【朝礼】人を動かすために知っておくべき、たった1つのこと

今朝は管理職の方に集まってもらいました。日ごろ皆さんと話をしていると、思うように部下とコミュニケーションが取れないという相談をよく受けるので、その点をテーマに取り上げたいと思います。

皆さんが部下を褒めたり叱ったりするのは、部下に何かを伝えるためです。こうした行為を一般的にコミュニケーションと呼びますが、コミュニケーションと伝えることは同じではありません。ビジネスにおけるコミュニケーションの目的は、相手に動いてもらうことであり、伝えることの一歩先になります。部下とのコミュニケーションを良くするための方法として、伝える言葉を吟味して、伝える回数を増やし、伝えるシーンにもこだわることを推奨する書籍があります。これらは大切なことですが、表面上のテクニックとして実践するだけでは、部下は動いてくれないでしょう。

まず、部下を動かすためには、教えることと促すことが必要だと理解してください。教えることとは、AがAであることを部下のレベルや成長度合いに応じて効率的に教え、理解してもらうことです。一方、促すこととは、Aをしなければならない理由、あるいはAをしてはいけない理由を伝え、実際にそう動いてもらうことです。

正しい知識を教え、そこから派生する問題を部下の“自分事”として伝えて行動を促せば、部下は動いてくれるでしょう。これが上司と部下の理想的なコミュニケーションです。

こうしたコミュニケーションができるか否かで大きな差がつきます。

今、我が社は「自己啓発」を重視しています。部下に自己啓発の大切さを教え、実際に取り組むように促すのは上司の役割ですが、上司によって部下の行動に大きな違いが生じています。ある上司の部下は積極的に自己啓発に励み、別の上司の部下は全く自己啓発に取り組もうとしません。

個々の部下の姿勢による違いはあります。しかし、それを凌駕するようなコミュニケーションを上司が取れていないということでもあります。

大切なのは、促す力です。なぜなら、ここで教えるのは「どうして、会社が自己啓発を求めているのか」「会社の方針に合った自己啓発はなにか」といったことであり、誰が説明をしてもそれほど大きな違いはないからです。

上司は部下と真正面から向き合い、本気で自己啓発に取り組んだ場合に、部下の活動フィールドがどのように広がっていくのかを伝えなければなりません。部下の行動を促すには、部下が理想とする具体的なキャリアと、その実現に自己啓発が不可欠であることを伝える必要があります。これは、日ごろから部下のことを真剣に考えている上司でなければ分からないことです。

部下とのコミュニケーションは、時間をかけて良くなっていくものです。日ごろから良い関係づくりを心掛けつつ、教え、促してください。

以上(2021年8月)

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画像:Mariko Mitsuda

従業員を海外赴任させるときの源泉税・住民税の取り扱いは?

書いてあること

  • 主な読者:従業員の海外赴任を検討している中小企業の税務担当者
  • 課題:海外進出を検討する際の税務上の問題点を把握したい
  • 解決策:従業員の源泉所得税・住民税の取り扱いに注意が必要

1 海外赴任と税金

コロナ禍により、一時的に海外往来はストップしているものの、近年は大企業だけでなく中小企業においても、海外進出が増えており、海外赴任をする従業員も珍しくない時代です。本記事では、従業員を海外に赴任させる際におけるその従業員に関する税金の取り扱いを解説していきます。

なお、本稿における海外赴任とは、企業等に属する個人が辞令等により日本国外の関係会社もしくは支店等に1年以上の長期にわたり勤務する行為をいい、短期の出張等に関しては海外赴任に含めないものとします。

2 海外赴任に関連する国内の主な税金

1)所得税

所得税法では、1年以上日本国内に住所等(住民票の有無にかかわらず、居所や生活の本拠地等実情に基づいて総合的に判断)を有しない者を「非居住者」といい、居住者(永住者、日本国内に住所等を有する者)と比べて、所得税の課税範囲が異なります。

居住者に対する所得税の課税範囲が、全世界所得(国内源泉所得+国外源泉所得)であるのに対して、非居住者に対する課税範囲は、国内源泉所得に限定されます。

なお、国内源泉所得とは、国内で生じた所得(収入)をいい、具体的には国内勤務の対価として支払われる給与や国内に所在する不動産から生じた賃貸料収入、国内の銀行から受ける利息や国内の企業から受ける配当などがあります。

2)住民税

住民税はその年の1月1日時点で日本国内に住所等を有する場合に課税されます。そのため、12月31日に海外赴任により出国した場合には翌年の住民税について課税は生じませんが、1月1日に出国した場合は課税関係が生じることになります。なお、普通徴収の未納分(あるいは特別徴収未済分)については、海外赴任をしても納税が免除されるわけではないので、出国前に全て納付するなどの留意が必要です。

3)国外転出時課税制度

海外赴任者が、出国時に多額の金融資産(株式などで時価が1億円以上)を所有している場合は、「国外転出時課税制度」が適用されることがあります。そのため、多額の金融資産を有する同族会社のオーナー一族の人などが海外赴任をする際には留意が必要です。なお、国外転出時課税の申告が必要な海外赴任者が、国外転出のときまでに一定の手続きを行った場合には、国外転出の日から5年間(延長の届出により最長10年間)納税が猶予されます。

(注)「国外転出時課税制度」とは、1億円以上の金融資産を保有している者が国外に転出する場合に、その金融資産の未実現利益(含み益)に対して課税を行う制度です。

3 赴任先における税金負担(所得税)

送り出し企業が海外赴任者に対して留守宅手当等の名目で支給する給与については、原則的には国外源泉所得として日本での課税が生じない代わりに、通常は赴任先の国等において課税が生じることになります。ただし、赴任者が従業員でなく「役員」である場合には、留守宅手当等の名目で送り出し企業が支給しているものであっても、国内源泉所得として源泉徴収が必要になるので注意が必要です。なお、国外支店等において役員としてではなく「使用人」として赴任する場合は、通常の従業員と同様にその給与は国外源泉所得として日本では課税されません。

また、赴任先における課税範囲や課税方法は各国等の税法等により異なるため、どのような税負担や申告、納税方法を採用しているか確認し、赴任後に思いがけない課税等が生じることのないよう、事前の対応が必要です。

各国等における代表的な課税範囲の取り扱いを例示すると、赴任先での業務に係る給与の全て(現地払い分+現地以外(日本)払い分+経済的利益)を対象としていることが多く、この場合、現地払い給与のみを申告している際などは特に留意しなければなりません。実際、適切な申告をせずペナルティーが科せられる事例や、国等によっては未納等がある場合には出国(帰任)できないなどの事例もあるようです。

このように税金の取り扱いについては、国等によってさまざまであるため、実際の対応については、海外進出支援を行っている税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

4 海外赴任者に係る税務手続きに関する留意点

1)海外赴任前の国内の給与所得等に関する留意点(所得税の精算)

海外赴任者が1カ所の給与所得のみで、その収入総額が2000万円以下の場合は、送り出し企業はその者の出国時までに、年末調整により所得税を精算する必要があります。なお、出国前までの期間(国内勤務期間)に相当する賞与を「出国後に支給」した場合は、国内勤務期間に相当する部分の金額は、非居住者に対する国内源泉所得として通常の給与(居住者時代の給与)とは異なる税率で源泉徴収が必要になります。このような複雑な実務を回避する方法として、出国までに賞与を支給し、出国時に年末調整を実施することなどが考えられます。

また、2カ所以上からの給与や不動産所得など、給与所得以外の国内源泉所得を有する海外赴任者は、出国時までに納税管理人を選定し、所轄の税務署および住所のある市町村に届け出ます。納税管理人は法人・個人いずれでも届け出ることができ、海外赴任者の代理人として確定申告をすることになります。なお、納税管理人を選定しない場合は、出国時までに自分自身で確定申告をしなければなりません。

その他、参考として、海外赴任者がNISA口座を保有している場合の留意点を紹介します。以前は、非居住者(国内に恒久的施設を有しないもの)はNISA口座を保有できないこととなっていたため、赴任前に証券会社にて出国に係る諸手続きを経てNISA口座を廃止し、お金を払いだす必要がありました。しかし、2019年度税制改正に伴い、NISA口座については、証券会社にて一定の手続きを取ることにより、継続保有が可能となっています。ただし、非居住者については証券口座自体の保有を認めていない証券会社もあり、これらの取扱いは各証券会社で異なるため、各自で事前に確認する等の留意が必要となります。

2)非居住者に係る源泉所得税の納付書に関する留意点

非居住者に対して支給する役員報酬や、出国後に支給される出国前の国内勤務期間に係る賞与等は国内源泉所得に該当するため、20.42%の源泉所得税の徴収が必要です。また、この際の納付書は通常の給与に係る納付書と様式が異なります。

3)非居住者の確定申告(納税管理人の届出有り)に関する留意点

前述した一定の国内源泉所得を有する非居住者で、納税管理人の届出書を提出した場合は、申告期限(原則3月15日)までに、納税管理人を通じて確定申告書を提出し納税します。当該確定申告に係る課税範囲は国内源泉所得に限られ、また適用される所得控除は、基礎控除、寄附金控除及び雑損控除(国内資産から生じたもの)に限られます。

4)帰任時の留意点

赴任者が帰任(一時的なものを除く)した場合には、帰国した日の翌日から居住者となり、通常の従業員と同様の方法で、給与に対する源泉徴収が必要になります。また、帰任後に現地勤務に起因する給与や賞与が支給された場合においても、日本の課税対象となりますので、現地勤務に起因する給与等は帰国前にすべて支給し、現地で納税を済ませることで二重課税を避けるといった工夫が必要です。なお、二重課税が生じた場合も、確定申告で外国税額控除(詳細な説明は省略)を適用することにより、一定の額について二重課税を排除することが可能となる場合があります。

その他、納税管理人を選定している場合は、納税管理人の解任手続きが必要です。また、国外転出時課税制度の納税猶予を届け出ている場合には、課税の取り消しや更正の請求手続き等に留意が必要です。

なお、2019年度税制改正により、5年以内の海外転勤であればNISA口座の継続利用が可能になったため、出国の段階で証券会社に「継続適用届出書」を提出していた場合には、帰国後に「帰国届出書」を提出する必要があります。

5 【参考】短期滞在者免税(租税条約)

海外赴任ではなく、自社の業務等で海外に出張したときにも、その出張先の国等によっては、現地で課税が生じることがあります。この場合、同じ所得に対して、日本と出張先の国等の双方で課税関係が生じることになります(二重課税)。この二重課税の排除を目的として租税条約において「短期滞在者免税」という規定があります。この短期滞在者免税の要件を満たす場合は、現地での課税が免除されます。そのため、日本と出張先の国等との間に租税条約が締結されているかどうかや、その免除条件を確認することも重要です。

以上(2021年7月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森 浩之)

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消費生活用製品安全法の概要

書いてあること

  • 主な読者:消費生活用製品の製造・輸入、または販売を行う事業者
  • 課題:消費生活用製品安全法について押さえておきたい
  • 解決策:「PSCマーク制度」「製品事故情報報告・公表制度」「長期使用製品安全点検・表示制度」について把握し、製品事故や危害拡大の防止を図る

1 消費生活用製品安全法(消安法)とは

消費生活用製品安全法(消安法)は、消費生活用製品により起こり得るけが、やけど、死亡などの事故の発生を未然に防ぎ、消費者の安全と利益を保護することを目的として制定された法律です。

消費生活用製品とは、家庭用電気製品をはじめ、一般消費者の生活の用に供される目的で、市場で一般消費者に販売されている製品のほとんどを指すものとされます(船舶、消火器具など、食品、毒物・劇物、自動車・原動機付自転車などの道路運送車両、高圧ガス容器、医薬品・医薬部外品・化粧品・医療器具など、他の法令で個別に安全規制が図られている製品については除外)。

この記事では、消費生活用製品の製造・輸入、または販売を行う事業者の方向けに、消安法の柱である「PSCマーク制度」「製品事故情報報告・公表制度」「長期使用製品安全点検・表示制度」の3つの制度について紹介します。

2 PSCマーク制度

消費生活用製品の中でも、消費者の生命・身体に対して特に危害を及ぼす恐れがある「特定製品」について、国が定めた技術基準に適合していることを示すPSCマークの表示を義務付け、PSCマークのない製品の販売や販売目的の陳列を規制する制度です。

規制対象となる「特定製品」は、家庭用の圧力鍋および圧力釜、乗車用ヘルメット、乳幼児用ベッド、登山用ロープ、携帯用レーザー応用装置、浴槽用温水循環器、石油給湯機、石油風呂釜、石油ストーブ、ライターの10製品です。

特定製品の製造または輸入を行う事業者は、事業の届け出、自主検査による技術基準への適合の確認、検査記録の作成・保存などの義務を履行したとき、製品に○囲みのPSCマークを付すことができます。

また、特定製品のうち、乳幼児用ベッド、携帯用レーザー応用装置、浴槽用温水循環器、ライターの4製品は、特別特定製品として、自主検査に加え、登録検査機関による適合性検査が義務付けられています。特別特定製品の製造または輸入を行う事業者は、自主検査記録の作成・保存、登録検査機関による適合性検査への合格など義務を履行したとき、製品に◇囲みのPSCマークを付すことができます。

PSCマークのない危険な製品が市中に出回ったときは、消費者庁は製造・輸入または販売を行う事業者に回収などの措置を命ずることがあります。

3 製品事故情報報告・公表制度

消費生活用製品の製造または輸入を行う事業者に対して、重大製品事故が生じたことを知ったとき、10日以内に事故の発生日、概要などについて消費者庁に報告することを義務付ける制度です。

重大製品事故とは、消費生活用製品の使用に伴い発生した事故で、死亡事故、一酸化炭素中毒事故、30日以上の治療を要した事故、火災、後遺障害事故が該当します。

消費者庁は、重大製品事故による危害の発生および拡大を防止するため必要と認めるときには、製品の名称・型式、事故の内容などを迅速に公表します。

4 長期使用製品安全点検・表示制度

1)長期使用製品安全点検制度

経年劣化によって火災や死亡事故などを起こす恐れがある「特定保守製品」の製造または輸入を行う事業者に対して、設計上の標準使用期間、点検期間、点検の要請を容易にするための問い合わせ連絡先などの表示を義務付ける制度です。「特定保守製品」の製造または輸入を行う事業者が、製品の所有者に登録してもらい、設計標準使用期間が終わるころに点検の通知をして、所有者の依頼を受けて点検を実施し、事故の防止を図る仕組みです。

規制対象となる「特定保守製品」は、屋内式ガス瞬間湯沸器(都市ガス用・LPガス用)、屋内式ガスバーナー付風呂釜(都市ガス用・LPガス用)、石油給湯機、密閉燃焼式石油温風暖房機、ビルトイン式電気食器洗機、石油風呂釜、浴室用電気乾燥機の9品目です。

2)長期使用製品安全表示制度

「特定保守製品」ではないものの、長期にわたって使用され経年劣化による事故が多い製品の製造または輸入を行う事業者に対して、製品に設計上の標準使用期間と経年劣化に関する注意喚起などの表示を義務付ける制度です。

規制対象となる製品は、扇風機、エアコン、換気扇、洗濯機(洗濯乾燥機を除く)、ブラウン管テレビの5品目です。

5 参考

1)関係法令、制度全般について知りたい方に

■経済産業省「消費生活用製品安全法」■
https://www.meti.go.jp/policy/consumer/seian/shouan/

実務レベルのガイドブック「消費生活用製品安全法 法令業務実施ガイド」の他、問い合わせ窓口となる経済産業局の情報も掲載されています。

2)製品事故情報報告・公表制度について詳しく知りたい方に

■消費者庁「消費者安全」■
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/

事故情報の集約等 > 消費生活用製品安全法のページに、制度の解説書「消費生活用製品安全法に基づく製品事故情報報告・公表制度の解説」の他、重大製品事故発生時の報告方法などが掲載されています。

3)具体的な製品事故情報・リコール情報について知りたい方に

■製品評価技術基盤機構(NITE)「製品事故情報・リコール情報」■
https://www.nite.go.jp/jiko/jikojohou/

NITEは、消費生活用製品等に関する事故情報の収集を行い、事故原因を調査・究明し、その結果を公表することによって、製品事故の再発・未然防止を図っています。

以上(2021年7月)

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海外の取引先の与信管理 貿易でのリスクを低減する3つの方策

書いてあること

  • 主な読者:商社などを通さず独自に貿易をしている、またはしようとしている企業の経営者
  • 課題:海外の取引先は訪問するのが容易でないので与信管理が難しい
  • 解決策:民間調査機関を活用する、信用状を発行してもらう、荷為替手形による決済を行う、ファクタリングや貿易保険を活用するなどしてリスクを減らす

1 日本の“当たり前”が通用しない海外の取引先の与信管理

与信管理で基本的かつ有効な方法といえるのは、実際に取引先を訪問することです。これにより、「動いていない生産ラインがある」「社内に活気がない」「来客がまばら」など取引先の様子が分かり、倒産などトラブルの兆候を見つけられる可能性が高くなるからです。コロナ禍において取引先を訪問するハードルは上がっているとはいえ、こちらが希望すれば実現できます。

しかし、クロスボーダー取引、つまり海外企業との取引ではそうはいきません。訪問しようにも、今は新型コロナウイルス感染症の拡大でそれが許されにくいからです。さらに、交通費や移動時間がかかるという根本的な問題もあります。

この他にも、クロスボーダー取引では、

  • 全般的な海外情報の不足
  • 言語やコミュニケーションの壁
  • 商習慣や文化の違い
  • カントリーリスク

といった課題があります。この記事では、これらの点を踏まえ、海外に所在する取引先と、商社などを通さず独自に貿易する際の与信管理について、リスクを低減する3つの方策を紹介します。

2 方策その1:幅広い情報収集、リスクを契約条件に織り込む

1)信用できる相手か?

信用できる相手であるかどうかの確認は、与信管理の基本です。一般的には、決算書を提出してもらったり、調査機関に企業調査を依頼したりして情報収集を行い、信用できるかどうか判断する材料にします。

情報収集の対象は貿易相手だけではありません。独自に貿易を行う場合、売り手(輸出者)・買い手(輸入者)だけでなく、運送業者、金融機関はもちろん、船積みや貿易関連の事務などを担当するフォワーダー、輸出入国の税関といったさまざまな主体が取引に関わります。このため、関係する幅広い取引先の情報収集が必要になります。

リスクを見極める際には、東京商工リサーチ「D&Bレポート(海外企業情報レポート)」、帝国データバンク「海外企業信用調査」、コファス・サービス・ジャパン「海外企業調査レポート」など、有力な調査機関による情報を活用することが考えられます。

■東京商工リサーチ■
https://www.tsr-net.co.jp/
■帝国データバンク■
https://www.tdb.co.jp/
■コファス・サービス・ジャパン■
https://www.coface.jp/

2)リスクの許容範囲を決め、契約書に反映させる

取引先から提出された書類の精査や、調査機関による企業調査の結果などを総合的に評価して、信用できる企業であると判断した場合であっても、リスクマネジメントが必要です。具体的には、取引で許容できるリスクの程度を決めておき、それを基にした支払い条件などを契約書で定めます。例えば、事前に取引金額の30%の代金支払いを確保したいのであれば、そうした条件で取引をします。

3 方策その2:特有の決済方法などを活用する

1)前提となる認識

貿易取引は国内取引に比べて代金の流れ・商品の流れ・書類(船積書類など)の流れが複雑で、手続きも煩雑になります。そのため、手続きの内容や必要な書類について熟知し、適切な貿易決済手段を選択することが大切になります。

貿易取引特有の決済方法は、以降で紹介するものも含めて、取引金融機関や売り手(輸出者)・買い手(輸入者)によって、利用が制限される場合があります。例えば、後述する「信用状が付く荷為替手形」は、信用状を発行する金融機関自体の信用度に問題がある場合、荷為替手形の買い取りを拒否されることがあります。

まずは、取引金融機関や専門家に相談した上で、自社に合った方法を選びましょう。なお、以降で紹介する内容は概要となるため、詳細については、別途確認をするようにしてください。

2)代金を前払いしてもらう

代金を前払いしてもらうことは、有効なリスク低減策です。買い手(輸入者)が代金を前払いする場合の貿易取引の主な流れは次の通りです。

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ただし、信頼関係が構築されていない取引当初は、買い手(輸入者)に代金の全額前払いを受け入れてもらうことは困難でしょう。そのため、代金の一部の前払いなど、買い手(輸入者)に受け入れてもらえる提案が欠かせません。

3)信用状(L/C)を買い手(輸入者)の取引金融機関に発行してもらう

信用状(L/C)とは、

買い手(輸入者)の取引金融機関(以下「信用状発行銀行」)が発行する書面で、信用状発行銀行が信用状で定めた書類の提示を条件に支払いを確約するもの

です。通常は取引ごとに「発行」されますが、同一種類の物品の継続的な取引に利用できるもの(回転信用状)など、さまざまな種類があります。なお、買い手(輸入者)が信用状発行銀行に信用状を発行してもらうことを「開設」ということがありますが、この記事では便宜上「発行」で統一します。

買い手(輸入者)の信用リスクが高い、初めての取引で信頼関係が構築されていないなど、貿易取引に不安がある場合は、信用状を発行してもらい、確実に支払いを受けられるようにして、与信管理を万全に行えるようにするとよいでしょう。

4)貿易取引特有の「荷為替手形による決済」

荷為替手形による決済とは、

売り手(輸出者)が振り出す為替手形に、船積書類を添付して「荷為替手形」を作成し、金融機関経由で買い手(輸入者)に提示して、代金支払い、または手形引き受けと引き換えに船積書類を引き渡す決済方法

です。売り手(輸出者)の取引金融機関に手形を買い取ってもらう場合と、買い手(輸入者)への取り立てのみを依頼する場合の2通りがあります。荷為替手形の買い取りを行う金融機関を「買取銀行」といいます。

荷為替手形による決済には、信用状が付く場合と付かない場合の2種類があります。

1.信用状が付く荷為替手形による決済

信用状が付いた荷為替手形を、売り手(輸出者)の取引金融機関に買い取ってもらうまでの手続きの流れは次の通りです。

まず、売り手(輸出者)は、信用状発行銀行を名宛人とする為替手形を振り出し、輸出地の買取銀行に買い取りを依頼します。買取銀行は書類点検後、買い取り代金を売り手(輸出者)に払います。

その後、買取銀行は荷為替手形などを信用状発行銀行に送付します。信用状発行銀行は書類点検後、買取銀行に代金を支払います。

信用状発行銀行は買い手(輸入者)に対して、代金の支払いと引き換えに船積書類を渡します。これにより、買い手(輸入者)は商品を受け取れます。「信用状に記載されている条件を満たす荷為替手形の提示に対して代金を支払う」という信用状発行銀行の確約があるため、商品だけが買い手(輸入者)に渡って代金が売り手(輸出者)に支払われない恐れがなく、リスクを低減できます。

信用状が付く荷為替手形の買い取りは、提示された為替手形と船積書類が信用状条件に合致しているかを確認し、不一致な点がない場合に実行されます。そのため、売り手(輸出者)は信用状に記載されている条件に合致する書類を作成する必要があります。

信用状が付く荷為替手形による決済の主な流れは次の通りです。

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2.信用状が付かない荷為替手形による決済

信用状が付かない荷為替手形による決済には、「手形支払書類渡(D/P)決済(以下「D/P決済」)」と「手形引受書類渡(D/A)決済(以下「D/A決済」)」の2つがあります。

D/P決済とは、

買い手(輸入者)が代金を支払うことにより、添付されている船積書類を引き取ることができ、さらには商品を引き取ることができる取引方法

です。売り手(輸出者)へ代金の支払いをしてから商品を引き取ることになるため、代金決済がされない状態で商品が買い手(輸入者)に渡るリスクがありません。ただし、買い手(輸入者)が決済できない場合、引き取られなかった商品が現地に残留することになるため、割引価格による現地処分や、返送に伴う運賃の負担といった損失が生じます。

D/A決済とは、

買い手(輸入者)が手形を引き受けて支払いを確約することで、添付されている船積書類を引き取る取引方法

です。手形には支払猶予期間(ユーザンス)が設定されているので、買い手(輸入者)は引き受け後、支払期限まで支払いを延ばすことができます。そのため、手形の不渡りが生じた際は、商品だけ買い手(輸入者)に渡って、売り手(輸出者)に代金が支払われないというリスクがあります。

信用状が付かない荷為替手形による決済の主な流れは次の通りです。

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4 方策その3:支払いを保証するサービスを活用する

買い手の支払いを保証する「ファクタリング」、貿易取引の決済に関する事故を補償する「貿易保険」「取引信用保険」などの活用を考えてもよいでしょう。

ファクタリングとは、

ファクタリング事業者と呼ばれる企業が、売り手の持つ債権を買い取って債権回収を行ったり、債権の決済の保証などをしたりするサービス

で、一部の事業者は海外企業との貿易取引も対象としています。

貿易保険とは、主に日本貿易保険が提供する保険サービスで、貿易取引の代金が回収できなかったときの補償に加え、輸入制限や紛争といったカントリーリスクそのものに起因する損失(輸出不能になるなど)も補償対象となっています。国や地域によっては、カントリーリスクの一部を補償対象外としていたり、保険の引き受けそのものを行っていなかったりする場合などがあります。

取引信用保険は、民間の損害保険会社が提供する保険サービスで、代金が回収できなかったときの補償をしており、国内外問わず売買取引に際して利用できます。

■日本貿易保険■
https://www.nexi.go.jp/

5 その他:専門機関や専門家に相談するのも一策

取引先が海外に所在する場合、自社で取れる対応は限られがちであり、専門的な知識も求められます。そのため、次に挙げる日本貿易振興機構(ジェトロ)などの専門機関、弁護士や貿易アドバイザーといった専門家を活用して、万が一の事態を未然に防ぐ体制を整えておき、いざというときには相談するようにしましょう。

1)日本貿易振興機構(ジェトロ)

日本貿易振興機構(ジェトロ)は、独立行政法人日本貿易振興機構法に基づき設立された貿易・投資の支援機関です。同機構は、海外進出を検討している企業に対して、貿易投資相談(無料)、海外ミニ調査サービス(有料)などを提供しています。

■日本貿易振興機構(ジェトロ)■
https://www.jetro.go.jp/

2)中小企業基盤整備機構 販路支援部 海外展開支援課

中小企業基盤整備機構では、中小企業国際化支援アドバイスを行っています。個別の相談ごとに、各分野で専門性の高いスキルを持つ「国際化支援アドバイザー」が、経営課題解決の観点に立ったアドバイスを行っています。アドバイスの費用は無料となっており、何度でも相談できます。

また、同機構では、ウェブサイト上での情報提供や、全国各地において貿易など海外展開に関するセミナーを実施しています。

■中小企業基盤整備機構「海外展開に関する相談」■
https://www.smrj.go.jp/sme/overseas/consulting/

3)日本商事仲裁協会

日本商事仲裁協会は、商事紛争の処理および未然防止などを図ることによる、円滑な国際取引の促進を目的とした団体です。同協会は、国内外の商事紛争を対象としていますが、元来は国際商事紛争の解決を主な業務としていたことから、貿易取引に関する支援などが充実しています。具体的には会員向けに国際契約・国際取引法律相談などを行っています。

■日本商事仲裁協会■
https://www.jcaa.or.jp/

4)貿易アドバイザー協会(AIBA)

貿易アドバイザー協会(AIBA)は、貿易に関するコンサルティングなどを行う貿易アドバイザーによって運営されている団体です。同協会では、貿易アドバイザーの認定の他、輸出入実務サポート、海外法規制・市場調査、貿易に関するセミナーの講師派遣、現地視察への同行などを行っています。

■貿易アドバイザー協会(AIBA)■
https://trade-advisers.com/

以上(2021年7月)
(監修 一般社団法人貿易アドバイザー協会(AIBA))

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画像:pixabay

【朝礼】イメージトレーニングを実践してみよう

いよいよ4年に1度のスポーツの「熱き祭典」が始まりました。新型コロナウィルス感染症などさまざまな課題はあるものの、世界のトップアスリートたちを、是非、応援したいものです。

さて、トップアスリートと呼ばれる人のほとんどが「イメージトレーニング」を取り入れているそうです。トップアスリートたちは、自分がこれからする競技を頭の中で思い浮かべて成功をイメージし、本番ではそのイメージを持って競技に挑むのだといいます。

例えば、マラソン競技ならばコースの風景や上り下りの傾斜をイメージしながら頭の中でレースを進め、スパートをかける勝負どころはどこなのかをあらかじめイメージしてレースに向かうのだそうです。また、「自分が先頭でゴールテープを切る姿」を思い浮かべて、成功をイメージすることも大切なイメージトレーニングだといいます。

イメージトレーニングが効果的なのはスポーツだけに限るものではありません。私たちが仕事に取り組む上でも、イメージトレーニングはとても大切です。仕事に取り組むときには、どのような手順で仕事を進めるのか、そのためには事前の準備として何をすればいいのか、そして最終的なゴールはいつ、どのようなものになるのかを事前にイメージしておきましょう。

例えば今日、お客様を訪問する予定があれば、お客様の顔を思い浮かべながら伝えなければいけないことや聞きたい話を整理し、お客様がどのような質問をしてくるか、どう説明すれば成功に結びつくかをイメージしておくとよいでしょう。

ひとは誰でもよい仕事をしたいし、よい結果を残したいと思っているはずです。けれども、ただ漠然と成功したいと考えているだけではそれはうまくいかないかもしれません。

自分がなすべきこととそこに至る道筋をあらかじめ頭の中でまとめて、なすべきことと成功へのイメージを作っておけば、目の前の仕事に追われてしまって右往左往してしまうことも少なくなります。

アスリートたちの勝負は、競技が始まるずいぶん前に、イメージの中で始まっています。同じように、私たちの仕事も本当は事前にイメージすることから始めてみてはどうでしょう。仕事に取り掛かる前には、自分のやるべきことをできるだけはっきりと具体的にイメージしておくのです。頭の中でのイメージを具現化するように仕事に取り組むことで、段取りよく無駄のない仕事ができるようになります。また、イメージした通りに仕事が進んだり、商談が成立すれば、成功体験を2回することができ、仕事に対する自信にもつながります。

以上(2021年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】身近にあるワクワクや感謝に気付ける人になる

先日、取引を始めたばかりのクライアントから、Z世代向けのマーケティングについて相談を受けました。Z世代とは、1990年代後半から2012年ごろに生まれた世代で、当社がターゲットとする顧客層とは大きく異なります。この話を断ることもできましたが、「打席に立つ」のが私のモットーですし、こうした機会でもなければ接することのない分野だと思ったので、少し調べてみることにしました。

Z世代について書かれた書籍を読み、Z世代が好むとされる音楽を聴いてみました。知り合いにも相談してみました。すると、想定していなかった新しい発見がたくさんあったのです。

例えば、Z世代向けの書籍を読んだことで、軟らかい文章を書く際のヒントがつかめました。最新の音楽を聴き、新鮮な気持ちで「かっこいい!」と感じてリフレッシュできました。それに、この件で相談した知り合いと、ビジネス以外の「趣味の話」をすることができ、これまで以上に仲良くなれました。

とてもワクワクする楽しい経験をしたわけですが、ここで私はふと、気付いたのです。「この経験は、当社に所属していなければできなかったかもしれない」ということに。そして、この経験のきっかけとなったクライアントとの取引は、ここにいる皆さんが1年以上もかけて努力し続けてきた成果であることに。改めて、私は皆さんとクライアントに「ありがとう」と思ったのです。

このエピソードを通じて、私が皆さんに伝えたいのは、

私たちの周りにはワクワクすることや、感謝の気持ちを抱かせるようなことであふれている

ということです。しかし残念なことに、それに気付いていない人があまりにも多くいます。

最近、「好きな仕事だけをすればいい」「我慢する必要はない」といった風潮があります。そして、右へ左へと気軽に動くことを「流動化」として推奨しているようにさえ感じます。しかし、「この仕事はつまらない。私には合わない」と凝り固まった考え方をし、簡単に会社を辞めたり、諦めてしまったりしている人がいるとすれば、それは大きな間違いと言わざるを得ません。

そうした人が「青い鳥」を探しに行ったとしても、きっと見つからないと思うからです。今、自分がいる場所で、身近にあるワクワクや感謝にさえ気付けないのですから、よそに行っても見つかるはずがありません。

仕事が自分に向いているか否か、仕事が楽しいか否かを決めるのは、その仕事の内容だけではありません。皆さんがその仕事とどう向き合うのか、そしてワクワクや感謝に気付くことができるかが大切なのです。どうか、気付くための感性を養ってください。そして、ワクワクや感謝などの

「気付き」に気付ける人

になってください。それだけで皆さんのビジネスパーソンとしての世界が豊かになります。

以上(2021年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

海外評価が急上昇! 酒類から学ぶ「ジャパンブランド」作りの極意

書いてあること

  • 主な読者:小売業、食品・飲料業の経営者
  • 課題:自社の存在感を高め、販路拡大をしたい
  • 解決策:輸出が堅調なお酒の販売戦略・商品開発を参考にする

1 輸出額は10年連続過去最高! 日本のお酒が世界進出

このところ、日本産のお酒の販売が海外で好調なのをご存じですか?

なんと、お酒の輸出金額が10年連続で過去最高を記録し、2011年の約190億円から、2020年には4倍近い約710億円に成長しているのです。国内のお酒市場が「若者のアルコール離れ」や新型コロナウィルス感染症による影響などで苦戦するのとは対照的に、海外市場は大いに注目されています。

この機会をいかそうと、日本酒では、「酒スタートアップ」が日本酒の高級ブランド化に取り組んだり、外国人の嗜好に合わせた新商品を製造・販売したりしています。ワインでは、日本で製造する「日本ワイン」の輸出拡大を目指し、ワイナリーを開設する企業も増えています。ウイスキーに目を向けると、2021年4月に定義が確定した「ジャパニーズウイスキー」が海外進出を本格化させようとしています。

世界進出する日本のお酒! この動向は異業種であっても、海外への販路拡大やブランド確立の際の参考になるはずです。

2 お酒事業者の取り組み

今回は、日本酒・ワイン・ウイスキーにスポットを当て、海外で売れる商品を追ってみます。縦軸を「新機軸を採用する/伝統を重んじる」、横軸を「既存の魅力を深掘りする/多様化・現地に最適化させる」で分類してみると次のようになります。

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1)高級日本酒を海外展開:Clear

Clearは日本酒の製造・販売事業に特化したスタートアップで、世界のラグジュアリーブランドに匹敵する日本酒を目指し、高級日本酒ブランド「SAKE HUNDRED」を展開しています。2018年に造り酒屋を買収し、オリジナルブランドの製造・販売を開始し、現在は、1万5400円~19万8000円の価格帯で販売しています。最高級ランクとされる大吟醸の商品の多くが数千円程度で流通している中、割高な印象を受けますが、厳選した米を200時間かけて精米するなど、質へのこだわりに妥協は見られません。同社の「百光」は、世界的権威のあるワイン品評会で金賞を受賞したり、東京都内の外資系高級ホテルでの提供が開始されたりと着実に評価を高めています。

また、同社は日本酒ウェブメディア「SAKE TIMES」も運営しており、日本語版、英語のグローバル版を通じ、「日本酒業界の今」を内外に発信しています。

2)フランス パリで酒蔵をオープン:WAKAZE

WAKAZEは、東京都の三軒茶屋とフランスのパリに醸造所を開設し、これまでにない酒造りに取り組んでいます。

日本国内で新たに日本酒(清酒)を製造する場合、酒税法の規制により年間6万リットル(一升瓶換算で約3万本以上)の最低製造量が課せられており、新規参入への高いハードルとなっていました。そこで、同社は2019年にフランスのパリに醸造所「KURA GRAND PARIS」をオープンしました。ここは、タンクや圧搾機などの、酒造りに必要な器具を備えたヨーロッパ最大規模の酒蔵です。フランス国内の米や水などを用い、食の都パリで、洋食にペアリングできる日本酒を発信しています。

同社のオンラインストアでは、外国人など、お酒になじみの薄い人たちへの「SAKEの世界」の入り口となる、果実感を感じる味とワインボトルのようなデザインの「THE CLASSIC」や、洋食とマッチし、ワイングラスで香りを楽しむことを想定した「ORBIA」、国産のかんきつ類やスパイスを配合したボタニカル酒「FONIA」などを製造・販売しています。

同社は、2021年6月、ジャフコ グループ、ニッセイ・キャピタルなどから総額3.3億円の資金調達を実施しました。今後は、この資金を元にヨーロッパ全土、アメリカへの浸透を図る狙いです。

3)「ワインツーリズム」で日本ワインをPR:メルシャン

キリンホールディングス傘下のメルシャンは、国内でワイナリーの開業を進めています。同社の日本ワイン(国産のぶどうを100%使用して国内で製造されたワイン)のブランド「シャトー・メルシャン」は、海外で普及している「ワインツーリズム」の確立も視野に入れ、日本ワインの輸出拠点として長野県に「シャトー・メルシャン 椀子(まりこ)ワイナリー」を2019年にオープンしました。

このワイナリーは、浅間山や北アルプスの絶景を望む丘にあり、30ヘクタールの敷地を有しています。2020年には世界の優れたワイナリーを選ぶ「ワールド・ベスト・ヴィンヤード 2020」で日本初のランクインとアジア第1位を獲得しました。同ワイナリーでは、ワイナリーツアーも実施していますが、今後は周辺のワイナリーや軽井沢などの観光資源を巻き込みながら、国内外に向けてワインツーリズムを推進していく計画です。

メルシャンは2021年に、日本を代表するぶどう「甲州」を用いた「シャトー・メルシャン 岩出甲州 オルトゥム 2020」を発売し、日本ワインのさらなる価値向上を目指していく予定です。

4)気候変動で注目される北海道のワイナリー:北海道ワイン

北海道ワインは、いわゆる「国産ワイン(原料のぶどう果汁や外国産のワインを輸入し、ブレンドしたもの)」の製造は行わず、栽培から販売までをすべて国内で行う日本ワインの製造・販売に特化しています。同社の「余市ハーベスト ツヴァイゲルト スペシャルキュヴェ2017」は、アジア最大級の国際酒類コンペティションで北海道産のワインとして初の金賞を受賞し、国内外での評価を高めています。

2020年には、北海道ワイン後志ヴィンヤードを設立し、2024年の収穫を目指しています。同所では、ケルナーやシャルドネ、ピノ・ノワールを各2200本栽培する計画です。また、「北海道」という商品の名称(地理的表示)を知的財産として登録し保護する地理的表示(GI)保護制度に登録することも目指しています。

近年の地球温暖化の影響を受け、北海道は、ワイン生産地として海外からも注目されるようになってきました。これまで北海道は、ワイン用のぶどうが栽培できる北限とも言われており、寒冷地でも栽培可能なドイツ原産のケルナーなどが代表品種でした。近年では、これまで栽培されていなかった、フランス原産のピノ・ノワールなどの栽培が増えています。

フランスのワインの名産地であるブルゴーニュ地方やシャンパーニュ地方などの緯度が北緯47度~48度、北海道がおよそ42~45度となり、北海道の厳しい冬の影響もあり、ヨーロッパ品種のぶどうの栽培に適しているとされています。

これを裏付けるように、フランスのブルゴーニュ地方の老舗のドメーヌ・ド・モンティーユが、北海道にワイナリーを開設し、日本ワイン「de Montille & Hokkaido」のブランド名で事業を開始しています。

5)ジャパニーズウイスキーの雄:サントリー&ニッカウヰスキー

日本のウイスキーは、サントリーとアサヒビール傘下のニッカウヰスキーが販売の大部分を占めています。海外で日本のウイスキーの評価が高まった要因として、2000年代に入り、両社のウイスキーをはじめとする「Japanese Whisky」が海外のコンテストで軒並み上位にランクインするようになったことが挙げられます。

こうして世界に日本産のウイスキーの品質が認められると、旅行先としての日本の認知度が高まってきたことも手伝い、山崎や余市などの両社の蒸留所へのツアーの人気も高まりました。

サントリーの「響」、ニッカウヰスキーの「竹鶴」などは、毎年のように世界の賞を受賞しており、欧米圏などを中心に高い人気を誇っています。

一方、ウイスキーの製造には、商品によっては熟成に十数年以上掛かることもあり、国内の大手メーカーが実質的に2社に限定されていることもあり、急激な需要の変化に対応しにくいことが課題と言えます。

上記の海外での評価の上昇と並行し、国内ではハイボールブームや、ウイスキーがテーマの朝の連続ドラマが放映されるなどした結果、ウイスキーの原酒が不足し、一部の銘柄の終売や、流通価格の高騰などの弊害も起きています。

6)地ウイスキーも続々登場:本坊酒造&三郎丸蒸留所

日本のウイスキーの評価が高まる中で、小規模ながらこだわりのウイスキー「地ウイスキー」も登場しています。世界5大ウイスキーのスコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、日本のさまざまな原酒をブレンドしたオリジナルの地ウイスキーも、海外で世界最高賞を受賞するなど、高く評価されています。

本坊酒造(鹿児島県)は、自社ブランド「マルスウイスキー」を展開しています。1985年に長野県に蒸留所をオープンし、地ウイスキーブランドとしての地位を確保しています。同社の「こだわりモルトの地ウイスキー」は、モルト原酒にグレーン(穀類)などをブレンドし、日本酒のように一升瓶に瓶詰めされています。

三郎丸蒸留所(富山県)は、北陸唯一のウイスキー蒸留所とされています。同所は、2017年に設備をリニューアルし、世界初の技術を取り入れたポットスチル(蒸留機)を使用してこだわりのウイスキーを生産しています。現在では、国内初の国内の他の蒸留所との原酒の交換を実現し、ジャパニーズウイスキーの安定的な製造・販売を確立すべく、ボトラーズ事業のためのクラウドファンディングをモルトウイスキーの販売専門店のモルトヤマと共同で実施しています。

ウイスキーに関しては、2021年4月にジャパニーズウイスキーの定義が確定・公表されました。この定義では、日本国内の水を用いて日本国内で製造・貯蔵・瓶詰めされたものがジャパニーズウイスキーとして定義されます。

これまでは、海外産の原酒を日本で瓶詰めやブレンドしたものなどでも、ジャパニーズウイスキーとして国内外で流通することができましたが、定義の公表が「世界5大ウイスキー」の一つであるジャパニーズウイスキーの保護・販売拡大の追い風となるでしょう。

3 お酒関連の動向

冒頭で触れたように、お酒の輸出金額は増加しています。輸出金額やお酒市場の置かれている現状を見てみましょう。

1)日本からの輸出額:国税庁「酒類の輸出動向」

国税庁の資料「酒類の輸出動向」によると、近年の日本のお酒の輸出金額は次の通りです。

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お酒の輸出金額は、ここ10年で順調に右肩上がりを維持しています。この図表にはありませんが、2020年に輸出金額が大きかったお酒は、1位がウイスキー(271億円)、2位が清酒(241億円)、3位がリキュール及びコーディアル(86億円)となっています。

2011年から2019年までは、清酒が金額トップを維持していましたが、2020年には清酒が前年比3.1%増にとどまった一方、ウイスキーは同39.4%に成長し、金額トップの座に着きました。

2)お酒市場の現状

お酒市場の現状として、次のようなものが想定されます。海外向けの動きとしては、近年の日本(食)ブームと政府による貿易振興支援が奏効していますが、国内に目を向けると、お酒市場の縮小や後継者不足など、課題が山積していると言えます。また、地球温暖化を受けた産地の変化は今後要注意と言えます。実際に、寒冷な気候の北海道に岐阜県の酒蔵やフランスのワイナリーが移転したり、ぶどうの栽培を始めたりしています。

そうした中で、「酒スタートアップ」の登場や、テクノロジーを用いて新商品の開発や販売に取り組む企業が現れるなど、明るい動きも出てきています。

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3)輸出支援の参考資料

政府もお酒の輸出に対して支援を行っています。JETRO(ジェトロ、日本貿易振興機構)は、国税庁と共同で、日本酒の輸出を検討する事業者向けに「日本酒輸出ハンドブック」を公開しています。

このハンドブックは、現在「香港編」「中国編」「台湾編」「韓国編」「米国編」「カナダ編」が公開されています。

日本酒の輸出を想定しているものの、ハンドブックの内容は、日本からの輸出品などのデータや現地の消費トレンド、輸出に際しての手続きや留意点などが数十ページでまとめられており、日本酒の輸出にとどまらず、他のお酒の輸出を検討する際のヒントに活用できそうです。

■JETRO 日本酒輸出ハンドブック■
https://www.jetro.go.jp/industry/foods/notice/e677cd2ac372fb1e.html

以上(2021年7月)

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ストップ!「ながら運転」(2021/07号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

運転中の携帯・スマホの使用やカーナビの画面注視など携帯電話使用等(いわゆる「ながら運転」)に起因する交通事故件数(令和2年)は、道路交通法の改正(厳罰化)等の効果もあり、前年より大幅に減少しました。
その一方で、ながら運転による交通事故は、ながら運転以外の場合と比べ、死亡事故の比率が約1.9倍であり、重大事故となる可能性が高い傾向があります。
ながら運転を絶対にしないように心がけ、常に運転に集中しましょう。

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※ 警察庁Webサイト 「やめよう!運転中のスマートフォン・携帯電話等使用」https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/keitai/info.html(2021.6.17閲覧)

1.ながら運転の罰則等

ながら運転とは、運転中の携帯・スマホによる通話、操作および画面注視、ならびにカーナビの画面注視などの行為を言います。携帯電話使用等によるながら運転は、その危険性から厳しい罰則等(下表)が課せられます。交通事故の発生や重大な事故につながる危険な運転により交通の危険を生じさせた場合は、罰則等が重くなります。

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2.“ちょっと”が危険を招く

スマホをちょっと確認するだけでも、また運転に集中するまでに2秒程度を要します。
一方、スマホやカーナビを2秒以上注視するとドライバーが危険を感じる状態になると言われます。
車は2秒間で思った以上に移動します。その間、周囲の交通情報が遮断されると、対向車、停止車両、歩行者等に気づくのが遅れ、ブレーキ操作等が間に合わず、衝突、追突もしくは歩行者等をはねるリスクが高まります。

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<ながら運転の事故発生場所の特徴>
ながら運転による交通事故は、比較的見晴らしがよい直線道路で多いという特徴があります。
これは、安全と思われる場所が、“ちょっと”の油断を招くからだと推察されます。

※ 公益財団法人 交通事故総合分析センター「携帯電話等の使用が要因となる事故の分析」
https://www.itarda.or.jp/presentation/18/show_lecture_file.pdf?lecture_id=95&type=file_jp
(2021.6.17閲覧)

3.ながら運転対策

厳罰化から1年半が経過しましたが、ちょっとの油断も生じさせないためには、“ながら運転は絶対にしない”という強い意識を持ち続けることが大切です。
ながら運転の危険性をいまいちど認識し、安全運転を心がけましょう。

1.ながらスマホ対策

  • 着信で注意を奪われないよう、運転前に電源を切ったりドライブモードに設定したりする。
  • スマホを操作するときは、安全な場所に停車してから行う。
  • ハンズフリー通話は、会話に気を取られて安全不確認や漫然運転といった安全運転義務違反につながる可能性があることを十分に意識する。
  • <職場での取り組み>
  • ながら運転の撲滅に向け、油断が生じないよう、定期的に安全運転教育を行う。

2.カーナビ注視対策

  • 時間に余裕を持った行動(目的地への道程の事前確認、早めの出発)をする。
    道に迷ってもあわてず、車を安全な場所に駐車して地図を確認しましょう。

以上(2021年7月)

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情報過多な今こそ求められる ビジネスでの情報活動スキル向上策

書いてあること

  • 主な読者:情報活動(情報の収集、分析、活用)のスキルを向上させたい人
  • 課題:欲しい情報を迅速かつ的確に集める方法や、その情報がビジネスで使える情報なのかの見分け方が分からない
  • 解決策:インターネット以外での情報収集も行う。出所ごとの情報の質の違いを理解する

1 ネットで拾ったその情報、ビジネスで使って大丈夫ですか?

参入を検討している介護用品は、きっと売れるという報告をしたら、課長から「調査が不十分」と大目玉をくってしまった。ちゃんとインターネットで検索して、介護関連市場が拡大しているという経済評論家の話や、国が高齢者対策は重要だと言っていること、それにライバル会社の類似商品を評価する書き込みがブログやSNSに載っていることを報告したのに……。

ちょっと待ってください。確かにインターネット上には情報があふれており、商品の売れ行きを見通すための材料も見つかるかもしれません。ですが、先ほどの調査は、次の3つの点で不十分と言われても仕方ありません。

  • 情報の出所:インターネットのみで情報を収集している
  • 情報の質:情報そのものの信ぴょう性に疑念がある
  • 目的と合致した情報:売れるかどうかを判断するのに役立たない情報を収集している

この記事では、上記の3点に焦点を当てて、自社のビジネスにとって必要な情報を、どうすれば迅速かつ的確に収集、分析、活用できるのかについて考察します。

2 情報の出所:ネット以外での収集も検討しよう

1)インターネットで見つからない情報に価値があることも

情報収集の最初の手段としてインターネットで検索することは、最も容易に、かつ的確な情報を得られる可能性が高いといえるでしょう。一般的に新鮮な情報が多い傾向もあります。ただし、情報を発信することも容易であるため、情報の質は玉石混交です。また、誰もが容易に入手できる情報なので、情報の“重さ”や貴重さという面では劣るといえるでしょう。

インターネットの対極にあるアナログな情報として、書籍や文献、専門家の話や実地調査などがあります。収集するのは難しいですし、書籍などの中には古い情報が含まれていることもあります。その一方で、実体験に裏打ちされた情報や、現場の生の声など、「リアル」な情報が入手できるメリットがあります。こうした情報には、情報源に近いという情報の“重さ”と、オリジナリティーのある貴重さという点で、インターネットで収集した情報とは一線を画した強みになることがあります。

2)場合によってはお金をかけることも必要

インターネットニュースの広がりにより、情報が水や空気と同じように無料で収集しやすくなっているのは確かです。ただし、全ての情報が無料で収集できるわけではありません。情報は、より選別化されているといえます。

有料情報は、有料で販売できるだけの強みを持っています。有料情報が強みとしている無料情報との主な違いとしては、次のような点が挙げられます。

  • 通常では入手するのに時間や手間がかかる(蓄積された経年のデータも含める)
  • 網羅性がある(調査の対象が広く全体を俯瞰(ふかん)できる)
  • 専門性が高い(情報を持っている人が限られている)
  • 正確性が担保されている(情報の精度が高い)
  • 信頼性が高い(情報発信者として権威があることも含む)

対価を支払うだけのメリットが得られるのであれば、お金をかけて情報を収集することも検討しましょう。

3)「上下前後左右」の出所をフル活用しよう

インターネットが広まる以前、メディアに携わる人の間では、情報収集は「上下左右」からといわれていました。ネット時代となった現在は、情報の出所はさらに広範になっており、「上下左右前後」に例えることができそうです。

  • 上:政府などの統計情報
  • 下:消費者などの口コミ情報(インターネット掲示板やSNSなども含む)
  • 前:研究者や専門家のコメントや文献、調査会社のリサーチ
  • 後:書籍、専門機関のデータベース
  • 左:ネット系新興企業(検索エンジン運営会社、マーケティング・リサーチ会社など)
  • 右:従来のメディア(新聞、雑誌、テレビ、ラジオなど)

一部の出所には、インターネットからでは収集できない情報もあります。また、情報を分析・活用する際にも、それぞれの情報の出所ごとの特徴を踏まえておくことが重要です。情報の出所ごとの特徴は、次の通りです。

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3 情報の質:真実に近いかを見分けることが第一歩

極端な話ですが、単なる噂話で会社の経営判断が振り回されるわけにはいきません。情報を分析するための第一歩は、情報の質、つまり真実に近い情報かどうかを見分けることです。近年は「フェイクニュース」という言葉をよく耳にしますが、誤情報は発信者の悪意からだけでなく、意図せずに事実と異なる情報を発信してしまっている可能性もあります。質の低い情報を基にいくら的確に分析しても、正しい分析結果は出せません。

ここでは、情報の質を見分けるための基本的なポイントを紹介します。

1)出所を確認する

情報の出所を確認することで、情報の質をある程度推定することができます。政府などの公的機関および研究機関、新聞、上場企業などが出所となっている情報は、一般的に質が高いといえるでしょう。

逆に匿名で発信された情報は、正確性が担保できない上に、真偽の確認手段も限られてしまいます。特にインターネット掲示板やブログ、SNSなどは匿名性が高く、質の低い情報が混ざっている可能性が高いと考えておくべきでしょう。

2)一次情報か二次情報か

一般的に情報は、媒介者が増えるほど正確性を損なっていく傾向があります。情報源(当事者)から直接入手した情報(一次情報)や、新聞など出所の確かな組織が一次情報を基に発信した情報(仮に「準一次情報」と呼びます)は、ほぼ真実とみなしてよいでしょう。それと対照的に、人づてに聞いた話や、インターネットで検索したブログでの書き込みなどの、いわゆる二次、三次情報は、質の低い情報といえます。

ビジネスで活用するのであれば、基本は一次情報および準一次情報を中心に収集するべきです。もし二次情報、三次情報を活用したいのであれば、可能な限り情報源を探しましょう。もし情報源を見つけられなかった場合は、その情報には裏付けがなく、間違えている可能性があることを前提にして分析を行うようにしましょう。

3)客観的情報か主観的情報か

情報の質を見分ける中で最も難しいのが、その情報がデータなどに基づいた客観的情報なのか、情報発信者の考えが混ざっている主観的情報なのかの判別です。

基本的には、何らかのデータにひも付けられた情報かどうかで判別できます。例えば、「A商品が人気になっている」という情報だけでは、客観的情報とはいえません。「直近の月間売上額がいくらで、ライバル企業の類似商品の1.5倍」といったデータに裏付けられて、初めて客観的情報になります。

では、ある消費者がSNSに書き込んだ「B商品は使いやすくて便利」という感想は、主観的情報なのでしょうか。これは、その消費者が感じたことを正直に書き込んだ感想であるので、客観的情報だといえます。ただし、その感想を書き込んだ消費者が、例えばB商品を無償で提供されているなど、B商品を褒めることにメリットがある場合、その感想は主観的情報と判別しなければなりません。ですから同じ情報であっても、発信者の立場にまで注意しておく必要があります。これは、研究機関や新聞などの発表でも当てはまることです。

4)情報の「クセ」にも注意を

どんなに公平・中立を目指した調査であっても、何らかの偏りが出てしまうものです。

例えば、世論調査をはじめとするアンケート調査の結果は、世の中の平均的な考えを集約した真実に近い情報だと思われがちです。しかし、例えば日本人の1日のインターネットの平均利用時間を知るために、インターネットを使って回答者を募集しても、正しい情報は得られません。インターネットを全く使わない人もいるからです。

また、日本人の場合は、「とても良い」「良い」「普通」「悪い」「とても悪い」という5つの選択肢がある場合、「とても良い」と「とても悪い」という回答を選びにくいともいわれています。

こうしたことから生じる情報の「クセ」の大きさを把握するためには、調査方法、調査時期(時間)、調査人数、調査対象の選び方、質問内容(聞き方)や回答方法といった調査の前提を確認しておくことが大事です。

4 目的と合致した情報:「何を判断するのか」を明確に

せっかく収集した質の高い情報でも、十分に活用できなければ、その情報は「インフォメーション」にとどまり、「インテリジェンス」にはなりません。収集、分析して得られた情報が、判断する材料に適した情報でなければ、意味がありません。逆にいうと、数ある情報の中から、目的に合った情報を選別して収集し、活用することが求められるのです。また、情報の使用目的によっては、著作権やプライバシーなどに配慮する必要が生じます。

1)「何を判断するのか」を明確にし、優先順位をつける

当たり前の話ですが、なぜその情報を活用するのか、その目的を明確にしておくことが基本です。

情報を活用する目的としては、6W2H(「Whether or not to:やるか、やらないか」「When:いつまでにやるのか」「Where:どこでやるのか」「Who:誰がやるのか」「What:何をやるのか」「Why:どのような理由でやるのか」「How:どのような方法でやるのか」「How much:いくらでやるのか」)といったものがあります。

これらの目的に合わせて判断するには、単独でなく複合的に判断する必要があります。例えば、「いくらでやるのか」が決まらなければ、「やるか、やらないか」も決められません。優先順位をつけながら、判断をしていくことになります。

2)多次元の情報を活用する

情報を基に判断するには、なるべく多くの側面から、つまり多次元の情報を基に判断することが大事です。

例えば、A店舗にB商品を追加投入するかどうかを判断するとします。「A店舗でのB商品の今月の売上高」という点の情報だけでは、判断できません。ここに、「A店舗でのB商品の過去3年間の月ごとの売上高」という縦の線の情報、「A店舗を含むC地域の各店舗でのB商品の売上高」という横の線の情報を加えて面の情報にすると、適切な判断がしやすくなります。

さらに、「B商品と類似したD商品の売上高」「B商品やD商品を含むカテゴリー全体の売上高」などの立体的な情報を加えることで、判断の精度が高まります。

3)反対の情報も探してみる

ある程度の情報が集まると、「この商品は売れそうだ」といった仮説を立てることができるようになります。仮説を基に、それを補強する情報を集めることによって、情報収集の効率がよくなります。

ただし、仮説はあくまでも仮説です。仮説を補強する情報だけでなく、仮説に反するような情報がないかどうかも調べてみることが大事です。

4)他者を説得する材料に活用する場合は、より客観性に配慮を

情報は自社の経営判断のためだけでなく、他者を説得するための材料としても活用します。

例えば、ある商品を売り込みたい場合、「販売量が類似商品の中で1番」「使った人の満足度は○%」といった情報を付けると、買い手の購入意欲を高める材料になるでしょう。

こうした際は、基本的に説得したい内容を補強する情報を使うと効果的です。ただし、説得したい内容との関連性が薄い情報や、根拠に乏しい情報を付けると、逆に不信感を与えかねません。また、客観性を担保するために、「当社アンケートに基づく」「当社の旧商品との対比」といった自社で作成した情報よりも、一次情報や準一次情報などを活用するほうが、説得力が増すでしょう。こうした場合は、出所を明確にすることも大事です。

5)社外へ公表する情報は、著作権やプライバシーに要注意

収集した情報を社内での検討資料として使用するだけであれば問題ありませんが、情報を外部に公表する場合などは、著作権やプライバシーに関しての取り扱いに注意が必要になります。ただし、社内のみで使用する情報であっても、取得した情報をPDFなどに電子化して共有する場合は、著作権に抵触する可能性があります。また、たとえ有料で取得した情報であっても、使用条件が限定されることが少なくありません。事前に使用条件を確認しましょう。

収集した情報を外部に公表する場合は、情報発信者の了解を取るべきでしょう。また、個人名などが判別されてしまうような情報に関しては、当人に確認したり、一部の情報を伏せて公表したりするなどの対応が必要になります。

以上(2021年7月)

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悪魔にも天使にもなる!? 固定費とうまく付き合おう/経営者のためのファイナンス講座(5)

書いてあること

  • 主な読者:将来の意思決定に役立つファイナンス思考を身に付けたい経営者
  • 課題:売上が減少傾向にある場合などにおいて、コスト削減の考え方を知りたい
  • 解決策:固定費の特性を正しく理解し、できる範囲で固定費を増やさないように工夫することで、業績への影響をコントロールしやすくなる

1 コロナ禍だけではない、オフィス移転の理由

街を歩いていると、空き店舗を見かけることが多くなった気がします。度重なる緊急事態宣言により、東京では飲食業を中心に厳しい状況が続いています。

会社のオフィスについても、一部スペースを返したり、面積が小さな場所に移転したり、なかにはオフィスを閉鎖する会社もあったりするなど、不動産にも大きな影響を与えています。確かに、リモートワークが進んだことから、以前のように出社して執務するスペースが要らないという理由もよく分かります。

加えて、オフィス移転などをする会社が多いのは、コロナ禍だからではなく、実はオフィスを借りるための費用が固定費だからという理由があるのです。

2 固定費は売上ダウン時の負担が大きい

固定費という言葉は聞いたことがある方も多いでしょう。固定費とは、売上が変動しても金額が変わらない費用のことです。ちなみに、これとは反対に、売上に比例して増減する費用を変動費と呼びます。

コロナ禍においては、売上が激減する一方で、固定費が重くのしかかって、経営不振に苦しんでいる会社が数多くあります。まさに定義の通り、固定費は売上が減ったとしても、かかり続けます。経営悪化時の業績への影響はとても大きいのです。

3 削減努力の効果が高いのは、固定費

その一方で、固定費には削減効果が続きやすいという性質があります。例えば、先ほどの狭いオフィス移転の例で考えてみると、引っ越しなど移転の際、一時の手間やコストはかかりますが、いったん移転してしまえば家賃の削減効果は半永久的に続きます

変動費ではこうはいきません。会社は業績が厳しくなると、交際費や交通費などの変動費を抑えることがしばしばです。しかし、その努力を継続するのはなかなか大変です。つまり、固定費に比べて変動費の削減効果を継続するのは大変ということです。

雑誌などでファイナンシャルプランナーが、家計の改善のための助言を行う記事を見かけますが、よく取り上げられているのは、家賃と保険料と携帯電話などの通信料、子どものお稽古の月謝です。これらに共通するのは、固定費ということです。この家計の例から見ても、せっかく努力するのであれば、固定費に着手した方が「コスパがいい」というのがお分かりいただけると思います。

4 人件費も、固定費

このように、足元の業績を改善し、将来の利益を稼ぎやすくするためにも、固定費の削減は役に立ちます。

家賃に加えて、代表的な固定費として、人件費が挙げられます。シリーズ第3回(「人」と「コスト」のファイナンス的考え方/中小企業経営者のためのファイナンス講座(3))で、「人件費はコスパを考えるべき」という話をしましたが、その理由の1つに、人件費も固定費だからといえます。

業績が悪くなると、以前からリストラをする会社が見られましたが、これはまさに、足元と将来の業績という2つの目的のために行われるのです。

5 固定費=悪者ということではない

ここまでの話を聞いて、固定費は悪者だと感じた方もいるかもしれません。しかし、そうではなく、固定費の性質を正しく理解することが大事です。

固定費がいいか変動費がいいかという議論は、飲食店で食べ放題がいいかアラカルトがいいかということに似ています。たくさん食べる方には食べ放題がお得ですし、小食ならアラカルトの方が実際に食べた分だけの請求なので無駄がありません。つまり、どちらが合っているかは、人それぞれで、万人に共通する答えはありません。同様に、固定費がいいか変動費がいいかを判断するには、自社の業種を踏まえる必要があるのです。

というのも、業種によっては、比較的大きな固定費の負担が不可避という場合も多いのです。例えば、飲食業や小売業など個人のお客さん相手の事業は、やはり立地が大事です。従って高額な家賃が必要です。

しかし、最近はその中でも、デリバリーやオンライン販売など新たな形態に注力する動きも見られます。もちろん、厳しい環境下で生き延びるために考え出される取り組みですが、結果的には固定費が減って、利益が出やすい体質になる効果もあるのです。

6 固定費が減ると、業績好転時の影響も大きい

また、売上が伸びるなど、業績が好転した際には、固定費はうれしい効果があります。

例えば、業績好調のWeb関係の会社では、営業利益率70%といった数字を見かけることがあります。流通業など利益率が低いことが多い業種からすると、驚きです。まさにこれも、固定費のなせる業なのです。

自社でソフトウエアを開発し、その利用料を得る事業では、開発時には人件費が膨大にかかりますが、一度開発に成功してしまえば、後は保守運用するための人件費や、サーバー費用くらいしかかからない場合もあります。

そのため、売上が成長すると、これらの固定費の金額が相対的には小さくなるため、驚くような利益率につながります。

このような固定費の存在により、売上伸長時に利益が大きく増える現象は、固定費のレバレッジ(「てこ」のこと)効果と呼ばれます。

7 最近は固定費を変動費化できることも多い

とはいえ、事業の形態を追加したり変えたりするには、時間も手間もかかります。そこで、固定費を減らすもう少し取り組みやすい方法として、固定費の変動費化があります。

例えば、いきなりオフィスをなくす代わりに、従量制のシェアオフィスを利用するのも1つです。また、営業車をリースする代わりに、カーシェアを利用することもできるかもしれません。

シリーズ第2回(ファイナンス特有の「見えないコスト」の考え方/中小企業経営者のためのファイナンス講座(2))の中で管理コストがかからないよう、これらのサービスを使って中小企業は「持たざる経営」をという話をしました。その理由は、固定費による業績圧迫を避けるためでもあるのです。

以上(2021年7月)

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画像:pixta