【中堅社員のスピーチ例】この人にあと何回会える?

【ポイント】

  • 年月を経ると、「いるのが当たり前」だった人と別れなければならないことがある
  • 一回一回の出会いを意味のあるものにする、「一期一会」の精神を大切にする
  • 一期一会を意識すると、人との接し方や仕事への向き合い方が変わってくる

おはようございます。今日は、私の家族のことについて話します。少し前に父が誕生日を迎えたので、お祝いをするため、父と母を浅草に連れていきました。2人が人力車に乗ったことがないというので、人力車に乗せて浅草の町を観光し、そのまま和楽器の生演奏を楽しめる居酒屋へと連れていき、食事と音楽を堪能しました。父と母はたいそう喜んでくれました。

これまでもささやかな誕生日プレゼントなどは時折贈っていましたが、実は両親のためにこうしたイベントを企画するのは、恥ずかしながら生まれて初めてのこと。なぜ、今回急に企画を考えたのかというと、自分が30代、両親が60代を迎える中で、ふと「自分は両親にあと何回会えるのだろう?」という疑問が浮かんできたからです。

両親はまだまだ元気ですが、普段は離れて暮らしていて、直接顔を会わせるのは年に数回です。昔は「両親がいるのが当たり前」と考えていましたが、年月とともに亡くなる親戚も出てくる中で、かつては当たり前だと感じていたことが、次第にそうではなくなってきました。だからこそ、「両親が健在なうちに、少しずつ恩返しをしていきたい」と、今さらながら考えたわけです。

会社員としての日々も同じです。私は毎日皆さんと挨拶を交わし、顧客や取引先と接していますが、時折「この人にあと何回会えるかな?」と考えることがあります。また、毎日のようにデスクに向かい、仕事をしていますが、「この日々はいつまで続くのかな?」と考えることもあります。

茶道には、「一期一会(いちごいちえ)」という言葉があります。茶会で相手と接する際は、それが一生に一度の出会いであると心得て、互いに誠意を尽くすべきという考え方です。茶はいつでも飲めるけれど、「同じ茶」が飲める機会は一度きりしかないから、その一度きりを大切にしようというのです。

「日々、当たり前だと思っていることは、実は当たり前ではないんだ」と考えると、多少馬が合わない人がいたとしても、あるいは日々の仕事にマンネリを感じていても、向き合い方が変わってくるかもしれません。月並みではありますが、今日という日を大切にしていきましょう。

以上(2024年11月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

デリケートな「生理」の問題。 体調が悪そうな女性社員に、どう声をかけますか?~事例付きで紹介

書いてあること

  • 主な読者:「生理」で体調を崩している女性社員への対応を知りたい男性の経営者や上司
  • 課題:女性特有の問題だけに深入りしにくいし、どう対応すればいいのか分からない
  • 解決策:女性社員が自然に自己対応できる雰囲気を作る。まずは生理の基礎知識を再確認する。また、福利厚生の制度などを取り入れることも効果的

1 「生理の問題はタブー」という意識から脱却しよう

女性にとって深刻な「生理」の問題。女性社員314人に独自アンケート(2024年9月30日から10月1日まで)を実施したところ、62.1%から「生理が原因で不便を感じたことがある」との回答が得られました。

もしも職場に生理で体調を崩している女性社員がいたら、男性の経営者や上司の方は、どう声をかけるでしょうか? 正直なところ、

「助けにはなりたいけど、女性特有の問題だけに声をかけにくい……」

という人が多いかもしれません。とはいえ、「何とかしたいけど、何もできない」という状態が続くのは、お互いにとってストレスになりますし、労務管理上の問題も出てきます。

そこで、この記事では、生理の問題に冷静に対処する上で押さえておきたい内容として、

  • 生理の基礎知識(周期や症状)、女性社員が体調を崩したときのための福利厚生
  • 体調の悪そうな女性社員への声のかけ方(だめな言い方、望ましい言い方の事例付き)

を紹介します。

2 生理の基礎知識と福利厚生

具体的な内容に入る前に、生理について押さえておいてほしいことが2点あります。

  • 症状には個人差があること
  • 体調不良の際に備えて、働き方の選択肢があるのが望ましいこと

生理の症状やその程度は、個人によってかなり大きな差があります。自分の家族などの症状を基準にすると、対応を間違える恐れがあります。

また、生理による体調不良の程度は、女性社員本人にしか分かりません。休むのか出勤するのか、あるいは、テレワークに切り替えるのか会社で稼働を続けるのか。本人に選択肢を与えられることが望ましいです。

以上2点を念頭に置いた上で、まずは生理の基礎知識から見ていきましょう。

1)生理の基礎知識(周期や症状)

生理について、最低限押さえておきたいのが図表1の内容です。

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繰り返しになりますが、全ての項目について「個人差がある」ことに注意が必要です。例えば、腹痛はなく、経血量も少なく、3日で生理が終わる人や、立ち上がれないくらいの体調不良と、気軽に動けない経血量と、7日以上の出血などの症状を抱えている人もいるなど、かなり差があります。

他に知っておくとよい知識として、次のようなことが挙げられます。

  • 経血を排出するタイミングや量を、本人がコントロールすることはできない
  • 生理は必ずしも、毎月決まった日に来るわけではない
  • 病院に行っても、アレルギーや体質、周りの環境によって、症状が改善しない人もいる
  • 生理前にPMS(月経前症候群)で体調が悪くなる人も。何らかの症状がある人は70%~80%、日常生活に支障をきたす人は5.4%ほど(日本産婦人科学会「月経前症候群(Premenstrual syndrome:PMS)」)
  • 生理の症状には個人差があるため、同性である女性同士でも理解し合うことができず、症状が軽い人が症状が重い人に心無い発言をすることも少なくない。「女性のことだから」と他の女性社員に対応を任せるのではなく、会社として対応を考えるのが望ましい

2)女性社員が体調を崩したときのための福利厚生

労働基準法上、生理で就業が困難な女性社員から請求があったら、会社は休暇を与えなくてはなりません。これを一般的に「生理休暇」といいます。とはいえ、ただ生理休暇を与えるだけでは、体調不良の女性社員への対応として不十分なケースもあります。

誰にとっても働きやすい職場を実現するため、生理に関する福利厚生の例を紹介します。 なお、実際に福利厚生を整備する場合、次のポイントが網羅できていると理想的です。

  • 複雑な手続きや直接的な言葉なしで、自己判断で制度を利用できる
  • 本人に行動の選択が委ねられている
  • 「女性だけ」「生理痛だけ」に限定しない

1.「体調不良休暇」を導入しよう

2023年に厚生労働省が公開したデータでは、

女性労働者がいる事業所のうち、2020年度中に生理休暇の請求者がいた事業所はわずか3.3%(出所:厚生労働省「働く女性と生理休暇について」)

です。生理休暇を請求しない理由としては、「(男性上司なので/利用している人が少ないので)申請しにくい」「休んで迷惑をかけたくない」などがあるようです。

こうした問題をクリアしたい場合、理由に関係なく取得できる年次有給休暇(年休)を使ってもらうという方法もありますが、「せっかくの年休が、毎月の生理のためだけに減っていくのは困る……」と不満に思う女性社員もいるかもしれません。

そこで、会社が独自に定める特別休暇の1つとして、

性別に関係なく、生理の症状に限らず、体調不良であれば取得できる「体調不良休暇」

などを導入するのもよいでしょう。なお、性別を問わず腹痛や頭痛がある場合、鎮痛剤や他の薬を飲んでから効果が出るまでは、一定の時間を置く必要があります。こうした場合に備え、

体調不良休暇を「1時間単位」で取得できる仕組みにしておく

こと、さらに鎮痛剤などが効くまでの間、小休憩を取れる場所も確保できるとよいでしょう。

2.テレワーク制度の拡充を検討しよう

テレワークを実施できる業種・職種の場合、

体調不良時に自己判断でテレワークへの切り替えができる制度

を導入するのも効果的です。生理による症状で就業できなくなる理由には、「職場の空調で気分が悪くなる」「人目が気になる」「気を使われたくない」など、勤務場所を自宅に切り替えれば解決する問題も存在します。

3.専門家に相談しやすい環境を導入しよう

婦人科医などの専門家に相談しやすいシステムを導入するのもいいでしょう。生理痛の症状で困っているけど、上司や同僚には相談しにくいという場合、

婦人科のオンライン診療サービスなどを福利厚生に加えることで、本人が自発的に診療を受ければ、症状を和らげられる可能性

があります。職種にもよりますが、通院にかかる時間や病院での待ち時間の問題をクリアできます。なお、当たり前ですが、こうした福利厚生サービスは存在が知られていないと意味がないので、定期的に社内に周知することも忘れないようにしましょう。

4.女性用トイレに生理用品を常備しよう

急に生理が来たときにも対応できるよう、生理用品を女性用トイレに常備しておきます。ただ「置いておく」だけでは防犯上好ましくない場合もありますが、最近は女性用トイレの個室内で、アプリを使って無料で生理用品を取り出せる機器なども開発されています。

5.研修制度を導入しよう

生理用品メーカーなどは、会社向けに生理に関する研修を行っているところがあります。研修では生理の基礎知識や生理用品についての講習の他、相互理解を促すディスカッションなども実施されます。性別や年齢に関係なく、社員全員が研修を受けることで、知識や会話の擦れ違いを緩和することができるでしょう。

3 体調の悪そうな女性社員への声のかけ方

ここでは、体調が悪そうな女性社員に接する際の声のかけ方の事例を、

  • セクハラやパワハラになり得る「問題発言(だめな言い方)」
  • 問題発言を女性社員に寄り添うものに変えた「言い換え事例(望ましい言い方)」

に分けてシチュエーション別に紹介します。なお、問題発言のセリフは、冒頭で紹介した独自アンケートの対象者(女性社員314人)のうち、「生理中、職場で不快に感じる言動をされた(あるいは見聞きした)ことがある」という85人が、「実際に言われて困った言葉」です。

1)女性社員の体調が悪そうに見えるとき

まずは、女性社員の体調が悪そうに見えるときの言い換え事例です。

生理と明言しないこと、周囲に他の社員がいる環境では指摘しないこと

がポイントです。

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2)女性社員から生理痛がつらいと申告されたとき

次に、社員に「生理痛がつらい」と申告されたときの言い換え事例を紹介します。

否定から入らないこと、解決法を決め付けずに本人に選択を委ねること

がポイントです。

例えば、病院に行くかどうかは本人の体調にもよりますし、人によっては生理痛のために病院に行くことを悟られたくない場合もあります。

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3)業務が忙しいとき

業務が忙しいときに体調を崩されると、いつもよりスムーズに業務ができなくなって困ることもあるでしょう。しかし、生理の症状はコントロールできないことも多く、また、生理休暇の取得の拒否は、前述した通り労働基準法違反にもなり得ます。どうしても人員が必要な場合、

時間休や休憩の提案、テレワークへの切り替えを含め、本人に判断を委ねること

がポイントです。

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4)その他

その他、アンケートで挙がってきた問題発言としては、次のようなものがあります。これらのセリフは言い換えが難しく、そもそも発言を控えるべき言葉です。

・生理休暇、前回と同じ日に取らないんだね

生理は毎月決まった日に来るわけではありません。

・今日は生理休暇取れないよ

労働基準法上、生理休暇は女性社員が請求したら必ず取得させなければなりません。

・(冷え込みが辛いという女性社員に対して)せっかく換気しているのに……

生理痛は、冷え込みで症状が悪化します。嫌な顔をせず、どうしても換気が必要な場合はブランケットを貸し出す、事前に許可を得てコートなどを着てもらう、風の当たらない場所に移動してもらうなどの配慮が求められます。

・生理中かどうか、においでわかるときがあるんだよね

女性に明らかに不快感を与える発言は、セクハラになる恐れがあります。

・女はこれだから困るよ

「女だから」「男だから」など性差を強調する発言は、セクハラになる恐れがあります。

・今日はよくトイレ行くね/今忙しいからトイレ行かないで

相手を精神的に追い詰めたり、明らかに不要(または不可能)なことを命じたりする発言は、パワハラになる恐れがあります。

以上(2024年11月作成)

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画像:nabuKO

企業理念を策定する際の基本ステップ

書いてあること

  • 主な読者:企業理念を通じて、企業の価値観を社員と共有したい経営陣
  • 課題:企業理念を策定、あるいは改定したい。企業理念を日々の活動に役立てたい
  • 解決策:社員を巻き込みつつ企業理念を策定、あるいは改定し、定期的に思いを再確認する場を設ける

1 今こそ求められる企業理念

  • お客さまを起点にすること、創造への情熱、優れた運営へのこだわり、長期的な発想―Amazon.com,Inc.)
  • Paint it RED! 未来を塗り替えろ。―コカ・コーラボトラーズジャパン株式会社
  • 服を変え、常識を変え、世界を変えていく―株式会社ファーストリテイリング(ユニクロ)

これらは全て、誰もが名前を知っている企業の「企業理念」です。

企業理念は、企業としてどうありたいか、大切にしたい価値観はどういうものかを言語化し、社内外に示すものです。経営環境がめまぐるしく変化する今だからこそ、企業理念を策定する、あるいは改定することに大きな意味があるのではないでしょうか。

また、自社が今後も進化し成長していくためには、社員一人ひとりが自分で考え行動できる組織が理想的です。社員が企業の一員としてどう動いていくかを考える際に、企業理念は行動のよりどころとなります。

自社がこの先も成長し、業績を伸ばしていくために、社員全員で企業理念を共有することには一考の価値があります。この記事では、社員を巻き込みながら企業理念を策定、あるいは改定するためのステップを、順を追って紹介します。

2 企業理念を策定、あるいは改定する際の基本ステップ

1)まずは現状分析を行う

企業には、明文化されているか否かにかかわらず、「企業文化(価値基準)」が存在します。

例えば、

  • 商品を作るときに必ず考えるべき視点
  • サービスとして世に出す際に譲れない基準

といったもので、「企業文化」は「その企業らしさ」を表します。この企業らしさは、企業理念と密接に関係してきます。仮に、素晴らしい文章・文言の企業理念を策定したとしても、今ある企業文化とかけ離れていると社員は共感せず、企業理念を策定、あるいは改定することによる効果は期待できなくなるでしょう。

そこで、まずは企業文化となっている価値基準や考え方を明らかにするために、自社の現状分析をしてみましょう。このとき、

必ず社員を巻き込んで行う

ことがポイントです。今の企業文化を醸成し、それに従って実際に行動している社員たちを対象としたアンケートやインタビューを行ったりすると、自社のリアルな現状が見えてきます。

ただし、単に「企業活動において重視していることや価値観を教えてください」と質問しても、社員は回答に困り、有効な回答が得られにくいでしょう。同年代の社員や同じ部課の社員など、

比較的親しい人たちを複数集めて、「仕事をするときに、何を大切にしている?」などのテーマで、雑談風に話を進める

のも一策です。

2)次に共通項を探し出してキーワードを検討する

現状分析から得た結果を基に、多くの社員が共有している価値観や考え方などを抽出していきます。具体的には、社員の口からよく出るキーワードやフレーズなどを探し、羅列していくと、現状の企業文化がだんだんと見えてくるでしょう。

例えば、

「少しくらい時間がかかっても、お客さまのためなら動いちゃうところはあるよね」

「みんなそれを嫌だとも思っていないですよね。むしろ要望を言ってもらったほうがやりがい感じるというか」

「お客さまに喜んでもらえることを大切にしている社員が多いですね」

という会話があったとします。ここからは、「お客さま第一」「やりがい」といったキーワードやフレーズが抽出できます。

次に、抽出したキーワードやフレーズの妥当性を検討します。社員の価値観を尊重することは重要ですが、それだけで企業理念を策定することはできません。企業のかじ取りを行う経営者の思いも反映させつつ、社員の思いとバランスを取ることが重要です。

また、多くの社員の中で共有されているキーワードやフレーズでも、それが企業にとってあまり重要なものでなければ排除します。これらの視点から検討を加え、実際に企業理念に盛り込むべきキーワードやフレーズを絞り込みます。

3)表現のスタイルを検討し、企業理念を具体的に決めていく

最後に、いよいよ企業理念を形にしていきます。策定した企業理念は、社員に広く受け入れられ、親しまれるものにする必要があります。そのためには、表現のスタイルについても、慎重に検討することが大切です。

例えば、表現のスタイルには、以下のようなものが挙げられます。

  • 漢字中心のシンプルなスタイル(「利他の心」「愛他主義」など)
  • 長めの文章スタイル(「私たちは、お客さま第一主義を貫き通します」など)
  • カタカナ・英語スタイル(「クライアント・ファースト」「Just for our clients」など)

どれも意味としてはほとんど同じですが、伝わり方や印象が全く違うことが分かります。社風や年齢層などに見合った表現方法を選ぶことで、社員に浸透しやすい企業理念になります。表現方法一つにしても、企業の「あるべき姿」を表す重要なものと認識しましょう。

3 企業理念を活用して、前向きな企業を目指す

最後に、企業理念を経営に活かしている好事例を紹介します。

今回、企業理念の活用についての取材に応じてくださったのは、タスキーグループ代表の青谷 貴典(あおや たかのり)氏。同グループは仙台とつくばを主な拠点に、バックオフィスの総合支援事業を行っている企業です。

青谷氏は、企業理念についてこう語ります。

「企業理念って、旗のようなイメージなんです。企業としての課題を肌で感じると、自然に旗が立つ。社員も経営者も、同じ旗のもとに集まって、共感して、一緒に働き戦っていく。そして、その旗の下が居場所になっていくような」(青谷氏)

同グループが掲げているのは、以下のようなMVVC(ミッション、ビジョン、バリュー、カルチャー)。企業によってMVVCの定義は異なりますが、一般的にミッションが本記事における「企業理念」、カルチャーが「企業文化」に相当します。

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同グループでは今年の夏初めて、これらを活用した研修を行いました。その目的は「企業理念(ミッション)」と密接に関係している、「企業文化(カルチャー)」の再検討です。

「私自身も、新卒で入社した企業で一社員として働いていた頃は、「企業理念は経営者から与えられるもの」という印象が強かったんです。すると、仕事もやらされている、という感覚になり、自分の仕事に手触り感がなくなって、楽しくなくなっていく。やはり企業理念は、社員全員が「自分事」として感じる必要があると思っています。そのために、若手含めみんなで、企業理念について考える機会が欲しかったんです」(青谷氏)

研修では、インターンも含めた社員全員でグループのMVVCを再確認。グループの価値観や強みについてディスカッションを行った後、企業文化(カルチャー)について再考すべく、意見を出し合いました。

「企業理念を活用した研修で、社員それぞれの視点や価値観を聞くことができて面白かったし、参考になった。これからも定期的にこのような研修を続けていきたいし、若手社員主導で、時代に合わせて企業理念を改定したりすることも考えています。これをやりなさい、と押し付けられるよりも、何でやらなきゃいけないのか、を自分たちで考えて、仕事の価値観を明確にしたほうが、働くことは確実に楽しくなりますから」(青谷氏)

今回の研修で話し合った意見を基に作り上げた、タスキーグループの新たな企業文化は、2025年の年明けにも発表予定です。

トップダウン方式で企業理念を決めるのではなく、社員と共に考え、共有し、一丸となって働いていく。

企業理念という「旗」を全社一体となって描くことは、皆が前向きに働くためのきっかけにもなり得るでしょう。

企業理念は、策定したら終わりというわけではありません。企業理念を企業内部に浸透させ、それを常に尊重して活動できる組織を作り上げることに意味があります。そのためには、

社員に企業理念の周知徹底を図ることはもちろん、経営者自らが率先して企業理念を重視した活動を心掛けること、そして企業理念に込められている思いを社員と共有する場を定期的に設けること

が必要です。定期的に場を設けることは、テレワークなど社員同士が離れて仕事をする機会が多くなっている場合、コミュニケーションの機会創出という面でも有効でしょう。

また、既に企業理念が存在している企業であっても、定期的に企業理念を見直すことを検討してみましょう。その際は、現場で働く社員たちも巻き込み、共に企業理念を練り直すことが重要です。皆で同じ理念を持っている、という感覚を手に入れることで、社員はもっと活き活きと働けるようになるのではないでしょうか。

以上(2024年10月更新)

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画像:pixabay

企業の未来図「中期経営計画」を立ててみよう

書いてあること

  • 主な読者:魂のこもった中期経営計画を策定したい企業の関係者
  • 課題:自社の中期経営計画を策定あるいは見直しし、具体的な行動につなげたい
  • 解決策:フレームワークを使って現状と未来を、定量・定性両面からまとめる。「策定」は目的ではなく、あくまでも実行が大切

1 中期経営計画とは何か

中期経営計画とは、企業が3~5年先の「将来あるべき姿」の実現に向けて現状を改めて確認し、これからやるべきことを定めた計画です。特に経営環境が刻々と変化しているときには、中期経営計画によって企業の進むべき方向性を明確にし、内外に示すことが大切です。

中期経営計画で示される3~5年の活動は、単年度の事業計画にも落とし込まれます。「将来あるべき姿」の達成に向け、年度ごとの売上目標・製品販売個数などに反映することで、具体的にどのような行動を起こせばいいかが定まってきます。

企業によりますが、中期経営計画は、基本的には以下の図のような手順で策定します。

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この記事では、中期事業計画の事前準備から策定、運用に至るまでの一般的な流れと、そのポイントをご紹介します。

2 フレームワークを活用して、現状分析をしてみよう

1)現状分析で活用できるフレームワークとは

中期経営計画を策定するには、まず自社の現状を確認し分析することが必要です。ここでは

  • 外部環境を分析する「PEST分析」
  • 顧客(市場)・競合・自社の現状を洗い出す「3C分析」

の2つのフレームワークを紹介します。自社を取り巻く環境について確認することが、中期経営計画策定に向けた第一歩です。

他にも外部環境・内部環境の分析に使えるフレームワークとして、自社の強み・弱みを確認する「SWOT分析」、業界の競争環境を分析する「ファイブフォース分析」などがあります。

2)PEST分析

PEST分析は、自社を取り巻く外部環境のうち、政治や経済といった世の中の大きな流れを整理し、確認するフレームワークです。「PEST」(ペスト)は、分析する4つの項目の頭文字を表しています。

  • 政治(Politics):政府の方針、法改正などの動向
  • 経済(Economy):景気、価格変動などの動向
  • 社会(Society):社会的な背景、世論などの動向
  • 技術(Technology):技術革新、代替技術などの動向

項目ごとに現状を洗い出し、それが自社にとってプラス(↑)なのかマイナス(↓)なのかをまとめます。分析を重ねていけば、単に現状を理解するだけでなく、これからの時代の変化を予測するのにも役立ちます。

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3)3C分析

3C分析は、顧客(市場)・競合・自社の現状を洗い出すフレームワークです。顧客(市場)のニーズや、競合に対する自社の優位性といった現状を把握するための基本となるものです。それぞれ確認する主な指標や項目などは次の通りです。

  • 顧客(市場)(Customer):市場規模、成長性、購買動向、ニーズの変化など
  • 競合(Competitor):販売実績、販売価格、新製品開発、営業戦略など
  • 自社(Company):市場シェア、技術力、営業力、収益性、安全性、生産性など

3C分析では、市場規模・販売実績・市場シェアなどの定量面と、顧客(市場)のニーズの変化・競合の営業戦略といった定性面の両方を洗い出します。特に難しいのは定性面ですが、現場の営業担当者が持っている情報などが参考になるでしょう。

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PEST分析や3C分析などを活用して現状を把握する際は、財務省「貿易統計」や内閣府「景気動向指数」、総務省「国勢調査」などの公的データに加え、新聞、インターネット、関係各所へのヒアリングなどが必要です。

3 戦略策定の要は「事業ドメイン」

現状分析で自社の立ち位置を把握したら、「戦略策定」を行いましょう。戦略策定とは、「将来あるべき姿」はどのようなものか、それに向かってどのように進むかを描いていくものです。

1)事業ドメインを検討する

戦略策定のためにまず重要なのは、自社が勝負する事業領域である「事業ドメイン」を決めることです。

創業時などを除けば、既に事業ドメインは決まっていることが多いでしょう。そのため中期経営計画を策定する際には、現状分析に基づいて、「事業ドメインを見直すかどうか」を検討することになります。

事業ドメインの決定や見直しは、企業が今後成長していくために重要な“要”であり、経営者1人の知見で考えられるものではありません。企業規模にもよりますが、日々現場でビジネスを進めている社員の、自社に対する意見をよく聞くことも大切です。

2)アンゾフの成長マトリクスで戦略を策定

今後、企業を成長させるための戦略を決めるには、どの市場・製品で成長していくのか、専業でいくのか多角化するのかなどを考えなければなりません。こうした戦略策定に活用できるのが、「アンゾフの成長マトリクス」です。

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「既存市場×既存製品=市場浸透」は、これまでの自社のノウハウを活かしやすいこともあり、成功率が高い戦略といわれています。具体策としては、新しい提案方法で使用量を増やすなどが考えられるでしょう。

「新規市場×既存製品=新市場開拓」は、例えばターゲットの拡大です。既存製品を使って他の顧客(市場)を開拓するので、既存製品に対するニーズがありそうな顧客(市場)を見極める力や、営業力の強化が必要になるでしょう。

「既存市場×新規製品=新製品開発」は、既存顧客の潜在ニーズの掘り起こしが求められるでしょう。

「新規市場×新規製品=多角化」では、思い切った新規事業開発が必要になるかもしれません。

こうして全体的な方向性が決定した後は、それを実現するためのマーケティング戦略や人材戦略などを個別に決めていくことになります。個別の戦略策定では、どこに経営資源を集中させるかという点を重視するとよいでしょう。

4 計画立案は「課題」と「数値」がポイント

1)盛り込むべき内容

戦略策定の後、いよいよ具体的な計画を立案します。進め方としては、ビジョンにたどり着くために解決すべき課題を、時間軸とともに盛り込んでいくのが分かりやすいでしょう。次のような項目などで資料に落とし込むイメージです。

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具体的な計画立案では、活動計画に落とし込んでいくのが難所の1つです。そこで、「理由:なぜこの課題を改善するのか」「手段:改善するために必要なことは何か」などを整理していきます。

例えば、「理由:新規市場開拓に注力するためには営業面の人材確保・育成が課題」「手段:既存の営業担当者の社外研修、新しい営業担当者の採用枠拡大」といったことが考えられるでしょう。

改善する課題は企業によって違いますが、課題となりやすいのは売上増大や管理者層の育成、資金繰りなどです。現状分析に基づく自社の課題に加え、日本政策金融公庫「事業計画書」などを参考にすると、抜け漏れがなく課題を考えられるでしょう。

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2)数値計画を踏まえた経営計画

計画立案では、これからの活動を具体的な数値に落とし込みます。企業の状況にもよりますが、「営業利益」がポイントの1つです。3~5年先には「本業でどれだけもうけられるようになっていたいか」を念頭に、数値計画を立てていきます。

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ただし、数値が一人歩きするようではいけません。3~5年先のビジョンを達成するため、「いつ、どのような課題を解決するか」「どのように営業利益を伸ばしていくか」といった活動計画と連動させると、具体的な経営計画となります。

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5 中期経営計画を運用していくための4つのポイント

1)経営者が自ら全社員に伝える

まず、中期経営計画の内容を、経営者が全社員に伝えることが大切です。外部環境・内部環境から自社の置かれている現状を説明し、「なぜこのような中期経営計画が必要なのか」というところから話します。

このとき、ビジョンをしっかりと伝えましょう。例えば、「今から10年後の203X年に、我が社は○○のような姿になっている」と理想を語り、社員に夢を持たせるのもよいでしょう。

2)責任者を明確にする

活動計画には、具体的なプロジェクトやタスクが盛り込まれます。それらを進行し、経営者に進捗状況を報告する責任者を明確にします。経営者は責任者と話し合い、「いつまでに」「何をするか」を決め、ガントチャートを作成しておくとよいでしょう。こうして責任者を明確にしておけば、「計画は立てたものの、誰も何も動いていなかった」という事態を防げます。

また、細かな確認のためにプロジェクトなどの進行が止まらないように、責任者にはある程度の権限を与えることも必要です。

3)進捗を確認できる仕組みをつくる

進捗を確認できる仕組みをつくります。例えば、毎月1回、責任者を集めて報告会を行うようにします。オンラインミーティングが定着した今、地理的に離れた場所にいる責任者ともコミュニケーションが取りやすくなりました。事前に動画や資料で状況を報告してもらうことで、責任者が順番に話す単なる報告会ではなく、その場で議論ができるようになります。

4)月次決算を行って予実管理をする

月次決算は、中期経営計画の達成度合いを把握するのに有効です。とはいえ、年度末の決算書のようなルールがないので、数値計画と照らし合わせやすいように、売上や利益であれば取引先別・製品群別に管理するなどの工夫が必要です。いわゆる「管理会計」の分野です。

ただし、管理会計は凝り過ぎると実務負担が大きくなるので注意しましょう。売上原価を管理する場合はあまり科目を細かくせずに、固定費と変動費の内訳がおおよそ分かるくらいのレベルでよいでしょう。

6 中期経営計画にとって本当に必要なもの

中期経営計画は策定して終わりではなく、実行、つまり具体的な行動が伴わなければ意味がありません。また、行動の内容は外部環境・内部環境の変化などに応じて柔軟に見直す必要があります。その時々の状況によって優先すべきことは変わってくるからです。

また、市場環境が大きく変化した場合は「将来あるべき姿」そのものを見直さざるを得ないこともあります。企業にとって、「将来あるべき姿」はとても重要ですが、企業経営では、多角化によって事業ドメインそのものを変えなければならないこともあります。こうした大きな方向転換は大変なことです。

とはいえ、「事業ドメインそのものを変えるべき」なのに、その変化に気付かず進んでしまうことのほうが問題です。「将来あるべき姿」を決めたからといって、必ずそのゴールにたどり着かなければならないわけではないのです。

中期経営計画を策定した後は、常に「本当にこれが自社にとって正しいのか」を客観視する目を持ち、変化を捉え続ける努力が求められます。こうした努力こそが、中期経営計画を支え、企業の未来をつくっていくのです。

以上(2024年10月更新)

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画像:takasu-Adobe Stock

選択と集中のための「戦略的事業撤退」の考え方

書いてあること

  • 主な読者:企業の将来を見据え、撤退を含めた事業の再構築を検討したい経営者
  • 課題:どうしても足元の収益性だけで継続か撤退かを決めてしまう
  • 解決策:将来の「あるべき姿」を定義し、その実現のために必要な事業を決める

1 事業撤退の要因

単一事業で永続的に成長できることは非常に稀であり、新製品の開発や新規事業の進出へのチャレンジが欠かせません。それと同様に大切な経営判断となるのが、店舗の閉鎖や製品の生産中止といった「撤退」です。そして、撤退には、赤字続きなど後ろ向きの判断の他に、

コア事業を成長させるためにその他の事業からは撤退するという、いわゆる「選択と集中」

もあります。この記事では、こうした前向きな事業撤退を「戦略的な事業撤退」として提案し、その視点に立った事業撤退プロセスの基本を紹介しています。

2 収益性だけで撤退を決めてはいけない

撤退を検討する際、足元の「収益性」だけで判断するのではなく、「今後、この事業を自社で行っていく必要があるか」にも注目することが重要です。極端な例ですが、

  • 現在は赤字でも、将来の成長のために必要な事業なら継続する
  • 現在は黒字でも、将来の成長のために不要な事業なら徹底する

といったこともあり得ます。「黒字なのに撤退する」ことには違和感があるでしょうが、自社の将来にとって不要であったり、逆に足枷になったりするのであれば、今、そこにリソースを割いていることの機会損失も考えるべきです。これは、自社開発と受託開発のジレンマに似ています。つまり、

受託開発は収益が安定しますが、そこにリソースが割かれる分、本当にやりたい自社開発が滞ってしまう

ということです。

特に中小企業は単一事業に最適化された組織となり、いざ現在の枠を出ようとしても、経営者の号令だけで組織がついてこられません。こうした事情も想定しつつ、素早く、そして勇気ある判断が経営者に求められることがあります。

3 事業撤退のプロセス

事業撤退を検討する前提は、

自社の「あるべき姿」が明確になっていること

です。そして、「あるべき姿」を実現するために必要な事業分野を決めます。このプロセスは、自社の経営戦略を明らかにすることと同じです。経営戦略の策定は、次のようなプロセスで進めるのが基本です。

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1.経営理念と経営目標の明確化

「自社は何のために存在するのか」という企業の存在意義や使命を明確にします。

2.SWOT分析

外部資源について「機会(Opportunities)と脅威(Threats)」、内部資源について「自社の強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)」を把握します。

3.事業ドメイン(事業領域)の設定

事業ドメインの設定とは、自社の強みを活かしながら成長できる事業領域を検討・決定することです。ここで決定した事業ドメインに基づいて、自社が将来にわたって実行する事業構成や事業内容を決定します。

4.事業戦略の立案

事業構成や事業内容を決定した後は、個々の事業に応じた戦略を立案します。具体的にはヒト・モノ・カネ・情報といった経営資源の配分やマーケティング戦略の立案などとなります。

5.個別事業戦略の実行

これらの事業戦略を立案後に戦略を実行します。

4 早期撤退戦略と収穫戦略

1)早期撤退戦略と収穫戦略

撤退を決めた事業が赤字なら、早期撤退戦略を取ります。文字通り、できるだけ早く撤退します。

一方、撤退を決めた事業が黒字なら、収穫戦略も検討されます。撤退を決めた事業へのリソース配分を最小限に抑えつつ、そこから得られる収益を、自社にとって重要な事業の育成に使うのです。収穫戦略を実行する場合は、撤退基準として一定の収益水準を事前に決めた上で取り組む必要があります。

2)収穫戦略を検討する際の視点

収穫戦略を検討する際、対象となる事業の収益の予想は重要な視点です。もし、対象となる事業は競合他社が多く、競争も激しい場合、短期間で収益が落ち込む恐れがあります。それを避けるためには一定の投資が必要となり、結果とし、撤退を決めている事業にこれまでと同等、あるいはそれ以上のリソースを割かなければならなくなってしまいます。簡単な図で示すと、dの事業が最も収穫戦略に向いているということです。

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5 事業撤退を検討・実施できる組織

事業撤退は先送りにされがちです。その要因としては、

  • 他の事業に転用できない工場・機械などの資産の存在
  • その事業に携わっている多くの従業員の存在
  • 経営者や従業員などの心理的抵抗感
  • 取引先などの利害関係者からの反対
  • 業界内などにおける社会的風評

などがあります。これらの中には、経営者として慎重な対応が求められるものがあります。例えば、ある事業から撤退することが他の事業の取引関係にも影響を及ぼす恐れがある場合、事前に十分な説明をして取引先の理解を得なければなりません。

一方、合理的な意思決定を妨げる要因もあります。例えば、経営者や従業員などの心理的抵抗感です。特に、自らの手で生み出し、育て上げてきた事業には愛着があり、なかなか撤退を検討できないわけですが、経営者が率先してそうした意識を変革していく必要があります。

そのために重要なのが、

事業撤退を検討する基準を作る

ことです。具体的には、「△年間継続して売上高利益率が○%を下回った場合」などの定量的な基準となります。これがあれば、事業撤退の検討を自分の都合で先送りにすることはなくなるでしょう。

また、撤退検討基準を作ったら、社内に広く公表しましょう。こうすることで、撤退検討基準に該当しそうな事業に携わる従業員に対して、事業を立て直す努力をするチャンスを与えることができます。そして、残念ながら撤退が決定された場合にも従業員の納得性を高め、不要なあつれきを防止することができます。

以上(2024年10月更新)

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画像:pixabay

技能実習制度は廃止へ 「育成就労制度」の創設で外国人雇用はどう変わる?

書いてあること

  • 主な読者:外国人雇用を検討している経営者や人事労務担当者
  • 課題:技能実習制度が廃止され「育成就労制度」が始まるらしいが、内容がよく分からない
  • 解決策:企業が外国人を「特定技能」に育成して戦力化する制度。まずはイメージをつかむ

1 「国際交流」から「人材確保」にシフトした新制度が開始

人手不足が深刻化する中、日本で働く外国人の数は増加を続け、2023年10月末時点で過去最高の204万8675人となりました。このうち41万2501人(20.1%)は「技能実習」の在留資格を持つ外国人、技能実習生です(厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況」)。技能実習制度は、技能実習生が日本企業の下で実習を受け、母国で身に付けにくい技能の習得を図る制度ですが、「企業が技能実習生に、技能の習得に関係ない単純労働をさせる」などの問題が頻発し、

2024年6月21日から3年以内に技能実習制度に代わり、新たに「育成就労制度」が開始

されることになりました。

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育成就労制度は、「育成就労」という在留資格を設け、外国人を原則3年間で一定以上の技能を持つ「特定技能」に育成する制度です。根拠法は、「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律(育成就労法)」になります。

技能実習制度と似ていますが、

  • 技能実習制度は、外国人が日本で習得した技能を、将来母国に持ち帰ることを想定した「国際協力」のための制度(特定技能への移行も可能だが、制度上は「帰国」が原則)
  • 育成就労制度は、外国人が技能の習得後も、日本企業の戦力として活躍することを想定した「人材確保」のための制度(帰国せず、日本に「在留」することが原則)

であり、目的が異なります。

育成就労制度は、外国人が日本に残って働くことが前提なので、受け入れ企業は外国人を将来の戦力にすべく、大切に育成するでしょう。前述した、企業が「技能の習得に関係ない単純労働をさせる」という問題の解決につながることも期待されます。

施行はまだ先ですが、時間をかけて外国人を戦力化していく制度なので、人手不足解消の打ち手を外国人に期待している企業は、早めに準備をしておいたほうがよいかもしれません。以降で制度の概要を簡単に紹介するので、今のうちにイメージを押さえておきましょう。

なお、育成就労について詳しく知りたい場合、次のURLも併せてご確認ください。

■e-Gov「外国人の育成就労の適正な実施及び育成就労外国人の保護に関する法律」■
https://laws.e-gov.go.jp/law/428AC0000000089/20270620_506AC0000000060
■出入国在留管理庁「令和6年入管法等改正法について」■
https://www.moj.go.jp/isa/01_00461.html

2 育成就労制度は、特定技能制度の「前段階」

育成就労制度の紹介に入る前に、先ほども軽く触れた「特定技能制度」について説明します。

特定技能制度とは、国内での人材確保が困難な「特定産業分野」において、一定の技能レベルを持つ外国人を受け入れることを目的とした制度

です。在留資格は、業務に必要とされる技能レベルに応じて「特定技能1号」「特定技能2号」の2種類に分けられます。2号のほうが1号よりもレベルの高い技能を必要とします。

  • 特定技能1号:相当程度の知識または経験を要する業務に従事する外国人
  • 特定技能2号:熟練した技能を要する業務に従事する外国人

2024年9月30日時点で、特定技能1号の特定産業分野は、「介護」「ビルクリーニング」「工業製品製造業」「建設」「造船・舶用工業」「自動車整備」「航空」「宿泊」「自動車運送業」「鉄道」「農業」「漁業」「飲食料品製造業」「外食業」「林業」「木材産業」の16分野です。特定技能2号の特定産業分野は、この16分野から「介護」「自動車運送業」「林業」「鉄道」「木材産業」を除いた11分野です。

特定技能の外国人を雇用できれば、企業にとっての「即戦力」になりますが、それだけの人材を確保するのはハードルが高く、この点をクリアするための制度が育成就労制度です。

育成就労の外国人は、在留資格を取得した当初は特別な技能を持っていませんが、

  • 原則3年間の育成就労で技能レベルを高め、特定技能1号の在留資格を取得させる
  • 特定技能1号の在留期間中(上限は5年間)に、よりレベルの高い技能を身に付けさせる
  • 特定技能2号の在留資格を取得させる(「介護」分野は対象外)

という流れで、段階的に戦力化が図れます。なお、特定技能1号には在留期間の上限(5年間)がありますが、特定技能2号には上限がない(在留資格の更新は定期的に必要)ので、2号まで取得させることができれば、長期的に企業の戦力として活躍してもらうことが期待できます。

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3 技能実習制度との違いとは?

1)対象としている産業分野・職種が違う

育成就労制度は、特定技能制度の「前段階」という位置付けなので、対象としている産業も同じく、特定産業分野が基本になります。正確に言うと特定産業分野のうち、

就労を通じて技能を修得させることが相当とされる「育成就労産業分野」

が対象になるのですが、詳細は現段階では明らかにされていません。

一方、技能実習制度では、技能実習2号・技能実習3号については従事させられる職種が省令で定められています(技能実習1号については特に定めなし)。

両者が対象としている産業分野・職種は若干異なっていて、例えば、特定技能1号における分野と技能実習2号移行対象職種を比較してみると、2024年9月30日時点で、

特定産業分野のうち「自動車運送業」「林業」について、対応する技能実習の職種がない

ことが分かります。詳細については、次のURLをご確認ください。

■出入国在留管理庁「制度説明資料 : 外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組(令和6年9月30日更新)」(産業分野・職種の比較については資料P40以降を参照)■
https://www.moj.go.jp/isa/applications/ssw/index.html

仮に育成就労法の施行日(2024年6月21日から3年以内)の時点で、企業が技能実習生を受け入れている場合、受け入れ企業の産業分野が「育成就労産業分野」として設定されていれば、そのまま育成就労制度の下で受け入れを続けることができます。

また、施行日の時点ですでに来日している技能実習生については、技能実習制度の下で受け入れを続けることができます。施行日までに技能実習計画の認定の申請がなされ、施行日から原則3カ月以内に技能実習を開始する場合についても同様です。

2)計画の認定手続きは基本的に同じ(ただし、育成就労制度のほうが手間が少ない)

育成就労制度では、外国人の受け入れ企業が「育成就労計画」を作成し、「監理支援機関」の認定を受ける必要があります。育成就労計画には

外国人に従事させる業務、業務に必要な技能、育成就労の目標(例:日本語能力)など

を定めます。

技能実習制度の場合も、受け入れ企業が技能実習計画を作成して監理団体の認定を受ける必要があり、このあたりの流れはどちらの制度も基本的に同じです。

  • 技能実習制度では「技能実習1号」「技能実習2号」「技能実習3号」のそれぞれの段階で計画の認定を受ける必要がある(最大3回、認定を受ける必要がある)
  • 育成就労制度では、当初から外国人労働者のキャリアアップを視野に入れて、3年間の計画の認定を受ければよい(1回、認定を受ければよい)

という具合に、育成就労制度のほうが認定手続きにかかる手間は少なくなっています。

3)就労開始前の日本語教育がマストに

育成就労制度では、外国人が就労を始める前までに、日本語能力「A1」相当以上の試験(日本語能力試験N5等)に合格すること、またはそれに相当する日本語講習を認定日本語教育機関などで受講することが求められます。

一方、技能実習制度では、日本語能力の要件は原則ありません(「介護」分野を除く)。

育成就労制度で必要とされる「A1」とは、日本語の初歩レベル。日常的な表現や非常に基本的なフレーズを理解・使用でき、相手がゆっくり、はっきりと話し、手助けしてもらえれば、簡単なやりとりができるレベルです。業種によっては、より高度なレベルの指定も可能になる予定です。なお、受け入れ企業が外国人の日本語教育を行う義務を負うのかどうかは、現段階では明らかにされていません。

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4)一定の状況を満たせば転籍も可能に

育成就労制度では、技能実習制度よりも「転籍(企業との労働契約を解消し、別の企業と労働契約を結ぶこと)」の要件が緩和されています。

技能実習制度では技能実習生の失踪が多く、2023年の失踪者数は9753人にも上ります(出入国在留管理庁「技能実習生の失踪者数(速報値)」)。出入国在留管理庁によると、失踪の主な原因としては「賃金の不払いなど、受け入れ企業の不適切な取り扱い」も多いようです。

そして、この問題の温床になっていると指摘されてきたのが、技能実習生に対する「転籍」の制限です。技能実習制度では転籍の制限が厳しく、技能実習生は受け入れ企業の労働条件が悪質でも他社に移ることができず、失踪しか選択肢がない状況に追い込まれやすかったのです。

育成就労制度では、この点が改善され、

  • 人権侵害(パワハラや暴力)を受けたなどの「やむを得ない事情」がある場合
  • 同一業務区分内(転籍前とほぼ同じ業務に従事し)、就労期間・技能等の水準・転籍先の適正性に係る一定の要件を満たす場合(詳細は省令でこれから規定)

については、本人の意向がある場合、転籍が認められることになりました。

以上(2024年10月作成)

pj00730
画像:ChatGPT

【賃金データ集】雇用形態別のモデル支給額

書いてあること

  • 主な読者:賃金体系や賃金支給額の見直しを考えている経営者
  • 課題:自社の賃金体系や賃金支給額が妥当か分からない。判断基準が欲しい
  • 解決策:統計資料における同規模・同業種の企業のデータなどを参考にする

【賃金データ集】シリーズとは?

【賃金データ集】シリーズは、基本給や諸手当など賃金の主要な構成要素ごとの近年のトレンドを、モデル支給額を中心とした関連データとともに紹介します。経営者や実務家の方々が賃金支給水準の決定や改定を行う際の参考としてご活用ください。なお、モデル支給額などのデータを紹介する際は、基本的に出所に記載されている用語を使用するものとします。また、データは公表後に修正されることがあります。

この記事で取り上げるのは雇用形態別の「基本給」「賞与・期末手当」です。

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なお、以降で紹介する図表データのExcelファイルは、全てこちらからダウンロードできます。

こちらからダウンロード

1 雇用形態の概要

企業が労働者を雇用する際の労働条件(特に雇用契約の期間)の違いによる類型を、「雇用形態」と呼びます。一般的に、雇用形態は次のように大別されます。現在は、同一労働同一賃金の議論に見られるように、非正規雇用労働者の待遇改善が進められています。

  • 雇用契約期間に定めがなく、フルタイムで働く「正社員」(正規雇用労働者)
  • 正社員以外の「パート等」(非正規雇用労働者)

2 雇用形態別の労働者数

総務省「労働力調査」では、非正規雇用労働者を「パート・アルバイト、労働者派遣事業所の派遣社員、契約社員・嘱託、その他」に分類して集計しています。非正規雇用労働者数は、2023年時点で2124万人です。その中心はパート・アルバイトで、2023年は1489万人となっています。

また、現状、労働者の65歳までの就労機会を確保するための措置を講じることが企業に求められていますが、2021年4月1日より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、企業は希望する従業員に、70歳まで働く機会を与える努力義務を負うことになりました。今後は契約社員・嘱託などがさらに増加するかもしれません。

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3 厚生労働省の統計資料による短時間労働者のモデル支給額

ここでは、厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」より、短時間労働者のモデル支給額を紹介します。

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4 厚生労働省の統計資料による派遣労働者のモデル支給額

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5 情報インデックス(この記事で紹介したデータの出所)

この記事で紹介した統計資料は次の通りです。調査内容は個別のURLからご確認ください。なお、内容はここ数年の公表実績に基づくものであり、調査年(度)によって異なることがあります。

■労働力調査■
https://www.stat.go.jp/data/roudou/

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■賃金構造基本統計調査■
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

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■労働者派遣事業の事業報告の集計結果■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000079194.html

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以上(2024年10月更新)

pj17905
画像:ChatGPT

なぜ、長期ビジョンがある企業は強いのか?〜社員と共有する目指すべき10年後の姿

書いてあること

  • 主な読者:不安定な国際情勢、物価高など、経営の根幹に関わる出来事がある中で、改めて自社の目指すべき姿を明らかにしたい経営者
  • 課題:「長期ビジョン」の策定を検討しているが、何から着手すべきか分からない
  • 解決策:「10年後の目指すべき姿」(経営者の熱い思い×現状分析)を全社で共有し、経営計画に落とし込んで実行していく

1 「長期ビジョン」の策定をご提案

この記事は、

長期ビジョンを策定する際の基本的な考え方

をご紹介するもので、次のような状態を目指すための第一歩です。

  • 社長が「10年後の目指すべき姿」を明確に語ることができる
  • 社員も社長と同じように、「10年後の目指すべき姿」を語ることができる

長期ビジョンは、「10年後の企業の目指すべき姿」と考えていただければ大丈夫です。長期ビジョンは国や行政、大企業が策定するイメージがありますが、中小企業でも意識されることが増えています。長期ビジョンという言葉を使わなくても、

10年後、我が社はどのようになっているのか、いや、どのようになっているべきか?

を考えざるを得ないことがたくさんあるからです。例えば、

不安定な国際情勢、金利の上昇、物価高、SDGs、働き方改革、Web3

など、さまざまなレベルで経営者の心を揺さぶる数多くの事柄があります。さらに、これらをきっかけに事業承継を決断したり、逆に先送りを決めたりといったこともあるでしょう。

これからさらに経営環境は変わります。そのとき、ご自身が組織を率いるとしても、次世代にバトンをつなぐとしても、改めて御社が目指すべき姿を確認することはとても有意義であり、現に多くの経営者がそのように考えていることでしょう。

2 ミッションやパーパスなど「言葉の定義」は気にしない

「ビジョン」との意味の違いが分かりにくい言葉に、「ミッション、バリュー、パーパス」があります。放っておくとモヤモヤするので説明しますが、基本的に言葉の定義はそれほど気にする必要はありません。大切なのは、「10年後の目指すべき姿」を明らかにすることです。

「ミッション、ビジョン、バリュー」は経営学者であるドラッカーが提唱したもので、英語の頭文字をとって「MVV」と呼ばれることもあります。近年は、ここに「パーパス」も加わったので、余計にごちゃごちゃしています。それぞれの定義の一例は次の通りです。

  • ミッション:自社が実現すること(使命)
  • ビジョン:自社が目標とする姿(ミッションを達成したときの姿)
  • バリュー:大切にしている価値観や行動指針
  • パーパス:企業の存在意義

書籍や記事などによって内容が微妙に違うので、説明されてもスッキリしないかもしれません。ただ、コンサルタントに策定を依頼した場合、ある意味で型にはまった長期ビジョンでは、こうした内容も記載されます。言葉を変えて説明してみると、以下のようになりますが、あくまでも一例ですので、解釈の違いはご了承ください。

私たちは○○のために存在しており(パーパス)、△△を達成することが使命である(ミッション)。それが達成されたとき、私たちは□□な存在となっているだろう(ビジョン)。これらを含め、私たちは××という価値観を大切に行動する(バリュー)。

3 「長期ビジョン」の策定ステップ

では、長期ビジョンの策定に入りましょう。具体的なステップは次の4つです。

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1)第1ステップ:現状分析

長期ビジョンの策定は、自社の現状分析からスタートします。具体的には、社会経済全体の課題や業界の課題といった自社を取り巻く外部環境に加えて、自社の収支構造などの内部環境の分析を行います。

分析時には、政治(Politics)・経済(Economy)・社会(Society)・技術(Technology)から外部環境を分析する「PEST分析」や、顧客(市場)・競合・自社の現状を洗い出す「3C分析」などのフレームワークを活用します。経営幹部がそれぞれ分析し、それを持ち寄って議論するのもよいでしょう。

2)第2ステップ:目指すべき姿

現状分析を踏まえつつ、そこに経営者の熱い思いを加えて、

自社が目指すべき姿や自社が提供すべき価値

を再定義しましょう。ステップ1の現状分析は客観的に行いますが、経営者の思いは主観的なもので構いません。また、この時点では、

きれいにまとめる必要はなく、あるがままに経営者の思いを言葉や文字にする

ことが大切です。繰り返しますが、教科書的で、優等生な発想は捨てます。

経営幹部などと「ビジョン合宿(仮称)」をして、議論するのもよいでしょう。もし、中堅や若手がビジョン合宿(仮称)への参加を希望したら、ぜひ、加えてください。なぜなら、

10年後の目指すべき姿を実現していく原動力は中堅や若手になる

からです。

3)第3ステップ:具体化

10年後の目指すべき姿が明らかになったら、それを実現するための計画を策定します。これは、いわゆる「経営計画」なので、明確な収益計画、投資計画、社員数なども盛り込みます。新規事業を行う場合は、既存事業とのバランスも考慮しなければなりません。リソースが限られた中小企業が、本業(既存事業)を回しながら新しいことに取り組むのは簡単ではなく、既存事業が縮小することも覚悟しなければならないからです。

また、この第3ステップは前の第2ステップとは逆で、経営者の熱い思いだけでは駄目です。定量的な根拠も確認しなければならず、数字をごまかすようなことは論外です。

とはいえ、

10年後の収益をイメージできる経営者がどれほどいるでしょうか?

6カ月後、1年後さえ分からないのに、10年後など分かるはずがありません。そこで、発想の転換が必要です。それは、

10年後が分かるはずがないことは百も承知ですが、そうした中でも【自分たちが目指す、そして信じる姿】を力強く描く

ということです。そして、【自分たちが目指す、そして信じる姿】は変えませんが、そこに向かうルートは必要に応じて、中期経営計画で見直していくのです。長期・中期・短期の経営計画の関係は次の通りです。左にある「長期ビジョンで目指す姿 長期経営計画」は変更せず、それを構成する中期経営計画や短期経営計画は、適宜、見直していくイメージです。

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4)第4ステップ:文書化と浸透

こうしてまとまった内容を、文書化します。いろいろと難しい言葉を使いたくなるかもしれませんが、大切なのは、

横文字などを使ったそれっぽさではなく、「分かりやすさ」

です。日ごろ、社内で使われているなじみのある言葉で、シンプルにまとめてください。量(ページ数)も、必要なことが書いてあれば、短くても構いません。

策定された文書は、社内に周知徹底させ、

社員も社長と同じように、「10年後の目指すべき姿」を語ることができる

ようにしましょう。経営者がミーティングなどで伝える他、第2ステップで紹介したビジョン合宿(仮称)に参加した社員が、日々、長期ビジョンを現場で口にすることも大切です。

以上(2024年10月更新)

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とくぎんサクセスクラブnavi 操作マニュアル

公的年金と中小企業 年金負担増が迫る「経営の採点」(日経トップリーダー, 2024/09号)

今年7月、厚生労働省は5年に1度、公的年金制度の中長期的見通しを示す「財政検証」の結果を公表した。少子高齢化で、保険料を負担して支え手となる現役世代が減少し、年金を受給する高齢者が増え続ける中で、給付水準がどの程度低下していくかを検証・分析するものだ。

この記事は、こちらからお読みいただけます。