働き方改革関連法 中小企業は何から取り組むべき?

書いてあること

  • 主な読者:働き方改革関連法に適った労務管理に改めたい経営者、労務管理担当者
  • 課題:何から着手すればよいか分からない
  • 解決策:「時季を指定した年休の付与」など5項目から優先して取り組む

1 法律の区分けで見る働き方改革の優先順位

2019年4月1日より働き方改革関連法の施行が始まって、約1年がたちました。時季を指定した年休(年次有給休暇)の付与をはじめ、法改正の内容は多岐にわたりますが、中小企業が優先して注力すべきは、図表1における色付き部分の5項目です。

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中小企業が優先して注力すべき5項目の内容は次の通りです。

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以降では、この5項目に注力するに当たり、実際にどのような取り組みが考えられるのかを、「年休の取得促進」「長時間労働の是正」「同一労働同一賃金の実現」の3つの観点から各企業の事例を交えて紹介します。

事例については、厚生労働省「働き方・休み方改善ポータルサイト」「パート労働者活躍企業好事例バンク」などを参考にしています。

2 年休の取得促進のための取り組み例

1)半日単位年休の取得推進

「半日単位年休」とは、社員が希望し、使用者が同意した場合に、本来1日単位で付与する年休を半日単位で付与する制度です。

半日単位年休を取得した場合、0.5日が時季を指定した年休の付与となる日数(5日)から除かれます。1日単位では年休を取得しにくくても、半日単位なら取得できるという社員は多いかもしれません。

例えば、小売業を営むメディプラス(東京都渋谷区)では、年に4回(正月、盆、ゴールデンウイーク、10月)、1週間に限って1日の勤務時間を6時間とする制度を設けています。半日単位年休の場合、3時間だけ勤務すればよいことになるため、社員は休暇を取得しやすくなります。

また、同社では、正月と盆には「商品券1万円分」を社員に支給し、家族とのレジャーや外食などでの利用を促すことで、家族のために年休を取得したいという社員の気持ちを後押ししています。

2)年休の計画的付与の実施

「計画的付与」とは、企業が年休の取得日を計画的に割り振ることができる制度です。計画的付与の対象は、労働者に付与されている年休のうち5日を超える部分です。また、導入に当たっては、労使協定の締結が必要です。

計画的付与により年休を付与した場合、その日数は、時季を指定した年休の付与の対象となる日数(5日)から除かれます。社員が周囲に遠慮して年休の取得をためらっている場合でも、企業主導で年休を取得させられるというメリットがあります。

例えば、製造業を営む斎藤板金工業所(山形県鶴岡市)では、夏季と年末年始に計5日間の年休を、計画的付与制度を使って付与しています。企業が独自に設定している夏季休暇や年末年始の休日などに合わせて計画的付与を行うと、大型連休を実現することができます。社員はこの大型連休を1つのゴールとして頑張ることができるなど、モチベーションアップの効果が期待できます。

3 長時間労働の是正のための取り組み例

1)管理職の意識改革

中小企業に限らず、多くの管理職はプレイングマネジャーです。プレイングマネジャーは業務の幅が広く、経営者もその残業を大目に見がちです。

しかし、管理職の働き方は部下にも影響を与えます。管理職が「残業削減なんて関係ない」と言わんばかりに部下に残業を課したり、定時で帰りにくい雰囲気を醸し出したりしていれば、その職場の残業削減は一向に進みません。そこで考えたいのが、管理職が社内の残業削減に積極的に協力する仕組みをつくることです。

例えば、食料品製造業などを営むミートサプライ(大阪府高槻市)の草加工場では、管理職の人事考課の項目に、部下の時間外労働を組み入れています。また、それが管理職の評価のみならず、報奨(年2回の賞与と翌年度の給与)にも影響する仕組みとなっています。

同社ではこの取り組みと併せて、社員から管理職に対する残業の事前申請を義務付け、管理職が日々の生産計画と事前申請の申告表に基づいて残業が適正なものかを判断するという取り組みを実施しています。

2)業務の見える化

人手不足に陥りがちな中小企業では、社員1人当たりの抱える業務量が多く、残業が多くなりがちです。しかし、業務量だけが残業の多い理由なのかというと、必ずしもそうとは限りません。

「時間に対する意識が甘く、長い時間をかけて仕事をする癖がついている」「雑務などを部下や後輩に振らず、業務を抱え込んでいる」といった理由で、本来必要のないムダな残業が発生してしまっているケースは少なからずあります。では、どうやってムダな残業を見つけ出すのか、その1つの答えが業務の見える化です。

例えば、非破壊検査業などを営むテクノス三原(広島県三原市)では、各社員の業務を棚卸し・細分化した上で、その内容を業務管理ツールに登録しています。営業の業務であれば、「顧客打ち合わせ」「顧客用資料作成」「営業事後対応」といった具合に細分化し、 細分化したそれぞれの業務について、遂行にかかる予定時間と実績時間を登録します。

実績時間が予定時間より遅れていれば、そこには何らかのムダが発生している可能性があり、改善に取り組む必要があるということになります。

4 同一労働同一賃金の実現のための取り組み例

1)正社員と同じ等級制度の導入

同一労働同一賃金は、平たく言えば「正社員と同等の働き方をしているパート等には、正社員と同等の待遇(賃金、福利厚生など)を保障しなければならない」というルールです。

正社員とパート等の賃金格差を設けている企業は、その格差の根拠を明確にしておかなければなりません。根拠を明確にしたい場合、社員の「等級制度」の等級を判断基準とするのも一策でしょう。

例えば、介護事業などを営む日豊ケアサービス(大分県豊後高田市)では、パート等に対し、正社員と同一の職能資格等級制度を適用しています。人事評価も正社員と同じ基準を用いて賃金に反映している他、資格手当なども支給しており、パート等の定着につながっています。

2)パート等のキャリアアップ

賃金ではありませんが、正社員と同等の働き方をしているパート等に対しては、教育訓練についても正社員と同等の扱いをしなければなりません。

例えば、有料老人ホームの運営などを行っているサンリッチ三島(静岡県三島市)では、正社員・パート等の就業形態を問わず、社員のキャリアアップ支援に取り組んでいます。正社員・パート等ともに、採用後はオリエンテーションを行い、独自の研修マニュアルによるOff-JTを実施している他、看護師、介護支援専門員などの資格取得を支援するため、通信教育受講料などの援助を行っています。

以上(2020年6月)

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画像:pexels

パン&高級食パン市場 ”高級”には異業種からも参入アリか?

書いてあること

  • 主な読者:パン市場への参入を検討している事業者
  • 課題:人気の高い食パン市場に参入したい。とはいえ、異業種の場合、高級食パン市場の参入に際して、どのような準備が必要かが分からない
  • 解決策:本稿では、ノウハウがなくても、異業種から高級食パンのFCに加盟して参入している事例なども紹介しているので、参考にできる

1 パン製造小売業の業態について

1)パン製造小売業の分類

日本標準産業分類によると、主として食パン、コッペパン、菓子パンなどの各種のパン類を一般消費者に販売する事業所は、製造小売と製造小売でないものに分類されます。パン製造小売業は、インストアベーカリーとも呼ばれており、各種のパン類を製造し、パンの販売も製造と同じ場所で行う事業所をいいます。

高級食パンを手掛けている企業(4章で事例を紹介します)は、主にパン製造小売業に分類されるため、本稿では、パン製造小売業に関する業態やデータを見ていきます。

2)製造工程による分類

パン製造小売業は、主に次の2つの形態に分けられます。

1.オンプレミス型

原材料を仕入れて、パン生地の製造から焼き上げまでの全ての工程を同じ店舗内で行う方式です。スクラッチ方式やコンプリート方式とも呼ばれています。

生地の製造から手掛けるため、職人の確保やミキサー、生地加工機械などの設備が必要ですが、その店舗独自の製品開発が行いやすく、顧客の好みに合わせた商品が提供できます。

2.ベークオフ型

パン生地工場で作られた冷凍の生地を仕入れて、店舗で焼き上げて販売する方式です。

既に出来上がった生地を使うため、店舗で商品のアレンジがしにくい半面、オンプレミス型と比べて、ミキサー、生地加工機械などの設備が不要なので、コストを抑えられます。

3)パン製造小売業に関するデータ

総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」、経済産業省「工業統計調査」によると、パン製造小売業の事業所数、従業者数、年間商品販売額は次の通りです。

パン製造小売業の事業所数など

また、総務省「家計調査年報」によると、パンへの1世帯当たりの年間支出金額の推移(総世帯)は次の通りです。

パン年間支出金額の推移

パン製造小売業の事業所数、年間商品販売額が増加傾向にあります。パンを主食とするケースが増え、需要が拡大していることがうかがえます。

4)パン製造小売業で必要な許認可について

サンドイッチやハンバーガーなどの調理パンを作らず、焼いたパンの小売りのみを行う場合は、菓子製造業の許認可になります。一方で、調理パンを作る場合や、イートイン形式の店舗を開業する場合には、菓子製造業と飲食店営業の許認可が必要です。併せて、食品衛生責任者の選任も必要です。

2 パン製造小売業の業界分析

パン製造小売業の外部環境を、ビジネスフレームワークの「PEST分析」と「ファイブフォース分析」に沿って考えます。

PEST

ファイブフォース分析

パン製造小売業は薄利多売のビジネスモデルであることや、同業他社との競争が激化することで倒産を余儀なくされる事業者も増えています。こうした中で、他店舗との差異化や、パンを贈答用として購入する需要を取り込むため、原材料にこだわった高級食パンを手掛ける企業・店舗があります。

以降では、高級食パンを手掛ける企業や店舗について、販売している高級食パンの概要やFCの新規加盟について紹介します。

3 高級食パンを手掛ける企業・店舗の事例

1)高級食パンを手掛ける企業・店舗のポジショニング

ここでは、新聞記事やニュースリリースを基に、高級食パンを手掛ける企業や店舗を紹介します。なお、紹介する事例は、展開する地域や高級食パンの需要で、次のように分けることができます。

ポジショニング

2)T.H.S(埼玉県越谷市)

居酒屋やラーメン店などをFC展開しているT.H.Sでは、純生食パン工房「HARE/PAN(ハレパン)」を運営しています。

ハレパンが販売している純生食パンは、卵を使わず作られているため、アレルギーのある人でも安心して食べられるようになっています。

FCの加盟について、同社にヒアリングした結果は次の通りです。

  • FCは、飲食店経営の有無を問わず加盟を受け付けており、飲食業以外の業種のFC加盟も多い。
  • 物件は自己所有、賃貸を問わずオーナー自身で確保し、パン製造のための作業場と販売スペースを合わせて19坪程度は必要になる。
  • 物件の立地調査(周辺に既存店舗が無いかどうかなど)、物件の内装工事、店舗の開業までは3カ月程度を見込む必要がある。

3)銀座仁志川(東京都中央区)

高級食パン製造販売店「銀座に志かわ」を全国展開する同社では、商品を1種類、1サイズのみに絞り、「水にこだわる高級食パン」を販売しています。仕込みの際に、独自のアルカリイオン水を使うことで柔らかさを引きだしています。

同店舗で販売する食パンは、そのまま食べるだけでなく、お酒のおつまみや和食と合わせた食べ方をウェブサイト上で提案しています。また、贈り物や手土産用として食パンを購入する顧客の拡大を狙い、食パン専用の風呂敷も販売しています。

4)ジャパンベーカリーマーケティング(神奈川県横浜市)

ベーカリーの開業支援の中でも、特に製パン未経験者を対象としており、開業前準備から店舗デザイン、販促、開店後のサポートまでを一貫して手掛けています。

同社の代表取締役社長かつベーカリープロデューサーの岸本拓也氏は、全国で変わった店名の高級食パン専門店をプロデュースした実績があり、静岡県では、「夜にパオーン」(静岡県袋井市)や「すでに富士山超えてます」(静岡市葵区)などの店舗があります。

5)IFC(東京都新宿区)

IFCでは、焼きたて食パン「一本堂」を運営しています。一本堂では、日常的に食べる食パンを想定し、プレーンな食パンだけでなく、レーズンや小豆の入ったデザート系食パンや、食パンと相性の良いジャムも取り扱っています。

FCの加盟について、同社にヒアリングした結果は次の通りです。

  • FCは、飲食店経営や製パン経験の有無を問わず加盟を受け付けている。一本堂は、飲食店経営や製パンのノウハウが無い人のFC加盟がほとんどとなっている。
  • 静岡県内では、磐田市、沼津市、浜松市内に既存店舗があるため、静岡市内であればFCの加盟が可能。
  • 開業費用は、加盟金や物件の内装工事、機材の導入などを含めて総額で1200万円程度を目安としている。
  • 物件は自己所有、賃貸を問わずオーナー自身で確保し、パン製造のための作業場と販売スペースを合わせて10~12坪が必要になる。
  • 物件の審査や改修、機材の導入など、開業までの期間は2~3カ月程度を目安としている。

6)トルタロッソ製パン(東京都港区)

ホテル、レストラン向けの焼成冷凍パンを製造、販売しているトルタロッソ製パンでは、三重県の伊賀市にある直売所で「伊賀のおいしい水を使った高級食パン」を販売しています。

1日50本限定の予約販売で、価格は1本(2斤分)で800円(税別)となっています。

7)ドロキア・オラシイタ(大阪府大阪市)

洋菓子の製造、販売、カフェ、レストランなどの飲食店経営を手掛ける同社では、高級食パン「嵜本(サキモト)」を全国で展開しています。

食パンは卵を使わずに製造しています。曜日限定のメニューの他、2斤サイズに限らず、手土産にも最適な、4枚切り1枚入りの食べきりパッケージも販売しています。

現在、パンを製造する工房付きの店舗、販売のみを行うサテライトタイプの店舗、自社ブランドの「極美ナチュラル」専門店の法人FC加盟店を募集しています。工房付きの店舗の場合、保証金は200万円(カフェメニューを提供する場合は別途相談)、店舗面積は30坪以上(別途ストックヤードが必要)としています。

8)乃が美ホールディングス(大阪府大阪市)

高級「生」食パン専門店「乃が美」、「乃が美はなれ」を全国展開する乃が美ホールディングスでは、パン製造の原材料にバターとマーガリンを併用し、小麦粉や蜂蜜の風味を引き出すことで、おいしさを際立たせています。また、おいしさを保つため、冷凍保存を推奨しており、保存方法をウェブサイトで紹介しています。
FCは既にパートナーシップを結んでいる企業があるため、現在新規の加盟は受け付けていません。

9)パン工房 ル・カルフール-Le carrefour-(北海道帯広市)

帯広調理師専門学校直営のパン工房であるル・カルフールでは、店舗名がそのまま商品名になった高級食パン「Le carrefour(ル・カルフール)」を販売しています。通常の高級食パンが耳まで柔らかいのに対し、ル・カルフールはブリオッシュとデニッシュ生地を使うことで外はサクサク、中はしっとりとした食パンになっています。

以上(2020年5月)

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「ほめ下手」なリーダーは何から始める?/部下のやる気を引き出す「ほめ方」(2)

書いてあること

  • 主な読者:「ほめる」のが苦手、「ほめ下手」なリーダー(経営者・部下を持つ上司)
  • 課題:叱られた経験がほとんどない若手社員と良好な関係を築きたい
  • 解決策:今回は、「二言挨拶」「話の聞き方」などの「ほめる」達人に近づくファーストステップを解説

1 ほめずに「ほめる」!?

「ほめる」ことを一番狭く定義すると、「年下から年上に対して、言葉を使って良いことを言う」ことになります。ただ、この定義に縛られてしまうと、「ほめる」ことがすごく難しく感じられてしまうのではないでしょうか。私たち「ほめ達」協会では、「ほめる」ことを上記の定義に縛られず、
「ほめるとは、価値を発見して伝えること」
と定義しています。

言葉を使わずに「ほめる」ことも積極的に行っています。具体的にはどのようなことか、今回はその内容をお伝えしていきます。実は、もう既に皆さんが、無意識に実践されていることでもあるので、こんなことが「ほめる」ことになるのか!?と驚かれるかもしれません。

これからお伝えすることは、私が研修の中で、参加者の方に、まずはここからスタートしてくださいとお伝えしていることです。ほめずにほめる!「ほめ達!」の極意です。

一つ目は、「二言挨拶」(ふたことあいさつ)。すごくシンプルですが、挨拶に一言加えるということです。「おはよう!今日も元気そうだね」「おはよう、今日は寒いね!」あるいは挨拶の際に相手の名前を呼ぶ。「西村くん、おはよう!」「おはよう! 西村さん」のように。とっさに言葉が出てこない、名前が出てこないような場合には、「あっ! おはよう!」「おお! おはよう」というふうに「あっ!」とか「おお!」という一言を加えるだけでもOKです。その「あっ!」や「おお!」を言う際に、あなたと会えて嬉しい!という気持ちが込められていればいいのです。

あるいは言葉が出なくても、挨拶プラス笑みを加える。挨拶の際に立ち止まり、相手の方を向くというのも、立派な「二言挨拶」となります。パソコンを打っていた手を止めて、顔を上げ、相手の方を向いて「おはよう!」、さらにおへそまで向けて挨拶をする。すると、相手は自分がすごく受け入れられていると感じます。

挨拶とは、私はあなたの存在を認めていますよ、と伝えることです。この「二言挨拶」が実践されている職場や部署には、安心安全な雰囲気が醸成されていきます。「二言挨拶」は、相手の心の居場所を提供することでもあるのです。部署に机と椅子は用意されているけれど、心の居場所を提供しているだろうか。リーダーはこの点を自分自身に問い、ぜひ挨拶から意識して実践してみてください。

2 出会う人を味方につける話の聞き方

さらに、こんなことも「ほめる」ことになるのですよ、というのが「話の聞き方」です。話をしている方と、聞いている方、どちらが相手にメッセージを伝えているのか。話している方が、一方的に相手に伝えているようですが、実は話の聞き方で相手にメッセージを伝えることができるのです。

管理職研修で行うワークがあります。二人一組になっていただいて、片方がもう一人の方に、1分間お話をしていただきます。話し手は、自分が話をしやすい話題を自由に1分間、話し続ける。そして、聞き手は最初の30秒は、熱心にその話を聞いていただきます。

しかし、30秒経過した時点で、私の合図で残りの30秒は、相手(話し手)を完全に無視していただきます。すると、これまでスムーズに話していた人が、無視された瞬間、言葉がうまく出てこなくなります。聞き手の態度が、話し手のパフォーマンスを大きく変えてしまうのです。部下や後輩の報告に対して、要領を得ない話し方だなと思う時、自分の話の聞き方の態度はどうなのか、自分で確認してみてください。

それでは、どのような話の聞き方が良いのか。次に挙げる8つのポイントを心掛けてください。

  • 目を見る
  • うなずく
  • 相槌を打つ
  • 繰り返す
  • メモを取る
  • 要約する
  • 質問する
  • 感情を込める

実は、この8つのポイント、私たちは無意識で行っています。どんな時に行うかというと、大尊敬する人の話を聞く時、大好きな人の話を聞く時です。ただ、常に自分の部下や家族に対しても行っているかと聞かれると、どうでしょうか?

これらの話の聞き方を、ちょっと意識してみるだけで、相手との関係性が驚くほど変わっていきます。特に上記の8つのポイントのうち、「メモを取る」というのは一見すると静かなアクションですが、パワフルな「ほめ仕草」になります。「あっ、そのアイデア面白いね、ちょっとメモしていい?」と言って、実際にメモまで取ると、言われた方は、こんなことでメモを取られるのなら、さらにこんなアイデアや情報もありますよ!となります。

また最近は、年上の部下をお持ちの管理職の方も少なくないと思います。では、年上の人を「ほめる」時にはどうすれば良いのか。例えば、上記の話の聞き方のうち、「質問する」という行動で、相手を「ほめる」ことができるのです。「〇〇さん、どうやってその技術を身につけられたのですか?」「どのような勉強をされてこられたのですか?」「本もよく読まれてますよね、私にオススメの本ってないでしょうか?」「〇〇さんには、若い頃、仕事上の師匠がいらっしゃったのでしょうか? その方からどのようなことを学ばれたのですか?」。

このように質問することによって、「私はあなたのようになりたいと思っています。あなたのことをすごいと認めています、尊敬しています」と伝えることができます。イメージは、試合の後の「ヒーローインタビュー」です。

挨拶や、話の聞き方など、小さなことを少し意識してみる。実は、これが大切なこと。私たちは「微差の積み重ね」の大切さとお伝えしています。さっそく、意識して実践してみませんか。

3 手軽で貴重な心の報酬

第1回では、「心の報酬」の大切さについてお伝えしましたが、今回はさまざまある「心の報酬」のうち、もっとも手軽かつ、もっとも価値の高い「心の報酬」についてお伝えいたします。

それは何かというと「ねぎらい」です。「ほめる」というと何か水準を超えた、しかも、いいことをした時だけに行われるものというイメージだと思います。一方で「ねぎらい」は、して当たり前のことに対して、気づき、共感して、ときには感謝を伝えるもの。「ほめ達」協会は、「ねぎらい」も「ほめる」の中に含めて大いに推奨しています。仕事なのだから、給料もらっているのだから、行われて「当たり前」の行動に対して、気づき、共感して、感謝を伝える。これが「ねぎらう」ということです。部下の仕事をチェックして、間違いがなかった。そのことに対して、ミスがなくて当たり前だから何も言わない。ねぎらいなくミスを見つけた時だけ、注意をする。すると注意を受けた方は、「見張られている」と感じます。

ところが、普段から当たり前の仕事ぶりに対して、感謝や「ねぎらい」を届けていると、注意を受けた時に「見守られている」と感じるものなのです。「ほめる」や「ねぎらう」という行為は、部下に対して、しっかり注意を与えることができる関係性を作るための重要な下準備でもあるのです。

「ありがとう」の反対語は、「当たり前」です。ついつい、当たり前だと思ってしまって見過ごしてしまっていることに気づき、言葉掛けをしてみませんか?

以上(2020年3月)

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テレワーク環境でも新入社員研修を効率化する方法とは?〜集合研修→オンライン研修へ切り替え、習熟度を上げつつ研修時間を1/4へ!〜

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、庄司 啓太郎さん(株式会社スタディスト取締役COO)です。

新型コロナウイルス感染症の影響下、テレワーク!オンライン!とweb会議、クラウドツール導入に重い腰の大企業も、システム導入と距離感のあった中小企業もようやく当たり前化しだしました。しかし、このようなコミュニケーションツールをインフラ化しただけで、企業活動は大丈夫? そうお感じになっている経営者さんも多いと思います。その疑問、課題にお答えできるリリースが先日ありました。
それが、【スタディスト、テレワーク環境でも新入社員研修を効率化 ~集合研修からオンライン研修に切り替え、習熟度を上げつつ研修時間を4分の1に圧縮~】です。こちらがそのリリースです。

今回は、テレワーク環境下、完全オンライン化は難しいと思われがちな【社員研修】において、【習熟度向上】と【研修時間の圧縮】というこの両立し難いテーマを、同時に実現したスタディスト社の考え方~実践方法までをお伝えして参ります。

インタビューも終始笑顔で楽しく。右上が庄司さん

1 人材育成効率を向上させ、育成期間を短縮できる その理論、最適化モデルについて

1)スタディスト社 庄司取締役について

2010年3月に設立したスタディスト社、現在11期目がスタートしましたと庄司さん。同社創業メンバーであり、私とは6年ほどのお付き合いです。マニュアル(標準作業手順書:後ほど詳しく解説します)のクラウド化を提唱し、そのツールとしてTeachme Bizを2013年に展開し始めて7年。当初は、マニュアルのクラウド化に懐疑的だった世の中、マニュアルの存在意義は仕事の再現性を担保するためにとても重要という認識がありつつ、しかしながらそのイメージは、知りたいことがある時、書庫に行って、分厚い重い紙の束から、必要な部分を見つけ出す、それが当たり前の時代が長かった。【その場所に行かないと知ることが出来ない→非効率→場所の制約】、【知りたい部分、知りたいマニュアルを探し出す、誰かに聞く→管理→人の制約】、【いつ更新した?どれが最新?→不明確な更新→時間の制約】、この紙文化により知らず知らずに慣らされてきた【効率化を妨げる制約】を解消するためにもクラウド化したスタディスト社、現在は数千社を超えるユーザーから支持されています。現在は約100名の組織となっていらっしゃいます、私が出会った頃、まだ5~6名でした。。。感慨深いです。

2)ツールだけでは、効果は限定的なのです

web会議テレワークが常態化してきて、それはそれでインフラが整ってきたこと、歓迎すべきです。しかし、効果は限定的と庄司さんは話します。それは、テレワーク型に形式が変わっただけであり、会議の数や時間が従来と変わっていなければ、抜本的な業務変更となっているわけではない。業務プロセス・作業手順を見直す機会にしないと効果は限定的。まさにこの【業務プロセスの見直し】が骨格となります。

ツールだけでは、効果は限定的であることを説明した画像です

この見直しで【質】にフォーカスが移るとき、マニュアルの意味合いが大きくなるということだと思います。

3)人材育成効率を向上させ、育成期間を短縮できる その理論的背景について

ある経営者さんと打ち合わせの際、ご自身のお子さんに話題が及びました、『学校が始まってすぐに休校となっている子供が、与えられた教科書を1カ月で1年分終わったんですよ。好きな教科ってそんなものですね。』と話されていました。これって【予習】を自宅でやっていたことになります。学校の教室で授業を全員一緒に受けてインプットする前に、教材を事前に手にして目を通す、予習をインプットに。学校で今まで行っていたこと、サイクルを【反転】させた方が、知識定着率、スピードも向上するということなのだそうです。昨今You Tube動画を見て見様見真似で、自分でやってみたらうまく行った!ってことを耳にしますが。動画でインプット、実践してアウトプット、反転学習の方が結果も出やすい。この反転学習をスタディスト社では研修に活かしているそうです。

予習→実践のサイクルによる知識定着率向上を説明した画像です

反転学習の効果が実証されつつあるそうで、庄司さんから説明のあった資料には

  • 学習スピードが倍になった
  • 理解度確認では3倍程度の効果
  • 確認テストの合格率が大幅に上昇

このように良いことずくめという結果がでています。

反転学習の効果を説明した画像です

この反転学習の話をお聞きして、私自身のサラリーマン時代、集合研修で関東方面の研修所に集められ、ほとんどが眠い、眠い、研修を数日受けていたことを思い出しました。研修報告には、意義があった、ためになった、明日からの業務に活かしたいと書いていましたが、知っているレベル→すぐに忘れるレベルであったと思います。
ほとんどの企業研修が、知らないことを【知っている】レベルにすることで終わっていることが多い、【できる】【考えるとできる】そのレベルに達していない
スタディスト社では、【できる】が当たり前化しているので、無意識(考えなくても)に、自分でルールを決める、仕事を定義できるという、実践できる、そこから教えられる、改善できるレベルへと自然になっていると庄司さんは話します。

知ることを目的にしない。実践のための育成について説明した画像です

4)できるレベルをぐんぐん引き上げるための最適化とは?

前述の反転学習の理論を活かしながら、スタディスト社のTeachme Bizで全ての研修プログラムが完成できるか? そうではありません。スタディスト社における研修プログラムの【内容】と【手段】の最適化については以下のとおりです。すごく分かりやすいと感じました。

伝えたいことと伝達手段の最適化を説明した画像です

  • 経営理念や基本ポリシー、規則やルール、基本原理については講義、レクチャーの動画を製作準備し、受講者側が視聴する。その後にオンラインミーティングによる対話をして理解レベルを確認する。
  • 業務の手順、実技や実践能力についてはビジュアル型の手順書(Teachme Biz)で予習(インプット)し、実物により確認しながら実践していく(アウトプット)

5)業務の標準化(マニュアル化できる)割合はどのくらい?と思いますか

今までの集合研修において、ハイレベルかつ給与の高い人が準備や研修にはりつき、ものすごい時間を費やしており、それでもなかなか伝わらない、実践できないことで人材育成に苦慮している企業も実際多いと思います。前述で、【理論】と【伝えたいこと】、【伝達手段】について庄司さんに教えていただきました。最後に業務の標準化は業務割合のどの程度できるのか?業務のタイプは何タイプ?についても伺いました。

業務の3タイプを説明した画像です

いろんな業種があり、多様な業務がありますが、A:感覚型、B:選択型、C:単純型、この3つに分類されます。この業務の中でA、B、Cの割合ってどの程度ですか?と質問され、私から5:2:3ぐらいですか?と回答しましたら、全業種の平均でAが13%、BとCで87%を占めているとのこと。

業務のしくみ化を説明した画像です

この87%をしくみ化すべきであると庄司さんは話します。
スタディスト社では、現状社内で共有されているマニュアル(手順書)が4,200を超えているそうです。
【できる】が当たり前化するのも納得です。

2 スタディスト社のオンライン研修を構築した現場の声を聞きました

1)ビジネスイネーブルメント部長の坂野さんへのインタビュー

ビジネスイネーブルメント部長の坂野さんの画像です

【上記の写真が坂野さん】同社のリリースを今一度。
いくつかこの研修プログラム構築にあたって質問させていただきました。

・この研修プログラムを構築されるにあたって、注意した点、難しかった点をお教え下さい。

正直に言うと、Teachme Bizを使っての研修運営は従来から実施していたため、オフラインからオンラインへの切替はかなりスムーズに出来たと思います。ただ、運営の全てをオンラインで、というのは初だったので、オフライン時は設けていなかった終礼等の定期的なオンライン接続によるコミュニケーションは心掛けました。 反転学習を意識して、スムーズに自習ができるように教材を整備し、オンラインでの接続はアウトプットの場(プレゼン、ワーク、ディスカッション等)や、理解度チェックの場にして、習得が不十分な部分はそこでフォローするような形で運営していたので、教える・伝えるにかかる負荷はオフラインの時よりさらに少なくなったと思います。
また、Boot Camp(新人研修)に求められるのは【即戦力化】であり、オンライン、オフラインにかかわらず、「研修で学んだことをいかに現場で実践し、成果につなげてもらうか」ということを最重視して、研修構築しています。会社が求めるスピード感がとても早いので、そのスピードで戦力になってもらえるように研修すること。それが構築する上で注意している点です。

・研修を終えて、参加の方々から印象的な感想、予想外の反応はありましたでしょうか。

何をいつまでにどうすればよいのか明確で、とても初めてオンライン対応をしたとは思えないといわれました。

スタディスト社の実際の研修(トレーニング画面)の画像です

【スタディスト社の実際の研修(トレーニング画面)】

これ(Teachme Bizのトレーニング機能)はいろんな会社のお役に立てますね!とサービスの可能性を実体験として感じているとの話もありました。立ち上がり(各種検定合格までの期間)も通常より1/4へと短くなったことは嬉しい効果でした。

・その他 このトレーニング機能について特長的なこと、研修全般でのご感想についてお聞かせください。

環境の激変で教える内容も大きく変更しなくてはならない状況の中、教材となるSOP(下記に説明資料を添付しています)やコース内容をすぐに更新できるのは本当に楽でありがたかったです。オフラインだと、SOPを教材にしつつもついOJT的に教えていたこともありましたが、オンラインになると自習のための体制整備を優先するので結果、より反転学習も進み、効果的な研修を実施することが出来ました。 新人研修担当としては、急遽オンラインで運営となった時Teachme Bizがなかったらと思うとぞっとします。

SOPを説明した画像です

Teachme Bizのトレーニング機能の良さは学んで欲しいものを一覧化出来て、その出し入れがリアルタイムで行え、かつ、進捗確認もリアルタイムで出来ることなのでオンラインで寄り添いやすさ満点です!

と自社プロダクトの特長をしっかりお話しくださいました。

2)庄司さんからメッセージ

「業務手順の伝達」は、あらゆる企業の中で脈々と行われています。そしてその方法は、直接口頭で教える、マンツーマンで実践して見せる、研修を開催する、メモを渡す、紙のマニュアルにまとめる、動画に残す等々、多岐にわたっています。
今、企業のワークスタイルも大きな転換期を迎えています。Web会議システムやチャットツールの急激な普及が象徴的ですが、それらはこれまでの会話や会議を遠隔で行っていることと変わりありません。
遠隔にならざるを得ない状況だからこそ、企業の骨格とも言える「業務プロセス」をいかに可視化して共有することができるかが、企業の競争力を左右すると考えています。
企業や業務のあり方が大きく変わる中、当社としても少しでも皆様のお役に立てればと思います。

と語ってくださいました。

庄司さんは、2017年に【結果が出る仕事の「仕組み化」】という本を出版されています。まさに今の世の中を先取りされていたと感じ入ります。
後戻りは許されない、仕事環境の変化。この機会に、【業務プロセス】を見直し、新たな時代に適合する【手順書】への変更をオススメするものです。

以上(2020年5月作成)

スマート住宅・スマートマンションで活用されるテクノロジーの事例

書いてあること

  • 主な読者:自社で管理する住宅やマンションの付加価値を高めたい不動産会社
  • 課題:導入に当たって、どのような設備が良いのかが分からない
  • 解決策:導入されることが多い設備として、アナウンスを流して無人で応対するインターホンや、カメラを使って来訪者を識別する顔認証システムなど、入居者のプライバシー保護や建物のセキュリティーを高めるものがある

1 スマート住宅やスマートマンションで導入される設備の主な事例

ここでは、スマート住宅やスマートマンションに導入される設備の主な事例について、「防犯・セキュリティー」「設備管理」「防災」「介護」「エネルギー管理」「その他」の分野に分けて、それぞれ紹介します。

1)防犯・セキュリティー

1.入居者のプライバシーを守るインターホン

パナソニック(大阪府門真市)が提供するマンション向けインターホン「クラウジュ」は、ロビーインターホンから自動でアナウンスを流して来訪者の用件を事前に確認することで、入居者が用件を確認した上で応対するかどうかを判断できます。

このため、セールスに応対したくない、日中の不在を知られたくないといった入居者のプライバシーを守ります。また、不在時でも来訪者の顔と用件を記録し、カレンダー形式で来訪者の履歴をインターホンの画面に表示できます。

他にも、マンション管理事務室からの連絡やアンケート、天気予報などを住戸内で確認できる機能を備えています。

同社は、戸建て住宅向けのインターホンでも、外出中にスマートフォンで来客応対をしたり、アナウンスを流して来訪者の用件を事前に確認したりできる製品を提供しています。

2.外出先からでも応対可能なインターホン

アクロディア(東京都新宿区)は、マンション向けのインターホンIoTシステムを提供しています。インターホンをインターネットに接続することで、外出先からでもスマートフォンなどの端末を経由して、来訪者との通話やオートロックの解錠ができます。

また、来訪者の顔をデータとして登録できるため、専用アプリの画面上で誰が来たのかを確認できます。

宅配会社や運送会社向けには、遠隔でインターホンを鳴らして入居者が在宅しているかどうかを確認する機能もあります。これにより、宅配会社などは、不在による再配達の手間を無くせる他、入居者は荷物の再配達時間を外出先から配達員に直接伝えることができます。

3.顔認証式の宅配ボックス

フルタイムシステム(東京都千代田区)は、宅配ボックスを使ったマンション向けセキュリティーサービス「F-ace」を提供しています。

宅配ボックスに内蔵されたカメラを使い、利用者の顔を識別する認証機能を備えているのが特徴です。

顔認証によって、入居者が鍵やICカードを使わずにマンションのエントランスやエレベーターに入れる他、子どもがエントランスを通過したときに、自動で保護者にメールを送信して、子どもの帰宅を知らせます。

4.入居希望者の内覧、民泊にも対応できるスマートロック

大崎電気工業(東京都品川区)は、集合住宅向けに既設の鍵に後付けで交換できるスマートロック「OPELO」を提供しています。

OPELOは、交通系ICカードやおサイフケータイ、シリンダー錠、暗証番号といった多様な解錠・施錠方法に対応したスマートロックです。ワンタイムパスワードを自動で発行する機能を備えているため、空室時に入居希望者が部屋を内覧するときや、外国人観光客の民泊のときに、管理人がその都度鍵の貸し出しや返却に立ち会う手間が無くなります。

5.徘徊(はいかい)防止に有効なスマートロック

エナスピレーション(静岡県藤枝市)は、戸建て住宅、集合住宅向けの徘徊対策に有効なスマートロック「ES-F700G」を提供しています。

ES-F700Gは、指紋認証、暗証番号、ICカードで解錠できるスマートロックです。既設の玄関ドアに後付けで交換可能で、オートロックのため、鍵を閉め忘れる心配も無くなります。

また、室内から解錠するときは、登録済みのICカードもしくは非常キーが必要になるため、認知症による突然の外出や徘徊の防止につながります。他にも、火災や不正解錠に対する警報機能も備えています。

2)設備管理

1.マンション掲示板のデジタル化

大京(東京都渋谷区)と、グループ会社の大京アステージ(東京都渋谷区)は、自社が手掛けるマンション「ライオンズ蒲田レジデンス」に24時間、365日対応のAI管理システム「AI INFO」を導入しています。

AI INFOはマンションの管理員が担う機能とマンションの掲示板を一体化したシステムです。管理員機能は、入居者からの問い合わせに対して、AI管理員が音声で自動応対するシステムで、入居者はスマートフォンから問い合わせができます。

また、これまでは貼り紙で掲示していた情報をデジタル化することで、管理会社からのお知らせに加えて、施設内での落とし物や地域のイベント、天気予報などのさまざまな情報を配信できるようにしています。

2.住宅設備全体のコントロール

YKK AP(東京都千代田区)は、エアコンや照明などの家電製品に加え、シャッターや玄関ドアといった住宅設備を統合管理するサービスを提供しています。

HEMS(Home Energy Management Systemの略称で、家庭内で使うエネルギーを節約するための管理システムをいいます)用の制御パネルから住宅設備を操作できるだけでなく、外出先でスマートフォンからシャッターの開閉や玄関ドアの解錠、施錠ができます。そのため、大雨や強風の際は外出先からシャッターを閉めて、ガラスが割れるのを防ぐことができます。

3.顔認証によるマンション共用部分の利用

ヨシコン(静岡県静岡市)とフルタイムシステム(東京都千代田区)は、マンションのゲストルームなどの共用部分を顔認証で利用できる「スマートマンションシステム」を2021年3月から静岡県藤枝市のマンションで導入する予定です。

スマートマンションシステムは、フルタイムシステムが手掛ける顔認証サービス「F-ace」と、パソコンや携帯電話からマンションの共用部分の利用予約ができるウェブサービス「ファンナビ」を組み合わせています。ファンナビでマンションの共用部分の利用予約をした上で、共用部分に設置されたカメラで顔認証を行うことで利用できます。共用部分を利用する際に、その都度管理室から鍵を借りなければならないといった手間や、鍵を紛失するリスクが無くなります。

3)防災

1.防災用品を格納した宅配ロッカー

穴吹興産(香川県高松市)、日本電力(香川県高松市)、エリーパワー(東京都品川区)、フルタイムシステム(東京都千代田区)は、マンションや集合住宅向けの「シェアリング防災宅配ロッカー」を共同開発し、2020年3月に発売しました。

シェアリング防災宅配ロッカーは、宅配物の受け渡しだけでなく、災害時の電力供給や防災用品を格納する機能を備えています。地震発生時には揺れを感知し、自動で扉が開いて防災用品を取り出せるようになる他、外部からの電力供給が遮断されても、内蔵のリチウムイオン電池により約3時間の電力供給が可能です。

2.BCP(Business Continuity Plan・事業継続計画)をサポートするビル管理システム

大成建設(東京都新宿区)は、東光高岳(東京都江東区)と共同で、災害発生時に館内設備を自動的にコントロールする「T-BC Controller」を2020年1月に開発しました。

T-BC Controllerは、主にオフィスビルを想定した設備管理システムです。大規模災害でライフラインの供給が止まったときに、BAS(Building Automation Systemの略称で、設備を監視・管理・制御するシステムをいいます)やBEMS(Building Energy Management Systemの略称で、設備の使用エネルギー量などを把握・管理するシステムをいいます)と連携して水や発電機燃料などの供給可能時間を可視化します。また、優先度の低い部屋の電源や設備を自動で停止させることで、施設の稼働時間の確保や、BCPの実行を支援します。

4)介護

1.急性疾患の予防

積水ハウス(大阪市北区)は、戸建て住宅向けの在宅時急性疾患早期対応ネットワークの「HED-Net」を2020年中に提供開始する予定です。

HED-Netは、入居者の心拍数などのバイタルデータを解析し、脳卒中などの急性疾患を発症する可能性を検知した際に緊急通報から安否確認、救急隊の出動要請、玄関ドアの遠隔解錠・施錠までを一貫して行う仕組みです。

同サービスは、「安否確認システム」として国内のシステム特許を取得し、国際特許も出願中です。

2.AIを活用した要介護状態の予防

ネコリコ(東京都千代田区)、日本データサイエンス研究所(東京都文京区)、東京大学は共同で、AIと電力データを用いたフレイル(健康な状態と要介護状態の中間に位置し、身体や認知機能の低下が見られる状態)の検知に関する実証実験を2020年内に三重県東員町で行うこととしています。

実験では、単身の高齢者世帯を対象に、スマートメーターから得られる電力データ、モーションセンサーやCO2センサーのデータ、AIを活用し、フレイルの簡易判定、早期発見に取り組む予定です。

5)エネルギー管理

トヨタホーム(愛知県名古屋市)が戸建て住宅向けに提供するエネルギー管理システム「HeMS」は、太陽光などの発電状況と併せて、家庭内の各部屋、機器ごとの消費電力も把握できます。

また、車のカーナビゲーションシステム、スマートフォンから玄関の鍵やエアコンなどの機器を操作できるため、鍵の掛け忘れやエアコンの消し忘れなどを防止できます。

6)その他

1.入居者の利便性を高めるマンション

長谷工コーポレーション(東京都港区)は、ICT技術を活用した学生向けの賃貸マンションを施工しています。

マンションにはHEMSをはじめ、顔認証で入館、エレベーター制御を行うシステムや、地震発生時に入居者や入居者の家族に通知する振動センサーを導入する予定です。

住宅設備から得たデジタルデータをクラウドに集積、分析することで、セキュリティーや情報サービス、見守りなどの入居者の利便性やサービスの向上につなげる計画です。

2.入居者の健康改善を図るスマートハウス

神奈川県横浜市は、IoTスマートホームを用いて入居者の健康状態を可視化、健康改善につなげる実証実験「未来の家プロジェクト」に取り組んでいます。

同プロジェクトはNTTドコモ(東京都千代田区)、and factory(東京都目黒区)と共同で2017年6月に発足した取り組みです。室内に設置したIoT機器やセンサーで入居者の健康や生活状況をスキャン・可視化することで入居者の健康改善につながる行動を促します。

同プロジェクトには20者の企業・団体が参画し、センサー付きパジャマや歯の磨き方をチェックできるIoT歯ブラシ、眠りを感知するセンサーを設置することで、入居者自身が設定した健康状態の目標と現時点の状態を可視化するなどの実証実験に取り組んでいます。

将来的には、AIを活用することで家自体が入居者の生活状況を把握し、室内を入居者にとって快適かつ健康的な状態に自動調節することを目指しています。

2 参考情報

1)IoT機器の導入に関するヒアリング結果

IoT機器の導入状況に関して、IoT事業を手掛けるユーピーアール(東京都千代田区)へのヒアリングによると「機械の遠隔操作、例えば、ネットワークカメラや外出先からでも応対が可能なインターホン、宅配ポストや宅配ロッカーに荷物が投函されると、スマートフォンに自動で通知が届くなどの仕組みについて、導入の相談を受けることが増えている」(*)とのことです。

________________________________________

(*)ユーピーアール(2020年2月5日時点)

2)スマートマンションの普及状況について

スマートマンション(MEMSを導入し、マンション全体でエネルギー管理、節電効果を高めるマンションをいいます)については、2013~2017年の期間で経済産業省が「スマートマンション導入加速化推進事業費補助金」制度を設けて、既設、新築マンションのスマートマンション化を支援してきました。

同補助金のMEMSアグリゲータ(マンションなどの集合住宅にMEMSを導入し、エネルギー管理の支援やMEMSから得た情報を活用し節電を図る事業者をいいます)に対する最終的な交付決定数は1685件(総戸数は18万3296戸)となっています。

助成制度が終了したあともスマートマンション化の拡大を図るために、現在はスマートマンション推進協議会がスマートマンションの認定制度を運用しています。

同協議会のスマートマンション認定では、MEMS機器を設置し、建物全体や各戸の電力使用量が見えることや、MEMS機器が共用部の機器を制御できる機能を持っていることなどを認定条件としています。2020年3月時点で、スマートマンション推進協議会が認定したスマートマンションは33物件あります。

以上(2020年5月)

pj59025
画像:pixabay

【朝礼】時間の密度を高めなさい

もうすぐ6月になります。今年も半ばに差し掛かろうとしていますが、皆さんは「もう6月になってしまった」と感じますか、それとも「まだ6月か」と感じますか。

時間の早さの感じ方については、「同じことを繰り返しているとマンネリ化して刺激がなく、時間がたつのが速い」、逆に「新しいことにチャレンジしていると、これまでにない刺激を受けるので、時間がたつのが遅い」などといわれます。

私の場合、昔は時間がたつのがとても速く、常に時間に追われている感覚でした。ところが、今は全く違い、時間がたつのが速いと感じなくなりました。昨年から新規事業にチャレンジしているので、新しい刺激を受けているということもあるのでしょう。しかし、それだけでは説明がつきません。

私は、時間に追われていた昔も、常に新しいことにチャレンジしていました。逆に、時間がたつのが速いと感じなくなった今も、昔と同じルーティンワークを継続しています。つまり、やっていることが古いか新しいかというだけで、時間経過の速さの感じ方が変わるわけではないのです。

私は、本質は【時間の密度】であると考えます。私が時間の密度を意識するきっかけになった言葉を紹介します。江戸時代末期の武士である高橋泥舟(たかはしでいしゅう)の言葉が転じたものだそうです。

  • 人の道と降る雪は、つもりつもりて、道を誤る

「最初は小さな出来心でも、積み重なれば取り返しのつかない過ちになる。だから油断するな」という意味です。ただ、私はこの言葉を「正しく積み重ねていけば、道は開ける」という、本来とは逆の意味にも取れると考えています。日々の取り組みは一粒の雪のようにはかないものですが、積もり積もってその人の生き様になります。そうなってから変えることは難しいため、日々、正しく積み重ねていくしかありません。

そこで考えるのが、時間の密度です。退屈なルーティンワークでも、これまでとは違う見方をするようになりました。ダラダラとやったら時間の密度が低くなるので、素早くやるか、改善するかを本気で考え、実践するようになりました。つまり、自ら時間の密度を高くするよう、仕事を一つひとつ積み重ねていくことにしたのです。

また、私は、新規事業を通じてベンチャーやスタートアップと呼ばれる未知の世界に足を踏み入れました。これまでと全く違う世界は刺激的ですが、没頭すると立ち位置を見失ってしまいます。ですから、冷静にビジネスのポジションを確認する機会を多く設けるようにしました。これも、正しい積み重ねの一つと信じています。

ゴールはまだ先ですが、確実に進んでいると実感できるからこそ、さらに時間を大切にし、集中するようになります。この好循環のおかげで私の時間の密度は高まっています。ぜひ皆さんも、時間の密度について考えてみてください。

以上(2020年5月)

pj17006
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】皆さんが「言語化」できる2つのこと

今日は皆さんに、「言語化する」ことについてお話しします。言語化とは、例えば仕事で言えば、自分が実践しているノウハウやポイント、考えなどを、他の誰もが分かるよう言葉にすることです。

仕事における言語化には、2つの種類があります。1つ目は、「行動の言語化」です。当社のベテラン営業担当者の例でお伝えしましょう。

先日、私は、その営業担当者が、まだ営業経験の浅い後輩を指導しているのを目にしました。どうやら、ある新規営業がうまくいかなかったようで、後輩から報告を受けた営業担当者はこう言っていました。「ダメな理由を聞いた? 聞いていないの? 聞かなきゃ。理由によっては、もしかしたら挽回できるかもしれないし、理由を知っておけば他の営業先のときに、断られないよう役立てることもできるんだから」。

また、この営業担当者は別の後輩に、こうも言っていました。「サンプルを複数送るときのメールには、私だったら一言『当社のおすすめはこれです。なぜなら~』と書くよ。相手が選ぶ参考にできるし、当社が込めた思いも伝えられるから」。

営業担当者が言った2つは、ほんのささいな当たり前のことです。普段から実践している人には言わずもがなかもしれません。しかし、実践できていない人から見れば、これは大いなるノウハウです。こうした具体的な行動とその理由を言葉にして人に伝える、あるいは他の人が見て分かるよう残しておく。これが「行動の言語化」です。

2つ目は、「感覚の言語化」です。「言葉にしにくいことの言語化」と言ってもいいでしょう。先日、当社の営業担当者の一人から新規営業の状況について報告を受けました。

その彼いわく、新規営業先のうち、「この営業先はいける」とピンと来た会社が2社ほどあるそうです。彼はこのようにピンと来た先があると「この営業先にロックオンして力を入れよう」と営業活動のやり方を変えるといいます。この「ピンと来る」のが、とても言葉にしにくいところです。一見すると、感覚的で属人的に思えるからです。

しかし、「ピンと来る」のはなぜかを掘り下げていくと、おそらく、単なる感覚ではなく、何らかの理由があるはずです。営業先の経営計画内容、課題感、営業先にとってのコンペティターの動向、タイミング、そして営業担当者のこれまでの経験などさまざまな状況や情報が絡み合って「ピンと来る」のでしょう。本人は「なんとなくなので言葉にできない」のかもしれませんが、言葉にしにくいことだからこそ、言語化すれば、とっておきのノウハウや名言になるのではないでしょうか。

「行動の言語化」と「感覚の言語化」。皆さんには、両方の、言語化できる「何か」があると私は信じています。今日から、ぜひ、行動や感覚を言葉にして人に伝えること、形に残すことを意識してみてください。皆さん一人ひとりが、ノウハウの塊なのですから。

以上(2020年5月)

pj17007
画像:Mariko Mitsuda

SNSを使った人材採用 成功するための3つのポイント

書いてあること

  • 主な読者:SNSを活用して人材採用に結び付けたい経営者、採用担当者
  • 課題:採用に成功するために、どうすればよいのか分からない
  • 解決策:日ごろから発信力を高める、SNSの各サービスの特徴を知るなどのポイントを押さえる

1 SNSを使った採用のメリットは?

多くの中小企業は、ハローワークや人材紹介サービスなどを利用して求人募集を行っている。しかし、深刻な人手不足が続く中、そもそも求職者と出会えないといった悩みがある。その打開策として、Twitter、Facebook、LINE などのSNSを活用して求人募集を行い、採用に結び付けようとする企業が増えている。

総務省「通信利用動向調査報告書」によると、SNSを活用している企業の割合は2017年の28.9%から2018年には36.7%に増加。そのうち、会社案内や人材募集を目的とする企業の割合が、2017年の35.5%から40.6%に増加している(図表1)。

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SNSを使った採用は、経営者や採用担当者が自身のアカウントを運用して取り組むことが多い。例えば経営者が「事務職を募集中です。関心のある方はオフィスに遊びに来ませんか? DM(ダイレクトメッセージ)を下さい」などの内容をSNSに投稿する。この投稿に反応してコンタクトしてきた求職者とやり取りや面談をして、採用活動を進めるというものだ。

今や、20代の約80%、30代の約75%が個人でSNSを利用しているといわれる中、求職者との接点をつくるためのツールとしてもSNSは注目されている。

他にも、SNSを使った採用には、次のようなメリットがある。

  • 求職者が企業に対する理解を深めやすく、「実際に企業を訪問してみたら思っていたのと違う」というミスマッチを事前に回避しやすい
  • 自ら能動的に情報収集して自社に関心を持った、モチベーションの高い人材を採用できる
  • メッセージのやり取りから、面談時に比べて「飾っていない」状態の求職者の人となりや、様子を知ることができる
  • 本格的な転職活動はしていないものの、「現在の働き方に満足していない」「良い企業があれば話を聞いてみたい」と考える求職者予備軍に対しても、アプローチできる

2 SNSを使った採用で成功するための3つのポイント

SNSを使った採用に取り組んだからといって、すぐに人材を採用できるというわけではない。SNSを使った採用の取り組み方はさまざまで、活用するツールもTwitter、Facebook、LINEなど多岐にわたる。それぞれの特徴は後述するが、どのツールを活用するにしても、共通して成功するためのポイントがある。

1)日ごろから発信力を高める

SNSを使った採用に取り組むためには、フォロワーや友達の数が多いほうがよいと考えるかもしれない。しかし、より重要になるのは「質」だ。

製造業の現場改善のコンサルティングをしている企業では、事業拡大のためにコンサルタントが必要になり、経営者のTwitterで「○○県で一緒に働いてくれる同志を募集します」と投稿したところ、面識のないフォロワーの1人からコンタクトがあり、採用に至った。

この経営者は、日ごろからコンサルティングをしたクライアントの課題、自らの仕事観などをTwitterで発信していたことから、フォロワーには、面識がない人を含めて同業者や類似の業界で働く人が多いそうだ。

この経営者がSNSを使った採用に成功したのは、投稿に共感してくれる人、考えや関心が近い人などがフォロワーになっていたからであり、こうしたフォロワーや友達をつくるためにも、経営者や採用担当者が日々の業務や、仕事観などを発信することは重要だといえる。

他にも、日ごろの発信力を高める取り組みとして、次のような事例がある。

  • 「○月○日は何の日です」などの記念日、その日の新聞の経済ニュース、就職・転職に役立つ豆知識を定期的に投稿する
  • 入社した先輩が日々の仕事や、ちょっとした独り言などを堅苦しくない口調でつぶやき、自社の雰囲気や魅力、取り組みなどを伝える
  • 実際に業務を行っている様子や、会社説明会、新入社員研修、インターンなどの様子を写真や動画と共に発信する

日々の様子や独り言などをつぶやくのは、求職者に親しみを感じさせるのに効果的だ。一方で、不特定多数が見るSNSという特性上、うっかりデリケートな発言をして「炎上」しないように気を付ける必要がある。例えば、特定の政治・宗教の話題は控える、他社をおとしめる発信はしないなど、社内でSNSの運用ルールを共有しておくとよいだろう。

2)経営者が積極的に関与する

SNSを使った採用をしている企業の中には、「まずは食事をしながらお話ししませんか?」「弊社に遊びに来てみませんか?」など、求職者へのアプローチの一部は採用担当者が行うものの、実際に関心を持ってくれた人材とその後のSNS上でのやり取りや面談などは、経営者が自ら取り組むという企業もある。

求職者の中には、表面的な面談は不要で、自らが働く現場の責任者と経営者との2回程度の面談で、しっかり話したいという人もいる。

また、経営者と実際に顔を合わせるのは、面談がかなり進んでからという企業もある中で、最初から経営者が関与することは会社の印象を良くすることにつながる。求職者は自分のことを真剣に考えてくれていると感じて、自社に関心を持つようになる。

3)実際に会えた場合は、しっかりと考えや思いを伝える

SNSを使った採用で、経営者や採用担当者からのアプローチに応えてくれる求職者は、従来型の採用活動に満足していない人たちだ。

こういう人たちは条件面だけではなく、募集要項からはうかがい知れないこと、例えば、実際に経営者と話をして、自社や事業に対する考えや思いを聞き、その企業や事業の将来性はあるのか、自分が成長できる企業なのか、経営者や採用担当者はビジネスパーソンとして尊敬できる人なのか、一緒に働きたいと思える人なのかなどを知りたいと考えている。

SNS上の投稿で、日ごろの業務や仕事観などを発信することは重要だが、それだけでは十分とはいえないので、実際に求職者と会えた機会にしっかりと考えや思いを伝える必要がある。

例えば、実際に顔を合わせた求職者に対して、「全国の中小企業の経営課題の解決につながるサイトを構築したい」「1年後にはサイト上で、業務の効率化につながるサービスを使えるようにしたい」「それを実現するためにも、サイトのシステムを構築するエンジニアを求めている」「力を貸してほしい」など、しっかりと思いを伝えることで、求職者が真剣に自社に関心を持ってくれるようになる。

3 SNSによって異なる特徴を知る

一口にSNSと言っても、サービスごとに特徴が異なる(図表2)。以降では、Twitter、Facebook、LINEなど、採用側(経営者や採用担当者)が基本的に無料で利用することができるSNSについて、特徴を紹介したい。

こうした特徴を押さえて、適切に情報を発信したり、利用したりすることで、自社が求めている人材にアプローチできるだろう。

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1)Twitter

一部では、「Twitter採用(Twitter転職)」という言葉が浸透しているほど、SNSを使った採用では一般的に利用されている。簡単に投稿ができる、実生活で面識がない人ともつながりやすいなどの理由から、Twitterが利用されることが多いようだ。

また、Twitterでは、本名以外でのアカウント登録が可能なことや、文字数制限があるので、短文で気軽な内容の投稿が多くなっている。そのため、人となりや本音が出やすく、経営者や採用担当者としては、求職者のことを知る上で参考になるようだ。

Twitterを使った採用では、求人情報を詳細に掲載するというよりも、「営業職を募集中です。関心のある方はオフィスに遊びに来ませんか? DM下さい」や、採用色を前面に出さずに、「ヘルスケア業界で働く方、○○で食事会を開催します! 業界の将来について語りませんか?」などの情報を投稿する。投稿に反応があった人とコンタクトを取って、実際に会う機会などにつなげている場合が多いようだ。

さらに一部の経営者や採用担当者は、コンタクトを取ってきた人に限らず、リツイートなどの反応をした人を確認して、自社が求める人材であれば求職中かどうかを問わず、個別にアプローチしている。

2)Facebook

FacebookはTwitterとは異なり本名での登録が基本で、出身校や所属企業などの属性を登録している人も多い。また、Facebookを通じて仕事上のやり取りを行っている人もいるので、「友達」を見ることで、どういう人とつながっているのかなど、Twitterよりも社会的な立場や交友関係を知ることができる場合もある。

Facebookを使った採用では、経営者や採用担当者が、Twitterのように自社が現在採用活動していることを簡単に告知したりするだけでなく、自社の社員紹介や社内イベントの様子など、企業案内に近い投稿をしたりしている場合もある。

なお、経営者や採用担当者の個人のアカウントではなく、自社の企業アカウントを取得している場合は、求人機能を利用できる。これはフォームに従って職種などの求人情報を記載し、投稿を作成する機能だ。また、有料になるが、Facebook上で広告を出すことで、ターゲットを絞り込んで求人情報を投稿することもできる。

3)LINE

LINEは多くの若者が日常的に利用しているSNSツールであり、採用活動にLINEを活用する企業が増えている。

LINEのメリットの1つは、求職者がメッセージを見落としてしまう可能性が少なく、スムーズに連絡が取れるという点だ。LINEはメールなどと違い、基本的にスマートフォンの画面上にメッセージが通知されることや、普段からコミュニケーションツールとして頻繁に利用されていることから、求職者が見忘れてしまったり、他のメールなどに埋もれてしまったりする心配はほとんどない。

また、LINEはメールなどと違い、求職者がメッセージを既読しているかどうかを確認できる。「メッセージには気付いているが、返信をしてこない」ということが分かるため、求職者の志望度を察したり、志望度が低い求職者に別のアプローチを検討したりすることもできる。

企業の活用事例としては、企業がLINEの友達登録用のQRコードを用意し、エントリーしてきた求職者や、イベントなどに参加した学生に対して、希望者に登録を促すというものがある。その後、定期的に説明会の情報などをタイムラインや一斉メッセージ送信などで共有する。

また、内定者フォローとして、社内報などを発信して自社の魅力をアピールしたり、内定者のグループLINEを作って内定者同士の親交の場にしたりすることで、内定辞退や早期離職の防止に取り組んでいる場合もある。

4 他の求人媒体と組み合わせる

SNSを使った採用は、企業が特定の求職者にピンポイントでアプローチする「ダイレクト・リクルーティング」の1つだ。

他にも、企業の細かいニーズに特化した人材紹介サービスや、人材会社が開催する求人イベント、リファラル採用(縁故採用)、紹介予定派遣など、求人媒体の選択肢は広がっている。

自社が求める職種、年齢、条件、人物像によって、効果を発揮する求人媒体は異なる。例えば、求める人材が専門職で、その専門職の多くが、SNSにあまりなじみのない高年齢層である場合、SNSの効果は薄いかもしれない。また、全体の母数が少ない専門職を探す場合、SNSよりも、その専門職に特化した人材紹介サービスや、ダイレクト・リクルーティングサービスを利用したほうが早い場合もあるだろう。

ただし、そうした他の求人媒体で出会った求職者の人となりを知ったり、求職者との関係を深めたりするのに、SNSは効果を発揮する。求人媒体の1つとして、また、採用の成功率を上げる補助ツールとして、SNSは企業の採用活動の幅を大きく広げるものといえる。

以上(2020年5月)

pj00442
画像:pixabay

中小企業による公認会計士の活用方法

書いてあること

  • 主な読者:公認会計士に顧問を依頼しようと考えている中小企業の経営者
  • 課題:公認会計士と税理士のしごとの違いや、中小企業における必要性がわからない
  • 解決策:資格上の専門業務は違うものの、「税理士」や「公認会計士」という肩書きではなく、おのおのが持っている知識や経験によって得意な業務などは異なる

1 中小企業による公認会計士の活用

1)公認会計士の業務

公認会計士の業務は、企業が作成・公表する財務諸表に関する監査業務と、監査業務などを通じて培われた知識と経験を活かした経営全般に関するコンサルティング業務などになります。

しかし、中小企業にとって公認会計士は身近とは言い難い存在です。これは、後述するように公認会計士による監査が義務付けられている中小企業が少ないことや、公認会計士の数が少ないことなどが原因となっています。

ここでは、日本公認会計士協会のパンフレット「CPA&JICPA(2020年度版)」などを基に公認会計士の業務について簡単に説明します。

2)「監査」業務

企業から学校法人、公益法人など幅広い対象について、独立した立場から監査意見を表明し、財務情報の信頼性を担保します。

1.法定監査

法定監査とは、法律の規定によって義務付けられているものです。主なものは次の通りです。

  • 金融商品取引法に基づく監査
  • 会社法に基づく監査
  • 保険相互会社の監査
  • 特定目的会社の監査
  • 投資法人の監査

2.法定監査以外の監査

  • 法定監査以外の会社等の財務諸表の監査
  • 特別目的の財務諸表の監査

3.国際的な監査

  • 海外の取引所等に株式を上場している会社または上場申請する会社の監査
  • 海外で資金調達した会社または調達しようとする会社の監査
  • 日本企業の海外支店、海外子会社や合弁会社の監査
  • 海外企業の日本支店、日本子会社の監査など

3)「税務」業務

公認会計士は税理士登録をすることにより、税務業務を行うことができます。事例としては、次のようなものがあります。

  • 税務代理(申告、不服申立て、税務官庁との交渉など)
  • 各種税務書類の作成
  • 企業再編に伴う税務処理及び財務調査
  • グループ法人税制、連結納税制度などの相談・助言
  • 移転価格税制、タックスヘイブン税制についての相談・助言
  • 海外現地法人、合弁会社設立を含む国際税務支援
  • その他税務相談、助言

4)「コンサルティング」業務

経営戦略の立案から組織再編、情報システムの構築など、経営全般にわたる指導・助言を行います。事例としては、次のようなものがあります。

  • 相談業務(会社の経営戦略、長期経営計画を通じたトップ・マネジメント・コンサルティング)
  • 実行支援業務(情報システム・生産管理システム等の開発と導入)
  • 組織再編などに関する相談、助言、財務デューデリジェンス
  • IFRSに関するコンサルティングや業務支援
  • 企業再生計画の策定、検証
  • 統合報告の実施支援
  • 環境・CSR情報の相談、助言
  • 株価、知的財産等の評価
  • Trustサービス(注)(WebTrust、SysTrustの原則及び基準に基づく検証・助言)
  • システム監査、システムリスク監査(システム及び内部統制の信頼性・安全性・効率性等の評価・検証)
  • システムコンサルティング(情報システムの開発・保守、導入、運用、リスク管理等に関するコンサルティング)
  • 不正や誤謬を防止するための管理システム(内部統制組織)の立案、相談、助言
  • 資金管理、在庫管理、固定資産管理などの管理会計の立案、相談、助言
  • コンプライアンス成熟度評価
  • コーポレート・ガバナンスの支援

(注)Trustサービスとは、インターネットを介した電子商取引の安全性やシステムの信頼性などに関する内部統制について保証を与えるサービスです。

2 中小企業における公認会計士の活用シーン

公認会計士はさまざまな業務を行っていますが、これらの中で、特に中小企業にとって身近と思われる活用シーンについて紹介します。

1)法定監査

金融商品取引法では、株式上場を行っている企業などに対して公認会計士による監査を義務付けています。また、会社法では、原則的に資本金が5億円以上または負債総額が200億円以上の会社(会計監査人の設置義務のある会社)を会計監査の対象として規定しています。なお、会社法では、機関設計が柔軟化され、いわゆる中小の非上場企業であっても、会計監査人を設置することが認められています。

2)任意監査

現状としては、公認会計士への業務委託費用の問題や、財務に対する監査を要求される機会が少ないことなどから、中小企業が公認会計士に任意監査を依頼するケースはそれほど多くないようです。

しかし、株式上場を予定している場合は、証券市場の上場基準では過去2事業年度程度(各市場によって条件は異なります)の公認会計士による監査が規定されていることから、任意監査を受ける必要があります。

ただし、株式上場を目指すのであれば資本政策の立案などの株式上場に対する準備が必要となるので、この期間にこだわらず、できるだけ早い時期から公認会計士による指導や監査を受けることが望ましいとされています。

3)税務業務

税務に関しては、中小企業にとって関心の高い事項です。前述のように、税務の専門家である税理士が身近な存在となっているため、多くの中小企業にとっては、税務業務は税理士に依頼することが一般的ですが、当該業務を公認会計士に依頼するケースもみられます。

4)コンサルティング業務

中小企業を主な依頼先とする個人の公認会計士事務所が、前述したような広範な分野に関するコンサルティング業務を行っていることはほとんどありませんが、自らの得意分野に関するコンサルティング業務を行っています。

コンサルティング業務は、他の専門家も行っていることが多く、必ずしも公認会計士を利用する必要はありません。しかし、中小企業が一層の成長を図るために、内部統制制度の整備を行う場合など、公認会計士が適任の分野もあります。

多くの公認会計士は、大手監査法人での勤務経験をもっており、大企業の動向や取り組みに関する知識と経験を有しています。このため、公認会計士に依頼することによって、内部監査制度の整った大企業を参考にしたコンサルティングが期待できるでしょう。

5)会計参与制度

会社法において「会計参与制度」が定められています。会計参与とは、取締役・執行役と共同して計算書類を作成するとともに、当該計算書類を取締役・執行役とは別に保存し、株主・会社債権者に対して開示することなどをその職務とする株式会社の新たな機関のことをいい、公認会計士(もしくは監査法人)または税理士(もしくは税理士法人)がなるものとして規定されています。

会計参与制度は、任意設置機関であり、必ずしも新たに設置する必要はありませんが、設置を検討する際には、公認会計士の利用についても併せて検討してみるとよいでしょう。

6)中小企業が公認会計士を利用する際の注意点

中小企業が公認会計士あるいは税理士を利用する際に、資格に基づいた特徴を基準にどちらの専門家を利用するか検討する人もいるようです。

例えば、「公認会計士は、税法については税理士に劣る部分もあるが、会社法などに関しては深い知識を有しているのではないか」「税理士は法人税、所得税、相続税などの各種税法については高い専門知識を有しているが、会社法などに関しては、それほど深い知識をもっていないのではないか」というようにです。

こうした特徴は、一般的な傾向としてはみられるものの、実際には、「税理士」や「公認会計士」という肩書きではなく、おのおのが持っている知識や経験によって得意な業務などは異なります。例えば、相続に強い公認会計士がいる一方で、事業承継、営業譲渡、M&Aなどの業務も行っている税理士もいます。

すなわち、中小企業が公認会計士に業務を依頼する際に重視すべき点は、一般的な傾向に注意しつつ、「この公認会計士は依頼業務に対する高い知識や経験をもっているか」という視点から、実績などを踏まえた上で検討することが必要です。

以上(2020年5月)

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画像:photo-ac

第17回 【前編】営業育成のプロが教える「成果が上がる営業組織作りの8のポイント」/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

近年、Sales Enablement(以下、セールス・イネーブルメント)というアプローチが注目されています。セールス・イネーブルメントとは、「営業成果を出し続ける営業パーソンを育成する仕組み」のことで、「営業の成果起点の人材育成」という考え方です。
「育成自体が目的」ではなく、「営業成果のための育成」というのが一般的な育成の考え方と異なるところです。育成の結果、営業成果に繋がっているかどうかを検証します。育成の投資対効果を見に行きます。

今回の取材では、成果を創出し続ける育成に仕組み作りとそのポイントについて、山下貴宏氏に教えていただきました。前後編の2回に分けてお届けします。前編では「営業が抱える課題の解決にセールス・イネーブルメントがどう役立つのか」、後編では「実際にセールス・イネーブルメントの仕組みをどのように整備し、動かしていくのか」を解説しています。皆さまの営業組織作りのご参考になれば幸いです。

山下さん、貴重な学びのシェア、愛りがとうございます!(愛+ありがとう)

    山下貴宏
    株式会社R-Square & Company 代表取締役社長/共同創業者
    著書「セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方」(かんき出版)

1 営業とは

営業の役割とは何でしょうか? それは、「顧客に自社の製品・サービスの価値を理解して購入」いただき、「自社の営業目標を達成」することです。「顧客への価値提供」が先にあり、その結果として「自社の売上があがる」という順番です。営業の役割は、「顧客との自社製品・サービスの価値交換を通じた売上の最大化」です。

値引きをしすぎて製品提供をしてはダメですし(顧客はWinだが、自社がLose)、ゴリ押しで売れたとしても商売が続きません(顧客がLoseで、自社がWin)。

言われてみれば当たり前のことです。しかし、「売り物が複雑で専門性が高く難しい」場合や、「売り先である顧客の登場人物(ステークホルダー)が多かったり、組織が複雑で意思決定までに時間がかったりする」場合、この営業活動が途端に難しくなります。いわゆる「B2B(法人営業)」はこの部類にはいります。金融サービス、医療、IT、専門コンサルティングなど、専門性が高い法人向けの営業が典型的な例です。

そして、この難しい「B2B営業パーソンの育成」ということが更に難しいのです。

売れる営業は、どのようにして育成可能なのか? 組織としては一部の営業パーソンに依存しないよう極力「属人化」を排除し、多くの営業が「標準的に」売れる仕組みを構築する必要があります。これが、セールス・イネーブルメントのテーマです。

1)「営業目標」を明確にする

「成果起点の育成」がセールス・イネーブルメントである、とお伝えしました。逆にいうと、セールス・イネーブルメントに取り組むためには、「目指す成果・目標」が定義されている必要があります。端的にいうと、数値目標です。

目標がないところに、育成テーマはありません。

実は営業目標が明確に設定されていない企業が少なからずあり、その数は結構多い印象です。

  • 「営業一人当たりの今期の数値目標はいくらいですか?」
  • 「実は弊社のビジネスは営業一人で完結できる仕事ではないので一人当たりの目標が設定されていないのです」
  • 「わかりました。では、どのようにして個人の成果を評価していますか? 給与は何によって差がつくのでしょうか?」
  • 「……。実は、3倍多く売っても営業同士ではあまり給与は変わりません」

これはこれで1つの組織運営のあり方ですが、少なくとも育成のインセンティブ(動機付け)は働きません。「設定された目標の難易度と個人のスキルギャップが育成テーマ」になってきますが、まずは個々に追うべき目標を設定する必要があります。

2)営業目標は「既知のマーケットポテンシャル」を考慮する

営業目標を組織が設定する上で、「あいつは担当顧客が良かったから目標を大幅達成できたんだ」という声はよく聞かれます。「ノルマ不公平論」です。

多くの場合、担当顧客の割り振りとそのロジックが不明瞭です。もしくはちゃんと説明されていない。これは営業目標を設定する組織サイドの問題です。

例えば、考慮すべき論点は以下のようなものがあります。

1.新規既存

新規顧客だけを担当する営業と既存顧客を担当する営業とでは、その難易度が異なります。受注までの時間や、定常的に発生する引き合いも違ってきます。

2.エリア特性

東京と地方とでは、マーケットサイズが大きく異なります。東京エリアを担当する営業と地方を担当する営業では、当然数値目標が異なります。

3.業界特性

小売業界とIT業界。同じ小売業界でもスーパーや百貨店など、担当する顧客企業の業界によってもマーケットサイズが大きく異なります。つまり、売上獲得の分母が異なるわけで、マーケットサイズが大きな業界は営業目標も大きくなり、小さい業界はそれ相応に設定すべき、となります。

4.企業規模

大手企業と中小企業では出せる予算が当然異なります。同じ製品・サービスを売るのであれば、大手の方が目標値は大きくなります。

5.パイプライン

すでに去年から見込み商談(パイプライン)が大幅に積み上がっている場合、受注率や単価が一定であれば、パイプラインを潤沢に持っている営業パーソンの目標達成難易度は低くなります。逆に言えば余力があるわけで、他の営業と目標設定を変える論点になります。

上記は、営業目標を設定する際の観点の一部ですが、「ノルマ不公平論」を出さないためには、一定のルールや基準に基づいて極力公平に目標設定していることをコミュニケーションしていく必要があります。

3)「今売れている営業は、本当にハイパフォーマーなのか?」

ここで目標設定の公平性と重要性を述べたのには理由があります。

育成の観点からみると、

  • 「本当はスキルが低いにもかかわらず、担当顧客が良いから目標が達成できていて、できる営業として見られている」
  • 「本当は難易度の高い営業アプローチを仕掛けているにもかかわらず、今は成果が上がっていないというだけでローパフォーマーと見られている」

という事象が発生するからです。

後ほど解説しますが、セールス・イネーブルメントの取り組みの骨格は、

  • 組織として取り組むべき育成テーマを見極めて(例えば、新規開拓の改善など)
  • ハイパフォーマー(成果ができている人)のやり方を体系化し
  • コンテンツとして提供し
  • 育成テーマに連動する営業指標が改善したかどうかを、データを持って検証する

というサイクルを回します。

この時に、営業目標が適切に設定されていないと、目指すべきハイパフォーマーを見誤り、打ち手の精度が落ちてしまうことになります。

2 セールス・イネーブルメントとは

ここまで営業の役割と目標設定の重要性について述べてきました。それでは、実際にどのように育成を進めていくべきなのか、セールス・イネーブルメントの考え方を使って見ていきましょう。

冒頭でご紹介した通り、セールス・イネーブルメントは、「営業成果を出し続ける営業パーソンを育成する仕組み」のことで、「営業の成果起点の人材育成」という考え方です。

セールス・イネーブルメントの意味を解説した画像です

1)本来目指すべき「成果と育成」を繋げるサイクル

育成は、本来組織が目指す「成果」を起点にして設計される必要があります。イメージとしては以下の図にあるようなサイクルです。

人材開発サイクルを解説した画像です

しかし、実態を見ると、それぞれの階層で分断が起きています。

成果につながらない本質的な課題を解説した画像です

ミクロ視点、マクロ視点で育成が進まない要因があります。

●ミクロ視点

  • そもそも成果起点で営業トレーニングが設計されていない
  • トレーニングが一般的すぎる(特に外部研修)
  • トレーニング後、放置プレー。マネージャーはトレーニングの内容すら知らないことも多い
  • トレーニング結果の検証がない。トレーニングサーベイ(簡単な調査)程度

●マクロ視点

  • 営業パーソン視点では、営業の成果も行動もそのための学習も繋がっているにもかかわらず、提供サイドの組織が別々で連携していない
  • 人事部門は営業数値を把握していない、営業部門は人事が提供しているトレーニングを考慮していない

2)セールス・イネーブルメントは営業成果を一気通貫で支える仕組み

こうした育成にまつわる課題を解決するのに役立つのが、セールス・イネーブルメントの考え方です。

セールス・イネーブルメントは、営業成果に向けて行動、知識スキルを一気通貫で繋ぎ、必要なプログラムとシステムを提供する取り組みです。

セールス・イネーブルメントを通じて目指すことを解説した画像です

欧米では、セールス・イネーブルメント組織が多くの企業で導入され、営業組織を支援しています。

セールス・イネーブルメント組織の役割を解説した画像です

3 営業プロセスの標準化

セールス・イネーブルメントに取り組む上で、最初に「営業目標」を明確にする必要があると述べました。

次に、重要なことは、その「営業目標」達成のために必要な「営業プロセス」が何かを標準化することです。

「どのような営業ステップを踏むことが望ましいのか?」を組織として定義することです。

「実態はいろいろな営業活動があって、行ったり来たりする」ということは百も承知で、それでも組織として望ましい「営業ステップ」を定義するのです。これがないと、営業活動が属人化します。そして、これをシステムで可視化できる状態にしておきます。

営業プロセスを定義する際にとても重要なことが1つあります。それは、「顧客の意思決定プロセスを軸に定義を設定する」ということです。

顧客視点を意識した営業プロセスを解説した画像です

「自社(営業パーソン)が何をやったか」を軸に営業プロセスを定義しているケースがあります。これは見直した方が賢明です(上の図の上段)。

営業活動の大前提は、顧客の意思決定プロセスを前進させることです。例えば、「営業が見積もりを出した」からと言って顧客の意思決定プロセスが進むとは限りません。営業がやったことをもとに営業活動管理を定義すると、ほぼ間違いなく予算管理の精度が落ちます。

逆に、顧客の意思決定プロセスがどのように進むのか、そのために必要な活動は何かを定義すると、管理精度が上がります(上の図の下段)。

セールス・イネーブルメントは、この営業活動の進捗をみて、そこから育成テーマを抽出してプログラム化していきます。

4 インサイドセールスの役割

1)マーケティングと営業の溝

営業プロセスを明らかにする際に欠かせないのが「インサイドセールス」です。
営業活動を設計する上で、インサイドセールスの仕組みを導入する企業が増えています。
旧来、営業が新規案件の発掘からクローズまで全てを担ってきました。それが美徳と考えられてきました。

マーケティングと営業の溝を解説した画像です

しかし、実態を見ると、マーケティングと営業の間で溝が発生しています。典型は、マーケティングが作った見込み客(リード)が適切に営業に引き継がれず、案件化されないまま受注に至らないという問題です。営業は受注すべき案件が増えると受注活動に専念するので、来期の案件の種まきは優先順位が下がります。優先度の問題に加えて、リード情報の引き継ぎプロセスがシステム化されてない場合、見込み客フォローは間違いなく後回しになります。

2)「案件創出」機能としてのインサイドセールス

インサイドセールス機能は、このような背景から案件創出を目的として導入されてきています。企業によってはMarketing Automationツールを活用して見込み客の発掘- 育成- 営業への引き継ぎを可視化/自動化しています。

インサイドセールスによる案件創出の強化を解説した画像です

今回お届けする営業育成のプロが教える「成果が上がる営業組織作りの8のポイント」の前編はここまでです。後編では、「実際にセールス・イネーブルメントの仕組みをどのように整備し、動かしていくのか」をお届けする予定です。楽しみにお待ちください。

山下氏の近影の画像です

 

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年4月30日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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