【業務効率化】小口現金を廃止するには?

1 小口現金の管理は非効率

小口現金の管理は、一連の流れで見ると「現金出納帳への記録」「出金の承認手続き」「現金残高の実査」「一定額を下回った際の入金」「経費精算時の領収書の確認」など、煩雑です。

小口現金を廃止すれば、

  • 現金出納帳への記録や現金残高の実査が不要になる
  • ピッタリの金額を渡すために小銭を用意したり、両替に行ったりする手間がなくなる
  • 盗難・紛失や横領・着服など現金特有のリスクが低減する

など、経理担当者の業務負担や、一般社員の経費精算にまつわる業務負担が軽減されます。

2 小口現金を廃止する方法

1)社員が経費を立て替え、立替金の精算は給与とともに振り込む

社員が経費を立て替え、小口現金で精算している場合、

立替金の精算を給与とともに振り込む方法への変更

を検討しましょう。給与とともに振り込むのは、振込手数料の節約のためです。

月給制の場合、経費精算のタイミングが月1回になるので、社員に十分に説明し、理解してもらうことが大切です。例えば、出張などで経費の立替金がかさむ場合は、社員のお財布事情も考慮し、仮払いを併用するとよいかもしれません。

また、給与明細書に経費精算分の項目を設けると、支給内容が明確になります。ただし、経費精算分の金額は、原則として所得税や社会保険料・労働保険料の計算対象に含まれないため、項目を設ける際は、給与計算システムの仕様などを事前に確認しておく必要があります。

2)法人専用クレジットカードを利用する

発行に当たって審査が必要ですが、経費の立て替えが多い社員には、法人専用クレジットカード(法人カード)を持たせるのも1つの方法です。

法人カードは、1契約につき複数枚を発行できます。外出や出張の多い営業担当者や、備品購入などに携わる総務担当者に貸与するとよいでしょう。現金や個人所有のクレジットカードを使って代金を立て替え、経費申請書に購入日や金額などを1件ずつ入力する必要がなくなります。

また、経理担当者は、クレジットカード会社から送付される利用明細で、各社員の購入日、購入品目、支払金額を把握できます。経費申請書の記載ミスをチェックする必要もなくなります。ただし、社員が誤って私用で法人カードを使った場合、返金してもらわなければなりません。本人も認識していないことが多いので、利用明細のチェックには細心の注意を払いましょう。

利用明細をさらに効果的に活用するには、会計システムとの連携が必要です。連携させると、利用明細を手入力で1件ずつ会計システムに登録する手間が省けます。自社の会計ソフトウエアやクラウド型会計サービスが法人カードの利用明細を取り込めるか、事前に確認しておくとよいでしょう。

なお、クレジットカード会社から送付される利用明細は、消費税法に規定する仕入税額控除に係る請求書等(インボイス)には該当しません。仕入税額控除の適用のためには、カード加盟店から受け取った領収書やレシートが必要なので紛失しないように注意しましょう。ECサイトなどで購入した商品についても、領収書をダウンロードして保存しておく必要があります。

3)(法人向け)プリペイドカードを利用する

クレジットカードに比べて手軽なのが、プリペイドカードです。例えば、来客用のお茶などを切らして近所のコンビニエンスストアに買いに行く場合、事前に会社で購入しておいた「QUOカード」を使えば、社員が現金などで代金を立て替えなくて済みます。

経費精算の手間をなくす法人向けプリペイドカードのサービスも登場しています。プリペイドカードのため与信審査が不要で、短期間で導入できる点が特長です。

例えば、次のようなサービスが挙げられます。

■エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ「ビジネスdプリペイド」■

https://www.ntt.com/business/services/business-d-prepaid/

■カンム「バンドルカード」■

https://vandle.jp/

■クラウドキャスト「Stapleカード」■

https://staple.jp/ja/card

■ペイルド「paild」■

https://www.paild.io/

■TOMOWEL Payment Service「Bizプリカ」■

https://bizpreca.jp/

以上(2025年1月更新)

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画像:shisu_ka-shutterstock

【入社1年目の教科書】キャッシュフロー計算書ではプラスとマイナスの組み合わせに注目

書いてあること

  • 主な読者:キャッシュフロー計算書の構造や読む際のポイントが知りたい新入社員
  • 課題:お金の流れを示しているはずだが、投資活動や財務活動などの意味が分からない
  • 解決策:キャッシュフロー計算書は、プラスとマイナスの組み合わせに注目して読む

「キャッシュフロー計算書」はお金の流れを示す大切な財務諸表らしいけど、損益計算書とは全く違うな。それに、損益計算書や貸借対照表に比べるとマイナーなイメージが……。そもそも投資がプラスで財務がプラスって、一体どういう意味? 営業がプラスになっていれば大丈夫なのかな?

1 まずはキャッシュフロー計算書を見てみよう

キャッシュフロー計算書とは、

会社の現金の流れ(キャッシュフロー)を示す財務諸表

です。少し難しく説明すると、損益計算書や貸借対照表では表れないキャッシュの流れを、3つの区分で詳細に示した財務諸表となります。英語では「Cash Flow Statement」と表記されるので、「CS」「C/S」(または、「CF」「C/F」と略されたりします。

また、キャッシュフロー計算書には、

  • 直接法:入金総額から出金総額を引いて営業活動によるキャッシュフローを算出
  • 間接法:税引前当期純利益にキャッシュのズレを生じさせる項目を加減算して、営業活動によるキャッシュフローを算出

がありますが、経理部に配属されたのでなければ、新入社員の皆さんが直接法と間接法の違いを詳しく知る必要はありません。この記事で紹介するのは間接法で、実務でも多く使用されています。

早速、キャッシュフロー計算書を確認してみましょう。

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会社は商品の販売などの営業活動を通じてキャッシュを獲得します。また、借入や株式の発行などの財務活動によってキャッシュを調達します。そして、得られたキャッシュを固定資産の取得などの投資活動に充てます。

この営業活動、投資活動、財務活動ごとにキャッシュの動きをまとめたのがキャッシュフロー計算書です。3つの区分を確認してみましょう。

1.営業活動によるキャッシュフロー(以下「営業CF」)

営業CFは、会社が本業でどれだけキャッシュを獲得したかを示します。営業CFが大きいほど好ましいです。また、ここでは「掛け」についても調整されるので、損益計算書のようなズレはありません。例えば、売掛金はまだお金をもらっていないのでマイナス、買掛金はまだお金を払っていないのでプラスとなります。

2.投資活動によるキャッシュフロー(以下「投資CF」)

投資CFは、固定資産、有価証券の取得・売却などのキャッシュの動きを示します。例えば、設備投資をしたらお金が減るので投資CFはマイナス、逆に設備を売却すればお金が増えるので、投資CFはプラスになります。

3.財務活動によるキャッシュフロー(以下「財務CF」)

財務CFは、借入、返済、増資などの資金調達・返済などのキャッシュの動きを示します。例えば、銀行からの借入を返済すればお金が減るので財務CFはマイナス、逆に借入をすればお金が増えるので、財務CFはプラスになります。

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営業CF、投資CF、財務CFの合計額に、その年度の最初にあった現金を足した金額が、「現金及び現金同等物の期末残高」となり、実際に会社にある現金となります。この残高は、貸借対照表にある現預金の金額と一致します。

次章で、それぞれの項目の意味を説明していきます。説明ばかりで退屈かもしれませんが、全て大切な内容なので、できるだけ覚えてください。

2 キャッシュフロー計算書の項目

1)営業CF

1.税引前当期純利益

税引前当期純利益は、損益計算書の税引前当期純利益と一致します。

2.減価償却費

減価償却費は、損益計算書の販売費・一般管理費に計上されるキャッシュの支出を伴わない費用です。

3.資産及び負債の増減、「その他」による収入及び支出

資産及び負債の増減、「その他」による収入及び支出は、受取手形・売掛金や支払手形・買掛金などの増減、利息や配当金の受け取りと、利息の支払いなどに関するキャッシュの動きを示します。

2)投資CF

1.有形固定資産の取得による支出及び売却による収入

有形固定資産の取得・売却は、有形固定資産の取得による支出及び売却による収入に関するキャッシュの動きを示します。

2.有価証券及び投資有価証券の取得による支出及び売却による収入

有価証券及び投資有価証券の増減は、有価証券及び投資有価証券の取得による支出及び売却による収入に関するキャッシュの動きを示します。

3.貸付金などの増減

貸付金などの増減は、貸し付けやその回収、定期預金の預け入れやその払い戻しなどに関するキャッシュの動きを示します。

3)財務CF

1.短期・長期借入債務の増加による収入

短期・長期借入債務の増加による収入は、借入金の増加に関するキャッシュの動きを示します。

2.短期・長期借入債務の返済による支出

短期・長期借入債務の返済による支出は、借入金の返済に関するキャッシュの動きを示します。

3.自己株式の取得などによる支出

自己株式の取得などによる支出は、自己株式の取得、配当金の支払いなどに関するキャッシュの動きを示します。

4)現金及び現金同等物の増減額

現金及び現金同等物の増減額とは、当期中のキャッシュの増減額です。

5)現金及び現金同等物の期首残高

現金及び現金同等物の期首残高とは、期首時点に会社が保有するキャッシュの残高です。

6)現金及び現金同等物の期末残高

現金及び現金同等物の期末残高とは、期末時点に会社が保有するキャッシュの残高です。

3 3つのCFのプラスとマイナスを把握する!

キャッシュフロー計算書を読む際は、3つのCFのプラスとマイナスの組み合わせを把握することが大切です。

営業CFがプラスなら、本業できちんと稼げているので好ましいです。その上で投資CFがマイナスなら、本業で稼いだ資金で設備投資をしているといえます。この、

営業CFと投資CFを足したものを「フリーキャッシュフロー」

と呼び、これが大きければ好ましいです。また、財務CFがどうなっているかですが、マイナスなら余った資金を返済に回しているのでしょうし、プラスならフリーキャッシュフローだけでは足りない部分を借入で補っているかもしれません。以下で、3つのCFのプラスとマイナスの組み合わせが何を指しているのかについて、一般的な解釈を示しているので参考にしてみてください。

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4 【質問】財務CFはプラスのほうがいい?

最後に皆さんに質問です。

財務CFは、プラスとマイナスのどちらが好ましいですか?

この質問に対する答えは、キャッシュフロー計算書を読む理由や立場によって違います。財務CFには銀行からの借入などがあります。つまり、借入をすれば財務CFはプラスになりますが、その理由が大切です。例えば、

新たなチャレンジのために借入したのか、資金繰りに窮して借入をしたのかによって評価は全く違ってくる

ことになります。ここでは財務CFについて説明しましたが、この考え方は投資CFでも同じです。

「自分は何のためにキャッシュフロー計算書を読むのか?」という目的を持つと、キャッシュフロー計算書の見え方が違ってきます。また、キャッシュフロー計算書に限らず、財務諸表は単年度のものだけでは良しあしを判断することはできません。理想的には、当期、前期、前々期の3期分を比較してみると、状況がより分かりやすくなります。

以上(2024年12月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

ソリューション営業の5つのステップ~食品製造企業の事例付き

1 ソリューション営業を実践できていない営業担当もいる

顧客とコミュニケーションを取り、顧客の課題やニーズを明らかにした上で、それを解決するために商品やサービスなどを提案する「ソリューション営業」は、多くの人が知識として知ってはいますが、それをきちんと営業活動で実践できているかは別問題です。

「本当は顧客の課題をまず明らかにしたほうがいいのだろうな」と思いつつも、とにかく商品やサービスを売ろうとしてしまう。あるいは顧客の課題をどうやって引き出せばいいか、引き出したとしてその課題に対して何をどうやって自分たちの商品やサービスの成約につなげればいいか分からない。そういう営業担当も少なくありません。

そこでこの記事では、「具体的な事例」を挙げつつ、ソリューション営業の手順などを整理してみます。今では、顧客の興味関心をデータで把握した上で営業するインテントセールスなどの手法も出てきていますが、根本的な考え方である「顧客の課題を解決するために提案する」が大事なのは同じです。

2 この記事で紹介するソリューション営業の5つの手順

この記事では、食品製造企業の場合を例に、ソリューション営業の5つの手順を見ていきましょう。事例として取り上げる企業の前提条件は次の通りです。

  • 営業する側のA社は、カレーやパスタソースなどレトルト食品の製造販売をしている企業。食材にこだわった同社の商品は、百貨店やレストランでも使われている
  • しかし、最近は競合他社の攻勢もあり、売り上げが伸び悩んでいる
  • 営業担当が顧客への訪問回数を増やしたが、効果がなかった

売り上げ減少に歯止めをかけたいA社は、顧客のニーズを再確認するために、ソリューション営業の検討を開始します。

ソリューション営業を行う手順としては、

  1. 対象の決定
  2. 情報収集
  3. 情報分析・課題の把握
  4. 提案の立案
  5. プレゼンテーション

の5つのステップが挙げられます。次章以降で、1つずつポイントを解説します。

3 (手順1)対象の決定

まずは顧客の中から、ソリューション営業の対象を決定していきます。

ソリューション営業の対象を決定する際は、「ポジショニングマップ」を利用すると対象を絞り込みやすくなります。A社のポジショニングマップは図表1のように、取引実績を縦軸、成長性を横軸とし、業種別に顧客を配置する形としました。

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最も重要な取引先はスーパーですが、「取引実績、成長性がともに高い」ので、この場合は現状維持でも問題ありません。一方、このポジショニングマップでは、百貨店と喫茶店は成長性が見込めません。そして、レストランは成長性がある期待の分野ですが、取引実績は低調です。そこで、A社はレストラン部門をテコ入れすることにしました。

なお、ターゲットとする対象が多い場合は、その対象だけのポジションマップ(例:レストランだけのポジショニングマップ)を作成し、さらに絞り込む必要があります。

また、図表1のポジショニングマップには取り込んでいませんが、「取引実績のない見込み客」についても検討するのが理想的です。見込み客の中に、今後の大きな成長が期待できる先が見つかるかもしれないからです。

4 (手順2)情報収集

顧客の選定と並行し、顧客の外部環境と内部環境の情報も収集していきます。この際、

  • 外部環境:顧客を取り囲む環境。法改正、規制緩和、業界動向、顧客の競合、店舗前の道路工事など
  • 内部環境:顧客が有する経営資源。経営者、経営理念、組織体制、経営計画、収益や採用の動向など

の2つの側面から情報を集めましょう。

A社の場合、取引先のレストランXについて、次の情報を収集しました。

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情報収集の方法としては、営業担当者、雑誌・新聞、インターネット、社外の調査機関などが考えられます。A社の場合、競合店の売り上げ状況は信用調査会社の情報を利用し、接客態度やメニューはA社の営業担当が客として訪れることで把握しました。

インターネット上にない情報を収集するためには、A社のように社外の調査機関を利用したり、自社人員の足で情報を手に入れたりすることなども一考に値します。

5 (手順3)課題の把握

次に、収集した情報を分析し、顧客で発生していると思われる課題を把握していきます。

集めてきた情報だけではなく、時にはそれを基にして

直接顧客と話し、関係性を築きながら課題を洗い出し、把握すること

も、ソリューション営業の大事なポイントです。

一例として紹介すると、レストランXからA社への発注が減っているのは、レストランXの売り上げが減少しているからでした。そして、レストランXが苦戦している理由の一つは、「レストランXがこれまで開催してきたフェアの中止」でした。

レストランXはかつて、季節ごとに「カレーフェア」「パスタフェア」などを開催しており、フェア中の集客は上々でした。しかしフェアに合わせた新メニューの考案や、スタッフの対応が負担になることから、フェアの開催を諦めていたのです。

レストランXの店長もフェアの中止によって売り上げが減少したことを認識していますが、利益率の低さとスタッフへの負担の大きさから、フェアの復活は難しいと考えているようです。

そこでA社は、これらの課題を解決しつつ、フェアを復活できるプランを提案することを決めました。

6 (手順4)提案の立案

顧客の課題を把握したら、それを解決に導くと同時に、自社の商品を採用してもらえる提案を考えていきます。

仮に、自社だけでは顧客の課題を解決できない場合は、他社との提携を検討します。「自社と顧客」だけではなく、「自社、自社の競合、自社の顧客、自社の顧客の顧客、自社の顧客の競合」といった広い視点を持ちましょう。

A社の場合、レストランXに対して、フェアに関するパッケージサービスの提供を立案しました。A社の立案した提案内容の概要は次の通りです。

  1. フェアのメニューは、A社がレトルト食品として提供する
  2. レトルト食品のレシピは、A社とレストランXのシェフが相談して決定する
  3. フェアの店内POPの案はA社が作成するなど、以前はスタッフが対応していた部分にも協力する
  4. A社は同業のB社、C社と提携し、多様なレトルト食品を提供する。窓口はA社に一本化する

この取り組みでレストランXの業務の効率化を図るとともに、フェアの収益を改善することがA社の狙いです。

7 (手順5)プレゼンテーション

提案内容が決まったら、いよいよ顧客にプレゼンテーション(プレゼン)を行います。

プレゼンをする際のポイントの一つとしては、数字を交えること

が挙げられます。また、プレゼンでは、顧客にとってどのようなメリット(魅力的な点)があるか、それを伝えることも大事です。

そこでA社は、レストランXへのプレゼンで、

  • A社を窓口としてレストランXがB社、C社から商品を購入した場合の料金
  • レストランXが、直接B社、C社から商品を購入した場合の料金

の比較を示しました。

A社を通したほうが若干料金は高くなるものの、レストランXは、総合的な支援が盛り込まれているA社の提案内容を高く評価し、A社は見事、レストランXとの新たな取引を開始することとなりました。

顧客へのプレゼンの手法に関しては、こちらのコンテンツで詳しく解説していますので、お役立ていただけますと幸いです。

8 フォローアップで継続的な取引を獲得する

ソリューション営業に限ったことではありませんが、営業活動は成約したら終わりではありません。継続的な取引となるよう、自社の提案について、フォローアップをし続けることが大切です。

A社を例に挙げると、具体的には、

  • フェア中の売り上げや実際の反応などを分析し、適宜発見した課題に柔軟に対応する
  • 今回のフェアの結果や課題を入れ込んで、次回開催に向けての提案を用意する

ことなどが考えられるでしょう。

営業担当のソリューション営業を全社的にサポートすることができれば、ソリューション営業の効果は高まります。ソリューション営業が成功したら、実現した事例を他のケースに展開させるなど、他の営業担当が参考にできるナレッジとして定着させていきましょう。

以上(2025年2月更新)

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画像:bebe-Adobe Stock

【業務効率化】議事録の作成を効率化するには?

1 議事録の作成に長い時間を費やすのは非効率

議事録の作成は会議につきものですが、そもそもの目的は、決まったこと/決まっていないことについて、関係者が共通認識を持ち、次に取るべきアクションをはっきりさせることです。

議事録の作成に長い時間を費やすのは非効率です。会議終了後に手書きのメモを書き起こす属人的な作業はやめて、

  • ツールやサービスを上手に活用する
  • 記載すべき事項・フォーマットを事前に決めておく

ことで議事録の作成を効率化し、情報を抜け漏れなくタイムリーに共有しましょう。

2 議事録の作成に便利なツールやサービスは?

1)オンラインで共同編集可能なドキュメントを活用する

GoogleやMicrosoftなどが提供する、オンラインで共同編集が可能なドキュメントを活用してみましょう。参加者とドキュメントを共有すれば、会議を進めながら議事録を作成できます。参加者も自分のパソコンでリアルタイムに議事録を確認、修正できます。

例えば、次のようなサービスがあります。

■Google ドキュメント■

https://www.google.com/intl/ja_jp/docs/about/

■Microsoft OneNote■

https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-365/onenote/digital-note-taking-app/

■Dropbox Paper■

https://www.dropbox.com/paper/start

■Evernote■

https://evernote.com/ja-jp

2)Web会議システムのチャット機能を活用する

ZoomなどのWeb会議システムを使って会議を行う場合は、チャット機能を活用して、会議を進めながら同時に議事録を作成するのも一つの手です。議事録の作成担当者がチャットに議事内容を随時書き込んでいくことで、情報を共有できます。

参加者同士のコミュニケーションチャットと区別できるように、議事内容は[ ]でくくるなどの工夫をすれば、チャットをテキストとして保存し、[ ]でくくった部分を抽出することで議事録を効率的に作成できます。

例えば、次のようなサービスがあります。

■Zoom■

https://www.zoom.com/ja/products/virtual-meetings/

■Microsoft Teams■

https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-teams/group-chat-software

■Google Meet■

https://workspace.google.com/intl/ja/products/meet/

■Cisco Webex■

https://www.webex.com/ja/index.html

■Amazon Chime■

https://aws.amazon.com/jp/chime/

3)議事録自動作成ツール・サービスを活用する

議事録自動作成ツール・サービスは、音声データを自動でテキストに変換してくれるものです。AI(人工知能)を活用し、サービスによっては単に音声をテキスト化するだけではなく、テキスト化した内容から、「いつまでに何をする」といったタスクや、重要なキーワードを自動抽出する機能を持つものもあります。

なるべく雑音が入らないように、個室の会議室を使ったり、特定方向の音声だけを拾う指向性マイクを使ったりすることで、音声認識の精度が向上し、間違いの少ないテキストが出来上がります。

例えば、次のようなものがあります。

■エピックベース「スマート書記」■

https://www.smartshoki.com/

■Hmcomm「ZMeeting」■

https://zmeeting.hmcom.co.jp/

■Rimo「RIMO Voice」■

https://rimo.app/about/voice

■Shamrock Records「UDトーク」■

https://udtalk.jp/

■Notta「Notta」■

https://www.notta.ai/

3 便利なツールやサービス 比較のポイントは?

1)使いやすさ

本格導入した際に使いこなせるかどうかがポイントです。トライアル期間が設けられているツールやサービスも多いため、直感的に操作できるか、機能が多く複雑過ぎないかなど、使い勝手を確認しましょう。

2)セキュリティー

情報漏洩対策がしっかり取られているかがポイントです。不正アクセスやマルウエアへの感染対策はもとより、特に議事録自動作成ツール・サービスであれば、提供側のAIの学習データとして自社の音声データが利用され第三者に流出しないかなどを事前に確認しましょう。

3)音声認識の精度

議事録自動作成ツール・サービスでは、意図した通りに音声がテキストに変換されるかがポイントです。他社の導入実績などを公表しているツール・サービスも多いです。

AIのモデルや学習データにもよりますが、「ハルシネーション」にも注意が必要です。ハルシネーションとは、AIが事実とは異なる情報や、実際には存在しない情報を生成する現象です。

4 「分かりやすい議事録」を作成するためのポイントは?

1)記載すべき事項・フォーマットを統一する

議事録は会社または部署によってフォーマットが決まっている場合が多いかもしれませんが、記載すべき事項はほぼ同じです。

・会議名/日時/場所

どのような会議が、いつ、どこで行われたのか簡潔に記します。

・参加者

誰が参加していたかを記します。記載順は役職上位者からで、議事録作成者は自分の名前を末尾に記します。敬称を記載しない場合は、(敬称略)と記しておきます。

・決定事項/タスク

決まったこと、するべきことを簡潔に記します。抜け漏れがないように注意しましょう。特に数値目標や締め切り期日など、具体的な数字で示した場合、数字を漏れなく記します。

・要点整理

論点ごとにポイントを整理します。「5W1H(2H):誰が、いつ、どこで、なにを、なぜ、どのように(いくらで)」を意識してまとめるとよいでしょう。

「だ・である調」で統一したほうが、「です・ます調」よりもすっきりした印象になります。西暦/和暦、時刻の12時間表記/24時間表記なども統一しておくとよいでしょう。また、次回開催の予定が決まっていれば、その日程を、未定であれば追って連絡する旨を記しましょう。

2)自分の言葉で説明を補足する

参加者の発言の意図をねじ曲げてはいけませんが、そうかといって全てを忠実にテキストに再現する必要もありません。議事録作成者が自分の言葉で内容を整理したり、説明を補足したりします。

そのためには、事前に議題に関係すると思われる情報をインプットしておくことが必要です。また、専門用語や略語などで、どうしても分からない言葉が出てきたときは、会議の雰囲気にもよりますが「念のため確認させていただきたいのですが……」と、その場で確認してしまうとよいでしょう。

以上(2025年1月更新)

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画像:Golubovy-shutterstock

【業務効率化】業務マニュアル運用を成功させる秘訣は「経営者の思い」を共有すること

1 業務マニュアルは定期的に見直しましょう

作業手順を明確にしたり、業務の品質を均一化したりするために作られる業務マニュアルですが、一度作ったきりで見直しをしていないと、形骸化や硬直化が起こりがちです。

例えば、現場の社員の臨機応変な判断が必要なシーンは多々ありますが、現場の判断が優先されすぎると、やがてマニュアルを無視した行動が当たり前になってしまうかもしれません。

一方、現場の社員が「業務マニュアルには必ず従わなければ……」と思い込むと、逆に画一的な対応しかできずにクレームにつながるなど、かえって非効率になってしまう危険もあります。

この記事では、作成した業務マニュアルを運用していくときのポイントを紹介します。

業務マニュアルの形骸化と硬直化をどちらも防ぐために重要なのは、

業務マニュアルの根底にある「経営者の思い」を社員に共有すること

です。どのようにしていけばよいのか探っていきましょう。

2 「経営者の思い」をしっかり伝える

例えば、接客マニュアルを作成するのは、

お客様への感謝の気持ちをきちんと伝えたい

といった経営者の思いがあるからです。マニュアルに「笑顔を絶やさず、相手にきちんと伝わる声の大きさで『ありがとうございました』と言いましょう」と示したとしても、

「ありがとうございました」というのは、感謝の気持ちを伝える1つの手段であり、そのこと自体が目的ではない

ということになります。ここで大切なのは、

マニュアルを作成するのは、お客様に感謝の気持ちをきちんと伝えられていないから

という、根底にある経営者の思いを共有することです。これができていないと、

ロボットのように「ありがとうございました」と言う社員が出てくる

など、マニュアル運用でよくある問題が生じることになります。

非常に単純な例ですが、経営者はマニュアル作成の根底にある思いを社員に丁寧に伝え続けなければなりません。繰り返しになりますが、これがマニュアル運用を成功させる秘訣です。

3 マニュアルのエバンジェリストを任命する

経営者の思いを伝えるといっても、経営者の意図を深く理解できる社員は限られるので、

社員に近い立場から、マニュアルに込めた思いとともに、その遂行を広める「エバンジェリスト」を任命

しましょう。エバンジェリストは「伝道者」という意味で、マニュアルの大切さを社員に伝える役割です。また、マニュアルの目的や意図を理解していることはもちろん、社内でマニュアルがどう使われているのかの実態や、社内のマニュアルに対する不満などについても吸い上げて、改善につなげていくことが求められます。

マニュアルの周知徹底には時間がかかりますが、エバンジェリストがうまく機能すれば、

社内にマニュアルが定着するだけではなく、有意義な改善提案も出てくる

ようになるでしょう。

4 マニュアルの改善も忘れずに

ここまで経営者の思いを伝えることの大切さをご紹介してきましたが、もちろんマニュアル自体の分かりやすさは不可欠です。また、社員が自分たちもマニュアルの運用に携わっているという意識を持ってもらう工夫も必要です。

そこで、事業所や店舗などのグループに分けて、グループ対抗でマニュアルの改善や活用例に関するコンテストを開催するなどしてみましょう。また、グループウエア上に、マニュアルについての掲示板を設けて、全員がマニュアルに関する改善点などを書き込めるようにしておくのも1つの方法です。

以上(2025年1月更新)

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画像:pixabay

イベントレポート 地域の中堅・中核企業支援プラットフォーム事業 初年度報告会 2025/2/12開催

2025年2月12日水曜日。東京大手町にて、経済産業省(経産省)主催のイベント、

地域の中堅・中核企業支援プラットフォーム事業「初年度報告会」 全国シンポジウム&ネットワーキング

が開催されました(運営事務局はPwCコンサルティング合同会社)。この報告会イベントは、今回が初開催となります。

地域の中堅・中核企業支援プラットフォーム事業は、経産省主導で今年度(2024年度)スタートしました。全国の中堅・中核企業(以降では「中堅企業」)のさらなる成長のため、新事業展開などを支援する地域型・テーマ型のプラットフォームを立ち上げた、というものです(注)。

(注)中堅企業とは、中小企業を除く従業員2000人以下の企業。改正産業競争力強化法で定義。

地域型のプラットフォームは北海道から沖縄までの14、テーマ型は医療や繊維、半導体・デジタルなど7、合計して21のプラットフォームが立ち上がっています。各プラットフォームでは、コンサルティング会社や一般財団法人、地域金融機関などがプラットフォーム運営者となり、支援する側の団体・企業が一緒になって、支援される側の中堅企業を人脈面、技術面、資金面などから支援していきます。いわば、「産学官金&民間の超現場感のあるエコシステム」があり、中堅企業への実践的な伴走支援を続けているイメージです。

今回のイベントは、全国各地で中堅企業の支援をしているプラットフォーム事業者がその成果を報告し合う初の試みなので、主催側、運営事務局、ご登壇者、そして参加者側も気合十分。老若男女問わず、参加者も多く(定員は150名)、注目度の高さが伺えるスタートとなりました。

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開会あいさつ(経産省)やプラットフォーム事業の概要説明では、「現在、経産省はじめ関係省庁を挙げて中堅企業支援を充実させようとしている」「プラットフォームの立ち上げは、地域の中堅企業を支援するために必要な人的・技術的ネットワークを厚くしようという意味がある」といった話が出ました。今後の地域経済の発展、ひいては日本全体のために、中堅企業のさらなる成長が注目されていることが分かります。まだ年度途中ですが、現状、プラットフォーム事業の成果として、84社もの中堅企業が新事業展開などの計画を作成したということです。

また、プラットフォームにおける中堅企業支援者などへのヒアリングに基づいて、「中堅企業の新事業展開に必要な3つの変革」として、次の3点が挙げられていました。

思考の変革、組織の変革、技術の変革

この3つの変革を実現するには、やはり中堅企業単体では難しいところがあるので、支援するネットワークが重要になるというお話。プラットフォームの意義が具体的にイメージできました。

また、次の5つのプラットフォーム運営事業者が、取り組み事例の発表を行いました。

  • 地域型プラットフォーム

首都圏エリア:株式会社みらいリレーションズ
甲信越エリア:インターウォーズ株式会社
中部エリア:株式会社百五総合研究所

  • テーマ型プラットフォーム

医療・福祉・健康分野:認定特定非営利活動法人経営支援NPOクラブ
繊維分野:一般財団法人浅間リサーチエクステンションセンター(AREC)

取り組み事例としては、全国的に認知度の高いお菓子をつくっているメーカーが、県を代表するお土産づくりにチャレンジするために、プラットフォームのイントレプレナープログラムで学びつつ、人脈や生成AIなども活用して具体的なプロジェクトに取り組んでいる事例などもありました。

あるいは、製造業の中堅企業が「特に最近強化されている欧州のサステナブルニーズへの対応」「自社技術、商品力の用途開発」という2つの課題があることが分かり、解決するためにプラットフォームの人脈や技術的知見などを活用した事例。こうした事例が発表され、参加者は具体的な話に聞き入っていました。

印象的な話の一つとしては、繊維分野のプラットフォームの事例が挙げられます。ある中堅企業の課題解決を進めていく中で、新しい用途開発の観点から、その中堅企業を医療分野のプラットフォームの支援機関に紹介した事例もありました。地域別・分野別のプラットフォームではありますが、プラットフォーム同士の横の繋がりから、連携して支援していくケースもあるということがよく分かりました。これも、実践的な支援の好例といえます。

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後半のトークセッションも、随所に面白い話が飛び出して参加者が大いに惹きつけられました。地域の中堅企業と、プラットフォーム運営者と、中堅・中小企業支援に長年携わってきたコンサルティング会社とが、中堅企業の成長や改善の実例などについてトークセッションを繰り広げたので、現場感のある話が満載。耳の痛い話もあり、共感する話もあり、いろいろでした。

老舗の中堅企業が、なぜ今、改めて自分たちのブランドを立ち上げたのか、どのように収益を上げたのか。新規事業を軌道に乗せるには何が必要だったのか。大事なのは『人』。組織の中で、現状と課題を受け止め、改革の必要性を認識し、行動につなげられるか。認識して行動できる仕組みをどうやって実現していくか。このあたりがとても重要、というお話が出ました。

ひいては、なぜ今、新規事業が必要なのか。なぜ今、この改革が必要なのか。単に「とりあえず新規事業をやってみよう」ではなく、この先の企業の「あるべき姿」を描いて、中堅企業の経営者や経営陣が自分たち自身で考え行動に移していくことが肝要、ということが、このトークセッションで強く伝わってきました(とても具体的な話がたくさん出たのですが、具体的すぎましたのでここでは割愛しています)。

  • トークセッションのご登壇者

シナノケンシ株式会社 代表取締役社長 金子行宏 氏
ヤマモリ株式会社 常務執行役員 前田博文 氏
株式会社北海道共創パートナーズ 代表取締役社長 岩崎俊一郎 氏
PwCコンサルティング合同会社 パートナー 大橋歩 氏
名商大ビジネススクール教授 慶應義塾大学名誉教授 磯辺剛彦 氏(モデレータ)

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参加者はトークセッションにも感銘を受けたようで、登壇者との名刺交換の列は長く続き、なかなか終わりませんでした。そして、次の交流会もかなりの大盛況。あちこちで中堅企業支援の具体的な事例の情報交換や意見交換が行われていました。

地域の経済発展、そして日本の成長には、地域の中核を担う中堅企業の発展と躍進が必要で、今、中堅企業支援の輪が全国各地で広がっていること、これからもっと広がっていくことが肌で感じられる報告会でした。大注目の中堅企業支援、これからも目が離せないと思います。

プラットフォームのウェブサイトはこちら。事例やイベント情報などが確認できます。
https://chiiki.platform.go.jp/

以上(2025年2月14日)

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【入社1年目の教科書】貸借対照表で大切なのは5つの箱とその大きさ

書いてあること

  • 主な読者:貸借対照表の構造や読む際のポイントが知りたい新入社員
  • 課題:とにかく難しい言葉がたくさん並んでいて、全く読む気が起きない
  • 解決策:貸借対照表は、「負債と資産」「流動と固定」のバランスに注目して読む

損益計算書はわりと分かりやすかったけど、「貸借対照表」は本当に苦手……。科目が多くて、似たような名前だから区別できない。どれが一番大事なのか、印を付けてくれればいいのに。それに、貸借対照表は必ず左右の金額が一致している。これって偶然? それともわざわざ合わせているのかな?

1 まずは貸借対照表を見てみよう

貸借対照表とは、

会社がどのようにお金を調達し、それを何に使っているかを示す財務諸表

です。少し難しく説明すると、ある時点(通常は決算日。企業によって異なります)の会社の「財政状態」を示した財務諸表となります。英語では「Balance Sheet」と表記されるので、「BS」「B/S」と略されたりします。

早速、貸借対照表を確認してみましょう。

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貸借対照表の右側と左側は、

  • 右側:お金をどのように持ってきたのか(資金調達状況)
  • 左側:持ってきたお金を何に使ったのか(資金運用状況)

を示します。この左右の内容をさらに細かく見ると、次のようになります。

  • 右側の上「負債の部」:銀行からの借入など。他人資本とも呼ばれる
  • 右側の下「純資産の部」:株主の出資金やこれまでの利益など。自己資本とも呼ばれる
  • 左側の「資産の部」:現預金や土地など

次の分かりやすい図で、貸借対照表の構造を確認してみましょう。右側から左側に、調達したお金が使われているイメージがよく分かりますね。

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2 貸借対照表は5つの箱で考える

貸借対照表の右側と左側の説明は前述した通りですが、

右側の負債と左側の資産は、それぞれ「流動」と「固定」とに分類

されます。流動と固定の区別は「正常営業循環基準」と「1年基準」によって行われます。正常営業循環基準とは、

「現金→仕入れ→商品→販売→売り上げ→現金」という営業サイクル

です。この営業サイクルの中で発生する資産・負債を「流動」として表示します。次が1年基準です。正常営業循環基準で流動とならないものでも、

決算日の翌日から1年以内に現金化や返済期限がある資産・負債は「流動」

に区分されます。

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そして、貸借対照表を読む際は、

流動資産、固定資産、流動負債、固定負債、純資産

の5つの箱のバランスを見ることがとても大切です。簡単に示すと次のようになります。

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どれが大きくて、どれが小さければよいかというのは貸借対照表を読む理由や立場によって違ってきますが、個々の数字の大小よりも、5つの箱のバランスを見るようにしてください。

次章で、それぞれの項目の意味を説明していきます。説明ばかりで退屈かもしれませんが、全て大切な内容なので、できるだけ覚えてください。

3 貸借対照表の項目

1)資産の部

1.流動資産

流動資産は、現金・預金、受取手形、売掛金、棚卸資産など、営業サイクルの中で発生する資産または決算日の翌日から1年以内に現金化される資産です。

2.固定資産

固定資産は、建物・構築物・付属設備、特許権など、営業サイクルの中で発生する資産で、なおかつ決算日の翌日から1年以内に現金化されない資産です。

a.有形固定資産

有形固定資産は、固定資産のうち、建物・構築物・付属設備、土地など、有形の財産として会社が保有する資産です。

b.無形固定資産

無形固定資産は、固定資産のうち、特許権、借地権など、無形の財産として会社が保有する資産です。

c.投資その他の資産

投資その他の資産は、関係会社株式、出資金、長期貸付金など、本業以外の投資活動のために保有する資産です。

3.繰延資産

繰延資産は、創立費、開業費、株式交付費など既に発生した費用のうち、現在から将来にわたって効果が見込まれるために、経過的に貸借対照表に記載される資産です。

2)負債の部

1.流動負債

流動負債は、支払手形、買掛金など、前述の基準で流動負債に分類される負債です。

2.固定負債

固定負債は、社債、長期借入金など、前述の基準で固定負債に分類される負債です。

3)純資産の部

1.株主資本

株主資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金など、返済の必要性のない資金です。

2.その他の純資産

その他の純資産は、株主資本以外の時価評価に伴うその他有価証券評価差額金、新株予約権などです。

4 細かな数字よりもバランスを見る!

貸借対照表を読む際は、個別の項目よりも、

流動資産と固定資産、資産と負債、負債と純資産のバランス

を見ることで、会社の状況が分かりやすくなります。例えば、流動資産よりも流動負債が大きければ、資金繰りに窮している恐れがあります。また、一般的には、負債よりも純資産が大きく、純資産で固定資産を賄えている形が理想的です。

ちなみに、損益計算書では分からなかった「掛け」については、貸借対照表の流動資産の「売掛金」、流動負債の「買掛金」で分かります。それぞれの大きさはもちろんですが、それ以上に決済の後先が資金繰りに大きな影響を及ぼすことを忘れないでください。先にお金が入れば、支払いが楽になります。逆に、先に支払いがくると資金繰りが厳しくなるということです。

5 【質問】どちらが大きいほうがいい?

最後に皆さんに質問です。

流動と固定は、どちらが大きいほうが好ましいですか?

この質問に対する答えは、貸借対照表を読む理由や立場によって違います。例えば、銀行からの借入は、返済期間が1年以内なら流動負債、1年超なら固定負債となります。考えるべきは、

長期(返済期間が1年超)のほうが資金は安定するが金利は高くなり、短期の場合は逆になる

ということです。会社の資金繰りや借りたい資金の種類(運転資金や設備資金)によって、好ましい借入は変わってくるのです。

「自分は何のために貸借対照表を読むのか?」という目的を持つと、貸借対照表の見え方が違ってきます。また、貸借対照表に限らず、財務諸表は単年度のものだけでは良し悪しを判断することはできません。理想的には、当期、前期、前々期の3期分を比較してみると、状況がより分かりやすくなります。

以上(2024年12月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

「花粉症」が経営を圧迫? 治療法やおすすめの福利厚生を紹介

1 「花粉症」の売上損失は社員1人当たり約3万~8万円

春の訪れとともに気になる「花粉症」。「またこの季節がやってきたか……」と憂鬱になる人も多いでしょう。花粉症とは、

鼻腔(びこう)内に入った植物の花粉(スギなど)に対して起こるアレルギー反応のこと

です。鼻水、くしゃみ、目のかゆみやごろごろとした違和感など、さまざまな症状が仕事への集中を妨げます。

花粉症の患者数は年々増加しており、今や日本人の約2人に1人が花粉症だといわれます。2025年春の花粉飛散予測では、飛散量は広い範囲で例年より多く、四国・近畿は例年の2倍以上の所もあるとされています(日本気象協会「2025年春の花粉症予測(第3報)」)。

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花粉症は身近なだけに軽く考えがちですが、実はそうでもありません。花粉症による経済活動の損失額は、1日当たり約2215億円に及ぶという推計(パナソニック「社会人の花粉症に関する調査(2020年)」)があり、これを基に試算すると、

社員1人当たりの売上損失は、1シーズンで3万2400円~8万1000円

になるのです。

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いかがでしょう。花粉症が会社の経営を圧迫しかねない重大なリスクであることがお分かりいただけると思います。この記事では、花粉症に詳しい現職の産業医が、花粉症の原因、症状や治療法、会社としてできる対策などについてお伝えします。

2 花粉症の主な原因と症状、治療法

1)花粉症の主な原因と症状

花粉症は前述した通り、植物の花粉が原因となり、くしゃみや鼻水などのアレルギー症状を引き起こす病気です。

広く知られているのは「スギ」や「ヒノキ」の花粉によるもので、どちらも関東における花粉のピークは、2~5月ごろです。ただ、実は「イネ科」や「ブタクサ属」などを含めると、

花粉症の原因となる花粉は60種類を超え、春だけでなく1年を通して注意が必要

です。季節の変わり目に風邪のような症状で寝込んでいた人が、後になって「実は花粉症だった」と判明するケースもあります。

花粉症の特徴は、症状の重篤さや症状の表れ方の幅が広いことで、主な困りごととしては次のようなものがあります。

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花粉症は、放っておいて自然に治るものではなく、適切な治療が必要な病気です。花粉の飛散初期から医師の診察を受けるなど早めの対処が重要です。

2)花粉症に対する治療法の例

花粉症に対する治療法の例としては、次のようなものがあります。

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鼻水・鼻づまりやくしゃみなどの症状が出て、「あれ、もしかして花粉症かな」と思った人は、とりあえず市販の内服薬や点眼薬を試すことが多いと思います。また、耳鼻科では、内服薬や点眼薬、点鼻薬などの投薬の他、レーザー治療や舌下免疫療法を行うケースがあります。

なお、薬によっては眠くなるものもありますし、ぜん息などの持病やすでに飲んでいる薬の有無によって、適切な治療法はそれぞれ異なります。副作用やリスクについて医師と相談しながら適切な行動をとってください。

1.内服薬

花粉症の内服薬には、市販薬と処方薬とがあります。目・鼻の症状だけでなく頭痛やのどの痛みなど重めの症状がある人は、症状に特化した処方薬の方が効果を実感しやすいでしょう。

2.点眼薬

点眼薬は、抗アレルギー薬やステロイド系のものがあります。これらはいずれも症状を和らげる対症療法です。使用することで眠気が生じる薬もありますので、生活スタイルに合ったものを選んでください。

3.レーザー治療

レーザー治療は、鼻の粘膜にレーザーを照射し、アレルギー反応を鈍くさせる治療法です。年間を通じて症状があり、鼻づまりの症状がひどい人、薬物治療で効果が出なかった人、妊娠中などで薬を服用できない人などにおすすめです。痛みや出血はほとんどなく、治療自体は10分程度と短時間で行えます。ただ、粘膜は再生するため、効果が持続するのは1~2年ほどです。

4.舌下免疫療法

舌下免疫療法は花粉症を根本的に治すことを目的とした治療法です。アレルギーの原因物質を少しずつ体内に吸収させていくことで、アレルギー反応を弱めていきます。スギ花粉であれば、スギ花粉が飛んでいない時期から始める必要があり、治療期間は3~5年と長くなります。

3 花粉症への対策ポイント

1)会社が実施する花粉症対策、おすすめは「オンライン診療」

多くの人を悩ませ、日常生活から仕事のクオリティまで、あらゆることに影響をもたらす花粉症。花粉症の影響をできるだけ取り除き、社員のパフォーマンスを維持・向上させるためには何をすればいいのでしょうか。

会社が実施する花粉症対策の例としては、次のようなものがあります。

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例えば、オフィスに花粉吸引機能のある空気清浄機を設置したら「花粉症の症状が楽になった」という事例はよく聞きます。定期的な清掃を徹底する他、飛散ピーク時に在宅勤務を推奨して対応するケースもあります。他にもさまざまな例がありますが、特におすすめしたいのは、

福利厚生としてオンライン診療を導入すること(会社が費用補助)

です。これは、スマホなどで医師の診察を受けて、薬(抗アレルギー薬、点眼薬、点鼻薬など)を処方してもらうことができるサービスで、忙しくてなかなか通院できない人も継続的に服用している花粉症の薬がもらえる上、時短にもなり便利です。

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花粉症患者にとって、病院に行く時間がなく、花粉症の薬を切らしてしまうのは死活問題です。また、何とか病院に行く時間を作れても、

病院が混雑し、院内で長い待ち時間を過ごさなければならない

というケースが多々あります。この点から見ると、スマホ1台で完結でき、無駄な待ち時間がないオンライン診療は非常に魅力的です。会社が福利厚生としてオンライン診療の費用を補助する制度を設ければ、忙しい社員も気軽に利用できますし、実際こうした福利厚生の導入を検討する会社は増えてきています。

2)セルフケアでは、目と鼻を守ることが重要

個人で行う花粉症対策(セルフケア)では、

とにかく目と鼻に花粉を付着させないことが重要

です。花粉の飛散が多い時は窓を開けないこと、こまめに拭き掃除をすること、帰宅時には入室前に衣類や髪をよく払うこと、など自分でできる花粉症対策はたくさんあります。

足のツボを押したり、ルイボスティーやコーヒーなどのお茶を飲んだりするのも、つらい症状を和らげるのに有効です。また、処方薬が必要な場合、シーズン前からある程度予測を立て、ひどくなる前にかかりつけ医から薬を入手できるよう、スケジュール調整をしておきましょう。

本来、飛散が多い時は外出を控えられるとよいのですが、会社の業種や職種によっては難しい場合もありますから、日ごろから花粉の飛散情報を収集し、規則正しい生活を送るよう心がけましょう。そして自分の体調の変化に気づき、少しでもよいコンディションを保てるセルフケアを選んでください。

以上(2025年2月更新)
(執筆 株式会社フェアワーク 吉田健一)
https://fairwork.jp/

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画像:aijiro-shutterstock

【朝礼】理想を貫くなら、理想に付き合う人を大切にしなさい

【ポイント】

  • 新井白石は、悪政を正し、自分の理想を実現しようと全力で政治改革に取り組んだ
  • しかし、自分の理想と相いれない人間に対して厳しく、次第に孤立してしまった
  • 理想を貫くには、理想に付き合う人を大切にする必要がある

おはようございます。私は日ごろから、皆さんに「理想を貫くことから逃げてはいけない」と話しています。せっかく掲げた目標を「実現が難しそうだから」と途中で投げ出したり、自分が正しいと思ったことを「周りの反感を買いたくないから」と曲げたりすることはしないでほしいという意味です。この思いは今も変わりませんが、一方でもう一つ皆さんに覚えておいてほしいことがあります。それは「理想を貫くために、周囲をないがしろにしていいわけではない」ということです。

皆さんは、江戸時代中期に活躍した新井白石(あらいはくせき)をご存じでしょうか。徳川幕府の6代将軍・家宣(いえのぶ)、7代将軍・家継(いえつぐ)の下で「正徳(しょうとく)の治」と呼ばれる政治改革を実施した人物です。

白石の行った取り組みで有名なものとしては、例えば5代将軍・綱吉(つなよし)の時代に出された「生類憐(しょうるいあわれ)みの令」の廃止が挙げられます。動物愛護のための法令ではあるものの、「違反した人間に対する処罰が厳しすぎる」という点が問題視されていて、これを廃止したのです。他にも、幕府の財政が悪化する中で発行された、金の含有量を減らした質の悪い貨幣を、「通貨に対する信用が失われる」という理由で元の品質に戻すなどの取り組みも実施しています。

さまざまな面から悪政を正し、正徳の治は一定の成果を上げましたが、一方で白石には、自分の理想と相いれない人間を強く敵視する一面があったようです。自分の理想を追い求めるあまり、政策に反対する他の幕臣たちの声に耳を傾けなかったため、白石は次第に孤立し、8代将軍・吉宗(よしむね)の時代には、政治から失脚してしまいます。

政治でもビジネスでも、周囲の顔色ばかりうかがっていては、いつまでも物事は前に進みません。そうした意味で、白石のように全力で理想を貫こうとする姿勢は大切です。一方で、政治もビジネスも、一人ではできません。自分の理想に賛同して一緒に手を動かしてくれる人がいるからこそ、物事は前に進んでいくのです。自分が「これが正しい」と思うなら、ただそれを主張するのではなく、どうすればその理想に人が付いてくるかをよく考えなければなりません。理想を貫くには、理想に付き合う人を大切にする必要があるのです。

以上(2025年2月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

営業戦略策定に使える!マーケティング分析の手引き

1 「マーケティング分析」を用いて営業戦略を見直してみよう

営業活動は、会社の業績を支える重要な業務です。そして営業戦略は、

営業活動の方向性を定め、営業活動の指針となるもの

です。しかし現実的には、この戦略策定が曖昧なまま営業活動を行っている企業も多いのではないでしょうか。例えば、

  • 「目標売上金額○億円(対前年度比10%増)」といった業績目標はあるものの、それを実現するための道筋(戦略)が不明瞭である
  • 営業戦略はあるものの、前年度の内容を踏襲したもので、市場環境の変化などを踏まえておらず実態に合っていない

といった具合です。

営業部門が効果的に営業活動に取り組み、成果を上げていくためには、しっかりと練られた営業戦略が不可欠です。そして、

効果的な営業戦略を策定するためには、自社を取り巻く環境や現在の状況を整理し、明文化する、「マーケティング分析」が何より大切

です。以降で、営業戦略策定に役立つマーケティング分析の方法を紹介します。

2 顧客・製品・環境のマーケティング分析

営業戦略を策定する際の第一歩は、外部環境や内部環境についてしっかりとマーケティング分析を行うことから始まります。

ここでは、こうした点を検討する際に利用できる主な分析手法などを紹介していきます。

1)顧客に関する分析

顧客層を分析する方法はさまざまありますが、よく知られているものとして、

  1. ターゲットセグメンテーション分析
  2. パレート分析

があります。

1.ターゲットセグメンテーション分析

ターゲットセグメンテーション分析とは、市場を特定の基準に基づいて細分化し、それぞれの集団の特徴を分析する方法です。市場を細分化する際には、

「各集団が同質的なニーズを有する」「各集団間はニーズが異なる」ようにするのが基本

です。

市場を細分化する際は、次のように、比較的情報を入手しやすい基準を使うことから始めてみるとよいでしょう。

  • (個人向け市場の場合)年齢、性別、学歴、職業、所得水準、居住地など
  • (法人向け市場の場合)業種、所在地、企業規模(売上金額、従業員数、資本金)など

2.パレート分析

ある成果について、全体のうち少数の要素(人や商品など)がその成果の多くに貢献することを、「パレートの法則」と呼びます。分かりやすく店舗で例えると、2割の顧客による売上金額が、売上金額全体の8割を占めている、といった具合です。

そしてパレート分析とは、売上金額や利益額、そして累計売上比率などに基づいて、既存顧客の会社への貢献度を分析する方法です。先述の「パレートの法則」と同じように、少数の優良顧客が売上金額などの大半を占めているケースがよく見られます。そこで、パレート分析を行うことで、顧客の貢献度合いや会社にとっての重要度を分析し、可視化することができます。

例えば、図表1では、「自社売上金額の大部分を占める顧客」をグループA、「Aへのランクアップを視野に営業する顧客」をグループB、「自社としては積極的な営業を控え、継続して情報を発信する顧客」をグループCに区分しています。

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なお、パレート分析は、必ずしも図表1のようにABCの3つのグループに分ける必要はありません。各社の実情に応じてグループを増やしたりして分析するのもよいでしょう。

2)製品に関する分析

自社製品の可能性を分析するために役立つ分析方法の1つがPPM(Product Portfolio Management)です。PPMとは、自社製品を「相対的シェア」と「市場の成長率」の2つの軸に基づいて自社製品の可能性を整理し、経営資源をどう振り分ければよいかを4象限で示したものです。PPMの概念は図表2の通りです。

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PPMでは「市場の成長率」と「相対的シェア」を軸に、製品を「問題児」「花形」「金のなる木」「負け犬」に分類しますが、この4つのパターンは製品の“誕生”から“死滅”へのプロセス(プロダクトライフサイクル)にもたとえられます。つまり、

  1. 「問題児」として登場
  2. 「花形」に成長
  3. 「金のなる木」に成長
  4. 「負け犬」となって消えていく

という考え方です。

そのため、PPMにのっとって基本的な経営資源の配分を考えると、「金のなる木」で得た資金を「花形」や将来性の見込める「問題児」に投資し、育成していくことになります。そして、花形への移行を見込めない一部の「問題児」や「負け犬」からは撤退を考えます。

ただし、実際には「負け犬」になりかけている製品のテコ入れを行ったり、リニューアルをしたりして、再び他の象限に該当するような製品になるケースもあります。そのため、基本的な経営資源の配分の考え方をベースにしつつ、自社の方針などを踏まえて、各製品の位置付けを検討することになるでしょう。

3)外部環境・内部環境の分析

外部環境や内部環境を分析する最もポピュラーな方法が、SWOT分析です。SWOT分析は、自社の内部環境を強み(Strength)と弱み(Weaknesses)、外部環境を機会(Opportunities)と脅威(Threat)に分けて分析します。SWOT分析の視点は、図表3の通りです。

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SWOT分析の結果に基づく戦略策定の基本方針は図表の通りですが、いずれにせよ

「強みをいかにして活かすか」という点を重視して考える

ことが大切です。弱みに対する相応の対処は必要ですが、弱みは経営者の考え方、組織上の問題などが複雑に絡み合っていて、簡単には改善できないケースが多く見られます。ですから、強みを活かすほうが、営業活動を効果的に行える可能性が高いといえます。

なお、他の環境分析手法には次のようなものがありますので、状況に応じて活用を検討してみるといいでしょう。

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3 営業目標と2種類の戦略を定める

分析が済んだら、早速目標や戦略を定めていきます。

具体的な営業戦略の内容はさまざまですが、主な要素を整理すると次のようになります。

  1. 営業目標
  2. 営業目標を達成するための市場戦略(以下「市場戦略」)
  3. 営業活動を支えるための内部戦略(以下「内部戦略」)

以降で、それぞれの要素について解説します。

1)営業目標

「営業目標」とは、1年間の営業活動を通じて達成すべき目標です。営業上の目標というと、「目標売上金額○億円(対前年度比●%増)」といった業績目標が思い浮かびますが、売上金額以外の目標設定も忘れてはいけません。

例えば、「営業担当者の育成」「営業情報の共有化による組織のレベルアップ」など、業績目標とは直接的な関連が薄いものであっても、営業力を強化するためになど解決すべき課題があれば、営業目標として設定しましょう。

2)市場戦略

「市場戦略」とは、営業目標を達成するための外部に対する戦略です。具体的には、

「どの顧客に」「どの製品を」「どのようにして」販売していくのか

といった観点があげられます。マーケティング戦略であれば、「○○地域の法人をターゲットに、A製品を重点的に販売する」といったように、「市場=一定のマス」として説明されることが多いですが、市場戦略では「より具体的な形にする」必要があります。

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例えば、○○地域の法人をさらにセグメント化しその中で優先順位を付け、営業目標を達成するためにいつまでに何をすべきか、といった点まで落とし込むと、営業部門が実際に活動する際の指針として、市場戦略が効果的にはたらくでしょう。

3)内部戦略

「内部戦略」とは、営業活動を支える社内に関する戦略のことです。例えば、組織体制や業務フローの見直し、営業担当者の確保・育成などといった営業力強化のための社内における取り組みなどが該当します。

これらの営業戦略は、営業部門のみで全てを決定できるものではありません。また、経営戦略をはじめ企業活動を規定するその他の戦略などとの整合性もとれている必要があります。実際にはこうした整合性を確認しながら、

「営業戦略を策定し、その他の戦略や企業活動にも反映させていく」→「その他の戦略や企業活動の内容を踏まえて、営業戦略の内容を見直す」

ことを繰り返し、最適な戦略を練っていくことになります。

次章では、この3種類の目標と戦略をどのように策定していくかを解説・紹介していきます。

4 分析結果を戦略に反映させるには?

各種分析結果を基にして、より説得力ある、そして実現性の高い戦略を策定することができます。

戦略の策定に際して、前述したような手法で行った分析結果を活用する最大のメリットは、過去の延長線上の営業戦略から脱却できるという点

にあります。以降では、効果的な営業戦略を策定する際のポイントを紹介します。

1)戦略の階層

まず、実効性のある営業戦略を策定する際には、「営業目標」「基本方針」「個別戦略」「アクションプラン」の4つの階層に分けて考えるのが基本です。営業戦略のイメージ(市場戦略)は図表6の通りです。

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内容は企業ごとに異なりますが、まず「営業目標」の下に営業戦略の方向性を示す「基本方針」を策定します。この基本方針を実現するための取り組みが個別戦略です。個別戦略は、地域別、顧客層別、製品別など、複数の戦略を策定するのが一般的です。

そして、個別戦略において具体的に実行すべき事項を整理したのがアクションプランです。上図のアクションプランは簡略化していますが、実際には「誰が」「いつまでに」「何をするのか」といった点が分かるように決めておきます。例えば、「ターゲットのリスト化と担当割を△チームが4月中に行う」といったように、できる限り目標を具体的に定めておくことが大切です。

内部戦略についても同様に、4つの階層に分けて考えるのが基本となります。具体的には図表7のようなイメージです。

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内部戦略については特に、社内のさまざまな部門との調整が必要になります。各部署と連携しつつ、目標を達成するために必要な戦略を整えていきましょう。

2)戦略を策定する際の注意点

まず、営業戦略を策定する際には、例えば「新規顧客の開拓」といった1つの方向性の営業戦略のみを検討するのではなく、新たな成長の可能性を探るため、複数の方向性を検討してみるのもひとつの手です。

そして内部戦略は一見、すぐには目に見える結果につながらないように思えますが、将来的な成長には欠かせない要素です。策定する際は、何より各部署との整合性を図り、慎重に作り上げていくことが重要です。

また、営業戦略と内部戦略どちらも共通して、

戦略とは「やらないことを決めること」

でもあります。営業目標を達成するためには、多くのことに取り組んだほうがよいことは確かですが、優先順位付けを行うことも不可欠です。関係部署と議論を重ねつつ、取捨選択を重ね、最良の営業戦略を選択することが望ましいでしょう。

小回りの利く中小企業の場合は、営業戦略の見直しなどを比較的容易に行うことができ、これは規模の大きな企業には真似できない利点です。営業戦略の進捗状況や成果を常に注視して臨機応変に営業戦略を見直し、自社の成長に役立てていきましょう。

以上(2025年2月更新)

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画像:apinan-Adobe Stock