入会金・会費などの税務上の取り扱い

書いてあること

  • 主な読者:適正な税務処理を徹底したい経営者・税務担当者
  • 課題:入会金や会費は内容によっては、税務上役員報酬や給与とみなされることがある
  • 解決策:ゴルフクラブの入会金や同業団体の会費など、会社で発生する主な入会金や会費を抜粋して、税務上の取り扱いを解説

1 ゴルフクラブの入会金など

1)ゴルフクラブの入会金

法人がゴルフクラブに対して支出した入会金については、次のいずれかの場合に応じて処理します(法人税基本通達9-7-11)。

1.法人会員としてゴルフクラブに入会するケース

法人会員として入会する場合、入会金は資産として計上します。

ただし、記名式の法人会員で名義人として特定の役員または使用人が法人の業務に関係なく利用するため、これらの者が負担すべきものであると認められるときは、当該入会金に相当する金額は、これらの者に対する給与とします。

2.個人会員としてゴルフクラブに入会するケース

個人会員として入会する場合、入会金は個人会員たる特定の役員または使用人に対する給与とします。

ただし、無記名式の法人会員制度が無いため個人会員として入会し、その入会金を法人が資産に計上した場合、その入会が法人の業務の遂行上必要であるため法人の負担すべきものであると認められるときは、その会計処理を認めます。

入会金はゴルフクラブに入会するために支出する費用なので、他人の有する会員権を購入した場合、その購入代価の他、他人の名義を変更するためにゴルフクラブに支出する費用も含まれます。

2)資産に計上した入会金の処理

法人が資産に計上した入会金は償却を認められていません。しかし、ゴルフクラブを脱退してもその返還を受けることができない場合、当該入会金に相当する金額およびその入会金に係る譲渡損失に相当する金額は、脱退または譲渡をした日の属する事業年度の損金の額に算入します(法人税基本通達9-7-12)。

3)年会費その他の費用

法人がゴルフクラブに支出する年会費、年決めロッカー料その他の費用(その名義人を変更するために支出する名義書換料を含み、プレーする場合に直接要する費用を除く)については、「入会金が資産として計上されている場合には交際費」とし、「入会金が給与とされている場合には会員たる特定の役員または使用人に対する給与」とします(法人税基本通達9-7-13)。

プレーする場合に直接要する費用については、入会金を資産に計上しているかどうかにかかわらず、その費用が法人の業務の遂行上必要なものであると認められる場合には交際費とし、その他の場合には当該役員または使用人に対する給与とします。

4)レジャークラブの入会金

前述の「ゴルフクラブの入会金」および「資産に計上した入会金の処理」の取り扱いは、法人がレジャークラブに対して支出した入会金について準用します。

ただし、レジャークラブ会員としての有効期間が定められており、かつ、その脱退に際して入会金相当額の返還を受けることができないものとされているレジャークラブに対して支出する入会金(役員または使用人に対する給与とされるものを除きます)については、繰延資産として償却することができます(法人税基本通達9-7-13の2)。

レジャークラブとは、宿泊施設、体育施設、遊技施設その他のレジャー施設を会員に利用させることを目的とするクラブで、ゴルフクラブ以外のものをいいます。

年会費その他の費用は、その使途に応じて交際費または福利厚生費もしくは給与となることに留意を要します。

施設を利用する人が特定の役員や社員だけの場合は、入会金も年会費も給与になります。また、特定の社員の他に取引先の接待などに使えば、年会費は交際費になります。そして、施設を従業員全員が平等に使えるのならば、年会費は福利厚生費になります。

2 社交団体の入会金など

1)社交団体の入会金

法人が社交団体(ゴルフクラブおよびレジャークラブを除きます)に対して支出する入会金については、次の各場合に応じて処理します(法人税基本通達9-7-14)。

1.法人会員として入会する場合

法人会員として入会する場合、入会金は支出の日の属する事業年度の交際費とします。

2.個人会員として入会する場合

個人会員として入会する場合、入会金は個人会員たる特定の役員または使用人に対する給与とします。ただし、法人会員制度がないため個人会員として入会した場合において、その入会が法人の業務の遂行上必要であると認められるときは、その入会金は支出の日に属する事業年度の交際費とします。

2)社交団体の会費など

法人がその入会している社交団体に対して支出した会費その他の費用については、次の区分に応じて処理します(法人税基本通達9-7-15)。

1.経常会費

経常会費については、その入会金が交際費に該当する場合には交際費とし、その入会金が給与に該当する場合には会員たる特定の役員または使用人に対する給与とします。

2.経常会費以外の費用

経常会費以外の費用については、その費用が法人の業務の遂行上必要なものであると認められる場合には交際費とし、会員たる特定の役員または使用人の負担すべきものであると認められる場合には当該役員または使用人に対する給与とします。

3)ロータリークラブおよびライオンズクラブの入会金など

法人がロータリークラブまたはライオンズクラブに対する入会金または会費などを負担した場合には、次によります(法人税基本通達9-7-15の2)。

1.入会金または経常会費として負担した金額

入会金または経常会費として負担した金額は、その支出をした日の属する事業年度の交際費とします。

2.それ以外に負担した金額

それ以外に負担した金額は、その支出の目的に応じて寄附金または交際費とします。

ただし、会員たる特定の役員または使用人の負担すべきものであると認められる場合には、当該負担した金額に相当する金額は、当該役員または使用人に対する給与とします。

3 同業団体の会費など

1)同業団体などの会費

法人がその所属する協会、連盟その他の同業団体などに対して支出した会費の取り扱いについては次によります(法人税基本通達9-7-15の3)。

1.通常会費

同業団体などがその構成員のために行う広報活動、調査研究、研修指導、福利厚生その他同業団体としての通常の業務運営のために、経常的に要する費用の分担額として支出する通常会費については、支出をした日の属する事業年度の損金の額に算入します。

ただし、当該同業団体などにおいてその受け入れた通常会費につき不相当に多額の剰余金が生じていると認められる場合には、当該剰余金が生じたとき以後に支出する通常会費については、当該剰余金の額が適正な額になるまでは、前払費用として損金の額に算入しないものとします。

同業団体などの役員または使用人に対する賞与または退職給与の支給に充てるために引き当てられた金額で適正と認められるものは、剰余金の額に含めないことができます。

2.その他の会費

同業団体などが次に掲げるような目的のために支出する費用の分担額として支出する会費については、前払費用とし、当該同業団体などがこれらの支出をした日にその使途に応じて当該法人がその支出をしたものとします。

  • 会館その他特別な施設の取得または改良
  • 会員相互の共済
  • 会員相互または業界の関係先などとの懇親など
  • 政治献金その他の寄附

通常会費として支出したものであっても、その全部または一部が当該同業団体などにおいて上記のような目的のための支出に充てられた場合には、その会費の額のうちその充てられた部分に対応する金額については、その他の会費に該当します。

ただし、その同業団体などにおける支出が当該同業団体などの業務運営の一環として通常要すると認められる程度のものである場合には、この限りでありません。

2)災害見舞金に充てるために同業団体などへ拠出する分担金など

法人が、その所属する協会、連盟その他の同業団体などの構成員の有する事業用資産について災害により損失が生じた場合に、その損失の補てんを目的とする構成員相互の扶助等に係る規約など(災害の発生を機に新たに定めたものを含む)に基づき、合理的な基準に従って当該災害発生後に当該同業団体などから賦課され、拠出した分担金などは、支出した日の属する事業年度の損金の額に算入します(法人税基本通達9-7-15の4)。

以上(2019年4月)
(監修 税理士法人コレド会計 石田和也)

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会社の税金管理を考える タックスプランニングの策定

書いてあること

  • 主な読者:タックスプランを作成していない中小企業の経営者・税務担当者
  • 課題: タックスプランの作り方がわからない
  • 解決策:まずは、将来の課税所得を予測する。予測した課税所得に基づき、さまざまな税務対策を計画し、実行する

1 タックスプランニングの必要性

タックスプランニングとは、将来の課税所得(課税の対象となる所得)を想定して、税務対策や納税資金の確保などについて計画(以下「タックスプラン」)を立てることをいいます。タックスプランニングを行うメリットとしては、「将来の税負担の最小化ができる」ことや「納税資金を予測できる」ことが挙げられます。

決算期末の直前になってしまうと有効な税務対策を行えないことが多くあります。そのため、あらかじめタックスプランニングを行い、計画的に税務対策を実行することで、将来の税負担を最小に抑えることができます。

また、法人税等は納付額が多額になることもあり、納期限の直前になって納税資金の確保に追われることも少なくありません。そのため、タックスプランニングを行い、納税資金を予測することで、資金計画に沿った資金繰りが可能になります。

2 タックスプランニング策定の基本的な手順と検討する際の留意点

1)タックスプランニング策定の基本的な手順

タックスプランニングを策定する場合、まずは将来の課税所得を予測することが必要となります。将来の3事業年度(翌事業年度、翌々事業年度、翌々々事業年度)の課税所得を予測することが望ましいのですが、将来の1事業年度(翌事業年度)だけの予測でも問題ありません。もし、将来の1事業年度の課税所得を予測することが困難な場合には、現在の事業年度の課税所得を予測することから始めてもよいでしょう。予測した課税所得に基づき、さまざまな税務対策(詳細後述)を計画・実行していくことになります。

なお、課税所得を予測する際には、実現可能かどうかなど、複雑な分析が必要になるため、公認会計士や税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

2)タックスプランニングを検討する際の留意点

税務対策の中には、資金の流出を伴うものが多いことから、タックスプランニングを検討する際には、資金の準備が必要になることがあります。そのような場合には、必要に応じ、金融機関から運転資金の融資を受けておくなどの事前対応が大事になります。また、時期によっては、その税務対策の効果が想定している事業年度に表れないこともあります。

このように、タックスプランニングは、自社の資金状況や税務対策を実行するタイミングなどに留意しつつ検討する必要があります。

3)タックスプランを事業年度の途中で修正する場合

当初に策定したタックスプランは、さまざまな事情に応じて適宜見直すことが望ましいと考えられます。

タックスプランを見直した結果、現在の事業年度の課税所得の見込み額が、当初に予測した課税所得に比べて大幅に相違がある場合には、タックスプランを事業年度の途中で修正しなければなりません。

1.課税所得が増加する場合

課税所得が当初に予測した金額を大幅に上回ることが分かった場合には、予定していた税務対策に加え、新たに課税所得を減少させる税務対策(詳細後述)を実行するようにしましょう。

2.課税所得が減少する場合

課税所得が当初に予測した金額を大幅に下回ることが分かった場合には、予定していた税務対策を取りやめることや、課税所得を増加させる税務対策を実行するようにしましょう。具体的には、次のものが挙げられます。

  • 臨時改定事由に基づく役員給与の減額
  • 事前確定届出給与を届け出ている場合における支給の中止
  • 中小企業倒産防止共済の掛け金を支払っていた場合における中小企業倒産防止共済の解約
  • 生命保険に加入していた場合における生命保険の解約

3 事業年度の開始前と開始直後に実行できる代表的な税務対策

1)事業年度の開始前

1.所得拡大促進税制の適用

従業員に対する給与のベースアップなどを行うことにより、所得拡大促進税制の適用(税額控除)を受けることができます。

2.連結納税制度の導入

グループ会社の中で、課税所得がプラスの会社とマイナスの会社とが存在する場合には、連結納税制度を導入することにより、法人税の課税所得を通算することができます。連結納税制度を採用するためには、原則として、事業年度開始の日の3カ月前の日までに申請書を提出する必要があります。

3.合併の実行

グループ会社のうち、繰越欠損金を有する会社が存在する場合には、課税所得がプラスの会社と合併することにより、繰越欠損金の有効活用ができるケースがあります。その場合、特定資産譲渡等損失や欠損等法人の欠損金の不適用の規定に留意する必要があります。

4.分割や株式交換・株式移転の実行

所得の分散化や交際費の定額控除限度額の活用などを目的として、会社の1部門を分割により分社化することや、株式交換・株式移転により持株会社を設立します。

2)事業年度の開始直後

一般的には事業年度開始の日から3カ月以内に行われる定時株主総会において、役員給与の支給額を改定することや、事前確定届出給与の支給を設定することができます。事前確定届出給与を設定した場合、事前確定届出給与に関する届出書の提出期限は、原則として、支給の決議をした日(同日が職務の執行を開始する日後である場合には、その開始する日)から1カ月を経過する日までとされています。

4 決算期直前でも検討できる税務対策

2020年3月期決算の会社について、今から実行可能なものとして、検討できる主な対策は次の通りです。なお、ここでは各対策の概要のみを紹介します。詳細は別途確認するようにしてください。

また、生命保険に係る支払保険料を損金にする税務対策は、税制改正により、解約返戻金の割合の高い保険について損金にできる割合が大きく減少しました。そのため、税務対策としての効果は少なくなりましたが、長期的なタックスプランニングを踏まえて、検討してみるのもいいでしょう。

1)中小企業倒産防止共済への加入

中小企業倒産防止共済に加入し、掛け金を支払った場合には、その全額を損金算入することができます。なお、掛け金は最大で800万円まで(ただし、年額240万円まで)支払うことが可能です。

2)決算賞与の支給

従業員に対して決算賞与を支給した際に、一定の要件を満たす場合には、その全額を損金算入することができます。

3)短期前払費用の支払い

支払家賃等について、年払い契約にしたうえで、今後継続して1年分を前払いする場合には、その全額を損金算入することができます。

4)日本型オペレーティング・リースの取得

日本型オペレーティング・リース(注)の出資持分を取得した場合には、今後の2~3事業年度において、出資金の全額を損金算入することができます。

(注)日本型オペレーティング・リースとは、航空機・船舶・海上コンテナ・プラント設備などの大型物件のリース事業に、投資家が営業者(特定目的会社)の出資者として参加するものです。

以上(2019年12月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 大関香一)

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損益分岐点の概要と利益確保へ向けた利用方法

書いてあること

  • 主な読者:プロジェクト管理や、部署のマネージメントを新たに担当することになった社員
  • 課題:計数管理の基本が整理できていない社員は多い
  • ポイント:計算事例を交えながら、損益分岐点の基本をまとめる

1 損益分岐点売上高の算出方法

1)損益分岐点とは

事業が黒字になるか赤字になるかの境界、つまり採算が合うか合わないかのポイントを損益分岐点といいます。売上高と費用、損益分岐点の関係は次の通りです。

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売上高線と費用線が交差する点が損益分岐点で、つまり、売上高=費用となるポイントです。販売数量が増すと売上高が増え、売上高が損益分岐点を超えると利益が発生します。

2)用語の説明

「損益分岐点売上高」「損益分岐点比率」「固定費」「変動費(率)」「限界利益(率)」という用語は、本稿の中で頻出します。これらの用語の説明は次の通りです。

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3)固定費と変動費

損益分岐点売上高および損益分岐点比率を算出するには、まず固定費と変動費について知る必要があります。

固定費・変動費という用語は制度会計には登場しません。固定費は、人件費、減価償却費、土地・建物や設備の賃借料などのように、販売数量の増減に関係なく発生する費用です。また、変動費は小売業の売上原価、製造業の原材料費・外注加工費のように、売上高に比例して発生する費用です。固定費は販売数量が0でも発生し、販売数量の増減にかかわらず一定です。一方、変動費は販売数量が0ならば発生せず、販売数量に応じて発生する費用です。

費用を固定費と変動費に分割することを費用分解といいます。費用分解の方法には、「勘定科目法」や「統計的方法」などがあります。勘定科目法とは、自社の費用を勘定科目ごとに固定費と変動費に分ける方法です。統計的方法とは、売上高の変動に合わせて各費用が変動しているかどうかの関係を個別に調査し、分類していく方法です。

固定費と変動費の発生イメージは次の通りです。

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費用線は固定費と変動費の合計を表しています。

売上高と費用(固定費・変動費)と損益分岐点の関係は次の通りです。

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販売数量が0ならば売上高は0です。売上高線と費用線が交差したところが損益分岐点です。損益分岐点に達するまでは利益は発生しませんが、損益分岐点を超えると利益が発生します。

4)限界利益

変動費は売上高の発生とともに付随して発生するものです。売上高から変動費を引いたものが限界利益となります。

  • 限界利益=売上高-変動費

販売数量が増加すると限界利益も増加します。限界利益が固定費を超えると利益が発生します。限界利益は固定費を回収し利益を生み出します。

限界利益を分かりやすく表示したのが図表5で、網掛け部分が限界利益です。ここでは限界利益を分かりやすくするため、変動費を下に固定費を上にしています。売上高と費用(固定費・変動費)と限界利益の関係は次の通りです。

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5)損益分岐点売上高および損益分岐点比率の算出

1.損益分岐点売上高

損益分岐点売上高は次のように算出することができます。

  • 損益分岐点売上高=固定費/(1-変動費率)=固定費/限界利益率

例えば、固定費が1000万円で変動費率が65%の場合、損益分岐点売上高は次のように算出することができます。

  • 損益分岐点売上高=1000万円/(1-65%)=1000万円/35%=2857万円

2.損益分岐点比率

損益分岐点比率は次のように算出することができます。

  • 損益分岐点比率=固定費/(売上高-変動費)=固定費/限界利益

例えば、固定費が2500万円で売上高が5000万円、変動費が2000万円の場合、損益分岐点比率は次のように算出することができます。

  • 損益分岐点比率=2500万円/(5000万円-2000万円)=2500万円/3000万円=83.3%

損益分岐点比率が100%以上の場合、その企業は赤字経営ということになります。損益分岐点比率が100%未満であれば利益が出ていることになります。損益分岐点比率が低いほど利益は増加します。

2 目標利益売上高の算定と安全余裕率

1)目標利益売上高の算定

損益分岐点売上高は損失も利益も生じない売上高です。では、目標とする利益を上げるには、どれだけの売上高が必要になるのでしょうか。

限界利益は、固定費の回収を終えた後、利益を生み出します。損益分岐点というハードルを越せば利益が見込めます。目標利益売上高を達成するには、限界利益が固定費を回収した後、目標とする利益を生み出す必要があります。従って、目標利益売上高は次式で算出することができます。

  • 目標利益売上高=(固定費+目標利益)/限界利益率

例えば、固定費が1000万円、変動費率が70%で、目標利益を500万円とした場合、目標利益売上高は次のように算出できます。

  • 目標利益売上高=(1000万円+500万円)/(1-70%)=1500万円/30%=5000万円

2)安全余裕率

実際の売上高と損益分岐点売上高の関係から、企業経営の安全性を示す安全余裕率を算出することができます。

これは事業がどの程度売上高を減少させると赤字に陥るかを表す比率です。

安全余裕率は次式で算出することができます。

  • 安全余裕率=(実際の売上高-損益分岐点売上高)/実際の売上高

固定費が1000万円、変動費率が70%、売上高が5000万円の場合の安全余裕率を算出すると次式の通りです。

  • 損益分岐点売上高
  • =固定費/限界利益率=1000万円/(1-70%)=1000万円/30%=3333万円
  • 安全余裕率
  • =(5000万円-3333万円)/5000万円=33.34%

安全余裕率が高ければ、経営の安全性が高いことになります。

3 損益分岐点の特徴と利益確保への対応

1)損益分岐点の特徴

損益分岐点は、固定費を小さく、変動費を大きくすると下がり、逆に、固定費を大きく、変動費を小さくすると高くなる傾向にあります。変動費と固定費の違いによる損益分岐点への影響は次の通りです。

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例えば、固定費1000万円、変動費率50%のAケースと、固定費2000万円、変動費率25%のBケースを比較すると次の通りです。

  • Aケースの損益分岐点売上高=1000万円/(1-50%)=2000万円
  • Bケースの損益分岐点売上高=2000万円/(1-25%)=2667万円

Bケースの損益分岐点売上高はAケースよりも667万円(2667万円-2000万円)高くなります。損益分岐点売上高だけを比較すると、変動費を大きく、固定費を小さくしたほうが経営の安全性が高まるといえます。

ところで、売上高が損益分岐点を上回っている場合、限界利益が固定費の回収を完了すると、限界利益率が高いほうがより大きな利益を得ることができます。

変動費と固定費の違いによる損益分岐点の位置と利益の関係は次の通りです。

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変動費が小さいと、その分変動費線の傾きが小さくなります。限界利益が大きいほど、売上高が損益分岐点を超えてからの利益が大きくなります。ここで、売上高が5000万円であった場合のAケースとBケースの利益を比較すると次の通りです。

  • Aケースの利益
  • =売上高-変動費-固定費=5000万円-5000万円×50%-1000万円=1500万円
  • Bケースの利益
  • =売上高-変動費-固定費=5000万円-5000万円×25%-2000万円=1750万円

固定費が大きく変動費が小さいBケースのほうが、利益で250万円(1750万円-1500万円)上回ります。

2)利益確保への対応

1.限界利益を確保する

商品の価格を上下させたときに、その商品の需要量がどれだけ左右されるかを考える基準として、価格弾力性という数値があります。

耐久消費財など価格弾力性が高い商品の場合、販売単価を上げると販売数量が大きく減少し、販売単価を下げると販売数量が大きく増加する傾向にあります。従って、販売単価は下がっても販売数量が大きく増加するため、売上高の増加や利益の増加につながるケースがあります。  

生活必需品など価格弾力性が低い商品の場合、販売単価を下げても販売数量の増加は小幅にとどまり、販売単価を上げても販売数量の減少は小幅にとどまる傾向にあります。販売単価を上げても、価格上昇割合に対する販売数量の減少の幅が小さいため、売上高の増加につながるケースがあります。生活に最低限必要とされる消費項目については、「値上がりしたから消費を控える」というわけにはいきません。例えば、水道光熱費、通信費や食費などはその好例です。

価格弾力性の高い商品であっても、販売価格を下げると販売数量は増えるものの、限界利益が小さくなり過ぎてしまうと、利益なき繁忙に陥る危険があります。そのため、固定費を吸収して利益を生み出すための限界利益(率)を確保しておかなければなりません。販売価格を下げる場合、仕入原価・製造原価を下げるなどの対策も必要です。

また、原材料価格が高騰した場合、メーカーでは販売価格を上げたいところです。しかし、消費者を意識した場合、値上げは難しいものです。販売価格はそのままで、商品の内容量を少なくすることで原材料費(変動費)を減らして、限界利益を確保するといったことも行われています。

2.固定費にすべきか変動費にすべきか

利益確保の観点からすると、製品製造・部品製造を外注するか内製するかの検討も重要です。損益分岐点は、変動費を上げて固定費を下げると損益分岐点売上高は下がり、変動費を下げて固定費を上げると損益分岐点売上高は上がる特徴があります。

この損益分岐点の特徴を考慮すると、好況のときや製品市場のライフサイクルが成長期にあるときは、製品やそれに付随する部品を内製化するなどして、変動費を小さく、固定費を大きくしたほうが、多くの利益を見込むことができます。逆に、不況のときや製品市場のライフサイクルが成熟期から衰退期にあるときは、製品やそれに付随する部品を外注するなどして、固定費を小さく、変動費を大きくすると、販売数量の急激な落ち込みにも対応しやすくなります。

以上(2020年5月)

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ショートステイ市場の動向

書いてあること

  • 主な読者:ショートステイの概要、ビジネスチャンスを探りたい経営者
  • 課題:サービス内容、需要動向が分からない
  • 解決策:高齢化に伴う要介護者数の増加などから、需要が上がると見られている。今後、事業者の参入活性化によって、居宅介護の中心的役割を担うことが期待されている

1 ショートステイの概要

1)ショートステイとは

ショートステイ(短期入所生活介護・短期入所療養介護)とは、「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(以下「基準」)によると、それぞれ次の要件を満たした介護サービスです。

1.短期入所生活介護

特別養護老人ホームなどの施設で短期間、生活してもらい、その施設で行われる、入浴、排せつ、食事等の介護、その他の日常生活を送る上で必要となるサービスおよび機能訓練をいいます。

要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話及び機能訓練を行うことにより、利用者の心身の機能の維持並びに利用者の家族の身体的及び精神的負担の軽減を図るものでなければなりません(基準第120条)。

2.短期入所療養介護

介護老人保健施設などの施設で短期間、生活してもらい、その施設で行われる、看護、医学的な管理の必要となる介護や機能訓練、その他必要となる医療、日常生活上のサービスをいいます。

要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことにより、療養生活の質の向上及び利用者の家族の身体的及び精神的負担の軽減を図るものでなければなりません(基準第141条)。

短期入所生活介護および短期入所療養介護は、介護保険制度に基づき「介護給付(要介護1~要介護5)」によって給付が行われます。

なお、予防給付によるサービス「介護予防短期入所生活介護」「介護予防短期入所療養介護」は、「指定介護予防サービス等の事業の人員、設備及び運営並びに指定介護予防サービス等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準」に定められています。

2)ショートステイのサービス概要

ショートステイのサービスは、介護保険の給付対象となります。

特別養護老人ホームなど福祉系の施設におけるサービスが「生活介護」で、介護療養型医療施設などの医療系の施設や介護老人保健施設における医療系のサービスが「療養介護」となります。

ショートステイで行われるサービスは、食事・入浴・排せつ介助・機能訓練・生活相談などで、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)や介護老人保健施設などの施設入所者に対して行われるサービスとほとんど変わりません。いずれも目的は、「利用者の介護」と「利用者の家族を日々の介護から解放してリフレッシュしてもらうこと」とされています。

3)ホテルコスト(居住費および食費)は利用者負担

ホテルコストとは、「居住費(滞在費:家賃・光熱費)」と「食費」を指し、ショートステイを含め施設系・入所系のサービスにおいては利用者負担となっています。ホテルコストの概要は次の通りです。

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居住費(滞在費)は次の4つに分けられ、それぞれ利用額が異なります。

  • ユニット型個室:リビング(共同生活室)を併設した個室
  • ユニット型準個室:リビング(共同生活室)を併設した、固定壁だが天井との隙間がある個室
  • 従来型個室:リビングを併設しない個室
  • 多床室:定員4人以下の部屋

原則、ショートステイを利用した場合の居住費や食費の金額は、利用者と施設との契約によります。ただし、市町村民税非課税世帯などの利用者の場合は、申請により負担限度額が適用され、負担が軽減されます。

4)介護報酬

多くの種類があるショートステイの基本報酬のうち、その一部を紹介します。

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2 ショートステイ市場の現状と今後

1)ショートステイの事業所数

ショートステイ事業所数の推移は次の通りです。

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2017年度は、介護予防短期入所生活介護、介護予防短期入所療養介護(老健)、短期入所生活介護を行う事業所数が増加しています。

2)ショートステイに対する介護報酬支払状況

ショートステイサービスにおける介護費の推移は次の通りです。

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2017年度のショートステイサービスにおける介護費は増加している一方、短期入所療養介護(病院等)は、介護療養型医療施設の他施設への転換などを背景に減少傾向にあります。

3)民間企業の参入の必要性と今後

厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」によると、ショートステイの運営主体別事業所数(2016年10月1日時点)は次の通りです。

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ショートステイの運営主体のうち、企業の占める割合はそれほど高くありません。これは、もともとショートステイ事業が社会福祉法人が運営する介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)内、または介護老人保健施設内でのサービスという枠内で設定されていたので、企業やNPOなどがショートステイ専門の施設を作ろうとしても採算を取るのが難しいためだと考えられます。今後は、企業の参入によって利用しやすいショートステイが増加していくことが期待されています。

4)ショートステイの見通し

ショートステイは介護者の身体的・精神的負担を軽減させるためにも必要不可欠なサービスであることから、今後、ショートステイへの需要はますます高まることが予想されます。その要因としては次が挙げられます。

  • 高齢化に伴う要介護者数の増加
  • 介護老人福祉施設の入所待ち利用者による「つなぎ」としての需要

ショートステイは需要のあるサービスであり、事業者の参入活性化によって、今後の居宅介護の中心的役割を担っていくことが期待されます。

以上(2018年10月)

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グリーン経営認証制度の概要と中小運輸事業者による取得メリット

書いてあること

  • 主な読者:グリーン経営認証制度の取得を検討する経営者
  • 課題:取得による効果、取得までの流れ、取得にかかるコストが分からない
  • 解決策:取得に際し、自社の環境改善に向けた取り組みを洗い出し、認証基準を満たす改善策を打ち出すことが先決

1 グリーン経営認証制度とは

環境負荷の少ない事業運営を「グリーン経営」といいます。国土交通省では、「環境行動計画」を策定し、環境貢献型経営(グリーン経営)を促進しています。運輸業界においては、中小規模の事業者でも環境改善に向けた自主的で継続的な活動を行うことが求められています。

グリーン経営認証は、トラック事業者、バス事業者、タクシー事業者、旅客船事業者、内航海運事業者、港湾運送事業者、倉庫事業者を対象として、交通エコロジー・モビリティ財団(以下「交通エコモ財団」)が認証機関となり、グリーン経営推進マニュアルに基づいて、一定のレベル以上の取り組みを行っている事業者に対して、審査の上、認証・登録を行うものです。

グリーン経営推進マニュアルは、環境マネジメントシステムに関する国際規格であるISO14000シリーズに基づいて作成されたもので、同マニュアルに従うことで、中小規模の事業者でも環境改善に向けた取り組みの目標設定とその評価が容易になります。

環境負荷の低減に関して第三者機関が取り組みを審査・認証するという点で、グリーン経営認証制度は、環境マネジメントシステムに関する国際規格「ISO14001」と似ていますが、実際は異なります。

ISO14001は環境改善を図るための組織体制や書類の整備といったマネジメントシステムの適合性を審査するものですが、グリーン経営認証制度は、環境改善の取り組み結果(環境パフォーマンス)を審査するものです。また、グリーン経営認証制度では、認証後のレベルアップを図るため、認証機関である交通エコモ財団が指導・助言も実施します(ISO14001では認証機関による指導・助言は禁止されています)。

中小規模の事業者はコスト的・人的な問題からISO14001の認証を取得しにくいのが現状です。グリーン経営認証制度はこうした点を考慮した制度であり、中小規模の事業者でも取り組みやすいようにコストや手続きの面で配慮されています。

■交通エコロジー・モビリティ財団「グリーン経営認証制度」■
https://www.green-m.jp/

2 グリーン経営の認証取得までの基本的な流れ

グリーン経営の認証取得までの基本的な流れは次の通りです。

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本稿では、トラック事業者に注目し、グリーン経営認証を取得するまでの主なポイントを紹介していきます(基本的に、トラック・バス・タクシーなど輸送モードによる手続きの大きな違いはありません)。

1)申請書などの入手

まずは、申請書とともに自社の取り組み状況のチェックリスト(以下「チェックリスト」)やグリーン経営推進マニュアル(以下「マニュアル」)を入手することから始まります。チェックリストは、トラック事業者がグリーン経営認証を取得できる状態にあるかを確認するための重要な書類です。マニュアルには、トラック事業者が環境負荷低減を推進するために重要な「グリーン経営の意義や進め方」などが記載されています。

いずれも、交通エコモ財団のウェブサイトからダウンロードすることができます。

2)チェックの実施と改善の取り組み

トラック事業者は、交通エコモ財団のチェックリストを使って、自社の環境負荷低減の取り組みを確認します。

チェックリストは、環境保全やエコドライブなどに関するチェック項目があり、全てYesかNoで回答できるようになっています。各チェック項目はレベル1~3の3段階に分かれていて、レベル3で要求される活動が最も高度です。

なお、チェック項目の中で特定のレベルが網掛けになっているものがあります。網掛けは、認証基準と連動しており、網掛けのレベルに到達していなければグリーン経営認証を取得することはできません。

トラック事業者向けのチェックリスト(一部抜粋)は次の通りです。

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チェックの結果、認証基準に到達し、認証基準の解説にある資料が整備されていれば、交通エコモ財団にグリーン経営認証の審査を申請できます。認証基準に到達していない場合には、認証基準を満たすよう改善の取り組みを行います。

3)認証審査申請

交通エコモ財団にグリーン経営の認証審査を申請します。申請の際は、次の書類に必要事項を記入して交通エコモ財団に郵送します。なお、次の書類は、全て交通エコモ財団のウェブサイトからダウンロードすることができます。

  • 認証審査申請書
  • 審査登録対象事業所一覧表
  • (注)認証登録連盟事業者一覧表(ただし、旅客船事業者、内航海運事業者、港湾運送事業者、倉庫事業者のみ)

  • 審査申請用チェックリスト記入用紙

4)実地審査と是正処置

審査員(交通エコモ財団のスタッフなど)が、実際にグリーン経営の認証を申請したトラック事業者を訪問して、その活動を審査します。審査に要する時間の目安は、1つの事業所(事業者ではありません)につき4~5時間程度です。

仮に、認証基準に達しない不適合事項が発見された場合、トラック事業者は「是正処置」として、60日以内に不適合事項を是正して交通エコモ財団に報告します。

5)審査結果の判定と認証・登録

審査員が作成した「実地審査報告書」に基づき、交通エコモ財団が判定します。交通エコモ財団が、認証基準の全てを満たしていると判断した場合、トラック事業者はグリーン経営の認証を取得することができます。

グリーン経営の認証を取得するトラック事業者は、交通エコモ財団に審査料などの費用を支払わなければなりません(審査料などの詳細は後述します)。

こうしてグリーン経営の認証を取得したトラック事業者は、環境に優しいトラック事業者として登録され、交通エコモ財団のウェブサイトで事業者名が公表されます。

6)定期審査

定期審査は、新規登録日または更新登録日から1年目に実施されます。トラック事業者は、チェックリストおよび関連書類を交通エコモ財団に提出し、書類審査を受けます。

7)更新審査

更新審査は2年ごとに実施されます(定期審査の1年後)。グリーン経営の認証の有効期間は2年間なので、更新審査を受けなければグリーン経営認証を維持することができません。更新審査では、トラック事業者は新規取得の際と同様の実地審査を受けます。

3 グリーン経営の認証取得などに必要な費用

グリーン経営の認証取得などに必要な費用は次の通りです。トラック事業者は、新規登録時、および2年ごとの更新時に表の金額を一括して支払うこととなります(表中の交通費以外は消費税別です)。また、2年ごとの更新の間の1年は書類審査が行われます。

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4 グリーン経営の認証を取得することの効果

1)グリーン経営認証の登録件数

交通エコモ財団ウェブサイト公表資料によると、業種別のグリーン経営認証登録事業所数(2018年9月1日時点)は次の通りです。

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2)グリーン経営の認証取得の効果

トラック事業者などの運輸事業者がグリーン経営の認証を取得する(登録を受ける)メリットには、次の点が挙げられます。

  • 交通エコモ財団のウェブサイトなどで事業者名が公表される
  • 登録証、ロゴマークが交付され、車両に貼り付けるなど自由に使える
  • 交通エコモ財団から環境保全活動に関する情報提供や指導、助言が受けられる

また、交通エコモ財団が2018年4月に発表した「グリーン経営認証取得による効果(トラック、バス、タクシー、倉庫、港湾運送)-平成28年度版-」によると、運輸事業者は、グリーン経営の認証取得によって、「燃費の向上」「電気/燃料使用量削減」「職場モラルの向上」「お客様からの評価の向上/取引上の優遇」「リーダー層の人材育成」「交通事故件数の減少」「車両故障件数の減少」など、さまざまなメリットを感じているようです。

■グリーン経営認証取得による効果(トラック、バス、タクシー、倉庫、港湾運送、旅客船、内航海運)-平成28年版-■
http://www.green-m.jp/greenmanagement/result.html

3)運輸事業者がグリーン経営の認証を取得することの意義

運輸業界には「環境・安全」が一層強く求められており、荷主・一般消費者は、「環境・安全」に悪影響を及ぼしてはならないとの意識を強めています。

激化する競争の中、今後、勝ち残る事業者となるためには、「環境・安全」への取り組みがさらに重要となるという意識を持たなければなりません。その際、グリーン経営認証取得は、「環境・安全」への取り組みを進める上で1つのきっかけとなるでしょう。

なお、自治体や都道府県トラック協会の中には、グリーン経営認証料金の助成制度を実施しているところがあり、また、金融機関などの低金利融資制度・保険料割引制度もあるので、確認してみるとよいでしょう。

以上(2018年10月)

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介護老人福祉施設の開設を考える

書いてあること

  • 主な読者:介護老人福祉施設の運営を検討する経営者
  • 課題:介護老人福祉施設の開所および運営を行いたい
  • 解決策:必要な申請や条件、収支モデルを参照する

1 介護老人福祉施設の概要

1)介護老人福祉施設とは

介護保険法において、「介護老人福祉施設」とは、「特別養護老人ホーム(入所定員30人以上)」であって、当該特別養護老人ホームに入所する要介護者に対し、施設サービス計画に基づいて入浴・排せつ・食事などの介護、日常生活上の世話、機能訓練、健康管理、療養上の世話をする施設をいいます(介護保険法第8条第27項)。なお、入所定員が29人以下の施設は、「地域密着型介護老人福祉施設」と規定されています(介護保険法第8条第22項)。

市町村は、都道府県知事が指定する介護老人福祉施設により行われる介護福祉施設サービス(注)に要した費用について、施設介護サービス費を支給します(介護保険法第48条第1項)。

(注)介護福祉施設サービスとは、介護老人福祉施設に入所する要介護者に対し、施設サービス計画に基づいて行われる、入浴、排せつ、食事などの介護、日常生活上の世話、機能訓練、健康管理、療養上の世話をいいます。

介護老人福祉施設は、まず、「老人福祉法」において「特別養護老人ホーム」の設立許可を受け、次いで、「介護保険法」において「介護老人福祉施設」の指定を受ける必要があります。

厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査の概況」によると、介護老人福祉施設の施設数の状況は次の通りです。

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また、同調査によると、介護老人福祉施設の施設数・定員・在所者数の状況は次の通りです。

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2)特別養護老人ホームの設置認可

市町村および地方独立行政法人以外で、特別養護老人ホームを設置する場合、まず、設置主体は社会福祉法人である必要があります。また、老人福祉法第15条第6項では、「都道府県知事は、社会福祉法人による認可の申請があった場合において、当該申請に係る区域における特別養護老人ホームの入所定員の総数が、都道府県が老人福祉計画において定めるその区域の特別養護老人ホームの必要入所定員総数にすでに達している場合または特別養護老人ホームの設置によってこれを超えることになる場合には設置の認可をしないことができる」と規定されています。

社会福祉法人が特別養護老人ホームの設置認可の申請をするときには、次の事項を記載した申請書を、施設を設置しようとする地の都道府県知事に提出しなければなりません(老人福祉法施行規則第2条第1項)。

  • 施設の名称、種類および所在地
  • 施設の地理的状況
  • 建物の規模および構造並びに設備の概要
  • 特別養護老人ホームの設備および運営に関する基準に規定する施設の運営についての重要事項に関する規程
  • 入所者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要
  • 職員の勤務の体制および勤務形態
  • 協力病院の名称および診療科名並びに当該協力病院との契約の内容
  • 施設の長その他主な職員の氏名および経歴
  • 事業開始の予定年月日
  • 地方独立行政法人が設置する場合にあっては、資産の状況を記載した書類

3)介護老人福祉施設の指定

入所定員が30人以上の指定介護老人福祉施設の指定は、都道府県知事(指定都市・中核市は各市長)が行います(介護保険法第86条第1項、第203条の2)。一方、入所定員が29人以下の地域密着型介護老人福祉施設の指定は市町村長により行われます(介護保険法第78条の2第1項)。

指定を受けようとする者は、次の事項を記載した申請書・書類を施設の開設を所管する都道府県知事に提出しなければなりません(介護保険法施行規則第134条)。

  • 施設の名称および開設の場所
  • 開設者の名称および主たる事務所の所在地並びに代表者の氏名、生年月日、住所および職名
  • 当該申請に係る事業の開始の予定年月日
  • 開設者の定款、寄附行為等およびその登記事項証明書または条例等
  • 特別養護老人ホームの認可証等の写し
  • 併設する施設がある場合にあっては、当該併設する施設の概要
  • 建物の構造概要および平面図並びに設備の概要
  • 入所者の推定数
  • 施設の管理者の氏名、生年月日および住所
  • 運営規程
  • 入所者からの苦情を処理するために講ずる措置の概要
  • 当該申請に係る事業に係る従業者の勤務の体制および勤務形態
  • 当該申請に係る事業に係る資産の状況
  • 協力病院の名称および診療科名並びに当該協力病院との契約の内容
  • 当該申請に係る事業に係る施設介護サービス費の請求に関する事項
  • 介護保険法第86条第2項各号に該当しないことを誓約する書面(誓約書)
  • 役員の氏名、生年月日および住所
  • 介護支援専門員の氏名およびその登録番号
  • その他指定に関し必要と認める事項

2 施設基準

特別養護老人ホームの施設基準は、「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(以下「基準」)」に定められています。同基準に定められているユニット型施設の主な内容を紹介します。

1)運営規程(基準第34条)

ユニット型特別養護老人ホームは、次に掲げる施設の運営についての重要事項に関する規程を定めておかなければなりません。

  • 施設の目的および運営の方針
  • 職員の職種、数および職務の内容
  • 入居定員
  • ユニットの数およびユニットごとの入居定員
  • 入居者へのサービスの提供の内容および費用の額
  • 施設の利用に当たっての留意事項
  • 非常災害対策
  • その他施設の運営に関する重要事項

2)共同生活室を設ける場合の施設の基準(基準第35条)

ユニット型特別養護老人ホームの建物は、耐火建築物でなければなりません。ただし、入居者の日常生活に充てられる場所を2階以上の階および地下のいずれにも設けていないユニット型特別養護老人ホームの建物は、準耐火建築物とすることができます。

ユニット型特別養護老人ホームには、次の各号に掲げる設備を設けなければなりません。ただし、他の社会福祉施設等の設備を利用することにより当該ユニット型特別養護老人ホームの効果的な運営を期待することができる場合であって、入居者へのサービスの提供に支障がないときは、次の各号(1.を除く)に掲げる設備の一部を設けないことができます。

  • ユニット
  • 浴室
  • 医務室
  • 調理室
  • 洗濯室または洗濯場
  • 汚物処理室
  • 介護材料室
  • 前各号に掲げるもののほか、事務室その他の運営上必要な設備

1つの居室の定員は、1人とします。ただし、入居者へのサービスの提供上必要と認められる場合は2人とすることができます。

居室は、いずれかのユニットに属するものとし、当該ユニットの共同生活室に近接して一体的に設けなければなりません。ただし、1つのユニットの入居定員は、おおむね10人以下としなければなりません。

居室は地階に設けることはできません。1つの居室の面積は10.65平方メートル以上を標準とします。ただし、2人部屋の場合にあっては、21.3平方メートル以上を標準とします。

居室には寝台またはこれに代わる設備を備えなければなりません。1つ以上の出入口は、避難上有効な空地、廊下、共同生活室または広間に直接面して設けなければなりません。床面積の14分の1以上に相当する面積を直接外気に面して開放できるようにしなければなりません。必要に応じて入居者の身の回り品を保管できる設備を備え、ブザーまたはこれに代わる設備を設けなければなりません。

3)職員の配置の基準(基準第12条)

特別養護老人ホームには、次の各号に掲げる職員を置かなければなりません。ただし、入所定員が40人を超えない特別養護老人ホームにあっては、ほかの社会福祉施設などの栄養士との連携を図ることにより、入所者の処遇に支障がないときは、栄養士を置かないことができます。

  • 施設長:1人
  • 医師:入所者に対し健康管理および療養上の指導を行うために必要な数
  • 生活相談員:入所者の数が100人またはその端数を増すごとに1人以上
  • 介護職員または看護職員(看護師もしくは准看護師)
    • イ.介護職員および看護職員の総数は、常勤換算方法で、入所者の数が3人またはその端数を増すごとに1人以上
    • ロ.看護職員の数は、次の通りとすること
    • 入所者の数が30人を超えない場合、常勤換算方法で1人以上
    • 入所者の数が30人を超えて50人を超えない場合、常勤換算方法で2人以上
    • 入所者の数が50を超えて130人を超えない場合、常勤換算方法で3人以上
    • 入所者の数が130人を超える場合、常勤換算方法で3人に、入所者の数が130人を超えて50人またはその端数を増すごとに1人を加えた数以上
  • 栄養士:1人以上
  • 機能訓練指導員:1人以上
  • 調理員・事務員その他の職員:当該特別養護老人ホームの実情に応じた適当数

3 開業収支を考える

1)前提条件

1.売上高

年間売上高は、施設定員80人(10人×8ユニット)として3億5503万円とします。算出式は次の通りです。

  • {介護サービス費28万7400円×12カ月+ホテルコスト(1970円+1380円)×365日)}×定員80人×稼働率95%=3億5503万円

厚生労働省「介護給付費実態調査月報(2019年4月審査分)第7表、介護サービス受給者1人当たり費用額、サービス種類・都道府県別」によると、介護福祉施設サービスの介護サービス受給者1人当たり費用の平均月額は28万7400円となっています。

また、ここではホテルコストとして滞在費を1日当たり1970円、食費を1日当たり1380円としました。

厚生労働省「介護報酬の算定構造(2018年4月以降適用)」によると、ユニット型介護福祉施設サービス費(I)(ユニット型個室)(1日当たり)は次の通りです。

  • 要介護1:636単位
  • 要介護2:703単位
  • 要介護3:776単位
  • 要介護4:843単位
  • 要介護5:910単位

2.原価率

原価・変動比率は、後掲表(介護老人福祉施設の収支)の介護事業費用のうち(4)その他を参考に27.7%とします。

3.人件費

また、固定費は同じく後掲表(介護老人福祉施設の収支)の介護事業費用のうち(1)給与費63.8%を参考に2億2651万円(3億5503万円×63.8%)とします。

4.施設整備・設備整備費用

施設整備費を8億8000万円(1000坪×88万円)、設備整備費を7200万円とします。

その他の諸条件は次の通りです。

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2)収支シミュレーション

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4 介護老人福祉施設の1施設1カ月当たり収支

厚生労働省「平成28年度介護事業経営概況調査結果」によると、介護老人福祉施設の収支は次の通りです。

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介護事業費用は、(1)給与費、(2)減価償却費、(3)国庫補助金等特別積立金取崩額、(4)その他に分類されています。なお、(4)その他には、水道光熱費、燃料費、給食の材料費、賃借料、旅費交通費、通信費、消耗品費、雑費などが含まれます。

以上(2019年10月)

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空き家を活用した高齢者や障害者等向け賃貸住宅

書いてあること

  • 主な読者:要配慮者向け賃貸住宅の流通を考える経営者
  • 課題:今後の中古住宅関連市場の動向を知りたい
  • 解決策:住宅セーフティネット制度の概要を把握し、要配慮者向け賃貸住宅の潜在需要を考える

1 住宅確保要配慮者に対する住宅供給の新制度

有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の整備が進む一方で、未届け有料老人ホームが増加してきました。2017年6月30日時点で、有料老人ホームとしての届け出施設数1万2608施設に対し、未届け施設数は1046施設となっています。

未届け施設の中には劣悪な環境のものもあり、社会問題になっています。未届け施設が増える背景には、整備が進められてきた有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の賃料や利用料が比較的高額であることが挙げられます。

このため低廉な賃料で利用できる賃貸住宅が求められています。また、これは高齢者に限った問題ではありません。低額所得者、被災者、障害者、子どもを養育する者、その他の住宅の確保に配慮を要する人向けの住宅についても整備が求められています。

そのような中、2017年4月に住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の一部を改正する法律(以下「改正法」)が成立し、2017年10月に施行されました。本稿では、改正法による新たな住宅セーフティネット制度の概要と広がる潜在需要について紹介します。

2 住宅確保要配慮者向け賃貸住宅の位置付け

住宅確保要配慮者(以下「要配慮者」)とは、低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子どもを養育する者、その他国土交通省令で定める者です。

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要配慮者向け賃貸住宅は、住宅セーフティネットとして位置付けられるため、賃料は有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅より低くなります。また、他に低額所得者、被災者、障害者、子どもを養育する者等も入居者となる点で各種高齢者向け施設と異なります。

3 新たな住宅セーフティネット制度の概要

1)住宅確保要配慮者円滑入居賃貸住宅の登録

要配慮者の入居を受け入れることを表明している賃貸住宅は、住宅確保要配慮者円滑入居賃貸住宅(以降「登録住宅」)として都道府県知事の登録を受けることができます。

この登録を受けることで、全国の登録住宅の情報を集めたウェブサイトに掲載されたり、居住支援協議会に参画する各種団体や自治体などが入居希望者を紹介してくれるため、入居者が確保しやすくなるなどのメリットがあります。

また、一定の要件のもと、改修費などの補助も受給できます。さらに、今後、増加が予想される高齢者や外国人等を受け入れる際のノウハウや支援団体とのネットワークを得られることで経営の安定化も見込まれます。

登録を受けるには、住宅の位置・戸数・規模・構造及び設備等の事項を記載した申請書を都道府県知事に提出することになります。

2)住宅確保要配慮者居住支援法人

賃貸人(登録住宅)と賃借人(要配慮者)が安心して賃貸借契約を結ぶには、登録住宅の入居者の家賃債務保証が不可欠です。また、賃貸住宅の情報提供や入居に当たっての相談、見守り等の要配慮者への生活支援も必要になります。

改正法により、これらの業務を行う法人として住宅確保要配慮者居住支援法人(以下「支援法人」)が誕生しました。支援法人はNPO法人や一般社団法人、一般財団法人等営利を目的としない法人、または要配慮者の居住の支援を行うことを目的とする会社で、都道府県知事がこれを指定します。

支援法人の業務内容は「登録住宅入居者の家賃債務保証」「賃貸住宅への円滑な入居の促進に関する情報提供、相談その他の援助」「要配慮者の生活の安定及び向上に関する情報提供、相談その他の援助」「その他の附帯業務」とされており、要配慮者向けサービス提供の窓口として位置付けられます。

支援法人が債務保証業務を行う場合、債務保証業務規程を定め、都道府県知事の認可を受けなければなりません。

3)住宅金融支援機構

住宅金融支援機構は、登録住宅を改修する際に要する資金の貸し付けを行います。また、家賃債務保証保険契約に係る保険の引き受けを行います。

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図表2では支援法人が家賃債務保証をしていますが、従来の家賃債務保証会社も住宅金融支援機構の保険引き受けの対象となります。

家賃債務保証会社は賃借人(要配慮者)と家賃債務保証委託契約を結び、賃貸人(登録住宅)と家賃債務保証契約を結びます。賃借人が賃料の支払いができなくなると、家賃債務保証会社が賃借人に代わって賃料を賃貸人に代位弁済します。そして、家賃債務保証会社は賃借人に対して求償権を行使することになります。

しかし、賃借人が支払い不可能になった場合、家賃債務保証会社に損失が発生します。住宅金融支援機構の家賃債務保証保険契約は、家賃債務保証会社に発生した損失(のうち70%相当)をカバーするための保険です。これにより、家賃債務保証会社のリスクを低減することができます。

4)住宅確保要配慮者居住支援協議会

地方公共団体、支援法人、宅地建物取引業者等は、住宅確保要配慮者居住支援協議会(以下「居住支援協議会」)を組織することができます。

居住支援協議会は、要配慮者または民間賃貸住宅の賃貸人に対する情報提供、要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居の促進に関する必要な措置を協議します。協議が調った事項については、居住支援協議会の構成員は、その協議の結果を尊重しなければなりません。

5)新たな住宅セーフティネット制度のイメージ

新たな住宅セーフティネット制度のイメージは次の通りです。

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4 広がる潜在需要

1)登録住宅の潜在需要

2020年の一人暮らし高齢者世帯は702万5000世帯、2035年には841万8000世帯と推計されています(国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(2018年推計)」)。高齢世帯の持ち家率は約80%であるため、2020年で140万5000世帯分、2035年時点で168万3600世帯分が有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、登録住宅の潜在需要として捉えることができます。

また、2018年6月時点の被保護(生活保護)世帯数は163万6327世帯となっています(厚生労働省「被保護者調査」)。被保護世帯の約50%が賃貸住宅の居住者であるため、被保護世帯を要配慮者とした場合、その潜在需要は約81万8164世帯となります。

改正法では要配慮者を、低額所得者、被災者、高齢者、障害者、子どもを養育する者、その他国土交通省令で定める者としています。今後、国土交通省令で定める者の対象が外国人、失業者、ホームレス等と広がっていくと、潜在需要はより大きなものとなります。

2)期待される空き家の有効活用

2013年の世帯数5245万世帯に対して住宅ストックは6063万戸と、818万戸が空き家となっています(総務省「住宅・土地統計調査」)。セーフティネットとしての賃貸住宅の賃料は低廉である必要があります。

この場合、新たに施設を開設するよりも、空き家を有効活用したほうが経済的です。また、共同居住型住宅も登録の対象となるため、アパートやマンションに限らず戸建住宅であっても、登録住宅とすることが可能です。

登録住宅は、2020年度末までに17万5000戸を計画しています。ただし、現状では順調に登録が進んでいるとは言えない状況です。登録住宅の情報を集めたウェブサイトであるセーフティネット住宅によると、2018年9月20日現在、全国で3692件の登録住宅が掲載されています。

こうした課題を解決するため、国土交通省では、2018年7月、セーフティネット住宅の登録を促進するために申請書の記載事項や添付書類などを大幅に削減するなど、施行規則を改正しました。

3)要支援者の登録住宅への入居を円滑化するために

要支援者が登録住宅に円滑に入居するためには、居住支援協議会等による活動が重要になります。こうした活動を担う居住支援協議会等に対し、国からの補助が行われています(補助限度額:協議会当たり1000万円)。

また、登録住宅の改修費の一部を国・地方公共団体が補助する予定です。そして、地域の実情に応じて、要配慮者の家賃債務保証料や家賃低廉化のために国・地方公共団体が補助する予定です。

4)必要とされるさまざまなサービス

賃貸人(登録住宅)と賃借人(要配慮者)にとって家賃債務保証と同様に重視されるのが、見守りサービスと万が一への対応です。

1.見守りサービス

一人暮らしの高齢者が倒れても、なかなか気付いてもらえない場合があります。そこで安否を確認するため、次のような見守りサービスが必要になります。

  • 訪問タイプ(定期的に自宅を訪問し、安否を確認)
  • 通報装置タイプ(室内に通報装置やモーションセンサーを設置し、居住者の異常を緊急センターに通報)
  • コールサービスタイプ(毎日指定した時間に、オペレーターからの電話や音声メッセージで安否を確認)
  • 機器動作確認タイプ(ガスや魔法瓶等の使用状況から、居住者の安否を確認)

2.万が一への対応

入居者が亡くなった場合、残存家財の整理、葬儀等が必要になります。そのため、万が一への対応を考えると、次のような少額短期保険等が必要になります。

  • 賃貸住宅内で入居者が孤独死した場合等に家主が被る家賃の損失と、事故箇所の原状回復費用を補償
  • 入居者が死亡した場合の残された家財の片付け費用、居室内の修繕費用、葬儀費用等を補償

その他、掃除・洗濯・買い物・配食サービス等の家事関連サービスが必要な人もいるでしょう。

地域の空き家が登録住宅となり入居者が増えれば、物販やサービスの提供等新たな需要が生まれます。人の流入は地域の活性化につながります。

また、登録住宅は、地域包括ケアの中で、医療・介護・生活支援等を効率良く展開するための重要な拠点としても期待できます。

以上(2018年10月)

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新しい市場が広がる「キャンプ」関連業界の動向

書いてあること

  • 主な読者:従来のキャンプ場との差異化を検討する経営者
  • 課題:グランピングの動向、事例、留意点などを把握したい
  • 解決策:さまざまなタイプのグランピング施設を参考に、他社には無いサービスを提供する

1 10年に1度のビッグトレンド

大自然の中で、食事や宿泊を楽しむ。こうした自然に親しむという従来のキャンプの良さを残す一方で、豪華なインテリアに囲まれ、ホテル並みのサービスを受けられる「グランピング」が注目されています。

グランピングは、キャンプに興味はあるが未経験の層や、キャンプにそれほど関心がなかった層を取り込み成長しています。国内外の観光・レジャー業界では、「10年に1度のビッグトレンド」ともいわれています。

国や自治体もこれに注目し、地方創生の観点からグランピング事業を手掛けるDMO(地域と協同して観光地域作りを行う法人)のプロジェクトや事業者に対して補助金を交付するなどしており、ビジネスの裾野が広がっています。

2 グランピングの関連データ

グランピングという言葉は、グラマラス(Glamorous、魅惑的な)とキャンピング(Camping)を組み合わせた造語です。「テント設営や食事の準備などの煩わしさから旅行者を解放した『良い所取りの自然体験』」と定義されています(日本グランピング協会)。

グランピングの市場規模などに関する統計はありません。しかし、日本オートキャンプ協会「オートキャンプ白書2017」で示されている「オートキャンプの参加人口」の中には、グランピング施設の宿泊者も含まれているので参考になります。

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オートキャンプの参加人口が増加している背景には、30~40代のいわゆる「団塊ジュニア世代」の参加の他、グランピングやアウトドア要素を取り入れたインテリアなどの普及などがあるようです。

オートキャンプ白書では、グランピングへの興味についても調査しています。年齢が若く(20代が35.0%、30代が30.6%)、キャンプの経験年数が浅い対象者(1年の対象者が36.2%、2~3年が28.6%)ほど、関心が高くなっています。

3 グランピングのポジショニング

1)キャンパーの裾野を広げるグランピング

オートキャンプの参加人口は2016年では830万人にすぎず(オートキャンプ白書)、顧客層の拡大が業界の課題です。キャンプは自然に触れることが醍醐味です。一方、準備の煩わしさなどが参加の妨げになっているため、この問題を解消しなければなりません。

例えば、キャンプ用品などを手掛けるスノピークでは、「自宅とテントを行き来する」をコンセプトに、普段着としても違和感のないアウトドアに対応した衣料品の販売や、インテリアや料理にキャンプの要素を取り入れたレストランの運営などをしています。

これと同じ感覚で、グランピングは非キャンパーがキャンプに関心を持つきっかけとなり得ます。従来のキャンプ市場と成長余地を取り込もうとするグランピング市場の関係をポジションマップにまとめると、次のようになります。

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豪華な設備や充実したサービスが提供されることから、グランピングの利用料金は高額です。ただし、細かく見ていくと提供可能なアクティビティ、設備の充実度などで、主にターゲットとする顧客に違いも見られます。

ハイエンド志向タイプのグランピング施設にヒアリングしたところ、中心顧客は30~40代のカップルで、夏休みなどは家族連れも来るとのことです。同様に、雰囲気体験タイプの中心顧客は20代のカップルで、グループ利用も多いとのことです。

2)ハイエンド志向タイプ

広い敷地にテントやコテージが余裕を持って配置され、ぜいたくなプライベート空間が味わえます。インテリアやアメニティーなども著名ブランドで統一し、ハイキングや乗馬などのアクティビティも充実しています。施設例は「星のや富士」などです。

3)雰囲気体験タイプ

野外に設営されたテントなどで宿泊し、グランピング気分を味わえると同時に、入浴や食事などは既存の宿泊施設を利用します。施設例は「一里野高原ホテルろあん」などです。

4)レジャー充実タイプ

日帰り温泉、ゴルフ場、観光農園などのレジャー施設に併設・隣接されており、「お父さんはゴルフ、子どもたちは野山の散策」など、趣向の異なるさまざまなレジャーを楽しむことができます。施設例は「ネスタリゾート神戸」などです。

5)キャンプ場の手軽な多角化タイプ

既存のキャンプ場で、豪華な料理を食べたり、グランピング用のテントやコテージなどに宿泊したりするグランピングプランを楽しむことができます。施設例は「しのつ公園キャンプ場」などです。

6)ポジション未確定タイプ

宿泊施設は付随せず、都市部のビルの屋上や既存の結婚式場などの場所で、グランピングテイストの空間や食事を楽しむことができます。グランピング用のテントで食事ができる飲食店、グランピングウェディングなどがあります。施設例は「WILD MAGIC -The Rainbow Farm」などです。

4 広がる? ビジネスチャンス

グランピングにビジネスチャンスを見いだし、さまざまな事業者がグランピング施設の運営や関連事業に参入しています。実際に関連事業者はどう考えているのでしょうか。グランピング用のドームメーカーにヒアリングした結果は次の通りです。

  • 全国に先駆けてグランピング施設を開業した事業者は、海外で広まりつつあった豪華なイメージを打ち出すグランピングに目をつけた。これらの事業者は海外の最新のトレンドへの感度が高い、一部の富裕層を初期のメインターゲットとした
  • グランピング施設の顧客は、レジャーの選択肢として従来はキャンプを検討していなかった層が中心。ウェブサイトでグランピング施設の魅力的な内外装やたき火のイメージに引かれたことに加え、煩わしい準備がないことを評価している

同様に、グランピング用のトレーラーハウスなどを販売するメーカーへのヒアリングによると、「施設の設備などによって異なるものの、グランピング施設はホテルの建設などに比べて初期投資が少なく、地域の中小企業も参入しやすい」とのことです。

特にキャンプ関連事業者にとって、グランピング市場への参入障壁は低そうです。しかし、図表2の右側のポジションマップで示した「ポジション未確定タイプ」のように、特徴を打ち出し切れない施設も少なくないようで、今後の苦戦が懸念されます。

5 地方創生×グランピング

グランピングは地方創生の観点からも注目されています。欧米を中心に世界的にグランピングに関心を集めていることもあり、複数の自治体やDMOなどがインバウンドを含めた観光客を呼び込むために、グランピング事業に食指を動かしています。

例えば、国土交通省では、国立公園の有効活用を目的に、常設ではなく、全国各地を巡るアウトドアホテル(グランピング)を運営する企業と提携し、国立公園内でのグランピングをスタートさせようとしています。

また、岡山県赤磐(あかいわ)市は国の「地方創生拠点整備交付金」を使って、市営オートキャンプ場内にグランピング区画を整備しました。この他、土地の貸し出しなど通じて、グランピング事業を手掛ける事業者を支援しているケースも見られます。

グランピングは、土地整備、施設建設、施設運営(飲食、清掃など)など、関連事業者の裾野が広いことも特徴です。そのため、地域の関連事業者への経済効果なども期待されています。

6 開業に際しての留意点

1)運営に掛かる費用

グランピング施設の紹介や、参入を検討する事業者へのコンサルティングなどを行っているGLAMPING JAPANへのヒアリングによると、「新たにグランピング施設を開業する場合、レセプションを備え、テント3張り、ホワイトドーム(ドーム型テント)2基、コテージ5軒などを導入したケースを例にすると、水回りの整備や調度品の購入費なども含めて2億円程度は必要」とのことです。

このうち、約60%が土地の購入費や施設施工費、機材の購入費に割り当てられ、約20%がウェブサイトやプロモーション、それらの媒体に掲載するモデルやカメラマンへの支払いなどとなっています。この他、約10%が食材の購入費やメニュー考案のためのフードコーディネーターへの支払い、残る約10%がスタッフの育成費用です。

費用の中でも、広告費は重要です。顧客はイメージ画像に引きつけられる傾向があるため、モデルやプロのカメラマンを起用して、実際に訪れてみたいと思わせる画像を用意することが、プロモーションの重要なポイントとなります。

また、特に若い世代をターゲットとする場合、いわゆる「インフルエンサー」と呼ばれるインスタグラマーやYouTuberを活用し、SNSを通じて情報を拡散することも有効な方法となるようです。

2)稼働率を高める2つの取り組み

前述したGLAMPING JAPANによると、「グランピング施設の運営において、同一の敷地内でドーム型テントやキャビンなどの複数の宿泊設備を提供すること、付随するアクティビティを全て宿泊料金に含めた体系で提供することが重要」とのことです。

これにより、宿泊客を飽きさせず、明瞭会計で安心感を与えることもできます。例えば、スキー場を運営している奥伊吹観光は、夏場の収益源として、グランピング施設である「GLAMP ELEMENT」を運営しています。

同施設では、テントや高床式のキャビン、日本初上陸といわれる雨粒型のレインドロップテントなどを設置しています。宿泊料金には、朝食・夕食代だけではなく、バーでの飲食代も含まれています。2017年のオープン以降、非常に高い稼働率を誇っているそうです。

以上(2018年8月)

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基礎から学ぶビジネスチャンスを見つける視点

書いてあること

  • 主な読者:ビジネスチャンスを探している経営者
  • 課題:商品のライフサイクルが短くなっており、新しいビジネスチャンスを常に探さなくてはならない
  • 解決策:消費者ニーズの影響要因、商品の影響要因などについて注意し、ビジネスチャンスを狙う

1 ビジネスチャンスの重要性

近年、ビジネスのスピードは増す一方です。多くの企業が消費者のさまざまなニーズを掘り起こそうと、さまざまな商品を次々と世に送り出す一方、商品のライフサイクルはどんどん短くなっています。なお、本稿で使用する「商品」という言葉は、製品だけではなくサービスも含みます。また、「消費者」という言葉は、最終消費者だけではなく企業など産業財のユーザーも含みます。

主力事業や商品の転換には相応の経営資源の投入が必要であり、大きなリスクを伴います。しかし、既存の事業や商品に安住し続けることのほうが大きなリスクであり、ビジネスチャンスを逃さず、商品を提供していくことが求められます。

本稿では、ビジネスチャンスを捉える際の基本的な考え方と、ビジネスチャンスを発見するための具体的な視点について紹介していきます。

2 ビジネスチャンスの正体を理解する

1)ビジネスチャンスとは

ここでは、ビジネスチャンスについて考えてみましょう。そもそも、見いだすべきビジネスチャンスとはどのようなものなのでしょうか。これは、「商品」とそれを購入する「消費者のニーズ(以下「消費者ニーズ」)」の関係を見ると分かりやすいでしょう。

「商品」と「消費者ニーズ」の関係(イメージ)は次の通りです。

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消費者が商品を購入するのは、自身の持つニーズを充足するためです。従って、商品が消費者の持つニーズを完全に充足している姿が理想的な関係となります(図表左側の「理想的な関係」)。しかし、実際には、特定の商品が消費者ニーズを完全に充足しているケースはわずかです(図表右側の「現実の関係」)。むしろ、消費者は「若干の不満はあるものの、自身のニーズに一番近い商品を妥協して購入する」といったケースが多いものです。

例えば、図表右側の「現実の関係」のように「『購入した商品を、今すぐ使いたいのに、手元に届くのは3日後になる』『価格が高い』といったように『時間』や『価格』については不満があるが、他の商品よりは機能・特性などが良いので、これを購入しよう」というように購入を決定している消費者が多いのです。

消費者ニーズは多様です。このため、商品の持つ機能や特性などは消費者ニーズに追いつかず、商品と消費者ニーズの間に多くのギャップが存在しているのが実情なのです。

そして、このギャップにこそビジネスチャンスがあります。すなわち、このギャップを発見し、ギャップを解消する(消費者ニーズをより高い次元で充足させる)ような商品を提供できれば、消費者からの支持を集めることができます(商品を販売し、売り上げを上げることができます)。

2)具体例で考えるビジネスチャンス

簡単な例で考えてみましょう。「のどが渇いたので、今すぐ冷えたオレンジジュースをコップ1杯飲みたい」と考えている消費者に対して、その場でコップ1杯の冷えたオレンジジュースを販売している企業があれば、商品と消費者ニーズの間にギャップはありません。しかし、アップルジュースを販売している企業しか存在しなければ、商品と消費者ニーズの間にギャップ(ビジネスチャンス)が生じます。そこで、自社がオレンジジュースを販売できれば、消費者ニーズとの間のギャップを解消することができます。

また、他の企業がオレンジジュースを販売していても、1リットルのボトルサイズしか販売していなければ、同様にコップ1杯分のオレンジジュースを販売する自社商品を購入してもらうことができます。

これは、ビジネスチャンスを単純化した例です。実際には、「自社が収益を獲得することができるだけの市場性があるのか(ビジネスとして成立し得るのか)」「競合他社の動向はどうか」など、さまざまな側面から、ビジネスチャンスを検討する必要があります。しかし、商品と消費者ニーズの間にあるギャップこそがビジネスチャンスであり、そのギャップを埋めるような商品を消費者に販売することで売り上げを上げていくという視点が基本となります。

3)ビジネスチャンスの発生要因

次に、ビジネスチャンスである商品と消費者ニーズの間にギャップが発生する理由を考えてみましょう。その理由はさまざまですが、大別すると「消費者ニーズの把握の困難性」と「商品に関する制約要因の存在」に分けることができます。

1.消費者ニーズの把握の困難性

消費者ニーズは常に変化しています。そのため、消費者ニーズに関する情報収集を十分に行っていない場合はもちろん、独自に市場調査を実施している企業でさえ、消費者ニーズを的確に把握できないこともあります。

例えば、マーケティングの専門部署を設けて積極的に情報を収集している大企業でさえ、「消費者ニーズの読み違い」といった理由から事業に失敗するケースがあることを考えれば、消費者ニーズを把握することが困難なことは容易に理解できるでしょう。 

当然、消費者ニーズを的確に把握できなければ、消費者ニーズを完全に充足するような理想的な商品を開発・販売することはできません。つまり、消費者ニーズの把握の困難性という要因が、商品と消費者ニーズの間にギャップを発生させているのです。

2.商品に関する制約要因の存在

消費者ニーズには気付いても、そのニーズを充足するような商品を開発・販売できないことがあります。この場合も商品と消費者ニーズの間にギャップが生じます。

制約要因にはさまざまなものがありますが、代表的なものとしては、「技術面の制約要因」があります。例えば、多くの消費者が「タイムマシン」が欲しいと思っても、現在の技術水準では実現することは不可能でしょう。また、新規開発されたばかりの機器などの場合、商品(プロトタイプなど)の開発には成功しているものの、量産技術が確立されていないため、商品として販売できないケースもあります。

また、「コスト面の制約要因」がある場合もあります。商品化はできても、膨大なコストが掛かり、販売価格が高過ぎて、ほとんどの消費者が購入しないようなケースです。

これらのケースにおいては、企業が商品と消費者ニーズの間にギャップがあることに気付いていても、商品などが持つ制約要因の存在が、ビジネスチャンスをものにすることを妨げているのです。

3 ビジネスチャンスを見つける視点

1)ビジネスチャンスを見つける視点を身に付ける

ビジネスチャンスを発見するためには、市場調査などを通じて得た消費者や競合他社などの外部環境に関する情報、自社の商品や商品の製造プロセスなど内部環境に関する情報などを総合的に勘案しながら、商品と消費者ニーズの間に潜むギャップを発見することが必要です。

しかし、こうしたプロセスを経てもなお、ビジネスチャンスを発見するのは容易ではありません。ここでは、ビジネスチャンスを発見する際に参考となる視点について紹介します。

2)「ビジネスチャンスの発生要因」に注目する

1.消費者ニーズの影響要因に注目する

消費者ニーズに変化をもたらす影響要因が分かれば、消費者ニーズの動向を的確に把握できる可能性が高まります。多くの場合、消費者ニーズに影響を与える要因はさまざまであり、それら全てを明確にすることは困難です。

しかし、中には影響要因やそれが及ぼす影響を、比較的容易に捉えることができるものもあります。代表的なものは、法令改正などといったさまざまな制度変更です。制度変更には強制力を伴う法令改正や、業界団体などが策定する「ガイドライン」などのように、法的拘束力はないものの対象となる企業や個人の行動を事実上、制限してしまうものもあります。

制度変更があれば、関連する企業や個人は変更された制度に従わなければならないため、消費者ニーズの動向を容易に予測できる場合があります。

2.商品の制約要因に注目する

商品の制約要因を把握する際のキーワードは、「ボトルネック」です。ボトルネックとは、生産現場などではよく使われる言葉で、生産プロセスなどにおいて、全体の円滑な進行・発展の妨げとなるような制約要因のことをいいます。

例えば、「金型製作工程(A工程)→プレス工程(B工程)→溶接工程(C工程)→組立工程(D工程)→表面処理工程(E工程)」という金属プレス加工のプロセスがあるとします(各工程は流れ作業で進んでいきます)。この場合、B工程を除く各工程の処理速度が「1時間当たり5つ」で、B工程のみが「1時間当たり2つ」であれば、最終的にE工程を経た完成品は「1時間当たり2つ」しかできません。この場合、全体の処理速度を落としているB工程を「ボトルネック」といいます。ボトルネックは大きな問題ですが、逆の見方をすると、ボトルネックさえ解消することができれば、生産性は劇的に改善します。

ここでは、生産プロセスを例に説明しましたが、ボトルネックという考え方は商品の開発などにおいても同様です。技術の進展などによりボトルネックが解消されることで、商品の質や性能などが飛躍的に向上し、従来の商品では充足できなかった消費者ニーズを充足できるようになる可能性があります。

3)「時間・量・場所」に注目する

「消費者ニーズを捉えた商品づくり」といった取り組みを見ると、商品の持つ機能や特性といった「商品面」や、消費動向に大きな影響を与える「価格面」にのみ注力しているケースが散見されます。その結果、商品面や価格面以外のさまざまな消費者ニーズが見落とされていることがあります。例えば「『必要なときに、必要な量、必要な場所で』の商品が欲しい」といった消費者ニーズです。

一見、当たり前のことのようですが、「時間・量・場所」に要因に注目することで、ビジネスチャンスを発見できることもあります。「時間」でいえば、宅配便事業者が行っている荷物の配送時間帯を指定できる「時間指定配送」というサービスが代表的な例です。また、「量」という観点でいえば、単身者や一人暮らしの高齢者層の需要に対応した小分けの総菜などがあります。「場所」でいえば、通信販売で発注した商品を、自宅ではなく指定したコンビニエンスストアに配送してもらい、受け取ることができる「コンビニ受け取りサービス」があります。

4)「業界の常識」に注目する

「業界の常識を打破しろ」とは、ビジネスチャンスをつかんだ経営者などがよく口にする言葉です。確かに、業界内だけで通用するような商慣行や暗黙のルールといった「業界の常識」を打ち破ることでビジネスチャンスが広がる場合があります。

例えば、近年、葬祭業界では料金体系とそこに含まれるサービスを事前に明確にした「葬儀パック」などを提供している企業があります。「消費者に対して料金を明確に伝える」ことは、普通に考えれば「商売のいろはの『い』」に相当する基本的な条件です。 しかし、葬儀は、棺・祭壇・霊柩車や送迎用のバスなどさまざまな費用が別々になっている上、それぞれにグレードがあり、そのグレードに応じて料金が異なるなど、料金体系が非常に複雑です。こうした料金体系は長い間「業界の常識」とされてきました。

一方、消費者(利用者)側から見ると、葬儀社を利用する機会は限られており、料金体系や費用相場に詳しくないこと、突然の出来事の中でゆっくりと費用などを確認している時間がないなどの理由から、「料金が分かりにくい」「当初の説明よりも費用が多く掛かっている気がする」など、料金に不満を持つ消費者は少なくありませんでした。このような消費者のニーズを背景に、料金を明確にしている企業が支持を集めています。

この視点からビジネスチャンスを発見する際の問題は、そもそも業界の常識に気付かないことです。そのときに、有効なのが、他の業界と自らの業界を比較してみることです。そうすると、「業界の常識」が持つ盲点に気付くきっかけとなることがあります。

5)トレンドの「深掘り」を行ってみる

消費者は、ある商品によって自身の持つニーズが満たされると、一旦はそれで満足します。しかし、その商品を一旦「経験」すると、消費者ニーズはより高度なものへとシフトする傾向があります。先に紹介したオレンジジュースの例でいえば、最初は、「オレンジ味のする飲み物が欲しい」と考え、果汁10%のオレンジジュースで満足していたものが、今度は「より健康的なものが欲しい」と考え、果汁100%のオレンジジュースへとニーズがシフトします。最終的には「果物本来の持つ、新鮮さが味わえるものが欲しい」と考え、絞りたてのフレッシュジュースへとニーズが変化するようなケースです。

また、消費者ニーズは、高度化する過程で多様化が進むことも少なくありません。例えば、フレッシュジュースへのニーズが高まる一方で、「コップ1杯じゃ物足りないので、もう少し量の多いジュースが欲しい」「○○産のオレンジを使ったジュースが欲しい」といったニーズが出てくるといったケースです。

こうした高度化・多様化する消費者ニーズを捉え、ビジネスチャンスにつなげていくためには、消費者ニーズのトレンドを「深掘り」した商品を販売することが有効です。

6)「逆バリ」を行ってみる

先の例とは逆に、市場で主流と見られる消費者ニーズに逆らうような商品を開発することによって、ビジネスチャンスを見いだすケースもあります。

「逆バリ」商品が人気を集める背景には、消費者ニーズの多様化があります。一つのカテゴリーの商品群の中で、質の高い高価な商品を好んで購入する消費者もいれば、価格を重視して安価な商品を好む消費者もいます。また、同じ消費者でもその商品を購入・利用する状況によって選択する商品は異なる場合もあります。

「逆バリ」の商品は当該市場におけるメーン商品となることは少ないものの、一定の市場を確実にキャッチすることができるのです。

7)まとめ

ここで紹介したものは、ビジネスチャンスを発見する際に参考となる視点の例であり、こうした視点から検討をするだけで、簡単にビジネスチャンスを発見できるわけではありません。あくまで、消費者ニーズや市場動向などの情報を収集した上で、こうした視点を参考にしながら新たなビジネスチャンスについて検討してみるとよいでしょう。

本稿では、ビジネスチャンスの発見方法についていくつかの視点を紹介してきました。しかし、実際には、自社の経営資源に見合った実現可能なビジネスチャンスの獲得というものは、そう都合よくつかめるものではありません。

ビジネスチャンスをつかむ上でまず重要なことは、ビジネスチャンスを見落としてしまわないように、「担当者が積極的かつ敏感にビジネスチャンスを模索し続ける」「担当者の下に自社や業界の情報が集まってくる体制をつくり上げる」ことです。

以上(2018年4月)

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画像:fizkes-shutterstock

中小企業のブランド戦略

書いてあること

  • 主な読者:自社の製品やサービスをブランド化したい中小企業の経営者
  • 課題:限られたリソースの中で、ブランド化のために何をすればいいかわからない
  • 解決策:ブランド構築のための基本的な考え方を整理する

1 身近なことからブランドを考える

多くの経営者がブランドの重要性を認識しています。にもかかわらず、ブランドをしっかり意識しながら経営している中小企業はそれほど多くないようです。

これは、ブランドというと、製品に凝ったネーミングを付けたり、マスメディアやインターネットなどを駆使して大規模なプロモーションを展開したりというイメージがあるからかもしれません。また、ブランド構築に関する手法や考え方は、複雑な理論やフレームワークを用いて説明されることが多いことも、「ブランドは中小企業にとって縁遠いもの」という印象を与えているのかもしれません。

しかし、ブランドは日常的な企業活動と密接に関連しており、中小企業にとっても無関係ではありません。例えば、次に紹介する居酒屋の例も、ブランドを考える上でのヒントが隠れています。

Aさんの話

私には、週に数回、仕事帰りに立ち寄る「○○」という名前の居酒屋があります。その居酒屋は、店頭に赤ちょうちんが飾られ、店内は十数人入れば満席になるレトロなたたずまいです。

私がその居酒屋で気に入っているのは料理です。目新しいメニューはこれといってありませんが、全て手作りで、「家庭の味」といった料理を手ごろな値段で楽しめるのです。そうそう、その居酒屋は60歳代くらいの女性が1人で切り盛りしているのですが、その人と会えることもその居酒屋が好きな理由です。少しうるさいくらいおしゃべり好きな人ですが、いつも笑顔が絶えず、店内は明るい雰囲気で満ちあふれています。

また、お店に行くと「いらっしゃい」ではなく「お帰りなさい」と声を掛けてくれたり、「今日は忙しくて昼食抜きだった」なんて愚痴ったら、「お酒を飲む前に、ちゃんと食べないと悪酔いするわよ」と言って、注文した料理の量をいつもより多くしてくれたりします。そんなこともあって、「今日は真っすぐ家に帰るぞ」と思っていても、お店の近くに来ると、つい立ち寄ってしまうんですよね。

一見、どこにでもありそうな小さな居酒屋ですが、Aさんにとっては、自分の家のような特別な店です。消費者が企業に対して持つこうしたイメージが、ブランドの源泉となるのです。

本稿では、中小企業がブランドという視点から経営を考える際に留意すべき事項を紹介します。ブランドには、企業レベルのブランドである「企業ブランド」と、製品・サービスレベルのブランドである「製品ブランド」がありますが、本稿では企業ブランドを中心に紹介します。

2 ブランドを理解する

1)ブランドとは

一口にブランドといってもその定義はさまざまです。アメリカマーケティング協会(AMA)では、ブランドを次のように定義しています。

ある売り手あるいは売り手の集団の製品およびサービスを識別し、競合他社の製品およびサービスと差別化することを意図した名称、言葉、シンボル、デザイン、あるいはその組み合わせ

ブランドとは、製品・サービスに付加された名前やロゴ、パッケージだけではなく、企業名や店舗名といった名前までも含む概念であり、ブランドと無関係な企業はないということになります。

また、AMAの定義よりも、ブランドをさらに広い概念として捉えることもできます。AMAでは、ブランドの対象を名称やシンボル、デザインなどに限定していますが、消費者の立場に立って、自分の好きな企業や店舗、あるいは製品のブランドを思い浮かべてみてください。CMに出演している俳優、心のこもった温かい接客など、名前、シンボル、デザインなど以外にもそのブランドに関連するさまざまなことが思い浮かんだ人もいるでしょう。こうして考えると、ブランドとはAMAの定義だけではなく、消費者の持つイメージや具体的な経験も含まれるようです。

2)ブランド構築のメリットは

ブランドは消費者の心の中にあり、直接コントロールできないため、ブランドを構築する場合に「こうすればよい」という明確な答えはありません。

しかし、それでもブランドの構築に取り組むのは、消費者の目に留まりやすくなったり、ブランドとしての価値によって、競合他社と差異化ができ、価格競争に巻き込まれにくくなったりするなど、さまざまなメリットがあるからです。大企業に比べて価格競争力の弱い中小企業こそ、消費者に選ばれるブランドをつくることが重要だと言えるかもしれません。

以降では、ブランドを構築する際に知っておきたい、基本的な考え方を紹介します。

3 ブランド構築に際しての基本的な考え方

ブランド構築において重要なことは次の通りです。

  • 企業活動をブランドコンセプトに沿ったものにする(企業活動における意思決定の基準をブランドコンセプトに置く)
  • ブランドコンセプトの下に統一された企業活動に取り組み続ける

ブランドは消費者の心の中にあると前述しましたが、消費者の心の中につくられるイメージの多くは、製品、価格、プロモーション、人的サービスといった、いわば通常の企業活動を通じて形成されます。

冒頭の例を思い出してください。Aさんが居酒屋に対して抱いているイメージに影響を与えているのは、「家庭的な料理」「手ごろな価格」「温かい接客・サービス」など、特に目新しいことではありません。

また、消費者の心の中のイメージは、一朝一夕に形成されるものではありません。何度もその企業の製品・サービスなどを利用したり、プロモーションやインターネットなどを通じて得た情報などを参照したりすることによって、徐々に形成されます。そのため、ブランド構築は長期・継続的に取り組み続ける必要があるのです。

例えば、居酒屋の例でいえば、店主が機嫌の良いときは笑顔でいるものの、機嫌の悪いときは怒ったような顔つきで、会話もほとんどないお店では、Aさんは「温かいお店」というイメージを連想しないでしょう。

従って、ブランド構築に際しては、ブランドコンセプトの下に統一された企業活動に取り組み続けることが重要です。

4 ブランドコンセプト構築のポイント

ブランドコンセプトとは、「誰に対して、何を約束するのか(どのような価値を提供できるのか)」ということです。端的にいうと「自社はどのようになりたいのか」と、ほぼ同じ意味となるでしょう。

それは、経営理念や社是・社訓などのように明文化されたものではないかもしれませんが、「自社はどのようになりたいのか」という明確な思いは経営者の中にあるはずです。

ブランドコンセプトを決めるときには、市場環境など自社の現状を踏まえながら検討するのが望ましいものの、「誰に」「何を」「どのように」提供するのかを示す企業(事業)ドメインも、ブランドコンセプトを検討する際のヒントになります。

ブランドコンセプトの構築において重要なのは、ブランドコンセプトの構築自体ではなく、むしろ、作成したブランドコンセプトを明文化することにあるかもしれません。明文化することの重要性については後述します。

5 消費者にブランドメッセージを伝える2つのルート

実際に、顧客に対してメッセージを発信する前に、企業がブランドメッセージを発信できるルートを理解しておく必要があります。

  • 広告などを中心とした企業の「プロモーション活動」
  • 消費者が製品・サービスの購入や、購入した製品・サービスから得る「経験」

これが、企業がブランドメッセージを発信できる2つのルートです。消費者の視点から見ると、インターネットに流通している消費者の意見、口コミから得た情報、新聞・雑誌の記事など多様なルートがありますが、ここでは「企業が主体的にメッセージの内容をコントロールできるもの」という視点から2つに区分しています。

中小企業は、資本力のある大企業と異なり、テレビCMなどに多額の広告宣伝費を掛けられません。しかし近年、SNSなどのメディアによって、中小企業もプロモーション活動に取り組みやすくなりました。写真や言葉を用いながら、自社の商品の魅力やこだわりを発信することで、店舗に来たことのない消費者にも、自社のブランドメッセージを伝えることができます。

また、消費者が実際に店舗に訪れ、製品・サービスを購入して得た実体験は、ブランドイメージを育成する上で重要です。

6 ブランドメッセージを正しく発信するには

1)経営者と従業員が一丸となって取り組む

多額の広告宣伝費を掛けられる大手企業と異なり、中小企業は、時間を掛けて少しずつブランドを育成することが一般的です。そのため、経営者と従業員が一丸となって取り組む必要があります。

前述の通り、ブランド育成には、ブランドコンセプトの下に統一された企業活動に取り組み続けることが重要です。経営者だけでなく、ブランド育成の責任者を指名して、企業全体でブランド育成に取り組みましょう。

2)ブランドコンセプトを浸透させる

従業員の対策では、従業員教育を通じて能力の維持・向上を図ることが重要ですが、まず行うべきはブランドコンセプトの明文化です。

誰もが誤解することなく共感できるブランドコンセプトをつくりましょう。ブランドコンセプトを浸透させるために、経営理念や社是・社訓などを活用してもよいでしょう。

3)マニュアルとして落とし込む

ブランドコンセプトや伝えたいメッセージに合致した行動を取れるように、マニュアルとして具体的な形に落とし込むことも検討しましょう。誰が見ても理解できるマニュアルがあれば、サービス品質の安定化も見込めます。

とはいえ、マニュアルをつくるだけでなく、教育や日ごろのコミュニケーションなどももちろん大切です。マニュアルにない対応を迫られたときでも、従業員がブランドコンセプトに沿った対処ができるように、日ごろから「ブランドコンセプトに合った行動」を、従業員と一緒に考える必要があります。

4)やる気のない従業員への対処を忘れない

ブランドコンセプトの周知徹底のために必要な従業員教育などを行えば、従業員の多くは適切な行動を取るようになるはずです。しかし、そのような努力をしても、中には真剣に取り組まない従業員が出てくることがあります。

やる気のない従業員の存在は、その従業員だけの問題にとどまらずに、他の従業員に悪影響を及ぼす可能性があります。最悪の場合、ブランド構築に関する企業全体の取り組みが失敗に終わりかねません。

こうした状況に陥らないように、従業員に対して日ごろから十分なコミュニケーションを取り、教育や意識付けなどをしておくこと、そしてやる気のない従業員がいたら再教育を行うなど早期の対策を講じるようにすることが大切です。

5)社内体制の確認

ブランドコンセプトの下に統一された企業活動に取り組み続けるには、ブランドコンセプトを実行・管理するための社内体制を整備することが欠かせません。

しかし、人材に限りのある中小企業の場合、属人的に行われている業務が多く、安定した品質で長期的に製品・サービスを提供するには問題がある場合もあります。

このような場合、「他の従業員も対応できるように能力を引き上げる」「作業の標準化やシステム化を図るなどして、誰でも対応できる業務水準にする」「ブランドコンセプト自体を見直す」などによって、社内体制の整備を図ります。

中小企業だからブランドに無関係ということはありません。ブランドという視点から経営についてこれまで検討したことのない経営者は、本稿を参考に、ブランド構築に取り組むための第一歩を踏み出すとよいでしょう。

以上(2019年10月)

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