「社員の成長は会社の成長」 ~成長する社員に共通する3つの特徴とは?

書いてあること

  • 主な読者:最近、社員があまり成長していないと感じている経営者
  • 課題:忙しさもあり、社員の仕事ぶりをしっかりと見ることができていない
  • 解決策:具体的な成果にも着目するが、加えて成果を上げやすい社員の言動にも注目する

1 社員の成長なくして会社の成長なし

最近、「社員が成長したな!」と嬉しく感じたことはありましたか? もし、記憶にないということでしたらご用心。経営者が社員の成長を感じられない主な理由は、次の通りです。

  • 経営者が社員の成長に気付けていない
  • 本当に社員が成長していない

1.のような状況だと、社員は自分の成長に目を向けてくれない会社に不安を覚え、もっと成長できる場所、認めてもらえる場所を探して転職してしまうかもしれません。また、2.の場合は採用(怠け者を採用してしまっているなど)や教育制度の問題ですから、より根本的に人事制度を見直さなければなりません。

社員の成長なくして会社の成長はありません。経営者の皆さんは非常に多忙ですが、改めて社員の働きぶりに目を向けてみてください。そうすると「おっ!」と思える成長をしている社員がいるかもしれません。

この記事では、「1.経営者が社員の成長に気付けていない」の課題に注目し、経営者が気付いてあげたい、意外な社員の成長の兆しについて紹介していきます。もし該当する社員がいたら声をかけてあげてください。働き方がどう変わろうとも、経営者の一言は社員の成長を促す大きなエネルギーになります。

2 スマホがよく鳴る社員は社外から頼りにされている

社員の成長としては、仕事の処理スピードアップや新規営業先の獲得が分かりやすいですが、これは目に見える成果の形の一例です。経営者が注目したいのはその一歩手前、つまり「成果を上げやすい行動」です。社員をよく見ていると、その片鱗が垣間見えます。

例えば、スマホが頻繁に鳴り、笑顔で話している社員に注目してみましょう。このような社員は、社外の人から頼りにされやすく、気軽に連絡できる親しみやすい性格の持ち主かもしれません。仕事は関係者が協力し合って進めるものですから、

誰と協力するのか?

が成功のためにとても重要です。能力が足りていることもそうですが、「信頼できる(頼りになる)」というのが大前提になります。その信頼は、会社の規模や実績からも判断できますが、窓口担当者の言動も大きく影響します。社員のスマホに多くの連絡が寄せられることは、業務効率化の観点からは問題かもしれませんが、「何かと頼りにされている」という意味では、頼もしい存在だと言えます。

3 「運がいい」が口癖の社員は、大量のチャンスを獲得中

「運」に関しては、多くの人が研究を進めていますが、「確率」が大きく関係していることは確かでしょう。ビジネスにおいても、

多くの人と交流を持てば、成果を上げるチャンスも増える

ということです。かつて、「名刺の減り方と成長スピードは関連がある」と言われましたが、これと似た考え方かもしれません。

また、実際に多くの人と出会っている社員は、そうしたシーンに慣れています。そして、無理に特定の人との出会いを追求せず、自然なコミュニケーションで話を進めることができます。そうした出会いからビジネスに結びつくことがあれば、

あの時、あの人に出会えたからビジネスで成功した。運が良かった

と言うのです。

御社に、多くの人と出会っている社員がいれば、「最近出会った面白い人は誰?」と尋ねてみてください。おそらく、経営者の皆さんがまだ知らない人物が紹介されるでしょう。これは良い兆候です。なぜなら、会社全体として、重複のない広いつながりを持てていることの証だからです。

4 「理解しづらい」ことを言う社員は、新規事業の原石

生成AIなど、新しいアイデアや技術が次々と登場しています。御社には、新しいことが大好きで、すぐに取り組む社員はいますか? そんな社員は、まさに新しいものを取り入れて成長している最中です。その発言は、新しいものを敬遠しがちな社員や、変化を好まない社員からすると、理解しづらく評価の低いものになります。しかし、それでいいのでしょうか?

経営者も新しい情報や技術に触れることが大切ですが、初めて聞く内容や理解しにくい提案をする社員がいる場合、彼らこそが新しいビジネスチャンスを生み出す原石かもしれません。

「何か新しいことがしたい」と言う人に限って、なかなか今の行動を変えることができないものであり、経営者も例外ではありません。そうした経営者にとって、理解し難いことを提案してくる社員は、注目に値する、成長中の社員かもしれません。

5 放置してはいけない

以上が、成長する社員が見せる特徴の一例です。この他にもさまざまな兆しがあるので、社員の日頃の言動に注目してみてください。また、大切なことは、成長中の社員を見つけて放置することなく、声をかけ、具体的なチャンスを与えることです。経営者の声掛けと経験が社員の成長スピードをさらに早めることでしょう。

以上(2024年6月更新)

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画像:OKADA-Adobe Stock

外国人とのコミュニケーション力を高める「やさしい日本語」

書いてあること

  • 主な読者:インバウンド需要の取り込みを狙う飲食店・宿泊施設の経営者、外国人雇用を検討している経営者
  • 課題:外国語を話すことはできないけど、何とかコミュニケーションを取りたい
  • 解決策:「やさしい日本語」を使って、外国人に伝わる言い方・書き方を心がける

1 「やさしい日本語」を使ってみよう

日本にいる外国人のうち、「英語はわからない。日本語は少しわかるけれど、難しい言い方をされるとわからない」という人も多いようです。

そこで、この記事で紹介するのが「やさしい日本語」です。「やさしい日本語」とは、

普段使われていることばを、外国人にもわかるように配慮した簡単な日本語

です。元々は、1995年の阪神・淡路大震災をきっかけとして、災害発生時に外国人に対して素早く早く的確に情報を伝えるために、弘前大学社会言語学研究室(佐藤和之教授・ゼミ生)によって考案されました。

その後、「やさしい日本語」は、さまざまな行政機関や外国人支援団体などで、

生活情報や観光情報などを伝える手段としても使われる

ようになっています。

コロナ禍で落ち込んだ訪日外客数は、2023年10月以降はコロナ禍前の2019年同月比で同水準にまで回復。今後も円安などの影響でインバウンド需要が高まることが期待されています。

また、2024年3月には、外国人技能実習制度を廃止し、新たに外国人材の確保を目的とした「育成就労」制度を創設する出入国管理・難民認定法などの改正案が閣議決定され、外国人雇用を巡る環境も大きく変化しつつあります。

この記事では、「インバウンド需要を取り込みたい」「人手不足を補うために外国人雇用を検討している」といった経営者の方に、外国人とのコミュニケーション力を高めるための「やさしい日本語」のルールや注意点、役に立つツールを紹介します。

AIを使った翻訳の精度も高まってきていますが、難しい日本語をそのまま翻訳させるよりも、やさしい日本語に言い換えた後に翻訳させるほうが誤訳を減らすことができるといいます。ぜひ「やさしい日本語」を使ってみましょう。

2 「やさしい日本語」のルール

ここでは、総務省消防庁「外国人来訪者等が利用する施設における避難誘導のあり方等に関する検討部会」(平成29年度)の参考資料としても使われた「『やさしい日本語』作成のためのガイドライン」を基に、「やさしい日本語」の主なルールについて具体的に見ていきます。同資料は、弘前大学社会言語学研究室によって2010年に作成、2013年に増補されたものです。

■「やさしい日本語」作成のためのガイドライン■
https://www.fdma.go.jp/singi_kento/kento/items/kento207_20_sankou5-6.pdf

1)「やさしい日本語」の作成ルール

1.難しいことばを避け、簡単な語彙を使ってください

語彙は日本語能力試験出題基準3、4級程度(当時。現在の日本語能力試験(JLPT)N4、N5レベル)の語を使います。

語彙の難しさのレベルは、筑波大学日本語・日本事情遠隔教育拠点が運営を引き継いだ「日本語読解学習支援システム『リーディング チュウ太』」で調べることができます。

■リーディング チュウ太■
https://chuta.cegloc.tsukuba.ac.jp/

2.1文を短くして、文の構造を簡単にしてください

1文を短く、長さは24字程度、文節の数は10文節程度にします。文節とは、文章を意味のまとまりで区切った単位のことです。文の構造を簡単にするには、「主語と述語を一組だけ含む文にする」「連体修飾節(名詞を説明している部分)の構造を単純にする」ことが大切です。

3.外来語を使用するときは気をつけてください

外来語は原語と意味や発音の異なるものが多いため、使用するときは注意が必要です。ただし、例えば、「バス」「ガス」「テレビ」「ラジオ」などの基本的な語で、外来語以外での表現が難しいものは使うことができます。

4.擬態語は、日本語話者以外には伝わりにくいので使用を避けてください

例えば、「めちゃめちゃ」「どきどき」などの擬態語は、意味が伝わらない恐れがあります。

5.動詞を名詞化したものはわかりにくいので、できるだけ動詞文にしてください

例えば、「揺れがあった」→「揺れた」のように言い換えます。「揺れ」は「揺れる」という動詞を名詞化したものだからです。

6.あいまいな表現は、避けてください

「おそらく……」「たぶん……」などの表現は、使わないようにします。また、「…したりしている」のようなあいまいな表現は避けます。

7.二重否定の表現は避けてください

「通れないことはない」などの二重否定の表現は、混乱を招きやすいため使わないようにします。

8.文末表現はなるべく統一するようにしてください

例えば、「食べられる」→「食べることができる」のように、可能表現は「れる」「られる」ではなく「(…する)ことができる」とします。逆に、不可能の表現は「(…する)ことができません」とします。

また、例えば、「手を洗いましょう」→「手を洗ってください」のように、指示文末は「(…し)ましょう」ではなく「(…して)ください」とします。

2)書きことばの注意点

1.文は文節で余白をあけて区切り、「分かち書き」にしてください

分かち書きとは、文節の間に間隔をあけて文章を書く方法のことです。基本的には、文の途中で「ね」などを入れても不自然にならないところで分かち書きをします。

2.ローマ字は使わないでください

ローマ字を使って日本語の文を表記しないようにします。ローマ字は、駅名や地名などの固有名詞を表記するためのもので、文を書くことには不向きです。

3.使用する漢字や、漢字の使用量に注意してください。漢字にはふりがなをふってください

漢字の使用量は1文に3、4字程度が目安です。全ての漢字にふりがなをふります。

4.難しいことばでもよく使われることばの場合、後に<>を使い言いかえを付記してください

災害時にはよく使われる「余震」「津波」「避難所」「消防車」などのことばは、そのまま使い、後ろに<>で言いかえを付記します。

  • 余震(よしん)<あとから ()る 地震(じしん)
  • 津波(つなみ)<とても (たか)い (なみ)
  • 避難所(ひなんじょ)<みんなが ()げる ところ>
  • 消防車(しょうぼうしゃ)()を ()す (くるま)

5.時間や年月日の表記はわかりやすくしてください

時間は12時間表記とします。時間の起点を表す助詞は記号「~」を使わずに、「……から」に統一します。年月日の表記にはスラッシュを使わないで、○年○月○日とします。和暦ではなく西暦で表記します。

3)読みことばの注意点

基本的なルールは、難しいことばを避けて簡単な語彙を使うという点で、書きことばでのルールと変わりありません。全体的にゆっくりと、一語一語はっきり発音します。

数字の読み方は、ゼロ イチ ニ サン ヨン ゴ ロク ナナ ハチ キュウ ジュウが基本です。ただし、4時(よじ)、9時(くじ)のように例外もあります。

「紙」と「髪」、「格好」と「学校」のように、同音、または音が似ている語はなるべく使わないことを心がけます。

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3 覚えておきたい「ハサミの法則」と「ワセダ式」

「やさしい日本語」で話すときは、

  • はっきり言う
  • 最後まで言う
  • 短く言う

ことが重要です。この3つのポイントの頭文字を取って、やさしい日本語ツーリズム研究会代表の吉開章氏は「入門・やさしい日本語」(アスク出版、2020年)の中で「ハサミの法則」と名付けました。

また、短く言うために役立つのが、

  • 分けて言う
  • 整理して言う
  • 大胆に言う

ことです。同書では、この3つのポイントの頭文字を取って「ワセダ式」と呼んでいます。

4 参考

「やさしい日本語」の作成に役立つツール・ウェブサイトとして以下をご紹介します。

■やさにちチェッカー■
http://www4414uj.sakura.ne.jp/Yasanichi1/nsindan/
■リーディング チュウ太■
https://chuta.cegloc.tsukuba.ac.jp/
■「やんしす」(YAsashii Nihongo SIen System)■
http://www.spcom.ecei.tohoku.ac.jp/aito/YANSIS/
■伝えるウェブ■
https://tsutaeru.cloud/
■在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン(出入国在留管理庁・文化庁)■
https://www.moj.go.jp/isa/support/portal/plainjapanese_guideline.html
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/92484001.html
■日本放送協会(NHK)やさしい日本語 会話編■
https://www.nhk.or.jp/lesson/ja/
■日本放送協会(NHK)NEWS WEB EASY やさしい日本語で書いたニュース■
https://www3.nhk.or.jp/news/easy/

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2024年4月16日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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経営者を支える「参謀2.0」。参謀獲得の新たな動きを見逃すな!

書いてあること

  • 主な読者:会社をさらに成長させるために、頼れる参謀を切望している経営者
  • 課題:参謀には経営者とは異なる視点を持ってほしいが、そうした人材は少ない
  • 解決策:「参謀は内部人材に限らないし、ジョブ型でもいい」という感覚を持つ

1 「参謀2.0」を考える。なぜ、経営者には参謀が必要なのか?

いかに優れた経営者でも1人でできることは限られます。ですから、

経営者には、自身とは違う視点で物事を捉え、時には自身をいさめてくれる「参謀」

が必要です。特に、コロナ禍を経て、経済が再び急速に動き始めた今、攻めるときも守るときも、経営者を支える参謀の存在は頼もしいはずです。

一方、ここ数年で参謀の在り方も変わってきました。例えば、新規事業を立ち上げる際、コアとなる人物(参謀)を業務委託で外部から招聘(しょうへい)するケースがあります。また、金融機関がDX参謀などとして、会社を強力にサポートするケースもあります。これらの動きは、

  • 参謀を内部人材とは限らず、業務委託で外部から招聘できる
  • 一部の分野に特化した「ジョブ型参謀」の組み合わせでもよい

という状況の変化を反映したものです。以降ではこの流れを踏まえて、経営者が参謀を獲得する上で重要な視点を紹介します。

2 「内部×外部」で化学反応を起こす!

参謀は誰にでも務まるものではないため、その選定や育成に時間がかかります。とはいえ、経営者が捻出できる時間には限りがあります。また、経営者が自ら参謀を育成することになれば、参謀の考え方は経営者と似通ってくるので、「異なる視点 で局面を見る」という、参謀にとって重要な条件が満たされにくくなります。

もし、御社が参謀の育成に困っているなら、参謀を「業務委託で外部から招聘する」のも一策です。実際、こうして参謀を獲得し、事業を成功に導いている経営者は数多くいます。とはいえ、単に業務委託として使うだけだと、その参謀との契約期間が終了した後に何も残りません。ですから、社内の参謀候補と外部から招聘した参謀とでチームをつくり、自社の参謀候補に新しい知見を吸収させることが重要です。

これには別の意味もあります。外部から参謀が招聘されると、自社の参謀候補は面白くありません。しかし、外部から招聘した参謀とチームを組ませることで、参謀候補は自身への経営者の期待を再認識できるわけです。

3 「ジョブ型」参謀はすでに存在する

経営者に「経営に必要な能力は?」と質問すれば、おのおのが自身の考えを述べるでしょう。例えば、「人間力」「判断力」「リーダーシップ」などですが、これらは抽象的です。より具体的に掘り下げるにしても、経営者の仕事は多岐にわたり、具体化してみると実に多くの能力を求められていることが分かります。そして、多様な能力が求められるのは、経営者を支える参謀についても同様です。

ただ、何もかもに精通した「オールマイティーな参謀」は、そうそういるものではありません。ですから、考え方を少し変えて「ジョブ型参謀」のチームを意識してみましょう。「DXであればA参謀」「採用教育であればB参謀」といった具合です。例えば、顧問税理士は、税務会計における社外参謀といえますが、DXには明るくないかもしれません。こういう場合は、別の分野で専門的な知見を持つ参謀を獲得し、組み合わせればよいのです。

また、参謀は必ずしも管理職クラス(部長や課長など)である必要はありません。通常の社員の中にも、経営者の目が届かないところ(テレワークなど)で、さまざまなことを学習し、特定分野においては社内の誰よりも知識を持っている人がいます。そうした社員は、自分の得意とする分野において、ジョブ型参謀としての役割を立派に果たしてくれるでしょう。

4 参謀リーダーという考え方

参謀は1人とは限らず、複数人いるケースもあるわけですが、この場合、参謀を束ねる参謀リーダーがいると意見がまとまりやすくなります。この参謀リーダーは、DXや税務会計などに明るくなくてもよく、むしろ「コミュニケーション能力が高く、ある意味で狡猾(こうかつ)に経営者を利用できる器」であることが求められます。例えば、次のような資質を備えた人物は参謀リーダーに向いています。

1)イエスマンにも反対勢力にもならない

参謀リーダーは経営者が好みそうな意見をまとめる「イエスマン」ではありません。さまざまな知見に触れ、経営者に「異見」を提示できる立場である必要があります。ただし、決して経営者を軽んじたり、反対勢力になったりすることはありません。

2)現場(社員)の声を吸い上げる

経営者は現場の社員の声を聞こうとしますが、社員は経営者に率直な意見を言うことをためらいます。特に悪い情報は、経営者の耳に入らないことが多いものです。そこで、参謀リーダーは経営者の目となり耳となって、経営者が把握しにくい社内の声や雰囲気などをつかみ、経営者に伝えなければなりません。特に、経営者に反抗的な社員がいる場合は注意します。

3)経営者の代弁者となる

経営者は、社員にさまざまなことを語りかけます。組織に一体感を与えるために理念を語ることもあれば、新たに講じた施策の内容やその意図を語ることもあるでしょう。しかし、多くの社員にとって、経営者の思いや意図は分かりにくいものです。そこで、参謀リーダーが経営者の代弁者となり、経営者の真の思いや意図を分かりやすく伝えるようにしましょう。

4)経営者をうまく使う

経営者でなければ対処できない課題があります。例えば、重要な交渉が暗礁に乗り上げたときに、経営者が出ていくことで流れを変えられることもあります。常に経営者を頼るというわけではなく、「ここぞ!」というときに、良い意味で経営者を使い、物事をうまく運ぶ器用さが参謀リーダーには求められます。

以上(2024年6月更新)

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画像:pexels

なぜ、多くの企業がESGとSDGsに注目しているのか?/基礎からわかるグリーントランスフォーメーション(GX)#3

こんにちは。レジル総合研究所の北川です。「基礎からわかるグリーントランスフォーメーション(GX)」第3回では、前回に続き国際的な枠組みに焦点を当てたいと思います。取り上げるのは、ニュースでも頻繁に耳にする「ESG」と「SDGs」です。ESGの「E」は環境(Environment)を意味するように、ESGやSDGsはカーボンニュートラルやグリーントランスフォーメーションと深く関連しています。

多くの経営者の方々がこれらの概念の重要性を認識し、経営方針への組み込みを進めています。しかしこれらの枠組みは、概念だけでなく金融の観点から事業経営に直接的な影響も与え始めています。今回は、ESGとSDGsの基礎を改めて振り返りつつ、特に金融機関の動向を踏まえ、それらが事業経営に与える影響について深掘りしていきたいと思います。

(図表1)【ESGとSDGsが及ぼす影響】

ESGとSDGsが及ぼす影響

(出所:筆者作成)

ESGとは?

ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の各英語の頭文字を組み合わせた用語です。これらの3要素は、企業や投資先の持続可能性を評価し、社会的責任を果たすための基準として考えられています。

「環境(Environment)」では、企業や投資先が環境に与える影響を評価します。これには気候変動への対応、エネルギーの効率化、廃棄物管理などが含まれます。

「社会(Social)」では、企業が従業員や顧客、地域社会に与える影響を評価します。労働慣行、労働者の権利、人権問題、地域社会への貢献などが重要視されます。

「企業統治(Governance)」では、企業の組織運営や意思決定プロセスが焦点です。これには透明性、指導体制、コーポレート・ガバナンスの基準への遵守などが関連します。

ESGの起源は20世紀初頭のSRI(Socially Responsible Investment)に遡ります。これは、特定の倫理規範(例えば、キリスト教の価値観)に基づき、特定の産業(武器製造、たばこ、酒類など)への投資を避ける手法でした。2006年、国連がESGに配慮した投資を投資家に対して推奨するガイドライン「PRI(Principles for Responsible Investment:責任投資原則)」を策定し、ESG投資の普及を促しました。

日本では、2015年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がPRIに署名するなど、2010年代よりESGへの関心が高まりました。気候変動、貧困、社会的不平等といった課題が世界的に深刻化する中、ESGは企業の活動、投資、規制、そして社会的価値観においてますます重要な概念となっています。

SDGsとは

SDGs(Sustainable Development Goals)とは、国際連合が2015年に採択した、17の目標と169のターゲットから成る枠組みです。この取り組みは、2030年までに世界中での持続可能な開発を達成することを目的としています。SDGsは、環境、社会、経済など多岐にわたる分野で、持続可能な開発に向けた具体的な目標と指針を設定しており、例えば気候変動に関しては、13番目の目標「気候変動に具体的な対策を」として取り上げています。

さらに、SDGsはESGの「環境(Environment)」や「社会(Social)」の側面と密接にリンクしています。企業や投資家がESGに基づく行動を取ることで、SDGsの目標達成に貢献し、社会的責任を果たすことが期待されています。

(図表2)【SDGs17の目標】

目標1(貧困) あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる。
目標2(飢餓) 飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する。
目標3(保健) あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進する。
目標4(教育) すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を確保し、生涯学習の機会を促進する。
目標5(ジェンダー) ジェンダー平等を達成し、すべての女性及び女児の能力強化を行う。
目標6(水・衛生) すべての人々の水と衛生の利用可能性と持続可能な管理を確保する。
目標7(エネルギー) すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する。
目標8(経済成長と雇用) 包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の安全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する。
目標9(インフラ、産業化、
イノベーション)
強靭(レジリエント)なインフラ構築、包摂的かつ持続可能な産業化の促進及びイノベーションの促進を図る。
目標10(不平等) 各国内及び各国間の不平等を是正する。
目標11(持続可能な都市) 包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する。
目標12(持続可能な生産と
消費)
持続可能な生産消費形態を確保する。
目標13(気候変動) 気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる。
目標14(海洋資源) 持続可能な開発のために海洋・海洋資源を保全し、持続可能な形で利用する。
目標15(陸上資源) 陸域生態系の保護、回復、持続可能な利用の推進、持続可能な森林の経営、砂漠化への対処ならびに土地の劣化の阻止・回復及び生物多様性の損失を阻止する。
目標16(平和) 持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する。
目標17(実施手段) 持続可能な開発のための実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する。

(出所:2030アジェンダ | 国連広報センター

ESG/SDGsの違い

ESGは主に、企業が経営を進める上で重視すべき要素を示します。これには環境、社会、企業統治の各側面が含まれます。一方、SDGsは国連が定めた、世界中で持続可能な開発を目指すための目標です。企業がESGの原則に沿って事業活動を進めることで、結果的にSDGsで定められている目標達成に寄与することができます。そのため、実際には多くの企業がESGとSDGsの両方に注目し、それらをセットで取り組むことが一般的です。

また、国連が策定したPRI(責任投資原則)は、投資家がESGの観点から投資することで、持続可能な社会の実現に貢献するという考え方を示しています。ESGの観点から投資先を選ぶことにより投資家は間接的にSDGsへの貢献が可能となります。

金融界のESG/SDGs対応

ESGは投資分野にとどまらず、金融機関の事業行動全般に影響を及ぼしています。特に、ESGに基づく投融資を通じたSDGsへの貢献は、金融機関にとっての重要な経営テーマとなっています。

これまで個別に取り組んできた金融機関ですが、近年はその動きが統合され、加速しています。具体的には、全国銀行協会(以下、全銀協)が2021年12月に「カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ」を策定しました(2024年3月、これまでの活動内容を振り返り、必要な見直しを行った「カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ2024」を公表)。

(図表3)カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ

カーボンニュートラルの実現に向けた全銀協イニシアティブ

(出所:銀行界における取組み | [全銀協 気候変動特設サイト]産業界と一体となった 脱炭素化の実現に向けて | 一般社団法人 全国銀行協会

このイニシアティブは、気候変動への取り組みを体系化し、中長期的な視点で基本方針や重点分野を定め、銀行界全体の取り組みを強化することを目指しています。また、産業界と一体となった脱炭素化を目指し、全銀協 気候変動特設サイトを作成し、重要な取り組みを共有しています。例えば、特設サイトでは、気候変動の基礎知識や脱炭素経営の必要性、セルフチェックリスト等を含む「脱炭素経営に向けた はじめの一歩」を公開しています。

この特設サイトは、脱炭素化の背景やメリット、具体的な実施方法や事例を分かりやすくまとめており、グリーントランスフォーメーションを経営に取り入れたい企業経営者の方々にとって、貴重な勉強材料となると思います。経営戦略に取り入れたい方は、ぜひ一読ください。

専門家の視点

全銀協の取り組みは、企業がこれらの変化に対応するための有力な指針となりますが、同時に、変化に適応できない場合、資金調達の難しさや条件の厳しさが増すことを意味しています。従って、事業経営を行う上で、これらの動向を無視することはますますできないと思います。

まとめ

本コラムで触れた通り、ESGとSDGsはカーボンニュートラルと深く関連しています。一見遠い話のように思えるかもしれませんが、実は金融分野を通じての各企業の事業活動に大きな影響を与えつつあります。

特に中堅・中小企業にとって、これらの分野の取り組みは難しいかもしれませんが、全銀協でも重点的に取り組むべきテーマと位置づけられており、エンゲージメントの向上や円滑化を目指した様々な取り組みが進行中です。

また、国や行政によるカーボンニュートラルへの取り組みも、企業規模やグローバル展開の有無にかかわらず、加速が求められています。全銀協や環境省の資料には、中堅・中小企業の取り組み事例が掲載されており、これらを参考にすることで、地域や業界における競争優位を構築することも十分可能であると考えます。

次回は、国や行政によるグリーントランスフォーメーションの動きについて触れていきたいと思います。

以上

画像:Mariko Mitsuda

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介護離職を防止する3ステップと復職支援

書いてあること

  • 主な読者:社員の介護離職が心配な経営者
  • 課題:何も対策しないわけにはいかないが、介護はデリケートな問題なので介入しにくい
  • 解決策:介護に直面する前から、相談しやすい雰囲気づくりや支援制度の情報提供に努める

1 仕事を辞めたいわけではない「介護離職」を防止する

介護離職とは、

仕事と家族の介護を両立することが難しくなり、仕事を辞めること

で、1年に約10万人の離職者がいます。特に2025年には「団塊の世代」が75歳を超え、その子供である「団塊ジュニア世代」(40~50代)の介護離職が大幅に増える可能性があります。ただ、介護はデリケートな問題故に、会社側からは積極的に介入しにくいのが悩みどころです。

そこで、大事になってくるのが

社員のほうから会社に相談してもらえるよう、社員が介護に直面する前から準備をする

という考え方です。会社が日ごろから介護について相談しやすい雰囲気づくりや、両立支援に関する情報提供に取り組んでいると、社員に「介護に直面しても仕事を続けられる(または辞めても戻ってこられる)」という安心感を与え、復職につなげられる可能性があるのです。以降で、介護離職を防止する3つのステップと復職支援について紹介していきます。

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2 介護について相談しやすい雰囲気づくり

社員は「介護は家族の問題だから、自分で何とかしなければ……」と考えがちですが、経営者や上司が日ごろから次のようなメッセージを積極的に発信していれば、介護について相談しやすくなります。

  • 介護は誰もが直面する可能性があり、自分だけのことではない
  • 介護を担う社員に対して、仕事と介護の両立を支援するための制度がある
  • 介護休業などの支援制度の利用を理由に、評価が低くなることは決してない
  • 介護をしていることを隠さずに相談してほしい

また、会社は社員の家族構成についても、可能な範囲で把握しておきましょう。一般的に、75歳を超えると要介護状態になる人が多くなるといわれています。社会保険の被扶養者情報などに目を通しておくと、これから介護が必要となりそうな社員がある程度分かるでしょう。

「仕事と介護の両立支援のため」に、社員の家族構成や親の健康状態などを、年2回の個人面談の際に把握しているという例もあります。

■経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン-参考資料集-」■
https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240326003/20240326003.html

3 両立支援に関する情報提供

1)法定の両立支援制度に関する情報

育児・介護休業法には「介護休業」「介護休暇」など、仕事と介護を両立するためのさまざまな支援制度が定められています。例えば、次のような情報を伝えてあげると、社員は「介護をしながら働くこと」を前向きに検討できます。

  • 介護休業は、要介護の家族1人につき通算93日まで、3回を上限に分割取得できる
  • 介護休業を取得した場合、介護休業給付金(雇用保険)が支給されることがある
  • 介護休暇は、要介護の家族1人につき1年に5日間、1日または1時間単位で取得できる
  • 介護の必要がなくなるまで、所定外労働の制限(残業の免除)などが受けられる

2)公的介護保険サービスに関する基礎的な情報

自治体などから提供されている、公的介護保険サービスに関する情報も社員に伝えましょう。

  • 介護について分からないことは、地域包括支援センターの専門家に相談できる
  • 公的介護保険サービスを利用するには、地域包括支援センターか市区町村に申請する
  • 要介護(要支援)認定の申請やケアマネジャーの手配は、地域包括支援センターで行っている
  • 日中の見守りや夜間の緊急対応が受けられるかもしれない

3)会社独自の取り組みや民間の保険サービスに関する情報

テレワークなど、社員が介護をしながら働ける取り組みがあるなら、積極的に周知しましょう。社員が取り組みの存在を知らなかったり、自分は対象にならないと思い込んでいたりするケースは意外と多いものです。

社員本人が40歳(介護保険料を支払う年齢)になったら、社外から講師を招くなどして、公的介護保険サービスについて学べるセミナーを開催するのもよいでしょう。

また、損害保険会社が販売する団体保険で、社員の親が介護状態になると保険金を受け取れる、いわゆる「親の介護による休業補償特約」「親介護一時金支払特約」などの加入を検討してもよいかもしれません。要介護の状態になると、自宅のバリアフリー改修や有料老人ホームへの入居などで、まとまった費用が必要になることが少なくないからです。

4)親族の協力の重要性など踏み込んだ情報

仕事と介護を両立する際、親族の協力があればとても心強いものです。社員によって親族との関係性が違うので一概には言えませんが、次のようなことを伝えるとよいでしょう。

  • 将来の介護を見据え、日ごろから親や親族とコミュニケーションを取ったほうがよい
  • 親の状況(持病、かかりつけ医、親しくしている近所の人など)は親族間で共有する
  • 親の介護保険証や健康保険証の保管場所を確認しておく

4 介護に直面した社員との話し合い

社員が介護に直面した場合、なるべく早い段階で経営者が、「介護を理由に辞めてほしくない。会社として仕事と介護の両立を支援したい」というメッセージを伝えましょう。その上で、今後について話し合い、社員が介護をしながら無理なく仕事を続けられるように支援します。次のようなサポートをすることで、社員の気持ちをつなぎ留めることができるかもしれません。

1.要介護(要支援)認定を取得したか?

取得していなければ、窓口となる地域包括支援センターを紹介します。

2.ケアマネジャーにケアプランを作成してもらったか?

担当のケアマネジャーが分からなければ、窓口となる地域包括支援センターを紹介します。

3.介護をしながら仕事を続ける上で困っていることはないか?

介護休業・介護休暇の取得や、可能であればテレワークを勧めます。

4.仕事や介護の不安・悩みなどはいつでも相談してほしい

不安や悩みを1人で抱え込む必要はないことを伝え、サポートする姿勢を示します。経営者や上司が継続的に見守り、両立が困難な状況に陥っていないか、社員の心身のケアをします。

5 自社への復職を支援する

介護の悩みは、その社員が置かれた状況によって千差万別で、その状況も刻一刻と変化します。場合によっては、介護休業から復職できず、最終的に離職を選択してしまう社員もいるでしょう。ただ、そうした場合であっても、「状況が変わったら、いつでも連絡してほしい」と伝えておくなどすれば、復職の可能性を残すことができます。

離職した社員の状況などにもよりますが、離職後も定期的に連絡を取り続け、様子を確認するとともに、「会社はあなたのことを気にしている」という思いを伝えることも大切かもしれません。知識や技術を持ち、経験を積んだ社員は会社にとって貴重な戦力です。一から教育する必要がない経験者は、たとえ一度は職場を離れても、戻ってきてもらう価値があるでしょう。

以上(2024年5月更新)

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なぜ、「仕事ができない」と思っていた部下が転職先で活躍できるのか?

書いてあること

  • 主な読者:相性の悪い部下がいて、うまくコミュニケーションが取れない上司
  • 課題:仕事なのは分かっているが、「好き嫌い」の問題を突破できない
  • 解決策:自分のやり方にはまらないから「嫌い」という考え方は改める。部下と協力して新しい方法を模索する姿勢を示す

1 上司の「枠」は絶対的な評価基準ではない!

「仕事ができない」と思っていた部下が転職先で活躍している……。割とよくある話ですが、実際に転職先で活躍している人に話を聞いてみると、転職先の雰囲気や仕事内容もそうですが、

転職先の上司との相性が良かったことが大きい

ようです。上司との相性がビジネスパーソンの成長と活躍に大きな影響を及ぼすことに疑いの余地はありませんが、問題は「なぜ、自社ではダメで転職先ではうまくいったのか」です。

相性の問題は「好き嫌い」の問題でもあります。もう少し分解して、

  • 人としての好き嫌い
  • 仕事の進め方の好き嫌い

に整理してみます。人間ですから「人としての好き嫌い」はどうにもならない部分もありますが、文字通り多様性が当たり前になりつつある今、上司にはさまざまな部下を受け入れる器の大きさが求められています。

もう一方の「仕事の進め方の好き嫌い」は、上司の「やり方」にはまるか否かに言い換えられます。かつては、上司のやり方が優れていて、部下のゴールは「上司と同じやり方で仕事を進められるようになること」でした。しかし、今の時代は違い、異質なものを束ねる能力が上司に求められます。にもかかわらず、上司が自分のやり方にはまらない部下を低く評価しているとしたら、その部下が転職先で活躍するのは当然のことです。なぜなら、その部下は、

一般的に能力が足りないわけではなく、上司のやり方と合わなかっただけ

だからです。

上司は、部下への指導の在り方をいま一度、見直す時期に来ています。ここでは、部下をフラットに評価する際に役立つ2つの視点を紹介するので参考にしてください。

2 虫の目・鳥の目・魚の目をバランス良く

ビジネスを進める上で重要な視点を、次のように「虫の目」「鳥の目」「魚の目」に例えることがあります。

  • 虫の目:目の前にある業務を、複眼的に注意深く確認する視点
  • 鳥の目:上から見下ろすように、全体像を俯瞰(ふかん)する視点
  • 魚の目:川や海を泳ぐように、将来のビジネスの方向を予想する視点

自分のやり方にこだわる上司は、何かにつけて「虫の目」の指示を出すことが多いです。しかし、ビジネスにはさまざまな手順があり、上司のやり方だけが正しいわけではありません。例えば、ITを使った業務では、部下のほうが詳しいといったケースもあります。経験に勝る上司と、新しい発想を持つ部下が意見を出し合って、より良い方法を模索する姿勢が求められます。

ただし、これは部下に迎合するということではありません。部下の考え方が正しくないと感じたら、そこはしっかりと指導しましょう。

3 部下の状況把握シートを活用する

部下は日々成長しており、担当する業務の難易度や処理スピードも変わります。上司が部下の状況を把握して、それに応じた指示を伝えれば、部下のレベルアップを図ることができるでしょう。部下の状況を客観的に把握するために役立つのが次の「部下の状況把握シート」です。

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1)横軸は部下の行動レベル

「部下の状況把握シート」の横軸は、部下の行動レベルを示しています。例えば、ある業務内容に対する部下のレベルを「知っている」から「理解している」に引き上げるには、視点の大小や高低、業務の流れを意識した知識をインプットさせます。

また、レベルを「理解している」から「実践している」に引き上げるには、アウトプットの機会をたくさん与えます。例えば、営業担当であれば、顧客訪問に同行させるなどします。

レベルを「実践している」から「応用している」に引き上げるには、上司と部下が成功体験と失敗体験について話し合い、良かった点、悪かった点を整理した上で、次のアウトプットにつなげるようにします。

2)縦軸は部下の状態

「部下の状況把握シート」の縦軸は、部下の状態を示しています。

例えば、部下の行動レベル(横軸)を、「知っている」から「理解している」に引き上げる場合で考えてみましょう。当該業務の経験があったり、それが得意であったりする部下は知識の吸収が速く、少し難しい話をしてもついてくるでしょう。ただ、そうでない部下には、通常よりも丁寧に伝えます。

やる気はどうでしょうか。今、その部下にやる気がありそうなら、新しいことを教えるチャンスです。理解しているレベルから、実践しているレベルに部下を引き上げるための指示を出すのもよいです。

部下の性格を客観的に把握することは難しいですが、「緻密である」や「大ざっぱである」といった傾向は分かります。これに応じて指導のしかたを見直し、指示の伝え方やコミュニケーションの密度を変えてみるとよいでしょう。

以上(2024年6月更新)

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「無期転換」が2024年4月改正で再注目。対象者や転換時期、労働条件の明示などについて改めて確認!

書いてあること

  • 主な読者:契約期間が通算5年を超えそうな有期パート等がいる経営者、人事労務担当者
  • 課題:無期転換に関連する法令改正があるようだが、内容が分からない
  • 解決策:2024年4月1日から、無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」の明示が義務化される

1 【無期転換】10年前に始まった制度が再注目される理由

「無期転換」とは、

同じ会社での契約期間が「通算5年」を超える有期パート等(契約期間の定めがあるパート等)が会社に申し込むと、契約期間の定めのない「無期契約」に転換される制度

です。なお、正社員転換と混同されることがありますが、無期転換は契約期間が無期になるだけで、雇用区分はパート等のままです。ただし、無期転換することで契約更新という概念がなくなるので、雇止めなどはできなくなります。

無期転換制度は今から10年以上も前の2013年4月1日から始まりました。これが改めて注目されているのは、労働基準法施行規則の改正で、

2024年4月1日から、会社は無期転換の対象となる有期パート等に、契約更新のタイミングごとに、無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」を明示する

ことが義務となったからです。この改正を機に、有期パート等からの問い合わせが増えるかもしれないので、おさらいの意味も込めて、無期転換の基本を確認しておきましょう。なお、法令改正についてだけ知りたい人は、第6章をご確認ください。

2 無期転換の対象

無期転換の対象は、

契約期間(同じ会社でのもの)が通算5年を超える有期パート等

です。短時間労働者だけでなく、フルタイムで働く人も対象になります。ただし、

「高度専門職」「継続雇用の高齢者」は一定の場合に対象外

となります(図表1)。

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具体的には、会社が適切な雇用管理に関する計画を作成し、所轄都道府県労働局長の認定を受けている場合、次の期間において無期転換の対象外になります(図表1)。

  • 高度専門職:5年を超える一定の期間内に完了することが予定されている業務に就く期間(上限は10年)
  • 継続雇用の高齢者:定年後引き続き雇用されている期間

なお、高度専門職の場合は、収入要件(1年間当たりの賃金額が1075万円以上)を満たしていることも条件とされています。

3 申し込み時期と転換時期

有期パート等は、契約期間が通算5年を超えることになる有期契約の更新時から無期転換を申し込むことができ、最後の有期契約が満了すると無期契約に転換されます。申し込みは口頭でも問題ありませんが、トラブルを避けるために「無期転換申込書」などの書面を提出してもらうのが無難です(ひな型は第7章の末尾にて紹介)。いずれにしても、会社は無期転換の申し込みを拒否できません。

無期転換の申し込みは、通算5年を超える有期契約の初日から満了日まで有効です。例えば、2019年4月1日から1年ごとに契約を更新している場合、2024年4月1日から1年以内に申し込めば、2025年4月1日から無期契約に転換されます(図表2)。

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また、2021年4月1日から3年ごとに契約を更新している場合、2024年4月1日に契約更新をした時点で通算契約期間は6年となり無期転換の権利が生じることになります。従って、この契約期間内である3年の間に申し込めば、2027年4月1日から無期契約に転換されます(図表3)。

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4 無期転換の申し込みがなかったら?

有期パート等から無期転換の申し込みがなければ、契約は有期のままです。ただし、申し込みは契約更新のたびにできるので、下図の場合、2025年4月1日から1年以内に改めて申し込めば、2026年4月1日から無期契約に転換されます(図表4)。

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5 契約期間に「空白」があると通算されない?

契約期間を通算する場合、契約期間の途中に契約をしていない一定の無契約期間(空白期間)があると、それ以前の契約は通算対象から除外されるというルールがあります(クーリング)。

例えば、無契約期間以前の通算契約期間が1年以上である場合、

契約と契約との間が6カ月以上空くと、通算契約期間のカウントがリセットされる

ため注意が必要です。例えば、2019年4月1日に有期契約を締結後、2020年4月1日から1年間契約が途切れてしまった場合、2021年4月1日から契約期間を通算し直します(図表5)。

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なお、無契約期間以前の通算契約期間が1年未満である場合、その長さに応じて、クーリングに必要となる空白期間の月数が変わってきます

6 【法令改正】有期パート等への明示方法など

会社は、2024年4月1日から無期転換の対象となる有期パート等に対し、次のことを労働条件通知書などで明示しなければなりません。

  • 申込機会:無期転換の申し込みができること
  • 転換後の労働条件:労働条件の変更の有無、転換後の労働条件の一覧または変更箇所

労働条件通知書の「契約期間」「契約更新の基準」の欄の下に「無期転換に関する事項」の欄を追加するイメージです(図表6)。

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「申込機会」については、無期転換を申し込むことができる旨の明示と申し込みをした場合に無期契約に変わる日付(◯年◯月◯日)を明記します。

「転換後の労働条件」については、変更の有無を明らかにした上で、変更がある場合は転換後の労働条件の一覧や変更箇所を「別紙」で示します。

明示は「契約更新のタイミングごと」に行います。例えば、2019年4月1日から1年ごとに契約を更新している場合、2024年4月1日からの契約更新時から1年ごとに繰り返し明示します(図表7)。

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7 就業規則はどう定める?

最後に、パートタイマー就業規則に無期転換の定めをする場合の規定例を紹介します。なお、「就業規則」「パートタイマー就業規則」など、複数の就業規則がある会社では、

有期パート等が無期転換後、どの就業規則が適用されるのか分からなくなる

というトラブルが起きがちなので、就業規則の適用範囲(赤字)についても確認してください。

【規定例】

第○条(適用範囲および均衡待遇)

1)本規則の適用を受ける従業員は、第○条の手続きを経て、会社と期間に定めのある労働契約(以下「有期契約」)を交わした従業員で、1週間の所定労働時間が一般の従業員よりも短い短時間勤務従業員(以下「パートタイマー」)とする。

2)会社は、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」を遵守し、パートタイマーの待遇を就業の実態から判断して決定するものとし、一般の従業員との均衡を図るよう努めるものとする。

3)本規則に規定する「無期転換」によって期間に定めのない労働契約(「以下「無期契約」)に転換したパートタイマーについては、転換後も本規則を適用とする。

第○条(無期転換)

1)契約期間が通算5年を超えるパートタイマーは、別途定める「無期転換申込書」で申し込むことにより、現在締結している有期契約の契約期間の末日の翌日から、無期契約に転換できる。

2)前項の申し込みは、原則として、現在の契約期間が満了する1カ月前までに行うものとする。

3)第1項の通算契約期間は、2013年4月1日以降に開始した有期契約の契約期間を通算するものとし、現在締結している有期契約については、その末日までの期間とする。ただし、労働契約が締結されていない期間が連続して6カ月以上ある場合、それ以前の契約期間は通算契約期間に含めない。なお、労働契約が締結されていない期間以前の通算契約期間が1年未満の場合、当該契約期間の通算の可否については、労働契約法およびその他の関係法令に従うものとする。

4)この規則に定める労働条件は、第1項の規定により無期契約に転換した後も引き続き適用する。ただし、労働条件通知書により別段の定めをした場合は、この限りでない。

5)無期契約に転換したパートタイマーに係る定年は、満60歳とする。ただし、満60歳を超えて無期契約に転換したパートタイマーの定年は満65歳とする。

6)無期契約に転換したパートタイマーで定年を迎えた者が希望し、解雇事由または退職事由に該当しないときは、労働条件通知書により満65歳まで継続雇用する。なお、前項ただし書きのパートタイマーに対する定年後の継続雇用については、都度決定をする。

【無期転換申込書】

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以上(2024年5月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その3は「前向き発想」/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』(10)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
  • 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。

1 昭和生まれの管理職・リーダーだけでなく、30代にも必須の習慣

今シリーズの『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』では、管理職・リーダー側の皆さんがすぐにでも取り組むべき3つの習慣をご紹介しています。

第1回、第2回で取り上げたように、昭和生まれの管理職・リーダー世代と、平成生まれ、とりわけ「Z世代」との価値観に、ここ10年ほどで“真逆”といえるほどのギャップが生まれています。

「自分は一応昭和生まれだけど、まだ30代だから大丈夫」という人も、「自分はぎりぎり平成生まれだから平気」と考えている人も、入社当時を思い出してみてください。10年以上前と現在のビジネス、世界の潮流、IT環境などは劇的に変わっていませんか。

変化の激しい時代には、自分が社内で積み重ねてきたはずのスキルや経験があっという間に使い物にならなくなってしまいます。最近「ソフト老害」という言葉が注目されているように、30代ですら新時代の若い才能の邪魔をしているかもしれません。

昨今の世界のビジネス上の価値観は、「Z世代」の価値観のほうに寄っており、会社の成長を今後も目指すためには現在管理職やリーダーの側の皆さんが、これまでの価値観やコミュニケーション習慣を見直す必要に迫られているのです。

ということで、第3回から第5回までは3つの習慣の1つ目「傾聴」について、第6回から第9回までは2つ目の『褒める』について、今日から始められるレベルでお話ししてきました。

前回第9回では「叱る」についても触れました。

社内や人生の先輩であっても世の中の新たな潮流で知らないことはあるし、スマートフォンやそのアプリなど新しいデバイスにおいては若い世代のほうがずっと詳しく、上司や先輩といえど“教えてもらう”立場にあります。

そもそもお互い同じ大人で同じ社会人である以上、一方的に「叱る」のはおかしい。

必要なら良い所を先に褒めた上で、「注意やアドバイス」をすればいいのです。

むろん社会人1年目から先輩諸氏と同じレベルでできることは少なく、同じ大人、社会人として要望することは厳しい対応かもしれません。が、そこで子ども扱いせずに一人の大人として認めて期待をするからこそ、彼らは自身の長所や良さに対して誇りを失わず、前向きに頑張ろうと思えるのではないでしょうか。

それ自体は、昭和生まれ、一部平成生まれの管理職・リーダー世代が、かつて上司から叱られながらも「なにくそ、自分にだって長所や良さがあるはずだ!」とはい上がってきた経験と重なって見えませんか。ただ時代とともに頑張り方が変わっただけで。

さて今回は、3つ目で最後の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』である「前向き発想」についてお話ししていきます。

2 いつの時代もリーダーには「前向き発想」が求められているけれど…

「前向き発想」自体は別に新しいものではありません。いつの時代もリーダーに求められてきたものではないでしょうか。

リーダーとは文字通り、メンバーをリード=導いていくのが仕事です。会社の掲げるビジョンや与えられた目標に対して、メンバー一人ひとりがやる気を持てて、その個性や能力を存分に発揮できるように導くこと。失敗しても再び立ち上がって頑張れるように導く役割が求められます。

そのためにもリーダーは常に前向きに発想し、やや高い目標に対しても、部下に対して「きっとやれる、一緒に頑張ろう」と鼓舞する必要があります。少しでも早く気持ちを切り換えさせて動き出すことで、自己や組織の成長、次の成功へと近づくことができるのです。

では皆さんに質問です。メンバーが次のような状況のとき、リーダーとしてはどのように声をかけてあげればいいでしょうか。少し考えてみてください。

1)全員で(あるいは個人が)一生懸命頑張ったけれど、目標を達成できなかった

いかがでしょう。リーダーとしては、苦しい今の状態を脱して、一瞬でも早く気持ちを切り換えさせてやりたいでしょうか。実にメンバー想いの発想だと思います。

けれどもいくら鼓舞されても、すぐに切り換えられないメンバーもいるのです。それは目標達成への意欲が強かったメンバーほどそうなのかもしれません。

3 リーダーになった人が忘れがちな、大切なこと

相手が全員トップアスリートであれば、監督(リーダー)は1)の状況の直後に次のように声をかければいいでしょう。

「終わったことは変えられない。我々に落ち込んでいる暇などない。1秒でも早く気持ちを切り換えて、次につなげよう!」と。

しかしながら、トップオブトップのアスリートである日本代表チームにあっても、ベテランと若手では国を背負う覚悟には温度差があると聞きます。何度も悔しい思いを経験してきたベテランは、まさに命がけで臨み、監督と共に敗戦の事実をすぐに受け入れ、冷静に気持ちを切り換えられるようです。

一方で代表に選ばれたばかりの若手は、選ばれたことに浮足立ち、代表として負けた経験も少ない分、結果をすぐには受け入れられないかもしれません。いわんや、皆さんの抱えるメンバーはスポーツの日本代表でもトップアスリートでもないわけです。

ある元日本代表アスリートの奥様がこぼしていました。その方は一般人なのですが、「普段、私がうまくいかないことがあって落ち込んで動けないでいると、旦那はすぐに“切り換え、切り換え、次に行こう!”って急かすんです。気持ちなんてすぐに切り換えられないし、正直言ってしんどいです」と。

「誰もが簡単に気持ちを切り換えられるわけではない」。それが分かっていないリーダーは一人で暴走しがちです。気が付けばメンバーの誰もついていけていないばかりか、みんなすっかり疲弊してしまっています。いつしかあなたに対して「このリーダーにはしんどいだけでついていけない」となっていることでしょう。これではチームとしての成果が上がりようもありません。

とりわけ早くリーダーになった人が陥りがちなのが、この「誰もが簡単に気持ちを切り換えられるわけではない」ことへの無理解です。

早くリーダーになった人はこう考えて生きてきたはずです。「失敗しても落ち込んでいる暇はない、すぐに気持ちを切り換えてライバルに追いつき、追い越すための努力を始めよう」。もっと言えば、「失敗して落ち込んでいる時間など無駄でしかない。勝利への近道は、いかに一瞬で気持ちを切り換えて次に向かえるかなのだ」と。

裏返せば、「誰もが簡単に気持ちを切り換えられるわけではない」からこそ、早く切り換えられた自分だけがその差で勝てたということです。それなのに、自分がリーダーになった途端に今度はメンバー全員に求めているという“矛盾”に気付いていないのです。

確かにスポーツやビジネスの場面では、「失敗しても落ち込んでいる暇はない、すぐに気持ちを切り換えてライバルに追いつくために努力を始めよう」が正解です。けれども人間には人それぞれ個性があり、トップアスリートや一部のリーダーを除いては、「誰もが簡単に気持ちを切り換えられるわけではない」と知るべきです。

勘違いしてはいけないのは、すぐに気持ちを切り換えられない人が人生の弱者というわけではないということ。他人の気持ちに寄り添うことで誰かを救えたり、感受性の強さが生きる場面は人生はもちろん、ビジネスにおいてもたくさんあるのですから。

すぐに切り換えられない人が多いということは、あなたのメンバーの中にもそうした人が多いのかもしれないと思ってください。リーダーであるあなただけが気持ちを切り換えられれば組織がうまく回り、高いパフォーマンスを上げられるわけではないのです。

組織を任されたリーダーにとっての成果は、リーダー個人の成果ではなく、チームの総量であることを忘れてはいけません。

では、1)の「全員で(あるいは個人が)一生懸命頑張ったけれど、目標を達成できなかった」という状況で、リーダーはメンバーに対して、最初にどのように声をかけてあげればいいでしょうか。

例えば、まず「みんな、〇カ月の間、よく頑張ってきた。それなのに達成できなくて悔しいね。本当に悔しいよね」と声をかけてあげましょう。気持ちを受け止め、共有して、しばし振り返りの時間を持つのです。それから次に向かっても遅くないはずです。

「頑張ったのに結果が出なかった」ときに、リーダーが最初にするべきことは「メンバーの今の気持ちをしっかりと受け止める」。それこそが次に向かうための近道なのです。

4 「前向き発想」の言葉は1つじゃない

さて最後に、次の質問を皆さんに投げかけて終了としましょう。メンバーが次のように思っている、あるいは口に出したとき、リーダーとしてはどのように声をかけてあげればいいでしょうか。答えは1つとは限りません。少し考えてみてください。

2)この目標達成は正直言って難しいですね

3)〇〇が邪魔して目標達成できそうにありません

2)も3)も、先ほどの1)と同じように、まずはメンバーの気持ちを想像してあげてください。中には数字だけを見て、最初から達成を諦めている否定的な人もいるでしょう。ですが彼らとて、仕事に前向きではないとは限りません。

また前向きにチャレンジしようとしたものの、やっぱり難しいなと弱気になっているメンバーもいるかもしれません。その辺は、個々に聞いてみないと分かりませんよね。

「前向き発想」の言葉は、どんなケースにおいても1つとは限りません。場面や相手によっても異なりますし、投げかける側の気持ちや発想によっても変わります。だからこそ奥が深いし、面白いのです。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回も『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その3「前向き発想」をテーマに、今回の宿題2)と3)の解説と、さらなる応用スキルをご紹介していきます。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』 https://amzn.asia/d/e8GZwTB

『なぜ社長の話はわかりにくいのか』 https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2024年4月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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画像:PureSolution-Adobe Stock

【朝礼】こだわって「こだわり」を捨てよう

皆さん、おはようございます。今朝は「こだわって『こだわり』を捨てる」ことについてお話しします。

こだわりを持つことは、好意的に受け止められることが多いです。例えば、私たちはライターの仕事に誇りを持っています。ですから、文章の構成や使う言葉にとことんこだわるわけです。このことを他業種の人に話すと、「プロですね!」と称賛もされます。こういうことはプライベートでも同じです。私の知人にお塩にこだわる人がいて、とても貴重な岩塩を使っています。正直、私には味の違いが分かりませんが、岩塩のうんちくを聞くのは苦ではありません。

ということで、こだわりを持つことは大切なのですが、「こだわりは、柔軟性とトレードオフの関係にある」ことは認識しておくべきです。

以前、仕事の進め方に強いこだわりを持つ部下がいました。面倒なことでも率先して取り組むところは素晴らしかったのですが、他人の意見を全く受け付けないところが問題でした。こちらの提案を吟味せず、自分のこだわりを貫きます。結果的にその部下の進め方が間違っていても、それを改善する思考の柔軟性はありませんでした。

もちろん、こだわるからには、それなりの理由があるはずなので、簡単には捨てられないでしょう。しかし、あえて皆さんに提案します。それは、「こだわって『こだわり』を捨てる」ということです。

例えるなら、文章の編集に似ています。私は、3500文字の原稿を編集するとき、3000文字以下にすることを目指します。くどい言い回しや不要な装飾を修正することもしますが、それ以上にこだわるのは、「読者には理解されないであろう筆者のこだわり」を見つけ、丁寧に圧縮することです。引き算をしながら、本当に大切なことを際立たせていくイメージです。

当然、文書をカットされた筆者は面白くないでしょう。しかし、私は編集者として筆者に信頼されているので、議論をすることはありますが、取り返しのつかない衝突をすることはありません。このことから、こだわりをぶつけ合うには、お互いの信頼関係や相手へのリスペクトが前提になることが分かるでしょう。

一方、私と筆者のようにはいかず、こだわりとこだわりが衝突して、一方が去っていくケースもあります。これが、単なる感覚的な好き嫌いの押し付けではなく、プロとプロとの譲れない意見の衝突であるならば、仕方のないことでしょう。

さて、皆さんにもたくさんのこだわりがありますね。そのこだわりは、皆さんの活動のよりどころであり、達成感の源泉でもあるはずですが、いま一度、考えてほしいのです。そのこだわりは、本当に必要ですか。単なる好みの押し付けになってはいませんか。ぜひ、こだわって「こだわり」を捨ててみてください。今よりも身軽になって洗練され、プロとして成長できるはずです。

以上(2024年4月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

交渉に勝ちたければ、映画の脚本のような「交渉シナリオ」を作りなさい〜交渉シナリオのメリットとシナリオ例

書いてあること

  • 主な読者:経営者、その他、ビジネスで交渉する機会のある全ての人。特に交渉初心者
  • 課題:交渉がうまく進められない。交渉にもならない。やるべき用意も分からない
  • 解決策:交渉に臨む際には、事前に「交渉シナリオ」を作ってみよう

1 交渉シナリオを作るべき7つの理由

皆さんは、交渉上手と呼ばれる人の多くが、「交渉シナリオ」を作っていることをご存じですか。交渉シナリオとは、

交渉の流れを想定し、実際に自分が話す予定の言葉を、そのときに込める感情についてまでまとめたもの

です。リアルの交渉では、冷静を保っているつもりでも怒りや落胆など様々な感情が入り交じります。また、相手のリアクションをうまくかわすことができないと、想定外の方向に議論を展開されてしまいます。想定外の議論は、相手が意図的に仕掛けてきていることが多く、そこから脱しないと、相手のペースになってしまいます。

こうした事態を防ぐために作るのが交渉シナリオです。交渉上手の人が、タフな交渉でも動じることなく交渉できるのは、この交渉シナリオを持っているからなのです。交渉シナリオを作る理由は以下の7つです。

  • 交渉の前提としている事項に無理がないか、抜け漏れがないかを確認できる
  • 「話し言葉」で交渉シナリオを作ることで、交渉シーンがイメージしやすくなる
  • 交渉シナリオから逸脱したら、軌道修正が図れる
  • 大事なことを言い損ねることがなくなる
  • 交渉シナリオに無理があると分かったら、交渉を打ち切って出直せる
  • 相手のリアクションに応じて交渉を展開できる。相手が高圧的でも動じずに済む
  • 後から交渉を評価できる。交渉シナリオを部下と共有すれば育成にもなる

交渉シナリオには、相手のリアクションに応じて分岐となる質問も設けます。とても大切なポイントは、何だかんだといっても、相手の主張は、

  • YES
  • NO
  • 決められない(権限がない)

の3つしかないことです。相手は色々と理由を付けてきたり、はっきりと言わなかったりするので分かりにくいですが、結局はこの3つだけです。どうしてもはっきりしなければ、こちらから

これでいいですか(YESですか)? それもと何か違いますか(NOですか)?

と聞けば明らかになります。また、「決められない(権限がない)」という場合、

  • 相手が迷っているなら、こちらの都合のよいほうにする
  • 相手に権限がないなら、交渉を打ち切って、権限者に確認してもらう

という対応を取ります。こうして整理すれば、ある程度、交渉はパターン化できるのです。

2 交渉シナリオの作り方

1)「前提」を確認する

交渉シナリオには「前提」が必要です。それは、

  • 自社はどうしたいか?
  • それを相手に受け入れてもらうには何が必要か?
  • どうなったら交渉は成立するか、または決裂するか?

につきます。「自社はどうしたいか?」と「どうなったら交渉は決裂するか?」の間が交渉余地であり、交渉当事者の選択が生じる部分です。これらを明らかにした上で、交渉を進めるためのシナリオを作成します。

2)分岐となる質問を想定する

仮に最高がプランA、真ん中がプランB、最低がプランCとします。この場合、どういう条件が満たされたらプランAになり、満たされなければプランB以下になるのかをイメージします。分かりやすい例としては、

それは、どなたの意思ですか?

と意思決定権者を確認する質問があります。その結果としては、

  • 事業本部長の決定であれば覆しにくい
  • 担当者の考えであれば覆しやすい

となります。自社にとって好ましくないことでも、それが事業本部長の決定となると覆しにくいので、別の論点で譲歩を引き出します。「値下げは受け入れる代わりに、納期は延ばす」といった具合です。

3)「話し言葉」でシナリオを作る

こうして分岐となる質問と落としどころを決めたら、そこに至るまでの流れを、実際の会話のように書き進めていきます。そうすると、細かな言葉遣いも確認できるようになるので、相手を怒らせないようにしたり、逆に怒らせたりすることが可能になります。

このとき、「和やかに」とか「日頃の感謝を込めて」といったように、こちらの感情もシナリオに加えておくと、実際の交渉のときにこちら側の意図が伝わりやすくなります。チームで交渉に臨むときは、パートナーに、

ここで自分が感謝の気持ちを示すから、一緒に頭を下げるように

と伝えておきます。

なお、こちらの感情を示すのは、相手との不要な衝突を避けたり、想定通りに交渉を進めたりするためです。こちらが感情を込めたからといって、それだけで局面が変わることはありません。いわゆる「泣き落とし」が通じるケースは、本当に限られます。

3 交渉シナリオの例

最後に、交渉シナリオの例をご紹介します。交渉の内容は一つひとつ違います。ご紹介するのはあくまで一例であり、シナリオを分かりやすくするために、前提となる事項などもかなり簡略化している点にご留意ください。この例でイメージをつかみ、自分で交渉シナリオを作ってみましょう!

【交渉シナリオの例】

本交渉の目的(自社はどうしたいか)

相手からの値下げ要請に対して、「値下げを回避する」、もしくは「値下げ幅をこちら側の希望通りにする」こと

今回の交渉相手

担当課長、担当窓口(△△さま、◇◇さま)

交渉プラン

プランA(最高) :相手からの値下げ要請の撤回

プランB(真ん中):相手からの値下げ要請は受けるが、値下げ幅は要請の50%

プランC(最低) :相手からの値下げ要請を、値下げ幅も含めて受ける

ここから交渉シナリオ:感情は緑色ライン、分岐点は黄色ライン

(まずはアイスブレークで和やかに。相手のニュースリリースの話、新社屋の話)

先般、お話しいただいた内容について社内検討をさせていただきました。

基本的な方針は、これからも一緒に協力して法人向けの会員サービスを開発・提供し、お客さまのお役に立っていく、ということで承知しております。とても光栄に思っております。

(ここでしっかり感謝を込める)

今回の主な論点は、

「弊社から御社へのサービスご提供金額について」

だと思っていますが、これは合っていますか?

———-(認識は合っているとして)

まず、これまでの経緯からもお分かりいただけますように、当方も相当な値下げをしてきています。さらなる値下げということになりますが、これは部長さまのご意向でしょうか?(誰の意思なのかを確認)

(相手が)YES:なるほど。承知しました。→シナリオ1へ

(相手が)NO:なるほど。では、△△さま、◇◇さま(担当課長、担当窓口)のお考えということですね。→シナリオ4へ

シナリオ1:部長のご意向の場合

そうですか、分かりました。ところで、部長さまはこれまでの経緯をご存じなのでしょうか?

YES:なるほど。承知しました。→シナリオ2へ

NO:なるほど。ご存じないということですね、承知しました。→シナリオ3へ

シナリオ2:部長のご意向で、部長がこれまでの経緯をご存じの場合(今回はこれが濃厚)

部長さまはこれまでの経緯をご存じの上で、さらに値下げが必要だとお考えなのですね。

ところで部長さまをはじめ皆さまは、現在、このサービスが過去、具体的にはスタート当初の2018年に比べて、どのくらいユーザーが増えたかご存じでしょうか?

YES:そうですよね、当然、ご存じですよね→プランBを提案

御社からは今、値下げ要請をいただいていますが、実際にユーザーがスタートの2018年当時に比べて100倍に増えて、認知度も上がっていることを考えると、むしろ値上げ、増額させていただきたいくらいのお話かと思ったりもします。

(ここは嫌みにならないようにサラリと話す))

ただ、御社内でのご予算というお話も先日ご説明いただきました。致し方のないことで、値下げについてはお受けせざるを得ないと思いますが、その場合、2つお願いがございます。

  • 1つ目は、値下げ幅がご要請の通りでは、かなりきついです……(ここは感情を込めてツラいことを強く訴える)。そこで値下げ幅はご要請の50%くらいでお考えいただけないでしょうか。
  • 2つ目ですが、ユーザー数が増えていて、お客さまからも喜んでいただいているにもかかわらず、当方への値下げ要請となると、御社内での今後のこのサービス自体の立ち位置が心配になります。今まで通り、さらにユーザー数を増やす「攻めの体制」を、しっかりと御社内で改めて確立するお約束をいただけないでしょうか。そのために、私たちも機能や性能を磨くよう一層頑張ります。このサービスそのものが、私たちの誇りでもあるんです!(力強く)

NO:なるほど。それは当方のご説明不足でした。失礼いたしました。→プランAを提案

改めて皆さまにお伝えしますと、2018年からユーザー数は100倍に増えています。100倍です!アンケート結果から、認知度も向上していますし、喜んでいただいていることもよく分かります。これはひとえに皆さまのおかげと感謝しております。ありがとうございます!

(感謝を込めて改めて一礼)

このユーザー数が100倍になっているうれしい状況を、改めて部長さまをはじめ、御社内でご共有いただき、当方へのお支払いもこれまで通り、現状維持ということで、再度ご調整いただけないでしょうか。

その代わり、現状維持というお話をお受けいただきましたら、もっとユーザー数を増やすための企画を一つご提案させていただきます。これでユーザー数を増やして、もっともっと認知度を上げていきましょう!

(力強く)

メモ:部長のご意向なので、相手(今回話しをする窓口担当など)がかなり難色を示すようであれば、プランBも匂わせる。

シナリオ3:部長のご意向で、かつ、部長がこれまでの経緯を知らない場合

→プランAを提案

なるほど。分かりました。それではまず、部長さまにこれまでの経緯(相当値下げしてきている件)をご説明いただき、その上で本当に今、当方の値下げが必要かどうか、改めて御社内でお話ししていただけないでしょうか。

その際は、△△さま、◇◇さまが部長さまにお話ししやすいように、ご協力させていただきます。これまでの経緯と、加えて、ユーザー数が100倍に増えている現状も資料におまとめします。

△△さま、◇◇さまと一緒に頑張ってきたこのサービスを、部長さまはじめ御社内で改めて認めていただいて、盛り上げていきたいです、これからも一緒に頑張りたいです!

(力強く、明るい笑顔で)

シナリオ4:担当課長、担当窓口(△△さま、◇◇さま)のご意向の場合

→さらに話を掘り下げる

そうなのですね。ユーザー数が100倍に増えているこの状況で、お二方から当方に値下げ要請……。

(少し沈黙。考えている間を取る)

この状況ですと、なぜ値下げしなければならないのか分からない、というのが率直なところです。

何か、今まで明らかにしていただいていない理由、ご事情がありますでしょうか? そうしたことも含めて、一度、部長さまも交えてお話させていただけないでしょうか?

メモ:部長と直接話しをすることに相手が難色を示すようだったら、なぜ難しいかを掘り下げる。その上で、こちら側としてはプランAの意向であると伝える。

 ご紹介した【交渉シナリオの例の分岐点】をまとめると下記のようになります。

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以上(2024年4月作成)

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画像:Nuthawut-Adobe Stock