【かんたん会社法(15)】企業再編の1つである「株式交換」「株式移転」「株式交付」

書いてあること

  • 主な読者:企業再編の1つとして「株式交換」などの基本を知りたい人
  • 課題:株式交換などの手続きはとても複雑そうで、とっつき難い
  • 解決策:株式交換と株式移転は100%の親子関係になるが、株式交付は100%ではない

1 さまざまな企業再編

いわゆる「M&A(Mergers and Acquisitions)」は、事業拡大、選択と集中、事業承継などさまざまな目的で実施されます。M&Aには、合併と買収という2つの意味がありますが、両方の意味を含むものとして、「企業再編」という言葉が使われることが多くあります。主な企業再編には次の7つの手法があります。

  1. 株式譲渡:会社の株式の全部または一部を他の会社に譲渡する
  2. 事業譲渡:事業の全部または一部を他の会社に譲渡する
  3. 合併:複数の会社が1つになる。吸収合併と新設合併とがある
  4. 会社分割:事業の全部または一部を他の会社に譲渡。吸収分割と新設分割とがある
  5. 株式交換:既にある会社を100%子会社にする
  6. 株式移転:会社を新規設立し、その会社を100%親会社にする
  7. 株式交付:既にある会社を子会社にする(100%子会社に限らない)

ここで紹介するのは株式交換、株式移転、株式交付です。株式交換の手続きを中心とし、株式移転と株式交付についてはポイントを絞って紹介します。

2 株式交換、株式移転、株式交付とは

株式交換、株式移転、株式交付は、いずれも自社株を買収対価とする企業再編の手法です。株式交換と株式移転は、完全親子関係になります。株式交付は株式交換に似ていますが、完全親子関係にとらわれずに実施することができます。

株式交換は、既存のA社とB社との間で、B社(株式交換完全子会社)株式の全部をA社(株式交換完全親会社)に移転し、B社株主にはA社の株式等が交付される制度です。

株式移転は、新たに設立されたA社(株式移転設立完全親会社)に既存のB社(株式移転完全子会社)株式の全部が移転し、B社株主はA社の株式等の交付を受ける制度です。株式移転は、いわば新会社の設立と株式の交換を1つの手続きで行うものです。

株式交付は、既存のA社とB社との間で、B社(株式交付子会社)株式をA社(株式交付親会社)に移転し、B社株主にはA社の株式等が交付される制度です。

3 株式交換の手続き

1)株式交換契約の締結

株式交換を行う際は、完全親会社となる会社と完全子会社となる会社が「株式交換契約」を締結します。株式交換契約で定める事項は次の通りです。

  • 株式交換完全子会社および株式交換完全親会社の商号・住所
  • 株主に交付する株式交換完全親会社の金銭等に関する事項など
  • 新株予約権者に株式交換完全親会社の新株予約権を交付する場合はその事項など
  • 株式交換の効力発生日

2)株式交換契約等に関する事前開示

株式交換完全子会社および株式交換完全親会社は、株主総会の開催前に、株式交換契約等に関する事項(株式交換比率の相当性等)を開示しなければなりません。これは、株主が株式交換を承認するか否か、債権者が異議を述べるか否かを判断するための資料です。事前開示する期間は、一定の日(さまざまありますが、例えば株主総会の2週間前)から効力発生日後6カ月を経過する日までです。

3)株主総会の承認

株式交換契約は、株式交換完全子会社および株式交換完全親会社が、それぞれ株主総会の特別決議によって承認を得なければなりません。

ただし、株式交換完全親会社において株主総会の承認決議を省略できるケースがあります。まず、簡易株式交換の場合です。簡易株式交換とは、株式交換完全親会社が株式交換完全子会社の株主に交付する金銭などの額が、株式交換完全親会社の純資産額の20%以下の場合です。この場合、株式交換完全親会社の株主に与える影響が小さいと考えられ、株主総会の承認決議は不要となるのです。ちなみに、株式交換完全子会社は、原則として、株主総会の承認決議を省略できません。

また、略式株式交換の場合も株主総会の承認決議が不要になります。略式株式交換とは、特別支配関係にある会社の株式交換です。特別支配関係とは、相手の会社の議決権の90%以上を有しているケースです。株式交換において、

  • 株式交換完全親会社が特別支配会社である場合は、株式交換完全子会社における株主総会の承認決議が不要
  • 株式交換完全子会社が特別支配会社である場合は、株式交換完全親会社における株主総会の承認決議が不要

となります。

4)株主通知

株式交換について、次のことを株主に通知します(一定の場合には公告で代用することができます)。

  • 株式交換完全子会社:株式交換の効力発生日の20日前までに、株式交換をする旨、株式交換完全親会社の商号・住所
  • 株式交換完全親会社:株式交換の効力発生日の20日前までに、株式交換をする旨、株式交換完全子会社の商号・住所

5)反対株主の買取請求

上記の株主通知を受けた株主のうち、株式交換に反対する株主は、自身の有する株式を公正な価格で買い取るよう会社(株式交換完全親会社、株式交換完全子会社)に請求できます。会社との協議が不調に終わった場合、会社または株主は裁判所に対して価格の決定の申し立てをすることができます。

6)新株予約権の買取請求

株式交換完全子会社が新株予約権を発行している場合、これを残しておくと株式交換後に新株予約権が行使され、完全親会社による支配という目的が達成できなくなります。そこで株式交換完全親会社は、株式交換完全子会社の新株予約権者に対してその新株予約権に代えて当該完全親会社の新株予約権を交付することができます。ただし、新株予約権の内容として、株式交換に際し新株予約権が交付される旨が定められていたものの、その取扱いがされないもの、または異なる取り扱いがされる場合、株式交換完全子会社の新株予約権者が不利益を被る可能性があるため、新株予約権の買取請求権が認められています。

7)債権者の保護

株式交換完全親会社の株式を対価とする株式交換では、株式交換完全子会社においては株主が入れ替わるだけで会社財産の流出はありません。また、株式交換完全親会社においても株式交換完全子会社の株式を取得して資産および資本金の額が増加します。このような理由から、債権者の利益が害される恐れは基本的にありません。

ただし、株式交換完全親会社が対価として株式以外の財産を交付するなど、会社財産の流出が生じ、債権者の利害に関わる場合には、債権者の保護手続きが定められています。

8)登記

株式交換完全親会社は、通常、株式または新株予約権の発行を行うため、2週間以内に変更の登記が必要です。株式交換完全子会社の新株予約権者に対して株式交換の対価として新株予約権が交付される場合には、株式交換完全子会社においても、新株予約権の消滅につき変更の登記が必要です。

9)書面などの備え置き

株式交換完全子会社および株式交換完全親会社は、株式交換の効力発生日後遅滞なく、株式交換契約の内容およびその他法務省令で定める事項を記載した書面または電磁的記録を作成しなければなりません。

これらの書面または電磁的記録は、株式交換の効力発生日から6カ月間、本店に備え置かなければなりません。

以上(2024年8月更新)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 池田賢生)
(監修 TMI総合法律事務所 弁護士 梶原大暉)

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画像:Mariko Mitsuda

「360度評価」をすれば、働き方改革の進み具合が把握できる

書いてあること

  • 主な読者:働き方の変化に対応できる強い組織をつくりたい経営者
  • 課題:リモートワークなど働き方の変化に社員の意識が追い付いていない
  • 解決策:360度評価を実施し、各社員が自身の働き方を見直すきっかけをつくる

1 360度評価で働き方の「指さし確認」

360度評価とは、

上司、同僚、部下、取引先や顧客など、立場や関係性の異なる人たちが評価者となり、文字通り360度の方向から被評価者の仕事ぶりを評価する制度

です。360度評価の主な役割は、

評価者(上司)が多忙だったり評価に不慣れだったりする場合でも、「目」を増やして評価を補完できること

です。しかし、ここにきて別の役割が期待されています。それは、

各評価者からのフィードバックを通して、被評価者の働き方が、本当に会社の方針や時代に合ったものかを「指さし確認」すること

です。例えば、「昭和・平成の時代では普通」とされていた指導やコミュニケーションが、「令和の時代ではハラスメント」と指摘されるのはよくあるケースです。評価者が1人だとこうした問題に気付けない恐れがありますが、世代や立場の違うさまざまな人が評価者になることで、

社員は互いに「自分は今の状態で大丈夫なのか?」と確認することができる

わけです。

そこでこの記事では、360度評価における経営者の役割、被評価者・評価者の選び方などを紹介します。なお、

通常、360度評価は報酬決定(賞与や昇給など)につながる人事考課とは切り離して運用

されます。評価者が増えることで被評価者の報酬が変動しやすくなるリスクがあるからです。この記事でも、360度評価は人事考課と切り離して考えます。

2 360度評価における経営者の役割

社員は上司から評価されることには慣れていますが、同僚、部下、取引先などから評価されるのには慣れていません。ですから、360度評価の結果が良くないものだった場合、それを冷静に受け止められない恐れがあります。例えば、管理職が部下から低い評価を受けた場合、

  • 「自分を低く評価するなんて許せない!」と憤慨する
  • 「部下が何と言おうと関係ない。今まで通りやる」と開き直る
  • 「自分は管理職失格だ……」と必要以上に落ち込む
  • 「もう部下に嫌われたくない……」とおびえて指導に消極的になる

といったケースが考えられます。

これでは360度評価の意味がないので、経営者は事前に社員に次の2点を伝えましょう。

  1. 評価結果は評価者の「主観的」な意見であり、妥当性は一旦横に置いてほしいこと
  2. 1.を踏まえ、評価結果を「自分の働き方を見直すためのヒント」にしてほしいこと

評価者の中には評価に不慣れな人も多いですし、被評価者について知っていること、知らないことにもバラつきがあります。また、単純な好き嫌いで評価してしまう人もいるでしょう。ですから、正当かどうかはともかく、フィードバックを受けた被評価者が、「そういう考え方もあるのか」「言われてみればそうかもしれない」と気付きを得て、自分の働き方の見直しに活かしていくことができれば、そこには大きな意味があります。

そのため、360度評価を実施するに当たって重要なのは、

「評価結果を過大にも過小にも受け止めず、客観的に見てほしい」という経営者のメッセージ

です。

3 被評価者・評価者の選び方

1)被評価者

360度評価を報酬や配置など人事考課と切り離して運用する場合、全社員を被評価者にする必要はなく、

  • 管理職のマネジメント能力を確認したいので、管理職を被評価者にする
  • プロジェクトチームの雰囲気などを確認したいので、メンバーを被評価者にする
  • 他社に出向している社員の状況が分からないので、出向社員を被評価者にする

といった具合に、経営者の方針で決めていきます。

なお、部下や後輩がいない社員は360度評価の対象になりにくいですが、リーダーとしての資質などを確認するために、複数の管理職や同僚、取引先などを評価者にして実施することも効果的です。

2)評価者

評価者を選ぶ場合、上司、同僚、部下、取引先や顧客などの中から、

  • 被評価者と業務上の接点があり、接触する頻度が高い人
  • 被評価者の業務内容や求められている役割について、ある程度知っている人

を選びます。評価者の人数は、会社の規模や被評価者の状況によって変わりますが、できれば上司、同僚、部下、取引先など各レイヤーで2人以上いると好ましいです。取引先などに評価してもらう場合、被評価者が自ら取引先に依頼する方法もあります。そうすれば、評価結果をより真摯に受け止められるでしょう。

なお、一概には言えませんが、上司以外の評価者については次のような特性がありますので、念のため触れておきます。

1.同僚

被評価者と同レベルの仕事を行っていて、被評価者の仕事内容や仕事の進め方を理解しています。ただし、友人・ライバルなどの場合、なれ合いや足の引っ張り合いにもなり得ます。

2.部下

上司の言動を日ごろから観察していて、良い点も悪い点も把握しています。ただし、上司の仕事内容についての理解が浅く、厳しい、優しいなど表層的な基準で評価することがあります。

3.取引先や顧客

被評価者の接客レベルなどの他、評価結果から取引先や顧客のニーズも知ることができます。ただし、社外の人間なので、評価者になってもらうには相応のハードルがあります。

4 設問の例

設問は30問以内で5段階評価など選択式を基本としつつ、自由記述式の設問も交えます。回答フォームを評価者にメールなどで送信し、回答してもらうとよいでしょう。その際、被評価者本人にも同じ設問を送り、自己評価をしてもらいます。自己評価と他者評価のギャップが分かると、自身の働き方について気付きを得やすくなるからです。

具体的な設問の内容は、会社の方針や被評価者の属性などによって変わりますが、例えば、被評価者が管理職の場合は次のような内容が考えられます。

  1. ビジネスの環境変化を捉えているか?
  2. 環境変化を恐れずに適合しようとするマインドはあるか?
  3. 環境変化に適合するために具体的な行動を起こしているか?
  4. 自身の知識のバージョンアップをしているか?
  5. 新しい働き方に合ったコミュニケーションが取れているか?

なお、選択式よりも自由記述のほうが、より詳細な情報を得やすいので、選択式の設問を減らしつつ、自由記述式のボリュームを増やすのも一策です。あるいは、リポート形式とし、

新しい働き方に合った管理職であるか?

などのテーマでリポートを書いてもらう方法もあります。

5 被評価者へのフィードバック

フィードバックは、上司(または経営者)と被評価者による面接形式で行い、その際、被評価者には自己評価の結果を持参してもらいます。フィードバックの目的は、被評価者に、

  • 相対的な強み・弱みを知ってもらうこと
  • 自己評価と他者評価のギャップに着目してもらうこと

です。点数の低い項目、自己評価と他者評価の点数の乖離(かいり)が大きい項目があれば、それを洗い出し、働き方の見直しに役立ててもらいます。

360度評価の結果は、「過大評価せず、過小評価もしない」が原則なので、上司(または経営者)が被評価者の点数の低さなどを糾弾するようなことはしません。ただし、働き方を見直してもらうのには良いタイミングなので、フィードバックと併せて、

  • 被評価者自身は、評価結果を受けて今後どのように成長していきたいか
  • 上司(または経営者)として、今後どのような働き方を期待しているか

を明らかにし、改善に役立ててもらうとよいでしょう。

以上(2024年9月更新)

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画像:Studio Romantic-Adobe Stock

交通量の多い高速道路​での留意点​(2024/08号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

8月は、夏季休暇などを利用して帰省や行楽ドライブを計画されている人も多いことでしょう。長距離の移動に欠かせないのが高速道路ですが、8月の高速道路は交通量が多く、渋滞も発生しやすくなります。

そこで今回は、高速道路における渋滞の発生原因や発生箇所、渋滞に差し掛かった時の留意点について考えてみましょう。

高速道路​での留意点

1.渋滞の発生傾向

月別の全国の高速道路の交通量をみると、8月が最も多くなっており(図1)、特にお盆の時期を中心に長い渋滞が発生しています。

月別の全国高速道路の交通量

出典:独立行政法人 日本高速道路保有・債務返済機構「各高速道路会社の交通量データ」を基に当社作成。
「全国高速道路の交通量」は東日本高速道路、中日本高速道路、西日本高速道路、首都高速道路、阪神高速道路、本四高速道路、の合計値。

この時期には各高速道路会社から渋滞予測等の交通情報が発表されますので、事前にこれらの情報を確認し渋滞を回避できる運行計画を立てることが大切です。

渋滞の発生原因は「交通集中」(自然渋滞)が7割以上を占めています(図2)。

また、渋滞の発生箇所は「上り坂・サグ部※」がほぼ6割を占めています(図3)。

交通渋滞の発生箇所

出典:NEXCO東日本「高速道路の渋滞対策」
https://www.e-nexco.co.jp/activity/safety/detail_07.html

※サグ部・・・道路の、下り坂から上り坂にさしかかる凹型構造の箇所

上り坂・サグ部では速度が無意識のうちに低下することがあります。1台の車の速度が落ちると、後続車も速度を落とし、その後ろの車も速度を落とし…と連鎖していくことで車がつながり(交通集中)、渋滞が発生します。

緩やかな下りや上りは識別しにくく、そのような箇所には渋滞発生を注意喚起する看板が設置されることもあります。それらを見落とさないようにし、こまめにスピードメーターで速度を確認する習慣をつけるとよいでしょう。

2.渋滞に差し掛かった時の留意点

図4は高速道路の平均速度調査の一例ですが、渋滞時(40km/h以下)は第一走行車線が最も速くなっています。追越車線へ強引に車線変更する車が見受けられますが、リスク(事故・あおり運転の誘発要因にもなる)があるだけで何のメリットもありません。頻繁な車線変更も同様です。

高速道路の平均速度

出典:ウェザーニュース「渋滞の高速道路、最も速く進む車線は”左車線”」https://weathernews.jp/s/topics/202305/020075/

渋滞時に路肩を走行する車を見かけることがありますが、路肩は緊急車両の通行路であり、走行は禁止されています。

急ぎの要因の一つとしてトイレも考えられますので、高速道路を走行するときは携帯トイレも備えておきましょう。

また渋滞時には、二輪車が車の間を縫うように走行することがあります。少しでも車が動いているときや停止状態から動き出すときは、後方や側方から二輪車が接近していないか確認しましょう。

コラム 運転支援装置「追従型クルーズコントロール」の留意点

追従型クルーズコントロール※は、運転者がセットした車速を維持するとともに、カメラ・レーダー等のセンサーで先行車を認識すると、その速度に応じて速度を自動調節し、車間距離を適正に保ちつつ走行する運転支援装置です。

追従型クルーズコントロール

以下は追従型クルーズコントロール利用時の留意点です。

  • 居眠り運転や機能の過信による前方不注意などに陥る危険があります。運転の主役はあくまでも運転者自身。装置に頼って油断することのないよう緊張感をもって運転しましょう。
  • 急カーブや急こう配などでセンサーの検知範囲を超えたり、センサーへの着雪・汚れ、逆光などで対象物を認識できなかったりする場合、装置が正しく機能しない場合があります。
  • この装置は車が一定の速度で流れやすい高速道路向きです。一般道路での使用や、高速道路であっても都市高速など急カーブが多いところ、合流・分流時、料金所付近での使用は控えましょう。

※車種によって機能や操作方法が異なります。利用する前に必ず機能詳細を確認しておきましょう。

以上(2024年8月)

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画像:amanaimages

まだまだある!社労士に相談が多い事例10選!生成AI、通勤手当、社内不倫など

働き方にも“新時代”が到来している今、私たち社労士のもとに多く寄せられる相談事例トップ10と、その解決策を検討することで、よりよい職場環境についてともに考えてみたいと思います。

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テレワーク中の部下は「できる/できない」で評価する

書いてあること

  • 主な読者:テレワークで働く部下の人事考課のポイントを知りたい上司
  • 課題:働いている姿が見えにくく、「頑張っているから」といった基準では評価できない
  • 解決策:「できる/できない」を基準に人事考課を実施する。手厚い教育とセットにする

1 「できる/できない」を基準にするとは

今どきは、テレワークでも常にWeb会議ツールなどでつながることができ、オフィスにいるときとほぼ同じように仕事ができます。

というのは建前で、実際は目の前に相手がいない状況は特に細かいことを伝えたり、熱量を込めたコミュニケーションを取ったりするのに不向きです。特に、上司からすれば、目の前で部下が働いていないので、指導も評価もしにくいというのが本音でしょう。

ここで必要となるのが上司の意識転換です。テレワークの大前提は「上司や先輩が近くにいなくても自立して働けること」なので、

「頑張っている」など曖昧な基準を排除し、シンプルに「できる/できない」で評価する

ことに徹すると、人事考課も適切に実施することができます。「できる/できない」のイメージは、例えば次のようなものです。

  • 自分で考えて、仕事を「作れる/作れない(指示待ち)」
  • 実際にその仕事が「できる/できない」
  • 自分で時間管理が「できる/できない」
  • 自分からきめ細かいコミュニケーションが「取れる/取れない」
  • 自分の足りない部分を知り、自ら勉強が「できる/できない」

このように言うと、「人事考課が結果主義に偏らないか?」と心配する人もいるでしょうが、ここで言う「できる/できない」は、それとは少し違います。結果主義は「できた/できなかった」という、文字通りの結果だけを評価しますが、テレワークの人事考課では、

成果に結びつくような行動を「取れた/取れなかった」も評価の対象

に加えます。そして、これが本当に重要なポイントですが、

「できる/できない」は教育とセットで行う

ことが不可欠です。つまり、

  • 会社はできるように全力で社員教育をする
  • その教育を効率的に行うために仕事を見える化し、マニュアルを作る
  • そのマニュアルがテレワークのルールとなる

といった流れになります。

2 具体的なイメージとなる「学習の5段階レベル」

「できる/できない」をイメージする際に参考になるのが、NLPの「学習の5段階レベル」です。この考え方に基づくと、社員の「できる/できない」は次のようなレベルになります。

  • レベル5:人に教えることができるほど、その仕事に精通している
  • レベル4:深く考えなくても、その仕事ができる
  • レベル3:深く考えれば、その仕事ができる
  • レベル2:浅く知っているだけで、その仕事ができない
  • レベル1:その仕事ができず、できるようになろうともしない

オフィスワークの場合、部下の実力はレベル1や2でも、上司の指示やフォローで「げた」を履き、レベル3として評価されることがあります。また、その社員が遅くまで残業をしていると、「真面目に頑張っている(ようだ)」と、さらに高い評価がされることさえあります。

しかし、テレワークだと事情は変わってきます。もちろん、Web会議ツールなどでつながることはできますが、「部下が困っていそうなときに声をかける」「部下のパソコンを見て『そこ間違っているよ』と修正を図る」といった、こまめな指示やフォローはしにくくなります。つまり、レベル1や2の部下が、「げた」を履きレベル3などと評価される可能性は下がっていきます。こうした、本来のレベルに基づいて人事考課をするための基準が「できる/できない」です。

厳しい取り組みのように感じられますが、「できる/できない」の人事考課を行うことで、「組織全体の戦闘力」の向上が期待できます。レベル1や2のままでは評価が下がることを知った部下の一部は、できるようになる努力をするでしょう。また、これが大きいのですが、現時点でレベル3以上の部下は、自分の仕事に集中できるようになります。

3 仕事を見える化し、失敗を許容する

繰り返しになりますが、「できる/できない」の評価とは結果主義ではありません。例えば、部下に初めての仕事を与えたとします。部下は、どうすれば「できるのか」という勝ち筋が分かっていないので、多くは失敗するでしょう。しかし、勇気を持って新しいことにチャレンジしているのに、失敗したら評価が下がるというのでは、部下のモチベーションは上がりません。

そこで、最初は手間がかかりますが、

できるだけ仕事のプロセスを「見える化」

していきます。テレワークは自由なようで、実は細かなルールの積み重ねが重要です。そこで、仕事の手順についてもマニュアル化し、成功や失敗を共有します。どこが難所なのか、手順にムダ・ムラ・ムリはないのかということも分かってきます。

また、コミュニケーションの一環として、各社員の仕事の進捗を共有するオンラインを実施することで、そこでの発言によって社員の成長や課題感も把握できるようになります。

4 教育に力を注ぐ

「できる/できない」の人事考課は、一部の社員にとっては厳しいものとなります。そこで、前述したマニュアルで仕事の進め方を示すと同時に、教育を充実させ、社員ができるようになるための努力を後押しするべきです。

ここに社員の気持ちが乗れば、従来のようなノルマ消化的なセミナーとは全く違う次元で、社員は本気で学ぶようになるでしょう。これも「できる/できない」の人事考課で期待できる一つのメリットであり、会社としても一定の予算を確保すべきところです。

以上(2024年9月更新)

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画像:pixabay

自社所有でなくとも所有者との共同申請で申請可能! 事務所等の省エネ化を支援する「脱炭素ビルリノベ事業」のご紹介

中小企業等を支援する国や自治体の補助金・助成金事業では、雇用・人材開発・IT補助・コロナ支援など幅広いジャンルの支援があります。
本レポートでは、おすすめの補助金・助成金について支援の内容や対象条件、申請方法等についてわかりやすく紹介します。

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令和6年度新設・改正 助成金のプロがおすすめする注目の雇用関係助成金5選

令和6年度に注目すべき厚生労働省の雇用関係助成金を5つ選び、その詳細と活用方法について解説します。これらの助成金は、企業が人材を確保し、定着させ、また働きやすい環境を整備し、結果として事業の持続的な成長を実現するための重要な手助けになります。

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あなたはどのタイプ? チャートで分かる相性のよさそうな金融商品と資産運用のポイント

書いてあること

  • 主な読者:創業期、成長期を経て成熟期を迎え、資金繰りにもある程度の余裕がある会社の経営者(40~60歳代)
  • 課題:老後の生活にいくら必要になるのか予想がつかない。資金不足に備えて、資産運用を検討したいが、どうしたらよいか分からない
  • 解決策:老後の資金がいくらになるかシミュレーションしてみる。金融商品の特徴を押さえ、家計で「当面使う予定のないお金」を投資に振り向けてみる

1 老後の資金はいくら必要?

「人生100年時代」と言われる今、老後の資金はいくら必要になるでしょう?
突然そんな質問をされたとき、明確な根拠をもって答えられるでしょうか。

数年前、話題となった「老後資金2000万円問題」を思い出された方もいるでしょう。そのきっかけとなったのは、金融庁の金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(2019年6月)です。そこでは、「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1,300万円~2,000万円になる」ということが書かれています。報告書に使われた統計データ等の前提条件下では、公的年金を中心とした収入だけでは資金不足に陥る恐れがあるというわけです。

とはいえ、実際に老後に必要となるお金は、年金や貯蓄額、保有資産、生活スタイル、健康状態などによっても大きく異なります。老後の生活にいくら必要になるのかは、
ご自身やご家族がどのように暮らしたいのか、最低でも守りたい生活水準はどれくらいか
によります。生活水準を下げるのは、なかなか難しいことですし、そうした事態はなるべく避けたいものです。

この記事では、老後の生活に必要なお金をシミュレーションしてみるためのツール、そして将来的な資金不足に備え、それを補うために、家計で「当面使う予定のないお金」を投資に振り向けようとする際、押さえておきたい主な金融商品の特徴を紹介します。


なお、以降で紹介するのは情報提供のみを目的とするものであり、取引の申し込みや勧誘、あっせん、推奨、助言、金融商品を含む商品やサービスの販売等を目的として提供されるものではありません。

また、実際の個人の資産運用についてはファイナンシャルプランナーなど専門家に相談するとよいでしょう。


2 老後の生活に必要なお金をシミュレーションしてみる

ここでは、生命保険文化センターがウェブサイトを通じて無償提供しているシミュレーションツールを紹介します。シミュレーションには前提条件がありますので、あくまで、ライフイベントなどに応じて必要になるお金の目安を把握するためのものとしてご活用ください。

1)生命保険文化センター「e-ライフプランニング」

基本情報(生年月日、性別、配偶者の有無、家計を主に担う方はご自身か配偶者か、子どもの有無)を入力し、「ライフプランを作る」「リスクに備える」などのメニューに進み、必要情報(家計の収支・資産や将来のリスクなど)を入力することで、退職後のセカンドライフ、老後生活資金の不足などについて結果を確認できます。

■生命保険文化センター「e-ライフプランニング」■
https://www.jili.or.jp/e-life/

2)不足するかもしれないお金をどのようにカバーするか

老後の生活に必要なお金をシミュレーションしてみた結果、将来的に生活資金が不足するかもしれないことが分かったとしたら、どうすればよいでしょうか。

まずは、ご自身の家計を、大まかに次のように分けて、それぞれどれくらいの金額がかかっているのかを整理してみましょう。

  • 生活に必要な当座のお金・生活予備資金:生活費、急な出費に備えるお金など
  • 使い道と時期が見えているお金:子どもの教育資金、住宅購入・リフォーム資金など
  • 当面使う予定のないお金

そして、まずは、ムダな出費をできる限り抑えるようにしましょう。その上で、「当面使う予定のないお金」があるならば、それを預貯金だけでなく、バランスよく他の金融商品に振り向けることを検討してみましょう。日本ではマイナス金利政策が解消されたとはいえ、預金金利は低い水準が続いており、銀行にお金を預けていてもさほど増えないのが実情だからです。

3 ご自身と相性のよさそうな金融商品の見つけ方

金融商品にはたくさんの種類があり、商品によって特徴もさまざまです。ご自身と相性のよさそうな金融商品を見つけるために押さえておきたいのが「リスク許容度」です。

リスク許容度とは、投資によって損失が出るリスクをどこまで受け入れられるかを示す限度のことで、年齢(=運用できる期間)、家族構成(=予定されるライフイベント)、収入や保有資産の状況、これまでの投資経験、ご自身の性格などによって個人差があります。

試しにご自身の性格がどんなタイプか、次の簡単な質問に「はいいいえ」で答えていってみてください。

性格診断チャート

いかがだったでしょうか? 割と当たっているという方もいれば、全然違うという方もいるかもしれません。

リスク許容度の診断テストを、ウェブサイトを通じて提供している金融機関などもあるので、ご興味のある方は「リスク許容度 診断」などのキーワードで検索してみてください。

4 押さえておきたい主な金融商品の特徴

金融商品は「安全性」「収益性」「流動性」という3つの観点で整理すると、特徴が分かりやすくなります。それぞれ簡単に言うと、次のような意味合いです。

  • 安全性:元本が保証されているか
  • 収益性:どれくらいの収益が期待できるか
  • 流動性:必要なときにすぐに現金化できるか

主な金融商品の特徴を押さえて、ご自身と相性のよさそうな金融商品を見つけてください。

1)預貯金

預金(銀行や信用金庫などに預けている日本円)と貯金(ゆうちょ銀行に預けている日本円)は、必要なときに引き出すことができ、万一、金融機関が破綻しても預金保険の対象として1000万円まで(とその利息)は全額保護されます。普通預金の金利は、年率0.02%ほど(2024年7月31日時点)で、預けていてもさほど増えません。

2)株式

株式会社が発行する「株式」は、会社が利益を上げるとその一部を配当として株主に還元します。「この会社は成長しそう」と多くの人が思い、株式を購入したがると株価が上がります。購入時よりも株価が上がったタイミングで売却することで利益を得ることもできます。一方、会社の業績が下がると、一般的には株価も下がります。会社が破綻してしまうと株式の価値はゼロになります。株式は比較的簡単に売却して現金化できますが、手元に現金が入るまでは時間がかかります。

先述したチャートで「好奇心旺盛でいろいろ挑戦したいタイプ」となった方は、株式を中心とした資産運用に興味を持つかもしれません。

3)債券

国が発行する国債、地方公共団体が発行する地方債、株式会社などが発行する社債といった「債券」は、利子を支払う時期や利率、満期日があらかじめ決められており、満期日に購入した元本(額面金額)が払い戻されます(償還といいます)。

債券の発行者が破綻するとお金が返ってこない恐れがあるため、格付け会社が、発行者の信用力によって債券を格付けします。収益性は、一般的に預貯金よりも高く、株式より低くなります。満期日前に売却して現金化できますが、金利などの影響を受けて価格が変動し、売却価格が額面を下回って元本割れとなる可能性もあります。

先述したチャートで「堅実で無理はしたくないタイプ」となった方は、債券を中心とした資産運用に興味を持つかもしれません。

4)投資信託

投資信託は、多くの人からお金を集めて、専門家である資産運用会社が株式や債券などで運用するもので「ファンド」ともいいます。運用により利益が出ると配当として、また値上がり益を分配金として保有者に還元します。少額から投資できるものも多いですが、安全性や収益性は投資信託が何にどれだけ投資しているかによります。株式同様、比較的簡単に売却して現金化できますが、手元に現金が入るまでは時間がかかります。

先述したチャートで「大ざっぱだけれどバランスを重視するタイプ」となった方は、投資信託を中心とした資産運用に興味を持つかもしれません。

5 リスクとリターンはトレードオフの関係

リスクという言葉は、「危険」「良くないことが起こる恐れ」という意味合いで使われていますが、資産運用の世界では、リターンのブレの大きさを指すことが一般的です。

そして、リスクの小さな資産からは得られるリターンも小さく、リスクの大きな資産からは大きいリターンが得られると言われています。

ローリスク・ハイリターンの金融商品があれば理想的ですが、現実には存在し得ないので、そのようなことをうたう商品を見つけたら詐欺を疑ってかかったほうが無難です。だまされないように気をつけましょう。

また、ハイリスク・ハイリターンの金融商品の中でも、リスクが高い商品(例えば、FX、信用取引、先物取引など)は、損失が生じたときの影響も大きくなるので注意が必要です。老後の生活に必要なお金をカバーするのには不向きでしょう。

以上(2024年8月作成)

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画像:photo-ac

【かんたん会社法(14)】企業再編の1つである「会社分割」

書いてあること

  • 主な読者:企業再編の1つとして「会社分割」の基本を知りたい人
  • 課題:会社分割の手続きはとても複雑そうで、とっつき難い
  • 解決策:通常、会社分割では事業を承継させる側が事業を選択し、対価は株式などとなる

1 さまざまな企業再編

「M&A(Mergers and Acquisitions)」は、企業が成長や競争力を高めるための戦略であり、具体的には、新市場の開拓、競争相手の排除、コスト削減、経済規模の拡大などさまざまな目的で実施されます。M&Aには、合併と買収という2つの意味がありますが、両方の意味を含むものとして、「企業再編」という言葉が使われることがあります。主な企業再編には次の7つの手法があります。

  1. 株式譲渡:会社の株式の全部または一部を他の会社に譲渡する
  2. 事業譲渡:事業の全部または一部を他の会社に譲渡する
  3. 合併:複数の会社を1つにする。吸収合併と新設合併とがある
  4. 会社分割:事業の全部または一部を他の会社に分割して承継する。吸収分割と新設分割とがある
  5. 株式交換:既にある会社を100%子会社にするために、子会社となる会社の株主の株式と親会社となる会社の株式を交換する
  6. 株式移転:既にある複数の会社が新規に100%親会社を設立するために、それぞれが保有する株式を100%親会社に移転し、対価として100%親会社の株式の交付を受ける
  7. 株式交付:既にある会社を子会社(100%子会社とは限らない)にするために当該子会社の株式を譲り受け、対価として自社株式を交付する

ここで紹介するのは上記のうち、会社分割です。吸収分割の手続きを中心とし、新設分割についてはポイントを絞って紹介します。

2 会社分割とは

会社分割とは、事業の権利義務の全部または一部を別の会社に譲渡することで、

  • 吸収分割:存在する会社に、事業を譲渡する
  • 新設分割:新たに会社を設立し、事業を譲渡する

があります。事業を譲渡するという意味では、別の組織再編の手法である「事業譲渡」に似ています。ただし、会社分割の特徴は、

  1. 包括承継のため、債務や契約上の地位の移転等について、相手方の同意が不要
  2. 通常、対価は金銭ではなく株式となるのが通常(事業譲渡では、対価は金銭が通常)

ことであり、この点で事業譲渡と異なります。

以降では、

  • 吸収分割:事業を承継させる側「吸収分割会社」、承継する側「吸収分割承継会社」
  • 新設分割:事業を承継させる側「新設分割会社」、承継する新会社「新設分割設立会社」

として、手続きのポイントを紹介します。なお、全ての会社は株式会社である想定とします。

3 会社分割の手続き

1)分割契約の締結、または分割計画の作成

吸収分割の場合、吸収分割会社と吸収分割承継会社は「吸収分割契約」を締結します。吸収分割契約で定める事項は次の通りです。

  • 吸収分割会社と吸収分割承継会社の商号、住所
  • 吸収分割承継会社が吸収分割会社から承継する資産、債務、雇用契約など権利義務の内容
  • 吸収分割承継会社が承継する株式に関する事項
  • 権利義務の全部または一部の代わりに金銭などを交付する場合はその事項。株式を交付する場合はその数または算定方法など
  • 吸収分割会社の新株予約権者に吸収分割承継会社の新株予約権を交付する場合、その新株予約権の内容や数、新株予約権者への割当に関する事項
  • 吸収分割の効力発生日
  • 吸収分割会社が、吸収分割の効力発生日に、全部取得条項付種類株式の取得(取得対価が吸収分割承継会社の株式のみであるもの)、剰余金の配当(配当財産が吸収分割承継会社の株式のみのもの)をするときはその旨

新設分割会社では「新設分割計画」を作成する必要がありますが、その内容は吸収分割契約で定める事項と似ています。違いとしては、新設分割計画では新設分割設立会社に関する事項(商号、本店の所在地、発行可能株式総数など)を定めなければなりません。また、新設分割の場合、対価として金銭等の交付をすることはできません。新設分割設立会社は、新設分割会社に株式、社債、新株予約権を交付しなければなりません。

2)分割契約・計画の事前開示

吸収分割の吸収分割会社と吸収分割承継会社、新設分割の新設分割会社と新設分割設立会社は、分割契約、分割計画の内容などを記載した書面を、事前に本店に備え置かなければなりません。これは、株主が会社分割を承認するか否か、債権者が異議を述べるか否かを判断するための資料です。事前開示する期間は、一定の日から効力発生日後6カ月を経過する日までです。一定の日とは、次の1.~5.のいずれか早い日を指します。

  1. 吸収分割の承認に関する株主総会の2週間前の日
  2. 反対株主の株式買取請求に関する通知または公告のいずれか早い日
  3. 新株予約権買取請求に関する通知または公告のいずれか早い日
  4. 債権者異議手続の公告または催告のいずれか早い日
  5. 上記1.~4.以外の場合には、吸収分割契約の締結の日から2週間を経過した日

3)株主総会の承認

1.吸収分割

吸収分割の場合、吸収分割会社と吸収分割承継会社がそれぞれ株主総会の特別決議で吸収分割契約を承認します。

ただし、吸収分割会社における株主総会の承認決議を省略できる場合があります。まず、簡易吸収分割の場合です。簡易分割とは、吸収分割会社が吸収分割承継会社に承継させる資産の額が、吸収分割会社の総資産額の20%以下の場合です。この場合、吸収分割会社の株主に与える影響が小さいと考えられ、株主総会の承認決議は不要となるのです。

また、略式吸収分割の場合も株主総会の承認決議は不要になります。略式吸収分割とは、特別支配関係にある会社の吸収分割です。特別支配関係とは、相手の会社の議決権の90%以上を有しているケースです。具体的には、吸収分割会社が吸収分割承継会社を特別支配している場合、吸収分割会社における株主総会の承認決議は不要です。

視点を変えて、吸収分割承継会社における株主総会の承認決議を省略できる場合もあります。考え方は先と同じで、承継会社における簡易吸収分割および略式吸収分割です。前者は、吸収分割承継会社が吸収分割会社に分割対価として交付する株式等の額が、吸収分割承継会社の総資産額の20%以下の場合です。後者は、吸収分割承継会社が吸収分割会社を特別支配している場合です。

2.新設分割

新設分割の場合、新設分割会社が株主総会の特別決議で新設分割計画を承認します。ただし、簡易新設分割の場合、新設分割会社における承認決議を省略できます。簡易新設分割とは、新設分割設立会社に承継させる資産の額が、新設分割会社の総資産の20%以下の場合です。

4)株主通知

会社分割について、次のことを株主に通知します(一定の場合には公告で代用することができます)。

  • 吸収分割の吸収分割会社:効力発生日の20日前までに、吸収分割をする旨、吸収分割承継会社の商号および住所
  • 吸収分割の吸収分割承継会社:効力発生日の20日前までに、吸収分割をする旨、吸収分割会社の商号および住所
  • 新設分割の新設分割会社:株主総会の承認決議の日から2週間以内に、新設分割をする旨、新設分割会社と新設分割設立会社の商号、住所

5)反対株主の買取請求

上記の株主通知を受けた株主のうち、分割に反対する株主は、自身の有する株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求できます。請求する相手は、吸収合併の場合は吸収分割会社、吸収分割承継会社となります。同様に新設分割の場合は新設分割会社となります。ただし、簡易合併の場合、原則として、株式買取請求権は認められません。同様に略式合併の場合、特別支配会社は株式買取請求権を有しません。

6)新株予約権の買取請求

吸収分割会社および新設分割会社の新株予約権者は、その新株予約権と同条件の新株予約権が交付される場合を除き、新株予約権の公正な価格での買取請求ができます。

7)債権者の保護

吸収分割および新設分割の分割会社、承継会社は、次に掲げる事項を官報に公告しなければなりません。

  • 分割をする旨
  • 分割会社、承継会社そして設立会社の商号および住所
  • 分割会社、承継会社の計算書類に関する事項
  • 分割に異議のある債権者が、一定の期間内(1カ月以上の期間)に異議を述べられる旨

同時に、知れたる債権者に個別の通知をしなければなりません。知れたる債権者の範囲に明確な定義はありませんが、実務上、少額の債権者は除くこともあります。また、定款で日刊新聞紙または電子公告による公告方法を定めている場合、官報への公告に加えてこれらの方法による公告を行った場合、債権者に対する個別の催告は必要ありません。また、分割後も分割会社に全額を請求できる債権者については、債権者保護手続きは必要ありません。

債権者が一定の期間内に異議を述べなかった場合は、分割について承認したものとみなされます。一方、異議を述べた債権者に対しては、分割をしてもその債権者を害する恐れがない場合を除き、弁済、相当の担保提供、弁済のための相当の財産の信託をしなければなりません。

8)登記

吸収分割の場合、吸収分割会社および吸収分割承継会社は、分割の効力が生じた日から2週間以内に、その本店の所在地において、変更の登記をします。

新設分割の場合は、新設分割設立が設立された日に新設分割の効力が発生します。つまり、登記が効力発生の要件となります。この登記は、株主総会の承認決議など会社法で定められている所定の日から2週間以内に、本店の所在地で行わなければなりません。

9)書面などの備え置き

吸収分割の場合、吸収分割会社および吸収分割承継会社は効力が発生した後遅滞なく(新設分割の場合、新設会社および新設分割設立会社の設立登記の日から遅滞なく)、分割により承継した権利義務その他の分割に関する事項を記載した書面または電磁的記録を作成しなければなりません。

これらの書面または電磁的記録は、吸収分割では効力発生日から6カ月間、新設分割では成立の日から6カ月間、本店に備え置かなければなりません。

以上(2024年8月更新)
(監修 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】オーケストラに学ぶチーム作りの基礎、ポイントは「対話」

おはようございます。皆さんは、オーケストラの生演奏を聞いたことがありますか。実は、私には趣味でチェロをやっている友人がいて、その友人が参加するアマチュアオーケストラを見に行くことがあります。私自身は音楽にあまり明るくないのですが、何十人もの演奏者が、寸分の乱れもなく統率されたメロディーを奏でる姿には、いつも圧倒されます。演奏する楽器はそれぞれ違うのに、彼らが奏でるメロディーは、まるで歯車のようにカッチリとかみ合い、人々を感動させるのです。今日は、オーケストラの演奏者がどのように“いい音楽”を作り上げているのか、彼らの「練習」をテーマに話をしたいと思います。

学生や社会人が集まるアマチュアオーケストラの場合、自分の楽器の「個人練習」を行うのと併せ、「チームでの練習」として、

  1. 演奏者全員が集まって「合奏」
  2. 管楽器と弦楽器の演奏者に分かれて「分奏」
  3. 同じ楽器の演奏者が集まって「パート練習」
  4. 再び演奏者全員が集まって「合奏」

という流れを繰り返し行うそうです。自分の楽器を演奏するだけでは、曲の流れや全体像が分かりませんし、演奏の速さや抑揚の付け方も演奏者1人1人で異なります。だから、まずは全員が集まって「合奏」することで曲のイメージをつかみ、その後、小さなチームに分かれて「分奏」「パート練習」を行うことで、1人1人の細かい“ズレ”を解消して、演奏の精度を高めるのです。

友人いわく「“いい音楽”を作り上げる上で大切なのは、チームがやりたいことと個人がやりたいことをできるだけ一致させ、演奏者全員が同じ方向を向いて練習すること」なのだそうです。曲を楽譜通りに再現することももちろん大切ですが、楽譜に表現されない部分については、「こんな風に演奏したい」「このパートには特に力を入れたい」といった、演奏者それぞれのこだわりがあります。

そういった部分は、演奏者同士で「対話」を繰り返して、お互いのこだわりを共有します。一方、全員の曲に対するこだわりを拾い上げることは難しいので、最終的には経験・知識量が豊富な指揮者が、トップダウンで演奏のイメージを伝え、チームを統率するそうです。

こうしたオーケストラのチームワークには、私たちも学ぶべきところが多々あるはずです。社員の皆さんには、日々さまざまな仕事をしていただいていますが、皆さんはその仕事の先にある「会社がやりたいこと」のイメージをちゃんとつかめているでしょうか。一方、経営者である私、あるいは皆さんの上司は「皆さんがやりたいこと」、すなわち仕事に対するこだわりをちゃんと拾い上げられているでしょうか。お互いに足りない部分があるはずです。

大切なのは「対話の繰り返し」です。お互いが納得して“いい会社”を作っていけるよう、しっかり「練習」していきましょう。

以上(2024年9月作成)

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画像:Mariko Mitsuda