4兆ドルの衝撃! AI時代の王者エヌビディアが映す企業の地殻変動

2025年7月、米国半導体大手エヌビディアの株価が時価総額4兆ドルの壁を超えたニュースは、テック業界のみならず世界経済全体に衝撃を与えました。この記録は、同社がAIインフラの王者として、新たな世界秩序を築きつつあることを示しています。

かつて2000年の時点で世界を牽引していたのは、ゼネラル・エレクトリック(GE)やインテル、エクソンモービルといった旧来の産業・金融大手でした。特にインテルは、PC時代のCPUを独占し、テクノロジーの「心臓部」としての地位を確立していました。

しかし、2007年のiPhoneの登場、翌2008年のリーマン・ショックが、すべてを変えました。GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)はモバイルとクラウドの波に乗り、インターフェースとサービスの領域で支配的な地位を築きました。ここではデータ、ネットワーク効果、ユーザー体験が価値創造の中心となり、GAFAが市場価値を急伸させたのです。

ところが今、新たな地殻変動が起きています。それがAIとエヌビディアです。生成AIや大規模言語モデルの普及に伴い、GAFAすらも再び「インフラ」への依存を強めています。AIは、従来のCPUでは処理が困難であり、並列計算に優れたGPUが不可欠です。エヌビディアは、この需要を10年以上前から見越し、CUDAという開発プラットフォームを整備してきました。

CUDAは、単なるGPUドライバではなく、AI開発における事実上の標準インフラです。多くの開発者、研究機関がこれに対応したコードを書いており、他社への乗り換えは事実上困難です。これは、かつてマイクロソフトのWindowsがアプリ開発者を囲い込んだ構造と似ており、強力な競争優位性を形づくっています。

さらに忘れてはならないのが、台湾の半導体メーカーTSMCの存在です。エヌビディアの最先端GPUは、TSMCの3nm(ナノメートル)以下の製造プロセスなくしては成立しません。エヌビディアは設計、TSMCは製造という水平分業が、半導体を巡るグローバルな力学を決定づけているのです。この構造の中で、かつての巨人インテルは設計と製造を一体で保ち続けた結果、柔軟性を失い競争力を落としました。

2025年現在の時価総額ランキングは、エヌビディア、マイクロソフト、アップル、アマゾン、アルファベット(グーグル)といった米国企業が独占しています。その中でTSMCやブロードコムといった半導体プレーヤーも存在感を増しており、もはや経済の中核は「計算能力」そのものへと移っています。

この構図は、単なる一時の流行ではなく、構造的変化です。情報処理の高度化が進むなかで、計算基盤(コンピュート・サブストレート)を握る者が、価値の中枢を支配するようになったのです。

インテルが築いたCPU時代、GAFAが築いたクラウドとエコシステムの時代、そして今、エヌビディアとTSMCが中心となる「AIインフラの時代」。この歴史の流れを正確に理解することが、未来を切り拓く鍵となるでしょう。

在留外国人人口の増減率の推移

(注)このアニメーションGIFは、イメージを分かりやすく伝えるために生成AIによって作成したものですので、実際の数字等については各企業のHP等でご確認ください。

以上(2025年7月作成)

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「社会保険の適用拡大」、いよいよ全ての会社が対象に?

2025年6月13日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(年金制度改正法)」が国会で成立し、「社会保険の適用拡大」がさらに推し進められることになりました。

社会保険の適用拡大とは、

社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入するパート等の範囲が拡大されること

です。また、ここでいう「パート等」とは、

週の所定労働時間または月の所定労働日数が、正社員の4分の3未満の短時間労働者

です。本来、パート等は社会保険の適用対象外ですが、会社が厚生年金の被保険者数について一定の要件を満たし、さらにパート等が労働時間や賃金について一定の要件を満たすと、社会保険に強制加入となるのです。

現状は、会社とパート等が図表の1.から5.までの要件を全て満たすと、パート等が社会保険に加入するルールになっていますが、年金制度改正法によって、図表の赤字部分「1.厚生年金保険の被保険者数」「3.賃金」にメスが入ることになりました。

パート等の被保険者要件

「1.厚生年金保険の被保険者数」については、現状は常時50人超の被保険者を雇用する会社が対象になっていますが、

10年かけて段階的に縮小・撤廃され、2035年10月以降は全ての会社が対象になる

ことになりました。

厚生年金保険の被保険者数

「3.賃金」については現状、月額8.8万円以上の賃金要件が定められていますが、

年金制度改正法の公布日(2025年6月20日)から3年以内に、この賃金要件は撤廃される

ことになりました。

賃金

この他、個人事業所の適用対象の拡大なども予定されているので、厚生労働省ウェブサイトで確認しておきましょう。

■厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00021.html

社会保険の適用拡大によって、社内では社会保険料の負担を確認する必要が出てくる他、

  • 対象となるパート等に、社会保険料の天引きが発生する旨を説明する
  • パート等が希望する場合、労働条件の見直しを検討する

などの実務が発生します。次のコンテンツで、具体的な実務の内容などを紹介しているので、興味のある方はぜひご確認ください。

以上(2025年7月作成)

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【事業承継】 弁護士が教える。事業承継で種類株式を活用するメリットと実務

1 事業承継に種類株式を活用する3つのメリット

種類株式とは、

一般的な株式と権利が異なる株式

のことで、次の9種類があります。

種類株式の種類

これらをうまく活用することで安定して事業承継を進めることができます。中小企業の事業承継でよく活用されるのは、

  • 3号:議決権制限株式
  • 5号:取得請求権付株式
  • 6号:取得条項付株式
  • 8号:拒否権付株式

です。具体的な効果は次の通りです。

  • 株式を後継者に贈与した後も、現社長が経営権を持ち続けられる(議決権制限株式、拒否権付株式を活用)
  • 将来の株式分散を防止しつつ、後継者候補に株式を保有させられる(取得条項付株式)
  • 社長の遺族が相続した場合、相続税の資金を捻出できる(取得請求権付株式)

1)株式を後継者に贈与した後も、現社長が経営権を持ち続けるができる

将来の株価上昇が予想される場合、早い時期に株式を後継者に渡した方が税務上有利です。とはいえ、後継者がまだ若いなどの理由で、株式は渡せても、経営は任せられないケースがあります。

このようなケースで場合に活用できるのが議決権制限株式です。例えば、社長が100%の株式を保有している状態から後継者に90%の株式を渡すと、通常、会社の支配権を渡すことになります。

株式贈与後の支配関係

これでは困るので、議決権制限株式を活用し、後継者に渡す全株式を無議決権株式にすれば、

後継者は90%の株式を所有するが、株主総会で議決権は行使できない

状態になります。後継者は議決権を行使できないので、X社の株主総会を開催する際に後継者を招集する必要もありません。

また、拒否権付株式を活用して、完全には経営権を渡さずに後継者に株式を渡すこともできます。後継者に渡す株式ではなく、社長が保有する株式を拒否権付株式に変更すると、

事前に取り決めた重要項目については、株主総会だけでは決定できない

状態にすることができます。

2)将来の株式分散を防止しつつ、後継者候補に株式を保有させられる

後継者候補の役員に、「経営者の立場から業務に従事して欲しい」という思いから株式を保有させるケースがあります。しかし、何も対策をしていないと、役員が退任・退職したときに株式を会社に戻してもらえない事態に陥ります。

例えば、資本金が1000万円、純資産が1億円の会社が、役員に10%の株式を100万円で保有させたとします。10年後、その会社の純資産が10億円に増加したら、役員が保有している株式の価値も1億円(純資産が10億円の会社の10%の権利)に増加します。そして、役員が退任・退職する際、100万円で保有させた株式を1億円で買い戻すことになります。これでは資金繰りが大変ですし、買い戻しができなければ株式が分散してしまいます。

このようなケースで活用できるのが取得条項付株式です。取得条項付株式であれば、

一定の事由が生じた場合には、会社が強制的に株主から株式を買い戻す

ことができます。

例えば、役員が退任・退職する場合には、X社が株式を一定の金額で強制的に買い戻すことができるように定めます。こうして買い戻した株式を、次の世代の役員に保有させることで、株式を循環して保有する仕組みを作ることもできます。

役員に株式を保有させた場合の支配関係

3)社長の遺族が相続した場合、相続税の資金を捻出できる

非上場会社における事業承継の課題は、

社長が死亡(急逝)したときに、その遺族が納税資金の確保に苦労する

ことです。通常、非上場会社の株式の買い手はいません。遺族が相続した株式を会社に買い取って欲しいと要望しても、会社も社長の死亡で混乱していたり、買取資金が確保できなかったりという理由から、これに応じられないケースがあります。

このようなケースで活用できるのが取得請求権付株式です。この株式は、

株主が会社に株式の買い取りを請求する

ことができるので、遺族は相続税の納税資金を確保しやすくなります。

なお、会社から株式の買取資金を受け取る場合、配当金を受け取ったとみなされ(みなし配当)、その他の所得と合算して総合課税となります。ただし、相続により株式を取得した場合、相続後3年10カ月の期間内に会社に株式を買い取らせると、

みなし配当の特例(会社から受け取る譲渡代金を20%の譲渡所得税で精算できる)

が活用できます。さらに、納税した相続税については株式の譲渡所得を計算する際に経費にできます。その結果、株式を会社に買い取らせる際に家族にかかる所得税の実効税率は10%半ばほどになるケースもあり、非常に有利な税率で会社の資金を相続人に移転することができます。

2 種類株式の発行手続き

種類株式の発行については、

  • 新たに種類株式を発行する場合
  • 既存の株式を種類株式に変更する場合

といったケースがあるので以下で説明します。なお、いずれの場合も、種類株式の種類や会社の組織形態によって定款の変更内容や決議項目などの詳細が異なります。そのため、実施の際は弁護士など専門家に相談しながら進めましょう。

1)新たに種類株式を発行する場合

新たに種類株式を発行する場合は、定款の変更(種類株式の発行に関する一定の項目を追加・変更する)に関する株主総会での特別決議が必要です。株主総会の特別決議とは、株主の議決権の50%超(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を保有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要な決議です。

種類株式を発行するための基本的な手続きは次の通りです。

  • 株主総会の招集
  • 株主総会の特別決議(取得条項付株式の場合は、株主全員の同意が必要)にて、定款の変更を決定
  • 株主総会の特別決議にて、株式発行に係る募集要項の決定
  • 募集要項などの通知
  • 申込者の中から、割り当てる者と株式数などを決定
  • 募集株式を割り当てられた者の引き受けと、株式金額の払い込み
  • 種類株式の発行
  • 登記(変更後の定款に関する登記は上記2.の日から2週間以内、発行可能株式総数や発行する種類株式などに関する登記は上記5.の日から2週間以内)

2)既存の株式を種類株式に変更する場合

既存の株式を種類株式に変更する場合も定款の変更に関する株主総会での特別決議が必要です。

既存の株式を種類株式に変更するための基本的な手続きは次の通りです。

  • 上記1.~2に同じ
  • 全株主の同意により、既存株式から種類株式に変更
  • 上記8.に同じ

3 みなし配当の特例の注意点

種類株式を発行する際、とても重要になるのが定款の変更内容です。例えば、拒否権付株式を発行する場合、拒否権付株式を保有する株主による「種類株主総会」で決定が必要な事項を定めなければなりません。もし、すべての決議について拒否権を持つようにしたいなら、

株主総会および取締役会の決議事項については、法令で定める決議機関による決議に加えて、種類株主総会の決議を要する

などと定めます。どの範囲で種類株主総会の決議を要すると定めるかで、拒否権の範囲が決まります。どの程度の権限を先代経営者に留保するか検討して、定款の定めることが重要です。

実際の交付手続きも複雑なケースが多いので、弁護士などの専門家とこまめに連携しながら進めるようにしましょう。

以上(2025年7月作成)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 代表弁護士 福崎剛志)

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画像:Mariko Mitsuda

徳島県主催のマカオ・香港 経済視察ミッションに板東頭取が団長として参加しました

令和7年4月23日~同26日、板東頭取を団長として、徳島県主催「経済ミッションinマカオ・香港」が組成・実施されました。
ミッション団には28社・団体から46名が参加され、マカオの現地経済の視察やIR(統合型リゾート)企業とのディスカッション、香港での現地バイヤーを招聘しての徳島県産品商談会などが開催されました。
香港はアジア屈指の自由貿易港であり、マカオもIRを中心に経済的に発展を遂げていることから、いずれの地域もアジア地域では重要な市場と考えられます。当該市場の成長を取込むべく、弊行板東頭取・後藤田徳島県知事がトップセールスを実施、今後の徳島県産品の輸出等につながる糸口を獲得することができました!

マカオ IR企業:Galaxy Entertainment Groupとの意見交換

マカオ:DON DON DONKI(PPIH社)視察

マカオ 日本産食材卸売事業者との商談、澳門日本人商会との懇親会

徳島県産品商談会風景@香港リーガルカオルーンホテル

三井物産(香港)有限公司との意見交換

当行では取引先企業さまの海外展開を幅広く支援しております。香港・マカオをはじめとする海外への輸出や進出等を検討される際にはぜひお声がけくださいませ!!

以上(2025年7月作成)

在職老齢年金の支給停止調整額が「62万円」に!?

2025年6月13日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(年金制度改正法)」が国会で成立し、「在職老齢年金」が改正されることになりました。

在職老齢年金とは、

働きながら老齢年金をもらうと、年金額がカットされることがあるという制度

です。厚生年金保険に加入しながら老齢年金をもらう60歳以上の社員が対象で、賃金と年金の合計額が「支給停止調整額」というボーダーラインを超えると、十分な収入があるとみなされ、老齢年金の一部または全額が支給停止となる仕組みです。

平均寿命・健康寿命が延びる中で、「せっかく働いても年金が減ってしまうは困る」という声が、高齢者や高齢者を雇用する会社から多く寄せられ、

2026年4月から、ボーダーラインである支給停止調整額が「51万円→62万円」

に引き上げられることになりました。簡単に言うと、

  • 賃金(ボーナスを含む年収の1/12)と、老齢厚生年金の合計額が月62万円以下の場合、老齢年金は全額支給される
  • 合計額が月62万円を超える場合、超えた分の1/2の額が年金から差し引かれる

という仕組みになります。なお、支給停止を受けるのは老齢年金のうち老齢厚生年金(厚生年金保険)だけで、老齢基礎年金(国民年金)は対象になりません。具体的には次のようなイメージです(図表の「50万円」は2024年度の金額です)。

在職老齢年金制度の見直し

例えば、上の図を見てください。賃金(ボーナスを含む年収の1/12)が45万円、厚生年金が10万円の方の場合、

賃金45万円+厚生年金10万円=55万円

です。支給停止のラインが50万円の場合、支給停止のラインが50万円のため、超過分5万円(55万円ー50万円)の半額、2万5000円が支給停止となりますが、2026年4月以降は、

支給停止調整額が62万円となるため、従来停止されていた2万5000円も支給される

というわけです。

次のコンテンツで、在職老齢年金の他、年金制度の基本をまとめているので、興味のある方はぜひご確認ください(内容は2024年7月時点のものになります)。

以上(2025年7月作成)

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【債権回収】相手との関係を維持しながら話し合いで解決する「民事調停」

1 民事調停を利用する意義

民事調停とは、

簡易裁判所が間に入り、当事者間での話し合いを試みる手続

です。相手との関係性を維持しながら、あくまでも話し合いで解決したい場合に有効です。通常、調停は裁判官と一般市民から選ばれた調停委員とともに進められます。

調停が成立した場合、調停調書が作成されます。作成された調書は、判決等と同じく、債務名義となります。債務名義とは、「強制執行」をする根拠となる文書であり、「債権債務の存在を公に認めるもの」です。また、強制執行とは、「判決等によって債務の履行が決まっているのに相手がそれに応じない場合、国家の強制力によって判決等で命じられた内容を実現する」ことです。

民事調停のメリットとデメリットは次の通りです。

【民事調停のメリット】

  • 手続が比較的簡単(厳密な法的構成や証拠が必ずしも求められない)
  • 手続が簡単なため、弁護士等を入れずに申立てをしやすい
  • 話し合いによる手続のため、円満な解決ができる
  • 裁判所に納める費用が訴訟に比べて低額
  • 手続が公開されないため、秘密が守られる
  • 通常訴訟に比べれば短い期日で決着しやすい(目安はおおむね3カ月以内)]
  • 調停が成立すれば判決と同じ効力が認められる

【民事調停のデメリット】

  • 相手との話し合いができなければ決着しない。裁判所が相手方への説得を試みたとしても、相手方には説得に応じる義務はない
  • 相手が期日に裁判所に出頭しなければ、そもそも話し合いができない
  • 管轄裁判所は原則として相手の住所地となる
  • 申立て時に厳密な法的構成や証拠は求められないが、相手方が争った場合は、法的な理屈の説明や証拠の提示を求められることがある
  • 民事調停で話し合いによる合意に至らなかった場合、訴訟などの手続に移行しない。訴訟手続を一からやり直す必要がある

2 民事調停手続の流れ

民事調停手続の主な流れは次の通りです。

民事調停手続の主な流れ

1)申立書の提出

債権者と債務者のどちらからでも申立てができます。申立人は、原則として相手の住所のある簡易裁判所に申立書を提出します。その際、収入印紙(手数料)と郵券(郵便切手)を一緒に納めます。申立書の書式は、裁判所の窓口にも備え付けられています。

2)調停期日の指定

裁判所は、調停期日を決めて双方を呼び出します。調停期日では、申立ての内容について、裁判所が双方の話を聞いた上で解決案を提示するなど、話し合いでの解決に向けた努力をします。なお、通常は裁判官とともに一般市民から選ばれた調停委員が手続に当たります。この調停期日は1回で終了せず、通常、2~3回開かれます。

3)調停成立

話し合いによって合意に至った場合、調停が成立します。裁判所は調停の内容を「調停調書」にまとめます。その後、当事者は、調書の内容を争うことができなくなります。相手が調停調書の義務を履行しない場合、強制執行が行えます。

4)調停に代わる決定

相手が出頭しない場合や話し合いが合意に至らなかった場合、裁判所は「調停に代わる決定」を出すことがあります。調停に代わる決定とは、

裁判所が当事者の言い分を衡平に考慮した上で、解決条件などを決定して双方に提示するもの

です。当事者がこれを受け取った後、2週間以内に異議の申立てがなければ調停が成立したものと同じ効力があります。しかし、いずれか一方が異議を申し立てると効力は生じません。異議は、理由を問わず、任意に出すことができます。

5)費用

裁判所に納める費用(申立ての手数料)は、以下の通りです。調停を求める事項の価額が100万円までの部分は10万円ごとに500円ですので、例えば、目的の金額が100万円の場合は5000円です。

  • 100万円までの部分:その価額10万円までごとに500円
  • 100万円を超え500万円までの部分:その価額20万円までごとに500円
  • 500万円を超え1000万円までの部分:その価額50万円までごとに1000円
  • 1000万円を超え10億円までの部分:その価額100万円までごとに1200円
  • 10億円を超え50億円までの部分:その価額500万円までごとに4000円
  • 50億円を超える部分:その価額1000万円までごとに4000円

また、これに加えて郵便切手代(金額は、裁判所や相手方の人数などによって異なりますが、数千円)が必要となります。

以上(2025年7月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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万博で乾杯! 世界のお酒 飲み歩きレポート

世界中の文化が一堂に会する大阪・関西万博。今回はとくぎんサクセスクラブnavi事務局の杉が、大好きな「お酒」をテーマに各国のパビリオンを巡ってみました。世界の味と雰囲気を感じられる“グラス片手の旅”に。万博のもうひとつの楽しみ方として、ぜひご紹介したいと思います。

【オーストラリア】最初の一杯はビールから

【オーストラリア】最初の一杯はビールから

大阪・関西万博での「お酒旅」のスタートは、オーストラリアパビリオンにあるテイクアウトのお店CAFE KOKO。こちらでは、『クーパーズ パシフィック ペールエール』と『クーパーズ オーストラリアンラガー』そして人気メニューだという『オージー・ミート・パイ』を購入。フルーティーで苦味のあるペールエールと、コクと苦味のあるラガーはどちらもミートパイにとっても合いました。


【セルビア】郷土料理とのペアリング

【セルビア】郷土料理とのペアリング

続いて向かったのはセルビアパビリオン。レストランに並び、セルビア料理とともにセルビアの白ワインをいただきました。セルビアを感じられるチーズパイ『ピタ サ シロム』とセルビアのケバブ風料理の『チェヴァビ』を注文。どちらもワインによく合い、本場を旅しているような気分に。ちなみに2027年にはセルビアの首都、ベオグラードで万博が開催されます。


【チェコ】本場のピルスナーに舌鼓

【チェコ】本場のピルスナーに舌鼓

チェコといえばビール、チェコパビリオンのテイクアウトショップでは、『ピルスナーウルケル』を注文。最初に泡を注ぎ、その下に液体を注ぐ「ハラディンカ」という注ぎ方で、濃厚でクリーミーな泡が特徴です。苦味と甘みのバランスがとれた味わいで、麦芽の香ばしさも感じられました。レストランではほかにも「シュニット」「ミルコ」の注ぎ方でも楽しめます。


【トルコ】ケバブとビールでちょっとひと休み

【トルコ】ケバブとビールでちょっとひと休み

次はパビリオン、ではなく飲食ブースエリアにある、KEBAB LABへ。こちらでは、トルコの「エフェスビール」を飲むことができます。ピルスナータイプのビールで、お料理に合う味。一緒に注文した「チキントネルケバブプレート」とぴったりです。お店の壁面に描かれた気球を見ながらビールを飲んでひとやすみ。


【モナコ公国】優雅なワインバーで白ワインを飲み比べ

【モナコ公国】優雅なワインバーで白ワインを飲み比べ

次に訪れたのは、モナコ公国のパビリオンにあるワインバー。こちらでは、モナコの名門ホテル「オテル・ド・パリ・モンテカルロ」のワインセラーから選りすぐられたワインを飲むことができます。入るとまず壁面に並んだたくさんのワインが目に入り、テンションが上がりました。3種類の白ワインを飲み比べできるセットを注文。それぞれ個性があり、味の違いを楽しめました。ラグジュアリーな空間で、優雅な時間を過ごすことができます。


【チリ】こだわりの試飲体験

【チリ】こだわりの試飲体験

最後はチリパビリオン。こちらではチリワインの試飲体験ができると聞いて、チェックしていました。当日申込で試飲の予約をして、指定時間にパビリオンに向かいます。赤ワインと白ワインのどちらかを選ぶことができ、ちょっとしたおつまみもついてきてグラスが進みます。当日はライブ演奏も行われており、素敵な時間を過ごすことができました。


まだまだ万博には世界各国のお酒がたくさん。今回巡ったのはほんの一部にすぎません。グラス片手に、次はどんな国の味と出会えるのかーそんな期待を胸に、また訪れたくなる場所です。世界旅行気分を味わいたい方に、世界の美酒を楽しみたい方に、ぜひおすすめです。


徳島県は、関西広域連合が設置する「関西パビリオン」の1区画に出展しています。
徳島大正銀行は、大阪・関西万博に向けた徳島県の取組に対し協賛しており、「徳島まるごとパビリオン」プレミアムインディゴパートナーとして認定されています。
当行は、徳島と大阪を拠点としており、大阪・関西万博参加の後押しをすることが地元企業としての使命であるため、役職員に対し、万博ペアチケットを配布しました。

2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)
会期   :2025年4月13日(日)~2025年10月13日(月) 184日間
開催地  :大阪府大阪市夢洲地区
テーマ  :いのち輝く未来のデザイン(Designing Future Society for Our lives)
サブテーマ:Saving Lives(いのちを救う)
Empowering Lives(いのちの力を与える)
Connecting Lives(いのちをつなぐ)

以上(2025年7月作成)

【中堅社員のスピーチ例】仕事の「やりがい」はどこにあるのか

【ポイント】

  • 仕事のやりがいは、誰かから与えられるものではない
  • 自分なりに工夫を重ねて成果を出すことは、仕事のやりがいの一つになる
  • 人から認められることもやりがいになるので、ぜひ自分の工夫などを発信してほしい

最近は、入社したばかりの社員が「退職代行」を利用して会社を辞めてしまう話題がよく取り上げられています。退職代行を利用する理由には、労働条件が聞いていた話と違った、希望の配属先でなかったなどさまざまですが、私が気になったのは「仕事にやりがいが持てない」ことでした。

皆さんの中にも、仕事のやりがいが分からない、あるいは分かるまでに苦労したという人もいるのではないでしょうか。それもそのはず、やりがいは人によって違うからです。例えば、お客様からの「ありがとう」がうれしい、責任ある仕事を任されることが誇らしい、チームでプロジェクトを成功させることが楽しいといった具合です。そして、こうしたやりがいは、誰かから与えられるものではなく、ある程度経験を積んで初めて見えてくるもの。だから、新入社員の段階では、仕事にやりがいが持てなくて当たり前なのです。

私の場合は、あるときから「仕事に自分のアイデアを加える」ようにしたことが、やりがいを見つけるきっかけになりました。前任の担当者や上司から任された仕事を、前例を踏襲して決まった通りに続けていくことは大切ですが、同じ仕事を繰り返すばかりで、自分自身の努力が反映されない状態になると、モチベーションが下がってしまいます。

私には毎月決まった仕事として、お客さま向けのメールマガジンを作成・配信する仕事があります。あるとき、「どうしたら、もっとお客さまがメールを見てくれるだろうか」と考え、これまでは長かった件名を短く端的に伝えるようにしたり、クリックできるリンクの色を目立たせたりしたところ、メールの開封数やリンクのクリック数がそれまでのメルマガよりも目に見えて増えました。自分なりに工夫を重ねて成果を出すことが、気づけば仕事のやりがいになっていたのです。

ちなみに、仕事でいろいろ工夫はしているものの、「この程度のことでは、認めてもらえなそう」と、周囲に発信できていない人の話をよく聞きます。ですが、仕事のやりがいは、「誰かの役に立っていると感じたとき」や「誰かに認められたとき」にこそ強く感じられます。だから「こんな工夫をしている、してみよう」という話は、積極的に誰かに話してみるのがよいと思います。

以上(2025年7月作成)

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【債権回収 まとめ】これから倒産企業が増える?万一に備えて知っておくべき債権回収の流れ

1 「いざ」となってからではもう遅い?

「ない者からは回収できない」というのが債権回収の基本です。 「いざ、債権を回収しなければ!」という事態に陥ったとき、相手が債務を履行できるとは限りませんから、そうなる前の与信管理、契約書のチェック、債権管理がとても大切です。

ところで、皆さんは与信管理から債権回収に至るまでの流れを把握しているでしょうか? 債権回収は経験がないとイメージしにくいものですが、そのリスクが顕在化したときの影響は大きく、経営者なら基本を押さえておかなければなりません。

そこで、この記事では債権回収の基本的な流れを紹介します。 それぞれの詳細は別の記事で解説していますのでご確認ください。 ポイントは、

どのような相手と、どのような条件で契約し、どのような管理をしていたか

ということです。

与信管理から債権回収に至るまでの流れ

2 与信管理

多くのビジネスでは、売掛金などの売上債権が発生します。 そこで、万一の場合に備えて取引金額の上限や決済サイトを決めますし、担保の設定をすることもあります。 これらの条件は、債権回収ができないリスクと、それによって受ける被害を考慮して決定します。 つまり、相手が「信用」できるのかという点に尽きるため、「信用リスク」と呼ばれます。 そして、この条件なら“信用”して取引できると判断した場合、信用を相手に与えるのが「与信」です。

与信管理の基本、チェックリスト、リモート時に行う与信管理の基本については、次のコンテンツで紹介しています。

3 契約締結

1)必ず定めるべき4つのこと

「信用できる相手だから」といって、契約書を交わさずに取引していないですか? これはビジネスを進める上でとても危険なことです。 口約束だけの状態でお金のトラブルになってしまったら、双方が「言った、言わない」を主張してもめてしまいます。 裁判に発展した場合も、債権回収の根拠を立証するのが難しく、敗訴してしまうことさえあります。 そのため、

必ず契約書を交わす

ことが不可欠で、さらに、

  • 支払条件(弁済条件):定められた期日に確実に支払いをしてもらえるようにしておく
  • 期限の利益喪失:支払期日前でも債務履行(支払い)を促せるようにしておく
  • 約定解除:一定の事態が生じた場合に契約を解除できるようにしておく
  • 担保権:回収不能となった売掛債権を担保で回収できるようにする

の4つについて定めたいところです。

この4つを定める理由については、次のコンテンツで紹介しています。

2)公正証書にして強制執行認諾文言を定める

公正証書とは、公証役場で公証人がその権限に基づいて作成する文書(公文書)です。 単なる公正証書は私的な契約書と比べて訴訟における証明力は非常に強いですが、法的効力自体は同じです。

公正証書に私的な契約書よりも強力な効力を持たせるためには、公正証書に「強制執行認諾文言」を定める必要があります。 強制執行認諾文言とは、債務を履行しない場合は、「強制執行」を受けてもやむを得ないという条項です。 強制執行とは、判決等によって債務の履行をすべきであるにもかかわらず、相手がそれに応じない場合、裁判所に「強制執行の申立」をして、国家の強制力によって判決等で定められた内容を実現することです。 つまり、強制執行認諾文言があれば、強制的に債権回収ができるのです。

公正証書については、次のコンテンツで紹介しています。

4 債権管理

契約を締結した後も安心せず、日ごろから「債権管理」を徹底しましょう。 債権管理とは、滞りなく売掛金を回収するための業務全般のことで、具体的には「請求書の発行や入金チェック、未入金の場合は催促」などの一連の流れとなります。

債権管理の一般的な内容については、次のコンテンツで紹介しています。

5 債権保全

1)担保の設定

万一、取引先から売掛金が回収できないような場合に備えて「債権保全」を講じます。 債権保全とは、債権を確実に回収するための施策であり、基本的な方法が「担保の設定」です。 担保には物的担保や人的担保があります。

担保については、次のコンテンツで紹介しています。

2)手形に関する注意点

約束手形については、手形交換所が2022年11月に廃止され、政府は2026年をめどに全ての紙の手形や小切手を電子化する方針を示しています。 とはいえ、足元ではまだまだ使われていて、不渡りなどの問題も生じています。 「危ない手形」の典型は、

  • 借用書代わりの手形
  • 回り手形
  • 融通手形
  • 偽造手形

であり、適切な債権保全を講じなければなりません。

危ない手形の見分け方などについては、次のコンテンツで紹介しています。

6 内容証明郵便

期日が過ぎているのに売掛金を支払ってくれない取引先がある場合、状況にもよりますが、「内容証明郵便」を送り、法的手段を見据えつつプレッシャーをかけることが効果的です。 内容証明郵便とは、郵便認証司によって郵便物の内容を証明された郵便物です。

内容証明郵便を出すことで相手方が請求に応じる法的義務が生じるわけではありませんが、後に裁判になった場合に、債権について「契約の名称、契約日、品名、残金、期限などについて文書を出した」という有力な証拠となります。 それに、万一、支払いに応じていただけない場合は、訴訟等の法的措置を検討せざるを得ませんと記載することで、「こちらは訴訟も辞さないですよ!」という姿勢を示すことができます。

内容証明郵便については、次のコンテンツで紹介しています。

7 取引継続などの判断

取引先からの支払いが滞り、こちらの催促にも応じない場合、いよいよ経営が危ないかもしれないので、速やかに行動しましょう。 債権保全と回収の方法は幾つかありますが、取引先が破産や民事再生などの法的手続きを取ると、原則として個別の取り立てを行うことが禁止され、債権回収が認められなくなる場合があります。 また、取引先に債権を持つのは自社だけではないはずですから、債権回収は「早い者勝ち」ともいえます。

この段階になったら、「取引を継続するか、仮差押えをするかなどを速やかに判断し、行動に移すこと」が重要です。

取引継続などの判断については、次のコンテンツで紹介しています。

8 任意回収

取引先に債務不履行があったとき、会社が払えないなら、経営者から回収をしたいと考えます。 特に相手が中小企業だと、経営者と会社が一体と感じられるので、なおさらです。 しかし、原則として会社と経営者は別の法人格であり、会社の債務を経営者個人が負うことはありません。 ただし、経営者が連帯保証人になっている、実質的に株式会社と経営者が一体とみなされるなど、4つのケースでは経営者から債権回収ができます。

「経営者個人」から債権回収が可能となる4つのケースについては、次のコンテンツで紹介しています。

9 支払督促

内容証明郵便などで催促をしても相手が債務を弁済してくれない場合、「支払督促制度」を利用する方法もあります。 支払督促制度とは、簡易裁判所の裁判所書記官から、債務者に対して「金銭等の支払いを命じる督促状(支払督促)」を送ってもらう制度です。 内容証明郵便とは違い、裁判所からの督促となるので、相手に相当のプレッシャーをかけることができます。

支払督促制度については、次のコンテンツで紹介しています。

10 民事調停

民事調停とは、簡易裁判所が間に入り、当事者間での話し合いを試みる手続です。 相手との関係性を維持しながら、あくまでも話し合いで解決したい場合に有効です。 通常、調停は裁判官と一般市民から選ばれた調停委員とともに進められます。

調停が成立した場合、調停調書が作成されます。 作成された調書は、判決等と同じく、債務名義となります。 債務名義とは、「強制執行」をする根拠となる文書であり、「債権債務の存在を公に認めるもの」です。

民事調停については、次のコンテンツで紹介しています。

また、債務者しか申立てることができないものに、特定調停があります。 特定調停とは、債務の返済ができなくなる恐れのある債務者(特定債務者)の経済的再生を図るため、特定債務者が負っている金銭債務に係る利害関係の調整を行う手続です。 債務者である相手が特定調停を申し立てた場合、それに応じるか否かを判断する知識は必要と思います。

特定調停については、次のコンテンツで紹介しています。

11 即決和解

即決和解とは、「裁判上の和解」の一種で、当事者が民事上の争いについてある程度の合意がある場合に、裁判所へ申立てをして裁判上での和解を行う制度です。 訴訟の提起前に行われるので「裁判前の和解」とも呼ばれます。 ちなみに、示談など裁判所が関与しないものを「裁判外の和解」といいます。

即決和解については、次のコンテンツで紹介しています。

12 倒産手続

会社が債務超過に至った場合、その手続は、

  • 私的整理:裁判所を利用しない
  • 法的整理:裁判所を利用する

に大別されます。 法的整理はさらに、

  • 清算型:会社の清算を目的とする
  • 再建型:会社の再建を目的とする

に大別されます。 私的整理は当事者の話し合いです。 一方、法的整理はそれが清算型であれ、再建型であれ、取引先がこれを申立てれば、自社の債権は大きな影響を受けます。 そのため、それぞれの倒産手続の基本を押さえておく必要があります。

以上(2025年7月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

社員のミスで会社に損害が……。 本人への賠償請求は可能?

1 原則:社員に全額の損害賠償を請求することはできない

会社には、様々なバックグラウンドを持つ人間が集まっています。ですから、社員が業務中にミスをすることも当然想定されます。ただ、なかには「看過しにくい重大なミスをする社員」などもいて、そうした社員に対し、「損害賠償を請求できないか?」と考える経営者がいても不思議ではありません。

しかし、まず理解しておくべきことは、

社員に全額の賠償を請求することは原則としてできない

ということです。一口にミスといっても、同じミスを何度も繰り返しているのか、取引先の信用を失うほどのミスなのかなどによって判断が変わります。そのため、

  • 社員に対する損害賠償請求に関する基本的な考え方
  • 「こんな場合に請求できる? できない?」というケーススタディー

を学ぶ必要があります。以降で弁護士(筆者)がポイントを解説するので見ていきましょう。

2 なぜ、ミスがあっても基本は会社負担なのか?

日本の労働関係法令では、社員と会社の関係は「報償責任」の考えに基づいています。

報償責任とは、「会社は、社員が業務を遂行することで利益を得ているのだから、その過程で発生する損害について、会社が責任を負うのは当然である」という考え方

です。そのため、社員が業務中にミスをしたとしても、原則として全額の損害賠償を求めることは認められません。労働基準法でも、社員に対する不当な賠償請求を防ぐことを目的として、社員に過度な責任を問うことを避けるための規定が設けられています。こうした法律の考えから、社員のミスによる損害についても、基本的には会社が負担することになるのです。

実際に社員に対する損害賠償請求が問題になった事案もあります。有名な「茨城石炭商事事件(最高裁第一小法廷昭和51年7月8日判決)」においても、

会社が社員に対して賠償責任を問う際の基準が示されており、社員のミスによる損害が会社の業務指示の範囲内で起こった場合、その基準に基づいて妥当な範囲でのみ、社員個人に責任を追及できる

とされています 。この判例により、社員が業務上のミスを犯した場合でも、原則として会社が損害を負担するという考え方が強調されました。具体的な基準は次の通りです。

具体的な基準

3 このケースは損害賠償できる? できない?

1)発注ミスで、頼んでいない商品が大量に会社に届いてしまった……

1.ケーススタディー

卸売業の会社に勤めるAさんは、商品の発注を担当しています。あるとき、Aさんは10個発注する予定の商品を、入力を誤って100個発注してしまいました。返品も利かず、会社は大量の在庫を抱えることになってしまいました……。会社からAさんへの損害賠償請求は認められるでしょうか?

2.考え方

商品の発注、特にウェブ上で発注を行う場合、入力ミスなどによって発注内容(種類・数量など)を間違えてしまうことがあります。業務を行っていれば、通常起こり得るようなささいな不注意であり、一般的に損害賠償請求は認められにくいといえるでしょう。

Aさんが新入社員の場合などは、上司や先輩が横について発注前に画面を確認するなどの配慮が必要であり、なおさら損害賠償請求は難しくなります。

ただし、Aさんが長年経験を積んだ管理職にもかかわらず、基本的な発注手順を無視して発注ミスを犯した場合などは、Aさんの過失が重大であるとして、損害賠償請求が認められる可能性があります。

2)営業担当が勝手に納期を決めたせいで、開発部門にしわ寄せが……

1.ケーススタディー

BさんはIT企業の社員で、システム開発の営業を担当しています。ある日、Bさんは、取引先から短納期でのシステムの納入を頼まれましたが、取引先との関係を維持したいあまり、開発部門に確認もせず、納入を約束してしまいました。開発部門は無理なスケジュールでシステム開発を行いましたが、結果として納期には間に合わず、しかも納入後にシステムの不具合が発生。取引先側でもリリース延期の対応が生じてしまい、会社が取引先から「どうしてくれるんだ!」と詰められる事態に……。会社からBさんへの損害賠償請求は認められるでしょうか?

2.考え方

Bさんのケースのように、部門間で十分な連携をしないまま、取引先に無理な約束をしてトラブルになるケースは少なくありません。部門間の情報共有・連絡方法などの体制を見直すべき案件です。とはいえ、Bさんの過失は法的には軽微なものであり、損害賠償請求は認められにくいといえるでしょう。

ただし、Bさんが、事前に開発部門から「このスケジュールでは難しい」「納期を調整してくれ」と言われていたにもかかわらず、それを無視して納期を約束してしまった場合などは、損害賠償請求が認められる可能性があります。

3)コンピューターシステムの操作ミスで、大事なデータが消えてしまった……

1.ケーススタディー

Cさんはある会社のIT部門で、システムのメンテナンスを担当しています。Cさんが、夜な夜なシステムのアップデート作業を行っていた際、誤って重要なデータを削除してしまいました。その結果、会社のシステムが一時的に停止し、取引先にも影響を与えてしまいました……。会社からCさんへの損害賠償請求は認められるでしょうか?

2.考え方

パソコンで業務を行うのが当たり前の現代、システムのアップデートに限らず、作業中に保存されていたデータを誤って消してしまうというミスはどの会社でも発生し得ます。こうしたミスは、原則として損害賠償請求が認められにくい、といえるでしょう。

ただし、Cさんが、過去にも注意を受けたにもかかわらず作業手順やマニュアルを無視して、独自の方法で作業を行った場合や、夜な夜なお酒を飲みながら作業していた場合などは、過失が重大であるとして、損害賠償請求が認められる可能性があります。

4)広告に著作権違反のイラストが掲載されて、権利者から警告を受けた……

1.ケーススタディー

若手社員のDさんはマーケティング部門で、自社商品の広告を制作しています。Dさんが新商品のウェブ広告を制作した際、他社のキャラクターを参考にしたイラストが含まれてしまい、そのまま広告に掲載されてしまいました。これを見た他社の権利者から警告を受け、消費者からの信頼を失い、ブランドイメージに大きな悪影響を与える結果となりました……。会社からDさんへの損害賠償請求は認められるでしょうか?

2.考え方

広告に関するミスは、会社のイメージにも直結するため、損害が大きくなりがちです。とはいえ、イラストの著作権などについて正しく理解している社員はそう多くありませんし、Dさんの立場にもよりますが、一般的に若手社員が1人で制作した広告がそのまま採用されるケースはまれです。通常は複数の社員が広告に携わるものであるという前提に立つと、Dさんの過失は法的には軽微なものであり、損害賠償請求は認められにくいといえるでしょう。

ただし、Dさんが、本来であれば広告チェックを担う立場の社員であるにもかかわらず、楽をするために生成AIを利用した場合などは、その過失が重大であるとして、損害賠償請求が認められる可能性が高くなります。

5)消費者からのクレーム対応を誤ってしまい、消費者に損害を与えた……

1.ケーススタディー

Eさんは、一般消費者向けに化粧品を販売する会社の、カスタマーサポート部門に勤めています。ある日、Eさんは消費者からのクレームに対し、誤った情報を伝えてしまいました。そのため、顧客は化粧品の使い方を間違ったことで肌荒れになり、訴訟を起こすと言っています……。会社からEさんへの損害賠償請求は認められるでしょうか?

2.考え方

クレーム対応の際に誤った情報を伝えたことによって、顧客が損害を被ったという事例です。カスタマーサポートなどの業務では、オペレーターによる誤案内も発生しやすいミスであり、会社がマニュアルを作成したり、社内相談フローが定められたりしているケースが多いです。オペレーターによる誤案内が過失によるミスであった場合、会社がその損害を負担するのが一般的であり、Eさんの誤案内が軽度のものであれば、損害賠償請求は難しいといえるでしょう。

ただし、Eさんが過去にも、同様のクレーム対応で同じようなミスを繰り返していたり、会社が定めるマニュアルや相談フローに従わずに独自で判断したりした場合には、損害賠償請求が認められる可能性があります。

4 会社ができる対策は?

こうした社員のミスによる損害を未然に防ぐために、会社が実施すべき対策がいくつかあります。これらの対策をしっかりと整備することで、リスクを減らし、社員の負担を軽減しつつ、会社の利益を守ることができます。

1)マニュアルの整備と研修・教育

まずは会社が、業務を遂行する社員に対し、明確な指示を与えることが重要です。業務の進め方や手順について詳細なマニュアルを整備し、社員がミスをしないように配慮しましょう。

また、社員による業務上のミスを最小限に抑えるには、定期的な研修や教育が重要です。会社は、社員に対して業務に必要な知識やスキルを定期的に習得させることで、ミスを減らし、万が一ミスが発生した場合でも、迅速に対応できる体制を整えることが可能です。

2)就業規則への明文化

就業規則には、社員が業務を遂行する際に注意すべき事項や、ミスが発生した場合の対応方法、賠償責任に関する規定などを盛り込むことができます。例えば、社員が業務中に重大な過失を犯した場合の対応方法や、その責任の範囲について明記しておくことが考えられます。これによって、社員も事前に自分の責任範囲を理解し、ミスを防ぐ意識が高まります。

なお、就業規則に損害賠償規定を盛り込むことも可能ですが、過度に厳しい規定(全額の請求や損害賠償額の予定)を設けると、違法・無効となる恐れがあります。

3)保険の活用

社員のミスに対するリスクを減らすために、適切な保険に加入するのも一つの方法です。特に、社員が業務を遂行する中で生じる事故や損害をカバーする保険を活用することで、予期しないリスクに備えることができます。保険会社によって様々な内容の保険があり、契約内容によっては社員の過失による損害も対象となるものがあります。

以上(2025年7月作成)
(執筆 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)

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