SNSを使った人材採用 成功するための3つのポイント

書いてあること

  • 主な読者:SNSを活用して人材採用に結び付けたい経営者、採用担当者
  • 課題:採用に成功するために、どうすればよいのか分からない
  • 解決策:日ごろから発信力を高める、SNSの各サービスの特徴を知るなどのポイントを押さえる

1 SNSを使った採用のメリットは?

多くの中小企業は、ハローワークや人材紹介サービスなどを利用して求人募集を行っている。しかし、深刻な人手不足が続く中、そもそも求職者と出会えないといった悩みがある。その打開策として、Twitter、Facebook、LINE などのSNSを活用して求人募集を行い、採用に結び付けようとする企業が増えている。

総務省「通信利用動向調査報告書」によると、SNSを活用している企業の割合は2017年の28.9%から2018年には36.7%に増加。そのうち、会社案内や人材募集を目的とする企業の割合が、2017年の35.5%から40.6%に増加している(図表1)。

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SNSを使った採用は、経営者や採用担当者が自身のアカウントを運用して取り組むことが多い。例えば経営者が「事務職を募集中です。関心のある方はオフィスに遊びに来ませんか? DM(ダイレクトメッセージ)を下さい」などの内容をSNSに投稿する。この投稿に反応してコンタクトしてきた求職者とやり取りや面談をして、採用活動を進めるというものだ。

今や、20代の約80%、30代の約75%が個人でSNSを利用しているといわれる中、求職者との接点をつくるためのツールとしてもSNSは注目されている。

他にも、SNSを使った採用には、次のようなメリットがある。

  • 求職者が企業に対する理解を深めやすく、「実際に企業を訪問してみたら思っていたのと違う」というミスマッチを事前に回避しやすい
  • 自ら能動的に情報収集して自社に関心を持った、モチベーションの高い人材を採用できる
  • メッセージのやり取りから、面談時に比べて「飾っていない」状態の求職者の人となりや、様子を知ることができる
  • 本格的な転職活動はしていないものの、「現在の働き方に満足していない」「良い企業があれば話を聞いてみたい」と考える求職者予備軍に対しても、アプローチできる

2 SNSを使った採用で成功するための3つのポイント

SNSを使った採用に取り組んだからといって、すぐに人材を採用できるというわけではない。SNSを使った採用の取り組み方はさまざまで、活用するツールもTwitter、Facebook、LINEなど多岐にわたる。それぞれの特徴は後述するが、どのツールを活用するにしても、共通して成功するためのポイントがある。

1)日ごろから発信力を高める

SNSを使った採用に取り組むためには、フォロワーや友達の数が多いほうがよいと考えるかもしれない。しかし、より重要になるのは「質」だ。

製造業の現場改善のコンサルティングをしている企業では、事業拡大のためにコンサルタントが必要になり、経営者のTwitterで「○○県で一緒に働いてくれる同志を募集します」と投稿したところ、面識のないフォロワーの1人からコンタクトがあり、採用に至った。

この経営者は、日ごろからコンサルティングをしたクライアントの課題、自らの仕事観などをTwitterで発信していたことから、フォロワーには、面識がない人を含めて同業者や類似の業界で働く人が多いそうだ。

この経営者がSNSを使った採用に成功したのは、投稿に共感してくれる人、考えや関心が近い人などがフォロワーになっていたからであり、こうしたフォロワーや友達をつくるためにも、経営者や採用担当者が日々の業務や、仕事観などを発信することは重要だといえる。

他にも、日ごろの発信力を高める取り組みとして、次のような事例がある。

  • 「○月○日は何の日です」などの記念日、その日の新聞の経済ニュース、就職・転職に役立つ豆知識を定期的に投稿する
  • 入社した先輩が日々の仕事や、ちょっとした独り言などを堅苦しくない口調でつぶやき、自社の雰囲気や魅力、取り組みなどを伝える
  • 実際に業務を行っている様子や、会社説明会、新入社員研修、インターンなどの様子を写真や動画と共に発信する

日々の様子や独り言などをつぶやくのは、求職者に親しみを感じさせるのに効果的だ。一方で、不特定多数が見るSNSという特性上、うっかりデリケートな発言をして「炎上」しないように気を付ける必要がある。例えば、特定の政治・宗教の話題は控える、他社をおとしめる発信はしないなど、社内でSNSの運用ルールを共有しておくとよいだろう。

2)経営者が積極的に関与する

SNSを使った採用をしている企業の中には、「まずは食事をしながらお話ししませんか?」「弊社に遊びに来てみませんか?」など、求職者へのアプローチの一部は採用担当者が行うものの、実際に関心を持ってくれた人材とその後のSNS上でのやり取りや面談などは、経営者が自ら取り組むという企業もある。

求職者の中には、表面的な面談は不要で、自らが働く現場の責任者と経営者との2回程度の面談で、しっかり話したいという人もいる。

また、経営者と実際に顔を合わせるのは、面談がかなり進んでからという企業もある中で、最初から経営者が関与することは会社の印象を良くすることにつながる。求職者は自分のことを真剣に考えてくれていると感じて、自社に関心を持つようになる。

3)実際に会えた場合は、しっかりと考えや思いを伝える

SNSを使った採用で、経営者や採用担当者からのアプローチに応えてくれる求職者は、従来型の採用活動に満足していない人たちだ。

こういう人たちは条件面だけではなく、募集要項からはうかがい知れないこと、例えば、実際に経営者と話をして、自社や事業に対する考えや思いを聞き、その企業や事業の将来性はあるのか、自分が成長できる企業なのか、経営者や採用担当者はビジネスパーソンとして尊敬できる人なのか、一緒に働きたいと思える人なのかなどを知りたいと考えている。

SNS上の投稿で、日ごろの業務や仕事観などを発信することは重要だが、それだけでは十分とはいえないので、実際に求職者と会えた機会にしっかりと考えや思いを伝える必要がある。

例えば、実際に顔を合わせた求職者に対して、「全国の中小企業の経営課題の解決につながるサイトを構築したい」「1年後にはサイト上で、業務の効率化につながるサービスを使えるようにしたい」「それを実現するためにも、サイトのシステムを構築するエンジニアを求めている」「力を貸してほしい」など、しっかりと思いを伝えることで、求職者が真剣に自社に関心を持ってくれるようになる。

3 SNSによって異なる特徴を知る

一口にSNSと言っても、サービスごとに特徴が異なる(図表2)。以降では、Twitter、Facebook、LINEなど、採用側(経営者や採用担当者)が基本的に無料で利用することができるSNSについて、特徴を紹介したい。

こうした特徴を押さえて、適切に情報を発信したり、利用したりすることで、自社が求めている人材にアプローチできるだろう。

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1)Twitter

一部では、「Twitter採用(Twitter転職)」という言葉が浸透しているほど、SNSを使った採用では一般的に利用されている。簡単に投稿ができる、実生活で面識がない人ともつながりやすいなどの理由から、Twitterが利用されることが多いようだ。

また、Twitterでは、本名以外でのアカウント登録が可能なことや、文字数制限があるので、短文で気軽な内容の投稿が多くなっている。そのため、人となりや本音が出やすく、経営者や採用担当者としては、求職者のことを知る上で参考になるようだ。

Twitterを使った採用では、求人情報を詳細に掲載するというよりも、「営業職を募集中です。関心のある方はオフィスに遊びに来ませんか? DM下さい」や、採用色を前面に出さずに、「ヘルスケア業界で働く方、○○で食事会を開催します! 業界の将来について語りませんか?」などの情報を投稿する。投稿に反応があった人とコンタクトを取って、実際に会う機会などにつなげている場合が多いようだ。

さらに一部の経営者や採用担当者は、コンタクトを取ってきた人に限らず、リツイートなどの反応をした人を確認して、自社が求める人材であれば求職中かどうかを問わず、個別にアプローチしている。

2)Facebook

FacebookはTwitterとは異なり本名での登録が基本で、出身校や所属企業などの属性を登録している人も多い。また、Facebookを通じて仕事上のやり取りを行っている人もいるので、「友達」を見ることで、どういう人とつながっているのかなど、Twitterよりも社会的な立場や交友関係を知ることができる場合もある。

Facebookを使った採用では、経営者や採用担当者が、Twitterのように自社が現在採用活動していることを簡単に告知したりするだけでなく、自社の社員紹介や社内イベントの様子など、企業案内に近い投稿をしたりしている場合もある。

なお、経営者や採用担当者の個人のアカウントではなく、自社の企業アカウントを取得している場合は、求人機能を利用できる。これはフォームに従って職種などの求人情報を記載し、投稿を作成する機能だ。また、有料になるが、Facebook上で広告を出すことで、ターゲットを絞り込んで求人情報を投稿することもできる。

3)LINE

LINEは多くの若者が日常的に利用しているSNSツールであり、採用活動にLINEを活用する企業が増えている。

LINEのメリットの1つは、求職者がメッセージを見落としてしまう可能性が少なく、スムーズに連絡が取れるという点だ。LINEはメールなどと違い、基本的にスマートフォンの画面上にメッセージが通知されることや、普段からコミュニケーションツールとして頻繁に利用されていることから、求職者が見忘れてしまったり、他のメールなどに埋もれてしまったりする心配はほとんどない。

また、LINEはメールなどと違い、求職者がメッセージを既読しているかどうかを確認できる。「メッセージには気付いているが、返信をしてこない」ということが分かるため、求職者の志望度を察したり、志望度が低い求職者に別のアプローチを検討したりすることもできる。

企業の活用事例としては、企業がLINEの友達登録用のQRコードを用意し、エントリーしてきた求職者や、イベントなどに参加した学生に対して、希望者に登録を促すというものがある。その後、定期的に説明会の情報などをタイムラインや一斉メッセージ送信などで共有する。

また、内定者フォローとして、社内報などを発信して自社の魅力をアピールしたり、内定者のグループLINEを作って内定者同士の親交の場にしたりすることで、内定辞退や早期離職の防止に取り組んでいる場合もある。

4 他の求人媒体と組み合わせる

SNSを使った採用は、企業が特定の求職者にピンポイントでアプローチする「ダイレクト・リクルーティング」の1つだ。

他にも、企業の細かいニーズに特化した人材紹介サービスや、人材会社が開催する求人イベント、リファラル採用(縁故採用)、紹介予定派遣など、求人媒体の選択肢は広がっている。

自社が求める職種、年齢、条件、人物像によって、効果を発揮する求人媒体は異なる。例えば、求める人材が専門職で、その専門職の多くが、SNSにあまりなじみのない高年齢層である場合、SNSの効果は薄いかもしれない。また、全体の母数が少ない専門職を探す場合、SNSよりも、その専門職に特化した人材紹介サービスや、ダイレクト・リクルーティングサービスを利用したほうが早い場合もあるだろう。

ただし、そうした他の求人媒体で出会った求職者の人となりを知ったり、求職者との関係を深めたりするのに、SNSは効果を発揮する。求人媒体の1つとして、また、採用の成功率を上げる補助ツールとして、SNSは企業の採用活動の幅を大きく広げるものといえる。

以上(2020年5月)

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中小企業による公認会計士の活用方法

書いてあること

  • 主な読者:公認会計士に顧問を依頼しようと考えている中小企業の経営者
  • 課題:公認会計士と税理士のしごとの違いや、中小企業における必要性がわからない
  • 解決策:資格上の専門業務は違うものの、「税理士」や「公認会計士」という肩書きではなく、おのおのが持っている知識や経験によって得意な業務などは異なる

1 中小企業による公認会計士の活用

1)公認会計士の業務

公認会計士の業務は、企業が作成・公表する財務諸表に関する監査業務と、監査業務などを通じて培われた知識と経験を活かした経営全般に関するコンサルティング業務などになります。

しかし、中小企業にとって公認会計士は身近とは言い難い存在です。これは、後述するように公認会計士による監査が義務付けられている中小企業が少ないことや、公認会計士の数が少ないことなどが原因となっています。

ここでは、日本公認会計士協会のパンフレット「CPA&JICPA(2020年度版)」などを基に公認会計士の業務について簡単に説明します。

2)「監査」業務

企業から学校法人、公益法人など幅広い対象について、独立した立場から監査意見を表明し、財務情報の信頼性を担保します。

1.法定監査

法定監査とは、法律の規定によって義務付けられているものです。主なものは次の通りです。

  • 金融商品取引法に基づく監査
  • 会社法に基づく監査
  • 保険相互会社の監査
  • 特定目的会社の監査
  • 投資法人の監査

2.法定監査以外の監査

  • 法定監査以外の会社等の財務諸表の監査
  • 特別目的の財務諸表の監査

3.国際的な監査

  • 海外の取引所等に株式を上場している会社または上場申請する会社の監査
  • 海外で資金調達した会社または調達しようとする会社の監査
  • 日本企業の海外支店、海外子会社や合弁会社の監査
  • 海外企業の日本支店、日本子会社の監査など

3)「税務」業務

公認会計士は税理士登録をすることにより、税務業務を行うことができます。事例としては、次のようなものがあります。

  • 税務代理(申告、不服申立て、税務官庁との交渉など)
  • 各種税務書類の作成
  • 企業再編に伴う税務処理及び財務調査
  • グループ法人税制、連結納税制度などの相談・助言
  • 移転価格税制、タックスヘイブン税制についての相談・助言
  • 海外現地法人、合弁会社設立を含む国際税務支援
  • その他税務相談、助言

4)「コンサルティング」業務

経営戦略の立案から組織再編、情報システムの構築など、経営全般にわたる指導・助言を行います。事例としては、次のようなものがあります。

  • 相談業務(会社の経営戦略、長期経営計画を通じたトップ・マネジメント・コンサルティング)
  • 実行支援業務(情報システム・生産管理システム等の開発と導入)
  • 組織再編などに関する相談、助言、財務デューデリジェンス
  • IFRSに関するコンサルティングや業務支援
  • 企業再生計画の策定、検証
  • 統合報告の実施支援
  • 環境・CSR情報の相談、助言
  • 株価、知的財産等の評価
  • Trustサービス(注)(WebTrust、SysTrustの原則及び基準に基づく検証・助言)
  • システム監査、システムリスク監査(システム及び内部統制の信頼性・安全性・効率性等の評価・検証)
  • システムコンサルティング(情報システムの開発・保守、導入、運用、リスク管理等に関するコンサルティング)
  • 不正や誤謬を防止するための管理システム(内部統制組織)の立案、相談、助言
  • 資金管理、在庫管理、固定資産管理などの管理会計の立案、相談、助言
  • コンプライアンス成熟度評価
  • コーポレート・ガバナンスの支援

(注)Trustサービスとは、インターネットを介した電子商取引の安全性やシステムの信頼性などに関する内部統制について保証を与えるサービスです。

2 中小企業における公認会計士の活用シーン

公認会計士はさまざまな業務を行っていますが、これらの中で、特に中小企業にとって身近と思われる活用シーンについて紹介します。

1)法定監査

金融商品取引法では、株式上場を行っている企業などに対して公認会計士による監査を義務付けています。また、会社法では、原則的に資本金が5億円以上または負債総額が200億円以上の会社(会計監査人の設置義務のある会社)を会計監査の対象として規定しています。なお、会社法では、機関設計が柔軟化され、いわゆる中小の非上場企業であっても、会計監査人を設置することが認められています。

2)任意監査

現状としては、公認会計士への業務委託費用の問題や、財務に対する監査を要求される機会が少ないことなどから、中小企業が公認会計士に任意監査を依頼するケースはそれほど多くないようです。

しかし、株式上場を予定している場合は、証券市場の上場基準では過去2事業年度程度(各市場によって条件は異なります)の公認会計士による監査が規定されていることから、任意監査を受ける必要があります。

ただし、株式上場を目指すのであれば資本政策の立案などの株式上場に対する準備が必要となるので、この期間にこだわらず、できるだけ早い時期から公認会計士による指導や監査を受けることが望ましいとされています。

3)税務業務

税務に関しては、中小企業にとって関心の高い事項です。前述のように、税務の専門家である税理士が身近な存在となっているため、多くの中小企業にとっては、税務業務は税理士に依頼することが一般的ですが、当該業務を公認会計士に依頼するケースもみられます。

4)コンサルティング業務

中小企業を主な依頼先とする個人の公認会計士事務所が、前述したような広範な分野に関するコンサルティング業務を行っていることはほとんどありませんが、自らの得意分野に関するコンサルティング業務を行っています。

コンサルティング業務は、他の専門家も行っていることが多く、必ずしも公認会計士を利用する必要はありません。しかし、中小企業が一層の成長を図るために、内部統制制度の整備を行う場合など、公認会計士が適任の分野もあります。

多くの公認会計士は、大手監査法人での勤務経験をもっており、大企業の動向や取り組みに関する知識と経験を有しています。このため、公認会計士に依頼することによって、内部監査制度の整った大企業を参考にしたコンサルティングが期待できるでしょう。

5)会計参与制度

会社法において「会計参与制度」が定められています。会計参与とは、取締役・執行役と共同して計算書類を作成するとともに、当該計算書類を取締役・執行役とは別に保存し、株主・会社債権者に対して開示することなどをその職務とする株式会社の新たな機関のことをいい、公認会計士(もしくは監査法人)または税理士(もしくは税理士法人)がなるものとして規定されています。

会計参与制度は、任意設置機関であり、必ずしも新たに設置する必要はありませんが、設置を検討する際には、公認会計士の利用についても併せて検討してみるとよいでしょう。

6)中小企業が公認会計士を利用する際の注意点

中小企業が公認会計士あるいは税理士を利用する際に、資格に基づいた特徴を基準にどちらの専門家を利用するか検討する人もいるようです。

例えば、「公認会計士は、税法については税理士に劣る部分もあるが、会社法などに関しては深い知識を有しているのではないか」「税理士は法人税、所得税、相続税などの各種税法については高い専門知識を有しているが、会社法などに関しては、それほど深い知識をもっていないのではないか」というようにです。

こうした特徴は、一般的な傾向としてはみられるものの、実際には、「税理士」や「公認会計士」という肩書きではなく、おのおのが持っている知識や経験によって得意な業務などは異なります。例えば、相続に強い公認会計士がいる一方で、事業承継、営業譲渡、M&Aなどの業務も行っている税理士もいます。

すなわち、中小企業が公認会計士に業務を依頼する際に重視すべき点は、一般的な傾向に注意しつつ、「この公認会計士は依頼業務に対する高い知識や経験をもっているか」という視点から、実績などを踏まえた上で検討することが必要です。

以上(2020年5月)

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第17回 【前編】営業育成のプロが教える「成果が上がる営業組織作りの8のポイント」/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

近年、Sales Enablement(以下、セールス・イネーブルメント)というアプローチが注目されています。セールス・イネーブルメントとは、「営業成果を出し続ける営業パーソンを育成する仕組み」のことで、「営業の成果起点の人材育成」という考え方です。
「育成自体が目的」ではなく、「営業成果のための育成」というのが一般的な育成の考え方と異なるところです。育成の結果、営業成果に繋がっているかどうかを検証します。育成の投資対効果を見に行きます。

今回の取材では、成果を創出し続ける育成に仕組み作りとそのポイントについて、山下貴宏氏に教えていただきました。前後編の2回に分けてお届けします。前編では「営業が抱える課題の解決にセールス・イネーブルメントがどう役立つのか」、後編では「実際にセールス・イネーブルメントの仕組みをどのように整備し、動かしていくのか」を解説しています。皆さまの営業組織作りのご参考になれば幸いです。

山下さん、貴重な学びのシェア、愛りがとうございます!(愛+ありがとう)

    山下貴宏
    株式会社R-Square & Company 代表取締役社長/共同創業者
    著書「セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方」(かんき出版)

1 営業とは

営業の役割とは何でしょうか? それは、「顧客に自社の製品・サービスの価値を理解して購入」いただき、「自社の営業目標を達成」することです。「顧客への価値提供」が先にあり、その結果として「自社の売上があがる」という順番です。営業の役割は、「顧客との自社製品・サービスの価値交換を通じた売上の最大化」です。

値引きをしすぎて製品提供をしてはダメですし(顧客はWinだが、自社がLose)、ゴリ押しで売れたとしても商売が続きません(顧客がLoseで、自社がWin)。

言われてみれば当たり前のことです。しかし、「売り物が複雑で専門性が高く難しい」場合や、「売り先である顧客の登場人物(ステークホルダー)が多かったり、組織が複雑で意思決定までに時間がかったりする」場合、この営業活動が途端に難しくなります。いわゆる「B2B(法人営業)」はこの部類にはいります。金融サービス、医療、IT、専門コンサルティングなど、専門性が高い法人向けの営業が典型的な例です。

そして、この難しい「B2B営業パーソンの育成」ということが更に難しいのです。

売れる営業は、どのようにして育成可能なのか? 組織としては一部の営業パーソンに依存しないよう極力「属人化」を排除し、多くの営業が「標準的に」売れる仕組みを構築する必要があります。これが、セールス・イネーブルメントのテーマです。

1)「営業目標」を明確にする

「成果起点の育成」がセールス・イネーブルメントである、とお伝えしました。逆にいうと、セールス・イネーブルメントに取り組むためには、「目指す成果・目標」が定義されている必要があります。端的にいうと、数値目標です。

目標がないところに、育成テーマはありません。

実は営業目標が明確に設定されていない企業が少なからずあり、その数は結構多い印象です。

  • 「営業一人当たりの今期の数値目標はいくらいですか?」
  • 「実は弊社のビジネスは営業一人で完結できる仕事ではないので一人当たりの目標が設定されていないのです」
  • 「わかりました。では、どのようにして個人の成果を評価していますか? 給与は何によって差がつくのでしょうか?」
  • 「……。実は、3倍多く売っても営業同士ではあまり給与は変わりません」

これはこれで1つの組織運営のあり方ですが、少なくとも育成のインセンティブ(動機付け)は働きません。「設定された目標の難易度と個人のスキルギャップが育成テーマ」になってきますが、まずは個々に追うべき目標を設定する必要があります。

2)営業目標は「既知のマーケットポテンシャル」を考慮する

営業目標を組織が設定する上で、「あいつは担当顧客が良かったから目標を大幅達成できたんだ」という声はよく聞かれます。「ノルマ不公平論」です。

多くの場合、担当顧客の割り振りとそのロジックが不明瞭です。もしくはちゃんと説明されていない。これは営業目標を設定する組織サイドの問題です。

例えば、考慮すべき論点は以下のようなものがあります。

1.新規既存

新規顧客だけを担当する営業と既存顧客を担当する営業とでは、その難易度が異なります。受注までの時間や、定常的に発生する引き合いも違ってきます。

2.エリア特性

東京と地方とでは、マーケットサイズが大きく異なります。東京エリアを担当する営業と地方を担当する営業では、当然数値目標が異なります。

3.業界特性

小売業界とIT業界。同じ小売業界でもスーパーや百貨店など、担当する顧客企業の業界によってもマーケットサイズが大きく異なります。つまり、売上獲得の分母が異なるわけで、マーケットサイズが大きな業界は営業目標も大きくなり、小さい業界はそれ相応に設定すべき、となります。

4.企業規模

大手企業と中小企業では出せる予算が当然異なります。同じ製品・サービスを売るのであれば、大手の方が目標値は大きくなります。

5.パイプライン

すでに去年から見込み商談(パイプライン)が大幅に積み上がっている場合、受注率や単価が一定であれば、パイプラインを潤沢に持っている営業パーソンの目標達成難易度は低くなります。逆に言えば余力があるわけで、他の営業と目標設定を変える論点になります。

上記は、営業目標を設定する際の観点の一部ですが、「ノルマ不公平論」を出さないためには、一定のルールや基準に基づいて極力公平に目標設定していることをコミュニケーションしていく必要があります。

3)「今売れている営業は、本当にハイパフォーマーなのか?」

ここで目標設定の公平性と重要性を述べたのには理由があります。

育成の観点からみると、

  • 「本当はスキルが低いにもかかわらず、担当顧客が良いから目標が達成できていて、できる営業として見られている」
  • 「本当は難易度の高い営業アプローチを仕掛けているにもかかわらず、今は成果が上がっていないというだけでローパフォーマーと見られている」

という事象が発生するからです。

後ほど解説しますが、セールス・イネーブルメントの取り組みの骨格は、

  • 組織として取り組むべき育成テーマを見極めて(例えば、新規開拓の改善など)
  • ハイパフォーマー(成果ができている人)のやり方を体系化し
  • コンテンツとして提供し
  • 育成テーマに連動する営業指標が改善したかどうかを、データを持って検証する

というサイクルを回します。

この時に、営業目標が適切に設定されていないと、目指すべきハイパフォーマーを見誤り、打ち手の精度が落ちてしまうことになります。

2 セールス・イネーブルメントとは

ここまで営業の役割と目標設定の重要性について述べてきました。それでは、実際にどのように育成を進めていくべきなのか、セールス・イネーブルメントの考え方を使って見ていきましょう。

冒頭でご紹介した通り、セールス・イネーブルメントは、「営業成果を出し続ける営業パーソンを育成する仕組み」のことで、「営業の成果起点の人材育成」という考え方です。

セールス・イネーブルメントの意味を解説した画像です

1)本来目指すべき「成果と育成」を繋げるサイクル

育成は、本来組織が目指す「成果」を起点にして設計される必要があります。イメージとしては以下の図にあるようなサイクルです。

人材開発サイクルを解説した画像です

しかし、実態を見ると、それぞれの階層で分断が起きています。

成果につながらない本質的な課題を解説した画像です

ミクロ視点、マクロ視点で育成が進まない要因があります。

●ミクロ視点

  • そもそも成果起点で営業トレーニングが設計されていない
  • トレーニングが一般的すぎる(特に外部研修)
  • トレーニング後、放置プレー。マネージャーはトレーニングの内容すら知らないことも多い
  • トレーニング結果の検証がない。トレーニングサーベイ(簡単な調査)程度

●マクロ視点

  • 営業パーソン視点では、営業の成果も行動もそのための学習も繋がっているにもかかわらず、提供サイドの組織が別々で連携していない
  • 人事部門は営業数値を把握していない、営業部門は人事が提供しているトレーニングを考慮していない

2)セールス・イネーブルメントは営業成果を一気通貫で支える仕組み

こうした育成にまつわる課題を解決するのに役立つのが、セールス・イネーブルメントの考え方です。

セールス・イネーブルメントは、営業成果に向けて行動、知識スキルを一気通貫で繋ぎ、必要なプログラムとシステムを提供する取り組みです。

セールス・イネーブルメントを通じて目指すことを解説した画像です

欧米では、セールス・イネーブルメント組織が多くの企業で導入され、営業組織を支援しています。

セールス・イネーブルメント組織の役割を解説した画像です

3 営業プロセスの標準化

セールス・イネーブルメントに取り組む上で、最初に「営業目標」を明確にする必要があると述べました。

次に、重要なことは、その「営業目標」達成のために必要な「営業プロセス」が何かを標準化することです。

「どのような営業ステップを踏むことが望ましいのか?」を組織として定義することです。

「実態はいろいろな営業活動があって、行ったり来たりする」ということは百も承知で、それでも組織として望ましい「営業ステップ」を定義するのです。これがないと、営業活動が属人化します。そして、これをシステムで可視化できる状態にしておきます。

営業プロセスを定義する際にとても重要なことが1つあります。それは、「顧客の意思決定プロセスを軸に定義を設定する」ということです。

顧客視点を意識した営業プロセスを解説した画像です

「自社(営業パーソン)が何をやったか」を軸に営業プロセスを定義しているケースがあります。これは見直した方が賢明です(上の図の上段)。

営業活動の大前提は、顧客の意思決定プロセスを前進させることです。例えば、「営業が見積もりを出した」からと言って顧客の意思決定プロセスが進むとは限りません。営業がやったことをもとに営業活動管理を定義すると、ほぼ間違いなく予算管理の精度が落ちます。

逆に、顧客の意思決定プロセスがどのように進むのか、そのために必要な活動は何かを定義すると、管理精度が上がります(上の図の下段)。

セールス・イネーブルメントは、この営業活動の進捗をみて、そこから育成テーマを抽出してプログラム化していきます。

4 インサイドセールスの役割

1)マーケティングと営業の溝

営業プロセスを明らかにする際に欠かせないのが「インサイドセールス」です。
営業活動を設計する上で、インサイドセールスの仕組みを導入する企業が増えています。
旧来、営業が新規案件の発掘からクローズまで全てを担ってきました。それが美徳と考えられてきました。

マーケティングと営業の溝を解説した画像です

しかし、実態を見ると、マーケティングと営業の間で溝が発生しています。典型は、マーケティングが作った見込み客(リード)が適切に営業に引き継がれず、案件化されないまま受注に至らないという問題です。営業は受注すべき案件が増えると受注活動に専念するので、来期の案件の種まきは優先順位が下がります。優先度の問題に加えて、リード情報の引き継ぎプロセスがシステム化されてない場合、見込み客フォローは間違いなく後回しになります。

2)「案件創出」機能としてのインサイドセールス

インサイドセールス機能は、このような背景から案件創出を目的として導入されてきています。企業によってはMarketing Automationツールを活用して見込み客の発掘- 育成- 営業への引き継ぎを可視化/自動化しています。

インサイドセールスによる案件創出の強化を解説した画像です

今回お届けする営業育成のプロが教える「成果が上がる営業組織作りの8のポイント」の前編はここまでです。後編では、「実際にセールス・イネーブルメントの仕組みをどのように整備し、動かしていくのか」をお届けする予定です。楽しみにお待ちください。

山下氏の近影の画像です

 

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年4月30日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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ご回答は平日午前10:00~18:00とさせていただいておりますので、ご了承ください。

元プロ野球選手が解説 「データ野球」に基づく人事評価

書いてあること

  • 主な読者:人事評価を行う経営者や人事担当者
  • 課題:現状の人事評価制度だけでは十分に機能しなくなってきている
  • 解決策:現代野球のデータを重視した評価制度を参考に、自社の目的を明確にし、目的と一致した評価指標を設定する

1 あなたの会社の人事評価制度は、本当に適正ですか?

誰にいくらの給料を支払うべきか。誰にどのポジションを任せるべきか。どうやって優秀な新卒社員を採用するか。他社の優秀な社員を、どのようにして我が社に迎え入れられるか。

経営者にとって、人事の仕事は最も重要であり、最も難解です。それは、ビジネスにおいて最も不確定要素が多い“ヒト”という資源を扱うからに他なりません。そういう観点から考えると、カネやモノという資源は意外なほど扱いやすく思えてきます。製造能力が2倍になる機械を導入し、正しく扱いさえすれば、2倍の製造能力を期待できるのに対し、ヒトへの投資は時に“生産”能力を10倍にすることさえあり得ます(ただし、2分の1になるときもあります)。ヒトへの投資はいつも不確定要素が多く、扱うことが難しい。だからこそ、“ヒト”を制する者がビジネスを制することができます。

そして、この“ヒト”という資源のみを使って勝負する世界があります。それは、スポーツです。試合に勝つために、誰にどのポジションを任せ、どのようにパフォーマンスを引き出し、どうやって相手に勝つか。使える資源はヒトのみ。速く走れるシューズ、速く泳げる水着などのモノへの投資は規制され、勝利をカネで買う八百長はスポーツ界ではタブーです。そんなヒトのみを使うスポーツだからこそ、ビジネスに活かせるヒントが多く隠されています。今回は、人事という仕事をスポーツという側面から見ていきましょう。

2 プロ野球球団における、人件費とは?

私は2007年から2012年まで横浜ベイスターズ(現DeNA)でプレーした経験から、プロ野球の世界に明るいです。よってここでは、野球、とりわけプロ野球を例にとって話を進めていきます。

プロ野球球団は、大きく分けて3つの部署があります。観客動員、グッズ売上など、ビジネスサイドを担当する事業部と、選手の年俸、チーム構成、ドラフト戦略、トレード、解雇など、人事サイドを担当する編成部と、監督、選手を中心に試合に勝つことを使命とする現場の3つです。

チーム構成は編成部の仕事です。現状の戦力の特徴(例えば先発、中継ぎ投手などの役割に加えて、スピード系、コントロール系などの特徴など)を把握し、それらが偏らないようにバランスよくチームを編成していきます。そのために、誰を解雇し、誰をドラフトで獲得するかを考え、空いている枠は外国人やトレード、FA選手で埋めていきます。一方、用意された戦力を駆使して戦う現場の監督は、用意された食材をもとに最高の料理を作るシェフのような立ち位置といえます(もちろん、シェフには食材をリクエストする権限があります)。

そして、誰にどのくらいの給料を支払うかという年俸を決めるのも、編成部の仕事です。球団を経営するという観点から見ると、選手に支払う報酬は「人件費」とは少し異なります。それは、選手は球団が収益を上げるうえでの「商品」という見方もできるためです。とはいえ、活躍や貢献の評価に応じて報酬が変動するところや、特定の数字に対して支払われるインセンティブ契約、重大な過失(注)を犯した際に発生する報酬の減額などは、人件費の概念に近いです。故に編成部は、選手に支払う総年俸をどれだけ抑えられるかという任務も請け負います(いわゆる、人件費を抑えるという行為です)。

(注)ここでいう重大な過失とは、民事・刑事事件などのことで、プレー中のミスのことではありません。そちらは、翌年の報酬に反映されます。

3 プロ野球における相対評価と絶対評価

さて、誰にどのくらいの年俸を支払うかを、どうやって決めたらよいでしょうか。15勝した先発投手と、30本の本塁打を打った選手と、3割の打率を残した選手のうち、誰が1億円の年俸を支払うのに最も適しているでしょうか。

2008年、私の在籍していた横浜ベイスターズは、ダントツの最下位に沈みました。しかし、チームの4番バッターであった村田修一は本塁打王を獲得し、3番バッターであった内川聖一(現ソフトバンク)は、右打者歴代最高打率の3割7分8厘で首位打者を獲得しました。打撃部門の2タイトルを占めましたが、チームはダントツの最下位です。こういう場合、あなたが編成部長だったとしたら、いくらの年俸を支払うでしょうか。

ここでは、2つの評価が鍵となります。それは、相対評価と絶対評価です。相対評価はいわゆるマーケットプライスのことで、他球団との比較から、46本の本塁打を打ち、なおかつ114打点を稼いだ人にはどれくらいの年俸が支払われるべきか、という相場が算出されます。プロ野球の歴史上、選手の年俸はほとんどが相対評価で決定されてきました。だからこそ落合博満(日本人初の3億円プレーヤー)は選手時代、自らの年俸を上げることに執念を燃やしました。自らの年俸が増えれば、それが前例となって相対評価の基準が上がり、野球選手の価値の向上につながるからです。

この相対評価から算出した年俸に影響を与えるのが、絶対評価です。チームの成績は球団の収益に大きな影響を及ぼすため、人件費の上限に制限が発生します。故に、相対的な評価額(マーケットプライス)が高かったとしても、チーム成績などの絶対的な理由から、相対的な評価額よりも減額提示をされることがあります。

こういうことが続けば、選手としてはマーケットに売り出したほうが高く評価されるわけなので、時期が来たら自らをマーケットに売り出します(結果的に、前述した2選手はFAで他球団に移籍しました)。結果、強くて富める球団はより強くなり、弱くて貧しい球団はより弱くなります。資本主義の縮図のような構造を、ここでも垣間見ることができますね。

しかし、この構造に風穴を開けた球団があります。それが、メジャーリーグのオークランドアスレチックスです。

4 ヤンキースの3分の1の予算で、最高勝率を記録したチーム

1)野球=27個のアウトを取られるまでは終わらない競技

「マネーボール」という映画が話題になって久しいですね。ビリー・ビーンというGMが独自の方法で球団を経営し、全く新しいチーム構成をほぼ“発明”に近い形で作り上げました。

2002年、アスレチックスの総年俸は4000万ドルで、総年俸1位のニューヨークヤンキースは1億2600万ドル。約3分の1の人件費にもかかわらず、アスレチックスは全30球団中最高勝率・最多勝利数を記録しました。果たしてビリー・ビーンは、何を“発明”したのでしょうか? それは、データを中心にしたチームと戦略作りです。

野球の歴史は長らく、打者を評価する指標は打率、本塁打、打点の3つに、盗塁を加えた4つが中心でした。しかし、その4つが本当に「勝利」に貢献する指標なのかを疑ったビリー・ビーンは、ビル・ジェイムズが唱えたセイバーメトリクス論にたどり着きます。これは、データを統計学的見地から客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える分析手法です。

ここでは、野球を「27個のアウトを取られるまでは終わらない競技」と定義付けています。そして、アウトにならない限り攻撃は続き、4つの塁を進塁すれば得点が入る性質上、「アウトにならない能力」と「多くの塁に進む能力」を、打者にとって最も重視すべき能力と位置付けました。その能力を評価するために、出塁率+長打率=OPS(On-base Plus Slugging)という指標を採用したのです。その一方で、盗塁やバントといった戦略を「リスクの割にはリターンが少ない戦略」とし、使用をほぼ禁止に近い状態にしました。投手に関しても独自の指標を採用し、徹底しました。

2)データに基づいたチームと戦略作り

選手をさまざまなデータで評価していくことは、今では当たり前となっていますが、当時は革新的でした。どの時代もそうですが、新しすぎるものは受け入れられません。当時のビリー・ビーンも例に漏れず批判の的となりました。

データ上、勝利への貢献度が低い選手は、スター選手であってもトレードで他チームに放出しました。代わりにトレード先のチームから、OPSが高く、年俸の安い若手選手を大量に獲得し、起用しました。当然、チーム関係者からは「スターを放出してまで獲得した、この無名選手たちは何者だ?」と、疑問や不満の声が上がります。

ドラフトでも、「肩が強い」「足が速い」といった能力よりも、徹底して出塁率と長打力といったデータを重視し、データの取れていない不確定な高校生には一切目もくれませんでした。「勘」や「経験」を頼りにするスカウトの話には一切耳を貸さず(それどころか、大半を解雇し)、逆にハーバード大卒のポール・デポデスタを右腕につけ、徹底したデータ戦略にかじを切りました。

多くの批判を受けましたが、自分の信じたやり方を貫いた結果が、前述した通りです。データを使ったチーム、戦略作りが一般化した現在、出塁率の高い選手は市場原理に則して、価格が高騰しています。よってアスレチックスの「低予算で勝率の高いチーム」戦略は別のやり方を余儀なくされています。かなり割愛しましたが、興味のある方はぜひ「マネー・ボール 完全版」(マイケル・ルイス、中山宥訳、早川書房、2013年4月)を読んでみてください。

5 目的と一致した評価指標とは?

ここで重要なのは、「これまでの評価指標は、本当の目的に貢献する指標なのか?」という目で見られるかどうかです。

そもそも、本当の目的とは何なのでしょうか。ビジネスはスポーツと違い、勝ち負けという概念が曖昧です。どちらかが勝つとどちらかが負けるというスポーツと違い、「両者とも勝者」があり得るのがビジネスです。目的を明確にしやすく、かつ選手への浸透も容易であり、競合の数も限られているスポーツのほうが、ビジネスよりも戦略を作りやすいといってもいいでしょう。だからこそ、評価の指標も設定しやすいのです。逆にいうと、ビジネスにおいても目的を明確に定めることができれば、評価の指標も設定しやすくなります。

そして、目標が明確になったら、今使われている評価の指標が目的と一致しているのかどうか、いま一度考え直してみましょう。長年の経験、信頼という解釈の陰で、実は貢献度が低いベテラン社員がいるかもしれません。暗い、ネガティブといった印象にとらわれて低い評価を受けている若手社員が、本来は秀でた部分を持っているにもかかわらず、それを評価できる指標がないために見落とされているかもしれません。そうした観点から見たときに、新たな人事の可能性が開けてきます。

6 数字は、誰のためのものか?

ただし、忘れてはならないのは、どうしても数字にした評価ができないこともある、ということです。アスレチックスの例でいうと、OPSはあくまでビリー・ビーンが当時目指した経営の観点、つまり「低予算で高勝率のチーム作り」における指標です。実際の試合では、数字以外の貢献は無数に存在します。

足の速い選手が一塁で大きいリードをとり、投手にプレッシャーをかけたとします。ランナーが気になる投手は打者への勝負がおろそかになり、甘く入ったボールを痛打されます。これは、ランナーによる貢献なのでしょうか、打者の能力によるものなのでしょうか。データはランナーによるプレッシャーをカウントできません。

経験の浅い若手投手がピンチを招き、たまらず野手がマウンドに集まります。データ上の能力は低いですが、チームメートからの信頼の厚い三塁手が投手を激励します。それに勇気づけられた若手投手は、そのピンチを切り抜けます。若手投手は、「間違いなく、あの先輩に声をかけてもらったおかげだ」と言っても、それはデータに反映されず、その先輩はその年に解雇されるかもしれません。

そしてもう1つ忘れてはならないのは、人事評価の指標は経営者にとって重要な指標であっても、現場の選手や社員にとっては役に立たない指標である、ということです。マウンドに立つ投手にとっては、このバッターのOPSが.970だという数字よりも、3球目にカーブを振ってくる確率が78%だという数字のほうが、はるかに価値が高いのです。

これはビジネスの場面でもよく起こることです。成約率が20%の営業マンに対し、「君の成約率は20%だから、みんなの平均値である40%になるように努力するように」と伝えたとします。しかしながら、本人にとっては成約率の数字よりも、具体的にどこが課題なのかということを言われるほうが、はるかに価値が高いのです。経営判断としての指標と、現場が目の前の成果を上げるための指標は、違うのです。

私はこの指標、つまり選手が試合で使える指標、情報とは何かを研究するために、1年間アナリストとして分析活動をやりました。これはこれで面白い分析結果が手に入ったのですが、それはまた機会があれば書かせていただくことにしましょう。

優勝するために自由に選手をトレードしたり、降格、解雇ができたりするプロ野球と、連綿と続く営利活動の中で個々への評価を下し続けなければならない企業とでは、指標に対する概念も評価の仕方も違います。ただ、この一連の話を通して、「我が社の目的としているものは何か?」「目的のために貢献しているかを評価するための指標は、今のままでよいのか?」と考える機会になったなら、それは本望です。(敬称略)

以上(2020年4月)

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知的財産の価値評価の考え方

書いてあること

  • 主な読者:自社や他社の知的財産をビジネスに活用したい経営者
  • 課題:知的財産の価値の評価手法が分からない
  • 解決策:3種のアプローチによるそれぞれの評価手法について理解する

1 知的財産の概要

1)知的財産の重要性

知的財産とは、人々の工夫や発見、営業上の信用など、人間の知的な活動から生じる財産を指します。主な知的財産としては次のようなものが挙げられます。

1.知的な創造物

  • 発明(独創的なアイデア) 
  • 考案(物品の形状や構造)
  • 意匠(物品のデザイン)
  • 著作物(音楽、小説、絵画など)

2.営業上の標識となるもの

  • 商号(企業が事業活動を行う時に使う名前)
  • 商標(商品やサービスを示す文字、デザイン)

知的財産の中には第三者が簡単に模倣できてしまうものがあります。しかし、発明の成果などを無制限に第三者が模倣して利用できるとなると、人や企業が費用や労力をかけてつくり出す意味がなくなってしまいます。また、長年の積み重ねで消費者から信頼を受けてきた商品のデザインなどを模倣したものが市場に出回ると、消費者は安心してその商品を選ぶことができません。こうした第三者による模倣への対策のために知的財産の創作者に与えられる法的な権利が知的財産権です。

知的財産権は、それぞれの保護対象に応じて、特許法、実用新案法など個別の法律によって保護されています。知的財産権のうち、特許権・実用新案権・意匠権・商標権の4つは「産業財産権」と呼ばれています。

2)知的財産の活用

知的財産は保有しているだけでは意味がありません。知的財産は、ビジネスに結びつけることでその価値を発揮するものです。具体的には、次のような方法によります。

  • 市場に参入障壁を築き、自社の優位性を確保する
  • 他者とライセンス契約を結び、実施料収入を得る
  • 知的財産を担保に融資を受ける

知的財産は、「他者による模倣などを受けた際の対抗手段」ですが、そうした「受け身」的な対応だけでは、競争が激化するビジネス社会では生き残っていくことはできません。知的財産を積極的に活用することで、自社の収益性を高めることが重要です。

3)知的財産の価値評価の重要性

特許などの知的財産について従来型の「権利による保護」という観点だけではなく、積極的にビジネスに活用していく必要性がますます高まっています。知的財産の活用において、「知的財産権の売買」「資金調達」「M&A」などの場面では、知的財産の価値評価が必要不可欠です。

知的財産をビジネスに活用するためにも、企業にとっては「自社が有する知的財産の金銭的価値はどの程度なのか」という点が重要となります。

しかし、現在のところ、知的財産の価値に関する評価方法が確立していないために、優れた知的財産を持ちながら、知的財産による資金調達などができない企業があると指摘されています。また、企業以外にも、裁判所や金融機関などが企業の資産価値などを算出する際にも知的財産の価値評価は必要となります。

知的財産の価値を評価する際の考え方としては、主にコストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチの3種が用いられます。

それぞれの考え方には一長一短があり、実際に評価を行う際には、それぞれのケースに合わせて有効な手法を選択します。また、複数の手法による評価を行い、その結果を比較検討して最終的な評価を決定することもあります。

2 知的財産の価値評価の手法

1)コストアプローチ

コストアプローチは、知的財産を取得するために要した費用額から、知的財産の価値を評価しようとする考え方です。

コストアプローチには、主に次の2通りの方法があります。

  • 原価法
  • 再構築費用法

コストアプローチは、取得に要する(要した)費用を価値評価の基準としていることから、比較的客観性があるといえます。

しかし、「コストに含める範囲によって価値が大幅に変化する」などの問題があります。

2)インカムアプローチ

インカムアプローチは、知的財産が将来生み出すと予測される利益などから、知的財産の価値を評価しようとする考え方です。

インカムアプローチには、主に次の4通りの方法があります。

  • 計画キャッシュフロー法
  • 単純DCF法
  • リスクを考慮するDCF法
  • オプション理論ベース

インカムアプローチは、知的財産が持つ収益力を反映した手法だといえます。現在、知的財産の価値評価において最も一般的に用いられているのは、このインカムアプローチです。

しかし、「収益予測が困難であり、不確実性が高い」「主観や経験的判断に陥りやすい」などの問題があります。

3)マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、評価される資産に類似する資産取引を調査して知的財産の価値を評価しようとする考え方です。

マーケットアプローチには、主に次の2通りの方法があります。

  • 批准アプローチ
  • 残差アプローチ

マーケットアプローチは、実際の取引価額を基準とするため、客観性や信頼性があるといえます。

しかし、特に技術をはじめとした知的財産に関しては、取引当事者間の秘密事項として外部に取引価額などの情報が出てこないことが多いため、参照できる適切な事例がほとんど存在しないという問題があります。

3 企業の知的財産に関連する活動をサポートする機関

1)日本弁理士会

現在、国内には知的財産の価値を客観的に評価する大規模な機関はありません。知的財産の価値評価に際しては、「知的財産関連の専門部署や関連企業を設置し、企業が独自に評価を行う」「ノウハウを持つ弁理士に依頼して個別に評価を行う」ことが一般的です。しかし、評価者によって評価が大きく異なっているのも事実です。

そこで、日本弁理士会では、弁理士が関与する知的財産の価値評価について客観性および妥当性の向上を図ることを目的として、知的財産価値評価推進センターを設立しました。同センターは直接的に知的財産の価値評価を行うわけではありませんが、適切に価値評価を行うための情報をまとめるなどしています。

2)知財総合支援窓口

知財総合支援窓口では、知的財産権制度の説明といった基本的な事項から、知的財産を出願する際の手続き支援など、企業が知的財産に関する悩みや相談を一元的に受け付けています。

以上(2020年4月)

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防災対策チェックリスト/中小企業のためのBCP

1 オフィス内のチェックリスト

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2 災害時の備蓄チェックリスト

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3 社員の安否確認リスト

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4 顧客・取引先の被災状況確認リスト

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5 各種防災訓練・感染症予防のチェックリスト

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以上(2020年4月)

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防災に関する設備投資で受けられる税制優遇はありますか?/中小企業のためのBCP

Q.防災に関する設備投資で受けられる税制優遇はありますか?

A.中小企業者等を対象とした「中小企業防災・減災投資促進税制(防災・減災設備に係る特別償却制度)」があります。

1 中小企業防災・減災投資促進税制における税制優遇

「中小企業防災・減災投資促進税制」とは、中小企業者等(資本金の額が 1億円以下の法人で、大法人(資本金の額が 5億円以上である法人など)から 50%以上の出資を受けていないなど一定の法人)が行う防災・減災を目的とした設備投資について、特別償却(取得価額の 20%)ができる制度です。特別償却とは通常の減価償却に追加して、損金処理することができる償却のことです。

この制度を利用するためには、次の3つの要件を満たす必要があります。

  • 青色申告書を提出する中小企業者等(適用除外事業者に該当するものを除く)
  • 改正中小企業等経営強化法の事業継続力強化計画または連携事業継続力強化計画の認定を受けるもの
  • 上記2.の認定に係る事業継続力強化計画または連携事業継続力強化計画に係る特定事業継続力強化設備等の取得等をし、その事業の用に供すること

2019年7月16日から2021年3月31日までの間に取得した対象設備等に対して適用されます。対象となる設備投資は次の通りです。

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以上(2020年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之、税理士 中川昌紀、CFP(日本FP協会認定) 辻野顕子)

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災害時における税務の特例には、どのようなものがありますか?/中小企業のためのBCP

Q.災害時における税務の特例には、どのようなものがありますか?

A.申告・納付などの期限延長があります。また、顧問税理士が被災したことにより申告できない場合においても、同様の取り扱いを受けられることがあります。

1 申告・納付などの期限に関する特例

1.個別指定による期限延長

納税地を管轄する税務署長に対し、災害などの止(や)んだ日から相当の期間内に「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出した場合、その承認を受けることにより、税務署長等が指定した日(災害などの止んだ日から 2カ月以内)まで申告・納付などの期限が延長されます。

「災害などの止んだ日」とは、申請者に特別な事情がある場合を除いて、客観的に見て、申告・納付などの期限延長の申請をした人が、申告・納付などの行為をするのに差し支えないと認められる程度の状態に回復した日になります。例えば、新幹線の運行休止など交通の途絶があった場合、交通機関が運行を始めた日などが災害などの止んだ日になります。

2.地域指定による期限延長

2011年3月11日に発生した東日本大震災のときには、地域を定めて申告・納付期限を延長する対応が取られました。

2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震のときも、北海道の一部の地域で申告・納付期限を延長する対応が取られました。

なお、地域指定された地域に納税地がある個人または法人については、特段の手続きを経ることなく、自動的に申告・納付の期限が延長されます。また、申告・納付期限延長措置の終了に関しては、各地域の復興などの状況を踏まえ、国税庁のウェブサイトなどで告示されます。地域指定に関する情報は定期的に確認しましょう。

3.顧問税理士が被災した場合

顧問税理士が被災したら、期限までに顧客の申告ができないことが想定されます。こうした場合、「災害による申告、納付等の期限延長申請書」に必要事項を記載し、納税地を管轄する税務署長に提出し、その承認を受けることで、税務署長等が指定した日(災害などの止んだ日から2カ月以内)まで期限が延長されます。

2 延滞税・利子税・加算税に関する特例

災害などにより国税の納期限が延長された場合、延長された期間については、その国税に係る延滞税および利子税は課されません。また、申告・納付などが適正に行われない場合に課される加算税については、認められた延長期限内に申告を行えば課されません。

以上(2020年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之、税理士 中川昌紀、CFP(日本FP協会認定) 辻野顕子)

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取引先の被災で、通常とは異なる税務上の取り扱いはありますか?/中小企業のためのBCP

Q.取引先の被災で、通常とは異なる税務上の取り扱いはありますか?

A.取引先に対する支援の一環として行った、災害見舞金や売掛金の免除などは、損金処理することができます。また、金銭以外に自社製品などを提供した場合でも、損金処理することができます。

1 取引先に対する災害見舞金など

通常、取引先などの慶弔、禍福に際して支出する費用(見舞金や香典費など)は、贈答などと同様の行為とされ、交際費として取り扱われ、一定の金額以上については損金処理することができません。

ただし、被災前の取引関係の維持・回復を目的として、取引先の復旧過程において、その取引先に対して行った災害見舞金の支出、事業用資産の供与などのために支出した費用は、交際費などに該当しないものとして全額損金処理することができます。

なお、こういった災害見舞金などについては、領収書の発行を依頼するのが難しいケースが多いですが、帳簿書類に相手先の名称や所在地、支出年月日などを記載しておけば問題ありません。

2 取引先に対する売掛金の免除など

取引先などの債権を合理的な理由がなく免除した場合、原則、取引先などに寄附したものとされ、一定の金額以上については損金処理することができません。ただし、災害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援目的で売掛金、貸付金などの債権を免除する場合、その免除したことによる損失(債権免除損など)は、寄附金または交際費以外の費用として、全額損金処理することができます。

また、既契約のリース料、貸付利息などの減免を行う場合や、災害発生後に取引条件を変更する場合も、同様に取り扱われます。

3 取引先に対する低利または無利息による融資

災害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援を目的として低利または無利息による融資を行った場合、通常収受すべき利息と実際に収受している利息との差額は、寄附金に該当しないものとされ、全額損金処理することができます。

4 被災者に対する自社製品などの提供

災害時、倫理的・社会的要請により自社製品を被災地などに無償で提供することがあります。これは、国が被災者を支援することと同様です。また、広告宣伝費と同様の性質があるとも考えられるため、寄附金に該当しないものとされ、無償で提供した自社製品の金額は、全額損金処理することができます。

以上(2020年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之、税理士 中川昌紀、CFP(日本FP協会認定) 辻野顕子)

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被災時に、通常とは異なる税務上の取り扱いはありますか?/中小企業のためのBCP

Q.被災時に、通常とは異なる税務上の取り扱いはありますか?

A.被災した資産の損失や、原状回復のための費用など、災害を理由に生じた損失や費用の中には、それぞれが生じたときに一括で損金処理することができるものがあります。

1 災害により資産が滅失・損壊した場合の損失

商品、店舗、事務所などの資産が災害により被害を受けたことで、次のような損失・費用が生じたときは、その損失・費用の額は損金処理することができます。

  • 商品や原材料などの棚卸資産、店舗や事務所などの固定資産などの資産が災害により滅失、または損壊した場合の損失の額
  • 損壊した資産の取り壊し、または除去のための費用の額
  • 土砂その他の障害物の除去のための費用の額

2 復旧のために支出する費用

被災した固定資産(以下「被災資産」)について、支出する費用に係る「資本的支出」(原状回復を超えて資産価値を高めるため、固定資産として計上しなければならない支出)と修繕費(損金処理することができる支出)の区分については、次の通りです。

  • 被災資産について、原状回復のために支出する費用は修繕費となる
  • 被災前の効用維持のために行う補強工事費用について、修繕費とする経理をしているときは、税務上もこの処理が認められる
  • 被災資産について支出する費用(上記1.と2.に該当するものを除く)の額のうち、資本的支出か修繕費か明らかでないものがある場合、その金額の30%相当額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、税務上もこの処理が認められる

3 社員などに支給する災害見舞金

災害により被害を受けた社員やその親族などに対して、一定の基準に従って支給する災害見舞金については、福利厚生費として損金処理できます。

4 災害損失欠損金の繰戻し還付

災害が発生した事業年度の欠損金(税務上の利益がマイナスであること)のうち、棚卸資産、固定資産、繰延資産に対して生じた損失(その災害が原因のものに限る)の額を災害損失欠損金といいます。この災害損失欠損金については繰戻し還付という制度を受けることができます。これは、災害が発生した事業年度の前事業年度(青色申告の場合、前々事業年度も対象)に生じた所得について法人税の納税を行っている場合、その納税額のうち災害損失欠損金の範囲内で、還付を請求できるという制度です。

以上(2020年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之、税理士 中川昌紀、CFP(日本FP協会認定) 辻野顕子)

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