目的で異なる3つの会計。財務会計・税務会計・管理会計はどのように違うのか?

書いてあること

  • 主な読者:財務会計・税務会計・管理会計の違いを正しく理解していない経営者
  • 課題:中小企業の会計は顧問税理士に任せきりで、意識せずに税務会計に偏っている
  • 解決策:外部への説明のために財務会計、経営のかじ取りのために管理会計を知る

1 経営者が意識する3つの会計

会計は、法令に基づく「制度会計」と「管理会計」とに大別され、さらに制度会計は「財務会計」と「税務会計」とに分かれます。それぞれを簡単に説明すると、

  • 財務会計:制度会計の1つ。株主など社外の関係者に経営状況を説明するための会計
  • 税務会計:制度会計の1つ。税金を正しく計算、納税するための会計
  • 管理会計:投資判断やコスト管理など、経営者などが経営判断をするための会計

といった具合になります。また、気になるこれらの関係性は次の通りです。

画像1

中小企業には、上場企業のように財務諸表を外部に開示する義務がありません。一方、納税義務はあるので、財務諸表は財務会計(会社法や企業会計原則など)ではなく、税務会計(法人税法など)に基づいて作成されるなど、税務会計に偏りがちです。

しかし、金融機関などに業績を説明する際、税務会計に基づく財務諸表だけだと内容が不十分なことがあります。それに、管理会計によって、定量的な指標から意思決定をすることも大切です。大切なのは、それぞれの会計の使い分けなので、この記事でそれぞれの特徴を分かりやすく説明していきます。

2 財務会計とは

財務会計は、

会社法・金融商品取引法(上場会社のみ)・会計基準などの法律や規則に基づいて実施

されます。そのため、財務会計に基づいて作成された財務諸表は他社と比較することができ、株主にとっては投資の参考資料、取引先などにとっては取引の判断材料になります。

財務会計では、会社の活動を「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」に区分して財務諸表を作成します。このうち資産・負債・純資産は「貸借対照表」に集計され、ある時点の会社の財産の状態を表します。また、収益・費用は「損益計算書」に集計され(収益と費用の差額が利益(または損失))、一定期間の業績を表します。

貸借対照表と損益計算書以外にも、会社のキャッシュの流れを表す「キャッシュフロー計算書」や、純資産の増減内容を表す「株主資本等変動計算書」などが作成されます。

3 税務会計とは

税務会計は、

法人税法・地方税法などに基づいて実施

されます。正しく納税額を計算して、申告期限までに確定申告書を税務署などに提出します。

税務会計では、財務会計で計算された当期純利益に一定の調整を加え、納税額を計算するための基礎となる所得を導きます。なお、財務会計の「収益・費用・利益」は、税務会計の「益金・損金・所得」と言い換えられますが、一部で取り扱いが異なります。そのため、税務会計の所得を計算する際は、次の4つの調整をします。

画像2

なお、中小企業の制度会計は、上述の通り税務に偏っているのが実情であり、多くの中小企業では、税務上の益金・損金の基準に合わせて決算書を作成しています。例えば、財務会計上は認識すべき退職給付引当金について、税務上は損金不算入となるため費用計上しないといったことが生じます。その結果、貸借対照表、損益計算書に会社の財務状況が正しく反映されていないケースが多いことに留意が必要です。

4 管理会計とは

管理会計は、

法令上の決まりなどはなく、会社の考えに従って実施

されます。社内で利用するために管理会計の代表的な分析方法にCVP分析(損益分岐点分析)があります。CVP分析では、まず、財務会計上の費用(製造などに係るもの)を、

  • 変動費:売上の増減に比例して発生する費用。材料費、外注費など
  • 固定費:売上の増減に関係なく発生する費用。地代家賃、水道光熱費、交際費など

に分けます。そして、損益分岐点を計算するのですが、損益分岐点とは、

売上高から変動費を引いた「限界利益」と固定費が同額になる状態

であり、限界利益が固定費を上回ったら黒字です。損益分岐点の計算式は次の通りです。

損益分岐点=固定費/(1-(変動費/売上高))

5 それぞれの会計の処理と利益の違い

それぞれの会計の処理の違いを比べてみましょう。分かりやすく示すために、交際費を年間1000万円とします。

  • 収益:10億円
  • 費用:9億8000万円(材料費5億8000万円、労務費3億円、経費1億円(交際費1000万円))
  • 資産:3億円
  • 負債:2億5000万円
  • 純資産:5000万円
  • 1年決算法人

1)財務会計における取り扱い

財務会計では、交際費は損益計算書の費用になります。この場合の貸借対照表と損益計算書は次の通りです。

画像3

2)税務会計における取り扱い

税務会計では、原則として、交際費は全額が損金不算入とされます。ただし、会社規模に応じた一定の措置が設けられています。期末の資本金の額または出資金の額が1億円以下であるなどの場合、損金不算入額は次のいずれかの金額を選択できます。

  • 交際費(全額接待飲食費に該当する場合)の50%相当を超える部分の金額
  • 年間800万円に事業年度の月数を乗じ、これを12で除して計算した金額(定額控除限度額)を超える部分の金額

交際費が年間1000万円の場合の損金不算入額および所得は、次のようになります。

画像4

3)管理会計における取り扱い

管理会計でCVP分析を行う場合、交際費は固定費に分類します。前提要件に基づいて作成する管理会計(CVP分析)上の損益計算書は次の通りです。

画像5

限界利益は4億2000万円で、固定費の4億円を上回っているので2000万円の利益が出ています。

ここで、CVP分析により、翌期に3000万円の利益を出すために必要な売上高を考えてみましょう。変動費率は今期と同じ58%(5億8000万円/10億円)、固定費は今期より2000万円増えて、4億2000万円になる予定です。この場合、来期に必要な売上高は次のように計算することができます。

(固定費+必要利益)/(1-変動費率)

=(4億2000万円+3000万円)/(1-0.58)

≒10億7143万円

以上(2024年11月更新)
(監修 税理士 谷澤佳彦)

pj35054
画像:photo-ac

昭和世代vsZ世代 ~出張は「タイパ」が悪いと言う若手の部下に、どう対応する?

書いてあること

  • 主な読者:「Z世代」の部下とのコミュニケーションに悩んでいる「昭和世代」の上司
  • 課題:Z世代はタイパ(タイムパフォーマンス)が大事らしいが、自分にはいまいちピンと来ない。本当に分かり合うことができるのか?
  • 解決策:実は今も昔も、大事なことに時間を割きたいことは変わらない。「今、この仕事に時間を使う理由」を伝え合い、考え方をすり合わせる

1 「昭和世代」も「Z世代」も、実はそんなに違わない?

ジェネレーションギャップは世の常……。今どきであれば、部下を持つ「昭和世代」の上司が、若手の部下である「Z世代(1990年代半ば~2010年代初頭生まれを中心とした世代)」との価値観のギャップに戸惑うケースが多いかもしれません。例えば、「タイパ」がそうです。

タイパ(タイムパフォーマンス)とは、「かけた時間に対してどれくらいの効果を得られるか」という尺度のことで、Z世代が重要視する言葉の1つ

として知られています。例えば、食材の値段がほんの少し安いからと、長時間をかけて遠くのスーパーまで買いに行くことを、「タイパが悪い」などと言ったりします。

さて、仮に昭和世代の皆さんが、Z世代の部下を連れて遠方の取引先を訪問するとします。もしも部下から、「オンラインでできるのに、タイパ悪くないですか?」と言われたら、どうしますか? 「イライラする」とかそういった感情はいったん抜きにして、まず押さえてほしいのは、

昭和世代もZ世代も「根本の部分で大事にしている価値観は基本的に同じ」で、実は両者が思っているほど大きなギャップはない

ということです。以降で、「出張とタイパ」をテーマに、昭和世代のAさんとZ世代のBさんの“すれ違い会話”を紹介します。両者のすれ違いを解消するためのポイントを見ていきましょう。

2 出張は「タイパ」が悪い?

東京の会社で営業職として働いているAさん(昭和世代)とBさん(Z世代)。定期的にミーティングを行っている大阪の取引先を、久しぶりに訪問することになったようです。

画像1

Bくん! 来週の水曜日に、一緒に大阪のお得意先のところに訪問することになったからね、よろしく。

画像2

分かりました……。ただ、Aさん。今月に入ってから、もう2回目の大阪出張ですよね。「タイパ」、悪くないですか? オンラインに切り替えるなどして、出張の回数を減らすのはどうでしょうか?

画像3

え? タイパ? タイパって何?

画像2

タイムパフォーマンス、時間対効果のことです。……今回の出張って、要はごあいさつですよね? 初対面なら分かりますが、今回はそうじゃないので、わざわざ時間をかけて足を運ぶ必要があるのかなと思ってしまって……。

画像4

何を言っているんだ、必要に決まってるだろう! タイパだか何だか知らんが、何でもかんでも効率良くやればいいってわけじゃないぞ!

画像5

東京から大阪まで、往復の移動時間だけで6時間はかかっています。Web会議なら移動時間を、もっと違う仕事に費やせるのに。現に、出張の翌日は大きなプロジェクトの会議があって……直前で資料の訂正などもあるので、万全な状態で望みたいんです。

画像6

だから、直接会ってごあいさつするのも同じくらい大事な仕事じゃないか!

AさんとBさんは、日ごろから何かと意見の衝突が多いのですが、今日は「タイパ」で意見が対立してしまいました……。この2人のすれ違い、解決する手段はあるのでしょうか?

3 大事にしたいものは今も昔も同じ

Bさん(Z世代)の発言は、昭和世代からすれば「今どきの若いモンは……」と言いたくなる内容かもしれませんし、逆にAさん(昭和世代)の発言は、Z世代からすれば「今どき時代遅れ なんだよ……」と言いたくなる内容かもしれません。ただ、はたして昭和世代とZ世代、そこまで相いれないものでしょうか? もしかしたら、根本的に考え方がずれているわけではなく、

単に

昭和世代は「タイパ」、Z世代は「訪問」というワードに引っ張られすぎているだけ

なのかもしれません。

そもそも、AさんとBさんはそれぞれ、なぜ先ほどのような主張をしたのでしょう? 2人の心の声を聞いてみましょう。

画像7

(お客さまのところに出向いて直接ごあいさつするのは「大事な仕事」だから、そこに時間を割いてほしいのに……)

画像5

(年に何回もあいさつに行くとなると、取られる時間が多すぎる……その時間をもっと「大事な仕事」に使いたいのに……)

赤字の部分がキーポイントです。そう、それぞれ主張していることは違いますが、

AさんもBさんも「大事な仕事」に時間を費やしたいと考えている点は同じ

なのです。相いれないのかと思いきや、実は同じ価値観に基づいて仕事をしているわけです。

では、なぜ先ほどのようにすれ違ってしまうのか。それは、

「大事な仕事とは何か」が、AさんとBさんの間で共有されていないから

です。どのように話をすれば、2人のすれ違いが解消されるのか、引き続き2人の会話を見ていきましょう。

4 どう話をすれば伝わる?

Aさんは、もう少し落ち着いてBさんと話してみることにしました。赤字の部分に注目してください。

画像7

Bくん、君は基本的に「出張よりもオンラインのほうがいい」という考えなのかい?

画像5

Aさん、僕は「全ての出張に行きたくない!」と言っているわけではないんです。きちんと理由があるのであれば、喜んでついていきますよ。お客さまにもお会いしたいですし。

画像7

そうだな……例えば、今回の訪問の理由は「あいさつ」だ。でも、ただのあいさつじゃない。わが社がとてもお世話になったCさんが、異動になったから行くんだ。君が入社する前のことだったけれど、本当に助けていただいたからね。顔を合わせてお礼を言いたいんだよ。

画像2

……そうだったんですね。

画像7

こちらの感謝を伝える上で、今回の訪問はとても「大事な仕事」なんだ。改めて、君はどう思う? お世話になった方に、直接お礼を言いに行くのは「タイパが悪い」かな?

画像2

いいえ、お世話になった方であれば、直接会って気持ちを伝えるべきだと思います。オンラインだと伝わらないことがあるのも、普段の仕事で実感しています。すみませんでした、何も知らずに勝手なことを言ってしまって……。

画像1

いや、私も理由をきちんと伝えていなかったし、過去を振り返ってみると、正直あまり意味のない訪問をしていたこともあったかもしれない……。その辺は君の言う通り、他に大事なことがあるならオンラインに切り替えるのもありかもしれないよね。

画像8

経費削減にもなりますしね。……でも、直接ごあいさつに伺うことも大事ですね。来週の出張で、Cさんにお会いできるのが楽しみになってきました。

画像9

なんだか、大事なことに時間を割きたい、という気持ちは、私も君も同じみたいだね。

AさんとBさんが「大事な仕事」について、お互いに自分の考えを吐き出したことで、2人のすれ違いは解消されたようです。

今回はタイパがテーマでしたが、他のテーマであっても、昭和世代とZ世代のすれ違いを解消するポイントは同じ。

「あの人は昭和世代だから(Z世代だから)」という色眼鏡を取り外して、お互いの考えを聞きながら、「実は相いれる部分があるんじゃないか」と探っていくこと

です。お互い、頭ごなしに否定したりせずにきちんと理由を言語化して、まずは相手の考えを知ってみることが、すれ違い解消の道へとつながっていくでしょう。

以上(2024年12月作成)

pj00731
画像:ChatGPT

【朝礼】あなたの部下も、きっと変わる

【ポイント】

  • 頼りなかった部下が、短い期間で別人のように成長することがある
  • 部下を成長させる1つのポイントは、「1人でやってみるしかない環境」をつくること
  • 「どうすればよいか」を自分で考えさせることが、部下の成長につながる

先日、取引先であるプロジェクトの打ち合わせに参加したときのことです。しばらくぶりで会った先方の若手社員の姿に、私は非常に感動しました。なぜなら、彼の成長が目覚ましく感じられたからです。半年前にプロジェクトに参加することになった彼は、最初の頃、まさしく「右も左も分からない」様子でおどおどとしており、発言もままならない状況でした。

しかし、今の彼は、上司など周りの意見に流されることなく、自分の意見を堂々と発言します。しかも言い方が丁寧で内容が前向きなので、反対意見でも反論されたほうは嫌な気持ちになりません。時々冗談を言って、場を沸かせるほどの余裕も身に付けていました。話を聞くと、彼は難易度が高くスピード感も要求されるさまざまな仕事を任され、多くの人と調整や交渉を重ねる中でたくましく成長したようです。彼自身の頑張りもありますが、彼を育てた上司の力も大きかったのでしょう。

上司の皆さんの中には、「部下が成長してくれない」と悩んでいる人も少なくないでしょう。そんなときは、あえて難しいことを部下に任せて一生懸命考えさせ、汗をかかせてください。まずは部下が「1人でやってみるしかない環境」をつくってみること。上司の指示や確認のもとで仕事を進めている部下は、心のどこかで上司に頼る癖がついています。それができない環境をつくるのです。

例えば、今まで上司と一緒に訪問していた先に部下を1人で行かせてみるのもよいでしょう。実際に自分1人で事前準備をし、出かけて行き、相手と話をするという経験は必ず部下を成長させてくれます。訪問先で部下は、聞かれたことに答えられず、自分自身の至らなさを悔しく感じるかもしれません。相手とうまく会話することができず、恥ずかしい思いをすることもあるでしょう。そうした経験をして初めて部下は、「どうすればよいか」を自分で考えるようになり、変わっていきます。

悔しさや恥ずかしさを感じて帰ってきた部下を、上司は大いに褒めたたえてください。部下がたくましいビジネスパーソンへと変化する第一歩を踏み出したことは間違いないのですから。人は簡単には変われませんが、変わるときには大きく変わります。部下がたくましく変貌を遂げることができるか否かは、上司の皆さん次第です。

以上(2024年11月更新)

pj16921
画像:Mariko Mitsuda

国からの補助を活用して経営改善! 経営改善計画策定支援事業のご紹介

中小企業等を支援する国や自治体の補助金・助成金事業では、雇用・人材開発・IT補助・コロナ支援など幅広いジャンルの支援があります。
本レポートでは、おすすめの補助金・助成金について支援の内容や対象条件、申請方法等についてわかりやすく紹介します。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf


公的年金シリーズ 第3弾 いまから知っておきたい障害年金の基礎知識

公的年金は老後の生活を支える「老齢年金」をイメージする方が多いかもしれませんが、万が一、ご自身が亡くなってしまった場合に遺族を支える「遺族年金」と不運にも病気やケガによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に受け取れる「障害年金」もあります。今回は「障害年金」にスポットを当ててみたいと思います。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

ここがポイント! 2024年の年末調整!

令和6年分年末調整作業が始まります。今年は、年末調整作業の中に定額減税に関する事務が含まれることから、注意すべき事項が多くあります。そこで本稿では、今年の年末調整のポイントを解説していきます。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

賃貸物件から植物工場まで 活用例が多彩な高架下スペースの動向

書いてあること

  • 主な読者:鉄道の高架下の空きスペースを活用してみたい経営者
  • 課題:事業に使える高架下のスペースはどこで探せるのかを知りたい
  • 解決策:鉄道会社やその関連会社が高架下の空きスペースの有効活用策を募集していることがあるので、こまめにチェックする

1 今、高架下が熱い!

突然ですが、「鉄道の高架下」と聞いて、どんなイメージが思い浮かぶでしょうか?

「ガード下といえば飲み屋街」という人もいるかもしれませんが、高架下というと、駐輪場や駐車場、レンタル倉庫くらいにしか使えない場所と思われがちでした。しかし、そんなイメージから一転、高架下の新たな活用が各地で始まっています。なぜ今、高架下に熱い視線が向けられているのか、その背景には次のような要因が考えられます。

  • 「開かずの踏切」による交通渋滞や地域分断が問題となり、その解消策として鉄道の高架化(連続立体交差事業)が進められてきた
  • 駅近、屋根があり天候の影響を受けない、電車が通るため多少騒がしくしても騒音がかき消されるなど、他の立地よりも良い条件が整っている
  • 建築技術の向上により、高架下の振動・騒音対策が進歩している
  • 鉄道会社が収益確保策の一環として、高架下の空きスペース活用に注力し始めた

高架下の土地は基本的に鉄道会社が所有していますが、行政と鉄道会社の間の取り決めで、線路が立体交差化されたことにより生まれた空間は、その約15%までは公共目的に利用できるとされています。そのため、高架下は飲食・物販店舗に限らず、保育園や図書館、大学のキャンパスが誘致されるなど、幅広く活用されるようになりました。

この記事では、鉄道の高架下を活用している事例の特徴や、事業に使えるスペースの探し方などを紹介します。

2 高架下での事業展開事例 どのような特徴がある?

1)賃貸物件

西武リアルティソリューションズ(東京都豊島区)は、西武池袋線の桜台駅と練馬駅間の高架下で賃貸ユニットハウスの「エミキューブ桜台(全4室)」と「エミキューブ桜台Ⅱ(全4室)」を手掛けています。

駅近で小規模かつ独立した物件や、多目的に利用できる屋外スペースが少ないといった課題を解決する

ために作られました。

建物は個人のテレワークとしての場所に限らず、法人登記、名刺やホームページでの住所表記も可能としています。

高架下での賃貸物件は他の場所でも事例があります。

例えば、近鉄不動産(大阪府大阪市)では、LDK(東京都中央区)と共同で、近鉄南大阪線および近鉄奈良線の3カ所の高架下でガレージハウスを手掛けています。ガレージハウスは戸建てかつ洗車可能な駐車場付きで、1階が車やバイクを止めておけるガレージ、2階が居住スペースとなっています。

鉄道の駅や高速道路も近い立地かつ、ガレージハウス真上の高架は継ぎ目の少ない線路のため、振動も伝わりにくいという特徴があります。

画像1

2)キャンプ練習場

ジェイアール東日本都市開発(東京都渋谷区)は、JR山手線秋葉原駅と御徒町駅間の高架下でキャンプ練習場の「campass」を手掛けています。

鉄道運行の妨げにならないよう、火気の取り扱いは禁止されていますが、高架下にあることで、

雨でも天候を気にせず設営、撤収ができるだけでなく、駅からのアクセスが近いため、利用者が急な体調不良や予定変更になった場合でも無理せず帰宅できる

ことがメリットとなっています。

また、JR西日本不動産開発(大阪府大阪市)でも、東海道本線の神戸駅から徒歩3分の高架下で日帰りキャンプやバーベキューなどのお試しキャンプが体験できる施設「神戸D51-PARK」を手掛けています。

画像2

3)工場、カフェなどの複合施設

DaLa木工(愛知県名古屋市)は、JR中央本線の高架下で複合施設の「24PILLARS」を手掛けています。カフェや同社が製作した家具を展示販売するギャラリー、DIYができるスタジオ、同社の製作工場があります。

同社の木工職人の間でワークショップを開きたいという話が出たのがきっかけとしています。また、社長が車の運転中に通りかかった際に現在の高架下のスペースを見つけ、JR東海と交渉した結果、スペースの半分を工場、半分をカフェやギャラリーにする形態になったといいます。

画像3

4)植物工場

JR東日本商事(東京都渋谷区)は、プランツラボラトリー(東京都西東京市)、芙蓉総合リース(東京都千代田区)と提携して、埼玉県さいたま市、東北新幹線の高架下でレタスやグリーンリーフの栽培に取り組んでいます。

栽培にはプランツラボラトリーが手掛ける屋内農場システムの「PUTFARM」を使用しており、高架下での栽培は、

日当たりが良くない分温度管理の手間がかかりにくいことや、駅近なので、鮮度を保ちつつスーパーなどにレタスやグリーンリーフの出荷が可能

といったメリットがあります。

高架下での植物工場は他の鉄道会社でも取り組みが進んでいます。例えば、東京地下鉄(東京都台東区)とメトロ開発(東京都中央区)では、東京メトロ東西線の西葛西駅から葛西駅間の高架下でレタス、ベビーリーフ、バジルなどを水耕栽培しています。

また、阪神電気鉄道(大阪府大阪市)でも、子会社の阪神ステーションネット(大阪府大阪市)が主体となって、阪神本線の尼崎センタープール前駅高架下で「HANSHIN清らか野菜」の名称でフリルレタスなどを栽培しています。

5)スケートボードパーク

東京地下鉄(東京都台東区)は、東京メトロ日比谷線の南千住駅付近の高架下でスケートボードパークの「RAMP ZERO」を手掛けています。この施設は、新規事業の創出が目的の社内事業開発プログラム「メトロのたまご」で、東京メトロの社員から提案されたもので、提案した社員自身が事業の検討や運営に携わっています。

入退場はスマートロックと予約管理システムを連携した事前決済方式を採用しており、利用当日は無人受付で利用できます。

一般的に、スケートボードは滑る際の騒音が問題になりがちですが、

高架下にスケートボードパークがあることで、騒音を気にせずスケートボードを楽しめる

ことがメリットとなっています。

6)オフィス

名古屋ステーション開発(愛知県名古屋市)は、東海道新幹線の高架下に「ささしま高架下オフィス」を建設し、供用しています。現在はスタートアップ企業のスタメン(愛知県名古屋市)が入居しています。

オフィスは木造2階建てで、2階部分は高架下から外に突き出た形をしています。地上部分に通路を確保しつつ、2階のオフィス空間を広く確保している点が特徴です。

また、使用する木材も高機能繊維と木材のハイブリッド素材を活用することで、耐久性を確保し、柱の無い開放的な空間を実現しているといいます。

7)スポーツ・コミュニティ施設

京浜急行電鉄(神奈川県横浜市)は、京急本線の日ノ出町駅から黄金町駅間の高架下でスポーツ・コミュニティの複合施設を手掛けています。

施設は横浜SUP倶楽部(神奈川県横浜市)が運営する、SUP(スタンドアップパドルボード)のスクールをはじめ、ラジオの生放送やヨガなどのワークショップができる横浜SUP倶楽部/「River Station」と、水辺荘(神奈川県横浜市)が運営する、SUPのツアーの実施や会員向けに関連用品を販売する「水辺荘」があります。

京急電鉄では、スポーツ拠点の整備だけでなく、水上交通の実証実験、横浜市役所周辺や伊勢佐木町、元町・中華街など関内・関外地区との広域連携を通じて、エリア全体を活性化することを狙いとしています。

8)創業支援施設

タウンキッチン(東京都小金井市)は、JR中央線東小金井駅の高架下で「コウカシタ・ヒガコインキュベーション」として創業支援施設などの運営を手掛けています。コウカシタ・ヒガコインキュベーションは、次の3つの施設で構成されています。

  • 東小金井事業創造センターKO-TO(コート):小金井市がする公共施設。シェアオフィスとして利用できる他、個別創業相談やセミナーを通じて小金井市内の創業支援を行う
  • PO-TO(ポート):店舗・工房・ショールームを併設できるシェアオフィス
  • MA-TO(マート):店舗・キッチン・教室・工房・ガレージなどがあり、自分のオリジナル商品を作製して販売できる施設

これらの施設は、JR中央ラインモール(現:JR中央線コミュニティデザイン:東京都小金井市)が推進する、JR中央線の三鷹~立川駅間の沿線価値の向上を図る取り組みの「中央ラインモールプロジェクト」の一環として開設されたものです。

店舗・工房・ショールームを併設できるシェアオフィスがあることで、オフィス以外の設備が開業に必要となる層のニーズに応えられたり、3つの施設が隣接することで、利用者同士でチームを組んで仕事をする連携が生まれたりするなどの成果が出ているといいます。

9)親子で利用できる遊び場、コミュニティー施設

ボーネルンド(東京都渋谷区)は、阪急電鉄京都本線の洛西口駅と桂駅間の高架下で「京都市交流促進・まちづくりプラザ」を手掛けています。京都市が建設、ボーネルンドが施設プロデュースと管理運営を担っています。

施設は、6カ月から12歳までの子どもが親子で遊べる「ガタゴト」、地域住民の交流の場となる「プレイフルカフェ」、絵本や児童書をそろえ、子育てや地域の情報も調べられる「ライブラリー」、サークル活動やセミナーの場として利用できる「多目的室」があります。ガタゴトは高架下にあることで、天候を気にすることなく外で遊ぶことができるスペースもあります。

3 鉄道の高架化は今後どのくらい進むのか

1)鉄道を高架化することの効果

鉄道の高架化は「連続立体交差事業」と呼ばれています。自治体や鉄道会社が工事の主体となり、線路を連続的に高架化や地下化して複数の踏切を除去することで、次のような効果が生まれます。

  • いわゆる「開かずの踏切」を除去することで、交通渋滞や踏切事故を解消する
  • 新しく生まれた高架下の空間を活用することで、地域の利便性が向上する
  • 鉄道で分断されている市街地が一体化し、地域の活性化につながる

全国連続立体交差事業促進協議会のウェブサイトによると、全国連続立体交差事業は全国で168カ所が事業完了、38カ所で事業が進んでいるとされています(2024年10月時点)。

また、各自治体や鉄道会社のウェブサイトでも、連続立体交差事業の対象区間や進捗を確認することができます。

■全国連続立体交差事業促進協議会「事業一覧」■
http://www.renritsukyo.jp/list/

2)高架下の空きスペースはどのように探す?

高架下の空きスペースは、鉄道会社や関連会社のウェブサイトで空き情報や契約形態などを確認できます。例えば、次のようなウェブサイトがあります。

■ジェイアール東日本都市開発「物件検索」■
https://www.jrtk.jp/search/
■東京都営交通協力会「高架下使用者募集区画」■
https://www.tkk.or.jp/tenant/20240514.html
■京成電鉄「不動産情報」■
https://www.keisei.co.jp/keisei/kaihatu/rent.php
■JR西日本不動産開発「賃貸物件」■
https://www.jrwd.co.jp/tenant/search/
■近鉄不動産「商業施設 出店募集一覧」■
https://www.kintetsu-re.co.jp/leasing/

なお、鉄道の高架下という特性上、借り主自らが建物を建築できず、スペースの管理者が代わりに建築する必要があったり、鉄道部門や行政との協議が一定期間必要だったりする場合があります。また、賃料や契約期間などの条件も場所によって大きく異なるため、注意が必要です。他にも、高架下のリニューアルなどで不動産会社が鉄道会社と契約を締結し、テナントの募集や物件の管理を手掛けている場合もあります。近くで高架下のリニューアルがある際には、空き物件がないかどうか探してみると良いでしょう。

以上(2024年11月作成)

pj50549
画像:Caito-Adobe Stock

【人事部DX】人事評価や懲戒処分をオンラインで行う

書いてあること

  • 主な読者:人事評価・懲戒処分の手続きをオンラインで行いたい人事労務担当者
  • 課題:業務がリスト化されていないし、何がオンライン化できるのか分からない
  • 解決策:人事考課表の作成など、一般的な手続きは全てオンライン化できる

1 手続きは原則全てオンライン化できる

この記事では、人事労務の仕事を紙からデータに切り替えたい人向けに

人事評価・懲戒処分の手続きはどこまでオンライン化できるのか

をまとめます。一般的な人事評価・懲戒処分の手続きは、原則全てオンライン化が可能ですが、図表の赤字に注意が必要です。

画像1

【トラブルの当事者や関係者への事実確認】

オンライン化は可能だが、相手の雰囲気が読み取りにくい場合などはトラブルになる恐れがあるので、状況によっては対面で話をしたほうがよい

以降では「人事評価の手続き」「懲戒処分の手続き」の2段階に分けて、労務管理のオンライン化のポイントを見ていきます。

2 人事評価の手続き

1)人事考課表の作成(目標設定、上長評価)

一般的な人事考課の流れは次の通りです。

  1. 被評価者が所属長と面談を行い、評価対象期間の目標を人事考課表に記入する
  2. 被評価者が評価対象期間終了後に人事考課表に自己評価を記入し、所属長に提出する
  3. 所属長は提出された人事考課表に対して一次評価を行い、次の評価者に提出する
  4. 最終評価者(本部長、経営者など)が各評価者の評価を基に人事考課を確定させる

紙ベースの人事考課表を運用している会社の場合、ワードやエクセルで作成してメールなどでやり取りすれば、オンライン化できます。ただし、オンラインで人事考課表のやり取りをすると、「評価者本人が記入したのか」が分かりにくくなりますし、評価者が操作ミスで内容の上書きや消去をしてしまうリスクもあります。

そこで、

  • 評価者が入力しないセルの編集をロックする
  • 評価が終わったら評価者の印影をJPEG形式などにして添付する
  • ログ情報に履歴が残るクラウド型の人事評価システムを導入する

などの対策が必要です。

2)昇給、人事異動などの実施

人事考課の結果は昇給や人事異動に反映されます。昇給や人事異動の際、紙ベースの辞令を交付している会社がありますが、こちらはPDF形式にしてメールで送信したり、人事異動の場合はイントラネットで公開したりすることが可能です。

また、子会社や他社に社員を「出向」させる場合、出向元と出向先は出向契約を締結しますが、これは電子契約システムで実施できるでしょう。

なお、自社が出向先として社員を受け入れる場合、出向社員と新たに労働契約を締結する必要があります。その際、賃金や労働時間など主要な労働条件を労働条件通知書で明示しますが、こちらは出向社員の同意があれば、PDF形式にしてメールで送付できます。

3 懲戒処分の手続き

1)トラブルの当事者や関係者への事実確認

懲戒事由に該当するようなトラブルが起きたら、まずは当事者や関係者に事実確認を行います。オンラインで行う場合、電話、ウェブ会議システムなどで話を聞きます。ただ、

オンラインでは相手の雰囲気が読み取りにくく、擦れ違いや誤解が生じがちなので、状況によっては対面で話をしたほうがよい

です。

ヒアリングした内容は、必ず議事録に残します。手書きのメモでもワードなどのデータでも構いませんが、間違いなく当事者や関係者が発言した内容だと証明するため、本人から署名をもらうようにしましょう。手書きのメモやプリントアウトしたワードに署名をしてもらうか、PDF形式にして電子契約システムで電子署名をしてもらいます。

2)処分内容の検討

事実確認が完了したら、就業規則の懲戒事由と照らし合わせて処分内容を検討します。通常は賞罰委員会を開催したり、経営者や人事部長など会社の主要メンバーで協議したりして処分内容を決定します。この話し合いは、テレビ会議システムなどで行っても問題ありません。

懲戒処分を行う際は、処分される本人に必ず弁明の機会を与えなければなりません。テレビ会議システムで賞罰委員会などを開催する場合、本人には弁明の間だけテレビ会議システムにログインしてもらい、弁明が終わった後は必ずログアウトさせるようにします。

処分内容が決定したら、本人に伝えます。オンラインで処分内容を伝える場合、処分内容を通知したことを証拠に残すため、PDF形式にしてメールなどで送信します。また、本人が納得して懲戒処分を受け入れてもらうため、テレビ会議システムを使って処分内容の決定について考慮したことなどを説明するとよいでしょう。

賞罰委員会などの議事録(本人の弁明を含む)や、処分内容を本人に伝えた際のやり取りなどは、PDF形式などにしてデータで残しておきましょう。テレビ会議システムのレコーディングデータなども併せて残しておくと、会社が正当に懲戒処分を行ったという証拠になります。

3)各処分の実施(けん責、減給など)

懲戒処分の内容は各会社の就業規則によって異なりますが、一般的なのは次の6つです。

  1. けん責:始末書を提出させ、将来を戒める
  2. 減給:一定期間、賃金支給額を減額する
  3. 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
  4. 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
  5. 諭旨解雇:期日までに退職願を提出するよう勧告し、提出がない場合は懲戒解雇とする
  6. 懲戒解雇:即時に解雇する。懲戒処分の中では最も重い処分となる

「1.けん責」は、ワードなどで作成した始末書をPDF形式にしてメールなどで提出させればオンライン化できます。始末書とそれを提出した際の本人からのメールは、証拠として社内サーバーなどに保管しておきましょう。

「2.減給」「4.降格」は、オフィスワークの場合と特に対応は変わりません。

「3.出勤停止」は、テレワークの社員だと、内容が伝わりにくいかもしれないので、「出勤停止中は自宅で業務を行う必要がなく、賃金も発生しない」旨を明確に本人に伝えましょう。

「5.諭旨解雇」「6.懲戒解雇」は、労働契約を解消する特に重い処分のため、本人に処分内容に関するメールを送ったら、電話やテレビ会議システムで本人とコンタクトを取り、確実に処分内容が伝わったことを確認してください。なお、解雇後に本人から「退職理由証明書」の交付を求められることがありますが、この証明書は、本人の同意があればPDF形式などで送っても大丈夫です。ただし、本人が書面での交付を希望する場合には、それに応じるべきでしょう。

また、通知の確実性に疑義が残る場合もあるので、頻繁に使用した実績のある連絡方法を用いるとともに、返信をもらうなどして本人が確認したことの裏付けを残すとよいでしょう。自動開封確認メールを受領したり、「既読」がついた画面をスクリーンショットで残したりする方法は、やや確実性に欠けますが何もしないよりは良いです。通知方法に疑義が残る場合、事後的でも構わないので、オンラインでの通知と併せて対面での交付・郵送も検討しましょう。

以上(2024年11月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

pj00458
画像:Stokkete-shutterstock

2024年問題時代 建設業の勤怠管理の初めの一歩

これからの建設業界や自社の発展のためには、若者の入職が欠かせません。様々な世界を目にしている若者が大切にしていることは何なのか、一人ひとりの願望は異なるはずです。それを知り、従業員のエンゲージメント(愛着)を高めることが、発展の第一歩だと考えます。

この記事は、こちらからお読みいただけます。pdf

【管理会計】予算管理とは? 全体の流れや運用のポイントを解説

書いてあること

  • 主な読者:予算管理を取り入れたい経営者、実務担当者
  • 課題:イメージしにくい予算管理の全体の流れや、円滑に進めるポイントを知りたい
  • 解決策:経理や経営企画が取りまとめ、予算編成方針を策定。報告フォーマットを統一し、余裕のあるスケジュールを組む。目安として、1~2カ月で予算を策定する

1 なぜ、予算管理が必要なのか?

予算計画を策定し、きちんと計数管理(以下「予算管理」)をしている中小企業は少ないものです。その理由は、

決算で実績が把握できているから大丈夫であるということと、単純に手間がかかる

からです。しかし、予算管理ができていないと、経営者が考えているビジネスの方向性と現実のズレに気づくのが遅れますし、改善ポイントも見えにくくなってしまいます。そうならないように、予算管理を実行することをご提案します。

2 予算管理とは?

予算管理とは、

企業の売上目標や利益目標を達成するために行う、「『お金の出入り』の計画的な管理」

のことです。予算管理には、主に次の3つ機能があります。

  1. 計画機能:各部門の予算を取りまとめつつ、企業全体の活動計画を立てる
  2. 調整機能:各部門の計画を調整して矛盾をなくし、全体最適な企業活動を行う
  3. 統制機能:予算と実績の差異を分析しつつ、必要に応じて対策を講じる

予算期間は企業の会計年度と同じですが、半期予算、四半期予算、月次予算まで分解して策定します。また、予算管理の中で決めなければならない「お金の出入り」は多岐にわたりますが、統一のルールに基づいて数字を集め、一元的に管理します。一般的な予算体系のイメージは次の通りです。

画像1

予算体系を見ると、たくさんの予算があってかなり細かい印象ですが、基本となるのは損益予算です。これを達成するために、

資金予算(キャッシュに関する予算)や資本予算(設備投資や研究開発に関する予算)

が必要になります。

3 予算編成方針を立て、実行する

通常、予算を取りまとめるのは経理や経営企画などです。まずは、こうした担当部門(以下「予算担当部門」)が、予算編成方針を策定します。予算編成方針は、各部門が予算を作成する際の基本であり、次のような項目が示されます。

  1. 目標利益額または目標利益率
  2. 販売方針と売上高の目標
  3. 費用に関する基本方針(重点的に削減する費用、積極的に使用する費用など)
  4. 在庫方針、回収・支払い方針
  5. 設備投資計画
  6. 要員計画
  7. その他

各部門は予算編成方針に基づいて予算案を作成します。ここでとても重要になるのがフォーマットの統一です。記載の順序の他、費目(名称や振り分けなど)や単位(千円単位、百万円単位など)などについても統一しなければなりません。

多分野で事業を行う場合、細かなところまでフォーマットを統一するのが難しいこともありますが、予算担当部門が該当部門にヒアリングをして擦り合わせをし、部門独特の費目を全社的に統一したフォーマットのどこに振り分けるのかを決めます。

また、予算担当部門は予算案の提出期日を定めて各部門に通知しますが、これに間に合わない部門が出てくることが珍しくありません。多少の遅れはあらかじめ想定し、それを織り込んだ余裕のあるスケジュールを組みます。

予算担当部門は各部門から提出された予算を確認します。各部門の予算を総合しても企業全体の目標に足りない場合や、各部門の予算が“甘い”(費用が過小、販売計画が消極的など)場合は、該当部門に修正を依頼します。

修正が入る部門とそうでない部門で状況が変わってくるため、各部門の予算を「初回提出」「1次通し」「2次通し」などのように管理します。各部門の修正を繰り返しながら、中小企業であれば1~2カ月程度で予算を策定することになるでしょう。

4 予算と実績の差異分析を行う

1)報告時のルール策定

決定された予算に基づいて活動を開始したら、毎月、各部門から各月の実績と期首からの累計を、予算、実績、前年同期に分けて報告してもらいます。

ただし、各部門に好き勝手に報告させてはいけません。部門担当者は都合の悪い報告をしたくないため、計画比が良い部門は計画比の状況、前年同期比が良い部門は前年同期比の状況を中心に主観的な報告をしてきます。これでは正しく状況を把握できないため、予算担当部門があらかじめ報告フォーマットを作成し、各部門に配布しておくことが大切です。

2)予算差異分析の意義

期中(予算期間の途中)は、予算と実績の差異が必ず発生するものです。予算担当部門は、差異の発生頻度や差異の大きさから、差異が発生する原因を分析し、対策を講じなければなりません。これを「予算差異分析」といいます。

部門予算に関する予算差異分析は部門の予算担当者、企業全体の予算に関する予算差異分析は予算担当部門が行います。その結果に基づき、最終的な方向性(上方修正、現状維持、下方修正など)を決めるのは経営者の役割です。

差異が生じる理由は、期首の予算計画に実現性が乏しかった、予算作成時点では予測できなかった事態が発生したなどさまざまです。予備費の活用、費目の流用、予算外支出などで対応するのが基本ですが、差異が大きい場合は予算を修正します。

3)予算差異分析の方法

予算差異分析の基本は、

大きな差異に着目し、重点的に分析すること

です。

予算規模によって異なるため一概にはいえませんが、数%の差異についてまで各部門に報告を求める企業があります。予算統制という意味ではよいのですが、一方でビジネスは“生き物”であり、多少の差異は必ず生じます。小さな差異まで全て拾っていると、全体の予算担当部門や部門の予算担当者などの実務負担が大きくなってしまいます。

むしろ、しっかり分析すべきなのは、

そのときに生じた差異が予算期間内に解消されるか否か

です。単なる期ズレは看過する一方、予算期間内に解消されない差異についてはしっかり分析をして、対策を講じなければなりません。

4)優先すべきはどの数字?

予算管理では、期首に予算を作成した後、上期着地見込み、通期着地見込み、修正予算などさまざまな数字を管理します。加えて、企業には数字を管理している部門が複数あります。例えば、営業本部が予算担当部門とは異なる独自のフォーマットで、営業関係の予算と実績の報告を求めることがあります。

こうなると、各部門の担当者はどの数字を基準にすればよいのか混乱してしまうことがあります。この点について、予算担当部門が「あくまでも基本は期首の予算である」との方針を明確に示す必要があります。

5 予算管理を円滑に行うポイント

1)弾力性を確保する

予算作成時点では予測できなかった事態が発生して予算に過不足が生じた場合、予算管理を円滑に行うために弾力的な運用を行う必要があります。例えば、「事前に予備費の枠を設定しておく」「費目間の流用を認める」「追加予算を認める」といった対応が考えられます。

予備費の枠については、大き過ぎるのも問題なので、「予算全体の5~10%」などといった目安を決めておきましょう。

2)簡素化する

期中の予算管理をなるべく簡素で分かりやすいものにすることが大切です。1年経過後に期首の予算と期末の実績をきちんと比較するためには、期中のコントロールが不可欠です。そのため、各部門の担当者をはじめ関係者にとって、分かりやすい予算管理の方法を実現しましょう。

費用はかかりますが、予算管理システムの導入を検討してみてもよいでしょう。同じシステムの中でデータを共有したり、各部門の予算管理を行ったりすることができます。

3)適時性を確保する

当然のことですが、新年度から新しい予算に基づいた活動ができるようにしなければなりません。4月から予算年度が始まる企業の場合、1月末から2月にかけて予算を作成するようにします。

また、予算差異分析についても、結果のフィードバックが遅いと、改善が後手に回ります。半期予算、四半期予算、月次予算に対する予算差異分析の結果は、各予算の最終月(月次予算の場合は当月)の翌月にフィードバックします。

同様に、年間予算の予算差異分析の結果は、次年度予算の作成に反映できるように予算の作成時期に合わせてフィードバックします。

以上(2024年11月更新)

pj35009
画像:pexels