【株主総会】「開催当日」の進行と「開催後」の手続き~コピペで使える書式付き

書いてあること

  • 主な読者:株主総会をスムーズに運営したい経営者、実務担当者
  • 課題:株主総会の進行手順や、総会後に必要な書類および手続きなどを把握したい
  • 解決策:議事進行シナリオを作って流れを確認。議事録の作成、決議通知書の発送、公告の実施、書類の保管を行う

1 議事進行シナリオを作成する

この記事で想定するのは、中小企業に多く見られる「非公開会社」で、機関設計は「取締役会・監査役設置会社」です。非公開会社とは、

全ての株式の譲渡について、会社の承認が必要となる旨を定款に定めている会社

のことです。

さて、大きな会社では定時株主総会(以下「株主総会」)をスムーズに進めるために、

株主からの質疑を想定した想定問答集の作成、議事進行のリハーサル

を行います。しかし、特に難しい議案がない限り、株主が少ない中小企業がそこまでの準備をする必要はなく、

議事進行手順などを整理した「議事進行シナリオ」を作成

しておけば十分でしょう。

株主総会の運営方式には、

  • 一括上程方式:議案を全て上程した後に質疑応答を行って採決する方式
  • 個別上程方式:議案ごとに上程、質疑応答、採決を行う方式

がありますが、一括上程方式のほうがシンプルで、運営もスムーズといえます。

2 一括上程方式の場合の議事進行シナリオの例

1)株主総会の進め方

では、具体的に当日の議事進行についてご紹介します。一括上程方式の場合の議事進行シナリオは次の通りです。中小企業の場合、ここまできっちり行う必要はないでしょうが、一つの例として参考にしていただければと思います。

画像1

2)株主総会の議長

通常、株主総会の議事運営をする議長は定款に定められており、一般的には代表取締役が務めます。定款で定められていない場合は株主総会で選任します。

3)決議要件の確認

株主総会の決議には、普通決議、特別決議、特殊決議の3種類があり、決められる内容や必要な要件が違います。ここでは、取締役の選任などで求められる普通決議について触れます。普通決議とは、

議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した株主の議決権の過半数の賛成(決議要件)による決議

です。定足数については、定款に定めることで変更・排除することができます。ただし、決議要件は変更できません。

4)採決

採決の具体的な方法は法令で定められていません。また、決議の賛否が明らかになれば、賛否の具体的な数を確定する必要もありません。そのため、採決の方法などを定款に定めていないのであれば、議長の合理的な裁量に委ねます。例えば、

異議の有無を出席者全体に尋ねる、挙手、拍手、起立、記名投票など、賛否を判定できる方法であれば問題ない

といえます。

3 議事録の作成

1)記載事項

取締役は、株主総会の議事録を作成しなくてはなりません。議事録に記載する主な事項は次の通りです。

  • 株主総会の日時および場所
  • 株主総会の議事の経過の要領およびその結果
  • 株主総会において述べられた意見または発言があるときはそれらの内容の概要
  • 株主総会に出席した取締役等の氏名または名称
  • 議長がいるときは議長の氏名
  • 議事録作成者の氏名

法令では、議事録に株主総会に出席した取締役等の氏名または名称を記載することが求められています。実際は、議事録が原本であることを判別しやすくするために、出席した取締役等の署名または記名押印をする会社が多いです。

2)作成期限

議事録の作成期限は決まっていませんが、一般的に、

株主総会後、2週間以内に作成

します。これは、商業登記の添付書類として議事録が必要な場合があり、登記事項に変更があった際は2週間以内に変更の登記をしなければならないためです。

4 決議通知書などの発送

多くの場合、株主総会の後、全株主に株主総会での決議結果を知らせるための「決議通知書」や、事業報告書、配当金関係書類などを送付します。ただ、これらの書類の提供は法令で求められてはおらず、株主との良好な関係を維持・構築するための取り組みです。

5 公告の実施

株主総会の後、遅滞なく株主総会で承認を受けた計算書類を公告しなければなりません。非大会社の場合、貸借対照表を計算書類として公告します(損益計算書は不要です)。大会社とは「資本金が5億円以上または負債総額が200億円以上の会社」のことなので、これ以外が非大会社となります。

公告の方法は、「官報」「日刊新聞紙」「電子公告」の中から選んで定款に定めることができます。定款に定めがない場合は官報で公告します。公告方法が官報または日刊新聞紙の場合、貸借対照表の要旨を公告すれば大丈夫です。

なお、公告方法を官報または日刊新聞紙としている場合でも、決算公告のみをインターネットのホームページに掲載して対応することができます。この場合、貸借対照表などが掲載されるウェブページのURLを登記する必要があります。

6 書面などの備え置き

株主総会に関連する書面などの中には、一定期間、本店や支店に備え置かなければならないものがあります。備え置きが必要となる主な書面などは次の通りです。また、これらの書面などについては、株主などからの請求があれば開示しなければなりません。

画像2

7 株主総会議事録の例

 

【第○回定時株主総会議事録】

 

○年○月○日 午前○時、住所○○○○○○○ 当社本社○階第○会議室において、第○回定時株主総会を開催した。

出席した取締役:○○○○、○○○○、○○○○

出席した監査役:○○○○

 

定刻、代表取締役社長○○○○は、定款第〇条の定めに基づき議長席に着き、開会を宣言した。引き続き、議長は出席株主数およびその議決権個数を次の通り報告し、本総会の議案の決議に必要な定足数を充足している旨を告げた。

議決権を有する株主数:○名

総株主の議決権:○個

出席株主数:○名(議決権行使書を含む)

その議決権個数:○個

 

【議事の進行方法】

議長は、本総会の議事の進め方について、監査報告、報告事項の報告、決議事項の内容の説明の後に、報告事項および決議事項に関する質疑や動議などを一括して受け付け、その後に決議事項について採決に入る旨を説明し、議場に諮ったところ、出席株主の多数の賛成により了承された。

 

【報告事項】

議長は、第○期事業年度(○年○月○日から○年○月○日まで)の事業報告の内容を説明し、報告を行った。

議長は、監査役に対し、事業報告、計算書類、議案の監査結果についての監査報告を求めた。監査役○○○○氏は、監査の結果は「第○回定時株主総会招集ご通知」に添付した監査報告書謄本(別添)の通りであり、特に指摘すべき事項はない旨、また、本総会の各議案に関しても法令・定款に違反する事項および不当な事項はない旨を報告した。

 

【決議事項】

第1号議案:第○期事業年度に係る計算書類承認の件

議長は、決議事項の議案審議に入る旨を述べ、第1号議案を上程した。議長は、第○期事業年度に係る計算書類(貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書および個別注記表)は「第○回定時株主総会招集ご通知」に添付した計算書類の通りである旨の説明を行った。

 

第2号議案:取締役3名選任の件

議長は本議案を上程し、現在の当会社取締役である○○○○氏、○○○○氏、○○○○氏の全員の任期が本総会終結のときをもって満了となるので、取締役3名の選任を行いたい旨、その候補者3名は「第○回定時株主総会招集ご通知」記載の通りである旨を述べた。

 

【質疑と説明】

議長は株主に質疑を求めたところ、株主からの次の質疑に対して議長が次の説明をした。

  • 株主番号○:(質疑内容の要点を記載)
  • 議長:(説明内容の要点を記載)

 

【採決】

以上をもって質疑を終わり、議案の採決に入った。

第1号議案:満場一致をもって原案の通り承認可決された。

第2号議案:満場一致をもって原案の通り承認可決された。なお、選任された各取締役は、その場で就任を承諾した。

議長は以上をもって本日の議事を終了した旨を告げ、午前○時に閉会を宣した。

 

上記、議事の経過および結果を明確にするため、本議事録を作成する。

 

○年○月○日

株式会社○○○

 

議事録の作成者 代表取締役 ○○○○ 印

8 決議通知書の例

 

○年○月○日

株主各位

住所:○○○○○○○

社名:株式会社○○○

代表取締役 ○○○○

 

第○回 定時株主総会 決議ご通知

 

拝啓 平素は格別のご高配を承り厚く御礼申し上げます。

さて、本日開催の当社第○回定時株主総会において、下記の通り報告並びに決議がなされましたので、ご通知申し上げます。

敬具

 

報告事項

第○期(○年○月○日から○年○月○日まで)の事業報告、計算書類および監査役の監査結果報告の件

本件は、上記書類の内容を報告いたしました。

 

決議事項

第1号議案:第○期事業年度に係る計算書類承認の件

本件は、原案の通り承認可決されました。

第2号議案:取締役3名選任の件

本件は、原案の通り承認可決され、○○○○、○○○○、○○○○が就任いたしました。

 

以上

以上(2024年4月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

pj60065
画像:joel_420-Adobe Stock

【朝礼】ビジネスの「賞味期限」は、あなた次第で決まる

おはようございます。今朝は、「考え事の賞味期限を決める」ことについてお話しします。

食べ物には賞味期限や消費期限、建築物には耐用年数といった期限があります。この期限を守らないと、食べ物をおいしく食べることも、建築物を安全に利用することもできません。私たちにも、健康寿命と命の寿命があって、その期間にできることは限られています。

こう考えると、私たちの活動には、「寿命のある者(私たち)が、寿命が尽きる前に、何かを食べたり利用したりして、やはり寿命のある何かを生み出す」という側面がありますね。

そして、何を食べるか、何を利用するかを「決める」のにも時間の制約があります。例えば、ランチにラーメンとカレーのどちらにするか、長い時間迷っていたら昼休みが終わってしまいます。これは極端な例ですが、日々の生活はこうした決め事の連続ですから、早く決めれば、それだけやれることも増えるわけです。とはいえ、全てを自分だけで決められるわけではありません。特にビジネスはそうで、こちらと相手の息が合わないと、できることもできなくなってしまいます。

一つ、興味深い言葉を紹介します。それは「不期明日(みょうにちをきせず)」という禅の言葉です。千利休(せんのりきゅう)の孫である宗旦(そうたん)が、自身の隠居所となる茶室を建て、そこに禅の師匠である清巌(せいがん)を招きました。ところが、約束の時間に清巌は訪れません。

仕方がないので、宗旦は「また明日、お越しください」という伝言を弟子に託し、自らは別の用事で出掛けました。宗旦が戻ったとき、茶室には清巌が書いた「懈怠比丘不期明日(けたいのびくみょうにちをきせず )」という言葉が残されていました。「怠け者の私(清巌)は、明日来てほしいと言われても、行けるかどうか分かりません」という意味です。この言葉を見た宗旦は、茶室に「今日庵(こんにちあん)」という名前を付けたそうです。

この教えは、「明日はどうなるか分からないので、先延ばしにせず、やるべきことは今日やることが大事」というものです。これはその通りですが、時間通りに来なかったのは清巌であり、「宗旦がずっと待ち続けるべきだったのか?」という疑問が残ります。

この点について、私は「考えることも、行動することも、自分のスピード感に相手を巻き込むことが大切」と考えています。先の例で言えば、清巌が「時間通りに必ず行こう。とても楽しそうだ!」「いつもお世話になっているから、遅れることはできない」と思っていたら、違う結末になっていたはずです。

「賞味期限」とは、単に時間の長さだけではなく、物事に対する関係者の熱量であると考えることができます。そして、その賞味期限は、関係者間で共有できるようにしておかないと、物事は前に進まないのです。

以上(2024年5月作成)

pj17179
画像:Mariko Mitsuda

【株主総会】知っていますか? 普通・特別・特殊決議の違い

書いてあること

  • 主な読者:株主総会で行われる決議の種類や決議事項を知りたい経営者、実務担当者
  • 課題:正直に言うと、普通決議・特別決議・特殊決議の違いがよく分かっていない
  • 解決策:定足数と決議要件の違いを確認し、それぞれの決議で決められることを把握する

1 株主総会で行われる3つの決議

定時株主総会(以下「株主総会」)で行われる決議には、普通決議・特別決議・特殊決議の3種類があります。ほとんどの事項は普通決議で決まりますが、多くの株主に影響を及ぼすような重大な事項は、特別決議などで決めます。

まずは、3つの決議について説明した後に、それぞれの決議で決められることを網羅的に紹介します。株主総会で決めたいことと照らし合わせて、必要な決議の種類を確認してください。

画像1

1)普通決議

普通決議には、

議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した当該株主の議決権の過半数の賛成(決議要件)

が必要です。定款に定めれば定足数を変更・排除できます。

なお、会社法第309条1項に定める普通決議ではないものの、注意が必要なのが、

役員の選任・解任の決議については、定款で定めても定足数は議決権を有する株主の3分の1以上でなければならない

という点です。

2)特別決議

特別決議には、

議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上の賛成(決議要件)

が必要です。ただし、定款に定めれば定足数を3分の1超、決議要件を3分の2超にできます。

3)特殊決議

特殊決議には2種類あります。1つは会社法第309条第3項に定められるもので、

議決権を行使できる株主の半数以上であって、当該株主の議決権の3分の2以上の賛成(決議要件)

を必要とするものです。主な決議事項には、発行する全部の株式に譲渡制限を付するための定款変更などがあります。

もう1つは第309条第4項に定められるもので、

総株主の半数以上であって、総株主の議決権の4分の3以上の賛成(決議要件)

を必要とするものです。主な決議事項には、非公開会社における「剰余金の配当を受ける権利」「残余財産の分配を受ける権利」「株主総会における議決権」について、株主ごとに異なる取り扱いを行う旨の定款の変更(廃止を除く)などがあります。

2 普通決議で決められること

  • 特定の株主からの取得(会社法第160条第1項)を除く、株主との合意による自己株式の有償取得(会社法第156条第1項)
  • 会計監査人の選任、解任(会社法第329条第1項、第339条第1項)
  • 会計監査人の不再任(会社法第338条第2項)
  • 取締役会非設置会社の取締役による競業および利益相反取引の承認(会社法第356条第1項)
  • 取締役の報酬など(定款に当該事項を定めていないとき)(会社法第361条第1項)
  • 会計参与の報酬など(定款に当該事項を定めていないとき)(会社法第379条第1項)
  • 監査役の報酬など(定款に当該事項を定めていないとき)(会社法第387条第1項)
  • 資本金の額の減少(株主総会で欠損の額を超えない範囲で決定するもの)(会社法第447条第1項、第309条第2項第9号括弧書)
  • 準備金の額の減少(会社法第448条第1項)
  • 剰余金の額の減少による資本金・準備金の額の増加(会社法第450条第2項、第451条第2項)
  • 剰余金についてのその他の処分(会社法第452条)
  • 剰余金の配当に関する事項の決定(金銭分配請求権を与えない現物配当を除く)(会社法第454条第1項)
  •  

    (以下は、会社法第309条1項に定める普通決議ではないが、出席株主の過半数の決議で行うもの)

  • 取締役、会計参与、監査役の選任(会社法第329条第1項)
  • 取締役(累積投票により選任された者を除く)、会計参与の解任(会社法第339条第1項)

3 特別決議で決められること

  • 株式譲渡不承認の場合における株式会社の買取の決定(会社法第140条第2項)
  • 取締役会非設置会社における指定買取人の指定(会社法第140条第5項)
  • 特定の者からの自己株式の取得(会社法第156条第1項、第160条第1項)
  • 全部取得条項付種類株式の取得(会社法第171条第1項)
  • 相続その他の一般承継により当該株式会社の譲渡制限株式を取得した者に対する売渡し請求(会社法第175条第1項)
  • 株式の併合(会社法第180条第2項)
  • 非公開会社における募集株式(新株発行・自己株式処分)における募集事項の決定(会社法第199条第2項)
  • 非公開会社における募集株式の募集事項の決定の取締役、取締役会への委任(会社法第200条第1項)
  • (取締役による決定および取締役会による決議によって募集事項を定められる旨の定款が存在しない場合)募集株式の割当てを受ける権利を株主へ与える決定(会社法第202条第3項第4号)
  • 取締役会非設置会社における譲渡制限株式の割当て(会社法第204条第2項)
  • 募集新株予約権の発行における募集事項の決定(会社法第238条第2項)
  • 募集新株予約権の募集事項の決定の取締役、取締役会への委任(会社法第239条第1項)
  • (取締役による決定および取締役会による決議によって募集事項を定められる旨の定款が存在しない場合)募集新株予約権の割当てを受ける権利を株主へ与える決定(会社法第241条第3項第4号)
  • 取締役会非設置会社における譲渡制限株式を目的とする募集新株予約権および譲渡制限新株予約権の割当て(会社法第243条第2項)
  • 監査役、累積投票により選任された取締役解任(会社法第339条第1項)
  • 役員等の会社に対する損害賠償責任の一部免除(会社法第425条第1項)
  • 資本金の額の減少(株主総会で欠損の額を超えない範囲で決定するものを除く)(会社法第447条第1項)
  • 金銭以外の配当(株主に金銭分配請求権を与える場合を除く)(会社法第454条第4項)
  • 会社法第2編第6章「定款変更」(会社法第466条の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会)
  • 会社法第2編第7章「事業譲渡」(会社法第467条~第470条の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会)
  • 会社法第2編第8章「解散」(会社法第471条~第474条の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会)
  • 会社法第5編「組織変更、合併、会社分割、株式交換および株式移転」(会社法第743条~第816条の規定により株主総会の決議を要する場合における当該株主総会)

4 特殊決議で決められること

1)会社法第309条第3項

  • 発行する全部の株式に譲渡制限を付するための定款変更(第1号)
  • 吸収合併により消滅する会社または株式交換により完全子会社となる会社が公開会社であって、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭などの全部または一部が譲渡制限株式などである場合における当該会社の吸収合併契約、株式交換契約の承認(第2号)
  • 新設合併により消滅する会社または株式移転により完全子会社となる会社が公開会社であって、かつ、当該株式会社の株主に対して交付する金銭などの全部または一部が譲渡制限株式などである場合における当該会社の新設合併契約、株式移転計画の承認(第3号)

2)会社法第309条第4項

  • 公開会社でない株式会社における、「剰余金の配当を受ける権利」「残余財産の分配を受ける権利」「株主総会における議決権」に関する事項について、株主ごとに異なる取り扱いを行う旨の定款の定めについての定款の変更(廃止する場合を除く)

以上(2024年4月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 滝川航生)

pj60063
画像:photo-ac

【株主総会】面倒でも株主総会を開催しなければ「会社法」違反!

書いてあること

  • 主な読者:定時株主総会を開催しないことが「会社法」違反になることを知った経営者、実務担当者
  • 課題:定時株主総会の開催が必須であることは理解したが、何を決めるべきか分からない
  • 解決策:取締役会設置会社は、株主総会の前に取締役会で議題を承認する必要がある。計算書類、事業報告の準備、取締役の選任・解任などありがちな議案を確認する

1 株主総会を開催しない株式会社はやばい?

この記事で想定するのは、中小企業に多く見られる「非公開会社」で、機関設計は「取締役会・監査役設置会社」です。非公開会社とは、

全ての株式の譲渡について、会社の承認が必要となる旨を定款に定めている会社

のことです。

株主が経営者とその親族などに限られているオーナー企業では、「いつでも株主と連絡が取れる」「株主総会の実務が面倒」といった理由から、実際の株主総会を開催せず、議事録だけを作成しているケースがあります。しかし、これは会社法第319条第1項で株主総会の決議の省略が認められている場合を除き会社法違反です。

なぜなら、株主総会は株式会社に必ず必要な「機関」です。また、株主総会には、

  • 定時株主総会:事業年度の終了後に開催
  • 臨時株主総会:定時株主総会以外で必要がある場合に開催

がありますが、会社法上、定時株主総会(以下「株主総会」)は事業年度に1回、必ず開催しなければなりません。つまり、

株主総会を開催しない株式会社はない

ということになります。

2 株主総会で決められることは限定的?

取締役会を設置している会社は、

  • 株主総会の決議事項は、法令と定款に定めた事項に限り認められる
  • 株主総会の議案として上程したもの以外は、原則としてその株主総会では決められない
  • 株主総会の議題については、事前に取締役会の決議が必要

といったルールがあります。つまり、株主総会だけで新しいことをあれこれと決めることはできません。何を決めなければならないのか、事前の取締役会の決議の時点から漏れなどがないようにしなければなりません。以降で、株主総会の主な議題と留意点を確認していきましょう。

3 株主総会の主な議題と留意点

1)計算書類の承認と事業報告の報告

計算書類とは要するに決算書のことで、株主総会で承認のための普通決議を受けなければなりません。普通決議とは、

議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した株主の議決権の過半数の賛成(決議要件)よる決議

です。また、取締役は株主総会で事業報告をしなければなりません。事業報告とは、文字通り、事業の状況に関する報告です。

取締役会設置会社の場合は、

計算書類と事業報告は取締役会における承認が必要

となるので注意しましょう。

2)取締役・監査役の選任

取締役・監査役の選任には、株主総会の決議が必要です。取締役の任期は原則2年、監査役の任期は原則4年です。ただし、非公開会社の場合、取締役・監査役ともに、定款に定めることで任期を最長10年に伸長できます。

3)取締役の報酬

取締役の報酬は、次の事項を定款に定めるか、定めないときは株主総会の普通決議が必要です。

  1. 報酬等のうち額が確定しているものについては、その額
  2. 報酬等のうち額が確定していないものについては、その具体的な算定方法
  3. 報酬等のうち金銭でないものについては、その具体的な内容

2.は業績連動型報酬などのように事前に額を確定できないもの、3.は現物支給やストックオプションなどが該当します。中小企業では、1.に該当するものがほとんどでしょう。

なお、取締役会設置会社の場合、全取締役の報酬総額を「年額○○○万円以内とし、各役員の具体的な報酬額は取締役会に一任する」などと株主総会で決議し、報酬額は取締役会で決定することが実務上は多いです。

株主総会での決議は、一度決議をした範囲で報酬額を決定している限り、毎年行う必要はありませんが、全取締役の報酬総額の上限を超えて報酬を支払う場合や、取締役の報酬総額を決議した内容と異なる報酬額とする場合は、改めて株主総会で決議する必要があります。

4)定款の変更

定款の変更は、株主総会での特別決議が必要です。特別決議とは、

議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席(定足数)し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成(決議要件)よる決議

です。

定款には「絶対的記載事項」「相対的記載事項」「任意的記載事項」があります。絶対的記載事項は、定款に必ず記載する必要があり、その規定を欠くと定款が無効になる事項です。相対的記載事項は、記載がなくても定款の効力自体に問題はありませんが、記載がなければその効力が認められません。任意的記載事項は、会社が任意に記載する事項です。

相対的記載事項を新たに設定する場合、本当に定款に定める必要があるか否かについて会社法の規定を確認する必要があります。絶対的記載事項と主な相対的記載事項は次の通りです。

画像1

以上(2024年4月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 滝川航生)

pj60057
画像:pixabay

霞ヶ浦産「AIシラウオ」の大躍進! ~行政とスタートアップのコラボレーション

書いてあること

  • 主な読者:AIを導入したい経営者、または行政とのコラボレーションを目指している経営者
  • 課題:AIの導入を検討しているが使いどころが分からない、また効果的な行政とのコラボレーションの方法に悩んでいる
  • 解決策:課題を明らかにした上で、それを解決すべく「適材適所」で、AIの長所と人間の長所を使い分けて組み合わせることで、効果的なAI導入を図ることができる

1 AIで輝きを増す「霞ヶ浦のダイヤモンド」

全国第2位の面積を誇る湖、茨城県霞ヶ浦。釣り愛好家の間ではバス釣りの名所として知られているこの地で、近年、最新技術を駆使した「AIシラウオ」が注目を集めています。

地元では「霞ヶ浦のダイヤモンド」とも呼ばれる透明で美しいシラウオは、全国第2位の漁獲量を誇っていたにもかかわらず、長い間脚光を浴びることがなく、持続可能な漁業が危ぶまれる状況にありました。

この問題を解決するために霞ヶ浦湖東の行方(なめがた)市が始めたのが、スタートアップとのコラボレーション。スタートアップのima(アイマ、東京都中央区)と行方市が協力し、AIの技術を使ったシラウオのブランド化に挑戦したのです。

本プロジェクトは、難しいとされがちな行政×スタートアップのコラボレーションの成功例といえます。

本取り組みの2つの軸は、AIの長所である「客観性」を活かした技術の導入と、人間の長所である「つながり」を活かした斬新なコラボレーション。

2つの長所が組み合わさり、AIと人間が【適材適所の働き】を見せることで、本プロジェクトは大成功し、霞ヶ浦のシラウオ漁業問題も解決の道へと進み始めています。

また、本プロジェクトの肝である【適材適所:技術の使い分け】には、停滞する経営にてこ入れし、好循環を生み出すためのヒントも隠されていました。

この記事では行方市とimaの取り組みを紹介し、自社で活かせるポイントを説明していきます。

2 「AIシラウオ」プロジェクト

漁業にAIを組み合わせる「スマート漁業」は黎明(れいめい)期にありますが、行政の取り組みはとても斬新です。行方市はどのような問題を抱え、それをどうやって解決したのでしょうか? その流れを見てみましょう。

1)霞ヶ浦の負のスパイラル

霞ヶ浦のシラウオ漁業は、漁獲量頼みの経営が原因の「負のスパイラル」に陥っていました。この悪循環が生まれた理由は、大きく分けて以下の2つです。

1.漁獲量が不安定であること

漁業は気候変動や他生物の増減などの影響を受けやすく、毎年の漁獲量にどうしても差が出てきます。何らかの理由によって魚の数が減少すると、当然その年の漁獲量も減ります。

2.価格も不安定であること

画像1

このグラフのように価格が不安定である主な理由に「霞ヶ浦近郊に卸市場が存在しないこと」が挙げられます。卸市場には、価格をコントロールしながら広く商品を流通させ、結果的に漁業者を守る機能があります。しかし、卸市場が存在しない霞ヶ浦の漁業者は、商社(加工業者)や飲食店と直接売買を行うほかありませんでした。すると、どうしても価格が買い手主導のものとなってしまうため、霞ヶ浦の漁業者たちは苦しい経営を余儀なくされていました。

また、生活を豊かにしようとたくさんのシラウオを漁獲すると、卵を産む親魚の数が減り、翌年以降の漁獲量が減少します。漁獲量が減ると生活が苦しくなり、生活を豊かにするためにシラウオを取ればまた漁獲量が減ってしまう――霞ヶ浦のシラウオ漁業は、この「負のスパイラル」に陥っていたのです。

「漁獲量が不安定」「価格も不安定」という問題を解決するために、そして、持続可能な漁業を実現して地域を豊かにするために、行方市は2021年、新たな取り組みを始めました。

それがスタートアップとのタッグ、そしてAIを使った品質保証による、霞ヶ浦産シラウオのブランド化プロジェクトです。

2)敏腕目利き役「AI」

画像2

行方市とタッグを組んだのは、同県つくば市在住の三浦亜美氏が代表を務めるスタートアップ企業のimaです。「あらゆるものの“合間”をとりもち、社会のデジタルトランスフォーメーション(DX)化を支援する」というコンセプトを持つimaは、本取り組みで「行方市」と「AIという最新技術」の手をつながせました。

両者のコラボレーションの肝は、「AIによる客観的な品質保証」です。

シラウオは鮮度が命。AIが客観的に鮮度を目利きできれば、卸市場の代わりにAIがシラウオのおいしさなど品質を保証することが可能で、それ自体が大きな付加価値となります。

AIシラウオ(AIが品質保証したシラウオ)のブランド化が進めば取引価格も安定し、漁業者の労働時間の改善、所得の増加、そして漁業自体のイメージアップにもつながります。この好循環を創り出し、ゆくゆくは霞ヶ浦地域全体に持続可能な漁業が根付くことを目的とした、「霞ヶ浦産シラウオ×AIプロジェクト」が幕を開けたのです。

imaは最新技術を導入するために、また流通やAI開発の手助けにするために、AI開発会社のみならず、東京農業大学(東京都世田谷区)や近畿大学(大阪府東大阪市)とも協力し、霞ヶ浦産シラウオのブランド化に注力しました。

この取り組みにおいて着目されたのは、新鮮なシラウオとそうでないシラウオの姿の違いです。

シラウオは1年で成長し、卵を産むことで一生を終える「年魚」。1年を通して大きさ・色が変化するために、新鮮なシラウオがどの時期にどんな姿をしているのか、膨大なデータをAIに学ばせることが必要です。

そこで行方市は漁業者の協力を得て、時期によるシラウオの姿の違いのデータを収集し、時期ごとに鮮度等級を定め、そのデータをAIに学ばせ、等級を判別する技術を開発しました。

本プロジェクト始動から約1年後の2022年、行方市とimaは、ついにシラウオの鮮度等級を判別し、品質を保証するAI技術を完成させたのです。

3)最大のデメリットを最大のメリットへ

今、霞ヶ浦産シラウオはAIによる品質保証という付加価値が認められ、また東京近郊であるという地理的な利点を活かして、都内の飲食店への直送システムの構築や販路の開拓にも成功しました。

通常、都内でシラウオを販売する場合、青森県産や島根県産のシラウオは朝の漁の後、空輸で豊洲市場まで運ばれるため、飲食店での提供はどうしても漁の翌営業日からになります。

一方、霞ヶ浦産のシラウオは茨城県から卸を通さずに都内へ直送されるので、朝取れの新鮮なシラウオを、漁をしたその日の午前中に、飲食店に届けることが可能です。

都内では延べ13店舗もの飲食店が霞ヶ浦産のAIシラウオを提供し、「朝取れなので活きが良い」「早い時間のお客さまにも提供できる」と評判になったといいます。本プロジェクトでは品質管理センターを設けるなど、今後も継続的に東京近郊への販路拡大を目指すそうです。

シラウオは鮮度が命。霞ヶ浦が抱える「卸市場がない」というデメリットが、本プロジェクトにより、唯一無二の強みとなったといえます。

4)ブランド化成功の夜明け

画像3

また、霞ヶ浦産シラウオのブランド化戦略の一環として、加工品の開発も行われています。

2023年には行方ブランド戦略会議が開発した、地元料理・シラウオの塩辛から着想を得た「しらうお魚醤(ぎょしょう)」の「こはく・すず」が発売され、先着のモニター販売はわずか3時間で完売という素晴らしい結果を残したのです。「こはく・すず」は、現在は地元の道の駅やECサイトでの販売をはじめとして、ふるさと納税の返礼品や、ゆくゆくは茨城県のアンテナショップなどでも取り扱われる予定となっています。

霞ヶ浦産シラウオは行方市を代表する特産物として成長し、そのブランド化は着実に、成功の道へと進み出しているのです。

画像4

行方市の取り組みの肝は、「適材適所」が付加価値を生んだという点です。

資源を持つ行方市、技術や知識を持つAI開発会社・大学、そして、その合間を取り持ちプロジェクト提案と進行を担ったima。三者が手を取り合ったことで、今、「霞ヶ浦のダイヤモンド」は唯一無二の輝きを放ち始めたのです。

3「適材適所」が価値を生む

行方市の取り組みから学ぶことができるのは、以下2つの「適材適所」による価値の創出とそのプロセスです。

1)AIの長所は「客観性」

本取り組みにおいて有効活用されたAIの長所とは、「客観性」です。

AIによる客観的な評価を取り入れた結果、行方市のシラウオには新たな付加価値が加わり、そのブランド化と、持続可能な漁業をするための好循環の構築に成功しつつあります。

第一次産業に限らず、「勘と経験と度胸」という主観的な物差しだけでは信用を勝ち取れないケースは数多く存在します。また、客観的な評価を「適材適所」でAIに任せれば、業務が効率化するとともに、顧客や人材の信用も勝ち取ることができます。AIの使いどころを見定めることで、一見AIとは距離が遠く思える分野においても、効果的に最新技術を導入することが可能です。

2) 人間の長所は「つながり」

また、行政とのコラボレーションを目指す中小企業にとっても、この取り組みは大きなヒントとなり得ます。

今回の取り組みでは行政とAI開発会社・大学との合間をスタートアップ企業がつなぎ、また行政が地元漁業者の協力を得てAI開発会社・大学との合間をつないだことで、AIの技術開発や商品のブランド化成功への道が開けました。問題を抱えていた地元の漁業者が持つ知恵を最新技術のなかに活かすことが、このプロジェクトの本質的な成功の秘訣といえるでしょう。

一見難しく思える異業種コラボレーションも、「何が問題なのか」「それを解決するために何が必要なのか」を理解し、長所を活かした「適材適所」の提案をしてつながり合うことで、プロジェクトに大きな価値と好循環を生むことが可能でしょう。

以上(2024年5月作成)

pj50538
画像:なめがたブランド戦略会議

「社員の成長は会社の成長」 ~成長する社員に共通する3つの特徴とは?

書いてあること

  • 主な読者:最近、社員があまり成長していないと感じている経営者
  • 課題:忙しさもあり、社員の仕事ぶりをしっかりと見ることができていない
  • 解決策:具体的な成果にも着目するが、加えて成果を上げやすい社員の言動にも注目する

1 社員の成長なくして会社の成長なし

最近、「社員が成長したな!」と嬉しく感じたことはありましたか? もし、記憶にないということでしたらご用心。経営者が社員の成長を感じられない主な理由は、次の通りです。

  • 経営者が社員の成長に気付けていない
  • 本当に社員が成長していない

1.のような状況だと、社員は自分の成長に目を向けてくれない会社に不安を覚え、もっと成長できる場所、認めてもらえる場所を探して転職してしまうかもしれません。また、2.の場合は採用(怠け者を採用してしまっているなど)や教育制度の問題ですから、より根本的に人事制度を見直さなければなりません。

社員の成長なくして会社の成長はありません。経営者の皆さんは非常に多忙ですが、改めて社員の働きぶりに目を向けてみてください。そうすると「おっ!」と思える成長をしている社員がいるかもしれません。

この記事では、「1.経営者が社員の成長に気付けていない」の課題に注目し、経営者が気付いてあげたい、意外な社員の成長の兆しについて紹介していきます。もし該当する社員がいたら声をかけてあげてください。働き方がどう変わろうとも、経営者の一言は社員の成長を促す大きなエネルギーになります。

2 スマホがよく鳴る社員は社外から頼りにされている

社員の成長としては、仕事の処理スピードアップや新規営業先の獲得が分かりやすいですが、これは目に見える成果の形の一例です。経営者が注目したいのはその一歩手前、つまり「成果を上げやすい行動」です。社員をよく見ていると、その片鱗が垣間見えます。

例えば、スマホが頻繁に鳴り、笑顔で話している社員に注目してみましょう。このような社員は、社外の人から頼りにされやすく、気軽に連絡できる親しみやすい性格の持ち主かもしれません。仕事は関係者が協力し合って進めるものですから、

誰と協力するのか?

が成功のためにとても重要です。能力が足りていることもそうですが、「信頼できる(頼りになる)」というのが大前提になります。その信頼は、会社の規模や実績からも判断できますが、窓口担当者の言動も大きく影響します。社員のスマホに多くの連絡が寄せられることは、業務効率化の観点からは問題かもしれませんが、「何かと頼りにされている」という意味では、頼もしい存在だと言えます。

3 「運がいい」が口癖の社員は、大量のチャンスを獲得中

「運」に関しては、多くの人が研究を進めていますが、「確率」が大きく関係していることは確かでしょう。ビジネスにおいても、

多くの人と交流を持てば、成果を上げるチャンスも増える

ということです。かつて、「名刺の減り方と成長スピードは関連がある」と言われましたが、これと似た考え方かもしれません。

また、実際に多くの人と出会っている社員は、そうしたシーンに慣れています。そして、無理に特定の人との出会いを追求せず、自然なコミュニケーションで話を進めることができます。そうした出会いからビジネスに結びつくことがあれば、

あの時、あの人に出会えたからビジネスで成功した。運が良かった

と言うのです。

御社に、多くの人と出会っている社員がいれば、「最近出会った面白い人は誰?」と尋ねてみてください。おそらく、経営者の皆さんがまだ知らない人物が紹介されるでしょう。これは良い兆候です。なぜなら、会社全体として、重複のない広いつながりを持てていることの証だからです。

4 「理解しづらい」ことを言う社員は、新規事業の原石

生成AIなど、新しいアイデアや技術が次々と登場しています。御社には、新しいことが大好きで、すぐに取り組む社員はいますか? そんな社員は、まさに新しいものを取り入れて成長している最中です。その発言は、新しいものを敬遠しがちな社員や、変化を好まない社員からすると、理解しづらく評価の低いものになります。しかし、それでいいのでしょうか?

経営者も新しい情報や技術に触れることが大切ですが、初めて聞く内容や理解しにくい提案をする社員がいる場合、彼らこそが新しいビジネスチャンスを生み出す原石かもしれません。

「何か新しいことがしたい」と言う人に限って、なかなか今の行動を変えることができないものであり、経営者も例外ではありません。そうした経営者にとって、理解し難いことを提案してくる社員は、注目に値する、成長中の社員かもしれません。

5 放置してはいけない

以上が、成長する社員が見せる特徴の一例です。この他にもさまざまな兆しがあるので、社員の日頃の言動に注目してみてください。また、大切なことは、成長中の社員を見つけて放置することなく、声をかけ、具体的なチャンスを与えることです。経営者の声掛けと経験が社員の成長スピードをさらに早めることでしょう。

以上(2024年6月更新)

pj00671
画像:OKADA-Adobe Stock

経営者を支える「参謀2.0」。参謀獲得の新たな動きを見逃すな!

書いてあること

  • 主な読者:会社をさらに成長させるために、頼れる参謀を切望している経営者
  • 課題:参謀には経営者とは異なる視点を持ってほしいが、そうした人材は少ない
  • 解決策:「参謀は内部人材に限らないし、ジョブ型でもいい」という感覚を持つ

1 「参謀2.0」を考える。なぜ、経営者には参謀が必要なのか?

いかに優れた経営者でも1人でできることは限られます。ですから、

経営者には、自身とは違う視点で物事を捉え、時には自身をいさめてくれる「参謀」

が必要です。特に、コロナ禍を経て、経済が再び急速に動き始めた今、攻めるときも守るときも、経営者を支える参謀の存在は頼もしいはずです。

一方、ここ数年で参謀の在り方も変わってきました。例えば、新規事業を立ち上げる際、コアとなる人物(参謀)を業務委託で外部から招聘(しょうへい)するケースがあります。また、金融機関がDX参謀などとして、会社を強力にサポートするケースもあります。これらの動きは、

  • 参謀を内部人材とは限らず、業務委託で外部から招聘できる
  • 一部の分野に特化した「ジョブ型参謀」の組み合わせでもよい

という状況の変化を反映したものです。以降ではこの流れを踏まえて、経営者が参謀を獲得する上で重要な視点を紹介します。

2 「内部×外部」で化学反応を起こす!

参謀は誰にでも務まるものではないため、その選定や育成に時間がかかります。とはいえ、経営者が捻出できる時間には限りがあります。また、経営者が自ら参謀を育成することになれば、参謀の考え方は経営者と似通ってくるので、「異なる視点 で局面を見る」という、参謀にとって重要な条件が満たされにくくなります。

もし、御社が参謀の育成に困っているなら、参謀を「業務委託で外部から招聘する」のも一策です。実際、こうして参謀を獲得し、事業を成功に導いている経営者は数多くいます。とはいえ、単に業務委託として使うだけだと、その参謀との契約期間が終了した後に何も残りません。ですから、社内の参謀候補と外部から招聘した参謀とでチームをつくり、自社の参謀候補に新しい知見を吸収させることが重要です。

これには別の意味もあります。外部から参謀が招聘されると、自社の参謀候補は面白くありません。しかし、外部から招聘した参謀とチームを組ませることで、参謀候補は自身への経営者の期待を再認識できるわけです。

3 「ジョブ型」参謀はすでに存在する

経営者に「経営に必要な能力は?」と質問すれば、おのおのが自身の考えを述べるでしょう。例えば、「人間力」「判断力」「リーダーシップ」などですが、これらは抽象的です。より具体的に掘り下げるにしても、経営者の仕事は多岐にわたり、具体化してみると実に多くの能力を求められていることが分かります。そして、多様な能力が求められるのは、経営者を支える参謀についても同様です。

ただ、何もかもに精通した「オールマイティーな参謀」は、そうそういるものではありません。ですから、考え方を少し変えて「ジョブ型参謀」のチームを意識してみましょう。「DXであればA参謀」「採用教育であればB参謀」といった具合です。例えば、顧問税理士は、税務会計における社外参謀といえますが、DXには明るくないかもしれません。こういう場合は、別の分野で専門的な知見を持つ参謀を獲得し、組み合わせればよいのです。

また、参謀は必ずしも管理職クラス(部長や課長など)である必要はありません。通常の社員の中にも、経営者の目が届かないところ(テレワークなど)で、さまざまなことを学習し、特定分野においては社内の誰よりも知識を持っている人がいます。そうした社員は、自分の得意とする分野において、ジョブ型参謀としての役割を立派に果たしてくれるでしょう。

4 参謀リーダーという考え方

参謀は1人とは限らず、複数人いるケースもあるわけですが、この場合、参謀を束ねる参謀リーダーがいると意見がまとまりやすくなります。この参謀リーダーは、DXや税務会計などに明るくなくてもよく、むしろ「コミュニケーション能力が高く、ある意味で狡猾(こうかつ)に経営者を利用できる器」であることが求められます。例えば、次のような資質を備えた人物は参謀リーダーに向いています。

1)イエスマンにも反対勢力にもならない

参謀リーダーは経営者が好みそうな意見をまとめる「イエスマン」ではありません。さまざまな知見に触れ、経営者に「異見」を提示できる立場である必要があります。ただし、決して経営者を軽んじたり、反対勢力になったりすることはありません。

2)現場(社員)の声を吸い上げる

経営者は現場の社員の声を聞こうとしますが、社員は経営者に率直な意見を言うことをためらいます。特に悪い情報は、経営者の耳に入らないことが多いものです。そこで、参謀リーダーは経営者の目となり耳となって、経営者が把握しにくい社内の声や雰囲気などをつかみ、経営者に伝えなければなりません。特に、経営者に反抗的な社員がいる場合は注意します。

3)経営者の代弁者となる

経営者は、社員にさまざまなことを語りかけます。組織に一体感を与えるために理念を語ることもあれば、新たに講じた施策の内容やその意図を語ることもあるでしょう。しかし、多くの社員にとって、経営者の思いや意図は分かりにくいものです。そこで、参謀リーダーが経営者の代弁者となり、経営者の真の思いや意図を分かりやすく伝えるようにしましょう。

4)経営者をうまく使う

経営者でなければ対処できない課題があります。例えば、重要な交渉が暗礁に乗り上げたときに、経営者が出ていくことで流れを変えられることもあります。常に経営者を頼るというわけではなく、「ここぞ!」というときに、良い意味で経営者を使い、物事をうまく運ぶ器用さが参謀リーダーには求められます。

以上(2024年6月更新)

pj00307
画像:pexels

介護離職を防止する3ステップと復職支援

書いてあること

  • 主な読者:社員の介護離職が心配な経営者
  • 課題:何も対策しないわけにはいかないが、介護はデリケートな問題なので介入しにくい
  • 解決策:介護に直面する前から、相談しやすい雰囲気づくりや支援制度の情報提供に努める

1 仕事を辞めたいわけではない「介護離職」を防止する

介護離職とは、

仕事と家族の介護を両立することが難しくなり、仕事を辞めること

で、1年に約10万人の離職者がいます。特に2025年には「団塊の世代」が75歳を超え、その子供である「団塊ジュニア世代」(40~50代)の介護離職が大幅に増える可能性があります。ただ、介護はデリケートな問題故に、会社側からは積極的に介入しにくいのが悩みどころです。

そこで、大事になってくるのが

社員のほうから会社に相談してもらえるよう、社員が介護に直面する前から準備をする

という考え方です。会社が日ごろから介護について相談しやすい雰囲気づくりや、両立支援に関する情報提供に取り組んでいると、社員に「介護に直面しても仕事を続けられる(または辞めても戻ってこられる)」という安心感を与え、復職につなげられる可能性があるのです。以降で、介護離職を防止する3つのステップと復職支援について紹介していきます。

画像1

2 介護について相談しやすい雰囲気づくり

社員は「介護は家族の問題だから、自分で何とかしなければ……」と考えがちですが、経営者や上司が日ごろから次のようなメッセージを積極的に発信していれば、介護について相談しやすくなります。

  • 介護は誰もが直面する可能性があり、自分だけのことではない
  • 介護を担う社員に対して、仕事と介護の両立を支援するための制度がある
  • 介護休業などの支援制度の利用を理由に、評価が低くなることは決してない
  • 介護をしていることを隠さずに相談してほしい

また、会社は社員の家族構成についても、可能な範囲で把握しておきましょう。一般的に、75歳を超えると要介護状態になる人が多くなるといわれています。社会保険の被扶養者情報などに目を通しておくと、これから介護が必要となりそうな社員がある程度分かるでしょう。

「仕事と介護の両立支援のため」に、社員の家族構成や親の健康状態などを、年2回の個人面談の際に把握しているという例もあります。

■経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン-参考資料集-」■
https://www.meti.go.jp/press/2023/03/20240326003/20240326003.html

3 両立支援に関する情報提供

1)法定の両立支援制度に関する情報

育児・介護休業法には「介護休業」「介護休暇」など、仕事と介護を両立するためのさまざまな支援制度が定められています。例えば、次のような情報を伝えてあげると、社員は「介護をしながら働くこと」を前向きに検討できます。

  • 介護休業は、要介護の家族1人につき通算93日まで、3回を上限に分割取得できる
  • 介護休業を取得した場合、介護休業給付金(雇用保険)が支給されることがある
  • 介護休暇は、要介護の家族1人につき1年に5日間、1日または1時間単位で取得できる
  • 介護の必要がなくなるまで、所定外労働の制限(残業の免除)などが受けられる

2)公的介護保険サービスに関する基礎的な情報

自治体などから提供されている、公的介護保険サービスに関する情報も社員に伝えましょう。

  • 介護について分からないことは、地域包括支援センターの専門家に相談できる
  • 公的介護保険サービスを利用するには、地域包括支援センターか市区町村に申請する
  • 要介護(要支援)認定の申請やケアマネジャーの手配は、地域包括支援センターで行っている
  • 日中の見守りや夜間の緊急対応が受けられるかもしれない

3)会社独自の取り組みや民間の保険サービスに関する情報

テレワークなど、社員が介護をしながら働ける取り組みがあるなら、積極的に周知しましょう。社員が取り組みの存在を知らなかったり、自分は対象にならないと思い込んでいたりするケースは意外と多いものです。

社員本人が40歳(介護保険料を支払う年齢)になったら、社外から講師を招くなどして、公的介護保険サービスについて学べるセミナーを開催するのもよいでしょう。

また、損害保険会社が販売する団体保険で、社員の親が介護状態になると保険金を受け取れる、いわゆる「親の介護による休業補償特約」「親介護一時金支払特約」などの加入を検討してもよいかもしれません。要介護の状態になると、自宅のバリアフリー改修や有料老人ホームへの入居などで、まとまった費用が必要になることが少なくないからです。

4)親族の協力の重要性など踏み込んだ情報

仕事と介護を両立する際、親族の協力があればとても心強いものです。社員によって親族との関係性が違うので一概には言えませんが、次のようなことを伝えるとよいでしょう。

  • 将来の介護を見据え、日ごろから親や親族とコミュニケーションを取ったほうがよい
  • 親の状況(持病、かかりつけ医、親しくしている近所の人など)は親族間で共有する
  • 親の介護保険証や健康保険証の保管場所を確認しておく

4 介護に直面した社員との話し合い

社員が介護に直面した場合、なるべく早い段階で経営者が、「介護を理由に辞めてほしくない。会社として仕事と介護の両立を支援したい」というメッセージを伝えましょう。その上で、今後について話し合い、社員が介護をしながら無理なく仕事を続けられるように支援します。次のようなサポートをすることで、社員の気持ちをつなぎ留めることができるかもしれません。

1.要介護(要支援)認定を取得したか?

取得していなければ、窓口となる地域包括支援センターを紹介します。

2.ケアマネジャーにケアプランを作成してもらったか?

担当のケアマネジャーが分からなければ、窓口となる地域包括支援センターを紹介します。

3.介護をしながら仕事を続ける上で困っていることはないか?

介護休業・介護休暇の取得や、可能であればテレワークを勧めます。

4.仕事や介護の不安・悩みなどはいつでも相談してほしい

不安や悩みを1人で抱え込む必要はないことを伝え、サポートする姿勢を示します。経営者や上司が継続的に見守り、両立が困難な状況に陥っていないか、社員の心身のケアをします。

5 自社への復職を支援する

介護の悩みは、その社員が置かれた状況によって千差万別で、その状況も刻一刻と変化します。場合によっては、介護休業から復職できず、最終的に離職を選択してしまう社員もいるでしょう。ただ、そうした場合であっても、「状況が変わったら、いつでも連絡してほしい」と伝えておくなどすれば、復職の可能性を残すことができます。

離職した社員の状況などにもよりますが、離職後も定期的に連絡を取り続け、様子を確認するとともに、「会社はあなたのことを気にしている」という思いを伝えることも大切かもしれません。知識や技術を持ち、経験を積んだ社員は会社にとって貴重な戦力です。一から教育する必要がない経験者は、たとえ一度は職場を離れても、戻ってきてもらう価値があるでしょう。

以上(2024年5月更新)

pj00166
画像:photo-ac

なぜ、「仕事ができない」と思っていた部下が転職先で活躍できるのか?

書いてあること

  • 主な読者:相性の悪い部下がいて、うまくコミュニケーションが取れない上司
  • 課題:仕事なのは分かっているが、「好き嫌い」の問題を突破できない
  • 解決策:自分のやり方にはまらないから「嫌い」という考え方は改める。部下と協力して新しい方法を模索する姿勢を示す

1 上司の「枠」は絶対的な評価基準ではない!

「仕事ができない」と思っていた部下が転職先で活躍している……。割とよくある話ですが、実際に転職先で活躍している人に話を聞いてみると、転職先の雰囲気や仕事内容もそうですが、

転職先の上司との相性が良かったことが大きい

ようです。上司との相性がビジネスパーソンの成長と活躍に大きな影響を及ぼすことに疑いの余地はありませんが、問題は「なぜ、自社ではダメで転職先ではうまくいったのか」です。

相性の問題は「好き嫌い」の問題でもあります。もう少し分解して、

  • 人としての好き嫌い
  • 仕事の進め方の好き嫌い

に整理してみます。人間ですから「人としての好き嫌い」はどうにもならない部分もありますが、文字通り多様性が当たり前になりつつある今、上司にはさまざまな部下を受け入れる器の大きさが求められています。

もう一方の「仕事の進め方の好き嫌い」は、上司の「やり方」にはまるか否かに言い換えられます。かつては、上司のやり方が優れていて、部下のゴールは「上司と同じやり方で仕事を進められるようになること」でした。しかし、今の時代は違い、異質なものを束ねる能力が上司に求められます。にもかかわらず、上司が自分のやり方にはまらない部下を低く評価しているとしたら、その部下が転職先で活躍するのは当然のことです。なぜなら、その部下は、

一般的に能力が足りないわけではなく、上司のやり方と合わなかっただけ

だからです。

上司は、部下への指導の在り方をいま一度、見直す時期に来ています。ここでは、部下をフラットに評価する際に役立つ2つの視点を紹介するので参考にしてください。

2 虫の目・鳥の目・魚の目をバランス良く

ビジネスを進める上で重要な視点を、次のように「虫の目」「鳥の目」「魚の目」に例えることがあります。

  • 虫の目:目の前にある業務を、複眼的に注意深く確認する視点
  • 鳥の目:上から見下ろすように、全体像を俯瞰(ふかん)する視点
  • 魚の目:川や海を泳ぐように、将来のビジネスの方向を予想する視点

自分のやり方にこだわる上司は、何かにつけて「虫の目」の指示を出すことが多いです。しかし、ビジネスにはさまざまな手順があり、上司のやり方だけが正しいわけではありません。例えば、ITを使った業務では、部下のほうが詳しいといったケースもあります。経験に勝る上司と、新しい発想を持つ部下が意見を出し合って、より良い方法を模索する姿勢が求められます。

ただし、これは部下に迎合するということではありません。部下の考え方が正しくないと感じたら、そこはしっかりと指導しましょう。

3 部下の状況把握シートを活用する

部下は日々成長しており、担当する業務の難易度や処理スピードも変わります。上司が部下の状況を把握して、それに応じた指示を伝えれば、部下のレベルアップを図ることができるでしょう。部下の状況を客観的に把握するために役立つのが次の「部下の状況把握シート」です。

画像1

1)横軸は部下の行動レベル

「部下の状況把握シート」の横軸は、部下の行動レベルを示しています。例えば、ある業務内容に対する部下のレベルを「知っている」から「理解している」に引き上げるには、視点の大小や高低、業務の流れを意識した知識をインプットさせます。

また、レベルを「理解している」から「実践している」に引き上げるには、アウトプットの機会をたくさん与えます。例えば、営業担当であれば、顧客訪問に同行させるなどします。

レベルを「実践している」から「応用している」に引き上げるには、上司と部下が成功体験と失敗体験について話し合い、良かった点、悪かった点を整理した上で、次のアウトプットにつなげるようにします。

2)縦軸は部下の状態

「部下の状況把握シート」の縦軸は、部下の状態を示しています。

例えば、部下の行動レベル(横軸)を、「知っている」から「理解している」に引き上げる場合で考えてみましょう。当該業務の経験があったり、それが得意であったりする部下は知識の吸収が速く、少し難しい話をしてもついてくるでしょう。ただ、そうでない部下には、通常よりも丁寧に伝えます。

やる気はどうでしょうか。今、その部下にやる気がありそうなら、新しいことを教えるチャンスです。理解しているレベルから、実践しているレベルに部下を引き上げるための指示を出すのもよいです。

部下の性格を客観的に把握することは難しいですが、「緻密である」や「大ざっぱである」といった傾向は分かります。これに応じて指導のしかたを見直し、指示の伝え方やコミュニケーションの密度を変えてみるとよいでしょう。

以上(2024年6月更新)

pj00266
画像:pexels

「無期転換」が2024年4月改正で再注目。対象者や転換時期、労働条件の明示などについて改めて確認!

書いてあること

  • 主な読者:契約期間が通算5年を超えそうな有期パート等がいる経営者、人事労務担当者
  • 課題:無期転換に関連する法令改正があるようだが、内容が分からない
  • 解決策:2024年4月1日から、無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」の明示が義務化される

1 【無期転換】10年前に始まった制度が再注目される理由

「無期転換」とは、

同じ会社での契約期間が「通算5年」を超える有期パート等(契約期間の定めがあるパート等)が会社に申し込むと、契約期間の定めのない「無期契約」に転換される制度

です。なお、正社員転換と混同されることがありますが、無期転換は契約期間が無期になるだけで、雇用区分はパート等のままです。ただし、無期転換することで契約更新という概念がなくなるので、雇止めなどはできなくなります。

無期転換制度は今から10年以上も前の2013年4月1日から始まりました。これが改めて注目されているのは、労働基準法施行規則の改正で、

2024年4月1日から、会社は無期転換の対象となる有期パート等に、契約更新のタイミングごとに、無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」を明示する

ことが義務となったからです。この改正を機に、有期パート等からの問い合わせが増えるかもしれないので、おさらいの意味も込めて、無期転換の基本を確認しておきましょう。なお、法令改正についてだけ知りたい人は、第6章をご確認ください。

2 無期転換の対象

無期転換の対象は、

契約期間(同じ会社でのもの)が通算5年を超える有期パート等

です。短時間労働者だけでなく、フルタイムで働く人も対象になります。ただし、

「高度専門職」「継続雇用の高齢者」は一定の場合に対象外

となります(図表1)。

画像1

具体的には、会社が適切な雇用管理に関する計画を作成し、所轄都道府県労働局長の認定を受けている場合、次の期間において無期転換の対象外になります(図表1)。

  • 高度専門職:5年を超える一定の期間内に完了することが予定されている業務に就く期間(上限は10年)
  • 継続雇用の高齢者:定年後引き続き雇用されている期間

なお、高度専門職の場合は、収入要件(1年間当たりの賃金額が1075万円以上)を満たしていることも条件とされています。

3 申し込み時期と転換時期

有期パート等は、契約期間が通算5年を超えることになる有期契約の更新時から無期転換を申し込むことができ、最後の有期契約が満了すると無期契約に転換されます。申し込みは口頭でも問題ありませんが、トラブルを避けるために「無期転換申込書」などの書面を提出してもらうのが無難です(ひな型は第7章の末尾にて紹介)。いずれにしても、会社は無期転換の申し込みを拒否できません。

無期転換の申し込みは、通算5年を超える有期契約の初日から満了日まで有効です。例えば、2019年4月1日から1年ごとに契約を更新している場合、2024年4月1日から1年以内に申し込めば、2025年4月1日から無期契約に転換されます(図表2)。

画像2

また、2021年4月1日から3年ごとに契約を更新している場合、2024年4月1日に契約更新をした時点で通算契約期間は6年となり無期転換の権利が生じることになります。従って、この契約期間内である3年の間に申し込めば、2027年4月1日から無期契約に転換されます(図表3)。

画像3

4 無期転換の申し込みがなかったら?

有期パート等から無期転換の申し込みがなければ、契約は有期のままです。ただし、申し込みは契約更新のたびにできるので、下図の場合、2025年4月1日から1年以内に改めて申し込めば、2026年4月1日から無期契約に転換されます(図表4)。

画像4

5 契約期間に「空白」があると通算されない?

契約期間を通算する場合、契約期間の途中に契約をしていない一定の無契約期間(空白期間)があると、それ以前の契約は通算対象から除外されるというルールがあります(クーリング)。

例えば、無契約期間以前の通算契約期間が1年以上である場合、

契約と契約との間が6カ月以上空くと、通算契約期間のカウントがリセットされる

ため注意が必要です。例えば、2019年4月1日に有期契約を締結後、2020年4月1日から1年間契約が途切れてしまった場合、2021年4月1日から契約期間を通算し直します(図表5)。

画像5

なお、無契約期間以前の通算契約期間が1年未満である場合、その長さに応じて、クーリングに必要となる空白期間の月数が変わってきます

6 【法令改正】有期パート等への明示方法など

会社は、2024年4月1日から無期転換の対象となる有期パート等に対し、次のことを労働条件通知書などで明示しなければなりません。

  • 申込機会:無期転換の申し込みができること
  • 転換後の労働条件:労働条件の変更の有無、転換後の労働条件の一覧または変更箇所

労働条件通知書の「契約期間」「契約更新の基準」の欄の下に「無期転換に関する事項」の欄を追加するイメージです(図表6)。

画像6

「申込機会」については、無期転換を申し込むことができる旨の明示と申し込みをした場合に無期契約に変わる日付(◯年◯月◯日)を明記します。

「転換後の労働条件」については、変更の有無を明らかにした上で、変更がある場合は転換後の労働条件の一覧や変更箇所を「別紙」で示します。

明示は「契約更新のタイミングごと」に行います。例えば、2019年4月1日から1年ごとに契約を更新している場合、2024年4月1日からの契約更新時から1年ごとに繰り返し明示します(図表7)。

画像7

7 就業規則はどう定める?

最後に、パートタイマー就業規則に無期転換の定めをする場合の規定例を紹介します。なお、「就業規則」「パートタイマー就業規則」など、複数の就業規則がある会社では、

有期パート等が無期転換後、どの就業規則が適用されるのか分からなくなる

というトラブルが起きがちなので、就業規則の適用範囲(赤字)についても確認してください。

【規定例】

第○条(適用範囲および均衡待遇)

1)本規則の適用を受ける従業員は、第○条の手続きを経て、会社と期間に定めのある労働契約(以下「有期契約」)を交わした従業員で、1週間の所定労働時間が一般の従業員よりも短い短時間勤務従業員(以下「パートタイマー」)とする。

2)会社は、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」を遵守し、パートタイマーの待遇を就業の実態から判断して決定するものとし、一般の従業員との均衡を図るよう努めるものとする。

3)本規則に規定する「無期転換」によって期間に定めのない労働契約(「以下「無期契約」)に転換したパートタイマーについては、転換後も本規則を適用とする。

第○条(無期転換)

1)契約期間が通算5年を超えるパートタイマーは、別途定める「無期転換申込書」で申し込むことにより、現在締結している有期契約の契約期間の末日の翌日から、無期契約に転換できる。

2)前項の申し込みは、原則として、現在の契約期間が満了する1カ月前までに行うものとする。

3)第1項の通算契約期間は、2013年4月1日以降に開始した有期契約の契約期間を通算するものとし、現在締結している有期契約については、その末日までの期間とする。ただし、労働契約が締結されていない期間が連続して6カ月以上ある場合、それ以前の契約期間は通算契約期間に含めない。なお、労働契約が締結されていない期間以前の通算契約期間が1年未満の場合、当該契約期間の通算の可否については、労働契約法およびその他の関係法令に従うものとする。

4)この規則に定める労働条件は、第1項の規定により無期契約に転換した後も引き続き適用する。ただし、労働条件通知書により別段の定めをした場合は、この限りでない。

5)無期契約に転換したパートタイマーに係る定年は、満60歳とする。ただし、満60歳を超えて無期契約に転換したパートタイマーの定年は満65歳とする。

6)無期契約に転換したパートタイマーで定年を迎えた者が希望し、解雇事由または退職事由に該当しないときは、労働条件通知書により満65歳まで継続雇用する。なお、前項ただし書きのパートタイマーに対する定年後の継続雇用については、都度決定をする。

【無期転換申込書】

画像8

以上(2024年5月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

pj00710
画像:chaylek-Adobe Stock