グループ利用も多いとのことです。

2)ハイエンド志向タイプ

広い敷地にテントやコテージが余裕を持って配置され、ぜいたくなプライベート空間が味わえます。インテリアやアメニティーなども著名ブランドで統一し、ハイキングや乗馬などのアクティビティも充実しています。施設例は「星のや富士」などです。

3)雰囲気体験タイプ

野外に設営されたテントなどで宿泊し、グランピング気分を味わえると同時に、入浴や食事などは既存の宿泊施設を利用します。施設例は「一里野高原ホテルろあん」などです。

4)レジャー充実タイプ

日帰り温泉、ゴルフ場、観光農園などのレジャー施設に併設・隣接されており、「お父さんはゴルフ、子どもたちは野山の散策」など、趣向の異なるさまざまなレジャーを楽しむことができます。施設例は「ネスタリゾート神戸」などです。

5)キャンプ場の手軽な多角化タイプ

既存のキャンプ場で、豪華な料理を食べたり、グランピング用のテントやコテージなどに宿泊したりするグランピングプランを楽しむことができます。施設例は「しのつ公園キャンプ場」などです。

6)ポジション未確定タイプ

宿泊施設は付随せず、都市部のビルの屋上や既存の結婚式場などの場所で、グランピングテイストの空間や食事を楽しむことができます。グランピング用のテントで食事ができる飲食店、グランピングウェディングなどがあります。施設例は「WILD MAGIC -The Rainbow Farm」などです。

4 広がる? ビジネスチャンス

グランピングにビジネスチャンスを見いだし、さまざまな事業者がグランピング施設の運営や関連事業に参入しています。実際に関連事業者はどう考えているのでしょうか。グランピング用のドームメーカーにヒアリングした結果は次の通りです。

  • 全国に先駆けてグランピング施設を開業した事業者は、海外で広まりつつあった豪華なイメージを打ち出すグランピングに目をつけた。これらの事業者は海外の最新のトレンドへの感度が高い、一部の富裕層を初期のメインターゲットとした
  • グランピング施設の顧客は、レジャーの選択肢として従来はキャンプを検討していなかった層が中心。ウェブサイトでグランピング施設の魅力的な内外装やたき火のイメージに引かれたことに加え、煩わしい準備がないことを評価している

同様に、グランピング用のトレーラーハウスなどを販売するメーカーへのヒアリングによると、「施設の設備などによって異なるものの、グランピング施設はホテルの建設などに比べて初期投資が少なく、地域の中小企業も参入しやすい」とのことです。

特にキャンプ関連事業者にとって、グランピング市場への参入障壁は低そうです。しかし、図表2の右側のポジションマップで示した「ポジション未確定タイプ」のように、特徴を打ち出し切れない施設も少なくないようで、今後の苦戦が懸念されます。

5 地方創生×グランピング

グランピングは地方創生の観点からも注目されています。欧米を中心に世界的にグランピングに関心を集めていることもあり、複数の自治体やDMOなどがインバウンドを含めた観光客を呼び込むために、グランピング事業に食指を動かしています。

例えば、国土交通省では、国立公園の有効活用を目的に、常設ではなく、全国各地を巡るアウトドアホテル(グランピング)を運営する企業と提携し、国立公園内でのグランピングをスタートさせようとしています。

また、岡山県赤磐(あかいわ)市は国の「地方創生拠点整備交付金」を使って、市営オートキャンプ場内にグランピング区画を整備しました。この他、土地の貸し出しなど通じて、グランピング事業を手掛ける事業者を支援しているケースも見られます。

グランピングは、土地整備、施設建設、施設運営(飲食、清掃など)など、関連事業者の裾野が広いことも特徴です。そのため、地域の関連事業者への経済効果なども期待されています。

6 開業に際しての留意点

1)運営に掛かる費用

グランピング施設の紹介や、参入を検討する事業者へのコンサルティングなどを行っているGLAMPING JAPANへのヒアリングによると、「新たにグランピング施設を開業する場合、レセプションを備え、テント3張り、ホワイトドーム(ドーム型テント)2基、コテージ5軒などを導入したケースを例にすると、水回りの整備や調度品の購入費なども含めて2億円程度は必要」とのことです。

このうち、約60%が土地の購入費や施設施工費、機材の購入費に割り当てられ、約20%がウェブサイトやプロモーション、それらの媒体に掲載するモデルやカメラマンへの支払いなどとなっています。この他、約10%が食材の購入費やメニュー考案のためのフードコーディネーターへの支払い、残る約10%がスタッフの育成費用です。

費用の中でも、広告費は重要です。顧客はイメージ画像に引きつけられる傾向があるため、モデルやプロのカメラマンを起用して、実際に訪れてみたいと思わせる画像を用意することが、プロモーションの重要なポイントとなります。

また、特に若い世代をターゲットとする場合、いわゆる「インフルエンサー」と呼ばれるインスタグラマーやYouTuberを活用し、SNSを通じて情報を拡散することも有効な方法となるようです。

2)稼働率を高める2つの取り組み

前述したGLAMPING JAPANによると、「グランピング施設の運営において、同一の敷地内でドーム型テントやキャビンなどの複数の宿泊設備を提供すること、付随するアクティビティを全て宿泊料金に含めた体系で提供することが重要」とのことです。

これにより、宿泊客を飽きさせず、明瞭会計で安心感を与えることもできます。例えば、スキー場を運営している奥伊吹観光は、夏場の収益源として、グランピング施設である「GLAMP ELEMENT」を運営しています。

同施設では、テントや高床式のキャビン、日本初上陸といわれる雨粒型のレインドロップテントなどを設置しています。宿泊料金には、朝食・夕食代だけではなく、バーでの飲食代も含まれています。2017年のオープン以降、非常に高い稼働率を誇っているそうです。

以上(2018年8月)

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画像:photo-ac

基礎から学ぶビジネスチャンスを見つける視点

書いてあること

  • 主な読者:ビジネスチャンスを探している経営者
  • 課題:商品のライフサイクルが短くなっており、新しいビジネスチャンスを常に探さなくてはならない
  • 解決策:消費者ニーズの影響要因、商品の影響要因などについて注意し、ビジネスチャンスを狙う

1 ビジネスチャンスの重要性

近年、ビジネスのスピードは増す一方です。多くの企業が消費者のさまざまなニーズを掘り起こそうと、さまざまな商品を次々と世に送り出す一方、商品のライフサイクルはどんどん短くなっています。なお、本稿で使用する「商品」という言葉は、製品だけではなくサービスも含みます。また、「消費者」という言葉は、最終消費者だけではなく企業など産業財のユーザーも含みます。

主力事業や商品の転換には相応の経営資源の投入が必要であり、大きなリスクを伴います。しかし、既存の事業や商品に安住し続けることのほうが大きなリスクであり、ビジネスチャンスを逃さず、商品を提供していくことが求められます。

本稿では、ビジネスチャンスを捉える際の基本的な考え方と、ビジネスチャンスを発見するための具体的な視点について紹介していきます。

2 ビジネスチャンスの正体を理解する

1)ビジネスチャンスとは

ここでは、ビジネスチャンスについて考えてみましょう。そもそも、見いだすべきビジネスチャンスとはどのようなものなのでしょうか。これは、「商品」とそれを購入する「消費者のニーズ(以下「消費者ニーズ」)」の関係を見ると分かりやすいでしょう。

「商品」と「消費者ニーズ」の関係(イメージ)は次の通りです。

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消費者が商品を購入するのは、自身の持つニーズを充足するためです。従って、商品が消費者の持つニーズを完全に充足している姿が理想的な関係となります(図表左側の「理想的な関係」)。しかし、実際には、特定の商品が消費者ニーズを完全に充足しているケースはわずかです(図表右側の「現実の関係」)。むしろ、消費者は「若干の不満はあるものの、自身のニーズに一番近い商品を妥協して購入する」といったケースが多いものです。

例えば、図表右側の「現実の関係」のように「『購入した商品を、今すぐ使いたいのに、手元に届くのは3日後になる』『価格が高い』といったように『時間』や『価格』については不満があるが、他の商品よりは機能・特性などが良いので、これを購入しよう」というように購入を決定している消費者が多いのです。

消費者ニーズは多様です。このため、商品の持つ機能や特性などは消費者ニーズに追いつかず、商品と消費者ニーズの間に多くのギャップが存在しているのが実情なのです。

そして、このギャップにこそビジネスチャンスがあります。すなわち、このギャップを発見し、ギャップを解消する(消費者ニーズをより高い次元で充足させる)ような商品を提供できれば、消費者からの支持を集めることができます(商品を販売し、売り上げを上げることができます)。

2)具体例で考えるビジネスチャンス

簡単な例で考えてみましょう。「のどが渇いたので、今すぐ冷えたオレンジジュースをコップ1杯飲みたい」と考えている消費者に対して、その場でコップ1杯の冷えたオレンジジュースを販売している企業があれば、商品と消費者ニーズの間にギャップはありません。しかし、アップルジュースを販売している企業しか存在しなければ、商品と消費者ニーズの間にギャップ(ビジネスチャンス)が生じます。そこで、自社がオレンジジュースを販売できれば、消費者ニーズとの間のギャップを解消することができます。

また、他の企業がオレンジジュースを販売していても、1リットルのボトルサイズしか販売していなければ、同様にコップ1杯分のオレンジジュースを販売する自社商品を購入してもらうことができます。

これは、ビジネスチャンスを単純化した例です。実際には、「自社が収益を獲得することができるだけの市場性があるのか(ビジネスとして成立し得るのか)」「競合他社の動向はどうか」など、さまざまな側面から、ビジネスチャンスを検討する必要があります。しかし、商品と消費者ニーズの間にあるギャップこそがビジネスチャンスであり、そのギャップを埋めるような商品を消費者に販売することで売り上げを上げていくという視点が基本となります。

3)ビジネスチャンスの発生要因

次に、ビジネスチャンスである商品と消費者ニーズの間にギャップが発生する理由を考えてみましょう。その理由はさまざまですが、大別すると「消費者ニーズの把握の困難性」と「商品に関する制約要因の存在」に分けることができます。

1.消費者ニーズの把握の困難性

消費者ニーズは常に変化しています。そのため、消費者ニーズに関する情報収集を十分に行っていない場合はもちろん、独自に市場調査を実施している企業でさえ、消費者ニーズを的確に把握できないこともあります。

例えば、マーケティングの専門部署を設けて積極的に情報を収集している大企業でさえ、「消費者ニーズの読み違い」といった理由から事業に失敗するケースがあることを考えれば、消費者ニーズを把握することが困難なことは容易に理解できるでしょう。 

当然、消費者ニーズを的確に把握できなければ、消費者ニーズを完全に充足するような理想的な商品を開発・販売することはできません。つまり、消費者ニーズの把握の困難性という要因が、商品と消費者ニーズの間にギャップを発生させているのです。

2.商品に関する制約要因の存在

消費者ニーズには気付いても、そのニーズを充足するような商品を開発・販売できないことがあります。この場合も商品と消費者ニーズの間にギャップが生じます。

制約要因にはさまざまなものがありますが、代表的なものとしては、「技術面の制約要因」があります。例えば、多くの消費者が「タイムマシン」が欲しいと思っても、現在の技術水準では実現することは不可能でしょう。また、新規開発されたばかりの機器などの場合、商品(プロトタイプなど)の開発には成功しているものの、量産技術が確立されていないため、商品として販売できないケースもあります。

また、「コスト面の制約要因」がある場合もあります。商品化はできても、膨大なコストが掛かり、販売価格が高過ぎて、ほとんどの消費者が購入しないようなケースです。

これらのケースにおいては、企業が商品と消費者ニーズの間にギャップがあることに気付いていても、商品などが持つ制約要因の存在が、ビジネスチャンスをものにすることを妨げているのです。

3 ビジネスチャンスを見つける視点

1)ビジネスチャンスを見つける視点を身に付ける

ビジネスチャンスを発見するためには、市場調査などを通じて得た消費者や競合他社などの外部環境に関する情報、自社の商品や商品の製造プロセスなど内部環境に関する情報などを総合的に勘案しながら、商品と消費者ニーズの間に潜むギャップを発見することが必要です。

しかし、こうしたプロセスを経てもなお、ビジネスチャンスを発見するのは容易ではありません。ここでは、ビジネスチャンスを発見する際に参考となる視点について紹介します。

2)「ビジネスチャンスの発生要因」に注目する

1.消費者ニーズの影響要因に注目する

消費者ニーズに変化をもたらす影響要因が分かれば、消費者ニーズの動向を的確に把握できる可能性が高まります。多くの場合、消費者ニーズに影響を与える要因はさまざまであり、それら全てを明確にすることは困難です。

しかし、中には影響要因やそれが及ぼす影響を、比較的容易に捉えることができるものもあります。代表的なものは、法令改正などといったさまざまな制度変更です。制度変更には強制力を伴う法令改正や、業界団体などが策定する「ガイドライン」などのように、法的拘束力はないものの対象となる企業や個人の行動を事実上、制限してしまうものもあります。

制度変更があれば、関連する企業や個人は変更された制度に従わなければならないため、消費者ニーズの動向を容易に予測できる場合があります。

2.商品の制約要因に注目する

商品の制約要因を把握する際のキーワードは、「ボトルネック」です。ボトルネックとは、生産現場などではよく使われる言葉で、生産プロセスなどにおいて、全体の円滑な進行・発展の妨げとなるような制約要因のことをいいます。

例えば、「金型製作工程(A工程)→プレス工程(B工程)→溶接工程(C工程)→組立工程(D工程)→表面処理工程(E工程)」という金属プレス加工のプロセスがあるとします(各工程は流れ作業で進んでいきます)。この場合、B工程を除く各工程の処理速度が「1時間当たり5つ」で、B工程のみが「1時間当たり2つ」であれば、最終的にE工程を経た完成品は「1時間当たり2つ」しかできません。この場合、全体の処理速度を落としているB工程を「ボトルネック」といいます。ボトルネックは大きな問題ですが、逆の見方をすると、ボトルネックさえ解消することができれば、生産性は劇的に改善します。

ここでは、生産プロセスを例に説明しましたが、ボトルネックという考え方は商品の開発などにおいても同様です。技術の進展などによりボトルネックが解消されることで、商品の質や性能などが飛躍的に向上し、従来の商品では充足できなかった消費者ニーズを充足できるようになる可能性があります。

3)「時間・量・場所」に注目する

「消費者ニーズを捉えた商品づくり」といった取り組みを見ると、商品の持つ機能や特性といった「商品面」や、消費動向に大きな影響を与える「価格面」にのみ注力しているケースが散見されます。その結果、商品面や価格面以外のさまざまな消費者ニーズが見落とされていることがあります。例えば「『必要なときに、必要な量、必要な場所で』の商品が欲しい」といった消費者ニーズです。

一見、当たり前のことのようですが、「時間・量・場所」に要因に注目することで、ビジネスチャンスを発見できることもあります。「時間」でいえば、宅配便事業者が行っている荷物の配送時間帯を指定できる「時間指定配送」というサービスが代表的な例です。また、「量」という観点でいえば、単身者や一人暮らしの高齢者層の需要に対応した小分けの総菜などがあります。「場所」でいえば、通信販売で発注した商品を、自宅ではなく指定したコンビニエンスストアに配送してもらい、受け取ることができる「コンビニ受け取りサービス」があります。

4)「業界の常識」に注目する

「業界の常識を打破しろ」とは、ビジネスチャンスをつかんだ経営者などがよく口にする言葉です。確かに、業界内だけで通用するような商慣行や暗黙のルールといった「業界の常識」を打ち破ることでビジネスチャンスが広がる場合があります。

例えば、近年、葬祭業界では料金体系とそこに含まれるサービスを事前に明確にした「葬儀パック」などを提供している企業があります。「消費者に対して料金を明確に伝える」ことは、普通に考えれば「商売のいろはの『い』」に相当する基本的な条件です。 しかし、葬儀は、棺・祭壇・霊柩車や送迎用のバスなどさまざまな費用が別々になっている上、それぞれにグレードがあり、そのグレードに応じて料金が異なるなど、料金体系が非常に複雑です。こうした料金体系は長い間「業界の常識」とされてきました。

一方、消費者(利用者)側から見ると、葬儀社を利用する機会は限られており、料金体系や費用相場に詳しくないこと、突然の出来事の中でゆっくりと費用などを確認している時間がないなどの理由から、「料金が分かりにくい」「当初の説明よりも費用が多く掛かっている気がする」など、料金に不満を持つ消費者は少なくありませんでした。このような消費者のニーズを背景に、料金を明確にしている企業が支持を集めています。

この視点からビジネスチャンスを発見する際の問題は、そもそも業界の常識に気付かないことです。そのときに、有効なのが、他の業界と自らの業界を比較してみることです。そうすると、「業界の常識」が持つ盲点に気付くきっかけとなることがあります。

5)トレンドの「深掘り」を行ってみる

消費者は、ある商品によって自身の持つニーズが満たされると、一旦はそれで満足します。しかし、その商品を一旦「経験」すると、消費者ニーズはより高度なものへとシフトする傾向があります。先に紹介したオレンジジュースの例でいえば、最初は、「オレンジ味のする飲み物が欲しい」と考え、果汁10%のオレンジジュースで満足していたものが、今度は「より健康的なものが欲しい」と考え、果汁100%のオレンジジュースへとニーズがシフトします。最終的には「果物本来の持つ、新鮮さが味わえるものが欲しい」と考え、絞りたてのフレッシュジュースへとニーズが変化するようなケースです。

また、消費者ニーズは、高度化する過程で多様化が進むことも少なくありません。例えば、フレッシュジュースへのニーズが高まる一方で、「コップ1杯じゃ物足りないので、もう少し量の多いジュースが欲しい」「○○産のオレンジを使ったジュースが欲しい」といったニーズが出てくるといったケースです。

こうした高度化・多様化する消費者ニーズを捉え、ビジネスチャンスにつなげていくためには、消費者ニーズのトレンドを「深掘り」した商品を販売することが有効です。

6)「逆バリ」を行ってみる

先の例とは逆に、市場で主流と見られる消費者ニーズに逆らうような商品を開発することによって、ビジネスチャンスを見いだすケースもあります。

「逆バリ」商品が人気を集める背景には、消費者ニーズの多様化があります。一つのカテゴリーの商品群の中で、質の高い高価な商品を好んで購入する消費者もいれば、価格を重視して安価な商品を好む消費者もいます。また、同じ消費者でもその商品を購入・利用する状況によって選択する商品は異なる場合もあります。

「逆バリ」の商品は当該市場におけるメーン商品となることは少ないものの、一定の市場を確実にキャッチすることができるのです。

7)まとめ

ここで紹介したものは、ビジネスチャンスを発見する際に参考となる視点の例であり、こうした視点から検討をするだけで、簡単にビジネスチャンスを発見できるわけではありません。あくまで、消費者ニーズや市場動向などの情報を収集した上で、こうした視点を参考にしながら新たなビジネスチャンスについて検討してみるとよいでしょう。

本稿では、ビジネスチャンスの発見方法についていくつかの視点を紹介してきました。しかし、実際には、自社の経営資源に見合った実現可能なビジネスチャンスの獲得というものは、そう都合よくつかめるものではありません。

ビジネスチャンスをつかむ上でまず重要なことは、ビジネスチャンスを見落としてしまわないように、「担当者が積極的かつ敏感にビジネスチャンスを模索し続ける」「担当者の下に自社や業界の情報が集まってくる体制をつくり上げる」ことです。

以上(2018年4月)

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画像:fizkes-shutterstock

中小企業のブランド戦略

書いてあること

  • 主な読者:自社の製品やサービスをブランド化したい中小企業の経営者
  • 課題:限られたリソースの中で、ブランド化のために何をすればいいかわからない
  • 解決策:ブランド構築のための基本的な考え方を整理する

1 身近なことからブランドを考える

多くの経営者がブランドの重要性を認識しています。にもかかわらず、ブランドをしっかり意識しながら経営している中小企業はそれほど多くないようです。

これは、ブランドというと、製品に凝ったネーミングを付けたり、マスメディアやインターネットなどを駆使して大規模なプロモーションを展開したりというイメージがあるからかもしれません。また、ブランド構築に関する手法や考え方は、複雑な理論やフレームワークを用いて説明されることが多いことも、「ブランドは中小企業にとって縁遠いもの」という印象を与えているのかもしれません。

しかし、ブランドは日常的な企業活動と密接に関連しており、中小企業にとっても無関係ではありません。例えば、次に紹介する居酒屋の例も、ブランドを考える上でのヒントが隠れています。

Aさんの話

私には、週に数回、仕事帰りに立ち寄る「○○」という名前の居酒屋があります。その居酒屋は、店頭に赤ちょうちんが飾られ、店内は十数人入れば満席になるレトロなたたずまいです。

私がその居酒屋で気に入っているのは料理です。目新しいメニューはこれといってありませんが、全て手作りで、「家庭の味」といった料理を手ごろな値段で楽しめるのです。そうそう、その居酒屋は60歳代くらいの女性が1人で切り盛りしているのですが、その人と会えることもその居酒屋が好きな理由です。少しうるさいくらいおしゃべり好きな人ですが、いつも笑顔が絶えず、店内は明るい雰囲気で満ちあふれています。

また、お店に行くと「いらっしゃい」ではなく「お帰りなさい」と声を掛けてくれたり、「今日は忙しくて昼食抜きだった」なんて愚痴ったら、「お酒を飲む前に、ちゃんと食べないと悪酔いするわよ」と言って、注文した料理の量をいつもより多くしてくれたりします。そんなこともあって、「今日は真っすぐ家に帰るぞ」と思っていても、お店の近くに来ると、つい立ち寄ってしまうんですよね。

一見、どこにでもありそうな小さな居酒屋ですが、Aさんにとっては、自分の家のような特別な店です。消費者が企業に対して持つこうしたイメージが、ブランドの源泉となるのです。

本稿では、中小企業がブランドという視点から経営を考える際に留意すべき事項を紹介します。ブランドには、企業レベルのブランドである「企業ブランド」と、製品・サービスレベルのブランドである「製品ブランド」がありますが、本稿では企業ブランドを中心に紹介します。

2 ブランドを理解する

1)ブランドとは

一口にブランドといってもその定義はさまざまです。アメリカマーケティング協会(AMA)では、ブランドを次のように定義しています。

ある売り手あるいは売り手の集団の製品およびサービスを識別し、競合他社の製品およびサービスと差別化することを意図した名称、言葉、シンボル、デザイン、あるいはその組み合わせ

ブランドとは、製品・サービスに付加された名前やロゴ、パッケージだけではなく、企業名や店舗名といった名前までも含む概念であり、ブランドと無関係な企業はないということになります。

また、AMAの定義よりも、ブランドをさらに広い概念として捉えることもできます。AMAでは、ブランドの対象を名称やシンボル、デザインなどに限定していますが、消費者の立場に立って、自分の好きな企業や店舗、あるいは製品のブランドを思い浮かべてみてください。CMに出演している俳優、心のこもった温かい接客など、名前、シンボル、デザインなど以外にもそのブランドに関連するさまざまなことが思い浮かんだ人もいるでしょう。こうして考えると、ブランドとはAMAの定義だけではなく、消費者の持つイメージや具体的な経験も含まれるようです。

2)ブランド構築のメリットは

ブランドは消費者の心の中にあり、直接コントロールできないため、ブランドを構築する場合に「こうすればよい」という明確な答えはありません。

しかし、それでもブランドの構築に取り組むのは、消費者の目に留まりやすくなったり、ブランドとしての価値によって、競合他社と差異化ができ、価格競争に巻き込まれにくくなったりするなど、さまざまなメリットがあるからです。大企業に比べて価格競争力の弱い中小企業こそ、消費者に選ばれるブランドをつくることが重要だと言えるかもしれません。

以降では、ブランドを構築する際に知っておきたい、基本的な考え方を紹介します。

3 ブランド構築に際しての基本的な考え方

ブランド構築において重要なことは次の通りです。

  • 企業活動をブランドコンセプトに沿ったものにする(企業活動における意思決定の基準をブランドコンセプトに置く)
  • ブランドコンセプトの下に統一された企業活動に取り組み続ける

ブランドは消費者の心の中にあると前述しましたが、消費者の心の中につくられるイメージの多くは、製品、価格、プロモーション、人的サービスといった、いわば通常の企業活動を通じて形成されます。

冒頭の例を思い出してください。Aさんが居酒屋に対して抱いているイメージに影響を与えているのは、「家庭的な料理」「手ごろな価格」「温かい接客・サービス」など、特に目新しいことではありません。

また、消費者の心の中のイメージは、一朝一夕に形成されるものではありません。何度もその企業の製品・サービスなどを利用したり、プロモーションやインターネットなどを通じて得た情報などを参照したりすることによって、徐々に形成されます。そのため、ブランド構築は長期・継続的に取り組み続ける必要があるのです。

例えば、居酒屋の例でいえば、店主が機嫌の良いときは笑顔でいるものの、機嫌の悪いときは怒ったような顔つきで、会話もほとんどないお店では、Aさんは「温かいお店」というイメージを連想しないでしょう。

従って、ブランド構築に際しては、ブランドコンセプトの下に統一された企業活動に取り組み続けることが重要です。

4 ブランドコンセプト構築のポイント

ブランドコンセプトとは、「誰に対して、何を約束するのか(どのような価値を提供できるのか)」ということです。端的にいうと「自社はどのようになりたいのか」と、ほぼ同じ意味となるでしょう。

それは、経営理念や社是・社訓などのように明文化されたものではないかもしれませんが、「自社はどのようになりたいのか」という明確な思いは経営者の中にあるはずです。

ブランドコンセプトを決めるときには、市場環境など自社の現状を踏まえながら検討するのが望ましいものの、「誰に」「何を」「どのように」提供するのかを示す企業(事業)ドメインも、ブランドコンセプトを検討する際のヒントになります。

ブランドコンセプトの構築において重要なのは、ブランドコンセプトの構築自体ではなく、むしろ、作成したブランドコンセプトを明文化することにあるかもしれません。明文化することの重要性については後述します。

5 消費者にブランドメッセージを伝える2つのルート

実際に、顧客に対してメッセージを発信する前に、企業がブランドメッセージを発信できるルートを理解しておく必要があります。

  • 広告などを中心とした企業の「プロモーション活動」
  • 消費者が製品・サービスの購入や、購入した製品・サービスから得る「経験」

これが、企業がブランドメッセージを発信できる2つのルートです。消費者の視点から見ると、インターネットに流通している消費者の意見、口コミから得た情報、新聞・雑誌の記事など多様なルートがありますが、ここでは「企業が主体的にメッセージの内容をコントロールできるもの」という視点から2つに区分しています。

中小企業は、資本力のある大企業と異なり、テレビCMなどに多額の広告宣伝費を掛けられません。しかし近年、SNSなどのメディアによって、中小企業もプロモーション活動に取り組みやすくなりました。写真や言葉を用いながら、自社の商品の魅力やこだわりを発信することで、店舗に来たことのない消費者にも、自社のブランドメッセージを伝えることができます。

また、消費者が実際に店舗に訪れ、製品・サービスを購入して得た実体験は、ブランドイメージを育成する上で重要です。

6 ブランドメッセージを正しく発信するには

1)経営者と従業員が一丸となって取り組む

多額の広告宣伝費を掛けられる大手企業と異なり、中小企業は、時間を掛けて少しずつブランドを育成することが一般的です。そのため、経営者と従業員が一丸となって取り組む必要があります。

前述の通り、ブランド育成には、ブランドコンセプトの下に統一された企業活動に取り組み続けることが重要です。経営者だけでなく、ブランド育成の責任者を指名して、企業全体でブランド育成に取り組みましょう。

2)ブランドコンセプトを浸透させる

従業員の対策では、従業員教育を通じて能力の維持・向上を図ることが重要ですが、まず行うべきはブランドコンセプトの明文化です。

誰もが誤解することなく共感できるブランドコンセプトをつくりましょう。ブランドコンセプトを浸透させるために、経営理念や社是・社訓などを活用してもよいでしょう。

3)マニュアルとして落とし込む

ブランドコンセプトや伝えたいメッセージに合致した行動を取れるように、マニュアルとして具体的な形に落とし込むことも検討しましょう。誰が見ても理解できるマニュアルがあれば、サービス品質の安定化も見込めます。

とはいえ、マニュアルをつくるだけでなく、教育や日ごろのコミュニケーションなどももちろん大切です。マニュアルにない対応を迫られたときでも、従業員がブランドコンセプトに沿った対処ができるように、日ごろから「ブランドコンセプトに合った行動」を、従業員と一緒に考える必要があります。

4)やる気のない従業員への対処を忘れない

ブランドコンセプトの周知徹底のために必要な従業員教育などを行えば、従業員の多くは適切な行動を取るようになるはずです。しかし、そのような努力をしても、中には真剣に取り組まない従業員が出てくることがあります。

やる気のない従業員の存在は、その従業員だけの問題にとどまらずに、他の従業員に悪影響を及ぼす可能性があります。最悪の場合、ブランド構築に関する企業全体の取り組みが失敗に終わりかねません。

こうした状況に陥らないように、従業員に対して日ごろから十分なコミュニケーションを取り、教育や意識付けなどをしておくこと、そしてやる気のない従業員がいたら再教育を行うなど早期の対策を講じるようにすることが大切です。

5)社内体制の確認

ブランドコンセプトの下に統一された企業活動に取り組み続けるには、ブランドコンセプトを実行・管理するための社内体制を整備することが欠かせません。

しかし、人材に限りのある中小企業の場合、属人的に行われている業務が多く、安定した品質で長期的に製品・サービスを提供するには問題がある場合もあります。

このような場合、「他の従業員も対応できるように能力を引き上げる」「作業の標準化やシステム化を図るなどして、誰でも対応できる業務水準にする」「ブランドコンセプト自体を見直す」などによって、社内体制の整備を図ります。

中小企業だからブランドに無関係ということはありません。ブランドという視点から経営についてこれまで検討したことのない経営者は、本稿を参考に、ブランド構築に取り組むための第一歩を踏み出すとよいでしょう。

以上(2019年10月)

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医療法人設立のメリット・デメリット

書いてあること

  • 主な読者:医療法人の設立を検討する個人開業医や勤務医
  • 課題:医療法人設立のメリット・デメリットを知りたい
  • 解決策:税務の観点などから、医療法人設立のメリット・デメリットを整理する

1 医療法人の概要

2007年4月1日から、持分の定めのある医療法人を新たに設立することができなくなり、代わって、基金拠出型の医療法人制度が導入されました。

基金拠出型とは、従来の出資に代えて、基金に拠出するという形を取ります。基金は、社団医療法人に拠出された金銭その他の財産であって、当該社団医療法人が拠出者に対して医療法施行規則第30条の37および同第30条の38並びに当該医療法人と当該拠出者との間の合意の定めるところに従い返還義務を負うものをいいます。基金の返還に係る債権には、利息を付することができません(医療法施行規則第30条の37第1項、第2項)。

残余財産の帰属すべき者に関する規定を設ける場合には、その者は、国もしくは地方公共団体または医療法人その他の医療を提供する者であって厚生労働省令で定めるもののうちから選定しなければなりません(医療法第44条第5項)。また、厚生労働省令で定めるものとは、医療法第31条に定める公的医療機関の開設者またはこれに準ずる者として厚生労働大臣が認めるもの、財団である医療法人または社団である医療法人であって持分の定めのないものとされています(医療法施行規則第31条の2)。

1)医療法人の成立

病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所または介護老人保健施設を開設しようとする社団または財団は、これを医療法人とすることができます(医療法第39条)。

医療法人は、都道府県知事の認可を受けなければ、設立することができません(医療法第44条第1項)。

医療法人は、設立または事務所の新設などをする際には登記をしなければなりません(医療法第43条第1項)。

2)医療法人の機関と役員

社団たる医療法人は、社員総会、理事、理事会および監事を置かなければなりません(医療法第46条の2第1項)。医療法人には、役員として、理事3人以上および監事1人以上を置かなければなりません。ただし、理事について、都道府県知事の認可を受けた場合は、1人または2人の理事を置けば足ります(医療法第46条の5第1項)。

3)配当の制限

医療法人の場合、出資者に対して剰余金を配当することができない(医療法第54条)ため、毎期の利益は法人に蓄積されていきます。この利益の使途は医業にのみ使うことに制限されます。このため個人的な使途(子供の教育費、個人的な借入金などの支払い)には使えません。

4)事業報告書等の作成

医療法人は、毎会計年度終了後2カ月以内に、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、関係事業者(MS法人等)との取引の状況に関する報告書その他厚生労働省令で定める書類(以下「事業報告書等」)を作成しなければなりません(医療法第51条第1項)。

また、医療法人は、事業報告書等につき監事の監査を受けなければなりません(医療法第51条第4項)。なお、社会医療法人(厚生労働省令で定めるものに限る)の理事長は、財産目録、貸借対照表および損益計算書を公認会計士または監査法人の監査を受けなければなりません(医療法第51条第5項)。

また、医療法人は、厚生労働省令で定めるところにより、毎会計年度終了後3カ月以内に、次に掲げる書類を都道府県知事に届け出なければなりません(医療法第52条第1項)。

  • 事業報告書等
  • 監事の監査報告書
  • 第51条第3項の社会医療法人にあっては、公認会計士等の監査報告書

法務局へは決算の都度、総資産の登記の変更が必要になります(医療法第43条第1項、医療法施行令第5条の12、組合等登記令第1条・別表)。

2 医療法人設立のメリット・デメリット

医療法人設立のメリットとしては、次のような点が挙げられます。

  • 節税効果(個人と法人の税率差)を活用することができる
  • 役員の退職金の支払いが可能になる(適正な場合のみ損金算入可)
  • 給与所得控除が活用できる
  • 法人を契約者、院長を被保険者として生命保険に加入することができる

など

一方、デメリットとしては、次のような点が挙げられます。

  • 個人の可処分所得が法人に留保される
  • 医療法特有の書類(事業報告書等)の都道府県への提出が必要になる
  • 解散した場合の残余財産は国等に帰属することになる
  • 社会保険の加入が義務付けられ負担が増える

など

医療法人設立は、法人化のメリットとデメリットとを比較考慮して、判断すればよいでしょう。例えば、配当の制限や法人経営の労力の増大はあるが、それ以上に、経営の近代化や対外的な信用などの効果が大きいと判断できれば、法人化を検討することになります。

3 税額を比較する

1)税務上の効果

医療法人設立による税務上の効果としては、次のような点が挙げられます。

  • 法人、理事長(院長)、理事(院長夫人など)に所得を分散できる
  • 給与所得控除を受けることができる
  • 所定の生命保険料の損金処理など、経費計上できる範囲が広がる
  • 理事長(院長)、理事(院長夫人など)に対する退職金の計上が認められる

所得税の税率は、課税所得金額が増えるほど税率が上がります(累進課税)。所得が分散し課税所得が減れば低い税率が適用されます。

一方、法人税の税率は、2012年4月1日より、課税所得金額に応じて、年800万円以下の部分につき本則19%(特例15%)および年800万円超の部分につき本則23.2%(資本金1億円超の場合は一律23.2%)(23.2%は2018年4月1日以後開始事業年度に適用される税率です。2016年4月1日~2018年3月31日に開始する事業年度に適用される税率は23.4%です)であり、最高税率が所得税よりも低い分、納税額が軽減される場合があります。なお、持分の定めのない医療法人は出資額0円として税率を適用します。

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法人からの給与収入には、給与所得控除があります。例えば、給与収入1000万円の給与所得控除は220万円(1000万円×10%+120万円=220万円)であり、課税所得は780万円(1000万円-220万円)に軽減されます。

医業では自由診療から生じる所得に対して事業税および地方法人特別税が課せられます。また、資本金1億円以上の法人には、外形標準課税方式による事業税等が課されますが、医療法人は対象外です。

2)税額比較

図表2は、個人経営と法人経営の納税額を比較したものです。法人経営(ケース1)は利益の100%を理事長の給与収入とした場合、法人経営(ケース2)は利益の50%を理事長の給与収入、50%を法人の課税所得とした場合です。

法人の800万円以下の所得金額の税率は特例税率の15%、法人の所得800万円超の所得金額の税率は23.2%で計算しています。住民税の均等割は考慮していません。

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個人経営の場合、課税所得2000万円の納税額は731万円ですが、法人経営(ケース1)のように、この2000万円全額を理事長の給与とした場合(法人の利益は0円、出資金1億円以下と仮定)の納税額は621万円となり、個人経営に比べて、税額の差は110万円となります。

法人経営(ケース2)のように、2000万円のうち1000万円を理事長の給与とし、1000万円を医療法人の利益とした場合の納税額は391万円となり、個人経営に比べて、税額の差は340万円となります。

これを6000万円で比較すると、納税額は次の通りです。

  • 個人経営:2867万円
  • 法人経営(ケース1):2744万円(個人経営との税額の差:123万円)
  • 法人経営(ケース2):1867万円(個人経営との税額の差:1000万円)

納税額の計算では住民税の均等割や事業税等を考慮していません。また、所得税の計算で基礎控除、配偶者控除、扶養控除などの各種控除も考慮していません。

なお、社会保険診療収入が5000万円以下かつ医療等に係る総収入金額が7000万円以下である場合、社会保険診療に関する所得のみ実額経費に代えて、所定の概算経費で申告することも可能です。

以上(2019年4月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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変化を拒む従業員を組織変革に巻き込む技術

書いてあること

  • 主な読者:改革を進めたい経営者
  • 課題:従業員に危機感がなく、改革に対して協力的ではない
  • ポイント:組織変革の基本プロセスと従業員を巻き込むためのポイントを解説する

1 内部の人にフォーカスする

企業が改革に失敗する原因はさまざまですが、「組織内の人々を変革する」という視点の欠如が問題であることが少なくありません。企業を動かしている内部の人々が、改革を受け入れ、真剣に取り組める環境をつくるにはどうしたらよいのかを探ります。

2 組織変革に対する心理的拒否感

人は先の見えない不安定な状況を嫌い、現状を好む傾向があります。この本能的ともいえる改革に対する心理的拒否感はとても強力です。改革に対する心理的拒否感は、次のような事項に起因しているといわれています。

  • 改革により、自分たちが既得権益を失うと考えている
  • 改革を行う際に新たに発生するコストの負担が重いと考えている
  • 慣れ親しんだ習慣(仕事の進め方など)を変えなければならないと考えている
  • 改革の必要性(現状の問題点、改革後のメリットなど)を認識していない
  • 現状に不満を感じていないため、改革をしようという動機がない
  • 改革の必要性を人ごととして考えている

厄介なのは、改革によって自らが悪影響を受けることが明らかなときや、どのような影響を被るのか不透明なときだけではなく、自らにとってメリットの大きい結果が予想される場合でさえ心理的拒否感が高まってしまうことです。

特に幹部従業員の心理的拒否感は強力です。「自分が積み上げてきたものが否定される」と考えれば、企業変革の抵抗勢力となります。経営者はそのような幹部従業員を「分からず屋」と思うでしょうが、フォローしないと前に進みません。

3 組織変革の基本プロセス

1)推進チームの形成

組織変革を推進するチームを形成します。チームの人選は次の要件を重視して行いますが、注意が必要なのは、幹部従業員が企業変革に反対の場合、“計画を潰してしまう”恐れがあることです。リーダー格の従業員は慎重に選びます。

  • 社内に影響を与えることのできる人材
  • 課題に取り組むための高い専門知識を持つ人材
  • 既存のやり方にこだわらず、新しい発想ができる人材

推進チームのメンバーとしての適性は、通常の人事異動などの基準とは異なります。例えば、「仕事ができる」と社内で評価の高い従業員は、既存の業務プロセスになじんでいます。

一方、組織変革によってその業務プロセスを破壊することになるかもしれないとなると、前述の従業員には心理的拒否感が働きますし、新たな業務プロセスに適応できるかも分からないのです。

「既存のやり方にこだわらず、新しい発想ができる人材」を見つけ出す必要があります。表面上の変革者はたくさん出てくるでしょうが、本音でこう考える従業員は限られます。経営者が自ら面接をして選抜しましょう。

2)問題点などの分析

1.分析プロセスに社内人材を積極的に参加させる

問題点の分析には社内人材を積極的に参加させます。この過程で、従業員は自社の危機的状況を実感し、「このままでは、まずい!」と心理的拒否感が和らいでいく可能性があります。

とはいえ、社内人材だけに任せると、悪い要因を過小評価し、良い点を過大評価してしまうなど、自社に甘い評価を下してしまう危険性があります。また、こうしたプロジェクトに不慣れな人材だけで行うと、質の高い分析ができません。

そのため、客観的な立場から専門的な知識に基づく意見を言える人材として、コンサルタントなどの社外人材を活用することも一案です。ただし、社外人材はあくまで分析のサポート役とし、好き勝手な意見を言わせないようにします。

2.最悪のシナリオを明確にする

問題や課題を分析するときは、必ず、改革をしなかった場合の影響を明確にしなければなりません。この結果は、従業員の間に危機感を創出し、改革へのモチベーションを上げるために有効です。

また、最悪のシナリオは部門別、あるいは個人別のレベルまで細分化することで、従業員により身近な問題として認識させることができます。例えば、「全社売上高○%の減少」ではなく、「△部門の営業1課の取引先□社との取引停止」と示します。

3)ビジョンと戦略の検討

自社の将来あるべき姿を示すビジョン(全ての社内人材の行動をまとめ上げる際の指針)と、ビジョンを実現するための戦略を検討します。ビジョンを策定する際は、次の点に注意しましょう。

  • 誰もが簡単に理解でき、将来の企業像がはっきりイメージできるものである
  • 内外の人々にとって魅力的で、実現することが強く望まれるものである
  • 企業を改革することによって実現可能なものである

優れたビジョンはこれらの要件を満たしているといわれますが、実際にこれらの要件を満たした魅力的で優れたビジョンを生み出すことは容易ではありません。また、ビジョンを生み出すための簡単な方法はありません。

そのため、何度もミーティングして見直しを繰り返しながら、数カ月以上の時間を掛けることもあります。急ぐ場合は、あらかじめ期間を決定してビジョンを作成したり、目標値の設定などで代用したりする方法も検討しておく必要があります。

ビジョン作成後は、それを実現するための戦略を立案します。導入するマネジメント手法や新たな経営戦略などは戦略の一部を形成します。なお、戦略の立案は重要なステップですが、本稿は「人」を中心に取り上げているため説明を省略します。

4)危機意識とビジョン・戦略の周知

これまでのステップで検討した問題や課題、それらを放置した場合の最悪のシナリオ、それを回避するための改革に向けたシナリオ(ビジョンと戦略)を従業員に伝え、共有します。

最悪のシナリオによっては、「変わらなければならない」という危機意識が従業員に芽生えます。そして、改革に向けたシナリオを示すことによって最悪のシナリオを避けるために取り組むべき具体的な方策を示します。

このステップで重要なのは、改革を人ごとではなく自分の問題として認識させることです。また、経営者や改革推進チームのメンバーなどが中心となって、さまざまなコミュニケーション手段や機会を利用しながら、組織内部に広めていく努力も必要です。

5)計画の実行

1.改革の必要性やビジョンや戦略を繰り返し伝える

社内で共有化の進んだ危機意識や、ビジョンや戦略などの改革のシナリオを常に想起させるように、改革が成功するまで継続してそれらを伝え続ける必要があります。役員会、朝礼、ミーティングなどを利用します。

2.短期的な成果を実現する

従業員がビジョンや戦略を理解しても、思うような結果が出なければ改革に対するモチベーションが低下します。そうならないようにするためには、小さくても短期的な成果を実現していくことが大切です。

そうして短期的な成果を生み出し、「私たちの取り組みは正しい」ということを実感させることによって、改革に対するモチベーションを維持することができます。また、成功は、改革に反対している者や疑問を抱いている人に対する説得材料となります。

短期的な成果を生み出すためには、戦略立案の際に、短期的な成功が見込める段階的な目標を設定しておくことや、計画の一部を先行プロジェクトとして計画し、集中的に取り組み、短期的な成果を実現するなどの方法があります。

3.成果を適切に評価する

改革のプロセスは、短期的な成果の積み重ねです。必要に応じて人事評価制度を見直し、成功の都度適切に評価します。また、たとえ小さな成果であっても全社を挙げて喜び、成果を生み出す上で貢献した人材や部門を必ずたたえます。

4 組織変革で大切な要素

1)「慣性」を意識する

心理的拒否感は根深いため、改革が成功しているように見える状況においても、従業員の心の中には常に以前の状況に戻りたいという「慣性」が働いていることを忘れてはいけません。

この対処を怠ると、次第に従業員の間に慣性が広まっていき、改革が失敗に終わってしまう恐れがあります。慣性に流されないように、改革に対するモチベーションと勢いを維持しなければなりません。

2)反対者への対応

改革の必要性についてどれほど熱心かつ具体的な説明を行っても、改革に同意しない従業員が出てくることを経営者は覚悟しなければなりません。しかし、一口に反対者といっても、次のように「温度差」があります。

  • 表立って明確な反対行動は取らないが、改革には協力しない
  • 反対の立場を明確にした上で、改革に協力しない
  • 他の従業員に悪影響を与えるなど、改革に対してマイナスの影響を与える

反対者の意見に真摯に耳を傾けて、改革の取り組みをより多くの従業員が納得できるものにしていくことは大切です。しかし、改革を成功に導くためには、時には毅然とした態度を示すことも必要です。

3)経営者の積極的関与

経営者が全ての改革プロセスに主体的に関わる必要はありませんが、社内に明確な支持の姿勢を示すことは欠かせません。また、経営者は社内外の人々から注目されるため、改革の「語り部」として、改革後の素晴らしい未来を示すことが求められます。

改革は経営者など一部の人間の強力なリーダーシップによってもたらされると思われがちです。しかし、経営者がどれほど強力なリーダーシップを発揮しても、従業員が改革を拒めば企業は何も変わりません。

意外と忘れられがちなことですが、改革の成否は従業員の改革に対するモチベーションを高め、改革のプロセスに巻き込んでいくことができるかどうかに懸かっています。この点に十分に注意しましょう。

以上(2018年7月)

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利益計画の作成と煩雑にならない実行方法

書いてあること

  • 主な読者:利益計画の重要性を認識しつつも、作成する時間がない経営者
  • 課題:利益計画の妥当性が分からないなど、時間がかかる
  • ポイント:経営者の夢や熱意を込めつつ、無謀ではない利益計画をまずは形にする

1 目標利益を導くアプローチ

利益計画を作成する際は、最初に利益目標を設定し、それを達成するための売上高を算出するのが通常です。ただし、単一事業で展開しているなど収益構造の変化が小さい場合は先に売上目標を設定し、そこから利益を逆算することもあります。いずれにしても、上下(売上と利益)を何度も行き来しながら確認します。

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利益計画は、「予測PL(収支の目標を示したPL)」を作成して検討します。小さな会社なら経営者が、ある程度の規模になると企画部門や経理部門が予測PLを作成します。

理想的な利益計画は、経営者の夢や熱意が伝わり、なおかつ数字に裏付けられた実現可能性が高いことです。次章ではこの中の数字に注目し、主な損益項目を予測する際のポイントを確認していきます。

2 損益項目を予測する際の勘所

1)売上高の予測

売上高の予測は、過去3~5期分の(製品別の)売上高や伸び率などを分析しながら行います。関係部門の売上見込みを足し合わせていく方法と、当該部門に精通している担当者に見積もらせる方法を併用します。

例えば、関係部門から報告される売上見込みを足し合わせる場合、現場の担当者にヒアリングすることになりますが、担当者レベルだと視野に偏りがあります。そこで、当該部門に精通している担当役職者からセカンドオピニオンを取ります。

2)製造原価の予測

製造原価は材料費、労務費、製造経費に分けて予測します。さらに、製造に直接的に関係する「直接費」と、間接的に関係する「間接費」とにも分けます。例えば材料費の場合、製品に使用される部品は直接材料費、設備のメンテナンスなどに使う工具は間接材料費となります。

分かりやすいのは、製造個数と相関性のある直接費です。こちらは製造計画を確認しながら、過去の対売上高比率を参考に予測します。原材料価格の変動や人員計画を加味することも忘れてはなりません。

一方、間接費は売上高や製造個数と相関性があるとは限らないため、予測が難しくなります。過去データを参考にしつつ、現場の担当者へのヒアリングも行うとよいでしょう。

3)販売費・一般管理費の予測

販売費・一般管理費の細かな内容は企業によって異なりますが、広告宣伝費、交際費、人件費などの勘定科目ごとに積み上げて予測します。通常、販売費・一般管理費の大部分を占めるのは人件費なので、人件費とそれ以外の経費に分けて予測するのも1つの方法です。

人件費は、人員計画と1人当たりの人件費から予測します。また、それ以外の経費は、過去データから予測するのが基本ですが、設備投資をした場合は減価償却費に関係してくるので、設備投資計画も必ず確認しましょう。

4)営業外損益の予測

過去データから予測するのが基本です。金融機関からの借り入れの条件は必ず確認しましょう。この他、投資活動を行っている場合は、外部環境についても分析する必要があります。

3 目標利益を設定する4つの方法

1)前年度実績に上積みする方法

前年度の経常利益の5%増、10%増などといった具合に、上積みの目標利益を設定する方法です。

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2)必要決算資金から決める方法

業績によって支払う配当金、役員賞与などの必要決算資金から、目標利益を設定する方法です。

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3)借入金返済額から決める方法

借入金の返済原資は利益から生まれます。そのため、借入金の返済ができる利益を目標利益として設定する方法です。

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4)売上高経常利益率から決める方法

売上高経常利益率の業界平均、上位企業の経常利益率や自社の過去3年平均の指標を参考にして、目標利益を設定する方法です。

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5)目標利益には経営者の熱意がこもる

これらは定量的な分析から目標利益を導くものであり、経営者の熱意とは別のものです。こうして設定された目標利益に対して、「こんな弱気じゃ駄目だ! もっとチャレンジングな計画を立てよう!」などと、経営者が修正を求めることは珍しくありません。

放っておくと弱気になりがちな利益計画に刺激を与える意味で、経営者の熱意は大切です。ただし、実現可能性が著しく低いものでは意味がないため、次章で紹介するように、その妥当性を評価することになります。

4 目標利益の妥当性評価と改善

1)目標利益の妥当性を検証する

当初予測した利益と目標利益とを比較すると、必ず差額が生じます。この差異をどのように埋めていくかを検討します。仮に、目標利益よりも予想した利益が低い場合は、販売計画を強化する、目標利益を引き下げるなどの施策を検討します。逆の場合は、目標利益の実現可能性や、損益項目の検討が甘くなかったかを再検証するなどを行います。

2)目標利益を高める際の考え方

仮に、目標利益を上方修正する場合、損益分岐点の観点から次の3つを検討してみるとよいでしょう。

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固定費の低減や限界利益率の向上によって損益分岐点は下がるため、利益が増加します。固定費については残業削減による人件費の削減、変動費については調達の見直しなどを検討します。また、売上の増加は、新規販売先の開拓や販売価格のアップ、値引きの停止などを検討します。

5 利益計画の実行

最終的に決定した利益計画は、経営企画部門や経理部門を通じて全社的に周知します。利益計画は実行しなければ意味がありませんが、日常業務に追われて改善活動がおろそかになり、計画倒れに終わることが珍しくありません。

そうならないように、各部門の責任者は、定期的に利益計画の進捗状況を経営者に報告するようにします。その報告には、「当初の計画に照らして状況は変化していないか」「推進上の問題点はないか」などの内容を盛り込みます。

また、3カ月に1回程度、各部門の責任者が状況の報告会を行います。その報告会には経営者も出席するようにします。もし、当初の計画に照らして状況が大きく変わっている、あるいは変わりそうなのであれば、利益計画を修正する柔軟性も必要です。

以上(2020年4月)

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