ヘッドライトの使い方とその重要性(2024/12号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

秋から冬は日の入りが早くなり、夜が長くなっていきます。また、この時期の薄暮時間帯(日の入り時刻の前後1時間)は夕食準備の買い物や子供の帰宅の時間帯と重なり、歩行者への一層の注意が必要です。視界が悪くなる薄暮から夜間にかけての運転で欠かせないのがヘッドライト。そこで今号では、ヘッドライトの使い方と重要性について考えます。

ヘッドライトの使い方

1.薄暮時間帯における事故防止

◆令和元年から令和5年の5年間における死亡事故発生状況を分析した結果、次のことが明らかになりました。

死亡事故発生状況

  • 日の入り時刻と重なる17時台から19時台に多く発生している
  • 薄暮時間帯には、自動車と歩行者が衝突する事故が最も多く発生しており、事故類型別では、横断中が約8割を占めている
  • 横断中の、特に横断歩道以外の横断における歩行者の約7割に法令違反がある

死亡事故発生状況

出典:警察庁「薄暮時間帯における交通事故防止」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/hakubo.html

◆薄暮時間帯に死亡事故が多い理由としては、周囲の視界が徐々に悪くなり、自動車や自転車、歩行者などの発見がお互いに遅れること、距離や速度が分かりにくくなること、などが挙げられます。

◆薄暗くなる前からヘッドライトの「早め点灯」を行い、自分の車の存在を周囲に知らせるとともに、速度を落として歩行者の予想外の動きにも対応できるようにしましょう。

2.ヘッドライトはこまめに切り替えを

【ヘッドライトの保安基準】

ヘッドライトは、ハイビーム(上向き)とロービーム(下向き)を切り替えて使います。ヘッドライトの照射範囲は、ハイビームで前方100メートル、ロービームで前方40メートルの距離にある障害物を確認できる性能を有することとされています。

【ハイビーム/ロービームの切り替え】

ヘッドライトの使い方については「道路交通法」で規定されており、交通量の多い市街地などの通行時を除きハイビームにし、対向車とすれ違うときや、前の車に追走するようなときは、ロービームに切り替えることとされています。視界確保のためにはハイビームでの走行が望ましいのですが、他車や歩行者がいるときは眩惑などの原因となります。交通状況に応じて切り替えを行いましょう。

3.ヘッドライトの眩しさの危険性

ヘッドライトの眩しさにより周囲の自動車等の発見が遅れ、事故に繋がったケースが2021年までの10年間で300件以上発生しました※。眩しさの危険性に対し、以下の対策が挙げられます。

  • 交通状況に応じてハイビームとロービームの切り替えを適切に行うこと
  • 整備不良による光軸のズレなどを防ぐために点検整備をきちんと行うこと

このほか、ライトの向きを自動調整する「オートレベリング機能」も対策の一つです。この機能は今後、全ての新車(自動二輪車等を除く)に対し装備することが義務づけられました(適用は令和9年以降)。

オートレベリング機能

※出典:国土交通省「自動車のヘッドライトのオートレベリングの装備を拡大します!」
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000311.html

この義務化はヘッドライトの眩しさが事故の要因になりうることが顕在化した結果ともいえます。もちろん、オートレベリング機能の有無にかかわらず、ライトの眩しさが周囲に及ぼす影響に配慮した運転を心がけましょう。

以上(2024年12月)

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画像:amanaimages

【ハラスメント対策】オワハラなどの「就活ハラスメント」を起こさないためには?

書いてあること

  • 主な読者:就活生に対して行われる「就活ハラスメント」を防ぎたい人
  • 課題:就活ハラスメントが起きた場合のリスクや、防止のポイントを知りたい
  • 解決策:就活生が精神的な苦痛を受けたら、民法の「不法行為」になる。就活ハラスメントの種類を押さえて、ハラスメント防止方針などで社員に周知徹底する

1 「就活ハラスメント」の規制強化の動きがある

「就活ハラスメント」とは、会社から就活生に対して行われる、

  • 「内定を出すから」と言って、他社の選考を辞退するよう要求する
  • インターンシップやOB・OG訪問などの後、食事やデートに執拗に誘う

などの嫌がらせのことです。

会社は、職場におけるハラスメントについては一定の防止措置を講じる義務を負っていますが、就活ハラスメントについては現状、「(ハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化等をする際に)同様の方針を合わせて示すのが望ましい」というレベルにとどまっていて、各社の対応にバラツキがあります。一方で、足元では厚生労働省が

就活ハラスメント防止に関する企業向けサイトや、就活生向けの悩み相談室を立ち上げる

など、啓発に力を入れています。

就活生は応募する会社について知人と情報交換したり、SNSのグループに参加したりしています。規制強化の動きがある中で、「自社が就活ハラスメントをしている」との情報が出回ったら、そのような会社に応募しようとする学生はいなくなってしまうかもしれません。

ハラスメントにもいろいろありますが、今、経営者が注目すべきものの1つに就活ハラスメントがあるのです。改めてリスクや防止策を紹介します。なお、前述した厚生労働省の取り組みについてはこちらのURLをご確認ください。

■厚生労働省「今すぐ始めるべき就活ハラスメント対策!」■

https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/syukatsu_hara/enterprise/

■厚生労働省「ハラスメント悩み相談室」■

https://harasu-soudan.mhlw.go.jp/

2 就活ハラスメントの4つの種類

1)オワハラ(就活終われハラスメント)

就活生の内定辞退を回避するための嫌がらせです。

  • 「内定を出すから」と言って、他社の選考を辞退するよう要求する
  • 他社の選考と日程が重なることを知りながら、内定者懇親会に連れ出すなど、他社での就活を妨害する
  • わざと採用面接を先延ばしにして、他社の選考を受けにくくする
  • 内定を辞退しようとした場合、「ふざけるな」「嘘つきだ」と罵る。または「訴える」「内定を辞退するやつだと他の会社に言いふらす」などの発言をする

2)就活セクハラ(就活生に対するセクシュアルハラスメント)

就活生に対する身体的な接触や言葉による性的な嫌がらせです。

  • 不必要に体に触る
  • 「内定を出すから」と言って性的な関係を要求し、拒否・抵抗した場合、選考から落とす
  • 性的な冗談を言う、恋愛経験などを尋ねる
  • オンラインの採用面接で、体全体や部屋の様子などを見せるよう要求する
  • インターンシップやOB・OG訪問などの後、食事やデートに執拗に誘う

3)圧迫面接

就活生のストレス耐性や状況判断能力を試すため、採用面接で必要以上に否定的な発言をしたり、嫌な態度を取ったりする嫌がらせです。

  • 採用担当者の質問に就活生が回答した際、正当な回答かどうかに関係なく否定する
  • 「それで?」「理由は?」といった発言を必要以上に繰り返し、回答をできなくさせる
  • 就活生の適性に関係なく、「ウチの会社には向いていない、通用しない」と言う
  • 就活生の発言中にため息をつく、携帯電話を触るなど、あからさまに嫌な態度を取る

4)その他

1)から3)以外の就活ハラスメントとしては、次のようなものがあります。

  • 「男のくせに覇気がない」「女はすぐ辞めるから困る」などと、差別的な発言をする
  • 結婚したり妊娠したりした場合に、会社を辞めるかどうかを聞く
  • 内定した学生に、内定者でつくるSNS交流サイトに毎日の書き込みを強要する。書き込みをしないと「やる自信がないなら辞退しろ」など、威圧的な態度を取る
  • インターンシップに参加した学生に対し、人格を否定するような暴言を吐く

3 就活ハラスメントのリスク

1)就活生が精神的な苦痛を受けた場合、民法の「不法行為」になる

就活ハラスメント自体を規制する法令はありませんが、就活生が精神的な苦痛を受けた場合、

民法の「不法行為」(故意・過失によって他人の権利や法律上の利益を侵害する行為)

になり、ハラスメントを行った社員は損害賠償を請求される恐れがあります。また、会社も就活生から使用者責任を問われ損害賠償を請求される恐れがあります。

また、言動によっては刑法が適用される可能性もあります。

  • オワハラ:内定を辞退しようとした就活生に「訴える」「内定を辞退するやつだと他の会社に言いふらす」などと発言する(脅迫罪)
  • 就活セクハラ:不必要に体に触る(強制わいせつ罪)
  • 圧迫面接、その他:人格否定や差別的な発言をする(名誉毀損罪や侮辱罪)

2)会社のイメージが低下し、採用ができなくなる?

就活生がSNSに「就活ハラスメントを受けた!」と書き込んで、それが拡散されれば、ハラスメントが横行している会社だと見られ、会社のイメージは低下します。また、大学のキャリアセンターなどでは、就活ハラスメントに関する就活生からの相談を受け付けているので、大学に定期的に求人を出している会社の場合、今後の大学との関係にも影響が出るかもしれません。

就活ハラスメントに関する就活生からの相談は、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)でも受け付けていて、就活ハラスメントをした会社には、助言や指導が入ることがあります。現状、会社名などが公表されるルールはありませんが、規制強化の動きには注意が必要です。

4 就活ハラスメントの防止のポイント

1)「会社と就活生は対等」という意識を持つ

就活ハラスメントが起きやすい会社は、就活生に対して「雇ってやる」「試してやる」といった上から目線の態度を取っているケースが少なくありません。雇用が懸かっている就活生は、こうした会社の態度に強気に出られず、それが就活ハラスメントの問題を深刻化させるのです。

会社として就活生に適性があるかを見極めることは大切ですが、入社した場合は、会社も労力を提供してもらう立場になるわけですから、常に「会社と就活生は対等」という意識を持って採用活動に臨むことが大切です。

2)「業務上必要ない対応」「行き過ぎた対応」を洗い出して排除する

就活ハラスメントが違法になる(民法の不法行為などに当たる)場合、次の1.か2.に該当している可能性が高いです。

  1. 会社の対応(採用面接での質問など)が、業務上必要ない
  2. 業務上必要があったとしても、行き過ぎている

就活セクハラなどは1.に当てはまりますし、オワハラや圧迫面接などは「内定辞退を防ぎたい」「就活生のストレス耐性や状況判断能力を試したい」という会社の思惑があったとしても、2.に該当する可能性が高いです。

逆に1.と2.に該当しなければ基本的に違法にはならないので、2章で紹介したような言動を排除していった上で、就活生への対応の仕方を模索していきましょう。例えば、

  • 就活生を内定者懇親会に連れていきたいのであれば、オワハラにならないよう本人のスケジュールを考慮する。就活セクハラ(個人的な食事やデートの誘い)にならないよう時間を区切り、2人以上の社員で参加し、個室はできるだけ避ける
  • 場の雰囲気を和ませたいのであれば、就活セクハラ(性的な冗談など)や差別的な発言(「男は○○だから、女は○○だから」など)に該当しないジョークを織り交ぜる
  • 就活生のストレス耐性や状況判断能力を試したいのであれば、圧迫面接という形ではなく課題などを与えてみる

といった具合です。

3)社内のハラスメントの防止措置を、就活ハラスメントにも適用する

繰り返しになりますが、現状、就活ハラスメントについては特に防止措置が義務付けられていません。一応、

若者雇用促進法に基づく事業主等指針に、会社は就活ハラスメントに対して「必要な注意を払うよう配慮する」取組を行うのが望ましいという記載がありますが、具体的な措置の内容は定められていない

という状況です。

一方で、社内のハラスメント(社員・役員が社員に対して行うハラスメント)については、労働施策総合推進法などにより、次の4つの防止措置が義務付けられています。この防止措置の対象範囲を、就活ハラスメントにも拡大すれば、トラブル防止につながるでしょう。

  1. ハラスメントの方針(ハラスメントを行ってはならない旨など。就業規則等の文書に規定)の明確化、周知・啓発
  2. ハラスメントに関する相談窓口の設置、運用
  3. ハラスメントに関する相談があった場合の事実確認、行為者の処分、再発防止策の検討
  4. プライバシーの保護、相談者などに不利益な取扱いをしない旨の周知徹底など

1.については、「会社として就活ハラスメントを許さない」旨と具体的な言動の内容を、ハラスメントの方針に書き加え、社員に周知徹底します。加えて、外部の専門家(弁護士など)に依頼して、採用活動や面接、OB・OG訪問、インターンシップを担当する社員向けにマニュアルを作成したり、就活ハラスメントに関する研修を実施したりするのもよいでしょう。

2.については、選考に先立って、ハラスメントに関する相談窓口の連絡先を、就活生と共有します。万が一、就活ハラスメントが発生しても、相談を受けた後で迅速に対応すれば、大きなトラブルに発展するのを防げるかもしれません。社内の相談窓口で就活ハラスメントに対処できるかが不安な場合、外部の相談窓口を利用するとよいでしょう。

3.と4.については、基本的に社内のハラスメントでの対応と同じです。

以上(2024年11月更新)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:mapo-Adobe Stock

管理職なら押さえておきたい「重要労働判例」のポイント解説(2024年12月号)

労務トラブルは急に起こるものであり、正しい労務管理をしないと、思わぬことで訴訟に発展する場合があります。労働問題では判例の考えが解決に役立つので、トラブルの防止の観点から、管理職なら知っておきたい重要労働判例を厳選して紹介します。本冊子は、重要労働判例を解説する企画の第3弾です。2018年10月号の第1弾および2020年11月号の第2弾では掲載できなかった労働判例に加え、令和以降の最新判例のなかで特に重要なものを10件セレクトしました。


【PDF】印刷して貼れる職場ポスター「その自転車の運転 罰則対象です!」

印刷して職場に掲載できるポスターです。

今回は、道路交通法の改正で、2024年11月から罰則が強化された「自転車の危険運転」についてまとめました。


こちらからポスターのPDFをダウンロードできます。自転車で通勤したり、業務で自転車を使用したりする社員がいる場合、職場に貼ってご活用ください

こちらからダウンロード

以上(2024年12月作成)

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画像:日本情報マート

【管理会計】その選択をしなかった場合の結果を「機会費用」として検討する

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけではなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:強気なだけでリスクをとる、あるいは弱気なだけでリスクを回避する?
  • 解決策:その選択をしなかった場合に得られたはずの利益を考慮し、未来志向で判断する

1 質問:まだ確定していない注文を見込むべきか?

自社の商品Aをいくつ製造するか決めたいと思っています。既にB社から5000個の発注を受けていますが、営業担当者によるとB社以外からも5000個の注文をもらえそうとのこと。さぁ、選択です。

B社向けに5000個だけ製造するか、B社以外の販売も見込んで1万個製造するか

営業担当者が“いける”というのなら、B社以外の販売先の注文も受けたいものですが、もし注文がこなかったらと心配になります。こうしたシーンに直面することはよくあるので、判断の基準をご紹介します。

2 「機会費用」という感覚を持つ

「機会費用」とは、

ある選択をした場合に、選ばなかった別の選択をすることで得られた利益

のことです。商品Aの販売単価は1000円です。5000個だけ製造することを選んだ場合、B社以外の販売先に5000個販売することで得られたはずの500万円が機会費用です(ここでは、製造原価を考慮していません)。

機会費用は「収益の最大化」を意識して検討します。例えば、営業担当者がB社以外の販売先を複数見込んでおり、有力な先もあるのであれば、1万個の製造を選択しやすくなります。さらに大量生産で製造単価も下がるならなおさらです。

反対に、有力な見込み先がなく、製造単価も削減できないなら、5000個だけ製造してB社に売り切ったほうがよさそうです。在庫リスクはなく、営業担当者も他の商品の営業に注力できるので、商品Aの機会費用はなくなります。

3 機会費用を意識した優先順位

もう1つ、機会費用を検討するトレーニングをしましょう。

営業先にC社とD社とがあります。C社は過去に取引実績があり、要求も厳しくありません。競合他社も存在しないので、商談はスムーズに進むでしょう。C社で期待できる売上は500万円です。一方、D社は新規であり、要求はかなり複雑です。競合他社も多数存在するので、受注できるか分かりません。しかし、D社で期待できる売上は2000万円と、C社の4倍です。

C社かD社のいずれか1社としか取引ができないとすると、皆さんはどう判断しますか?

リスクを低減するならC社を優先して500万円を獲得します。1500万円の機会費用が発生しますが、営業上のトラブルや、D社に対応することでリソースが割かれ、他の営業先に悪影響が生じることはありません。

反対にD社を選択する場合は何を考えるでしょうか。2000万円の売上は魅力的で、D社の要求に応えるための努力(技術やノウハウ)はB社の財産になるかもしれません。競合他社に敗れても、将来に向けたビジネスの可能性が広がります。

これは単純な例ですが、機会費用を意識することでより深く検討できます。

4 後ろ髪を引かれても「サンクコスト」は気にしない

管理会計では「サンクコスト(埋没費用)」という考え方も重要です。サンクコストとは、

既に投資したコストや時間など

を指すものです。例えば、人気のラーメン店の行列に並んでいるとき、

予定より待ち時間が長くておなかペコペコだけど、ここまで待ったのだから我慢する

と、それまでのコストや時間を考慮するのがサンクコストの典型です。気持ちは分かりますが、意思決定においては、既に支払っているサンクコストは考慮しないのがセオリーです。そのため、

おなかペコペコなので、別の店にいく。ここまで待った時間は意識しない(諦める)

と、判断します。

ビジネスに話を戻しましょう。ビジネスでは常に撤退プランが準備されています。「これはやるべきではないかもしれない」「無駄かもしれない」と気付いたとき、それまで費やしたコストや時間を考慮せず、素早く撤退の判断したほうがよいのです。

5 練習問題

(問題1)

商品Aの販売単価は1000円、製造単価は1~5000個では700円、5001~1万個では690円の商品があります。

B社以外への販売を考慮せず、5000個だけ製造しました。しかし、B社以外から5000個受注したとすると、「もうけ損なった利益」はいくらになるでしょうか? 商品Aを販売する際の販売費及び一般管理費などは考慮しません。

(問題1の回答)

1万個製造する場合、5000個までの製造単価は700円、残り5000個は690円です。この場合、B社以外に5000個販売したときの利益は次の通りです。

155万円=(1000円-690円)×5000個

(問題2)

商品Aの販売単価は1000円、製造単価は1~5000個までは700円、5001~1万個では690円の商品があります。

B社以外への販売を見込み、1万個製造しました。ところが、B社以外に納品する前に1000個に欠陥があることが判明し、1000個を追加で製造しました。また、納期が遅れたため、この1000個の販売単価を1000円から990円に値下げしました。一方、作り直し分の製造単価は680円に抑えることができました。

B社への5000個、B社以外への5000個は、全て販売できたものとした場合、作り直しが発生しなかった場合と比較してどう違うでしょうか?

(問題2の回答)

答えは以下の通りです。

マイナス69万円(236万円−305万円)

1.1000個の作り直しが発生した場合の利益(236万円)

  • 売上高(a):999万円=1000円×9000個+990円×1000個
  • 製造原価(b):763万円=700円×5000個+690円×5000個+680円×1000個
  • 利益(a-b):236万円=999万円-763万円

2.作り直しが発生しなかった場合の利益(305万円)

  • 売上高(a):1000万円=1000円×1万個
  • 製造原価(b):695万円=700円×5000個+690円×5000個
  • 利益(a-b):305万円=1000万円-695万円

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

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画像:baranq-shutterstock

【朝礼】「できる」道を探す人になれ

【ポイント】

  • 難しい要望をもらうと、「できない」と考えながら仕事を進めてしまいがち
  • 「難しい」「できない」と感じるときほど、「できる」という気持ちで取り組もう
  • 「本当にできた」という経験があれば、それは自信と勇気につながる

おはようございます。突然ですが、皆さんはお客様から実現が難しい要望をもらったとき、どのように対応しますか。「何がなんでも実現する。できる」と思ってアプローチしますか。それとも、「実現するのは難しそうだ」と考え、お客様にできないということを説得しますか。おそらく多くの人が前者と答えるでしょう。「できる」と信じて進めるほうがよいと、頭では分かっているからです。一方、皆さんを見ていると、「できない」と考えながら進めている人が多いように思えます。

時と場合によりますが、最初から「できない」と考えていれば、道が開けることはありません。できる道が見えてくるわけがないからです。かくいう私も、このことに気付いたのは高校生の頃、バスケットボール部に所属していた際に、監督から叱られたことがきっかけです。

あるとき、私は難易度の高い新フォーメーションの練習に取り組んでいたのですが、パスがうまく取れないなど失敗が続き、やる気を失いつつありました。そのとき監督が私にこう言いました。「君は、必ず取る、やってやるという気持ちでボールに向かっているのか? できないと思ってやる練習に意味はない。そんな練習ならやめてくれ」と。私はハッとしました。「成功しよう」という気持ちでやっていなかった自分、惰性で練習を続けていた自分に気付いたからです。

そこで、「次はできる。絶対に成功させてやる」と気持ちを切り替えたところ、新フォーメーションを成功させることができたのです。その後は、私を含め、練習する皆の空気が明らかに変わりました。「できる」という気持ちで取り組むことの大切さを、身をもって知ったからです。

皆さんも同じです。「難しい」「できない」と感じるときほど、「できる」という気持ちで取り組んでみてください。特に管理職は、できない理由ではなく、できる手段と方法を探す人になりましょう。部下は日ごろ、管理職の姿勢や言動を見ています。部下に「できる」という気持ちを持たせられるのは、私と管理職の皆さんです。

そうして一つでも「本当にできた」という経験があれば、それは皆さんの自信と勇気につながります。皆さんが取り組もうとしていることは、必ず「できる」のです。

以上(2024年11月更新)

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画像:Mariko Mitsuda

「ポイ活」の税務! 付与する側と利用する側に必要な処理~経理担当者にも消費者にも関係します

書いてあること

  • 主な読者:自社でポイントを付与している企業、「ポイ活」をしている個人消費者
  • 課題:そもそもポイントについて会計・税務処理が必要になるかが分からない。ポイ活で集めたポイントは確定申告が必要なの?
  • 解決策:自社が付与したポイントが使われたら「販売促進費」など、他社からもらったポイントを使ったら「雑収入」など。個人はポイントのもらい方で確定申告が必要

1 どうすればいいの? 具体的な処理・手続き

〇円以上お買い上げのお客さまにポイントを付与!

このような「ポイント制度」は、顧客を囲い込む一般的な方法として普及しています。ポイントを受け取る消費者も、「ポイ活」をして賢くショッピングを楽しんでいます。

ところで、ポイントが魅力的なのは「お金のように使えるから」に他ならないのですが、付与する側もされる側も、会計や税務の処理はいらないのでしょうか。実は、双方に求められる処理があります。まだ、適切に処理をしていない人は、この記事を参考にしてください。ポイントに関する会計・税務の処理を次のように整理しています。

  • ポイントを付与する企業の法人税:販促費で処理、引き当て計上など
  • ポイントを受け取る企業の法人税:ポイントを使った際に雑収入として計上など
  • ポイントを受け取る個人の所得税:ポイントのもらい方によっては確定申告が必要

2 ポイントを付与する企業の法人税

企業がポイントを付与した場合の会計処理は次の3つです。

  • ポイントが使用されたときに、販売促進費(または値引き)として処理
  • 付与したポイントに対して、決算時に引当金を計上
  • 収益認識基準を採用し、ポイントを付与したときに契約負債を、使用されたときに収益を計上(主に上場企業や大会社で採用)

どの方法を選ぶかによって法人税の取り扱いが変わるので、それぞれの特徴を把握しましょう。なお、上場企業などは、3.の方法で処理することが義務付けられていますが、中小企業はどの方法で処理しても大丈夫です。

1)ポイントが使用されたときに、販売促進費(または値引き)として処理

ポイントが実際に使用された時点で、その金額を販売促進費(または値引き)として処理する方法で、

  • ポイントを付与した時点では会計処理は発生しない
  • ポイントが使用されたときのみ会計処理が発生する

ことになります。

ポイントが使用されたときの仕訳は次の通りです。

この方法により会計処理した場合の法人税の取り扱いについては、

特別な留意点はなく、通常通り計上した売上と費用科目(販売促進費)を使って利益計算(収益-費用)をし、所得(法人税法上の利益)を求める

ことになります。

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2)付与したポイントに対して、決算時に引当金を計上

付与したポイントについて、将来のポイント使用分の見積額を計算し、決算時に引当金を計上する方法で、

  • ポイントを付与した時点では会計処理は発生せず、決算時に会計処理が発生
  • ポイントが使用されたときにも会計処理が発生

します。

決算時の仕訳は次の通りです。なお、一般的に、引当金の金額は過去数年間の実績からポイントが使用された割合(実績割合)を計算し、それを期末時点のポイント残高に乗じて計算します。

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この方法により会計処理した場合の法人税の取り扱いでは、決算時に計上した引当金がポイントになります。法人税を計算する上で、原則引当金の計上は認められていません。そのため、

決算時に計上したポイント引当金は、損金不算入(税務上の費用にならない)として、税務申告書上で調整が必要

になります。

ポイントが使用されたときの対応は、前述した「1)ポイントが使用されたときに、販売促進費(または値引き)として処理」する方法と同じです。

3)収益認識基準を採用し、ポイントを付与したときに契約負債を、使用されたときに収益を計上(主に上場企業や大会社で採用)

収益認識基準を採用し、ポイントを付与したときに将来のポイント使用の見込額を計算して、契約負債を計上し、使用されたときに契約負債の取り消しと、収益を計上する方法です。収益認識基準は、上場企業や大会社(資本金5億円以上もしくは負債200億円以上の会社)に強制的に適用される会計基準です。現時点で、中小企業が適用する必要はありません(任意適用)。そのため、この記事では収益認識基準の解説は省略します。

この方法では、

  • ポイントを付与した時点で会計処理が発生
  • ポイントが使用されたときにも会計処理が発生

します。

以下のケースで考えてみましょう。

  • 10万円の商品を販売
  • 自社が発行する1万円のポイントを付与
  • 実績割合は70%

一般的には、まず過去数年間の実績からポイントが使用された割合(実績割合)を計算し、それを期末時点のポイント残高に乗じて、見積額(独立販売価格という)を出します。次に、その独立販売価格を使い、取引価格を商品売上に係るものと自社ポイントに係るものに配分します。

この場合、ポイントを付与したとき、使用されたときの仕訳は、次の通りです。

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この方法により会計処理した場合の法人税の取り扱いについては、

特別な留意点はなく、法人税を計算する際の調整も不要で、通常通りの利益計算(収益-費用)をし、所得(法人税法上の利益)を求める

ことになります。なお、法人税の計算を会計上の取り扱いに一致させるには、法人税法で決められている詳細な要件を満たす必要があります。そのため、ポイント制度を導入する際は税理士などの専門家に相談し、法人税の取り扱いについて確認するようにしましょう。

3 ポイントを受け取る企業の法人税

ポイントを使用するのは個人消費者に限りません。企業も、消耗品やパソコンなどを購入する際や、出張時の宿泊料や航空券の購入時などに、ポイントを使用することがあります。

ポイントを受け取った企業の法人税の取り扱いは、

  • ポイントを受け取った時点では会計処理は発生しない
  • ポイントを使用したときのみ会計処理が発生する

ことになります。そして、ポイントを使用したときの会計処理は、

  • 雑収入または値引きとして処理
  • 現金で支払った金額で処理

の2つがあります。それぞれの仕訳は次の通りです。

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法人税を計算する際の調整はなく、通常通りの利益計算(収益-費用)をし、所得(法人税法上の利益)を求めます。

4 ポイントを受け取る個人消費者の所得税

最後に、ポイントを受け取った個人消費者の税金(所得税)の取り扱いを見ていきましょう。所得税の取り扱いのフローは次の通りです。

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1)確定申告が必要か否か

最も気になるのは、受け取ったポイントについて所得税の確定申告が必要か否かですよね。

この点は、

どのようにポイントを受け取ったか

が重要です。具体的には、次の1.〜3.のどのケースに該当するかということです。

1.買い物の際に購入金額に応じて付与されたもの

このケースに該当するポイントは、

確定申告が必要な所得には該当しない

とされています。具体的には、買い物の際に購入金額に応じて付与され、ためたポイントで、現金や電子マネーには交換できず、そのサイトや店舗内の商品を値引きする際に使用されるものなどがそうです。

2.抽選キャンペーンに当選するなどとして付与されたもの

このケースに該当するポイントは、プレゼント(贈与)としての性質から、

確定申告が必要な所得になり、「一時所得」に該当

します。具体的には、抽選キャンペーンに当選して、受け取る懸賞金などとして付与されたポイントがそうです。この場合、抽選キャンペーンで付与されたポイントが、株式などの金銭的価値のある商品の購入に充当されるケースなども含まれます。

3.アンケート回答や広告視聴などで得られるもの

このケースに該当するポイントは、特定の行為に対する対価としての性質から、

確定申告が必要な所得になり、「雑所得」に該当

します。具体的には、サイト内などのアンケートに回答したり、広告を視聴したりして得られるポイントが該当します。

2)確定申告が必要なケースとは

前述の「2.抽選キャンペーンに当選するなどして付与されたもの」「3.アンケート回答や広告視聴などで得られるもの」に該当するポイントで、次のいずれにも当てはまる場合、確定申告が必要です。

  • ポイントを現金や電子マネーなどに交換した(以下「現金化」)
  • 交換したポイントの合計額が年間20万円(一時所得の場合は原則50万円)を超えている

ポイントがサイト上でたまっているだけの場合などは、現金化されていないので、申告の対象にはなりません。

いかがでしょう。「ポイ活」上手な人は確定申告の必要があるかもしれません。例年、確定申告は2月中旬から3月中旬までに行う必要がありますので、確認は早めに!

以上(2024年12月作成)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Kei A-Adobe Stock

【管理会計】経営者を惑わす埋没原価。機会原価と増分原価で未来志向に!

書いてあること

  • 主な読者:「えいやっ!」の思いだけではなく、定量的な根拠を持って判断したい経営者
  • 課題:複数の選択肢からプランを選ぶ場合、導入コストの比較くらいしか思いつかない
  • 解決策:過去と未来を切り分けた上で、関連する収益を総合的に把握して判断する

1 未来志向で感覚的に定量判断する

企業経営はいつでも先行きが不透明ですが、これは悲観ばかりではありません。誰にも未来が分からないからこそ、新たなチャンスが生まれてくることもあるのです。現在を切り抜け、未来のチャンスをつかむために経営者のかじ取りが重要です。

この記事では、そうした際に経営者の判断を助けてくれる「3つの原価」の話をします。難しい計算は一切なく、皆さんが感覚的に理解していることだと思います。ポイントは、

過去にとらわれず、今の財務諸表にとらわれず、未来の収益構造をイメージして判断すること

です。

2 「埋没原価」は過去のもの。未来思考で判断する

埋没原価とは、

将来の意思決定に影響を及ぼさない原価

です。例えば、A社から2000万円の新設備を導入するために、200万円の内金を支払ったとします。ところが、B社から同じスペックの設備が1700万円で導入できることが分かりました。A社をキャンセルすると、内金の200万円は戻ってきません。一見、200万円の内金がもったいないと考えてしまいますが、これこそが埋没原価です。A社とB社に払う金額を比較する際、内金は無視をして、次のように考えます。

  • A社から購入:1800万円
  • B社から購入:1700万円

これは新設備の導入なので分かりやすい例です。新設備だと、旧設備の導入費用やその設備に慣れるまでの教育コストなどが気になってしまいますが、これは埋没原価ですので、未来思考で判断する癖をつけましょう。

3 「機会原価」は幅広い視野で判断する

機会原価とは、

ある選択をしたら得られたはずの利益。逆にいうと、ある選択をしなかったために失った利益

です。先の新設備の例で考えてみましょう。埋没原価にとらわれて、

  • A社から購入:1800万円
  • B社から購入:1700万円

という選択肢からA社を購入先に選んだ場合、差額の100万円が機会原価となります。逆にいうと、その選択をしたために失ってしまう利益なので「逸失利益」ともいいます。ただ、機会原価の考え方は難しいので、実際は後述する「増分原価」を検討することになります。

4 「増分原価」は具体的な利益を計算する

増分原価は差額原価ともいわれるもので、

ある意思決定をした際に、現在から増減する具体的な原価

です。意思決定は未来に対して行うものですから、過去の財務諸表を読むだけではイメージできません。複数の設備投資案から選択する場合、設備投資によって変化する収益と原価から利益を算出します。具体的には、

増分利益=増分収益-増分原価

といったように増分利益を算出し、意思決定を行います。

先の設備投資の場合、単純な金額の比較ではB社からの購入が好ましいですが、ビジネスでは常に複数の要素が含まれます。実際、

A社とは別の設備でも取引しており、今回の新設備をA社から導入することで、メンテナンス費用が150万円安くなる

といったことは珍しくありません。この場合、

メンテナンスまで含めた増分利益は、A社から購入したほうが有利

となるわけです。

以上(2024年11月更新)

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【かんたん会社法(1)】 会社の設立、資金調達、M&Aなど…… 実務ごとに会社法の基本ルールを確認!

書いてあること

  • 主な読者:会社法の基本を一から学びたい人・復習したい人
  • 課題:会社法は複雑で難しいイメージがあり、とっつきにくい
  • 解決策:会社経営の実務ごとに、関連する会社法のルールを押さえる

1 取っ付きにくい会社法を分かりやすく整理!

「会社法」とは、簡単に言うと、

会社にまつわる基本的なルール(会社の設立、組織、運営、管理など)を定めた法律

です。会社経営に直結するとても重要な法律ですが、内容が多岐にわたる上に専門用語も多く、「正直取っ付きにくい」という人も少なくないはずです。

とはいえ、900以上ある会社法の条文を丸暗記する必要はありません。

「会社の設立」「機関設計」「資金調達」「M&A(企業再編)」「会社の縮小」など会社経営の実務ごとに、関連する基本的なルールと要点を押さえておけばそれで十分

です。以降で関連記事と併せて紹介するので見ていきましょう。なお、会社法の「会社」は、

  • 株式会社:株式の発行により、多くの人から出資を募る会社
  • 持分会社(合名会社・合資会社・合同会社):株式を発行せず、自分たちで資本金を出資する会社

に分けられますが、このシリーズで対象とするのは「株式会社」です。

2 会社の設立

会社を設立する方法には、

  • 発起設立:会社の設立を企画した発起人が、会社設立時に発行される株式(設立時発行株式)を全て引き受ける方式
  • 募集設立:設立時発行株式のうち、発起人が一部だけを引き受け、その他の株式は第三者から募集する方式

の2種類がありますが、手続き(定款の作成・認証など)に問題があると、会社の設立が無効となってしまうこともあるので注意が必要です。

3 機関設計

会社は経営上の意思決定をしたり、適正な経営がされているか監視したりするため「機関」を設置します。また、複数の機関を会社に適した形に組み合わせることを「機関設計」といいます。

1)株式会社の機関と機能

会社が設置できる機関には、

株主総会、取締役、取締役会、代表取締役、監査役、監査役会、会計参与、会計監査人、監査等委員会、指名委員会等、執行役

などがあり、株主総会と取締役は必ず設置しなければなりません。

2)中小企業に多い機関設計のパターン

機関設計は「公開会社か非公開会社か」「大会社か非大会社か」などによって変わります。

  • 公開会社:証券市場に株式を公開して、株主が株式を自由に譲渡・取得できる会社
  • 非公開会社:発行する全ての株式について譲渡制限を定めている会社
  • 大会社:資本金5億円以上、または負債200億円以上の会社
  • 非大会社:大会社に該当しない会社(中小企業などが含まれる)

「非公開会社×非大会社」の中小企業の場合、「株主総会+取締役」「株主総会+取締役会+監査役」など、比較的シンプルな機関設計になることが多いようです。

4 資金調達

会社が株主から資金を調達する方法には、株式の内容の工夫、増資、新株予約権の発行、社債の発行、計算書類などがあります。それぞれ資金調達の形態や手続きが、会社法で細かく定められています。

1)株式の内容の工夫

さまざまなタイプの会社や株主の要望に応じられるよう、株式の内容を自由に設計できれば、それだけ資金調達がしやすくなります。会社法では、定款で一定の事項を定めることで、

9つの種類株式(剰余金の配当額や、残余財産の分配額が異なる株式など)を発行できる

ので、それぞれの特徴を押さえておきましょう。

2)増資

増資とは、新たに株式を発行して資金を調達する手法のことです。

  • 第三者割当:特定の者に募集をかけ、応募者に株式を発行する
  • 株主割当:既存株主に株式割当の権利を与え、応募者に株式を発行する
  • 公募:不特定多数に募集をかけ、応募者に株式を発行する

の3つの形態があり、「公開会社か非公開会社か」などによって手続きの内容が異なります。

3)新株予約権の発行

新株予約権とは、会社の株式の交付を受けられる権利のことです(役員や社員にストックオプションとして付与するなど)。こちらも「第三者割当」「株主割当」「公募」の3つの形態があり、「公開会社か非公開会社か」などによって手続きの内容が異なります。

4)社債の発行

社債とは、会社が多額で長期間の資金を調達する際に行われる手法です。株式と違い、投資家は会社がもうかっていなくても、あらかじめ定められた利息を受け取れます。

  • 社債権者となる者を募集する方法
  • 特定の者に社債を引き受けさせる方法(総額引受)

があり、それぞれ社債の発行手続きが異なります。

5)計算書類

資金調達と併せ、会社法で作成が義務付けられている計算書類についても、内容や作成後の対応(計算書類の監査と承認、公告など)を押さえておきましょう。

5 M&A(企業再編)

「M&A(Mergers and Acquisitions)」は、新市場の開拓、競争相手の排除、コスト削減、経済規模の拡大などさまざまな目的で実施されます。M&Aには、合併と買収という2つの意味がありますが、両方の意味を含むものとして、「企業再編」という言葉が使われることもあります。

1)事業譲渡

事業譲渡とは、自社の全部または一部の事業を別の会社に売り渡すことです。事業そのものは存続し、事業を運営する会社が変わるというイメージです。大きな特徴は、

  • 譲渡する事業の内容、範囲を自由に選択できる
  • 通常、対価は株式などではなく金銭となる

ことです。譲渡会社(売り手)側では、株主総会の特別決議や、事業譲渡に反対する株主のために、株式買取請求の機会を与えるなどの対応が必要になります。

2)合併

合併とは、複数の会社が1つになることで、

  • 吸収合併:1社が存続会社となり、残りは消滅会社として存続会社に吸収される
  • 新設合併:会社が全てなくなり、新たに設立された会社に権利義務を承継させる

に分けられます。合併する際は「合併契約」を締結しますが、吸収合併と新設合併とで内容が異なります。また、締結に当たり、契約内容の事前開示や株主総会の承認などが必要になります。

3)株式譲渡

株式譲渡とは、自社の株式の全部または一部を別の会社に売り渡すことです。会社のオーナーが変わるというイメージです。大きな特徴は、

  • 譲渡会社の法人格や契約関係など、対外的な側面には何も影響がない
  • 通常、対価は株式などではなく金銭となる

ことです。会社の設立時期によっては株券(株式を表章する有価証券)の交付が必要になります。

4)会社分割

会社分割とは、事業の権利義務の全部または一部を別の会社に譲渡することで、

  • 吸収分割:存在する会社に事業を譲渡する
  • 新設分割:新たに会社を設立し、事業を譲渡する

に分けられます。吸収分割の際は「吸収分割契約」を締結、新設分割の際は「新設分割計画」を作成します。また、それぞれ契約・計画内容の事前開示や株主総会の承認などが必要になります。

5)株式交換・株式移転・株式交付

株式交換・株式移転・株式交付は、いずれも自社株を買収対価とする企業再編の手法です。株式交換と株式移転は、完全親子関係になります。株式交付は株式交換に似ていますが、完全親子関係にとらわれずに実施できます。株式交換をする際は「株式交換契約」を締結します。こちらも締結に当たり、契約内容の事前開示や株主総会の承認などが必要になります。

6 会社の縮小

最後に、資本金の額を減少する「減資」、会社を終わらせる「解散・清算」を紹介します。

1)減資

「減資」は、会社の業績が芳しくない場合などに資本金の額を減少することで、

  • 実質上の減資:事業縮小などで不要となった資本金の額を減少する。資本金を剰余金へ振り分けて株主に配当する
  • 形式上の減資:赤字などを解消するために資本金で欠損を填補する。形式上、資本金の額を減少するだけで、株主に配当はしない

に分けられます。減資の際は、株主総会の特別決議の他、債権者が不利益を被る恐れがあるので、異議を述べる機会を設ける必要などがあります。

2)解散と清算

会社の始まりが設立だとすれば、終わりは解散と清算になります。

  • 解散:法人格を消滅させる原因となる事実のこと。原則、会社が解散するだけでは法人格は消滅しない。清算の手続きが必要
  • 清算:解散した会社の資産や負債の処理のための法的な手続きのこと。解散した会社が残った債務を全額支払うことができる場合は通常清算となり、解散した会社が債務超過で、裁判所の監督
    の下行われる清算の場合は特別清算となる

解散は、会社法で定められた理由(定款で定めた存続期間の満了など)に基づいて行う必要があり、株主総会の特別決議によって決定します。また、清算を行うには手続きを遂行する「清算人」という機関の選任が必要になります。

以上(2024年11月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【新任役員、新任管理職】感覚だけではなく、数字の裏付けをもって良い取引と悪い取引を判断しよう

書いてあること

  • 主な読者:取引先を評価して経営戦略に活かしたい新任役員、新任管理職
  • 課題:感覚的な良い悪いだけではなく、数字の裏付けをもって判断したい
  • 解決策:限界利益(率)を使って評価する

1 良い取引と悪い取引の判断

一般的に取引先の良しあしは売上高の大小で把握されているため、より多くの売上が上がっている先を「良い取引先」と考えます。確かに、大きな取引ができているという意味では良い取引先ですが、売上の大きさがそのまま利益の大きさになるわけではありません。極端な例をいえば、売上が大きくても利益が出ていない赤字の取引先もあるわけで、特別な意図がなければ、これは良い取引先とは言えないわけです。

特に新任役員や新任管理職は、着任後、すぐに現状を分析して既存取引先の方針決定(取引規模の拡大、現状維持、縮小)を判断すると同時に、新規取引先の獲得も戦略的に行う必要があります。その際、「取引規模が大きい」「長年の付き合いがある」「相手が大企業である」といったことだけで判断していては、利益を失う恐れがあるのです。

この記事では、「管理会計」の観点から取引の中身に目を向け、定量的に良い取引と悪い取引の判断基準を説明します。

2 費用を分類してみよう

利益は売上から費用を引いて求めるわけですから、まずは管理会計の視点で費用を分類してみましょう。具体的には、次のように「変動費」と「固定費」に分けます。

  • 変動費:売上高に比例して発生する費用
  • 固定費:売上高に関係なく発生する費用

分類の手法には「勘定科目法」と「統計的方法」があります。詳細は割愛しますが、勘定科目法は、自社の費用を勘定科目ごとに変動費と固定費に分ける方法、統計的方法は、売上高と総費用から最小二乗などにより算定する方法です。

また、費用を次のように「直接費」と「間接費」に分けると、さらに詳細に把握できます。

  • 直接費:特定の製品の製造や販売のために発生する費用
  • 間接費:上記に付随して発生する費用

例えば、複数の取引先の営業担当者の人件費は固定費であると同時に、間接費でもあります。営業担当者の活動を「事前準備と商談」とした場合、事前準備と商談にかかる時間を確認し、営業担当者の1時間当たりの人件費と取引先の訪問回数を掛ければ、取引先別の人件費が明らかになります。

  • 1回の訪問にかかる時間:事前準備30分、商談1時間
  • 営業担当者の1時間当たりの人件費:4000円
  • A社(月に3回訪問)に対する費用:1.5時間×4000円×3回=1万8000円

3 取引先ごとの収益状況を比較してみよう

費用の分類をしたら、取引先ごとの収益を一覧にまとめてみましょう。その際、限界利益(率)も計算すると後の分析に役立ちます。

  • 限界利益:売上高から変動費を差し引いた利益
  • 限界利益率:売上高に占める限界利益の割合

画像1

さて、ここで問題です。

A社とB社から5000万円分の増産依頼がありました。うれしい依頼ですが、生産設備の関係で、対応できるのはいずれか1社だけです。

皆さんは、A社とB社のどちらを選択しますか?

画像2

図表1では、A社が売上高、営業利益、営業利益率で勝っていました。図表2でもA社が売上高、営業利益では勝っていますが、営業利益率はB社が逆転しています。つまり、B社のほうが効率的に利益を生んでいるということであり、これは限界利益(率)を見れば分かるのです。数字が際立って良かったり、悪かったりすれば判断は容易ですが、A社とB社のような似通った取引先については、複数の数字の裏付けをもって判断するようにしましょう。

4 単価と数量だけでなく、限界利益はいくらか?

今度は、W社とX社から新規取引を求められたとしましょう。条件は以下の通りです。

【自社の製造条件】

  • 変動費:6万円/製品1個当たり
  • 固定費(本取引で新たに発生するもの):2000万円

【W社とX社の希望】

  • W社:販売単価は11万円で、1000個購入したい
  • X社:販売単価は10万円で、1100個購入したい

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設例のように、販売数量や販売単価が異なる案件を比較する場合は、限界利益に着目します。今回のケースでは、販売数量に応じて変動費も変わってくるため、売上高は同額でも、販売数量の多いX社のほうが変動費は高くなり、限界利益が低くなります。この場合、W社を選ぶのが有利です。また、この結果は、単価を引き下げた場合も同じです。参考として、次の条件のY社とZ社を比較した結果を紹介します。

【Y社とZ社の希望】※ここでは、追加の売上を考慮しません。

  • Y社:販売単価は9万円で、1000個購入したい
  • Z社:販売単価は10万円で、900個購入したい

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やはり販売数量に応じて変動費が変わるため、売上高は同額でも、販売数量の多いY社のほうが限界利益は低くなり、Z社のほうが良い条件となっています。

5 将来有望でも安易な値下げにはご用心

先のY社とZ社では、Z社のほうが自社にとって条件が良いことが分かりました。しかし、Y社は将来有望で、9万円に値下げした条件でも「取引実績を作りたい」と考えています。この何となく取引しておきたいという感覚を、W社、X社、Y社、Z社を比較すると次のようになります。なお、以降ではY社を比較の主体として、他社と比べていきます。

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Y社への販売単価である9万円と、限界利益率である33.3…%を変えない場合、Y社との取引で、他社との取引による利益に追いつくために必要な販売数量は次の通りです。

  • W社の利益3000万円に追いつくための販売個数は、1666.7個
  • X社の利益2400万円に追いつくための販売個数は、1466.7個
  • Z社の利益1600万円に追いつくための販売個数は、1200.0個

Y社への販売数量は1000個の想定でしたが、上の個数を販売できれば他社の利益に追いつきます。例えば、1666.6個販売すれば、利益は3000万円に届くということです。これにより、

「将来有望」という曖昧な部分が、「1666.6個販売できるか?」

といった具合に定量化されました。

「利益を増加させる」という目的で値下げを検討する場合には、値下げによりどれだけ販売数量が増加する見込みがあるのか、事前にこの関係を十分に検討することが重要です。

なお、目標利益を達成するための販売個数は次の数式で求められます。

(目標利益+固定費)÷限界利益率÷単価

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 伏見健一)

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画像:pexels