中小企業等を支援する国や自治体の補助金・助成金事業では、雇用・人材開発・IT補助・コロナ支援など幅広いジャンルの支援があります。
本レポートでは、おすすめの補助金・助成金について支援の内容や対象条件、申請方法等についてわかりやすく紹介します。
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中小企業等を支援する国や自治体の補助金・助成金事業では、雇用・人材開発・IT補助・コロナ支援など幅広いジャンルの支援があります。
本レポートでは、おすすめの補助金・助成金について支援の内容や対象条件、申請方法等についてわかりやすく紹介します。
2024年1月に発生した能登半島地震は甚大な被害をもたらしました。自然災害が多く、「災害大国」ともいわれる日本。被災地支援のために「寄附金や義援金」(以下「寄附金」)を送りたいと考える経営者も多いことでしょうが、その際は税務上の取り扱いに注意しましょう。
結論から言うと、誰が誰に寄附するのかによって税金の種類が違ってきますし、どこに寄附するのかによって税務上の取り扱いも変わってきます。以下の図表は、被災地や被害を受けた人、団体などに寄附した場合の取り扱いを、大まかにまとめた早見表です。
この記事では、上の早見表ごとに金銭を寄附するケースを想定して、税務上の取り扱いを紹介します。なお、寄附金の税務上の取り扱いは非常に複雑なため、実際に寄附する際には、事前に税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
法人が国や地方公共団体に寄附金を送った場合、法人税の計算上、寄附金の全額を損金算入できます。
なお、災害に関するものとは限らないため詳細な説明は省略しますが、地方公共団体が企画した地方創生のプロジェクトに対して寄附金を送った場合は、法人税・地方税の計算上、税額控除を受けられます(企業版ふるさと納税)。
法人が、一定の期間内(例年は4月1日~9月30日まで)に財務大臣が指定した日本赤十字社の事業に寄附金を送った場合、寄附金の全額を損金算入できます。
また、法人が通年において日本赤十字社に寄附金(上記以外のもの)を送った場合、法人税の計算上、通常の寄附金の損金算入限度額(以下「損金算入限度額」)と、特別損金算入限度額の合計額を上限に損金算入できます。
例えば、資本金等の額1000万円、所得の金額2500万円、当期の月数が12カ月の場合には、16万2500円(損金算入限度額)と80万円(特別損金算入限度額)の合計額96万2500円となります。このように、法人の資本金や出資金の額、所得の金額が影響してくるので、資本金の額が少ない場合、思ったよりも損金算入額が少ないケースがあります。
法人がNPO法人に寄附金を送った場合、法人税の計算上、そのNPO法人が認定NPO法人かそうでないかで、損金算入限度額が違います。
認定NPO法人の特定非営利活動事業に関連する寄附金を送った場合、損金算入限度額と特別損金算入限度額の合計額を上限に損金算入できます。
認定NPO法人以外のNPO法人に寄附金を送った場合、特別損金算入限度額の適用はなく、損金算入限度額が損金算入の上限となります。
認定NPO法人以外のNPO法人に寄附金を送った場合の損金算入限度額は、日本赤十字社や認定NPO法人に寄附金を送った場合よりも少額です。例えば、前述の事例同様、資本金等の額1000万円、所得の金額2500万円、当期の月数が12カ月の場合には、16万2500円になります。
寄附先の法人が特別損金算入限度額、損金算入限度額のいずれの対象となるかは、該当法人のウェブサイトなどで確認するようにしましょう。
法人が民放テレビの義援金専用口座に寄附金を送った場合、最終的な寄附先がどの団体等になるのかで判断されます。最終的に日本赤十字社や認定NPO法人に寄附されることが多いようで、この場合は前述した取り扱いと同じになります。
なお、最終的な寄附先は、民放テレビ各社のウェブサイトなどで確認することができます。
法人が直接得意先に見舞金を送った場合、寄附金ではなく交際費になります。中小法人(資本金の額が1億円以下の法人で一定の法人)の場合、交際費は原則として年間800万円以下まで、損金の額に算入できます。
ただし、見舞金が災害に関連したものは交際費には該当しないものとされ、災害見舞金として全額が損金に算入できます。ただし、金額があまりに過大だと、税務調査などで交際費に該当すると指摘される恐れがあります。明確な金額の基準がない分野のため、金額については、税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
法人が従業員に見舞金を送った場合、寄附金ではなく福利厚生費になります。福利厚生費は、法人税の計算上、全額損金に算入できます。ただし、金額があまりに過大だと、税務調査などで給与に該当すると指摘される恐れがあります。あらかじめ慶弔・見舞金規程などを整理し、それに基づいて支給するようにしましょう。
法人が被災した経営者の母校に寄附した場合、その母校が取引先である場合を除き、原則として、法人の費用ではなく個人の支出とみなされ、経営者の役員報酬になります。役員報酬は、毎月同額であること(定期同額給与)など一定の基準に基づいていなければ損金算入できません。被災地への寄附金のように突発的に生じた役員報酬は、損金算入できません。
なお、母校が取引先である場合には、前述の得意先に見舞金を送ったケースと同様の取り扱いになります。
個人として、国や地方公共団体に寄附金を送った場合、所得税の計算上、次の算式により計算した金額を所得金額(税率を乗じる前の金額)から差し引くことができます(以下「寄附金控除」)。
なお、寄附金控除を受けるためには、個人で確定申告をする必要があります。ただし、寄附先が都道府県・市区町村の場合で、かつ、ふるさと納税として寄附金を送った場合は、ワンストップ特例により、確定申告をしなくても寄附金に係る控除を受けることができます(年収が2000万円を超える場合など、確定申告をしなければならない人を除きます)。
個人として、日本赤十字社に寄附金を送った場合、所得税の計算上、前述の国や地方公共団体に寄附金を送ったケースと同様に、寄附金控除額を所得金額から差し引くことができます。
個人として、NPO法人に寄附金を送った場合、所得税の計算上、そのNPO法人が認定NPO法人かそうでないかで、取り扱いが変わってきます。
認定NPO法人に寄附金を送った場合は、寄附金控除(所得控除)と、税額(税率を乗じた後の金額)から直接減額できる寄附金特別控除(税額控除)の選択適用が認められています。いずれが有利かは、税理士などの専門家に相談してみるとよいでしょう。
認定NPO法人以外のNPO法人に寄附金を送った場合、寄附金控除・寄附金特別控除のいずれも受けることはできません。
考え方は法人の場合と同じです。
個人として、民放テレビの義援金専用口座に寄附金を送った場合、最終的な寄附先がどの団体等になるのかで判断されます。最終的に日本赤十字社や認定NPO法人に寄附されることが多いようで、この場合は前述した取り扱いと同じになります。
なお、最終的な寄附先は、民放テレビ各社のウェブサイトなどで確認することができます。
個人として、得意先に見舞金を送った場合は、所得税の計算上、寄附金控除・寄附金特別控除のいずれも受けることはできません。
また、個人の場合は、その寄附金が災害に関連したものでも、控除を受けられません。
個人として、被災した経営者の母校に寄附金を送った場合、所得税の計算上、寄附金控除の対象となります。また、私立の学校法人に対する寄附については、認定NPO法人に対する寄附と同様に寄附金控除と、寄附金特別控除の選択適用もできます。
ここまで、寄附する側の税務上のルールを説明してきました。今度は、寄附金を受け取った側のルールを紹介します。
法人が寄附金を受け取った場合、法人税の計算上、
原則として、益金(法人税法上の収益)に算入
されます。つまり、商品の売上などと同様に、所得(法人税法上の利益)を増やすことになります。
一方、個人が寄附金を受け取った場合、
があります。なお、受領した金額が年110万円以下の場合は、贈与税は課されません。ただし、被災等によって寄附金(見舞金を含む)を受け取った場合、受贈者の社会的地位や贈与者との関係、被災状況などに照らして、一般的に多過ぎないと判断されれば、所得税および贈与税は課税されません。いずれにしても、明確な金額の基準がないため、金額については、事前に税理士などの専門家に相談しましょう。
なお、国や地方公共団体から配分を受けた寄附金に関しては、金額の大小を問わず、所得税の課税の対象とはなりません。
以上(2024年3月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
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画像:photo-ac
社員が退職した際、会社から貸与している備品のやり取りに困ったことはないでしょうか。
例えば、ノートPCやタブレット、会社携帯、制服、オフィスのカードキー。これらは退職時に会社に返却するのがルールですが、社員の中には、退職後もこれらの備品をなかなか返却しない人がいます。単にずぼらだったり、備品を紛失してしまったのを言い出せなかったり、新しい会社への入社準備で忙しかったりと理由はさまざまでしょうが、困ったものです。
会社としては、「備品が返せないなら、せめて代金を支払ってほしい」ということになるでしょうが、その方法には注意が必要です。手続きが簡単という理由で、「これから支払う予定の賃金や退職金から備品代を控除する」ことを考えるかもしれませんが、
本人の同意なく、賃金や退職金から一方的に備品代を控除すると違法になる恐れ
があるからです。詳細は後述しますが、これは労働基準法(以下「労基法」)に定められたルールで、違反すると30万円以下の罰金という罰則の対象になります。
とはいえ、泣き寝入りはしたくありません。実はこうした場合の対応として、
「相殺合意書」などで本人の同意を得た上で、備品代を控除する方法
があります。まずは賃金や退職金からの控除のルールをおさらいしてから、同意のポイントや相殺合意書のひな型を紹介するので、確認していきましょう。
労基法第24条では、賃金は全額払いが原則です。ただし、法令や労使協定で別段の定めがあれば例外で、控除して支払うことができます。なお、退職金も、就業規則(退職金規程など)でルールを定めて支払っている場合などは、賃金と同じ扱いになります。
備品代は法令に定められているものではなく、本来は賃金から控除できません。では、労使協定の控除項目に「備品代(退職時に備品を返却しない場合)」などと定めれば控除できるのかというと、実はこれも認められません。労基法第17条により、
会社の持つ債権(この場合は損害賠償請求権)と賃金を相殺することはできない
とされているからです。法律上、退職時に社員に備品代を請求するのは、社員の不法行為(退職したのに備品を返却しない)に対する「損害賠償請求」に当たりますが、会社の持つ損害賠償請求権と賃金を相殺することは、労使協定に定めていたとしても認められないのです。
ただし、社員があらかじめ同意していた場合は別で、過去に最高裁が、
客観的に見て「社員の自由意思に基づいて同意がなされた」ものといえる合理的な理由がある場合、賃金から控除しても労基法第24条の全額払いの原則には反しない
と判断した裁判例があります(最高裁平成2年11月26日判決)。ですから、賃金や退職金から備品代を控除したいのであれば、まずは本人の同意を得るのが鉄則です。
本人の同意を得て賃金や退職金から備品代を控除する場合、口約束だけでは後々「言った、言わない」の問題になりかねません。また、同意については「社員の自由意思に基づいてなされた」と客観的に判断できることが重要ですから、
「相殺合意書」などの書面を作成し、本人の同意を得た証拠を残す
ことが大事です。
相殺合意書とは、会社の持つ債権(この場合は損害賠償請求権)と賃金を相殺することについて、会社と社員が合意したことを証明する書面です。決まった書式はありませんが、
などを定めるのが一般的です。
注意しなければならないのは、
損害賠償額といっても、「新品の購入費用」などを全額請求できるとは限らない
という点です。例えば、社員が備品を紛失し返却できなくなっても、それが災害などやむを得ない事情によるものの場合、損害賠償請求自体が認められない可能性があります。社員の過失による紛失であっても、「備品の購入時期はいつか」「社員の過失はどの程度か」などによって請求できる額は変わってくるので、専門家に相談するなどして慎重に検討してください。なお、
あらかじめ損害賠償額を就業規則に定めるのは、労基法第16条で禁止
されています。あくまで実際に発生した損害額がベースなので注意しなければなりません。
次の相殺合意書は、社員が過失により備品を紛失した場合を想定した書面のイメージです。
【相殺合意書】
株式会社○○(以下「甲」)と、従業員○○(以下「乙」)は、別紙記載(省略)の甲が乙に貸与している備品(以下「本件貸与品」)の損害賠償について、下記の通り合意する。
第1条(損害賠償額とその決定根拠)
乙は、甲に対し、本件貸与品に関する損害賠償として金○○円の支払い義務があることを認める。なお、損害賠償額の根拠は次の各号の通りである。
第2条(賃金および退職金の額)
甲は乙に対し、乙が○年○月○日付で退職したことに伴い、賃金○○円、退職金◯○円の支払い義務があることを認める。
第3条(相殺の内容)
1)甲と乙は、第1条の損害賠償額〇〇円と第2条の賃金○○円のうち第1条の損害賠償額に相当する部分の額とを、○年○月○日の賃金支払時に対当額で相殺することに合意する。
2)第2条の退職金〇〇円については、相殺の対象としない。ただし、本件貸与品以外について、甲から乙に対して損害賠償を請求すべき事由が発生したときは、この限りでない。
上記内容を証するために本合意書2通を作成し、甲、乙、立会人が記名捺印の上、甲乙が各々1通を所持する。
○年○月○日
甲
乙
立会人
ここまで、本人の同意を得て賃金や退職金から備品代を控除する場合のポイントを紹介してきましたが、そもそも社員と連絡が取れなければ、同意が得られません。その場合、「内容証明郵便」を使って損害賠償を請求するのも1つの手です。
内容証明郵便とは、郵便を出した内容や発送日、相手が受け取った日付などを郵便局が証明するサービスです。社員の自宅に損害賠償を請求する書面などを内容証明郵便で送れば、
社員が受け取った時点で、会社の意思表示が到達したものとみなされる
ことになっています。
損害賠償額とその決定根拠と併せて、「期日までに請求に応じない場合に法的な措置を取ること」などを書面に記載し、内容証明郵便で送付
すれば、社員にプレッシャーを与えて支払いを促したり、訴訟トラブルに発展した際などに会社の立場を明らかにする証拠になったりします。社員に貸与している備品に高価なものが含まれる場合などに、内容証明郵便を検討してみるとよいでしょう。
以上(2024年3月作成)
(監修 弁護士 田島直明)
pj00699
画像:metamorworks-Adobe Stock
皆さん、おはようございます。今朝は「『スマイル0円(ぜろえん)』こそが最強である」というテーマでお話しします。
若い人にはなじみが薄いかもしれませんが、マクドナルドには「スマイル0円」というサービスがあります。いつ始まったのかは分かりませんが、私が最初に知ったのは学生の頃でした。ただ、当時の私は未熟で、「接客だから、笑顔で対応するのは当たり前。それより、ハンバーガーをタダにしてほしい」と茶化(ちゃか)していて、「スマイル0円」の大切さに気付こうとしませんでした。
しかし、今は「スマイル0円」の大切さが分かります。それは、「人を引きつける力」と「自分と相手に幸せを与える力」の2つに尽きます。
目の前に笑顔の人と機嫌が悪そうな人がいたら、笑顔の人に話しかけますよね。これと同じで、皆さんが笑顔でいれば、相手のほうから皆さんに近寄ってきます。新しい出会いが生まれ、何かが始まります。また、脳科学の分野では、笑顔になると、神経伝達物質の「セロトニン」などが多く分泌されるという研究があります。「セロトニン」は幸せホルモンとも呼ばれるものですから、皆さんの笑顔に触れた相手も笑顔になれば、一緒に幸せになれるのです。
難しく考えなくても、私たちは、日ごろから笑顔の力に触れています。例えば、ちょっと入ったお店の店員さんが笑顔で接してくれたら、とても穏やかないい気分になりますよね。
しかし近年は、ネット通販やキャッシュレス決済が増え、以前よりもお店の人と直接コミュニケーションを取る機会が減りました。また、「お客さまは神さまだから、決して逆らってはならない」という誤解や、カスタマーハラスメントの問題もあって、互いにどこか構えている「乾いた接客」が増えてしまいまいた。
これは、日ごろのコミュニケーションでも同じです。相手を尊重するのは良いことですが、一方で衝突を恐れて相手のテリトリーに立ち入ることがなくなったので、それこそ名刺情報のレベルまでしか相手を知ることができません。これはとても残念なことです。
『人を動かす』や『道は開ける』などの書籍でも知られるデール・カーネギー氏の言葉に、
笑顔は1ドルの元手もいらないが、100万ドルの価値を生み出してくれる
というものがあります。私が皆さんに伝えたいことを示した言葉です。
ただ、もはや笑顔はタダではなくなりつつあります。お店がお客を選ぶようになってきた今、笑顔は特定のお客に対する特別な対応になりつつあります。つまり、高いお金を払ったり、何度も訪れたりする常連に向けての、限られたサービスになりつつあるのです。笑顔の価値が高まっていると感じますよね。だからこそ、むしろ、私たちは笑顔を絶やさない集団でいましょう。100万ドル以上の価値が得られます!
以上(2024年3月作成)
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画像:Mariko Mitsuda
こんにちは。レジル総合研究所の北川です。「基礎からわかるグリーントランスフォーメーション(GX)」第2回では、気候変動問題に対処するための基盤となる、国際的な枠組みについて紹介します。
皆さんは、気候変動に関するニュースで「COP」という言葉を耳にしたことはありますか?
COPとは、「Conference of the Parties(締約国会議)」の略称で、「国連気候変動枠組条約」に基づく国際会議を指します。
この条約は1992年に採択され、現在198カ国・機関が締約国となっています。COPでは、これらの締約国が毎年集まり、気候変動問題に関する政策や行動計画について討議し、重要な決定を下します。
COPの議題には、温室効果ガスの削減目標の設定や削減技術の開発、資金支援の提供などが含まれます。これらのテーマに基づき、各国政府の代表たちが交渉を進め、合意に至った文書を採択します。この合意文書は、国連気候変動枠組条約に署名した国々に対し、法的な拘束力を持つ重要な文書となります。
2023年11月30日から12月13日にかけて、アラブ首長国連邦のドバイで開催された「COP28」は、28回目の会議でした。この様子は多くのニュースで取り上げられたので、ご覧になった方も多いかもしれません。
COPで採択される合意文書は、気候変動に対する国際的な取り組みの基盤となり、各国の政策や行動に大きな影響を与えます。今回は、COPの過去および最新の重要な出来事を紹介し、その動向を詳しく解説していきます。
(図表1)【世界の「気候変動」対策に影響を及ぼすCOP】
(出所:筆者作成)
COPでは、1992年の気候変動枠組条約採択以降、重要な取り組みが行われてきました。これらの取り組みは、2つの主要な時期に分けられます。
1つ目は、1997年のCOP3で採択された京都議定書を基盤とする流れ
2つ目は、2015年のCOP21で採択されたパリ協定に基づく流れ
(図表2)【COPでの主要なできごと】
(出所:環境省「脱炭素ポータル」)
まず知っておきたいのが京都議定書です。
京都議定書とは、1997年に京都で開催されたCOP3で採択され、先進国に対する法的拘束力のある温室効果ガス削減目標です。
削減目標を達成する約束期間は、2005年から2012年です。具体的には、日本には基準年(原則1990年)に比べて6%、欧州連合(EU)には8%などの削減目標が課されました。
「歴史的な排出責任を持つ先進国が先に削減対策を行うべきである」との合意の下、京都議定書は先進国だけを対象としました。この議定書の採択は、国際社会が気候変動問題に協力して取り組むための重要な一歩となりましたが、最終的に米国が批准しないなどの課題も残りました。
日本は、京都議定書の第1約束期間(2008~2012年)において、削減目標を達成しました。しかし、新興国の経済発展に伴う影響など、京都議定書下で削減義務を負う国々の排出量が全体の4分の1にとどまるなど、気候変動対策の効果が限定的である状況が明らかになりました。このため、日本は第2約束期間(2013~2020年)への参加を見送る決定をしました。
このあたりから、国際社会の議論は、全ての国が参加する新たな枠組みの構築を目指す方向に進んでいきます。
次にパリ協定です。
パリ協定とは、2015年のCOP21で採択された気候変動対策に関する最も重要な枠組みです。
この協定の核心的な成果は、産業革命前と比較して気温上昇を2℃未満に抑えることを共通の長期目標とし、さらに1.5℃の上昇にとどめる努力を目指す国際的合意を実現したことにあります。
パリ協定においては、主要排出国を含む全ての国が5年ごとに削減目標を設定・更新することが定められています。目標達成は義務付けられてはいませんが、全ての国が対象となるという点で、京都議定書とは大きく異なります。現在では、2℃と1.5℃の目標の間には気候変動への影響に大きな差があると認識され、1.5℃の目標が世界共通の目標として採用されています。
2℃や1.5℃と聞くと、大した変化ではないと感じるかもしれませんが、実はとても大きな変化です。このことは、シリーズ第1回で解説していますので、併せてお読みください。
ただし、パリ協定を採択したことで全てが整理されたわけではありません。課題の1つは、
各国が自主的に目標を設定するため、排出量削減に向けた統一された進行がなされていない点
です。例えば、2030年の目標についても、日本は2013年比、欧州は1990年比と基準年が異なり、新興国や発展途上国では経済成長を考慮して、排出量増加の目標を設定している国もあります。
さらに、パリ協定の実施指針には決まっていない部分も多く、その後のCOPで交渉が継続されました。議論の主要なテーマは、温室効果ガス排出削減の取り組みルール、情報開示の方法、先進国から発展途上国への資金支援の形態などです。
全会一致での採択を前提とするCOPでは、多様な背景を持つ国々が参加する中で、合意に至ることは簡単ではありませんが、COP26グラスゴーで温室効果ガス排出削減のルールとして、石炭発電からの段階的な廃止に合意するなど、気候変動対策に関する国際的な枠組みは、着実に進展しているといえます。
(図表3)【主要各国の自主目標】
国・地域 | 削減目標 | 基準年 |
---|---|---|
日本 | 46%削減 | 2013年 |
米国 | 50~52%削減 | 2005年 |
EU | 55%削減 | 1990年 |
中国 | CO2排出量のピークを2030年より前にすること GDP当たりのCO2排出量で65%削減 |
2005年 |
インド | GDP当たりのCO2排出量で45%削減 | 2005年 |
ロシア | 30%削減 | 1990年 |
(出所:筆者作成)
2023年11月30日から12月13日にかけて、アラブ首長国連邦のドバイで開催されたCOP28は、開催前から大きな注目を浴びていました。なぜなら、
COP28では、パリ協定に基づき5年ごとに進捗状況を評価するグローバル・ストックテイク(GST)が行われる
からです。各国は、評価結果を基に作成される成果文書を通じて、次期目標(2035年目標)を設定することとなります。
また、COP28では、化石燃料に関する議論も継続して行われました。欧州諸国などは石炭だけでなく、化石燃料全体の段階的廃止を求め、産油国から強い反対が表明されるなど意見のぶつかり合いがありました。
最終的には、会期を1日延ばし、化石燃料全体に範囲を広げる一方で、「段階的廃止」ではなく「脱却」という表現にすることで落ち着きました。この表現に対しては一部から批判の声も上がりましたが、COPの全会一致の原則を尊重しながら、化石燃料全体に対するエネルギー転換の方向性が示されたことは、大きな成果とされています。
GSTの成果文書には、2025年までに地球全体での排出量のピークアウトを達成し、2035年までに、全体で60%の温室効果ガス削減を目指すといった具体的な目標が盛り込まれました。さらに、「次期目標では1.5℃目標に沿った内容を提示すること」や「再エネ設備容量を3倍にすること」「再エネ、原子力、CCS(二酸化炭素回収・貯留)、低炭素水素製造等のゼロ・低排出技術加速」などの対策が合意されました。合意内容の特徴として、気候変動対策をより加速化および具体化する必要があるため、原子力やCCSなど各国の状況に合わせた多様な選択肢が許容されるようになってきています。
COP28クロージング・プレナリー(閉会会合)の様子
(出所:環境省「脱炭素ポータル(国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局HPより引用)」)
さて、本日のコラムでは、気候変動に対する国際的な枠組みであるCOPについて、過去の重要な出来事から最新動向までをご紹介してきました。国ごとの異なる事情がある中で、地球規模での課題である気候変動に対し、各国政府は着実な歩みを進めています。パリ協定の採択から約8年が経過し、気候変動対策の必要性は一層増しており、COPでの議論はより具体的な内容が求められています。
次回は、国際的な動向にフォーカスします。気候変動対策と結びつく重要な要素であるESGやSDGs、また、民間企業を中心としたSBTなど、各種国際イニシアチブについて詳しくご紹介します。これらは日々のビジネスに直結しないように感じられるかもしれませんが、皆さんのステークホルダーにも潜在的な影響を与えている可能性がありますので、ぜひ概要を知っていただければと思います。
以上
画像:Mariko Mitsuda
※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2024年3月5日時点のものであり、将来変更される可能性があります。
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会社の業績が悪化したり、社員の成果が著しく低かったりなどで、「賃下げ」を検討せざるを得ないケースがあります。ただ、賃下げは「労働条件の不利益変更」になるので、実行するには次のいずれかの手続きが必要です。
その際、1.については「賃金引き下げに関する労働協約」、2.と3.については「賃金引き下げに関する個別の同意書」といった具合に、手続きに応じた書面を用意しておくのが望ましいです。2.については本来、就業規則の変更内容が労働契約法第10条の要件を満たす合理的なものであれば個別の同意書は不要なのですが、賃下げは何かとトラブルになりやすいので、やはり用意しておいたほうが無難です。
以降で専門家が監修した労働協約や個別の同意書のひな型を紹介するので、ご確認ください。
以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の会社によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした協約を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
株式会社○○○○(以下「甲」)と△△△△労働組合(以下「乙」)は相互に協力して会社の発展を図るため、会社が従業員に支払う賃金について次の通り労働協約を締結する。また、本協約は就業規則その他、会社と従業員間における全ての協定または契約に優先する。
本協約は会社が従業員に支払う賃金支給水準の変更について定めるものであり、これに関連して賞与、退職金の算定基準となる賃金も変更される。
本協約において各用語の定義は、次に定めるところによる。
1.賃金:別途定める「賃金規程」(省略)第○条の年功給、職能資格給、技能給のことをいう。
2.賞与:賃金規程第○条の賞与をいう。
3.退職金:別途定める「退職金規程」に基づく退職金をいう。
4.従業員:就業規則第○条の従業員をいう。
本協約の締結後の最初に到来する賃金支払日より、会社は本協約「別表」(省略)に基づいて計算した賃金を従業員に支払う。
本協約の締結後最初に到来する賞与支給月より、会社は本協約「別表」(省略)に基づいて計算した賞与を従業員に支給する。ただし、本協約により賞与の支給月数が変更されることはない。
本協約の有効期間中に生じる退職金の算定は、本協約「別表」(省略)に基づいて行うものとする。
本協定の有効期限は○年○月○日から1年間とする。
締結日 ○年○月○日
甲 株式会社○○○○
代表取締役 〇〇〇〇
乙 △△△△労働組合
委員長 〇〇〇〇
以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の会社によって定めるべき内容が異なってきます。実際にこうした同意書を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
△△△△(従業員氏名)は、本同意書で定める賃金改定について、○年○月○日、別紙説明資料の提示を受けた上で、会社から十分な説明を受けてその内容を理解し、同意した。本同意書の締結後、会社が支給する賃金、賞与、退職金が次の通り変更される。
本同意書の締結後、賞与の計算の基礎となる賃金は本同意書「別表」(省略)に定める額に基づく。
本同意書の締結後に生じる退職金の計算の基礎となる賃金は、本同意書「別表」(省略)に定める額に基づく。
締結日 ○年○月○日
甲 株式会社○○○○
乙 △△△△(従業員氏名)
以上(2024年3月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)
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画像:ESB Professional-shutterstock
物価高の影響などから、賃上げ(定期昇給やベースアップ)に向けた動きが活発化しています。2023年10月以降の地域別最低賃金は、全国加重平均額で1004円(過去最高額、初の1000円超え)となりました。2024年春闘では、「みんなで賃上げ。ステージを変えよう!」をスローガンに、賃上げ目標を「5%以上(定期昇給相当分を含む)」とする方針が打ち出されています。
ただ、中小企業の経営者の多くは、
「賃上げはしたいけど、先行きを考えると簡単には踏み切れない……」
と考えているのではないでしょうか。賃上げは簡単でも、賃下げは「労働条件の不利益変更」の問題などがあって難しいので、どうしても慎重にならざるを得ません。
この記事では、そのような経営者に次の2つをご提案します。
今の賃金水準が世間相場を上回っていれば、無理に賃上げに取り組む必要はないでしょう。そこで、
厚生労働省が毎年3月ごろに公表する「賃金センサス(賃金構造基本統計調査)」
で御社の賃金水準を確認してみてください。賃金センサスでは、賃金や賞与に関するデータが、会社の規模や産業、社員の属性(性別、年齢、勤続年数、役職、職種など)に応じて細かく分けられています。
■厚生労働省「賃金センサス」■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html
例えば、社員数50人の小売業の会社が、社員の所定内賃金(毎月必ず支給する賃金、残業代などを含まない)を同業他社のデータなどと比較したい場合、社員の属性に合わせて、賃金センサスのデータを次のように検索します。
Aさんの所定内賃金であれば、40歳男性(勤続15年)の平均35万1700円や、40歳男性(課長級)の平均38万1300円と比較します。なお、これは月給の比較となりますので、賞与なども加味することを忘れないでください。
御社の賃金水準が世間相場を上回っているなら、それを社員に伝えましょう。社員は世間相場以上の賃金をもらっていることを喜ぶでしょう。逆に、御社の賃金水準が世間相場を下回っているなら、賃上げを検討する必要があります。
ただし、前述した通り、「賃上げは簡単でも、賃下げは難しい」のが実情です。基本給を引き上げると後が大変かもしれないので、それ以外で調整したいところです。そこでご提案するのが、「手当」を使って実質的な賃上げを実施する方法です。
基本給と違い、手当は「就業規則等で定める要件を満たす場合のみ支給する」のが基本です。要件を満たさなくなれば支給は止まるので、基本給を一律に引き上げるよりも、新しい手当をつくって社員に支給したほうが、人件費が経営を圧迫するリスクを回避しやすくなります。
また、「基本給を引き上げる代わりに、賞与で調整する」という方法を取る会社は多いですが、賞与は多くの場合、6カ月に1回の支給です。それよりも、毎月の手当で実質的な賃上げをしたほうが社員は喜ぶかもしれません。
具体的な手当の例は次の3つです。
冒頭でお話しした物価高の影響で、2022年ごろから注目を集めているのが、
物価高が続く間、社員の生活費を補填するために支給する「インフレ手当」
です。社員が生活に困らないようにするための手当ですが、物価高が続いていることが支給の前提条件なので、経済情勢が変わってきたら支給を打ち切ることもできます。就業規則等で
「支給期間は○年○月○日から1年間とする。ただし、物価変動の状況などを考慮して会社が必要と認めた場合、支給を継続することがある」
など、あらかじめ支給期間を決めつつ必要に応じて延長する定めをすることが考えられます。
支給額については、「基本給×○%」などで設定するケース、総務省が公表している「消費者物価指数」を基準に決めるケースなど、会社によってさまざまです。ちなみに、帝国データバンクが、2022年11月にインフレ手当を導入している会社について毎月の支給額を調査したところ、
最も多かった回答は「3000円~5000円未満」「5000円~1万円未満」(ともに30.3%)
でした。
■帝国データバンク「インフレ手当に関する企業の実態アンケート」■
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p221106.html
育児休業などで社内に長期間欠員が出る場合、導入を検討したいのが、
休業者のフォローに回る社員に対して支給する「業務代替手当」
です。通常時はさほど賃金に不満がない社員でも、社内に欠員が出て急に業務量が増えると、「今の賃金では割に合わない、もっと金額を上げてほしい」と考えるようになります。こうした場合に役立つのが業務代替手当です。
例えば、休業者が育児休業に入る前に、休業者の担当業務を他の社員に割り振り、新担当者に業務代替手当を支給するようにします。育児休業中の休業者の賃金を無給にしている会社であれば、その分の額を業務代替手当として、フォローに回る社員に分配することができます。育児休業が終了し、休業者が元の業務に復帰したら、業務代替手当の支給は終了します。
なお、育児休業については、2024年1月から
業務代替手当を支給した会社に対し、手当総額の原則4分の3(上限10万円×最大12カ月)を助成する「両立支援等助成金 育休中等業務代替支援コース」
が始まっています(業務体制の整備や育児休業等に関する情報公表について別途支給あり)。
■厚生労働省「両立支援等助成金 育休中等業務代替支援コース(下記URL中段)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kodomo/shokuba_kosodate/ryouritsu01/index.html
運用次第で会社の業績アップにもつながる可能性があるのが、
社員が特定の目標を達成した場合に支給する「インセンティブ報酬」
です。いわゆる「歩合給」と似ていますが、歩合給は販売件数などの実績に応じて一律に支給するのに対し、インセンティブ報酬は「社員が設定した目標を達成した場合にのみ支給する」という特徴があります。
「社員の頑張りに応じて支給するなら、賞与でいいじゃないか」と思うかもしれませんが、インセンティブ報酬のほうが、社員のモチベーションアップにつながりやすいケースもあります。
例えば、毎月の賃金に上乗せしてインセンティブ報酬を支給する場合、
社員は毎月目標を立て、インセンティブ報酬を獲得するため、その達成に全力で取り組む
ことになります。期首に大きな目標を立てて、期末に達成度合いを確認するだけだと、時間が経つうちに目標が有名無実化してしまうこともありますが、1カ月ごとなどの短いスパンで小さな目標を都度立てるのであれば、緊張感も継続します。経営者としても、目標を達成して会社に貢献してくれる社員が増えるのは喜ばしいことです。
インセンティブ報酬をうまく運用すれば、賃金体系を成果重視のものへと切り替えていくことができます。ただし、今まで賞与として支給していた分の額などをインセンティブ報酬に振り替える場合、その変更が「労働条件の不利益変更」にならないよう注意する必要があります。
以上(2024年4月更新)
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一般的に、調整給(調整手当)とは、
賃金規程の通りに賃金を支払うことが妥当でない場合に支給する手当
です。例えば、
などのケースです。図で表すと次のようなイメージになります。
調整給を支給すれば、このズレを解消できるので、経営者にとってはまさに「魔法の杖」のような賃金です。一方、調整給はルールが曖昧になりがちで、悪平等を解消するつもりが、かえって不平等になってしまうことがあります。そこで、この記事ではトラブルにならない調整給の運用ポイントを紹介します。
調整給も賃金なので、支給に関するルールを就業規則等に定める必要があります。あまり詳細に定めると運用しにくくなるため、
「調整給は、会社が必要と判断した社員に対し、一定期間支給する」
など、シンプルな記載にとどめるのが一般的です。とはいえ、「困ったら何でも調整給で対応すればいい」と安直に考えてはいけません。就業規則等で詳細を定めないということは、
調整給の金額や決定方法を個別に社員に説明し、同意を得て支給しなければならない
ということです。場当たり的な運用では、社員に納得のいく説明ができないでしょうから、
など、経営者の中で「どのようなケースに調整給を支給するのか」をあらかじめ想定し、ケースごとの支給ルールを決めておく必要があります。
調整給には、
支給事由が消滅したら、支給を停止したほうがよいケース
があります。具体的には、次のような場合です。
こうしたケースで調整給を支給し続けると、対象の社員は「賃金をもらいすぎている」状態、つまり他の社員にとって不公平な状態になります。ですから、調整給を支給する場合、
いつまで調整給を支給するのかとその理由を、個別に社員に説明し、同意を得る
ようにしましょう。また、いきなり調整給の支給を停止すると、支給額によっては社員の生活などに影響することもあるので、その場合、
昇給額などに応じて段階的に調整給を引き下げていく
といった対応も検討しましょう。
基本給には「下方硬直性」といって、一度高い金額を設定すると減額がしにくい性質がありす。この点を考慮して、社員を採用する際の賃金は、
実際に仕事をしてもらわないと能力が分からないので、基本給を高く設定しにくい
というケースがほとんどです。そこで登場するのが調整給です。具体的には、
基本給を低めに設定し、調整しやすい調整給で上乗せする
という方法がとられます。例えば、入社時は「低めの基本給+調整給」を支給しておき、試用期間の終了とともに調整給を打ち切って社員の能力に応じた金額を基本給に振り替えるといった運用が考えられます。
同様に、既存社員についても能力を賃金に反映しきれない場合などに、調整給を用いることがあります。例えば、賃金額全体に占める勤続給の割合が高い会社では、若手社員は能力が高くても賃金額が低くなってしまうため、調整をかける必要があります。この場合、
調整給は人事考課のタイミングで都度、支給額を見直し、継続的に支給する
といった運用が考えられます。
中途採用者の賃金額が前職よりも下がってしまう場合、調整給をプラスして低下分を補填します。社員の生活水準を維持することが目的なので、他の社員との公平性を考慮して、
調整給は社員の定期昇給時に徐々に減額していき、調整給を除く賃金額が前職の賃金額に追い付いたら支給を停止する
といった運用も可能です。ただし、その場合、実質的な賃金額が入社時から変化しないことになるので、入社時に社員に説明して同意を得ておく必要があります。
社員が定年後に嘱託などとして再雇用され賃金額が下がる場合、社員の生活を考慮して調整給を支給するケースもあります。この場合、原則65歳になると、老齢年金が支給されるので、そうなったら調整給の支給を停止することなどを検討します。
「年功給重視から職務給重視の制度に変わった」「等級制度を見直した」などのように、賃金体系に変更があった場合、それによって社員の賃金額も変動します。ただ、会社側のルール変更を理由に、いきなり社員の賃金額を変動させると生活などに影響します。この場合、
一定期間、賃金額が下がる社員については調整給をプラスする
といった運用が考えられます。
注意すべきは、調整給の支給期間です。影響範囲が全社員なので、いつまで調整給を支給するのか、慎重に考える必要があります。もともと実力重視の会社で成績などの評価がシビアなら、調整給の支給期間は1年など短くてよいかもしれませんが、そうでない場合は数年など長めの支給期間を設けます。自社の風土や社員の声などを検討して決めましょう。
もう1つ重要なのが、経営者のメッセージです。調整給に支給期間を設けるのは、
一定期間賃金を保証する代わりに、新しい賃金体系に対応した社員になってもらうため
です。社員が制度の上にあぐらをかかないよう、支給期間を設ける意味と、どんな社員に成長してほしいかを、経営者が積極的に発信するようにしましょう。
以上(2024年3月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)
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賃金規程とは、
就業規則のうち、賃金に関する基本事項を本則と別に定めたルールブック
です。物価高の影響などで賃上げに向けた動きが活発化する中、賃金テーブルの見直しなどで規程に目を通す機会も多いでしょうが、その前に1つ質問です。御社の賃金規程は、法律上記載すべき事項を全て網羅していますか?
労働基準法(以下「労基法」)には、就業規則に記載すべき事項として、
が定められています。賃金規程についても、図表1の通り記載すべき事項が決まっていて、なおかつそれぞれの項目について、法律上守らなければならないルールがあります。
この記事では、絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項それぞれについて、法律上のルールや定め方のポイントをまとめています。「今は賃金規程を見直すつもりはない」という人も
賃金規程のポイントを押さえれば、賃金の基本ルールを一通り復習できる
ので、読んでおくと社員とのトラブル予防などに役立つかもしれません。
なお、「賃金規程のひな型」については、次の記事で紹介しているので、興味がある方はぜひご確認ください。
賃金規程を適用する社員を定めます。例えば、正社員とパート等とで賃金のルールが異なる場合、正社員の賃金は「賃金規程」、パート等の賃金は「パートタイマー用就業規則」で定めるのが一般的です。
基本給や手当など自社の賃金体系を整理し、賃金規程に定めます。
少々複雑なのが手当です。なぜなら、手当には労基法上、
があるからです。そのため、新しい手当をつくったり、古い手当を廃止したりする場合は注意しましょう。基準外賃金に該当する手当は次の7つで、それ以外は全て基準内賃金になります。
時給制、日給制、月給制など、賃金形態を定めます。
賃金は全額払いが原則ですが、法令や労使協定で別段の定めがある場合、控除して支払うことができます。次のように控除する項目を定めます。
なお、労使協定により控除できるのは、内容が明白なものだけなので、例えば「控除が必要と会社が判断したもの」など、曖昧な定めは認められません。また、「社員が備品を紛失した場合、その代金」などと定めて、会社の持つ債権と賃金を相殺することも禁止されています(ただし、社員が自らの意思で同意した場合は、控除が認められます)。
基本給、手当などの支給額を定めます。また、時間外労働(法定労働時間を超える労働)、休日労働(法定休日の労働)、深夜労働(原則22時から翌日5時までの労働)の残業手当の計算方法についても、次の割増賃金率に違反しないよう注意します。
なお、よく時間外労働と所定外労働(所定労働時間を超える労働)を混同する人がいますが、両者は必ずしもイコールではありません。例えば、社員の1日の所定労働時間が7時間の場合、7時間を超えて働いても法定労働時間(原則1日8時間、1週40時間)に達しなければ、割増賃金を支払わなくても違法ではないのです。支払うか支払わないかは、会社が賃金規程で定めます。
この他、注意が必要なのが休暇等の賃金です。例えば、年次有給休暇(年休)は必ず有給にしなければなりませんが、育児休業や介護休業は有給でも無給でもよいとされています。休暇等の種類ごとに、有給・無給の区別を明らかにしておきましょう。
賃金は金融機関振り込みが一般的ですが、労基法上は通貨で直接本人に支払う(手渡し)のが原則です。金融機関振り込みにする場合、必ず社員の同意を取得した上で行います。
賃金は毎月1回以上、一定の期日に支払うのが原則なので、次のように計算期間と支払日を定めます。なお、賃金の支払日が土・日・祝日の場合、その前日に支払うのが一般的です。
社員が死亡や退職などをした場合の賃金の支払いについて定めます。こうした場合、社員や遺族からの請求に応じて7日以内に、会社はそれまでの労働に対する賃金を支払わなければなりません。
出産、疾病、災害など非常時の賃金の支払いについて定めます。社員が非常時の費用に充てるために賃金の支払いを請求してきた場合、会社はそれまでの労働に対する賃金を支払わなければなりません。
昇給の算定期間や時期などを定めます。昇給は人事考課などに基づいて、毎年1回定期に行うのが一般的です。ただし、会社の業績が悪化した場合なども考え、昇給を行わないケースについても明らかにします。また、社員とのトラブル防止のため、降給の基準も定めておきます。
賞与を支給するかしないかは会社の自由ですが、一度賃金規程に定めを設けたら、その定めに従って支給しなければなりません。賞与については労基法上、賃金規程に何を記載すべきかが特に決まっていませんが、次のような内容を定めておくとよいでしょう。
「夏季と冬季に年2回支給する」など、賞与の支給時期と支給回数を定めます。ただし、会社の業績が悪化した場合なども考え、賞与を支給しないケースについても明らかにしておきます。
賞与の支給額の決定方法を定めます。賞与は一般的に、社員の業務成績・勤務態度の考課結果などに応じて決定します。その際、考課の対象期間を賞与の種類(夏季賞与、冬季賞与など)ごとに明らかにします。
賞与を支給する社員、支給しない社員を定めます。一般的に、考課の対象期間内に勤務実績があって、支給日に在籍している社員を対象とします。
最低賃金額(賃金の最低保障額)が決まっている場合、その金額を定めます。ただし、最低賃金法を下回る金額は設定できません。最低賃金には、
の2種類があり、両方が適用される会社の場合、いずれか高額なほうが最低賃金となります。地域別最低賃金と特定最低賃金の金額などは、厚生労働省ウェブサイトから確認できます。
以上(2024年3月更新)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)
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会社経営に影響する健康リスクといえば、社長や社員の健康を思い浮かべますが、見逃されがちなのが、
社長の家族、特に配偶者の健康リスク
です。配偶者が病気などで倒れたらどういった状況に陥るのかについては、既に多くの経営者は経験済みのはずです。例えば、配偶者がインフルエンザや新型コロナウィルスなどに感染したときのことを考えてみてください。社長が配偶者の看病や家事をする必要もあるので、働ける時間は短くなります。
インフルエンザなどは10日もすればある程度は落ち着くでしょうが、もっと重い病気だったらそれどころではありません。実際、家族の看病を優先して引退した著名な社長もいます。
もともと社長に労働時間という概念はなく、昼夜を問わず働いています。不規則で、ある意味で自分勝手な働き方ができるのは、配偶者をはじめとする家族の理解と支えがあってのことです。ですから、社長は家族の健康をケアすることがとても大切なわけです。
社長は、万一のリスクを考慮して自身の健康管理を心がけるものですが、これは社長の家族についても同じです。
そのため、必要以上に改まる必要はありませんが、配偶者としっかり話し合って、
自分(配偶者)の家族だけではなく、社員やその家族にも影響が及ぶ
ということを理解しておいてもらわなければなりません。社長は「公人」であり、その配偶者もまた「公人」といえる面があることを伝えましょう。
健康リスクには、うつ病など精神疾患もあります。そのきっかけに早めに気づき予防するためにも、社長は普段から配偶者(子供がいる場合は、子供についても同様)とよく対話することが大切です。
もしかすると、配偶者から相談したいことがあっても、生活のリズムが合わないために擦れ違っているかもしれないので、社長のほうから意図的に会話の時間を作るようにしましょう。
幹部社員とも話し合っておくのが理想です。そして、誰かがこれまでのように働けなくなった場合の対策を決めておきましょう。特に社長は、自分が一線を退かざるを得なくなった場合に、誰がトップに立って指揮を執るのかを明確に決めて周知します。突然、社長が働けなくなると社内が混乱することは避けられませんが、その影響を最小限に抑えるためです。
また、社長は自分が行っている仕事を整理し、重要なポイントやリスクを幹部社員に説明しておきましょう。いざというときに、幹部が速やかに社長の仕事を引き継げるようにするためです。
具体的な健康ケアとして身近なのは健康診断です。健康保険の場合、社長は被保険者、配偶者は被扶養者となりますが(生計維持関係などが問われますが、ここでは割愛します)、健康保険には健康診断に関する給付がありません。
ただし、全国健康保険協会が運営する「協会管掌健康保険」では、年度内に1回に限り、被保険者が受ける健康診断の費用の一部が補助されます。協会管掌健康保険に加入している中小企業では、この費用の補助を利用するとよいでしょう。また、40歳から74歳までの被扶養者についても、「特定健康診査」の費用の一部も補助されます。項目は限られますが、血液検査などには対応しています。
健康経営の一環で人間ドックの受診を取り入れる会社があります。社長など役員とその親族だけを対象にすると給与等として課税されますが、全社員が対象ならば福利厚生費となります。
また、「成人病の予防のため、年齢35歳以上の希望者の全て」など、年齢など一定の要件で絞り込む場合も福利厚生費となることがあります(国税庁「人間ドックの費用負担」)。
健康リスクは社長とその家族だけではなく、社員とその家族にも及びます。会社の規模や負担可能な費用にもよるものの、健康経営の一環として、幅広く社員やその家族が人間ドックを受診できるようにすることも、一考に値するかもしれません。
がん患者の家族を、「第二の患者」と呼ぶことがあります。病状の変化で精神的に追い詰められ、看病で肉体的な疲労が蓄積し、実際に家族が体調を崩してしまうこともあります。
配偶者など社長の家族が病気になり、社長がこれまでのように働けなくなったら、会社の状況は大きく変わります。社長の仕事は幹部社員に引き継がれ、幹部社員の仕事はその部下に引き継がれる……。
こうして社員の負担が重くなります。その状態が長期にわたる場合、仕事の内容や進め方を根本的に見直さなければ、いずれ立ち行かなくなります。社長自身も、家族を心配する心と社員に申し訳ないという気持ちの板挟みになってしまうかもしれません。
このように、社長の家族が病気になると、「第二の患者」を生み出してしまう恐れがあります。社長は、社長の責務として、自分のことと同じように、家族の健康管理に努めることが大切なのです。
以上(2024年3月更新)
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