【かんたん消費税(5)】海外と取引する際に必要な消費税の知識

書いてあること

  • 主な読者:海外取引に関する消費税の取り扱いを知りたい経営者
  • 課題:輸出と輸入では、消費税の取り扱いが全く異なる
  • 解決策:輸出は消費税が課されないが、輸入は消費税が課される。また、輸出の場合は、仕入税額控除が受けられるので、会計処理を適切に行う必要がある

1 輸出と輸入では全く違う消費税の取り扱い

海外取引をする会社が知っておきたいのは、輸出と輸入とで消費税の取り扱いが全く違うということです。

  • 輸出:消費税が課されない
  • 輸入:消費税が課される

このような違いがあるのは、「消費税は日本国内の消費に対して課する」という考えがあるためです。つまり、

  • 物を海外に輸出したら、その物の消費地は「海外」になるので消費税は課されない
  • 物を日本に輸入したら、その物の消費地は「日本国内」になるので消費税が課される

ということです。

このように輸出と輸入では消費税の取り扱いが全く違うのに、その理解を誤ると、物を輸出した際に得意先に消費税を請求してしまうなどのトラブルが発生します。この記事では、輸出取引と輸入取引に対する消費税の取り扱いの概要と注意点を解説します。

2 輸出した際の消費税の取り扱い

1)輸出の考え方

物を輸出した場合は消費税が課されません。これを、

「免税取引(輸出免税)」

と呼びますが、同じように消費税が課されない取引として「非課税取引」があります。両取引は「消費税が課されない」という点で共通していますが、消費税の「納税額」を計算する際の取り扱いは全く違います。

具体的には、

  • 非課税:本来は課税対象だけど、例外的に課税しないこととしている
  • 免税:消費税は課税されているが、税率が0%(=免除)になっている

と考えるのです。つまり、「消費税が課税されない(=非課税)」のか「消費税は課税されているが、結果としてゼロになる(=免税)」のかということです。そして、このちょっとした違いが、納税額の計算方法に大きな影響を与えます。この点の詳細は後述します。

2)免税となる輸出の範囲と注意点

免税となる「輸出」の代表例は、「物の輸出」です。

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「物の輸出」は輸出免税とされる典型的な例ですが、この場合でも、

輸出許可証(税関長が証明した書類)を保存

しておかないと輸出免税として取り扱われません。税務調査では、この輸出許可証の提示を求められることがあるので注意しましょう。

また、「物の輸出」以外にも、非居住者に対して工業所有権(特許権や意匠権など)を貸し付けて貸付料を受け取ったり、「非居住者」に対するコンサルティングなどの役務提供を行って対価を受け取ったりする取引も輸出免税として取り扱われます。目に見えないサービスを海外に輸出していると考えるためです。

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この場合、輸出許可証などの保存は必要ない代わりに、次の事項が記載されている契約書その他の書類を保存しておかなければなりません。

  1. 役務の提供等をした側(つまり読者の皆さん)の氏名又は名称及び住所
  2. 取引を行った年月日
  3. 役務の提供等の内容
  4. 対価の額
  5. 相手側の氏名又は名称及び住所

なお、「非居住者」の詳細は、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」という法律で定められています。その内容は多岐にわたりますが、主に、

取引相手先の事務所がどこにあるか

が判断の目安になるので、海外に事務所を構えている相手先に役務提供を行ったら輸出免税となります。ただし、外国法人でも、その法人の日本支店への役務提供は輸出免税にはなりません。

3)輸出免税がある場合の消費税計算の注意点は?

先ほど、非課税取引と免税取引との違いは、「消費税が課税されない(=非課税)」のか、「消費税は課税されているが、結果としてゼロになる(=免税)」のかの違いであるとお伝えしました。実はこのちょっとした違いが、消費税の納税額の計算方法に大きな影響を与えます。

具体的には、

仕入税額控除の金額が変わってくる

のです。

仕入税額控除とは、

預かった消費税(仮受消費税)から支払った消費税(仮払消費税)を差し引くこと

です。

仕入を行ったときに支払う消費税は、どんなときでも仕入税額控除が取れるわけではなく、

課税される売上に対応する仕入に掛かった消費税しか仕入税額控除は取れない

のです。そのため、

売上が非課税の場合、その仕入に掛かった消費税で仕入税額控除は取れない

ことになります。

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「免税取引」なのに、誤って「非課税取引」として処理した場合、本来は消費税が還付されるべきなのに、還付される消費税がゼロと計算されてしまいます(図表3の計算に置き換えると、仮払消費税が0円となってしまうため)。

経営者の方は消費税の細かい計算方法まで理解する必要はありませんが、同じ「消費税が課されない取引」であっても、

「免税取引」と「非課税取引」の区分を誤ると納税額(還付額)に大きな影響が出る

ということをしっかり理解しておきましょう。

3 輸入した際の取り扱い

1)輸入の考え方

海外で商品を購入しても、その時点で日本の消費税は課されません。しかし、その商品を日本国内に輸入する際は消費税が課されます。具体的には、

保税地域から商品を引き取った際に消費税が課される

ことになります。保税地域とは、

税関の輸入許可がまだ下りていない外国貨物を一時的に保管する場所

のことです。

海外で購入した商品を自由に日本国内に持ち込むことはできないため、まずは保税地域で保管されます。この商品を最終的に引き取る(日本国内に持ち込む)までの一般的な流れは次の通りです。

  1. 関税及び消費税の計算を行い、税関に対して「輸入申告」を行う
  2. 計算した関税及び消費税を納付する
  3. 税関より「輸入許可通知書」が発行される
  4. 商品を引き取る

2)輸入消費税がある場合の消費税計算の注意点は?

輸入申告を行った際に納付する消費税を、一般的に「輸入消費税」と呼びます。この輸入消費税も、日本国内で仕入をした際の仮払消費税と同様に、

仕入税額控除の対象

となります。ただし、仕入税額控除を取るには、

「輸入許可通知書」を保存しておく必要

があります。商品を引き取ったからといって書類を廃棄せずに保存しておきましょう。

なお、日本国内で仕入を行う際は、仕入価格に税率(10%)を掛ければ消費税額が計算できますが、輸入消費税の計算は少し複雑で、単に仕入価格に税率を掛けても計算はできません(具体的な計算方法は割愛)。そうしたこともあり、輸入取引について会計処理を行う際は、

一般的な仮払消費税と輸入消費税は別の勘定科目を使用する

ようにすると、消費税の申告作業時に必要な数値を集計したりするのに便利です。

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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【管理会計】値上げ、値下げ。目標利益を達成するために必要な売上高の求め方

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけではなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:目標利益が共有されたけど、これを達成するために必要な売上高が分からない
  • 解決策:損益分岐点と同じ考え方。固定費と目標利益の合計を限界利益率で割って計算する

1 質問:必要な売上高を計算できますか?

当期の営業利益は1億円。来期は強気に2億円まで伸ばす計画です!

現在の損益の状況と次期目標利益は次の通りなのですが、この目標利益を達成するために必要な売上高はいくらでしょうか。売上原価は売上高の増減に合わせて変動し、販売管理費は一定とします。

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このケースの売上高は、

12億5000万円=(3億円+2億円)/0.4

となります。上の数式の「0.4」は、本ケースの売上総利益率です(40%(1-0.6))。

これが基本的な答えですが、会社の営業戦略によって変わる部分があります。例えば、強気に値上げをする場合もあれば、値下げして販売量を増やすこともあります。こうしたシーンに直面することはよくあるので、判断の基準をご紹介します。

2 「損益分岐点」という感覚を持つ

「損益分岐点」とは、

売上と費用がトントンの状態

です。損益分岐点は管理会計で用いられる最もポピュラーな指標の1つで、これを知ることで意思決定に明確な根拠を持たせることができます。

さて、損益分岐点を求めるには費用を次のように分けます。

  • 変動費:売上高に応じて変動する費用。小売業の場合は支払運賃、支払荷造費など
  • 固定費:売上高に関係なく発生する費用。人件費や減価償却費、賃借料など

そして、横軸を販売数量、縦軸を金額(費用、利益、売上高)とした場合、変動費、固定費、利益、売上高の関係は次のようになります。

画像2

図表2では変動費の上に固定費を置いているので、固定費ラインが費用の合計(変動費+固定費)になります。売上高ラインと固定費ライン(費用の合計)が交差する点が損益分岐点です。

また、変動費と固定費の上に目標利益を置いています。売上高ラインと目標利益ラインが交差する点が「目標利益達成点」です。必要売上高は次のように算出することができます。なお、「変動費率」は「変動費/売上高」です。

必要売上高=(固定費+目標利益)/(1-変動費率)

さらに分かりやすくすると、「1-変動費率」のことを「限界利益率」といいます。限界利益率を用いると、計算式は次のようにシンプルになります。

必要売上高=(固定費+目標利益)/限界利益率

3 営業戦略のバリエーション

目標利益を達成するための必要売上高の求め方は、損益分岐点の考え方でお分かりいただけたと思います。次は、設定した目標利益をどのように達成するか、つまり営業戦略の問題です。ここでは、次の4つの営業戦略を想定し、それぞれの必要売上高を求めます。

ちなみに、図表3を見て戦略1~4はどのような内容か想像できますか?

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それぞれの戦略は、次のようなものです。

  • 戦略1:販売単価を10%値上げ
  • 戦略2:販売単価を10%値下げ
  • 戦略3:販売管理費を1億円増強
  • 戦略4:販売管理費を1億円削減

これらは企業がとり得る基本的な営業戦略です。条件次第で結果は変わってきますが、以降では「目標営業利益2億円を達成する」ために必要な売上高と販売数量を検討する際の基本的な考え方を紹介します。

4 戦略1:販売単価を10%値上げ

値上げをすると限界利益率が高くなるので利益が出やすくなりますが、一方で販売数量が減少する恐れがあります。

値上げ戦略は、「価格弾力性が低い商品」に適しています。価格弾力性が低い商品とは、

価格の影響を受けにくい商品です。つまり、販売数量は値上げしてもあまり減少せず、逆に値下げしてもあまり増加しない

ということです。具体的には、食品や日用品などが挙げられます。

ここでは販売単価を10%値上げして限界利益率を上げ、営業利益2億円を目指します。従来の変動費率は60%(6億円/10億円)ですが、販売単価を10%値上げすることで変動費率は54.5…%(6億円/(10億円×1.1))になります。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。

必要売上高

=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)

=(3億円+2億円)/(1-0.545…)=11億円

この場合、販売数量は現在の100%(11億円/(10億円×1.1))、つまり、現状と同じ販売数量で必要売上高を達成できます。

5 戦略2:販売単価を10%値下げ

値下げをすると限界利益が低くなるので利益が出にくくなりますが、一方で販売数量の増加が見込めます。薄利を上回る多売を実現すれば、目標利益の達成が可能になります。

値下げ戦略は、「価格弾力性が高い商品」に適しています。価格弾力性が高い商品とは、

価格の影響を受けやすい商品です。つまり、販売数量は値上げしたら減少し、逆に値下げすると増加する

ということです。具体的には、家具や家電製品など耐久消費財などが挙げられます。

ここでは販売単価を10%値下げして販売数量を増やし、営業利益2億円を目指します。従来の変動費率は60%(6億円/10億円)ですが、販売単価を10%値下げすることで変動費率は66.6…%(6億円/(10億円×0.9))になります。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。

必要売上高

=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)

=(3億円+2億円)/(1-0.666…)=15億円

この場合、必要売上高を達成するには、販売数量を現在の約1.7倍(15億円/(10億円×0.9))にする必要があります。

6 戦略3:販売管理費を1億円増強

販売管理費を1億円増強し、営業担当者を増やしたり、広告を出したりして拡販につなげます。製品のライフサイクルが成長期にある場合、営業力強化による拡販は効果的です。

ここでは固定費(販売管理費)を1億円増やして4億円とし、営業利益2億円を目指します。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。

必要売上高

=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)

=(4億円+2億円)/(1-0.6)=15億円

この場合、必要売上高を達成するには、販売数量を現在の1.5倍(15億円/10億円)にする必要があります。

7 戦略4:販売管理費を1億円削減

販売管理費を1億円削減し、利益を上げやすくします。とはいえ、営業力が極端に低下してはいけないので、基本は不採算店の閉鎖、物流の効率化、在庫の圧縮などの効率化となります。製品のライフサイクルが成熟期にある場合、固定費の削減は効果的です。

ここでは固定費(販売管理費)を1億円削減して2億円とし、営業利益2億円を目指します。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。

必要売上高

=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)

=(2億円+2億円)/(1-0.6)=10億円

この場合、現状と同じ必要売上高と必要販売数量で目標利益を達成できます。ただし、売上高が減少局面にある場合、売上高を維持することは容易ではありません。

8 法人税等を考慮した場合

ここまで紹介してきた4つの営業戦略による売上高、売上原価(変動費)、販売管理費(固定費)、営業利益は次の通りです。

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また、目標利益が税引後利益の場合、法人税等に留意が必要です。例えば、固定費3億円、変動費率60%、法人実効税率30%とした場合、目標税引後利益2億円を達成する必要売上高は次の通りです。

必要売上高

={固定費+目標税引後利益/(1-法人実効税率)}/(1-変動費率)

={3億円+2億円/(1-0.3)}/(1-0.6)≒14億6429万円

目標とする税引後利益から必要売上高を算出する場合、税引後利益に法人税等を加味して、税引前利益を求めてから計算しましょう。

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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画像:pixabay

【ハラスメント対策】ハラスメントの再発防止。情報提供とハラスメント防止研修の実施

書いてあること

  • 主な読者:ハラスメントの再発防止のため、社員に注意喚起をしたい人
  • 課題:ハラスメントの事実をどのように発信するか、ハラスメント防止研修をどう行うか
  • 解決策:プライバシーに配慮しつつ、全社員に当事者意識を持たせることを意識する

1 全社員に当事者意識を持たせる。ただし情報開示は慎重に

ハラスメントが発生した場合、2度と同じような事案が起きないよう、再発防止策を講じなければなりません。大切なのは、社員に「自分もハラスメントの行為者になるかもしれない」という当事者意識を持ってもらうことです。そのために必要なのが、

発生したハラスメントについて社内に情報を開示すること

です。開示する(しない)情報のイメージは次の通りです。

  • 開示する情報:社内でハラスメントが発生したこと、ハラスメントの類型など
  • 開示しない情報:行為者や被害者の名前、具体的な言動、行為者の処分内容など

行為者や被害者の名前などを伏せるのは、関係者のプライバシーへの配慮です。ただ、中小企業の場合、名前などを伏せても何となく誰のことなのかが分かってしまい、それによって被害者が傷付くことがあります。こうした場合は、そもそも情報を開示しない、ある程度期間が経ってから詳細を隠して開示するなどの対応を検討する必要があります。

2 ハラスメント防止方針を再周知する

次に、全社員に対して、「ハラスメント防止方針」の内容を再周知します。ハラスメント防止方針とは、ハラスメントに対する会社の姿勢を示す方針で、主に次の9つの項目を定めます(ハラスメント防止規程など、就業規則の中に定めることもあります)。

  1. 基本的な考え方(ハラスメントを行ってはならない旨)
  2. ハラスメントに当たる言動
  3. 方針の対象(全社員)
  4. ハラスメントに当たる言動を取った者への処分
  5. ハラスメントに関する相談窓口
  6. 相談者・事実関係の確認への協力者等への不利益な取扱いの禁止
  7. 被害者に対する配慮のための措置・行為者に対する措置
  8. 制度等の利用(就業規則等に従い、育児休業等の制度を正当に利用できる旨)
  9. ハラスメント防止研修・講習

再発防止の観点で考えると、特に「1.基本的な考え方」「2.ハラスメントに当たる言動」「4.ハラスメントに当たる言動を取った者への処分方針」を重点的に再周知するのがよいでしょう。

また、ハラスメントを受けた経験の有無やその内容について、社内アンケートを実施するのも効果的です。厚生労働省・あかるい職場応援団「ハラスメント関係資料ダウンロード」では、「過去3年間にパワハラを受けたと感じたことはあるか?」など、パワハラ(パワーハラスメント)に関する社内アンケートの例を示しているので参考になります。

■厚生労働省・あかるい職場応援団「ハラスメント関係資料ダウンロード」■

https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/jinji/download/

3 ハラスメント防止研修

ハラスメント防止方針を周知するのと合わせて、社員にハラスメントに関する正しい知識・意識を持ってもらうために、ハラスメント防止研修や講義も実施します。弁護士事務所やコンサルタントなどの外部の専門機関などに研修を依頼するのが一般的です。

研修の内容としては、例えば次のようなものがあります。どのような内容にするにしても、「なぜこの研修を実施するのか」という経営者のメッセージを伝え、可能な限り社員全員に受講させることが大切です。

  • ハラスメントの種類(パワハラ、セクハラなど)
  • ハラスメントに当たる具体的な言動
  • ハラスメントを起こしやすい人の行動特性
  • ハラスメントにならないためのコミュニケーションのポイント
  • ハラスメントを起こした場合のリスク
  • ハラスメントに関する法規制、裁判事例
  • ハラスメント対策の進め方(相談窓口の設置、社内規程の整備など)
  • ハラスメント対応の実務のポイント(相談受付、社内処分、被害者への対応など)

以上(2024年11月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 渡邉和也)

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画像:fizkes-shutterstock

【かんたん消費税(4)】消費税が課税される取引と、課税されない取引の違い

書いてあること

  • 主な読者:消費税に関する取引の種類と考え方を知りたい経営者
  • 課題:課税や免税などがあり、仕入税額控除も異なるらしいが、詳細が分からない
  • 解決策:課税取引、不課税取引、非課税取引、免税取引で整理する

1 消費税を知るための4つの取引

消費税の取引は、

課税される「課税取引」と、「課税されない取引」

に分かれます。さらに、課税されない取引は、

課税対象外取引(以下「不課税取引」)、非課税取引、免税取引

の3つに分かれます。つまり、消費税の取引は全部で4つに分類されます。

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消費税が課税されない取引が細かく分類されているので複雑ですが、ここをしっかり押さえないと、消費税の納税額が変わって損をすることがあります。この記事では、消費税の仕組みを知る上でとても大切な4つの取引の概要とともに、分類を間違えた場合に、どのような影響があるのかを説明していきます。

2 取引ごとに異なる消費税の納税額

売上・仕入ともに不課税取引、非課税取引、免税取引は消費税が課されませんが、この3つの取引を一くくりにして会計処理をしてはいけません。なぜなら、

売上が4つの取引のどれに該当するかによって、仕入税額控除の金額が変わる

からです。仕入税額控除とは、

預かった消費税(仮受消費税)から支払った消費税(仮払消費税)を差し引くこと

です。

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仕入を行った際に支払う消費税は、どんなときでも仕入税額控除できるわけではなく、売上取引区分ごとに次のようにまとめられます。

  • 課税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できる
  • 不課税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できない
  • 非課税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できない
  • 免税売上に対応する支払った消費税:仕入税額控除できる

なお、免税売上は「消費税はかかっているが、税率は免除されている(0%=免税)」と考えるため、これに対応する支払った消費税は仕入税額控除できます。

経営者の方は、それぞれの取引の細かいところまで知る必要はありませんが、この取引区分を誤ると、消費税の納税額に大きな影響を与えることを理解し、経理担当者や税務担当者に適切な指示を出すようにしましょう。

3 それぞれの取引の解説

1)「課税取引」と「不課税取引」

どのような取引が課税の対象(課税取引)になるのかは、消費税法で決まっています。具体的には、

  1. 日本国内において行う取引であること
  2. 会社や個人事業主など、事業者が行う取引であること
  3. 対価を得て行われるものであること
  4. 物の売買や貸し借り、あるいはサービスの提供であること

の4つの要件を全て満たす取引をいいます。もし、1つでも満たさなければ、消費税はかからない不課税取引となります。

1.日本国内において行う取引であること

消費税法は日本の法律なので、課税の対象となるのは日本国内で発生する取引だけです。外国で物を売っても日本の消費税はかかりません。

2.会社や個人事業主など、事業者が行う取引であること

消費税は、事業として行われる取引だけが課税の対象です。そのため、自家用車をディーラーに売却したり、友人同士でたまたま物を売買したりした場合は消費税がかかりません。

3.対価を得て行われるものであること

消費税は、対価がある取引だけが課税の対象です。そのため、試供品やサンプルの配布など、商品をタダであげたりした場合には消費税がかかりません。

4.物の売買や貸し借り、あるいはサービスの提供であること

消費税は、商品の売買や資産の貸し借り、コンサルティングなどのサービスの提供といった取引だけが課税の対象です。そのため、これらに該当しない配当金の支払いや、労働の対価として支払われる給料などには消費税がかかりません。

2)「課税取引」と「非課税取引」

上記4つの要件を満たす取引は消費税の課税対象となりますが、

実際に消費税を課すのにはなじまないもの、あるいは政策的な配慮から消費税をかけないこととしているもの

があり、これを「非課税取引」といいます。つまり、4つの要件は満たすものの、種々の理由から「例外的に課税しない」こととしている取引です。主な非課税取引には次のようなものがあります。

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3)「課税取引」と「免税取引」

消費税は日本国内の消費について課税されるものなので、同じ商品の売買であっても、海外で消費されるもの(輸出されるもの)は消費税が免除されます。例えば、皆さんが海外旅行に行く際に、羽田空港の免税店でお菓子(商品)を購入したとします。通常、お菓子の購入には消費税が課税されますが、実際にお菓子を食べるのは出国した後(=海外)ということが前提となるため、消費税が免除されるわけです。また、通常の商品の輸出の他、国際電話や国際郵便、国際線の航空料金なども免税取引になります。

なお、「非課税」と「免税」は両方とも消費税がかからないという点では共通しているため、2つの違いが分かりにくいかもしれませんが、

「非課税」は、本来は課税対象だけど、例外的に課税しないこととしているもの

であるのに対し、

「免税」は、消費税は課税されているが、税率が0%(=免除)になっている

と考えると分かりやすいかもしれません。

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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【朝礼】「巧詐は拙誠に如かず」。誠実に勝るものなし

【ポイント】

  • 巧みに相手を偽るよりも、拙くてもよいから「誠実」であることが大事である
  • 偽るために飾られた言動は、かえって不信につながる
  • 大事なのは、相手の立場に立って自分たちができることを考え、丁寧に実行すること

私の社長仲間に、「巧詐(こうさ)は拙誠(せっせい)に如(し)かず」を座右の銘とする人がいます。この言葉は中国古典である『韓非子』に出てくる一節で、「巧みに相手を偽るよりも、拙くてもよいから『誠実』であることが大事である」という意味です。

この社長は、分からないことは「分かりません」とはっきりと言い、知ったかぶりをしません。しかも、そこで終わらず、後日、きちんと調べて回答してくれます。しかも、私が「1」を話したことから「10」どころか、「50」も「100」も私のことを理解し、先回りをして対応してくれます。こうした対応をするには相応の時間が必要ですが、彼は多忙な中、ある意味で「利他的」な言動を取ってくれるのです。私は心から彼を信頼し、いつでも恩返ししたいと思っています。

一方、世の中には、残念ながら目先の自分の利益ばかりを優先し、巧みな話術で必ずしも相手のためにならない提案をしたり、自分のメンツばかりを気にして知ったかぶりをしたりする人がいます。偽るために飾られた言動は、かえって「私をだまそうとしていない?」と不信につながります。いざ「巧詐」の本性が明らかになれば、私はその人と二度とビジネスをしないでしょう。

両者の違いは非常に大きなものです。私自身、そうした経験をしたことが何度もあります。ある大型案件のコンペに参加したときのことです。クライアントの要求レベルが非常に高く、競合も当社もその時点で十分に応えることができませんでした。その際、競合は自分たちの強みを強調し、不足している技術をごまかそうとしました。一方、私はその時点の当社の技術で、クライアントの要求をどの程度満たせるかを説明し、自分たちに不足している技術とそれをカバーするまでのスケジュールも示しました。すると、クライアントは当社の姿勢を評価し、「御社は常にこちらのことを考え、誠実に対応してくれるのですね。信頼できる御社にお任せします!」と言ってくれたのです。

ビジネスでは、時にテクニックも必要です。しかし、テクニックだけでは誠実で真っすぐな姿勢に勝ることは決してないのです。大事なのは、相手の立場に立って自分たちができることを考え、丁寧に実行することです。

以上(2024年11月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

企画の考え方を教えます! 中小企業が大企業に勝てる「企画」を生み出す4つの型

書いてあること

  • 主な読者:社員から次々と企画が上がってくる活発な組織を目指す経営者
  • 課題:社員は企画を出した経験がなく、とても難しいものと考えている
  • 解決策:企画立案のハードルを下げる。コンビニなど身近なサービスに置き換えてみる

1 企画立案のハードルを下げる

中小企業は、経営資源の質と量では大企業に劣るものの、意思決定の速さと柔軟さには素晴らしいものがあります。この強みを「企画力」として活かせれば、大企業とも十分に戦うことができます。特に営業で大企業に勝ったことがある経営者は、このことを実感していますから、

お客様や取引先に接している社員が、次々と企画を上げてくるような活発な組織を期待

します。

しかし、こうした経営者の期待は、多くの社員にとってハードルが高いようです。なぜなら、多くの社員は「世の中になく、他の追随を許さない、画期的なものを生み出すこと」が企画立案だと思っているからです。御社に「100点満点を求め、失敗を許さない雰囲気」はないですか? こうした組織では社員は自由に発想することができません。

重要なポイントは、

企画立案に対するハードルを下げる

ことです。それと同時に、企画するときの考え方を示してあげることも大切です。身近にあるコンビニエンスストア(以下「コンビニ」)を例に考えていきますので、御社の社員にも伝えてみてください。

2 企画の基本は「足し算型」

ビジネスにはコアとなる技術やサービスがあり、それを中心に全体像が設計されます。コアを中心に複数の要素を組み合わせる足し算型が企画の基本です。例えば、

コンビニには「小売り」というコアがあり、そこにATMや公共料金の支払い、宅配などの要素が足されていくことで、小売りだけのときより、生活に密着したポジションを確立

することができます。

中小企業においても、いわゆる「水平統合」によって、取り扱う商品やサービスのラインアップを拡充するケースがよく見られます。他社との提携によって、自社の顧客のニーズを十分に満たす商品やサービスを実現するイメージです。

3 新しい付加価値を生む「掛け算型」

前述した足し算型と似ているのが掛け算型で、複数の要素を組み合わせて新たな付加価値を生み出します。最初から掛け算型を目指せればよいのですが、実際は足し算型を続けていくうちに、掛け算型の効果が見えてきます。

引き続きコンビニのケースで考えてみます。例えば、

イートインやコーヒーマシンは個別に見れば足し算ですが、両者を掛け合わせると「ランチや休憩の場所」という、新たな付加価値が生まれて「カフェ」に近い機能が備わり、利用者層の広がりを期待

できます。

中小企業においても、足し算型でサービスを組み合わせていくうちに、掛け算型の新しい付加価値が生まれることがあります。それにいち早く気付けば、コンビニがコーヒーとパンのセット割引をするようなプロモーションも可能になります。

4 常識を覆す「引き算型」

足し算型と掛け算型よりも大きなインパクトがあるのが引き算型の企画です。引き算型では斬新なビジネスモデルの実現による収益向上や、無駄の排除によるコスト削減を期待できます。

コンビニの場合、

決済などのオペレーションを自動化し、従業員がいなくても運営できる「無人コンビニ」や営業時間の短い「時短コンビニ」

などがこれに該当します。これまでのサービスの常識を覆す引き算型は、いわゆる「破壊的イノベーション」を生み出すことがあります。

中小企業にとって、引き算型の企画を遂行することは勇気がいるかもしれません。今あるものを削って顧客の反感を買う恐れがありますし、全く新しいものにチャレンジするのはリスクが高いからです。しかし、引き算型の企画遂行に成功すれば差異化を図りやすくなります。

5 多角化につながる「コア開発型」

ここまで紹介してきた足し算型、掛け算型、引き算型の企画立案は、既にあるコアの魅力を高める取り組みでした。これに対してコア開発型の企画とは、文字通り新しいコアをつくり上げるということであり、事業多角化につながります。

コンビニの場合、

PB(プライベートブランド)の開発

などが該当すると考えられます。足し算型が水平統合のイメージであったのに対し、コア開発型はいわゆる「垂直統合」となります。

中小企業は、単一の事業で戦っていることが少なくありません。コア開発型の企画遂行に成功すれば多角化につながりますが、一足飛びに取り組めるものではありません。まずは、足し算型や掛け算型から企画の練習をすることが優先でしょう。

6 企画力は会社の規模を凌駕(りょうが)する

「古池や蛙(かわず)飛び込む水の音」。松尾芭蕉の有名な句です。ところで、蛙は何色で、何匹いたのでしょうか。また、池に飛び込む音は、どんな音だったのでしょうか。さらに、そもそも「古池」を見たことがなければ、情景をイメージできません。

同様に、

企画を立てたことのない社員は、お題を与えられても、どう考えてよいのか分からない

というのが実情です。そこで、最初は経営者がアイデアを出し、企画会議を進行して、企画の立て方を社員に示していくしかありません。柔軟な発想で企画し素早く形にすれば、大企業を打ち負かすチャンスが生まれるはずです。

組み合わせる、変形させる、差し引く。どのようなアプローチをするにせよ、企画力は自由な発想と異なる要素を通底する力によって生まれます。経営者は、社員が異質なものに触れる機会をたくさんつくりましょう。他流試合の繰り返しによって、「古池」と聞いたときに何通りもの情景を思い描くことができるようになり、企画の幅が広がっていきます。

以上(2024年12月更新)

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退職金が少なくても財形貯蓄やiDeCo+でこれだけカバーできる!/人生100年時代の退職金制度を考える(3)

書いてあること

  • 主な読者:自社の退職金制度の方向性について考えている経営者
  • 課題:退職金制度だけでは、社員の老後の生活費を賄うのに十分とはいえない
  • 解決策:退職金制度と、財形貯蓄やiDeCo+(イデコプラス)などの福利厚生を併用する

1 「退職金制度+福利厚生」で社員の資産形成をサポート!

第1回では、社員が老後を過ごすのにどのぐらいの退職金が必要かをシミュレートしました。85歳までの生活を想定した場合、夫婦2人暮らしでは912万円、独身では744万円が必要でした。

第2回では、複数の退職金制度を比較し手取り額などをシミュレートしました。税金や運用利回りのポイントを押さえれば、中小企業も魅力的な退職金制度を構築できるという内容でした。

ただ、そうしたポイントを押さえてもなお、十分な退職金を用意できない会社もあります。その場合は、退職金制度以外の福利厚生に注目してみましょう。例えば、

退職金制度と、財形貯蓄やiDeCo+(イデコプラス)などの福利厚生を併用することで、社員の資産形成をサポートできる可能性

があります。場合によっては、「退職金制度+福利厚生」の額が「大企業の退職金」の額を上回ることもあり、そうなれば採用活動でのPRなどにも大いに役立ちます。

第3回(最終回)となるこの記事では、財形貯蓄とiDeCo+、それぞれについて「社員が60歳になるまで運用した場合、どのぐらいの額になるのか」「退職金制度と福利厚生を組み合わせた場合、大企業の

退職金を上回ることができるのか」などをシミュレートしていきます。

2 財形貯蓄の運用シミュレーション

財形貯蓄は、毎月またはボーナスの支給時期に、給与天引きで積み立てる制度で、

  • 一般財形貯蓄(自由な目的で使用できる)
  • 財形年金貯蓄(60歳以降に年金として受け取る目的で使用できる)
  • 財形住宅貯蓄(住宅購入、新築、増改築目的で使用できる)

に分けられます。制度ごとの運用益などを比較してみましょう。

【試算条件】

  • 22歳年収400万円の会社員
  • 毎月3万円を給与天引きで積み立てる
  • 積立期間は38年
  • ボーナス・年収アップでの上乗せはないものとする
  • 全ての制度で年利は0.01%とする

1)財形貯蓄3種類のシミュレーション

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一般財形貯蓄は、運用益(今回は0.01%)に対して20.315%の税金がかかります。一方、財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は、両制度合算して550万円までの利子に税金がかかりません。目的が明確なら、財形年金貯蓄、財形住宅貯蓄を選択するのがよいでしょう。ただし、目的外の払い出しは課税対象となることがあるので、柔軟に使いたいなら一般財形貯蓄がお勧めです。なお、一般財形貯蓄については、その商品性から散財抑止を目的とした、社員に代わって会社が管理する普通預金のような感覚として社内制度化しているところもあります。

さて、上記の条件で試算した結果、

全ての制度で約1370万円以上を用意できる

ことが分かりました。運用益については、一般財形貯蓄は約2.1万円、非課税枠のある財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は約2.6万円となっています。「運用益が少ないな」と感じる人もいるでしょうが、これらの制度は堅実に資金を用意できることが特徴です。元本割れのリスクがなく、確実に必要な分だけ用意できます。

2)大企業(財形貯蓄なし)との比較

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次は、中小企業(財形貯蓄あり)の「退職金+財形貯蓄」の額と、大企業(財形貯蓄なし)の「退職金」の額とを比較ます。中小企業の社員(大学卒)が定年退職時にもらえる退職金は、2022年平均で約1092万円です(東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」)。一方、大企業の社員(大学卒)の退職金は約2243万円(日本経済団体連合会「2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」)。統計データは異なりますが、1000万円以上の開きがあります。

ですが、財形貯蓄の制度がある中小企業が、

  • 退職金(退職給付額)で1092万円
  • 財形貯蓄(積立元本+運用益)で1370万円

を用意できた場合、その額は合計2462万円になります。これは、

大企業(財形貯蓄なし)の社員(大学卒)の退職金(2243万円)よりも219万円多い

計算になります。

3 iDeCo+の運用をシミュレーション

iDeCo(イデコ)とは、社員が自分で掛け金を拠出して運用する個人型の確定拠出年金です。

このiDeCoには、拠出限度額の範囲(月額0.5万~2.3万円)で、iDeCoに加入する従業員の掛け金に追加して、会社が掛け金を拠出できる「iDeCo+(イデコプラス)」という制度

があります(中小企業限定の制度)。会社が掛け金を上乗せしてくれるので、iDeCoのみを利用するよりも多くの老後資金を用意できます。

iDeCo+は財形貯蓄制度とは異なり、投資としての側面を兼ね備えています。長期間積み立てるとどのような結果になるのか、シミュレートしていきましょう。

【試算条件】

  • 年収400万円
  • 事業主拠出は1万円で合意
  • 個人拠出は1.3万円
  • 30年間年利3.0%で運用
  • 受給開始年齢60歳
  • 移管資金0円
  • 企業型DCやDBの取り扱いはなし

1)iDeCo+(イデコプラス)のシミュレーション

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上記の条件で試算したところ、

iDeCoのみで752.3万円、iDeCo+で1331万円用意できる

ことが分かりました。年利3.0%で運用した場合、iDeCoでは約284.3万円、iDeCo+は約503万円の運用益を確保できます。しかも、これらの運用益に対しては税金がかかりません。

また、iDeCo+を導入している会社の場合、社員の自己負担はiDeCoよりも少なくできます。つまり、社員は今の生活を切り詰めることなく、退職金+αのお金を用意できるのです。

2)大企業(iDeCoなし)との比較

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仮に、iDeCo+を導入している中小企業が、

  • 退職金(退職給付額)で1092万円
  • iDeCo+(積立元本+運用益)で1331万円

を用意できた場合、その額は合計2423万円になります。これは、

大企業(iDeCoなし)の社員(大学卒)の退職金(2243万円)よりも180万円多い

計算になります。ただし、iDeCo+で拠出できる金額の上限は年27.6万円(月2.3万円)ですから、これ以上の金額を用意する場合は他の制度も利用する必要があります。

4 財形貯蓄とiDeCo+のメリット・デメリット

改めてシミュレーションの結果を振り返ってみましょう。中小企業が退職金制度と福利厚生を組み合わせた場合、

  • 退職金と財形貯蓄で合計2462万円
  • 退職金とiDeCo+で合計2423万円

を用意できる計算になりました。どちらも大企業の退職金平均を上回る水準です。

シミュレーション上は、退職金と財形貯蓄を組み合わせた金額のほうが高い一方、利用件数を見ると、財形貯蓄は減少傾向(厚生労働省「財形貯蓄の実施状況」)、iDeCoは増加傾向(企業年金連合会「確定拠出年金統計資料」)にあることが分かります。iDeCoの特性上、シミュレーション以上の運用益が見込める可能性もありますし、最近では国が積極的に加入を推奨しており、こうした背景なども少なからず影響しているのでしょう。

ただし、iDeCoは長期積み立てによる運用益が期待できる、iDeCo+に至っては会社が掛け金の一部を負担してくれるなどのメリットがある一方で、運用失敗による元本割れのリスクも当然あるので、堅実なほうが好きな社員にとっては、必要な金額を確実に用意できる一般財形貯蓄のほうが魅力的という考えもあるかもしれません。

メリット・デメリットを確認し、御社に合った方法で退職金の不足分をフォローしてみてください。

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以上(2024年12月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:pek-Adobe Stock

【管理会計】新任役員が知っておきたい管理会計の心得

書いてあること

  • 主な読者:新たに部門の管理が必要になった新任管理職や新任役員
  • 課題:実務としての管理会計を経験していないと、何から手を付けたらいいのか分からない
  • 解決策:管理会計で必要なKPIの設定や、自部門に管理会計を定例化させるポイントを紹介

1 新任役員が押さえておきたい管理会計の基本

会計は、法令に基づく「制度会計」と「管理会計」とに大別され、さらに制度会計は「財務会計」と「税務会計」とに分かれます。新任役員は、まずは管理会計を押さえておくといいでしょう。管理会計とは、

業績を改善するために社内で活用する会計であり、「利益を出すための会計」

といえます。一方の制度会計は、税金の法律や会計の基準といった社会のルールに従って、社外に業績を報告するものです。こちらは基本的に経理部に任せておいても問題ありません。

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役員に求められるのは、自分の主管する部門(以下「自部門」)からより多くの利益を上げることです。そこで、利益獲得につながるヒントを提供してくれる管理会計を押さえることが効率的です。自部門の業務内容を決算書の数字に結びつけて、定点観測することがポイントです。

2 自身が求める管理会計を導入するために必要なこと

1)KPIを押さえる

自部門の管理会計としては、KPIを押さえることから始めましょう。KPIとは、業績に大きな影響を与える数字のことです。正確には、Key Performance Indicatorの頭文字をとったもので、日本語では重要業績評価指標と呼ばれますが、名称はそれほど気にしなくて構いません。営業部門であれば販売単価や販売個数、製造部門であれば歩留まり率や機械稼働率がKPIの代表例です。

例えば、販売単価をKPIとして、「来年度は10%アップの110円を目指そう」と目標を立てた場合、メンバーは販売単価を110円にすることを目指して活動します。従来よりも単価が高い商品を積極的に売る人もいれば、これまでよりも値引き幅を抑えようと得意先と交渉する人もいるでしょう。KPIには、何を頑張ったらいいのか、そしてどのくらい頑張ったらいいのかをブレなくメンバーに理解してもらうことで、メンバーがとるべき行動が分かりやすくなる効果があります。

取り組みの手順として、まず、自部門で従来、大切にされていた指標が何かを特定します。社内で実際に使われているKPIのほとんどは、長年の経験から業績向上につながることが分かっており、そのために使われていることが多くあります。それ以外にも、もし業績向上につながるKPIが分かっていれば追加してもいいでしょう。このとき、そのKPIは自部門が頑張れば達成できる性質のものなのか、複数の類似する指標がある場合には最適な指標なのかといった点に注意が必要です。

また、KPIは1つだけとは限りません。KPIを複数設定する場合は、おおよそ5つまでが把握、管理しやすいと思います。その場合には、優先順位をつけるようにします。さらに、KPI同士の関係にも注意が必要です。一般に、単価を下げれば販売個数が伸びる傾向があるため、販売単価と販売個数はトレードオフの関係にあるといえます。このとき、どちらも同じように大事にすると、部門のメンバーはどちらを伸ばしていいのか分からず、業務目標の方向性がバラバラになってしまいます。中途半端な取り組みの結果、目標が達成できないという事態につながることもあります。KPIは、メンバーの行動を方向付けるためのツールですので、このような矛盾が発生しないよう注意しましょう。

2)KPIの実績数値の収集、分析、予測

KPIを設定したら、次に、そのKPIの実績数値を数カ月分集めてみましょう。そこで見られる変動の要因が何なのかを納得いくまで分析します。KPIに影響を与える要因を分析することで、何を頑張ればKPIが向上するのかのヒントを得ることができます。数値の良しあしに一喜一憂するだけではいけません。数値の裏側にある情報を押さえることのほうが重要です。

実績数値の分析ができたら、今度は予測に挑戦するといいでしょう。これから数カ月分のKPIの数値を予測します。自部門の活動予定や外部環境の変化などの前提条件を考えたうえで、その情報に基づき数値化します。実績の分析は「数値から情報」という流れでしたが、予測は「情報から数値」という逆の流れです。時が過ぎ、実績数値が出たら、予測との「答え合わせ」をしましょう。もし答えがあっていなかった場合、それは押さえるべき情報が漏れていたのか、それとも読み間違ったのか。この振り返りを何度も行うことで、今後の予測の精度を上げることができます。

正しく将来を読めるようになることは、管理会計の要です。これから自部門、ひいては自社の業績がどうなるのかを正しく予測できれば、必要な対処をとることができます。管理会計は「未来のための会計」ともいわれますが、正しく未来を予測し、必要な場合には適切なアクションをとることで、自社をより良い未来へ導くことができるのです。

3)KPIと決算書の数値の連動

最後に、KPIと決算書の数値を連動させて説明できるようになるといいでしょう。管理会計の目的は業績の向上、つまり、より多くの利益を出すことにあります。決算書上の利益が目標ですので、これと自部門のKPIがどのような関係にあるのかを把握します。

例えば、製造部門の主力製品の歩留まり率をKPIに置いた場合、これが1%改善したらいくらの利益改善効果があるのかを、「金額」で知っておくことが大切です。決算書や利益の話になると、及び腰になる役員も多いのですが、KPIを入り口にして、最終的には決算書の金額に結びつけられるようにならなければなりません。

なぜなら、経営者は、決算書を見て会社の全体像を把握します。つまり、経営者からしてみれば、KPIは会社の一部分の指標にすぎないのです。また、KPIはパーセンテージで表示されることも多く、実際の利益への影響が見えにくいものです。役員は、経営者が意思決定に必要な情報を正確に理解するために、自部門の数値であるKPIと、全社の数字の集合体である決算書上の利益の間を「翻訳」できるようになりましょう。経営者に対して自部門の状況を「翻訳」して説明するのは、役員に求められる必須のスキルといえます。

3 現場で管理会計を定例化させるために必要なこと

1)データベース形式で共有する

日常的にKPIを管理するためには、KPIの実績数値を容易に把握できる仕組みが必要です。丁寧に確認するのは月次で構いませんが、月中にも途中経過を確認できるほうがいいでしょう。KPIを管理するために、必ずしも立派なシステムは必要ではありません。エクセルでも結構ですので、確認したいと思ったときにすぐ確認できる仕組みをつくりましょう。必要なときにいつでも参照できるよう、データベース形式にして共有するのもいいでしょう。他人に頼まないと数値が見られないというのでは、役員として意思決定への活用がしづらくなってしまいます。

2)1つのKPIを管理するのは1つの部門に限定する

同じKPIを複数の部門で集計、管理している場合がありますが、これはなるべく避けましょう。業務が重複して手間が余分に掛かるだけでなく、新たな業務を生みがちだからです。KPIは小数点以下の数値を含むことも多く、複数の部門で管理していると、数値間に差異が発生することが多くあります。数値に差異があると、役員としては安心してその数値を使えず、迅速な意思決定ができなくなりますし、現場も差異の確認に不要な時間がとられます。ぜひ1つの部門で責任を持って計算、管理する方法を採用しましょう。部門をまたぐ話ですので、役員だからこそできる決断でもあります。

3)定期的にアウトプットする

KPIの管理を確実に運用するためには、定例会議資料の項目に織り込むことをおすすめします。定点観測がしやすくなり、また分析のためにいろいろなコメントを得ることができます。そして、KPIの管理に力を入れたい役員自身の本気度を、メンバーに対して伝えることにもつながります。同様の趣旨で、定期的に数値をメールで配信するのもいいかもしれません。小売業のような動きの速い業種では、前日の売上に関するKPIを毎朝配信するのが一般的です。

4)管理サイクルをルーティン化し、スピード感をもって取り組む

初めは、KPIの種類を1~2個に絞り込んだうえでスタートしても構いません。大事なのは、現場を巻き込みながら、定期的なKPIの管理サイクルを回すことです。KPIをはじめ、管理会計はスピード感を持って取り組むことが大切です。数値を確認するのに時間がかかると、分析や実際のアクションにかける時間が減ってしまいます。また、途中で挫折してしまっては、状況の把握が不十分になってしまいます。数値を集計し、分析し、報告する。この流れをタイムリーに運用し続けることを目標に、自部門の管理会計を構築することが、新任役員には求められているのです。

以上(2024年11月更新)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 代表取締役・公認会計士 梅澤真由美)

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【ハラスメント対策】ハラスメントの事実確認 順番は「相談者、第三者、行為者」

書いてあること

  • 主な読者:ハラスメントの事実確認の進め方、留意点を知りたい人
  • 課題:いきなり「行為者」を問い詰めてしまいそうだが、それは正しくなさそう……
  • 解決策:結論を急がない。相談者にしか分からない事実を引き出すことがポイント

1 事実確認は「焦らず、じっくりと」

ハラスメントに関する相談が相談窓口に寄せられた場合、会社はすぐにハラスメントの事実があったか否かを確認します。これを「事実確認」といいます。具体的には、

相談者(被害者など)、第三者(目撃者など)、行為者の順番で事情聴取をする

ことになります。

経営者としては、早く白黒をつけたいので、ついつい事実確認を行う担当者をせかしがちですが、調査不足は事実誤認のもとです。後々の対応(社内処分など)を誤らないためにも、「焦らず、じっくりと事実確認を行うこと」を心がけましょう。

以降では、相談者、第三者、行為者に事実確認をする際の留意点を紹介します。なお、2024年11月1日から、フリーランスに対してもハラスメント防止措置を講じることが義務付けられていますが、事実確認の基本的な流れは、社員もフリーランスも同じです。

2 相談者に事実確認する際の留意点

1)中立的な立場を貫く

相談者に確認する内容は次の通りです。相談者がメールや録音、SNSなどの客観的証拠を持っているようなら、相談者の同意を得てデータをコピーさせてもらいます。

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担当者は中立的な立場で臨み、相談者や行為者に変に肩入れをしないよう注意します。また、必要なのは事実確認と、ハラスメントがあった場合の処分に必要な情報ですから、興味本位の質問や「あなたにも隙があったのではないですか?」などの発言、「それはハラスメントに当たると思います」などの評価をしてはいけません。

2)行為者の言動を具体的に聞き取る

ハラスメントは客観的証拠がないことが多く、「言った、言わない」の問題になりがちです。相談者の話が信じられるかを判断するための1つの基準は、

相談者の話が、実際に体験した者でなければ語ることのできない、具体的で迫真性に富んだ内容か否か

です。そして、これを確認するには、

行為者の実際の言動を、できる限り具体的に、実際の発言の通りに話してもらうこと

が大切です。ハラスメントを受けた相談者が、精神的なショックなどからうまく話せない場合もありますので、辛抱強く聞き取るようにしましょう。相談を受けたり、事情聴取を行ったりする人数や場所、時間なども、相談者が安心して話ができるよう配慮する必要があります。

また、セクハラの場合は羞恥心の問題もあるので、相談者と同性の担当者が事情聴取を行うようにしましょう。

3)相談者を安心させる

相談者は「行為者に報復されるかも……」と心配しているケースが多いので、その場合は

「相談したことで不利益を受けることはないし、行為者には勝手に相談者に接触しないよう強く警告する」

とはっきり伝えます。相談者の精神状態によっては、カウンセリングの実施も検討します。

また、相談者から行為者の処分について質問されることがあります。社内処分は最後に決まるものなので、この段階では「社内処分のことはまだ話せない」と回答しましょう。

相談者によっては、「事を大きくしたくない」「とりあえず報告したかった」と考えているケースもあります。ですから、必ず相談者に対して、第三者への事実確認を行うか、どのように事後対応を進めていくかの確認を取る必要があります。

3 第三者に事実確認する際の留意点

メールや録音、SNSなどの客観的証拠が残っているのであれば、必ずしも第三者に事実確認をしなくてもよいでしょう。逆に客観的証拠がなければ、第三者に事実確認する必要性が高くなってきます。第三者に事実確認する際は、相談者や行為者のプライバシーを守るために、

  • 事実確認する第三者は最小限とし、外部に情報が漏れることを防止する
  • 第三者が事実確認の内容などを他者に漏らさないように「誓約書」を取る

などの対応が必要になってきます。

4 行為者に事実確認する際の留意点

行為者に事実確認する際も中立的な立場で臨みます。事実確認の際は、「虚偽や言い逃れは許さない」という毅然とした態度で臨むことが大切ですが、最初から行為者を犯人扱いしたり、無理に自白を取ろうとしたり、語気を荒らげたりしてはいけません。

また、相談者から相談があったことを行為者に伝えるときは、勝手に相談者に接触しないよう強く警告します。そうしないと、行為者が相談者に「そんなことあった? あのとき、君も笑っていたよね?」などと言って、相談の取り下げを迫ることがあるからです。

なお、ハラスメントの事実が認定できた場合には、行為者には必ず「弁明の機会」を与えます。弁明の機会を与えるのは、

弁明の機会を与えないと、手続きが不適切として行為者を処分できなくなる恐れがある

からです。

5 その他の留意点

事実確認の際は、あらかじめヒアリングする事項をリストにしておき、聞き漏れがないようにしましょう。また、あらかじめ録音することを伝えたうえで、聴取の様子を録音しておくと、「言った、言わない」の問題を回避できます。

なお、相談者と行為者の言い分が食い違うケースはよくあります。また、行為者が経営者や役員など会社内で地位の高い人物であるケースも多いです。このような場合には、社内だけで事情確認を行うのが難しくなるので、専門家である弁護士に相談しましょう。

以上(2024年11月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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【かんたん消費税(3)】インボイス制度のデメリットを理解する上で欠かせない「免税事業者」のこと

書いてあること

  • 主な読者:消費税の「免税事業者」について詳しく知りたい経営者
  • 課題:インボイス制度下では取引先に免税事業者がいる場合、自社の消費税の納税負担が増えるかもしれない
  • 解決策:免税事業者の基本は課税売上高が1000万円以下。ただし、例外もある

1 インボイス制度下では、免税事業者は不利な立場に?

「インボイス制度」が始まった後(2023年10月1日以後)は、

免税事業者との取引については「仕入税額控除」が受けられず、自社の消費税負担が重くなって損をする

ことになります。仕入税額控除とは、

預かった消費税(仮受消費税)から支払った消費税(仮払消費税)を差し引く

ことです。これが免税事業者との取引ではできないので、国に納める消費税が増えることになるのです。

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これは自社が免税事業者の場合も影響します。なぜなら、

自社が免税事業者の場合、反対に相手が仕入税額控除ができない

ことになり、取引の縮小や停止を要請されてしまうかもしれません。

そのため、自社や取引先が免税事業者か否かを確認することが、非常に重要になりました。そこで、この記事では、どのようなときに免税事業者になるのかについて解説します。

なお、インボイス制度に向けた事前準備については、以下のコンテンツで詳しく紹介しているので参考にしてください。

2 免税事業者とは? 

1)どんなときに免税事業者となるのか

事業者は、消費税を負担する人(=消費者)から消費税を預かり、消費者に代わって申告し、納付します。つまり、

物を売ったり、サービスを提供したりしている事業者は、消費税の納税義務者になる

のです。

しかし、消費税の申告作業は非常に煩雑で、その事務負担は重いです。そのため、消費税の納税義務者の考え方について特例が設けられ、

小規模の会社については、消費税の納税義務が免除

されます。

では、小規模の会社かどうかはどうやって判断するのでしょうか。それは、原則、

基準期間の課税売上高が1000万円以下かどうか

で考えます。課税売上高とは、消費税が課税される取引金額の合計のことです。また、基準期間とは、一般的な1年決算法人の場合は、

申告しようとする事業年度の前々事業年度

のことです。

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つまり、前々事業年度における課税売上高が1000万円以下の会社は小規模事業者になると判断され、納税義務が免除されるのです。この納税義務が免除される会社を「免税事業者」と呼びます。ちなみに、免税事業者以外は「課税事業者」と呼びます。

2)取引先は免税事業者なのか?

自社が免税事業者か否かは、過去に申告書を提出しているか否かなどを確認すれば、すぐに分かるでしょう。一方、取引先が免税事業者か否かについては、

得意先に「確認状」を送付するなどして、免税事業者かどうかを教えてもらう

ことになります。課税事業者であれば、通常は「適格請求書発行事業者の登録申請」を行っているはずですので、登録番号も併せて教えてもらうようにしましょう。なお、登録番号が分かれば、国税局が公表している「国税庁インボイス制度適格請求書発行事業者公表サイト」で検索することもできます。

第4章に、取引先に送付する「確認状」の文例を掲載しているので参考にしてください。

3 さまざまな納税義務の判定パターン

基準期間の課税売上高が1000万円以下なら、基本的に免税事業者になります。ただし、例外もあります。

1)設立したばかりの会社

設立したばかりの会社には基準期間(=前々事業年度)がありません。基準期間がなければ課税売上高もないため、基本的には免税事業者になります。ただし、

基準期間がなくても期首の資本金が1000万円以上だと免税事業者にはならない

ので注意してください。つまり、資本金が1000万円以上の会社は課税事業者になります。この例外のポイントは次の2つになります。

  1. 資本金で判断するのは「基準期間がないとき」だけ
  2. 判定のタイミングは、申告しようとする事業年度の期首。期中に増資して資本金が1000万円以上になっても、期首が1000万円未満なら免税事業者

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2)設立時の親会社にも要注意

設立したばかりの会社で期首の資本金が1000万円未満でも、親会社などが大規模な会社だと、免税事業者にならない場合があります。具体的には、

持株割合が50%を超えている株主(個人含む)の課税売上高が5億円を超える場合は、課税事業者になる

ということです。なお、課税売上高が5億円を超えるかどうかは、

設立した法人の基準期間に相当する期間における株主側の課税売上高

で判定します。ただし、この特例も「基準期間がない事業年度」についてのみ適用されます。

3)売上が急拡大した会社の場合

消費税の納税義務は前々事業年度(=基準期間)の課税売上高で判断するのが基本のため、当事業年度の課税売上高がどんなに大きくても、基準期間の課税売上高が1000万円以下なら納税義務はありません。しかし、売上が急拡大している場合は要注意です。なぜなら、

特定期間の課税売上高と給与支払総額のそれぞれが1000万円を超える場合は免税事業者にならない

ためです。特定期間とは、一般的な1年決算法人であれば、

前事業年度の上半期(6カ月間)

のことです。このため、前々事業年度の課税売上高が1000万円以下でも、前事業年度の売上が急拡大し、上半期だけで1000万円を超え、かつ、給与の支払総額も1000万円を超えるときは課税事業者になるのです。

なお、この特例のポイントは、

上半期の課税売上高と給与支払総額の両方が1000万円を超えるときに課税事業者になる

という点です。つまり、どちらか1つが1000万円以下であれば免税事業者になります。

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4)課税事業者を選択した場合

本来は免税事業者に該当する会社でも、「消費税課税事業者選択届出書」を税務署に提出することで、自ら課税事業者になることができます。例えば、免税事業者でも申告書を提出することによって還付を受けられるような会社がこの選択をします。ただし、この選択をした場合には最低でも2事業年度は強制的に課税事業者になります。

4 確認状の文例

20××年××月××日

〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇御中

会社名 部署

適格請求書発行事業者登録番号のご通知とご依頼について

拝啓 貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。

さて、2023年10月1日に導入された適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)上、税務署長に申請して登録を受けた課税事業者である「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書」等の保存が仕入税額控除の要件となっております。

そこで、弊社の適格請求書発行事業者登録番号をご通知するとともに、貴社の登録番号等について、弊社までご連絡をお願い申し上げます。何卒ご主旨をご理解賜り、宜しくお願い申し上げます。

敬具

1. 弊社登録番号

T×××××× ××××××

2. 課税事業者のご確認及び登録番号に関するご依頼

課税事業者の場合、貴社の適格請求書発行事業者登録番号を以下の問合せ先まで、ご連絡願います。

また、課税事業者以外(免税事業者等)の場合は、その旨、ご連絡をお願い致します。

まだ、適格請求書発行事業者の登録がお済みでない場合には、登録のご検討をお願い申し上げます。

3. 問合せ先

部署 氏名

住所

電話番号

メールアドレス

以上

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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