「暑い派」VS「寒い派」エアコンバトル! 平和的解決のカギは?

1 「暑い派」VS「寒い派」バトルが夏と共にやってくる!

暑くなってきたこの時期に従業員がオフィスに集まると、 “あの”問題が勃発します。それは、

エアコン温度の「暑い」vs「寒い」バトル

です。こっそりエアコンの設定温度を下げた暑がりの従業員を、寒がりの従業員が背後からじっと見ていたり、寒がりの従業員に気をつかって暑がりの従業員が汗だくになりながらやせ我慢をしていたり……皆さんも、一度は経験があるのではないでしょうか。

今年も去年に引き続き猛暑となる予想ですが、オフィスでは一人ひとりの好みに合わせた室温の調整が難しいので、企業としては、エアコンが本格稼働する前に、何とかこのバトルの対策を講じておきたいところです。また、

快適に働くための環境づくりは、業務の生産性向上という面でもとても大切

でしょう。

そこでこの記事では、オフィスにおける適温や、「暑い派」「寒い派」それぞれへのケア方法など、猛暑の中でも従業員が快適に働けるようにするポイントを紹介していきます。

ちょっとした工夫や心掛けで業務中の快適さは一気に変わりますので、今一度オフィス環境について振り返ってみましょう。

2 「快適さ」はさまざまな要素で出来ている

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1)快適さでオフィスの生産性も変わる!

空気調和・衛生工学会(暖冷房・換気や給水・排水など、生活に密着した設備を専門に研究する学会)の研究によると、室温の変化がオフィスでの生産性も影響することが明らかになっています。同学会の研究者らが発表した論文によると、

空気温度が26.5度を超えると生産性が大きく低下する

そうです。こうしてみると、オフィスでの快適な環境を用意することは、従業員の生産性向上、ひいては企業の業績アップにもつながるといえるでしょう。

2)バトルの原因の名は「PMV」

まずは、快適なオフィス環境を整えるために知っておくと良い知識、

「PMV(Predicted Mean Vote)、予測平均温冷感申告」

についてご紹介します。PMVとは「快適さを表す国際規格」で、

  • 室温
  • 湿度
  • 着衣量
  • 放射(日当たりや熱からの距離)
  • 気流(直接エアコンの風が当たるかどうか)
  • 活動量(体を動かしているか)

によって、その数値が左右されます。

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「PMV」では、暑さ・寒さの度合いを「-3~+3」の値で示します。そして国際的な基準(ISO:国際標準化気候)では、約9割の人にとって「快適」な数値は、上図のように「-0.5~+0.5」と、かなり狭い範囲。オフィスで仕事をする大多数が快適と感じるには、PMVをこの狭い範囲に収める必要があります。

つまり、同じオフィスで働いていても、人によって感じる暑さ・寒さは異なるということです。これが「暑い派」vs「寒い派」のバトルの原因で、

快適なオフィス環境を整えるためには、エアコンの温度設定だけでなく、「PMV」を構成する指標のさまざまな要素を捉えて対策する必要がある

といえるでしょう。

3)バトル鎮火のためのロードマップ

次に、この「PMV」を快適温度範囲に近い数値で平均化するために、経営者が従業員のためにできることを紹介します。

ポイントは、次の3段階でオフィス環境を調整することです。

  • 【対・全体】まずは部屋全体で「室温」「湿度」の最低限の環境を整える
  • 【対・陣営ごと】次に「暑い派」「寒い派」それぞれの陣営の従業員について、体感温度に合わせて席の移動を許可することで、「気流」「放射」を調整する
  • 【対・個人】最後に個人の「着衣量」に柔軟に対応することで、「活動量」や個人の代謝の差に対して微調整をかける

次章以降で、1,から3.の各要素をコントロールする方法を解説していきます。

3 【対・全体】「室温」「湿度」をコントロール

一番に整えておかなければいけないのが、対・全体の環境。すなわち、エアコンや除湿機で直接コントロールできる「室温」「湿度」です。

オフィスの衛生管理を定めた法令「事務所衛生基準規則」では、室内にエアコンなどの空調設備がある場合「室の気温が18度以上28度以下、相対湿度が40%以上70%以下になるよう努めなければならない」と定められています。

ただし、これはエアコンの設定温度の話ではなく、オフィスの「室温」や「湿度」の基準です。

たとえエアコンの設定温度が28度でも、人が多いと体温で室温が上がるため、実際の体感温度は従業員の人数などによっても大きく左右されます。そのため、設定温度だけに頼らず、実際の室温・湿度を計測したうえで対策することが大切です。温度計や湿度計の用意を検討してみるのもよいでしょう。

また、近年記録的な猛暑が確認されていますので、「室温28度、湿度70%以下を基準にしているから大丈夫」と安易に判断するのではなく、気象情報などを見ながら柔軟な対応を心がけましょう。

4 【対・陣営ごと】フリーアドレスで「気流」「放射」を操る

オフィス全体の温度・湿度を整えるだけでは、「暑い派」VS「寒い派」の根本的な解決には至りません。そこで、

この夏は、フリーアドレスで放射・気流を調整

してみましょう。フリーアドレスとは、「席を固定せず、空いている席を自由に使う働き方」のことです。

例えば、窓際は放射熱で他の席よりも暖かくなるため、寒がりの従業員に向いています。

「寒い派」陣営が窓の近くのデスクに、「暑い派」陣営が日陰のデスクに移動することで、2つの陣営に「放射」の差をもたらす

ことができます。なお、紫外線の問題もあるので、基本的には夏場のブラインドは下げておくのがベターです。

また、

「暑い派」陣営はエアコンの風が当たる場所に、「寒い派」陣営はエアコンの風が当たらない場所に移動することで、「気流」も調節可能

です。改めて天井を見上げ、エアコンの位置や風がよく当たる席を確認してみるのもよいでしょう。

業務上の都合でフリーアドレスを取り入れることができない場合、次のような方法で気流を調整できます。

  • エアコンにアクリル板を取り付け、「寒い派」の従業員に直接風が当たらないようにする
  • サーキュレーターを設置し、エアコンの冷たい空気を分散させる

5 【対・個人】「着衣量」を柔軟に! 個人差を調節

夏場のエアコン問題は、「暑い派」VS「寒い派」の小競り合いだけでは済まないことがあります。「暑い派」「寒い派」陣営のみに着目し、個々へのケアを怠ると、

  • 暑い派陣営の中でも一番の暑がりは「熱中症」
  • 寒い派陣営の中でも一番の寒がりは「冷房病(クーラー病、体が急激な温度差についていけず、自律神経に異常をきたす症状)」

などになってしまう恐れがあるのです。

また、「暑い」「寒い」の感じ方は、活動量や代謝など、エアコンでは調整できない個人差にも左右されます。そこで有効なのが、個々の「着衣量」で体感温度を調整するという方法です。

身近で分かりやすい例は、「クールビズ」。軽装にすることで体感温度を下げる取り組みで、ネクタイを外すだけでも体感が変わるといわれています。全員が同じ快適さを感じることは難しくても、各人ができる限り快適さと健康をかなえられるよう、ネッククーラー・ブランケットの使用を許可するなど、従業員一人ひとりが体調を整えやすい環境づくりを目指しましょう。

また、オフィスワークでは喉の渇きを感じにくいため、無自覚に脱水が進む「かくれ脱水」のリスクがあります。涼しく感じるオフィスでも、定期的に水分補給をするよう呼びかけましょう。こちらのコンテンツでは最新の熱中症対策グッズを紹介していますので、ぜひご確認ください。

▶ 40055 【熱中症対策】「熱中症」予防で使えるグッズを一挙紹介!

以上(2026年6月更新)

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画像:

【熱中症対策】熱中症予防で使えるグッズを一挙紹介!

1 熱中症対策は「予防」が肝心!

最近はテレワークをする企業も減ってきましたが、真夏のオフィスでは個人に合わせて細かな室温調整をすることが難しい場合もあります。また、今年も猛暑になる可能性が高く、営業や屋外での作業などに従事する社員には、常に熱中症のリスクが付き纏います。

なお、2025年6月1日から労働安全衛生規則が改正され、会社に対し、

  • 作業者に熱中症の自覚症状があるときや、作業者が熱中症の疑いがある同僚などを発見したときは、会社にその旨を報告させるよう体制を整え、周知すること
  • 熱中症のリスクがある作業を行う場合、あらかじめ作業場ごとに、症状の悪化を防ぐための措置やその手順を定め、周知すること(体を冷やす、医師の診察を受けさせるなど)

が義務付けられます。違反した場合、労働安全衛生法により、

6カ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金

の対象になります。今年からは例年以上に熱中症対策を徹底して、夏場の業務に取り掛かりましょう!

この記事では、職場で使用できる熱中症対策グッズについて、最新の動向を交えて紹介します。具体的な分類は、以下の図の通りです。

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熱中症対策グッズは、水分や塩分を補給するもの、冷感を与えるものなどさまざまです。会社で支給したり購入費用を補助したりして、熱中症になりにくい環境を整えるように社員に指示しましょう。

2 水分や塩分を補給するグッズ

熱中症対策の基本は、こまめな水分補給です。ただし、大量に汗をかいたときは体内の塩分やミネラルも失われるため、水分と併せて塩分の補給も必要です。そこで、次のようなグッズを用意しておくとよいでしょう。

1)目盛り付きのタンブラー・ウォーターボトル

一般的に、夏場の水分の摂取目安は1.2リットル/1日程度とされていますが、仕事中に自分で摂った水分を細かく把握していることは稀でしょう。

最近は自分がどれくらい水分を摂っているのか一目でわかる、目盛り付きのタンブラーやウォーターボトルなどが販売されています。容量は1リットル以上のものが多いので、

デスクの上に置くようにすれば、あまり水分を摂っていなさそうな社員に水分補給を促すことも出来る

でしょう。

2)塩分を含む食品

汗をかく状況で水分を補給する際には、一緒に塩分も補給するように指導しましょう。水分だけを摂取すると体内のミネラルのバランスが崩れるため、熱中症になるおそれがあります。

例えば、塩分は、塩あめ、塩分タブレット、梅干しなどで補給できます。また、スポーツドリンクは水分と塩分を同時に補給できるので便利ですが、糖分が多量に含まれているケースもあるので、飲み過ぎには注意です。最近は糖分が控えめなものも販売されていますので、恒常的にスポーツドリンクで水分を摂取する場合は、そちらの導入も検討しましょう。

3 風を送るグッズ

風通しが悪い場所では汗が蒸発しにくく、体温の調節に無効な発汗が増えて脱水状態に陥りやすくなります。そこで、空調設備の整っていない場所で社員が作業するときには、次のようなグッズを用意しておくとよいでしょう。

1)空調服

腰や脇に小型のファンが付いた服です。長袖のジャケットから袖のないベストまで、さまざまな製品があります。専用のウエア、ファン、バッテリーをそろえる必要がありますが、空調服を着ることで、エアコンの使えない場所でも涼しく過ごせます。

空調服の中に着るインナーは、できるだけ吸汗性、透湿性、速乾性の高いものを選ぶことが重要です。綿などの汗が乾きにくい素材のインナーを着ていると、体が冷えすぎてしまい、逆に体調が悪くなる場合もあるので注意しましょう。

2)扇風機

首に掛けたり、手に持ち歩いたりして使える小型の扇風機は、通勤中やオフィスでの細かな体感温度の調整方法として主流になってきました。

ただし、

気温が高く乾燥した環境で扇風機を使うと、汗が体から熱を奪う前に乾いてしまい、体温が上がり続ける恐れがある

ことには留意が必要です。そのため、扇風機を使用する際は、水を霧状に噴射するスプレー、濡れたタオルなどを併せて用意するようにしましょう。

4 冷感を与えるグッズ

首元、わきの下、足の付け根など、太い血管が体の表面近くを通るところを冷やすと、効率良く体温を下げることができ、熱中症の予防に繋がります。そこで、次のようなグッズを用意しておくとよいでしょう。

1)ネッククーラー

首元を冷やし、体温の上昇を抑えるネッククーラーは熱中症対策にも役立ちます。中に保冷剤や冷却ジェルを入れて使うスカーフのようなタイプや、USB端子につないで動く電動のタイプなどさまざまなものがあるので、テレワークや通勤などのシーンに合わせて使いやすいものを選ぶとよいでしょう。

2)ミスト冷房

水を細かい霧状にして噴出する装置です。周辺を水で濡らすことなく身体を冷やすことができます。屋外や工場で使用する大型のものに限らず、USB端子につないでデスク周りで使える小型の製品もあります。

3)アイスパック(氷のう)

アイスパック(氷のう)は、休憩時などに額や首筋に当てて体のクールダウンを図ることができるほか、熱中症の症状が出た社員への緊急対処としても使用できます。

最近は魔法瓶構造になっているアイスパックも発売されており、従来のものより長時間、冷たさを維持することが出来るので、職場に多めに常備しておくと、いざというときに安心です。

4)接触冷感マスク

業務中にマスクを着ける場合、接触冷感の糸を使用したり、ミントやメントールなどの爽やかさを感じる成分を生地に配合したりしたものを使うとよいでしょう。

なお、高温多湿の状況でマスクを着けていると、皮膚からの熱が逃げにくくなったり、喉が渇いていることに気付かなかったりすることから、体温調節がしづらく、熱中症になるリスクが高まります。屋外で人と2メートル以上の十分な距離が確保できる場合や、会話を行わない場合は、マスクを外して休みましょう。

5 危険時に警告して知らせるグッズ

熱中症の初期症状は目まいやふらつきなど、「単に疲れているだけ」と誤解しやすいものが多く、対処が遅れてしまうことがあります。管理者がこまめに社員の体調をチェックすることが一番ですが、見た目に表れなかったり、業務が忙しかったりするときには、社員の体調不良に気が付けないケースもあるでしょう。

そこで、熱中症の危険が高まったことを、客観的に把握できる状況をつくり出すことが必要です。次のようなグッズを用意しておくと、熱中症が重症化する前に対処できます。

1)ウエアラブル端末

ウエアラブル端末は、リストバンドや腕時計などの機器を体に取り付けて脈拍を測り、熱中症の危険がある場合にアラームやバイブレーションなどで通知することが可能です。利用者本人だけでなく、管理者側(社内の健康管理の担当者など)で異常を検知できる製品もあるため、異常を確認した管理者が利用者と連絡を取れば、重症化する前に健康への影響を防ぐことができます。

2)温湿度計・センサー

カバンなどに取り付けたり、屋内に据え置いたりして使用します。屋外で使用する場合、熱中症の危険性はWBGT値(暑さ指数。気温と湿度に加えて、日射や地面からの照り返しによる熱を含めた数値)で測ることができますので、リスクの高い環境を早めに察知し、対策を打つことができます。

3)スマートフォンアプリ

その日の気温、湿度、気象条件などを基に熱中症の危険を通知します。アプリによっては時間単位や地域を指定して熱中症の危険を確認でき、また無料で提供されているものもあります。

始業前や休憩ごとなどにチェックし、その日のリスクに合わせた熱中症対策を講じるとよいでしょう。

以上(2025年6月更新)

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画像:KUSAMURA Aki-Adobe Stock

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2025年版では、一般型、創業型、共同・協業型、ビジネスコミュニティ型の4つの支援型で公募が行われます。

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地域密着の新規事業を支援!「ローカル10,000プロジェクト」のご紹介

「ローカル10,000プロジェクト(地域経済循環創造事業交付金)」とは、都道府県または市区町村(以下「地方公共団体」といいます。)が地域の金融機関等と連携しながら、地域の人材・資源・資金を活用した新たなビジネスを立ち上げようとする民間事業者等の初期投資費用を支援するものです。
ローカル10,000プロジェクトは、総務省が地方公共団体に交付金を交付し、地方公共団体が民間事業者等に補助を行う仕組みです。そのため、申請は必ず地方公共団体を通じて行う必要があります。

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【中堅社員のスピーチ例】趣味のコミュニティを大切に!

【ポイント】

  • 会社や家庭はもちろん、それ以外のコミュニティも大切にしたほうがいい
  • 普段と違うコミュニティでの出会いや経験が、会社や家での生活に変化をもたらす
  • 新しいコミュニティに入るきっかけは、どこにでもある

おはようございます。突然ですが、皆さんは会社や家庭以外のコミュニティに入っていますか? 例えば、私は学生時代の部活動でブラスバンドをやっていたのですが、昨年から社会人のブラスバンドサークルに入り、仕事が終わった後や休日に仲間と練習をしています。

以前、上司から「会社や家庭はもちろん、それ以外のコミュニティも大切にしたほうがいい」と言われたことがありますが、私も1年ほどサークル活動を続けてみてその大切さが身に染みました。特にありがたかったのは、同じ志や悩みを共有できる仲間に出会えたことです。今だから言いますが、ブラスバンドサークルに入る前、入社したばかりの私は正直、会社で心細い思いをしていました。中途採用で「同期」と呼べる存在が社内におらず、年の近い先輩もいなかったからです。

しかし、サークルに加入しブラスバンドを再開してみると、サークル内には私と年の近い人がたくさんいました。なかでも大きかったのは、最近私たちの会社に仲間として加わったAさんとの出会いです。Aさんとは、発表会後の打ち上げでたまたま向かいの席になり、仕事の話をしたのですが、ちょうど転職先も探しているところで、当社の仕事の話をしたら興味を持ってくれたのです。

そのときの私は、口下手なりに「うちの会社はここが素晴らしいんだ」とAさんにプレゼンしたのですが、自然と熱が入り、普段どんな思いで仕事をしているのか、この会社で何を実現したいのかなど、自分の思いに正面から向き合う良い機会になりました。また、年の近いAさんからは、自分と同じような仕事の悩みを抱えているという話を聞くことができ、「つらいのは自分だけではないんだ」と知って心が楽になりました。今やAさんは、仕事も趣味も一緒にこなす間柄ですが、相談したり協力したりできる仲間がいることで、今までより前向きに仕事に打ち込めるようになりました。

一歩外に出てみると、そこには予想しない出会いが待っていて、会社や家での生活に少なからず変化をもたらしてくれます。「趣味の時間が取れない」で終わらせてしまうのはもったいないです。SNSで気の合う人と話す、行きつけの飲食店の常連客と話す、地域のイベントに参加するなど、新しいコミュニティに入るきっかけはどこにでもありますから、ぜひ探してみてください。

以上(2025年5月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

円満に退職したはずの社員が豹変する理由は行動経済学で説明できる

1 人間は合理的じゃない。行動経済学で社員の行動を先読み

社員が退職するときは、退職(解雇を含む)の成立や未払い残業代の支払いなどをめぐって、何かとトラブルが起こりやすいものです。会社としては円満に社員と別れたいところですが、残念ながら落としどころが見つからず、トラブルが泥沼化するケースがあります。

落としどころが見つからない理由は、

会社は「合理的」に社員の行動を先読みしようとする一方、社員は「非合理的」に行動することが多いから

です。そこで、この記事では、

行動経済学の見地から、あえて社員の「非合理的」な行動を見据え、退職トラブルの落としどころを見つける方法

をご提案します。ちなみに、行動経済学とは、

経済学をベースにしつつ、「人間は常に合理的な思考をするわけではなく、非合理的な行動をするほうが多い」という前提に立って、人間の行動を分析する学問

です。皆さんのお役に立てると思います。

2 会社に不満がある社員と円満に別れられない

1)問題社員に無事退職してもらえたと思ったら……

ある会社に、成績や勤務態度の著しく悪い社員がいました。何度指導をしても全く改善しないため、会社は社員との面談の席で、会社にとって戦力になっていないこと、このまま退職しないで会社に在籍されても困ることを説明し、自発的に退職するよう求めました。社員は不満に思いつつもこれを承諾し、その後の退職手続きも滞りなく終わりました。

しかし、会社が無事に退職してもらえたと思った矢先、社員がSNSに会社の不満を書き込んでいることが分かりました。その結果、SNSを見た内定者が内定を辞退する、求人の応募がほとんどなくなってしまうなどのトラブルにつながりました。

2)ピークエンドの法則を用いた対応例

ピークエンドの法則とは、

人間の快楽・苦痛の記憶は、ピーク時と終了時の快楽・苦痛の度合いで決まる

というものです。こんな実験があります。

  • A:痛いほど冷たい水に60秒の間手を浸す
  • B:痛いほど冷たい水に計90秒の間手を浸す。初めの60秒の温度はAと変わらないが、次の30秒間は少しだけ温度が上がる

この2つの実験で、被験者に「もう一度同じ実験を受けるなら、どちらを選ぶか(どちらのほうが楽か)」を聞いたところ、80%以上の人が「B」を選択しました。BのほうがAよりも水に手を浸す時間は長いのに、最後に少しだけ温度が上がって苦痛が和らげられるため、「Aよりも楽」と感じた人が多かったのです。

今回の問題社員の事例も、会社が退職する社員の不満を少しでも和らげようとしていれば、結果は違っていたかもしれません。例えば、

  • 問題点は指摘しつつ、「ウチの会社と合わないだけで、他社では活躍できると思う」「あなたに合う会社はたくさんあると思う」など、相性の問題にすぎないことを強調する
  • 「今まで会社で働いてくれてありがとう」「あなたのおかげで〇○の契約が取れたのは良い思い出だ」など、感謝の気持ちを述べる
  • 送別会を開いて、感謝の気持ちを示す

といった対応が考えられます。「無理やり感謝を伝えたところで、社員のほうも『本心ではない』と気付くのではないか」と思うかもしれませんが、それで構いません。意図はどうあれ、気を使って最後に言葉をかけるという行動が、相手の不満を少なからず和らげます。

3 未払い残業代について会社と社員の主張が食い違う

1)会社としては、きちんと未払い残業代を計算して支払うつもりだったが……

ある会社で、退職した社員が未払い残業代を請求してきました。しかし、会社の計算した額は130万円、社員の請求額は200万円と主張が食い違い、話が進展しません。

会社が社員に「130万円の一括払い」を提案したところ、社員が「そんな少額では話にならない」と怒り出し、訴訟に発展しました。訴訟は1年かかり、最終的に社員の主張が認められ、200万円を支払わざるを得なくなりました。

2)現在志向バイアスを用いた対応例

現在志向バイアスとは、

人間は長期的な利益よりも、目先の利益を優先しやすい

というものです。こんな実験があります。

子どもをマシュマロが1個だけ置いてある部屋に入れて、「私が帰ってくるまでにそのマシュマロを食べなければ、マシュマロを2個あげる」と告げました。その結果、ほとんどの子どもが目の前の利益を優先して、1個のマシュマロを食べてしまうという実験結果が出ました。少しの間我慢してマシュマロを2個もらったほうが得なのに、です。

今回の未払い残業代の事例も、訴訟に発展する前に、会社が未払い残業代について複数の提案をしていれば、結果は違っていたかもしれません。例えば、会社が和解案として、

  • A:200万円を月20万円の10回払い
  • B:130万円の一括払い

の両方を提示します。金額だけを考えればAのほうが得ですが、多くの人はBを選んでしまいます。本当にもらえるのか不確定な200万円よりも、今確実にもらえる130万円を選ぶのです。AとBのどちらを選択するかは、社員が自分の意思で決定するので、「だまされた」「詐欺だ」などと言われてトラブルになるケースはほとんどありません。

なお、言うまでもないことですが、未払い残業代の金額について会社と社員との間で認識が一致しているのに、会社が実態よりも安い金額を提示することは許されません。

4 パワハラ、未払い残業代…複数の退職トラブルが発生

1)パワハラの問題から解決させようとしたばかりに……

ある会社で、退職した社員が会社に対し、上司のパワハラ(パワーハラスメント)に対する慰謝料と未払い残業代を請求してきました。会社が「当時の上司はパワハラを一切行っていない」として交渉を拒否したため、訴訟になりました。

しかし、訴訟は1年半かかり、最終的に上司のパワハラが一部認められました。しかも、未払い残業代の請求については、社員側の請求がほぼ通った金額で和解することとなりました。

2)テンションリダクション効果を用いた対応例

テンションリダクション効果とは、

何かの決断(購入など)をした後は緊張が緩和され、他の交渉に対する警戒心が弱くなる

というものです。こんな話があります。

靴屋で靴を選んで購入を決めた顧客に対して、「こちらの防水スプレーもいかがでしょうか」と提案をすると、本来購入する予定がないのに一緒に購入してしまうことがあります。ECサイトのカート画面に、商品購入後、最近チェックした商品やおすすめの商品を表示させるのも、購入後の追加購入を促すためです。

今回の複数のトラブルが発生した事例でも、交渉の進め方を少し変えれば、結果は違っていたかもしれません。例えば、

パワハラよりも先に、未払い残業代の問題を決着させることを優先する

という考え方があります。未払い残業代は労働時間の記録があれば論点が明確で、残業代の計算が正しいか、休憩が取れていたかなど、どこかで落としどころを見つけられるケースがほとんどです。そこで、退職した社員の代理弁護士に、「まずはパワハラの問題を脇に置いて、未払い残業代請求について交渉を先行させましょう」と提案します。弁護士も同時に交渉を進めるのは非効率である場合が多いことを知っているので、この提案に乗ってきます。

ここで大切なのは、

未払い残業代については、多少時間がかかってでも会社の譲れない部分についてははっきり主張し、場合によっては訴訟も辞さないという強気の姿勢を示すこと

です。未払い残業代の交渉のハードルが上がると、それが解決したとき相手の弁護士に少なからず安心感を与えます。そのタイミングで、「パワハラについては客観的な証拠もなく、お互いの言い分が平行線をたどるので、未払い残業代とパワハラを合わせて◯万円で解決するのはいかがでしょうか」と投げかけます。すると、弁護士も人間なのでテンションリダクション効果が働き、自分の依頼者を説得して早く合意をさせようと努力するわけです。

以上(2025年5月更新)
(執筆 杜若経営法律事務所 弁護士 向井蘭)

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画像:BBuilder-Adobe Stock