(後編)若手・中堅社員400人アンケート 社長の頼もしかった/残念だった瞬間

1 若手・中堅社員は「社長」のことを、こう見ている!

「いまどきの若手・中堅社員には、社長に対する敬意というものが感じられない!」

社長の皆さん、そんな思いをされたことはありませんか? この記事では、20代、30代、40代の社員400人から回答を得た、自社の社長をどのように見ているかに関するアンケートの結果を、前後編に分けてお送りします。

次の2点の質問について、得られた回答を6つの項目に分類して紹介します。

  • 「あなたの会社の社長を頼もしいと感じた瞬間はどのようなときでしょうか?」
  • 「あなたの会社の社長を残念だと感じた瞬間はどのようなときでしょうか?」

後編も、「納得できない!」と感じる回答が少なくないかもしれません。でも、もし1つでも「なるほど」と思えるものがあれば、他山の石として、参考にしてみてはいかがでしょうか。若手・中堅社員との距離が少し縮むかもしれません。

アンケートは2025年4月に、インターネットを通じて行いました。回答の中で、明らかに誤字と思われる表記などは修正しています。また、前編についてはこちらをご確認ください。

2 社長は「Cool Head, but Warm Heart(冷静な頭脳と温かい心)」で

1)第1選:冷静に、よく考えて行動しないと…

熟慮の末の決断なのに、「コイツ、何も考えてないな」と思われていたら、つらすぎます。

頼もしかった/残念だった瞬間その1

2)第2選:現場の人の気持ちを大事にしましょう!

強い会社は強い現場から。いつまでも現場の気持ちを忘れない社長でいたいものです。

頼もしかった/残念だった瞬間その2

3)第3選:リーダーにコミュニケーション能力は欠かせません

社員との連絡は、少なすぎても多すぎてもダメ? 社員との距離感は難しいです。

頼もしかった/残念だった瞬間その3

4)第4選:変わり、変える勇気を持ち続けましょう

いつまでも、しなやかに時代の変化に柔軟に対応し続けたいものです。

頼もしかった/残念だった瞬間その4

3 社長は器が大きくないと!

1)第5選:器の大きさって何だろう?

「細かいところに気を使って、何が悪い!」と言うと、若手・中堅社員からはさらに「器が小さい」と評価されてしまうのでしょうか?

頼もしかった/残念だった瞬間その5

2)第6選:ビジネスパーソンに報いるには、やっぱり「これ」です!

社長の評価も、最後はやはり金次第?

頼もしかった/残念だった瞬間その6

以上(2025年6月更新)

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画像:いらすとや

(前編)若手・中堅社員400人アンケート 社長の頼もしかった/残念だった瞬間

1 若手・中堅社員は「社長」のことを、こう見ている!

「いまどきの若手・中堅社員は、社長(自分)のことを何だと思っているのか!」

社長の皆さん、そんないら立ちを感じることはありませんか? 若手・中堅社員の自分への態度が、理解できないこともあるでしょう。この記事では、20代、30代、40代の社員400人から回答を得た、自社の社長をどのように見ているかに関するアンケートの結果を、前後編に分けてお送りします。

次の2点の質問について、得られた回答を7つの項目に分類して紹介します。

  • 「あなたの会社の社長を頼もしいと感じた瞬間はどのようなときでしょうか?」
  • 「あなたの会社の社長を残念だと感じた瞬間はどのようなときでしょうか?」

回答内容の中には、「人の気持ちも知らないで…」と感じる意見が少なくないかもしれません。でも、もし1つでも「なるほど」と思えるものがあれば、他山の石として、参考にしてみてはいかがでしょうか。若手・中堅社員との距離が少し縮むかもしれません。アンケートは2025年4月に、インターネットを通じて行いました。回答の中で、明らかに誤字と思われる表記などは修正しています。また、後編についてはこちらをご確認ください。

2 社長の仕事ぶりが注目されています

1)第1選:仕事ができてこそ社長たるもの

社長は、名監督兼名選手であることが求められているようです。

頼もしかった/残念だった瞬間その1

2)第2選:仕事への向き合い方も見られています

社員の前ではつらい顔ができないのが、社長のつらいところです。

頼もしかった/残念だった瞬間その2

3 組織のトップとしての自覚が求められています

1)第3選:社員は社長のリーダーシップに期待しています

やはり社長には、トップとしての力量が求められているようです。

頼もしかった/残念だった瞬間その3

2)第4選:社員を大切に扱っていますか?

社長から「大事だ」と言われると、お世辞だと思っていても社員はうれしいものです。そして、社員を怒りのはけ口にするのは、控えたほうがよさそうです。

頼もしかった/残念だった瞬間その4

3)第5選:話し上手に聞き上手

話すのも上手、聞くのも上手。社長のハードルは高い!

頼もしかった/残念だった瞬間その5

4 「社長として」よりも「人として」?

1)第6選:“人間力”が重要です

トップでいるには、1人の人間として尊敬されることも重要です。

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2)第7選:他にはこんなところも……

社長はこんなところまで見られています。

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以上(2025年6月更新)

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画像:いらすとや

カーボンクレジットを活用した「地域の脱炭素」から日本の脱炭素の実現へ。圧倒的な深さとスピード感、そして多くの人を巻き込む力。地域金融機関や自治体とのスピード連携の根底にあるのは「自分は黒子。周りを良くする、周りを喜ばせたい」という仕事への姿勢/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、下村 雄一郎さん(株式会社バイウィル 代表取締役社長)です。

「日本の脱炭素を、カーボンクレジットで真剣に目指す」

と大きな夢を掲げ、着実にしかも迅速に事業を進めている下村さん。

この日本で、カーボンクレジットが環境的にも大きな意味があり、そしてちゃんと経済的にもメリットがあるものとして普及していくようカーボンクレジットの創出と流通に尽力しているわけですが、ポイントの一つは、

自治体や地域金融機関と連携し、地域企業を巻き込んで、「地域を主役」に進めている

ところです。

こうした下村さんたちの取り組みはとても注目されており、日本の林業界では知らない人がいないくらいの林業会社の代表や元環境省事務次官、元金融担当大臣といったそうそうたる顔ぶれが顧問に名を連ねています。

下村さんたちは、地方銀行など日本全国の地域金融機関や自治体、地方のテレビ局などとかなりのスピード感を持って連携してきています。「自分のことよりまず周りのこと。人を喜ばせたい」という下村さんの仕事に取り組む姿勢が、多くの人を惹きつけ巻き込んでいるからこそ、すごい勢いで賛同され、連携がどんどん広がっているのではないかと感じます。

この記事では、下村さんのそうした仕事への姿勢やカーボンクレジットの事例などをお伝えします。新しい年を迎えた今、多くの経営者の方や、地域金融機関の方に、

  • 2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)に向け、継続していける地域の脱炭素活動とはどういうものなのか
  • 人とかかわってビジネスを進めるときに大切なことは何か

などのご参考になりましたら幸いです。

【プレスリリース】経営体制強化のため、顧問7名を招聘(2024年9月)
https://www.bywill.co.jp/news/20240905-2
【プレスリリース】元大和証券 専務取締役の丸尾浩一氏と元日本郵政 専務執行役CCOの早川真崇氏がバイウィルのアドバイザーに就任(2025年4月25日)
https://www.bywill.co.jp/news/20250425

1 バイウィルのパーパスと下村さんのプロフィール

事業開始からたったの2年あまりで、カーボンクレジットについて地方銀行など119のパートナー(2025年5月7日時点)と提携してきた下村さんたちバイウィル。掲げるパーパスは次の通りです。

バイウィルのパーパス

(出所:株式会社バイウィルのコーポレートサイトから抜粋)

注目度も高く快進撃を続けているバイウィルの根底には、「下村さんの描く大きなあるべき姿=夢」「環境的意義に加え、経済的にもメリットがある分かりやすい仕組み」、そして何より「地域が主役」「人のために」といった「下村さんの仕事の姿勢」がありました。

まずは下村さんのプロフィールからご紹介します。

下村さんのプロフィール

(出所:株式会社バイウィル会社紹介・サービス紹介資料より抜粋)

プロフィールからも分かる通り、ビジネスのプロフェッショナルな下村さん。それだけではありません。コンサルティング会社の後「夢ある人を“勝手に”応援する会社」をつくったりするなど、とにかく常に「人のために」の姿勢を貫いている方でもあります。

2 下村さんが注目される理由を紐解くと「姿勢」が見えてきた

下村さんが行っているカーボンクレジットが注目されているのにはさまざまな理由がありますが、ここでは次のような、下村さんの「仕事に取り組む姿勢」に焦点を当ててみたいと思います。

  • 地域が主役、自分たちは黒子に徹する
  • 自分よりも周り。人を喜ばせたい
  • 大義と実利

1)地域が主役、自分たちは黒子に徹する

下村さんがバイウィルの社長になってからは、カーボンクレジットに絞って事業を展開しています。なぜカーボンクレジットを選択したかについて、下村さんは、次のように話しています。

「カーボンクレジットに取り組んだ結果、CO2の削減量などを増やした分が環境価値になり、さらにはそれが経済価値になって、お金として循環するという……。『環境の取り組みそのもの』がサステナブルであってほしい、という願いも込めてカーボンクレジットを選択しました」

意義もあり、かつ、経済的メリットもあるということが、環境の取り組みを継続していくためには重要だと下村さんは繰り返します。

カーボンクレジットを選択した下村さん、

どうせやるならいくとこまでいったるか!

と決めて、大きな夢「日本の脱炭素を、カーボンクレジットで真剣に目指す」を掲げます。「日本の」とはいえ、日本には47都道府県それぞれ地域があります。そこで下村さんは「地域の脱炭素」から日本の脱炭素を実現しようと考えます。ここでも下村さんは大事なキーワードを話しています。

とにかく地元、地域の方々が主役。私たち(バイウィル)は黒子に徹する。そうしたほうが地域の脱炭素は進む

「地域が、地元が主役」を繰り返す下村さん。地域の方々が主役ということは、旗振り役も地域の方々です。地方銀行や自治体が旗振りして自主的に進めていくのを、下村さんたちは後ろで支援する。そういう仕組みやモデルを作って、地方銀行や自治体との連携を増やしてきたといいます。これは、地方銀行や自治体にとっては、本当にうれしい、地域のことを本当に考えている取り組みといえるのではないでしょうか。

こうした「地域が主役、自分たちは黒子」という思いについて、下村さんは、次のように説明してくれました。

「自分がまだ20代、30代だったら『自分たちのサービスや商品が一番』と掲げて世の中に広げていくのかもしれないですし、若いころは、実際にそれに近いことをしていたと思います。

ただ、自分が40代になって色々な方にお世話になって生きてきたからこそ、『やりたいことは日本の脱炭素であり、地域の脱炭素であり、地域にお金が循環する仕組み。その仕組みの中で自分たちが目立つ必要はなく、地域の皆さんが前に立っていただくのがよい』と考えるようになった。そういう、地域の方が主役になるビジネスをつくりたい」

こうした考えを伝えてきたことが、わずか2年足らずで66もの地方銀行や自治体との連携を実現しているのだと思います。

サービス紹介

(出所:株式会社バイウィル会社紹介・サービス紹介資料より抜粋)

また、地域の脱炭素を継続して実現していくために、実際に地方銀行などに利益を出すということも、連携が進んできた理由といえるでしょう。ここも、下村さんの「自分は黒子として働き、周り、相手(地方銀行など)を喜ばせたい」という姿勢が貫かれているように思えます。

2)自分よりも周り。人を喜ばせたい

バイウィルでカーボンクレジットを手掛けているから、ということではなく、下村さんは、「自分よりも周りの人がよくなるように。人を立てる。人を喜ばせたい。人のために」という姿勢を、もっと前から持っていて、ずっとその姿勢で仕事に取り組んでいると思います。

ご自分からはお話になりませんが、下村さんは、以前のコンサル会社時代にもそういうことをやってきています。当時、コンサル会社における関西の責任者として、全く縁もゆかりもない関西エリアに一人で乗り込んで来た下村さん。にもかかわらず、当時、地方銀行(コンサル時代も地方銀行とはかかわっていました)と徹底的に黒子の立場で、ほとんど常駐くらいの勢いで現場に入っていました。自分は黒子に徹して、銀行(相手、かかわった人)と真摯に向き合って喜ばせるという下村さんの姿勢は、当時からとてもあったように思います。

コンサル会社の最後の2年9カ月、下村さんはメガバンクに出向しており、法人戦略部で銀行内部のことにも取り組んでいました。そこでも、ものすごくたくさんの方から慕われて頼りにされ、「(銀行に)残ってほしい」と盛んに言われていました。昔から「自分よりも周りの方々が良くなるようにする」という姿勢だった下村さん。こういう仕事の姿勢があるので、今、まさに全国の多くの地方銀行が賛同しているという素晴らしい結果につながっているのではないでしょうか。

「自分よりも周りに良くなってほしい、喜んでほしい」という姿勢の理由を聞いてみると、「自分ではなく周りの方がすごい方が多かったので。そういう方々と接して、そういう方々に憧れていくうちに、唯我独尊のようなビジネスをしたいとは全く思わなくなりました」という答えが返ってくる下村さんです。

3)大義と実利

2年あまりという短期間で多くの連携先を獲得している下村さんたちですが、特に一般的には時間がかかりそうな地域金融機関と数多く連携していることを考えると、圧倒的なスピード感です。

なぜここまで地域金融機関の賛同を得ているのか。下村さんは、「大義と実利」という言葉を地域金融機関に対してずっと言ってきたと語ります。

「地域金融機関さんからよく伺っていたのは、やはり、『地元のため、ということから逃れられない』ということです。それならば、地域の脱炭素というのは、地元に対する『大義』として掲げられる。金融庁も求めているとなると、『大義』はとても立ちやすいです。

一方、『大義』が立っても『実利』が無ければ、金融機関としては動けない。この場合の『実利』は、カーボンクレジットの発行です。発行して流通に回すと、そこに差益が生まれますので、そこを銀行さんに取っていただく。

ですので、例えば、その県のカーボンニュートラルを、その地方銀行さん主導で進めていただくのが大義。実利は実際にカーボンクレジットを発行・流通させた際の差益。こうして『大義』と『実利』を絡めながら、地域金融機関さんにお話させていただきました。

(連携を進めるのは)それでも難しいところはありましたが、ご縁がつながったり、ハブになってくださった金融機関さんがあったりしましたので、それと、やはり大義と実利。これを丁寧にお伝えしながらここまで来られたと思います」

ここにも、「地域金融機関を喜ばせたい、地域金融機関のためになることは何かを考える」という下村さんの気持ち、そしてそれを伝え実践し続ける真っ直ぐさ、あたたかさを感じます。これが地域金融機関に伝わっているからこそ、これほど多く賛同を得ているのだと思います。

3 今取り組んでいる事例と、顧問団の話

下村さんたちが今取り組んでいることや、2024年9月と2025年4月にリリースした顧問の方々について聞いてみました。

1)地域脱炭素推進コンソーシアム

地域金融機関や自治体、地方のテレビ局など、連携先を増やしているバイウィルは、2025年にはなんと、70~80くらいの自治体と連携協定する予定だそうです。こうした自治体との連携協定においても、「自治体とバイウィルではなく、地域金融機関に入ってもらうことに意義がある」と言う下村さんです。

また、バイウィルでは、「地域脱炭素推進コンソーシアム」も設立しています。カーボンクレジットについてまだまだ不明確な法的、会計的、税務的部分などについて地域金融機関と一緒にワーキンググループを立ち上げて、地域に脱炭素が浸透していくような取り組みを進めています。

地域脱炭素推進コンソーシアム

(出所:株式会社バイウィル会社紹介・サービス紹介資料より抜粋)

2)地域の脱炭素活動の取り組み事例

バイウィルでは、北は稚内(わっかない)から、南は屋久島(やくしま)まで、地域の脱炭素活動を行っています。

下村さんが「地域の脱炭素活動」をもう少し開いて説明してくださったのが次の内容です。

「例えば、自治体では『ゼロカーボンシティ』という、自治体参加でCO2排出量をゼロにしようという動きがすでに行われています。それに対して環境省なども補助金を出したりしている。ただ、どうしても体制などの問題でうまくいかないことがあります。そうしたときに、例えばこのカーボンクレジットは、『自分たちが持っている財産価値(森を持っていたり、電気をすべてLEDにしていたり)をまず、ちゃんと価値化しよう』というものです」

具体的な例として挙がったのは、バイウィルの連携先である中部圏の地域の事例です。

その地域では、まず市(自治体)が率先してLEDに変えた効果をクレジット化しようとしています。商工会議所と地元の地方銀行とで地元の企業に対してセミナーを開催し、「市も脱炭素の取り組みを行ってそれを価値に変えたので、地元の企業さんたちも一緒にやりましょう!」と呼びかけようとしています。

また、この市の場合、クレジットを買ってくれる側の大企業もあるのが大きな特徴です。

つまり、市がハブとなり、地元企業を巻き込んでクレジット化して価値を創出しようとしていたり、クレジットを買ってくれる側の地元の大企業も巻き込んで流通に回そうとしていたりしているのです。このとき、地元企業とつながりがある地元の地方銀行は、地域の現場で地元企業と連携を取り地域の流通に回す、ということをしています。

このような、自治体、地域金融機関、地元企業を巻き込んだ動きをしているのが、下村さんたちの地域の脱炭素活動の事例です。

なお、下村さんいわく、こうした地域の脱炭素事例は、地域ごとに特徴がいろいろあるそうです。例えば鹿児島だったら牛・豚系のメタンに注目しているとか、静岡だったらお茶に注目しているなど。地域特性を活かしながら、自治体や地方銀行に、自分たちで率先して創出し、流通に回すという仕組みをつくってもらいつつ進めているといいます。自治体も地方銀行も地元企業も巻き込みつつ、こうした地に足の着いたオペレーションに落とし込んでいるというのは、なかなか他にはないことで、他では実現しにくいのではないかと思います。

どうしてここまで、自治体と地方銀行が動けるのか、その理由は、

「分かりやすさと、大義と実利にこだわっているから。分かりやすくして、大義もあってお金にもなりますよ、というところがあるからです」

という下村さん。

「例えば、先ほど例に挙げた市の場合は、『LED化した人、この指とまれ』と言っているだけです。難しいこと、複雑なことをやろうとしているわけでは全くありません。

現場で地元企業と接する銀行の営業担当者にも、『地元企業の方に対して営業する必要はありません。LEDについて、この質問とこの質問だけしてください』というものを定めているんです」

この分かりやすさ、現場での取り組みやすさ、動きやすさ。これもすべて、周りをよくしたいという下村さんの気持ちが細部にまでも表れているということではないでしょうか。

バイウィルには、メンバーとして銀行出身者やメーカーの営業出身者がいて、ひたすら全国各地を回り、そこで得た情報を定期的に情報交換して地域ごとのプランとモデルをつくる、そしてそれを持ってまたひたすら全国を回る、ということを繰り返しているのも大きな強み、スピーディさの一因です。

3)そうそうたる顧問の方々

この記事の冒頭でもご紹介しましたが、バイウィルには、2024年9月、2025年4月にプレスリリースしたそうそうたる顧問団、アドバイザーの方々がいます。

例えば、林業の世界ではおそらく誰もが知っている林業の大家、速水林業の9代目代表の速水亨さんがおられます。速水さんは、森林認証システム「FSC認証」を日本で普及させて山の価値を高めていこうという活動を進めています。

下村さん曰く、速水さんは「山の持ち主、林家の方々にお金が戻ってくる仕組みがあるのであれば、それを広めて山の価値を高めていくことに活かしたい」ということで、日本の林業の未来のために、顧問として参画してくださっているそうです。

また、元環境省事務次官の中井徳太郎さんは、日本製鉄の顧問もされています。中井さんは環境省時代から地域内で価値と経済が循環することを考えてこられました。中井さんは、バイウィルには大義があり、その大義が世の中のためになるということで応援したいと参画してくださっているそうです。

顧問の方々のプロフィールなどは、こちらからご確認いただけます。

https://www.bywill.co.jp/advisor

4 今後について

下村さん曰く、バイウィルは今後、次のように進化していく方針です。

今後について

(出所:株式会社バイウィル会社紹介・サービス紹介資料より抜粋)

「いかに脱炭素の取り組みが進んでいくのかという創出側と、お金に換えられる流通側、この両方をもっともっと進めていかなければならないと思っています。

今まで進めてきたのは、(上記)資料の1-1、いわば『気づかれていなかった脱炭素の取り組みを価値化すること、誰かがやったこと』。そして今は、1-2、『我々が直接かかわって、脱炭素の取り組みを加速させていく』ことを行っています。

2-1では『作られた価値は金融機関を通して価値に代わり、流通に回す』ということを行ってきました。今後は、2-2の『大企業などをもっと巻き込み、先行投資してその結果得たクレジットを分配する』という仕組みも作っていきたいです。

また、2-3の『我々が流通プラットフォームを作り、情報を細分化、リッチに(森なら森、生物多様性ならその分野など)しながら個別の価値をつくり、その取り組みから生まれたクレジットを買う理由を作っていく』ということも進めていきます。

例えばのイメージですが、畜産分野でいうと私たちがメタンガスを発酵させる機械を買って地域に設置する。そうすると地域の方々の手間も減るし、CO2の発生も抑えられるし、価値に変わる。私たちバイウィルが実際に協力することで取り組みが加速する。こうして、いかに脱炭素の取り組みが加速するか(資料の向かって左側)、いかに価値に変わるか(資料の向かって右側)の2つを、地域の皆さんと協力して作っていく。これが、今後取り組んでいきたいことです」

「今後」と言いつつも、下村さんにさらに伺うと、なにかものすごいスピードで既に動いていることが分かります。例えば、

  • 資料の2-2は事例ができたので普及させるターン
  • 左側の1-1はもうやっている
  • 1-2はまず林業から進めていくことは決めている、具体的なテーマももう決まる
  • 1-3については、省が関わったり法整備が必要だったりするので明確な時期が未定ではあるものの2年以内には新しい枠組みを国と作っていきたい

とのことです!

圧倒的なスピード感と深さ、全社的な行動力。その根底にある下村さんの「人のために。周りを喜ばせたい、良くしたい」という仕事への姿勢。脱炭素の世界に、ものすごい方が表れたと感じます。2025年、さらに地域の脱炭素活動が大きく進化していきそうです。

下村さん、たくさんのお話を本当に有り難うございます!

以上(2025年5月作成)

「採用活動」で使える助成金! 早期再就職支援等助成金など4種類を紹介

1 採用活動を強力にサポートする助成金を使いこなす!

最新の主要調査によると、2024年の中途採用費用(年間平均)は650.6万円です。これは前年(2023年:629.7万円)より20.9万円の増加となっています(社員数3名以上の会社を対象とした、マイナビ「中途採用状況調査2025年版(2024年実績)」)。人手不足を背景に、中途採用に力を入れている企業が多いことが伺えます。

一方、中小企業などでは

「採用活動にそこまでお金をかけられない」と、積極的に取り組めずにいる会社

が少なくありません。そもそも採用活動に割けるリソースが限られる上に、入社した社員がすぐに辞めてしまうことも多い昨今、慎重にならざるを得ないのは無理からぬことです。

しかし、諦めないでください。

採用活動をサポートするための助成金を上手に活用し、採用コストに充当すること

でこの問題を打開できる可能性があります。国や自治体が実施する助成金の中には、一定の条件に該当する社員を雇い入れたり、訓練したりすることで受給できるものがあります。

この記事では、

採用活動に関する中小企業向けの助成金を4つ紹介

します。支給額や要件などの情報に加え、専門家のワンポイントアドバイスも載せています。なお、助成金の内容は、2025年5月16日時点のもので将来変更される可能性があります。また、申請書の書き方や添付書類等については、各章で紹介しているURLをご参照ください。

2 早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース)

1)早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース)とは?

会社都合などでやむを得ず離職した社員を、離職日の翌日から3カ月以内に無期雇用社員(週20時間以上勤務)として採用し、かつ給与を5%以上アップさせ、6カ月を超えて継続雇用すると、助成金を受け取れる制度です。

■厚生労働省「早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000082805.html

2)助成金を受け取るには?

次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。

【会社側の要件】

  • 対象者を、離職日の翌日から3カ月以内に、雇用保険被保険者となる無期雇用社員(週の所定労働時間が20時間以上)として雇用する
  • 採用時に、社員の所定内賃金を離職前よりも5%以上アップさせる
  • 採用後、6カ月を超えて雇用する
  • 採用日の前後6カ月間に、解雇や雇止めを行っていない

【社員側の要件】

  • 再就職援助計画の対象者」「求職活動支援書の対象者」「雇用保険の特定受給資格者」のいずれかである(主に倒産や事業縮小など会社都合で離職した人が該当)

3)受け取れる金額はいくら?

雇い入れにかかった費用の一部を定額で受給(早期雇入れ支援)できます。生産指標等により一定の成長性が認められる会社は、「優遇助成」が受けられます。

早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース)

4)専門家のワンポイントアドバイス

離職から3カ月以内に社員を雇用するという要件があるので、タイミングを意識して採用計画を立てることが重要です。また、訓練を実施して人材育成支援を受ける場合は、訓練前に「職業訓練計画」を立てて都道府県労働局の認定を受ける必要がある点に注意が必要です。

3 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

1)特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)とは?

60歳以上の高年齢者や障害者など、就職が特に困難とされる人材を社員として雇い入れた場合、所定の金額(定額)を受け取れるというものです。

■厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/tokutei_konnan.html

2)助成金を受け取るには?

次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。

【会社側の要件】

  • ハローワーク等からの紹介により、対象者を所定労働時間が週20時間以上の雇用保険被保険者として雇用すること
  • 雇入れ日の前後6カ月間に解雇等を行っていないこと

【社員側の要件】

  • 「高年齢者(60歳以上の者)」「身体・知的・精神障害者」「母子家庭の母等」「ウクライナ避難民」「補完的保護対象者」といった、就職が困難とされる者であること

有期雇用社員の場合は、契約が「自動更新」であることを契約書に明記し、労働者が希望する限り更新可能であること(更新条件は就業規則の解雇要件以内)、かつ65歳以上まで継続して2年以上(一部は3年以上)雇用することが確実である必要があります。

3)受け取れる金額はいくら?

対象社員に支払われた賃金の一部に相当する額として、次の金額が支給対象期(6カ月)ごとに定額で(ただし、対象期に支払われた賃金額を上限として)支給されます。なお、「短時間労働者」とは、週の所定労働時間が20時間以上30時間未満である者をいいます。

特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)

また、「成長分野等人材確保・育成コース」では、未経験者の訓練や賃金引き上げなどの育成施策を実施した場合に、上記の助成額の1.5倍が受給可能です。2024年10月1日より要件が緩和され、より利用しやすくなっています。

通常の1.5倍の助成が受けられるメニュー

■特定求職者雇用開発助成金「成長分野等人材確保・育成コース」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/tokutei_seichou_00008.html

4)専門家のワンポイントアドバイス

特定就職困難者コースは、ハローワーク等からの紹介により人材を雇用することが必須の要件です。そのため、求人を出す際は事前にハローワークに求人票を提出し、「助成金対象となる人材を雇用したい」とはっきり伝えておくことが重要です。

また、有期雇用での採用の場合は「自動更新」であることの記載漏れや、就業規則の解雇条件を超えた条件を設けると助成金が受け取れません。雇用契約書や就業規則をよく確認し、適切な条件で雇用契約を結ぶよう注意しましょう。

4 特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)

1)特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)とは?

「就職氷河期世代(おおむね1993年~2004年ごろに就職活動を行っていた人)」で、で、正規雇用の機会を逃したことや、非正規雇用や子育てによる離職などにより正社員としてのキャリア形成が難しかった人を、正社員として雇用する場合に助成金が支給される制度です。

■厚生労働省「特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158169_00001.html

2)助成金を受け取るには?

次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。

【会社側の要件】

  • ハローワークまたは一定の要件を満たす民間職業紹介事業者から紹介された対象者を、正社員(期間の定めがなく、所定労働時間が週30時間以上、かつ昇給・賞与・退職金など長期雇用を前提とした待遇のある雇用)として雇い入れること

【社員側の要件(次の全ての要件を満たす必要あり)】

  • 1968年4月2日から1988年4月1日の間に生まれている
  • 雇入れ前の過去5年間において、正社員として雇用された期間が通算1年以下である
  • 雇入れ前の過去1年間において、正社員として雇用されたことがない(ただし、過去1年以内に会社都合の解雇等により離職した場合は対象になる)
  • ハローワーク等の紹介の時点で「失業中」または「非正規雇用労働者など安定した職業に就いていない状態」であり、ハローワーク等で就労に向けた支援を受けている
  • 正社員として雇用されることを自ら希望している

3)受け取れる金額はいくら?

対象社員に支払われた賃金の一部に相当する額として、次の金額が支給対象期(6カ月)ごとに定額で支給されます。ただし、支給対象期ごとに対象社員に支払った賃金額が図表4の額を下回る場合、その賃金額が支給額の上限となります。

特定求職者雇用開発助成金(就職氷河期世代安定雇用実現コース)

さらに、就職氷河期世代の未経験者を雇い入れ、職業訓練や賃金引上げなどの人材育成に取り組んだ場合、通常の1.5倍の助成が受けられる「成長分野等人材確保・育成コース」の対象にもなります。

4)専門家のワンポイントアドバイス

本助成金は「ハローワーク等からの紹介」が必須条件です。求人時にその点を明記し、採用ルートが助成金の要件に合致するかを必ず確認しましょう。また、非正規雇用期間が長い方や離職期間が長かった方が対象となるため、入社後のOJTやOFF-JTなどの人材育成を丁寧に実施することで、社員の早期戦力化と定着を促進できます。

5 トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)

1)トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)とは?

職業経験の不足やスキル不足等により就職に不安がある方を「トライアル雇用(試行雇用)」として一定期間雇用した場合に助成金が支給される制度です。原則として3カ月間の試用期間中に対象者の適性を確認し、期間終了後に無期雇用契約(正社員等)へ移行することを目的としています。

トライアル雇用のイメージ

■厚生労働省「トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/newpage_16286.html

2)助成金を受け取るには?

次の要件などを満たす必要があります(詳細は厚生労働省ウェブサイトをご参照ください)。

【会社側の要件】

  • ハローワークまたは一定の要件を満たす民間職業紹介事業者から紹介された対象者を雇い入れること
  • 対象者を、有期雇用契約で所定労働時間が週30時間以上(日雇労働者などの場合は週20時間以上)の雇用保険被保険者として、原則3カ月間トライアル雇用すること
  • トライアル雇用終了後、無期雇用契約(所定労働時間が週30時間以上)への転換を前提としていること

【社員側の要件(次のいずれかの要件を満たす必要あり)】

  • 紹介日の前日から過去2年以内に、2回以上離職や転職を繰り返している
  • 紹介日の前日時点で、離職している期間が1年を超えている
  • 妊娠、出産・育児を理由に離職し、紹介日の前日時点で、安定した職業に就いていない期間が1年を超えている
  • 紹介日時点で60歳未満であり、ハローワーク等で担当者制の個別支援を受けている
  • 就職援助に特別な配慮が必要な者に該当する(母子家庭の母等、父子家庭の父、生活保護受給者など)

3)受け取れる金額はいくら?

対象者1人につき、月額4万円(母子家庭の母等または父子家庭の父の場合、月額5万円)が最大3カ月分支給されます。トライアル期間中に雇用期間が1カ月未満の月があった場合や、社員の都合による休暇、会社都合による休業等が発生した場合は、その月について以下の計算式により助成額が調整されます。

実際に就労した日数÷就労予定日数

トライアル雇用助成金(一般トライアルコース)

また、トライアル雇用終了後に対象社員を無期雇用として継続雇用する場合、特定求職者雇用開発助成金の対象にもなり得ます。

4)専門家のワンポイントアドバイス

トライアル雇用を開始してから2週間以内に、対象社員を紹介したハローワーク等に「トライアル雇用実施計画書」を提出し、必ず認定を受ける必要があります。これを怠ると助成金が受け取れないため注意しましょう。

また、助成金の申請はトライアル雇用終了後の無期雇用契約移行後2カ月以内に行う必要があります。トライアル期間中の社員の適性確認や能力評価は丁寧に実施し、無期雇用契約への円滑な移行と社員の定着を図りましょう。

以上(2025年6月更新)

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【分かりやすい原価計算(5)】在庫と資金繰りの関係~在庫はまさにお金そのもの~

1 利益は出ているのに資金が増えない原因は?

原価は月末や決算期末に残っていると、在庫として貸借対照表に載ってきます。今回はこの在庫と資金繰りの関係を見ていきます。

経営者は、売上や利益と同じように、またはそれ以上に資金繰り、つまりお金が足りているかどうかについて気にするものです。利益が増えて、資金も増えていれば分かりやすいのですが、現実にはその逆であるケースが多く起こります。例えば、決算のときに、今期は売上が好調で利益も増え、その結果、税金もこれだけかかりますとなったとします。でも、「そんな状況なのに資金は全然ない。税金の支払いのために銀行借入などの資金繰りを考えなければいけないなんて。本当に利益は出ているのだろうか……」と、経営者が疑問や不安に思うこともあるようです。

このような状況になる原因として、1つは、

大きな機械を導入して資金を使ってしまっていること

があります。また、

従来、運転資金・設備投資などの借入金があり、その返済をしているため利益のわりに資金が少なくなっていること

もあります。借入金の返済は資金が出ていきますが、借りたものを返すだけなので、費用にはならないのです。

このように大きめの話が原因であると気付きやすいですが、もっと日常的に潜んでいる原因があります。それが、

在庫の残高が資金繰りに影響していること

です。この記事では、在庫の残高管理について、資金繰りとの関係も含めて見ていきたいと思います。

2 在庫と資金の奇妙な関係

卸売業、小売業や製造業では、通常在庫を抱えています。仕入れてすぐに売れたり、作ってすぐに売れたりすればよいのですが、

現実には売れるまでのタイムラグが発生

します。その間は在庫として会社に保管しなければなりません。

建設業にも未成工事支出金(仕掛中の工事にかかった決算時点の費用総額で、貸借対照表に資産として計上)という在庫があります。期末の仕掛中の工事については、売上は翌期になりますが、それにかかった費用も売上に合わせて翌期に計上します。このため、期末までにかかった費用は未成工事支出金として、翌期に持ち越されます。

在庫には仕入高に加え、材料費、外注費、人件費、経費、作るのにかかった費用を漏れなく含めます。材料費や外注費といった社外に支払ったものは分かりやすいのですが、人件費は忘れがちです。この人件費を漏らしてしまうと、利益がゆがんでしまって経営の判断材料として使えなくなりますし、税務調査などでも指摘されてしまうことになります。

この在庫は貸借対照表の資産の科目になり、現預金(資金)とはトレードオフの関係になります。つまり、

在庫が増えれば、資金はその分減ってしまうのです。逆に、在庫が減れば、資金はその分余裕が出てきます。

このことは、在庫を買う(=増やす)と資金が減り、在庫を売る(=減らす)と資金が増えることからも分かると思います。

そのため、在庫は資金そのものであり、日々の残高管理が必要になります。在庫の残高分析として、まずは、前期末(または、前月や前年同月)との比較をしましょう。

また、異常を感じたときや年に1回くらいは、在庫を月次の売上原価で割ることで、月の売上原価の何カ月分、在庫が残っているのか(在庫の回転期間)を見ておくことも意味があります。

在庫の残高分析方法

なお、製造業では製造原価を計算する必要があります。実務では、分母を求めやすい1カ月の売上高の金額にしておくこともあります。簡便的な方法ですが、継続すれば異常値の発見をするのには役立つはずです。

3 在庫の残高分析のコツ。滞留分は勘定科目を分ける

在庫の残高分析をするにあたって、実務でのコツを1つ紹介します。長年たまってしまっているものや、

特別な事情のものは別の勘定科目に振り替えておく

ということです。

例えば、昔の規格だけど、修理などのために、どうしても持っておかないといけないような部品や材料がある場合は、「長期保有在庫」などの名称で固定資産に振り替えておきます。そもそも、すぐに使ったり売れたりしないのですから、回転期間の計算に含めるのは違和感がありますよね。特殊な科目だけ分けて管理すればよいわけです。

4 在庫と同じくらい重要な減価償却費

せっかくなので、資金繰りの話で在庫と同じくらい重要なものとして、減価償却費の考え方を紹介します。減価償却費は、機械などの将来にわたって使い続けられる一定額以上のものを、固定資産として資産に計上し、毎年費用化していく会計処理の方法です。つまり、過去に支払った金額を按分した費用です。これは、損益計算書に費用として計上され、製造現場にあるものであれば原価を構成します。しかし、費用としてあげたタイミングでは支払いがないため、非資金費用と呼ばれます。

このため、減価償却費の金額だけ損益計算書の利益に足すことで、簡便的な資金繰りを示す材料として使えます。つまり、手元に残る資金をおおむね把握することができるのです。資金繰りが気になる場合には、このような調整後利益というのがあるのを覚えておいてください。

調整後利益の算出方法

以上(2025年5月更新)

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環境保全と安全運転(2025/6号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

6月は環境省が「環境月間」※とし、みんなで環境のことを考えようと様々な行事や取り組みが行われます。自動車と環境保全の関係では、まずエコドライブが思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。今号では、環境保全の観点から安全運転について考えます。

環境保全と安全運転

※環境省「環境の日&環境月間」https://www.env.go.jp/guide/envmonth (2025.5.7閲覧)

1 エコドライブに取り組もう

環境に配慮した自動車利用「エコドライブ」は、燃料の節約やCO2排出量の削減に有効です。環境省による「エコドライブ10のすすめ」では以下の取組が推奨されています。

燃費を把握

1)自分の燃費を把握しよう

日々の燃費を把握すると、自分のエコドライブ効果が実感できます

eスタート

2)ふんわりアクセル「eスタート」

やさしい発進(最初の5秒で時速20km程度が目安)を心掛けると燃費改善(10%程度)

車間距離にゆとり

3)車間距離にゆとりをもって、加速・減速の少ない運転

車間距離が短くなると、ムダな加速・減速の機会が多くなり、燃費が悪化(市街地で2%程度、郊外では6%程度)

減速時は早めにアクセルを離そう

4)減速時は早めにアクセルを離そう

これによりエンジンブレーキが作動し、燃費が改善(2%程度)

エアコンの使用は適切に

5)エアコンの使用は適切に

冷房の場合は車内を冷やしすぎないように。例えば車内の温度設定を外気と同じ25℃の設定でエアコンをONしたままだと燃費が悪化(12%程度)

ムダなアイドリングはやめよう

6)ムダなアイドリングはやめよう

10分間のアイドリング(エアコンOFFの場合)で、130cc程度の燃料を消費

渋滞を避け、余裕をもって出発しよう

7)渋滞を避け、余裕をもって出発しよう

出発前に、渋滞・交通規制などの道路交通情報や、地図・カーナビなどを活用して、行き先やルートをあらかじめ確認しましょう

タイヤの空気圧から始める点検・整備

8)タイヤの空気圧から始める点検・整備

空気圧が適正値より不足すると、燃費が悪化(市街地で2%程度、郊外で4%程度)(適正値より50kPa(0.5kg/cm2)不足時)

不要な荷物はおろそう

9)不要な荷物はおろそう

例えば100kgの荷物を載せて走ると燃費が悪化(3%程度)。スキーキャリアなどの外装品による空気抵抗も燃費に影響

走行の妨げとなる駐車はやめよう

10)走行の妨げとなる駐車はやめよう

交差点付近などの交通の妨げになる場所での駐車は、渋滞をもたらします

2 カーエアコンの「フィルター」点検

エアコンのフィルター、きちんと交換していますか?交換の目安は、一般的に1年に1回、または走行距離1万~2万kmとされています。フィルターを交換しないままでいると目詰まりを起こし、エアコンの効きが悪くなってしまいます。そうなるとエンジンが余分な力を使うようになり、燃費が悪化する原因にもなります。

さらに、エアコンの性能低下によってフロントガラスの曇りが取れにくくなり、視界不良から安全運転に支障をきたす恐れもあります。

フィルター点検

湿度の高くなる6月はフィルターにカビが発生する場合もあり、これは悪臭の原因となります。車内環境を清潔に保つためにも、この機会にエアコンのフィルターを点検してみましょう。難しい場合は整備業者に相談しましょう。

3 タイヤの摩耗とエコドライブ

車が走行し続けることでタイヤは摩耗していきますが、それにより生じる粉じんは、大気汚染やマイクロプラスチックとして海洋汚染につながる可能性があります。

日本自動車タイヤ協会によると、国内大手4社が製造するタイヤ摩耗量は乗用車用タイヤで2005年から2020年の15年間で16.6%減少、トラック・バス用タイヤでは2008年から2018年の10年間で9.7%減少したそうです。その背景には損傷しにくい新素材の開発や、接地面のデザインの工夫・改良などメーカーによる努力の積み重ねがあります。

タイヤの摩耗とエコドライブ

出典:JATMAホームページ「TRWP提言の取り組み」
https://www.jatma.or.jp/environment_recycle/trwpreductioninitiatives.html

一方で、車の重さに加えアクセルやブレーキの操作の良し悪しもタイヤの摩耗を左右します。急加速や急減速が多く乱暴な運転ほどタイヤはすり減りやすくなります。穏やかな運転は安全、燃費の面だけでなく、粉じんのリスクを抑える意味でも環境に優しいエコドライブに繋がります。

「環境月間」の6月、環境保全と安全運転について考えてみてはいかがでしょうか

以上(2025年6月)

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画像:amanaimages

2025年度から拡充の「IT導入補助金」でDXを推進しよう!

1 IT導入補助金2025の概要

「IT導入補助金」とは、

中小企業・小規模事業者等が、業務効率化や生産性向上を目的としてITツール(ソフトウェア、クラウドサービス等)を導入する際、費用の一部を国が補助する制度

です。2025年度は「通常枠」「複数社連携IT導入枠」「インボイス枠(インボイス対応類型)」「インボイス枠(電子取引類型)」「セキュリティ対策推進枠」の5つの申請枠が用意され、

2024年度よりも内容が拡充(最低賃金近傍の事業者への補助率引き上げなど)

されています。

IT導入補助金2025の概要

採択率も高く、2023年度は9万3211件のうち7万742件(75.9%)、2024年度は7万1767件のうち5万175件(69.9%)の申請が採択されています。とはいえ、申請する際には、

IT導入補助金事務局に登録された「IT導入支援事業者」(ITツールを提供するベンダー)と、パートナーシップを組んで申請することが必要となる

ため、ある程度、準備に時間がかかります。以降で、2025年5月23日時点における各申請枠の内容、申請の流れなどを簡単に紹介します。詳細は、公式ウェブサイトをご確認ください。

■IT導入補助金2025■
https://it-shien.smrj.go.jp/

2 各申請枠の内容

1)通常枠

働き方改革、賃上げ等に対応するため、生産性向上・業務効率化に役立つITツールの導入を支援します。補助の対象は次の通りです。

  • ソフトウェア(必須):ソフトウェア購入費、クラウド利用料(最大2年分)
  • オプション:機能拡張、データ連携ツール、セキュリティ
  • 役務:導入コンサルティング・活用コンサルティング、導入決定・マニュアル設定・導入研修、保守サポート

補助率と補助額は次の通りです。赤字部分は、2025年度から拡充されている内容です。

通常枠

補助額の欄の「業務プロセス」とは、

ソフトウェアを導入することによる、特定の業務工程の生産性向上・効率化に資する機能

のことで、このプロセスの数によって補助額が変わります。なお、業務プロセスの他に、業種・業務が限定されず、生産性向上への寄与が認められる「汎用プロセス」がありますが、こちらは単体での使用は不可となっています。

業務プロセス

2)複数社連携IT導入枠

商業集積地やサプライチェーンに関連する複数の中小企業・小規模事業者等が連携し、ITツールを導入する場合、「通常枠」よりも補助率を引き上げて支援します。補助の対象は次の通りです。

  • 基盤導入経費:「会計・受発注・決済」の機能を保有するソフトウェアとそのオプション、役務およびそれらの使用に資するハードウェア
  • 消費動向等分析経費:異業種間の連携や地域における人流分析・商取引等の面的なデジタル化に資するソフトウェアとそのオプション、役務、ハードウェア
  • その他経費:参画事業者のとりまとめに係る事務費、専門家費

補助率と補助額は次の通りです。複数の事業者が連携するタイプの申請枠であるため、補助額はその連携したグループ構成員数によって変動します。

複数社連携IT導入枠

3)インボイス枠(インボイス対応類型)

インボイス制度への対応を強力に推進するため、インボイス制度に対応した会計ソフト等を導入する場合、「通常枠」よりも補助率を引き上げて優先的に支援します。補助の対象は次の通りです。

  • ソフトウェア(必須):インボイス制度に対応しており、かつ「会計」「受発注」「決済」の機能を1種類以上有するソフトウェア
  • オプション:機能拡張、データ連携ツール、セキュリティ
  • 役務:導入コンサルティング・活用コンサルティング、導入設定・マニュアル設定・導入研修、保守サポート
  • ハードウェア(単体での使用は不可):PC・タブレット・プリンター・スキャナー・複合機、POSレジ・モバイルPOSレジ・券売機

補助率と補助額は次の通りです。

インボイス枠(インボイス対応類型)

4)インボイス枠(電子取引類型)

インボイス制度への対応を強力に推進するため、インボイス制度に対応した受発注ソフトを導入する場合、「通常枠」よりも補助率を引き上げて優先的に支援します。補助の対象は次の通りです。

  • 受発注ソフト:インボイス制度に対応した「受発注」の機能を有しているものであり、かつ取引関係における発注側の事業者としてITツールを導入する者が、当該取引関係における受注側の事業者に対してアカウントを無償で発行し、利用させることのできる機能を有するクラウド型のソフトウェア

補助率と補助額は次の通りです。

インボイス枠(電子取引類型)

5)セキュリティ対策推進枠

サイバーセキュリティ対策において、生産性向上を阻害するリスク(例:サイバーインシデントにより、事業継続が困難になる)や、潜在的リスク(例:供給制約やそれに起因する価格高騰)を低減するため、ITツールの導入を支援します。補助の対象は次の通りです。

  • ITツールの導入費用およびサービス(最大2年分):独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されており、かつIT導入支援事業者によりITツール登録されたサービス
■IPA「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」■
https://www.ipa.go.jp/security/otasuketai-pr/index.html#service_area

補助率と補助額は次の通りです。赤字部分は、2025年度から拡充されている内容です。

セキュリティ対策推進枠

3 交付申請の手続き

交付申請の手続きの流れは次の通りです。中小企業・小規模事業者等がやるべきことを簡単に整理しましょう。

交付申請の手続きの流れ

1)GビズIDの取得

IT導入補助金の申請は電子申請となるため、GビズID(1つのIDで複数の行政サービスにアクセスできるサービス)のプライムアカウントが必要です。アカウント発行までの期間は、おおむね2週間です。

■GビズID(gBizID)■
https://gbiz-id.go.jp/top/

2)SECURITY ACTION宣言の実施

SECURITY ACTION宣言とは、中小企業・小規模事業者等が情報セキュリティ対策に取り組むことを自己宣言する制度です。取り組み目標に応じて「★一つ星」と「★★二つ星」のロゴマークがあり、宣言するには、中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン付録の

  • 「情報セキュリティ5か条」に取り組むこと(★一つ星)
  • 「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」で自社の状況を把握した上で、情報セキュリティ基本方針を定め、外部に公開すること(★★二つ星)

が必要です。

■SECURITY ACTION セキュリティ対策自己宣言■
https://www.ipa.go.jp/security/security-action/

3)ITツールの選定

第1章でも述べた通り、IT導入補助金事務局に登録された「IT導入支援事業者」からのサポートを受けて申請します。そのため、申請前に自社の業種や事業規模、経営課題に沿って導入したいITツールやIT導入支援事業者を選ぶ必要があります。ITツール・IT導入支援事業者は、こちらから検索できます。

■IT導入補助金2025「ITツール・IT導入支援事業者検索(コンソーシアム含む)」■
https://it-shien.smrj.go.jp/search/

4)交付申請

IT導入支援事業者と相談しながら、交付申請の事業計画を策定し、次の流れで交付申請を行います(複数社連携IT導入枠については手続きが異なるため、公募要領を別途ご確認ください)。

  • IT導入支援事業者から「申請マイページ」の招待を受け、代表者氏名等の申請者基本情報を入力する
  • 交付申請に必要となる情報入力・書類添付を行う
  • IT導入支援事業者にて、導入するITツール情報、事業計画値を入力する
  • 申請マイページ上で入力内容の最終確認後、申請に対する宣誓を行い事務局へ提出する
■IT導入補助金2025「申請マイページログイン」■
https://portal.shinsei.it-shien.smrj.go.jp/

5)交付決定

提出した書類が審査され、交付が決定されます。

4 交付決定後の手続き

交付決定後の手続きの流れは次の通りです。中小企業・小規模事業者等がやるべきことを簡単に整理しましょう。

交付決定後の手続きの流れ

1)ITツールの契約・発注・支払い

交付申請を完了し、事務局から交付決定を受けたら、ITツールの契約・発注・支払いを行います。なお、交付決定前に契約・発注・支払いを行った場合、補助金の交付を受けることができないので注意が必要です。

2)事業実績内容を事務局へ報告

補助事業の完了後、IT導入支援事業者と連携して、実際にITツールの契約・発注、納品、支払い等を行ったことが分かる証憑(しょうひょう)を提出します。証憑の提出の流れは次の通りです。

  • 申請マイページから必要情報の入力・証憑の添付を行い、事業実績報告を作成する
  • 事業実績報告の作成後、内容の確認・必要情報の入力を行う(これはIT導入支援事業者が行う)
  • 最終確認後、事務局に事業実績報告を提出する

3)補助金決定額を確認・承認

補助事業者が申請マイページから確定検査の結果・補助金交付決定額を確認し、内容に相違がなければ承認(SMS認証が必要)を行います。承認を行うと、補助金が交付されます。

4)事業実施の効果を報告

定められた期限内に補助事業者が申請マイページから必要な情報を入力し、IT導入支援事業者の確認を経て提出します。

5 不正行為にご注意を!

次の不正行為は、交付決定取消、補助金の返還請求、IT導入支援事業者登録取消の対象となります。自社が不正行為をしないだけでなく、IT導入支援事業者等が該当する行為をしていないかにも注意しましょう。

1)ITツールを実質無償で提供する、減額する等の販売行為

  • 会計ソフトの購入費用を後日、IT導入支援事業者もしくは第三者から返金される
  • その他営業先への紹介料と称して、IT導入支援事業者もしくは第三者から「紹介料やコンサル料等」を受け取る など

2)補助対象者以外が申請手続きを代理で行う行為

  • 補助対象者がGビズID(法人・個人事業主向け共通認証システム)等を他者に共有し、申請マイページの開設やその後の交付申請における手続き等を行わせる など

3)ITツールが導入されていない、役務(導入研修・コンサルティング等)が実際に遂行されていない行為

  • 会計ソフトを購入したが、試供版のみが提供されており、利用可能なソフトウェアが導入されていない
  • 在庫管理ソフトの購入とソフトウェア導入研修を10時間受講したという内容で補助金を受給したが、実際は導入手順をメールで共有されたのみで導入研修が行われていない など

4)同じ内容で国から他の補助金や助成金を受給する行為

  • 1つの顧客管理システムについて、「IT導入補助金」と「ものづくり補助金」の両方に申請し、顧客管理システム購入費用に対してそれぞれの補助金を受給する など

5)補助事業者として不適切な行為

  • 補助金の受給要件を満たすため、社員を過少申告するなど企業実態を偽装して申請する など

以上(2025年6月作成)

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画像:takasu-Adobe Stock

【分かりやすい原価計算(4)】固定費の配賦と直接原価計算~固定費を製品に割り当てるのは難しい~

1 変動費は製品に紐づけできるけど、固定費は紐づけできない

今回は、

固定費の配賦:製品との紐づきが明らかではない費用を、何らかの基準で割り当てること

における実務の難しさを見ていきます。なお、本シリーズでは「変動費と直接費」「固定費と間接費」を、それぞれ同じものとして扱います。

変動費/固定費、直接費/間接費の分け方については、次の記事をご確認ください。

画像1

このケースのPLを作成すると、前回紹介した財務会計PLと管理会計PLになります。

画像2

ここで、1箱当たりの製造原価を考えてみましょう。

1箱当たりの変動費は、製品に紐づけできます。直接材料費が1500円、外注費が500円となり、変動製造原価は2000円となります。

次に固定費を考えてみます。工場の従業員の給料、工場の地代家賃や機械の減価償却費などの固定製造原価が年間1200万円かかります。これらは、製品との関係が明らかではなく、紐づきが間接的にしか分からないような費用です。このため、利用度に応じた配賦基準が必要となります。ここでは、

製造数量を配賦基準

に考えてみましょう。5000箱を製造したので、

1200万円÷5000箱=2400円

となります。1箱当たりの製造原価は、変動製造原価+固定製造原価なので、

2000円+2400円=4400円

となります。

2 1箱当たりの製造固定費は製造数量で変わる

次に、8000箱を製造して販売した場合を考えてみましょう。損益計算書はこのようになります。

画像3

そして、1箱当たりの変動費は5000箱を製造して販売した場合と同じで、変動製造原価は2000円となります。

次に固定費です。先ほどと同様、製造数量を基準に配賦すると、

1200万円÷8000箱=1500円

となります。1箱当たりの製造原価は、変動製造原価+固定製造原価なので、

2000円+1500円=3500円

となります。

このように固定費を製造数量で割り当てると、製造数量が増えるほどに1箱に割り当てられる固定費が減って、原価が安くなります。これが、経済学の「規模の経済」につながります。

図にすると、このようになります。数量が増えれば1箱に割り当てられる固定費の金額が下がるのをイメージしてください。

画像4

増産すれば「規模の経済」が働くというのは、感覚的に分かりやすいかなと思います。ただ、1箱当たりの製造原価が、製造数量によってころころ変わってしまうと困るのではないかと考えられた方もいるかもしれません。

その通りで、1箱当たりの製造原価から販売価格を決めようとする場合には、使い物にならない、また、使っても毎年変わってしまうのではないか心配になってしまいます。そんな状況では、価格なんか決められないですよね。

ここで、製品の販売価格の決め方について見ておきます。販売価格の決め方には、マーケット・アプローチとコスト・アプローチとがあります。マーケット・アプローチは、顧客が自社製品に対してどれだけの価値を認めて、どれだけの金銭を払ってくれるかという視点から価格を決める方法です。

一方、コスト・アプローチは、経費を積み上げて製造原価を計算して、そこに儲けたい利益を上乗せして価格を決める方法です。いずれの方法もどちらか一方というわけではなく、両方の視点から考えるのが経営者の見方ではないでしょうか。

具体的には、マーケット・アプローチによって価格を決めたとしても、そこで出てきた価格が自社の製造原価で適正な利益を出せるかどうか検討する必要があります。利益が出ないのであれば、製造・販売するわけにはいきません。このため、製造原価が製造数量によって変わってしまうことは、やはり問題となります。

それではどうすればいいのでしょうか。経営では、

目標となる製造数量をイメージしておく

必要があります。そこで、会社としての通常の製造数量で固定費を配賦したケースを考えながら、価格を決めていくなどの工夫をしていくというのが実務といえます。

製造原価を正しく計算することの難しさを感じていただけたでしょうか。

そして、右肩上がりの時代であれば、増産により「規模の経済」が働き製造原価が下がるため、固定費はあまり意識する必要なく過ごせます。しかし、これからの低成長時代や、新たな関税による輸出減などのように、製造数量が減少する局面で利益を見誤ったり、価格設定を間違えたりしないためにも、固定費の配賦が大事ということを押さえておいてください。

3 固定費の配賦をしない原価計算「直接原価計算」

このように固定費を製品に配賦することには難しさがあります。そこで、固定費の配賦をやめてしまおうと考えたのが「直接原価計算」と呼ばれるものです。ここでは、直接原価計算の概念を見ていきましょう。

今まで見てきた

変動費だけでなく固定費も製品に配賦し、全ての製造原価を集計して、製品の原価を計算する方法を「全部原価計算」

と呼びます。一方、

製造原価のうちの変動費だけを集計して、製品の原価を計算する方法を直接原価計算

と呼びます。

全部原価計算による損益計算書と直接原価計算による損益計算書を見てみましょう。

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そうです。全部原価計算による損益計算書は財務会計の損益計算書、直接原価計算の損益計算書は管理会計の損益計算書と同じになります。

先ほどの例で考えると、5000箱製造しても、8000箱製造しても変動製造原価は、直接材料費が1500円、外注費が500円の2000円です。これを製品の原価とするということです。製品と紐づけができない固定費は計算に含めないため、とてもシンプルな計算になります。

ただ、税務申告や外部報告のために決算書を作成する場合には、全部原価計算が前提とされています。このため、直接原価計算で計算をした場合は、製品の原価が少なく計算され、その金額をそのまま使うわけにはいきません。

また、前回も説明したように、変動費と固定費の分け方に100点満点はあり得ません。このため、人によって変動費と固定費の区分が違ったり、準変動費と準固定費といったものが含まれたりすることによって、結局1箱当たりの製造原価には恣意的な部分が残ってしまいます。

このように原価計算には絶対的な正解がないということを理解しつつ、経営者の経営判断に役立つという大事な目的を第一に置いて、まずはやってみるという考えで取り組んでいただけたらと思います。

以上(2025年5月更新)

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味の素創業者 二代鈴木三郎助の「一人勝ちしない」経営哲学

「四海兄弟(しかいけいてい)」

二代 鈴木三郎助(すずきさぶろうすけ)氏は、味の素の創業者です。同社からは代表商品「味の素」の他、ほんだし、コンソメなど、食卓に欠かせない調味料や食品が数多く発売されています。

冒頭の言葉は、鈴木氏が大切にし、書にもしたためたもの。「人に対して敬う気持ちを持って礼を忘れず接すれば、世界中の人と兄弟になれる」という、『論語』からの引用です。鈴木氏は、「涙もろくて、人間が大好き。商売に向いていない」と評された人物で、ビジネスで交渉をする際も、常に相手を立てることを忘れませんでした。一方で、絶対に自社が不利にならず損をしない条件を取り付けるという、したたかな一面もありました。

例えば、鈴木氏は若い頃、海岸に打ち上げられるカジメ(海藻の一種)を加工し、ヨードの原料として販売していました。しかし、房総半島に工場を建ててまもなく、ライバル会社の営業部長で、のちに昭和電工の総帥となる森矗昶(もりのぶてる)氏が、高値でカジメを買い集め、「房総戦争」と呼ばれる騒ぎに発展してしまいます。

ですが、鈴木氏は「日本人同士でケンカをするなんてつまらない」と、縄張り争いをするどころか、自社の工場を相手会社に売却します。ただし、その代わりに「工場相当額の株券譲渡」と「相手会社の重役への自社社員の派遣」という条件を取り付けました。森氏に花を持たせつつ、相手会社と協力して業界シェアを獲得する道を探ったわけです。

また、味の素の原料となる「グルタミン酸ナトリウム」の特許を巡る交渉でも、鈴木氏はその才覚を発揮しました。当時、池田菊苗(いけだきくなえ)博士によって発見されたばかりのグルタミン酸ナトリウムには、当時最大の財閥・三井物産が目をつけていました。

そこで、鈴木氏は博士に「特許を買い取るのではなく、共同経営をやりたい。売上の3%を差し上げる」と伝えました。売れるかどうかも分からない状況で、これは破格の条件であり、結果、鈴木氏は三井物産に先んじて博士を口説き落とすことに成功したのです。

交渉の場において、「一人勝ちをしないこと」は現代においても大切なポイントです。自社の利益を考えるのは経営者なら当然ですが、相手にこちらの条件を一方的にのませるだけでは、その後良い関係を築くことは望めません。鈴木氏がさまざまな交渉相手とWin-Winの関係を実現できたのは、冒頭の言葉の通り、彼が交渉相手に対する敬意を払うことを忘れなかったからでしょう。その上で両者にとって利益のある道を本気で探ろうとする人物だからこそ、さまざまな人が鈴木氏を好きになり、その話に耳を傾けたのです。

実際、「房総戦争」の交渉相手である森氏と鈴木氏は、生涯の友人であり続けたそうです。鈴木氏にとって「四海兄弟」はただの理想ではなく、彼自身の生きざまだったのかもしれません。

出典:「レット・ミ―・イントロデュース・マイセルフ!」(味の素株式会社Webサイト)

以上(2025年5月作成)

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社員ががんを告白……会社がすべき最適なサポートとは?

1 がんになった社員の約7割が、仕事を続けている

2人に1人が「がん」になる時代。誰にとっても無縁の病気ではありません。厚生労働省の委託事業「がん対策推進企業アクション」が中小企業を対象に実施した調査によると、がんになった社員がいると回答した会社は32.0%に上ります。一方、注目すべきは、

がんになっても68.0%の社員は、勤務を継続している(休職中を含む)

という点です。

がんになった社員の数と就労状況(2024年)

がんは重い病気ですが、医療技術の進歩により、仕事を続けながら治療することもある程度可能になりました。そこで、この記事では、がんになっても仕事を続けたいと望む社員のために、会社が社員の「治療」と「仕事」を両立できるように支援する方法を紹介します。

2 社員の不安に寄り添うことが大切

1)治療と仕事の両立のために望むこと

東京都の調査によると、治療と仕事の両立に当たって、がんになった社員は職場に次のようなことを求めています。

両立支援のため、職場に求めること

2)がんになった社員の不安に寄り添った支援を

がん治療の大まかな流れは、

がん発見 → 通院治療もしくは入院・手術 → 自宅療養(通院治療・経過観察) → 職場復帰(通院治療・経過観察)

となりますが、その過程で、社員の不安と会社が行うべき支援は変わります。図表3は「社員の不安」と「会社の支援」の関係をイメージしたものです。会社は、

社員の不安に寄り添い、その解決に必要な支援を都度検討することが大切

です。

「社員の不安」と「会社の支援」の関係

次章では「会社の支援」について、実務上のポイントを紹介していきます。

3 会社が支援を行う際のポイント

1)病状を確認

社員からがんであるとの申告があった場合、

現在の健康状態、手術の有無を含めた治療スケジュール・治療方針などを確認

します。

がんは進行度合いや治療方法などによって病状が大きく異なります。例えば、抗がん剤の影響で、気分が優れない時間があったり、注意力が散漫になったりする場合もあります。そこで、

  • 従来通りの勤務が可能なのか、通勤に支障がないか、業務上、配慮を要することなど、会社が喫緊に対応すべき事項を確認
  • 手術などによって、休職する可能性があるのかを確認

します。

2)休暇や勤務形態を相談

社員には手術や通院などが必要になります。社員と相談して、休みの見込み日数や、勤務形態などを確認します。

厚生労働省によると、がん(悪性新生物、腫瘍)で入院した患者の平均在院日数は、全体で14.4日となっています。

がんで入院した患者の平均在院日数

通院治療の日数については具体的な数値は示されていませんが、例えば、

  • 化学療法(抗がん剤治療):1~2週間程度の周期で治療を行うことが多い
  • 放射線治療:1週間に5日の治療を数週間にわたって行うことが多い

など、治療法や患者の状況に応じて相応の時間を要するようです(厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」)。

社員が休む場合、年次有給休暇も使えますが、治療が長引くと日数が足りなくなるので、「病気休暇」を設けるのもよいでしょう。病気休暇とは、

社員が業務外の私傷病によって就労できない場合に付与する休暇

で、会社が就業規則などで独自に定めます(有給にするか無給にするかは、会社の自由)。長期間働けないなら休職させるのも1つの方法ですが、「仕事をしつつ、定期的に休んで治療を受けたい」という場合、病気休暇のほうが対応しやすいかもしれません。この他、時短勤務やテレワークなどのニーズについても確認するとよいでしょう。

3)金銭的な負担への配慮

図表5は、厚生労働省の調査を基に、がん(悪性新生物、腫瘍)治療の平均費用を試算したものです。入院する場合、どの部位も治療費が平均6万円を超え、さらに食事・生活療養費が別途発生します。

がん(悪性新生物、腫瘍)治療の平均費用

がんになった社員は自分の病状もそうですが、こうした金銭的な負担にも不安を抱えています。ただ、治療費の負担を軽減できる支援制度もいくつかあるので、例えば図表6のような情報を社員に提供してあげると、少しは不安が和らぐかもしれません。

金銭的な負担を軽減する支援制度の例

4)周囲の社員への説明

社員の中には、上司や同僚にがんであることを伝えたくないという人もいます。個人情報保護の観点からも、本人の同意なく、他の社員に病名を伝えることは避けなければなりません。

とはいえ、周囲の社員の理解なくして仕事と治療の両立は難しいため、どの程度、病気について説明するかなどを相談しておきます。例えば、病名を明らかにしないものの、

「病気で手術が必要になるため、しばらく休暇を取得する」「手術後は重いものを運ぶのが難しくなる」など、病状の一部や、従来通りの働き方が難しくなること

を伝えます。

5)業務分担の確認

周囲の社員が業務を代替できるような体制にしておきましょう。具体的には、担当している業務を洗い出し、業務マニュアルを作成します。

社内に既存の業務マニュアルのフォーマットがない場合は、業務マニュアル作成ソフトの利用を検討してみましょう。用意されたフォーマットに必要事項を記入したり、スマートフォンで手順を撮影した動画をアップしたりすることができます。

6)復帰後の計画の相談

社員から復帰のめどについて連絡があったら、復帰後の計画を相談します。その際、主治医に意見書を提出してもらうと、復帰の可否や就業上必要な配慮が明らかになります。

守秘義務があるため、会社が本人の同意を得て主治医の意見を聴取するか、本人を通じて主治医に意見書を提出してもらうなどしてもらいます。確認すべき点は、

  • 現在の病状
  • 復帰の可否と配慮や禁止事項
  • 勤務時間・職場環境・病状に影響する作業や通勤方法
  • 今後の見通し
  • 日常で気を付けるべき事項

などです。厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」では、意見書を求める際の様式例を掲載しているので、参考になります。

■厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115267.html

7)復帰後のフォロー

いざ復帰してみると、想定した以上に負担が大きく、予定通りに勤務できなかったり、周囲の社員に遠慮して無理をしてしまったりすることがあります。一方、経過が良好にもかかわらず、周囲がいつまでも過度に気を使って業務の負担を減らそうとすることで、本人が仕事にやりがいを感じられず、不満や悩みを抱いてしまうこともあります。

復帰後1カ月目は週に1回、2カ月目以降は2週に1回など、定期的に面談の時間を設けるなどして、勤務の負担感や安全面での不安など、困り事がないかを確認します。

また、本人だけでなく、支援する周囲の社員とも面談の機会を設けます。特に、直属の上長の不安や負担は大きいものです。周囲の社員の様子とともに、上長の状況なども確認し、必要があれば業務分担の配分を変更し、メンタル面でのフォローを行うようにします。

以上(2025年5月更新)

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