災害時に使える“税の特例”。損金算入できるのは?

書いてあること

  • 主な読者:地震や台風などの自然災害の被害を受けた企業の経営者、税務担当者
  • 課題:自然災害により生じた損失や費用の取り扱いなどの税金に関する特例措置を知りたい
  • 解決策:被災により滅失・損失した資産や、撤去などに要した費用などは損金に算入できる

1 災害が起きる前に、できることをざっくり把握

地震や台風などの災害によって社屋が損傷・倒壊などの被害を受けると、想定外の修繕費や、被災者に対する見舞金など、災害時特有の費用が発生します。これらの費用には、通常時とは違って損金(税務上の費用)の額に算入できるケースがあります。ただし、災害直後の優先順位として、税務周りの対応はそれほど高くはなく、後回しになってしまいます。もし、

特例を知らずにいつも通りの処理をしていたり、申告をしなかったりすると、受けられる特例措置などを受けずじまいになることも

あります。

受けられる特例の取りこぼしがないよう、事前に税務上の取り扱い(損金にできる費用や申告・納期限の延長など)をざっくり把握しておきましょう。

2 「法人と個人で共通」する災害時における税務上の取り扱い

1)災害により滅失・損壊した資産など

法人の有する商品、店舗、事務所などの資産が災害により被害を受けたことに伴い、次のような損失または費用が生じたときは、その損失または費用の額は損金に算入されます。

  1. 商品や原材料などの棚卸資産、店舗や事務所等の固定資産などの資産が災害により滅失又は損壊した場合の損失の額
  2. 損壊した資産の取壊し又は除去のための費用の額
  3. 土砂その他の障害物の除去のための費用の額

2)復旧のために支出する費用

法人が、災害により被害を受けた固定資産(以下「被災資産」)について、支出する費用に係る資本的支出と修繕費との区分については、次の通りとなります。資本的支出とは、原状回復を超えて資産価値を高めるための支出などをいいます。資本的支出に該当する支出は、資産として計上し、減価償却を通じて損金に算入します。一方、修繕費はその支出の額が損金に算入できます。

  1. 被災資産について、その原状を回復するための費用は修繕費となります。
  2. 被災資産の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水または土砂崩れの防止などのために支出する費用について、修繕費とする経理をしているときは、この処理が認められます。
  3. 被災資産について支出する費用(1または2に該当するものを除きます。)の額のうち、資本的支出か修繕費か明らかでないものがある場合、その金額の30%相当額を修繕費とし、残額を資本的支出とする経理をしているときは、この処理が認められます。

3)従業員などに支給する災害見舞金品

法人が災害により被害を受けた従業員や親族などに対して、一定の基準に従って支給する災害見舞金品は、福利厚生費として損金に算入されます。また、法人が自己の従業員などと同等の事情にある専属下請先の従業員などまたはその親族などに対して、一定の基準に従って支給する災害見舞金品についても、同様に損金に算入されます。事業を営む個人においても同様に取り扱われます。

4)災害見舞金に充てるために同業団体などへ拠出する分担金など

法人が、所属する同業団体などの構成員の有する事業用資産について災害により損失が生じた場合に、その損失の補填を目的とする構成員相互の扶助などに係る規約などに基づき、合理的な基準に従って同業団体などから賦課され、拠出する分担金などは、その支出する事業年度の損金に算入されます。

5)申告・納付期限について

1.個別指定による期限延長

納税地を管轄する税務署長に対し、災害等のやんだ日から相当の期間内に「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出した場合には、その承認を受けることにより、税務署長等が指定した日(災害等のやんだ日から2カ月以内)まで申告・納付などの期限が延長されます。

災害等のやんだ日とは、申請者に特別な事情がある場合を除いて、客観的に見て、申告・納付などの期限延長の申請をした人が、申告・納付などの行為をするのに差し支えないと認められる程度の状態に復した日となります。例えば、交通の途絶があった場合には、交通機関が運行を始めた日などが災害等のやんだ日になります。

2.地域指定による期限延長

2011年3月11日に発生した東日本大震災のときには、地域を定めて申告・納付期限を延長する対応が取られました。例えば、福島県の一部の地域については、申告・納付期限が2011年3月11日以降に到来するものが、2015年3月31日まで延長されました。

2024年1月1日に発生した能登半島地震についても、富山県、石川県の申告・納付期限を延長する対応が取られ、例えば、富山県、石川県のうち、石川県七尾市、輪島市、珠洲市、羽咋群志賀町、鳳珠群穴水町・能登町を除いた地域については、申告・納付期限が2024年1月1日から同年7月30日までに到来するものが、2024年7月31日まで延長されました。

なお、地域指定された地域に納税地がある個人または法人については、特段の手続きを経ることなく、自動的に申告・納付の期限が延長されます。

また、申告・納付期限延長措置の終了に関しては、各地域の復興などの状況を踏まえ、順次、国税庁のウェブサイトなどで告示されます。そのため、地域指定に関する情報は定期的に確認するようにしましょう。

3.顧問税理士が被災した場合

顧問税理士が被災した場合には、税理士自身が事務所に入れないことや、避難所に避難していることがあります。このような場合には期限までに申告ができないことが想定されますので、上記1の「災害による申告、納付等の期限延長申請書」に必要事項を記載し、納税地を管轄する税務署長に提出し、その承認を受けることにより、税務署長等が指定した日(災害等のやんだ日から2カ月以内)まで期限が延長されます。

6)延滞税・利子税・加算税

災害等により国税の納期限が延長された場合には、その延長された期間については、その国税に係る延滞税および利子税は課されません。

また、申告・納付などが適正に行われない場合に課される加算税については、認められた延長期限内に申告を行えば課されません。なお、加算税とは、申告・納付が遅れた場合に、通常の納付額に加算して課される罰金的な性格を有する税のことをいいます。例えば、期限後に申告が行われた場合に課される無申告加算税や、源泉徴収税額が期限後に納付された場合に課される不納付加算税などがあります。

2 「法人」に対する災害時の主な税務上の取り扱いについて

1)取引先に対する災害見舞金など

法人が、その得意先などの慶弔、禍福に際して支出する費用は、慰安、贈答その他これらに類する行為として、交際費として取り扱われ、一定の金額以上については損金に算入することができません。ただし、被災前の取引関係の維持・回復を目的として、取引先の復旧過程においてその取引先に対して行った災害見舞金の支出、事業用資産の供与などのために要した費用は、交際費などに該当しないものとして全額損金に算入されます。

2)取引先に対する売掛金などの免除など

法人が、その得意先などの債権を合理的な理由がなく免除した場合には、原則として得意先などに対して寄付金を支出したものとして取り扱うことになり、一定の金額以上については損金に算入することができません。ただし、災害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援を目的として売掛金、貸付金などの債権を免除する場合には、その免除することによる損失は、寄付金または交際費等以外の費用として、全額損金に算入されます。また、既契約のリース料、貸付利息、割賦代金の減免を行う場合および災害発生後の取引につき従前の取引条件を変更する場合も、同様に取り扱われます。

3)取引先に対する低利または無利息による融資

法人が、災害を受けた取引先の復旧過程において、復旧支援を目的として低利または無利息による融資を行った場合における、通常収受すべき利息と実際に収受している利息との差額は、寄付金に該当しないものとされます。

取引先の復旧過程における復旧支援を目的として行われる融資は、取引先の復旧支援をすることにより、自らが被る損失を回避するためのものとして一定の経済合理性を有すると考えられるため、寄付金に該当しないものとされます。

4)自社製品などの被災者に対する提供

法人が、不特定または多数の被災者を救援するために緊急に行う自社製品などの提供に要する費用は、寄付金または交際費などに該当しないもの(広告宣伝費に準ずるもの)として損金に算入されます。災害という緊急性のある中において、倫理的・社会的要請により自社製品の提供が行われることが考えられますが、これは、国が被災者を支援することと同様の側面があり、また、広告宣伝費に準ずる性質を有するとも考えられるため、寄付金に該当しないものとされます。

5)災害による損失金の繰越し

法人の各事業年度開始の日前10年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額のうち、棚卸資産、固定資産などについて、災害により生じた損失に係るもの(以下「災害損失欠損金額」)がある場合には、その事業年度が青色申告書を提出しなかった事業年度であっても、その災害損失欠損金額に相当する金額は、その各事業年度において損金に算入されます。

なお、2018年4月1日前に開始する事業年度において生じた災害損失欠損金額の繰越期間は9年となります。

6)災害損失の繰戻しによる法人税額及び地方法人税額の還付

災害のあった日から同日以後1年を経過する日までの間に終了する各事業年度又は当該災害のあった日から同日以後6月を経過する日までの間に終了する中間期間(以下「災害欠損事業年度」)において生じた欠損金額のうち、災害損失金額に達するまでの金額(以下「災害損失欠損金額」)がある場合には、その災害欠損事業年度開始の日前1年(青色申告書である場合には前2年)以内に開始した事業年度(「還付所得事業年度」)の法人税額のうち災害損失欠損金額に対応する部分の金額について、還付請求することができます。

また、災害損失の繰戻しによる法人税額の還付が行われる場合には、地方法人税の還付金の額に相当する金額として、法人税の還付金の額の10.3%に相当する金額が合わせて還付されます。

7)義援金を支払った場合

1.県の災害対策本部や義援金配分委員会に対して支払った義援金

「国等に対する寄附金」に該当し、その全額が損金に算入されます。

2.日本赤十字社に対して支払った義援金

法人が、日本赤十字社の「令和6年能登半島地震災害義援金」口座に対して支払った義援金は、「国等に対する寄附金」に該当し、その全額が損金に算入されます。

ただし、日本赤十字社に対して支払った義援金であっても、例えば、日本赤十字社の事業資金としてのものなど、最終的に地方公共団体に拠出されるものでないもの(財務大臣が指定する寄付金に該当しないものに限ります)については、「特定公益増進法人に対する寄附金」に該当し、特別損金算入限度額の範囲内で損金に算入されます。

3 「個人」に対する災害時の主な税務上の取り扱いについて

1)個人が支払いを受ける災害見舞金

個人が支払いを受ける災害見舞金で、その金額がその受贈者の社会的地位や贈与者との関係などに照らし、社会通念上相当と認められるものについては、課税しないものとされています。

2)低利または無利息により生活資金の貸付けを受けた場合の経済的利益

災害により臨時的に多額の生活資金を要することとなった役員または従業員などが、使用者からその資金に充てるために低利または無利息で貸付けを受けた場合に、その返済に要する期間として合理的と認められる期間内に受ける利息相当額の経済的利益は、課税しないとされています。これは、災害を受けた人の担税力を考慮した措置といえます。

3)被災事業用資産の損失の繰越し

事業を営む個人のその年の前年以前3年以内の各年において生じた純損失の金額のうち、棚卸資産、固定資産などについて災害により生じた損失に係るもの(以下「被災事業用資産の損失の金額」)がある場合には、その損失の生じた年に青色申告書を提出していなかった場合であっても、その被災事業用資産の損失の金額に相当する金額は、その年分の総所得金額等の計算上控除することとされています。

4)義援金を支払った場合

1.県の災害対策本部や義援金配分委員会に対して支払った義援金

「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。

2.日本赤十字社に対して支払った義援金

「特定寄附金」に該当し、寄附金控除の対象となります。

以上(2024年9月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:Potstock-Shutterstock

さまざまな法人税対策の考え方をとことん分かりやすく整理する

書いてあること

  • 主な読者:適法で自社に合った法人税対策をしたい経営者
  • 課題:法人税対策といっても、どのような方法があるのか分からない
  • 解決策:法人税対策として「所得の平準化」と「税制上の優遇・制限」を知る

1 2つの性質に分けられる法人税対策

利益が増えると、法人税対策への関心度は高まります。ただ

目先の納税額を少なくすることを考えても、長期的にはあまり意味がないものであったり、無駄に資金の支出を増やしているものであったりする

ことがあります。法人税対策は、

  1. 所得の平準化によるもの
  2. 税制上の優遇・制限によるもの

ごとに大別されます。それぞれ会社の資金に与える影響や効果や性質を考えた上で、自社に合った対策を講じることが大切です。

この記事では、法人税対策の考え方を紹介します。なお、より具体的に法人税対策を検討したい方は、以下のコンテンツをご参照ください。

2 ひと目で分かる多様な法人税対策

法人税対策の概略をまとめると次のようになります。

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1)所得の平準化によるもの

「今年度の税金を少なくする(所得の平準化によるもの)」ということであれば、

  • 費用の前倒し計上(さらに資金の支出を伴うものと、伴わないものに細分化)
  • 収益の繰延処理
  • 資産の評価損の計上

が有効です。これらは今年度の税金を少なくしますが、翌年度以降に反動が出てきます。また、法人税は毎年平均的に所得を計上したほうが、総額の税額は低くなる(詳細は後述)ので、こうした点も考えながら節税対策を検討します。

1.費用の前倒し計上

費用の前倒し計上は資金の支出を伴うものと、伴わないものとに区分されます。

資金の支出を伴うものは、

  • 決算賞与の支給、あるいは未払い計上
  • 消耗品や固定資産を利用した費用の創出

に区分されます。

また、資金の支出を伴わないものは、

  • 優遇税制の利用
  • 未払い計上が可能な費用などの確認

に区分されます。

2.収益の繰延べと資産の評価損

収益の繰延べは今年度に入金があったものの、翌年度以降の収益として計上する繰延処理を行うもので、前受収益の計上と、一定の要件を満たす場合の圧縮記帳(一定の方法により得た収益と同じ金額を取得金額から控除するなどして、課税を繰り延べる制度)とがあります。

また、その他に資産の評価損があります。これは年度末時点で保有している資産の評価損(帳簿価額と時価の差額)を認識するものです。

2)税制上の優遇・制限によるもの

「税金の額を永久に少なくする(税制上の優遇・制限によるもの)」ということであれば、

  1. 税額控除を利用する
  2. 損金性を否認される費用を減らす
  3. 特別課税の適用を受けないようにする
  4. 欠損金繰越控除の期間を有効に活用する

という4つに区分することができます。これらの節税対策は会社に資金の負担を掛けません。一方、前述した資金の支出を伴う法人税対策は、一時的にその期の節税額以上に資金繰りを悪化させるので要注意です。

3 所得の平準化がなぜ法人税対策として効果があるのか

個人の所得税は累進課税(所得が増えるほど税率が大きくなる課税制度)であるため、所得を平準化したほうが税金の総額が少なくなります。一方、法人は一定税率であるため、所得の平準化による節税効果はないと思われがちです。

しかし、法人も資本金が1億円以下であれば、中小法人(資本金の額が5億円以上の大法人の100%子会社を除く)の軽減税率により、2段階の累進課税となっているので、複数年度の所得を累進させる手前の段階でとどめておくことができれば、節税効果が生じます。また、特定同族会社(資本金1億円以下を除く)では、留保金課税が追加発生するので、留保金課税が発生する手前で平準化できれば節税効果が生じます。

4 法人税対策の基本的な進め方

上記で説明した分類に基づいて「法人税対策」を考えた場合、まず行うべきは「税制上の優遇・制限によるもの」です。それらは、適用を受ける、または適用を受けないようにすることで、必ず効果が出ます。

それらを検討して改善の余地がなければ、「所得の平準化によるもの」について考えます。これは、現在手を着けなくても後日にその分の効果が出るものです。後日の節税効果より、現在手を着けたことによる節税効果のほうが大きい場合に検討します。

本稿で紹介したことは当たり前のことともいえますが、これができていないために、払わないで済む余分な税金を払っている場合が多いのです。まず、当たり前のことがきちんとできているかどうかを確かめることから始めましょう。

以上(2024年9月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:pixabay

【法人税対策】決算前に必ず確認したい13の対策

書いてあること

  • 主な読者:自社に合った法人税対策をしたい経営者や担当者
  • 課題:具体的な法人税対策を知りたい。ただし、過度な対策は税務調査で指摘されるため、注意点も知りたい
  • 解決策:自社が利用できる法人税対策の手法を確認し、必要に応じて専門家に相談する

1 2つの性質に分けられる法人税対策

シリーズの「さまざまな法人税対策の考え方をとことん分かりやすく整理する」では、法人税対策を講じる際に知っておきたい考え方を紹介しました。これを知っておかないと、目先の納税額は減っても長期的にはあまり意味がなかったり、無駄な支出をしてしまったりすることがあるからです。

続くこの記事では、具体的な法人税対策について紹介しますので、参考にしてください。

2 決算賞与の支給、あるいは未払計上

翌年度に支給予定の賞与を今年度中に支払うことで、今年度の決算で損金(税務上の費用)にできます。資金繰りなどの都合で決算後でないと支給できない場合は、未払賞与として決算書に計上することで損金にできます。

ただし、未払賞与を計上する場合、

  1. その支給額を従業員ごとにかつ同じ時期に支給を受ける全ての従業員に対して通知すること
  2. 通知をした金額をその通知をした全ての従業員に対し、その通知をした日の属する事業年度終了の日の翌日から1カ月以内に支払うこと

の2つの要件を満たす必要があります。

仮に就業規則などで賞与の支給対象を「支給日に会社に在職している従業員」に限定している場合、未払賞与の全額を否認される恐れがあるので、就業規則などの変更が必要です。一方、決算賞与について就業規則などに定めておらず、支給日に在職していなくとも支給している実績があれば問題ありません。決算賞与の支給実績を示す資料(通知書やメールなど)があれば理想的です。

なお、役員賞与は、「事前確定届出給与」に該当するものを除き、年度末までに支払いをしても損金にはなりません。

3 消耗品や固定資産を利用した費用の創出

翌年度以降に必要になる消耗品や固定資産があれば、今年度の法人税対策として少し早めの購入を検討してみましょう。

消耗品や固定資産であれば、要件次第では、

その年度に全額経費にできたり、通常の減価償却より大きく計上できたりする

からです。

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使用可能期間(実際の使用状況や補充などのサイクル)が1年未満であるものや、取得価額が10万円未満のものは、全額経費で処理することができます。

一括償却制度は、取得価額が20万円未満の固定資産(一括償却資産という)は、通常の減価償却より短い期間(3年間)で償却でき、

1年当たりの減価償却費を大きく計上する

ことが認められています。

少額減価償却資産(中小特例)は、中小企業者等に限り、取得価額30万円未満の固定資産(少額減価償却資産という)を、

取得価額の全額を1年で損金に

できます。なお、少額減価償却資産として取り扱えるのは、1年度でその取得価額の合計額が300万円以内までです。

4 優遇税制の利用

一定の要件を満たしていたり、特定の目的で取得したりした固定資産は、通常の減価償却費に追加して特別償却することが認められ、より多くの償却費を損金にすることができます。自社で適用できるものがあれば検討してみましょう。

例えば、中小企業者等が自然災害への対策強化を目的として設備を取得した場合に適用されるもの(2025年3月31日までに事業継続力強化計画等の認定が必要)などがあります。

5 未払計上が可能な費用などの確認

決算作業時に、年度末後2カ月以内(2025年3月決算であれば、翌年度2025年4月~5月)に支払う費用の一覧を見てみましょう。じっくり検討すると、今年度中にサービスが完了し、今年度の決算で未払計上できる費用があるかもしれません。

また、貸倒引当金を設定できる(貸倒引当金繰入額として損金にできる)のに設定していない金銭債権(売掛金や受取手形など)があることがあります。貸倒引当金が設定できる金銭債権は、相手先の債務超過が継続している場合や、災害の急変などで損害が生じて、債権の回収見込みが薄くなった場合などに計上することができます。なお、資本金1億円以下の中小法人(資本金の額が5億円以上の大法人の100%子会社を除く)以外は、一部の業種(銀行、保険会社など)を除いて廃止されています。

6 収益の繰延処理

前受収益(まだ、サービスを提供していないものの、代金を受け取っている際に計上する収益)がある場合、これを処理することで、

本来当年度に計上すべきではない売上を翌年度以降に計上する

ことになります(結果、当年度の所得を下げる)。あまりなじみがないため、会計担当者が前受処理を忘れていたり、処理に手間が掛かるため前受処理をしていないことがあったりするので、前受処理が可能かどうか再検討してみましょう。

その他、圧縮記帳という、

補助金や保険金などを利用して固定資産を取得した場合などに適用できる課税の繰延(後送りにする)制度

があります。詳細な説明は省略しますが、圧縮記帳とは、一定の方法により得た収益と同じ金額を固定資産の取得金額から控除するなどして、課税を繰り延べる制度です。適用するには一定の条件を満たす必要があります。契約時には圧縮記帳の条件を満たしていても、決算時に適正な処理をしていないなど条件の一部を満たさないと、適用することはできません。圧縮記帳のできる可能性のある契約は、稟議が上がってきた際に、会計や税務担当者と協議するようにしましょう。

7 棚卸資産の評価損の計上

原則として、資産の評価損(期末時点の時価で評価した際の損失)の計上は認められません。ただし、一定の場合は例外です。一定の場合とは、「災害による著しい損傷」と「政令で定める」場合です。ここでは「政令で定める」場合で見落としがちな点を検討します(後述する有価証券、固定資産についても同じ)。

棚卸資産の評価損が計上できるのは、

  • 著しく陳腐化している(物質的な欠陥がないにもかかわらず、経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態にあること)
  • 破損、型崩れ、たなざらし、品質変化などにより、通常の方法によって販売することができないようになったことなど

です。著しく陳腐化しているとは、例えば次のような事象が生じた場合が該当します。

  • いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売できないことが、これまでの実績、その他の事情に照らしても明らかである
  • 当該商品の用途の面ではおおむね同様のものではあるが、型式、性能、品質などが著しく異なる新製品が発表されたことにより、当該商品につき今後通常の方法により販売することができない

8 有価証券の評価損の計上

有価証券の評価損が計上できるのは、

  • 上場有価証券など市場価格のあるものについては、期末時価が帳簿価額のおおむね50%相当額を下回り、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれない場合
  • 市場価格のないものについては、期末1株(1口)当たりの純資産価額が当該株式(出資)取得時のそれと比べて、おおむね50%以上下回ることとなったこと(比較する価額には一定の調整あり)、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれない場合。また、当該株式(出資)を取得して相当の期間を経過した後に、当該発行法人について民事再生法の再生手続き開始決定などの事実が生じた場合や、これらに準ずる事実が生じた場合

です。

9 固定資産の評価損の計上

固定資産の評価損が計上できるのは、

  • 1年以上にわたり遊休状態にある場合
  • 本業の用途に使用することができないため、他の用途に使用された場合
  • 資産の所在する場所の状況が著しく変化した場合
  • 災害による著しい損傷および上記に準ずる特別の事実が生じた場合

です。

10 税額控除の利用

税額控除とは、一定以上の賃上げを行ったり、特定の設備や機器などを購入(一部はリースも可)したりした場合、計算された納税額から直接差し引くことができる税制上の優遇制度です。通常は、

追加的な減価償却を認める方法(特別償却)と税額控除の二者択一

です。特別償却を選択した場合は、所得の平準化による節税効果に限られるので、税額控除のほうが節税対策としては有効なことが多いです。例えば、前年度より一定率以上の賃上げを行った場合に適用ができる賃上げ促進税制などがあります。

税額控除は政策的観点から認められているので、適用対象や条件などは頻繁に変更が行われます。自社に適用可能なものがないか、また、税額控除できるのに、特別償却を選択しているものがないかを検討してみましょう。

11 損金不算入制度の回避

損金にできる役員給与として「定期同額給与」や「事前確定届出給与」などがあります。事前確定届出給与では、役員報酬か役員賞与かにかかわらず、税務署に事前確定届出給与の手続きをして適正に処理されれば、損金にできます。

なお、役員退職金も役員報酬と同様に損金にできますが、どちらも不相当に高額な部分は損金にできません。役員報酬の不相当に高額な部分の算出式はありませんが、役員退職金は算出式(功績倍率法など)があります。功績倍率法では、

退職時の月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率(一般的に2.0~3.0)

の算式で役員退職金の金額を決定します。

近い将来退任が予定されている役員については、想定される退職金額と見合う役員報酬の額を従前の定時株主総会で議決・支給しておきましょう。なかには役員報酬の額が適正な金額よりも低額となっているケースもあります。その場合、十分な役員退職金が出せないこともあり得ます。

12 特別課税制度の回避

特別課税制度の典型的なものは、同族会社の留保金課税制度です。留保金課税とは、

利益のうち配当しない金額に対して法人税を追加的に徴収する仕組み

です。本来、会社は稼いだ利益を配当しようと、内部留保して設備投資しようと自由ですが、同族会社の場合には、留保金課税により、一定の制限が取られています。なぜなら、同族会社の場合、株主と経営者が同一人物であるため、所得税(配当所得に対して課されるもの)の課税を回避することを目的に、配当せず自身が自由に使える(用途の決定権を持つ)内部留保を選択するといったことが比較的容易にできるからです。

この制度は、後日に配当して、個人所得税が課税されても留保金課税分の法人税を返してくれるわけではないので、完全な二重課税となります。留保金課税を受けないに越したことはありません。

留保金課税を受けない最も簡単な方法は、配当することです。配当することによる所得税と、配当しないことによる留保金課税による税額を比べてはいけません。後日に配当しても、配当による所得税は発生するからです。留保金課税を受けている会社は、なぜ留保金課税を受けているのか、なぜ適用停止の条件を満たさないのか、といった理由を再検討するようにしましょう。

なお、留保金課税制度は、資本金1億円以下の中小会社(資本金の額が5億円以上の大法人の100%子会社を除く)と、株主グループによる持株保有割合が50%超(特定同族会社)の会社以外は適用されません。同じく特別課税制度として、いわゆる「土地重課」があります。これは、現在適用停止となっているので、気にする必要はありませんが、条文は現在も残っていることを知っておいてください。

その他、「使途秘匿金の支出があった場合」の特別課税制度というものもあります。使途秘匿金とは、会社がした資金支出のうち、相当の理由がなく、その相手方の氏名などを帳簿書類に記載していないものをいい、

その支出額に対して40%相当の法人税が通常の法人税の他に追加して課税

されてしまいます。

13 欠損金繰越控除の期間制限の有効活用

欠損金(税務上の最終損失)や災害による損失金は、その後10年間に限り繰越すことができます。翌事業年度以降で所得が出た場合、その所得から繰り越した欠損金を控除することができます。なお、2018年4月1日より前に開始する事業年度において生じた欠損金については繰り越せる期間が9年となります。

以上(2024年9月更新)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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画像:Rawpixel.com-Adobe Stock

異動してきたBさんが新しい取り組みを提案するも失敗、どう声をかけますか?/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』【実践編】(3)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:コミュニケーションに関わる知識やノウハウは、頭では理解できても、実際の場面で使いこなせるようになるまでには高いハードルがあるものです。
  • 解決策:前回シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』での知識やノウハウを聞いただけではまだ一歩を踏み出せない、あるいはトライしてみたがうまくいかないという方のために、新シリーズでは【実践編】として社内の“あるある”場面を想定した質問に対して一緒に考えながら、実践イメージを膨らませていただきます。またリーダー側の視点とは別に、若手社員側の視点による上司世代との上手な付き合い方のヒントも紹介していきます。リーダー世代と若手社員とのコミュニケーションギャップを埋めることは、世界を舞台にスピーディな成長をめざす日本企業にとっても喫緊の課題だからです。

1 異動してきたBさんが新しい取り組みを提案するも失敗、どう声をかけますか?

前シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』の実践編としてスタートした今シリーズです。

知識やノウハウは分かったけれど、「現場で実践するにはまだハードルが高い」「うまく一歩を踏み出せない」という方のために、毎回実際にありそうなさまざまなシチュエーションを想定して、どんなコミュニケーションを取るのが望ましいかを一緒に考えていきます。

第2回の事例解説はいかがだったでしょうか。今回は課題[事例2]です。以下に再掲しますので、考えた解答を思い出してみてください。まだ考えていなかったという方もぜひ考えてみてください。解説だけを読んでいても、実行や応用はままなりませんよ。

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Q. Bさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? またそれを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

[事例2]

〇若手社員Bさんが異動してきて3カ月。はりきって新しい業務に取り組んでくれていましたが、ある日のこと、課のミーティングで提案があるというので時間を取ることにしました。内容は部署での従来のやり方を根本から見直す新しいアプローチの提案でした。

〇いきなり聞かされた他のメンバーからは、「今までのやり方が間違っていたとは思わないが……」と後ろ向きな意見が出てきます。上司であるあなたは、新天地でやる気に燃えているBさんからのせっかくの提案だけに、まずは1カ月、一部業務でやってみればいいと受け入れ、他のメンバーにも協力を促しました。しかし、1カ月後に結果は出ませんでした。

〇Bさんはあなたに「メンバーの反対を押し切って受け入れてくれたのに、失敗に終わってすみません」と謝罪。異動したての頃の仕事への意欲をすっかり失っているようです。

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ヒントとしては、[事例1]の解説でお話ししたポイントも思い出しながら、[事例2]の文章を丁寧に読み返してみてください。

2 起こっている事象を整理し、根本的な問題を洗い出す

事例を読んで多くの方が真っ先に気付いたのは「1カ月という設定に無理があったんじゃないの?」といった、目標設定についてかもしれませんね。もちろん、その視点は間違っていないのですが、そこが根本的な問題点でしょうか。

前回も申し上げましたが、ここは実際の現場ではありません。相手の表情や行動を直接“観察する”ことはできないといったデメリットがある一方で、文字情報なのでトレーニングとして何度も読み直してじっくり考えることができるメリットがあります。

前回のポイントの1つ目「相手をよく観察する」、2つ目「起きている問題は何かに立ち戻る」も思い出して、起こっている事象を整理し根本的な問題を洗い出してみましょう。状況を冷静に判断することが肝要という点では、リアルも事例も同じです。

今回のテーマは「異動」です。成長ステージや企業文化によっても頻度や人数は異なるでしょうが、社員の異動、新卒・中途を含めた人材の新たな配属は年に1度くらいは定期的にあるでしょう。では、社員の異動は何のために行われているのでしょうか。

今回のポイントの1つ目は「人事異動の目的に立ち返る」です。人事異動の目的は本来、「異動先のセクションと異動した本人を活かす=“活性化する”こと」ではないですか。

人手が足りない部署ならば人材を追加することで“活性化する”、停滞している部署なら異なる経験を持つ人材を投入することで“活性化する”のです。

もし「この人材はうちではいらないから、外に出してしまおう」といった後ろ向きな理由だけで異動が行われている組織があるとすれば、「じゃあ、何のためにその人を採用したのですか?」「『採用ミスでした』で片付けて、本人が辞めると言うまでたらい回しにするつもりなですか?」と聞きたくなります。

配属してみたものの本人も組織もフィットしないことなど、よくあることと考えましょう。それは失敗ではなく、前向きな異動への一歩なのです。

本人の才能や個性を活かす目的で異動を活用できている組織ならば、人は辞めないどころか、一人ひとりを最大限に活かせて成果にもつなげられていることでしょう。

そう考えれば、異動してきたBさんが部署の仕事を覚えて慣れてきたところで「従来のやり方を見直す提案をしてくれた時点で成果である」といえるのではないですか。これがポイントの2つ目です。

私が上司なら課のミーティングで提案があると言ってきた時点で感謝の気持ちを伝えたいです。もしまだ言ってなかったとしたら、今回の事例である「1カ月で結果を出せませんでした、すみません」とBさんが謝罪してきた時点の最初の一言にしてはどうでしょう。

「Bさん、提案してくれてありがとう。異動してきてくれてありがとう」

感謝の言葉ですが、「褒める」「前向き発想」なコミュニケーションに当たります。

3 「今までのやり方が間違っていたとは思わないが……」ではない

今回の3つ目のポイントは、「業務のやり方は常に見直し続けるべきで、それは全員の仕事である」ということです。

Bさんからの提案は、そのことを改めて気付かせてくれたのではないでしょうか。

人間は同じ組織にいると次第に保守的になっていきます。現状のやり方を否定したり、変えていったりすることは、面倒だしストレスに感じるものです。でも、それでは次々と競合が生まれ、新たな価値とそのスピードが求められる世の中で、変化に対応できず生き残ってはいけません。

「業務のやり方は常に見直し続けるべきで、それは全員の仕事」なのです。Bさんが提案してくれた時点でそのことに気付いていれば、上司としては、他のメンバーからの「今までのやり方が間違っていたとは思わないが……」という後ろ向きな意見に対して、言うべきことがあったはずです。

そろそろ『新たな3つのコミュニケーション習慣』の使いどころも含めて、順に整理していきましょう。Bさんが1カ月後に「結果は出なかった、失敗に終わってすみません」と謝罪してきた時点からです。最初の一言は先ほどの感謝を伝える「褒める」から始めます。

その場はあなたとBさんの1対1でしょうから、一緒にこの1カ月の活動を振り返ることにします。まずは「傾聴」して本人の自己分析をじっくりと聞いてみましょう。くれぐれも

途中で決めつけたり、せかしたり、自分の意見を言ったりしないこと。全ては本人の成長のためです。

「傾聴」が終わり、もし本人が結果を正しく捉えられていなければアドバイスをしましょう。小さな変化の兆しであっても1つの成果です。

次に分析の冒頭で申し上げた「1カ月の目標設定」の妥当性も含めて、Bさん本人が振り返った上でこれからどう取り組んでみたいか聞いてみましょう。もう1カ月、少しやり方を変えて続けてみたいのか。失敗なら失敗で、次からは失敗しない別のやり方を考えて取り組みたいのか。

なるべく本人のアイデアと意思を尊重しながら、上司であるあなたからのアドバイスがあれば、本人の納得いく範囲で取り入れてそれを課のミーティングで共有しましょう。

その際に、メンバーのみんなには最初の提案があった時に伝えるべきだった次のことを「前向き発想」で話しましょう。

「必ずしもこの課の今までのやり方が間違っていたという意味ではなく、もっと良いやり方がないか、全然違うやり方がないかと試行錯誤して新しい価値を生み、生産性を上げていくのがわれわれの仕事です。Bさんだけでなく、課の全員の仕事です。Bさんの提案を応援してほしいし、みんなもどんどん提案してください」

Bさんの提案に対しては、本人に議事を進行させながら他のメンバーからのアドバイスや協力を引き出しましょう。その上で、「私だったら、Bさんとは違うこういう見直しにトライしてみたい」といった新たな提案が出てくればしめたものです。

【今回の3つのポイント】

1 人事異動の目的に立ち返る

2 異動して来た人が現状を変える提案した時点で1つの成果である

3 業務のやり方は常に見直し続けるべきで、それは全員の仕事である

最後に、私から上司の方へのお願いです。「人事異動」を経験したことがある人なら分かると思うのですが、異動者本人にとっては経験のない部署、新たな部署の一員となる時点で不安は小さくありません。

上司は最大の歓迎者でありかつ最大の理解者として、しばらくは意識して本人に寄り添ってあげてください。

それは決してひいきなどではなく、人事異動の本来の目的を達成するために必要なことなのです。

4 チーフのCさんから「若手が仕事をしない」とクレーム、どう声をかけますか?

次回に向けた[事例3]を紹介します。

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Q.部下のベテランCさんに対して、あなたはこの後、最初にどんな声をかけますか? またそれを考える際に注意するべきポイントを3つほど挙げてください。書かれているさまざまな要素を考慮してみましょう。

[事例3]

〇部下でチーフとして若手2人を任せているベテランのCさんから、悲痛な形相で上司のあなたにクレームのような相談がありました。「若手2人に毎日指示を出して仕事をやらせようとしているんですが、反発や口答えばかりして、ちゃんとやらないんですよ。上司から直接注意してください。私にはもう無理です」。

〇実は最近別のチーフから、Cさんのところの若手2人が会社を辞めたがっているようだとのうわさを聞いたばかりです。若手とはいえ大事な戦力、今後への期待も含めて採用した以上、会社としても課としても辞められては困ります。

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ヒントとしては、事例1,2と同様に最初に起こっている事象を整理し、根本的な問題を洗い出してみてください。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。実際の場面では、事例と似たようなシチュエーションであっても全く同じということはないでしょう。今回私がご提示した声かけや注意すべきポイントを参考にしながらも、目の前の状況に合わせてご自身で判断し、実行してみてください。

次回もお楽しみに。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

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※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

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『なぜ社長の話はわかりにくいのか』 https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2024年9月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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産業別にみる外国人雇用の特徴と注意するポイント

令和5年10月末現在、厚生労働省より公表された「外国人雇用状況の届出状況のまとめ」によると、我が国における外国人労働者の数は、2,048,675人(前年比225,950人増)と初めて200万人を超えて過去最高を更新し、今後もさらに増加していくことが見込まれています。そのような中でこの度は、予定されている技能実習制度の廃止と新制度の概要を説明した後、主に現場で働く労働者が多い産業別の外国人雇用の特徴や注意するポイントについてご説明いたします。

1 はじめに ~「技能実習制度」の廃止と新しい制度の制定~

(1)「外国人技能実習制度」の廃止

外国人技能実習制度は、我が国が先進国としての役割を果たしつつ国際社会との調和ある発展を図っていくため、技能、技術又は知識の開発途上国等への移転を図り、開発途上国等の経済発展を担う「人づくり」に協力することを目的として創設されました。

技能、技術等の習得段階によって「技能実習1号」(1年目)、「技能実習2号」(2年目~3年目)、そして「技能実習3号」(4年目~5年目)の区分に分かれて在留資格が存在し、技能実習1号及び2号の期間は原則、技能実習生本人の希望による企業の変更、転籍は認められていません。このことが、昨今の人権に対する世論、関心の高まりにより、諸外国の人権団体などから「強制労働」などと批判されてきました。

また、我が国における生産年齢人口(15歳以上64歳以下の人口)が今後益々減っていく中、また他国との人材獲得競争も激化していく中、現在の制度の実態と「国際協力」を目的としているところに乖離が生じているとの意見も多くあり、昨年11 月まで行われていた「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」での最終報告を基礎に国会にて議論され、先の通常国会にて、技能実習制度の「発展的解消」、言い換えれば「廃止」が決定しました。

(2)新しく制定される「育成就労制度」の概要

育成就労制度は、「育成就労産業分野(特定技能制度と原則同一の分野)において、特定技能1号水準の技能を有する人材を育成するとともに、当該分野における人材を確保することを目的とする。」とされており、「人材確保」と「人材育成」を目的とした制度となります。以下、受け入れ企業に影響がでる代表的な箇所についてご説明します。

まずは、育成就労の期間ですが、これまでの技能実習制度では、企業によって「1年」、「3年」あるいは「5年」と異なっていましたが、これが原則「3年」に統一されます。3年かけて「特定技能1号」の水準となるよう育成することが求められます。

特定技能制度とは、深刻な人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有し、即戦力となる外国人を受け入れる制度で、平成31年に創設されました。特に、国内で充分な人材が確保できない分野を「特定産業分野」と位置づけ、特定産業分野に限って外国人が現場作業等で就労できるようになりました。現在は介護業、建設業、宿泊業、農業、飲食料品製造業、外食業など12の業種です(今後、工業製品製造業、自動車運送業、林業、木材産業、鉄道といった業務区分、分野の追加が予定されています。)。

特定技能には、「特定技能1号」と「特定技能2号」という2種類の在留資格があり、特定技能1号の期間は上限5年間ですが、特定技能2号になると期間の上限なく在留することができるようになり、家族帯同(配偶者と子)も認められることになります。

次に、これまでは「技能実習2号」を良好に修了した場合、特定技能1号に変更するにあたっての「日本語試験」「各業界団体の特定技能試験等」は免除されていましたが、育成就労制度では変更の際に受験が必須になる見込みです。

また、これまでは技能実習制度で前述のとおり、原則3年は本人希望による企業の変更、転籍は認められていませんでしたが、育成就労制度では仕事の内容(分野)によって、早ければ1年、遅くとも2年を超えたら、同一業務区分内において、本人希望による転籍が認められるようになります(当初、有識者会議では全業種1年の転籍制限で検討が進められていましたが、地方への影響等を鑑みて当分の間、このようなかたちとなりました。)。

上記以外にも技能実習制度との相違点はありますが、細かなことはまだ決まっておらず、今後、政省令にて定められることとされており、現在技能実習生を受け入れている企業においては今後も注視していく必要があります。

なお、育成就労制度は「公布日(令和6年6月21日)からから起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」に施行することとされているため、現状では令和9年春頃から開始される見込みとなっております。

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【朝礼】相手によって変わる「配慮」のポイント

おはようございます。今日は「配慮」というテーマで話をします。服装、名刺交換、電話、メール、席次など、私たちは日々、さまざまなマナーを守って仕事をしています。ただ、こうしたマナーは正解がしっかり決まっているようでいて、実は決まっていません。相手が誰かによって、「配慮すべきポイント」が変わり、細かい部分を調整する必要があるからです。

例えば、体などのハンディキャップのことを「しょうがい」と呼ぶことがあります。漢字で書くと「障害」ですが、世間では「害」の部分を平仮名にして「障がい」と表記している書籍やサイトが多く見られます。これは「体などが不自由な人に対し、『害』という文字を当てるのは不適切ではないか」という配慮によるものです。

一方、目が不自由な人が相手の場合、少し事情が変わります。例えば、医療・介護系サービスのサイトなどでは、目が不自由な人への配慮から、あえて漢字のほうの「障害」を使っているところがあります。目が不自由な人は、サイトに書いてある内容を知りたい場合、スクリーンリーダーなどの音声読み上げ機能を使うことがあります。しかし、その際、平仮名のほうの「障がい」を使っていると、その箇所が「さわりがい」と、誤った読み方をされるケースがあるそうです。そのため、「目が不自由な人にも、サイトに書いてある内容を正しく伝えたい」という配慮から、漢字のほうの「障害」を使っているのです。

「障害」「障がい」どちらの表記も、配慮したい相手がいて、その表記をすべき明確な理由があるわけです。他にも配慮の仕方に注意が必要なケースとして、マスクを「着用する」「着用しない」の問題もありますね。2023年にコロナが5類に移行してから、マスクの着用は個人の判断に委ねられるようになりましたが、今も感染者は出ている状況なので、やはり配慮が必要な場合はあります。

例えば、病院にかかる際などは、マスクを着用したほうがよいといわれます。院内の感染防止などのため、病院からマスク着用を求められることもありますし、そうでなくても、「自分が着けてないことで、医師や他の患者が不安にならないか」という視点は持つべきでしょう。

仕事で誰かと面談する際などもそうです。基本的には個人の判断で問題ありませんが、マスク着用に対する考え方は人それぞれなので、相手の様子を見た上で、「マスクを着けていても(外しても)よろしいでしょうか」と一言添えるぐらいの配慮はあってもよいかもしれません。

いずれにせよ、マナーの根底には、常に相手への配慮があります。何も知らない新入社員の頃は、まず「ビジネスマナーはこういうものだ」と教わるところからスタートしますが、冒頭でも言った通り、絶対という正解はありません。しゃくし定規に教わったマナーを守るのではなく、相手によって臨機応変に対応するのが一人前のビジネスパーソンです。

以上(2024年8月作成)

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60代の就業ニーズ

人手不足に悩む中小企業にとって、60代のシニア層の活用は有効な解決策のひとつとなり得ます。本稿では、公益財団法人産業雇用安定センターが、求職活動中の60代男女を対象に実施した「60代シニア層の就業ニーズに関するアンケート調査」(2023年11月。男女各500人回答)の結果をもとに、働くことに関するシニア層の希望や意識についてお伝えします。

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社労士が教える「社会保険の適用拡大(2024年10月)」直前対策!

書いてあること

  • 主な読者:パート等を雇用していて、正社員などが51人以上いる企業の経営者、労務担当者
  • 課題:2024年10月から「社会保険の適用拡大」の対象になる。具体的な実務を知りたい
  • 解決策:まずは、社会保険の被保険者になるパート等がいないかを確認(いる場合、資格取得の手続き)。配偶者の扶養から外れたくないパート等への対応なども忘れずに

1 「社会保険の適用拡大」とは?

社会保険の適用拡大とは、

2016年10月から社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入するパート等の範囲が、段階的に拡大されること

です。また、「パート等」とは、

週の所定労働時間または月の所定労働日数が、正社員の4分の3未満の短時間労働者

です。これまでは「厚生年金保険の被保険者数(正社員など)が101人以上」の企業に勤め、一定の要件を満たすパート等が対象でしたが、2024年10月から「101人以上」の部分が「51人以上」に拡大されます。

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パート等の社会保険加入の手続きを怠ると、健康保険法・厚生年金保険法により「6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金」という罰則の対象になります。

そこで、この記事では、被保険者数が51人以上でパート等を雇用している企業向けに、社会保険加入のヌケモレを防止するためのチェック項目と各実務のポイントを紹介します。

2 社会保険加入の対象者がいるかを確認しよう!

まずは、社会保険加入の対象となるパート等がいるかを確認します。パート等について、図表2のチェック項目を確認し、当てはまる場合は「〇」を付けてみてください。「全ての項目」に〇が付く場合、そのパート等は2024年10月から社会保険に加入します。逆に1つでも満たさなければ、社会保険に加入させる必要はありません。

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1)企業が「特定適用事業所」かを確認

前述した通り、2024年10月からパート等を社会保険に加入させる義務があるのは、厚生年金保険の被保険者数が51人以上の企業です。該当する企業を「特定適用事業所」といいます。

「被保険者数が51人以上か」は、パート等(週労働時間がフルタイムの3/4未満)の人数を除外し、図表3のAとBの人数を合計して判断します(支店や営業所が複数ある場合、全事業所の合計で判断)。

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また、人の入れ替わりが激しく、「51人以上」「50人以下」のラインを上下する場合、

直近12カ月のうち「51人以上」の月が6カ月以上あるかで判断

します。この要件を満たす見込みがある企業(2023年10月から2024年7月までの10カ月のうち「51人以上」の月が6カ月以上ある企業)には、

2024年9月上旬に、日本年金機構から「特定適用事業所該当事前のお知らせ」が送付

されていますので、そちらが届いているかも併せて確認してください。

2)パート等が「被保険者要件」を満たすかを確認

1)の特定適用事業所に雇用され、次の労働条件の要件を「全て」満たすパート等が、2024年10月から社会保険の被保険者になります。ポイントを見ていきましょう。

1.週の所定労働時間が20時間以上か

所定労働時間とは、就業規則や労働条件通知書で決められている労働時間のことです。注意が必要なのが、労働時間が流動的な「シフト制」のパート等です。シフト制のパート等は

一定期間内の労働時間を週単位に換算した場合、20時間以上になるかどうか

で要件を満たすかを判断するので、シフトの組み方によっては意図せず被保険者になることがあります。

2.所定内賃金が月額8.8万円以上か

所定内賃金とは、週給、日給、時間給を月額に換算したものに諸手当等を含めたもののことです。ただし、次に掲げる賃金は所定内賃金に含めません。

  • 臨時、または1カ月を超える期間ごとに支払われる賃金(結婚手当、賞与など)
  • 時間外労働、休日労働、深夜労働の賃金(つまり残業代)
  • 最低賃金法で算定対象外とされている賃金(精皆勤手当、通勤手当、家族手当)

3.2カ月を超える雇用の見込みがあるか

2カ月以内の雇用期間で労働契約を締結した場合であっても、2カ月を超える見込みがある場合、被保険者になります。労働条件通知書などの記載内容ではなく、実態で判断します。

4.学生でないか

学生は原則として対象外ですが、卒業証明書をもらっていて「卒業後の雇用継続」が見込まれる学生、休学中の学生、夜間学生などは、例外的に被保険者になります。

3 社会保険加入の手続き前にパート等への説明を!

社会保険加入の手続きをする前に、対象となるパート等に対して社会保険加入後の働き方について、必要な説明をしましょう。また、社会保険加入後の、企業の人件費負担についても併せて確認しておきましょう。

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1)対象となるパート等への説明

社会保険に加入する場合、パート等には次のようなメリット・デメリットがあります。

  • (メリット)傷病手当金や出産手当金の対象になる/厚生年金保険に加入するので年金額が増える/扶養の範囲(労働時間や賃金)を気にせず働ける など
  • (デメリット)パート等が被扶養者の場合、家族の扶養から外れ、社会保険料が賃金から天引きされる(賃金の手取り額が減る可能性がある) など

社会保険料の負担がないという理由でパート等として勤務している人もいるでしょうから、2024年10月から被保険者になる人には、メリット・デメリットの説明資料や、パート等から質問されるであろう点をまとめたFAQなどを準備した上で、面談を実施しましょう。

自社で説明資料などを準備するのが難しい場合、厚生労働省が運営する「社会保険適用拡大特設サイト」を紹介するのもよいでしょう。「パート・アルバイトのみなさま」のページに、傷病手当金などの保険給付や社会保険料についての紹介動画・パンフレットが掲載されています。

■厚生労働省・社会保険適用拡大特設サイト「パート・アルバイトのみなさま」■

https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/dai1hihokensha/

2)2024年10月以降の働き方についてパート等と協議

1)の説明をした場合、パート等から「扶養から外れたくないので、労働時間を調整したい」「社会保険に加入するのはいいが、手取りが減るので出勤日を増やしたい」といった要望が出る可能性があります。必要に応じて本人と協議し、労働条件の見直しを検討しましょう。

ただし、2024年10月1日時点で被保険者要件(第2章参照)を満たしているパート等は、必ず社会保険に加入させなければならないので、労働条件を見直す場合は早めの対応が必要です。

3)企業の人件費負担の確認

社会保険料は企業と従業員が折半で負担します。ですから、2024年10月から新たに社会保険に加入するパート等が増えれば、企業の人件費負担が増加することは避けられません。経営にも関わる部分なので、具体的な額を事前に把握しておきましょう。

前述した社会保険適用拡大特設サイトの「社会保険料かんたんシミュレーター」を使うと、企業負担分の社会保険料がどの程度変動するのか、簡単に試算できます。また、同サイトでは、人件費負担などの経営相談に対応してくれる専門家や、パート等を正社員化するときのための助成金なども紹介しているので、必要に応じてご活用ください。

■厚生労働省・社会保険適用拡大特設サイト「事業主のみなさま」■

https://www.mhlw.go.jp/tekiyoukakudai/jigyonushi/

4 社会保険加入の手続きと、その後の対応

最後に、2024年10月の制度改正のタイミングで、被保険者となるパート等を社会保険に加入させます。給与システムの変更なども忘れないようにしましょう。

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1)法定書類の提出など

社会保険の加入手続きは、被保険者要件を満たすようになった日(資格取得日)から5日以内に行う必要があります。2024年10月1日時点で被保険者要件を満たしているパート等の場合、

2024年10月6日までに被保険者資格取得届を、日本年金機構の所轄年金事務所(郵送の場合は所轄事務センター)に提出

しなければなりません。

提出後、健康保険被保険者証と資格取得に関する通知が会社に送付されますので、被保険者証は社員に交付、通知は社内で保管します。なお、被保険者証は、マイナンバーカードと一体化される関係で、2024年12月に廃止が予定されています。

2)社内のシステムや各書式の変更

1)の資格取得に関する通知には、パート等の標準報酬月額が記載されているので、給与システムへの反映を忘れずに行いましょう。

賃金が毎月末日締め、翌月払いの場合、11月支給の賃金から社会保険料の天引きを開始

します。

また、社会保険の適用拡大後に、新しいパート等を採用する予定があるのであれば、求人案内や労働条件通知書の「社会保険の適用」についても、必要に応じて記載内容を修正しておきましょう。

以上(2024年9月作成)

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画像:ChatGPT

「年収の壁」は6枚。配偶者特別控除が受けられなくなる年収、社会保険料の負担が発生する年収はいくら?

書いてあること

  • 主な読者:いわゆる「年収の壁」について正しく知りたい人
  • 課題:年収の壁は複数の制度にまたがっており、いくつもあるので全体がつかみにくい
  • 解決策:年収の壁は6枚。税制上の壁の「100万円、103万円、150万円、201万円」と、社会保険上の壁の「106万円、130万円」を覚えよう

1 年収によって生じる6枚の壁

年収の壁とは、

税金や社会保険料の負担が変わる境目の年収

です。具体的には次の6枚の壁があります。

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年収の壁についてざっくりとしたイメージはあったかもしれませんが、このように表にすると、複数の制度にわたっていて複雑であることが分かります。また、近年は、共働き世帯の増加など家庭内の所得構成の変化を背景に、年収の壁に関係した制度改正や支援策導入が活発です。

年収の壁は、

  • 従業員個人にとっては、本人、配偶者、子供の働き方次第で手取りが変わってくる要因
  • 会社にとっては、パート等のシフト調整や勤怠管理をする際に考慮すべき一定の基準

になりますので、きちんと理解をしましょう。この記事を従業員に読んでもらうのも、有益な情報提供になるでしょう。

2 税制上の壁:100万円、103万円、150万円、201万円

1)100万円の壁

100万円の壁は、住民税が課税されるか、されないかの境目となる壁です。年収が100万円を超えると、住民税が課税されます。住民税は前年の所得を基に計算されるので、実際に納税(給与を受け取っている人は給与から徴収)するのは、100万円を超えた翌年6月以降です。

住民税は、都道府県民税と市町村民税に分かれ、それぞれ「均等割(均等に一定額が課される)」と「所得割(その人の所得を基に課される)」によって計算されます(東京23区内の法人都民税は、法人市町村民税分を分けず、合わせて計算されます)。標準税率は、

  • 均等割:都道府県民税が1000円、市区町村民税が3000円の合計4000円(2024年度より森林環境税が1000円課税されます)
  • 所得割:都道府県民税が4%、市町村民税が6%の合計10%

です。標準税率とは、地方税法で定められた税率のことです。各自治体が一定の範囲内で標準税率と異なる税率(制限税率)を定めることができるため、お住まいの自治体によって税率が異なる場合があります。

2)103万円の壁

103万円の壁は、所得税が課税されるか、されないかの境目となる壁です。年収が103万円を超えると、所得税が課税されます。実際は、月給が8万8000円を超えると、支給される給与から所得税が差し引かれます。もし、年収が103万円以下の年に、たまたま月給が8万8000円を超えた月があるときは、年末調整(年末時点の年収から正確な所得税を計算し、精算する処理)または確定申告をすることで、差し引かれる必要のない所得税を返してもらえます。

所得税の税率は所得額に応じて異なり、所得額(年収から控除額を控除した金額)の区分別に5~45%で、所得額が高くなるにつれて税率が上がります。最小の税率(5%)は、所得1000円~194万9000円までの区分に適用されます。

103万円という金額は給与を支給される人(一定の人を除く)が受けられる控除である、

  • 基礎控除の48万円
  • 給与所得控除の55万円(給与所得が180万円以下の場合受けられる控除の最低額)

の2つの控除の合計額(103万円=48万円+55万円)です。控除額の合計額が103万円以内の年収であれば、所得は0円扱いとなり所得税が掛からないというわけです。

年収 103万円-給与所得控除額 55万円-基礎控除額 48万円=所得額 0円

3)150万円の壁と201万円の壁

150万円の壁は、配偶者特別控除の満額である38万円を受けられるか、受けられないかの境目となる壁です。配偶者特別控除は、一定の所得範囲の配偶者がいる納税者が受けられる控除です。

納税者本人(扶養者)をA、その配偶者をBとします。配偶者Bの年収が150万円を超えると、控除額は段階的に減少し、納税者Aの税負担が増えていきます。また、納税者Aの収入金額によっても控除額が異なり、原則1195万円(所得金額が1000万円)を超えると、配偶者Bの所得に関係なく、配偶者特別控除は受けられません。

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201万円の壁は、配偶者特別控除が受けられるか、受けられないかの境目となる壁です。配偶者Bの収入金額が201万円(正確には201.6万円)を超えると、配偶者特別控除が受けられず、納税者Aの税負担が増えます。

3 社会保険上の壁:106万円、130万円

1)106万円の壁

106万円の壁は、一定の規模以上の会社における社会保険(健康保険、厚生年金保険)への加入義務が発生するか、しないかの境目となる壁です。パート等(パート、アルバイト)は「週の所定労働時間または月の所定労働日数が、正社員の4分の3未満」であれば社会保険には加入しませんが、次の1.から5.を全て満たす場合については、被保険者(社会保険の加入者)になります。

  1. 会社規模:勤務先の従業員数(厚生年金保険の被保険者数)が常時100人超(2024年10月1日以降は50人超)
  2. 給与収入:所定内賃金が月額8万8000円以上(8万8000円×12カ月≒106万円)
  3. 労働時間:週の所定労働時間が20時間以上
  4. 雇用期間:継続して2カ月を超えて使用される見込み
  5. 適用除外:学生でない

これらの要件のうち、2.の給与収入が「106万円の壁」です。

社会保険料は、「標準報酬月額(月の収入を一定幅で区分したもの)×保険料率」で計算します。ここでは、健康保険の保険者が全国健康保険協会(協会けんぽ)である会社の場合を紹介します。協会けんぽでは健康保険料率が都道府県支部ごとに異なりますが、例えば東京支部では

  • 健康保険料率:9.98%(40歳以上の場合、介護保険料分の負担が加わり11.58%)
  • 厚生年金保険料率:18.3%

となっています(2024年度)。社会保険料は会社と従業員が半分ずつ負担するので、収入の14~15%程度が、従業員の自己負担分として給与から差し引かれます。

2)130万円の壁

130万円の壁は、社会保険の扶養に入れるか、入れないかの境目となる壁です。パート等の年収が130万円を超えると、そのパート等は配偶者らの扶養から外れ、勤務先の社会保険に加入しなければなりません(勤務先で加入しない場合、自分で国民健康保険料や国民年金に加入)。つまり、それまで負担しなくてよかった保険料を、負担しなければならなくなるということです。

106万円の壁には会社規模(従業員数)の要件がありますが、130万円の壁は全ての会社で働く人が対象です。ただし、国の施策により、一時的な増収により年収130万円を超えたと認められる場合、一定期間、配偶者らの扶養にとどまることができる措置が取られています(後述)。

4 政府による年収の壁への支援策

働く人にとって年収の壁は切実です。壁を越えないように働く時間を調整することが多く、これが人材不足に拍車をかけていると指摘されています。そこで、2023年10月から「年収の壁・支援強化パッケージ」と呼ばれる

年収の壁(106万円の壁・130万円の壁)に対する支援策が開始

されています。具体的には、

  • 106万円の壁に対する支援:賃上げや労働時間(週所定労働時間)の延長などを取り組む会社に対して、1人当たり最大50万円(最長3年間)の助成金を支給
  • 130万円の壁に対する支援:繁忙期に残業が増えるなどにより一時的な増収があった場合、連続2年間は扶養にとどまれる措置

です。なお、今のところは2023年10月から2年間だけの期間限定の支援策とされていますが、経済的な効果や反響によっては延長される可能性などもあるため、今後の動きにも注目しておきましょう。

以上(2024年8月作成)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)

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画像:ChatGPT

福利厚生100! 基本メニューから変わり種まで

書いてあること

  • 主な読者:あまりコストをかけず、社員に喜ばれる福利厚生を実現したい経営者
  • 課題:具体的にどんな福利厚生がいいのか、思い浮かばない
  • 解決策:福利厚生を「家計」「健康」「育児・介護」「自己啓発」「コミュニケーション」「レジャー」「その他」の7つにカテゴリー分けし、主なものを押さえる

1 コストをかけず、充実した福利厚生を実施するには?

福利厚生とは、社員の生活や職場環境を良くするための報酬やサービス全般を指す言葉で、

  • 法定福利厚生:法律で実施が義務付けられている福利厚生(社会・労働保険)
  • 法定外福利厚生:会社が独自に実施する福利厚生(各種手当や社内設備など)

に分けられます。法定福利厚生を法令違反のないように実施しつつ、法定外福利厚生の内容を工夫して、人材の採用・定着や、会社のイメージ向上などにつなげていくのが基本です。

とはいえ、法定外福利厚生は種類も多いので、他社と差別化しようにも「どのような福利厚生があるのか分からない」という経営者は少なくないはずです。また、リソースの限られる中小企業の場合、ある程度コストを抑えて福利厚生を実施したいというニーズもあるでしょう。

そこで、この記事では実際に行われている福利厚生で、中小企業向けのものを、一般的なものからユニークなものまで次のようにカテゴリー分けし、計100種類集めました。気になる章からご確認ください。

2 「家計」系(住宅手当など、20種類)

通常の給与に手当をプラスしたり、給与の前払いを認めて支給ルールを柔軟にしたりするなどして、社員の家計をサポートします。

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1)住宅手当

家賃や住宅ローンの負担を軽減するために支給します。

2)家族手当

扶養家族がいる社員の生活費を補助するために支給します。

3)単身赴任手当

社員が家族と別居し、赴任先で一人暮らしをする場合、生活費を補助するために支給します。引っ越しなどの初期費用については、別途「転勤支度金」などを支給するケースもあります。

4)子女教育手当

社員に子どもがいる場合、その教育費を補助するために金銭を支給します。最近は、教育費だけでなく、「給食費の補助」を行っている会社もあります。

5)ペット手当

社員がペットを飼う場合、飼育費を補助するために支給します。例えば、ある会社は、社会貢献の一環で猫の保護に力を入れている関係で、猫を飼っている社員に手当を支給しています。

6)食事手当

食費の負担を軽減するために支給します。

7)地域手当

社員が物価の高い地域で勤務する場合、他地域との物価格差を補うために支給します。似たようなケースとして、寒冷地で勤務する場合に、他地域との暖房費の差を補うために「寒冷地手当」などを支給するケースもあります。

8)インフレ手当

物価高が続く間、社員の生活費を補助するために支給します。

9)慶弔見舞金

社員やその家族に祝事や不幸があった際、金銭を支給します。結婚や出産の場合は「祝金」、病気やけがの場合は「見舞金」、死亡の場合は「弔慰金」といった名称になります。

10)退職金制度

退職金制度も、退職後の家計を支えるという意味では、重要な福利厚生です。退職時に一括で受け取る「退職一時金」と年金形式で受け取る「企業年金」とに大別されます。

11)選択制DC

企業年金の代表格は、会社が毎月決まった掛金を拠出する「企業型DC(企業型確定拠出年金)」です。この企業型DCの中に、給与の一部を引き続き手当などとして受け取っていくか、企業型DCの掛金にするかを社員が選択できる「選択制DC」という制度があります。

12)iDeCo+(イデコプラス)

iDeCo(イデコ)は、社員が自分で掛金を拠出して運用する個人型の確定拠出年金です。このiDeCoの中に、一定額の範囲内で、社員の掛金に追加して、会社が掛金を拠出できる「iDeCo+」という制度があります。

13)財形貯蓄

毎月一定の額を給与天引きなどで積み立て、社員が目的に応じて、積み立てたお金を任意のタイミングで払い出します。

14)職場つみたてNISA(ニーサ)

NISAは、「NISA口座」と呼ばれる口座を使って個人が株式投資などを行った際、一定の範囲内で得た利益が非課税になる制度です。このNISAの中に、会社が社員のNISA口座の開設や株式などの購入手続きを支援する「職場つみたてNISA」という制度があります。

15)奨学金の代理返還

社員が学生時代に借りた貸与奨学金を、会社が社員に代わり返済します。

16)給与の前払い

社員から請求があった場合、本来の支給日を待たず、すでに働いた分の給与を支払います。

17)社宅・寮の貸与

会社が法人名義で賃貸物件を借り上げ、社員に貸与します。家賃が安くなることが多いです。

18)団体保険

会社が保険の契約者となり、社員は傷病、死亡などの際に保障を受けられます。

19)家計のコンサルティングサービス

ファイナンシャルプランナーなどの専門家に依頼し、社員のお金に関する相談に対応してもらいます。

20)日用品購入などの福利厚生サービス

低価格で日用品を購入したり、レンタカーを借りたりできるサービスなどを導入します。

3 「健康」系(人間ドックの費用補助など、18種類)

社員に健康に働いてもらうため、人間ドックで病気を早期発見できるようにしたり、健康促進のための取り組み(自転車通勤など)を推奨するための手当を支給したりします。

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1)人間ドックの費用補助

人間ドックを実施し、その受診費用を補助します。人間ドックは、法定の定期健康診断などよりも検査項目が多く、自覚症状のない病気なども早期発見できる可能性があります。

2)予防接種の費用補助

社員がインフルエンザなどの予防接種を受ける場合、その費用を会社が補助します。

3)自転車通勤手当

健康促進のため、自転車で通勤する社員に対し、毎月定額で手当を支給します。

4)花粉症手当

花粉症の時期に、病院の診察や薬剤の費用を補助するため、手当を支給します。手当の支給と併せて、ティッシュ、マスク、目薬などを現物支給するケースもあります。

5)残業削減インセンティブ

過重労働防止の観点から、残業を削減した社員に、達成度合いに応じて金銭を支給します

6)早起き推奨制度

始業より一定時間以上前に出社した場合、金銭を支給します。満員電車を避けられ、通勤時のストレス軽減につながります。出社から始業までの時間は自由時間で、仕事以外の自己啓発などに充ててもらいます。

7)健康診断ボーナス

健康診断でA判定(健康状態:良好)が出た場合や、特定の数値が改善した場合などに、金銭を支給します。

8)スマホアプリを用いた健康イベント

健康促進につながる社内イベントを実施します。例えば、各社員のスマホに歩数計アプリをダウンロードしてもらって歩数を競い合い、成績の良かった社員には賞品を贈呈します。

9)病気休暇

けがや病気の療養のための特別休暇(年次有給休暇などの「法定休暇」とは別に取得できる、会社独自の休暇)を付与します。

10)二日酔い休暇

お酒を飲みすぎた場合、翌日の午前に体を休めるための特別休暇を付与します。

11)非喫煙者向けの特別休暇

一定期間、禁煙を成功させた社員や、もともと喫煙しない社員に特別休暇を付与します。

12)姿勢矯正クッション、スタンディングデスク

デスクワークが多い社員向けに、正しい姿勢で快適に仕事をしてもらうための姿勢矯正クッションや、座りすぎを防ぐためのスタンディングデスクを貸与します。

13)健康に良い食品の提供

栄養バランスの良い食事や野菜などを、オフィスや社員の自宅に配達してもらい、メタボリック改善などに活用します。

14)昼寝スペース

会議室などを一定の時間帯、昼寝スペースとして開放します。

15)社内フィットネスジム

社内に腹筋台、フィットネスバイク、懸垂器などのトレーニング器具を設置します。

16)フィットネスジムの利用割引

会社がフィットネスジムの法人会員になり、社員に低料金で利用してもらいます。

17)運動指導

フィットネスジムから会社にスポーツインストラクターを派遣してもらい、社内でトレーニング指導を行ってもらいます。

18)健康相談サービス

医師・保健師・心理カウンセラーなどに依頼し、社員の健康(メンタルヘルスを含む)に関する相談に対応してもらいます。

4 「育児・介護」系(休業・休暇期間の延長など、12種類)

社員が育児・介護に注力できるよう、休業・休暇制度を法律の内容よりも充実させたり、ベビーシッターなどの費用を補助したりします。休業中の社員のフォローに回る同僚を対象とした福利厚生もあります。

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1)休業・休暇期間の延長

育児休業・介護休業の期間や、子の看護休暇・介護休暇の日数を、育児・介護休業法で定められている期間・日数よりも延長します。

2)配偶者出産休暇

配偶者の出産に立ち会うための特別休暇を付与します。似たようなケースで、「孫の誕生に立ち会うための休暇」を導入している会社もあります。

3)学校行事休暇

子どもの学校行事に参加するための特別休暇を付与します。

4)不妊治療休暇

不妊治療を受けるための特別休暇を付与します。不妊治療であることを悟られたくない社員のため、配偶者出産休暇や学校行事休暇などと統合して、「ファミリーサポート休暇」といった名称にすることもあります。

5)不妊治療の費用補助

社員が不妊治療を受ける場合、その治療費を補助します。治療前にまとまった金額を貸し付けるケースもあります。

6)ベビーシッターの費用補助

社員がベビーシッターを使いながら働く場合、そのベビーシッター代を補助します。

7)業務代替手当

育児・介護で長期休業する社員のフォローに入る同僚がいる場合、その同僚に手当を支給します。休業のフォローで仕事が増える同僚の不満を和らげる意味合いがあります。

8)授乳室

乳児を連れて出勤する社員がいる場合、その社員が使える授乳室を設置します。生理痛などの体調不良時の休憩スペースとしても利用できます。

9)企業主導型保育施設(他社と共同利用も可)

企業主導型保育施設とは、社員の子どものために、オフィス内や近隣地に設置する「認可外保育施設」のことです。自社だけで運営するのはハードルが高いですが、他社が設置した施設を「共同利用」させてもらえるケースもあります。

10)育児・介護研修

外部から講師を招いて研修を実施します。例えば、育児・介護に関する公的サービスやノウハウ(ミルクの作り方、おむつの替え方など)を学ぶことができます。

11)家事代行サービス

「仕事+育児・介護」で時間が捻出しにくい社員のために、買い物、掃除、食事などの家事代行サービスを利用してもらいます。

12)育児・介護相談サービス

保健師・看護師・ケアマネジャーなどに依頼し、社員の育児・介護に関する相談に対応してもらいます。

5 「自己啓発」系(貸出図書など、14種類)

社員が自主的に勉強できるよう、書籍を貸し出したり、特定の資格を取得した際に金銭を支給したりします。「おしゃれ」などの自分磨きに焦点を当てた福利厚生もあります。

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1)貸出図書

書籍や新聞を共有スペースなどに配置し、希望する社員に無料で貸し出します。

2)書籍代の補助

仕事につながる書籍を購入する場合、購入費用を補助します。

3)受講費用の補助

社員が有料のセミナーに参加したり、仕事につながる資格を取得するため学校に通ったりする場合などに、受講費用を補助します。

4)資格報奨金

仕事につながる資格などを取得した場合、金銭を支給します。

5)アート鑑賞などの費用補助

アートに触れて感性を磨くという観点から、美術館の入館費用などを補助します。

6)おしゃれの費用補助

仕事上の身だしなみを整える目的で衣類やカバンを購入する場合、その費用を補助します。

7)勉強休暇

自己啓発のための特別休暇を付与します。

8)会議室などの貸し出し

就業時間外に自己啓発に取り組む場合、会議室などの使用を認めます。

9)社内勉強会

定期的に社員同士の勉強会を開催します。業務に関する内容だけにとどまらず、社員が自主的に勉強していることなどもテーマとして扱います。

10)スタンプ制度

社内勉強会などに参加した場合、1回参加につき1つスタンプを押し、一定数たまると交換できる景品を提供します。

11)パラレルワーク

社員の知見を広めるため、パラレルワーク(副業)を推奨します。

12)社内副業

通常の業務をこなしつつ、社内の別部署の業務に従事することを認めます。

13)eラーニング

仕事に必要な知識を動画などで学べるeラーニングサービスを導入します。

14)コーチング

コーチングサービス会社などに依頼し、社員のキャリア形成やスキルアップに関する相談に対応してもらいます。

6 「コミュニケーション」系(誕生祝いなど、10種類)

誕生日や勤続◯年など節目を迎えた社員を祝ったり、他部署メンバー同士の交流を深めたり、社員同士のコミュニケーションを活性化させます。

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1)誕生祝い

誕生日を迎えた社員を祝います。例えば、ある会社は、誕生日の社員に対し、他の社員が一輪ずつ花をプレゼントするという取り組みを行っています。

2)入社祝い

新たに入社した社員を祝います。例えば、ある会社は一定の金額の範囲内で、社員が自分の好きなデスク周りの備品を買える制度を設けています。

3)勤続◯年表彰

勤続が一定年数に達した社員を祝います。例えば、ある会社は勤続7年を迎えた社員に、特別休暇と旅行代金をプレゼントしています。

4)ランチの費用補助

社内であまり関わらない「他部署メンバー」「役員と社員」や、より関係を深めてほしい「上司と部下」などがランチに行く場合、その費用を補助します。

5)飲み会の費用補助

特定のプロジェクトが完了した際などに、そのメンバーに対しての打ち上げ代を補助します。

6)部活動の費用補助

部活動での社員同士の交流を活性化させるため、活動費を補助します。

7)コーヒーブレイク

特定の時刻になったら、全社員が業務を一時中断し、コーヒーを飲みつつ歓談します。

8)同僚へのメッセージカード

「仕事を手伝ってくれてありがとう」など、同僚に対するちょっとした感謝のメッセージを、カードなどにしたためて贈ります。似たようなケースで、全社員が、毎月ランダムに別の社員1人の長所だけを評価し、評価の内容を書面で本人に伝える会社もあります。

9)季節イベント

希望者を集めて、花火大会やハロウィン、社員旅行などのイベントを企画します。

10)ファミリーデー

社員が子どもを連れて参加できる、食事会や運動会などのイベントを開催します。「子どもの世話があるから……」と、普段社内イベントに来られない社員も、参加しやすくなります。

7 「レジャー」系(推し休暇など、14種類)

プライベートを充実させ、メリハリを付けて仕事に励んでもらえるよう、社員の「推し活」のための特別休暇を付与したり、その費用を補助したりします。

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1)推し休暇

社員が「推し」のアーティストなどのライブやイベントに参加するための特別休暇を付与します。推しが結婚した、グループを脱退したことによる「ロス(喪失感)」を癒やすための「推しロス休暇」というものもあります。

2)ボランティア休暇

社員が社会・地域貢献活動に参加するための特別休暇を付与します。

3)スポーツ観戦休暇

サッカーのワールドカップなど、世界的なスポーツの大会が行われる際、日本代表戦のときだけ特別休暇を付与します。

4)結婚休暇

社員が結婚した際、新婚旅行などのための特別休暇を付与します。

5)誕生日休暇

社員の誕生日(または誕生月)に特別休暇を付与します。社員の家族や恋人の誕生日に特別休暇を付与する会社もあります。

6)夏季休暇

7~9月にかけて取得できる特別休暇を付与します。

7)リフレッシュ休暇

一定の勤続年数に応じた特別休暇を付与します。

8)山ごもり休暇

まとまった日数の特別休暇を付与しつつ、休暇中は電話連絡やメールでのコンタクトを禁止することで、仕事から完全に社員を解放します。

9)年次有給休暇の積み立て制度

使われずに時効により消滅する年次有給休暇を積み立てておき、社員が任意のタイミングで取得できるようにします。

10)推し活の費用補助

アーティストなどのライブやイベントなど「推しの特別な日」に限り、推し活の費用を補助します。

11)帰省の費用補助

社員が休暇を取って実家に帰省する際、その旅費を補助します。

12)婚活の費用補助

社員が会社指定のアプリを使って婚活を行う場合、その利用費を補助します。

13)施設の利用割引

旅行会社との法人契約により、社員が低料金で飲食店や宿泊施設を利用できるようにします。

14)サブスクリプションサービス

福利厚生サービス会社との法人契約により、社員が低料金で「Netflix」などのサブスクリプションサービスを利用できるようにします。

8 「その他」(社員食堂など、12種類)

ここまで紹介したものの他にも、さまざまな福利厚生があります。

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1)社員食堂

社員が低価格で利用できる食堂を運営します。自社だけで運営するのはハードルが高いですが、複数の会社が1つの食堂を「共同運営」するケースもあります。

2)まかない制度

会社のキッチンや食材を使って、社員が自由に昼食を作れるようにします。

3)フリードリンク・スナック

会社に飲み物やお菓子を常備しておき、社員が好きなときに飲食できるようにします。

4)サテライトオフィス

通常のオフィス(本社など)とは別のオフィスを設けます。ワーケーションの一環で、古民家などをサテライトオフィスにしている会社もあります。

5)駐車場

マイカー通勤を希望する社員のために、駐車場を貸与します。オフィスに駐車場がない場合、月極駐車場を法人契約することもあります。

6)通勤バス

最寄り駅からオフィスまでの距離が遠い場合などに、社員用の通勤バスを手配します。

7)アルムナイ社員の原職復帰

社員が退職してから一定期間以内であれば、復職しても元のポジションに就けるようにします。

8)アルムナイ社員への支度金

一度会社を退職し、再入社する社員に、支度金として金銭を支給します。

9)フルフレックスタイム制

フレックスタイム制でコアタイム(必ず勤務しなければならない時間帯)を設けず、始業・就業時刻を完全に自由にします。

10)働き方宣言

あらかじめ宣言することで、働く時間帯や場所を社員が自由に決められるようにします。

11)特別休暇の買い取り

社員が特別休暇を使わない場合、本人からの請求に応じて、その休暇を買い取ります。なお、特別休暇の買い取りは基本的に会社が自由にルールを決められますが、法定の年次有給休暇の場合、買い取りの仕方によっては違法と判断されるケースもあるので注意が必要です。

12)法律相談サービス

弁護士法人との法人契約により、社員がプライベートの法律相談をできるようにします。

以上(2024年9月作成)

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