【朝礼】「気が緩んでいるから風邪を引く」と言われてしまう理由

まだ20代だった頃の話です。私には大事な商談の前日に風邪を引いて高熱を出し、商談を欠席してしまったという苦い経験があります。そのとき、当時の上司から言われたのは、「気が緩んでいるから風邪を引くのだ!」という厳しい言葉でした。気の緩みと風邪を引くことに因果関係はありませんから、私は「精神論を言われても困る。私だって風邪を引きたくはない!」と、上司に腹を立てたことを覚えています。

しかし、今ではその上司の気持ちが分かる気がします。上司は、文字通り「気を引き締めれば風邪など引かない」ということを伝えたかったのではありません。商談に対する私の真剣さや準備が足りないことを不満に感じており、その感情がそのような言葉として表れたのだと思うのです。

実際、その商談に向けた私の準備は不十分でした。資料の仕上がりはスケジュールギリギリで、商談シナリオも練り込まれていませんでした。その結果、私の代わりに商談を託された同僚には、大変な迷惑を掛けてしまいました。「気が緩んでいるから風邪を引く」という上司の言葉は乱暴ですが、そもそもの問題は、私の仕事に対する姿勢にあったのです。

あることをきっかけに、本音が口をついて出ることがあります。心の中で2人の人物をイメージしてみてください。1人は仕事を頑張っていて、時間もきっちりと守る人。もう1人は仕事に対してやる気がなく、時間にもルーズな人です。

遅くまで続いた飲み会の翌日、この2人がそろって遅刻をしたら、皆さんはどのように感じますか? 前者のしっかりした人については、「昨日、飲み過ぎて体調を崩したのかな? それとも別の理由があったのかな?」などと心配するかもしれません。一方、後者のダメな人については、「飲み会の次の日に寝坊するなんて……。私だって眠いのに」などと腹を立てるかもしれません。2人とも遅刻をしているのに、日ごろの行い次第で、これほどまでに印象が違ってしまうのです。

ありがたいことに、私はビジネスのタフな交渉の場面で、相手から「○○さんがそこまで言うのだから信じます」と言ってもらえる経験を何度かしています。これは、日ごろから当社が真摯な姿勢で相手に接しているからだと思いますし、そうした対応をしてくれる皆さんには心から感謝しています。しかし、仮に、当社の姿勢が不誠実であれば、相手は決して「信じます」とは言ってくれないでしょう。逆に「もっとこちらに配慮してください」などと苦情を言われるかもしれません。

日ごろの行いの積み重ねが、いざというときに大きな差となります。そして、悪い行いを積み重ねてしまえば、後からマイナスを取り戻すことは本当に難しくなります。そうならないために心がけるべきは、謙虚な姿勢で、真摯に相手と向き合うことです。その姿勢が相手に伝われば、皆さんへの好感が生まれ、ビジネスが進めやすくなるのです。

以上(2020年3月)

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画像:Mariko Mitsuda

戦国武将・偉人に学ぶ部下育成術

書いてあること

  • 主な読者:部下に「前向きに仕事に取り組んでほしい」「成長してほしい」と願う管理職
  • 課題:自分と考え方や性格が違う部下のやる気を、どうやって引き出せばよいか分からない
  • 解決策:「部下の本質を評価する」「まず自分が手本を示す」などの取り組みによって大業を成し遂げた戦国武将・偉人のエピソードから、部下育成のノウハウを学ぶ

1 武田信玄に学ぶ「部下を思いやり、その本質を見抜く」術

1)武田信玄のエピソード

武田信玄(たけだしんげん。本名は武田晴信(たけだはるのぶ))は、甲斐国(現山梨県)の武将です。

信玄が生まれた当時、甲斐国ではさまざまな勢力が乱立し、争いを続けていましたが、信玄の父・武田信虎(たけだのぶとら)が、これらの勢力を破り、甲斐国を統一しました。しかし、家臣の言葉に耳を貸さず専制的な政治を行う、戦費の調達のために領民に重税を課すなどの行動を問題視され、信虎は甲斐国を追放されてしまいます。

信虎の跡を継いだ信玄は、信虎とは対照的に、生涯を通じて家臣や領民を大切にしたといわれます。信玄が残した有名な言葉に、「人は城、人は石垣、人は堀、情は味方、あだは敵なり」というものがあります。

「合戦において、たとえどんなに城・石垣・堀などの守りを固めても、家臣や領民などの人心が離れてしまったら敗北は確実である。勝敗を決するのは、結局は人である。人は、用い方によっては城・石垣・堀など、合戦の際に重要なものにも成り得る」という意味です。

信玄は日ごろから家臣を大切にし、正しく評価することに努めました。そして、行政や軍事を効果的に運用するべく強固な組織をつくり上げ、合議制を採用して家臣の意見を積極的に取り入れました。

また、信玄は一軍の将でありながら、家臣たちとくつろいだ雰囲気で座談を行うことを好んだといいます。その際、信玄は自身がこれまでの経験から学んだ知恵などを家臣に説いたり、逆に家臣の意見に耳を傾けたりしました。このような場を通じて信玄の肉声に触れることで、家臣はさらに武田家に対する帰属意識を高めていったのです。

戦国時代、武田家の家臣は、その高い戦闘力と強い団結力から「武田軍団」として他国の武将たちから恐れられました。信玄の巧みな手腕が、武田家の家臣を強力にまとめ上げ、最強集団としての武田軍団をつくり上げたといえるでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

信玄は、家臣を見た目や表面上の言葉などではなく、本質をもって評価しました。例えば、万事において遠慮深い家臣は、合戦では「臆病者」と見られやすいものですが、信玄はこうした家臣を「思慮深い」と判断しました。「思慮深い者は常にあらゆることに対して慎重であるため、万全の態勢を整えて事に臨むだろう」と考えるのです。

このため、家臣は「信玄の下にいれば、外面ではなく本質を見抜いて判断してもらえる」と考えて発奮し、組織はより一層活性化することとなりました。後に、信玄は「人を使うのではなく、業(わざ:才能の意味)を使う」という内容の言葉を残しています。

部下の持つ長所を見抜いてそれを活用することで、部下の自発的なやる気を促し、組織のパフォーマンスを最大限に高めることができるのです。

2 織田信長に学ぶ「正当な評価によって部下のモチベーションを高める」術

1)織田信長のエピソード

織田信長(おだのぶなが)は、尾張国(現愛知県)の武将です。

織田家にはいくつかの流れがあり、信長が生まれた織田家は主流ではありませんでした。しかし、信長の父親である織田信秀(おだのぶひで)の代に大きく勢力を伸ばして織田家の主流となりました。

信秀の跡を継いだ信長は、尾張国を統一し、さらに強大な力を誇っていた駿河国・遠江国(ともに現静岡県)の今川義元(いまがわよしもと)を破り、東海道の勢力図を大きく塗り替えました。

信長が織田家を継いだ後、織田家は急速に勢力を拡大していったため、優れた人材の確保が急務となりました。信長は、家臣が優秀であると思った際には、家柄や過去の実績に関係なく登用しました。これは、家柄や過去の実績が重視されていた当時としては、画期的な人材登用でした。

特に代表的な存在は、豊臣秀吉(とよとみひでよし)でしょう。信長は、秀吉の「人心掌握に非常に長けている」という才能を見抜き、次々と重要な役職に抜てきしました。

秀吉は、その才能を遺憾なく発揮して織田家の勢力拡大に大きく貢献し、さらに信長亡き後は、天下統一を実現します。

元来は貧しい身分であったとされる秀吉が天下人にまで成長できたのには、信長の大胆かつ柔軟な人材登用が少なからず関係しているといえるでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

信長は、徹底した能力主義者であったといいます。このため、たとえ長年仕えてきた功臣であっても、能力がないと判断すれば、ためらわずにその任を解いたとされます。

例えば、若い頃から信長に仕え、数々の武勲を挙げてきた佐久間信盛(さくまのぶもり)は、後年、合戦における消極的な働きを叱責されて信長の下から追放されています。信長が「苛烈で家臣に対して厳しい」という印象を持たれやすいのは、こうしたエピソードがあるからかもしれません。

一方で、家柄や過去の実績などにとらわれず、家臣の能力を正しく評価しようとする信長の姿勢は見習うべきところがあります。家臣は信長の期待に応えようと努力し、努力が正しく評価されることで、さらにモチベーションが高まり、より一層仕事に励むことになるからです。

上司による正当な評価こそが、部下の、ひいては組織全体のモチベーションを高めるといえるでしょう。

3 黒田官兵衛に学ぶ「部下の意見を尊重する」術

1)黒田官兵衛のエピソード

黒田官兵衛(くろだかんべえ。本名は黒田孝高(くろだよしたか))は、播磨国(現兵庫県)の武将です。

官兵衛の生家である黒田家は、播磨国の大名・小寺家の家老でした。しかし、後に織田信長が畿内に勢力を拡大してくると、官兵衛はその将来性を確信し、信長に仕えるようになります。そこで秀吉と出会った官兵衛は、秀吉の参謀的な存在となり活躍します。

やがて、本能寺の変によって信長が明智光秀(あけちみつひで)に討たれると、官兵衛は、秀吉に「信長のあだを討つことで織田政権の後継者となり、天下統一を果たす」ことを進言するなど、秀吉の天下取りを支えました。

官兵衛は知将として知られ、官兵衛自身もその知謀を誇ったことがありました。しかし、あるとき中国地方の武将・小早川隆景(こばやかわたかかげ)から、官兵衛は鋭い頭脳を持つが故、独善的な決断を下してしまう恐れがあると忠告されました。

これ以降、官兵衛は周囲の意見に耳を傾けるよう努めたといいます。周囲の意見に耳を傾け、多面的な視点から問題を捉えることができたからこそ、官兵衛は軍師として、多数の家臣を率いる武将として、後世に名を残す功績を収めることができたのでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

官兵衛は、家臣の意見を尊重しただけでなく、各家臣の性格を把握し、それらをうまく組み合わせることで家中をまとめました。それは、官兵衛が「組織においては、各人が協力し合うことで、より大きな力が発揮できる」ということを理解していたからです。

このため、家臣の交遊関係を調べ「誰と誰とは性格的に合う」「誰と誰とは性格的に合わない」といったことまで勘案し、性格の合う家臣同士を組み合わせて仕事に当たらせたといいます。

このように、官兵衛は家臣に対しても細やかな配慮を欠かさず、それぞれの意見を尊重しました。自由な意見交換の場を設けることで、家臣は身分や役職に関係なく、活発に意見交換を行い、自身の頭で物事を考えるようになりました。

ただし、あくまでも最終的な決断は自身の責任の下に自身が行いました。官兵衛は、「決断はあくまでトップの仕事である」ということを認識しており、家臣の意見は尊重するものの、決断は自身が行い、決断に対する責任も自身が負う覚悟をしていました。

さまざまな意見を受け入れる柔軟性、そして決断の責任に対する上司の自覚が部下を大きく育てるのです。

4 上杉鷹山に学ぶ「自らが部下の手本となる」術

1)上杉鷹山のエピソード

上杉鷹山(うえすぎようざん。本名は上杉治憲(うえすぎはるのり))は、出羽国米沢(現山形県米沢市)の大名です。

上杉謙信(うえすぎけんしん)の活躍で有名な上杉家は、秀吉の時代には陸奥国会津(現福島県会津地方)を中心とする石高120万石を治める大大名でしたが、後に徳川家康(とくがわいえやす)と敵対して米沢藩に移され、その後、石高を15万石にまで減らされてしまいます。しかも大藩であった頃とほぼ同じ数の家臣を養っていたため、膨大な借金を抱えてしまいます。

こうした中、九州の高鍋藩(現宮崎県)から養子として米沢藩に迎えられた鷹山は、藩の財政を改革するべく自身の食事を質素なものとし、年間行事の中止や贈答の禁止を行うなど倹約に努めました。また自ら鍬(くわ)を取り、家臣にも田畑の開墾に当たらせました。鷹山は、自身が率先して取り組むことで、藩全体に改革の精神を広げようとしたのです。

しかし、保守的な家臣たちの反対や飢饉(ききん)による損害などにより改革は頓挫し、鷹山は藩主の座を退くことを余儀なくされました。その後も、米沢藩の財政は悪化の一途をたどり家臣が農民から不正に多くの年貢を徴収する、厳しい生活に耐えられなくなった農民が他国へ逃げ出すといった問題が起きました。

こうした状況を憂慮した鷹山は、隠居の身でありながら再び改革に着手することを決意します。そして、かつて性急に改革を進めようとして挫折した経緯を省みて、まずは家臣に藩の財政状況を公開し、危機を実感させることに努めました。

その後、武士だけでなく、農民や町人からも財政再建に関する意見を広く求め、集まった意見について検討を重ねた結果、産業の振興に力を入れるべく、藩全体で養蚕による生糸の生産に取り組むことを決定しました。さらに、藩内で以前から栽培されていた紅花で生糸を染めて織物を織り、藩外に販売することを考案しました。

これらの織物は「米沢織」と呼ばれ、米沢藩の名産品となって家臣の暮らしを支えることとなります。その後、米沢藩の財政は徐々に回復に向かい、鷹山の逝去後には、ついに借金のほとんどを返済することができたといいます。鷹山の現実を直視し、打開策を探り、自ら率先実行する姿勢が、家臣や領民を引き付けた結果といえるでしょう。

2)部下のやる気を引き出す術、気持ちを引き付ける術

厳しい状況に陥った藩の財政を立て直すに当たり、鷹山は、藩主の地位にありながら、自身が率先して質素な暮らしを心掛けました。家臣や領民に苦しい倹約を依頼するに当たり、まず自身が模範になろうとしたのです。

かつては120万石という大藩であった上杉家の家臣の中には、九州の小藩から養子に入った若い鷹山が進める改革を不満に思う者も少なくありませんでした。

こうした反発の中、鷹山は懸命に改革の必要性を説き、先頭に立って厳しい改革に取り組みました。このような鷹山の姿勢を目にし、当初は改革に協力的でなかった家臣の一部も次第に心を開き、その結果、藩の家臣や領民たち全員が一丸となって再建に取り組むようになりました。後に、鷹山は「してみせて、いってきかせて、させてみる」という言葉を残しています。

何かに取り組む際には、まず自身が身をもって部下に示し、指導した後に実際に挑戦させてみるという、上司の真摯かつ愛情に満ちた姿勢が、部下の心に火をともすといえるでしょう。

5 部下を1人の人間として尊重することの大切さ

戦国武将・偉人の家臣に対する姿勢にはいくつかの類型が見られます。しかし、そのいずれにも共通しているのは、「家臣を1人の人間として尊重していること」でしょう。

上司は、リーダーであると同時に、部下と同じ組織の一員でもあります。同じチームのメンバーとして、部下に対して真摯に向き合い、部下を導く姿勢こそが部下を大きく育て、強い組織づくりにつながるのです。

以上(2020年3月)

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画像:pixabay

第15回 アジアトップのイノベーションハブ シンガポールの取り組みとは?/イノベーションフォレスト(イノベーションの森)

スタートアップ企業の輩出や既存企業のアジア進出の拠点として注目を集めているシンガポール共和国。面積は東京23区よりやや大きい720平方キロメートルほどにも関わらず、アジアトップのイノベーションハブとして君臨しています。私自身も、シンガポールには約10年前より注目しており、当時からイノベーションを起こしている仲間たちに会うために度々訪れています。当時からイノベーターのキープレーヤーは、アメリカや欧州からの留学帰りのシンガポール人エグゼクティブたちが中心となっていましたが、ここ数年は、海外からシンガポールに移住した起業家たちもスタートアップを起こすようになってきています。

今回は、羽田空港から約7時間30分、関西国際空港から約7時間、福岡空港から約6時間30分、それぞれ直行便で行き来することができる、交通の便の良さも魅力的なシンガポールが、なぜアジアトップのイノベーションハブとなったのか、その取り組みや強みについてお伝えします。シンガポールの強みを知ることで、日本の各地方都市でも活かせることがあると思います。

1 シンガポールの基本情報

  • 人口(2019年1月時点)
    約564万人(中国系74%、マレー系14%、インド系9%、その他)
  • 言語
    英語、中国語、マレー語、タミル語など
  • 通貨
    シンガポール・ドル
  • 1人当たりの名目GDP(2018年・IMF)
    64,579(単位:USドル)で世界8位(日本は26位)
  • 対日貿易(2018年・財務省統計)
    輸出入ともに、電子機器・電子部品が主要品目
    輸出1,075、輸入2,584(単位:十億円)
  • 直接投資(2018年・JETRO)
    シンガポール→日本:-296、日本→シンガポール:15,909(単位:百万ドル)
  • 日系企業数(2018年12月)
    825社

2 イノベーション推進のための取り組み

シンガポール政府は積極的にイノベーションを推進してきました。その中から、2つの取り組みをご紹介します。

1)新成長戦略

2017年2月より5年から10年先の経済ビジョンを示す「新成長戦略」を刷新し、年2~3%のGDP成長率達成に向け、業界ごとに特化した労働生産性向上の取り組みを策定し、国を挙げてイノベーションを振興してきました。

新成長戦略 目標達成のための7つの戦略

  • 23業種の産業変革マップ(ITM、2017年度末までに公表済)の策定と導入
  • 国際関係の深化と多角化
  • 労働者の継続的な技術習得とその活用の強化
  • 企業のイノベーション振興と事業拡大の促進
  • デジタル技術能力の強化
  • 都市の活性化とコネクティビティの強化
  • イノベーションのためのパートナーシップ構築の促進

この他にも、ハイテク技術分野の地元起業家の育成や海外起業家の誘致を目指し、起業家向けのインセンティブや、スタートアップ向けの安価なオフィススペースとして公営「JTCロンチパッド@ワンノース」や、スタートアップ支援機関ACE(後述)などを設置し、起業活動を盛り上げています。

2)スタートアップ支援機関ACE(Action Community for Entrepreneurship)

シンガポール政府機関管轄のスタートアップ支援機関で、ビジネスマッチングなどの支援やインキュベーション施設の運営なども行っています。日本との繋がりも深めており、福岡市やオープンイノベーションに取り組む日本企業約70社で組織するイノベーションテックコンソーシアムともMOUを締結しています。

2019年10月には、ACEとVISITS Technologies株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長:松本勝氏)によるコラボレーションのもと、「シンガポール・ジャパンナイト」をVISITS社のオフィスにて開催し、シンガポールから来日したスタートアップ5社と日本の大企業のマッチングが行われました。私もお招き頂きましたが、両国にとって素晴らしい交流となっていました。

Edmas Neo氏との画像です

また、民間主導の取り組みとして、安価なコワーキングスペースの設置、起業初期段階を支援するアクセラレーターの運営、スタートアップ向けのイベントの開催など、起業活動を支えるエコシステムの整備が進んでいます。

これらの影響を受け、ハイテク分野のスタートアップ数は推定5,000社まで増加しており、年々増加傾向にあることから、今後も増えると予測されています。

また、日系を含め主要な外資ベンチャーファンド(VC)も拠点を設置しています。ベンチャーキャピタルの数も約70社あるシンガポールの投資事情について、エンタープライズ・シンガポール(シンガポール企業庁)、リージョナル・グループディレクター(日本・韓国)のSean Ong氏に伺いました。

Sean Ong氏との画像です

    「シンガポールへのベンチャー投資は、景気の減速の中で成長を続けています。エンタープライズ・シンガポールは、特にアーリーステージのディープテックスタートアップへの投資を積極的に検討しています。

    現在伸びている分野は大きく分けて、高度な製造業、都市ソリューションと持続可能性、ヘルスケアと生物医学の3つの分野です。これらへの投資は、2019年1月から9月までに76件の取引があり、333.8億シンガポール・ドルから416.4億シンガポール・ドルへ25%成長しました。

    同時期の総合取引件数は437件、総額は13.6兆シンガポール・ドルの投資になり、前年比で36%の成長を記録しました」

3 シンガポールとの協業

積極的に海外企業などを誘致し、日系を含め主要な外資ベンチャーファンド(VC)約70社が拠点を設置するようになり、アジア進出の拠点となったシンガポール。日系企業からの注目も熱く、JETRO(Japan External Trade Organization・日本貿易振興機構)の調査ではシンガポールのスタートアップと連携済の企業が31社、連携予定の企業が15社、連携への意欲・関心がある企業はなんと155社にのぼりました。シンガポールのスタートアップと連携することでASEAN全体をターゲットとしてビジネス展開することができるメリットは大きいといえます。

連携後のデジタル技術の活用状況にも変化が起きています。シンガポールでの現地ビジネスでデジタル技術を活用していると答えた企業は、2018年の55.4%から2019年の65.1%と約10ポイントもアップしており、特にクラウドやビッグデータ、RPAの活用が多く見られました。また、5~10年後に活用を検討している技術としては、IoT、人工知能(AI)、ビッグデータが挙げられています。中でも、人工知能(AI)の活用を検討している割合が最も高くなっています。

なお、人工知能(AI)の活用を検討していると回答した企業には、卸売・小売業や通信・ソフトウェア業、旅行・娯楽業、事業関連サービスなどがあり、これらの業種で活用が増加する見込みです(シンガポールに進出している企業以外も含む。全体の回答)。しかし、「社内でデジタル技術に詳しいエンジニア人材がいない」「社内でデジタル投資に関する理解が進んでいない」などの要因がデジタル分野への投資を阻害しているため、これらの課題解決が必要とされています。

JETRO・吉田氏との画像です

JETROも、シンガポール貿易産業省傘下の経済開発庁(EDB)とエンタープライズ・シンガポール(ESG)との間でMOUを締結し、両国スタートアップが双方の国に進出する際のパートナー探しやエコシステムへの紹介、イベントの開催などで協力していく方針を決めました。

他にも、世界各地のスタートアップ・エコシステム先進地域において、現地の有力アクセラレーターなどと提携し、日系企業の現地展開および、現地有力スタートアップの日本進出の支援などを行う「ジェトロ・グローバル・アクセラレーション・ハブ」をシンガポールに設置しています。日系企業向けに、現地ブリーフィングサービス、メンタリング(事業機会・資金調達など)、現地パートナー候補・VCなどの紹介、コワーキングスペースの利用などの支援を行っています。

また、今回の記事を書くにあたり、以下の資料をご提供頂きました。愛りがとうございました。

【出所】

●JETRO「シンガポール概況と日系企業の進出動向」
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/3ac7b183d0b49859/20190002.pdf

●JETRO「2019年度 アジア・オセアニア進出日系企業実態調査」
https://www.jetro.go.jp/world/reports/2019/01/962bd5486c455256.html

4 シンガポールを拠点に活躍する起業家たちの生の声

2015年に創業したビンテージアジア経営者クラブ株式会社は、東南アジア地域での販路開拓と営業代行を手がけています。日本とシンガポールに拠点を持ち、日系企業の海外展開を支援しています。ご家族とともにシンガポールに移住し、日本からのシンガポール進出を自らサポートをされている代表取締役の安田哲氏に、シンガポール進出についてお聞きしました。

    「世界で最もビジネスのしやすい国であるシンガポール(IMD World Competitiveness Ranking 2019)は、技術的インフラが先進的でスキルの高い労働力の調達が容易、かつ治安も良く外資規制も緩いので、中小企業を始め、外需グローバル市場を開拓したい企業に適しています。

    低リスクで東南アジアに進出するためには、現地の商習慣を理解した上で適切なマーケティングを行うことと、共に商売を大きくできるRight Partnerと組むことが大切です。日本で売れているものをそのままシンガポールに持ってきて売れることはほぼありませんが、”ひと工夫”することで結果は大きく変わります。子供の教育や投資の観点でも魅力的な制度が整っている同国を訪れる移住希望者も多いです」

2)Doreming Asia Pte.Ltd.(Singapore)代表取締役 CEO 桑原広充氏

総務大臣賞など複数の受賞実績を残した後、2017年にシンガポール法人を設立し、ベトナムを始めとする東南アジア各国への展開のためのビジネス開発に従事されている日系フィンテック企業Doreming Asiaの桑原広充氏にシンガポールの魅力をお聞きしました。

    「東南アジア市場への展開を見据えた時に、シンガポールは金融立国(シンガポールに拠点を置く銀行約200行に加え、資産運用会社、保険会社などを含めると1200社以上)としてフィンテック市場におけるインフルエンサー的な存在であり、日本からのアクセスよりも優位性が高いことが法人設立の決め手となりました。

    シンガポールはレギュレーションに対してオープンですし、低率の税金(法人・個人共に)、抜群の治安の良さなど多くの魅力があります。実際にシンガポールで起業をしてみて、日本のほうがスタートアップに対しては手厚く、支援プログラムが豊富だと感じる場面もあります。ただ設立までのプロセスは簡単ですが、ビザの取得、運営コスト、生活の維持においてはスタートアップでは大変な部分もあります。

    ローカルのように暮らして生活コストを抑えることも可能ですが、食事や生活環境が合わないなど、日本人がローカルと全く同じような生活を送るのは厳しいかなと思うこともあります」

3)楽天アジア(シンガポール) 永井七奈氏

経営学修士号(MBA)取得のため、Nanyang Technological Universityの入学をきっかけとして、2年前からシンガポールに住む永井七奈氏は、卒業後入社した楽天アジアにてシンガポールを拠点に、マーケティング関連のソフトウェアプロダクトを海外へ展開させていくという新規プロジェクトの立ち上げを行っています。そんな彼女にMBAプログラムやシンガポールの特徴であるダイバーシティーについてお聞きしました。

    「Nanyang Technological UniversityのMBAプログラムは、主にアジアにフォーカスした内容である一方で、ユニークな以下の3点の特徴があります。

    1.欧州およびアメリカでの研修を通して、外から見たアジアの位置付けを現地で学ぶ機会があります。イギリスのロンドンで企業コンサルティングやスタートアップピッチへの参加をしたり、アメリカではUCバークレーおよびWhartonにてリーダーシップ・イノベーション・ファイナンスなどを学んだりしました。

    2.クラスの半分は政府からの派遣生(官僚や公務員)が占めており、ビジネスとパブリック両方の観点で学ぶプログラム構成となっています。ワシントンDCで世界銀行などの公的機関への訪問や、大手民間企業のPublic Affairs部門がどのように政府と連携を取るのかを学ぶことで、政策がビジネスに与える影響について考えさせられました。

    3.25名・10カ国のクラスメイトと切磋琢磨する日々を通して、Cultural Intelligence(文化の違いを超えて円滑にコミュニケーションを図る能力)が向上できました」

卒業後入社した楽天アジアのシンガポール拠点は、ダイバーシティー溢れた職場で25カ国以上の社員が在籍しており、MBAを通して養われた力が活かされています。

    「世界がどんどん繋がりやすくなっている今、限られた地域の固定概念だけで物事を進めていくことは決してサステナブルとはいえなくなっていると思います。

    独立してたった54年にも関わらず、多様性を積極的に受け入れることで世界的にも存在感のある国家となったシンガポールのオープンでスマートなマインドセットや戦略から、学ぶべきことが多いと感じます」

Wankewycz氏との画像です

4)H3 Dynamics ファウンダー兼CEO Taras Wankewycz氏

フランス出身のWankewycz氏は、中国を拠点に多くの国々でスタートアップをした経験後、現在はシンガポールに移住しています。産業ドローンの操作を自動化・簡素化するグローバルデジタルプラットフォームを提供するH3 Dynamicsは日本からの投資(SPARX未来創造基金、ICMG、ACAパートナーズおよびAOIホールディングスが株主)も受けており、母国フランスからも注目されています。アジアでご活躍のWankewycz氏にシンガポールの強みについてお聞きしました。

    「私はアジアでディープテクノロジーの起業家として16年間(中国で8年間、シンガポールで8年間)過ごし、ゼロカーボンエミッションエネルギー技術から、エドテック製品、航空宇宙とドローン、ロボット工学、AIデジタルサービスまで、あらゆることを行ってきました。

    中国で始めた時も、セキュリティ保護の観点から、シンガポール本社を設立し、銀行口座の開設や、監査人を設置しました。また、欧州、日本、アメリカの大企業がシンガポールに共同研究開発センターを設立したため、国際的な新興技術開発の地となっています。さらに、ミニチュアサイズの国であることが幸いし、新しいアイデアや技術をテストするのに最適であり、世界のショーケースとして機能しています。

    日本が抱える高齢化社会や自然災害による被害と復興などの課題は、私たちのフィールドロボットと自動レポートシステムの組み合わせにより解決に向かうと考えています。

    私たちはシンガポール拠点でビジネスを行っていますが、今後は、さらに日本の大企業との連携を強め、世界中にもサービスを一緒に広めて参りたいです」

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年2月27日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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今こそ採用ブランディングに本気を出そう!/激動の2020年を勝ち抜く採用戦略(2)

「採用を成功させるには、今どのメディアに情報を出せばいいんでしょうか?」といった相談をよく受けます。しかし、そういった手法論の前に必要なのが、骨太な採用戦略の世界観をつくることです。つまり採用の「やり方」ではなく「あり方」を考えること。その上で重要になってくるのが、自社の魅力をきちんと再定義することです。

採用活動において、自社の魅力を伝える=ブランディングを重視することは、実は時代背景ともマッチした極めて合理的な戦略です。もっというと、この空前の人出不足時代にどうすれば人が採れるのか。その「解」のひとつが、ブランディングにあるのです。

連載第2回の本稿では、採用戦略策定の第一歩ともいうべき「採用ブランディング」の重要性について解説していきます。

1 ブランド価値の破壊力

改めて、ブランドとは何かを考えてみましょう。ブランドとは、個別の売り手もしくは売り手集団の財やサービスを識別させ、競合他社の財やサービスと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはそれらを組み合わせたものと定義されます。

一般的に企業は、自社商品やサービスをライバル会社のそれと差別化するために、ブランディングを図っています。当然ながらブランドが持つ知名度や信頼感などの無形の価値が強くなるほど、圧倒的優位性を獲得していくことができます。

2 働く価値観の変化に好機到来

ブランドの持つパワーを理解していても、自分の会社とは無縁だと諦めている企業の方が多いかもしれません。「誰もが知っている大企業」=「採用ブランド力が高い」という認識が支配的なのは分かります。しかし、ここで声を大にして言いたいのは、知名度の高い大企業がすべて採用の勝ち組ではないということです。

ある調査で就職活動をする学生の志向を聞いたところ、「ワークライフバランス」と「社会貢献意欲の高さ」を重視する学生が多かったとのこと。特に最近の若者は「価値志向」「社会貢献欲求」に敏感な世代です。端的にいうと、給与がいい会社より世の中の役に立つ会社で働きたいという風潮が高まっているのです。

自社の「らしさ」をブランディングすることで、ジャイアントキリング的な採用に成功した事例もあります。例えば社会課題に向き合う姿勢、あるいは手厚い社内制度、そこに懸ける思いなどがしっかり伝わっていけば、大きな採用ブランド力を獲得できます。

また、ある女子アナはトイレのきれいさで就職を決めたと話していました。これは極端な事例ではありますが、自社の「らしさ」を体現したオフィスデザインなども、採用ブランドを高めるポイントです。

3 「らしさ」の因数分解

では、どうやったら採用ブランドを確立していけるのか。それは自社の「らしさ」を因数分解していくことです。自社の魅力を洗い出し、採用競合と比較してどこが勝っていて、どこが劣っているのかを冷静に分析することから始めましょう。マーケティングフレームの3C分析やSWOT分析を使って考えてみると、分かりやすく整理できるかもしれません。

ご存知のように、3Cとは「Customer(市場・顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)」の3つの頭文字を取ったもので、マーケティング環境を抜け漏れなく把握できます。そしてSWOT分析とは「Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)」の4つを組み合わせて分析することで、自社にとっての市場機会や事業課題をあぶりだす手法です。こうしたフレームワークは本業のマーケティングではよく用いられますが、採用シーンにおいても有効活用できるはずです。

いずれにせよ「自分たちが何者なのか」という定義を自分たち自身で把握していなければ、採用市場に企業の魅力を正しく伝えることはできません。採用ブランディングとは、自分たちが何者なのかを改めて見つめなおす作業なのです。

4 採用ブランディングのゴール

自社の「らしさ」を定義する上で重要なことは、過度に「盛りすぎない」ことです。打ち出したブランドが現社員の実感と乖離しすぎると、採用できたとしてもすぐに辞めていくことになります。現社員で実現されていないようなことは、採用ブランドにはなりえないのです。

逆に、自分たちが何者か、どこに向かい、自分たちがどうありたいのかを全員が分かっている組織は、当然ながら「採用ブランド」も強くなります。そういった意味では、自社の採用ブランドをつくっていくという作業は、そのブランドを全社員で体現できるようにする作業でもあります。

そして現社員が、採用ブランドで打ち出していく「らしさ」を実感し再認識できれば、その企業で働くことに自己肯定感や幸福感を感じる社員が増えていきます。それが、さらに採用ブランドを確固たるものにしていくことで、理想的なスパイラルが生まれていきます。

このように採用ブランディングは、企業価値自体の向上に寄与してくれる本質的な取り組みなのです。もちろんブランドというものは、一朝一夕で確立されるものではありません。しかしだからこそ、採用競合との闘いを制すためにも、2020年こそはホンキを出すタイミングにあるのだと確信します。

次回は、新型コロナウイルスで注目されるオンライン採用を解説します。

以上

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【再監修】決算対策で確認したい福利厚生費・交際費・役員社宅

会社を起業して数年が経過し資金繰りに余裕が出てくると、今度は決算対策という新たな課題に直面することになります。

決算対策は費用をいかに増やし、利益を減らすかという考え方が必要になります。ただし、費用なら何でもいいわけではありません。なぜなら、世間一般的に費用といわれている会計上の費用と、税務上の費用(以下「損金」)は完全に一致しないからです。そのため、決算対策として有効な損金にはどのようなものがあるのかを知る必要があります。

ここでは、福利厚生費・交際費・役員社宅を取り上げ、税務上の取り扱いや留意点を紹介します。これらの損金は活用の仕方によっては、法人税の負担を減らすだけでなく、従業員のやる気向上につなげることができるため、経営者としても積極的に取り組める決算対策となっています。

1 福利厚生費で決算対策

福利厚生費は、基本的に全額損金に算入することができます。福利厚生費とは、「役員・従業員の福利厚生を目的として、給料・交際費以外の間接的給付を行うための費用科目」とされています。従業員にとっても、福利厚生を目的として支給されたものについては、通常の給与とは違い所得税の課税対象外となるため、うれしい制度といえます。

実際に、福利厚生費として認められる基本的な条件とは、次の3つです。

  • 会社の全従業員(役員を含む。以下「従業員等」)を対象とするものであること
  • 支出する金額がおおむね一律で費用が社会通念上(常識的に)高額ではなく、通常要する費用として一般的な範囲内であること
  • 現金支給ではないこと

上記に加え、実務上では、社内規定の整備も非常に重要になります。社内規定を整備する際には、福利厚生費の科目ごとにしっかりと金額を明示するようにしましょう。例えば、弔慰金については、従業員等の役職や、対象者と従業員等の関係ごとに金額を設定するなど、詳細に規定を作成する必要があります。

また、一部の従業員等のみを対象としている場合、支給された人の給与と判断されてしまい、源泉所得税の課税対象となってしまうことがあります。さらに、役員である場合には、法人税法上の役員報酬の取り扱いにも注意が必要です。法人税法上の役員報酬の取り扱いについては、「決算対策で確認したい役員報酬・給与」を参照ください。

「社会通念上適当と思われる金額である」という要件は常識の範囲内であるか、税務調査をする調査官に説明できるかどうか、といったところが基準となってきます。

社員旅行を例に、福利厚生費として計上できる場合を見てみましょう。

社員旅行の場合、旅行の日程が4泊5日以内であり、その職場全体の50%以上が参加していることが目安になります。この条件を満たしている場合、その旅行に要した費用は給与ではなく、福利厚生費となります。

しかし、これらの条件を満たしている場合でも、個人の都合で旅行に参加しない選択をした従業員等に対して金銭を支給したときには、参加・不参加にかかわらず全員に同額の給与を支給したものとして扱われ、源泉所得税の課税対象となってしまいます。また、役員のみが参加する旅行や、取引先に対する接待を目的とした旅行については、従業員のレクリエーション旅行としては扱われず、交際費などとして処理する必要があります。さらに、過度に豪華な旅行も、社会通念上福利厚生費と認められない場合がありますので要注意です。なお、過度に豪華な旅行に該当するかどうかは、金額が明確に定められているわけではないため、一概にはいえませんが、「1人当たり10万円まで」が1つの目安となります。

2 交際費で決算対策

交際費は原則損金に算入できませんが、中小企業については年間800万円まで損金に算入できます。なお、令和2年度税制改正により、適用期間が2022年3月31日(現行は2020年3月31日)までに延長される予定です。

交際費とは、主に得意先を接待するためにかかる飲食代やお歳暮・お中元などのことですから、中小企業(資本金または出資金が1億円以下の企業など)であれば、交際費だけで年間800万円を超えることはないかもしれません。

とはいえ、このように損金に算入できる金額に上限があるため、税務上はなるべく交際費に該当しないほうが有利です。そこで日ごろから留意すべきなのが5000円ルールです。これは、1人当たり5000円以下の飲食費用は、税金計算上「交際費」として扱われない(対社外の接待に限る)という税務ルールです。この5000円ルールに該当するためには、次の点を明記した領収書等の書類を保管しておく必要があります。

  • その飲食等のあった年月日
  • その飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名または名称及びその関係
  • その飲食等に参加した者の数
  • その費用の金額並びにその飲食店、料理店等の名称及びその所在地
  • その他参考となるべき事項

交際費は税務調査の際にもチェックされやすい項目であり、領収書等の保管状態などによっては、本来払わなくてよかった税金を課される可能性もあります。決算直前に節税対策として、交際費は有効な手段です。日ごろから交際費計上の要件などをよく理解し、上手につきあっていくことが必要になります。

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3 役員社宅で決算対策

役員が居住用に借りている自宅を社宅化して、法人税の負担を減らすことができるのはご存じでしょうか。自宅を社宅化することによる税務上のメリットは大きく、一般的には社宅家賃の5割程度が損金に算入できるといわれます。

居住用に借りている役員の自宅の家賃は、通常、役員個人で賃貸借契約をしていることから、損金に算入できません。しかし、その役員の自宅を会社が賃貸借契約することで、会社が借りた住居を社宅として役員に貸し付けるかたちとなり、その結果、会社が支払う家賃と役員から受け取る家賃の差額を損金に算入できるようになります。

役員社宅の仕組みの画像です

ただし、役員の家賃負担額には一定の基準があります。役員は、国税庁が定めた「一定額の家賃」以上の額を会社に支払うことで、税務署に社宅であると認めてもらえます。この定められた額より少ないと、上記の損金に算入できる部分は役員報酬とみなされ、課税対象になるため注意が必要です。

国税庁は役員に貸与する社宅について、次の通り規定しています。

「役員に対して社宅を貸与する場合は、役員から1カ月当たり一定額の家賃(以下「賃貸料相当額」といいます。)を受け取っていれば、役員報酬として課税されません。賃貸料相当額は、貸与する社宅の床面積により小規模な住宅とそれ以外の住宅とに分け、次のように計算します。ただし、この社宅が、社会通念上一般に貸与されている社宅と認められないいわゆる豪華社宅である場合は、次の算式の適用はなく、通常支払うべき使用料に相当する額が賃貸料相当額になります。」(国税庁HPより)

具体的には、役員が支払う家賃については、床面積などから次の3つの住宅に区別して計算されることになっています。

1)小規模な住宅

建物の耐用年数が30年を超える場合には床面積が99平方メートル以下、30年以下の場合には、132平方メートル以下の住宅のことを小規模な住宅といいます。次の1.~3.の合計額が、役員が支払う家賃になります。

  • (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2%
  • 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/(3.3平方メートル))
  • (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22%

2)小規模以外の住宅

小規模な住宅に該当しない場合、次の2種類に分けて役員の家賃を計算します。

1.自社所有の社宅の場合

次のa.とb.の合計額の12分の1

a.(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×12%

b.(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×6%

2.他から借りた住宅を社宅にする場合

会社が支払う家賃の50%の金額と1.で算出した金額の、いずれか多い金額

3)豪華社宅

豪華社宅は家賃の全額が役員の負担となるので、役員社宅の決算対策効果はなくなります。豪華社宅に該当するかどうかは、床面積が240平方メートルを超える場合で、かつ物件価格・家賃・内装や外装の設備の状況などを考慮した総合的判断となります。ただし、プールなど、役員の個人的な嗜好が反映されている設備があると、床面積が240平方メートル以下であっても、豪華社宅とみなされることがあります。

なお、家賃負担額以外にも、光熱費、駐車場代などは、役員本人の負担となり、もし会社が負担すると役員報酬として課税対象になるなどの点にも配慮が必要です。

留意点も多少ありますが、居住用の自宅を社宅化することにより、役員の報酬を減額すれば、会社が負担する社会保険料を抑えることができ、また、役員個人としての家賃負担が軽減されるので、結果として手取り額が増えるのと同じ効果を得られるというメリットがあります。法人契約の役員社宅を一度ご検討されてみてはいかがでしょうか。

4 決算対策をする上での留意点

決算直前であっても、社員旅行や交際費などの損金を生じさせて、利益を圧縮することは可能です。ただし、これらは、基本的にはキャッシュアウトを伴います。税金を支払うのを避けるために、慌てて不要な支出をしてしまっては本末転倒です。月次決算、四半期決算などで会社の経営状態を随時把握し、早期の決算対策を取ることが不可欠となります。その上で、資金繰りを十分検討し、従業員のモチベーションも維持できる対策を取るようにしましょう。


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自販機を使ったインバウンド向けの新たな商機

書いてあること

  • 主な読者:インバウンド需要の取り込む手法を探る経営者
  • 課題:都心や観光地で見かける外国人観光客向けの自動販売機は今後広がるのか
  • 解決策:外国人観光客向けの自動販売機が注目される背景や、導入の方法、課題などについてまとめる

1 自販機の隠れた魅力

全国に約300万台(日本自動販売システム機械工業会)。私たち日本人の生活にすっかり根付いている自動販売機(以下「自販機」)ですが、外国人旅行者にとっては、「“変”なもの」らしいです。

  • 「なぜ、日本には大量の自販機が無防備に設置されているのか?」

というのが、“変”の正体です。この点について、筆者が日本在住の外国人に聞いてみました。すると、次のように教えてくれました。

  • 「自販機は海外にもあるけど、日本ほど多くは見かけない。そして、何といっても、ほとんど盗難されないところがすごいよね。あとは、デザインが奇抜なところ、売っている商品が多種多様なところ、ハイテクなところもすごいと思うよ」

こうした背景から、もしかすると、自販機にビジネスチャンスがあるのではないか、と考える人が増え、インバウンド需要を狙う自販機が登場してきました。政府も条件付きではあるものの、自販機を「免税店」として扱う制度を開始する意向です。

「外国人旅行者×自販機」から生まれてきそうなビジネスチャンスを、事例とともに考えます。   

2 普及率は世界一!?

日本自動販売システム機械工業会によると、単純な設置台数は米国が世界一といわれていますが、人口や国土の面積などを勘案すると、普及率では日本が世界一と推測されるそうです。

同工業会へのヒアリングによると、「インバウンド需要を取り込むため、工業会として統一の施策などは取っていないものの、会員企業の中には、インバウンド需要を狙った自販機の製造に取り組んでいるところもある」とのことです。

実際、「近年は来日する外国人旅行者が増加しており、そうした人々がSNSなどに日本の街角と一緒に自販機の写真や商品をアップすることで、認知度が上がってきている。こうしたインバウンド需要を取り込むため、新しいタイプの自販機に対する需要・関心は高まっている」という自販機メーカーもあります。

3 自販機を店舗に設置するには

1)費用や期間

自販機を店舗に設置するにはどのような準備が必要なのでしょうか。飲料水などを販売する自販機の場合、一般的には自販機を販売する企業(自販機メーカー)や飲料水を製造・販売する企業(オペレーター)が設置費用などを負担し、リース費用などは掛からないようです。自販機を設置する側(ロケーションオーナー)の負担としては、電気代が1カ月当たり数千円となります。

お土産用やイベント用などのさまざまな用途に応じた自販機の販売および設置支援を行っているパルサー(宮城県)へのヒアリングによると、こうした自販機を設置する際に発生する費用としては、次のようなものがあるそうです。

  • 自販機の設置費用は1台当たり50万~60万円程度。販売する商品の形状やサイズによっては、梱包費用などが必要な場合もある。飲料水などを販売する自販機と同様、ランニング費用として電気代が1カ月当たり数千円程度掛かる
  • 自販機を設置するまでに、商品によって払い出しの試験運用をする場合もあるが、契約締結後1~2カ月程度で納入することができる

2)必要な許可または免許など

日本自動販売システム機械工業会のウェブサイトによると、缶・ビン・ペットボトルに入った飲料水を販売する場合には、許可は必要とされていません。しかし、以下のような商品を販売する場合は、関連する法令に基づき、許可または免許などが必要です。

画像1

3)インバウンド需要を取り込むためのヒント・注意点

パルサーによると、インバウンド需要を取り込むためのヒント・注意点として、次のようなものが挙げられるそうです。

  • 外国人旅行者の目を引き付けるためには、ぱっと見た自販機のインパクトが重要。そのためには、有名キャラクターや忍者などのデザインや柄で自販機本体をラッピングし、「分かりやすい日本らしさ」を見せることが不可欠
  • 販売する商品の形状によって、飲料水などを販売する自販機と、自販機の正面部分がガラス製で、商品が視認できるスパイラル式に構造が大別できる。前者は耐久性・安全性が高く屋外に設置できるが、格納できる商品は缶やペットボトル状の円柱形にする必要がある。後者は、ガラス製なので耐久性や日光の遮光性が低いため屋内に設置されるが、雑貨などの形状が一定でない商品を格納することができる

4 インバウンド需要を狙った“変”な自販機の事例

1)SHIBUYA109エンタテイメント:渋谷のお土産需要を創出

SHIBUYA109エンタテイメント(東京都)は、渋谷のお土産需要を創出するために、2018年9月にクリエーターによるオリジナルTシャツを「スーベニア自動販売機」で販売しました。

渋谷はスクランブル交差点が有名な観光スポットとなっているなど、訪問者数は増加しています。ただ、渋谷には代表的なお土産がなく、外国人旅行者も渋谷周辺にあまり宿泊しません。ここにビジネスチャンスを見いだし、お土産需要の創出を狙っているようです。

2019年は同様のオリジナルTシャツを5~7月にかけて販売しました。今回は、デザインの数や参加するクリエーターの数も増え、パネル展示やフォトスポットの設置など、付随するイベントも行っています。

2)アイナス:ご当地限定の缶詰を3つの基準で選定

アイナス(兵庫県)は、その土地でしか入手できない商品が入った缶詰「ゴトカン」を販売する自販機を、兵庫県や香川県に設置し運営しています。

ゴトカンの内容は「ご当地愛」「ご当地貢献度」「ご当地チャレンジ精神」の3つのルールに沿って査定され、基準点以上のものがゴトカンの商品として認定されます。このルールでは、現地の材料を用いて現地で加工されていること、地域経済が潤うこと、外国人旅行者にもアピールできることなどが判断基準とされます。

同社へのヒアリングによると、外国人旅行者からの評判は良好で、その要因として、海外ではあまり見かけない自販機で、質の高いご当地の食品などが販売されていることが挙げられるそうです。

この自販機で外国人旅行者にアピールするため、同社は「タッチパネルの3言語(日本語、英語、中国語)対応」と、「設置場所」に注意したそうです。

自販機になじみのない外国人旅行者に、購入方法や商品を自国語などで説明することで、「珍しい自販機の写真を撮る」という行動から実際の購入へ促すことができます。

同社は自販機を設置する際に、飲料水などを販売する自販機の隣に設置するのではなく、実店舗に隣接して設置したり、商品を製造する工場の見学ルート上に設置したりすることで、効率的に販売しているそうです。

3)インバウンド十和田:観光地図やショップカード同封で地域を活性化

インバウンド十和田(青森県)は、十和田市の魅力を海外に発信し、地域経済の活性化を目的に活動しています。同社は2019年9月から、十和田市のピンバッジや観光地図、近隣の飲食店のショップカードなどを詰め込んだ「とわだばこ」を自販機で販売しています。

この自販機は、中古のタバコの自販機を一部改修して利用しています。新品の自販機の購入コストを抑えることができ、タバコの自販機に搭載済みの成人識別カード「タスポ」の機能を残したことで、アルコール類のドリンクサービス券を封入したり、タスポを店舗で借りるときに店舗内に誘導できたりするなどのメリットがあります。

同社へのヒアリングによると、この自販機の運営開始からまだ日が浅く、売り上げに劇的な伸びは見られないそうですが、新聞やテレビなどで何度も取り上げられたことで、全国の自治体などからの問い合わせが殺到しているそうです。

この自販機を設置するに当たって工夫したこととして、前述の中古のタバコの自販機を転用したことに加え、地元の商店街への集客を狙うために、観光地図や協賛した店舗のショップカードを封入したこと、観光地図の裏面を多言語表示にし、観光地や各店舗のQRコードを記載したことが挙げられます。

同社は、この自販機の設置台数を、販売する商品に変更を加えながら、2020年以降も増やしていく計画のようです。

5 外国人旅行者に直撃インタビュー

前述の通り、各地でインバウンド需要の取り込みを狙った自販機が出現しています。日本の空の玄関口、羽田空港にはこうした自販機が幾つか設置されています。空港内の外国人旅行者にインタビューした結果は次の通りです。

1)自販機の印象

  • さまざまな商品(キャラクターグッズ、伝統工芸品、お菓子、だしなど)が販売されており、他の国ではまず見かけない光景なので面白い。価格が1000円以上するような商品を自販機で販売できるのは、治安が良いことを表す証拠にも映る
  • 中華圏や東南アジア圏からの旅行者の中には、日本のアニメのキャラクターを知っている人もおり、キャラクターが描かれた自販機は目に入りやすい
  • 商品の表記が日本語のみの場合が多く、商品の説明もないため、何を売っているかイメージが湧きやすいように、多言語での商品説明を、自販機の目の付きやすい場所に表示することが望ましい

2)外国人旅行者からの提言

  • 自販機で外国人旅行者向けに商品を販売する場合には、飲料水などを販売する自販機に隣接して設置すると、その自販機に利用者の視線が奪われやすい。そのため、観光スポットや土産物店などに設置するほうが、効率的に集客できると推測する
  • 商品の価格を1つの自販機で統一する必要はないが、比較的高額な商品と一般的な価格の商品を同じ自販機で販売すると、価格差に違和感がある

なお、実際に羽田空港では、2000円以上のグッズと数百円のお菓子が同じ自販機で販売されていました。

6 自販機が免税店に?

冒頭の通り、増加する外国人旅行者向けのビジネスを促進するため、政府は条件付きで自販機を免税店扱いすることを検討しているようです。国土交通省は、「令和2年度 国土交通省税制改正要望事項」の中で、「外国人旅行者向け消費税免税制度の拡充(消費税・地方消費税)」を政府に対して要望しています。

これは、従業員を介さずに免税手続きが可能な機器を設置した場合、この機器を通じて販売した商品を免税の対象とするものです。現行では、免税店の許可要件として、免税販売手続きに必要な人員を配置することなどがあります。

観光庁にヒアリングしたところ、一部の大手企業が、外国人旅行者向けに腕時計やオリンピック関連のTシャツなどを自販機で販売することを検討しており、これらの商品の免税を要望しているそうです。

また、新たに免税店として想定されている自販機として、顔認証システムを搭載し、個人やパスポートなどの認証機能を備えたものなどが挙げられるとのことです。

以上(2019年12月)

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画像:pixabay

【再監修】決算対策で確認したい役員報酬・給与

経営者にとって、事業の拡大や利益の確保は大きな課題の1つです。しかし、決しておろそかにしてはならないのが、利益に伴い発生する「税金」の対策です。

もちろん、企業として事業を拡大し「利益」を上げることは重要ですが、「利益」が大きくなるにつれて、法人税等の負担も重くなることを忘れてはいけません。スタートアップ企業では、急激に業績を伸ばしたものの決算対策をしておらず、翌年度の税金支払いに苦しむことが少なくありません。そうならないためにも、基本的な決算対策を理解しておきましょう。

中でも、経費に占める割合が大きい役員報酬・給与に関する基本的な知識を押さえることは、決算対策を考える上で非常に重要です。早速、その報酬・給与に関する決算対策のポイント、そして基本的な決算対策の具体例を見ていきましょう。

1 税務上の報酬・給与に関する決算対策のポイント

決算対策を考える上で最も重要なことは、費用が税法上の「損金」に該当するかどうか、ということです。損金とは税務上の費用のことをいい、会計上の費用とは完全に一致しません。この損金を増やすことは、税法上の利益を減らすことと同じであり、結果的に税負担を抑える効果があります。つまり、会計上の費用の中でも、「損金」に該当する費用を増やすことが決算対策の大きなポイントといえます。

これらの説明として最も分かりやすい例が、従業員給与と役員報酬の違いです。どちらも会計上は費用として取り扱われますが、税務上は取り扱いが異なります。従業員給与の場合、支給した額の分だけ損金にできますが、役員報酬は一定の“ルール”にのっとっていない場合、全額、もしくは一部を損金にすることができません。逆にいえば、この一定の“ルール”にのっとってさえいれば、役員報酬も損金として扱うことができるのです(詳細は後述)。

2 報酬や給与に係る具体的な決算対策や留意点

1)役員報酬

損金として扱うことができる役員報酬は「定期同額給与」と、賞与のようにある一定時期に支給する「事前確定届出給与」とに分かれます。それぞれの特徴を見ていきましょう。

1.「定期同額給与」の基本事項

定期同額給与とは、その名の通り、毎月同額を給与として支給するものです。2006年度の税制改正にて導入され、このルールにのっとっていない場合は、原則損金として認められなくなりました。

定期同額給与の金額を変更できるのは、原則として事業年度開始後3カ月以内に限られます。例えば4月1日から事業年度が開始する場合、6月末までに変更しなければ損金として認められません。従って、6月の役員報酬支給日までにある程度の利益予想を立てた上で、金額を設定する必要があります。また、金額変更の有無にかかわらず、必ず株主総会の議事録に支給額を明記しなければなりません。

2.「定期同額給与」の留意事項

では、事業年度開始後3カ月を過ぎ、期中に増額・減額をする場合はどうなるのでしょうか。例えば3月決算の場合、12月以降の役員報酬を月20万円“増額”した場合は、「20万円×4カ月間(12月~3月)=80万円」を損金とすることができません。逆に、12月以降、月20万円を“減額”した場合は、「20万円×8カ月間(4月~11月)=160万円」を損金とすることができません。

毎月の役員報酬を増額または減額する場合を示した画像です

さらに注意すべきは、役員報酬は給与所得であるため、法人税のルールにかかわらず個人所得税の対象になるということです。つまり、損金とすることができない役員報酬額部分には、法人税と個人所得税のどちらも課されてしまうということです。

定期同額給与の変更については必ず期日を確認し、想定外の課税が生じないように気を付けましょう。

3.「事前確定届出給与」の基本・留意事項

事前確定届出給与は、いわゆる役員賞与に当たるものであり、定期同額給与よりも損金にできる条件が厳しくなっています。

具体的には、株主総会等の決議をした日から1カ月以内など、定められた期限内に税務署へ届出書を提出し、その届出書に記載した対象者・支給日・支給金額の内容通りに支給しなければ、損金とすることができません。、記載内容に何かしらの相違がある場合は、全額が損金とすることができないため、検討する際は注意しましょう。

スタートアップ企業などの場合、役員賞与による決算対策による効果が非常にインパクトの大きいものとなります。慎重に決めるようにしましょう。

2)決算賞与の未払い計上

通常、従業員に対する賞与は、実際に「支払った日」の属する事業年度でなければ損金とすることはできません。ただし、決算賞与については一定の条件を満たすことで期末時点において未払い計上し、損金とすることができます。未払い計上によって支払いを翌事業年度に繰り越すことで、事業年度にお金を残したまま損金とすることができます。決算賞与を未払い計上し、損金とするためには次の3点の条件を満たす必要があります。

  • 決算賞与の支給額を、支給を受ける全ての従業員に対して、個別に通知していること
  • 通知した金額を通知した全ての従業員に対して、決算後1カ月以内に支払っていること
  • 支給額をその事業年度において未払い計上していること

決算賞与の支給は節税が可能なだけでなく、従業員のモチベーションアップにもつながります。余剰利益が出ている場合は、検討してみてはいかがでしょうか。

3)所得拡大促進税制の活用

所得拡大促進税制とは、従業員に支払う給与を増額したその金額の割合分、一定の税額控除が受けられるといったものです。雇用環境の改善などが社会的に注目を集めている中、企業にも従業員にも利益のある税制といえるでしょう。

具体的には、法人税額の20%を上限として、最大で「雇用者給与等支給増加額×25%」の税額控除を受けられます(2018年4月1日以降開始事業年度の場合)。所得拡大促進税制の適用を受けるには何点か条件を満たす必要がありますが、最も重要なポイントは「継続雇用者給与等支給額が前事業年度に比べ増加しているか」という点です。

この点を把握するためには、継続雇用者(一定の時期に給与等を支給している従業員)をピックアップした上で、前事業年度の支給給与額情報を収集する必要があるので、多少事務的な手間が掛かってしまいます。しかし、前述した通り、企業だけではなく従業員にもメリットがある税制であるため、手間をいとわず活用の検討をお勧めします。

4)退職金、退職慰労金

退職金も、有効な決算対策の1つです。従業員の退職金は社内規程などに沿って、役員の退職慰労金は月額報酬や勤続年数に応じて支給することができ、損金とすることができます。受け取った個人の側にとっては、課税される所得税が軽く設定(多額の所得控除があるなど)されています。

退職金、退職慰労金の支給のタイミングは、会社を退職するときはもちろん、従業員から役員となるとき、役員が分掌変更する(代表取締役が会長になる)ときなど、幾つか考えられます。形式だけではなく、もちろん実質面も考慮されることになるので、こちらも慎重な検討が必要になります。

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3 検討すべき時期の目安と留意点

以上、役員報酬や従業員賞与に関する決算対策として、幾つかご紹介しました。これらの対策を検討すべき時期の目安は次の通りです。

役員報酬を検討すべき時期と具体的な決算対策の内容を示した画像です

人件費に関わる決算対策は、支出の側面、投資の側面で考えても、意味のある有効な方法です。選択肢はたくさんありますが、優先順位を高くして検討すべき決算対策といえるでしょう。

また、ここで紹介したものは一般論となります。実際に決算対策を検討する際には、それぞれの詳細な要件だけでなく、企業の経営方針や資金状況などさまざまなことを踏まえなければならないため、税理士などの専門家に相談して進めるようにしましょう。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年2月21日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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学習塾業界の競争環境と成長戦略

書いてあること

  • 主な読者:学習塾経営者や学習塾
  • 課題:少子化、国の教育改革、顧客(生徒や保護者)ニーズの多様化などの外部環境の変化や、経営者の高齢化、塾講師の担い手不足といった構造的な課題がある
  • 解決策:講師不足で個別指導が出来ない学習塾の場合、教育ベンチャーなどが提供している個別指導が可能なスマホアプリのサービスを利用するなどして、指導を充実させることができる

1 学習塾市場の本格的な縮小が始まる

日本の学習塾の市場規模は、2017年時点で約9511億円です(経済産業省「特定サービス産業実態調査」。2019年3月時点の最新データです)。2018年以降は、学習塾を含む教育業界にとって、本格的な市場縮小が始まることが予測されています。

18歳人口(生徒数)が減少基調となるためです。加えて、国の教育改革、顧客(生徒や保護者)ニーズの多様化といった外部環境の変化や、経営者の高齢化、塾講師の担い手不足といった構造的な課題を抱えています。

こうした中、各塾は新たなビジネスモデルが求められています。一般的に、学習塾は小学生から高校生、予備校は高校生や浪人生を対象としますが、現在、各塾はそうした垣根なく生徒を獲得しています。学習塾業界の動向を見ていきましょう。

2 学習塾業界のPEST分析

1)政治(Politics)

学習塾業界は、教育行政の影響を大きく受けます。現在、国ではグローバル化、生産性向上などさまざまな課題への対応策の1つとして、教育改革を推進しています。

例えば、2020年度からは大学入試センター試験に代わって、大学入学共通テストが導入されます。知識偏重型の大学入試を見直し、思考力・判断力・表現力などを問うことが狙いです。国語と数学ではマーク式だけでなく記述式の問題、英語ではライティング・リーディング・リスニングに加え、新たにスピーキングの4技能が問われる問題が出題される予定で、学習塾には新テストへの対応が求められます。

2)経済(Economy)

従来、教育関連への支出を「聖域」とみなす保護者が多いとされてきました。しかし、近年では教育関連への支出を削る保護者が増えているとされます。一方、教育に熱心な保護者は一定数存在しており、このような保護者は、子どもの習熟度に合わせた個別指導や、難関校の受験に強みを持つ学習塾に子どもを通わせる傾向があるようです。

大手の学習塾などでは、集団指導、個別指導、動画による講義、オンライン上で講師に質問ができるスマホアプリの提供など、サービス・価格ともに幅広くラインアップして、全方位的に顧客のニーズに対応しています。

一方、大手と同様の取り組みが難しい中小規模の学習塾の場合、教科や生徒の対象を絞り込むなどして、差異化を図っていく必要があるでしょう。

3)社会(Society)

従来より、少子化は学習塾を含む教育業界の課題でしたが、大学進学率が上昇していたことから、その影響は限定的といえるものでした。今後は、生徒数の減少に加え、大学進学率の上昇も見込めないことから、本格的に市場の縮小が始まるとみられます。

2000年代半ば以降、学習塾業界の提携・買収による再編が活発になっていますが、その流れは加速するものとみられます。

4)技術(Technology)

さまざまな業界でITやAIなどの新たな技術を活用した取り組みが活発になっています。学習塾においてもITやAIなどの新たな技術を活用した教材などが導入されています。

例えば、AIを使った教材では、生徒が解答を間違えたデータなどをAIが収集・解析し、生徒が苦手な問題へと自動的に誘導します。また、AIは問題の難易度や問題範囲を調整して出題するため、理解度や習熟度を高める効果が期待できるようです。

ITやAIなどの新たな技術を活用した教材は、教育系ベンチャー企業が製作していることも多く、こうした教育系ベンチャー企業と提携する学習塾も増えています。

3 学習塾業界の競争環境

1)業界内の競合企業との敵対関係

2000年代半ば以降、学習塾業界の提携・買収による再編が活発になっています。より多くの生徒を獲得し、囲い込むため、自塾が指導対象としていない年齢や教科を扱う他塾との提携・買収によって、提供サービスの拡充を図っています。

例えば、小中学生を対象とする学習塾が幼児教室と、また、集団指導を得意とする学習塾が、個別指導や英語指導などの特定教科の指導に強みを持つ学習塾と、提携・買収などを進めています。

また、提携・買収が進んでいるもう1つの要因として、経営者の高齢化が挙げられます。学習塾の約66%は個人経営であり、中小規模の学習塾といえます(経済産業省「特定サービス産業実態調査」)。こうした中小規模の学習塾には、地域によって大きく特色が異なる中学・高校入試対策の指導に強みがあります。

大手の学習塾は、中小規模の学習塾との提携・買収によって、中学・高校入試対策の指導を強化することができます。一方、中小規模の学習塾も後継者問題の解決に加え、大手の学習塾が持つ効率的な塾運営のノウハウなどを得ることができます。

そのため、大手の学習塾と地域の中小規模の学習塾との提携・買収などは今後も進んでいくものとみられます。

2)新規参入の脅威

学習塾は、開業時の許認可や資格が不要です。そのため、自宅の一室で開業することも可能であり、開業自体は容易だといえます。

とはいえ、指導にはノウハウが必要であることに加え、市場縮小によって生徒獲得を巡る競争も激化しています。そのため、既存事業とのシナジーが見込めない企業が新規参入する魅力は乏しいといえるでしょう。

3)代替サービスの脅威

学習塾の代替サービスには、家庭教師や通信教育などがあります。これら代替サービスを手掛ける企業も、学習塾と同様に顧客獲得競争が激化しています。また、家庭教師や通信教育などは学習塾に比べて市場が小さく、より大きな市場である学習塾業界への進出を図るため、学習塾業界の提携・買収などの再編に参画しています。

例えば、通信教育の場合、提携・買収先の学習塾で、自社の教材を使った指導を行うといったシナジー効果が見込めます。

また、近年では、ITやAIなどの新しい技術を活用した教材などを製作する教育系ベンチャーも見られます。こうした教育系ベンチャー企業は個人に対して教材を販売するだけでなく、学習塾などと提携し、自社の教材の導入を図っています。

こうした代替サービスの存在は、学習塾業界にとって脅威となる一方、連携を図りながら、弱みを補う存在といえるでしょう。

4)売り手の脅威

学習塾にとっての売り手とは、教材製作会社などです。これらの企業は、前述した代替サービスと同様に、脅威となる一方、自塾の弱みを補う連携相手として考えることもできます。

この他の売り手として、指導を担う講師を挙げることができます。学習塾の講師の約70%はアルバイトが担っています(経済産業省「特定サービス産業実態調査」)。

しかし、近年では、アルバイト講師の確保に苦慮する学習塾が少なくありません。これは、アルバイト講師の担い手である大学生の人数が減少しているためです。

また、労働条件が明示されなかった、講義前の準備や講義後の質問への対応などが労働時間として考慮されなかったなど、いわゆる「ブラックアルバイト」のイメージも広がっており、アルバイト講師の確保を難しくしています。

人手不足の状態は、業界を問わず、日本全体で課題となっています。学習塾では、アルバイト講師にとって魅力ある職場とする努力に加え、ITなどを活用して、少ない人手で指導する体制づくりを検討していく必要があるでしょう。

4 学習塾の成長戦略

1)学習塾業界の成長マトリクス

学習塾を取り巻く環境は厳しいものといえます。特に、中小規模の学習塾では、「アルバイト講師に頼りながら、地域の小中学生を指導する」といった従来通りの方法では、単独での生き残りを図るのは難しいでしょう。

大手学習塾、教育系ベンチャーなどの他社との提携も含めて、自塾が生き残るための方法を検討することが不可欠です。学習塾の成長戦略の一例を示すと次のようになります。

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2)既存市場×既存サービス:市場浸透

スマホアプリ「manabo」は、生徒がスマホで分からない問題を撮影して投稿すると、manaboに登録している大学生のチューターが解答する仕組みです。個別指導を行いたいというニーズがあるものの、講師が足りない中小規模の学習塾で導入されています。

3)既存市場×新規サービス:新製品投入

千葉県柏市の学習塾「ネクスファ」は、小学生向けの学童保育を併設しており、宿題の指導やプログラミングの体験を提供しています。共働きの保護者が増えていることから子どもの預かりニーズが高まっており、顧客を囲い込む(自塾に通い続けてもらう)方法として有効だと考えられます。

4)新規市場×既存サービス:新市場開拓

数学に特化した学習塾を展開する和からは、数学に苦手意識を持つ社会人向けに「数学的思考力アップコース」を開講しています。数学の基礎や、グラフや図形を用いて数字を的確に表現するポイントなどを指導しています。リカレント教育を実践する社会人が増えており、こうしたニーズを取り込もうとしています。

5)新規市場×新規サービス:多角化

北海道や東北地方で学習塾を展開する練成会グループは、ベトナムで学習塾を展開しています。アジア諸国では、経済成長に伴って教育熱が高まっており、日本式の教育への関心も高いといわれています。小規模の学習塾が海外市場に進出するのは難しいものの、中規模の学習塾などでは生き残りの一手段として、海外市場への進出を検討する価値があるかもしれません。

以上(2019年4月)

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エステティックサロン業界の現状と開業収支シミュレーション

書いてあること

  • 主な読者:エステティックサロンを開業したい経営者
  • 課題:業界の動向、法規制、開業にかかる費用が分からない
  • 解決策:開業にかかる費用を洗い出し、売上高などを予測できるようにする

1 業界の動向

1)エステティックサロンとは

エステティックサロンは、契約や施術に関するトラブルが絶えず、エステティックサロンについて、よいイメージを持っていない消費者もいます。

また、エステティックサロン業界では、長時間労働などが慢性化しているなど、その労働環境が問題視されています。近年では大手エステティックサロンが、残業代の未払いで自社の従業員に訴えられ話題となりました。エステティックサロンの経営には、高い技術を持つエステティシャン(従業員)の確保が欠かせません。エステティシャンの多くを女性が占める中、結婚、出産などの後もエステティシャンを続けられるような労働環境を整備することが求められています。

2)全国のエステティックサロン数 

全国のエステティックサロンの正確なデータは把握されていません。参考としてNTTタウンページ「iタウンページ」に登録されている「エステティックサロン」の件数を紹介します。都道府県別のエステティックサロンの件数は次の通りです。

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全国のエステティックサロンの件数は2万2731件となっています。また、富山県、福井県、長野県において人口10万人当たり件数が多くなっています。

3)大手エステティックサロンの動向

日経MJ「サービス業総合調査」によると、エステティックサロンの売上高ランキングは次の通りです。

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日経MJの分析によると、節約志向の高まりにより、売上高が伸び悩むエステティックサロンが増えているようです。

なお、回答が得られなかったため、「サービス業総合調査」では紹介されていませんが、エステティックサロンの有力企業として、ミュゼプラチナムと不二ビューティ(たかの友梨ビューティクリニック)を傘下に持つRVHや、TBCグループが挙げられます。

2 トラブルに対する業界の対応と課題

1)エステティックに関する相談件数の推移

国民生活センター「消費生活相談データベース」によると、全国の消費生活センターおよび国民生活センターに寄せられたエステティックサービスに関する相談件数の推移は次の通りです。

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エステティック業界は他業界に比べて、顧客とのトラブルが多い業界といわれています。全国の消費生活センターおよび国民生活センターには、解約や施術のクオリティなどに関するトラブルが寄せられています。

2)施術に関するトラブルへの対応ー業界団体が実施するエステティシャン資格制度

エステティシャンの技術の未熟さに起因するトラブルによる業界全体のイメージダウンを防ぐ対策として、業界団体などが資格制度を設け、高い技術を持つエステティシャンの養成を図っています。

現在のところエステティシャンに関する国家資格はありません。エステティシャンになるための試験や条件がないため、技術が未熟であってもエステティシャンとして顧客にサービスを施すことが可能な状態にあります。

こうした状況を受け、日本エステティック協会と日本エステティック業協会は、業界全体の信頼回復に向けさまざまな取り組みを進めています。その一つとして、「エステティシャンの技術育成」が挙げられます。

両協会では、それぞれ独自のエステティシャン資格制度を作り、エステティシャンの技術を育成することによって顧客に対する信頼を獲得し、業界全体のイメージアップを図ろうとしています。

3)契約関連のトラブルへの対応

契約関連のトラブルへの対応については、国で関連法が整備されています。

1.特定商取引に関する法律

「特定商取引に関する法律(特商法)」では、訪問販売やエステティックサロンが含まれる特定継続的役務提供など、消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に事業者が守るべきルールと、クーリング・オフなどの消費者を守るルールを定めています。

例えば、エステティックサロンの場合、契約書面を受領した日から8日間はクーリング・オフが可能です。事業者の側に不実告知または威迫行為があり、顧客が誤認または困惑してクーリング・オフを行わなかったときは、クーリング・オフ期限が延長されます。また、クーリング・オフ期間経過後も、契約期間中であれば、いつでも、理由の如何を問わず中途解約が可能であることが定められています。

また、2017年12月1日には改正特商法が施行されました。この改正では、医療機関で実施される、シミの除去や脱毛などの美容医療契約についても、特定継続的役務提供の対象に追加され、クーリング・オフが可能になりました。美容医療は、エステティックサロンが窓口となり、シミなどに悩む顧客を提携する美容クリニックなどに紹介するケースが多々あるとされているため、改正動向についても押さえておく必要があるでしょう。

2.割賦販売法

2008年6月「特定商取引に関する法律及び割賦販売法の一部を改正する法律案」が成立し、2009年12月1日に改正法が施行されました。この改正では、「クレジット規制の強化」が盛り込まれており、支払い能力の乏しい人に高額の割賦を組ませることを防ぐ狙いがあります。

エステティックサロンでは、定期的に施術を行うコースの場合、都度払いはできず、コースの契約時にまとめて料金を支払うのが一般的です。しかし、この場合、一度に支払う料金が高額になるため、頻繁に割賦販売が行われます。こうした特性から、今回の改正はエステティックサロンの業績に大きな影響を及ぼしました。

2009年の法改正後は、大手エステティックサロンを中心に、ウェブサイトなどを通じて、会員となる場合に必要な料金、コースの契約時に必要な料金、都度払いの料金を掲載するなど、料金の明瞭化を図っています。

3 エステティックサロンの開業

1)多様化する業態

専業のエステティックサロンは、さまざまな取り組みで顧客の拡大に努めています。「脱毛」「足やせ」のように、提供サービスを絞り込んでいるエステティックサロンがある一方で、ゲルマニウム温浴施設や岩盤浴など、さまざまなリラクゼーションサービスを提供する複合施設にすることで、集客力を強化しているエステティックサロンもあります。

また、入会金不要で、顧客が自分で機器を使ってマッサージなどをする、セルフ方式エステティックサロンや、訪問エステティックサービス(以下「訪問エステ」)を行っているエステティックサロンもあります。

2)兼業業者の乗り入れ

エステティックサロン以外を本業とする業者が兼業という形でエステティックサロン業界に参入する事例もみられます。例えば、美容院が差異化、収益向上策として参入したり、訪問販売化粧品メーカーの販売員たちによるサービスの提供などがこれに当たります。

一般的にこれらの店舗は小規模であり、店舗で行われるエステティックサービス自体も簡易で、低価格なのが特徴です。

3)メニューの差異化戦略

業態の多様化、兼業業者の乗り入れなど、エステティックサロン業界では競争が激化しています。このような状況下では、次に挙げるような、多様化する顧客ニーズに合った、ユニークなサービスを提供することが望まれます。

  • 「ホームヘルパー」など介護の専門知識および資格を有するスタッフをそろえた高齢者向けエステティックサロン
  • 働く女性の来店をターゲットとした駅構内のエステティックサロン
  • メンタルケア(対話などを通じて顧客の心の問題をケアすること)に重点をおいたエステティックサロン
  • 託児所を併設し、子どもを持つ女性も安心してエステティックサービスを受けることができるエステティックサロン

4 開業収支モデル

以降で設定した条件に基づき、開業収支シミュレーションを紹介します。

1)賃貸条件

  • 店舗面積30坪
  • 賃料:324万円(1坪当たり9000円。1カ月当たり27万円)
  • 保証金:162万円(賃料6カ月分) 
  •  

2)内装費など

  • 内装費:900万円(坪当たり30万円)
  • 設備費、備品:400万円(ベットやシャワールームなど:360万円、ガウン・タオルなど40万円)
  • エステティック機器430万円(フェイシャルエステ・痩身併用機80万円3台、脱毛機40万円2台、スチーマー20万円3台、その他50万円)

3)開業費用

  • 350万円(開店チラシ、店頭販売用化粧品など)

4)売上高

  • 4674万円(1万円未満は四捨五入)=1558万円(後述の「エステティック業の経営指標」(黒字かつ自己資本プラス企業平均)より)×エステティシャン3人

5)原価率

  • 17.1%(後述の「エステティック業の経営指標」(黒字かつ自己資本プラス企業平均)より)

6)人件費

  • 1729万円(1万円未満は四捨五入)=4674万円(売上高)×37.7%(後述の「エステティック業の経営指標」(黒字かつ自己資本プラス企業平均)より)

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5 経営指標

日本政策金融公庫「小企業の経営指標2018」によると、エステティック業の経営指標は次の通りです。

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以上(2019年6月)

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できる経営者は「飲み会」でビジネスを成功させる

書いてあること

  • 主な読者:飲み会をうまく利用してビジネスの可能性を広げたい経営者
  • 課題:店選びや会話のペースがうまくつかめない
  • 解決策:飲み会といえども礼節をわきまえる。遊び心も忘れずに

1 一昔前のスタイルでは嫌われる

「上座に深々と座り、左右は“ごますり隊”で固める。誰かがお酌をしてきたら応じるが、自分からは動くことはない」。一昔前の飲み会で見かけたかもしれない社長の姿です。今、このような態度を取ったら、座がしらけるのは明白です。

その宴席が社外でも社内でも、社長は最高のエンターテイナーであり、セールスマンでなければなりません。相手を自分のファンとし、オフィシャルだと話しにくいことも酒のさかなにしてしまう。そんなすてきな宴会術を紹介します。

2 下見は決して手を抜かない

自分がホスト役の場合、なじみの店を使うのが基本です。そのため、和食・中華・イタリアン・バーなどでなじみの店を幾つか確保しておきたいものです。なじみになるためには定期的に訪れる必要がありますが、その飲食代は自分への投資です。

一方、新規の店を使う場合は、下見が必要です。店のこだわり、お酒の種類、おすすめの料理はもちろん、トイレの位置なども把握します。店長や料理長などにも挨拶をして、「○○日はよろしくお願いします」などと伝えるようにします。

そして当日は、相手に「大切な飲み会なので、最も良いお店を準備した」ことをさりげなく伝えます。例えば、「この街で飲むのなら、ぜひ、このお店にお連れしたくて」などと特別感をアピールするのです。

下見は物事に向き合う真摯な態度の表れです。きちんと下見をして、真剣に店を選んでいることは相手にも伝わります。特に、同じように人をもてなす立場にいる人は、こちらの真摯な姿勢に好感を抱いてくれるでしょう。

3 聞くことを基本にする

人は「自分の意見を聞いてほしい」という欲求を持っており、飲み会でも変わりません。そのため、社内の飲み会といえども社長の独演会は好ましくありません。また、やたらと自分の得意分野に話題を振りたがる人は、次に誘ってもらえないかもしれません。

飲み会では、自分がホスト役であっても、ゲストであっても、相手の話を聞くスタンスで臨みます。さらに、ホスト役の場合は周囲を気遣い、飲み会の雰囲気になじめない人がいたら率先して話しかけ、その人が主役になれる時間をつくりましょう。

「ちょっといいですか。この方の経歴、とても面白いですよ」など、ホスト役の権限で参加者の時間を少しだけもらうのです。ホスト役は、全ての参加者が主役になれる時間をつくり、置いてけぼりになる人をつくらないことが大切なのです。

お店の状況によりますが、カジュアルな居酒屋などの場合は、同じ席にとどまらずにいろいろな人の隣に座るのがよいでしょう。社長といえども、今どきはフットワークの軽さが大事です。

なお、相手との話が盛り上がらない場合は、お互いの共通項を探して話題を膨らませるようにします。仕事、地域、学校、家族構成、趣味など、共通項が多ければ多いほど、親近感が湧くものです。

4 真面目なだけでは目立たない

大勢が参加する飲み会では、皆の印象に残らなければなりません。どんなに礼儀正しく振る舞ったとしても、それだけでは特徴がありません。何か一つでも「この人は面白い」と印象付ける“ネタ”が必要です。

まず、ベタですが「自己紹介」は工夫したいものです。多くの人は自己紹介で自分の名前を覚えてもらおうと努力します。しかし、お酒の入っている状況で、そう何人もの名前を覚えることはできません。

名前は後で名刺を見れば分かります。大事なのは、顔と名前を一致させてもらうこと、つまり名刺の裏に書き込んでもらう内容のインパクトです。仕事内容を淡々と説明しても印象に残りにくいので、インパクトのあるフレーズが欲しいものです。

例えば、○○市場の10%を占める会社の代表を務めている場合、自分の名前よりも「『10%の男』と覚えてください」などと自己紹介します。自分の本名はその場では覚えてもらえないかもしれませんが、「10%の男」は印象に残るでしょう。

また、個別に話すときのために、“鉄板ネタ”を一つは持っておきたいものです。仕事でもプライべートでもよいのですが、真面目になりすぎず、“毒がある”ところをうまく見せると、人間の面白みを感じてもらえます。

ちなみに、経営者同士の飲み会でよくあるのは社員に関するネタです。ただし、相手に真に受けられると困るので、毒のある話をするときはタイミングに注意し、すぐに笑い話にすることが不可欠です。

仕事は真面目にするものですが、宴席で真面目な話ばかりをしていると、相手は退屈になります。それは「この人と仕事をしても面白くない。可能性を感じない」という印象に変わってしまうことがあるからです。

5 真剣トークの時間を設ける

社長の場合、人脈形成や商談のきっかけづくりとして飲み会に参加することが多いものです。とはいえ、その場で商談の話ばかりをしていたら嫌われてしまうでしょう。飲み会は、あくまでも相手を知る場であると割り切ります。

特に、誰かから紹介を受けた場合はなおさらです。行儀の悪いまねをすれば、紹介してくれた人のメンツを潰してしまいます。そうした場では、紹介してくれた人に進行を任せ、前述した通り、自分が何者であるかをうまくアピールします。

一方で、今後のために相手が話したことも覚えていなければなりません。とはいえ、目の前でスマートフォンやメモ帳にメモを取るわけにはいきません。そうした場合は、自分がトイレに行って(あるいは相手がトイレに行っているときに)メモを取ります。

また、ちょっとしたテクニックですが、相手の話を聞くときはうなずき、別れ際には「今日は楽しかったです」などと伝えるのがポイントです。ただし、相手に「楽しかった。また会いましょう!」と言ってもらうには、こちらに光るものがないといけません。

その光るものを示すために、飲み会の中に真剣トークの時間をつくります。長い飲み会の間にほんの数十分でいいのですが、自分がどのようなことに真剣に取り組んでいるのかを伝えます。これが相手に伝われば、そこから関係が深まります。

6 当日にお礼を。信頼は飲み会後に強まる

飲み会が終わったら、その日のうちにお礼をするのが基本です。FacebookやLINEなどでつながっている相手なら、「本日はありがとうございました」など、簡単なメッセージを送ります。

当日にお礼ができなかった場合は、翌朝、相手が出社してメールを確認したときに、こちらからのお礼のメールが確認できるようにします。礼儀正しく接しているうちに信頼関係が強まり、そこからビジネスの話につながっていきます。

飲み会の場で意気投合し、ビジネスの話で盛り上がることもありますが、その場の雰囲気と勢いによる約束は、後日、有名無実化することがよくあります。一緒に仕事ができるほどの信頼関係は少しずつ構築されるものです。

また、飲み会に誘われることもあるでしょうが、その際は「大いに飲み、食べ、笑う」ようにします。相手は、自分がホスト役を務める飲み会を楽しんでくれる人を好むものなのです。

飲み会では相手の本音が分かることがあります。ただし、飲み会だけで信頼を得ることはできず、その後の付き合い方が重要です。飲み会とそれ以外の場を上手に使って、相手との信頼関係を築くことが大切です。

以上(2018年6月)

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