【朝礼】無理が通れば道理が引っ込む

日々、私たちは“常識”を意識しながら生活しています。常識とは、「明文化されていないが、多くの人が一般的と感じるルール」のことなので、皆が常識人であれば、心地よい社会になるはずです。しかし、現実はそうなっていません。なぜなら、常識はとても主観的なものだからです。

例えば、ビジネスで利用するメールの文面は、分かりやすい例の1つです。とても丁寧にメールを書く人は、メールといえども礼儀を尽くすことが常識だと考えています。一方、用件だけを簡潔に書く人は、できるだけ文章量を減らして分かりやすくすることが常識だと考えています。どちらも相手のことを気遣い、自らの常識に従って行動しているだけですが、この2人がメールでやり取りをしたら、お互いに相手のことを「非常識だ!」と感じ、衝突してしまうかもしれません。

このように、常識は個人ごとに大きく違います。加えて、時代の流れによっても変わっていきます。メールの例でいえば、今どきはメールよりもチャットで連絡を取る機会が増えています。スピードと手軽さが優先されるチャットでは、あいさつ抜きで用件を伝えることが珍しくありません。その代わり、感情を示すアイコンなどを多用して、相手に誤解を与えないように配慮します。また、1回の投稿が長文にならないように、あえて短文に分けるなどします。これらは、チャットを使う際の1つの常識ですが、メールしか知らない人にとっては想像できないルールでしょう。

メールの文面に関する常識だけを意識していたら、自分としては常識的に振る舞っているつもりでも世の中の流れから取り残され、的を外した議論をしてしまうことになりかねません。これはとても恐ろしいことです。もし、我が社がそうなってしまったら、変化の激しい現在を勝ち抜くことはできません。

皆さんは、「無理が通れば道理が引っ込む」ということわざを知っていますか。このことわざは、「無理を強引に押し通すと、道理にかなった正しいことは行われなくなる」という悪い意味で使われることが多いのですが、私は少し違った見方をしています。ビジネスでは、自分の常識には当てはまらないこと、つまり「無理ではないか?」と思うことに多々遭遇します。そうしたとき、私はこのことわざを思い出し、客観的に考えるようにしています。私の常識では「無理」でも、外の世界では既に別の「常識」になっていることがあるからです。

「非常識」と思えることに直面すると、反射的に目を背けてしまいがちです。しかし、これまで触れたことのない非常識の中にこそ、新しい発想のもとや、これまでとは違う切り口のビジネスチャンスが眠っていることがあります。皆さん、恐れずに外の世界に飛び出してください。そして、この会社にとっての「非常識」をどんどん持ち込んでください。皆さんが持ち込む新しい刺激が、組織を強くしていくのです。

以上(2019年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】働き方改革の極意は、植木屋さんの「手入れ」にあり

知り合いの経営者が、以前、植木屋さんでアルバイトをしたことがあるそうで、とても興味深いことを教えてくれました。

皆さんは、植木屋さんの仕事で、「手入れ」というものがあるのを知っていますか。「手入れ」というのは、簡単に言うと、植え込みの中に手を入れ、ゴミを取り除いてきれいにすることです。文字通り、植え込みの奥にまで“手を入れて”作業するので、枝やトゲなどで手は傷だらけになります。当然痛みもあります。そうして痛くて傷だらけになっても、しっかりと手を入れて作業しないと、きれいにならないのだそうです。

会社も同じだと、知り合いの経営者は言います。「会社も、問題のあるところに自ら入り込み、たとえ痛い思いやつらい思いをしても、どうにかしようとしなければ、きれいにならない」。そうした思いで、社員の意識改革や業務改善に取り組んでいると話してくれました。

私は、その思いにとても共感しています。組織が変わっていくということは、時に大きな痛みを伴います。特に、自分たちの問題のあるところをつまびらかにし、真っ向から向き合っていくのは、簡単ではありません。私も皆さんも、一人ひとりが皆、痛くてつらい思いをするでしょう。それでもなんとかしようとしなければ、会社は変わることはないのです。

私は、この植木屋さんの話を聞き、会社を変えていく決意と覚悟を、改めて固めています。

今年度から、私たちは、会社を新しく変えようと取り組んでいます。特に重要なのは、働き方改革をしっかりと実践するための、全業務の見直しです。当社には、これまで築いてきた40年の歴史があります。諸先輩方の教えを守り、踏襲しながらも、新しくすべきところは、思い切って変えていかなければなりません。

業務を見直すに当たって、今、皆さんにお願いしているのは、当社の全ての業務を洗い出し、一つ一つの業務にどれだけ時間とコストがかかっているかを明らかにすることです。

皆さんの中には、これまで所要時間を“なあなあ”に見積もったり、コスト感を持たずに仕事をしてきた人もいるでしょう。業務の洗い出しをするだけでも、自分の至らなさに直面し、既に「痛い」「つらい」と感じているかもしれません。

しかし、これから先は、もっと痛くてつらいはずです。業務の問題点をあぶり出し、「時間がかかり過ぎだ」「この業務自体必要ない」「新しいやり方に変えるべきだ」といった議論をして、一つ一つ見直すことになるからです。新しいオペレーションを覚えるのも、簡単ではないでしょう。

それでも、私たちは、前に進み続けます。痛くてもつらくても、会社の未来は、自分たちで創っていかなければならないからです。新しい元号「令和」に変わった今、当社の「手入れ」も、待ったなしです。皆さん、どうか一緒に、私たちの会社を変えていきましょう!

以上(2019年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】管理職が、今こそ若手社員に教えるべき4つのこと

今日は特に、若手社員を部下に持つ管理職の皆さんにお伝えしたいことがあります。

新年度に入り約1カ月が過ぎました。最初は熱心に若手社員に向き合っていた管理職の皆さんにも、「このままの指導法でよいのか」と迷いが出たり、「部下とコミュニケーションが取りにくい」といったネガティブな気持ちが出始めたりする時期かもしれません。

そこで今日は、当社の管理職として若手社員に教えるべき4つのことを、改めてお伝えします。知っていて当たり前と思えるような基本的なことばかりですが、実践できていない若手社員が多いので、ぜひ、できるように指導してください。

1つ目は、部下が「ありがとうございます」と「申し訳ありません」を言えるようにすることです。社外の人に対してだけではありません。上司や先輩、同僚など社内の人に対しても同じです。何かを教えてもらったとき、時間を割いてもらったときはお礼を、迷惑を掛けてしまったときはおわびを。部下が自分のほうから人に頭を下げることができるよう指導しましょう。これは、物事の全てにおける基本です。

2つ目は、部下が率先して動けるようにすることです。例えば、会議の準備や後片付けをするとき、皆で掃除をするとき、来社したお客さまをご案内するときなどは、サッと立ち上がり、進んで行動ができるよう指導しましょう。自分のことばかりでなく、周りにも気を配れるようにします。

3つ目は、部下がリアクションをしっかり取れるようにすることです。呼ばれたら返事をすることはもちろん、呼んだ人のほうを向いて話を聞くことも教えなければなりません。また、質問されたとき、分からなくても黙り込まず、「すみません、分からないので確認します」と返答することも教えましょう。相手のほうを向くこと、相手にリアクションをしっかり返すことなどは、その人との関係性を築いていく上でとても大切です。

そして4つ目は、これまで挙げてきた3つの総括ともいえますが、部下が、「相手のことを考える」という気持ちを持てるようにすることです。仕事は、一人では決してできません。社内外の人と一緒に進めていくものです。自分のことばかりでなく、「相手はどのように言っているか。どう思っているか」ということを必ず考えるよう、部下に繰り返し伝えてください。

これら4つのことは、いわば「人としてできて当たり前」の基本的なことばかりです。しかし、世の中には、できていない人も少なくないのが事実です。当社の社員はそれではいけません。しっかりと実践できるよう、若手社員の頃から、私や管理職の皆さんが指導することが必要です。

そして、部下は管理職の言動をまねします。管理職の皆さんは、4つのことを率先垂範し、部下に実践している姿を見せてください。今から1カ月後、皆さんの部下が今と変わった姿を見せてくれることを、私は期待しています。

以上(2019年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】感情を込めろ。ビジネスが広がる

先日、ある会社の窓口担当者の言動を見て、自分たちも改めて気を付けようと思ったことがあるので、皆さんと共有します。

その窓口担当者の会社は、マーケティング関係のコンサルティングを行っており、当社と一緒にクライアント向けの案件を進めています。ここ半年くらいは月に3~4回、メールや電話でやり取りをしてきました。先日、その案件が成功を収めたので、私から窓口担当者にメールを送りました。そのときのことです。

メールには、今回のお礼と、当社が今後考えている展開を簡単にまとめた上で、最後は「当社でお役に立てることもあるかと思いますので、また、ぜひ一緒にやりましょう。一度お打ち合わせをお願いします」という趣旨の文章で結びました。窓口担当者とは、先方の代表や役員も含めた場で、今後一緒にさまざまなビジネスを展開していこうと、何度も話をしていたからです。私としては、窓口担当者からも、同様の趣旨のメールが返ってくるものと期待していました。

ところが、全くそうではなかったのです。窓口担当者から返ってきたのは、「ありがとうございます。必要な場合は、こちらからご連絡します」というそっけないメールでした。

「今後のビジネス展開」は当社側の独りよがりだったのか、先方の意に沿わないことがあったのか。いずれにしても何かしら迷惑を掛けたのかもしれないと、私はおわびのメールを返しました。

結果から言えば、それは私の取り越し苦労でした。おわびのメールを返したその日のうちに、先方の代表から「ぜひ一緒にやりたい」と電話があり、現在は別の案件を共に企画しています。代表は電話口で、窓口担当者が私にそっけないメールを送ったことを、しきりに謝っていました。

皆さんは、この話を聞いて、どう思いますか。皆さんも日ごろ、この窓口担当者と同じようなことを、相手に対してしてはいないでしょうか。

私はこの窓口担当者が、メールに「感情をもっと込める」ことができればよかったのだと思います。窓口担当者は、今後一緒にビジネスを展開することを立場的に即断できなかったのかもしれません。それでも、「私見ですが、一緒にできたらうれしいです」「私も、もっと御社の今後の展開をお聞きしたいです」という「窓口担当者自身の感情」を込めることはできたでしょう。

ビジネス上の付き合いは、気心の知れた友人とのそれとは違います。相手が何を考えているか分からない場合も少なくありません。だからこそ、「ありがたい」「うれしい」「一緒にやりたい」といった感情を込めて接していくことで、その後の関係性が大きく変わってくるのです。

皆さん、今日から、感情をもっと込めて周りと接することを心掛けてみてください。苦手な人は、いつものメールに、「うれしいです」など、一言感情を添えてみましょう。ビジネスの広がりは、その一歩から始まります。

以上(2019年5月)

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画像:Mariko Mitsuda

上司必読! 部下を伸ばす言葉、ダメにする言葉

書いてあること

  • 主な読者:部下の指導に悩む上司、管理職
  • 課題:モチベーションを引き出すために、どう言葉を掛けて良いかわからない
  • 解決策:「急ぎで働いてもらわなければいけない場合」など、シーンに応じた言葉の掛け方を学ぶとともに、部下がやる気をなくしてしまう言葉を掛けないよう留意する

1 部下を「伸ばす」言葉がある

上司は日ごろから部下を伸ばそう、成長させようと指導しているが、うまくいかずに悩みを抱えていることが多い。

部下を伸ばすためには、まず「部下のやる気を引き出すこと」が鍵となる。そして、部下のやる気を引き出すために上司は、「日ごろから部下に、どのような言葉をかけるか」を考えなければならない。部下の仕事内容・仕事の進め方・進捗状況を一番把握し、部下にとって最も身近な存在なのは、上司だからである。

部下の性格や考え方にもよるが、やる気を引き出す基本は「上司が部下に、信頼を寄せ、関心を示し、期待していることを示す」ことである。

人は「自分が必要とされている、信頼されている」と感じると「嬉しい」「よし、頑張ろう」と思う。特に、「最も身近な存在である上司が自分の仕事をしっかりと見てくれている、期待してくれている」と感じれば、部下は期待に応えようと奮起する。

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上司が信頼・関心・期待を表すことができるのは、褒め言葉や部下を肯定する言葉だけではない。注意を促す言葉に込めることもできる。

例えば、「君の仕事の進め方で、○○の点については少し効率が悪いと思う。少し方法を変えてはどうだろうか?」といったように、より具体的に注意することで、部下は「自分の仕事をしっかりと見てくれているのだな」と感じる。

2 部下を伸ばす言葉の具体例

1)部下が作成した資料の内容が良くないため再作成を命じるとき

このときのポイントは、イメージが違っても頭ごなしに否定するのではなく、部下の意図を聞く姿勢を見せることである。部下は、そうした上司の姿に、上司からの信頼と関心を感じる。

  • 上司の言葉:
  • 「君が作成した△△の資料、○○の部分が私のイメージと異なるんだ。なぜ○○のように作成したか理由を教えてくれないか?」
  • 部下の感じ方:
  • 「作成した資料をしっかりと見てくれている」「自分の考えを聞いてくれる」

2)部下に1人で急ぎの仕事を遂行してもらうよう指示するとき

このときのポイントは、上司がなぜ部下に急ぎの仕事を依頼するのかをきちんと説明し、「助けてもらいたい」という気持ちを表すことである。部下は、上司に頼られ期待されていることが分かり、「よし、それならば私がサポートしよう」と意欲的に取り組む。

  • 上司の言葉:
  • 「××の資料をどうしても今日の5時までに完成させなければならないのだが、私は□□をしなければならないので時間がない。急ではあるが、今日の4時までに××の資料を作成しておいてくれないか?」
  • 部下の感じ方:
  • 「自分を信頼して任せてくれている」「上司ができない理由を教えてくれている」

3)部下のミスや不注意によってトラブルが発生したため、再発防止を命じるとき

このときのポイントは、トラブルの再発防止について部下に考えさせるチャンスを与えることである。部下は、上司からの信頼・関心・期待を感じ、トラブルを素直に反省するとともに、前向きに仕事に取り組む。

  • 上司の言葉:
  • 「今回のトラブルについて、今後同じようなトラブルを避けるためにはどうしたら良いと思う?」
  • 部下の感じ方:
  • 「自分に考えさせようとしてくれている」

3 部下を「ダメにする」言葉もある

上司の言葉一つで部下がやる気出るのと同じように、上司の言葉一つで部下がやる気を失い、ダメになってしまうこともある。身近な存在である上司だからこそ、ささいな言葉一つで、部下は、「この人にそう言われるということは、自分はもうダメなのかもしれない」と誤解し、やる気や自信を失う恐れがある。

上司と部下はあくまでもビジネス上の関係であり、友人関係ではない。仕事を遂行するため、そして部下の能力をより向上させるために、上司は、時には部下を注意したり叱ったりすることもある。しかし、上司のせっかくの本意を誤解し、部下がやる気を失ってしまうようではもったいない。

部下がやる気を失ってしまうのは、前述した「部下を伸ばす言葉」の逆で、「上司から信頼も関心も寄せられず、期待もされていないと感じてしまった場合」である。

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部下が「信頼・関心・期待が寄せられていない」と誤解するのは、上司に叱られたときばかりではない。

仕事を依頼するときの「君は与えられた仕事を終わらせてくれればいいから」「とりあえず、適当に進めておいて」などのような言葉で「余計なことはするな、と言われているのか?」「面倒だから丸投げした感じだな」と受け取り、やる気を失うことがある。

また、たとえ褒められたとしても、「最近いいじゃない」などの抽象的な表現だけでは、「適当におだてているだけなのではないか」と誤解してしまう部下もいるだろう。叱るときだけではなく、仕事を依頼するときや褒めるときなども、上司は、「信頼・関心・期待を寄せていない」と部下に思わせてしまうような言葉を避けたほうがよい。

4 部下をダメにする言葉の具体例

部下に注意するときや部下の理解を確認するときなど、シーンに応じて「信頼・関心・期待が感じられないと部下が誤解しがちな上司の言葉の例」「部下の感じ方」「上司の本意」「良い上司の言葉」を確認してみよう。

1)部下が作成した資料の内容が良くなかったとき

部下をダメにするのは、誰かと比べて否定する言葉である。今、目の前にいる部下にフォーカスした言い方に変えることがポイントとなる。

  • 良くない上司の言葉:
  • 「君が作成した資料、全然イメージと違うからもういいよ。A君に頼むから」
  • 「A君だったら、君が作ったような資料は作成しないと思うよ」
  • 部下の感じ方:
  • 「ほかの人と比較され、『自分は劣っている』と言われている」ように感じる。
  • 上司の本意:
  • 悔しさを感じ「もう一度私にやらせてください」と言ってほしい。
  • 良い上司の言葉:
  • 「君が作成した△△の資料、どうしてもイメージと異なるんだ。なぜ○○のように作成したか理由を教えてくれないか?」

2)部下の仕事を上司自身が代わりに行ったり、ほかの部下に振ったりするとき

部下をダメにするのは、「もういい」などの見放すような言葉である。割り振りを変えるときは、その理由を説明することがポイントとなる。

  • 良くない上司の言葉:
  • 「もう◇◇についてはやらなくていいから」
  • 部下の感じ方:
  • 「もう任せてはくれないのかな」と上司からの信頼や期待がなくなってしまったように誤解する。
  • 上司の本意:
  • ××の件で忙しそうだから、◇◇を担当してもらうのは無理だろう。
  • 良い上司の言葉:
  • 「君は今××の件で手一杯だろうから、今回は私が(あるいはA君が)やるよ」

3)仕事について部下が理解しているか確認したいとき

部下をダメにするのは、「当然分かるよね?」など「No」と言うことができないような言葉である。部下の意見や考えを聞き出す言い方に変えることがポイントとなる。

  • 良くない上司の言葉:
  • 「君なら当然分かるよね?」「君はもう当然できているよね?」
  • 部下の感じ方:
  • 「分からない、できていないと答えたら怒られる」という強迫観念にとらわれる。また、「上司は、自分が分かっていない、できていない、と思っているのかもしれない」と上司からの信頼を得られていないように感じることもある。
  • 上司の本意:
  • 理解しているかどうか、どのように考えているのか聞いてみよう。また、自分の言葉で説明させることによって自分自身の頭の中を整理してもらおう。
  • 良い上司の言葉:
  • 「□□について君の意見を聞かせて欲しい」

5 部下一人ひとりと真剣に向き合う勇気

「伸ばす言葉」「ダメにする言葉」のどちらも、「信頼・関心・期待をどのように上手に伝えるか」がポイントとなる。ただし、部下は個々の性格や考え方が違うので、上司の言葉に対する受け止め方もそれぞれ異なる。信頼・関心・期待を寄せられていると感じるポイントも違う。そこで、部下一人ひとりと真剣に向き合わなくてはならない。

一方、部下は、部下一人ひとりと真剣に向き合おうとする上司の姿勢を感じるだけで、「自分たち部下に関心を寄せ、考えてくれようとしている」と思い、それに応えようと努力するはずである。

部下を伸ばすために大切なのは、上司が、日ごろから部下一人ひとりと真摯に向き合い「部下のやる気を引き出す言葉」をかけることである。そうすれば、部下のやる気を引き出すだけではなく、上司と部下との間で強い信頼関係を築くことができるだろう。

また、時と場合によっては、上司は言葉を選ばず、部下を厳しく叱ったり指導したりしなければならない。厳しくするときには厳しくする。上司のそうした真摯な姿勢に部下は、「自分に向き合ってくれている」と尊敬と感謝の気持ちを抱くのである。

最後に、やる気を引き出し部下を伸ばす「魔法の言葉」と、やる気を失わせ部下をダメにする「避けたほうがよい言葉」を紹介する。上司は、適度に部下に「魔法の言葉」をかけ、部下のやる気を引き出していくことが大切といえよう。

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以上(2019年5月)

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待ったなしの副業解禁の時代をひもとく〜現代の遣唐使 他社留学を事業化するエッセンス社の米田さんに聞く〜/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人 杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、エッセンス株式会社の社長である米田瑛紀さんです。

2019年4月、副業・兼業の解禁やリモートワークの推進など、激動の「働き方多様化時代」が始まっています。米田さんは、その最先端を担っていて、経済産業省におけるワーキンググループの委員にも選出されています。

大企業の優秀な人材をスタートアップ企業へ期間限定で送り込む「他社留学」の他、「現代の遣唐使」に見立てて「地方人材を東京へ送り込む」ことを事業化するなど、幅広く人材を活性化し「人財」にする活動をされています。

1 副業人財で決まりましたよ!

最初に、私のキャリアでターニングポイントになった出来事を紹介します。今から20年ほど前、当時懇意にしていた得意先の方から、ドラッカーさん(ピーター・ドラッカー)の音源を聞かせてもらったことがあります。その音源の中に、ドラッカーさんが来るべき将来に必要な人材像についてコメントしている場面がありました。

詳細なことまでは覚えていないのですが、当時のドラッカーさんが、「1社に帰属し自身の関わる仕事だけのプロフェッショナルの時代は確実に終わる」ということと、「多様性の時代が来る。その際には、いろんな業界、企業、職種、コミュニティーと対話ができる器用なビジネスパーソンが重宝される時代となるだろう」というようなことを予言的に話していたことは鮮明に覚えています。

これらドラッカーさんのお話に衝撃を受けた当時の私。幸いにして20代で全く違う業界へ2度の転職経験があり、さらに、私はあらゆる業種と関わりのあった損保会社で仕事をしていました。そうしたことから、ドラッカーさんのメッセージを、「まさにドラッカーさんが私に言ってくれている」と自分勝手に誤解? 曲解?して受け取り、それが根拠のない自信となって現在に至るまでパワーをもらっています。

会社員時代、就業規則の関係により私は金銭的な副業経験をしたことは一度もありません。しかし、当時から社外へ求め始めたネットワークのおかげで、莫大な【情報】と【信用】を手に入れることができました。金銭以上のものを【副業】として得られたといっても過言ではないと今まさに感じ、感謝しています。

これからの時代を生き抜く上でも、副業は大切な意味を持っていると思っています。

そろそろ冒頭のタイトル、【副業人財で決まりましたよ!】に戻りたいと思います。【副業人財で決まりましたよ!】。これは、私がインタビューに伺った際に、米田さんが席に着くなり、ニコニコ顔で語ってくださった言葉です。

今から数カ月前、懇意にしている上場会社の社長さんから、「杉浦さん! ここ6カ月ほど、社長マターで幹部人材を探しているけれど採用できなくて困っています! どこか採用の支援をしてもらえる会社を紹介してください!」と依頼を受け、すぐに米田さんにお願いしたものでした。

そこから2カ月もたたないうちに、米田さんから「副業人財をご導入いただくことが決まった」との報告をいただき、少し不思議な感じでした。役員級での採用要請でしたので、私は常勤の候補が当たり前と思っていましたが、この副業でジョインされた方は元マイクロソフトでマーケティングを担当したこともあり、現在は世界的によく知られるマーケティング会社の超有名人だそうです。

もしこのハイスペックな方を説得し、100%のコミットで転職要請するには、いったいいかほどの年俸を準備することになるのでしょうか。そして、どれくらい先にジョインすることとなるのでしょうか。

恐らく、企業側が想定している額をはるかに上回る金額が必要で、しかも、候補の方の状況によっては、実際にジョインするのはしばらく後になるかもしれません。企業にとっては、かなり難しく現実的ではない状況になるでしょう。

「常勤採用の発想から企業側も転換をしたほうが良いですよ」。そう米田さんは話します。「副業人財」としてジョインしてもらえば、ハイスペックな方を週1もしくは月数回程度で味方にすることができ、企業のレベルアップが図れます。依頼主の社長にとっては良いことずくめです。

米田さん率いるエッセンス社では、「戦略設計図を描けるプロ(人財)をそろえている」という点で、他社にはない価値を企業に提供できるとしています。また、人材を探している企業に寄り添い、「足りないピースは何か」「どこなのか」といった点も掘り下げていく【丁寧なチューニング】も、大きな強みといえるでしょう。

米田さんの姿勢から、「副業だからこそ人財の適材適所をしっかり考えることの大切さ」を目の当たりにした次第です。案件の数にこだわるのではなく、チューニングの丁寧さとクオリティーの部分に、エッセンス社が「何を重要視しているのか」がうかがえます。

2 水面下でも動き出している大企業の「他社留学」という研修スタイル

次にご紹介するのは「他社留学」という取り組みです。1万人以上を抱える大企業では、仮に自分が必死で努力したり、運を味方につけたりしたとしても、役員にまで上りつめることは本当に大変です。昨今、大企業でも役員の若返りにチャレンジしているとはいえ、20代で役員会に出るチャンスは皆無といってもよいくらいです。

しかし、エッセンス社ではその経験を20代でかなえる取り組みも実施されています。実は私がご紹介した会社はまさに社員数1万人以上で、「有能な若手人財をつなぎ留めておく施策はないか?」と探しているところでした(大概の場合、期間限定の海外研修ってことが多いですね……)。そこでその会社には、期間限定で他の会社に留学するという「他社留学」を若手社員に経験させてみることを紹介しました。

当初、まずは、その会社の1名を、あるスタートアップ企業に留学させることにしました。その結果、

  • 自社(大企業)のリソースの大きさ、ポテンシャルを認識できた
  • スタートアップ企業の役員会に参加することで経営側の考え方を学ぶことができた

ということだそうです! そこで、現在は3年目の他社留学をスタートしており、非常に効果が出ているといいます。

例えば、他社に留学することで、現業の【引き出し】が増え、課題解決力や視座が高まり、価値観も広がる。そして何より、「マインドが変わる=自立心が育まれる」ことが大きいと思います。

私が会社員時代に感じていた、【企業研修】の意味のなさ。研修に際して、会社が多額の投資をしてくださったことには感謝していましたが、「座学→眠い→体験値が低い→研修期間を過ぎればすぐに消えてゆく」。こうしたことの連続でした。だからこそだと思いますが、私には、エッセンス社の他社留学事業は大企業にとって「本当に社員を変えることのできる」画期的な【研修事業】と映りました。

企業が副業解禁に向かう場面でも、この他社留学は意味あるものだと感じます。自分が勤めている会社のことしか知らないという純粋培養では、企業側が副業解禁しようとしても、社員たちは何も分からない、変わらない、一歩も前へ進めない。そんな状況かもしれません。他社留学は、そうした社員の背中を押す施策と感じます。

●エッセンス社の他社留学に関する説明はこちら
http://nanasan.essence.ne.jp/

他社留学事業を説明した画像です

3 【現代の遣唐使】地方と東京をつないでいく

米田さんの思いは、「地方活性化」にも及びます。米田さんは、その思いを「現代の遣唐使」という表現で話してくださいました。飛鳥時代から平安時代にかけ、日本の礎(技術、政治、文化、宗教)に大きな影響を与えたのが、日本から「唐」に派遣されていた「遣唐使」です。遣唐使も、まさに「有能な人財を全く見たこともない世界に送り込むことで成長の機会を得られる」という制度でした。米田さんは、「現代の遣唐使」になぞらえて、地方の企業から東京の企業へ社員を送り込み、学びの機会を創出するという事業にもチャレンジされています。

例えば、青森県六ヶ所村に所在する日本原燃株式会社の例を見てみましょう。同社の2017年度の売り上げは2600億円超、従業員数も2700人を超えています。今回、この地元の超優良企業である日本原燃社から、都会にあるユニリーバ・ジャパン社の人事や、サイボウズ社の総務にと、日本でも先端的な取り組みをしている企業で「現代の遣唐使」が実施されたそうです。

既成概念の中で硬直した企業組織、若い世代が違和感を持っても過去の事例の中では発言すらはばかられる。日本原燃社では、こうした状況を打破すべく、「現代の遣唐使」を導入したのかもしれません。社員は、東京の企業で、全く違った組織運営の在り方や、仕事への取り組み方について現場で学ぶことができます。最先端の取り組みを行っている企業で経験した実績を、遣唐使となった社員が自社に持ち帰ることで、実際に、社内が大いに活性化しているそうです。

「現代の遣唐使」では、「既にある良きもの」をどんどん都会から持ち帰り、地方で生かしていくことがポイントです。今まで、地方へ有能な都会人財を送り込むことで活性化を生むケースは見受けられました。「都会人財が地方へ行く」という一方通行ではなく、双方向、特に地方から都会への遣唐使制度の中に、地方活性化の早道があるかもしれないと感じました。

4 副業解禁、その時代に必要とされる人財に大切なこと

働き方改革、副業解禁といったように社会が大きく変化していく中だからこそ、「人財」として大切にしなければならないことがあると、私は思っています。

あるスタートアップ企業で部長級以上の会議に出席したときに居合わせた、60歳以上の元商社出身の人生の先輩。この会社で必要なことへの言及は全くせず、終始、自分の経歴を一生懸命プレゼンするだけでしたが、結果として、その方は多額の報酬要求をされました。こうした、過去の人脈を頼り、電話一本で「この会社の社長と会え!」などと言う、強引な顧問の時代もそろそろ終わりに近づいていると感じます。

米田さんも、これから副業解禁時代を生き抜くためには、【再現性】と【マインド】という2つのキーワードが特に重要だと話します。

米田さんの会社で中核事業の一つである、プロ人材の紹介サービス事業である【プロパートナーズ事業】には、大企業で現役として働いている方や引退した方が「プロ候補」としてたくさん面談に訪れるそうです。しかし、そのうちの80%以上はお引き取りを願うのだそうです。

【再現性】と【マインド】という2つのキーワードを持っていない、それがお引き取りを願う理由だと米田さんは言います。有名企業に所属していただけ、肩書があるだけで、現場で実践してきたビジネススキルや成功体験を持ち合わせていない。また、やってきた仕事は単に所属企業のルーティンワークで、自社以外に持ち出して活用したり、再現できたりするものは何一つない。そんな方が少なくないと言います。

加えて、【マインド】もなく「大企業にいた」という上から目線で、そのことが地方の中小企業の現場では全く役に立たないことを理解していないようです。「自分が何に、どうしたら役に立てるか?」を必死で考える言葉が出る、そして行動する。そうした他者貢献のマインドがあってこそ副業ができるのです。【再現性】と【マインド】。この2点がないと、副業時代を生き抜くことは難しいと米田さんは話します。

●エッセンス社のプロパートナーズ事業に関する説明はこちら
https://www.essence.ne.jp/propartners

プロ人材の活用の広がりを説明した画像です

【再現性】と【マインド】。この2つを意識し、多様化し、激変していく世の中で活躍できる人材が「人財」となり、地方と都会の両方が活性化することを願いたいと思います。

以上(2019年4月作成)

農地所有適格法人の設立~農事組合法人の場合~

書いてあること

  • 主な読者:農業の法人化を検討している事業主
  • 課題:法人化に当たり、どのような形態が向いているのかを知りたい
  • 解決策:農事組合法人は、内部自治が認められており、1つの集落内にある複数の農家が共同出資をして手掛ける「集落営農」を法人化したい場合に適している

1 農業法人の区分と法人化するメリット

1)農業法人と農地所有適格法人の区分

農業法人とは、法人形態で農業を営む農家の総称です。農業法人の区分は次の通りです。

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2)農業経営を法人化するメリット

1.経営意識の転換

農地所有適格法人になることで、農業経営に掛かる経費と家計の明確な区別が必要となり、コスト削減を意識するなど、農家が経営責任に対する自覚を持ちやすくなります。

2.対外信用力の向上

農地所有適格法人には財務諸表の作成が義務付けられているため、経営内容を数値で示すことができ、金融機関や取引先への対外信用力が向上します。

3.農業従事者の福利厚生面の充実

農地所有適格法人になることで、農業従事者の福利厚生を充実させやすくなり、外部からの新規就農者が見込みやすくなります。

4.機械・設備費の削減

経営を一本化することで機械や設備を共有することができ、効率的な利用やコストの削減が可能となります。

5.税制上の優遇

農地所有適格法人の場合、課される法人税が定率課税となる、役員報酬が損金として処理できる、欠損金の繰り越し控除が可能な期間が9年間(個人の場合は3年間)になるなどの税制上の優遇措置があります。

2 農事組合法人の形態を取る農地所有適格法人の概要と設立手続き

1)農事組合法人の概要

農事組合法人の根拠法は「農業協同組合法」(以下「農協法」)です。同法第72条の4において、農事組合法人の目的は「構成員共同の利益増進」とされており、構成員の公平性が重視されます。

農事組合法人(2号)になるためには、3人以上の自ら農業を営む個人または農業に従事する個人(以下「農家」)が共同して出資しなければならず、構成員は全員が原則として農民等(注)でなければなりません。1人当たりの出資額は全体の50%以下とする制限が設けられており、また、議決権は出資額にかかわらず1人1票制とされています。従って、農事組合法人(2号)は、等質的で対等な小規模農家が共同して規模の拡大または経営の効率化を図るといった目的がある場合に適しています。

(注)農民等とは、農事組合法人(2号)の構成員要件として、自ら農業を営む個人または農業に従事する個人の他、農協、農地保有合理化法人、農事組合法人から物資の供給または役務の提供を受ける者が含まれます。

北海道農業経営局農業経営課「農地所有適格法人制度の概要」によると、農事組合法人の概要は次の通りです。

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農事組合法人は、設立時に組合員から1人以上の理事を選任します。それ以外の機関設計や運営については、組合員同士の話し合いによる内部自治が認められており、定款に定める内容の自由度が高いといえます。このため、集落内の複数の農家が共同出資して農産物の生産を行う「集落営農」を法人化する場合に、農事組合法人の形態が選択されることがあります。

農事組合法人は株式会社へ組織変更することができます(農協法第73条の2、同法第73条の3)。一方で、農事組合法人から合同会社・合名会社・合資会社への組織変更は法律上の規定がないため、一度解散の手続きを取る必要があります。

2)農事組合法人の設立手続き

農事組合法人の定款への記載事項は、農協法第72条の16によって規定されています。

農林水産省「農事組合法人設立までの流れ」によると、農事組合法人設立の手続きは次の通りです。

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農事組合法人の設立には、定款の認証や設立時の調査などが不要であり、会社法人である農地所有適格法人の設立に比べて、簡素な手続きで済みます。

農事組合法人の設立を管轄する官公庁は都道府県です。ただし、活動範囲が複数の都道府県をまたぐ場合は所轄の農政局に届け出をします。

また、農地の権利(所有または賃借により農地を耕作する権利)を持つ法人であるため、農事組合法人の設立の際には、各市町村の農業委員会に対して農地の権利の許可を申請する必要があります。

以上(2019年4月)

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農地所有適格法人の設立~会社法人の場合~

書いてあること

  • 主な読者:農業の法人化を検討している事業主
  • 課題:法人化に当たり、どのような形態が向いているのかを知りたい
  • 解決策:会社法人の場合、家族経営を法人化したい、大規模の農家が小規模の農家を巻き込んで規模の拡大を図りたい場合などに適している

1 農業法人の区分と法人化するメリット

1)農業法人と農地所有適格法人の区分

農業法人とは、法人形態で農業を営む農家の総称です。農業法人の区分は次の通りです。

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2)農業経営を法人化するメリット

1.経営意識の転換

農地所有適格法人になることで、農業経営に掛かる経費と家計の明確な区別が必要となり、コスト削減を意識するなど、農家が経営責任に対する自覚を持ちやすくなります。

2.対外信用力の向上

農地所有適格法人には財務諸表の作成が義務付けられているため、経営内容を数値で示すことができ、金融機関や取引先への対外信用力が向上します。

3.農業従事者の福利厚生面の充実

農地所有適格法人になることで、農業従事者の福利厚生を充実させやすくなり、外部からの新規就農者が見込みやすくなります。

4.機械・設備費の削減

経営を一本化することで機械や設備を共有することができ、効率的な利用やコストの削減が可能となります。

5.税制上の優遇

農地所有適格法人の場合、課される税金は定率課税である法人税となり、所得が一定以上の場合、累進課税である所得税よりも税率が低くなることがあります。これに加えて、役員報酬が損金として処理できる、欠損金の繰越控除が可能な期間が10年間(個人の場合は3年間)(注)になるといったの税制上の優遇措置があります。

(注)2018年4月1日以後に開始する事業年度分において生ずる欠損金の繰越期間は10年間です。また、2008年4月1日以後に終了する事業年度から2018年4月1日前に開始する事業年度分において生ずる欠損金の繰越期間は9年間となります。

2 農地所有適格法人の設立要件

会社法人である農地所有適格法人の設立手続きなどは、基本的には他の業種の法人と同様ですが、事業要件・構成員要件など、別途満たさなければならない要件もあります。こうした要件が設定されているのは、農地権利を取得した他の業種の法人が農業以外の目的で農地を利用することなどを防止するためです。

農地所有適格法人の設立のために満たさなければならない要件は次の通りです。

1)事業要件

農地所有適格法人の主たる事業は、農業および関連事業でなければなりません。農業は農畜産物の生産・販売、関連する事業は、他の農家などで生産されたものを含む農畜産物の加工、貯蔵運搬、販売や農業生産に必要な資材の製造、農作業の受託などです。

また、農業および関連事業の売上高の合計が全体の売上高の50%を超えていれば、他の事業を営むこともできます。

2)構成員要件

会社法人である農地所有適格法人の構成員は、株式会社にあっては次のいずれかに該当する者が有する議決権の合計、持分会社(合同会社など)にあっては次のいずれかに該当する社員の数が社員総数に占める割合がそれぞれ過半数である必要があります。

  • その法人に農地の権利を提供している者(農地を売ったり貸したりしている者)
  • その法人が行う農業に常時従事する者(原則として年間150日以上従事)
  • 農地を現物出資した農地中間管理機構
  • 地方公共団体、農協、農協連合会
  • 農作業の委託者
  • 農地を農地利用集積円滑化団体や農地中間管理機構に貸し出している者

3)役員要件

農地所有適格法人は、理事等(農事組合法人では理事、株式会社では取締役、持分会社では業務を執行する社員)の過半数が農業(販売・加工を含む)に常時従事する者(原則として年間150日以上従事する者)でなければなりません。

そして、役員または重要な使用人(農場長等)のうち、1人以上がその法人が行う農業に必要な農作業に一定期間(原則として年間60日以上)従事している必要があります。

4)要件適合性の確保のための措置

農地所有適格法人の要件は、農地の権利を取得した後も満たされていることが必要です。農地所有適格法人が必要な要件を満たさなければ、農地所有適格法人ではなくなり、最終的に農地は国に買収されることとなります。

農地所有適格法人が農地の権利を取得した後も、要件に適合していることを確保するため、次に挙げる措置が設けられています。

1.農業委員会への報告

農地所有適格法人は、毎事業年度の終了後3カ月以内に、事業の状況などを農業委員会に報告しなければなりません。この毎事業年度の報告をしない、もしくは虚偽の報告をした場合には30万円以下の過料が課せられます。

2.農業委員会の勧告およびあっせん

農業委員会は、農地所有適格法人が要件を満たさなくなる恐れがあると認められるときは、法人に対し必要な措置を取るべきことを勧告できます。この場合、法人から農地の所有権の譲渡をしたい旨の申し出があったときは、農業委員会はあっせんに努めることとされています。

5)農地所有適格法人がその要件を欠いた場合

農地所有適格法人がその要件を欠いた場合、農業委員会は買収すべき農地等の公示を行い、農地の所有者に通知します。公示があった場合、その法人は3カ月以内に農地所有適格法人の要件を満たすよう努力し、要件が回復できれば、公示は取り消されます。しかし、3カ月以内に要件を回復することができなかった場合、その後3カ月以内にその法人は所有している農地を譲渡し、貸し付けを受けている農地は所有者に返還しなければなりません。

3カ月を過ぎても所有している農地などや貸し付けられている農地などは、最終的に国が買収します。

3 会社法人の形態を取る農地所有適格法人の概要と設立手続き

1)会社法人の形態を取る農地所有適格法人の概要

会社法人は営利行為が目的とされています。また、会社法人は、1人以上の構成員により設立することができ、1人当たりの出資額には制限がありません。従って、経営者に権限を集中させることや、他の農家あるいは農家以外の者から出資を受けることが可能であり、次に挙げるような目的がある場合に適しています。

  • 家族経営を法人化する
  • 大規模農家が小規模農家を巻き込んでさらに規模拡大または経営の効率化を図る

会社法人である農地所有適格法人の類型には株式会社・合同会社・合名会社・合資会社などがあります。経済産業省「人的資産を活用する新しい組織形態に関する提案」によると、出資者と会社債権者との関係および所有と経営の関係から見た会社法人の位置付けは次の通りです。

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合資会社と合名会社は個人事業主と同様に無限責任であり、法人が多額の債務を抱えるなどして破綻・倒産した場合、個人の私財を全てなげうってでも法人の債務を弁済しなければなりません。農業では天候不順や自然災害などが作物の生育に与えるリスクが大きく、農地所有適格法人の形態として無限責任に基づく合資会社や合名会社を選択することは一般的ではありません。それらに対して、有限責任に基づく株式会社や合同会社の場合は、個人の出資額の範囲内で法人の債務を弁済します。従って、会社法人である農地所有適格法人を設立する際には、株式会社か合同会社のいずれかを選択することが多くなっています。

山形県「農業経営の法人化マニュアル」によると、株式会社と合同会社の組織形態の特徴は次の通りです。

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2)会社法人の形態を取る農地所有適格法人の設立手続き

農林水産省「農業法人について『法人の設立手続』」によると、会社法人である農地所有適格法人の設立手続きは次の通りです。なお、実際に農地所有適格法人を設立する際には、弁護士・税理士・行政書士・社会保険労務士などの専門家と相談しながら手続きを進めることになります。

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会社法人の組織形態を取ることから、会社法の規定にのっとって設立手続きを進める必要があります。特に株式会社については、農事組合法人および合同会社に比べて、手続きが複雑になります。設立登記は各地の法務局にて行い、社会保険等は行政官庁などに届け出をします。

会社法人の設立手続きは他の業種と同様ですが、法人を設立しただけでは農地の権利を持つことができません。法人設立に加え、各市町村の農業委員会に対して農地の権利の許可を申請する必要があるため、会社法人設立手続きと並行して、農地の権利の申請について農業委員会と相談しながら進めるとよいでしょう。また、法人の設立後は毎事業年度の終了後3カ月以内に、事業の状況などを農業委員会に報告する必要があります。

以上(2019年4月)

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農業を取り巻く環境の変化で注目される農業経営の法人化

書いてあること

  • 主な読者:農業の法人化を検討している事業主
  • 課題:法人化することのメリット、法人化に必要な条件を知りたい
  • 解決策:法人化によって従業員が就業しやすい環境を整えられる。また、税制優遇や公的支援策も受けることができる

1 農業経営の法人化とは

1)家族経営から法人経営に

日本の農業には耕作放棄地の増加・農業従事者の高齢化などの問題が山積しています。また、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定の締結などに伴う貿易の自由化が進み、海外から安価な農産物の輸入が増加することが予想されています。

こうした状況を受け、農林水産省は、農業経営の組織化を進め、効率性や競争力の向上を図るべく、農業経営における家族経営から法人経営への転換を推進しています。

2)農業法人の区分

農業法人とは、法人形態で農業を営む農家の総称です。農業法人の区分は次の通りです。

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1.組合法人と会社法人

農業法人は、その組織形態によって、次のように大別されます。

  • 組合法人:農事組合法人(1号、2号)
  • 会社法人:株式会社、合名会社、合資会社、合同会社、特例有限会社

2.農地の権利取得の有無

農業法人は、農地の権利取得の有無によって、おおむね次のように大別されます。なお、農事組合法人(2号)は農地の権利取得が認められているため、農地所有適格法人に含まれます。

  • 農事組合法人(1号):農地の権利取得が認められていない法人
  • 農地所有適格法人 :農地の権利取得が認められている法人

農家が農地の権利を有して農業経営を法人化する際には、「農事組合法人(2号)または会社法人」のいずれかの組織形態を選択し、農地所有適格法人を設立することになります。

3)組織形態別の農地所有適格法人の現況

農林水産省によると、農地所有適格法人数(各年1月時点の法人数)の推移は次の通りです。

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農業経営を個人経営から法人経営へと転換するケースや、他業種(例:建設業)が農業に事業転換するケースが増えていることを受けて農地所有適格法人数は増加傾向にあり、2018年には1万8236法人となっています。

2 農業経営を法人化するメリット

1)経営管理能力の向上

農家の多くは、家族の労働力に頼る小規模な事業者です。そのため、農業生産に関わる収益・費用と家計の区別が明確でない「丼勘定」的な経営をしている農家が少なくありません。

農地所有適格法人には複式簿記による記帳や財務諸表の作成が義務付けられています。従って、法人の経費と家計との明確な区別が必要となり、コスト削減を意識するなど、農家が経営責任に対する自覚を持つことにより効率的な農業生産につながります。

2)対外信用力の向上

農地所有適格法人は財務諸表を作成するため、法人の資産および負債、並びに損益が明らかになります。これにより、家族経営に比べて取引先や金融機関への対外信用力を向上させることができます。

対外信用力が向上することで、金融機関からの資金調達の拡大が見込みやすくなります。また、農産物の需要先に対して売買契約を結ぶ際も取引相手の信用を獲得しやすく、販路開拓に有利に働くことも期待できます。

さらに、農地所有適格法人で生産された農産物を用いて他社と連携して付加価値の高い商品を開発するなど、新たなビジネスパートナーの獲得の可能性も広がります。

3)農業従事者の就業条件の明確化と福利厚生の充実

家族経営の場合、所得が生産状況に大きく影響され、休日や就業時間も不規則です。農地所有適格法人になることで、就業規則や給与などの就業条件を明確にすることができ、従事員が就業しやすい環境を整えられます。

また、農地所有適格法人の従業員は健康保険と厚生年金、さらに労災保険や雇用保険にも加入することになり、従業員は病気・けが・失業のリスクに対して安心感を持つことができます。

若い世代が就農に消極的な理由の1つに、農業は所得や福利厚生面が不安定であることが挙げられます。農業経営を法人化することにより、自分の親族を後継者として確保したり、新規就農者を雇用したりするなど、農業が抱える人材難を緩和する効果が期待されます。

4)有限責任によるリスク低減

家族経営を行う農家は個人事業主であるため無限責任を負います。つまり、農業で得た所得が全て自らのものである一方で、負債も自ら負わなければなりません。農業経営を拡大しようとする場合に無限責任のままであれば、設備投資などに掛かる負債や不作などの場合の損失が大きくなるため、個人で無限責任を負うことが重荷になります。

農地所有適格法人は基本的には有限責任であるため、個人は自らの出資の範囲内で債務を弁済すればよいことになります。従って、農業経営を拡充する際に個人が負うリスクを低減することができます。ただし、農地所有適格法人の組織形態が合資会社・合名会社である場合には、無限責任となります。

5)税制上のメリット

家族経営の場合の所得税は、所得が高いほど税率が高くなる累進税率です。一方、農地所有適格法人の場合は、定率課税となります。そのため、家族経営に比べ、農地所有適格法人は所得が多いほど税制面で有利になります。

また、農地所有適格法人の役員報酬は給与として損金にできる他、農地所有適格法人には欠損金の9年間(2018年4月1日以降に開始される事業年度において生じる欠損金は10年)の繰り越し控除が認められます(個人の場合は3年間)。 

6)公的支援策の充実

農業者への公的支援策のうち、法人または法人になろうとする者が受けることができるものを紹介します。

1.日本政策金融公庫「スーパーL資金」

日本政策金融公庫は、「認定農業者」に対して低利融資制度「スーパーL資金(農業経営基盤強化資金)」を設けています。認定農業者とは、生産拡大や生産方式の合理化などを盛り込んだ「農業経営改善計画」を策定し、市町村によって認定された農業者です。

個人への融資限度額が3億円(特認6億円)であるのに対して、法人に対する融資限度額は10億円(特認20億円)となっています。

2.日本政策金融公庫「経営体育成強化資金」

日本政策金融公庫は、認定農業者以外にも、「経営改善資金計画」または「経営改善計画」を提出した農家と農業法人に対して「経営体育成強化資金」を融資しています。これは農業者の設備投資や償還負担の軽減などを通じて農業経営の改善・強化を進めるために設けられた制度です。

個人への融資限度額が1億5000万円であるのに対して、法人・団体に対する融資限度額は5億円となっています。

■日本政策金融公庫■
https://www.jfc.go.jp/

3 農地所有適格法人の設立

1)事業要件

農地所有適格法人の主たる事業は、農業と関連事業でなければなりません。農業は農畜産物の生産・販売、関連事業は、他の農家などで生産されたものを含む農畜産物の加工、貯蔵運搬、販売や農業生産に必要な資材の製造、農作業の受託などです。

また、農業と関連事業の売上高の合計が全体の売上高の50%を超えていれば、他の事業を営むこともできます。

2)構成員要件

会社法人である農地所有適格法人の構成員は、株式会社にあっては次のいずれかに該当する者が有する議決権の合計、持分会社(合同会社など)にあっては次のいずれかに該当する社員の数が社員総数に占める割合がそれぞれ過半数である必要があります。

  • その法人に農地の権利を提供している者(農地を売ったり貸したりしている者)
  • その法人が行う農業に常時従事する者(原則として年間150日以上従事)
  • 農地を現物出資した農地中間管理機構
  • 地方公共団体、農協、農協連合会
  • 農作業の委託者
  • 農地を農地利用集積円滑化団体や農地中間管理機構に貸し出している者

3)役員要件

農地所有適格法人は、理事等(農事組合法人では理事、株式会社では取締役、持分会社では業務を執行する社員)の過半数が農業(販売・加工を含む)に常時従事する者(原則として年間150日以上従事する者)でなければなりません。そして、役員または重要な使用人(農場長など)のうち、1人以上がその法人が行う農業に必要な農作業に一定期間(原則として年間60日以上)従事している必要があります。

4)要件適合性の確保のための措置

農地所有適格法人の要件は、農地の権利を取得した後も満たされていることが必要です。農地所有適格法人が必要な要件を満たさなければ、農地所有適格法人ではなくなり、最終的に農地は国に買収されることとなります。

農地所有適格法人が農地の権利を取得した後も、要件に適合していることを確保するため、次に挙げる措置が設けられています。

1.農業委員会への報告

農地所有適格法人は、毎事業年度の終了後3カ月以内に、事業の状況等を農業委員会に報告しなければなりません。毎年の報告をしない、もしくは虚偽の報告をした場合には30万円以下の過料が課せられます。

2.農業委員会の勧告およびあっせん

農業委員会は、農地所有適格法人が要件を満たさなくなる恐れがあると認められるときは、法人に対し必要な措置を取るべきことを勧告できます。この場合、法人から農地の所有権の譲渡をしたい旨の申し出があったときは、農業委員会はあっせんに努めることとされています。

5)農地所有適格法人がその要件を欠いた場合

農地所有適格法人がその要件を欠いた場合、農業委員会は買収すべき農地等の公示を行い、農地の所有者に通知します。公示があった場合、その法人は3カ月以内に農地所有適格法人の要件を満たすよう努力し、要件が回復できれば、公示は取り消されます。しかし、3カ月以内に要件を回復することができなかった場合、その後3カ月以内にその法人は所有している農地を譲渡し、貸し付けを受けている農地は所有者に返還しなければなりません。

3カ月を過ぎても所有している農地等や貸し付けられている農地などは、最終的に国が買収します。

以上(2019年4月)

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経営事項審査の概要

書いてあること

  • 主な読者:経営事項審査について知りたい経営者
  • 課題:なぜ経営事項審査が必要なのか、どのような仕組みなのかが分からない
  • 解決策:公共工事を受注するためには経営事項審査を受けることが建設業法で定められている。審査は、経営規模や技術力などを基に行われる

1 経営事項審査とは

1)公共工事の受注に必要な経営事項審査

建設業法には、「公共性のある施設又は工作物に関する建設工事で政令で定めるものを発注者から直接請け負おうとする建設業者は、国土交通省令で定めるところにより、その経営に関する客観的事項について審査を受けなければならない」と規定されています(建設業法第27条の23第1項)。この経営に関する客観的事項についての審査が「経営事項審査」です。

公共性のある施設又は工作物に関する建設工事で政令で定めるものとは、国、地方公共団体、法人税法別表第一に掲げる公共法人、国土交通省令で定める法人が発注する建設工事で、工事1件の請負代金の額が、500万円(該当する建設工事が建築一式工事の場合は1500万円)以上のものです(建設業法施行令第27条の13柱書)。

なお、堤防の欠壊・道路の埋没・電気設備の故障その他施設または工作物の破壊・埋没等の応急の建設工事、緊急の必要その他やむを得ない事情があるものとして国土交通大臣が指定する建設工事は上記建設工事には含まれません(建設業法施行令第27条の13第1号、第2号)。

2)公共工事の参加資格審査に必要な経営事項審査

前述の通り、公共工事の発注者は国と地方公共団体だけではなく、その他多くの公共団体の工事も含みます。

経営事項審査の総合評定値は、公共工事の競争入札参加資格審査において「客観的事項の審査」に用いられます。

公共工事の競争入札参加資格審査の概要を示すと次の通りです。

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公共工事の競争入札参加資格審査は、客観的事項の審査と主観的事項の審査から成っています。この客観的事項の審査に用いられるのが経営事項審査の総合評定値です。主観的事項の審査に用いられる発注者評価点は、公共工事の発注者によってそれぞれ基準や重点が異なりますが、客観的事項の審査はどの公共工事の発注者においても共通の評定値となります。

2 経営事項審査の概要

1)審査項目

経営事項審査では、次の項目を基に総合評定値(P)を算出します。

  • 経営規模(X)
  • 経営状況(Y)
  • 技術力(Z)
  • その他の審査項目(社会性等)(W)

以降では、各審査項目の内容について紹介します。なお、頻出する「審査基準日」とは、経営事項審査申請をする日の直前の事業年度終了の日となります。

2)経営規模(X)

1.年間平均完成工事高(X1)

年間平均完成工事高(X1)は、審査基準日を含む2事業年度分または3事業年度分における完成工事高を平均した年間平均完成工事高を、評点テーブル(特殊な計算)に当てはめて評点が付けられます。

2.自己資本額と利払前税引前償却前利益額(X2)

経営事項審査における自己資本額とは貸借対照表上の純資産の額を指します。「審査基準日の自己資本額」または「審査基準日の自己資本額と前審査基準日の自己資本額の平均の額」を算出し、評点テーブルに当てはめて評点が付けられます。

利払前税引前償却前利益額(営業利益+減価償却費)は審査基準日を含む2事業年度分の平均の額を算出し、評点テーブルに当てはめて評点が付けられます。

自己資本額の点数と利払前税引前償却前利益額の点数を合計して2で除したものが、自己資本額と利払前税引前償却前利益額(X2)となります。

3)経営状況(Y)

1.経営状況を算出するための8指標

経営状況は、審査基準日を含む事業年度の貸借対照表および損益計算書、株主資本等変動計算書に計上された数値から算出される8指標で構成され、次の式で算出します。

  • 純支払利息比率(%)(Y1)=(支払利息-受取利息配当金)/売上高×100
  • 負債回転期間(月)(Y2)=(流動負債+固定負債)/(売上高÷12)
  • 総資本売上総利益率(%)(Y3)=売上総利益/総資本(2期平均)×100
  • 売上高経常利益率(%)(Y4)=経常利益/売上高×100
  • 自己資本対固定資産比率(%)(Y5)=自己資本/固定資産×100
  • 自己資本比率(%)(Y6)=自己資本/総資本×100
  • 営業キャッシュフロー(億円)(Y7)=営業キャッシュフロー(円)/1億円(2期平均)
  • 利益剰余金(億円)(Y8)=利益剰余金(円)/1億円

2.経営状況点数(A)と経営状況の評点(Y)

8指標の数値を基に経営状況点数(A)と経営状況の評点(Y)を次の式で算出します。

  • 経営状況点数(A)
    =-0.4650(Y1)-0.0508(Y2)+0.0264(Y3)+0.0277(Y4)+0.0011(Y5)+0.0089(Y6)+0.0818(Y7)+0.0172(Y8)+0.1906(小数点第3位を四捨五入)
  • 経営状況の評点(Y)=167.3×A+583(小数点第1位を四捨五入)

4)技術力(Z)

技術力(Z)の評点は、業種別技術職員数の点数(Z1)と工事種類別年間平均元請完成工事高の点数(Z2)を用いて次の式で算出します。

  • 技術力(Z)の評点
    =業種別技術職員数の点数(Z1)×4/5+工事種類別年間平均元請完成工事高の点数(Z2)×1/5(小数点第1位以下は切り捨て)

5)その他の審査項目(社会性等)(W)

その他の審査項目(社会性等)(W)については、次の評点を基に算出します。

  • 労働福祉の状況(W1)
    雇用保険加入の有無、健康保険加入の有無、厚生年金保険加入の有無
  • 建設業の営業継続の状況(W2)
    民事再生法または会社更生法の適用の有無
  • 防災活動への貢献の状況(防災協定締結の有無)(W3)
  • 法令遵守の状況(営業停止処分の有無、指示処分の有無)(W4)
  • 建設業の経理の状況(監査の受審状況、公認会計士等数)(W5)
  • 研究開発の状況(W6)
  • 建設機械の保有状況(W7)
  • 国際標準化機構が定めた規格(ISO9001、ISO14001等)による登録の状況(W8)
  • 若年の技術者および技能労働者の育成および確保の状況(W9)

その他の審査項目(社会性等)(W)の算出式は次の通りです。

  • その他の審査項目(社会性等)(W)
    =(W1+W2+W3+W4+W5+W6+W7+W8+W9)×10×190/200
    (Wの評点がマイナス値であっても、合計値のまま計算します)

6)総合評定値(P)

2)~5)を基に総合評定値(P)は次の式で算出されます。

  • P=0.25(X1)+0.15(X2)+0.20(Y)+0.25(Z)+0.15(W)

7)まとめ

前項2)~5)の内容を一覧にまとめ、審査項目・最高点・最低点・ウエート、総合評定値(P)の算式を示すと、次の通りです。

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また、経営事項審査の申請手続きの流れは次の通りです。

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経営事項審査の申請の手続きは、「経営状況(Y)分析の申請」と「経営規模等(X1、X2、Z、W)の評価および総合評定値(P)の請求」に分けることができます。

  • 申請者は、経営状況(Y)分析について、登録経営状況分析機関に申請します。
  • 登録経営状況分析機関は、経営状況(Y)分析の結果通知書を申請者に通知します。
  • 申請者は、経営規模等(X1、X2、Z、W)評価および総合評定値(P)の請求について、経営状況の分析結果通知書を添付して、許可行政庁(国土交通大臣または都道府県知事)に対して申請します。
  • 許可行政庁(国土交通大臣または都道府県知事)は、経営規模等(X1、X2、Z、W)評価結果通知書および総合評定値(P)通知書(経営事項審査結果通知書)を申請者に通知します。

登録経営状況分析機関は、次のウェブサイトで確認できます。

■国土交通省「登録経営状況分析機関一覧」■
http://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/1_6_bt_000091.html

3 制度改正について

1)解体工事業の追加

2016年6月1日から、建設業の許可に係る業種区分として、新たに「解体工事業」が設けられたことにより、経営事項審査についても「解体工事業」の業種区分が新たに設けられ(2014年6月公布、2016年6月施行の建設業法改正)、申請書の様式が変更になりました。

2)申請窓口の変更

2020年4月1日から、都道府県経由事務が廃止されたことに伴い、国土交通大臣許可建設業者の経営事項審査の申請は、都道府県を経由せずに各地方整備局に提出することになりました。

以上(2019年4月)

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