クラウドソーシングや在籍出向の労務管理のポイントは?

1 「人は欲しいが先行きは心配」な社長へのご提案

人手不足と働き方改革が同時に進む日本では、働き手の確保がますます難しくなりました。一方、先行きが不透明な中で新たに社員を雇用すると、後々の負担になってしまうという心配もあります。「人は欲しいが先行きは心配」、そんな社長にご提案したいことが2つあります。

1つは、

「業務委託」や「在籍出向」など、雇用によらない方法で働き手を確保すること

です。業務委託(この記事では主にクラウドソーシングを紹介)については、仲介業者が数多く存在しており、必要なときだけ随時仕事を依頼したいという会社に向いています。直接雇用ではないので、負担も軽いです。在籍出向は、親会社と子会社などのグループ間で社員を行き来させる制度ですが、こちらも出向期間を決めることで、必要なときだけ働き手を確保できます。

もう1つは、

「副業の解禁」など、働き方の自由度を上げて今いる働き手を会社に定着させること

です。人手不足なのに副業を解禁するというのは矛盾しているように思えますが、働き方改革の視点では、現在雇用している社員が会社から離れていかないための工夫が大切です。それに、御社が副業人材を受け入れることもあるでしょうから、副業について最低限の知識を得ておくことは重要なのです。

以降で、業務委託、在籍出向、副業それぞれの労務管理のポイントを紹介します。

業務委託、在籍出向、副業の労務管理上の違い

2 業務委託

1)概要

業務委託とは、

外部の法人や個人に自社の業務を委託する契約(請負契約や準委任契約)の総称

です。業務委託契約の形態はさまざまですが、ここではその一例として「クラウドソーシング」を紹介します。

クラウドソーシングでは、仕事を受けるフリーランス(個人)と仕事を依頼する会社が、それぞれ仲介業者の運営する人材プラットフォームに登録し、オンライン上で両者がマッチングすることなどにより、業務委託契約が締結されます。契約締結後、フリーランスは会社から依頼された仕事をこなし、会社は仕事に対する報酬をフリーランスに支払います。

クラウドソーシングのイメージ

なお、フリーランスに仕事を頼む場合のルールについては、2024年11月に「フリーランス・事業者間取引適正化等法」が施行されたことで、規制が厳しくなっています。細かい内容については、厚生労働省ウェブサイトのリーフレットなども併せてご確認ください。

■厚生労働省「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法)■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/zaitaku/index_00002.html

2)業務上の指示

業務委託契約では、会社はフリーランスに対し、稼働する場所や時間、業務の進め方などについて具体的な指示を出すことができません。不用意に指示を出すと、フリーランスが労働基準法上の「労働者」とみなされる恐れがあり、その場合、

  • 稼働時間に応じて、時間外労働や休日労働の割増賃金を支払わなければならなくなる
  • 業務委託契約を解消した場合、フリーランスから不当解雇を主張される

などのリスクが生じます。

会社は、業務の進め方について注文があれば、必ずフリーランスと協議し合意を得るようにします。ただし、会社の注文を受けるか否かはフリーランスに決める権利があるので、会社が一方的に命令することはできません。トラブルを防ぎたいのであれば、業務委託契約を結ぶ時点で、業務の内容をできるだけ明確にしておく必要があります。

なお、2024年11月からは、会社がフリーランスに仕事を頼む際、

書面(契約書や発注書)、電磁的方法(メールやSNS)で取引条件を明示することが義務化(口約束はNG)

されています。クラウドソーシングの場合は、仲介業者がフォーマットなどを用意してくれていることも多いですが、注意しましょう。

3)報酬の支払い

会社は、仕事の完成などを確認したら、業務委託契約に基づいてフリーランスに報酬を支払います。クラウドソーシングのように仲介業者を挟む場合、例えば

  1. 会社が仲介業者に対し、フリーランスに支払う分の報酬を預ける
  2. 仕事の完成などの後、会社から預かった報酬を、仲介業者がフリーランスに支払う

といった流れで支払いが行われます。仲介業者は、会社から預かった報酬から、人材プラットフォームの利用料などを差し引いてフリーランスに支払う場合があります。

なお、2024年11月からは、

フリーランスから「給付を受領した日」から起算し、原則60日以内のできる限り短い期間内で報酬の支払期日を定め、期日までに報酬を支払うこと

が義務化されていますので、支払い遅延がないように注意しましょう。「給付を受領した日」とは、フリーランスが仕事を完成させ、納品等を終えた日という意味です。

4)労働時間管理

フリーランスは労働者ではないため、労働時間管理という概念はありません。

そのため、会社はフリーランスに「何時から何時まで働くように」と指示することはできません。万が一こうした指示を出すと、フリーランスが労働者に該当する恐れがあり、「稼働時間に応じて割増賃金を支払わなければならなくなる」などのリスクが出てきます。

5)社会労働保険の適用

社会保険(健康保険・厚生年金保険)と労働保険(雇用保険・労災保険)は、労働者でないフリーランスには原則として適用されません。ただし、フリーランスが個人で国民健康保険に加入したり、エンジニアなど特定の職種に該当する場合に、労災保険に特別加入(会社ではなく特別加入団体の労災保険に加入)したりすることは可能です。

そのため、会社では社会労働保険の実務は基本的に発生しません。ただし、労働災害に関しては、自社の労災保険には加入しなくても、フリーランスの安全や健康が損なわれないよう業務委託契約の内容に配慮したり、自社の社内で作業をする場合に事故などが起きないよう配慮したりする必要があります。

なお、建設業のように労災事故の発生率が高い業種では、フリーランスに仕事を発注する際、労災保険に加入していることを発注の条件にしているケースも多いです。

3 在籍出向

1)概要

在籍出向とは、

社員が出向元(社員を送る側の会社)との労働契約を維持したまま、出向先(社員を受け入れる側の会社)とも労働契約を締結して働くこと

です。基本的には、親会社と子会社などのグループ間で活用される制度です。

在籍出向では、出向元から出向を命じられた社員は、出向先の指揮命令を受けて働きます。出向社員への賃金を出向元が支払う場合、出向先は通常、出向元に出向負担金を支払います。

在籍出向のイメージ

2)業務上の指示

社員に業務上の指示を出せるのは、原則として出向先です。

自社が出向元の場合、社員の業務については、原則として口を出さないようにします。ただし、出向先が出向契約にない業務を命じている場合などは必要に応じて改善を求めます。

自社が出向先の場合、出向契約にない業務を社員に命じる必要があれば、その都度出向元と相談します。

3)賃金の支払い

出向契約により異なりますが、賃金は、出向元が支払うことが多いです。

自社が出向元の場合、出向元が賃金を全額負担するのであれば、賃金支払いの実務は基本的に従前通りです。なお、通常は出向負担金を賃金に補填します。

自社が出向先の場合、出向元が賃金を全額負担するのであれば、特に注意点はありません。

4)労働時間管理

出向契約により異なりますが、労働時間は出向先が管理します。時間外労働や休日労働については、出向先の36協定(労働基準法第36条に基づく労使協定)が適用されます。なお、

出向元が賃金を全額負担するのであれば、出向元も社員の始業・終業時刻や時間外労働や休日労働の時間を把握する必要

があります。

自社が出向元の場合、出向先または社員から、毎月末日など給与計算の締日に勤怠実績(勤怠管理表など)を提出してもらい、それに基づいて賃金を支払います。

自社が出向先の場合、出向中の始業・終業時刻を管理し、社員が自社の36協定に違反しないよう注意します。

5)社会労働保険の適用

社会保険と雇用保険は、出向元が賃金を全額負担するのであれば、出向元で加入します。労災保険は、出向先の労災保険が適用されるのが一般的です。

自社が出向元の場合、社会労働保険の実務は基本的に従前通りです。

自社が出向先の場合、社員が自社で負傷などをしたときは、労災保険関連の手続きを速やかに行います。また、出向元が賃金を支払っている場合でも、労災保険に係る保険料は出向先が納付します。

4 副業

1)概要

副業とは、

社員が本業先(先に社員と労働契約を締結した会社)と副業先(後から社員と労働契約を締結した会社)の両方で仕事をすること

です。副業中は、社員は副業先の指揮命令を受けて働きます。なお、本業先と副業先の間に金銭のやり取りは発生しません。

副業のイメージ

2)業務上の指示

社員の業務の内容は、副業先と社員の労働契約で定めます。副業中における業務上の指示も、副業先が出します。

自社が本業先の場合、副業中の社員の業務については、口を出さないようにします。本業先の経営者が副業先の経営者に対し、「ウチの社員の成長のために、〇〇の方法で業務をやらせてみてくれないか?」といった相談をするような場合も、決定権限はあくまで副業先にあることを忘れてはいけません。

自社が副業先の場合、自社の労働契約や就業規則に基づいて、通常の社員と同じように業務を行わせればいいので、特に注意点はありません。

3)賃金の支払い

賃金は、副業先での労働については副業先が支払います。

自社が本業先の場合、副業先での労働について賃金を支払うことはありません。ただし、社員が本業先と副業先の両方で働く場合、後述の時間外労働のルールを理解して割増賃金を支払う必要があります。

自社が副業先の場合、同じく割増賃金の問題を除けば、特に注意点はありません。

4)労働時間管理

労働時間は、本業先と副業先がそれぞれの就業先での労働時間を管理します。

時間外労働については、社員が1日の間に本業先と副業先の両方で働く場合、両社の労働時間を通算し、法定労働時間(原則として1日8時間、1週40時間)と照らし合わせて判断します。例えば、1日の中で本業先で5時間、副業先で4時間働いた場合

  • 1日の労働時間は通算9時間
  • 時間外労働は1時間(9時間-8時間)

となります。なお、この場合、

時間外労働は原則として労働契約の締結時期が遅い会社で発生したと判断(例外あり)

されます。一般的には、副業先で1時間の時間外労働が発生することになるでしょう。

社員が1日ごとに就業場所を変えている場合は、通常の労働時間管理と同じです。例えば、月曜日に本業先で10時間(副業先での勤務なし)、火曜日に副業先で9時間(本業先での勤務なし)働いた場合、

  • 月曜日については本業先で2時間(10時間-8時間)の時間外労働
  • 火曜日については副業先で1時間(9時間-8時間)の時間外労働

が発生します。

自社が本業先の場合も副業先の場合も、こうした時間外労働のルールに注意して労働時間管理を行いましょう。なお、自社は自社以外の就業場所での労働時間を、社員からの自己申告などによって把握する必要があります。ただ、この点については、

労働基準法の遵守などに支障がなければ、「一定の日数分の労働時間をまとめて申告させる」などの対応でも問題ない

とされています。詳細については厚生労働省のガイドラインをご確認ください。

■厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000192188.html

5)社会労働保険の適用

社会保険の適用要件は、本業先と副業先それぞれにおいて判断されます。社員が本業先と副業先の両方でそれぞれ被保険者要件を満たす場合、

  • 本業先か副業先を「主たる事業所」として選択し、報酬月額を合算し社会保険料を算定
  • 社会保険料は、本業先と副業先の報酬月額に応じて案分

されます。特に、社会保険の適用拡大に伴い、副業先が特定適用事業所に該当している場合等は、短時間勤務であったとしても被保険者要件を満たしているケースも出てきますので、注意する必要があります。

雇用保険は、それぞれの会社において被保険者要件を満たす場合、

賃金額が多いほうの会社で加入

します。ただし、65歳以上で一定の条件を満たす社員に限り、本業先と副業先それぞれで被保険者要件を満たさない場合であっても、本業先と副業先の労働時間を合算して、雇用保険に加入することがあります(原則として、対象となる社員自身が手続きを行います)。

労災保険は、副業中は副業先の労災保険が適用されますが、労災保険給付の支給額については、本業先と副業先の賃金額の合計を基に算定されます。

自社が本業先の場合も副業先の場合も、社員が社会保険の被保険者要件を満たすか、自社以外で雇用保険に加入していないかを確認しましょう。

また、自社が本業先の場合も副業先の場合も、社員が自社で負傷などをしたときは、労災保険関連の手続きを速やかに行います。自社で起きた労働災害でない場合も、社員から事業主の証明を求められる場合がありますので、その際は適切に対応します。

以上(2025年5月更新)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:Mono-Adobe Stock

カーボンクレジットを活用した「地域の脱炭素」から日本の脱炭素の実現へ。圧倒的な深さとスピード感、そして多くの人を巻き込む力。地域金融機関や自治体とのスピード連携の根底にあるのは「自分は黒子。周りを良くする、周りを喜ばせたい」という仕事への姿勢/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回紹介するのは、下村 雄一郎さん(株式会社バイウィル 代表取締役社長)です。

「日本の脱炭素を、カーボンクレジットで真剣に目指す」

と大きな夢を掲げ、着実にしかも迅速に事業を進めている下村さん。

この日本で、カーボンクレジットが環境的にも大きな意味があり、そしてちゃんと経済的にもメリットがあるものとして普及していくようカーボンクレジットの創出と流通に尽力しているわけですが、ポイントの一つは、

自治体や地域金融機関と連携し、地域企業を巻き込んで、「地域を主役」に進めている

ところです。

こうした下村さんたちの取り組みはとても注目されており、日本の林業界では知らない人がいないくらいの林業会社の代表や元環境省事務次官、元金融担当大臣といったそうそうたる顔ぶれが顧問に名を連ねています。

下村さんたちは、地方銀行など日本全国の地域金融機関や自治体、地方のテレビ局などとかなりのスピード感を持って連携してきています。「自分のことよりまず周りのこと。人を喜ばせたい」という下村さんの仕事に取り組む姿勢が、多くの人を惹きつけ巻き込んでいるからこそ、すごい勢いで賛同され、連携がどんどん広がっているのではないかと感じます。

この記事では、下村さんのそうした仕事への姿勢やカーボンクレジットの事例などをお伝えします。新しい年を迎えた今、多くの経営者の方や、地域金融機関の方に、

  • 2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)に向け、継続していける地域の脱炭素活動とはどういうものなのか
  • 人とかかわってビジネスを進めるときに大切なことは何か

などのご参考になりましたら幸いです。

【プレスリリース】経営体制強化のため、顧問7名を招聘(2024年9月)
https://www.bywill.co.jp/news/20240905-2
【プレスリリース】元大和証券 専務取締役の丸尾浩一氏と元日本郵政 専務執行役CCOの早川真崇氏がバイウィルのアドバイザーに就任(2025年4月25日)
https://www.bywill.co.jp/news/20250425

1 バイウィルのパーパスと下村さんのプロフィール

事業開始からたったの2年あまりで、カーボンクレジットについて地方銀行など119のパートナー(2025年5月7日時点)と提携してきた下村さんたちバイウィル。掲げるパーパスは次の通りです。

バイウィルのパーパス

(出所:株式会社バイウィルのコーポレートサイトから抜粋)

注目度も高く快進撃を続けているバイウィルの根底には、「下村さんの描く大きなあるべき姿=夢」「環境的意義に加え、経済的にもメリットがある分かりやすい仕組み」、そして何より「地域が主役」「人のために」といった「下村さんの仕事の姿勢」がありました。

まずは下村さんのプロフィールからご紹介します。

下村さんのプロフィール

(出所:株式会社バイウィル会社紹介・サービス紹介資料より抜粋)

プロフィールからも分かる通り、ビジネスのプロフェッショナルな下村さん。それだけではありません。コンサルティング会社の後「夢ある人を“勝手に”応援する会社」をつくったりするなど、とにかく常に「人のために」の姿勢を貫いている方でもあります。

2 下村さんが注目される理由を紐解くと「姿勢」が見えてきた

下村さんが行っているカーボンクレジットが注目されているのにはさまざまな理由がありますが、ここでは次のような、下村さんの「仕事に取り組む姿勢」に焦点を当ててみたいと思います。

  • 地域が主役、自分たちは黒子に徹する
  • 自分よりも周り。人を喜ばせたい
  • 大義と実利

1)地域が主役、自分たちは黒子に徹する

下村さんがバイウィルの社長になってからは、カーボンクレジットに絞って事業を展開しています。なぜカーボンクレジットを選択したかについて、下村さんは、次のように話しています。

「カーボンクレジットに取り組んだ結果、CO2の削減量などを増やした分が環境価値になり、さらにはそれが経済価値になって、お金として循環するという……。『環境の取り組みそのもの』がサステナブルであってほしい、という願いも込めてカーボンクレジットを選択しました」

意義もあり、かつ、経済的メリットもあるということが、環境の取り組みを継続していくためには重要だと下村さんは繰り返します。

カーボンクレジットを選択した下村さん、

どうせやるならいくとこまでいったるか!

と決めて、大きな夢「日本の脱炭素を、カーボンクレジットで真剣に目指す」を掲げます。「日本の」とはいえ、日本には47都道府県それぞれ地域があります。そこで下村さんは「地域の脱炭素」から日本の脱炭素を実現しようと考えます。ここでも下村さんは大事なキーワードを話しています。

とにかく地元、地域の方々が主役。私たち(バイウィル)は黒子に徹する。そうしたほうが地域の脱炭素は進む

「地域が、地元が主役」を繰り返す下村さん。地域の方々が主役ということは、旗振り役も地域の方々です。地方銀行や自治体が旗振りして自主的に進めていくのを、下村さんたちは後ろで支援する。そういう仕組みやモデルを作って、地方銀行や自治体との連携を増やしてきたといいます。これは、地方銀行や自治体にとっては、本当にうれしい、地域のことを本当に考えている取り組みといえるのではないでしょうか。

こうした「地域が主役、自分たちは黒子」という思いについて、下村さんは、次のように説明してくれました。

「自分がまだ20代、30代だったら『自分たちのサービスや商品が一番』と掲げて世の中に広げていくのかもしれないですし、若いころは、実際にそれに近いことをしていたと思います。

ただ、自分が40代になって色々な方にお世話になって生きてきたからこそ、『やりたいことは日本の脱炭素であり、地域の脱炭素であり、地域にお金が循環する仕組み。その仕組みの中で自分たちが目立つ必要はなく、地域の皆さんが前に立っていただくのがよい』と考えるようになった。そういう、地域の方が主役になるビジネスをつくりたい」

こうした考えを伝えてきたことが、わずか2年足らずで66もの地方銀行や自治体との連携を実現しているのだと思います。

サービス紹介

(出所:株式会社バイウィル会社紹介・サービス紹介資料より抜粋)

また、地域の脱炭素を継続して実現していくために、実際に地方銀行などに利益を出すということも、連携が進んできた理由といえるでしょう。ここも、下村さんの「自分は黒子として働き、周り、相手(地方銀行など)を喜ばせたい」という姿勢が貫かれているように思えます。

2)自分よりも周り。人を喜ばせたい

バイウィルでカーボンクレジットを手掛けているから、ということではなく、下村さんは、「自分よりも周りの人がよくなるように。人を立てる。人を喜ばせたい。人のために」という姿勢を、もっと前から持っていて、ずっとその姿勢で仕事に取り組んでいると思います。

ご自分からはお話になりませんが、下村さんは、以前のコンサル会社時代にもそういうことをやってきています。当時、コンサル会社における関西の責任者として、全く縁もゆかりもない関西エリアに一人で乗り込んで来た下村さん。にもかかわらず、当時、地方銀行(コンサル時代も地方銀行とはかかわっていました)と徹底的に黒子の立場で、ほとんど常駐くらいの勢いで現場に入っていました。自分は黒子に徹して、銀行(相手、かかわった人)と真摯に向き合って喜ばせるという下村さんの姿勢は、当時からとてもあったように思います。

コンサル会社の最後の2年9カ月、下村さんはメガバンクに出向しており、法人戦略部で銀行内部のことにも取り組んでいました。そこでも、ものすごくたくさんの方から慕われて頼りにされ、「(銀行に)残ってほしい」と盛んに言われていました。昔から「自分よりも周りの方々が良くなるようにする」という姿勢だった下村さん。こういう仕事の姿勢があるので、今、まさに全国の多くの地方銀行が賛同しているという素晴らしい結果につながっているのではないでしょうか。

「自分よりも周りに良くなってほしい、喜んでほしい」という姿勢の理由を聞いてみると、「自分ではなく周りの方がすごい方が多かったので。そういう方々と接して、そういう方々に憧れていくうちに、唯我独尊のようなビジネスをしたいとは全く思わなくなりました」という答えが返ってくる下村さんです。

3)大義と実利

2年あまりという短期間で多くの連携先を獲得している下村さんたちですが、特に一般的には時間がかかりそうな地域金融機関と数多く連携していることを考えると、圧倒的なスピード感です。

なぜここまで地域金融機関の賛同を得ているのか。下村さんは、「大義と実利」という言葉を地域金融機関に対してずっと言ってきたと語ります。

「地域金融機関さんからよく伺っていたのは、やはり、『地元のため、ということから逃れられない』ということです。それならば、地域の脱炭素というのは、地元に対する『大義』として掲げられる。金融庁も求めているとなると、『大義』はとても立ちやすいです。

一方、『大義』が立っても『実利』が無ければ、金融機関としては動けない。この場合の『実利』は、カーボンクレジットの発行です。発行して流通に回すと、そこに差益が生まれますので、そこを銀行さんに取っていただく。

ですので、例えば、その県のカーボンニュートラルを、その地方銀行さん主導で進めていただくのが大義。実利は実際にカーボンクレジットを発行・流通させた際の差益。こうして『大義』と『実利』を絡めながら、地域金融機関さんにお話させていただきました。

(連携を進めるのは)それでも難しいところはありましたが、ご縁がつながったり、ハブになってくださった金融機関さんがあったりしましたので、それと、やはり大義と実利。これを丁寧にお伝えしながらここまで来られたと思います」

ここにも、「地域金融機関を喜ばせたい、地域金融機関のためになることは何かを考える」という下村さんの気持ち、そしてそれを伝え実践し続ける真っ直ぐさ、あたたかさを感じます。これが地域金融機関に伝わっているからこそ、これほど多く賛同を得ているのだと思います。

3 今取り組んでいる事例と、顧問団の話

下村さんたちが今取り組んでいることや、2024年9月と2025年4月にリリースした顧問の方々について聞いてみました。

1)地域脱炭素推進コンソーシアム

地域金融機関や自治体、地方のテレビ局など、連携先を増やしているバイウィルは、2025年にはなんと、70~80くらいの自治体と連携協定する予定だそうです。こうした自治体との連携協定においても、「自治体とバイウィルではなく、地域金融機関に入ってもらうことに意義がある」と言う下村さんです。

また、バイウィルでは、「地域脱炭素推進コンソーシアム」も設立しています。カーボンクレジットについてまだまだ不明確な法的、会計的、税務的部分などについて地域金融機関と一緒にワーキンググループを立ち上げて、地域に脱炭素が浸透していくような取り組みを進めています。

地域脱炭素推進コンソーシアム

(出所:株式会社バイウィル会社紹介・サービス紹介資料より抜粋)

2)地域の脱炭素活動の取り組み事例

バイウィルでは、北は稚内(わっかない)から、南は屋久島(やくしま)まで、地域の脱炭素活動を行っています。

下村さんが「地域の脱炭素活動」をもう少し開いて説明してくださったのが次の内容です。

「例えば、自治体では『ゼロカーボンシティ』という、自治体参加でCO2排出量をゼロにしようという動きがすでに行われています。それに対して環境省なども補助金を出したりしている。ただ、どうしても体制などの問題でうまくいかないことがあります。そうしたときに、例えばこのカーボンクレジットは、『自分たちが持っている財産価値(森を持っていたり、電気をすべてLEDにしていたり)をまず、ちゃんと価値化しよう』というものです」

具体的な例として挙がったのは、バイウィルの連携先である中部圏の地域の事例です。

その地域では、まず市(自治体)が率先してLEDに変えた効果をクレジット化しようとしています。商工会議所と地元の地方銀行とで地元の企業に対してセミナーを開催し、「市も脱炭素の取り組みを行ってそれを価値に変えたので、地元の企業さんたちも一緒にやりましょう!」と呼びかけようとしています。

また、この市の場合、クレジットを買ってくれる側の大企業もあるのが大きな特徴です。

つまり、市がハブとなり、地元企業を巻き込んでクレジット化して価値を創出しようとしていたり、クレジットを買ってくれる側の地元の大企業も巻き込んで流通に回そうとしていたりしているのです。このとき、地元企業とつながりがある地元の地方銀行は、地域の現場で地元企業と連携を取り地域の流通に回す、ということをしています。

このような、自治体、地域金融機関、地元企業を巻き込んだ動きをしているのが、下村さんたちの地域の脱炭素活動の事例です。

なお、下村さんいわく、こうした地域の脱炭素事例は、地域ごとに特徴がいろいろあるそうです。例えば鹿児島だったら牛・豚系のメタンに注目しているとか、静岡だったらお茶に注目しているなど。地域特性を活かしながら、自治体や地方銀行に、自分たちで率先して創出し、流通に回すという仕組みをつくってもらいつつ進めているといいます。自治体も地方銀行も地元企業も巻き込みつつ、こうした地に足の着いたオペレーションに落とし込んでいるというのは、なかなか他にはないことで、他では実現しにくいのではないかと思います。

どうしてここまで、自治体と地方銀行が動けるのか、その理由は、

「分かりやすさと、大義と実利にこだわっているから。分かりやすくして、大義もあってお金にもなりますよ、というところがあるからです」

という下村さん。

「例えば、先ほど例に挙げた市の場合は、『LED化した人、この指とまれ』と言っているだけです。難しいこと、複雑なことをやろうとしているわけでは全くありません。

現場で地元企業と接する銀行の営業担当者にも、『地元企業の方に対して営業する必要はありません。LEDについて、この質問とこの質問だけしてください』というものを定めているんです」

この分かりやすさ、現場での取り組みやすさ、動きやすさ。これもすべて、周りをよくしたいという下村さんの気持ちが細部にまでも表れているということではないでしょうか。

バイウィルには、メンバーとして銀行出身者やメーカーの営業出身者がいて、ひたすら全国各地を回り、そこで得た情報を定期的に情報交換して地域ごとのプランとモデルをつくる、そしてそれを持ってまたひたすら全国を回る、ということを繰り返しているのも大きな強み、スピーディさの一因です。

3)そうそうたる顧問の方々

この記事の冒頭でもご紹介しましたが、バイウィルには、2024年9月、2025年4月にプレスリリースしたそうそうたる顧問団、アドバイザーの方々がいます。

例えば、林業の世界ではおそらく誰もが知っている林業の大家、速水林業の9代目代表の速水亨さんがおられます。速水さんは、森林認証システム「FSC認証」を日本で普及させて山の価値を高めていこうという活動を進めています。

下村さん曰く、速水さんは「山の持ち主、林家の方々にお金が戻ってくる仕組みがあるのであれば、それを広めて山の価値を高めていくことに活かしたい」ということで、日本の林業の未来のために、顧問として参画してくださっているそうです。

また、元環境省事務次官の中井徳太郎さんは、日本製鉄の顧問もされています。中井さんは環境省時代から地域内で価値と経済が循環することを考えてこられました。中井さんは、バイウィルには大義があり、その大義が世の中のためになるということで応援したいと参画してくださっているそうです。

顧問の方々のプロフィールなどは、こちらからご確認いただけます。

https://www.bywill.co.jp/advisor

4 今後について

下村さん曰く、バイウィルは今後、次のように進化していく方針です。

今後について

(出所:株式会社バイウィル会社紹介・サービス紹介資料より抜粋)

「いかに脱炭素の取り組みが進んでいくのかという創出側と、お金に換えられる流通側、この両方をもっともっと進めていかなければならないと思っています。

今まで進めてきたのは、(上記)資料の1-1、いわば『気づかれていなかった脱炭素の取り組みを価値化すること、誰かがやったこと』。そして今は、1-2、『我々が直接かかわって、脱炭素の取り組みを加速させていく』ことを行っています。

2-1では『作られた価値は金融機関を通して価値に代わり、流通に回す』ということを行ってきました。今後は、2-2の『大企業などをもっと巻き込み、先行投資してその結果得たクレジットを分配する』という仕組みも作っていきたいです。

また、2-3の『我々が流通プラットフォームを作り、情報を細分化、リッチに(森なら森、生物多様性ならその分野など)しながら個別の価値をつくり、その取り組みから生まれたクレジットを買う理由を作っていく』ということも進めていきます。

例えばのイメージですが、畜産分野でいうと私たちがメタンガスを発酵させる機械を買って地域に設置する。そうすると地域の方々の手間も減るし、CO2の発生も抑えられるし、価値に変わる。私たちバイウィルが実際に協力することで取り組みが加速する。こうして、いかに脱炭素の取り組みが加速するか(資料の向かって左側)、いかに価値に変わるか(資料の向かって右側)の2つを、地域の皆さんと協力して作っていく。これが、今後取り組んでいきたいことです」

「今後」と言いつつも、下村さんにさらに伺うと、なにかものすごいスピードで既に動いていることが分かります。例えば、

  • 資料の2-2は事例ができたので普及させるターン
  • 左側の1-1はもうやっている
  • 1-2はまず林業から進めていくことは決めている、具体的なテーマももう決まる
  • 1-3については、省が関わったり法整備が必要だったりするので明確な時期が未定ではあるものの2年以内には新しい枠組みを国と作っていきたい

とのことです!

圧倒的なスピード感と深さ、全社的な行動力。その根底にある下村さんの「人のために。周りを喜ばせたい、良くしたい」という仕事への姿勢。脱炭素の世界に、ものすごい方が表れたと感じます。2025年、さらに地域の脱炭素活動が大きく進化していきそうです。

下村さん、たくさんのお話を本当に有り難うございます!

以上(2025年5月作成)

環境保全と安全運転(2025/6号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

6月は環境省が「環境月間」※とし、みんなで環境のことを考えようと様々な行事や取り組みが行われます。自動車と環境保全の関係では、まずエコドライブが思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。今号では、環境保全の観点から安全運転について考えます。

環境保全と安全運転

※環境省「環境の日&環境月間」https://www.env.go.jp/guide/envmonth (2025.5.7閲覧)

1 エコドライブに取り組もう

環境に配慮した自動車利用「エコドライブ」は、燃料の節約やCO2排出量の削減に有効です。環境省による「エコドライブ10のすすめ」では以下の取組が推奨されています。

燃費を把握

1)自分の燃費を把握しよう

日々の燃費を把握すると、自分のエコドライブ効果が実感できます

eスタート

2)ふんわりアクセル「eスタート」

やさしい発進(最初の5秒で時速20km程度が目安)を心掛けると燃費改善(10%程度)

車間距離にゆとり

3)車間距離にゆとりをもって、加速・減速の少ない運転

車間距離が短くなると、ムダな加速・減速の機会が多くなり、燃費が悪化(市街地で2%程度、郊外では6%程度)

減速時は早めにアクセルを離そう

4)減速時は早めにアクセルを離そう

これによりエンジンブレーキが作動し、燃費が改善(2%程度)

エアコンの使用は適切に

5)エアコンの使用は適切に

冷房の場合は車内を冷やしすぎないように。例えば車内の温度設定を外気と同じ25℃の設定でエアコンをONしたままだと燃費が悪化(12%程度)

ムダなアイドリングはやめよう

6)ムダなアイドリングはやめよう

10分間のアイドリング(エアコンOFFの場合)で、130cc程度の燃料を消費

渋滞を避け、余裕をもって出発しよう

7)渋滞を避け、余裕をもって出発しよう

出発前に、渋滞・交通規制などの道路交通情報や、地図・カーナビなどを活用して、行き先やルートをあらかじめ確認しましょう

タイヤの空気圧から始める点検・整備

8)タイヤの空気圧から始める点検・整備

空気圧が適正値より不足すると、燃費が悪化(市街地で2%程度、郊外で4%程度)(適正値より50kPa(0.5kg/cm2)不足時)

不要な荷物はおろそう

9)不要な荷物はおろそう

例えば100kgの荷物を載せて走ると燃費が悪化(3%程度)。スキーキャリアなどの外装品による空気抵抗も燃費に影響

走行の妨げとなる駐車はやめよう

10)走行の妨げとなる駐車はやめよう

交差点付近などの交通の妨げになる場所での駐車は、渋滞をもたらします

2 カーエアコンの「フィルター」点検

エアコンのフィルター、きちんと交換していますか?交換の目安は、一般的に1年に1回、または走行距離1万~2万kmとされています。フィルターを交換しないままでいると目詰まりを起こし、エアコンの効きが悪くなってしまいます。そうなるとエンジンが余分な力を使うようになり、燃費が悪化する原因にもなります。

さらに、エアコンの性能低下によってフロントガラスの曇りが取れにくくなり、視界不良から安全運転に支障をきたす恐れもあります。

フィルター点検

湿度の高くなる6月はフィルターにカビが発生する場合もあり、これは悪臭の原因となります。車内環境を清潔に保つためにも、この機会にエアコンのフィルターを点検してみましょう。難しい場合は整備業者に相談しましょう。

3 タイヤの摩耗とエコドライブ

車が走行し続けることでタイヤは摩耗していきますが、それにより生じる粉じんは、大気汚染やマイクロプラスチックとして海洋汚染につながる可能性があります。

日本自動車タイヤ協会によると、国内大手4社が製造するタイヤ摩耗量は乗用車用タイヤで2005年から2020年の15年間で16.6%減少、トラック・バス用タイヤでは2008年から2018年の10年間で9.7%減少したそうです。その背景には損傷しにくい新素材の開発や、接地面のデザインの工夫・改良などメーカーによる努力の積み重ねがあります。

タイヤの摩耗とエコドライブ

出典:JATMAホームページ「TRWP提言の取り組み」
https://www.jatma.or.jp/environment_recycle/trwpreductioninitiatives.html

一方で、車の重さに加えアクセルやブレーキの操作の良し悪しもタイヤの摩耗を左右します。急加速や急減速が多く乱暴な運転ほどタイヤはすり減りやすくなります。穏やかな運転は安全、燃費の面だけでなく、粉じんのリスクを抑える意味でも環境に優しいエコドライブに繋がります。

「環境月間」の6月、環境保全と安全運転について考えてみてはいかがでしょうか

以上(2025年6月)

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味の素創業者 二代鈴木三郎助の「一人勝ちしない」経営哲学

「四海兄弟(しかいけいてい)」

二代 鈴木三郎助(すずきさぶろうすけ)氏は、味の素の創業者です。同社からは代表商品「味の素」の他、ほんだし、コンソメなど、食卓に欠かせない調味料や食品が数多く発売されています。

冒頭の言葉は、鈴木氏が大切にし、書にもしたためたもの。「人に対して敬う気持ちを持って礼を忘れず接すれば、世界中の人と兄弟になれる」という、『論語』からの引用です。鈴木氏は、「涙もろくて、人間が大好き。商売に向いていない」と評された人物で、ビジネスで交渉をする際も、常に相手を立てることを忘れませんでした。一方で、絶対に自社が不利にならず損をしない条件を取り付けるという、したたかな一面もありました。

例えば、鈴木氏は若い頃、海岸に打ち上げられるカジメ(海藻の一種)を加工し、ヨードの原料として販売していました。しかし、房総半島に工場を建ててまもなく、ライバル会社の営業部長で、のちに昭和電工の総帥となる森矗昶(もりのぶてる)氏が、高値でカジメを買い集め、「房総戦争」と呼ばれる騒ぎに発展してしまいます。

ですが、鈴木氏は「日本人同士でケンカをするなんてつまらない」と、縄張り争いをするどころか、自社の工場を相手会社に売却します。ただし、その代わりに「工場相当額の株券譲渡」と「相手会社の重役への自社社員の派遣」という条件を取り付けました。森氏に花を持たせつつ、相手会社と協力して業界シェアを獲得する道を探ったわけです。

また、味の素の原料となる「グルタミン酸ナトリウム」の特許を巡る交渉でも、鈴木氏はその才覚を発揮しました。当時、池田菊苗(いけだきくなえ)博士によって発見されたばかりのグルタミン酸ナトリウムには、当時最大の財閥・三井物産が目をつけていました。

そこで、鈴木氏は博士に「特許を買い取るのではなく、共同経営をやりたい。売上の3%を差し上げる」と伝えました。売れるかどうかも分からない状況で、これは破格の条件であり、結果、鈴木氏は三井物産に先んじて博士を口説き落とすことに成功したのです。

交渉の場において、「一人勝ちをしないこと」は現代においても大切なポイントです。自社の利益を考えるのは経営者なら当然ですが、相手にこちらの条件を一方的にのませるだけでは、その後良い関係を築くことは望めません。鈴木氏がさまざまな交渉相手とWin-Winの関係を実現できたのは、冒頭の言葉の通り、彼が交渉相手に対する敬意を払うことを忘れなかったからでしょう。その上で両者にとって利益のある道を本気で探ろうとする人物だからこそ、さまざまな人が鈴木氏を好きになり、その話に耳を傾けたのです。

実際、「房総戦争」の交渉相手である森氏と鈴木氏は、生涯の友人であり続けたそうです。鈴木氏にとって「四海兄弟」はただの理想ではなく、彼自身の生きざまだったのかもしれません。

出典:「レット・ミ―・イントロデュース・マイセルフ!」(味の素株式会社Webサイト)

以上(2025年5月作成)

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社員ががんを告白……会社がすべき最適なサポートとは?

1 がんになった社員の約7割が、仕事を続けている

2人に1人が「がん」になる時代。誰にとっても無縁の病気ではありません。厚生労働省の委託事業「がん対策推進企業アクション」が中小企業を対象に実施した調査によると、がんになった社員がいると回答した会社は32.0%に上ります。一方、注目すべきは、

がんになっても68.0%の社員は、勤務を継続している(休職中を含む)

という点です。

がんになった社員の数と就労状況(2024年)

がんは重い病気ですが、医療技術の進歩により、仕事を続けながら治療することもある程度可能になりました。そこで、この記事では、がんになっても仕事を続けたいと望む社員のために、会社が社員の「治療」と「仕事」を両立できるように支援する方法を紹介します。

2 社員の不安に寄り添うことが大切

1)治療と仕事の両立のために望むこと

東京都の調査によると、治療と仕事の両立に当たって、がんになった社員は職場に次のようなことを求めています。

両立支援のため、職場に求めること

2)がんになった社員の不安に寄り添った支援を

がん治療の大まかな流れは、

がん発見 → 通院治療もしくは入院・手術 → 自宅療養(通院治療・経過観察) → 職場復帰(通院治療・経過観察)

となりますが、その過程で、社員の不安と会社が行うべき支援は変わります。図表3は「社員の不安」と「会社の支援」の関係をイメージしたものです。会社は、

社員の不安に寄り添い、その解決に必要な支援を都度検討することが大切

です。

「社員の不安」と「会社の支援」の関係

次章では「会社の支援」について、実務上のポイントを紹介していきます。

3 会社が支援を行う際のポイント

1)病状を確認

社員からがんであるとの申告があった場合、

現在の健康状態、手術の有無を含めた治療スケジュール・治療方針などを確認

します。

がんは進行度合いや治療方法などによって病状が大きく異なります。例えば、抗がん剤の影響で、気分が優れない時間があったり、注意力が散漫になったりする場合もあります。そこで、

  • 従来通りの勤務が可能なのか、通勤に支障がないか、業務上、配慮を要することなど、会社が喫緊に対応すべき事項を確認
  • 手術などによって、休職する可能性があるのかを確認

します。

2)休暇や勤務形態を相談

社員には手術や通院などが必要になります。社員と相談して、休みの見込み日数や、勤務形態などを確認します。

厚生労働省によると、がん(悪性新生物、腫瘍)で入院した患者の平均在院日数は、全体で14.4日となっています。

がんで入院した患者の平均在院日数

通院治療の日数については具体的な数値は示されていませんが、例えば、

  • 化学療法(抗がん剤治療):1~2週間程度の周期で治療を行うことが多い
  • 放射線治療:1週間に5日の治療を数週間にわたって行うことが多い

など、治療法や患者の状況に応じて相応の時間を要するようです(厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」)。

社員が休む場合、年次有給休暇も使えますが、治療が長引くと日数が足りなくなるので、「病気休暇」を設けるのもよいでしょう。病気休暇とは、

社員が業務外の私傷病によって就労できない場合に付与する休暇

で、会社が就業規則などで独自に定めます(有給にするか無給にするかは、会社の自由)。長期間働けないなら休職させるのも1つの方法ですが、「仕事をしつつ、定期的に休んで治療を受けたい」という場合、病気休暇のほうが対応しやすいかもしれません。この他、時短勤務やテレワークなどのニーズについても確認するとよいでしょう。

3)金銭的な負担への配慮

図表5は、厚生労働省の調査を基に、がん(悪性新生物、腫瘍)治療の平均費用を試算したものです。入院する場合、どの部位も治療費が平均6万円を超え、さらに食事・生活療養費が別途発生します。

がん(悪性新生物、腫瘍)治療の平均費用

がんになった社員は自分の病状もそうですが、こうした金銭的な負担にも不安を抱えています。ただ、治療費の負担を軽減できる支援制度もいくつかあるので、例えば図表6のような情報を社員に提供してあげると、少しは不安が和らぐかもしれません。

金銭的な負担を軽減する支援制度の例

4)周囲の社員への説明

社員の中には、上司や同僚にがんであることを伝えたくないという人もいます。個人情報保護の観点からも、本人の同意なく、他の社員に病名を伝えることは避けなければなりません。

とはいえ、周囲の社員の理解なくして仕事と治療の両立は難しいため、どの程度、病気について説明するかなどを相談しておきます。例えば、病名を明らかにしないものの、

「病気で手術が必要になるため、しばらく休暇を取得する」「手術後は重いものを運ぶのが難しくなる」など、病状の一部や、従来通りの働き方が難しくなること

を伝えます。

5)業務分担の確認

周囲の社員が業務を代替できるような体制にしておきましょう。具体的には、担当している業務を洗い出し、業務マニュアルを作成します。

社内に既存の業務マニュアルのフォーマットがない場合は、業務マニュアル作成ソフトの利用を検討してみましょう。用意されたフォーマットに必要事項を記入したり、スマートフォンで手順を撮影した動画をアップしたりすることができます。

6)復帰後の計画の相談

社員から復帰のめどについて連絡があったら、復帰後の計画を相談します。その際、主治医に意見書を提出してもらうと、復帰の可否や就業上必要な配慮が明らかになります。

守秘義務があるため、会社が本人の同意を得て主治医の意見を聴取するか、本人を通じて主治医に意見書を提出してもらうなどしてもらいます。確認すべき点は、

  • 現在の病状
  • 復帰の可否と配慮や禁止事項
  • 勤務時間・職場環境・病状に影響する作業や通勤方法
  • 今後の見通し
  • 日常で気を付けるべき事項

などです。厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」では、意見書を求める際の様式例を掲載しているので、参考になります。

■厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000115267.html

7)復帰後のフォロー

いざ復帰してみると、想定した以上に負担が大きく、予定通りに勤務できなかったり、周囲の社員に遠慮して無理をしてしまったりすることがあります。一方、経過が良好にもかかわらず、周囲がいつまでも過度に気を使って業務の負担を減らそうとすることで、本人が仕事にやりがいを感じられず、不満や悩みを抱いてしまうこともあります。

復帰後1カ月目は週に1回、2カ月目以降は2週に1回など、定期的に面談の時間を設けるなどして、勤務の負担感や安全面での不安など、困り事がないかを確認します。

また、本人だけでなく、支援する周囲の社員とも面談の機会を設けます。特に、直属の上長の不安や負担は大きいものです。周囲の社員の様子とともに、上長の状況なども確認し、必要があれば業務分担の配分を変更し、メンタル面でのフォローを行うようにします。

以上(2025年5月更新)

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「大学×企業の可能性を広げる」近畿大学リエゾンセンターに聞く産学連携の今と未来(1)

令和4年3月24日、近畿大学と徳島大正銀行は「産学連携包括契約」を締結しました。

産学連携・交流を円滑に推進するための組織が近畿大学リエゾンセンター(KLC)です。

「とくぎんサクセスクラブnavi」(とくさくnavi)では、KLCのコーディネーター武田和也さんへのインタビューを3回連載でお届けします。産学連携の『今』、地域企業とのつながり方や未来の可能性に迫ります。

【第1回】

第1回では、近畿大学リエゾンセンターの設立背景や役割、特徴について詳しく伺いました。企業と大学を繋ぐ「架け橋」のリアルな現場をお届けします。

―近畿大学リエゾンセンター(KLC)の設立背景や目的についてお聞かせください。

KLCは2000年2月に設立されました。1971年近畿大学では、「近畿大学公害研究所」を設立し、日本の高度成長期に発生していた健康問題や環境破壊など、数多くの社会問題の研究が行われていました。1981年には「近畿大学環境科学研究所」を設立、そして1998年にTLO法(技術移転促進法)が制定されました。

地域の研究機関や大学が特許化したものを有効活用していこうとなったわけです。それまでは大学が産学連携を行うことはいいイメージを持たれていませんでした。海外は先行して大学で作られた知財を使って商業化し、社会へ還元していく動きが活発にありました。日本でもTLO法の制定により、大学で眠ったままになっている知財を外に出していこう、大学の持っている研究力で企業のお困りごとを解決していこうという機運が高まりました。そして外部からのご相談を受ける機関としてKLCが設立されました。

―「企業と大学をつなぐ」仕組みについてお聞かせください。

まずは企業からお困りごとの連絡を受けます。新聞記事をみた、インターネットで調べた、こんな研究をしているならうちの相談にのってよ、と様々なきっかけでご相談をいただきますね。金融機関からの紹介も、最近とても多くなっています。

そしてKLCに所属しているコーディネーターがお困りごとの内容を見て、このご相談ならあの学部のあの先生だろう、とあたりをつけて面談をしてもらいます。面談がうまくいけば共同研究につながっていく。このような流れで企業と大学をお繋ぎしています。

―まさに企業と大学を繋ぐ「架け橋」の存在ですね。コーディネーターの皆さんの活動や役割についてお聞かせください。

コーディネーターは、企業から相談を受けて企業と大学をお繋ぎした時に教員のサポートをしています。面談中に話のネタになっているデータを調べて提示したり、制度を見せたり、話し合いがスムーズに進むようお手伝いしています。

また、面談がうまくいくと共同研究に進みますが、共同研究の契約もコーディネーターが担当します。企業の契約担当者とやりとりをして契約書をかためていく作業になります。契約書を締結して研究へ繋がった後は、研究そのものは先生と企業が直接やりとりしますが、研究の結果、良いデータが出たので知財を出したい、となった時はまたコーディネーターの出番です。企業の知財担当者とコーディネーターが連携し、特許の中身や、どこの特許事務所に出すのか、また、いつごろ出すのか、などの期限管理も行っています。特許、商標、意匠などを企業と一緒に出願し、管理もコーディネーターが担っているのです。

インタビューに答えてくださるコーディネーターの武田和也さん

―コーディネーターの皆さんはどのようなご経歴の方がいらっしゃるんでしょうか。

コーディネーターは企業出身者が多いですね。企業で勤めていて、産学連携分野に興味がわいてKLCに来る方が多いです。企業で知財関連の仕事をしていた方もいます。企業にいたコーディネーターは企業目線で企業側にも立てるのでとてもいいメリットになっています。

私自身は特殊な経歴で、もともとは航空宇宙に関連するレーザー応用分野の研究を行っており、近畿大学で学位を取得しました。博士後期課程を修了後、近大での非常勤、NEDOフェローを経てコーディネーターとなりました。KLC歴は私が一番長いですね。

KLCのコーディネーターの皆さん

―多岐にわたるご経歴を持つコーディネーターさん方だからこそ、さまざまなご相談に対応できるんですね。他の大学との違いや、近畿大学ならではの特徴を教えてください。

近畿大学では、中小企業との連携が非常に多いですね。商品化の数も非常に多いです。文部科学省の調査結果でも、令和5年度において受託研究の数が国公私立あわせて8年連続日本一でした。一方で、受託研究の際にもらった研究費の額はそんなに高くありません。ということは一件あたりの費用が少ないんです。近畿大学では中小企業との連携に力を入れているため、研究費の下限を設けていません。研究費は大学の教員の人件費は入っておらず、消耗品代や、学生が動く場合は交通費、学会発表する場合は学会の経費とかかるお金だけになっております。そのため中小企業からも申し込みしやすいと思います。

また、近畿大学は私立では珍しく農学部があるので、農学部の研究を利用した相談も増えています。学部数が多いため、幅広くご相談に対応できるのも強みです。

次回は実際に企業と行われた産学連携の事例を中心に紹介します。
近畿大学産学連携についてのご相談は、お取引のある営業店にお問合せください。または、とくぎんサクセスクラブnaviのお問合せフォームからご連絡ください。

以上(2025年5月作成)

画像:近畿大学リエゾンセンター

『夕暮市場 IN 徳島総合流通センター』開催!


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5/28(水)徳島総合流通センター(徳島県徳島市川内町)にて「夕暮市場IN徳島総合流通センター」を開催いたします!

ご家族・ご友人をお誘い合わせの上、ぜひお越しください。

【開催概要】

  • 日時 2025年5月28日(水)16:00~19:00
  • 場所 協同組合徳島総合流通センター 共同駐車場(西)
  • 主催 ANANシビックプライド/協同組合徳島総合流通センター
  • 協力 徳島大正銀行

以上(2025年5月作成)

求人サイト利用時のトラブル

人材を採用するにあたって、雇用仲介事業者が運営する「求人サイト」を利用するケースも多いと思います。しかし、一部の求人サイトを巡ってトラブルが発生していることから、厚生労働省が注意を呼び掛けています。また、トラブルを防ぐため、厚生労働省は職業安定法に基づく指針を改正し、今年4月1日に施行しました。本稿では、求人サイトを巡る主なトラブル事例や対処法をお伝えします。

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求人サイト利用時のトラブル

人材を採用するにあたって、雇用仲介事業者が運営する「求人サイト」を利用するケースも多いと思います。しかし、一部の求人サイトを巡ってトラブルが発生していることから、厚生労働省が注意を呼び掛けています。また、トラブルを防ぐため、厚生労働省は職業安定法に基づく指針を改正し、今年4月1日に施行しました。本稿では、求人サイトを巡る主なトラブル事例や対処法をお伝えします。

1 複数の料金請求

求人サイト(雇用仲介事業者)の多くは、求人者からサービス利用料金(情報提供代金)を取ります。人材の採用が決まった後に、成功報酬として請求するのが一般的です。「成功報酬型の募集情報等提供事業者」と呼ばれ、次のようなトラブルが発生しています。

労働者の採用を仲介した雇用仲介事業者を正しく把握しましょう

※厚生労働省リーフレット「求人者の皆さまへ 労働者の採用を仲介した雇用仲介事業者を正しく把握しましょう」より

求人者Cは、雇用仲介事業者Aが運営する求人サイトに無料登録し、求職者に関する情報をもらい、求職者Dの採用が決まりました。求人者Cは、雇用関係が成立したので、利用料金を雇用仲介事業者Aに支払いました。しかし、求人者Cは雇用仲介事業者Bからも、利用料金の支払いを求められました。求人者Cは、採用決定と直接関係ない雇用仲介事業者Bからの請求に納得がいきません。

原因は、求職者Dが雇用仲介事業者A、Bの両方に登録し、Bにも採用決定の報告を行ったためです。その結果、Bからも求人者Cに利用料金の請求が届いたのです。

このトラブルの背景には、採用決定後、雇用仲介事業者が求職者に「就職のお祝い」として金銭やギフト券を渡すサービスがあります。求職者は、この金銭やギフト券を受け取りたくて、登録した複数の雇用仲介事業者に採用決定の報告をするのです。このため、厚生労働省は今年4月1日施行の改正指針で、募集情報等提供事業者による労働者への金銭等提供を、原則禁止しました。

2 利用時の注意点

人材を採用したい中小企業が、複数の成功報酬型サービス事業者を利用するケースもあります。その場合にトラブルを避けるには、採用する労働者について、次の点を整理し、記録しておくことが欠かせません。

  • ✓ どの事業者のサービスを通じて面接に至ったのか
  • ✓ 当該労働者と連絡や面接を行った日時や内容
  • ✓ 採否結果の連絡方法・日時
  • ✓ 事業者への成功報酬の支払日 など

別の成功報酬型サービス事業者から請求を受けた場合に、この記録を見せ、「御社から提供してもらった求職者の情報は、今回の採用とは直接関係がない」と説明するとよいでしょう。

また、成功報酬型サービスの契約時には、次の点を必ず確認してください。

  • ✓ 労働者を採用したときの事業者への報告(その期限や方法を含む)
  • ✓ 労働者との連絡方法(連絡手段に関する制限の有無など)
  • ✓ 情報提供を受けた労働者を他の機関経由等で採用した場合の扱い(この場合にも料金の支払いを求める定めはあるか、その内容はどのようなものか)
  • ✓ 違約金について(どのような場合に違約金が発生するか、内容・金額)
  • ✓ 返戻金について(早期退職の場合に、支払った料金の一部が返金される定めはあるか、対象となる期間や返戻率)
  • ✓ 契約主体(求人事業所のみに適用される契約なのか、法人全体に適用される契約なのか)

最後の「契約主体」もよく調べてください。契約主体を巡っては、求人者と求職者のマッチングを行う「職業紹介事業者」でトラブルが起きています。ある企業の一つの事業所で、職業紹介事業者から紹介された人材を不採用とした後、同じ企業の別の事業所が、そのことを知らずにこの人材を直接採用したところ、紹介手数料を請求されました。

※チェック項目は、厚生労働省リーフレット「求人者の皆さまへ 民間人材サービス(職業紹介、募集情報等提供)を利用する際の留意点」を参考に作成

3 さいごに

今年4月1日の改正指針で、募集情報等提供事業者や職業紹介事業者には、違約金の額や発生条件を含む契約の内容について、求人者にわかりやすく、正確に書面やメールなどで明示する義務も課されました。また、厚生労働省は「人材サービス総合サイト」を運営し、全国の募集情報等提供事業者や職業紹介事業者の情報を掲載しています。

人手不足が続いているので、人材の確保は、多くの中小企業で悩みの種になっていると思います。採用については、公共職業安定所(ハローワーク)を活用することもできます。

※本内容は2025年5月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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もう迷わない! 企業が成長する 「補助金」選び&事業計画のコツ

1 補助金は申請すれば必ずもらえるとは限りません

資金調達手段として有効な補助金や助成金。実は次のような違いがあります。

補助金と助成金の違い

助成金は受給要件を満たすことと書類に不備がなければ受給できますが、補助金は申請時に事業計画の提出を求められ、事業計画の内容が審査されて採択・不採択が決まります。ハードルが高いといえますが、

補助金は、原則として返金不要(事業で利益が出た際に一部納付する収益納付の場合もあります)

であることが大きな特徴です。

うまく補助金や助成金を使いたいところですが、国や地方自治体などがさまざまな事業を行っているので、どのように選び、どのように活用したらよいのか迷う方も多いようです。また、近年は補助金も助成金も受給要件について、細目が追加や変更され複雑化しています。

この記事では、数ある補助金の中で、主に企業の成長に活用される補助金の選び方と、事業計画が採択され補助金を得るためのポイントをご紹介します。

2 目的・対象者・要件に合致したものを選ぶ

補助金の目的と内容はさまざまです。さらに最近の傾向として、1つの補助事業の中に複数の「枠」が設けられていたり、1つの枠が複数の「型」に細分化されていたりするケースもあります。例えば、IT導入補助金は、「インボイス枠」「セキュリティ対策推進枠」「複数社連携IT導入枠」といった枠があり、さらにインボイス枠が「インボイス対応類型」「電子取引類型」に分かれています。枠や型というのは、「申し込むコース」と考えると分かりやすいでしょう。それぞれの枠や型に要件が定められていることもあります。

補助金は、補助事業ごと、枠・型ごとの、目的・対象者・要件に合致しているものを選びましょう。

補助事業の目的(何のための補助金なのか)・対象者・要件は、補助金の“ルールブック”である公募要領に記載されています。

補助金の申請を検討する際は、公募要領を読み込まなければなりませんので、時間がかかります。そのような場合は、専門家(中小企業診断士など)に相談することをお勧めします。

また、各補助金には概要版やガイドブックが作成されていることもありますので、制度の概要を確認したい場合はそちらを参照されるとよいでしょう。ただし、公募要領と違って、あくまで概要版ですので、要件について細部まで記載されているわけではありませんので注意が必要です。

1)目的を確認する

まず、補助事業の目的を確認しましょう。自社が補助金を得て取り組みたい事業が、補助事業の目的に沿うかをチェックします。目的に沿わない申請は、審査で対象外と判断されてしまいます。

例えば、「事業再構築補助金」の後継として2025年に新設された「中小企業新事業進出促進補助金」の場合、目的は次のように書かれています。

「中小企業等が行う、既存事業と異なる事業への前向きな挑戦であって、新市場・高付加価値事業への進出を後押しすることで、中小企業等が企業規模の拡大・付加価値向上を通じた生産性向上を図り、賃上げにつなげていくことを目的とします」

この場合、既存店舗を増やしたり休眠会社を復活させたりというのは、そもそも目的から外れているわけです。

また、補助対象事業に関して、新市場・高付加価値事業への進出が求められており、「実質的には中小企業の賃上げなどが目的になっている」ことを読み解く必要があります。

2)対象者を確認する

次に、対象者を確認しましょう。公募要領では補助金の対象者を明記しており、表でまとめている場合が多いです。また、多くのケースでは、対象者は従業員数や資本金の額によって決められています。

補助金は基本的には経済産業省の管轄の中小企業(商業、工業)が対象ですが、補助金によっては、学校法人や医療法人が対象の場合もあります。ただし、大企業の関連会社は対象外のことが多いので注意しましょう。また、

幾つも会社を経営している場合(会社の株の過半数を持つ場合)は、1つの会社で交付決定(補助予定金額の決定通知)を受けると、同じ補助金については、他の会社で申請できなくなることもあります

ので、公募要領で確認してください。

3)要件を確認する

目的、対象者の確認が済んだら、要件を確認しましょう。補助金には複数の要件を課しているものが多いので、

全ての要件を満たす必要があるのか、一部でよいのかを確認します。

また、対象の事業終了後(申請した経費を使い、実績報告書を提出し終えた後)に、賃上げなどの要件が課されている場合がありますので要注意です。

要件を満たさない場合は、補助金の一部(もしくは全額)を返還することを義務付けられていることがあります

ので、しっかりと公募要領を確認してください。

4)補助対象経費の内容、補助率、補助金額の上限にも要注意

目的、対象者、要件に合致しても、

必ずしも事業に関する全ての経費が補助されるわけではありません。

公募要領には補助対象経費についても詳しく記載されていますので、内容、補助率、補助金額の上限などを確認しましょう。補助対象外の例も挙げられています。

補助対象経費の説明書きに記載されていない場合は、補助の対象外の可能性があると考えることがベターです。

補助の対象かどうか迷うときには、事務局やコールセンターに連絡して確認しましょう。また、たとえ補助の対象となっていたとしても、

原則、補助金は精算払い(後払い)なので、補助対象経費を自社で立て替えることが必要

です。融資等を検討する場合は、金融機関等との相談も行いましょう。

5)参考:4つの主要な補助金など

ここで、参考として、国が幅広く行っている4つの主要な補助金の概要を紹介します。補助金選びにお役立てください。多様な枠や型がありますので、必ず補助金の公募要領で細目をご確認ください。

4つの主要な補助金

この他に、2025年から新設された補助金として、令和6年度補正予算による「中小企業成長加速化補助金」があります。

  • 補助上限が5億円、補助率1/2
  • 売上高100億円を目指す、かつ、売上高10億円以上100億円未満の中小企業が補助対象
  • 「100億円宣言」を行うことや、投資額1億円以上などが要件

売上高100億円を目指す中小企業を対象にしていることが珍しいですね。次年度以降も公募があるかは不明ですが、今後、こうした企業への補助金も活性化するかもしれません。

3 採択される事業計画づくりのポイント

申請した事業計画が採択されなければ補助金は受給されません。採択される事業計画づくりにはポイントがありますので紹介します。

1)様式と枚数制限を守る

補助事業によっては、

事業計画の様式を指定していたり、計画書の枚数制限をしていたりする場合があります。

必ず公式のウェブサイトで様式や枚数制限の有無を確認しましょう。様式を指定していない場合でも、参考様式を公開しているケースがあります。必ずしも参考様式を使用することはありませんが、事業計画に盛り込むべき必要項目が記載されている場合がありますので、確認しておきましょう。

枚数に関して、「〇〇枚以内」と書かれている場合は、必ず規定枚数以内に収めてください。

審査が厳しい場合は、枚数を超過すると「不備」として不採択になることがあります。

2)審査員への説得文のつもりで合理的に分かりやすく

事業計画には、自社の現状を踏まえ、「なぜ補助金の活用が必要なのか」「補助金を活用することで自社の業績にどう効果が出るのか」というストーリーを、合理的に一貫性を持たせて記載しましょう。事業計画を「審査員への説得文」と捉えるとよいでしょう。

審査員が審査にかけられる時間は、1つの事業計画につき短いものは15分ほどといわれています。短時間で事業計画を確認し採点しますので、分かりやすさも重要です。

ストーリーの分かりやすさはもちろん、図やイラストなどを用いるとより効果的になります。

事業計画に記載する内容は補助金によって細目が異なりますが、大まかには次のようなものになります。

  • 現在の自社の事業の概要、財務状況、内部環境分析と外部環境分析
  • 補助金を活用して実施する新規事業の必要性
  • 新規事業の具体的な内容
  • 新規事業の市場分析、競合分析、自社の優位性や差別化要素
  • 新規事業の課題やリスクと解決方法
  • 実現可能性の高いマーケティング戦略
  • 実施体制、スケジュール、資金調達計画
  • 収益計画

3)審査基準を押さえる

事業計画の審査では、複数の審査員が、主観や事業計画の印象ではなく、審査基準に従って点数を付けているといわれています。補助金の公募要領には審査基準が記載されています。

例えば、ものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)では、次のような審査項目例があります。

ものづくり補助金の審査項目例

審査項目(1)には、「要件を満たすか」が書かれていることが分かります。審査項目に入っているものですので、事業計画にも「この要件を満たしている」旨の記載が必要になります。

電子申請の場合、申請画面に入力するだけでなく、事業計画にも記載してください。

また、(2)のそれぞれの質問に対する回答も事業計画に明記しましょう。前述したように、審査員は短時間しか審査にかけられません。そのため、

ニュアンスで分かるというレベルではなく、明記されていることが重要です。

4)加点項目を押さえる

審査員が事業計画を審査する際、

多くの場合は「加点審査」であり、減点はないといわれています。加点項目は公募要領に記載されていることがありますので、必ず確認しましょう。

補助金を支援するコンサルタントなどからすると、加点項目は単なる「付け足し」ではなく、「該当項目は必ず盛り込む項目」です。

「加点項目があって当然、なければ他社と比べて弱い」といえるくらい、加点項目を盛り込むことは重要です。

また、場合によっては減点項目が設定されていることもあります。例えば、

過去に類似の補助金を受給している場合に減点されることがあります

ので、減点項目が設定されているかどうか、忘れずに確認しておきましょう。

4 こんな事業計画は採択されにくい!

最後に、採択されにくい事業計画について解説します。「採択されない」と悩む経営者の事業計画には、大きく分けると次の3つの傾向が見られます。

1)ストーリーが分かりにくい/一貫性がない、専門用語の解説がない

自社の業務や研究開発の説明に大半を使ってしまい、自社の現状を踏まえての「なぜ補助金の活用が必要なのか」「補助金を活用することで自社の業績にどう効果が出るのか」という、ストーリーの説明が不足している事業計画は採択されにくいです。

加えて、専門用語の解説がないものも多く見られます。審査員は、必ずしも各業界の業務内容まで理解しているわけではありません。過去の業務経験で知っている場合がありますが、審査員は業界を知らないものとして記載しましょう。ポイントは、

中学生が読んでも理解できる内容を目指す

ことです。

2)審査項目の記載漏れがある

不採択の事業計画の特徴の1つに、審査項目の記載漏れが散見されます。審査項目は、必ず分かりやすく記載してください。

審査項目を審査員に見落とされないようにする

ことも大切です。

3)根拠がない、もしくは弱い

「なぜ機械を導入する必要があるのか」「なぜ新規事業で売り上げが立つのか」という説明に対して、その根拠がない、もしくは根拠が弱いものがよくあります。

特に採択か否かの差がつくのは、事業化の箇所です。

不採択になる事業計画には、「なぜ新規事業として成り立つのか」が分かりにくい、もしくはその記載がほとんどない場合が多いです。事業化した後の想定までしっかりと検討した上で、事業計画に落とし込んでください。

昨今、補助金の制度自体が複雑化しており、募集時期が変わるたびに枠や要件が変更されることもあります。申請を検討する際は、必ず最新の情報をご確認ください。補助金をうまく活用して、自社の成長に結び付けましょう。

以上(2025年6月更新)

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