経営効率化を図る「持株会社化」のメリットと具体的な手法を解説

書いてあること

  • 主な読者:持株会社を活用した経営統合を検討している経営者
  • 課題:持株会社化のメリットとデメリット、具体的な手法を知りたい
  • 解決策:現在の組織体制、株主との関係、各事業の好不調に応じて適切な方法を選択する

1 経営の先行きが不透明な中でのグループ経営

持株会社とは、他社の株式の相当割合を保有し、子会社として支配・管理することを主たる事業とする会社で、一般的には、

  • 純粋持株会社:子会社の活動を支配・管理することを主たる事業とする
  • 事業持株会社:子会社の支配・管理を行うだけでなく、自らも何らかの事業を行う

といったように分類されます。本稿では、持株会社が子会社の株式を100%保有して経営統合することを「持株会社化」とします。持株会社化によって、グループ間の役割を分離する、好調な事業への投資をする、不調な事業から徹底するなどの判断がしやすくなります。

持株会社化のメリットとデメリットを整理した上で、具体的な手法として「株式移転」「株式交換」「会社分割」の概要を紹介します。

2 持株会社化の一般的なメリットとデメリット

1)戦略立案と事業遂行を分離した効率化。ただし、運営が複雑になることも?

持株会社化の最大の特徴は、経営戦略と個別事業の分離です。グループ全体の経営戦略を持株会社が担い、個別事業の執行を子会社に委ねることで、権限・責任の明確化とグループ全体の戦略の最適化が図れます。

一方、子会社はグループ全体の方針や意思決定に従うため、この点で経営の自由度は低下します。また、重要な意思決定は、子会社のみならず、持株会社(場合によっては他の子会社)との調整が必要になります。会社法上も、取締役会等の機関は持株会社・各子会社に設置することになり、この点も経営判断の遅れや手続の煩雑化などの原因になります。

2)管理部門の効率化が見込める。ただし、管理体制の整備が不可欠?

子会社に配置すべき人事や総務、法務といった管理部門等を持株会社が包括して担当するなどして、グループ全体の業務を効率化できます。

ただし、グループ全体の管理体制が整っていないとこのメリットは享受できず、逆に混乱を招きます。そのため、管理部門等の重複業務の効率化という視点から、シェアードサービスを提供するなど、最適化を図る必要があるでしょう。

3)各企業が独立できる。ただし、一体感の醸成は困難?

持株会社化で個々の企業を傘下に収めることで、一体的な経営ができます。合併との違いは、企業文化の融合や人事制度の擦り合わせが不要な点です。つまり、個々の企業の個性を生かしつつ、経営の一体化が図れます。こうした特徴を踏まえ、将来の合併を見据えつつ、その前段階として持株会社化を図るケースなどがあります。

半面、グループとしての一体感の醸成を阻害することにもなります。こうした傾向は、意思決定の迅速化や各企業の自主性を重視して権限委譲を進めるほど顕著になりがちです。

4)機動的な事業再編が可能になる。ただし、維持には相応の負担が掛かる?

持株会社化によって、グループ内の事業の再構成を機動的に行えます。例えば、事業の拡大を図るために他社を取り込む場合、持株会社傘下の一事業会社とすることができます。また、不採算事業を切り離すときも、事業ごとに会社を分けておけば、その不採算事業を担当する会社の株式譲渡等を行って事業を切り離すことができます。

一方、持株会社の維持には相応の負担が生じます。純粋持株会社の収益源は子会社から受け取る剰余金の配当、子会社が支払う経営指導料やブランド使用料などに限られてしまいます。事業持株会社には本業の収益がありますが、費用の相当部分は子会社負担が一般的です。

5)税制上のメリットを受けられる

1.グループ法人税制の適用

子会社の株式を100%保有すると、グループ法人税制が強制的に適用されます。詳細は省略しますが、グループ法人税制では、100%グループ内における一定資産の譲渡に関する譲渡損益の繰り延べ、受取配当金の益金不算入、寄附金の損金・益金不算入等が定められています。

2.連結納税の導入

所定の手続をすれば、持株会社化によって法人税の連結納税ができます。連結納税とは、企業グループ内の個々の企業の所得と欠損を通算して法人税を課税する仕組みです。「景気動向の影響を受ける企業と常に安定している企業の損益を通算し、景気後退時の納税額を抑える」ことなどが可能です。

ただし、連結納税制度の適用を受ける際は、一定の要件に該当する連結子法人の繰越欠損金を引き継ぐことができない、子会社が保有する一定の資産については時価評価をする必要があるなどのデメリットもあります。

6)事業承継対策に活用することができる

純粋持株会社化は事業承継対策の面で効果が期待できます。詳細は省略しますが、純粋持株会社の株価評価は、純資産価額法となるため、純粋持株会社化することで株価の評価額を引き下げられる場合があります。また、複数の事業会社がある場合、相続の対象となる株式を純粋持株会社の株式のみにできるので、株式の分散防止や相続時の手続の簡素化などが図れます。

3 「株式移転」による持株会社化

株式移転とは、1または2以上の株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることです。子会社の株主には、持株会社の株式などを交付することで、持株会社の傘下に複数の完全子会社を置くことが可能です。株式移転による持株会社化を「株式移転方式」ということもあります。

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株式移転の特徴は、持株会社(A社)を新設する点であり、持株会社と子会社はいずれも株式会社でなければなりません。また、子会社の株主に株式の対価として交付するものは、持株会社の株式や社債などとされています。一般的には、組織再編税制における適格要件を充足するために、持株会社の株式のみを交付することが多いようです。組織再編税制における適格要件は、1.完全支配関係内(100%グループ内)の組織再編、2.支配関係内(50%グループ内)の組織再編、3.共同事業を形成するための組織再編でそれぞれ異なります。しかし、いずれの場合であっても、対価要件(株式移転等の対価として、移転後の持株会社の株式等以外の資産が交付されないこと)が課されています。

これに加え、1.と2.の場合においては従前の支配関係継続が要件となります。また、2.と3.の場合には事業継続と従業者の引き継ぎ(おおむね80%)も要件となり、3.の場合はさらに事業の関連性、発行済株式の80%以上の継続保有、事業規模5倍以内または特定役員の継続就任が要件となります。

株主・債権者への対応としては、子会社の反対株主の株式買取請求権が認められています。

一方、債権者保護手続については、特定のケースに限定されています。債権者保護手続とは、合併などを行う場合、債権者に対して事前にその旨を知らせ、異議を述べる機会を設ける手続です。異議申立のあった債権者に対しては弁済などの措置を取らなければなりません。株式移転における債権者保護の対象は、交付される持株会社の新株予約権が、新株予約権付社債に付された新株予約権である場合の、新株予約権付社債権者に限られます。

4 「株式交換」による持株会社化

株式交換とは、株式会社がその発行済株式の全部を他の株式会社または合同会社に取得させることです。株式交換は、株式移転と同様、持株会社の100%子会社化により持株会社化を図るための方法です。株式移転と違うのは、持株会社は既存の会社であることです。株式交換は、主に事業持株会社化をするときに利用されます。

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子会社の株主に株式の対価として交付するものは、株式や社債などに限定されておらず、現金を交付することができます。ただし、組織再編成税制における適格要件の1つに、持株会社の株式のみとする旨が定められているのは株式移転と同じです。

株主・債権者への対応としては、株式移転と同様、子会社の反対株主の株式買取請求権が認められているだけでなく、持株会社の反対株主の株式買取請求権も認められています。

一方、債権者保護手続については、株式移転と同様、子会社の新株予約権付社債権者に対して必要である他、子会社の株主に株式移転の対価として持株会社の株式等以外の財産(現金等)を交付する場合は、持株会社の既存の債権者に対しても必要となります。

5 「会社分割」による持株会社化

会社分割とは、株式会社または合同会社が事業に関して有する権利義務の全部または一部を、分割後に他の会社に承継させる手続です。会社分割には、

  • 新設分割:事業に関して有する権利義務を新たに設立する新設会社に承継させる
  • 吸収分割:事業に関して有する権利義務を既存の承継会社に承継させる

といった手法があります。「新設分割」は、複数の事業部門を有する会社を事業部門ごとに分社化して独立採算制とする(カンパニー制)場合などに使われます。一方、「吸収分割」は、グループ会社において実質的に重複する事業を行っているケースなどにおいて、1つの会社に同一事業を集中して経営効率を上げる場合などに使われます。

会社分割では、純粋持株会社を創設させるための方法として「抜け殻方式」と呼ばれる方法があります。抜け殻方式とは、事業に関する権利義務の全部を他の会社に承継させて、親会社はグループ統括のみを行うようにする方式です。

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会社分割には、会社の一部の事業を切り分けて分社化する際に煩雑な手続を回避できるという大きなメリットがあります。

会社の一部の事業を他の会社に譲渡する方法には「事業譲渡」もあります。しかし、事業の包括承継ではないため、譲渡する事業に係る契約を全て個別に結び直す必要があります。債務も当然には承継されないため、個別の債権者の同意が必要です。これに対して、会社分割は事業を包括承継できるため、事業に関する契約は当然に引き継がれますし、個別の債権者の同意も不要です。また、事業承継の対価として必ずしも資金を用意する必要はなく、株式を割り当てることができます。

以上(2021年3月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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【文例付き】渋沢栄一、豊臣秀吉の「名言」を使った若手社員に向けたスピーチ

書いてあること

  • 主な読者:朝礼などで若手社員に期待することを伝えたい経営者
  • 課題:若手社員は「失敗」や「目立つこと」を極度に嫌がるとの調査結果もあり、意識のギャップがある
  • 解決策:若手社員の傾向に配慮しつつ、先達の名言なども引用して伝えていく

1 「失敗」や「目立つこと」を極度に嫌がる令和の新入社員

清少納言や吉田兼好も随筆でこぼしていた、「最近の若者は……」という愚痴。世代間に意識のギャップがあるのは、いつの時代にも共通した人類の永遠のテーマなのかもしれません。とはいえ、若者は会社の未来を担う重要な存在。経営者の熱い思いを伝え、一緒に会社の未来を作っていきたいものです。そのためには、まずは若手社員との意識のギャップがあることを知っておくことが大切です。

日本能率協会マネジメントセンターが2020年11月に公表した「イマドキ若手社員の仕事に対する意識調査2020」(以下「若手社員の意識調査」)によると、最近の若手社員は、他の世代の人たちと比べて、「失敗」や「目立つこと」を極度に嫌がる傾向があるようです。一方の経営者には、若いうちにどんどん失敗してほしい、遠慮なく自分の意見を主張してほしいなどと考え、やはり両者にはギャップがあるかもしれません。

そこで本稿では、若手社員のこうした傾向を踏まえた上で、彼らの意識の変化を促すようなスピーチを、先達の名言を使った文例も添えて紹介します。

2 文例1 「成功か失敗か」より重要なことを気付かせる言葉

「成功失敗の如きは、謂わば丹精した人の身に残る糟粕(そうはく)のやうなものである」(渋沢栄一*)

1)文例

皆さんも理解されていると思いますが、社会人は結果が全てというのは、正しい考えです。ですが、その「結果」というものが何なのか、もう一度考え直してみてください。なぜなら私は、一時的な成功で利益を上げたり、プロジェクトを成功させたりすることだけが、結果だとは思っていないからです。

明治時代に金融業や鉄道・運輸業、製造業、エネルギー産業、宿泊業など約500社もの設立に関わった渋沢栄一は、「論語と算盤(そろばん)」の言葉で知られるように、ビジネスマンに倫理観や公益性を強く求めた人物です。

その渋沢は、「成功失敗の如きは、謂わば丹精した人の身に残る糟粕のやうなものである」と語っています。成功や失敗というものは、人としての責務を全うし、努力をした人の体に残った酒かすのように、価値の低いものだというのです。つまり、結果はどうであれ、それまでの努力が大切だということです。

私は渋沢の考えに賛同します。むしろ、真剣に向き合ってどんどん失敗してほしいと思います。失敗は失敗した人だけが経験できる貴重なものであり、その経験は次のチャレンジで必ず活きてくるからです。皆さんが高い志を持って努力し、自分を磨いていくことのほうが、会社にとってははるかに好ましいことなのです。

2)解説:「失敗=悪=恥」という意識にとらわれた若手社員を解放する

若手社員の意識調査によると、若手社員ほど「失敗を恐れない」人の割合が低く、「失敗したくない」人の割合が高くなっています。その背景には、「恥をかきたくない」「他人からの評価が気になる」といった思いもあるようです。

今の若手社員は、バブル崩壊で経済が長年低迷し、中国にGDPで抜かれ、少子高齢社会への対策が遅れるなど、日本の「失敗する姿」ばかりを見続けて育ちました。閉塞感から抜け出せない雰囲気の中で、世の中の厳しさを強く感じてきた若者たちが、「失敗=恥」と考えるのは自然なことでしょう。逆に、今の若手社員は、結果を出すことの重要さを痛感している、危機感をしっかりと持った世代、と見ることもできます。

かといって、「成功=善」「失敗=悪」という二元論にとらわれ過ぎることは、好ましくありません。自分の夢に向かって進むことや高い志を持つこと、挑戦すること、経験を積むことなど、二元論以外にも考え方があることを示してあげるのが大切です。

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3 文例2 「目立つ」ことや「主張する」ことを後押しする言葉

「自分が気に入らぬからといって、ほかの者も気に入らぬとはかぎりますまい」(豊臣秀吉**)

1)文例

織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の中で1人だけ採用するとしたら、私は迷わず秀吉を選びます。なぜなら、秀吉は「人たらし」との異名があるように、愛想がよく、周囲の人たちに気遣いができる人だったからです。ですが、人に合わせるだけでは自分がありません。空気を読む力を持っていた秀吉ですが、あえて空気に逆らうこともできたことが秀吉の素晴らしいところです。

秀吉が最初に仕えたのは、今川義元の家臣である松下之綱(ゆきつな)でした。一説によると、秀吉は之綱の配下として能力を発揮し出世するのですが、同僚たちの妬みを受け、無実の罪で訴えられます。秀吉は無実を主張し、之綱も無実だと分かっていましたが、「大勢の家臣には替えられない」と、秀吉を解雇したといいます。その後、信長の配下で秀吉が大活躍し、之綱の仕える今川家が没落したのは、皆さんご存じの通りです。

組織である以上、同僚に合わせることは必要ですが、その前提は各人が自分の意見を持ち、議論した結果です。之綱は秀吉のことを指して、「あのような男を誰が召し抱えるのか」と言ったそうです。秀吉はこれに反発し、「(あなたは)大将たるべき器量をお持ちでない方だ。自分が気に入らぬからといって、ほかの者も気に入らぬとはかぎりますまい」と言い返したそうです。

同僚に合わせるというのは、「自分を曲げる」ということではありません。皆さんも秀吉のように、正しいと思ったことは、私を含めたあらゆる社員に対して、遠慮せずに意見してください。この会社では、同僚の妬みという心配も無用です。秀吉のように、「きっと誰かが自分を評価してくれる」と信じて、自分の能力を存分に発揮してください。

2)解説:集団の空気に逆らう勇気も

若手社員の多くは、SNSを使いこなし、オンラインで「人とつながる」ことの経験が豊富です。グループ内で良好な関係を維持することにたけているといえます。彼らはメッセージの文面や絵文字だけでも集団の空気を読み、自らが目立つことを避け、相手に合わせ、主張しないことを身に付けてきたのです。

若手社員の意識調査でも、若手社員ほど目立つことや主張することを控え、周囲と同調しようとする傾向が顕著となっています。その点では、会社という組織で活動するには、非常に適した人材だといえるでしょう。

しかし、先々、会社の屋台骨を支える人材に成長してもらうには、周囲と同調しているだけでは困ります。価値観の違い、と言ってしまえばそれまでですが、時にはあえて空気に逆らって、自分が正しいと思った意見を主張する、周りから抜きん出る、ということの重要さも伝えておきたいものです。

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【参考文献】

(*)「青淵百話 乾」(渋沢栄一、国書刊行会、1986年4月)
(**)「名将言行録 現代語訳」(岡谷繁実、北小路健・中澤恵子訳、講談社、2013年6月)

以上(2021年3月)

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【朝礼】夢は無限、チャンスは有限

皆さん、おはようございます。早いもので2020年度も間もなく終わりを迎えます。今年度はコロナ禍の影響もあり、仕事でもプライベートでも「耐え忍ぶ」場面が多かったかもしれません。我が社は既に反転攻勢に出ていますが、来る2021年度、皆さんにはさらに攻めの姿勢に転じ、困難に「挑戦する」一年にしてほしいと思います。そこで、今日は挑戦をテーマにした話をします。

皆さんは、登山家の植村直己(うえむらなおみ)さんをご存じでしょうか。1970年に日本人で初めて世界最高峰のエベレスト登頂に成功し、さらに同年、北米大陸のマッキンリー登頂を成し遂げて、世界初の五大陸最高峰登頂者となった人です。日本列島3000キロを徒歩で縦断したり、北極圏1万2000キロを犬ゾリで完走したりと、登山以外にも数々の冒険に挑戦されました。こうした偉業だけを見ると、恐れを知らない人に思えるかもしれませんが、実は植村さんには、人一倍臆病な上に、高所恐怖症という意外な一面がありました。

では、こうしたハンディを持ちながら、なぜ植村さんは数々の偉業を成し遂げることができたのでしょうか。私は彼の自伝を読んで、1つ大きな理由があると感じました。それは、植村さんが「今しかない」という感覚を非常に大事にしていたことです。植村さんは大学4年生のとき、友人がアラスカの山で日本では見られない氷河を見てきた話を聞き、「外国の山に登りたい」という夢への情熱を燃やします。

就職してから渡航するという選択肢もあったのでしょうが、植村さんは「今、山に登ることが幸せになる道だ」と信じて疑わず、就職そっちのけでヨーロッパのアルプスに渡ります。そして、生まれて初めて氷河を目の当たりにした植村さんは、その美しさに魅入られ、登山家としての人生を本格的にスタートさせます。

登山家としての活動を本格的に開始した後も、「今しかない」を大事にする姿勢は変わりませんでした。エベレストの登山隊に推薦されたときにも、「このチャンスを逃してはならない」と二つ返事でこれを引き受けています。彼の自伝の中では、さまざまな局面で「チャンス」という言葉が登場しているのです。

さて、皆さんの中に、仕事あるいはプライベートで成し遂げたい夢や目標がありながら、「今は他のことが忙しいから」「まだタイミングじゃないから」と、それを先延ばしにしている人はいませんか? 夢を抱くことは誰にでもできます。しかし、その夢をかなえるチャンスは、いつまでも皆さんを待ってくれません。タイミングを逸して他の人に先を越されたり、コロナ禍のように予想できない事態に見舞われて、チャンスを逃したりすることは少なくありません。

夢は無限に広がりますが、チャンスは有限です。先延ばし癖が付いている人は、「今しかない」を大事にして、挑戦する2021年度にしてください。

以上(2021年2月)

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画像:Mariko Mitsuda

中小企業こそファイナンス思考が役に立つ/経営者のためのファイナンス講座(1)

書いてあること

  • 主な読者:将来の意思決定に役立つファイナンス思考を身に付けたい経営者
  • 課題:ファイナンスの考え方がよく分からない
  • 解決策:「会計」は過去を見せるものであり、「ファイナンス」は将来を見せるもの

1 時代は会計から、会計+ファイナンスへ

近年、「ファイナンス」という言葉をよく聞くようになり、ベストセラー本も出ています。会計が会社や事業にとって必須というのは疑う余地がないものですが、会計と並ぶものとしてファイナンスが認識されるようになったのです。

そこで、この連載では、最近話題のファイナンスについて分かりやすく解説をしていきます。それも、中小企業の観点からファイナンスを捉えてみます。現時点で多くの方にとって、ファイナンスは「正体不明」であり、「うちみたいな中小企業には関係ない」と思っているかもしれません。実は、そんな難しい話でも新しい話でもないのです。ファイナンスの見方と具体例を知っていれば、会計に振り回されずに、より効率的で効果的な経営につながります。

2 ファイナンスとは、「お金」をモノサシに将来を考えること

ファイナンスという言葉は、日本語でいえば「財務」と訳されることが多いようです。しかし、財務という言葉から想像されるような、単なる資金繰りの話ではありません。本当の意味はもう少し広いのです。

ざっくりいえば、ファイナンスとは「お金」をモノサシとするものの見方のことです。これは、皆さんご存じの会計が、利益をモノサシとする見方なのと対照的です。会社を経営するうえでは、会計が扱う利益も大事ですが、ファイナンスが扱うお金も大事ということに、皆さん異論はないでしょう。「勘定合って銭足らず」というように、いくら利益が出ていても、資金が切れてしまったら会社は潰れてしまいます。そこで、利益よりもリアルなお金をモノサシに将来を考えるのがファイナンスの見方なのです。

会計では利益を計算するために、損益計算書などの決まったカタチがあります。一方、ファイナンスでは決算書のような決まったカタチがないので、余計に分かりにくくなっています。そこで、もう一つだけ、ファイナンスを理解するのに役に立つキーワードを紹介しましょう。それは、「将来」です。私がウォルト・ディズニー・ジャパンに勤めていたときの上司だった経営者は、よくこう言いました。「ファイナンスはサーチライト、会計はバックミラー」と。車に例えると、会計は後ろ=過去を見せるものであり、ファイナンスは前=将来を見せるものということです。さらに、「わたしが運転(=経営)を間違えないように、前をよく照らしてくれ」と続けるのが常でした。

3 年度末の節税対策も「ファイナンス」?

皆さんの身近な例で考えてみましょう。中小企業でも、年度末近くになって利益が出そうだと分かり、将来のために物品を購入する場合があります。なかには、頑張ってくれた感謝として従業員に決算賞与を出すうれしい会社も。実は、この取り組みはファイナンスの視点と共通するのです。

それは、決算が締まる前に利益が出るという「将来」を予想し、会社にとってより良い意思決定を行っているからです。もちろん、購入する物品が会社にとって必要なものであることが大前提ですが、利益が出ても税金で持っていかれてしまうなら、この際購入しようと考えるわけです。また、もう一つのキーワードである「お金」にも着目しています。今期だけの目先の数字にとらわれるのではなく、会社にとって必要なものを中長期の将来にわたって考える点で、まさにファイナンスが目指すところでもあります。

4 会計が中小企業の良さをダメにしてしまうこともある

会計の利益だけに目を向けていると、なかなかこのような判断にはつながらないかもしれません。なぜなら、会計の利益というのは、いろいろな決め事に基づいて計算されるバーチャルなものだからです。その一例として、勘定科目の使い方があります。

例えば、飲食業では、利益を出すには、原材料費は3割に抑えるべきだといわれます。皆さんは「俺の〇〇」という飲食店チェーンをご存じでしょうか。店の前に行列が絶えなかったこのチェーンは、その慣習的な考えを打ち破り、高級食材を惜しみなく使いました。当然原材料費は3割では収まりません。しかし、自由に食材を使えることを魅力に感じた高級店出身の料理人を多数起用できたことで話題を呼び、集客に大成功しました。事業としては、立食を中心に回転率を上げたことで、利益を生み出すことができたようです。

このような事業のモデルは、勘定科目にとらわれていたら、なかなか思いつかないでしょう。当然ですが、全体を俯瞰(ふかん)し、全体で利益が出ることこそが大事なのです。

公認会計士の私が言うのも変かもしれませんが、定着しすぎた感のある会計の見方に縛られているのかもしれません。特に個性的な事業が多い中小企業においては、その良さが失われてしまいかねないのです。

5 中小企業こそ、ファイナンスを始めよう

このような特性に加えて、リソースの面から考えても、中小企業がファイナンスの考え方を取り入れることはメリットが大きいといえます。

会計で扱うのは過去の結果ですので、良く見せようとしても限度がありますし、会計処理を工夫したところで事業の本質には関係ないことです。これは、例えば、お化粧で気になる箇所をカバーしようとするのと同じです。できることなら、素肌を整えて、化粧があまり必要ない状態をつくるほうがいいはずです。ファイナンスは「素肌美人」を目指す、会社のこれからの業績を良くするために役に立つ見方なのです。

人やお金などの制約が比較的大きい中小企業にとっては、見栄えよりも本質に焦点を当てられるほうが望ましいはずです。ですので、中小企業こそ、ファイナンスの見方をぜひ身に付けることで効果が高くなるといえます。

この連載では、ファイナンスを手軽に身に付けたい中小企業の経営者のために、具体的な事例を用いて、中小企業に関わる内容だけを選りすぐって、分かりやすく解説していきたいと思います。無理のない範囲で少しずつ進める指針になればうれしいです。

以上(2021年3月)
(執筆 管理会計ラボ 代表取締役 公認会計士 梅澤真由美)

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【朝礼】主張する気がない者はこの場から去れ

「自分の意見を主張する」。ここ数年のうちに、多くのビジネスパーソンに求められるようになった姿勢です。「主張」とは、自分の意見を相手に訴えることです。ここでいう意見は、「理想」と言い換えられる、ビジネスに対する皆さんの熱い思いです。そうした思いがぶつかり合うエネルギーはすがすがしく、その当事者になることはとても楽しいものです。ですので、私は皆さんにぜひ、主張してほしいと思っています。

一方で、多くのビジネスパーソンは正しく主張することができません。それは自分の意見を持っていないからですが、その背景には、これまで自分の意見を持つことを明示的に求められなかったことがあるでしょう。つまり、意見を持って主張するという発想がないわけです。

ただ、これまで朝礼の場で何度も話しているように、状況は変わりました。業績好調な企業では、「出るくいを歓迎する」文化を育んでおり、我が社もそのような組織を目指しています。自分の意見に完璧を求める必要はありません。人と話したり、本を読んだりする中で変わっていくからです。ですので、皆さん、まずは新年度に向けて、ビジネスにおける自分の存在意義を考えてください。

ここで皆さんにアドバイスですが、焦って正しくない主張をするのはやめたほうがよいです。後ろ向きの主張や、「意見なきポーズの主張」は周囲を不快にし、結果として皆さんから人が離れ、孤立してしまうことになるからです。

正しくない主張を、私は「逃亡」「怠惰」「迎合」の3つに分類しています。

「逃亡」とは、例えば「自分には意見があるが、言っても何も変わらないので言いません」と宣言するような人です。この宣言をもって主張しているつもりでしょうが、意見を言わないのなら、何ら主張していないのと同じです。

「怠惰」とは、上司や顧客からの依頼を面倒に思い、自分が楽をするために「やらない方法を主張する」ことです。言うまでもありませんが、こうした主張の意図は透けて見えるので、すぐに周囲の人から相手にされなくなります。

「迎合」とは、いわゆる「フリーライダー」で、「声の大きい人に乗っかって、自分の主張にすり替える」ことです。こうした人は、風見鶏のように意見が変わるので、相手が頭のいい人なら、自身の主張を通すために利用されるだけです。

これらの主張に遭遇すると、私は本当に嫌な気分になります。ぎこちなくてもいいので、真っすぐに自分の意見をぶつけてください。これに勝るものはないのです。また、主張し合うことは、これまでとはレベルの違う「熱いコミュニケーション」です。会社と社員の関係がドライになったといわれて久しいですが、明らかにその流れとは逆行することになるでしょう。しかし私は、この会社の未来について皆さんと主張し合い、議論したいと心から願っています。ここにいる皆さん、その準備はできていますか?

以上(2021年2月)

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画像:Mariko Mitsuda

大切な「ロゴ」を模倣から守るために知っておくべき法律の知識

書いてあること

  • 主な読者:ロゴの模倣などを防止するために、知的財産化したい経営者
  • 課題:知的財産にはいろいろな種類があり、何をしたらよいのか分からない
  • 解決策:商標法による保護を受けることが基本

1 自社のロゴを守るのは商標法・著作権法・不正競争防止法

企業やサービスのロゴには、さまざま思いが込められています。また、他の企業やサービスとの違いを分かりやすく識別するものでもあります。そのため、ロゴの模倣などを防止することはとても大切です。法的には、商標法・著作権法・不正競争防止法によって保護できます。

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基本は商標法によって半永久的に保護することなので、弁護士や弁理士に相談することが先決となります。商標法の詳細や、著作権法・不正競争防止法についても知りたい方は、次章からまとめていますので、参考にしてください。

2 商標法におけるロゴの保護

1)商標とは

商標法では、商標(商品・サービスに付される目印)を保護しています。商標には、企業名や商品名などビジネスで使用する目印全般が該当し、文字だけや図形だけで構成されたロゴ、文字と図形を組み合わせたロゴの他、コマーシャルなどで流れるサウンドロゴなども該当します。

商標は特許庁に出願し、審査と登録を経た上で、権利(商標権)が発生します。商標権を侵害された場合、侵害行為の差止めを求めること、損害賠償を請求することなどができます。登録する際は、商標とともに、その商標を使用している(使用を予定している)商品または役務を指定します。

2)商標法では何が守られる?

商標が登録されると、指定商品・指定役務について登録商標を使用する権利を専有できます(専用権)。さらに、他人による類似範囲の使用を排除することができます(禁止権)。

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例えば、自社が「XYZ」という商標を、指定商品のノートブックで登録した場合、他者は「XYZ」という商標をノートブックで使用することはできません。この効力はノートブックと類似の商品であるルーズリーフ用紙にも及ぶので、他者がルーズリーフ用紙に「XYZ」という商標の使用することを禁止できます。類似の商品か否かは、特許庁が作成する「類似商品・役務審査基準」に基づいて判断されます。商標自体が類似しているか否かは、商標の外観、称呼(読み)および観念(意味)という3つの点から主に判断されます。一方、靴などの非類似の商品の場合、他人は「XYZ」という商標を使用することができます。

3)商標法でロゴを保護する場合の注意点

ノートブックと靴で説明した非類似の商品の課題を解消するには、ノートブックだけでなく、靴も指定して商標を使用する商品・役務の指定を増やす方法があります。ただし、商標を出願料や登録料などは区分数(指定商品・指定役務の数)に応じて変わるので、多くの商品・役務を指定すると費用が高くなります。

また、多くの商品・役務を指定して商標を登録しても、実際に使用していなければ登録を取り消される恐れがあります。3年以上使われていない登録された商標に対して、誰でも取り消しを求めることができる「不使用取消審判」という制度があるからです(ただし、被請求者を害することを目的としている場合は、権利濫用となり認められません)。

ちなみに、ロゴのデザインを検討する際に、文字だけのものと図形があるものとでは、どちらのほうが効力の及ぶ範囲が広いのか疑問を持つかもしれません。結論はどちらも登録することです。文字と図形はそれぞれが違う商標となるからです。

4)登録できない商標

全てのロゴが商標として登録できるわけではありません。自他商品・役務を識別できない商標、公益性に反する商標、他人の登録商標または周知・著名商標などと紛らわしい商標などは、商標として登録することができません。登録された商標は工業所有権情報・研修館が運営する「特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)」で公開されています。ロゴの登録を検討する際は、他人が既に登録していないかを調べておきましょう。

3 著作権法におけるロゴの保護

著作権法では、著作者(著作物を創作した人)などの権利を保護しています。著作物の定義は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」です。

ロゴが著作物として認められれば、著作権法で保護されます。その場合、商標法のような登録は不要で、著作物を創作した時点から自動的に権利(著作権)が発生します。著作権を侵害された場合、侵害行為の差止めを求めることや、損害賠償を請求することなどができます。となると、「ロゴは商標登録していなくても、著作権法で保護されるので問題ない」と考えるかもしれませんが、一般的に、ロゴは著作物として認められないことが多いとされます。

特に、文字だけのロゴの場合はハードルが高いです。例えば、アサヒスーパードライなどのパッケージで目にする「Asahi」のロゴは、図案化されたデザイン性の高い書体が使用されており、著作物として認められそうです。しかし、裁判例ではAsahiのロゴに対して著作権による保護を認めていません(東京高判平8.1.25)。文字は万人共有の文化的財産であり、また、本来的には情報伝達という実用的機能を有するものであることなどから、著作権の保護の対象には当たらないと判断されています。

一方、図形を使ったロゴの場合、キャラクターなどは著作物として認められる可能性がありますが、シンプルな図形の組み合わせなどは創作性が低いと判断され、著作物として認められない恐れがあります。

4 不正競争防止法におけるロゴの保護

不正競争防止法は知財だけを保護する法律ではありませんが、商標などの知財に対するさまざまな侵害行為を不正競争行為として定めて規制しています。特徴は、商標法では保護の対象としていない商標についても保護していることです。例えば、商標法では、商標の登録が必要であり、商標の指定商品・指定役務と非類似の商品(例えば、ノートブックと靴)については保護されません。この点、不正競争防止法では、登録していない商標や、指定商品・指定役務と非類似の商品における商標についても、侵害行為の差止めや、損害賠償を請求することなどができます。

とはいえ、ロゴに関する不正競争行為が成立する要件のハードルは高いです。例えば、ロゴが広く知られていなければならないので、限られた市場で営業していたり、ロゴを作成してそれほど時間を経ていなかったりする場合は保護を受けられません。

一方、別の視点で重要なのは、他者のロゴの権利を侵害しないことです。知っておきたいのは「周知表示混同惹起行為」「著名表示冒用行為」です。周知表示混同惹起行為とは、「他人の商品・営業の表示(以下「商品等表示」)として需要者の間に周知されているものと同一、または類似の表示を使用し、他人の商品・営業と混同を生じさせる行為」です。また、著名表示冒用行為とは、「他人の商品等表示として著名なものを、自己の商品・営業の表示として使用する行為」です。

以上(2021年2月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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データをクラウドに預ける際に知っておきたいQ&A

書いてあること

  • 主な読者:クラウドの利用を検討しているが、よく理解できていない経営者
  • 課題:サービス自体は便利そうだが、情報漏洩のリスクなどセキュリティー面が心配
  • 解決策:多くのクラウドは、データの暗号化など一定のセキュリティー機能を備えている。自社のセキュリティー要件を満たせるかを利用前にクラウド事業者に確認する

1 そもそもクラウドって何?

クラウドは、サーバーが内蔵するCPU(プロセッサ)やストレージなどといったハードウエアのリソース、またはアプリケーションが備える各種機能などをインターネット経由で提供するという概念、サービスを指します。

クラウドには、SaaS(Software as a Service、サース)、PaaS(Platform as a Service、パース)、IaaS(Infrastructure as a Service、イアースまたはアイアース)の3種類があります。

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SaaSは、アプリケーションが備える各種機能を提供するサービスです。具体的には、メールやチャット、路線検索などの個人向けのサービス、グループウエアやCRM(顧客関係管理)、資材調達などの企業向けのサービスを提供します。対応している分野が幅広いため、一般的には「クラウド=SaaS」と解釈されることが多いようです。

PaaSは、アプリケーションを開発したり稼働させたりする環境を提供するサービスです。具体的には、アプリケーションの開発ツール、データベースなどを提供します。アプリケーションの開発に携わるエンジニアなどの利用を想定しています。

IaaSは、ハードウエアのリソースを利用者に提供するサービスです。CPUによる演算処理能力、メモリーやストレージといったデータ記憶能力などを提供します。SaaSやPaaSの土台を構成するサービスで、必要な処理性能や容量を利用者が自由に組み合わせられるのが特徴です。

2 クラウドのメリットは?

クラウドは、サーバーやストレージ、アプリケーションなどの導入費が掛からず、CPUの性能やメモリー、ストレージの容量といったハードウエアのリソースを柔軟に変えられます。そのため、企業は事業の成長スピードに応じて、必要な性能のハードウエアを都度調達できます。

例えば、利用するユーザー数が増えればハードウエアのリソースを動的に追加し、減れば元に戻すといった運用が可能です。オンプレミス(自社保有)のサーバーなどは、事業がどの程度成長するかを予測して機種を選択するため、予測が外れた場合、導入した機種の性能が実情に合わなくなってしまう恐れがありますが、クラウドではその心配がないわけです。

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また、大事なデータをオフィス以外の別の場所に退避しておけるのもメリットです。被災によるデータ喪失のリスクを低減することで、事業の早期再開が見込めるようになります。

3 クラウドのセキュリティーって大丈夫?

多くのクラウドが、保管するデータを暗号化したり、データにアクセスする利用者を認証したりするセキュリティー機能を備えています。クラウドを利用する企業ごとに異なるセキュリティーポリシーを満たせるように、利用者がこうした機能を選択利用できるのが一般的です。「オンプレミスだから安心、クラウドだから危険」という考えではなく、オンプレミスとクラウドのどちらの運用形態でも必要なセキュリティー対策を施さなければなりません。

クラウドを利用する場合、クラウド事業者がどんなセキュリティー機能を提供しているのかを把握し、自社のセキュリティー要件を満たせるのかを確認することが大切です。中には、データを事前に暗号化してからクラウド上のストレージに保管したり、クラウド利用者や権限を社内で制限したりするなど、利用する企業側でセキュリティー対策を事前に講じた上で運用しなければならないこともあります。特にSaaSを利用する場合、セキュリティー機能のレベルはSaaSごとに大きく異なるため注意が必要です。

4 クラウドに預けたデータはどこに保管される?

データはクラウド事業者が利用するストレージに保管されることが大半です。ストレージが実際にどこにあるのかはクラウド事業者によって異なるため、データをクラウドに保管する場合は、国内か海外かを事前に確認する必要があります。もっとも国内でSaaSを利用する場合、多くのサービスがデータを国内に保管していると考えてよいでしょう。知らない間にデータが海外にあるストレージに保管されていた、ということはありません。

クラウド上のストレージがある場所は、国内なら東日本か西日本かといったおよその地域は分かるものの、セキュリティー上の理由から住所まで把握できることは原則ありません。クラウドを検討する上でデータ保管先の住所を事前に知りたい場合、SaaS事業者などと機密保持契約(NDA)を締結すれば教えてくれることがあります。

SaaSを利用するときはデータの所在を明らかにするため、SaaS事業者に対し、自社独自のPaaSやIaaSを使っているのか、どの事業者のPaaSやIaaSを使っているのかを確認しておくのが望ましいでしょう。

5 クラウド事業者がデータを見ているってホント?

クラウド事業者の従業員が、クラウドに保管されているデータを見ることはありません。クラウド事業者がセキュリティー上のリスクをわずかでも高める行為はしません。

もっとも、利用者の「振る舞い」を監視するクラウド事業者はあるかもしれません。例えば、アクセス数が増えるのはいつごろか、どんな機能が多く利用されているのかなどの情報を、サービス改善などに役立てるクラウド事業者は少なくないようです。

また、データを海外に保管する場合、その国の「検閲」によってデータを見られる可能性があります。どの国が、いつ、どの企業の、どんなデータを検閲するのかは不明ですが、データを海外に保管する可能性がある場合、こうしたリスクも踏まえておくべきです。

6 データのバックアップは自前でしないとダメ?

クラウド事業者が、利用者から預かるデータを自らバックアップすることは原則ありません。ただし、クラウド事業者の中にはバックアップサービスをオプションとして提供している事業者もあります。利用者はこうしたサービスを申し込むことで、バックアップ環境を容易に構築できます。

バックアップ用のデータを社内に設置するオンプレミスのストレージに保管したり、別のクラウドと契約して異なる地域に保管したりすることもありますが、いずれにせよ、データの容量や使用頻度、重要度などに応じて、自社の要件を満たすバックアップ環境を構築することが大切です。

7 災害が発生してもクラウドを利用し続けられる?

災害時にクラウドを利用できるかどうかは、クラウドの提供元となるサーバーやストレージ、アプリケーションなどが無事かどうかに依存します。これらを設置する施設(データセンターなど)が被災せず、インターネットが断絶していなければ、これまで通り利用できます。しかし、施設への電力供給が途絶えたり、インターネットが断絶したりすると利用できなくなる可能性があります。

なお、クラウド事業者が利用するデータセンターの中には、特定エリア内に複数の施設を設置していることがあります。エリア内にある特定のデータセンターが被災したからといって、クラウドが必ずしも利用できなくなるわけではありません。

また、データセンターの中には、無停電電源装置(UPS)と呼ぶ自家発電装置を設置するとともに燃料を備蓄し、数日程度はサービスを提供し続けられるようにする施設があります。2つの電力会社と契約し、どちらかの電力供給が途絶えても一方の電力を使うことで停電を回避する施設もあります。

クラウドの利用を検討する際は、サービスの提供元となるデータセンターの設備にも目を向けるべきでしょう。SaaSを利用するときはSaaS事業者に対し、データセンターの設備や災害発生時の対応内容を確認しましょう。

8 クラウドを解約する前に確認することは?

クラウドは一般的に、不要になったタイミングで自由に解約できます。月額課金の場合、残りの契約期間分の料金は返金されないものの、違約金などは発生しないケースが大半です。時間単位の使用料を課すクラウドなら、無駄な料金はほぼ発生しません。サービス利用料の支払日や支払い方法によって利用期間が異なることもあるため、解約を申し出たときのサービス終了日を事前に確認しておくとよいでしょう。

解約することを想定し、データの取り出し方を事前に把握しておくのが望ましいでしょう。データ容量が大きい場合、インターネット経由ではなくDVDメディアなどに記録して取り出せるのか、ファイル形式をcsvなどに指定できるのか、いつまでに取り出せばよいのかなどを確認します。他のクラウドに切り替えるなら、新たに利用するクラウドにデータを直接アップロードできる方法も調べておくとよいでしょう。また、解約するクラウドを他の自社システムなどと連携して使用中の場合、解約によって連携先のシステムに影響が出ないかも調べておくようにします。

以上(2021年2月)

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異常検知や運用保守向上! 製造現場における新テクノロジーの動向

書いてあること

  • 主な読者:生産設備の効率的な運用を検討したい製造業の経営者
  • 課題:最新のテクノロジーは気になるが、導入すると何ができるのかよく分からない
  • 解決策:具体的な用途やニーズを整理した上で、IoTやデジタルツインなどのテクノロジーが、自社にとってどのように役立つかを検討する

1 テクノロジーの活用で不測の事態に備える

組み立て機械や搬送機械、検査機器などの生産設備が突然動かなくなったら、生産計画の見直しを迫られるのはもちろん、関係者にも迷惑を掛けることになります。一方、新型コロナウイルス感染症の影響で、製造現場でも従業員同士の距離を空けるソーシャルディスタンス(社会的距離)が実施されています。そのため、少人数での作業が求められ、生産や管理などの「自動化」への動きがこれまで以上に高まっています。

今、製造業には「柔軟な製造現場」の構築が求められています。過去の経験や勘に頼って対応するのではなく、生産設備の異常や人員配置、生産量、納期などへの影響をデータに基づき検証し、高い精度で効果的な代替策を打ち出す柔軟性が望まれます。

そこで本稿では、製造業がデータに基づく柔軟性を身に付けるために活用できるテクノロジーを整理します。テクノロジーのメリット・デメリットを把握し、変化に適応できる製造現場を構築する際のヒントとしてお役立てください。

2 自社に必要なテクノロジーを検討しよう

生産工程の無駄を洗い出すため、多くの製造現場は可視化に取り組んでいます。生産設備の稼働状況や製造物の出荷・在庫状況などをエクセルで管理したり、従業員の業務内容をカメラで確認したりするケースは多いでしょう。

しかし現在、収集するデータの種類や頻度を増やし、さまざまなデータを使って精緻な現状把握に努めようとする機運が高まっています。IoTの導入コンサルティングなどを手掛ける中小企業診断士の高安篤史氏によると、「ある程度のシステム化や情報共有体制を確立した企業の中には、次のステップとして、より多くのデータを収集、活用しようと模索する動きが見られる。とりわけ自治体などの支援を受けた地方の中小企業がこうしたデータ活用に前向きだ。データを十分活用できずにいる中小企業は今なお多いが、中には経営者主導で、ITを駆使した変革を推進するケースも散見される」とのことです。

データ活用時に必要な主要テクノロジー/システムと導入効果の関係は次の通りです。データ活用のステータスに応じて必要なテクノロジーは異なります。次章以降で、各段階で必要となるテクノロジーの動向を見ていきましょう。

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3 生産設備の予知保全に役立つIoT

収集データをもっと増やしたいと模索する企業が、新たな一手として導入を検討したいのが「IoT」です。生産設備や生産ラインにセンサーを取り付け、振動や音、電流などの変化から稼働状況を把握できるようにします。

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切削時の振動が普段より大きい、電流の負荷がいつもより高いなどの異常をデータから探ることで、故障する前に部品の交換や修理を実施する予知保全を可能にします。生産設備の突然の故障を回避し、保守費を削減する効果も見込めます。

温度や臭い、位置などを調べるさまざまなセンサーを利用できること、センサーを搭載するIoT機器が1台数千円程度で購入できること、クラウドサービスを使って各種データを容易に一元管理できることなどが、IoTの利用を後押ししています。

もっとも、生産設備の稼働状況を計測するIoT機器の取り付けには注意が必要です。前述の高安氏によると、「IoT機器をどこに取り付ければ稼働状況を正確に計測できるかなどのノウハウは、生産設備を取り扱うメーカーさえ十分持ち合わせていない。1台の生産設備に振動を計測するIoT機器を十数台取り付け、どのIoT機器が異常検知に役立つデータを収集できるかを試行錯誤しながら運用するケースは少なくない」とのことです。

IoTを導入する場合、目的や用途を明確に絞り込むことが大切です。例えば、工作機械の温度変化から故障の予兆を探れるようにしたいのか、生産ラインの停止時間から効率性を高める施策を検討したいのかなどです。

まずは計測対象となる生産設備を限定し、目的を満たすために必要なデータだけを収集します。導入当初、製造現場の全体的な改善は見込みにくいものの、計測対象となる生産設備を段階的に増やして、全体最適を目指すアプローチを試みるのが望ましいでしょう。

IoTの導入を支援するサービスを活用するのも手です。IoT機器の取り付け、データの収集・管理、BIを使った分析環境などをワンストップで提供し、導入から運用までの手間を軽減できます。自治体などが実施するIoT導入支援セミナーなどに参加し、想定される課題や支援サービスを提供する企業などを事前に確認してもよいでしょう。

4 シミュレーション環境を仮想空間に構築するデジタルツイン

生産設備の稼働状況をIoTによって把握できるようになったら、データ活用の次のステップとして検討したいのが「デジタルツイン」です。実際の生産設備などを仮想空間に再現し、仮想の生産設備を使ってシミュレーションできるようにします。IoTなどで収集した各種データを仮想空間に送信し、実際のデータに基づきシミュレーションするのが特徴です。

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生産計画を見直すに当たり、生産ラインをどう調整すればロスを最小化できるか、生産設備の負荷がどれくらい高まると故障を引き起こすかなど、さまざまな変化に応じた影響を調べるのに役立ちます。製造物の設計・開発段階において、多品種少量生産となる製造物の試作用金型を何度も作り直すことなく、仮想空間に再現した試作品を使ってシミュレーションするといった用途にも向きます。また、海外の部品調達先が新型コロナウイルス感染症の影響で事業停止に追い込まれたなどの場合、他社から調達した代替部品で製品の品質をこれまで同様に維持できるのかなどを調べることもできます。

デジタルツインによるシミュレーション環境を構築するには、一般的にIoTなどを使って集めたデータを収集、蓄積する機能、生産設備などを3Dモデルで再現するモデリングツール、強度や伝熱、流体などを調べる解析ツールを備えるクラウドサービスを利用します。

シーメンスやゼネラル・エレクトリック、日立製作所などがIoT向けのクラウドサービスに解析ツールなどを実装し、デジタルツイン向けのクラウドサービスとして提供しています。デジタルツイン向けのクラウドサービスを提供するベンダーは、一般的にどうモデリングするのか、どう解析するのかなど、ユーザー企業が戸惑う取り組みを支援するサービスやメニューを用意しています。デジタルツインは現状、導入事例が必ずしも多くないことから、ベンダーに事前相談するのはもちろん、導入ノウハウや支援サービスを活用するのが現実的です。

また、導入に当たっては、価格が高いハードルとなります。デジタルツイン用のクラウドサービスの場合、データ量や接続時間に応じた従量課金を採用するケースが一般的です。生産設備の稼働状況を計測するデータの容量は必ずしも大きくありませんが、ほぼリアルタイムにデータを収集したり、カメラを使った映像データを扱ったりする場合、データ量の増加に伴って利用料が高額になりかねないので注意が必要です。

解析ツールの価格にも気を付けます。解析ツールは数十万円のものから、高度なシミュレーションを実施できる数千万円超のものまでさまざまです。何を解析するのか、どのくらいのデータ量や頻度で解析するのかを事前に想定し、必要な解析ツールを絞り込むことが大切です。前述のクラウドサービスを提供するベンダーに、どんな解析が可能なのかを事前に確認しておくのも手です。

5 デジタルツインを支えるMRと5G

1)製造現場に仮想空間を持ち込めるMR

仮想空間に再現した生産設備などの稼働状況を確認しやすくするテクノロジーとして注目されているのが「MR(複合現実)」です。実際にはないものがあたかも目の前にあるかのように再現されます。AR(拡張現実)やVR(仮想現実)よりも、ものの形状や配置を正確に再現するのが特徴です。

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例えば、今後納入予定の工作機械を従業員の目の前にあるかのように配置し、実際に工作機械がない場所で事前トレーニングを実施するといった用途に向きます。経験豊富な保守点検要員が、遠隔地から現場の従業員に業務内容を指示するという使い方も考えられます。

デジタルツインとMRを連携させる取り組みも模索され始めています。仮想空間の生産設備を用いたシミュレーション結果を、従業員が専用ゴーグルを使って作業しながら確認できるようにする利用シーンが想定されています。専用ゴーグルの高画質化、小型軽量化によって長時間装着しても疲れにくい製品が登場しており、従業員の作業負担を軽減できるようにもなっています。

2)データ収集の遅延を解消する5G

製造現場と仮想空間とのデータのやり取りを低遅延で行えるようにする「5G」も注目すべきテクノロジーです。デジタルツインは最新の稼働状況に基づくシミュレーションを想定するため、「超高速」「多数同時接続」「超低遅延」といった特徴を持つ5Gは、データをほぼリアルタイムにやり取りするデジタルツインに向く通信方式といえます。

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例えば、5Gを使える通信網を工場内に整備し、ロボットなどの生産設備の振動や異音などをほぼリアルタイムに収集できるようにし、分析結果からロボットの故障時期を高い確度で予測するといった用途が見込めます。

もっとも、データ伝送に用いる通信方式には幾つかの種類があり、データの伝送速度、無線の通信距離、消費電力などを加味して最適なものを選ぶことが大切です。汎用性が高いが電波干渉を受けやすいWi-Fi、低速だが短距離通信に向くBluetooth、同じく低速だが低消費電力という特性を持つZigBeeなど、5G以外の通信方式にも目を向け検討するようにしましょう。

以上(2021年2月)

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【朝礼】「自分はツイている」と思ったほうがいい3つの理由

皆さんは自分のことを、「ツイている」と思いますか、それとも「ツイていない」と思っていますか。私は、自分が幸運に恵まれ、「持っている」人間だと思っています。正確に言うと、そう思うようにしています。

宝くじの1等が当たりでもしない限り、自分がツイていると実感できないかもしれません。ですが、「自分はツイている」と思ったほうが得だから、そう思っているのです。特に今のような逆風のときほど、「ツイている」と思っている人の価値は高まるものです。その理由は後ほど話します。

もし「世の中は思い通りにならないことばかりで、自分がツイているとは思えない」と感じている人がいたら、その人は、物事の捉え方を変えてみるべきです。例えば、コロナ禍で業績が下がって「ツイていない」と思うのは簡単です。それを、「それでも会社は存続し、仕事ができるのは運がいい」「コロナ禍で世の中が変化して、自分たちも変われるチャンスをもらった」という考えに改めてみませんか。そうすれば、「もう少し頑張ってみよう」という気持ちになりやすいでしょう。

このように、前向きになれるということが、自分が幸運だと思ったほうがいい1つ目の理由です。そして、なんとか頑張ってこの危機を乗り越えたときに、「やはり自分はツイている。自分の運を信じていれば大丈夫だ」と思えるようになれますし、そうなると、その後はもっと自分を信じて頑張れるという、好循環が生まれます。

例えば、明治から昭和初期にかけて日銀総裁や総理大臣、大蔵大臣を歴任した高橋是清は、10代前半に米国で奴隷として扱われたり、30代半ばでペルーの銀山開発などの失敗で全財産を失ったりしています。そんな不幸に見舞われた是清ですが、子供の頃から「自分は運がいい」と思い込むほど、生来の楽天家だったので、失敗をして窮地に陥っても努力できたと語っています。

自分がツイていると思ったほうがいい2つ目の理由は、自分を見失わないということです。人は何かに成功すると、「全て自分の実力だ」と有頂天になり、周囲が見えなくなってしまいがちです。「成功したのは、運が味方したからだ。油断していると風向きが変わって、今度は失敗してしまうかもしれない」と気を緩めずにいれば、その後も努力を怠ることはないでしょう。

3つ目の理由は、幸運だと思われている人の周りには、人が集まってくるということです。誰しも、「自分はツイていない」と暗い顔をしてうつむく人よりも、自信にあふれた明るい表情の人と一緒に働きたいと思うものです。日露戦争の日本海海戦でバルチック艦隊を破った東郷平八郎は、「運のいい男だから」という理由で連合艦隊の司令長官に抜てきされたといわれています。

今のような、先行きが不透明なときほど、「自分はツイている」と思っている人を心強く感じるものです。今日から、物事の捉え方を前向きに変えてみましょう。

以上(2021年2月)

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画像:Mariko Mitsuda

役員が病欠!? いざという時に困らない会社法の手続き

書いてあること

  • 主な読者:役員の病欠など定例化されていない会社法の手続きを知っておきたい経営者
  • 課題:会社法の手続きは複雑で、何をすべきか分からない
  • 解決策:機関設計ごとの役員の人数、役員の任期など確認すべきポイントを知る

1 会社法上の手続きは定時株主総会だけではない

会社経営において、会社法上の手続きは「例年同様に、定時株主総会を開催する」といったルーティン化されているものが少なくありません。そのため、通常業務では、会社法を意識することは多くないでしょう。

しかし、会社法にはさまざまな定めがあります。役員が病気になったときなど、通常と少しでも違うことが起こったときは会社法を確認して、正しい手続きを取ることが必要です。そうしないと、それが後にトラブルの種となり、会社経営に大きな影響を及ぼしかねないからです。

会社法の手続きは、会社の機関設計などによって異なります。本稿では、中小企業に多く見られる「取締役会+監査役」、かつ全ての株式を譲渡制限株式としている会社(非公開会社)を前提に、原則的な各種手続きなどを紹介していきます。

2 役員が病気になったり、死亡してしまったりした場合

1)すぐに役員を変更・選任する必要はない

役員(取締役・監査役)が病気で長期間実務に携わることができなくなったり、事故で不幸にも死亡してしまったりした場合、その役員(以下「対象役員」)に代わる人を、必ずしもすぐに選任する必要はありません。

まず、会社法と定款で決められている「役員の最低人数」を確認しましょう。会社法では、機関設計などによって役員の最低人数を定めています。「取締役会+監査役」の場合、取締役は最低3人、監査役は最低1人です(会社法第331条第5項、第335条第3項の反対解釈)。

また、役員の定員は、会社法の定めの範囲内であれば、定款で別の定め方ができます。例えば「最低人数を会社法より多くする」「最大人数を決める」などですが、仮に定款で取締役を「5人以上」と定めている場合、実際にその人数を下回らないようにしなければなりません。

以上を確認し、役員の最低人数を下回ることになった場合は、新たな役員を選任しなければなりません。

また、対象役員が長期間実務に携わることができない場合、実際の経営上の問題はさておき、会社法上は、対象役員がその地位にある限り、必ずしも法的問題とはなりません。会社法では、役員の欠格事由を定めていますが、これは成年被後見人もしくは被保佐人や、一定の法令に反して刑に処された場合などであり、実務に携わることができるか否かは問われていません(会社法第331条、第335条第1項)。

2)取締役や監査役の選任

取締役や監査役の選任には株主総会の普通決議が必要です。普通決議とは、株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行う決議です(定款で別の定めをすることができます。会社法第341条、会社法第309条第1項)。株主総会の開催は、以降で紹介する事項でも必要になりますが、手続きの概要は後述します。

その他、頻繁に利用されている制度ではありませんが、会社法上、株主総会決議によって事前に補欠の取締役や監査役を選任しておくこともできます(会社法第329条第3項)。取締役が欠けたとき、速やかに臨時株主総会を開催しなければならない手間を考えれば、取締役を多めに選任しておくか、この補欠を定めておくということも一考に値します。

3)対象役員が代表取締役の場合

取締役会を設置している場合、代表取締役を1人以上選任しなければなりません(会社法第362条第3項)。代表取締役は1人でも複数人でもよいため、対象役員が唯一の代表取締役であり、その人が死亡してしまった場合は、取締役の中から代表取締役を新たに選任しなければなりません。

また、対象役員が長期間実務に携わることができなくなった場合でも、前述した役員の場合と同様、会社法上は、対象役員がその地位にある限り、法的には必ずしも問題ではありません。なお、代表取締役の選任は取締役会の決議が必要です。

3 役員の任期を伸長(短縮)する場合

会社法施行前、株式会社の取締役の任期は2年、監査役の任期は4年とされていました。会社法施行後(2006年5月)も、原則は変わっていませんが(会社法第332条第1項、第336条第1項)、非公開会社の場合、定款に定めることで取締役・監査役ともに最長10年まで任期を伸長することができます(会社法第332条第2項、第336条第2項)。小規模なオーナー会社などでは、長期間、役員を続けるケースが少なくありません。こうした場合、任期を伸長することで役員の選任(重任)手続き、登記費用などの負担を軽減できます。

役員の任期を伸長する場合は、その旨を定款に定める必要があります。定款を変更する場合は、株主総会における特別決議が必要です(会社法第466条、会社法第309条第2項第11号)。特別決議とは、株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う決議をいいます(定款で別の定めをすることができます。会社法第309条第2項)。

なお、同様の手続きで、役員の任期を短縮することもできます。ただし、取締役は2年を下回る任期にすることができますが、監査役は4年を下回る任期にすることはできません(取締役については会社法第332条第1項但書があるが、監査役については会社法第336条第1項には同様の但書がない)。

4 本店を移転する場合

会社の本店の所在地は定款に定める必要があります(会社法第27条第3号)。実務上、本店所在地に実質的な本社機能があるとは限らず、創業の地を本店所在地にしておき、実質的な本社機能は別の支店に存在するという場合も少なくありません。

いずれにしても、本店の移転に伴って、定款を変更する必要があるか否かは、本店の所在地の記載方法によって変わります。一般的に、本店の所在地は次のいずれかで定められています。

  • 最小行政区画まで:東京都中央区
  • 番地や建物名まで:東京都中央区○○町○○丁目○番○号 ○○ビルディング

定款に定めている事項を変更する場合、定款変更の手続き(株主総会における特別決議)が必要です。上記の例では、東京都中央区から東京都渋谷区に移転する場合、いずれの場合も定款の変更が必要です。一方、東京都中央区の中で移転する場合、最小行政区画までしか決めていない場合は定款の変更が不要です。

なお、以上は定款での本店所在地の定め方についてであって、法人登記に記載する「本店」については、建物名は必須でないものの、番地等まで記載する必要があります。

5 譲渡制限株式について譲渡承認請求があった場合

中小企業では、全株式を譲渡制限株式とし、非公開会社としているケースが多く見られます。この場合、株主が株式を譲渡するためには、会社の承認が必要です。まず、譲渡を希望する株主または譲受人(以下「請求者」)が、会社に譲渡承認を請求します(会社法第136条、第137条)。会社は、この請求について取締役会で承認するか否かを決定し(会社法第139条)、請求者に、2週間以内に当該決定の内容を通知します(会社法第139条第2項、第145条第1号。譲渡後株主の名義変更の手続きなどがありますが、本稿では省略します)。

もし、2週間以内に通知をしなかったときは、会社が譲渡を承認したものと見なされます(会社法第145条第1号)。

なお、会社が譲渡を承認しない場合、請求者はその株式について会社または指定買取人による買取りを請求することができます(会社法第140条)。この場合の手続きは次の通りです。

1.会社が株式を買取る場合

株式の買取りを行う旨や買取株式数について、株主総会の特別決議が必要となります(会社法第140条第2項、第309条第2項第1号)。その後会社は、株主総会で決議した事項を、請求者に対して通知しなければなりません(会社法第141条第1項)。

2.指定買取人が買取る場合

指定買取人の指定は取締役会で行うことができます(会社法第140条第5項)。その後、指定買取人が請求者に対して、指定買取人として指定を受けた旨や買取株式数などを通知しなければなりません(会社法第142条第1項)。

6 機関設計を変更する場合

機関設計の変更は、会社が成長してガバナンス強化を図る必要がある場合などに行われます。ただし、こうした目的以外にも、取締役会の最低人数(3人)を維持できないなど会社の課題を解消するために機関設計を変更する場合があります。非公開会社であれば「取締役会+監査役」から「取締役のみ」に変更します(「取締役のみ」は非公開会社だけに認められています)。

また、会社法施行前は、株式会社では取締役会の設置が必須であり、最低3人の取締役が必要とされていました。このため、事実上経営に関与しない経営者の親族や知人などを便宜上、取締役とするケースが見られました。現在も当時のままで、こうした取締役がいる会社もあるようです。この場合、経営実態に合った形に機関設計を変更することも考えられるでしょう。

機関設計は、「取締役のみ」とする場合以外は、定款に定めなければなりません。従って、本稿で例示している「取締役会+監査役」の会社が機関設計を変更する場合は、定款を変更しなければなりません。定款を変更する場合は、株主総会における特別決議が必要となります(会社法第466条、会社法第309条第2項第11号)。

7 臨時株主総会の開催手続き

本稿で紹介した多くのケースで必要となるのが株主総会での決議です。決算後3カ月以内に開催する定時株主総会に合わせて決議をすることもできますが、急を要する場合は、臨時株主総会を開催する必要があります。

毎年、開催している定時株主総会では実務的な問題は少ないと思われるので、ここでは臨時株主総会開催の基本的な手続きを紹介します。なお、会社法では一定の要件を満たす場合、手続きの省略などが認められています。また、定款の定めによっても、手続きが変わる場合もありますが、ここでは原則的な内容とします。

臨時株主総会開催の基本的な手続き(取締役会設置会社・非公開会社の場合)は次の通りです。

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臨時株主総会開催の手続きは、基本的には定時株主総会と同じです。ただし、定時株主総会と違って注意が必要なのは「基準日公告」です。定時株主総会の基準日は、定款で事業年度末(3月31日)などと定めていることが一般的です。そのため、基準日公告は不要になります。

一方、臨時株主総会の場合は、定款の定めとは別に、取締役会で基準日などを決めた上で公告を行う必要があります。

また、これは定時株主総会も同じですが、取締役会設置会社の場合は、取締役会で決定した議題(株主総会の目的事項)以外は、株主総会では決議することができません(会社法第309条第5項)。そのため、取締役会で議題の決定漏れがないように注意する必要があります。

以上(2021年2月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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