反社会的勢力の活動への対策ポイント

書いてあること

  • 主な読者:反社会勢力からの被害の防止に備えたい経営者
  • 課題:具体的にどのような対策をしておけばよいのか分からない
  • 解決策:ケースごとの具体的な対応要領を押さえておく。相談窓口も確認しておく

1 反社会的勢力の活動の状況

暴力団やその関連企業など(以下「反社会的勢力」)は、組織の実態を隠し、企業活動を装ったり、共生者(注)を利用したりするなどして、活動を不透明化させています。反社会的勢力は、企業などに対してさまざまな手段で不当な要求を行い、活動の資金源としており、証券取引や不動産取引などを通じて資金獲得活動を巧妙化させています。

暴力団関係相談受理件数の推移は次の通りです。ただし、これはあくまで警察と暴追センターに寄せられた相談受理件数であり、実際には、警察や暴追センターに相談していないケースもあると考えられます。

(注)暴力団に利益を供与することにより、暴力団の威力、情報力、資金力などを利用し自らの利益拡大を図る者。

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2 反社会的勢力の活動への対策のポイント

1)反社会的勢力による被害を防止するための基本原則

政府は、2007年6月に「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(犯罪対策閣僚会議幹事会申合せ。以下「指針」)を公表し、反社会的勢力による被害を防止するための基本原則として、次の5項目を示しています。

  • 組織としての対応
  • 外部専門機関との連携
  • 取引を含めた一切の関係遮断
  • 有事における民事と刑事の法的対応
  • 裏取引や資金提供の禁止

2)経営トップのコミットメント

企業が組織として対策を進める上で重要なのは、「反社会的勢力とは一切の関係を持たない」という基本方針と、経営トップによるコミットメントです。多くの企業が、倫理規程として定める企業行動指針や、就業規則など従業員が順守しなければならない義務を定めた規程の中で、反社会的勢力との関係遮断について明文化しています。

反社会的勢力の活動をリスクとして認識し、一切の関係を遮断することは、反社会的勢力の活動資金源を絶つことにつながります。

3)取引先の状況を確認する

新規取引先や既存取引先が反社会的勢力と関係していないか、調べ直すことも大切です。すぐに実行できる方法として新聞記事や雑誌記事を検索し、取引先の企業情報を収集・分析することが挙げられます。

また、専門会社のデータベースを利用するのもよいでしょう。例えば、企業の危機管理を総合的に支援するエス・ピー・ネットワークでは、反社会的勢力に係る独自のデータベースを使った情報分析サービスを提供しています。

この他、所轄の警察署や都道府県警察本部の暴力団対策主管課に照会する方法も考えられます。警察では、取引などの相手方が反社会的勢力でないことを確認するなど、暴力団排除条例に定められた事業者の義務を履行するために必要と認められる場合には、可能な限り情報提供を行っています。

4)契約書や取引約款に「暴力団排除条項」を盛り込む

暴力団排除条項は、取引先が反社会的勢力と認められる場合には一方的に契約を解除できることを定めるもので、反社会的勢力との関係遮断のために有効です。ただし、現行の契約書や取引約款に暴力団排除条項を盛り込む場合、「コンプライアンスを重視する企業の姿勢を示す一環として、暴力団排除条項を盛り込むことになりました」と説明するなど、取引先に失礼のないようにしなければなりません。

5)日ごろからの対策

反社会的勢力の活動への対策を進めることは、企業の社会的責任の観点からも重要です。基本方針に基づいて、反社会的勢力への応対の方法を検討します。また、責任体制を明確にし、経営トップ以外で直接応対に当たる責任者を選任し、日ごろの心構え、具体的な応対要領を従業員に徹底します。

3 具体的な応対要領

1)相手を確認する

初対面の段階で、名刺をもらうか面会カードに記載を求めるなどの方法で相手の氏名、勤務先などを確認します。相手がこれに応じなければ、「お引き取りください」などと面談を断ります。

2)相手より有利な人数や場所で短時間で応対する

反社会的勢力の常とう手段は、大声や脅し文句で不安・恐怖を与え、懐柔するそぶりで困惑させ、要求に応じざるを得ないようにするものです。面談の際には、相手より多い人数で社内で応対することで心理的に優位な状態を保ちます。

反社会的勢力が指定する場所(暴力団の組事務所など)に出向いてはいけません。また、応対時間は、あらかじめ15分などと決め、それ以上に長引くようならば「お引き取りください」と言って面談を打ち切ります。なお、茶菓を出す必要はありません。

3)用件を確認する

初期段階で、相手の用件や要求内容を確認することが重要です。反社会的勢力は、恐喝や威力業務妨害などの罪に問われることを恐れて、「誠意を見せろ」などと要求内容を明示しない場合が多いので、「具体的にどうすればよいのですか」などと聞き返し、要求内容と根拠を相手自身から明確に引き出します。

なお、「お前では話にならない。社長(最高責任者)を出せ」と言われても、応対の責任者が「当社では、私がその担当者ですので、まず私が話を伺い、報告することになっています」と言って最高責任者には取り次がないようにします。

4)言動に注意する

反社会的勢力は巧みに論争に持ち込んで、相手の失言を誘い、言葉尻を捕らえて因縁をつけてきます。不用意な発言をしないように慎重に言葉を選び、発言は必要最小限にとどめます。また、相手の不当な要求に対しては、曖昧な返答をしないで明確に断ります。その場を逃れようとして「検討します」「善処します」などと言うのは禁物です。

5)応対内容を記録する

反社会的勢力との電話や面会の際には、応対内容を録音したり、メモを取ったりして正確に記録に残すことが重要です。また、事前に「正確を期すため、会話の内容を録音させていただきます」と告げることは、相手をけん制する上で効果的です。

6)わび状などの書類作成は拒否する

反社会的勢力は、「一筆書けば許してやる」などとわび状や念書を書かせようとします。わび状や念書は、相手の不当な要求に対して、非を認めた証拠となります。相手に有利な交渉材料を与えるだけなので、わび状や念書の作成には絶対に応じてはいけません。

7)警察に通報する

反社会的勢力が暴行や器物損壊など不法行為に及んだときは、直ちに警察に通報します。受傷事故などを防止するために、気付かれないように通報するとよいでしょう。通報することを相手にとがめられたら、「警察にそうするように指導を受けている」と答えます。

4 ケースを想定した対応策

1)見知らぬ団体などから機関紙・図書などが送り付けられ、料金を請求される

売買契約を結んでいない機関紙・図書が送り付けられてきた場合、相手に返送するのが基本です。

開封前であれば、メモ用紙に「受取拒否」と記載し、受取人の名前を記載して押印した上、郵便物などの宛名面に貼り付け、郵便局などを通じて返送します。

開封後であっても、購読拒否の意思を相手に明確に伝える文書を同封し、簡易書留や宅配便で送付します。なお、後日、言い掛かりをつけられる可能性もあるため、書留郵便物受領書や宅配便の送付依頼書、同封した文書の控えを保管しておくとよいでしょう。

2)見知らぬ団体などから電話があり、機関紙・図書などの購入を要求される

電話による機関紙・図書の購入要求に対しては「必要ありません」と明確に拒否することが基本です。

相手が「同業他社の多くが協賛している」「今回限りで構わない」などと強引に購入を要求してきても、その場しのぎに要求に応じてはいけません。また、「結構です」などといった、どちらとも取れる返答をするのは禁物です。なお、機関紙・図書などを購入するかしないかは、各企業の自由意思であり、購入を拒否する理由を告げる必要はありません。

今まで機関紙・図書の購読をしている場合でも、購入に至った経緯や現状での必要性を改めて確認し、必要のないものであれば購入を断るべきです。

5 主な相談先

各都道府県に設置されている暴力追放運動推進センターでは、反社会的勢力の活動に対する企業の対応について、弁護士や警察出身者など専門知識や経験を有する暴力追放相談委員による相談を受け付けています。

また、暴力追放運動推進センターや警察署では、暴力団対策法に基づき、事業所ごとに選任された不当要求防止責任者に対して、暴力団の情勢や暴力団からの不当な要求の対処方法などに関する講習を実施しています。

反社会的勢力の活動に関しては、所轄の警察や暴力追放運動推進センターの担当者との連携を密にし、ささいなことでも早期に相談するとよいでしょう。各都道府県の暴力追放運動推進センターは次のウェブサイトで確認することができます。

■全国暴力追放運動推進センター「都道府県暴追センター連絡先一覧表」■
http://fc00081020171709.web3.blks.jp/center/index.html

日本弁護士連合会や各地の弁護士会でも、反社会的勢力の活動に関する相談を受け付けています。

■日本弁護士連合会■
https://www.nichibenren.or.jp/

以上(2018年10月)

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弁護士が教える企業法務のツボ 厳格化する取締役の責任と会社の対策

書いてあること

  • 主な読者:取締役、取締役就任予定の従業員
  • 課題:取締役の法的な責任について知っておきたい
  • 解決策:民事上、刑事上の責任を負っている。民事上では、特に不祥事が起こった場合、この責任の負担は、取締役本人のみにとどまらず、家族にまで及ぶ可能性がある。責任が大きいのは権限の大きさと比例している。取締役には企業をよい方向に導くためにその責任と権限を意識することが求められる

1 取締役の責任の厳格化の流れ

従来から日本の会社においては、長年会社に勤めてきた従業員が内部昇格して取締役になる傾向があります。このような生え抜きの取締役の場合、社内の事情に精通しているという利点がある半面、長年勤めていた会社であるが故に取締役就任に伴って、それまでとは異なる大きな責任を負うことを認識しづらいという問題があります。

近年、こうした問題点が広く認識されるようになり、投資家・消費者などを公正に保護しようとする傾向が生じていることから、取締役の責任が加重されつつあります。

その1つの例が2015年5月に施行された改正会社法です。この改正では、社外取締役などによる株式会社の経営に対する監査などの強化や、会社運営の適正化が大きな目的とされており、取締役の会社運営上の責任は一層重くなりました。

本稿では、押さえておくべき「取締役の法的責任」について、実例を用いて説明します。

2 民事上の責任1:取締役・執行役が負う責任の類型と賠償額

取締役は、経営に当たり会社に損害を与えないように注意すべきという善管注意義務を負っています(会社法第330条、民法第644条)。その義務の内容はさまざまですが、取締役の責任がよく問題となるケースとして「法令違反」「著しく不合理な経営判断」「監視監督義務違反」があります。

1)法令違反

取締役は、職務を行うに際して、法令を遵守する義務を負っています(法令順守義務、会社法第355条)。法令違反の事例としてはミスタードーナツをフランチャイズ経営していたダスキンで起こった事件(以下「ダスキン事件」)(大阪高裁平成18年6月9日判決判時1979号115頁)が有名です。ダスキン事件は、食品衛生法上使用が認められていない食品添加物を肉まんに使用して、販売したことが新聞・テレビ等で報道されて、ミスタードーナツの売上が低下する等の損害が生じたため、ダスキンは加盟店に売上減に対する補償等をするなど多額の出費をしたことについて、取締役および監査役の善管注意義務違反に起因するとして、株主代表訴訟が提起された事件です。

判決では、取締役が未認可添加物の使用および販売という事実を認識しながらも、その事実を公表せず継続して販売したことなどにより、会社の損害および信用失墜を大きくさせたことについて、隠蔽に関与した取締役だけでなく、隠蔽に関与していない11人の取締役についても責任を認め、具体的な損害賠償額は5億円以上にも上りました(ただし、取締役ごとで責任の範囲は異なっています)。

2)著しく不合理な経営判断

「法令違反」行為をした場合に責任を負わなければならないというのは、当然のことです。しかし、法令に反する行為ではなく、経営上の判断においても、取締役の責任が発生することがあります。

一般的に、会社の経営には一定程度のリスクを冒すことが不可避です。そのため、取締役の経営手腕を遺憾なく発揮できるように、経営上の判断についてはなるべく責任を負わせないようにすべきと考えられています。この考え方を経営判断原則といいます。しかし、近年、この経営判断原則を適用しつつも、取締役が経営判断に関して責任を負わされる裁判例が増えつつあります。

有名な事件としては、北海道拓殖銀行事件(最高裁平成20年1月28日判決判時1997号143頁他)が挙げられます。この事件では、取締役らが健全とは到底認められない貸付先に対して、確実な担保余力があるかどうかを慎重に検討せずに追加融資を決定したことについて、取締役の責任が問われました。最高裁は、銀行の取締役は、債権回収・保全を優先に考えるべきであるから、短期間のうちに対処方針および追加融資に応じるかどうかを決定しなければならないという時間的制約を考慮しても、その責任を免れることはできないとしました。そして、同事件では、一連の不祥事について5件の訴訟が起こされ、約101億円もの賠償金の支払いが13人の取締役に対して命じられました。

3)監視監督義務違反

取締役に就任した場合、自己の担当業務ではなくとも、他の取締役の行為について責任を取らなくてはいけないケースがあります。「代表取締役でもないのに、なぜ自分が関与していない他の取締役の行為にまで責任を負わなくてはいけないのか」と思うかもしれません。しかし、会社法第362条第2項第2号では取締役会の義務として取締役の職務執行を監督すべきことを定めています。判例でも、個々の取締役は、取締役会の構成員として、取締役会に上程された事柄についてだけ監視すればよいわけでなく、代表取締役の業務執行一般について監視する職務を有するとされています(最高裁昭和48年5月22日判決民集27巻5号655頁)。

これは、取締役が不正な行為をしないよう監督し、会社に損害を与えないようにするという取締役の善管注意義務から導かれます。複数の取締役が相互に監視監督し合うことで、会社業務の適正が確保されるのです。そのため、各取締役は取締役会のメンバーとして他の取締役の監視監督義務を負います。また、会社法第430条により、各取締役は連帯して賠償責任を負わなくてはならないため、監視監督義務違反だから責任は軽いだろうという油断は禁物です。

監視監督義務違反の有名な事件として、大和銀行事件(大阪地裁平成12年9月20日判決判時1721号3頁)があります。この概要は、大和銀行ニューヨーク支店の行員が、10年以上もの間、簿外で米国財務省証券の取引を行って約11億ドルの損失を出し、その隠蔽のため、大和銀行所有の米国財務省証券を無断で売却したというものです。同事件では、一部の取締役について監視監督義務違反が認められました。判決で認められた監視監督義務違反は次のようなものです。

まず、取締役会の招集権限を持っていた取締役会長については、代表取締役頭取の報告により簿外の無断取引行為と無断売却行為の事実を知ったのであるから、米国当局に対する届け出を行うように代表取締役に働きかけるべき義務があったとしています。

また、頭取については、一連の違法行為について認識しながら米国当局に対する届け出を行わなかったことを前提に、指揮系統の上位者であることを理由として、少なくとも未然に防止すべき義務があったとされています。

このように取締役には、行員による簿外での無断取引行為および無断売却行為を未然に防止すべき監視監督義務違反があったと認定されました。被告取締役のうち、11人に対して、総額7億7500万ドル(当時の日本円に換算して、約830億円)の損害賠償を命ずる判決が言い渡されています。

なお、この判決で注目すべきは仮執行宣言という裁判が出されたことです。通常、裁判は判決が言い渡されてから一定期間経過するまでの間、賠償金の支払義務は確定しません。ところが、仮執行宣言という裁判が出されてしまうと、直ちに支払義務(仮の支払義務)が生じることとなります。大和銀行事件では、約830億円もの賠償金の仮執行により、取締役は自宅を差し押さえられるか、それを免れる代償として約8億円もの供託金を集めるかという二者択一を迫られました。このことからも、取締役の責任がいかに重いものであるかが分かるでしょう。

また、近年では、子会社が不祥事を起こした場合に、親会社取締役の責任が追及されるケースがあります。ここでよく問題になるのは、親会社の子会社に対する監視監督義務違反です。例えば、子会社が「ぐるぐる回し取引」と呼ばれる粉飾決算の原因となる一種の架空の循環取引によって経営が破綻しかけたことをめぐる福岡魚市場株主代表訴訟事件(福岡高裁平成24年4月13日判決)が挙げられます。

この事件では、子会社がぐるぐる回し取引によって不良在庫を抱え、経営破綻しかけていたにもかかわらず、子会社に対して多額の貸付けなどを行った親会社の監視監督責任が問題となりました。福岡高裁は、親会社の取締役が子会社に不明瞭な多額の在庫があるとの報告を受け、その後も在庫や借入金が急速に増加し、状況が一向に改善しないことなどを認識していながら、何らの有効な措置を講じないまま経営破綻の事態が差し迫った状況になった後に、支援と称して貸付けなどを行ったことを指摘し、親会社取締役としての善管注意義務に違反すると判示しています。

この事件の第一審判決の中では、「公認会計士からの指摘を受けた時点で、親会社の取締役として、親会社および子会社の在庫の増加の原因を解明すべく、従前のような一般的な指示をするだけでなく、自ら、あるいは、親会社の取締役会を通じ、さらには、子会社の取締役等に働きかけるなどして、個別の契約書面等の確認、在庫の検品や担当者からの聴き取り等のより具体的かつ詳細な調査をし、またはこれを命ずべき義務があった」との指摘がなされています。現在では、子会社の株式は親会社にとっては財産であり、そのような財産の価値を維持するため、親会社の取締役は一定の範囲で子会社について監視をしなければならないと考えられています。その点から、上記裁判例は、親会社取締役の子会社に対する監督の在り方の参考になる一例といえるでしょう。

3 民事上の責任2:負担は家族にまで及ぶ

これまで見てきたように、取締役の責任は重く、特に不祥事が起こった場合の責任は甚大です。この責任の負担は、取締役本人のみにとどまらず、家族にまで及ぶ可能性があります。それは、高額な賠償額の支払いのため自宅が差し押さえられるということはもとより、取締役が亡くなった場合、その配偶者や子が高額の賠償義務を相続し、多額の負債を負う場合があり得るのです。

限定承認(注)や相続放棄という制度を用いてこの多額の債務を回避することはできますが、限定承認や相続放棄には熟慮期間という期間制限(自分のために相続があったことを知ってから3カ月以内)があり、原則としてその期間内に申立てなければならず注意が必要です(民法第915条第1項、第921条第2号)。

(注)「限定承認」とは、相続によって得た財産の限度においてのみ、被相続人の債務などを相続することです(民法第922条)。

4 刑事上の責任

取締役への就任に伴って生じる責任は、民事上の責任にとどまらず、刑事上の責任も生じます。実際にあった事件を参考に説明します。

1)北海道拓殖銀行事件

前述したように、北海道拓殖銀行の頭取が在職中に、実質破綻状態にあったグループ会社3社に対して十分な担保を取らず、融資した事件です。頭取と後任および融資を受けたグループ会社の実質的経営者が特別背任罪に問われ、全員実刑判決が言い渡されました(刑事事件につき札幌高裁平成18年8月31日判決刑集63巻9号1486頁)。

特別背任罪とは、会社法第960条に規定された犯罪で、刑法第247条の背任罪の特別規定で刑法上の背任罪より重く罰するものです。単なる背任罪よりも刑罰が加重されていることからしても、会社役員である取締役の責任の重さが分かるでしょう。取締役が自己や第三者の利益を図りまたは会社に損害を加える目的で、任務に違反し、会社に財産上の損害を与えた場合に成立します。法定刑は、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはその併科とされています。

また、実刑判決とは、一般に執行猶予が付されない懲役・禁錮刑のことを意味します。実刑判決が下されると、直ちに刑務所に入れられることになるので、執行猶予判決と異なり生活環境が大きく変わるという点で、重い処分といえるでしょう。

2)ライブドア事件

ライブドア社の粉飾決算などにより、元取締役らが旧証券取引法(現金融商品取引法)違反の罪に問われた事件(東京高裁平成20年7月25日判決判時2030号127頁、東京高裁平成20年9月12日判決)です。財務等に関する業務を統括していた元取締役に対して、懲役1年2カ月の実刑判決が言い渡されました。

3)ミートホープ事件

食肉製造加工会社のミートホープ社が、実際には豚肉や鶏肉などを混入した牛ひき肉を、牛肉のみを原料とするかのような表示をして製造・販売したとして、詐欺罪、不正競争防止法違反(虚偽表示)の罪に問われた食肉偽装事件(札幌地裁平成20年3月19日判決)で、同社元社長に、懲役4年の実刑判決が言い渡されました。

5 会社における対策

1)不祥事を防ぐ施策

まずは、会社の不祥事を未然に防ぐ策を施すこと、つまり不祥事を予防するためにリスク管理体制を徹底することが大切になります。会社法も、大会社(会社法第2条第6号)と指名委員会等設置会社(会社法第2条第12号)において、「内部統制システム」と呼ばれるリスク管理体制の構築・運用を、取締役会の義務として定めています(大会社については会社法第362条第5項および第4項第6号、指名委員会等設置会社については第416条第1項第1号ホおよび第2項)。

前述したように、取締役はその職責として、会社業務の適正を確保しなくてはなりません。しかし、事業が複雑化した大会社や指名委員会等設置会社では、体制としてリスク管理のシステムを構築しなければ、会社業務の適正を確保することは困難です。そこで、会社法では大会社や指名委員会等設置会社について、会社業務の適正確保という取締役の義務が全うされるよう、内部統制システムの構築を求められているわけです。

もっとも、法律上は、不正な行為を防止するために具体的にどのような内部統制システムを採用すべきかについてまでは規定されておらず(会社法施行規則第100条第1項各号参照)、各社の判断に委ねられています。これは、内部統制システムが、その会社の業務において想定されるリスク、想定リスクの現実化による事件・事故といった経験の蓄積、各社内でのリスク管理に関する研究の進展などといった、会社ごとの事情により充実していくシステムであるとされているからです。

従って、内部統制システム構築義務を負わない会社の取締役であれば、極端な話、内部統制システムを構築する必要がないと判断することも、それがその会社の実態に即した判断である限り許されるわけです。確かに、内部統制システムは、構築して運用するにはコストが掛かり、自由な組織風土を損ねる恐れもあります。内部統制システムを構築するかどうかも含め、自身の会社が置かれている状況やさまざまなバランスを考慮し、より良いリスク管理体制を模索していくことは、経営のプロフェッショナルである取締役の判断に委ねられているのです。

ここで内部統制システムの例としては、内部通報制度に関する規定や、担当窓口を設けるという方法があります。会社で不正な行為があった場合、やはり最初に気付くのは内部の人間であることが多くなります。内部通報制度が機能していれば、会社における不正行為によって、会社に甚大な損害が生じる前に食い止められる可能性が高まります。

また、不正防止委員会や担当者を置くという方法、コンプライアンス規定を定めて定期的に取締役や従業員に研修を行うという方法も考えられます。取締役は、予算や会社の組織風土などを考慮した上で、会社の実態に沿った内部統制システムを構築することになります。

昨今、個人情報や企業秘密の流出による不祥事が問題に上がることが多いですが、そのようなケースでは、現場の従業員を情報セキュリティー管理責任者に任命する、管理体制について第三者からのアドバイスを受けられるように諮問委員会を設置する、全ての派遣会社および従業員に対して集合教育・eラーニングテストなどによる個人情報保護教育を実施するなどといった措置が、内部統制システムの例として考えられます。

ただし、取締役は「他社もやっているから自社も」というのではなく、あくまで「自社にはこのやり方が合う」という見方で判断する必要があります。

2)顕在化した責任を軽減する施策

次に、実際に顕在化したリスクを軽減する策を施すことが考えられます。株式会社の取締役は会社との委任契約に基づいて会社に対する責任を負うため、不祥事が起きると会社から損害賠償を請求されてしまいます(会社法第423条)。

これに対しては、法律上の対策と事実上の対策が考えられます。まず法律上の対策として挙げられるのが、会社法第424条から第427条までに定められている責任免除ないし限定措置です。会社法第424条は、責任の全部免除について定めていますが、それには総株主の同意を得る必要があるとされており、現実的にはほとんど不可能と言わざるを得ません。

一方、会社法第425条および第426条は、責任の一部免除について定めており、株主総会特別決議または定款の定めに基づく取締役会決議を要する点で、決して容易な手段ではありませんが、全部免除よりは現実的な方法で、実際に利用されることもあります。なお、会社法第427条は、非業務執行取締役等の責任を限定する契約について規定しており、非業務執行取締役等はこの責任限定契約を事前に結ぶことで、多額の損害賠償債務を圧縮することができます。

また、実際に訴訟を提起されてしまった場合の対策としては、あらかじめ会社役員賠償責任保険(D&O保険)に加入しておくことや、請求額よりも低額による和解をすることなどが考えられます。会社役員賠償責任保険への加入は、米国のような訴訟社会では一般的のようですが、日本ではまだそれほど普及はしていません。しかし、最近の取締役の責任厳格化の傾向からすると、日本でも会社役員賠償責任保険への加入を真剣に考えるべき段階に至っているといえるでしょう。

6 まとめ

取締役の責任の重さは、権限の大きさの裏返しでもあります。前述した経営判断原則が一般的に承認されているのは、取締役にはその権限をフル活用し、時にはリスクを冒して、より良い経営を行うことが求められているからに他なりません。近年の取締役の責任厳格化の流れの中では、不祥事を起こさない十分なリスク管理体制の構築と、不祥事が起こってしまったとしても責任をなるべく軽減できるよう、対策をしっかり取って、取締役が萎縮することなく経営を行う環境を整えることが求められているといえるでしょう。

以上(2019年4月)
(監修 弁護士法人 法律事務所オーセンス 弁護士 佐藤駿介)

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法人税法における繰延資産の概要

書いてあること

  • 主な読者:適正な税務処理を徹底したい経営者・税務担当者
  • 課題:そもそも、税務上繰延資産とは、どういうものなのか分からない経営者は多い
  • 解決策:開業直後の費用や新規開発に要した費用など、税務上繰延資産として取り扱われる費用は決まっており、一定額以下のものは一括損金算入できる

1 繰延資産の範囲

法人税法上の繰延資産の範囲は次の通りです(法人税法施行令第14条)。なお、支出金額が20万円未満であるものについては、支出した事業年度の損金に算入することができます(法人税法施行令第134条)。

1)創立費

発起人に支払う報酬、設立登記のために支出する登録免許税その他法人の設立のために支出する費用で、当該法人の負担に帰すべきものをいいます。

2)開業費

法人の設立後事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用をいいます。

3)開発費

新たな技術もしくは新たな経営組織の採用、資源の開発、または市場の開拓のために特別に支出する費用をいいます。

4)株式交付費

株券等の印刷費、資本金の増加の登記についての登録免許税その他自己の株式(出資を含む)の交付のために支出する費用をいいます。

5)社債等発行費

社債券等の印刷費その他債券(新株予約権を含む)の発行のために支出する費用をいいます。

6)次に掲げる費用で支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもの

  • 自己が便益を受ける公共的施設または共同的施設の設置または改良のために支出する費用
  • 資産を賃借または使用するために支出する権利金、立退料その他の費用
  • 役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用
  • 製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
  • その他、自己が便益を受けるために支出する費用

上記繰延資産1)~5)の償却の時期と償却の額については、税法上は法人の任意となっており、全額を一括して償却することもできますし、分割して随時償却することもできます(法人税法施行令第64条第1項第1号)。

繰延資産6)の償却限度額算出式は次の通りです。なお、償却期間については後掲表を参照してください。

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2 繰延資産の例示

1)創立費(定款記載を欠く設立費用)

法人がその設立のために通常必要と認められる費用を支出した場合において、その法人の負担とすべきことがその定款などで定められていないときであっても、創立費に該当します(法人税基本通達8-1-1)。

2)開発費(資源の開発のために特別に支出する費用)

開発費には、新鉱床の探鉱のための地質調査、ボーリングまたは坑道の掘さくなどに要する費用などの資源の開発に直接要した費用のほか、その開発に要する資金に充てるために特別に借り入れた借入金の利子が含まれます(法人税基本通達8-1-2)。

3)自己が便益を受ける公共的施設の設置または改良のために支出する費用

「自己が便益を受ける公共的施設の設置または改良のために支出する費用(公共的施設などの負担金)」とは次に掲げる費用をいいます(法人税基本通達8-1-3)。

  • 法人が自己の必要に基づいて行う道路、堤防、護岸、その他の施設または工作物などの公共的施設の設置または改良のために要する費用、または法人が自己の有する道路その他の施設または工作物を国などに提供した場合における当該施設または工作物の価額に相当する金額
  • 法人が国などの行う公共的施設の設置などにより著しく利益を受ける場合におけるその設置または改良に要する費用の一部の負担金
  • 法人が、鉄道業を営む法人の行う鉄道の建設に当たり支出するその施設に連絡する地下道などの建設に要する費用の一部の負担金

また、「自己が便益を受ける共同的施設の設置または改良のために支出する費用」には、法人がその所属する協会、組合、商店街などの行う共同的施設の建設または改良に要する費用の負担金も含みます。しかし、共同的施設の相当部分が貸室に供されるなど協会などの本来の用以外の用に供されているときは、その部分に係る負担金は、協会などに対する寄附金となります(法人税基本通達8-1-4)。

4)資産を賃借するための権利金等

次のような費用は「資産を賃借するための権利金等」として繰延資産に該当します。

  • 建物を賃借するために支出する権利金、立退料その他の費用
  • 電子計算機その他の機器の賃借に伴って支出する引取運賃、関税、据付費その他の費用

なお、建物の賃借に際して支払った仲介手数料の額は、その支払った日の属する事業年度の損金の額に算入することができます(法人税基本通達8-1-5)。

5)役務の提供を受けるための権利金等(ノウハウの頭金等)

ノウハウの設定契約に際して支出する一時金または頭金の費用は、「役務の提供を受けるための権利金等」として繰延資産に該当します。ただし、ノウハウの設定契約において、頭金の全部または一部を使用料に充当する旨の定めがある場合または頭金の支払いにより一定期間は使用料を支払わない旨の定めがある場合には、当該頭金の額のうちその使用料に充当される部分の金額またはその支払わないこととなる使用料の額に相当する部分の金額は、これを繰延資産としないで前払費用として処理することができます。

なお、前払費用として処理した頭金の額についてその使用料に充当すべき期間または使用料を支払わない期間を経過してなお残額があるときは、その残額は当該期間を経過した日の属する事業年度の損金の額に算入することができます(法人税基本通達8-1-6)。

6)製品などの広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用

「製品などの広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用」とは、法人がその特約店等に対し自己の製品等の広告宣伝等のため、広告宣伝用の看板、ネオンサイン、どん帳、陳列棚、自動車のような資産(展示用モデルハウスのように見本としての性格を併せ有するものを含みます)を贈与した場合、または著しく低い対価で譲渡した場合における当該資産の取得価額または当該資産の取得価額からその譲渡価額を控除した金額に相当する費用です(法人税基本通達8-1-8)。

7)その他自己が便益を受けるための費用

1.スキー場のゲレンデ整備費用

積雪地帯におけるスキー場(その土地が主として他の者の所有に係るものに限ります)においてリフト、ロープウェイなどの索道事業を営む法人が当該スキー場に係る土地をゲレンデとして整備するために立木の除去、地ならし、沢の埋立て、芝付け等の工事を行った場合には、その工事に要した費用の額は、「その他、自己が便益を受けるために支出する費用」として繰延資産に該当します。

当該スキー場において旅館、食堂、土産物店などを経営する法人が当該費用の額の全部または一部を負担した場合のその負担した額についても、同様とします。

ただし、既存のゲレンデについて支出する次のような費用の額は、その支出をした日の属する事業年度の損金の額に算入することができます。

  • イ.おおむねシーズンごとに行う傾斜角度の変更その他これに類する工事費用
  • ロ.崩落地の修復、補強などの工事費用
  • ハ.シーズンごとに行うブッシュの除去、芝の補植その他これらに類する作業費用

なお、自己の土地をスキー場として整備するための土工工事(他の者の所有に係る土地を有料のスキー場として整備するための土工工事を含む)に要する費用の額は、構築物の取得価額に算入します(法人税基本通達8-1-9)。

2.出版権の設定の対価

著作権法第79条第1項に規定する出版権の設定の対価として支出した金額は、「その他、自己が便益を受けるために支出する費用」として繰延資産に該当します。

なお、漫画の主人公を商品のマークなどとして使用するなど他人の著作物を利用することについて著作権者の許諾を得るために支出する一時金の費用は、出版権の設定の対価に準じて取り扱います(法人税基本通達8-1-10)。

3.同業者団体などの加入金

法人が同業者団体など(社交団体を除く)に対して支出した加入金は、「その他、自己が便益を受けるために支出する費用」として繰延資産に該当します。

なお、構成員としての地位を他に譲渡することができることとなっている場合における加入金および出資の性質を有する加入金については、その地位を他に譲渡し、または当該同業者団体等を脱退するまで損金の額に算入しないものとします(法人税基本通達8-1-11)。

4.職業運動選手などの契約金

法人が職業運動選手などとの専属契約をするために支出する契約金は、「その他、自己が便益を受けるために支出する費用」として繰延資産に該当します。

なお、セールスマン、ホステスなどの引抜料、仕度金などの額は、その支出をした日の属する事業年度の損金の額に算入することができます(法人税基本通達8-1-12)。

5.簡易な施設の負担金の損金算入

国、地方公共団体、商店街等の行う街路の簡易舗装、街灯、がんぎなどの簡易な施設で主として一般公衆の便益に供されるもののために充てられる負担金は、これを繰延資産としないでその負担金を支出する日の属する事業年度の損金の額に算入することができます(法人税基本通達8-1-13)。

3 繰延資産の種類と償却期間

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以上(2019年4月)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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寄附金の範囲と損金算入限度額

書いてあること

  • 主な読者:適正な税務処理を徹底したい経営者
  • 課題: 税務上の寄附金は、一般的に使われているものよりも広い意味で使われる上、取り扱いも明確に規定されている
  • 解決策:税務上、損金に算入できる寄附金の金額は計算や、子会社の損失負担や債務免除など税務特有の寄附金の事例を紹介

1 法人税法上の寄附金の6つの分類

1)一般の寄附金(法人税法第37条第7項、第8項)

寄附金とは、事業に直接関係ない者に対する金銭などの資産を贈与または経済的な利益を贈与または無償で供与した場合の資産または経済的利益をいいます。なお、交際費、接待費、福利厚生費などは除きます。資産の譲渡または経済的な利益の供与をした場合に、その対価の額が時価に比べて低いときにはその差額は寄附金の額に含まれます。

2)国または地方公共団体に対する寄附金(法人税法第37条第3項第1号)

その名の通り、国または地方公共団体に対する寄附金です。ただし、寄附した者がその寄附によって設けられた設備を専属的に利用するなど、特別の利益が寄附をした者に及ぶと認められる場合を除きます。

3)指定寄附金(法人税法第37条第3項第2号)

指定寄附金とは、公益社団法人、公益財団法人その他公益を目的とする事業を行う法人または団体に対する寄附金のうち、広く一般に募集されること、教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に寄与するための支出で、緊急を要するものに充てられることが確実であるものとして、財務大臣が指定した寄附金のことです。

4)特定公益増進法人に対する寄附金(法人税法第37条第4項)

特定公益増進法人とは、公共法人、公益法人等、その他特別の法律により設立された法人のうち、教育または科学の振興、文化の向上、社会福祉への貢献その他公益の増進に著しく寄与するものとして、政令で定めるものに対する当該法人の主たる目的である業務に関連する寄附金のことです。

5)特定公益信託に対する寄附金(法人税法第37条第6項)

特定公益信託とは、「公益信託ニ関スル法律第1条(公益信託)」に規定する公益信託で、信託終了のときにおける信託財産がその信託財産に係る信託の委託者に帰属しないことおよびその信託事務の実施につき政令で定める要件を満たすものであることについて証明がされたものをいいます。特定公益信託の信託財産とするために支出した金額は寄附金の額とみなし、原則として一般の寄附金として、損金算入限度額の範囲内で損金算入を認めます。

6)認定NPO法人に対する寄附金(租税特別措置法第66条の11の2)

認定NPO法人(認定特定非営利活動法人)とは、特定非営利活動促進法第2条第3項に規定する特定非営利活動法人のうち、その運営組織および事業活動が適正であり、公益の増進に資するものとして所轄庁の認定を受けたものをいいます。

2 寄附金の損金算入限度額

1)寄附金の損金算入限度額の算出方法

国または地方公共団体への寄附金、指定寄附金は全額が損金となりますが、一般の寄附金や特定公益増進法人に対する寄附金などは、それぞれ限度額を超える金額を損金に算入することができません(法人税法施行令第73条第1項、第77条の2第1項)。

一般の寄附金の損金算入限度額(特定公益信託を含む)と特定公益増進法人に対する寄附金の特別損金算入限度額の算出式は次の通りです。

1.一般の寄附金の損金算入限度額(特定公益信託を含む)

一般の寄附金の損金算入限度額(特定公益信託を含む)の算出式は次の通りです。

  • 損金算入限度額=(A+B)×1/4
  • A=(事業年度の所得金額+損金経理の寄附金)×2.5/100
  • B=(資本金の額+資本積立金額)×当期の月数/12×2.5/1000

2.特定公益増進法人に対する寄附金の特別損金算入限度額

特定公益増進法人に対する寄附金の特別損金算入限度額の算出式は次の通りです。

  • 損金算入限度額=(A+B)×1/2
  • A=(事業年度の所得金額+損金経理の寄附金)×6.25/100
  • B=(資本金の額+資本積立金額)×当期の月数/12×3.75/1000

2)寄附金の損金算入限度額の算出例

次の前提条件を基に寄附金の損金算入限度額を算出してみます。

  • 当期利益金額:5000万円
  • 資本金:7000万円
  • 一般寄附金:120万円
  • 特定公益増進法人への寄附金:60万円
  • 指定寄附金:150万円
  • 寄附金支払額計:330万円(120万円+60万円+150万円)

損金算入限度額は次のように算出することができます。

1.一般寄附金の損金算入限度額

  • 一般寄附金の損金算入限度額
  • ={(5000万円+330万円)×0.025+7000万円×12/12×0.0025}×1/4
  • =37万6875円

2.特定公益増進法人への損金算入限度額

  • 実際の特定公益増進法人への寄附金支出額=60万円
  • 特定公益増進法人への損金算入限度額
  • ={(5000万円+330万円)×0.0625+7000万円×12/12×0.00375}×1/2
  • =179万6875円
  • 寄附金支出額60万円<損金算入限度額179万6875円
  • ∴特定公益増進法人への損金算入限度額=60万円

3.指定寄附金の損金算入限度額

  • 指定寄附金の損金算入限度額=指定寄附金の全額=150万円

4.寄附金の損金算入限度額

1.2.3.より、寄附金の損金算入限度額は、次のようになります。

  • 損金算入限度額=37万6875円+60万円+150万円=247万6875円

従って、損金算入限度超過額は、次のようになります。

  • 330万円-247万6875円=82万3125円

(注)100%出資グループ法人(法人による完全支配に限ります)間の寄附金は全額損金不算入です。

3 法人税基本通達に見る寄附金規定

1)子会社などを整理する場合の損失負担など

法人がその子会社などの解散、経営権の譲渡などに伴い、当該子会社などのために債務の引き受けその他の損失負担または債権放棄などをした場合、その損失負担などをしなければ今後より大きな損失を被ることが社会通念上明らかであると認められるため、やむを得ずその損失負担などをするに至ったことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担などにより供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しません。

子会社などには、当該法人と資本関係を有するものの他、取引関係、人的関係、資金関係などにおいて事業関連性を有するものが含まれます(法人税基本通達9-4-1)。

2)子会社などを再建する場合の無利息貸付など

法人がその子会社などに対して金銭の無償もしくは通常の利率よりも低い利率での貸し付けまたは債権放棄などをした場合において、その無利息貸付などは寄附金の額に該当します。

しかし、業績不振の子会社などの倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものであるなど、その無利息貸付などをしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付などにより供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとします。

合理的な再建計画かどうかについては、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性および支援割合の合理性などについて、個々の事例に応じ、総合的に判断します。例えば、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として、合理的なものとして取り扱います(法人税基本通達9-4-2)。

3)個人の負担すべき寄附金

法人が損金として支出した寄附金で、その法人の役員などが個人として負担すべきものと認められるものは、その負担すべき者に対する給与とします(法人税基本通達9-4-2の2)。

4)仮払い経理した寄附金

法人が各事業年度において支払った寄附金の額を仮払金などとして経理した場合には、当該寄附金はその支払った事業年度において支出したものとします(法人税基本通達9-4-2の3)。

5)未払いの寄附金、手形で支払った寄附金

未払いの寄附金については、各事業年度の所得金額の計算上、その支払いがされるまでの間、寄附金の支出は無かったものとします(法人税法施行令第78条)。

同様に当該寄附金の支払いのための手形の振り出し(裏書譲渡を含む)も、現実の支払いには該当しません(法人税基本通達9-4-2の4)。

6)国または地方公共団体に対する寄附金

国または地方公共団体に対する寄附金とは、国または地方公共団体において採納されるものをいいます。国立または公立の学校などの施設の建設または拡張などの目的を持って設立された後援会などに対する寄附金であっても、その目的である施設が完成後遅滞なく国または地方公共団体に帰属することが明らかなものは、これに該当します(法人税基本通達9-4-3)。

7)最終的に国または地方公共団体に帰属しない寄附金

国または地方公共団体に対して採納の手続きを経て支出した寄附金であっても、その寄附金が特定の団体に交付されることが明らかであるなど、最終的に国または地方公共団体に帰属しないと認められるものは、国または地方公共団体に対する寄附金には該当しません(法人税基本通達9-4-4)。

8)公共企業体などに対する寄附金

日本中央競馬会などのように全額政府出資により設立された法人、または日本下水道事業団などのように地方公共団体の全額出資により設立された法人に対する寄附金は、国または地方公共団体に対する寄附金には該当しません(法人税基本通達9-4-5)。

9)災害救助法の規定の適用を受ける地域の被災者のための義援金など

法人が災害救助法第2条の規定により知事が指定した区域の被災者のための義援金などの募金を行う募金団体(日本赤十字社、新聞・放送などの報道機関等)に対して拠出した義援金などについては、その義援金などが義援金配分委員会等に拠出されることが募金要綱、募金趣意書などにおいて明らかにされているものであるときは、地方公共団体に対する寄附金に該当するものとします(法人税基本通達9-4-6)。

10)災害の場合の取引先に対する売掛債権の免除など

法人が、災害を受けた得意先などの取引先に対して、その復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間内に売掛金、未収請負金、貸付金その他これらに準ずる債権の全部または一部を免除した場合には、その免除したことによる損失の額は、寄附金の額に該当しないものとします。

既に契約で定められたリース料、貸付利息、割賦販売に関わる賦払金などで、災害発生後に授受するものの全部または一部の免除を行うなど契約で定められた従前の取引条件を変更する場合、および災害発生後に新たに行う取引につき従前の取引条件を変更する場合も、同様とします。

得意先などの取引先には、得意先、仕入先、下請工場、特約店、代理店等の他、商社などを通じた取引であっても価格交渉等を直接行っている場合の商品納入先など、実質的な取引関係にあると認められるものが含まれます(法人税基本通達9-4-6の2)。

11)災害の場合の取引先に対する低利または無利息による融資

法人が、災害を受けた取引先に対して低利または無利息による融資をした場合、当該融資が取引先の復旧を支援することを目的として災害発生後相当の期間内に行われたものであるときは、当該融資は正常な取引条件に従って行われたものとします(法人税基本通達9-4-6の3)。

12)自社製品などの被災者に対する提供

法人が不特定または多数の被災者を救援するために緊急に行う自社製品等の提供に要する費用の額は、寄附金の額に該当しないものとします(法人税基本通達9-4-6の4)。

以上(2019年4月)
(監修 税理士法人コレド会計 税理士 石田和也)

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「役職名」の基礎知識

書いてあること

  • 主な読者:役職名の変更などを検討している企業の経営者、取引先などの役職で、どのような役割や責任があるのかを知りたいビジネスパーソン
  • 課題:他社がどのような考えの下、役職名を決めているのか参考にしたい
  • 解決策:役職名はビジネスの潮流や各社の価値観が表れるものであり、その役職名にどのような役割があるのかを考えたり、知ったりすることが重要

1 ビジネスの潮流などを反映する役職名

企業規模、業種、企業風土、経営戦略などさまざまな要素を考慮して、各企業は組織形態とそれに応じた役職名を採用しています。

従来、日本企業の多くは、「社長」「本部長」「部長」「次長」「課長」「係長」「主任」など、上位から下位に向けて命令が伝達される部課制(ライン組織)を採用してきました。しかし、最近では迅速な意思決定や対応を行うことを目的に、役職の階層を減らして組織のフラット化を進める企業もあります。

また、「CEO」といった役職名を目にする機会が増えています。こうした役職名はもともと経営の意思決定・監督機関としての取締役会と、意思決定に基づく業務執行機能を分離した制度(以下「執行役員制」)を採用する外資系企業などで使用されていました。現在では日本企業でも一般的になってきています。執行役員制を導入する企業などで使用されている代表的な役職名は次の通りです。

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これらの役職名は社内規定に基づく呼称ですが、会長兼CEOなどといったように使われるケースが増えてきています。また、自社のブランドや価値観などを創造し、社内外に発信・浸透させていくCCO(Chief Culture Officer、最高文化責任者)や、健康経営を推進する企業などがCHO(Chief Health Officer、最高健康責任者)を設けるなど、自社が重視する価値観を表したユニークな役職を設けている企業もあります。

このように企業における組織とそれに応じた役職名の在り方は、その時々のビジネスの潮流を反映していたり、自社の重視する価値観を反映したりするものでもあります。

以降では、企業でよく使用されている役職名について紹介します。役職名の新設や変更を考える際、あるいは自社と異なる役職名を目にしたときに、どのような役割や権限があるのかを確認する際の参考としてください。

2 部課制における役職名

1)中間的な役職名

部課制(ライン組織)は、日本企業の多くで採用されている組織形態です。役職としては、「社長」「本部長」「部長」「課長」「係長」などがあり、そこに中間的な役職が加わって組織が形成されています。

中間的な管理職の代表的な役職名としては、「副本部長」「副部長(部長代理・部長補佐)」「次長・副次長(次長代理・次長補佐)」「副課長(課長代理・課長補佐)」「副係長(係長代理・係長補佐)」などがあります。

2)その他の役職名

中間的な管理職の他にも、「顧問」「相談役」「非常勤取締役」「参事」などという役職があります。また、支社(支店)・営業所・工場においては、部長クラスに代わる役職として「支社長(支店長)」「所長」「工場長」などを置いている場合があります。

本社・営業所を問わず「係長の代わりに主任」としている企業や、その下に「班長」がいる場合もあります。一方、事業部制を採用している企業では、「事業部長」という役職があり、社内的には取締役と同等の立場である場合もあります。

3)執行役員について

経営と業務の執行の分離が重要視されるようになり、さまざまな企業で社内体制として執行役員制が設立されたことから、多くの「執行役員」が選出されました。執行役員制は会社法の規定によるものではありません。そのため、社内体制や権限などについては各企業によって異なります。また、執行役員は現場のトップということもあって、本部長や営業部長を兼ねている場合が多いようです。

3 グループ制における役職名

グループ制とは、従来のピラミッド型の組織から、課や中間的な役職を除いた体制です。組織のフラット化を図り、意思決定や判断の迅速化を進めることを目的としています。

具体的には、「部を部門に変更し、部門の下にグループまたは室を置く」という体制です。役職は、次長クラス、係長クラスを廃止して、部長クラスは「部門長」「グループマネジャー」「主席」などに、課長クラスは「グループリーダー」「室長」「主査」などとなります。また、企業によっては室長や部長クラスがグループリーダーになっているケースもあります。

部課制・部門室制・グループ制の組織(例)は次の通りです。

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4 マトリックス組織の概要

部門室制やグループ制などと並行して、業務遂行のためにプロジェクトチーム制を設けている企業もあります。プロジェクトチーム制では、各部門やグループから担当者が集まってチームを構成することによって、何らかの目的を果たすために業務を遂行していきます。スポーツメーカーを例に取ると、ユニフォームチーム、シューズチームなどとなり、各チームは企画・開発・販売・宣伝など各部門やグループから数名ずつ担当者が任命されて構成されています。

その際、各チームにチームリーダーが配置されます。この組織形態は、各スタッフがグループとチームの双方に所属するため、マトリックス組織とも呼ばれます。

例えば、資生堂では、世界の地域ごとに強いブランドを育成するため、5つのブランドカテゴリーと6つの地域を掛け合わせたマトリックス組織を発足させています。

マトリックス組織(例)は次の通りです。

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5 専門職について

従来の人事制度では、管理職に就くことで高い賃金やキャリアを得ることが一般的でした。しかし、中には管理職に就くよりも、現場で高い専門性を発揮するほうが、企業にとって高い付加価値を生む人材もいます。また、消極的な理由として、管理職ポストが不足している場合に、専門職ポストを設ける場合もあるようです。

専門職は、部課制(ライン組織)上の役職とは異なり、部下を持たずに(持つ場合も少数)業務を遂行します。

専門職の仕事は、技術や営業・販売に関しては各企業の扱う製品やサービスによって異なるため一概にはいえません。ただし一般的には、研究開発に携わる研究者や技術者、法務・税務などの分野に関連した資格を持つ者、営業・システムエンジニアやコンサルタントなど、高度な専門性が求められる職種が挙げられます。

また、専門職は部課制(ライン組織)やグループ制において新しく課やグループをつくるに至らない(規模が小さい)場合にも有効な手段として導入されています。

この他、最近は高年齢社員の技能を活用するための専門職を設ける企業も増えています。こうした高年齢社員には、「シニアアドバイザー」「シニアマネジャー」などの役職が設けられ、一般の従業員とは別の基準で処遇されています。

以上(2019年4月)

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出向社員を受け入れる側の留意点

書いてあること

  • 主な読者:親会社から出向社員を受け入れる予定のある企業の経営者
  • 課題:出向について親会社に確認すべきことや出向社員への対応のポイントが分からない
  • 解決策:親会社には出向期間・賃金・賞与・労働条件などを確認する。出向社員とトラブルにならないよう出向者を受け入れる際の覚書を用意する(本稿でひな型を紹介)

1 人事権の基本的な考え方

使用者には、出向など労働者の地位の変更に関する事項について、その裁量で決定できる権利、すなわち「人事権」が認められています。ただし、人事権は使用者が自由に行使できるわけではありません。個々のケースで解釈が異なる場合があるものの、基本的な考え方を確認していきましょう。

使用者と労働者が締結している労働契約の条件は、就業規則などで定められています。人事権は労働契約に基づく指揮命令の一つであると解釈されていることから、「就業規則などで定められた範囲で行使することができる権利である」と考えることができます。そのため、出向などについて、就業規則で定められた範囲を逸脱した決定を下すと、使用者の人事権の濫用と判断されてしまうことがあります。

加えて、就業規則などの定めだけを根拠とする人事権が問題となることがあります。就業規則などに、出向などに関する定めがあったとしても、それが「業務上の必要性があること」「不当な目的によるものでないこと」などの要件を満たしていない場合、使用者の人事権の濫用と判断されてしまうことがあります。

この点については、労働契約法でも定められており、使用者が出向を命じることができる場合であっても、その必要性や対象となる労働者の選定の方法などを考慮し、それが使用者の権利濫用であると認められるときは出向命令を無効にするとしています。

2 出向の種類と主な目的

1)在籍出向と転籍出向

1.在籍出向

在籍出向とは、労働者が出向元(出向を命じる会社)との労働契約を維持したまま、出向先(出向する労働者を受け入れる会社)と労働契約を交わして労働する形態です。労働者の立場から見ると、就業場所が変わるイメージです。

2.転籍出向

転籍出向とは、労働者が出向元との労働契約を終了した後、新たに出向先と労働契約を交わして労働する形態です。労働者の立場から見ると、勤め先の会社が変わるイメージです。

通常、人事権の範囲に含まれると解釈されるのは在籍出向までです。労働者との労働契約が消滅する転籍出向は人事権の範囲には含まれず、これを命じる場合は労働者の同意が必要となります。

以降では、在籍出向に注目し、その特徴などを紹介していきます。

2)会社が労働者に出向を命じる主な目的

1.新会社の経営の早期安定

新分野に進出する際に新会社を設立することがあります。新会社の経営を早期に軌道に乗せるために、優秀な労働者を出向させることがあります。

2.人材開発

人材の育成を目的として、若手や幹部候補の労働者をグループ会社などに出向させることがあります。

3.雇用の維持

親会社での雇用が困難になった場合、子会社に出向させることで雇用を維持するケースがあります。

3 出向者を受け入れる際の留意点

出向先が、出向者を受け入れる際の主な留意点を紹介します。

1)出向期間

出向者を受け入れる際の条件はさまざまですが、まずは出向期間を明確にしなければなりません。例えば、優秀な出向者が短期間で出向元に呼び戻されてしまったら、出向先は業務の引き継ぎなどに苦労します。逆に、優秀ではない者の出向が長期にわたる場合は雇用負担が重くなります。また、出向先は出向期間に応じて、出向者の教育ペースや配置を考えるものです。仮に、「3年間」といったように出向期間を明確にすることが難しい場合は、出向期間を1年単位とした上で、更新の3カ月~6カ月前までに、次期の出向の有無を決定するようにします。

2)賃金・賞与などの支払い

出向期間中の出向者に対する賃金・賞与などの支払い方法は次に大別されます。

  • 出向元か出向先のどちらかが全額を負担するケース
  • 出向元と出向先が負担割合を決めて負担するケース

特に、出向元と出向先が負担割合を決めて負担する場合は、負担割合を明確にしておくことが大切です。

3)出向者の労働条件

出向元よりも、出向先の労働条件のほうが低いことがあります。このような場合、出向者のためにも出向元の労働条件を適用することが理想的です。これが難しい場合、あらかじめ出向者に、出向元と出向先の労働条件の違いを伝え、同意を得ることが不可欠です。

4)親会社が出向者の受け入れを要請してきた場合の対応

親会社が子会社に出向者の受け入れを要請してきたケースを考えてみましょう。

出向元(親会社)が出向者の受け入れを要請してきた場合、基本的に出向先(子会社)はこれを受け入れることになるでしょう。出向者の受け入れによる人的交流を図ることで出向元との関係強化が期待できるからです。

とはいえ、労働者を一人雇用する際の負担はとても大きなものです。そのため、出向先は、前述した出向期間・賃金・賞与・労働条件を十分に確認しなければなりません。これに加え、出向の目的についても確認しておきます。出向元が出向者の受け入れを要請する目的は、ポスト不足・技術支援・雇用調整の布石などさまざまで、これによって出向先の対応も異なります。仮に、出向元が出向者を高く評価しており、幹部候補として送り込んでくるのであれば、出向先もそれなりの処遇をしなければなりません。

また、こうした出向元との条件確認に加え、出向先は自社の労働者に対する説明もしなければなりません。「親会社からの出向者を受け入れる」ことについて、出向先の労働者は高い関心を持っています。出向者を受け入れた後の円滑なコミュニケーションを実現するためにも、出向先は労働者に対して「出向者を受け入れる理由と活用の方針」を説明しておく必要があるかもしれません。

一方、雇用負担やポスト不足などを理由に、出向元からの出向要請を断らざるを得ない場合は、出向元との円満な関係を維持するために、十分に話し合います。その際は、「出向者を受け入れることができない理由」を明確に伝えることが重要です。

4 出向者受け入れに関する覚書のひな型

出向者を受け入れる際の覚書のひな型を紹介します。なお、次のひな型は一般的な定めを紹介したものであるため、実際にこうした覚書を作成する際は弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。

【出向社員受け入れに関する覚書のひな型】

○○株式会社(以下「甲」)と△△株式会社(以下「乙」)とは、甲から乙へ出向の取り扱いを受ける甲の従業員◇◇◇◇(以下「丙」)の労働条件その他について、以下の事項を確認し、その証として本書を交換する。

第1条
この出向により、甲と丙の労働契約が終了することはなく、出向期間中も丙は引き続き甲の従業員としての地位を維持する。

第2条
出向期間は○年○月○日より○年○月○日までとする。ただし、甲乙の協議により出向期間が変更されることがある。この場合、甲は丙の同意を得た上で出向期間を変更する。

第3条
出向期間中、丙は乙の指揮命令に従って労働する。

第4条
出向期間中の丙の労働条件は乙の就業規則に基づくものとする。

第5条
出向期間中、甲は丙に所定の給与、賞与、通勤費実費を支給する。

第6条
丙の健康保険、介護保険、厚生年金保険および雇用保険などの社会・労働保険については、甲において引き続き加入する。

第7条
丙の安全衛生および災害補償義務は乙が負い、丙の労災保険料は乙が負担する。

第8条
丙が乙の指揮命令による業務の従事中、過失などにより乙または第三者に損害を及ぼしたときは、乙はその責任においてこれを処理し、甲に対して何ら請求をしない。

第9条
出向により、丙が何らかの不利益を被ることがある場合は、甲乙並びに丙が協議してその解決を図るものとする。

第10条
本書の解釈などに疑義のあるときは、その都度、甲乙協議のうえで決定する。

本書締結の証として、2通を作成し甲乙各々その1通を保有する。

○年○月○日

以上(2019年4月)

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シーン別に押さえる「伝え方」の流儀/「断り方」編

書いてあること

  • 主な読者:ビジネス上で「断る」のが苦手なすべての人
  • 課題:なかなか相手の立場に立つことができない
  • 解決策:「意図を明確にする・気持ちを伝える・スピード感を持つ」の3つがポイント。本稿では、悪い例と良い例を具体的に挙げているので、今日からでも実践できる

1 なぜ、うまく伝えられないのか

ビジネスにおいて、「伝え方」はとても大切です。立場や考え方、仕事の進め方など、さまざまなことが異なる者同士が互いに意図を伝え、認識を共有し合って物事を判断し、進めていくのがビジネスの基本だからです。

しかし、うまく伝えられない人は少なくありません。その理由の1つに、「相手のことを考えられていない」ことがあります。伝える際の基本は、「どうすれば相手が理解しやすいか、行動に移しやすいか」と、相手の立場で考えることです。

「伝え方」の中でも、特に難しい、苦手だと感じることが多いのは「断る」ときでしょう。本稿では、「断り方」について、「意図を明確にする」「気持ちを伝える」「スピード感を持つ」という3点で考えていきます。日ごろのやり取りの参考になれば幸いです。

2 意図を明確にする

ビジネス上の依頼や誘いなどを断るときの悪い例は、回りくどいことです。断るならば、その意思を明確に伝えなければなりません。こちらは相手に気を使っているつもりでも、伝わりにくいと、相手は「どっちなの?」とかえって混乱してしまいます。

メールなど文章だけで伝えるときは、特に難しいものです。基本は誤解がないようにはっきり断りますが、機械的にならないことです。まず、悪い断り方の例を見てみましょう。このようなメールを受け取ったとして、「断っている」と分かりますか?

    • 【悪い例(1)】
    • お話、誠にありがとうございます。弊社としても親和性があるお話で、いろいろな方法が考えられると思います。ただし、申し訳ありませんが、弊社のリソース面を考慮すると、ご希望の通りに対応するのは、もしかしたら難しいかもしれません。
    • 素晴らしいお話をいただきまして大変感謝しておりますので、その分野に強い方をご紹介することはできるかもしれません。来月になれば、その方と一度お会いすることになっていますので、少しお待ちいただければ幸いです。

相手に失礼のないように配慮しているのは分かります。しかし、断っているのか、可能性があるのか、相手が分からないのでは問題です。「少しお待ちいただければ」と相手の行動を止めているのもよくありません。相手は、次のように感じるかもしれません。

    • 【悪い「断り方」をされた相手の気持ち(1)】
    • 結局、どっちなの? 本当は断りたいのに、断ったらこちら側がマイナスの評価をするとでも思っているのだろうか。それとも、少しでも自分たちのビジネスにつなげようとしているのか。意図が分からないから次に進めにくい。困る。

時と場合にもよりますが、本当に相手のことを考えるなら、明確に断るべきでしょう。こちらの「断る」という意図が伝われば、相手は、別の方法を考えるなど次の行動に移すことができます。それを妨げるようなことをしてはなりません。

また、相手との関係性にもよりますが、相手に「断りにくいのだろうか」と思わせてしまったら、それも失礼です。相手は、「言うべきことを言える間柄ではないのか」と失望してしまうかもしれません。例えば、次のような文章で明確に断るとよいでしょう。

    • 【良い例(1)】
    • お話、誠にありがとうございます。とても光栄なのですが、リソース面を考えると、お引き受けするのは難しいのが現状です。せっかくの機会、お引き受けできず、本当に申し訳ありません。またお役に立てそうな機会がありましたら、お声掛けいただけましたら幸いです。

3 気持ちを伝える

内容や相手との関係性にもよりますが、「断る」ときには、「気持ちを伝える」ことも必要です。依頼や誘いなどは、相手が期待してくれている、こちら側のことを考えてくれていることの表れです。「断る」ときでも、感謝の念をしっかり伝えましょう。

とはいえ、「断る」のは気まずいもので、相手との関係が微妙に変化することもあります。そのため、「断る」行為をすぐに終わらせたいと思うあまり、次のような「そっけない」メールを出してしまうことがあります。しかし、これはよくありません。

    • 【悪い例(2)】
    • ご案内いただきまして、誠にありがとうございます。いただきました内容について、社内で情報共有させていただきますが、今すぐには対応させていただくのが難しいのが現状です。大変申し訳ありませんが、必要があればこちらから改めてご連絡いたします。

今回はお断りをしても、今後も相手との付き合いを続けたいのなら、文章を改める必要があります。丁寧な言葉で感謝や断ることのおわびを示してはいますが、事務的で気持ちが伝わらず、相手は次のように感じるでしょう。

    • 【悪い「断り方」をされた相手の気持ち(2)】
    • そっけなく断られてしまった。忙しいところを邪魔してしまったのだろうか。それとも、何か意に沿わないことをしてしまったのかもしれない。かえって申し訳ないことをしてしまった。おわびしよう。今後は、こうした案内は控えたほうがいいのかもしれない。

相手にこうしたことを思わせないためにも、気持ちはしっかり伝えましょう。難しく考えることはありません。「光栄です」「うれしいです」「残念です」といった感情を一言添えるだけでもいいのです。例えば、次のようにです。

    • 【良い例(2)】
    • ご案内、ありがとうございます。弊社のことをとても考えてくださった内容で、本当に光栄です。ただ、今のところすぐには対応が難しいのですが、今後もこうしたご案内は、ぜひお願いしたいので、引き続きよろしくお願いいたします!

4 スピード感を持つ

「断る」ときは、スピード感も重要です。ビジネスでは、自分がボールを持ったらできるだけ早く打ち返すのが基本ですが、特に、断ったり良くない話を伝えたりするときほど速さが大切です。そのほうが、相手が次の一手を早く打てるようになるからです。

局面によりますが、話を聞いた段階で断る可能性が高いと思ったら、その場でそれを伝えます。また、相手が返事を待ってくれている段階で、断る可能性が出てきたら、それを“先出し”するのも一策です。全ては、相手が次の行動を取りやすくするためです。

「伝え方」は、使う言葉や言い回しなどテクニックで上達するわけではありません。相手の状況や立場、気持ちを想像し、常に「どのようにすれば相手が前に進みやすいか」を思って伝えることが大切です。これこそが、上手な「伝え方」の一番大切な流儀です。

以上(2019年4月)

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「やる気」のメカニズムを理解して成果の上がる指導を実践しよう

書いてあること

  • 主な読者:部下のやる気を引き出したい上司
  • 課題:部下が思ったような成果を上げてくれない
  • ポイント:本稿で紹介する意思決定のマトリクスを活用して、部下の考えを知り、指導に活かす

1 部下の「やる気」を引き出せ!

1)部下が成果を上げるために必要な5つの要素

部下を持つ上司に求められる役割の中で、最も重要なことは「部下に成果を上げてもらうこと、そして会社・部・課などが掲げている目標の達成に貢献する」ということです。しかし、上司がいくら、日々努力しても、部下が期待するような成果を上げてくれるとは限りません。むしろ、期待通りにいかないことのほうが多いと悩んでいる上司も多いのではないでしょうか。

その原因は、視点を変えて部下の立場から考えると分かりやすいかもしれません。部下が上司の期待通りの成果を上げるためには、次の5つの要素が必要です。

  • 上司が指示した業務の内容や、期待されている成果に対する理解力
  • 業務を遂行し、期待されている成果を実現できるだけの能力
  • 上司(あるいは企業)に対して「上司(あるいは企業)の期待に応えたい」という思い(貢献意欲)
  • 実際の行動に移す意思
  • より良い成果を上げるために、そのプロセスにおいて工夫・調整・継続などの努力を行う意欲(創意工夫)

部下が期待通りの成果を上げるためには、5つの要素全てが重要ですが、本稿では、「4.実際の行動に移す意思」と「5.より良い成果を上げるために、そのプロセスにおいて工夫・調整・継続などの努力を行う意欲(創意工夫)」のポイントを紹介します。

2)「やる気」を引き出すことの難しさ

「部下が期待通りの成果を上げるために必要な5つの要素」のうち、「4.実際の行動に移す意思」と「5.より良い成果を上げるために、そのプロセスにおいて工夫・調整・継続などの努力を行う意欲(創意工夫)」に共通しているのは、「意思」や「意欲」という言葉が示すように、部下の「やる気」が関係していることです。

「やる気の問題」ほど、上司にとって厄介な問題はありません。能力の問題であれば、経歴・経験などから、ある程度客観的に判断して、適材適所の配置を行うことができます。また、指導・教育を通じて能力向上のための工夫もできます。

しかし、やる気はそう簡単にはいきません。例えば、上司の手前もあり、口先では「やる気があります!」と部下は言うものの、本心ではやる気がなく、結局、期待通りの成果を上げられなかったという経験をしたことがある人は少なくないでしょう。

2 やる気のメカニズム

1)意思決定の基本マトリクスとやる気の関係

仕事に限らず、人はさまざまな意思決定を行い、それが行動となって表れます。例えば、今日のランチは何を食べるかということについて、「カレーライスにしよう!」と意思決定を行い、実際に食べに行くという行動となって表れます。そのため、やる気を理解するには、まず、人の意思決定の仕組みから考えることが必要です。

意思決定を「メリットとデメリットを比較した結果」に基づいて考えてみます。意思決定を基本マトリクスにすると次の通りです。なお、本稿では「やる気」をテーマにしているので、便宜上、意思決定の内容を「やる場合」「やらない場合」と表記します。

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4つの象限の中には、「やる」という意思決定の促進要因(AとD)と、「やらない」という意思決定の促進要因(BとC)があります。例えば、「やる」という意思決定の促進要因について見ると、「A.やる場合のメリット」があれば、「やる」という意思決定を促進する要因となります。また、「D.やらない場合のデメリット」があれば、そのデメリットを避けるために「やる」という意思決定を促進する要因となります。「やらない」という意思決定の促進要因は、これと逆になります。

人は「やる」と「やらない」という意思決定の促進要因を比較して、意思決定を行います。これを“意思決定の公式”として整理すると次のようになります。

  • A+D>B+Cの場合:「やる」という意思決定をする
  • A+D≦B+Cの場合:「やらない」という意思決定をする

(注)A+D=B+Cの場合は、「やっても、やらなくても同じ」状態なので、「やらない」という意思決定をすることになります。

2)簡単な例で考えてみる

例えば、「新規顧客を開拓する」という新たな業務に対する部下の思いを「意思決定の基本マトリクス」に従って整理すると次の通りとなります。

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なお、人の意思決定は「やる場合」「やらない場合」という単純な二者択一ではありません。同じ「やる場合」でも、「積極的にやる」「最小限の範囲でやる」といったようにやる気には濃淡があります。この差は、「やる」という意思決定の促進要因と、「やらない」という意思決定の促進要因の差として考えることができます。

例えば、「A+D>B+C」であれば人は「やる」という意思決定をしますが、同じ「A+D>B+C」の状態であっても次のような場合では、後者のほうが、より積極的に「やる」ことになります。

  • 「A+D=5」>「B+C=4」
  • 「A+D=10」>「B+C=1」

もちろん、人の意思決定をこのように単純化して考えることはできません。しかし、まずは、こうした考え方を押さえておくことが、部下に期待通りの成果を上げさせるための第一歩となるのです。

3)部下のやる気を高めるための基本的な指導方針

ここまで紹介したことから、部下のやる気を高め、期待した成果を上げさせるために上司が取るべき基本的な指導方針として次のような点が明らかになります。

  • 「A.やる場合のメリット」と「D.やらない場合のデメリット」を最大化する
  • 「B.やる場合のデメリット」と「C.やらない場合のメリット」を最小化する

前述した新規顧客開拓における指導方針(例)は次の通りです。

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3 期待した成果を上げさせるために上司が注意すべきこと

1)部下の考えや思いを把握するよう努力する

部下を効果的に指導するためには、最初に部下の考えや思いをできるだけ正確に把握することが必要です。人はメリットとデメリットを比較して意思決定を行っていても、「何がメリット(デメリット)なのか」といった判断は、意思決定を行う人(この場合は部下)の主観によって異なります。

そのため、部下の考えや思いを把握することができれば、より効果的な指導が行えるようになります。とはいえ、部下の考えや思いを知ることは容易ではありません。特にやる気を低下させる要因となる「B.やる場合のデメリット」や「C.やらない場合のメリット」については注意が必要です。

これらは「部下に積極的に仕事に取り組み、成果を上げてもらいたい」という上司の考えと相反するものです。そのため、上司が直接話を聞いても、部下は本音を話しません。従って、上司は、直接聞いた話はもちろんですが、日ごろの言動など部下に関するあらゆる情報を基に部下の考えや思いを把握する必要があります。

また、「自身が部下の立場だったらどう思うか」ということを考えてみることも大切です。部下の考えや思いを知るためには、このようにさまざまな角度から考えてみるようにしましょう。

2)指導の基本的な方向性を理解する

部下の考えや思いを把握したら、それに見合った指導を行います。基本的には「『A.やる場合のメリット』と『D.やらない場合のデメリット』を最大化する」ことと、「『B.やる場合のデメリット』と『C.やらない場合のメリット』を最小化する」ことになります。一般的には、最初の第一歩を踏み出してもらいたいときにはA、B、Cを重視した指導、継続的に取り組んでもらいたいときにはA、Bを重視した指導を、それぞれ行うとよいでしょう。

また、いずれの場合にも「D.やらない場合のデメリット」を最大化する指導は好ましくありません。「D.やらない場合のデメリット」は罰則を科すなど、脅しが中心です。脅しは簡単に行え、期待した成果も得られやすい指導方法です。しかし、脅しによって開始、継続された行動は、部下の本心からのものではないので、自発性や発展性は望めません。また、上司に対する感情的な反発や、面従腹背の恐れがあります。場合によっては、パワハラと言われて問題となる可能性もあるため注意が必要です。

従って、「D.やらない場合のデメリット」を取り入れた指導は、非常事態を除いて、避けたほうがよいでしょう。

3)冷静な指導を心掛ける

本稿で紹介した内容を踏まえて部下に対する指導を行おうとしても、「指導内容をうまく伝えることができない」、あるいは「適切な指導を行ったと思っていたものの、部下には指導内容が正確に伝わっていなかった」ということもあるかもしれません。その一因は、上司が自身の感情に流されてしまうことにあるようです。部下には、必要なことを、適切な話し方で伝えなければなりません。しかし、「ついカッとなる」「くどくど叱る」、あるいは「面倒くさい」「必要ないことまで話したいという気持ちを抑えられず話してしまう」など、感情に流されてしまうことが多いようです。

部下への指導は、自分の感情をコントロールし、冷静に行う必要があります。もちろん、時には「叱る」という行為も必要です。しかし、それは「冷静に目的を認識し、言葉や口調にも注意を払いながら叱る」ようにし、決して感情的対処となってはいけません。常に冷静な気持ちで部下に接し、伝えるべき内容をしっかりと伝えるということが、適切な指導を行う上では重要となるのです。

以上(2019年7月)

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コスト削減に効果大「再エネ調達」の取り組み

書いてあること

  • 主な読者:電気代削減に取り組みたい製造業の経営者など
  • 課題:どのような再エネ調達の方法があるのか、メリットや費用感も含めて知りたい
  • 解決策:「自家発電・自家消費」がコストや税制面で注目されている。今後はサプライヤーとしての立場を強固にする上でも重要な調達方法となる

1 中小企業が再エネ調達に乗り出すメリット

地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が2020年1月から本格スタートしたことなどを背景に、多くの大手企業は、企業活動におけるCO2削減を迫られています。そうした中、大手企業がサプライヤーに対して、CO2削減を要請するケースが増えています。

代表的なCO2削減策は、企業活動に必要な電力を再生可能エネルギーで賄う「再エネ調達」です。今後、中小企業がサプライヤーとしての立場を強固にする上で、再エネ調達は重要な取り組みになるとの指摘もあります。

注目されている再エネ調達方法は「自家発電・自家消費」。企業が自らソーラーパネルなどを設置し、そこから生まれた電力を自社で消費する方法で、次のようなメリットがあります。

  • 電気代を削減でき、コストダウンにつながる
  • 導入することで税制措置が受けられる
  • 災害時や緊急時の非常電源としてBCP対策になる

実際の導入事例などを踏まえ、具体的なメリットや費用感を見ていきましょう。

2 初期費用面を税制措置が後押し

太陽光発電事業などを展開するエコスタイルへのヒアリングによると、《電気代削減によるコストダウンに魅力を感じつつも、初期費用の面で二の足を踏んでいた中小企業が、税制措置に後押しされて「自家発電・自家消費」を導入するケースがここ数年で増加している》(2020年3月15日時点)とのことです。

大量の電気を使用するメーカーでは、自家発電・自家消費による電気代の削減効果は大きくなります。例えば、緩衝材加工メーカーのA社は、節電のために90キロワットのソーラーパネルを敷地内に設置。年間400万円以上かかっていた電気代のうち、約200万円分を自家発電で賄えるようになりました。

A社が「自家発電・自家消費」を導入した決め手の1つが、税制措置です。これは、2021年3月までに自家消費型の太陽光発電設備を取得した中小企業が、その費用について「即時償却」または「取得価額の10%の税額控除」などが受けられるというものです。

税制措置は、2016年7月に施行された中小企業等経営強化法に基づく支援措置の1つ(中小企業経営強化税制)で、他にも、民間金融機関から融資を受ける際の信用保証といった金融支援も受けることができます。

3 災害時の非常電源としてBCP対策に活用

2018年6月に発生した西日本豪雨では、被災地域で約1週間の停電が発生しました。今後、水害の発生頻度が増加するという予測もあり、メーカーなどがサプライヤーに対してBCP対策を求めるケースも出てきています。

「自家発電・自家消費」であれば、停電時でも、電話、メール、インターネットなど外部との通信手段を維持できます。従業員の安否確認や業務再開に向けた指示、取引先との連絡などを通して、業務の早期復旧を目指すことができます。

また、自家発電で賄える範囲で、工場の稼働や店舗の営業を継続することもできるため、取引先や地域住民の安心感や信頼の獲得にもつながります。

4 導入を検討する際のポイント

1)設置費用の目安は?

太陽光発電の普及に伴い、海外メーカーの参入による価格競争などの影響で、法人向けの太陽光発電設備の設置費用は年々下がっています。太陽光発電事業者などへのヒアリングによると、最近では《1キロワット当たり12万~20万円》で設置するケースが多いようです。

ただし、エコスタイルへのヒアリングによると、《設備業者や使用するソーラーパネル、積雪の有無、風の強さ、設置する屋根の角度や強度など、細かい条件によって費用はケース・バイ・ケースで大きく変わる》(2020年3月18日時点)とのことです。

2)設置規模の目安は?

エコスタイルへのヒアリングによると、《導入する中小企業の多くは、100~300キロワットのソーラーパネルを設置しており、パネルの面積は100キロワットで約660平方メートル、300キロワットで約2000平方メートルになる。これより規模の小さい事例だと、例えば、一般的なコンビニエンスストアの屋根の場合、20~30キロワットのパネルを設置できる》(2020年3月15日時点)とのことです。

また、《自家発電・自家消費の場合、導入する企業の普段の電気使用量に合わせて、発電した電気が余らないようにソーラーパネルを設置することになる》(2020年3月15日時点)とのことです。

5 サプライチェーンの要請はこれから本格化

近年、大手企業を中心に、サプライチェーンにおけるCO2排出量の算定・管理・情報開示を進める動きが活発化しています。

  • イオン:PB商品の製造委託先企業へCO2削減目標の設定を要請
  • 大和ハウス工業:2025年度までに主要サプライヤーの9割以上と温室効果ガスの削減目標を共有。取引先とともに省エネ診断や合同勉強会等を実施し、目標の設定および省エネ活動を推進
  • 富士通:事業のバリューチェーンからの温室効果ガス排出量を、2030年度までに2013年度比30%削減
  • NTTデータ:サプライヤーとの連携による購入した製品・サービスの省エネ化
  • NEC:製品の製造過程で消費する電力、ガスなど、資源の削減を要望

実際の導入事例などを踏まえ、具体的なメリットや費用感を見ていきましょう。

企業のサプライチェーンにおけるCO2削減支援などを行っているB社へのヒアリングによると、大手企業への支援件数は、《2019年度が5件だったものが、2020年度は17件に急増した。サプライチェーンへの具体的な要請に乗り出す企業も増えている》(2020年3月15日時点)とのことです。

「自家発電・自家消費」は、こうした大手企業の要請に十分に応える取り組みといえます。

例えば、大手自動車メーカーのサプライチェーンに属するC社の事例では、空調や照明設備などで省エネ化を図っていたものの、なかなか削減目標に届きませんでした。そこで、自家消費型の太陽光発電設備を導入したところ、削減目標を大きく超えることができたといいます。

このように、日本企業の多くは、従来、高効率空調設備の導入やLED照明への切り替えによる節電などを進めており、省エネ策は「頭打ち」ともいわれています。そうした中で、電気そのものを作り出す自家発電・自家消費は、打開策として注目されています。

以上(2020年4月)

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法人税に関する税務対策

書いてあること

  • 主な読者:税務対策を適切に行いたい中小企業の経営者
  • 課題:事業年度が終わり、申告書の作成時期に税金のことを心配しても、とれる税務対策はない
  • 解決策:「事業年度当初」「事業年度の中途」「事業年度末」それぞれの時期に適した税務対策を解説する

1 税務対策と経営計画

会社の経営は経営計画を策定し、それを着実に実行していかなければなりません。その際、経営と切り離せない税金については、経営計画の段階で納税額を試算し、納税資金の準備と税務対策を講じる必要があります。経営計画を実行する過程で月次や四半期ごとに年間利益を推計し納税額を試算し、それに対応した対策を検討します。

事業年度が終了し、申告段階になって税金の心配をしても、既に手遅れです。こうしたことのないように、定期的に税理士などの専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。

なお、企業にかかる税金で、とっさにできる対策はありません。基本的には、払い過ぎを防止したり、課税の繰り延べを図ることが中心となります。

2 税務対策のポイント

1)費用および損失の発生

損金に算入できる給与の増額、福利厚生の充実、設備投資、不良資産の処分など。

2)損金算入可能な経理処理の適用

貸倒引当金の計上、棚卸資産の評価損の計上など。

3)費用および損失の前倒し計上

短期前払費用の費用計上、少額減価償却資産の費用化、特別償却など。

4)課税の繰り延べ処理の活用

圧縮記帳など。

5)特例制度の活用

設備投資などの税額控除など。

税務対策は、そのときだけの税額が少なくなればよいというだけではなく、中長期的な観点で判断し、タイミングや組み合わせを考えて行う必要があります。また、各種の税務対策を実行するに当たっては、税理士などの専門家に相談して実行する必要があります。

3 事業年度当初から行う税務対策

1)役員報酬の改定

事業年度初めに引き続き業績好調が見込まれる場合は、役員報酬の改定を行います。その額は業績などから検討します。なお、事業年度開始からの3カ月以内に改定しなければなりません。留意点は次の通りです。

  • 役員報酬の総額については定款に定めのない場合は株主総会(株式会社以外は、社員総会)の決議事項であり、各役員の報酬額は取締役会および監査役会の決議事項であるため、必ず株主総会・取締役会および監査役会を開催し、その承認を受け議事録を作成します。なお、取締役会非設置会社においては株主総会で全てを決議します。
  • 職務の内容、収益状況および使用人に対する給与の状況、同業同規模の他社の支給状況などと照らして、その役員の職務に対する対価として不当に高額でないかを確認します。

2)事前確定届出給与の届出

事前確定届出給与とは、その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する給与で、次に定める届出期限までに納税地の所轄税務署長に、事前確定届出給与に関する定めの内容の届出をします。

原則として次の1または2のうち、いずれか早い日が届出期限です。

  • 株主総会等の決議により、その定めをした場合におけるその決議をした日から1カ月を経過する日
  • その事業年度開始の日から4カ月を経過する日

3)中小企業倒産防止共済制度への加入

中小企業基盤整備機構の「(中小企業倒産防止共済制度)経営セーフティ共済」に基づき納付する掛け金は、全額損金算入することができます。

中小企業倒産防止共済制度とは、取引先の倒産の影響を受けて中小企業者が倒産する事態(連鎖倒産)、または倒産に至らないまでも、著しい経営難に陥る事態の発生を防止するため、中小企業者の拠出による共済制度で、中小企業の経営の安定に寄与することを目的としています。

中小企業倒産防止共済制度の諸条件は次の通りです。

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4)中小企業退職金共済制度(中退共)への加入

勤労者退職金共済機構の中小企業退職金共済制度へ納付する掛け金は、全額損金の額に算入されます。

中小企業退職金共済制度は事業主が機構と退職金共済契約を結び、毎月の掛け金を最寄りの金融機関に納付し、従業員が退職したときその従業員に機構から退職金が直接支払われる制度です。単独では退職金制度を持つことが困難な中小企業に、事業主の相互共済と国の援助によって退職金制度を設け、これによって中小企業の従業員の福祉の増進と雇用の安定を図ることを目的としています。

中小企業退職金共済制度の諸条件は次の通りです。

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5)役員退職金の支払い

高齢の役員などがいれば、退職を検討します。留意点は次の通りです。なお、役員退職金の算式の例としては「最終月額報酬×役員在任年数×功績倍率(規定に準ずる)」といったケースなどが見られます。

  • 役員退職金は原則として株主総会で決議された日の属する事業年度で損金経理をします。
  • 同業同規模の他社と比較して不当に高額でないようにします。
  • その役員の業務従事期間や退職の事情に照らして不当に高額でないようにします。

また、実際に退職しない場合の分掌変更による退職金も検討できます。

4 事業年度の中途で行う税務対策(修繕・修理の実施)

1)資本的支出の範囲

古くなった建物、機械、車両などの修繕・修理を行います。なお、資本的支出に該当するか否かという点には注意が必要です。

税務上の資本的支出に該当するものとして、次のような例が明らかにされています。

  • 【法人税法基本通達7-8-1】
    法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すことになると認められる部分に対応する金額が資本的支出となるのであるから、例えば次に掲げるような金額は、原則として資本的支出に該当する。
  • 建物の避難階段の取付等物理的に付加した部分に係る費用の額
  • 用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額
  • 機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額

(注)建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たる。

この通達は、資本的支出の基本的な考え方を明らかにしているもので、リフォームなどが、「建物の価値を高めているか否か」「建物の耐久性を増加させるかどうか」で、資本的支出または修繕費に該当するかどうかを示しています。

2)資本的支出と修繕費の区分の特例

実務上、資本的支出と修繕費の区分は大変困難な問題です。そこで、税務上において、その区分の特例として次の取り扱いが認められています。なお、この方法は、法人が継続的に一種の簡便法を適用することを認めたものですが、あらかじめ文書により所轄の税務署長に届け出る必要はありません。

  • 【法人税法基本通達7-8-5】
    一つの修理、改良等のために要した費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額(法人税法基本通達7-8-3「少額又は周期の短い費用の損金算入」、法人税法基本通達7-8-4「形式基準による修繕費の判定」の適用を受けるものを除く)がある場合において、法人が、継続してその金額の30%相当額とその修理、改良等をした固定資産の前期末における取得価額の10%相当額とのいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、この経理を認める。

3)災害等の場合の資本的支出と修繕費の区分の特例

災害等の場合においては、特別な手当てが必要ですが、これについて税務上次の特例を認めています。

  • 【法人税法基本通達7-8-6(3)】
    被災資産について支出した費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでないものがある場合において、法人が、その金額の30%相当額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、この経理を認める。

この取り扱いは、資本的支出と修繕費の区分について特例を認めたものですが、災害等の場合には、被災した建物などへの支出額に関して、資本的支出であるか修繕費であるかの区分が困難な場合が多いことから、この特例が設けられ、処理の簡便化を図っています。

なお、災害等の場合における修繕については、災害損失特別勘定など、別途、一定の経理処理が認められています。そのため、災害時の修繕費の取り扱いについては注意が必要です。

4)耐用年数を経過した建物について行った修理、改良など

耐用年数を経過した減価償却資産につき、修理、改良などを行った場合の税務上の取り扱いは次の通りです。

  • 【法人税法基本通達7-8-9】
    耐用年数を経過した減価償却資産について修理、改良等をした場合であっても、その修理、改良等のために支出した費用の額に係る資本的支出と修繕費の区分については、一般の例によりその判定を行うことに留意する。

5)他人の建物に対する造作など

他人から賃借している建物に対して造作などを行った場合においては、原則として、資本的支出に該当し、その内部造作を1つの資産として合理的に見積もった耐用年数により償却します。

ただし、当該建物について賃貸期間の定めがあるもの(賃借期間の更新のできないものに限る)で、かつ、有益費の請求または買取請求ができないものについては、当該賃借期間を耐用年数として償却することができます(耐用年数の適用等に関する取扱通達1-1-3)。

5 事業年度末に行う税務対策

1)ボーナスの支給

業績が好調な会社の場合、社員の功績に応じて決算賞与を支給します。留意点は次の通りです。また、未払経理により賞与を決算に計上して経費とします(一定の要件あり(注))。

  • 社員に対する賞与であれば、年度末までに支給額が確定していれば問題になりませんが、役員に対するものは損金になりません。
  • 使用人兼務役員に支給する場合は、他の使用人等と同時期に支給し、かつ損金経理した使用人分相当額のみが損金となり、それを超える部分は損金となりません。

(注)一定の要件とは、「支給額を各人別に同時期に支給を受けるすべての使用人に対し、期末日までに通知し、その通知をした日の属する事業年度において損金経理をした上で、翌期首から1カ月以内に通知通り支給すること」です。

2)未払費用の検討

社会保険料、電話料、電気料、給与のうち、締め日から期末日までの期間分(役員報酬は不可)等の未払費用の計上漏れがないかチェックします。留意点は次の通りです。

  • 事業年度末までに債務が成立していること。
  • 債務に基づいた具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
  • その支払うべき金額が明らかであること。

3)その他の税務対策

その他の税務対策として検討できるものとしては次のようなものがあります。

  • 生命保倹(経営者保険)の加入(注)。
  • 固定資産の売却・除却。
  • 消耗品の購入(貯蔵品として資産計上するものを除く)。
  • 不良債権の処理(損失処理・引当金計上など)。

(注)支払額全額が損金計上できるとは限りません。また、固定資産を売却した時は、利益が生じる場合があるので注意が必要です。

6 決算時に行う税務対策

1)棚卸資産の評価損計上

法人税法上、資産の評価損の計上は原則認められていません(法人税法第33条第1項)。しかし、棚卸資産については次のような場合および法的整理に限り評価損の計上が認められています(法人税法施行令第68条第1項第1号)。

  • 当該資産が災害により著しく損傷したこと。
  • 当該資産が著しく陳腐化したこと。
  • 上記に準ずる特別の事実。

例えば、身近で分かりやすい例を挙げると、売れ残りの季節商品で通常の価額では今後販売できないことが明らかであるものや、新製品が発表されたことで流行遅れになるため、今後通常の方法で販売できなくなった場合も当てはまります。

つまりは、いろいろな要因はあるものの、著しく価値が減少して、今後その価格が回復しない状態や、通常の価額で販売できないということが明らかであれば、評価損として計上できるのです。ただし、単に時価や物価変動があった場合や、過剰生産によって価額が低下した場合には、計上することができません。

最後に、評価損を計上する場合、「著しく価値が減少して、通常の方法で販売できなかった」旨を、税務署から問われても大丈夫なように証拠資料をそろえておくことです。例えば、バーゲンセールの広告などを保管しておくとよいでしょう。

2)特別償却や税額控除の検討

経営改善設備を取得した場合の特別償却または税額控除、特定経営力向上設備等を取得した場合の即時償却または税額控除、雇用者給与等支給額が増額した場合の特別控除などの制度があります。これらの制度の適用を受けることができるかどうかについては、顧問税理士など専門家に確認するとよいでしょう。

以上(2020年1月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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