仲人を頼まれた時の準備とスピーチの参考事例

書いてあること

  • 主な読者:部下から仲人を頼まれた経営者、上司
  • 課題:引き受けるに当たり、役割や心構えを知りたい
  • 解決策:結納から会場のセッティング、スピーチまで役割は多岐に渡るので、段階ごとに役割を把握する

1 仲人の役割

現在では、仲人を立てて結婚するカップルは少なくなっているようですが、経営者は立場的に仲人を頼まれることもあるでしょう。

本稿では、仲人を務めるためには、何に気を配り、どのような「役割」を果たせばよいのかを中心に紹介します。

なお、本稿では、結納や結婚式での礼儀作法に関する事柄については割愛しています。

2 仲人を引き受ける前に考えておきたいこと

1)仲人に必要な心構え

仲人とは、本来、お見合いから結婚式・披露宴にまで関与して結婚の仲立ちを務める存在を指します。仲人は、結婚に深く関わる存在であり、結婚する当人たちの双方、少なくとも片方をよく知っている必要があります。

また、結婚式・披露宴のほとんどは円満に進むとはいえ、当日に至るまでに意見の食い違いやトラブルが発生しないとも限りません。また、結婚後もトラブルがあると、仲人は当人たちや親から相談される可能性があるでしょう。

従って、仲人を引き受ける際は、「当人たちをよく知っていること」「親を説得してでも、結婚する当人たちの意見を尊重できること」「婚約解消という事態にも冷静に対処できること」などの心構えを持っておく必要があります。

2)婚約解消などのトラブルへの対処も必要

仮に婚約解消などのトラブルが発生した場合、仲人には、断られた側を気遣いながらも、冷静にしかるべき「事後処理」を行う役目があります。

婚約解消が法的に認められるのは、「相手が著しく経歴を偽っていた」「婚約中に相手が他の異性と関係した」「相手からひどい侮辱、虐待を受けた」「相手が再起不能の傷病を負って、正常な結婚生活ができなくなった」などとされています。

婚約解消を希望しているのであれば、仲人は当人や親と相談しながら、話し合いを進めることになります。婚約解消の場合、「婚約披露に要した費用」「結婚の準備に使った費用」「結婚のために職場を辞めた場合の損害」「婚約解消によるショックで病気になった場合の治療費や精神的苦痛に対する慰謝料」などが必要になる場合があります。

婚約解消は繊細なトラブルであり、かつ金銭の損害などが生じる場合は、話がこじれることも想定されます。弁護士に相談するなどして、対応するとよいでしょう。

また、婚約解消にともない、「これまで互いに交換した結納品、結納金、家族書、履歴書、写真、プレゼントなどを返却し合う」「関係者へ婚約解消の旨を連絡する」などの事後処理も必要になります。

3 仲人に求められる「役割」

1)仲人に求められる役割

結納の儀、そして、結婚式会場のセッティングまで、無事、結婚式を迎えるまでに仲人が果たすべき仕事は、「調整役」「アドバイス役」などと決して少なくありません。ここではそれらを、各段階に分けて紹介します。

2)結納の儀

結納とは、正式には、仲人が両家の使者として双方の家を往復し、互いの結納品を送り届けるものです。しかし、現在は両家が一カ所に集まって結納品を取り交わす略式が一般的であり、結納そのものを行わない場合もあります。

1.結納に関する調整事項

「結納品」は地方によって差があるので、両家の出身地のしきたりに応じて調整する必要があります。「結納金」については、女性側に嫁入り支度に必要な費用を確認した上で、男性側に伝えて額を決定するのが妥当といえるでしょう。

次に、結納の儀のときに取り交わす「家族書・親族書」については、特に、親族書はどの程度の親族まで記載するか、両家と打ち合わせをして決めます。さらに、当日の「服装」については、両家の意向を確認した上で仲人夫妻もそれに準じた装いをします。

2.結納品

結納品は、次の9品目が一般的とされていますが、5品目、7品目の場合もあります。なお、地方によっても結納品は異なります。

  • 目録:結納品とその数量を箇条書きにしたもの
  • 長熨斗(ながのし):あわびを長く伸ばしたもの
  • 金(宝)包:結納金
  • 末広(すえひろ):白無垢の扇子
  • 友白髪(ともしらが):麻ひも
  • 子生婦(こんぶ):昆布
  • 寿留女(するめ):するめ
  • 勝男武士(かつおぶし):鰹ぶし
  • 家内喜多留(やなぎだる):清酒を入れた樽ですが、一般的には樽料としてお金を包みます

さらに、結納の儀では「結納品の並べ方」「結納受渡の作法」「仲人口上」などの作法を覚えることも重要になります。

なお、キリスト教の場合、結納の代わりに「婚約式」を行う場合もあります。作法その他については、事前に神父や牧師が細かく教えてくれるので、心配ないでしょう。

3)挙式への準備期間

1.結婚式・披露宴の費用分担

結婚式の挙式の方法や披露宴の規模などは、両家の資産や社会的立場によって意見に食い違いが出やすいところです。仲人としてはよく話し合って、双方にとって納得のいく最善の妥協点を見つけて調整をする必要があります。

2.招待客のバランス

招待客の顔ぶれや、人数の割り振りも、仲人が間に立って調整します。一般的には、両家同数にそろえるのが理想です。

3.式場側との打ち合わせ

当人たちに任せてもよいのですが、同行を求められれば行ったほうがよいでしょう。その場合、式場の「責任者」や「係員」とできるだけ親しくなって良い関係をつくっておくとよいでしょう。

また、挙式から披露宴までを取り仕切る「世話役」、披露宴会場の「受付係」、来賓を控室にお通しする「案内係」などのスタッフとの顔合わせをして、披露宴の進行について、きめの細かい打ち合わせをしておきます。

最後に忘れてはならないのは、急病などにより、式に参加できなくなったときのために、「代わりの媒酌人(仲人)の手配」まで行っておくことです。

4)挙式および披露宴

1.挙式

神前の場合、事前の打ち合わせによって、誓詞(せいし)の奏上や玉串奉奠(たまぐしほうでん)を新郎新婦に代わって仲人が行うことがあります。その他の場合は、神主や僧侶、あるいは神父や牧師から、何をすればよいか当日詳しく説明があります。

2.挙式後の両家親族紹介

挙式後一堂に会した両家親族の紹介役を務めます。あらかじめ、親族についての基本知識と新郎新婦との関係を頭に入れておかなければなりません。

3.来賓の出迎え

会場入り口で来賓への応対あいさつを行います。両家を代表する一人として、風格のある態度、上品な身のこなしが望まれるところです。

4.媒酌人(仲人)のスピーチ

式の冒頭で述べられる媒酌人(仲人)のスピーチは、式の雰囲気を盛り上げる基盤づくりを行う上で重要な役割を担っています。

5.新郎新婦の介添

新郎新婦のお色直しの際には、媒酌人(仲人)夫妻が同行します。特に、媒酌人(仲人)は花嫁の介添人として、お色直しの合間を縫って口にできそうな飲み物や簡単な軽食を用意する、移動の際に衣装を踏んだり、つまずいたりしないよう、階段を下りる際には、1段先に降りて花嫁の手をとって誘導するなどの点に配慮しましょう。

6.来賓の見送り

大役をほぼ終えて、疲れが顔に出やすいところですが、最後まで笑顔を忘れず、来賓一人ひとりに心のこもったお礼の言葉を述べます。

4 媒酌人(仲人)のスピーチ参考事例

1.参列者へのお礼

本日は○○、▲▲ご両家の結婚披露宴にご列席賜りまして、誠に有難うございます。

2.媒酌人としての自己紹介

私はご両家の媒酌を務めることになりました●●でございますが、ふつつかながら一言あいさつを述べさせていただきます。

3.結婚式が済んだことの報告

まず、新郎新婦は先ほど神前において、結婚の儀を滞りなく挙げられましたことを、ここに慎んでご報告申し上げます。 

4.新郎新婦の紹介(両家紹介)

さて恒例によりまして、新郎新婦のご紹介をさせていただくことにいたします。

新郎の○○太郎君は、○○夫・○○子ご夫妻のご長男として、○○年、○県○市にお生まれになりました。○○大学をご卒業後、○○商事に入社され、現在海外営業部に勤務されています。海外営業の第一線でご活躍される前途有望な青年であります。また、ご覧の通りの体格で学生時代はボート部の主将を務めた経験もあり、周囲からの人望も厚い好青年です。

一方、新婦の○○子さんは、○○郎・○美ご夫妻の次女として、○○年、○県○市にお生まれになりました。○○音楽大学をご卒業後、現在はピアノの教師をなさっています。特に芸術の才能に優れていらっしゃる才媛で、ピアノ以外にフルートも演奏なさる他、作詞・作曲もなさいます。ご覧のように誠に相ふさわしいご良縁であると確信いたしまして、私ども夫婦は喜んでお二人の新生活のご出発をお手伝いさせていただいた次第でございます。

5.新郎新婦への今後の支援を願う言葉

若いお二人の新しい門出に当たりまして、媒酌人としてご列席の皆様に今後とも機会あるごとに、いろいろとご指導ご支援賜りますようにお願い申し上げて、媒酌人としてのごあいさつとさせていただきます。

以上(2020年3月)

pj10003
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製造物責任(PL)法の概要と同法への輸入業者の対応

書いてあること

  • 主な読者:PL法への対応が必要な製造業者や輸入業者
  • 課題:PL対策として何に取り組むべきか分からない
  • 解決策:本稿では、製品事故の未然防止、保険への加入などを取り上げるので、これらを参考に対策を行う

1 PL法の概要

「製造物責任法」(以下「PL法」)は、製造物の欠陥により人の生命、身体または財産に係る被害が生じた場合にメーカーや輸入業者の損害賠償の責任について定めた法律です。

PL法の特徴は、被害者の円滑かつ適切な救済を行うため、企業に過失がなくても製品に欠陥があれば賠償責任を負わせるという点にあります。すなわち、被害者である消費者が救済されやすくするとともに、企業には製品の安全性確保のための努力を促す法律であるといえます。

1)製造物

PL法では、製造物を「製造又は加工された動産」と定義しています。一般的には、工業製品を中心に、人為的な操作や処理がなされた動産を対象とします。未加工の農林畜水産物や不動産、電気やソフトウエアなどの無体物はPL法に定める製造物には該当しません。

2)欠陥

PL法でいう欠陥とは、「当該製造物に関するいろいろな事情(判断要素)を総合的に考慮して、製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」をいいます。安全性に関わらないような、単なる品質上の不具合はPL法が定める欠陥には該当しません。

欠陥の類型としては、次の3つがあります。

  • 製造上の欠陥(製品の製造過程で粗悪な材料が混入したり、製品の組み立てに誤りがあったりなどの原因により、製品が設計・仕様通りに作られず安全性を欠くような場合)
  • 設計上の欠陥(製品の設計段階で十分に安全性に配慮していなかったために、製造される製品全体が安全性に欠ける結果になるような場合)
  • 指示・警告上の欠陥(有用性ないし効用との関係で除去し得ない危険性が存在する製品について、その危険性の発現による事故を消費者側で防止・回避するに適切な情報を製造事業者等が分かりやすい方法で与えなかったような場合。表示や取扱説明書中に、指示や警告が適切に示されているかどうかも考慮されます)

3)製造業者等

PL法でいう製造業者等とは、製造物の製造業者、加工業者、輸入業者、および製造物に氏名などを表示した事業者を指し、単なる販売業者は原則として製造業者等には該当しません。ただし、販売業者であっても、OEM製品やプライベートブランドのように、販売業者の名前が前面に出ており、販売業者への信頼によって消費者の商品選択が行われるような場合には、その販売業者はPL法に定める製造業者等に該当します。

また、販売業者の名前が製造物に記載されていなかったとしても、実際の製造業者の名前を出さずに、販売業者が自社の名前で広告を展開するような場合は、販売業者は製造業者等に該当します。こうしたケースは医薬品などでよく見られます。

4)賠償責任

製造業者等が賠償責任を負うのは、製造物の欠陥により、人の生命、身体に被害をもたらした場合や、欠陥のある製造物以外の財産に損害を与えた(拡大損害が発生した)場合です。欠陥のある製造物のみの損害にとどまった場合は、PL法の定めによる賠償責任は発生しません。

5)免責

製造物の欠陥による拡大損害が発生した場合でも、製造業者等が賠償責任を免責される2つの場合が規定されています。

1つは、製造物の引き渡し時点の科学技術の水準では製造物に欠陥があることが分からなかった場合です。これは例えば、製造当時は危険はないとされていた物質が、後になって発がん性を持った物質であることが判明した場合などがあります。

もう1つは、部品・原材料の製造業者等において、その部品・原材料を組み込んだ製造物の製造業者等の指示に従ったために欠陥が発生した場合で、部品・原材料の製造業者等に過失がなかった場合です。この場合、部品・原材料の製造業者等は免責となります。

例えば、下請け業者が、納入先からの規格や仕様などの指示に従って部品を製造したものの、指示に誤りがあったために欠陥が発生する場合などがあります。この場合、下請け業者は免責となります。ただし、下請け業者が、指示に誤りがあることに気付いていながらその誤りを指摘しなかった場合などは、下請け業者に過失があったとして賠償責任を負わされる可能性があります。

免責事由は上記の2つですが、いずれの場合も、免責事由に該当することを製造業者等が立証しなければなりません。

6)民法の適用

安全性に関わらない不具合はPL法に定める欠陥に該当しないため、そうした不具合があってもPL法に基づく賠償責任は発生しません。また、製造物に欠陥があったとしても、拡大損害が発生しなかった場合はPL法に基づく賠償責任は発生しません。

ただし、これはあくまでPL法に基づく賠償責任がないというだけで、こうした場合には民法の瑕疵(かし)担保責任(2020年4月以降は契約不適合責任)、債務不履行責任、不法行為責任に基づいて賠償責任が発生する場合があります。

2 PL法への対応

1)製品事故の未然防止

PL法への対応としてまず考えるべきことは、製品の欠陥をなくし、製品事故を未然に防ぐための対策を講じることです。前述の通り、PL法でいうところの「欠陥」には、製品自体の欠陥だけでなく、指示・警告上の欠陥も含まれます。そのため、製品事故の未然防止を考える際には、その両面から考える必要があります。

1.製品の安全性向上

製品自体の安全性を向上させるべく、設計・製造段階において対策を講じます。その際に留意すべき点は次の通りです。

【設計段階】
  • 技術開発、および安全性試験の強化を進める
  • 販売店や消費者の意見を反映させるシステムを確立する
  • 自主基準を更新し、高度化を図る
【製造段階】
  • 製造マニュアルの見直しを含め、製造工程の改善を図る
  • 外部機関を活用する(民間機関による自主的な認証制度の導入)
  • 企業間の協力体制を整備する(親企業と下請け企業、部品・原材料や産業用機械のメーカーとユーザー、メーカーと販売業者などの企業間や業界単位で安全性チェック体制を整備)

2.表示・取扱説明書の充実

製造物の取り扱いについて消費者に情報を伝達し、誤使用などによる事故の防止を図ります。その際に留意すべき点は次の通りです。

  • 取扱説明書の内容をより一層分かりやすいものにする
  • 危険レベル(危険、警告、注意)の表示などに統一的な基準を導入する
  • 表示事項の優先度、内容および表示方法の見直しを図る
  • 過去の事故やクレームを参考にする

2)社内体制の構築

製品自体の安全性向上に取り組むとともに、安全性確保に向けた社内体制の構築・整備も重要です。社内体制の構築に当たっては、経営者が自ら先頭に立ち、PL対策への取り組みを推進しなければなりません。その際に留意すべき点は次の通りです。

  • 社員教育を徹底し、製品の安全性を重視する社風を作り出す
  • 製品の技術開発、安全性試験の強化を図る
  • 部品や原材料の品質管理を徹底する
  • PL対策部門の設置および専任スタッフを任命する
  • 検査記録などの文書の管理をしっかり行う
  • 消費者のクレームなどを迅速に処理するため、紛争解決体制を整備する

3)保険への加入

細心の注意を払っていても、事故が発生する可能性はゼロにはなりません。万一事故が発生した場合、企業は多額の費用負担を強いられる恐れがあり、それを回避するための手段として、保険の加入があります。

損害保険会社や商工会議所などでは、製造物責任を補償する保険を取り扱っています。

3 輸入業者とPL法

1)輸入業者の責任

製造業者とともに輸入業者もPL法において責任主体となっています(PL法第2条)。この規定の趣旨としては、次の事項が挙げられます。

  • 輸入業者は日本国内における最初の流通開始者または製品供給者である
  • 輸入業者は日本国内の規制を受ける最初の事業者である
  • 外国の製造業者の責任を問うことが実質的に困難である

例えば、商社が米国から玩具を輸入し、国内の流通業者を通じ全国で販売したとします。その玩具に設計上の欠陥があり、玩具を使用していた子供がけがをした場合、商社はPL法の規定に基づき賠償責任を負います。

輸入業者も事故発生の際、製造物責任を負う可能性があることから、製造業者同様、PL法への対策が求められています。

輸入業者は、輸入業者固有のものとして次のような対策を講じる必要があります。

2)製造業者のPL対策の確認

輸入した製品を国内で販売する場合、製造業者がどのようなPL対策を講じているかを確認することが重要です。その際の確認方法として、次に挙げる資料を製造業者から入手するなどしておくとよいでしょう。

  • 製品の設計図・仕様書
  • 各種安全基準の認定証
  • 製造工程表
  • 取扱説明書・警告表示
  • クレーム処理マニュアル
  • PL保険証券の写し

前述の資料だけで不十分な場合、輸入業者は製造業者から直接話を聞くか、製造工場を訪問します。製造業者のPL対策を確認した結果、国内で製品を販売する際に問題となる点が判明した場合には、輸入業者は製造業者に対策の改善を求める必要があります。

3)取扱説明書や警告表示の翻訳

輸入品の取扱説明書や警告表示は、日本の消費者が理解できるように日本語に翻訳する必要があります。この際、「意味・内容を取り違える可能性がある」「日本語として分かりにくい」など、適切な翻訳がなされていないと、「警告・表示上の欠陥」として輸入業者が損害賠償責任を負う可能性があります。

さらに、翻訳が不適切であったために「警告・表示上の欠陥」となった場合、その責任は輸入業者にあると考えられ、製造業者に対して求償できない恐れがあります。

従って、輸入業者が日本語の取扱説明書や警告表示などを作成する場合は、製造業者に内容の確認をとりながら、慎重に作業を進める必要があります。

4)輸入契約の締結

輸入した製品に欠陥があり、事故が発生した場合、PL法の規定により輸入業者は損害賠償責任を負います。輸入業者が支払った賠償金について、輸入業者は、改めて製造業者に損害賠償を求めることができますが、必ずしも賠償金の支払いを受けられるというわけではありません。また、訴訟によって製造業者に損害賠償を請求する場合、製造業者の所在する国と日本との法制の違いなどもあり、手続きも複雑です。

従って、輸入業者が製造業者と輸入契約を締結する際には、次の条項などを盛り込んでおく必要があります。

  • 製品の欠陥により輸入業者が損害賠償請求を受けた場合、製造業者に求償できる
  • 日本国内で発生したトラブルに基づく訴訟については、日本の法制に従う

ただし、契約書に求償権について規定していたとしても、実際に製造業者に支払い能力が無ければ意味がありません。輸入業者は、輸入契約締結に際して、製造業者の企業規模などを考慮するとともに、製造業者は、日本を対象地域とするPL保険に加入することを義務付けておくとよいでしょう。

以上(2020年3月)

pj60010
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【朝礼】「おみくじ」は、何度でも引ける

もうすぐ新年度がスタートします。新年度、皆さんには、何事にも強い意志を持ち、諦めずに進めてもらいたいと思っています。今日は、その参考になる2つの話をします。

1つ目は「おみくじ」の話です。皆さんは、お寺や神社でおみくじを引くとき、何かこだわっていることはありますか。中には、自分なりのルールを決めている人もいるかもしれません。私の場合、「おみくじは、大吉が出るまで何度でも引く」ことにしています。このやり方を、もう10年以上続けており、今年の初詣では、5回目で大吉を引くことができました。

賛否両論あるでしょうが、私はこのやり方が良いと信じています。「おみくじは一度しか引いてはいけない」と法律で定められているわけではありません。たとえ「凶」など自分にとって良くない内容が出たとしても、そこで悲観して終わってはいけません。「大吉を引く」と自分で決めたら、大吉が出るまで引き続ければいいのです。私にとって大事なのは、「大吉が出た」ことではありません。「大吉が出るまで諦めずに引き続けた、そして大吉を引いた」ことなのです。

陸上競技の桐生祥秀選手が100メートル走で、日本人初の9秒台を記録した際のインタビューで、「大吉が出るまでおみくじを引き続けた」と語っており、同様のエピソードを持つ著名人は他にもいます。「大吉が出るまで引く」のは、ある意味で強い意志の表れともいえるかもしれません。

2つ目の話は、帝人の元会長・社長である長島徹氏のエピソードです。

長島氏が幼い頃、高価だった野球ボールの代わりに何時間もかけて布を巻いて作ったボールが、竹やぶに入ってしまったことがあったそうです。必死に捜しても、なかなかボールは見つかりません。そのとき、長島氏は、神様に「どうぞ諦めさせないでください」と祈ったというのです。「どうかボールが見つかりますように」ではなく、「自分が諦めるという考えを抱くことのないように」と祈ったのです。

「何事も自分の気持ち次第だ」という強い意志の大切さを、幼いながらに体現した長島氏のこのエピソードが、私は大好きです。私も、ビジネスでうまくいかないことがあり、諦めてしまいそうになったとき、心の中で「どうぞ諦めさせないでください」と言っています。祈るというよりは、私自身の意志を、いま一度奮い立たせるために言うのです。

皆さんは、この2つの話を聞いてどう感じるでしょうか。ビジネスの状況は刻一刻と変わります。周りから、いろいろと言われることもあるでしょう。それらに一喜一憂し、右往左往してはいけません。時と場合によりますが、大切なのは、強い意志を持つこと、そして簡単に諦めないことです。そうすれば、必ず道は開けます。新年度、皆さんが自分自身の道を開いていくことを、私は大いに期待しています。

以上(2020年3月)

pj16996
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】「気が緩んでいるから風邪を引く」と言われてしまう理由

まだ20代だった頃の話です。私には大事な商談の前日に風邪を引いて高熱を出し、商談を欠席してしまったという苦い経験があります。そのとき、当時の上司から言われたのは、「気が緩んでいるから風邪を引くのだ!」という厳しい言葉でした。気の緩みと風邪を引くことに因果関係はありませんから、私は「精神論を言われても困る。私だって風邪を引きたくはない!」と、上司に腹を立てたことを覚えています。

しかし、今ではその上司の気持ちが分かる気がします。上司は、文字通り「気を引き締めれば風邪など引かない」ということを伝えたかったのではありません。商談に対する私の真剣さや準備が足りないことを不満に感じており、その感情がそのような言葉として表れたのだと思うのです。

実際、その商談に向けた私の準備は不十分でした。資料の仕上がりはスケジュールギリギリで、商談シナリオも練り込まれていませんでした。その結果、私の代わりに商談を託された同僚には、大変な迷惑を掛けてしまいました。「気が緩んでいるから風邪を引く」という上司の言葉は乱暴ですが、そもそもの問題は、私の仕事に対する姿勢にあったのです。

あることをきっかけに、本音が口をついて出ることがあります。心の中で2人の人物をイメージしてみてください。1人は仕事を頑張っていて、時間もきっちりと守る人。もう1人は仕事に対してやる気がなく、時間にもルーズな人です。

遅くまで続いた飲み会の翌日、この2人がそろって遅刻をしたら、皆さんはどのように感じますか? 前者のしっかりした人については、「昨日、飲み過ぎて体調を崩したのかな? それとも別の理由があったのかな?」などと心配するかもしれません。一方、後者のダメな人については、「飲み会の次の日に寝坊するなんて……。私だって眠いのに」などと腹を立てるかもしれません。2人とも遅刻をしているのに、日ごろの行い次第で、これほどまでに印象が違ってしまうのです。

ありがたいことに、私はビジネスのタフな交渉の場面で、相手から「○○さんがそこまで言うのだから信じます」と言ってもらえる経験を何度かしています。これは、日ごろから当社が真摯な姿勢で相手に接しているからだと思いますし、そうした対応をしてくれる皆さんには心から感謝しています。しかし、仮に、当社の姿勢が不誠実であれば、相手は決して「信じます」とは言ってくれないでしょう。逆に「もっとこちらに配慮してください」などと苦情を言われるかもしれません。

日ごろの行いの積み重ねが、いざというときに大きな差となります。そして、悪い行いを積み重ねてしまえば、後からマイナスを取り戻すことは本当に難しくなります。そうならないために心がけるべきは、謙虚な姿勢で、真摯に相手と向き合うことです。その姿勢が相手に伝われば、皆さんへの好感が生まれ、ビジネスが進めやすくなるのです。

以上(2020年3月)

pj16998
画像:Mariko Mitsuda

戦国武将・偉人に学ぶ部下育成術

書いてあること

  • 主な読者:部下に「前向きに仕事に取り組んでほしい」「成長してほしい」と願う管理職
  • 課題:自分と考え方や性格が違う部下のやる気を、どうやって引き出せばよいか分からない
  • 解決策:「部下の本質を評価する」「まず自分が手本を示す」などの取り組みによって大業を成し遂げた戦国武将・偉人のエピソードから、部下育成のノウハウを学ぶ

1 武田信玄に学ぶ「部下を思いやり、その本質を見抜く」術

1)武田信玄のエピソード

武田信玄(たけだしんげん。本名は武田晴信(たけだはるのぶ))は、甲斐国(現山梨県)の武将です。

信玄が生まれた当時、甲斐国ではさまざまな勢力が乱立し、争いを続けていましたが、信玄の父・武田信虎(たけだのぶとら)が、これらの勢力を破り、甲斐国を統一しました。しかし、家臣の言葉に耳を貸さず専制的な政治を行う、戦費の調達のために領民に重税を課すなどの行動を問題視され、信虎は甲斐国を追放されてしまいます。

信虎の跡を継いだ信玄は、信虎とは対照的に、生涯を通じて家臣や領民を大切にしたといわれます。信玄が残した有名な言葉に、「人は城、人は石垣、人は堀、情は味方、あだは敵なり」というものがあります。

「合戦において、たとえどんなに城・石垣・堀などの守りを固めても、家臣や領民などの人心が離れてしまったら敗北は確実である。勝敗を決するのは、結局は人である。人は、用い方によっては城・石垣・堀など、合戦の際に重要なものにも成り得る」という意味です。

信玄は日ごろから家臣を大切にし、正しく評価することに努めました。そして、行政や軍事を効果的に運用するべく強固な組織をつくり上げ、合議制を採用して家臣の意見を積極的に取り入れました。

また、信玄は一軍の将でありながら、家臣たちとくつろいだ雰囲気で座談を行うことを好んだといいます。その際、信玄は自身がこれまでの経験から学んだ知恵などを家臣に説いたり、逆に家臣の意見に耳を傾けたりしました。このような場を通じて信玄の肉声に触れることで、家臣はさらに武田家に対する帰属意識を高めていったのです。

戦国時代、武田家の家臣は、その高い戦闘力と強い団結力から「武田軍団」として他国の武将たちから恐れられました。信玄の巧みな手腕が、武田家の家臣を強力にまとめ上げ、最強集団としての武田軍団をつくり上げたといえるでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

信玄は、家臣を見た目や表面上の言葉などではなく、本質をもって評価しました。例えば、万事において遠慮深い家臣は、合戦では「臆病者」と見られやすいものですが、信玄はこうした家臣を「思慮深い」と判断しました。「思慮深い者は常にあらゆることに対して慎重であるため、万全の態勢を整えて事に臨むだろう」と考えるのです。

このため、家臣は「信玄の下にいれば、外面ではなく本質を見抜いて判断してもらえる」と考えて発奮し、組織はより一層活性化することとなりました。後に、信玄は「人を使うのではなく、業(わざ:才能の意味)を使う」という内容の言葉を残しています。

部下の持つ長所を見抜いてそれを活用することで、部下の自発的なやる気を促し、組織のパフォーマンスを最大限に高めることができるのです。

2 織田信長に学ぶ「正当な評価によって部下のモチベーションを高める」術

1)織田信長のエピソード

織田信長(おだのぶなが)は、尾張国(現愛知県)の武将です。

織田家にはいくつかの流れがあり、信長が生まれた織田家は主流ではありませんでした。しかし、信長の父親である織田信秀(おだのぶひで)の代に大きく勢力を伸ばして織田家の主流となりました。

信秀の跡を継いだ信長は、尾張国を統一し、さらに強大な力を誇っていた駿河国・遠江国(ともに現静岡県)の今川義元(いまがわよしもと)を破り、東海道の勢力図を大きく塗り替えました。

信長が織田家を継いだ後、織田家は急速に勢力を拡大していったため、優れた人材の確保が急務となりました。信長は、家臣が優秀であると思った際には、家柄や過去の実績に関係なく登用しました。これは、家柄や過去の実績が重視されていた当時としては、画期的な人材登用でした。

特に代表的な存在は、豊臣秀吉(とよとみひでよし)でしょう。信長は、秀吉の「人心掌握に非常に長けている」という才能を見抜き、次々と重要な役職に抜てきしました。

秀吉は、その才能を遺憾なく発揮して織田家の勢力拡大に大きく貢献し、さらに信長亡き後は、天下統一を実現します。

元来は貧しい身分であったとされる秀吉が天下人にまで成長できたのには、信長の大胆かつ柔軟な人材登用が少なからず関係しているといえるでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

信長は、徹底した能力主義者であったといいます。このため、たとえ長年仕えてきた功臣であっても、能力がないと判断すれば、ためらわずにその任を解いたとされます。

例えば、若い頃から信長に仕え、数々の武勲を挙げてきた佐久間信盛(さくまのぶもり)は、後年、合戦における消極的な働きを叱責されて信長の下から追放されています。信長が「苛烈で家臣に対して厳しい」という印象を持たれやすいのは、こうしたエピソードがあるからかもしれません。

一方で、家柄や過去の実績などにとらわれず、家臣の能力を正しく評価しようとする信長の姿勢は見習うべきところがあります。家臣は信長の期待に応えようと努力し、努力が正しく評価されることで、さらにモチベーションが高まり、より一層仕事に励むことになるからです。

上司による正当な評価こそが、部下の、ひいては組織全体のモチベーションを高めるといえるでしょう。

3 黒田官兵衛に学ぶ「部下の意見を尊重する」術

1)黒田官兵衛のエピソード

黒田官兵衛(くろだかんべえ。本名は黒田孝高(くろだよしたか))は、播磨国(現兵庫県)の武将です。

官兵衛の生家である黒田家は、播磨国の大名・小寺家の家老でした。しかし、後に織田信長が畿内に勢力を拡大してくると、官兵衛はその将来性を確信し、信長に仕えるようになります。そこで秀吉と出会った官兵衛は、秀吉の参謀的な存在となり活躍します。

やがて、本能寺の変によって信長が明智光秀(あけちみつひで)に討たれると、官兵衛は、秀吉に「信長のあだを討つことで織田政権の後継者となり、天下統一を果たす」ことを進言するなど、秀吉の天下取りを支えました。

官兵衛は知将として知られ、官兵衛自身もその知謀を誇ったことがありました。しかし、あるとき中国地方の武将・小早川隆景(こばやかわたかかげ)から、官兵衛は鋭い頭脳を持つが故、独善的な決断を下してしまう恐れがあると忠告されました。

これ以降、官兵衛は周囲の意見に耳を傾けるよう努めたといいます。周囲の意見に耳を傾け、多面的な視点から問題を捉えることができたからこそ、官兵衛は軍師として、多数の家臣を率いる武将として、後世に名を残す功績を収めることができたのでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

官兵衛は、家臣の意見を尊重しただけでなく、各家臣の性格を把握し、それらをうまく組み合わせることで家中をまとめました。それは、官兵衛が「組織においては、各人が協力し合うことで、より大きな力が発揮できる」ということを理解していたからです。

このため、家臣の交遊関係を調べ「誰と誰とは性格的に合う」「誰と誰とは性格的に合わない」といったことまで勘案し、性格の合う家臣同士を組み合わせて仕事に当たらせたといいます。

このように、官兵衛は家臣に対しても細やかな配慮を欠かさず、それぞれの意見を尊重しました。自由な意見交換の場を設けることで、家臣は身分や役職に関係なく、活発に意見交換を行い、自身の頭で物事を考えるようになりました。

ただし、あくまでも最終的な決断は自身の責任の下に自身が行いました。官兵衛は、「決断はあくまでトップの仕事である」ということを認識しており、家臣の意見は尊重するものの、決断は自身が行い、決断に対する責任も自身が負う覚悟をしていました。

さまざまな意見を受け入れる柔軟性、そして決断の責任に対する上司の自覚が部下を大きく育てるのです。

4 上杉鷹山に学ぶ「自らが部下の手本となる」術

1)上杉鷹山のエピソード

上杉鷹山(うえすぎようざん。本名は上杉治憲(うえすぎはるのり))は、出羽国米沢(現山形県米沢市)の大名です。

上杉謙信(うえすぎけんしん)の活躍で有名な上杉家は、秀吉の時代には陸奥国会津(現福島県会津地方)を中心とする石高120万石を治める大大名でしたが、後に徳川家康(とくがわいえやす)と敵対して米沢藩に移され、その後、石高を15万石にまで減らされてしまいます。しかも大藩であった頃とほぼ同じ数の家臣を養っていたため、膨大な借金を抱えてしまいます。

こうした中、九州の高鍋藩(現宮崎県)から養子として米沢藩に迎えられた鷹山は、藩の財政を改革するべく自身の食事を質素なものとし、年間行事の中止や贈答の禁止を行うなど倹約に努めました。また自ら鍬(くわ)を取り、家臣にも田畑の開墾に当たらせました。鷹山は、自身が率先して取り組むことで、藩全体に改革の精神を広げようとしたのです。

しかし、保守的な家臣たちの反対や飢饉(ききん)による損害などにより改革は頓挫し、鷹山は藩主の座を退くことを余儀なくされました。その後も、米沢藩の財政は悪化の一途をたどり家臣が農民から不正に多くの年貢を徴収する、厳しい生活に耐えられなくなった農民が他国へ逃げ出すといった問題が起きました。

こうした状況を憂慮した鷹山は、隠居の身でありながら再び改革に着手することを決意します。そして、かつて性急に改革を進めようとして挫折した経緯を省みて、まずは家臣に藩の財政状況を公開し、危機を実感させることに努めました。

その後、武士だけでなく、農民や町人からも財政再建に関する意見を広く求め、集まった意見について検討を重ねた結果、産業の振興に力を入れるべく、藩全体で養蚕による生糸の生産に取り組むことを決定しました。さらに、藩内で以前から栽培されていた紅花で生糸を染めて織物を織り、藩外に販売することを考案しました。

これらの織物は「米沢織」と呼ばれ、米沢藩の名産品となって家臣の暮らしを支えることとなります。その後、米沢藩の財政は徐々に回復に向かい、鷹山の逝去後には、ついに借金のほとんどを返済することができたといいます。鷹山の現実を直視し、打開策を探り、自ら率先実行する姿勢が、家臣や領民を引き付けた結果といえるでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

厳しい状況に陥った藩の財政を立て直すに当たり、鷹山は、藩主の地位にありながら、自身が率先して質素な暮らしを心掛けました。家臣や領民に苦しい倹約を依頼するに当たり、まず自身が模範になろうとしたのです。

かつては120万石という大藩であった上杉家の家臣の中には、九州の小藩から養子に入った若い鷹山が進める改革を不満に思う者も少なくありませんでした。

こうした反発の中、鷹山は懸命に改革の必要性を説き、先頭に立って厳しい改革に取り組みました。このような鷹山の姿勢を目にし、当初は改革に協力的でなかった家臣の一部も次第に心を開き、その結果、藩の家臣や領民たち全員が一丸となって再建に取り組むようになりました。後に、鷹山は「してみせて、いってきかせて、させてみる」という言葉を残しています。

何かに取り組む際には、まず自身が身をもって部下に示し、指導した後に実際に挑戦させてみるという、上司の真摯かつ愛情に満ちた姿勢が、部下の心に火をともすといえるでしょう。

5 部下を1人の人間として尊重することの大切さ

戦国武将・偉人の家臣に対する姿勢にはいくつかの類型が見られます。しかし、そのいずれにも共通しているのは、「家臣を1人の人間として尊重していること」でしょう。

上司は、リーダーであると同時に、部下と同じ組織の一員でもあります。同じチームのメンバーとして、部下に対して真摯に向き合い、部下を導く姿勢こそが部下を大きく育て、強い組織づくりにつながるのです。

以上(2020年3月)

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自販機を使ったインバウンド向けの新たな商機

書いてあること

  • 主な読者:インバウンド需要の取り込む手法を探る経営者
  • 課題:都心や観光地で見かける外国人観光客向けの自動販売機は今後広がるのか
  • 解決策:外国人観光客向けの自動販売機が注目される背景や、導入の方法、課題などについてまとめる

1 自販機の隠れた魅力

全国に約300万台(日本自動販売システム機械工業会)。私たち日本人の生活にすっかり根付いている自動販売機(以下「自販機」)ですが、外国人旅行者にとっては、「“変”なもの」らしいです。

  • 「なぜ、日本には大量の自販機が無防備に設置されているのか?」

というのが、“変”の正体です。この点について、筆者が日本在住の外国人に聞いてみました。すると、次のように教えてくれました。

  • 「自販機は海外にもあるけど、日本ほど多くは見かけない。そして、何といっても、ほとんど盗難されないところがすごいよね。あとは、デザインが奇抜なところ、売っている商品が多種多様なところ、ハイテクなところもすごいと思うよ」

こうした背景から、もしかすると、自販機にビジネスチャンスがあるのではないか、と考える人が増え、インバウンド需要を狙う自販機が登場してきました。政府も条件付きではあるものの、自販機を「免税店」として扱う制度を開始する意向です。

「外国人旅行者×自販機」から生まれてきそうなビジネスチャンスを、事例とともに考えます。   

2 普及率は世界一!?

日本自動販売システム機械工業会によると、単純な設置台数は米国が世界一といわれていますが、人口や国土の面積などを勘案すると、普及率では日本が世界一と推測されるそうです。

同工業会へのヒアリングによると、「インバウンド需要を取り込むため、工業会として統一の施策などは取っていないものの、会員企業の中には、インバウンド需要を狙った自販機の製造に取り組んでいるところもある」とのことです。

実際、「近年は来日する外国人旅行者が増加しており、そうした人々がSNSなどに日本の街角と一緒に自販機の写真や商品をアップすることで、認知度が上がってきている。こうしたインバウンド需要を取り込むため、新しいタイプの自販機に対する需要・関心は高まっている」という自販機メーカーもあります。

3 自販機を店舗に設置するには

1)費用や期間

自販機を店舗に設置するにはどのような準備が必要なのでしょうか。飲料水などを販売する自販機の場合、一般的には自販機を販売する企業(自販機メーカー)や飲料水を製造・販売する企業(オペレーター)が設置費用などを負担し、リース費用などは掛からないようです。自販機を設置する側(ロケーションオーナー)の負担としては、電気代が1カ月当たり数千円となります。

お土産用やイベント用などのさまざまな用途に応じた自販機の販売および設置支援を行っているパルサー(宮城県)へのヒアリングによると、こうした自販機を設置する際に発生する費用としては、次のようなものがあるそうです。

  • 自販機の設置費用は1台当たり50万~60万円程度。販売する商品の形状やサイズによっては、梱包費用などが必要な場合もある。飲料水などを販売する自販機と同様、ランニング費用として電気代が1カ月当たり数千円程度掛かる
  • 自販機を設置するまでに、商品によって払い出しの試験運用をする場合もあるが、契約締結後1~2カ月程度で納入することができる

2)必要な許可または免許など

日本自動販売システム機械工業会のウェブサイトによると、缶・ビン・ペットボトルに入った飲料水を販売する場合には、許可は必要とされていません。しかし、以下のような商品を販売する場合は、関連する法令に基づき、許可または免許などが必要です。

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3)インバウンド需要を取り込むためのヒント・注意点

パルサーによると、インバウンド需要を取り込むためのヒント・注意点として、次のようなものが挙げられるそうです。

  • 外国人旅行者の目を引き付けるためには、ぱっと見た自販機のインパクトが重要。そのためには、有名キャラクターや忍者などのデザインや柄で自販機本体をラッピングし、「分かりやすい日本らしさ」を見せることが不可欠
  • 販売する商品の形状によって、飲料水などを販売する自販機と、自販機の正面部分がガラス製で、商品が視認できるスパイラル式に構造が大別できる。前者は耐久性・安全性が高く屋外に設置できるが、格納できる商品は缶やペットボトル状の円柱形にする必要がある。後者は、ガラス製なので耐久性や日光の遮光性が低いため屋内に設置されるが、雑貨などの形状が一定でない商品を格納することができる

4 インバウンド需要を狙った“変”な自販機の事例

1)SHIBUYA109エンタテイメント:渋谷のお土産需要を創出

SHIBUYA109エンタテイメント(東京都)は、渋谷のお土産需要を創出するために、2018年9月にクリエーターによるオリジナルTシャツを「スーベニア自動販売機」で販売しました。

渋谷はスクランブル交差点が有名な観光スポットとなっているなど、訪問者数は増加しています。ただ、渋谷には代表的なお土産がなく、外国人旅行者も渋谷周辺にあまり宿泊しません。ここにビジネスチャンスを見いだし、お土産需要の創出を狙っているようです。

2019年は同様のオリジナルTシャツを5~7月にかけて販売しました。今回は、デザインの数や参加するクリエーターの数も増え、パネル展示やフォトスポットの設置など、付随するイベントも行っています。

2)アイナス:ご当地限定の缶詰を3つの基準で選定

アイナス(兵庫県)は、その土地でしか入手できない商品が入った缶詰「ゴトカン」を販売する自販機を、兵庫県や香川県に設置し運営しています。

ゴトカンの内容は「ご当地愛」「ご当地貢献度」「ご当地チャレンジ精神」の3つのルールに沿って査定され、基準点以上のものがゴトカンの商品として認定されます。このルールでは、現地の材料を用いて現地で加工されていること、地域経済が潤うこと、外国人旅行者にもアピールできることなどが判断基準とされます。

同社へのヒアリングによると、外国人旅行者からの評判は良好で、その要因として、海外ではあまり見かけない自販機で、質の高いご当地の食品などが販売されていることが挙げられるそうです。

この自販機で外国人旅行者にアピールするため、同社は「タッチパネルの3言語(日本語、英語、中国語)対応」と、「設置場所」に注意したそうです。

自販機になじみのない外国人旅行者に、購入方法や商品を自国語などで説明することで、「珍しい自販機の写真を撮る」という行動から実際の購入へ促すことができます。

同社は自販機を設置する際に、飲料水などを販売する自販機の隣に設置するのではなく、実店舗に隣接して設置したり、商品を製造する工場の見学ルート上に設置したりすることで、効率的に販売しているそうです。

3)インバウンド十和田:観光地図やショップカード同封で地域を活性化

インバウンド十和田(青森県)は、十和田市の魅力を海外に発信し、地域経済の活性化を目的に活動しています。同社は2019年9月から、十和田市のピンバッジや観光地図、近隣の飲食店のショップカードなどを詰め込んだ「とわだばこ」を自販機で販売しています。

この自販機は、中古のタバコの自販機を一部改修して利用しています。新品の自販機の購入コストを抑えることができ、タバコの自販機に搭載済みの成人識別カード「タスポ」の機能を残したことで、アルコール類のドリンクサービス券を封入したり、タスポを店舗で借りるときに店舗内に誘導できたりするなどのメリットがあります。

同社へのヒアリングによると、この自販機の運営開始からまだ日が浅く、売り上げに劇的な伸びは見られないそうですが、新聞やテレビなどで何度も取り上げられたことで、全国の自治体などからの問い合わせが殺到しているそうです。

この自販機を設置するに当たって工夫したこととして、前述の中古のタバコの自販機を転用したことに加え、地元の商店街への集客を狙うために、観光地図や協賛した店舗のショップカードを封入したこと、観光地図の裏面を多言語表示にし、観光地や各店舗のQRコードを記載したことが挙げられます。

同社は、この自販機の設置台数を、販売する商品に変更を加えながら、2020年以降も増やしていく計画のようです。

5 外国人旅行者に直撃インタビュー

前述の通り、各地でインバウンド需要の取り込みを狙った自販機が出現しています。日本の空の玄関口、羽田空港にはこうした自販機が幾つか設置されています。空港内の外国人旅行者にインタビューした結果は次の通りです。

1)自販機の印象

  • さまざまな商品(キャラクターグッズ、伝統工芸品、お菓子、だしなど)が販売されており、他の国ではまず見かけない光景なので面白い。価格が1000円以上するような商品を自販機で販売できるのは、治安が良いことを表す証拠にも映る
  • 中華圏や東南アジア圏からの旅行者の中には、日本のアニメのキャラクターを知っている人もおり、キャラクターが描かれた自販機は目に入りやすい
  • 商品の表記が日本語のみの場合が多く、商品の説明もないため、何を売っているかイメージが湧きやすいように、多言語での商品説明を、自販機の目の付きやすい場所に表示することが望ましい

2)外国人旅行者からの提言

  • 自販機で外国人旅行者向けに商品を販売する場合には、飲料水などを販売する自販機に隣接して設置すると、その自販機に利用者の視線が奪われやすい。そのため、観光スポットや土産物店などに設置するほうが、効率的に集客できると推測する
  • 商品の価格を1つの自販機で統一する必要はないが、比較的高額な商品と一般的な価格の商品を同じ自販機で販売すると、価格差に違和感がある

なお、実際に羽田空港では、2000円以上のグッズと数百円のお菓子が同じ自販機で販売されていました。

6 自販機が免税店に?

冒頭の通り、増加する外国人旅行者向けのビジネスを促進するため、政府は条件付きで自販機を免税店扱いすることを検討しているようです。国土交通省は、「令和2年度 国土交通省税制改正要望事項」の中で、「外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充(消費税・地方消費税)」を政府に対して要望しています。

これは、従業員を介さずに免税手続きが可能な機器を設置した場合、この機器を通じて販売した商品を免税の対象とするものです。現行では、免税店の許可要件として、免税販売手続きに必要な人員を配置することなどがあります。

観光庁にヒアリングしたところ、一部の大手企業が、外国人旅行者向けに腕時計やオリンピック関連のTシャツなどを自販機で販売することを検討しており、これらの商品の免税を要望しているそうです。

また、新たに免税店として想定されている自販機として、顔認証システムを搭載し、個人やパスポートなどの認証機能を備えたものなどが挙げられるとのことです。

以上(2019年12月)

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学習塾業界の競争環境と成長戦略

書いてあること

  • 主な読者:学習塾経営者や学習塾
  • 課題:少子化、国の教育改革、顧客(生徒や保護者)ニーズの多様化などの外部環境の変化や、経営者の高齢化、塾講師の担い手不足といった構造的な課題がある
  • 解決策:講師不足で個別指導が出来ない学習塾の場合、教育ベンチャーなどが提供している個別指導が可能なスマホアプリのサービスを利用するなどして、指導を充実させることができる

1 学習塾市場の本格的な縮小が始まる

日本の学習塾の市場規模は、2017年時点で約9511億円です(経済産業省「特定サービス産業実態調査」。2019年3月時点の最新データです)。2018年以降は、学習塾を含む教育業界にとって、本格的な市場縮小が始まることが予測されています。

18歳人口(生徒数)が減少基調となるためです。加えて、国の教育改革、顧客(生徒や保護者)ニーズの多様化といった外部環境の変化や、経営者の高齢化、塾講師の担い手不足といった構造的な課題を抱えています。

こうした中、各塾は新たなビジネスモデルが求められています。一般的に、学習塾は小学生から高校生、予備校は高校生や浪人生を対象としますが、現在、各塾はそうした垣根なく生徒を獲得しています。学習塾業界の動向を見ていきましょう。

2 学習塾業界のPEST分析

1)政治(Politics)

学習塾業界は、教育行政の影響を大きく受けます。現在、国ではグローバル化、生産性向上などさまざまな課題への対応策の1つとして、教育改革を推進しています。

例えば、2020年度からは大学入試センター試験に代わって、大学入学共通テストが導入されます。知識偏重型の大学入試を見直し、思考力・判断力・表現力などを問うことが狙いです。国語と数学ではマーク式だけでなく記述式の問題、英語ではライティング・リーディング・リスニングに加え、新たにスピーキングの4技能が問われる問題が出題される予定で、学習塾には新テストへの対応が求められます。

2)経済(Economy)

従来、教育関連への支出を「聖域」とみなす保護者が多いとされてきました。しかし、近年では教育関連への支出を削る保護者が増えているとされます。一方、教育に熱心な保護者は一定数存在しており、このような保護者は、子どもの習熟度に合わせた個別指導や、難関校の受験に強みを持つ学習塾に子どもを通わせる傾向があるようです。

大手の学習塾などでは、集団指導、個別指導、動画による講義、オンライン上で講師に質問ができるスマホアプリの提供など、サービス・価格ともに幅広くラインアップして、全方位的に顧客のニーズに対応しています。

一方、大手と同様の取り組みが難しい中小規模の学習塾の場合、教科や生徒の対象を絞り込むなどして、差異化を図っていく必要があるでしょう。

3)社会(Society)

従来より、少子化は学習塾を含む教育業界の課題でしたが、大学進学率が上昇していたことから、その影響は限定的といえるものでした。今後は、生徒数の減少に加え、大学進学率の上昇も見込めないことから、本格的に市場の縮小が始まるとみられます。

2000年代半ば以降、学習塾業界の提携・買収による再編が活発になっていますが、その流れは加速するものとみられます。

4)技術(Technology)

さまざまな業界でITやAIなどの新たな技術を活用した取り組みが活発になっています。学習塾においてもITやAIなどの新たな技術を活用した教材などが導入されています。

例えば、AIを使った教材では、生徒が解答を間違えたデータなどをAIが収集・解析し、生徒が苦手な問題へと自動的に誘導します。また、AIは問題の難易度や問題範囲を調整して出題するため、理解度や習熟度を高める効果が期待できるようです。

ITやAIなどの新たな技術を活用した教材は、教育系ベンチャー企業が製作していることも多く、こうした教育系ベンチャー企業と提携する学習塾も増えています。

3 学習塾業界の競争環境

1)業界内の競合企業との敵対関係

2000年代半ば以降、学習塾業界の提携・買収による再編が活発になっています。より多くの生徒を獲得し、囲い込むため、自塾が指導対象としていない年齢や教科を扱う他塾との提携・買収によって、提供サービスの拡充を図っています。

例えば、小中学生を対象とする学習塾が幼児教室と、また、集団指導を得意とする学習塾が、個別指導や英語指導などの特定教科の指導に強みを持つ学習塾と、提携・買収などを進めています。

また、提携・買収が進んでいるもう1つの要因として、経営者の高齢化が挙げられます。学習塾の約66%は個人経営であり、中小規模の学習塾といえます(経済産業省「特定サービス産業実態調査」)。こうした中小規模の学習塾には、地域によって大きく特色が異なる中学・高校入試対策の指導に強みがあります。

大手の学習塾は、中小規模の学習塾との提携・買収によって、中学・高校入試対策の指導を強化することができます。一方、中小規模の学習塾も後継者問題の解決に加え、大手の学習塾が持つ効率的な塾運営のノウハウなどを得ることができます。

そのため、大手の学習塾と地域の中小規模の学習塾との提携・買収などは今後も進んでいくものとみられます。

2)新規参入の脅威

学習塾は、開業時の許認可や資格が不要です。そのため、自宅の一室で開業することも可能であり、開業自体は容易だといえます。

とはいえ、指導にはノウハウが必要であることに加え、市場縮小によって生徒獲得を巡る競争も激化しています。そのため、既存事業とのシナジーが見込めない企業が新規参入する魅力は乏しいといえるでしょう。

3)代替サービスの脅威

学習塾の代替サービスには、家庭教師や通信教育などがあります。これら代替サービスを手掛ける企業も、学習塾と同様に顧客獲得競争が激化しています。また、家庭教師や通信教育などは学習塾に比べて市場が小さく、より大きな市場である学習塾業界への進出を図るため、学習塾業界の提携・買収などの再編に参画しています。

例えば、通信教育の場合、提携・買収先の学習塾で、自社の教材を使った指導を行うといったシナジー効果が見込めます。

また、近年では、ITやAIなどの新しい技術を活用した教材などを製作する教育系ベンチャーも見られます。こうした教育系ベンチャー企業は個人に対して教材を販売するだけでなく、学習塾などと提携し、自社の教材の導入を図っています。

こうした代替サービスの存在は、学習塾業界にとって脅威となる一方、連携を図りながら、弱みを補う存在といえるでしょう。

4)売り手の脅威

学習塾にとっての売り手とは、教材製作会社などです。これらの企業は、前述した代替サービスと同様に、脅威となる一方、自塾の弱みを補う連携相手として考えることもできます。

この他の売り手として、指導を担う講師を挙げることができます。学習塾の講師の約70%はアルバイトが担っています(経済産業省「特定サービス産業実態調査」)。

しかし、近年では、アルバイト講師の確保に苦慮する学習塾が少なくありません。これは、アルバイト講師の担い手である大学生の人数が減少しているためです。

また、労働条件が明示されなかった、講義前の準備や講義後の質問への対応などが労働時間として考慮されなかったなど、いわゆる「ブラックアルバイト」のイメージも広がっており、アルバイト講師の確保を難しくしています。

人手不足の状態は、業界を問わず、日本全体で課題となっています。学習塾では、アルバイト講師にとって魅力ある職場とする努力に加え、ITなどを活用して、少ない人手で指導する体制づくりを検討していく必要があるでしょう。

4 学習塾の成長戦略

1)学習塾業界の成長マトリクス

学習塾を取り巻く環境は厳しいものといえます。特に、中小規模の学習塾では、「アルバイト講師に頼りながら、地域の小中学生を指導する」といった従来通りの方法では、単独での生き残りを図るのは難しいでしょう。

大手学習塾、教育系ベンチャーなどの他社との提携も含めて、自塾が生き残るための方法を検討することが不可欠です。学習塾の成長戦略の一例を示すと次のようになります。

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2)既存市場×既存サービス:市場浸透

スマホアプリ「manabo」は、生徒がスマホで分からない問題を撮影して投稿すると、manaboに登録している大学生のチューターが解答する仕組みです。個別指導を行いたいというニーズがあるものの、講師が足りない中小規模の学習塾で導入されています。

3)既存市場×新規サービス:新製品投入

千葉県柏市の学習塾「ネクスファ」は、小学生向けの学童保育を併設しており、宿題の指導やプログラミングの体験を提供しています。共働きの保護者が増えていることから子どもの預かりニーズが高まっており、顧客を囲い込む(自塾に通い続けてもらう)方法として有効だと考えられます。

4)新規市場×既存サービス:新市場開拓

数学に特化した学習塾を展開する和からは、数学に苦手意識を持つ社会人向けに「数学的思考力アップコース」を開講しています。数学の基礎や、グラフや図形を用いて数字を的確に表現するポイントなどを指導しています。リカレント教育を実践する社会人が増えており、こうしたニーズを取り込もうとしています。

5)新規市場×新規サービス:多角化

北海道や東北地方で学習塾を展開する練成会グループは、ベトナムで学習塾を展開しています。アジア諸国では、経済成長に伴って教育熱が高まっており、日本式の教育への関心も高いといわれています。小規模の学習塾が海外市場に進出するのは難しいものの、中規模の学習塾などでは生き残りの一手段として、海外市場への進出を検討する価値があるかもしれません。

以上(2019年4月)

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エステティックサロン業界の現状と開業収支シミュレーション

書いてあること

  • 主な読者:エステティックサロンを開業したい経営者
  • 課題:業界の動向、法規制、開業にかかる費用が分からない
  • 解決策:開業にかかる費用を洗い出し、売上高などを予測できるようにする

1 業界の動向

1)エステティックサロンとは

エステティックサロンは、契約や施術に関するトラブルが絶えず、エステティックサロンについて、よいイメージを持っていない消費者もいます。

また、エステティックサロン業界では、長時間労働などが慢性化しているなど、その労働環境が問題視されています。近年では大手エステティックサロンが、残業代の未払いで自社の従業員に訴えられ話題となりました。エステティックサロンの経営には、高い技術を持つエステティシャン(従業員)の確保が欠かせません。エステティシャンの多くを女性が占める中、結婚、出産などの後もエステティシャンを続けられるような労働環境を整備することが求められています。

2)全国のエステティックサロン数 

全国のエステティックサロンの正確なデータは把握されていません。参考としてNTTタウンページ「iタウンページ」に登録されている「エステティックサロン」の件数を紹介します。都道府県別のエステティックサロンの件数は次の通りです。

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全国のエステティックサロンの件数は2万2731件となっています。また、富山県、福井県、長野県において人口10万人当たり件数が多くなっています。

3)大手エステティックサロンの動向

日経MJ「サービス業総合調査」によると、エステティックサロンの売上高ランキングは次の通りです。

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日経MJの分析によると、節約志向の高まりにより、売上高が伸び悩むエステティックサロンが増えているようです。

なお、回答が得られなかったため、「サービス業総合調査」では紹介されていませんが、エステティックサロンの有力企業として、ミュゼプラチナムと不二ビューティ(たかの友梨ビューティクリニック)を傘下に持つRVHや、TBCグループが挙げられます。

2 トラブルに対する業界の対応と課題

1)エステティックに関する相談件数の推移

国民生活センター「消費生活相談データベース」によると、全国の消費生活センターおよび国民生活センターに寄せられたエステティックサービスに関する相談件数の推移は次の通りです。

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エステティック業界は他業界に比べて、顧客とのトラブルが多い業界といわれています。全国の消費生活センターおよび国民生活センターには、解約や施術のクオリティなどに関するトラブルが寄せられています。

2)施術に関するトラブルへの対応ー業界団体が実施するエステティシャン資格制度

エステティシャンの技術の未熟さに起因するトラブルによる業界全体のイメージダウンを防ぐ対策として、業界団体などが資格制度を設け、高い技術を持つエステティシャンの養成を図っています。

現在のところエステティシャンに関する国家資格はありません。エステティシャンになるための試験や条件がないため、技術が未熟であってもエステティシャンとして顧客にサービスを施すことが可能な状態にあります。

こうした状況を受け、日本エステティック協会と日本エステティック業協会は、業界全体の信頼回復に向けさまざまな取り組みを進めています。その一つとして、「エステティシャンの技術育成」が挙げられます。

両協会では、それぞれ独自のエステティシャン資格制度を作り、エステティシャンの技術を育成することによって顧客に対する信頼を獲得し、業界全体のイメージアップを図ろうとしています。

3)契約関連のトラブルへの対応

契約関連のトラブルへの対応については、国で関連法が整備されています。

1.特定商取引に関する法律

「特定商取引に関する法律(特商法)」では、訪問販売やエステティックサロンが含まれる特定継続的役務提供など、消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に事業者が守るべきルールと、クーリング・オフなどの消費者を守るルールを定めています。

例えば、エステティックサロンの場合、契約書面を受領した日から8日間はクーリング・オフが可能です。事業者の側に不実告知または威迫行為があり、顧客が誤認または困惑してクーリング・オフを行わなかったときは、クーリング・オフ期限が延長されます。また、クーリング・オフ期間経過後も、契約期間中であれば、いつでも、理由の如何を問わず中途解約が可能であることが定められています。

また、2017年12月1日には改正特商法が施行されました。この改正では、医療機関で実施される、シミの除去や脱毛などの美容医療契約についても、特定継続的役務提供の対象に追加され、クーリング・オフが可能になりました。美容医療は、エステティックサロンが窓口となり、シミなどに悩む顧客を提携する美容クリニックなどに紹介するケースが多々あるとされているため、改正動向についても押さえておく必要があるでしょう。

2.割賦販売法

2008年6月「特定商取引に関する法律及び割賦販売法の一部を改正する法律案」が成立し、2009年12月1日に改正法が施行されました。この改正では、「クレジット規制の強化」が盛り込まれており、支払い能力の乏しい人に高額の割賦を組ませることを防ぐ狙いがあります。

エステティックサロンでは、定期的に施術を行うコースの場合、都度払いはできず、コースの契約時にまとめて料金を支払うのが一般的です。しかし、この場合、一度に支払う料金が高額になるため、頻繁に割賦販売が行われます。こうした特性から、今回の改正はエステティックサロンの業績に大きな影響を及ぼしました。

2009年の法改正後は、大手エステティックサロンを中心に、ウェブサイトなどを通じて、会員となる場合に必要な料金、コースの契約時に必要な料金、都度払いの料金を掲載するなど、料金の明瞭化を図っています。

3 エステティックサロンの開業

1)多様化する業態

専業のエステティックサロンは、さまざまな取り組みで顧客の拡大に努めています。「脱毛」「足やせ」のように、提供サービスを絞り込んでいるエステティックサロンがある一方で、ゲルマニウム温浴施設や岩盤浴など、さまざまなリラクゼーションサービスを提供する複合施設にすることで、集客力を強化しているエステティックサロンもあります。

また、入会金不要で、顧客が自分で機器を使ってマッサージなどをする、セルフ方式エステティックサロンや、訪問エステティックサービス(以下「訪問エステ」)を行っているエステティックサロンもあります。

2)兼業業者の乗り入れ

エステティックサロン以外を本業とする業者が兼業という形でエステティックサロン業界に参入する事例もみられます。例えば、美容院が差異化、収益向上策として参入したり、訪問販売化粧品メーカーの販売員たちによるサービスの提供などがこれに当たります。

一般的にこれらの店舗は小規模であり、店舗で行われるエステティックサービス自体も簡易で、低価格なのが特徴です。

3)メニューの差異化戦略

業態の多様化、兼業業者の乗り入れなど、エステティックサロン業界では競争が激化しています。このような状況下では、次に挙げるような、多様化する顧客ニーズに合った、ユニークなサービスを提供することが望まれます。

  • 「ホームヘルパー」など介護の専門知識および資格を有するスタッフをそろえた高齢者向けエステティックサロン
  • 働く女性の来店をターゲットとした駅構内のエステティックサロン
  • メンタルケア(対話などを通じて顧客の心の問題をケアすること)に重点をおいたエステティックサロン
  • 託児所を併設し、子どもを持つ女性も安心してエステティックサービスを受けることができるエステティックサロン

4 開業収支モデル

以降で設定した条件に基づき、開業収支シミュレーションを紹介します。

1)賃貸条件

  • 店舗面積30坪
  • 賃料:324万円(1坪当たり9000円。1カ月当たり27万円)
  • 保証金:162万円(賃料6カ月分) 
  •  

2)内装費など

  • 内装費:900万円(坪当たり30万円)
  • 設備費、備品:400万円(ベットやシャワールームなど:360万円、ガウン・タオルなど40万円)
  • エステティック機器430万円(フェイシャルエステ・痩身併用機80万円3台、脱毛機40万円2台、スチーマー20万円3台、その他50万円)

3)開業費用

  • 350万円(開店チラシ、店頭販売用化粧品など)

4)売上高

  • 4674万円(1万円未満は四捨五入)=1558万円(後述の「エステティック業の経営指標」(黒字かつ自己資本プラス企業平均)より)×エステティシャン3人

5)原価率

  • 17.1%(後述の「エステティック業の経営指標」(黒字かつ自己資本プラス企業平均)より)

6)人件費

  • 1729万円(1万円未満は四捨五入)=4674万円(売上高)×37.7%(後述の「エステティック業の経営指標」(黒字かつ自己資本プラス企業平均)より)

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5 経営指標

日本政策金融公庫「小企業の経営指標2018」によると、エステティック業の経営指標は次の通りです。

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以上(2019年6月)

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できる経営者は「飲み会」でビジネスを成功させる

書いてあること

  • 主な読者:飲み会をうまく利用してビジネスの可能性を広げたい経営者
  • 課題:店選びや会話のペースがうまくつかめない
  • 解決策:飲み会といえども礼節をわきまえる。遊び心も忘れずに

1 一昔前のスタイルでは嫌われる

「上座に深々と座り、左右は“ごますり隊”で固める。誰かがお酌をしてきたら応じるが、自分からは動くことはない」。一昔前の飲み会で見かけたかもしれない社長の姿です。今、このような態度を取ったら、座がしらけるのは明白です。

その宴席が社外でも社内でも、社長は最高のエンターテイナーであり、セールスマンでなければなりません。相手を自分のファンとし、オフィシャルだと話しにくいことも酒のさかなにしてしまう。そんなすてきな宴会術を紹介します。

2 下見は決して手を抜かない

自分がホスト役の場合、なじみの店を使うのが基本です。そのため、和食・中華・イタリアン・バーなどでなじみの店を幾つか確保しておきたいものです。なじみになるためには定期的に訪れる必要がありますが、その飲食代は自分への投資です。

一方、新規の店を使う場合は、下見が必要です。店のこだわり、お酒の種類、おすすめの料理はもちろん、トイレの位置なども把握します。店長や料理長などにも挨拶をして、「○○日はよろしくお願いします」などと伝えるようにします。

そして当日は、相手に「大切な飲み会なので、最も良いお店を準備した」ことをさりげなく伝えます。例えば、「この街で飲むのなら、ぜひ、このお店にお連れしたくて」などと特別感をアピールするのです。

下見は物事に向き合う真摯な態度の表れです。きちんと下見をして、真剣に店を選んでいることは相手にも伝わります。特に、同じように人をもてなす立場にいる人は、こちらの真摯な姿勢に好感を抱いてくれるでしょう。

3 聞くことを基本にする

人は「自分の意見を聞いてほしい」という欲求を持っており、飲み会でも変わりません。そのため、社内の飲み会といえども社長の独演会は好ましくありません。また、やたらと自分の得意分野に話題を振りたがる人は、次に誘ってもらえないかもしれません。

飲み会では、自分がホスト役であっても、ゲストであっても、相手の話を聞くスタンスで臨みます。さらに、ホスト役の場合は周囲を気遣い、飲み会の雰囲気になじめない人がいたら率先して話しかけ、その人が主役になれる時間をつくりましょう。

「ちょっといいですか。この方の経歴、とても面白いですよ」など、ホスト役の権限で参加者の時間を少しだけもらうのです。ホスト役は、全ての参加者が主役になれる時間をつくり、置いてけぼりになる人をつくらないことが大切なのです。

お店の状況によりますが、カジュアルな居酒屋などの場合は、同じ席にとどまらずにいろいろな人の隣に座るのがよいでしょう。社長といえども、今どきはフットワークの軽さが大事です。

なお、相手との話が盛り上がらない場合は、お互いの共通項を探して話題を膨らませるようにします。仕事、地域、学校、家族構成、趣味など、共通項が多ければ多いほど、親近感が湧くものです。

4 真面目なだけでは目立たない

大勢が参加する飲み会では、皆の印象に残らなければなりません。どんなに礼儀正しく振る舞ったとしても、それだけでは特徴がありません。何か一つでも「この人は面白い」と印象付ける“ネタ”が必要です。

まず、ベタですが「自己紹介」は工夫したいものです。多くの人は自己紹介で自分の名前を覚えてもらおうと努力します。しかし、お酒の入っている状況で、そう何人もの名前を覚えることはできません。

名前は後で名刺を見れば分かります。大事なのは、顔と名前を一致させてもらうこと、つまり名刺の裏に書き込んでもらう内容のインパクトです。仕事内容を淡々と説明しても印象に残りにくいので、インパクトのあるフレーズが欲しいものです。

例えば、○○市場の10%を占める会社の代表を務めている場合、自分の名前よりも「『10%の男』と覚えてください」などと自己紹介します。自分の本名はその場では覚えてもらえないかもしれませんが、「10%の男」は印象に残るでしょう。

また、個別に話すときのために、“鉄板ネタ”を一つは持っておきたいものです。仕事でもプライべートでもよいのですが、真面目になりすぎず、“毒がある”ところをうまく見せると、人間の面白みを感じてもらえます。

ちなみに、経営者同士の飲み会でよくあるのは社員に関するネタです。ただし、相手に真に受けられると困るので、毒のある話をするときはタイミングに注意し、すぐに笑い話にすることが不可欠です。

仕事は真面目にするものですが、宴席で真面目な話ばかりをしていると、相手は退屈になります。それは「この人と仕事をしても面白くない。可能性を感じない」という印象に変わってしまうことがあるからです。

5 真剣トークの時間を設ける

社長の場合、人脈形成や商談のきっかけづくりとして飲み会に参加することが多いものです。とはいえ、その場で商談の話ばかりをしていたら嫌われてしまうでしょう。飲み会は、あくまでも相手を知る場であると割り切ります。

特に、誰かから紹介を受けた場合はなおさらです。行儀の悪いまねをすれば、紹介してくれた人のメンツを潰してしまいます。そうした場では、紹介してくれた人に進行を任せ、前述した通り、自分が何者であるかをうまくアピールします。

一方で、今後のために相手が話したことも覚えていなければなりません。とはいえ、目の前でスマートフォンやメモ帳にメモを取るわけにはいきません。そうした場合は、自分がトイレに行って(あるいは相手がトイレに行っているときに)メモを取ります。

また、ちょっとしたテクニックですが、相手の話を聞くときはうなずき、別れ際には「今日は楽しかったです」などと伝えるのがポイントです。ただし、相手に「楽しかった。また会いましょう!」と言ってもらうには、こちらに光るものがないといけません。

その光るものを示すために、飲み会の中に真剣トークの時間をつくります。長い飲み会の間にほんの数十分でいいのですが、自分がどのようなことに真剣に取り組んでいるのかを伝えます。これが相手に伝われば、そこから関係が深まります。

6 当日にお礼を。信頼は飲み会後に強まる

飲み会が終わったら、その日のうちにお礼をするのが基本です。FacebookやLINEなどでつながっている相手なら、「本日はありがとうございました」など、簡単なメッセージを送ります。

当日にお礼ができなかった場合は、翌朝、相手が出社してメールを確認したときに、こちらからのお礼のメールが確認できるようにします。礼儀正しく接しているうちに信頼関係が強まり、そこからビジネスの話につながっていきます。

飲み会の場で意気投合し、ビジネスの話で盛り上がることもありますが、その場の雰囲気と勢いによる約束は、後日、有名無実化することがよくあります。一緒に仕事ができるほどの信頼関係は少しずつ構築されるものです。

また、飲み会に誘われることもあるでしょうが、その際は「大いに飲み、食べ、笑う」ようにします。相手は、自分がホスト役を務める飲み会を楽しんでくれる人を好むものなのです。

飲み会では相手の本音が分かることがあります。ただし、飲み会だけで信頼を得ることはできず、その後の付き合い方が重要です。飲み会とそれ以外の場を上手に使って、相手との信頼関係を築くことが大切です。

以上(2018年6月)

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【規程・文例集】これだけ押さえて! 「働き方改革」 就業規則の変更ポイント

書いてあること

  • 主な読者:働き方改革に乗り出すに当たり、就業規則を見直したい経営者、人事労務担当者
  • 課題:法改正の内容が多岐にわたり、何から手を付ければよいか分からない
  • 解決策:「企業の取り組みは義務か」「就業規則等の変更は必要か」「全企業に関連する内容か」によって、法改正の内容を区分けする

1 待ったなしの働き方改革

2019年4月1日より「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(以下「働き方改革関連法」)が順次施行されています。中小企業も、2020年4月1日に「時間外労働の罰則付き上限規制」の適用などが控えており、いよいよ本気で働き方改革に乗り出さなければなりません。

まず取り組むべきは、就業規則等の見直しです。働き方改革関連法の内容は多岐にわたりますが、努力義務のものや、就業規則等の変更までは必要ないものもあるので、優先順位を付けて取り組みましょう。

2 働き方改革関連法の内容を区分けしよう

働き方改革関連法の内容は、次のように区分けできます。

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就業規則等の見直しという観点から考えると、取り急ぎチェックが必要なのは、図表の網掛けの部分です。次章以降で、法改正の内容と就業規則等の変更のポイントについて詳しく見ていきましょう。

3 全企業に関連するもの

1)時間外労働の罰則付き上限規制

1.法改正の内容

社員に時間外労働を命じる場合、次の3つを遵守することが必要となりました(1.は現行では基準告示あり。2.と3.は中小企業の場合、2020年4月1日適用)。違反した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

  • 時間外労働の上限について、月45時間、年360時間(いずれも休日労働を含まない)を原則とする(現行の基準告示に「限度時間」として定めていたものを法律に格上げ)(注)
  • 臨時的な特別な事情があって労使が合意する(特別条項)場合でも、月100時間未満(休日労働を含む)、年720時間(休日労働を含まない)を上限とする。ただし、時間外労働(休日労働を含まない)が月45時間を超えられるのは年6カ月まで
  • 特別条項の有無にかかわらず、いかなる場合も月100時間未満(休日労働を含む)、2~6カ月平均80時間(休日労働を含む)を上限とする

例外として、自動車運転の業務、建設事業、医師、鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業、新技術・新商品等の研究開発業務については、適用が猶予・除外されます。

(注)1年単位の変形労働時間制(対象期間が3カ月を超えるもの)を導入している場合、月42時間、年320時間(いずれも休日労働を含まない)を原則とします。

2.就業規則等の変更のポイント

社員に時間外労働を命じるには、労働基準法第36条に基づく労使協定(以下「36協定」)の締結と、所轄の労働基準監督署への届け出が必要です。なお、法改正に伴い36協定の新書式が公表されているため、事前に確認しておきましょう。

また、就業規則には「36協定で定める時間外労働時間が、労働基準法等で定める上限を超えることがない」旨を追記しておきましょう。

2)中小企業に対する割増賃金率の猶予措置廃止

1.法改正の内容

社員の時間外労働が1カ月当たり60時間を超える場合、その時間については50%以上の割増賃金の支払いが必要です。しかし、これまで中小企業の場合、この50%以上の割増賃金の支払いについては猶予措置が設けられ、当面の間努力義務とされていました。

働き方改革関連法では、この猶予措置が廃止され、中小企業においても時間外労働が1カ月当たり60時間を超える社員については、50%以上の割増賃金を支払うことが義務付けられました(2023年4月1日施行)。

2.就業規則等の変更のポイント

就業規則で時間外労働の割増賃金率を定めている場合、時間外労働が1カ月当たり60時間を超える場合の割増賃金率が50%を下回らないよう変更する必要があります。

なお、この50%以上の割増賃金率のうち25%については、代替休暇を付与することで代用できるので、制度を導入する場合は就業規則にその旨を定めておきましょう。ただし、代替休暇制度を導入するには、労使協定の締結が必要です(届け出は不要)。

3)5日以上の年次有給休暇の時季指定義務化

1.法改正の内容

10日以上の年次有給休暇(以下「年休」)が付与される社員について、10日以上のうち5日を、企業が時季を指定して基準日から1年以内に付与しなければならない旨が定められました(2019年4月1日施行)。

なお、5日のうち社員の時季指定や、計画的付与(企業があらかじめ年休の取得日を決め、計画的に取得させる制度)により取得された年休の日数分(5日を超える場合には5日分)については、企業が指定する必要はないとされています。

2.就業規則等の変更のポイント

就業規則において、年休の付与日数のうち5日について、企業が時季を指定して取得させる旨を追記しておきましょう。ただし、企業が時季を指定する際は、社員の意見を聴取し、社員の希望に沿った取得時季になるように努めなければなりません。

なお、中小企業の場合、慢性的な人手不足により、社員が年休を取得しにくいケースが少なくありません。例えば、計画的付与を導入すると、年休付与日数のうち5日を超える部分(例:年休付与日数が10日の場合、5日(10日-5日))については、企業が取得日を決め、年休を計画的に取得させることができます。ただし、計画的付与を導入するには労使協定の締結が必要です(届け出は不要)。

4)時間外労働が80時間超の社員に対する面接指導の強化

1.法改正の内容

時間外労働(休日労働を含む)が1カ月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる(または健康上の不安を有している)社員が申し出た場合における、医師による面接指導の実施が、努力義務から義務へと変更されました(2019年4月1日施行)。

なお、「新技術・新商品等の研究開発の業務」「高度プロフェッショナル制度の業務に従事する社員」については、面接指導の実施に関するルールが異なります(詳細は後述します)。

2.就業規則等の変更のポイント

就業規則において、「時間外労働(休日労働を含む)が1カ月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる社員が申し出た場合に、医師による面接指導を実施する」旨の規定を追記しておきましょう。

社員の過重労働防止を強く推進したいのであれば、「(社員の申し出がなくても)疲労の蓄積が認められる場合に面接指導を実施する」など、対象となる社員を広く取る規定にしておくのもよいでしょう。

4 対象企業が限定されるもの

1)産業医の産業保健業務に必要な情報の提供を義務化

1.法改正の内容

産業医の選任義務がある社員数50人以上の事業場に対し、産業医が産業保健業務を行うために必要な情報を提供することが義務付けられました(2019年4月1日施行)。

産業医に提供する情報の具体的な内容は次の通りです。

  • 健康診断や面接指導実施後の措置の内容(措置を講じない場合はその理由)
  • 時間外労働(休日労働を含む)が1カ月当たり80時間を超えた社員の氏名と、時間外労働の時間数(高度プロフェッショナル制度の業務に従事する社員については、健康管理時間が1週間当たり40時間を超えた場合、その超過時間が1カ月当たり80時間を超えた社員の氏名と、その超過時間数)
  • その他社員の業務に関する情報で、産業医が社員の健康管理等を適切に行うために必要と認めるもの

2.就業規則等の変更のポイント

社員の個人データは法令に基づく場合などを除き、あらかじめ本人の同意を得ずに第三者に提供してはならないとされています。働き方改革関連法が施行されれば、産業医の産業保健業務に必要な情報は、法令に基づくものとなるため、社員本人の同意がなくても産業医に提供することは理論上可能です。

とはいえ、病歴や健康診断等の結果といった健康管理上の個人情報は、取り扱いに特に留意すべき「要配慮個人情報」です。社員とのトラブルを防ぐに当たり、産業保健業務のために産業医に健康管理上の個人情報を提供することがある旨を就業規則に追記しておくのが無難です。機微な内容であるため、自社の就業規則を見直す際は、専門家の意見などを参考にするとよいでしょう。

なお、社員の心身の状態に関する情報の取り扱いについては、情報を適正に管理するために、厚生労働大臣の指針に基づき必要な措置を講ずることが義務付けられることになります。

2)産業医の勧告に関する衛生委員会等への報告を義務化

1.法改正の内容

産業医から、社員の健康を確保するために必要な事項について勧告を受けた場合、その勧告の内容を衛生委員会または安全衛生委員会に報告することが義務付けられました(2019年4月1日施行)。

衛生委員会は、労働安全衛生法に基づき、社員の健康障害の防止・健康の保持増進などについて審議するために設置される委員会です。設置義務があるのは、社員数50人以上の事業場です。衛生委員会に加えて、安全委員会の設置義務もある事業場(社員数50人以上または100人以上で特定の業種に該当するもの)は、2つの委員会をまとめて安全衛生委員会とすることができます。

2.就業規則等の変更のポイント

就業規則に「安全衛生管理に関する事業場責任者の職務」などの項目があれば、産業医から勧告を受けた場合の衛生委員会等への報告を職務に追加しておくとよいでしょう。

3)特定の業務に従事する社員に対する、医師による面接指導を義務化

1.法改正の内容

「新技術・新商品等の研究開発の業務」「高度プロフェッショナル制度の業務(注)」に従事する社員について、時間外労働時間(休日労働を含む。高度プロフェッショナル制度の業務に従事する社員については、1週間当たり40時間を超えた健康管理時間)が100時間を超えた場合、社員の申し出がなくても医師による面接指導を実施することが義務付けられました(2019年4月1日施行)。

なお、新技術・新商品等の研究開発の業務に従事する社員については、上の要件に該当する場合だけでなく、前述の「時間外労働(休日労働を含む)が1カ月当たり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる(または健康上の不安を有している)社員が申し出た場合」にも面接指導を実施する義務があります。

(注)金融商品の開発業務・ディーリング(売買)業務・アナリスト業務、コンサルタント業務といった高度な専門的知識を必要とする等の業務が該当します。なお、高度プロフェッショナル制度の導入に当たっては、一定の年収や労使委員会の決議などの要件を満たす必要があります。高度プロフェッショナル制度が適用される社員は、労働基準法の労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金の規定が適用除外となります。

2.就業規則等の変更のポイント

就業規則には、面接指導の対象となる業務と社員の範囲、時間外労働(休日労働を含む)が1カ月当たり100時間を超えた場合に、医師による面接指導を実施することを定めておく必要があります。

なお、時間外労働時間(休日労働を含む。高度プロフェッショナル制度の業務に従事する社員については、1週間当たり40時間を超えた健康管理時間)が100時間を超えた場合は、社員の申し出や疲労の蓄積等を必要としません。そのため、就業規則においては、通常の社員に対する面接指導とは別に規定を設ける必要があります。

また、就業規則には直接関係ありませんが、この法改正に伴い、管理監督者を含む全ての社員を対象とした労働時間の把握(高度プロフェッショナル制度の対象となる社員は健康管理時間の把握)が企業に義務付けられています。

具体的には「タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法」によって労働時間を把握した上で、労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存するための措置を講じる必要があります。自社の労働時間管理の体制についても、見直しが必要になるかもしれません。

以上(2019年10月)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:ESB Professional-shutterstock