【規程・文例集】「役員報酬規程」のひな型

1 役員報酬規程作成時の留意点

1)役員報酬決定の手続き

「役員報酬」は一般的な呼称であり、会社法では「取締役(会計参与、監査役)の報酬等」、法人税法では「役員給与」とされています。この記事では役員報酬と記述しています。

役員報酬決定の手続きは会社法に定められています。具体的には、定款に役員報酬の額または具体的な算定方法を定める場合は、その定めに従って役員報酬の額を決定します。しかし、定款に定めを置く例はほとんどなく、多くは株主総会の決議によって決めることとしています。株主総会で個々の取締役の報酬の確定額を決議することもできますが、実務上は、株主総会では取締役全員の報酬総額の最高限度のみを決議し、取締役会に個々の取締役の報酬額の決定を委任するケースが多いです。

2)役員報酬の支給方法・支給額を決定する際の留意点

役員報酬は税務上の扱いにも注意が必要です。法人税法では、一定の要件を満たす役員報酬についてのみ損金算入を認めています。具体的には「定期同額給与」「事前確定届出給与」「一定の業績連動給与」などを定めています(法人税法第34条第1項)。ただし、一定の業績連動給与を損金算入できるのは、有価証券報告書提出会社に限られるので、多くの企業では定期同額給与や事前確定届出給与とする必要があります。

詳細は省略しますが、定期同額給与は、支給時期が1カ月以内の一定期間ごとであり、支給時期ごとの支給額が同額であるもの、および継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの(法人税法施行令第69条第1項)などをいいます。

また、事前確定届出給与は、事前に支給時期と支給額を確定させて、納税地の所轄税務署長に届け出を行ったものをいいます(同族会社に該当しない国内の会社では、定期給与を支給しない役員(非常勤役員等)に対し支払う年俸等の臨時給与は、届け出を行わなくとも、事前確定届出給与に当たるものとして損金算入できます(法人税法第34条第1項第2号))。

支給額に関しては、不相応に高額な役員報酬(過大役員給与)は、高額に当たるとされる部分は損金算入できません(法人税法第34条第2項)。不相応に高額な部分は、当該役員の職務内容、会社の収益、会社の使用人に対する給与の支給状況、同業種・類似規模の他社の役員に対する給与の支給の状況などと比較して判断されます(法人税法施行令第70条)。

役員報酬規程は、役員に対して役員報酬額の算定基準や支給時期などを明確にするという役割を持つと同時に、会社法や法人税法などの関連法令に関する遵守事項を明文化する意味でも重要な規程です。

2 役員報酬規程のひな型

以降で紹介するひな型は、一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容は異なってきます。実際にこうした規程を作成する際には、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【役員報酬規程のひな型】

第1章 総則

第1条(目的)

本規程は、株式会社○○の役員の報酬および賞与の支給基準などについて定めるものである。

第2条(役員の定義)

本規程における役員とは、株主総会で選任された取締役および監査役のことをいう。

第2章 報酬

第3条(報酬の体系)

役員報酬は、月額報酬および役員賞与として支給する。

第4条(月額報酬の決定方法)

1)取締役の月額報酬は、株主総会で決議された報酬総額の範囲内において、取締役会が本規程に従ってこれを決定する。

2)監査役の月額報酬は、株主総会で決議された報酬総額の範囲内において、監査役の協議で本規程に従ってこれを決定する。

第5条(月額報酬の支給基準)

役員の月額報酬は、次の事項を参考にしながら、役員の職位ごとにこれを決定する。

  1. 従業員の給与の最高額
  2. 役員報酬の世間一般的な水準
  3. 会社の業績

第6条(常勤役員の支給基準)

常勤役員の月額報酬は、原則として従業員の給与の最高額を基準(1.0)とし、次の各号に掲げる区分により、職位別にこれを決定する。

  1. 取締役会長:○.○程度
  2. 取締役社長:○.○程度
  3. 取締役副社長:○.○程度
  4. 専務取締役:○.○程度
  5. 常務取締役:○.○程度
  6. 取締役:○.○程度
  7. 監査役:○.○程度

第7条(非常勤役員の支給基準)

非常勤役員の月額報酬は、当該役員の会社への貢献度、社会的地位などを総合的に勘案した上、第5条所掲の事項も参考にして決定する。

第8条(報酬の改定)

役員報酬は、当該役員の職務内容、職務遂行状況、成果などを総合的に勘案して、原則として毎年度見直しを行うものとする。

第9条(報酬の減額措置)

役員報酬は、会社の業績その他必要に応じて、臨時に減額することができる。この場合、取締役の役員報酬については取締役会の協議により、監査役の役員報酬については監査役の協議によりそれぞれ決定した内容に従い役員報酬を減額する。

第10条(通勤手当)

通勤手当は、役員報酬とは別に、別途定める「賃金規程」(省略)第○条~第○条の定めに準じて支給する。ただし、役員のうち、社有車で送迎を行う者については、通勤手当は支給しない。

第3章 報酬の支給方法など

第11条(支給方法)

役員の月額報酬(使用人兼務役員の使用人部分給与を含む)および通勤手当は、毎月○日に役員本人の指定する金融機関の口座に振り込むことで支給する。

第12条(控除)

役員報酬を支給するに際しては、次の各号に掲げるものを控除する。

  1. 所得税その他の源泉徴収税
  2. 住民税
  3. 社会保険料
  4. その他、本人からの申し出があった立て替え金、貸付金、前払い金等

第4章 報酬に関するその他の事項

第13条(長期欠勤者の報酬)

病気療養など、やむを得ない事情により長期欠勤者の役員報酬は、原則として、任期中の減額は行わない。

第14条(就任・退任または解任時の報酬の取り扱い)

1)月の途中に就任・退任し、または解任された場合の役員報酬は、月額報酬を基に日割り計算を行う。

2)月額報酬の支給計算の期間は当月1日から末日までとする。

第5章 賞与

第15条(賞与の決定方法)

会社の業績が良好なときは、株主総会による決議を得て、役員に賞与を支給することができる。ただし、賞与の金額は、月額報酬と合計して、株主総会で決議された報酬総額の範囲内で決定しなければならない。

第16条(賞与の配分)

各役員への賞与の配分は、各役員の職務内容、職務遂行状況、成果などを総合的に勘案して、取締役の賞与は取締役会で、監査役の賞与は監査役の協議でそれぞれ決定する。

第17条(賞与の支給方法)

役員賞与は、取締役会がその都度決定した支給日において、役員本人の指定する金融機関の口座に振り込むことで支給する。

第6章 雑則

第18条(改廃)

本規程の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規程は、○年○月○日より実施する。

以上(2025年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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画像:ESB Professional-shutterstock

【役員報酬】役員報酬を損金算入するための「定期同額給与」と「事前確定届出給与」

1 役員報酬の額を決める際の視点

役員報酬の額を考える際、多くの会社は「企業業績」「従業員賃金とのバランス」「世間相場」の3つの要素を重視します。従業員賃金とのバランスが重視されるのは、中小企業の場合、多くの役員が従業員から出世するので、従業員賃金の延長線上に役員報酬があるためです。

一方、別の視点から考えた場合、

役員報酬の損金への算入

も非常に重要です。役員報酬は高額なので、損金に算入できるか否かで法人税等の負担が大きく変わってきます。この記事で、役員報酬を損金に算入するために導入する「定期同額給与」と「事前確定届出給与」の仕組みを紹介します。

2 定期同額給与とは

定期同額給与とは、

支給時期が1カ月以下の一定の期間ごとである給与で、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの(以下「定期同額給与」)。その他これに準ずるものとして政令で定める給与

です。定期同額給与は、役員報酬として支給する際の基本形で、後述する事前確定届出給与のような届け出は不要です。

3月決算の場合、当事業年度4月から翌事業年度3月までの12カ月の支給時期における支給額が同額である役員報酬が該当します。例えば、当事業年度4月から翌事業年度3月までの12カ月において毎月100万円支給するイメージです。

また、これに準ずるものとして政令で定める役員報酬とは、3月決算の場合、6月30日までに改定されて支給される役員報酬です。役員の報酬等は株主総会の決議事項であり、株主総会で役員報酬の支給枠が変更される場合に対応したルールです。

3月決算の場合、定期同額給与の基本形と定期同額給与に準ずるものは次の通りです。

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これ以外にも、定期同額給与の額の改定は臨時改定事由や業績悪化改定事由により認定されます。例えば、業績悪化改定事由に該当するのは次の通りです。

  1. 株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
  2. 取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
  3. 業績や財務状況または資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合

3 事前確定届出給与とは

事前確定届出給与とは

その役員の職務につき所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与(定期同額給与および一定の業績連動給与を除く)で、決められた日までに納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関する届け出をしているもの

です。

事前確定届出給与には役員賞与のイメージがあります。かつて、会計上の役員賞与の取り扱いが、利益処分から費用処理に変更されたことを受けて、事前確定届出給与が認められた経緯があるためです。

ここで、賞与について「従業員」と「役員」とに分けて確認してみましょう。従業員賞与の場合、前事業年度下期の業績を反映した賞与が翌事業年度6月に支給されるのが一般的です。従来の役員賞与も従業員賞与と同様、前事業年度の業績を反映して、翌事業年度に支給されていました。両者の違いは、従業員賞与が経費処理、役員賞与は利益処分である点でした。

そこで、事前確定届出給与を活用して、役員賞与を従業員賞与のように「課税所得の計算上、損金の額に算入できるようにしよう」という考えが出てきました。しかし、前事業年度の業績を反映した従来の役員賞与の考えの場合は通用しません。なぜなら、事前確定届出給与の位置付けは、従来の役員賞与というよりも従来の役員報酬に近いものだからです。分かりやすく説明すると、事前確定届出給与は役員報酬を12等分して毎月同額支給するのではなく、役員報酬を14等分して6月と12月に14分の2を支給するといったものです。

こうした考えは、事前確定届出給与は要件を満たせば、課税所得の計算上、損金の額に算入できることが前提にあるためです。

事前確定届出給与が従来の役員報酬に近いものだと分かるのが、「四半期支給など定時同額に支給する額」を納税地の所轄税務署長に届け出る場合です。定期同額給与を支給している役員には「定期同額給与に加えて支給する額」を、定期同額給与を支給していない役員に対しては、「四半期支給など定時同額に支給する額」を納税地の所轄税務署長に届け出ます。なお、「四半期支給など定時同額に支給する額」について、非同族会社の場合には届け出は不要です。

次の「定期同額給与+事前確定届出給与」と「事前確定届出給与のみ(四半期支給)」の図表を見れば、「四半期支給など定時同額に支給する額」は従来の役員賞与ではなく、役員報酬であることが分かるでしょう。

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事前確定届出給与について次のことを覚えておきましょう。

  1. 前事業年度の業績を反映し支給するものではないこと
  2. 当該事業年度の課税所得の計算上、損金算入できること
  3. 損金に算入するためには支給額や支給時期などを、事前に納税地の所轄税務署長に届け出なければならないこと
  4. 税務上の運用は厳格で、支給額が異なるなどの際には、その全額が損金不算入になること(ただし、全く支給されない(ゼロの)場合で一定のものを除く)

なお、事前確定届出給与において、企業(法人)の利益調整などは可能な限り排除される傾向にあるため、事前確定届出給与の運用には留意が必要です。事前確定届出給与を導入する際は、税理士などの専門家の意見を聞くか、納税地の所轄税務署に問い合わせましょう。

以上(2025年2月更新)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:pixabay

【知らないと損!】たった1枚の「図解」で納得させる“プレゼンの極意”

プレゼン資料は、「読ませるもの」ではありません。“込み入った話”を言葉だけで伝えようとすると、どうしてもまどろっこしい表現になり、非常にわかりにくい説明になりがちです。そんな時に必要なのは、伝えるべき内容の「本質」を、直観的に理解できるように「図解化」する技術。プレゼン資料は「見せるもの」なのです。

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「認知症」と「加齢による物忘れ」の決定的な違い

中高年になるとチラチラと頭をよぎる「認知症」。親の心配ももちろんだが、自分が認知症にならないかと不安に思ってしている人も多いはずだ。認知症とはどんな症状なのか。予防法はあるのか。専門医が詳しく解説する。

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(記載例付き)最新法令に対応した「パート等の労働条件通知書」

1 トラブル防止の肝は「労働条件通知書」の確認

近年、同一労働同一賃金に代表されるように、「パート等」の労働条件の改善が進められています。パート等とは、この記事で便宜上使っている言葉で、

  • 短時間労働者:正社員よりも1週間の所定労働時間が短い社員
  • 有期雇用労働者:雇用期間に定めがある社員

の総称です。詳しくは、いわゆる「パートタイム・有期雇用労働法」で定められているので確認してみてください。

さて、法令改正などに合わせて労働条件を見直していかなければトラブルのもとになります。差し当たり、今、皆さんがすべきことは、

パート等と労働契約を締結する際(雇入時、定年後の再雇用時、契約の更新時など)に、会社が交付する「労働条件通知書」の内容を精査すること

です。直近では、2024年4月1日から労働基準法施行規則が改正され、パート等に労働条件通知書を交付する際、次の3つを新たに明示することが義務付けられています。

  1. 「契約更新に関する事項」を記載する際、「更新上限」についても明示する
  2. 「無期転換に関する事項(新設)」を記載する際、無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」について明示する(通算契約期間が5年超のパート等が対象)
  3. 「就業場所」「業務内容」を記載する際、契約締結時の内容だけでなく、配置転換等の際の「変更範囲」も明示する

この記事では、最新法令に対応した「パート等の労働条件通知書」のポイントと記載例を紹介します。「ここしばらくパート等の採用がなく、労働条件通知書のひな型を更新していない」という人や、「すでにひな型は見直したが、ヌケモレがないか不安」という人は、自社の労働条件通知書と照らし合わせながらご確認ください。

2 正社員の労働条件通知書を流用したら法令違反?

まず、とても大切なポイントをお伝えします。それは、

正社員とパート等では、雇入時に明示すべき労働条件の項目が違う

ということです。図表1の「必ず書面で明示」の赤字部分がパート等特有の項目です。

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「2.契約更新に関する事項」は、契約更新があるか否か、更新する場合は何を基準に判断するのか具体的な内容を記載します。2024年4月1日からは、通算契約期間または更新回数の「更新上限」についても記載が必要になっています(詳細は後述)。

「3.無期転換に関する事項」は、2024年4月1日から明示が義務付けられている項目です。

無期転換とは、パート等の通算契約期間(同じ会社でのもの)が5年を超えて更新された場合、本人が会社に申し込めば契約期間の定めのない「無期契約」に転換できる制度

です。雇用形態はパート等のまま変わらず契約期間のみ無期契約に切り替わります。

なお、無期転換権が発生する(または発生している)パート等に対しては、無期転換の申込機会、転換後の労働条件について記載します(詳細は後述)。

「10.昇給の有無、11.退職金の有無、12.賞与の有無」は、これらの制度があるか否か(原則書面で明示)、また、それらの計算方法や支給・実施時期(口頭でも可能)を記載します。

「14.雇用管理に関する相談窓口」は、正社員との待遇の違いなどについて、パート等から相談された場合の窓口を記載します。ちなみに、この相談窓口は「ハラスメント相談窓口」と一体的に運用しても問題ありません。

3 パート等特有の労働条件通知書のポイント

図表2は、最新法令に対応したパート等の労働条件通知書のイメージです。赤字部分は、前述した法令改正やトラブル防止の観点から注意が必要な内容です(それぞれのポイントは後述)。

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1)契約期間

契約期間の始まりと終わりを「○年○月○日~○年○月○日」などの形で記載します。

無期転換権の行使により無期契約に切り替わった場合、契約更新の開始日を記載し、「〇年〇月〇日(期間の定めなし)」など、無期契約であることが分かるよう注釈を併記します。

2)契約更新に関する事項

次の1.から4.について記載します。3.は2024年4月1日から明示が義務付けられています。

  1. 更新の有無(例:更新しない、自動的に更新する、更新する場合がある)
  2. 更新の判断基準(例:業務の進捗状況、勤務成績、能力、態度、期間満了時の業務量、会社の経営状況)
  3. 更新上限の有無とその内容(通算契約期間または更新回数に上限があるかないか、上限がある場合はその内容(例:通算契約期間:○年まで、更新回数:○回まで))
  4. その他の留意事項(例:契約更新の際に労働条件が変更になる可能性がある)

なお、図表2の例では更新上限を「通算契約期間:10年まで、更新回数:10回まで」としていますが、前述した通り、通算契約期間が5年を超えると、そのパート等は無期転換を会社に申し込めるようになります。無期転換の申込みは原則拒否できないので、長期雇用を想定していないなら、通算契約期間の上限は5年未満に設定しておいたほうが無難です。

また、無期転換権を行使により無期契約に切り替わった場合、更新自体がなくなるので明示は不要になります。ただし、定年等の定めをする場合は別途明示が必要です(詳細は後述)。

3)無期転換に関する事項

次の2点について記載します。どちらも2024年4月1日から新たに明示が義務付けられている項目です。ただし、無期転換申込権がない場合(通算契約期間が5年以内)、明示は不要です。

  1. 申込機会:無期転換の申込みができること(例:本契約期間中に会社に対して無期労働契約の締結の申込みをすることにより、本契約期間の末日の翌日から無期労働契約での雇用に転換することができる)
  2. 転換後の労働条件:労働条件の変更の有無、転換後の労働条件の一覧または変更箇所(例:契約期間以外の労働条件についても、転換前の内容から変更することがある。変更する場合の労働条件は別紙)

なお、現在の通算契約期間が5年以内であったとしても、新たな契約を更新した結果、契約期間の途中で5年を超える場合(例:3年契約を繰り返すなど)については、新たな契約更新をする際に、あらかじめ無期転換に関する事項を明示しておく必要があります。

4)就業場所

パート等特有の項目ではありませんが、テレワークでオフィス以外の場所でも勤務することがある場合は、その旨を記載します。また、2024年4月1日からは契約締結時の就業場所だけでなく、配置転換等の際の「変更範囲」の記載も義務付けられています。変更範囲については、想定される就業場所を1つずつ記載する必要はなく、

  • 会社が定める場所
  • 東京都内事業所(別紙)

などの書き方も認められます。また、出向の可能性がある場合はその旨の記載も必要です。

ちなみに、変更範囲は未来永劫についての可能性ではなく、あくまで当該契約期間内における可能性を明示すればよいとされています。

5)業務内容

よく見かける「○○業務その他会社が指示するあらゆる業務」といった記載だと、正社員と同じ働き方をしているとみなされ、同一労働同一賃金の観点から賃金などに差をつけにくくなります。書き方が難しいですが、

本業を逸脱しすぎないよう、「○○の業務その他これに付帯する業務」といった程度の記載にとどめるのが無難

です。なお、2024年4月1日からは就業場所と同じく、業務内容についても「変更範囲」の記載が義務付けられています。こちらについても

  • 会社が指示する業務
  • 会社の各部署(別紙)における業務

などの書き方が認められますが、実際に業務内容を変更する場合、変更後の業務について正社員との不合理な待遇差が生じていないかを都度チェックする必要があります。

こちらも、変更範囲については未来永劫についての可能性ではなく、あくまで当該契約期間内における可能性を明示すればよいとされています。

6)始業・終業時刻、所定外労働など

シフト制の場合の始業・終業時刻に注意が必要です。労働条件通知書に「シフトによる」と記載するだけでは不十分で、

労働日ごとの始業・終業時刻を明示するか、原則的な始業・終業時刻を記載した上で、一定期間分のシフト表などと併せて交付する必要

があります。

7)休日

休日についても、シフト制で働く場合の記載に注意しましょう。具体的な曜日などが確定していなくても、

休日の基本的な考え方として、「週○日以上の休日が確保できるようシフトを組む」

といったように記載する必要があります。

8)休暇

パート等も、6カ月以上勤務し、その全労働日の8割以上出勤すると、年次有給休暇(年休)が付与されます。付与日数は、所定労働時間と所定労働日数によって変わります。

9)賃金の金額、支払いの方法・時期など

パート等の賃金の金額は、同一労働同一賃金で示されている均等待遇と均衡待遇に違反しないようにします。

  • 均等待遇:職務の内容とその変更範囲が同じ場合、待遇も同じにする
  • 均衡待遇:職務の内容とその変更範囲等が違う場合は、違いを考慮してバランスの取れた待遇を実現する

基本的に、業務の内容などが明らかに違うのであれば、正社員と差を設けても問題ありませんが、逆に言うと、

通勤手当などのように業務の内容と関係がない手当は、パート等にも支給

しなければならないでしょう。

また、時間外労働、休日労働、深夜労働に対する手当(割増賃金)は、パート等の労働時間の実態に応じて支払います。なお、この記事で対象としているパート等は、所定労働時間が法定労働時間(原則として1日8時間、1週40時間)より短いので、

所定労働時間を超え、法定労働時間に満たない時間の割増賃金率を記載

しておく必要があります。これは0%にすることも可能です。

10)昇給の有無

昇給があるか否かを記載します。昇給がある場合、可能であれば昇給の条件などを記載するほうが望ましいでしょう。

11)退職金の有無

退職金があるか否かを記載します。退職金がある場合、可能であれば支給要件などを記載するほうが望ましいでしょう。

12)賞与の有無

賞与があるか否かを記載します。賞与がある場合、可能であれば支給要件などを記載する方が望ましいでしょう。

13)退職に関する事項(解雇の事由を含む)

パート等は契約期間が満了し、更新されない場合に退職となります。この他、本人の希望による退職や、就業規則の解雇事由に該当したことによる解雇があります。これに対応し、

  • パート等が契約期間満了前に自己都合退職する場合の手続き(いつまでに会社に退職を申し出るのかなど)
  • 解雇の事由・手続き(どのような行為が解雇事由となるのか、会社はいつまでにパート等に解雇を通知するのかなど)

を記載します。

また、無期転換権の行使により無期契約に切り替わった場合、契約期間が青天井になることを避けるため、正社員と同じように定年を設定する対応が考えられます。その場合は定年後の継続雇用についても併記して明示します。

14)雇用管理に関する相談窓口

相談窓口の担当部署、連絡先(電話番号、メールアドレス)などを記載します。

以上(2025年2月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:ChatGPT

【入社1年目の教科書】仕事の情報は慎重に取り扱う。迷ったら言わないのが正解!

書いてあること

  • 主な読者:情報の取り扱いで注意すべきルールについて知りたい新入社員
  • 課題:情報の取り扱いが重要なのは理解しているが、具体的に何をすべきか分からない
  • 解決策:チャットなどの使い方に注意し、取り扱いのルールを確認しておく

今日の商談は大成功。うれしい私は先輩とのランチで商談のことを話しすぎちゃった。「今訪問した○○社はいい感じですね。部長のAさんも乗り気だし、1000万円の商談が成立するかも!」って。そうしたら、それを聞いた先輩が大慌てで、「しぃ〜〜! そんなことを声に出したらダメでしょ!!」と私の話を遮ったんだよな……。あれって、何がまずかったんだろう?

1 情報の取り扱いには細心の注意が必要

電車やカフェなどで、隣の人が会社名や個人名、取引条件などを出しながら仕事の話をしていることがありますが、これはやってはいけません。仕事をしているとたくさんの情報を取り扱いますが、

どんな情報も慎重に取り扱い、相手の会社や個人、取引内容を特定できるような情報は話さない

というのが基本です。「これは話しても大丈夫か?」と迷ったら、話さないほうが正解です。情報が漏洩してしまう原因の多くはヒューマンエラーですが、電車やカフェなどのちょっとした会話もその一つなのです。

ですから、皆さんは、日々、次の6つに注意して行動してください。

  • 電車やカフェでの会話に注意する
  • チャットやSNSでの発言に注意する
  • 会社の許可を得ずに個人名義のファイル共有サービスなどを利用しない
  • 一斉メールの送り先に注意する
  • クラウドサービスの共有範囲に注意する
  • デスクの整理・施錠を徹底する

関係者と「隠語」を決めておくのもよいです。例えば、相手が東京都中央区日本橋にある会社なら、会社名ではなく「日本橋」と言う感じです。

2 個人情報は特に慎重に取り扱う

特に慎重な取り扱いが求められるのが個人情報です。個人情報は「個人情報保護法」で定義されていて、具体的には次のような情報が該当します。

  • 本人の氏名
  • 生年月日、連絡先(住所・居所・電話番号・メールアドレス)、会社における職位または所属に関する情報について、それらと本人の氏名を組み合わせた情報
  • 防犯カメラに記録された情報など本人が判別できる映像情報
  • 本人の氏名が含まれるなどの理由により、特定の個人を識別できる音声録音情報
  • 特定の個人を識別できるメールアドレス
  • 特定の個人の身体の一部の特徴を電子計算機のために変換した符号(顔、指紋・掌紋、虹彩、手指の静脈、声紋、DNAなど)
  • 対象者ごとに異なるものとなるように役務の利用、商品の購入または書類に付される符号(マイナンバー、旅券番号、運転免許証番号、基礎年金番号、健康保険証番号など)

相手が個人の場合はもちろん、法人の場合もその窓口担当者の名刺に記載の情報、会社の連絡網に記載の同僚の情報などは個人情報となります。会社では、個人情報を記載した書類は施錠できるキャビネットで保管するなど、取り扱いのルールを決めているはずですから、必ず守ってください。

3 個人情報以外にも注意すべき情報

個人情報以外にも、次のような情報は会社の営業上重要で、社外には公開したくない情報なので注意が必要です。

  • 研究開発情報(実験データ、試作品情報など)
  • 製造関連情報(製品図面、テストデータ、製造プロセス、工場設備・レイアウトなど)
  • 顧客情報(顧客リスト、クレーム情報、顧客別製品情報など)
  • 取引先情報
  • 市場関連情報(市場分析情報、競合先分析情報など)
  • 価格情報(仕入れ値、製品価格、利益率など)

上記の情報以外にも、会社独自で慎重な取り扱いを求める情報があると思います。上司や先輩に確認しておきましょう。

以上(2025年1月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

【役員報酬】相談役や顧問の給与を損金算入するためのポイント

1 「みなし役員」に注意

経営者の皆さんは、退任後、相談役や顧問として会社に残る予定はありますか?

世間的には社長が相談役などとして残ることは珍しくなく、社会貢献、業界団体での活動、顧客や取引先との関係維持などを行います。培ったノウハウやネットワークを活かして後任の経営者をサポートすることは、会社にとっても社会にとっても良いことです。

一方、相談役や顧問になった後の給与には注意が必要です。役員としての地位を維持するか否かが一つの別れ道ですが、退任する場合でも税法には「みなし役員」という特有の判断基準があります。

地位や職務などから、他の役員と同様に会社の経営に従事している

などの要件を満たした場合、税法上、みなし役員になります。そして、みなし役員になると、税法の取り扱いは役員と同じになります。この点を踏まえて、以降を読み進めてください。

2 役員給与と役員退職金の注意点

1)役員給与

役員としての地位を維持したまま相談役や顧問になる場合、役員給与については、

  • 定期同額給与
  • 事前確定届出給与
  • 業績連動給与

のいずれかを採用しないと、法人税法上は損金に算入できません。

2)役員退職金

相談役や顧問になるに当たって役員を退任し、その際に役員退職金を打ち切り支給した場合、税法上は原則として「賞与」となります。打ち切り支給とは、

「それまでの在任年数など」に応じて役員退職金を支払い、その後の役員退職金の計算では、「それまでの在任年数など」は加味しない

ということです。つまり、一旦、過去の分は支給し、そこから新たにカウントするという考え方です。

ただし、損金に算入できるケースもあります。それは、

役員としての地位や職務内容が激変し、実質的に退職したのと同様と認められるケース

です。この場合、法人税法上は過大部分を除いて損金に算入できます。所得税法上も退職所得として取り扱われます。こうした意味では、

相談役や顧問の役割などはガラッと変えたほうがいい

わけです。

以上(2025年2月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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【役員報酬】役員報酬の決定手続きと損金算入するための要件

1 役員報酬は重要な経営判断

「役員報酬」は一般的な呼称で、

  • 会社法では「取締役(会計参与、監査役)の報酬等」
  • 法人税法では「役員給与」

と定義されます。この記事では、役員報酬と記述します。

役員報酬は会計上の損益に与える影響が大きく、また所定の期限までに決定しなければなりません。そのため、

役員報酬を決定する際は、なるべく正確に損益予測をした上で、税務と資金繰りの両面から自社に合った方法・金額を決定すること

が大切です。中小企業の場合は、

役員報酬の総枠は株主総会、具体的な支給額は取締役会で決議し、定期同額給与を採用する

ことが多いでしょう。これらの点も踏まえ、この記事では、中小企業の経営者が知っておきたい役員報酬を決定するための手続きと損金に算入するための要件を紹介します。

2 役員報酬を決定するための手続き

一定の権限を持つ役員が自身の役員報酬を自由に決めると、いわゆる「お手盛り」の懸念があります。そこで報酬の支給については、

定款に定めるか、株主総会の決議が必要

です。

ただし、金額などを変更する際の手続きが煩雑なので定款に定める会社は少なく、多くは株主総会の決議を採用しています。この場合、単年度ごとに支給額を決定する方法の他、

役員報酬の総額の上限を決め(取締役報酬と監査役等報酬は別々)、個別の支給額は取締役会等の決定に委ねる

こともできます。さらに、取締役会の決議により、各取締役の報酬の配分を社長に一任することも可能です。

役員報酬の総額の上限を株主総会決議で決定した場合、上限額に変更がない限り翌年度以降の株主総会決議は不要です。上限額を変更する場合は、取締役会での決議を経て、株主総会でも決議します。

なお、定時株主総会における議案例は次の通りです。

第●号議案 取締役の報酬等の額改定の件

現在の取締役の報酬額は、20XX年6月20日開催の第▲期定時株主総会において年額8000万円以内とご承認いただき今日に至っておりますが、役員報酬体系を見直し、取締役の報酬額を年額1億2000万円以内、監査役の報酬額を年額1500万円以内に改定させていただきたいと存じます。また、現在の取締役の員数は4名、監査役の員数は1名です。

3 役員報酬を損金算入するための要件

1)基本的な考え方

役員報酬を支払えば会社の利益は減少するので、法人税法で経費として認められる範囲で役員報酬を増やせば、法人税等の負担を抑えられます。一方、役員報酬には所得税等が課税されるため、役員報酬を増やせば役員の所得税等は増加します。また、税金ではありませんが、役員報酬に応じて社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料)が発生します。社会保険料は労使折半です。

さて、税法上、損金に算入できる役員報酬は次の3種類だけです。

  1. 定期同額給与
  2. 事前確定届出給与
  3. 業績連動給与

ただし、「3.業績連動給与」は適用規定が複雑で、同族会社には適用が認められていないことから、実質的に上場企業等だけ認められている制度です。また、「1.定期同額給与」「2.事前確定届出給与」であっても、役員の職務などに照らして不相当に高額であると判断された場合、高額とされた部分(適正額を超える部分の金額)は損金に算入できません。

2)定期同額給与

定期同額給与とは、

支給時期が1カ月以下の一定の期間ごとの給与で、その事業年度の支給額が同額のもの

です。一度決定したら、原則として事業年度内に変更できません。そのため、利益が予想より多く出そうなので事業年度内に役員報酬を増額した場合、当初決定した月額報酬のみが損金として認められ、増額部分は損金に算入できません。

なお、新型コロナウイルス感染症の影響で損益が急激に悪化した場合などは、事業年度の途中であっても、役員報酬の支給額を変更することができます。

3)事前確定届出給与

事前確定届出給与とは、

「いつ、誰に、いくら」支給するかを事前に所轄税務署長に届け出て、その通りに支給するもの

です。いわゆる「役員賞与」も、事前に届け出ていれば損金に算入できます。ただし、支給日や支給額が届け出の通りでなければ、全額が損金に算入できません。

なお、届け出の期限は、原則として以下のいずれか早いほうです。

  • 株主総会等で支給の決議をした場合、決議をした日から1カ月を経過する日
  • 事業年度の開始日から4カ月を経過する日

4 (参考)代表的な役員報酬の種類・スキーム

コーポレートガバナンス・コードの適用もあり、上場企業を中心にさまざまな種類の役員報酬が導入されているので、参考として紹介します。

  • 金銭報酬:基本報酬、賞与、退職慰労金、業績連動報酬、株価連動型報酬
  • 株式報酬:ストック・オプション、リストリクテッド・ストック、パフォーマンス・シェア

金銭報酬としては、

  • 業績連動報酬:業績指標に連動して金額が変わる報酬
  • 株価連動型報酬:会社の株価に連動して金額が決定される報酬

の導入が見られます。

また、株式報酬を導入する企業も増えています。ストック・オプションに加え、

  • リストリクテッド・ストック:譲渡制限付株式。金銭報酬債権を役員に付与し、本債権による現物出資で譲渡制限付株式を取得させるスキーム
  • パフォーマンス・シェア:業績連動型株式報酬。目標の達成度合いに連動した自社株を付与するスキーム

といった、自社株を報酬とする制度が広まりつつあります。

これらは上場企業ないし上場準備企業でなければ現実的ではありませんが、最近の動向として押さえておくとよいでしょう。

以上(2025年2月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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