被災時に、通常とは異なる税務上の取り扱いはありますか?/中小企業のためのBCP

Q.被災時に、通常とは異なる税務上の取り扱いはありますか?

A.被災した資産の損失や、原状回復のための費用など、災害を理由に生じた損失や費用の中には、それぞれが生じたときに一括で損金処理することができるものがあります。

1 災害により資産が滅失・損壊した場合の損失

商品、店舗、事務所などの資産が災害により被害を受けたことで、次のような損失・費用が生じたときは、その損失・費用の額は損金処理することができます。

  • 商品や原材料などの棚卸資産、店舗や事務所などの固定資産などの資産が災害により滅失、または損壊した場合の損失の額
  • 損壊した資産の取り壊し、または除去のための費用の額
  • 土砂その他の障害物の除去のための費用の額

2 復旧のために支出する費用

被災した固定資産(以下「被災資産」)について、支出する費用に係る「資本的支出」(原状回復を超えて資産価値を高めるため、固定資産として計上しなければならない支出)と修繕費(損金処理することができる支出)の区分については、次の通りです。

  • 被災資産について、原状回復のために支出する費用は修繕費となる
  • 被災前の効用維持のために行う補強工事費用について、修繕費とする経理をしているときは、税務上もこの処理が認められる
  • 被災資産について支出する費用(上記1.と2.に該当するものを除く)の額のうち、資本的支出か修繕費か明らかでないものがある場合、その金額の30%相当額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、税務上もこの処理が認められる

3 社員などに支給する災害見舞金

災害により被害を受けた社員やその親族などに対して、一定の基準に従って支給する災害見舞金については、福利厚生費として損金処理できます。

4 災害損失欠損金の繰戻し還付

災害が発生した事業年度の欠損金(税務上の利益がマイナスであること)のうち、棚卸資産、固定資産、繰延資産に対して生じた損失(その災害が原因のものに限る)の額を災害損失欠損金といいます。この災害損失欠損金については繰戻し還付という制度を受けることができます。これは、災害が発生した事業年度の前事業年度(青色申告の場合、前々事業年度も対象)に生じた所得について法人税の納税を行っている場合、その納税額のうち災害損失欠損金の範囲内で、還付を請求できるという制度です。

以上(2020年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之、税理士 中川昌紀、CFP(日本FP協会認定) 辻野顕子)

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画像:Maslakhatul Khasanah-Shutterstock

災害時の財務対策として、最初に何を考えるべきですか?/中小企業のためのBCP

Q.災害時の財務対策として、最初に何を考えるべきですか?

A.災害により事業がストップした場合、事業再開までに必要な資金はいくらかを把握し、その資金はどうやって充当・調達するのかを事前にまとめておく必要があります。

1 事業再開のために必要な資金の把握

財務対策は、被災直後に表立った問題となりにくいため、後回しにされがちな災害対策です。しかし、防災や減災に対する具体的な対策は取っていても、いざ災害が起きると想定外の被害が生じ、復旧費用などで資金繰りが急速に悪化する恐れもあります。

また、災害により事業がストップした場合も、人件費などの支払いはしなくてはなりません。こうした場合、復旧過程においては資金が必要になります。

一般的に、緊急時において、月商(月の売上高)の1カ月分を目安に準備しておくとよいといわれていますが、実際は業種や資産の所有状況など、会社ごとの事情や災害規模によって異なります。今、会社が被災し、事業がストップした場合、再開までに必要な資金(事業がストップした場合の運転資金(キャッシュフロー)と復旧に必要な資金)はいくらかを、正確に把握しておかなければなりません。

例えば、中小企業庁「中小企業 BCP策定運用指針」の財務診断モデルでは、必要事項を入力することで、災害時におけるキャッシュフローや復旧費用が予測できます。

2 事前に確認したい4つの資金

1.自己資金(現金預金)

定期預金などのように、払い戻しに一定の手続きが必要なものは別途把握しておきましょう。また、小口現金の紙幣が被災により破れたり、燃えたりした場合、損傷状況によって価値が全額、半額、失効の3パターンに分かれます。業種などにもよりますが、現金の保有は少額に抑えるのが無難です。

2.受取保険金

加入している保険が、どのような被災状況時に活用でき、どの程度の期間で保険金が支払われるのかを把握しておきましょう。

3.有価証券などの資産売却による資金

決算期だけでなく定期的に時価を把握し、どの程度の資金になるのかを把握しておきましょう。また、売却手続きや、売却時に考慮しなければならない特有の背景などもまとめておきましょう。

4.金融機関などからの調達資金

災害時などに利用できる、(政府系)金融機関や信用保証協会の制度があります。事前に融資条件や手続きを把握しておきましょう。また、オーナーは経営者個人からの借入も考えられます。

以上(2020年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之、税理士 中川昌紀、CFP(日本FP協会認定) 辻野顕子)

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【座談会】建物の損壊や商品の損傷……復旧に必要な資金を把握していますか?/中小企業のためのBCP

――災害時に起こりがちな税務・財務上の問題について教えてください。

税理士A
まず想定されるのは、オフィスなどの建物の損壊、商品や車両の水没や損傷といった会社が保有する資産の被害です。被災直後には損壊度合いがそれほどひどくないように感じられても、その後の余震などにより損壊する危険性があるとして、行政から建物への立ち入りを禁止されることもあります。こうした場合、営業や操業自体が完全にストップしてしまいかねません。

税理士B
他には、人に関する問題もあります。例えば、社員の住居が損壊したり、浸水したりした場合、出勤どころではないでしょう。社員がいなければ、通常の営業活動ができず、会社に大きな影響を与えます。

会社によっては、被災した社員に日常の生活を少しでも早く取り戻してもらえるよう、災害見舞金を支給するケースも出てくるでしょう。

――資産が被害を受けた場合、会社が早期に復旧するためには、日ごろからどのような準備をしておくべきですか?

税理士A
災害の規模や被災状況によって異なるため一概にはいえませんが、まず被災した場合に必要となる資金を把握しておくことは必須です。BCPを策定する際も、最悪のケースまでを想定しておかなければならないでしょう。

例えば、オフィスなどの建物の被害は、取り壊して建て直す場合が、最も資金が必要になるケースだと思います。その他の資産(商品や固定資産など)についても新品を購入した場合、いくら必要なのかを把握することが、対策を講じる上での1つの基準になります。

また、外部の資金調達先について、災害時に受けられる融資の条件や手続きを事前にまとめておくなど、被災時の混乱の中でも、できる限りスムーズに融資を受けられるように準備をしておくことはとても大切です。

――災害見舞金の支給に当たって、注意すべきことはありますか?

税理士B
会社としては、建物などの資産の修繕や、流通網などの原状回復に資金が必要になるため、社員に災害見舞金を支給するケースは、あくまで余裕があればの話になります。

災害見舞金は支払った会社側で損金処理することができますし、受け取った社員側にも源泉所得税は課されません。

ただし、災害見舞金を支給する際は、被害を受けた社員に一律に、一定の基準に従って支払う必要があります。特定の社員だけに支給した場合には、給与などの扱いを受ける恐れがあるからです。

なお、こうした基準を設けるに当たっては、災害見舞金規程などを事前に作成しておくのが理想ですが、被災後に作成した場合でも税務上の問題はありません。

――BCPや災害対策に本気で取り組もうとしている経営者に対して、アドバイスをお願いします。

税理士A
まずは、1カ月でどのくらいの資金が必要なのかを正確に把握しておくことが大切です。損益計算書の損益だけでなく、キャッシュフロー計算書を作成し、資金状況を月次ベースで把握するのです。その数値を経営者だけでなく、役員などとも共有します。

また、保険に加入している場合は、保険の内容を整理して、被災したときにどの程度の保険金がもらえるのかも確認しておきましょう。

実際に被災したときには、現場は混乱し、また、資料の紛失なども起こり得ます。税務・財務に限ったことではなく、どれだけ事前に準備をしているかが、その後の事業継続に大きな影響を及ぼすことを認識しておきましょう。

以上(2020年4月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之、税理士 中川昌紀、CFP(日本FP協会認定) 辻野顕子)

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画像:Maslakhatul Khasanah-Shutterstock

休業手当を支払うのはどのようなケースですか?/中小企業のためのBCP

Q.休業手当を支払うのはどのようなケースですか?

A.使用者の責に帰すべき事由により休業する場合、休業手当の支払いが必要です。一方、休業が不可抗力によるものと認められる場合、休業手当の支払いは不要です。

1 「使用者の責に帰すべき事由」の考え方

使用者の責に帰すべき事由により休業する場合、会社は休業期間中、社員に平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければなりません。使用者の責に帰すべき事由には、会社の故意・過失による場合はもちろん、不可抗力を主張し得ない全ての場合が含まれます。

休業が不可抗力によるものと認められれば、休業手当の支払いは不要ですが、そのためには次の2つの要件を満たす必要があります。

  • 休業の原因が外部により発生した事故であること
  • 事業主が通常の経営者として、最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること

例えば、オフィスが損壊して事業を行えない、防災気象情報が出ていて、安全のために社員を自宅待機させる必要があるなどの理由で休業する場合、休業手当の支払いは不要となる可能性が高いです。

一方、オフィスに直接的な被害はないが、道路が損壊し資材が届かないなどの理由で操業できずに休業する場合、判断が分かれます。日ごろの備蓄管理の状況、他の調達手段の可能性、災害発生からの期間などによって、休業手当の支払いが必要になる可能性があります。

2 休業手当の負担軽減に役立つ助成金など

1.雇用調整助成金

事業を行えない状態で休業手当を支払うのは、会社にとって負担です。こうした場合、「雇用調整助成金」が役立ちます。

雇用調整助成金は、経済上の理由(停電の影響で営業ができない、新型ウイルスによる感染症の影響で客数が減ったなど)により休業する会社などが受給できます。また、大きな災害などの場合、助成率の引き上げなどの特例措置が実施されることがあります。

2.雇用保険の基本手当

不可抗力による休業の場合、休業手当の支払いは不要です。しかし、給与も休業手当も支払われない状態が続くと、今度は社員の生活が心配です。こうした場合、「雇用保険の基本手当」が役立ちます。

基本手当は会社を離職した社員が受給するものですが、大きな災害の場合、実際に離職していない社員も受給できる可能性があります。後に雇用する約束をして社員を一時離職させる場合も同様です。

雇用調整助成金や雇用保険の基本手当は、災害の状況などによって受給額や受給手続きが変更されることがあります。詳細については、最寄りの労働局やハローワークに確認してください。

以上(2020年4月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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二次災害を防ぐため、社員を自宅待機させることはできますか?/中小企業のためのBCP

Q.二次災害を防ぐため、社員を自宅待機させることはできますか?

A.会社は、社員を自宅待機させることができます。ただし、給与(または休業手当)の支払いについてはケースにより異なります。

1 自宅待機を命じる主な方法は「休業」「休暇」

地震などの場合、建物の損壊などの一次災害が収まったからといってむやみに出歩くと、落下物による負傷などの二次災害に遭う恐れがあります。こうした場合、会社は二次災害を防ぐため、社員に自宅待機させることがあります。主な方法は、会社が休業を命じる方法と、社員が休暇を取得する方法の2種類です。

二次災害の恐れがある場合、会社は強制的に事業をストップしたり、通勤に危険が伴う社員に対し出勤しないよう指示したりするなど、休業を命じて自宅待機させることができます。こうした場合、仮に社員が出勤したいと言っても、会社は自宅待機を命じることができます。なお、自宅待機を命じる場合、休業手当の支払いが必要になることがあります。

社員に休暇を取得させて自宅待機させる場合、就業規則等に基づき、社員に休暇を申請してもらうことになります。休暇は本来、社員が自身の希望に基づいて取得するものなので、休暇を取得するよう社員に強制することはできません。

つまり、会社は社員に対し、休暇の取得を勧めることはできますが、社員がこれを拒んだからといって、懲戒処分など不利益な取り扱いをすることはできません。

なお、社員が休暇を取得して自宅待機する場合、会社がその間の給与を支払う義務があるかは、休暇の種類によって異なります。年次有給休暇の場合、自宅待機中の給与を支払う必要があります。一方、就業規則等で、災害時や病気療養時に付与する特別休暇を設けていて、その間は無給とする規定がある場合、給与を支払う必要はありません。ただし、年次有給休暇と特別休暇の両方を取得できる場合、どちらを取得するかは社員の希望によります。

2 オフィスでの待機命令と就業時間の関係

就業時間中に災害が起きた場合、会社としては、危険が取り除かれるまで、社員をオフィスで待機させることを考えるでしょう。ただし、その待機命令が必ず認められるとは限りません。

社員は労働契約に基づき、就業時間中は会社の命令に従う義務を負っているので、就業時間中であればオフィスで待機するよう命じても問題ありません。一方、就業時間外の行動については、原則として会社が介入することができません。従って、危険があるからといって、終業後もオフィスにとどまるよう命じることはできません。

では、社員に「オフィスにとどまるように要請する場合」はどうでしょうか? 会社としては、社員の安全を確保したいという思いがあります。しかし、災害時、社員は親族や住居が心配で、一刻も早く帰宅したいと考えます。難しいところですが、オフィスでの待機要請にそれほどの強制力はないと考えるべきでしょう。

以上(2020年4月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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復旧活動などのため、社員に時間外労働を命じることはできますか?/中小企業のためのBCP

Q.復旧活動などのため、社員に時間外労働を命じることはできますか?

A.復旧活動などに必要な範囲で、時間外労働や休日労働を命じることができます。

1 災害時と平常時の時間外労働等の違い

被災したオフィスの復旧など、臨時の必要がある場合、会社は労働基準法第33条に基づき、復旧活動などに必要な範囲で、社員に時間外労働や休日労働(以下「時間外労働等」)を命じることができます。これを「災害時の時間外労働等」といいます。

社員が災害時の時間外労働等を行った場合、「36協定」(労働基準法第36条に基づく労使協定)による平常時の時間外労働等と同様、法定以上の割増賃金の支払いが必要です。一方、災害時は平常時の場合と異なる点があります。

例えば、平常時の時間外労働等は、36協定で定めた時間数や労働基準法の上限を超えて命じることはできませんが、災害時の時間外労働等には時間数の上限がありません。また、災害時の時間外労働等は、18歳未満の年少者や派遣社員にも命じることができます(妊産婦については、本人が請求した場合、不可)。

災害時の時間外労働等を社員に命じるには、事前に「非常災害等の理由による労働時間延長・休日労働許可申請書」という書面を所轄労働基準監督署に提出し、許可を得る必要があります。

ただし、事態が急迫していて事前に許可を受ける時間がない場合は、事後の届け出でも問題ありません。

災害時の時間外労働等の許可基準は概ね次の通りです。

  • 経営上の必要は認めない(単なる業務の繁忙など)
  • 人命または公益を保護するための必要は認める(電気、ガス、水道などの修理、安全な道路交通の確保、大規模なリコール対応など)
  • 突発的な機械・設備の故障の修理、保安やシステム障害の復旧は認める(サーバーへの攻撃によるシステムダウンへの対応など)
  • 上記2.と3.については、他の事業場からの協力要請への対応を含む(人命または公益の確保のために必要な場合、協力要請に応じないことで事業運営が不可能となる場合など)

この他、災害発生から相当の期間が経過した場合も、許可されないことがあります。

2 災害時の時間外労働等を命じる際の注意点

災害時は、仕事や生活の変化による疲労の蓄積などから、平常時よりも過重労働が発生しやすくなります。仮に、過重労働が原因で社員が健康障害を発症すると、安全配慮義務違反を問われることがあります。

また、災害によって社員の親族が負傷したり、社員の住居が損壊したりしている場合もあります。こうした事情を考慮せずに時間外労働等を命じると、後々社員とトラブルになる恐れがあります。

そのため、事前に社員の疲労や親族、住居の状態についてヒアリングするなど、慎重な対応が必要になります。

以上(2020年4月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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災害で社員が負傷したら、労災になりますか?/中小企業のためのBCP

Q.災害で社員が負傷したら、労災になりますか?

A.業務中や通勤途中の災害による負傷は、労災として認定されやすい傾向にあります。

1 災害による負傷などが労災になる場合

労災は、業務上の事由による「業務災害」と、通勤による「通勤災害」とがあります。災害は業務とは関係なく発生するので、災害による負傷が業務上の事由に当たるのか、疑問に思うかもしれません。

実際は、業務中や通勤途中の災害による負傷は、労災として認定されやすい傾向にあります。オフィスや通勤経路に被災しやすい事情(建物や道路の構造上の脆弱性など)があって、その危険が災害によって現実化したものと考えられるからです(下図を参照)。

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2 労災が会社の責任になる場合

会社は、社員が安全で健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」を負います。この配慮が不十分なために労災が発生した場合、社員から損害賠償などを求められる恐れがあります。

例えば、オフィスの什器の固定が不十分で、地震によってその什器が倒れてきたために社員が負傷した場合(業務災害)、安全配慮義務違反を問われる恐れがあります。

また、防災気象情報が出ているなど、危険がある状態にもかかわらず、会社が出勤を命じたために社員が被災した場合(通勤災害)も同様です。 オフィスなどの設備点検はもちろん、被災の危険がある場合には、社員に自宅待機を命じるなど適切な対応をしないと、単なる労災では済まなくなってしまうでしょう。

なお、業務の内容にもよりますが、災害時に在宅勤務を命じることができる体制を整えておくことで、社員の安全を確保しつつ業務への影響を抑えることができます。

以上(2020年4月)
(監修 社会保険労務士 志賀碧)

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【座談会】休業の取り扱いや給与の支払いなど、災害時のルールを把握していますか?/中小企業のためのBCP

――災害時に起こりがちな労務上の問題について教えてください。

社会保険労務士
まず想定されるのは、休業です。休業というと、「オフィスなどが損壊したため、事業をストップする」といったイメージが強いかもしれません。

しかし実際は、二次災害を防ぐため、社員を自宅待機させる休業もあります。「どのような場合に休業するのか」が曖昧な状態で、社員が通勤中などに被災してしまった場合、会社が責任を問われる恐れがあります。

弁護士
給与の支払いについても注意が必要です。大規模な災害の場合、一時的に預金の引き出しなどができなくなるかもしれません。そうなると、生活費や治療費に充てるため、社員が給与の前払いを請求してくることも考えられます。

――休業するかどうかは、何を基準に判断すればよいですか? また、その他に休業について注意すべきことはありますか?

社会保険労務士
休業するかどうかを迷った場合、気象庁の防災気象情報などを1つの判断基準とするとよいでしょう。

休業を社員に伝えるタイミングも大切です。例えば、鉄道会社の中には、計画運休の可能性を48時間前に知らせ、運休内容の詳細を24時間前に発表しているところがあります。これを参考にするのもよいでしょう。いずれにせよ、できるだけ早く社員に休業を伝えることが大切です。

休業の理由によっては、休業手当の支払いが必要になるケースがあることも押さえておきましょう。なお、災害時は、休業手当の支払いに充てることのできる助成金があるので、積極的に活用することをお勧めします。

――給与の支払いを通常通りに行えない場合、会社はどのような対応を取ればよいですか?

弁護士
災害時、社員が治療などのために給与の前払いを請求してきた場合、支払期日前であっても、すでに働いた時間分については支払わなければなりません。口座振込を行うのが難しい状態であれば、給与の支払い方法を一時的に手渡しに切り替えます。

社員本人と連絡が取れない間に、親族が給与の支払いを請求してくることも考えられます。本来、給与は社員本人に支払わなければなりませんが、緊急性が高ければ、親族の身分を確認し、領収書を発行した上で支払うなどの対応を検討します。なお、退職金の場合、支払額が高額になるため、社員が「失踪宣告」(生死不明の者を、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度)を受けているのかを確認するなど、より慎重な対応が必要です。

――BCPや災害対策に本気で取り組もうとしている経営者に対して、アドバイスをお願いします。

社会保険労務士
会社にとって最も大切なのは社員です。まずは社員を守ることを最優先に考えてください。いわゆる「労災」や助成金などは、手続きが煩雑なイメージがあるかもしれませんが、災害時は手続きが簡略化されるなど、行政側もある程度柔軟な対応をしてくれます。「忙しくて、そんな暇はない!」と手続きを後回しにせず、できるだけ早く行動を起こすことが、社員や会社を救うことにつながります。

事前の備えも大切です。休業に関するルールなどの他、オフィスの設備などについても対策を立てておきましょう。例えば、什器の固定が甘く、それが倒れてきて社員が被災した場合、会社が責任を問われる恐れがあります。また、災害ではありませんが、昨今は感染症のリスクも指摘されており、社内に感染症がまん延しないよう対応することが求められています。従って、日ごろから定期的に設備を点検する、オフィスを清潔に保つなど、安全衛生管理をしっかりと行う必要があるでしょう。

以上(2020年4月)
(監修 弁護士 田島直明、弁護士 坂東利国、社会保険労務士 志賀碧)

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自社(取引先)が営業できない。どのようなリスクがありますか?/中小企業のためのBCP法務

Q.自社(取引先)が営業できない。どのようなリスクがありますか?

A.災害前に発注した商品や業務の受け入れについては、取引先とよく協議をすることが必要です。

1 自社が営業できなくなった場合

工場が被災した、社員が出勤できないなどの事情により自社が営業できなくなったとしても、災害の規模などによっては、取引先は営業を継続している可能性があります。

例えば、自社が災害前に発注していた商品を、取引先が納品しに来た場合、保管場所がない、社員がいないため対応できないなどの理由で受領を拒絶すると、法的には受領遅滞という状態になり、次のような不利益が生じます(これは商品の納品に限らず、何らかのサービスや業務の提供を受けようとする場合も同様です)。

まず、取引先がやむを得ず持ち帰った商品を保管するために新たに発生した費用、例えば倉庫代などは自社の負担になります。また、取引先が商品を持ち帰った後、新たな災害や余震など取引先に帰責性がない事象で商品が滅失しても、自社が商品代金の支払い義務を免れない恐れがあります。こうした受領拒絶の効果は、解釈上の争いはあるものの、商品の受領を拒絶した理由が災害を原因としたやむを得ないものであっても、認められることがあります。

従って、たとえ自社が営業できなくなったとしても、可能な限り取引先からの納品を受け入れることが望ましいといえます。しかし、納品された商品を営業再開後に利用する見込みがある場合はともかく、被災したために発注済みの商品や業務が不要となってしまった場合などは、取引先とよく協議して、双方合意の上で契約を解約するなどの対応を取るのがよいでしょう。

なお、自社が親事業者として下請事業者に対して製造委託をした場合など一部の取引では、下請業者からの納品の受領を拒絶すると、下請代金支払遅延等防止法(下請法)違反となる恐れがあります。

2 取引先が営業できなくなった場合

自社は営業を継続しているものの、取引先が営業できなくなってしまった場合、自社が災害前に発注していた商品が取引先から納品されなかったり、依頼していた業務が提供されなかったりする恐れがあります。

平常時であれば、こうした契約の不履行については、取引先に帰責性があるものとして、損害賠償請求が可能となることが多いと考えられます。しかし、契約の不履行の原因が災害にあり、しかもそれが「不可抗力」として認められる場合には、損害賠償請求が認められないこともあります。

なお、自社が商品の納品などをできる状態にあるにもかかわらず、取引先が被災したことを理由に商品の受領などを拒絶する場合については、前述の「自社が営業できなくなった場合」の解説を参照してください。

以上(2020年4月)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 佐藤文行)

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災害でリース物件が損壊したら、賠償しなければなりませんか?/中小企業のためのBCP

Q.災害でリース物件が損壊したら、賠償しなければなりませんか?

A.リース物件については規定損害金の支払義務が発生します。
また、顧客などからの預かり品などについても損害賠償義務を負う恐れがあります。

1 リース物件が損壊した場合

自動車・コピー機・オフィス内装などを対象とした一般的なリース契約では、災害によってリース物件が損壊した場合、物件利用者が修理費用を負担した上でリース料を支払わなければならないものとされています。

また、リース物件が災害によって滅失し修復不能となった場合でも、物件利用者は規定損害金を支払わなければならないものとされています。

こうした事情を背景に、災害時のリース業者の対応としては、新たに代替品のリース契約を締結して、そのリース料を低額に抑えたり、規定損害金の支払いを長期分割にしたりするなど、物件利用者の実質的負担を軽くすることもあるようです。

もっとも、通常はリース物件に動産保険が掛けられています。念のため、保険の適用の有無を、リース業者に確認してみましょう。

2 顧客などからの預かり品などが損傷した場合

倉庫業者である自社が顧客から物品を預かっている最中、あるいは加工業者である自社が商品の仕掛品を預かっている最中に被災し、預かり品が損傷・滅失してしまったとします。こうした場合、自社は損害賠償義務を負うのでしょうか。

自社が預かり品を保管・管理するに当たって、どの程度注意を払わなければいけないのかは、物品を預かった原因によって異なりますが、多くの場合、自社は「善管注意義務」を負います。善管注意義務とは、自社の業務内容などを踏まえて、取引上一般的に要求される程度の義務をいいます。倉庫業者の例でいえば、「一般的な倉庫業者であれば、このくらいの保管・管理はすべき」というものです。

従って、預かり品を不用意に荷崩れや落下が起きやすい状態で保管していたところ、地震が発生して預かり品が落下し損傷してしまったような場合、たとえ損傷の原因が災害であったとしても、善管注意義務違反として、自社が損害賠償義務を負う恐れがあります。

一方、預かり品を保管していた倉庫が津波で流されて預かり品も一緒に流出してしまったというような場合、どれほど注意を尽くしてもその結果は避けられなかったといえるケースが多いと思われます。よって、通常は損害賠償義務を負うことはありません。

ただし、倉庫の立地などによっては、こうした場合でも損害賠償義務を負う恐れがあります。例えば、他の保管手段もあったのに、津波の危険のある海岸近くの倉庫に預かり品を保管していた場合などが考えられます。

以上(2020年4月)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 佐藤文行)

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