【朝礼】「上機嫌」でいるために実践したい2つのこと

おはようございます。今日は皆さんに、日々仕事をしていく上でぜひ心掛けてほしいことをお伝えしたいと思います。

私の知り合いの経営者には6歳の子どもがいるのですが、子どもに「ある英才教育」をしているそうです。それは、「誰に対しても、いつもご機嫌に、ニコニコ笑顔で握手して挨拶すること」です。将来どのような世界で生きていくとしても、これが一番大事だと、その経営者はよく言います。

この話は極端かもしれませんが、私は共感しています。社内外さまざまな人と関わりながらビジネスを進める中で、「自分で自分の機嫌を良くする、気持ちをアゲる」ことの大切さを日々実感しているからです。

不思議なもので、「機嫌」は人に伝わりますし、うつります。皆さんもおそらく経験があるでしょう。不機嫌に仕事をしていると雰囲気は悪くなり、やり取りもギスギスし、話もしにくくなります。特に上の立場の人が不機嫌だと顕著です。良いアイデアが生まれるどころか、ピリピリしたムードが続いてコミュニケーションがうまくいかず、ミスやトラブルにつながってしまいます。

逆に上機嫌でいると、雰囲気も良くなり、会話も弾み、人も情報も集まってきます。機嫌の良さは周りにも伝播するので、活発に意見交換できたりアイデアが出てきたりもします。何より、「上機嫌な人」は周りから好かれます。不機嫌と上機嫌、どちらがいいかは言うまでもありません。

私の好きな言葉に、イギリスの作家、ウィリアム・メイクピース・サッカレーの「上機嫌は、人が着ることができる最上の衣装である」という名言があります。意味や背景はあまり明らかになっていませんが、私は「人は、相手やTPOなどに応じてさまざまな装いをするけれど、どんな素晴らしい格好よりも、上機嫌でいること、それが一番の装いである」という意味だと解釈しています。

そして、私が特に大切だと感じるのは、上機嫌という装いは「自分で選んで着ることができる」点です。要は、上機嫌で気持ち良く日々仕事を進められるかどうかは、自分の心持ち次第ということです。そこで皆さん、ぜひ次の2つのことを実践してみてください。

1つ目は、まず、「自分の機嫌」に気付くことです。自分が今、不機嫌になっていないか、言動を振り返りましょう。舌打ち、乱暴な言葉遣いや振る舞い、ネガティブな物言いなど、周りを不快にさせる不機嫌な言動を取っていないか、客観的に自分を振り返ってみるのです。

そして2つ目、もし自分が不機嫌だと感じたら、とにかく「笑うこと」です。たとえ不機嫌でなかったとしても気持ちがアガるので、声を出して笑うことは本当にお勧めです。

自分の機嫌は、自分でコントロールできます。今日から1日1笑い、声を上げ、気持ちもアゲていきましょう。皆さんの素晴らしい「上機嫌な装い」を、ぜひ見せてください。

以上(2023年11月)

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画像:Mariko Mitsuda

中小企業にも求められる「人権DD」の現在地

1 「ビジネスと人権」が注目されている

人権DD(デューディリジェンス)とは、

企業が事業活動で発生する人権への負の影響(人権リスク)を特定し、そのリスクを軽減・防止するために、研修や社内環境の整備、サプライチェーンの管理などの対応策を実施し、フォローアップを行っていくプロセス

のことです。事業活動における人権問題というと、例えば、洗剤など多くの日用品に使われているパーム油に関する強制労働や児童労働などは、広く知られるところでしょう。

そして、日本国内でも次のような人権問題が日々取り沙汰されるようになってきています。人権DDについては、今後、サプライチェーンの文脈で中小企業にも対応が求められます。

  • 大手ファッションブランドが強制労働によって生産された製品を利用している疑いがあるとされ、米国でシャツの輸入を差し止められた
  • 有名芸能事務所による性加害問題が国連の人権理事会による被害者へのヒアリングに発展。その後も、エンターテインメント業界に広く影響を及ぼしている

日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、2022年時点の「人権DDへの対応実施率」は大企業が28.0%なのに対し、中小企業はわずか7.8%ですが、注目すべきは人権DDを実施する大企業の74.5%が「調達先企業にも自社のサプライチェーンにおける人権方針への【準拠を求めている】」という点です(ジェトロ「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」)。

今後、中小企業にとって、ますます他人事ではなくなっていくと思われる「ビジネスと人権」。取引先から、「調達先も含め、人権に配慮しているか(問題ないか)を示してほしい」と求められるのが当たり前になるかもしれません。その時になって慌てても、もう遅いでしょう。

そこでこの記事では、主に次の点を簡単にまとめた上で、参考となる資料なども紹介します。中小企業における人権DDへの対応の第一歩としてお読みください。今のうちから準備を検討してみてはいかがでしょうか。

  • 人権DDをめぐる日本国内での動きには、今、どのようなものがあるか
  • 中小企業が今後実施を考えておいたほうがよい対応はどのようなものが考えられるか

2 日本国内における人権DDをめぐる動き

1)政府や公的機関でガイドラインなどが取りまとめられている

国連は、人権問題の解決に向けて2011年に「ビジネスと人権に関する指導原則」を公表し、世界各国の企業に対して人権方針の策定や人権DDの実施を求めています。

日本政府も、「ビジネスと人権に関する指導原則」を踏まえて「ビジネスと人権に関する行動計画」「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を作成するなど、さまざまな機関が人権DDに関する公表を行っています。簡単ですが、政府や他の機関によるガイドラインなどを下記にまとめます。

■ビジネスと人権に関する行動計画(2020-2025)■

https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_008862.html

2020年10月に日本政府が策定。「ビジネスと人権」に関して、今後、政府が取り組む各種施策を記載している。政府から企業に対しての、人権DDの導入促進への期待も表明。

■責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン■

https://www.meti.go.jp/press/2022/09/20220913003/20220913003.html

2022年9月に日本政府が策定。企業が業種横断的に活用できるガイドラインで、企業における人権尊重の取り組みは、「人権方針を策定し、人権DDを実施し、救済措置を整備する」ことが基本となるとされている。

■責任あるサプライチェーン等における人権尊重のための実務参照資料■

https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230404002/20230404002.html

2023年4月に経済産業省が公表。上記のガイドラインに沿って取り組みを行う企業がまず検討する、「人権方針の策定」や、「人権への負の影響(人権侵害リスク)の特定・評価」について詳細な解説や事例を掲載。

■中小企業のための人権デュー・ディリジェンス・ガイドライン■

https://www.cfiec.jp/gsg/

2022年2月に国際経済連携推進センターが公表。人権問題への対応に関して情報が不足しがちな中小企業向けに人権DDのガイドラインを取りまとめたもの。

最後に紹介した「中小企業のための人権デュー・ディリジェンス・ガイドライン」は、中小企業の人権DDの取り組み事例の他、「仕事を進める上で、どういうことが人権侵害に該当するか」も掲載されています。後ほど内容を紹介します。

2)対応を進める日本国内の大企業

大企業が取引先や調達先に対して人権DDへの取り組みを要請することも増えてきているようです。例えば、ユニクロを展開するファーストリテイリングは、社内にサプライチェーンの人権対応を担当するチームを持っており(メンバーは国内外合わせて約30人)、世界各国の縫製工場や生地工場の人権問題の調査などを行っています。

また、洗剤やシャンプーなどを販売する花王で行っているのは、サプライヤーに対して国際NPOが提供するプラットフォームを利用して人権リスクを評価する仕組みです。総合評価がA未満の場合には、改善の要請をしています。

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3 人権DDのプロセスと中小企業が考えたほうがよい対応

1)基本的な考え方。OECD(経済協力機構)による人権DDのプロセス

人権DDに関する日本国内の動きを把握したところで、次は、実際にどのように対応していくことになるかを考えてみましょう。ジェトロのウェブサイトで、OECD「デュー・ディリジェンス・ガイダンス」に基づき、人権DDのプロセス・手段が公開されています(図表1)。日本における「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」にまとめられているのも、国連による指導原則や、OECDのガイドラインに沿った対応です。

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人権DDは、企業がビジネスを行う上で発生する人権リスクの特定と軽減、そのモニタリングを実施する必要があります。

人権問題への対応を怠ると、企業のブランド価値が棄損したり、損害賠償請求や不買運動をおこされて経営が立ち行かなくなったりと、デメリットも多いです。また、人権DDへの取り組みはESG投資のS「Social」として投資家からも注目されているため、上場企業などはこうした取り組みが株価にも影響することが考えられます。

2)中小企業が今後、実施を考えておいたほうがよい対応

中小企業における今後の人権DDの取り組みとして、どのような手順で進めていくことになるかを見てみましょう。前述した資料「中小企業のための人権デュー・ディリジェンス・ガイドライン」に示されている、人権DDの具体的なステップは次の4つです。

ステップ1:人権方針の策定
ステップ2:人権の影響評価
ステップ3:是正・軽減措置の実行
ステップ4:モニタリング・実効性評価

以降では、「中小企業のための人権デュー・ディリジェンス・ガイドライン」を基に、ステップごとの対応方法を紹介します。

1.人権方針の策定

まずは人権方針を策定し、自社が人権を尊重したビジネスを行っていくことを社内外に宣言します。人権方針には次の項目を盛り込むことが一般的です。

  • 国際的な基準に従って人権を尊重することの宣言
  • 方針の適用範囲(役職員やグループ会社、取引先など)
  • 法令順守と人権DDを実施していくことの宣言
  • 人権DDの取組体制や管理体制
  • 人権に関する社内教育方法
  • 各ステークホルダーとの対話や協議、情報開示を積極的に行うことの宣言

また、人権方針の策定においては、次の5つの事項に配慮することが大切です。

  • 企業の経営トップが承認していること
  • 一般公開され、関係者(従業員、取引先、出資者など)に周知されていること
  • 策定にあたり社内外から専門的な助言を得ていること
  • 関係者に対する人権配慮への期待を明記すること
  • 企業全体の事業方針や手続きに人権方針を反映させること

2.人権の影響評価

人権方針を策定したら、次に自社ビジネスが及ぼす人権リスクの洗い出しを実施し、取り組みの優先順位を付けます。

ビジネスの流れを洗い出して、各工程で発生する恐れのある人権課題を特定していきます。例えば、製造業のサプライチェーンとそれに応じた人権課題の例は次の通りです。働く環境、安全や心身の健康といった点から考えていくと人権課題が挙げやすいかもしれません。

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その他、人権課題を洗い出す際には、「中小企業のための人権デュー・ディリジェンス・ガイドライン」に掲載されている以下の例なども参考になります。業種別の人権リスクが指摘されている例で、「建設現場における危険労働」「従業員の長時間労働」「セクハラ」なども挙げられています。

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人権課題を洗い出したら、次に課題の優先順位付けを行います。優先順位は、「問題が発生した場合の負の影響の深刻度」「問題発生する可能性の高さ」「自社事業にとっての重要性」などを基準に決めていきます。

なお、業界特有の人権課題もあると思われるので、業界団体(自社の業界の組合など)、同業他社の経営者仲間といった関係者と相談し合ったり、その業界に精通した弁護士などに話を聞いたりしてみるのがよいかもしれません。

3.「是正・軽減措置の実行」と「モニタリング・実効性評価」

人権課題の影響の評価ができたら、次はステップ3の「是正や軽減措置」を行い、ステップ4として、その効果をモニタリングします。

例えば、「差別・ハラスメントの防止」「外国人技能実習生の権利保障」「サプライチェーン上の児童労働や強制労働の防止」を優先的に対応すると決めた製造業者は、以下のような是正・軽減措置とモニタリングを行います。

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適切にモニタリングを行うためには、研修受講率などの取り組みの度合いが分かる具体的な指標を設定します。自社の人権問題対応の進捗度が明確になります。

以上、中小企業における人権DDへの取り組みの手順を紹介しましたが、毎日の仕事が忙しい中ですぐに着手できるとは限りませんし、具体的に自社に落とし込むことがイメージできないかもしれません。繰り返しになりますが、業界団体や経営者仲間に聞いてみることから始めるのが現実的でしょう。

例えば、日本繊維産業連盟では、2022年8月に「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」を発行し、説明会も実施しました。同連盟の文言を借りると、次の通り、日本国内の中小企業のことを考慮した内容になっているようです。ぜひ、こうした業界団体の取り組みなどをチェックし、積極的に活用していきましょう。

【日本繊維産業連盟のリリース文言】
本ガイドラインは、中小・小規模企業がほとんどである日本の繊維産業の特徴を踏まえ、サプライチェーンの末端に位置する受注者としての立場に軸足を置いた内容となっております。
また、確認すべき事項につきましては、個別の課題ごとにリスト化し、それをチェックすることで中小・小規模経営者にも実情を把握出きるようにしております。

同ガイドラインをダウンロードしたい場合は、日本繊維産業連盟ホームページのトップページから申し込みフォームにリンクすることができます。

■日本繊維産業連盟「繊維産業における責任ある企業行動ガイドライン」を発行しました■

https://www.jtf-net.com/news/200220831RBCguideline.htm

4 参考資料など

最後に、前述したガイドラインなどの他に、参考になる資料などのURLを紹介します。

■国連広報センター「ビジネスと人権に関する指導原則」■

https://www.unic.or.jp/texts_audiovisual/resolutions_reports/hr_council/ga_regular_session/3404/

■外務省 OECD「多国籍企業行動指針」■

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/csr/housin.html

■OECD「責任ある企業のためのOECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」■

https://mneguidelines.oecd.org/OECD-Due-Diligence-Guidance-for-RBC-Japanese.pdf

■ジェトロ「要請高まるグローバルな人権尊重対応(総論)」■

https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2023/0302/f22b36902a04180b.html

■ジェトロ「動き出した人権デューディリジェンス―日本企業に聞く」■

https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2023/0302.html

■ジェトロ「人権デューディリジェンス、日本企業の対応は?」■

https://www.jetro.go.jp/biz/areareports/special/2023/0303/9cfcf53ac729103f.html

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年11月8日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

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多様化する働き方。給与と外注費の違いをしっかり認識して損をしないようにしよう

書いてあること

  • 主な読者:正社員に限らず、雇用形態が多岐にわたる会社の経営者、経理担当者
  • 課題:給与と外注費とでは、税金面や社会保険の取り扱いが異なる
  • 解決策:「依頼業務の遂行状況」「会社の指揮監督の有無」「報酬の支払いタイミング」「業務に必要な用具・材料などの支給の有無」から総合的に見てどちらになるかを判断する

1 同じ費用でも給与と外注費は明確に区別すべし

働き方が多様化し、社員だけではなく業務委託を利用することも一般的になりました。そうした中で出てくる疑問が、

支払った報酬は給与と外注費のどちらか?

ということです。人を雇用して支払う対価は「給与」、業務委託契約などに基づいて支払う対価は「外注費」と呼びますが、会社にとってはいずれも費用です。

とはいえ、ひとくくりにしてはいけません。なぜなら、

給与と外注費とでは消費税や源泉所得税、社会保険の取り扱いが異なる

からです。両者の取り扱いを間違えると、税務調査や年金事務所の調査などで指摘され、

思わぬ税金や社会保険の負担を強いられる恐れがある

のです。この記事を読んで、両者の違いや判断基準を明確にして、適切な処理を心がけましょう。

2 まずは給与と外注費の主な違いを把握

1)所得の区分と源泉徴収

給与は、それを受け取った人の「給与所得」となります。そのため、給与を支払う会社は、

給与所得としての源泉徴収を行う

必要があります。

一方、外注費は、それを受け取った人の「事業所得」に該当する場合が多いです。外注費を支払う会社は、

源泉徴収は必ずしも行わなくてよい

ことになります(原稿料や講演料といった例外もあります)。このため、外注費を受け取った側は、源泉徴収が行われない代わりに所得税の確定申告をしなければなりません。

給与に対して源泉徴収を行うのは会社の義務です。そのため、会社が外注費として支払い、源泉徴収を行っていなかった場合でも、税務調査で給与に該当すると指摘されると、会社は

  • 未徴収であった源泉所得税を国に納めなければならない
  • 加算税なども課される

ことになります。

国に納めた源泉所得税分については、外注費の支払先に返還を求めることもできますが、すでに契約を解約済みで連絡が取れないケースも出てくるので注意しましょう。

2)消費税の取り扱い

消費税は「事業者が事業として行った取引」について課される税金です。そのため、次のような違いがあります。

  • 雇用契約によって支払われる給与は、労務の対価なので消費税は課されない
  • 外注費の支払い時には、消費税が課される

このような違いがあるのは、会社と個人が業務委託契約を結び、これによって「役務(サービス)の提供を行っている」と考えるからです。

外注費として支払う場合、会社は外注費に消費税を上乗せして支払い、その支払った消費税は、仕入税額控除(消費税の計算上、控除できる金額)の適用を受けることになります。ただし、税務調査で「給与」と指摘された場合は仕入税額控除が認められず、その分の追加納税と加算税などが課されることになるので注意しましょう。

3)社会保険や雇用保険の取り扱い

会社は、一定の条件を満たす従業員を雇用契約によって雇用し、給与を支払う場合、

その従業員を社会保険や雇用保険(以下「社会保険等」)に加入

させなければなりません。これに対して、業務委託契約などによって外注費を支払うケースの場合、その支払い先を社会保険等に加入させる必要はありません。

このため、外注費として支払い、支払先を社会保険等に加入させていなかった場合でも、年金事務所などの調査で「雇用契約があるので社会保険等に加入させる必要がある」と判断された場合には、

  • 加入手続きに関する事務の手間が増える
  • 未納付分の社会保険料等について納付する
  • 本人負担分の保険料を外注費の支払い先から返還してもらう

必要が出てきます。また、社会保険料については、会社負担分(法定福利費分)についてコストの増加に繋がることになりますので注意しましょう。

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3 給与と外注費が分かれる4つの判断基準

気になるのは給与と外注費のどちらになるのか、その判断基準です。これは契約書の名称といった形式だけでは判断されず、主に次の4つの項目から判断されます。

  1. その役務提供の内容が、他者で代替できるものかどうか
  2. 役務の提供に当たり、会社側の指揮監督を受けるかどうか
  3. 既に提供した役務に対する報酬の請求ができるかどうか
  4. 役務の提供に必要な用具・材料等を支給されているかどうか

これらは「全て満たしていないといけない」とか「1つでも欠けるとNG」といったようなものではありません。あくまでも総合的な観点から最終的には判断するため、事案が生じた際には税理士や社会保険労務士などの専門家に相談するようにしましょう。

1)その役務提供の内容が、他者で代替できるものかどうか

外注の場合、極端に言えば依頼された業務が完了・完成すればよいので、必ずしも依頼された外注先本人が業務を担当する必要はありません。つまり、依頼された外注先が雇っている従業員などが仕事をしても良いということになります。

これに対し、給与は従業員の労働の対価として支払われるものなので、従業員本人が労働という役務を提供することになり、誰かが取って代わることは基本的にできません。

2)役務の提供に当たり、会社の指揮監督を受けるかどうか

これは特に重要で、業務の依頼者(会社)の指揮監督を受けるものは給与、受けないものは外注として判断されます。このため、タイムカードなどで時間が管理されていたり、作業時間や休憩時間が指定されていたりすると、給与と判断される可能性が高くなります。

3)既に提供した役務に対する報酬の請求ができるかどうか

外注では依頼された仕事が完了・完成して初めて報酬を請求することができます。一方、給与では仮に業務が完了しなかったとしても、労働時間に対する給与の支払いを請求することができます。つまり、外注の場合には、外注先が受託業務に対するリスクを負っているということになります。

4)役務の提供に必要な用具・材料等を支給されているかどうか

給与の場合、従業員が働く上で必要な用具や材料は会社が準備します。これに対し、外注の場合には、外注先が必要な用具などを自分で準備する必要があります。そのため、外注の場合には必要な用具の購入費用や材料の仕入値といったことも考慮して報酬が決められることが多くあります。

4 判断を誤りやすいケース

1)従業員だった人を業務委託に切り替えた場合

従業員として雇用していた人を業務委託契約に切り替えるケースがあります。この場合、形式的に業務委託契約書を結ぶだけで、実態は従業員の時と何も変わっていないようなら、外注費が給与として認定される可能性が高いです。つまり、契約を切り替えても、出勤時間や退勤時間が決められており、会社が準備した用具を使用して仕事をし、業務完了の有無に関わらず報酬が支払われているといったケースは注意が必要です。

従業員を業務委託に切り替える場合は、契約書の名称だけにとらわれず、外注先となる従業員と綿密に話し合い、具体的にどのような形で業務を進めるのか決定しましょう。これは給与か外注費かの判断もさることながら、対価の支払いに関する金銭トラブルを避けるためにも重要です。

2)発注元が1社だけの場合

外注先が特定の1社に専属して業務受託している場合は注意が必要です。この場合、外注先からすれば業務を受託しているのは1社しかないため、発注元の従業員と一緒に仕事をしているケースが多いからです。1社に専属して業務受託することが悪いわけではありませんが、結果として発注元の指揮監督のもとで業務を行っていることを理由に外注費が給与と指摘される可能性があります。

3)完全歩合制の場合

完全歩合制は外注費になると誤解されがちですが、完全歩合制であること自体は、給与か外注費かの判断においてはあまり関係がありません。完全歩合制ということは、契約の獲得といった依頼業務の完了をもって対価を受け取ることができるとも言えますが、それは1つの側面に過ぎません。あくまでも紹介した判断基準をベースに、総合的な観点から判断されるので注意しましょう。

以上(2023年11月作成)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

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画像:Nuthawut-Adobe Stock

過去最大の引き上げ額 最低賃金引き上げによる企業への影響と実務

1 地域別最低賃金制度と2023年度引き上げ額

地域別最低賃金が、過去最大の引き上げ率により、全国加重平均1,002円へと改定されてから2か月が経過しました。都道府県別に見ると、最高は東京都の1,113円で、最も低い岩手県では、従前から39円引き上げられて893円となっています。政府の最重要課題に位置付けられた賃上げを実行する形での改定となりましたが、企業ではどんな影響があるのか、求められている実務的対応とともにまとめました。

毎年10月に改定される地域別最低賃金は、夏頃に中央最低賃金審議会で答申が取りまとめられ、都道府県労働局長が決定します。労働者代表、使用者代表と公益代表の各同数による委員で、賃金に関する実態調査結果などの各種統計を参考に、審議が行われています。こうして決定された地域別最低賃金の全国加重平均が千円を超えるのは初めてのことであり、昨年度に引き続き、2年連続で過去最大の引き上げとなりました。

この地域別最低賃金は、アルバイトや臨時等の雇用形態や呼称に関係なく、原則としてすべての労働者に適用されます。もちろん、試用期間であっても最低賃金を下回ることはできません。実際に支払われた賃金が最低賃金額を下回っていた場合は、法律上、最低賃金額と同様の定めをしたものとみなされるため、不足分は未払い賃金となり、労働者は支払請求をすることができます。

2 地域別最低賃金額を正しく満たしているか確認する方法

ここで、最低賃金の対象となる賃金を確認してみましょう。実際の賃金は、時間外手当や休日手当、さらに皆勤手当や通勤手当等、さまざまな手当から成り立っていることが多いですが、これらすべてを対象として最低賃金の時間額を計算することはできません。つまり、最低賃金の対象となるのは、「毎月支払われる基本的な賃金」であり、割増賃金や臨時に支払われた賃金等を含めることはできません。さらに、毎月支払われる賃金であったとしても、精皆勤手当や通勤手当、家族手当は最低賃金の対象とはならないことに注意が必要です。具体的には、実際に支払われる賃金から次の賃金を除外したものが最低賃金の対象になるとともに、その賃金額が、地域別最低賃金額を満たしていなければなりません。

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画像:photo-ac

初めての職場つみたてNISA 2024年1月からの改正点も踏まえて解説!

書いてあること

  • 主な読者:社員の資産形成をサポートするために、職場つみたてNISAの導入を検討している経営者・人事労務担当者
  • 課題:そもそもどういう制度なのかがよく分からない。iDeCo+(イデコプラス)など他の制度と比較してどうなの?
  • 解決策:会社が社員のNISA口座の開設や株式などの購入手続きを支援する。投資金額の一部を会社が支援することも可。投資可能額が大きく、途中引き出しもできる

1 「人生100年時代」の資産形成……社員をどうサポートする?

「人生100年時代」ともいわれる現代において、長い老後生活に向けた資産形成はますます重要になってきています。社員の資産形成をサポートする会社も少なくありません。

かつては資産形成のサポートというと、退職金制度一択でしたが、「定年まで同じ会社で働く」という価値観が薄れている昨今、退職金制度の存在意義を疑問視する声もあります。

そのような状況で、社員の資産形成をサポートする方法として注目されているのが「職場つみたてNISA」です。「職場つみたてNISA」は、2024年1月に実施予定のNISA制度の改正もあり、社員にとってメリットが大きい制度となっています。

そこで、この記事では

  • 職場つみたてNISAがどういう制度なのか
  • どういう社員が多い会社に職場つみたてNISAが向いているのか

をNISAに詳しくない人にも分かりやすく解説します。2024年1月の改正内容やiDeCo+(イデコプラス)との比較についても紹介するので、ぜひご確認ください。

2 そもそも「NISA」って何なの?

「職場つみたてNISA」に触れる前に、まずは「NISA」について簡単に説明します。

NISAとは、「NISA口座」と呼ばれる口座を使って個人が株式投資などを行った場合、毎年一定金額の範囲内で得た利益が非課税になる(税金がかからなくなる)制度のこと

です。

通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかります。例えば、100万円で購入した株を120万円に値上がりしたタイミングで売却した場合、利益20万円(120万円-100万円)に対して約4万円(20万円×約20%)の税金がかかるイメージです。しかし、NISA口座で投資すれば利益が非課税になるため、約4万円の税金は発生せずに、利益20万円を全て受け取れます。

また、NISAは年間投資可能額や非課税期間、対象年齢などによって「一般NISA」「つみたてNISA」「ジュニアNISA」の3種類に分かれおり、このうち一般NISAとつみたてNISAが、この後紹介する「職場つみたてNISA」に対応しています。

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 一般NISAは、年間投資可能額が120万円と高額ですが、非課税保有期間は5年間と短くなっています。一方で、つみたてNISAは年間投資可能額が40万円と低額ですが、非課税保有期間は20年間と長いことが特徴です。

3 職場つみたてNISAとは?

さて、ここから本題の職場つみたてNISAについて見ていきます。職場つみたてNISAとは、会社が、社員のNISAを使った資産形成を支援する制度です。通常、NISAは個人が口座開設手続きや投資商品の購入手続きを行いますが、

職場つみたてNISAとは、会社が社員のNISA口座の開設や株式などの購入手続きを支援することが特徴

です。

まず、会社は証券会社などのNISA取扱事業者と契約し(契約時に一般NISAか、つみたてNISAのいずれかを選択)、NISA取扱業者が社員に対して説明会等を実施します。社員は任意でNISA口座を開設し、NISA取扱業者が選定する金融商品の中から投資対象を指定して、投資を行うという仕組みです。

指定した金融商品は毎月同額購入します。投資資金は、給与天引や口座引落で支払います。なお、会社が「奨励金」として投資金額の一部を支援することも可能です。奨励金制度を設ければ、社員が職場つみたてNISAを利用するメリットはより大きくなるでしょう。

1)職場つみたてNISAの特徴

職場つみたてNISAの特徴は次の通りです。

  • 職場で相談できるため、NISAを始めやすい
  • NISA取扱業者から情報提供が受けられる
  • 自動で長期分散投資ができる
  • 少額から投資を始められる
  • いつでも引き出せる
  • 福利厚生として始めやすい
  • 奨励金は損金になる

職場つみたてNISAの最大の特徴として、職場で説明会などを実施するため、社員同士での相談がしやすく、資産形成に取り組むハードルが低いことが挙げられます。また、基本的に毎月同額を積み立てるため、長期的な分散投資が可能です。

さらに、職場つみたてNISAで運用するお金は社員が好きなタイミングで自由に引き出せます。他にも、会社が奨励金を出す場合、奨励金を全額損金として計上できるのも会社にとってはメリットです。

2)どういう会社に向いているの?

職場つみたてNISAは比較的簡単に導入できる福利厚生制度で、人材不足や社員の離職に悩む会社、若い社員が多い会社などにおすすめです。イメージは次のような会社です。

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3)どうすれば導入できるの?

次に、実際に職場つみたてNISAを導入する場合の手続きを見ていきましょう。日本証券業協会が公表する導入までのスケジュール例は次の通りです。あくまで例ですので、実際に導入する際は、金融庁や職場つみたてNISAを取り扱う金融機関に相談してください。

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金融庁や金融機関から詳細は案内されるため、基本的には案内に沿って導入手続きを進めます。利用規約等は日本証券業協会ウェブサイトにひな型があるので、参考にするとよいでしょう。なお、スケジュール例の通り、導入までにある程度時間がかかることに注意してください。

4)2024年1月から制度はどう変わる?

現在、職場つみたてNISAは「一般NISAか、つみたてNISAのいずれか」を会社が制度導入時に選択する仕組みになっています。この仕組みが2024年1月から変わります。具体的には、

一般NISAが「成長投資枠」に、つみたてNISAが「つみたて投資枠」に名称変更され、両者を併用することが可能

になります。つまり、制度導入時に一般NISAかつみたてNISAかの選択で迷う必要がなくなるのです。

5)職場つみたてNISAとiDeCo+、どっちがいい?

社員の資産形成サポートで、よく話題に上がるのが「iDeCo+(イデコプラス)」です。

iDeCo+とは、社員が自分で掛金を拠出する個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」に、会社が追加して掛金を拠出できる中小企業限定の制度

で、正しくは「中小事業主掛金納付制度」といいます。iDeCo+も、NISAと同様、投資で得た利益が非課税になります。また、掛金が所得控除の対象となるため、毎年支払う所得税や住民税を抑えられます。

ここで、「2023年12月までの職場つみたてNISA」「2024年1月からの職場つみたてNISA」「iDeCo+」の制度内容を比較してみましょう。

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2024年1月からの職場つみたてNISAは、最大で年間360万円(成長投資枠240万円+つみたて投資枠120万円)の投資が可能になります。また、非課税期間も無期限になるため、より長期投資向きの制度といえるでしょう。

一方で、iDeCo+は、図表の通り導入できる会社に制限があります。また、原則として60歳にならないとお金を引き出せないため、急にお金が必要となる可能性の高い若手社員などには向いていないかもしれません。ただし、所得控除により、所得税や住民税を抑えられる点は、職場つみたてNISAにはないメリットです。

職場つみたてNISAとiDeCo+は併用が可能なため、場合によっては両方を導入することを検討してみてもいいかもしれません。

3 資産形成のシミュレーション

職場つみたてNISAを使って資産運用をしたら、実際にどれくらい資産が増えるのかシミュレーションしてみましょう。

【シミュレーションの条件】

  • 社員の拠出分と会社の奨励金を合わせた毎月の投資額が月5万円
  • 積立期間は5年間・10年間・20年間・30年間の4パターン
  • 運用利回りは年利1~6%の6パターン

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運用期間が長く運用利率が高いほど、資産を大きく増やせます。例えば、年利6%で30年間投資を続けた場合、5000万円を超える資産を築くことが可能で、運用による利益は3200万円を超えます。

ただし、投資は最初から運用利率が決まっているわけではなく、経済動向や投資対象によって運用成績が異なります。つまり、元本割れするリスクもあるということです。職場つみたてNISAを導入する際は、社員にこうしたリスクについて周知することが大切です。

以上(2023年11月作成)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)

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画像: hearty-Adobe Stock

【中堅社員のスピーチ例】ピカソの絵が「落書き」でない理由

おはようございます。今日は、私が先週の休みに美術館に行ったときのことをお話しします。私は正直、美術はあまり詳しくないのですが、美術館の静かな雰囲気が好きで、時間のあるときにたまに足を運びます。今回美術館で鑑賞したのは、あの有名なパブロ・ピカソの絵です。

ピカソといえば、目は正面を向いているのに鼻が横を向いているなど、一見子どもの落書きのようにも思えてしまう、独特の画風が特徴です。5人の女性を描いた「アビニョンの娘たち」や、戦争の恐怖を描いた「ゲルニカ」などは特に独特ですね。専門的な言葉を使うと、あの画風は「キュビズム」といって、複数の視点から見たイメージを、一枚の絵の中に集約するという試みなのですが、そういったことを知らない人間からすると、どうも「変わった絵」というイメージが先行します。私は昔から、ピカソの絵がなぜ世間から評価されているのかが疑問だったのですが、今回行った美術館で、その答えになるかもしれない、ちょっとした発見がありました。

実は、今回美術館で私の目を引いたのは、ピカソが10代から20代前半の頃に描いたとされる絵でした。恥ずかしながら、私はピカソの若い頃をほとんど知らなかったのですが、その頃の彼の絵は、まるで写真を撮ったかのように精巧で美しいのです。それもそのはず、ピカソと同じく画家だった彼の父親が、ピカソを早くから美術学校に通わせ、絵の才能を徹底的に磨き上げたからです。

ただ、ピカソは自身の才能が研ぎ澄まされていくうちに、「目で見たものをそのまま描くのではなく、心で感じ取った通りに表現したい」と考えるようになり、父や学校から教わった写実的な絵の描き方を脱却して、他のスタイルを模索するようになりました。そんな挑戦の中で彼が行き着いたものの1つが、キュビズムだったわけです。

ピカソがキュビズムに目覚め、その最初の作品として「アビニョンの娘たち」を描いたとき、一部の画家や画商は「ピカソが革命的なことをやろうとしている」と気付いたそうです。それは、ピカソが基本となる写実的な絵の世界でしっかりと研鑽(けんさん)を積み、実績を残してきたからではないでしょうか。彼が何の下積みもなく、いきなりキュビズムの絵を描いていたら、誰からも見向きもされず、「落書き」と一蹴されて終わっていたかもしれません。

私たちも自社の商品やサービスについて、常に「新しいアイデア」を探していますが、何の下積みもなく、単に奇抜なことをやっても周りはなかなか認めてくれません。基本となる確かな知識や技術があるからこそ、地に足の着いたアイデアが生まれますし、アイデアを誰かにプレゼンするときも「これまで基本に忠実だった人が、新しい挑戦をしようとしている。面白そうだから話を聞いてみようかな」と、前向きに受け取ってもらえるように思えます。王道をしっかりと歩んだ先に、初めて新しい道が見えてくるのです。

以上(2023年11月)

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画像:Mariko Mitsuda

初めて事業計画を策定する会社が知っておきたいこと

書いてあること

  • 主な読者:事業計画は自分の頭の中にあるから大丈夫だと勘違いしている社長
  • 課題:社長の頭の中は社員には分からないし、経営者も全ての数字を覚えられない
  • 解決策:事業計画の基本となる「利益計画」と「販売計画」の策定から始める

1 独り善がりな社長は危険です

「事業計画は自分の頭の中にあるから、わざわざ作らなくてもいい」、つまり

自分には目指すべき姿(規模)があり、経営環境の変化に応じて、軌道修正をしながら経営のかじ取りをしているから大丈夫

という社長は多いですが、そのままでは危険です。

例えば、社長が当然のように行う経営判断で方針転換がなされたとしても、その理由や効果が社員に示されていなければ、社員は「いつもの朝令暮改。もう付き合いきれない」とうんざりしてしまうかもしれません。

また、社長はさまざまな会社の数字を覚えていて、状況に応じてそれを増やそう、減らそうと考えています。しかし、その数字や想定する変化が社員に示されていないと、社員は会社の成長や業務効率化の成果を実感できません。

最初から事業計画を作り込むのが難しい場合は、まず「利益計画・販売計画」に絞って策定してみましょう。そのためのポイントを紹介します。

2 利益計画策定のポイント

1)利益計画とは

利益計画は計画年度の予測損益計算書です。ゴールとなる利益計画を検討し、現状とのギャップを埋めるための課題を明らかにします。例えば、当期純利益を前年度比20%増にするというゴールを設定したら、そのために、どの商品の販売を強化すべきなのか(販売計画)といった検討課題が明確になります。

2)損益計算書のフォーマットで、科目は細分化する

利益計画は計画年度中の実績管理に使われるので、フォーマットは損益計算書に合わせます。ただし、損益計算書と同じ科目では大まか過ぎるので、もっと細分化します。細分化の基準は、経理が使用している勘定科目や補助科目です。

さらに、年度単位の金額を月次で細分化します。支店(店舗)や部門が複数ある場合は、「支店(店舗)別・部門別」でも細分化するとよいでしょう。

3)金額は当期純利益から逆算する

損益計算書は「売上高-費用=利益」という構成ですが、利益計画では「目標利益=達成可能売上高-許容費用」と考えます。つまり、

獲得すべき目標利益を決め、それが確保できる売上高を許容できる費用とともに算出

します。営業利益や経常利益を想定しつつ、最終的に会社に残す(純資産に積み立てる)ことができる当期純利益から検討します。

目標となる当期純利益は、「企業(経営者)の目標額」「過去数年間の実績額」「資金計画(借入金計画、資金調達計画など)」などを勘案して検討します。借入金の返済などを考慮して算出した当期純利益は、おおよそ次の計算式で算出できます。

目標となる当期純利益=

予定借入金返済額+予定配当金額+目標社内留保額-予定減価償却費

目標となる当期純利益を決定したら、法人税などを加えて税引前当期純利益を算出します。次に特別損益を加減して経常利益を算出し、営業外損益を加減して営業利益を算出します。さらに販売費・一般管理費を加えて売上総利益を算出し、最後に売上原価を加えて売上高を算出します。交際接待費など支出額を予測しにくい費用については、ひとまず前年度実績を目安にするとよいでしょう。

3 販売計画策定のポイント

1)販売計画とは

販売計画は、利益計画で策定した売上高や売上総利益などを、顧客別・商品別に展開した計画です。販売計画には、

  • 顧客別販売計画:製造・卸売業など法人顧客との継続取引が中心の企業に向いている
  • 商品別販売計画:小売業など不特定多数の顧客との小口取引が中心の企業に向いている

といった種類があります。

2)ギャップを埋める方策の基本方針

「目標利益を達成する!」という強い思いがあると、販売計画は楽観的なものになりがちですが、冷静になりましょう。仮に目標売上1000万円、しかし現状ではせいぜい600万円といった場合、不足する400万円分を達成するための対策を検討します。

その際は、次のように「確度の高い方策から検討する」のが基本です。

  1. 既存顧客への既存商品の販売額
  2. 既存顧客への新商品の販売額
  3. 新規顧客への既存商品の販売額
  4. 新規顧客への新商品の販売額

これは、過去の販売実績や市場のトレンドなど、企業の持つ経験や知識に基づいて優先順位を付けたものです。そのため、「1.既存顧客への既存商品の販売額」は、最も確度の高い計画が策定できるでしょう。逆に「4.新規顧客への新商品の販売額」は、顧客・商品共に経験や知識がありません。計画の確度は低くなってしまうため、検討するのは最後となります。

4 事業計画を使いこなす

事業計画は策定して終わりではありません。計画年度中、計画と実績との差異を把握し、必要な対策を講じていきます。その前提は月次単位の実績把握と素早い行動です。

まず、月次単位で実績把握ができるように数字の集計フローを確認し、必要な改善をします。経理・会計業務を外部の会計事務所などに委託している場合、月次の実績把握ができるタイミングで集計してもらうように依頼します。必ずしも全ての科目がそろっていなくても大丈夫ですが、大口顧客に対する売上高など重要科目は確実にそろえましょう。

分析の結果、販売戦略を見直す必要が出てくることもあります。迅速に行動に移すために、月次で経営会議を開催し、幹部社員と方針の擦り合わせをしましょう。経営会議の場で初めて数字を確認し、課題を検討するのでは非効率なので、

あらかじめ実績を参加者に配布し、経営者が感じている課題を動画にして共有

すると、議論がスムーズになります。

以上(2023年10月更新)

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画像:photo-ac

飲みニケーション、やっぱお嫌いですか?問題/今どきの若手社員のトリセツ~上司や先輩に贈るストレスマネジメントの処方箋 Vol.13

近年、職場の上司や先輩(いわゆるオトナ世代)は、若手社員の言動を理解できないイライラ、腑に落ちないモヤモヤを抱えつつも、指導の際は「パワハラ」と感じさせないように、気遣いや遠慮が求められるようになりました。
そもそもオトナ世代が若手にストレスを感じる原因は、オトナの考えと、若手の行動とのすれ違いによるものがほとんどです。しかし、若手に対して「けしからん!」と怒ったり、「理解できない!」と嘆いたりしていたことを、冷静に分析するだけでスッキリすることもあります。

本連載は、拙著「イライラ・モヤモヤする 今どきの若手社員のトリセツ」を一部抜粋し再構成してお届けします。

  • オトナ世代が違和感をもつ若手社員の言動を具体的にピックアップ
  • ギャップやストレスの正体を分析
  • 円滑なコミュニケーションや適切な指導法を考察

という3ステップで、指導の妨げとなるストレス解消のヒントを探っていきます。

1 飲みニケーションはもはや要らない?

オトナのイライラ・モヤモヤ
今どきの若者は飲み会嫌いっていうし、ほんと誘いづらい。仕事の相談にだって乗るし、仕事抜きの話だっていいし。交流を図ることで、円滑に仕事が進んでいくことにつながるわけだし。そもそも、昔は上司から「おい今晩行くぞ!」って言われて、無理やり連れて行かれてたもんだ。なんでこんな気を遣わなきゃいけないんだろ。

若者のホンネ
いや、別に全部の飲み会が嫌なわけじゃないです。こっちだって教えてもらいたいこともあるし、相談にも乗ってほしい。でも飲みに行ったら行ったで、だいたい説教じゃないですか。それか自慢話聞かされて、こっちは相槌を打ってるだけ。あと絶対、2軒目行こうってなるし。そうなっちゃうと時間の無駄でしかないっす。

確かに、若者が飲みニケーションを不要だとする風潮は高まっています。さかのぼること4年前の2019年12月、「#忘年会スルー」というハッシュタグがツイッター上に飛び交うなど、コロナ禍の前から、実際に職場の飲み会に参加しないことを公言する若者がちらほらと現れるようになっていました。

2 職場の飲み会に行きたい若者たち

しかし、昨年末に発表されたある調査結果からは、飲みニケーションに関する別の実態が浮かび上がってきました。“飲みニケーションが不要だという声が初めて過半数を超えた”という結果が話題になったのです。
データは、若者だけでなくオトナ世代も飲みニケーションにネガティブであるという事実を示していました。コロナ禍で会食を自粛する生活が長期間続いたことで、アルコールを介したコミュニケーションは激減しました。職場の飲み会を、ある意味で必要悪として受け入れてきたオトナ世代も、なきゃないでいいと気づいたんですね。

一方で、このデータは“飲みニケーションにポジティブな若者世代が4割存在する”ということも語っています。

「うちの会社は、マンツーマンで会社の人と飲みに行くのは禁止されていて。なんかそのルールのせいか、上の人たちが全然誘ってくれないんです。こっちとしては、仕事中だと、時間とって申し訳ないなぁと思って聞きにくいこともあるので、飲み会でいろいろ教えてほしいんですけど」。こう語る若者もいます。院卒で入社した彼は「理系の研究室はめちゃくちゃ上下関係の厳しいパワハラ環境でしたから、少々のことは大丈夫だと思ってるんですが、上司のほうがパワハラに腰が引けてる感じで」と残念そうに続けました。

「仕事に関する情報収集をしたい」「これからのキャリアの参考にしたい」など、飲み会でオトナから吸収するものがあると感じている若者が一定数いるのです。ただ希望する飲み会のカタチとギャップがあるから、ネガティブに映る。これが実態なんでしょう。

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3 良かれと思って発したその言葉が……

つまり、若者にとって、実りのある時間となる飲みニケーションはウエルカム。だから、オトナ世代が遠慮しすぎる必要はありません。飲みニケーションが、「社内外を問わず親交を深める機会として有意義な場」として機能するとしたら、新人も含め職場の若手を飲みに誘っていいのです。

とはいえ、飲み会でのNGポイントがあるというのは知っておかないと、オトナ世代(特に上司)としては失格です。むりやりお酒をすすめる、お酌を強要する、といったパワハラ系のコミュニケーションや、異性の若手に対してプライベートに踏み込みすぎるセクハラ系のコミュニケーションが論外だというのは、説明するまでもないでしょう。

問題は、良かれと思って発した言葉が逆に仇となってしまうヤツです。人生の先輩としての気遣いや真っ当なアドバイスをしたはずなのに、結果として若者のヤル気を打ち砕くことになるというのは残念すぎます。

4 イライラ・モヤモヤ解消法

オトナ世代が、健全に若手と飲む作法を学ぶこと。言ってみれば「飲みニケーション2.0」のスキルを習得すること。これが、若手との飲みにおけるイライラ・モヤモヤを解消することにもつながります。
そういった観点からも、せっかく盛り上がっていたのに、その言葉をかけた瞬間、彼らの心が離れていくだろう「ありがちなNGワード」について知っておくべきなのです。

NGワード「今日は堅苦しい仕事の話はナシ!」
いやいや、しましょうよ、仕事の話を。若手の緊張を解きほぐして素を出しやすくしてあげたいし、関係性をつくるためにも仕事の話抜きで楽しく語りあおう。こうした気遣いはものの見事に空振りしています。若者の飲みニケーションの目的を分かっていません。
若者は貴重な時間を割いて飲み会に来ているわけです。先輩から教えを乞う、仕事の分からないところを聞くのが参加の主目的。ただただ仲良くなるための会話しかないと、若者には時間の無駄でしかありません。

NGワード「オレの若い頃は、●●したものだ!」
教えを乞いたい若者たちではありますから、会社の先輩からいろいろ教えてもらえるのはありがたい。しかし度を超すのは危険です。
今の若者たちは表面的な協調性に長けているので、オトナの話が響いた風のリアクションをします。多少酔いが回ると、そういう相槌に気持ち良くなっちゃって、スイッチが入ってしまう。ついつい気が緩んで「俺が若いころはとにかくガンガンやってハチャメチャだったもんだ」などと暴走してしまいがちです。
若者へのアドバイスだったはずが、次第に武勇伝全開に……。もうそうなったら最後、若者は耳をパタンと閉じてしまいます。心はもはや幽体離脱して、その場にはいません。死んだ目で、オートマチックに相槌を打ち、オートマチックにお酌をするのみです。

NGワード「世の中そんな甘いもんじゃない」
新人が、なぜウチの会社を選んでくれたのか。この「どうなりたい?」「やりたいことは?」という問いかけは、若者との関係性を築くのにも、仕事の話につなげていくにも便利な話題です。で、新人はとりあえず面接で語った志望動機なんかを述べたりするでしょう。問題はここから。こうした新人の思いをオトナ世代は一刀両断しがちです。
往々にして会社説明会や採用面接なんかでは、自社の次世代事業戦略など魅力的なことが語られます。そうしたフレーズが刷り込まれた新人のトークは、現場を預かるオトナ世代には夢見がちで青臭く感じられます。
そこでつい発してしまうのが「世の中そんな甘いもんじゃない」という禁断のフレーズ。ストレートに若者のヤル気を打ち砕きます。今までキラキラしていた若者の目からは光が失われ、間違いなくアナタの名前は飲みに行きたくないリストに書き込まれるはず。

最後に、若手との飲みニケーションを円滑にする簡単な方法をお伝えしましょう。それは、自分にとって煙たい存在の上司や先輩と飲みに行ってみることです。その飲み会でかけられる言葉が、「あーこういうのがNGなんだ」と、必ず気づかせてくれます。反面教師が、あなたの飲みニケーションスキルを磨いてくれるでしょう。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年11月16日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

経営者の63%がペーパーレス化に苦戦。この書類、データでも保存できる?できない?

書いてあること

  • 主な読者:業務効率化の一環としてペーパーレス化を図りたい経営者や実務担当者
  • 課題:データ保存が法令で認められる書類/認められない書類が、よく分からない
  • 解決策:多くはデータ保存が可能だが、紙で保存しなければならない書類、データ保存の仕方に注意が必要な書類があるので、いくつかのカテゴリーに分けて確認する

1 その書類、勝手にペーパーレス化して大丈夫?

DX(デジタル・トランスフォーメーション)の進行やリモートワークの浸透などを背景に、紙からデータへの動きが本格化しています。SDGsの目標15「陸の豊かさも守ろう」の面でも、紙の消費量を減らすペーパーレス化は、大いに注目されています。

一方、法令に関わる書類を勝手にペーパーレス化していいのか判断できない場合もあります。例えば、会社法に基づく「取締役会議事録」、労働基準法に基づく「就業規則」、各種税法に基づく「国税関係帳簿・書類」などはデータで保存しても大丈夫なのでしょうか?

答えは、

ほとんどの書類はデータ保存が認められているが、一部は紙で保存しなければならない書類、データ保存の仕方に注意が必要な書類がある

です。

この記事では、会社の主な書類を「法務・労務関係」「会計・税務関係」に区分し、「データ保存が可能か」「データ保存する場合の注意点は何か」を書類ごとに解説していきます。

また、第4章では、経営者267人に現在のペーパーレス化の状況について聞いたアンケート結果も紹介しています。

  • 63.0%の経営者が「自社のペーパーレス化は不十分」と認識している
  • 経営者の多くが「領収書」「契約書」「請求書」などをペーパーレス化したい一方で、現実的には難しいと考えている

など、興味深いデータが取れましたので、詳細を知りたい人はぜひご確認ください。

2 法務・労務関係書類でデータ保存できるものは?

1)契約書

契約書は、原則としてデータ保存ができます。ただし、公正証書によらなければならないもの(事業用定期借地契約、事業に係る債務の根保証契約を締結する場合の保証意思表明など)は、書面(紙)で保存しなければなりません。

なお、電子契約書ソフトなどを使って電子署名をすると、オンラインで契約を締結しつつ、契約者双方が合意した証拠を残せるので便利です。

2)取締役会議事録

取締役会議事録は、データ保存ができます。ただし、取締役会議事録には、出席した取締役と監査役の署名または記名押印が必須なので、オンラインだけで手続きを完結させたい場合は電子署名で対応します。ひとまずデータ保存だけできればよいという場合は、書面で作成した取締役会議事録をスキャナ保存するとよいでしょう。

3)稟議書

稟議書は、データ保存ができます。

4)就業規則

就業規則は、データ保存ができます。

なお、就業規則は社員に周知しないと効力が発生しませんが、常に社員が確認できるのであれば、社内イントラネットにPDFをアップするなど、オンラインで掲示しても大丈夫です。

また、就業規則を作成したり変更したりする際は、所轄労働基準監督署への届け出が必要ですが、この手続きは「電子政府の総合窓口(e-Gov)」から電子申請(データ)で行えます。ただし、事前に電子証明書か、GビズID(1つのIDでさまざまな行政サービスにアクセスできるサービス)のID・パスワードを取得する必要があります。

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

■GビズID■

https://gbiz-id.go.jp/top/

5)労働条件通知書

労働条件通知書は、データ保存ができます。

なお、これから新たに雇用する社員に労働条件通知書を交付する場合、次の事項は、書面で明示する必要があります。ただし、社員が希望した場合、電子メールなどを用いてデータで明示しても大丈夫です。

  • 労働契約の期間
  • 有期契約の更新基準
  • 就業場所・従事すべき業務
  • 労働時間
  • 賃金、退職(解雇事由を含む)

6)出勤簿、労働者名簿、賃金台帳

出勤簿、労働者名簿、賃金台帳は、データ保存ができます。

7)早出・残業・休日出勤、休暇・休業の申出書

早出・残業・休日出勤、休暇・休業の申出書は、データ保存ができます。

8)健康診断結果

健康診断結果(安全衛生法に基づく健康診断)は、データ保存ができます。なお、健康診断結果は、健康診断の種類(雇入時健康診断、定期健康診断など)によって様式が異なるので、データ保存の際は各様式の項目とデータの項目が一致しているかを確認しましょう。

9)社会労働保険関連書類

社会労働保険関連書類は、原則としてデータ保存ができます。ただし、社員の退職時に交付する離職票は、通常は紙ですが、e-Gov経由で電子申請をした場合、所轄ハローワークからPDFで発行されます。これを原本として扱い、そのまま退職者本人にメールなどで送付することができます。ただし、失業等給付の手続きをする場合、紙で印刷されたものが必要になります。

3 会計・税務関係書類でデータ保存できるものは?

1)国税関係帳簿・書類

「電子帳簿保存法」が2022年1月1日に改正され、国税関係帳簿の電子データ保存と国税関係書類のスキャナ保存は、任意で実施できるようになっています。

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2)給与明細

給与明細は、データ保存ができます。社員に交付する際も、PDF形式の給与明細をメールで送ることなどが可能です。

3)年末調整書類

年末調整書類は、データ保存ができます。書面(ハガキなど)で添付していた保険料控除証明書なども、データで提出することができます。

ただし、年末調整手続の電子化に対応するためには、

  • 会社側:給与システム改修など
  • 従業員側:専用ソフトのインストールやアカウント作成など

といった準備が必要です。

4)経費精算申請書

経費精算申請書は、電子ワークフロー(社内における申請・承認などが全て電子上で行われるシステム)によって経費精算を承認している場合、データ保存ができます。

5)税務申告書

税務申告書は、データ保存ができます。最近は電子申告が主流となりましたので、申告時のデータを保存しておくとよいでしょう。

6)仮払金申請書

仮払金申請書は、電子ワークフローによって仮払金を承認している場合、データ保存ができます。

4 【経営者アンケートの結果】ペーパーレス化の状況は?

最後に、経営者267人に対して実施した「ペーパーレス化の状況」に関するアンケート結果を紹介します(実施期間は2023年8月25日から8月31日まで)。

1)ペーパーレス化の実施状況

2023年8月現在、ペーパーレス化がどの程度進んでいるのかを聞いた結果が図表2です。

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「紙の書類のやり取りはほぼなく、ペーパーレス化が完了している」と回答した割合は、6.4%と少数です。一方で「紙の書類のやり取りが多く、ペーパーレス化したとは言えない状況」(47.6%)と、「紙の書類によるやり取りしかなく、ペーパーレス化は実施していない」(15.4%)を合わせると、63.0%の経営者がペーパーレス化は不十分と認識していることが分かります。

2)経営者のペーパーレス化への意向と実態

「ペーパーレス化したい、または実際にペーパーレス化した書類」と「ペーパーレス化したいが、現実的には難しいと考える書類」を聞いた結果が図表3です。なお、数値は「ペーパーレス化したい、または実際にペーパーレス化した書類」の割合の降順で表示しています。

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ペーパーレス化したい、または実際にペーパーレス化した書類は「見積書」の割合(37.4%)が最も高く、さらに「請求書」(36.2%)、「注文書(受注書)」(33.5%)と続きます。一方、ペーパーレス化したいが、現実的には難しいと考える書類は「領収書」(27.8%)の割合が最も高く、さらに「契約書」(25.6%)、「請求書」(22.2%)と続きます。

経営者の多くが「領収書」「契約書」「請求書」などをペーパーレス化したい一方で、現実的には難しいと考えているのは、主に取引先などの都合が影響していると考えられます。

取引先ごとに紙かデータを使い分けて運用しなければならず、なかなかペーパーレス化に踏み切れないという企業は少なくありません。その場合、まずは社内用途に限る給与明細や出勤簿、各種申出書などから段階的にペーパーレス化に着手してみましょう。

また、取引先が発行した紙の請求書などは、一定の場合にスキャナ保存が認められています。紙を管理することによる手間や負担を軽減するためにも、受領した紙の書類をそのまま管理せず、社内ではデータによる管理・運用を進めていくようにするのがよいでしょう。

以上(2023年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ 社会保険労務士 中村洋詞)

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画像:Sergey Nivens-shutterstock

2024年は辰年~干支のエトセトラ(辰編)

書いてあること

  • 主な読者:辰年にちなんだ話題や、スピーチ例などを探しているビジネスパーソン
  • 課題:辰年に関連する話題を調べたり、スピーチを考えたりする時間がない
  • 解決策:過去の辰年に起きた出来事、辰年にちなんだスピーチ例を参考にする

1 辰(たつ)に関する話

1)辰年に起きた出来事

2024年の干支(えと)は「辰(たつ)」です。前回の辰年は、2012年(平成24年)の壬辰(みずのえたつ)でした。2012年は東京スカイツリーが竣工し、東京の新たな観光スポットが誕生した年です。東京スカイツリーを見るために東京へ出向いた人もいるのではないでしょうか。また、京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥氏が、ノーベル生理学・医学賞を受賞したことで注目を集めた年でもあります。

過去5回の辰年に起きた主な出来事や流行語は次の通りです。

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2)辰年生まれの有名人

辰年生まれの日本の有名人には、次のような人がいます(既に亡くなられた方も含みます)。

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3)たつの話

辰は「竜(龍、りゅう)」の意味に転じ、奮い立つエネルギーの象徴として吉祥を表すとされる、十二支中唯一の架空の動物です。

1972年に美しい壁画が発見されて有名になった高松塚古墳では、東に青竜、西に白虎、北に玄武が描かれていました。南に描かれていたと考えられる朱雀と合わせ、これらは中国古代からの四神であり、このうちの東の青竜が辰(竜)に当たります。古くから中国や日本などでは竜は神格視され、特に中国では、竜は皇帝のシンボルであり皇帝の衣服などに描かれました。

この他、インドでは、竜はヘビを神格化した半蛇半神として扱われています。竜は雲を呼び、雨を降らせる力があるとされ、雨によって五穀豊穣をもたらすものとして信仰されています。一方、ヨーロッパで竜はドラゴン(Dragon)と呼ばれ、神話では悪の化身のような存在です。その役回りは英雄や神々に征伐されるものがほとんどとなっています。ヨーロッパ圏とアジア圏で正反対の扱いを受けているのは興味深いところです。

竜(龍)という言葉は、私たちの日常生活上、さまざまな場所で見られます。例えば「竜巻」です。竜巻は地表と天を結ぶようにみえることから「竜の昇天」をイメージした言葉です。圧倒的な力を見せつける天災に対する畏敬の念を「竜」という言葉を使って表したのかもしれません。また、ペットボトル飲料などで親しまれている「烏龍(ウーロン)茶」は「烏竜」の中国音です。茶葉の仕上がりの色が烏のように黒く、その形が竜の爪のように曲がっているところからこの名前が付けられたという説があります。

「竜」の付く言葉では、「竜頭蛇尾」「画竜点睛」「登竜門」など、中国の故事に由来するものがよく知られています。例えば「登竜門」です。登竜門の「竜門」とは、中国の黄河にある急流で、ここを登った鯉は竜になるといわれたことから、各種試験やコンクールなど、困難ではあるが、そこを突破すれば立身出世ができる関門の例えとして使われます。日本でいうと、「独眼竜」で知られる陸奥守、伊達政宗がいます。独眼竜は政宗の異名であり、その「竜」という名は、戦国乱世を持ち前の器量でわたりきった隻眼の英雄に対する尊敬の念を表しているのです。

この他、国内には竜(龍)の名を使った地名が多くあります。例えば池や湖などの名前です。主なものとしては次のようなものがあります。天竜沼(北海道)、龍巻池(秋田県)、北竜湖(長野県)、竜晶池(富山県)、龍王池(岡山県)、蟠竜湖(島根県)、竜満池(香川県)。多くの池が「王」「神」といった神秘的な存在と竜を組み合わせていて、竜(龍)は「偉大」「神秘的」などというキーワードと結び付けられることが多いと分かります。

2 辰(たつ)にちなんだスピーチ事例

1)スピーチ事例1

今年の干支は「辰」です。辰は竜と同じ生物として考えられることもあり、その竜に関することわざに「竜は一寸にして昇天の気あり」というものがあります。竜の子はわずか一寸ほどの大きさの頃から昇天しようとする気概がある、つまり「優れた人物は、幼い頃から、何かを成し遂げたいという強い気持ちを持っている」という意味です。

このように言うと、皆さんの中には「自分には夢や目標がない。だからこのことわざは自分には無縁だ」と考える人がいるかもしれません。ですが、本当にそうでしょうか。皆さんは入社したとき、この会社で成し遂げたいことを、目を輝かせながら私に語ってくれました。そして、私はそんな皆さんの目に可能性を感じたからこそ、皆さんを会社に迎えました。

皆さんは夢や目標がないというわけではなく、仕事に慣れていく中で、入社したときに持っていた感情を忘れつつあるだけなのではないでしょうか。私の中では、皆さんは今でも何かを成し遂げる可能性を持った「竜の子」なのです。

皆さん、ぜひとも初心に立ち返り、自分がやりたいことにもう一度向き合ってください。そして、初心に立ち返ったら、後は夢や目標に向かって、行けるところまでまい進してみてください。「登り竜」という言葉があるように、竜は上に向かって登り続ける存在、落ちてくるイメージはありません。

今年は、私たちにとってきっと飛躍の年となります。大変なことも多くあると思いますが、一致団結し、竜が天に向かって登る勢いで躍進しましょう。

2)スピーチ事例2

「辰」という文字には、理想に向かって粘り強く努力し、困難と闘いながら人生を進んでいくという意味があります。辰は竜と同じ生物として考えられることもあり、竜を使った言葉に「登竜門」というものがあります。普段の生活でも、「この賞は作家の登竜門」「この番組は俳優の登竜門」といった言い回しをよく耳にしますね。

このように言うと、登竜門という言葉にどこか華やかなイメージを抱くかもしれませんが、ただ華やかなだけではありません。そもそも登竜門の「竜門」とは、中国の黄河にある急流のことです。ここを登った鯉は竜になるといわれたことから、突破すれば立身出世ができる関門の例えとして使われるわけですが、急流を突破できる鯉は一握り、生半可な道ではありません。

私たちの会社はまだ小さく、業界でも無名です。しかも、世の中は、ますます変化の激しい時代を迎えています。登竜門の語源になぞらえるなら、私たちの会社は鯉であり、まさにこれから黄河の急流を登っていこうとしている状況です。

そんな時代を生き抜く上で、私たちを支えるのは「仕事・事業を通じてこんなことを成し遂げたい」という強い意思です。一人ひとり目指すものは違っても構いません。ですが、常に前を向いて前進し続けることが大切です。

急流を登り切った者にのみ、竜になる権利が与えられます。この業界の竜になるためにみんなで今年を乗り切りましょう。

3 干支の起源・豆知識

1)干支の起源

ところで、「干支とは何か?」と聞かれたら、どう答えますか? 一般的に、干支とは、辰(たつ)年や申(さる)年など、12種類の動物を、年ごとに当てはめたものと認識されています。しかし、実は干支(えと=かんし)とは、古代中国に起源を持つ、年月日や時刻、方位などを表す呼称で、10種類の「干(え)」と12種類の「支(と)」を組み合わせた60通りがあるのです。本章では、意外と知られていない干支の起源についてご紹介します。

干支の「干(え)」は10種類あり、十干(じっかん)といいます。

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これに陰陽五行思想を結び付けて、それぞれ陽を意味する兄(え)、陰を意味する弟(と)を当てて、次のようにも読みます。

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一方、干支の「支(と)」は古代中国の天文学で、木星の位置を示すために天を十二分した呼称を起源にしており、十二支といいます。

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さらに、十二支を動物に当てはめて、次のように呼ばれるようになったのです。

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中国では、古く殷(いん)の時代(紀元前16世紀~紀元前11世紀頃)から、この十干十二支の組み合わせで年月日が数えられたといいます。これが干支の起源です。

2)干支と十二支

現在の日本では、干支は十二支を指すように使われていますが、このように、厳密には干支と十二支とは異なります。本来の干支(十干十二支)の組み合わせは全部で60通りあり、日本で使われている12通りの十二支とは違うのです。干支は年月日や時刻に当てられますが、日本では一般的に年に当てられて使われています。満60歳を還暦(かんれき、もしくは生まれ年の干支を「本卦(ほんけ)」と呼ぶことから本卦還(がえ)りともいう)というのは、干支が1周して生まれ年の干支に還(かえ)るところからきています。

また、「丙午(ひのえうま)」という言葉を耳にしたことがある人も多いはずです。この呼び方も干支からきています。

ちなみに、2024年の干支は甲辰(きのえたつ)、2025年の干支は乙巳(きのとみ)です。自分の生まれ年の干支が何かを、下表で確認してみましょう。

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3)干支が表す歴史年代

干支は年月日などの時間を表す呼称として、古くから使われており、具体的な年がすぐ分かるため、歴史上の事件の呼称としても多く用いられています。

有名な例としては以下のようなものがあります。

  • 672年  みずのえさる 壬申(じんしん)の乱
  • 1592年 みずのえたつ 壬辰(じんしん)倭乱(わらん)(注)
  • 1868年 つちのえたつ 戊辰(ぼしん)戦争
  • 1911年 かのとい   辛亥(しんがい)革命

(注)日本でいう「文禄(ぶんろく)の役」です。

ちなみに、阪神甲子園球場は、「甲子(きのえね)」年の1924年に完成したことから名付けられています。

以上(2023年11月)

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