退職金が少なくても財形貯蓄やiDeCo+でこれだけカバーできる!/人生100年時代の退職金制度を考える(3)

書いてあること

  • 主な読者:自社の退職金制度の方向性について考えている経営者
  • 課題:退職金制度だけでは、社員の老後の生活費を賄うのに十分とはいえない
  • 解決策:退職金制度と、財形貯蓄やiDeCo+(イデコプラス)などの福利厚生を併用する

1 「退職金制度+福利厚生」で社員の資産形成をサポート!

第1回では、社員が老後を過ごすのにどのぐらいの退職金が必要かをシミュレートしました。85歳までの生活を想定した場合、夫婦2人暮らしでは912万円、独身では744万円が必要でした。

第2回では、複数の退職金制度を比較し手取り額などをシミュレートしました。税金や運用利回りのポイントを押さえれば、中小企業も魅力的な退職金制度を構築できるという内容でした。

ただ、そうしたポイントを押さえてもなお、十分な退職金を用意できない会社もあります。その場合は、退職金制度以外の福利厚生に注目してみましょう。例えば、

退職金制度と、財形貯蓄やiDeCo+(イデコプラス)などの福利厚生を併用することで、社員の資産形成をサポートできる可能性

があります。場合によっては、「退職金制度+福利厚生」の額が「大企業の退職金」の額を上回ることもあり、そうなれば採用活動でのPRなどにも大いに役立ちます。

第3回(最終回)となるこの記事では、財形貯蓄とiDeCo+、それぞれについて「社員が60歳になるまで運用した場合、どのぐらいの額になるのか」「退職金制度と福利厚生を組み合わせた場合、大企業の

退職金を上回ることができるのか」などをシミュレートしていきます。

2 財形貯蓄の運用シミュレーション

財形貯蓄は、毎月またはボーナスの支給時期に、給与天引きで積み立てる制度で、

  • 一般財形貯蓄(自由な目的で使用できる)
  • 財形年金貯蓄(60歳以降に年金として受け取る目的で使用できる)
  • 財形住宅貯蓄(住宅購入、新築、増改築目的で使用できる)

に分けられます。制度ごとの運用益などを比較してみましょう。

【試算条件】

  • 22歳年収400万円の会社員
  • 毎月3万円を給与天引きで積み立てる
  • 積立期間は38年
  • ボーナス・年収アップでの上乗せはないものとする
  • 全ての制度で年利は0.01%とする

1)財形貯蓄3種類のシミュレーション

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一般財形貯蓄は、運用益(今回は0.01%)に対して20.315%の税金がかかります。一方、財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は、両制度合算して550万円までの利子に税金がかかりません。目的が明確なら、財形年金貯蓄、財形住宅貯蓄を選択するのがよいでしょう。ただし、目的外の払い出しは課税対象となることがあるので、柔軟に使いたいなら一般財形貯蓄がお勧めです。なお、一般財形貯蓄については、その商品性から散財抑止を目的とした、社員に代わって会社が管理する普通預金のような感覚として社内制度化しているところもあります。

さて、上記の条件で試算した結果、

全ての制度で約1370万円以上を用意できる

ことが分かりました。運用益については、一般財形貯蓄は約2.1万円、非課税枠のある財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は約2.6万円となっています。「運用益が少ないな」と感じる人もいるでしょうが、これらの制度は堅実に資金を用意できることが特徴です。元本割れのリスクがなく、確実に必要な分だけ用意できます。

2)大企業(財形貯蓄なし)との比較

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次は、中小企業(財形貯蓄あり)の「退職金+財形貯蓄」の額と、大企業(財形貯蓄なし)の「退職金」の額とを比較ます。中小企業の社員(大学卒)が定年退職時にもらえる退職金は、2022年平均で約1092万円です(東京都産業労働局「中小企業の賃金・退職金事情」)。一方、大企業の社員(大学卒)の退職金は約2243万円(日本経済団体連合会「2021年9月度 退職金・年金に関する実態調査結果」)。統計データは異なりますが、1000万円以上の開きがあります。

ですが、財形貯蓄の制度がある中小企業が、

  • 退職金(退職給付額)で1092万円
  • 財形貯蓄(積立元本+運用益)で1370万円

を用意できた場合、その額は合計2462万円になります。これは、

大企業(財形貯蓄なし)の社員(大学卒)の退職金(2243万円)よりも219万円多い

計算になります。

3 iDeCo+の運用をシミュレーション

iDeCo(イデコ)とは、社員が自分で掛け金を拠出して運用する個人型の確定拠出年金です。

このiDeCoには、拠出限度額の範囲(月額0.5万~2.3万円)で、iDeCoに加入する従業員の掛け金に追加して、会社が掛け金を拠出できる「iDeCo+(イデコプラス)」という制度

があります(中小企業限定の制度)。会社が掛け金を上乗せしてくれるので、iDeCoのみを利用するよりも多くの老後資金を用意できます。

iDeCo+は財形貯蓄制度とは異なり、投資としての側面を兼ね備えています。長期間積み立てるとどのような結果になるのか、シミュレートしていきましょう。

【試算条件】

  • 年収400万円
  • 事業主拠出は1万円で合意
  • 個人拠出は1.3万円
  • 30年間年利3.0%で運用
  • 受給開始年齢60歳
  • 移管資金0円
  • 企業型DCやDBの取り扱いはなし

1)iDeCo+(イデコプラス)のシミュレーション

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上記の条件で試算したところ、

iDeCoのみで752.3万円、iDeCo+で1331万円用意できる

ことが分かりました。年利3.0%で運用した場合、iDeCoでは約284.3万円、iDeCo+は約503万円の運用益を確保できます。しかも、これらの運用益に対しては税金がかかりません。

また、iDeCo+を導入している会社の場合、社員の自己負担はiDeCoよりも少なくできます。つまり、社員は今の生活を切り詰めることなく、退職金+αのお金を用意できるのです。

2)大企業(iDeCoなし)との比較

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仮に、iDeCo+を導入している中小企業が、

  • 退職金(退職給付額)で1092万円
  • iDeCo+(積立元本+運用益)で1331万円

を用意できた場合、その額は合計2423万円になります。これは、

大企業(iDeCoなし)の社員(大学卒)の退職金(2243万円)よりも180万円多い

計算になります。ただし、iDeCo+で拠出できる金額の上限は年27.6万円(月2.3万円)ですから、これ以上の金額を用意する場合は他の制度も利用する必要があります。

4 財形貯蓄とiDeCo+のメリット・デメリット

改めてシミュレーションの結果を振り返ってみましょう。中小企業が退職金制度と福利厚生を組み合わせた場合、

  • 退職金と財形貯蓄で合計2462万円
  • 退職金とiDeCo+で合計2423万円

を用意できる計算になりました。どちらも大企業の退職金平均を上回る水準です。

シミュレーション上は、退職金と財形貯蓄を組み合わせた金額のほうが高い一方、利用件数を見ると、財形貯蓄は減少傾向(厚生労働省「財形貯蓄の実施状況」)、iDeCoは増加傾向(企業年金連合会「確定拠出年金統計資料」)にあることが分かります。iDeCoの特性上、シミュレーション以上の運用益が見込める可能性もありますし、最近では国が積極的に加入を推奨しており、こうした背景なども少なからず影響しているのでしょう。

ただし、iDeCoは長期積み立てによる運用益が期待できる、iDeCo+に至っては会社が掛け金の一部を負担してくれるなどのメリットがある一方で、運用失敗による元本割れのリスクも当然あるので、堅実なほうが好きな社員にとっては、必要な金額を確実に用意できる一般財形貯蓄のほうが魅力的という考えもあるかもしれません。

メリット・デメリットを確認し、御社に合った方法で退職金の不足分をフォローしてみてください。

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以上(2024年12月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:pek-Adobe Stock

【管理会計】新任役員が知っておきたい管理会計の心得

書いてあること

  • 主な読者:新たに部門の管理が必要になった新任管理職や新任役員
  • 課題:実務としての管理会計を経験していないと、何から手を付けたらいいのか分からない
  • 解決策:管理会計で必要なKPIの設定や、自部門に管理会計を定例化させるポイントを紹介

1 新任役員が押さえておきたい管理会計の基本

会計は、法令に基づく「制度会計」と「管理会計」とに大別され、さらに制度会計は「財務会計」と「税務会計」とに分かれます。新任役員は、まずは管理会計を押さえておくといいでしょう。管理会計とは、

業績を改善するために社内で活用する会計であり、「利益を出すための会計」

といえます。一方の制度会計は、税金の法律や会計の基準といった社会のルールに従って、社外に業績を報告するものです。こちらは基本的に経理部に任せておいても問題ありません。

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役員に求められるのは、自分の主管する部門(以下「自部門」)からより多くの利益を上げることです。そこで、利益獲得につながるヒントを提供してくれる管理会計を押さえることが効率的です。自部門の業務内容を決算書の数字に結びつけて、定点観測することがポイントです。

2 自身が求める管理会計を導入するために必要なこと

1)KPIを押さえる

自部門の管理会計としては、KPIを押さえることから始めましょう。KPIとは、業績に大きな影響を与える数字のことです。正確には、Key Performance Indicatorの頭文字をとったもので、日本語では重要業績評価指標と呼ばれますが、名称はそれほど気にしなくて構いません。営業部門であれば販売単価や販売個数、製造部門であれば歩留まり率や機械稼働率がKPIの代表例です。

例えば、販売単価をKPIとして、「来年度は10%アップの110円を目指そう」と目標を立てた場合、メンバーは販売単価を110円にすることを目指して活動します。従来よりも単価が高い商品を積極的に売る人もいれば、これまでよりも値引き幅を抑えようと得意先と交渉する人もいるでしょう。KPIには、何を頑張ったらいいのか、そしてどのくらい頑張ったらいいのかをブレなくメンバーに理解してもらうことで、メンバーがとるべき行動が分かりやすくなる効果があります。

取り組みの手順として、まず、自部門で従来、大切にされていた指標が何かを特定します。社内で実際に使われているKPIのほとんどは、長年の経験から業績向上につながることが分かっており、そのために使われていることが多くあります。それ以外にも、もし業績向上につながるKPIが分かっていれば追加してもいいでしょう。このとき、そのKPIは自部門が頑張れば達成できる性質のものなのか、複数の類似する指標がある場合には最適な指標なのかといった点に注意が必要です。

また、KPIは1つだけとは限りません。KPIを複数設定する場合は、おおよそ5つまでが把握、管理しやすいと思います。その場合には、優先順位をつけるようにします。さらに、KPI同士の関係にも注意が必要です。一般に、単価を下げれば販売個数が伸びる傾向があるため、販売単価と販売個数はトレードオフの関係にあるといえます。このとき、どちらも同じように大事にすると、部門のメンバーはどちらを伸ばしていいのか分からず、業務目標の方向性がバラバラになってしまいます。中途半端な取り組みの結果、目標が達成できないという事態につながることもあります。KPIは、メンバーの行動を方向付けるためのツールですので、このような矛盾が発生しないよう注意しましょう。

2)KPIの実績数値の収集、分析、予測

KPIを設定したら、次に、そのKPIの実績数値を数カ月分集めてみましょう。そこで見られる変動の要因が何なのかを納得いくまで分析します。KPIに影響を与える要因を分析することで、何を頑張ればKPIが向上するのかのヒントを得ることができます。数値の良しあしに一喜一憂するだけではいけません。数値の裏側にある情報を押さえることのほうが重要です。

実績数値の分析ができたら、今度は予測に挑戦するといいでしょう。これから数カ月分のKPIの数値を予測します。自部門の活動予定や外部環境の変化などの前提条件を考えたうえで、その情報に基づき数値化します。実績の分析は「数値から情報」という流れでしたが、予測は「情報から数値」という逆の流れです。時が過ぎ、実績数値が出たら、予測との「答え合わせ」をしましょう。もし答えがあっていなかった場合、それは押さえるべき情報が漏れていたのか、それとも読み間違ったのか。この振り返りを何度も行うことで、今後の予測の精度を上げることができます。

正しく将来を読めるようになることは、管理会計の要です。これから自部門、ひいては自社の業績がどうなるのかを正しく予測できれば、必要な対処をとることができます。管理会計は「未来のための会計」ともいわれますが、正しく未来を予測し、必要な場合には適切なアクションをとることで、自社をより良い未来へ導くことができるのです。

3)KPIと決算書の数値の連動

最後に、KPIと決算書の数値を連動させて説明できるようになるといいでしょう。管理会計の目的は業績の向上、つまり、より多くの利益を出すことにあります。決算書上の利益が目標ですので、これと自部門のKPIがどのような関係にあるのかを把握します。

例えば、製造部門の主力製品の歩留まり率をKPIに置いた場合、これが1%改善したらいくらの利益改善効果があるのかを、「金額」で知っておくことが大切です。決算書や利益の話になると、及び腰になる役員も多いのですが、KPIを入り口にして、最終的には決算書の金額に結びつけられるようにならなければなりません。

なぜなら、経営者は、決算書を見て会社の全体像を把握します。つまり、経営者からしてみれば、KPIは会社の一部分の指標にすぎないのです。また、KPIはパーセンテージで表示されることも多く、実際の利益への影響が見えにくいものです。役員は、経営者が意思決定に必要な情報を正確に理解するために、自部門の数値であるKPIと、全社の数字の集合体である決算書上の利益の間を「翻訳」できるようになりましょう。経営者に対して自部門の状況を「翻訳」して説明するのは、役員に求められる必須のスキルといえます。

3 現場で管理会計を定例化させるために必要なこと

1)データベース形式で共有する

日常的にKPIを管理するためには、KPIの実績数値を容易に把握できる仕組みが必要です。丁寧に確認するのは月次で構いませんが、月中にも途中経過を確認できるほうがいいでしょう。KPIを管理するために、必ずしも立派なシステムは必要ではありません。エクセルでも結構ですので、確認したいと思ったときにすぐ確認できる仕組みをつくりましょう。必要なときにいつでも参照できるよう、データベース形式にして共有するのもいいでしょう。他人に頼まないと数値が見られないというのでは、役員として意思決定への活用がしづらくなってしまいます。

2)1つのKPIを管理するのは1つの部門に限定する

同じKPIを複数の部門で集計、管理している場合がありますが、これはなるべく避けましょう。業務が重複して手間が余分に掛かるだけでなく、新たな業務を生みがちだからです。KPIは小数点以下の数値を含むことも多く、複数の部門で管理していると、数値間に差異が発生することが多くあります。数値に差異があると、役員としては安心してその数値を使えず、迅速な意思決定ができなくなりますし、現場も差異の確認に不要な時間がとられます。ぜひ1つの部門で責任を持って計算、管理する方法を採用しましょう。部門をまたぐ話ですので、役員だからこそできる決断でもあります。

3)定期的にアウトプットする

KPIの管理を確実に運用するためには、定例会議資料の項目に織り込むことをおすすめします。定点観測がしやすくなり、また分析のためにいろいろなコメントを得ることができます。そして、KPIの管理に力を入れたい役員自身の本気度を、メンバーに対して伝えることにもつながります。同様の趣旨で、定期的に数値をメールで配信するのもいいかもしれません。小売業のような動きの速い業種では、前日の売上に関するKPIを毎朝配信するのが一般的です。

4)管理サイクルをルーティン化し、スピード感をもって取り組む

初めは、KPIの種類を1~2個に絞り込んだうえでスタートしても構いません。大事なのは、現場を巻き込みながら、定期的なKPIの管理サイクルを回すことです。KPIをはじめ、管理会計はスピード感を持って取り組むことが大切です。数値を確認するのに時間がかかると、分析や実際のアクションにかける時間が減ってしまいます。また、途中で挫折してしまっては、状況の把握が不十分になってしまいます。数値を集計し、分析し、報告する。この流れをタイムリーに運用し続けることを目標に、自部門の管理会計を構築することが、新任役員には求められているのです。

以上(2024年11月更新)
(執筆 管理会計ラボ株式会社 代表取締役・公認会計士 梅澤真由美)

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画像:pixabay

社員に“モヤモヤ”しているアイデアを出してもらう5つの仕掛け

書いてあること

  • 主な読者:社員に新しいアイデアを積極的に出してもらいたい経営者や管理職
  • 課題:ミーティングの場で社員がなかなか意見を出さない
  • 解決策:ちょっとしたきっかけで社員のアイデアは活性化するもの。ブレストやシックス・ハット法といった、社員が意見を出しやすい「仕掛け」を実践してみよう

1 組織の進化にオススメな“モヤモヤ”ミーティング

今までと同じことをやっているだけでは、会社は成長できません。新しいことに取り組んでいくために、社員にアイデアを出してもらいたいところですが、募集してもなかなか出てきません。社員はアイデア出しに慣れていなかったり、アイデアはあっても、「練っていないので、人に話すことができない」と思い込んでいたりするからです。

そこで、経営者や管理職の方々にご提案したいのが、

社員を巻き込んだ“モヤモヤ”ミーティングの開催

です。これは、社員が日ごろ、なんとなく「これがいいな」と“モヤモヤ”思っているアイデアを自由に披露する場をつくるというもので、オンライン・オフラインのどちらでもできます。“モヤモヤ”ミーティングを活性化する5つの仕掛けを紹介しますので、ぜひ実践してみてください。

  • 苦手そうな社員には課題を出してみる
  • ブレーンストーミングで場を活性化する
  • シックス・ハット法で掘り下げる
  • 明るく楽しくテンポ良く
  • 経営者や管理職は大いに語ろう

2 苦手そうな社員には課題を出してみる

“モヤモヤ”ミーティングは自由な意見を出せるのがいいところです。ただ、日ごろ、あまり問題意識を持っていない社員は苦手に感じます。そうした社員には、まず、取り組みやすそうな課題を出して考えさせることから始めてみましょう。

課題の例としては、「今、一番不便だと思っていることは何か。それを解消するにはどうすればよいか」「今までの人生で一番熱中したことは何か。それを他の人にどのように勧めるか」「好きに時間を使っていいと言われたら一日何をしたいか」などが挙げられます。具体的に既存商品やサービスについて、「『もっとこうしたほうがいい』と思っていることは何か」を課題にしてもいいかもしれません。

3 ブレーンストーミングで場を活性化する

“モヤモヤ”ミーティングでは、参加している社員に、活発に意見を出してもらうことが大切です。「批判をしない」「自由奔放に考える」「質より量を重視する」「便乗する」といった約束事のあるブレーンストーミング(ブレスト)で進めるのがよいでしょう。

ブレストに慣れていない社員は、つい、他の人のアイデアを批判しがちです。こうした社員には、「『でも、しかし』ではなく『そして、それから』」を徹底し、他の人のアイデアに「便乗する」ことで、アイデアをさらに膨らませるよう指導しましょう。

ビジネスのアイデアを出し合う前に、「動画で商品をPRする新しい企画とは?」「誰もが楽しい社員旅行の企画とは?」といった身近なテーマでブレストを行い、アイデアを出し合う訓練をしてみるのもいいでしょう。

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ブレストの良いところは、1つのアイデアに皆が便乗し、さらに膨らませるため、一体感が生まれることです。最初にそのアイデアを言い出したのは誰かということは重要ではなくなり、参加者全員で力を合わせて1つのアイデアを考えることができます。

4 シックス・ハット法で掘り下げる

ブレストで膨らんだアイデアを深掘りするために、「シックス・ハット法」を使います。これは、視点の違う6色の帽子(他のアイテムでもよい)のうち、全員が同じ1色を身に着け、その色の視点に立って考えていくという方法です。オンラインの場合は、6色の背景画像を用意し、全員が同じ1色を背景色にするなど工夫してみましょう。

シックス・ハット法で用いられる6色は、「青=冷静・管理的、黄=楽観・積極的、黒=警戒・否定的、緑=創造・革新的、白=中立・客観的、赤=情熱・感情的」となります。全員で同じ色を身に着けるので、思考をそろえて議論を深めることができます。

例えば「白」にしたときは、データや数字といった客観的な情報・事実だけを話します。このとき、自分の意見は言いません。一方、「赤」の場合は、「可能性を感じる」「面白い」など自分の感想や気持ちを話します。

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色の順番は決まっていませんが、他の色を統制し、分析したり管理したりする要素を持つ「青」で始めて進め方やゴールを決め、全ての色が終わった後、再度「青」にして、結論や次回への課題を確認して終わることが多いともいわれています。

慣れないと「今の色」と違う視点で意見を言う社員が出てくるので、ファシリテーターが「その発言は黒い帽子ですね。今は白ですよ」と軌道修正します。状況によっては「議論が停滞してきたので、緑の帽子で解決策を出しましょう!」と全員の視点を切り替えることもあります。

シックス・ハット法の良いところの1つは、視点を切り替えて考えられることです。さまざまな視点から捉えることで、“モヤモヤ”していたアイデアのメリットや課題、さらに進化した姿などが分かるため、形が見えるようになってきます。

5 明るく楽しくテンポ良く

ブレストでもシックス・ハット法でも、“モヤモヤ”ミーティングは、社員が楽しみながらテンポ良く進めることが大切です。シーンと静かになってばかりだったり、特定の社員が長々と発言したりしないよう、「発言は1分間」などのルールを決めましょう。特に1人しか発言できない(みんなでワイワイしにくい)オンラインの場合、ファシリテーターが重要です。参加者が満遍なく発言できるように回しましょう。

また、「立場にこだわらずフラットに発言する」というルールにしたとしても、社員は経営者や管理職の発言に影響を受けたり遠慮したりしがちです。社員が慣れるまでは、経営者や管理職はなるべく社員の後に発言するように心掛けるとよいでしょう。

社員がリラックスした気持ちで自由に意見を言えるよう、会社の外に出るのも一策です。オープンカフェや公園など屋外で行えば、いつもと違った雰囲気の中で、社員の視野が広がるかもしれません。

6 経営者や管理職は大いに語ろう

社員が“モヤモヤ”と思い、その“モヤモヤ”をアイデアとして議論し合えるようになるには、社員に会社や仕事を好きになってもらうこと、会社の今後を自分事のように考えてもらうことが必要かもしれません。

それには、経営者や管理職の日ごろの働き掛けがとても重要です。経営者や管理職は、思い描いている夢や「あるべき理想の姿」、どれだけ会社と社員(部下)を誇りに思っているか、たとえ足元の仕事が大変でもその先にどれだけ大きな喜びがあるか、などを大いに語りましょう。経営者や管理職は、未来をつくるのは“モヤモヤ”思ってくれる社員たちであることを忘れてはなりません。

7 社員に、「アイデア脳」になってもらうために

最後に補足として、「社員に、アイデアを出しやすい思考になってもらう」方法をお伝えします。“モヤモヤ”ミーティングの開催と並行して、日ごろから次のことを実践してみるとよいでしょう。

  • 社員にセミナーや勉強会、スタートアップピッチ、アイデアソンなどに参加してもらい、社外の人と積極的に交流する機会をつくる。
  • 経営者や管理職が「○○について人と話をしたが、うちの会社でもこう活かせる」と話して、「身の回りの全ての出来事がアイデアにつながる」と社員に意識させる。

以上(2024年12月更新)

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活発な議論をするために知っておくべき心理学のアプローチ

書いてあること

  • 主な読者:議論を通してチームのパフォーマンスを高めたい経営者
  • 課題:無駄な会議が多い。優秀な人材を参加させているのにチームの成果が上がらない
  • 解決策:集団心理は良くも悪くも働くものであることを認識し、良いほうへ活用する

1 「3人寄れば文殊の知恵」とはならない不思議

企業では会議やブレインストーミング(ブレスト)など、チームのメンバーがアイデアを出し合って物事を決めたり仕事を進めたりすることが多いものです。しかしチームでの仕事が、常に個人プレーより優れているとは限りません。実際に会議をしてみて、

  • 優秀な人材を集めたのに、期待していたような成果が上がらない
  • 長い時間をかけて会議をしたが、なかなか良い案が出ない

という問題に頭を悩ませている経営者も多いのではないでしょうか。

その背景には、「責任の分散」「同調」「集団分極化」といった、集団心理が働いていることがあります。集団心理は良くも悪くも働くもの、いわば諸刃の剣です。集団で議論するメリットを享受するためには、まず集団心理のメリット・デメリットと、その対策を念頭に置いたマネジメントが重要です。対策は次の3つです。

  • チームをグループに分けてディスカッションをする
  • 反対意見や異なる意見を歓迎する企業風土を醸成し、組織の風通しをよくする
  • 議論後に、個人で振り返りの時間を持つ

なぜ、これらの3つが重要になるのか。以降で明らかにしていきます。

2 1人当たりの責任感の分量が減る「責任の分散」

1)責任の分散とは

責任の分散とは、

多くの人が関わることで1人当たりの責任が小さくなり、「自分がやらなくても、誰かがやるだろう」という心理に陥る

という現象です。

責任の分散を考察するに当たり、象徴的なキティ・ジェノバーズ事件というものがあります。1964年に米国のニューヨークで、午前3時に帰宅途中の女性が暴漢に襲われ殺害されました。悲鳴が上がってから殺されるまで30分余りがありました。後の警察の捜査によると、近隣のアパートの住民38人が悲鳴を聞いたり、窓から顔を出して女性が襲われている現場を見たりしていました。にもかかわらず、誰ひとりとして助けたり、警察へ通報したりといった援助行動を取らなかったのです。

この原因はさまざまな考察がなされていますが、そのうちの1つが、「責任の分散」という集団心理が働いたことです。

後の実験で、このような援助行動は、その場に複数人いるときよりも、1人しかいないときのほうが、迷いなく援助行動を取ることが分かっています。さらに援助の対象が、見知らぬ人よりも顔見知りがほうが、より素早く援助行動を取ることも判明しています。

キティ・ジェノバーズ事件の被害者は、「目撃者が38人もいて、なぜ誰も助けなかったのか」ではなく、「38人もいたからこそ」助けられなかったのです。

2)責任の分散を防ぐには

責任の分散を防ぐには、

チームをグループに分けてディスカッションをし、各グループの意見を発表する

とよいでしょう。20人が参加する会議でも、4人ずつの5グループに分けると、各自の責任の重さは「20分の1」から「4分の1」に増えます。

なお、グループは凝集性(集団がその中の個人を引きつける度合い)が過度に高くなったり、パワーバランスが生じたり、マンネリ化したりしないよう、ランダムに組むことが望ましいです。

3 周りに合わせて、白も黒と言ってしまう「同調」

1)同調とは

同調とは、

集団のメンバーが、集団の規範や、他のメンバーの意見に沿った行動を取る

という現象です。

社会心理学者のソロモン・アッシュが1951年に発表した論文では、次のような実験について著されています。

被験者1人を含む7人(被験者以外は事情を知っている協力者)に次のような図を見せ、左の図と同じ長さの線分を右の図から選ばせます。被験者以外の6人が全員一致して誤った回答をした場合、被験者はどんな回答をするでしょうか?

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正しい回答は、見ての通り「b」です。

しかし、被験者以外の全員が誤った回答(例えば皆がそろって「a」と回答)をした場合、被験者の誤答率は37%にも上ったのです。正解が明白であるにもかかわらず、他者の意見に同調して3分の1以上の人が誤った回答をしました。正解が明白な問題でもこのような結果になるのですから、会社で議論されるような正解がないテーマでは、なおさら同調は強くなりがちです。

同調が起きる理由として、主に2つが挙げられます。

  • 情報的影響:「正しくありたい」「間違えたくない」ため、「みんなが正しいと言うのだから正しいのだろう」と、他者の回答を判断材料にしたため
  • 規範的影響:「他者に受け入れられたい」集団から孤立したり拒絶されたりすることを恐れ、周囲に合わせたため

日本人は「同調圧力」が強いと言われますが、集団内に働く、多数派の意見に合わせざるを得ないような力のことをいいます。

2)同調を防ぐには

同調を防ぐためには、

反対意見を歓迎する。大多数とは異なる意見を言いやすくする

とよいでしょう。あえて会議の場に、「異論を述べる」役割を置くのもお勧めです。

また、経営者や管理職といったリーダーやファシリテーター役となった人は、中立の立場を示すことも重要です。

なお、社会心理学者のリチャード・クラッチフィールドは、アッシュの行ったような同調の実験を、事情を知っている人を使わずに、パネルを用いて行いました。被験者には、他者が選んで回答した結果がパネルに示されていると説明されています。すると、アッシュの実験のような対面状況よりも、はるかに同調量が減少したといいます。

対面状況のほうが、同調は起こりやすい

のです。

オンラインやリモートで仕事を進める機会が増え、他者の意見を見聞きするかたちも多様化しました。対面で他者の発言を見聞きするばかりでなく、チャットツールや、ビデオ会議と連動したアンケートなどを用いることもあるでしょう。対面と非対面の心理的な違いは意識しておくとよいでしょう。

4 リスキー・シフトを起こす「集団分極化」

1)集団分極化とは

集団分極化とは、

集団で議論すると、議論を行う前の個々の意見が、より極端かつ大胆なものになる

という現象です。議論中、優勢な意見に沿って現状よりさらに踏み込んだ意見を出すことで、集団内の他者より抜きんでようとすることで発生します。集団分極化には2つの方向性があります。

  • リスキー・シフト:意見が極端に大胆になるケース。これまでの歴史や政治においても、大きな過ちにつながった事例がある
  • コーシャス・シフト:極端に慎重になるケース。保守的になってしまい、議論したのに何も決まらず、物事が進まないという現象

いずれにせよ、集団分極化が起こると当初の計画を逸脱してしまったり、現実的ではない結論に至ったりすることがあります。

2)集団分極化を防ぐには

集団分極化、中でもリスキー・シフトを起こしがちな集団には特徴があります。

  • 凝集性(集団がメンバーを引きつける度合い)が高い、良く言えば結束が固い集団
  • 閉鎖的な集団
  • 高いストレス
  • 支配的・指示的なリーダーの率いる集団

よって、集団分極化を防ぐには、他部署や他社、異業種とオープンな交流をしたり、会議に限らず、普段から積極的に意見を交わしやすい企業風土を醸成したりと、

組織の風通しを良くする工夫が必要

です。また、

議論後、個々に振り返りの時間を持ち、集団思考から離れて考えてみること

も大切です。

5 補足・少数派の意見が大きな力を持つとき

集団で議論をしていると、時として、少数派の意見が大きな影響力を持つことがあります。マイノリティ・インフルエンスと呼ばれますが、2種類があります。

  • ホランダーの方略:過去に集団へ大きく貢献した人が、その実績と信頼から支持を得ていく。少数派でも「あの人が言うなら」と賛同する者が増えていく。上の立場からの変革
  • モスコビッチの方略:実績のない下の立場の者でも、一貫して主張し続けることで、多数派が納得していく場合がある。「そこまで言うのなら」「もしかして(多数派の)自分たちが間違っているのではないか」と考えさせる効果がある。下の立場からの変革

出るくいは打たれるのか、涓滴(けんてき)岩をうがつのか。少数派だからといって、意見を飲み込んでしまうのではなく、積極的に表明していきましょう。それが議論を活性化させる起爆剤になることもあり得ます。活発な議論を行い、組織の新陳代謝を促すために、この記事でご紹介した心理学の知識をご活用ください。

以上(2024年12月更新)

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画像:pixabay

目的で異なる3つの会計。財務会計・税務会計・管理会計はどのように違うのか?

書いてあること

  • 主な読者:財務会計・税務会計・管理会計の違いを正しく理解していない経営者
  • 課題:中小企業の会計は顧問税理士に任せきりで、意識せずに税務会計に偏っている
  • 解決策:外部への説明のために財務会計、経営のかじ取りのために管理会計を知る

1 経営者が意識する3つの会計

会計は、法令に基づく「制度会計」と「管理会計」とに大別され、さらに制度会計は「財務会計」と「税務会計」とに分かれます。それぞれを簡単に説明すると、

  • 財務会計:制度会計の1つ。株主など社外の関係者に経営状況を説明するための会計
  • 税務会計:制度会計の1つ。税金を正しく計算、納税するための会計
  • 管理会計:投資判断やコスト管理など、経営者などが経営判断をするための会計

といった具合になります。また、気になるこれらの関係性は次の通りです。

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中小企業には、上場企業のように財務諸表を外部に開示する義務がありません。一方、納税義務はあるので、財務諸表は財務会計(会社法や企業会計原則など)ではなく、税務会計(法人税法など)に基づいて作成されるなど、税務会計に偏りがちです。

しかし、金融機関などに業績を説明する際、税務会計に基づく財務諸表だけだと内容が不十分なことがあります。それに、管理会計によって、定量的な指標から意思決定をすることも大切です。大切なのは、それぞれの会計の使い分けなので、この記事でそれぞれの特徴を分かりやすく説明していきます。

2 財務会計とは

財務会計は、

会社法・金融商品取引法(上場会社のみ)・会計基準などの法律や規則に基づいて実施

されます。そのため、財務会計に基づいて作成された財務諸表は他社と比較することができ、株主にとっては投資の参考資料、取引先などにとっては取引の判断材料になります。

財務会計では、会社の活動を「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」に区分して財務諸表を作成します。このうち資産・負債・純資産は「貸借対照表」に集計され、ある時点の会社の財産の状態を表します。また、収益・費用は「損益計算書」に集計され(収益と費用の差額が利益(または損失))、一定期間の業績を表します。

貸借対照表と損益計算書以外にも、会社のキャッシュの流れを表す「キャッシュフロー計算書」や、純資産の増減内容を表す「株主資本等変動計算書」などが作成されます。

3 税務会計とは

税務会計は、

法人税法・地方税法などに基づいて実施

されます。正しく納税額を計算して、申告期限までに確定申告書を税務署などに提出します。

税務会計では、財務会計で計算された当期純利益に一定の調整を加え、納税額を計算するための基礎となる所得を導きます。なお、財務会計の「収益・費用・利益」は、税務会計の「益金・損金・所得」と言い換えられますが、一部で取り扱いが異なります。そのため、税務会計の所得を計算する際は、次の4つの調整をします。

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なお、中小企業の制度会計は、上述の通り税務に偏っているのが実情であり、多くの中小企業では、税務上の益金・損金の基準に合わせて決算書を作成しています。例えば、財務会計上は認識すべき退職給付引当金について、税務上は損金不算入となるため費用計上しないといったことが生じます。その結果、貸借対照表、損益計算書に会社の財務状況が正しく反映されていないケースが多いことに留意が必要です。

4 管理会計とは

管理会計は、

法令上の決まりなどはなく、会社の考えに従って実施

されます。社内で利用するために管理会計の代表的な分析方法にCVP分析(損益分岐点分析)があります。CVP分析では、まず、財務会計上の費用(製造などに係るもの)を、

  • 変動費:売上の増減に比例して発生する費用。材料費、外注費など
  • 固定費:売上の増減に関係なく発生する費用。地代家賃、水道光熱費、交際費など

に分けます。そして、損益分岐点を計算するのですが、損益分岐点とは、

売上高から変動費を引いた「限界利益」と固定費が同額になる状態

であり、限界利益が固定費を上回ったら黒字です。損益分岐点の計算式は次の通りです。

損益分岐点=固定費/(1-(変動費/売上高))

5 それぞれの会計の処理と利益の違い

それぞれの会計の処理の違いを比べてみましょう。分かりやすく示すために、交際費を年間1000万円とします。

  • 収益:10億円
  • 費用:9億8000万円(材料費5億8000万円、労務費3億円、経費1億円(交際費1000万円))
  • 資産:3億円
  • 負債:2億5000万円
  • 純資産:5000万円
  • 1年決算法人

1)財務会計における取り扱い

財務会計では、交際費は損益計算書の費用になります。この場合の貸借対照表と損益計算書は次の通りです。

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2)税務会計における取り扱い

税務会計では、原則として、交際費は全額が損金不算入とされます。ただし、会社規模に応じた一定の措置が設けられています。期末の資本金の額または出資金の額が1億円以下であるなどの場合、損金不算入額は次のいずれかの金額を選択できます。

  • 交際費(全額接待飲食費に該当する場合)の50%相当を超える部分の金額
  • 年間800万円に事業年度の月数を乗じ、これを12で除して計算した金額(定額控除限度額)を超える部分の金額

交際費が年間1000万円の場合の損金不算入額および所得は、次のようになります。

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3)管理会計における取り扱い

管理会計でCVP分析を行う場合、交際費は固定費に分類します。前提要件に基づいて作成する管理会計(CVP分析)上の損益計算書は次の通りです。

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限界利益は4億2000万円で、固定費の4億円を上回っているので2000万円の利益が出ています。

ここで、CVP分析により、翌期に3000万円の利益を出すために必要な売上高を考えてみましょう。変動費率は今期と同じ58%(5億8000万円/10億円)、固定費は今期より2000万円増えて、4億2000万円になる予定です。この場合、来期に必要な売上高は次のように計算することができます。

(固定費+必要利益)/(1-変動費率)

=(4億2000万円+3000万円)/(1-0.58)

≒10億7143万円

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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昭和世代vsZ世代 ~出張は「タイパ」が悪いと言う若手の部下に、どう対応する?

書いてあること

  • 主な読者:「Z世代」の部下とのコミュニケーションに悩んでいる「昭和世代」の上司
  • 課題:Z世代はタイパ(タイムパフォーマンス)が大事らしいが、自分にはいまいちピンと来ない。本当に分かり合うことができるのか?
  • 解決策:実は今も昔も、大事なことに時間を割きたいことは変わらない。「今、この仕事に時間を使う理由」を伝え合い、考え方をすり合わせる

1 「昭和世代」も「Z世代」も、実はそんなに違わない?

ジェネレーションギャップは世の常……。今どきであれば、部下を持つ「昭和世代」の上司が、若手の部下である「Z世代(1990年代半ば~2010年代初頭生まれを中心とした世代)」との価値観のギャップに戸惑うケースが多いかもしれません。例えば、「タイパ」がそうです。

タイパ(タイムパフォーマンス)とは、「かけた時間に対してどれくらいの効果を得られるか」という尺度のことで、Z世代が重要視する言葉の1つ

として知られています。例えば、食材の値段がほんの少し安いからと、長時間をかけて遠くのスーパーまで買いに行くことを、「タイパが悪い」などと言ったりします。

さて、仮に昭和世代の皆さんが、Z世代の部下を連れて遠方の取引先を訪問するとします。もしも部下から、「オンラインでできるのに、タイパ悪くないですか?」と言われたら、どうしますか? 「イライラする」とかそういった感情はいったん抜きにして、まず押さえてほしいのは、

昭和世代もZ世代も「根本の部分で大事にしている価値観は基本的に同じ」で、実は両者が思っているほど大きなギャップはない

ということです。以降で、「出張とタイパ」をテーマに、昭和世代のAさんとZ世代のBさんの“すれ違い会話”を紹介します。両者のすれ違いを解消するためのポイントを見ていきましょう。

2 出張は「タイパ」が悪い?

東京の会社で営業職として働いているAさん(昭和世代)とBさん(Z世代)。定期的にミーティングを行っている大阪の取引先を、久しぶりに訪問することになったようです。

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Bくん! 来週の水曜日に、一緒に大阪のお得意先のところに訪問することになったからね、よろしく。

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分かりました……。ただ、Aさん。今月に入ってから、もう2回目の大阪出張ですよね。「タイパ」、悪くないですか? オンラインに切り替えるなどして、出張の回数を減らすのはどうでしょうか?

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え? タイパ? タイパって何?

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タイムパフォーマンス、時間対効果のことです。……今回の出張って、要はごあいさつですよね? 初対面なら分かりますが、今回はそうじゃないので、わざわざ時間をかけて足を運ぶ必要があるのかなと思ってしまって……。

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何を言っているんだ、必要に決まってるだろう! タイパだか何だか知らんが、何でもかんでも効率良くやればいいってわけじゃないぞ!

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東京から大阪まで、往復の移動時間だけで6時間はかかっています。Web会議なら移動時間を、もっと違う仕事に費やせるのに。現に、出張の翌日は大きなプロジェクトの会議があって……直前で資料の訂正などもあるので、万全な状態で望みたいんです。

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だから、直接会ってごあいさつするのも同じくらい大事な仕事じゃないか!

AさんとBさんは、日ごろから何かと意見の衝突が多いのですが、今日は「タイパ」で意見が対立してしまいました……。この2人のすれ違い、解決する手段はあるのでしょうか?

3 大事にしたいものは今も昔も同じ

Bさん(Z世代)の発言は、昭和世代からすれば「今どきの若いモンは……」と言いたくなる内容かもしれませんし、逆にAさん(昭和世代)の発言は、Z世代からすれば「今どき時代遅れ なんだよ……」と言いたくなる内容かもしれません。ただ、はたして昭和世代とZ世代、そこまで相いれないものでしょうか? もしかしたら、根本的に考え方がずれているわけではなく、

単に

昭和世代は「タイパ」、Z世代は「訪問」というワードに引っ張られすぎているだけ

なのかもしれません。

そもそも、AさんとBさんはそれぞれ、なぜ先ほどのような主張をしたのでしょう? 2人の心の声を聞いてみましょう。

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(お客さまのところに出向いて直接ごあいさつするのは「大事な仕事」だから、そこに時間を割いてほしいのに……)

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(年に何回もあいさつに行くとなると、取られる時間が多すぎる……その時間をもっと「大事な仕事」に使いたいのに……)

赤字の部分がキーポイントです。そう、それぞれ主張していることは違いますが、

AさんもBさんも「大事な仕事」に時間を費やしたいと考えている点は同じ

なのです。相いれないのかと思いきや、実は同じ価値観に基づいて仕事をしているわけです。

では、なぜ先ほどのようにすれ違ってしまうのか。それは、

「大事な仕事とは何か」が、AさんとBさんの間で共有されていないから

です。どのように話をすれば、2人のすれ違いが解消されるのか、引き続き2人の会話を見ていきましょう。

4 どう話をすれば伝わる?

Aさんは、もう少し落ち着いてBさんと話してみることにしました。赤字の部分に注目してください。

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Bくん、君は基本的に「出張よりもオンラインのほうがいい」という考えなのかい?

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Aさん、僕は「全ての出張に行きたくない!」と言っているわけではないんです。きちんと理由があるのであれば、喜んでついていきますよ。お客さまにもお会いしたいですし。

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そうだな……例えば、今回の訪問の理由は「あいさつ」だ。でも、ただのあいさつじゃない。わが社がとてもお世話になったCさんが、異動になったから行くんだ。君が入社する前のことだったけれど、本当に助けていただいたからね。顔を合わせてお礼を言いたいんだよ。

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……そうだったんですね。

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こちらの感謝を伝える上で、今回の訪問はとても「大事な仕事」なんだ。改めて、君はどう思う? お世話になった方に、直接お礼を言いに行くのは「タイパが悪い」かな?

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いいえ、お世話になった方であれば、直接会って気持ちを伝えるべきだと思います。オンラインだと伝わらないことがあるのも、普段の仕事で実感しています。すみませんでした、何も知らずに勝手なことを言ってしまって……。

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いや、私も理由をきちんと伝えていなかったし、過去を振り返ってみると、正直あまり意味のない訪問をしていたこともあったかもしれない……。その辺は君の言う通り、他に大事なことがあるならオンラインに切り替えるのもありかもしれないよね。

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経費削減にもなりますしね。……でも、直接ごあいさつに伺うことも大事ですね。来週の出張で、Cさんにお会いできるのが楽しみになってきました。

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なんだか、大事なことに時間を割きたい、という気持ちは、私も君も同じみたいだね。

AさんとBさんが「大事な仕事」について、お互いに自分の考えを吐き出したことで、2人のすれ違いは解消されたようです。

今回はタイパがテーマでしたが、他のテーマであっても、昭和世代とZ世代のすれ違いを解消するポイントは同じ。

「あの人は昭和世代だから(Z世代だから)」という色眼鏡を取り外して、お互いの考えを聞きながら、「実は相いれる部分があるんじゃないか」と探っていくこと

です。お互い、頭ごなしに否定したりせずにきちんと理由を言語化して、まずは相手の考えを知ってみることが、すれ違い解消の道へとつながっていくでしょう。

以上(2024年12月作成)

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画像:ChatGPT

【朝礼】あなたの部下も、きっと変わる

【ポイント】

  • 頼りなかった部下が、短い期間で別人のように成長することがある
  • 部下を成長させる1つのポイントは、「1人でやってみるしかない環境」をつくること
  • 「どうすればよいか」を自分で考えさせることが、部下の成長につながる

先日、取引先であるプロジェクトの打ち合わせに参加したときのことです。しばらくぶりで会った先方の若手社員の姿に、私は非常に感動しました。なぜなら、彼の成長が目覚ましく感じられたからです。半年前にプロジェクトに参加することになった彼は、最初の頃、まさしく「右も左も分からない」様子でおどおどとしており、発言もままならない状況でした。

しかし、今の彼は、上司など周りの意見に流されることなく、自分の意見を堂々と発言します。しかも言い方が丁寧で内容が前向きなので、反対意見でも反論されたほうは嫌な気持ちになりません。時々冗談を言って、場を沸かせるほどの余裕も身に付けていました。話を聞くと、彼は難易度が高くスピード感も要求されるさまざまな仕事を任され、多くの人と調整や交渉を重ねる中でたくましく成長したようです。彼自身の頑張りもありますが、彼を育てた上司の力も大きかったのでしょう。

上司の皆さんの中には、「部下が成長してくれない」と悩んでいる人も少なくないでしょう。そんなときは、あえて難しいことを部下に任せて一生懸命考えさせ、汗をかかせてください。まずは部下が「1人でやってみるしかない環境」をつくってみること。上司の指示や確認のもとで仕事を進めている部下は、心のどこかで上司に頼る癖がついています。それができない環境をつくるのです。

例えば、今まで上司と一緒に訪問していた先に部下を1人で行かせてみるのもよいでしょう。実際に自分1人で事前準備をし、出かけて行き、相手と話をするという経験は必ず部下を成長させてくれます。訪問先で部下は、聞かれたことに答えられず、自分自身の至らなさを悔しく感じるかもしれません。相手とうまく会話することができず、恥ずかしい思いをすることもあるでしょう。そうした経験をして初めて部下は、「どうすればよいか」を自分で考えるようになり、変わっていきます。

悔しさや恥ずかしさを感じて帰ってきた部下を、上司は大いに褒めたたえてください。部下がたくましいビジネスパーソンへと変化する第一歩を踏み出したことは間違いないのですから。人は簡単には変われませんが、変わるときには大きく変わります。部下がたくましく変貌を遂げることができるか否かは、上司の皆さん次第です。

以上(2024年11月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

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