【朝礼】来たる巳年は「周囲を呑み込む気迫」を持とう

【ポイント】

  • 蛇には、「たとえ小さな存在であっても、自分は人には負けない」という気迫がある
  • 「自分が正しいと思うことについては、堂々と主張する気迫」を持ってほしい
  • 仮に主張が受け入れられなくても、「自分に何が足りなかったのか」を学ぶことができる

皆さん、おはようございます。12月になり、今年も残すところあとわずかです。少し気が早いですが、来年の干支は「巳(み)」、つまり蛇です。蛇というと、おどろおどろしい模様の毒蛇などをイメージして、身構えてしまう人もいるかもしれません。ですが、蛇は嫌われることも多い一方、多くの土地で、霊性をそなえた神聖な存在として扱われてもきたのです。

そんな蛇にまつわることわざに「蛇は寸にして人を呑(の)む」というものがあります。「蛇は一寸ほどの小さなものでも、すでに人を呑もうとする気迫がある」という意味です。本来は、優れた人物が、幼い頃から抜きんでた才能を示すことの例えとして使われるのですが、今回はそこではなく、「一寸の蛇」という部分に注目してください。

一寸は約3センチメートル、人を呑み込めるような大きさではありません。ですが、それでも蛇は「たとえ小さな存在であっても、自分は人には負けない」という気迫を持ち、堂々としているのです。どうでしょう、少し蛇に対するイメージが変わってきたのではないですか?

さて、私が来年、皆さんにぜひ意識していただきたいのが、「周囲を呑み込む気迫」を持つことです。皆さんの誰もが、上司や顧客の意見、会議の雰囲気などに流され、自分の言いたいことを主張できずに終わってしまった経験があると思います。かくいう私自身にもあります。

ですが、周囲に流されるばかりでは、皆さんの成長はそこで止まってしまします。だからこそ、自分が正しいと思うことについては、勇気を出して堂々と主張してほしいのです。もちろん仕事ですから、単なるわがままになってはいけませんし、皆さんの主張が常に受け入れられるとは限りません。ですが、それもまた皆さんが「自分に何が足りなかったのか」を学び、成長するチャンスです。

蛇は、脱皮を繰り返すことから「変化と再生」の象徴とされています。「自分はこれを成し遂げたい」という気迫を持って仕事に臨み、失敗してもめげずに立ち上がる。2025年はそんな「挑戦を繰り返す年」にしてください。来年、気迫のある皆さんに会えるのを楽しみにしています。

以上(2024年12月作成)

pj17202
画像:Mariko Mitsuda

【かんたん所得税(2)】利子や配当など10種類ある所得の概要とそれぞれの課税方法

書いてあること

  • 主な読者:所得税の「所得」について確認したい人
  • 課題:不動産の売買など、これまでとは違う所得があるが、どうしたらよいか分からない
  • 解決策:所得には10種類あるので、自分の所得が何に該当するかを確認する

1 あなたの所得は何所得? 10種類ある所得。

所得を得る方法は実にさまざまです。そこで所得税では、所得を次の10種類に区分し、それぞれの性質に見合った形で納付税額を計算します。

利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得、雑所得

保有している不動産を売却した、保険金の満期返戻金を受け取った、個人事業を始めたなど、人生のうちに幾度とないような所得が発生したときには、まず自身の収入がどの所得に該当するのか認識することがはじめの一歩です。

この記事では、この10種類ある所得の具体例を確認した上で、計算方法や課税方法について説明します。自身の所得に該当する(該当しそうな)項目を抜粋して読んでみてください。

2 利子所得

1)利子所得とは

利子所得には、次のようなものが該当します。

  • 公社債(国債、地方債、社債)の利子
  • 預貯金(銀行預金、JA貯金など)の利子
  • 合同運用信託(金銭信託、貸付信託など)の収益の分配
  • 公社債投資信託(中期国債ファンドなど)の収益の分配
  • 公募公社債等運用投資信託の収益の分配

2)非課税とされるものの代表例

1.障害者等のマル優などの利子

障害者等については、所定の手続きを取れば、元本350万円以下の少額預貯金等の利子、元本350万円以下の公債の利子が非課税となります。

2.財形貯蓄の利子のうち一定のもの

給与所得者の勤労者財産形成貯蓄(財形貯蓄)のうち、財形住宅貯蓄と財形年金貯蓄については、合わせて元本550万円までの利子が非課税となります。

3.納税準備預金の利子

納税準備預金が、税金の納付を目的として引き出された場合の利子が非課税となります。

3)利子所得の金額

利子所得の金額は、受け取った利子の額(源泉徴収前の金額)となります。

4)課税方法

利子所得になるものは、国内所得の場合、その支払いを受けるときに20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率で源泉徴収され、それで所得税や住民税の課税関係が完結するため、確定申告をする必要はありません。これを、源泉分離課税といいます。

なお、国債、地方債、公募公社債など一定の特定公社債等の利子は源泉分離課税の対象から除外され、原則として申告分離課税の対象となっています。申告分離課税とは、他の所得とは分離して個別で課税計算をすることをいいます。

3 配当所得

1)配当所得とは

配当所得には、次のようなものが該当します。

  • 法人から受ける剰余金、利益の配当
  • 剰余金の分配(出資に係るものに限ります)
  • 基金利息
  • 投資信託(公社債投資信託及び公募公社債等運用投資信託を除きます)の収益の分配
  • 特定受益証券発行信託の収益の分配

2)非課税とされるものの代表例

1.オープン型の株式投資信託の特別分配金

これは、事実上元本の払い戻しに相当するため非課税となります。

2.障害者等のマル優などの収益の分配

少額預貯金などの利子には、一定の株式投資信託の収益の分配も含まれます。

3.財形貯蓄に係る収益の分配のうち一定のもの

財形貯蓄の利子には、一定の株式投資信託の収益の分配も含まれます。

4.非課税口座内の少額上場株式などに係る配当所得(新NISA:成長投資枠)

年間240万円を上限として非課税口座で取得した上場株式等の配当などは、非課税となります。また、下記5.つみたて投資枠との併用が可能です。なお、一生涯で非課税とされる限度額が設定されており、1200万円(成長投資枠の非課税限度額)となっています。

2024年1月に、上記の上限額の拡充や、非課税となる保有期間が廃止され恒久化されるという改正が行われました。2023年以前にNISA口座を保有している人については、口座を開設している金融機関にて自動的に新NISA口座が開設されているため、上記の非課税枠が適用されます(下記5.について同じ)。

5.一定の投資信託に係る配当所得(新NISA:つみたて投資枠)

年間120万円を上限として購入した投資信託の分配金などは、非課税となります。なお、一生涯で非課税とされる限度額は1800万円(上記4.成長投資枠と併用した場合も、限度額は同じ)です。

6.未成年者口座内の少額上場株式などに係る配当所得(ジュニアNISA)

18歳未満の居住者が、年間80万円を上限として未成年者口座で取得した上場株式等の配当などは、最長5年間非課税となります。

なお、2024年以降は制度が廃止されるため、新規の口座開設はできませんが、現時点でジュニアNISAの口座を持っている場合には、本人が成人(満18歳)になるまでは上記の非課税枠が適用されます。

3)配当所得の金額

配当所得の金額は次のように計算します。

配当所得=収入金額(受け取った配当の源泉徴収前の金額)-負債の利子の額

4)課税方法

1.上場株式等(持株割合3%未満のもの)の配当など

その支払いを受けるときに20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率により源泉徴収されます。配当所得として確定申告をする場合、この源泉徴収税額は前払税額として精算されますが、上場株式等の配当などについては、その金額にかかわらず確定申告をしなくてもよいという特例があります。この場合には、その源泉徴収税額だけで所得税と住民税の課税関係が完結します。

2.その他の株式等の配当など

その支払いを受けるときに所得税・復興特別所得税が20.42%の税率により源泉徴収されます。配当所得として確定申告をする場合、この源泉徴収税額は前払税額として精算されますが、年間の配当金が10万円以下の少額配当については確定申告をしなくてもよいという特例があります。この場合には、その源泉徴収税額だけで所得税の課税関係が完結します(住民税の徴収は行われないため、金額に関係なく住民税の確定申告は必要になります)。

3.私募公社債等運用投資信託および特定目的信託(社債的受益証券)の収益の分配

その支払いを受けるときに20.315%(所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%)の税率により源泉徴収され、その源泉徴収税額だけで所得税や住民税の課税関係が完結しますから、確定申告をする必要はありません(源泉分離課税)。

4 不動産所得

1)不動産所得とは

不動産所得とは、不動産、不動産の上に存する権利(借地権など)、船舶・航空機の貸付けによる所得です。具体的には、貸家やアパートの家賃収入、駐車場の地代収入などが該当します。不動産所得はあくまで不動産などを貸し付けた場合の所得で、不動産を売却した場合は譲渡所得となります。

2)不動産所得の金額

1.総収入金額

家賃収入、地代収入などを計上します。原則として、契約上の支払日に計上します。ただし、継続記帳等による計算を行っている場合を除き、翌月分の家賃地代を当月末までに受け取る契約となっている場合は、翌年1月分の家賃地代を今年の総収入金額に計上するので注意しましょう。また、原則として全額返還するものとされる敷金や保証金などは預り金であるため、総収入金額に計上しません。

2.必要経費

貸し付けている不動産に係る固定資産税、修繕費、損害保険料、減価償却費、借入金の利子、管理費などを計上します。

3.青色申告特別控除

青色申告者は、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額を計算するときに、青色申告特別控除額として10万円(原則)または55万円(特例。e-taxで申告する場合等は65万円)を差し引くことができます。55万円の特例は、「不動産所得又は事業所得を生ずべき業務を事業的規模(貸家ならおおむね5棟以上、アパート等ならおおむね10室以上など)で営んでいることと、取引内容を詳細に帳簿に記録していること」などが要件とされ、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額の順で合計55万円(e-Taxを使用して確定申告および青色申告決算書を提出期限までに提出する場合などは65万円)を上限として控除します。

4.不動産所得の金額

不動産所得の金額=総収入金額-必要経費-青色申告特別控除額

3)課税方法

不動産所得の金額は、他の所得と総合(合算)して総所得金額を構成し、所得税が課税されます。従って、確定申告が必要となります。

5 事業所得

1)事業所得とは

事業所得とは、農業・小売業・卸売業・製造業・サービス業その他の事業から生ずる所得をいい、次のようなものも事業所得に含まれます。

  • 従業員用アパートの使用料収入(社宅など)
  • 取引先や従業員に対する貸付金の利子
  • 空き箱や作業くずの売却代金などの雑収入
  • 仕入割戻(仕入リベート)
  • 棚卸資産に係る保険金収入
  • 副業などによる収入で、帳簿が保存されているもの

2)事業所得の金額

基本的に不動産所得の金額と同じように計算します。

事業所得の金額=総収入金額-必要経費-青色申告特別控除額

3)総収入金額計算上の注意点

1.棚卸資産の家事消費

棚卸資産を家事のために消費したら、自分自身に売ったものとして所得税が課税されます。この場合、その棚卸資産の通常の販売価額の70%の金額と仕入価額のいずれか高い金額を、総収入金額に計上することとなります。

2.棚卸資産の贈与

棚卸資産を贈与した場合にも、上記1.の家事消費と同様に取り扱われます。

3.棚卸資産の低額譲渡

棚卸資産を通常の販売価額の70%未満の対価で譲渡した場合、その通常の販売価額の70%の金額を総収入金額に計上しなければいけません。ただし、形崩れなどによる値引販売や広告宣伝のための目玉商品としての値引販売の場合は除きます。

4)必要経費計算上の注意点

1.売上原価

棚卸資産の売上原価の金額は、次のように計算します。

売上原価=年初棚卸高+当年仕入高-年末棚卸高

年末棚卸高の評価は、税務署に他の評価方法の届出をしない場合、最終仕入原価法(年末に最も近い日に仕入れた単価を使って、原価を計算する方法)により評価します。

2.家事上の経費・家事関連費

衣食住費、教育費、娯楽費などの家事上の経費は、必要経費に計上することはできません。また、店舗併用住宅の家賃や水道光熱費などのように、業務上の経費と家事上の経費が含まれている経費(家事関連費)については、業務の遂行上必要であることが明らかな部分だけを必要経費に計上します。

3.事業専従者控除

事業を営む者(白色申告者)と同一生計の親族(年齢15歳未満の者を除きます)で、その事業に専ら従事する者(事業専従者)がいる場合は、その事業専従者1人につき原則50万円(配偶者の場合は86万円)を必要経費に計上できます。なお、その事業専従者側では、その金額は給与所得に係る収入金額となります。

4.青色事業専従者給与

事業を営む者(青色申告者)と同一生計の親族(年齢15歳未満の者を除きます)で、その事業に専ら従事する者(青色事業専従者)に対し、「青色事業専従者給与に関する届出書」に記載されている金額の範囲内において給与(退職金は認められません)の支払いをした場合、労務の対価として相当な金額であれば、必要経費に計上できます。なお、青色事業専従者側では、その金額は給与所得に係る収入金額となります。

この規定の適用を受ける場合、その年の3月15日まで(新規開業等の場合には、開業日から2カ月以内)に、上記の届出書を納税地の所轄税務署長に提出しなければなりません。

5)課税方法

事業所得の金額は、他の所得と総合(合算)して総所得金額を構成し、所得税が課税されます。従って、確定申告が必要となります。

6 給与所得

1)給与所得とは

給与所得とは、給料・賃金・賞与(ボーナス)などに係る所得をいいます。

2)非課税とされるものの代表例

  • 出張旅費等
  • 通勤手当(原則として月15万円まで)
  • 制服などの職場上必要な現物給与
  • いわゆる税制適格ストックオプション(株式会社の取締役または使用人が、株主総会の付与決議に基づき株式会社と締結した契約(一定の要件を満たすもの)により付与された株式譲渡請求権または新株式引受権を行使した場合の経済的利益)

3)給与所得金額

給与所得金額は、原則として給与収入金額から給与所得控除額を控除して算出します。

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4)課税方法

給与所得の金額は、他の所得と総合(合算)して総所得金額を構成し、所得税が課税されます。給与についてはその支払いを受けるときに一定の金額が源泉徴収され、確定申告の際には、その源泉徴収税額は前払税額として精算されます。

なお、勤務先に年末まで在職している人は、その年の最後に給与の支払いを受けるときに「年末調整」という手続きで所得税額が精算されるので、原則として確定申告はしなくてよいこととされています。

ただし、給与以外に所得があり、その金額が20万円を超える人などは年末調整を受けた場合であっても、確定申告をしなければなりません。また、給与収入が2000万円を超える場合は年末調整を受けることができず、確定申告をしなければなりません。

7 退職所得

1)退職所得とは

退職所得とは、退職手当、一時恩給など退職により一時に受ける給与に係る所得をいいます。また、次のようなものも退職所得に含まれます。

  • 国民年金法等の社会保険または共済に関する制度に基づく一時金
  • 確定給付企業年金法に基づいて支給を受ける一時金で加入者の退職により支払われるもの(その受給者が負担した保険料がある場合には、その負担した金額を控除します)

2)退職所得金額

退職所得金額は次のように計算します。

退職所得金額=(収入金額(源泉所得税控除前の金額)-退職所得控除額)×1/2

なお、勤続年数が5年以下である役員・公務員等については、「退職所得金額=収入金額-退職所得控除額」となります。退職所得控除額は次の通りです。

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3)非課税

死亡退職金のうち死亡後3年以内に支給が確定したものは、原則として相続税の課税対象とされるため所得税は非課税となります。

4)課税方法

退職所得は、原則として所得の金額の計算上2分の1とするとともに、他の所得と区分する分離課税制度により課税されます。

また、勤務先を退職するときには通常「退職所得の受給に関する申告書」を提出することで、退職所得について正当税額が源泉徴収されるため、原則として確定申告をする必要はありません。なお、上記の申告書を提出しない場合には、退職金の額の20.42%が源泉徴収されます。

8 山林所得

1)山林所得とは

山林所得とは、山林の伐採または立木のままでの譲渡による所得をいいます。ただし、保有期間が5年以内に伐採または譲渡した場合は、事業所得または雑所得になります。なお、土地付きで山林を譲渡した場合には、土地部分は譲渡所得とされます。

2)山林所得の金額

山林所得の金額は次のように計算します。

山林所得の金額=総収入金額-必要経費-特別控除額-青色申告特別控除額

1.総収入金額

山林の譲渡金額を計上します。

2.必要経費

山林は、長期間育成した上で譲渡するものですから、譲渡した山林についてかかった植林費、取得費用、管理費、伐採費、譲渡費用など、その山林の育成から譲渡までの費用の累積額を計上します。

なお、譲渡した山林を15年前の12月31日以前から所有していた場合は、一定の概算経費率による方法で必要経費を計算することができます。

3.特別控除額

総収入金額から必要経費を差し引いた金額と50万円のいずれか低い金額となります。

4.青色申告特別控除

青色申告者は、不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額の順で、合計10万円を控除することが認められています。なお、山林所得については55万円の控除が適用されません。

3)課税方法

山林所得は長年の育成の成果が一時に実現するものであることから、税負担の緩和を図るため、他の所得と区分する分離課税制度を取り、他の所得に比べて低い税率により課税されます。

9 譲渡所得

1)譲渡所得とは

譲渡所得とは、土地・建物、書画・骨董品、株式などの譲渡による所得をいいます。ただし、次のものは譲渡所得とはなりません。

  • 棚卸資産の譲渡による所得(事業所得となります)
  • 山林の譲渡による所得(山林所得、事業所得、雑所得となります)

2)非課税とされるものの代表例

  • 生活に通常必要な動産(家具、衣類、時価30万円以下の宝石・書画・骨董品など)の譲渡
  • 国、地方公共団体等に対する贈与
  • 国、地方公共団体等に対する重要文化財の譲渡
  • 相続税の物納による譲渡
  • 新NISA(成長投資枠)にかかる少額上場株式等の譲渡
  • 新NISA(つみたて投資枠)にかかる投資信託の譲渡
  • 未成年者口座(ジュニアNISA)での少額上場株式等の譲渡

3)譲渡所得の区分

譲渡所得は、次の5つに区分されます。

  1. 分離短期譲渡所得:土地・建物等の譲渡で、譲渡年の1月1日における所有期間が5年以下のもの
  2. 分離長期譲渡所得:土地・建物等の譲渡で、譲渡年の1月1日における所有期間が5年超のもの
  3. 株式等に係る譲渡所得:株式等(ゴルフ会員権を除きます)の譲渡
  4. 総合短期譲渡所得:上記以外の資産の譲渡で、譲渡時の所有期間が5年以下のもの
  5. 総合長期譲渡所得:上記以外の資産の譲渡で、譲渡時の所有期間が5年超のもの

4)譲渡所得の金額

1.分離短期譲渡所得

総収入金額-(取得費+譲渡費用)

2.分離長期譲渡所得

総収入金額-(取得費+譲渡費用)

3.株式等に係る譲渡所得

総収入金額-(取得費+委託手数料等)

4.総合短期譲渡所得

総収入金額-(取得費+譲渡費用)-50万円特別控除額

5.総合長期譲渡所得

総収入金額-(取得費+譲渡費用)-50万円特別控除額

なお、上記4.と5.における50万円特別控除額は総合短期譲渡所得と総合長期譲渡所得の全体で50万円の控除であり、先に総合短期譲渡所得から控除します。

5)総収入金額

資産の譲渡代金を計上します。なお、その計上時期は、原則としてその資産の引き渡しの日になります。

6)取得費

1.原則

土地や骨董品などの減価しない資産は、その資産の取得価額が取得費となります。建物、車両運搬具、工具器具備品などの減価する資産は、その資産の取得価額から価値の減少分(減価償却費など)を控除した金額が取得費となります。

2.相続等により取得した資産

相続、遺贈、個人からの贈与により取得した資産の取得費は、原則として元の所有者の取得費を承継します。

3.「5%基準」

上記の金額が収入金額(譲渡代金)の5%に満たない場合、資産の取得価額が不明である場合には、収入金額の5%を取得費とすることができます。

7)譲渡費用

資産の譲渡に際して支出した仲介手数料などを計上します。なお、資産の保有期間中の固定資産税、支払利息、修繕費などその資産の維持や管理のためにかかった費用は譲渡費用とはなりません。

8)内部通算

上記4)の譲渡所得の金額を計算した結果、赤字(譲渡損)の譲渡所得が生じた場合には、他の黒字(譲渡益)の譲渡所得から控除することができます。ただし、その赤字と黒字の相殺(内部通算)は、分離課税と総合課税のそれぞれの中でしか行うことができません。例えば、分離短期譲渡所得が赤字の場合には、分離長期譲渡所得の黒字と相殺することはできますが、総合課税の黒字とは相殺することはできません。また、株式等に係る譲渡所得については、内部通算の対象となりません。

9)課税方法

1.分離短期譲渡所得

他の所得と区分して分離課税により所得税・復興特別所得税30.63%、住民税9%の税率により課税されます。

2.分離長期譲渡所得

他の所得と区分して分離課税により所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%の税率により課税されます。

3.株式等に係る譲渡所得

他の所得と区分して分離課税により所得税・復興特別所得税15.315%、住民税5%の税率により課税されます。

4.総合短期譲渡所得

他の所得と総合(合算)して総所得金額を構成し、超過累進税率により所得税が課税されます。

5.総合長期譲渡所得

所得金額の2分の1を他の所得と総合(合算)して総所得金額を構成し、超過累進税率により所得税が課税されます。

10)住宅の譲渡に係る特例など

居住していた住宅を譲渡した場合には、短期所有、長期所有に関係なく、原則としてその譲渡益から3000万円を控除することができます(居住用財産を譲渡した場合の3000万円特別控除)。つまり、住宅の売却益は3000万円まで無税ということです。

また、土地などが国や地方公共団体に強制的に買い取られたような場合には、5000万円を控除することができます(収用交換等の5000万円特別控除)。

11)株式等に係る譲渡所得

1.株式等の範囲

株式(株式引受権等を含みます)、法人の出資者持分、新株予約権付社債、特定株式投資信託の受益証券など

2.取得費

  • 購入した株式:購入価額(購入手数料を含みます)
  • 払込みにより取得した株式:払込価額
  • 税制適格ストックオプションの適用を受けた株式:払込価額

3.課税関係

株式等に係る譲渡所得の金額は、「上場株式等」とその他の「一般株式等」に区分して計算します。なお、上場株式等のうち特定口座に保管が委託されている上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額は、証券業者が計算するため、納税者自身が所得計算を行う必要はありません。株式等に係る譲渡所得の金額は、他の所得と区分して分離課税により確定申告をするのが原則ですが、特定口座内の上場株式等の譲渡のうち、源泉徴収ありを選択したものについては、確定申告をしないことも認められています(確定申告不要制度)。

12)ゴルフ会員権

ゴルフ会員権の譲渡については、株式形態のものも預託金形態のものも、いずれも譲渡所得として総合課税されます。

13)公社債等

公社債(新株予約権付社債を除きます)、公社債投資信託や公募株式投資信託の受益証券、貸付信託の受益証券などの譲渡による所得については、2016年から課税となり、株式等に準じた課税方法が取られています。

なお、取得時に支払った経過利子や譲渡時に受取った経過利子の額は、それぞれ取得価額や譲渡対価に含まれます。

10 一時所得

1)一時所得とは

一時所得とは、上記2~9のいずれにも該当しない一時的な所得をいい、次のようなものが含まれます。

  • 懸賞の賞金品、福引の当選金品(業務上のものは除きます)
  • 競馬の馬券の払戻金、競輪の車券の払戻金など(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除きます)
  • 生命保険契約等に基づく満期返戻金(業務上のものは除きます)
  • 損害保険契約等に基づく満期返戻金
  • 法人からの贈与により取得する金品(業務上のものは除きます)
  • 遺失物拾得により受ける報労金など
  • 固定資産税や住民税の前納報奨金(業務上のものは除きます)

2)非課税とされるものの代表例

  • 国内宝くじの当選金
  • ノーベル賞の賞金など
  • 相続、遺贈、個人からの贈与により取得する金品
  • 心身または資産(棚卸資産等は除きます)に加えられた損害を補てんする性質の損害保険金や損害賠償金

3)一時所得の金額

一時所得の金額=総収入金額-支出した金額(その収入を得るために直接要した金額に限る)-50万円特別控除額

4)課税方法

一時所得の金額は、所得金額の2分の1を他の所得と総合(合算)して総所得金額を構成し、超過累進税率により所得税が課税されます。

11 雑所得

1)例示

1.公的年金等

  • 国民年金や厚生年金
  • 勤務先からの退職年金 
  • 確定給付企業年金法に基づく年金

2.公的年金等以外

  • 友人に対する貸付金の利子
  • 学校債や組合債の利子
  • 所得税の還付加算金
  • 生命保険契約等の年金
  • 株主優待券など
  • 副業などによる収入で、帳簿が保存されていないもの(年間の収入金額が300万円を超える場合で、事業実態がある場合には事業所得に該当)

2)雑所得の金額

1.公的年金等

収入金額-公的年金等控除額

2.公的年金等以外

総収入金額-必要経費

3.雑所得の金額

雑所得の金額=1.+2.

1.の公的年金等控除額は、国税庁「公的年金等の課税関係」にまとめてあります。公的年金等にかかる雑所得以外の所得に係る合計所得金額ごとに控除割合と控除額が異なりますので注意しましょう。

3)課税方法

雑所得の金額は、他の所得と総合(合算)して総所得金額を構成し、超過累進税率により所得税が課税されます。なお、雑所得のうち一定のものについては、その支払いを受けるときに一定の金額が源泉徴収されますが、その源泉徴収税額は、確定申告の際には前払税額として精算されます。

4)生命保険契約等に基づく年金

生命保険契約や損害保険契約による年金については、公的年金等には含まれず、公的年金等以外となりますので注意が必要です。これらの年金については、次のように計算します。

  1. 本年中に受けた生命保険等の年金(A)(総収入金額に計上)
  2. (A)×(保険料総額/年金支給総額)(必要経費に計上。小数第2位未満切り上げ)

以上(2024年12月更新)
(監修 税理士 石田和也)

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【3分で分かる個人情報保護(4)】個人データの取り扱いを委託する場合に守らなければならないルール

1 個人データの管理を委託する場合のルールは3つ

個人データの取り扱いの全部または一部を外部に委託する場合、守らなければならないルールが3つあります。具体的には

  • 適切な委託先を選定する
  • 委託契約を締結する
  • 委託先における個人データ取扱状況を把握する

です。以降でポイントを確認していきましょう。

2 適切な委託先を選定する

委託先の選定に当たっては、委託先が、自社と同等あるいはそれ以上の安全管理措置を講じていることを確認することが求められます。

そのため、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」の「10 (別添)講ずべき安全管理措置の内容」に定める各項目が、委託する業務内容に沿って、確実に実施されることについて、あらかじめ確認しなければなりません。詳しくは次のウェブサイトをご覧ください。

■ガイドライン10 (別添)講ずべき安全管理措置の内容■

https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/#a10

3 委託契約を締結する

委託契約には、当該個人データの取り扱いに関する、必要かつ適切な安全管理措置として、委託元、委託先の双方が同意した内容を定めます。そうするとともに、「委託先における委託された個人データの取扱状況を委託元が合理的に把握することを盛り込むことが望ましい」とされています。

例えば、次のような事項が盛り込まれた契約を締結するとよいでしょう(ここで委託者は委託元、受託者は委託先を指します)。

  • 委託者および受託者の責任の明確化
  • 個人データの安全管理に関する事項
  • 再委託に関する事項
  • 個人データの取扱状況に関する委託者への報告の内容および頻度
  • 契約内容が遵守されていることを委託者が、定期的に、および適宜に確認できる事項
  • 契約内容が遵守されなかった場合の措置
  • 事件・事故が発生した場合の報告・連絡に関する事項
  • 契約終了後の措置

なお、委託契約の締結と言っても、必ず「業務委託契約書」を取り交わさなければならないわけではありません。委託元、委託先の双方が安全管理措置の内容について合意をすれば法的効果が発生するので、合意内容を客観的に明確化できるなら、書式は問われません。例えば、委託先から委託元への誓約書の差入れや、覚書や合意書などの取り交しでも問題ありません。

4 委託先における個人データ取扱状況を把握する

委託契約で定める内容と重複するところがあるかもしれませんが、委託先における委託された個人データの取扱状況を把握するために、「定期的に監査を行う等により、委託契約で盛り込んだ内容の実施の程度を調査した上で、委託の内容等の見直しを検討することを含め、適切に評価することが望ましい」とされています。

5 (参考)個人データの取り扱いの委託は第三者提供ではない

個人情報保護法では、法令に基づく場合などの例外を除いて、「あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない」とされています。

一方、委託については、「第三者に該当しないものとする」とされています(この他に第三者に該当しないものとして、事業の承継、共同利用もあります)。そのため、委託元は、あらかじめの本人の同意または第三者提供におけるオプトアウトを行うことなく、委託先に対して、個人データを提供することができます(その代わりに、委託先に対する監督責任が課されます)。

個人データの取り扱いを委託する先は他の者(=第三者)なのだから、「第三者提供なのでは?」と理解に苦しむかもしれませんが、

個人データの提供先は個人情報取扱事業者とは別の主体として形式的には第三者に該当するものの、委託された業務の範囲内でのみ、本人との関係において提供主体である個人情報取扱事業者と一体のものとして取り扱うことに合理性があるため、第三者に該当しないものとする(ガイドライン3-6-3 第三者に該当しない場合)

というルールなのです。

以上(2024年12月更新)

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画像:pixabay

「じゃがいも×マーケティング」の世界史~食文化で歴史を変えたフリードリヒ2世の秘策とは?

1 もし、あの国がひとつの会社だったとしたら…

高校の授業で習った世界史……。もう記憶の彼方という人も多いでしょうが、社会人になってから学び直してみると、意外と高校生だったあの頃より面白く感じるものです。なぜなら、

世界史を知れば知るほど、「会社」と「国家」がよく似ていることに気が付く

からです。となれば、世界史上の出来事から何か学べることもあるはず……。この記事では「国家」を1つの「会社」に例え、世界史上の出来事を紹介します。今回取り上げるのは、現ドイツの原型になった国家「プロイセン」が、18世紀に行ったマーケティング戦略です。詳細は後述しますが、このプロイセンは会社に例えるなら

新しい食材を世界に流通させたいと考えている商社

です。現代でもタンパク質危機(プロテイン・クライシス)を解決しようと、昆虫食や植物性タンパク質の食品を開発する会社がありますが、それとも似ているかもしれません。

(注)この記事は巻末の参考書籍を基に作成していますが、世界史上の出来事などについて諸説ある内容が含まれます。あらかじめご了承ください。

2 フリードリヒ2世が打ち出した新商品「じゃがいも」

プロイセンは、土壌が痩せている地域が多く、元来収穫に乏しい国でした。そして、18世紀のヨーロッパでは飢饉(ききん)が頻繁に起きており、食糧問題は国民にとっても国家にとっても喫緊の課題でした。そこで、「早急になんとかしなければ!」と立ち上がったのが、

プロイセンの国王・フリードリヒ2世

です。

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フリードリヒ2世は、別名「フリードリヒ大王」とも呼ばれる偉大な王様。会社で例えるなら“敏腕経営者”です。

そんな彼が新たな主食として目をつけたのは……なんと「じゃがいも」

でした。

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現代に生きる私たちにとってはごくありふれた食材ですが、実は

当時のヨーロッパでは、じゃがいもの主な用途は「食用」ではなく「観賞用」だった

のです。私たちが食べるのは、地中にあるじゃがいもの「茎」の部分ですが、当時の人々はそこには見向きもしませんでした。むしろ、じゃがいもの「芽」などが有毒であるという理由で、

「食べると病気になる! 不純な植物だ! 悪魔の食べものだ!」

など、散々なことを言っていたのです……。

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しかし、じゃがいもは

冷涼で痩せた土地でも良く育ち、しかも茎の部分は栄養たっぷりの万能な食材

です。このことを知った“敏腕経営者”フリードリヒ2世は、プロイセンの食糧事情を立て直すため、じゃがいもを「食べ物として普及させよう!」と奔走します。

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3 成功のカギは「ブランディング」にあった!

とはいえ、食文化はそう簡単に変えられるものではありません。フリードリヒ2世は

自らじゃがいもを毎日美味しそうに食べてみせたり、国中を回ってじゃがいもの魅力を伝えるキャンペーンを実施したりしますが、ただ知名度が上がっただけ

で、食べ物としてはなかなか普及しませんでした。

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では、どうやってじゃがいもを普及させたのでしょうか? その答えは

現代にも通じるマーケティング戦略「ブランディング」です。フリードリヒ2世はなんと、じゃがいも畑を「立派な装備の軍隊に守らせた」

のです。

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噂はたちまちに広がり、国民は

「王様があそこまでして守るじゃがいもって何……?」

「そんなに貴重で美味しいものなの……?」

と好奇心を煽られ、段々じゃがいもに心惹かれていきました。その結果、プロイセンでは当時のヨーロッパではいち早く、じゃがいもが食ベ物として普及していったのです。

4 「じゃがいも×マーケティング」で歴史が変わった

じゃがいもは、

国民の食べ物として普及しただけでなく、「豚の飼料」としても活躍

しました。じゃがいもは冬の時期でも保存しておけるので、厳しい冬でも家畜に餌を与えることが可能になり、人々はいつでも肉を食べられるようになったのです。その結果、

プロイセンではじゃがいも&豚肉料理(ソーセージやベーコンなど)という、現代のドイツ料理に象徴されるような食文化が生まれ定着

していくことになります。

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美味しくて安定した食事は国力の増強につながり、

プロイセンはやがて、“ライバル会社(周辺国家)”を次々にまとめ上げて“グループ会社”とし、現代における「ドイツ」という“大会社”を作るに至った

のです。仮にフリードリヒ2世が、じゃがいものマーケティングに失敗していたら、今のドイツは存在していなかったかもしれません。

現代においても、

「ブランディング」はマーケティングの基本

です。“敏腕経営者”フリードリヒ2世は、「じゃがいもは価値のあるものだ」という意識を“消費者(国民)”に植え付けることに成功し、“会社”を大きく育てたということです。現代の日本に生きる私たちが、

「主食を米から謎の植物に変えろ!」

と言われたら、きっと戸惑いますし、誰も見向きもしないかもしれません。新しい商品やサービスを売り出す際、斬新なものほど世間に受け入れられにくいというのは世の常ですが、食文化をひっくり返したフリードリヒ2世のことを考えれば、

結局のところ「モノは売り方次第である」ということ

が分かります。

【参考文献】

「世界史を大きく動かした植物」(稲垣栄洋(著)、PHPエディターズ・グループ、2018年7月)

以上(2024年12月作成)

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画像:イラストAC・写真AC

【ハラスメント対策】 防止措置や部下指導のポイント、実務で使える規程・文例集などを一挙紹介!

1 正直ウンザリの「ハラスメント」でも対策は必須

職場で発生する「ハラスメント(嫌がらせ)」。時代とともにモラハラやロジハラなど、次々と新しいものが出てきて、正直ウンザリという人もいるでしょう。

とはいえ、深刻なハラスメントで精神などを病んでしまう人が後を絶たないのも事実。また、男女雇用機会均等法などにより、会社には一定の「ハラスメント防止措置」の実施が義務付けられています。これが不十分なせいでハラスメントが発生すると、会社がその責任を問われるリスクもあります。思いは人それぞれでしょうが、いずれにせよ対策は必須です。

この【ハラスメント対策】シリーズでは、会社に義務付けられているハラスメント防止措置の内容をはじめ、ハラスメントについて押さえておくべきポイントを紹介します。

2 どんなハラスメントについて対策が必要?

冒頭でも述べた通り、近年はさまざまなハラスメントが増えてきていますが、まずは法令によってその内容が明確に定義されている

  • パワハラ(職場などでの上下関係を背景にしたハラスメント)
  • セクハラ(性的な言動によるハラスメント)
  • マタハラ、パタハラ、ケアハラ(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント)

について対策を講じましょう。会社はこれら5つについて、ハラスメント防止措置を講じる義務を負っているので、まずは各ハラスメントの内容を正しく理解することが肝心です。

3 防止措置の一歩目「ハラスメント防止規程」はどう定める?

ハラスメント防止措置とは、具体的には次の5つを指します。

  • ハラスメントの方針(ハラスメントを行ってはならない旨など。就業規則等の文書に規定)の明確化、周知・啓発
  • ハラスメントに関する相談窓口の設置・運用
  • 事実確認、被害者に対する配慮のための適正な措置、行為者への適正な措置と再発防止に向けた措置の実施
  • 相談者や行為者のプライバシーを保護、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨の周知・啓発
  • 業務体制の整備など、マタハラ等の原因や背景となる要因を解消するための措置の実施

このうち、1.の「ハラスメントの方針」については、「ハラスメント防止規程」などの形で定めることが多いです。4.の「不利益な取扱いの禁止」などもこの規程に定めるとよいでしょう。

4 ハラスメント相談窓口の担当者は誰にすればいい?

ハラスメント相談窓口は、ハラスメントに関する相談や苦情を受け付け、被害を最小限に食い止めるための窓口です。

相談窓口がうまく機能していれば、深刻なハラスメント問題に至る前に事態を収めることができます。逆に、社員から「相談しにくい」と思われてしまうと、いつまでたっても会社がハラスメントの存在を感知できず、問題が深刻化してしまう恐れがあります。

  • 相談窓口は、会社の内部に設置するのか、外部に設置するのか(併設も可)
  • 内部に設置する場合、担当者を誰にするのか(経営者や役員、管理職、人事労務担当部門や法務部門の社員、社内の診察機関、産業医、カウンセラー、労働組合など)

などを検討しつつ、「相談しやすい」窓口にしましょう。

5 ハラスメントの事実確認はどうやって進める?

ハラスメントに関する相談が相談窓口に寄せられた場合、会社はすぐにハラスメントの事実があったか否かを確認します。これを「事実確認」といいます。具体的には、

相談者(被害者など)、第三者(目撃者など)、行為者の順番で事情聴取をする

ことになります。

経営者としては、早く白黒をつけたいので、ついつい事実確認を行う担当者をせかしがちですが、調査不足は事実誤認のもとです。後々の対応(社内処分など)を誤らないためにも、「焦らず、じっくりと事実確認を行うこと」を心がけましょう。

6 行為者の処分はどの程度が妥当? 被害者のケアは?

事実確認の結果、ハラスメントがあったことが明らかになったら、すぐに行為者の処分と被害者のケアをします。

  • 行為者の処分の基本は、行為の内容と懲戒処分の重さを釣り合わせること
  • 被害者のケアの基本は、被害者がつらくないよう、行為者と被害者とを引き離す

です。仮にハラスメントの事実が確認できなくても、被害者に対し、事実確認の調査や調査結果を丁寧に説明し、会社が真剣に対応したことを伝えるなど、真摯な対応が求められます。

7 ハラスメントの再発防止のためには何をすればいい?

ハラスメントが発生した場合、会社は再発防止策を講じなければなりません。具体的には

  • 発生したハラスメントについて社内に情報を開示する
  • ハラスメントの方針(ハラスメント防止規程など)を再周知する
  • ハラスメント防止研修を実施する

などが挙げられます。

8 結局のところ、上司は部下をどう指導すればいい?

ハラスメント防止措置を講じることは会社の義務ですが、措置を講じた結果、上司がハラスメントと指摘されるのを恐れて、部下を指導できなくなってしまっては本末転倒です。

  • 上司がハラスメントになりそうな言動や指導をしていたら、改めさせる
  • 一方、部下の指導は上司の役目であり、そこに臆病になる必要はないと伝える

ことが大切です。

なお、ハラスメントは上司から部下に対して行われることが多いですが、パワハラなどの場合、部下から上司に対して行われる、いわゆる「逆パワハラ」が話題に上がることも多いです。逆パワハラも会社が防止すべきハラスメントの1つですので、毅然とした対応が求められます。

9 就活生や取引先へのハラスメントについてはどう対応する?

ここまで紹介したハラスメント防止措置は、主に社内のハラスメント(社員に対して行われるもの)を想定していますが、この他に社外のハラスメント(就活生や取引先の担当者に対して行われるもの)についても対策を講じる必要があります。

就活生に対するハラスメントについては、

就活生の内定辞退を回避するために行われる「オワハラ(就活終われハラスメント)」

など、特有のハラスメントもあるのでしっかり内容を押さえておく必要があります。

取引先に対するハラスメントについては、基本的な対応の流れは社内の場合と同じですが、

取引先の社員を事情聴取する場合、必ず取引先の担当部署の承諾を得なければならない

など、特有の対応のポイントがあります。また、2024年11月1日から

フリーランスに対しても、ハラスメント防止措置を講じることが義務化されている

ので、併せて押さえておきましょう。

10 顧客などからの「カスハラ」についてはどう対応する?

カスハラ(カスタマーハラスメント)とは、

顧客などが、社員に悪質な嫌がらせ(土下座の強要など)をすること

です。「お客様は神様です」などというように、日本企業は総じて顧客を上に見てその要求を受け入れる姿勢がありますが、

正当なクレームには真摯に、理不尽なカスハラには毅然と対応する

ようにしないと、社員を守れません。カスハラの類型や対応のポイントを押さえ、正しい対応が取れるように周知しましょう。

11 職場に貼れる、ハラスメント防止に役立つ「職場ポスター」

最後に、ハラスメント防止に役立つ「職場ポスター」を紹介します。印刷してそのまま職場に掲載してお使いいただける、PDF形式のコンテンツになっています。ぜひご活用ください。

以上(2024年12月作成)

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画像:あんみつ姫-Adobe Stock

【ハラスメント対策】行為者の処分と被害者のケア。ハラスメントがなくても対応は必要

書いてあること

  • 主な読者:事実確認をした後の、行為者と被害者への対応を知りたい経営者
  • 課題:行為者の処分はどこまで認められる? 被害者には何をすればいい?
  • 解決策:行為の内容と懲戒処分の重さを釣り合わせる。行為者を配置転換するなどして被害者から引き離す。ハラスメントの事実が確認できなくても対応は必要

1 行為者の処分と被害者のケア

事実確認の結果、ハラスメントがあったことが明らかになったら、すぐに行為者の処分と被害者のケアをします。

  • 行為者の処分の基本は、行為の内容と懲戒処分の重さを釣り合わせること
  • 被害者のケアの基本は、被害者がつらくないよう、行為者と被害者とを引き離す

です。以降で詳しく見ていきましょう。

2 行為者の処分:行為の内容と処分の重さを釣り合わせる

まずは行為者の処分について見ていきましょう。懲戒処分を検討する場合、その根拠となるのが就業規則です。一般的には、ハラスメントを就業規則の「服務規律違反」に当たるとして、「戒告(口頭注意)、けん責(始末書の提出)、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇」などの懲戒処分を適用します。ただ、

行為者のやったことに対して重すぎる懲戒処分は無効になる

ので、どの処分を適用するかは、次の事項などを踏まえて慎重に判断する必要があります。

1.行為の悪質性・重大性

言動の内容・質や頻度・量を考慮します。犯罪に当たるようなハラスメントをした場合などは、情状が悪くなります。

2.結果(被害)の重大性

被害者に与えた身体や精神への被害(苦痛)の大きさなどを考慮します。ハラスメントが原因で被害者が休職や退職をした場合などは、情状が悪くなります。

3.懲罰歴や指導・注意歴

過去に懲罰歴や指導・注意歴がない状態で、反省や改善の機会を与えないまま厳しい懲戒処分を科すと、懲戒権の濫用として処分が無効となることがあります。

次章でハラスメントに関する懲戒処分の事例を紹介しますが、実際に処分の内容を検討する際は、事前に弁護士などの専門家に相談するのが無難です。

3 事例に見るハラスメントの懲戒処分

1)懲戒解雇の事例

犯罪になるようなハラスメントについては、懲戒解雇が認められやすい傾向にあります。例えば、嫌がる女性社員に無理やりキスをするなど、強制わいせつ罪(現行法では、不同意わいせつ罪)に当たり得る行為をした部長について、懲戒解雇が認められた裁判例があります(東京地裁平成22年12月27日判決)。

逆に犯罪に当たらないようなハラスメントの場合、懲戒解雇が認められにくくなります。例えば、慰安旅行の宴会で女性社員の肩を抱いたり、「胸が大きいね、何カップかな」などと発言したりした支店長への懲戒解雇が有効かを争った裁判例があります。裁判では、ハラスメント自体は悪質と判断されましたが、行為者の会社への貢献、反省の程度、指導・注意歴がないなどの事情から、懲戒解雇は認められませんでした(東京地裁平成21年4月24日判決)。

2)出勤停止の事例

女性の派遣社員に対し、「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで」などのセクハラ発言を、1年余りにわたって繰り返した課長代理について、10日間の出勤停止処分が有効かを争った裁判例があります(大阪高裁平成26年3月28日判決、最高裁第一小平成27年2月26日判決)。この裁判では、大阪高裁と最高裁とで意見が分かれました。

大阪高裁では、被害者がはっきりと拒否しなかったため、課長代理が自分の発言を許されていると勘違いしたこと、会社から警告や注意を受けなかったことなどから、出勤停止処分は認められませんでした。

一方、最高裁では、課長代理は部下を指導する立場にあることや、セクハラの被害者は職場の人間関係が悪くなることなどを心配して行為を拒否できないケースが多いこと、この事案のセクハラ発言の多くが周囲に人のいない状況で行われ、会社が警告や注意をする機会がなかったことなどから、出勤停止処分が認められました。

3)降格の事例

成果の低い部下に「(一定の成績が上がらなければ)会社を辞めると一筆書け」「会社に泣きついて居座りたい気持ちは分かるが迷惑なんだ」などの発言を繰り返し、退職を迫った役員補佐について、降格処分が認められた裁判例があります(東京地裁平成27年8月7日判決)。

4 被害者のケア:行為者と被害者とを引き離す

ハラスメントの事実が確認できても、行為者が自主退職したり、解雇されたりするとは限りません。行為者が会社に残る場合、被害者がつらくないよう、行為者と被害者とを引き離すことが重要です。一般的な方法は「配置転換」ですが、この際、

被害者ではなく、行為者を配置転換することがポイント

です。被害者を配置転換してしまうと、被害者はハラスメントだけではなく、仕事の内容についても被害を受けることになりかねません。「せっかく勇気を出して相談をしたのに、不利益な取り扱いを受けた!」と被害者が会社を訴える恐れもあります。

中小企業では、社員数の関係で配置転換が難しいケースがありますが、その場合、席替えや業務上の関わりをなくすなどして、行為者と被害者の接点を減らします。また、定期的に状況を確認し、被害者が望むなら、会社が行為者と被害者との関係を修復するように努めます。

なお、被害者が「行為者の処分を社内に公表してほしい」と求めてきても、それは行為者のプライバシー情報なので公表できません。

5 ハラスメントの事実が確認できなかったら?

ハラスメントは、

被害者が主張する事実が確認できない、確認できた事実がハラスメントであると判断できないなど、いわゆる「グレーゾーン」のケースが多い

です。とはいえ、簡単に対応を打ち切ると、

  • 行為者は「自分は正しい」と思い込み、また同じような言動を繰り返す
  • 被害者は「自分はないがしろにされた」と会社を信用しなくなり、外部に相談する

といったように事態が悪化します。

そこで、被害者には、

事実確認の調査や調査結果を丁寧に説明し、会社が真剣に対応したことを伝える

ようにします。被害者が調査結果に納得できない場合、再調査を求められることがありますが、そのときはどのような点に不満があるのかなど、被害者の意見を丁寧に聞きましょう。

また、行為者には、

今回はハラスメントに当たらないと判断したけれど、次は違う判断になるかもしれないから、言動を改めたほうがいい

などと注意・指導します。

とにかく、

ハラスメントの事実が確認できなくても、行為者と被害者への対応は必要である

ことを押さえておきましょう。

以上(2024年12月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 渡邉和也)

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画像:Dean Drobot-shutterstock

【かんたん消費税 まとめ】インボイス制度で注目度が増す消費税を学ぼう

書いてあること

  • 主な読者:消費税の全体像をざっくり知りたい経営者
  • 課題:消費税は法人税とは異なる独自の計算方法で納税額が計算されるため、どのような仕組みの税金なのかあまり分かっていない
  • 解決策:消費税は負担する人(消費者)と国に納付する人(納税義務者) が異なる。取引も課税されるもの、されないものなど扱いが決まっているなどテーマごとのポイントを押さえて全体像を把握する

1 消費税って、どんな税金?

消費税は利益に関係なく課されます。そして、消費税を負担する人(消費者)と消費税を国へ納付する人(納税義務者)が異なる間接税です。

そのため、消費税は利益計算とは異なる独自の計算方法や業務上の注意点があります。これらの点や、消費税の全体像を押さえる上で必要になる基本的なポイントを、次のコンテンツで紹介します。

2 「インボイス制度」への対応

インボイス制度は、適用される税率や消費税額を正確に記載して、適切に相手に知らせるというものです。もし、インボイス制度に対応しないと取引先側の消費税負担が重くなってしまうという、取引上マイナスの影響が生じてしまう可能性があります。インボイス制度の内容や影響について、次のコンテンツで紹介します。

3 消費税を納めないといけない会社と、納めなくてもよい会社

会社は消費税を納めなければなりませんが、取引の規模などによっては免除されます。消費税が免除される会社が、これを見逃すと損をするので、しっかりチェックしましょう。また、インボイス制度下では、相手が免税事業者かそうでないかなどによって自社の消費税負担が重くなったりします。消費税が免除される免税事業者の詳細やインボイス制度について、次のコンテンツで紹介します。

4 消費税はすべての商品や取引に課されるものではない

消費税は、取引内容によって次のように区分されます。

  • 消費税が課されるもの(課税取引)
  • 消費税が課されないもの(課税対象外取引)
  • 政策上の理由などで消費税が課されないもの(非課税取引)
  • 輸出取引(輸出免税取引)

相手からもらったインボイス等や自社が発行するインボイス等を確認し、課税区分に間違いがないかチェックしましょう。また、海外取引をする会社の場合は、輸出と輸入で消費税の取り扱いが全く違ってきます。取引の区分や海外取引(輸出と輸入)の取り扱いについて、次のコンテンツで紹介します。

5 消費税の計算方法は、「原則課税」と「簡易課税」の2種類

消費税の納税額は、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて計算します。預かった消費税とは物を売ったり、サービスを提供したりした場合に預かる消費税をいい、「仮受消費税」と呼びます。一方、支払った消費税とは物を買ったり、サービスの提供を受けたりした場合に支払う消費税をいい、「仮払消費税」と呼びます。

納税額の計算方法には、原則課税と簡易課税とがあり、大きな違いは支払った消費税(仮払消費税)の集計・計算方法です。仮払消費税の計算は、仕入税額控除といい、原則課税の場合、非常に複雑な仕組みになっています。一方、簡易課税を選択できるのは売上規模が一定以下の小規模な会社に限られており、原則課税に比べて計算が楽な方法です。

仕入税額控除は、「適格請求書発行事業者」が発行するインボイスを保存することが、必要条件になるので、どのような仕組みか理解しておきましょう。消費税の計算方法について、次のコンテンツで紹介します。


6 税率が2種類あること、覚えていますか?

消費税の税率は、商品の種類によって10%と8%の2種類あります。軽減税率とは、

特定の商品については税率を低くする(8%にする)

ことですが、導入から数年が経過して慣れもあるのか、8%で処理することを忘れてしまうなどのミスも散見されます。いま一度、対象商品を見直し、間違いやすいケースや注意点を確認してみましょう。消費税の軽減税率について、次のコンテンツで紹介します。

7 法律で義務付けられている、値札などの価格表示方法

消費税については、商品やサービスの価格の表示ルールが決まっています。これを「総額表示義務」といい、事業者が消費者に価格を表示する場合は、

消費税額を含めた価格(税込価格)で表示しなければならない

ことになっています。総額表示をしないで税抜表示のままにしていても罰則はありませんが、法律に違反していることに変わりはありません。また、消費者からの信頼を損なう原因にもなりますので、もし税抜表示のままにしている場合には、すぐに総額表示で対応するようにしましょう。消費税の表示ルールである総額表示について、次のコンテンツで紹介します。

8 消費税の経理処理は、税込と税抜の2種類

消費税の経理処理は、

  • 税抜経理:消費税を売上高や経費とは「区別して」仕訳する方法
  • 税込経理:消費税を売上高や経費に「含めて」仕訳する方法

の2種類があります。税抜経理と税込経理は好きなほうを採用できますが(消費税の免税事業者は税込経理のみ)、メリットとデメリットがあるので有利な方法を選択したいものです。消費税の経理方法について、次のコンテンツで紹介します。

9 資金繰りにも影響大。消費税の確定申告と中間申告

消費税の申告は、年に1回決算のときだけやればいいわけでなく、

  • 確定申告
  • 中間申告

の2種類があり、中間申告については、前期の納税額の大小によって必要な回数が変わります。一番多い場合は、毎月申告納税しなければなりません。消費税は、法人税と違い、「赤字」であっても納税が必要になることが多い税金のため、資金繰り面でも注意が必要です。消費税の申告については、次のコンテンツで紹介します。

以上(2024年11月作成)

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画像:kai-Adobe Stock

【3分で分かる個人情報保護(3)】個人データを自ら取り扱う場合に守らなければならないルール

1 個人データを自ら取り扱う場合のルールは3つ

個人データを個人情報取扱事業者(会社)が自ら取り扱う場合、守らなければならないルールが3つあります。具体的には

  • データ内容の正確性を保ち、必要がなくなったら消去する
  • 安全管理措置を講じる
  • 従業者を監督する

です。以降でポイントを確認していきましょう。

2 データ内容の正確性を保ち、必要がなくなったら消去する

個人データは、正確かつ最新の内容に保つとともに、利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めなければなりません。

「正確かつ最新の内容に保つ」とはいえ、保有する個人データをすべて、いつも最新化しなければいけないわけではありません。それぞれの利用目的に応じて、その必要な範囲内で正確性・最新性を確保すれば大丈夫です。

また、「遅滞なく消去する」といっても、具体的に「いつまでに」「○日以内に」という期限は特にありません。業務の遂行上の必要性や引き続き個人データを保管した場合の影響等も勘案し、必要以上に長期にわたることのないようにしましょう。ただし、他の法令で保存期間が定められている場合があることに気をつけなければいけません。例えば、賃金台帳は労働基準法に基づき原則5年間保存が義務付けられています。

3 安全管理措置を講じる

取り扱う個人データの漏えい、滅失または毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければなりません。

個人データの「漏えい」とは個人データが外部に流出すること、「滅失」とは個人データの内容が失われること、「毀損」とは個人データの内容が意図しない形で変更されることや、内容を保ちつつも利用不能な状態となることをいいます(3つまとめて、「漏えい等」といいます)。

「安全管理のために必要かつ適切な措置」については、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」に具体例が示されています。この記事の第5章で、参考として、社員数100人以下の「中小規模事業者」が講じるべき安全管理措置について紹介しています。最低限対応しないといけない内容ですので、確認してみてください。

■ガイドライン10 (別添)講ずべき安全管理措置の内容■

https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/#a10

4 従業者を監督する

従業者に個人データを取り扱わせるに当たっては、当該個人データの安全管理が図られるよう、当該従業者に対する必要かつ適切な監督を行わなければなりません。

「従業者」は、雇用関係にある社員(正社員、契約社員、嘱託社員、パート社員、アルバイト社員など)だけではなく、取締役、執行役、理事、監査役、監事、派遣社員なども含まれます。

「必要かつ適切な監督」は、前述した安全管理措置で「やる」と決めたことがしっかり守られているかチェックすることです。

5 (参考)「中小規模事業者」が講じるべき安全管理措置

ガイドラインの10「(別添)講ずべき安全管理措置の内容」で例示されている中小規模事業者における手法を紹介します。

1)基本方針の策定

「事業者の名称」「関係法令・ガイドライン等の遵守」「安全管理措置に関する事項」「質問および苦情処理の窓口」などの項目を策定する

2)個人データの取り扱いに係る規律の整備

個人データの取得、利用、保存等を行う場合の基本的な取り扱い方法を整備する

3)組織的安全管理措置

  • (組織体制の整備)個人データを取り扱う従業者が複数いる場合、責任ある立場の者とその他の者を区分する
  • (個人データの取り扱いに係る規律に従った運用・個人データの取扱状況を確認する手段の整備)あらかじめ整備された基本的な取り扱い方法に従って個人データが取り扱われていることを、責任ある立場の者が確認する
  • (漏えい等事案に対応する体制の整備)漏えい等事案の発生時に備え、従業者から責任ある立場の者に対する報告連絡体制等をあらかじめ確認する
  • (取扱状況の把握および安全管理措置の見直し)責任ある立場の者が、個人データの取扱状況について、定期的に点検を行う

4)人的安全管理措置

  • (従業者の教育①)個人データの取り扱いに関する留意事項について、従業者に定期的な研修等を行う
  • (従業者の教育②)個人データに付いての秘密保持に関する事項を就業規則等に盛り込む

5)物理的安全管理措置

  • (個人データを取り扱う区域の管理)個人データを取り扱うことのできる従業者および本人以外が容易に個人データを閲覧等できないような措置を講じる
  • (機器および電子媒体等の盗難等の防止①)個人データを取り扱う機器、個人データが記録された電子媒体または個人データが記載された書類等を、施錠できるキャビネット・書庫等に保管する
  • (機器および電子媒体等の盗難等の防止②)個人データを取り扱う情報システムが機器のみで運用されている場合は、当該機器をセキュリティワイヤー等により固定する
  • (電子媒体等を持ち運ぶ場合の漏えい等の防止)個人データが記録された電子媒体または個人データが記載された書類等を持ち運ぶ場合、パスワードの設定、封筒に封入し鞄に入れて搬送する等、紛失・盗難等を防ぐための安全な方策を講じる
  • (個人データの削除および機器、電子媒体等の廃棄)個人データを削除し、または、個人データが記録された機器、電子媒体等を廃棄したことを、責任ある立場の者が確認する

6)技術的安全管理措置

  • (アクセス制御)個人データを取り扱うことのできる機器および当該機器を取り扱う従業者を明確化し、個人データへの不要なアクセスを防止する
  • (アクセス者の識別と認証)機器に標準装備されているユーザー制御機能(ユーザーアカウント制御)により、個人情報データベース等を取り扱う情報システムを使用する従業者を識別・認証する
  • (外部からの不正アクセス等の防止①)個人データを取り扱う機器等のオペレーティングシステムを最新の状態に保持する
  • (外部からの不正アクセス等の防止②)個人データを取り扱う機器等にセキュリティ対策ソフトウェア等を導入し、自動更新機能等の活用により、これを最新状態とする
  • (情報システムの使用に伴う漏えい等の防止)メール等により個人データの含まれるファイルを送信する場合に、当該ファイルへのパスワードを設定する

7)外的環境の把握

外国において個人データを取り扱う場合、当該外国の個人情報の保護に関する制度等を把握した上で、個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じる

以上(2024年12月更新)

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【人事はつらいよ】「残業するな」と言っただけなのにジタハラ(時短ハラスメント)?

1 社員のために「定時で帰れ」と言っているのに……

残業が一向に減らない……。今日だってもう定時を回っているのに、誰も帰ろうとしない。ここは経営者の私が帰りやすい雰囲気を作ろう! こう思ったA社の社長は言いました。

「もう定時を過ぎているぞ。さぁ、今日は残業禁止だ! 早く帰ってくれ!」

全員すぐに帰るだろうと思った社長でしたが、みんな座ったまま動こうとしません。そのうち、社員の1人が口を開きました。

「社長、今の業務量では残業しないと終わらないです。それなのに一方的に『残業禁止』だなんて……。今の発言はジタハラ(時短ハラスメント)です!」

困ったことに他の社員もこの意見に賛同する始末……。社長は釈然としません。

「社員の体調やプライベートを考えて言っているのに。それをジタハラって言うのは、どういうことだ。この国はおかしくなってしまったのか?」

2 社員のための「時短」も行き過ぎるとハラスメントに……

コスト削減、働き方改革、SDGs……会社はさまざまな観点から、長時間労働の是正に積極的に取り組んでいます。しかし、こうした会社の姿勢が、時にジタハラになることがあります。ジタハラとは、

「時短」、つまり社員の労働時間を短くすることに関連したハラスメント(嫌がらせ)

です。法令上の定義はありませんが、一般的には、

業務量などに関係なく、会社が一方的に残業を禁止したり、シフトを減らしたりすること

を指します。

ポイントは、「会社が一方的に」という部分です。会社は社員のためを思って時短に取り組むわけですが、それが一方的だと、

  • 業務量の変わらないまま時短を強制された社員が、こっそり隠れ残業をする
  • 無理なスケジュールでの仕事を余儀なくされた社員が、ケアレスミスを連発する
  • 合理的でない時短が続くことによって、社員がやる気を失う

などの問題が発生します。ジタハラを直接規制する法令はありませんが、

このように社員の仕事に支障を来すような極端な時短は、違法なパワハラ(パワーハラスメント)とみなされる恐れがある

ので注意が必要です。

3 パワハラの「過大な要求」に該当すると違法になる

パワハラは、労働施策総合推進法で定義されたハラスメントで、

職場の上下関係など優越的な関係を利用した嫌がらせ

です。具体的には、次のような業務上必要のない(または行き過ぎた)言動によって、社員の仕事に支障を来すことを指します。

  1. 身体的な攻撃:暴行、傷害
  2. 精神的な攻撃:脅迫・名誉毀損、侮辱、ひどい暴言等
  3. 人間関係からの切り離し:隔離、仲間外れ、無視
  4. 過大な要求:業務上明らかに不要・遂行不可能なことの強制、仕事の妨害等
  5. 過小な要求:不合理に程度の低い仕事を命じること、仕事を与えないこと
  6. 個の侵害:私的なことへの過度な立ち入り

会社にはパワハラなどのハラスメント防止措置が義務付けられているので、対応が不十分なために社内でハラスメントが発生すると、民法上の使用者責任などを問われる恐れがあります。

ジタハラがパワハラ(違法)になる場合、上の「4.過大な要求」に該当する可能性が高いです。違法になる例とならない例について、弁護士にヒアリングした結果は次の通りです。

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ケース1~3に共通して言えることは、

  • 社員を定時で帰らせるための対策を講じず、残業禁止を言い渡すだけだと違法になる
  • 「業務を引き取る」「改善点を指摘する」など対策を講じた上で、社員の残業を禁止するのであれば違法にならない

という点です。違法にならない例については、

  • 業務の一部を他の社員に振っていいから、今日は帰りなさい
  • 納期がきついなら取引先と交渉していいから、今日は帰りなさい

などのケースもあります。とにかく、具体策が必要なわけです。結局のところ、

ジタハラ最大の問題は、会社が社員の抱えている課題に向き合わず、時短を強制すること

であると分かります。

経営者からすれば、「決められた時間内に終業できるよう工夫するのも仕事のうちだろう、そこまで会社が面倒を見ないといけないのか」という印象かもしれませんが、法令や社員の権利意識が変わってきている今、不要なトラブルを防ぐ意味でも、会社のほうから歩み寄る姿勢を見せるのがよいでしょう。

以上(2024年12月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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画像:metamorworks-shutterstock

【かんたん消費税(12)】確定申告したら一安心? 消費税の申告と納税

書いてあること

  • 主な読者:消費税の確定申告と中間申告について知りたい経営者
  • 課題:消費税は赤字でも納税が発生する事が多く、中間納付も複数回ある
  • 解決策:確定申告は年に1回だが、中間申告は最多で年に11回。前期の納税額ごとに、中間申告・納税の回数が決まる

1 なぜ、消費税が資金繰りに影響を及ぼすのか

課税事業者(消費税の申告義務のある事業者)は、消費税の申告を行い、国へ納税しなければなりません。問題は、

申告は、年に1回、決算のときだけやればいいわけではない

ということです。具体的には、

  1. 確定申告
  2. 中間申告

の2種類があり、中間申告については、前期の納税額の大小によって必要な回数が変わります。多いときは、なんと毎月申告納税しなければならないのです。

確定申告であれ、中間申告であれ、納税するには当然現金が必要になります。特に消費税は法人税と違い、「赤字」であっても納税が必要になることが多い税金です。

将来の収益獲得のための投資目的ではなく、納税する目的という後ろ向きの借り入れは資金繰りを悪化させる原因にもなります。そのため経営者は、確定申告だけでなく、中間申告のタイミングを把握した上で、綿密な納税・資金計画を立てることが重要です。

2 確定申告は決算期に年1回

課税事業者は、年に1回の確定申告が必要です。確定申告とは、1年決算法人の場合、

  • 1年間に発生した「消費者から預かった消費税(仮受消費税)」や「会社が支払った消費税(仮払消費税)」を集計し
  • 決められた計算方法によって年間の納付税額を確定させ
  • 申告書を提出するとともに、その確定した納付税額を納税すること

をいい、決算期に行う重要な手続きの1つです。

確定申告は、

原則として、決算期末から2カ月以内に行わなければならず、この期限を1日でも遅れると罰金税などが課される

ことがあります。なお、中間納付を行っていたら、年間の納付額から中間納付額を差し引いた残額を納税することになります。

3 中間申告は最多で年に11回

1)中間申告は前期の年税額で決まる

課税事業者は、中間申告をしなければなりません。中間申告とは、

当期の消費税の一部を税務署へ前払い(分割払い)すること

をいいます。この中間申告は、前期の年税額によって納税の回数が決まります。

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前期の確定申告を行えば、当期に必要な中間納付の回数も把握できます。経営者は、確定申告により年税額が確定した段階で、その年の納税スケジュールを気にとめておくようにしましょう。

なお、中間納付として必要な金額の計算方法には、

  • 予定申告方式
  • 仮決算方式

があり、自由に選択できます。どちらの方式を選択するのがよいのか説明してきます。

2)予定申告方式とは

予定申告方式とは、

前期の年税額を分割して納付する方法

です。手続きをしなければ、この方法により計算された金額を中間納付することになります。

例えば、前期の年税額が100万円の場合、中間納付の回数は1回になるため、前期の年税額の半分となる50万円(100万円×6/12)を納付します。

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3)仮決算方式とは

仮決算方式とは、中間申告ごとに、

本決算と同じような手続き(仮決算手続き)をして納付する方法

です。予定申告方式と比べて手間がかかりますが、

売上が前期と比べて減少していたり、仕入や経費が増えていたりする場合

には、予定申告方式に比べ、仮決算方式によって中間納付額を計算したほうが、中間納付額が少なくなることがあります。そのため経営者は、

当期の損益状況や設備投資の状況、あるいは資金繰りの状況を考えながら予定申告方式と仮決算方式を選択

するようにしましょう。

なお、例えば中間納付の回数が3回の場合、1回目と2回目は予定申告方式とし、3回目だけ仮決算方式とすることも可能です。また、仮決算方式にしたところ還付になる場合、中間納付額をゼロとすることはできますが、還付金は受けられませんので注意しましょう。

4 申告しなかった・忘れた場合には「罰金税」

消費税の申告書は正確に作成しなければなりません。また、申告や納付には必ず期限があります。提出した申告書に誤りがあったり、期限に遅れて申告納付したりすると、

罰金や利息のような税金を、追加で納税

しなければなりません。罰金や利息のような税金には、次のようなものがあります。

  • 延滞税
  • 過少申告加算税
  • 無申告加算税
  • 重加算税

1)延滞税

申告や納税が期限よりも遅れた場合に課される利息のような税金で、期限より遅れて納税した税額に対して課され、遅れた日数分だけ納税しなければなりません。税率は年2.4~8.7%(令和6年の場合)です。

2)過少申告加算税

確定申告した税額が正しい税額より少なかったときに課される罰金のような税金で、追加で納税した税額に対して課されます。税率は5~15%です。

3)無申告加算税

申告期限までに確定申告を提出しなかった場合に課される罰金のような税金で、納付すべき税額に対して課されます。税率は5~20%です。

4)重加算税

帳簿の改ざんや領収書の偽造などをして納付税額を低くするなど、特に悪質と判断されたときに課される罰金のような税金で、追加で納税した税額に対して課されます。税率は35~50%です。なお、重加算税の対象となった場合には、上記2)の過少申告加算税は課されません。

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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