【ハラスメント対策】社員が取引先にハラスメントをしたらどうする?

1 対策が漏れがちな取引先へのハラスメント

ハラスメントは社内だけの問題ではないし、こちらが被害者になるとも限りません。例えば、自社の社員が取引先の社員などにハラスメントをしてしまったら、最悪の場合、その相手との取引が停止し、さらに噂が広がることで、業界内での会社の信用も地に落ちます。

にもかかわらず、多くの会社では、社外のハラスメントへの対策が漏れがちです。そこで、この記事では、社外のハラスメントへの対応について紹介します。基本は社内の場合と同じですが、社外の場合、

取引先と丁寧に連携を取りながら対応を進める必要

があります。

例えば、取引先の社員を事情聴取する場合、必ず取引先の担当部署の承諾を得なければなりません。基本的な対応の流れは次の通りです。

  • 事実確認:ハラスメントの事実があったか否かを確認する
  • 取引先へのフォロー:事実があった場合、謝罪など必要なフォローをする
  • 行為者に対する措置:必要に応じて配置転換や懲戒処分などの措置を講じる
  • 再発防止に向けた措置:ハラスメント研修などの再発防止措置を講じる

また、法令上、セクハラ(セクシュアルハラスメント)については、自社の社員が取引先の社員に対してハラスメントを行った疑いがあって、これについて取引先から事実確認や再発防止などに関する必要な協力を求められた場合、これに応じる努力義務があります。

加えて、セクハラとパワハラ(パワーハラスメント)については、自社の社員と役員が取引先の社員に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施など必要な配慮をする努力義務があります。

2 事実確認

1)事情聴取

事実確認では、関係者(被害者・行為者・目撃者など)への事情聴取を行います。社外のハラスメントの場合、被害者と目撃者は基本的に社外の人間ですから、聴取を行うには取引先の担当部署の承諾が必要です。また、取引先の担当部署が立ち会いを希望する場合は応じます。

事情聴取の内容は、録音するのがベストですが、難しい場合は聴取の内容を書面(供述録取書)にまとめ、その内容を供述者に確認してもらい、内容に間違いがなければ署名をしてもらうことが大切です。そうすることで「言った、言わない」の問題を回避できます。

行為者の当時の言動(実際に何と言ったかなど)は、できるだけ具体的に聞き取ります。実際に体験した者でなければ語れない内容ほど、信用できるからです。

行為者に事情聴取をする場合、「言い訳は聞きたくない」などと対応せず、本人の言い分も十分に聴くことが大切です。弁明の機会を与えないと、手続きが不適切として行為者を処分できなくなる恐れがあるからです。

ハラスメントに関する事情を知っている行為者以外の社員が自社にいる場合、行為者や被害者が接触する前にできるだけ早く事情を聴取します。ただし、プライバシーにも配慮が必要(特にセクハラ事案)ですので、事情聴取のために必要な範囲を超えて、行為者や被害者の情報(ハラスメントの詳細な状況、行為者や被害者の性的嗜好など)を開示することは控えるべきです。

行為者の事情聴取の結果について、取引先が開示を求めてきた場合は応じます。これは、事実確認の他、被害者がメンタルヘルス不調になった場合の休職措置などにも利用されます。

2)客観的証拠の収集

メールやライン、録音、携帯電話の発着信履歴などの客観的な証拠(物証)を集めておくことは重要です。行為者や被害者の供述が信用できるか検討する上で、供述の内容と客観的な証拠が矛盾している場合、慎重な検討が必要になります。

客観的な証拠を集める際は、自社のサーバー内にある行為者のメールのデータは保存しておき、行為者にも当時の客観的な証拠があれば提出するよう求めます。また、取引先が客観的な証拠を持っている場合、開示してもらうよう依頼します。

証拠は事情聴取の前に収集するのが望ましいですが、事情聴取まで時間がない場合などは、事情聴取の後も(聴取内容を踏まえて)積極的に証拠の収集を続ける必要があります。

3)確認した事実関係の認定と評価

事情聴取が終わったら、「ハラスメントの事実があったか否か」を認定します。被害者と行為者の言い分が食い違ったり、客観的な証拠がなかったりして認定が難しい場合は、専門家(弁護士)に相談します。

事実関係の認定をしたら、認定した行為者の言動が、社内のハラスメントの基準などに照らして悪質なのか、それともそこまで悪質とは言えないのかを判断します。

3 取引先へのフォロー

悪質なハラスメントがあった場合、速やかに取引先に謝罪し、必要な措置を講じます。場合によっては訴訟などの法的な紛争に発展することもありますので、その準備も必要です。行為の内容が悪質とも適正とも言えない「グレーゾーン」のケースもあるでしょうが、その場合も謝罪はすべきでしょう。

また、行為者の処分についてですが、処分の内容や理由を取引先に伝える義務まではないと思われます。処分は自社の人事などに関することですし、関係者のプライバシー保護は加害者に対しても必要だからです。

なお、冒頭でもお話しした通り、セクハラについては、取引先から事実確認などについて必要な協力を求められた場合、これに応じる努力義務があります。当然ですが、協力を求められたことを理由に、取引先に対し契約解除などの不利益な取扱いをするのはNGです。

4 行為者に対する措置

悪質なハラスメントがあった場合、行為者に対する注意・指導、人事上の処分(配置転換など)、懲戒処分などを検討します。

グレーゾーンの行為の場合、懲戒処分は難しいかもしれませんが、注意・指導などの対応はすべきでしょう。そうしないと、グレーゾーンの行為者は「自分は正しい」と思い込み、同じような言動を繰り返す恐れがあります。ですから、「今回はハラスメントに当たらないと判断したけれど、次は違う判断になるかもしれないから、言動を改めたほうがいい」と伝えます。

なお、懲戒処分を行うためには、就業規則など社員の服務規律を定めた文書において、ハラスメントが懲戒事由に当たる旨の規定を整備しておく必要があります。

5 再発防止に向けた措置

社内だけでなく、取引先など社外の人に対するハラスメントもあってはならない旨を社内に周知します。ハラスメント防止規程や防止方針の該当条文をピックアップして説明したり、弁護士事務所などに依頼してハラスメントに関する研修を実施したりするとよいでしょう。

また、コンプライアンスに関するアンケートなどを実施し、「社外の人間への迷惑行為を見たことがあるか」「取引先から相談を受けたことがあるか」といった実態を調査するのもよいでしょう。

6 自社の社員がハラスメントを受けたら?

自社の社員が取引先からハラスメントを受けた場合の対応についても紹介します。自社の社員が取引先からハラスメントを受けたと相談してきた場合、基本的には、社内のハラスメント対応を参考にします。社内のハラスメントとの主な違いは、次の2点です。

  • 社外の人間である行為者への事情聴取が難しい
  • 自社が被害者の社員に対して安全配慮義務を負っている

1.については、ひとまずは相談者と目撃者に事情聴取を行い、違法な迷惑行為が確認できる場合、取引先に対応を求めるようにします。ただし、その後の取引の問題もあるので、取引先との連携は丁寧に行うようにします。

また、被害を訴える社員がメンタルヘルス不調で休職した場合は、その社員の申告が事実かを確認する必要があります。そのため、行為者の事情聴取の結果について、取引先に開示を求めることを検討します。

2.については、自社の社員が取引先からハラスメントを受けた場合、相談先や相談体制を定めてあらかじめ社員に周知しておくなど、ハラスメント被害に対応する体制を整備することが望ましいとされています(厚生労働省「職場におけるハラスメント関係指針」)。

なお、裁判例では、小売業の接客時の顧客からの苦情対応に対して相談体制を整えていたことを理由の1つとして会社の安全配慮義務違反を否定したもの(東京地裁平成30年11月2日判決)や、教諭が保護者から理不尽な言動を受けたことについて、校長が教諭に対して保護者に謝罪するよう求めたことを不法行為と判断したものがあります(甲府地裁平成30年11月13日判決)。

以上(2025年10月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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【管理会計】値上げ、値下げ。目標利益を達成するために必要な売上高の求め方

1 質問:必要な売上高を計算できますか?

当期の営業利益は1億円。来期は強気に2億円まで伸ばす計画です!

現在の損益の状況と次期目標利益は次の通りなのですが、この目標利益を達成するために必要な売上高はいくらでしょうか。売上原価は売上高の増減に合わせて変動し、販売管理費は一定とします。

必要な売上高を計算できますか?

このケースの売上高は、

12億5000万円=(3億円+2億円)/0.4

となります。上の数式の「0.4」は、本ケースの売上総利益率です(40%(1-0.6))。

これが基本的な答えですが、会社の営業戦略によって変わる部分があります。例えば、強気に値上げをする場合もあれば、値下げして販売量を増やすこともあります。こうしたシーンに直面することはよくあるので、判断の基準をご紹介します。

2 「損益分岐点」という感覚を持つ

「損益分岐点」とは、

売上と費用がトントンの状態

です。損益分岐点は管理会計で用いられる最もポピュラーな指標の1つで、これを知ることで意思決定に明確な根拠を持たせることができます。

さて、損益分岐点を求めるには費用を次のように分けます。

  • 変動費:売上高に応じて変動する費用。小売業の場合は支払運賃、支払荷造費など
  • 固定費:売上高に関係なく発生する費用。人件費や減価償却費、賃借料など

そして、横軸を販売数量、縦軸を金額(費用、利益、売上高)とした場合、変動費、固定費、利益、売上高の関係は次のようになります。

変動費、固定費、利益、売上高の関係

図表2では変動費の上に固定費を置いているので、固定費ラインが費用の合計(変動費+固定費)になります。売上高ラインと固定費ライン(費用の合計)が交差する点が損益分岐点です。

また、変動費と固定費の上に目標利益を置いています。売上高ラインと目標利益ラインが交差する点が「目標利益達成点」です。必要売上高は次のように算出することができます。なお、「変動費率」は「変動費/売上高」です。

必要売上高=(固定費+目標利益)/(1-変動費率)

さらに分かりやすくすると、「1-変動費率」のことを「限界利益率」といいます。限界利益率を用いると、計算式は次のようにシンプルになります。

必要売上高=(固定費+目標利益)/限界利益率

3 営業戦略のバリエーション

目標利益を達成するための必要売上高の求め方は、損益分岐点の考え方でお分かりいただけたと思います。次は、設定した目標利益をどのように達成するか、つまり営業戦略の問題です。ここでは、次の4つの営業戦略を想定し、それぞれの必要売上高を求めます。

ちなみに、図表3を見て戦略1~4はどのような内容か想像できますか?

営業戦略のバリエーション

それぞれの戦略は、次のようなものです。

  • 戦略1:販売単価を10%値上げ
  • 戦略2:販売単価を10%値下げ
  • 戦略3:販売管理費を1億円増強
  • 戦略4:販売管理費を1億円削減

これらは企業がとり得る基本的な営業戦略です。条件次第で結果は変わってきますが、以降では「目標営業利益2億円を達成する」ために必要な売上高と販売数量を検討する際の基本的な考え方を紹介します。

4 戦略1:販売単価を10%値上げ

値上げをすると限界利益率が高くなるので利益が出やすくなりますが、一方で販売数量が減少する恐れがあります。

値上げ戦略は、「価格弾力性が低い商品」に適しています。価格弾力性が低い商品とは、

価格の影響を受けにくい商品です。つまり、販売数量は値上げしてもあまり減少せず、逆に値下げしてもあまり増加しない

ということです。具体的には、食品や日用品などが挙げられます。

ここでは販売単価を10%値上げして限界利益率を上げ、営業利益2億円を目指します。従来の変動費率は60%(6億円/10億円)ですが、販売単価を10%値上げすることで変動費率は54.5…%(6億円/(10億円×1.1))になります。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。

必要売上高

=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)

=(3億円+2億円)/(1-0.545…)=11億円

この場合、販売数量は現在の100%(11億円/(10億円×1.1))、つまり、現状と同じ販売数量で必要売上高を達成できます。

5 戦略2:販売単価を10%値下げ

値下げをすると限界利益が低くなるので利益が出にくくなりますが、一方で販売数量の増加が見込めます。薄利を上回る多売を実現すれば、目標利益の達成が可能になります。

値下げ戦略は、「価格弾力性が高い商品」に適しています。価格弾力性が高い商品とは、

価格の影響を受けやすい商品です。つまり、販売数量は値上げしたら減少し、逆に値下げすると増加する

ということです。具体的には、家具や家電製品など耐久消費財などが挙げられます。

ここでは販売単価を10%値下げして販売数量を増やし、営業利益2億円を目指します。従来の変動費率は60%(6億円/10億円)ですが、販売単価を10%値下げすることで変動費率は66.6…%(6億円/(10億円×0.9))になります。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。

必要売上高

=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)

=(3億円+2億円)/(1-0.666…)=15億円

この場合、必要売上高を達成するには、販売数量を現在の約1.7倍(15億円/(10億円×0.9))にする必要があります。

6 戦略3:販売管理費を1億円増強

販売管理費を1億円増強し、営業担当者を増やしたり、広告を出したりして拡販につなげます。製品のライフサイクルが成長期にある場合、営業力強化による拡販は効果的です。

ここでは固定費(販売管理費)を1億円増やして4億円とし、営業利益2億円を目指します。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。

必要売上高

=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)

=(4億円+2億円)/(1-0.6)=15億円

この場合、必要売上高を達成するには、販売数量を現在の1.5倍(15億円/10億円)にする必要があります。

7 戦略4:販売管理費を1億円削減

販売管理費を1億円削減し、利益を上げやすくします。とはいえ、営業力が極端に低下してはいけないので、基本は不採算店の閉鎖、物流の効率化、在庫の圧縮などの効率化となります。製品のライフサイクルが成熟期にある場合、固定費の削減は効果的です。

ここでは固定費(販売管理費)を1億円削減して2億円とし、営業利益2億円を目指します。これを基に必要売上高を算出すると次の通りです。

必要売上高

=(固定費+目標営業利益)/(1-変動費率)

=(2億円+2億円)/(1-0.6)=10億円

この場合、現状と同じ必要売上高と必要販売数量で目標利益を達成できます。ただし、売上高が減少局面にある場合、売上高を維持することは容易ではありません。

8 法人税等を考慮した場合

ここまで紹介してきた4つの営業戦略による売上高、売上原価(変動費)、販売管理費(固定費)、営業利益は次の通りです。

売上高、売上原価(変動費)、販売管理費(固定費)、営業利益

また、目標利益が税引後利益の場合、法人税等に留意が必要です。例えば、固定費3億円、変動費率60%、法人実効税率30%とした場合、目標税引後利益2億円を達成する必要売上高は次の通りです。

必要売上高

={固定費+目標税引後利益/(1-法人実効税率)}/(1-変動費率)

={3億円+2億円/(1-0.3)}/(1-0.6)≒14億6429万円

目標とする税引後利益から必要売上高を算出する場合、税引後利益に法人税等を加味して、税引前利益を求めてから計算しましょう。

以上(2025年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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労務の都市伝説 「試用期間なら社員を簡単に解雇できる」は是か非か?

1 試用期間の直後は社員を簡単に解雇できる?

多くの会社は、社員が入社してから一定期間を試用期間として設定し、本採用するかどうかを見極めています。試用期間を経て「この社員には適性がない」と判断したら本採用を拒否するわけですが、これが「不当解雇」になるケースがあります。

試用期間中やその直後は社員を簡単に解雇できると勘違いしている人がいますが、これは大きな間違いです。試用期間中の労働契約は、

労働契約は成立しているものの、試用制度を前提に、使用者には正当な理由があれば労働契約を解約できる権利が留保されています。これを「解約権留保付労働契約」

といいますが、この解約権留保付労働契約について、過去に最高裁は次のような判断をしています(最高裁大法廷昭和48年12月12日判決)。

  • 本採用の拒否は、通常の解雇よりも広く解雇の自由が認められる
  • 試用期間中、社員は他社への就職機会を失っていることなどを考慮し、本採用の拒否は客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当な場合のみ許される

つまり、確かに試用期間後の本採用の拒否は通常の解雇よりも緩やかといえるが、だからと言って何でも許されるわけではないということです。ポイントは、

就業規則に「本採用の拒否」の規定があることと、相手の能力や経験に応じて柔軟に対応すること

です。

2 就業規則に「本採用の拒否」の規定があるか確認しよう

まずは「解雇権濫用法理」を押さえましょう。これは、

「客観的に合理的な理由」「社会通念上の相当性」を欠く解雇は無効になる

というルールで、試用期間後に本採用を拒否する場合にも適用されます。

解雇権濫用法理

就業規則に解雇事由が規定されていない場合、裁判などで客観的に合理的な理由がないと判断されやすくなります。ですから、

就業規則に「試用期間中に社員として不適格と認めた場合、解雇することがある」などの規定を設ける

ことが、本採用を拒否する大前提となります。

3 試用期間ならではの注意点を押さえよう

就業規則の規定を確認したら、次に大切なのは、どのようなケースで本採用の拒否が不当解雇になりやすいか、典型例を押さえることです。次章で具体的なポイントを紹介します。

1)試用期間の途中で解雇していないか?

通常、試用期間は3~6カ月間ぐらいです。誰でも、すぐに仕事ができるようになるわけではないからです。ですから、

試用期間の途中で「適性がない」と性急に判断して解雇すると、適性の見極め方に問題があるとして、不当解雇

になり得ます。

実際、会社が営業職の社員を採用した後、成績不良を理由に6カ月間の試用期間の途中(3カ月間)で解雇し、争いになった裁判例があります。会社は社員に対して忠告を行い、成績を改善する機会を与えていたようですが、裁判では、

試用期間の満了後に解雇する場合も「客観的に合理的な理由」「社会通念上の相当性」が求められる以上、期間を短縮する場合、より一層高度の合理性と相当性が求められる

などの理由から、不当解雇と判断されました(東京高裁平成21年9月15日判決)。

試用期間の途中での解雇が認められる可能性があるのは、例えば、

  • 著しいレベルの経歴詐称があり、会社の期待した能力が全くないと入社後に判明した
  • 正当な理由(病気など)なく遅刻・無断欠勤を繰り返し、何度注意しても改善しない

など、明らかに社員としての適性がないケースです。

2)新卒や未経験者の能力不足に厳しすぎないか?

新卒や業界未経験者に「数カ月の試用期間で、他の社員と同じぐらい働けるようになれ」というのは酷です。ですから、

初心者であることを十分考慮せずに能力不足で解雇すると、不当解雇

になり得ます。

実際、社労士事務所が実務経験のない社労士を職員として採用した後、試用期間中のミスを理由に解雇し、争いになった裁判例があります。事務所は、職員が顧客の意向を十分確認せずに社労士業務を行ったことなどから能力不足と判断したようですが、裁判では、

実務経験がないと分かって職員を採用した以上、即戦力として期待できる状況ではなく、事務所が職員に対し、顧客への意向確認を十分行うよう明確に指示した形跡もない

などの理由から、不当解雇と判断されました(福岡地裁平成25年9月19日判決)。

初心者の能力不足を理由とした解雇が認められる可能性があるのは、例えば、

社会人歴は長いのに協調性がなく、何度注意しても周囲とトラブルを繰り返す

など、そもそも社会人としての資質が欠如しているケースです。

3)経験者だからといって、指導をおろそかにしていないか?

業界経験者を採用した場合、能力不足を理由とする解雇が認められやすい傾向にあります。ただし、同じ業界であっても仕事の進め方や必要とされる知識などは会社によって異なります。ですから、

経験者だからといって、必要な指導をしないまま解雇すると、不当解雇

になり得ます。

実際、土木工事の設計監理会社が、設計の経験がある社員を採用後、試用期間中に設計図面の作成業務を命じたものの、十分な能力がないと判断して解雇し、争いになった裁判例があります。会社が作成を命じた図面は、社員が過去に経験したことのない種類のもので、裁判では、

経験のない業務にもかかわらず、会社が具体的な指導をした形跡がなく、また、社員は時間をかけつつも、最終的に要求された作業を完了しており、一概に能力不足といえない

などの理由から、不当解雇と判断されました(東京地裁平成27年1月28日判決)。

経験者の解雇が認められる可能性があるとすれば、この裁判例の逆パターンで、

前職の経験があればこなせるレベルの業務を与え、なおかつ会社が指導を繰り返しているのに、業務を十分こなせない

など、仕事の進め方などの違いを踏まえても、経験者としての能力が不足しているケースでしょう。また、「会社がどれだけ真摯に指導をしたか」によって不当解雇になるか否かは変わってくるので、指導を行った日時や内容を「指導記録」などとして残すことが大切です。

なお、上の裁判例が不当解雇と判断された理由には、会社の指導不足の他に、

経験者として採用されたものの、給与の額が経験を考慮したといえるほど高くなかった

というものもありました。

4 (参考)「内定取り消し」の注意点

試用期間中の労働契約は「解約権留保付労働契約」であると説明しましたが、「内定(採用内定)」もこれと同じです。内定とは、会社が内定者(採用選考に合格した求職者)に社員として採用する旨を通知し、内定者が入社を待っている状態です。会社が内定を出した時点で、

会社と内定者の間に、入社日を始期とする解約権留保付労働契約が締結

されたとみなされます。そのため、内定を出した相手に社員としての適性がないことなどが判明したとしても、その内定を取り消すと、違法になる恐れがあります。しかも、内定取り消しの場合、一定の要件を満たすと「会社名公表」というペナルティーまであります。

内定取り消しも通常の解雇よりはハードルは低いものの、実施するには「客観的に合理的な理由」「社会通念上の相当性」が必要です。具体的に内定取り消しが認められやすいケースとしては、次のようなものがあります。

  • 卒業を採用条件としているのに、内定者が単位を取得できず卒業できない
  • 特定の資格や免許の取得を採用条件としているのに、その取得ができない
  • 業務に支障が出るレベルの健康上の問題が見つかった
  • 著しいレベルの経歴詐称があり、会社の期待した能力が全くないと判明した
  • 内定後に刑事事件を起こしたり、反社会勢力とのつながりが判明したりした

上の例の他に、会社の経営悪化が原因でやむを得ず内定を取り消すケースなどがありますが、こうしたケースの内定取り消しは、「整理解雇」という、人員整理を理由とする解雇に準じて判断され、実施するための要件が厳しくなります。何より内定者側に落ち度がない内定取り消しになるので、トラブルを避けたいのであれば、

内定者に一定の補償や損害賠償を示して協議した上で、内定を取り消すこと

が無難です。

以上(2025年11月更新)
(監修 弁護士 八幡優里)

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【書籍ダイジェスト】『面識経済』

少子高齢化や人口減少といった社会課題を背景に、地域コミュニティの衰退が指摘される。コミュニティを活性化し、地域の生活を豊かで愉しいものにしていくためにはどうしたらいいのだろうか。チェーン店の誘致などのありきたりな策に頼らない、「面識経済」と呼ばれる経済活動にヒントがありそうだ。
本書では、コミュニティデザイナーである著者が、アダム・スミスら過去の偉人の経済思想をたどりつつ、現在のコミュニティに求められる経済活動の在り方を探っている。「面識経済」とは、面識関係にある人の間で行われる経済活動を指す。

書籍ダイジェストは、こちらからお読みいただけます。pdf

管理職が押さえておきたい 2025年の「重要労働判例」ポイント解説(2025年12月号)

労務トラブルは急に起こるものであり、正しい労務管理をしないと、思わぬことで訴訟に発展する場合があります。労働問題では判例の判断枠組みが解決に役立つので、トラブル防止の観点から、管理職なら知っておきたい重要労働判例を厳選して紹介します。本冊子は、重要労働判例を解説する企画の第4弾です。2018年10月号、2020年11月号および2024年12月号の労働判例に続き、2025年の最新判例を中心に特に知っておくべきものを10件セレクトしました。


サンリオ創業者辻信太郎が実現した信条「みんななかよく」とは

みんななかよく

辻信太郎(つじしんたろう)氏は、サンリオの創業者であり、ハローキティ(以下「キティ」)をはじめ、多くのキャラクターを世に送り出してきた経営者です。NHKの連続テレビ小説「あんぱん」(2025年度前期放送)にも辻氏をモデルにした人物が登場し、話題となりました。

冒頭の言葉「みんななかよく」は、サンリオの企業理念です。サンリオらしいユニークさですが、これには、「カワイイ」という言葉だけでは片付けられないような、辻氏の平和への想いと、企業・サンリオの経営哲学が詰まっています。

辻氏は大学生の頃、故郷・甲府で空襲を経験しました。実家も街も燃え、多くの人々が苦しむ姿を目にしましたが、周りの大人は「戦争だからしょうがない、相手を倒して生き残るしかない」と言うばかり。辻氏はこれに反発し、「人と人がなかよくなる仕事をしたい」と情熱を燃やすようになります。それがサンリオ創業の原点でした。

辻氏の哲学が実際の事業に現れている例として、キティをはじめとしたサンリオのキャラクターたちと異業種の「コラボレーション」が挙げられます。あるときはロックバンド、またあるときは他会社のアニメキャラクター、そして2025年の大阪・関西万博では、日本館にて「藻(も)」のコスプレをしたキティまで登場しました。

「なぜ、変わったコラボレーションばかり?」と思うかもしれませんが、辻氏はこう言います。「企業は競争ばっかりしてるでしょ。でもよい商品やよいサービスはみんなでけんかして競争するんじゃなくて助け合ってやってったらいいじゃないかと思うんです」と。辻氏いわく、「サンリオはキャラクターの会社ではなく、コミュニケーションの会社」。キティたちは企業同士にとっての「なかよしの象徴」であり、皆が手を取り合って発展していくための大切なキーパーソンなのです。

ビジネスに競争はつきものですが、「相手を倒すこと」が競争の目的になってしまうと、その企業は次第に進むべき道を見失っていきます。大切なのは、企業として社会で何を実現したいのか。「あの企業に負けるな、倒せ」としか言わない経営者よりも、「もしもあの企業と手を組んだら、もっと面白いことができるかもしれない」と言える器の大きい経営者のほうが、社員にとって魅力的ですよね。

「みんななかよく」の精神の下、サンリオのキティたちが実現した数々のコラボレーションは、私たちに「そんなことができちゃうの?」という、一種の“ワクワク感”を与えてくれています。2025年は、サンリオの機関誌「いちご新聞」が50周年を迎えましたが、辻氏は今なおコラムを連載し、平和の大切さを発信し続けているそうです。キティたちが「カワイイ」の象徴として、世界中の人々をつなぐ架け橋となっていることからも、サンリオが実践し続ける理念が、平和な世界へと向かう確かな一助となっているのがうかがえます。

出典:「企業理念」(サンリオ公式ウェブサイト)

以上(2025年11月作成)

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外国人労働者の社会保障制度と労務管理

1 現在の日本を取り巻く雇用環境

我が国においては、少子高齢化の進行により労働力人口が急速に減少し、慢性的な人手不足が深刻化しています。総務省のデータによると、令和6年10月1日現在の生産年齢人口(15歳以上64歳以下の人口)は、7,373万人で、平成7年のピーク時(8,716万人)から1,343万人減少しています。そして、社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、20年後の2045年には5,832万人、さらに40年後の2065年には4,809万人まで減少すると推計されています。そのような中で、特に中小企業や地方の製造業、介護、建設、農業、サービス業などでは若年層の採用が難しく、外国人労働者への依存が高まっています。

厚生労働省発出の「外国人雇用状況の届出状況のまとめ」によると、令和6年10月末日現在、我が国における外国人労働者の数は、2,302,587人(前年比 253,912 人増)と過去最高を更新し、今後もさらに増加していくことが見込まれています。

今回は、主に現場で働く外国人労働者を雇用するにあたって押さえておきたい「在留資格」について、外国人労働者との労働契約の注意点、社会保険料の徴収、所得税の源泉徴収の実務、そして、新しく始まる育成就労制度に向けた対応についてご説明します。

2 現在の在留資格の種類と概要

① 在留資格「特定技能」

特定技能制度とは、深刻な人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人を受け入れる制度で、平成31年に創設されました。特に、国内で充分な人材が確保できない分野を「特定産業分野」と位置づけ、特定産業分野に限って外国人が現場作業等で就労できるようになりました。令和6年10月末日現在、206,995人となっており、昨年対比で約68,000人(49.4%)増と大幅に増加しています。現在は介護業、建設業、宿泊業、農業、飲食料品製造業、外食業など16の業種が該当します(今後、リネンサプライ、資源循環、物流倉庫といった業務区分、分野の追加が予定されています。)。

特定技能には、「特定技能1号」と「特定技能2号」という2種類の在留資格があり、特定技能1号の期間は上限5年間ですが、特定技能2号になると期間の上限なく在留することができるようになり、家族帯同(配偶者と子)も認められることになります。そして、最大の特徴は、条件付きですが、外国人の意志で転職が可能となっています。まとめると以下の表のようになります。

「特定技能1号」と「特定技能2号」

現状は、後述の「技能実習2・3号」の修了者が、「特定技能」に在留資格を変更するケースが最も多いのですが、昨今最初から特定技能1号評価試験を受けて来日するケースも増えてきました。なお、会社は、特定技能の外国人に対して、出入国時の空港等への送迎などの10項目の支援を行わなければなりませんが、特定技能の外国人を雇用する際、人材紹介会社を経由するのが一般的となっており、この人材紹介会社が「登録支援機関」として会社の代わりに、行うべき支援の全部または一部を行っていることが多くあります。

直近の制度改正では、「特定技能1号」から「特定技能2号」へ移行するときには試験に合格する必要がありますが、もし試験に合格できなかった場合、一定の要件(得点が合格基準点の8割以上の場合等)を満たしている場合は、最長で1年間「特定技能1号」の期間を延長できることとされました。

② 在留資格「技能実習」

外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術または知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的として創設されました。令和6年10月末日現在、470,725人となっており、昨年対比で約58,000人(14.1%)増となっています。

技能、技術等の習得段階によって「技能実習1号」(1年目)、「技能実習2号」(2年目~3年目)、そして「技能実習3号」(4年目~5年目)の区分に分かれて在留資格が存在し、「技能実習3号」については、実習実施者(受入企業)、監理団体(技能実習生を実習実施者に斡旋し、実習実施者の支援を行う)が共に優良認定を受けている必要があります。また、受け入れ人数も会社の規模によって上限が定められ、技能実習生の業務内容も、あらかじめ認定を受ける「技能実習計画」に書かれている業務しか行うことはできません。そして、技能実習制度の最大特徴は、技能実習1号及び2号の期間(計3年間)は原則、技能実習生本人の希望による企業の変更、転籍は認められていません。認められているのは止むを得ない場合(会社が重大な法律違反を行っている場合や、会社からハラスメントを受けている場合等)に限られています。

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なぜ、「試算表」を作成すると金融機関と良好な関係が築けるのか?

1 試算表と決算書の違い

企業の財政状態を数字で把握する際は、決算書(損益計算書、貸借対照表)を確認するのが通常ですが、より詳細に足元の状態を確認したいときは、合計残高試算表(以下「試算表。T/B : Trial Balanceとも呼ばれる」)を活用します。試算表は、全ての勘定科目の残高や合計額を一覧にまとめた資料で、決算書とは次のように異なります。

試算表と決算書の違い

試算表のメリットは次の通りです。

  • 月次や四半期の状態を具体的な数値に落とし込むことで、期首に立てた目標の達成度や、経営者の感覚とのずれを把握しやすくなる
  • 期の途中のリアルタイムな状態を金融機関と共有できるので、融資審査を受けるときの補助書類になる

金融機関と良好な関係を築いている経営者は、「月次」で試算表を作成し、それを金融機関に提出していることが少なくありません。「隅から隅まで、赤裸々な今の企業の状態を示す試算表」を共有しているわけですから、金融機関も企業の状態を把握しやすいのです。

皆さんの会社はいかがでしょうか。「試算表を作ってはいるけれど、担当者に任せきりで、自分は細かく読んでいない」「そもそも自社では、試算表を作成していない」という経営者は、ぜひ、試算表の作成を検討してみてください。自社の「今」の状態が把握できることはもちろん、金融機関に提出すれば、今よりも良好な関係を築く一助になるはずです。

以降では、「試算表は決算書とどのように違うのか」「試算表を見ていくことで、どのような情報が分かるのか」を、イメージの図表付きで理解しやすく解説していきます。

なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

2 試算表のフォーマット

試算表に決まったフォーマットがあるわけではなく、決算書(損益計算書や貸借対照表)のように作成することもありますが、特徴は、

「借方合計」「貸方合計」と「借方残高」「貸方残高」の両方を確認できる

ことです。

厳密には、勘定科目ごとの借方の合計値、貸方の合計値のみを記載した「合計試算表」と、勘定科目ごとの借方と貸方の差額である残高のみを記載した「残高試算表」があります。

合計試算表や残高試算表は作成の手間がかかりませんが、その代わり、総勘定元帳(企業が行った全ての取引を「勘定科目」ごとに分類して記録したもの)から試算表を作成する際、転記ミスや漏れがあっても気づきにくいというデメリットがあります。そのため、実務では2つの表を組み合わせた合計残高試算表が使われることが多いです。

3 試算表(損益計算書)を見る際の主なポイント

1)試算表(損益計算書)のイメージ

決算書では5つの利益ごとに勘定科目とその金額のみが掲載されます。試算表では、これらが「前残高」「借方」「貸方」「当月残高」の4つに分けられます。

試算表(損益計算書)のイメージ

2)売上高を使った比較と分析

試算表(損益計算書)では、まずは売上高を確認してみましょう。単月の試算表で見ると、

  • 貸方の売上高が、その月にもうけた金額
  • 当月残高の売上高が、今期の期首から当月までの累計売上高

に当たります。目標と実績との差額を比較して、どの程度差分があるのかを確認し、その要因を分析すると、軌道修正の道筋を見つけられます。

その他にも、前年同期比(時季)や直近3カ月平均比(直近の経営環境)などを用いて、時季や直近の経営環境を前提としたずれの分析を行うことで、より綿密に現状を把握できるようになります。

3)経常利益を使った比較と分析

試算表(損益計算書)の経常利益は、企業全体の継続的なもうけを表す利益です。目標と実績の比較や前年同期比を用いることで、自社の全体的な業績の動向を把握できます。企業の収益力を確認するための経営指標である、

売上高経常利益率(=経常利益/売上高×100)

を計算し、比較分析を行うようにしましょう。

経常利益を使った多角的な比較分析は、単に利益が多いか少ないかを見るためだけではありません。

どの科目(売上原価、販管費・営業収益/費用・営業外収益/費用)に問題があるのかを見つけるための大枠のチェックポイント

でもあります。もし、利益率が低くなっている場合には、売上原価や販管費の変動、構成割合をチェックするなど、コスト管理への関心を高めるようにしましょう。

4 試算表(貸借対照表)を見る際の主なポイント

1)試算表(貸借対照表)のイメージ

決算書では、左側の「資産の部」が資金の運用状況を表し、右側の「負債の部」「純資産の部」が資金の調達状況を表しています。試算表では、これらが「前残高」「借方」「貸方」「当月残高」の4つに分けられます。

試算表(貸借対照表)

2)現金・預金の増減要因の分析と残高確認

現金・預金は企業にとって最も重要な科目なので、増減と残高を高い頻度で確認しましょう。

例えば、売上に特段変わった様子はないものの、現金・預金が数カ月にわたって減少し続けているようであれば、後述する売掛金を適切に回収できていない可能性があります。このような状況下で起きた資金不足は、最悪の場合、黒字倒産(黒字であっても、仕入代金や人件費などの必要な支払いができず倒産すること)につながる恐れがあります。そうならないためにも、自社に必要な運転資金を現金・預金で賄うことができるかを確認しておく必要があります。

運転資金は、企業が日々の営業活動を回すために必要な資金で、貸借対照表の次の科目を用いて計算できます。なお、一般的な運転資金の目安は、月商(1カ月間の売上高)の3カ月分以上とされています。

運転資金=売上債権(売掛金・受取手形)+棚卸資産-仕入債務(買掛金・支払手形)

3)売掛金・受取手形の増減要因の分析

試算表(貸借対照表)の資産の部(借方残高)にある売掛金や受取手形は、売上として計上されたものの、まだ現金化されていない金額です。そのため、売掛金や受取手形を見る際には、売上高とのバランスを確認することが大切です。

例えば、売上高が横ばいにもかかわらず、前年同期や直近3カ月平均値など過去の数値と比べて、売掛金の残高が大きく増えているときは、売掛金が滞留している(適切に回収できていない)可能性があります。売掛金・受取手形の増減は資金繰りに直結しますから、回収が遅れている場合は、即座に取引先への確認や回収策を検討しましょう。

4)買掛金・支払手形の増減要因の分析

試算表(貸借対照表)の負債の部(貸方残高)にある買掛金や支払手形は、仕入れとして計上されたものの、まだ支払いが完了していない金額です。そのため、買掛金や支払手形を見る際には、仕入高とのバランスを見ることが大切です。

例えば、仕入高が横ばいにもかかわらず、前年同期や直近3カ月平均値など過去の数値と比べて、買掛金の残高が大きく増えているときは、取引先への支払い遅延が発生している可能性があります。支払い遅延を頻繁に起こしたり、長期化したりすると、取引先との関係に悪影響が出ます。単に支払期限に間に合わせるだけでなく、企業の資金状況や取引先との関係を踏まえた支払い管理をすることが大切です。

5)資産・負債・純資産の割合から、自社の状態を把握

貸借対照表では、これらの割合を確認することで、企業の財政状態を大まかに把握できます。ここでは、代表的な3つのパターンを紹介します。

1.純資産が多い状態

借方の流動資産と貸方の純資産が占める割合が高く、貸方の負債が占める割合が低い場合は、借り入れなどが少なく、優良で安定している状態といえます。

  • 借方:流動資産>固定資産
  • 貸方:流動負債、固定負債<純資産

純資産が多い状態

2.資産と負債のバランスが取れた状態

現金・預金を含めた流動資産が占める割合が、流動負債を上回っている状態を指します。貸方の中で、純資産が占める割合が大きい場合は倒産リスクが低いですが、純資産が占める割合が小さい場合は、少しの損失でも債務超過に陥る恐れがあります。

  • 借方:流動資産>固定資産
  • 貸方:流動負債>固定負債、純資産

資産と負債のバランスが取れた状態

3.債務超過の状態

企業が抱えている負債の総額が、資産の総額を超えている状態を指します。全ての資産を売却したとしても、返済できない借入金が残ってしまい、企業の存続が困難になります。

債務超過の解消策は企業の利益を上げて資産を増やすことですが、いきなりは難しいため、売上原価や人件費の見直し、休資産や不動産の売却検討などの短期的な対策と併せて、中長期的な経営体質の改善が必要です。

  • 借方:資産>債務超過
  • 貸方:流動負債<固定負債

債務超過の状態

5 試算表をより正確な資料にするためのポイント

1)月次決算を行うための会計処理の方法

企業における会計処理には、次の3つの考え方があります。

  • 発生主義:現金や預金の入出金にかかわらず、取引の発生時点で費用と収益を計上する
  • 現金主義:現金や預金の入出金があってはじめて費用と収益を計上する
  • 実現主義:費用や利益の実現が確定した時点で費用と収益を計上する

現金主義は、商品やサービスを提供済みであっても、代金の支払いがあるまでは費用と収益を計上することができません。そのため、帳簿上ではもうけや未入金、未払いを把握することが難しくなります。

そのため、掛仕入や未払金の処理の際には、取引が発生した時点で費用と収益を計上する、発生主義での会計処理が向いています。

一方で、取引が発生した時点での会計処理となると、取引額が変わったり代金が確実に支払われたりしないリスクもあるため、収益に関しては、費用や利益の実現が確定した時点で費用と収益を計上する、実現主義を採用すると、より正確に損益を計算できます。

2)減価償却費を毎月計上する

減価償却費(固定資産の購入費用を耐用年数にわたり、分割して費用計上するための勘定科目)を毎月計上することも大切です。減価償却費が高額のため、本決算で大きく損益がぶれないよう減価償却費の年間の見込み金額を12カ月で割り、毎月の月次決算に計上しましょう。

3)在庫の計上も忘れずに

当月までの正しい利益を算出するには、在庫の計上も欠かせません。一方で、物理的に在庫を確認する実地棚卸しでは、営業を止めて手動で在庫を数えるなど大掛かりな作業となってしまうため、在庫管理システムや、帳簿に記録されたデータを基にする帳簿棚卸で、在庫を把握するとよいでしょう。毎月が難しい場合には、四半期に1回、半期に1回など、期中で把握できる仕組みを作るのもよいと思います。

4)できる限り早く作成する

決算期にかかわらず、月次や四半期などのタイミングで試算表を作ることで、自社の業績を小まめに確認できるので、より早いタイミングで作成するとよいでしょう。一般的には、月初めから10日程度で試算表を作成するのが理想的です。

そのためには、試算表を作るための基となる仕訳に関しても、取引が発生したその日のうちに計上して、なるべくため込まないようにしましょう。

5)作成段階でのチェックは正確に

試算表は最終的に借方と貸方の数値が一致しなければなりません。もし、この2つが一致しない場合は、作成段階でのミスが発生していることが考えられます。次のような箇所に問題がないかを確認してみましょう。

  • 仕訳帳や総勘定元帳から試算表への金額の転記ミス
  • 合計金額や残高の計算間違い
  • 一部の仕訳や勘定科目が総勘定元帳や試算表に反映されていない
  • 借方と貸方の勘定科目を誤って使用している

以上(2025年12月作成)
(監修 税理士 石田和也

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「2025忘年会」経営者と社員に聞いたホントのところ

1 忘年会に対する若手・中堅社員のホンネは?

今年も忘年会の季節がやって来ました! 多忙な経営者にとって、忘年会は普段交流の少ない社員と話したり、仕事を頑張ってくれている感謝を改めて伝えたりするための大切な場です。シンプルに「社員と膝を突き合わせて飲むのが楽しみ」な経営者も多いでしょう。ところで、

最近はネットなどで、「若い世代が、忘年会に行きたがらない」という類の記事や投稿をよく目にします。実際のところ、どうなのでしょうか?

今回は中小企業の若手・中堅社員(20代・30代)182人にアンケートを実施し、「忘年会は楽しいか、楽しくないか?」「楽しくないなら、その理由は?」「どんな忘年会だったら楽しい?」「忘年会について言いたいこと(自由回答)」などを、ホンネで答えてもらいました。ぜひ、これからの忘年会を考える上でのヒントにしていただけますと幸いです。

また、経営者322人にも、若手・中堅社員と同じ質問をし、その結果を掲載しています。

経営者と若手・中堅社員の、忘年会に対する認識のギャップが浮き彫り

になりましたので、併せてご確認ください。

経営者、若手・中堅社員ともに、アンケートは2025年11月に、インターネットを通じて行いました。回答の中で、明らかに誤字と思われる表記などは修正しています。

2 忘年会に対する認識のギャップ

最初に、回答者全504人(経営者322人、若手・中堅社員182人)に、「忘年会の開催頻度」を聞いたところ、次のような結果になりました。

忘年会の開催頻度

忘年会を「毎年行っている」会社は34.5%、「時々行っている」会社は18.7%、「行っていない」会社は46.8%でした。

さて、以後の質問は、忘年会を「毎年行っている」「時々行っている」会社の方を対象にお聞きしています。忘年会について詳しく掘り下げていくにあたり、まず聞いてみたいのは

「忘年会」というイベントについての、経営者と若手・中堅との認識のギャップ

です。そこで、経営者154人に「なぜ忘年会を行うのか?」、若手・中堅社員114人に「会社が忘年会を行う理由は何だと思うか?」を聞いてみたところ、次のような結果になりました。

忘年会の目的は?

経営者、若手・中堅社員ともに、1位は「1年間の苦労をねぎらうため」ですが、その割合は経営者が55.8%、若手・中堅社員36.0%と、19.8ポイントの差があります。また、若手・中堅社員の18.4%は「(忘年会が)慣習で続いている」と考えています。

経営者の多くは「社員を労いたい」という思いを持っているのに、若手・中堅社員の多くは忘年会を「形式的なもの」と思っている

ようです。加えて、若手・中堅社員の7.9%については、忘年会を行う理由が「分からない/答えられない」という結果が出ました。何だか世知辛いですね……。

3 忘年会は楽しい? 楽しくない?

さて、次に気になってくるのは、

はたして若手・中堅社員は忘年会を楽しんでいるのか?

です。経営者154人に「自社の若手・中堅社員は忘年会を楽しんでいると思うか?」、若手・中堅社員114人に「自分自身が忘年会を楽しんでいるか?」を、聞いてみたところ、次のような結果になりました。

忘年会は楽しい?

「楽しんでいる」「どちらかと言えば楽しんでいる」は、経営者が計63.0%、若手・中堅社員は計53.5%でした。この部分についてはそこまでのギャップはなく、

忘年会を楽しんでいる若手・中堅社員は意外と多い

ようです。ただ、無視できないのは

「楽しんでいない」「どちらかというと楽しんでいない」が計37.7%いること。この層の社員にどう向き合うかがこれからの忘年会の課題

です。次は、「若手・中堅社員たちが忘年会を楽しんでいない理由」を赤裸々に紹介します。

4 なぜ忘年会が楽しくないの?

今度は前章で「楽しんでいない」「どちらかというと楽しんでいない」を選んだ経営者15人と、若手・中堅社員50人に質問をぶつけました。経営者に「若手・中堅社員が忘年会を楽しめない理由は何だと思うか?」、若手・中堅社員に「自分が忘年会を楽しめない・忘年会に行かない理由は何か?」を聞いてみたところ、次のような結果になりました(どちらも複数回答)。

忘年会を楽しめない理由は?

経営者が考える「若手・中堅社員が忘年会を楽しめない理由」の1位は「仕事の話が多くなりがち(73.3%)」でしたが、若手・中堅社員のほうでは5位(22.0%)となっています。

仕事の話が苦手な若手・中堅社員は一定数いるものの、経営者が思うほど多くはない

ようです。ちなみに、若手・中堅社員の「自分自身が忘年会を楽しめない理由」の1位は「拘束時間が長い/終わりが遅い(40.0%)」でした。

5 どうすりゃいいんだ! 忘年会

若手・中堅社員が忘年会を楽しめない理由は何となく分かったけど、結局どうすりゃいいんだ! ということで、今度は経営者154人と若手・中堅社員114人それぞれに

  • 会話重視(居酒屋などでの、和気あいあいとした忘年会)
  • 食事重視(高級レストランなどで、酒や食事を楽しめる忘年会)
  • 時間帯重視(業務時間内(ランチタイムなど)に行う、飲酒なしの忘年会)
  • イベント重視(ボードゲーム、スポーツなどを皆で楽しむ忘年会)
  • チームの一体感重視(社員旅行などの宿泊先で行う忘年会)
  • その他
  • 特にない/分からない

の中から「一番楽しいと思う忘年会」を選んでいただきました。結果は次のようになりました。

どんな忘年会が一番楽しい?

経営者、若手・中堅社員ともに、1位は「会話重視(居酒屋などでの、和気あいあいとした忘年会)」ですが、その割合は経営者が59.1%、若手・中堅社員28.9%と、30.2ポイントの差があります。

また、注目すべきは、若手・中堅社員の中に「時間帯重視(業務時間内(ランチタイムなど)に行う、飲酒なしの忘年会)」を希望する人が23.7%もいることです。前章では、若手・中堅社員の「忘年会を楽しめない理由」の1位が「拘束時間が長い/終わりが遅い(40.0%)」でしたが、その裏返しでしょうか。経営者からしたら少し寂しい気もしますが、

「早めに始めてサクッと終わる」忘年会を希望する若手・中堅社員が少なくない

ようです。

ちなみに、経営者の中には「その他」と答えた人がいましたが、その人たちは、

  • キッチンスペースでみんなで料理を作って楽しむ
  • 割烹料理屋でお酒と料理重視で楽しむ

など、オリジナリティあふれるアイデアを回答してくれました。

6 忘年会について言いたいこと

最後に、経営者、若手・中堅社員の両方に、「忘年会について言いたいこと」を主張してもらいました!

【経営者】

「1年間の労苦を労いたい。そして、これからも真摯に目的に向かって邁進しようというのがホンネ」

「今年1年ご苦労様です。来年も一人一人目標を持ち充実した1年になるよう努めてください」

「気持ちよく参加出来るよう心がけたい」

「交流を深める会なので参加してほしい」

「1年間のねぎらいのために、景品など工夫もしています」

「やめたほうがいいのか聞きたい」

「会社内の親睦と社員の慰労のためにぜひ参加してほしい」

「いちいち不満そうな態度を出すな」

「楽しめ!!!」

「もっともっと楽しもう!」

「この1年間皆で良い仕事が出来た事など色々な話をしたいと思います。そして来年も良い方向性で良い仕事が出来るように」

「無理せず楽しんでほしい」

「1年を振り返って楽しんでほしい」

「今年の反省点を来年の成果に繋げるようにしてほしい」

【若手・中堅社員】

「補助を出してほしい」

「時間厳守 お酒を強要しない」

「長期、短期での先の見通しを教えてほしい」

「やるなら、費用は会社負担」

「忘年会費用を出してほしい」

「強制するな!」

「完全廃止にしてほしい」

「参加しなければならない風潮や翌日のお礼の面着が気に入らない」

「人数が多すぎて会場を探すのが大変なので、2回に分けてもいいなど妥協案を出してほしい」

「忘年会にかけるお金を給料で還元してほしい」

「30分にしてほしい」

「強制で参加しないといけないので、そこは参加したい人だけにしてほしい」

「お酒飲むならタクシーチケットが欲しい」

「時短でお願いします。会費の会社負担をもっと増やせ~~」

以上(2025年11月作成)

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【資金繰り】税金の中間申告・納付を正しく理解して安定した資金繰りをしよう

1 中間申告・納付の時期と金額を正確に把握しよう

税金の納付は期末の決算後だけではありません。年度の途中にも中間申告・納付があって、これが資金繰りに直結する問題になることがあります。注意したいのは、

中間申告・納付は税金の種類ごとに、また確定納付額などで納付時期や回数が異なるため、前期どおりと考えてはいけない

ということです。中間納付額は、当期末に算出される確定納付額から精算されます。仮に中間納付額が当期の確定申告分より多ければ、翌期に還付されるものの、それまでの間は、その資金は事業活動には使えません。

中間納付額の計算方法は、

  • 前期の実績に基づく計算方法
  • 仮決算(詳細は後述)に基づく計算方法

の2つです。例えば、前期に不動産売却があって臨時的に所得が大きく生じた場合などは、

前期の実績に基づく計算方法ではなく、仮決算(詳細は後述)に基づく計算方法を採用して、実態に合った中間納付額を申告・納付する

などの対策が必要になります。ただ、こうした対策を講じるためには、中間申告・納付に関する基本を押さえておくことが前提となります。そこで、この記事では経営者も押さえておきたい中間申告・納付の基本を紹介します。

2 法人税の中間申告・納付

1)申告の対象となる法人

法人はその事業年度が6カ月を超えるときは、原則として、その事業年度開始の日から6カ月を経過した日から2カ月以内(例えば、3月末決算法人の場合は11月末まで)に、法人税の中間申告・納付をしなければなりません。

ただし、次の法人については中間申告・納付の義務はありません。

  • 新設法人の設立初年度や清算中の法人
  • NPO法人や公益法人、協同組合等の普通法人以外の法人
  • 前期の確定申告書に記載された法人税額が20万円以下である法人

なお、法人税の申告期限の延長の特例申請の承認を受けていても、中間申告の申告期限の延長はないので要注意です。

2)中間納付額の計算方法は2つ

中間納付額の計算方法には、

  • 前期実績に基づく計算方法
  • 仮決算に基づく計算方法

の2つがあります。

前期実績に基づく計算方法は、原則として前期の法人税額の半分を納めるという簡便な方法で、

前期の法人税額÷前期の月数(通常は12)×6=中間納付額

の算式で計算されます。

仮決算に基づく計算方法は、事業年度開始の日から6カ月間を一事業年度とみなして、決算(仮決算)を行う方法で、

一事業年度とみなした期間について、通常の確定申告書を作成するときと同様の税額計算

を行います。

もし、中間申告書の提出期限までに確定申告書の提出をしなかった場合、その提出期限において、前期実績に基づく計算方法による申告書の提出があったものとみなされます(みなし申告)。したがって、仮決算に基づく計算方法による中間申告を行おうとするときには、必ずその申告期限までに中間申告書を提出しなければなりません。

その他、法人税の中間申告書を提出する法人は、地方法人税についても同時に申告・納付をする必要があります。

3 地方税の中間申告・納付

法人の事業活動に関係する主な地方税には、

都道府県民税・市町村民税(以下「住民税」)、事業税、事業所税、固定資産税(償却資産税)など

があります。これらのうち、住民税、事業税は、法人税の中間申告制度(申告の対象となる法人や、中間納付額の計算方法、みなし申告)と同様の取り扱いになります。

また、事業所税や固定資産税(償却資産税)には、中間申告制度に関する規定はなく、年1回の申告・納付や年4回の賦課決定納付(自治体から納付額の通知を受けること)など、定められた納付期日(回数)により納付手続きを行います。

4 消費税の中間申告・納付

1)申告の対象となる法人

消費税の中間納付は、前期に納めた消費税額(以下「前期の確定消費税額」)によって中間申告の回数が異なります。

法人は、原則、前期の確定消費税額の区分ごとに決められている課税期間の末日の翌日から2カ月以内に消費税の中間申告・納付を行わなければなりません。

消費税の中間申告・納付

なお、次の法人については中間申告・納付の義務はありません。

  • 新設法人の設立初年度(合併による設立を除く)
  • 前期の確定消費税額が48万円以下の法人
  • 消費税課税期間特例選択届出書の提出により、課税期間の短縮特例を受けている法人

なお、中間申告の義務がない法人でも、自身で選択して、年2回に分けて納付ができる「任意の中間申告制度」があります。

2)中間納付額の計算方法は2つ

中間納付額の計算方法には、

  • 前期の確定消費税額に基づく計算方法
  • 仮決算に基づく計算方法

の2つがあります。

前期の確定消費税額に基づく計算方法は、図表1で紹介した

中間申告の回数に応じて、前期の確定消費税額の6カ月相当額、3カ月相当額、1カ月相当額を中間納付額として計算する方法

です。この場合、前期の確定消費税額による中間納付額が記載された中間申告書および納付書が、所轄税務署長から送付(e-Taxを利用している場合にはメッセージ通知)されてきます。

仮決算に基づく計算方法は、図表1で紹介した

中間申告の回数に応じた中間申告対象期間を、一課税期間とみなして仮決算を行う方法

です。この計算方法を選択する場合は法人税の中間申告と同じく、提出期限までに中間申告書を提出しなければなりません。なお、仮決算によって控除不足額(還付額)が生じても、中間申告時点では還付が行われません。

その他、中間申告書の提出期限までにその提出がなかった場合には、法人税と同様に、前期実績に基づく計算方法による申告書の提出があったものとみなされます。

3)任意の中間申告

前期の確定消費税額が48万円以下の法人が任意の中間申告を希望する場合は、「任意の中間申告書を提出する旨の届出書」を所轄の税務署長に提出します。これにより、毎年、年1回の中間申告が行えます。また、任意の中間申告をやめる場合には、「任意の中間申告書を提出することの取りやめ届出書」を提出しなければなりません。

なお、届出をした法人が、提出期限までに中間申告書を提出しなかった場合は、その法人は、任意の中間申告書を提出することの取りやめに関する届出書の提出があったものとみなされます。よって、万が一、提出期限までに中間申告書の提出がなかったときでも、延滞金は発生しません。

5 申告・納付の年間カレンダー

申告・納付の年間カレンダー

以上(2025年11月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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