2024年改正に対応。人生100年時代の老齢年金は「繰り上げて長くか、繰り下げて多く」が判断のポイント

書いてあること

  • 主な読者:老後の生活設計として、やはり「老齢年金」を頼りにしたい人
  • 課題:老齢年金は制度が複雑で、支給額がどのくらいになるのかよく分からない
  • 解決策:いつからもらうかで支給額が変わる。働きながらもらうと減額されることが多い

1 人生100年時代の必須知識

人生100年時代。老後の生活設計を考えると、やはり頼りにしたいのが「公的年金」です。ここでいう公的年金は、一定の年齢になったら支給を申請できる「老齢年金」のことで、

  • 国民年金から支給される「老齢基礎年金」
  • 厚生年金保険から支給される「老齢厚生年金」

に大別されます。気になるのは、「いつから、いくらもらえるのか?」ですよね。これを知るためには、次の3点を押さえることが肝要になります。

  1. 老齢年金は2階建て。原則65歳から支給
  2. 繰り上げと繰り下げで支給額が変わる
  3. 働きながらもらうと支給額が減る可能性がある

この記事では、制度が複雑な老齢年金について、この3つのポイントを掘り下げて説明します。なお、老齢年金やその他の制度の内容は、2024年4月1日時点のものです。

2 老齢年金は2階建て。原則65歳から支給

老齢年金には老齢基礎年金と老齢厚生年金があり、次のように2階建てのイメージです。どちらも、

原則65歳(正しくは、65歳に達する日(誕生日の前日)が属する月の翌月)から支給

されます。

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2024年4月1日時点で、65歳以降の支給額は次の通りです。

  • 老齢基礎年金:81万6000円×国民年金の保険料納付済月数など÷480月
  • 経過的加算:1701円×生年月日に応じた率×厚生年金保険の加入月数-81万6000円×(20歳以上60歳未満の厚生年金保険の加入月数÷(加入可能年数×12))
  • 報酬比例部分:2002年度以前の報酬の平均(a)+2003年度以降の報酬の平均(b)

    a=平均標準報酬月額×0.7125%×2002年度以前の厚生年金保険の加入月数

    b=平均標準報酬額×0.5481%×2003年度以降の厚生年金保険の加入月数

  • 加給年金:23万4800円(配偶者と第1子・第2子、配偶者のみ生年月日に応じた特別加算あり)、7万8300円(第3子以降)

報酬比例部分にある「平均標準報酬月額」と「平均標準報酬額」は紛らわしいですが、要は

2002年度以前と2003年度以降とに分けて、1カ月当たりの報酬の平均額を出している

ということです。

  • 2002年度以前は「標準報酬月額(月例賃金などの「報酬月額」を一定幅で区分したもの)」の平均額
  • 2003年度以降は「標準報酬月額+標準賞与額(賞与総額から1000円未満の端数を切り捨てたもの)」の平均額

を使って、報酬比例部分の額を計算します。

■日本年金機構「年金額の計算に用いる数値」■

https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/kyotsu/nenkingaku/20150401-01.html

3 繰り上げと繰り下げで支給額が変わる

1)繰り下げ受給・繰り上げ受給:繰り上げると減額、繰り下げると増額

老齢年金の繰り上げ受給と繰り下げ受給には、次のような真逆の性質があります。

  • 繰り上げ受給:65歳よりも早く老齢年金をもらう(60~64歳)。支給額は減る
  • 繰り下げ受給:65歳よりも遅く老齢年金をもらう(66~75歳)。支給額は増える

具体的に、どれだけ支給額が変わるのかのイメージは次の通りです(金額は概算です)。

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繰り上げ受給の場合、支給を1カ月繰り上げるごとに、1962年4月1日以前生まれの人は0.5%(最大30%)、1962年4月2日以後生まれの人は0.4%(最大24%)、支給額が減ります。

繰り下げ受給の場合、支給を1カ月繰り下げるごとに、生年月日に関係なく0.7%(最大84%)、支給額が増えます。

一度、繰り上げか繰り下げをした場合、それを取り消すことはできず、減額または増額された老齢年金が生涯支給されます。ただし、老齢年金のうち「加給年金」だけは、繰り上げ・繰り下げの対象外のため、減額や増額がされることはありません。また、繰り下げ期間中、加給年金は支給されません。

2)特別支給の老齢厚生年金:繰り上げ受給に似ているが別の制度

特別支給の老齢厚生年金とは、

65歳前の一定の年齢に達したときから老齢年金を特別にもらえる制度

です。老齢年金の繰り上げ受給に似ていますが、対象は、

  • 男性:1961年4月1日以前生まれ
  • 女性:1966年4月1日以前生まれ(男性の5年後)

に限定され、支給開始時期も性別と生年月日によって決まっています。

2024年4月1日以降に特別支給の老齢厚生年金の受給権が発生する場合、65歳前にもらえるのは「報酬比例部分」だけで、「定額部分(老齢基礎年金に相当する部分)」の支給は原則としてされない

という点に注意が必要です。

2024年4月1日以降に特別支給の老齢厚生年金をもらえる人は次の通りです。もともとこの制度は、1985年に老齢年金の支給開始時期(原則)が60歳から65歳に引き上げられた際、経過措置として設けられたものなので、将来的には対象者がいなくなります。

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4 働きながら老齢年金をもらうと支給額が減る可能性がある

1)在職老齢年金:減額されることがある

在職老齢年金とは、

60歳以降も働きながら老齢年金をもらう場合、支給額が減る制度

です。具体的には、老齢厚生年金の報酬比例部分の額と、賃金額に基づく「総報酬月額相当額」の合計が一定額を超えると支給額が減ります。

総報酬月額相当額:標準報酬月額+(過去1年間の標準賞与額÷12)

報酬比例部分と総報酬月額相当額の合計が50万円を超えるか否かで、次のように支給額が変わります。なお、

「50万円」という数字は、2024年4月1日から設定されたもの(改定前は48万円)で、今後も定期的に変更される可能性

があります。

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2)高年齢雇用継続給付:減額予定

高年齢雇用継続給付とは、雇用保険給付の1つで、

現在は、賃金額が60歳到達時の75%未満に低下した場合に、低下後の賃金に一定率を掛けた額の給付を受けられる制度

です。

高年齢雇用継続給付と老齢年金が併せて支給される場合、60歳到達時の賃金と比較した低下率を基に、老齢年金が次のように減額されます。

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なお、高年齢雇用継続給付は

2025年4月1日から、最大支給率が「15%から10%」に引き下げ

となります。賃金の低下率が64%未満の場合の支給率が10%で、64%以上の場合は厚生労働省令の定めに従って徐々に支給率が下がっていきます。ただし、2024年6月21日現在、支給率の逓減率の詳細については公表されていません。

以上(2024年8月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:pixabay

人生100年時代の羅針盤。「老齢年金のシミュレーション」を複数の条件でやってみた

書いてあること

  • 主な読者:老後の生活設計として、やはり「老齢年金」を頼りにしたい人
  • 課題:老齢年金は制度が複雑で、支給額がどのくらいになるのかよく分からない
  • 解決策:いつからもらうかで支給額が変わる。働きながらもらうと減額されることが多い

1 あなたの老齢年金はいくら?

人生100年時代。何だかんだといっても「老齢年金」にも頼りたいところです。皆さんが知りたいのは、「何歳になったらいくらもらえるのか?」ということだと思いますので、この記事で、2024年4月1日時点の制度に基づいた概算を示します。

モデルとなるのは、次の条件のAさんで、60歳以降の賞与はありません。

  • 生年月日:1964年4月2日(2029年4月1日に65歳)
  • 性別:男性
  • 生計維持関係にある家族:妻(2029年4月1日に60歳)
  • 国民年金保険料の納付済期間:2024年4月1日時点で40年(1984年4月1日加入)
  • 厚生年金保険の被保険者期間:2029年4月1日時点で42年(1987年4月1日加入)
  • 平均標準報酬月額(2003年3月31日まで):28万5000円
  • 平均標準報酬額(2003年4月1日以降):41万7000円

老齢年金は、原則として65歳からもらえます。Aさんの老齢年金の支給額(原則)は次の通りです。

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受給開始は2029年4月1日以降、支給額は月額19万9063円ですが、これだけで老後の生活を支えられるか気になります。そもそも老後の生活費はどのぐらいなのか、次の章で確認してみましょう。

2 老齢年金だけだと厳しい?

総務省「2023年家計調査」によると、1世帯1カ月当たりの実支出(2人以上、勤労者世帯)は次の通りです。

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Aさんの老齢年金の支給額(原則)は月額19万9063円でした。妻の老齢年金やその他の収入もあるので一概に言えませんが、

65~69歳の実支出(総額)が月額38万5137円であることを考えると、少なくともAさんの老齢年金だけで生活を支えるのは難しい

といえそうです。

3 働きながら老齢年金をもらうと支給額が減る?

60歳以降も厚生年金保険に加入したまま、働きながら老齢年金をもらうと、

「在職老齢年金」といって、賃金額に応じて老齢年金が減る仕組みの対象

になります。老齢年金と賃金の合計額が「支給停止調整額」というボーダーラインを超えると、老齢年金が減額されます。

ここでは、Aさんの60歳到達時の賃金などの前提条件を、次のように設定します。

  • 60歳到達時の賃金(月額):40万円
  • 基本月額:9万1915円(老齢厚生年金の報酬比例部分の額)
  • 総報酬月額相当額:41万円(日本年金機構「厚生年金保険料額表」を基に算定)

2024年4月1日以降の在職老齢年金の制度では、

基本月額と総報酬月額相当額の合計が50万円を超えると、老齢年金が減額される

ことになっています(改定前は48万円)。基本月額は老齢厚生年金の報酬比例部分のことなので、60歳以降の賃金が下がればその分基本月額も下がり、老齢年金は減りにくくなります。この点を強調し「賃金が維持されても、手放しで喜ぶべきではない」と示す記事もありますが、

老齢年金が減るだけで全体の収入は増えますし、会社もこの点を考慮して賃金を設定する

ため、それほど気にする必要はないかもしれません。Aさんが65歳から老齢年金をもらう場合の収入(月額)は次の通りです。

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賃金が60%に下がったとしても月額43万4492円なので、前述した月額38万5137円(65~69歳の1世帯1カ月当たりの実支出)を超えます。

4 60歳から老齢年金をもらう場合は?

60歳から65歳までの生活が不安な場合、「繰り上げ受給」といって、老齢年金をもらう時期を前倒しにすることができます。ここでは支給を60歳に繰り上げることを想定します。この場合、老齢年金(加給年金は繰り上げできず、65歳から満額を支給)は60歳からもらえますが、

支給を繰り上げた5年分、支給額が減る(Aさんの場合、24%の減額)

ので注意が必要です。また、老齢年金と「高年齢雇用継続給付」を同時にもらう場合も、老齢年金が減ります。高年齢雇用継続給付とは、雇用保険給付の1つで、

賃金額が60歳到達時の75%未満に低下した場合に、低下後の賃金に一定率を掛けた額の給付を受けられる制度(65歳になると支給停止)

です。Aさんが60歳から老齢年金をもらう場合の収入(月額)は次の通りです。

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支給を繰り上げた分、60~64歳の収入は安定しますが、65歳以降の老齢年金は減るので、慎重な判断が必要です。

5 75歳から老齢年金をもらう場合

老後の生活に余裕がありそうな場合、繰り上げ受給とは逆に、「繰り下げ受給」といって老齢年金をもらう時期を後ろ倒しにすることができます。ここでは支給を75歳に繰り下げることを想定します。この場合、老齢年金(加給年金を除く)は75歳からもらうことができ、

支給を繰り下げた10年分、支給額が増える(Aさんの場合、84%の増額)

ことになります。ただし、繰り下げ受給だと加給年金は一切もらえなくなるので注意する必要があります。Aさんが75歳から老齢年金をもらう場合の収入(月額)は次の通りです。

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支給を繰り下げた分、75歳以降の収入が多くなります。ただ、65~74歳の間は賃金や私的な年金などで生活しなければならないので、60歳以降も賃金が多い人や貯蓄に余裕がある人に向いているといえます。

以上(2024年8月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:takasu-Adobe Stock

2024年版「中小企業白書」の要点 中小企業が取り組むべき課題は人手不足と生産性向上

書いてあること

  • 主な読者:2024年版「中小企業白書」から、現在の中小企業の課題を知りたい経営者
  • 課題:現状、中小企業が抱えている課題と解決策の事例を知り、他社との競争に勝ちたい
  • 解決策:主な課題は「人手不足」「生産性向上」。取り組みは賃上げや省力化投資など

1 2024年を中小企業の飛躍の年に!

新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)が5類に移行してから1年余り。このタイミングで発刊された2024年版「中小企業白書」(以下「白書」)をひもとくと、

中小企業の業況は、業種によるばらつきはあるものの、コロナ禍の落ち込みから回復してきている

とあります。

しかし、順風満帆ではありません。多くの中小企業は人材不足に直面していますし、過去最高水準となった賃上げにも対応しなければなりません。足りない人材を補うためにも、人件費を捻出するためにも、省力化投資などを通して生産性向上を目指す必要性がありそうです。

この記事では、「人手不足」と「生産性向上」の2つの課題を取り上げ、その解決のヒントを紹介します。また、この2つ以外にも、白書の中で紹介されている中小企業の課題(事業承継やBCP(事業継続計画)など)についても簡単に解説します。

なお、以降で紹介する図表の出所は全て白書であることや、分かりやすさを重視したことから、出所の記載や注釈は省略しています。詳細な内容を確認したい場合は、白書の本編をご覧ください。

■中小企業庁「中小企業白書」■
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/

2 人手不足:外国人雇用にも注目しつつ、職場環境を整備

コロナが5類に移行し、中小企業の事業活動が再び活発化しています。一方、時間外労働の上限規制などにより、少ない社員に頼る働き方は難しくなり、人手が必要になります。しかし、そんな中小企業の思いとは裏腹に、人手不足はますます深刻化しています。中小企業は、女性・高齢者の他、外国人労働者などの活用にも目を向ける時期にきています。また、自社の職場環境・制度を見直し、整備することなども必要でしょう。

1)外国人労働者の活用

日本人だけを対象とした採用活動では、人手不足の解消が難しくなってきた中、外国人労働者の活用が期待されています。実際、図表1の通り、外国人労働者の数・就業者全体に占める割合は共に上昇傾向にあります。

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また、白書の別のデータでは、2070年には日本の生産年齢人口(15~64歳の人口)のうち、14.9%が外国人になるという推計もあります。将来的な人材確保を見据えて、今のうちから外国人雇用に目を向け、検討してみる価値はあるでしょう。

厚生労働省では、各ハローワークに外国人雇用に関する相談を受け付ける「外国人雇用管理アドバイザー」を置いたり、外国人が働きやすい環境づくりに取り組んだ企業に、最大57万円を助成する「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」を設けたりしています。詳細は厚生労働省ウェブサイトをご確認ください。

■厚生労働省「外国人を雇用する事業主への支援策」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page11_00027.html

2)職場環境・制度の整備

自社の職場環境・制度を整備することも、人手不足を解消する上では不可欠です。既存社員の離職防止だけでなく、自社の取り組みを積極的にPRすることで、新規採用にもつながるでしょう。

実際、白書によると、人材を十分に確保できている企業では、働きやすい職場環境・制度の整備が進んでいます。図表2は、人材を十分に確保できている企業の取り組みをまとめたもので、特に、賃金や賞与の引き上げ(賃上げ)に取り組んでいる企業の割合が高いことが分かります。

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厚生労働省では、下記ページにて、人材確保につながる職場環境・制度のポイントや事例、相談窓口などを紹介しています。看護・介護・保育・建設については、その分野特有の人材確保対策を紹介しているのでご確認ください。

■厚生労働省「人材確保対策」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000053276.html

3)賃上げ

図表3の通り、最低賃金の改定率・春闘の賃上げ率は、2023年度時点で過去最高水準となっています。一方、物価上昇などの影響を受けて、防衛的賃上げ(業績の改善が見られない中で、離職防止などのために行う賃上げ)を実施する企業も多く、いかに収益を上げて、賃金の原資を確保するかが重要になってきます。

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賃金の原資確保のために行った施策には、人件費以外のコスト削減、価格転嫁、労働時間の削減などが挙げられます。

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厚生労働省では、賃上げを実施した企業の取り組み事例や、各地域における平均的な賃金額など、賃上げのために参考となる情報を掲載する「賃金引き上げ特設ページ」を開設しています。詳細については、こちらをご確認ください。

■厚生労働省「賃金引き上げ特設ページ」■
https://saiteichingin.mhlw.go.jp/chingin/

3 生産性向上:コスト削減と単価引き上げ

日本は就業者数が減少する中、OECD(経済協力開発機構)加盟国のうちで、労働生産性が平均より低くなっており、省力化投資などによる生産性向上が重要視されています。

1)省力化投資

生産性向上を図るための省力化(人間が行う作業を見直して効率化を図り、機械やシステムを導入することで作業負担を減らす取り組み)に向けた設備投資が注目されており、図表5のように、省力化投資を実施した企業は、売上高にプラスの変化が見られる傾向にあります。

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省力化投資の具体例として、

  • 製品製造時の全数検査を、人に代わって行う自動検査装置の導入
  • EDI(電子データ交換)を活用した販売管理システムの構築

に取り組む企業などがあります。

また、省力化投資を支援する取り組みもあります。例えば、経済産業省では、賃上げに向けて省力化等の大規模投資を行った場合、最大50億円を補助する「中堅・中小企業成長投資補助金」を実施しています。また、中小企業庁では、IoTやロボットなどを特定のカタログから選択・導入した場合、最大1500万円を補助する「中小企業省力化投資補助金」を実施しています。

■中堅・中小企業成長投資補助金■
https://seichotoushi-hojo.jp/
■中小企業省力化投資補助金■
https://shoryokuka.smrj.go.jp/

2)価格転嫁

生産性という言葉には様々な意味がありますが、1人当たりや1時間当たりで生み出す付加価値の額として捉えるのであれば、値上げの視点も重要です。

バブル期以降、日本企業は低コスト化・数量増加の取り組みを続けてきました。ですが、その結果、大企業の売上高や利益率は増加する一方、中小企業は発注側の売上原価低減の動きの中で低迷したままです。白書でも、「今後は低コスト化・数量増加以上に、単価の引き上げも重視されている」としています。

コスト増加分を十分に価格転嫁できていない企業は多いですが、その中でも取引先との価格協議を実施した企業は、自社の意向を価格に反映できている傾向があり、協議を実施できていない企業に比べて、価格転嫁に成功しやすいことが分かります。

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また、自社の商品やサービスについて、競合他社との差別化ができている企業ほど、価格転嫁も進んでいる傾向にあります。価格転嫁の協議を有利に運ぶために、いま一度、自社商品・サービスの強みを分析するのもよいでしょう。

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中小企業庁は、中小企業が取引先と適切に価格交渉・価格転嫁できる環境を整備するために、各都道府県のよろず支援拠点に「価格転嫁サポート窓口」を置いています。詳細については、こちらをご確認ください。

■中小企業庁「価格転嫁サポート窓口」■
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/tenka_support.html

4 その他の課題と解決のヒント

「人手不足」「生産性向上」以外にも、中小企業は以下のような課題を抱えています。それぞれの課題に対応する解決策の事例も簡潔に記載しますので、自社の問題を解決する際のヒントとしていただけましたら幸いです。

1)売上・受注の停滞、減少

コロナの5類移行の後も「宿泊」「交通」の消費が戻り切らないなど、コロナ禍の影響は続いており、現在も経営改善・再生支援のニーズは高いです。

各都道府県の「中小企業活性化協議会」では、企業の課題・問題点、ビジネスモデルに合わせ、収益力改善に向けた計画や、事業再生に必要な金融支援策の策定をサポートしています。2023年度には、中小企業の経営改善・再生支援を加速するための経済産業省「挑戦する中小企業応援パッケージ」の一環で、中小企業活性化協議会の専門家(弁護士)を倍増させるなどの体制強化も始まりました。詳細については、こちらをご確認ください。

■中小機構「中小企業活性化協議会」■
https://www.smrj.go.jp/sme/succession/revitalization/index.html
■経済産業省「挑戦する中小企業応援パッケージ」■
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230830002/20230830002.html

2)事業承継・後継者不在への対応策

白書によると、2023年時点で54.5%の中小企業で後継者が不足しています。また、後継者が決まっている企業も、経営能力や相続税や贈与税などの問題を抱えていることがあります。

後継者不在の問題については第三者承継(M&A)を視野に入れることや、事業承継税制を利用するなどの取り組みが、解決策として挙げられます。また、各金融機関では、地域企業後継者の支援エコシステムの醸成・構築が進められていますので、問い合わせてみるのもよいでしょう。

なお、事業承継税制は、後継者が取得した一定の資産について、相続税や贈与税の納税を猶予する制度で、2025年度末まで、納税猶予の対象者などを大幅に拡充する特例措置が講じられています。詳細については、こちらをご確認ください。

■中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」■
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html

3)脱炭素化への対応

近年は、中小企業が自社の取引先から、省エネルギーやCO2排出量削減目標の策定など、脱炭素化への対応要請を受けることも多いです。ただ、75.0%の中小企業が脱炭素化に当たって、取引先からのサポートを受けられていないというデータもあり、公的機関の補助金などの支援を利用するなど、外部からの協力を仰ぐことも重要になってきます。

経済産業省では、脱炭素化に向けて、一定の取り組みをする中小企業に対する補助金の支給(例:IT導入補助金、省エネ補助金)などを行っています。また、中小機構は、脱炭素化の取り組みについて、専門家のアドバイスなどが受けられる「カーボンニュートラル相談窓口」を設置しています。詳細については、こちらをご確認ください。

■経済産業省「中小企業等のカーボンニュートラル支援策」(下記URL中段)■
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/SME/index.html
■中小機構「カーボンニュートラルに関する支援」■
https://www.smrj.go.jp/sme/sdgs/favgos000001to2v.html

4)BCPの見直し

2024年1月に「令和6年能登半島地震」が発生し、広い範囲にわたって建物や設備の損傷などの被害を受け、災害への備えとして、BCPの策定・見直しが更に重要視されています。

中小企業庁では、中小企業向けにBCP策定の手引きなどをまとめています。詳細については、こちらをご確認ください。

■事業継続力強化計画(中小企業庁)■
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.html

以上(2024年8月作成)

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画像:ChatGPT

モスクの経営戦略 寄付金や物販等の収入増加策や注意すべき税制を紹介

書いてあること

  • 主な読者:宗教法人、特にモスク(ムスリム向け)の経営者
  • 課題:動向をはじめ、寄付や物販などの収入確保策、注意すべき税制を知りたい
  • 解決策:イスラムに関する講座などを開催して参加費用を集めたり、ハラールショップを併設して物販で収入を確保したりする事例がある

1 日本国内のイスラム関係団体、モスクの動向

1)モスクの起源について

モスクとは、ムスリム(イスラム教徒)の礼拝施設を指します。日本国内では、礼拝施設としてだけでなく、在住ムスリムのコミュニティーの場所でもあり、冠婚葬祭や、ムスリム以外の人に対してイスラム文化を伝える役割も担っています。

日本で最初に建設されたモスクは,1935年に神戸在住のインド系ムスリムや在日タタール人によって建設された「神戸モスク」といわれます。1990年代後半から2000年代にかけて、モスクの建設ラッシュが進み、早稲田大学の店田廣文名誉教授が代表を務める研究調査「滞日ムスリム調査プロジェクト」によると、2022年2月時点で国内に113カ所のモスクがあるとされています。

モスクが増えた背景として、次のようなことが挙げられます。

  • 自営業者として成功を収めたムスリムや留学生が各地に増加したことで、居住地の近くにモスクを求める声が増えたこと
  • モスク建設資金を確保するための情報発信の方法が多様化したこと(例:既存モスクの訪問、口コミ、メール、ウェブサイトなど)

2)イスラム関係の法人化について

前述の「滞日ムスリム調査プロジェクト」によると、2022年5月の時点でイスラム関係団体の宗教法人は30社、2022年2月時点でイスラム関係団体の一般社団法人は28社となっています。

■滞日ムスリム調査プロジェクト■
https://www.imemgs.com/

2 寄付金や物販等の収入増加策

1)寄付金について

礼拝の参加者に振る舞われる食事や礼拝堂、施設の維持修繕などのモスクの運営に必要な費用は、寄付金によって賄われています。例えば、日本イスラーム文化センターでは14軒のモスクを管理しており、月間の管理費を50万円としています。

ウェブサイトを開設しているモスクでは、銀行口座への振り込みに限らず、オンライン上で寄附ができるシステムを用意して寄付を募っています。

また、モスクの建設の際には、国内の寄付だけでなく、SNSによって同胞のイスラム教徒や母国の著名人に協力を仰ぎ、資金を集めているケースもあります。

2)寄付以外の収入確保策について

寄付によって資金を募るだけでなく、イスラムに関する講座や書道教室を開催して参加費用を集めたり、モスクにハラールショップを併設したりしており、お土産やハラールフード、書籍などの物販によって資金を確保しているところもあります(詳細は事例で後述)。

3 運営に当たり注意するべき税制、法規制

1)宗教法人に関する税務について

宗教団体の中には、「宗教法人」として法人格を持つ(法人化)ところもあります。法人化することで財産の管理が容易になったり、宗教活動に係るものは法人税等が非課税になったりするといったメリットがあります。

なお、モスクの維持管理や運営費用が寄付のみで厳しい場合には、さまざまな活動を通して収入を得る必要がありますが、活動内容によっては収益事業として課税対象になるケースもあるので、注意が必要です。

宗教法人に関する税務の詳細については、下記をご参照ください。

■国税庁「令和6年版宗教法人の税務(源泉徴収全般の項目にリンクがあります)」■
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/01.htm

2)宗教法人法

宗教法人の設立、管理、規則、解散などについて定めた法律です。法律違反があった場合、内容によっては罰則や解散命令の対象になります。例えば、所轄庁への書類の提出義務(毎会計年度終了後4カ月以内に、役員名簿や財産目録などの書類の写しを、所轄庁に提出する)に違反した場合は「10万円の過料」が科せられます。また、法令や定款に著しく違反し、または公共の福祉を害する行為をした場合は解散命令が出されることがあります。

宗教法人法の詳細や、宗教法人法に基づく各手続きについては、下記をご参照ください。

■宗教法人法■
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC0000000126
■文化庁「宗教法人と宗務行政」■
https://www.bunka.go.jp/seisaku/shukyohojin/index.html

3)法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律

不当な宗教勧誘によって高額な寄付を迫られる問題を未然に防止するための法律です。宗教法人が寄付の勧誘を行う際に、寄付者の自由な意思を抑圧し、適切な判断が難しい状況に陥ることがないようにしたり、寄付者やその配偶者・親族の生活の維持を困難にしたりしないようにすることなどを求めています。

法人等による寄付の不当な勧誘の防止等に関する法律の詳細については、下記をご参照ください。

■消費者庁「法人等による寄附の不当な勧誘の防止等に関する法律」■
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/donation_solicitation/

4 日本国内の宗教法人、モスクの活動事例

1)東京ジャーミイ・ディヤーナト トルコ文化センター(東京都渋谷区)

日本国内では最大規模とされているモスクです。礼拝には多くの外国人が訪れますが、東南アジアのムスリムが増えていることから、礼拝の説教は信者のニーズに合わせて、トルコ語、日本語、英語などで執り行われています。

また、施設内には書店やハラールマーケットを併設しており、そこで物販を行っている他、イスラムに関する基礎講座やアラビア語書道教室などのイベントも開催されています。

■東京ジャーミイ・ディヤーナト トルコ文化センター■
https://tokyocamii.org/ja/

2)岐阜ファティフモスク(岐阜県各務原市)

カラオケ店を改装して設立されたモスクで、東海地域に在住のトルコ、パキスタン、インドネシア出身のイスラム教徒が礼拝に訪れているといいます。

施設の完成記念や、2024年で日本とトルコの外交樹立から100年が経過した節目のタイミングで、イスラム教やトルコの文化を知ってもらうためのイベントを開催しています。イベントでは、ケバブやトルコアイスなど

手作りの伝統料理や、雑貨の販売、モスク内の見学などを通して、イスラム教徒と地元住民との交流が実現できたとしています。

■岐阜ファティフモスク(Facebookページ)■
https://www.facebook.com/jpgufatih

3)マスジド大塚(東京都豊島区)

日本イスラーム文化センターが管理、運営する施設です。パキスタンやバングラデシュ、ウズベキスタンやインドネシアの学生など、さまざまな国籍のムスリムが訪れるといいます。

イスラムに関する勉強会などのイベントをはじめ、炊き出しホームレス支援や災害に見舞われた被災地の支援といった慈善活動に積極的に取り組んでいます。子どもがクルアーン(コーラン)を学べる「子供向けクルアーンクラス」も運営しています。

■日本イスラーム文化センター「マスジド大塚」■
https://www.islam.or.jp/

4)名古屋イスラミックセンター名古屋モスク(愛知県名古屋市)

名古屋モスクと岐阜モスクを運営する宗教法人です。モスクは礼拝の場だけではなく、アラビア語のレッスンなどの勉強会や、警察や税関の職員が犯罪予防について話をする講義場としても活用されています。

また、教育機関向けにイスラム文化などを解説する講演、出張講義を行っています。

■名古屋イスラミックセンター名古屋モスク■
https://nagoyamosque.com/

以上(2024年7月作成)

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画像:vladimirzhoga-Adobe Stock

【かんたん会社法(11)】 企業再編の1つである「事業譲渡」

書いてあること

  • 主な読者:企業再編の1つとして「事業譲渡」の基本を知りたい人
  • 課題:事業譲渡の手続きはとても複雑そうで、とっつき難い
  • 解決策:通常、事業譲渡では買い手が事業を選択し、対価は金銭となる

1 さまざまな企業再編

「M&A(Mergers and Acquisitions)」は、企業が成長や競争力を高めるための戦略であり、具体的には、新市場の開拓、競争相手の排除、コスト削減、経済規模の拡大などさまざまな目的で実施されます。M&Aには、合併と買収という2つの意味がありますが、両方の意味を含むものとして、「企業再編」という言葉が使われることがあります。主な企業再編には次の7つの手法があります。

  • 株式譲渡:会社の株式の全部または一部を他の会社に譲渡する
  • 事業譲渡:事業の全部または一部を他の会社に譲渡する
  • 合併:複数の会社を1つにする。吸収合併と新設合併とがある
  • 会社分割:事業の全部または一部を他の会社に分割して承継する。吸収分割と新設分割とがある
  • 株式交換:既にある会社を100%子会社にするために、子会社となる会社の株主の株式と親会社となる会社の株式を交換する
  • 株式移転:既にある複数の会社が新規に100%親会社を設立するために、それぞれが保有する株式を100%親会社に移転し、対価として100%親会社の株式の交付を受ける
  • 株式交付:既にある会社を子会社(100%子会社とは限らない)にするために当該子会社の株式を譲り受け、対価として自社株式を交付する

ここで紹介するのは上記のうち、事業譲渡であり、基本的に譲渡会社(売り手)の立場で紹介します。

2 事業譲渡とは

事業譲渡とは、自社の全部または一部の事業を別の企業に売り渡すことです。事業そのものは存続し、事業を運営する会社が変わるイメージです。大きな特徴は、

  • 譲渡する事業の内容、範囲を自由に選択できる
  • 通常、対価は株式などではなく金銭となる

ことです。

また、事業譲渡では当該事業に従事する従業員、取引関係なども対象にするのが通常なので、譲受側は新たに従業員教育や営業をせずに事業を開始できます。一方で、従業員との雇用関係や取引先との売買契約などをすべて巻き直す必要があるため、実務が煩雑になる点はデメリットです。

3 事業譲渡の手続き

1)株主総会の特別決議

事業譲渡において、「事業の全部を譲渡する場合」「事業の【重要】な一部を譲渡する場合」などは、譲渡会社において株主総会の特別決議を経ることが必要です。この株主総会の招集の際は、通常、「事業譲渡を行う理由」「契約の内容の概要」「対価の算定の相当性に関する事項の概要」を記載した参考書類を株主に交付します。

なお、ここでいう【重要】とは、例えば、その事業の帳簿価額が会社の総資産の20%(定款の定めで引き下げることが可能)を超える場合などですが、基本的には個別の解釈によって決まります。

2)反対株主の買取請求

さらに、譲渡会社は、事業譲渡に反対する株主のために、株式買取請求の機会を与えなければなりません。具体的には、原則として、効力発生日の20日前までに事業譲渡を行う旨を株主に通知します。これを受け、事業譲渡に反対する株主は、事業譲渡の効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、自己の有する株式を公正な価格で買い取るよう譲渡会社に請求できます。

譲渡会社は、反対株主との間で買取価格の協議が調った場合は、効力発生日から60日以内にその金額を支払います。一方、効力発生日から30日以内に協議が調わなかった場合、譲渡会社または株主はその期間の満了の日後30日以内であれば、裁判所に対して価格の決定の申し立てをすることができます。

3)上記以外の場合の手続き

事業譲渡に関して、上記と異なる場合として、

  • 簡易事業譲渡:「事業の重要な一部」の譲渡をしない事業譲渡
  • 略式事業譲渡:譲渡会社が譲受会社の特別支配会社である事業譲渡

があります。

簡易事業譲渡は、具体的には、譲渡資産について、その帳簿価額が、当該会社の総資産額の5分の1を超えないような事業譲渡を指します。このような場合は、「事業の重要な一部」の譲渡には該当しないため、株主総会決議は不要になります。

また、譲渡会社が譲受会社の特別支配会社である場合、略式事業譲渡に該当するため、株主総会決議は不要になります。なお、特別支配会社とは、単独である会社の議決権の90%以上を有する会社、または完全子会社などの保有分と合わせてある会社の議決権の90%以上を有する会社を指します。

4 事業譲渡における注意事項

1)競業禁止義務

事業譲渡の効力が生じたときは、譲渡契約の内容に従って財産の引き渡しなどを行います。合併などと違い、債権・債務や契約上の地位の移転については個別に相手方の同意を得なければなりません。

また、事業譲渡には会社法上、競業禁止義務が定められています。すなわち、譲渡会社は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一および隣接する市区町村の区域内で、事業譲渡を行った日から20年間、同一の事業を行うことはできません。もっとも、特約によってかかる義務を排除することができるため、実務上、事業譲渡契約においてこれよりも短い期間の競業避止義務の定めを置くことが多いでしょう。

なお、この競業禁止規定に関係なく、そもそも譲渡会社は不正競争の目的をもって同一の事業を行うことはできません。

2)商号の利用

譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合、譲受会社も譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負います。この弁済責任を負わないようにするためには、事業譲渡の後、遅滞なく、

譲受会社は、本店の所在地で譲渡会社の債務を弁済する責任を負わない旨を登記するか、譲受会社および譲渡会社から第三者に対してその旨を通知する

必要があります。

また、譲受会社が商号を使用しない場合でも、譲受会社が譲渡会社の債務を引き受ける旨の広告(債務を引き受ける旨の明確な記載がなくても、社会通念上、債権者において、譲受人が譲渡人の事業によって生じた債務を引き受けたものと信じるものと認められる広告であればこれに該当します)を行ったときは、譲渡会社の債権者は、譲受会社に対して弁済の請求をすることができます。

以上(2024年8月更新)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

【熱中症対策】 いよいよ夏本番! 改めて確認したい「熱中症」の基礎

書いてあること

  • 主な読者:社員の「熱中症」対策を進めたい経営者
  • 課題:まずは熱中症に関する基本的な情報を知りたい
  • 解決策:熱中症で緊急搬送されている人数、2024年夏の暑さの予報、熱中症の主な症状、熱中症になりやすい人・環境を把握する

1 「熱中症」がいよいよ本格化、対策は必須!

2024年7月22日、今年最多となる41箇所の地域に「熱中症警戒アラート」が発表されました。全国的に気温が著しく上昇し、地域によっては40度に迫るほどの猛暑日が続いています。社員の熱中症対策は必須です。

例年、熱中症で救急搬送される人数は5月ごろから徐々に増え始め、7月~8月にピークを迎えます。総務省消防庁「救急搬送人員及び死亡者数(年別推移)」によると、2023年7月に救急搬送された人数は3万6549人、5月~9月の累計では9万1467人となっています。

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2024年6月時点の気象庁「全国の季節予報」によると、

2024年の7月から9月の東日本・西日本の平均気温は、30%の確率で平年並み、60%の確率で平年より高くなる見込み

です。コロナ禍を経て、日ごろからマスクを着用することもありますし、自宅でテレワークをする社員もいます。自宅はオフィスよりも空調設備が整っていないことが多いので、屋内でも社員が熱中症になるリスクは高まっているといえます。

そこで、熱中症対策の手始めとして、具体的な症状と熱中症になりやすい条件を確認していきましょう!

2 熱中症はどのような状態なのか?

熱中症の定義は次の通りです。

体温を平熱に保つために汗をかき、体内の水分や塩分(ナトリウムなど)の減少や血液の流れが滞るなどして、体温が上昇して重要な臓器が高温にさらされたりすることにより発症する障害の総称(環境省「熱中症環境保健マニュアル」)

暑い場所などで作業し続けると、体内で熱が発生して体温が上昇します。通常は体温調節機能が働き、汗をかいて熱を体外に逃がすことで体温が下がります。しかし、体内の水分や塩分のバランスが崩れると体温調節機能が働きません。その結果、体温が下がらず熱中症になることがあります。

熱中症の主な症状は次の通りです。

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熱中症は目まいなどの軽度な症状で済むこともあります。しかし、重症化すると意識障害などを起こし、最悪のケースでは死に至ることもあります。そのため、いち早く症状に気付き、重症化する前に対処しなければなりません。

3 どんな人が熱中症になりやすい?

個人の体質、普段の生活習慣、その日の体調など、さまざまな理由で熱中症になりやすい人がいます。例えば、寝不足や食欲不振などで体調が優れない、下痢や二日酔いなどで脱水症状気味といったときは注意が必要です。また、肥満の人や、運動習慣がなく体力や持久力のない人も熱中症になりやすいとされています。

その他、高齢者や持病のある人、体に障害のある人、(日焼けを防ぐために)暑い中でも厚手の長袖を着ている人なども注意が必要です。

感染症対策や業務上の必要性も含め、マスクを着用する人も注意が必要です。特に高温多湿の状況でマスクを着用していると、皮膚からの熱が逃げにくくなったり、喉が渇いていることに気付かなかったりすることから、体温調節がしづらく熱中症になるリスクが高まります。

4 高温多湿でなくても熱中症になりやすい条件は?

熱中症になりやすい条件は、

  • 風が弱い
  • 日差しが強い
  • 急に暑くなった日
  • 熱帯夜の翌日
  • 照り返しが強い場所
  • 熱波が襲来するとき

などです。オフィスであっても、熱が発生するサーバーや複合機などの業務機器が近くにある場所での作業は注意が必要です。また、テレワークの場合、電話やウェブ会議の音声を聞き取りやすくしたり、仕事に集中したりするためにドアや窓を閉め切ることがあり得ます。また、自室にエアコンがないという人もいます。こうした環境で長時間作業を続けると、熱中症になりやすくなります。

以上(2024年7月更新)

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画像:Lamyai-shutterstock

【財務分析】会社の良し悪しを判断する基本の指標20選

書いてあること

  • 主な読者:会社の状況について立てた仮説を検証したい社員
  • 課題:財務分析の指標は種類が多く、どれを使えばよいのか迷う
  • 解決策:「収益性」「安全性」「生産性」に着目して、仮説検証に必要な指標を使う

1 財務分析は「仮説→検証」の繰り返し

財務分析は、会社の状況について「仮説」を立て、それを検証するために行うものです。例えば、次のようなイメージです。

  • 「老朽化した設備があり、有形固定資産の効率性が落ちている?」と仮説を立てたら、有形固定資産回転率が低くないかを確認してみる
  • 「借入金が増加し、短期安全性が低下している?」と仮説を立てたら、流動比率や当座比率を比較してみる

この記事では、財務分析に使う代表的な20の分析指標を紹介します。ただし、上から順番に計算していく必要はありません。会社の状況で「収益性」「安全性」「生産性」のうち、どの要素を判断したいかによって、必要な指標を使いわけてみてください。

2 収益性に関する指標10選

1)総資本経常利益率

総資本経常利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

総資本経常利益率=経常利益÷総資本

また、総資本経常利益率の計算式は次のように分解することができ、収益性に影響を与える要因をより詳細に分析できます。

総資本経常利益率

=(経常利益÷売上高)×(売上高÷総資本)

=売上高経常利益率×総資本回転率

2)売上高総利益率

売上高総利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

売上高総利益率=売上総利益÷売上高

売上総利益は次の式で計算できます。

売上総利益=売上高-売上原価

売上原価とは、販売した商品の仕入れや製造にかかった費用です。例えば、小売業であれば販売した商品の仕入代金、製造業であれば製品の製造費用などが該当します。

3)売上高営業利益率

売上高営業利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

売上高営業利益率=営業利益÷売上高

営業利益は次の式で計算できます。

営業利益=売上総利益-販売費及び一般管理費

販売費及び一般管理費とは、販売部門や総務・経理といった管理部門などで発生する費用です。人件費・事務用品費・旅費交通費・広告宣伝費・支払家賃・減価償却費などが該当します。

4)売上高経常利益率

売上高経常利益率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

売上高経常利益率=経常利益÷売上高

経常利益は次の式で計算できます。

経常利益=営業利益+営業外収益-営業外費用

営業外収益とは、財務活動や投資活動など、本業以外で得た収益です。受取利息・受取配当金・有価証券売却益などが該当します。また、営業外費用とは、本業以外で発生した費用のことです。支払利息・手形売却損・有価証券売却損・社債利息などが該当します。

5)ROE(Return On Equity、自己資本利益率)

ROEの計算式は次の通りです。この比率が高いほど収益性は高くなります。

ROE=税引後当期純利益÷自己資本

6)ROA(Return On Assets、総資本利益率)

ROAの計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

ROA=税引後当期純利益÷総資本

7)総資本回転率

総資本回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

総資本回転率(回)=売上高÷総資本

なお、総資本回転率が悪化する例として、保養所などの売上獲得に直接貢献しない資産を多く所有していることなどが挙げられます。

8)売上債権回転率

売上債権回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

売上債権回転率(回)=売上高÷売上債権

売上債権は次の式で計算できます。

売上債権=受取手形+売掛金など

9)棚卸資産回転率

棚卸資産回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

棚卸資産回転率(回)=売上高÷棚卸資産

棚卸資産とは、販売されずに在庫として会社に残っている資産です。商品・製品の他に原材料・仕掛品なども含みます。棚卸資産回転率が低い場合、在庫過多や不良在庫の恐れがあります。

10)有形固定資産回転率

有形固定資産回転率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど効率性は高くなります。

有形固定資産回転率(回)=売上高÷有形固定資産

3 安全性に関する指標7選

1)流動比率

流動比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

流動比率=流動資産÷流動負債

流動資産とは、現金預金・受取手形・売掛金・棚卸資産など1年以内に回収が見込める資産です。また、流動負債とは、支払手形や買掛金など1年以内に支払う必要のある負債です。

流動比率は、短期的な支出を短期的な収入でどの程度補うことができるかが把握できる指標です。1年以内という基準で資産と負債の比率を見るわけですが、「1年以内に回収できるか、また、支払いが可能かどうか」までは考慮されていません。そのため、資産と負債が同一の状態である100%では安全とは言い切れず、200%以上が望まれます。

2)当座比率

当座比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

当座比率=当座資産÷流動負債

当座資産は、流動資産から棚卸資産を除いた換金性の高い資産です。

当座資産=現金預金+受取手形+売掛金+有価証券など

受取手形・売掛金は、貸倒引当金を控除した後の値を用います。貸倒引当金とは、取引先の倒産などにより回収ができなくなる可能性がある金額を見積もった値です。

当座比率は流動比率よりも資産の回収可能性を考慮した指標であり、100%以上が望まれます。もし当座比率が低い場合、支払原資に対する短期借入金などの比率が大きいことが分かります。また、当座比率についても回収や支払いのタイミングは考慮されていません。流動比率が高いのに当座比率が低い場合、棚卸資産(在庫)が過剰となっている恐れがあります。

3)手元流動性比率

手元流動性比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

手元流動性比率(カ月)=(現金預金+有価証券)÷月商

手元流動性比率は、短期的な安全性を見る際に信頼できる指標です。なぜなら、手元流動性は、現金預金とすぐに現金化できる有価証券だけで安全性を評価するからです。一概にはいえませんが、中小企業の場合は1.7カ月以上が望まれます。

4)固定比率

固定比率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど安全性は高くなります。

固定比率=固定資産÷自己資本

固定資産とは、建物や土地など1年超にわたって使用される資産です。固定比率は、短期では回収の難しい固定資産が返済期限の定めのない自己資本によってどれくらい賄われているか、企業の長期的な安全性を見るための指標で、100%以下となることが望まれます。

5)固定長期適合率

固定長期適合率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど安全性は高くなります。

固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)

固定負債とは、社債や長期借入金など1年以内に支払う必要がない負債です。固定長期適合率は、長期的な安全性を見るための指標ですが、自己資本に加えて固定負債も考慮していることが特徴です。固定長期適合率は、100%以下となることが望まれます。

6)自己資本比率

自己資本比率の計算式は次の通りです。この比率が高いほど安全性は高くなります。

自己資本比率=自己資本÷総資本

自己資本比率は、総資本のうち、返済する必要がない自己資本が占める割合です。安全性の観点から見ると、自己資本比率は高ければ高いほど好ましくなります。ただし、負債で事業投資をして負債コスト以上の利益を上げている場合、自己資本比率が低くても問題はありません。 そのため、収益性の観点から見ると、自己資本比率が高ければ良いというわけでもありません。

7)負債比率

負債比率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど安全性は高くなります。

負債比率=負債÷自己資本

負債比率は、負債と自己資本を比較する指標です。負債比率は、自己資本比率を補完するものですが、安全性分析としては、自己資本比率もしくは負債比率のどちらか一方を分析すれば良いといえます。

4 生産性に関する指標3選

1)労働生産性

労働生産性の計算式は次の通りです。この比率が高いほど従業員1人当たりの生産性は高くなります。

労働生産性(円)=付加価値÷従業員数

労働生産性の計算式を次のように分解すると、生産性に影響を与える要因の詳細が見えてきます。

労働生産性(円)

=(売上高÷従業員数)×(付加価値÷売上高)

=1人当たり売上高×付加価値率

2)設備生産性

設備生産性の計算式は次の通りです。この比率が高いほど資産当たりの生産性は高くなります。

設備生産性=付加価値÷有形固定資産

設備生産性の計算式を次のように分解すると、生産性に影響を与える要因の詳細が見えてきます。

設備生産性

=(売上高÷有形固定資産)×(付加価値÷売上高)

=有形固定資産回転率×付加価値率

3)労働分配率

労働分配率の計算式は次の通りです。この比率が低いほど生産性は高くなります。

労働分配率=人件費÷付加価値

労働分配率が高ければ、労働生産性が低いか、余剰人員を抱えている可能性があります。

以上(2024年7月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

pj35039
画像:pexels

【朝礼】モノレールには200年の歴史がある

おはようございます。今日は乗り物の「モノレール」について話をします。皆さんは、モノレールというと、その空中を走る姿から、2本のレールを走る普通の電車に比べ「新しい」「未来的」といったイメージを抱くかもしれません。ですが、その歴史は意外と古いのです。

辞書でモノレールの定義を調べると、「1本のレールで列車を走らせる鉄道」とあります。そんなモノレールが世界で最初に作られたのは、今から200年前、1824年の英国。ヘンリー・パルマという人物がロンドン埠頭(ふとう)内に敷設したのが最初です。ちなみに世界で初めて蒸気機関車が製作されたのが1825年、実はモノレールは汽車よりも歴史が古いのです。といっても、当時のモノレールは、今のような形ではなく、貨物を運搬するために、木材のレールに車両をまたがらせ、馬で牽引するというものでした。

次にモノレールが歴史の表舞台に出てくるのは、そこから60年以上後、1888年のアイルランド。蒸気機関車で貨物を牽引輸送するモノレールが整備され、約40年運送されたそうです。

モノレールが都市交通機関として使われるようになったのは、1901年のドイツ。ここに来てようやく、人を乗せるモノレールが登場します。

ちなみに、日本でモノレールが本格始動するのは1964年。東京五輪が開催された年で、主に選手の輸送を目的として作られたそうです。その後、自動車の普及によって道路の渋滞問題が発生し、その問題解決の手段としてモノレールの需要が高まり、今の形へとつながっていくわけです。

以上、モノレールの歴史をざっくりお伝えしましたが、私が注目してほしいのは、1824年に初めてモノレールを作ったヘンリー・パルマです。皆さん、彼の気持ちになってみてください。当時のモノレールは、あくまで貨物運搬が目的。それも、建築現場という限られた場所で使われ、人が乗るような代物ではありませんでした。パルマ自身、まさか自分の考案したモノレールが、200年後に今のような形で使われるなんて、想像もしなかったでしょう。

モノレールが次に姿を現すのが、60年以上後というのも面白いです。水面下で実用化のための研究が進められていたのか、何十年もたってからパルマのモノレールに着目する人がいたのかは分かりませんが、いずれにせよ、昔のテクノロジーが時代を経て呼び起こされるのはロマンがありますよね。

私たちは、今自分たちの周りにあるものから、ビジネスの可能性を模索しようとしがちですが、新しいビジネスのアイデアは、意外と昔のテクノロジーの中に眠っているのかもしれません。たまには歴史をひもといて、昔に目を向けてみてはどうでしょうか。私たちが今当たり前に使っているテクノロジーも、何百年か後には全く違う形で使われているかもしれない、そんなことを想像するのも面白いですね。

以上(2024年8月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【財務分析】仕入れや販売をしたときに財務諸表の数値はどう変化する?

書いてあること

  • 主な読者:財務諸表の構造や読むときのポイントを知りたい人
  • 課題:財務諸表は数字や似通った専門用語が多く、どこを見ると良いのかがわからない
  • 解決策:商品の仕入れや販売などの身近な活動に落とし込んで、それらが財務諸表にどのような影響を与えるのかを考えてみる

1 日々の企業活動は財務諸表にどう影響する?

財務諸表(損益計算書、貸借対照表)を慣れるには、

商品の仕入れや販売などの活動が、財務諸表のどのような箇所に影響するか

を実際に確認してみることが大切です。

財務諸表にはさまざまな数字が出てきますし、似通った専門用語も多いため、最初はどこを見ると良いのかがわからないかもしれません。しかし、慣れてくると、ポイントを押さえて読めるようになり、それほど時間をかけずに会社の財務状況を大まかにつかめるようになります。

この記事では、財務諸表の概要を説明した上で、仕入れや販売などの身近な活動が財務諸表の数値にどのように影響するかを見ていきます。

2 損益計算書の概要

損益計算書は、

会社が一定期間の営業活動によってどれだけの利益を上げられたかを示すもの

です。利益は次の5段階となっており、商品・サービスの売り上げから、売上原価や人件費などを差し引いて計算します。

  1. 売上総利益:自社の商品やサービスに係る売上から売上原価を差し引いた利益
  2. 営業利益:売上総利益から人件費など販管費を差し引いた本業にかかる利益
  3. 経常利益:営業利益から受取・支払利息などの本業以外の収益・費用を反映した利益
  4. 税引前当期純利益:経常利益から臨時的に生じた特別利益・損失を反映した利益
  5. 当期純利益:税引前当期純利益から法人税等の金額を差し引いた最終の利益

どの利益を重視するかは、損益計算書を読む理由や読み手の立場によって異なります。例えば、投資家などは会社の配当原資がどの程度あるのかを見るために、当期純利益に注目します。また、類似商品を扱う競合他社の損益計算書を見る際は、売上原価を差し引いた売上総利益などに注目します。

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3 貸借対照表の概要

貸借対照表は、

決算期末時点における会社の資金調達・運用の状況を示すもの

です。会社は借り入れや株式発行などにより資金調達を行い、調達した資金で商品を仕入れたり、機械装置を購入したりしますが、その資金の状態を示すのが貸借対照表です。貸借対照表を読む際は、次の5つの項目に注目します。

  1. 流動資産:現金預金や売掛金など短期間(1年以内)で現金化できる資産
  2. 固定資産:1年を超えて現金化されず、長期間保有・使用される資産
  3. 流動負債:買掛金や短期借入金など返済期限が短期間(1年以内)の負債
  4. 固定負債:返済期限が1年を超える負債
  5. 純資産:株主からの出資金や事業活動から得た利益の蓄積額など

業種や企業の事業戦略などによって、どの項目が高めなのか、または低めなのかといった特徴が異なります。

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4 仕入れや販売で貸借対照表と損益計算書はどう変化する?

1)事業活動の概要(前提条件)

ここでは、小売業A社の仕入れ、販売などの事業活動が貸借対照表と損益計算書にどのような影響を与えるかを解説します。

小売業A社は、この1年間で次の事業活動を行いました。以降は第1事業年度とします。

a.営業用資金として、金融機関から長期で1000万円を借り入れる。また、自己資金の注入により、株主資本が500万円となる

b.営業店舗として土地を250万円、建物250万円を現金500万円で取得する(建物の減価償却期間は25年、減価償却費は年間10万円とします)

c.商品を1個当たり3000円で2000個、現金で仕入れる

d.仕入れた商品を1個当たり5000円で1000個、現金で販売する

e.減価償却費10万円を販管費に計上し、第1事業年度の税金(税引前当期純利益の30%の57万円)を翌事業年度(第2事業年度)に支払うことになるため未払計上する

上記の事業活動を仕訳(取引を借方と貸方に分けたうえで、取引内容に応じて適切な勘定科目に振り分けること)した結果は次の通りです。

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2)財務諸表の変化

1.小売業A社の貸借対照表

仕訳結果に基づいて、第1事業年度の小売業A社の貸借対照表の変化を見てみましょう。

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2.小売業A社の損益計算書

次に、第1事業年度の小売業A社の損益計算書を見てみましょう。

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損益計算書の一番下にある当期純利益は、会社の最終的なもうけを表す項目です。来期の初めの貸借対照表では、当期純利益は純資産に利益剰余金として計上され、会社が更なる成長を遂げるための投資や、自己資本の充実により財務基盤を強化するための原資に充てられます。第2事業年度期首の小売業A社の貸借対照表は次の通りです。

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以上(2024年7月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:Rawpixel.com-shutterstock

【高齢者雇用】定年退職した社員にフリーランスで手伝ってもらう場合の注意点

書いてあること

  • 主な読者:定年退職した社員と業務委託契約を交わしたい経営者、人事労務担当者
  • 課題:業務委託契約に不慣れで、実務のポイントが分からない
  • 解決策:フリーランスは社員ではなく外部の人間であることを前提に検討する

1 継続雇用と業務委託のハイブリッド

2021年4月1日以降、いわゆる「70歳までの就業機会確保」により、会社は社員が70歳まで働ける機会を確保する「努力義務」を負っています(改正高年齢者雇用安定法)。

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具体的な方法は、

  • 継続雇用制度などによる「雇用確保措置」
  • 業務委託契約などによる「創業支援等措置」

となりますが、現在、多くの会社は65歳までの継続雇用制度を導入しているので、これを70歳まで延長するのが最も簡単です。ただし、高年齢者の中には、セカンドライフの充実などのために、自由度が高い業務委託契約を希望する人もいるかもしれません。

人材を確保しつつ、こうした高年齢者の希望に沿うためには、

継続雇用制度をベースに、希望者は業務委託契約に切り替える

という設計も検討できます。そこで、この記事では、新たに創設された創業支援等措置の導入のステップや業務委託契約の注意点などを紹介していきます。

2 「創業支援等措置の計画」がカギ

高年齢者と業務委託契約を締結する流れは次の通りです。

  1. 創業支援等措置の計画を策定する
  2. 過半数労働組合等の同意を得る
  3. 創業支援等措置の計画を社内に周知する
  4. 個々の高年齢者と業務委託契約を締結する

「創業支援等措置の計画」(以下「計画」)では、次の12の事項を定めます。

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この計画を過半数労働組合等の同意を得て社内に周知すれば、業務委託契約を締結できるようになります(労働基準監督署などに届け出は不要)。計画を作るのは面倒ですが、高年齢者との業務委託契約の内容は計画をベースに決定されるので、

契約内容への誤解などから、会社と高年齢者がトラブルになるリスクを低減

することができます。

3 創業支援等措置の計画を作成・運用する際のポイント

業務委託契約を交わす高年齢者は社員ではなく外部の人間なので、

  1. 独占禁止法、下請法、フリーランス保護新法(2024年11月1日施行)に違反しないこと
  2. 実質的に「労働者」となるような指示等を行わないこと

に注意しましょう。なお、1.のフリーランス保護新法については、まだなじみが薄いという人もいるでしょうが、簡単に言うと

「下請法に関係なく、会社はフリーランスを保護しなさい」という趣旨の法律

です。フリーランスは、契約する会社が一定の資本金要件を満たす場合、下請法による保護を受けられますが、中小企業はその資本金要件を満たさないケースが多く、フリーランスが保護されにくいという問題があり、これを解決するためにフリーランス保護新法がされました。

厚生労働省によると、

創業支援等措置を新たに設ける場合も、労働基準法の「退職に関する事項」として、業務委託契約を締結する旨や対象者の範囲等を、就業規則等に記載する必要がある

とされていますので、1.と2.を踏まえつつ、計画に記載する12項目の中から厚生労働省のパンフレットで、特に注意が必要とされる6項目のポイントを紹介します。

1)高年齢者が従事する業務の内容

フリーランス(高年齢者)が従事する業務の内容は、本人の知識・経験・能力等を考慮した上で定めます。「元社員だから」ということで会社が一方的に業務を決めてしまいがちですが、契約内容の一方的な決定や不当な契約条件の押し付けは独占禁止法、下請法違反になります。

フリーランス(高年齢者)と社員の業務内容が同じでもよいのですが、労働時間、休日、責任の重さなどまで同じになると、「労働者」として労働基準法などの適用を受けます。この場合、稼働時間に応じた割増賃金の支払いなどが必要になることがあります。

なお、2024年11月1日からはフリーランス保護新法により、

社員と同じように、業務内容を書面やメールで明示すること

が義務付けられます。また、

フリーランス(高年齢者)に落ち度がないのに「納品物などの受領を拒絶する、返品する」「業務内容を変更させる、やり直させる」といった行為も同法違反

となります。

2)高年齢者に支払う金銭

フリーランス(高年齢者)に支払う金銭は、「1回の契約(または1活動など)当たり△△円以上」といった具合に定めます。高年齢者が社員だった頃の基準とは切り離し、業務の内容や当該業務の遂行に必要な知識・経験・能力、業務量などを考慮して金額を設定しましょう。

フリーランス(高年齢者)に支払う金銭を理由なく減額したり、支払いを遅らせたりすることは、独占禁止法、下請法違反になります。

なお、2024年11月1日からはフリーランス保護新法により、

  • 報酬の額、支払い期日等を書面やメールで明示すること
  • 報酬の支払い期日について、原則として納品などの日から起算して60日以内で、かつできる限り短い期間内に設定すること

が義務付けられます。また、

フリーランス(高年齢者)に落ち度がないのに「報酬を減額する」行為なども同法違反

となります。

3)契約を締結する頻度

契約を締結する頻度は、「○○に関する業務を1年当たり○回から△回まで」といった具合に定めます。適切な頻度は個々のフリーランス(高年齢者)のスキルや健康状態などによっても変わるので、65歳時点での業務量なども考慮して決めましょう。

4)契約に係る納品の方法

契約に係る納品は、「履行期限は発注後○日から△日とし、個別契約で定める期限までに○○により納品する」といった具合に定めます。成果物が契約で定められた目的を達成していないときは、やり直しを求めることができますが、フリーランス(高年齢者)は自己の責任と判断で委託業務を行うことになり、業務上の指揮命令関係があるわけではないため、社員と同じように指示できるわけではないことに注意が必要です。

また、納品された成果物の「検収(発注内容に沿っているかを検査すること)」も重要な問題です。会社側はちゃんと成果物をチェックしたつもりでも、受託者にそれが伝わらないとトラブルになるので、検収のルールは明確に決めておきましょう。

5)契約の変更

契約の変更は、「委託業務の内容、実施方法など契約条件の変更を行う必要があると判断した場合は、甲乙協議の上、変更することができる」といった具合に定めます。例えば、業務の内容の場合、外部に発注する業務がなくなったときや、フリーランス(高年齢者)の健康状態が悪化したときなどに変更が必要になります。ただし、一方的に契約内容を変更することはできませんので、フリーランス(高年齢者)と合意した上で変更しましょう。

6)安全・衛生

安全・衛生は、「機械器具・原材料による危害を防止するために必要な措置を講じる」など、会社が行う取り組みの内容を定めます。

フリーランス(高年齢者)には労働安全衛生法や労働契約法が適用されないので、会社は安全衛生管理をしなくてもよいと思うかもしれませんが、例えば、納期が極めて短期であり過重労働とならないように、適切な納期を設定することなどが必要になります。

なお、2024年11月1日からはフリーランス保護新法により、

社員と同じように、ハラスメントの防止や出産・育児・介護への配慮といった「就業環境の整備」を行うこと

が義務付けられます。

7)その他(成果物の権利)

1)から6)までの内容の他、「納品された成果物の権利」も重要です。例えば、フリーランス(高年齢者)の成果物が、本人の思想や感情を創作的に表現する「著作物」に該当する場合、

  • 著作権(著作財産権):著作物を勝手に複製されたり、配信されたりしない権利
  • 著作者人格権:著作物を勝手に公表されたり、内容を変更されたりしない権利

が認められます。著作権(著作財産権)については著作者以外への譲渡もできますが、著作者人格権については譲渡不可なので、納品後にその内容を公表したり、変更したりするにはフリーランス(高年齢者)の同意が必要になります。

フリーランス(高年齢者)による制作物を、編集したり修正したりすることが想定される場合には、フリーランス(高年齢者)から、制作物に関する「著作権(著作権を含む知的財産権)を譲渡する」ことに加え、「著作者人格権を行使しない」ことについても同意を得た上で、契約書に記載することなどを検討するとよいかもしれません。

以上(2024年8月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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画像:Jacob Lund-Adobe Stock