1兆円市場の創出へ 「セルロースナノファイバー」に高まる期待

書いてあること

  • 主な読者:新たな素材を導入して、既存商品の付加価値向上を図りたい経営者
  • 課題:セルロースナノファイバーの導入を検討したいが、素材や商品開発に関する情報が不足している
  • 解決策:他社の開発事例を参考にしたり、産学官による連携組織に問い合わせたりして、セルロースナノファイバーに関する情報を入手する

1 軽くて強くてエコな新素材

セルロースナノファイバー(以下「CNF」)は、植物細胞の細胞壁や植物繊維の主成分であるセルロースを、ナノサイズ(1ナノメートルは10億分の1メートル)にまで微細化したものです。樹木など自然由来の原料のため環境に優しく、入手も処分も容易であることに加え、鋼鉄の5分の1の軽さで5倍以上の強度を持つといった特性があります。こうした特性を活かした商品開発の取り組みも進んでいます。2020年は研究開発段階から実用化段階へシフトしたともいわれており、経済産業省などが目標に掲げる「2030年に関連材料で1兆円市場の創出」に向けた期待はますます高まっています。

本稿では、CNFを活用した商品開発の事例や、1兆円市場の創出へ向けた課題や取り組みを紹介します。

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前述した通り、CNFの最大の特性は軽さと強度の高さ、そして資源としての持続性です。通常は親水性ですが、疎水性に加工処理することも可能で、疎水化すると用途の幅はさらに広がります。また、製造(解繊)方法によって異なる特性を持つこともあります。こうした多様な特性を生かして、食品添加物、化粧品、スポーツ用品、医療用品、家電、電子部品、建材、自動車部品など多岐にわたる分野で用途開発が進められています。詳細は第3章で紹介しますが、既に中小企業でも、CNFを活用した商品を開発し、販売しているケースも増えてきています。

さらに、今後の研究の進展によっては、別の素材と複合化させることにより、新たな機能を持った商品の誕生や、あらゆる商品の付加価値向上につながる可能性を秘めているといえます。

2 多様な特性がマーケットを広げる

ここでは現時点で明らかになっているCNFの特性(機能および効用)と、活用が期待されている具体的なマーケットについて、M(マーケット)、F(機能・効用)、T(技術)のつながりで分析するMFTフレームを使って見てみます。

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一般的に、増粘性や保水・保湿性、比表面積の広さなど、CNF単体かつ少量でも特性を発揮しやすいものは、比較的商品化が容易といえます。一方、他の素材との複合化が必要な機能などは、商品化への難易度が高いといえるでしょう。

3 中小企業による商品開発の事例

中小企業の中には、CNFのメーカーや地元の地方自治体などと協力し、自社商品にCNFを活用して付加価値を向上させているケースも出てきています。

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4 1兆円市場の創出への課題

1)製造コストの高さ

最大の課題は、製造コストです。原料は低価格ですが、解繊をする際のコストの問題があります。1キログラム当たりの製造コストは、炭素繊維が2000円程度、鉄が100円程度とされるのに対し、CNF(ドライ換算)は現状で5000円程度といわれています。

経済産業省などは2030年度時点でCNFの製造コストを1キログラム当たり300円にまで低減させることを目標としていますが、製造コストと生産量は“鶏と卵の関係”であり、価格低減にはCNFの需要拡大が不可欠です。

国内のCNFの素材メーカー各社によるCNF生産能力は年間900トン程度とみられていますが、CNFの動向に関する講演も行っている京都市産業技術研究所の北川和男研究フェローは、「現状の稼働率は3割程度だろう。これがフル稼働するようになれば、製造コストは1キログラム当たり1000円程度にまで低下することも見込まれる。そこまで低下すれば、他の素材との価格競争力が出てくる」と期待を込めます。

2)技術を商品化につなげるさまざまなマッチング機能

CNFが持つ特性を商品の付加価値向上に結びつけるマッチング機能の充実も、CNF普及のための課題です。その際、技術を保有する大学や企業と、CNFを使って商品化を目指す中小企業などをマッチングさせるコーディネーターの役割が重要になります。

図表3で紹介した、陶?によるCNFを活用した磁器の製造は、京都市産業技術研究所が素材メーカーと共に開発したCNF活用技術を転用したものです。前述の北川フェローは、「新たな磁器は順調に売リ上げを伸ばしているが、それだけでなく、1つのマッチングによって、工業用セラミックスの分野まで活用が期待できるようになった。CNFは一般に知られるようになってから日が浅いので、用途がどこまで広がっていくのか、まだ分からない。コーディネーターのマッチングによって、ニッチトップの企業や中小企業がCNFを活用できるチャンスが広がる。商品化しやすい分野から事例を積み重ねることでCNFの生産量が増えれば、製造コストも下がっていき、さらに用途が広がる」と、コーディネーターの意義を強調します。

また、自動車部品へのCNFの活用といった大きなプロジェクトには、異業種間の連携というマッチングも大切です。「パルプ直接混練法(京都プロセス)」と呼ばれる樹脂複合化方法を開発した京都大学生存圏研究所の矢野浩之教授は、「普及拡大のためには用途、出口に合わせた原料から最終品までの作りこみ、そのための異分野連携が必要です。CNFで自動車材料を作る取り組みが進んでいますが、製紙会社、化学会社、自動車部材会社、自動車会社で材料品質に関する意識が大きく異なります。この点の擦り合わせが普及拡大のカギです」としています。

3)品質および安全性に関する規格の標準化

CNFに関する国内外の規格が標準化されていないことも課題の1つです。海外ではCNFのことを「セルロースナノフィブリル」と呼ぶこともあり、用語としても統一されていません。CNFが市場で広く取引されるようになるには、CNFの定義付けをはじめ、素材や製品の品質および安全性に関する評価項目や評価方法、評価の表示方法などについての統一基準を整備する必要があります。

CNFに関する国際標準規格については現在、国際標準化機構(ISO)のナノテクノロジー専門委員会「TC229」で審議されています。日本は化学処理/物理解繊法の製造方法で生産されるシングルサイズ(超微細)のCNFを対象に、標準化についての提案を行っており、2021年度の発行を目指しています。

安全性については、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、産業技術総合研究所などが2020年3月に、「セルロースナノファイバーの安全性評価手法に関する文書類」を公開しています。

■NEDO「セルロースナノファイバーの安全性評価手法に関する文書類を公開」■
https://www.nedo.go.jp/news/press/AA5_101302.html

5 産学官連携で進む研究開発

国土の7割近くが森林である日本は、原料が豊富ということもあってCNFの研究開発に積極的に取り組んでおり、世界的にも先行しているといわれています。特に産学官が連携することで、開発ペースの加速につながっているようです。ここでは国内の研究開発体制を紹介します。

1)国の支援でCNFの実用化に向けた研究を推進

CNFの活用に関する国の支援事業は、基幹産業である自動車産業向けを中心に、家電や建築といった業種に重点が置かれています。2020年度は、CNFの実用化に向けた研究が進む見通しです。

環境省は2019年10月から11月に開催された東京モーターショーで、CNFを用いた軽量化自動車「Nano Cellulose Vehicle(NCV)」のコンセプトカーを初公開しました。研究機関や民間企業などが集まったコンソーシアムが開発したもので、ドアトリム、ボンネット、ルーフパネルなどの部品にCNFを活用。部品単体では最大5割程度、車全体で約13%の軽量化を実現しました。燃費の軽減や、素材の製造・廃棄・リサイクルなどを含めると、二酸化炭素の排出量を従来よりも約1割削減できる見込みといいます。

また、経済産業省と農林水産省は連携事業として、2015年度から2020年度まで、自動車や家電、住宅・建材などにCNF活用製品を活用するための早期社会実証を推進しています。2020年度は、CNF適用部材などを活用した業界横断型のマッチングを図るとともに、各技術の適用対象拡大ポテンシャルの調査を実施する方針です。また、CNF活用ガイドラインも作成することを予定しています。

この他、NEDOでは2020年度から2024年度まで、炭素循環社会に貢献するCNF関連技術開発を行っています。CNF製造プロセスのコスト低減の開発を行い、2030年度末にCNF複合樹脂の製造コストを1キログラム当たり500円以下にすることを目指しています。また、市場の比較的大きい分野での用途開発の促進や、量産効果が期待されるCNF利用技術の開発を行う計画です。こうした研究により、2030年度で年間373万トンの二酸化炭素の排出削減を目指しています。

2)素材開発を担う大学と民間企業

CNF開発の要所となる解繊の方法に関しては、大学の研究者を中心に研究が進められています。京都大学生存圏研究所、東京大学、九州大学大学院は、それぞれ独自の解繊方法を編み出し、民間企業に採用されています。

CNFの製造は、大手製紙メーカーを中心に、薬剤などの化学、繊維、機械などのメーカーが参入しています。多くは大学で開発された解繊技術を基にしていますが、独自に技術を開発している機械メーカーなどもあります。既に年間500トン規模の生産工場も稼働しており、こうした素材メーカーは自社だけでなく、希望する企業にサンプルを提供するなどして、用途および販路の拡大に取り組んでいます。

経済産業省近畿経済産業局および京都市産業技術研究所では、CNF関連サンプル提供企業の一覧を掲載しています。

■京都市産業技術研究所「セルロースナノファイバーの取組」■
http://tc-kyoto.or.jp/about/organization/planning/cnf.html

2020年4月には、経済産業省が主導した産学官による連携組織「ナノセルロースフォーラム」の後継組織として、民間企業が主体となってCNFの実用化・事業化の促進を行う「ナノセルロースジャパン」が発足しました。

3)地域で広がる産学官連携

CNFを地域経済の振興に結びつけようと、一部の地域では、CNFを活用した商品の開発に積極的に取り組んでいます。こうした地域には、CNFの製造開発を進めている企業の工場が立地していることが多く、素材メーカーの持つ製造技術を、主に地元をはじめとする中小企業による新たな商品開発に結びつけようと、自治体や公的研究機関が中心となって連携組織を作っています。自治体や公的研究機関は、補助金による支援の他、素材メーカーと地元企業とのマッチングにも力を入れています。また、地元の大学も商品化に貢献するような研究に取り組むケースが見られます。

国内の主な産学官連携組織は次の通りです。

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以上(2020年7月)

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全額損金算入? 源泉課税? 福利厚生費とみなし給与の違い

書いてあること

  • 主な読者:福利厚生を充実させたい経営者
  • 課題:経営者は福利厚生費のつもりでも、給与とみなされるものがある
  • 解決策:全ての社員に公平で、かつ、社会通念上妥当な金額とする

福利厚生費(法定福利費を除く)について税務上の明確な定義はありませんが、例えば、一般的には「役員、社員、パートおよびアルバイト(以下「社員等」)に対して医療、衛生、慰安、修養等の労働環境向上のために給付する手当等(給料および交際費に該当するものを除く)」であるとされています。例えば、慰安のために行う社員旅行費や、社員食堂での昼食の提供費などがあります。

税務上、福利厚生費は損金算入できますが、そのためには、その福利厚生費が全ての社員等に公平で、かつ、社会通念上妥当な金額のものでなければなりません。逆にこれらの要件に該当しない場合、社員等に対する給与(または報酬)とみなされ(以下「みなし給与」)、予期していない課税が生じる可能性があります。

1 福利厚生費とみなし給与

1)みなし給与の考え方

みなし給与とは、福利厚生の目的で給料以外の名目で支払われる手当等のうち、所得税法上「給与所得」とみなされるものです。所得税法上、支給により社員等が享受した経済的利益が社会通念上、相当であると認められない場合には、福利厚生費ではなく、みなし給与と判定されます。

みなし給与として所得税法上の給与所得に該当する場合、勘定科目が福利厚生費で計上されていたとしても、源泉所得税を徴収(以下「源泉徴収」)すべき費用となり、所得税および復興特別所得税(以下「源泉所得税」)が課されます

なお、以降では、福利厚生費を源泉徴収の必要がない費用、みなし給与を給与所得に該当し、源泉徴収の必要がある費用として解説していきます。

2)社会通念上とは

「社会通念上」について税務上の明確な定義はありませんが、一般的に通用している社会常識などと解されます。社会通念は不確定な概念であるため、一般的な事例については、所得税が課されるか否かについて、所得税法基本通達に判定の目安が示されています。また、実際に判断する際には、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

3)みなし給与と判断された場合の税務リスク

会社側で福利厚生費として処理していた支払いを、税務調査でみなし給与と判断された場合は、源泉所得税が追加的に課されます(以下「追徴課税」)。さらに、ペナルティーとして次の附帯税が課されます。

  • 源泉所得税を納付期限までに納付しなかったことに対するペナルティーとしての不納付加算税(納付すべき源泉所得税額の10%相当額)
  • 納付期限から実際に納付した期間に応じた利息に相当する延滞税(納付期限の翌日から納付する日までの日数に応じて計算した金額)

また、役員に支給した福利厚生費がみなし給与に該当する場合は、社員と同じく源泉所得税が追徴課税され、さらに、みなし給与相当額が法人税計算上の損金に算入されず、法人税についても追徴課税されます

2 福利厚生費になるか否かの判断に迷いやすい事例

会社が負担した費用が福利厚生費となるか、みなし給与となるかは、その費用の内容や支払いの経緯などから総合的に判断する必要があります。以降では、福利厚生費に該当するか否かが問題となりやすい一般的な事例を紹介します。

なお、原則的に源泉所得税が課される支払いについても、宿直・日直その他特殊な業務に従事しているなど一定の事情がある場合には、源泉所得税が課されないケースもあります。また、役員に提供する社宅など、役員に支給した福利厚生費については、取り扱いが異なる場合があるため注意しましょう。

1)社員等に支給するお祝い金等がある場合

社員等またはその親族の慶弔禍福(結婚・出産・入院など)に関して、会社の規程など一定の基準に従って支払われ、金額も社会通念上妥当なものについては、福利厚生費となります。具体的には結婚祝い、出産祝い、香典、病気見舞いなどです。

また、新型コロナウイルス感染症に感染した社員等に支給する一定の見舞金などについても、源泉所得税は課されません

2)社員慰安旅行を実施する場合

会社が社員等の慰安のために行った旅行で、社会通念上一般的なものに係る費用については、次のいずれの要件も満たしている場合に、原則、福利厚生費となります。 

ただし、会社が慰安旅行に参加しなかった社員等に対し、その参加に代えて金銭を支給する場合、または役員だけを対象として旅行費用を負担する場合には、みなし給与となり、源泉所得税が課される可能性があるので注意が必要です。

  • 旅行の期間が4泊5日以内であること。なお、海外旅行の場合には、外国での滞在日数が4泊5日以内であること。
  • 旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上であること。

3)社員等に食事を提供する場合

社員等に支給する食事の費用は、次の2つの要件をどちらも満たしている場合に限り、福利厚生費となります。そうでなければ、食事の価額から社員等の負担している金額を差し引いた金額が、みなし給与となります。

  • 社員等が食事の価額の半額以上を負担していること。
  • 次の金額が1カ月当たり3500円(税抜き)以下であること。
    (食事の価額)-(社員等が負担している金額)

4)社員等に借り上げ社宅などを提供する場合

会社が社員等に対して借り上げ社宅や寮などを貸与し、社員等から1カ月当たり一定額の家賃(一定の算式で計算した金額。以下「賃貸料相当額」)以上を受け取っている場合には、その借り上げ料と受取家賃の差額は福利厚生費となり、源泉所得税は課されません。なお、次の場合には、それぞれ扱いが異なるため注意が必要です。

1.無償で貸与している場合

賃貸料相当額がみなし給与となります。

2.社員等から受け取っている家賃が、賃貸料相当額の49%以下である場合

受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額がみなし給与となります。

3.社員等から受け取っている家賃が、賃貸料相当額の50%以上である場合

受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額は、福利厚生費となります。

5)特許等を受けるまでには至らない発明や工夫に対して報奨金等を支給する場合

社内提案制度など一定の基準に従って、作業の合理化、製品品質の改善や経費の節約などにつながる工夫・考案をした社員等に対して報奨金等を支払う場合には、次のように取り扱います。

1.その工夫・考案がその社員等の通常の職務の範囲内である場合

支払った報奨金等の金額は社員の給与となります。

2.その工夫・考案がその社員等の通常の職務の範囲外である場合で、一時に支給するもの

支払った報奨金等の金額は、社員等の一時所得となり、会社は源泉徴収の義務がありません。報奨金等が一定額以上の場合には、社員等本人が確定申告をする必要があります。

3.その工夫・考案がその社員等の通常の職務の範囲外である場合で、その工夫・考案の実施後の成績等に応じ継続的に支給するもの

支払った報奨金等の金額は、社員等の雑所得となり、会社は源泉徴収の義務がありません。報奨金等が一定額以上の場合には、社員等本人が確定申告をする必要があります。

なお、社員等が特許を取得できる発明をしたため、報奨金等を支給する場合等は、取り扱いが異なるので注意しましょう。

以上(2020年7月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 富永慎也)

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画像:photo-ac

販売力がアップする「売場づくり」の虎の巻

書いてあること

  • 主な読者:小売店の販売担当者
  • 課題:他店との差異化を図るために、売り場レイアウトを改善したい
  • 解決策:マグネット商品やPOPの設置など、見やすい売り場にするための陳列法を紹介する

1 顧客ターゲットを明確に

小売店の集客力は品ぞろえに比例します。実店舗の場合、豊富な品ぞろえを可能にするのは店舗の大きさであり、言い方を換えれば小売店の集客力は店舗規模に比例するといえます。

店舗スペースを有効に活用するには、取扱商品を絞り込む必要があります。例えば、得意な分野に特化した品ぞろえとすれば、大規模店など競合店との差異化につながり、集客力・販売力の向上につながります。

また、店には誰が買いに来るのか、または誰に売りたいのかを明確にしましょう。顧客は、居住地域、年齢、性別、職業、収入、趣味などで絞り込まれていき、最後は個人レベルにまで絞り込まれます。

2 見やすく買いやすい売場

1)通路

店には入り口と出口、店内を回遊するための通路が必要です。小規模店の場合、入り口も出口も同一のケースが多いでしょうが、スーパーなどのように店舗面積が広くなると、入り口と出口、通路の在り方が重要になります。

入り口と出口といっても、顧客を出口からは入れず、入り口からは出さないということではありません。店舗立地や人の流れから、メーンとなる入り口を設けて、それに対して出口を設けるということです。

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図表1の通り、どちらが入り口でどちらが出口でも問題ありません。店舗の立地上、道路の人の流れが右から左への流れが多ければ、右を入り口、左を出口とするのが自然でしょう。

2)売場構成

顧客にどのような順序で商品を見てもらうか。入り口から出口までの商品陳列に工夫をしましょう。図表2のレイアウトの場合、主通路に沿った塗りつぶし部分が主力商品の陳列スペースになります。

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主通路に沿った陳列スペースには、消費量が多く、購入頻度の高い商品を陳列します。消費量が多いということは生活必需品であり、購入頻度が高いということは来店時に購入される確率の高い商品ということになります。

食品でいえば、生鮮3品(青果、鮮魚、精肉)の他、パン、牛乳、納豆、豆腐、総菜などデイリー商品がこれに該当します。一方、米、味噌、しょうゆなどは毎日消費するものですが、購入頻度という点では当てはまりません。

電気店であれば、入り口付近には、電球、蛍光灯、電池、電気シェーバーなどの消耗品や小型家電を配置し、テレビや冷蔵庫などの大型家電は店の奥に配置するということになります。

3)顧客を店の奥へと引き付けるマグネット

顧客を店の奥へと誘導し、購入意欲を高めます。話題性のある商品、売れ筋商品、最先端の商品を顧客を引き寄せる「マグネット商品」として店の奥に配置します。スポットライトを当ててたり、近辺でイベントを行ったりするのも効果的です。

このようなマグネット商品は、常に同じものであると陳腐化し、マグネットとしての力が衰えます。マグネット商品は定期的に変更し、売場を常に新鮮で活気のあふれる雰囲気に保つ必要があります。

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3 陳列方法の工夫

1)エンド陳列

陳列台(什器)の両端の部分をエンドといいます。図表4の網掛け部分がエンドです。エンド部分は比較的目立つので、副通路に陳列してある商品の中で目玉商品といえるものを置くと、それに興味を持った顧客は副通路の奥へと進んでいきます。

また、副通路に陳列するよりもエンド部分に陳列したほうが、商品はよく売れると言われます。そこで、利幅が大きいなど販売政策上売りたい商品を意図的にエンドに陳列すれば販売数量の増加が期待できます。

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2)明るさ

人は暗い場所より明るい場所のほうが安心できるため、店の入り口は明るいほうが入店しやすいものです。また、顧客を店の奥に誘導するには、店の奥をさらに明るくする必要があります。

店全体を同じ明るさにするのではなく、入り口と店の奥を明るく見せるなどメリハリを付けます。また、離れた所から明るさの違いを表現するには、床よりも壁面に光を当てると効果的なため、壁面にライトを当てることがポイントです。

3)見やすさ

人の視線は、正面よりやや下方向を向いています。店内では顧客の視線は近くのものから店の奥に流れていくことになります。また視線は左から右へ流れやすくなっているので、通常、左側から右側へと視線が流れます。

右利きの人が多いことも影響しているのかもしれませんが、向かって左側よりも右側に商品を置いたほうがよく売れると言われます。また、腰から肩の高さが見やすく、手で触れやすいので、ゴールデンゾーンと呼ばれています。

4)並べ方

商品陳列をする場合、商品分類をはじめとして、ブランド別、価格別、色別、素材別、目的別などで商品グループをまとめます。見た目を意識すれば、形と大きさでまとめることになります。

しかし、定規で測ったような状態だと、それを乱すことを避けたいという意識が働きます。また、人は統一された中に秩序ある変化があると楽しさを感じるため、きちんとした中にあえて不規則な陳列を行うことがポイントです。

平面的に並べる方法と立体的に並べる方法がありますが、一般的に人は平面的に並べられたものより立体的に並べられたものに注目しやすく、強い印象を受けるため、エンド陳列など注意を引きたい場所は立体的な陳列にするとよいでしょう。

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5)目立たせるための演出

通常の什器陳列ラインよりも前に張り出させるエクステンド(張り出し)陳列で、他の商品よりも目立たせることができます。また、アイランド(島出し)陳列で、通路の真ん中に重点商品を置くのも目立ちます。

エクステンド陳列もアイランド陳列も、売場が整然としている場合に、有効な演出方法です。しかし、売場全体が張り出していたり島出しされていては、その演出効果がないばかりか、通路を塞いでしまうことになります。

6)沈黙の販売員「POP」

POP(Point of Purchase Advertising)は、販売時点広告という意味です。POPは商品内容、特徴、価値などを伝えることができ、ときに販売員の言葉以上に顧客の心をつかみます。

例えば、「私が作った野菜です」と生産者の顔とコメントが付いていたり、「私のお薦め品」と販売員の顔と名前、薦める理由が書いてあったら、顧客に興味を持ってもらえるでしょう。

4 楽しい雰囲気の売場づくり

1)行列と人だかり

行列や人だかりがあると人は興味を持ち、その行列や人だかりの先にあるものに価値を感じます。店や売場としては、この行列や人だかりによって、繁盛しているという印象を与えることができます。

行列を演出するには、店内と店外を問わず、多くの人の目につく入り口付近などで、特売コーナーや目玉商品を設置するのが王道です。ただし、行列が長くなり過ぎたりすると、逆に顧客のストレスとなるので注意しましょう。

2)ショッピングの楽しみ

ショッピングは、必要な商品を購買するだけでなく、商品を見たり、試したりする楽しさも含めた一連の行動です。そのため、店舗では必要な商品がそろっているというだけでなく、楽しいショッピング体験を提供してもらえるような工夫が求められます。

そこで、売場において顧客の関心を引いたり、購入動機を意識させる必要があります。そのためには、単に素通りしてしまう店ではなく、少しでも立ち止まり、商品を見て触れて試してみたくなるような売場演出の工夫が必要です。

一般的に、店での滞在時間に比例して、商品の購入確率が高まるといいます。自店だけでなく、競合店でも取り扱っている商品であっても、陳列の場所や見せ方によって売場の雰囲気は大きく変わり、顧客に商品をアピールすることができるでしょう。

以上(2019年4月)

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画像:unsplash

【事業承継】後継者候補となる従業員の見極めポイント

書いてあること

  • 主な読者:主な読者:後継者候補を見つけたい経営者
  • 課題:後継者候補を見つける際の参考となる考え方が知りたい
  • ポイント:ポジティブ、謙虚、勤勉を基準とする

1 経営者の根本的な仕事は2つ

経営者にとって「100年企業」は1つの夢です。この夢を実現するために経営者がやるべきことは、「利益を出し続ける」「人を育てる」です。企業は利益を出し続けなければ存続できません。そして、利益の出る事業を立ち上げて遂行するのは「人」です。そのため、経営者は人を育てなければなりません。

経営者が将来の経営幹部の卵を見いだすに当たって参考になるように、経営幹部に求められる素養をまとめます。

2 ポジティブであること

1)ポジティブだからつかめるチャンスがある

将来の経営幹部に求められる最も基本的な条件は、ポジティブ(前向き)であることです。ポジティブな経営幹部は組織に明るさと活力を与え、ビジネスのちょっとした変化からチャンスを見いだす可能性が高まるからです。

ビジネスでは「規制改革が行われた」「相手の担当者が変わった」など、常に変化があります。ここで、「新しい規制に対応すればチャンス」とポジティブになるのと、「この忙しいのに厄介だ……」とネガティブになるのとでは、次の行動の質が違います。

実際に規制改革がチャンスになるかどうかは分かりません。しかし、やってみなければ何も起こりません。であるならば、前に進むために行動を起こしたほうが可能性も広がります。

経営幹部が組織に与える影響は大きいものです。ポジティブな経営幹部が率いる組織は明るく積極的で、ネガティブな経営幹部が率いる組織は暗く消極的です。ビジネスチャンスをつかめるのは、ポジティブな経営幹部が率いる組織です。

2)失敗しても立ち上がる強さを組織に浸透させる

従業員がポジティブであるか否かは、日ごろの言動を見ていればある程度分かりますし、経営者があえて難題を任せてみるのも一策です。そのとき、「よし! やってやる」と前向きに取り組む姿勢が見られれば合格です。

中には、内心はやる気に満ちているのに、それを表に出さない従業員もいます。こうした従業員は、「やる気を見せたのに、失敗したら恥ずかしい……」と考えているのかもしれませんが、このような考え方は経営幹部としてはふさわしくありません。

「一勝九敗」という経営者がいるように、失敗することのほうが多いのです。そのため、経営幹部には、失敗しても何度でも立ち上がる心の強さが必要であり、それを組織に見せることで「折れない組織」をつくることができます。

3 謙虚であり、短慮でないこと

1)謙虚でなければ成長できない

経営幹部は、常に新しいことにチャレンジしなければなりません。とはいえ、自分一人でできること、学べることは限られています。そのため、経営幹部はたくさんの人と出会い、謙虚な姿勢で人と接し、多くのことを吸収していく姿勢が求められます。

従業員の謙虚さが垣間見られる1つの例は、上司からちょっと面倒な指示を受けたときです。指示の内容をよく考えもせず、反射的に「でも……」「難しいですね……」などと言っているようでは失格です(きちんと考えた上での回答ならば問題ありません)。

部下の立場で考えれば、上司の指示は大概面倒なものであり、「なぜ、そんな細かいことまで指摘されなければならないんだ」と感じることが少なくないはずです。しかし、上司は何らかの目的や意図がなければ部下に指示を出しません。

親の説教のありがたさが、年を取ってから分かるのと同じで、その場では分からないかもしれませんが、上司の指導は部下の成長を促すものです。この点をわきまえ、上司の面倒な指示に聞く耳を持てる従業員が経営幹部に向いているといえるでしょう。

2)短慮は単なる思考停止

ただし、謙虚に相手の話を聞くとはいっても、相手が言っていることや、目に見えたことだけで全部を把握したつもりになり、単純に物事を判断してしまうのでは短慮であると言わざるを得ません。

周囲の人が常に正しいことを教えてくれるわけではありません。上司の指示もしかりです。経営幹部になることを期待されている従業員であれば、相手の話を受け入れつつ、「本当にそうなのか? もっと良い方法はないのか?」と考える姿勢が必要です。

これは相手の話を聞くときに限ったことではありません。例えば、「Aさんが新規取引先を獲得して1000万円を売り上げた」としましょう。まずは同僚の成功を祝福する素直さと、次は自分が売り上げてやるという意気込みが必要です。

ただし、「Aさんはすごい! 1000万円の売り上げのおかげで今月の目標が達成できた。自分も頑張ろう!」と漠然と考え、それで終わっているようでは、経営幹部としては物足りません。

企業経営の観点からいえば、1000万円を売り上げた理由やその手法を分析し、横展開して再現することが重要です。成功は一瞬にして次の取り組みのプロセスに組み込んでいかなければならないのです。

Aさんがどのような営業手法を取ったのか、あるいはAさんの他にその活動を側面サポートしたBさんの功績が大きいのではないかなど、物事の本質を捉える姿勢は常に求められます。

これはとても大切です。経営幹部になると、自分の部下だけではなく、顧客や取引先も評価しなければならなくなります。経営幹部の役割は、目に見えることを正確に把握しつつ、それを深掘りして将来を見据えた戦略を検討・遂行することです。

4 勤勉であること

1)意気込みだけでは太刀打ちできない?

ビジネスは決断の連続です。正しい決断ができる確率を高めるには、会計・法務・労務など多分野にわたる正確な知識が不可欠です。そのため、経営幹部には、ビジネスの多分野にわたる正確な知識を貪欲に吸収し続ける勤勉さが求められます。

決断すべき事項や局面によって異なりますが、経営幹部として最低でもその分野の入門書と初級の専門書をそれぞれ1冊読むべきです。それらを読んだ上で生じた疑問を解消するため、専門家からコメントをもらう程度のことも必要でしょう。

一方、何かを決断する際、情熱や意気込みが重要だとする従業員がいます。確かに情熱や意気込みは不可欠ですが、知識が圧倒的に不足している状態で動くのは危険過ぎます。知識と情熱のバランスを取る必要があります。

2)勤勉+勉強好き=指導力

経営幹部は勤勉でなければ務まりませんが、加えて勉強好きであることが理想的です。自分が知らないことを一から勉強するのは楽ではありませんが、勤勉でしかも勉強好きな従業員であれば、楽しみながらコツコツと取り組むことができるでしょう。

一生懸命に勉強すれば「分からないことが分かるようになる」という、ごく当たり前のことを経験している従業員が経営幹部になれば、自身の経験も踏まえ、勤勉であることの大切さを部下に教えることができます。

部下がその影響を受けて勤勉になれば、組織全体の知識量が増えていきます。そうして蓄えられた知識や物事を学ぶ姿勢は、何か新しいことを始めるときだけではなく、既存事業の見直しの際にも役立ちます。

一方、勤勉でない人は知らないことから逃げる癖がついています。そうした従業員が経営幹部になると、自分が知らないことは部下に丸投げし、部下から上がってきた報告書の質を判断することもできず、そのまま上司や顧客に提出してしまいます。

従業員が勉強家であるか否かは、日ごろの仕事への取り組みを見ていれば分かります。知識は勉強量に比例して増えていくため、勉強している従業員の発言や報告書の内容は明らかにレベルアップしていきます。

これに対して、いつも同じことばかりを言っている従業員は勉強していない可能性があります。発言に進歩がないのは、勉強して自分の知識や意見をブラッシュアップしていない証拠だといえるでしょう。

5 全体の利益を考えられること

1)24時間仕事のことを考えられるか?

「24時間仕事のことを考えられるか?」というと、違法な長時間労働を強制したり、人権を無視したような言動を繰り返したりする「ブラック企業」を連想する人がいるかもしれません。

ここでいう「24時間仕事のことを考えられるか?」というのは、文字通りに24時間働くということではなく、「どれだけ当事者意識を持って仕事に取り組むことができるか」ということの1つの例えです。

経営者にとって仕事は自分の一部であり、夢の中で出てきたアイデアを枕元に置いてある紙にメモをすることもあるほどです。文字通り、「寝ていても仕事のことを考えている」わけです。経営幹部にも、こうしたマインドが求められます。

2)全体を意識して行動できるか

全体を意識して働くことは、当事者意識を持って働くということに他なりません。従業員が当事者意識を持つと、視野が広がり、自分のことだけではなく全体の利益を意識できるようになっていきます。こうした従業員の意識の変化は、ちょっとした行動にも表れます。

例えば、定期的に社内清掃をしている場合、従業員の動きを確認してみましょう。全体のことを考えている従業員は、いつも共用スペースの掃除から始めます。自分のデスクは日ごろから整理整頓されているので、すぐに共用スペースの掃除ができるのです。

自分を犠牲にするわけではありません。しかし、仕事と真剣に向き合うと、会社や同僚のために自分は何をすべきかを考え、それが言動に表れてきます。社内外の全体に目を配れる視野の広さや部下への配慮は、経営幹部が人を導く上で不可欠な素養です。

以上(2020年7月)

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歴史を未来に残す「社史」と「自分史」の制作

書いてあること

  • 主な読者:社史や自分史を制作したいと考える経営者
  • 課題:何を載せればいいのか分からない、どう作ればいいのか分からない
  • 解決策:制作の目的を明確にし、何を載せるべきか、どう進めるべきかを固める

1 「社史」制作を考える

周年記念事業などとして、社史の刊行を行う企業は少なくありません。それは次のような意義・メリットがあるからです。

1)未来への道標

社史制作は企業の未来への新たな道標を打ち立てる試みです。また、資料や情報の整理と保存という一面もあります。

2)歴史に残す

社史を残すことは、会社の歩んできた事実を残すことです。読んだ人がそこから多くを学ぶことで、最終的に会社に対する好意・親しみなどにつながります。

3)社員教育

特に若い社員にとって、自社の歴史への深い知識は仕事への意欲と誇りの源泉となります。その意味で社史は絶好の社員教育のテキストになります。

4)OB社員・取引先への謝恩、または社外へのPRのツール

社史の制作は、創業期から事業発展に尽くしてきた先輩の苦労をしのび、また、貴重なパートナーシップを長期間保ってきた取引先や関係者に謝意を表す上で、またとない機会となります。さらに、改めて広く社業をPRする強力なツールにもなります。

5)この他のメリット

「業界史としての意義がある」「経営上のヒントが得られる」「実際の業務に資料として活用できる」などのメリットも挙げられます。

2 社史の制作スタイル

現在では、社史の制作スタイルが多様化し、電子書籍など多様な媒体への挑戦も見られ、有用かつ利用しやすい社史の制作が進んでいます。

また、若い社員を意識して、読みやすさや親しみやすさを追求するビジュアル化の傾向も強くなっています。さらに、社歴を詳細に記録した「本格的社史」と併せ、創業期の苦労話などに重点を置き、読みやすくリライトした「普及版」を制作する企業もあります。

「社員のモラル向上」「企業の歴史の継承」といった観点からすれば、社内で取り組むことが望ましいといえますが、中には制作をアウトソーシングする企業もあります。

アウトソーシングのメリットは、スケジュールや品質の面で一定水準のレベルを期待できることです。

アウトソーシングする場合には、次のようなタイミングがあります。

1)社史の発刊が決まる前

社史の発刊のメリットやコストについて意見を聞くことができます。この時点での相談は、無料であるのが一般的なようです。

2)社史の発刊が決まったとき

制作過程全般についてアドバイスを受けながら話を進めます。この段階で、アウトソーシング先に見積書・企画書を提出してもらい、正式に制作を委託することになります。

3)資料収集が一段落したとき

資料収集の作業を通して社史に対するコンセプトが明確になっていくことが多いため、アウトソーシング先に企画案を提出する際に方向付けがしやすいことがメリットです。また、実際の資料に基づいて立案できることもメリットといえます。

4)原稿作成が一段落したとき

この段階で外部スタッフを導入すると、原稿内容のチェックやリライトをしてもらえるメリットがあります。

なお、アウトソーシング先に求められるポイントは次の通りです。

  • 社史についての制作キャリアがあり、ノウハウが体系化されている
  • 見積もりの細目についてきちんと説明ができる(コスト管理についてのノウハウがある)
  • 契約書を用意している
  • 書籍印刷についての管理が行き届いている
  • 企業の風土をよく理解できる
  • 社史を執筆するライターを豊富に抱えており、ライター管理も行き届いている(ただし、ライターは取材したことを原稿に起こしますが、社史の原稿をすべて記述してくれるわけではありません。多くの場合、社史編さんの担当部門が社史に掲載する原稿を各部門に依頼し、当該部門で原稿を作成することになります)

3 社史完成までの一般的なスケジュール

社史の完成までに要する期間は、資料の多寡や求めるレベルの高さなどによって決まりますが、最低1年程度と長期間に渡ることが多いようです。

その間に進められる作業は次の通りです。

  • 企画立案(基本コンセプト、製本形式やページ数、部数などを決定)
  • 資料収集・取材・撮影
  • 原稿作成(内容チェックと修正)
  • 編集・レイアウト作成
  • 校正作業
  • ブックデザイン決定(サンプル本を制作して検討)
  • 印刷製本
  • 納品

4 「自分史」の制作

「自分史」とは、個人が過去を振り返り、まとめたものです。経営者のみならず、一般の人の中にも自分史を制作する人は多く見られます。自分史は、次の2つのタイプに大別されます。

  • 過去の人生に起こった出来事について主に語るもの
  • その出来事に対する自分の感想を語るもの

実際の自分史ではこの2つが混然一体となっているケースが一般的ですが、詳細に見ると、やはりどちらかに力点が置かれているものです。

なお、自分史をまとめる際は、家族や知人のプライバシーに触れることもあるので、これらの人物に関する描写や掲載については、事前に本人の了解を得る必要があります。

自分史を製作する際の費用は大きく2つに分けられます。

  • ハード面:印刷費・紙代・製本などの費用
  • ソフト面:編集・装丁・校正・原稿作成などの費用

このうちハード面については、投入した予算の額が本の出来栄えに直結します。一方、ソフト面については若干の節約が可能です。例えば、原稿を自分で書くのであれば、原稿作成費用を省くことが可能です。

現在、さまざまな業態の企業が自分史の制作を扱っています。出版社もあれば編集プロダクションもあり、また印刷会社や新聞社の一部が自分史の制作を手掛けているケースもあります。

自分史の制作は、社史に比べるとハードルが高くないとはいえ、やはり読者を想定して書かないと客観性や統一性を欠く原稿になってしまうため、的確なアドバイスをしてくれる編集者の存在が不可欠です。

5 専門業者の活用

社史および自分史の制作に専門業者を利用する場合には、印刷会社・ライター・ブックデザイナー・レイアウター・編集者・カメラマンなどが関係してきます。

社史編さんの担当者や自分史の著者がこれらを自分で指揮して作業を進めることもできますが、最近では印刷会社、出版社、書店などが行っている「自費出版サービス」を利用するケースも増えています。

自費出版サービスの窓口には、主に次のものがあります。

1)印刷会社

自費出版を版下作成から印刷・製本といった「原稿を本の形にする」作業と捉えられば、最も安い費用でできるのは印刷会社となります。

しかし、自費出版に関わる作業は単純な版下作成や印刷・製本作業だけではなく、カバーデザインやタイトル・版型の決定・装丁のイメージ・文章の校正など、「編集」に関する作業が少なくありません。そして、多くの印刷会社ではこうした編集作業に関するノウハウを持っておらず、書籍づくりに関する具体的なノウハウについての助言は、多くを期待できないのが実情です。そのため、印刷会社を窓口に自費出版を行った場合は、こうした編集に関連する作業は原則として自分で行うことになります。

ただし、自社内に編集部門などがあり、編集に関するノウハウを持つ印刷会社も少数あります。こうした印刷会社であれば自費出版に関するアドバイスも期待できます。なお、印刷会社は出版社と異なり取次会社(注)に口座を持っていないため、取次会社を通した書籍の書店流通はできません。印刷会社を窓口とした自費出版を行い、なおかつ書店流通を行う場合には、自分自身で本を書店に持ち込んで陳列販売してもらうための交渉が必要となります。

印刷会社を窓口とした自費出版は、基本的には書店流通を考慮しない私家本として、費用を極力安くしたい場合や、デザインや編集に関するある程度のノウハウをもつ場合に適しているといえるでしょう。

(注)「取次会社」とは、出版社・小売書店の中間にあって、書籍・雑誌などの出版物を出版社から仕入れ、小売書店に卸売する販売会社のことをいいます。

2)自費出版専門会社

私家本を専門に取り扱う会社もあります、これは一種の編集プロダクションといえ、印刷会社での自費出版とは逆に編集に関するノウハウ提供を期待して利用するものです。

自費出版専門会社では、文章作成・原稿整理・校正・カバーデザイン・装丁などの編集作業を含めて自費出版を請け負ってくれます。

ただし、一般的な出版社ではないため、主要な取次会社の口座は持っていないのが通常です。こうした自費出版専門会社で出版した書籍を書店流通させるためには、印刷会社を通じた自費出版と同様に書店と直接交渉する必要があります。

3)出版社の自費出版部門や子会社

中小出版社の自費出版部門や大手新聞社・出版社の子会社が自費出版業務を行っているケースもあります。

これらの企業は書籍づくりに関してはプロであり、原稿作成から印刷・製本に至るまで総合的なノウハウの提供が期待できます。また、取次会社に口座を持っているため、出版物の書店流通も可能です。

ただし、書店流通を行う場合には、最低印刷部数の制限があります。また、「印刷部数のうち、書店配本を行うのは20%以内」といった制限が設けられるケースも多く見られます。なお、取次会社を通した書店流通のサービスは行わない会社もあります。

4)書店

書店で自費出版を行っているケースもあります。例えば、創英社/三省堂書店の自費出版サービスでは、打合せ・見積作成・編集作業・校正・印刷・製本・納品・配本まで一括して提供しています。また、当該自費出版物にはISBNコードを付与することが可能で、全国の書店に流通させることができます。

また、創英社/三省堂書店のISBNコード付きの自費出版物は三省堂書店グループで一定期間の陳列販売をすることができます。

6 印刷にかかる費用

印刷にかかる費用については、出版社から受けるサービスの内容や印刷方法について大きく異なるため、一概にはいえない面があります。

1)社史

社史や自分史などの受託出版を数多く手掛けている日本経済新聞出版社日経事業出版センター(以下「日経事業出版センター」)によると、社史の製作費の一例は次の通りです。

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費用はハード部門(印刷関係、製本代、製函代、用紙代など)とソフト部門(原稿料、写真撮影費、レイアウト・デザイン料、編集費、校正費など)に分かれます。総ページ数やカラーページの量、通史本文ページの執筆に伴う原稿料、撮影費などでハード・ソフト部門の費用が異なります。

2)自分史

日経事業出版センターによると、自費出版の製作費の一例は次の通りです。

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費用はハード部門(印刷関係費、製本代、製函代、用紙代など)とソフト部門(原稿料、写真撮影費、レイアウト・デザイン料、編集費など)に分かれます。

ハード部門ではページ数、カラーページの量、ソフト部門では原稿ができているか否か(ライターに依頼する場合)によって費用は大きく異なります。

7 社史の電子化・電子書籍化

インターネットの普及に伴い、社史および自分史を電子化・電子書籍化して出版・公開しているケースも見られます。電子媒体とすることで、パソコンやスマートフォンなどがあればいつでもどこでも閲覧することができます。また、音声データや動画も閲覧することができます。

最近では、自分で作成できるソフトも登場し、個人でも簡単に電子書籍による自分史を作成することができます。

現在のところ、社史および自分史においては、紙による書籍の出版が主流となっていますが、電子媒体のメリットである「文字の大きさを拡大できる」「音声データや動画も閲覧できる」「検索性に優れている」といった点を鑑みると、今後は電子書籍の利用がさらに進展する可能性もあります。

以上(2018年10月)

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経営者たる風格をまとうための処方箋

書いてあること

  • 主な読者:経営者として恥ずかしくない立ち居振る舞いをしたい経営者
  • 課題:心がけているつもりだが、本当に経営者として相応しいか疑問
  • ポイント:評価は周囲がしてくれるもの。日々、真摯に活動する

1 ビジネスにおいて重要な「印象」の効用

1)「見た目」が重要?

人は出会ってからわずか数分間の第一印象で、相手のイメージを固めているそうです。第一印象の決め手は人それぞれで、出会った状況にも影響を受けます。しかし、一説では「見た目」が大きな影響を与えるようです。

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表情やしぐさなど、見た目に関することが55%と高く、話の内容に関することが7%と低いのは意外です。これは、米国の心理学者であるアルバート・メラビアンが行った非言語コミュニケーションに関する実験結果を応用した考え方だといわれています。

この考え方には、さまざまな説があったり、前提条件があったりするため、「『見た目』が一番」と単純に結論付けることはできません。しかし、日ごろ、自分が相手のどこを見ているのかという実体験からも、「見た目」の重要度が分かります。

2)「好印象」がもたらすメリット

第一印象は強烈に刷り込まれます。仮に、第一印象が「しっかりしていそうな人」であれば、わずか数分のうちに、ある程度、相手の信頼を得られます。逆に、第一印象が「頼りない人」であれば、それを覆すのには苦労します。

一方、深く話し込んでいくうちに、最初のイメージが変わってくるのはよくあります。ただし、これは相手との付き合いが長く続くことが前提であるため、やはり最初に「もう一度、この人に会いたい」と相手に思ってもらうことが重要です。

2 「好印象」は経営者にこそ必要

相手に与える印象の大切さは、経営者こそ認識しなければなりません。経営者は、その存在自体が企業のブランドであり、周囲の人は経営者自身が思っている以上に経営者のことをよく見ているからです。そして、周囲の人は、経営者の「見た目」「しぐさ」「話の内容」などから、経営者自身や企業の実力を推し量っています。加えて、経営者はその対外的な立場(役職)上、出会ったときから高いハードルを相手から課せられています。にもかかわらず経営者の印象が悪いと、相手はがっかりします。

そうならないために、経営者は印象と言動の一貫性を心掛けましょう。つまり、相手が抱いている「この経営者ならこんな言動をしてくれそうだ」といった期待を裏切らない言動を取るのです。印象と言動が一貫した経営者は、相手から見て頼もしく感じられます。その頼もしさは、経営者にふさわしい風格へとつながります。

風格のある経営者は、対内的にも対外的にも強い求心力を発揮します。人を引き付ける魅力を持つことは、ビジネスの可能性を広げる上でとても重要な要素です。以降では、風格のある経営者になっていくための心構えを紹介します。

3 ギャップを認識し、理想の自分像を固める

1)鏡の姿は本物ではない?

日ごろから大勢の人と接し、また皆の手本にならなければならない経営者は、自分が周囲にどのような印象を与えているのかを気にしています。そのため、例えば見た目については、髪形やひげの手入れをしっかりしていますし、身に着けるスーツや小物にもこだわります。

そして、毎朝、鏡に自分の姿を映し、清潔感があるかなどをチェックするわけですが、鏡に映っている自分の姿を見て、「これでよし!」と考えるのは早計かもしれません。なぜなら、鏡に映っているのは、自分を鏡に映す数十秒のためにポーズを決めた“よそ行き”の姿だからです。

鏡に映ったよそ行きの姿は、背筋がピンと伸び、引き締まった真剣な顔あるいは爽やかな笑顔のはずです。しかし、よほど意識していなければ、その姿を長時間キープすることはできません。ふと気を抜いたときの姿は、頼りないものかもしれません。

話し方やしぐさも同様です。気が緩むと、無意識のうちに経営者にふさわしくない言葉遣いになってしまったり、へらへらと軽い印象を与えるしぐさになっていることがあります。そして、そうした経営者の姿を周りの人たちは確実に見ています。経営者が考える自分の姿と、周りの人たちが見ている実際の姿にはギャップを認識しましょう。

2)理想のモデルを見つけ、徹底的にまねる

経営者は理想の姿を明確にイメージしましょう。例えば、「ビジネスに情熱を燃やす、熱い経営者」といった感じです。ただ、これでは漠然としているので、伝説の経営者、現役の経営者の他、ドラマの主人公など「あの人のようになりたい」という具体的なモデルを決めます。そして、話し方や声の大きさなどを徹底的にまねしてみましょう。それを継続していくと、役者が役作りをするように、自分自身に理想のモデルが刷り込まれていきます。

なお、手本とするモデルは、身近にいるメンターが理想です。ビジネスは刻々と変化し、1つとして同じ状況はありません。伝説の経営者の姿勢から学ぶのも大事ですが、経営者にとっては「今、そのとき、どのように行動すべきか」が重要です。その都度、相談できるメンターが手本であれば、実際に話をしながら学び、すぐに実践することができます。

4 見た目や話し方にこだわるが、型にははまらない

1)「見た目」に投資する

「自分は服装にこだわりがないし、それは仕事の質に関係ない」と考える経営者もいます。しかし、それはあくまでも経営者の個人的な考え方です。服装がだらしなければ、周囲はマイナスの印象を持ちます。

今では、夏場のクールビズやスーパークールビズが普及し、ノータイ、ノージャケットでも違和感がなくなりました。また、業種によって異なりますが、会談にジーンズ姿で現れる経営者もいます。しかし、いくら時代の流れとはいえ、大切な会談の場にジーンズ姿やよれよれのワイシャツで現れる経営者がいたら、違和感を覚える人が少なくないでしょう。

また、「服装など見た目に気を使えない人は、仕事も大ざっぱで、細かなことに気が付かないのでは?」と考えられてしまいます。華美な格好をする必要はありませんが、経営者にふさわしい格好を心掛けなければなりません。イメージコンサルタントに相談すれば、パーソナルカラーや似合う髪形などを診断してくれるので、そうしたサービスを利用するのも1つの方法です。

2)マナーにこだわり過ぎない

正しい言葉遣いや礼儀正しい立ち居振る舞いは、相手にプラスの印象を与えます。ただし、マナーを意識し過ぎるのも問題です。例えば、せっかく面白い話をしているのに、表情は真面目なまま、手は膝の上かテーブルの上で重ねられたままだと、相手はロボットと話をしているような感覚になってしまうかもしれません。

また、相手が「もう、かなり打ち解けたつもり。あるいは打ち解けていきたい」と考えて、少しラフな話し方を織り交ぜてきているのに、こちらが常に真面目なだけの一本調子だと、相手が「この経営者は、こちらと打ち解けるつもりがないかもしれない」と勘違いします。同様に、経営者が終始表情を変えずに真面目な顔をしていると、相手に「この経営者には余裕がないのではないか?」と思われることもあります。

マナーを重んじるのは大切です。しかし、しゃくし定規では面白みがなく、相手と深く打ち解ける機会をなくしてしまうことがあるので注意が必要です。難しいのは、どの辺りまでマナーを崩してよいかというレベル感ですが、基本的に基準は相手にあります。

つまり、相手が打ち解けてきたら、相手よりも少しだけ礼儀正しくしていればよいのです。これであれば、常に相手よりも礼儀正しいことになるため、相手から「失礼だ!」と思われることはないでしょう。

5 常に謙虚な姿勢で、物事に応じて力強く主張する

1)本業はしっかり突っ込む、それ以外も人より突っ込む

相手と話をする際は、話の内容や相手の立場(こちらとの力関係)に応じて、話す時間と聞く時間のバランスを考えましょう。中には、相手が話している話題を強引に自分の話題に置き換え、自分の話ばかりをする経営者もいるようですが、これでは相手に自分勝手な印象を与えてしまいます。

ただし、どのようなシーンであっても、経営者は「自分の会社の本業」(以下「本業」)については、時間をかけてしっかりと話さなければなりません。経営者たるもの、本業について誇りを持ち、誰にも負けないくらいに深く突っ込んで考えていて当然です。

逆にそこが不十分で、本業について質問を受けても「よく分からないのですが……」とか、「そこについては情報が不足しておりまして……」といったような回答しかできないようでは、相手に不信感を与えてしまいます。

加えて、本業に関係のないことについても、他の人よりも少しだけ深く突っ込んで情報収集し、自分なりの考えをまとめておく習慣をつけましょう。相手は、「経営者なのだから、自分なりの主張があって当たり前」と考えています。新聞の一面やテレビのニュースで報じられた内容をそのまま話すのではなく、そこに自分なりの考えを加えると発言に重みが出てきて、相手は「やはり、経営者は物事を深く考えているな」とプラスの印象を持ちます。

2)威張るのは論外、しかし主張を控え過ぎるのも影が薄い

経営者の社内での権限は大きなものであり、大抵のことについては自分が思うように社員に指示することができます。社員を導くことは経営者の役割であり、強いリーダーシップを発揮したいものです。社外の人に対しても同様です。企業を代表する経営者の影響力は社外でも強く、皆、経営者がどのような発言をするのか注意深く見ています。

しかし、これを「自分の力」と勘違いしてはいけません。社内と社外を問わず、経営者という役職に対して敬意を払っている人も多く、必ずしも経営者自身の人間性を認めているわけではありません。そのため、経営者は謙虚な姿勢を崩すことなく、どのような相手に対しても真摯に接することが基本です。

6 自信は周囲が与えてくれるもの

経営者は自分に自信を持ちたいと思っています。企業経営の根幹に関わる決断をしなければならない経営者にとって、自分の能力や決断をどれだけ信じられるかが勝負の分かれ道になることもあります。

しかし、経営者の実感としては、「よし、うまくいったぞ!!」という感情は一瞬にして過ぎ去ります。逆に「あのとき、こうしていれば違う結果になったかもしれない……」という感情に支配される時間が長くなりがちです。

このようなとき、もっと自分や社員を信じて頑張ろうと自分自身を奮い立たせます。ただし、無理やり自信を持とうとしてみても、なかなか自分の意識の中に定着していきません。そのような自信は、から元気のようなものだからです。

自信は周囲が与えてくれるものです。例えば、会社の業績が好調ならば、自分のやってきたことは間違いなかったと自信を持つことができます。あるいは、社外の人から「この前の商品は着眼点が素晴らしいですね。ぜひ、話を聞かせてください」などと言われると、素直にうれしい気持ちになり、そうした成功体験は大きな自信となります。

そして、周囲から与えられた自信を定着させていくために必要なのが、たゆまぬ努力です。自信が持てるような成功体験をしたら、それに慢心することなく成功の要因を探り、次にもっと素晴らしい成功を収めることができるように努力しなければなりません。

こうした取り組みを通じて、周囲から与えられた自信が自分の中に定着し、いざというときに「あのときも頑張れた。今回だって成功させてみせる!!」というポジティブな考え方につながっていきます。

そうしたポジティブで情熱的な経営者は、周囲に「元気」を与えます。相手に好印象を与える要素には、「見た目」「しぐさ」「話の内容」などがありますが、それ以上に、経営者の場合は「情熱」が求められるでしょう。

以上(2019年4月)

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タフな交渉だからこそ前に出る/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 経営者ならではの考え方

社員には理解してもらえないが、経営者仲間で話をすると「そうそう!」と分かり合える、経営者ならではの考え方があります。会社の成長、自分と家族の生活、社員とその家族の生活、社会への貢献などについて責任を負う経営者は逃げられません。

それが社員との視点の高さや広さの違いとなり、経営者ならではの考え方につながっています。経営者が社員と同じレベルで考えているようでは物足りませんが、その一方で、独り善がりになるのも問題です。

今回は、「経営者の英才教育が部下を潰すこともある」「縁の下の力持ちの生産性を高める」「タフな交渉だからこそ前に出る」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者ならではの考え方と、独り善がりにならないためのポイントを紹介します。

2 経営者の英才教育が部下を潰すこともある

部下を平等に扱おうと考える上司は少なくありません。今どきは、パワーハラスメントなどの問題もあるので、日ごろの接し方はもちろん、処遇もあまり差をつけないほうが無難であるという考えが広まっているためかもしれません。

しかし、多くの経営者はこのようには考えません。部下の能力や就業姿勢、会社への貢献度には顕著な差があるため、そもそも平等に扱うこと自体が平等ではないのです。実際、経営者は「見込みがある!」と感じた社員に英才教育をします。

例えば、今のその社員の実力では対応が難しい仕事を任せてみたり、年上のメンバーがいるチームをマネジメントさせたりします。そして、壁にぶつかった社員がどのように対応するのかを観察し、必要に応じてサポートしながら、困難に向き合う考え方や、それを克服する手法を教えていきます。

ただし、経営者の英才教育を受けて成長できるのは、素養と熱意がある社員だけです。「困難を乗り越えて成長したい。足りないことは勉強する」と考える部下は、経営者の指導を意気に感じて仕事に打ち込むでしょう。

しかし、そうした気持ちがない、あるいは壁を突破できずに気持ちが後ろ向きになってしまった部下は、経営者の期待をプレッシャーに感じます。その部下はやがてやる気を失い、ボタンの掛け違いが起こるとパワーハラスメント問題に発展したり、会社を辞めてしまうこともあります。

良い意味でひいきをするのが経営者の考え方ですが、場合によっては優秀な社員を失ってしまう恐れがあることも忘れないようにしましょう。

3 縁の下の力持ちの生産性を高める

パレートの法則は、俗に「28の法則」や「262の法則」と呼ばれるもので、「収益の80%は、上位20%の顧客から生まれている」というのが基本的な考え方です。最も効果が大きいところに注力するのが経営の定石なので、収益を上げるには上位20%の顧客にアプローチすることになります。

また、パレートの法則は社員の働きぶりに当てはめて議論されることもあります。その内容は「社員は優秀な20%、普通の60%、いまひとつの20%に分かれる」というもので、定石通りなら、優秀な20%の社員を重視したマネジメントをすることになります。

しかし、多くの経営者はそうした組織運営ではうまくいかないことを知っていて、普通の60%やいまひとつの20%に配慮します。なぜなら、優秀な20%の社員が輝けるのは、その他80%の社員のサポートがあるからです。それに、優秀な20%は放っておいても成果を上げます。経営者はそうした社員に権限を与え、任せておけばよいのです。

手が掛かるのは残りの80%の社員です。優秀な20%が立ち上げたビジネスを、実務家としてこなすのは普通の60%の社員、さらに役割分担の隙間に生じる、単純だが面倒な仕事をしているのはいまひとつの20%の社員です。そうなると、普通の60%の社員といまひとつの20%の社員をマネジメントすれば、全体の生産性が高まりやすくなるのです。

ただし、20%、60%、20%の割合を意識し過ぎてはいけません。この割合は社員の能力を相対的に比較した結果です。仮にドリームチームであっても、20%、60%、20%が生じます。

また、上位20%にいる社員が常にそこに居続けられるわけではありません。とても優秀な社員が入ってくれば、それに押し出されて普通の社員になる優秀な社員が出てきます。この社員のフォローを怠ると、直前まで優秀な社員のグループにいた貴重な戦力がやる気を失ってしまいかねません。

経営者は、縁の下の力持ちになっている社員のマネジメントをすると同時に、相対的に生じる20%、60%、20%だけではなく、個々の社員の業務遂行力の総和を高める努力をしなければなりません。

4 タフな交渉だからこそ前に出る

大幅な減額要請やライセンス契約の打ち切りなど、ビジネスではタフな交渉に臨まなければならないことがあります。このようなとき、「今回は守勢に回らざるを得ない」と身構える人が多いでしょう。相手を怒らせないことが肝心だと思っているからです。

しかし、経営者はそのようなときこそ強気に出るという選択肢も持っています。日ごろ、相手の要求をできるだけ受け入れながら低姿勢でビジネスを進めるのは、こびへつらうわけではなく、いざというときにきちんと主張するためです。大幅な減額要請などを受けたとしたらそれは緊急事態です。

また、相手もそれなりに検討しての結果のはずなので、こちらが気を使ったところで要求が緩和されることはほぼないでしょう。また、相手の要求を簡単に受け入れて、「すんなりと減額できた」と軽い印象を残すのもよくありません。

そのため、社員から見て守るしかないというときに、経営者は前に出る選択をすることがあるのです。普段はおとなしいこちらが強く主張すると、相手の機嫌を損ねるかもしれません。結果的に大きな減額を受け入れざるを得なくなったとしても、そこに至るまでのプロセスは全く違ったものになります。その場は厳しい結果になっても、こちらの誠意と熱意を伝えることで、次につながる可能性があります。

ゼロサムの交渉で損失を食い止めることを重視するか、最悪の事態も覚悟した上でプラスサムを目指すのか。どちらが正しいかはケース・バイ・ケースですが、大事な局面でこそ、経営者ならではの発想で進むべき道を決断しなければなりません。

ただし、こうした交渉ができる前提は、日ごろからきちんとサービスを提供していることです。ミスが頻発しているなど、相手のこちらに対する評価が低い状態で強い交渉に臨めば、その場で契約解消の話が出てきても不思議ではありません。このようなときこそ、経営者は窓口になっている社員の言葉に真摯に耳を傾けなければなりません。

以上(2020年7月)

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不確定な未来に何を夢見るかが勝負/成功する経営者に欠かせない思考習慣

書いてあること

  • 主な読者:さらに成長するためのヒントが欲しい経営者
  • 課題:自分の考え方をバージョンアップするためにもがいている
  • 解決策:他の経営者の思考習慣も聞いてみる

1 経営者ならではの考え方

社員には理解してもらえないが、経営者仲間で話をすると「そうそう!」と分かり合える、経営者ならではの考え方があります。会社の成長、自分と家族の生活、社員とその家族の生活、社会への貢献などについて責任を負う経営者は逃げられません。

それが社員との視点の高さや広さの違いとなり、経営者ならではの考え方につながっています。経営者が社員と同じレベルで考えているようでは物足りませんが、その一方で、独り善がりになるのも問題です。

今回は、「誰かに相談されたら全力で答える」「“生煮え”の状態でビジネスをスタートさせる」「不確定な未来に何を夢見るかが勝負」という3つの思考習慣を取り上げます。経営者ならではの考え方と、独り善がりにならないためのポイントを紹介します。

2 誰かに相談されたら全力で答える

ビジネスに関して、他人からアドバイスを求められることがあります。自分の得意分野や、かつて経験したことがある事柄ならば、自信を持って回答できるでしょう。しかし、そうではない場合、多くの人は「間違えたことを言ったら格好悪い」などと考え、いつものように話せなくなります。

この点、多くの経営者は、そうした態度を取ることは逆に相手に対して失礼であると考えています。相手と自分の立場を入れ替えて考えれば、その理由は明らかです。人は、本当に悩んでいて、「その人に相談したい!」と思うから、真剣にアドバイスを求めてくるのです。にもかかわらず、自信なさげだったり、“逃げを打って”当たり障りのないことしか言わなかったりするのは、相手の思いを軽んじることにつながります。

多くの経営者にはメンターがいます。そして、本気で悩んだときにメンターにアドバイスを求めます。日ごろ、こうした経験をしている経営者は、自分がアドバイスを求められれば、当たり前のように全力で答えるのです。

ただし、たとえ経営者に「相手に礼を尽くす」という思いがあっても、的を射ない話ばかりでは、相手の問題解決にはつながりません。少し見方を変えると、その相手は別の誰かに相談したほうが有意義なアドバイスを得られた可能性があり、この点において機会損失が発生していることになるのです。

大切なのは、相手の問題解決をサポートすることです。もし、有意義な回答ができそうもないときには、「私も少し考えてみるから、日を改めて話そう」と言って、経営者自身の考えをまとめる時間を確保したり、「その点については、私よりも○○さんのほうが、良いアドバイスをしてくれると思うよ」といったように、別の選択肢を示したりすることも大切です。

3 “生煮え”の状態でビジネスをスタートさせる

多くの社員は、ビジネスプランは細部まで徹底的に練り込んだほうが成功の確率が高くなると考えています。同時に、社員は失敗を過度に恐れて弱気になり、その時点では見えるはずのないものまで見ようとしていることもあります。

経営者も、細部まで練り込んだビジネスプランのほうが好ましいことは分かっています。ただし、そこまで調査するには時間がかかり、他社に先を越されてしまうリスクがあることを懸念しています。また、そもそもその時点でどんなに考えてみたところで、「やってみなければ分からない」ことがビジネスには多いことも知っています。

そのため経営者は、“生煮え”の状態でビジネスのスタートを切ります。ここでいう“生煮え”とは、思いつきに近く、突っ込みどころ満載の状態のことではありません。もっと詰めなければならないところはあるものの、それは実際にビジネスを進めながら解決していけばカバーできると思えるレベルです。社員が「失敗したくない」と考えるのに対し、経営者は「やってみなければ、成功も失敗もない」と考えています。

このことを感覚的に理解している社員もいます。しかし、“生煮え”のレベルは分からないことが多々あり、多くはそこで思考停止となり、活動を前提とした準備をしません。そうした状態で、経営者がアクセルやブレーキを踏むことになるため、社員は驚いてしまいます。経営者にとっては当たり前のタイミングでも、社員にとっては急発進、急停止に感じられることがあります。これではトラブルが起こりかねません。

そこで経営者は、できるだけ明確にアクセルとブレーキを踏む根拠、つまり“生煮え”のレベル感を社員に示し、社員が態勢を整える時間を与えた上で、実際にアクセルとブレーキを踏むように心掛けなければなりません。経営のかじ取りは経営者の役割ですが、現場でオペレーションをするのは社員です。現場が混乱した状態では、ビジネスで良い成果を期待するのは難しいのです。

4 不確定な未来に何を夢見るかが勝負

ビジネスは不確定要素の連続です。これがビジネスの難しさであり、面白さでもあるのですが、このことを言い訳にする社員が少なくありません。「先のことなど分からないのだから、もう少し先が見えてきてから動こう」といった具合です。

確かに未来のことは誰にも分かりませんが、経営者がこのことを言い訳にすることはありません。むしろ、ビジネスチャンスであると前向きに捉えています。なぜなら、未来を誰も知らないということは、大企業も中小企業も平等な状態にあるということであり、発想と行動力次第では、大企業に先駆けて成功できるチャンスがあるということだからです。

そのため、経営者は寸暇を惜しんで情報収集をします。そして、自分なりに未来のイメージを固めていきます。例えば、将来人口推計のように、今の人口動態からある程度明らかになることがあります。また、特にテクノロジーの進化によって実現するだろうという仮説が立てられるものもあります。自動運転のようなものです。

こうした断片的な情報をつなぎ合わせて、例えば「未来の世界に、『あらかじめスマートフォンやカーナビゲーションに病院や介護施設を登録しておけば、高齢者が運転しなくても、自動運転で安全に目的地に行けるサービス』があれば、きっと市場に受け入れられるだろう」などと、具体的なビジネスプランに落とし込んでいくのです。

未来は分からなくて当然であり、やらないことの言い訳にはなりません。また、分からないといいつつも、既に実現することが明らかな未来があるのも事実です。経営者は、情報収集を通じて国内外の新旧のビジネスモデルを知ることに余念がなく、常に想像力を膨らませてリアルのビジネスに結び付けるヒントを探っています。これはとても大切なことなのです。

ただし、不確定要素を独り善がりにつなぎ合わせて、都合の良い未来像ばかりを思い描くのはいけません。自分の考えについて社内外の人から意見を求め、行きつ戻りつの“思考実験”を繰り返すことを忘れないようにしましょう。

以上(2020年7月)

pj10028
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信頼される会社作りの第一歩

書いてあること

  • 主な読者:社外からの評価を高めたいと考える経営者
  • 課題:自社の評価をどう高めればいいのか分からない
  • 解決策:納得感のある経営・収支計画書を用意する他、金融機関や取引先に明確に業況説明できるようにする

1 自社の評価が気になる

経営者にとって、自社の評価はとても気になります。その評価が、ビジネスに少なからぬ影響を及ぼすからです。分かりやすいのは、金融機関からの借り入れです。金融機関の評価が高ければ、よい条件で資金調達ができます。

この他にも、SNSの評価によって人材が採用しやすくなったり、しにくくなったりすることがあります。これまで広報担当をおいていなかった中小企業が自社のブランディングに乗り出しているのはこのためです。

これまで以上に自社の評価が気になる時代。経営者はどのような取り組みをすればよいのでしょうか。ここでは、金融機関や取引先など、社外からの評価を高めることを想定し、そのポイントを紹介していきます。

2 経営・収支計画書に具体性はあるか?

社外の人は、会社の経営・収支計画書(以下「計画書」)に注目します。特に数字には「具体性」が求められます。例えば、今期の売上予測を、「政府の〇〇という政策の追い風に乗って、対前年度比30%増の見込み」といったように曖昧に記述している場合は、見直しが求められるでしょう。

この例では、売り上げが対前年度比30%増になる根拠を「○○という政策」という一言で表現していますが、これでは売上の増加につながる具体的な要因が分からないので、社外の人はその内容を信用してくれません。この場合、成長戦略が具体的にどのような追い風になっているのかを示す必要があります。例えば次の通りです。

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数字には必ず根拠があります。その根拠を明確に示すことで信頼性が高まります。図表1では「新規の受注先の獲得」とだけありますが、実際は件数や金額についても必要に応じて記述するようにします。

なお、数字はあくまでも予測です。そのため、販売価格下落や原価高騰などマイナス要因が発生する可能性を安易に排除せず、「販売価格は低めに、原材料価格は高めに」といったように、保守的に作成することが基本です。

とはいえ、数字の見せ方には工夫が必要です。真実の数字を記述しますが、「絶対額で示すか、比率で示すか」「前年度対比で示すか、計画比で示すか」「売り上げを強調するか、利益を強調するか」などに気を配ると、計画書の迫力が違ってきます。

最後に、ありがちなパターンとして、売上は伸びているのに、売上原価や販売費及び一般管理費(以下「販管費」)は変化しないといった計画書を見かけますが、これは問題です。

通常、売り上げの伸びに応じて売上原価や販管費も相応に増えていくため、この点も明確にしましょう。その際、売上原価や販管費が伸びている理由が、将来への投資なのか、現状維持のためなのか、計画外の支出なのかも明確にします。

3 各種指標の数値は良好か?

経営者はキャッシュフローの重要性は理解しているはずです。これは社外の人も同様です。社外の人は、さまざまな資料を見て自社を評価していますが、営業キャッシュフローは特に注目される指標です。

企業の成長ステージや経営者の考え方によって方針(投資するか、しないか)は変わるものですが、少なくとも「営業キャッシュフロー」はプラスを維持しなければならないでしょう(創業間もない企業などの場合は別です)。

仮に、営業キャッシュフローがマイナスになっている場合、その理由と今後の状況についてきちんと説明できなければなりません。特に金融機関との関係構築は経営者の重要な仕事です。「事実をきちんと説明する責任」が経営者にはありますし、そうした真摯な姿勢は少なからず評価されるでしょう。

営業キャッシュフローと同様に、正味資産も重要な指標です。正味資産とは、総資産から不良債権・在庫、償却不足や仮払金などを控除し、保有資産の時価と簿価の差額を加減した数字です。つまり、真水でどれだけの資産があるかを示したものであり、これが大きければ、一時的な経営悪化は乗り越えられる可能性が高くなります。

社外の人は自社の簿価ばかり見ているわけではなく、正味資産などから本当の力を探っています。経営者は自社の正味資産を把握し、その内容についてきちんと説明できるようにしておかなければなりません。

4 取引先の状況を管理しているか?

社外の人の自社に対する評価を高めようとする場合、自社の内部だけではなく、取引先など社外にも目を向けてみましょう。例えば、取引先は大切なパートナーですが、その経営状況に注意しておかないと、取引先に万一のことが起きた際、自社にも影響が及びます。

「急に取引先が破綻し、売掛金を回収できなくなった」といったことがないように、日ごろから「取引先チェックシート」(仮称)を用いて取引先の経営状況を把握しておきましょう。取引先の経営状況がある程度把握できることに加え、気付かないうちに反社会的勢力と取引してしまうリスクも低減できるでしょう。

取引先管理では相手の決算情報を把握することが基本です。これについてはIR情報や四季報、各種企業情報データベースはもちろん、同業他社に業況を尋ねるなどして、取引先の状況に関する情報を把握するとよいでしょう。金融機関の経営サポートサービスに調査サービスがある場合は、これを利用するのも一策です。

また、日々の経営においては「取引金額の推移」に着目しましょう。特段の理由がないにもかかわらず取引金額が大きく増減していたり、入金・支払いサイトが変更されていたりしないでしょうか。

もしそうならば、取引先に何か変化があったサインかもしれないので、きちんと確認しましょう。例えば、入金・支払いサイトに変更があったときであれば、取引先で焦げ付きや資金繰り上の問題が発生している可能性があるので注意が必要です。

自社がこのように取引先管理をしていることを、必要に応じて社外の人に説明するようにしましょう。社外の人は、自社のみならず関係する取引先なども含めて総合的に自社を評価するものだからです。

5 取引金融機関と良好な関係を築いているか?

取引金融機関と良好な関係を築くための基本は、「経営が安定しているときも、不安定なときも、経営者や経理担当者が取引金融機関に出向き、業況についてきちんと説明する」ことです。

また、金融機関の担当者が定期的に訪問してくれるならば、資金繰りや計画書に関するアドバイスを求めるとよいでしょう。その際、金融機関から明確な答えを得ることよりも、担当者とコミュニケーションを図ると同時に、自社の状況を理解してもらうことが大切です。

このようにコミュニケーションを深めつつ情報開示を行うことは、いざというときに効果を発揮します。資金繰りが苦しくなる見通しが生じても、それまで適宜伝えた情報を踏まえ、金融機関と対策を考えることができるからです。

なお、取引の規模にもよりますが、経営者や社員による個人名義取引も意味があります。金融機関側は総合的に採算性を検討することもあるので、法人借入に加え、個人の住宅ローンなどの状況も意識してくれるかもしれません。

6 経営者に求められる役割

1)主要な数字は暗記する

経営者が売り上げや利益、業界でのシェアなど主要な数字を暗記しているのは当然です。社外の人からみても、経営者が売り上げや利益などを知っているのは当たり前であり、そうでなければ信頼してもらえません。

同様のことが、他の取締役やある程度の役職の社員にもいえます。副社長、専務、常務などの取締役は当然のこと、執行役員、事業本部長、部長、課長クラスの社員が売り上げなどを把握していないと、社外の人は「経営者がワンマンで情報が開示されていないのではないか」「経営状況が悪く、数字を公表できないのではないか」「そもそも、この会社の取締役や執行役員は大丈夫か?」と不安になります。

ある上場企業の経営者は、売上目標を語呂合わせで覚えやすいフレーズにして、合同朝礼で全社員に伝えているそうです。こうした取り組みを通じて、「○億円」という明確な目標を共有していく努力が経営者には求められます。

2)金融機関や取引先への業況説明に際しての留意点

金融機関や取引先へ業況に関する説明をする際に、特に注意が必要なのは、過去2年にわたって業績が優れないときです。図表2では第3期~第5期までが該当します。

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金融機関や取引先は、相手の業績を評価する際には3年程度の財務諸表を基にするのが一般的です。そのため、それ以前の業績が良好であったり(第1期~第3期)、次の期が増収計画(第6期)であっても、厳しい評価を受けることがあります。

経営者の重要な仕事は、第6期のために借り入れの継続や増額を実現することであり、その条件は高いに越したことはありません。信頼性のある計画書の提出など、日ごろからの金融機関とのコミュニケーションの度合いが試されるといえるでしょう。

なお、業績が悪化している場合は、将来の増収計画だけではなく、業績悪化の原因を正しく分析・把握し、それに対する有効な対策を検討・実施していることを明確に伝えることが大切です。

3)数字と情熱のバランス

社外の人の評価を高める上で経営者がまず実践すべきことは、経営の状況を把握することです。トレンドを次のような矢印でイメージしつつ、売上高など重要な数字は暗記するようにします。

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経営者は常にビジネスの先を読んで決断していかなければなりません。矢印の延長線上にどのような未来をイメージするかは、日ごろの情報収集と経営者のセンスによって決まります。

経営者の言動には常に根拠が求められます。その根拠は、情報収集活動から導き出された明快なものであればあるほど好ましいのですが、経営の全てが数字で表せるわけではありません。どんなに調べても考えても、不確定な要素はゼロになりません。

それでも前に進み続けるのは経営者に情熱があるからであり、これが組織のエンジンになっているのです。社外の人は経営者の情熱にも注目しています。根拠ある数字と経営者の熱い言葉がセットになったとき、自社の信頼性は高まるといえるでしょう。

以上(2019年4月)

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プロに聞く! 進捗がひと目で分かる「スケジュール管理表」作成のポイント

書いてあること

  • 主な読者:主な読者:作業の進捗や工程を管理するプロジェクトリーダーなど
  • 課題:作業の進捗や遅延を把握できない、遅延が後工程にどう影響するのか分からない、スケジュール管理表が形骸化しているなど
  • 解決策:プロジェクトに関連する情報を集約したり、従業員の作業内容を“見せる化”したりするなどの取り組みが必要

1 グループウェア開発企業にスケジュール管理のコツを聞く

プロジェクトの進捗を管理するために、Googleカレンダーなどのスケジューラーやエクセルを使う企業は少なくありません。しかし、工程管理表などを作ったものの十分活用していないと頭を抱えるプロジェクトリーダーは少なくないはずです。

スケジュール管理を形骸化させないためには、管理表をどう使いこなすべきでしょうか。

カレンダーやプロジェクト管理などの機能を備えるグループウェア「desknet’s NEO」を開発するネオジャパンのマーケティング統括部 マネージャーの正木伸城氏に、スケジュール管理のコツを聞きました。

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Q.1-1 スケジュール管理が失敗しがちな理由は?

プロジェクトに携わる人にとって必要な情報が、管理表に載っていないことが理由の1つです。管理表に書き込めるスペースの問題だと思いますが、作業名だけが記載され、具体的な内容は分からないというケースが目立ちます。自分が直接関わらない作業でも、どんな作業があるのか、後工程でどれくらい時間が掛かるのかなどを推察できる程度の情報は必須でしょう。

古い情報が載っているケースもあります。週次や日次、時間単位で進捗を管理しなければならないプロジェクトでは情報の鮮度が大事です。更新が滞れば管理表の信頼は失われ、プロジェクトの成功さえ危ぶまれます。作業の進捗率はもとより、作業に必要なマニュアルや資料なども適宜更新すべきです。リアルタイムに更新するのが理想ですが、頻繁に更新するケースはまれです。無理のない範囲で、せめてお昼や夕方など、1日に数回は進捗率などを更新するルールを決めるとよいでしょう。

Q.1-2 スケジュールの変更を管理表に反映するときの注意点は?

スケジュールの変更は影響範囲を考慮することが不可欠です。そのため、プロジェクトリーダーにはスケジュール変更による影響を洗い出し、必要な人員や時間、コストを算出した上でスケジュールを引き直す“調整力”が求められます。

例えば前工程が大幅に遅れたものの納期を延ばせない場合、後工程の作業時間を圧縮しなければなりません。従業員の負荷がどの程度増すのか、増員や残業しなければならないのか、さらには同時並行で進む他プロジェクトにも遅延の影響が及ぶのかも考慮しなければなりません。

Q.1-3 管理表を賢く運用するには?

分かりやすさ、見やすさにこだわるべきです。必要最低限の情報は記載すべきですが、ごちゃごちゃと書かれた管理表は状況を理解しづらくするだけです。

こんなとき活用したいのがアイコンです。作業の進捗率を数字ではなく、アイコンを使って直感的に把握できるようにするのもお勧めです。当社の顧客の中には、作業の進捗率を月の満ち欠けを模したアイコンで表現する事例もあります。三日月形のアイコンなら進捗率30%、半月形なら50%といった具合です。

色分けするのも手です。例えば、作業が遅れそうなら黄色、遅れだしたら赤色で示すだけでも効果を見込めます。ホワイトボードに管理表を書いているなら、色付きのマグネットを使ってもよいでしょう。作業の状況ごとの色を会社で統一しておけば、プロジェクトの内容を問わず、色だけで作業の進捗や遅延をおよそ把握できるようになります。

プロジェクトに関わる情報を管理表にひもづけることも大切です。予定は管理表、作業の詳細はガントチャート、作業に必要な資料や申請書はファイルサーバーといった具合に、情報が散在しているケースは珍しくありませんが、これでは管理しにくくなります。ポイントは、管理表からガントチャートやファイルサーバーへ容易にアクセスできるようにすることです。管理表を見ながらガントチャートをすぐに開く、あるいは必要書類をすぐ呼び出すといった効率性を徹底することが何より重要です。

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2 プロジェクト管理ツール開発企業にスケジュール管理のコツを聞く 

計画と実績の乖離(かいり)を把握する予実管理を実施したいけれど、必要な情報が管理表に記載されていないと嘆くプロジェクトリーダーは多いのではないでしょうか。

では、予実管理を成功へと導くためには何を見直し、どんな工夫をすることが必要なのでしょうか。プロジェクト管理ツール「TimeKrei(タイムクレイ)」を開発するテンダのITソリューション事業部 執行役員事業部長の高木洋充氏と、同事業部 副事業部長兼仙台支店長の村山友樹氏に管理のコツを聞きました。

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Q.2-1 予実管理が失敗しがちな理由は?

村山氏
本来は事前に作業ごとの時間や原価を設定した上で実績と比較すべきですが、そこまで取り組めない事例が目立ちます。管理表に作業時間や進捗率の記載を徹底できたとしても、予定と比較するにはそれらを集計する手間も掛かります。エクセルで予実管理に取り組んだものの、集計に費やす時間と手間に見合わないと挫折した事例は少なくありません。

高木氏
カレンダーやエクセルでスケジュール管理はできても、予実管理を実践するのは難しいでしょう。予実の把握も含めたスケジュール管理に取り組むのなら、作業時間だけではなく原価も把握できる専用のITツールを検討すべきではないかと考えます。

特に経営者は、プロジェクトのスケジュールと併せて原価も把握したいはずです。こうしたニーズにカレンダーやエクセルでも応えられるものの、情報を収集、整理、分析する時間と手間は覚悟すべきでしょう。

もっとも予実管理を徹底できれば、作業時間を短縮できそうな作業を洗い出せます。短縮可能な作業を把握できることから、遅延による影響をどの作業で吸収すべきかを決める判断材料にもなります。予定変更によってスケジュールを調整する、プロジェクトのコストを見直すといったときに強みを発揮します。

Q.2-2 予実管理を根付かせるためには?

村山氏
進捗率の精度を高めるため、進捗率の考え方を統一すべきです。従業員が自身の作業の進捗率を管理表などに記載する場合、人によって「進捗率」の捉え方が異なることがあります。例えば、自分の中では作業し終えたので「100%」と記入する人がいる一方で、作業終了後、上司に確認してもらうので「90%」と記入する人もいます。こうしたわずかな揺らぎが予実の精度を下げ、予実管理の定着を妨げる要因になります。

製造業なら、作り終えた製造物の個数で進捗率を容易に示せますが、システムのように進捗率を示しにくい成果物は多々あります。会社として、どんなケースなら進捗率が何%になるのかをきちんと明示すべきでしょう。

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高木氏
予実管理を根付かせるにはトップダウンによる取り組みも必要です。現場にとって作業の進捗を管理表に記載するのは手間なもの。余計な仕事が増えたとつい受け止められがちです。そこで場合によっては、経営者やプロジェクトリーダーが先頭に立ち、作業時間や作業の進捗率を正しく記載することの必要性を訴求すべきです。

予実管理は現場にメリットがあることを理解してもらうのも手です。一番のメリットが「見せる化」です。プロジェクトに携わる従業員は、「自分の1日の作業内容はギッシリで、新たな作業を引き受ける余裕はありません」「自分はこれらの作業を1日で終わらせています。作業の効率化に努めています」などと、プロジェクトリーダーに作業状況を示すことで、自身の姿勢や取り組みを理解してもらえるようになります。作業状況を「見せる化」する取り組みが、結果として実績の記載を促進し、予実管理の定着に向けて作用します。

Q.2-3 予実を把握できるようにするスケジュール管理のコツは?<

村山氏
予実管理では、作業予定時間や原価と、実際の作業時間や進捗率を記載しなければなりませんが、最初から全てを記載する必要はありません。まずは誰がどの作業に何時間関わったのかという実績だけ記載すれば十分です。1カ月程度の実績を集めたら、プロジェクトに潜む無駄を探ってみましょう。次のステップで、作業予定時間や原価を設定し、予実を把握できるようにします。こうして段階的に取り組む事例は少なくありません。

また、複数のプロジェクトを同時に走らせる企業の場合、経営者向けに各プロジェクトの「進捗」と「遅延」だけでも横断的に確認できるようにすべきです。複数のプロジェクト全体を俯瞰(ふかん)するための管理表、各プロジェクトの詳細を把握するための管理表といった具合に、プロジェクトを見る人の立場に応じて粒度の異なる管理表を用意しておくのが望ましいでしょう。

以上(2020年1月)

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