【朝礼】初めて解剖図を見た杉田玄白の「焦り」

【ポイント】

  • 杉田玄白は初めて西洋の解剖図を見た際、「自分は人体のことを何も知らない」と焦った
  • 焦りが玄白を駆り立て、「解体新書」の完成という大仕事を成し遂げる原動力になった
  • 「自分の無知」を認めるのには勇気がいるが、認めると焦りが成長を後押ししてくれる

私たちのビジネス環境は、ここ数年で劇的に変わりました。特にAI技術の進化はすさまじく、ChatGPTなどの生成AIに文章を作らせてみても、少し前までは機械特有の不自然さがあったのが、ほんの短い期間で作家が書いたような滑らかな文章にレベルアップしている状況です。私たちは、こうしたビジネス環境の変化に頑張ってついていかなければなりませんが、なかには自分の仕事の進め方や常識をアップデートするのが苦手な人がいます。今日はそんな人に向けて、江戸時代中期に活躍した医者・杉田玄白(すぎたげんぱく)の話をします。

杉田玄白は、オランダの医学書「ターヘル・アナトミア」を翻訳して日本語版の「解体新書」を完成させ、西洋医学の知識を世に広めた人物です。今、さらっと翻訳と言いましたが、当時の翻訳はとても大変な作業でした。現代であれば外国語を即座に日本語に訳してくれるアプリなどもありますが、当時は辞書すらなかったのです。ましてや医学書は専門用語のオンパレードで、作業は困難を極めます。しかし、玄白は4年の歳月をかけて、この大仕事を成し遂げました。

それは、玄白の中に「自分は医者なのに、人体のことを何も知らない」という焦りがあったからです。当時の日本の医者は、患者の体の外側だけを見て治療の方針を決めていたため、玄白を含め、体の内側を見たことがある人はほとんどいなかったのです。あるとき、処刑された囚人の解剖に立ち会った玄白は、ターヘル・アナトミアの解剖図と本物の人体を見比べ、解剖図の精巧さに衝撃を受けます。「人体のことをもっと知らなければ……」という焦りが玄白を翻訳へと駆り立てました。

自分が知らない知識に出会ったとき、「難しそうだからいいや」とそれを遠ざけたり、表面的な情報だけを見て「大したことない」「自分には必要ない」と決めつけてしまったりする人がいます。おそらく「自分の無知を認めたくない」という一種の防衛本能なのでしょうが、それでは今以上の成長はあり得ません。知らない知識に出会ったときこそ、まずは勇気を出して、「自分は無知だ」と認めましょう。私自身も経験がありますが、一度認めてしまえば、あとは物事を知らないことへの焦りが「勉強しよう」という原動力になって、成長を後押ししてくれます。その焦りは、玄白が証明しているように、時に偉業を達成するほどの大きな力を授けてくれるのです。

以上(2025年5月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

インターンシップ採用! 社長の言葉と泥臭さが学生に受ける?

1 インターンシップは採用チャンス!

かつてはインターンシップを採用選考に組み込む「インターンシップ採用」は御法度でしたが、2025年卒生からは条件付きで緩和されています。ということで、各社ともインターシップ採用を取り入れようとしています。そして、このインターシップ採用、実は中小企業にとってはチャンスです。なぜなら、

中小企業のインターンシップは実践的で、社長が泥臭く語りかけることができる

からです。特に、起業前の就業先を探している学生や、実業に触れたい学生には魅力的ですし、就業体験を経た上での採用なら入社後のミスマッチも防ぎやすくなります。

この記事では、中小企業がインターンシップ採用に取り組む際のポイントを3つ紹介します。

  • インターンシップ採用の大まかな流れをつかむ
  • 泥臭く、「現場感」を前面に出す
  • 「短期集中」を意識しつつ、ある程度柔軟に対応する

2 インターンシップ採用の大まかな流れをつかむ

文部科学省・厚生労働省・経済産業省「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」では、学生のキャリア形成支援活動が図表1の通り、4つに類型化されています。いわゆる「インターンシップ」はタイプ3とタイプ4ですが、タイプ4は主に理系大学院生を対象とするので、

多くの企業に関係するのはタイプ3の「汎用的能力・専門活用型インターンシップ」

です。

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2

025年卒生から、タイプ3とタイプ4で得た学生の情報を採用活動で利用できるようになっています。具体的には、

インターンシップに参加した学生に求人案内を送る、選考過程を一部免除するなど

といったことができます。ただし、そのためには産学協議会(日本経済団体連合会と大学関係団体等の代表者により構成)基準に準拠した、図表2の5つの要件を満たす必要があります。

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5つの要件を満たすことが理想ですが、これらは法律のような強制力があるものではないので、しゃくし定規に従う必要はないともいえます。それよりも、中小企業は学生に自社の良さをアピールできるプログラムの検討に注力するべきでしょう。

以降では、中小企業がインターンシップを実施する上でのポイントを紹介します。

3 泥臭く、「現場感」を前面に出す

インターンシップの参加者を集めるには、

大学のキャリアセンターや就活サイト、自社ウェブサイトなどで時期や期間、内容などの要項を告知する

といった方法があります。ただ、形式的な内容を出しても学生の興味はひけないので、より現場感のある発信をすべきです。例えば、外構工事業を営むある会社では、自社ウェブサイトで、

  • そもそも外構とは何なのか
  • スタッフの1日の仕事の流れ
  • 職場で達成感や満足感が得られる理由

などを、イラストや写真付きで分かりやすく紹介しています。また、SNSの動画サイトで自社の事業や社員の仕事内容をアニメーションで紹介しており、動画の最後にインターンシップや会社訪問を常時受け付けている旨と受付用の連絡先を記しています。こうした募集は、

業界に興味があるけど、自分が実際に仕事をするイメージが湧かない。もっと“現場感”のある話が聞きたい

という学生の興味をひくはずです。

こうして参加者を集めることができたら、時間がゆるす限り社長も参加者と交流しましょう。中小企業の魅力は社長の魅力でもあります。社長が語る内容は、学生にとってかなりエキサイティングなはずですし、恐らく大学の講義では教えてくれないもののはずです。

なお、最近はオンラインでインターンシップを行うケースも増えています。オンラインにするか対面にするかについては、内容によって次のように使い分けるとよいでしょう。オンラインと対面を交互に行うのもよいでしょう。

  • オンライン:会議や説明、情報収集、個人の作業など
  • 対面:職場の見学、クライアントへの訪問、社員のサポートなど

4 「短期集中」を意識しつつ、ある程度柔軟に対応する

インターンシップはやりたいが、本業が忙しくてなかなかリソースを割けないという会社は少なくありません。そんな場合におすすめしたいのが「1dayインターンシップ」です。

1dayインターンシップとは、文字通り、1日限りのプログラムであり、インターンシップにあまり時間を割けない場合に有効です。また、何日もかけてダラダラとインターンシップを行うよりも、充実した1日を過ごしてもらいつつ、自社に興味を持ってくれた学生に個別にアプローチするほうが中小企業にとっても効率的です。

例えば、情報通信業の会社が行う1dayインターンシップのプログラム例としては、

  • 午前:IT業界の現状や将来像に関する説明会
  • 午後:要件確認、設計、プログラム、テスト、完成報告を疑似体験

といったものが考えられます。一方、1dayインターンシップを基本としつつ、意欲のある学生に対しては必要に応じて中長期のインターンシップを実施するという方法もあります。例えば、建設業などを営むある会社では、

  • 工場見学、ものづくり体験:数時間から1日
  • より実践的な業務体験(ポンプの分解点検、レーザー加工など):5日から2週間

といった具合に、インターンシップの実施期間について複数の選択肢を設けています。会社が割くべきリソースは増えますが、選択肢を設けることで、より意欲のある学生を見つけやすくなるメリットがあります。なお、この会社ではインターンシップを実施する際、

会社が事前にあれこれ決めず、学生の希望に合わせてどんな内容にするかを検討していく

という方法を取っています。大企業の場合、参加人数の関係で日程や内容をある程度画一的にせざるを得ませんが、この辺りを柔軟に調整できるのは、中小企業ならではの強みといえます。

5 (参考)インターンシップの日数、学生側の要望など

最後に、「インディードリクルートパートナーズ リサーチセンター」が2026年卒生に対して実施したアンケート調査(2024年9月実施)から「プログラム期間別の参加状況」「インターンシップ等の期間別プログラム内容」「インターンシップ等に参加して良かった点(参加日数別)」のデータを紹介します。

プログラム期間別の参加状況は図表3の通りです。多くの学生が半日または1日のインターンシップに参加しているようです。

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インターンシップ等の期間別プログラム内容は図表4の通りです。「業種や企業の説明を受ける」はプログラム期間に関わらず、いずれも7割以上となっています。また、ワークやディスカッション、職場見学、業務の一部を経験するといったプログラムの場合は、時間をかけて実施するケースが多いようです。

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インターンシップ等に参加して良かった点(複数回答)は図表5の通りです。参加日数に関係なく、「業種や仕事などについて具体的に知ることができた点」が多くの学生の満足感につながったようです。

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以上(2025年5月更新)

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画像:maroke-Adobe Stock

経営課題の解決に「地方副業」マッチングサイトを使ってみよう

1 地元の正社員採用に限界を感じたら、都市部の副業人材を!

今どきはどの会社も採用活動に苦戦していますが、特に地方企業の経営者の場合、

  • これまで、地元に住んでいる人を正社員として採用してきたけど、それだけでは自社の課題を解決できない
  • 販路拡大や自社PRなど新たな取り組みを始めたいけど、社内に知見のある人がいない。専門的な人材を採用するにも、高額な人件費をかけることができない

といったことにお悩みかもしれません。

そんな地方企業の経営者の方々にお勧めしたいのが

「地方副業」マッチングサイト! 都市部の優秀な人材に、原則オンライン勤務という条件で業務を委託するサイトの活用

です。都市部で働く年収1000万円クラスの優秀な人材も、月額数万円程度でサポートしてくれるオトクな仕組みで、一般的に1件の募集につき15~18人の応募があります。何人と面談しても追加料金がかからず、採用してみて合わないと感じたら契約を打ち切ることもできます。

実際に地方副業のマッチングサイトを運営する4つの会社・団体の担当者に、

  • 地方企業が都市部の優秀な副業人材を募集・迎え入れる際のポイント
  • 副業人材を活用した地方企業の成功事例

などを聞きましたので、以降で紹介します。自社に新しい風を吹き込み、成長を軌道に乗せるための起爆剤としての副業人材の活用を、ぜひ、ご検討ください。なお、お話を伺った会社・団体と、それぞれが運営するマッチングサイトは、次の通りです(「」内がマッチングサイトの名称です)。

■NPO法人ETIC.(エティック)(東京都渋谷区)「YOSOMON!」■
https://yosomon.jp/
■みらいワークス(東京都港区)「Skill Shift」■
https://www.skill-shift.com/
■パーソルキャリア(東京都港区)「HiPro Direct for Local」■
https://talent.direct.hipro-job.jp/talent/for-local/top/
■リクルート(東京都千代田区)「サンカク」■
https://sankak.jp/

2 副業人材の採用は双方にwin-winなシステム

地方副業は、企業側、副業人材側の双方にメリットがあります。地方副業のマッチングサイト運営者に聞いた、企業側、副業人材側のそれぞれがマッチングサイトを利用する理由には、次のようなものがあります。

1)企業側がマッチングサイトを利用する理由

1.正社員よりも低価格、短期間で優秀な副業人材に仕事を依頼できる

副業人材の応募者の平均年齢は30~40代が7割以上で、正社員が6割程度、フリーランスが4割程度といいます。

  • 正社員の人が自身のスキルを試すために副業をはじめ、慣れてきたらフリーランスに転身するケースもあるそうです(Skill Shift)
  • 特に、30代後半が年齢のボリュームゾーンとなっており、現場で働きつつ、マネジメント経験もある人材が中心(サンカク)
  • 本業での年収は600万円超が7割近くを占めており、2割は1000万円超と、本業である程度の実績があり、十分な稼ぎのある人が応募している(Skill Shift、サンカク)

こうした優秀な人材にもかかわらず、副業人材に支払う月額の報酬は、Skill Shiftでは月額5万円と、正社員よりも割安で仕事を依頼することが可能です。

マッチングサイトには、

  • 採用の有無にかかわらず案件の掲載費用が発生するもの
  • 案件の掲載や副業人材との面談までは無償で、副業人材を採用した段階で費用が発生する成果報酬型のもの

などがあります。例えば、サンカクの場合、副業人材とマッチングした場合に費用が発生しますが、案件を募集する文面の作成や応募者との座談会、面談に関しては、無償でサポートを受けることができます。

採用期間も「原則1カ月単位」(YOSOMON!)、「半年以上のプロジェクト」(サンカク)などで、募集した案件の事業が終了したり、マッチング後に事業がうまく進まなかったりした場合、速やかに契約を解除できます。

後述しますが、応募者の多くは、報酬目当てではなく、募集企業への共感や、地方への貢献、自らのスキルアップなど、高い“志”を持っているので、共に成長できる“同志”を見つけられる可能性が高いといえるでしょう。

2.買い手市場となっているため、人材の選択肢が広い

全てのマッチングサイトの担当者が口をそろえて話すのが、「今は買い手市場」ということです。サイトや案件によっても異なりますが、

  • 1件の募集に対して、15~18人程度が応募してくる
  • 応募者は企業の思いに共感して、企業に貢献できる自分のスキルを理解した上で応募するため、「質」が高い

そうです。

どのマッチングサイトでも、自社都合で募集を取り下げるケースなどを除き、ほとんどの場合は副業人材を迎え入れているといいます。

なかには、複数人との副業人材との座談会や面談をした結果、良いアイデアがたくさん出たため人数を絞りきれず、当初の予定よりも多く副業人材を迎え入れたケースもあるそうです。

もし、人選が難しい場合は、募集内容に適した能力や意欲の高い人材を、マッチングサイトの担当者が選んで薦めてくれることもあります。

3.面談だけでも優れた知見やアイデアを得ることができる

一般的に、マッチングサイトは何人の応募者と面談しても追加料金がかからないので、時間さえ都合がつけば、応募者全員とオンラインで面談することが可能です。

  • それぞれの募集案件で、少なくとも5人の副業人材を集めて座談会を開いているケースもある(サンカク)
  • 面談では応募者側が募集内容に応じた提案をしてくれるため、提案を聞くだけでも参考になるとして、「応募者全員と面談をした旅館業者もいる(Skill Shift)。

4.自社が抱えている課題を明確にできる

副業人材の採用活動を通して、自社に潜む本質的な課題が見つかったり、新たな課題を解決するための方法が分かったりすることも少なくないようです。

  • 企業が副業人材を募集しようとする段階では、「『DX化を進めたい、販路を拡大したい』など、思いはあるものの、必要な機能や人材などの明確な要件定義ができていないことが多い(サンカク)

このため、マッチングサイト運営者のサポートや応募者からの提案によって、本質的な課題や、課題解決のために必要な人物像や解決策が導き出されるケースが多いようです。

2)副業人材側がマッチングサイトを利用する理由

1.企業への共感

副業を志望する理由として、報酬も重要な一方で、その企業への共感や、その企業を応援したいという気持ちで応募する人が多いといいます。

  • 副業先の企業が気に入って、そのまま転職したケースもある(Skill Shift)。

2.地域貢献、地方創生

自分の出身地や住んだことがある場所、旅行で訪れて気に入った地域など、思い入れのある地域の企業に、移住・転職を伴わず貢献できることを魅力に感じて応募する人も少なくありません。

  • 将来的に地方への移住や出身地に戻ることを検討しており、その地域を知る足掛かりとして副業を始める人や、地方の人とのつながりを楽しんでいる人もいる(HiPro Direct for local)
  • もともと地方の出身者で、地元とのつながりを持ちたい、都市部で得たスキルや経験を還元したいという思いを持った人もいる(サンカク)

3.キャリアアップ

正社員として勤務している企業では経験できないような、経営企画などの業務を副業として行うことで、自らのキャリアアップにつなげることを目的としている人もいるそうです。

  • 副業人材にとってのメリットは、経営陣と直接仕事のやり取りができ、自分のアイデアで会社が変わっていく様子を目の前で実感できること。マネジメントになった人事部門の部長クラスの人が、現場の感覚を忘れないために応募するケースもある(サンカク)

4.日常では得られない体験

日常の中では得られない体験を求めて、地方副業に応募するケースもあります。

例えば、Skill Shiftでは、現地の視察と絡めた副業体験として、福島県いわき市で2泊3日のクラフトビールの発展に向けた課題解決プログラムと、参加者によるクラフトビール発展のためのアイデアのプレゼン大会を開催しました。

また、スポーツによるまちおこしとして、アメフト社会人リーグ・Xリーグのクラブチームの広報・PRの副業案件もあります。他の副業案件と比較して謝礼が低額となる代わりに、オフィシャルポロシャツの贈呈や練習・試合観戦の特典があり、通常の副業にはない珍しい体験といえます。

他にも、漁業・水産業者向けに特化した地方副業のマッチングサイトである「GYOSOMON!」(ギョソモン!)では、副業人材への報酬は金銭ではなく「魚」となっています。このサイトはYOSOMON!が共同で運営しており、「応募者は、副業の報酬として、ご近所などに配らないといけないほどの大量の魚が送られてくるという、日常ではできない体験に魅力を感じる人が多い」といいます。

3 副業人材を募集・採用する際の勘所

1)自社のファンになってもらう

副業人材に共感してもらうには、自社のファンになってもらえるPRを行うことが重要です。

  • 募集の文面を作る際は、企業が目指している姿や、社内の人が気付いていないような、企業の魅力を掲載するようにしている。副業人材との面談でも、企業の実現したいことや、企業ならではの魅力を話すとよい(HiPro Direct for Local)。

2)募集する業務を絞るよりも課題を示す

副業人材とのマッチングに成功する秘訣は、「経営課題を示す」ことにあるようです。

  • 「業務のアウトソースとは異なる」ことを意識し、「経営課題を一緒に考えてくれるパートナー」というイメージで採用すべき(Skill Shift)。
  • 募集に際しても、「これをしてください」と細かく決めるより、今、企業がどんなことに取り組んでいて、どんな困り事があるのかを掲載して、協力、支援をしてほしいというニュアンスの文面のほうがよい(YOSOMON!)

3)経歴や肩書だけで選ばない

マッチングサイト運営者の多くは、採用に関しては、経歴や肩書にとらわれず、熱意や提案内容を重視すべきといいます。

  • 経歴や条件面よりも、企業や地域への思いがどれだけあるか、企業の課題に対してどんなアイデアで解決できるかという視点で選考をしている企業が、副業人材とうまくマッチする(Skill Shift)
  • 副業人材側も企業の募集案件をきちんと読み込んだ上で応募をしているので、経歴や条件面よりも、面談を通じての相性・フィーリングで採用する人材を判断するほうがマッチする(YOSOMON!)

また、「上から目線」の応募者は避け、“同志”としてふさわしい人材を選んだほうがよいようです。

  • 面談をした応募者の「一緒に汗をかきましょう」という言葉を聞いて採用を決めた企業もある(サンカク)

4)既存の社員を巻き込む

副業人材の働き方としては、経営者のブレーンのような形で相談相手になる場合と、既存の社員と協業する場合があります。

既存の社員と協業する場合、社員が副業人材の存在に反発して、マッチングがうまくいかないケースもあるようです。

副業人材を採用する場合、ノウハウを社員に落とし込むことも大切なので、副業人材との面談は、経営者だけでなく、現場の社員も参加できるとよいでしょう。事前に社員のコンセンサスを得ておき、「社長が思いつきで変なことを始めた」と思われない状態からスタートすべきといえます。

5)副業人材の稼働時間を考慮する

副業人材の場合、本業以外の時間帯で稼働するため、自社の就業時間外や週末にやり取りをすることがあります。オンラインでも円滑にやり取りするために、チャットツールなどの用意は必須になります。副業案件によって異なりますが、週1回~月1回の頻度でオンライン面談を開き、それ以外はチャットツールを活用して、副業人材とやり取りを進めているケースが多いといいます。

課題だけ明示する形であれば、副業人材のほうで必要な作業を、自分でスケジュールを立ててやってくれるようになります。

6)時には顔合わせも必要

副業案件の多くはウェブマーケティング、ECサイトの強化、事業戦略の立案など、リモートワークでも進められるものですが、お互いの理解を深めるためにも顔合わせは必要です。

企業によっては、プロジェクトを始める際に副業人材を企業側の費用負担で現地に招き、顔合わせをして親睦を図ったり、設備や工場を見学してもらったりして、自社への理解を深めてもらう取り組みをしているところがあります。副業人材の側から、現地で顔を合わせることを希望するケースも少なくないようです。

4 副業人材の成功事例

1)副業人材がファシリテーターになって社員のアイデアを募集(HiPro Direct for Local)

来客数増加を課題にしていた、地域に数店舗を展開するスーパーマーケットが契約した副業人材は、既存の社員からのアイデアを募集することを提案しました。副業人材がファシリテーターになって社員を集めた会議を開催したところ、社員からさまざまなアイデアが出され、実際に採用したアイデアも生まれたそうです。

会議を行うことによって、社内コミュニケーションの活性化にもつながったといいます。

2)ECサイトの全面改修などで売り上げが前年度の17倍に(サンカク)

石川県のある和菓子製造販売会社では、ECサイトのテコ入れが課題となっていました。当初、経営者はSNSの活用によるテコ入れを想定して副業人材を募集しましたが、応募者を集めた座談会では、応募者側からサイトの改修などさまざまな提案が出て、応募者同士でも提案のブラッシュアップが行われるなど、盛り上がりを見せたといいます。

そこで経営者は座談会に参加した応募者5人を、それぞれ担当分野を決めた上で採用し、社内の若手社員数人とともにプロジェクトチームを結成。ECサイトの全面的な改修だけでなく、デジタルマーケティング戦略の上流から再設計し、企業のウェブページとECサイトを含めて最適化に取り組んだことで、ECサイトによる売り上げは前年度の17倍に達したそうです。

劇的な成果を目の当たりにして、既存の社員のモチベーション向上や育成にもつながり、新たなスキルを身に付けようと、自ら勉強を始める社員も現れるようになったといいます。

3)能登半島地震被災した和菓子店舗の再建プロジェクトで副業人材が活躍(Skill Shift)

石川県珠洲市にある創業116年の和菓子店「多間栄開堂」は、令和6年能登半島地震の影響で、店舗(工場含む)兼自宅が全壊の認定を受け、更地となってしまいました。周りからの応援もあり、菓子製造店舗の再建を決意し、クラウドファンディングで資金調達をすることを目的に、副業人材を募集しました。

募集の結果、令和2年に熊本県人吉市で豪雨災害があった際に、地域の中小企業で支援するセンター長として30件のクラウドファンディング支援の経験のある方が副業人材としてマッチングし、プロジェクトを推進しています。目標金額を2倍以上も上回る結果となりました。

以上(2025年5月更新)

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画像:tiquitaca-Adobe Stock

甘い組織ではない「心理的安全性」のつくり方

1 「心理的安全性」は決して甘いものではない

経営環境が劇的に変化する中で、組織の意思決定にもバージョンアップが求められています。社長や一部の幹部が過去の経験で「えいやっ!」と決めるスタイルでは、今の延長線でしか進むことができず、新しい発想が生まれてこないからです。

会社は社内外から幅広く意見を募り、それを受け止めて議論できる組織に生まれ変わる必要があり、それを実現するキーワードが「心理的安全性」です。

心理的安全性を確保するとは、社員が「これを言ったら間違えているかもしれない……」などと考えて、意見を言いにくくなってしまう環境を改善すること

でもあります。「それだと、相手に遠慮するだけの甘い組織になってしまうのでは……」と思うかもしれませんが、大きな誤解です。心理的安全性を解説する「恐れのない組織――『心理的安全性』が学習・イノベーション・成長をもたらす」に次のような一節があります。

  • 心理的に安全な環境で仕事をすることは、感じよくあるために、誰もがいつも相手の意見に賛成することではない。あなたが言いたいと思うあらゆることに対して、明らかな称賛や無条件の支持を得られるわけでもない。むしろ、その正反対だと言ってもいい。心理的安全性は、率直であるということであり、建設的に反対したり気兼ねなく考えを交換し合ったりできるということなのだ。
  • 心理的安全性とは、高い基準も納期も守る必要のない「勝手気ままな」環境のことではない。職場で「気楽に過ごす」という意味では、決してないのだ。このことは肝に銘じておいたほうがいい。(*)

どうでしょう。心理的安全性に対する印象が変わりますよね? 言い換えれば、

心理的安全性とは、社員が組織の一員として自覚を持ち、共通の目標を達成するために、学習を通じて自らを高めていけること

であり、むしろ、見方によっては厳しいことなのです。この心理的安全性の確保を意識しながら議論し、決断できる組織に変革していくためのヒントをご提案していきます。

2 優秀な社長が生み出す集団圧力と集団浅慮のわな

一般的に、組織における意思決定は個人よりも合理的に思えます。しかし実際は、個人ならまず下さないような筋の悪い決断をしていることがあります。いわゆる「集団圧力」の影響です。ピア・プレッシャーや同調圧力ともいわれるもので、要は、

少数意見を持つ人に対し、多数派と同じ意見にするように無言の圧力をかけること

です。客観的に見て少数意見のほうが正しくても、「その他の多数と違うので、間違えているのだろう」と、意見の正当性が否定されてしまいます。「集団浅慮(グループシンク)」という問題もあります。集団浅慮とは、

早く結論を出すことにとらわれ、きちんと検討せずに決めてしまうこと

です。その結果、プランA~Cがあったとして、最もリスクが高いプランCを「何とかなるさ。早くこれに決めて実行しよう!」と決断してしまいます。

これまでの研究から、集団圧力や集団浅慮が生じやすい組織の特徴として、

  • 集団の結び付きが強い
  • 外部から隔離されている
  • 優秀で強いリーダーがいる

などが考えられています。つまり、

長年、社長がコツコツと作り上げ、収益も安定している組織こそ、実は間違えた決断をしてしまうリスクが高い

ことが分かります。今、こうした組織体制を見直すことが求められています。

3 間違えた判断プロセスから脱却するには?

では、どのようにすればよいのでしょうか? その答えが冒頭で紹介した「心理的安全性の確保」です。社員が発言しないのは、「自分自身が無知・無能である」と思われたくないからなので、これを何とかする必要があります。

ただし、「よし!」とばかりに社長が旗を振って声高に推進すると、上層部の結束が強い組織ほど、幹部たちが真っ先に反応します。幹部たちは社長におもねることなく、ただ改善を成功させたいという思いから、いつも以上に大きな声で意見を出すわけです。ただ、この光景を客観的に見ると、一部の人だけが意見を言い、それによって判断されるという【いつものあれ】になっているわけです。

組織を変えたければ若手を巻き込むべきです。「若手でも意見を言える」という事実は、社員に大きなインパクトを与えるからです。これを実行する際のヒントになりそうなことを、宇宙飛行士の野口聡一さんが過去にテレビのインタビューで答えていたので紹介します。あくまで筆者の解釈ですが、内容は次の通りです。

  • 明確な指示:しっかり教え、分かりやすく教えてほしい
  • 承認:自分の意見を認めてほしい
  • 責任:失敗しても、その責任をとってほしい(**)

これを実現することが、若手から意見を吸い上げるための1つのヒントになるでしょう。筆者はここに、

  • 事前確認:会議などの前に発言を求めることを伝える

を付け加えたいと思います。いきなり話を振られた若手が混乱することがないように、事前に「意見を求めますよ」と伝えておくわけです。こうして実際に若手が意見をいったら、ぜひ、試していただきたいのが、いわゆる「おうむ返し」です。若手の発言を、社長や幹部がそのまま繰り返します。若者からすると、

相手は自分の意見をしっかり聞いてくれて、否定もしていない

となります。ここを起点に議論が始まればよいわけです。

4 ノイズは排除する

組織の議論を活発にするために、社長や幹部が果たすべき役割は非常に大きなものです。また、この活動は根気よく続けなければなりません。

これを踏まえた上で最後に補足をすると、出てくる意見の全てを受け入れる必要はありません。同じテーマで議論をした場合、議論の中身やアウトプットの質は「メンバーの本気度×能力×知識」で決まることは間違いありません。そのため、

  • 明らかに見当違い
  • 勉強不足でレベルが低い
  • 自身の保身しか考えていない

などの意見はノイズでしかないので、相手にする必要はありません。逆にいえば、

(経営者)その意見って見当違いなんじゃない。何を根拠に言っているの?

(若手)あ、確かに。私がズレていましたね

などと気兼ねなく言える関係を、心理的安全性が確保された状態というのでしょう。

【参考文献】
(*)「恐れのない組織――『心理的安全性』が学習・イノベーション・成長をもたらす」(エイミー・C・エドモンドソン(著)、村瀬俊朗(解説)、野津智子(訳)、2021年2月)
(**)「ワールドビジネスサテライト“究極のテレワーカー”野口聡一宇宙飛行士の仕事術(2021年4月19日)」(テレビ東京、2021年4月)

以上(2025年6月更新)

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採用ミスマッチゼロへ! 強いチームを作る「職務記述書」のコツ

1 職務記述書とは

社員を採用する際の方針は、

  • ジョブ型雇用:あらかじめ特定の職務をこなせる社員を採用
  • メンバーシップ型雇用:自社の理念に共感をしている社員を採用

に分けられます。専門職採用や中途採用の場合、一般的にはジョブ型雇用が向いています。そこで使われるのが「職務記述書(ジョブディスクリプション)」という、

職務内容(担当業務の内容、難易度、必要なスキルなど)をまとめた書類

です。募集要項と似ていますが、募集要項は待遇面の説明が中心で、担当業務の内容は簡単に紹介する程度です。

ジョブ型雇用では、職務記述書に記載された職務をこなせるかどうかが、採用の可否や待遇を決定する判断基準になります。ですから、職務記述書をうまく活用すれば、

  • 「採用してみたらスキルなどが期待外れだった」などの採用ミスマッチを解消する
  • 「やる気がある」などの曖昧な基準での人事評価をやめ、賃金や人員配置を適正化する

といったこともできます。この記事では、職務記述書の作成プロセスとサンプルを紹介します。

2 職務記述書の作成プロセス

1)知る:募集ポジションの職務内容や就業環境についてヒアリングする

職務記述書は、募集ポジションの職務について、業務内容やその難易度、必要なスキルなどの詳細を1つずつ洗い出して作成します。経営者も社内の職務内容は把握していますが、もっと細かいレベルまで落とし込む必要があるので、現場の声を聞きます。

まずは、対象の職務を行っている社員やその上司にヒアリングを行い、募集ポジションの職務内容や就業環境について、経営者自身が誤った認識をしていないか確認します。例えば、次のような質問例が考えられます。

【現職の社員への質問例】

  • 定期業務

重要度の高い業務の内容

発生頻度(1カ月にどのくらい行うか、という表現でOK)

  • 人間関係

リポートライン(タスクの遂行や進捗報告などのコミュニケーションのフロー)

意思決定プロセス(意思決定者は誰か、自分の裁量範囲はどのくらいか)

  • 求められる行動、果たすべき役割
  • 必要だと思われるスキル・知識・資格・経験
  • 業務で難しいこと・厳しいこと(具体的な内容、乗り越えるための技術やコツ)

【上司への質問例】

  • 責任の範囲(どのくらい裁量があるか)
  • 求められる行動、果たすべき役割
  • 必要だと思われるスキル・知識・資格・経験
  • 入社後に苦戦しそうだと予想されること

2)分析する:職務をこなすために必要なスキルなどを掘り下げる

ヒアリングの結果、経営者と現場の認識にズレがなければ、職務をこなすために必要なスキルなど(技能、知識、資格、経験など)を列挙します。会社の求めるスキルなどを全て兼ね備えた求職者にはなかなか出会えないので、次のように優先順位を決めます。

  • スキルなどがない場合、職務を一切行えないのか、一部なら遂行可能なのか
  • 研修で習得させることが可能か、その場合の期間やコストはどの程度か

3 職務記述書のサンプル

次の職務記述書は、アプリ開発を行う会社がシステムエンジニアを募集する場合の例です。

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「職務内容」「必要な知識」などは、現職の社員や上司へのヒアリングの結果などを基に、できるだけ詳細に書き出します。「目標(ノルマなど)」も記載すると、求職者に対してより鮮明に仕事のイメージが伝わります(目標設定が複雑になる場合は、別紙などで提示)。「期待される特性」は、会社のミッションやビジョンにも関係する重要な項目ですので、会社として何を大切にしているかが求職者に伝わるよう、メッセージを工夫しましょう。

また、職務記述書を作成する際は、厚生労働省の「職業能力評価基準」も参考になります。

職業能力評価基準とは、仕事をこなすために必要な「知識」「技術・技能」「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を、業種別、職種・職務別に整理したもの

です。

■厚生労働省「職業能力評価基準の策定業種一覧」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04653.html

以上(2025年5月更新)

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周りに遠慮して休まない社員に上手に休暇を取らせる方法とは?

1 仕事をしながら休暇を取ってもいい!

適度に休み、心身のコンディションを整えて仕事のパフォーマンスを上げる。何の異論もないところですが、なぜか休まない社員がいます。どうやら、

  • 周囲が忙しそうなのに自分だけ休めない
  • 休むといっても引き継ぎをするのが面倒

などと考えているようなのです。こうした社員は、

この会社は、いざというときに周囲のサポートを当てにできない

と考えており、ちょっとした気持ちの変化で文句を言ったり、ライフイベント(結婚や出産、介護など)の発生によって転職を決意したりします。そうならないために、

  • 雰囲気づくり:休暇を歓迎し、上司も快く部下の休暇を承認する
  • 休暇制度の見直し:半日休暇などを検討する

を進めることをご提案します。なお、休暇取得を促進するのは、決して甘い組織をつくりたいわけではなく、メリハリのある働き方の実現するためです。

2 休暇を取りやすい雰囲気づくり

1)休暇は楽しい!

「休暇は楽しい!」という雰囲気をつくりましょう。「え、そんなことでいいの?」と思われるかもしれませんが、とにかく休暇を取得する社員には明るく接し、プライベートに深入りしない程度に「いいね! どこに行くの?」「何の映画を見るの?」など、休暇を歓迎します。

もちろん、経営者自身も休みを取りましょう。差し支えなければ、自分の休暇の過ごし方をみんなに話して、

仕事もプライベートも大切にする会社であることをアピール

します。

2)上司(管理職)を巻き込む

休暇を申請したら上司がいい顔をしなかった。あるいは、上司がいつも残業しているのに自分だけ休むのは気が引ける……。こんな職場では部下は畏縮して休暇を取得できません。

そこで、経営者は、上司に部下の休暇取得を促進するように指示します。人事考課の中に、

部下の年休(年次有給休暇)の取得率を対前年度比で◯%向上させる

ことを加えるのもよいでしょう。

また、部下が遠慮しないで済むよう、上司自身にも休暇を取らせましょう。例えば、マネジメントが苦手で1人で仕事を抱え込んでしまう上司には、「それは君がやる仕事ではない」と伝え、部下に振るよう指導します。そうすれば、休暇のための時間は案外簡単に捻出できるものです。

3 休暇制度の中身を見直す

1)半日単位・時間単位の休暇にしてみる

半日単位や時間単位の休暇は、比較的、取得しやすいです。仕事とプライベートの用事(子どもの送り迎えや家族の介護など)を交互にこなす社員は多いですし、旅行先でレジャーを楽しみながら合間に仕事をしたい社員にとってもうれしいものです。

年休については半日単位で付与できますし、過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)と労使協定を締結すれば1時間単位でも付与できます。会社が独自に就業規則等で定める特別休暇についても、内容によっては半日単位・時間単位を検討してみましょう。

2)休暇取得日をあらかじめ指定する

休暇取得日をあらかじめ指定するのも一策です。年休の場合、

付与日数が年10日以上の社員(基本は正社員)については、そのうち5日まで会社が休暇取得日を指定して取得させる義務

があります。会社命令であれば、社員も周囲に遠慮せず休むことができます。

また、会社が年休取得日を計画的に割り振る「計画的付与」という制度もあります(労使協定の締結が必要)。社員が休暇を取得する日が事前に分かるので、同僚は協力してフォローすることができます。ただし、一度割り振った休暇取得日を後から変更することはできません。

休暇取得日を指定する場合は、ゴールデンウイークや夏季休暇、年末年始などに合わせて長期休暇を実現させるのもよいでしょう。例えば“年末年始が10連休以上”となれば、社員はそれを1つのゴールとして頑張ることができます。なかなか休暇が取得できない社員でも、夏季休暇や年末年始などであれば休みを取りやすいでしょう。

3)取得時季や目的が明確な特別休暇を利用する

休暇には、法令で定められている「法定休暇」と、会社が独自に設定する「特別休暇」があります。特別休暇は、取得時季や取得目的が明確な場合が多いことが特徴です。原則としていつでも取得できる年休よりも、特別休暇のほうが取得しやすいという社員も少なくないようです。

例えば、次のような特別休暇があります。

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ちなみに、図表の赤字の休暇は、「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」という助成金と関わりがあります。

図表の赤字の休暇のいずれか(有給のものに限る)を導入し、就業規則等で前述した「年休の5日取得」の規定を整備するなど一定の取り組みをすると、最大920万円

を受給できる可能性があります。興味のある人は、厚生労働省のウェブサイトをご確認ください。なお、2025年度の助成金の申請期限は、2025年11月28日までです。

■厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120692.html

以上(2025年5月更新)

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令和6年の交通事故の特徴と対策(2025/5号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

警察庁公表の「令和6年における交通事故の発生状況について」によると、全体の交通事故件数、死傷者数は昨年から減少しましたが、「30日以内死者数」や「ながら運転・飲酒運転などによる死亡・重傷事故件数」は増加するなど、重大事故の危険性が減っているとはいえません。今回はそれらの事故の特徴と対策について考えます。

交通事故の特徴と対策

1 交通事故の発生状況とその特徴

令和6年中の交通事故死傷者数は減少しました(前年比21,215人減少)。一方で「30日以内死者数」は2年連続で増加しました(図1)。

図1 交通事故死傷者数と30日以内死者数の推移

交通事故死傷者数

出典:警察庁「令和6年における交通事故の発生状況について」から当社作成

いわゆる「ながら運転」事故による死亡・重傷事故件数についても増加傾向が続いており、ながら運転の厳罰化(令和元年の道路交通法改正)以前の水準を超えて増加しています(図2)。

図2 自動車運転中の携帯電話等による死亡・重傷事故件数の推移

「ながら運転」事故による死亡・重傷事故件数

出典:警察庁「令和6年における交通事故の発生状況について」から当社作成

その他、以下のような傾向が現れていました(いずれもグラフ掲載は省略)。

  • 自転車乗用中事故の死傷者数は減少し、特に若年層に「負傷者」が、また高齢者層に「死者」が多い (昨年同様の傾向)
  • 自動車の単独事故件数では75歳以上の高齢者運転者による事故が75歳未満の約2.5倍
  • 飲酒運転による死亡事故件数は前年比25%増加

2 携帯電話等使用による交通事故の増加

携帯電話等を操作しながら運転したことによる死傷事故件数は、20~30歳代が全体の半数以上を占めます(図3)。この年齢層はいわゆる「デジタルネイティブ世代」と重なる形です。デジタル環境に慣れ親しんでいる世代の方々に対し「ながら運転」の危険性について、交通安全教育のほか、職場や同乗中の同僚の方からも注意喚起等をすることで、理解・浸透を進めることが期待されます。

図3 運転者年齢層別携帯電話等使用による死傷事故件数

死傷事故件数

出典:警察庁「令和6年における交通事故の発生状況について」から当社作成

3 自転車との事故を防ぐには

今回の警察庁資料では自転車事故にも焦点が当てられています。なかでも15~19歳の年齢層では「負傷者」が多くなっており、これに関連して自転車乗用中の「ながら運転」による事故が増加傾向にあること、その約6割を19歳以下が占めること、などの分析が報告されています。一方で65歳以上の年齢層では「死者」が多かったことに関連し、特に飲酒運転による死傷事故は50代以上が6割を占めていたことが取り上げられています。

ながら運転・飲酒運転は共に法令違反ですが、車を運転する側の立場から、自転車との事故を防止するためには、例えば以下のような対策が考えられます。

  • 法令理解が不十分な/法令遵守意識が低い自転車利用者が多いことを踏まえた危険予測運転
  • 生活道路等で見通しの悪い交差点通過時や、構内・駐車場から公道へ出る際は「構え運転」で

【構え運転(構えブレーキ)とは】

構えブレーキ

構え運転(または構えブレーキ)とは、アクセルから足を離して、足先をブレーキペダルに触れる程度に置き、いつでも踏み込める状態で前進する運転です。アクセル→ブレーキへのペダルの踏みかえ動作が省略できるので、不意の出来事に対して素早くブレーキ対応できます。

以上(2025年5月)

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「自分はまだ若い!」と思っている高齢社員の労災はどう防ぐ?

1 休業4日以上の労災は60歳以上が29.3%

人材不足の日本では高齢社員に頼る部分がますます大きくなっていきますが、問題は若年社員よりも労働災害(労災)に遭いやすいことです。2023年に発生した労災によって4日以上休まなければならない死傷者数は、60歳以上が3万9702人(全体の29.3%)と最多です。

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人間は加齢とともに身体機能が低下していくので、高齢社員を多く抱える会社ほど、労災のリスクが高まります。具体的な対策のポイントは、

  • 身体機能の中で、特に低下しやすいものを押さえる(平衡機能、聴力など)
  • 高齢社員に「労災に遭う危険がある」と気付かせる(健康診断、体力テストなど)
  • 身体機能に配慮し、高齢社員の働き方改革を図る(役割分担、労働時間など)

です。以降でそれぞれ紹介するので、確認していきましょう。

また、厚生労働省「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(エイジフレンドリーガイドライン)」では、高齢社員が安全に働ける職場環境づくりや労災防止のポイントなどがまとめられていますので、こちらも併せてご確認ください。

■厚生労働省「エイジフレンドリーガイドライン」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_10178.html

2 身体機能の中で、特に低下しやすいものを押さえる

まずは、加齢とともに身体機能がどの程度低下するのかを押さえましょう。図表2は、20~24歳ないし最高期の身体機能を100とした場合の、55~59歳における各種機能の水準です。赤字の身体機能は、水準が50未満に低下しているもので、特に注意が必要です。

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赤字の機能に注目した場合、業務では次のような問題が生じることが考えられます。

  • 夜勤後体重回復:夜勤で減少した体重が回復しにくく、疲れやだるさを感じる
  • 平衡機能:直立姿勢時の重心動揺が大きくなり、転倒しやすくなる
  • 皮膚振動覚:振動に対する感覚が鈍化し、機械の異常などに気付きにくくなる
  • 聴力:騒音時の声などが聞こえにくく、「危ない」と言われても気付かない
  • 薄明順応:暗い場所で作業をしようとしても、目が慣れず、物が見えにくい

3 高齢社員に「労災に遭う危険がある」と気付かせる

高齢社員の中には「自分はまだ若い!」と思っていて、体の衰えを自覚していない人が少なくありません。ですから、高齢社員に対し「労災に遭う危険がある」と気付かせることが大切です。次のような点がポイントです。

1)就業規則などに盛り込み、経営者の姿勢を示す

就業規則(本則や安全衛生管理規程など)に高齢社員の労災防止に関する事項を定めます。安全委員会や衛生委員会の設置義務がある会社なら、委員会の調査審議事項に盛り込むのもよいでしょう。何より大切なのは、

経営者が本気で高齢社員の労災防止に取り組もうとしていると、社内に周知すること

です。こうして高齢社員が健康を意識するようになると、自分の状態などについて相談したくなるかもしれないので、「相談窓口」などを設置するとさらに効果的です。

2)健康診断を実施する

高齢社員の健康状態は、毎年実施する定期健康診断である程度把握できます。パート等(週の所定労働時間が正社員の4分の3未満の社員)については、定期健康診断の実施義務はありませんが、高齢のパート等が多いなら、対象に含めるのが望ましいです。定期健康診断では、

聴力、自覚症状や他覚症状(所見)の有無などが確認できますし、健診機関によっては「平衡機能検査」などのオプション検査も実施

します。高齢社員も今の健康状態が分かれば、無理をせず慎重に行動するようになるでしょう。

3)体力テストなどを実施する

高齢社員が自分の状態を正しく把握できるよう、体力テストなどを実施するのもよいでしょう。例えば、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」では、転倒防止の観点から、筋力、敏捷性、静的バランスなどを簡単にセルフチェックできるテストとして、

  • 2ステップテスト[歩行能力・下肢筋力]
  • 座位ステッピングテスト[下肢の敏捷性]
  • ファンクショナルリーチ[動的バランス能力]
  • 閉眼片足立ち[静的バランス能力]
  • 開眼片足立ち[静的バランス能力]

を紹介しています。

例えば、図表3は「2ステップテスト[歩行能力・下肢筋力]」の内容です。「評価値」が低いほど転倒のリスクが高まります。

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■厚生労働省「職場のあんぜんサイト(身体的能力のセルフチェック)■
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/information/tentou1501_14.html

4 身体機能に配慮し、高齢社員の働き方改革を図る

高齢社員に気付きを促すといっても、本人の努力だけで労災をゼロにするのは困難です。健康診断の結果などから高齢社員の傾向をつかんで、会社側でも労働条件を工夫し、労災が起きにくい環境を整えることが大切です。次のような点がポイントです。

1)社内設備を変える

高齢社員が働きやすいよう、社内設備の改善をしていきます。例えば、転倒を防ぐなら、転びやすい場所に手すりを設置する、暗くて作業がしにくい場所の照明を増やすといった具合です。

2)役割分担を変える

人手不足の会社などでは、高齢社員も多くの業務を担当せざるを得ませんが、労災リスクの高い業務については、部分的に若手に任せることを検討してみましょう。例えば、運送業の会社で、高齢社員が梱包・運搬・開梱の全てを担当している場合、

高齢社員は、梱包と開梱だけに専念してもらい、運搬は若手社員に任せる

などして、転倒や腰痛などのリスクを低減します。役割変更が難しい場合は、高齢社員にアシストスーツの着用を義務付けるなどして、身体への負担軽減を図りましょう。

3)労働時間を変える

高齢社員の身体機能を考慮して、労働時間を工夫することも大切です。例えば、疲れが取れにくいという高齢社員の場合、

夜勤はやめて日中の短い時間に勤務する(高齢社員が複数いる場合はシフト制にする)

などすれば、労災対策になるでしょう。

4)雇用の仕方に注目する

高齢社員を継続雇用する場合、1年ごとなどに労働契約を更新するのが一般的です。もし、健康状態を考慮して雇用継続が難しいという判断になったのなら、「雇止め(労働契約を更新しない)」という選択もやむを得ません。

ただし、雇止めにはルールがあるので、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」などに注意しましょう。また、フリーランスのように、雇用以外の方法で、高齢社員が自分のペースで働ける選択肢を用意しておくのも1つの手です。

以上(2025年5月更新)

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若手部下Jさんが部署の業務に「タイパ悪くないですか?」、どう声をかけますか?/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』【実践編】(11)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:コミュニケーションに関わる知識やノウハウは、頭では理解できても、実際の場面で使いこなせるようになるまでには高いハードルがあるものです。
  • 解決策:前回シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』での知識やノウハウを聞いただけではまだ一歩を踏み出せない、あるいはトライしてみたがうまくいかないという方のために、新シリーズでは【実践編】として社内の“あるある”場面を想定した質問に対して一緒に考えながら、実践イメージを膨らませていただきます。またリーダー側の視点とは別に、若手社員側の視点による上司世代との上手な付き合い方のヒントも紹介していきます。リーダー世代と若手社員とのコミュニケーションギャップを埋めることは、世界を舞台にスピーディな成長をめざす日本企業にとっても喫緊の課題だからです。

1 若手部下Jさんが部署の業務に「タイパ悪くないですか?」、どう声をかけますか?

今シリーズは、前シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』の実践編としてお送りしています。毎回実際にありそうなさまざまなシチュエーションを想定して、その際にどんなコミュニケーションを取るのが望ましいかを一緒に考えていきます。

前回第10回のテーマは「モチベーションの育て方」でした。部署の目標達成の締め切り日が迫る中、目標未達のメンバーの1人から突然新しい企画の提案をされた際のコミュニケーションのあり方について、上司、部下、それぞれの立場から考えてみました。

今回は最後の課題[事例10]です。以下に再掲しますので、前回皆さんが考えてみた解答を思い出してみてください。まだ考えていなかった方もぜひ考えてみてください。自ら考えないで、解説だけを読んでいても身に付きませんよ。

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Q.若手部下のJさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? また、それを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

[事例10]

〇若手部下のJさんは、配属から間もないこともあって、部署全体の業務の流れはもとより、自身の業務にさえ精通できていません。そんなある日、Jさんは上司のあなたに「この業務ってタイパ悪くないですか?」と問いかけてきました。

〇そればかりか「先に先輩に話してみたんですが、“つべこべ言わずに自分の仕事を早く覚えろ”と怒られました。納得いかないです」と不満そうです。

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テーマは「仕事の任せ方」です。「タイパ」はご存じかと思いますが、「タイムパフォーマンス」のことです。起こっている事象を整理することから始め、現場で起こっていることの可能性を探ってみましょう。皆さんの職場でも似たようなケースはありませんか。

2 「思い込み」や「偏見」は互いの距離を遠くする

昭和世代の読者の皆さんの中に、「タイパ」と聞くと「今どきの若い連中は、二言目にはタイパ、タイパだ」と目くじらを立てている人はいませんか。

今の時代、仕事をする上で「タイパ」への意識は常に必要です。

「タイパ」とはすなわち「生産性」のこと。同じ付加価値をどれだけ短い時間で生み出せるか、あるいは同じ時間でどれだけ多くの付加価値を生み出せるかを問うています。そして日本企業の「生産性」は先進国の中でもかなり低いほうだといわれ続けています。

「働き方改革」も「タイパ」が目指す施策の1つです。社内の人材を活かし、結果として生産性と付加価値を高めていく。残業が当たり前の世界をなくし、健康な生活を維持しながら、“いかに短時間で高い成果を上げられるか”が求められているのです。

また「今どきの若い連中は」という偏見は、いつの時代にもあること。生きてきた時代や背景、常識が違う以上、世代間ギャップは生まれて当然なのです。頭ごなしに「今どきの若い連中は」と考えるのではなく、自分たちが若い頃も年配者の言葉が理解できなかったことを思い出してください。

かくいう私も心の中で「今どきの若い連中は」と全く思わないわけではありません。が、「いかんいかん、またやってる」と凝り固まりがちな思考を自戒し、「世代間のギャップなんていつの時代にもあるものだ」と思い直すようにしています。

放っておけば、組織内の世代間ギャップはますます広がり、組織としての力は落ちていくばかりです。

一呼吸おいて、「世代間ギャップなどあって当たり前」と考え、人生経験が豊富で包容力のある先輩のほうから歩み寄っていきましょう。

先ほど、“今の時代、仕事をする上で「タイパ」への意識は常に必要です”と言いましたが、全てを「タイパ」で考えてくださいと言っているのではありません。

例えば「部下からの相談や悩みを聞く」場合や「チームでキックオフミーティングや達成会を行う」場合などは、それ自体が直接付加価値を生むわけではありません。「タイパ」を意識するならば、かける時間は短ければ短いほどいいのでしょうか。

他人である上司と部下、メンバー同士が互いに分かり合うにはそれなりの時間がかかります。

一人ひとりが仕事に集中できるようにサポートし合い、協力し合って高いパフォーマンス(付加価値)を上げるには、それぞれに必要な時間があるでしょう。組織としての付加価値をより高めていきたいのであれば、そこをないがしろにしてはいけません。

今の時代の上司には、常に「タイパ」を意識しつつも、時間をかけるべきところと効率良く進めるべきところをうまく使い分けてマネジメントすることが求められています。

3 若手社員や新参社員の話の「傾聴」をお薦めする3つの理由

「今どきの若い連中は」という負の感情が首をもたげても、一呼吸おいて、世代間ギャップはあって当たり前と考え、先輩のほうから歩み寄ろうと思い直せたとしましょう。さて、次にどんな行動を取ればいいでしょうか。

皆さんに考えていただく課題も今回が最後です。「この業務ってタイパ悪くないですか?」と問いかけてきた若手部下Jさんに対して取るべき行動について、毎回読んでくださった皆さんならもうお気付きですね。そう、「傾聴」してみる、です。

シリーズでそう書いてあるからとか、若手社員のモチベーションのために必要と言われたからしょうがないなどと後ろ向きに考えないでください。

若手社員や、異動・中途入社で加わった新参社員の声を「傾聴」することは、あなたの組織に3つのメリットをもたらす可能性があります。

メリット【1】組織には常に新たな視点が必要

組織というものは、つくった瞬間から保守的になりがちです。複数の人間が集まって一緒に仕事をするには共通のルールが必要で、それを定めて動き始めます。けれども外部環境の変化によってルールは次第に古くなり、陳腐化していきます。

昔からいる人ほど、そのことに気付きません。たとえ気付いていたとしても「いったん決めたんだし、慣れているからいいじゃないか」と、重い腰を下ろしたまま変えたがらないのです。これでは変化に対応できません。

そこに入ってきた若手社員や新参社員は、“よそ者”ならではの異なる視点を持っています。あなたの組織においては常識で当たり前だと思っていたことに対して、「皆さん(王様)、裸んぼうになってますよ」と気付かせてくれる存在なのです。

メリット【2】若手社員のほうが知識・経験がありうる時代

例えば、皆さんはご自身のスマホや人気のSNS、動画などをうまく使いこなせていますか?

私の場合、パソコンやパワーポイントなら若手社員に自信をもって使い方を教えられますが、スマホやSNSを使い倒せているかと問われれば自信がありません。動画を撮影し、編集ソフトを使ってアップしたことはありますが、自在に使いこなしているとまでは言えません。

デジタルやインターネットの急速な進化と普及は、昭和世代にとっては社会に出てから仕事の一部として体験してきたものです。いまだ人生や生活と一体化するまでに至っていないでしょう。

一方で、若手社員の多くは中学生、高校生の時代からそれらが生活の一部であり、違和感なく使いこなせるのです。“年を取っているほど経験が深い”という年功の価値観が全ての時代は終わりました。ことデジタルやネットの世界では完全に崩れているのです。

昭和世代は自らもキャッチアップするべく勉強を続けながらも、追いつけないのであれば若手社員に頭を下げて任せるか、彼らから学ぶしかないのです。

メリット【3】人材育成や組織変革のチャンス

【1】の冒頭で触れたように、組織はつくった瞬間から保守的になりがちです。既存のメンバーの誰かが見直すべき点に気付いたとしても言い出しづらいでしょう。上司から提案したとしても同じやり方でやってきた仲間ですから、「まあまあ、これまでのやり方でみんな慣れてますし」と却下されそうです。

一方で、配属されたばかりの若手社員や新参社員を迎え入れるのは非日常です。既存のメンバーも、少なくとも新しいものが来たという認識があります。そこで、上司が彼らから得た新たな視点をメンバーに提示し、後押ししたらどうでしょう。

新しいやり方への理解を組織全体で共有した上で、新参メンバーをその導入のためのリーダーに据え、既存メンバーのトップをサポート役に任命してみるのです。人材育成や組織変革の良いチャンスとなるかもしれません。

4 上司が最初にかけるべき言葉とは?

部下のJさんに最初にかける言葉は次のようなイメージです。

「お、提案ですか? いいですね、大歓迎ですよ。良い提案なら私からもみんなに後押ししますから、内容を聞かせてくれますか?」

部下からの提案は、相手が新人だろうと、その社員の現状の業績が振るわなかろうと、ウェルカムで臨みましょう。それでこそ彼らは上司を信頼し、何でも相談しやすくなります。

こちらが今多忙なら「いいですね、大歓迎です」と返した上で、別に時間を設ければ済む話です。

ちなみに「いいですね」は承認であり、「褒める」の一環です。

先ほど挙げた3つのメリットをイメージしながら、Jさんの提案を「傾聴」してみましょう。「傾聴」の結果については、いくつかのパターンが考えられます。

<すでに全く同じ提案があり、検討した結果不採用となっている場合>…過去の経緯を説明した上で、「とはいえその時はその時です。今ならまた違う結論になるかもしれないとすれば、どんな可能性があると思う?」と本人に問うてもう一度考えてもらいましょう。

<すでに似た提案があり、検討した結果不採用となっている場合>…過去の経緯を説明した上で、「その時と今回の提案の共通点と違う点はどこだと思う?」「違う点を前面に押し出して提案したら、何が変えられるだろう?」と本人に問うてもう一度考えてもらいましょう。

<過去にない新しい提案だが、組織で検討するまでもなくほぼ結論が見えている場合>…「なるほど、提案は新しいと思います。ありがとう。ただ、この点はこういう結果にならないかと想像したんだがどうだろう?」と本人に問うてもう一度考えてもらいましょう。

<過去にない新しい提案で、組織で検討する価値があると判断した場合>…「なるほど、いいですね。

先輩はそこまでの話を聞いて否定したのですか?」と確認し、いずれにしても「私も後押ししますから、次回のミーティングに向けて分かりやすい発表資料にまとめてくれますか?」と本人に依頼しましょう。

資料をもとに、事前打合せをしてミーティングに臨みます。

前者3つの場合は、Jさんにした質問の答えを聞く機会を改めて作って、本人と擦り合わせてみましょう。

あなたとしては、他のメンバーに提案しても不採用になるだろうと判断すれば、その旨を正直に伝えます。それでも本人がみんなに提案したいというなら、提案すること自体の後押しはしてあげたいところです。それにより「提案自体はどんどんしていいんだ」という「前向き発想」の機運が組織に広がります。

Jさんが今回その提案をすることで、次回以降の提案がしづらくなりそうだと判断すれば、あえて今回はさせないという選択肢もあります。Jさんにはこう説明してはどうでしょう。

「従来のやり方を変えたがらない人は多いものです。特に今まで部署にいなかった人からの提案には抵抗を感じるかもしれません。提案は最初が肝心です。誰もが変えざるを得ないなと思えるくらいの提案から先にしませんか。そうすれば他の提案も通りやすくなりますよ」

5 部下からの相談や提案を、誰もが“ウェルカム”できる風土に

ポイントを整理しましょう。

【今回の3つのポイント】

1 相手が誰であろうと例外なく「提案はウェルカムである」という姿勢を示し「褒め」た上で、提案の概要を聞かせてもらう

2 部下からの提案は、「新たな視点」「若手社員からの学び」「人材育成や組織変革のチャンス」であると認識する

3 忌憚(きたん)なくJさんと話し合った上で、他のメンバーへの提案のしかたを一緒に考える。提案をすることになれば、上司として「前向き発想」で後押しする

私がかつて勤めていたリクルートでは、上司はどんな相談や提案にも耳を貸してくれました。先輩たちもしかりです。

新人のうちは慣れないので、近くの先輩に聞けば分かる内容を上司に直接聞いていました。それでも上司は私からの相談や提案を、「どうした?」「なになに?」と本当にうれしそうに聞いてくれたのです。

上司は話を「傾聴」してくれた上で「〇〇については、まず自分で考えてからもう一度相談にきて」などと質問を返されることもしばしばです。それによって「まず自分で考えてみる」という訓練も身に付きました。

やがて上司の忙しさとともに、周囲の先輩たちが「まず上司でなく自分に相談して」とやきもきしながら見ていたことに気付きます。次第にこの話なら上司を煩わせるまでもなくこの先輩に、あの話ならあの先輩に相談すればいいと分かるようになってきます。

先輩たちも上司と同様、私の相談や提案をしっかりと受け止めて、的確な質問や答えを返してくれました。もっと良い相談相手がいると思えば、「そういう話だったら〇〇部の〇〇さんに相談すればいいよ。自分から連絡入れておくから」と言ってくれるのです。

「自分に相談されたのだから自分で解決して手柄にしよう」などとは考えないのです。「あくまで相談者優先、問題が早く解決するほうがいいじゃない」と最善の方法を一緒に考えてくれました。

また同社では、基本的に「誰が誰に相談・提案してもよい」という文化が根付いていました。新人が部長や役員にいきなり相談・提案をしにいっても誰も文句を言いません。直属の上司が「何やってるんだ、まずは自分に相談するのが筋だろう」などと怒ってきません。

部長や役員はというと、やはり私の上司や先輩たちと同じようにうれしそうに話を聞いてくれるのです。新人が直接相談に来たからといって、直属の上司を叱責することも一切ありません。本人が必要と思ったからその人に相談・提案に行ったまでと判断するのです。

そうした組織で人が育たないわけがありません。私自身は「できるだけ自分で考えてみよう。でも考えても分からなかったら、まず先輩に、必要と思えば上司や上席に直接相談すればいい」と、安心して仕事に取り組めました。

困ったときに相談できる人、自分の話を真剣に聞いてくれる人が周囲にたくさんいることは、どんなに心強いことでしょう。

6 周囲への相談、提案の前にまず自分で考えよう「自分はどうしたいのか?」

最後に、逆に皆さんがJさんの立場だとして、できることを考えてみましょう。

「この業務ってタイパ悪くないですか?」とただの感想を言うだけなら誰にでもできます。それでは何も変わりませんし、あなた自身も周囲から理解されません。あなたが本気で「現状を変えたい」なら、その思いを周囲に伝えられない限り、人は動いてくれません。

ただの感想でも職場の一員=当事者として述べる以上は、「では具体的にどうすればいいか」もセットにするべきでしょう。まだ仕事に慣れていなくて具体案が的外れだったとしても構いません。他人事ではなく、当事者意識をもって真剣に考えたことが重要なのです。

たとえ適切な具体策が思いつかなかったとしても、当事者の一人として真剣に考えたのであれば、あなたの「現状を変えたい」という気持ちだけはきっと周囲に伝わります。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。「傾聴」「褒める」「前向き発想」の『新たな3つのコミュニケーション習慣』について、皆さんの現場で実践していくイメージを持っていただけたでしょうか。

次回はシリーズ最終回です。全体を振り返り、【実践編】をまとめます。お楽しみに。

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※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』https://amzn.asia/d/e8GZwTB

『なぜ社長の話はわかりにくいのか』https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2025年5月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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【5/30金曜までお申し込み】2025年度 きらやかマネジメントスクールのご案内

きらやか銀行では、2025年度のきらやかマネジメントスクールを2025年6月12日(木)~2026年3月12日(木)の期間で開催いたします。

定員やセミナーカリキュラム、受講料などの詳細は、下記のご案内をご覧ください。

お申し込み締め切りは5月30日(金)です。

※※月一回で、全10回開催ですが、途中で参加する方が変わっても大丈夫です。

※※参加できない回があった場合は、後日、資料を共有いたします。

FAXでのお申し込みはこちらから

Webからのお申し込みフォームはこちらから

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FAXでのお申し込みはこちらから

Webからのお申し込みフォームはこちらから

【補足】下記の補足をご確認ください。

お申し込み締め切りは5月30日(金)です。

※※途中で参加する方が変わっても大丈夫です。

※※参加できない回があった場合は、後日、資料を共有いたします。

1.法人名・業種・所在地等は参加企業名簿として、参加者に配付いたします。
2.E-Mailアドレスは、事務局からの連絡及び受講者様相互の連絡等に利用いたします。
3.受講料:1企業参加者1名につき 150,000円
(参加者は受講内容によって都度、変更いただいても結構です)
*但し、1企業2名同時参加の場合は300,000円
4.参加申込みの手続き
(1) 参加申込書については、FAXまたは取引営業店に通知いただくか、Webフォームでお申し込み下さい。
(2) 受講料のお支払いは受付後、専用振込用紙を郵送いたしますので、その用紙にて最寄りのきらやか銀行本支店より、6月6日(金)までにお振込みをお願い申し上げます。