社員のミスで会社に損害が……。 本人への賠償請求は可能?

1 原則:社員に全額の損害賠償を請求することはできない

会社には、様々なバックグラウンドを持つ人間が集まっています。ですから、社員が業務中にミスをすることも当然想定されます。ただ、なかには「看過しにくい重大なミスをする社員」などもいて、そうした社員に対し、「損害賠償を請求できないか?」と考える経営者がいても不思議ではありません。

しかし、まず理解しておくべきことは、

社員に全額の賠償を請求することは原則としてできない

ということです。一口にミスといっても、同じミスを何度も繰り返しているのか、取引先の信用を失うほどのミスなのかなどによって判断が変わります。そのため、

  • 社員に対する損害賠償請求に関する基本的な考え方
  • 「こんな場合に請求できる? できない?」というケーススタディー

を学ぶ必要があります。以降で弁護士(筆者)がポイントを解説するので見ていきましょう。

2 なぜ、ミスがあっても基本は会社負担なのか?

日本の労働関係法令では、社員と会社の関係は「報償責任」の考えに基づいています。

報償責任とは、「会社は、社員が業務を遂行することで利益を得ているのだから、その過程で発生する損害について、会社が責任を負うのは当然である」という考え方

です。そのため、社員が業務中にミスをしたとしても、原則として全額の損害賠償を求めることは認められません。労働基準法でも、社員に対する不当な賠償請求を防ぐことを目的として、社員に過度な責任を問うことを避けるための規定が設けられています。こうした法律の考えから、社員のミスによる損害についても、基本的には会社が負担することになるのです。

実際に社員に対する損害賠償請求が問題になった事案もあります。有名な「茨城石炭商事事件(最高裁第一小法廷昭和51年7月8日判決)」においても、

会社が社員に対して賠償責任を問う際の基準が示されており、社員のミスによる損害が会社の業務指示の範囲内で起こった場合、その基準に基づいて妥当な範囲でのみ、社員個人に責任を追及できる

とされています 。この判例により、社員が業務上のミスを犯した場合でも、原則として会社が損害を負担するという考え方が強調されました。具体的な基準は次の通りです。

具体的な基準

3 このケースは損害賠償できる? できない?

1)発注ミスで、頼んでいない商品が大量に会社に届いてしまった……

1.ケーススタディー

卸売業の会社に勤めるAさんは、商品の発注を担当しています。あるとき、Aさんは10個発注する予定の商品を、入力を誤って100個発注してしまいました。返品も利かず、会社は大量の在庫を抱えることになってしまいました……。会社からAさんへの損害賠償請求は認められるでしょうか?

2.考え方

商品の発注、特にウェブ上で発注を行う場合、入力ミスなどによって発注内容(種類・数量など)を間違えてしまうことがあります。業務を行っていれば、通常起こり得るようなささいな不注意であり、一般的に損害賠償請求は認められにくいといえるでしょう。

Aさんが新入社員の場合などは、上司や先輩が横について発注前に画面を確認するなどの配慮が必要であり、なおさら損害賠償請求は難しくなります。

ただし、Aさんが長年経験を積んだ管理職にもかかわらず、基本的な発注手順を無視して発注ミスを犯した場合などは、Aさんの過失が重大であるとして、損害賠償請求が認められる可能性があります。

2)営業担当が勝手に納期を決めたせいで、開発部門にしわ寄せが……

1.ケーススタディー

BさんはIT企業の社員で、システム開発の営業を担当しています。ある日、Bさんは、取引先から短納期でのシステムの納入を頼まれましたが、取引先との関係を維持したいあまり、開発部門に確認もせず、納入を約束してしまいました。開発部門は無理なスケジュールでシステム開発を行いましたが、結果として納期には間に合わず、しかも納入後にシステムの不具合が発生。取引先側でもリリース延期の対応が生じてしまい、会社が取引先から「どうしてくれるんだ!」と詰められる事態に……。会社からBさんへの損害賠償請求は認められるでしょうか?

2.考え方

Bさんのケースのように、部門間で十分な連携をしないまま、取引先に無理な約束をしてトラブルになるケースは少なくありません。部門間の情報共有・連絡方法などの体制を見直すべき案件です。とはいえ、Bさんの過失は法的には軽微なものであり、損害賠償請求は認められにくいといえるでしょう。

ただし、Bさんが、事前に開発部門から「このスケジュールでは難しい」「納期を調整してくれ」と言われていたにもかかわらず、それを無視して納期を約束してしまった場合などは、損害賠償請求が認められる可能性があります。

3)コンピューターシステムの操作ミスで、大事なデータが消えてしまった……

1.ケーススタディー

Cさんはある会社のIT部門で、システムのメンテナンスを担当しています。Cさんが、夜な夜なシステムのアップデート作業を行っていた際、誤って重要なデータを削除してしまいました。その結果、会社のシステムが一時的に停止し、取引先にも影響を与えてしまいました……。会社からCさんへの損害賠償請求は認められるでしょうか?

2.考え方

パソコンで業務を行うのが当たり前の現代、システムのアップデートに限らず、作業中に保存されていたデータを誤って消してしまうというミスはどの会社でも発生し得ます。こうしたミスは、原則として損害賠償請求が認められにくい、といえるでしょう。

ただし、Cさんが、過去にも注意を受けたにもかかわらず作業手順やマニュアルを無視して、独自の方法で作業を行った場合や、夜な夜なお酒を飲みながら作業していた場合などは、過失が重大であるとして、損害賠償請求が認められる可能性があります。

4)広告に著作権違反のイラストが掲載されて、権利者から警告を受けた……

1.ケーススタディー

若手社員のDさんはマーケティング部門で、自社商品の広告を制作しています。Dさんが新商品のウェブ広告を制作した際、他社のキャラクターを参考にしたイラストが含まれてしまい、そのまま広告に掲載されてしまいました。これを見た他社の権利者から警告を受け、消費者からの信頼を失い、ブランドイメージに大きな悪影響を与える結果となりました……。会社からDさんへの損害賠償請求は認められるでしょうか?

2.考え方

広告に関するミスは、会社のイメージにも直結するため、損害が大きくなりがちです。とはいえ、イラストの著作権などについて正しく理解している社員はそう多くありませんし、Dさんの立場にもよりますが、一般的に若手社員が1人で制作した広告がそのまま採用されるケースはまれです。通常は複数の社員が広告に携わるものであるという前提に立つと、Dさんの過失は法的には軽微なものであり、損害賠償請求は認められにくいといえるでしょう。

ただし、Dさんが、本来であれば広告チェックを担う立場の社員であるにもかかわらず、楽をするために生成AIを利用した場合などは、その過失が重大であるとして、損害賠償請求が認められる可能性が高くなります。

5)消費者からのクレーム対応を誤ってしまい、消費者に損害を与えた……

1.ケーススタディー

Eさんは、一般消費者向けに化粧品を販売する会社の、カスタマーサポート部門に勤めています。ある日、Eさんは消費者からのクレームに対し、誤った情報を伝えてしまいました。そのため、顧客は化粧品の使い方を間違ったことで肌荒れになり、訴訟を起こすと言っています……。会社からEさんへの損害賠償請求は認められるでしょうか?

2.考え方

クレーム対応の際に誤った情報を伝えたことによって、顧客が損害を被ったという事例です。カスタマーサポートなどの業務では、オペレーターによる誤案内も発生しやすいミスであり、会社がマニュアルを作成したり、社内相談フローが定められたりしているケースが多いです。オペレーターによる誤案内が過失によるミスであった場合、会社がその損害を負担するのが一般的であり、Eさんの誤案内が軽度のものであれば、損害賠償請求は難しいといえるでしょう。

ただし、Eさんが過去にも、同様のクレーム対応で同じようなミスを繰り返していたり、会社が定めるマニュアルや相談フローに従わずに独自で判断したりした場合には、損害賠償請求が認められる可能性があります。

4 会社ができる対策は?

こうした社員のミスによる損害を未然に防ぐために、会社が実施すべき対策がいくつかあります。これらの対策をしっかりと整備することで、リスクを減らし、社員の負担を軽減しつつ、会社の利益を守ることができます。

1)マニュアルの整備と研修・教育

まずは会社が、業務を遂行する社員に対し、明確な指示を与えることが重要です。業務の進め方や手順について詳細なマニュアルを整備し、社員がミスをしないように配慮しましょう。

また、社員による業務上のミスを最小限に抑えるには、定期的な研修や教育が重要です。会社は、社員に対して業務に必要な知識やスキルを定期的に習得させることで、ミスを減らし、万が一ミスが発生した場合でも、迅速に対応できる体制を整えることが可能です。

2)就業規則への明文化

就業規則には、社員が業務を遂行する際に注意すべき事項や、ミスが発生した場合の対応方法、賠償責任に関する規定などを盛り込むことができます。例えば、社員が業務中に重大な過失を犯した場合の対応方法や、その責任の範囲について明記しておくことが考えられます。これによって、社員も事前に自分の責任範囲を理解し、ミスを防ぐ意識が高まります。

なお、就業規則に損害賠償規定を盛り込むことも可能ですが、過度に厳しい規定(全額の請求や損害賠償額の予定)を設けると、違法・無効となる恐れがあります。

3)保険の活用

社員のミスに対するリスクを減らすために、適切な保険に加入するのも一つの方法です。特に、社員が業務を遂行する中で生じる事故や損害をカバーする保険を活用することで、予期しないリスクに備えることができます。保険会社によって様々な内容の保険があり、契約内容によっては社員の過失による損害も対象となるものがあります。

以上(2025年7月作成)
(執筆 石原法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:rrice-Adobe Stock

【業種別データ】「ウスター・中濃・濃厚ソース」出荷金額、第1位は……

ウスター・中濃・濃厚ソース

「ウスター・中濃・濃厚ソース」出荷金額の第1位は、広島県です!

【なぜ、出荷金額が多いの?】

  • 戦後復興とお好み焼き文化の発展……戦後の広島でお好み焼きが庶民の味として定着。ソース需要が急拡大した
  • 醸造業から受け継がれた調味料製造技術……酢や醤油などを手掛けていた事業者がソース製造へ参入し、独自の味づくりを進めた
  • 大手メーカーの成長と全国展開……広島発祥のソースメーカーが全国へ販路を拡大し、出荷金額を押し上げている

ちなみに、戦後の広島では、

メーカーがお好み焼き店の要望に応える形で、より甘く、濃厚な専用ソースが開発された

そうです。

そのソースがお好み焼きの魅力を高め、広島のお好み焼き文化をさらに発展させていったのです。

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以上(2026年7月作成)

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画像:日本情報マート

【債権回収】取引先の「破産手続」申立て 債権はどうなるのか?

1 「破産手続」の位置付け

取引先が破産手続を申立てた場合、自社の債権は大きな影響を受けます。そのため、取引先の破産手続の申立てに備えて、事前に何ができるのかを知っておく必要があります。その前提となる情報として倒産処理の手続を整理します。

倒産処理の手続

会社が債務超過などで倒産した場合、その手続は、

  • 私的整理:裁判所を利用しない
  • 法的整理:裁判所を利用する

に大別されます。法的整理はさらに、

  • 清算型:会社の清算を目的とする
  • 再建型:会社の再建を目的とする

に大別されます。

破産手続とは、

会社を清算し、消滅させることを想定した制度

です。会社の全財産が債権額に応じて債権者に按分で弁済され、会社は消滅します。弁済しきれない残債務は実質的に免責されます。そのため、取引先が破産手続に進むと、

何らかの担保を設定していない限りは、全て破産手続上でしか回収できない

状態になります。また、回収できるのは、債権額の0~1%程度にとどまることも少なくないため、ほぼ回収できずに債権が消滅してしまう恐れもあります。

では、破産手続の基本的なポイントを紹介していきます。

2 破産手続における債権の分類

破産手続では、債権を5つに分類します。

破産手続における債権の分類

商取引上の債権の多くは一般破産債権です。債権額のほとんどは弁済されないことになるため、取引先が破産をしてしまうと、最終的に貸倒損失として処理をすることになります。

3 破産手続の概要

破産手続の主な流れは次の通りです。図の黒塗りの部分については以降で詳しく紹介しています。

破産手続の主な流れ

1)裁判所による包括的禁止命令・財産保全処分

裁判所は、破産手続の申立てを受けてから破産手続開始の決定があるまでの間、

全ての破産債権者に、破産債務者の財産に対する強制執行などの禁止を命ずる包括的禁止命令を出す

ことができます。包括的禁止命令が出ると、債権者は売掛金の回収や自社商品の引き揚げなどができません。

また、民事再生手続と同様、裁判所は職権で仮差押え・仮処分その他の必要な保全処分ができます。

2)破産債権の届出・調査・確定

債権者は、破産手続の開始決定後、裁判所が定める債権届出期間内に、裁判所に対して債権の内容および額などを届け出ます。この届出を怠ると、債権者は債権を失う恐れがあるため十分に注意する必要があります。

債権者からの届出を受けた裁判所は、債権の内容および額などについて調査期間を設けます。その調査期間において、破産管財人が作成した債権認否書の内容について、破産債務者が認め、かつ届出をした破産債権者の異議がなかったときは、その破産債権の内容は確定します。

3)債権者集会の決議

破産法では、破産債権者の意思を、債権者集会あるいは債権者委員会(破産債権者をもって構成する委員会)によって破産手続に反映させます。債権者集会は、破産管財人・債権者委員会・知れている破産債権者の総債権について、裁判所が評価した額の10%以上の破産債権を有する破産債権者の申立てまたは裁判所の職権で招集します。

債権者集会の決議は、債権者集会に出席または書面投票した者の議決権の総額の50%超の同意によってなされます。

債権者委員会は裁判所または破産管財人に意見を述べることができ、裁判所は債権者委員会から意見を求めることが可能です。また、破産管財人は財産の管理および処分に関して、債権者委員会の意見を聴取することとされています。

4)破産債権者に対する配当

破産管財人は、財産の換価の終了後、遅滞なく、裁判所書記官の許可を得た上で届出をした破産債権者に配当します。配当には、原則型である「最後配当」、最後配当に代わる簡便な手続である「簡易配当」と「同意配当」、換価終了前の例外的な手続である「中間配当」、最後配当の補充的な手続きである「追加配当」があります。通常、単に配当という場合は「最後配当」を指します。

破産管財人は、配当の手続に参加できる破産債権者の氏名または名称および住所、債権の額および配当できる金額を記載した「配当表」を裁判所に提出します。その後、破産管財人は遅滞なく、配当の手続に参加することができる債権の額および配当できる金額を公告、または破産債権者に通知します。

配当表に異議のある破産債権者は、破産管財人が裁判所に届出をした日から2週間以内(除斥期間)に、配当表の修正記載の基礎となる事実を提示します。破産管財人は、これを受けて配当表を更正します。さらに、配当表の記載に不服がある破産債権者は、除斥期間が経過した後1週間以内に限り、裁判所に異議を申立てることができます。

4 破産手続中の取引先から債権回収する手立て

1)債権債務の相殺

破産債権者が債務者に対して債務を有する場合、

破産手続によらずに、双方の債権債務を相殺

できます。相殺権を行使する場合、一般的に配当を受けるわけではない以上、破産債権の届出は必要ないと考えられています。

なお、破産債権者の公平・平等と相殺権行使の濫用防止の観点から、破産手続特有の相殺禁止に関する定めがあるので注意が必要です。

2)担保権の行使

破産手続開始の時点で、

債務者の財産に設定されている担保権(特別の先取特権、質権、抵当権、商事留置権)を有する者は、その目的である財産については「別除権」を有し、破産手続によらずに行使できる

とされています。そのため、上記に該当する担保権を有していれば、原則として競売などを通じて債権回収できる可能性があります。なお、担保権の実行手続を開始している場合、破産手続が開始されても影響を受けません。

以上(2025年7月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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画像:Mariko Mitsuda

とくぎんサクセスクラブ セミナー・イベントに関するアンケートのお願い

平素よりとくぎんサクセスクラブnaviをご利用いただき、誠にありがとうございます。

会員さまの声を、さらなるサービス向上のヒントにさせていただきたく、アンケートを実施しております。皆さまからの貴重なお声を心よりお待ちしております。

ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

■現在受付中のアンケート■

【令和8年新年互礼会】

以上(2026年1月更新)

【業種別データ】「天然・養殖真珠装身具(購入真珠によるもの)」出荷金額、第1位は……

天然・養殖真珠装身具

「天然・養殖真珠装身具(購入真珠によるもの)」出荷金額の第1位は、兵庫県です!

【なぜ、出荷金額が多いの?】

  • 国際貿易港・神戸の存在……真珠養殖が盛んな三重県や四国、九州に近く、海外との玄関口である神戸港を有していたため、真珠の集散地として発展した
  • 真珠加工に適した自然環境……神戸市の北野町エリアは、南から差し込む太陽光が六甲山の緑に反射し、真珠加工に必要な安定した自然光が年間を通じて得られた
  • 世界有数の真珠加工・流通拠点……明治末期から真珠関連業者が神戸に集積。選別や穴あけ、連組みなどの高度な加工技術が発展している

ちなみに、

世界で流通している真珠の約70%が日本に集積し、その多くの加工を兵庫県で行っている

とも言われています。

兵庫県は、長年培われた加工技術と、国際的な流通ネットワークによって成り立つ、世界一の真珠の都です。

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業種別データ集はこちら!

以上(2026年7月作成)

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画像:日本情報マート

「社員がすぐに辞める」への対策は2つの〇〇を丁寧に拾うこと/武田斉紀の 『人が辞めない会社、10のヒント』(1)

1 新卒3年以内の離職率がジリジリと増加中

今回から新シリーズが始まります。武田斉紀の『人が辞めない会社、10のヒント』です。

企業の経営者や人事担当者から「社員がすぐに辞めて困っています」というご相談をいただくことが増えてきました。以前からも似た話はあったのですが、最近は規模や業種によらず頻繁に耳にするようになりました。

「大卒の新卒は3年で3割が辞めてしまう」という数字はずいぶん前から聞かれますが、昨今の状況はどうなっているのでしょうか。

厚生労働省から、新規学卒就職者の離職状況が毎年発表されています。新卒で入社して3年ですから最新データは令和3年(2021年)3月卒業者が対象です(2024年10月25日発表)。それによると

新卒の3年以内の離職率は、大卒で34.9%(前年比2.6ポイント上昇)、高卒で38.4%(同1.4ポイント上昇)だそうです。

5年間を遡って比較すると、大卒では2021年(34.9%)、2020年(32.3%)、2019年(31.5%)、2018年(31.2%)、2017年(32.8%)と

漸増傾向にあると分かります。

規模別を見てみましょう。従業員数1、000人以上では28.2%、500~999人で32.9%、100~499人で35.2%、30~99人で42.4%、5~29人で52.7%、5人未満では59.1%。高卒でも同じように1、000人以上で27.3%から、5人未満で62.5%まで増加しています。

規模が小さくなるほど新卒3年以内の離職率が高くなっており、事態は深刻です。

業種別の調査結果もあり、

最も高いのが大卒・高卒共に「宿泊業、飲食サービス業」

で大卒が56.6%(前年比5.2ポイント上昇)、高卒が65.1%(同2.5ポイント上昇)。

高卒では3人採用しても2人が、大卒でも2人に1人超が辞めてしまう現状なのです。

ちなみに3年以内の離職率が高い5業種は、順に1位「宿泊業、飲食サービス業」、2位「生活関連サービス業、娯楽業」、3位「教育、学習支援業」、4位(高卒は5位)「小売業」、6位(高卒は4位)「医療、福祉」となっています。

新卒だけでなく転職者全体ではどうかというと、総務省統計局の2023年12月の調査報告によれば、3カ月を1期とする推移で転職者数は6期連続、転職希望者は10期連続で増加し続けています。就業者に占める割合も、転職者、転職希望者共に同じように増加、

転職希望者は数の上でも占める比率も過去最多です。

すなわち新卒・中途に限らず、せっかく採用した従業員の流出が、年々進んでいることが分かります。“採っても辞める、採っても辞める”状況に陥っているのです。

2 若手の転職自体へのハードルが下がっている?

社員全体で転職者やその比率が漸増している中でも、若手の転職が目立っている理由に挙げられるのが「我慢が足りない」という指摘です。そうでしょうか。

最近の若手社員は、人手不足から空前の売り手市場でちやほやされて採用されているように思われるかもしれませんが、彼らとて「自分に本当に合った1社を見つけよう」ともがいてきました。

大卒の場合、多くの学生は大学3年時からインターンシップに参加したり、何十社もの説明会に参加したり、応募書類もその都度個別にカスタマイズして提出したりと、学生時代の多くの時間を割いて就職活動をしてきているのです。

「タイパ(タイムパフォーマンス)重視」の傾向が強いといわれる若手が、そうして選んで入社した1社を簡単に辞めたいと思うでしょうか。あまりにタイパが悪いでしょう。彼らだってできることなら、時間をかけて選んだ1社で働き続けたいはずなのです。

一方で転職が身近になり、特に若手は転職自体をかつてのような少し後ろめたい行為ではなく、“前向きな選択”と捉えるようになっています。せっかく選んだ1社ではあるけれど、「合わないなら石の上にも3年どころか、1年でも時間がもったいない」と考えるのです。

昭和世代からすれば「我慢が足りない」と見えていても、彼らは「合わないと分かった時点で我慢して居続けることは時間がもったいない(タイパが悪い)し、自分と会社双方にとってプラスにならない」と判断しているのでしょう。

もっといえば、今の若者は「まだ20代」とも「まだ10代」とも考えていない節があります。彼らの同世代には既に結果を残したり、日本どころか一気に世界に羽ばたいていたりする仲間がいっぱいいるのです。

その昔にも10代、20代で名を馳せた人はいましたが、数もスピードも勢いも違います。お金がなく、先生もいなくともYouTubeを見て学んで、金メダルを獲ってしまう世代。明確な根拠の提示もなしに「とにかく20代は下積みを」といった考えは通用しません。

今の会社、今の仕事は、現在と未来の自分にとってどれだけプラスなのか。もっと良い会社や仕事はないのか。あると分かれば迷わずそちらを選択するのです。

若手の早期退職増加の理由に、退職代行業者の存在を挙げる人もいます。

お金を出せば自分の退職意向を代わりに会社に伝えて、手続きまで進めてくれるから、安易に退職を考えるようになっているのではないかと。事実、退職代行業者の取扱件数はうなぎ上りに増えているようです。

影響がゼロとはいいませんが、私はそれが早期退職増加の直接的な理由ではないと考えます。なぜなら退職代行業者に依頼する時点で、本人の退職意向が固まっている可能性が高いからです。

退職代行業者を利用しなくても、直接会って話さずに手紙やメールを送るだけで退職意向を伝える人、最悪は突然消えてしまう人だっているでしょう。代行業者はあくまで手続きを代行しているにすぎません。

会社への恩義やメリットを感じ、今後も関係を保ちたいなら自分で直接伝えるでしょうし、そうでないなら退職代行業者も利用する。代行業者から連絡があった場合は、少なくとも本人には直接伝えづらい何かがあったと考えるべきでしょう。

3 そもそもの採用自体が難しくなり、諦める中小も

多くの企業の「社員がすぐに辞めて困っています」という嘆きの原因が、離職率の漸増だけにとどまらないのはご承知の通りです。そもそも採用自体が難しくなっていることです。

原因の原因を真因と呼ぶようですが、採用難の真因は1つではありません。まず「少子化」です。日本の少子化は、従前の想定以上に進んでおり、採用したくとも対象者の数が減っているのです。

加えて「グローバル化」もあります。外資系企業が日本人を積極的に採用したり、日本企業が海外進出に向けて求人を拡大したりしています。結果、特に優秀な人材に対する採用競争の激化が止まりません。

大手企業を中心に初任給をかつてないほどの幅で増額提示する、あるいはキャリア次第で破格の好待遇で迎える企業が増えてきました。

数年前までは大卒初任給は基本給が20万円余り、大手と中小で差があってもせいぜい数万円でした。しかし今や30万円以上を提示する大手企業が次々と現れています。

高額の初任給はさまざまな手当を含んでいたり、一部の職種だけに適用にしていたりというケースもありますが、優秀な学生なら是が非でも採りたい、競合他社に採られたくないという意思が伝わってきます。

外資系の中には、相対的な円安も相まってさらに上の金額を提示する企業も見られます。大手ならなんとか対抗できたとしても、中小では国内大手に対抗することすらままならないでしょう。

そのせいか、リクルートワークス研究所「第42回 ワークス大卒求人倍率調査(2026年卒)」によると、大卒の2026年卒では従業員300人未満の企業の求人数が前年比7.9%、3.4万人も減少しているのです。一方で学生側の希望者は33.3%と大幅に減少し求人倍率は前年比2.48ポイント増の8.98倍。学生の就職希望先が初任給を大幅に増額した大手に引っ張られていることが分かります。

中小企業の求人数の大幅減少は、採用競争に着いていけず、諦めて求人自体をやめてしまった結果なのでしょう。

しかしながら、採用自体をやめたところで事態は好転しません。先ほどのように早期退職者がジワジワと増加する中では、座して死を待つのみではないでしょうか。

4 「採っても辞めてしまう上に、そもそも採れない」を解決する10のヒント

冒頭で紹介した企業経営者や人事担当者の「社員がすぐに辞めて困っています」との声は、「採っても辞めてしまう上に、そもそも採れない」という嘆きのようです。

そこで今シリーズでは、『人が辞めない会社、10のヒント』と題して、多くの企業が抱えている悩みを解決するためのヒントを第2回~第11回までで毎回1つ、計10個紹介していきます。

切り口を「採用」「仕事」「組織」「人と人」などに整理しながら、多角的に解説していきます。また、“ヒント”は原因の究明にとどまらず、最もお困りの中小企業の皆さんにも実践していただけそうな具体策を目指します。

ただ「採用力向上」については、過去のシリーズでも取り上げたことがありますので、今回は「退職防止」のほうに重きを置いてお話しするつもりです。

もちろん以前「採用力向上」についてお話しした頃とは、先ほど触れた初任給や待遇格差問題など状況が変わっていますので、「それでも中小企業にも勝機はある」ことをお伝えしたいと思います。決してあきらめてはいけません。

最終回の第12回では、10のヒントを振り返りながら、各社でどうとらえて実践していっていただければよいかのアドバイスで締めくくりたいと存じます。ご期待ください。

5 取るべき対策の1つは、一人ひとりの「辞める“本当の理由”を丁寧に拾う」こと

さて、次回から10のヒントをご紹介する前に、皆さんの会社で見つめ直し、今後継続的に取り組んでいただきたいことがあります。

前提として「何人中の何人が辞めた」という数字ばかりにとらわれるのではなく、辞めた「何人」はそれぞれが一人ひとりの人間であることを忘れないでください。

その上で会社は、退職を選択した一人ひとりの「辞める理由」を正しく把握できているでしょうか。退職時に本人が口にした理由が“本当の理由”とは限りません。

私が人事部でキャリア採用に関わり始めた数十年前は、まだ転職が一般的ではありませんでした。応募者が会社に「転職を考えている」とバレようものなら、上司は徹底的に説得して慰留するのです。はたして慰留に応じれば幸せになれるかというと、会社の裏切り者のレッテルを貼られて左遷の憂き目に遭うことも珍しくなかったのです。

転職者を受け入れる側としては、内定した際は、次に家族を説得すること。そうして転職を確実にしてから会社に“ゆるぎない決意”として報告するようにアドバイスしていました。

また、もし転職理由を聞かれた際には、前の職場や上司への不満を口にしないよう厳命しました。上司の面目を潰すことになるからです。上司は自分が理由で部下が退職したとしたくないため、「だったら改善しよう」とますます強く慰留するのです。

そこで勧めていたのは、嘘でもいいので個人的なプライベートの理由をつくって、慰留を押し切ることでした。典型的なケースは、「親の介護」や「親が商売をしていて跡を継ぐことになった」などです。最近では「親の介護」には会社からの配慮も進んできており、理由にしづらいかもしれませんが。

時代も進んで転職自体が身近な存在になってきた今でも、「実家を継ぐことになった」はよく聞く嘘の理由です。情報社会でSNSなどもありますから、継いでいない、あるいは実家が商売すらしていないなどの嘘はバレやすくなってきましたが、言い張ればいいのです。退職してしまえば、前の会社がもう後を追うことはありません。

会社にもよりますが、本人が既に決心していると分かれば以前ほど慰留するケースは減っています。かといって不満を吐露して辞めるのは、やはり後味が悪いものです。

そこで多く聞かれるのは「新しくやりたいことが見つかったので」という理由。“本当の理由”の一部であることも多いのですが、直接的な退職理由は前職への不満だったというケースは少なくありません。送り出す側は当人の不満に気付くことなく、「分かった。新しい世界で頑張ってね」と笑顔で手を振ってくれるのです。

話を戻しましょう。本人がわざわざ本音を言わずに去っていくのに、ではどうやって転職の“本当の理由”を聞き出せばいいのでしょう。

例えば、本人と仲の良かった職場の仲間、よく相談していた相手などに聞いてみることです。「退職したからまあいいでしょう」と話してくれるケースもありますし、「今後の改善に生かしたいのでぜひ」と頼み込んで話してもらうことも必要でしょう。

そうやって退職していった一人ひとりの退職理由を丁寧に拾っていけば、今この会社に何が足りないのか、どんな手を打てば退職者を減らせるかのヒントが見つかる可能性が高いのです。

6  同時に今働いている一人ひとりの「辞めない理由を丁寧に拾う」こと

退職者の辞める“本当の理由”を追って今後の改善に活かしていくだけでは、残っている社員にはさほど響かないかもしれません。個々に現状への不満はありながらも、この会社で働く選択をしてくれているのですから。

今働いている社員に対しては、1 on 1などの面談を通して現状への不満は拾いつつも、一人ひとりの「辞めない理由を丁寧に拾う」ことをお勧めします。

恐らくその理由は、あなたの会社が持っている他社にない“強み”である可能性が高いのです。例えば、教育制度の充実、公正で分かりやすい人事評価、細かく配慮された人事制度、職場の雰囲気が合う人には合う、社会や地域からの信頼やブランド力など。それらを失ってしまっては、彼らですらも会社を去る選択をしかねません。

他社にない“強み”はむしろ強化していくように取り組みましょう。

自社ならではの“強み”の強化は、人材確保だけでなく、企業としての競争力にも直結するはずです。

退職する一人ひとりの「辞める理由」と、働いている一人ひとりの「辞めない理由」の2つを丁寧に拾っていくことで、自社ならではの“強み”と“課題”が浮き彫りになってくることでしょう。

それらをシリーズで取り上げる10のヒントと照合していけば、あなたの会社が「人が辞めない会社」に生まれ変わるための処方箋も見えてくると思います。

第1回を最後までお読みいただきありがとうございました。次回からは『人が辞めない会社、10のヒント』を順にご紹介していきます。

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※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』https://amzn.asia/d/e8GZwTB

『なぜ社長の話はわかりにくいのか』https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2025年7月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
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画像:VectorMine-Adobe Stock

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