【入社1年目の教科書】頑張っているからといって勝手に残業するのは自己中な振る舞い

書いてあること

  • 主な読者:「残業」のルールについて知りたい新入社員
  • 課題:頑張って仕事をしたいのだから、いくら残業してもいいでしょ?
  • 解決策:残業できる時間には上限がある。また、残業する前には必ず申請をする

まいったな……。もうすぐ定時なのに仕事が終わらない。先輩から「残業するときは、必ず事前に申請するように!」と言われているけど、何だか面倒くさい……。そんなことをするくらいなら、仕事に集中したほうが効率的じゃない? それに頑張って仕事をするわけだから誰も文句はないよね。遅くまで働いているわけだし……もう、残業申請はしなくていいよね?

1 残業は「例外的」な働き方!

仕事は就業時間内に終わらせることが基本です。皆さんの会社でも、「始業は9時、終業は18時」といった決まりがあると思いますが、それが就業時間です。また、就業時間のうち休憩を除いた時間(仕事をしている時間)が労働時間です。

労働時間については、労働基準法という法律により、

原則1日8時間、1週40時間までという上限が決められており、これを「法定労働時間」

といいます。そして、法定労働時間を超えて働くことが「残業」です。本来、残業は例外的なものなので、残業には上限が決まっています。

残業の上限は、会社の「36協定」に定められています。本来、残業は認められない行為なのですが、会社と労働組合(あるいは社員の代表)が書面で約束することで、会社は社員に残業を命じることができます。ただ、無制限に残業を認めるわけにはいかないので、上限があるのです。例えば、36協定で「残業は1日3時間まで」と定められていたら、3時間を超える残業は認められません。イメージは次の通りです。

画像1

また、36協定では、1日単位だけでなく、1カ月単位などでも残業の上限が定められています。例えば、36協定で「残業は1日3時間、1カ月45時間まで」と定められている場合、1日3時間の残業を15日繰り返すと、1カ月の上限45時間に達してしまいます。ですから、「自分が今月何時間残業しているのか」などを把握して、36協定に違反しないよう注意しなければなりません。

2 残業は事前に許可を得る

どうしても仕事が終わらないことはあります。そのようなとき、残業すべきかどうか迷ったら、「○○の業務のため、○時間残業したいです」と先輩に相談してみましょう。また、仕事は終わっているけれど、もう少し頑張りたいと思うときも、そのことを正直に先輩に伝えてみてください。先輩は残業すべきか否かのアドバイスをしてくれるでしょう。

やってはいけないのは、誰にも相談せずに勝手に残業をすることです。皆さんが勝手に残業すると、会社が皆さんの労働時間を正確に把握できません。そうなると、残業代を正しく支払えなくなったり、働き過ぎている社員を見つけられず、その社員が体調を崩してしまったりする恐れがあります。

なお、残業をする場合は、所定の手続きがあるはずなので、こちらも確実に行ってください。面倒かもしれませんが、残業する権利を得るための責務です。

3 健康管理も仕事のうち

残業のルールについて紹介してきましたが、良い仕事をするためには休憩も必要です。労働基準法では、労働時間が6時間を超える場合は最低45分、8時間を超える場合は最低60分の休憩を与えることが会社に義務付けられています。会社によっては就業規則などで、これより長い休憩を設定していることがあります。また、「残業が○時間を超える場合、○分の休憩を与える」など、残業に特化したルールを設けていることもあります。

仕事が忙しくなってくると休憩をおろそかにしがちですが、そのようなときこそ休憩をとりましょう。集中力はそんなに続くものではないので、休憩をとることが効率化につながります。そして何より、皆さんの健康が第一であることを忘れてはなりません。

以上(2025年1月更新)

pj00339
画像:Mariko Mitsuda

採用ミスマッチの解消などに役立つ職務記述書(ジョブディスクリプション)の作成プロセス

書いてあること

  • 主な読者:ジョブ型雇用の導入を検討している経営者
  • 課題:職務記述書(ジョブディスクリプション)の内容や作成プロセスが分からない
  • 解決策:当該職務を担当する社員にヒアリングし、難易度、必要なスキルなどをまとめる。そこに経営者のメッセージも込めて職務記述書に落とし込む

1 職務記述書とは

社員を採用する際の方針は、

  • ジョブ型雇用:あらかじめ特定の職務をこなせる社員を採用
  • メンバーシップ型雇用:自社の理念に共感をしている社員を採用

に分けられます。専門職採用や中途採用の場合、一般的にはジョブ型雇用が向いています。そこで使われるのが「職務記述書(ジョブディスクリプション)」という、

職務内容(担当業務の内容、難易度、必要なスキルなど)をまとめた書類

です。この職務記述書は募集要項と似ていますが、募集要項は待遇面の説明が中心で、担当業務の内容は簡単に紹介する程度です。ジョブ型雇用では、職務記述書に記載された職務をこなせるかどうかが、採用の可否や待遇を決定する判断基準になります。ですから、職務記述書をうまく活用すれば、

  • 「採用してみたらスキルなどが期待外れだった」などの採用ミスマッチを解消する
  • 「やる気がある」などの曖昧な基準での人事評価をやめ、賃金や人員配置を適正化する

といったこともできます。この記事では、職務記述書の作成プロセスとサンプルを紹介します。

2 職務記述書の作成プロセス

1)知る:募集ポジションの職務内容や就業環境についてヒアリングする

職務記述書は、募集ポジションの職務について、業務内容やその難易度、必要なスキルなどの詳細を1つずつ洗い出して作成します。経営者も社内の職務内容は把握していますが、もっと細かいレベルまで落とし込む必要があるので、現場の声を聞きます。

まずは、対象の職務を行っている社員やその上司にヒアリングを行い、募集ポジションの職務内容や就業環境について、経営者自身が誤った認識をしていないか確認します。例えば、次のような質問例が考えられます。

【現職の社員への質問例】

  • 定期業務

 ・重要度の高い業務の内容
 ・発生頻度(1カ月にどのくらい行うか、という表現でOK)

  • 人間関係

 ・リポートライン(タスクの遂行や進捗報告などのコミュニケーションのフロー)
 ・意思決定プロセス(意思決定者は誰か、自分の裁量範囲はどのくらいか)

  • 求められる行動、果たすべき役割
  • 必要だと思われるスキル・知識・資格・経験
  • 業務で難しいこと・厳しいこと(具体的な内容、乗り越えるための技術やコツ)

【上司への質問例】

  • 責任の範囲(どのくらい裁量があるか)
  • 求められる行動、果たすべき役割
  • 必要だと思われるスキル・知識・資格・経験
  • 入社後に苦戦しそうだと予想されること

2)分析する:職務をこなすために必要なスキルなどを掘り下げる

ヒアリングの結果、経営者と現場の認識にズレがなければ、職務をこなすために必要なスキルなど(技能、知識、資格、経験など)を列挙します。会社の求めるスキルなどを全て兼ね備えた求職者にはなかなか出会えないので、次のように優先順位を決めます。

  • スキルなどがない場合、職務を一切行えないのか、一部なら遂行可能なのか
  • 研修で習得させることが可能か、その場合の期間やコストはどの程度か

3 職務記述書のサンプル

次の職務記述書は、アプリ開発を行う会社がシステムエンジニアを募集する場合の例です。

画像1

「職務内容」「必要な知識」などは、現職の社員や上司へのヒアリングの結果などを基に、できるだけ詳細に書き出します。「目標(ノルマなど)」も記載すると、求職者に対してより鮮明に仕事のイメージが伝わります(目標設定が複雑になる場合は、別紙などで提示)。「期待される特性」は、会社のミッションやビジョンにも関係する重要な項目ですので、会社として何を大切にしているかが求職者に伝わるよう、メッセージを工夫しましょう。

また、職務記述書を作成する際は、厚生労働省の「職業能力評価基準」も参考になります。職業能力評価基準とは、

仕事をこなすために必要な「知識」「技術・技能」「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を、業種別、職種・職務別に整理したもの

です。

■厚生労働省「職業能力評価基準の策定業種一覧」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04653.html

以上(2024年1月更新)

pj00605
画像:fizkes-Adobe Stock

「結果を出すチーム」を率いるリーダーが重視すべきたった1つのこと

書いてあること

  • 主な読者:結果を出す良いチームを作りたいが、なかなかうまくいかない管理職
  • 課題:リモートワークでコミュニケーションが減り、これまで以上に難しくなっている
  • 解決策:情報共有を徹底することが、良いチームを作るための基本

1 情報はチームの血液のようなもの

会社ではさまざまなシーンでチーム活動が行われます。上司の皆さんが部下と協力してクライアントに提案することもチーム活動ですが、「提案の目的・内容、クライアントの意向」などの情報が共有されていないとチームワークが乱れ、良い結果につながりません。つまり、

情報はチームの血液であり、スムーズな「情報共有」が重要

です。リモートワークが進んだり、チャット前提のコミュニケーションが普及したりしている現在、チームの情報共有はこれまで以上に重要な課題になりました。

皆さんはチームのリーダーの立場ですが、もし、「チームがうまくいっていない」と感じていたら、この記事を読んでみてください。チーム内において情報共有する上で大切なポイントを紹介していきます。

2 チーミングは最初が肝心!

1)リーダーズインテグレーションとは?

リーダーが最初に行うのが「リーダーズインテグレーション」です。リーダーズインテグレーションとは、

チームが形成された直後に行う“情報共有のためのキックオフミーティング”

です。

チームの進化過程を示した「タックマンモデル」によると、チームは形成してもすぐには機能せず、混乱と統一のフェーズを経験します。形成当初の混乱は、情報格差から生じがちです。まだ情報の伝達ルールが整っていないので、「他のメンバーは知っているのに、私には情報を与えられていない」と、不公平感や臆測が生まれやすいのです。そこで、リーダーとメンバーが最低限の情報を共有するために、リーダーズインテグレーションが必要になるのです。

画像1

2)リーダーズインテグレーションの際の注意点

リーダーズインテグレーションで大切なことは、メンバーが「知っているはず」だという先入観を持たず、素直に自分が知りたいことと、メンバーに知ってほしい情報を共有することです。例えば、「自分はせっかちな性格である」などと伝えます。また、メンバーには、

  • チームについて知っていること、聞きたいこと
  • リーダーについて知っていること、聞きたいこと

を挙げてもらい、それにリーダーが答えることで心理的安全性を確保します。

3)リーダーのコミットメント

リーダーズインテグレーションで、皆さんはメンバーにコミットメントをします。これにより、皆さんがリーダーであることをメンバーに知らしめ、基本的なルールを共有することができます。コミットメントの例は次の通りです。

  • 快適なチーム活動を約束する
  • 常にリーダーとしての威厳を持って活動することを約束する
  • メンバーの業務状況、家庭生活に配慮することを約束する
  • 時間厳守を約束する(無駄に活動を長引かせない)
  • 定期的に活動の進捗を伝えることを約束する
  • 中立な立場で指揮を執ることを約束する
  • 独断しないことを約束する
  • チーム活動を周囲の雑音から守ることを約束する
  • チーム活動の責任はリーダーである自分が負うことを約束する
  • 正当な権利は、リーダーである自分が上司と交渉することを約束する

3 「ジョハリの窓」を意識した情報共有

チームが動き始めてからの情報共有については、「ジョハリの窓」を参考にします。心理学者のジョセフ・ルフトとハリー・インガムが考案したもので、両者の氏名に由来して「ジョハリの窓」と呼ばれます。コミュニケーションにおける気付きのモデルとして有名ですが、チームの情報共有にも応用することができます。

画像2

互いのことは活動を続けるうちに分かってきますが、コミュニケーションをサボると「開放の窓」が広がりません。そこで、

  • リーダーが、チームに関する全般的な情報を積極的に共有して、「隠された窓」を小さくする
  • メンバーから質問や指摘を受けて、「盲目の窓」(問題点)を小さくする

ようにしていきましょう。

以上(2024年1月更新)

pj00332
画像:pixabay

【入社1年目の教科書】「契約」は相手との約束。約束の内容を把握し、しっかり守る

書いてあること

  • 主な読者:「契約」という行為がいまひとつ分かっていない新入社員
  • 課題:契約書は独特の言いまわしが多く、もはや日本語とは思えないレベルだ……
  • 解決策:契約は相手との約束。約束の内容を整理することから始める

来週、訪問するA社。先輩から、事前にA社との契約書を読んでおくように言われたけど、聞き慣れない言葉や言いまわしばかりで難しい……本当に日本語か、コレ? はぁ〜、そもそも「契約」っていう言葉自体がよく分からないし、どこを、どのように読んでおけばいいのやら。せめて読むべきポイントが明らかになっていればいいのだけど……。

1 「契約」は相手との約束

仕事は、相手とさまざまな契約をしながら進めます。契約内容をまとめた契約書は難しい言葉ばかりですが、要するに契約とは相手との約束です。ですから、

自分たちがどのような約束をしているのか、つまり契約内容を知ること

が大事です。新入社員の段階で契約書を読みこなす必要はないので、まずは、

誰が、いつまでに、何を、どのような条件(料金など)で、どうするか

といった項目で整理すると分かりやすくなります。

また、契約には有効期間とペナルティーがあります。有効期間とは、その契約がいつまで有効なのかを示すものです。ペナルティーとは、契約を守らなかった場合の措置で、相手から商品を納品してもらえなかったり、損害賠償を請求されたりする危険性があります。

2 契約は自由に決めることができるけれど……

皆さんが気になるのは、契約内容がどのように決まるかでしょうが、これは当事者の交渉によります。一見、会社にとって不利に感じる内容があっても、別の狙いや事情があるかもしれませんので、先輩に確認してみてください。

別の視点で、少し法律の話に触れておきましょう。契約に関する基本は民法という法律で定められています。その中には「契約自由の原則」というものがあって、当事者は、

  • 契約をするのか否か
  • 誰と契約するのか
  • 契約内容をどうするのか
  • どのような方法で契約するのか

を自由に決めることができます。ただ、何でも自由に決めると、一方が不利になってしまうことがあるので、それを防ぐために「強行規定」が整備されています。強行規定とは、

当事者の意思に関係なく、強制的に適用されるルール

です。分かりやすく説明するために、会社と皆さんとが交わしている労働契約を例にしましょう。仮に、皆さんが「休憩は30分あれば十分です!」と言って、会社もそれに合意したとします。しかし、その合意は認められません。なぜなら、労働基準法という法律に「労働時間が6時間を超え8時間以内の場合は、少なくとも45分の休憩時間を与えること」という強行規定があり、これが優先されるからです。つまり、会社と皆さんとの合意に関係なく、皆さんが8時間働いたら、少なくとも45分の休憩をとらないといけないのです。

なお、契約は、当事者が合意すれば、LINEのメッセージでも、口約束でも成立します。ただし、2つの例外があります。

  1. 保証契約等、一定の契約は、書面(契約書)でなければ成立しない
  2. 要物契約(たとえば、書面によらない消費貸借契約)は、借り手がお金などの対象物を受け取らなければ成立しない

3 契約を一方的に終わらせることはできない

一度、契約を交わしたら、一方的に契約内容を変更したり、解約などをしたりすることはできません。ただし、相手の同意がなくても契約を終わらせることができる例外が3つあります。

1つ目は、契約の無効です。契約内容が公序良俗に反するなどの場合、そもそも契約の効力が認められません。

2つ目は、契約の取消です。未成年者が締結した契約など、契約を締結時に遡って無かったことにすることができます。ただし、取消できる期間があり、その期間内に取消をしないと有効な契約として成立します。

3つ目は、契約の解除です。有効な契約であっても、法律や契約で定める規定によって、当事者の一方が契約関係を終了させるパターンです。クーリング・オフなどが該当します。

以上(2025年1月更新)

pj00346
画像:Mariko Mitsuda

【入社1年目の教科書】ビジネス文書は誠実さの証し。何が必要か、ビジネスの流れで考えてみよう

書いてあること

  • 主な読者:ビジネス文書の種類が多すぎて混乱している新入社員
  • 課題:そもそもビジネス文書がなぜ必要なのか分からない
  • 解決策:ビジネス文書は、「なぜ、必要なのか?」を理解する

取引先との商談は順調で、何だかうまくいきそうだぞ。商談は先輩がやってくれているけど、私もオンラインミーティングの設定とか、議事録の作成とかで貢献している。ところで、今回のビジネスではうちも設備投資が必要で、「稟議(りんぎ)書」を書かないといけないそうだ。初めて聞く書類の名前だけど、何を書けばいいのかな……。

1 (質問)ビジネス文書の「並べ替え」ができますか?

ビジネスでは、さまざまな文書が登場します。ビジネス文書を作成したり、保管したりするのは面倒ですが、

ビジネス文書は、誠実にトラブルなくビジネスを進めるために必要なもの

です。例えば、「請求書」は法律で保管が義務付けられていますし、会社が架空請求などルール違反をしていないことを示します。また、設備投資などの場合は「稟議書」を作成して決裁者の承認を得ます。会社のお金を使う以上、しっかりと関係者の承認を得ないといけないわけで、それを稟議書で行っているのです。

となると、皆さんは代表的なビジネス文書を覚えなければなりません。以下は代表的なビジネス文書ですが、これらをビジネスの流れに沿って並べ替えることができるでしょうか? ビジネス文書が何のために必要なのかを意識していれば、すぐに並べ替えられるようになります(答えは最終章にあります)。

納品書、提案書、検収書、注文書(発注書)、支払通知書、注文請書(受注書)、領収書、請求書、見積書、契約書

2 何のために必要なのかを考える

ビジネス文書が面倒に感じるのは、フォーマットが分かりにくく、独特の言い回しがあるからでしょう。また、稟議書などは、「毎月、◯日が締め切りで、それまでに提出しなければ来月にならないと承認されない」といった不自由さもあります。

ただ、フォーマットや表現は慣れの問題ですし、スケジュールも先輩に質問すればよいだけです。それよりも皆さんは、

そのビジネス文書は、何のために作成されるのか?

を把握するようにしましょう。ビジネス文書がなぜ必要なのかが理解できれば、訳も分からず作成することはなくなります。一般的なビジネス文書は次の通りです。会社によって名称などは異なりますが、まずは「何のために」をざっくりと把握しておけば十分です。

画像1

3 紙からデータへ、フォーマットから平文へ

今どきは、ビジネスを支援するさまざまなツールが登場していて、契約書や領収書などのビジネス文書もデータでやりとりされるようになってきています。紙の場合と勝手が違うところもあるので、先輩に教えてもらいながら、きちんとツールを使えるようになりましょう。

また、リモートワークをしている会社の場合や注文金額が小さい場合などは、正式なフォーマットではなくメールの平文で発注をもらい、その返信で受注の意思表示をすることもあります。後々トラブルにならないように、形の残る方法でやりとりすることが不可欠です。

4 (答え)ビジネスの流れと必要なビジネス文書

冒頭で示した質問の答えは次の通りです。もうお分かりですよね。

画像2

以上(2025年1月更新)

pj00508
画像:Mariko Mitsuda

都市部の優秀な“同志”を割安で採用〜「地方副業」マッチングサイト活用のススメ

書いてあること

  • 主な読者:業務改善や販路拡大などの課題を抱えている地方企業の経営者
  • 課題:優秀な人材を採用して知見を得たいが、どのような方法があるか分からない
  • 解決策:地方副業のマッチングサイトを用いて、都市部の人材を副業人材として招く。求める人物像を固定せず、企業の課題を掲載すれば、応募者が解決策を提案してくれる

1 地元の正社員採用に限界を感じたら、都市部の副業人材を!

  • これまで、地元に住んでいる人を正社員として採用してきたけれども、それだけでは自社が抱える課題を解決できない
  • 販路拡大や自社PRなど新たな取り組みを始めたいが、社内に知見がなく、専門的な人材を採用するにも高額な人件費をかけることができない

そんな悩みを抱える地方企業の経営者にお勧めするのが、

都市部の優秀な人材に、原則、オンライン勤務という条件で業務委託する「地方副業」マッチングサイトの活用

です。都市部で働く年収1000万円クラスの優秀な人材も、月額数万円程度でサポートしてくれる、オトクな仕組みです。しかも、今は応募者の数が圧倒的に多い「買い手市場」です。1件の募集につき15~18人の応募があり、何人と面談しても追加料金がかからないのが一般的となっています。もちろん、採用してみてマッチしないと感じたら契約を打ち切ることもできます。

ただし、応募者に“同志”として自社の成長に貢献してもらうためには、自社の考えや活動に共感してもらい、働きやすい環境を整えるなど、幾つかの注意点もあります。

この記事では、地方副業のマッチングサイトを運営する4社・団体の担当者に聞いた、地方企業が都市部の優秀な副業人材を募集・採用する際のポイントや、副業人材の動向などを紹介します。また、副業人材を活用した地方企業の成功事例も掲載しています。

自社に新しい風を吹き込み、成長を軌道に乗せるための起爆剤としての副業人材の活用を、ぜひ、ご検討ください。

取材を受けてもらったマッチングサイトを運営する会社・団体は、以下の通りです(取材の時期が早かった順に掲載)。

YOSOMON!:NPO法人ETIC.(エティック)(東京都渋谷区)が運営

■YOSOMON!■
https://yosomon.jp/

Skill Shift:みらいワークス(東京都港区)が運営

■Skill Shift■
https://www.skill-shift.com/

HiPro Direct for Local(旧:Loino):パーソルキャリア(東京都千代田区)が運営

■HiPro Direct for Local■
https://talent.direct.hipro-job.jp/talent/for-local/top/?utm_source=Loino_close&utm_medium=referral&utm_campaign=Loino_close_001

サンカク:リクルート(東京都千代田区)が運営

■サンカク■
https://sankak.jp/

2 副業人材の採用は双方にwin-winなシステム

地方副業は、企業側、副業人材側の双方にメリットがあります。地方副業のマッチングサイト運営者に聞いた、企業側、副業人材側のそれぞれがマッチングサイトを利用する理由としては、次のようなものがあります。

1)企業側がマッチングサイトを利用する理由

1.正社員よりも低価格、短期間で優秀な副業人材に仕事を依頼できる

副業人材の応募者の平均年齢は30~40代が7割以上で、正社員が6割程度、フリーランスが4割程度といいます。正社員の人が自身のスキルを試すために副業をはじめ、慣れてきたらフリーランスに転身するケースもあるそうです(Skill Shift)。特に、30代後半が年齢のボリュームゾーンとなっており、現場で働きつつ、マネジメント経験もある人材が中心となっているといいます(サンカク)。本業での年収は600万円超が7割近くを占めており、2割は1000万円超と、本業である程度の実績があり、十分な稼ぎのある人が応募しているそうです(Loino)。こうした優秀な人材にもかかわらず、副業人材に支払う月額の報酬は、Skill Shiftでは3万~4万円と、正社員よりも割安で仕事を依頼することが可能です。

マッチングサイトには、採用の有無にかかわらず案件の掲載費用が発生するものもあれば、案件の掲載や副業人材との面談までは無償で、副業人材を採用した段階で費用が発生する成果報酬型のものもあります。例えば、サンカクの場合、副業人材とマッチングした場合に費用が発生しますが、案件を募集する文面の作成や応募者との座談会、面談に関しては、無償でサポートを受けることができます。

採用期間も「原則1カ月単位」(YOSOMON!)、「半年以上のプロジェクト」(サンカク)などで、募集した案件の事業が終了したり、マッチング後に事業がうまく進まなかったりした場合、速やかに契約を解除できます。

後述しますが、応募者の多くは、報酬目当てではなく、募集企業への共感や、地方への貢献、自らのスキルアップなど、高い“志”を持っているので、共に成長できる“同志”を見つけられる可能性が高いといえるでしょう。

2.買い手市場となっているため、人材を選択する幅が広い

全てのマッチングサイトの担当者が口をそろえて話すのが、「今は買い手市場」ということです。サイトや案件によっても異なりますが、1件の募集に対して、15~18人程度が応募してくるといいます。また、応募者は企業の思いに共感して、企業に貢献できる自分のスキルを理解した上で応募するため、「質」が高いそうです。

どのマッチングサイトも、自社都合で募集を取り下げるケースなどを除き、ほとんどの場合は人材を採用できているとのことです。中には、副業人材との座談会や面談の結果、副業人材から良いアイデアがたくさん出たため人数を絞りきれず、当初の予定よりも多く副業人材を採用するケースもあるそうです。

もし、人選が難しい場合は、募集内容に適した能力や意欲の高い人材を、マッチングサイトの担当者が選んで薦めてくれることもあります。

3.面談だけでも優れた知見やアイデアを得ることができる

一般的に、マッチングサイトは何人の応募者と面談しても追加料金がかからないので、時間さえ都合がつけば、応募者全員とオンラインで面談することが可能です。「それぞれの募集案件で、少なくとも5人の副業人材を集めて座談会を開いているケースもあります」(サンカク)。

また、面談では応募者側が募集内容に応じた提案をしてくれるため、提案を聞くだけでも参考になるとして、「応募者全員と面談をした旅館業者もいる」そうです(Skill Shift)。

4.自社が抱えている課題を明確にできる

副業人材の採用活動を通して、経営者が考えている自社の最優先課題に潜んでいる本質的な課題が見つかったり、新たな課題を解決するための方法が分かったりすることも少なくないようです。

企業が副業人材を募集しようとする段階では、「『DX化を進めたい、販路を拡大したい』など、思いはあるものの、必要な機能や人材などの明確な要件定義ができていないことが多い」といいます(サンカク)。このため、マッチングサイト運営者のサポートや応募者からの提案によって、本質的な課題や、課題解決のために必要な人物像や解決策が導き出されるケースが多いようです。

2)副業人材側がマッチングサイトを利用する理由

1.企業への共感

マッチングサイト運営者によると、副業を志望する理由として、その企業への共感や、その企業を応援したいという気持ちで応募する人が多く、「報酬が第一」の人はとても少ないといいます。

中には、「副業先の企業にそのまま転職したケースもある」そうです(Skill Shift)。

2.地域貢献、地方創生

自分の出身地や住んだことがある場所、旅行で訪れて気に入った地域など、思い入れのある地域の企業に、移住・転職を伴わず貢献できることを魅力に感じて応募する人も少なくありません。

「将来的に地方への移住や出身地に戻ることを検討しており、その地域を知る足掛かりとして副業を始める人や、地方の人とのつながりを楽しんでいる人もいる」(Loino)、「もともと地方の出身者で、地元とのつながりを持ちたい、都市部で得たスキルや経験を還元したいという思いを持った人もいる」(サンカク)そうです。

3.キャリアアップ

正社員として勤務している企業では経験できないような、経営企画などの業務を副業として行うことで、自らのキャリアアップにつなげることを目的としている人もいるそうです。

「副業人材にとっては、経営陣と直接仕事のやり取りができ、自分のアイデアで会社が変わっていく様子を目の前で実感できることがメリットになる」といいます(サンカク)。

中には、「マネジメントになった人事部門の部長クラスの人が、現場の感覚を忘れないために応募するケースもある」そうです(Loino)。

4.日常では得られない体験

日常の中では得られない体験を求めて、地方副業に応募するケースもあります。

例えば、Skill Shiftでは、ツーリズムと絡めた副業体験として、福島県いわき市で2泊3日のクラフトビール開発ツアーと、参加者によるクラフトビール発展のためのアイデアのプレゼン大会を開催しました。

また、スポーツによるまちおこしとして、アメフト社会人リーグ・Xリーグのクラブチームの広報・PRの副業案件もあります。他の副業案件と比較して謝礼が低額となる代わりに、オフィシャルポロシャツの贈呈や練習・試合観戦の特典があり、通常の副業にはない珍しい体験といえます。

他にも、漁業・水産業者向けに特化した地方副業のマッチングサイトである「GYOSOMON!」(ギョソモン!)では、副業人材への報酬は金銭ではなく「魚」となっています。このサイトはYOSOMON!が共同で運営しており、「応募者は、副業の報酬として、ご近所などに配らないといけないほどの大量の魚が送られてくるという、日常ではできない体験に魅力を感じる人が多い」といいます。

3 副業人材を募集・採用する際の勘所

1)自社のファンになってもらう

副業人材に共感してもらうためには、自社のファンになってもらえるPRを行うことが重要です。例えばLoinoでは、募集の文面を作る際に、「企業が目指している姿や、社内の人が気付いていないような、企業の魅力を掲載するようにしている」といいます。また、副業人材との面談でも、企業の実現したいことや、企業ならではの魅力を話すとよいそうです。

2)募集する業務を絞るよりも課題を示す

副業人材でマッチングに成功する秘訣は、「業務のアウトソースとは異なる」ことを意識し、「経営課題を一緒に考えてくれるパートナーというイメージで採用すべき」といいます(Skill Shift)。

募集に際しても、「これをしてくださいと細かく決めるより、今、企業がどんなことに取り組んでいて、どんな困り事があるのかを掲載して、協力、支援をしてほしいというニュアンスの文面のほうがよい」そうです(YOSOMON!)。

3)経歴や肩書だけで選ばない

マッチングサイト運営者の多くは、採用に関しては、経歴や肩書にとらわれず、熱意や提案内容を重視すべきといいます。

「経歴や条件面よりも、企業や地域への思いがどれだけあるか、企業の課題に対してどんなアイデアで解決できるかという視点で選考をしている企業が、副業人材とうまくマッチする」(Skill Shift)、「副業人材側も企業の募集案件をきちんと読み込んだ上で応募をしているので、経歴や条件面よりも、面談を通じての相性・フィーリングで採用する人材を判断するほうがマッチする」(YOSOMON!)とのことです。

また、「上から目線」の応募者は避け、“同志”としてふさわしい人材を選んだほうがよいようです。例えば、青森県のある企業では、「面談をした応募者の『一緒に汗をかきましょう』という言葉を聞いて採用を決めた」そうです(サンカク)。

4)既存の社員を巻き込む

副業人材の働き方としては、経営者のブレーンのような形で相談相手になる場合と、既存の社員と協業する場合があります。

既存の社員と協業する場合、社員が副業人材の存在に反発して、マッチングがうまくいかないケースもあるようです。

副業人材を採用する場合、ノウハウを社員に落とし込むことも大切なので、副業人材との面談は、経営者だけでなく、現場の社員も参加できるとよいでしょう。事前に社員のコンセンサスを得ておき、「社長が思いつきで変なことを始めた」と思われない状態からスタートすべきといえます。

5)副業人材の稼働時間を考慮する

副業人材の場合、本業以外の時間帯で稼働するため、自社の就業時間外や週末にやり取りをすることがあります。オンラインでも円滑にやり取りするために、チャットツールなどの用意は必須になります。副業案件によって異なりますが、週1回~月1回の頻度でオンライン面談を開き、それ以外はチャットツールを活用して、副業人材とやり取りを進めているケースが多いといいます。

課題だけ明示する形であれば、副業人材のほうで必要な作業を、自分でスケジュールを立ててやってくれるようになります。

6)時には顔合わせも必要

副業案件の多くはウェブマーケティング、ECサイトの強化、事業戦略の立案など、リモートワークでも進められるものですが、お互いの理解を深めるためにも顔合わせは必要です。

企業によっては、プロジェクトを始める際に副業人材を企業側の費用負担で現地に招き、顔合わせをして親睦を図ったり、設備や工場を見学してもらったりして、自社への理解を深めてもらう取り組みをしているところがあります。副業人材の側から、現地で顔を合わせることを希望するケースも少なくないようです。

4 副業人材の成功事例

1)副業人材がファシリテーターになって社員のアイデアを募集(Loino)

来客数増加を課題にしていた、地域に数店舗を展開するスーパーマーケットが採用した副業人材は、既存の社員からのアイデアを募集することを提案しました。副業人材がファシリテーターになって社員を集めた会議を開催したところ、社員からさまざまなアイデアが出され、実際に採用したアイデアも生まれたそうです。

会議を行うことによって、社内コミュニケーションの活性化にもつながったといいます。

2)ECサイトの全面改修などで売り上げが前年度の17倍に(サンカク)

石川県のある和菓子製造販売会社では、ECサイトのテコ入れが課題となっていました。当初、経営者はSNSの活用によるテコ入れを想定して副業人材を募集しましたが、応募者を集めた座談会では、応募者側からサイトの改修などさまざまな提案が出て、応募者同士でも提案のブラッシュアップが行われるなど、盛り上がりを見せたといいます。

そこで経営者は座談会に参加した応募者5人を、それぞれ担当分野を決めた上で採用し、社内の若手社員数人とともにプロジェクトチームを結成。ECサイトの全面的な改修だけでなく、デジタルマーケティング戦略の上流から再設計し、企業のウェブページとECサイトを含めて最適化に取り組んだことで、ECサイトによる売り上げは前年度の17倍に達したそうです。

劇的な成果を目の当たりにして、既存の社員のモチベーション向上や育成にもつながり、新たなスキルを身に付けようと、自ら勉強を始める社員も現れるようになったといいます。

3)蓄光グラスの販売強化で副業人材の本業にも貢献(Skill Shift)

岐阜県でサンドブラスト(砂などの研磨剤を吹き付ける加工方法)や蓄光技術を生かした「月光グラス」の販売、OEM生産を手掛ける会社では、OEMに頼らない新商品の開発や自社の認知度向上を目的に、副業人材を募集しました。

募集の結果、キャンプに関心のある方が副業人材としてマッチングし、蓄光して暗い場所で光る月光グラスがキャンプで映えるのではないかといった点や、夜の時間を豊かにできるのではという観点から、新商品の開発やPRを一緒に進めたといいます。

また、副業人材が本業で勤務している商業施設でも、イベントを開催して月光グラスを売り込むことができたため、本業にも貢献ができた事例となります。

5 (参考)副業・兼業に関するデータ

地方副業の背景や、リクルート「兼業・副業に関する動向調査(2022)」から、ふるさと副業(回答者自身の住まいとは異なる地域での兼業・副業)への関心について紹介します。

1)地方副業が活性化した背景

地方副業が活性化した背景には、2018年1月に厚生労働省によるモデル就業規則の改定を受け、さまざまな企業が副業・兼業の解禁を打ち出したこと、2019年6月に政府が「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」で、副業・兼業も含めた多様な形態を通じて、地域企業に関わる「関係人口」(移住や観光以外の地域と多様に関わる人)の創出・拡大を掲げたことなどが挙げられます。さらに、2020年以降のコロナ禍でリモートワークが普及し、地方移住や副業・兼業、ワーク・ライフ・バランスの関心が高まったことも背景にあります。

実際に、Skill Shiftでは、2017年12月のサービス開始以来、副業・兼業の解禁やコロナ禍などのターニングポイントをきっかけに、副業人材の登録者数が大幅に増えています。

画像1

2)「ふるさと副業」への興味

リクルート「兼業・副業に関する動向調査(2022)」によると、ふるさと副業に関しては、約半数の回答者が「非常に興味がある」「興味がある」と回答しています。

画像2

3)「ふるさと副業」に興味がある理由

「自分に関わりのある地域に貢献したいから」がほぼ半数を占め、「地域問わず、地方創生に興味があるから」と「自分の経験や能力を地方企業で活かしたいから」が続きます。

画像3

4)「ふるさと副業」で希望する働き方

テレワーク・現地訪問のいずれかで働きたい割合の合計と、両方を併用して働きたい割合がほぼ同数となっています。

画像4

以上(2024年1月更新)

pj00656
画像:tiquitaca-Adobe Stock

中小企業の逆張り採用法!〜ほどほどの中年採用に勝機あり

書いてあること

  • 主な読者:若手を採用したいが、計画通りに進まずに困っている経営者
  • 課題:若手は売り手市場だし、大企業志向も強く、なかなか自社に振り向いてくれない
  • 解決策:ほどほどの中年に目を向けてみる。今はまだ、採用しやすい存在となっている

1 【ご提案】中年の採用をご検討ください

「人(社員)」に関することは、経営者にとって常に頭の痛い問題です。これからますます深刻になるのは採用ですが、御社は計画通りに採用できていますか?

特に、若手を狙っている中小企業は苦戦を余儀なくされているかもしれません。若手は、いろいろな意味で企業の活力になります。しかし、現在は売り手市場ですし、大企業志向が強い若手も多いです。もし、御社が若手の採用に苦戦しているなら、次のことを改めて考えてみてほしいのです。

  • 今、若手が入ってきたら、きちんと教育するリソースと時間はありますか?
  • その若手が早期に離職しても、また若手を採用しますか?

中小企業には即戦力が必要です。それも長く定着してもらわないと困ります。そこで、これを実現する逆張り採用のご提案です。

採用対象を若手から40代の中年、しかもピカピカではなく、「ほどほど」の人材に広げてみてはいかがでしょうか?

今は、ほどほどの中年を採用するチャンスです。この記事では、人材不足を勝ち抜くための中小企業の逆張り採用として、「40代の中年採用」をご提案します。

2 将来の伸び代ではなく、「今」をつなぐ人材

1)なぜ、ほどほどの中年なのか?

よく知られていることですが、若手の採用には早期離職のリスクがあります。大卒の新入社員の場合、入社後3年以内に離職する割合はおおむね30%で、企業規模が小さくなるほど悪化します。若手を採用しても、戦力になる3年後には3人に1人以上が辞めていきます。

また、人材紹介会社や大企業の採用担当者によると、ハイエンドの中年は大企業やスタートアップなどが狙っています。よほど奮発しなければ中小企業が獲得するのは困難です。それに、獲得できたとしても、持て余す、既存の社員とうまくいかないといった懸念があります。

そこで、注目したいのがほどほどの中年です。ほどほどとは、

自社の本業について経験があり、即戦力として働けるレベル

です。基本的なビジネスマナーを習得していることを前提に、本業の能力は普通でよいです。自社のやり方を教えれば、それに合わせられるくらいの器用さがあれば大丈夫です。この要件から分かるように、

このほどほどの中年には、組織変革などを求めるわけではなく、既存の事業で足りない部分を補う人材

として働いてもらいます。もちろん、良い意味で化けて幹部に育てばいいですが、それよりも、最低限の教育で「今」の戦力になってもらうことが目的です。

2)狙い目の中年は?

ポテンシャル採用の若手と違い、中年のスキルはある程度分かります。それよりも大切なのは、転職の理由です。敬遠したいのは、「漠然と現状に不満を持ち、青い鳥を探している人材」です。転職のハードルが下がっている今、若手ほどではないにせよ中年も転職しますが、青い鳥を探している中年は、転職を「軽く」考えているかもしれません。

そうではなく、狙いたいのは、

  • 今の職場に不満があり、別の場所でもう一花咲かせようとしている中年
  • 「最後の転職」をし、転職先で勤め上げたいと考えている中年
  • フリーランスをやめ、企業に勤めて安定を求めたい中年

です。これが「最後のチャンス」「安定した生活を!」と考えているので、それなりの覚悟があります。また、人材紹介会社は「特別なスキルのない40代はなかなか面接にも進めないので、このチャンスを活かすように」と、中年にハッパを掛けているので、本気で向かってきます。

3 面接では淡々と能力を見極める

1)武勇伝は5~6掛けで判断する

中年はそれなりのキャリアを積んできているので、面接では豊富な実績を語るでしょう。上司や外部とやり合った武勇伝を披露してくることもあります。

しかし、こうした話は5~6掛けで聞きましょう。実績は、あくまでも前職(現職)のやり方に基づくもので、自社のやり方やレベルにマッチしているかは分かりません。また、武勇伝についても、本人が言っているだけで、実際のところは分かりません。むしろ、「上司とよくやり合っていた。私は誰にでも異見が言える」と強調してくるのは、パフォーマンスの可能性もあります。

2)ビジネスの基礎知識と基礎体力はあるか?

ほどほどの中年は、通常、礼儀、礼節は問題ありません。また、前述した通り、その時点の本業のスキルもある程度分かります。加えて見極めたいのが、

ビジネスの基本知識と基礎体力

です。例えば、40代の人材で「新聞の1面に載るようなニュースを知らない」「財務諸表が読めない」といったレベルだったらどうでしょうか。残念ながら、こうした中年は意外と多いです。また、戦力になるまで努力を続ける体力も大事です。採用してみなければ分からないことですが、採用活動の中で難しめの課題を出すなどすると、ある程度は見極められます。

3)こんな質問をしてきたら危険信号

例えば、面接の際に、

定年延長制度はありますか?

などと聞いてくることがあります。こちらとしては、

お、当社に骨を埋める覚悟なのか

と高い評価をしてしまいがちですが、必ずしもそうではなく、むしろ警戒したほうがよいです。なぜなら、その中年は単に自身が利用できる制度を確認し、その年齢に達したときの身のふりを考えているだけのことが多いからです。

前述したような覚悟のある中年であれば、これまでの経験を活かす制度があるのか、あるいはどのように活かせる可能性があるのかを聞いてくるはずです。いきなり定年延長制度について聞いてくるようでは難しいのです。

4 中年はマネジメントしやすい? それとも難しい?

1)「昭和」のノリが合う?

入社した人材をどのようにマネジメントしていくかは重要なポイントですが、今の中年はノリが「昭和」なので、年配の経営者や上司とある意味で価値観が同じです。そのため、良しあしは別ですが、「根性でとにかくやる」というガッツがあります。特に、不退転の覚悟で転職してきた場合、ちょっとやそっとのことではくじけません。

また、中年は厳しく教育されてきた世代ともいえるため、誤解を恐れずに言えば、厳しめに叱責してもハラスメントを訴えてくることは少ないかもしれません。別の見方をすれば、本気で向き合い、ぶつかれる相手だということです。

2)中年の問題

一方、中年は自分の考えや、やり方をなかなか変えられません。何か新しいことを覚えるのにも時間がかかります。「はい!」と返事をして指示に従いますが、自分の考えと指示を融合させることができないので、指示とは違ったアウトプットをすることがよくあります。このように、若手とは違う理由で指示通りにはいかないことがあります。

3)フリーランスには要注意

長年フリーランスとして働いてきた中年は、自分のワークスタイルを持っており、放っておいても商いをつくれる点で頼もしい存在です。しかし、組織の中で働いた経験が乏しいと、組織の一員としての意識が希薄です。それまでの自分のキャリアや人脈を守るために、組織を悪く言ってしまうこともあります。外部の人と接するポジションについている場合は、注意したほうがいいでしょう。

5 いざというときに備えておく

ここで、少し厳しい話をします。中年採用は長期育成が前提の若手採用とは全く違い、最初からやってほしい業務が明確です。その分、ミスマッチが生じたときの問題も分かりやすく、将来の伸び代が期待しにくいので、早期の対応が必要になります。

人材紹介会社は、「中年は採用コストが高いため、辞めないように配慮しながら戦力化すべき」と指摘しますが、一概にそうとも言い切れません。確かに、採用コストはかかりますが、自社の業務や考え方にマッチしない中年は、企業にとって長期の負担になります。厳しい言い方ですが、

伸び代や変化が期待できない中年とミスマッチが生じたなら、目先の費用を惜しがるよりも、長期的な損失を回避する

ほうが得策かもしれません。

いずれにしても、万一を見据えた備えは必要です。中年の採用はジョブ型に近いため、採用時、ジョブディスクリプションを作成し、企業が中年に期待していることを明確に伝えます。ジョブディスクリプションには目標も設定し、その達成状況を定期的に確認するようにします。もし、目標の未達が続いたり、当初の想定をかなり下回る実力しかなかったりすれば、その後の方向について話し合うことになります。

6 長期的な人材不足に備える

労働力不足の日本は、女性・高齢者・障がい者・外国人労働者の積極活用を打ち出しています。あるいは、DXによる効率化で、より少ない人材で業務を回せる工夫が推奨されています。こうした流れに乗ることも重要ですが、企業風土的に多様な人材を受け入れにくいこともありますし、DXが進めにくいこともあります。

そのような場合は、特に、ほどほどの中年の採用は検討に値するでしょう。新しさや刺激はないかもしれませんが、

きちんと計算できる安定した戦力になりやすい

のが、この記事で紹介してきたほどほどの中年です。

それに、ほどほどの中年は、今はまだ採用しやすいですが、今後は分かりません。人材不足が深刻化する中で、この記事に書いてあることに気付く経営者が増えていけば、当然、ほどほどの中年の採用も難しくなっていくかもしれないのです。

以上(2024年1月更新)

pj00657
画像:Mariko Mitsuda

社員の「やる気」は完璧を求めず、割り切って損切りすることも必要な理由

書いてあること

  • 主な読者:社員のやる気を高めて、活気ある組織を作りたい経営者
  • 課題:社員のやる気は流動的で、不満に感じていることのレベルも本当にさまざまである
  • 解決策:全社員のやる気が同時期に高まることはない。優秀な社員のケアを優先する

1 社員の「やる気」は完璧を求めない

経営者にとって、社員の「やる気」は重要であると同時に厄介な問題です。経営者と社員とでは仕事に向き合う姿勢が違うので、経営者の思いを全力で社員にぶつけても、それを受け止められる社員は一部に限られます。経営者としては、同じ熱量で語り、ビジネスを進めていきたいのですが、これは高望みというものです。

となると、別のアプローチで社員のやる気を高める必要があります。具体的な方法はさまざまですが、根本にあるのは、

社員の不満足を解消し、自己実現をサポートすること

であり、これはハーズバーグの「2要因理論」や、マズローの「欲求段階説」といった理論でも裏付けられています。

もう一つ大切なことは、全社員のやる気が同時期に高まることはないという事実です。やる気はとても気まぐれで、「ある時、ある社員のやる気は高いが、別の社員は低い」というのが常です。そのため、

経営者は社員の「やる気」に完璧を求めず、高くあるべき社員が高ければいい

という、ある意味で損切りの感覚を持つことが大切です。

2 不満足の解消が不可欠だが……

1)ハーズバーグの「2要因理論」とマズローの「欲求段階説」

社員のやる気を考える際、よく紹介されるのがハーズバーグの「2要因理論」とマズローの「欲求段階説」という2つの理論です。これらの理論を紐解くと、不満足を解消しなければ、社員のやる気は高まらないことが分かります。

まず、ハーズバーグの2要因理論では、

  • 衛生要因:満たされないと不満になるが、満たされても満足になりにくい
  • 動機付け要因:満たされると満足になるが、満たされなくても不満になりにくい

に注目します。

画像1

次にマズローの欲求段階説では、人の欲求として5つを段階的に示していますが、これらは、

  • 低次の欲求:生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求
  • 高次の欲求:尊厳の欲求、自己実現の欲求

といったように分かれます。

画像2

2)2つの理論に共通する「不満足の排除」

2つの理論について確認しておきたい重要なポイントは、

2要因理論では衛生要因が満たされなければ、満足の要因にアプローチしてもあまり意味がなく、欲求段階説では低次の欲求が満たされなければ、高次の欲求が刺激されない

ということです。

ところで、自分で選んだ組織に所属しているのだから、衛生要因や低次の欲求は、ある程度、満たされているはずです。にもかかわらず、このレベルさえ満たされていない社員がいる場合、その社員のやる気を高めたいなら、人間関係や職務を根本的に変える必要があるでしょう。

  • 配置転換をして、現在の人間関係から解放させる
  • 職務変更をして、適正の再発見をする

一方、これを言っては元も子もありませんが、

  • どんなに素晴らしい会社にも、一定の「アンチ」がいる
  • 衛生要因や低次の欲求であっても、完璧に満たされている社員は少ない
  • 衛生要因や低次の欲求が満たされていない社員は、会社を大事に考えていない
  • 社員自身も、現状を変えるための努力を何もしていない可能性がある

ことも事実です。となると、衛生要因や低次の欲求さえ全く満たされていない社員は静観するというのも、厳しいようですが、一つの選択肢です。

ちなみに、社員のやる気を高めるためにコミュニケーションを良くし、発言の機会を与えることが大事といわれます。しかし、衛生要因や低次の欲求さえ全く満たされていない社員については、よほどうまく働きかけないと発言せず、沈黙するだけに終わるでしょう。

3 自己実現は1対1の関係から

満足要因や高次の欲求が満たされていない社員の扱いは、前述した衛生要因や低次の欲求さえ全く満たされていない社員とは違います。この社員は、

  • 実力ややる気があるのに、それを発揮できる機会に恵まれていない
  • 本来やるべきでない仕事に忙殺され、結果を出せていない

といった状況に陥っている可能性があります。最悪の場合、

自分の実力を活かすチャンスがもらえる会社に転職しよう

ということになってしまい、会社として大きな損失です。

そうした社員は既に社内で一定の地位にあると思います。昔ながらの考え方なら、「自分を引き上げてくれた会社で定年まで勤める」ということですが、現在の状況は違っており、簡単に転職してしまいます。

こうした社員を引き留めるのは容易ではありません。優秀な社員ほど刺激を求め、新しい状況に身を置きたがるので、経営者は社員に刺激を与え続けなければなりません。具体的には、

経営者が1対1で本気で話を聞き、チャンスを与える

ようにします。その際、「社員の意見を聞くことが大事」との指摘がありますが、社員としては優秀だが、経営者から見れば不十分というレベルなら、その必要もないかもしれません。それよりもむしろ、足りないと思える点を丁寧に伝え、それを克服する手伝いをしてあげるのがよいでしょう。

いずれにしても、自己実現を目指すようなレベルの高い社員のやる気を高めたければ、個別のアプローチが必要であり、しかもその適任者は経営者となります。先ほどとは全くトーンが異なり、

このレベルの社員のやる気が低い責任の多くは経営者にある

と考え、本気で取り組むべきことです。

以上(2024年1月更新)

pj00242
画像:eamesBot-shutterstock

【文例付き】2024年4月1日から 労働条件通知書はどう変わる?

書いてあること

  • 主な読者:労働条件をめぐるトラブルを避けたい経営者、人事労務担当者
  • 課題:2024年4月1日以降発行の労働条件通知書に、どう記載すればよいのか分からない
  • 解決策:就業場所、業務内容は「変更範囲」も明示する。パート等の契約更新は「上限」を明らかにし、「無期転換の申込機会」についても記載する

1 労働条件通知書などで明示する内容が変わります

会社は社員(正社員、パート等)と労働契約を締結する際、労働条件を「労働条件通知書」などで明示しなければなりません。明示すべき労働条件は労働基準法などで決まっているのですが、2024年4月1日からは、明示すべき労働条件が、図表1の赤字部分の通り変わります。

画像1

2024年4月1日以降に労働契約を締結する場合、会社は、

  • 就業場所、業務内容の「変更範囲」
  • 契約更新の「更新上限」
  • 無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」

についても社員に明示しなければならず、違反したら「30万円以下の罰金」の対象となります。以降で、詳細を確認していきましょう。

なお、現在雇用している社員については、労働条件通知書を交付し直す必要は原則ありません。ただし、契約期間の定めがあるパート等(以下「有期パート等」)については、契約更新の都度、労働条件を明示する必要があるので、2024年4月1日以降に契約を更新する場合、上記の項目を追加した労働条件通知書を交付しなければなりません。

2 就業場所、業務内容は「変更範囲」も明示

1)改正のポイント

就業場所、業務内容については、現行のルールでは「契約締結時」の条件だけを明示すればよいのですが、2024年4月1日から「変更範囲」も明示しなければなりません。

変更範囲といっても、想定される就業場所や業務内容を1つずつ記載する必要はなく、

  • 会社の定める場所
  • 会社の指示する業務

といった書き方もできます。ただ、記載内容があまりに漠然としているといけません。特に就業場所や業務内容がある程度限定される「限定正社員」の場合は、

  • 就業場所の一覧を別紙で交付する(地図や組織図など)
  • 業務内容をおおまかなカテゴリーで分けつつ、簡単な概要を記載する

とよいでしょう。

なお、「労働条件通知書に記載漏れがあった」「他の社員の業務を代替してもらう必要が出てきた」「傷病や育児・介護などで予定通りに働けなくなった」といった事情で、労働条件通知書に記載していない条件での勤務を社員にさせたい場合、

社員に変更理由を説明して同意を得た上で、新しい労働条件通知書を交付

する必要があります。

2)労働条件通知書の記載例

2024年4月1日以降の労働条件通知書の記載例は次の通りです。

画像2

なお、記載例では触れていませんが、社員にリモートワークを命じる可能性がある場合は就業場所に「社員の自宅など」を加えておく、在籍出向をさせる可能性がある場合は業務内容に「出向先の命じる業務」を加えておくようにします。

3 契約更新の「更新上限」の明示

1)改正のポイント

会社は有期パート等を雇用する場合、契約締結時に「契約更新の基準」を明示する義務があります。現行のルールでは「更新の有無」「更新の判断基準」「その他留意すべき事項」を明示すれば足りますが、2024年4月1日からは、これに加えて

更新上限の有無とその内容(通算契約期間または更新回数について)

を明示する必要があります。

通算契約期間は「契約更新を繰り返した場合、通算で最大何年働けるか」、更新回数は「最大何回まで契約を更新できるか」という意味です。労働条件通知書には、これらの上限があるかないか、上限がある場合はその内容(◯年、◯回など)を記載する必要があります。

なお、更新上限の定めがない労働契約を締結していたが、次の契約から上限を「新設」する場合、あるいは更新上限を次の契約から「短縮」する場合、

その理由をパート等にあらかじめ(新設・短縮をする前のタイミングで)説明

しなければなりません。

2)労働条件通知書の記載例

2024年4月1日以降の労働条件通知書の記載例は次の通りです。

画像3

2024年4月1日以降に新たに設ける「更新上限の有無」の記載欄には、通算契約期間または更新回数に上限があるかないか、上限がある場合は具体的な内容を記載します。ちなみに、更新回数は、会社と有期パート等との認識さえ一致していれば、「最初の契約から数えた回数」でも「残りの更新回数」でも構いません。

なお、通算契約期間の上限を定める場合、「無期転換」に注意しましょう。無期転換とは、

有期パート等の通算契約期間(同じ会社でのもの)が5年を超えた場合、その有期パート等が会社に申し込むことで、契約期間の定めのない「無期契約」に転換できるという制度

です。会社は無期転換の申込みを原則拒否できないので、そもそも有期パート等の長期雇用を想定していない場合、通算契約期間の上限は5年未満に設定しておいたほうが無難です。

また、記載内容ではありませんが、実際に有期パート等に労働条件通知書を交付する際は、

「必ず更新上限まで契約を更新するわけではない」旨を確実に伝える

ようにしましょう。契約を更新しない場合に有期パート等とトラブルになるのを防ぐためです。

4 無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」の明示

1)改正のポイント

前述した通り、有期パート等は通算契約期間が5年を超えると、会社に無期転換の申込みをする権利(無期転換申込権)を得ます。現行のルールでは無期転換について明示する義務は特にないのですが、2024年4月1日からは、無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングごとに、有期パート等に無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」を明示する必要があります。

  • 申込機会:無期転換の申込みができること
  • 転換後の労働条件:労働条件の変更の有無、転換後の労働条件の一覧または変更箇所

「無期転換申込権が発生する契約更新のタイミング」は、契約期間の長さによって異なります。図表4は1年ごとの契約更新の場合と、3年ごとの契約更新の場合を比較したものです。どちらも、グレー部分の有期契約が開始するタイミングから、無期転換の申込みが可能になります。

画像4

グレー部分の契約期間中に申込みをした場合、その有期契約が満了するタイミングで無期契約に転換します。

2)労働条件通知書の記載例

2024年4月1日以降の労働条件通知書の記載例は次の通りです。

画像5

2024年4月1日以降は、新たに「無期転換に関する事項」の記載欄を設ける必要があります(有期パート等が無期転換申込権を得ていなければ不要)。また、「更新上限の有無」を記載する際などに「契約更新の状況(現在○年目など)」も併せて記載しておくと丁寧です。

無期転換申込機会については、無期転換の申込みをした場合、いつから無期契約に変わるかを、具体的な日付(◯年◯月◯日)を明らかにして記載しましょう。

転換後の労働条件については、労働条件の変更があるかないかを明らかにした上で、転換後の労働条件の一覧や変更箇所を「別紙」で明示するとよいでしょう。「契約期間」以外の労働条件を変更しない場合、「無期転換後の労働条件は本契約と同じ」などと記載します。

以上(2024年1月)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

pj00689
画像: Rummy & Rummy-Adobe Stock

【入社1年目の教科書】 「源泉徴収票」は年収の証明書。家や車を買うときなどに使います

書いてあること

  • 主な読者:「源泉徴収票」に書かれている内容が知りたい新入社員
  • 課題:年末年始に配られる源泉徴収票が、何のために存在するのか分からない
  • 解決策:源泉徴収票は年収の証明書で、家や車のローンを組む際などに必要になる

クシャクシャ、ポイッ! 「源泉徴収票」という書類をもらったけど、よく分からないから捨てちゃった。年収が書かれていたけど、毎月の給料明細があるから問題ないでしょ。それに、私は過去の年収よりも、未来の年収に興味があるの! でも、先輩が「源泉徴収票は大事に保管するように」と言っていたな。捨てちゃいけなかったかしら……。

1 皆さんは「年収いくらの人」ですか?

年末年始に配られる「源泉徴収票」。毎月もらう給料明細と違い、内容を確認せずに捨てているかもしれません。しかし、この源泉徴収票は1年間(1月1日~12月31日)の皆さんの頑張りの証しとなる大切な書類ですから、しっかり確認するようにしましょう。

源泉徴収票には、

その年(前年)の給料の合計額や、差し引かれた税金・社会保険料の情報

が書かれています。「自分は年収いくらなの?」、こんなことを気にするときもあるでしょうが、それを確認できるのが源泉徴収票です。

なお、源泉徴収票には、

  • 給与所得の源泉徴収票:会社から支払われる給料に関する書類
  • 退職所得の源泉徴収票:会社から支払われる退職金に関する書類
  • 公的年金等の源泉徴収票:法律に基づき支払われる公的年金に関する書類

の3種類がありますが、ここでは皆さんと関係の深い「1.給与所得の源泉徴収票」の内容を説明します。源泉徴収票の情報を読むことは、社会人としての自分のポジションを意識するきっかけにもなりますし、皆さんが目指す年収をアップさせていくためのスタートです!

2 さっそく源泉徴収票を読んでみよう!

さっそく源泉徴収票を確認していきましょう。以下は源泉徴収票のフォーマットです。①から⑳までに書かれている内容を紹介します。ちょっと小難しい言葉が続きますが、例えば、自分とは関係ないと思う項目は読み飛ばしてもらっても大丈夫です。

画像1

1)支払を受ける者

「支払を受ける者」の欄には、皆さんの住所・役職・氏名が書かれています。

2)種別

「種別」の欄には、支払われた金額の性質が書かれています。会社員であれば、一般的には「給料・賞与」と書かれています。

3)支払金額

「支払金額」の欄には、1年間に支払われた給与、賞与などの合計金額が書かれています。これが年収ですね!

4)給与所得控除後の金額

「給与所得控除後の金額」の欄には、支払金額から給与所得控除を差し引いた金額が書かれています。給与所得控除とは、給料をもらった人が受けられる控除額で、収入金額ごとに決められています。

5)所得控除の額の合計額

「所得控除の額の合計額」の欄には、年末調整で皆さんが申告した各種の所得控除の合計額が書かれています。例えば、皆さんは生命保険に入っていると思いますが、その場合、「生命保険料控除」が受けられます。

6)源泉徴収税額

「源泉徴収税額」の欄には、その1年間で源泉徴収されている税額が書かれています。皆さんが毎月受け取る給与は、会社が一定の所得税を源泉徴収した後の金額です。ただ、源泉徴収される金額は仮のもので、その時点では正しいとは限りません。そこで年末に正しい金額に調整するのが「年末調整」であり、「源泉徴収税額」の欄には年末調整後に確定した金額が書かれています。

7)(源泉)控除対象配偶者の有無等~非居住者である親族の数

それぞれの欄に該当する場合に◯印が付されたり、人数が書かれたりします。

  • (源泉)控除対象配偶者の有無等:配偶者控除の対象となる配偶者がいる場合、◯印
  • 配偶者(特別)控除の額:配偶者に一定以上の収入があるなど、配偶者特別控除の対象となる配偶者がいる場合、◯印
  • 控除対象扶養親族の数:扶養控除の対象となる親族がいる場合、その人数
  • 16歳未満扶養親族の数:16歳未満の扶養親族がいる場合、その人数
  • 障害者の数:扶養親族の中に障害者がいる場合、その人数
  • 非居住者である親族の数:外国などに居住する扶養親族がいる場合、その人数

8)社会保険料等の金額

「社会保険料等の金額」の欄には、給与から天引きされている健康保険料や厚生年金保険料などの合計金額が書かれています。

9)生命保険料の控除額

「生命保険料の控除額」の欄には、年末調整で申告した内容に基づいた控除額が書かれています。

10)地震保険料の控除額

「地震保険料の控除額」の欄には、年末調整で申告した内容に基づいた控除額が書かれています。

11)住宅借入金等特別控除の額

「住宅借入金等特別控除の額」の欄には、年末調整で申告した内容に基づいた控除額が書かれています。なお、住宅ローン初年度は自身で確定申告をする必要があります。年末調整で申告できるのは2年目以降です。

12)生命保険料の金額の内訳

「生命保険料の金額の内訳」の欄には、年末調整で申告した各区分の生命保険料の支払金額が書かれています。

13)住宅借入金等特別控除の額の内訳

「住宅借入金等特別控除の額の内訳」の欄には、年末調整で申告した自身の住宅ローンの詳細(居住開始年月日)や適用を受ける控除の区分などについて書かれています。

なお、住宅借入金等特別控除の額は居住後2年目以降の分について記載されます。

14)(源泉・特別)控除対象配偶者

「(源泉・特別)控除対象配偶者」の欄には、配偶者控除の対象となる配偶者の氏名と区分が書かれています。

15)配偶者の合計所得~所得金額調整控除額

「配偶者の合計所得」の欄には、年末調整で申告した配偶者控除の対象となった配偶者の合計所得が書かれています。

「国民年金保険料等の金額」「基礎控除の額」「旧長期損害保険料の金額」の欄には、自身が支払った国民年金保険料・旧長期損害保険料、自身に適用される基礎控除の額(48万円の場合は空欄で可)が書かれています。

「所得金額調整控除額」の欄には、年末調整で申告した内容に基づいた所得金額調整控除額が書かれています。

16)控除対象扶養親族

「控除対象扶養親族」の欄には、扶養控除の対象となる親族の氏名と区分が書かれています。

17)16歳未満の扶養親族

「16歳未満の扶養親族」の欄には、16歳未満の扶養親族の氏名と区分が書かれています。

18)未成年者~勤労学生

それぞれの欄に該当する場合に◯印が付されます。

  • 未成年者:その年の12月31日において18歳未満の者
  • 外国人:日本の国籍を有していない者
  • 死亡退職:退職事由が死亡に該当する者
  • 災害者:災害の被害を受け、給与に係る源泉徴収税等の徴収の猶予を受けている者
  • 乙欄:2カ所以上の事業者から給与を受けており、かつその会社で年末調整を行っていない(正確には扶養控除等移動申告書を提出していない)者
  • 本人が障害者:障害者に該当する者
  • 寡婦:夫と死別(生死が明らかでない場合を含む)、もしくは離婚後に婚姻していない女性で、一定の要件を満たしている者
  • ひとり親:夫や妻と死別(生死が明らかでない場合を含む)、もしくは離婚後に婚姻していない人で、一定の要件を満たしている者
  • 勤労学生:働いている学生である者

19)中途就・退職、受給者生年月日

「中途就・退職」の欄には、年の中途で就職した場合には就職日が、退職した場合には退職日が書かれています。「受給者生年月日」の欄には、自身の生年月日が書かれています。

20)支払者

「支払者」の欄には、会社の住所や社名などが書かれています。

3 源泉徴収票っていつ必要?

年収を確認する以外にも、副業で収入があった場合などに源泉徴収票が必要になります。

1)副業で20万円超稼いだときなど(確定申告をするとき)

副業による20万円超の所得や、不動産所得などがある場合、所得税の確定申告をしなければなりません。その際は、副業など給与所得以外の所得とあわせて源泉徴収票の情報が必要になります。

2)家や車を買うとき(住宅ローンやマイカーローンを申請する時)

家や車を買って、そのローンを申請する際、銀行などから源泉徴収票が求められるのが通常です。銀行などは、源泉徴収票から、皆さんの信用評価や借入限度額を判断しているのです。

3)転職したとき

転職した場合、新しい勤め先に源泉徴収票を提出しなければなりません。そうしないと、新しい勤め先で年末調整を受けることができず、自分で確定申告をしなければならなくなります。

いかがでしょうか。源泉徴収票の大切さをお分かりいただけたと思います。「あっ、源泉聴取票を捨てちゃった!!」という人も安心してください。会社にお願いすれば源泉徴収票は再発行してもらえます。ただ、次からはきちんと保管してくださいね!

以上(2025年1月更新)

pj00691
画像:Mariko Mitsuda