商品券を渡したり、もらったりした場合の会計処理はどうなる?

書いてあること

  • 主な読者:商品券を渡したり、貰ったりした場合の処理を知りたい経理担当者
  • 課題:「商品券を購入する目的」などによって会計処理が違ってくるので分かりにくい
  • 解決策:他人にプレゼントする場合と、自社で使う場合(備品購入や社員へのプレゼント)に分けて整理する

1 マーケティングの「お礼」としても使われる商品券

お中元やお歳暮で商品券を贈ることは減ってきたように感じます。一方、ちょっとしたアンケートに答えると「Amazonギフト券」のような、特定のプラットフォームで利用できる商品券をもらう機会は増えてきました。豊富な品揃えの中から好きなものを購入する際の「足し」にできる商品券は、もらったほうも嬉しいものです。こうした魅力をマーケティングに活かすべく、企業は便利にAmazonギフト券のような商品券を使っているわけです。

ところで、商品券を渡すほうも、もらったほうも、これをどのように会計処理するかご存知ですか?

実は商品券の会計処理は少しややこしくて、「何のために使うのか」などパターンごとに仕訳が違ってきます。正しい会計処理はどのようなものなのか、少ししゃくし定規な話となりますが、この記事で模範解答を示します。ただ、社員にプレゼントする場合など、取り扱いが難しいケースもありますので、実際に会計処理する際は、必要に応じて専門家である顧問税理士などへ相談してみてください。

2 商品券を取引先などにプレゼントする場合

アンケートに答えてくれた人や、昇進や結婚などをした顧客などへのプレゼント用に商品券を購入するケースで考えてみましょう。

この場合、購入した商品券は、

「接待交際費」として費用計上

します。例えば、社外へのプレゼント用に3万円分の商品券を現金で購入した場合の仕訳は次の通りです。なお、商品券の購入金額ではなく額面金額を基準に計上します。また、商品券の購入に消費税は課されないため、税抜処理をしている場合でも消費税の仕訳は不要です。

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もし、金券ショップなどで割安の商品券を購入した場合は、差額を「雑収入」として計上します。例えば、金券ショップで本来は3万円分の商品券を2万9000円で購入した場合の仕訳は次の通りです。

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こうして購入した商品券を、実際に社外の人にプレゼントした場合の仕訳は不要です。商品券を購入した際に接待交際費として経費処理しているため、それ以上の仕訳はしなくてよいということです。

なお、購入した商品券が期末まで未使用のまま残っている場合、

「貯蔵品」として資産計上

します。期中に費用計上しているものの、期末時点で保有しているということは費用がまだ発生していません。そのため、期中に計上した「接待交際費」を除く仕訳(いわゆる「逆仕訳」)が必要です。例えば、期末時点において取引先などにプレゼントするために購入した3万円分の商品券が残っている場合の仕訳は次の通りです。

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3 商品券を自社で使う場合

文房具やちょっとした備品の調達など、自社で使うために商品券を購入するケースで考えてみましょう。

この場合、購入した商品券は、

「他社商品券」として資産計上

します。例えば、自社用に1万円分の商品券を現金で購入した場合の仕訳は次の通りです。額面金額を基準にすること、消費税が課されないことは前述の通りです。

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また、金券ショップなどで割安の商品券を購入した場合の処理は社外へのプレゼント用の場合と同じで、差額を「雑収入」として計上します。例えば、金券ショップで本来は1万円分の商品券を9000円で購入した場合の仕訳は次の通りです。

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こうして購入した商品券を、実際に自社で利用した場合の仕訳は、その目的によって違ってきます。例えば、1万円分の商品券で1万円分(税込)の備品を購入した場合、仕訳は次の通りです。大切なポイントは、

商品券を利用する際は消費税の仕訳が必要になる(税抜処理をしている場合)

ことです。

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また、商品券と現金を合わせて使う場合もあるでしょう。例えば、1万円分の商品券と現金1万円を合わせて、2万円分(税込)の備品を購入した場合の仕訳は次の通りです(税抜処理をしている場合)。

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4 商品券を社員にプレゼントする場合

購入した商品券を社員にプレゼントするケースもあると思います。まず、購入時の仕訳は「3 商品券を自社で使う場合」で紹介したとき同じで、他社商品券として資産計上します。

その商品券を社員にプレゼントする場合、

基本的には「給与」として費用計上

します。商品券には金銭と同様の性質があると考えられため、給与となるのです。例えば、資格を取得した社員への報奨として3万円分の商品券を支給する場合の仕訳は次の通りです。給与として扱われるため、所得税等の源泉徴収処理も必要です。ここでは、説明上源泉徴収される所得税等の金額は3000円としています。

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このように、社員にプレゼントする商品券は給与として処理するのが基本ですが、例外も考えられます。例えば、全社員を対象に、あるいは全社員が機会を得られるケースで、社会通念上妥当な金額分の商品券を社員にプレゼントする場合、

「福利厚生費」として費用処理

します。例えば、社員への結婚祝いとして1万円分の商品券をプレゼントした場合の仕訳は次の通りです。福利厚生費として費用計上する場合、源泉徴収の必要はありません。

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5 立場を変えて、商品券をもらった側の処理

これまで商品券を渡す側の立場で会計処理を説明してきました。ここでは、立場を変えて、商品券をもらった場合の会計処理について考えてみます。

もし、取引先から商品券をもらった場合は、

「雑収入」として収益計上

します。例えば、取引先から3万円分の商品券をもらった場合の仕訳は次の通りです。

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もらった商品券を使った場合の会計処理は前述した通りです。同じ例となりますが、例えば、1万円分の商品券で1万円分(税込)の備品を購入した場合、仕訳は次の通りです(税抜処理をしている場合)。

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商品券は購入したときだけでなく、もらった場合の会計処理も忘れずに行いましょう。

以上(2024年4月作成)
(監修 税理士 石田和也)

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画像:ViDI Studio-shutterstock

スピードの超過に注意!(2024/3号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

車を運転中、気がつくと思った以上にスピードが出ていたという経験はありませんか。慣れた道だったので「つい」「うっかり」スピードを出してしまったということも珍しくないかと思います。しかし、スピードを出しすぎると交通違反の取締りの対象になるだけでなく、重大事故を起こす危険が高まります。

そこで、今月はスピードの超過について考えます。

スピードの超過に注意!

1.スピードを出すことの危険

交通事故統計によると、規制速度を超過した交通事故の死亡事故率は、超過しない交通事故の9.2倍となっています。速度超過での事故は、死亡事故になる確率が高まることがわかります。車の衝突による衝撃力は、スピードの2乗に比例して大きくなります。

また、スピードを出すと視力の低下や停止距離の延伸により、危険の発見が遅れる、危険の回避が難しくなるなどして、事故を起こしやすくなります。

交通事故統計

出典:警視庁Webサイト「速度管理の意義 適切な速度管理の必要性」」から当社作成
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/jikoboshi/torikumi/sokudokanri/igi_hitsuyosei.html

◆視力の低下

スピードを出せば出すほど動体視力(動いているときの視力)は低下します。例えば、時速30km程度で走行しているときの動体視力は、静止視力(止まっているときの視力)の約60%程度といわれています。また、視野(見える範囲)も狭くなります。

視力の低下

◆停止距離の延伸

停止距離は、ブレーキが効き始めるまでの「空走距離」とブレーキが効いて車が停止するまでの「制動距離」を合計した距離です。空走距離はスピードに比例しますが、制動距離はスピードの2乗に比例して長くなります。例えば、速度が時速30kmから時速60kmへ2倍になると、停止距離は約3倍となります。

停止距離の延伸

2.スピードを抑えるには

運転者がスピードを出す要因として、次のような心理が考えられます。

◆運転の慣れ

車の運転に慣れると気の緩みや過信が生じやすく、スピード感覚も鈍くなります。また、慣れた道ではスピードを出してしまいがちになります。

◆急ぎの心理

人間のDNAには、「急ぐこと」が本能として刷り込まれているそうです。約束の時間に遅れそうで焦っていたり、前の車が遅くてイライラしたりすると「急ぎの心理」が顔を出し、無意識にスピードを出してしまいがちになります。

◆スピード感覚のマヒ

夜間は交通量が少なく、周囲の景色も見えにくいため、スピードが出ていないように感じます。また、広い道路を走行している場合や、他車と並走していて速度差が小さい場合は、スピード感覚がマヒしがちです。

◆スピードに挑戦する心理

「広い道路では思い切りスピードを出してみたい」「スピードを出すほど快感を感じる」といった心理で、特に若い運転者に多いといわれています。

スピードを出すことの危険を十分認識し、常に自分の運転ぶりを客観的にとらえ、上記のような心理状態に適切に対処できるよう自分をコントロールすることが大切です。

エコドライブを励行するなど小さな意識を習慣にすることで、スピードが抑えられ、交通事故の回避につながります。

エコドライブを励行

3.適切な速度管理

規制速度は、道路形状や交通量を踏まえて交通事故が起こらないように考えられた規制です。規制速度を遵守していれば、交通事故の回避や交通事故時の被害軽減にもつながります。

道路標識や道路標示の最高速度を意識し、こまめにスピードメーターをチェックするなどして、安全速度での運転を心がけましょう。

適切な速度管理

以上(2024年3月)

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その停滞感の原因は? 休むほどではない体調不良「プレゼンティーイズム」が生産性を下げる

書いてあること

  • 主な読者:最近、社員に元気がなく会社の活力が低下していると感じる経営者
  • 課題:なぜ元気がないのかは社員によって異なり、何から手をつけていいのか分からない
  • 解決策:肩こりや腰痛などの“ちょっとした体調不良”に注目する。アンケートや健康診断の結果から社員の健康状態を分析する。健康施策は自社の身の丈に合ったもので十分

1 欠勤よりもタチが悪い「プレゼンティーイズム」とは?

社員の健康管理を、経営課題として捉えて改善に取り組む「健康経営」。その重要な要素の1つに、「プレゼンティーイズム(presenteeism)」というものがあります。簡単にいうと、

出勤はしているが、体や心の不調から仕事に身が入らず成果を上げられない状態のこと

です。体や心の不調といっても、風邪やインフルエンザ、うつ病などのことではありません。ここで想定しているのは、「肩こり」「腰痛」「ストレス」などの、“ちょっとした体調不良”です。

普通、肩こりや腰痛で欠勤する社員はあまりいませんが、放置しておくと、社員が仕事に集中できずミスをしたり、さらに体調が悪化したりして、欠勤するよりも大きな損失を会社にもたらすことがあるのです。

「たかが肩こりや腰痛で大げさな……」と思うかもしれませんが、実はプレゼンティーイズムが経営に与える損失は大きく、2015年度に東京大学が実施した調査研究では、

会社の健康関連のコスト(医療費、傷病手当金、労災補償、病欠による損失コストなど)のうち、プレゼンティーイズムは77.9%を占める

とされています(東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニット「健康経営評価指標の策定・活用事業成果報告書」)。

社員の健康管理は、いまや「コスト」ではなく「投資」です。“ちょっとした体調不良”のケアもその1つ。具体的に何をしたらいいか分からない人が大半だと思いますが、ポイントは、

自社のプレゼンティーイズムを「数値化」「見える化」した上で、「自社の身の丈に合った健康施策」を実施すること

です。以降で、具体的な方法や実際の取り組み事例などを紹介します。

2 まずは自社のプレゼンティーイズムを「数値化」する

経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック」では、プレゼンティーイズムを数値として把握する、科学的な5つの測定方法を紹介しています。

その中で、最も簡単に測定できるといわれているのが、東京大学政策ビジョン研究センター健康経営研究ユニットが開発した「SPQ(東大1項目版)」です。社員に次の質問をするだけで、「社員のプレゼンティーイズムが、どの程度会社に損失を与えているか」が分かります。

【設問】

病気やけががないときに発揮できる仕事の出来を100%として過去4週間の自身の仕事を評価してください(  %)

【算出方法】

プレゼンティーイズム損失割合(%)=100% - 上の設問の回答値

労働生産性損失額(円)=プレゼンティーズム損失割合(%)× 賃金(円)

「プレゼンティーイズム損失割合」は体調不良により社員が本来の能力の何%ぐらいを使えずにいるのかを、「労働生産性損失額」は会社に与える損失がどの程度なのかを表す数値です。

ちなみに、前述の2015年度に東京大学が実施した調査研究では、

  • SPQの回答値の平均は84.9%
  • プレゼンティーイズム損失割合の平均は15.1%(100%-84.9%)

でした。つまり、平均的な会社では「15.1%×賃金」の損失が発生していることになります。

仮に社員の月給が30万円だとしたら、1人当たり月に4万5300円、年に54万3600円の損失

が発生する計算です。

■経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック」(改訂第1版)■

https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kenko_keiei_guidebook.html

■東京大学政策ビジョン研究センター「SPQとは」■

https://spq.ifi.u-tokyo.ac.jp/

3 次に社員の体調不良を「見える化」する

1)アンケートを活用する

前述したSPQなどを用いて、自社の健康状態を把握したら、次にその要因となっている体調不良をアンケートなどで把握します。これはSPQとセットで実施してもいいでしょう。質問内容は、次のようにシンプルなもので構いません。

【設問】

あなたの仕事に悪影響を及ぼしている体調不良は?(複数回答可)

  • 肩こり
  • 腰痛
  • 頭痛
  • ストレス
  • 睡眠不足
  • 目の疲れ(眼精疲労)
  • 花粉症・鼻炎
  • その他(生理、長期連休の疲れ、喫煙など)

肩こりや腰痛などの慢性的な体調不良は、日々の生活習慣を色濃く反映します。つまり、職場に問題があると、体調にも悪影響が出やすいのです。例えば、デスクワークが多い社員は、座っている時間が長く活動量が少ないため、肩こりや腰痛になりやすいといわれます。

とはいえ、体調不良の傾向は業種や社員の年齢構成、職種によって異なりますから、まずは

どのような体調不良を抱える社員が何人いるのか、考えられる要因は何か

を、アンケートなどで見える化することが大切です。

2)健康診断の結果を活用する

自社の健康状態を把握する上でもう1つ重要なデータが、健康診断の結果です。例えば、毎年実施する定期健康診断の結果表からは、

  • 社員の肥満度、血圧、血糖値など
  • (問診に回答している場合)食事回数、喫煙や飲酒の頻度、睡眠時間、運動の頻度、ストレスの有無など

が分かります。

3)年齢構成や職種など、属性ごとにデータをまとめて分析する

アンケートや健康診断の結果から得られた情報は、次のような表にまとめるとよいでしょう。年齢構成や職種など、属性ごとにデータをまとめれば、例えば「事務職で頭痛や肩こりを抱える社員が多い」「営業職で腰痛を抱える社員が多い」など、自社の問題点が見えてきます。

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4 自社の身の丈に合った健康施策を

1)身の丈に合った施策で十分

自社独自の問題点が見えてきたら、次はそれをどう解消するかの施策を考えていきます。施策というと、ストレッチマシンの導入やマッサージ師の派遣といったコストのかかる大々的なものを連想するかもしれません。しかし、自社の問題点が分かっていれば、例えば、朝礼などにストレッチを取り入れるといった施策でも効果が見込めます。

また、例えば、明日から全面禁煙にするといったような、日々の生活習慣を一気に変えるような施策は、社員の反発を招く恐れがあります。就業時間のうち数時間を禁煙時間に設定するなど、徐々に変化を促すような施策が効果的です。大切なのは、

会社側も社員も取り組みやすい施策から始め、毎日の生活習慣を少しずつ変えていく

という心構えです。

2)取り組みやすい健康施策の例

中小企業が取り組みやすい健康施策には、次のようなものがあります。

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例えば、肩こりに悩む社員が多く、それが長時間のパソコン業務で姿勢が固定されていることが要因だと考えられる場合、次のような施策が取り組みやすいでしょう。

  • 「モニターが正面にない」「デスクの上や足元がちらかっている」といった、姿勢を悪くする要素を取り除くためにデスク周りの見直しをさせる
  • パソコン業務の連続作業時間が1時間を超えないようにし、作業の合間に立ち上がって休憩したり、ストレッチしたりするなどの作業休止時間を設けるよう促す
  • 朝のラジオ体操のメリット(肩こり防止に効果的など)を伝えたり、正しいラジオ体操の映像を見せたりするなどして、本気で取り組んでもらう

また、血糖値が高い社員が多く、それが気分転換にお菓子を食べる習慣や、不規則な食事が要因だと考えられる場合、次のような施策が取り組みやすいでしょう。

  • ヘルシーなお菓子コーナーを設置する。ヘルシーな置き菓子サービスを利用する
  • 一口20~30回かんで早食いを抑えることで、血糖値が上がりにくくなることを伝える
  • 日本医師会ウェブサイトなどから、正しい歯の磨き方を学ぶことを推奨する

1番下の「正しい歯の磨き方」については、次のウェブサイトなどが参考になります。虫歯や歯周病予防に取り組むことで血糖値が下がるケースもあるので、一度のぞいてみるとよいでしょう。

■日本歯科医師会「あなたにピッタリな歯のみがき方を探してみよう!!」■

https://www.jda.or.jp/hamigaki/

3)協会けんぽを活用しよう

効果的な施策が分からない場合は、加入している全国健康保険協会(協会けんぽ)の保健師にアドバイスを求めましょう。

相談は基本的に無料ですし、業種や職種ごとに抱えやすい体調不良の内容や効果的な施策を教えてくれたり、実際に効果のあった事例を紹介してくれたりします。前述した図表1のように、あらかじめ自社の健康状態を表などにまとめておくと、よりスムーズに相談できるでしょう。

また、協会けんぽでは、「事業所健康診断(事業所カルテ)」を配布しています。

事業所カルテは、健康診断データを基に、社員の健康リスク(血圧、血糖、飲酒、食習慣、運動習慣、喫煙など)や、都道府県ごとの平均値との比較などを診断してくれるもの

です。社員の健康状態をまとめたり、協会けんぽにアドバイスを求めたりする際に役立ちます。

5 一過性の取り組みで終わらせないために

経営者が、健康経営を人事労務担当者などに任せきりにしてしまうと、施策が途中で頓挫しがちです。また、短期的なスパンで改善が見えないからと、早々に取り組みを打ち切ってしまうケースもあります。

健康経営を一過性の取り組みで終わらせないためには、経営者が

「健康経営は重要な経営課題である」と繰り返し社内に発信し、自ら施策に関わること

が欠かせません。役員や上司などに働き掛け、「上から」社内全体に浸透させていくと、さらに効果的です。また、人の習慣はすぐには変わらないので、3年、5年といったスパンで施策を継続し、効果測定を重ね、長い目で経過を見守ることが大切です。

以上(2024年3月更新)

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やらかしがちな賃金トラブルにご用心。未払いや過払いなどへの対処法

書いてあること

  • 主な読者:賃金の計算や支払いに関するトラブルをなくしたい経営者、人事労務担当者
  • 課題:賃金の計算や支払いは、定型業務のわりにイレギュラーな事態が生じる
  • 解決策:賃金の控除、未払い、過払いに関するルールを押さえる

1 賃金実務で「あれっ?」と思ったら

賃金の計算と支払いは毎月必要なものですが、わりとイレギュラーな事態が発生します。そのような場合でも未払いや過払いなどのトラブルは避けたいところですが、皆さんは次のケースの対応を具体的にイメージできますか?

  • 遅刻や早退をした社員の賃金を控除したい
  • 未払い分を支払わなければならない
  • 過払い分を返還してもらわなければならない

もし、「具体的な対応がイメージできない」あるいは「何となく分かるけど怪しい」と感じたら、この記事を読み進めてみてください。正しい対応を紹介します。

2 遅刻や早退をした社員の賃金を控除したい

社員が遅刻や早退をした場合、ノーワーク・ノーペイの原則により、その時間分の賃金は支払う必要がありません。社員が10分遅刻したら、原則として10分の賃金を控除できます。

ただし、見落としがちな問題があります。同じ月給制でも、

  • 日給月給制:1カ月単位で算定されるが、不就労分の賃金を控除する
  • 完全月給制:1カ月単位で算定され、労働時間に関係なく定額で賃金を支給する

といった種類があります。御社が完全月給制を採用しているなら、社員が遅刻や早退をしても賃金は控除できません。また、日給月給制の場合でも、就業規則に、

不就労分の賃金を控除しない

などと定めている場合は、やはり控除できません。

なお、「控除」とは少し違いますが、遅刻の常習者などに対しては、反省を促すために懲戒処分の「減給」にする対応も考えられます。日給月給制の場合、遅刻した時間以上の控除は原則できませんが、就業規則の懲戒事由に該当した社員を減給にする場合、例えば

「3回遅刻をしたら半日分の賃金をマイナスする」といった対応

が認められる可能性があります。ただし、労働基準法上、減給については

1回の額が「平均賃金(過去3カ月間の賃金総額を暦日数で除した金額)の1日分の半額」を超えてはならず、総額が「1回の賃金支払総額の10分の1」を超えてはならない

というルールがあるので、この制限は守らなければなりません。

3 未払い分を支払わなければならない

賃金の未払いは、社員の勤怠報告の間違いなどによって生じます。会社に悪気がないのに生じます。それで確認しておきたいのは、「いつの時点まで遡って支払い賃金を支払う必要があるのか」ということですが、この点は、

賃金請求権を行使できる時点(賃金支払日など)から起算して5年(当面の間3年)

と決まっています。

ただし、災害補償や退職手当などは時効の長さが違います。一覧表にまとめましたので参考にしてください。

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4 過払い分を返還してもらわなければならない

賃金の過払いもよく問題になります。過去の裁判では、公立の教職員が6月と12月に支払われる勤勉手当(ボーナス)について、過払い分の返還を求められたのにこれに応じず、不当利得だとして争いになったケース」などがありました(最高裁第一小法廷昭和44年12月18日判決)。気になるのは「いつの時点まで遡って返還を請求できるか」ですが、この点については、

過払いの事実があった時点から10年(ただし、会社が過払いの事実を知ったときはその時点から5年)

と決まっています。

なお、原則として、返還請求できるのは過払い分だけです。ただし、

社員本人が過払いの事実を知っていた場合、利息を付けて返還請求することが可能

です。会社と社員との間で金利についての取り決めがなければ、金利は年3%です(ただし、利率は3年ごとに見直されます。次の見直しは2026年4月1日です)。

過払い分を賃金から控除することもできますが、その場合は労使協定の締結が必要です。また、労使協定を締結している場合も、過払いだからといって一度に控除する金額が多くなると、社員の生活に影響が出る恐れがあるので、このあたりは慎重な対応が求められます。

以上(2024年3月更新)
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

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画像:photoschmidt-Adobe Stock

「基本給」の賃上げは属人給と仕事給のウエイトに注意!

書いてあること

  • 主な読者:基本給の賃上げを考えている経営者、人事労務担当者
  • 課題:安易に賃上げに踏み切って、後々経営に差し支えないかが不安
  • 解決策:基本給を構成する属人給と仕事給のウエイトに注意する

1 「賃上げ率、何%にしようか?」と考える前に……

毎年、春闘の時期になると「賃上げ」の話題が世間をにぎわせます。直近では日本労働組合総連合会が、2023年春闘で「5%程度」としていた賃上げ目標を、2024年春闘では「5%以上」に改めたことなどが注目を集めています(どちらの賃上げ率も定期昇給相当分を含む)。

賃上げの対象となるのは、主に「基本給」です。一般的に、基本給とは「毎月きまって支給する賃金のうち、諸手当などを除いた基本となる賃金」のことをいい、その内容は

  • 属人給:年齢や勤続年数など、社員の属人的な要素によって決定される賃金
  • 仕事給:能力や職務のグレードなど、仕事に関係する要素によって決定される賃金

に大別されます。

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多くの会社では、図表1のような複数の要素が組み合わさって基本給を構成しているので、

「各要素が基本給に占めるウエイト」を確認した上で、賃上げを検討する

ようにしないと、後々、人件費が経営を圧迫することになりかねません。以降でポイントを紹介します。

2 属人給と仕事給のウエイトで賃金カーブの傾きが変わる

賃上げを行う場合、一般的には

  • 賃金テーブルや人事考課に応じ、毎年1回など定期に賃金を引き上げる「定期昇給」
  • 賃金テーブルを書き換えて賃金水準を一斉に引き上げる「ベースアップ」

のいずれか(または両方)で実施する会社が多いです。

年齢や勤続年数に応じた賃金額の変化を線にしたものを「賃金カーブ」といいますが、基本給に「属人給」が含まれていれば、賃金カーブは図表2のように、定期昇給の度に右肩上がりになり、ベースアップをした場合はカーブ全体が底上げされます。

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一方、基本給に占める「仕事給」のウエイトが大きくなり、「属人給」のウエイトが小さくなると、年齢や勤続年数に応じた変化は小さくなります。仮に基本給のウエイトを「属人給0%、仕事給100%」にしている会社があった場合、もしも社員の能力や職務のグレードが一向に変わらなければ、賃金カーブは図表3のようにベースアップ以外では変化しなくなります。

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図表3はかなり極端な例ですが、要するに

属人給と仕事給のウエイトに応じて、賃金カーブの傾きが変わってくる

ということです。

仕事給のウエイトが大部分を占めると、いわゆる「ジョブ型」の人事制度になり、社員の会社への貢献度に応じて賃金が支払われるので、賃上げをしても人件費が経営を圧迫するリスクは低くなります。一方、年齢や勤続年数に応じて確実にもらえるはずの賃金が減り、社員の生活や安定した定期昇給を期待する社員のモチベーションに影響が出るリスクが高くなるので、ウエイトについては慎重に判断しなければなりません。

この記事の最後で、基本給の決定要素に関する統計データを紹介しているので、同業・同規模の会社の状況が気になる人は参考にしてください。

3 ウエイトを変えるときは「労働条件の不利益変更」に注意

属人給と仕事給のウエイトを変える場合、「労働条件の不利益変更」に注意が必要です。前述した、年齢や勤続年数に応じて確実にもらえるはずの賃金が減るケースなどがそうです。

労働条件の不利益変更を行うには、自社の状況に応じて、

「労働協約」「就業規則」「個別の労働契約」等を変更する必要

があります。中小企業の多くは労働組合を持たないので、「就業規則」や「個別の労働契約」を変更することになります。例えば、就業規則の作成義務のない会社(社員数が常時10人未満)では、労働契約を変更するために個別の社員の同意が必須となります。

就業規則については、個別の社員の同意を取らずに変更することも可能ですが(過半数代表者への意見聴取、所轄労働基準監督署への届け出は必須)、その場合、次のような内容に照らして「変更が合理的」といえるものでなければいけません。

  • 社員の不利益が大き過ぎないか
  • 労働条件を変える必要があるか(経営上の理由など)
  • 内容は適切か(変更の方向性、不利益の緩和措置、一般的な同業他社の状況など)
  • 社員との交渉を行っているか
  • その他、変更に当たって考慮すべき事情を見落としていないか

例えば、「ジョブ型の人事制度にしたいので、仕事給のウエイトを上げ、属人給のウエイトを下げる」という場合、次のような対応をしていれば合理的といえるかもしれません(実際は、個別・具体的に判断される部分ですので、あくまで参考として捉えて下さい)。

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なお、賃金形態の変更は社員の生活やモチベーションに直結する部分ですので、就業規則に関係なく、個別の社員の同意を得てトラブルを回避しようとする会社も多いです。

4 基本給の決定要素に関する統計データ

最後に、基本給の決定要素に関する統計データを紹介します。

図表5と図表6は、管理職と管理職以外の基本給の決定要素です。全体的に「職務・職種など仕事の内容」「職務遂行能力」の割合が高めですが、教育、学習支援業や複合サービス事業は、他の業種に比べ「学歴、年齢・勤続年数など」を重視する傾向が見られます。また、管理職と管理職以外では、管理職以外のほうが「学歴、年齢・勤続年数など」の割合が高くなっています。

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図表7は、会社が基本給で最も重要としている決定要素です(原則として資本金5億円以上、社員数1000人以上の会社のデータ)。調査産業計では「総合判断」の割合が最も高いですが、業種別に見ると鉱業、建設、電力、商事、新聞・放送、情報・サービス、飲食・娯楽では、「職務内容・職務遂行能力等」を最も重要な決定要素に位置付けています。

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以上(2024年3月作成)
(監修 人事労務すず木オフィス 特定社会保険労務士 鈴木快昌)

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画像:ChatGPT

あなたの常識を見直す「NGな褒め方、叱り方」/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』(9)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
  • 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。

1 相手を【どのように】褒めるべきかを、意識できていますか?

今シリーズでは、昭和生まれの管理職・リーダー世代と、平成生まれ、とりわけ「Z世代」との価値観に、ここ10年ほどで“真逆”といえるほどのギャップが生まれていることを取り上げています。

そして、世界のビジネス上の価値観は、平成生まれや「Z世代」の価値観のほうに寄っており、会社の成長を今後も目指すためには管理職・リーダー側の皆さんが、価値観やコミュニケーション習慣を見直す必要に迫られているのです。

第6回からは、『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その1の『傾聴』に続いて、その2『褒める』を取り上げています。前回までで【何を】【どのように】褒めればよいかについて、おのおの整理して5項目ずつの活用テクニックを伝授しました。

今回は、引き続き「NGな褒め方」について、また「叱り方」をテーマにお話ししていきたいと思います。

2 NGな褒め方2選

NGな褒め方 ①他人と比較して褒める

例えば「〇〇さんよりすごいね」「〇〇さんはダメだけど、あなたは違うね」といった褒め方です。

上司がしがちなのが、部下の同期や近い世代との比較です。「同期の〇〇さんはできないのに、あなたはすごいね」「職場の若手〇人の中で一番すごいね」など。比較したほうが分かりやすいだろうと思われるかもしれませんが、比較された相手はどう感じるでしょう。

褒める相手と2人きりのときに伝えるから大丈夫と思われるでしょうか。身内の会合で「ここだけの話ですが」と軽口をたたいたはずが、公になって謝罪に追い込まれた政治家を、私たちは何度見たことでしょう。

今の世の中、もう“ここだけの話”などどこにも存在しません。いつかは比較対象にされた本人の耳にも入ってしまうと考えるべきです。

褒められたはずの本人も、素直に喜べないかもしれません。比較された相手が親しい人だとなおさらでしょう。そして「この上司は、陰で自分のことも引き合いに出して悪く言っているかもしれない。褒めてもらっても額面通りに受け取れない」と感じるでしょう。これでは逆効果です。

NGな褒め方 ②「〇〇なのにすごいね」

例えば「若いのにやるね」「女なのに頭が切れるね」「バイトなのに働き者だね」「主婦なのに責任感あるね」といった褒め方です。

同じ「〇〇なのにすごいね」でも、「すごい、1年目とは思えないね」であればOKではないでしょうか。先に挙げた例と何が違うか分かりますか。

前者の4つには「〇〇なのに」の対象に対する「~のくせに」といった少し見下したニュアンスが含まれていませんか。そうしたニュアンスを相手は敏感に感じ取るものです。

ではどうすればよいのでしょうか? そうです。「〇〇なのに」の部分は余計なのです。「すごいね」だけでいいのではないですか? 具体的に何がすごいと思ったのかを添えてあげれば相手はもっと実感できるはずです。

3 褒めてばかりで、叱らなくていいの?

第6回から今回の第9回まで4回にわたって「褒めましょう」と言い続けてきました。若い世代との間に “真逆”といえるほどの価値観のギャップが生まれていて、世界のビジネス上の価値観もそちらにあるのだから、管理職・リーダー側の皆さんが変わらなければならない、だから「褒めましょう」と。

今日までに「早速、褒めてみた」という人はどれくらいいるでしょう。私がとらわれていたような次の3つの誤解は解けたでしょうか。

【誤解①】「褒める」なんて自分には無理と思い込んでいる

【誤解②】他人を「褒める」と、その分自分が損をする

【誤解③】「褒める」と相手が慢心して天狗(てんぐ)になってしまう

【誤解①】については、最初は相手の反応を気にしながらびくびくだったかもしれませんが、気にせず続けていたら相手の反応も好意的に変わってきたのではないでしょうか。

頑張って続けていけば、あなたは「褒め上手で、部下を育てるのが上手な上司」と呼ばれるようになれます。

そうなれば【誤解②】など氷解してしまうでしょう。

いくら部下が優秀で結果を出し続けたとしても、周囲は「〇〇さんが活躍できるのは、上司の〇〇さんが褒めて伸ばしてくれるからだね」と見てくれるはずです。①の反応も含めて、損どころか、お得なことこの上ないのです。

【誤解③】についても、あなたがいくら褒めても相手は思っていたほど天狗にはならないことに気付いたでしょう。しかし中には褒めれば褒めるほどに慢心し増長して、仕事に適当に手を抜く人も出てくるかもしれません。

そこで「褒めてばかりで、時には叱らなくていいの?」という疑問が湧いてきていないでしょうか。

年齢も経験も違うのだから上の者が叱って教えてやらなければいけないんだとおっしゃるでしょうか。

私も大学にまで行かせてもらって社会人40年、いい歳になってそれなりの経験もありますが、とはいえ限られた世界の経験です。

この歳になっても知らなくて恥をかきそうになったことは、何度もあります。理系出身でネットビジネスを立ち上げた経験からパソコンには詳しいほうですが、スマホについては子どもたちに教えてもらってばかりです。また私が学生時代に習ったはずの知識や常識が、その後の発見や理論で覆っていることも多々あります。

上司と部下の関係であろうと、上司の知らないこともいっぱいあるのです。そんな中で年齢や経験は違えど、お互い“大人同士”なのに、大人が大人を「叱る」のはおかしくないですか。

では、試しに叱ってみてください。相手はあなたの話を理解して、素直に受け入れてくれましたか。逆にあなたがさらに上の上司や先輩から叱られたとして、素直に受け入れてすぐに行動を変えられますか?

私は素直に受け入れられる自信がありません。まして叱られた経験の少ない若い世代はどうでしょうか。

「叱る」ことで、あなたが本当に伝えたい意図が相手に伝わるでしょうか。

4 「叱る」のではなく、「注意やアドバイス」をすればいい

実際に叱ってみると分かりますが、相手はあなたの話を理解し素直に受け入れてくれるどころか、むしろ反発してしまうでしょう。従来の関係性すらこじれて尾を引くかもしれません。こうなってからいくら褒めても効果なし、後の祭りです。

「叱る」のではなく、「注意やアドバイス」をすればいいのです。「注意やアドバイス」のし方にもコツがあります。

1)先に良いところを「褒めて」から行う

先に良いところを褒められると、人は認めてもらえたと感じます。その上での注意やアドバイスであれば受け入れやすいものです。

例えば「〇〇さんはいつも一生懸命ですね。でもここだけは直してほしい、みんな困っていますよ」「ここの企画はすごくいいよね。ただこっちについては、お客様はどう思うだろう?(例えばこうしては?)」

ちなみにNGな褒め方①で触れた、他人と比較して「注意やアドバイス」をするのもNGです。例えば「同期の〇〇さんはこんなにできるのに悔しくないの?」。理由は申し上げるまでもありませんね。

2)なるべく前向きな表現で、期待を伝える

これも相手を認めることに通じるのですが、例えば「〇〇さんならできると思う」「〇〇さんならもっとできるよ」「みんな喜ぶよ、私も助かるなあ」。

3)できるだけ相手に考えさせ、自律的に

こちらからあまり具体的な注意やアドバイスをすると、相手は“指示”だと捉えます。人によっては指示には素直に従いたくないと思うかもしれませんし、毎回ただ指示に従うだけでは人は成長しません。

できるだけ相手に自ら考えさせることで、本人の成長も責任感も促せます。

例えば「A社のことは担当のあなたが一番よく知っているのだから、ベストな方法を考えてみて」といったように。

5 部下が上司に褒められたいこと、使ってほしい褒め言葉とは?

話を「褒める」に戻しましょう。調査によれば「部下が上司に褒められたいこと」は1位「努力」、2位「成果」、3位「個性」だそうです。

「成果」が出たときはもちろん褒めてほしいでしょうが、成果はいつも出るとは限りませんし、成果の裏には大抵多くの努力が潜んでいます。そこも見ていてくれて「努力」を褒めてほしがっているのです。

同じく「部下が上司の褒めてほしい言葉」は1位「さすがだね」、2位「がんばったね」、3位「安心して任せられるね」だそうです。

いずれも自分を一人の人間として認めてほしいという気持ちが表れていませんか。部下は何人いようとそれぞれ異なります。上司に求められている役割は、部下一人ひとりを活かして会社の期待に応えることです。

「褒める」にしても、時には「注意やアドバイス」を添えるにしても、部下一人ひとりに目を配り、個々の力を引き出していくことが肝要です。それは手間もかかるし遠回りなように見えて、結局は組織を活かすための近道なのだと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。次回は『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その3をテーマにお話ししていきたいと思います。

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ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

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※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』 https://amzn.asia/d/e8GZwTB

『なぜ社長の話はわかりにくいのか』 https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2024年3月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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経営者のパフォーマンスを上げる休息のポイントは「睡眠」と「軽めの運動」

書いてあること

  • 主な読者:多忙なため、睡眠時間を削るなどしていて、あまり休めていない経営者
  • 課題:昼夜を問わない不規則な働き方に慣れてしまって、休息のポイントが分からない
  • 解決策:質にこだわった睡眠を取る、アクティブ・レストなどの軽めの運動を取り入れる

1 経営者が取るべき「質の良い休息」とは

元気でハツラツとした経営者は周囲を明るくします。活力ある経営者の姿は社員にとって安心感がありますし、取引先などからは、経営者の活力が「会社の活気」ととらえられ、元気な経営者が経営する会社は一目置かれます。

健康の秘訣はさまざまですが、この記事で取り上げるのは「休息」です。経営者には労働時間という概念がなく、昼夜を問わず不規則に働き、休みの日も何かしら仕事のことを考えているという人が多いでしょう。そんな忙しい経営者だからこそ、

仕事でより良い結果を出すための休息、すなわち「質の良い休息」を取ることが大切

です。この記事では、質の良い休息を取るために大切な2つのポイントを紹介します。

  • 質にこだわった睡眠を取る
  • アクティブ・レストなどの軽めの運動を取り入れる

2 質にこだわった睡眠を取る

1)睡眠不足が招くパフォーマンスの低下

睡眠時間を削って仕事に打ち込む経営者は多いです。しかし、睡眠不足は判断力や思考力に大きな影響を及ぼします。例えば、厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針2014」では、

  • 人間が十分に覚醒して作業を行うことができるのは起床後12~13時間が限界
  • 起床後15時間以上では酒気帯び運転と同じ程度の作業能率まで低下する

とした研究結果を紹介しています(なお、「睡眠指針2014」は2023年12月に改訂され、「健康づくりのための睡眠ガイド2023」としてまとめられました)。仕事のパフォーマンスを上げたいなら、睡眠時間を削るのではなく、むしろしっかり眠ることが大切です。

2)時間にこだわるよりも質にこだわる

「睡眠時間は8時間がよい」「睡眠サイクルは90分なので、その倍数で起きるのがよい」といった話を聞くことがあります。ですが、睡眠時間や睡眠サイクルには個人差があるため、必ずしも時間だけにこだわる必要はないでしょう。

睡眠時間が極端に短いのは問題ですが、

  • 大切なのは、自分にとっての最適な睡眠時間や睡眠サイクルを知り、習慣化すること
  • そのための第一歩は、記録を残し、自分の睡眠の特徴をつかむこと

です。

例えば、毎日の就寝時間や起床時間、「スッキリ起きられた」「だるさを感じた」などの寝起きの状態、「集中できた」「午後はずっと眠気を感じていた」などの日中のパフォーマンスなどを、簡単に記録します。睡眠時間や睡眠効率(実際の睡眠時間÷ベッドにいる時間×100)を計測できるウエアラブルデバイスなどもあるので、活用してみるとよいでしょう。

1週間の記録でも、どれくらい睡眠時間を確保すれば、パフォーマンスを発揮できるのかをある程度把握できます。例えば、7時間の睡眠で十分なパフォーマンスを発揮できるのであれば、毎日24時に就寝して翌朝7時に起床するなど、

就寝時間と起床時間をできるだけ一定にすることが肝心

です。

3)「寝だめ」よりも「短い昼寝」

普段は睡眠不足になりがちな場合、時間に余裕がある日に「寝だめ」をしようとする人がいますが、実はあまりお勧めできません。一時的な疲労回復には効果があるという研究もありますが、睡眠不足の日とそうでない日とで睡眠時間の長さに開きがあると、体内のリズムが崩れ、だるさなどを感じるようになるといわれているからです。

睡眠不足を解消したい場合、寝だめよりも効果的といわれているのが、

ごく短時間(15~20分)の昼寝

です。毎日の就寝時間と起床時間を一定にした上での昼寝であれば、体内のリズムも崩れにくいですし、もともと13時~15時前後の時間帯は、昼食を取ったのと相まって、疲労や眠気を強く感じやすいので、判断力や集中力の回復にも効果的です。ただし、昼寝が20分を超えると深い睡眠に入ってしまい、かえって覚醒に時間がかかる場合があるので注意しましょう。

4)体内の温度を下げると眠りやすい

人間は、睡眠時には熱が皮膚の外に放出され、体内の温度が下がります。そのため、就寝前に体内の温度を下げると寝つきやすくなるといわれています。

例えば、就寝前にぬるめのお風呂や足湯につかると、体を温めた後に手足表面からの熱放散が増え、体内の温度が低下しやすくなります。また、睡眠中は電気毛布の加熱を切り暖房の温度を下げるのも効果的です。逆に、睡眠中に電気毛布を利用したり暖房の設定温度を高くしたりすると、体内の温度が上昇して夜中に目覚めやすくなってしまいます。

5)寝酒は控える

就寝前にお酒を飲むいわゆる「寝酒」が習慣となっている人もいるかもしれません。たしかにアルコールには、一時的に寝つきがよくなり睡眠が取りやすいと感じさせる効果があります。

ただし、こうした効果があるのは最初だけです。一定の時間がたつと、アルコールが体から抜けていく反動で眠りが浅くなり途中で目覚めてしまうなど、睡眠の質が悪化します。また、毎日アルコールを飲んでいると寝つきの効果も薄れ、飲酒量を増やす原因にもなります。

3 アクティブ・レストなどの軽めの運動を取り入れる

1)疲労回復のためにあえて体を動かす

疲労回復のためには、「体を休めたほうがよいのでは?」と考える人も多いのではないでしょうか。しかし、軽めの運動は疲労回復に効果的とされています。

例えば、アスリートの中には、ハードな試合を行った翌日に「アクティブ・レスト(積極的休養・積極的休息)」と呼ばれる軽めの運動をする人が多いです。アクティブ・レストを行うと、血流が良くなって疲労物質の排出が促され、疲労回復の効果が高まります。また、幸せホルモンとして知られる「セロトニン」の分泌が高まり、不安やイライラの解消にもつながります。

2)アクティブ・レストは頑張り過ぎないことが大切

アクティブ・レストでは、

20~30分程度のウオーキングなど頑張り過ぎない程度の運動をするのが基本

です。「1駅分を歩く」「2~3フロアの移動であれば、エレベーターではなく階段を使う」などでも構いません。ウオーキングなどで体が温まった後にストレッチで筋肉をほぐすと、さらに効果的です。逆に激しい(強度の高い)運動をすると、かえって疲労が蓄積される恐れがあるので、長時間や速いペースでのランニングなどは避けましょう。

動画やアニメーションなどで軽めのトレーニングメニューを紹介してくれたり、引き締めたい部位や運動時間を選択するだけでお勧めのトレーニングメニューを提示したりするスマホアプリなどもあるので、活用してみるとよいでしょう。

3)話題のマインドフルネスに挑戦

アクティブ・レストのように積極的に体を動かすわけではありませんが、姿勢や呼吸法などを意識して瞑想する「マインドフルネス」に挑戦してみてもよいでしょう。マインドフルネスに取り組むことは、集中力の向上やストレス軽減の効果があるとされています。

マインドフルネスで、よく知られているのが「呼吸瞑想法」です。10~15分程度を目安に、

  • 背筋を伸ばして椅子に座り、足を肩幅に開いて肩の力を抜く
  • 目を閉じる(または視線を斜め前に落とす)
  • 体全体で自然に呼吸し、呼吸に意識を向ける
  • 「スピーチ原稿を作らなければ」など、雑念が湧いて呼吸に集中できなくなったら、「スピーチ、スピーチ」など、あえて雑念の内容を心の中でつぶやき、それから呼吸に意識を集中させる

といったものです。なお、瞑想をスムーズに行えるようサポートしてくれるスマホアプリなどもあるので、併せて活用してみるとよいでしょう。

以上(2024年3月更新)

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【中堅社員のスピーチ例】一歩を踏み出せば、後は楽しむだけ

おはようございます。今日は、私が昔、祖父に言われた言葉について話します。祖父は遠方に住んでいて、私とは、お盆とお正月の年2回だけ顔を合わせていました。中学1年のお盆に祖父の家に行った際、祖父から「最近、学校はどうなんだ?」と尋ねられた私は、「正直、あまり楽しくないんだよね」と返しました。

当時の私は、学校のクラスになじめず、勉強の成績もあまり良くなくて、鬱屈した日々を過ごしていたのですが、祖父は温厚な態度を崩さず、しかし、私をしっかり見つめてこう言いました。「お前は最近、何か新しいことにチャレンジしたかい? 楽しくないのは、もしかしたら、お前が何もしていないからかもしれないぞ」

このときの祖父の言葉を、私は話半分に聞いていて、あまり気に留めていなかったのですが、最近、仕事の中でふと、このときのやり取りを思い出す出来事がありました。

上司から、「ChatGPTを使って、社内資料に使う図表を作るように」と指示されたときのことです。図表自体はシンプルな作りですが、ChatGPTに作らせるには、指示の出し方に工夫が必要です。しかも、私はChatGPTに不慣れで、何度指示を出しても、思い描く通りの図表ができません。エクセルを使えば楽なのにと思いましたが、上司から「ChatGPTの使い方を身に付ければ、業務が効率化できる。たまには、新しいことにチャレンジしなきゃダメだ」と言われ、ハッとしました。

言われてみれば、私は最近、定例の業務を作業的にこなすだけで、チャレンジというものをしていませんでした。ふと、祖父の言葉を思い出し、「さすがに、このままではダメだ」と腕まくり。

私は、ChatGPTに出した自分の指示と、その指示によって生成された図表を、全て一覧にして見比べてみました。すると、自分の指示と、生成される図表との間にある規則性が、次第に分かってきました。何だか楽しくなってきた私は、その後も失敗を重ねつつ、指示の出し方を修正し、気付けば思い描く通りの図表を完成させていました。今では、ChatGPTへの指示の出し方をさらに工夫し、より複雑な図表も作れるようになっています。

私がやったことは、単に上司の指示を実行しただけで、チャレンジと呼ぶには少しおこがましいかもしれません。ですが、新しい世界に触れる、あがく、形にする、この一連の流れがとても楽しく、図表を完成させたときには、しばらく味わっていなかった、確かな達成感がありました。

自分の知らないことに挑戦するのって、面倒だし、勇気がいりますよね。私も正直、苦手です。しかし、今回の出来事から「苦手と思う気持ちを抑えて、一歩を踏み出せば、後は楽しむだけ」ということを実感しました。もし、皆さんの中に、最近仕事がなんとなく面白くないと思っている人がいたら、改めて祖父の言葉を贈ります。

あなたは、最近、何か新しいことにチャレンジしていますか?

以上(2024年3月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

情報セキュリティを担保するために

独立行政法人情報処理推進機構から「情報セキュリティ10大脅威2024」が公表されました。このうち「組織」向け脅威を見ると、外部からの攻撃によるもののほか、内部不正や不注意による情報漏えいなど、社内起因の脅威も垣間見られます。本稿では、社内起因の脅威のうち、内部不正にフォーカスを当て、現況と対策をお伝えするとともに、それを担保する規程の例をご紹介いたします。

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情報セキュリティを担保するために

独立行政法人情報処理推進機構から「情報セキュリティ10大脅威2024」が公表されました。このうち「組織」向け脅威を見ると、外部からの攻撃によるもののほか、内部不正や不注意による情報漏えいなど、社内起因の脅威も垣間見られます。

本稿では、社内起因の脅威のうち、内部不正にフォーカスを当て、現況と対策をお伝えするとともに、それを担保する規程の例をご紹介いたします。

1 内部不正による情報漏えいの現況と対応について

東京商工リサーチの調査によると、2023年の「個人情報漏えい・紛失事故」の件数は175件(前年比6.0%増)となっており、3年連続で最多件数を更新しました。そのなかで、情報の不正利用や持ち出しにより情報漏えいした「不正持ち出し・盗難」は24件(構成比13.7%)で、前年の5件から約5倍に増加しています。

情報のデータ化が進み、大量な情報であっても瞬時に操作できるようになりました。そのようなことから、企業における重要な情報は厳格に管理する必要性が高まっています。その管理や脅威への対策としては、次のようなことを実施することが考えられます。

脅威への対策

2 情報保護に関する規程について

前出のような対策については、漠然と運用するだけでなく、対策を担保する措置が必要です。例えば、企業と労働者とで情報保護に関する覚書を取り交わす、就業規則の服務規律に記載する、別途、情報取り扱いのルールについてのガイドライン等を作成して通知することなどが有効です。

次に、参考として経済産業省が公開している秘密情報管理に関する就業規則「服務規律」への規定例をご案内いたします。

秘密情報管理に関する就業規則「服務規律」への規定例

3 さいごに

企業の経営資源として、「ヒト」「モノ」「カネ」に「情報」が加わってから長らく経ちますが、ICT化の進展も相まって「情報」の価値が年々高まっています。

今一度、自社の情報資産について目を向けながら、保護体制について見直してみてはいかがでしょうか?

※本内容は2024年2月14日時点での内容です。

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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