書いてあること
- 主な読者:2024年に賃上げをするか否かについて悩んでいる経営者
- 課題:賃上げの判断が難しく、何を基準にすればいいのかよく分からない
- 解決策:重要な判断基準は自社の業績。社会保険料や賞与・退職金への影響、賃金のどこ(基本給、手当など)を賃上げすべきかなども考慮する
1 「賃上げ」に悩む全ての経営者の方へ
連日のように話題になっている賃上げ(定期昇給やベースアップ)。ただ、次のようなことが気になって、自社はどうすべきか決めあぐねている経営者も少なくないはずです。
- そもそも、賃上げって本当に必要なのか?
- 社会保険料や賞与・退職金への影響は大丈夫か?
- 賃金のどこ(基本給、手当など)を賃上げすべきか?
- 賃金規程は、今のままで大丈夫か?
以降で、このような悩みや疑問の解決に役立つ記事を多数紹介しますので、御社の賃上げの検討にぜひご活用ください。
2 そもそも、賃上げって本当に必要なのか?
賃上げが必要かを検討する際は、自社の業績はもちろん、物価高など社員の生活、同業他社の状況、春闘の動向など、さまざまな情報に目を通す必要があります。次の記事が参考になります。経営者317人を対象にした、賃上げに関するアンケート結果も紹介しているので、ご確認ください。
3 社会保険料や賞与・退職金への影響は大丈夫か?
賃上げは社員にとっては嬉しいことですが、毎月の賃金額が変われば、社会保険料の負担も増えます。また、会社の制度によっては、賃上げの影響範囲が賞与や退職金に及ぶこともあるので注意が必要です。次の記事が参考になります。賃上げの負担を軽減する助成金なども紹介しているので、ご確認ください。
4 賃金のどこ(基本給、手当など)を賃上げすべきか?
基本給を賃上げする場合、基本給がどのような要素で構成されているか(年齢、勤続年数、能力、職務のグレードなど)によって、賃上げへの影響が変わってきます。また、基本給は、一度上げると「賃下げ」が難しいという理由で、手当や賞与を増やすことを検討する会社もあります。次の記事が参考になります。
5 賃金規程は、今のままで大丈夫か?
賃上げをする場合、自社の「賃金規程(就業規則)」の賃金テーブルなどを書き換える必要があります。また、その他にも、労働基準法上、必ず賃金規程に定めなければいけない項目などがあるので、まとめて見直しをしておきましょう。次の記事が参考になります。
6 その他、賃金関係で見落としていることはないか?
賃上げ以外にも、「未払いや過払いなどのトラブル防止」「同一労働同一賃金の問題」など、賃金について押さえておくべきポイントがさまざまあります。次の記事が参考になります。
以上(2024年4月作成)
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【新人経理向け】簿記を使って、会社の取引の全体像をイメージしてみよう
書いてあること
- 主な読者:簿記の知識を身に付けて会社の取引の全体像を把握してみたい新人経理担当者
- 課題:財務諸表を理解するためには、勘定科目とその処理の方法を知る必要がある
- 解決策:貸借対照表の表示区分に従って、各勘定の処理方法を確認してみる
1 経理担当者の基礎は簿記
財務諸表を作成するには、勘定科目とその処理方法を知る必要があります。そのために必要なのが、簿記の知識です。全ての取引を仕訳し、項目ごとに集計したものが財務諸表となるからです。取引を見たとき、会計上、どのように処理されるのかをすぐに判断するためにも、項目ごとの仕訳のパターンをイメージできるようになることが大切です。反対に財務諸表の項目から、仕訳をイメージすることで数値に変動があったときの分析に役立ちます。
この記事では、
- 複式簿記の基本“貸方”と“借方”の考え方
- 貸借対照表の表示区分ごとの各勘定の処理方法
をまとめています。簿記の基本中の基本を押さえていきましょう。
2 複式簿記の基本“貸方”と“借方”の考え方
簿記(この記事では複式簿記)は、企業の活動を記録するものです。例えば、商品を現金で仕入れれば、商品(資産)が増え、現金(資産)が減ります。また、商品を現金で販売した場合、売上高(収益)が増え、現金(資産)も増えると同時に、商品(資産)が減り、売上原価(費用)が増えます。複式簿記は、こうした
出ていく財貨と入ってくる財貨といった、2つの流れを同時に記録
できます。
勘定は借方(かりかた)と貸方(かしかた)の2つに分けることができます。貸借対照表の左側(資産の部)の科目が借方勘定で、右側(負債の部と純資産の部)の科目が貸方勘定です。また、損益計算書の収益・利益に当たるのが貸方勘定で、費用・損失に当たるのが借方勘定です。
初心者には理解しにくいかもしれませんが、貸借対照表の場合、次のように考えると分かりやすいと思います。貸借対照表の右側は負債の部と純資産の部ですが、これは企業活動に必要な資金の調達方法を表しています。この資金を左側の資産の部にあるさまざまな資産の形で運用します。
簡単な簿記の仕訳例を見ながら、どのように各勘定に反映されるのかを見てみましょう。
- 現金及び預金勘定は10万円の増加(-10万円+20万円)
- 仕入勘定は25万円の増加(+10万円+15万円)
- 売上勘定は45万円の増加(+20万円+25万円)
- 買掛金勘定は15万円の増加
- 売掛金勘定は25万円の増加
勘定科目の内容は、貸方と借方に分かれます。各勘定科目の金額の増減は、次のようになります。
- 貸方勘定の金額の増加は貸方に記帳、減少は借方に記帳
- 借方勘定の金額の増加は借方に記帳、減少は貸方に記帳
以降で、貸借対照表の表示区分ごとの、主な勘定の処理方法について説明していきます。
3 流動資産
1)流動資産に含まれるもの
流動資産に含まれるものは、現金及び預金、受取手形、売掛金、有価証券、商品及び製品(棚卸資産)、前渡金、前払費用、未収収益、未収入金などです。
2)売上債権と貸倒引当金
受取手形と売掛金は売上債権といいますが、これは必ずしも確実に現金化できるとは限りません。こうした債権には貸し倒れリスクがついて回ります。例えば、売掛金の期末残高が1000万円あり、過去のデータから、このうちの2%程度が貸し倒れになるリスクがあると判断した場合、20万円(1000万円×2%)の貸倒引当金を設定します。
3)棚卸資産
商品は、仕入れて保有している段階では資産です。その商品を販売すると売上原価(費用)になります。売上原価は次の式で算出されます。
期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高=売上原価
この期末商品棚卸高が貸借対照表の流動資産の棚卸資産を構成します。また、これが翌期の期首商品棚卸高となり、翌期以降に費用となって売上原価を構成することになります。
例えば、期首商品棚卸高200万円、当期商品仕入高1000万円、期末商品棚卸高100万円の場合、当期の売上原価は次の通りです。
当期の売上原価=200万円+1000万円-100万円=1100万円
期末商品棚卸高100万円が流動資産に表示されます。
4)前渡金、前払費用、未収収益、未収入金
1.前渡金
前渡金は商品や原材料などの仕入れや外注加工などの発注に際し、代金の一部または全部を、物品の受け入れや外注加工の完了前に交付した場合、その金額を一時的に処理する勘定で、前払金、手付金ともいわれます。前渡金は金銭債権ではなく物品やサービスの給付請求権となるため、貸倒引当金を設定できません。
2.前払費用
前払費用は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を受ける場合、決算日においてまだ提供されていない役務やサービスに対して事前に支払った対価のことです。未経過の支払利息、賃借料などがこれに当たります。
これにより翌期分の費用を翌期に繰り延べることができます。
3.未収収益
未収収益は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を行う場合、決算日において既に提供した役務やサービスに対してまだ受領していない対価のことで、未収の受取利息、賃貸料などです。
これにより当期分の収入を見越して当期の収益を計上することができます。
4.未収入金
未収入金は、売掛金以外の固定資産、有価証券売却代金などの本来の事業目的以外の財貨やサービスを提供した場合の代価の未収額を処理する勘定です。
4 固定資産
1)固定資産に含まれるもの
固定資産には有形固定資産、無形固定資産及び投資その他の資産が計上されます。有形固定資産には建物、機械装置、車両運搬具、土地などが含まれます。無形固定資産にはソフトウエア、のれん、借地権、工業所有権(特許権、実用新案権、意匠権、商標権)などが含まれます。投資その他の資産は、投資有価証券、関係会社株式などが含まれます。
2)有形固定資産の減価償却
減価償却費は営業費用の一部として損益計算をする上で費用計上されます。減価償却累計額は固定資産勘定を間接的に減額する評価勘定です。減価償却累計額は、土地などの非償却資産を除く固定資産の減価償却費の累計額です。固定資産取得価額から減価償却累計額を差し引いた価額が、償却資産の未償却残高(帳簿価額)となります。
ここでは次の条件を基に「定額法償却」について説明します。
条件:期首に機械装置を100万円で購入、耐用年数:10年
定額法による場合、各年度の減価償却費は次の式で算出されます。
- 各年度の減価償却費=取得価額/償却率(耐用年数ごとに定められている定額法の率)
- 各年度の減価償却費=100万円/0.100(耐用年数10年の場合の償却率)=10万円
また、期首資産価額、減価償却費、期末資産価額は次のように推移します。資産は備忘価額1円を残して、10年間で99万9999円を償却します。
減価償却累計額は、原則的には貸借対照表の有形固定資産を間接的に減額する評価勘定として表示され、減価償却費は、損益計算書において営業費用として処理されることになります。
有形固定資産の貸借対照表での表示は次の通りです(5年度の期末)。
3)投資その他の資産
投資その他の資産は、投資有価証券、関係会社株式、関係会社出資金、破産更生債権等、投資不動産などで構成されています。
例えば、取引先の経営状況が悪化して、会社更生法や民事再生法などの適用を受けることになった場合、通常の売掛金と区別するため、次のような会計処理を行い、投資その他の資産の欄に計上されるようになります。
5 繰延資産
かつての会計規則(旧商法施行規則)では、繰延資産として、創立費、開業費、研究費及び開発費、新株発行費、社債発行費、社債発行差金、建設利息が挙げられていました。
ただ現在の会計規則(会社計算規則)では、繰延資産についての例示はなく、「繰延資産として計上することが適当であると認められるもの」を「繰延資産」とするとされています。繰延資産は帳簿価額から償却額を控除した直接控除方式で記載しなければなりません。
6 流動負債
1)流動負債に含まれるもの
負債の部は流動負債と固定負債に分けられます。流動負債は、支払手形、買掛金、短期借入金、リース債務、前受金、前受収益、未払金、未払費用などで構成されます。
2)支払手形、買掛金
3)前受金、前受収益、未払金、未払費用
1.前受金
前受金は商品や原材料などの仕入れや外注加工などの受注に際し、代金の一部または全部を、物品の出荷や外注加工の完了の前に受け取った場合、その金額を一時的に処理する勘定です。前受金は金銭債務というよりも、物品やサービスの給付債務となります。
2.前受収益
前受収益は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を行う場合、決算日においてまだ提供していない役務やサービスに対して事前に受領した対価のことです。未経過の受取利息、賃借料などがこれに当たります。
これにより翌期分の収益を翌期に繰り延べることができます。
3.未払金
未払金は、固定資産、有価証券購入代金などの本来の事業目的以外の財貨やサービスの提供を受けた場合の代価の未払分を処理する勘定です。
4.未払費用
未払費用は、一定の契約に基づいて、継続して役務やサービスの提供を受ける場合、決算日において既に提供を受けた役務やサービスに対してまだ支払っていない対価のことで、未払いの支払利息、保険料、賃借料、リース料などです。
これにより当期分の正しい費用を計上することができます。
4)借入金
借入金は、金銭消費貸借契約により金銭を借り入れた場合に生じる債務です。この借入金は、返済期限までの期間によって次のように分類します。
- 短期借入金:決算日から1年以内に返済期限の到来するもの
- 長期借入金:決算日から1年を超えて返済期限の到来するもの
短期借入金の借り入れから返済までの取引の仕訳を見てみましょう。
また、短期借入金、長期借入金は、もし役員からのもの、親会社からのものがあれば、それぞれ区分して計上しなければなりません。
7 固定負債
固定負債は、社債、長期借入金、退職給付引当金などで構成されています。ここでは、社債の発行について説明します。
社債は、資金を調達するために社債券という有価証券を発行することによって生じる企業の債務です。
社債発行費の償却を60カ月(償還までの期間5年)とした場合、社債発行費の償却、社債の額面と簿価の差額は×6年3月31日に解消します。
×6年3月31日に社債を償還した際の仕訳例は次の通りです。
8 純資産の部
1)純資産の部の表示項目
純資産の部は、株主資本、評価・換算差額等、新株予約権に区分されます。さらに、株主資本は、資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式に区分されます。また、評価・換算差額等は、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、土地再評価差額金に区分されます。
会社計算規則に基づいた純資産の部の表示項目は次の通りです。
2)増資の仕訳
株主総会決議に基づく取締役会の決議により、株式1000株を第三者に割当増資することになりました。
発行価額は1株につき7万円、1株当たり2万円を資本金に組み入れないことにし、かつ発行価額と同額の申込証拠金を受け入れることにしました。また、申込期日までに全額が払い込まれました。
3)利益配当
株主総会において、次の配当を決議しました。
- 配当金:1000万円
- 利益準備金:100万円
この場合の仕訳例は次の通りです。
4)自己株式
自己株式を1000万円で取得しました。
自己株式1000万円を1100万円で売却しました。
自己株式処分差益は、純資産の部のその他資本剰余金となります。
以上(2024年4月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)
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【新人経理向け】財務諸表の基本となる損益計算書と貸借対照表の概要
書いてあること
- 主な読者:損益計算書と貸借対照表について勉強したい新人経理担当者
- 課題:会計を勉強し始めた頃は簿記の仕訳に集中してしまい、決算書を意識できない
- 解決策:損益計算書と貸借対照表を見る上でのポイントを把握し、お金の動きが決算書にどのように記載されるのかを知る
1 損益計算書の概要
損益計算書は
一定期間の企業の経営成績を表すもの
です。一番上の「売上高」から費用を引いていき、「売上総利益」「営業利益」「経常利益」「税引前当期純利益」「当期純利益」の5つの利益を求める構造になっています。
損益計算書のイメージは次の通りです。
1)売上総利益
「売上高」から「売上原価」を引いた金額が「売上総利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「売上総損失」として表示されます。
2)営業利益
「売上総利益」から「販売費及び一般管理費」の合計額を引いた金額が「営業利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「営業損失」として表示されます。
3)経常利益
「営業利益」に「営業外収益」を加算し、「営業外費用」を引いた金額が「経常利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「経常損失」として表示されます。
4)税引前当期純利益
「経常利益」に「特別利益」を加算し、「特別損失」を引いた金額が「税引前当期純利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「税引前当期純損失」として表示されます。
5)当期純利益
「税引前当期純利益」から「法人税、住民税及び事業税」を引いて、さらに「法人税等調整額」を加減した金額が「当期純利益」として表示されます。この金額がマイナスになるときは「当期純損失」として表示されます。
2 貸借対照表の概要
1)貸借対照表とは
貸借対照表は
企業の期末日など、一定時点の財政状態を表すもの
です。財政状態とは資金の運用と調達の状況をいい、それぞれが釣り合った状態(資産合計と負債・純資産合計は同じ金額)になっています。
貸借対照表は、資産の部、負債の部、純資産の部で構成されています。貸借対照表の左側が資産の部、右側には負債の部と純資産の部が配置されています。
左側の資産の部は、資金の運用状況を表しています。右側の負債の部と純資産の部は、資金の調達状況を表しています。分かりやすくいえば、負債の部は借入金などによる資金調達を表しています。また、純資産の部のうち、株主資本は出資者からの出資による資金調達を表しています。
資産の部は、流動資産、固定資産、繰延資産に分けられます。固定資産はさらに有形固定資産と無形固定資産、投資その他の資産に分けられます。
負債の部は流動負債、固定負債に分けられ、純資産の部は株主資本、評価・換算差額等、新株予約権に分けられます。
2)資産の部
資産の各科目は現金及び預金、受取手形、建物その他の資産の性質を示す適当な名称を付した科目に細分しなければなりません。
1.流動資産
流動資産は、現金や当座預金、普通預金などの最も流動性の高い資産を筆頭に、売掛金や受取手形など営業に関係する債権、商品などの棚卸資産、1年以内に回収が見込まれる営業外の短期貸付金などの債権も含まれます。
商品などの棚卸資産は、仕入れた段階では費用ではなく資産です。その後、販売された分について、費用として計上します。
売掛金などの債権には回収不能が予想される分を貸倒引当金として計上します。例えば、売掛金が100万円あり、このうち5%程度が回収不能になることが予想される場合、5万円(100万円×5%)を貸倒引当金として流動資産の部にマイナスの金額として計上します。
2.固定資産
固定資産は、次のように分けられます。
- 有形固定資産(建物や機械装置、工具器具備品、車両運搬具、土地など)
- 無形固定資産(ソフトウエア、特許権、借地権、のれんなど)
固定資産は、その取得時に資産に計上しますが、建物にしても機械装置にしても、時の経過とともに劣化(価値が減少)していきます。この劣化分を考慮して、毎期、減価償却費を計上して、劣化する部分を費用計上していきます。
例えば、取得価額100万円の備品を5年かけて定額法で償却する場合、毎期の減価償却費は次の式で計算できます。
減価償却費=取得価額/償却率(耐用年数ごとに定められている定額法の率)
20万円=100万円×0.200(耐用年数5年の場合の償却率)
従って、取得から丸3年が経過した上記の備品は、次のように表示されます。
減価償却累計額とは、毎年の減価償却費の累計額(60万円=20万円×3年)をいいます。
または、固定資産の備品を次のように表示し、減価償却累計額を貸借対照表の下に注記事項とすることもできます。
無形固定資産(のれんなど)は、償却額を控除した残額を記載します。
なお、有形固定資産の償却は帳簿価額が1円になった時点で償却(耐用年数の最後の年の減価償却費は「帳簿価額-1円」)を終えますが、無形固定資産は帳簿価額が0円になるまで償却します。
2.投資その他の資産
投資その他の資産は、満期まで1年超の定期預金、長期貸付金、投資有価証券、関係会社株式、破産債権、更生債権などが表示されます。流動資産、有形固定資産、無形固定資産または繰延資産に属さないものを表示します。
3.繰延資産
かつて(旧商法施行規則)は、繰延資産として、創立費、開業費、研究費及び開発費、新株発行費、社債発行費、社債発行差金、建設利息が挙げられていました。
しかし、現在(会社計算規則)は、繰延資産についての例示はなく、「繰延資産として計上することが適当であると認められるもの」を「繰延資産」とするとされています。繰延資産は償却額を控除した直接控除方式で記載しなければなりません。
3)負債の部
負債の部は、流動負債、固定負債に区分されます。負債の各科目は、支払手形、買掛金、社債その他の負債の性質を示す適当な名称を付した科目に細分しなければなりません。
1.流動負債
買掛金、支払手形その他の営業取引によって生じた金銭債務は、流動負債に記載しなければなりません。
借入金その他の営業取引によって生じた金銭債務以外の金銭債務で、その履行期が決算期後1年以内に到来するもの、または到来すると認められるものは、流動負債に記載しなければなりません。
2.固定負債
流動負債に記載した金銭債務以外の金銭債務は、固定負債に記載します。
4)純資産の部
純資産の部は「株主資本」「評価・換算差額等」「新株予約権」に区分されます。
さらに、それぞれ次のように区分されます。
1.株主資本
- 資本金:会社設立時の出資金や増資払込などの金額です
- 資本剰余金:株主が払い込んだお金のうち、資本金に含まれなかった金額です
- 利益剰余金:会社の活動によって得た利益のうち、社内に留保している金額です
- 自己株式:会社が買い取った自社株式の金額です
2.評価・換算差額等
- その他有価証券評価差額金:売買目的有価証券や満期保有目的債券、子会社および関連会社株式以外の有価証券を期末に時価評価した場合の評価差損益の税効果分を除いた金額です
- 繰延ヘッジ損益:先物取引やオプション取引について、期末時点での時価評価による差額を翌期以降に繰り延べるときに使います
- 土地再評価差額金:土地の再評価に関する法律に規定されている、再評価差額金です
3.新株予約権
- 投資家などに会社が発行する株式の交付を受けることができる権利を発行し、払込を受けた代金です
会社計算規則に基づいた純資産の部の表示科目は次の通りです。
3 財政状態の説明
貸借対照表の理解を深めるため、財政状態の変化について、複式簿記の知識がない人でも分かるような簡易な例で説明します。
1)財政状態1(資本金1000万円を現金で保有しているときの財政状態)
2)財政状態2(200万円を借り入れ、それを現金で保有しているときの財政状態)
3)財政状態3(商品100万円を現金払いで仕入れたときの財政状態)
4)財政状態4(土地400万円を現金払いで取得したときの財政状態)
5)財政状態5(建物300万円を現金払いで取得したときの財政状態)
6)財政状態6(商品200万円を掛けで仕入れたときの財政状態)
7)期末の財政状態
最後に、商品200万円を400万円で販売し、買掛金100万円、販売費100万円、借入金の利息10万円を支払ったところで決算日を迎えたときの財政状態は次の通りです。なお、建物の減価償却費10万円を計上しています。
損益計算書の当期純利益が貸借対照表の純資産の部の繰越利益剰余金に加算され、期末における企業の財政状態が示されます。貸借対照表は資産の合計額と負債・純資産の合計額が一致します。
以上(2024年4月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)
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【契約書の実務(1)】「及び、並びに」 紛らわしい用語を解説
書いてあること
- 主な読者:契約実務に慣れていない経営者、担当者
- 課題:契約書には紛らわしい用語が頻出するが、正しく理解していない
- 解決策:契約書を読むための前提として、よく使われる語句の意味を知る
1 契約書、覚書、念書・誓約書の違い
契約とは、
「申し込み」と「承諾」という、相対する意思表示が合致することによって成立する法律行為
です。当事者同士の意思が合致すれば、原則として口約束でも契約は成立しますが、ビジネス上では書面を交わすのが通常です。書面には「契約書」「覚書」「念書・誓約書」などがありますが、そのタイトルだけで法的な効果に違いが生じるわけではありません。ただし、実務上はある程度の使い分けがされています。
1.契約書
これから行う取引の条件を明確にするため、当事者の合意内容を双方の権利義務の形で記載した書面です。
2.覚書
契約書を作成する前段階で当事者の合意事項を書面にしたもの、あるいは既にある契約条項の解釈や前提事実を明確にするためや補足で合意したい事項を定めるために契約書に付随して別途作成される書面です。
3.念書・誓約書
契約の一方当事者が相手方に差し入れる形式で、自分が義務を負うことやその義務を履行することを約する内容の書面です。
2 紛らわしい用語の解説
1)「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」の違い
緊急度の高い順に「直ちに>速やかに>遅滞なく」として用いられるのが一般的です。ただし、具体的にどの程度で遅滞と評価できるかを示す基準にはなりにくいといえます。そのため、契約書上にはできる限り「3営業日以内」など、具体的に記載しましょう。
2)「~することができる」「~しなければならない」「~するものとする」の違い
それぞれ次の意味合いがあります。
- 「~することができる」:するか否かを選択できる
- 「~しなければならない」:することが義務である
- 「~するものとする」:することが義務である
「~するものとする」は、「~しなければならない」と程度が異なることはあるものの、法的に義務を意味する用語であることは同じで、その効果も変わらないといえます。
3)「~とみなす」
「~とみなす」は、その事実等を擬制する意味で用いられます。例えば、売買契約書で「納品後5営業日以内に、乙(買い手)が甲(売り手)に対して検査に関する合否の通知を行わないときは、当該検査に合格したものとみなす」という条項がある場合、仮に検査に不合格となるような製品があっても、納品後5営業日以内に合否の通知を行わなければ、検査に合格したものとして扱われることになります。
4)「等」
「等」は、その前に示されているものと同種の他のものがあることを示します。例えば、「製品A」は「製品A」のみを示しますが、「製品A等」は製品A以外に特定できない別の製品があることを示します。
「等」には曖昧さがあります。これを排除するためには具体的な事項を列挙することになります。一方で、あえて「等」を使用して、解釈に幅を持たせることもあります。「等」については、その用語が使われている意図を考えることが大切です。
5)「及び」と「並びに」の違い
複数の用語を結ぶ接続詞です。「及び」と「並びに」はいずれも英語でいう「and」を意味しますが、契約書では使い分けがされています。まず、複数の用語を並列にする場合は、「及び」を使います。基本的な使い方は次の通りです。
- 2つの用語を並べる場合は「支社1及び支社2」
- 3つ以上の用語を並べる場合は「支社1、支社2及び支社3」(最後を「及び」でつなぐ)
次に、複数の用語を2つ以上の階層に分けて並べる場合は、最も下位の階層のみ「及び」でつなぎ、その他の上位の階層は全て「並びに」でつなぎます。基本的な使い方は次の通りです。
- 階層が2つの場合は「(支社1及び支社2)並びに(関連会社)」
- 階層が3つの場合は「[(支社1及び支社2)並びに(関連会社)]並びに(取引先)」
6)「又は」と「若しくは」の違い
複数の用語を結ぶ接続詞です。「又は」と「若しくは」はいずれも英語でいう「or」を意味する言葉ですが、契約書では使い分けがされています。まず、複数の用語を並列にする場合は「又は」を使います。基本的な使い方は次の通りで、「及び」の場合と同じです。
- 2つの用語を並べる場合は「支社1又は支社2」
- 3つ以上の用語を並べる場合は「支社1、支社2又は支社3」(最後を「又は」でつなぐ)
次に、複数の用語を2つ以上の階層に分けて並べる場合は、最も上位の階層のみ「又は」を使い、その他の下位の階層は全て「若しくは」でつなぎます。基本的な使い方は次の通りです。
- 階層が2つの場合は「(支社1若しくは支社2)又は(関連会社)」
- 階層が3つの場合は「[(支社1若しくは支社2)若しくは(関連会社)]又は(取引先)」
契約書の内容を確認する際に、押さえておくべきは用語に限りません。以降では、トラブルが発生した場合の規定など、内容確認で押さえておくべきポイントを紹介します。
3 内容確認で押さえておくべき5つのポイント
1)「5W2H」を確認する
契約書の内容をしっかり確認しないで締結してしまうと、後にトラブルになる恐れがあります。法務の知識や実務経験があれば理想的ですが、そうでなくても基本的な事項は確認することができます。まずは「5W2H」です。これはビジネスの基本ですが、契約書でも通用します。
- Who:契約当事者は誰か
- Why:契約締結の目的は何か
- What:締結する契約の内容は何か
- When:義務の履行日(権利の行使日)はいつか。契約期間はいつまでか
- Where:義務の履行場所(権利の行使場所)はどこか
- How:義務はどのように履行されるのか(権利はどのように行使するのか)
- How much:契約を通じて支払う(受け取る)対価はいくらか
2)権利・義務の発生要件を確認する
権利・義務の発生要件をしっかりチェックしておかないと、トラブルになった際に自社が不利な立場に立たされることがあります。
例えば、製品の売買契約書の返品に関する条項が、「本売買契約に基づき納入された製品に不具合がある場合、乙(買い手)は、甲(売り手)に当該製品を返品することができる」としか定められていないと、「不具合」の基準が不明確です。
場合によっては、製品には問題は全くないが製品が入っているケースに傷がある、といったことでも、相手から返品を主張されかねません。こうした場合は、「不具合」に該当する事由をできる限り具体的に列挙するなど、権利・義務が発生する要件を明確にしておくべきです。
3)トラブルが発生した場合の規定を確認する
契約書の大切な役割の1つは、その契約に関するトラブルから自社の権利を守ることです。全てのトラブルを想定することはできませんが、少なくとも「発生する可能性の高いトラブル」「発生した場合に被害が大きいトラブル」については洗い出し、契約書に定めておきます。
また、トラブルが発生した際に、自社の負う義務が、適切かつ許容できるものであるかということも確認が必要です。契約の相手方が契約書の草案を作成した場合は、特に注意が必要です。草案の作成者側(相手方)にとって有利な条項が盛り込まれていることで、自社にとっては不利になることがあります。
4)関連する契約書についても確認する
基となる契約書(「原契約」や「基本契約」などといいます)には、関連する契約(以下「関連契約」)が覚書などのタイトルで締結されることがあります。このような場合、原契約だけではなく関連契約についても確認が必要です。
例えば、原契約締結時の販売金額は1000万円でも、その後に価格改定が行われ、覚書で1200万円に訂正しているケースがあります。この他にも、原契約と関連契約との間で支払日、納品日、権利・義務などが変更となり違いが生じている場合があるため、注意が必要です。
5)分からない点は、相手方に確認する
契約書を確認していると、「意味が分かりにくい条文」「不要と思われる条文」などが出てきます。こうした場合は、必ず相手方に確認しましょう。ただし、不要と思われる条文で特に意味をなさないことが明らかであれば、契約をスムーズに締結するためにあえてそのままにしておくことも、場合によってはあり得ます。
以上(2024年5月)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)
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春の全国交通安全運動(2024/4号)【交通安全ニュース】
活用する機会の例
- 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
- 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
- マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など
4月から6月にかけては、子どもが絡む交通事故が多い時期です。中でも小学1、2年生は交通事故に遭いやすい傾向があります。このため、運転者は通学路や登下校の時間帯を意識して運転する必要があります。
今年も春の全国交通安全運動が実施されます。この機会に歩行者優先の交通ルールを再確認し、安全運転を心がけましょう。
1.春の全国交通安全運動
「春の全国交通安全運動」が次の要領で実施されます。
(内閣府・警察庁等主催)
◆運動期間:令和6年4月6日(土)から15日(月)まで
◆交通事故死ゼロを目指す日:令和6年4月10日(水)
◆重点テーマ(運動重点)
<全国重点>
①こどもが安全に通行できる道路交通環境の確保と 安全な横断方法の実践
②歩行者優先意識の徹底と「思いやり・ゆずり合い」運転の励行
③自転車・電動キックボード等利用時のヘルメット着用と交通ルールの遵守
<地域重点>
都道府県の交通対策協議会等は、全国重点のほか、地域の交通事故実態等に即し、必要に応じて各都道府県の重点項目を定めていますのでご確認ください。
詳しくは、内閣府「令和6年春の全国交通安全運動推進要綱」をご参照ください。
https://www8.cao.go.jp/koutu/keihatsu/undou/r06_haru/youkou.html
2.横断歩道付近での交通ルールを再確認
自動車と歩行者の交通死亡事故の約7割は歩行者が横断中の事故であり、横断歩道やその付近での発生が多い状況です。この機会に横断歩道付近での交通ルールを確認し、横断歩道の道路標識等により一層注意を払い、歩行者優先を意識しましょう。
【歩行者優先のポイント】
- 横断歩道の直前で停止できる速度に減速
- 横断歩行者等がいる場合は、一時停止
- 横断歩道手前で停止している車両の側方を通過して前方に出るときは、一時停止
- 横断歩道手前30m付近では、追越し、追い抜き禁止
- 横断歩道以外でも歩行者の道路横断を妨げないこと
3.道路標識・路面標示にも注意
通学路やゾーン30の道路標識や路面標示などのあるところでは、子どもや高齢者との交通事故を起こすリスクがあります。このような場所では速度を落として走行する必要があります。
子どもは判断力が未熟で、視野が狭く、何かに集中して突然道路へ飛び出すなどの特性があります。高齢者は、加齢により視野が狭くなり、体力や判断力も衰え、無理な横断をする恐れがあります。このため運転者は「自車が見えているはず」と思ってはなりません。子どもや高齢者は車の動きを見ていません。
通学路やゾーン30の道路標識や路面標示をみかけたら、「子どもが飛び出すかもしれない」などと考えて、「思いやり」のある運転を励行しましょう。
以上(2024年4月)
sj09110
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アルバイトの戦力化のために
4月から多くの新入学生がアルバイトを始めることから、厚生労働省では4月から7月までの間「「アルバイトの労働条件を確かめよう!」キャンペーン」を実施しています。
本稿では、キャンペーンの重点項目を記載するとともに、アルバイトの戦力化について一例をご紹介いたします。
1 キャンペーンの重点項目について
厚生労働省では、重点的に呼びかける事項を各種学校や事業主団体等に協力依頼をして周知に努めています。その内容は以下の通りとなります。
(1)労働条件の明示
①契約はいつまでか
②契約期間の定めがある契約を更新する際のきまり
③どこでどんな仕事をするのか
④勤務時間や休みはどうなっているのか
⑤バイト代(賃金)はどのように支払われるのか
⑥辞めるときのきまり
⑦無期転換申込みができる有期労働契約の場合においては、無期転換申込みに関する事項及び無期転換後の労働条件
(2)シフト制労働者の適切な雇用管理
学生は学業が本分であり、学業とアルバイトが適切な形で両立できる環境を整えるよう配慮する必要があります。
使用者が一方的に急なシフト変更を命じることはできません
(3)労働時間の適正な把握
アルバイトも、労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、適正に記録する必要があります。
(4)商品の強制的な購入の抑止とその代金の賃金からの控除の禁止
アルバイトが希望していないのに、 商品を強制的に購入させることはできません。
(5)労働契約の不履行に対してあらかじめ罰金額を定めることや労働基準法に違反する減給制裁の禁止
アルバイトの遅刻や欠勤などによる労働契約の不履行や不法行為に対して、 あらかじめ損害賠償額等を定めることはできません。
(厚生労働省「アルバイトの労働条件を確かめよう!〜キャンペーン実施中〜」より抜粋)
2 アルバイトの戦力化について
前述の記載は基本的に法律に則ったルールですが、法律を守っているだけでは、アルバイトが戦力として機能するわけではありません。特に働いたことのない新入学生が立派に働けるようになるには、それなりに受け入れ側の対応が必要となってきます。以下にいくつか対応手法を記載いたします。
・ウェルカムオリエンテーションの実施
新入学生をアルバイトとして採用した際に、ウェルカムオリエンテーションを実施することも一案です。このオリエンテーションでは、企業文化の紹介、職場のルール、働く上での期待値の共有などを行い、新入学生がスムーズに職場に溶け込めるようサポートします。また、仕事の基本的な流れや、安全に関する重要な指示もこの機会に伝えると良いでしょう。
・メンター制度の導入
新入学生に経験豊富なアルバイトスタッフや正社員をメンターとして割り当て、仕事のコツや職場での振る舞い方など、実務に必要な知識やスキルを伝授します。メンターが、新入学生の不安や疑問に耳を傾け、個々の成長をサポートすることで、新入学生は早期から自信を持って業務に取り組むことができるようになるでしょう。
・成功体験の積極的な提供
新入学生がアルバイトを通じて早期に成功体験を得られるよう、小さな成果でも積極的に評価すると良いでしょう。また、優れたアイデアを提案した新入学生をミーティングで評価するなど、努力と成果を公に認めることも大切です。このような経験は、新入学生の自信を高め、長期的に職場へのコミットメントを促す効果があります。また、他のアルバイトスタッフとの良好な競争と協力を促し、全体のモチベーション向上にも寄与します。
3 さいごに
新入学生がその職場を気に入ったなら、学校の友人をアルバイト先として紹介してくれるかもしれません。そうなれば、採用コストの削減や労働力不足の改善にもつながるでしょう。法定の対応を行うことはもちろん、行っている企業も次のステップを検討して実施してみてはいかがでしょうか?
※本内容は2024年3月14日時点での内容です。
(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)
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アルバイトの戦力化のために
4月から多くの新入学生がアルバイトを始めることから、厚生労働省では4月から7月までの間「「アルバイトの労働条件を確かめよう!」キャンペーン」を実施しています。
本稿では、キャンペーンの重点項目を記載するとともに、アルバイトの戦力化について一例をご紹介いたします。
人間ドックに育児サポート……「人事労務」で100年続く会社へ
書いてあること
- 主な読者:自社の人事労務を見直し、もっと社員を大切にしたい経営者、人事労務担当者
- 課題:人事労務の仕事内容は幅広く、どこから見直せばよいのか分からない
- 解決策:SDGs(持続可能な開発目標)をベースに重要な取り組みを洗い出す
1 【SDGs】人事労務に関係する4つの目標
誤解を恐れずに言えば、かつての中小企業では、社員にかけるお金はコスト(人件費)として捉えられ、さらに慢性的な人手不足も相まって、「人事労務」の仕事が他の業務よりも後回しにされがちでした。
しかし、時代は変わりました。「人的資本経営」という言葉もあるように、今では社員のスキルや能力を「資本」として捉え、そこにかけるお金は「コストでなく投資である」という考え方が浸透しつつあります。社員を大切にしなければ会社は生き残っていけませんから、ある意味、これからの会社の未来は人事労務にかかっているともいえるのです。
ただ、人事労務の仕事内容は幅広く、見直すにもどこからメスを入れればいいか分からないという人も多いでしょう。そこで、この記事では、
SDGs(持続可能な開発目標)をベースに、人事労務の重要な取り組みを洗い出すこと
をご提案します。SDGsでは、「地球の社会課題に向き合い、変化に対応し、持続可能な社会を実現する」という観点から、17の目標が設定されています。次の図表は、そのうち人事労務に関係する4つの目標と具体的な取り組みの例を挙げたものです。以降で、図表の各取り組みのポイントを紹介するので、御社の人事労務の状況を確認する参考情報としてご活用ください。
2 目標3「すべての人に健康と福祉を」
目標3は、年齢に関係なく全ての人々の健康的な生活を確保し、福祉を促進するというものです。「健康経営」という言葉もあるように、社員の健康は、会社が経営を続けていく上で、必ず守らなければならないものです。
1)過重労働の防止
残業(時間外労働)は、月45時間を超えると健康障害のリスクが高まり、月100時間(または2~6カ月平均80時間)を超えると過労死の危険があるとされています。近年は「時間外労働の上限規制」など、過重労働を防ぐための法整備が進んでいますが、例えば、社員が会社に隠れて残業する「サービス残業」の問題には対処できているでしょうか。
まずは、社員の労働時間を正しく管理できているか改めて確認しましょう。例えば、手書きの勤怠管理表などで社員の労働時間を管理している会社では、定期的に自己申告の内容とオフィスの施錠記録やPCのログ情報を照合するなどして、実態を調査する必要があります。
勤怠管理システムを導入している場合も、必要に応じてシステムの見直しを検討しましょう。例えば、オフィス向け入退室管理システム(スマートロック)の中には、記録される入退室のログ情報を勤怠管理の目的で使用できるタイプなどがあり、より正確に労働時間を管理できます。
過重労働の防止については、次の記事などが参考になります。
2)人間ドックなどの実施
会社には年1回以上、定期健康診断を実施する義務があります。ですが、法律で決められた「法定項目」を社員に受診させるだけでは、自覚症状のない病気などを見落とすこともあります。
そこで、法定項目以外の「法定外項目」を含む人間ドックなどを実施することを検討します。人間ドックは受診項目が多いだけでなく、医療機関によっては、例えば、脳疾患や心臓疾患、性別に特有のがん(例:子宮がん)など、分野を絞って集中的に検査できる所もあります。
忙しくてなかなか人間ドックの時間が取れないという場合もあるでしょうが、最近は、約30分で脳ドックの受診が終わる「スマート脳ドック」など、あまり時間のかからない検査も登場しています。
人間ドックなどの実施については、次の記事などが参考になります。
3)“ちょっとした体調不良”の改善
過重労働や病気に注目するあまり、肩こり、腰痛、ストレスといった社員の“ちょっとした体調不良”をおろそかにしていないでしょうか。「たかが肩こり」などと考えて放置すると、社員が仕事に集中できずミスをしたり、体調が悪化したりして、欠勤よりも大きな損失を会社にもたらしかねません。こうした状態を「プレゼンティーイズム」といいます。
定期健康診断の結果を確認するだけでなく、例えば社内アンケートで「あなたの仕事に悪影響を及ぼしている体調不良は?(肩こり、腰痛、ストレス、疲れ目(ドライアイ)、寝不足など)」を聞いたりすると、社員の体調不良の状況を「見える化」できます。
体調不良の改善方法はさまざまです。例えば、ヘルシーな社食サービスを導入したり、「1日の歩数」を計測するアプリを導入したり、昇降式のスタンディングテーブルを導入して立った状態でも仕事ができるようにしたりといった方法があります。
“ちょっとした体調不良”の改善については、次の記事などが参考になります。
3 目標5「ジェンダー平等を実現しよう」
目標5は、性別に関係なく、誰もが平等に活躍できる社会を実現しようというものです。「女性の権利向上」をイメージするかもしれませんが、「性別に関係なく平等に」が趣旨なので、男性、LGBTQなど性的少数者に対しても同じように配慮が必要です。
1)ハラスメントの防止
都道府県労働局や労働基準監督署への「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は、2022年時点で6万9932件に上ります(厚生労働省「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」)。社員の権利意識の高まりなどの背景もありますが、会社以外の機関にこうした相談が多く寄せられるのは、会社の「ハラスメント防止措置」がちゃんと機能していないからかもしれません。
会社は「ハラスメント相談窓口」を設置し、社員からの相談に応じて、事実確認、行為者の処分や被害者のケア、再発防止策の実施などを適正に行う義務があります。「相談窓口が周知されているか」「経営者が把握していない相談内容がないか」などを、いま一度確認しましょう。
一方で、上司がハラスメントと指摘されるのを恐れて、部下を指導できなくなるなどの事態も避けなければなりません。例えば、セクハラの場合、「容姿」や「女性らしさ」に踏み込まない指導を心掛けるだけでも、ハラスメントと指摘されるリスクを減らせます。弁護士などの専門家に研修を実施してもらうなどして、社員に正しい考え方を身に付けさせるとよいでしょう。
ハラスメントの防止については、次の記事などが参考になります。
2)妊娠・出産や育児のサポート
「育休(育児休業)」などの法整備が進み、妊娠・出産や育児を理由に退職することなく、仕事を続ける人が増えてきました。ただ、これまで育休の取得がなかった会社などは、いざ社員から相談があると、実務に不慣れなゆえに対応を誤ってしまう恐れがあります。
まずは、法制度の内容を正しく押さえましょう。近年は育児・介護休業法の法改正が続いていて、直近では、2022年10月から「育休の分割取得制度(2回まで)」「男性社員が取得できる短期の育休『産後パパ育休(出生時育児休業)』」が始まっています。
妊娠・出産や育児をする本人だけでなく、フォローに回る他の社員への配慮も重要です。例えば、育休中の業務を代替する社員に手当(業務代替手当)を支給する会社などがあります。ちなみに、育休については、2024年1月から、業務代替手当を支給した会社に対し、総額の原則4分の3(上限10万円×最大12カ月)を助成する「両立支援等助成金 育休中等業務代替支援コース」が始まっています(業務体制の整備や育児休業等に関する情報公表について別途支給あり)。
妊娠・出産や育児のサポートについては、次の記事などが参考になります。
3)LGBTQに配慮した職場環境の整備
LGBTQに関する取り組みは、非常にデリケートな問題です。会社は、社員が性的指向や性自認に関係なく、自分らしく働ける職場にしたいと考えますが、当事者本人は、「LGBTQであることを周囲に知られたくない」とカミングアウトできずにいるケースが少なくないため、対応に苦慮します。
難しいところですが、まず会社がやるべきことは、LGBTQに関する社員教育でしょう。例えば、「他人の性的指向や性自認を侮辱したり、他の社員に暴露(アウティング)したりすることはパワハラに当たる」「セクハラは、異性・同性関係なく成立する」といったことを教育し、こうしたハラスメントがあった場合、会社として厳しく対処する旨を周知します。
加えて、社内の設備も可能な範囲で見直しましょう。例えば、プライバシーが保護され、性別などに関係なく利用できる「独立個室型のトイレ」の設置などがそうです。ただ、こうした見直しについては、前述したカミングアウトの難しさから「意見を言いたくても言えない社員」がいる可能性があるので、匿名のアンケート調査で意見を募るなどして、慎重に行います。
LGBTQに配慮した職場環境の整備については、次の記事などが参考になります。
4 目標8「働きがいも経済成長も」
目標8は、経済成長を持続させつつ、全ての人が働きがいと十分な収入のある仕事に就ける社会を実現しようというものです。働きがいと十分な収入を確保するには、休みや仕事の生産性にも目を向ける必要があります。
1)賃上げの検討
社員の収入を確保する最もシンプルな方法は「賃上げ」です。2023年の春闘では、物価高などの影響を受けて3.58%(加重平均、定期昇給相当を含む)という高水準の賃上げが実施されました(日本労働組合総連合会「2023春季生活闘争第7回(最終)回答集計結果」)。ただ、賃金は一度引き上げると、「労働条件の不利益変更」などの関係で簡単には引き下げられないので、実施は慎重に検討する必要があります。
まずは、今の自社の賃金水準を世間相場と比較し、本当に賃上げの必要があるかを判断することが重要です。世間相場は、厚生労働省「賃金センサス(賃金構造基本統計調査)」などで確認できます。相場を上回っている場合、無理に賃上げに取り組む必要はないかもしれません。
逆に、相場を下回っている場合は賃上げを検討する必要がありますが、基本給を引き上げると後が大変になるかもしれません。その場合、「手当」で実質的な賃上げをするのも1つの手です。手当は就業規則で定める要件を満たす場合に支給するものなので、要件を満たさなくなったら支給を止められます。例えば、物価高が続く間、社員の生活費を補てんするために支給する「インフレ手当」などは、経済情勢が変わってきたら支給を打ち切ることもできます。
賃上げの検討については、次の記事などが参考になります。
2)休暇取得の促進
仕事のパフォーマンスを上げるためには、適度な休みも必要です。ですが、社員の中には「周囲が忙しそうなのに自分だけ休めない」などの理由から、休暇を取得しない人がいます。
休暇取得を促進する方法としては、まず「取得のハードルを下げること」が挙げられます。例えば、年休(年次有給休暇)は、必要な手続きを踏めば、「半日単位」「1時間単位」で与えたり、一定日数まで会社が取得時季を計画的に割り振ったりすること(計画的付与)ができます。
また、会社が独自に定める「特別休暇」の場合、取得時季や目的を明確に設定することで取得しやすくなるケースもあります。例えば、本人の誕生日(または誕生月)に取得できる「誕生日休暇」、子どもの学校行事に参加する場合に取得できる「学校行事休暇」などがあります。
休暇の取得促進については、次の記事などが参考になります。
3)ペーパーレス化の促進
DX(デジタル・トランスフォーメーション)の進行やリモートワークの浸透などを背景に、紙からデータへの動きが本格化しています。印刷などの手間を減らせば業務のスピードアップが図れますし、紙の消費量を減らすことでコスト削減や環境保全にもつながります。
ペーパーレス化の対象となる書類はさまざまですが、人事労務に関して言うと、例えば社員の入社時に交付する労働条件通知書は、社員の同意があればメールなどで交付できますし、就業規則や36協定の届け出も「電子政府の総合窓口(e-Gov)」を使って電子申請で行えます。
書類の保存についても、紙でなくデータで保存できるものがほとんどです。例えば、就業規則は、常に社員が確認できるのであれば、社内イントラネットにPDFをアップすることなどが可能です。紙からデータ保存に切り替えれば、オフィス内の省スペース化も図れるでしょう。
ペーパーレス化の促進については、次の記事などが参考になります。
5 目標10「人や国の不平等をなくそう」
目標10は、国内や国家間の不平等を是正しようというものです。会社の場合、社員が雇用形態、年齢、国籍などによって不利益を被ることがないように注意する必要があります。
1)同一労働同一賃金の実現
同一労働同一賃金は、簡単に言うと「同じ(価値の)仕事をしている社員には、同じ額の賃金を支払わなければならない」という考え方です。正社員とパート等の待遇格差を是正する観点から2020年4月に法制化されましたが、いまだに実現に至っていない会社は少なくありません。
同一労働同一賃金のポイントは、「仕事内容、能力、成果などの違いに基づく待遇格差は違法でない」という点です。例えば、正社員、パート等の役割分担に基づいて基本給や手当の額に差を付けるのは問題ありません。ちなみに会社はパート等から求められた場合、待遇格差の内容や理由を説明する義務があるので、いざというとき合理的な説明ができるよう準備しておきましょう。
なお、パート等の待遇改善は重要ですが、それが逆にパート等に不利益に働くケースもあるので注意が必要です。例えば、厚生年金保険の被保険者数が常時100人超(2024年10月からは常時50人超)の会社に勤めるパート等は、「賃金が月額8万8000円以上」などの要件を満たすと、社会保険に加入し、社会保険料を負担する義務が生じます(家族の扶養に入れなくなる)。
同一労働同一賃金の実現については、次の記事などが参考になります。
2)高齢社員の活用
会社には、社員を65歳まで雇用するための措置を講じる義務、70歳まで働ける機会を確保する努力義務があります。人間は基本的に加齢によって身体機能が変化するので、高齢社員を雇用し続ける場合、その点を考慮する必要があります。
例えば、平衡機能の低下(直立姿勢時の重心動揺が大きくなり、転倒しやすくなる)や聴力の低下(騒音時の声などが聞こえにくく、「危ない」と言われても気付かない)はけがにつながる恐れがあるので、定期的に健康診断や体力チェックテストを実施して社員の状態を把握するなど、対策を講じる必要があるでしょう。
なお、高年齢者雇用安定法では、社員が70歳まで働ける機会を確保するための選択肢として、フリーランス化なども認めています。フリーランスは、労働時間という概念がなく自分のペースで働きやすい面もあるので、社員が定年を迎えたら、雇用という選択肢にこだわらず、フリーランスとして力を貸してもらうというのも1つの方法です。
高齢社員の活用については、次の記事などが参考になります。
3)外国人の活用
今や外国人が働いている会社は日本でも珍しくありませんが、初めて外国人を雇用する会社などは、日本人を雇用する場合との違いが分からず、戸惑ってしまうかもしれません。
結論から言うと、日本で働く外国人には労働基準法などの労働関係法令が適用されるので、基本的な扱いは日本人と変わりません。ただ、それぞれの外国人が持つ「在留資格」によって、行える活動や日本で働ける期間に違いがあるので、その点には注意が必要です。
また、就業時間中に礼拝のため席を外したり、食べてはいけない食材の関係で他の社員がお菓子を勧めた際にトラブルになったりすることがあるので、宗教・文化の違いについてはある程度把握しておく必要があります。難しい面もあるかもしれませんが、外国人が働きやすい社内体制や関係性を構築した結果、高い成果を上げている会社も数多くあります。
外国人の活用については、次の記事などが参考になります。
以上(2024年4月作成)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)
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総務のお仕事 12カ月 一目で分かる「月別実務リスト」
書いてあること
- 主な読者:社内の人事労務、会計・税務、法務などを一手に担う経営者や管理職
- 課題:やるべきことが多すぎて、実務の抜け漏れが生じてしまう
- 解決策:各月の実務をリストアップして手元に置いておく
1 実務の抜け漏れを防止するには?
人事部、経理部、法務部など、バックオフィス専門の部署がないことが多い中小企業では、経営者や管理職も例外なくこうした実務を行います。しかし、不慣れであり、片手間で処理することが多いので、どうしても抜け漏れが生じます。
一方、こうした実務は法令で定められたものが多く、放置しておくと思わぬペナルティを受けることがあります。これを避けるために、この記事では「3月末決算の中小企業」を対象に、
「人事労務」「会計・税務」「法務・その他総務」の主なお仕事を月別にリスト化
しました。
2 総務のお仕事リスト(対象:3月末決算の中小企業)
以降では、4月から順にリストを紹介しつつ、重要な実務(各リストの赤字部分)については別途ポイントを説明します。なお、リストの内容は中小企業における一例です。
1)4月のお仕事
1.入社手続き(4月入社の場合)
社員が入社したら、「労働条件通知書の交付」「社会保険や雇用保険の資格取得手続き」「雇入時健康診断の実施」などの手続きが必要です。手続きの詳細は、こちらのコンテンツをご確認ください。
2.決算書の作成
1年分の取引に関する仕訳に、決算整理仕訳(売上原価の算定、収益費用の見越し・繰延べ、減価償却の計上など)を加えて集計し、それぞれの勘定科目を決算日時点の数値に確定します。確定した数値を基に、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュフロー計算書(中小企業の場合、作成は義務ではありません)、個別注記表を作成します。
3.3月決算法人の税務申告書の作成
2.で作成した決算書などの数値を基に、法人税(地方法人税を含む)、法人住民税、法人事業税、消費税(地方消費税を含む)の「税務申告書」を作成します。
法人税と消費税の申告書の作成が中心となります。法人税については、決算書の利益から法人税法上の所得を計算するので、さまざまな調整や税額計算が必要です。消費税については、消費税が課税されている売上・仕入かどうかなど、消費税独自の税額計算を行います。
2)5月のお仕事
1.3月決算法人の確定申告
原則事業年度終了の日から2カ月が経過する日(3月末決算の場合は、5月31日)までに、作成した「確定申告書」を、各提出先に提出します。「国税電子申告・納税システム(e-Tax)」や「地方税ポータルシステム(eLTAX)」を利用していれば、システム上での電子申告が可能です。
2.確定申告による法人税等および消費税の納付
原則事業年度終了の日から2カ月が経過する日までに、1.で申告した納税額を、各納税先に納める必要があります。e-TaxやeLTAXを利用していれば、ダイレクト納付(口座振替)やインターネットバンキングなどを利用した電子納税が可能です。
3)6月のお仕事
1.夏季賞与の支給、被保険者賞与支払届の提出
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者に賞与を支給した場合、支給日から5日以内に、「被保険者賞与支払届」を所轄の日本年金機構事務センターに届け出ます。賞与保険料は、通常の給与の社会保険料と併せて翌月末に納付します。賞与を年2回または3回支給している場合、支給のたびに同じ手続きが必要です(年4回以上支給している場合は対象外)。
2.定時株主総会の開催
中小企業の多くは「非公開会社(全株式の譲渡について会社の承認が必要となる旨を定款に定めている会社)」です。非公開会社は、定時株主総会開催の1週間前までに、「招集通知」を株主に送付します。ただし、議決権を行使できる全株主が同意した場合は省略できます。
また、総会後は、「議事録の作成」「決議通知書の発送」「計算書類の公告」などの他、取締役の変更などがあった場合、2週間以内に、所轄の法務局に「変更登記の申請」をします。
4)7月のお仕事
1.算定基礎届の提出
毎年7月10日までに、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者の4、5、6月支給給与額を記載した「算定基礎届」を、所轄の日本年金機構事務センターに届け出ます。これにより9月分以降の社会保険料が改定されます(定時決定)。例えば、給与が毎月末日締め、翌月払いの会社は、10月支給給与から社会保険料の控除額を変更します。
なお、定期昇給などで固定給が変わり、標準報酬月額が2等級以上変動した社員がいた場合、その社員については、変動月の3カ月後から社会保険料が改定されます(随時改定)。例えば、給与が毎月末日締め、翌月払いの会社が、4月に定期昇給(昇給後の賃金を支払うのは5月から)を行い、2等級以上の変動があった社員がいた場合、5、6、7月の給与支払い後、速やかに「月額変更届」を所轄の日本年金機構事務センターに届け出ます。この場合、随時改定が定時決定に優先し、社会保険料は8月分(9月支給給与)から改定されます。
2.労働保険年度更新申告書の提出
毎年7月10日までに、「労働保険年度更新申告書」を所轄の労働基準監督署に届け出ます。この申告書には、労働保険(雇用保険・労災保険)の前年度の確定保険料と当該年度の概算保険料を記載します。
また、当該年度の概算保険料も原則7月10日までに納付します(前年度に納付した概算保険料と確定保険料との間に過不足があれば、過不足を調整した額を納付します)。ただし、事前に保険料の口座振替の申し込みをしている場合、9月6日に引き落とされます。なお、労働保険料は「概算保険料が40万円以上」など所定の要件を満たす場合、3回まで分割納付が可能です。
5)8月のお仕事
1.夏季休暇などの取得予定の確認
夏季休暇は法令で定められた休暇ではなく、会社が就業規則等で独自に設定する「特別休暇」の1つです。例えば、「7、8、9月の3カ月間で3日まで取得可」といった具合に定めるのですが、業務が多忙だと、周囲に遠慮して社員がなかなか休暇を取れないケースがあります。そのため、会社のほうから各社員に取得予定を確認するなどの配慮をするとよいでしょう。
2.建物、設備、社有車などの点検
夏季休暇などで休みを取る社員が増える間、建物、設備、社有車などの点検がおろそかにならないよう注意します。特に、建築基準法、電気事業法、道路運送車両法などで定められている「法定点検」については、所定の期限までに必ず実施します。
6)9月のお仕事
1.定期健康診断、ストレスチェックの実施(9月実施の場合)
社員を雇用する全ての会社は、定期健康診断を1年以内に1回以上実施します。社員数が常時50人以上の場合、ストレスチェックの実施義務もあります(こちらも1年以内に1回以上実施)。
なお、社員数が常時50人以上の会社は、定期健康診断実施後に「定期健康診断結果報告書」を、ストレスチェック実施後に「心理的な負担の程度を把握するための検査結果等報告書」を、すみやかに所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
2.防災訓練の実施、BCPや備蓄の確認など
9月1日の「防災の日」に防災訓練をする会社は多いです。テレワークをしている会社も、災害伝言板やSNSを使った安否確認訓練を実施するなどして、緊急時に備えましょう。また、BCP(事業継続計画)の内容が古くないか、災害用品の備蓄(水・食料、ヘルメット、救急セットなど)に問題がないかなども、併せて確認しましょう。
7)10月のお仕事
1.年次有給休暇の付与(4月入社の場合)
労働基準法により、「入社後6カ月以上勤務し、全労働日の8割以上出勤した社員」には、年次有給休暇(以下「年休」)を付与します。例えば、4月1日入社の正社員の場合、10月1日付で10日の年休を付与します。以降1年ごとに労働基準法に基づく日数を付与しますが、年休は付与日から2年を経過すると時効により消滅するので、日数の管理に注意しましょう。
2.地域別最低賃金(毎年10月改定)の確認
最低賃金には、都道府県ごとに定められる「地域別最低賃金」、特定の産業について定められる「特定最低賃金」があり、このうち地域別最低賃金が毎年10月に改定されます(特定最低賃金は不定期改定)。地域別最低賃金は年々引き上げられていて(2023年10月時点で、全国加重平均で1004円)、社員(特にパート等)がこれを下回らないよう注意します。
8)11月のお仕事
1.長時間労働の実態把握、改善
厚生労働省では毎年11月に「過重労働解消キャンペーン」を実施していて、キャンペーン中は労働基準監督署による長時間労働に対する監督指導が強化されます。長時間労働の改善は本来、継続的にやるべきものですが、特に11月は「勤怠打刻と実際の労働時間が乖離(かいり)していないか」などをしっかり確認しましょう。
2.中間申告による法人税等および消費税の納付
確定申告時の税額が一定額以上である場合などは、期中に複数回の納付が発生します。これを「中間申告・納付」といいます。税金ごとに、制度が異なります。
法人税、法人住民税、法人事業税については、その事業年度が6カ月を超えるとき、原則、その事業年度開始の日から6カ月を経過した日より2カ月以内(例えば、3月末決算法人の場合は11月末まで)に、中間申告・納付をします。
消費税については、確定申告時の消費税額によって中間申告の回数(なし、年1回、3回、11回)が変わってきます。この記事では、年1回のケースをモデルとしているため、11月末に消費税の中間申告・納付が必要です。
9)12月のお仕事
1.年次有給休暇の取得推進
年末年始を休業とする会社は多いですが、仮に本来の予定よりも仕事納めを前倒しできそうであれば、前倒しする日数分、社員に年休の取得を推奨するのもよいでしょう。法律上、年10日以上の年休が付与される社員(主に正社員)については、社員の意見を尊重した上で、会社が時季を指定して年5日の年休を取得させます。業務が多忙で年休取得が滞っている社員については、この時季にまとまった日数を取得してもらうよう働きかけます。
2.年末調整
年末調整は、社員の源泉所得税の最終調整を行うものです。社員全員に
- 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
- 給与所得者の保険料控除申告書
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(扶養控除等申告書)
を提出してもらい、その年分に受けられる所得控除などを社員ごとに集計し、正確な源泉所得税の金額を算定します。すでに源泉徴収している金額と差額がある場合、12月または1月支給給与で精算します。
10)1月のお仕事
1.法定調書の提出
毎年1月31日までに、前年(1~12月)に行った一定の支払いごとの金額や内容を記載した「法定調書」を所轄の税務署に提出します。法定調書は全部で60種類あります。例えば、社員に支払った給与については「給与所得の源泉徴収票」、税理士など特定の人に支払った報酬については「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」などがあります。
2.償却資産の固定資産税の申告
毎年1月31日までに、当該年の1月1日時点で所有している償却資産について記載した「償却資産申告書」を各市区町村に提出します。償却資産とは、土地・建物以外の事業に使用するための資産で、法人税の計算上、減価償却の対象となる資産をいいます。
11)2月のお仕事
1.賃上げに関する情報収集
毎年2月ごろになると春闘が始まり、賃上げ(定期昇給やベースアップ)に関する話題を耳にする機会が増えます。他社の動向に注視しつつ、自社の人件費負担なども考慮して、最終的にどの程度賃上げに取り組むのかを判断します。
2.新年度の予算編成
新年度の利益目標を定め、売上と費用に計上する金額を決めます。当年度業績の着地見込みや、経営者の意向、担当者からのヒアリングなどを基に具体的な数値に落とし込むとよいでしょう。作成した予算は全社で共有し、毎月の予算管理(目標達成度合いの把握や、予算と実績の差額分析など)を実施していきます。
12)3月のお仕事
1.退職手続き(3月退職の場合)
社員が退職した場合、健康保険法、労働基準法などにより「社会保険や雇用保険の資格喪失手続き」「退職証明書の交付(必要な場合)」といった手続きが必要です。制度がある場合は、退職金の支払いも必要です。手続きの詳細については、こちらのコンテンツをご確認ください。
2.36協定の締結・届け出(4月起算の場合)
会社が社員に時間外労働や休日労働を命じるには、過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)と労働基準法第36条に基づく労使協定(通称「36協定」)を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ます。36協定は、1月や4月を起算日として1年間の有効期間を定めるケースが多く、有効期間が切れた状態で社員に時間外労働や休日労働を命じるのは違法です。必ず有効期間が切れる前に内容を更新し、締結・届け出た上で、社員に周知しなければなりません。
3.期末棚卸の実施
期末時点の在庫を確定するため、帳簿記録に基づき調査を行う帳簿棚卸と、現物を実際にカウントする実地棚卸を実施します。期末棚卸をして、在庫を確定することで決算書に計上する売上原価が算定されます。
以上(2024年4月更新)
(監修 税理士 石田和也)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)
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画像:SpicyTruffel-Adobe Stock
【朝礼】「面白い」「楽しい」は自分でつくれる
おはようございます。突然ですが、皆さんは最近、声を上げて笑ったことはありますか? 面白いと思ったこと、楽しいと思ったこと、何でもいいです。もし、あるなら、大いに結構! 一方で「よくよく考えないと出てこない」「もしかしたら無いかもしれない」という人がいるのであれば、ぜひこれから話すことを聞いてください。
今日、私が皆さんに伝えたいのは、
毎日を面白く、楽しくするのは自分次第
ということです。こう言うと、「何を当たり前のことを」「うさんくさい」と思うかもしれませんが、自分の「心持ち」次第で、毎日のちょっとした出来事が、いくらでも面白く、楽しく感じられるのです。
例えば、先週、私がぎっくり腰になったときのことをお話ししましょう。ぎっくり腰になったことのある人は分かると思いますが、とても痛いし、動きも制限されるので、表面的にはマイナスな出来事です。けれど、そんなマイナスの状況でも、自分の心持ち次第で「面白い」「楽しい」と思えるポイントはあるものです。
私が真っ先に面白いと思ったのは、「初めてのぎっくり腰で痛がる私」と「日常的に痛がる患者に接している医師や薬剤師」の温度差です。私は大騒ぎしているのに、医師や看護師はそういう患者に慣れているせいか終始冷静で、まるでテレビのコント番組を見ているかのようなおかしさがありました。
また、楽しかったこともあります。私は普段ジムに通っているのですが、しばらく通えなくなるので、代わりにどのように痛くなく、体がなまらないように体を動かしたらいいかを研究しました。これはとても興味深いテーマでした。
あまり出歩けなくなった分、読みたかった本を片っ端から読む時間も、お世話になっている人たちに手紙を書く時間もつくれました。
繰り返しになりますが、私が毎日を面白く、楽しくできるのは「そうする」と決めているからです。だから、口に出す言葉にはとても気を付けます。「面白い」「楽しい」と言葉を発し、声を出して笑っていると、本当に気持ちもそうなるのです。
これは、仕事も同じです。例えば、お客さまから難しいことを要求されたとき、「面倒くさい」と口に出したり、顔をしかめたり、ため息をついたりしていませんか? 自覚がある人は、今日からやめましょう。代わりにポジティブな言葉を発してみるのです。例えば「これができたら面白いかも!」「どうすれば効率的にできるかを試すチャンスだ!」「私の考えのほうがうまくいきそうだな…よし、交渉にチャレンジしてみよう!」と。
どうですか? 気持ちが前向きになったり、ちょっとワクワクしたりしませんか? 同じ毎日なら、ため息だらけの毎日より、楽しいワクワクの毎日のほうがいいのは間違いありません。あえて、ポジティブな言葉を発し、楽しい毎日をつくってください。
以上(2024年4月作成)
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画像:Mariko Mitsuda