「取適法」で会社を守る交渉術! 弁護士が教える4つのステップ

1 力関係にかかわらず、フェアな取引を!

下請取引では、発注者(依頼をする側)が大企業、受注者(依頼を受ける側)が中小企業であることが多く、その「力関係の差」から、受注者(中小企業)が、

  • 不当な値下げを要求される
  • いつまでたっても代金を支払ってもらえない

などの不利益を被るケースが少なくありません。

このようなときに受注者を守ってくれるのが、下請取引で発注者がやってはいけない禁止行為などを定めた「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」。簡単に言うと、

発注者と受注者が力関係にかかわらず、フェアな取引をするための法律

です。2026年1月からは「中小受託取引適正化法(取適法(とりてきほう))」という名称に変わり、発注者の禁止行為が追加されるなど、受注者の保護が強化されます(以降、「取適法」で統一します)。

この記事では、受注者が取適法を活用しながら発注者と交渉する際のポイントを、4つのステップに分けて紹介します。なお、取適法の改正内容(2026年1月施行)については、次のコンテンツをご確認ください。

(注)この記事では便宜上、下請法(取適法)の用語である親事業者(発注者)を「発注者」、下請事業者(中小受託事業者)を「受注者」、下請代金(製造委託等代金)を「代金」と呼びます。

2 (ステップ1)取適法で禁止されている行為を理解する

まずは、取適法の対象となる不当な行為の類型を理解しておくことが大切です。発注者から無理な要求を受けたときに、「これは法律で禁止されている行為」だと判断できれば、冷静に対応・交渉したり、専門機関に相談したりできます。

取適法では、発注者がやってはいけない禁止行為が11項目定められています。そのうち、中小企業が受注者側の場合によく直面する禁止行為としては、次のようなものが挙げられます。

(図表1)【発注者の禁止行為(中小企業がよく直面するもの)の例】

禁止行為 行為の例
受領拒否 発注した成果物の受領を理由なく拒否する
代金の支払遅延 受注者が成果物を納品してから3カ月たっても代金を支払わない
代金の減額 納品後に「単価を下げてほしい」と受注者に要求する
買いたたき 市場価格より、著しく低い価格を受注者に強要する
不当なやり直し等 受注者に責任がないにもかかわらず、無償でやり直しを依頼する
協議に応じない一方的な代金決定(注) 原材料の高騰に際し、受注者が代金の額の引き上げについて協議を求めたのに、協議に全く応じず、価格を据え置きする

(出所:筆者作成)

(注)「協議に応じない一方的な代金決定」は、2026年1月から(下請法が取適法に名称変更されてから)追加される禁止行為です。

3 (ステップ2)取引の「現状」を整理する

発注者から無理な要求を受けた場合や、その他に取引で「おかしいな」と思う点があった場合、(ステップ1)に沿ってその内容が取適法の禁止行為に当たらないかを確認します。

禁止行為に当たる可能性がある場合、受注者は取引の「現状」を整理しましょう。次のように項目別にまとめると、状況が整理しやすくなります。

(図表2)【取引の「現状」について受注者が整理すべき項目】

項目 内容
取引内容 発注者とは、どのような取引をしているか?
・例:メーカーが販売する自動車部品の製造を受注
行為内容 発注者から、どのような内容の不当な行為を受けたのか?
・例1:納品後に単価の減額を求められ、応じるまで支払ってもらえない
・例2:原材料の高騰に伴って値上げの協議を求めたが無視された
5W1H 具体的にいつ?(日時)、どこで?(場所、出席者)、誰が?(担当者の部署、氏名)、何を?(対象)、なぜ?(理由)、どうやって?(メール、会議、口頭など)
証拠となる資料 取引に関するメールのやり取り、議事録、発注書など証拠を確認。開始前の価格交渉であれば、原材料やエネルギーコストの上昇に関するエビデンス資料を用意

(出所:筆者作成)

発注書などの書面は、御社を守る重要な証拠となります。発注者には、

発注時に取引内容を記載した書面(メールなどの電磁的記録を含む)を交付することが義務付けられている

ので、仮に発注者とのやり取りが口頭だった(書面が交付されていない)場合でも、受注者から改めて書面の交付を求めることが可能です。

また、メールやチャットのやり取りも重要な証拠となります。電話や口頭でのやり取りであっても、次のように別途メールなどを送ることを習慣にしましょう。

  • 送信:「先ほどはありがとうございました。念のため確認ですが……。」
  • 返信:「確認しました。よろしくお願いいたします。」

少々面倒かもしれませんが、こうした一手間を加えることで交渉過程が形として残り、いざトラブルが生じた際に、交渉経緯を裏付ける重要な証拠になるのです。

4 (ステップ3)発注者に「書面」で交渉を申し出る

(ステップ2)に沿って「現状」の整理ができたら、次は実際の交渉に移ります。口頭での交渉だと、発注者から「そんな話はしていない」「その条件で合意した覚えはない」と一蹴されてしまう恐れがあるので、

口頭での交渉は避け、必ず書面やメールなど、記録に残る形で交渉を申し出る

ようにしましょう。交渉の際、記録に残すべき事項は次の通りです。

(図表3)【交渉の際、記録に残すべき事項】

項目 書面やメールに残すときの記載例
問題となっている事象 ・例1:「〇月〇日付の発注案件について、代金の支払いが〇カ月遅延しております。」
・例2:「〇月〇日に、御社との取引に関し、原材料の高騰に伴う価格改定をご相談いたしましたが、何ら協議に応じていただけず、現状維持とされました。」
取適法の根拠 ・例1:「これは、取適法第5条第1項第2号『下請代金の支払遅延の禁止』に抵触する可能性がございます。」
・例2:「これは、取適法第5条第2項第4号『協議に応じない一方的な代金決定の禁止』に該当するのではないかと考えます。」
受注者から要求する是正策 ・例1:「つきましては、〇月〇日までに代金をお支払いいただきたく、ご連絡申し上げます。」
・例2:「つきましては、原材料の高騰に関する資料を添付いたしますので、改めて協議の場を設けることを申し入れます。」
穏便な解決を求める姿勢 ・例:「今後とも貴社との良好な関係を継続したいと存じます。何卒、ご対応のほどよろしくお願い申し上げます。」

(出所:筆者作成)

(ステップ2)の話とも重なりますが、書面やメールなど形に残る交渉の記録は、次の(ステップ4)で紹介するように、専門機関に相談する際にも有力な証拠になります。それに、交渉内容を「見える化」して社内で共有しておけば、今後、同じようなトラブルが起きた際の参考にすることもできます。

また、公正取引委員会のウェブサイトでは、受注者が発注者に対して、労務費の転嫁の交渉を申し込む際の一例として、見積書のひな型を公表しています。発注者との価格交渉を行う際には、このようなひな型も参考にするとよいでしょう。

■公正取引委員会「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」■
https://www.jftc.go.jp/dk/guideline/unyoukijun/romuhitenka.html

ただし、交渉はけんかではありません。法律を盾にしつつ、あくまで柔らかい言い回しで伝えることが大切です。重要な取引先との関係を損なってしまうことは、会社としても本意ではないはずです。

5 (ステップ4)交渉がうまくいかなかったら……

(ステップ3)までを経ても、発注者との交渉がまとまらない場合、次の機関に相談しましょう。

1)公正取引委員会・中小企業庁

取適法は、公正取引委員会・中小企業庁が所管しており、取引に関する相談窓口を設けています。もしも、発注者が交渉に応じてくれなかったり、取適法に違反する取引を強要されたりした場合には、これらの窓口に相談しましょう。

「発注者から取引を打ち切られたらどうしよう……」などの心配から、相談をちゅうちょしてしまうかもしれませんが、取適法では、

受注者が発注者の違法行為などを申告したことを理由に、発注者が受注者に対して不利益な取扱い(取引数量を減じる、取引を停止するなど)をすることを禁止

しています(報復措置の禁止)。仮に発注者から不利益な取扱いを受けた場合、その旨も相談してみるとよいでしょう。

ただし、公正取引委員会・中小企業庁は、相談に応じたり、違法行為の調査・指導を行ったりはしてくれますが、

発注者と受注者のトラブルを仲裁する権限は持っていない

のでご注意ください。

2)下請かけこみ寺

中小企業庁が実施している「下請かけこみ寺」では、専門の相談員や弁護士が無料で中小企業の取引上のトラブルに関する相談に応じてくれます。こちらは、

裁判外での紛争解決手続(ADR)を提供しているので、発注者と受注者の具体的なトラブル解決が可能

です。解決方法は弁護士による調停で、裁判と異なり非公開で行われるため、当事者以外には秘密が守られますし、調停場所や時間なども融通が利きやすくなっています。

以上、受注者が取適法を活用しながら発注者と交渉する際のポイントを紹介しました。発注者からの無理な要求に対して、「従わないと取引してもらえない」「こちらが少し無理をすればなんとかなる」と諦める前に、まずはこの記事で紹介したステップを試してみてください。取適法をしっかり理解して行動に移すことが、会社を守る力になります。

以上(2025年12月作成)
(執筆 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)

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【解決編】円満退職したはずの社員と裁判で争うことになるなんて……

この記事は、退職者から未払賃金の請求が来た場合の対応を紹介するコンテンツの後編です。前編はこちらをご確認ください。

1 主張が相いれない場合の解決方法

シーン:退職者側の弁護士との任意交渉、そして訴訟へ

会社の顧問弁護士であるC弁護士が、Xの代理人であるB弁護士と面談をしました。Xの主張は

タイムカードの打刻後もサービス残業をしていて、未払賃金が発生している(未払賃金の計算は、Xが自ら記録していた手帳・日記の記載によるもの)

というものでした。

社長は、在職時のXの上司に聞き取り調査を行いました。しかし、Xのサービス残業があったことは確認できず、証拠に客観性が乏しい状況です。そこで、A社長はC弁護士に対し、

直ちにXが主張する未払賃金を支払うのではなく、未払賃金の額を争う方針での任意交渉

を依頼しました。

こうして弁護士間での任意交渉が始まりました。

  • C弁護士:手帳・日記はXが作成したものであり、根拠としては不十分である
  • B弁護士:他にも客観的資料を確認している

双方の主張は平行線となりました。C弁護士は、客観的な証拠があれば和解も検討するつもりでしたが、最終的にB弁護士から資料の開示について難色を示されたため、任意交渉は決裂。その後、Xから会社に対しての訴訟が提起されました。

Q1:紛争を解決する方法にはどのようなものがある?

紛争を解決する方法としては、主に次の3つがあります。

1.任意交渉

法的手続によらず話し合いによって解決を図ります。裁判や労働審判などの法的手続の場合、解決までに時間がかかりますが、任意交渉は、スムーズに進めば、早期に紛争を解決できます。

2.訴訟

この記事の事案では、未払賃金の支払いを求める訴訟を指します。事案や争点にもよりますが、多くの訴訟では、第一審の判決までに1年から1年半ほどの時間がかかります。

3.労働審判

訴訟と同じく裁判所による法的手続です。「原則3回以内」という短い期日で集中的に審理を行うため、訴訟よりも迅速に手続が進みます。ただし、「事実関係が複雑」「法的な判断が難しい(退職者の管理監督者性など)」など、審理に時間がかかる複雑な事案の解決には不向きです。労働審判手続を行うことが適当でない場合、訴訟手続に移行することがあります。

Q2:解決方法を選択するポイントは?

一般的には、

まずは任意交渉によって解決を試み、任意交渉では双方の折り合いがつかない場合、訴訟や労働審判による解決を考える

ことになります。具体的には、

  • 未払賃金の算定根拠が乏しく、会社として支払いに妥協できない場合
  • 法的な判断が求められる上に、他の社員にも影響する内容(労働時間管理の方法、退職者の管理監督者性など)について、会社側と退職者側双方の主張が対立している場合

などに、裁判所の判断を仰ぐことを検討します。ただし、訴訟の場合は、労働審判と異なり、付加金の支払いが求められる可能性があり、注意する必要があります。

2 退職者側との交渉の落としどころは?

シーン:訴訟から1年が経過、そして和解へ

訴訟では、Xの主張する残業時間について争われましたが、両者の主張は平行線のまま、約1年間が経過しました。証人尋問が終わった後、裁判長は会社側に対し、和解による解決の可能性がないかを尋ねました。これを受けて、C弁護士はA社長に今後の方向性を相談しました。

C弁護士:A社長、Xさんの手帳・日記の他に、ビルの入退館記録やPASMOの記録が証拠として提出されています。これらの証拠を見て、裁判所はXさんの主張には一定の理由があると考えているようです。

A社長:Xの主張する額が全額認められるわけではないですよね? だったら、引き続き裁判で争い、判決を待つという対応でもいいんじゃないですか?

C弁護士:判決となった場合、未払賃金に加えて、遅延損害金や付加金を支払わなければならない恐れがあります。それに、Xさんと同じ労働条件で働いている他の社員から同様の請求を受けてしまうかもしれません。

A社長:うーん、そういう事態は避けたいなぁ……。

C弁護士:和解であれば、遅延損害金や付加金の支払免除を求めることができるかもしれません。それにXさん側の条件を聞くことで、御社の労働時間管理を見直す良い機会にもなるのではないですか?

A社長はこの考えに同意し、C弁護士に和解による解決を依頼しました。そして、最終的にXの主張する未払賃金の一部を支払うことで和解が成立しました。

Q3:交渉の決着方法にはどのようなものがある?

訴訟になったからといって、必ずしも判決による解決がなされるわけではなく、裁判所の関与の下、和解による解決がなされることも多くあります。

1.判決

裁判所が会社側と退職者側双方の主張を基に事実を認定し、未払賃金の額を判断します。

  • (会社側の主張が合理的で、退職者側の立証が不十分であると判断された場合)退職者側の請求を棄却する判決
  • (退職者側の主張の一部または全部が正しいと認められる場合)会社側に未払賃金(裁判所が事実認定によって判断した額)の支払いを求める判決

がなされます。

2.和解

裁判所の関与の下、会社側と退職者側双方の要望を盛り込んだ和解条項を作成します。和解条項には、

遅延損害金や付加金の支払免除、退職者の守秘義務(トラブルの存在や和解内容を他言しない旨)など

を盛り込みます。

Q4:どのような場合に和解を選択する?

和解を検討するのは、

敗訴する可能性が高い場合や、可能性が低くても敗訴したときの影響が大きい場合など

です。

判決での解決になると遅延損害金が発生する上に、事案によっては裁判所から付加金の支払いを命じられることもあります。そのため、裁判所が会社にとって不利な心証を抱いていると考えられる場合(退職者側が提出した証拠が合理的な場合など)には、遅延損害金などの負担を避けるため、和解を選択することが考えられます。

さらに、会社としては、他の社員との関係にも注意する必要があります。万が一、判決によって会社側が敗訴すると、退職者と同じような労働条件にあった他の社員からも、同様の請求を受けてしまう恐れがあります。こうした場合の対策として、

和解条項に守秘義務を設けることで、他の社員からの請求を回避する

ことも考えられます。

以上(2025年11月更新)
(執筆 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:pexels

【勃発編】円満退職したはずの社員が未払賃金を請求してきた!?

1 円満退職したはずの社員が未払賃金を請求してきた

シーン:弁護士名義の内容証明郵便

社長室でくつろぐA社長。そこに、人事部長が1通の郵便物を持って駆け込んできました。その郵便物は、差出人を「X代理人弁護士B」とする内容証明郵便。Xは、先月に退職した社員です。書面の内容は、

「2022年4月1日から2025年3月31日までの3年分の未払賃金として、200万円を支払え」

というものでした。「Xは円満退職じゃなかったのか?」と、ショックを隠せないA社長でした。

Q1:そもそも、なぜ未払賃金が発生する?

・管理監督者の誤認

「課長職だから」という理由で割増賃金を支払っていなかったが、実は労働基準法上の管理監督者に該当しなかった。

・サービス残業の見落とし

タイムカードで労働時間を管理していたが、実は社員がタイムカードを打刻した後、サービス残業を行っており、割増賃金の一部が支払われていなかった。

・固定残業代の誤認

「固定残業代制度を導入しているから」という理由で割増賃金を支払っていなかったが、ルールの整備や固定時間の設定が誤っていた。

・テレワークの労務管理の不備

テレワークの社員について、日々の労働時間を本人からの自己申告で把握していたが、申告漏れがあった場合は、実態を確認せずに「所定労働時間を働いたもの」として扱っていた。その結果、実際は残業しているのに割増賃金が支払われないことがあった。

Q2:未払賃金は、どのような方法で請求される?

未払賃金の請求は、

退職者が依頼した代理人弁護士から内容証明郵便の形式で受けるケース

が多いです。

また、労働組合との団体交渉によって、未払賃金の支払いを求められることもあります。

社内に労働組合のない会社であっても、退職者が個人でユニオン(合同労働組合)に加入し、そのユニオンが会社に団体交渉を申し込んでくるケース

があります。

Q3:請求された未払賃金は、全額支払わなければならない?

会社が未払賃金を支払わなければならないのは、本来支払うべき額を正しく支払っていなかったときだけです。ですから、退職者から未払賃金を請求されたとしても、

請求された額が正しくない場合(計算間違いなど)、請求通りに全額を支払う必要はない

ということになります。なお、未払賃金の時効は、

本来の支払期日から5年間(当面の間は3年間)

です。

Q4:未払賃金が発生した場合の制裁(ペナルティー)は?

1.遅延損害金

未払賃金が発生した場合、支払いがなされるまでの間、

未払賃金に一定の利率を掛けた遅延損害金が発生

します。退職者の場合、遅延損害金の利率は、

  • 在籍していた期間については、年利3%
  • 退職日の翌日以降については、年利14.6%

となります。つまり、未払賃金の支払いをめぐって会社と退職者がトラブルになった場合、争いが長期化した分、遅延損害金の負担も大きくなるということです。

2.付加金

退職者が請求した場合、

裁判所は会社に対して、未払賃金と同額の付加金の支払いを命じることが可能

です。裁判所が常に付加金の支払いを命じるとは限りませんが、退職者側の弁護士は、訴訟になれば必ず付加金も併せて請求してきます。

2 請求が来たら会社は何をすべき?

シーン:請求内容を確認の上、弁護士に相談

A社長は、まず、Xの未払賃金を確認することにしました。賃金規程を確認した上で、賃金台帳とタイムカードを照合して、X代理人弁護士Bが請求する額と照らし合わせました。

しかし、A社長が確認したところ、Xへの割増賃金は全て支払い済みで、未払賃金は存在しないようです。内容証明郵便には「回答期限が10日以内」「回答がない場合には法的措置を取る」と書かれていたため、A社長は、会社の顧問弁護士であるC弁護士に相談しました。

Q5:請求が来たら、まず何をすべき?

未払賃金の請求が来た場合、

未払賃金の請求根拠と、退職者が請求する額が正しいかを確認

しましょう。労働基準法により、会社は、

賃金台帳やタイムカードなどの重要な書類を5年間(当面の間は3年間)保管する義務

があります。そのため、会社に保管されているこれらの書類に基づいて、退職者が請求する額が正しいかを確認します。

Q6:請求が来た際にやってはいけないNG行動は?

未払賃金の請求が来た際、

退職者に請求の取下げを迫ったり、請求を放置したりするのはNG

です。このような行動を取ると、退職者が労働基準監督署に通報し、会社に調査や指導が入る恐れがあります。さらに、訴訟や労働審判になった場合、不利に扱われて、付加金の支払いを命じられてしまう可能性もあります。

また、

未払賃金の請求を受けたことを他の社員に話したり、公開したりするのも避けるべき

です。会社には、請求を行った退職者と同じ労働条件で勤務する社員が在籍していると思います。そのため、特定の退職者から未払賃金の支払請求を受けたことが公になってしまうと、他の社員からも同様の請求を受けてしまうことがあります。

Q7:弁護士に相談するタイミングは? 用意すべき資料は?

いったん訴訟が提起されてしまうと、退職者との間で円満に解決することは難しくなります。また、争いが長期化するだけで遅延損害金が発生してしまいます。そのため、未払賃金のトラブルになった場合には、できるだけ早く弁護士に相談すべきです。今回の事案でいえば、

内容証明郵便が来た時点で弁護士に相談するのがよい

でしょう。

また、弁護士に相談する際は、事前に次の資料を用意しておくと、スムーズに進めることができます。

  • 退職者から送付を受けた内容証明郵便
  • 就業規則や賃金規程などの社内規程
  • タイムカードや勤怠管理表などの退職者の労働時間を管理する資料
  • 給与明細の控えや賃金台帳

前編はここまでです。A社長は、この難局をどう切り抜けるのか、次のコンテンツでご確認ください。

以上(2025年11月更新)
(執筆 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)

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ヒント5[仕事1]:事前にいくら伝えても、入社後のギャップは必ずある/武田斉紀の『人が辞めない会社、10のヒント』(6)

1 本人が自信をもって入社しても、日々の仕事にギャップはある

今シリーズの狙いは、経営者、人事担当者、現場の皆さんのお悩みである「社員を採ってもすぐに辞めてしまう上に、そもそも採れない」という課題を解決すること。『人が辞めない会社、10のヒント』と題して、毎回1つずつご紹介していきます。

『人が辞めない会社』に変わるための課題、その原因と解決策は会社によってさまざまです。

今回ご提示するヒントが皆さんの抱える原因に明らかに当てはまらない場合は、読み飛ばしてくださって結構です。ですが、ヒントの1~9までが該当しなくても、10が当てはまるかもしれません。

全社共通の原因もあれば、部署ごとの固有の原因も存在することでしょう。原因が1つだけというケースは少ないので、何回分か読んでいただければ「これはうちにも当てはまるな」というものを見つけていただけるのではと思います。

第2回から前回の第5回まで、『人が辞めない会社』に変わるための「採用段階」におけるヒントについてお話ししてきました。第6回からは入社後のヒントについてです。

さて、採用し内定を出した候補者が、無事に入社してくれたとしましょう。いざ配属されてみると、本人にとって「採用時に聞いていたイメージと違った」「こんなはずじゃなかった」となるケースは珍しくありません。皆さんにも覚えがあるのではないでしょうか。

いくら入社までに丁寧に情報を伝えてきたとしても、入社後の配属現場でのイメージに100%ギャップがないということはありません。

たとえ、アルバイトからそのまま正社員になって、同じ職場に配属されたとしてもです。アルバイトと正社員の仕事内容の違い、期待の違いからギャップは生まれます。

ましてや一般の新卒採用や中途採用のルートで入社した場合、もっとギャップはあるでしょう。

会社側は、入社者にとって誰しも「事前のイメージとのギャップはあるもの」と想定して対応するべきなのです。

2 新卒採用、中途採用、入社後ギャップが生まれるそれぞれの理由

新卒であれば、職種別採用でもなければ本人希望の職種に配属されるとは限りません。そのギャップから、「自分がやりたい仕事ではない」「こんなはずじゃなかった」とモチベーションが下がり、早期に辞めてしまう可能性があります。

もし、配属が本人希望職種の通りだったとしても、先ほども触れたようにアルバイトと正社員では任される仕事内容も期待も異なります。

本人のイメージより内容や期待が大きすぎて「自分には無理だ」と思わせてしまうこともあれば、逆に「この程度の仕事しか任せてもらえないのか」と落胆することもあるでしょう。

そこは丁寧に説明してあげてください。例えば「最初に任せる仕事はこれこれで、できれば半年、1年後にはこうなってほしいが、このように育てていくので安心して欲しい。先輩たちも最初は戸惑うけれど、1年後にはみんな一人前に育っているよ。その先にはこんな世界が待っているよ」と。

中途採用の場合は、経験やスキルを期待しての職種別採用が主体でしょうから、仕事上のギャップは少ないだろうと思われるでしょうか。実はそうとも限りません。

同じ職種であっても会社が違えば大なり小なり業務内容は異なります。職場環境や文化の違いもあるでしょうし、入社前に描いていたイメージと完全一致する可能性は低いでしょう。

また、「三つ子の魂百まで」といいますが、社会人として就職した1社目での経験の影響は大きいもの。良かれ悪かれ“基準”になりがちです。前職での経験やルールが邪魔をして新しい職場にすぐに慣れないこともあります。新卒のように気軽に相談できる同期も少なく、中途入社者のほうが「こんなはずじゃなかった」に陥りやすいのかもしれません。

繰り返しますが、会社側は、どんなルートで入社した人でも「事前のイメージとのギャップはあるもの」と想定して対応するべきです。

特に最初が肝心。早い人だと初日で結論を出してしまうかもしれません。どうすればいいでしょうか?

3 初日から丁寧に、少しずつ間隔を空けつつ定期的なフォローを続ける

少しの時間でもいいので、初日終了後に本人の感想を聞く時間を設けましょう。

他の人がいる場で「どうだった?」と投げかけても、なかなか本音は聞けません。表情や態度だけで判断するのも危険です。本音が表に出やすいか否かには個人差がありますから。

できればいわゆる1on1(ワン・オン・ワン、1対1)の形で設定できるといいでしょう。本人に振り返りの感想を短い文章にしてもらって、それを共有しながら進めるのもいいかもしれません。文章にすることで本人の感情、本音が予め整理できます。

入社初日から数日を研修に充てている場合は、初日終了後面談を担当した人で集まって、改善点を翌日以降の研修に反映できるといいでしょう。その上で「昨日皆さんに初日の感想を聞いて、こういう意見がいくつか聞かれたので、今日はこんな感じに少し変えてみますね」という一言をもらえるだけで、入社者は安心できるものです。

「(新卒、中途に関わらず)新人の導入にそこまで慎重かつ丁寧に対応しなければいけないの?」と思われるでしょうか。

こうしたフォローは本人を甘やかすためのものではありません。新たな職場への不安は、誰しも大なり小なり感じるもの。細やかなフォローは、その不安や誤解を解消し、防げる退職を減らすためであり、一日も早く本来の仕事に取り組んでもらうために必要なことなのです。

もし、皆さんが卒業した学校のよく知る後輩が、あるいはあなたの家族や親戚が、あなたがいるからと同じ会社に入社してきたのだとすればどうですか?入社日にちゃんと来ているか気になるでしょう。初日を終えてどんな感想を抱き、どんな気持ちでいるか心配ではないでしょうか。

後輩や家族を迎えるのと同じ気持ちで新しいメンバーを迎えることができれば、彼らは心強いでしょう。たとえ「こんなはずじゃなかった」と思えるできごとがあったとしても、すぐに辞めようとは発想しないでしょう。その前に、一度相談してみようと思うのではないでしょうか。

入社後すぐに人事主導の導入研修がある場合は、採用活動から直接接してきた担当者がフォローするほうが本人も本音を言いやすく、相談もしやすいでしょう。でも、配属先で過ごす時間が増えてくると、なかなか人事だけではフォローしきれなくなってきます。

そこで入社時点で、入社者一人ひとりに“メンター”と呼ばれる相談相手を、現場に近い人から選んで付けておくといいでしょう。

職場の先輩や上司でもいいのですが、彼らはそうでなくても仕事上フォローする立場にあります。仕事でのトラブルの場合は、かえって相談しづらくなる場合もあります。

できれば近い部署、近い年代で、本人と相性の良さそうな同性のメンターがお薦めです。

相性が心配であればメインとサブの2人体制でも構いません。本人には何かあれば遠慮せず相談しやすいほうに声を掛ければいいと伝えておいてください。上司や職場の仲間にも、メンター制度と担当者については予め理解を得ておいてください。

そうして「入社初日」、「研修が続くのであれば中日や終了後」に人事担当者から。「現場での初日」、「1週間後くらい」にメンターや職場の上司から声をかけて1on1ミーティングを実施してみましょう。

4 一人ひとりの面談後の記録を人事が一元管理し、必要に応じたフォローを

入社者一人ひとりの面談後の記録は、人事で一元管理しておきましょう。各部署にいる間は上司が閲覧できるようにし、退職を予感させる変化があれば双方が気付けるようにするのです。最近ではAIがコメントから退職可能性を予測してくれたりもします。

上司が変化に気付けば、まず自ら声をかけてみてもいいでしょうし、かけづらいようなら人事に気軽に相談できる仕組みにします。現場の上司は毎日接しているだけに変化に気付きにくいかもしれません。メンバーの悩みへの対応スキルにも差があるでしょう。

人事が先に変化に気付けば、上司にフィードバックして対応方法を相談する。あるいは上司との関係が原因と思われる場合は、先に本人に直接話を聞いてから対応を考えます。

職場の先輩やメンターにまで個人の面談情報を全て共有するのは難しいかもしれません。彼らには「気になる変化があれば上司または人事、どちらでもよいので相談してほしい。報告して欲しい」と伝えておきましょう。

情報が漏れなくタイムリーに集まる仕組みを作っておくことが重要です。

入社者の側からすると、「常に誰かが見てくれている安心感がある」「複数の相談相手がいるので、ケースバイケースで相談しやすい」「誰に相談しても最終的には人事(入社時に世話になった人など)も知ってくれているのだと思える」。

そうして「人事」「職場の先輩や上司」「メンター」が随時情報を共有しながら、本人が一日も早く仕事に集中できる環境づくりに努めましょう。こうした丁寧かつ定期的なフォローがあればあるほど、本人はすぐに辞めないはずです。

少子化や人手不足の中、時間とお金をかけて採用した人材は“宝”です。“宝”だから甘やかしましょうと言っているのではありません。“宝”だから、大切に扱ってほしいのです。

人事で一元管理しておく一人ひとりの面談後の記録は、その他の人事情報とも連携させることで、長期的な人材育成にもつなげることができます。その辺りの話はまた改めて。

入社初日から一人ひとりを個別にフォローするとともに、当面は頻繁にフォローできる体制をつくりましょう。人事と現場、さらにはメンターを設定して三者が協力しながら、スムーズな導入を目指してください。

第6回を最後までお読みいただきありがとうございました。次回も[仕事]についてのヒントをご紹介します。

毎回ご紹介するヒントを参考にしながら、自社を退職する一人ひとりの「辞める理由」と、働いている一人ひとりの「辞めない理由」を丁寧に拾ってみましょう。見えてきた自社ならではの“課題”を解消し“強み”を活かせれば、『人が辞めない会社』へと変われるはずです。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

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『なぜ社長の話はわかりにくいのか』
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以上(2025年12月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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画像:VectorMine-Adobe Stock

【PDF】年末に増える迷惑電話対策用「印刷して貼れる職場ポスター」

印刷して職場に掲載できるポスターです。

今回は、年末に増える迷惑電話への対策用に、社員に守ってほしい電話応対の3つのポイントをまとめました。


こちらからポスターのPDFをダウンロードできます。社員への呼びかけのため、職場などに貼ってご活用ください

こちらからダウンロード

以上(2025年12月作成)

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画像:日本情報マート

【朝礼】20周年のAKB48! 成功のカギは「ファンが参加する物語」

【ポイント】

  • AKB48は「選抜総選挙」など、「ファンが物語に参加できる仕組み」で人気を博した
  • 「製品やサービスを買ってもらったら終わり!」では、お客さまとの関係はそこで終わる
  • 「お客さまを巻き込んで、長い時間をかけ、一緒に物語を創っていく」という意識が大切

皆さん、おはようございます。皆さんは、アイドルグループの「AKB48」をご存じですよね。彼女たちが活動を開始したのが2005年、2025年12月でなんと結成20周年を迎えます。1つのエンターテインメントが、これほど長く多くの人々を魅了し続けるのは、驚異的なことです。では、その秘密は何でしょうか? 歌が上手いから? ダンスが特別だから? もちろん、それらも要素の1つでしょう。ですが、本質はそこにはないと私は考えています。

AKB48が実施した最も画期的なことは、「ファンが物語に参加できる仕組み」をつくり上げたことです。彼女たちのコンセプトは「会いに行けるアイドル」でした。その象徴が「選抜総選挙」。ファンは、CDに付いている投票券で、自分の応援するメンバー、いわゆる「推し」に投票する。遠くから応援するだけでなく、自分の一票がメンバーの未来を左右する。その仕組みがファンを強く引きつけたのです。

この仕組みづくりには、私たちも大きく学ぶべきところがあります。私たちは、お客さまを単なる「消費者」として見ていないでしょうか? 「製品やサービスを買ってもらったら終わり!」では、お客さまとの関係はそこで終わりです。そうではなく、お客さまを巻き込んで物語を作っていくにはどうすればよいかを考えることが大切です。

何も選抜総選挙のようなイベントをやれ、というのではありません。日々のお客さまとのコミュニケーションの中で、「製品やサービスについて思っていることを聞いてみる」「その声を製品やサービスに少しでも反映してみる」「その結果をお客さまにフィードバックする」、そんなシンプルな取り組みでいいのです。「お客さまの声を聞いたら、こんなことが実現できました!」と言われて、嫌な気持ちのする人はいないでしょう。

そうしたやり取りの中で、お客さまが「この会社をずっと応援したい」とファンになってくれたら、これほど心強いことはありません。「お客さまを巻き込んで、長い時間をかけ、一緒に物語を創っていく」という意識で、日々の仕事に取り組んでみてください。

以上(2025年12月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

2026年は午年~干支のエトセトラ(午編)

1 午(うま)に関する話

1)午年に起きた出来事

2026年の干支(えと)は、「午(うま)」です。前回の午年は、2014年(平成26年)の甲午(きのえうま)でした。2014年は、消費税が5%から8%へ引き上げられた年。また、青色発光ダイオード(LED)の開発で、赤﨑勇氏、天野浩氏、中村修二氏の3人がノーベル物理学賞を受賞したことも注目を集めました。

過去5回の午年に起きた主な出来事や流行語は次の通りです。

主な出来事や流行語

2)午年生まれの有名人

午年生まれの日本の有名人には、次のような人がいます(既に亡くなられた方も含みます)。

午年生まれの有名人

3)うまの話

日本において馬は、農耕や交通、そして戦の場でも欠かせない存在でした。力強く田畑を耕し、人や物を運び、戦場では武将の誇りと共に駆け抜けました。戦国時代には、織田信長の愛馬「白石鹿毛(しろいしかげ)」や上杉謙信の「放生月毛(ほうしょうつきげ)」など、名馬とともに戦った逸話が数多く残されています。戦国武将たちにとって馬は、単なる乗り物ではなく、共に命を預ける“戦友”だったのです。

時代が進むにつれ、馬は人々の暮らしから離れていきましたが、その存在は今なお日本文化の中に息づいています。例えば、正月の神社には、願い事を書いた「絵馬」がずらりと並びます。古来より神々の乗り物とされてきた馬に願いを乗せて届ける。そうした信仰から、今でも多くの人が、初詣で絵馬を奉納しているのです。

近年では、馬と触れ合うことで心を整える「ホースセラピー」も注目されています。馬は感情に敏感な優しい動物であるため、人の緊張を解きほぐし、安らぎをもたらすからです。力と優しさを併せ持つ馬は、今もなお、人と共に生きるパートナーとして活躍しているのです。

2 午(うま)にちなんだスピーチ事例

1)スピーチ事例1

午(うま)にまつわる話として、古代マケドニアの英雄・アレクサンドロス大王と愛馬ブケパロスの逸話があります。ブケパロスは非常に気性の荒い暴れ馬として有名でした。しかし、大王は、ブケパロスに臆病な一面があることを見抜きます。実はブケパロスは、他の馬より感覚が鋭く、自分自身の影におびえて暴れていたのです。そこで、大王はブケパロスの顔を太陽に向けさせ、影を見ないようにすることで、この暴れ馬を落ち着かせ、見事に乗りこなしたのです。

この逸話が教えてくれるのは、「先入観を捨てて、相手を理解すること」の大切さです。皆さんも、部下や同僚が仕事で困っているとき、サポートに入りたいのに的はずれな助言をしてしまった経験はないですか? それは、自分の経験や相手の普段の言動などから、「相手は、〇〇に困っているんだ」と決めつけているからかもしれません。

大切なのは、そうした先入観を捨て、相手が何につまずいているのかを注意深く観察し、聞き取り、理解すること。原因が分かれば、自然と解決策も見えてきます。自分の問題に向き合う場合も同じです。「自分は、〇〇に困っているんだ」というのは、実は思い込みかもしれません。今、置かれている状況を冷静に分析しながら、解決策を探りましょう。

馬たちが蹄の音高らかに駆けていくように、今年は一丸となって前へと進む年にしましょう。そのために、自他問わず抱えている困難や不安としっかり向き合って、理解する姿勢を大切にしていきましょう。それは必ず、チームや組織が前へ進んでいくための一助になります。

2)スピーチ事例2

馬の視野は非常に広く、およそ350度もあるといわれています。これは草食動物として、天敵である肉食獣の接近をいち早く察知するために進化した能力です。また、左右の目で異なるものを見る「単眼視」であるため、草を食べながらでも周囲の変化や危険を常に確認できます。馬は動くものに敏感で、わずかな風や音にも反応します。こうした能力のおかげで、馬は広大な草原でも安全に生活できるのです。

仕事の場でも、同じことが言えます。広い視野を持つことで、変化やリスクを早めに察知でき、柔軟に対応する力が養われます。新入社員や若手社員の皆さんは、まだ視野を広く持つことが苦手かもしれませんが、これは訓練で身につきます。例えば、「自分の仕事には誰が関わっているのか?」「自分の工程が終わったら、次は誰が何をするのか?」「この仕事の成功・失敗はお客さまにどのような影響を与えるのか?」。そういったことを一つずつ考えながら仕事をすると、視野は広がっていきます。

全体像を見ながらも、細かい見落としを拾うことができる「馬の視野」は、働く上でぜひとも理想としたい姿です。今年は干支にあやかって、馬のような視野を持って仕事をすることを心がけていきましょう。

しかし、実は馬にも、真後ろの約10度に死角があるそうです。同じように、たったひとりで全てを見渡すことはできません。弱点は仲間と補い合い、チームでカバーし、一丸となって前進していきましょう。

3 干支の起源・豆知識

1)干支の起源

ところで、「干支とは何か?」と聞かれたら、どう答えますか? 一般的に、干支とは、巳(へび)年や申(さる)年など、12種類の動物を、年ごとに当てはめたものと認識されています。しかし、実は干支(えと=かんし)とは、古代中国に起源を持つ、年月日や時刻、方位などを表す呼称で、10種類の「干」と12種類の「支」を組み合わせた60通りがあるのです。本章では、意外と知られていない干支の起源についてご紹介します。

干支の「干(え)」は10種類あり、十干(じっかん)といいます。

十干

これに陰陽五行思想(木・火・土・金・水)を結び付けて、次のようにも読みます。

陰陽五行思想

一方、干支の「支」は古代中国の天文学で、木星の位置を示すために天を十二分した呼称を起源にしており、十二支といいます。

十二支

さらに、十二支を動物に当てはめて、次のように呼ばれるようになったのです。

動物に当てはめ

中国では、古く殷(いん)の時代(紀元前16世紀~紀元前11世紀ごろ)から、この十干十二支の組み合わせで年月日が数えられたといいます。これが干支の起源です。

2)干支と十二支

現在の日本では、干支は十二支を指すように使われていますが、このように、厳密には干支と十二支とは異なります。本来の干支(十干十二支)の組み合わせは全部で60通りあり、日本で使われている12通りの十二支とは違うのです。干支は年月日や時刻に当てられますが、日本では一般的に年に当てて使われています。満60歳を還暦(かんれき、もしくは生まれ年の干支を「本卦(ほんけ)」と呼ぶことから本卦還(がえ)りともいう)というのは、干支が1周して生まれ年の干支に還(かえ)るところからきています。

ちなみに、2025年の干支は乙巳(きのとみ)、2026年の干支は丙午(ひのえうま)です。自分の生まれ年の干支が何かを、下表で確認してみましょう。

干支と十二支

3)干支が表す歴史年代

干支は年月日などの時間を表す呼称として、古くから使われており、具体的な年がすぐ分かるため、歴史上の事件の呼称としても多く用いられています。

有名な例としては、以下のようなものがあります。

  • 672年  みずのえさる 壬申(じんしん)の乱
  • 1592年 みずのえたつ 壬辰(じんしん)倭乱(わらん)(注)
  • 1868年 つちのえたつ 戊辰(ぼしん)戦争
  • 1911年 かのとい   辛亥(しんがい)革命

(注)日本でいう「文禄(ぶんろく)の役」です。

ちなみに、阪神甲子園球場は、「甲子(きのえね)」年の1924年に完成したことから名付けられています。

以上(2025年12月更新)

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画像:Brian-Adobe Stock

アルコール依存症予備軍と運転リスク(2025/12号)【交通安全ニュース】

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※ボタンを押すとSOMPOリスクマネジメント(株)のサイトへ移動します。

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

「一日の終わりに飲むお酒が、何よりの楽しみだ」

その習慣、本当に「楽しみ」の範囲で収まっていますか?

近年、本格的なアルコール依存症に至る手前の「アルコール依存症予備軍」と呼ばれる状態にある人が、ハンドルを握るケースが問題視されています。

アルコール依存症予備軍と運転リスク

アルコール依存の兆候と割合

アルコール依存症は、ある日突然なるものではありません。徐々に進行する病気です。

次のようなサインは、お酒に「コントロールされる」ようになっている危険な兆候です。

[兆候の例]

  • ストレス解消や気分転換のために、お酒を飲むことが習慣になっている。
  • 以前よりもお酒の量が増えないと、満足できなくなってきた。
  • 「今日は飲まないぞ」と決めても、つい飲んでしまうことがある。
  • お酒を飲まないと寝付けない、または夜中に目が覚めてしまう。
  • 飲んだ翌日に「何を話したか」「どうやって帰ったか」を思い出せないことがある。
  • 家族や周囲の人から、飲酒について心配されたり、注意されたりしたことがある。

男性におけるアルコール依存症と予備軍の割合

男性におけるアルコール依存症と予備軍の割合

厚生労働省の統計※1によると、依存傾向は男性が高く、男性における「アルコール依存疑い」「潜在的依存者(予備軍)」の割合が6%以上と推計されています。飲酒習慣がある人は他人事と言えない割合です。女性は1%以下と少ないですが、アルコール依存症になりやすい※2と言われています。

※1.出典:厚生労働省「わが国の成人の飲酒行動に関する全国調査2013年」参照
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2013/133061/201315050A/201315050A0002.pdf(2025.11.4閲覧)

※2.出典:厚生労働省「健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~」参照
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/alcohol/a-04-003 (2025.11.4閲覧)

「予備軍」の運転に潜む3つの具体的なリスク

「アルコール依存症予備軍」でも運転に深刻な影響を及ぼします。

「予備軍」の運転に潜む3つの具体的なリスク

①常態的な「酒気残り」

毎日の多量飲酒により、肝臓のアルコール分解が追いつかなくなります。「酔いが覚めた」と感じていても「二日酔い運転」のリスクが高くなります。

②離脱症状による集中力の欠如

体からアルコールが抜け始めると、イライラ、手の震え、発汗、不安感といった軽い離脱症状が現れます。

この状態で運転すると、注意力が散漫になり、危険への反応が遅れたり、攻撃的な運転になったりします。

③脳機能の低下による判断ミス

習慣的な飲酒は、判断や理性を司る脳の前頭葉を萎縮させることが知られています。

通常時でも、速度超過や無理な追い越しなど、危険な判断を下しやすくなる傾向があります

アルコールの負の連鎖を断ち切るために

飲酒について見つめ直すことは、ご自身と周囲の大切な人たちを守るための勇気ある行動です。

【個人としてできること】

  • ・現状把握: 飲酒習慣を記録し、どれだけ飲んでいるか把握する。
  • ・休肝日 :「週に2日は必ず飲まない日を作る」など休肝日を設ける。
  • ・専門機関: 飲みすぎなど不安を感じる場合は専門の医療機関などに相談する。

【事業者としてできること】

  • ・アルコールチェック
    乗車前、乗車後のアルコールチェックを対面により厳格に運用する。
  • ・相談しやすい環境づくり
    アルコール依存症が「病気」であることを理解する風土を作り、安全運転管理者や上司が、プライバシーを守った上で相談に乗れる体制を整える。
  • ・健康診断との連携
    定期健康診断での問診・結果で問題がある場合には、必要に応じて産業医や専門医への受診を勧奨する。

以上(2025年12月)

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悩ましいハラスメントの境界線

業務時間外にLINEで連絡する、肩を叩いて励ますなどの行為は、職場のハラスメントに当たるのでしょうか。ハラスメントになるかどうかの境界線について、悩む企業も多いと思います。本稿では、最新の調査結果を参考に、ハラスメントの代表格であるパワーハラスメント(パワハラ)とセクシュアルハラスメント(セクハラ)について、基本的な考え方やハラスメント回避のヒントをお伝えします。

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悩ましいハラスメントの境界線

業務時間外にLINEで連絡する、肩を叩いて励ますなどの行為は、職場のハラスメントに当たるのでしょうか。ハラスメントになるかどうかの境界線について、悩む企業も多いと思います。本稿では、最新の調査結果を参考に、ハラスメントの代表格であるパワーハラスメント(パワハラ)とセクシュアルハラスメント(セクハラ)について、基本的な考え方やハラスメント回避のヒントをお伝えします。

1 グレーゾーン行為に注意

先端機器によるストレスの可視化に取り組むMENTAGRAPH株式会社(本社:東京都中央区)は今年9月、「ハラスメントの基準」に関する調査結果を公表しました。

調査は昨年12月、全国の22~65歳の管理職と非管理職各900人、計1,800人を対象に実施。「ハラスメントの基準に関して当てはまるものを選択してください」という質問では、次のような回答が出ました。

MENTAGRAPH株式会社 「ハラスメントの基準」に関する調査結果

※MENTAGRAPH株式会社 「ハラスメントの基準」に関する調査結果より

同社では、「身体的接触や属性・外見への言及、私的時間への侵入といった“グレーになりやすい行為”」が並んでいると指摘しています。これらの行為については、ハラスメントと感じる人が一定程度いる以上、慎むべきでしょう。

「肩を叩く」「『若いから体力がある』という発言」「髪型・服装への指摘」「業務時間外のLINEでの連絡」「下の名前での呼び捨て」については、非管理職のほうが管理職よりも「ハラスメントに当てはまる」と答えた割合が7.3~3.9ポイントも高く、大きなギャップがありました。同社は「現場(非管理職)はリスクとして敏感に捉える一方、管理職は『コミュニケーションの一形態』『指導の一環』と捉えがちで線引きが甘くなりやすい可能性が示唆されています」と注意を促しています。

2 ハラスメントの基準

これらの行為について従業員が「ハラスメントだ」と被害を訴えた場合に、会社は調査をして、ハラスメントに当たるかどうかの判断をしなくてはなりません。厚生労働省が示している判断の基準について、改めて確認しておきましょう。

まずパワハラは、①優越的な関係を背景とした言動で、②業務上必要かつ相当な範囲を超え、③労働者の就業環境が害されるもので、3つの要素をすべて満たすケースです。例えば、次のような行為がパワハラになります。

ハラスメントの行為類型

※厚生労働省サイト「あかるい職場応援団」より

例えば、「ハラスメントの基準」に関する調査結果のうち、「休暇取得の理由を尋ねる」は、過度に繰り返し行うと「個の侵害」に当たる可能性があります。一方、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、パワハラには当たりません。

セクハラは、「労働者の意に反する性的な言動」で、性的な関係の強要はもちろん、性的な冗談やからかい、食事やデートへの執拗な誘いなども含まれます。受け手が不快に感じればセクハラになり得ますが、セクハラかどうかの判断にあたっては、個人の受け止め方の違いもあるので、受け手の主観を重視しつつも一定の客観性が必要です。一般的には、被害者が女性の場合には「平均的な女性労働者の感じ方」を、被害者が男性の場合には「平均的な男性労働者の感じ方」を基準として、ケースバイケースで判断します。

また、性的関係を要求され、拒んだら解雇されたといったケースを「対価型セクハラ」、上司が女性社員の腰、胸などに度々触ったため、女性社員が苦痛を感じ就業意欲が低下したといったケースを「環境型セクハラ」といいます。

「ハラスメントの基準」に関する調査結果のうち、「肩を叩く」「髪型や服装への指摘」などは、例えば男性上司が女性の部下に対して行う場合、セクハラに該当しかねない行為と言えます。

3 さいごに

ハラスメントへの対応が遅れると、最悪の場合、訴訟に発展し企業に大きな負担がかかります。訴訟の結果、使用者責任、債務不履行責任が問われ、適切な措置を怠ったことに対する損害賠償、社会的信用の失墜、従業員のモチベーション低下なども生じかねません。また、ご対応を進められる場合は、厚生労働省の特設サイト「あかるい職場応援団」も大変参考になるので、目を通すことをお勧めします。

※本内容は2025年11月10日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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