甘くない「会計ミス」のペナルティー~正しく処理するために必要なこととは?

書いてあること

  • 主な読者:数字にはシビアでも、その数字を導くまでの会計業務には無頓着な経営者
  • 課題:会計業務の誤りによって経営者が逮捕されるケースもある
  • 解決策:誤りや不正の代表例を知り、業務のマニュアル化やダブルチェックを行う

1 今見ているのは正しい数字か?

多くの経営者は、

会社の数字にはシビアでも、その数字の計算過程となる会計業務は担当者に任せきり

のことが多いです。しかし、中小企業では、人員、知識、実務経験の不足から会計の「誤り」が生じることあり、今見ている数字が間違えているかもしれません。

さらに、企業がある程度の規模になると、

たとえ悪意のない単純ミスでも、金融機関や株主などのステークホルダーに誤った会計情報を提供することで意思決定を誤らせ、結果として損害を与える恐れ

があります。これから事業拡大を目指している経営者は、意識しておきたい問題です。もちろん、経営者が会計業務の詳細まで知る必要はないですが、

実務上で発生し得る会計業務の誤り(ミスや不正)を知り、業務のマニュアル化やダブルチェックなど、その防止策を講じること

は不可欠です。

2 罰則あり。逮捕されることも……

1)税務上の課税所得を過少計上

会計処理の誤りにより、税務上の課税所得を過少計上することがあります。例えば、期末の在庫残高を誤って過小に計上すると、売上原価が過大に計上されて課税所得の計算の基礎となる利益が過小計上されることになります。このような誤りが税務調査で明らかになると、

過少申告加算税(追加納税額に対して税率5%~15%)の他、延滞税(追加納税額に対して年税率2.4%(令和6年の場合))

が課されます。

2)不正な経理を行ったことが税務調査で発覚

故意に税金をごまかそうとして行った不正な経理が税務調査で発覚した場合、仮装・隠蔽行為とされ、

過少申告加算税に代え、さらに重い重加算税(税率35%~50%)

が課されます。また、その不正がより悪質な行為と判断された場合には、

法人税法違反(法人税法159条)として、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金

が科される可能性があります。

3)決算書の数値を操作して、業績を実態よりも良く見せようとした場合

「粉飾決算」とは、決算書の数値を操作して、会社の財政状態や経営成績を実態よりも良く見せることです。中小企業が粉飾決算する動機として多いのは、融資を受けている銀行に対して決算を良く見せたいというものです。粉飾決算を行った会社は、民事上および刑事上の責任を問われる可能性があります。

会社の役員等は、粉飾決算による損害について、

会社に対する損害賠償責任や第三者に対する損害賠償責任

を負います。また、粉飾決算に伴い違法な配当を行った場合、

違法配当罪として5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金

が科せられる可能性があります。さらに、粉飾決算によって自己もしくは第三者の利益を図り、その任務に背く行為をし、会社に損害を与えた場合は、

特別背任罪として10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金

が科せられる可能性があります。

3 今一度見直そう、最も身近なコンプライアンス

このように、会計業務の誤りは会社に多大な悪影響を及ぼすことから、これを予防する手立てが必要です。会計業務のミスは、担当者の不注意や知識・経験不足などにより生じますが、その対策として

会計業務のマニュアル化が効果的

です。業務手続きを統一し、明確にすることで、不注意によるミスが減ります。また、マニュアル作成に際して、会計業務の全体像と各業務の内容を整理するので、結果として無駄がけずられ、会計業務の効率化につながります。

また、

実際におきたミスの原因を明らかにして記録し、社内で共有すること

もミスの予防に役立ちます。ミスの原因への対応が必要であれば、マニュアルの修正で対応することも考えられます。これらの対策をしても担当者のミスをゼロにすることは困難ですが、別の担当者による

ダブルチェックを実施すること

で、担当者のミスを発見することが期待できます。例えば、横領は担当者に対する内部牽制(けんせい)が機能していない場合に生じることが多いので、誰かがそれを監視するようにします。少なくとも預金残高については残高証明書の原本とのチェックを担当者以外が実施しましょう。

以上(2024年9月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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画像:megaflopp-shutterstock

【コスト削減】社会保険料のコントロール 労働時間や賃金の工夫で負担が減る?

書いてあること

  • 主な読者:社会保険料を削減したい人
  • 課題:具体的な方法が分からない
  • 解決策:フレックスタイム制の導入などによって社会保険料は削減できる。ただし、保険給付が減少するケースもあるので注意

1 【提案】社会保険料をコントロールしましょう

社会保険料(健康保険・厚生年金保険の保険料)は、賃金の約30%を占めるコストであり、保険料を労使で折半して負担するといっても会社や社員にとって大きなインパクトがあります。そこで、労働時間や賃金のルールを工夫して、社会保険料の負担を減らす方法をご提案します。

この記事で紹介するのは、社員1人当たりの社会保険料を

  • フレックスタイム制を導入し、 「1年間で10万1808円」削減する
  • 賃金の一部を賞与として支給し、「1年間で3万3936円」削減する

というシミュレーションです。第2章で前提となる社会保険料の基本ルールをおさらいし、第3章からシミュレーションの紹介に入ります。実際にどの程度の社会保険料を削減できるかは会社の状況などにもよりますが、人件費見直しにご活用ください。

ただし、注意すべきは、この記事で紹介する方法を採用した場合、傷病手当金や老齢年金などの保険給付が減少するケースがあることです。足元ではコストを削減できますが、将来的な保険給付で社員が損をする恐れがあります。この点は民間の保険に入る場合と同じ考え方です。(支払い保険料を抑えた分、万一の際の保険給付は低くなります。)

2 社会保険料の基本ルール

1)社会保険料の計算方法

社会保険料は、

標準報酬月額(または標準賞与額)×保険料率

で計算した額を、会社と社員が折半して負担します。保険者が協会けんぽ(全国健康保険協会)の場合、健康保険料率は9.98%(介護保険の適用がない場合)、厚生年金保険料率は18.3%、合計28.28%となかなかの負担です(協会けんぽ「令和6年度保険料額表(東京都)」)。加えて、

2024年10月1日からは、厚生年金保険の被保険者数が50人超の会社(特定適用事業所)において、一定の要件を満たすパート等が社会保険に加入する義務が課せられることになる(社会保険の適用拡大)

ので、パート等を雇用する会社の場合、社会保険料の負担がさらに増えるかもしれません。

2)標準報酬月額

標準報酬月額とは、

報酬(正確には所定の方法で計算した報酬月額)を一定の金額幅で等級別に区分したもの

です。報酬には、基本給、役付手当、勤務地手当、家族手当、通勤手当、住宅手当、残業代などが含まれます(名称を問わず、また金銭に限らず、労働の対償となるものが原則として算定対象)。ただし、臨時に支給されるもの、支給回数が年3回以下の賞与や退職金は含まれません。

標準報酬月額の主な決定方法は次の3つです。

1.資格取得時決定

雇用したときなど(被保険者資格取得時)の報酬月額に基づいて標準報酬月額が決定され、その月から適用されます。報酬月額は次の式で計算します。

【月、週その他一定期間によって報酬が定められる場合】

被保険者資格取得時の報酬(労働条件通知書などで定める額)÷月の暦日数×30日

2.定時決定

毎年4月、5月、6月(いずれの月も支払基礎日数が原則17日以上。ただし、特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は11日以上)の報酬月額に基づいて標準報酬月額が決定され、その年の9月から適用されます。報酬月額は次の式で計算します。

4月、5月、6月に支払われた報酬の総額÷3カ月

(注)支払基礎日数が17日未満の月は除外して算定します(特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は、11日未満の月は除外)。また、パート等の短時間労働者については、別に定める算定方法を用いて算出します。

3.随時改定

昇給・降給などにより、当該変動月を含めた3カ月平均値が今の標準報酬月額より2等級以上変動した場合、変動月の3カ月後から新しい標準報酬月額が適用されます。新しい標準報酬月額は、次の式で計算した報酬月額に基づいて決まります。

報酬の変動月、その翌月、翌々月に支払われた報酬の総額÷3カ月

(注)いずれも支払基礎日数が17日以上である必要があります(特定適用事業所に勤務する短時間労働者の場合は11日以上)。

3)標準賞与額

標準賞与額とは、

被保険者期間中に支給される賞与総額から1000円未満を切り捨てた額

です。標準賞与額の対象となる賞与は、労働の対償として支払われる支給回数が年3回以下のものです。夏季と年末に賞与を支給している場合、標準賞与額も年2回計算します。

3 フレックスタイム制で社会保険料を削減

1)フレックスタイム制特有の残業の計算方法を利用する

定時決定の対象月の残業を減らせば社会保険料は下げられます。定時決定の対象は毎年4月、5月、6月ですから、「月末締め、翌月払い」の会社の場合、

3月、4月、5月の残業(時間外労働)を減らせばよい

ことになります。とはいえ、年度をまたぐ繁忙な時期でもあり、常に人手不足の会社などでは、残業削減に取り組んではいるものの、なかなかすぐに効果が出ないこともあります。

こうした場合、「フレックスタイム制」を導入することで残業を削減できる場合があります。フレックスタイム制とは、「清算期間」と呼ばれる単位期間内(3カ月以内)で始業・終業時刻の決定を社員に委ねる労働時間制度です。

清算期間が1カ月以内のフレックスタイム制の場合、残業は次のように計算します(法定労働時間の総枠を清算期間における総労働時間(所定労働時間)とした場合)。

清算期間内の実労働時間-(週の法定労働時間×清算期間の暦日数÷7日)

所定労働日数や休日などによって異なりますが、この計算方法によりフレックスタイム制では、通常よりも残業が減ることがあります。次の図表は、法定労働時間が1日8時間、1週40時間で、土・日・祝日が休日の会社で、社員が2024年3月、4月、5月に残業した場合のイメージです。

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各月の総労働時間が同じでも、残業はフレックスタイム制のほうが29.6時間(166時間-136.4時間)も少なくなっています。これを社会保険料の計算に反映してみましょう。

ここでは、社員の残業代を除く賃金を

  • 月給32万円
  • 所定労働時間:1日8時間
  • 所定労働日数:年間240日(日曜日を法定休日、土曜日・祝日のほか夏季休業・年末年始休業などを所定休日として年間休日125日)
  • 所定内賃金を時給に換算した額:時給2000円(月額32万円÷(240日×8時間÷12)

と仮定し、「月給+残業代」で報酬月額を求めて、標準報酬月額を算定します。残業代の割増賃金率は、残業が月60時間以内の場合は25%、月60時間超の場合は50%です。

また、保険料率は、健康保険料率9.98%(介護保険の適用がない場合)、厚生年金保険料率18.3%、合計28.28%とします(協会けんぽ「令和6年度保険料額表(東京都)」)。

1.通常の労働時間制度の場合

  • 報酬月額(注):46万2333円(32万円+2000円×(1.25×166時間+0.25×24時間)÷3カ月)
  • 標準報酬月額:47万円
  • 社会保険料:13万2916円(47万円×28.28%)

(注)報酬月額の計算式の「24時間」は、月60時間を超える残業の時間数です。2024年5月の残業84時間のうち、24時間(84時間-60時間)については50%の割増賃金の支払いが必要です。

2.清算期間が1カ月のフレックスタイム制の場合

  • 報酬月額(注):43万6150円(32万円+2000円×(1.25×136.4時間+0.25×14.9時間)÷3カ月)
  • 標準報酬月額:44万円
  • 社会保険料:12万4432円(44万円×28.28%)

(注)報酬月額の計算式の「14.9時間」は、月60時間を超える残業の時間数です。2024年5月の残業74.9時間のうち、14.9時間(74.9時間-60時間)については50%の割増賃金の支払いが必要です。

このようにフレックスタイム制を導入することで、社会保険料を社員1人当たり

  • 1カ月間で8484円(13万2916円-12万4432円)削減
  • 1年間で10万1808円(8484円×12カ月)削減

できることになります。

2)フレックスタイム制を導入する際の注意点

フレックスタイム制は「始業・終業時刻の決定を社員に委ねる」ことを前提とした制度であり、一度導入してしまうと会社は社員に対して始業・終業時刻に対する具体的な指示ができなくなります。

社員に柔軟な働き方を求める経営方針であったり、フレックスタイム制という働き方が適した業種などであったりすればよいですが、単に残業を減らすためだけにフレックスタイム制を導入するといった運用は適切ではありません。

また、フレックスタイム制の導入によって、所定労働時間が増加したりする場合には「労働条件の不利益変更」となることがあります。労働条件の不利益変更は、社員の合意を得るか、変更内容が合理的なものでないと認められません。

4 賞与のコントロールで社会保険料を削減

1)標準報酬月額と標準賞与額の計算方法の違いを利用する

標準報酬月額と標準賞与額の計算方法の違いを利用して、社会保険料を削減します。2023年度の月間現金給与額、夏季賞与、年末賞与の平均支給額(調査産業計)はそれぞれ次の通りです(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)。

  • 月間現金給与額:33万2533円
  • 夏季賞与:39万7129円
  • 年末賞与:39万5647円

月間現金給与額33万2533円を報酬月額とした場合、標準報酬月額は34万円です(協会けんぽ「令和6年度保険料額表(東京都)」)。

標準報酬月額が34万円になる報酬月額は33万~35万円なので、

月間現金給与額を33万円未満に引き下げ、その分を賞与として支給する場合、標準報酬月額は32万円

になります。月間現金給与額から1万円(年間12万円)を夏季賞与と年末賞与に6万円ずつ振り替えた場合の社会保険料は次の通りです。

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賃金の一部を賞与として支給することで、社会保険料を社員1人当たり

1年間で3万3936円(137万7801円-134万3865円)削減

できることになります。

2)賃金の一部を賞与として支給する場合の注意点

「業績の状況等によって賞与を支給することがある」など、賞与の支給が不確実な制度設計になっている場合、注意が必要です。賃金の一部を賞与として支給しようにも、業績悪化でそもそも賞与が支給されないとなるというのは、社員にとっては不利益であり、場合によっては労働条件の不利益変更に問われる事にもなり得ます。

もしも賃金を賞与に回すことを考えるのであれば、まずは存在意義の薄い手当がないかチェックしましょう。例えば、無遅刻・無欠勤の社員に支給する皆勤手当は、遅刻や欠勤が少ない会社では意外に喜ばれにくいものです。手当で社会保険料の負担が重くなるくらいなら、賞与に回したほうが社員も喜ぶでしょう。

こうした仕組みを利用することで、現状の賃金制度と向き合い、賃金設計の再構築を図るきっかけとするのもよいかもしれません。ただし、昨今の物価高により賃金が生活給になっているケースも多く、目先の事だけにとらわれて結果として社員の日常の生活を圧迫させてしまっては本末転倒です。充分に検討して対応するようにしましょう。

以上(2024年10月更新)

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文豪・夏目漱石。教育者でもあった彼が、新たな時代を拓く弟子たちに贈った言葉とは?

牛になることはどうしても必要です。吾々(われわれ)はとかく馬になりたがるが、牛には中々なり切れないです

夏目漱石氏は、『吾輩は猫である』『こころ』など、数多くの名作を生み出した人物です。彼は小説家であり、大学で教鞭(きょうべん)を奮った英文学者であり、あまり知られていませんが、数々の作家たちに慕われ、彼らを育てた「先生」でもありました。

冒頭の言葉は、夏目氏が亡くなる数カ月前、門下生である芥川龍之介氏と久米正雄氏に宛てた手紙の一文です。当時の2人はまだ駆け出しの作家で、作品を書くたびに夏目氏に便りを出し、批評を頼んでいました。当時、病床にあった夏目氏が彼らに向けた言葉は、自分の人生の振り返りであり、次世代の作家へ贈るエールでもありました。

「牛になる」とは、夏目氏いわく「焦らず、賢く、根気ずくで進む」という意味。馬のように勢いよく駆け出さんとする彼らにこの言葉を贈った理由は、夏目氏自身の経験にありました。

実は夏目氏の生涯のうち、小説家として生きたのは死没までの約10年間だけで、人気作家になる前は、生まれてすぐ里子に出されたり、学校の中退を繰り返したりと、波瀾(はらん)万丈な人生を過ごしてきました。そんな彼の転機となったのが、文部省から命じられた英国留学です。英国へ渡った夏目氏は、現地の講義のレベルの低さに納得できず、下宿先で文学の研究に没頭しますが、孤独にさいなまれ精神を病んでしまいます。

しかし、この日々から得たものもありました。苦労と研究を重ねる中で「文学を感情ではなく、理論に基づいて読み解く」という思考を手に入れた夏目氏は、帰国後、それを大学の講義で「文学論」という形へと昇華させます。この思考は、夏目氏のデビュー作「吾輩は猫である」でも、主人公の「猫」が人間を観察し、その滑稽さを風刺する描写に大いに活かされました。夏目氏は、「努力は、すぐに成果が出なくても、後になって花開くことがある」と知っていました。だから晩年、芥川氏と久米氏に冒頭の言葉を贈ったのでしょう。

経営者は会社を引っ張るリーダーですが、夏目氏と同じように次世代の人材を育てる「先生」でもあります。インターネットやAIに聞けば、すぐに答えが出る今の時代、「馬のように」すぐに成果を出したがる若手は多いかもしれません。

大切なのは、そんな若手が、なかなか成果を出せずくすぶっているときです。苦労を重ねて会社と共に歩んできた経営者は、「牛のように」と言葉を贈った夏目氏の気持ちが分かるはずです。たまには、経営者自ら「努力はいつか花開く」と、自身のエピソードを交えて若手に語ってみるのもよいでしょう。その内容が経営者の人生観に根差しているものなら、きっと若手の心に響き、力になるはずです。

夏目氏の教えを受けた芥川氏と久米氏は文学の新たな時代を拓き、今度は2人に憧れた多くの作家が、日本文学を形作っています。先駆者の教えは、脈々と受け継がれているのです。

出典:『漱石先生の手紙が教えてくれたこと』(小山慶太 (著)、岩波書店、2017年8月)

以上(2024年10月作成)

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法人税の支払いを抑えるために知っておくべき「法人実効税率」のからくり

書いてあること

  • 主な読者:自社の法人税等の負担を正確に把握し、支払いを抑えたい経営者や税務担当者
  • 課題:黒字で同じ課税所得があっても、資本金や地域によって法人税等の負担額が違う
  • 解決策:法人税の仕組みと法人税実効税率の計算式やその計算要素を理解する

1 法人税の支払いを抑えたいですよね?

法人税は、「課税所得」という財務会計でいうところの利益に課されるものですが、財務と税務では考え方が違います。財務会計では費用になっても、税務では損金として認められない部分があります。いずれにしても、経営者にとって、法人税は安いに越したことはありませんから、接待交際費や会議費、役員報酬などについて顧問税理士などに相談しながら、少しでも法人税を安くしようと工夫をします。

ところで、いわゆる法人税にはいくつかの種類があって、それぞれ計算方法が違うことをご存じですか? 足元の2024年度では、

法人実効税率(中小法人、かつ標準税率の場合)は33.58%

ですが、なぜこうなるのか、法人税の仕組みを理解すれば、法人税の支払いを少なくするための考え方も分かってきます。この記事で分かりやすく解説していきます。

2 法人税等の正体

1)法人税等の正体

一般的にいわれる法人税には、文字通りの法人税の他に地方法人税・住民税・事業税・特別法人事業税が含まれます。企業が負担する「法人税等」は、これらの項目の合計になるわけですが、その計算に使用される税率は2つあります。

1つは「表面税率」です。表面税率とは、

それぞれの税項目の税率を単純に足し合わせたもの

であり、申告や納税の際に用いられます。ただし、事業税は翌期に損金算入が認められているなどの理由から、表面税率は企業の実質的な法人税等の負担率よりも高くなります。

もう1つは、この記事のテーマである「法人実効税率」です。法人実効税率とは、

先ほどの事業税の損金算入なども加味したもの

であり、企業の実質的な法人税等の負担率となる他、税効果会計などでも利用されます。

法人実効税率の計算式は次の通り複雑です。そのため、一口に法人実効税率の引き下げといっても、どの部分に変更があるのかを知っておく必要があります。

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2)実際に負担する税額に差が生じる?

黒字と赤字とでは法人税等に大きな差が出ます。さらに言うと、

黒字企業で同じ課税所得がある企業であっても、資本金の額や地域によって法人税等の負担額が変わってくる

ことをご存じでしょうか?

法人税等の仕組みは複雑で、単純に課税所得をベースに計算されるものばかりではありません。法人税等の計算過程を正しく理解することで、新たに法人を設立する場合や、減資・増資を考える場合の税負担軽減についての勘所をつかむことができます。

3 法人税と地方法人税の概要

1)法人税の概要

法人税は次の算式で計算されます。

  • 法人税額=所得金額×税率

法人税の税率は資本金の額などによって異なり、その分かれ目は1億円です。普通法人の法人税の税率は次の通りです。

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2)地方法人税の概要

地方法人税は次の算式で計算されます。課税標準法人税額とは、法人税確定申告書上の一定の金額を合計したものになります。

  • 地方法人税額=課税標準法人税額×10.30%

4 法人住民税の概要

法人住民税は、法人都道府県民税と法人市町村民税に分かれ、それぞれ均等割と法人税割によって計算されます(東京23区内の法人都民税は、法人市町村民税分を分けず、合わせて計算されます)。

均等割は、資本金等の額や従業者数といった「会社の規模」に応じて決まります。「資本金等の額」とは、「資本金の額または出資金の額」と「資本準備金または加入金」の合計額(一定の要件を満たす場合には、一定の調整あり)です。

  • 法人道府県民税(均等割)の標準税率は、資本金等の額に応じて年額2万円から80万円までの5段階に区分されています(東京23区内の場合は別途設定あり)。
  • 法人市町村民税(均等割)の標準税率は、資本金等の額と従業者数に応じて年額5万円から300万円までの9段階に区分されています。

また、法人市町村民税は制限税率が定められており、標準税率の1.2倍の範囲内で、市町村ごとに定めた税率(超過税率)が適用されます。

法人住民税(法人税割)は次の算式で計算されます。

  • 法人税割額=法人税額×税率

法人住民税(法人税割)の標準税率および制限税率は次の通りです。なお、法人住民税は制限税率が定められており、その範囲内(図表3を参照)で、都道府県・市町村ごとに定めた税率(超過税率)が適用されます。

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5 法人事業税の概要

法人事業税の算出方法については、電気供給業・ガス供給業・保険業を営む法人と、それ以外の業種を営む法人で適用される課税計算方法が異なりますが、この記事では電気供給業・ガス供給業・保険業ではない法人(以下「普通法人等」)に注目します。普通法人等の法人事業税は、資本金の額または出資金の額(以下「資本金の額」)に応じて、所得割、外形標準課税(付加価値割、資本割、所得割)のいずれかにより計算されます。

1)普通法人等で、資本金の額が1億円以下の法人

普通法人等で、資本金の額が1億円以下の法人の法人事業税は所得割によって算定されます。法人事業税(所得割)は次の算式で計算されます。

  • 所得割額=所得金額×税率

また、具体的な税率は所得に応じて決まります。普通法人等で、資本金の額が1億円以下の法人の法人事業税(所得割)の標準税率および制限税率は次の通りです。なお、法人事業税(所得割)については制限税率が定められており、標準税率の1.2倍の範囲内で、都道府県ごとに定めた税率(超過税率)が適用されます。

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2)普通法人等で、資本金の額が1億円超の法人

普通法人等で、資本金の額が1億円超の法人(以下「外形標準課税法人」)の法人事業税は、外形標準課税制度が適用され、付加価値割、資本割、所得割によって計算されます。

外形標準課税法人の法人事業税の標準税率および制限税率は次の通りです。なお、いずれについても制限税率が定められており、標準税率の1.2倍の範囲内で、都道府県ごとに定めた税率(超過税率)が適用されます。

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外形標準課税法人の法人事業税(付加価値割額)は次の算式で計算されます。付加価値とは、「付加価値額=収益配分額(報酬給与額+純支払利子+純支払賃借料)±単年度損益」によって計算されます。

  • 付加価値割額=付加価値額×1.2%

外形標準課税法人の法人事業税(資本割額)は次の算式で計算されます。

  • 資本割額=資本金等の額×0.5%

外形標準課税法人の法人事業税(所得割)は、普通法人等で資本金の額が1億円以下の法人の法人事業税(所得割)と同様の算式で計算されます。

6 特別法人事業税の概要

特別法人事業税は次の算式で計算されます。

  • 標準税率により計算した法人事業税の所得割額×税率

特別法人事業税の税率は次の通りです。

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7 資本金の額や地域によって異なる?

1)条件を変えて比較しよう

法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税、特別法人事業税(以下「法人税等の額」)は、資本金の額や地域によって異なります。例えば、資本金の額が1億円を超えるか超えないかで、法人税の軽減税率や、法人事業税の外形標準課税の適用の有無が判断されたりします。

また、地域によっても、法人事業税(所得割)や法人住民税(法人税割)などの税率が異なります。

ここで、資本金の額が1億円と2億円の法人がそれぞれ超過税率の影響が小さい市町村にある場合と、超過税率の影響が大きい市町村にある場合の法人税等の額を比較してみましょう。なお、本事例は納税額の計算であるため、表面税率についての比較となります。

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2)資本金の額によって異なる法人税等の額

A社の資本金の額が1億円と2億円の場合では、法人税等の額の差額は956万円(1億8408万6000円-1億7452万6000円)となります。B社の資本金の額が1億円と2億円の場合では、法人税等の額の差額は992万4000円(1億8952万6000円-1億7960万2000円)となります。

差額の主な要因は、法人税と法人事業税にあります。

法人税について、資本金の額が1億円以下の場合は、所得のうち800万円までは通常23.2%のところ、15%の軽減税率の適用を受けることができます。

一方、外形標準課税(所得割)の税率は、外形標準課税の適用を受けない場合の法人事業税(所得割)の税率に比べて低く設定されています。そのため、外形標準課税の適用を受ける資本金の額が2億円のケースの方が、納税額が少なくなります。本ケースでは全て利益が出ているケースのため、上記のような納税額の比較となりました。外形標準課税では、利益が出ていない年にも、付加価値割や資本割が課税されますが、外形標準課税の適用を受けない場合には法人事業税の納税額は0となります。将来の損益予測も合わせて検討することが大切です。

3)地域によって異なる法人税等の額

超過税率の影響が小さい市町村にあるA社と、超過税率の影響が大きい市町村にあるB社では、資本金の額が1億円である場合の差額は544万0000円(1億8952万6000円-1億8408万6000円)となります。

資本金の額が2億円である場合の差額は507万6000円(1億7960万2000円-1億7452万6000円)となります。

差額の主な要因は、前述した通り、超過税率の影響の度合いです。法人事業税(所得割・外形標準課税)、法人道府県民税(法人税割・均等割)、法人市町村民税(法人税割・均等割)については、制限税率が定められており、各自治体によって制限税率の範囲内で税率を定めることができるのです。

例えば、法人事業税(所得割)で超過税率を適用している都道府県は、宮城県、東京都、神奈川県、静岡県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県があります。それ以外の39道県については標準税率を適用しています。また、全国の各市町村の法人市町村民税率(法人税割・均等割)については、総務省「法人住民税・法人事業税 税率一覧表」を参考にするとよいでしょう。

■総務省「法人住民税・法人事業税 税率一覧表」■

https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/czei_shiryo_ichiran.html

8 税金に詳しい経営者になろう

「税金は顧問税理士に任せておけばいい」と考えている経営者がいるかもしれません。しかし、税金を詳しく理解することは、経営戦略を考える上でも大切な視点です。

新しく会社の立ち上げを検討するときに、資本金をいくらに設定するか、どこに本社を置くかで法人税等の額は変わってきます。これらのことを検討する際、それぞれのケースの税負担を考慮することで、その負担を抑えられるかもしれません。

また、新たな投資を検討する際には、税法上の特別償却・特別控除を適用できるかどうかの検討も忘れてはいけません。もし知らずに、それらの制度を適用しなかった場合、本来は支払う必要がなかった税金を支払うことにもなりかねません。

顧問税理士に任せるだけではなく、自分自身である程度税金の知識を持つことも、経営戦略を考える上で大切なことなのです。

以上(2024年9月更新)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:pixabay

【税の勘所】押さえておきたい税金の「パーセンテージ」

書いてあること

  • 主な読者:主な「税金」のことを、具体的なイメージで把握したい人
  • 課題:税金は複雑で、具体的に「どれくらい払うのか?」などが分かりにくい
  • 解決策:主な税金について、具体的な数字で「金額、期間、パーセンテージ」を把握する

1 押さえておきたい税金の「パーセンテージ」

この記事では、主な税金(法人税・所得税・消費税・相続税・贈与税)に関する「パーセンテージ」を整理します。

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2 95%未満:消費税

95%未満は、消費税の仕入税額控除が一部できなくなる課税売上割合です。

課税売上割合とは、全体の売上高のうち、課税売上高(消費税が課される売上高)が占める割合で、消費税の仕入税額控除の計算などに使用されます。消費税の仕入税額控除の計算方法には、

  1. 全額控除方式:課税仕入れ等に係る消費税額の全額を控除
  2. 個別対応方式:課税仕入れ等に係る消費税額の一部を控除
  3. 一括比例配分方式:課税仕入れ等に係る消費税額の一部を控除

の3つがあります。

全額控除方式を適用することができるのは、課税期間における課税売上割合が95%以上で、かつ課税売上高が5億円以下の事業者に限られます。そのため、課税期間における課税売上割合が95%未満の場合、または課税売上高が5億円超の場合は、個別対応方式か一括比例配分方式のいずれかを利用することになり、課税仕入れ等に係る消費税額が一部控除できなくなります。

3 55%:相続税、贈与税

55%は、相続税と贈与税の最高税率です。

1)【相続税】相続税の最高税率

相続税の税率は、次の通り8段階に区分されており、最高税率は55%です。

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2)【贈与税】贈与税の最高税率

2015年以降の贈与税の税率は、次の通り「一般贈与財産」と「特例贈与財産」に区分されましたが、いずれのケースも8段階に区分されており、最高税率は55%です。

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4 45%:所得税

45%は、所得税の最高税率です。

所得税の税率は、分離課税(株式等の譲渡で生じた所得などと、他の所得を分離して計算)に対するものなどを除くと、次の通り7段階に区分されており、最高税率は45%です。

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5 29.74%:法人税

29.74%は、法人実効税率(外形標準課税適用法人)です。

法人実効税率とは、法人税だけでなく、地方法人税、法人住民税、法人事業税の税率を考慮した、実際に法人が負担する税率です。法人実効税率は次の算式で計算されます。

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標準税率を適用した場合の今後の法人実効税率は次の通りとなります。

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6 15%(19%):法人税

15%(19%)は、法人税の軽減税率です。

普通法人で資本金が1億円以下の法人(中小法人)の場合、年800万円以下の所得金額部分については、通常よりも低い税率(軽減税率)が適用されます。ただし、資本金が1億円以下でも、資本金が5億円以上の法人と完全支配関係にある場合、軽減税率が適用されません。

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以上(2024年9月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:Dilok-Adobe Stock

【税の勘所】押さえておきたい税金の「期間」

書いてあること

  • 主な読者:主な「税金」のことを、具体的なイメージで把握したい人
  • 課題:税金は複雑で、具体的に「どれくらい払うのか?」などが分かりにくい
  • 解決策:主な税金について、具体的な数字で「金額、期間、パーセンテージ」を把握する

1 押さえておきたい税金の「期間」

この記事では、主な税金(法人税・消費税・相続税・贈与税)に関する「期間」を整理します。

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2 20年以上:贈与税

20年以上は、夫婦間で居住用財産を贈与した場合、2000万円まで非課税となる婚姻期間です。

婚姻期間が20年以上の配偶者から居住用財産を贈与された場合(一定の要件を満たす必要があります)、その居住用財産の課税価格から2000万円まで控除できます。そのため、基礎控除(110万円)を合わせた2110万円までは贈与税がかかりません。

3 7年:相続税

7年以内は、生前贈与分を相続税の課税価格に加算しなければならない期間です。

財産を相続した人が、被相続人(亡くなった人)からその相続開始(被相続人が亡くなった日)前7年(2023年12月31日以前は3年)以内に贈与されていた場合、その贈与されていた財産は相続税の課税価格に加算されます。

なお、相続が発生した年に贈与された財産も、相続税の課税価格に加算しなければなりませんが、2024年1月1日~2030年12月31日までの間の贈与については一定の経過措置が適用されます。

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4 10カ月以内:相続税

10カ月以内は、相続税の申告期限です。

財産を相続した人は、

被相続人から財産を取得した全ての者に係る相続税の課税価格の合計額がその遺産に係る基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合

に、その相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内に、所定の事項を記載した申告書を、被相続人の死亡時における住所地を管轄する税務署長に提出しなければなりません。

5 2カ月以内:法人税、消費税

2カ月以内は、法人税および消費税の確定申告期限(原則)です。

法人は、原則として、各事業年度終了の日の翌日から2カ月以内に、管轄する税務署長に対し、確定した決算に基づき、法人税及び消費税の確定申告書を提出しなければなりません。

以上(2024年9月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:momius-Adobe Stock

【特別企画】Z世代の起業家がZ世代の学生に向けて「起業の実態」を語る講座「実践ベンチャー論 創業経営者対談」2024年版/岡目八目リポート

年間1000人以上の経営者と会い、人と人とのご縁をつなぐ代表世話人杉浦佳浩氏。ベンチャーやユニークな中小企業の目利きである杉浦氏が今回ご紹介するのは、特別企画、埼玉大学で行われた講座「実践ベンチャー論 創業経営者対談」(2024/7/5開催)です。

埼玉大学で行われたこの特別講座は、20代の起業家・起業経験者の方たちが学生に向けて起業の実態を語るというものです。真面目に一生懸命ビジネスに取り組み続けている20代の3人の登壇者と、食いつくように聞き入る学生たち。

とにかくものすごく濃い内容、圧倒的な突き抜け感! レベルが一段も二段も違う感じです。ご登壇のお一人はなんとアブダビからオンラインでつなぐという。おもしろいを通り越して、おそらく、「こういう話、経験は初めて」の学生も多かったと思います。個性豊かすぎる3人の登壇者、カルチャーショックと熱気と未来への選択肢が満載の時間でした。大学の講座では珍しく(?)学生からの質問が相次ぎ、質疑応答の時間が足りない事態に。後日、学生からのインターンシップ希望の連絡もいろいろあったようです。

テキストだけではこの濃すぎる内容をお伝えしきれないので、3人の方が語ってくださった印象的な一部を本記事でご紹介します。経営層の方は、この記事をご自身で読むのも、社員の方に読んでもらうのもいいかと思います。さっそく今日から何かしたくなるでしょう!

「自分から行動すると、何かが起きる。人生は自分で面白くできるのだ」

3人のお話を聞いていたら、そういう気持ちになりました。

●ご登壇

安田 光希(やすだ こうき)氏:連続起業家。現在の拠点の中心はアブダビ

田山 凌汰(たやま りょうた)氏:株式会社One StepS 代表取締役CEO

石原 里奈(いしはら りな)氏:株式会社FinT広報マネージャー

●モデレート

杉浦 佳浩氏:代表世話人株式会社 代表取締役

1 起業のきっかけはさまざま。「流れで起業」や「学生のうちに起業」も。

3人の登壇者はまず、どのような事業を行っているか、なぜ起業の道を選択したかを話してくれました。そこからして話が個性的、「こういう人生の拓き方もあるのか」と思います。

それぞれのプロフィールがまた面白いので、下記ご参照ください。

登壇者プロフィール

3人の起業のきっかけなどを聞いていると、とにかく「動いてみる」「やってみる」「そしてやりきる」ことが大事だと感じます。それぞれに印象的なお話もありました。話してくださった順番にご紹介していきます。

 

●安田さんの起業きっかけの話

「(お客さまからの)需要があったので起業した」

こういきなり自然体でぶっこむ感じ、伝わるでしょうか(しかもこの安田さんはアブダビからオンライン)。いきなりレベルが違う感じ。誤解を恐れずに言うと、「これがやりたい!という強い思いがあって」とかではないのです。大学時代、AIを勉強するサークルの友人たちと、後輩のためにと英語版のAI教材を日本語版にわかりやすくつくりなおしたところ、誰もが知る大手通信会社が安田さんたちに注目。「会社を作ってくれたら仕事を発注したい」と要望されたので起業したそうです。

このように安田さんは、学生時代からかなり高度なことをやっておられたのですが、とにかく力みがなく自然体で、「求められたから起業した」という話。その後、いくつか会社を立ち上げたりして、特にすごいのは、ある会社が4年で上場、時価総額500億円までになったというから驚きです。たった4年で。

「おもしろいからやってみよう」「おもしろいことをやってみよう」が原動力になっている安田さん。この「おもしろいことって何なの?」という話もとても納得感ありましたので、後ほどご紹介します。

アブダビからオンライン参加の安田さん

安田さん

 

●田山さんの起業きっかけの話

「チャレンジしている人への憧れ、起業している人への憧れがあった」

少し話しただけで頭の回転の速さが伝わってくる現役のミスター慶応・田山さん。田山さんが口を開くと物事が整理され、そして場が和やかにもなるというすごさ。今回の講座では、登壇者が突き抜けた方々なので、話の内容がすごすぎて学生がポカンとする場面もありました(すごいということ自体は学生にも伝わっている)。そんなときに登壇者と学生との間をとりもって瞬時に通訳してくれていたのが、この田山さんです。田山さんのおかげで、聞いている学生の理解度がかなり上がったのではないかと思います。こうした通訳、なかなか普通にできることではないでしょう。

起業している先輩がいたこともあって、高専時代からもともと起業、スタートアップに興味があった田山さん。慶應大学に入学する前にシードベンチャーキャピタルにインターンとして参画、数多くの起業家と会い、話をしてきています。

現在はAIを活用したシステム開発などを行う会社を創業し、金融機関などAIで効率化できる余地が多い業界に寄与したいと、お客さまに寄り添って泥臭くビジネスに取り組んでおられます。好奇心旺盛、スタートアップやAIなどについて調べたり勉強したりするのが好きだという田山さん。興味があるから続けられるというお話はとてもよく分かります。

AIスタートアップの田山さん

田山さん

 

●石原さんの起業きっかけの話

「学歴コンプレックスが起業につながった」

何事にも自分なりの意見、考えを持ち、しかもそれを自然体で発言する石原さん。石原さんの話には、何かしら石原さんならではの視点があり、「なるほど」と思わせられます。

学生時代に起業を経験、その後サイバーエージェントに入社、今はSNSマーケティングのFinTで広報マネージャーというこれまたすごい経歴ですが、もともとの出発点が「大学受験に失敗して志望校に行けなかったことから始まっている」そうです。

「学歴に変わる強みを4年間で創ればいい」とお母さまに言われたことをきっかけに学歴コンプレックスが消えたという石原さん。その後、大学の起業家育成講座で、大手メーカーの現実の課題解決に取り組んでいくのがとても面白かったそうです。早くから実業に触れていたのがすごい。そして、大学1年生の最後の日に、犬のトリマーと飼い主をつなぐマッチングサービスで起業。石原さんからは、やりがいのあること、やってみたいことにどんどんチャレンジして切り開いていく力強さ、行動力をとても感じます。

広報マネージャーの石原さん

石原さん

 

起業のきっかけからして三者三様の面白さ。

おもしろいと思うことをやってみる、行動してみる。自分から動く。

といったあたりは共通しているように感じます。

「では、何がおもしろことなのか? 学生のうちはおもしろいことが何なのか分からないかもしれないので、こう考えるといいかも」と安田さんが言っていた次のことも印象的でした。

「自分がやってうまくいくと、おもしろくなってくる。なので、最初は面白さを考えずに自分が得意で人から求められることをやってみる、というのもオススメ。圧倒的な能力があると、それを欲してくれる人が出てきて、経験値が増しさらにできるようになり、もっと楽しくなってくる。そうしていくと『ほぼ負けない』『これで貢献できる』と思えるようになる」

「『自分が得意なことで嫌いなこと』ってないはず。自分の好き嫌いはあまり信用していない。(自分が好き嫌いと思っているのは)勘違いかもしれない。それより、得意なことをやるのがいいと思う」

自分が興味があること、好きなことを探してみようとかではなく(それが悪いというわけではない)、「自分ができることをとことんやる=おもしろくなる=ほぼ負けないことになる」。とことんやる、圧倒的な能力、というあたりに言外の凄みを感じます。青い鳥を探してないものねだりを繰り返すのではなくて、自分ができることをとことん、そこから。確かにこういう進め方、突き詰め方もあるなぁと感じました。

一方で、大学1年のときにご自身の好きなことで起業した経験のある石原さんが、

「好きなことがあるのなら、20代半ばまでは好きなことをとことんやってみて、『好きから見つけていく』というのもいいと思う」

と話していたのも、早いうちに起業経験を積んだからこその発言で、納得感ありました。

2 未来に向けてやっていること、課題

3人それぞれ、未来に向けてやっていることや課題もさまざまでした。

 

●安田さんの未来に向けてやっていること

安田さんは、日本では主に大企業向けにAI・デジタル技術を用いた企業改革・改善を行ってきて累計のお客さまは600社以上。現在は拠点の中心はアブダビで、世界で勝てる技術力などを持った日本企業とそれらを購入したい中東企業をつなぐという、他であまり聞かないようなことをやっています。

安田さんが課題に感じていて未来に向けて今やっているのは、「日本のプレゼンス、地位をもっと上げていくこと」だそうです。中東に出ていくと、中国や韓国の会社の勢いがすごく日本の地位が塗り替えられつつあることを痛感するという安田さん。さまざまなコネクションなどでいろいろと仕掛けており、とにかく話が世界的、スケールが大きい。こういう人が日本の未来をつくっていくのだと感じます。日ごろから人種を問わずたくさんの人と会う、そのためにとにかくスピードが速い。やるやらないの判断が速く、徹底して時間を無駄にしない安田さんです。

 

●田山さんの未来に向けてやっていること

田山さんはAIの会社を創業して1年くらいです。メンバーはエンジニアが中心ということで、そのこと自体がまず大きな強みだと思います。今後、未来に向けてはマーケティングや営業分野の採用にも力を入れていきたいそうです。AIタレント、AIアバターの開発などPR効果のあるAIも手掛けていたり、さまざまな分野・業界の人とつながることに投資していきたいということで、プロモーション活動、クライアント開拓も積極的に進めている田山さん。

今回、会場には高専出身の学生の方もいて、特に田山さんの話に聞き入っていました。経歴に共通点、似たところがあると共感し、自分の未来の姿、進む道が想像しやすいのだと思います。それに加えて田山さんの話はとにかく分かりやすい! 相手が理解しやすい言語、理解しやすい順番で話すことができつつ、全体を動かしてビジネスを実現していける田山さんのような人は、ビジネスプロジェクトには必要不可欠。そして多くの人に慕われそうで、お客さまにも好かれているのだろうなと思います。

 

●石原さんの未来に向けてやっていること

石原さんは、未来に向けてやっていることを話すにあたり、サイバーエージェント時代に出会った言葉を教えてくれました。それは、「明日事業がなくなっても、ラーメン屋をやろうと言ったらみんなついてきてくれる」という言葉です。組織にいるメンバーが強烈にその組織を誇りに思っていて好きである、という組織文化が伝わってくると感じた石原さん。

石原さんはもともと、事業でゼロイチの価値をつくることに興味がありましたが、今はそれが変わってきていて、組織の中のカルチャーづくりに興味があり、今はそれを実践し、今後も深掘っていこうとしています。石原さんは日ごろから、「好きな人、なりたい人のそばにいるようにしている」そうで、こうした考え方も、組織の成長の原動力となるカルチャーづくりに活きている、そして、カルチャーづくりにやりがいを持っている源なのだろうと感じます。

 

起業している方々や起業経験者の間では当たり前なのかもしれませんが、3人がそれぞれ、自分の中に「未来のあるべき姿」を描いていて、それに向かって毎日一生懸命ビジネスに取り組んでいることがものすごく実感できました。これは学生にも伝わったと思います。

3 結局のところ、学生起業っていいのか?

3人の話はどれも、学生に向けたメッセージにあふれていたと思います。学生からの質問も、

  • 学生起業はしたほうがいいのか? 学生起業のメリットはどのようなものか?
  • 日ごろ、習慣化していることはどのようなことか?
  • お客さまからの要望をどのように引き出しているか?

などいろいろ。このほか、安田さんのSNS(https://x.com/sushi_koki)をフォローしている田山さんから安田さんに対して質問するという一幕もありました。

学生へのメッセージも含め、学生起業はしたほうがいいのか、そしてメリットは何かについて、3人からは次のような回答発言がありました。面白いです!

 

●安田さん

「学生起業は別にやらなくてもいい。デメリットも多い。メリットがあるとすると早く経験値を積めるということくらい。ほとんどの学生起業家は大企業出身の起業家に実績で抜かされる。」(のっけからのこの発言に、良い意味でざわつく会場)

「スポーツや芸術もすべての人ができるわけでないのと同じように、起業は適性もあるし、どちらかというと、『起業しよう』というより『起業しちゃった』という、やりたいことがあって動いちゃって(行動が先で)どうしようもない人がやるもの」

「大企業に就職するのもすばらしいと思う。そのへんの起業家では扱えない大きな仕事に携わることができるし、外貨を稼いでいるのもほぼ大企業。学生起業をしないで大企業に就職して、そこで培ったネットワークや仕事の進め方、調整の仕方などを携えてから起業するほうが、大きくインパクトを与える最短ルートだと思う」

「早いうちに海外に出る、海外と接点を持つのはいいと思う。どこに行っても20代のうちだとかわいがられる。大きな仕事をやりたい場合は特に語学を早くからやっておいたほうがレバレッジを効かせられる」

 

●田山さん

「学生だからとかに限らず、やりたいことがあれば起業するのはいいと思う。メリットとしては、起業すればそういう界隈の人、業界の人とかとの接点を持ちやすい。起業やスタートアップにかかわる言語で話すこともできるようになる。世界が変わる」

 

●石原さん

「学生の今だからこそ、起業にチャレンジできるチャンス。今後の長い人生の中で、おそらく、学生のときほど無謀に、リスクを考えずにチャレンジできるときは無いはず。これが学生起業の大きなメリット」

 

最後に、「今後、やること(事業など)は環境に応じて変えていくか? 変えていくとしたらどういうタイミングか?」という未来に向けた質問への回答が、これまた三者三様だったので、ご紹介してしめくくろうと思います。

安田さん「そのときそのときで、心が動くことをやろうかな、と」

田山さん「成功度合い、成長度合いを見て。自分が成長したと思ったら次のことをやる」

石原さん「世の中が変わっていく予兆をつかんで、それに応じて点をずらしていくイメージ」

3人とも、ビジネスもさることながら人としてもとても魅力的、かつ、大変なこと面倒なことも大いに経験しているのが伺えました。とにかく相手のこと、かかわる人のことを考え、大事にする。陳腐な言い方ですが、本当にすごい人というのは、人に優しいのだなと思います。

すべては自ら行動することで拓ける。今回、本当に、

「人生は、もっと自分で選択できる」

という力強いメッセージを感じました! そして、3人が

人とのつながり、出会いをとても大事にしている

という点も印象的でした。

すばらしい特別授業でした。学生の方々にも、大きな何かが伝わったと思います。有り難うございます!

以上(2024年9月作成)

【税の勘所】押さえておきたい税金の「金額」

書いてあること

  • 主な読者:主な「税金」のことを、具体的なイメージで把握したい人
  • 課題:税金は複雑で、具体的に「どれくらい払うのか?」などが分かりにくい
  • 解決策:主な税金について、具体的な数字で「金額、期間、パーセンテージ」を把握する

1 押さえておきたい税金の「金額」

この記事では、主な税金(法人税・所得税・消費税・相続税・贈与税)に関する「金額」を整理します。

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2 5億円超:消費税

5億円超は、消費税で一部の仕入税額控除が認められなくなる課税売上高です。

消費税の納税額は次のように計算されます(簡易課税制度の場合を除く)。

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課税売上げに係る消費税額から、課税仕入れ等に係る消費税額を差し引くことを仕入税額控除といいます。消費税の仕入税額控除の計算方法には、

  1. 全額控除方式:課税仕入れ等に係る消費税額の全額を控除
  2. 個別対応方式:課税仕入れ等に係る消費税額の一部を控除
  3. 一括比例配分方式:課税仕入れ等に係る消費税額の一部を控除

の3つがあり、全額控除方式を利用できるのは、

課税期間における課税売上割合が95%以上で、かつ課税売上高が5億円以下の事業者

に限られます。課税売上割合とは、全体の売上高のうち、課税売上高(消費税が課される売上高)が占める割合です。

そのため、課税期間における課税売上割合が95%未満の場合、または課税売上高が5億円超の場合は、個別対応方式または一括比例配分方式のいずれかを利用することになり、課税仕入れ等に係る消費税額が一部控除できなくなります。

3 1億6000万円:相続税

1億6000万円は、相続税の配偶者に相続税がかからない取得財産の金額です。

配偶者が財産を相続する場合、同一世代間における財産の移転の場合が多いことや、配偶者は被相続人の遺産形成に貢献していること、また、被相続人が死亡した後の配偶者の生活水準を保つなどの理由から、相続税を軽減する措置が設けられています。

そのため、配偶者が財産を相続した場合、その財産の額が次のいずれか多い金額までは配偶者に相続税はかかりません。

  • 1億6000万円
  • 配偶者の法定相続分相当額(相続人が配偶者と子の場合は、遺産の2分の1相当額)

4 1億円以下:法人税

1億円以下は、法人税の優遇措置を利用できる中小企業者等の判定に関する金額です。

法人税には、中小企業者等が利用できるさまざまな優遇措置があります。主な優遇措置は次の通りで、いずれも資本金が1億円以下でなければ利用できません。

  1. 法人税の軽減税率
  2. 交際費等の損金不算入制度における定額控除限度額(年800万円)
  3. 欠損金の繰越控除
  4. 欠損金の繰戻還付
  5. 貸倒引当金の法定繰入率
  6. 特定同族会社における留保金課税の不適用
  7. 少額減価償却資産の取得価額の損金算入
  8. 賃上げ促進税制(中小企業向け)の適用

ただし、注意点があります。上記1.~6.は、資本金が1億円以下でも、資本金が5億円以上の法人と完全支配関係にある場合は利用できません。

また、上記7.~8.については、資本金が1億円以下でも、大規模法人に発行済株式の2分の1以上を所有されている場合、または2以上の大規模法人に発行済株式の3分の2以上を所有されている場合などは利用できません。なお、大規模法人とは、資本金が1億円を超える法人、資本もしくは出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員の数が1000人を超える法人、又は大法人(資本金が5億円以上である法人)との間にその大法人による完全支配関係がある普通法人をいいます。

5 5000万円以下:消費税

5000万円以下は、消費税の「簡易課税制度」が選択できる課税売上高です。

簡易課税制度は、事業の種類に応じ、課税売上高に一定割合を乗じて仕入税額控除を計算する方法で、

小規模事業者だけ

が利用できます。原則的な消費税の計算方法は複雑なので、簡易課税制度で小規模事業者の負担を軽減しています。簡易課税制度は、その課税期間の前々年または前々事業年度における課税売上高が5000万円以下で、「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出している事業者が利用できます。

6 2000万円超:所得税

2000万円超は、所得税の確定申告をしなければならない給与の年間収入です。

給与所得者は年末調整をするので、ほとんどの人は確定申告をする必要はありません。しかし、当該給与所得以外にも所得がある場合や給与の年間収入金額が2000万円を超える場合は、年末調整の対象外となるので、自身で所得税の確定申告をしなければなりません。

7 2000万円超:所得税

2000万円超は、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)が受けられない合計所得金額です。

住宅借入金等特別控除とは、個人が住宅ローンを利用して、マイホームの取得や増改築した場合に、その住宅ローンの年末残高を基に計算した一定額を住み始めた年分以後の各年分の所得税額から控除できる制度です。住宅借入金等特別控除は、適用する年の合計所得金額が2000万円を超える年分については対象外となります。

8 2000万円以下:贈与税

2000万円以下は、住宅取得資金贈与を受けるための受贈者の要件の1つとなる金額です。

投資や賃貸用ではなく、自身の住宅を取得するため、直系尊属である父母や祖父母などから贈与により金銭を取得した場合、一定の金額までは贈与税がかかりません。この特例を受けるには、贈与を受けた年の受贈者(贈与を受ける人)の合計所得金額が原則2000万円以下であるなどの要件を満たす必要があります。

9 1000万円以下:消費税

1000万円以下は、消費税の納税義務が免除される基準期間の課税売上高です。

事業者は、国内において行った資産の譲渡や貸付け、役務の提供について、消費税を納めなければなりません。ただし、基準期間の課税売上高が1000万円以下の場合、一定の場合を除き、消費税の納税義務が免除されます。

10 1000万円未満:消費税

1000万円未満は、消費税の納税義務が免除される基準期間が無い場合の資本金の額です。

新規に設立された法人は基準期間がありません。そのため、その事業年度開始の日における資本金が1000万円未満なら、一定の場合を除き、消費税の納税義務が免除されます。

11 850万円超:所得税

850万円超は、所得税の給与所得控除の上限となる収入金額(195万円控除)です。

給与所得の金額は、給与等の収入金額から給与所得控除額を差し引いて計算し、上限は195万円です。

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12 800万円:法人税

800万円は、中小法人における交際費等の損金算入限度額の1つとなる金額です。

原則として交際費等は損金算入できませんが、資本金が1億円以下の法人(中小法人)は、特例として、年800万円(定額控除限度額)まで交際費等を損金算入できます。ただし、資本金が1億円以下でも、資本金が5億円以上の法人と完全支配関係にある場合は対象外です。

なお、交際費等のうち、接待飲食の費用の50%相当額は損金算入できるので、年800万円と比較して有利なほうを選択しましょう。

13 800万円以下:法人税

800万円以下は、中小法人が法人税の軽減税率を受けられる所得金額です。

普通法人の場合、各事業年度に適用される税率は次の通りです。中小法人の場合、年800万円以下の所得金額部分については、通常よりも低い税率(軽減税率)が適用されます。ただし、資本金が1億円以下でも、資本金が5億円以上の法人と完全支配関係にある場合、軽減税率が適用されません。

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14 300万円以下:法人税

300万円以下は、中小企業者等が30万円未満の減価償却資産を全額損金算入できる限度額です。

中小企業者等が、取得価額が30万円未満である少額減価償却資産を取得した場合、取得価額の全額を損金算入できます。ただし、1事業年度に損金算入できる限度は300万円以下です。事業年度が1年未満の場合は、月数で按分します。

15 110万円以下:贈与税、相続税

110万円以下は、贈与税(暦年課税)および相続時精算課税の基礎控除額です。

贈与税は個人が個人から財産をもらったときに課される税金ですが、個人がその年の1月1日から12月31日までの1年間にもらった財産の合計が110万円以下なら贈与税はかかりません。これを「基礎控除」といいます。基礎控除は、贈与をした人ごとではなく、贈与を受けた人ごとに1年間で110万円となります。なお、死亡日以前7年間(2023年12月31日以前の贈与については3年間)の分については、基礎控除分であっても、相続財産に加えることになっており、相続税の対象になります。

また、2024年1月以降は、相続時精算課税(贈与税については2500万円までの特別控除が受けられるが、贈与した財産については相続時にまとめて相続税が課せられる制度)の適用を選択した場合でも、毎年110万円の基礎控除が設けられるようになりました。以前は、相続時に生前贈与した財産の全額が相続税の課税対象となっていましたが、2024年1月以降の贈与については、毎年110万円を控除した残額の合計が相続税の課税対象とります。

16 1万円以下:法人税

1万円以下は、交際費等から除かれる一定の飲食代の1人当たりの金額です。

飲食等の費用のうち、1人1万円以下までなら損金算入できます。1万円の判定は、法人が適用している消費税等の経理処理(税抜経理方式または税込経理方式)に応じて行われます。

なお、経営者や社員、その親族の接待で使った飲食代は、1万円以下でも損金算入できません。

以上(2024年9月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

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画像:Charnchai saeheng-Adobe Stock

【中堅社員のスピーチ例】「ありがとう」でストレスが減る

おはようございます。今日は、私の最近の勤務態度について反省を述べさせていただきたいと思います。最近、私は仕事をため込んで夜遅くまでの残業が続き、イライラする日々を送っていました。おそらく皆さんにも、私のイライラが伝わって、不快な思いをさせてしまったと思います。本当に申し訳ありません。

一方、今はどうなのかと言うと、とても気持ちが落ち着いています。仕事が山場を超えたからというわけではありません。上司から「ストレスを感じたときこそ、これを心がけなさい」という極意を教わったからです。

それは、「ありがとう」をたくさん人に伝えるというものです。例えば、先輩が仕事を教えてくれた。後輩が仕事を手伝ってくれた。外部の清掃員さんが手すりやトイレを掃除してくれた。こうした1つ1つのコトについて、「ありがとう」と言葉に出して、感謝を伝えるのです。

「なんだかうさんくさい」「親や学校の説教みたい」と思うかもしれませんが、実は「感謝」を意識すると、自身のストレスが軽減されるというのは、科学的にも証明されていることです。海外の心理学者ロバート・エモンズ氏が「ちょっとしたことでよいので、感謝できることを5つ書き、それを続けてもらう」という実験を行ったところ、感謝できることを毎日考えたグループは、何もしなかったグループに比べて幸福感が高くなり、身体的な不調も減少したといいます。

正直に言うと、私も最初、上司から「ありがとう」をたくさん人に伝えなさいと言われたときは、不満でした。今思い起こすと恥ずかしいですが、「私は毎日、夜遅くまで仕事をしているのに、何を人に感謝しろというのか。私こそ、もっと感謝されるべきだ」と、思っていたのです。誰かに、何かを「してやっている」という意識が強いから、こういう思考になってしまうわけですが、嫌な気持ちで仕事に向かうから、当然ストレスはたまる一方です。

ですが、あえて「してやっている」という意識から離れて、「していただいている」ことに目を向けてみると、実は自分は意外と恵まれているのだということに気付きました。先輩も後輩も支えてくれるし、清掃員さんのおかげでオフィスも清潔に使える。こう考えると、何だか肩の荷が下りた気分になり、それまでよりも穏やかな気持ちで仕事に向かうことができたのです。仕事量そのものが減るわけではありませんが、気持ちが落ち着いてくると、「まぁ、頑張ってみるか」と仕事に対する向き合い方も変わってきます。

もし、皆さんの中に仕事でストレスを抱えている人がいたら、まずは自分に何かをしてくれた人のことを思い起こしてください。そして、その人に「ありがとう」を伝えてみてください。最初は少し恥ずかしいかもしれませんが、続けていくと、次第に感謝を伝えている自分のほうが、心地よい気分になっていきます。

以上(2024年9月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【中小企業の予算(3)】実用的な予算管理にするための「予算」と「予測」の使い分け

書いてあること

  • 主な読者:予算管理を自社に取り入れたい、あるいはしっかり取り組みたい経営者
  • 課題:予算と予測の違いがあやふやで、現場の担当者でも明確にその違いを答えられない人も多い
  • 解決策:予算は「こうなりたい」という目標、予測は「こうなるだろう」という見込みである

1 予算と予測の違いを正確に答えられますか?

管理会計における「予測」という言葉を聞いたことはありますか。また、何のための数値なのか正確に答えられますか。

実は、予測を作っている担当者でも、十分に答えられる方はそう多くありません。なぜなら、実務の中では予測は漠然としていて、位置づけが難しいものだからです。この点を理解した上で、予測について、予算との違いも含めて考えていきましょう。

予算が「こうなりたい」という目標(理想や期待を含めた数値)

であるのに対し、

予測は「こうなるだろう」という見込み(現実的な数値)

です。そのため、予算と予測は一致するとは限りません。

期が進むと実績が出てきますが、一般的に実績は予算とずれてきます。このため予算(目標)を達成するためには、予測(見込み)を明らかにしなければなりません。予算(目標)と予測(見込み)の数値にズレがあれば、目標達成に向けて先の行動計画を変更することとなります。

具体的に3月決算の会社を例に、半期予測について考えてみましょう。

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まずは、4月から9月までの月次決算の実績を出します。さらに、この時点の最新情報をもとに、10月から翌3月までの売上や利益を予測します。

これらの実績と予測を足し合わせると年度の予測の数値を出すことができます。この予測と年度初めに立てた予算を比較して、年度の予算と半期の予測との間にどれくらいの差があるのかを計算することができます。これをもとに、予算が達成できるように残り半年の行動を修正していきます。

ちなみに、4月から6月までの実績が出た時点で行う予測を第1四半期時点予測(1Q時点予測)、12月までの実績が出た時点で行う予測を第3四半期時点予測(3Q時点予測)といい、より頻度を増やして予測と予算のズレを把握する会社もあります。

2 予算(目標)と予測(見込み)の使い分け

予測は日々刻々と変化していきます。年度が始まり時間が経過するにつれて不確定要素は減り、

より現実的な年度の着地見込みが見えてくる

のです。ここに予測を作成する意味があります。

決算直前になって予算(目標)と予測(見込み)に差がある場合だと、挽回が難しいかもしれませんが、半年たったあたりであれば、残り半年の行動を変えていけば予算達成が望めるということもあります。やはり、早めに「予算(目標)」と「予測(見込み)」のズレを把握することが大事になります。

これを、わかりやすくダイエットを例にして考えてみましょう。「現在体重は60キロ。6カ月後の年末までに55キロ(5キロ減量)にする」という目標を立てたとします。

目標を達成するためには、具体的な計画(運動やジムに通うことで3キロ、食事制限で2キロ減量するなど)や、進捗管理(1カ月ごとの体重把握など)も重要です。

ダイエットスタートから1カ月後で、0.7キロ減量の実績が出たとします。このペースを維持した場合の年末の見込みは0.7キロ×6カ月で、最終的に4.2キロ減量なので、55.8キロとなり、目標が達成できないことが明らかになります。

そこで、翌月以降からは0.9キロ減量できるように行動計画(ダイエット内容)を変更し、目標達成を目指します。例えば、運動の量を増やします。そうすると年末の見込みは、0.9キロ×残り5か月(=4.5キロ)で、最終的に5.2キロ(最初の月の0.7キロ+4.5キロ)減量なので、54.8キロとなり、目標が達成できます。

予算管理でいえば、最初に立てた目標が予算に当たり、1カ月ごとの実績を加味した上での見込みが予測に当たります。ダイエットの例と同様、1カ月置きに予測(見込み)を見直した上で、定期的に予算(目標)と予測(見込み)のズレを把握し、予算(目標)を達成できるよう行動を修正していきます。

3 修正予算はあくまで予算、予測とは別物です

予測の説明をすると、「予測は修正した予算のことでしょうか」という質問を受けることがあります。結論から言うと、

予測と修正予算は全くの別物

です。

予算は達成したい目標なので、期の初めに立てた予算は一度決めたら変えないことが原則です。しかし、会社が置かれている状況に大きな変化があった場合には、予算を変えざるを得ません。例えば、急激な円安の進行や会社の方向性が変わったというような場合には、もとの予算を目標とし続けることは、むしろ無意味になってしまいます。

このような場合には、なるべく早く予算を修正して、それを新しい目標とします。その上で、従業員に対して新たな予算について、変更点やその背景などを含めて伝える必要があります。この新たな予算が「修正予算」と呼ばれるものです。

このため、修正予算は期の初めに立てた予算と同類であり、予算は目標という位置づけですので、修正予算も目標に当たります。

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やはり、理想や期待を込めたものであり、現実的な数値である予測(見込み」とは異なります。修正予算と予測が混同されがちなのは、年度の途中で作成される共通点があるためですが、その性質は大きく異なる点は意識するようにしましょう。

以上(2024年9月作成)

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画像:thanksforbuying-Adobe Stock