1 毎月の給料と退職金、どちらを充実させるべきか?
古くから多くの日本企業が導入してきた退職金制度が変化してきています。若年層に限らず「転職」前提の働き方が広まる中で、定年まで勤めなければ満額がもらえない従来からの退職金の魅力が薄れてきたからです。
とはいえ、退職金制度を廃止すればいいという単純な問題でもありません。それは、定年退職を控えているベテランの従業員の反発を招く恐れがあるからです。公的年金の支給額が減少し続けている中、ベテランの従業員は、老後の生活資金として少なからず退職金を当てにしています。
退職金の原資を毎月の給料に回して賃上げすれば、もしかしたら採用応募も増えるかもしれない。でも、退職金を当てにしている人たちを無下にはできない。そのような悩みを抱えている企業の方に紹介したいのが、
「選択制DC」という、今の給料を増やすか、将来の退職金を多くもらうかを従業員が選択できる制度です。
この記事では、選択制DCのイメージを分かりやすくお伝えするため、制度の概要と、伊予銀行のサポートにより、実際に選択制DCを導入した事例を紹介します。
2 給料と退職金の配分を従業員が決められる「選択制DC」
選択制DCは、企業型DC(企業型確定拠出年金)の一形態です。企業型DCでは、企業が毎月決まった掛金を拠出し、従業員自身が運用しますが、
選択制DCの場合、給料の一部について、引き続き給料(手当など)として受け取るか、企業型DCの掛金にするかを従業員が選択することが可能です。

給料(手当など)として受け取れば手取りは増え、今の消費や貯蓄に回すことができます。一方、掛金として拠出する場合、運用方法によっては元本割れのリスクはあるものの、掛金の拠出時・運用時・受取時に税制優遇を受けながら、将来の退職金を増やせる可能性があります。給与か掛金か、従業員に選択肢を与える自由度の高い制度設計にすることで、
求職者へのアピールと、既存の従業員への福利厚生を同時に実現する
というのが、選択制DCの狙いです。
とはいえ、皆さまの中には
- 若い人とベテラン、どちらにも納得感のある退職金制度なんて本当に実現できるのか?
- ずっとシンプルな退職一時金でやってきたし、今さら複雑な制度にしても、従業員が理解できないかもしれない……
といった具合に、自社で選択制DCを導入するイメージを持てずにいる人も少なくないかもしれません。
そこで、以降では少しでもイメージをつかんでいただけるよう、伊予銀行のサポートにより選択制DCを導入した事例を紹介します。
3 伊予銀行によるサポート事例の紹介
1)相談内容と伊予銀行のご提案
愛媛県では、他県の例に漏れず就労人口が減少していて、思うように採用できない企業があります。そうした悩みを抱えているA社から、こんな相談が寄せられました。
- 当社(A社)では、人材採用がうまくいかない。その原因は、退職金が手厚い一方で、給与水準が同業他社と比較して低いからだと考えている。
- 「給与」と「退職金」のバランスを見直したい(退職金を減らした分、給与を増やしたい)が、具体的な事務手続きや社員への説明に不安を感じるためサポートしてほしい。
伊予銀行では、A社の状況をヒアリングし、内部で議論した結果、
退職金の一部を給料に回したいというA社のニーズを満たしつつ、福利厚生の一環として従業員や求職者へのアピールが可能になる
という理由から、選択制DCを提案することになりました。
2)提案過程で生じた課題
とはいえ、選択制DCを形にする上では、次のような課題も生じました。
1.給料や退職金の受け取り方に対するニーズの違い
給料や退職金の受け取り方については、「給料で欲しい派」「退職金で欲しい派」がそれぞれいて、多くの従業員に納得感のある制度にするのが大変でした。また、給料で欲しい派に寄り添いすぎると、企業の法定福利費が上がってしまう(社会保険料は労使折半なので)ため、その点も考慮する必要がありました。

2.法令上の制約(DC加入期間と支給開始年齢の関係)
企業型DCの場合、原則60歳から退職金を受け取ることができますが、
加入期間が10年に満たない場合、支給開始年齢が60歳よりも先延ばしになってしまう
というルールがあります。

そのため、新たに企業型DCを始めるとなると、
従業員の年齢によっては、加入期間が足りず、定年を過ぎても退職金を受け取れない
という問題が発生してしまいます。この点をどのようにクリアするかも大きな課題でした。
3)課題への対応
課題を考慮した結果、A社のご提案では、選択制DCを
従業員の年齢に応じて、退職金の支給パターンを分ける制度設計
にしました。「50歳」という年齢を区切りにして
- (50歳以上)選択制DCには移行せず、従来の退職一時金で支給する
- (50歳未満)選択制DCに移行し、「給料として受け取る金額」「退職金の掛金として積み立てる金額」の設定を従業員本人に委ねる
という運用です。
なお、50歳未満の従業員については、制度移行日までに積み立てた退職金については「過去分」として退職一時金で支給し、選択制DCの対象とするのは制度移行日より後の「将来分」のみとしました。

4)制度に対する理解を得るために
企業型DCや選択制DCは、退職一時金などに比べると馴染みが薄く、制度のイメージがつかめない従業員も少なくありません。そのため、従業員の制度に対する理解を得るための説明会も、伊予銀行が複数回行いました。
自分のライフプランに照らした場合、給料や掛金をいくらに設定すればいいか分からない
という疑問についても、説明会で補完していきました。また、すでに個人でiDeCo(イデコ)を実施していて、選択制DCが始まったら、iDeCoで積み立てた資産を選択制DCに移したいという方もいましたので、その点についても説明をしました。
5)最後に
今回のA社の事例は、伊予銀行の他、給料体系など人事制度の設計のコンサルティングを行う「いよぎん地域経済研究センター(IRC)」、実際に企業型DCを提供している「東京海上日動」がチームとなって、選択制DCをご提案したものです。
退職金制度の形は企業ごとに異なりますが、どのようなケースでも、関係機関と連携して、制度の設計から従業員への説明まで、運用を隅々までサポートしますので、退職金制度の設計・変更をお考えの方は、お気軽に伊予銀行までご相談ください。
以上(2026年4月作成)
画像:日本情報マート

































