【朝礼】「笑顔」と「笑い声」の準備はできていますか?

皆さん、おはようございます! 本日は良い雰囲気でビジネスを進めるための、ある秘訣について話したいと思います。皆さんは、日々の営業の場面で、「今日はトークの調子がいい!」とか、逆に「調子が悪い」と感じるときがあるでしょう。

トークの調子の良しあしは、準備したシナリオ通りに話せたか否かで決まるわけではありません。例えば、相手と丁々発止の議論ができ、その中で、当初は想定していなかったアイデアが浮かんで提案の幅が大きく広がったときなどに、「トークの調子がいい!」といえるのです。

では、トークの調子がいい状態はどのようにすればつくれると思いますか。私は「相手に気持ちよく話をしてもらうこと」と、「自分が気持ちよく話をすること」、この2点に尽きると思います。

恥ずかしいことですが、私は一度だけ商談中に居眠りをしたことがあります。疲れていたこともありますが、何より相手の話が単調だったのです。居眠りしたのは一瞬でしたが、相手は見逃しませんでした。相手は私の反応を探ろうと全神経を集中させているのですから、気付いて当然です。

次の瞬間から相手の雰囲気がガラッと変わりました。「私に聞く気がない」と判断した相手は、さらに単調な口調となり、早口にマニュアル通りの説明をして、そそくさと帰っていきました。もしあのとき、私が相手に気持ちよく話をしてもらう配慮ができていたら、より良い提案を受けられていたかもしれません。

逆に、良い例もあります。ご縁があってインターネットメディアの対談に参加したときのことです。そのときの対談相手の言葉がとても印象的だったのです。彼は、「周りの人たちは、常に笑顔と笑い声を絶やさず、餅つきの合いの手のように盛り上げてください。そうすることで私たちは気持ちよく対談できます。結果として、それが良い内容に結び付くのです」と言いました。その人が対談に慣れていたこともありますが、アドバイス通りにした結果、確かにその場は非常に盛り上がり、中身の濃い対談ができました。

関係者の中には、仕事として笑顔をつくり、笑い声を発し、合いの手を入れていた人もいたはずです。全員が心を込めていたわけではないでしょう。しかし、それでも、人は周りの笑顔や笑い声から力をもらい、前向きになれるものです。実際、私もそうでした。

多くの人は商談前に、「シナリオ作りも含め、事前準備を怠らないように」と教えます。とても大事なことですが、私はここに、「笑顔」と「笑い声」も準備するようにしています。プロのアナウンサーは、本番前に鏡の前でニーッと歯を出して笑顔の練習をするそうですが、これと同じです。実践してみれば分かりますが、「笑顔」と「笑い声」には、皆さんが考えている以上の効果があります。皆さんの「笑顔」と「笑い声」は相手にも伝わり、とても良い雰囲気でビジネスを進めることができます。ぜひ、試してください。

以上(2019年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】部下が成長するベストタイミングを逃さない

皆さんは、「信じる」ということの意味をどのように捉えていますか。私は、「信じる」とは、相手の人間性についてはもちろんのこと、相手の実力をも信じることだと考えています。

分かりやすく、スポーツに例えてみましょう。サッカーチームに、性格はとても良いが実力は三流の選手がいたとしたら、その彼にエースストライカーを任せることはできないでしょう。点を取ってくれるとは思えないからです。逆に、実力は一流だが性格に難がある選手がいたらどうでしょう。やはりエースストライカーを任せることはできません。ひねくれたプレーをして、せっかくのチャンスを台無しにしてしまうかもしれないからです。

偉大な成績を残して現役を引退したイチロー選手のように、一流と呼ばれる選手は、人間性と実力を兼ね備えています。だからこそ周囲は「信じる」ことができるのです。

さて、ここで管理職の皆さんに質問します。

「信じられる部下を育てていますか?」

注意してほしいのは、私は「部下を信じていますか?」とは聞いていないことです。皆さんの仕事は部下を信じるだけではなく、信じられる部下を育て、その上で信じることです。人間的に未熟な部下には、仕事に取り組む姿勢を教え、技術的に未熟な部下には、スキルアップの機会を与えなければなりません。それも、適切なタイミングで部下の成長を後押しする必要があります。

私が課長だった頃、上司からの信頼を強く感じた出来事があります。私は大きな商談を担当していて、最終コンペまでこぎ着けました。その当日、上司は次の言葉で私を送り出してくれました。

「楽しんできなさい!」

その上司は人の何倍も準備をする人でした。通常なら直前まで私を指導し、「とにかく慎重に!」と送り出したはずです。それなのに「楽しんできなさい!」と言われたので私は驚きましたが、すぐにその言葉は私への信頼の証しだと分かり、やる気が倍増したのを覚えています。当時、私は本当に入念にコンペの準備をしていました。後から聞いた話ですが、上司はそのことを同僚から聞いていたこともあり、私を信頼してくれたようです。

「啐啄同時(そったくどうじ)」という言葉があります。「啐(そつ)」はひな鳥が卵の内側から殻をたたく状態、「啄(たく)」は親鳥が卵の外側から殻をたたく状態を示します。親鳥は、ひな鳥がいよいよ殻を破って外に出るタイミングを見逃さず、その手助けをしているのです。

先ほど例に挙げたコンペのとき、上司から「とにかく慎重に!」と言われていたら、私はそれほど上司からの信頼を感じなかったはずですが、まさに上司の絶好のタイミングの一言でやる気が倍増しました。部下は一気に成長しません。しかし、ブレークスルーのタイミングは必ずあります。上司はそれを見逃さず、「啐啄同時」でサポートすることが大事なのです。

以上(2019年7月)

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画像:Mariko Mitsuda

経営者の皆さん!社員とコミュニケーション取れていますか?〜会社が明るく、楽しくなる秘訣をVITAさんに聞く〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、等身大株式会社の代表取締役であるVITAこと内藤紗弥花さんです。多くの方々から「VITA(ヴィータ)」で親しまれていますので、ここでも「VITAさん」でご紹介します。

1 人は、いつから働くのが楽しくなくなったのか?

「働く喜び調査2013~2017年」(出所:リクルートキャリア社)の資料を見ていても、ネガティブワードのオンパレード。【楽しい】がなんと15番目に出てくるのです。いったい仕事が楽しくなくなったのはいつからのことなのか……? そう考え込んでしまいそうです。

私は毎日楽しくて楽しくて仕方がないですが(笑)。

この他にも、会社員が「イキイキ仕事していない」と感じることが、残念ながら少なくありません。これでは、働くのはシンドい、ツラいというのが当たり前になってしまうと危惧しています。

そんな重い空気感を数分で一変させ、その場を笑いと笑顔で包み込む講演家、それがVITAさんです。今回は、VITAさんに「会社が明るくなる、楽しくなる秘訣」を伺いました。特に「うちの会社はちょっと暗くて……」と悩んでいる経営者の方には、とても良い刺激になる内容です。

2 「年収6000円ですか?」「いえ、8900円です!」と真顔で

2018年11月、私が登壇させていただいたある勉強会に、VITAさんをお招きしたことがあります。そのときに私は、会場の皆さんに「年収1万円以下の経験がある方はいらっしゃいますか?」と質問させていただきました。そこでたった1人だけ手が挙がったのがVITAさんなのです。

次に問いかけたのが、「年収6000円でしたよね?」でした。それに対してVITAさん、『もう少し多かったです!8900円でした』。この一言で会場がどよめく! 仕事感、働き方関係のセミナーであったこともあり、参加していらっしゃる方々に、「いかにお笑いの世界が厳しいか。そこで頑張ったVITAさんが、いかにすてきか」をお伝えしたいと思い、筋書きのない質問を突然させていただいた次第です。

この質問の後に、VITAさんには一発ネタを幾つか披露していただき、会場の雰囲気が一気に明るくなりました。おかげで皆さんとの交流もスムーズに進み、とても素晴らしい会となりました。感謝しています。

VITAさんとの出会いは、VITAさんが会社を設立されて3カ月後のことで、今から3年前の9月になります。懇意にしていただいている社長さんから、「面白い講演が聞けるから杉浦さんも来たら? 勉強にもなるよ」と声を掛けていただき、参加しました。当時は、「内藤紗弥花VITA」というふうに「本名+芸名」で名乗っていらっしゃったことも懐かしいです。

ここで、等身大株式会社のHPから、VITAさんの略歴を簡単にご紹介しましょう。

●VITAさんの略歴(HPより)

・等身大株式会社 代表取締役。エンターテイナー・講演家。1985年神奈川県三浦市生まれ。「将来は政治家になります」と宣言し、AO入試にて慶應大総合 政策学部に合格。卒業後、突然、よしもと芸人に。全く売れずに、バイト生活すること3年。引退を考えていたころ、友人の言葉に奮起し、なんとか、2010年プチブレイク。「さんまのまんま」、「ぐるぐるナインティナイン」等、計10番組に出演を果たす。引退後は、営業コンサルティング会社にて営業パーソンとしての経験を積み、辛酸をなめる。ある時「あなただから買ったのよ」と伝えてくれた顧客との出会いに「仕事の最大の価値は人」だという信念を持つ。その後、2年間で7業種の営業を体験し、トレーナーとしても経験を積む。現在はエンターテイナー・講演家として活動。中学生から中央官庁管理職までと対象は幅広い。どんな相手でも繋がれるコミュニケーション術や、「等身大力セミナー」(今ある力を最大限に活かして、目の前の人を幸せにする力)を伝え、デビューわずか2年で年間150回の講演、研修の依頼を獲得。セミナーは、元よしもと芸人ならでは。ユーモアを交え、会場内を縦横無尽に動き回る体当たりのスタイルは好評を博し、働く人々の背中を押す。

このような略歴のVITAさん。「年間150回の講演を全力で」。本当にスゴいと感じます。

等身大株式会社の使命を記載した画像です

3 なぜ、VITAさんはお笑い芸人を目指したか?

政治家を目指していたVITAさんが、お笑い芸人へと進んだのはなぜなのか? 「この歩みには、子供の頃からのことが何か影響しているのでは?」と思い、子供の頃や学生時代について伺ってみました。

「目立ちたがり屋さん」。これが、VITAさんの子供の頃の全てと感じました。ただの目立ちたがり屋さんということではもちろんなく、周りに元気を与える、その元気が伝播することが大好きな子供時代だったようです。

「小学校の頃はどんな感じでしたか?」という質問に、VITAさんはこう答えてくださいました。「班長や学級委員長など、『長』がつくものを、とにかくやっていました。学級委員長に初めて立候補したのは、小学校3年生のときでした。そのときに多数決で選ばれた経験、人から信頼を得ることがこれほど気持ちいいのか!と思ったことを、今も鮮明に覚えています。小学校の授業が終わり休憩時間になると、そこは自分の【舞台】。今、授業をしたばかりの先生の物まねをしてクラスメートに「授業」をする【復習】で、自分自身も勉強となり、クラスメートも同様に学習レベルが上がる感じでしたね」

ある意味、教育研修で大切な相手に【伝える・伝わる】技術も、この「物まね授業」あたりから習得できて、一定のレベル感になっていった感じですね。

また、VITAさんは、高校の3年間のうち、2年間も生徒会長だったそうです。これはビックリしますね。1年生の秋口に立候補をして当選。そこから丸2年間、生徒会長を経験したわけですから、VITAさんの行動力、リーダーシップを感じます。

こうした子供時代や学生時代のコミュニケーション力や行動力、リーダーシップを生かし、社会課題を解消すべく政治家を目指したVITAさん。大学入学後も熱心に学んでいたそうです。テーマは学問として浸透し始めていたCSR(Corporate Social Responsibility)や、CSV(Creating Shared Value)。そこにのめり込んで、社会問題、社会企業論を研究しながら、VITAさんは「自分に何ができるか?」「社会へのインパクト、プロジェクトを何で動かすか?」という自問自答を繰り返し、卒業前のゼミの発表で「お笑い芸人になる!」と宣言し、その道へ。ゼミの中で相当珍しいチャレンジであったことを笑顔で振り返ってくださいました。

4 お笑いの世界で学んだこと

「世の中を笑顔にしたい」というプロジェクトを実現するために、VITAさんが飛び込んだお笑いの世界。そこは、生易しいものではなかったそうです。吉本興業が運営するNSC(吉本総合芸能学院)に40万円の入学金を払い込んで入ったVITAさん。同期は当時600人ですが、厳しさに耐えかねて、すぐに100人が去ったそうです。1年目のプログラムに最後まで残ったのは、入学当初の3分の1程度の200人。

言葉にできないほど理不尽とも思える【先輩からの教育】も相当ありながらも、VITAさんは頑張ったのですが、正直、NSC入学時、「私の来るべきところではなかった」という思いもあったと話します。お笑いの世界の上下関係はとても厳しく、本当は優しい先輩たちも、入学1年目のVITAさんたちには、1年間、心を鬼にして厳しいことをあえて実践してくれていたのだそうです。こうしたしきたりや、流儀、お笑いの世界特有の慣習で、VITAさんがメンタル・タフネスとなっていったことも事実。しかし一方で、どこにも売れることが保証されていない現実にも直面したそうです。

NSCへ入学してから1年後、VITAさんはプロのお笑い芸人への道を進みます。VITAさんに、当時のスケジュールを聞いてみました。

●ある2日間のVITAさんのスケジュール

  • 6:30~15:30 カレー屋さんでアルバイト
  • 16:00~22:00 電気店で接客のアルバイト
  • 23:00~4:00 居酒屋でアルバイト
  • 4:30~6:00 睡眠 90分
  • 6:30~15:30 カレー屋さんでアルバイト
  • 16:00~18:00 漫才の相方とネタ打ち合わせ
  • 19:00~21:00 ライブに出てスベル(笑ってもらえない)

とこんな48時間を繰り返していたそうです!

お笑いライブに出演するにも、VITAさんは自らチケットを購入していたそうです。1500円×10枚が最低枚数。これを購入して舞台に上がる権利を得ていたのです。その出演ギャラは、当初は500円もらえればよいほうだったとか。

この芸能生活スタート時点の1年目のギャラ総額が、「年間で8900円」だったそうで、翌年、翌々年と3年間チャレンジするたび少しずつギャラは上がり始めましたが、逆にバイトをする時間がなくなってしまいます。お笑い芸人の最終年には何度も生活が困窮する場面があったそうです。その状況で相方さんから『もう辞めよう』の一言でお笑いを卒業することになったそうです。

VITAさんのお笑い芸人時代のお話を伺っていて、「理不尽がよいとは言えないが、そうした経験をしたことは大きい」と私は感じます。

芸人生活の後、VITAさんが飛び込んだのは営業コンサルティングの会社でした。ビジネス経験が何もなかったことから、現場に入り込み、自ら電話営業などなど幾つも【現場経験】を積み重ね、トレーナーとしても活躍。そこから現在の姿である講演家として、VITAさんは独立します。

持ち前の明るさ+芸人根性+コンサルティング=講演家

というスタイルとなっていると感じます。

VITAさんと著者の近影です

5 年間150回の講演で見えてくる、【今】の課題について

VITAさんが代表を務める会社の社名である【等身大】については、同社のHPにもその想いがこもっていると感じます。

●【等身大力】について(HPより)

「あなたに、会えて良かった」「あなただから、お願いしたい」「あなたの、おかげです」そう言われる「あなた」とは、ありのままの自分を受け入れ、それを輝かせて生きている「人」です。どんなに似たモノやサービスが溢れる時代になっても、たった一つ、差別化できる価値とは、「人」であると私たちは信じています。等身大株式会社では講演や研修をつうじ、まずは、“知る”「自分の素晴らしさに気づくこと」(自己理解)そして、“表す”その能力と社会をつなげるための発信力(コミュニケーション能力)を伝え、行動の変化を促しています。

自分との対話の中で、決して偽りなくイキイキ生きることの大切さ。等身大だからこそ明るくなれる、セルフマネジメントも無理なくできる、自分に向き合える、だからこそ【あなた】【みんな】に優しくなれる。そんな気付きを与えてもらえるのがVITAさんの研修の特徴だと、受講してみて感じます。

それだけではなく、冒頭で紹介したような、蔓延するネガティブな雰囲気の会社や社会の問題に対して、等身大力を広げることで、VITAさんは大学時代に研究してきた課題と向き合っていらっしゃるように私には感じました。

  • 自分と向き合っていない
  • 自分が何がしたいのか? 欲しいものも見つけられない
  • 【個】を生きていない
  • 周りに、耳年増(みみどしま)になっただけ、「青い鳥」を探し続けている
  • 本当の喜びを知らない、見いだせない(風を読むことだけは卓越している)

現在、こんなことが若者だけでなく、それなりの年齢層にも多く見受けられるそうです。この傾向は残念ながらますます増えていく様相を呈しているように思えます。

「生きるとか、働くといったら『VITA』だよな」。【笑顔のアイコン】になりたいと願うVITAさんは、常に最高品質の自分でいることを心掛けています。楽しくないのは、全力で参加していないから。VITAさんの姿勢から強い思いを感じた次第です。

年間150回の講演で、おおよそ2万人もの方々に「等身大力」を伝授し続けながら、将来は等身大力を伝授した「VITAチルドレン」たちと一緒に、「社会に笑顔を届ける仕事を続けたい」と、VITAさんは、まさに大きな大きなVITAスマイルで語ってくださいました!

VITAさんと著者の近影です

以上(2019年6月作成)

【朝礼】あなたも私も素晴らしい!

皆さんは、自分ができないことや、思いもよらないことを考えている人と出会ったとき、「この人はすごい!」と素直に感じることができますか。恥ずかしいことですが、私が他人のことを素直に認められるようになったのは、それほど昔のことではありません。

それまでは、自分より優れた人に会えば嫉妬をしていました。また、本当に素晴らしい工夫がされている事柄でも、その“からくり”が何となくイメージできることについては、安易に、「たいしたことはない」と低い評価を下しがちでした。逆の場合もしかりです。自分のほうが相手よりも優れていると思えば、必要以上に強気になっていたと思います。

多くの人は、相手との関係性、相手の能力、置かれている状況に応じて自分のポジションを変えながら、「幾つもの自分」を使い分け、なんとかバランスを取っているものです。実際、家族に接するとき、上司に接するときのそれぞれの場面では、部下に接するとき、友人に接するときでは、皆さんの態度は大きく異なるはずです。

こうした立ち居振る舞いは、「自分の軸がない」ようにも映ります。通常、そうした人は高い評価を受けません。しかし私は今では、さまざまなポジションの自分についても、「それはそれで自分の弱さやもろさである」と認めています。その結果、視野が広がり、同時に頼りない自分を受け入れられるようにもなっていったのです。

他人と自分を比較していてもキリがありません。勝ち負けや優劣の判断だけでは、相手と上か下かの関係しか築くことができず、コラボレーションしながら仕事をする関係にはなりにくいでしょう。ビジネスにおいては、他社とのコラボレーションがとても上手な人がいます。そういう人は、自分の考えをしっかり持っていますが、ポジションは中立で目線もフラットです。自分のだけではなく相手の立場から相手の考えを聞く姿勢ができているということなのです。

相手と自分を比べてしまうということは、相手から見ても同じです。私たちが「自分はたいしたことはない」と思っていても、相手は私たちのことを「すごい!」と思っているかもしれません。皆さんがフラットな目線を心掛ければ、もっと深いコミュニケーションが生まれ、新しい仕事が生まれる可能性があります。

最近、「自己肯定」という言葉をよく聞きます。とにかく「今の自分を受け入れよう」との風潮がありますが、大切なのは「ダメなことはダメ」と認めることです。そこで初めて自分と深く向き合い、本当に肯定できる自分になれるのです。

「あなたも私も素晴らしい!」。この朝礼で私が皆さんに伝えたいメッセージです。元号が平成から令和に変わり、新しい時代が始まりました。皆さんにも新しい可能性があります。それを追求し、令和の時代に躍動するために、自分と向き合い、弱さを認める強さを持ってください。

以上(2019年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】皆さんの「ストーリー」を聞かせてください

私は若い頃から、ヴィンテージの服を扱っているお店めぐりを趣味にしています。掘り出し物のシャツやユニークなデザインのジャケットなどが発掘できる楽しみはもちろんですが、私が一番ワクワクするのは、店員さんの話を聞いているときです。

ヴィンテージ物を扱っているお店の店員さんは、服などにこだわりを持っている人が多く、私が知らない服にまつわるうんちくなどを教えてくれます。そして、中でも特に、店員さんが目を輝かせて話してくれる一着一着の服との出合いの話は、面白くて仕方ありません。

「店員さんがどのようにしてその服を見つけることができたか」「店員さんにとって、その服にはどのような思い出があるか」という「店員さんと服のストーリー」に恐らく魅せられているのだと思います。

日ごろのビジネスにおいても、ストーリーに魅せられることがあります。商談相手と話をしているうちに、商品を生み出すまでの苦労や工夫といった相手のストーリーが分かり、その商品に対する興味や好感度が一気に高まる。こんな経験を皆さんもしたことがあるのではないでしょうか。

ストーリーに魅力を感じるのは、そこにその人の思いや感情が込められていて、その人の内面も少し分かるような気がするからです。つまり、ストーリーには、共感を呼び、人との距離を縮める効果があるのだと、私は考えています。

私は、皆さんにも、周りの人に自分自身のストーリーを伝えられるようになってほしいのです。そうすることで、周りのさまざまな人との距離が縮まり、皆さん自身の世界も広がっていくはずです。特に、皆さんの中で、お客様など社外の人との関係をうまくつくれないと悩んでいる人がいたら、「ストーリーを伝える」ことをぜひ実践してもらいたいと思います。

難しく考える必要はありません。例えば、日々の仕事の中の出来事で考えてみると分かりやすいでしょう。商品をつくるとき、当社ではどのようにアイデアを出しているのか。皆さん自身はそこにどのような思いを持ち、どのように関わっているのか。苦労したこと、工夫したことは何なのか。商品を使ったお客様から、商品についてどのような感想をもらったことがあるのか、それについて皆さん自身はどのように感じているのか。こうしたことは、全て、皆さん一人ひとりのストーリーなのです。

ストーリーを伝えられるようになるには、訓練と慣れが必要です。そこで皆さんに提案です。明日から順番に、朝礼でスピーチをしていきましょう。テーマは、仕事のことでもそうでなくてもかまいません。皆さんが実際に経験したことと、その経験から何を感じたか、どのような思いを持ったかを発表していきましょう。世界に1つしかない皆さんのストーリーを、ぜひ聞かせてください。楽しみにしています。

以上(2019年6月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】人とつながるそのコツは

先日、異業種交流会に参加したときのことです。その交流会には、日本人だけでなく、海外のビジネスパーソンもたくさん参加していました。私は大勢の海外の方と話をしたのですが、特に、ある1人の方が印象に残りました。

その方は普段は英国で生活しており、日本語をほとんど話せないようでした。しかし、私に、「ごめんなさい、日本語、話せないです」とカタコトの日本語で言ってくれたのです。一方の私も、英語を話せません。そこで、「I am sorry,I cannot speak English.」と、その方に、つたない発音の英語でお伝えしました。

その方も私も、相手の国の言葉を話せないことを申し訳なく思い、そのことを、「どうにかして相手の国の言葉で伝えようとする」という状況でした。話せないと言いつつ、お互いに相手の国の言葉をなんとか使っていることがおかしくなり、二人で顔を見合わせて笑ってしまいました。

同時に、私はとても温かい気持ちになりました。二人とも、とっさに、母国語ではなく相手の国の言葉で気持ちを伝えようとしたため、言葉を話せなくても、「コミュニケーションを取りたい」という気持ちがお互いに伝わったからです。

その方と私は笑い合って、二人で固い握手を交わしました。その後は、通訳を介しながら、とても有意義な情報交換をすることができました。次回会うときまでに、その方は日本語を、私は英語を話せるようになろうという約束もしました。

皆さんは、この出来事を聞いて、どのように感じますか。私は、今回、人と人とがつながる際の大切なことを1つ学んだような気がしています。

人とつながるには、相手に対して、「あなたのことを知りたい、あなたと仲良くなりたい」「あなたのことを尊重している」という気持ちを持つこと、そしてそれを相手に分かるように行動で示すことが大切なのではないでしょうか。

その方も私も、最初からお互いに母国語だけで話をしていたら、ここまで仲良くならなかったかもしれません。不慣れながらも、「相手の国の言葉で伝えようとした」ため、気持ちがお互いに通じ合い、仲良くなることができた。私は、そのように捉えています。

このことは、日本人同士や社内の人同士でも同じです。「仲良くなりたい」「尊重している」という気持ちを行動で示せば、それはきっと相手に伝わります。特に、「相手が興味を持っていることを話す」「相手と同じキーワードを使って話す」といった行動は、相手に「仲良くなりたい」という気持ちが伝わりやすいかもしれません。

そこでこれから皆さんも、例えば人に会う前には、その人の愛読書や最近興味を持っていそうなこと、キーワードについて情報を集め、「その人と同じ目線で話す」ことを実践してみてください。

大切なのは、「気持ちを示すこと」です。格好をつけず、本気の気持ちを行動で示せば、相手にきっと伝わります。

以上(2019年6月)

pj16962
画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】今、この瞬間からリアクションをしてください

もうすぐ、2019年度の第1四半期が終わりを迎えようとしています。新年度からスタートした新規事業も佳境に入り、いよいよ本格的に忙しくなってきました。今日は、こうした忙しいときにこそ、皆さんに心掛けてほしいことを伝えます。

皆さん、どうか、日ごろからリアクションをするようにしてください。これが、今日の朝礼で皆さんにお伝えしたい一番大切なことです。

対面での会話や電話、メール、チャットなど、私は日ごろから皆さんとさまざまな手段でコミュニケーションを取っていますが、皆さんのリアクションが総じて悪いのが気になります。現状のように、仕事が忙しくなってくると、皆さんのリアクションはさらに悪くなってしまいます。

もしかしたら、皆さんは、私が皆さんに対して質問や確認、説明をしたときに、「今は他のことで忙しいので、すぐには対応できない」「言っている意味、聞かれている内容が分からない」「答えに迷う」などと感じて、リアクションが悪くなっているのかもしれません。皆さんなりの理由や事情があるのでしょう。しかし、そうした場合でも、「すぐには分からないので確認します」「今は対応できないので、30分後でも大丈夫ですか」「もう一度言っていただけますか」といったリアクションをすることはできるはずです。少なくとも、分かったのか、分かっていないのかくらいは返してもらわなければ困ります。黙ったままや、「既読スルー」はやめましょう。

相手の立場に立って考えると分かりやすいかもしれません。皆さんが質問や確認、説明をしたとき、何のリアクションもなければ、皆さんは不安になりませんか。ちゃんと伝わっていないのではないか、自分の言い方が良くなかったのか、どうすればコミュニケーションを取れるのか、と困ってしまうはずです。コミュニケーションを取り直せば、時間も余計にかかってしまうでしょう。

逆に、リアクションが良ければ、お互いに気持ち良く、話も仕事もスムーズに進みます。「リアクションをする」というのはささいなことに思えるかもしれませんが、とても大切なことなのです。

皆さん、この朝礼が終わったこの瞬間からすぐに、リアクションをすることを心掛けてください。例えば対面であれば、人の話に対しては「はい」と返事をし、分からないときは「分かりません」とすぐに返しましょう。こう言うと、とても当たり前で簡単なことに聞こえるかもしれませんが、皆さんには、そうした当たり前のことさえ、できていないことを認識してください。

このとき大切なのは、相手にリアクションが伝わるように「ハッキリ返す」ことです。相手の顔を見ずに、背中を向けたまま口の中でモゴモゴ言っていても、リアクションをしていることが分かりません。リアクションは、相手に伝わって初めて「返した」ことになるのです。皆さん、私の言っていることが分かりますか。今、この瞬間からリアクションをしてください。

以上(2019年6月)

pj16963
画像:Mariko Mitsuda

株式会社、事業協同組合、SPCの特徴

書いてあること

  • 主な読者:新しい事業主体で新規事業を検討している経営者
  • 課題:そもそもどういう視点で事業主体を選べばいいのか分からない
  • 解決策:株式会社、事業協同組合、SPCに関するメリット・デメリットをまとめる

1 組織形態ごと(株式会社、事業協同組合、SPC)の概要

1)株式会社

株式会社は、「会社法」に基づいて設立される組織で、株式を発行し、その代金である出資金を元手として事業を行い、利益追求を目指すものです。最低資本金1円以上で設立することができます。また、株式会社の機関設計などによっても異なりますが、取締役1名のみでも設立することができます(注)。

(注)例えば、定款により、全ての株式について譲渡制限が設けられている株式会社(株式譲渡制限会社)の場合、取締役会を設置せず、取締役1名で、監査役の設置も任意とすることができます。

2)事業協同組合

事業協同組合は、「中小企業等協同組合法」に基づき設立される組織で、組合員である中小企業などが相互扶助の精神に基づき協同して事業を行い、経営の合理化・効率化、取引条件の改善などにより経済的地位の向上を目指すものです。4人以上の中小企業者などによって設立され、組合員の事業を補完・支援するための事業を実施します。

従来は、同業種の事業者により設立されるケースがほとんどでしたが、異なる業種の事業者が連携して設立し、それぞれの技術やノウハウなどの経営資源を有効に活用して新技術開発や新分野開拓に取り組むケースもあります。

3)SPC

特定目的会社(Special Purpose Company、以下「SPC」)は、「資産の流動化に関する法律」に基づいて設立される組織です。SPCは、特定の資産の購入資金を投資家(特定出資)あるいは金融機関からの借り入れ(特定借り入れ)で調達し、原資産保有者(以下「オリジネーター」)から資産の譲渡を受けます。そして、その資産から得られるキャッシュフローや資産価値を裏付けとした資産対応証券を発行して、資金調達を行います。

SPCによる証券化のスキームは次の通りです。なお、SPCの目的は資産流動化のための「器」としての機能を果たすことに限定されており、資産の管理・処分に係る業務など、資産流動化に係る業務やその付帯業務を営むことは認められておらず、それらの業務は外部の会社(資産管理受託者)に委託しなければなりません(注)。

(注)資産流動化法上、資産管理受託者は、信託会社など(信託会社または信託業務を営む銀行その他の金融機関)に加え、「不動産(土地もしくは建物またはこれらに関する所有権以外の権利)」など、特定資産のうちの一定の資産については、オリジネーターまたは当該資産の管理および処分を適正に遂行するに足りる財産的基礎および人的構成を有する者が、資産管理を行うことができますが、実際は、信託会社などが資産管理受託者となることが多いようなので、本稿では、資産管理受託者を「外部の会社」としています。

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2 株式会社のメリット・デメリット

1)メリット

1.所有と経営の分離

株式会社は、企業の所有者(株主)と経営を分離することができます。議決権を持つ株主が経営をすると、経営の客観的な評価ができず、経営者の独断・独走を許す危険性があります。そのため、所有と経営を分離して、株主は経営を客観的に評価する立場に置くことで、経営の健全性を構造的に保つことを目指すことができます。

2.有限責任

株式会社の株主が負うべき責任は、その出資額を限度とし、その金額以上の責任(損失)を負うことはありません。

2)デメリット

1.税務上の優遇措置が少ない

事業協同組合やSPCと比較すると、税務上の優遇措置が少なくなります(詳細は後述)。また、株式会社の場合、配当金の支払いは利益処分項目であるため、法人税法上損金に算入することはできません。

3 事業協同組合のメリット・デメリット

1)メリット

1.高い信用度

事業協同組合は行政庁の認可を受けた中間法人であるため、その社会的地位や公益的役割により信用度は高くなります。

2.公平で平等な組織

事業協同組合は、総会(最高意思決定機関)の議決権が出資額に関係なく1人1票与えられます。よって、株式会社のように出資額で議決権を占有できないため、公平で平等な組織といえます。

3.有限責任

事業協同組合の組合員が負うべき責任は、その出資額を限度とし、出資をした金額以上の責任(損失)を負うことはありません。

4.主な税制面のメリット

事業協同組合は株式会社などに比べて税制上の優遇措置が多くなされています。例えば、事業協同組合の法人税率は次の通りです。

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また、事業協同組合が出資者から徴収した加入金(持分調整金)は益金不算入であったり、組合の事業を利用した分量に応じて支払う事業利用分量配当を損金に算入できたりするため、その分利益を抑えることができます。

この他にも、代表理事の変更などにかかる登録免許税、事業所や倉庫にかかる固定資産税の非課税などの優遇措置などもあります。

2)デメリット

1.設立手続きが煩雑

事業協同組合は、行政庁の管理監督下に置かれるため、高い信用度を得られる半面、その手続きが煩雑となっています。例えば、設立手続きは、おおむね株式会社の5倍の書類が必要になるといわれています。

2.組合員になれるのは中小企業者など

事業協同組合は、中小企業者などの事業の近代化・合理化と取引条件の改善などを目的とした組織であるため、組合員になれるのは原則中小企業者などに限られています。なお、中小企業者などとは業種ごとに定義されており、例えば製造業では、資本金3億円以下または従業員数300人以下の法人・個人事業主などに限られます。

3.出資総額に制限がある

事業協同組合は、平等の原則を保持するため1組合員の出資は出資総額の4分の1までという制限が設けられています。

4 SPCのメリット・デメリット

1)メリット

1.SPCの資産の信用力のみに依拠した資金調達ができる

SPCは、オリジネーターの信用力ではなく、SPCの資産の持つ信用力(資産の価値や、資産から生み出されるキャッシュフロー)が借り入れの条件となります。そのため、オリジネーターの財政状態が良くない場合でも、SPCの資産が持つ信用力が高ければ、有利な条件による資金調達を受けることができます。

2.倒産隔離

SPCについては、投資家はあくまで特定資産の収益性に対して投資しているため、SPCをオリジネーターの倒産リスク(オリジネーターが倒産した場合に、オリジネーターの債権者にSPCの特定資産を差し押さえられるなど)から切り離されていなければなりません。そのため、一般的にSPCには法的な対抗要件の具備や、人的遮断(取締役を第三者とするなど)の処置がされます。

3.オリジネーターの財産指標の改善

SPCを組成することで、オリジネーターの貸借対照表から当該資産をオフバランスすることができ、総資本利益率や自己資本比率といった財務指標を向上させることができます。特に、含み益のある資産をSPCに売却することで、オリジネーターの潜在的な企業収益力を損益計算書上に顕在化することができます。

4.主な税制面のメリット

SPCは、一定の要件を満たせば利益の配当額を損金算入できるため、課税される利益が少額になります。そのため、均等割など多少の税金は発生しますが、投資不動産から得られた収益のほとんどを投資家に配当することができます。これは、SPCが資産流動化という特定の目的のためにのみ存在する「器」としての存在にすぎないため、税制上もこれに適合した課税上の取り扱いをする措置(ペイ・スルー課税)を取ったものです。

この他にも、一定の要件を満たせば不動産取得税や登録免許税などについても軽減の措置があります。SPCに対しての軽減措置は次の通りです。

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2)デメリット

1.設立手続きが煩雑

SPCのスキームおよび事業計画について詳細に記載した「資産流動化計画」の策定や、その他業務開始に必要な書類の作成およびそれらの内閣総理大臣への届け出など、設立手続きが煩雑であり、設立段階までに相応の時間を要します。

2.コストが掛かる

SPCの設立は複雑なスキームとなるため、オリジネーター、SPC、資産管理受託者などに対する報酬の他、スキーム全体をアレンジするアレンジャー(金融機関や専門家など)に対する仲介手数料などのコストが必要となる場合があります。

3.大規模な事業以外には不向き

SPCは手続きが煩雑で、コストも掛かるため、「オフィスビルや賃貸マンションといった不動産の取得・開発」「発電設備の取得・運用」といった巨額の資金が必要で、一定のリターンも見込める大規模な事業のほうが、費用対効果が見込みやすく適しているといわれています。

5 組織形態を選ぶ際のポイント

1)経営権の所在

「誰に経営権を持たせるのか」「経営に参画するのは誰か」など、経営権が誰に所在するのかによって、最適な組織形態は異なります。例えば、複数の中小企業が共同で事業を行うような場合、公平で平等な経営ができる事業協同組合が適しているといえるでしょう。

一方、事業に参加する複数の企業の中の有力企業が事業のかじ取りを担ったほうがいい場合や、自治体や金融機関などさまざまな組織の参画を目指す場合は、株式会社やSPCが適しているといえます。

2)どれくらいの資金が必要で、出し手は誰か

事業に必要な資金の額や、資金の出し手によっても、最適な組織形態は異なります。例えば、事業に当たって地域で調達できない金額の資金が必要であったり、資本提携などを理由に資金の出し手を地域の企業に限定できない場合、資金の出し手に制限がなく、多額の資金を集めやすい株式会社やSPCが向いているでしょう。

なお、ここでは、新規事業開始に当たって事業主体となる組織として、株式会社、事業協同組合、SPCを新設することを前提に組織形態を選ぶ際のポイントを紹介しました。しかし、既存組織の中で新規事業を行う場合は、異なる問題が発生することがあります。例えば、既存の株式会社が新規事業として行う場合、「新規事業に関する倒産隔離の問題はどうするのか」「出資者が新規事業に関する経営権の取得を望んだ場合、株式を持つことで既存事業を含む株式会社全体の経営権を持つことになる」といったように、さまざまな課題が発生する可能性があるため、注意をする必要があります。

以上(2019年6月)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:pixabay

大型設備投資の際の資金調達方法

書いてあること

  • 主な読者:事業のための設備投資を検討している経営者
  • 課題:具体的な資金調達方法を知りたい
  • 解決策:借り入れや社債の発行などによる社外の外部調達手段は選択肢が豊富。社内で調達するより多額の金額を調達できる

1 設備投資資金の調達方法

資金調達の方法を検討する際のポイントには次のようなものがあります。それぞれの資金調達にはメリットとデメリットがあります。資金調達をする目的やその時々の金融情勢を考慮した上で、手段を選ぶようにしましょう

  • 誰から資金調達するのか?
  • どれくらいの期間(短期・長期)
  • 何の目的(設備投資、運転資金など)
  • どれだけの量(金額)

ここでは、調達額が大きくなる設備投資資金を想定します。社内からの調達、社外からの調達の双方に触れますが、中心は選択肢が豊富で多くを調達しやすい外部からの調達のほうです。

2 誰から資金を調達するか?

1)社内から調達:内部資金

内部資金はこれまでの企業活動によって蓄積された資金であり、努力の結晶でもあります。代表的なものは、内部留保です。内部留保は、利益準備金などとして企業に留保された資金であり、株主への配当金を除いたものを示します。

この他にも、資金調達コストが掛からず、運用可能な資金を調達するという意味では、「遊休不動産の売却」「経費の削減」なども考えられます。

内部資金のメリットは、「調達に関わる事務が社内で完結すること」などです。一方、デメリットは、「基本的に既存の経営の延長線であるため、多額の資金を調達するまでに時間が掛かる」ことです。金額によっては、次の外部資金と合わせて調達します。

2)社外から調達:外部資金

外部資金は、金融機関、投資家、既存取引先など、社外から調達する資金です。主な方法としては、次のようなものが挙げられます。

  • 金融機関からの借り入れ(間接金融)
  • 新株や社債の発行、クラウドファンディング(直接金融)
  • 公的機関からの資金調達(助成金や補助金受給)
  • 債権の早期現金化(流動化)

外部資金のメリットは、「資力がある団体・企業・人から十分な金額を調達しやすく、内部資金に比べて調達までの時間が掛からないこと」「大手金融機関と取引することは一定のブランドにつながること」です。一方、デメリットは、「調達の手続きが社内で完結しないため交渉や事務の手間が掛かること」です。

3 金融機関からの借り入れ(間接金融)

1)間接金融とは

資金の出し手(この場合は、預金者)と資金の取り手(資金を調達する企業、以下同じ)の間に金融機関を挟むことから、「間接」とされる資金調達の方法です。多くの企業にとって最も一般的な資金調達の方法でしょう。

資金の取り手は、資金調達時に貸し手の金融機関のみを交渉相手とすればよいため、比較的手間が掛からないのがメリットです。一方、資金調達時の条件が資金の取り手と金融機関の力関係に左右されるというデメリットがあります。

金融機関からの借り入れは借入期間によって、短期借入金(借入期間が1年以内)と長期借入金(借入期間が1年を超える)に大別されます。

2)動産担保融資

動産担保融資とは、動産を担保とする融資で、担保となる動産によって借入期間が異なってきます。この方法では、資金の取り手の事業力に評価の重点を置いて動産の担保価値を評価するため、「経営能力は高いが不動産など一般的な担保が乏しい」という資金の取り手であっても、十分な金額の資金調達ができる可能性があります。

近年、法律の整備、融資の保証制度など支援施策の充実、評価ノウハウの蓄積によって、使い勝手が良くなってきている資金調達の方法です。

4 新株や社債の発行(直接金融)

1)直接金融とは

投資家や企業の関係者などの資金の出し手から直接資金を調達するため、「直接」が付く資金調達方法です。返済までの期間は、長期間または事実上無期限です。一方で、直接金融による資金調達に当たって会社法などの法令に基づく義務が資金の取り手に課されることから、調達コストや管理の手間が掛かります。

2)新株の発行(増資)

資金の取り手が新たに株式を発行(増資)し、投資家、自社の経営者や取引先といった関係者などに引き受けて(購入して)もらう資金調達方法で、多額かつ長期の資金を必要とする際などに利用されます。この方法では、返済期限の定めがない資金の調達が可能です。一方、資金調達時やその後に株主管理の手間やコストが掛かったり、経営に介入されやすくなったりします。

主な新株の発行による資金調達方法は次の通りです。

1.縁故募集

発行した株式を、資金の取り手の経営者や取引先などの関係者(縁故者)に引き受けてもらう資金調達方法で、一般的な直接金融による資金調達の方法です。引受先を限定するため、株主管理の手間やコストが比較的少なくて済み、元来から信頼関係がある先が株式を取得することから、経営への介入も抑えることができます。

一方、機関投資家や不特定多数の投資家への割り当てに比べて、資金の出し手の資力が乏しい傾向があるため、多額の資金調達に向いていない場合があります。

2.ベンチャーキャピタル、中小企業投資育成株式会社への割り当て

発行した株式を、中小・ベンチャー企業への投資を専門的に行っているベンチャーキャピタルや中小企業投資育成株式会社に割り当てて資金調達する方法です。

資力がある機関が出資することから比較的多額の資金調達ができ、出資を受け入れた後に機関が派遣する専門家による支援が受けられる場合があります。一方、資金の出し手から一定の利益を出すことを要求される傾向があります。

3.事業会社への割り当て

発効した株式を、事業会社に割り当てる資金調達方法です。

大規模な事業会社から出資を受けることで、多額な資金調達ができ、また業務提携という形で人的支援やネットワークの共有など経営全般に影響を受けることになります。

4.不特定多数の投資家に割り当て

株式の購入を希望する不特定多数の投資家に対して、新株を割り当てる方法です。この方法は、証券取引所(金融商品取引所)への上場時に合わせて行われるのが一般的ですが、非上場の資金の取り手がこの方法で資金調達をするケースもあります(注)。

知名度や信用力がある資金の取り手であれば、特定の人・企業に偏らず、さまざまな投資家から多額の資金を調達できます。一方、株主管理の手間やコストが膨大で、資金の取り手が自社単独で勧誘する場合は、引受先を開拓するのにも手間やコストが掛かります。

(注)なお、証券取引所に上場していない企業の株式(いわゆる「未公開株」)については、当該株式の発行会社以外の企業が投資家に対して購入を勧誘することは、日本証券業協会の自主規制ルールに基づき、原則として禁止されています。

5.種類株式の発行による資金調達

ここまで紹介した方式で株式の発行による資金調達を行う場合、いずれの方式でもネックとなるのが「株主の経営への介入」です。

そこで考えたいのが、種類株式の発行による資金調達です。種類株式は、剰余金・残余財産の配当(配分)・議決権の行使など株主の権利に関して標準的な地位が与えられている普通株式と異なり、「配当が優先的に行われる代わりに議決権の行使が制限される」「1株当たりの議決権が普通株式の10倍」など標準的な地位にない株式のことをいいます。

この種類株式を発行することで、「資金調達はしつつ、経営への影響を抑える」といった資本政策が可能となり、資金の取り手は事業の幅を広げつつ経営の自由度を維持することができます。資金調達を考える際の選択肢の1つとして考えてみてもよいでしょう。

3)社債の発行

資金の取り手が新たに債券を発行し、投資家、自社の経営者や取引先といった関係者などに引き受けて(購入して)もらう資金調達方法で、新株発行と同様に多額かつ長期の資金を必要とする際に利用されます。一種の借り入れであり、定期的な利払いや一定期間後に返済することが義務付けられている点が、新株の発行と異なります。

金融機関からの借り入れと比較すると、資金の取り手が金利や返済期間などの条件を任意に決められます。一方で、調達や管理のコスト・手間が掛かり、資金調達後の条件変更も困難です。

1.発行される社債の種類

資金の調達に際して発行される社債の種類には、次が挙げられます。

  • 普通社債(SB、事業債)
  • 新株予約権付社債(WB、ワラント債)

普通社債(SB、事業債)とは、利回りと満期における元金の返済を約束した社債です。

新株予約権付社債(WB、ワラント債)とは、普通社債に新株予約権が付加された社債です。新株予約権は一定の期間内に一定の価格で、所定の数量の株式を購入できる権利です。新株予約権の権利行使時に、新株の払込価額を社債金額で払い込む、つまり代用払込が認められる場合は、旧来の転換社債(CB)と同様の社債(転換社債型新株予約権付社債)になります。

2.調達方法:少人数私募債

50人未満の投資家や企業などに対して、資金の取り手が社債の購入申し込みの勧誘を行う調達方法です。法的な義務が少ないため、調達や管理の手間が少なくて済み、調達コストを抑えられます。一方、調達に当たっては法的な義務を限定するための要件が厳しく、対象者数が限られるため、多額の資金を調達しにくい傾向があります。

3.調達方法:公募債

不特定多数の投資家や企業などに対して社債の購入申し込みの勧誘を行う調達方法です。少人数私募債に比べて勧誘人数や募集金額の制約が少ないため、多額の資金を調達しやすい傾向があります。一方で、資金の取り手に課される法的な義務が多く、調達や管理の手間やコストが掛かります。

4)クラウドファンディング

インターネットを通じて資金の取り手が案件を提示し、その案件に関心を持った不特定多数の人から小口の資金を集める資金調達方法です。

クラウドファンディングは資金の出し手に対する金銭的な対価が発生しない「寄付型」、製品・サービスを提供する「購入型」、金銭的な対価が発生する「金融型」の大きく3つに分類されます。また、金融型には、投資(ファンド)型、貸付(融資)型、株式投資(エクイティ)型があります。

設備投資の資金調達は、比較的多額の資金が調達しやすい金融型のクラウドファンディングで行われることが多いようです。また、新店舗の内装・機器など必要な資金が少額で、顧客づくりを資金調達と並行して行い、かつ市場調査も兼ねて実施する場合は、サービス利用券などを対価とする購入型のクラウドファンディングで資金調達することがあるようです。

5 公的機関からの資金調達(助成金や補助金受給)

1)企業の資金調達を支援する施策の活用による資金調達

官公庁、政府系金融機関、地方自治体などの公的機関では、「中小企業の経営支援」「特定産業の育成」「地域経済の振興」などの政策課題を解決するために、企業の資金調達を支援する施策を講じています。

2)政府系金融機関などからの融資

日本政策金融公庫など、政府系金融機関や公的機関が提供している融資を利用して資金調達する方法です。融資を受けるに当たっては、公的機関に直接申し込む方法と、金融機関を通じて申し込む方法があります。

この方法は、金利が金融機関より低い、返済期間が長期、担保が不要なことが多いという傾向があります。一方、資金調達に当たって多量の書類をそろえる必要がある、融資の要件が厳しい、融資中の条件変更(金利の引き下げ、返済期間の延長など)が困難であるという傾向があります。

3)公的機関による債務の保証

全国各地に設けられた信用保証協会などの公的機関が、資金の取り手の融資返済の保証を行う制度です。この制度を利用して債務の保証を受けた資金の取り手に万が一の事態が生じ、返済が滞った場合は、公的機関が資金の取り手に代わって金融機関に返済します(信用保証協会の保証割合は原則として借入金額の80%)。公的機関による債務の保証そのものに資金調達の機能はありませんが、資金調達に当たっての信用補完に活用できます。

信用力のある第三者の保証を受けられることから、金融機関からの融資が受けやすくなります。一方、保証料を支払う必要があるため、普通の金融機関の融資に比べて調達コストが高くなります。

4)省庁、地方自治体など公的機関が実施する助成・補助制度

公的機関が実施する助成・補助制度を活用した資金調達方法です。省庁、地方自治体、官公庁の外郭団体などでは、一定要件を満たした企業に対して政策目標を達成するために助成金や補助金の交付を実施しています。

返済が不要な場合が多いため、有利な資金調達といえます。一方で、提出する書類を整える必要があるなど手続きが煩雑であることに加え、資金の使途が厳しく制限されていて違反時にはペナルティー(助成金・補助金の返還など)が科されます。また、補助金の場合は、交付の前に支出が発生するため、キャッシュフローの検討が必要になります。

6 資産の証券化

1)概要

資産の証券化とは、オリジネーター(原債権保有者)の保有する資産を特定目的会社(TMK、SPC)などの「ビークル」に譲渡し、ビークルが資産の受益権を証券として投資家に販売することにより現金に換える方法です。資金調達の多様化や資産のオフバランス化を進める上で、有力な手段といえます。

2)資金調達の多様化を図ることができる

オリジネーターからみると、資産の証券化には資金調達を多様化できるというメリットがあります。例えば、優良な不動産を持つ企業であれば、証券化を利用することで新たな資金調達の手段を確保できます。

証券化の対象となる資産は、安定的にキャッシュフロー(賃貸収入)を生み出す物件であることが必要であり、具体的には、「賃貸マンション」「小売業の店舗」「工場」「本社ビル」などが挙げられます。

3)資産のオフバランス化を図ることができる

資産を貸借対照表から外すことを「オフバランス化」といいます。資産のオフバランス化により、「総資産利益率(ROA)」「株主資本利益率(ROE)」「自己資本比率」などが改善します。

7 リース取引

1)リース取引とは

リース取引とは、貸手(リース会社)が借手の代わりに特定の物件を購入し、双方が合意した期間(リース期間)に当該物件を使用する権利を借手に与え、借手は使用料(リース料)を貸手に支払う取引です。現在では、金融機関からの借入とは異なる、設備投資資金調達の方法として一般的となっています。

リース取引に適した物件として、次のものが挙げられます。

1.技術革新が急速に進んでいる物件

日進月歩で技術革新が進む物件は、すぐに高性能な製品が開発されるため、数年で取り換えが必要になる場合があります。リースであれば、リース期間満了時に取り換えが行われます。

逆にいえば、技術開発が成熟していて、すぐに大きな技術革新が予想されないものは購入したほうがよいともいえます。

2.高額な物件

高額な物件は一度に支払うのが難しいため、支払いを分割できる方法が望ましく、金額が大きければ金利変動のリスクも大きいため、金利変動に影響されないリースが適しています。支出額が一定であるため、金利上昇によるコスト増を避けることができます。

また、リース期間と物件の使用期間が一致しているため、設備投資資金の支払いと回収のタイミングも近くなり、資金の収支バランスもよくなります。

2)リース取引の分類

1.ファイナンス・リース取引

リース取引を事実上中途で解約できないリース取引であり、借手が物件に関わる費用(物件代金・金利・固定資産税・保険料など)を実質的に負担することになります。

当該物件は購入した場合と同様に使用できるため、実態は賃貸借というより資金調達の性格が強いといえます。

原則売買処理(オンバランス取引)であり、減価償却費を通じて、全額損金処理が可能です。

2.オペレーティング・リース取引

リース期間満了時の物件価値(残価)の査定に基づいて行われるリースであり、当該物件の元本部分から残価を差し引いて、リース料を算出するリース取引です。リース期間の自由な設定が可能であり、中古品市場が活発で一定の相場がある設備(例:自動車)の導入などに適しています。

賃貸借処理(オフバランス取引)であり、支払リース料を通じて、全額損金処理が可能です。

8 設備投資資金調達の際の留意点

1)設備投資資金の調達

設備投資の回収には長期間を要し、この間は資金が固定化するので、それに見合った調達方法を選択する必要があります。金利などの調達コストや自社の財務状況、業績見通しを照らし合わせ、自社に最適な方法を選択するようにしましょう。また、設備投資はタイミングがずれると想定していた効果が得られないこともあるため、調達の容易さ(スピード)の観点からも検討が必要です。

2)設備投資資金調達の手順

1.必要資金の算定、調達方法の検討、返済方法・借入期間の推計

設備計画、資金計画に基づいて必要資金を算定します。次に、社債、金融機関からの借り入れ、リースなどの具体的な借入方法を検討します。社債による調達は中堅・中小企業には困難な場合が多いため、金融機関からの借り入れが中心となります。また、設備投資後の予想利益や減価償却費を考慮しながら、返済方法や借入期間を推計します。設備投資をすると、メンテナンス費など追加の運転資金が必要となる場合もあるので、併せて検討する必要があります。

2.担保の確保

長期借入には確実な担保が必要です。担保には、土地・建物などの不動産を充てるのが一般的です。こうした物的担保と併せて企業の代表者などの人的担保、つまり個人保証が必要となる場合があります。個人保証の他に、親会社などによる法人保証もあります。

3.資金調達コストの検討と借り入れ時期の見極め

長期借入では資金調達コストがかさむため、コストの抑制が重要です。金融機関の貸出金利は、その時々の金融情勢、業績、担保、借入金額、借入期間、取引状況などで決まります。従って、金融緩和期(低金利の時期)を選ぶなど設備投資のタイミングを考えることが大切となります。

3)適切な情報開示が不可欠

前述した、いずれの資金調達方法にも共通するのは、「資金の取り手の信用力が高く返済・リターンが見込める、または資金の取り手の資金需要と政策目標に合致する案件では、資金調達が有利になる」という点です。そして、見込める・合致すると判断する有力な材料が、資金の取り手による積極的な情報開示です。

資金の取り手の情報開示の度合いが高い場合、資金の出し手がリスクやリターンの見極めがしやすくなります。そのため、資金の取り手は資金調達に当たって有利な条件(低金利、多額の投融資など)を資金の出し手から引き出しやすくなります。

逆に情報開示の度合いが低い場合は、リスクとリターンの見極めが難しくなりがちなため、資金の出し手は慎重になります。そのため、資金の取り手は不利な条件で資金調達をせざるを得なくなり、時として資金調達そのものが失敗する場合があります。

具体的に資金の出し手に提示する情報としては、自社の現状、財務データ、事業計画、市場データなどが挙げられます。

以上(2019年5月)
(監修 合同会社gtra and company 代表執行役 公認会計士 朝倉厳太郎)

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働き方改革に【IT参謀】は必須です!〜GM総研 加藤さんに参謀1万人輩出計画を聞く〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、株式会社グッドマネジメント総合研究所(GM総研)の代表取締役 IT参謀である加藤利彦さんです。

●会社HP
https://www.gmsouken.co.jp/

“働き方改革元年”とはいうものの、中小企業には専門家がおらず、導入に踏み切ったIT関連のシステムが本当に必要なのかを正しく判断することができません。それに、そもそも価格が適正なのかも分からないといった問題を抱えています。

大企業でも、情報システム歴が長いベテランの存在が、かえって生産性を低下させてしまうことがあるようです。ベテランは知識こそ豊富ですが、現場からは離れているため、現場が本当に求めているシステムを選定することが難しいようなのです。

こうしたITにまつわる課題の解決に尽力し、本質的な業務改革を目指しているのがGM総研の加藤さんです。

1 いきなり怒ってしまった10年前

今回、インタビューをしている中で、加藤さんは「10年前、(杉浦さんに)社内見学会に来てもらったとき、『なんで挨拶もなにもないの? どうなっているの?』と杉浦さんから怒られました」と言われ、懐かしい出来事を思い出しました。当時、加藤さんは株式会社EC studio(現:Chatwork株式会社)の常務取締役で人事部門を管掌していました。私が初めて加藤さんと出会ったのは、この社内見学会の出来事から遡ること数年前、加藤さんがまだ20代半ばの頃だったと記憶しています。

そのとき私が怒った理由は、常識の違いからでした。当時の加藤さんの会社には、電話も、FAXも、コピー機も、資料関係のファイルもありませんでした。当然、名刺に電話番号が書かれておらず、「会社としてあり得ない」と感じる状態でした。今でこそ多くの会社でペーパーレスが進みつつありますが、10年前、あそこまでなにもない状態は、その頃私が勤務していた会社とはかけ離れていて、まさに働き方の【常識】が違っていたのです。

この点が腹落ちしないまま、半日ほど社内見学会に参加しましたが、やはり驚きの連続でした。私の常識では、訪問時には挨拶するのが当たり前です。しかし、ドアを開けて『こんにちは!』と入室しても、誰からも返事がなく、顔をこちらに向けることもなく、社員は皆、パソコンに向かっているだけでした。『なんだ!』と、思わず怒ってしまいました。

当時のその会社は、加藤さんを含め、創業メンバー全員がいきなり起業して参集していました。その頃のメンバーにとって、過去から脈々と続いている企業形態の常識は【非常識】と映っていたようです。そして、「不必要なことはやらない」と決め、ここからコミュニケーションの新しい在り方にたどり着きました。常識を変えることには勇気がいりますが、当時のメンバーは、企業の在り方や、運営についての経験値が低かったため、逆にダイナミックな改革ができたのかもしれません。

2 IT活用の大切さを広めるためにリアルの世界へ

我々から見ると【非常識】な世界で働いていた加藤さん。当時、加藤さんの本業は、ITツールの販売やシステムの導入支援を、インターネット上で行うことでした。現在はかなり普及してきたGoogle社のG Suiteの、日本最初の販売パートナーにもなっています。

先ほど紹介した「10年前の社内見学会」で、私はITツールの必要性を感じました。ちょうど加藤さんも講演などの活動が活発化していました。【リアル】な活動を通じてさまざまな気付きやニーズを得る中で、加藤さんは新しい道に進むことを決めたのです。

子会社を設立すると同時に円満に独立し、GM総研の前身となるチャットワークアカデミーを設立しました。加藤さんは、クライアント企業に実際に赴いて【リアル】に触れつつ、ITツールの導入支援、活用コンサルティング、講演、ITツールの開発を主たる事業として活動していくことになります。

3 IT参謀計画を考え始めたワケ

実際に加藤さんがIT活用コンサルティングで対応してこられた企業から、お客様の評価や声を集めてみました。

1)広告代理店の声:100人規模

これまで、社員に伝わっていると思っていたことが実は伝わっていないことが分かりました。優れたメンバーが集まっているのに、ベクトルが合っていないために効率が悪く、意思疎通も図れず、トラブルの連続でした。

ITを上手に使って、社内に情報発信することで自分たちの進むべき道を整理することができました。社員などからのフィードバックを反映していくうちに、組織全体のまとまりが明らかに強くなりました。そこから大きくスケールし、大幅な増収を達成しています。

リアルは確かに必要です。しかし、それに固執せず、IT活用による利便性の享受も重要であると感じます。

2)複数店舗ある美容院の声:7店舗

教育カリキュラムをオンライン化できたことで、1人当たり約200時間かかっていた教育・研修を、約60時間に短縮することができました。教育・研修に必要だった交通・宿泊費を大幅に削減できました。「スタッフが自分で勉強してくれる、しかも成長スピードが速い!」という、好循環が生まれています。リアルな教育は、デジタルでは伝えられない難しいことを重点に教えるものと位置付け、リアルとデジタルを使い分けています。

今までの当たり前(常識)が、非常識となった事例といえます。場所、移動コスト(時間と交通費)を圧縮できるのもIT化の恩恵と感じます。

3)ロジスティックの声:1600人規模

日本各地に倉庫があるため、幹部の交通・宿泊費だけで年間3000万円のコストがかかっていました。そこで、テレビ会議やチャットなど、ITでコミュニケーションを上手に取ることで現場に行く回数が半減し、年間1500万円のコストダウンに成功しました。そして何より嬉しかったのは、家族が待つ家に頻繁に帰れるようになったことです。

社長、事業責任者、SVの方々が全国を飛び回ることも多いですね。これから到来する5Gの世界観では、さらに移動が激変する可能性を感じます。

4)経営コンサルの声:100人規模

紙の資料が多く、管理が非常に大変でした。Googleの機能を使うことで、紙をテキストデータ化し、クラウドで管理するようになりました。管理が楽で、検索すればすぐ見つかるようになったのです。一般的に、物を探す時間は年間160時間あるそうです。100人なら1万6000時間となります。これが半減し、それを人件費で換算したら、すごい効果になります。また、紙を使うことがほとんどなくなったので、コピー・インク代も年間500万円ほど削減できています。

社員同士で『あのペーパーってどこにあるの? ないなら印刷して!』という会話が本当に無駄に感じます。見えないコストとしては、これだけ都心の家賃高騰の中、なにも生まない書類専用のロッカー。私の懇意な会社でもクラウドシフトを行い、事務所の有効面積が30%以上空きスペースが増え、事務所移転を考えなくて済むようになりました。

このような事例が増えていくにつれて、加藤さんは、IT活用コンサルティングを自身の会社の限られたリソースだけで展開し、ノウハウを自社だけのものとしていることに疑問を感じるようになりました。「これでは国内にある数多くの企業のお役立ちにはつながっていないのでは? ここ数年でITの壁をブレイクスルーしておかないと、次代に残すべき企業までが消失してしまうのではないか」と。

そこで加藤さんは、自分が行ってきた業務【IT参謀】をどうすれば広められるかということを、ここ数年考え始めました。そして、この記事冒頭の課題感(中小企業と大企業の人財不足)解消に動くことを、今年(2019年)になり、意思決定したそうです。加藤さんが注力しておられる、そのIT参謀を増やすプロジェクトのサイトはこちらです。

●IT参謀
https://www.gmsouken.co.jp/sanbou/

4 実際にIT参謀へチャレンジされた方々の声も

加藤さんが定義する【IT参謀】について、もう少し詳しく紹介します。ここでは、非公開の同社プロジェクトサイトからの抜粋をご紹介します。もちろん、加藤さんの了承を得ています。

IT参謀のプロジェクトサイトの画像です

●加藤さんのブログからの引用

・IT参謀の概要:IT・クラウドと言っても、カテゴリーが広すぎるため基本的には、ITコミュニケーションとIT実務に絞っています。1日に400個のWEBサービスが生まれていると言われています。それらを追いかけるのではなく(不可能…)、オールマイティを目指さず、効果が出せるツールを絞って徹底活用できる様にサポートしていく流れになります。

業務とは、大きく2つしか無いと考えています。それは、コミュニケーションと実務です。コミュニケーションは、報告・連絡・相談・指示・会議。実務は、作業・企画・集計・設計・分析などです。その2つをスムーズに効率化するには多様なツールを使わずに、極力1つずつのツールにします。推奨しているのは、ChatworkとG suiteです。ほとんどの場合、既に多様なツールに翻弄されています。電話、FAX、付箋、メール、メッセンジャー、◯◯管理システム、◯◯管理ツール、日報ほにゃらら…見ないといけないものが多いのは大変です。それだけで無駄な時間が発生します。G suiteでもコミュニケーションは出来ますが人の脳の中で、コミュニケーションと実務を分け、ツールも、コミュニケーションと実務を分けることでコミュニケーションはChatworkを見て実務はG suiteを見るという風土を作れば脳が混乱せず、スムーズに業務を回すことができます。実際に、コミュニケーションと実務が混在するオールマイティな業務システムサービスではどこに何の情報があるのか分からない。

検索してもコミュニケーションの事と実務の事が混在して表示され混乱するし、結局探す時間が長いという不満をよく聞きます。コミュニケーションと実務の情報をクラウド化することで探すという行為を検索するという行為に変えられます。それだけで探す時間を半分以下にできます。さらに、コミュニケーションツールと実務ツールを分けることでコミュニケーションと実務の混在による混乱が無くなりさらに探す時間を短縮できます。それだけでも大きな効果を得ることが出来ます。

このように大きな概要としてはコミュニケーションと実務のクラウド化をツールを絞って実現することが基本的な進め方になります。そしてそのサポートをする人のことをIT参謀と呼んでいます。

このサポートの人財が世の中に広がることで、生産性向上が具現化していくと感じます。また働き方改革の横にセット化されている、副業・兼業の世界観もこのIT参謀が担えるように感じます。

実際にこのプロジェクトに参画された【参謀】の皆さんの声も以下に。

・OA機器販売事業

☆申し込んだ理由、経緯

OA機器の販売とITサポートの仕事は相乗効果がありそうなので、ITサポートの仕事をやってみたかったがどう事業を進めて良いのか迷っているうちに事業を立ち上げられないままになっていた。そこでIT参謀の存在を知り、サポートいただくことで事業立ち上げが加速した。

☆実際にどう習得できたか

会員サイトでITサポート事業の準備、立ち上げ方、考え方、運用を学びながら不明な点や、疑問点、悩みなどはメッセージでサポートを受けながら事業の立ち上げを進めた。2ヶ月ほどで運用まで軌道に乗せることができ、収益化しています。今後は社内から、ITサポート事業のメンバーを増やすフェーズに入っています。

☆お客さんの集め方

異業種交流会の運営をしており、交流会のメンバー及び紹介から毎月IT活用の勉強会を開催し沢山の方に参加頂いています。そちらでITサポートのベネフィットを実感いただくことを起点にご契約を頂いています。

☆どれぐらいの期間でどれぐらいのお客さんができたか

2月のIT活用勉強会の初開催でいきなり2社契約をいただきました。その後は各回数社の皆さんからご相談をいただき、既存のお客様からの依頼も含め2ヶ月で10社のご契約を頂いています。

☆お客さんから言ってもらえて嬉しかったこと

◯◯をしてみたいが、どう進めればいいのか…というところの解決きっかけになりました! と言って頂きます。またITに関して情報提供したことを実践頂き役に立ちました! と言って頂くことに喜びを感じます。

IT参謀のプロジェクトサイトの画像2枚目です

5 IT参謀の未来へ

このようにIT参謀が増え、1万人となったときには、日本の企業が本物の生産性向上につながっていくものと感じます。私からも某インフラ系大企業にIT参謀プロジェクトをご紹介し、同社社員の参謀化が静かに始まろうとしています。

IT参謀の皆さんがコミュニティー化、プラットフォーム化していくことで、プロジェクト単位のシゴト感が広まります。それによって多様な働き方、ひいては生き方にまで良い影響となっていくことを願います。

最後に加藤さんに、「いつもなぜ黒っぽい服装なんですか?」と尋ねてみたところ、『自分自身は黒子(くろこ)であると認識しています。クライアント企業が引き立つイキイキした活動になるためにも私は黒子に徹する』とすてきな回答をいただきました!

杉浦氏・加藤氏の画像の画像です

以上(2019年5月作成)