コスト削減に効果大「再エネ調達」の取り組み

書いてあること

  • 主な読者:電気代削減に取り組みたい製造業の経営者など
  • 課題:どのような再エネ調達の方法があるのか、メリットや費用感も含めて知りたい
  • 解決策:「自家発電・自家消費」がコストや税制面で注目されている。今後はサプライヤーとしての立場を強固にする上でも重要な調達方法となる

1 中小企業が再エネ調達に乗り出すメリット

地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が2020年1月から本格スタートしたことなどを背景に、多くの大手企業は、企業活動におけるCO2削減を迫られています。そうした中、大手企業がサプライヤーに対して、CO2削減を要請するケースが増えています。

代表的なCO2削減策は、企業活動に必要な電力を再生可能エネルギーで賄う「再エネ調達」です。今後、中小企業がサプライヤーとしての立場を強固にする上で、再エネ調達は重要な取り組みになるとの指摘もあります。

注目されている再エネ調達方法は「自家発電・自家消費」。企業が自らソーラーパネルなどを設置し、そこから生まれた電力を自社で消費する方法で、次のようなメリットがあります。

  • 電気代を削減でき、コストダウンにつながる
  • 導入することで税制措置が受けられる
  • 災害時や緊急時の非常電源としてBCP対策になる

実際の導入事例などを踏まえ、具体的なメリットや費用感を見ていきましょう。

2 初期費用面を税制措置が後押し

太陽光発電事業などを展開するエコスタイルへのヒアリングによると、《電気代削減によるコストダウンに魅力を感じつつも、初期費用の面で二の足を踏んでいた中小企業が、税制措置に後押しされて「自家発電・自家消費」を導入するケースがここ数年で増加している》(2020年3月15日時点)とのことです。

大量の電気を使用するメーカーでは、自家発電・自家消費による電気代の削減効果は大きくなります。例えば、緩衝材加工メーカーのA社は、節電のために90キロワットのソーラーパネルを敷地内に設置。年間400万円以上かかっていた電気代のうち、約200万円分を自家発電で賄えるようになりました。

A社が「自家発電・自家消費」を導入した決め手の1つが、税制措置です。これは、2021年3月までに自家消費型の太陽光発電設備を取得した中小企業が、その費用について「即時償却」または「取得価額の10%の税額控除」などが受けられるというものです。

税制措置は、2016年7月に施行された中小企業等経営強化法に基づく支援措置の1つ(中小企業経営強化税制)で、他にも、民間金融機関から融資を受ける際の信用保証といった金融支援も受けることができます。

3 災害時の非常電源としてBCP対策に活用

2018年6月に発生した西日本豪雨では、被災地域で約1週間の停電が発生しました。今後、水害の発生頻度が増加するという予測もあり、メーカーなどがサプライヤーに対してBCP対策を求めるケースも出てきています。

「自家発電・自家消費」であれば、停電時でも、電話、メール、インターネットなど外部との通信手段を維持できます。従業員の安否確認や業務再開に向けた指示、取引先との連絡などを通して、業務の早期復旧を目指すことができます。

また、自家発電で賄える範囲で、工場の稼働や店舗の営業を継続することもできるため、取引先や地域住民の安心感や信頼の獲得にもつながります。

4 導入を検討する際のポイント

1)設置費用の目安は?

太陽光発電の普及に伴い、海外メーカーの参入による価格競争などの影響で、法人向けの太陽光発電設備の設置費用は年々下がっています。太陽光発電事業者などへのヒアリングによると、最近では《1キロワット当たり12万~20万円》で設置するケースが多いようです。

ただし、エコスタイルへのヒアリングによると、《設備業者や使用するソーラーパネル、積雪の有無、風の強さ、設置する屋根の角度や強度など、細かい条件によって費用はケース・バイ・ケースで大きく変わる》(2020年3月18日時点)とのことです。

2)設置規模の目安は?

エコスタイルへのヒアリングによると、《導入する中小企業の多くは、100~300キロワットのソーラーパネルを設置しており、パネルの面積は100キロワットで約660平方メートル、300キロワットで約2000平方メートルになる。これより規模の小さい事例だと、例えば、一般的なコンビニエンスストアの屋根の場合、20~30キロワットのパネルを設置できる》(2020年3月15日時点)とのことです。

また、《自家発電・自家消費の場合、導入する企業の普段の電気使用量に合わせて、発電した電気が余らないようにソーラーパネルを設置することになる》(2020年3月15日時点)とのことです。

5 サプライチェーンの要請はこれから本格化

近年、大手企業を中心に、サプライチェーンにおけるCO2排出量の算定・管理・情報開示を進める動きが活発化しています。

  • イオン:PB商品の製造委託先企業へCO2削減目標の設定を要請
  • 大和ハウス工業:2025年度までに主要サプライヤーの9割以上と温室効果ガスの削減目標を共有。取引先とともに省エネ診断や合同勉強会等を実施し、目標の設定および省エネ活動を推進
  • 富士通:事業のバリューチェーンからの温室効果ガス排出量を、2030年度までに2013年度比30%削減
  • NTTデータ:サプライヤーとの連携による購入した製品・サービスの省エネ化
  • NEC:製品の製造過程で消費する電力、ガスなど、資源の削減を要望

実際の導入事例などを踏まえ、具体的なメリットや費用感を見ていきましょう。

企業のサプライチェーンにおけるCO2削減支援などを行っているB社へのヒアリングによると、大手企業への支援件数は、《2019年度が5件だったものが、2020年度は17件に急増した。サプライチェーンへの具体的な要請に乗り出す企業も増えている》(2020年3月15日時点)とのことです。

「自家発電・自家消費」は、こうした大手企業の要請に十分に応える取り組みといえます。

例えば、大手自動車メーカーのサプライチェーンに属するC社の事例では、空調や照明設備などで省エネ化を図っていたものの、なかなか削減目標に届きませんでした。そこで、自家消費型の太陽光発電設備を導入したところ、削減目標を大きく超えることができたといいます。

このように、日本企業の多くは、従来、高効率空調設備の導入やLED照明への切り替えによる節電などを進めており、省エネ策は「頭打ち」ともいわれています。そうした中で、電気そのものを作り出す自家発電・自家消費は、打開策として注目されています。

以上(2020年4月)

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法人税に関する税務対策

書いてあること

  • 主な読者:税務対策を適切に行いたい中小企業の経営者
  • 課題:事業年度が終わり、申告書の作成時期に税金のことを心配しても、とれる税務対策はない
  • 解決策:「事業年度当初」「事業年度の中途」「事業年度末」それぞれの時期に適した税務対策を解説する

1 税務対策と経営計画

会社の経営は経営計画を策定し、それを着実に実行していかなければなりません。その際、経営と切り離せない税金については、経営計画の段階で納税額を試算し、納税資金の準備と税務対策を講じる必要があります。経営計画を実行する過程で月次や四半期ごとに年間利益を推計し納税額を試算し、それに対応した対策を検討します。

事業年度が終了し、申告段階になって税金の心配をしても、既に手遅れです。こうしたことのないように、定期的に税理士などの専門家のアドバイスを受けるようにしましょう。

なお、企業にかかる税金で、とっさにできる対策はありません。基本的には、払い過ぎを防止したり、課税の繰り延べを図ることが中心となります。

2 税務対策のポイント

1)費用および損失の発生

損金に算入できる給与の増額、福利厚生の充実、設備投資、不良資産の処分など。

2)損金算入可能な経理処理の適用

貸倒引当金の計上、棚卸資産の評価損の計上など。

3)費用および損失の前倒し計上

短期前払費用の費用計上、少額減価償却資産の費用化、特別償却など。

4)課税の繰り延べ処理の活用

圧縮記帳など。

5)特例制度の活用

設備投資などの税額控除など。

税務対策は、そのときだけの税額が少なくなればよいというだけではなく、中長期的な観点で判断し、タイミングや組み合わせを考えて行う必要があります。また、各種の税務対策を実行するに当たっては、税理士などの専門家に相談して実行する必要があります。

3 事業年度当初から行う税務対策

1)役員報酬の改定

事業年度初めに引き続き業績好調が見込まれる場合は、役員報酬の改定を行います。その額は業績などから検討します。なお、事業年度開始からの3カ月以内に改定しなければなりません。留意点は次の通りです。

  • 役員報酬の総額については定款に定めのない場合は株主総会(株式会社以外は、社員総会)の決議事項であり、各役員の報酬額は取締役会および監査役会の決議事項であるため、必ず株主総会・取締役会および監査役会を開催し、その承認を受け議事録を作成します。なお、取締役会非設置会社においては株主総会で全てを決議します。
  • 職務の内容、収益状況および使用人に対する給与の状況、同業同規模の他社の支給状況などと照らして、その役員の職務に対する対価として不当に高額でないかを確認します。

2)事前確定届出給与の届出

事前確定届出給与とは、その役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する給与で、次に定める届出期限までに納税地の所轄税務署長に、事前確定届出給与に関する定めの内容の届出をします。

原則として次の1または2のうち、いずれか早い日が届出期限です。

  • 株主総会等の決議により、その定めをした場合におけるその決議をした日から1カ月を経過する日
  • その事業年度開始の日から4カ月を経過する日

3)中小企業倒産防止共済制度への加入

中小企業基盤整備機構の「(中小企業倒産防止共済制度)経営セーフティ共済」に基づき納付する掛け金は、全額損金算入することができます。

中小企業倒産防止共済制度とは、取引先の倒産の影響を受けて中小企業者が倒産する事態(連鎖倒産)、または倒産に至らないまでも、著しい経営難に陥る事態の発生を防止するため、中小企業者の拠出による共済制度で、中小企業の経営の安定に寄与することを目的としています。

中小企業倒産防止共済制度の諸条件は次の通りです。

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4)中小企業退職金共済制度(中退共)への加入

勤労者退職金共済機構の中小企業退職金共済制度へ納付する掛け金は、全額損金の額に算入されます。

中小企業退職金共済制度は事業主が機構と退職金共済契約を結び、毎月の掛け金を最寄りの金融機関に納付し、従業員が退職したときその従業員に機構から退職金が直接支払われる制度です。単独では退職金制度を持つことが困難な中小企業に、事業主の相互共済と国の援助によって退職金制度を設け、これによって中小企業の従業員の福祉の増進と雇用の安定を図ることを目的としています。

中小企業退職金共済制度の諸条件は次の通りです。

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5)役員退職金の支払い

高齢の役員などがいれば、退職を検討します。留意点は次の通りです。なお、役員退職金の算式の例としては「最終月額報酬×役員在任年数×功績倍率(規定に準ずる)」といったケースなどが見られます。

  • 役員退職金は原則として株主総会で決議された日の属する事業年度で損金経理をします。
  • 同業同規模の他社と比較して不当に高額でないようにします。
  • その役員の業務従事期間や退職の事情に照らして不当に高額でないようにします。

また、実際に退職しない場合の分掌変更による退職金も検討できます。

4 事業年度の中途で行う税務対策(修繕・修理の実施)

1)資本的支出の範囲

古くなった建物、機械、車両などの修繕・修理を行います。なお、資本的支出に該当するか否かという点には注意が必要です。

税務上の資本的支出に該当するものとして、次のような例が明らかにされています。

  • 【法人税法基本通達7-8-1】
    法人がその有する固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すことになると認められる部分に対応する金額が資本的支出となるのであるから、例えば次に掲げるような金額は、原則として資本的支出に該当する。
  • 建物の避難階段の取付等物理的に付加した部分に係る費用の額
  • 用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額
  • 機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取替えた場合のその取替えに要した費用の額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる費用の額を超える部分の金額

(注)建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たる。

この通達は、資本的支出の基本的な考え方を明らかにしているもので、リフォームなどが、「建物の価値を高めているか否か」「建物の耐久性を増加させるかどうか」で、資本的支出または修繕費に該当するかどうかを示しています。

2)資本的支出と修繕費の区分の特例

実務上、資本的支出と修繕費の区分は大変困難な問題です。そこで、税務上において、その区分の特例として次の取り扱いが認められています。なお、この方法は、法人が継続的に一種の簡便法を適用することを認めたものですが、あらかじめ文書により所轄の税務署長に届け出る必要はありません。

  • 【法人税法基本通達7-8-5】
    一つの修理、改良等のために要した費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額(法人税法基本通達7-8-3「少額又は周期の短い費用の損金算入」、法人税法基本通達7-8-4「形式基準による修繕費の判定」の適用を受けるものを除く)がある場合において、法人が、継続してその金額の30%相当額とその修理、改良等をした固定資産の前期末における取得価額の10%相当額とのいずれか少ない金額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、この経理を認める。

3)災害等の場合の資本的支出と修繕費の区分の特例

災害等の場合においては、特別な手当てが必要ですが、これについて税務上次の特例を認めています。

  • 【法人税法基本通達7-8-6(3)】
    被災資産について支出した費用の額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでないものがある場合において、法人が、その金額の30%相当額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、この経理を認める。

この取り扱いは、資本的支出と修繕費の区分について特例を認めたものですが、災害等の場合には、被災した建物などへの支出額に関して、資本的支出であるか修繕費であるかの区分が困難な場合が多いことから、この特例が設けられ、処理の簡便化を図っています。

なお、災害等の場合における修繕については、災害損失特別勘定など、別途、一定の経理処理が認められています。そのため、災害時の修繕費の取り扱いについては注意が必要です。

4)耐用年数を経過した建物について行った修理、改良など

耐用年数を経過した減価償却資産につき、修理、改良などを行った場合の税務上の取り扱いは次の通りです。

  • 【法人税法基本通達7-8-9】
    耐用年数を経過した減価償却資産について修理、改良等をした場合であっても、その修理、改良等のために支出した費用の額に係る資本的支出と修繕費の区分については、一般の例によりその判定を行うことに留意する。

5)他人の建物に対する造作など

他人から賃借している建物に対して造作などを行った場合においては、原則として、資本的支出に該当し、その内部造作を1つの資産として合理的に見積もった耐用年数により償却します。

ただし、当該建物について賃貸期間の定めがあるもの(賃借期間の更新のできないものに限る)で、かつ、有益費の請求または買取請求ができないものについては、当該賃借期間を耐用年数として償却することができます(耐用年数の適用等に関する取扱通達1-1-3)。

5 事業年度末に行う税務対策

1)ボーナスの支給

業績が好調な会社の場合、社員の功績に応じて決算賞与を支給します。留意点は次の通りです。また、未払経理により賞与を決算に計上して経費とします(一定の要件あり(注))。

  • 社員に対する賞与であれば、年度末までに支給額が確定していれば問題になりませんが、役員に対するものは損金になりません。
  • 使用人兼務役員に支給する場合は、他の使用人等と同時期に支給し、かつ損金経理した使用人分相当額のみが損金となり、それを超える部分は損金となりません。

(注)一定の要件とは、「支給額を各人別に同時期に支給を受けるすべての使用人に対し、期末日までに通知し、その通知をした日の属する事業年度において損金経理をした上で、翌期首から1カ月以内に通知通り支給すること」です。

2)未払費用の検討

社会保険料、電話料、電気料、給与のうち、締め日から期末日までの期間分(役員報酬は不可)等の未払費用の計上漏れがないかチェックします。留意点は次の通りです。

  • 事業年度末までに債務が成立していること。
  • 債務に基づいた具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
  • その支払うべき金額が明らかであること。

3)その他の税務対策

その他の税務対策として検討できるものとしては次のようなものがあります。

  • 生命保倹(経営者保険)の加入(注)。
  • 固定資産の売却・除却。
  • 消耗品の購入(貯蔵品として資産計上するものを除く)。
  • 不良債権の処理(損失処理・引当金計上など)。

(注)支払額全額が損金計上できるとは限りません。また、固定資産を売却した時は、利益が生じる場合があるので注意が必要です。

6 決算時に行う税務対策

1)棚卸資産の評価損計上

法人税法上、資産の評価損の計上は原則認められていません(法人税法第33条第1項)。しかし、棚卸資産については次のような場合および法的整理に限り評価損の計上が認められています(法人税法施行令第68条第1項第1号)。

  • 当該資産が災害により著しく損傷したこと。
  • 当該資産が著しく陳腐化したこと。
  • 上記に準ずる特別の事実。

例えば、身近で分かりやすい例を挙げると、売れ残りの季節商品で通常の価額では今後販売できないことが明らかであるものや、新製品が発表されたことで流行遅れになるため、今後通常の方法で販売できなくなった場合も当てはまります。

つまりは、いろいろな要因はあるものの、著しく価値が減少して、今後その価格が回復しない状態や、通常の価額で販売できないということが明らかであれば、評価損として計上できるのです。ただし、単に時価や物価変動があった場合や、過剰生産によって価額が低下した場合には、計上することができません。

最後に、評価損を計上する場合、「著しく価値が減少して、通常の方法で販売できなかった」旨を、税務署から問われても大丈夫なように証拠資料をそろえておくことです。例えば、バーゲンセールの広告などを保管しておくとよいでしょう。

2)特別償却や税額控除の検討

経営改善設備を取得した場合の特別償却または税額控除、特定経営力向上設備等を取得した場合の即時償却または税額控除、雇用者給与等支給額が増額した場合の特別控除などの制度があります。これらの制度の適用を受けることができるかどうかについては、顧問税理士など専門家に確認するとよいでしょう。

以上(2020年1月)
(監修 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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社長と外出。何に気を配り、何を学ぶか。

書いてあること

  • 主な読者:出張や会食など、社長と一緒に行動することになった社員
  • 課題:ガチガチに緊張するし、どうすれば失敗しないか不安。せっかくの一緒の機会にうまくコミュニケーションも取れない
  • 解決策:とにかく準備をしっかりと。社長を大切なお客様と思って「相手のことを考える」ことを忘れずに。そして、社長の一言、一挙手一投足から学びましょう

1 社長と一緒に行動。そのときあなたはどうする?

社長と一緒に行動するのは、とても緊張するものです。忙しい社長に迷惑をかけたくない。失敗のないようにしたい。そんな気持ちが働くかもしれません。しかし、考えてみてください。普段と違って社長から直接学ぶチャンスでもあるのです。

本稿では、社長と一緒に行動するときに気をつけたいことに加え、どのようなことが学べるかもまとめてみました。現在は新型コロナウイルス感染症の影響で、社長と一緒に行動できる機会はないかもしれませんが、いつか来るその日のために、参考になれば幸いです。

2 「移動」はとにかく時間が大事

1)移動ルートを確認する

社長と一緒に移動するときは、電車などの公共交通機関やタクシーを使いますが、いずれの場合も目的地までの移動ルートと、それぞれの所要時間は確実に頭に入れておきましょう。

社長は移動中も仕事をするなど、時間を無駄にしません。また、時間の長さによってやることを決めるので、所要時間は特に大切です。事前に移動ルートと所要時間を伝えるのはもちろん、移動直前にも「今から〇分間乗車します」と伝えましょう。

タクシーを使うときには、早くタクシーをつかまえて、待ち時間を短くします。事前に手配しておくのが望ましいのですが、難しい場合は、タクシー乗り場など早くタクシーをつかまえられる場所を把握しておきます。

2)できるだけ下見する

可能な範囲で、事前に同じ移動ルートを下見・体験しておきましょう。駅の構造やタクシー乗り場の場所などを確認します。遠方であっても、「Google ストリートビュー」で道順を確認できます。

また、健康のために歩くことを好む社長もいます。当日、歩いて移動できる時間の余裕があれば、その旨を社長に伝えてもよいでしょう。もちろん、社長が徒歩を選択した場合に備えて、事前に徒歩ルートも確認しておきます。

3)新幹線の席はどこが良い?

新幹線で移動する場合、社長の席は、人の出入りが少なく、駅に到着したらすぐに降りやすい位置が望ましいでしょう。例えば、お手洗いに近い車両の、前から3列目くらいの窓側などが良いかもしれません。

また、新幹線は、上りと下りの列車がすれ違うとき、車両が大きく振動し、騒音が発生することがあります。それを避けるため、対向列車とすれ違う側とは反対側の窓際の席を取るなど、そこまで気を使うこともあるようです。

ただし、「パソコンを使うため、コンセントがある席が良い」「ゆったりした席で集中して仕事がしたいのでグリーン車が良い」といったように、社長によって好みの席があることがあります。こうした点は、上司や秘書などに事前に確認しておきましょう。

3 「食事」は心地よい雰囲気が大事

1)食事のときも重要なのは時間

社員がホストになり、少し改まった場(店)で社長と会食するときを想定して考えてみます。まずは社長の好みを確認することが大切です。好き嫌いや、「肉か魚か」「和食か洋食か」といった希望や、アレルギーも必ず確認します。

また、会食前後の予定も確認し、その上で、来店のしやすさ、次の予定先への移動のしやすさなども考慮して店を選びます。次の予定がある場合は、「次の予定に間に合うには、店を何時に出ればよいか」ということも確認しておきます。

社長に次の予定がある場合、当日は、店を出る時間を忘れないようにしておかなければなりません。時間が迫ってきたら「あと10分で時間です」などと、社長に伝えるようにしましょう。

2)店側とタッグを組むことも必要

店を選ぶときは、「実際に行ったら、全然違った」ということもあるので、必ず自分で下見をしてから決めましょう。料理の味を確認するのはもちろん、店の雰囲気、利用できる席(個室かどうかなど)、接客のレベルなどもチェックします。

店を決めたら、事前に店側に事情を話し、社長と食事をする当日に協力してもらえるようにしておくことも必要です。その場合、「気持ちのよい接客をしてくれた」「サービスが行き届いている」と思える店員に事情を話しておくことがポイントです。

その店員には、社長が店に入る時間と出る時間、社長の好みの他、会食の趣旨や大まかな流れを伝えておきましょう。例えば、「お祝いの席なので、乾杯前に社長が5分くらい話をする。話が終わる頃を見計らって料理を運んでほしい」といった具合です。

3)複数人で会食する場合はどこに座る?

食事をするときは、座る場所にも気を配りましょう。上座・下座の他、眺めが一番良い席、空調が一番心地よい席はどこなのか。あるいは、店員を呼んで話をしやすい席(ホストの自分が座る席)はどこがよいかを事前に確認しておくことが大切です。

社長も交えて複数人での会食であれば、一番出入りしやすい末席で、すぐに動けるようにしておきましょう。そうした席だと、店員と話をしやすく、注文などで大きな声を出さずに済むので、場の雰囲気を壊すこともありません。

なお、ホストとはいえ、段取りばかりに気を取られてはいけません。出席者の顔ぶれや会食の趣旨などにもよりますが、社長との会話を楽しんだり、社長の話を聞いたりして、社長と一緒の時間を楽しむようにしましょう。

4 「会話」は話して聞くのが大事

1)“現場感”のある話

社長は、社員のことをもっと知りたいと思っています。特に日ごろなかなか接する機会のない社員と一緒に行動できるときにこそ、いろいろな話をしたいと考えているものです。

そこで、社長と一緒に行動するときは、できるだけ現場感のある話を心掛けてみましょう。この機会に、日ごろ温めている企画があれば、「こんなことがしたいです!」と社長に直接ぶつけてみるのも一策です。

良い話ばかりでなくてもかまいません。例えば、今、職場で困っていることを話したり、思い切って、自分自身の仕事上の悩みを話したりしてみるのもよいでしょう。社長は、真剣に相談に乗ってくれるはずです。

2)パーソナルな引き出しを準備

社長が知りたいのは仕事の話だけではありません。社員はどのような趣味を持っているか、家族とはうまくいっているか、心身の健康状態は問題ないか。社長は、できるだけ社員のことを知りたいものです。

そこで、趣味や家族、出身地、学生時代の部活、最近読んだ本など、少し仕事から離れた話題で、自分のことを話せる引き出しを準備しておくとよいでしょう。格好つけて話をつくる必要はありません。ありのままの自分を話すことが大切です。

ただし、社長も交えて複数人で会食しているときは、自分ばかりでなく他の人にも話を振ることを忘れてはなりません。「△△さんはこの間、大きな魚を釣ったと言っていましたよね」など、他の人の趣味に関する話題を振るのもよいでしょう。

3)やっぱり聞きたい社長の話

自分が話すばかりではなく、社長に、少し仕事から離れた話を聞いてみるのも勉強になります。事前に、社長の趣味や愛読書、好きな偉人(歴史上の人物)などを調べておき、そのことを質問していろいろと教えてもらってもよいでしょう。

社長は、さまざまなことを知っていて、人生経験も豊富です。また、自分なりの哲学を持っていたり、何事にも“一家言”持っていたりするものです。こうした社長の話は普段はなかなか聞けない宝物です。

社長の話を聞くと「勉強になった」と感謝することがたくさんあるはずです。後日、「先日聞いた話にとても感動したので実践してみました(あるいは、もっと深く勉強してみました)」ということを社長に伝えれば、感謝の気持ちがきっと伝わります。

5 社長と一緒に行動して学べること

1)社長の行動は“教科書”

社長と一緒に行動することは、社員にとって大きな“学び”のチャンスです。社内の誰よりも働き、多くの経験を積んできた社長の一挙手一投足はまさに、ビジネスパーソンとしての“教科書”です。

仕事のことだけではありません。多くの社長は、恐らくどのような場所に行ってもそこになじんで見えるでしょう。どの場の空気にも溶け込み、気張らず自然な立ち居振る舞いをするのは、簡単に見えて、とても難しいことなのです。

日ごろ社長と一緒に行動する機会の少ない若手社員や中堅社員は、社長と一緒に行動することで、普段の仕事では得られない気付きを得られるはずです。例えば、次の3つの点は、社長と一緒に行動した経験のある人の多くが実感できるものです。

2)社長の時間の使い方

社長と一緒に行動すると、その時間の使い方に驚くはずです。社長は移動中も時間を無駄にしません。資料を読む、メールを送る、顧客に連絡を入れる……。そうした姿から、隙間時間の使い方を学ぶことができるでしょう。

社長が時間を無駄にしないのは仕事が忙しいからというだけではありません。時間をやりくりして本を読み、勉強会に出かけ、そして社員を育てています。つまり、会社の未来に投資する時間をつくるため、社長は少しの時間も無駄にできないのです。

3)社長のお金の使い方

社長は、「お金を使うべきところには使い、使う必要のないところには使わない」ということを徹底しています。例えば、大切に思う社員のためになることであれば、お金を使うことを惜しみません。

こんな話があります。社員旅行に行ったある会社では社員が大いに飲んだため、予算オーバーしそうになりました。それを見た社長が一言。「会社で全部持つから好きなだけ飲んでください。これは社員のための旅行です」。その社長の、社員への感謝の気持ちだったのでしょう。

4)社長の社員を思う気持ち

もしかすると、最初に社長と一緒に行動したときに、一番驚くのは、社長の社員を思う強い気持ちかもしれません。一緒に行動していると、その言動の端々に社員に対する思いや愛情を感じることができるでしょう。

社長は社員の想像以上に社員のことを思っています。社長の時間の使い方もお金の使い方も、社員に感謝し、社員の未来を思っている証しです。一緒に行動した社長の姿からそのことが少しでも社員に伝わってほしい。それが、社長の本音なのかもしれません。

以上(2020年7月)

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事業承継計画を見直すためのポイント

書いてあること

  • 主な読者:事業承継を考えている中小企業の経営者
  • 課題:円滑に事業承継を成功させるためには何から手を付けてよいかわからない
  • 解決策:事業承継の主なポイントである人、資産、知的資産の承継についてポイントを解説する

1 事業承継の範囲

事業承継は、中小企業(特にオーナー企業)の経営者にとって重要な経営課題です。事業承継を円滑に進めるためには、さまざまな対策が必要であり、相応の期間がかかります。そのため、事業承継は早めに計画を立て、取り組みを進めていくことが大切です。

事業承継は、事業そのものを承継する取り組みであり、その構成要素は広範囲にわたります。誰か(親族内外)に、株式を渡せばよいというわけではなく、その他にも事業運営に関わる有形・無形の資産を承継しなければなりません。

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これらは、事業承継計画に沿って承継されます。例えば、「息子に経営権を承継させる場合は株式の評価を下げつつ、知的財産はきちんと権利化して守る」といったようにです。以降でそれぞれのポイントを確認していきます。

2 事業承継の類型

事業承継の主な方法は「親族内承継」「役員・従業員承継」「M&A」に大別されます。最も多いのは親族内承継ですが、最近は後継者不足からM&Aなどの親族外承継も増えています。それぞれのメリットを確認してみましょう。

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次章では、中小企業に多い親族内承継を対象に、「人(経営)の承継」「資産の承継」「知的資産の承継」の3つの観点から、事業承継対策をチェックする際の基本的なポイントを確認します。

3 「人(経営)の承継」のポイント

1)後継者の育成

後継者の育成方法は、事業承継に費やすことのできる期間や後継者の能力などに応じて異なります。通常は、「自社で教育する」「他社で経験を積ませる」「外部研修機関で知識を習得させる」の3つを組み合わせます。

1.自社で教育する

社内の主要部門をローテーションさせたり、関連会社の経営を任せたりして、自社の業務内容や実情を肌で感じながら経験を積む機会を与えます。経営者が直接育成に携わることで、いわゆる“帝王学”を教え込むこともできます。

2.他社で経験を積ませる

経営者の親族という甘えのない環境で経験を積ませることができます。また、自社とは異なる業務内容や経営手法など、社内での教育では得ることのできない知識や経験を習得させることも可能です。人脈の形成にもつながります。

3.外部研修機関で知識を習得させる

外部研修機関のセミナーや勉強会などに参加させます。経営に関する幅広い知識を体系的に習得させることができます。また、他の参加者や講師との人脈の形成にもつながります。

2)理念や価値観の承継

経営者は、経営に対する理念や価値観を有しています。これらが明文化されていない場合もあるので、経営者は日々のコミュニケーションの中で後継者に伝え、また後継者は理念や価値観を理解・尊重して会社を率いなければなりません。

4 「資産の承継」のポイント

1)株式の集中

事業承継後、後継者の意思決定を迅速に経営に反映させるためには、後継者や後継者に友好的な株主の元に株式の相当数を集中させることが望まれます。目安は、株主総会で重要事項を決議するために必要な3分の2以上の議決権を確保できる株式数です。

経営者が目安となる株式を保有していれば、相続などを通じて後継者に株式を集中させます。株式が分散している場合は、後継者や会社が株式の買い取り、後継者を対象とした新規株式の発行などを通じて、後継者の持株比率を高めるなどします。

また、事業承継後の株式分散防止策などとして、定款に株式譲渡制限や株式の買い取り請求に関する事項を定めるなど、必要に応じて会社法に基づく対策も検討するようにしましょう。

なお、株式の集中においては、経営者と友好的な関係であった株主が、後継者に対しても友好的であるとは限らないという点に留意が必要です。中小企業の場合は、経営者個人への信頼に基づき関係を構築していることが多く、株主も例外ではありません。

2)事業用資産の集中

中小企業の場合、経営者の個人資産を事業用資産として利用していることがあります。相続などを通じてこうした資産が分散すると、事業継続に支障を来すことにもなりかねません。株式同様、事業用資産も後継者が集中して承継するなどの対策が必要です。

3)相続対策

後継者へ株式および事業用資産の集中を図る際のポイントは相続対策です。相続や贈与に際しては法定相続分や遺留分(一定の相続人が最低限相続できる財産)などの制約を受ける点を勘案しなければなりません。

こうした点を考慮しておかなければ、「主な相続財産が株式や事業用資産しかなく、これらの資産が後継者以外の相続人の手に渡ってしまった」など、後継者への株式および事業用資産の集中を図ることができなくなってしまいます。

相続対策は、経営者の所有財産や相続人の数などを把握した上で、財産の移転・財産の評価引き下げ、納税資金の確保などの観点で検討します。その際、税法などの専門的な知識が不可欠なので、税理士や弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。

なお、財産の移転とは、相続発生前に、株式および事業用資産を後継者や会社などに移転することです。贈与や売買などによって行います。

財産の評価引き下げとは、資産の移転などをスムーズに行うために、事前に株式などの評価額を引き下げることです。株式の評価額の引き下げに効果がある役員退職慰労金の支給などを検討することが一般的です。  

納税資金の確保とは、財産のほとんどが株式や不動産などで占められ、金融資産(現金・預金、市場性のある有価証券など)が少ない場合に、相続人のために行う対策です。生命保険の活用などを検討することが一般的です。

5 「知的資産の承継」のポイント

知的資産とは、特許などのいわゆる知的財産権にとどまらず、「人材、技術、組織力、経営理念、顧客とのネットワーク」など、通常は財務諸表には表れない企業の財産を指します。

知的財産権の活用は、中小企業の重要な経営課題です。手続きの煩雑さを嫌う経営者もいますが、事業承継までを見据えて計画的に進める必要があります。また、知的資産をリスト化しておくことも欠かせません。

この他、人材、技術、組織力などが自社ならではの強みになっていることもあります。経営者は、後継者や社員と対話をしながら、組織運営に関する多様な資産を承継していく必要があります。

以上(2018年10月)

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初めてオフィスを移転するときに知っておきたいこと

書いてあること

  • 主な読者:初めてオフィスの移転を考える経営者
  • 課題:オフィス移転に必要な手続きやかかる費用がわからない
  • 解決策:現在のオフィスを評価し、移転するオフィスを探すための方法や、オフィス移転に必要な公共的な手続きなどを整理する

1 オフィス移転の検討プロセス

オフィス環境は、従業員のワークスタイルやモチベーション、社内のコミュニケーション、人的なネットワークにも影響を及ぼします。働きやすく魅力的なオフィス環境を提供することで、人材の定着につながりやすく、人材採用にも効果が期待されます。

本稿では、オフィスビルにテナントとして入居している企業(株式会社)を想定し、別のオフィスビルに移転する場合の実務について考えていきます。

1)現状のオフィスについて評価する

オフィス移転の検討に際しては、まず、次のような視点で現状のオフィスについて評価することが大切です。

1.現状のオフィス面積は、適正なのか

現状のオフィス面積をベースとして増員計画に合わせて案分し、必要な面積を算出する方法では、オフィスが適正な広さかどうかを判断できないでしょう。そこで、同規模企業や同業種企業と比較することで、適正なオフィス面積を考えていくことが求められます。

日本ビルヂング協会連合会が発行する「ビル実態調査(全国版)」では、契約面積ベースのオフィスワーカー1人当たり床面積の推移などが掲載されており、参考にすることができます。

2.現在支払っている賃料は、適正なのか

現在支払っている賃料が相場と比べて適正なのかを確認します。例えば、不動産流通推進センターが運営する総合不動産情報サイト「不動産ジャパン」では、不動産流通4団体(全国宅地建物取引業協会連合会、不動産流通経営協会、全日本不動産協会、全国住宅産業協会)に加盟する全国の不動産会社およびその営業所が持つ物件情報の中から、エリア・路線などの条件を入力して、事業用物件を検索できます。また、オフィス仲介大手の三鬼商事、三幸エステート、シービーアールイーなどは、主要都市のオフィス市況データを公表しています。

■不動産ジャパン■
http://www.fudousan.or.jp/
■三鬼商事■
http://www.e-miki.com/
■三幸エステート■
http://www.sanko-e.co.jp/
■シービーアールイー■
https://www.cbre-propertysearch.jp/

現在支払っている賃料について、これらから得られる情報と比較し、移転による削減余地がどれくらいあるのか把握します。

3.移転する場合、イニシャルコストはどの程度掛かるのか

オフィス移転に掛かるイニシャルコストは、敷金、礼金、仲介手数料、前家賃、前共益費、火災保険料、内装工事費、設備工事費、家具・備品購入代、引っ越し代、名刺や封筒の印刷代など多岐にわたります。これらの金額を全て見積もる必要があります。

なお、イニシャルコストの中には経費として損金算入できない費用もあります。詳細は税理士などに確認するようにしましょう。

2)移転先オフィスビルの選定

移転先オフィスビルについては、不動産会社に仲介を依頼するのが一般的です。その際には、立地条件、必要面積、賃料、移転時期に加え、オフィスビルの仕様(天井高、床荷重、電気容量、OAフロアの有無、個別空調の有無、セキュリティーの有無、喫煙コーナーの有無、駐車場・駐輪場の有無など)の条件を設定した上で依頼します。

なお、1981(昭和56)年5月31日以前に建築確認を受けた建物であれば、耐震診断を受け、必要に応じた耐震補強が行われているかどうかを確かめておきましょう。

3)パートナー(移転担当業者)の選定

オフィス移転に関する業務は非常に多岐にわたります。通常業務と並行してオフィス移転を進めるために、ノウハウ・実績を持つパートナーを選定するのが一般的です。

パートナー候補先としては、オフィス家具メーカー、建築デザイン事務所、プロパティマネジメント会社、通信系設備工事会社などさまざまな企業が挙げられます。自社のオフィス移転の目的や新しいオフィスのコンセプトに応じて、必要性・重要性が高い業務を得意とするパートナーを選定することが大切です。ノウハウ・実績などからパートナー候補先を数社に絞り、各社にプレゼンテーションを行ってもらい、提案の良しあし(技術面、コスト面)や、パートナー候補先の担当スタッフの力量を見定めるとよいでしょう。

4)現状のオフィスの解約予告期間の確認

不動産の賃貸借契約書には、「(借主は)少なくとも○○日前までに解約の申し入れを行うことにより、契約を解除できる」といった、契約解除に関する条項があります。オフィス移転のスケジュールを立てるに当たって、まずは、現在のオフィスの賃貸借契約書で、この条項を確認することが大切です。

現在のオフィスと移転後のオフィスの賃料について、両方負担する期間をなるべく短くするため、この解約予告期間を勘案して移転の時期や条件を検討します。

2 オフィス移転の実施プロセス

1)不動産会社へ紹介を依頼~現地内見

移転の時期や希望する条件が固まったら、不動産会社に移転先オフィスビルの紹介を依頼します。移転先の候補となる物件については、現地に赴いて内見をします。あらかじめ設定していた条件に加え、フロアの形状、フロア内の柱の有無、眺望、採光、ブラインドの有無、入居している他のテナントの状況、エントランスの開閉時間、エレベーター・トイレなど共用部分の状況、携帯電話の電波状況などを確認します。

2)申し込みと条件交渉~審査書類提出

移転先の候補として気に入った物件が見つかれば、不動産会社へ申し込みをして、その物件を押さえます。この段階で不動産会社を通じて、移転先候補の物件の貸主に条件交渉を行います。賃料・共益費の金額交渉とともに、フリーレント(賃料を無料とする期間)の交渉も行うとよいでしょう。共益費についても、交渉次第で入居工事着工時から請求対象とするといった条件が得られることもあります。また、間仕切りなどの内装工事やオフィス内の電気コンセント工事については、借主負担で貸主側が指定する施工業者が行う条件となっているケースが多いといわれますが、交渉次第で、借主負担で借主側が指定する施工業者が行うことに変更できる場合があります。

なお、宅地建物取引業法では、賃貸借契約を締結するまでの間に、仲介や代理を行う不動産会社は、入居予定者に対して賃借物件や契約条件に関する重要事項の説明をしなければならないと定められています。重要事項説明は、宅地建物取引士が内容を記載した書面に記名押印し、その書面を交付した上で、口頭で説明を行わなければなりません。重要事項説明書に記載されていることは、「対象物件に関する事項」と「取引条件に関する事項」に大別できます。確認していた情報と異なる説明はないか、その他気になる事実はないかなど、何か不明な点があれば納得のいくまで確認しましょう。
不動産会社が貸主の場合は、重要事項説明の義務がないので、物件や契約条件について気になることがあれば、自ら不動産会社に確認するようにしましょう。

その後、不動産会社を通じて審査書類を提出します。主な審査書類として次が挙げられます。

  • 法人の登記簿謄本(写し)
  • 法人の概要(会社のパンフレット等)
  • 直近3期分の決算書類
  • 連帯保証人の身分証明書(写し)
  • 連帯保証人の収入証明(写し)

なお、提出が求められる審査書類は、物件の貸主によって異なるので、あらかじめ確認しておくことが大切です。

3)審査通過~現状のオフィスの解約申し入れ

審査書類を提出後、審査を通過した段階で現状のオフィスを管理している先に解約を申し入れます。解約の申し入れは基本的に、電話ではなく書面で行います。この解約通知書面は、契約時に渡されるのが一般的で、その書面をFAXまたは郵送で送付します。

なお、解約の申し入れ後は、日割り計算で賃料を支払うのが通常です。送付日が解約を受け付けた日付となるため、早めに対応するとよいでしょう。

4)電話回線・インターネット回線の移転の手配、各種見積もり

移転に向けて、電話回線・インターネット回線の移転の手配を行い、各種見積もりを取ります。

  • オフィスのレイアウト作成、内装工事の見積もり
  • 購入する家具・備品の見積もり
  • 通信機器・LAN設定工事の見積もり
  • 引っ越しの見積もり

5)賃貸借契約の締結

契約時に必要なものとしては、一般的に次の書類があります。契約によって必要な書類は異なるので、事前に不動産会社や貸主に確認の上、契約日までに用意します。

  • 法人の登記簿謄本
  • 法人の印鑑証明書
  • 連帯保証人の住民票
  • 連帯保証人の印鑑証明書

賃貸借契約を締結した後に一方的に解約を申し出ても、それが認められるとは限らず、違約金などが発生する可能性もあるので、事前に条件交渉の結果が正確に契約書に反映されているかをしっかりと確認することが大切です。内容に問題がなければ契約書に署名・押印を行います。敷金、礼金、仲介手数料、火災保険料などの支払いを行い、費用に応じて領収書、預かり証などを受け取った後、鍵が渡されると契約は完了します。
契約に必要な初期費用は、契約時に支払うのが基本ですが、事前に振り込む方法を取る場合もあります。貸主、不動産会社、保険会社それぞれに必要な金額を支払い、敷金に関しては預かり証、それ以外の支払いについては、領収書を受け取ります。火災保険料については、不動産会社経由で保険会社に支払い、後日郵送で領収書や保険証書を受け取る場合が多いようです。

6)各種発注~工事の施工

賃貸借契約完了後に、内装工事、家具・備品、通信機器・LAN設定工事、引っ越しの発注を行います。また、取引先などに出す移転通知状や、社用封筒、名刺、ゴム印などの発注を済ませます。

内装工事に入る前には、レイアウトと工事内容が記載された図面、工程表を貸主に提出して、許可を得ます。騒音が出る工事については、他のテナントの迷惑にならないよう、土日にしか作業ができない場合も多いため、注意が必要です。

7)引っ越し

引っ越しでは、前日までに梱包作業を済ませておき、移転先での開梱作業で混乱が生じないようにしましょう。梱包した荷物と移転後のレイアウト図面に番号を振って引っ越し業者に渡し、梱包した荷物をどこに配置するのか分かるようにしておくとよいでしょう。

粗大ごみが出る場合、各市区町村の窓口に問い合わせ、日時・場所など指示に従って出します。回収は基本的に有料なので(無料の市町村もあります)、問い合わせのときに料金や支払い方法について確認します。ビルで指定の業者がある場合には、ビルの管理会社から収集日や収集方法などの説明を受けます。

3 移転に伴う関係官庁への手続き

移転によって所在地が変更となるため、登記、税務、労務などについて関係官庁へ必要書類を提出し、手続きをしなければなりません。オフィス移転に伴って必要となる関係官庁への主な手続き(例)は次の通りです。

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ケースによって提出書類の様式や添付書類、提出期限が異なるため、実際には関係官庁に問い合わせて確認することが大切です。必要に応じて、司法書士、行政書士、税理士、社会保険労務士に手続きの代行を依頼することも検討するとよいでしょう。

以上(2018年10月)

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入会金・会費などの税務上の取り扱い

書いてあること

  • 主な読者:適正な税務処理を徹底したい経営者・税務担当者
  • 課題:入会金や会費は内容によっては、税務上役員報酬や給与とみなされることがある
  • 解決策:ゴルフクラブの入会金や同業団体の会費など、会社で発生する主な入会金や会費を抜粋して、税務上の取り扱いを解説

1 ゴルフクラブの入会金など

1)ゴルフクラブの入会金

法人がゴルフクラブに対して支出した入会金については、次のいずれかの場合に応じて処理します(法人税基本通達9-7-11)。

1.法人会員としてゴルフクラブに入会するケース

法人会員として入会する場合、入会金は資産として計上します。

ただし、記名式の法人会員で名義人として特定の役員または使用人が法人の業務に関係なく利用するため、これらの者が負担すべきものであると認められるときは、当該入会金に相当する金額は、これらの者に対する給与とします。

2.個人会員としてゴルフクラブに入会するケース

個人会員として入会する場合、入会金は個人会員たる特定の役員または使用人に対する給与とします。

ただし、無記名式の法人会員制度が無いため個人会員として入会し、その入会金を法人が資産に計上した場合、その入会が法人の業務の遂行上必要であるため法人の負担すべきものであると認められるときは、その会計処理を認めます。

入会金はゴルフクラブに入会するために支出する費用なので、他人の有する会員権を購入した場合、その購入代価の他、他人の名義を変更するためにゴルフクラブに支出する費用も含まれます。

2)資産に計上した入会金の処理

法人が資産に計上した入会金は償却を認められていません。しかし、ゴルフクラブを脱退してもその返還を受けることができない場合、当該入会金に相当する金額およびその入会金に係る譲渡損失に相当する金額は、脱退または譲渡をした日の属する事業年度の損金の額に算入します(法人税基本通達9-7-12)。

3)年会費その他の費用

法人がゴルフクラブに支出する年会費、年決めロッカー料その他の費用(その名義人を変更するために支出する名義書換料を含み、プレーする場合に直接要する費用を除く)については、「入会金が資産として計上されている場合には交際費」とし、「入会金が給与とされている場合には会員たる特定の役員または使用人に対する給与」とします(法人税基本通達9-7-13)。

プレーする場合に直接要する費用については、入会金を資産に計上しているかどうかにかかわらず、その費用が法人の業務の遂行上必要なものであると認められる場合には交際費とし、その他の場合には当該役員または使用人に対する給与とします。

4)レジャークラブの入会金

前述の「ゴルフクラブの入会金」および「資産に計上した入会金の処理」の取り扱いは、法人がレジャークラブに対して支出した入会金について準用します。

ただし、レジャークラブ会員としての有効期間が定められており、かつ、その脱退に際して入会金相当額の返還を受けることができないものとされているレジャークラブに対して支出する入会金(役員または使用人に対する給与とされるものを除きます)については、繰延資産として償却することができます(法人税基本通達9-7-13の2)。

レジャークラブとは、宿泊施設、体育施設、遊技施設その他のレジャー施設を会員に利用させることを目的とするクラブで、ゴルフクラブ以外のものをいいます。

年会費その他の費用は、その使途に応じて交際費または福利厚生費もしくは給与となることに留意を要します。

施設を利用する人が特定の役員や社員だけの場合は、入会金も年会費も給与になります。また、特定の社員の他に取引先の接待などに使えば、年会費は交際費になります。そして、施設を従業員全員が平等に使えるのならば、年会費は福利厚生費になります。

2 社交団体の入会金など

1)社交団体の入会金

法人が社交団体(ゴルフクラブおよびレジャークラブを除きます)に対して支出する入会金については、次の各場合に応じて処理します(法人税基本通達9-7-14)。

1.法人会員として入会する場合

法人会員として入会する場合、入会金は支出の日の属する事業年度の交際費とします。

2.個人会員として入会する場合

個人会員として入会する場合、入会金は個人会員たる特定の役員または使用人に対する給与とします。ただし、法人会員制度がないため個人会員として入会した場合において、その入会が法人の業務の遂行上必要であると認められるときは、その入会金は支出の日に属する事業年度の交際費とします。

2)社交団体の会費など

法人がその入会している社交団体に対して支出した会費その他の費用については、次の区分に応じて処理します(法人税基本通達9-7-15)。

1.経常会費

経常会費については、その入会金が交際費に該当する場合には交際費とし、その入会金が給与に該当する場合には会員たる特定の役員または使用人に対する給与とします。

2.経常会費以外の費用

経常会費以外の費用については、その費用が法人の業務の遂行上必要なものであると認められる場合には交際費とし、会員たる特定の役員または使用人の負担すべきものであると認められる場合には当該役員または使用人に対する給与とします。

3)ロータリークラブおよびライオンズクラブの入会金など

法人がロータリークラブまたはライオンズクラブに対する入会金または会費などを負担した場合には、次によります(法人税基本通達9-7-15の2)。

1.入会金または経常会費として負担した金額

入会金または経常会費として負担した金額は、その支出をした日の属する事業年度の交際費とします。

2.それ以外に負担した金額

それ以外に負担した金額は、その支出の目的に応じて寄附金または交際費とします。

ただし、会員たる特定の役員または使用人の負担すべきものであると認められる場合には、当該負担した金額に相当する金額は、当該役員または使用人に対する給与とします。

3 同業団体の会費など

1)同業団体などの会費

法人がその所属する協会、連盟その他の同業団体などに対して支出した会費の取り扱いについては次によります(法人税基本通達9-7-15の3)。

1.通常会費

同業団体などがその構成員のために行う広報活動、調査研究、研修指導、福利厚生その他同業団体としての通常の業務運営のために、経常的に要する費用の分担額として支出する通常会費については、支出をした日の属する事業年度の損金の額に算入します。

ただし、当該同業団体などにおいてその受け入れた通常会費につき不相当に多額の剰余金が生じていると認められる場合には、当該剰余金が生じたとき以後に支出する通常会費については、当該剰余金の額が適正な額になるまでは、前払費用として損金の額に算入しないものとします。

同業団体などの役員または使用人に対する賞与または退職給与の支給に充てるために引き当てられた金額で適正と認められるものは、剰余金の額に含めないことができます。

2.その他の会費

同業団体などが次に掲げるような目的のために支出する費用の分担額として支出する会費については、前払費用とし、当該同業団体などがこれらの支出をした日にその使途に応じて当該法人がその支出をしたものとします。

  • 会館その他特別な施設の取得または改良
  • 会員相互の共済
  • 会員相互または業界の関係先などとの懇親など
  • 政治献金その他の寄附

通常会費として支出したものであっても、その全部または一部が当該同業団体などにおいて上記のような目的のための支出に充てられた場合には、その会費の額のうちその充てられた部分に対応する金額については、その他の会費に該当します。

ただし、その同業団体などにおける支出が当該同業団体などの業務運営の一環として通常要すると認められる程度のものである場合には、この限りでありません。

2)災害見舞金に充てるために同業団体などへ拠出する分担金など

法人が、その所属する協会、連盟その他の同業団体などの構成員の有する事業用資産について災害により損失が生じた場合に、その損失の補てんを目的とする構成員相互の扶助等に係る規約など(災害の発生を機に新たに定めたものを含む)に基づき、合理的な基準に従って当該災害発生後に当該同業団体などから賦課され、拠出した分担金などは、支出した日の属する事業年度の損金の額に算入します(法人税基本通達9-7-15の4)。

以上(2019年4月)
(監修 税理士法人コレド会計 石田和也)

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会社の税金管理を考える タックスプランニングの策定

書いてあること

  • 主な読者:タックスプランを作成していない中小企業の経営者・税務担当者
  • 課題: タックスプランの作り方がわからない
  • 解決策:まずは、将来の課税所得を予測する。予測した課税所得に基づき、さまざまな税務対策を計画し、実行する

1 タックスプランニングの必要性

タックスプランニングとは、将来の課税所得(課税の対象となる所得)を想定して、税務対策や納税資金の確保などについて計画(以下「タックスプラン」)を立てることをいいます。タックスプランニングを行うメリットとしては、「将来の税負担の最小化ができる」ことや「納税資金を予測できる」ことが挙げられます。

決算期末の直前になってしまうと有効な税務対策を行えないことが多くあります。そのため、あらかじめタックスプランニングを行い、計画的に税務対策を実行することで、将来の税負担を最小に抑えることができます。

また、法人税等は納付額が多額になることもあり、納期限の直前になって納税資金の確保に追われることも少なくありません。そのため、タックスプランニングを行い、納税資金を予測することで、資金計画に沿った資金繰りが可能になります。

2 タックスプランニング策定の基本的な手順と検討する際の留意点

1)タックスプランニング策定の基本的な手順

タックスプランニングを策定する場合、まずは将来の課税所得を予測することが必要となります。将来の3事業年度(翌事業年度、翌々事業年度、翌々々事業年度)の課税所得を予測することが望ましいのですが、将来の1事業年度(翌事業年度)だけの予測でも問題ありません。もし、将来の1事業年度の課税所得を予測することが困難な場合には、現在の事業年度の課税所得を予測することから始めてもよいでしょう。予測した課税所得に基づき、さまざまな税務対策(詳細後述)を計画・実行していくことになります。

なお、課税所得を予測する際には、実現可能かどうかなど、複雑な分析が必要になるため、公認会計士や税理士などの専門家に相談するようにしましょう。

2)タックスプランニングを検討する際の留意点

税務対策の中には、資金の流出を伴うものが多いことから、タックスプランニングを検討する際には、資金の準備が必要になることがあります。そのような場合には、必要に応じ、金融機関から運転資金の融資を受けておくなどの事前対応が大事になります。また、時期によっては、その税務対策の効果が想定している事業年度に表れないこともあります。

このように、タックスプランニングは、自社の資金状況や税務対策を実行するタイミングなどに留意しつつ検討する必要があります。

3)タックスプランを事業年度の途中で修正する場合

当初に策定したタックスプランは、さまざまな事情に応じて適宜見直すことが望ましいと考えられます。

タックスプランを見直した結果、現在の事業年度の課税所得の見込み額が、当初に予測した課税所得に比べて大幅に相違がある場合には、タックスプランを事業年度の途中で修正しなければなりません。

1.課税所得が増加する場合

課税所得が当初に予測した金額を大幅に上回ることが分かった場合には、予定していた税務対策に加え、新たに課税所得を減少させる税務対策(詳細後述)を実行するようにしましょう。

2.課税所得が減少する場合

課税所得が当初に予測した金額を大幅に下回ることが分かった場合には、予定していた税務対策を取りやめることや、課税所得を増加させる税務対策を実行するようにしましょう。具体的には、次のものが挙げられます。

  • 臨時改定事由に基づく役員給与の減額
  • 事前確定届出給与を届け出ている場合における支給の中止
  • 中小企業倒産防止共済の掛け金を支払っていた場合における中小企業倒産防止共済の解約
  • 生命保険に加入していた場合における生命保険の解約

3 事業年度の開始前と開始直後に実行できる代表的な税務対策

1)事業年度の開始前

1.所得拡大促進税制の適用

従業員に対する給与のベースアップなどを行うことにより、所得拡大促進税制の適用(税額控除)を受けることができます。

2.連結納税制度の導入

グループ会社の中で、課税所得がプラスの会社とマイナスの会社とが存在する場合には、連結納税制度を導入することにより、法人税の課税所得を通算することができます。連結納税制度を採用するためには、原則として、事業年度開始の日の3カ月前の日までに申請書を提出する必要があります。

3.合併の実行

グループ会社のうち、繰越欠損金を有する会社が存在する場合には、課税所得がプラスの会社と合併することにより、繰越欠損金の有効活用ができるケースがあります。その場合、特定資産譲渡等損失や欠損等法人の欠損金の不適用の規定に留意する必要があります。

4.分割や株式交換・株式移転の実行

所得の分散化や交際費の定額控除限度額の活用などを目的として、会社の1部門を分割により分社化することや、株式交換・株式移転により持株会社を設立します。

2)事業年度の開始直後

一般的には事業年度開始の日から3カ月以内に行われる定時株主総会において、役員給与の支給額を改定することや、事前確定届出給与の支給を設定することができます。事前確定届出給与を設定した場合、事前確定届出給与に関する届出書の提出期限は、原則として、支給の決議をした日(同日が職務の執行を開始する日後である場合には、その開始する日)から1カ月を経過する日までとされています。

4 決算期直前でも検討できる税務対策

2020年3月期決算の会社について、今から実行可能なものとして、検討できる主な対策は次の通りです。なお、ここでは各対策の概要のみを紹介します。詳細は別途確認するようにしてください。

また、生命保険に係る支払保険料を損金にする税務対策は、税制改正により、解約返戻金の割合の高い保険について損金にできる割合が大きく減少しました。そのため、税務対策としての効果は少なくなりましたが、長期的なタックスプランニングを踏まえて、検討してみるのもいいでしょう。

1)中小企業倒産防止共済への加入

中小企業倒産防止共済に加入し、掛け金を支払った場合には、その全額を損金算入することができます。なお、掛け金は最大で800万円まで(ただし、年額240万円まで)支払うことが可能です。

2)決算賞与の支給

従業員に対して決算賞与を支給した際に、一定の要件を満たす場合には、その全額を損金算入することができます。

3)短期前払費用の支払い

支払家賃等について、年払い契約にしたうえで、今後継続して1年分を前払いする場合には、その全額を損金算入することができます。

4)日本型オペレーティング・リースの取得

日本型オペレーティング・リース(注)の出資持分を取得した場合には、今後の2~3事業年度において、出資金の全額を損金算入することができます。

(注)日本型オペレーティング・リースとは、航空機・船舶・海上コンテナ・プラント設備などの大型物件のリース事業に、投資家が営業者(特定目的会社)の出資者として参加するものです。

以上(2019年12月)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 大関香一)

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損益分岐点の概要と利益確保へ向けた利用方法

書いてあること

  • 主な読者:プロジェクト管理や、部署のマネージメントを新たに担当することになった社員
  • 課題:計数管理の基本が整理できていない社員は多い
  • ポイント:計算事例を交えながら、損益分岐点の基本をまとめる

1 損益分岐点売上高の算出方法

1)損益分岐点とは

事業が黒字になるか赤字になるかの境界、つまり採算が合うか合わないかのポイントを損益分岐点といいます。売上高と費用、損益分岐点の関係は次の通りです。

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売上高線と費用線が交差する点が損益分岐点で、つまり、売上高=費用となるポイントです。販売数量が増すと売上高が増え、売上高が損益分岐点を超えると利益が発生します。

2)用語の説明

「損益分岐点売上高」「損益分岐点比率」「固定費」「変動費(率)」「限界利益(率)」という用語は、本稿の中で頻出します。これらの用語の説明は次の通りです。

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3)固定費と変動費

損益分岐点売上高および損益分岐点比率を算出するには、まず固定費と変動費について知る必要があります。

固定費・変動費という用語は制度会計には登場しません。固定費は、人件費、減価償却費、土地・建物や設備の賃借料などのように、販売数量の増減に関係なく発生する費用です。また、変動費は小売業の売上原価、製造業の原材料費・外注加工費のように、売上高に比例して発生する費用です。固定費は販売数量が0でも発生し、販売数量の増減にかかわらず一定です。一方、変動費は販売数量が0ならば発生せず、販売数量に応じて発生する費用です。

費用を固定費と変動費に分割することを費用分解といいます。費用分解の方法には、「勘定科目法」や「統計的方法」などがあります。勘定科目法とは、自社の費用を勘定科目ごとに固定費と変動費に分ける方法です。統計的方法とは、売上高の変動に合わせて各費用が変動しているかどうかの関係を個別に調査し、分類していく方法です。

固定費と変動費の発生イメージは次の通りです。

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費用線は固定費と変動費の合計を表しています。

売上高と費用(固定費・変動費)と損益分岐点の関係は次の通りです。

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販売数量が0ならば売上高は0です。売上高線と費用線が交差したところが損益分岐点です。損益分岐点に達するまでは利益は発生しませんが、損益分岐点を超えると利益が発生します。

4)限界利益

変動費は売上高の発生とともに付随して発生するものです。売上高から変動費を引いたものが限界利益となります。

  • 限界利益=売上高-変動費

販売数量が増加すると限界利益も増加します。限界利益が固定費を超えると利益が発生します。限界利益は固定費を回収し利益を生み出します。

限界利益を分かりやすく表示したのが図表5で、網掛け部分が限界利益です。ここでは限界利益を分かりやすくするため、変動費を下に固定費を上にしています。売上高と費用(固定費・変動費)と限界利益の関係は次の通りです。

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5)損益分岐点売上高および損益分岐点比率の算出

1.損益分岐点売上高

損益分岐点売上高は次のように算出することができます。

  • 損益分岐点売上高=固定費/(1-変動費率)=固定費/限界利益率

例えば、固定費が1000万円で変動費率が65%の場合、損益分岐点売上高は次のように算出することができます。

  • 損益分岐点売上高=1000万円/(1-65%)=1000万円/35%=2857万円

2.損益分岐点比率

損益分岐点比率は次のように算出することができます。

  • 損益分岐点比率=固定費/(売上高-変動費)=固定費/限界利益

例えば、固定費が2500万円で売上高が5000万円、変動費が2000万円の場合、損益分岐点比率は次のように算出することができます。

  • 損益分岐点比率=2500万円/(5000万円-2000万円)=2500万円/3000万円=83.3%

損益分岐点比率が100%以上の場合、その企業は赤字経営ということになります。損益分岐点比率が100%未満であれば利益が出ていることになります。損益分岐点比率が低いほど利益は増加します。

2 目標利益売上高の算定と安全余裕率

1)目標利益売上高の算定

損益分岐点売上高は損失も利益も生じない売上高です。では、目標とする利益を上げるには、どれだけの売上高が必要になるのでしょうか。

限界利益は、固定費の回収を終えた後、利益を生み出します。損益分岐点というハードルを越せば利益が見込めます。目標利益売上高を達成するには、限界利益が固定費を回収した後、目標とする利益を生み出す必要があります。従って、目標利益売上高は次式で算出することができます。

  • 目標利益売上高=(固定費+目標利益)/限界利益率

例えば、固定費が1000万円、変動費率が70%で、目標利益を500万円とした場合、目標利益売上高は次のように算出できます。

  • 目標利益売上高=(1000万円+500万円)/(1-70%)=1500万円/30%=5000万円

2)安全余裕率

実際の売上高と損益分岐点売上高の関係から、企業経営の安全性を示す安全余裕率を算出することができます。

これは事業がどの程度売上高を減少させると赤字に陥るかを表す比率です。

安全余裕率は次式で算出することができます。

  • 安全余裕率=(実際の売上高-損益分岐点売上高)/実際の売上高

固定費が1000万円、変動費率が70%、売上高が5000万円の場合の安全余裕率を算出すると次式の通りです。

  • 損益分岐点売上高
  • =固定費/限界利益率=1000万円/(1-70%)=1000万円/30%=3333万円
  • 安全余裕率
  • =(5000万円-3333万円)/5000万円=33.34%

安全余裕率が高ければ、経営の安全性が高いことになります。

3 損益分岐点の特徴と利益確保への対応

1)損益分岐点の特徴

損益分岐点は、固定費を小さく、変動費を大きくすると下がり、逆に、固定費を大きく、変動費を小さくすると高くなる傾向にあります。変動費と固定費の違いによる損益分岐点への影響は次の通りです。

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例えば、固定費1000万円、変動費率50%のAケースと、固定費2000万円、変動費率25%のBケースを比較すると次の通りです。

  • Aケースの損益分岐点売上高=1000万円/(1-50%)=2000万円
  • Bケースの損益分岐点売上高=2000万円/(1-25%)=2667万円

Bケースの損益分岐点売上高はAケースよりも667万円(2667万円-2000万円)高くなります。損益分岐点売上高だけを比較すると、変動費を大きく、固定費を小さくしたほうが経営の安全性が高まるといえます。

ところで、売上高が損益分岐点を上回っている場合、限界利益が固定費の回収を完了すると、限界利益率が高いほうがより大きな利益を得ることができます。

変動費と固定費の違いによる損益分岐点の位置と利益の関係は次の通りです。

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変動費が小さいと、その分変動費線の傾きが小さくなります。限界利益が大きいほど、売上高が損益分岐点を超えてからの利益が大きくなります。ここで、売上高が5000万円であった場合のAケースとBケースの利益を比較すると次の通りです。

  • Aケースの利益
  • =売上高-変動費-固定費=5000万円-5000万円×50%-1000万円=1500万円
  • Bケースの利益
  • =売上高-変動費-固定費=5000万円-5000万円×25%-2000万円=1750万円

固定費が大きく変動費が小さいBケースのほうが、利益で250万円(1750万円-1500万円)上回ります。

2)利益確保への対応

1.限界利益を確保する

商品の価格を上下させたときに、その商品の需要量がどれだけ左右されるかを考える基準として、価格弾力性という数値があります。

耐久消費財など価格弾力性が高い商品の場合、販売単価を上げると販売数量が大きく減少し、販売単価を下げると販売数量が大きく増加する傾向にあります。従って、販売単価は下がっても販売数量が大きく増加するため、売上高の増加や利益の増加につながるケースがあります。  

生活必需品など価格弾力性が低い商品の場合、販売単価を下げても販売数量の増加は小幅にとどまり、販売単価を上げても販売数量の減少は小幅にとどまる傾向にあります。販売単価を上げても、価格上昇割合に対する販売数量の減少の幅が小さいため、売上高の増加につながるケースがあります。生活に最低限必要とされる消費項目については、「値上がりしたから消費を控える」というわけにはいきません。例えば、水道光熱費、通信費や食費などはその好例です。

価格弾力性の高い商品であっても、販売価格を下げると販売数量は増えるものの、限界利益が小さくなり過ぎてしまうと、利益なき繁忙に陥る危険があります。そのため、固定費を吸収して利益を生み出すための限界利益(率)を確保しておかなければなりません。販売価格を下げる場合、仕入原価・製造原価を下げるなどの対策も必要です。

また、原材料価格が高騰した場合、メーカーでは販売価格を上げたいところです。しかし、消費者を意識した場合、値上げは難しいものです。販売価格はそのままで、商品の内容量を少なくすることで原材料費(変動費)を減らして、限界利益を確保するといったことも行われています。

2.固定費にすべきか変動費にすべきか

利益確保の観点からすると、製品製造・部品製造を外注するか内製するかの検討も重要です。損益分岐点は、変動費を上げて固定費を下げると損益分岐点売上高は下がり、変動費を下げて固定費を上げると損益分岐点売上高は上がる特徴があります。

この損益分岐点の特徴を考慮すると、好況のときや製品市場のライフサイクルが成長期にあるときは、製品やそれに付随する部品を内製化するなどして、変動費を小さく、固定費を大きくしたほうが、多くの利益を見込むことができます。逆に、不況のときや製品市場のライフサイクルが成熟期から衰退期にあるときは、製品やそれに付随する部品を外注するなどして、固定費を小さく、変動費を大きくすると、販売数量の急激な落ち込みにも対応しやすくなります。

以上(2020年5月)

pj35081
画像:pixabay

ショートステイ市場の動向

書いてあること

  • 主な読者:ショートステイの概要、ビジネスチャンスを探りたい経営者
  • 課題:サービス内容、需要動向が分からない
  • 解決策:高齢化に伴う要介護者数の増加などから、需要が上がると見られている。今後、事業者の参入活性化によって、居宅介護の中心的役割を担うことが期待されている

1 ショートステイの概要

1)ショートステイとは

ショートステイ(短期入所生活介護・短期入所療養介護)とは、「指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」(以下「基準」)によると、それぞれ次の要件を満たした介護サービスです。

1.短期入所生活介護

特別養護老人ホームなどの施設で短期間、生活してもらい、その施設で行われる、入浴、排せつ、食事等の介護、その他の日常生活を送る上で必要となるサービスおよび機能訓練をいいます。

要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話及び機能訓練を行うことにより、利用者の心身の機能の維持並びに利用者の家族の身体的及び精神的負担の軽減を図るものでなければなりません(基準第120条)。

2.短期入所療養介護

介護老人保健施設などの施設で短期間、生活してもらい、その施設で行われる、看護、医学的な管理の必要となる介護や機能訓練、その他必要となる医療、日常生活上のサービスをいいます。

要介護状態となった場合においても、その利用者が可能な限りその居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことにより、療養生活の質の向上及び利用者の家族の身体的及び精神的負担の軽減を図るものでなければなりません(基準第141条)。

短期入所生活介護および短期入所療養介護は、介護保険制度に基づき「介護給付(要介護1~要介護5)」によって給付が行われます。

なお、予防給付によるサービス「介護予防短期入所生活介護」「介護予防短期入所療養介護」は、「指定介護予防サービス等の事業の人員、設備及び運営並びに指定介護予防サービス等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準」に定められています。

2)ショートステイのサービス概要

ショートステイのサービスは、介護保険の給付対象となります。

特別養護老人ホームなど福祉系の施設におけるサービスが「生活介護」で、介護療養型医療施設などの医療系の施設や介護老人保健施設における医療系のサービスが「療養介護」となります。

ショートステイで行われるサービスは、食事・入浴・排せつ介助・機能訓練・生活相談などで、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)や介護老人保健施設などの施設入所者に対して行われるサービスとほとんど変わりません。いずれも目的は、「利用者の介護」と「利用者の家族を日々の介護から解放してリフレッシュしてもらうこと」とされています。

3)ホテルコスト(居住費および食費)は利用者負担

ホテルコストとは、「居住費(滞在費:家賃・光熱費)」と「食費」を指し、ショートステイを含め施設系・入所系のサービスにおいては利用者負担となっています。ホテルコストの概要は次の通りです。

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居住費(滞在費)は次の4つに分けられ、それぞれ利用額が異なります。

  • ユニット型個室:リビング(共同生活室)を併設した個室
  • ユニット型準個室:リビング(共同生活室)を併設した、固定壁だが天井との隙間がある個室
  • 従来型個室:リビングを併設しない個室
  • 多床室:定員4人以下の部屋

原則、ショートステイを利用した場合の居住費や食費の金額は、利用者と施設との契約によります。ただし、市町村民税非課税世帯などの利用者の場合は、申請により負担限度額が適用され、負担が軽減されます。

4)介護報酬

多くの種類があるショートステイの基本報酬のうち、その一部を紹介します。

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2 ショートステイ市場の現状と今後

1)ショートステイの事業所数

ショートステイ事業所数の推移は次の通りです。

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2017年度は、介護予防短期入所生活介護、介護予防短期入所療養介護(老健)、短期入所生活介護を行う事業所数が増加しています。

2)ショートステイに対する介護報酬支払状況

ショートステイサービスにおける介護費の推移は次の通りです。

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2017年度のショートステイサービスにおける介護費は増加している一方、短期入所療養介護(病院等)は、介護療養型医療施設の他施設への転換などを背景に減少傾向にあります。

3)民間企業の参入の必要性と今後

厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」によると、ショートステイの運営主体別事業所数(2016年10月1日時点)は次の通りです。

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ショートステイの運営主体のうち、企業の占める割合はそれほど高くありません。これは、もともとショートステイ事業が社会福祉法人が運営する介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)内、または介護老人保健施設内でのサービスという枠内で設定されていたので、企業やNPOなどがショートステイ専門の施設を作ろうとしても採算を取るのが難しいためだと考えられます。今後は、企業の参入によって利用しやすいショートステイが増加していくことが期待されています。

4)ショートステイの見通し

ショートステイは介護者の身体的・精神的負担を軽減させるためにも必要不可欠なサービスであることから、今後、ショートステイへの需要はますます高まることが予想されます。その要因としては次が挙げられます。

  • 高齢化に伴う要介護者数の増加
  • 介護老人福祉施設の入所待ち利用者による「つなぎ」としての需要

ショートステイは需要のあるサービスであり、事業者の参入活性化によって、今後の居宅介護の中心的役割を担っていくことが期待されます。

以上(2018年10月)

pj50207
画像:GagliardiPhotography-shutterstock

グリーン経営認証制度の概要と中小運輸事業者による取得メリット

書いてあること

  • 主な読者:グリーン経営認証制度の取得を検討する経営者
  • 課題:取得による効果、取得までの流れ、取得にかかるコストが分からない
  • 解決策:取得に際し、自社の環境改善に向けた取り組みを洗い出し、認証基準を満たす改善策を打ち出すことが先決

1 グリーン経営認証制度とは

環境負荷の少ない事業運営を「グリーン経営」といいます。国土交通省では、「環境行動計画」を策定し、環境貢献型経営(グリーン経営)を促進しています。運輸業界においては、中小規模の事業者でも環境改善に向けた自主的で継続的な活動を行うことが求められています。

グリーン経営認証は、トラック事業者、バス事業者、タクシー事業者、旅客船事業者、内航海運事業者、港湾運送事業者、倉庫事業者を対象として、交通エコロジー・モビリティ財団(以下「交通エコモ財団」)が認証機関となり、グリーン経営推進マニュアルに基づいて、一定のレベル以上の取り組みを行っている事業者に対して、審査の上、認証・登録を行うものです。

グリーン経営推進マニュアルは、環境マネジメントシステムに関する国際規格であるISO14000シリーズに基づいて作成されたもので、同マニュアルに従うことで、中小規模の事業者でも環境改善に向けた取り組みの目標設定とその評価が容易になります。

環境負荷の低減に関して第三者機関が取り組みを審査・認証するという点で、グリーン経営認証制度は、環境マネジメントシステムに関する国際規格「ISO14001」と似ていますが、実際は異なります。

ISO14001は環境改善を図るための組織体制や書類の整備といったマネジメントシステムの適合性を審査するものですが、グリーン経営認証制度は、環境改善の取り組み結果(環境パフォーマンス)を審査するものです。また、グリーン経営認証制度では、認証後のレベルアップを図るため、認証機関である交通エコモ財団が指導・助言も実施します(ISO14001では認証機関による指導・助言は禁止されています)。

中小規模の事業者はコスト的・人的な問題からISO14001の認証を取得しにくいのが現状です。グリーン経営認証制度はこうした点を考慮した制度であり、中小規模の事業者でも取り組みやすいようにコストや手続きの面で配慮されています。

■交通エコロジー・モビリティ財団「グリーン経営認証制度」■
https://www.green-m.jp/

2 グリーン経営の認証取得までの基本的な流れ

グリーン経営の認証取得までの基本的な流れは次の通りです。

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本稿では、トラック事業者に注目し、グリーン経営認証を取得するまでの主なポイントを紹介していきます(基本的に、トラック・バス・タクシーなど輸送モードによる手続きの大きな違いはありません)。

1)申請書などの入手

まずは、申請書とともに自社の取り組み状況のチェックリスト(以下「チェックリスト」)やグリーン経営推進マニュアル(以下「マニュアル」)を入手することから始まります。チェックリストは、トラック事業者がグリーン経営認証を取得できる状態にあるかを確認するための重要な書類です。マニュアルには、トラック事業者が環境負荷低減を推進するために重要な「グリーン経営の意義や進め方」などが記載されています。

いずれも、交通エコモ財団のウェブサイトからダウンロードすることができます。

2)チェックの実施と改善の取り組み

トラック事業者は、交通エコモ財団のチェックリストを使って、自社の環境負荷低減の取り組みを確認します。

チェックリストは、環境保全やエコドライブなどに関するチェック項目があり、全てYesかNoで回答できるようになっています。各チェック項目はレベル1~3の3段階に分かれていて、レベル3で要求される活動が最も高度です。

なお、チェック項目の中で特定のレベルが網掛けになっているものがあります。網掛けは、認証基準と連動しており、網掛けのレベルに到達していなければグリーン経営認証を取得することはできません。

トラック事業者向けのチェックリスト(一部抜粋)は次の通りです。

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チェックの結果、認証基準に到達し、認証基準の解説にある資料が整備されていれば、交通エコモ財団にグリーン経営認証の審査を申請できます。認証基準に到達していない場合には、認証基準を満たすよう改善の取り組みを行います。

3)認証審査申請

交通エコモ財団にグリーン経営の認証審査を申請します。申請の際は、次の書類に必要事項を記入して交通エコモ財団に郵送します。なお、次の書類は、全て交通エコモ財団のウェブサイトからダウンロードすることができます。

  • 認証審査申請書
  • 審査登録対象事業所一覧表
  • (注)認証登録連盟事業者一覧表(ただし、旅客船事業者、内航海運事業者、港湾運送事業者、倉庫事業者のみ)

  • 審査申請用チェックリスト記入用紙

4)実地審査と是正処置

審査員(交通エコモ財団のスタッフなど)が、実際にグリーン経営の認証を申請したトラック事業者を訪問して、その活動を審査します。審査に要する時間の目安は、1つの事業所(事業者ではありません)につき4~5時間程度です。

仮に、認証基準に達しない不適合事項が発見された場合、トラック事業者は「是正処置」として、60日以内に不適合事項を是正して交通エコモ財団に報告します。

5)審査結果の判定と認証・登録

審査員が作成した「実地審査報告書」に基づき、交通エコモ財団が判定します。交通エコモ財団が、認証基準の全てを満たしていると判断した場合、トラック事業者はグリーン経営の認証を取得することができます。

グリーン経営の認証を取得するトラック事業者は、交通エコモ財団に審査料などの費用を支払わなければなりません(審査料などの詳細は後述します)。

こうしてグリーン経営の認証を取得したトラック事業者は、環境に優しいトラック事業者として登録され、交通エコモ財団のウェブサイトで事業者名が公表されます。

6)定期審査

定期審査は、新規登録日または更新登録日から1年目に実施されます。トラック事業者は、チェックリストおよび関連書類を交通エコモ財団に提出し、書類審査を受けます。

7)更新審査

更新審査は2年ごとに実施されます(定期審査の1年後)。グリーン経営の認証の有効期間は2年間なので、更新審査を受けなければグリーン経営認証を維持することができません。更新審査では、トラック事業者は新規取得の際と同様の実地審査を受けます。

3 グリーン経営の認証取得などに必要な費用

グリーン経営の認証取得などに必要な費用は次の通りです。トラック事業者は、新規登録時、および2年ごとの更新時に表の金額を一括して支払うこととなります(表中の交通費以外は消費税別です)。また、2年ごとの更新の間の1年は書類審査が行われます。

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4 グリーン経営の認証を取得することの効果

1)グリーン経営認証の登録件数

交通エコモ財団ウェブサイト公表資料によると、業種別のグリーン経営認証登録事業所数(2018年9月1日時点)は次の通りです。

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2)グリーン経営の認証取得の効果

トラック事業者などの運輸事業者がグリーン経営の認証を取得する(登録を受ける)メリットには、次の点が挙げられます。

  • 交通エコモ財団のウェブサイトなどで事業者名が公表される
  • 登録証、ロゴマークが交付され、車両に貼り付けるなど自由に使える
  • 交通エコモ財団から環境保全活動に関する情報提供や指導、助言が受けられる

また、交通エコモ財団が2018年4月に発表した「グリーン経営認証取得による効果(トラック、バス、タクシー、倉庫、港湾運送)-平成28年度版-」によると、運輸事業者は、グリーン経営の認証取得によって、「燃費の向上」「電気/燃料使用量削減」「職場モラルの向上」「お客様からの評価の向上/取引上の優遇」「リーダー層の人材育成」「交通事故件数の減少」「車両故障件数の減少」など、さまざまなメリットを感じているようです。

■グリーン経営認証取得による効果(トラック、バス、タクシー、倉庫、港湾運送、旅客船、内航海運)-平成28年版-■
http://www.green-m.jp/greenmanagement/result.html

3)運輸事業者がグリーン経営の認証を取得することの意義

運輸業界には「環境・安全」が一層強く求められており、荷主・一般消費者は、「環境・安全」に悪影響を及ぼしてはならないとの意識を強めています。

激化する競争の中、今後、勝ち残る事業者となるためには、「環境・安全」への取り組みがさらに重要となるという意識を持たなければなりません。その際、グリーン経営認証取得は、「環境・安全」への取り組みを進める上で1つのきっかけとなるでしょう。

なお、自治体や都道府県トラック協会の中には、グリーン経営認証料金の助成制度を実施しているところがあり、また、金融機関などの低金利融資制度・保険料割引制度もあるので、確認してみるとよいでしょう。

以上(2018年10月)

pj50208
画像:pexels