被災時、オフィスの賃料や、自社ビルの借地権はどうなりますか?/中小企業のためのBCP

Q.被災時、オフィスの賃料や、自社ビルの借地権はどうなりますか?

A.オフィスの全部が使用できない場合、賃料の支払い義務はありません。一部が使用できない場合は減額が認められます。
また、借地上の自社ビルが被災しても、借地権は原則として被災を理由に消滅しません。

1 賃借しているオフィスが被災した場合

賃借しているオフィスが被災した場合、被災の程度によって賃料の支払いの要否やその額が異なります。

オフィスの全部が使用できなくなった場合、オフィスの借家契約は解除などの手続きを取らなくても当然に終了するので、賃料を支払う必要はありません。使用できなくなったといえるかどうかは、被災の程度、修復に必要となる費用などを考慮して判断されます。

オフィスの一部が使用できなくなった場合、借家契約は終了しませんが、使用できなくなった部分の割合に応じて賃料が減額されます。とはいえ、自社の判断で勝手に賃料を減額して支払うと、オーナーとトラブルになる恐れがあるので、まずは減額する金額や期間などについてオーナーと協議するのが望ましいでしょう。

こうした場合、賃料の減額の他、使用できなくなった部分の修繕を求めることもできます。

また、使用できる部分だけではオフィスの用を成さないのであれば、契約を解除することもできます。

2 借地上の自社ビルが被災した場合

自社ビルを借地上に建てている場合、自社ビルが全壊しても例外的な場合(プレハブの仮事務所などのように、一時的に土地を借りており、かつ建物滅失の場合には借地権が消滅する特約があるケースなど)を除いて借地権は消滅しません。そのため、地代は継続して支払わなければなりません。

一方、借地権が存続する以上、原則として自社ビルの再築は可能です。また、再築に当たって地主の承諾を得たり、承諾料を支払ったりする必要もありません。しかし、地主の承諾を得ずに再築すると、借地期間の延長が認められないことがあります。

また、借地契約で再築を禁止したり、増改築を制限したりする特約が定められていることもあるので、注意が必要です。

従って、自社ビルを再築するのであれば、可能な限り地主に承諾を得るのがよいでしょう。それが難しい場合、裁判所に承諾に代わる許可を得るための申立てをすることができます。

なお、自社ビルが全壊にまでは至らなかった場合、必要に応じて修理・修繕できることは当然です。たとえ契約書に修理・修繕を制限する条項があったとしても、通常の修理・修繕まで制限する場合、その範囲でこうした条項が無効になると考えられます。

以上(2020年4月)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 佐藤文行)

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画像:Maslakhatul Khasanah-Shutterstock

災害などを見据え、契約書のどこを確認するべきですか?/中小企業のためのBCP

Q.災害などを見据え、契約書のどこを確認するべきですか?

A.民法(2020年4月1日より改正法が施行)の内容を踏まえ、解除権の行使などについて、契約書の規定を見直し、災害時の自社のリスクを低減しておきましょう。

1 解除権の行使に関する定め

民法では、一方当事者が契約を履行できなくなった場合、その原因が災害のように自己に責任がないものだったとしても、相手方は履行を催告した上で(履行が不能であれば催告なしで)、契約を解除できるとされています。災害などによって物流が滞り、商品の納品が遅れる場合を想定してみましょう。

まず、自社が売主の場合、契約を解除されると支払いを受けられないまま在庫を抱えることになります。もう少し時間がたてば納品できそうな場合などは特に困ります。そのため契約では、「履行遅滞の原因が不可抗力によるものであるときは、当該履行遅滞を理由として契約を解除できない」などとしておくことが考えられます。

次に、自社が買主の場合、「納品が遅れるのであれば、契約を直ちに解除して他社から商品を購入したい」と考えるかもしれません。そのため契約では、「不履行があったときは、催告をすることなく直ちに契約を解除できる」などとしておくことが考えられます。

2 引渡し前か後かで変わる代金の支払い

自らに責任がない事情で債務を履行できなくなった場合に、対価の支払いが受けられるか否かの結論が変わることを「危険の移転」といいます。例えば、自社が販売する建売住宅の売買契約を締結した後に(引渡し前に)地震で当該建物が倒壊した場合、自社が買主に代金の請求をしても、買主は代金の支払いを拒絶できます。一方、自社が買主に建物を引き渡してしまえば、その後に地震で建物が倒壊しても、買主は代金を支払わなければならないとされています。

つまり、災害などを原因として売買契約の目的物が滅失した場合、それが引渡しの前か後かによって代金支払拒絶の可否が異なります。そして、当事者が契約で取り決めれば、危険の移転時期を引渡しとは異なった時点とすることができます。例えば、鍵の引渡しより前に所有権移転登記がされる場合、「登記の移転をもって危険を移転する」とすれば、鍵の引渡しが未了でも、登記さえされていれば代金の支払いを求めることができます。

3 請負契約、賃貸借契約の留意点

民法では、請負契約において、災害などを原因として仕事の完成が不能となった場合、請負人が出来高部分に応じた報酬を請求できます。また、賃貸借契約において、災害などで賃借物の一部が滅失した場合、賃料が滅失の割合に応じて当然に減額されます。 こうした民法の定めと異なる取り扱いをしたい場合、あらかじめ契約に定めておくことが必要です。

以上(2020年4月)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 佐藤文行)

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災害などで契約を履行できない。どのようなリスクがありますか?/中小企業のためのBCP

Q.災害などで契約を履行できない。どのようなリスクがありますか?

A.自社だけではなく、取引先が被災して契約を履行できなくなった場合にも、自社が損害賠償責任を負う恐れがあります。

1 自社が契約を履行できなくなった場合

災害時は、工場が被災して商品が納品できない、社員が出社できず請け負っていたソフトウエア開発が納期に間に合わないなど、自社が取引先との契約を履行できなくなる恐れがあります。社員が感染症にかかり、自宅待機を命じられている場合なども同様です。

契約の世界では、不可抗力によって契約を履行できなくても、当事者は損害賠償責任を負わないものとされています。実際、災害などによる契約不履行について、免責する規定を定めている契約書は多く見受けられます。

もっとも、契約不履行の原因が災害にあるからといって、必ず免責されるわけではありません。例えば、地震が原因で契約を履行できない場合、地震の規模がどの程度であれば不可抗力といえるのかについての明確な基準はありません。また、極めて大規模な地震であっても、近隣の同業他社が事前に災害に備えていて、早期に事業を再開させた場合、事業がストップし続けた原因は、事前の対策が不十分な自社にあるかもしれません。

こうした場合、自社が損害賠償責任を負う恐れがあります。その対策として、契約書の中に、不可抗力として自社が免責される場合をできる限り具体的に定めたり(「自社所在地の震度が○以上の場合」など)、早期に業務を再開するためにBCPを策定したりしておく必要があるでしょう。

2 取引先が契約を履行できなくなった場合

自社が被災していなくても、取引先が被災して操業がストップしてしまい、いわゆる「サプライチェーンの断絶」によって自社が契約を履行できないケースもあります。例えば、取引先から部品を調達できず、完成品を納品できない場合などです。

自社が顧客に対し、平常時の生産体制を前提とした納品を約束しているとしたら、自社は顧客から、商品を納品できないことについての責任を問われる恐れがあります。これは、取引先である部品メーカーが被災した場合のみならず、部品メーカーのさらに先の原材料商社などが被災した場合も同様です。 こうした事態を避けるためには、代替部品や代替業者などの確保手段を検討したり、契約書の中に「原材料や部品の調達が自社の責めによらずして不能となった場合、不可抗力として自社が免責される」旨の規定を定めたりしておくことがとても重要です。

また、場合によっては、自社と密接な取引関係にある業者との間で、「グループ」としてBCPを策定するのもよいでしょう。いずれかの会社が被災した際、自社と業者で協力して顧客への影響を最小限に抑えられるようにするためです。非常時の体制が整備されているかを、取引先チェックの項目に加えることも検討すべきです。

以上(2020年4月)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 佐藤文行)

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地震が発生した場合の初動対応のポイントは?/中小企業のためのBCP

1 地震が発生した場合にまずすべきこと

さまざまな意見がありますが、地震が発生したら、次の1、2、3の順で安全を確保するのが一般的です。また、負傷者などがいる場合は、速やかに応急処置)を施します。

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1.揺れが収まるまで、机の下(机の近くにいない場合はものが落ちてこない場所)に避難する

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2.揺れが収まったら、ヘルメットを着用の上、給湯室などの火の元を止める

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3.オフィスのドアを開放し、避難経路を確保する。避難経路を確保できたら、被害の状況を確認する

2 地震で火災が発生した場合にすべきこと

火災が発生したら、周囲に火災が発生した旨を伝え、119番通報を促し、次の1、2、3の順で初期消火などを行います。

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1.消火器の安全ピンを抜き、ホースを火元に向けてレバーを握り、初期消火を行う

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2.危険を感じたら(消火器による初期消火の場合、目安は火の天井到達まで)、初期消火を中止し、避難する

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3.防火戸を閉め、煙を吸わないよう、濡れたハンカチなどで口を覆い、姿勢を低く保って避難する

3 避難すべきかの判断基準

地震によって、「火災や建物の倒壊の危険がある場合」「役所・警察・消防から避難の指示があった場合」は速やかに避難する必要があります。

一般的に、震災時の避難の流れは次の通りです。

  • 近所の学校や公園などの「一時集合場所」に避難する
  • 一時集合場所への避難が危険な場合、大きな公園・広場などの「避難場所」に避難する
  • 火災や建物の倒壊の危険がなくなり自宅に被害がない場合、帰宅する
  • 自宅で生活できない場合、学校などの「避難所」に避難する

火災や建物の倒壊の危険がなく、役所・警察・消防から避難の指示がない場合、避難すべきかは会社が判断します。例えば、東京都「帰宅困難者対策ハンドブック(平成29年10月)」では、災害発生から3時間後までに、建物の耐震性や周辺の被害状況を勘案し、避難するべきかを判断するのがよいとされています。

以上(2020年4月)

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イラスト:狐崎のち

【座談会】債務不履行責任など、災害時に自社が負う責任を把握していますか?/中小企業のためのBCP

――災害時に起こりがちな法務上の問題について教えてください。

弁護士A
まず想定されるのは、契約を履行できない事態です。例えば、災害による影響で事業の継続が不可能な場合、期日までに顧客に商品を納品できないことなどが起こり得ます。災害という非常時なので、事情を考慮してくれる顧客は多いでしょう。しかし、型通りの解釈をされてしまえば、自社が債務不履行責任を問われる恐れもあります。

弁護士B
債務不履行責任に問われるような事態を避けるためには、「不可抗力により、自社が免責される場合」をあらかじめ契約書で定めておくという方法があります。不可抗力には地震、暴風雨、洪水などの天災や火災などが含まれます。例えば、不可抗力となる災害の範囲を「自社所在地の震度が○以上の場合」など、できる限り具体的に定めておくとよいでしょう。

――契約に関する問題は、専門的な知識がないと対応が難しいように思います。何から始めればよいでしょうか?

弁護士A
中小企業の場合、単一事業を手掛けていたり、特定の顧客への依存度が高かったりします。災害時に事業の継続が難しくなり、取引に支障を来せば、経営が大きく傾きかねません。

そこで、自社の契約内容を十分に理解し、どのような責任を負うのかを把握してください。弁護士といっても、ビジネスの細部まで理解しているわけではありません。信頼できる弁護士に、自社の事業を理解してもらい、現在の契約で問題になりそうなポイントと、それを防ぐ方法を相談するのもよいでしょう。

――顧客との契約以外に、注意しておくべきことはありますか?

弁護士B
オフィスや機械などの事業用資産を、賃借やリースで調達していると思いますが、災害によってこれらが損壊した場合の取り扱いについても注意が必要です。例えば、賃借しているオフィスが使用できなくなった場合、再び使用できるようになるまでは、賃料を支払う必要はありません。一方、リース物件が損壊した場合、契約で定められた残リース料(規定損害金)を支払う義務を負います。

賃借もリースも、事業用資産を他者から借りる点は同じですが、自社と契約相手(物件のオーナーやリース業者)のどちらが責任を負うのかなどの違いを理解しておかなければなりません。

弁護士A
重要な事業用資産の被災という点でいえば、データの消失についても対策が必須です。顧客情報やデザインデータなどの営業上重要なデータを、社内のPCでしか保管していない中小企業も見受けられます。こうした場合、PCの損傷などで、営業上重要なデータを失ってしまう恐れがあります。

しかし、社内のPCで保管しているデータを消失しても、バックアップがあれば、自宅などオフィスではない場所から、リモートワークなどで事業を継続することができます。バックアップの方法や保管先、万が一の際のアクセス方法などを取り決め、早めに対策を講じましょう。

――BCPや災害対策に本気で取り組もうとしている経営者に対して、アドバイスをお願いします。

弁護士B
BCPの策定や災害対策は、売り上げに直結したり、社員のモチベーションが高まったりといった、プラスの効果が生まれる取り組みではありません。そのため、後回しにされがちです。

しかし、BCPの策定や災害対策をしていない状態で被災すれば、一気に経営が傾きかねません。どれだけ努力しても、リスクをゼロにすることはできませんが、準備をしておくことで、万が一の際に大きな効果を得られることがあります。

影響の大きさを最もよく理解している経営者がリーダーシップを発揮して、ぜひ、BCPや災害対策に取り組んでいただきたいと思います。

以上(2020年4月)
(監修 弁護士 田島直明、弁護士 坂東利国)

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安全な場所にデータを退避させるバックアップサービスとは?/中小企業のためのBCP

1 クラウドを使って容易に環境構築

顧客情報や日々の受発注情報などのデータを、社内のPC やサーバーに保存している会社は多いでしょう。しかし、災害によってハードディスクなどの記憶媒体が損傷し、これらのデータが消失すると、顧客に連絡できなくなる他、資材調達や営業活動も通常通り行えません。こうした事態を回避するために、バックアップ体制の構築が重要です。

そこで検討したいのが、「クラウド」というインターネット技術を使ったバックアップサービスです。インターネット回線を使ってファイルを遠隔地に退避できるため、災害によって社内のPCやサーバーが損傷しても、迅速にデータを復旧し、事業を再開できる可能性があります。

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2 クラウド型バックアップサービスのポイント

クラウド型バックアップサービスの多くが、保存するデータ容量に応じた料金体系になっています。どのくらいの費用がかかるのかを把握するため、事前にバックアップするデータ容量を算出しておくのが望ましいでしょう。

その他、安全性、速度、運用のしやすさなども、サービスを選ぶ際のポイントになります。

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3 セキュリティーを踏まえたバックアップ

データを社外に持ち出す場合、重要な情報の漏洩に十分注意しなければなりません。クラウド型バックアップサービスも例外ではありません。バックアップサービスを提供する事業者は独自にセキュリティー対策を実施しているものの、サービスを使う利用者側にも情報を漏洩させない使い方や運用体制が求められます。

例えば、バックアップサービスを利用する人を特定の社員に限定しているか、誰がいつバックアップデータにアクセスしたのかを把握できているかなどです。サービスにログインする IDやパスワードの適切な管理も、情報の漏洩を防ぐためには欠かせません。

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4 知らないうちにバックアップしているかも? PCの設定をチェック!

「バックアップしていなくてデータが消えてしまった!」と嘆く前に、PCの設定をチェックしましょう。もしかすると、先日まで使っていたファイルを復旧できるかもしれません。

Windows10の場合、標準装備されているバックアップ機能を確認します。機能が有効なら、バックアップデータからファイルを復旧できます。「OneDrive」などのオンラインストレージサービスの中には、特定フォルダ内のファイルを自動保存する機能を備えるものがあります。対象となるフォルダ内のファイルに限られるものの、機能を事前に有効化していればファイルを復旧できます。

これらの設定を有効化するだけで、ファイルをバックアップできるようになります。簡単に設定できるので、万が一に備えて事前に確認しておきましょう。

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以上(2020年4月)
(監修 aaaリサーチアンドコンサルティング 代表 中小企業診断士 福島一公)

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“社員と確実につながる” ための安否確認のポイントは?/中小企業のためのBCP

1 複数の安否確認手段を準備

過去の災害では、通信規制、メールサーバーへのアクセス集中、バッテリー切れ、社員のアドレス変更によるメールの不達などによって、安否確認が正常に行えなかった会社がありました。

どの安否確認手段も完璧ではないため(下図を参照)、できれば複数の安否確認手段を準備しておくのがよいでしょう。

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2 報告事項を決めて社員に周知

「氏名」「けがの有無」「現在地」「出社可否(出社不可の場合はその理由)」など、報告事・けがはありません項を決めて社員に周知しておく・自宅にいますと、状況を円滑に把握できます。

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以上(2020年4月)
(監修 aaaリサーチアンドコンサルティング 代表 中小企業診断士 福島一公)

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中核事業やBCP の発動基準はどうやって決める?/中小企業のためのBCP

1 重要顧客・重要取引先で特定

BCPでは、「中核事業」を特定します。中核事業とは、会社の存続に関わる最も重要性(または緊急性)の高い事業のことです。中小企業は単一事業のみを手掛けていることが少なくないため、「中核事業」を「重要顧客・重要取引先」と読み替えるとイメージしやすくなります。つまり、「そこからの収益や調達などが途絶えると、会社の存続が危ぶまれる顧客・取引先」を特定するのです。

重要顧客を特定する基準としては、「収益」が最も分かりやすいでしょう。最も収益が大きい顧客への商品・サービスの提供を止めないためにはどうすればよいかを検討し、BCPにまとめます。例えば、重要顧客の担当者を増やすなどの対策が考えられます。

また、重要取引先を特定する基準としては、「取引先への依存度」が最も分かりやすいでしょう。例えば、その取引先から部品が調達されないと商品の製造ができない場合、依存度が高いといえるでしょう。こうした場合、在庫量を見直したり、取引金額が高くなっても問題ないように代替先を確保したりする必要があります。

2 BCPの発動基準(誰が、いつ、発動するか)の決め方

誰が、いつ、BCPを発動するかというのは、BCPの意外な盲点です。「誰が」については、通常は経営者がBCPの責任者としてBCPを発動します。しかし、経営者自身が被災することもあるため、万が一に備えて代理も任命しておきます。

難しいのは「いつ」です。タイミングは、災害や感染症などの状況によって変わります。BCPの責任者の判断を尊重しますが、災害の場合、「防災気象情報」を確認しましょう。

また、BCPの発動後に素早く運用体制に入るために、日ごろから、単なる避難訓練ではなく、BCPの発動後の体制を想定した訓練をすることが重要です。例えば、重要顧客や重要取引先に対する緊急連絡のロールプレイング、業務担当者の交代、リモートワークなどの訓練をします。

3 BCPを「定着させ、運用する」ポイント

平常時、社員はBCPについて真剣に考えることはないでしょう。しかし、そうして油断しているときに災害などが発生すると、現場は大いに混乱してしまいます。

そうならないように、経営者は社員のBCPに対する意識を高め続けなければなりません。定期的な訓練を行う他、「万が一の際に会社が被る影響」を共有するとよいでしょう。例えば、「重要顧客を失うと、収益が10分の1になる」など、赤裸々な数字を示すことで社員の意識が高まるでしょう。BCPは、「策定する」ことはもちろん、「定着させ、運用する」ことも非常に重要です。

以上(2020年4月)
(監修 ひらきプランニング 代表取締役 平野喜久)

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【朝礼】欲しい情報は私に聞きなさい!

今わが社では、私を含む全社員のスケジュールがイントラネットに登録されていて、誰でもすぐに確認することができます。こうしたスケジュール管理を始めて数年、ついに私が待ち望んできた行動をしてくれる社員が出たので、皆さんにお伝えします。

数カ月前から、私はわが社にとって非常に重要なクライアントとの会談を継続しています。イントラネットを見れば誰にでも分かるのですが、先日、私がその会談から戻ってくるなり、「どのような話だったのですか? とても気になるので聞かせてください」と質問してくる社員がいたのです。その社員は、私に直接話を聞くことに緊張していました。また、状況をよく知らないためどう質問してよいのか分からず、ストレートな言葉をぶつけてきたのでしょう。

私は質問してきた社員を高く評価しています。重要クライアントの動きは私たちの仕事に大きな影響を与えるわけですから、その動向が気になって当然です。逆に、そこにすら関心が持てないような社員は、周囲で何が起きようと私や上司が指示するままに動くということなのでしょうか。「目先の仕事が忙しい」「自分はまだ重要事項を知るレベルではない」なんて、情けないことを言わないでもらいたいのです。重要クライアントとトラブルになれば、皆さんの目先の仕事は一瞬でなくなります。そんな重要な情報だからこそ、皆さんは自主的に知るべきだと思います。

私は、質問してきた社員に重要クライアントとの会談の内容を事細かに説明しました。2人だけで30分くらい話をしたと思います。会談の内容はもちろんですが、その他にも私の交渉シナリオ、先方のキーマンとどのように信頼関係を築いたか、実はこの会談に至る1年前から関係者を少しずつ巻き込んで伏線を敷いていたことなど、とにかく私の“頭の中”をできるだけ伝えました。その社員の質問にも全て答えました。最初はかなり緊張していた様子でしたが、最後は身を乗り出して質問してきたのが印象的でした。

さて皆さんは覚えているでしょうか? この重要クライアントと大きな会談を持つことになるであろうことを、私は半年前から繰り返し伝えてきています。「情報を出してほしい」と皆さんは言いますが、その受け皿がなければ意味がないような気がします。私に質問してきた社員は、自らの行動によって情報を飛躍的にアップデートさせ、日々の自分の行動にリンクさせたのです。

最後に、その社員の背中を押した上司がいることをお伝えします。当初、その社員は自分の上司に重要クライアントについて質問したそうですが、上司は「自分が話すより、社長から直接聞いたほうがより生の情報が得られる。私も何度も社長に質問しているが、きちんと答えてくれる」と言ってくれたそうです。私には皆さんの質問に答える義務があります。このことを忘れないでください。

以上(2020年4月)

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画像:Mariko Mitsuda

災害、感染症などの脅威から社員や会社を守るBCP とは?/中小企業のためのBCP

BCPの基本的な考え方

BCPとは、会社が災害、感染症などの緊急事態に遭遇した場合に、損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業を継続・早期復旧するため、平常時の活動や緊急時の事業継続の方法、手段などについて定めた計画のことです。

災害時の避難マニュアルなどは、あくまでも BCPの要素の1つです。避難マニュアルによって社員の命を守ることができても、顧客データが消失したり、工場の復旧に必要な運転資金が確保できなかったりすると、会社は事業を継続することができないからです。

BCPの策定内容は会社によって異なりますが、中小企業庁「BCP様式類(記入シート)入門コース」の場合、おおむね下図の構成になっています。

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緊急事態に遭遇した直後だけでなく、そこから事業を再開するまでの間に、社員や会社がどのような脅威にさらされるかを想定し、事前に対策を準備しておくことがBCPの基本です。

以上(2020年4月)
(監修 ひらきプランニング 代表取締役 平野喜久)

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画像:Maslakhatul Khasanah-Shutterstock