【健康経営】最新法令に対応。会社に義務付けられている社員の健康管理の全て

書いてあること

  • 主な読者:会社が行う健康管理について網羅的に知りたい経営者、労務担当者
  • 課題:働き方が多様化し、会社としてきちんと対応できているか分からない
  • 解決策:「安全衛生管理体制の構築」「健康診断やストレスチェック制度の実施」「長時間労働の抑制」「社員が病気・けがをした場合の対応」を行う

1 安全配慮義務を果たすことが健康管理の基本

働き方改革やSDGsの観点から、社員の「健康」維持が大きく注目されています。会社には、

安全配慮義務:事業に用いる物的施設・設備、人的組織の管理を十分に行う義務

が課せられていています。また、労働基準法や労働安全衛生法では、会社に対して、社員の健康管理に関する義務を課しております。主に次の4つの取り組みが挙げられますが、これらは法令で定められた健康管理の基本で、しかも

2024年4月1日の法令の改正により、ルールが変わる箇所が複数ある

ので、しっかり押さえていきましょう。

  1. 安全衛生管理体制の構築
  2. 健康診断やストレスチェック制度の実施
  3. 長時間労働の抑制
  4. 社員が病気・けがをした場合の対応

2 安全衛生管理体制の構築

安全衛生管理体制とは、

労働安全衛生法に基づいて会社が整備する、社員の安全と衛生を守るための体制

です。具体的な内容を紹介します。

1)総括安全衛生管理者などの選任

会社には、事業場の社員数や業種に応じて次の担当者を選任する義務があります。

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「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」は、2024年4月1日から選任が義務付けられます。この2つは、厳密に言うと法律上の安全衛生管理体制には含まれないのですが、他の担当者や委員会と連携して安全衛生管理の職務に当たるので、押さえておきましょう。なお、表内の

リスクアセスメント対象物とは、「ラベル表示、SDS等による通知」が義務付けられている危険・有害物質のこと

です。

2)安全委員会などの設置

会社には、事業場の社員数や業種に応じて次の委員会を設置する義務があります。安全委員会と衛生委員会の両方の設置義務がある会社は、まとめて「安全衛生委員会」とすることもできます。

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なお、自社が選任すべき担当者や設置すべき委員会、具体的な職務内容などを知りたい場合、次のURLにジャンプし、特定のキーワード(担当者や委員会)をクリックすると便利です。

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト」(「安全衛生キーワード」全用語一覧)■

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo_index04.html

3 健康診断やストレスチェック制度の実施

1)健康診断の実施

会社には、法令で定められた健康診断(法定の健康診断)を実施する義務があります。法定の健康診断には、「一般健康診断」と「特殊健康診断等」があります。

  • 一般健康診断:定期的な健康診断(5種類)
  • 特殊健康診断等:特定の有害な業務に常時従事する社員または従事したことのある社員に行う健康診断(3種類)

それぞれの内容は次の通りです。

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なお、この他、図表1に含まれない(一般健康診断でも特殊健康診断等でもない)健康診断として、2024年4月1日から施行される

  • リスクアセスメント対象物に関する健康診断
  • 濃度基準値設定物質(ばく露量が濃度基準値(厚生労働省が定める濃度の基準値)以下なら健康障害を生じないとされているリスクアセスメント対象物)に関する健康診断

があります。前者はリスクアセスメント(有害性のリスク診断)の結果に基づき、関係社員の意見を聴き必要があると認められるときに実施が義務付けられ、後者は社員が濃度基準値を超えて濃度基準値設定物質にばく露した恐れがある場合に実施が義務付けられます。

2)ストレスチェック制度の実施

ストレスチェック制度とは、

  • ストレスチェック:社員が所定の質問に答えて自身のストレス状態を把握するもので、医師、保健師、必要な研修を修了した看護師、精神保健福祉士、歯科医師、公認心理師が実施する
  • 医師による面接指導:高ストレス者に対して医師が実施する

などの一連の施策です。事業者は、年1回以上、ストレスチェックを実施する義務があります。ただし、社員数が常時50人未満の事業場においては、当分の間、実施は努力義務です。

4 長時間労働の抑制

1)適切な労働時間管理

会社には、次のいずれかの方法で、全社員(管理監督者を含む)の労働時間を把握し、労働時間の記録に関する書類を5年間(当面の間は3年間)保存する義務があります。

  • タイムカードの記録、パソコン等の電子計算機の使用時間の記録など客観的な記録を基礎として確認する方法
  • 使用者が自ら現認して確認する方法
  • 自己申告により確認する方法(社員への周知、労働実態の調査などが必要)

労働時間は原則として、

法定労働時間(原則、休憩時間を除き1日8時間、1週40時間)の範囲内

に収まるようにしなければなりません。通称「36協定(さぶろく協定)」と呼ばれる労使協定を締結して所轄労働基準監督署に届け出ると、

時間外労働(法定労働時間を超える労働、いわゆる残業)、休日労働

を社員に命じられますが、労働基準法では、会社は図表4の「時間外労働の上限規制」を遵守しなければならないとされています。なお、2024年4月1日から、これまで適用が猶予されていた建設業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)にも、上限規制が全面適用されます。

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2)労働時間などに応じた医師による面接指導の実施

会社は、次の場合には、該当する社員に対し、医師による面接指導を実施しなければなりません。

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5 社員が病気・けがをした場合の対応

1)保険給付を申請するための事業主の証明

ここまで紹介した措置を講じていても、社員が病気・けがをすることはあります。その場合は早急に治療を受けさせ、必要に応じて休業・休業などの措置を取りましょう。その際、社員が一定の要件を満たしていれば、社員は、

  • 労働災害(業務災害または通勤災害)の場合、労災保険の給付
  • 私傷病の場合、健康保険の給付

を請求できます。

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労災保険の給付を請求する場合、社員は所定の請求書に必要事項を記入して、所轄労働基準監督署(直接または医療機関経由)に提出します(傷病(補償)年金については不要)。その際、

会社も社員が申告した労働災害の発生日時や発生状況について間違いがない旨を請求書に記入する必要があります。これを「事業主の証明」

といいます。

一方、健康保険の給付を請求する場合、基本的に会社は手続きに関与しませんが、

傷病手当金を請求する場合には、勤務状況や賃金の支払い状況などについて、事業主の証明が必要

になります。

2)復職の可否の判断

社員が病気・けがのために長期間働けない場合、社員を一定期間休業させ、回復を待つことになります。休業期間は、

  • 私傷病と通勤災害の場合、一般的に就業規則等で定める期間
  • 業務災害の場合、原則として休業が必要なくなるまでの期間

です。

私傷病と通勤災害の場合、就業規則等で定める期間を経過しても復職できないときは、就業規則の定めに従って、社員を解雇や退職扱いとします。ただし、

就業規則等の規定だけを理由に社員を解雇等すると、不当解雇と判断される恐れ

があります。そのため、休業期間中から社員、主治医と連絡を取り合い、復職の可能性等を慎重かつ十分に検討することが大切です。

また、業務災害の場合、原則として社員が休業する期間とその後30日間は解雇ができません。これを「解雇制限」といいます。ただし、療養開始から3年が経過し、次のいずれかに該当すると解雇制限が解除されます。もっとも、解雇制限が解除されても解雇が有効と認められるかは別問題であるため、注意が必要です。

  • 社員の負傷または疾病などが治癒しておらず、会社が平均賃金1200日分の打切補償を行った場合
  • 社員が労災保険の傷病補償年金を受けている(または受けることになった)場合

以上(2024年3月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田絹助)

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常勝将軍ナポレオンに学ぶ「戦うリーダー」の心構えを表す一言とは?

リーダーとは、希望を配る人のことである

ナポレオン・ボナパルトは、18~19世紀に活躍したフランスの軍人です。少年の頃から本来数年かけて卒業する士官学校を11カ月で卒業するなど非凡な才能を持っていたナポレオンは、軍人になった後、1793年にフランス革命に反対する反乱軍を24歳の若さで鎮圧し、英雄としてその名を轟(とどろ)かせます。そして、その後も数々の戦いに勝利し、「常勝将軍」と呼ばれるほど国民の人気を集め、やがてフランス第一帝政の皇帝に即位して強大な軍事政権をつくります。

冒頭の言葉は、そんなナポレオンのリーダー論を表す名言として有名です。ナポレオンは、軍事作戦を練る頭脳も、自分や軍にとっての好機を見極める観察眼も優れていましたが、ここぞというタイミングで味方を鼓舞する才能が特に抜きん出ていました。

例えば、1796年にフランス軍とオーストリア軍がアッダ川という川を挟んで対峙(たいじ)した際は、指揮官であるナポレオンが、自ら軍旗を掲げて敵軍に突撃し、味方の兵を勢い付かせてオーストリア軍を打ち破りました。

また、あの有名な「吾輩(わがはい)の辞書に、不可能の文字はない」という言葉も、1800年にイタリアに侵攻したオーストリア軍の虚を突くため、難所のアルプス越えを敢行したときに発したという説があります。

ナポレオンは、ただ配下に命令を下すのではなく、まず自分が率先して勇気を示すことで味方を動かすタイプの指揮官だったようです。

ナポレオンが皇帝になったのは、1804年のこと。もともと王政への不満からフランス革命を起こした国民が、彼を皇帝として受け入れたのは不思議な気もしますが、それもまた、自ら危険な前線に立って背中を見せ、味方を勝利に導くナポレオンの姿が国民の心を捉えた証しなのでしょう。

ここ一番で周りに勇気を示し、苦境を突破していく力。これは、今の経営者にも求められる資質です。会社が苦しいとき、ただ社員に「苦しいのはみんな同じだから我慢しよう」と言う経営者と、「私が引っ張るから共に苦境を乗り越えよう」と言う経営者、どちらが魅力的かは明らかです。

一方で、リーダーだからといって肩肘を張りすぎないこともまた大切です。何度もフランスを勝利に導いたナポレオンですが、1812年のロシア遠征で大敗を喫すると、とたんに力を失い、皇帝の座を追われます。「無敗の英雄」のイメージが彼の政権の支えになっていたために、それが崩れると支持を失ってしまったのです。

経営者は、常に英雄である必要はありません。いざというとき強いリーダーシップで会社を引っ張る心構えさえあれば、普段は信頼できる部下に任せてゆったり構えているぐらいがちょうどよいのかもしれません。

出典:「新約ナポレオンボナパルト。『吾輩の辞書に、不可能の文字はない』名言で知る皇帝の栄光と失脚。10分で読めるシリーズ」(shogo.p.sato、まんがびと、2014年12月)

以上(2024年2月作成)

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建設業の労災防止! 注文者や事業者それぞれの義務と、建設業特有の安全衛生管理体制をチェック

書いてあること

  • 主な読者:建設現場での安全管理を徹底したい建設業の経営者、労務担当者
  • 課題:多くの事業者が同じ場所で作業をする関係で、労働災害が起きやすい
  • 解決策:建設業特有の「労働災害防止対策」「安全衛生管理体制」のルールを再確認する

1 安全管理が大変だからこそ、ルールが重要な建設業

建設業は、墜落・転落などの労働災害(以下「労災」)が特に起きやすい業種です。危険な作業が多いのもそうですが、もう1つ大きな理由として、多くの事業者が同じ場所で作業をする「重層下請構造」のため、安全管理が難しいということが挙げられます。

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労働安全衛生法(以下「安衛法」)では、こうした建設業特有の事情に合わせた労災防止のルールを定めています。取り急ぎ押さえておくべきルールは、

  1. 注文者や事業者など、立場に応じて変わる労災防止対策の義務
  2. 統括安全衛生責任者など、建設業特有の安全衛生管理体制

です。以降で詳しく紹介しますので、不安がある場合はご一読ください。

2 立場に応じて変わる労災防止対策の義務

1)注文者、事業者、特定元方事業者それぞれの義務を整理

建設業の労災防止対策を考える上で、まず押さえておきたいのが安衛法の「注文者」「事業者」というワードです。簡単に言うと、

  • 注文者:仕事の全部または一部を他者に依頼する者
  • 事業者:自社の雇用する労働者に作業をさせる者

という意味で、それぞれに異なる労災防止対策が義務付けられています。言葉の意味は単純ですが、建設業の場合、前述した重層下請構造の関係で、誰が注文者で、誰が事業者かが分かりにくいので、念のため図で整理してみましょう。図表2の赤囲みの部分が該当者です。

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図表2の場合、注文者は「発注者、元請、一次下請」になります。二次下請は自分たちの仕事の一部を請け負わせる相手がいないため、注文者にはなりません。一方、事業者は「元請、一次下請、二次下請」になります。発注者は自社の雇用する労働者を現場で働かせるわけではないため、事業者(正確には建設現場の労災防止対策を実施すべき事業者)にはなりません。

さて、注文者と事業者には、それぞれ図表3の労災防止対策が義務付けられています。なお、事業者のうち、建設業・造船業の場合については、

発注者から直接建設等の仕事の依頼を受ける元請は、安衛法の「特定元方事業者」

に当たり、通常の事業者の義務に加えて、特定元方事業者の義務も果たさなければなりません。

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どれも大切な義務ですが、図表3の赤字の「健康障害防止措置」については、2023年4月1日に「一人親方等の安全衛生対策」に関する法改正がありましたので、事業者は義務の内容について認識の誤りがないか、いま一度確認しておきましょう。それ以外の各義務の詳細については、次のページなどを参考にしてください。

■厚生労働省「建設業における総合的労働災害防止対策の推進について」■

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei15/

2)健康障害防止措置は、労働者だけでなく「一人親方等」も対象

健康障害防止措置とは、安衛法第22条で列挙されている「危険有害な作業」に従事する労働者が健康障害になるのを防ぐため、事業者が実施しなければならないとされる措置のことです。具体的には、

  1. 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等による健康障害
  2. 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害
  3. 計器監視、精密工作等の作業による健康障害
  4. 排気、排液または残さい物による健康障害

を防止するための措置を実施する義務があります。

建設業の場合、例えば、ずい道(トンネル)の掘削作業や金属の溶接作業などで、労働者が粉じんにさらされることがありますが、こうした場合は「粉じんを防ぐための保護具を労働者に着用させる」などの措置を実施する必要があります。また、

2023年4月1日からは、労働者に加えて「作業を請け負わせる一人親方等」「同じ場所で作業を行う労働者以外の人」についても、健康障害防止措置が義務付けられる

ようになっています。具体的な法改正の内容は、図表4の通りです。

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一人親方等や労働者以外の人に対して健康障害防止措置を実施する義務を負うのは、「その人たちに仕事を請け負わせる事業者」です。イメージは図表5の通りです。

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なお、元請(特定元方事業者)の場合、自ら仕事を請け負わせる一次下請や一人親方等に対して健康障害防止措置の実施義務を負うだけでなく、

下請(一次下請だけでなく全ての下請)が健康障害防止措置の実施義務に反している場合、その下請に対して必要な指示を行う義務

も負います。

3 建設業特有の安全衛生管理体制

前章で紹介した義務を確実に履行するため、各事業者には安全衛生管理体制の構築が義務付けられています。建設業の場合、図表6の通り、建設業特有の担当者の選任が必要となります。なお、労働者数は同じ場所で作業をする労働者(自社が雇用する者以外も含む)の人数です。

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以降で各担当者の概要、選任に必要な手続きを紹介します。なお、図表6は建設業特有の内容ですが、この他に通常の安全衛生管理体制(建設業以外の業種にも広く適用されるもの)の構築も必要となるため、注意してください。詳細は、次の記事をご確認ください。

1)統括安全衛生責任者

1.主な職務

元方安全衛生管理者などを指揮し、次の6つの事項を統括管理します。

  1. 協議組織の設置・運営
  2. 作業間の連絡・調整
  3. 作業場所の巡視(巡視の頻度については特に定めなし)
  4. 下請(関係請負人)が行う労働者の安全衛生教育に対する指導・援助
  5. 仕事の工程に関する計画、作業場所における機械、設備等の配置計画の作成、当該機械、設備等を使用する作業に関し下請(関係請負人)が安衛法等に基づき講ずべき措置についての指導
  6. その他労働災害防止のために必要な事項

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

建設現場において、事業を実質的に統括管理する者が担当します。元請(特定元方事業者)は事業の開始後、担当者の氏名等を、遅滞なく現場を管轄する労働基準監督署に報告します。

2)元方安全衛生管理者

1.主な職務

統括安全衛生責任者が統括管理する事項のうち、技術的事項(安全・衛生に関する部分)の管理を担当します。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

大学または高等専門学校における理科系統の正規課程修了者で、3年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験がある者など一定の資格を有する者でなければなりません。元請(特定元方事業者)は事業の開始後、担当者の氏名等を、遅滞なく現場を管轄する労働基準監督署に報告します。

3)店社安全衛生管理者

1.主な職務

統括安全衛生責任者・元方安全衛生管理者の選任義務がない建設現場にて、主に次の5つの職務を担当します。

  1. 建設現場における、統括安全衛生管理を担当する者(現場代理人等)に対する指導
  2. 作業場所の巡視(毎月1回以上)
  3. 労働者の作業の種類その他作業の実施状況の把握
  4. 協議組織の会議への参加
  5. 仕事の工程に関する計画、作業場所における機械、設備等の配置計画の作成、当該機械、設備等を使用する作業に関し下請(関係請負人)が安衛法等に基づき講ずべき措置が講じられているかの確認

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

大学または高等専門学校の卒業者等で、3年以上建設工事の施工における安全衛生の実務に従事した経験がある者など一定の資格を有する者でなければなりません。元請(特定元方事業者)は事業の開始後、担当者の氏名等を、遅滞なく現場を管轄する労働基準監督署に報告します。

4)安全衛生責任者

1.主な職務

建設業特有の安全衛生管理体制の中で、唯一下請(関係請負人)が選任する担当者で、次の6つの職務を担当します。

  1. 統括安全衛生責任者との連絡
  2. 統括安全衛生責任者から連絡を受けた事項の関係者への連絡
  3. 2.の事項のうち、下請(関係請負人)に関するものの実施についての管理
  4. 下請(関係請負人)がその労働者の作業の実施に関し計画を作成する場合における当該計画と元請(特定元方事業者)が作成する仕事の工程に関する計画等との整合性の確保を図るための統括安全衛生責任者との調整
  5. 労働者の混在作業に起因する労働災害に関する危険の有無の確認
  6. 下請(関係請負人)がその仕事の一部を他の請負人に請け負わせている場合における、その請負人の安全衛生責任者との作業間の連絡調整

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

担当者になるための要件については特に定めがありませんが、職長が選任されることが多いようです。なお、選任に当たり、現場を管轄する労働基準監督署などへの報告は不要です。ただし、選任した場合はその旨を元請(特定元方事業者)に遅滞なく通報する必要があります。

以上(2024年3月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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108人の経営者に聞きました 社員に「転勤」を拒まれたことがある企業が過半数。転勤はオワコンか?

書いてあること

  • 主な読者:転勤制度の見直しを検討している経営者や労務担当者
  • 課題:転勤があると人材採用で不利になるし、社員が離職するきっかけにもなる
  • 解決策:社員が転勤を拒んだときは、転勤者を変更したり、手当を支給したりして対応するケースもある。足元では、労働条件通知書に「転勤の有無」などを記載することも忘れずに

1 サラリーマンの悲哀だった「転勤」も今は昔?

単身赴任は嫌だけど、会社の命令だから仕方ない……。

こんな時代は終わりを告げるかもしれません。なぜなら、社員の負担になる「不本意な転勤」を見直す動きが広まりつつあるからです。実際、

  • 社員が望まない転勤を廃止する
  • 転勤手当を引き上げる
  • 転勤がないことを採用時のアピールポイントにする

などの動きがあります。こうした背景には、リモートワークの浸透などによって社員が働く場所にとらわれなくなってきたことのほか、特に若い世代にある「できる限り転勤を避けたい」という意識の存在があります。

もちろん、転勤には「さまざまな地域・職場で経験を積むことができる」という良い面がありますし、そもそも現地でないとできない仕事もあるわけですが、このあたりを経営者はどのように考えているのでしょうか。

独自アンケートから見えてきたのは、

転勤を維持する意向の企業は多いが、社員から転勤を拒まれた経験のある企業が過半数であり、今後、何らかの対応が必要になるだろう

という結果でした。詳しくは以下をご確認ください。

2 【経営者アンケート】転勤制度を見直しますか?

ここでは、転勤制度がある企業の経営者108人に対して、転勤制度の見直し予定や、社員から転勤を拒まれたときの対応などについて聞いたアンケートの結果を紹介します(実施期間は2023年12月6日から12月12日まで)。

1)転勤制度の有無について

転勤制度について、「就業規則」などに定めている企業が全体の85.2%と大多数になっています。転勤命令は就業規則に基づくことが通常であり、定めていないのは問題といえます。

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2)転勤制度を維持する企業が約9割

転勤制度の「見直しをする予定はない」企業が68.5%と最も多く、「縮小を検討している」企業と合わせると、95.4%に達します。転勤制度を廃止するところまで踏み込む企業はほとんどいません。

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3)転勤制度を維持する理由について

転勤制度を維持する理由としては、「適材適所な人材配置ができるから」の50.0%、「現地でないとできない業務があるから」の47.3%、「社員が様々な経験を積み、成長につながるから」の44.6%が拮抗しています。1つ目の適材適所と3つ目の社員の成長は人材登用や社員教育に関する企業の方針です。一方、2つ目の現地でないとできない業務については、現地採用などを進めなければ、転勤が避けがたい状況を示しています。

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4)転勤制度を縮小、もしくは廃止する理由について

対して、転勤制度を縮小、もしくは廃止する理由としては、「転勤制度で人材採用が不利になっている、あるいは今後不利になる懸念があるから」が64.7%、「育児、介護などの家庭の事情で、転勤が難しい社員が増えているから」が47.1%と多数になっています。これらの問題は、今後ますます深刻化するかもしれません。

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5)単身赴任のある企業が多く、支援の中心は家賃補助など

「単身赴任がある」企業は全体の76.9%と、高い割合を占めています。

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単身赴任者への支援としては、「家賃を補助している」の65.1%、「引っ越し費用や、新たに購入する生活用品の購入代金を補助している」の61.4%が上位となっています。単身赴任は何かと費用がかかるので、金銭的な支援が中心になっているのでしょう。また、一部の企業では今後、単身赴任者への支援を拡充する方針もあるようです。

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6)社員から転勤を拒まれた経験と対策

社員から「転勤を拒まれたことがある」企業が全体の54.6%と、過半数となっています。

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では、社員に転勤を拒まれたときに、どのように対応しているのでしょうか?

最も多いのは「他の候補者を探した」の39.0%、次いで「業務命令なので、そのまま転勤を受け入れてもらった」と「昇給、昇進や手当の支給など社員のメリットになる条件を付けて受け入れてもらった」が同率の30.5%となっています。他の候補者を選べる状況であればよいですが、これができない場合、業務命令として押し切るか、条件面で譲歩する対応が取られているようです。

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3 今後、転勤制度の見直しは必須になる?

いかがでしたでしょうか。就業規則で定めていれば転勤命令は正式な業務命令となり、基本的に社員はそれを拒むことはできません。にもかかわらず、企業が譲歩しなければならないという実態から、転勤制度の難しさが分かります。今回のアンケートでは転勤制度を現状維持するという企業が大半でしたが、今後は何らかの見直しが進むかもしれません。

また、2024年4月からは、労働基準法施行規則などの改定に伴い、社員が就職する時点で転勤の有無や、転勤がある場合は異動する可能性のある勤務地を示すことが求められますので、この点への対応も忘れずに済ませましょう。

以上(2024年3月作成)

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【2024年度版】社員に関する法定義務の一覧表

書いてあること

  • 主な読者:社員数が増えたため、人事労務の法定義務を確認したい経営者、人事労務担当者
  • 課題:法令が多岐にわたり、特定の業種などにだけ適用される義務もあるので分かりにくい
  • 解決策:法定義務を「全企業共通」と「特定の業種など」に分けて確認する

1 まずは全企業共通の法定義務から押さえる

「人」に関するルールは複雑で、10人以上で就業規則の作成義務、50人以上でストレスチェックの実施義務などのように決まっています。抜け漏れなく行うために一覧表で確認しましょう。この記事では各種労働法に基づく人事労務の法定義務の内容を、

  1. 全企業共通のもの
  2. 業種や事業形態(法人、個人)などによって変わるもの

に分けて一覧表で紹介します。

2 人事労務の主な法定義務など(2024年4月1日時点)

早速ですが、人事労務の主な法定義務など(2024年4月1日時点)は次の通りです。一覧表は社員数または該当者数の昇順となっており、社員数で見る項目には「●」印を、該当者数で見る項目には「○」印を付けています。また、2024年4月1日施行の項目は「赤字」にしています。

法定義務などの具体的な内容は、( )内の法令を参照してください。また、安衛法(労働安全衛生法)の「安全衛生管理体制」に係る法定義務については、対象業種を一部省略して記載しています。詳しくは、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」などをご確認ください。

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト(安全衛生キーワード)」

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo_index01.html

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以上(2024年3月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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自社に必要な「安全衛生管理体制」が一目で分かる! ホワイトカラーも要チェックの担当者・委員会一覧表

書いてあること

  • 主な読者:安全衛生管理体制について知りたい経営者、人事労務担当者
  • 課題:総括安全衛生管理者や安全委員会……名前は聞いたことがあるが、自社では選任・設置しなければならないのか分からない。ホワイトカラーの会社にも必要なの?
  • 解決策:社員数や業種を基準に、自社に必要な担当者・委員会を確認する。一部業種を問わず選任・設置が必要なものがあるので、ホワイトカラーの会社も要チェック

1 あなたの会社に必要な担当者・委員会は?

労働安全衛生法により、会社には安全(事故防止等)と衛生(病気の予防・治療等)に関する施策を効果的に実施するための、「安全衛生管理体制」の構築が義務付けられています。必要な担当者・委員会は次の通りです。なお、社員数は支店など事業場単位で常時雇用する人数です。

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赤字の「化学物質管理者」「保護具着用管理責任者」は、2024年4月1日から選任が義務付けられます。この2つは、厳密に言うと法律上の安全衛生管理体制には含まれないのですが、他の担当者や委員会と連携して安全衛生管理の職務に当たるので、併せて押さえておきましょう。

以降で、各担当者・委員会の役割、選任・設置に必要な手続きなどを紹介します。なお、建設業については、図表の内容以外に特有の安全衛生管理体制のルールがありますので、次の記事でご確認ください。

2 安全衛生管理体制に関する担当者など

1)総括安全衛生管理者

1.主な職務

安全管理者、衛生管理者などを指揮し、次の7つの事項を統括管理します。

  1. 社員の危険・健康障害を防止するための措置に関すること
  2. 社員の安全衛生教育の実施に関すること
  3. 健康診断の実施等、健康の保持増進のための措置に関すること
  4. 労働災害の原因の調査、再発防止対策に関すること
  5. 安全衛生に関する方針の表明に関すること
  6. 危険性・有害性等の調査、その結果に基づき講ずる措置に関すること
  7. 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価、改善に関すること

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

工場長や作業所長など、事業を実質的に統括管理する者が担当します。選任が必要な事由が発生(第1章の図表の要件に該当した場合、以下同じ)してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署に届け出ます。

2)安全管理者

1.主な職務

総括安全衛生管理者が統括管理する事項のうち、安全に関する部分の管理を担当します。また、作業場等を巡視し(巡視の頻度については特に定めなし)、設備、作業方法等に問題があるときは、危険を防止するために必要な措置を講じます。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

法が定める要件に該当する者で安全管理者選任時研修の修了者または労働安全コンサルタントのいずれかが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署に届け出ます。

3)衛生管理者

1.主な職務

総括安全衛生管理者が統括管理する事項のうち、衛生に関する部分の管理を担当します。また、作業場等を巡視し(毎週1回以上)、設備、作業方法、衛生状態に問題があるときは、社員の健康障害を防止するために必要な措置を講じます。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

第一種衛生管理者免許、第二種衛生管理者免許、衛生工学衛生管理者免許の保有者、医師、歯科医師、労働衛生コンサルタントなどが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署に届け出ます。

4)安全衛生推進者(衛生推進者)

1.主な職務

安全管理者・衛生管理者の選任義務がない会社にて、主に次の4つの職務を担当します。

  1. 社員の危険・健康障害を防止するための措置に関すること
  2. 社員の安全衛生教育の実施に関すること
  3. 健康診断の実施等、健康の保持増進のための措置に関すること
  4. 労働災害の原因の調査、再発防止対策に関すること

次の業種に該当する会社は「安全衛生推進者」を、該当しない会社は「衛生推進者」を選任します。衛生推進者は、上の1.から4.のうち衛生に関する事項を担当します。

林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、自動車整備業、機械修理業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

安全衛生推進者(衛生推進者)養成講習の修了者、大学または高等専門学校卒業後に1年以上安全衛生の実務に従事している者などが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任しますが、所轄労働基準監督署への届け出は不要です。ただし、安全衛生推進者(衛生推進者)の氏名を、事業場の掲示板等に掲示して社員に周知する必要があります。

5)産業医

1.主な職務

社員の健康管理等について、主に次の4つの職務を担当します。

  1. 社員の健康管理(健康診断、面接指導等の実施、その結果に基づく社員の健康保持のための措置、作業環境の維持管理、作業の管理等)に関すること
  2. 社員の健康の保持増進(健康教育、健康相談等)に関すること
  3. 労働衛生教育に関すること
  4. 社員の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置に関すること

また、作業場等を巡視し(原則として毎月1回以上(注))、作業方法または衛生状態に問題があるときは、社員の健康障害を防止するために必要な措置を講じます。この他、会社に対し、社員の健康管理等について必要なことがあれば勧告等を行います。

(注)事業者から産業医に所定の情報が毎月提供される場合に限り、2カ月に1回以上実施します。ただし、巡視の頻度を変更する場合は事業者の同意が必要となります。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

医師であって、日本医師会の産業医学基礎研修や産業医科大学等の正規課程の修了者である者などが担当します。選任が必要な事由が発生してから14日以内に選任し、遅滞なく所轄労働基準監督署に届け出ます。

6)作業主任者

1.主な職務

高圧室内作業など、労働災害を防止するための管理を必要とする危険・有害な作業に従事する社員を指揮等します。作業は31種類あり、下記URLから確認できます。

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト(安全衛生キーワード(作業主任者))」■

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo34_1.html

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

対象となる作業ごとに、担当者になるために必要な免許や修了すべき講習などが決まっています。例えば、高圧室内作業の場合、高圧室内作業主任者免許の保有者が担当します。選任の時期については特に定めがなく、所轄労働基準監督署への届け出も不要です。ただし、作業主任者の氏名と職務の内容を、事業場の掲示板等に掲示して社員に周知する必要があります。

7)化学物質管理者(2024年4月1日から選任が義務化)

1.主な職務

リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場(社員数、業種を問わない)において、事業場の化学物質の管理を行います。

リスクアセスメント対象物とは、「ラベル表示、SDS等による通知」「職場における危険性・有害性の特定・リスク低減等」が義務付けられている危険・有害物質のこと

で、化学物質管理者はこれを管理するために次の職務を担当します。

  1. ラベル・SDS等の確認
  2. 化学物質に関わるリスクアセスメントの実施管理
  3. リスクアセスメント結果に基づくばく露防止措置の選択、実施の管理
  4. 化学物質の自律的な管理に関わる各種記録の作成・保存
  5. 化学物質の自律的な管理に関わる労働者への周知、教育
  6. ラベル・SDSの作成(リスクアセスメント対象物の製造を行う事業場の場合)
  7. リスクアセスメント対象物による労働災害が発生した場合の対応

なお、リスクアセスメント対象物の一覧は下記URLから確認できます。

■厚生労働省「職場のあんぜんサイト(表示・通知対象物質の一覧・検索)」■

https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/gmsds640.html

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

リスクアセスメント対象物の製造を行う事業場の場合、化学物質管理者講習の修了者が担当します。製造を行わない事業場の場合、特に資格要件はありません。選任の時期については、選任すべき事由が発生した日から14日以内ですが、所轄労働基準監督署への届け出は不要です。ただし、化学物質管理者の氏名を事業場等に掲示して社員に周知する必要があります。

8)保護具着用管理責任者(2024年4月1日から選任が義務化)

1.主な職務

リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場(社員数、業種を問わない)において、社員に保護具(保護眼鏡、防じんマスク、手袋など)を使用させる場合、有効な保護具の選択、社員の使用状況の管理その他保護具の管理に関わる業務を担当します。

2.担当者になれる者、選任時に必要な手続き

化学物質の管理に関わる業務を適切に実施できる能力を有する者が担当します。選任の時期については、選任すべき事由が発生した日から14日以内ですが、所轄労働基準監督署への届け出は不要です。ただし、保護具着用管理責任者の氏名を事業場等に掲示して社員に周知する必要があります。

3 安全衛生管理体制に関する委員会

1)安全委員会

1.主な役割

次の事項について調査審議し、会社に対して意見を述べます。

  1. 社員の危険防止のための基本対策に関すること
  2. 労働災害の原因・再発防止対策で、安全に関すること
  3. 安全に関する規程の作成に関すること
  4. 危険性・有害性等の調査、その結果に基づき講ずる措置で、安全に関すること
  5. 安全衛生に関する計画(安全に関する部分)の作成、実施、評価、改善に関すること
  6. 安全教育の実施計画の作成に関すること
  7. 行政から受けた命令、指示、勧告、指導のうち、社員の危険防止に関すること

委員会は毎月1回以上開催し、開催の都度、委員会における議事の概要を社員に周知します。なお、委員会の開催や社員への通知は、オンラインで実施することも可能です。

2.委員になれる者、選任時に必要な手続き

委員会は、次の1.から3.に該当する委員で構成し、1.の委員が議長を務めます。なお、委員の合計人数については特に定めがなく、会社が任意に決定できます。

  1. 総括安全衛生管理者、事業の実施を統括管理する者等(1名)
  2. 安全管理者
  3. 安全に関し経験を有する社員

また、1.以外の委員については会社が選任しますが、そのうち半数については過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)の推薦に基づいて選任しなければなりません。なお、委員の選任に当たり、所轄労働基準監督署などへの届け出は不要です。

2)衛生委員会

1.主な役割

次の事項について調査審議し、会社に対して意見を述べます。なお、委員会の開催、社員への周知に関するルールは、安全委員会の場合と同じです。

  1. 社員の健康障害防止のための基本対策に関すること
  2. 社員の健康の保持増進のための基本対策に関すること
  3. 労働災害の原因・再発防止対策で、衛生に関すること
  4. 衛生に関する規程の作成に関すること
  5. 危険性・有害性等の調査、その結果に基づき講ずる措置で、衛生に関すること
  6. 安全衛生に関する計画(衛生に関する部分)の作成、実施、評価、改善に関すること
  7. 衛生教育の実施計画の作成に関すること
  8. 化学物質の有害性の調査、その結果に対する対策の樹立に関すること
  9. 作業環境測定の結果、その結果の評価に基づく対策の樹立に関すること
  10. 定期健康診断等の結果、その結果に対する対策の樹立に関すること
  11. 社員の健康の保持増進を図るために必要な措置の実施計画の作成に関すること
  12. 長時間労働による社員の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること
  13. 社員の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること
  14. リスクアセスメント対象物のばく露の程度を低減するための措置に関すること
  15. リスクアセスメント対象物のうち濃度基準値設定物質に当たる物質について、社員がばく露される程度を濃度基準値以下とするために講ずる措置に関すること
  16. リスクアセスメント対象物について、リスクアセスメントの結果に基づき実施する健康診断の結果と、結果に基づく就業上の措置に関すること
  17. 濃度基準値設定物質について、濃度基準値設定物質が濃度基準値を超え、社員がばく露した恐れがある場合に実施する健康診断の結果と、結果に基づく就業上の措置に関すること
  18. 行政から受けた命令、指示、勧告、指導のうち、社員の健康障害防止に関すること

15.から17.(赤字)が2024年4月から新たに調査審議事項に加わります。対象は、リスクアセスメント対象物の製造、取り扱い、譲渡提供を行う事業場(社員数、業種を問わない)に限られますが、該当する会社は押さえておきましょう。なお、15.と17.に出てくる

濃度基準値設定物質とは、リスクアセスメント対象物のうち、ばく露量が濃度基準値(厚生労働省が定める濃度の基準値)以下なら健康障害を生じないとされている物質のこと

です。濃度基準値設定物質の基本的な考え方については、下記URLから確認できます。

■厚生労働省「労働者の健康障害を防止するため化学物質の濃度基準値とその適用方法などを定めました」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32871.html

2.委員になれる者、選任時に必要な手続き

委員会は、次の1.から4.に該当する委員で構成し、1.の委員が議長を務めます。なお、委員の合計人数については特に定めがなく、会社が任意に決定できます。なお、委員の選任に関するルールは、安全委員会の場合と同じです。また、安全委員会と衛生委員会の両方の設置義務がある会社は、2つの委員会をまとめて「安全衛生委員会」として設置することも可能です。

  1. 総括安全衛生管理者、事業の実施を統括管理する者等(1名)
  2. 衛生管理者
  3. 産業医
  4. 衛生に関し経験を有する社員

以上(2024年3月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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もう食べられなくなってしまう? ふるさとの味「お漬物」がピンチ

書いてあること

  • 主な読者:「漬物」の製造販売を行うためには、HACCPに沿った衛生管理を行い、営業許可を得ることが必要になったことを知らない人
  • 課題:ユネスコ無形文化遺産「和食;日本人の伝統的な食文化」を支えてきた「漬物」をいかに継承していくか
  • 解決策:伝統的な「漬物づくり」を巡る状況、現在に至る背景を押さえる。塩分に気をつけながら、野菜の摂取量を増やす一策として漬物を上手に取り入れる

1 あの「漬物」が二度と食べられなくなる!?

「和食;日本人の伝統的な食文化」がユネスコ無形文化遺産に選定されてから10年余り。世界的にも関心を集める和食の基本は「一汁三菜」と呼ばれ、「ご飯」と「汁」「香の物(漬物)」に、いくつかの「菜(おかず)」を添えたものです。そんな日本の食文化を支えてきた「漬物」が、いま危機を迎えているのをご存じでしょうか?

その大きな要因は2018年6月の食品衛生法改正です(施行は2021年6月)。それまで、多くの都道府県では、条例に従って届け出をすれば漬物を販売することができました。しかし、改正法施行後、漬物の製造販売を行うには、加工所などの施設を整備し、食品衛生管理の国際基準「HACCP(ハサップ)」に沿った衛生管理を行い、営業許可を得なければならなくなりました(経過措置が終わる2024年5月末までに、新たに許可申請が必要)。

野菜漬物製造業は2022年6月時点で全国に931事業所ありますが、うち607事業所(65.2%)が従業者規模20人未満の小規模・零細事業所です(総務省・経済産業省「2022年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」)。また、この統計調査では、個人経営の事業所は対象外です。

収穫した野菜を自宅の台所や作業場で漬物にして、道の駅などの直売所で販売してきたような家族経営の農家も少なくありません。そうしたケースでも、新たにHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が求められます。漬物づくりの担い手の高齢化、後継者不足もさることながら、加工所などの施設の整備や衛生管理に掛かる費用がネックとなり、世代を超えて受け継がれてきた伝統的な「漬物」が姿を消してしまうかもしれないのです。

2 漬物製造を巡る特徴的な動き

1)秋田名産「いぶりがっこ」の生産者の約3割が事業継続を諦める意向

食品衛生法の改正の影響が大きく報じられたのが、たくあん漬けの一種「いぶりがっこ」の発祥地、秋田県です。いぶりがっこは、大根を干して水分を抜きながら燻煙(くんえん)し、強力な殺菌・抗菌効果のある成分でコーティングした後に漬けるという伝統的な工程を経てつくられます。後述する浅漬とは製造工程からして根本的に異なる食品です。

いぶりがっこ

もともと秋田県内では漬物による食中毒の発生はなく、漬物製造業は許可や届出の対象ではありませんでした。しかし、食品衛生法が改正されたことに伴い、従前から漬物を製造販売している場合でも、経過措置期限である2024年5月末までに、

  • 製品の製造場所や保管場所を仕切りなどで物理的に区画する
  • 手洗い設備は手指が蛇口に触れないセンサー式などの構造にする
  • 原材料の洗浄設備(シンク)と器具等の洗浄設備をそれぞれ有する(計2槽)

などの基準を満たした施設を整備し、営業許可を得る必要が生じました。規模によって異なりますが、こうした施設を整備するには数百万円の費用が掛かります。

2021年7~8月、県内の直売所で漬物を販売する636人を対象に秋田県が行ったアンケートでは、回答者306人のうち175人が営業許可を取得する意向を示した一方で、108人が高齢化や資金不足などを理由に営業許可を取得しないと答えました。この結果を受け、秋田県は2022年度から漬物製造に必要な機械・施設の導入に要する経費を助成する事業を実施しています。

また、県内でも「いぶりがっこ」づくりが盛んな横手市では、県の助成事業に独自の追加補助を行うとともに、2023年度には、よこて農業創生大学校の農業技術研修に、原料となる大根の畑づくりから、いぶりがっこの製造までの過程を2年間で学ぶことができる「いぶりがっこコース」を新設し、就農者を募集しています。

2)クラウドファンディングで漬物加工所の整備資金を調達

クラウドファンディングを活用し、漬物の加工所を地域の生産農家が共同で整備するプロジェクトも見られます。

秋田県北秋田市の大阿仁地域の住民らでつくる「大阿仁ワーキング」が募集した「【消滅の危機?】里山秘伝の漬物を未来に残したい」では、2023年9月25日に募集を開始し、324人の支援により312万9750円の資金を集め、同年10月31日に募集を終了しました。

大阿仁ワーキングでは、食品衛生法の改正が成立した2018年から検討を始め、秋田内陸縦貫鉄道(秋田内陸線)比立内駅の空きスペースを、県や北秋田市の補助を得て加工・販売施設に全面改修。広さ約120平方メートルに食品加工や加工品保管、交流の各スペースを備えた「がっこステーション」として再生させました。改修費の自己負担分や設備費などに充てるため、クラウドファンディングで資金を募り、目標額の300万円を上回る資金調達に成功したといいます。

3)「冬は農業、夏はライフセイバー」で雇用を創出

後継者不足を、地域の特色を活かして解決しようとする動きもあります。

野崎漬物(宮崎県宮崎市)は、地元の「やぐら干し大根」を使った、たくあん漬け「千本漬」を中心に浅漬やキムチなどの製造販売を行っています。宮崎県田野・清武地域に見られる伝統的な「やぐら干し大根」は、「日本一の干し大根と大根やぐら」として2020年度のグッドデザイン賞を受賞、2021年度には日本農業遺産にも認定されました。一方、大根の生産者の高齢化、これを受け継ぐ後継者不足が課題となっています。

やぐら干し大根

同社は、冬場にピークを迎え、夏場には作業がほとんどない農業(干し大根の生産)の現状と、サーフィン愛好家(サーファー)が宮崎県に移住するケースが少なくないことに着目し、うまくマッチングさせることで雇用創出を図ることを構想。海の家やプールの運営会社と提携し、「ファーム&マリン」という働き方を提唱する農業法人野崎ファームを2021年に設立しました。

「ファーム&マリン」は、3年間の有期雇用契約で、9月から4月は農業、5月は漬物製造に従事し、6月から8月はライフセイバーやプールの監視員として勤務するというもので、契約期間終了後は、独立就農/正社員登用/再契約(2期目)が選択できます(独立就農の場合、祝い金60万円を支給)。

サーファーは、もともと土や砂、日焼けを苦にせず、そうした意味で農作業にもあまり抵抗感がないといいます。本社から車で20分ほどの距離にはワールドサーフィンゲームスの会場となった「木崎浜」があるなど、サーフィンができる環境が整っており、契約期間終了時にハワイ旅行がプレゼントされ、憧れのノースショアでサーフィンができる点も魅力となっています。

3 減塩志向が規制強化に影響?

1)保存食のはずの漬物に規制強化のわけ

そもそも、なぜ古くから保存食として受け継がれてきた漬物に対して、規制強化が図られることになったのでしょうか。

そのきっかけは、2012年8月に北海道札幌市などで発生した集団食中毒事件です。この事件は、岩井食品(同年10月廃業)が製造した浅漬(白菜きりづけ)により、高齢者施設の入所者などを中心に169人が腸管出血性大腸菌O157に感染、うち8人が死亡する痛ましいものでした。

厚生労働省は、同様の食中毒の再発防止に向け、同年12月、浅漬の衛生管理強化のために「漬物の衛生規範(通知)」を改正し、一度に大量の野菜を取り扱うような工場や大きな調理施設では、原材料を水で洗うだけでなく、殺菌することが決められました。

その後、食を取り巻く環境変化や国際化等に対応するために食品衛生法の改正が行われ、政府は、

製造工程が長期間になるほど、製造中の食品に含まれる細菌等が繁殖するおそれがあり、食中毒のリスクが高くなること等を踏まえ、許可営業に漬物製造業を追加し、漬物の製造に係る食品衛生の確保を図ることとした

のです。

主に浅漬の製造を念頭に置いた衛生管理のルールであった「漬物の衛生規範(通知)」は廃止され、浅漬も伝統的な漬物も一律に「HACCPに沿った衛生管理」が求められるようになりました。

2)実は漬物による食中毒の発生は「浅漬」か「キムチ」のみ

漬物は製造法の違いによって、「新漬(浅漬)」「調味漬」「発酵漬物」に分けられます。

  • 新漬(浅漬):塩分濃度1~3%で漬けたもの。白菜やキュウリの浅漬など
  • 調味漬:15%前後の食塩で原料野菜を漬け込み、必要なときに脱塩、圧搾し、調味液に漬けて製造するもの。福神漬など
  • 発酵漬物:塩分濃度3~10%で漬け込み、主に乳酸菌による発酵を促したもの。すぐき漬、しば漬、赤かぶ漬、高菜漬など

厚生労働省「食中毒統計資料」では、2000年以降に発生が報告された各都道府県の食中毒事件の発生場所や原因食品などが確認できます。植物性の自然毒による食中毒を除くと、野菜の漬物が原因食品となっているのは「浅漬」か「キムチ」に限られます。

調味漬や発酵漬物は、比較的濃い塩分や乳酸菌等による発酵の関係で腐敗が抑えられ、食中毒は起きにくいようです。一方、「浅漬」や「キムチ」は、非加熱殺菌で低塩であるため、原料野菜の洗浄や保存状態によって大きく影響を受け、短期間のうちに品質低下を招く恐れがあります。

塩分の過剰摂取は高血圧や脳疾患、腎臓疾患などの原因になるとされ、健康を意識した減塩志向により、漬物も、塩分の少ない浅漬が好まれるようになっています。一方、皮肉なことにそれがかえって食中毒の原因となり、ひいては規制強化につながったともいえます。

伝統的な漬物づくりに「HACCPに沿った衛生管理」を求めるのは酷だという意見もありますが、漬物製造の方法は漬物の種類により非常に多岐にわたるため、線引き・切り分けが難しいのが実状です。

4 参考:農林水産省が呼びかける「漬物で野菜を食べよう!」

成人1人1日当たりの野菜摂取量の目標は、カリウム、食物繊維、抗酸化ビタミン等の適量摂取が期待される量として350グラムとされています(厚生労働省「健康日本21(第二次)」の目標値)。しかし、現状は平均280グラム程度と約7割の人が目標量に達していません(厚生労働省「国民健康・栄養調査」)。

農林水産省は、1日当たりの野菜摂取量を350グラムに近づけるために「野菜を食べようプロジェクト」を推進しています。2023年には、その一環として、「漬物で野菜を食べよう!」という取り組みを進めました。

野菜の摂取量を増やすのに果たして漬物が良いのか、塩分摂取量の増加につながるのではないかという議論もありますが、現在の漬物製造では減塩化が進んでおり、上手に取り入れることが大切と考えられています。

日本高血圧学会の減塩・栄養委員会では、2013年以降「JSH減塩食品リスト」を公表し、食塩含有量の少ない食品の紹介を行っています。同リストには、さまざまな漬物も掲載されています。
なお、ここ数年、漬物の生産量は、コロナ禍の巣ごもり需要などもあり、増加しています。

漬物の生産量の推移

以上(2024年2月)

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なぜ、「気候変動」が問題なのか?/基礎からわかるグリーントランスフォーメーション(GX)#1

グリーントランスフォーメーション(GX)を分かりやすく解説します

はじめまして、皆さん! レジル総合研究所の北川と申します。最近、カーボンニュートラルやグリーントランスフォーメーション(GX)という言葉を聞くことが増えましたが、皆さんはどれくらい関心がありますか?

まさに今、地球規模で極端な気象や生態系の変化などが顕在化してきており、私たちの日常にも様々な影響を与えています。急激な気候変動は、石油などの化石燃料の利用や森林伐採による温室効果ガスの増加が主な原因とされています。

世界では、気候変動への対策が本格的に始まっており、日本でも「2050年のカーボンニュートラル実現」を目標に、様々な取り組みが進められています。

この連載では、経営者の皆さまに向けて、これからのビジネスに必須となるカーボンニュートラルとGXの基本を分かりやすく解説しつつ、具体的なビジネスへの応用方法もお伝えしていきます。気候変動に対する地球規模の視点から、日本のビジネスにおける政策や関係者の動向までを掘り下げていきますので、皆さんが持続可能な未来を築く一助となれば幸いです。

それでは、一緒に学んでいきましょう。

(図表1)【GX(グリーントランスフォーメーション)の全体像】

GX(グリーントランスフォーメーション)の全体像

(出所:筆者作成)

気候変動とは?

早速ですが、「そもそも気候変動とは何なのか?」といったあたりからひもといていきたいと思います。

気候変動とは、地球の気候が長い時間をかけて変わる現象のことです。

この変化には、

  • 太陽周期の変動や火山の噴火など自然の要因
  • 化石燃料の燃焼や森林伐採など人間活動の要因

があります。特に産業革命以降、化石燃料の燃焼等による温室効果ガスの排出が急激に増えており、それが地球の気温上昇の主な原因とされています。

温室効果ガスには、二酸化炭素(CO2)を中心に、メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)などがあります。では、なぜ温室効果ガスが増えると、地球の気温が上昇するのでしょうか。これらのガスは、図のように、地球を包み込み、太陽の熱を地球から逃げにくくする働きがあります。産業革命以前に約278ppmだった大気中二酸化炭素は、2022年には417.9ppmまで上昇しており、地球は熱を逃がしにくくなり、気温が上昇する要因となっています。

(図表2)【温暖化の原因】

温暖化の原因

(出所:日本情報マート作成)

気温上昇の実態は?

ところで、地球の気温はどのくらい上昇していると思いますか。

産業革命(1800年代後半)以降、地球の平均気温は約1℃上昇しています。

「たったの1℃」と感じられるかもしれませんが、最終氷期と言われる約2万1000年前の平均気温はいまよりも6℃低いだけでした。地球の平均気温は、氷期の終わりに約1万年をかけて6℃変化しており、150年程度で1℃という変化がいか急激であるかよく分かると思います。

以下のグラフは、「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」(注)の第6次評価報告書に掲載された地球の平均気温の推移を示しています。平均気温は過去2000年において横ばいまたは若干下降していましたが、直近の150年間で急激な上昇が見られます。右側のグラフは、気温上昇に寄与する要因を示しており、茶色の部分が人間と自然の両方の要因、緑色が自然のみの要因を表しています。

(注)IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change):世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により1988年に設立された政府間組織。各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的に活動を実施。

(図表3)【地球の平均気温の推移】

地球の平均気温の推移

(出所:IPCC(気候変動に関する政府間パネル)「第6次評価報告書」)

気候変動の影響

気候変動に伴う気温上昇は、極端な気象事象や海面上昇、生態系の変化を引き起こし、私たちの生活にも影響を及ぼします。既に地球規模で異常気象の頻度や強度が増加しており、世界気象機関(WMO)の調査によると、1970年から2019年までの50年間で、暴風雨や洪水、干ばつといった気象災害の発生件数が5倍近く増加していると報告されています。

(図表4)【世界における1970年から2019年までの気象災害発生件数】

世界における1970年から2019年までの気象災害発生件数

(出所:WMO Atlas of Mortality and Economic Loss from Weather, Climate and Water Extremes (1970–2019))

2022年にパキスタンで発生した歴史的な大洪水に関するニュースを記憶されている方もおられるかもしれません。この大洪水では、国土の3分の1が水没し、3300万人が被災しました。洪水や山火事、干ばつなどの気候変動の影響が、ますます身近なものとなっています。

パキスタンで発生した大洪水

このように、人間活動による温室効果ガスの排出は、気候変動の原因となり、私たちの日常生活や未来に大きな影響を及ぼしています。また、温室効果ガスの排出量削減を1つの国だけが取り組むのには限界があり、地球全体での協力が不可欠です。

次回以降は、気候変動対策の基盤となる国連を中心とした国際的な枠組みに焦点を当て、温室効果ガスの削減に向けた取り組みについて詳しく探っていきます。

以上

画像:Mariko Mitsuda

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【分かりやすい原価計算(6)】設備などの初期投資は、超・固定費~投資の判断を左右する「回収期間」~

書いてあること

  • 主な読者:これから原価計算を勉強する中小企業の経営者や従業員
  • 課題:設備などへの初期投資は支払ったら最後、取り戻すことはできない
  • 解決策:投資リスクは、回収期間を予測して客観的に判断する

1 設備などの初期投資は、超・固定費

「設備投資がなかったら、どんなに楽だっただろう」という嘆きを聞くことがあります。この設備投資というものが、どうしてその後の状況の変化で大きな問題になるのか、投資するときにはどのようなことに気を付ければよいかを一緒に考えていきましょう。これも原価計算が解決する課題です。

費用をかけるときはそれが変動費であるか固定費であるかを理解しておく必要があります。そして、今回は固定費の中の固定費ともいえる「初期投資」について説明したいと思います。

固定費は、売上の増減によらず一定額発生する費用であり、何か手を打たなければ将来にわたり発生し続けるものです。これに対して、初期投資は、

設備や新規事業など多額のお金がいっぺんに出ていってしまうもの

です。支払ったら最後、もう取り返すことはできません。実は、この特徴が通常の固定費(基本的に将来にわたって発生が続く費用)以上にやっかいなのです。

どういうことかというと、初期投資を支払った後で、状況が想定と違ってしまうケースがあります。例えば、海外から観光客が増えているからとホテルを建設中にコロナ禍に見舞われた会社は、既に建設に要した初期投資を取り戻すことはできません。また、仮にホテルはなんとか開業できたとしても、人の動きが抑制され宿泊客が激減している状況では、建設にかかった初期投資をすぐに取り戻すことは不可能です。このように、過去に支払ってしまったものというのは、当たり前の話ではありますが、どうにもできないのです。

初期投資のために銀行から借入をする場合も、考え方は同じです。なぜなら、自社から実際にお金が出ていくタイミングが銀行からの借入によって後ろ倒しになるだけで、結局自社で負担せざるを得ないのは同じだからです。

そうは言っても、経営をする以上は投資をしないというわけにはいきません。では、どうすればよいでしょうか。それは、初期投資が必要になった場合には、その案件の自社にとっての負担の大きさ、つまりリスクの大きさを客観的に理解しておくと判断がしやすくなります。

2 リスクは「回収期間」でつかもう

初期投資のリスクの大きさを測る指標として「回収期間」を使います。ざっくり言えば、回収期間とは「投資後、何年たったら収支がトントンになる予想なのか」を示しています。

例えば、新工場建設にかかる投資の回収期間が2年という場合には、新工場が予定どおりに操業し売上につながれば、投資で出ていった金額と同じ金額が入ってきて元がとれるのが、2年後ということです。

「回収」という言葉の意味は、かけたお金が回収できる、つまり、収支がトントンになることを意味します。ちなみに、有名な「損益分岐点売上高」は、損益計算書上の収支がトントン、つまり利益がゼロになる売上高のことです。回収期間というのは、「投資版の損益分岐点売上高」と考えると分かりやすいかもしれません。

次に、判断の仕方です。回収期間が2年と4年であればどちらがいいでしょうか。答えは2年です。

この数年の間で痛感した方も多いと思いますが、遠い将来ほど予測することは難しいものです。回収期間においても、先は分からないので、長くないほうが安全という考え方がベースにあります。回収期間は簡単に計算できますので、ぜひ勘を鍛えるために次の数値例を参考にしてください。

3 事例で確認。回収期間で見る投資リスク判断

機械の購入代金が100万円であり、手元に残るお金が年30万円という投資案件があったとします。まず、投資のマイナスと投資してからの収支のプラスを前から足していき、プラスになるところを見つけます。

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この場合、

-100万円(機械の購入代金。つまり初期投資額)に30万円+30万円+30万円+30万円で4年目でプラス

になります。プラスになる年数が同じであれば、その中でも小数点以下がどれくらいになるかの端数を見て判断します。

最初の3年と、4年目は10万円だけあればよいので、10万円を1年分の30万円で割って0.33…、3.33年となります。

この投資の回収期間は、3.33年と評価します。

4 実務の手順の肝は、予測数値の洗い出し

実際の実務の手順は、

  • 投資額を見積もる
  • 変化する収入と費用の金額を洗い出す
  • 「回収期間」を計算
  • 計算結果をもとに経営者と検討

となります。上記で見たように計算自体は簡単ですが、肝となるのは1.と2.の手順です。

1.については、業者に設備の見積もりを依頼するなどして投資額を見積もります。

2.については、製品の増産や新製品の販売によって売上が増える場合はその金額を変化する収入として予測します。また、それにともなって増加する仕入などが変化する費用です。あるいは、人を増やさないといけないのであれば、人件費の増加も変化する費用になります。ここでポイントとなるのは投資によって変化するものを考えるということです。投資してもしなくてもかかる費用は、考える必要がありません。なぜなら、投資してもしなくても変わらないので、投資の判断には影響がないからです。このように数値を予測するところが大事になります。

5 回収期間は何年がベスト!?

投資の検討をする際、回収期間は短いほうが安全でよいのは分かると思います。では、実際の判断に用いるときには、具体的に何年までならよいのでしょうか。実は、この点については、各社の資金状況や事業の種類によって大きく異なります。そのため、個別に判断していくしかないのです。そして、同じ業種でも扱うジャンルによっては、回収期間の目安は異なるべきです。

飲食業で考えてみましょう。飲食業は、出店のために6カ月分の敷金や什器備品を必要とするなど初期投資が多い業種の1つです。そのため、回収期間が指標として重視される傾向にあります。

例えば、タピオカ屋を出店するとしましょう。数年前に流行したのはまだ記憶に新しいですが、タピオカのような新メニューを主に扱う場合には、その流行が数年、数十年にわたって続くかどうかはその時点では分かりません。とすると、回収期間としてはできるだけ早く、数カ月から1年程度、長くても2年以内を目指したほうが安全でしょう。

一方、出す店がラーメン屋だった場合は話が変わります。ラーメンは、人気が安定しているジャンルといえるため、タピオカに比べれば、長い期間需要が見込めるでしょう。もちろん、回収期間は短いほうがいいものの、3~5年程度の回収期間であれば、許容できることも多いといえます。

このように、同じ飲食業でも主力のメニューが違えば、顧客や市場の状況はまったく異なります。その結果、回収期間の目安にも大きな影響を与えるのです。そこで、自社が取り組む事業の性質を十分理解した上で、目安は各自が設定するしかありません。逆に、目安がイメージできないようであれば、その事業や業種に関する情報収集が十分ではない可能性がありますので、再考したほうがいいかもしれません。

いかがでしょうか。固定費の中の固定費である「初期投資」の判断に役立つ手法として、回収期間を押さえて、次の一手につなげてほしいと思います。

以上(2024年2月更新)

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【分かりやすい原価計算(5)】在庫と資金繰りの関係 ~在庫はまさにお金そのもの~

書いてあること

  • 主な読者:これから原価計算を勉強する中小企業の経営者や従業員
  • 課題:利益が出ているのに、資金が増えないことがある
  • 解決策:資金繰りを考える上で、在庫=資金という捉え方が必要で、日々の在庫の残高管理が重要になる

1 利益は出ているのに資金が増えない原因は?

原価は月末や決算期末に残っていると、在庫として貸借対照表に載ってきます。今回はこの在庫と資金繰りの関係を見ていきます。

経営者は、売上や利益と同じように、またはそれ以上に資金繰り、つまりお金が足りているかどうかについて気にするものです。利益が増えて、資金も増えていれば分かりやすいのですが、現実にはその逆であるケースが多く起こります。例えば、決算のときに、今期は売上が好調で利益も増え、その結果、税金もこれだけかかりますとなったとします。でも、「そんな状況なのに資金は全然ない。税金の支払いのために銀行借入などの資金繰りを考えなければいけないなんて。本当に利益は出ているのだろうか……」と、経営者が疑問や不安に思うこともあるようです。

このような状況になる原因として、1つは、

大きな機械を導入して資金を使ってしまっていること

があります。また、

従来、運転資金・設備投資などの借入金があり、その返済をしているため利益のわりに資金が少なくなっていること

もあります。借入金の返済は資金が出ていきますが、借りたものを返すだけなので、費用にはならないのです。

このように大きめの話が原因であると気付きやすいですが、もっと日常的に潜んでいる原因があります。それが、

在庫の残高が資金繰りに影響していること

です。この記事では、在庫の残高管理について、資金繰りとの関係も含めて見ていきたいと思います。

2 在庫と資金の奇妙な関係

卸売業、小売業や製造業では、通常在庫を抱えています。仕入れてすぐに売れたり、作ってすぐに売れたりすればよいのですが、

現実には売れるまでのタイムラグが発生

します。その間は在庫として会社に保管しなければなりません。

建設業にも未成工事支出金(仕掛中の工事にかかった決算時点の費用総額で、貸借対照表に資産として計上)という在庫があります。期末の仕掛中の工事については、売上は翌期になりますが、それにかかった費用も売上に合わせて翌期に計上します。このため、期末までにかかった費用は未成工事支出金として、翌期に持ち越されます。

在庫には仕入高に加え、材料費、外注費、人件費、経費、作るのにかかった費用を漏れなく含めます。材料費や外注費といった社外に支払ったものは分かりやすいのですが、人件費は忘れがちです。この人件費を漏らしてしまうと、利益がゆがんでしまって経営の判断材料として使えなくなりますし、税務調査などでも指摘されてしまうことになります。

この在庫は貸借対照表の資産の科目になり、現預金(資金)とはトレードオフの関係になります。つまり、

在庫が増えれば、資金はその分減ってしまうのです。逆に、在庫が減れば、資金はその分余裕が出てきます。

このことは、在庫を買う(=増やす)と資金が減り、在庫を売る(=減らす)と資金が増えることからも分かると思います。

そのため、在庫は資金そのものであり、日々の残高管理が必要になります。在庫の残高分析として、まずは、前期末(または、前月や前年同月)との比較をしましょう。また、異常を感じたときや年に1回くらいは、在庫を月次の売上原価で割ることで、月の売上原価の何カ月分、在庫が残っているのか(在庫の回転期間)を見ておくことも意味があります。

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なお、製造業では製造原価を計算する必要があります。実務では、分母を求めやすい1カ月の売上高の金額にしておくこともあります。簡便的な方法ですが、継続すれば異常値の発見をするのには役立つはずです。

3 在庫の残高分析のコツ。滞留分は勘定科目を分ける

在庫の残高分析をするにあたって、実務でのコツを1つ紹介します。長年たまってしまっているものや、

特別な事情のものは別の勘定科目に振り替えておく

ということです。

例えば、昔の規格だけど、修理などのために、どうしても持っておかないといけないような部品や材料がある場合は、「長期保有在庫」などの名称で固定資産に振り替えておきます。そもそも、すぐに使ったり売れたりしないのですから、回転期間に含めるのは違和感がありますよね。特殊な科目だけ分けて管理すればよいわけです。

4 在庫と同じくらい重要な減価償却費

せっかくなので、資金繰りの話で在庫と同じくらい重要なものとして、減価償却費の考え方を紹介します。減価償却費は、機械などの将来にわたって使い続けられる一定額以上のものを、固定資産として資産に計上し、毎年費用化していく会計処理の方法です。つまり、過去に支払った金額を按分した費用です。これは、損益計算書に費用として計上され、製造現場にあるものであれば原価を構成します。しかし、費用としてあげたタイミングでは支払いがないため、非資金費用と呼ばれます。

このため、減価償却費の金額だけ損益計算書の利益に足すことで、簡便的な資金繰りを示す材料として使えます。つまり、手元に残る資金をおおむね把握することができるのです。資金繰りが気になる場合には、このような調整後利益というのがあるのを覚えておいてください。

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以上(2024年2月更新)

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