【事業承継】MBOを活用するメリットと実務

1 事業承継でMBOを活用する2つのメリット

MBO(Management Buyout:マネジメント・バイアウト)とは、

役員が社長から株式を買い取り、後継者となる手続き

のことです。これは、親族内に後継者がいないものの、社内に経営を任せられる役員がいる場合に活用される、事業承継の手法の1つです。このMBOにより事業承継を進めると、次の2つのメリットがあります。

  • 創業者の経営理念や経営ビジョンを次世代に引き継ぐことができる
  • 役員・社員のモチベーションの維持・向上できる

1)創業者の経営理念や経営ビジョンを次世代に引き継ぐことができる

M&Aによって第三者に事業を承継する場合、その第三者が経営者になることで、経営理念や経営ビジョンが大きく変わってしまうリスクがあります。会社の目標が変われば、社員個人の目標なども一新しなければなりません。もし、買収者の経営理念や経営ビジョンが共感できるものでなければ、社員がそれまで大切にしてきた価値観ともミスマッチが生じる恐れがあり、離職などの選択を検討しなければならない環境下に置かれることになります。

この点、MBOであれば、これまで社長とともに経営理念や経営ビジョンを共有していた役員が経営者となるため、急激な方針転換が少なく、社員は安心して会社で働き続けることができます(取引先にも通ずるところがある)。また、社長にとっても、自身が築き上げた経営理念の実現に向けて、後継者が会社を前進させてくれるというメリットがあります。

2)役員・社員のモチベーションが維持・向上できる

M&Aで第三者に会社を売却する場合、社長などの重要ポストについては、どうしても買収者側から派遣されるケースが多くなります。そうなると、将来は社長や専務になれると思っていた役員や、そうしたポジションを目指していた社員のモチベーションは低下します。人事評価や業務の進め方についても変更を迫られるケースが少なくなく、成果や貢献が正当に評価されなくなるかも、慣れ親しんだ働き方が変わってしまうかもという不安を生む要因になります。

MBOの場合には、これまでと同じ舟に乗ってきた役員が経営者となるため、事業承継後に重要ポストを買収者側で独占されたり、人事評価や業務の進め方に大幅な変更を求められたりすることはありません。その環境下で、経営者の若返りなどの変化が起きれば、役員や社員のモチベーションの維持だけでなく、会社に対する期待度の向上も見込めるかもしれません。

2 MBOを実施する際の2種類の方法

1)役員個人が株式を買い取る場合

役員が社長から株式を個人で買い取る方法です。

役員個人が株式を買い取る場合

このように役員個人が社長から株式を買い取る方法は、最も簡単でシンプルですが、

役員個人が、社長から会社の株式を買い取るための資金を用意できるか

が問題となります。1000万円程度の資金であれば、それまでの収入が給与所得だけであった役員でも買い取れる可能性がありますが、数億円の株式になると、個人では買い取れないケースが多くなります。

そのような場合には、役員に対し、まず少数の株式を原則の評価方法で計算する金額より安い金額で、一部譲渡しておく施策が考えられます。税務上、株式は会社を支配する一族以外の者への譲渡の場合には、配当還元価格(配当金などを基に算出する評価額)による評価が認められ、安く譲渡できます。しかし、社長としては、本来は高額の評価がつく株式を役員に安く譲渡する(受け取る金額が少なくなる)ことになるので、そもそもそのような取引が望まれるかについては注意が必要です。

その他の施策としては、社長が退職慰労金を受け取り、株価が押し下がるタイミングで役員に株式を譲渡することで、役員に係る株式の買い取り負担を軽減するというものがあります。社内の留保金を支払いに充てることで純資産価額が変動する、あるいは退職慰労金が多額の損金となり、所得が下がって株式の評価額が変動することで、株価が押し下がるのです。

2)受皿会社を設立するケース

役員が社長から買い取る株式が高額な場合には受皿会社を設立し、銀行から株式買取資金を借り入れ、その資金を使って受皿会社がX社から株式を買い取る方法です。

受皿会社を設立するケース

このように銀行からの借り入れを活用することで、役員は手元資金がなくても、社長から会社の株式を買い取れます。しかも、受皿会社が社長からX社の株式を取得した後は、X社から受皿会社に配当をし、その配当された資金をもって銀行に借入金の返済が行えます。

X社から受皿会社への配当は、親子間の配当であるため、課税されることなく資金を受皿会社に移せます。これによって、役員はX社に蓄積していた利益剰余金(社内の留保金)、あるいは、将来の利益を使って買収資金を銀行に返済できます。

また、X社の株主構成が社長だけではなく、他の株主もいる場合には、

  • 引き続き経営に参加する株主の保有している株式は買い取らない
  • 経営から離れる株主が保有する株式のみを買い取る
  • 残る株式は、受皿会社の株式と株式交換をする

という進め方があり、買い取らなければならない株式数を減らせ、借り入れの負担を軽減できます。

3 事業承継でMBOを活用する際のポイント

以上のように、MBOの手続きを活用すれば、親族内に後継者がいない場合にも、自社の役員に経営を承継してもらえます。しかも、社長としては、株式を役員に買い取らせることができますので、保有される株式の現金化も可能になります。株式を現金化する場合には、有価証券の譲渡所得税(20%)が課税されるので、その点でも贈与などに比べて有利な税率を適用して現金を得ることができます。

他方、留意点としては、MBOは役員のいずれかの者にオーナー経営者の地位を譲ることになりますので、その役員に本当に会社を経営していく手腕があるかどうかは慎重に見極める必要があります。サラリーマンとして働いてきた役員とオーナー経営者は、そもそも仕事に対するモチベーションが違います。サラリーマンであった役員が、オーナー経営者として、会社を成長させられる後継者となれるのか否か、ここがMBOの一番難しいポイントです。

以上(2025年8月作成)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 福崎剛志)

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画像:Mariko Mitsuda

植村直己は「感謝の気持ち」を担いで最高峰へと辿り着いた!

「私たちはうしろにいる家族、友人、知人、この隊の派遣に尽力してくれたスポンサーによって支えられていることに感謝し、無事登頂に成功して、ふたたび全員がこの高台で乾杯できるように祈ります」

植村直己(うえむらなおみ)氏は、1970年に日本人で初めて世界最高峰のエベレスト登頂に成功し、さらに同年、北米大陸のマッキンリー登頂を成し遂げて、世界初の五大陸最高峰登頂者となった人です。

冒頭の言葉は、植村氏がエベレスト登頂を果たした際、山に登る前に登山隊の隊長として述べた挨拶です。植村氏は、農家の生まれで小さい頃から自然に親しみ育ちましたが、本人曰く登山に関しては「ほんの新米」で、数々の偉業も「幸運とまわりの人の協力や友情に恵まれたから」。五大陸最高峰制覇を果たしてなお、この謙虚さを持っているのですから驚きです。

植村氏は登山において、常にこの謙虚でひたむきな姿勢を貫き通してきました。例えば24歳の頃、アルプス近辺でアルバイトをしながら登山のための資金を稼いでいた植村氏は、母校・明治大学山岳部のヒマラヤ遠征隊に参加することに。ゴジュンバ・カンという未踏峰に挑み、登山隊の中で唯一頂上を踏んで新聞の一面に掲載されましたが、「頂上に立たせてもらっただけで、他の隊員のように骨身を削ったわけではない」と、日本帰国の勧めを断りアルプスへ帰ってしまいます。

また、エベレスト登頂の際も、同行していた松浦輝夫氏に、「先輩お先にどうぞ」と頂点への最初の一歩を譲りました。植村氏はこのアタック隊に選ばれたことについても、「このうえもなくうれしい反面、みんな頂上に立ちたいのに、心苦しかった」と語っています。

登山において、謙虚さは必要不可欠です。なぜなら、山が高ければ高いほど、一人の力で登りきるのが難しくなるからです。偵察や警備や、場合によっては軍隊やスポンサーまで多くの人の協力や援助が必要であり、「自分の力だけで山に登っている」という傲慢な考えでは、人はついてきません。頂上に立つ人は、植村氏の言う通り誰かに「支えられて」そこに立っているわけです。

植村氏はどれほど高い山の頂上に立っても決しておごらず、その謙虚さと周囲への感謝の気持ちを持ち続けました。経営者もビジネスの世界で、社員という登山隊を率いて山を登り続けているわけですが、高い山に登った人、つまり成功を収めた人ほど、「自分がここにいるのはみんなのおかげだ」という謙虚さを持っているはずです。

もっとも、植村氏のエピソードからは、「感謝の気持ちや謙虚さを持ち続けるだけでなく、伝え、行動で見せることが大切」ということも学べます。日ごろから顔を合わせる社員へ感謝の気持ちを素直に表すのは気恥ずかしいですが、植村氏を見ていると、「伝える」ことの重要性も理解できます。

植村氏は自身の挑戦を振り返り、出会った人々の中に誰ひとり悪人は居なかった、と語っていますが、それは「良い人の周りに良い人が集まる」ということ。その摂理は、悠然と構える山岳のように、不動のものだといえるでしょう。

出典:「エベレストを越えて」(植村直己著、文藝春秋社、1984年12月)

以上(2025年8月作成)

pj17635
画像:dadakko-Adobe Stock

2025年上半期 よく読まれた人気コンテンツランキング

2025年も早くも8月に入りました。

どのような情報に多くの関心が集まったのか——1月から6月までのアクセスをもとに、当サイトの「よく読まれた人気コンテンツ」をランキング形式でご紹介します!

どんなテーマに注目が集まったのかを振り返りながら、まだご覧になっていない記事がありましたら、この機会にぜひチェックしてみてください。

第1位

第2位

第3位

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第17位

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第19位

第20位

2025年下半期は、経営者の皆さまに向けた「座右の銘」や「生成AIの活用」など、さまざまなテーマでアンケートを実施中です。
今後の結果発表も、どうぞお楽しみに!

2025年も、いよいよ後半戦に突入しています。
引き続き、少しでも皆さまの経営や業務に役立つ情報をお届けできるよう努めてまいります。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

以上(2025年8月作成)

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画像:日本情報マート

本当に大変! 重要な16種類の「相続資料」一覧と集め方

1 今のうちから進めておこう、相続資料の準備

相続は、そう何度も経験することではありません。だからこそ、いざ相続が発生すると、必要な資料や手続きの進め方が分からず、戸惑うケースがほとんどです。相続に必要な資料は被相続人(亡くなった人)の生き方や財産状況によって異なります。近年では預貯金はネットバンキング、証券はネット証券といった形で管理されるケースも増え、デジタル上にしか跡が残っていないことも珍しくありません。

相続財産や債務を最も正確に把握しているのは被相続人ですが、その当事者が亡くなってから、資料を一から集めることは簡単ではなく、皆さんが想像している以上に手間がかかります。

ですから、生前のうちに、将来の相続人(相続財産などを引き継ぐ人)は基本的な資料を把握しておくことが大切です。

相続資料(自治体や金融機関などに申請や連絡が必要なもの)は多岐にわたりますが、

戸籍関係・相続財産関係・債務関係に分けて考える

と理解がしやすいです。次の図表を確認しながら必要な資料を整理していきましょう。

収集資料の一覧

2 主な戸籍関係の相続資料(4種類)

1)被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式

【目的】法定相続人を明らかにする、各種相続財産の名義変更手続きなどのため

【取得】相続人が、最寄りの役所の戸籍窓口で請求・取得

2024年3月1日以降は、戸籍謄本を1つの役所の窓口で一括して申請・取得できます(広域交付制度の開始)。転籍の状況や、市区町村の事情(ネットワーク共有ができていない)などにより異なる場合もありますが、一般的に即日発行されます。

2)被相続人の住民票の除票

【目的】不動産を相続した場合の相続登記(名義変更)や、各種相続財産の名義変更手続きなどのため

【取得】相続人が、被相続人が最後に住んでいた市区町村の役所の戸籍窓口(上記の広域交付制度には対応していないので注意)、または被相続人が最後に住んでいた市区町村の役所へ郵送のいずれかで請求・取得

一般的に申請から1週間程度で発行されます。届出の処理状況によっては即日発行もできる場合もあるようです。

3)相続人全員の戸籍謄本または戸籍抄本

【目的】自身が被相続人の相続人であることを明らかにするためや、各種相続財産の名義変更手続きなどのため

【取得】相続人が最寄りの役所の戸籍窓口、本籍地の役所へ郵送、または最寄りのコンビニ(コンビニ交付サービスに対応している市区町村 に限る)のマルチコピー機のいずれかで請求・取得

郵便で請求した場合を除き、一般的に即日発行されます。郵便の場合は、1週間程度で送付されます。

4)相続人全員の住民票の写し、印鑑証明書

【目的】遺産分割協議書の作成や不動産を相続した場合の相続登記(名義変更)をする際などのため

【取得】相続人が、最寄りの役所の戸籍窓口、本籍地の役所への郵送、または最寄りのコンビニ(コンビニ交付サービスに対応している市区町村に限る)のマルチコピー機のいずれかで請求・取得

郵便で請求した場合を除き、一般的に即日発行されます。郵便の場合は、1週間程度で送付されます。

3 主な相続財産関係の相続資料(8種類)

1)預貯金口座の残高証明書と取引履歴

【目的】相続財産の把握、生前贈与の有無や預貯金の払戻し手続きなどのため

【取得】相続人が、金融機関に相続発生の連絡をし、指定の必要書類(被相続人の戸籍謄本や相続人の戸籍謄本、本人確認書類など)を窓口または郵送にて提出することで取得

金融機関ごとに詳細な手続きフローは異なりますので、事前にウェブサイトを確認しましょう。なお、個々の状況によって違いますが、手続きには3週間程度 を要します。

また、被相続人名義の口座への入金や、公共料金などの引き落としは、原則取り扱えなくなりますので、金融機関の連絡に併せて、入金先や引落先への連絡や、入金・引落口座の変更手続きも進めていく必要があります。

預貯金口座については、上記の手続きの前に、所有口座の把握が重要な作業になります。相続人が、生前、所有していた預貯金口座の一覧表を作成していれば、それをたどればよいのですが、もし一覧表などがない場合には、生前の所得税の確定申告や家屋に残された物品(金融機関名の入った封筒やティッシュ)などを基に、取引がありそうな金融機関に問い合わせが必要です。なお、現時点(2025年2月時点)では、被相続人の口座を一括して検索できる手続きはありません。ただ、2024年度末頃(予定)に、預貯金口座にマイナンバーを登録すること(任意)で、1つの金融機関の窓口で、登録された口座の所在が確認できる制度が始まる予定です。

2)金融商品に関する残高証明書、顧客勘定元帳、配当金通知書

【目的】相続財産の把握や相続人の口座への移管手続きなどのため

【取得】相続人が、証券会社等に相続発生の連絡をし、指定の必要書類(被相続人の戸籍謄本や、相続人の戸籍謄本、本人確認書類など)を提出することで取得

金融機関ごとに詳細な手続きフローは異なりますので、事前にウェブサイトを確認しましょう。また、個々の状況によって違いますが、手続きには3週間程度 を要します。

金融商品については、上記の手続きの前に、開設している証券口座の把握が必要です。相続人が、生前、証券口座の一覧表を作成していれば、それをたどればよいのですが、もし一覧表などがない場合には、証券保管振替機構 リンクに対して、信用情報の開示の申し込みが必要になります。開示申し込みの手続きは、それぞれの機関のウェブサイトをご参照ください。

また、遺産分割協議後に、それぞれの相続人への名義変更が必要になりますが、相続人が証券用の口座を持っていない場合には、被相続人と同様の金融機関にて、新規口座開設をしなければならない点には注意しましょう。

3)不動産の登記簿謄本、公図・地積測量図(土地の場合)

【目的】相続財産の把握や相続人への名義変更手続きなどのため

【取得】相続人が、不動産の所在地を管轄する法務局の窓口、不動産の所在地を管轄する法務局への郵送、登記情報提供サービス を利用してオンライン申請のいずれかで請求・取得

窓口の場合は即日発行、オンライン申請の場合は数日程度で郵送されます。

4)名寄帳または固定資産評価証明書

【目的】相続財産の把握や相続人への名義変更手続きなどのため

【取得】相続人が、不動産のある市区町村の役所の窓口、不動産のある市区町村の役所への郵送、最寄りのコンビニ(コンビニ交付サービスに対応している市区町村に限る)のマルチコピー機のいずれかで請求・取得

窓口およびコンビニの場合は即日発行、郵送の場合は1週間程度を要します。

不動産の相続については、1)と2)のように外部に請求する書類以外にも、被相続人が保管しているさまざまな書類が必要になります。主な資料には、次のものがあります。保管場所などを生前に把握しておくことが大切です。

  • 土地の実測図
  • 土地、建物の固定資産税課税明細書
  • 土地、建物の売買契約書など(取得の場合)
  • 土地、建物の不動産賃貸借契約書(賃貸、借地の場合)

5)生命保険の支払通知書、保険証書、解約返戻金計算書

【目的】相続財産の把握や保険金の支払い請求手続きなどのため

【取得】支払通知書と解約返戻金計算書は、保険金受取人が、契約している保険会社に連絡し、指定の必要書類(支払請求書、被保険者の住民票、保険金受取人の戸籍謄本・印鑑証明書など)を提出することで取得

支払通知書は、保険金の支払い後、郵送等されます。生命保険会社ごとに詳細な手続きフローは異なりますので、事前にウェブサイトを確認しましょう。保険証書は、基本的に被相続人が保管していますので、保管場所などを生前に把握しておくことが大切です。

生命保険については、上記の手続きの前に、契約している生命保険の把握が必要です。相続人が、生前、契約していた生命保険の一覧表を作成していれば、それをたどればよいのですが、もし一覧表などがない場合には、生命保険契約照会制度 を利用して調査することができます。この制度は、生命保険協会を通じて、生命保険会社42社へ保険契約の有無を一括で照会できるもので、オンラインや郵送で調査依頼が可能です。

6)死亡退職金の支払明細書(支払調書)

【目的】相続財産の把握などのため

【取得】勤務先の会社などから交付

支払明細書が見当たらない場合には、勤務先の会社などに問い合わせるようにしましょう。

7)自動車の車検証、ゴルフ会員証書、骨董・貴金属などの査定書

【目的】相続財産の把握や名義変更などのため

【取得】基本的に被相続人が保管している(保管場所などを生前に把握しておく)

骨董・貴金属など購入価額が高額なものは、専門家による鑑定により評価額を算定する必要があります。

8)給与やアパート経営に伴う受取家賃などの未収となっている収入関連の各種契約書

【目的】相続財産の把握や名義変更などのため

【取得】基本的に被相続人が保管している(生前にどのような収入があるのか、保管場所などを生前に把握しておく)

相続時点で未収となっているものも、相続税の課税対象となるため、漏れのないよう情報収集しておきましょう。

4 主な債務関係の相続資料(4種類)

1)借入金残高証明書・返済予定明細書

【目的】相続財産の把握などのため

【取得】相続人が、金融機関に相続発生の連絡をし、金融機関から指定された必要書類(被相続人の戸籍謄本や相続人の戸籍謄本、本人確認書類など)を窓口または郵送にて提出することで取得

金融機関ごとに詳細な手続きフローは異なりますので、事前にウェブサイトを確認しましょう。また、個々の状況によって違いますが、手続きには3~4週間程度を要します。

借入金については、上記の手続きの前に、借入金契約の把握が重要な作業になります。相続人が、生前、契約していた借入金の一覧表を作成していれば、それをたどればよいのですが、もし一覧表などがない場合、指定信用情報機関である日本信用情報機構(JICC )、クレジット インフォメーション センター(CIC) 、全国銀行協会 のいずれかに対して、信用情報の開示の申し込みが必要になります。開示申し込みの手続きは、各機関のウェブサイトをご参照ください。

2)医療費の請求書・領収書

【目的】相続財産の把握や立て替えた相続人の所得税の医療費控除などのため

【取得】治療を受けていた病院から発行

被相続人の医療費については、誰が、いつ支払ったかを明確にしておくようにしましょう。被相続人が死亡した日までに本人が支払ったものは、

その被相続人の準確定申告(亡くなった年の1月1日から、亡くなった日までの所得税の確定申告)における医療費控除の対象

になります。

一方、被相続人が死亡した後に相続人(被相続人と生計が一緒であった場合に限る)が支払ったものは、

負担した相続人(被相続人と生計が一緒であった場合に限る)の確定申告における医療費控除の対象

になります。また、立て替えた医療費については、相続財産から債務としてマイナスすることができます。

3)葬式費用の請求書・領収書

【目的】相続財産の把握のため

【取得】葬儀会社などから発行

寺院に支払ったお布施・読経料・戒名料などは通常、領収書などの発行がない場合は、支払日、支払先、支払金額などのメモを残しておくようにしましょう。

葬式費用(墓石・墓地の買入費用や香典返しなど一定のものは除く)については、相続財産から債務としてマイナスすることができます。

4)公共料金などの請求書・領収書

【目的】相続財産の把握や契約解除などのため

【取得】被相続人が生前利用していた水道、ガス、電気会社などから発行

公共料金以外にも、スマートフォンや各種定期サービスについても、それぞれ請求書・領収書を保存しておきましょう。

これら公共料金や電話料金については、相続財産から債務としてマイナスすることができます。ただし、支出の内容によっては相続財産からマイナスできないものもあるため、税理士などの専門家と相談するようにしましょう。

以上(2025年8月作成)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:琢也 栂-Adobe Stock

【賃金データ集】地域別のモデル支給額

【賃金データ集】シリーズとは?

【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。

この記事で取り上げるのは地域別の「基本給」です。

総額人件費の内訳と「基本給」の位置付け

なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

1 都道府県ごとの賃金格差

 賃金支給額は、産業の集積度合いや人口などによって地域ごとに格差があります。厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、東京都を100.0(43万4300円)とした場合の道府県ごとの賃金比率は、東京都に次いで高い神奈川県の89.5%(38万8700円)から最も低い青森県の65.2%(28万3000円)まで、24.3ポイントの差があります。

2 厚生労働省の統計資料によるモデル支給額

都道府県別、性別の賃金支給額

鉱業、砕石業、砂利採取場~電気・ガス・熱供給・水道業まで

情報通信業~金融業、保険業まで

不動産業、物品賃貸業~生活関連サービス、娯楽業まで

教育、学習支援業~サービス業(他に分類されないもの)まで

3 東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額1

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額2

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額3

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額4

東京都労働相談情報センターの統計資料によるモデル支給額5

4 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)

この記事で紹介した統計資料は次の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。

■賃金構造基本統計調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

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■中小企業の賃金事情■
http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/toukei/koyou/chingin/

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以上(2025年8月更新)

pj17907
画像:ChatGPT

【オーナー企業の事業承継(2)】経営権の承継とオーナー個人の相続

1 オーナーか個人か。立場で異なる2つの事業承継問題

事業承継では代表の座を移すことに加えて、経営権(オーナーが所有する自社株式など)を円滑に承継させなければなりません。これはオーナーにとって、

  • オーナー経営者の立場では、経営権の承継の問題
  • 個人としては、オーナー個人の相続問題

といった違いがあります。従って、自社株式の円滑な承継のためには、オーナーの相続についてもスムーズに行われるよう事前の対策が必要なのです。

2 経営権の承継の問題とは

株式会社の場合、会社法上、定款の変更や役員の選任といった経営に関する重要な事項の決定には、株主総会で承認されなければなりません。承認に必要な議決権の割合は、決定事項に応じて会社法に定められています。もし、オーナーや意思を同じくするオーナー以外の株主(家族や役員など)だけで、承認に必要な議決権の割合を確保できていないと、

オーナーや取締役会で重要事項を決定しても、株主総会で承認が得られない可能性

が出てきます。従って、事業承継対策の1つとして自社株式が分散するのを避けることが大切です。後継者が会社の重要事項を決定できるように、後継者と意思を同じくする後継者以外の株主(家族や役員など)に、持株比率(議決権)を集約しておく必要があります。これが経営権の承継の問題です。

なお、承認に必要な議決権の割合ごとの決議内容等は次の通りです。

承認に必要な議決権の割合ごとの決議内容

経営の安定化のためには、最低でも議決権の2分の1超、理想は議決権の3分の2以上の確保が必要です。また、社外株主(オーナーと意見を異にする可能性のある株主)に議決権の3分の1超を保有させないことです。

また、オーナーの個人所有の土地や建物などを会社が賃借して事業に使用している場合や、経営上重要なオーナー所有の財産(自社株式以外)がある場合には、これらの資産も後継者に承継しておいたほうが経営の安定化につながります。

3 経営権の承継の問題対策:株式の集約・分散防止

1)譲渡制限株式

株主が自身の所有する自社株式を譲渡しようとする場合には、会社の承認を必要とする旨を定款に定めることができます。この株式を譲渡制限株式といいます。この場合の会社の承認とは取締役会設置会社においては取締役会、未設置会社においては原則株主総会の承認となります。

譲渡制限株式を譲渡する場合の手続きは次の通りです。

  • 譲渡制限株式の株主が株式を他人に譲渡しようとするときは、会社に対し、その株数、譲受人の氏名・名称等を明示して、これを承認するか否かの決定を請求します(会社法第136条、第138条第1号)。
  • 会社は、譲渡承認の請求を受けたときは、2週間以内に株主総会または取締役会においてこれを承認するか否かを決議し(会社法第145条第1号)、その結果を承認請求者に通知します(会社法第139条)。
  • 会社が譲渡を承認しない旨を決定したときは、会社がこの株式を買い取るか、または買取人を指定します(会社法第140条)。なお、会社が株式を買い取るとき、会社は40日以内に、また、買取人を指定したときは指定買取人は10日以内に、買い取る旨およびその株式数を承認請求者に通知しなければなりません(会社法第145条第2号)。

2)株式の売渡請求権

譲渡制限は相続や合併などの一般承継による取得には適用されません。このため相続や合併などにより、譲渡制限株式を相続した株主に対して会社がその株式を売り渡すよう請求できる旨を定款に定めることができます(会社法第174条)。なお、この売渡請求は相続などがあったことを知った日から1年以内に、株主総会の特別決議を経て請求する必要があります(会社法第176条第1項)。

4 経営権の承継の問題対策:種類株式の活用

会社法では定款に定めることにより、権利の内容が異なる複数の株式を発行することを認めています。前述の譲渡制限株式もそのうちの1つですが、この他、議決権制限株式や拒否権付株式(黄金株)、取得条項付株式などを活用すると後継者に議決権を集中させたり、逆に未熟な後継者の議決権行使を抑制したりすることができます。なお、種類株式の活用に関する詳細については、以下のコンテンツをご参照ください。

5 オーナー個人の相続問題とは

通常、相続が発生すると

  • 相続人全員で遺産分割協議を行う
  • 分割の内容を記した遺産分割協議書に署名なつ印をする
  • 相続した財産の名義変更を行う

ことになります。この分割協議は相続税の申告期限(相続発生後10カ月)以内をめどに行われますが、相続人全員の合意を必要とするため、しばしば協議が難航することがあります。いわゆる「争続」の発生です。特にオーナーの相続財産は自社株式や会社で使用する資産の占める割合が高いことが多いので、これを後継者に集約しようとすると、他の相続人の相続する資産とのバランスが崩れ、合意を形成するのに難航しがちです。

事業承継では、オーナーに万一のことがあった場合に、こうした「争続」を避け円滑に経営を後継者に承継するため、遺言を残しておくことも一法です。

6 オーナー個人の相続問題対策:遺言の作成

1)公正証書遺言

公正証書遺言とは、遺言者が証人2人以上の立ち会いの下、公証人の面前で、遺言の内容を伝え、それに基づいて、公証人が遺言者の意向を文章にまとめて作成するものです。公証人は裁判官、検察官などの法律実務に携わってきた法律の専門家で、法律的に見てきちんと整理した内容の遺言を作成します。そのため、要件の不備で遺言が無効になるのを避けることができるため、3種類のうちで最もお勧めの遺言書です。また、原本が公証役場に保管されるため、遺言書の破棄や、隠匿や改ざんの心配もありません。なお、公正証書遺言の作成に当たっては手数料が必要になります。

公正証書遺言

2)自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者が自筆で遺言内容の全てを書くものです。もし、要件に不備があれば遺言全体が無効になる場合があるので、慎重に作成しましょう。作成に当たっての注意点は次の通りです。

  • 図表などを含む全文を自筆する
  • 年月日の日付を自筆する
  • 氏名を自筆する
  • 押印は認印・母印でも有効だが、実印が望ましい
  • 加除訂正箇所は、その箇所に押印の上署名が必要
  • 封印をするのが望ましい

なお、民法改正により、財産目録については自筆ではなく、パソコンでも作成できます。また、法務局に遺言書を保管でき、その遺言書については、家庭裁判所の検認も不要となります。

3)秘密証書遺言

遺言者が、遺言の内容を記載した書面に署名押印をした上で、これを封じ、遺言書に押印した印章と同じもので封印し、公証人および証人2人の前にその封書を提出し、自己の遺言であることを証明してもらう方法です。遺言の内容を誰にも明らかにせず秘密にすることができますが、公証人がその内容を確認できないため、自筆証書遺言と同様に要件に不備があれば遺言全体が無効になりますし、家庭裁判所の検認も必要です。

7 オーナー個人の相続問題対策:遺留分への対応と民法の特例

1)遺留分と遺留分侵害額請求権

民法では遺言の内容にかかわらず、相続人の最低限の相続分を保障するために「遺留分」が定められています(民法第5編第8章)。遺留分は、相続人のうち、配偶者、子、直系尊属(被相続人の父母)にだけ認められており(兄弟姉妹は対象外)、その割合は法定相続割合の2分の1(直系尊属のみが法定相続人のときは3分の1)です。なお、遺留分算定の基礎となる財産は、

(相続開始時点で被相続人が有していた財産の価額)+(生前贈与した財産のうち、相続開始前1年以内に贈与した一定の財産の価額)-(債務の価額)

となります。なお、相続人に対する生前贈与については、特段の事情がない限り、相続開始前10年以内(2019年6月30日以前に発生した相続にしては無期限)の贈与について、遺留分算定の対象となります。オーナーが遺言を作成し、後継者に対して自社株式や事業用資産を集中して相続させたり(遺贈)、生前に贈与したりすると、他の相続人の「遺留分」を侵害する場合があります。遺留分を侵害された相続人は、遺贈や生前贈与を受けた後継者に請求して遺留分を取り戻す権利が認められています。これを「遺留分侵害額請求権」といいます。遺留分侵害額請求権を行使された後継者は、遺留分に相当する金銭を支払わなければならないため、多額の資金調達を強いられたりすることがあります。このような事態を避けるため遺言の作成に当たっては、専門家とも相談の上、他の相続人の遺留分に十分配慮しなければなりません。

遺留分と遺留分侵害額請求権

2)遺留分に関する民法の特例

民法では、被相続人の生前に、遺留分を有する相続人が自分の遺留分を放棄することが認められています。ただし、そのためには、それぞれの相続人が自分で家庭裁判所に申し立てをして許可を受けなければなりません。これらの作業負担が大きいことや、家庭裁判所による許可・不許可の判断が相続人ごとにバラバラになる可能性があることなどから、自社株式の分散防止対策としては利用しにくいものとなっています。そこで、「中小企業の経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)」では、一定の要件を満たす中小企業の後継者が、オーナーの遺留分を持つ権利者全員が合意し、所要の手続きを経ることで、遺留分に関する民法の特例の適用を受けることができるよう定められています。この特例を受けるための一定の要件と所要の手続きは次の通りです。これらを満たすことにより、「除外合意」と「固定合意」の適用を受けることができます。

「除外合意」と「固定合意」の適用

1.除外合意

除外合意とは、

後継者が旧オーナーからの贈与により取得した自社株式の全部または一部について、その価額を遺留分を算定するための価額に算入しない旨を合意すること

をいいます。

後継者が旧オーナーからの贈与により取得した自社株式の全部または一部について、遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を、当該合意時における価額とする旨を合意すること

をいいます。固定合意により、将来の遺留分侵害額請求権に対応した価額を合意時点の価額に固定することができ、将来の相続発生に備えての資金対策などが立てやすくなります。原則として、遺留分の価額の算定時期は相続開始時点です。しかし、この場合、後継者がオーナーの生前に自社株式の贈与を受けて事業を引き継ぎ、会社の業績を向上させ、株価が上昇すると、相続時にその株価の増加分が遺留分算定財産に加算されてしまいます。すなわち、後継者が経営努力をすればするほど遺留分侵害額請求の対象財産が増加してしまうという矛盾した結果となってしまいます。そこで、譲渡を受けた株式の価額を後継者とその他の推定相続人との間で合意した価額で固定し、経営努力による価額の上昇分を後継者に取得させることとしたのがこの固定合意です。

固定合意とは

以上(2025年8月更新)

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画像:soo hee kim-shutterstock

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