シーン別に押さえる「伝え方」の流儀/「断り方」編

書いてあること

  • 主な読者:ビジネス上で「断る」のが苦手なすべての人
  • 課題:なかなか相手の立場に立つことができない
  • 解決策:「意図を明確にする・気持ちを伝える・スピード感を持つ」の3つがポイント。本稿では、悪い例と良い例を具体的に挙げているので、今日からでも実践できる

1 なぜ、うまく伝えられないのか

ビジネスにおいて、「伝え方」はとても大切です。立場や考え方、仕事の進め方など、さまざまなことが異なる者同士が互いに意図を伝え、認識を共有し合って物事を判断し、進めていくのがビジネスの基本だからです。

しかし、うまく伝えられない人は少なくありません。その理由の1つに、「相手のことを考えられていない」ことがあります。伝える際の基本は、「どうすれば相手が理解しやすいか、行動に移しやすいか」と、相手の立場で考えることです。

「伝え方」の中でも、特に難しい、苦手だと感じることが多いのは「断る」ときでしょう。本稿では、「断り方」について、「意図を明確にする」「気持ちを伝える」「スピード感を持つ」という3点で考えていきます。日ごろのやり取りの参考になれば幸いです。

2 意図を明確にする

ビジネス上の依頼や誘いなどを断るときの悪い例は、回りくどいことです。断るならば、その意思を明確に伝えなければなりません。こちらは相手に気を使っているつもりでも、伝わりにくいと、相手は「どっちなの?」とかえって混乱してしまいます。

メールなど文章だけで伝えるときは、特に難しいものです。基本は誤解がないようにはっきり断りますが、機械的にならないことです。まず、悪い断り方の例を見てみましょう。このようなメールを受け取ったとして、「断っている」と分かりますか?

    • 【悪い例(1)】
    • お話、誠にありがとうございます。弊社としても親和性があるお話で、いろいろな方法が考えられると思います。ただし、申し訳ありませんが、弊社のリソース面を考慮すると、ご希望の通りに対応するのは、もしかしたら難しいかもしれません。
    • 素晴らしいお話をいただきまして大変感謝しておりますので、その分野に強い方をご紹介することはできるかもしれません。来月になれば、その方と一度お会いすることになっていますので、少しお待ちいただければ幸いです。

相手に失礼のないように配慮しているのは分かります。しかし、断っているのか、可能性があるのか、相手が分からないのでは問題です。「少しお待ちいただければ」と相手の行動を止めているのもよくありません。相手は、次のように感じるかもしれません。

    • 【悪い「断り方」をされた相手の気持ち(1)】
    • 結局、どっちなの? 本当は断りたいのに、断ったらこちら側がマイナスの評価をするとでも思っているのだろうか。それとも、少しでも自分たちのビジネスにつなげようとしているのか。意図が分からないから次に進めにくい。困る。

時と場合にもよりますが、本当に相手のことを考えるなら、明確に断るべきでしょう。こちらの「断る」という意図が伝われば、相手は、別の方法を考えるなど次の行動に移すことができます。それを妨げるようなことをしてはなりません。

また、相手との関係性にもよりますが、相手に「断りにくいのだろうか」と思わせてしまったら、それも失礼です。相手は、「言うべきことを言える間柄ではないのか」と失望してしまうかもしれません。例えば、次のような文章で明確に断るとよいでしょう。

    • 【良い例(1)】
    • お話、誠にありがとうございます。とても光栄なのですが、リソース面を考えると、お引き受けするのは難しいのが現状です。せっかくの機会、お引き受けできず、本当に申し訳ありません。またお役に立てそうな機会がありましたら、お声掛けいただけましたら幸いです。

3 気持ちを伝える

内容や相手との関係性にもよりますが、「断る」ときには、「気持ちを伝える」ことも必要です。依頼や誘いなどは、相手が期待してくれている、こちら側のことを考えてくれていることの表れです。「断る」ときでも、感謝の念をしっかり伝えましょう。

とはいえ、「断る」のは気まずいもので、相手との関係が微妙に変化することもあります。そのため、「断る」行為をすぐに終わらせたいと思うあまり、次のような「そっけない」メールを出してしまうことがあります。しかし、これはよくありません。

    • 【悪い例(2)】
    • ご案内いただきまして、誠にありがとうございます。いただきました内容について、社内で情報共有させていただきますが、今すぐには対応させていただくのが難しいのが現状です。大変申し訳ありませんが、必要があればこちらから改めてご連絡いたします。

今回はお断りをしても、今後も相手との付き合いを続けたいのなら、文章を改める必要があります。丁寧な言葉で感謝や断ることのおわびを示してはいますが、事務的で気持ちが伝わらず、相手は次のように感じるでしょう。

    • 【悪い「断り方」をされた相手の気持ち(2)】
    • そっけなく断られてしまった。忙しいところを邪魔してしまったのだろうか。それとも、何か意に沿わないことをしてしまったのかもしれない。かえって申し訳ないことをしてしまった。おわびしよう。今後は、こうした案内は控えたほうがいいのかもしれない。

相手にこうしたことを思わせないためにも、気持ちはしっかり伝えましょう。難しく考えることはありません。「光栄です」「うれしいです」「残念です」といった感情を一言添えるだけでもいいのです。例えば、次のようにです。

    • 【良い例(2)】
    • ご案内、ありがとうございます。弊社のことをとても考えてくださった内容で、本当に光栄です。ただ、今のところすぐには対応が難しいのですが、今後もこうしたご案内は、ぜひお願いしたいので、引き続きよろしくお願いいたします!

4 スピード感を持つ

「断る」ときは、スピード感も重要です。ビジネスでは、自分がボールを持ったらできるだけ早く打ち返すのが基本ですが、特に、断ったり良くない話を伝えたりするときほど速さが大切です。そのほうが、相手が次の一手を早く打てるようになるからです。

局面によりますが、話を聞いた段階で断る可能性が高いと思ったら、その場でそれを伝えます。また、相手が返事を待ってくれている段階で、断る可能性が出てきたら、それを“先出し”するのも一策です。全ては、相手が次の行動を取りやすくするためです。

「伝え方」は、使う言葉や言い回しなどテクニックで上達するわけではありません。相手の状況や立場、気持ちを想像し、常に「どのようにすれば相手が前に進みやすいか」を思って伝えることが大切です。これこそが、上手な「伝え方」の一番大切な流儀です。

以上(2019年4月)

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「やる気」のメカニズムを理解して成果の上がる指導を実践しよう

書いてあること

  • 主な読者:部下のやる気を引き出したい上司
  • 課題:部下が思ったような成果を上げてくれない
  • ポイント:本稿で紹介する意思決定のマトリクスを活用して、部下の考えを知り、指導に活かす

1 部下の「やる気」を引き出せ!

1)部下が成果を上げるために必要な5つの要素

部下を持つ上司に求められる役割の中で、最も重要なことは「部下に成果を上げてもらうこと、そして会社・部・課などが掲げている目標の達成に貢献する」ということです。しかし、上司がいくら、日々努力しても、部下が期待するような成果を上げてくれるとは限りません。むしろ、期待通りにいかないことのほうが多いと悩んでいる上司も多いのではないでしょうか。

その原因は、視点を変えて部下の立場から考えると分かりやすいかもしれません。部下が上司の期待通りの成果を上げるためには、次の5つの要素が必要です。

  • 上司が指示した業務の内容や、期待されている成果に対する理解力
  • 業務を遂行し、期待されている成果を実現できるだけの能力
  • 上司(あるいは企業)に対して「上司(あるいは企業)の期待に応えたい」という思い(貢献意欲)
  • 実際の行動に移す意思
  • より良い成果を上げるために、そのプロセスにおいて工夫・調整・継続などの努力を行う意欲(創意工夫)

部下が期待通りの成果を上げるためには、5つの要素全てが重要ですが、本稿では、「4.実際の行動に移す意思」と「5.より良い成果を上げるために、そのプロセスにおいて工夫・調整・継続などの努力を行う意欲(創意工夫)」のポイントを紹介します。

2)「やる気」を引き出すことの難しさ

「部下が期待通りの成果を上げるために必要な5つの要素」のうち、「4.実際の行動に移す意思」と「5.より良い成果を上げるために、そのプロセスにおいて工夫・調整・継続などの努力を行う意欲(創意工夫)」に共通しているのは、「意思」や「意欲」という言葉が示すように、部下の「やる気」が関係していることです。

「やる気の問題」ほど、上司にとって厄介な問題はありません。能力の問題であれば、経歴・経験などから、ある程度客観的に判断して、適材適所の配置を行うことができます。また、指導・教育を通じて能力向上のための工夫もできます。

しかし、やる気はそう簡単にはいきません。例えば、上司の手前もあり、口先では「やる気があります!」と部下は言うものの、本心ではやる気がなく、結局、期待通りの成果を上げられなかったという経験をしたことがある人は少なくないでしょう。

2 やる気のメカニズム

1)意思決定の基本マトリクスとやる気の関係

仕事に限らず、人はさまざまな意思決定を行い、それが行動となって表れます。例えば、今日のランチは何を食べるかということについて、「カレーライスにしよう!」と意思決定を行い、実際に食べに行くという行動となって表れます。そのため、やる気を理解するには、まず、人の意思決定の仕組みから考えることが必要です。

意思決定を「メリットとデメリットを比較した結果」に基づいて考えてみます。意思決定を基本マトリクスにすると次の通りです。なお、本稿では「やる気」をテーマにしているので、便宜上、意思決定の内容を「やる場合」「やらない場合」と表記します。

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4つの象限の中には、「やる」という意思決定の促進要因(AとD)と、「やらない」という意思決定の促進要因(BとC)があります。例えば、「やる」という意思決定の促進要因について見ると、「A.やる場合のメリット」があれば、「やる」という意思決定を促進する要因となります。また、「D.やらない場合のデメリット」があれば、そのデメリットを避けるために「やる」という意思決定を促進する要因となります。「やらない」という意思決定の促進要因は、これと逆になります。

人は「やる」と「やらない」という意思決定の促進要因を比較して、意思決定を行います。これを“意思決定の公式”として整理すると次のようになります。

  • A+D>B+Cの場合:「やる」という意思決定をする
  • A+D≦B+Cの場合:「やらない」という意思決定をする

(注)A+D=B+Cの場合は、「やっても、やらなくても同じ」状態なので、「やらない」という意思決定をすることになります。

2)簡単な例で考えてみる

例えば、「新規顧客を開拓する」という新たな業務に対する部下の思いを「意思決定の基本マトリクス」に従って整理すると次の通りとなります。

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なお、人の意思決定は「やる場合」「やらない場合」という単純な二者択一ではありません。同じ「やる場合」でも、「積極的にやる」「最小限の範囲でやる」といったようにやる気には濃淡があります。この差は、「やる」という意思決定の促進要因と、「やらない」という意思決定の促進要因の差として考えることができます。

例えば、「A+D>B+C」であれば人は「やる」という意思決定をしますが、同じ「A+D>B+C」の状態であっても次のような場合では、後者のほうが、より積極的に「やる」ことになります。

  • 「A+D=5」>「B+C=4」
  • 「A+D=10」>「B+C=1」

もちろん、人の意思決定をこのように単純化して考えることはできません。しかし、まずは、こうした考え方を押さえておくことが、部下に期待通りの成果を上げさせるための第一歩となるのです。

3)部下のやる気を高めるための基本的な指導方針

ここまで紹介したことから、部下のやる気を高め、期待した成果を上げさせるために上司が取るべき基本的な指導方針として次のような点が明らかになります。

  • 「A.やる場合のメリット」と「D.やらない場合のデメリット」を最大化する
  • 「B.やる場合のデメリット」と「C.やらない場合のメリット」を最小化する

前述した新規顧客開拓における指導方針(例)は次の通りです。

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3 期待した成果を上げさせるために上司が注意すべきこと

1)部下の考えや思いを把握するよう努力する

部下を効果的に指導するためには、最初に部下の考えや思いをできるだけ正確に把握することが必要です。人はメリットとデメリットを比較して意思決定を行っていても、「何がメリット(デメリット)なのか」といった判断は、意思決定を行う人(この場合は部下)の主観によって異なります。

そのため、部下の考えや思いを把握することができれば、より効果的な指導が行えるようになります。とはいえ、部下の考えや思いを知ることは容易ではありません。特にやる気を低下させる要因となる「B.やる場合のデメリット」や「C.やらない場合のメリット」については注意が必要です。

これらは「部下に積極的に仕事に取り組み、成果を上げてもらいたい」という上司の考えと相反するものです。そのため、上司が直接話を聞いても、部下は本音を話しません。従って、上司は、直接聞いた話はもちろんですが、日ごろの言動など部下に関するあらゆる情報を基に部下の考えや思いを把握する必要があります。

また、「自身が部下の立場だったらどう思うか」ということを考えてみることも大切です。部下の考えや思いを知るためには、このようにさまざまな角度から考えてみるようにしましょう。

2)指導の基本的な方向性を理解する

部下の考えや思いを把握したら、それに見合った指導を行います。基本的には「『A.やる場合のメリット』と『D.やらない場合のデメリット』を最大化する」ことと、「『B.やる場合のデメリット』と『C.やらない場合のメリット』を最小化する」ことになります。一般的には、最初の第一歩を踏み出してもらいたいときにはA、B、Cを重視した指導、継続的に取り組んでもらいたいときにはA、Bを重視した指導を、それぞれ行うとよいでしょう。

また、いずれの場合にも「D.やらない場合のデメリット」を最大化する指導は好ましくありません。「D.やらない場合のデメリット」は罰則を科すなど、脅しが中心です。脅しは簡単に行え、期待した成果も得られやすい指導方法です。しかし、脅しによって開始、継続された行動は、部下の本心からのものではないので、自発性や発展性は望めません。また、上司に対する感情的な反発や、面従腹背の恐れがあります。場合によっては、パワハラと言われて問題となる可能性もあるため注意が必要です。

従って、「D.やらない場合のデメリット」を取り入れた指導は、非常事態を除いて、避けたほうがよいでしょう。

3)冷静な指導を心掛ける

本稿で紹介した内容を踏まえて部下に対する指導を行おうとしても、「指導内容をうまく伝えることができない」、あるいは「適切な指導を行ったと思っていたものの、部下には指導内容が正確に伝わっていなかった」ということもあるかもしれません。その一因は、上司が自身の感情に流されてしまうことにあるようです。部下には、必要なことを、適切な話し方で伝えなければなりません。しかし、「ついカッとなる」「くどくど叱る」、あるいは「面倒くさい」「必要ないことまで話したいという気持ちを抑えられず話してしまう」など、感情に流されてしまうことが多いようです。

部下への指導は、自分の感情をコントロールし、冷静に行う必要があります。もちろん、時には「叱る」という行為も必要です。しかし、それは「冷静に目的を認識し、言葉や口調にも注意を払いながら叱る」ようにし、決して感情的対処となってはいけません。常に冷静な気持ちで部下に接し、伝えるべき内容をしっかりと伝えるということが、適切な指導を行う上では重要となるのです。

以上(2019年7月)

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採用率がアップする人材紹介の使い方

書いてあること

  • 主な読者:人材紹介を使って採用をしたい経営者、採用担当者
  • 課題:こちらの意図した人材が紹介されてこない。また、相手の担当者をうまくコミュニケーションが取れない
  • 解決策:人材紹介の仕組みを理解し、上手く求職者に情報を伝達するようにする

1 採用率を上げるキーパーソンは誰だ?

成功報酬型の「有料人材紹介サービス」(以下「人材紹介」)は、求職者の紹介を受けるだけなら費用は掛からず、採用に至った場合は、年収の30~35%を紹介料として企業が人材紹介会社に支払う仕組みです。

紹介料は決して安くありませんが、人材採用難の中、今では人材紹介を取り入れる中小企業が急速に増えています。ところが、人材紹介を使いこなしている中小企業の経営者は多くないようです。

人材紹介では多くのプレーヤーが登場するため、うまく使わないと“伝言ゲーム”になってしまいます。そして何より、自社を担当する「企業担当者」とのコミュニケーションが大事です。

2 人材紹介は企業担当者を介した“伝言ゲーム”

1)基本的なスキーム

企業と求職者を結び付けるという意味では、人材紹介の仕組みはシンプルです。しかし、そのスキームには数多くのプレーヤーが登場し、さまざまな情報が“伝言ゲーム”のようにやり取りされます。基本的な人材紹介のスキームを確認してみましょう。

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企業サイドには企業担当者、求職者サイドには「キャリア・アドバイザー」(以下「CA」)が付いて、それぞれの活動をサポートします。人材紹介会社によって企業担当者やCAの名称は異なりますが、役割は同じです。

また、企業担当者にはアシスタントが付きます。アシスタントは、主に企業とCAの間に入って面接などのスケジュール調整を行います。通常は、複数の企業担当者に1人のアシスタントが付く体制になっています。

2)“伝言ゲーム”の流れ

企業の求人票や、求人票では表現しにくい職場の雰囲気などの情報は、企業担当者からCAに伝えられ、CAが求職者に紹介します。求職者が自社に応募してきたら、その情報はCAから企業担当者に伝えられ、企業担当者が企業に紹介します。

求職者の応募後、企業は本格的な選考に入ります。この段階で重要になるのは、面接では明らかにされにくい求職者の本音や、併願先の選考状況などの情報です。これらの情報は、CAが求職者から聞き出して、企業担当者を通じて企業に伝えられます。

企業は、そうした情報を基に情報戦を繰り広げます。例えば、求職者が「働きやすさ」を重視していることが分かったら、企業担当者を通じて、社内イベントで社員が和やかに談笑している画像などを求職者に提供し、自社をアピールします。

3)企業担当者は企業の味方

このように、企業担当者は企業の情報源であり、宣伝係であり、アドバイザーでもあります。そして、企業担当者は良好な関係を築いている企業を強く応援します。そのため、企業は企業担当者と積極的にコミュニケーションを取ったほうが有効的なのです。

では、企業担当者と良好な関係を築くためにはどうしたらよいのでしょうか。次章で、大手人材紹介会社で働く複数の企業担当者から聞いた、「企業担当者がサポートしやすい企業」の特徴を紹介します。

3 企業担当者がサポートしやすい企業とは

1)事業内容を丁寧に説明する

人材紹介は、企業が企業担当者に事業内容と採用したい人材像を伝えることからスタートします。企業担当者の業界知識はほぼ期待できません。事業内容は、会社案内やウェブサイト、実際の商品などを見てもらいながら、時間を掛けて丁寧に説明します。

執務スペースや工場も見学してもらい、できれば2~3人の社員と話をする機会を設けましょう。企業担当者は、現場の雰囲気を体感することで企業に対する理解が深まり、パートナーとしての意識も高まります。

2)「人柄や性格に関する軸」は実際に会って判断する

採用したい人材像は、「キャリアに関する軸(中途採用の場合、職務経験や希望年収など)」と「人柄や性格に関する軸(明るく元気である、勤勉であるなど)」に分けて伝えると、企業担当者が整理しやすくなります。

ただし、人柄や性格に関する軸を満たすのは難しいものです。求職者は自分を良く見せるために、明るさや勤勉さを必ずといってよいほどアピールしてきますが、本当にその通りなのは一部だからです。

人柄や性格は会って確かめるしかありません。そのため、書類選考の合格基準は少し低めに設定するのも一策です。会ってみると、意外と優秀な求職者に出会えることがありますし、企業担当者も多様な求職者を紹介しやすくなります。

3)難題でもぶつけてみる

かなうかどうかは別として、企業が採用したい人材像は「言ったもの勝ち」のところがあります。例えば、「育児が一段落して、もう一度働き始めようとしている女性」といった一見難しそうな人材像でも、企業担当者に伝えればそれなりに探してくれます。

人材紹介を使い慣れていない企業は、企業担当者に遠慮して、このような難題をぶつけません。しかし、企業担当者の印象はこれとは違っていて、「難題をぶつけられるほど、自分は頼りにされている」と意気に感じることが多いものです。

4)携帯電話に連絡をする

大手人材紹介会社に勤める中小企業マーケットの企業担当者の場合、1人当たり100社以上のクライアント(企業)を受け持っています。そのため外出が多く、人材紹介会社に電話をしてもつかまりにくいため、携帯電話に連絡するのが基本です。

また、比較的遅い時間に連絡をしても大丈夫なことが多いようです。現職がある求職者との面接は18時以降になることが多いのですが、面接後に企業担当者と携帯電話で作戦会議をすることも珍しくありません。

5)アドバイスに耳を傾ける

企業担当者は、「自分が担当するクライアント(企業)の採用活動をサポートしたい」という強い思いを持っています。個人差はありますが、「自分のアドバイスが奏功してクライアント(企業)が採用に成功する」ことが高いモチベーションになっています。

それにもかかわらず、企業が自分のアドバイスに聞く耳を持ってくれなければ、企業担当者は、自分のアドバイスは必要とされていないと考え、求職者を紹介するだけになります。こうなってしまうと、収集できる情報が限られ、採用活動に支障を来します。

企業には採用に対する独自の考えがあり、それが企業担当者のアドバイスと違うこともあります。ただし、企業担当者は採用のプロです。アドバイスを実践するか否かは別として、企業担当者のアドバイスに聞く耳を持ったほうが得になるのです。

6)良好な関係を築こうとしている

中小企業の場合、社長が企業担当者と打ち合わせをすることが多く、打ち合わせ後、そのまま2人で飲みに行くことも珍しくありません。こうした場を持つことで、企業担当者との関係性が強化されることもあります。

この他にも、以前にその人材紹介会社を通じて採用した社員が元気に働いている姿を見せるのも、企業担当者の“やる気をくすぐる”良い方法です。企業担当者は、自分が紹介した人材が幸せに働いているのかを気にしているものです。

7)CAを味方にする

以上のポイントに配慮する企業のことを、企業担当者は「働きやすそう」「オープンな社風」などと高く評価し、これをCAに伝えます。CAは良い企業を求職者に紹介したいため、企業担当者からの情報を踏まえて、評判の良い企業を求職者に紹介します。

4 企業担当者を代えてもらう

前章で「企業担当者がサポートしやすい企業」を紹介したのは、企業担当者に迎合するという意味ではなく、人材紹介のスキームでは、企業担当者がとても重要な役割を担っていることを説明したかったからです。

もう一面から考えると、理解力やコミュニケーション力などが乏しい企業担当者は、企業のパートナーとして不適切です。企業担当者が次の項目に幾つも当てはまり、指摘をしても改善されないなら、人材紹介会社に変更を申し出ることもやむを得ません。

  • 何度説明しても、事業内容を正しく理解してくれない
  • 何度説明しても、紹介されてくる求職者が自社の希望に近付かない
  • 約束した日時に連絡をしてこない。ひどい場合には忘れている
  • 連絡を避けてほしいと伝えた時間帯でも、お構いなしで連絡をしてくる
  • 紹介されてくる求職者の面接キャンセルが多い
  • 面接後、催促をしなければ求職者の感想を教えてくれない
  • CAとの連携がうまくいっていないようだ
  • 求職者に伝えてほしいと依頼した内容が伝わらない
  • 求職者の併願先の情報がほとんど上がってこない
  • 1カ月間の紹介が0件でも、一切連絡をしてこない

企業担当者に情が移ることもありますが、頼りにならない企業担当者と付き合っていても採用のチャンスを逃すだけです。こうした意味でいうと、人材紹介を使う際、企業が最初に採用するのは、求職者ではなく企業担当者ということになります。

5 企業担当者と連携した採用活動

1)まずは求職者の本音を引き出す

企業担当者とのやり取りが重要になってくるのは、本格的な選考に入ってからです。特に中途採用の場合、求職者には「自社に転職する、併願先に転職する、転職をやめて現職にとどまる」という3つの選択肢があります。

自社に入社してもらうために、企業はライバルとなる併願先や求職者の現職よりも自社のほうが優れているポイントを見つけ、求職者にアピールしなければなりません。そのために、求職者の本音と自社の印象を企業担当者に質問し、情報を得ましょう。

すると、「併願先はA社とB社です。また、他の人材紹介会社を通じた先もあるようです。面接後のアンケートでは御社を第1候補と回答していますが、恐らくA社の意欲が高く、御社は2番手だと思います」といった情報を得られることがあります。

次に企業担当者に質問するのは、求職者が転職に際して重視している軸です。求職者が年収アップを重視しているのなら、募集条件の変更を検討します。そうではなく、キャリアアップを重視しているのなら、キャリアプランを提示します。

2)併願先の弱点を突く

併願先の弱点も、企業担当者を通じて探ります。例えば、「併願先A社の人事部は厳しい。求職者が現職のトラブルで面接に10分遅刻したところ、事前に連絡していたにもかかわらず『始末書』を書かされた」といったケースがあったとします。

併願先A社のような不寛容な姿勢を、企業担当者とCAは快く思っていないはずです。そこで、自社はそれを逆手に取り、真摯で寛容な姿勢を示すことで企業担当者とCAを味方に付け、自社のことを求職者に強く勧めてもらいます。

求職者に家族がいたら、その意向も探ります。転職先選びには、家族の意向も影響します。もし、家族も併願先A社の対応を嫌悪していたら、次の面接の際、「ご家族にも当社のオープンな社風をお伝えください」と一言添えて、家族にも自社をアピールします。

3)交渉に応じるか否かを決める

企業担当者が求職者に面接のアドバイスをすることもあり、求職者の心理をある程度理解しています。例えば、求職者が年収アップを提示するのはよくあることです。企業担当者は、それが譲れない条件なのか、軽い気持ちなのかを感覚的に判断しています。

企業にとって年収は重要な募集条件です。求職者が年収アップを提示してきたら、企業担当者の意見を聞いてみましょう。すると、「『そうなったらいいな』くらいの気持ちのようなので、聞き流していいと思います」といった回答を得られることもあります。

4)求職者に直接メッセージを送る

人材紹介の仕組みでは、面接以外の場で企業が直接求職者と話をすることはできません。一方、最後の一押しなど、どうしても自分の言葉で求職者に伝えたいことがあります。そのような場合は、手紙やメールを書き、企業担当者を通じて求職者に送ります。

こうしたメッセージは、面接をした直後であったり、週末に考えてもらうために金曜日の夜であったりと、送るタイミングも重要です。企業担当者に意図を伝え、指定した時間に送ってもらうようにします。

5)貴重な情報を聞き出せるかも?

企業担当者は、口頭なら教えてくれそうでも、文書やメールには残せない情報を持っています。関係が良好なら、飲みにケーションなどのときに、さわりだけ教えてくれるかもしれません。その情報は採用活動を進める上で有益なものになるでしょう。

6)全ては企業担当者との良好な関係があってこそ

人材紹介を使って採用率をアップするためのキーパーソンは、企業担当者であることがお分かりいただけたことでしょう。企業は、付き合っていく企業担当者を妥協せずに選び、さまざまな情報を引き出しながら採用活動を進めていくことが大切です。

以上(2019年10月)

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効果的な新人研修を実現するポイント

書いてあること

  • 主な読者:新人研修の実施を検討する経営者
  • 課題:新人研修の効果を高められない、有効な新人研修の方法が分からない
  • 解決策:新人研修の目的を明確にし、継続して効果を高められる工夫を施す

1 人材育成で大切な4つのこと

人材育成で大切なポイントは次の4つです。

  • 企業が習得してもらいたい知識やスキルを社員に伝えること
  • 実際に社員がその知識やスキルを習得するためにサポートすること
  • 社員が習得した知識やスキルを生かせる場をつくること
  • 社員の成長意欲を刺激すること

学校教育とは異なり、社員教育では一から十までを教える時間が取りにくいものです。そこで、社員のキャリアに応じて教えるべき内容を絞り込み、社員が前向きに学習できるようサポートする必要性が高まります。

人材育成は長期的な計画に基づいて進められるものですが、ビジネスパーソンとしての土台が形成される新人研修は特に重要です。真っさらの状態にある新人をいかに教育していくかによって、その後のキャリア形成の質やスピードが変わってくるからです。

新人は社会人としての経験が無い分、スポンジが水を吸うように何でも吸収します。“鉄は熱いうちに打て”といわれるように、この段階で真剣に学ぶことの大切さと自己成長の喜びを伝えなければなりません。

2 新人研修の効果を高めるためには

1)外部の専門機関を活用するメリット

中小企業の社員教育はOJTが中心ですが、新人研修では外部の専門機関が行う研修が活用されています。新人研修は外部研修の定番メニューとなっていて、内容も比較的安定しています。

この他、会計や営業などの研修に、新人のキャリアに応じて基本的なビジネス知識を習得させるのに、外部の専門機関を活用しています。こうした研修では、知識を学ぶ以外に、新人が他の会社の新人と出会えるメリットもあります。

2)研修の成果が感じられない理由

企業は研修に参加した新人に、研修で学んだことを日々の仕事に生かす姿勢や、今後に向けて意気込む姿を期待します。しかし、実際は研修に参加しても代わり映えのしない新人を見て、がっかりすることが多いものです。

新人の心中は実際に本人に聞いてみなければ分からないことであり、見た目だけで判断すべきではありません。態度には示さなくても、実は並々ならぬやる気を秘めていることもあり、実際、本人が望む仕事を与えると、見違えるように打ち込む新人もいます。企業は、このような新人の特性を理解し、新人と対話しましょう。例えば、教育担当者は新人に「研修で何を学び、何を感じたのか。またそれを日々の仕事にどのように生かしていきたいのか」を質問してみる必要があるでしょう。

3 目的を持った新人研修を実施する

1)明確な目的を持つ

教育担当者と新人の対話をスムーズに行うために、研修に参加する新人に、事前に「なぜ、その研修に参加してもらうのか」を伝えるようにしましょう。こうすることで、新人はある程度の目的意識を持って研修に参加することができます。

新人研修では、「新人研修でプレゼンテーションのスキルを習得させ、先輩社員が同行しなくても、立派に商品の説明ができる」など、明確なゴールを設定するのがよいでしょう。参考として、新人研修の方法とその目的の例を紹介します。

2)現場研修

現場研修の主な目的は、「商品の特徴・価格・流通ルート・主要購買層などを理解すること」です。現場研修では、新人に目的を明確に伝えるようにしましょう。現場に配属された理由が分からないままでは、新人は漫然と研修を受けることになります。

3)ボランティア研修

福祉施設などを訪問するボランティア研修を実施する企業があります。ボランティア研修の主な目的は、「社員の社会性の向上」「チームワークの向上」です。現場研修の場合と同様に、研修の目的を明確に新人に伝えることはとても大切です。

4)新人に対する配慮

研修に参加した新人は、現実の社会が自分が想像していたよりはるかに厳しいことに気付きます。特に現場研修では、アルバイトでは経験したことが無いほど厳しい仕事をしなければならないこともあります。

ショックを感じた新人は「いつまでこんなことをしていればいいんだ」と不満と不安を抱きます。新人の苦悩を解決するために、「現場業務に携わる期間を明確に伝える」「新人と年齢の近い先輩社員と交流する場を設ける」などのサポートが必要になります。

4 研修効果を持続させるためのポイント

1)社会人の厳しさを認識させる

新人に社会人の厳しさを認識させることができたら、新人研修の目的はほぼ達成されたといえます。新人が「今の自分の能力では社会に通用しないことが多い……」と感じ、その意識が前向きに働けば、少しでも早く戦力になろうと努力するからです。

そうした新人のモチベーションを維持するために、外部の専門機関を活用するのも効果的です。専門機関には長年蓄積されたノウハウがあり、企業が望む内容を体系立てて教育してくれるからです。

また、新人に社会人の厳しさを教える場合、時には厳しい指導が必要になることがあります。そのため、企業内部で直接行うよりも外部に委託したほうが、パワーハラスメントなどの労務リスクを低減できる面もあります。

2)課題を持たせる。また、意見・主張を聞く

新人に明確な課題を持たせるために、経営者自ら企業の現状と新人に期待することを伝えましょう。自分に何が望まれているのかを知った新人は、それを実現するために積極的に行動するでしょう。

同時に、教育担当者を含む先輩社員は、新人との対話の場を定期的に設け、良き相談相手になるように努力しましょう。こうすることで、先輩社員と新人との信頼関係が強くなっていきます。

3)継続的な学習機会

新人研修後は、ほとんど研修を行わない企業があります。日々の業務が忙しくて時間を確保できない、人材育成に充てる予算が確保できないというのが主な理由です。しかし、新人は自分のキャリアに応じた継続的な研修を望んでいます。

そのため、企業は「入社時」「3カ月目」「1年目」「3年目」「5年目」など継続的な研修プランを組みましょう。時間とコストが掛かりますが、これらは将来のために必要な投資です。

4)学習した内容を生かせる組織

新人が学んだことを生かせる場をつくりましょう。せっかく学んだのに、「会社のやり方と違う」「今はその知識を生かせる場所が無い」というのでは、新人はやる気を失います。ここは意外とおろそかにされがちなポイントなので注意しましょう。

以上(2019年1月)

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管理職の人事評価表の作成と運用

書いてあること

  • 主な読者:管理職に対して、納得感のある人事評価を実施したい経営者
  • 課題:所属部門の業績や、部下指導力など本人の職務遂行能力以外の要素も考慮しなければならず、人事評価が難しい
  • 解決策:業績や部下指導力を評価項目に組み込んだ人事評価表を用意する

1 人事評価制度の目的

「人事評価(人事考課)制度」(以下「人事評価」)とは、評価期間(通期や半期など)における従業員の活動(業績など)を一定のルールに基づいて評価し、その結果を昇進・昇格、賃金・賞与査定などの人事処遇に反映させる仕組みです。

人事評価の目的は、従業員のモチベーションの維持・向上や、経営戦略などの企業の方針に連動した従業員の能力開発にあります。しかし、評価が適正に行われないと、従業員のモチベーションの低下や、経営戦略の実行に支障を来す恐れがあります。

特に管理職の人事評価は複雑です。本人の職務遂行能力だけでなく、所属部門の業績や、部下指導力などを総合的に判断して評価を下さなければなりません。そこで、本稿では、管理職向けの評価に焦点を当てた人事評価表の基本的な作成手順や運用上の留意点を中心に紹介します。

2 人事評価制度の基本

企業によって運用が異なりますが、一般的な人事評価の位置付けは次の通りです。

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期首に、従業員は「1.企業の方針」に基づいて「2.目標設定」を行います。期中(評価期間)に、従業員は目標を達成するための活動をします。期末に、「3.人事評価」として従業員の活動(業績など)を評価し、その結果を「4.人事処遇」に反映させます。 人事評価の実施方法や評価期間などの主なルールは、就業規則などの社内規程に定められています。人事評価で利用される代表的なツールは次の通りです。

  • 職種・等級表:職種と職階(等級)をまとめたもの
  • 等級要件書:部長や課長など職階ごとに求められる要件をまとめたもの
  • 人事評価表:人事評価の項目や要件をまとめたもの

また、評価区分には、業績評価・役割評価・能力評価・コンピテンシー(高業績者の行動特性)評価・勤怠評価などがあり、人事評価表にはこれらの評価基準がまとめられています。最近は、「人望」を評価基準に加える企業もあります。

3 人事評価表を作成する前の準備

1)理由の明確化

人事評価の新規導入や既存制度の見直しをする場合は、その理由を明確にする必要があります。例えば次のような理由が考えられ、その内容に応じて評価区分(業績評価など)やウエート付けが決まってきます。

  • 企業が成長期に入り、社長一人で評価するのが難しくなったため
  • 事業領域が拡大し、既存の人事評価の内容を見直す必要が出てきたため
  • 従業員の高齢化に伴い、人事ポストを整備・再構築する必要が出てきたため

例えば、企業が成長期に入り、社長一人で評価するのが難しくなったことに対応する場合、業績評価を重視して従業員の数字に対する意識を高め、さらなる成長のエンジンにするという考え方があります。評価方針は相対評価とし、従業員の競争意識を高めるのも効果的でしょう。また、全体的にシンプルな仕組みにして、人事担当者が運用しやすいようにすることも重要です。

2)職種・等級表の作成

人事評価の新規導入や既存制度の見直しを進める理由を明確にするのと並行して、企業の現状を把握するために職種・等級表を作成します。これは、企業内の職種や職階を整理したものです。企業の規模や組織形態(機能別組織、事業部制など)によって異なりますが、例えば、横方向に営業・製造・研究などの職種、縦方向に本部長・副本部長・部長などの職階を記載して整理します。

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このような職種・等級表を作成したら、それぞれのマス目に該当するポジション(「営業部門の本部長」など)がどのような仕事をしているのか、職務分析(企業にある各職務の内容、難易度、所要時間、他職務とのつながりなどを分析すること)によって職務内容を明らかにします。

その結果、必要に応じて職種や職階の一部を統廃合し、組織をシンプルにします。なお、企業によって異なるものの、等級は5~10等級とするケースが多いようです。

3)等級要件書の作成

職種・等級表が確定したら、各等級(各職階)の要件を明確にするための等級要件書を作成します。これは、人事評価の際に従業員の昇格などを判断する重要な指標です。

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一般的には、部長職以上の職階(図表3では5等級以上)になると、職務を確実に遂行する能力は前提条件となっており、それよりも新しい事業の立案など、組織を変革するリーダーとしての役割が強く求められるようになります。

同様に課長の職階(図表3では4等級)になると、より高度な職務を担当しつつ自身の研さんに努めるとともに、部下育成の役割も強く求められるようになります。

4 人事評価表の基本的な作成手順

1)基本的な考え方

前章で紹介してきた取り組み(理由の明確化など)との一貫性を保ちながら、人事評価表を作成します。その際に意識するポイントは次の通りです。

  • 評価区分(業績評価・能力評価など)やそれぞれの評価項目は、人事評価の新規導入や見直しの理由と、ある程度一貫性を持たせる必要がある
  • 職種・等級表に応じて人事評価表の種類を検討する。例えば、職種ごと(事業部ごと)・等級ごと・評価期間ごとなどの区分で複数の人事評価表を作成する
  • 等級ごと(管理職用・一般従業員用など)の人事評価表を作成する場合は、等級要件書の内容を参考にしながら評価項目を検討する

2)評価区分と評価項目

一般的に評価区分には、業績評価・役割評価・能力評価・コンピテンシー評価・勤怠評価などがあります。採用する評価区分を決めて、人事評価表にまとめます。

まずは、人事評価表のイメージを確認してみましょう。

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このイメージでは、評価区分を業績評価と能力評価にしています。実際に採用する評価区分は企業によって異なりますが、一般的には次の3つが中心になります(名称は企業によって異なります)。

  • 業績評価:部門目標や個人目標の達成度合いによって評価
  • 能力評価:発揮した能力、潜在的な能力を評価
  • 行動評価:仕事に対する姿勢、情意などを評価

評価区分・評価項目・評価基準の一例は次の通りです。

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評価項目は各企業の意向によって大きく異なります。人事評価表の事例を紹介した書籍などがあるので、そうしたものを参考にしながら決めていくとよいでしょう。

3)ウエート付け

ウエートとは、評価区分や評価項目の中で企業が何を重視するのかを示す数値です。同じA評価でも、ウエートの大きい評価区分や評価項目のほうが高い点数になります。

ウエートは、評価項目と同様、各企業の意向によって異なる他、評価の目的などによっても変わります。

例えば、昇給評価では、業績評価、能力評価、行動評価の結果を総合的に判断して決定することがあります。理由としては、短期的な業績のみならず、中長期的な視点からも従業員の能力や仕事に取り組む姿勢をバランス良く評価する必要があることなどが挙げられます。

一方、賞与評価では、業績評価のみを評価の基準とすることがあります。理由としては、「賞与は業績の良いときには多く、悪いときは少なく支給する」という、いわゆる業績連動方式の賞与支給を行っている企業が多いことなどが挙げられます。

ただし、業績連動方式の賞与は、支給額の変動幅が大きくなりがちで、従業員に不安を与えやすい側面もあります。そのため、近年は従業員の定着率向上のため、業績のウエートを見直す企業も少なくありません。

実際にウエート付けを行う際は、職種・等級表や等級要件書を確認しながら等級ごとの役割を明確にし、それと矛盾のないようにする必要があります。

5 人事評価の運用上の留意点

1)評価方針の決定

人が人を評価する人事評価では、不公平感を完全に払拭するのは困難です。しかし、企業ができるだけ透明・公平な制度を目指していくことは重要です。そのために必要な取り組みの1つが、評価方針の決定です。

人事評価の方針には、絶対評価と相対評価があります。絶対評価は、評価基準に照らし、他者を考慮せずに被評価者を評価する方法です。相対評価は、評価基準に照らし、被評価者と他者を比較しながら序列を付ける方法です。絶対評価は、評価基準を厳密に定義する必要がありますが、客観的な評価が可能です。相対評価は、絶対評価ほど手間は掛かりませんが、主観的な評価に陥ることがあります。

一般的に、一次評価(考課)では絶対評価が実施されるケースが多いといわれています。これは、絶対評価では他者に関係なく被評価者を純粋に評価することができるため、評価結果から被評価者の強み・弱みを明らかにして、人材育成につなげようとする企業が多いからだと考えられます。

一方、最終評価では相対評価が高くなる傾向にあります。これは、企業の中には、次のような人事評価結果の分布をあらかじめ決めているところが少なくなく、その分布通りに収めるために相対評価で序列を付ける必要があるためと考えられます。

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2)評価者が陥りやすい傾向

人事評価においては、次のように評価者が陥りやすい代表的な問題傾向があります。企業は評価者訓練を実施して、こうした問題傾向を防止する必要があります。

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3)厳格な運用

人事評価は、ルールに従って厳格に運用する必要があります。特に、部課長クラスの従業員は業績評価が中心となるため、期首の目標設定の段階で企業の方針を十分に説明し、それに合った目標を設定します。

また、人事評価の結果についても、ある程度は被評価者にフィードバックし、来期に向けてモチベーションの維持・向上を図る必要があります。特に、昇格人事の取り扱いは重要です。部課長ともなれば、その企業における自身のキャリアを本気で考えています。「何をすれば昇格できるのか」を明確にして、可能な範囲でその基準を公開することは、部課長のやる気を高めるとともに、透明な人事評価を実現する上で重要です。

ただし、一度基準を公開すれば、以降は原則としてその基準通りの運用をしなければならなくなります。そのため、公開する範囲は慎重に検討する必要があります。

4)早期定着

人事評価の新規導入や見直しによって新しい人事評価をスタートさせると、結果として、人事処遇でそれまでとは異なる格差が生じてきます。企業は、新しい人事評価をスタートする目的や、その設計について、繰り返し部課長を含めた従業員に対する説明会を開き、企業への早期定着を図っていくことが重要です。

以上(2018年12月)

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小さな組織の部門マネジメントと業績評価

書いてあること

  • 主な読者:現在は単一事業だが、今後、複数の事業を手掛ける予定のある経営者
  • 課題:損益計算書を見るだけでは各事業部門間での損益のバラツキに気付かず、企業が抱える問題点を把握しにくくなる
  • 解決策:商品(製品)別で部門を区分し、「縦割り組織」での業績評価を行う。時間が経過したら、セクショナリズム(いわゆる「縄張り意識」)の台頭にも注意する

1 部門別業績評価制度の導入

企業が成長し、複数の事業を行うようになると、企業全体の損益計算書を見るだけでは各事業部門間での損益のバラツキに気付かず、企業が抱える問題点を把握しにくくなります。

例えば、A部門の業績は非常に良いのにB部門の業績が悪い場合、企業全体の損益計算書ではA部門とB部門の業績が合計されるため、各部門の実情が把握できず、各部門の実情に合った適切な対策を打つことができません。

そこで、部門ごとに業績を管理することが必要になってきます。一般にこのようなやり方を「部門別業績評価制度」といいます。企業組織のイメージ図は次の通りです。

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A部門とB部門の業績を別々に捉える部門別業績評価制度の考え方は、同じ部門内における商品別(X・Y・Z)の業績についても適用することができます。

本稿では、部門別業績評価制度の導入・運営上のポイントなどを紹介します。

2 部門別業績評価制度の組織編成ポイントと留意点

1)区分の方法

部門を区分する方法はさまざまですが、例えば「1.商品(製品)別」「2.販売先別」「3.地域別」に区分する方法があります。どの区分が適切かは、自社の実情に応じて判断する必要があります。

商品(製品)別・販売先別・地域別で事業本部を組織している企業の例は次の通りです。

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業績責任は、各事業本部が負うことになります。

単一または同じカテゴリーの商品しか販売していない企業は、販売先別や地域別の部門に区分してもよいでしょう。ただし、主要な商品が複数ある企業は、「商品(製品)別」の組織が適しています。指揮命令・財務・商品開発・営業・人事労務などが明確になり、資材などへの投資判断、在庫管理、営業マニュアルの作成、販売や代金回収、人材教育などといった現場のマネジメントが容易になるためです。

2)「縦割り」で管理する

多くの企業は商品(製品)別で部門を区分しており、いわゆる「縦割り組織」の運営をしています。縦割り組織による運営のメリットは次の通りです。

  • 部門長への権限委譲が進み、モラールが向上する一方で、経営者は全社的な意思決定に注力できる
  • 業績の測定が容易で、責任の所在が明確になる
  • 分権組織として部門長は部門ごとに包括的な権限を行使することができる
  • 商品企画・仕入れ・生産・販売などの各担当職能間の対立を生じずに、良好なコミュニケーションを維持できる
  • 構成メンバーは常に部門の仕事・課題・目標が何かを把握しやすく、それに対する自分の責任もよく分かるようになる
  • 管理者は、販売から生産・仕入れ・在庫管理・財務管理に至るまでの広範囲の管理能力を習得することができ、幅広い人材の育成が可能になる

ただし、縦割り組織特有の留意点もあります。例えば、図表2のXYZ事業本部のケースで考えてみましょう。XYZ事業本部が一体となって事業運営に取り組めばよいのですが、同事業部内で縦割りの意識が顕著になると、事業本部の運営に問題が生じます。

XYZ事業本部の規模が拡大するに従い、X・Y・Zの商品別に分権化された組織の規模も拡大し、例えば、当初は課だったものが部に昇格するなどが起こります。そうすると、それぞれの部では、自己の利益追求行動が顕著になってくることがあります。

利益追求行動自体は、決して悪いことではありませんが、場合によっては、X商品部の利益追求行動がY商品部の損失に直結するといった事態になることがあります。

一方、次のように、組織は商品部ごとの縦割りであるにもかかわらず、実際の現場は地域ごとに区分(支社単位)されているケースもあります。この場合、支社ごとに各商品のマネジメントを行う人材が必要になります。

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仮に、東京支社のX商品部に属するマネジャーが、XだけでなくY・Zのいずれの商品、また関連するマネジメントについても精通していれば、東京支社のX・Y・Zのマネジメントはこのマネジャー1人で行うことができます。

各支社で同様の人材を配置できれば、マネジャークラスの人件費が1支社当たり3分の1で済みます。こうした配置が可能になれば、XYZ事業本部全体で考えた場合、人的なコストが削減できるため理想的です。しかし、現実には、事業本部で扱う全ての商品のマネジメントができる人材がいるケースはまれです。

3)権限と責任

組織単位の管理者・リーダーの職務と責任、特に達成すべき業績基準については、はっきり示さなければなりません。事業本部長が事業本部全体の責任を負うのは明確です。

また、次のように商品別の部となっていれば、部長がその部の責任を負います。

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4)セクショナリズムの台頭

部が創設された直後であれば、各部が切磋琢磨(せっさたくま)しながら健全な競争状態を維持できるかもしれません。しかし、時間の経過とともに、セクショナリズム(いわゆる「縄張り意識」)が台頭するようになります。

その原因は、「部長同士の人間関係が良好でない」「X商品部とY商品部の業績に格差がある」「X商品市場は好況である一方で、Y商品市場は不況など環境があまりに違い過ぎる」といったようにさまざまです。

セクショナリズムが深刻化すると、必要な情報の共有が行われなかったり、事業本部内で不健全な競争が起きたりするようになります。分かりやすいところでは、部同士での顧客の奪い合いが起きたり、見えないところではインフォーマルな場における他部の悪口などが出てきたりします。

こうした状況に陥らないようにするには、一般的には「トップ(上記の例では、XYZ事業本部長)によるマネジメント」「公正な人事評価」「一定期間ごとの人事異動」「組織改革」が必要といわれています。

5)チームとは

チームとは、それぞれ得意とする技能、知識を持っている人が集まり、目標達成のために共に働くことです。最近ではプロジェクトチームやタスクフォースといった組織形態がこれに該当します。

一般的には縦割り組織単位内(図表5ではXYZ事業本部)の役割分割です。事業本部をまたぐようなチームが組織される場合は、社長直轄のチームとなることが多いようです。チームの場合、チームリーダーの権限、意欲、能力、リーダーシップがチームの業績に大きな影響力を及ぼします。

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3 業績目標設定と年度事業計画策定

1)従業員の売上高や利益に対する意識をより高める

部門別に業績を管理すれば、経営者が各部門の状況を把握できるようになります。また、部門別に適正な業績目標を設定し、適正な評価結果を人事考課に反映させることで、従業員の売上高や利益に対する意識をより高めることができるでしょう。

2)業績目標設定・年度事業計画策定

業績管理制度の運用は、業績目標設定・年度事業計画策定(年度予算計画策定)から出発し、年度末の業績評価で一巡します。

業績目標設定では、業績評価基準に組み込まれている管理指標に沿って検討します。管理指標は部門管理者がその職務権限によってコントロールできる範囲が対象です。

事業本部長であれば、事業本部全体の売上高・経常利益・売上高経常利益率・総資本経常利益率など事業本部全体の業績が管理指標となります。

部長であれば、部の売上高・営業利益・生産性など、課長であれば課の売上高・営業利益・生産性など、係長以下は自分に課せられた売上高などです。また、場合によっては、新規顧客獲得○件、顧客訪問○件といった目標を管理指標とすることもあります。

業績目標設定・年度事業計画策定では、トップ・ダウンとボトム・アップの積み上げをフィードバックすることで、より効果的に業績管理を目指します。ただし、ここで求められるのは、単に業績を管理することではありません。業績が好調となるような業績目標設定・年度事業計画策定です。

おおむねトップ・ダウンで示される数値は、その達成が容易でないものが多くなります。一方、ボトム・アップの積み上げ数値は、その内容を慎重に判断しなければなりません。

例えば、課単位の業績数値を積み上げる場合、課長がトップの意向をくんで、さらに部下の現状を把握した上で、実現可能な数値を提示することが求められます。しかし、しばしば確実に(容易に)達成できる数値を示すことがあります。また、新任の課長は自己アピールのために、課の実力以上の実現不可能な数値を示すことがあります。こうしたケースでは、部門長がしっかりと内容を把握し、数値を修正する必要があります。

3)部門別損益計算ルール

部門別に業績を管理するには、まず部門別の業績を測定・把握しなければなりません。そのためには、「売り上げや原価がどこに、どの範囲で帰属するのか、経費はどこの負担になるのか」といった損益計算のルールが必要です。この計算ルールは、業績管理を進めるに当たり、あらかじめ各部門の業績責任のある管理者に周知徹底されていなければなりません。部門別損益計算ルールを決める場合の留意点は次の通りです。

1.納得した上での実施

関係者の大多数が「業績管理上の約束」だと割り切って、納得した上で実施されなければなりません。

2.目的の明確化

業績管理の目的をはっきりさせます。目的は次の通りです。

  • 経営者が正しい判断、適切な経営方針を打ち出すため
  • 部門と部門管理者の業績が明確化されることにより、責任体制の強化と組織の活性化が図れるため
  • 部門別に意思決定を迅速・適切にし、機動力を発揮するため

3.関係者の参画

本部や会計部門だけでなく、支社などライン部門の関係者も参加してルールをつくります。現場関係者の参画により納得性が高まり、生産や販売などの実情に合ったものになります。

4.ルールの継続

実情に合わなくなったり、実施して不都合が生じたりした場合を除き、一度決めたルールはなるべく変更しません。

5.真実の業績の表示

意思決定を誤らないように利益が正しく計算され、真実の業績が表示されるようなルールでなければなりません。

以上(2018年12月)

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中小企業だけが実現できる“人財”開発のための人事制度

書いてあること

  • 主な読者:人事制度における年功主義と能力・成果主義の比重に悩む経営者
  • 課題:経営者の目指す人事制度が社員に受け入れられるか分からない
  • 解決策:「人件費の抑制や若手社員の定着を図りたい」など経営方針に基づいた人事制度を基軸としつつ、意識調査などを通して社員のニーズに合わせた修正を図る

1 企業は人なり。人は重要な経営資源

「企業は人なり」といわれるように、企業経営において人材(社員)は重要な経営資源です。モチベーションが高く、優秀な人材が集まる職場は活気に満ちあふれ、課題に直面したときもそれに立ち向かおうとする機運が生まれてきます。

こうした社員は企業にとって「人材」ではなく「人財」です。人財とは、「業務に対するモチベーションが高く、能力の開発にも積極的である」「社長の意向を十分に理解し、他の人材への伝達役になれる」「上司に相談すべきことと、自己で解決すべきことの判断力に長けている」といった資質を備えた社員です。

とはいえ、採用難の昨今、こうした人財を採用するのは簡単ではありません。企業は採用活動と並行して、社員のモチベーションを高めるための人事制度を整備し、人材を人財へと開発していく必要があります。つまり、働きやすい職場づくりと人材教育に力を注ぐということです。

本稿では、人材を人財へと開発するための中小企業の人事制度の在り方を紹介していきます。なお、人事制度とは「採用から退職までの取り組みを一定の方向性(考え方)によって整理した一連の制度」です。

2 万能モデルは存在しない?

人材を人財に開発していく上で重要なことは、社員に刺激とチャンスを与え、モチベーションを高めることです。わが国では1960年代から広まった能力主義と1990年代から広まった成果主義(以下「能力・成果主義」)の導入によって、それを実現しようとする企業が出てきました。

能力・成果主義は、社員が保有する能力、発揮した能力、達成した成果を評価して処遇する仕組みです。頑張り次第で、年齢や勤続年数に関係なく賃金や賞与が上がる可能性があるため、これに魅力を感じる社員がいました。しかし、一方で、次のような理由から能力・成果主義を好まない社員もいました。

  • 高齢社員(既婚、持ち家)

「なぜ、いまさら能力・成果主義なの? 若い頃に我慢して、ここまできたのに。年功主義のままで定年を待ちたい」

  • 中堅社員(既婚、持ち家)

「能力・成果主義に興味はあるよ。だけど、出産・住宅ローンなどお金がかかることが多いので、将来のことが不安だ」

  • 若手社員(未婚、親元)

「能力・成果主義でいいんじゃないかな。頑張れば今の年功主義より賃金が高くなりそうだし」

既に高給を受け取っている高齢社員は、年功主義のまま定年を迎えたいと考えるのが自然です。同様に、住宅ローンが残っており、生活費がかさむ中堅社員は、賃金支給額が安定しない能力・成果主義に不安を感じることがあるでしょう。社員の立場や考え方によって好ましい人事制度は異なるのです。

3 中小企業ならではの柔軟な人事制度

1)柔軟な人事制度を構築する

人事評価には、年功主義、能力主義、成果主義などさまざまな方針があります。人事評価の方針の特徴は次の通りです。

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人事評価の方針は、賃金などにも影響します。例えば、多くの日本企業が導入している年功主義では、年齢や勤続年数を主要な評価基準として賃金などを決定しています。しかし、年功主義には社員の平均年齢が高くなると人件費が肥大するデメリットがあり、また年齢の若い社員や勤続年数の短い社員には必ずしも魅力的な制度とはいえません。

人件費の抑制や若手社員の定着を目指すのであれば、年功主義から能力・成果主義へのシフトを考えるのも1つの方法でしょう。幸い、中小企業は一元的で細かい労務管理が求められる大企業に比べると、「就業規則に細かい規定を設けず、社長の裁量で人事に関する問題を個別に解決する」など、柔軟に人事制度を運用できる面があります。

ただし、人事制度のルールを変える場合は、必ずそれに不安や不満を抱く社員がいることを考慮しなければなりません。年功主義から能力・成果主義に移行する場合であれば、注意が必要なのは年功主義のまま定年を迎えたいと考える高齢社員などです。企業が柔軟な人事制度を構築する上でのポイントを詳しく見ていきましょう。

2)社員の目線で人事制度を捉えてみる

柔軟な人事制度を構築する際は、まずは社員の意識調査を行ってニーズを探ります。社員は自分たちのニーズを探りながら職場づくりを進める企業に好感を持ちます。たとえ1つでも社員の意見を取り入れれば、仕事への意識が大いに高まるかもしれません。

次に意識調査の結果を分析し、可能な部分を人事制度に反映します。何を取り入れるかは企業次第ですが、「社長の考え方に合致する」「多くの社員が希望する」ものであることが前提です。なお、社員に対する意識調査の結果を人事制度に反映させる際の1つの考え方は次の通りです。ここでは、成果主義賃金を導入した場合を想定しています。

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成果主義賃金を導入するだけでは、不安や不満を感じる社員がいます。そこで、成果主義金に対して不安や不満を感じることが多い高齢社員を考慮して、「年功給の比率を維持する」「貢献度に応じて、法定年齢以上に継続雇用する」といった制度の導入を検討します。賃金は複数の要素の組み合わせで決定されるため、成果給(成果主義賃金)と年功給(年功主義賃金)を同時に採用することができます。新たに成果給を導入するとしても、既存の年功給を変えなければ高齢社員の安心につながるでしょう。

4 中小企業が能力・成果主義から学ぶこと

1)なかなか導入がうまくいかない能力・成果主義賃金

能力・成果主義賃金は、年齢や勤続年数といった属人的な要素ではなく、企業への貢献度によって賃金額を決定することが可能となるため、賃金制度の選択肢の1つとして注目されています。企業への貢献度によって社員を客観的に評価したいという意向は中小企業でも強く、能力・成果主義賃金はそれを実現しやすい仕組みとなっています。

ただし、能力・成果主義の導入に失敗した企業は少なくありません。社員が目標達成に過度のプレッシャーを感じてしまったり、不安定な賃金に大きな不満を抱くようになったりすると、能力・成果主義は機能不全に陥ります。社員のモチベーションが低下し、能力を十分に発揮できなくなったり、「ウチの会社は、能力・成果主義を名目に賃金をカットしようとしている」と会社に反発したりする可能性もあります。そのため、社員の意識調査をしっかりと行った上で構築される柔軟な人事制度が求められます。

2)能力・成果主義の評価体制から学ぶ

年功主義を見直し、能力・成果主義を導入する企業の間では、多くの成功例や失敗例が生まれています。例えば、能力・成果主義における社員の評価体制です。能力・成果主義が注目された当初、「能力・成果主義」と「結果主義」を混同してしまい、失敗する企業がありました。結果主義とは、文字通り最終的な結果のみを評価の対象とする考え方です。最終的な結果だけが評価される仕組みでは、社員は強いプレッシャーとストレスを感じ、チャレンジ精神を失ってしまいます。

こうした失敗を踏まえた現在の能力・成果主義では、「社員の能力」「設定された目標の難易度」「目標達成に向けたプロセス」「最終的な成果(結果)」を総合的に評価するようになっています。ただし、これでも全ての社員の理解を得ることはできず、不満の対象となることがあります。そのため企業は、より透明で公平性の高い評価制度を構築しようと努力を続けています。

能力・成果主義を導入している企業と社員の関係は、ドライであるといわれることがあります。しかし、真摯に社員と向き合いながら評価しようとする企業の姿勢からは、これまで以上に社員と親密な関係を感じることができます。社員と真摯に向き合う姿勢は、人事制度を構築する上で非常に重要であり、こうした姿勢を示すことで、社員の企業に対する理解と信頼が生まれてきます。

3)人事制度が人財を開発することもある

社員のモチベーションを高める柔軟な人事制度の構築には、労力と時間がかかります。しかし、社員の意識を吸い上げやすく、フットワークの軽い中小企業ならば実現可能でしょう。そして、柔軟な人事制度がうまく機能したとき、人材は中小企業にとって欠かせない人財へと開発されていくのではないでしょうか。

人材を人財へと開発する人事制度を構築する上で大切なポイントは次の5つです。

  • 社員と真摯に向き合う姿勢を貫くこと!
  • 必要以上に○○主義にとらわれないこと!
  • 社員の意識調査をしっかりと行うこと!
  • 柔軟に人事制度のメニューを決定すること!
  • 刺激と安定のバランスを上手に取ること!

5 社員の意識を調査するためのシート

最後に、第3章で述べた社員の意識調査を実施する際に使えるシートの例を紹介します。

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以上(2018年12月)

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テレワークや時差出勤における労務のポイント

書いてあること

  • 主な読者:場所や時間にとらわれない働き方を実現したい経営者
  • 課題:労働時間管理など、労務上、どのような問題があるのか分からない
  • 解決策:労働時間管理、健康管理、就業規則の見直しのポイントを紹介する

1 テレワークの労務のポイント

1)制度の概要

テレワーク(リモートワーク)は、パソコンやタブレット、スマートフォンなどを使って場所や時間にとらわれずに働く勤務形態です。自宅で仕事をする在宅勤務、勤務先以外のオフィススペースで働くサテライトオフィス勤務などが含まれます。

会議支援システムやチャットツールなどの発達と、「会って話すのが最高」という認識が変化し、時間効率やコスト削減も重視されるようになったことで、テレワークの導入企業が増えています。

2)労働時間管理のポイント

テレワークでは、オフィス備え付けのタイムカードを使って始業・終業時刻を把握することができません。そこで、一般的にはテレワークを行う社員からの自己申告(始業・終業時に、オフィスに電話で連絡を入れるなど)や、ノートパソコンでも打刻が可能な勤怠管理システムによって、始業・終業時刻を把握することになります。

難しいのが、「子どもの保育園の送迎」「自宅での家族の介護」など、私用のために業務を中断する「中抜け」です。中抜けの時間、その間の賃金を決めなければなりません。

中抜けがあった場合の労働時間管理の例は次の通りです。なお、図表1では本来の始業時刻を9:00、終業時刻を18:00、休憩時間を12:00~13:00(1時間)とします。

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「休憩時間として扱い、終業時刻を繰り下げる場合」は、中抜けの時間の賃金は無給とし、企業は社員に対し、終業時刻を繰り下げた時間(1時間)を含めた8時間の労働に対する賃金を支払います。

「時間単位の年次有給休暇として取り扱う場合」は、中抜けの時間の賃金は有給とし、企業は社員に対し、7時間の労働と1時間の年次有給休暇(合計8時間)に対する賃金を支払います。

3)健康管理のポイント

テレワークを行う社員が健康障害に陥りやすいのは、長時間労働です。問題は、「社員が虚偽の始業・終業時刻を申告(打刻)するケース」です。実際は業務が終了していないのに、「定時で業務が終了した」と嘘をついてサービス残業をすることがあります。

対策として考えられるのは、「勤務時間の途中で、社員から業務状況を報告させるタイミングを設け、その状況を基に管理職が残業命令を出す」「深夜・休日などに、外部から社内システムに入れないようアクセス制限を行う」などです。

また、非常に根本的なところですが、テレワークは仕事であり、働く場所が違うだけです。発熱した社員が、「出勤はつらいのでテレワークをします」と申告してくることがありますが、これは認めてはいけません。

4)就業規則の見直しのポイント

まず、テレワークの対象を定めます。通常、育児・介護を行う社員などに限定する例が多いですが、対象範囲が狭すぎると効果が限られますし、対象外となった社員の不満にもつながります。また、新型コロナウイルス感染症が重要な問題となっている昨今、多くの社員をテレワークの対象にせざるを得ないケースもあります。

平時においては、新入社員など明らかにテレワークに向かない社員を除き、「自立して業務を遂行できると管理職が判断した社員」をテレワークの対象とする旨を定め、緊急時には会社の判断で拡大できるようにするとよいでしょう。

必要に応じて、賃金規定も見直します。例えば、在宅勤務では社員の自宅の水道光熱費などが上昇する可能性があるので、「テレワーク勤務手当」などとして上乗せします。逆に、通勤しなくなるので通勤手当を削減または廃止することができます。

2 時差出勤の労務のポイント

1)制度の概要

時差出勤は、所定労働時間を変更せず、始業・終業時刻を変更する労働時間制度です。始業・終業時刻を繰り上げる(または繰り下げる)ことで、社員は通勤ラッシュを避けられます。また、社員のリズムに合わせて、集中しやすい時間帯に働けるようになります。

図表2では、本来の勤務時間を「9時始業・18時終業」、時差出勤の勤務時間を「10時始業・19時終業」としています。実際は「11時始業・20時終業」など、時差出勤の勤務時間を複数用意することも可能です。

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2)労働時間管理のポイント

時差出勤は始業・終業時刻を変更するだけで、所定労働時間には変更がないため、労働時間管理の方法は通常時とほぼ変わりません。ただし、深夜労働(原則として22時から翌日5時までの労働)の扱いには注意しましょう。

例えば、勤務時間が「9時始業・18時終業」のAさん、「10時始業・19時終業」のBさん、「11時始業・20時終業」のCさんがそれぞれ4時間ずつ残業したとします(全員、休憩は1日1時間とします)。

この場合、3人の実労働時間は同じ(12時間)でも、深夜労働の時間数がそれぞれ異なることになります。深夜労働について、会社は25%以上の割増賃金の支払いが必要です。

  • Aさん(9時始業・22時終業)の深夜労働:0時間
  • Bさん(10時始業・23時終業)の深夜労働:1時間
  • Cさん(11時始業・24時終業)の深夜労働:2時間

3)健康管理のポイント

時差出勤のメリットの1つは、社員が通勤ラッシュを避けられることです。しかし、社員の自宅からオフィスまでの距離や、利用する路線によっては、かえって混雑した時間帯に通勤することになり得るので、社員に状況を確認してみるとよいでしょう。

さらに注意すべきは、早く出勤してきた社員の長時間労働です。終業時刻が19時だと、それほど遅く感じません。しかし、時差出勤で7時に出勤していたら、すでに11時間働いていることになります(休憩1時間の場合)。実際の時間と労働時間の感覚にズレが生じるため、注意が必要です。

4)就業規則の見直しのポイント

始業・終業時刻は、就業規則の絶対的必要記載事項です。時差出勤によって始業・終業時刻を変更したり、複数の勤務時間を設けたりする場合は、その旨を就業規則に記載します。

テレワークと違い、時差出勤は全社員を対象として差し支えないでしょう。ただし、複数の勤務時間を設ける場合、1つの勤務時間に社員が偏ると、顧客対応などの業務に支障が出る恐れがあります。そのため、「時差出勤の勤務時間については、社員の希望を聴取した上で業務の状況などを勘案し、会社が決定・通知する」といった規定を設ける必要があるでしょう。

以上(2020年4月)
(監修 シンシア総合労務事務所 特定社会保険労務士 白石和之)

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コスト削減に効果大「再エネ調達」の取り組み

書いてあること

  • 主な読者:電気代削減に取り組みたい製造業の経営者など
  • 課題:どのような再エネ調達の方法があるのか、メリットや費用感も含めて知りたい
  • 解決策:「自家発電・自家消費」がコストや税制面で注目されている。今後はサプライヤーとしての立場を強固にする上でも重要な調達方法となる

1 中小企業が再エネ調達に乗り出すメリット

地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が2020年1月から本格スタートしたことなどを背景に、多くの大手企業は、企業活動におけるCO2削減を迫られています。そうした中、大手企業がサプライヤーに対して、CO2削減を要請するケースが増えています。

代表的なCO2削減策は、企業活動に必要な電力を再生可能エネルギーで賄う「再エネ調達」です。今後、中小企業がサプライヤーとしての立場を強固にする上で、再エネ調達は重要な取り組みになるとの指摘もあります。

注目されている再エネ調達方法は「自家発電・自家消費」。企業が自らソーラーパネルなどを設置し、そこから生まれた電力を自社で消費する方法で、次のようなメリットがあります。

  • 電気代を削減でき、コストダウンにつながる
  • 導入することで税制措置が受けられる
  • 災害時や緊急時の非常電源としてBCP対策になる

実際の導入事例などを踏まえ、具体的なメリットや費用感を見ていきましょう。

2 初期費用面を税制措置が後押し

太陽光発電事業などを展開するエコスタイルへのヒアリングによると、《電気代削減によるコストダウンに魅力を感じつつも、初期費用の面で二の足を踏んでいた中小企業が、税制措置に後押しされて「自家発電・自家消費」を導入するケースがここ数年で増加している》(2020年3月15日時点)とのことです。

大量の電気を使用するメーカーでは、自家発電・自家消費による電気代の削減効果は大きくなります。例えば、緩衝材加工メーカーのA社は、節電のために90キロワットのソーラーパネルを敷地内に設置。年間400万円以上かかっていた電気代のうち、約200万円分を自家発電で賄えるようになりました。

A社が「自家発電・自家消費」を導入した決め手の1つが、税制措置です。これは、2021年3月までに自家消費型の太陽光発電設備を取得した中小企業が、その費用について「即時償却」または「取得価額の10%の税額控除」などが受けられるというものです。

税制措置は、2016年7月に施行された中小企業等経営強化法に基づく支援措置の1つ(中小企業経営強化税制)で、他にも、民間金融機関から融資を受ける際の信用保証といった金融支援も受けることができます。

3 災害時の非常電源としてBCP対策に活用

2018年6月に発生した西日本豪雨では、被災地域で約1週間の停電が発生しました。今後、水害の発生頻度が増加するという予測もあり、メーカーなどがサプライヤーに対してBCP対策を求めるケースも出てきています。

「自家発電・自家消費」であれば、停電時でも、電話、メール、インターネットなど外部との通信手段を維持できます。従業員の安否確認や業務再開に向けた指示、取引先との連絡などを通して、業務の早期復旧を目指すことができます。

また、自家発電で賄える範囲で、工場の稼働や店舗の営業を継続することもできるため、取引先や地域住民の安心感や信頼の獲得にもつながります。

4 導入を検討する際のポイント

1)設置費用の目安は?

太陽光発電の普及に伴い、海外メーカーの参入による価格競争などの影響で、法人向けの太陽光発電設備の設置費用は年々下がっています。太陽光発電事業者などへのヒアリングによると、最近では《1キロワット当たり12万~20万円》で設置するケースが多いようです。

ただし、エコスタイルへのヒアリングによると、《設備業者や使用するソーラーパネル、積雪の有無、風の強さ、設置する屋根の角度や強度など、細かい条件によって費用はケース・バイ・ケースで大きく変わる》(2020年3月18日時点)とのことです。

2)設置規模の目安は?

エコスタイルへのヒアリングによると、《導入する中小企業の多くは、100~300キロワットのソーラーパネルを設置しており、パネルの面積は100キロワットで約660平方メートル、300キロワットで約2000平方メートルになる。これより規模の小さい事例だと、例えば、一般的なコンビニエンスストアの屋根の場合、20~30キロワットのパネルを設置できる》(2020年3月15日時点)とのことです。

また、《自家発電・自家消費の場合、導入する企業の普段の電気使用量に合わせて、発電した電気が余らないようにソーラーパネルを設置することになる》(2020年3月15日時点)とのことです。

5 サプライチェーンの要請はこれから本格化

近年、大手企業を中心に、サプライチェーンにおけるCO2排出量の算定・管理・情報開示を進める動きが活発化しています。

  • イオン:PB商品の製造委託先企業へCO2削減目標の設定を要請
  • 大和ハウス工業:2025年度までに主要サプライヤーの9割以上と温室効果ガスの削減目標を共有。取引先とともに省エネ診断や合同勉強会等を実施し、目標の設定および省エネ活動を推進
  • 富士通:事業のバリューチェーンからの温室効果ガス排出量を、2030年度までに2013年度比30%削減
  • NTTデータ:サプライヤーとの連携による購入した製品・サービスの省エネ化
  • NEC:製品の製造過程で消費する電力、ガスなど、資源の削減を要望

実際の導入事例などを踏まえ、具体的なメリットや費用感を見ていきましょう。

企業のサプライチェーンにおけるCO2削減支援などを行っているB社へのヒアリングによると、大手企業への支援件数は、《2019年度が5件だったものが、2020年度は17件に急増した。サプライチェーンへの具体的な要請に乗り出す企業も増えている》(2020年3月15日時点)とのことです。

「自家発電・自家消費」は、こうした大手企業の要請に十分に応える取り組みといえます。

例えば、大手自動車メーカーのサプライチェーンに属するC社の事例では、空調や照明設備などで省エネ化を図っていたものの、なかなか削減目標に届きませんでした。そこで、自家消費型の太陽光発電設備を導入したところ、削減目標を大きく超えることができたといいます。

このように、日本企業の多くは、従来、高効率空調設備の導入やLED照明への切り替えによる節電などを進めており、省エネ策は「頭打ち」ともいわれています。そうした中で、電気そのものを作り出す自家発電・自家消費は、打開策として注目されています。

以上(2020年4月)

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服務規律違反はどこまで罰せられる?

書いてあること

  • 主な読者:就業規則等に服務規律(業務を遂行するに当たって社員が守るべき行動規範)に関する条文を設けている企業の経営者
  • 課題:社員の服装などを服務規律でどこまで規制できるのか、服務規律に違反した社員に対して、どの程度の懲戒処分が許されるのかなどが分からない
  • 解決策:社員に対する規制や懲戒処分など、服務規律の実務に関するポイントをQ&A形式で紹介する

Q1 服務規律に定める内容はどのようなもの?

服務規律に定める内容は企業によって異なりますが、厚生労働省「モデル就業規則(平成31年3月)」では、次の内容が定められています。

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また、今どきの内容として、社員のSNS利用について定めている企業もあります。近年は、SNSを利用する社員による、個人情報の漏洩や企業の品位を下げる投稿が問題となっています。そのため、「勤務中に私的にSNSを利用しないこと」「SNSを利用して取引先等の悪口を公開しないこと」などを服務規律に定めている企業があるようです。

この他、「副業・兼業をしないこと」「勤務中に政治活動、宗教活動、集会などをしないこと」「私的な活動のために企業の名前を使用しないこと」などを定めている企業があります。ただし、副業・兼業については、近年「事前に許可を受けた場合は、副業・兼業を認める」など、解禁に踏み切っている企業もあります。

Q2 そもそも服務規律の法的根拠は?

服務規律について具体的に定めた法令がないため、「そもそも社員を服務規律に従わせることは、法的に問題ないのか?」という疑問を抱く人がいるかもしれません。

これについては、過去に最高裁判所が「労働者は、労働契約を締結して企業に雇用されることにより、企業に対し、労務提供義務を負うとともに、これに付随して、企業秩序遵守義務その他の義務を負う」という判断をしています(富士重工業事件 最三小昭和52年12月13日判決)。

この企業秩序遵守義務により、企業は服務規律を遵守するよう社員に命じることができると解されます。また、服務規律に定める個々の内容については、各種法令が法的根拠となるものもあります。

例えば、「ハラスメントの禁止」の場合、パワハラ、セクハラ、マタハラについて、労働施策総合推進法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法といった法律により、ハラスメント防止に関する対策を講じることが企業に義務付けられており(パワハラ防止については、大企業で2020年6月1日、中小企業は2022年4月1日から義務化)、服務規律で規制することに合理性があるといえます。

また、「個人情報保護」の場合、個人情報保護法により、個人情報の適正な管理に関する対策が企業に義務付けられているため、服務規律で規制することに合理性があるといえます。

Q3 服装などの規制はどこまで許される?

前述の通り、社員は企業秩序遵守義務を負っていますが、一方で日本国憲法により、自己決定権(個人的な事柄について、公共の福祉に反しない範囲で自由に決定する権利)を保障されています。そのため、企業秩序の維持という目的を超えて社員の行動を規制することはできません。とはいえ、服装などの場合、「企業秩序」と「個人の自由」のバランスが難しく、どこまでを服務規律で規制してよいものか悩みどころです。

この基準は明確ではありませんが、過去の裁判例などを基に考えると、規制の必要性を次のようにレベル分けすることができます。

  • 1.社員の安全のため > 2.企業の利益のため > 3.それ以外で企業の秩序維持のため

企業の事業内容や社員の職種などによって判断が変わる可能性がありますが、服装の場合、例えば次のように考えることができます。

1.社員の安全のため

建設現場でヘルメットを着用するよう社員に義務付ける場合などが該当します。労働契約法により、企業は社員がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務を負っているからです。

2.企業の利益のため

ホテルのフロントやハイヤーの運転手など清潔さが求められる職種において、ひげを整えるよう社員に義務付ける場合などが該当します。清潔さを損なうことがサービスの売り上げなどに影響し、企業に不利益となる可能性が高いからです。ただし、例えば「ひげが整っていて不快感を生じさせないのに、そることを一律で義務付ける」ような場合は、過度な規制に当たると判断されることもあります。

3.それ以外で企業の秩序維持のため

特に清潔さが求められる職種ではないが、社会人として常識的な最低限の身だしなみ(汚れたシャツを着て出勤しないなど)を社員に義務付ける場合などが該当します。汚れた服装の社員がいると、他の社員に不快感を与え、職務に影響が出る可能性があるからです。

「1.社員の安全のため」と「2.企業の利益のため」に該当する場合は、比較的規制の必要性が認められやすいと思われますが、「3.それ以外で企業の秩序維持のため」に該当する場合は注意が必要です。

例えば、「汚れたシャツを着て出勤しない」という規制は、企業秩序を守る上である程度必要性があると考えられます。しかし、「女性社員はスカート着用を義務とする」という規制の場合、スカートを着用しないことが必ずしも企業秩序に影響するとは限りません。規制を設ける必要性がなければ、逆に女性社員に対するセクハラであると判断される可能性があります。

Q4 プライベートを服務規律で規制できる?

服務規律は社員が職場で服するルールであるため、原則としてプライベートまでは及びません。例えば、プライベートの服装を服務規律で規制することはできません。

ただし、過去に最高裁判所は「職場外での職務遂行に関係がない行為であっても、企業秩序に直接の関連を有するものもあり、それが規制の対象となることも許される」という判断をしています(国鉄中国支社事件 最一小昭和49年2月28日判決)。

従って、プライベートであっても、例えば飲酒運転による交通事故や横領など、刑法上の犯罪行為などについては、規制の対象となると考えて差し支えないでしょう。

やや複雑なのが、法令で規制されていない「副業・兼業」などの場合ですが、前述の「1.社員の安全のため>2.企業の利益のため>3.それ以外で企業の秩序維持のため」の基準を使って考えると、次のように判断することができます。なお、企業の事業内容や社員の職種などによって判断が変わる可能性があります。

1.社員の安全のため

トラック運転手やとび職など、職務中にけがなどをする可能性が高い事業において、副業・兼業を禁止する場合などが該当します。副業・兼業は一般的に過重労働につながりやすく、社員の疲労の蓄積が、生命の危険に直結する可能性が高いからです。

2.企業の利益のため

競合企業での副業・兼業を禁止する場合などが該当します。社員が副業・兼業先で企業秘密を話してしまったり、引き抜きを受けたりした場合、企業の不利益になる可能性が高いからです。

3.それ以外で企業の秩序維持のため

一概には言えませんが、社会的に広く許容されていると言い難い事業(風俗業など)を営む企業での副業・兼業を禁止する場合などが該当します。社風などにもよりますが、他の社員に不快感を与え、職務に影響が出る可能性があるからです。

Q5 服務規律違反の懲戒処分はどこまで許される?

服務規律で特にトラブルになりやすいのが、服務規律に違反した社員に対する懲戒処分の問題です。社員に対する懲戒処分は、労働者の行為の性質・態様などに照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は無効とされています(労働契約法第15条)。そのため、仮に服務規律の内容は適正でも、服務規律に違反した社員に、違反内容に照らして重すぎる懲戒処分を与えることはできません。

一般的な懲戒処分を処分の重さ順に並べると、次のようになります。

  • 懲戒解雇:即時に解雇する。懲戒処分の中では最も重い処分となる。
  • 諭旨解雇:退職願の提出を勧告した上で、解雇とする。
  • 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする。
  • 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う。
  • 減給:一定期間、賃金支給額を減額する。
  • けん責:始末書を提出させ、将来を戒める。

「1.懲戒解雇」から「3.出勤停止」までの懲戒処分は、原則として服務規律違反の中でも、特に悪質なものに対してのみ適用できると考えられます。

特に悪質なものとは、飲酒運転による交通事故や横領など、刑法上の犯罪行為などに該当するケースです。

セクハラなどの場合は、内容によって判断が変わります。例えば、強制わいせつ罪に該当する場合や社員が一定の精神障害を発症した場合は、「1.懲戒解雇」から「3.出勤停止」までの懲戒処分が妥当かもしれません。しかし、これらに該当しない場合は処分として重すぎると判断される可能性があります。その場合、懲戒処分を「4.降格」「5.減給」などに引き下げる必要があるかもしれません。

服装などに関する服務規律違反の場合は、「1.懲戒解雇」から「5.減給」までの懲戒処分は、処分として重すぎるかもしれません。「6.けん責」を何度か繰り返しても改善が見られない場合に、初めて「5.減給」などの重い処分を検討するのが通常です。

Q6 懲戒処分を検討する際に注意すべきことは?

前述の通り、懲戒処分を行うに当たっては客観的な合理性と、社会通念上の相当性が必要です。社員が服務規律に違反した場合は、社員の行動に対して、「懲戒事由に該当するか?」「懲戒処分が必要か?」「懲戒処分の内容が妥当か?」について、慎重に判断する必要があります。

また、実際に裁判などに発展した場合、次のような内容が判断要素として重視される傾向にあるので、併せて押さえておきましょう。

  • 服務規律を社員に周知していたか?
  • 服務規律が遵守されるよう、社員に対し、注意喚起や研修(ハラスメント防止研修など)を行っていたか?
  • 過去に同じ服務規律違反を犯した社員に対し、異なる懲戒処分が適用されていないか?

この他、特にトラブルになりやすいのが、減給をしたり懲戒解雇により退職金を不支給としたりする場合、つまり賃金や退職金の減額を伴う場合です。

減給については、労働基準法により「1回の控除額が平均賃金(過去3カ月間の賃金総額を暦日数で除した金額)の1日分の半額を超えず、総額が1回の賃金支払総額の10分の1を超えない」ようにすることが義務付けられています。

退職金については、懲戒解雇した社員への退職金を不支給とすることについて、長年の勤続の功を打ち消す重大な背信行為がなければ認められないとされ、70%の減額が妥当と判断された裁判例があります(小田急電鉄事件 東京高裁平成15年12月11日判決)。

減給や、懲戒解雇とする場合の退職金の不支給(または減額)については、いま一度就業規則等の内容を見直しておく必要があるでしょう。

以上(2020年4月)
(監修 弁護士 田島直明)

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