【朝礼】2025年は「言葉を大切にする人」になろう

【ポイント】

  • 「言葉を発する目的をよく考える」と、言葉選びが慎重になり、思いが相手に伝わる
  • 「相手の言葉の意味をよく考える」と、相手の真意が理解でき、自分の成長につながる
  • 「言葉を大切にする=言葉の先にあるものについて想像力をめぐらせる」ことが大切

皆さん、あけましておめでとうございます! 今日は私から皆さんに、「2025年は、こういう人になってほしい」というメッセージをお伝えします。今年、皆さんに目指してほしいのは

「言葉を大切にする人」になること

です。具体的には、今から言う2つのことを心がけてほしいと思っています。

1つは、「言葉を発する目的をよく考えること」。例えば、部下を指導する際、つい語気が強くなってしまう上司がいます。もちろん、時には厳しさも必要ですが、自分の感情をただぶつけるのは指導とは言いません。部下を指導するのは、「部下にこんなふうに成長してほしい」という目的があるからですよね。目的をよく考えれば言葉選びも慎重になり、思いは正しく相手に伝わるはずです。

もう1つは、「相手の言葉の意味をよく考えること」。今度は逆に、部下が上司の指導を受けたときについて考えてみましょう。「そのやり方は間違っている」と言われれば、誰だって良い思いはしません。ですが、ただ「叱られた」ということばかりを意識しているようでは、いつまでたっても成長しません。「上司はなぜ、自分に言葉をかけたのか」、その意味をよく考えましょう。

社外の人が相手でも同じです。例えば、取引先と話す際、相手の機嫌を損ねるようなことは誰しも言いたくないものです。ですが、多少耳の痛いことであっても、その発言をしないことで取引先が損を被る可能性があるなら、迷わず発言すべきです。「言葉を発する目的」をよく考えましょう。

営業に行ったとき、「今回は予算が……」などとやんわりと断られた経験がある人も少なくないでしょう。実は当社側の提案に問題があるものの、面と向かって言うと角が立つから、相手が言葉を選んでくれているだけのケースが多いです。「相手の言葉の意味」をよく考えて改善を図らないと、いつまでも同じことの繰り返しになってしまいます。

言葉を大切にするとは、「言葉の先にあるものについて想像力をめぐらせる」ということです。2025年はこの点を意識して、コミュニケーションをもう1段階レベルアップさせましょう。

以上(2025年1月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

2040年の市場規模は140兆円!急速成長する「宇宙ビジネス」の全容

1 成長市場の宇宙ビジネスについて知る

2024年10月24日、宇宙輸送・衛星通信事業を手掛けるSpaceXは、同社が開発したロケット「Falcon9」の同年100回目となる打ち上げに成功しました。これは3日に1回、打ち上げを行っているというペースです。

宇宙技術に関する事業全般を「宇宙ビジネス」「宇宙産業」などと呼びますが、

世界の宇宙ビジネスの市場規模は、2022年時点で54兆円(ちなみに日本は約4兆円)、2040年には140兆円にまで成長すると予測されており、今まさに急速に成長している市場

です(経済産業省「国内外の宇宙産業の動向を踏まえた経済産業省の取組と今後について」)。

成長の理由はさまざまありますが、特に注目すべきは、

SpaceXに代表される民間企業のロケット打ち上げと、衛星データの利用ビジネス

です。通信速度やデータ精度が向上したことで、マーケティング、医療、農業など、活用できる分野の幅が広がっており、そこに民間企業が次々に参入してきているのです。

日本はロケット打ち上げに有利な立地なので今後の成長が期待されていますが、ロケット打ち上げ体制や衛星製造では、まだまだ研究・整備の段階にあります。しかし、新規事業者が参入するには、実績が重視される傾向にあることから、将来的な参入を視野に入れ、今のうちから業界について知っておくことが大切です。

この記事では、そんな宇宙ビジネスの現在地を

  1. 宇宙ビジネスの全体像
  2. 民間主導の宇宙ビジネスの動向
  3. 宇宙ビジネスの規制・制度(宇宙法)

という流れで探っていきます。

2 宇宙ビジネスの全体像

宇宙ビジネスについては、明確な定義があるわけではありませんが、経済産業省の資料では「民間衛星サービス」「衛星用地上機器」「衛星製造」「宇宙輸送」「政府の宇宙予算(宇宙科学・探査など)」の5つに分けて紹介されています。

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近年は、衛星データの利用幅が増えたことや、打ち上げリスクが減ったこともあり、民間からの投資が増え、さまざまなベンチャー企業が登場しています。その数は、経済産業省によると、国内だけでも約100社あるとされます。

また、ロケット・衛星の打ち上げ数が増加したことで、発射場となるスペースポート(宇宙港)の不足やスペースデブリ(宇宙ゴミ)の増加など、新たな課題も生まれています。

図表1の5種類の宇宙ビジネスから、「政府の宇宙予算(宇宙科学・探査など)」を除外したもの(民間主導の宇宙ビジネス4種類)の商流を表したのが図表2です。

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これらの中で、近年、特に盛り上がっているのが民間衛星サービスです。

民間衛星サービスは、大きく「通信・放送衛星サービス」「地球観測衛星サービス」「測位衛星サービス」「軌道上サービス」に分かれます。これらは衛星を活用して通信やデータ収集をしたり、衛星の活動を支援したりするビジネスで、近年は多くの民間企業が参入しています。

電子部品の小型化、汎用部品を多用した設計などによって、超小型の衛星を従来よりも早く、安価に打ち上げられるようになったから

です。

衛星を周回させる高度は、大きく、

  • 静止軌道:高度3万6000キロメートル付近
  • 中軌道:高度2000キロメートルから3万6000キロメートル
  • 低軌道:高度200キロメートルから2000キロメートル

に分かれます。低軌道上の衛星は地表により近く、大容量データの高速通信や精密な観測に対応できますが、1機では地表の狭い範囲しかカバーできません。そのため、安価な小型衛星を大量に打ち上げて一体的に運用する「衛星コンステレーション」体制が主流になっています。

これに対し、日本の宇宙ビジネスは対応が遅れているのが現状です。このことについて、経済産業省の宇宙産業課にヒアリングしたところ、次の回答が得られました。

「日本の宇宙ビジネスは、民間企業が参入するようになってからまだ日が浅く、サプライチェーン体制や発射場(スペースポート)の整備が追い付いていません。これらが進みにくい原因に、宇宙利用・衛星製造・宇宙輸送の3分野が“三すくみ”になっていることが挙げられます。

この課題を解決するには、特定分野の成長を期待するのではなく、全体的な底上げを支援する必要があります。そのためにも、中小企業の皆様の参入が欠かせませんが、参入障壁の高さやリスクを感じ、参入をためらってしまう事業者様も多いと聞きます。

しかし、実際は想像よりも要求される品質が低くてもよいケースもあります。まずは、地方の各産業局が主催する宇宙航空産業などの企業マッチングイベントなどに参加し、ぜひ商談を進めてみていただきたいです」

次章からは、「民間衛星サービス → 衛星用地上機器 → 衛星製造 → 宇宙輸送」の順に、宇宙ビジネスの動向を紹介していきます。

3 (民間衛星サービス)通信・放送衛星サービスの動向

1)通信・放送衛星サービスとは

衛星通信とは、地上から衛星を介し、送信先へデータを送る通信方式のことです。

主に、衛星テレビや衛星ラジオなどで利用されるほか、高速通信に対応した衛星ブロードバンドの登場によって、インターネットや携帯電話でも利用され始めています。

移動する船舶や車両、通信回線を引けない山間地、インフラが破壊された被災地などとも通信できることから、近年、注目を集めている分野でもあります。

2)通信・放送衛星サービスの課題

通信・放送衛星サービスの課題は、

サービスが一部の事業者に依存してしまう状況にあること

です。2020年以降、SpaceXとOneWeb(英国)の衛星打ち上げ数が急激に増加しており、特にSpaceXは2023年6月時点で累計4500機超の通信衛星を打ち上げています。なお、内閣府の調査によると、日本の商業衛星の打ち上げ計画数は、2023年から10年間で合計280機以上です。

経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。

「衛星間通信技術による地球観測衛星(第4章)の支援体制を確立することが、通信衛星サービス分野における課題です。

この課題を解決するには、衛星コンステレーション体制(第2章)を構築するとともに、光通信による衛星間通信技術を向上させる必要があります。大量の衛星を打ち上げるためのサプライチェーンや技術・設備などが求められます。これが実現すると、観測衛星データのリアルタイム性が向上してデータの利用シーンが増え、市場が活性化するでしょう」

4 (民間衛星サービス)地球観測衛星サービスの動向

1)地球観測衛星サービスとは

地球観測とは、衛星に搭載されたリモートセンシングセンサーを利用して、地上について調べることです。センサーは、大きく

  • 光学センサー:視覚的に分かりやすい
  • マイクロ波センサー:夜間、悪天候に影響されにくい

の2つに分かれます。

主に、気象観測・都市開発・農業・エネルギーの分野で利用されており、センサーやデータ解析AIの発達によって、土地の肥沃度や石油残量の調査、都市部の夜間の明るさに基づくGDP予測、洪水の被害規模予測など、幅広い分野で活用され始めています。

近年は、小型衛星コンステレーションによる衛星間通信リレーの進展によって、観測から利用までのリードタイムが大幅に短縮され、よりリアルタイムなデータ利用ができるようになり、さらに幅広い分野での活用が見込まれています。

2)地球観測衛星サービスの課題

地球観測衛星サービスの課題には、次のようなものがあります。

  1. 民需が不足しており、官需もなかなか拡大できていない
  2. データが高額で、まだ提供速度や量が不足している
  3. 観測データを利用する事業の開発研究が進んでいない

経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。

「防災や農業などの分野で成果が出始めていますが、利用量も活用シーンもまだまだ少ないのが現状です。例えば、北海道の農場の観測サービスに留まらず、全国や海外へサービスが広がることなどを期待しています。また、複数のデータを複合的に利用するサービスが生まれることで、利用量が増えることにも期待しています」

5 (民間衛星サービス)測位衛星サービスの動向

1)測位衛星サービスとは

衛星測位システム(GNSS、正式名称「Global Navigation Satellite System(全球測位衛星システム)」)は、衛星から電波を受信することで位置測定や航法(移動ルートを導く方法)、時刻配信をするシステムです。有名なものは米国のGPSですが、日本を含む各地域でも独自のシステムが管理・運用されています。

各地域で運用・管理されている衛星測位システムの名称と機数は次の通りです。

  • 米国:GPS(31機)
  • ロシア:GLONASS(26機)
  • EU:Galileo(28機)
  • 中国:北斗(45機)
  • 日本:準天頂衛星システム QZSS(4機)

主に、カーナビやスマートフォンの地図アプリ、フィットネス機器、測量などで活用されており、精度が高まることで、自動車・農業トラクター・船舶などの自動運転、3D地図の作成、ドローン管制によるインフラのメンテナンスなどの分野でも活用が見込まれています。

2)測位衛星サービスの課題

前述の通り、日本の測位衛星機数は世界各地に比べて少ない状況にあります、内閣府によると、日本は現在、7機体制の構築に向けた整備を行っており、さらに、11機体制にむけた検討・開発にも着手している段階です。

この計画を実現していく上で、測位衛星サービスの課題には、次のようなものがあります。

  1. 高品質な測位サービスの安定的供給のためのリスク対応(抗たん性)・精度の向上
  2. 持続的なサービスに向けた、開発・運用におけるコストの縮小

内閣府 宇宙開発戦略推進事務局へのヒアリングでは、次の回答が得られました。

「今後の測位衛星の打ち上げは、測位情報の高精度化と安定的な提供を目的としたもので、搭載機器の機能を向上させるとともに、衛星に不具合が発生したときのバックアップとしての役割を遂行する能力が求められます。また、測位情報を持続的に提供するため、小型化による2機同時打ち上げなどのコストダウン策も検討されているところです」

6 (民間衛星サービス)軌道上サービスの動向

1)軌道上サービスとは

軌道上サービスは、衛星や宇宙ステーションに対して、宇宙空間で提供されるサービスの総称です。サービス内容には、次のようなものがあります。

  • スペースデブリ(宇宙ゴミ)の観測・監視・除去・削減
  • 衛星の燃料補給・修理・交換・寿命延長
  • 軌道上での製造・組み立て

近年、注目を浴びているのが、スペースデブリの除去ビジネスです。

スペースデブリとは、故障や寿命で不要になったロケット・衛星の残骸などのことで、主に、残っていた燃料の爆発や、スペースデブリ同士の衝突によって発生します。ESA(欧州宇宙機関、European Space Agency)によると、その数は2024年9月時点で次のようになっています。

  • 10センチメートル以上:約4万個
  • 1センチメートル以上10センチメートル未満:約110万個
  • 1ミリメートル以上1センチメートル未満:約1億3000万個

スペースデブリは秒速7~8キロメートルで移動しているとされ、微小なものでも衝突すれば、衛星や宇宙ステーションが大きく破損しかねません。実際、過去には衝突事故が何度も起こっており、衛星が大破してしまったケースもあります。ロケット・衛星の打ち上げ数が増える今、スペースデブリの除去は需要が急速に高まっているのです。

スペースデブリの除去は、対象となる物体に近づき、動きを推定しながら捕獲し、軌道を変えて大気圏に突入させて、スペースデブリを燃やし尽くす技術です。まだ実証・実験段階ではあるものの、日本のベンチャー企業のアストロスケールホールディングス(東京都墨田区)が欧米企業に先行しています。

2)軌道上サービスの課題

軌道上サービスの課題には、次のようなものがあります。

  • 多くの企業が技術開発・研究段階か、契約締結(未実装)段階にある
  • 分野自体が新しく、国際的なルールや目標が未整備

経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。

「軌道上サービスは、比較的新しいサービスです。すでに国内の有力な企業が登場していますが、分野自体が発展途上であり、ルール作りの段階にあると考えています。例えば、スペースデブリの除去目標や、衛星が寿命を迎えるまでに除去すべきスペースデブリ数などがそうです。これらが決まってこそ、求められる技術や必要な投資額が決まってきます」

7 衛星用地上機器の動向

1)衛星用地上機器とは

衛星用地上機器とは、パラボラアンテナや衛星対応のテレビ・ラジオなどの製造分野です。

中でも、衛星測位システムに利用されるGNSSチップセットとナビゲーション・デバイスの製造が、市場規模が最も大きい分野となっています。

近年の衛星測位システムは、衛星だけでなく、利用者のものとは別の受信機も利用することで、位置情報の誤差を数メートル単位から数センチメートル単位まで縮小させることに成功しました。これにより、自動車・農業トラクター・船舶などの自動運転、3D地図の作成、ドローン管制によるインフラのメンテナンスなどの分野でも活用が見込まれています。

2)衛星用地上機器の課題

この分野の中で最も市場規模が大きいGNSSチップセットとナビゲーション・デバイスには、次のような課題があります。

  • アンテナの故障やケーブルの断線、大規模な太陽フレア発生などによる受信中断
  • 意図的にGNSS信号を妨害するジャミングへの対策
  • 偽物の信号を放送することによる悪意あるなりすまし(スプーフィング)への対策

経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。

「宇宙ビジネスの中では比較的昔からあり、すでに産業として確立している分野です。現在は安定性を求めるための改善や物理的な障害を起こさない対策などが課題となっています」

8 衛星製造の動向

1)衛星製造とは

衛星製造とは、その名の通り、衛星の開発・製造を担う分野です。

内閣府「宇宙輸送を取り巻く環境認識と将来像」によると、世界の衛星の年間打ち上げ数は10年間(2013年~2022年)で206機から2368機に急増しています。これは、衛星の小型化により低価格化したことに加え、ロケット1機に積載できる数が増えたためです。

衛星の部品やコンポーネントは、精度や消費電力、出力において高品質であることに加え、宇宙空間の過酷な環境(真空や放射線など)に耐えるため、軽量かつ高耐久でなければなりません。そのため、専用に開発された特殊なものが大半でした。しかし、近年の衛星開発では、コストダウンを目的とし、一般的な市販品を利用するケースもあります。

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2)衛星製造の課題

衛星製造の課題には、次のようなものがあります。

  • コアとなる部品・コンポーネントの一部は海外依存度が高い
  • 国際競争力のある国産の部品・コンポーネントが少ない
  • 自動車用部品など、安価で性能の良い一般的な市販品が使いこなせていない

経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。

「日本の衛星製造は、サプライチェーンが脆弱であることが課題です。これは、『宇宙用製品の製造経験が少ないこと』『コストダウンのための量産体制を構築できていないこと』が原因と考えられます。これを解消するには、衛星データの利用ビジネスが拡大しなければなりませんが、そのためには高性能かつ低価格な衛星を打ち上げることが欠かせません。どこかの分野が大きく成長することを期待するのではなく、全体的な支援が必要になると考えています」

9 宇宙輸送の動向

1)宇宙輸送とは

宇宙輸送とは、ロケットの製造・打ち上げサービスの総称です。

世界のロケットの打ち上げ数は、順調に伸びていますが、成長の大部分を占めているのがSpaceX(米国)です。同社はロケットの低価格化で圧倒的な競争力を実現し、“一強”状態にあります。加えて、さらなる低価格化、ひいては競争力向上に向けた開発を進めており、2024年10月にはロケットブースターを再利用するべく、発射台での回収に成功しました。

また、中国も着実に打ち上げ数を増やしており、2018年以降、存在感を増しています。

一方、日本は、ロケットの性能面において世界各国に劣ってはいないものの、製造や発射場が制約となり、打ち上げ数は伸びていません。これに対し、政府は2030年前半までに年30機の打ち上げを目指すとしています。

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なお、日本の稼働中のスペースポートは次の4港です。

  • 鹿児島県熊毛郡南種子町「種子島宇宙センター」:JAXAが運営
  • 鹿児島県肝属郡肝付町「内之浦宇宙空間観測所」:JAXAが運営
  • 北海道広尾郡大樹町「北海道スペースポート(HOSPO)」
  • 和歌山県東牟婁郡串本町「スペースポート紀伊」

さらに、大分県国東市「大分空港」と沖縄県宮古島市「下地島空港」が宇宙港としての開港に向けて整備を進めています。

2)宇宙輸送の課題

宇宙輸送の課題には、次のようなものがあります。

  • 国内のスペースポートの整備
  • ロケット製造のサプライチェーンの強化
  • ロケットや打ち上げサービスの安定的な販売先の確保
  • 再使用往還飛行や有人飛行の技術研究
  • 安全基準や許認可の仕組み、国際間ルールの整備

経済産業省の宇宙産業課へのヒアリングでは、次の回答が得られました。

「課題の内容は衛星製造(第8章)とおおむね同じですが、それに加えて、SpaceXを中心とする海外企業に国内の打ち上げ需要が取り込まれていることが大きな課題です。この課題を解決するため、日米欧の宇宙機関や企業が新型ロケット開発に取り組んでいます。当該企業からは『特定分野での技術を持った企業が不足している』などの声が聞こえてくるので、中小企業の皆様はぜひマッチングイベントや商談会に参加していただきたいです」

10 宇宙ビジネスの規制・制度(宇宙法)

宇宙法とは、宇宙活動に関連する法律の総称です。これには「宇宙基本法」「衛星リモセン法」「宇宙活動法」「宇宙資源法」があります。

1)宇宙基本法

日本における宇宙開発・利用に関する基本理念や基本的施策などを定めた法律で、2008年8月に施行されました。この法律に基づいて、以降の法律が制定されています。

2)衛星リモセン法

正式名称は「衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律」で、2017年11月に施行されました。宇宙からの観測情報がテロリストなどに渡れば、安全保障上の脅威となることから、同法では次のことについて定められています。

  • 衛星リモセン装置の使用についての許可制度(内閣総理大臣の許可)
  • 衛星リモセン記録保有者の義務(特定の記録取り扱い方法の規制)
  • 衛星リモセン記録を取り扱う者の認定制度(内閣総理大臣の認定)

3)宇宙活動法

正式名称は「人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律」で、2018年11月に施行されました。同法では次のことについて定められています。

  • 衛星の打ち上げについての許可制度(内閣総理大臣の許可)
  • 衛星の管理についての許可制度(打ち上げ段階と打ち上げ後の許可)
  • 第三者損害賠償制度(無過失での損害賠償責任)

4)宇宙資源法

正式名称は「宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律」で、2021年12月に施行されました。同法では次のことについて定められています。

  • 宇宙資源ビジネスを行うための許可要件
  • 宇宙資源の所有権を取得する方法

なお、国際条約の「月その他の天体における国家活動を律する協定(通称「月協定」)」(1984年発効)では、領有の禁止が定められていますが、日本やアメリカ、中国、ロシアは同条約に批准していません。

以上(2025年1月作成)

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画像:Natalia-Adobe Stock

【かんたん所得税 まとめ】副業解禁などで「確定申告」をする人が知っておきたい所得税の計算方法

書いてあること

  • 主な読者:副業解禁などにより所得税の確定申告が必要になった人、なりそうな人
  • 課題:これまでは会社が源泉徴収してくれていたので、確定申告のイメージがわかない
  • 解決策:所得は10種類で、他と総合するものと、分離するものとがある。所得控除もある

1 給与所得者も確定申告が必要な時代?

個人事業主やフリーランスにとって、所得税の確定申告は面倒な作業です。近年は副業や仮想通貨の取引などによって給料以外の所得を得る人が増え、給与所得者でも確定申告が必要なケースが増えているようです。原則として、給与所得者は源泉徴収と年末調整によって確定申告は不要ですが、

  • 2カ所以上から給与等の支払いを受けている一定の人
  • 給与所得、退職所得以外の所得(副業などの所得)が20万円を超える人
  • 給与等の年収が2000万円を超える人

などの場合は確定申告が必要です。

働き方改革など時代の変化によって、必要な知識も変わってきます。このシリーズでは、所得税の基本や計算フローの全体像を紹介していきます。

2 課税の対象となる「所得」は10種類

所得税とは、1年間(1月1日から12月31日)の個人の所得にかかる税金(法人の所得については法人税など)です。納税者が自分で1年間の所得とその税額を計算し、原則として、翌年2月16日から3月15日(15日が土日祝日の場合は翌日)までの間に税務署に確定申告をして納税します。これを申告納税方式といいます。所得は次の10種類に区分して計算します。

  • 利子所得:銀行預金の利子収入などに係る所得
  • 配当所得:株式の配当金収入などに係る所得
  • 不動産所得:貸家や土地の賃貸料収入に係る所得
  • 事業所得:個人事業に係る所得
  • 給与所得:給料や賞与に係る所得
  • 退職所得:退職金収入に係る所得
  • 山林所得:所有期間が5年を超える山林の売却に係る所得
  • 譲渡所得:土地、建物、株式等、書画、骨董品などの資産の売却に係る所得
  • 一時所得:クイズの賞金収入や生命保険の満期保険金などに係る所得
  • 雑所得:年金収入など他の所得のいずれにも該当しない所得

以降では、所得税の計算フローを4つのステップで紹介します。なお、それぞれの所得の詳細解説については、次のコンテンツをご参照ください。

3 第1ステップ:各種所得の金額の計算

所得を10種類に分類してそれぞれの金額を計算します。この記事では、各種所得の計算式だけを解説しています。

1)利子所得

イ.利子所得の金額(預貯金や公社債などの利子の額)

2)配当所得

イ.収入金額(株式の配当など)

ロ.負債の利子(借入金により取得した株式などについて、その借入金利子)

ハ.イ-ロ=配当所得の金額

3)不動産所得

イ.総収入金額(家賃収入、地代収入など)

ロ.必要経費(固定資産税、管理費、減価償却費など)

ハ.イ-ロ=不動産所得の金額

4)事業所得

イ.総収入金額(売上高、雑収入など)

ロ.必要経費(売上原価、販売費、一般管理費など)

ハ.イ-ロ=事業所得の金額

5)給与所得

イ.収入金額(給料や賞与の額)

ロ.給与所得控除額(収入金額に応じ一定の額を計算)

ハ.イ-ロ=給与所得の金額

6)退職所得

イ.収入金額(退職金の額)

ロ.退職所得控除額(勤続年数に応じ一定の額を計算)

ハ.(イ-ロ)×1/2=退職所得の金額

特定役員退職手当等に該当する場合は、2分の1を乗じません。特定役員退職手当等とは、勤務年数が5年以下の役員等に支払われる退職金をいいます。

また、2022年1月1日以降に、役員等でない、勤続年数5年以下の社員に支給された退職金(短期退職手当等)で、短期退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控除した残額が300万円を超える部分については、2分の1を乗じることができません。

7)山林所得

イ.総収入金額(山林の売却収入など)

ロ.必要経費(植林費、育成費、管理費、伐採費、譲渡費用など)

ハ.特別控除額(「イ-ロ」の金額を限度として50万円を控除)

ニ.イ-ロ-ハ=山林所得の金額

8)譲渡所得

イ.譲渡(総)収入金額(土地・建物、株式等の売却金額)

ロ.取得費+譲渡費用

ハ.特別控除額(分離課税となるものを除き、「イ-ロ」の金額を限度として50万円を控除)

ニ.イ-ロ-ハ=譲渡所得の金額

9)一時所得

イ.総収入金額(保険金収入やクイズの賞金収入)

ロ.支出した金額(イの収入を得るために直接要した金額)

ハ.特別控除額(「イ-ロ」の金額を限度として50万円を控除)

ニ.イ-ロ-ハ=一時所得の金額

10)雑所得

イ.公的年金等の所得

a.収入金額(公的年金等の額)

b.公的年金等控除額(受給者の年齢と収入金額に応じ一定の額を計算)

c.a-b=公的年金等の所得

ロ.公的年金等以外の所得

a.総収入金額(生命保険の年金などの額)

b.必要経費(ロに係る費用を計上)

c.a-b=公的年金等以外の所得

ハ.イ+ロ=雑所得の金額

4 第2ステップ:「課税標準」の計算

1)総合課税

各種所得のうち、次の総合課税の対象となる所得の金額を合算します。

利子所得(一部除く)、配当所得(一部除く)、不動産所得、事業所得、給与所得、雑所得、一時所得、譲渡所得(土地・建物・株式等の譲渡を除く)

なお、譲渡所得(土地・建物・株式等の譲渡を除く)は、譲渡資産の所有期間が5年以下なら「総合短期譲渡所得」、5年超なら「総合長期譲渡所得」となります。そして、この総合長期譲渡所得と一時所得は、その2分の1を合算します。

2)分離課税

各種所得のうち、分離課税の対象となるのは次の通りです。

退職所得、山林所得、譲渡所得(土地・建物、株式等の譲渡)、利子所得(特定公社債等の申告分離課税を選択したもの)、配当所得(上場株式等の申告分離課税を選択したもの)

退職所得と山林所得は、それぞれ「退職所得金額」「山林所得金額」という別個の課税標準とされます。

譲渡所得のうち土地・建物等に係るものは、譲渡資産を譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年以下なら「分離短期譲渡所得」、5年超なら「分離長期譲渡所得」となり、それぞれ「短期譲渡所得の金額」「長期譲渡所得の金額」という別個の課税標準とされます。また、譲渡所得のうち株式等に係るものについては、「株式等に係る譲渡所得等の金額」という別個の課税標準とされます。

利子所得は、ほとんどが利子の支払いを受ける際、所得税等が源泉徴収されて課税が完結する源泉分離課税とされています。

3)損益通算:赤字と黒字の相殺

不動産所得、事業所得、山林所得、譲渡所得の4つが赤字(損失の金額)の場合、一定の順序で他の黒字の所得と損益通算(相殺)できます。ただし、次の譲渡所得は損益通算できません。

  • ヨットやグランドピアノなど、生活に通常必要ない資産を売却した場合の赤字
  • 土地・建物等(一定の居住用財産を除く)を売却した場合の赤字
  • 株式等を売却した場合の赤字(上場株式等の譲渡損は、上場株式等に係る配当所得と損益通算ができる)

4)純損失の繰越控除

損益通算してもなお通算し切れない赤字を「純損失の金額」といい、青色申告者については、翌年以降3年間の繰越控除が認められます。

なお、「分離課税・総合課税」「損益通算」の詳細解説については、次のコンテンツをご参照ください。

5 第3ステップ:課税所得金額の計算

第2ステップの課税標準から所得控除額を控除して、「課税所得金額」を計算します。所得控除には次の15種類があります。

  • 雑損控除:災害により住宅や家財に多大な損害を受けた場合など
  • 医療費控除:原則として10万円超の医療費を支払った場合
  • 社会保険料控除:健康保険料、厚生年金保険料、国民年金保険料等を支払った場合
  • 小規模企業共済等掛金控除:小規模企業共済制度の掛金、個人型年金加入者掛金等を支払った場合
  • 生命保険料控除:生命保険料や個人年金保険料、介護医療保険料を支払った場合
  • 地震保険料控除:地震保険料を支払った場合
  • 寄附金控除:国、地方公共団体、一定の公益法人等に寄附金を支払った場合
  • 配偶者控除:自分の合計所得金額が1000万円以下で、同一生計の配偶者の合計所得金額が48万円以下である場合
  • 配偶者特別控除:自分の合計所得金額が1000万円以下で、同一生計の配偶者の合計所得金額が48万円超133万円以下である場合
  • 扶養控除:扶養親族(一定年齢の同一生計の親族等で合計所得金額が48万円以下)を有する場合
  • 障害者控除:本人または一定の親族等が障害者である場合
  • 寡婦控除:本人が寡婦(配偶者と死別等をした一定の女性)で、合計所得金額が48万円以下の扶養親族がいる場合など
  • ひとり親控除:一定のひとり親で合計所得金額が48万円以下の子供がいる場合
  • 勤労学生控除:本人が勤労学生(働きながら学校に通う一定の者)である場合
  • 基礎控除:全ての人に基礎控除が認められているが、合計所得金額が2500万円を超える人は適用対象外

なお、の詳細解説については、次のコンテンツをご参照ください。

6 第4ステップ:納付税額の計算

1)算出税額の計算

課税所得金額には、総合課税される「課税総所得金額」と分離課税される「課税短期譲渡所得金額」「課税長期譲渡所得金額」「株式に係る課税譲渡所得等の金額」「課税山林所得金額」「課税退職所得金額」などがあります。

課税総所得金額と所得税額の速算表は次の通りです。課税所得金額の大きさに応じて適用される超過累進税率により、所得税額が計算されます。超過累進税率とは、所得が高くなるほど税率が高くなる仕組みで、今の税率は5%~45%の7段階に区分されています。

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一方、分離課税される各課税所得については、それぞれに適用される税率で所得税額が計算されます。

2)税額控除額の控除

配当控除や住宅借入金等特別控除などの税額控除額を算出税額から控除します。配当控除は、配当所得がある場合に、法人税と所得税の二重課税を調整するために設けられています。また、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)は、住宅をローンで購入し、一定の要件を満たした場合に認められるもので、住宅政策の一環として設けられています。

3)源泉徴収税額の控除

配当金や給料などの支払いを受ける場合、受取額からあらかじめ所得税が天引きされます。天引きされる所得税を源泉徴収税額といいます。天引きされた所得税は、前払税額として、納付税額の計算の際に控除します。

4)予定納税額の控除

予定納税とは、税額の前払制度のことです。前年に確定申告をして税金を納めた一定の者は、その納めた税額を基礎に7月(第1期)と11月(第2期)に、一定の前払税金を納めることが義務付けられています。予定納税額は前払税額として、納付税額の計算の際に控除します。

5)納付税額の計算

納付税額の計算式は次の通りです。また、分離課税による所得がある場合には、それぞれ算出した税額を合算します。こうして、第3期納付税額を翌年2月16日から3月15日までに確定申告をするとともに、国に納めることとなります。

  • 課税所得金額等(千円未満切り捨て)×超過累進税率等=算出税額
  • 算出税額-税額控除額-源泉徴収税額=申告納税額(百円未満切り捨て)
  • 申告納税額-予定納税額=第3期納付税額

6)復興特別所得税

2013年から2037年まで、復興特別所得税として、基準所得税額の2.1%が追加課税されます。

  • 基準所得税額=所得税額-所得税から差し引かれる金額(住宅借入金等特別控除等)

以上(2024年12月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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【かんたん所得税(7)】おトク情報! 住宅を売った時に受けられる所得税の特例とは?

書いてあること

  • 主な読者:住宅を売ったことで利益が出た人、または売ることを検討している人
  • 課題:住宅を売った時に、利益や損失が出たときに受けられる特例を知りたい
  • 解決策:利益が出たら特別控除、軽減税率など。損失が出たら他の所得と相殺など

1 住宅を売った時や買い換えた時には、税金優遇あり

住宅を売った時や買い換えた時の金額は多額で、その年の所得税に大きな影響を与えます。納税額を減らしたり、将来に所得を繰り延べたりできる特例もあるので、利用できるものは利用したいものです。

この記事では、2024年に住宅と住宅用土地(以下「居住用財産」)を売った時や買い換えた時の、お得な特例を紹介していきます。

2 居住用財産を売って利益が出た:3000万円特別控除

1)概要

居住用財産を売った場合、譲渡所得から3000万円を控除(譲渡益の金額が限度)できます。

2)要件

売った居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。

  • 実際に住んでいるか、住まなくなった日から3年が経った年の12月31日までに売ること
  • 土地だけの場合は、火災などで住宅が消失したなど一定の事由に該当していること

また、売った相手が、配偶者や同一生計親族など特別の関係にある人ではいけません。さらに、売った年、前年もしくは前々年において、他の居住用財産の特例の適用を受けていてはいけません。ただし、この3000万円特別控除と軽減税率の特例(詳細は後述)は同時に適用を受けられます。

3 居住用財産を売って利益が出た:軽減税率の特例

1)概要

所有期間が10年を超える居住用財産を売った場合、通常(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)より低い税率(所得税・復興特別所得税10.21%、住民税4%。軽減税率という)で、所得税の納税額を計算することができます。

課税譲渡所得金額(税率を掛ける前の金額)が6000万円以下か否かで税率が違います。

1.課税譲渡所得金額が6000万円以下の場合

所得税:10.21%(復興特別所得税を含む)

住民税:4%

2.課税譲渡所得金額が6000万円超の場合

  • 6000万円以下の部分

    所得税:10.21%(復興特別所得税を含む)

    住民税:4%

  • 6000万円超の部分

    所得税:15.315%(復興特別所得税を含む)

    住民税:5%

2)要件

売った居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。

  • 実際に住んでいるか、住まなくなった日から3年が経った年の12月31日までに売ること
  • 売った年の1月1日時点の所有期間が10年を超えていること

また、売った相手が、配偶者や同一生計親族など特別の関係にある人ではいけません。さらに、売った年、前年もしくは前々年において、他の居住用財産の特例の適用を受けていてはいけません。ただし、この軽減税率の特例と3000万円特別控除は同時に適用を受けられます。

4 居住用財産を買い換えた

1)概要

今まで住んでいた居住用財産を売って、新たに別の居住用財産に買い換えた場合の特例です。

売った金額が買い換えた金額より少ない場合、今まで住んでいた居住用財産を売って利益が出ても、その年には課税されません。ただし、新たに買い換えた居住用財産を将来売ったときに、まとめて計算されます(課税の繰り延べ)。

逆に、売った金額が買い換えた金額より多い場合、今まで住んでいた居住用財産を売って利益が出ても、その利益に課税されるのではなく、売った金額と買い換えた金額の差額を収入金額として譲渡所得を計算します。

2)要件

売った居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。

  • 売った居住用財産の売却額が1億円以下であること
  • 売った人の居住期間が10年以上であること
  • 売った年の1月1日時点の所有期間が10年を超えていること
  • 実際に住んでいるか、住まなくなった日から3年が経った年の12月31日までに売ること
  • 土地だけの場合は、火災などで住宅が消失したなど一定の事由に該当していること

また、買い換えた居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。

  • 住宅の床面積が50平方メートル以上であること
  • 土地の面積が500平方メートル以下であること
  • 中古である場合には築後25年以内のものであること。または構造が一定の安全基準を満たしているものであること
  • 以前住んでいた居住用財産を売った年か、その前年に取得している場合には、売った年の翌年12月31日までに住み始めていること
  • 以前住んでいた居住用財産を売った年の翌年に取得している場合(確定申告書に一定の書類の添付が必要)には、取得した年の翌年12月31日までに住み始めていること

また、売った相手が、配偶者や同一生計親族など特別の関係にある人ではいけません。さらに、売った年、前年もしくは前々年において、他の居住用財産の特例の適用を受けていてはいけません。

3)特例計算と具体例

この特例の適用を受ける場合、居住用財産の譲渡について、譲渡所得の金額と買換資産の取得価額は次のように計算します。

1.売った金額(A)が、買い換えた金額(B)より少ないケース

譲渡所得の金額=0円(譲渡はなかったものとみなす)

買換資産の取得価額=(譲渡資産の取得費+譲渡費用)+(B-A)

2.売った金額(A)が、買い換えた金額(B)より多いケース

譲渡所得の金額=(A-B)-(取得費+譲渡費用)×(A-B)/A

買換資産の取得価額=(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×B/A

具体例を見ながら確認しましょう。居住者であるAさんは、2024年1月に自己所有の住宅を1000万円、その土地を5000万円で売りました。売るための諸費用(以下「譲渡費用」)は100万円でした。

この住宅と土地は、Aさんが2006年に取得してから住み続けていたもので、取得したときの購入代金や購入手数料の合計額(以下「取得費」。住宅の場合は、合計額から所有期間の減価償却費相当額を差し引いた金額)は住宅が700万円で、土地が2200万円です。

Aさんは、上記の売った代金と自己資金で新たに土地(面積250平方メートル)を取得し、その上に新築の住宅(床面積150平方メートル)に買い換え、2024年2月から住み始めています。

売った年の1月1日における所有期間が10年を超え、また居住期間が10年以上である居住用財産を売り、要件を満たす居住用財産を新たに取得し居住の用に供しているため、特例の適用を受けることができます。

その場合の譲渡所得の金額と買い換えた居住用財産の取得価額は、次のように計算されます。

1.売った金額が、買い換えた金額より少ないケース(買い換えた居住用財産の取得価額が住宅3000万円、土地4000万円である場合)

  • 譲渡所得の金額
    イ.1000万円+5000万円=6000万円
    ロ.3000万円+4000万円=7000万円
    ハ.イ.≦ロ.
    ∴譲渡はなかったものとされます(譲渡所得ゼロ)
  • 買い換えた居住用財産の取得価額(将来の売却時に使うもの)
    (700万円+2200万円+100万円)+(7000万円-6000万円)=4000万円

将来の譲渡時にまとめて課税するために、今回売った居住用財産の取得費・譲渡費用(700万円+2200万円+100万円)を買い換えた居住用財産に引き継がせます。また、取得価額は、売った居住用財産の対価を超える部分(7000万円-6000万円=1000万円)しか認識しません。

2.売った金額が、買い換えた金額より多いケース(買換資産の取得価額が住宅2000万円、土地3000万円である場合)

  • 譲渡所得の金額
    イ.1000万円+5000万円=6000万円
    ロ.2000万円+3000万円=5000万円
    ハ.イ.>ロ.
  • 収入金額
    6000万円-5000万円=1000万円
  • 収入金額から控除できる取得費および譲渡費用
    (700万円+2200万円+100万円)×(6000万円-5000万円)/6000万円
    =500万円
  • 譲渡所得の金額
    収入金額1000万円-取得費および譲渡費用500万円=500万円
  • 買換資産の取得価額
    (700万円+2200万円+100万円)×5000万円/6000万円=2500万円

買い換えた居住用財産の取得価額を超える部分のみが課税されます。この場合、譲渡資産の取得費と譲渡費用が今回の譲渡について計上する部分と買換資産に引き継がせる部分とに按分されます。

5 居住用財産を売って損失が出た

1)概要

居住用財産を売ったときの所得は、他の所得と合算できません(分離課税)。そのため、本来は損失が出ても他の所得の黒字と相殺(損益通算)できないのですが、居住用財産を売って損失が出た場合は、要件を満たすことで損益通算できます。また、損失が大きすぎて、1年分の他の所得では相殺しきれない場合、翌年以後3年間で相殺できます(以下「繰越控除」)。

この特例は、

  • 居住用財産を買い換え、その買い換えのために住宅ローンを組んだ場合(居住用財産の買い換え等の場合の譲渡損失の特例)
  • 居住用財産を売った金額以上の住宅ローンの残高がある場合(特定居住用財産の譲渡損失の特例)

に認められます。

2)適用:居住用財産を買い換え、その買い換えのために住宅ローンを組んだ場合

1.売った居住用財産と買い換えた居住用財産の要件

まず、売った居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。

  • 売った年の1月1日時点の所有期間が5年を超えていること
  • 実際に住んでいるか、住まなくなった日から3年が経った年の12月31日までに売ること
  • 土地だけの場合、火災などで住宅が消失したなど一定の事由に該当していること

買い換えた居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。

  • 住宅の床面積が50平方メートル以上であること
  • 売った年、またはその前年に買い換えたものであること。または、売った年の翌年中に取得する見込みであること
  • 買い換えた居住用財産を取得した年の12月31日時点に、償還期間が10年以上の住宅ローン(買い換えた居住用財産に係るもの)の残高があること
  • 以前住んでいた居住用財産を売った年の翌年12月31日までに住み始めていること。または、住み始める見込みであること。

2.売った相手が配偶者などではない

売った相手が、配偶者や同一生計親族など特別の関係にある人ではいけません。

3.その年分の合計所得金額が3000万円以下

合計所得金額(給与所得など他の所得も合わせた所得の合計額)が、3000万円を超えてはいけません。

4.直近3年間に居住用財産に係る他の特例を受けていない

売った年、前年もしくは前々年において、他の居住用財産の特例の適用を受けていてはいけません。

5.売った年の前年以前3年内に、この特例を受けていない

売った年の前年以前3年内の年に生じた他の居住用財産の譲渡損失の金額について、この特例(居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の特例)を受けていてはいけません。

3)適用:居住用財産を売った金額以上の住宅ローンの残高がある場合

1.売った居住用財産の要件

売った居住用財産が、次の要件を満たす必要があります。

  • 売った年の1月1日時点の所有期間が5年を超えていること
  • 実際に住んでいるか、住まなくなった日から3年が経った年の12月31日までに売ること
  • 土地だけの場合は、火災などで住宅が消失したなど一定の事由に該当していること
  • 売った居住用財産の売買契約日の前日において、償還期間が10年以上の住宅ローン(売った居住用財産に係るもの)の残高があること

2.売った金額が、住宅ローン残高を下回る

売った金額が、売買契約日の前日における住宅ローン残高を下回っている必要があります。

3.売った相手が配偶者などではない

売った相手が、配偶者や同一生計親族など特別の関係にある人ではいけません。

4.その年分の合計所得金額が3000万円以下

合計所得金額(給与所得など他の所得も合わせた所得の合計額)が、3000万円を超えてはいけません。

5.直近3年間に居住用財産に係る他の特例を受けていない

売った年、前年もしくは前々年において、他の居住用財産の特例の適用を受けていてはいけません。

6.売った年の前年以前3年内に、この特例を受けていない

売った年の前年以前3年内の年に生じた他の居住用財産の譲渡損失の金額について、この特例(特定居住用財産の譲渡損失の特例)を受けていてはいけません。

以上(2024年12月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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【3分で分かる個人情報保護】社会人として押さえておきたい基本シリーズ8本を一挙紹介

1 他人事ではない「個人情報保護法」

どんな会社でも、お客様や取引先、社員などの個人情報を取り扱います。昨今は会社の規模や業種を問わずランサムウエアが猛威を振るっていますが、そうしたサイバー攻撃を受けるなどして個人情報の漏洩等が発生した場合に、知らなかったという言い訳は通用しません。

一方で、個人情報の重要性は分かっているけど、「個人情報保護法」に基づく個人情報の取り扱いルールについては、正直よく知らないという人も多いはずです。

そこで、この【3分で分かる個人情報保護】シリーズでは、「個人情報保護法」について前提知識のない一般社員の人向けに、社会人として身に付けておきたいベーシックな内容を、それぞれコンパクトにまとめて紹介します。コンプライアンス教育の一環として、また、より深く掘り下げて専門的な知識を身に付けるための第一歩として、ぜひお役立てください。

2 「個人情報保護法」の目的は? 「個人情報」って何?

まず、押さえておきたいのは、個人情報保護法とは何のための法律なのか、そもそも個人情報とは何なのかです。簡単に言うと、

  • 個人情報保護法:「お客様をはじめとする個人の権利・利益を守ること」「個人情報を上手に活用してサービス品質の向上や業務効率化につなげること」を目的とした法律
  • 個人情報:生きている人の情報で、その人を特定できることになる全ての情報

です。

次のコンテンツで、両者のもう少し詳しい説明と、個人情報をどのように取り扱わなければならないのか、最低限守るべきルールを10のチェックポイントとともに紹介します。

3 個人情報を取得・利用するときのルールは?

個人情報を取り扱う際は、個人情報保護法に基づく取得・利用のルールを守らなければなりません。例えば、

  • 個人情報を取得するときは、不正の手段により行ってはならない
  • 個人情報を利用するときは、利用目的をできる限り特定しなければならない

などの決まりがあります。

次のコンテンツで、個人情報を取得・利用するときのルールを紹介します。

4 個人データの取り扱いに関するルールは?

特定の個人情報を、コンピューター上で検索できるようにしたものや、紙媒体で整理・分類し、目次や索引を付けているもののことを「個人情報データベース等」といいます。そして、

個人情報データベース等を構成する個人情報のことを「個人データ」

といいます。個人データを取り扱う際は、個人情報保護法に基づく保管・管理のルールや、第三者提供のルールを守らなければなりません。例えば、

  • 個人データを個人情報取扱事業者(会社)が自ら取り扱う場合、データ内容の正確性を保ち、必要がなくなったら消去しなければならない
  • 個人データの取り扱いを外部に委託する場合、委託先が個人情報保護法などで定められている適切な「安全管理措置」を講じているか、あらかじめ確認しなければならない

などの決まりがあります。個人データを自ら取り扱うのか、外部に取り扱いを委託するかなどによって、守るべきルールが変わってくるので注意が必要です。

次のコンテンツで、個人データの取り扱いに関するルールを紹介します。




5 保有個人データについて問い合わせや苦情が来たら?

会社が保有する個人データのことを「保有個人データ」といいます。正確な定義は、

個人情報取扱事業者(会社)が、開示、内容の訂正、追加または削除、利用の停止、消去、第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有するもの

です。会社は、保有個人データを安全に管理するだけでなく、必要に応じてデータに関する社員からの問い合わせ等にも対応しなければなりません。例えば、

  • 本人(または代理人)から「利用目的の通知」の求めや「開示」の請求があったら対応しなければならない
  • 保有個人データの取り扱いに関する苦情の申出先を定め、本人の知り得る状態(ホームページへの掲載、本人の求めに応じて遅滞なく回答を行う等)にしておかなければならない

などの決まりがあります。

次のコンテンツで、保有個人データについての問い合わせ等への対応を紹介します。

6 おことわり

【3分で分かる個人情報保護】シリーズの記事では、分かりやすさを優先し、個人情報保護法や各種ガイドラインの条文を基に、その趣旨を逸脱しないかたちで意訳している部分があります。正確な条文は、法やガイドラインをご確認ください。

なお、法やガイドラインでは、「仮名加工情報」「匿名加工情報」「個人関連情報」の取り扱いに関する義務も規定されていますが、本シリーズでは割愛します。

以上(2024年12月作成)

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酒酔い歩行者は要警戒!(2025/1号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

年末年始は、忘・新年会などの宴会が多いシーズンです。改めて「飲酒運転」が悪質危険な犯罪行為であることを、ドライバーの皆さんは強く意識する必要があります。一方で、酒に酔った歩行者の想定外の行動にも注意する必要があります。そこで今月号では、酒酔い歩行者を中心に、夜間の歩行者事故防止対策について考えます。

酒酔い歩行者は要警戒!

夜間における歩行中死者数の特徴

警察庁の「令和5年における交通事故の発生状況について」によると、「65歳未満」の歩行中死者数については、「横断中」が最も多く、次いで多いのは「路上横臥※」となっています。特に路上横臥についてはその大半が夜間で、しかも「飲酒あり」が8割を超えています(図1)。

夜間における歩行中死者数の特徴

※出典:警察庁「令和5年における交通事故の発生状況について」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/bunseki/nenkan/060307R05nenkan.pdf

※道路上に泥酔、居眠り等で横たわっていた時に事故が発生した類型

最新の統計として警察庁の「令和6年上半期における交通死亡事故の発生状況」をみても、夜間における65歳未満の歩行中死者数で最も多いのは「路上横臥」となっており、そのうちの7割近くは「飲酒あり」でした。次に多い「横断歩道以外横断中」でも「飲酒あり」が5割を超えています(図2)。なお、これら2類型の死者数はともに前年の同時期に比べ増加しています。

夜間における歩行中死者数の特徴

※警察庁「令和6年上半期における交通死亡事故の発生状況」
https://www.npa.go.jp/publications/statistics/koutsuu/jiko/R6kamihanki_bunseki.pdf

特に路上に横たわっている人は気づきにくく、また気づけても人か物かの区別がつきにくいことがあり、通過の直前で人だとわかっても既に手遅れ、というケースもありえます。

夜間に飲食店などの多い場所やその周辺を走行するときは、歩行者への注意はもちろんですが、「酔って路上に横たわっている人がいるかもしれない」と考えるなど、路上横臥者の存在も意識する必要があります。

夜間における歩行者事故防止の要点

  • 酒に酔った歩行者は、周囲の状況が把握できない、警戒心がない、歩行が不安定で急にふらつく・つまずくなど、予測できない動きをすることがあります。ライトのハイビームとロービームを適切に切り替え、早めの発見に努めましょう。また歩き方が不自然な歩行者を見つけたら、その動きに注意し、そばを通過するときはスピードを落として十分な側方間隔をとりましょう。
  • 夜間は速度超過になりがちといわれています(交通の教則第6章第3節)。こまめにスピードメーターを確認し、繁華街や市街地、生活道路では特に意識してスピードを落としましょう。
  • 暗い夜道、歩行者からは車のライト部分しか見えていないことが多いため、距離感や車速の判断が難しく、車が接近していても横断してしまうことがあります。歩行者をみつけたら「横断してくるかも」と予測しましょう。

夜間における歩行者事故防止の要点

コラム 生活道路における速度規制強化について

令和8年9月1日より、中央線(センターライン)などのない、いわゆる生活道路については、最高速度がすべて時速30キロに制限されます。

従来、生活道路については歩行者や自転車の安全確保のために、標識等で規制速度を設けたり「ゾーン30」の区域を設けるなどのさまざまな対策が講じられてきましたが、全国の道路にそうした対策を講じるよりも、法令により一律に制限をかけるほうが適切と判断され、法令改正に至ったものです。施行までには、まだ期間がありますが、今のうちから生活道路では時速30キロ以下で走行する習慣をつけることをお勧めします。

生活道路における速度規制強化

以上(2025年1月)

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【人事はつらいよ】社員が2週間の無断欠勤……音信不通なのに解雇不可ってどういうこと?

1 2週間以上も無断欠勤しているのに解雇できないの?

A社の社長は悩んでいます。これまで真面目に働いてくれていた社員のBさんが、ここ数日、無断欠勤をしているのです。電話をしても応答がなく、自宅にも行ってみましたが留守でした。遠方に住んでいるBさんの家族にも連絡しましたが、誰も行方を知りません……。

2週間たっても連絡が取れず、限界と判断した社長は、就業規則にのっとってBさんを解雇することに決め、解雇通知書(解雇する旨を社員に通知する書類)を作成しました。ですが、ここで問題が……。Bさんの行方が分からないので解雇通知書を本人に届けられません。そこで、社長はBさんの家族を頼ることにしました。

「申し訳ありませんが、Bさん本人と連絡が取れないため、この解雇通知書をご家族にお預けします。もしもBさんから連絡がありましたら、本人にお渡しください」

Bさんの家族に何とか了承してもらい、これで一段落かと思われましたが、しばらくしてA社に一本の電話が入りました。電話の主は、Bさんの代理人を名乗る弁護士。どうやら家族の前に現れたBさんが、解雇通知書を渡されて憤慨し、弁護士に相談したようです。弁護士が言うには、「Bさんの家族に解雇通知書を預けても、Bさん本人に通知したことにはならない。だから解雇は無効だ」とのこと。社長は釈然としません。

「Bさんと連絡が取れないから家族に頼んだのに、『本人に通知しなければ解雇できない』とはどういうことだ? 本人と連絡が取れるまでずっと待っていないといけないのか?」

2 「客観的合理性」と「社会的相当性」がカギ

労働契約法により、会社が社員を解雇する(労働契約を一方的に解消する)には、

  1. 客観的に見て解雇はやむを得ないといえるだけの理由がある(客観的合理性)
  2. 社員の行為に照らして、解雇を選択することが適当であるといえる(社会的相当性)

の2つの要件を満たさなければなりません。過去の裁判例(東京地裁平成12年10月27日判決)では、このルールを無断欠勤に当てはめた上で、

無断欠勤が「2週間以上」続くことが、解雇が有効と認められるための1つの目安である

という判断がされており、多くの会社がこれにならって就業規則などを整備しています。ただ、実際は無断欠勤が2週間以上続いていても、解雇が無効になるケースがあります。

例えば、

解雇予告や解雇予告手当の支払いなど、解雇の手続自体に問題があるケース

がそうです。労働基準法には、社員を解雇する場合、少なくとも解雇する日の30日前に解雇予告をする必要があり、30日を待たずに解雇する場合、短縮する日数分の解雇予告手当を支払わなければならないというルールがあります。

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難しいのは、

解雇予告や解雇予告手当の支払いは、原則として社員本人に通知しなければ、効力を生じない

ことです。無断欠勤の場合、欠勤開始から2週間が経過した後に解雇予告などを行うため、

  • 解雇予告手当を支払わなければ、欠勤開始から44日(2週間+30日)後
  • 解雇予告手当を支払えば、最短で欠勤開始から14日(2週間)後

に解雇が成立することになります。しかし、解雇を成立させるには、社員を解雇するという会社の意思表示を、書面などで社員本人に到達させなければなりません。

冒頭の事例では、A社の社長が、Bさん本人と連絡がつかないという理由で、遠方に住んでいるBさんの家族に解雇通知書を預けています。実は、社員の家族に解雇通知書を預けても、解雇を成立させられるのは、

社員本人が家族と同居していることが明らかなケースなどに限定

されていて、遠方に住んでいる別居の家族に預けた場合は効力を生じません。ですからこの場合、「Bさんへの解雇通知が適正に行われていないので、解雇は無効」ということになります。

3 連絡が取れなければ、公示送達や内容証明郵便を使おう

では、社員本人と連絡が取れるまで解雇は一切認められないのかというと、そうではありません。こうした場合の対策として、

公示送達や内容証明郵便を使って解雇を通知する

という方法があります。

公示送達は、相手の所在が不明で意思表示が到達しない場合、簡易裁判所に意思表示の公示送達の申立てを行って裁判所の掲示板に掲示し、その旨を官報などに掲載すれば、意思表示が相手に到達したとみなされる制度です。社員を解雇する場合の公示送達の流れは次の通りです。

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内容証明郵便は、郵便を出した内容や発送日、相手が受け取った日付などを郵便局が証明するサービスです。無断欠勤が続く社員の自宅に解雇通知書などを内容証明郵便で送れば、社員が受け取った時点で、社員を解雇するという会社の意思表示が到達したとみなされます。なお、過去の判例には、

内容証明郵便が本人不在で届かず、留置期間の経過により戻ってきたとしても、不在配達通知書の記載等から通知の内容が十分推知できたり(内容の推知可能性)、受領しようとすれば内容証明郵便を受領できたり(郵便物の受領可能性)する場合、遅くとも留置期間の満了時点で意思表示が到達したと認められる

としたものがあります(最高裁第一小法廷平成10年6月11日判決)。とはいえ、それなりに条件が厳しいので、状況にもよりますが、自宅訪問、電話、ショートメール、SNS、住民票調査(弁護士に依頼)など、可能な限り連絡を試みるのがよいでしょう。

4 無断欠勤の理由によっては解雇が無効になることもある

社員側に無断欠勤が続いてもやむを得ない正当な理由がある場合、解雇の手続が適正に行われていても無効になることがあります。具体的には、

  • 傷病にかかっている、逮捕されているなどの理由で、欠勤の連絡ができない
  • 社内でハラスメントなどの被害を受けていて、出勤が苦痛になっている

といったケースです。

社員の事情を正確に推し量るのは難しいですが、社員の同僚や上司、家族などに「最近、変わったことがなかったか」をヒアリングするなどして、可能な限り情報を収集するようにしましょう。仮に、社員が上のようなケースに該当する可能性が高い場合、解雇通知を出さずに休職制度を適用するなどして様子を見ます。

また、公示送達などを使って解雇を通知した後で、音信不通になっていた社員と連絡が取れるようになった場合、無断欠勤の理由を確認し、その理由によっては解雇の撤回を検討します。会社が解雇の意思表示を一方的に取り消すことはできませんが、社員が同意した場合については撤回が認められています。

解雇はトラブルが起きやすい分野です。特に無断欠勤の場合、社員とコミュニケーションが取れない関係で一層トラブルのリスクが高まりますが、「会社としてやるべきことはやった」と言えるよう、手続のポイントを押さえておきましょう。

以上(2024年12月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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画像:metamorworks-shutterstock

マイナ保険証に関する企業の対応

令和6年12月2日から、医療機関や薬局を利用する際、マイナ保険証を使うルールがスタートしました。これに伴い日本年金機構では、企業が提出する「被保険者資格取得届」と「被扶養者(異動)届」の様式を変更しました。全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している企業は、これらの届出の際、注意が必要です。本稿では、様式の変更点などを説明します。

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マイナ保険証に関する企業の対応

令和6年12月2日から、医療機関や薬局を利用する際、マイナ保険証を使うルールがスタートしました。これに伴い日本年金機構では、企業が提出する「被保険者資格取得届」と「被扶養者(異動)届」の様式を変更しました。全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している企業は、これらの届出の際、注意が必要です。本稿では、様式の変更点などを説明します。

1 基本的なしくみ

マイナ保険証とは、健康保険証として利用登録をしたマイナンバーカードのことです。令和6年12月2日から、医療機関や薬局を利用する際、マイナ保険証を使うことが原則となったことに伴い、企業が行う社会保険の手続きが、少し変わりました。

企業の担当者は、社員が入社した時には「被保険者資格取得届」、従業員に赤ちゃんが生まれるなどして被扶養者が生じた時には「被扶養者(異動)届」を年金事務所に提出します。そうすると、これまでは、協会けんぽに加入している企業に対し健康保険証が送られてきました。しかし、現在、健康保険証は送られてきません。

ただ、マイナンバーカードを持っていない人や、マイナンバーカードを持っていても健康保険証として利用登録していない人に配慮して、協会けんぽが希望者に「資格確認書」を発行しています。資格確認書があれば、マイナンバーカードがなくても、医療機関や薬局を利用できます。

資格確認書は、従来の健康保険証と同じプラスティック製のカードで、色は黄色です。有効期間は、最大で5年となっています。

■資格確認書のイメージ

資格確認書のイメージ

※全国健康保険協会「健康保険証とマイナンバーカードの一体化(マイナ保険証)に関する制度説明資料(令和6年5月)」より

2 発行要否欄

資格確認書の導入に伴って、「被保険者資格取得届」と「被扶養者(異動)届」に、資格確認書の発行要否欄が設けられました。企業の担当者が、資格確認書の発行が必要かどうかを従業員に聞いて、必要であれば、発行要否欄のチェックボックスにチェックを入れます。そうすると、協会けんぽから企業に資格確認書が送られてくるので、従業員に渡してください。

①被保険者資格取得届

被保険者資格取得届

②被扶養者(異動)届

被扶養者(異動)届

※日本年金機構の様式から抜粋

企業は、原則として、新しい届出書を使って手続きを行うことになりますが、やむをえず旧届出書を使う場合には、備考欄に「資格確認書要」と書いて提出してください。なお、旧届出書は、令和7年2月28日までで受付を終了する予定です。

資格確認書が必要であるにもかかわらず、発行要否欄にチェックを入れ忘れた場合でも、協会けんぽが調査して資格確認書を発行してくれます。ただし、発行まで2カ月程度かかるので、注意してください。

また、すでに被保険者、被扶養者となっている人が資格確認書を必要とする場合には、協会けんぽに直接、資格確認書交付申請書を提出すれば、発行してもらえます。

3 さいごに

現在持っている協会けんぽ発行の健康保険証も、最長で令和7年12月1日まで使うことができます。従業員には、早めに、マイナンバーカードを健康保険証として利用登録するよう促すとよいでしょう。

※本内容は2024年12月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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画像:photo-ac

【3分で分かる個人情報保護(8)】個人情報の取り扱いについて苦情が来たら、どうすればいいの?

1 個人情報の取り扱いについて苦情が来ても対応できる準備を

個人情報の取り扱いについて苦情が来たときの処理は、法律上あくまで努力義務ですが、消費者などの本人との信頼関係を構築し、事業活動に対する社会の信頼を確保するため、実務上は対応が必須と考えられます。

「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」は、苦情の適切かつ迅速な処理を行うに当たり、必要な体制の整備として、

  • 苦情処理窓口の設置や苦情処理の手順を定める

ことなどを挙げています。また、

  • いわゆるプライバシーポリシーを策定し、それを公表する(ホームページへの掲載、店舗の見やすい場所への掲示など)ことで、あらかじめ、対外的に分かりやすく説明する
  • 委託の有無、委託する事務の内容を明らかにする等、委託処理の透明化を進める

といったことも重要です。特に、前者のプライバシーポリシーの掲載等は、消費者等との信頼関係を構築するのに役立つでしょう。

なお、個人情報取扱事業者は、保有個人データの取り扱いに関する苦情の申出先について、本人の知り得る状態(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む)に置かなければなりません。「本人の知り得る状態(本人の求めに応じて遅滞なく回答する場合を含む)」とは、

ホームページへの掲載、パンフレットの配布、本人の求めに応じて遅滞なく回答を行うこと等、本人が知ろうとすれば、知ることができる状態に置くこと

で、常にその時点での正確な内容を本人の知り得る状態に置く必要があります。この対応は努力義務ではなく「義務」です。

苦情の申出先としては、苦情を受け付ける担当窓口名・係名、郵送用住所、受付電話番号その他の苦情申出先(個人情報取扱事業者が認定個人情報保護団体の対象事業者である場合は、その団体の名称および苦情解決の申出先を含む)とされています。

2 (参考)認定個人情報保護団体制度

認定個人情報保護団体は、個人情報保護委員会の認定を受けて、業界・事業分野ごとに個人情報の保護の推進を図るための自主的な取り組みを行っている団体です。

認定個人情報保護団体は、消費者と事業者の間に立ち、対象事業者である個人情報取扱事業者の個人情報の適正な取り扱いの確保を目的として、消費者からの苦情の処理や相談対応を行うこととされています。

対象事業者になると、認定個人情報保護団体から苦情処理の第三者機関としての関与・アドバイスを受けられます。また、個人情報保護法などに関連する最新の情報提供も受けられます。

個人情報保護委員会では、認定個人情報保護団体一覧を公表しています。対象事業者になるための要件は、認定個人情報保護団体ごとに異なります。

■個人情報保護委員会「認定個人情報保護団体一覧」■

https://www.ppc.go.jp/personalinfo/nintei/list/

以上(2024年12月更新)

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画像:Orapun-Adobe Stock