経営者3人にインタビュー! あなたにとって「価値ある情報」とは?

1 「情報過多」の現代社会を生き残るためには?

経営者は、会社にいる誰よりも「情報収集」に熱心です。会社の進むべき道を決める責任があるからこそ、判断を誤らないよう、もうかる(損をしない)情報、新しいテクノロジー、業界の将来予測など、あらゆる分野に目を光らせ、より「価値ある情報」を手に入れようとします。

とはいえ、インターネットやSNSを介して大量の情報が行き交い、「情報過多」になっている現代、情報の取捨選択は容易ではありません。多くの経営者が、

  • 自社にとって、本当に「価値ある情報」とは何なのか?
  • 信頼できる情報とそうでない情報を、どのように見分ければいいのか?

など、日々疑問を抱えながら仕事をしているはずです。このあたり、経営者はどのように考えているのでしょうか? そこで経営者3人にご協力いただき、インタビューを実施しました。

2 「耳の痛い情報が大事」アルテナ代表 古田聡さん

画像1

アルテナ代表 古田聡(ふるたそう)さん

https://altenas.jp/

アルテナ(愛知県名古屋市)は、マーケティング支援のプロフェッショナルです。自社の商品・サービスをもっと広めたいという会社向けに、マーケティングに必要な調査・分析から、戦略立案・各種施策の実行支援など、幅広いサポートを行っています。

「顧客の状況を丁寧にヒアリングし、情報を精査すること」に重きを置く、代表の古田聡さん。緻密なマーケティング戦略により、ニッチな商品の売り上げを2倍以上にアップさせたこともあるそうです。情報の大切さを知る古田さんの「価値ある情報」について話を聞きました。

1)あなたにとっての「価値ある情報」とは?

古田さんは、まず「自分に足りないところを認識できる情報」が大切だと言います。

「耳の痛い情報にこそ、価値があると思っています。現在の課題を知り、向き合うことにつながるからです。商品開発に課題があると感じたなら、商品開発の本を読んでみたり、商品開発に関して厳しい意見を言ってくれそうな人と付き合ったりすることが重要だと思っています」

また、直接経営に役立たなくても、「心が豊かになる、QOL(クオリティー・オブ・ライフ)が上がる情報」であれば、価値があると考えているそうです。

「例えば、心地よい家作りのための建築本や子育てに関する本など。それ自体が経営に直接生きるわけではないですが、知ることで人生が豊かになりますよね。そして生活が豊かになり、間接的に、良い経営判断ができ、良い会社作りにつながると思っています」

2)「この情報がビジネスで役に立った」という経験はありますか?

古田さんは、ある書籍との出合いが印象に残っているそうです。

「私は代表という立場上、時間や人脈、お金などをある程度自由に使いながら事業を展開できます。だからこそ、『やれることは全部やってみたい、挑戦したい』と思っていた時期もありました。そんなときに読んだのが『エッセンシャル思考』に関する書籍です」

エッセンシャル思考とは、「目の前にあることを全てやるのではなく、本当に重要なことを選択して実行する」という考え方です。古田さんは書籍を読むことで、自分は全てをうまくやろうと頑張りすぎて、大切なことに時間とエネルギーを注げていないと気付けたそうです。

「尊敬している先輩に、『本当にやるべきことを知るためには、いろいろ試す時期があってもいいけれど、どこかのタイミングで1つにフォーカスして集中しないと伸びないよ』と助言されたことが大きかったです。当社の強みであるマーケティングの知識や経験と、良質なコンテンツ作りを軸にやっていこうと心が定まりました」

マーケティングの一環としてコンテンツ作りに力を入れるようになってからは、集中的に行うことができてPDCAが回しやすくなり、結果的に受注も増えたそうです。

3)どこから情報を得ることが多いですか?

古田さんは、「人からの情報をはじめ、本、メールマガジン(以下「メルマガ」)などで情報を得ることがほとんど」と言います。それぞれに情報収集のポイントがあるそうです。

1.人からの情報の場合

「SNSや紹介などで知り合い、興味を持った人には損得など考えず、たとえ遠方でも会いに行くこともあります」

2.本の場合

「本は年間100冊を目標に掲げて、ジャンルは問わず読んでいます。本を購入する際は、1つのジャンルの本をまとめて10冊ほど購入して読むので、専門書の場合、重複する項目も多くなります。そのため目次を確認して、内容が分かる箇所は飛ばし読みをします。気に入ったフレーズなどはラインを引き、Notionに書き起こしています」

画像2

古田さんのNotion

3.メルマガの場合

「マーケティング分野に関しては深く、その他の分野は広く浅く知識が得られるよう、合計10社ほどのメルマガを読んでいます。『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』の著者の中島聡さんや、実業家の堀江貴文さんのメルマガは、長く読んでいますね。いずれも面白く学びがあります。ちなみに、販売促進やセミナー案内ばかりのものは解約しがちです」

4)どこから得られる情報を特に重視しますか?

古田さんにとっての情報源の重要度は、「人→本→メルマガ」という順番になるそうです。

「人からの情報は、話し手が聞き手に分かりやすく伝えてくれるので、パーソナライズされています。本も、自分の好みに合うものなどを選択できるので、ある程度パーソナライズされています。メルマガは、複数の読者にまとめて送られるので、自分向けでないこともありますよね。だから重要度は、『人→本→メルマガ』の順番になると思っています」

5)信頼できる情報とそうでない情報を、どのように見分けていますか?

古田さんは、「ただ目立つため」に発信された情報はあまり信頼が置けないと言います。

「以前、弊社メンバーのnoteを勝手に盗用し、X(旧Twitter)で発信してバズった方がいました。目立つためにやっていることは、専門家が見ればすぐに分かります。そのような方や情報とは距離を置くようにしています」

3 「身の丈に合った情報が大事」一新堂代表 本土大智さん

画像3

一新堂代表 本土大智(ほんどだいち)さん

https://isshindo1956.com/

一新堂(佐賀県西松浦郡有田町)は、贈答品の購入時に使用する「貼り箱」などの企画や販売を行っています。1956年の創業以来、約70年にわたってものづくりを続けてきた老舗の会社です。

代表(3代目)の本土大智さんは、価格競争で売り上げが低迷していく中、外部のデザイナーと組んでオリジナル製品を作り、ブランディング化に成功しました。経営の挽回を図るための情報収集に苦労したという、本土さんの「価値ある情報」について話を聞きました。

1)あなたにとっての「価値ある情報」とは?

本土さんは、「身の丈に合った情報」、つまり「そのときに欲しいと思っている情報」を重要視しているそうです。

「必要な情報は、その時々の経営指標によって変わります。だから、今、自分が立っているステージを確認することが大切だと思っていますし、その時点での身の丈に合った情報が『価値ある情報』になると感じています」

2)「この情報がビジネスで役に立った」という経験はありますか?

本土さんは、ある1人のデザイナーが「価値ある情報」を提供してくれたと言います。

一新堂が組み立て式収納ボックス「ISSHINDO FOLDING BOX」を製作した際、自社の課題を踏まえてデザインを提案してくれるデザイナーを探すのが大変だったそうです。大手デザイン事務所から個人まで複数のメールを送付し、その中ですぐに返事をくれたのが、デザイナーの古賀正裕さんでした。

「他にもすてきなデザイナーさんはいたのですが、古賀さんはメールをした翌朝に連絡がありました。迅速な対応が好印象でしたし、提示してくれる価格も当社の身の丈に合ったものでした。また、古賀さんが返事をくれた同日、デザインのセミナーに登壇すると知り、足を運ぶことにしたのですが、そのセミナーでは『具体的なデザインの事例』についても話を聞くことができ、頭の中が整理されました」

その後も対話を重ね、古賀さんとの共創で新製品の製作が始動。誕生した製品は、2018年のグッドデザイン賞を受賞しました。付加価値の高い製品を作る会社と認知されたことで、新たな受注獲得につながったそうです。

画像4

ISSHINDO FOLDING BOX

3)どこから情報を得ることが多いですか?

本土さんは、「以前は、ひたすらインターネットや本、新聞、SNSなどあらゆるメディアで情報をインプットしていた」そうです。ただ、それについては反省があるとも語ってくれました。

「情報過多となり、『あれもこれもやりたい』となってしまいました。ビジネス本や自己啓発本を読んでいても、理解した気になっているだけで『読んでいる自分』に酔い、それによってモチベーションを上げているところがありました。ハイブランドの新作デザインやプレスリリース、海外のメディア情報、SNSもよく見ていました。バズることに興味を持った時期もありましたが、当社がやることではないと思い直しました」

たくさんの情報に触れる日々を送る中で、「情報を咀嚼(そしゃく)できていない自分」に気付いたそうです。

「自分の主軸がなくなっているなと思いました。一見うまくいっているように見える会社に対して『うらやましい』と感じて、まねをしたくなっていましたね。しかし今は、やるべき主軸が定まったので、必要な情報を先に精査できるようになりました」

4)どこから得られる情報を特に重視しますか?

本土さんは、「信頼できる専門家が大事ですね。自分で調べるのには限界がありますから」と言います。そう強く感じたのは、ギフトショーに参加するため、プロダクトデザイナーの小嶋健一さん(福岡生活道具店)と、包丁のパッケージを作ったときだそうです。

「前情報として、日本の包丁が海外で人気ということは知っていました。ただ、実際どうなのか、私はインターネットを使ってもうまく調べられず……。その点、小嶋さんは、プロダクトデザイナーとしての知見から、マーケットの状況を正確に把握し、情報量も豊富に持っていると痛感しました」

専門家の持つ情報を重要視したことが、製品開発の成功につながったそうです。

「小嶋さんと情報を精査していたところ、良い包丁でも、パッケージがモダンデザインに変換されていないケースが多いと分かりました。包丁を保護し、美しく見せるパッケージを提案したら需要があると感じ、『京都式貼箱 京刃物型』を開発しました」

開発した貼り箱は「鞘(さや)のような箱」をイメージしたデザインで、マグネットの仕様で開閉しやすく、さびにくい工夫を施すなどが評価され、2020年の京都デザイン賞に入選したそうです。

5)信頼できる情報とそうでない情報を、どのように見分けていますか?

本土さんは、「課題解決をするための手段としてデザインがある。その本質を忘れてしまっているデザイナーの情報は信頼できない」と言います。

「人からの情報を大切にしているので、直接会ってお話しすることを大事にしています。共創しているデザイナーさんは全てそうでした。逆に信頼できないのは、全て自分の手柄のように情報発信をされている方です。ご一緒したくないなと感じてしまいます」

4 「行動したくなる情報が大事」笏本縫製代表 笏本達宏さん

画像5

笏本縫製代表 笏本達宏(しゃくもとたつひろ)さん

https://shakumoto.co.jp/

笏本縫製(岡山県津山市)は、専門の職人によるネクタイの縫製で知られる会社です。2015年にオリジナルの高級ファクトリーブランド・ネクタイ「SHAKUNONE(笏の音)」を立ち上げ、2024年に「つやまスーツ」の販売を開始しました。

代表の笏本達宏さんは日々、SNSで発信を続けています。情報を発信する側の立場から、笏本さんの「価値ある情報」について話を聞きました。

1)あなたにとっての『価値ある情報』とは?

笏本さんは、情報の受け手のアクションを重要視しているそうです。

「『価値ある情報』は、受け取った側が行動したくなる情報だと思います。我々のように発信している側としては、思いを持って動いてくださることはとてもうれしいです」

2)「この情報がビジネスで役に立った」という経験はありますか?

笏本さんが、「受け取った側が行動したくなる情報」が大事だと強く感じたのは、2017年10月にクラウドファンディングを行ったときだそうです。

当時、会社の経営難に悩んでいた笏本さんは、たまたま参加していた交流会で、登壇されていた方から、「地方創生をしていく中で、銀行や行政からの支援が得られない場合、クラウドファンディングという手法があります」という話をチラッと耳にしたそうです。

「当時のクラウドファンディングは、今ほどメジャーではありませんでしたが、興味を覚えた私は、登壇者に直接話を聞き、他にもさまざまな人に意見をもらいました。そして、1年で100万円も売れなかったネクタイを、1カ月で100万円販売するチャレンジをしました。すると予想を超えて170%達成。170万円以上の支援が集まりました」

3)どこから情報を得ることが多いですか?

SNSで情報発信を行う笏本さんは、情報を収集する際もSNSをよく活用しているそうです。

「SNSは最新情報が流れてくるので、頻繁にチェックしています。ただ信ぴょう性に乏しいものもあるので、自分の中でフィルターをかけるようにはしていますね。商工会や商工会議所、県などがやっているセミナー、勉強会などは、情報の信用性が担保されていますが、SNSは誰でも発信できるので、疑う気持ちは持っておく必要があると思っています」

4)どこから得られる情報を特に重視しますか?

笏本さんは、「勉強会やSNSで得る情報も大切ですが、人との雑談からビジネスにつながるヒントが生まれることもある」と言います。

「先日、旅行に行った方との雑談で、新しいビジネスモデルのヒントをもらいました。情報は鮮度が命です。すぐに事業計画書作りに取り組みました。やはり、どんなに良い情報も、受け手次第で先ほどもお伝えした通り『単なる情報』のまま終わってしまいます。動くことで、『価値ある情報』として活きてくると思いますね」

また、お客さまからの声が、新しいビジネスのきっかけになったケースもあるそうです。

「SHAKUNONE(笏の音)のお客さまから、『このネクタイに似合うスーツは、何ですか?』とよく質問されることがありました。お客さまのニーズを私の中でかみ砕いて、自分たちにできることは何かを考えた末、オリジナルスーツを作ることにしました。しかし、我々はネクタイ屋でありスーツは作れません。だから、パートナー選びから始めました」

笏本さんは、インターネットで調べても地元でスーツが作れる縫製工場が見つからなかったため、2023年の春ごろ、津山市役所に相談したと言います。すると、市内でスーツ作りをしている縫製工場を紹介してもらうことができ、さらに津山市出身の専門フィッターの方の協力も得られました。こうした積み重ねの結果、2024年3月に「つやまスーツ」が生まれたそうです。

画像6

つやまスーツ

5)信頼できる情報とそうでない情報を、どのように見分けていますか?

笏本さんは、情報を受け取る立場と発信する立場の両方から、情報の信頼性について話してくれました。

「セミナーで聞いたことを、さも自分の考えのように伝えている人の情報は信用できませんね。逆に、ご自身の経験に熱量を乗せて語れるような方の話は聞きたいと思います。一方で私は、10年間1日も休まずにSNSでの発信を続けています。情報を発信する責任として、数字などは国土交通省などのしっかりとしたデータを調べ、精査・整理してから発信するようにしています」

以上(2024年12月作成)

pj10081
画像:アルテナ・一新堂・笏本縫製提供

教育訓練給付金の拡充

2024年10月から、雇用保険の「教育訓練給付金」が拡充されました。教育訓練給付金は、厚生労働大臣指定の教育訓練を受講、修了した労働者に、受講費用の一部が雇用保険から支給される制度です。厚生労働省は、拡充により、労働者の主体的なスキルアップやリスキリングにつながることを期待しています。本稿では、教育訓練給付金の基本的なしくみと、今回の拡充のポイントについてお伝えします。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

【中堅社員のスピーチ例】目標管理は手書きの手帳で!

【ポイント】

  • 目標を立てても、予想以上の忙しさのせいで、“三日坊主”で終わってしまうことがある
  • 目標や計画をなかなか達成できないのは、掲げた当初の「思い」を忘れてしまうから
  • 手書きの手帳には、筆跡の力強さなどが表れ、目標を掲げたときの自分に向き合える

おはようございます。まもなく今年も終わり、もう少しで2025年がやって来ます。まとまった時間が取れる年末年始は、新年の目標を立てるのにうってつけです。ただ、せっかく目標を立てても、年明けからの予想以上の忙しさのせいで、いわゆる“三日坊主”で終わってしまうという話もよく聞きます。そこで、皆さんにおすすめしたいのが、「手書きの手帳」を使った目標管理です。私自身が実際にやってみて、目標達成にとても役立ったので皆さんに共有したいと思います。

昨年末、私は小さな目標を10個立て、それらの実行計画を手帳に書いておきました。ちなみに、内容は「春になったらスポーツジムに通う」などプライベートなものから、「今年こそ資格を取得する」など仕事に関わるものまでさまざまです。しかし、いざ新年が始まると、目標のことは頭の片隅にありつつも、予想外の忙しさになかなか着手できずにいました。

そんな状態が続いていたとき、ふとした瞬間に、手帳を見直し、力強い筆跡で書かれた目標を見ました。すると、目標を掲げた当時の「今年こそは絶対にやり抜きたい」という、強い思いがよみがえってきたのです。私は「どれだけ忙しくても着実に取り組もうと決めたじゃないか」と反省し、まずは1つ、簡単なものから着手することができました。

また、目標の1つだった資格取得のための勉強を仕事と両立させることが難しく、挫折しかけていたときも、手帳の目標が書かれたページを開くたび、過去の自分が「絶対達成しろよ」と背中を押してくれているような気になり、試験日まで勉強を続けることができました。おかげで今年は、10個の目標のうちのほとんどを達成し、念願だった資格も無事に取得でき、大きな自信となりました。

目標を“三日坊主”で終わらせないためのポイントは、目標を掲げたときの「意気込み」を忘れないことだと思います。目標を立てたときの「やるぞ」という気持ちが筆跡に現れるのが、手書きの手帳ならではのメリットといえます。
ちなみに、12月1日は手帳の日だそうです。少し過ぎてしまいましたが、今年が終わる前にアナログの手帳を1冊購入し、新しい気持ちで新年を迎えてみてはいかがでしょうか。

以上(2024年12月作成)

pj17201
画像:Mariko Mitsuda

政治・経済・スポーツ……2024年の主な出来事を振り返ろう

2024年を振り返って

早いもので、2024年も終わりが近づいてきました。今年はどのような出来事があったのでしょうか? 次の図表を見ながら1年を振り返ってみましょう。なお、12月の出来事は、2024年11月22日時点で予定されている内容です。

画像1

2024年は、元日から「令和6年能登半島地震」が発生し、8月8日にも日向灘を震源とする地震発生に伴い、南海トラフ地震臨時情報が発表されるなど、大きな災害がありました。また、政治面では日本・米国それぞれのリーダーが交代となり、経済面では、記録的な株価の変動や、マイナス金利解除に伴う17年ぶりの利上げ実施などが、世間を騒がせました。

一方で明るいニュースも多く、スポーツ面では、大谷翔平選手が大リーグ史上初となる50本塁打50盗塁の快挙を達成し、ナ・リーグMVPを受賞するという大記録を打ち立てました。佐渡島の金山が登録に向けた運動開始から27年越しの世界文化遺産登録となるという出来事もありました。12月には、日本原水爆被害者団体協議会のノーベル平和賞受賞が控えています。

2025年の干支は巳(み)です。巳、つまり蛇は、脱皮を繰り返すことから「変化と再生」の象徴とされています。先行きが不透明な時期が続きそうですが、どんなことが起こっても、蛇のようなしなやかさと賢さをもって対応できるように準備をしておきましょう。

以上(2024年12月作成)

pj80197
画像:Joao-Adobe Stock

【管理会計】見えない人件費、役割に付随する仕事も想定して判断せよ!

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけではなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:認識できている「数字」や「役割」だけに基づいて判断してよいのか?
  • 解決策:会社が負担する総額人件費は年間給与の1.5〜2倍、担当外の仕事もたくさんある

1 質問:売上高より低い人件費なら“お得な採用”?

年間売上高が600万円の新規取引先を獲得しました!

人手が足りなくなるので、「年収480万円(月額給与30万円×12カ月+賞与60万円×2回)」で人材を採用しようと考えています。単純に、

600万円−480万円で120万円のプラスである

ということで、採用を進めてよいでしょうか。こうしたシーンに直面することはよくあるので、判断の基準をご紹介します。

2 「見えない人件費」とその正体

人件費には、社員が認識していない「見えない人件費」があります。例えば、法定福利費(健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料、雇用保険料など)や、法定外福利費(通勤手当や住宅手当など)があります。これらをすべて合計した人件費を総額人件費と呼び、

総額人件費の目安は年間給与の1.5~2倍程度

といわれます。年収480万円の社員の総額人件費は720万円以上です。

画像1

3 売上の全てが利益になるわけではない

利益にも注目しましょう。売上高から売上原価(仕入原価など)を差し引いたものが売上総利益、売上総利益から販売費及び一般管理費(以下「販管費」)を差し引いたものが営業利益です。多くの場合、人件費は販管費から支払われるので、

売上総利益が人件費よりも少なければ、営業利益は赤字

となります。仮に総額人件費を720万円、600万円の売上高の40%が仕入原価とした場合、

1200万円=720万円/0.6

の売上高がなければ総額人件費を賄うことはできません。上の数式の「0.6」は、本ケースの売上総利益率です(60%(1-0.4))。

4 ABCで人件費を配賦する

「配賦」についても知っておきましょう。例えば、製品Aの販売を担当する社員の人件費は、全額が製品Aの販売に振り向けられるわけではありません。通常、他の商品の販売や事務作業などもしているからです。

配賦とは、

複数の部門・製品・業務などにまたがって発生する費用を、各部門・製品・業務などに適正に費用配分すること

であり、原価計算ではある基準を持って行われます。いくつかの方法がありますが、知っておいてほしいのはABC(活動基準原価計算)です。

ABCとは、アクティビティ(活動)を基準として原価を計算する手法です。例えば、検品作業にかかる費用は次の算式で算出します。

検品作業の費用=1時間当たりの人件費×製品1個当たりの時間×出荷個数

1時間当たりの人件費を3000円、製品1個当たりの時間では検品作業が15分、その他作業が10分の場合、出荷個数が100個(例1)と50個(例2)の計算は次の通りです。

画像2

ここでは話を単純にしていますが、人件費に限らず原価を配賦するためのイメージがつくかと思います。

5 練習問題

(問題1)

年間給与などが500万円の人の総額人件費を賄える売上はどのくらいですか?

なお、総額人件費は年間給与の1.5倍、売上高に対する仕入原価の割合が50%とします。

(問題1の回答)

総額人件費は「500万円×1.5」で計算します。また、総額人件費を賄うことができる売上は、「750万円/50%」で計算します。

問題1の答え:1500万円=750万円/0.5

上の数式の「0.5」は、本ケースの売上総利益率です(50%(1-0.5))。

(問題2)

製品Aの販売にかかる利益を算出するため、ABCに基づいて人件費の配賦を行います。どのような情報が必要ですか?

(問題2の回答)

この記事で紹介してきた内容に基づくと、

  • 販売に関するアクティビティ

と、各アクティビティに関する、

  • 1時間当たりの人件費
  • 製品1個当たりの時間
  • 出荷個数

となります。なお、この例では「製品1個当たり」を基準にしていますが、「製品10キログラム当たり」など、費用の発生実態に合わせて基準を変更しましょう。

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

pj00322
画像:ESB Professional-shutterstock

【かんたん消費税(7)】インボイスの保存は絶対条件「仕入税額控除」の内容と計算方法

書いてあること

  • 主な読者:インボイス制度で大きな影響を受ける仕入税額控除について知りたい経営者
  • 課題:仕入税額(仮払消費税)がどのように算出されているのか分からない
  • 解決策:一定の要件を満たす会社は仕入税額が全額を控除できる。それ以外の会社は「個別対応方式」か「一括比例配分方式」のいずれかで仕入税額控除

1 インボイスでなければ消費税で損をする?

消費税は、「預かった消費税(仮受消費税)」から「支払った消費税(仮払消費税)」を差し引いて計算します。これを「仕入税額控除」といいますが、インボイス制度が導入されてから(2023年10月1日以後)は、

「適格請求書発行事業者」から発行してもらったインボイスを保存することが、仕入税額控除の条件

になっています。適格請求書発行事業者とは、国税庁に適格請求書発行事業者の登録をした事業者です。

相手が適格請求書発行事業者でも正確なインボイスをもらえなかったり、相手が適格請求書発行事業者の登録をしていなかったりする場合、仕入税額控除が受けられず、皆さんが損をすることがあるのです。

画像1

インボイスは大事なものですから、紛失しないように保存方法も決めておきましょう。このタイミングで電子帳簿保存法にも対応し、インボイスの電子保存を検討してもよいかもしれません。

2 仕入税額控除が楽々な会社とは?

仕入税額控除には、「原則課税」と「簡易課税」とがありますが、ここでは原則課税に注目します。なお、簡易課税は課税売上高が5000万円以下など、一定の要件を満たす企業が採用できる、仕入税額控除の計算を簡単にした仕組みです。

さて、原則課税に話を戻します。【簡易】課税という制度があるくらいなので、仕入税額控除の計算は複雑なのですが、実は、次の2つのいずれの要件も満たす会社は全額控除が認められています。規模がそれほど大きくなく、厳密に計算しなくても影響は軽微と考えられているからです。

  1. 課税売上高が5億円以下
  2. 課税売上割合(売上高に対する課税売上高の占める割合)が95%以上

全額控除が認められてない場合、「個別対応方式」か「一括比例配分方式」で計算しなければなりません。このようにさまざまな計算方法のある仕入税額控除の全体像をまとめると次のようになります。

画像2

3 「個別対応方式」と「一括比例配分方式」

1)個別対応方式とは

仕入税額控除の基本は次の通りで、これを最も厳密に行うのが個別対応方式です。

  • 課税売上に対応する仕入で発生した仮払消費税:全額控除する
  • 非課税売上に対応する仕入で発生した仮払消費税:控除できない
  • 課税売上と非課税売上に共通した仕入で発生した仮払消費税:一定割合だけ控除する

画像3

2)一括比例配分方式とは?

一方、一括比例配分方式は個別対応方式よりは楽です。なぜなら、一括比例配分方式では仮払消費税を3つに区分することなく、

仮払消費税の全額に課税売上割合を掛けた金額を仕入税額控除額とする

ことができるからです。

画像4

ただ、一括比例配分方式は、一度採用したら最低2年間は変更できないので注意してください。事務負担が楽だからといって安易に一括比例配分方式を採用すると、仮に翌期は個別対応方式のほうが納税額が減る場合でも、個別対応方式は採用できなくなってしまいます。

4 その他仕入税額控除の特例

仕入税額控除の計算にはさまざまな特例があり、これを見逃すと税務調査で指摘を受けることがあります。主な特例を紹介するので、ご確認ください。

1)課税売上割合の著しい変動(土地の売却など多額の非課税売上が発生したときなど)

高額で長い期間使い続ける固定資産は、取得した事業年度の状況(課税売上割合)だけで、仕入税額控除の金額を決定することが不合理なケースがあります。そのため、課税売上割合が直近3年間のもの(通算課税売上割合)と比べて、

  • 著しく増加した場合には、仕入税額控除額を加算する
  • 著しく減少した場合には、仕入税額控除額を減算する

という一定の調整をします。

例えば、普段は売上のほとんどが課税売上に該当する会社なのに、たまたま、ある事業年度に土地などを売却したために多額の非課税売上が生じて課税売上割合が著しく変動するケースなどが該当します。

この調整は、固定資産を取得した事業年度を含めて3年間のうちに行われる可能性があります。そのため、多額の設備投資をした場合は、その後の課税売上割合の推移に注意し、仕入税額控除の調整もれによって税務調査で指摘されないようにしましょう。

2)固定資産の転用(固定資産の取得から3年以内に、使用用途を変更したときなど)

課税業務用に使用する目的で固定資産を購入した場合、個別対応方式で仕入税額控除を計算すれば、仮払消費税は全額控除できます。逆に、非課税業務用に使用する目的で固定資産を購入した場合、個別対応方式で仕入税額控除を計算すれば、仮払消費税は一切控除できません。

しかし、固定資産は比較的長い間使い続けるにもかかわらず、取得した事業年度の用途だけで仕入税額控除の金額を決定するのは不合理なケースがあります。そのため、取得した固定資産を、3年以内に

  • 課税業務用から非課税業務用に用途変更した場合は、仕入税額控除額を減算する
  • 非課税業務用から課税業務用に用途変更した場合は、仕入税額控除額を加算する

という一定の調整をします。

多額の設備投資をした場合は、その後の用途変更の可能性に注意し、仕入税額控除の調整もれによって税務調査で指摘されないようにしましょう。

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 税理士 森浩之)

pj30136
画像:kai-Adobe Stock

教育訓練給付金の拡充

2024年10月から、雇用保険の「教育訓練給付金」が拡充されました。教育訓練給付金は、厚生労働大臣指定の教育訓練を受講、修了した労働者に、受講費用の一部が雇用保険から支給される制度です。厚生労働省は、拡充により、労働者の主体的なスキルアップやリスキリングにつながることを期待しています。本稿では、教育訓練給付金の基本的なしくみと、今回の拡充のポイントについてお伝えします。

1 基本的なしくみ

教育訓練給付金の対象となる厚生労働大臣の指定訓練は、約16,000講座もあります。オンライン受講や夜間・土日受講が可能なものもあり、厚生労働省の検索システムで探すことができます。

約16,000の講座は、レベルや訓練期間、給付手続きなどの違いにより、「専門実践教育訓練」「特定一般教育訓練」「一般教育訓練」の3種類の給付金に分かれます。主な講座は次のようになっています。

教育訓練給付金の対象となる主な講座

※厚生労働省「教育訓練給付制度」より引用

2 拡充された給付金

3種類のうち「専門実践教育訓練」「特定一般教育訓練」の給付金が、2024年10月から拡充され、給付率は次のようになりました。

「専門実践教育訓練」「特定一般教育訓練」の給付率

※厚生労働省「教育訓練給付制度」より引用

「専門実践教育訓練」の給付金は、2024年9月30日以前に受講開始した場合、最大で受講費用の70%(年間上限56万円)でした。これに対し、2024年10月1日以降に受講開始し、修了後の賃金が受講開始前と比べて5%以上アップした場合には、受講費用の10%(年間上限8万円)が追加支給され、給付率は合計80%(上限64万円)となります。

例えば、訓練期間2年間、入学料10万円、6か月ごとの受講料が各40万円で、修了後資格を取得したケースを想定します。給付金は、拡充前だと合計112万円ですが、拡充後は、賃金5%アップの条件を満たせば、さらに16万円が追加され計128万円となります。

「特定一般教育訓練」の給付金は、2024年9月30日以前に受講開始した場合、最大で受講費用の40%(上限20万円)でした。これに対し、2024年10月1日以降に受講開始し、資格を取得して就職した場合には、受講費用の10%(上限5万円)が追加支給され、給付率は合計50%(上限25万円)となります。

訓練期間3か月、入学料5万円、受講料25万円のケースでは、拡充前の給付金は12万円でしたが、拡充後は、資格を取得して就職した場合に3万円が追加支給され、計15万円となります。

3 さいごに

教育訓練給付を受けるには、雇用保険の加入期間など細かい条件があります。詳しくは、厚生労働省のサイトを参考にしてください。

従業員のスキルアップは、企業にとっても大きな武器となります。教育訓練給付金について、従業員に積極的に周知することをお勧めします。ご不明の点は、ハローワークへお問い合わせください。

※本内容は2024年11月11日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

sj09134

画像:photo-ac

ヘッドライトの使い方とその重要性(2024/12号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

秋から冬は日の入りが早くなり、夜が長くなっていきます。また、この時期の薄暮時間帯(日の入り時刻の前後1時間)は夕食準備の買い物や子供の帰宅の時間帯と重なり、歩行者への一層の注意が必要です。視界が悪くなる薄暮から夜間にかけての運転で欠かせないのがヘッドライト。そこで今号では、ヘッドライトの使い方と重要性について考えます。

ヘッドライトの使い方

1.薄暮時間帯における事故防止

◆令和元年から令和5年の5年間における死亡事故発生状況を分析した結果、次のことが明らかになりました。

死亡事故発生状況

  • 日の入り時刻と重なる17時台から19時台に多く発生している
  • 薄暮時間帯には、自動車と歩行者が衝突する事故が最も多く発生しており、事故類型別では、横断中が約8割を占めている
  • 横断中の、特に横断歩道以外の横断における歩行者の約7割に法令違反がある

死亡事故発生状況

出典:警察庁「薄暮時間帯における交通事故防止」
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/hakubo.html

◆薄暮時間帯に死亡事故が多い理由としては、周囲の視界が徐々に悪くなり、自動車や自転車、歩行者などの発見がお互いに遅れること、距離や速度が分かりにくくなること、などが挙げられます。

◆薄暗くなる前からヘッドライトの「早め点灯」を行い、自分の車の存在を周囲に知らせるとともに、速度を落として歩行者の予想外の動きにも対応できるようにしましょう。

2.ヘッドライトはこまめに切り替えを

【ヘッドライトの保安基準】

ヘッドライトは、ハイビーム(上向き)とロービーム(下向き)を切り替えて使います。ヘッドライトの照射範囲は、ハイビームで前方100メートル、ロービームで前方40メートルの距離にある障害物を確認できる性能を有することとされています。

【ハイビーム/ロービームの切り替え】

ヘッドライトの使い方については「道路交通法」で規定されており、交通量の多い市街地などの通行時を除きハイビームにし、対向車とすれ違うときや、前の車に追走するようなときは、ロービームに切り替えることとされています。視界確保のためにはハイビームでの走行が望ましいのですが、他車や歩行者がいるときは眩惑などの原因となります。交通状況に応じて切り替えを行いましょう。

3.ヘッドライトの眩しさの危険性

ヘッドライトの眩しさにより周囲の自動車等の発見が遅れ、事故に繋がったケースが2021年までの10年間で300件以上発生しました※。眩しさの危険性に対し、以下の対策が挙げられます。

  • 交通状況に応じてハイビームとロービームの切り替えを適切に行うこと
  • 整備不良による光軸のズレなどを防ぐために点検整備をきちんと行うこと

このほか、ライトの向きを自動調整する「オートレベリング機能」も対策の一つです。この機能は今後、全ての新車(自動二輪車等を除く)に対し装備することが義務づけられました(適用は令和9年以降)。

オートレベリング機能

※出典:国土交通省「自動車のヘッドライトのオートレベリングの装備を拡大します!」
https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000311.html

この義務化はヘッドライトの眩しさが事故の要因になりうることが顕在化した結果ともいえます。もちろん、オートレベリング機能の有無にかかわらず、ライトの眩しさが周囲に及ぼす影響に配慮した運転を心がけましょう。

以上(2024年12月)

sj09133
画像:amanaimages

【PDF】印刷して貼れる職場ポスター「その自転車の運転 罰則対象です!」

印刷して職場に掲載できるポスターです。

今回は、道路交通法の改正で、2024年11月から罰則が強化された「自転車の危険運転」についてまとめました。


こちらからポスターのPDFをダウンロードできます。自転車で通勤したり、業務で自転車を使用したりする社員がいる場合、職場に貼ってご活用ください

こちらからダウンロード

以上(2024年12月作成)

pj20003
画像:日本情報マート

【管理会計】その選択をしなかった場合の結果を「機会費用」として検討する

書いてあること

  • 主な読者:感覚だけではなく、定量的な基準や根拠を持ってビジネスの判断をしたい人
  • 課題:強気なだけでリスクをとる、あるいは弱気なだけでリスクを回避する?
  • 解決策:その選択をしなかった場合に得られたはずの利益を考慮し、未来志向で判断する

1 質問:まだ確定していない注文を見込むべきか?

自社の商品Aをいくつ製造するか決めたいと思っています。既にB社から5000個の発注を受けていますが、営業担当者によるとB社以外からも5000個の注文をもらえそうとのこと。さぁ、選択です。

B社向けに5000個だけ製造するか、B社以外の販売も見込んで1万個製造するか

営業担当者が“いける”というのなら、B社以外の販売先の注文も受けたいものですが、もし注文がこなかったらと心配になります。こうしたシーンに直面することはよくあるので、判断の基準をご紹介します。

2 「機会費用」という感覚を持つ

「機会費用」とは、

ある選択をした場合に、選ばなかった別の選択をすることで得られた利益

のことです。商品Aの販売単価は1000円です。5000個だけ製造することを選んだ場合、B社以外の販売先に5000個販売することで得られたはずの500万円が機会費用です(ここでは、製造原価を考慮していません)。

機会費用は「収益の最大化」を意識して検討します。例えば、営業担当者がB社以外の販売先を複数見込んでおり、有力な先もあるのであれば、1万個の製造を選択しやすくなります。さらに大量生産で製造単価も下がるならなおさらです。

反対に、有力な見込み先がなく、製造単価も削減できないなら、5000個だけ製造してB社に売り切ったほうがよさそうです。在庫リスクはなく、営業担当者も他の商品の営業に注力できるので、商品Aの機会費用はなくなります。

3 機会費用を意識した優先順位

もう1つ、機会費用を検討するトレーニングをしましょう。

営業先にC社とD社とがあります。C社は過去に取引実績があり、要求も厳しくありません。競合他社も存在しないので、商談はスムーズに進むでしょう。C社で期待できる売上は500万円です。一方、D社は新規であり、要求はかなり複雑です。競合他社も多数存在するので、受注できるか分かりません。しかし、D社で期待できる売上は2000万円と、C社の4倍です。

C社かD社のいずれか1社としか取引ができないとすると、皆さんはどう判断しますか?

リスクを低減するならC社を優先して500万円を獲得します。1500万円の機会費用が発生しますが、営業上のトラブルや、D社に対応することでリソースが割かれ、他の営業先に悪影響が生じることはありません。

反対にD社を選択する場合は何を考えるでしょうか。2000万円の売上は魅力的で、D社の要求に応えるための努力(技術やノウハウ)はB社の財産になるかもしれません。競合他社に敗れても、将来に向けたビジネスの可能性が広がります。

これは単純な例ですが、機会費用を意識することでより深く検討できます。

4 後ろ髪を引かれても「サンクコスト」は気にしない

管理会計では「サンクコスト(埋没費用)」という考え方も重要です。サンクコストとは、

既に投資したコストや時間など

を指すものです。例えば、人気のラーメン店の行列に並んでいるとき、

予定より待ち時間が長くておなかペコペコだけど、ここまで待ったのだから我慢する

と、それまでのコストや時間を考慮するのがサンクコストの典型です。気持ちは分かりますが、意思決定においては、既に支払っているサンクコストは考慮しないのがセオリーです。そのため、

おなかペコペコなので、別の店にいく。ここまで待った時間は意識しない(諦める)

と、判断します。

ビジネスに話を戻しましょう。ビジネスでは常に撤退プランが準備されています。「これはやるべきではないかもしれない」「無駄かもしれない」と気付いたとき、それまで費やしたコストや時間を考慮せず、素早く撤退の判断したほうがよいのです。

5 練習問題

(問題1)

商品Aの販売単価は1000円、製造単価は1~5000個では700円、5001~1万個では690円の商品があります。

B社以外への販売を考慮せず、5000個だけ製造しました。しかし、B社以外から5000個受注したとすると、「もうけ損なった利益」はいくらになるでしょうか? 商品Aを販売する際の販売費及び一般管理費などは考慮しません。

(問題1の回答)

1万個製造する場合、5000個までの製造単価は700円、残り5000個は690円です。この場合、B社以外に5000個販売したときの利益は次の通りです。

155万円=(1000円-690円)×5000個

(問題2)

商品Aの販売単価は1000円、製造単価は1~5000個までは700円、5001~1万個では690円の商品があります。

B社以外への販売を見込み、1万個製造しました。ところが、B社以外に納品する前に1000個に欠陥があることが判明し、1000個を追加で製造しました。また、納期が遅れたため、この1000個の販売単価を1000円から990円に値下げしました。一方、作り直し分の製造単価は680円に抑えることができました。

B社への5000個、B社以外への5000個は、全て販売できたものとした場合、作り直しが発生しなかった場合と比較してどう違うでしょうか?

(問題2の回答)

答えは以下の通りです。

マイナス69万円(236万円−305万円)

1.1000個の作り直しが発生した場合の利益(236万円)

  • 売上高(a):999万円=1000円×9000個+990円×1000個
  • 製造原価(b):763万円=700円×5000個+690円×5000個+680円×1000個
  • 利益(a-b):236万円=999万円-763万円

2.作り直しが発生しなかった場合の利益(305万円)

  • 売上高(a):1000万円=1000円×1万個
  • 製造原価(b):695万円=700円×5000個+690円×5000個
  • 利益(a-b):305万円=1000万円-695万円

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士法人AKJパートナーズ 公認会計士 仁田順哉)

pj00277
画像:baranq-shutterstock