データをクラウドに預ける際に知っておきたいQ&A

書いてあること

  • 主な読者:クラウドの利用を検討しているが、よく理解できていない経営者
  • 課題:サービス自体は便利そうだが、情報漏洩のリスクなどセキュリティー面が心配
  • 解決策:多くのクラウドは、データの暗号化など一定のセキュリティー機能を備えている。自社のセキュリティー要件を満たせるかを利用前にクラウド事業者に確認する

1 そもそもクラウドって何?

クラウドは、サーバーが内蔵するCPU(プロセッサ)やストレージなどといったハードウエアのリソース、またはアプリケーションが備える各種機能などをインターネット経由で提供するという概念、サービスを指します。

クラウドには、SaaS(Software as a Service、サース)、PaaS(Platform as a Service、パース)、IaaS(Infrastructure as a Service、イアースまたはアイアース)の3種類があります。

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SaaSは、アプリケーションが備える各種機能を提供するサービスです。具体的には、メールやチャット、路線検索などの個人向けのサービス、グループウエアやCRM(顧客関係管理)、資材調達などの企業向けのサービスを提供します。対応している分野が幅広いため、一般的には「クラウド=SaaS」と解釈されることが多いようです。

PaaSは、アプリケーションを開発したり稼働させたりする環境を提供するサービスです。具体的には、アプリケーションの開発ツール、データベースなどを提供します。アプリケーションの開発に携わるエンジニアなどの利用を想定しています。

IaaSは、ハードウエアのリソースを利用者に提供するサービスです。CPUによる演算処理能力、メモリーやストレージといったデータ記憶能力などを提供します。SaaSやPaaSの土台を構成するサービスで、必要な処理性能や容量を利用者が自由に組み合わせられるのが特徴です。

2 クラウドのメリットは?

クラウドは、サーバーやストレージ、アプリケーションなどの導入費が掛からず、CPUの性能やメモリー、ストレージの容量といったハードウエアのリソースを柔軟に変えられます。そのため、企業は事業の成長スピードに応じて、必要な性能のハードウエアを都度調達できます。

例えば、利用するユーザー数が増えればハードウエアのリソースを動的に追加し、減れば元に戻すといった運用が可能です。オンプレミス(自社保有)のサーバーなどは、事業がどの程度成長するかを予測して機種を選択するため、予測が外れた場合、導入した機種の性能が実情に合わなくなってしまう恐れがありますが、クラウドではその心配がないわけです。

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また、大事なデータをオフィス以外の別の場所に退避しておけるのもメリットです。被災によるデータ喪失のリスクを低減することで、事業の早期再開が見込めるようになります。

3 クラウドのセキュリティーって大丈夫?

多くのクラウドが、保管するデータを暗号化したり、データにアクセスする利用者を認証したりするセキュリティー機能を備えています。クラウドを利用する企業ごとに異なるセキュリティーポリシーを満たせるように、利用者がこうした機能を選択利用できるのが一般的です。「オンプレミスだから安心、クラウドだから危険」という考えではなく、オンプレミスとクラウドのどちらの運用形態でも必要なセキュリティー対策を施さなければなりません。

クラウドを利用する場合、クラウド事業者がどんなセキュリティー機能を提供しているのかを把握し、自社のセキュリティー要件を満たせるのかを確認することが大切です。中には、データを事前に暗号化してからクラウド上のストレージに保管したり、クラウド利用者や権限を社内で制限したりするなど、利用する企業側でセキュリティー対策を事前に講じた上で運用しなければならないこともあります。特にSaaSを利用する場合、セキュリティー機能のレベルはSaaSごとに大きく異なるため注意が必要です。

4 クラウドに預けたデータはどこに保管される?

データはクラウド事業者が利用するストレージに保管されることが大半です。ストレージが実際にどこにあるのかはクラウド事業者によって異なるため、データをクラウドに保管する場合は、国内か海外かを事前に確認する必要があります。もっとも国内でSaaSを利用する場合、多くのサービスがデータを国内に保管していると考えてよいでしょう。知らない間にデータが海外にあるストレージに保管されていた、ということはありません。

クラウド上のストレージがある場所は、国内なら東日本か西日本かといったおよその地域は分かるものの、セキュリティー上の理由から住所まで把握できることは原則ありません。クラウドを検討する上でデータ保管先の住所を事前に知りたい場合、SaaS事業者などと機密保持契約(NDA)を締結すれば教えてくれることがあります。

SaaSを利用するときはデータの所在を明らかにするため、SaaS事業者に対し、自社独自のPaaSやIaaSを使っているのか、どの事業者のPaaSやIaaSを使っているのかを確認しておくのが望ましいでしょう。

5 クラウド事業者がデータを見ているってホント?

クラウド事業者の従業員が、クラウドに保管されているデータを見ることはありません。クラウド事業者がセキュリティー上のリスクをわずかでも高める行為はしません。

もっとも、利用者の「振る舞い」を監視するクラウド事業者はあるかもしれません。例えば、アクセス数が増えるのはいつごろか、どんな機能が多く利用されているのかなどの情報を、サービス改善などに役立てるクラウド事業者は少なくないようです。

また、データを海外に保管する場合、その国の「検閲」によってデータを見られる可能性があります。どの国が、いつ、どの企業の、どんなデータを検閲するのかは不明ですが、データを海外に保管する可能性がある場合、こうしたリスクも踏まえておくべきです。

6 データのバックアップは自前でしないとダメ?

クラウド事業者が、利用者から預かるデータを自らバックアップすることは原則ありません。ただし、クラウド事業者の中にはバックアップサービスをオプションとして提供している事業者もあります。利用者はこうしたサービスを申し込むことで、バックアップ環境を容易に構築できます。

バックアップ用のデータを社内に設置するオンプレミスのストレージに保管したり、別のクラウドと契約して異なる地域に保管したりすることもありますが、いずれにせよ、データの容量や使用頻度、重要度などに応じて、自社の要件を満たすバックアップ環境を構築することが大切です。

7 災害が発生してもクラウドを利用し続けられる?

災害時にクラウドを利用できるかどうかは、クラウドの提供元となるサーバーやストレージ、アプリケーションなどが無事かどうかに依存します。これらを設置する施設(データセンターなど)が被災せず、インターネットが断絶していなければ、これまで通り利用できます。しかし、施設への電力供給が途絶えたり、インターネットが断絶したりすると利用できなくなる可能性があります。

なお、クラウド事業者が利用するデータセンターの中には、特定エリア内に複数の施設を設置していることがあります。エリア内にある特定のデータセンターが被災したからといって、クラウドが必ずしも利用できなくなるわけではありません。

また、データセンターの中には、無停電電源装置(UPS)と呼ぶ自家発電装置を設置するとともに燃料を備蓄し、数日程度はサービスを提供し続けられるようにする施設があります。2つの電力会社と契約し、どちらかの電力供給が途絶えても一方の電力を使うことで停電を回避する施設もあります。

クラウドの利用を検討する際は、サービスの提供元となるデータセンターの設備にも目を向けるべきでしょう。SaaSを利用するときはSaaS事業者に対し、データセンターの設備や災害発生時の対応内容を確認しましょう。

8 クラウドを解約する前に確認することは?

クラウドは一般的に、不要になったタイミングで自由に解約できます。月額課金の場合、残りの契約期間分の料金は返金されないものの、違約金などは発生しないケースが大半です。時間単位の使用料を課すクラウドなら、無駄な料金はほぼ発生しません。サービス利用料の支払日や支払い方法によって利用期間が異なることもあるため、解約を申し出たときのサービス終了日を事前に確認しておくとよいでしょう。

解約することを想定し、データの取り出し方を事前に把握しておくのが望ましいでしょう。データ容量が大きい場合、インターネット経由ではなくDVDメディアなどに記録して取り出せるのか、ファイル形式をcsvなどに指定できるのか、いつまでに取り出せばよいのかなどを確認します。他のクラウドに切り替えるなら、新たに利用するクラウドにデータを直接アップロードできる方法も調べておくとよいでしょう。また、解約するクラウドを他の自社システムなどと連携して使用中の場合、解約によって連携先のシステムに影響が出ないかも調べておくようにします。

以上(2021年2月)

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画像:photo-ac

異常検知や運用保守向上! 製造現場における新テクノロジーの動向

書いてあること

  • 主な読者:生産設備の効率的な運用を検討したい製造業の経営者
  • 課題:最新のテクノロジーは気になるが、導入すると何ができるのかよく分からない
  • 解決策:具体的な用途やニーズを整理した上で、IoTやデジタルツインなどのテクノロジーが、自社にとってどのように役立つかを検討する

1 テクノロジーの活用で不測の事態に備える

組み立て機械や搬送機械、検査機器などの生産設備が突然動かなくなったら、生産計画の見直しを迫られるのはもちろん、関係者にも迷惑を掛けることになります。一方、新型コロナウイルス感染症の影響で、製造現場でも従業員同士の距離を空けるソーシャルディスタンス(社会的距離)が実施されています。そのため、少人数での作業が求められ、生産や管理などの「自動化」への動きがこれまで以上に高まっています。

今、製造業には「柔軟な製造現場」の構築が求められています。過去の経験や勘に頼って対応するのではなく、生産設備の異常や人員配置、生産量、納期などへの影響をデータに基づき検証し、高い精度で効果的な代替策を打ち出す柔軟性が望まれます。

そこで本稿では、製造業がデータに基づく柔軟性を身に付けるために活用できるテクノロジーを整理します。テクノロジーのメリット・デメリットを把握し、変化に適応できる製造現場を構築する際のヒントとしてお役立てください。

2 自社に必要なテクノロジーを検討しよう

生産工程の無駄を洗い出すため、多くの製造現場は可視化に取り組んでいます。生産設備の稼働状況や製造物の出荷・在庫状況などをエクセルで管理したり、従業員の業務内容をカメラで確認したりするケースは多いでしょう。

しかし現在、収集するデータの種類や頻度を増やし、さまざまなデータを使って精緻な現状把握に努めようとする機運が高まっています。IoTの導入コンサルティングなどを手掛ける中小企業診断士の高安篤史氏によると、「ある程度のシステム化や情報共有体制を確立した企業の中には、次のステップとして、より多くのデータを収集、活用しようと模索する動きが見られる。とりわけ自治体などの支援を受けた地方の中小企業がこうしたデータ活用に前向きだ。データを十分活用できずにいる中小企業は今なお多いが、中には経営者主導で、ITを駆使した変革を推進するケースも散見される」とのことです。

データ活用時に必要な主要テクノロジー/システムと導入効果の関係は次の通りです。データ活用のステータスに応じて必要なテクノロジーは異なります。次章以降で、各段階で必要となるテクノロジーの動向を見ていきましょう。

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3 生産設備の予知保全に役立つIoT

収集データをもっと増やしたいと模索する企業が、新たな一手として導入を検討したいのが「IoT」です。生産設備や生産ラインにセンサーを取り付け、振動や音、電流などの変化から稼働状況を把握できるようにします。

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切削時の振動が普段より大きい、電流の負荷がいつもより高いなどの異常をデータから探ることで、故障する前に部品の交換や修理を実施する予知保全を可能にします。生産設備の突然の故障を回避し、保守費を削減する効果も見込めます。

温度や臭い、位置などを調べるさまざまなセンサーを利用できること、センサーを搭載するIoT機器が1台数千円程度で購入できること、クラウドサービスを使って各種データを容易に一元管理できることなどが、IoTの利用を後押ししています。

もっとも、生産設備の稼働状況を計測するIoT機器の取り付けには注意が必要です。前述の高安氏によると、「IoT機器をどこに取り付ければ稼働状況を正確に計測できるかなどのノウハウは、生産設備を取り扱うメーカーさえ十分持ち合わせていない。1台の生産設備に振動を計測するIoT機器を十数台取り付け、どのIoT機器が異常検知に役立つデータを収集できるかを試行錯誤しながら運用するケースは少なくない」とのことです。

IoTを導入する場合、目的や用途を明確に絞り込むことが大切です。例えば、工作機械の温度変化から故障の予兆を探れるようにしたいのか、生産ラインの停止時間から効率性を高める施策を検討したいのかなどです。

まずは計測対象となる生産設備を限定し、目的を満たすために必要なデータだけを収集します。導入当初、製造現場の全体的な改善は見込みにくいものの、計測対象となる生産設備を段階的に増やして、全体最適を目指すアプローチを試みるのが望ましいでしょう。

IoTの導入を支援するサービスを活用するのも手です。IoT機器の取り付け、データの収集・管理、BIを使った分析環境などをワンストップで提供し、導入から運用までの手間を軽減できます。自治体などが実施するIoT導入支援セミナーなどに参加し、想定される課題や支援サービスを提供する企業などを事前に確認してもよいでしょう。

4 シミュレーション環境を仮想空間に構築するデジタルツイン

生産設備の稼働状況をIoTによって把握できるようになったら、データ活用の次のステップとして検討したいのが「デジタルツイン」です。実際の生産設備などを仮想空間に再現し、仮想の生産設備を使ってシミュレーションできるようにします。IoTなどで収集した各種データを仮想空間に送信し、実際のデータに基づきシミュレーションするのが特徴です。

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生産計画を見直すに当たり、生産ラインをどう調整すればロスを最小化できるか、生産設備の負荷がどれくらい高まると故障を引き起こすかなど、さまざまな変化に応じた影響を調べるのに役立ちます。製造物の設計・開発段階において、多品種少量生産となる製造物の試作用金型を何度も作り直すことなく、仮想空間に再現した試作品を使ってシミュレーションするといった用途にも向きます。また、海外の部品調達先が新型コロナウイルス感染症の影響で事業停止に追い込まれたなどの場合、他社から調達した代替部品で製品の品質をこれまで同様に維持できるのかなどを調べることもできます。

デジタルツインによるシミュレーション環境を構築するには、一般的にIoTなどを使って集めたデータを収集、蓄積する機能、生産設備などを3Dモデルで再現するモデリングツール、強度や伝熱、流体などを調べる解析ツールを備えるクラウドサービスを利用します。

シーメンスやゼネラル・エレクトリック、日立製作所などがIoT向けのクラウドサービスに解析ツールなどを実装し、デジタルツイン向けのクラウドサービスとして提供しています。デジタルツイン向けのクラウドサービスを提供するベンダーは、一般的にどうモデリングするのか、どう解析するのかなど、ユーザー企業が戸惑う取り組みを支援するサービスやメニューを用意しています。デジタルツインは現状、導入事例が必ずしも多くないことから、ベンダーに事前相談するのはもちろん、導入ノウハウや支援サービスを活用するのが現実的です。

また、導入に当たっては、価格が高いハードルとなります。デジタルツイン用のクラウドサービスの場合、データ量や接続時間に応じた従量課金を採用するケースが一般的です。生産設備の稼働状況を計測するデータの容量は必ずしも大きくありませんが、ほぼリアルタイムにデータを収集したり、カメラを使った映像データを扱ったりする場合、データ量の増加に伴って利用料が高額になりかねないので注意が必要です。

解析ツールの価格にも気を付けます。解析ツールは数十万円のものから、高度なシミュレーションを実施できる数千万円超のものまでさまざまです。何を解析するのか、どのくらいのデータ量や頻度で解析するのかを事前に想定し、必要な解析ツールを絞り込むことが大切です。前述のクラウドサービスを提供するベンダーに、どんな解析が可能なのかを事前に確認しておくのも手です。

5 デジタルツインを支えるMRと5G

1)製造現場に仮想空間を持ち込めるMR

仮想空間に再現した生産設備などの稼働状況を確認しやすくするテクノロジーとして注目されているのが「MR(複合現実)」です。実際にはないものがあたかも目の前にあるかのように再現されます。AR(拡張現実)やVR(仮想現実)よりも、ものの形状や配置を正確に再現するのが特徴です。

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例えば、今後納入予定の工作機械を従業員の目の前にあるかのように配置し、実際に工作機械がない場所で事前トレーニングを実施するといった用途に向きます。経験豊富な保守点検要員が、遠隔地から現場の従業員に業務内容を指示するという使い方も考えられます。

デジタルツインとMRを連携させる取り組みも模索され始めています。仮想空間の生産設備を用いたシミュレーション結果を、従業員が専用ゴーグルを使って作業しながら確認できるようにする利用シーンが想定されています。専用ゴーグルの高画質化、小型軽量化によって長時間装着しても疲れにくい製品が登場しており、従業員の作業負担を軽減できるようにもなっています。

2)データ収集の遅延を解消する5G

製造現場と仮想空間とのデータのやり取りを低遅延で行えるようにする「5G」も注目すべきテクノロジーです。デジタルツインは最新の稼働状況に基づくシミュレーションを想定するため、「超高速」「多数同時接続」「超低遅延」といった特徴を持つ5Gは、データをほぼリアルタイムにやり取りするデジタルツインに向く通信方式といえます。

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例えば、5Gを使える通信網を工場内に整備し、ロボットなどの生産設備の振動や異音などをほぼリアルタイムに収集できるようにし、分析結果からロボットの故障時期を高い確度で予測するといった用途が見込めます。

もっとも、データ伝送に用いる通信方式には幾つかの種類があり、データの伝送速度、無線の通信距離、消費電力などを加味して最適なものを選ぶことが大切です。汎用性が高いが電波干渉を受けやすいWi-Fi、低速だが短距離通信に向くBluetooth、同じく低速だが低消費電力という特性を持つZigBeeなど、5G以外の通信方式にも目を向け検討するようにしましょう。

以上(2021年2月)

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画像:unsplash

【朝礼】「自分はツイている」と思ったほうがいい3つの理由

皆さんは自分のことを、「ツイている」と思いますか、それとも「ツイていない」と思っていますか。私は、自分が幸運に恵まれ、「持っている」人間だと思っています。正確に言うと、そう思うようにしています。

宝くじの1等が当たりでもしない限り、自分がツイていると実感できないかもしれません。ですが、「自分はツイている」と思ったほうが得だから、そう思っているのです。特に今のような逆風のときほど、「ツイている」と思っている人の価値は高まるものです。その理由は後ほど話します。

もし「世の中は思い通りにならないことばかりで、自分がツイているとは思えない」と感じている人がいたら、その人は、物事の捉え方を変えてみるべきです。例えば、コロナ禍で業績が下がって「ツイていない」と思うのは簡単です。それを、「それでも会社は存続し、仕事ができるのは運がいい」「コロナ禍で世の中が変化して、自分たちも変われるチャンスをもらった」という考えに改めてみませんか。そうすれば、「もう少し頑張ってみよう」という気持ちになりやすいでしょう。

このように、前向きになれるということが、自分が幸運だと思ったほうがいい1つ目の理由です。そして、なんとか頑張ってこの危機を乗り越えたときに、「やはり自分はツイている。自分の運を信じていれば大丈夫だ」と思えるようになれますし、そうなると、その後はもっと自分を信じて頑張れるという、好循環が生まれます。

例えば、明治から昭和初期にかけて日銀総裁や総理大臣、大蔵大臣を歴任した高橋是清は、10代前半に米国で奴隷として扱われたり、30代半ばでペルーの銀山開発などの失敗で全財産を失ったりしています。そんな不幸に見舞われた是清ですが、子供の頃から「自分は運がいい」と思い込むほど、生来の楽天家だったので、失敗をして窮地に陥っても努力できたと語っています。

自分がツイていると思ったほうがいい2つ目の理由は、自分を見失わないということです。人は何かに成功すると、「全て自分の実力だ」と有頂天になり、周囲が見えなくなってしまいがちです。「成功したのは、運が味方したからだ。油断していると風向きが変わって、今度は失敗してしまうかもしれない」と気を緩めずにいれば、その後も努力を怠ることはないでしょう。

3つ目の理由は、幸運だと思われている人の周りには、人が集まってくるということです。誰しも、「自分はツイていない」と暗い顔をしてうつむく人よりも、自信にあふれた明るい表情の人と一緒に働きたいと思うものです。日露戦争の日本海海戦でバルチック艦隊を破った東郷平八郎は、「運のいい男だから」という理由で連合艦隊の司令長官に抜てきされたといわれています。

今のような、先行きが不透明なときほど、「自分はツイている」と思っている人を心強く感じるものです。今日から、物事の捉え方を前向きに変えてみましょう。

以上(2021年2月)

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画像:Mariko Mitsuda

役員が病欠!? いざという時に困らない会社法の手続き

書いてあること

  • 主な読者:役員の病欠など定例化されていない会社法の手続きを知っておきたい経営者
  • 課題:会社法の手続きは複雑で、何をすべきか分からない
  • 解決策:機関設計ごとの役員の人数、役員の任期など確認すべきポイントを知る

1 会社法上の手続きは定時株主総会だけではない

会社経営において、会社法上の手続きは「例年同様に、定時株主総会を開催する」といったルーティン化されているものが少なくありません。そのため、通常業務では、会社法を意識することは多くないでしょう。

しかし、会社法にはさまざまな定めがあります。役員が病気になったときなど、通常と少しでも違うことが起こったときは会社法を確認して、正しい手続きを取ることが必要です。そうしないと、それが後にトラブルの種となり、会社経営に大きな影響を及ぼしかねないからです。

会社法の手続きは、会社の機関設計などによって異なります。本稿では、中小企業に多く見られる「取締役会+監査役」、かつ全ての株式を譲渡制限株式としている会社(非公開会社)を前提に、原則的な各種手続きなどを紹介していきます。

2 役員が病気になったり、死亡してしまったりした場合

1)すぐに役員を変更・選任する必要はない

役員(取締役・監査役)が病気で長期間実務に携わることができなくなったり、事故で不幸にも死亡してしまったりした場合、その役員(以下「対象役員」)に代わる人を、必ずしもすぐに選任する必要はありません。

まず、会社法と定款で決められている「役員の最低人数」を確認しましょう。会社法では、機関設計などによって役員の最低人数を定めています。「取締役会+監査役」の場合、取締役は最低3人、監査役は最低1人です(会社法第331条第5項、第335条第3項の反対解釈)。

また、役員の定員は、会社法の定めの範囲内であれば、定款で別の定め方ができます。例えば「最低人数を会社法より多くする」「最大人数を決める」などですが、仮に定款で取締役を「5人以上」と定めている場合、実際にその人数を下回らないようにしなければなりません。

以上を確認し、役員の最低人数を下回ることになった場合は、新たな役員を選任しなければなりません。

また、対象役員が長期間実務に携わることができない場合、実際の経営上の問題はさておき、会社法上は、対象役員がその地位にある限り、必ずしも法的問題とはなりません。会社法では、役員の欠格事由を定めていますが、これは成年被後見人もしくは被保佐人や、一定の法令に反して刑に処された場合などであり、実務に携わることができるか否かは問われていません(会社法第331条、第335条第1項)。

2)取締役や監査役の選任

取締役や監査役の選任には株主総会の普通決議が必要です。普通決議とは、株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う決議です(定款で別の定めをすることができます。会社法第341条、会社法第309条第1項)。株主総会の開催は、以降で紹介する事項でも必要になりますが、手続きの概要は後述します。

その他、頻繁に利用されている制度ではありませんが、会社法上、株主総会決議によって事前に補欠の取締役や監査役を選任しておくこともできます(会社法第329条第3項)。取締役が欠けたとき、速やかに臨時株主総会を開催しなければならない手間を考えれば、取締役を多めに選任しておくか、この補欠を定めておくということも一考に値します。

3)対象役員が代表取締役の場合

取締役会を設置している場合、代表取締役を1人以上選任しなければなりません(会社法第362条第3項)。代表取締役は1人でも複数人でもよいため、対象役員が唯一の代表取締役であり、その人が死亡してしまった場合は、取締役の中から代表取締役を新たに選任しなければなりません。

また、対象役員が長期間実務に携わることができなくなった場合でも、前述した役員の場合と同様、会社法上は、対象役員がその地位にある限り、法的には必ずしも問題ではありません。なお、代表取締役の選任は取締役会の決議が必要です。

3 役員の任期を伸長(短縮)する場合

会社法施行前、株式会社の取締役の任期は2年、監査役の任期は4年とされていました。会社法施行後(2006年5月)も、原則は変わっていませんが(会社法第332条第1項、第336条第1項)、非公開会社の場合、定款に定めることで取締役・監査役ともに最長10年まで任期を伸長することができます(会社法第332条第2項、第336条第2項)。小規模なオーナー会社などでは、長期間、役員を続けるケースが少なくありません。こうした場合、任期を伸長することで役員の選任(重任)手続き、登記費用などの負担を軽減できます。

役員の任期を伸長する場合は、その旨を定款に定める必要があります。定款を変更する場合は、株主総会における特別決議が必要です(会社法第466条、会社法第309条第2項第11号)。特別決議とは、株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う決議をいいます(定款で別の定めをすることができます。会社法第309条第2項)。

なお、同様の手続きで、役員の任期を短縮することもできます。ただし、取締役は2年を下回る任期にすることができますが、監査役は4年を下回る任期にすることはできません(取締役については会社法第332条第1項但書があるが、監査役については会社法第336条第1項には同様の但書がない)。

4 本店を移転する場合

会社の本店の所在地は定款に定める必要があります(会社法第27条第3号)。実務上、本店所在地に実質的な本社機能があるとは限らず、創業の地を本店所在地にしておき、実質的な本社機能は別の支店に存在するという場合も少なくありません。

いずれにしても、本店の移転に伴って、定款を変更する必要があるか否かは、本店の所在地の記載方法によって変わります。一般的に、本店の所在地は次のいずれかで定められています。

  • 最小行政区画まで:東京都中央区
  • 番地や建物名まで:東京都中央区○○町○○丁目○番○号 ○○ビルディング

定款に定めている事項を変更する場合、定款変更の手続き(株主総会における特別決議)が必要です。上記の例では、東京都中央区から東京都渋谷区に移転する場合、いずれの場合も定款の変更が必要です。一方、東京都中央区の中で移転する場合、最小行政区画までしか決めていない場合は定款の変更が不要です。

なお、以上は定款での本店所在地の定め方についてであって、法人登記に記載する「本店」については、建物名は必須でないものの、番地等まで記載する必要があります。

5 譲渡制限株式について譲渡承認請求があった場合

中小企業では、全株式を譲渡制限株式とし、非公開会社としているケースが多く見られます。この場合、株主が株式を譲渡するためには、会社の承認が必要です。まず、譲渡を希望する株主または譲受人(以下「請求者」)が、会社に譲渡承認を請求します(会社法第136条、第137条)。会社は、この請求について取締役会で承認するか否かを決定し(会社法第139条)、請求者に、2週間以内に当該決定の内容を通知します(会社法第139条第2項、第145条第1号。譲渡後株主の名義変更の手続きなどがありますが、本稿では省略します)。

もし、2週間以内に通知をしなかったときは、会社が譲渡を承認したものと見なされます(会社法第145条第1号)。

なお、会社が譲渡を承認しない場合、請求者はその株式について会社または指定買取人による買取りを請求することができます(会社法第140条)。この場合の手続きは次の通りです。

1.会社が株式を買取る場合

株式の買取りを行う旨や買取株式数について、株主総会の特別決議が必要となります(会社法第140条第2項、第309条第2項第1号)。その後会社は、株主総会で決議した事項を、請求者に対して通知しなければなりません(会社法第141条第1項)。

2.指定買取人が買取る場合

指定買取人の指定は取締役会で行うことができます(会社法第140条第5項)。その後、指定買取人が請求者に対して、指定買取人として指定を受けた旨や買取株式数などを通知しなければなりません(会社法第142条第1項)。

6 機関設計を変更する場合

機関設計の変更は、会社が成長してガバナンス強化を図る必要がある場合などに行われます。ただし、こうした目的以外にも、取締役会の最低人数(3人)を維持できないなど会社の課題を解消するために機関設計を変更する場合があります。非公開会社であれば「取締役会+監査役」から「取締役のみ」に変更します(「取締役のみ」は非公開会社だけに認められています)。

また、会社法施行前は、株式会社では取締役会の設置が必須であり、最低3人の取締役が必要とされていました。このため、事実上経営に関与しない経営者の親族や知人などを便宜上、取締役とするケースが見られました。現在も当時のままで、こうした取締役がいる会社もあるようです。この場合、経営実態に合った形に機関設計を変更することも考えられるでしょう。

機関設計は、「取締役のみ」とする場合以外は、定款に定めなければなりません。従って、本稿で例示している「取締役会+監査役」の会社が機関設計を変更する場合は、定款を変更しなければなりません。定款を変更する場合は、株主総会における特別決議が必要となります(会社法第466条、会社法第309条第2項第11号)。

7 臨時株主総会の開催手続き

本稿で紹介した多くのケースで必要となるのが株主総会での決議です。決算後3カ月以内に開催する定時株主総会に合わせて決議をすることもできますが、急を要する場合は、臨時株主総会を開催する必要があります。

毎年、開催している定時株主総会では実務的な問題は少ないと思われるので、ここでは臨時株主総会開催の基本的な手続きを紹介します。なお、会社法では一定の要件を満たす場合、手続きの省略などが認められています。また、定款の定めによっても、手続きが変わる場合もありますが、ここでは原則的な内容とします。

臨時株主総会開催の基本的な手続き(取締役会設置会社・非公開会社の場合)は次の通りです。

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臨時株主総会開催の手続きは、基本的には定時株主総会と同じです。ただし、定時株主総会と違って注意が必要なのは「基準日公告」です。定時株主総会の基準日は、定款で事業年度末(3月31日)などと定めていることが一般的です。そのため、基準日公告は不要になります。

一方、臨時株主総会の場合は、定款の定めとは別に、取締役会で基準日などを決めた上で公告を行う必要があります。

また、これは定時株主総会も同じですが、取締役会設置会社の場合は、取締役会で決定した議題(株主総会の目的事項)以外は、株主総会では決議することができません(会社法第309条第5項)。そのため、取締役会で議題の決定漏れがないように注意する必要があります。

以上(2021年2月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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画像:Krakenimages.com-Adobe Stock

【朝礼】固い結束力で繁栄した最強集団の悲劇

突然ですが、皆さんは最強の肉食動物は何だと思いますか? 単体で戦えばライオンやトラかもしれませんが、集団では「リカオン」が最強だと私は思っています。なぜなら、リカオンの狩りの成功率が、70%とも80%ともいわれるほど高いからです。対してチーターの狩りの成功率は50%、ライオンは30%、トラに至っては10%とされているので、リカオンのすごさが分かります。

リカオンはアフリカに生息するイヌ科の動物で、10頭から数十頭の群れで生活しています。体長は1メートルほど、体重は30キログラムほどと小柄ですが、群れの結束力がすごいのです。

リカオンの結束力を支えている習性の1つが、狩りに行くかどうかを、くしゃみによる投票で決めることです。群れの誰もが最初にくしゃみをすることで狩りに行くことを提案できますし、リーダーの同意も必須ではありません。ただし、ある群れでは、最初にリーダーがくしゃみをした場合は、3頭程度がくしゃみで同意すると狩りに行きますが、経験が浅く序列の低いリカオンが提案した場合、10頭ほどの同意が必要といいます。

この誰もが提案者になれる方法は、メンバーの意思を尊重する民主的、かつ合理的なもので、学ぶべき点があります。私は皆さんにも、積極的に提案し、意欲的に仕事を進めてほしいと思います。

とはいえ、組織として我が社が目指すのは、リカオンのような集団ではありません。リカオンは、生き残るには決定的な弱点があるからです。

リカオンは体格で勝るライオンなどに襲われることを避けるため、縄張りを持たず広範囲に移動して、天敵と接触する機会を減らしています。

問題は、環境の変化により身を守るのが難しくなっているのに、その生活スタイルを変えられていないことです。人間の生活領域の拡大に伴い、リカオンは広範囲に移動することがあだとなって、人間との接触機会が増えました。そのため、家畜を食べる「害獣」として駆除されたり、人間が飼っている犬の病気に感染したりしています。今では最盛期の1%に当たる5000頭ほどにまで減少しているとの報告もあり、絶滅危惧種に指定されています。同じく数を減らしているライオンやチーターと比べても、圧倒的に負けています。

私は、リカオンの結束力の強さが「集団的な思考停止」を招き、それが広範囲での移動スタイルを変えられない要因になっていると思います。外部環境の変化への対応でなく、集団の和を最優先してきたため、仲間に生活スタイルの変化を強いる提案は、出しにくかったのかもしれません。

会社という組織も同じです。単なる仲良し集団で居心地の良さに安住していては、組織は前に進めません。時には私や同僚への批判をしてもいいのです。会社のために改善すべきと思ったら、一時的に集団の結束を乱すことを恐れず異を唱え、皆と違う方向に進むことで、会社を変えてください。私もそうしています。それこそが、会社の永続につながる、真の組織貢献です。

以上(2021年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

子会社を閉じる(解散・清算)ときの税務の留意点

書いてあること

  • 主な読者:子会社の業績が悪化し、その対応を判断しなければならない経営者
  • 課題:解散・清算の税務は、通常ほとんど触れない特殊分野であり、よく分からない
  • 解決策:100%子会社の子会社株式清算損や評価損といった損金の扱いに注意する

1 子会社整理の際に検討される主な方法

子会社の業績が悪化し、事業の継続が困難になってしまった場合、経営者は子会社の整理を決断しなければなりません。子会社を整理する際の主な方法をまとめた上で、「解散・清算」に注目し、税務上の留意点などを解説します。最後に、解散・清算の手続きもまとめます。

1)親会社が吸収合併する

合併には吸収合併と新設合併とがありますが、一般的には親会社が子会社を吸収合併するケースが多いです。この場合、重複コスト(経理や総務といった管理業務など)をカットできる一方、子会社の負うリスクを引き継ぐことになります。主なメリット・デメリットを整理すると次のようになります。経営者は税理士などの専門家に相談しつつ、考えられるメリットとデメリットをできるだけ網羅的に把握することが大切です。

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2)買い手がいる場合、子会社の経営権や事業を譲渡する

合併によるメリットが見込めない場合は解散・清算手続きを検討するのがほとんどですが、買い手がいる場合は経営権や事業の譲渡も検討できます。経営権の譲渡とは、株式を譲渡することです。また、事業譲渡とは、子会社が営んでいる事業のうち、買い手の希望している事業に関連する資産や負債を譲渡することです。

3)子会社を解散・清算する

合併によるメリットが見込めず、経営権や事業の買い手も現れない場合は、子会社を解散・清算する検討に入ります。

1.解散

解散とは、事業活動をやめて会社を消滅させることです。なお、会社は解散しただけでは消滅することはなく、続けて「清算」という手続きが必要になります。

2.清算

清算とは、会社の財産を換金したり、債権・債務を整理したりすることです。これらの手続きを経て、最終的に残った財産を株主に分配したところで手続きは終了し、会社は消滅します。なお、清算には「通常清算」と「特別清算」とがあります。「通常清算」は、会社の財産で全ての債務を返済することができるとき(債務超過でないとき)に取られる方法で、「特別清算」は債務超過を疑われる会社が裁判所の監督下のもとで進められる方法です。

2 子会社を清算するときの税務上の主な留意点

1)子会社に対する債権の免除

子会社が債務超過の状態にある場合、特別清算を避けるため、親会社から子会社に対する貸付金(子会社側では借入金)などの債権(子会社側では債務)を免除することが多いです。この債権の免除による損失(貸倒損失)は親会社の損金(税務上の費用)とすることができますが、免除の金額が過剰な場合、損金として認められないケースがあります。

2)子会社株式清算損は損金にできない

残余財産の分配がある場合、親会社は、子会社株式の帳簿価額と残余財産分配額(全ての資産を現金化し、負債の弁済・納税した後に残る財産の価額)の差額は、損益計算書に損失として計上することになります。税務上もこの損失は損金となります。

ただし、持株割合が100%の子会社(以下「100%子会社」)の株式については、この損失は例外として損金になりません。

3)子会社株式評価損を損金にできない

子会社が解散して清算手続きに入った場合、親会社が子会社株式評価損を計上することがあります。この評価損については、子会社の財務状況などによっては税務上も損金になります。

ただし、子会社株式清算損と同じように、100%子会社の株式について計上した評価損は損金になりません。

4)100%子会社の繰越欠損金は親会社に引き継ぐことができる

100%子会社の株式については、親会社側で子会社株式清算損や評価損を損金にすることはできません。その代わり、100%子会社の有している繰越欠損金を親会社に引き継ぐことができます。繰越欠損金とは、残余財産が確定した日の翌日前10年以内に開始した事業年度で生じた欠損金(税務計算上の純損失)で、税務計算上で所得と相殺していない未処理のものをいいます。

5)税理士などへの相談

解散や清算に関連する税務は、事業が続いている段階では触れることのない特殊分野です。損金の取り扱いも通常時と異なる点が多く、思わぬ課税が生じる可能性もあります。解散や清算をするときは税理士などの専門家へ相談し、誤った処理をしないようにすることが重要です。

3 子会社の解散・清算実務(通常清算の場合)の流れ

1)株主総会による解散決議と清算人の選任

会社を解散する場合、株主総会で解散決議を行い、承認を得る必要があります。同時に、その後の清算事務を執行する「清算人」の選任も併せて行います。清算人になるのに資格などは必要なく、一般的には代表取締役だった人が清算人になるケースが多いです。

2)登記手続き

解散が承認されてから2週間以内に、解散登記と清算人の選任登記を行わなければなりません。

3)官報公告

債権者に会社の解散を通知するとともに、債権の申し出をするよう、官報に公告を出す必要があります。なお、官報公告は、申し込みから実際に掲載されるまで10営業日前後の日数がかかります。

4)貸借対照表と財産目録の作成

清算人は、解散日の貸借対照表と財産目録を作成し、株主総会の承認を得ます。また、株主総会で承認された後は、必要な税務申告書を作成して提出します。

5)債権の回収や債務の弁済

解散日現在で未回収の債権を回収し、保有する財産を換価した上、債務の弁済を行います。なお、3)の公告から2カ月間(債権の申し出期間)は債務を勝手に弁済することはできません。従って、債務については、債権の申し出期間が経過してから弁済するようにしましょう。

6)清算確定申告

債権の回収・財産の換価を行った上、全ての債務を弁済したところで残った財産の金額が確定(残余財産の確定)したら、1カ月以内に必要な税務申告(清算確定申告)をします。この清算確定申告が、会社が行う最後の確定申告手続きになります。

7)残余財産の分配

必要な税務手続き・納税が完了したら、株主の持株割合に応じて残余財産を分配します。

8)決算報告書の作成と株主総会の承認

清算手続き中に得た収入の額や債務の弁済額などを記載した決算報告書を作成し、株主総会の承認を得たら清算は結了し、会社は消滅することになります。

9)清算結了の登記と税務届出書の提出

8)の株主総会の承認を受けて清算が結了したら清算結了登記を行うとともに、必要な税務届出書を税務署や県税・市税事務所に提出することで、全ての手続きは終了となります。

4 解散・清算で経営者が考えるべきこととは?

1)債権者への通知

会社を解散した場合、国が発行する官報で「解散した旨」や「債権の申し出をしてほしい旨」などを通知(公告)する必要があります。なお、経営者が解散を決断する前に取引先などにその事実が知れ渡ってしまうと、信用不安に陥るリスクがあるので注意しましょう。

2)従業員の解雇

会社が従業員を雇用している場合は、清算手続き中に従業員を解雇しなければいけません。解雇は早い段階で行うほうが給与や法定福利費の負担を抑えられます。しかし、経営者が解散を決断する前に解雇予定であることを知られると、従業員の動揺も大きく、解散までの期間の業務に支障が出ることがあります。従って、従業員に解雇通知を出すタイミングは慎重に決める必要があります。

3)保有財産の換価

負債(買掛金や借入金)の弁済に充てるため、保有している固定資産などは売却して現金化(換価)しなければなりません。なお、不動産などについては売却に時間がかかる一方、慌てて売却すると、安い金額でしか売れないこともあります。このような売却に時間がかかる資産は解散・清算を決定する前の段階で現金化する判断が必要です。

4)各種契約の解除

事務所のテナント契約やリース契約などがある場合には、解約手続きをする必要があります。契約内容によっては、事前に解約通知を行わないと違約金が取られる場合があるので、あらかじめ確認しておきましょう。

5)その他

会社を解散した場合は、税務署や社会保険事務所などに届け出をしなければなりません。また、許認可を必要とする事業を行っている場合、各業法に従って廃業届などを提出する義務があるケースがあります。

以上(2021年2月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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【朝礼】デジタル時代だからこそ熱くなれ!

ビジネスのデジタル化が急速に進んでいます。その影響もあり、「感情を表に出さず、とにかく機械のように働くこと」を【効率化】と考える人もいるようです。しかし、私はそうした働き方には反対であり、デジタル化が進む時代だからこそ、「よりウエットに、人と人とのつながりを深める」ことを重視したいと考えます。それが私の信条であると同時に、今後のビジネスの可能性を広げていくために欠かせない、重要な要素であると信じているからです。

私には、尊敬してやまないビジネスの恩師がいます。今から20年ほど前、その恩師から「君は本当にすごいな!」と褒められたことがあります。それは、私が電話とメール、提案書のやりとりだけで、一度も相手と会うことなく数百万円の契約を獲得したからです。今でこそオンラインでの商談が普及していますが、当時はそのような発想は全くありません。「とにかく会って話そう」というのが通常です。しかもその相手は、社会的に非常に“おかたい”業界の人です。常識的に考えて、相手が一度も会ったことのない私と契約をするなんて考えられません。

にもかかわらず私が契約できたのは、もちろん会社の実績もありますが、それ以上に私の本気の姿勢と熱意が伝わり、私自身を信頼してもらえたからだと思っています。

皆さん、私はどうやって会ったことのない相手の信頼を得たと思いますか。

「人のどこを見て、信頼するか」は人それぞれですが、自己分析をしてみると、電話などのやりとりだからこそ、挨拶をきちんとするとか、時間などの約束を守るといったことに注意していました。そして、ここが重要なのですが、相手から難しい要求をされても、その難題と真正面から向き合う姿勢を決して崩しませんでした。夜遅くまで電話で話したり、一日に何十通もメールでやりとりしたりしました。互いの上司を説得するための作戦を一緒に考えたことも何度もありました。そうした中で強固な信頼関係が生まれ、「あなたと、このプロジェクトを成功させたい!」と互いに思えるようになったのです。

表面だけを捉えれば、電話やメールだけの営業は効率的に映り、そこばかりが注目されます。しかし、この例で私が心掛けたのは、泥臭いコミュニケーションを通じて、私の熱意を示すことでした。電話やメールは手段にすぎません。

これからのビジネスでは、画面越しでしか話したことのない相手と提携することが普通になります。そのとき、皆さんは相手のどこを評価して「組んでもいい!」と判断しますか。逆に、相手からの信頼をどのように勝ち取りますか。ましてや今は「個」を尊重する時代です。聞こえはいいですが、要は「会社の看板を外した状態で、皆さんが、どれだけ清く正しく存在感を示せるか」ということです。感情を奮い立たせ、熱い思いを伝えることがその答えになるはずです。

以上(2021年1月)

pj17038
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】議論に必要なのは「愛」「尊敬」「知識」

皆さんは、同僚やクライアントと正しく「議論」することができますか。議論とは、特定のテーマについて互いの意見を論じ合うことです。ビジネスでもしばしば議論することがありますが、これは互いに知恵を出し合い、より良い仕事をするためのものです。

ところが、ビジネスで行われる議論の多くは「勝負」になりがちです。「論破」という言葉に引っ張られるのか、「相手を言い負かすこと」が目的になっているのです。こういう間違った議論では雰囲気が険悪になり、相手から何か言われると自分自身を否定された気分になってしまいます。議論で否定するのは意見の内容や分析であり、相手自身ではないのですが、感情的になるとこの大原則を忘れがちです。しかし、論破されるのは悔しいかもしれませんが、自分にはなかった視点を得て、考え方を見直すきっかけになるわけですから、決して「負け」ではないのです。

また、経験上、議論が「勝負」になりがちなことを分かっている人は、衝突を避けるための努力をします。素晴らしいことですが、やはり方向性を間違えている人が多いように思います。よくあるのは、議論を深めるというよりも、相手をおだてて場を和ませ、折衷案に落とし込むケースです。しかし、こうした折衷案に魅力はありません。

どうすればビジネスでの議論がうまくいくでしょうか。議論の「さしすせそ」と「たちつてと」という興味深い指摘があるので紹介します。

まず、議論の「さしすせそ」は、議論を円滑に進めるための言葉です。具体的には、「さすがですね、知りませんでした、すごいですね、センスがいいですね、そうなんですね」と相手を肯定し、場の雰囲気を和らげる言葉です。

一方、議論の「たちつてと」は、研究者やエンジニアなどがよく使う言葉とされています。具体的には、「例えば? 違いは? つまり? 定義は? 統計的な裏付けは?」と質問し、状況を確認する言葉です。

ここで重要なのは、「さしすせそ」と「たちつてと」を対立項のように捉え、自分がどちらを使ったら有利かなどと考えないことです。「さしすせそ」も「たちつてと」も、議論を進めるためのきっかけにすぎません。議論の展開や雰囲気を考えて、「それは知りませんでした。ちなみに、統計的な裏付けはあるのですか?」と両方を組み合わせて使えばよいだけのことです。

議論には目的があります。お客様にとって良いサービスをつくるための議論であれば、まずお客様への愛がなければなりません。また、議論の相手は、共に良いサービスを検討する仲間であり、そこに尊敬がなければなりません。最後に、議論を深めるには準備、つまり知識が必要です。この「愛」「尊敬」「知識」を意識して議論すれば、くだらない勝ち負けにこだわることはなくなります。今年、皆さんの議論がバージョンアップすることを期待しています。

以上(2021年1月)

pj17037
画像:Mariko Mitsuda

役員退職慰労金を使った自社株式の評価引き下げ

書いてあること

  • 主な読者:役員退職慰労金を使って自社株式の評価を引き下げたい経営者
  • 課題:税務上、適正な役員退職慰労金の決め方や自社株の評価方法が分からない
  • 解決策:役員退職慰労金の損金算入時期をきちんと把握し、純資産価額方式で評価する

1 役員退職慰労金と純資産価額方式で評価を下げる

株式の評価額は評価方式によって大きく変わります。そのため、株式を高額で譲渡したい場合と低額で譲渡したい場合とで評価方法を自由に選択できたら便利です。しかし、実際はそうはいかず、相続税法において「取引相場のない株式」は、「純資産価額方式」や「類似業種比準方式」などによって評価することになっています。

本稿でご提案するのは、役員退職慰労金(以下「役員退職金」)を支払うタイミングで、前述の純資産価額方式を採用することで自社株式の評価を下げる方法です。例えば、事業承継(代替わり)では、現在の経営者の退任と、新しい経営者の就任があります。現在の経営者には役員退職金が支払われる一方、新しい経営者には基本的に“安く”会社を渡したいものです。このようなときに検討する方法です。具体的には、役員退職金を内部留保から支払って純資産を減らし、(純資産価額方式で評価すると)自社株式の評価を下げるということです。

2 さまざまな面から検討しなければならない

1)純資産価額方式とは

純資産価額方式は、企業の純資産に着目した企業価値の評価する方法であり、算出方法は次の通りです(財産評価基本通達185)。評価差額は資産の含み益ですが、これに37%を乗じて評価差額に対する法人税等に相当する金額を算出します(財産評価基本通達186-2)。

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一般的に、純資産価額方式は他に比べて株式の評価額を引き下げる手段が少ないと考えられますが、役員退職金の支払いを利用すれば大丈夫な場合もあります。内部留保から役員退職金を支払えば、その分だけ純資産は減少します。純資産価額方式で算定される株式評価額を引き下げられるというわけです。

2)基本的に役員退職金は損金になる

役員退職金を内部留保から支払って純資産を減らし、純資産価額方式で評価すると、自社株式の評価が下がるという方法ですが、役員退職金が税務上の損金になるかどうかも同時に考えなければなりません。純資産価額方式で評価額を下げたとしても、法人税等の納税が多額に発生してしまう可能性があるからです。

この点、役員退職金は、債務(支払い)が確定した日の属する事業年度の損金となります。役員退職金の支払いによる当期利益の大幅な減少を避けるため、毎期、有税で積み立てている場合は、役員退職金支給時に引当金と相殺し、引当金取崩額を損金計上することになります。具体的な取り扱いは法人税基本通達で定められています。

【法人税基本通達9-2-28(役員に対する退職給与の損金算入の時期)】
退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度とする。ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。

損金になるか否かは重要なポイントなので、以降でもう少し説明します。

3)期中に退職した場合、支払いが確定したときに損金となる

役員が期中に退職した場合、内規により未払い計上することはできます。しかし、債務は確定していないので損金にはなりません。株主総会の決議や取締役会の決議で、役員退職金が具体的に確定した事業年度に損金計上するのが原則です。ただし、役員退職金の額が確定していても、会社の資金繰りの都合上、支払われない場合は、実際に支払った事業年度に損金計上することも認められています。

4)役員退職金を分割支給する場合、支給するべきときに損金となる

中小企業ではオーナー経営者や同族の役員が多く、役員在任期間が長くなりがちです。仮に在任1年当たりに換算した役員退職金が少額でも、在任期間が長期にわたると役員退職金は高額になります。このような場合、役員退職金を分割して支給することもあります。

税務上、役員退職金を分割支給する場合、支給するべきときに損金計上できます。株主総会の決議等による確定前に役員退職金の総額を費用で処理したとしても、未支給分は損金に算入できません。仮に、役員退職金5000万円を2分割支給(年間2500万円ずつ支給)する場合の税務上の取り扱いは、次のいずれかとなります。

  • 株主総会の決議等により、金額の確定した日の属する事業年度において一括して損金計上する。未払いの役員退職金分は未払い計上となる
  • 分割支給する日の属する事業年度ごと、2年間にわたって損金計上する

役員退職金を長期間で分割支給すると、支給額を恣意的に操作することで会社の利益を減少させるなどして課税を逃れることができます。これを防ぐため、役員退職金の分割支給は、資金繰りの悪化などの合理的な理由が求められるといわれています。また、長期間の分割支給は、退職年金支給と指摘される可能性もありますので、注意が必要です。

3 役員退職金による自社株式の評価引き下げは可能?

自社株式の評価が「ゼロ」であれば、譲渡であれ贈与であれ、原則課税はありません。例えば、創業者が後継者となる子供に自社株式を譲渡するとしましょう。その際、会社は創業者役員に多額な役員退職金を支払います。その金額が、貸借対照表上の純資産の部の合計に土地などの含み益または含み損を加減算した金額を上回った場合、創業者役員に役員退職金としてこの金額を支払った段階で、純資産価額方式で株式を評価すると、自社株式の評価は「ゼロ」となります。

会社は多額の役員退職金を支払うことになりますが、役員退職金規程が整備されていれば支払いの根拠ができます。また、退任役員への退職慰労金贈呈が株主総会の決議により承認されていれば、会社法上の問題はありません。

一方、会社が過大な役員退職金を支払った場合、法人税法上、役員退職金の損金計上が否認されるケースがあります。ただし、役員退職金が「不相当に高額であるか否か」の判定は企業規模や役員の在任期間などから税務署が下すため、会社では支払った役員退職金が「不相当に高額であるか否か」の判断をしにくいのが実情です。通達などで明らかにされていない事項もあります。税務署の判断と会社の税務上の処理が異なるリスクを低減するために、税理士などの専門家に相談しましょう。

以上(2021年2月)
(監修 税理士法人アイ・タックス 税理士 山田誠一朗)

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【朝礼】営業の現場で使える「4H」

今日は、もうすぐ始まる新年度にスタートダッシュを決められるよう、皆さんに覚えておいてほしいことを話します。

皆さんは、「3H(さんえいち)」という言葉を聞いたことがありますか? 「初めて」「変更」「久しぶり」の最初の文字「H(えいち)」を取ったもので、人がミスや間違いを起こしがちな作業シーンを表しています。初めての作業、変更があった作業、久しぶりの作業はヒューマンエラーが起きがちなので注意しましょうということで、主に工場などで使われていると聞きます。

私は、この3Hは、営業の現場でも同じだと考えています。営業はお客さまとコミュニケーションを取るのが大事な仕事ですが、特にコミュニケーションを取ってほしい、気を配ってほしい場面があります。それが、この「3H」の「初めて」「変更」「久しぶり」なのです。

例えば、お客さまの窓口担当者が変わり、「初めて」の方が担当になったときを想像してください。新しい担当者は、恐らく、自分が担当することになった案件や業務を精査し、見直そうとします。つまり、こちらのアクション次第でチャンスにもピンチにもなるのです。「初めて」の担当者に対しては、挨拶と同時に、そのお客さまがこれまでどのように当社のサービスを使ってくださっていたか、課題は何か、他のお客さまはどう使っているか、当社ができることは何か、そうしたことを早めに、しっかりと説明しましょう。

お客さまがこれまでと違ったことを依頼してきたとき、つまり何か「変更」があったときも同様です。お客さまが新しいことを考えているかもしれませんし、こちらが気付いていない課題が出てきているかもしれません。必ず「なぜそうした変更があるのか」を尋ねましょう。これも、チャンスにもピンチにもつながります。

そして、営業ではなるべく「久しぶり」はないほうがいいのですが、疎遠になってしまったお客さまがいる場合、ホームページやプレスリリース、業界ニュースなどで新しい動きがあったら連絡を取るチャンスです。ニュースを見ましたと、「久しぶり」に連絡を取り、お客さまの近況を聞いてみてください。そこには、新しいチャンスが隠れているかもしれません。

以上が「初めて」「変更」「久しぶり」の「3H」ですが、私は、もう1つ加えて「当社の営業の4H」にしたいと思います。4つ目のHは「ハイブリッド」です。当社ではオンラインの営業も取り入れ、対面とオンラインの両方で、ハイブリッドな営業ができるようになっています。このことも、お客さまとコミュニケーションを取るチャンスです。「対面でもオンラインでもお話しできるようになりましたので、どちらでもご希望のほうで、ぜひお会いしたいです」と連絡を入れてみてください。お客さまと話をするきっかけになるでしょう。

お客さまとコミュニケーションを取る際の「4H」。新年度、ぜひ実践していきましょう!

以上(2021年2月)

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画像:Mariko Mitsuda