新入社員や中途社員の「テレワーク疲れ」 解消のポイントは「社員と向き合う」

書いてあること

  • 主な読者:新入社員や中途社員がテレワークにストレスを感じていることに悩む経営者
  • 課題:オフィスで顔を合わせていたときに比べて細やかなコミュニケーションが取れない
  • 解決策:定期的な1on1ミーティングで雑談したり、社員の本音を引き出したりする。その上で心身の健康をサポートする仕組みを取り入れる

1 テレワークでもメンタルヘルスケアの基本は同じ

働き方改革やコロナ禍を経て、テレワークは1つの働き方として、すっかり定着しました。ただ、通勤時間の短縮や業務の効率化などのメリットがある一方で、

テレワークに不慣れな社員が、孤独感や閉塞感からストレスを抱える「テレワーク疲れ」

に陥るケースが少なくありません。社会に初めて出る新入社員や、前職がオフィスワークだった中途社員などがそうです。彼らにとって、分からないことをその場で質問しづらい、他の社員と交流しづらいといったテレワーク特有の事情は、ストレスを感じやすいのかもしれません。

せっかく入社した社員がストレスで休職したり、やる気を失って転職したりする事態は避けたいところですが、「今さらオフィスワークには戻したくない」という経営者もいるでしょう。

そこで、この記事では、テレワークのメリットを享受しつつテレワーク疲れを回避するため、

コミュニケーションと環境(制度)づくりの両面から社員をフォローしていくこと

をご提案します。ポイントは、

テレワークだからといって、メンタルヘルスケアの本質が変わるわけではない

という考え方です。個々の部下と向き合って支援していくという、基本的な社員管理を、「テレワークならでは」という点で少し改善すればいいのです。以降で詳しく見ていきましょう。

2 テレワークに合ったコミュニケーションの取り方

1)定期的な1on1ミーティング

テレワークだと、上司は部下の指導に十分な時間が取りにくく、指示も曖昧になりがちです。その状態で、「この仕事をお願い」と部下に任せると、部下は会社から何を求められているのかが分からなくなります。

そこで取り組むとよいのが、オンラインによる定期的な1on1ミーティングです。1on1の場で、

  • 会社の将来に関する方針を伝える
  • 部下に期待する役割や成果をディスカッションする

などして、仕事の意味付けをします。また、オンラインだと部下は上司の「圧」を直接的に感じずに話しやすい面もあるので、これを機会に部下の意見をしっかり聞き、丁寧なフィードバックをすることで信頼関係が高まります。

2)毎朝の情報共有

いくらオンラインでつながっていても、テレワークだとチームとしての一体感を共有しにくいものです。現場に全員が集まって、「頑張ろう!」と声を掛け合うことの効果は大きく、これだけで理念や目標だけではなく、実務のこまごました点も含めて、「やる」という気持ちが共有できていた部分があります。

この状態に少しでも近づけるには、

10分間など短時間でよいので、オンライン上で朝礼を行うことが大切

です。朝礼といっても上意下達で社長が話したり、持ち回りでスピーチをしたりするのではなく、皆が気軽に話せる「情報共有の場」とします。特に営業の新しい動きや足元のプロジェクトの進捗は共有しにくくなるので、そのあたりの情報を持ち寄り、同じ地点に立つのです。

そうした意味では、ビデオはオフでも問題ありません。かつてはビデオオンを強制するケースもありましたが、状況は変わりました。それよりもビジネスの状況を踏まえ、きちんと議論できることが大切です。

また、もし真剣ではない社員がいたら、参加させなくてもよいでしょう。全員参加という悪平等を断ち切ることもリモートでは大切なことです。

3)適度な出社の機会を設ける

中には、出社したほうがONとOFFの切り替えがうまくいく、誰かとコミュニケーションができるといった理由から出社を望む社員もいます。2023年にコロナ禍の規制が解除されて以降、オフィスワークに回帰したり、出社とテレワークを織り交ぜた「ハイブリッド型」に移行したりする会社が増えてきています。

ただ、だからといって、テレワークを全面廃止したり、無理に出社日を設定したりする必要はありません。オフィスを開放し、オフィスと自宅、どちらで仕事をしてもいいことにすればいいだけです。また、個々の社員にヒアリングをした上で1on1ミーティングをオフィスで行ったり、歓送迎会を自由参加で行ったりしてもいいでしょう。

3 リモート疲れを解消する環境(制度)づくり

1)雑談ルームを開設する

テレワークではとにかく雑談が減ります。これまで雑談は無駄な時間だと思われていましたが、なくなって初めて、意外といい息抜きになり、良い関係性を維持する潤滑油になっていたことが分かります。

そこで、オンライン上に雑談ルームを設け、いつでも気軽に話せる場としましょう。もちろん、ビデオのオンオフはどちらでもよく、出入りも自由として入室のハードルを下げます。慣れないうちは、なかなか雑談が始まらないので、経営者や上司から話し掛けましょう。

2)健康管理を促す

テレワーク中は、起床・就寝時間が遅くなったり運動不足になったりと、生活リズムが乱れがちです。テレワークの社員にフレックスタイム制を認めている会社も多いと思いますが、生活のリズムが乱れたままでは、会社が把握していない時間にこっそり残業する社員が出てくるなど、労働時間管理の問題も生じます。

そこで、社員の生活リズムを整え、健康管理を促します。具体的には、毎朝の情報共有の際にオンラインでつないでラジオ体操をしたり、就業時間に中抜けしてウォーキングやランニングをすることを認めたりします。福利厚生の一環として、オンライン上のフィットネス講座の受講料を補助するのもよいでしょう。

3)メンタルヘルスの診断ツールを活用する

軽いテレワーク疲れだと、本人も周囲もメンタルヘルスの不調に気付きにくいものです。しかし、その状態を放置すると大きな問題になる恐れがあります。そこで、ストレスやメンタルヘルスの状態を確認できるツールの導入を検討してもよいでしょう。例えば、幾つかの質問に回答することで、メンタルヘルスの状態を診断するツールなどがあります。また、オンライン上で専門家に悩みを相談できるサービスもあります。

以上(2024年4月更新)

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部下を「うつ病」にしてしまった上司の処分はどこまでが適切か?

書いてあること

  • 主な読者:部下をマネジメントできない上司の処分を検討している経営者
  • 課題:どの程度の処分が妥当なのか分からない
  • 解決策:就業規則に基づき処分する。ただし、上司が処分されるのは「部下をマネジメントできなかったからである」ということを認識する

1 部下をマネジメントできない上司の処分をどうする?

上司の役目は、部下が仕事のルールを守り、心身ともに健康に働けるようきちんとマネジメントすることです。仮に上司が部下のマネジメントを怠り、

  • 部下が過重労働などによりうつ病になってしまった
  • 部下が不祥事を起こしてしまった

などの問題が起きてしまった場合、監督不十分ということで何らかの懲戒処分を検討するのは自然な流れです。

ただ、「どの程度の懲戒処分が妥当か?」というのは難しい判断です。労働契約法では「社員の問題行動に対して重すぎる懲戒処分は無効」とされていて、上司の監督責任についても一般的には、

  • 監督責任を果たせなかったからといって上司を懲戒解雇にすることは困難
  • 部下が不祥事を起こした場合、部下よりも重い処分を上司に科すことも困難

と考えられています。

とはいえ、懲戒処分に消極的になって、マネジメント能力に問題のある上司を放置してしまっては本末転倒です。経営者に求められるのは、

懲戒処分のルールを押さえた上で、「会社の秩序を守るためなら、必要な処分は辞さない」という毅然とした態度を崩さないこと

です。この記事では、部下をうつ病にしてしまうなど、監督責任を果たせない上司の懲戒処分についてまとめています。参考にしていただければ幸いです。

2 まずは就業規則をチェック!

部下をマネジメントできない上司に懲戒処分を科す根拠は、会社の「就業規則」です。具体的には、「監督責任を果たさないこと」を、就業規則の懲戒事由の1つとして定めておく必要があります。例えば、

  • 部下への管理監督、または業務上の指導、指示を怠ったとき
  • 業務上の怠慢、または監督不行き届きにより事故を発生させたとき

といった具合です。普通、就業規則には、懲戒事由の最後に

  • その他前各号に準ずる行為

という規定を設けて、懲戒処分の対象となる行為を広く解釈できるようにするのですが、こうした定め方は社員とのトラブルにつながることもあるので、上のように明確に定めておいたほうが無難です。

以上が懲戒処分を行う上で最初に押さえるべきポイントです。以降は、「部下が過重労働でうつ病になってしまった場合」「部下が不祥事を起こした場合」という具体的なケースについて、懲戒処分のポイントを見ていきましょう。

3 部下が過重労働などによりうつ病になってしまった場合

1)基本的な考え方

部下が過重労働などによりうつ病になってしまった場合、上司の懲戒処分を検討する際のポイントは次の通りです。

  • 上司の指示の仕方に問題はなかったか、部下の心身にどのぐらい影響を与えたか
  • 部下の業務量、業務内容、労働時間を適切に把握していたか
  • 上司が部下の心身の不調を知り、それを防げる状況にあったか
  • 過去の懲戒処分とのバランスはとれているか

上司は、部下に業務について指示をする権限を持っていますが、同時にその負担が重くなりすぎないようマネジメントする責任も負っています。ですから、上司の指示の仕方に問題があった場合、監督責任を問われる可能性が高くなります。

2)事例で考える上司の懲戒処分

1.部下が過重労働になり、うつ病になったケース

部下が過重労働になった場合、上司の指示の仕方などによっては、懲戒処分が認められる可能性があります。

一般的に懲戒解雇は難しいといわれていますが、

上司が「部下が過重労働をしていること」「心身の不調があること」を知りながら、過重な業務を指示しているなど、相当悪質なケースの場合は、懲戒解雇が認められる可能性

があります。

また、上司には部下の労働時間を適正に把握する義務がありますから、例えば「テレワークで管理がしにくい」などは、監督責任を軽くする理由にはなりません。テレワークであれば、上司はウェブ面談や電話を通じて、部下の仕事の状況を把握する必要があります。

2.上司の指示がパワハラになり、それがもとで部下がうつ病になったケース

上司に悪意がなくても、指導の仕方に問題(暴言を吐く、大勢の前で長時間叱るなど)がある場合、パワハラ(パワーハラスメント)になることがあります。

一般的にパワハラの懲戒処分に関しては、

初犯の場合、懲戒解雇のような重い処分は認められにくく、通常は降格処分が限界

と考えられています。懲戒解雇クラスの処分が認められるのは、

  • 過去にパワハラを理由に懲戒処分を受けた上司が、その後も執拗なパワハラを続けていて、今後も改善される見込みがないといったケース
  • 初犯であっても暴行に及ぶようなハラスメントが長期間継続され組織秩序を大きく害したケース

など、悪質な場合に限られるでしょう。

こうしたケースでは、懲戒処分に固執せず、上司としての資質を欠いているとして、人事評価を引き下げるなどの人事上の処遇で対応することも検討するとよいでしょう。

4 部下が不祥事を起こした場合

1)基本的な考え方

部下が不祥事を起こした場合、上司の懲戒処分を検討する際のポイントは次の通りです。

  • 部下の行為が会社にどのぐらいの損害を与えたか
  • 上司が部下の不正行為を知り、それを防げる状況にあったか
  • 過去の懲戒処分とのバランスはとれているか

また、上司の監督責任が問われる具体的なケースとしては、次のようなものが考えられます。

  • 部下が横領などの犯罪行為をした
  • 部下がハラスメントをした

部下の犯罪行為について、上司の監督責任を問うことは可能です。ただし、上司に懲戒処分を科す理由は、あくまで「監督責任を怠った」からです。例えば、部下が巧妙に犯罪を隠して、簡単には気付けないようなケースでは、上司の監督責任を問うことは難しいでしょう。

2)事例で考える上司に対する懲戒処分の内容

1.部下が横領などの犯罪行為をしたケース

横領などの重大な犯罪行為の場合、部下本人については懲戒解雇が認められるケースが多いです。ただ、それに引きずられて上司に対しても同じような重い処分を科すのは問題です。

部下の横領と上司の「監督責任」は別の問題であり、一般的に部下に対する処分よりも軽い処分が相当

とされているからです。つまり、懲戒解雇が認められるケースはほとんどありません。

上司に対する懲戒解雇が認められるケースは、上司が部下の犯罪行為を知っていた、または容易に知り阻止できる状況にあったのに、その対応を怠った場合などに限定されるでしょう。

2.部下がハラスメントをしたケース

会社にはパワハラやセクハラ(セクシャルハラスメント)を防止する義務がありますから、ハラスメントをした部下とその上司については、厳正に対処する必要があります。一方、この場合も、

上司に対する懲戒処分は、部下に対する処分よりも軽くするのが相当

とされているので、実際にはけん責などの軽度の処分に落ち着くケースが多いでしょう。

ただ、ハラスメントを防げなかった点は、上司の資質にかかわる問題なので、懲戒処分にこだわらず、人事上の処遇によって降格などを行うことについては検討の余地があります。

ハラスメントの事案でしばしば見られるのは、上司が責任を負うのを恐れ、部下からハラスメントの申告を受けているのにうやむやにしたり、杜撰(ずさん)な対応をしたりして、強引に解決したかのように扱ってしまうケースです。被害者は、ハラスメント行為そのものだけでなく、こうした上司の対応によってもひどく傷付けられます。

こうした上司による「もみ消し」を防ぐためにも、会社としてハラスメントの相談窓口を設置し、社内に周知しておくことが重要です。

5 社員の不祥事に対する役員の責任は?

最後に、課長や部長が不祥事を起こした場合等に、その担当役員(取締役)に懲戒処分を科すことはできるかを検討していきます。結論から言うと、

就業規則は「社員」に対して適用されるため、役員に懲戒処分を科すことは不可

です。

とはいえ、役員は「善管注意義務」として、不祥事の防止に加え、不祥事が生じない組織体制を構築する義務を負っています。ですから、こうした義務を怠って会社に損害を生じさせた場合については、担当役員に損害賠償を請求することが可能です。

また、会社法では、役員はいつでも株主総会決議で解任することができます。正当な理由のない解任を行った場合には、残任期間の報酬に相当する額などを支払う必要がありますが、会社の不祥事等の防止を怠り、善管注意義務を果たしていないといえるような場合には、「正当な理由」があると判断される可能性があります。

なお、よく大企業の不祥事で役員の給与が減給とされる例がありますが、たとえ株主総会決議で減給の決議がされたとしても、その役員が合意しなければ減給とすることはできないので注意しましょう。

以上(2024年4月更新)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 堀田陽平)

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「修繕引当金」「特別修繕引当金」の会計処理ルールと金額の目安について

書いてあること

  • 主な読者:自社ビルや工場、商用ビルなどを所有する中小企業の経営者
  • 課題:「修繕引当金」「特別修繕引当金」の会計処理のルールや金額の目安を知りたい
  • 解決策:引当金の時点では、損金に算入できない。損金に算入できるのは、「修繕」を行った事業年度のみである点に注意する。金額の目安については、実際の工事の見積もりや不動産会社の公表しているデータなどを参考にする

1 不動産の修繕に必要な「修繕引当金」「特別修繕引当金」

自社ビルや工場、商用ビルなどを所有する会社は、建物の状態を保つために修繕が必要です。特に数年に1度の大規模修繕などは費用が高額になるため、修繕を行った事業年度だけに修繕費用の全額を計上するのではなく、大規模修繕に備えて毎年費用をコツコツ計上しておくことが、正確な利益計算をする上で重要になります。

そこで利用する勘定科目が、「修繕引当金」と「特別修繕引当金」です。これらの勘定科目を利用することで、将来発生する修繕や大規模修繕に備えた利益計算や資産管理ができます。ただし、経営者や担当者の中には、修繕引当金と特別修繕引当金のルールや計上方法が分からない人もいるかもしれません。

この記事では、修繕引当金と特別修繕引当金の会計処理のルールや、いくら計上すればいいかの目安を紹介します。

2 会計処理のルール

1)そもそも「修繕引当金」「特別修繕引当金」とは?

「修繕引当金」「特別修繕引当金」は、名前は似ていますが用途が異なります。それぞれの概要は次の通りです。

  • 修繕引当金:毎年行う定期修繕が予算の制約や工事スケジュールの遅れなどの何かしらの理由で、事業年度内に実施できなかった場合に計上するもの
  • 特別修繕引当金:数年に1度の大規模修繕に備えて各事業年度に分割して計上するもの

修繕引当金が必要に応じて計上されるのに対し、特別修繕引当金は数年に1度の大規模修繕に備えて基本的には各事業年度に分割して計上します。例えば、1000万円かかる大規模修繕を5年に1度行う場合、1~4年目は毎年200万円の特別修繕引当金を計上するといった具合です。

2)修繕引当金と特別修繕引当金は損金に算入できない

修繕引当金と特別修繕引当金は、

いずれも会計上は「費用」になりますが、税金計算上では損金に算入できません。

つまり、決算書上には記載されますが、確定申告書上では損金としない調整(損金不算入)をします。会計上で計上した引当金の繰入額が損金に算入できるのは、実際に修繕を行った事業年度のみとなります。

3)それぞれの引当金の計上時の会計処理

1.修繕引当金

まずは、修繕引当金の仕訳を確認します。毎年定期的に行っている自社ビルの定期修繕(費用30万円)が、諸事情によって翌事業年度に行われることになった場合の仕訳は次の通りです。修繕引当金に相対する勘定科目は「修繕引当金繰入」となります。修繕引当金を負債勘定、修繕引当金繰入を費用勘定として仕訳します。

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実際に翌事業年度に定期修繕を行った場合の仕訳は次の通りです。前期で負債勘定として計上した修繕引当金を相殺する仕訳を行います。貸方科目は、支払方法に応じて適宜変更してください。

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2.特別修繕引当金

次は、特別修繕引当金の仕訳です。5年に1度、自社ビルの大規模修繕(費用3000万円)を行う場合の1~4年目の仕訳は次の通りです。3000万円を5年間で分割し、各事業年度に600万円ずつ計上、特別修繕引当金を負債勘定、特別修繕引当金繰入を費用勘定として仕訳します。

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また、大規模修繕を実際に行った5年目の仕訳は次の通りです。4年間積み上げた特別修繕引当金を相殺します。5年目分の600万円は修繕費として計上しましょう。

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3 設定金額の目安

修繕引当金は、毎年行っている定期修繕が事業年度内に実施されなかった場合に計上するため、計上金額は本来行うはずだった定期修繕にかかる費用です。従って、過去に行った定期修繕費用の平均値などから設定金額を計算します。

特別修繕引当金は、大規模修繕に備えて計上するため、「大規模修繕にかかる費用(見積額)÷大規模修繕の周期(年数)」が、毎年計上するべき金額になります。大規模修繕の費用や頻度は、建物の形状や規模、立地、設備の仕様などによって変わりますから、建物ごとに設定金額を計算します。

以降に大規模修繕の費用と頻度の参考資料等を示しますが、最終的な設定は、公認会計士などの専門家に相談してから決めるようにしてください。

1)不動産会社の調査データより

不動産売買や仲介業などを展開している株式会社ボルテックス(東京都千代田区)によると、自社ビルの一般的な修繕サイクルと費用の目安は次の通りです。

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同社によると、ビルの大規模修繕工事にかかる費用は、建物の規模や築年数によって異なるものの、2000万~3000万円程度が相場とのことです。

また、マンションでは、大規模修繕工事の周期を12年として、長期修繕計画が組まれていることが多いですが、オフィス用のビルについても、外壁や防水など建物の性能に関わる点は、ほぼ同じ程度で計算されるとのことです。

2)国土交通省の調査データより

国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」によると、マンションの大規模修繕工事の実施時期は次の通りです。

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マンションの大規模修繕工事の工事金額は次の通りです。

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また、床面積(1平方メートル)当たり工事金額は次の通りです。

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以上(2024年3月作成)
(監修:税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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画像:godfather-Adobe Stock

高齢社員の働き方改革 「自分はまだ若い!」と思っている社員が労災に遭わないようにするには?

書いてあること

  • 主な読者:高齢社員を雇用しているので、その労働災害が心配な経営者
  • 課題:具体的にどう対策すればよいのかが分からない
  • 解決策:加齢による身体機能の変化を、客観的に高齢社員に気付いてもらうことが第一歩

1 休業4日以上の労災は60歳以上が28.7%

人材不足の日本では高齢社員に頼る部分がますます大きくなっていきますが、問題は若年社員よりも労働災害(労災)に遭いやすいことです。2022年に発生した労災によって4日以上休まなければならない死傷者数は、60歳以上が3万4928人(全体の28.7%)と最多です。

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人間は加齢とともに身体機能が低下していくので、高齢者員を多く抱える会社ほど、労災のリスクが高まります。具体的な対策のポイントは、

  • 身体機能の中で、特に低下しやすいものを押さえる(平衡機能、聴力など)
  • 高齢社員に「労災に遭う危険がある」と気付かせる(健康診断、体力テストなど)
  • 身体機能に配慮し、高齢社員の働き方改革を図る(役割分担、労働時間など)

です。以降でそれぞれ紹介するので、確認していきましょう。

2 身体機能の中で、特に低下しやすいものを押さえる

まずは、加齢とともに身体機能がどの程度低下するのかを押さえましょう。図表2は、20~24歳ないし最高期の身体機能を100とした場合の、55~59歳における各種機能の水準です。赤字の身体機能は、水準が50未満に低下しているもので、特に注意が必要です。

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赤字の機能に注目した場合、業務では次のような問題が生じることが考えられます。

  • 夜勤後体重回復:夜勤で減少した体重が回復しにくく、疲れやだるさを感じる
  • 平衡機能:直立姿勢時の重心動揺が大きくなり、転倒しやすくなる
  • 皮膚振動覚:振動に対する感覚が鈍化し、機械の異常などに気付きにくくなる
  • 聴力:騒音時の声などが聞こえにくく、「危ない」と言われても気付かない
  • 薄明順応:暗い場所で作業をしようとしても、目が慣れず、物が見えにくい

3 高齢社員に「労災に遭う危険がある」と気付かせる

高齢社員の中には「自分はまだ若い!」と思っていて、体の衰えを自覚していない人が少なくありません。ですから、高齢社員に対し「労災に遭う危険がある」と気付かせることが大切です。次のような点がポイントです。

1)就業規則などに盛り込み、経営者の姿勢を示す

就業規則(本則や安全衛生管理規程など)に高齢社員の労災防止に関する事項を定めます。安全委員会や衛生委員会の設置義務がある会社なら、委員会の調査審議事項に盛り込むのもよいでしょう。何より大切なのは、

経営者が本気で高齢社員の労災防止に取り組もうとしていると、社内に周知すること

です。こうして高齢社員が健康を意識するようになると、自分の状態などについて相談したくなるかもしれないので、「相談窓口」などを設置するとさらに効果的です。

2)健康診断を実施する

高齢社員の健康状態は、毎年実施する定期健康診断である程度把握できます。パート等(週の所定労働時間が正社員の4分の3未満の社員)については、定期健康診断の実施義務はありませんが、高齢のパート等が多いなら、対象に含めるのが望ましいです。定期健康診断では、

聴力、自覚症状や他覚症状(所見)の有無などが確認できますし、健診機関によっては「平衡機能検査」などのオプション検査も実施

します。高齢社員も今の健康状態が分かれば、無理をせず慎重に行動するようになるでしょう。

3)体力テストを実施する

高齢社員が自らの状態を正しく把握するために、体力テストを実施するのもよいでしょう。 例えば、ある製鉄会社では体力低下を早期に認識し、改善を促すためのスクリーニングテストを行っています。スクリーニングテストでは、

  • 転倒リスクを確かめるためのバランス歩行や片足立ち上がり
  • 腰痛リスクを確かめるための上体起こしや体前屈

などを実施し、結果を5段階で評価します。結果が良くない社員には、どのような運動が必要かなどのアドバイスも行っています。

4 身体機能に配慮し、高齢社員の働き方改革を図る

高齢社員に気付きを促すといっても、本人の努力だけで労災をゼロにするのは困難です。健康診断の結果などから高齢社員の傾向をつかんで、会社側でも労働条件を工夫し、労災が起きにくい環境を整えることが大切です。次のような点がポイントです。

1)社内設備を変える

高齢社員が働きやすいよう、社内設備の改善をしていきます。例えば、転倒を防ぐなら、転びやすい場所に手すりを設置する、暗くて作業がしにくい場所の照明を増やすといった具合です。

2)役割分担を変える

人手不足の会社などでは、高齢社員も多くの業務を担当せざるを得ませんが、労災リスクの高い業務については、部分的に若手に任せることを検討してみましょう。例えば、運送業の会社で、高齢社員が梱包・運搬・開梱の全てを担当している場合、

高齢社員は、梱包と開梱だけに専念してもらい、運搬は若手社員に任せる

などして、転倒や腰痛などのリスクを低減します。役割変更が難しい場合は、高齢社員にアシストスーツの着用を義務付けるなどして、身体への負担軽減を図りましょう。

3)労働時間を変える

高齢社員の身体機能を考慮して、労働時間を工夫することも大切です。例えば、疲れが取れにくいという高齢社員の場合、

夜勤はやめて日中の短い時間に勤務する(高齢社員が複数いる場合はシフト制にする)

などすれば、労災対策になるでしょう。

4)雇用の仕方に注目する

高齢社員を継続雇用する場合、1年ごとなどに労働契約を更新するのが一般的です。もし、健康状態を考慮して雇用継続が難しいという判断になったのなら、「雇止め(労働契約を更新しない)」という選択もやむを得ません。ただし、雇止めにはルールがあるので、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」などに注意しましょう。また、フリーランスのように、雇用以外の方法で、高齢社員が自分のペースで働ける選択肢を用意しておくのも1つの手です。

以上(2024年3月更新)

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うつ病から復職できない社員を退職させざるを得ない場合の「愛」ある対応とは?

書いてあること

  • 主な読者:社員が休職中で、かつ復職が難しい場合の対応を知りたい経営者
  • 課題:社員に退職の話をするのはつらいが、曖昧な対応でトラブルが起きるのも困る
  • 解決策:「社員の健康」を第一に考えつつ本人の心情にも寄り添う。「休職期間満了通知書(兼合意書)」で認識を合わせる

1 休職中の社員がそのまま退職するケースは珍しくない

「休職(私傷病休職)」とは、社員が私傷病(仕事以外の理由によるケガや病気)で働けない場合、労働契約を維持したまま、労働の義務を一定期間免除する制度です。

就業規則で定めた休職期間が満了するまでに、

  • 社員が働ける状態まで回復したら、復職(元の業務か、もっと軽い業務に復帰させる)
  • 回復しなければ、退職(休職期間の満了とともに、労働契約が自動的に終了する)

となるのが一般的です(なお、休職期間の満了による退職は、通常「自然退職」と呼ばれます)。理想は社員が復職することですが、うつ病などの場合、状況によって治療にかかる時間に幅があり、症状が回復せず退職に至るケースも珍しくありません。

経営者や労務担当者にとって、苦しい状況にある社員に退職の話を切り出すのは、とてもつらいことです。かといって、曖昧な対応をすると、休職期間が満了して退職となったときに、社員が「そんな話は聞いていない!」と言い出してトラブルになる恐れがあります。

この記事では、休職中に社員の症状が回復せず、いよいよ退職を考えざるを得なくなった場合の対応のポイントとして、次の2つを紹介します。

  1. 「社員の健康」を第一に考えつつ本人の心情にも寄り添う
  2. 「休職期間満了通知書(兼合意書)」で認識を合わせる

2 「社員の健康」を第一に考えつつ本人の心情にも寄り添う

1)復職させることが、必ずしも社員のためになるとは限らない

休職は法律で定められた制度ではなく、会社がそれぞれの就業規則に基づいて運用しますが、

  1. 社員が休職要件(一定日数の欠勤など)に該当したら、休職命令を出す(休職開始)
  2. 休職期間の満了が近づいてきたら、復職の可否を判断し、社員に伝える
  3. 休職期間の満了とともに(またはその前に)、社員が復職または退職する(休職終了)

という流れは、基本的にどの会社でも同じです。

社員が退職するケースにおいて、2.は経営者や労務担当者にとって特につらいものです。苦しい状況にある社員に退職の話は切り出しにくいですし、経営者や労務担当者にも「社員が復職を望んでいるなら、できる限りその気持ちに応えたい」という思いがあります。

ですが、うつ病などのように完治の判断が難しい病気の場合、

復職を急ぎすぎたせいで、回復しつつあった症状が再び悪化してしまうケース

は珍しくなく、その場合、社員は余計に苦しむことになります。ですから、復職の可否は

会社が第一に守るべきは「社員の健康」である

ということを念頭に置いて、努めて冷静に判断しなければなりません。

2)休職中、社員とじっくり話す機会を設けることが大切

社員の健康を第一に考えると言っても、会社側の主観で「復職できない」と決めつけるのはNGです。社員の体調や治療の状況など必要な情報を集めた上で判断しなければなりません。

また、仮に「復職できない」という判断が妥当だとしても、突然退職を切り出されたら社員は動揺しますし、場合によっては会社に反発してきます。ただでさえ、私傷病でつらい状況にあるわけですから、コミュニケーションには配慮が必要です。

復職の可否を判断するのに必要な情報を集めつつ、社員の心情に寄り添うには、休職中、社員とじっくり話す機会を設けることが大切です。具体的には、

休職開始からある程度時間がたったタイミングで、電話やオンラインでの面談を実施

します。時間とともに社員の状況が変化する可能性があるので、社員の体調にもよりますが、できれば「休職開始から1カ月ごと」など目安を決めて、複数回実施するのが望ましいです。

面談の主な目的は、

  1. 復職の可否を判断するのに必要な情報を集める
  2. 不安を感じたり自分を責めたりしてしまう社員の心情に寄り添う
  3. 休職について、会社と社員との間で認識のギャップがないかを確認する

の3つです。これらの目的を意識し、会社から社員に聞くこと、会社から社員に伝えることを事前に整理した上で面談に臨みましょう。具体例は次の通りです。

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面談の際は、社員の体調に配慮してあらかじめ時間を区切り、時間内に聞けなかったことは、次の機会にヒアリングします。また、うつ病などの場合、社員の話すスピードや会社側が言ったことに対するリアクションが遅くなる場合がありますが、そこは社員のペースに合わせるようにします。なお、面談時の社員の様子も、復職の可否を判断する大切な要素のひとつです。

3)復職の可否は明確に伝える。ただし、社員への感謝も忘れない

休職中の面談で社員の状況を把握したら、休職期間の満了前に社員から主治医の診断書を提出してもらい、復職の可否を判断します。ただし、社員の主治医が仕事内容を詳しく把握していないケースもあるため、場合によっては会社指定の医療機関などに協力を仰ぎます(このあたりは就業規則で明確に定めておく必要があります)。

復職の可否について判断したら、電話やオンラインで結果を社員に通知します。復職できると判断した場合、それを社員に伝えた上で、職場に復帰する時期や復職後の業務、勤務形態などについてすり合わせをしていきます。一方、復職できないと判断した場合、どのように社員に伝えるかが悩ましいですが、曖昧な言い方をするとかえってトラブルになる恐れがあるので、

  • 社員が復職可能な状態まで回復したとは認められないと判断したこと
  • 社員が休職期間の満了とともに退職となること

などを明確に伝えるようにします。

社員によっては会社を辞めたくなくて「私はもう大丈夫です、働けます」と食い下がってくる人もいますが、主治医の診断書なども踏まえた上での判断ですから、

「復職を急いで症状を悪化させたくない、あなたの健康を第一に考えた結果だ」

などと伝え、会社の決定を安易に曲げることはしないようにします。

逆に、退職を受け入れつつ「会社に迷惑ばかりかけてしまい、申し訳ありません」と謝罪してくる人もいますが、社員に落ち度はありませんし、会社にとっても不本意な退職ですから、

「在職中、社員がいてくれてどれだけ助かったか」など、社員への感謝

を精一杯伝え、誠実な態度を示して社員と別れるようにします。

3 「休職期間満了通知書(兼合意書)」で認識を合わせる

1)書面を交わしておくと、「言った」「言わない」のトラブルが起きにくい

社員と慎重に対話すれば、休職に関するトラブルをある程度防ぐことができますが、口頭でのやり取りだけでは、お互いに誤解が生じたり、重要なことを聞き漏らしたりするリスクがあります。よりトラブル防止に重きを置いた対応をするのであれば、

会社と社員との間で「休職期間満了通知書(兼合意書)」を交わすこと

をお勧めします。

休職期間満了通知書(兼合意書)とは、休職期間が満了する前に、社員に対して

  • 社員が復職可能な状態まで回復したとは認められないと判断したこと
  • 社員が休職期間の満了とともに退職となること

などを通知する書面です。復職の可否については前述したように口頭でも社員に通知しますが、併せて書面も交わすことで、「言った」「言わない」のトラブルが起きにくくなります。

また、社員が雇用保険の被保険者の場合、休職期間の満了により退職した際に、その旨を所轄ハローワークに届け出る必要がありますが、この際、退職理由を証明する添付書類として休職期間満了通知書(兼合意書)を活用できます。

2)退職について社員が合意する署名欄を設けておくと安心

休職期間満了通知書の書式は任意ですが、次のように退職について社員が合意する署名欄を設けておくと、トラブル防止に役立ちます。なお、ここでは割愛していますが、実際は「就業規則の休職に関する条文」「休職期間の計算方法」などを別紙として添付するのが望ましいです。

 

〇年〇月〇日

休職期間満了通知書 兼 合意書

〇〇〇〇 様

株式会社〇〇〇〇    

代表取締役 〇〇〇〇 印

 

 

あなたは、病気療養のため、当社就業規則第〇条の規定により、〇年〇月〇日より休職されていますが、〇年〇月〇日をもって本休職期間が満了となります。

当社は、電話および面談(オンライン)でのあなたの様子、医師の診断書などを基に、慎重に復職の可否を検討して参りましたが、最終的に、復職可能な状態まで回復したと認めることはできないと判断しました。

つきましては、当社就業規則第◯条の規定により、あなたは本休職期間が満了する〇年〇月〇日をもって退職となりますので、本書をもって通知します。

あなたの一日も早いご回復を心よりお祈り申し上げます。

以上

———————————————————————————————————–

株式会社〇〇〇〇    

代表取締役 〇〇〇〇 殿

 

上記の内容について承知しました。〇年〇月〇日をもって退職となることに合意します。

〇年〇月〇日

氏名 〇〇〇〇 印

4 その他、休職期間の満了に当たって押さえるべきこと

1)傷病手当金や基本手当の手続きは迅速に行う

社員が休職期間の満了とともに退職する場合、私傷病の状況によっては、退職後もしばらく働けない可能性があります。仮に社員が健康保険や雇用保険の給付の受給資格を持っているのであれば、支給が滞らないよう、給付に関する会社側の手続きを迅速に行うことが大切です。

例えば、退職時に健康保険の被保険者だった社員が一定の要件を満たす場合、

退職後も健康保険から傷病手当金が支給

されます。支給額はおおむね在職中の賃金の3分の2で、支給期間は同じ傷病について最初に傷病手当金を受けた日から通算1年6カ月間です。会社は所定の申請書について、勤務状況や賃金の支払い状況などの証明をし、その他必要な事項(振込先や療養担当者の意見)を社員やその主治医に記入してもらった上で、保険者(全国健康保険協会など)に送付する必要があります。

また、退職時に雇用保険の被保険者だった社員が一定の要件を満たす場合、

退職後、就職活動をしている間、雇用保険から基本手当が支給

されます。支給額はおおむね在職中の賃金の45~80%で、支給期間は退職日の翌日から原則1年間です(正確には、そのうち失業中で就職活動をしている期間)。ただし、私傷病などですぐに働けない場合、最大3年間の延長が可能です。会社は所定の離職証明書を、所轄ハローワークに提出して離職票の交付を受け、社員に送付する必要があります。

2)場合によってはフリーランスとして働いてもらうことを検討する

ここまで、社員に配慮しつつトラブルなく別れることを前提に話をしてきましたが、経営者や労務担当者の中には「このまま別れるのはつらい、何とか一緒に働く道を残したい」と考える人もいるはずです。こうした場合、社員が退職した後に、

業務委託契約を結んでフリーランスとして働いてもらう

という手があります。もちろん、症状が回復してからという前提ですが、決められた就業時間の中で働く社員と違い、フリーランスは自分で働く時間をコントロールできますし、会社も必要なときだけ仕事を依頼できるので、お互いに無理をせず仕事ができる可能性があります。

一方、自由な働き方である分、自分で自分を管理できない人はフリーランスに向きません。

  • 会社から逐一指示を受けなくても、自分で仕事の筋道を立てられるか?
  • 仕事のスケジュールやお金の管理などにルーズでないか?
  • 発破をかけられなくても、自分で努力し、成長していく意欲があるか?

などを検討した上で、フリーランスとしての働き方を打診するかを決めましょう。

ただし、社員の症状が回復していない状況でいきなりフリーランスの話を持ちかけると、かえってプレッシャーを与えてしまう恐れがあります。まずは退職後の連絡方法だけ確保しておき、退職からある程度時間がたってから連絡を取るなどの配慮が必要です。

以上(2024年4月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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画像:shironagasukujira-Adobe Stock

現タカラトミーの創業者・富山栄市郎氏。逆境のおもちゃ会社が100年企業となった理由が分かる一言とは?

市場は変わるぞ。次の一手が大事だぞ。ヒットのあとには必ず停滞がやってくる。気を引き締めろ

富山栄市郎(とみやまえいいちろう)氏は、今から100年前の1924年に、21歳の若さで富山玩具製作所(現タカラトミー)を創業し、おもちゃ業界全体の発展に貢献した人物です。少年時代からおもちゃを作る玩具製作所で働いていた富山氏は、そこでモノ作りの楽しさを知り、いつか自分の手でおもちゃを作りたいと考えるようになります。そうして立ち上げたのが富山玩具製作所です。富山氏は斬新なおもちゃを次々に生み出し、おもちゃ業界をけん引していきますが、事業を支えたのはその発想力だけではありませんでした。

冒頭の言葉は、戦後に富山玩具製作所が富山商事と名を改め、「スカイピンポン」というおもちゃを売り出した頃、富山氏が社員たちに言い聞かせた言葉です。スカイピンポンは、ラケットの中にあるバネを使ってピンポン球のキャッチボールを楽しめるプラスチック製のおもちゃです。ブリキ人形などの金属製のおもちゃが主流だった時代に、プラスチック製のおもちゃを作るという発想は斬新で、スカイピンポンはたちまち人気になります。しかし、富山氏はその人気に甘んじることを良しとしませんでした。彼はそれまでの経験から、1つの成功が長くは続かないことを知っていたからです。

富山玩具製作所を立ち上げて間もない頃、富山氏は外国の飛行機をモデルにおもちゃを作り注目を集めますが、やがて昭和恐慌、さらには第二次世界対戦が始まり、おもちゃ作り自体を続けることが難しくなります。戦後、やっとの思いで事業を再開した際も、戦闘機のおもちゃで子どもたちの心をつかみ会社を立て直しますが、工場の火災や戦闘機ブームの停滞などで再び窮地に立たされます。何度も辛酸をなめ、時には人員整理という苦渋の決断を迫られてきた富山氏は、もう同じことを繰り返すまいと心に誓っていたのです。

富山氏は、スカイピンポンと並行して、目玉商品となる別のおもちゃ作りに取り組みます。それは、家の中でプラスチック製のレールをつなぎ合わせ、電車を走らせて遊ぶ「プラレール」。現代でもなお、子どもたちから愛されているおもちゃです。スカイピンポンでプラスチック製のおもちゃの存在を世に知らしめて市場を変え、そこに別のおもちゃを投入する。このように、成功を収めても油断せず「次の一手」を打ち続けることで、富山氏は会社を大きくしていったのです。

会社経営は、よくマラソンに例えられます。事業目標は、マラソンの途中にある道標(みちしるべ)であり、何か大きな成功を収めて目標を達成すれば、「道標を通過した」ということができます。ただ、それはゴールではありません。経営者が夢を見続ける限り、マラソンは続きます。一時の成功を喜ぶのはいいですが、そこに満足して足を止めてしまったら、それ以上先には行けません。大切なのは、足を動かし続けること。それが成功の後に繰り出す「次の一手」なのです。

出典:「社史『軌跡~夢をカタチに~』」(タカラトミーウェブサイト)

以上(2024年3月作成)

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【社長のモノサシ】 退職したい社員を引き止める? 引き止めない?

書いてあること

  • 主な読者:退職を申し出た社員を引き止める社長、引き止めない社長
  • 課題:自分なりの引き止め策は講じているけれど、別の考え方もあれば聞いてみたい
  • 解決策:他の社長の考え方も参考にしつつ、自身の取り組みもバージョンアップする

1 【提案】社長のモノサシをバージョンアップしよう!

会社にはさまざまなルールがありますが、ある意味それらのルールの在り方を決定づけているのが「社長のモノサシ」です。社長のモノサシとは、

会社経営における社長の価値観や行動基準

であり、日々の判断はこのモノサシを基準に行われます。

さて、社員から退職の申し出があったら、皆さんはこれを引き止めるでしょうか? ケースバイケースといえばそれまでですが、根本には「縁があるのだから引き止める」「去る者は追わない」など、社長の考え方があるはずです。そして、これこそが社長のモノサシです。

社長である筆者も、「社長、ちょっといいですか?」と社員から退職の申し出を受けたことが何度もあります。引き止めるか否かは相手次第でしたが、実際に次のような経験をしました。

  • 頼りにしていた幹部から退職の申し出があったときは、本気で引き止めをはかり、1年間かけて話し合ったが、結局、辞めてしまった
  • かねてから問題を感じていた社員から退職の申し出があったときは、正直ほっとして、すぐに退職の手続きに入った

人手不足で売り手市場の昨今、社員の退職がますます増えていくことは覚悟しなければなりません。そうした事態に備えるためにも、他の社長が社員の退職をどのように考えているか気になりませんか?

この記事では、当社が292人の社長に行ったアンケート結果を紹介していきますので、参考にしてください。ちなみに、

社員の退職をうまく思いとどまらせた経験のある社長は40.1%

です。また、こちらに悪気がなくても、社員への引き止めが「ハラスメント」と言われてしまうこともあります。昔のような考えで引き止めるのでは通用しないケースもあり、社長のモノサシのバージョンアップが必要な時代になったようです。

2 社員が退職の申し出をしてきたら引き止めるか?

まずは、社員が退職の申し出をしてきたときに引き止めるか否かですが、社長の回答は次の通りでした。

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注目したいポイントは、引き止めるか否かが明確に決まっているのは54.2%で、状況によるという回答が45.9%もあることです(四捨五入などの関係で、合計で100.1%となります)。日々が決断の連続である社長を対象にしたアンケートの割に、明確な回答が少ない印象です。裏を返せば、それだけ社員の退職に関する問題は難しいものなのでしょう。

3 社員の退職を引き止める理由は?

社員の退職を「引き止める」と回答した社長に、その理由を聞いてみたところ、次のような結果になりました。

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こちらは、「大切な自社の社員だから(縁ができたから)」という回答が75.6%と最も多く、次いで「人材不足だから」の57.0%が続きます。小さな会社の場合は特に社長と社員の距離感が近いため「縁」を感じやすく、こうした結果になっているのでしょう。

ただし、「5 どのような社員なら引き止める?」の章で紹介しますが、いかに「縁」があるとはいえ、全ての社員が引き止める対象になるわけではありません。

4 社員の退職を引き止めない理由は?

逆に社員の退職を「引き止めない」と回答した社長に、その理由を聞いてみたところ、次のような結果になりました。

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こちらは上位が拮抗していて、「去る者は追わない主義だから」の58.3%が最も多く、「社員の意思を尊重したいから」の56.9%が続きます。筆者のまわりにも、「一切、引き止めない」という社長は少なくなく、社長の価値観が顕著に表れるところです。

5 どのような社員なら引き止める?

次に、どのような社員なら引き止めるのかについて聞いてみました。この結果はほぼ皆さんの予想通りの結果になっているのではないでしょうか。

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最も多い回答は「社員の能力が高ければ引き止める」の76.1%で、「社員の人柄が良ければ引き止める」の53.7%、「社員の仕事が専門的ならば引き止める」の50.7%が続きます。いかに「縁」があったとはいえ、どのような社員でも引き止めるわけではなく、このあたりはシビアに状況を判断していることが分かります。

転職支援を生業とする会社のウェブサイトには、「(転職者に対して)ほぼ間違いなく退職を止められるので注意」などと書かれていることがありますが、これは極端すぎる意見で、実際は相手(社員)次第です。

また、そうしたウェブサイトには「会社から退職を引き止められたときの対処法(断り方)」として、「とにかく退職届を出すこと」「とにかく退職の強い意思を伝える」などと紹介されています。こうした情報を参考にしている社員は、態度がかたくななのですぐに分かります。こちらは対話をしたいだけで他意がなくても、そうした社員を引き止めると、「辞めさせてくれない」とトラブルになる恐れがあるので注意しましょう。

6 社員の引き止めは成功した?

最後に、社員の引き止めが成功したかを聞いてみました。その結果は次の通りです。

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引き止めに成功した社長は40.1%と半数以下となっています。一度退職を決めた社員を引き止めることは簡単ではないことが分かります。筆者の経験からもハッキリと言えるのは、退職の申し出を受けた時点で未来はほぼ決まっていて、それを覆すことは相当に難しいということです。

7 他の社長はどうやって引き止めている?

アンケートでは、どのようにして社員の引き止めに成功したかについても聞いてみました。すると、

賃金など条件面の改善

を行ったケースが最も多く、次いで多かったのが、

該当社員とのコミュニケーションを密にする

というものでした。意外とドライだなと感じますが、社員に退職を思いとどまらせるには、条件面の改善など分かりやすい形が必要なようです。一方、社員の引き止めに失敗した理由には、

夢を語り過ぎた

というものもありました。年功序列や終身雇用が維持されていた頃と比較して、日本企業の労使関係は大きく変わっています。「縁」や「情」だけでは解決できない問題も多く、ここは社長のモノサシのバージョンアップも必要なのでしょう。

以上(2024年5月作成)

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画像:健二 中村-Adobe Stock

【社員が求める福利厚生】「人間ドック」で健康な会社に! 経費で処理すれば負担も軽減

書いてあること

  • 主な読者:社員に健康で長く働いてもらいたい経営者
  • 課題:社員の高齢化が進むと生活習慣病などのリスクが高まってくる
  • 解決策:福利厚生として会社の負担を抑えつつ、社員に人間ドックの受診を励行して健康経営を進める。SDGsにもつながる

1 実はニーズが高い「人間ドック受診の補助」

社員の高齢化が進むと、加齢によって

生活習慣病(脂質異常症(高脂血症)、高血圧症、糖尿病など)予備軍も増加

します。生活習慣病を放っておくとさまざまな問題が起こるため、会社としても放っておけません。そこで提案するのが「人間ドック」の受診です。人間ドックには、

  • 定期健康診断などよりも検査項目が多く、自覚症状のない病気なども早期発見できる可能性がある
  • 脳疾患や心臓疾患、性別に特有のがん、など分野を絞って受診することもできる

といった特徴があります。

実は、社員の人間ドック受診へのニーズは高く、過去に労働政策研究・研修機構が、会社員8298人の「自分にとって特に必要性が高い福利厚生」を調査した際も、「人間ドック受診の補助」が第1位(21.8%)になっています(労働政策研究・研修機構「企業における福利厚生施策の実態に関する調査(2020年7月)」)。

ただ、人間ドックは高額で、日帰りで3万円から7万円程度、1泊2日で4万円から10万円程度となります(地域や医療機関によって異なります)。また、原則として医療費控除の対象にもなりません。だからこそ、人間ドックの受診費用を会社が補助してあげれば、社員の健康維持、モチベーションアップを同時に実現することができるのです。

この記事では、社員に健康で長く働いてもらいたいと考える経営者向けに、法定外の福利厚生制度として「人間ドック受診の補助」を行う際のポイントを解説します。

2 人間ドックの受診費用を経費で処理するためには

人間ドック受診の補助に関して、一定の要件を満たす場合には、福利厚生費(経費)として処理して差し支えないものと考えられます。ただし、税務署から指摘された場合には、会社は損金にできませんし、社員も給与等として所得税が課税されますので、実際に行う場合は、税理士などの専門家へよくご相談されてください。

なお、一定の要件を満たした上で、きちんと取り組みがされていることを証明するために、人間ドックの受診について就業規則に定め、また実際に人間ドックの受診をする際は社員が希望するか否かを聞いて、その結果も残しておくことをお薦めします。

1)全社員に受診機会があること

全社員が受診できるようにしておく必要があります。よく役員だけが人間ドックを受診しているケースがありますが、これだと福利厚生費とはなりません。

一方、健康管理の必要性から「一定年齢以上の希望者」を対象とすることはできます。例えば、全社員に健康診断を実施した上で、生活習慣病予防のため、年齢35歳以上の希望者全員の2日間の人間ドックによる受診費用の一部を負担するといった具合です。

2)人間ドックの費用は、実費費用の範囲内で会社が負担すること

人間ドックの受診費用は、実費費用の範囲内で会社が負担する必要があります。なお、社員の請求に基づいて会社が社員に受診費用を支払う場合でも、会社が当該受診費用を負担したことに変わりはないものと考えられます。その場合は、領収書を保管し、実費費用の範囲内であることが確認できるようにしておきましょう。実際の受診費用を超えて補助を行うと、福利厚生費として認められませんので注意が必要です。

3)常識範囲内の金額であること

社員が受ける経済的利益が著しく多額である場合は、原則として、福利厚生費として認められません。なお、国税庁の質疑応答事例にある「一般的に実施されている人間ドック程度の健康診断の実施が義務付けられている」との記載から、前述した人間ドック1泊2日の場合の費用(4万円から10万円)程度であれば、許容範囲であると考えられます。

■国税庁 質疑応答事例「人間ドックの費用負担」■

https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/gensen/03/03.htm

3 人間ドックでの検査の特徴―時短・お手軽な検査も登場

1)自覚症状のない病気なども早期発見できる可能性がある

労働安全衛生法により実施が義務付けられている健康診断(定期健康診断)では、社員が受診すべき法定項目が決められています。人間ドックの検査項目は定期健康診断などの法定項目よりも多く、自覚症状のない病気なども早期発見できる可能性があります。

日本人間ドック学会が公表している「人間ドック(1日)の基本検査項目」と「定期健康診断の法定項目」を比較すると次のようになります。

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2)分野を絞って受診することもできる

脳疾患や心臓疾患、性別に特有のがん(子宮がんなど)など、分野を絞って集中的に検査できる医療機関もあります。例えば、社員に健康上の不安に関するアンケートなどを実施し、特に不安の多い疾病などがあれば、人間ドックで集中的に検査するという運用が考えられます。

その他にも、

  • 遺伝子検査を取り入れた「遺伝子検査付き人間ドック」
  • X線画像をAIが解析し、疾病リスクを予想する「疾病リスク予測AI」

などの最新の検査手法もオプションとして取り入れる診療機関が増えてきました。

「遺伝子検査」は、将来発症する可能性のある病気を見つけるDNA検査と体内にがん細胞があるかどうかを検出することのできるRNA検査があります。検査により、各種がんの発症や細胞の老化度などが分かります。

「疾病リスク予測AI」は、1年分の健康診断データを基に、「〇年後の△疾病リスクが□%」という数値を予測します。予測できる疾病は、利用する医療機関によって異なりますが、各種がんや糖尿病、心臓疾患、認知症などです。

3)時短・お手軽な検査も登場

従来の人間ドックは、短いものでも検査に数時間を要することが多かったですが、最近は、

  • 約30分で脳ドックの受診が終わる「スマート脳ドック」
  • 血液・尿を郵送してがんや生活習慣病の検査をする「オンライン人間ドック」

など、あまり時間のかからない検査も登場しています。

「スマート脳ドック」は、Webでの予約と問診票を事前に送付し、検査後の受診結果をパソコンやスマートフォンから確認できるようにして、滞在時間を短縮した脳ドックです。検査内容は通常の脳ドックと同じで、頭部MRIやMRA(脳血管の立体画像検査)、頸部MRAなどを実施します。

「オンライン人間ドック」は、自分で採取した数滴の血液と尿を郵送すると、検査機関が検査し、2~3週間後に、検査結果を自宅に届けるものです。検査結果を見て電話やチャットで相談できるサービスもあります。

4 人間ドックの受診が求められる背景

1)約6割が40歳以上―日本の労働市場

現在の日本の労働市場では、40歳以上の人が労働力の多数派で約6割をしめています。

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2)定期健康診断受診者の約6割が「異常あり」

厚生労働省の「定期健康診断実施結果報告」によると有所見率(健康診断を受けた人のうち、「異常なし」以外の人の割合)は、2008年に50%を超え、2022年は58.3%となっています。

年齢や性別は調査対象外のため傾向は分かりませんが、約6割の人が何らか「異常あり」。そして、再検査や治療を受けるように促されても、忙しいからなどといって後回しにしがちです。

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3)健康経営への関心の高まり

経済産業省は、特に優良な健康経営を行っている会社を認定する「健康経営優良法人認定制度」を行っており、申請・認定件数は年々増加しています。

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補足:SDGsにも資する

2030年に17のゴールを目指しているSDGsでは、その3に「すべての人に健康と福祉を」、8に「働きがいも経済成長も」というゴールを設定しています。

福利厚生の充実をはじめとした健康経営は、

  • 3 すべての人に健康と福祉を
  • 8 働きがいも経済成長も

の達成に資することになります。社員の健康を支援することは、社員がいきいきと長期的に働くこと、ひいては労働生産性の向上と社会の持続的な成長へとつながるのです。

以上(2024年4月更新)
(監修 株式会社フェアワーク 吉田健一)

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【収支シミュレーション】特別養護老人ホームの開業収支モデル

書いてあること

  • 主な読者:特別養護老人ホームの開設を検討している人
  • 課題:自社の所有地に特別養護老人ホームを新築する
  • 解決策:開業、運営に掛かる費用の目安を押さえ、収支計画をシミュレーションしてみる

1 特別養護老人ホームとは

特別養護老人ホームとは、

65歳以上で常時介護を必要とし、在宅での生活が困難な高齢者(原則要介護3以上)に対して、生活全般の介護を提供する施設

です。

特別養護老人ホームでは、入浴、排泄、食事などの介護をはじめ、日常生活、機能訓練、健康管理及び療養上の世話を行います。

特別養護老人ホームを開設するには、

  • 社会福祉法人を設立する
  • 厚生労働省令で定められた事項を都道府県知事に届け出る
  • 厚生労働省が定める「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」の人員配置基準、設備基準、運営基準を満たす
  • 施設の所在地の都道府県知事(指定都市・中核市は各市長)から老人福祉法における「特別養護老人ホーム」の指定を受ける
  • 入所定員が30人以上の施設は、施設の所在地の都道府県知事(指定都市・中核市は各市長)から介護保険法における「介護老人福祉施設」の指定を受ける
  • 入所定員が29人以下の施設は、施設の所在地の区市町村から介護保険法における「地域密着型介護老人福祉施設」の指定を受ける

必要があります。

なお、市区町村によって基準が異なる場合や、設置を計画していた施設の数を満たしているといった理由で申請を受け付けていない場合があるため、事前に市区町村の担当部署に確認しましょう。

また、市区町村によって施設整備費や設備整備費などに補助金を出していることもあるので、併せて確認するとよいでしょう。

2 開業収支を考える

1)前提条件

1.売上高

売上高は、施設定員80人(10人×8ユニット)として年間3億5129万円とします。算出式は次の通りです。

(介護サービス費30万4700円×12カ月+ホテルコスト(1970円+1380円)×365日)×定員80人×稼働率90%≒3億5129万円

特別養護老人ホームの売上高は、介護サービス費とホテルコストから成ります。

厚生労働省「介護給付費実態統計月報(2023年11月審査分)第5表、介護サービス受給者1人当たり費用額、要介護状態区分・サービス種類別」によると、介護福祉施設サービスの介護サービス受給者1人当たり費用の平均月額は30万4700円となっています。

また、ここでは日常生活費を1日当たり1970円、食費を1日当たり1380円とします。

2.原価率

原価率は、後掲の図表4(介護老人福祉施設の1施設1カ月当たり収支)の介護事業費用のうち(4)その他を参考に29.4%とします。

3.人件費

また、人件費は同じく後掲の図表4(介護老人福祉施設の1施設1カ月当たり収支)の介護事業費用のうち(1)給与費65.2%を参考に2億2904万円(3億5129万円×65.2%)とします。

4.施設整備費

建物(延床面積4000平方メートル。1平方メートル当たり工事単価33万円)は13億2000万円。建物附属設備(電気・給排水・消火設備など)は1億8000万円とします。

その他の諸条件は図表1の通りです。

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2)収支シミュレーション

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3 介護老人福祉施設の1施設1カ月当たり収支

厚生労働省「令和5年度介護事業経営実態調査」によると、介護老人福祉施設の1施設1カ月当たり収支は次の通りです。

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以上(2024年3月更新)

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【かんたん法人税(8)】決算と申告・納付

書いてあること

  • 主な読者:税務調査などで指摘されないよう、税金対策を適切に行いたい経営者
  • 課題:法人税は税金の中でもボリュームが多く、一つの論点でも色々な角度から対策を検討しないと税務調査で指摘されることがある
  • 解決策:税務調査で重点的に調べられる論点ごとに、会社が注意すべきポイントを押さえる。決算と申告・納付に係る法人税の論点は、申告・納付までの流れ、4つの申告手続き、罰金税の取り扱いがポイントになる

1 決算と申告・納付の重要なポイント

シリーズ第8回は、決算と申告・納付の手続きに注目します。まずは、決算から税額を納付するまでの一連の流れを把握しましょう。

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決算と申告・納付の重要ポイントは次の通りです。

  • 決算から税額の納付までの作業内容
  • 4つの申告手続き(確定申告、中間申告、修正申告、更正の請求)
  • 申告・納付が遅れた、または間違えた場合の税金

2 決算から税額の納付までの作業内容

1)ステップ1(決算手続き)

決算手続きは「実査手続き」とも呼ばれ、帳簿に記載されている資産の金額や数量と、実際の金額や数量が一致しているかを確認する手続きです。

この手続きを通じて、現金や預金の残高、棚卸資産の数量の他、除却済みの固定資産が帳簿に残っていないかなどを確認し、帳簿上の残高と実際の残高を一致させます。もし不一致があった場合には、その原因を究明した上で、差額を損益計算書に計上します。

2)ステップ2(決算調整)

決算で費用として計上する処理(損金経理処理)をしていなければ、税務上で損金に算入できない項目があります。例えば「固定資産の減価償却費」「繰延資産の償却費」「貸倒引当金繰入」「資産の評価損」などが該当し、このような項目を「決算調整項目」といいます。

決算調整項目についてはこのステップで金額を計算し、費用に計上する処理をします。期中の仕訳(日常行われている取引の仕訳)にこの決算調整を加えることで、会計上の利益を確定させます。

3)ステップ3(申告調整)

会計上の収益・費用と税務上の益金・損金は必ずしも一致しません。そこで、「会計上の利益」をスタートとして、ステップ2で確定した会計上の利益から税務上の所得金額(税務上の利益)を算出する手続きをします。

この手続きを「申告調整手続き」といい、申告調整が必要な項目を「申告調整項目」といいます。主な申告調整項目には「役員賞与」「税務上認められる金額を超えて計上した減価償却費」「受取配当金」「延滞税や加算税などの附帯税」などがあります。この申告調整手続きは、法人税の確定申告書(別表)上で行います。

4)ステップ4(税額計算)

申告調整手続きにより計算された所得金額に、税率を乗じて年間の法人税額を計算します。

法人税の税率は、原則として23.2%です。ただし、中小法人資本金が1億円以下の一定の法人)の場合、所得のうち年800万円までの金額は15%に軽減されます。

なお、所得拡大促進税制などの優遇措置(税額控除)が適用できる場合は、このステップで税額控除額を計算し、法人税額から控除します。そして最後に事業年度中に納付した中間納付額を差し引いて、確定申告により最終的に納付すべき法人税の金額が計算されます。

5)ステップ5-1(確定申告書の提出)

ステップ4において法人税の金額を計算後、その法人税の金額などを記載した確定申告書を所轄税務署に提出します。提出期限は、原則として「事業年度終了の日の翌日から2カ月以内」です。例えば、3月末決算の法人の場合は、5月31日が提出期限日となります。ただし、災害その他やむを得ない事情がある場合などは、申告期限を延長することもできます。なお、確定申告書は書面(紙)にて提出する方法の他、電子申告(e-Tax)によって提出する方法もあります。

6)ステップ5-2(法人税の納付)

ステップ5-1により確定申告書を提出するとともに、法人税を納付します。法人税の納付は、納付書を利用して金融機関の窓口で納付する方法や電子納税(インターネットバンキングなどを利用した納税)の他、クレジットカードを利用した納付もできます。

なお、納付期限は確定申告書の提出期限と同様に「事業年度終了の日の翌日から2カ月以内」です。確定申告書の「提出期限」について延長の承認を受けている場合でも、法人税の「納付期限」については延長されません。誤って確定申告書の提出期限(延長された期限)に納付を行った場合、利子税(利息のようなもの)が課されますので注意しましょう。

3 さまざまな申告手続きの違い

1)確定申告

確定申告とは、各ステップによって計算した各事業年度の所得金額や、法人税額を申告・納税する手続きをいいます。ステップ5-1で解説した通り、提出期限は、原則として「事業年度終了の日の翌日から2カ月以内」となりますが、次のようなケースについては、所定の申請書を提出することにより、申告期限を延長することも可能です。

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2)中間申告

事業年度が6カ月を超える法人(前事業年度の法人税額20万円以下の法人を除く)については、事業年度開始の日以後6カ月を経過した日から2カ月以内(3月末決算法人の場合は、11月30日)に「中間申告書」を提出するとともに、「中間法人税」を納付します。一般的な1年決算法人の場合、中間法人税は基本的に前事業年度の法人税の12分の6相当額を納付します。

なお、確定申告書作成時と同様の手続き(上記ステップ1~4)を行った上で中間申告書を作成し、申告・納付を行う方法も認められており、これを「仮決算による中間申告」といいます。もし「前事業年度の法人税の12分の6相当額」より「仮決算による中間申告」を行うことにより中間納付額が少なくなる場合には、「仮決算による中間申告」を選択すると中間納付に係る納税資金が少額で済みます。ただし、手続きが煩雑となる点に注意しましょう。

3)修正申告

過去に行った法人税の確定申告の内容に誤りがあり、法人税を本来の法人税額より「少なく申告」していた場合は、正しい申告書を所轄の税務署長へ再提出し、不足していた法人税額を追加納付しなければなりません。この手続きを「修正申告」といいます。修正申告を行った場合、不足していた法人税額の他、後述する延滞税などの附帯税を併せて納める必要があります。

4)更正の請求

修正申告とは逆に、法人税を本来の法人税額より「多く申告」していた場合には、過大に納付していた法人税額の還付を所轄の税務署長に請求することができます。これを「更正の請求」といいます。

なお、修正申告については、修正申告書の提出とともに、不足していた法人税額を同時に納付する必要がありますが、「更正の請求」については、過大に納付していた法人税が必ず還付されるとは限りません。更正の請求を行った場合、一般的には申告内容の誤りについて証明するような書類の追加提出などが求められ、税務署内で審議した結果、「申告内容に誤りがある」と認められて初めて還付を受けることができます。なお、更正の請求ができるのは、確定申告書の申告期限から5年間である点に注意しましょう。

4 申告・納付が遅れた、または間違った場合の税金

1)延滞税

延滞税とは、法人税の納付が納期限後になってしまった場合や、修正申告により不足していた法人税を追加納税した場合に課されるものです。税率(2024年の場合)は、「納付が遅れた法人税の金額」や「修正申告により追加納付した法人税額」に対して、年2.4%(納期限の翌日から2カ月を経過した日以降は年8.7%)となります。

2)加算税

1.過少申告加算税

過少申告加算税とは、修正申告により追加納税した法人税に対して課されるもので、税率はそれぞれ次の通りになります。

  • 自ら誤りに気が付いて自主的に修正申告を行った場合:過少申告加算税はかかりません
  • 税務調査の予告があった後、税務調査の実施前に修正申告を行った場合:「追加納税した法人税」の5%(追加納税額が当初の申告税額と50万円のいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分については10%)
  • 税務調査の実施後に修正申告を行った場合:「追加納税した法人税」の10%(追加納税額が当初の申告税額と50万円のいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分については15%) 

2.無申告加算税

無申告加算税とは、確定申告書の提出が申告期限を過ぎてしまった場合に課されるもので、税率はそれぞれ次の通りになります。

  • 正当な理由があり、法定申告期限から1月以内に確定申告を行った場合:無申告加算税はかかりません。
  • 税務調査の予告がなく、自ら自主的に確定申告を行った場合:「納付すべき法人税の金額」の5%
  • 税務調査の予告があった後、税務調査の実施前に確定申告を行った場合:「納付すべき法人税の金額」の10%(納付税額のうち50万円超300万円以下の部分は15%、300万円超の部分は25%)
  • 税務調査の実施後に確定申告を行った場合:「納付すべき法人税の金額」の15%(納付税額のうち50万円超300万円以下の部分は20%、300万円超の部分は30%)

なお、過去5年以内に無申告加算税または3.の重加算税を課されたことがあるときは、上記の税率に10%がさらに加算されます。

3.重加算税

重加算税とは、仮装や隠蔽など悪質な申告の誤り(申告漏れや脱税行為など)に係る追加納税額に対して、上記の過少申告加算税や無申告加算税に代えて課される非常に重い加算税です。

税率は、過少申告加算税に代えて課される場合は追加納付税額の35%、無申告加算税に代えて課される場合は追加納付税額の40%となります。

なお、過去5年以内に無申告加算税または重加算税を課されたことがあるときは、追加納付税額の45%(無申告加算税に代えて課される場合は追加納付税額の50%)と、さらに重い加算税が課されます。

以上(2024年3月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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