ガバナンスの根幹「子会社の不祥事防止」

書いてあること

  • 主な読者:グループ経営を行う上場企業の子会社の役員、グループ経営を行う非上場企業の役員
  • 課題:子会社の役員として注意すべきポイントが知りたい
  • 解決策:「グループガイドライン」で示されている子会社の管理体制のポイントを理解する

1 今、グループ企業のガバナンスが注目されている

急速な産業構造の変化や少子高齢化に伴う国内市場の縮小などを背景に、日本企業のグローバル化や事業再編が進んでいます。その際、グループ経営を選択する企業も多いのですが、

  • 「攻め」のガバナンス:収益向上のための、機動的な事業ポートフォリオマネジメント
  • 「守り」のガバナンス:子会社不祥事問題を背景とした、子会社管理の実効性確保

が課題となります。

経済産業省は、2019年6月28日に主として単体の企業経営を念頭に作成されたコーポレートガバナンス・コードの趣旨を補完するものとして、グループ経営を行う企業におけるガバナンスの在り方を示す、「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」(以下「グループガイドライン」)を公表しました。

グループガイドラインの主たる対象は、グループ経営を行う上場企業とその子会社からなる企業集団ですが、グループ経営を行う非上場企業やこれからグループ経営に取り組もうとする企業にとっても参考になる部分があります。

■経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)(下記URL中段)」■

https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/keizaihousei/corporategovernance/guideline.html

グループガイドラインは、あくまで一般的なベストプラクティスを示すものですが、これに沿った対応をすれば、「通常は(取締役等の)善管注意義務を十分に果たしていると評価されるであろうと考えられる」と解説されており、特に一般株主を有するグループ企業の親会社・子会社それぞれの取締役等にとっては、グループガバナンスに関する取締役等としての善管注意義務を果たす上で重要な指標となるでしょう。

そこでこの記事では、グループガイドラインを子会社側から見た場合に子会社に求められる取り組みや特に確認しておくべきポイントなどを紹介します。なお、この記事においては、主に親子上場ではないケースを想定します。

2 グループ本社による子会社の管理・監督

グループガイドライン中の2.3.3では、グループ本社による子会社の管理・監督について、特に実効的な方法として以下の4つの取り組みを提示しています。また、これらの取り組みを実践する上では、グループ全体での「ITシステムの統合」が有効とも指摘しています。

そこで、子会社側においては、これらの共通プラットフォームの整備やグループ管理規程の策定と子会社における社内規程化、グループ会社とのITシステムの統合などの取り組みが求められます。

1)グループとしての共通プラットフォームの整備・浸透

グループ子会社の管理・監督のためには、まず、親子間の意思決定権限の配分などに関するルールなど、グループ全体の基本的な枠組みを共通プラットフォームとして整備することが基本となります。また、ソフト面の対応として、グループ全体の経営理念・価値観・行動規範をグループ会社間で共有し、現場レベルに浸透させることが重要であり、経営トップが繰り返し、社内報やイントラなどの社内メディアを通じて直接メッセージを発信することが有効です。なお、海外子会社の場合には、共通プラットフォームを適用した上で、所在国の関係法令を踏まえた個別の調整を行う必要が考えられます。

2)リスクベースの子会社管理

子会社管理の具体的な運用においては、事業セグメントや子会社ごとのリスク(規模・特性)に応じて親会社の関与の強弱・方法を決定する、リスクベースアプローチが合理的であるとされています。

3)グループ管理規程の策定・周知

多数の子会社を実効的に管理するためには、明確な「グループ管理規程」(親会社の決裁・事前承認事項、報告事項、承認・報告ルートなどを具体的に定めたもの)を策定・周知すること、その子会社における遵守を担保する措置として、子会社において社内規程として導入する、親子間で管理契約を締結するなどの措置を講じることが必要であると指摘されています。

4)M&A後の海外子会社の管理・監督

異なる制度・言語・文化・商習慣を有する海外企業を適切に管理・監督することは特に難易度が高く、PMI(Post merger integration)はグループガバナンスの中でも特に重要課題であるといえます。そこで、M&A後の海外子会社の管理・監督においては、グループ本社が主導して、グローバルな経営体制の整備や海外子会社経営陣に適格な人材の配置などを通じて、適切な経営統合の在り方が検討されるべきであると指摘されています。

3 実効的な内部統制システムの構築・運用

昨今、企業不祥事の多くが子会社において発生していることから子会社管理の重要性が再認識されていますが、グループとしてのリスク管理を適切に行うためには、内部統制システムの構築・運用が重要課題となります。

グループガイドラインの中の4.6では、実効的な内部統制システムの構築・運用の在り方として、内部統制システム構築・運用のグローバルスタンダードの考え方である「3線ディフェンス」の導入、整備および適切な運用の検討の重要性が指摘されています。3線ディフェンスとは、

事業部門(第1線)、管理(本社)部門(第2線)、内部監査部門(第3線)という3つのグループ(防衛線)によって組織のコントロールとリスク管理を十分に機能させる体制

のことです。3線ディフェンスの運用例は下記の図をご参照ください。

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特に、過去の子会社不祥事事案において、子会社のトップに管理部門の人事権限が集中していたために第2線によるけん制機能が発揮されなかったことを踏まえると、第2線のけん制機能の確保が重要であるといえます。管理部門と事業部門との間でレポートラインや人事評価権者などをできる限り分離して、親会社の管理部門と子会社の管理部門を直接のラインとして通貫させ「タテ串」を通すことを検討すべき、と指摘されています。

また、子会社業務に関する第3線の内部監査は、子会社の状況に応じて、子会社において実施して親会社の内部監査部門等が実施状況を監視・監督するか、親会社の内部監査部門が一元的に実施するかを適切に判断することが必要であり、子会社監査の実効性を高めるためには、親会社の監査役等や会計監査人が、子会社の監査役等や内部監査部門等とも連携して子会社に対する監査を行う「縦の連携」が重要であると指摘されています。

従って、内部統制システムの構築・運用に関して、子会社としては、第2線については親会社の管理部門と子会社の管理部門の連携を、第3線については親会社の監査役等や会計監査人と子会社の監査役等や内部監査部門等との縦のレポートラインの確保と連携を行うことが求められます。

4 不祥事等が発生したときの親会社との連携

いかに内部統制システムを適切に構築・運用しても不祥事等の発生を完全に回避することはできません。では、いざ不祥事等が発生またはその疑いを察知した場合、どのような対応が必要でしょうか。

この点、グループガイドラインの中の4.10では、有事対応の目的は「速やかに事実関係の調査、根本原因の究明、再発防止策の検討を行い、十分な説明責任を果たすことにより、ステークホルダーからの信頼回復とそれを通じた企業価値の維持・向上を図ることである」と説明しています。初動の対応として、被害の大きさ(人の身体の安全や健康に関わるものか)や影響範囲(不特定多数に及ぶか、継続しているか)などを踏まえて公表の要否を検討し、公表が必要と判断した場合には、迅速かつ適切に行うことが必要と指摘されています(上場会社の場合は、公表の要否やタイミングについて、金融商品取引所の適時開示ルールに従う必要があります)。

そして、不祥事等が子会社で発生した場合は、「子会社における不祥事等は、親会社の直接の関与があったような特殊な場合を除き、第一次的には子会社の取締役等の責任」としつつも、

  • 事案の態様(子会社トップの関与など、組織ぐるみかどうか)や重大性(ステークホルダーへの影響の程度)
  • 子会社における対応可能性(子会社自身によるガバナンスが有効に機能することが期待できるか、体制・リソースが十分か)

などを勘案し、グループ全体の企業価値を維持するために特に必要な場合には、グループとしての信頼回復に向けて、親会社が不祥事等の原因究明や事態の収束、再発防止策の作成に向けた対応を主導することも期待されています。

つまり、子会社において不祥事等の発生またはその疑いを察知した場合、子会社役員としては、親会社への迅速な報告と連携が求められます。

5 子会社経営陣の指名・報酬

子会社経営陣の指名・報酬について、グループガイドラインでは、グループとしての企業価値を向上させる観点から、グループ本社において統一的な人事・報酬政策を明確に示した上で、各子会社の事情に応じた最適な人事管理・報酬設計を行わせることで適切なガバナンス体制を構築することが期待されています。

6 まとめ

グループ経営の在り方は様々であり、グループガバナンスの在り方も一律ではありません。そこで、各企業グループにおいて、グループガイドラインを参考にして自らのグループ全体の企業価値向上のために最適なガバナンスの在り方を早急に検討・構築することが求められています。そして、子会社役員は、その構築を親会社に完全に委ねることなく、自らが子会社に対して負う善管注意義務を常に意識して積極的に取り組んでいくことが必要なのです。

以上(2023年10月更新)
(執筆 弁護士 鳥居江美)

pj60171
画像:nenetus-Adobe Stock

【債権回収(24)】取引先が「会社更生手続」を申立てたら債権はどうなるのか?

書いてあること

  • 主な読者:取引先が「会社更生手続」を申立てた場合の対応を知りたい経営者
  • 課題:何ができるのか分からないし、そもそも債権が回収できるのか不安
  • 解決策:強制執行ができなくなる場合がある。一定の条件のもと、相殺と担保権の実行が認められ、中小企業の救済措置もある

1 「会社更生手続」の位置付け

取引先が会社更生手続を申立てた場合、自社もその影響を受けます。そのため、取引先の会社更生手続の申立てに備えて、事前に何ができるのかを知っておく必要があります。その前提となる情報として倒産処理の手続を整理します。

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会社が債務超過などで倒産した場合、その手続は、

  • 私的整理:裁判所を利用しない
  • 法的整理:裁判所を利用する

に大別されます。法的整理はさらに、

  • 清算型:会社の清算を目的とする
  • 再建型:会社の再建を目的とする

に大別されます。

会社更生手続とは、

規模の大きな会社(株式会社に限る)の利用を想定した制度

です。そのため、多数の関係者の利害調整を行うことができるように、厳格な手続が定められています。なお、債権回収の可能性という観点で見ると、手続が厳格な分、民事再生手続よりも会社更生手続のほうが手続外で取り得る手立てが限られています。

では、会社更生手続の基本的なポイントを紹介していきます。なお、会社更生手続には、株主も利害関係者として参加できますが、この記事は債権者の視点を中心にしているので、株主に関する規定は省略します。

2 会社更生手続における債権の分類

会社更生手続では、債権を3つに分類します。

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商取引上の債権の多くは更生債権です。また、更生債権の中には、一般の「先取特権」のように優先的取扱いのされる更生債権や、更生手続開始後の利息請求権などのように劣後的取扱いのされる更生債権があります。

民事再生手続との大きな違いは、

担保権が「更生担保権」として会社更生手続に取り込まれ、手続外での自由な権利行使が認められなくなる

ことです。つまり、担保権を行使することができなくなります。

3 会社更生手続の概要

会社更生手続の主な流れは次の通りです。図の網掛けについては以降で詳しく紹介しています。

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1)更生債権等の届出

更生債権者は、定められた債権届出期間内に、裁判所に自身の債権の内容などを届け出ます。会社更生手続に取り込まれる担保権を有する者(更生担保権者)も届け出なければなりません。

また、民事再生手続においては、届出がない再生債権についても再生債務者が自認していれば再生債権に取り込まれますが、会社更生手続にはこうした制度がありません。その代わり、会社更生手続には、知れたる債権者が届出をしない場合、債権届出期間の末日を通知する旨の規定があります。

2)更生計画案の決議・認可

更生計画は、民事再生手続における再生計画に当たるものです。

ただし、更生計画では「更生担保権」「一般の先取特権その他一般の優先権がある更生債権」「更生債権」「約定劣後更生債権」「残余財産の分配に関し優先的内容を有する種類の株式」「これ以外の株式」の順で優先順位が定められます。原則として、上位の権利者のほうが債権の削減幅が小さくなる可能性が高いです。

また、可決の要件は、更生債権者・更生担保権者・株主ごとに異なる定めがなされています。議決権を行使する場合は、事前に確認をしておいたほうがよいでしょう。

4 会社更生手続中の取引先から債権回収する手立て

更生債権等は、原則、更生計画に基づいて権利の変更がなされ、それに従って弁済などを受けることになります。しかし、更生計画とは別に、債権回収を図ることができる手立てもあります。

民事再生手続と同じように、会社更生手続においても、

債権届出期間内であれば、双方の債権債務を相殺

できます(相殺の条件は、基本的には民事再生手続と同じです)。同様に、中小企業者の債権の弁済の許可や少額債権の弁済の許可が定められています(内容は、基本的には民事再生手続と同じです)。

以上(2023年9月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

pj60196
画像:Mariko Mitsuda

中小企業のコンプライアンス経営 〜信頼の獲得と不正の防止

書いてあること

  • 主な読者:組織全体にコンプライアンスの意識を浸透させ、強化したい経営者
  • 課題:「知らなかった、これくらいよいだろう」では済まされない。問題の芽を摘みたい
  • 解決策:経営者がリーダーシップを発揮して、コンプライアンス経営を実践する

1 中小企業がコンプライアンス経営に取り組む意義

皆さんはコンプライアンス違反が原因で倒産する企業がどれくらいあると思いますか? 帝国データバンク「特別企画:コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2022年度)」によると、2022年度は実に300件の倒産がコンプライアンス違反で発生しています。長年にわたる粉飾決算の他、足元ではコロナ禍における助成金の不正受給も問題となっています。

「やってはいけないことだと知らなかった」「これくらいならいいだろうと思っていた」など、ちょっとした油断もあるでしょう。しかし、悪気がないといっても、不正は知らなかったでは済まされません。「不名誉な敗者」にならないためには、コンプライアンス経営が必要です。コンプライアンス経営とは、

法令や規則を遵守することはもちろん、社会規範に照らして企業としての倫理を遵守していくことで、広義には法令遵守などのために企業内の体制を整備することまで含む経営

であり、攻守の効果があります。

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企業の不祥事が後を絶たない中、消費者は不誠実な企業に厳しい目を向けています。同時に、「ステークホルダー(利害関係者)や環境に配慮しながら持続可能な成長を目指す企業」を評価する傾向はますます強まっています。

この記事では、中小企業が想定すべきコンプライアンス違反のリスクにはどのようなものがあるかを押さえた上で、コンプライアンス経営を具体的にどのように進めていけばよいのか紹介します。最も大切なのは、経営者の強いリーダーシップです。経営者が社員の模範になるとともに、朝礼などの場を利用して企業(自社)が社会の一員として果たすべき役割を伝えましょう。

なお、会社法は、大企業(資本金5億円以上または負債200億円以上の株式会社)には法令遵守などのために企業内のコンプライアンス体制を整備することを義務付けています。事故や不祥事を防止するために経営者が組織の全ての活動を直接把握するのは現実的でないため、経営者が間接的に組織を監督するための体制の整備を求めるという趣旨です。

一方、中小企業にはこの義務はありません。しかし、中小企業であっても、コンプライアンス体制が機能した際には、業務品質や顧客対応の向上、事故や不祥事の防止が期待できますから、企業規模を問わず、体制を整備するのが望ましいといえるでしょう。

2 中小企業におけるコンプライアンス経営の進め方

1)リスクの想定と事例研究

コンプライアンス経営を行うにあたり、まずは自社の経営に関連する主な法令とリスクを想定しましょう。これにより、対策すべきリスクが明確になります。

加えて、過去に不祥事を起こした企業の「調査報告書」(不祥事の発生原因や状況が克明に記載された報告書)を研究すれば、コンプライアンス経営の参考になります。調査報告書では、「ワンマンな経営者」「利益至上主義」などさまざまな問題が指摘されています。これらの企業と同じ問題点があるとすれば、不祥事が起こる前に対策を取る必要があるかもしれません。

2)「内部通報窓口」設置の効果

経営者が独断で判断せず、現場の社員の声を聞く必要があります。そのために有効なものとして「内部通報窓口」があります。これは、社内でコンプライアンス違反などを発見した社員が通報をするための仕組みです。内部通報窓口については、改正「公益通報者保護法」により、2022年6月1日から社員301人以上の企業に設定が義務付けられています。

内部通報窓口や通報に適正に対応する体制が整っていない場合、社員が事故や不祥事などのコンプライアンス違反を突然社外に通報・公表する可能性があります。その場合には、自社による事実調査や、通報が事実であった場合の社内外への対応をどうするかなどといった必要な検討を行う妨げとなる上、企業の社会的信用が著しく低下するなどの事態もあり得ます。

また、社員300人以下の企業にとって内部通報窓口の設置は努力義務ですが、実際は設置する企業が増えています。

3)社内規程やマニュアルの整備

コンプライアンス経営のよりどころとなる書類(規程)を整備します。整備する書類はさまざまですが、「コンプライアンスガイドライン(企業倫理規程)」などと呼ばれる、コンプライアンス経営の目的や行動規範を定めたものが中心となります。この他、業務ごとに「業務遂行マニュアル」が作成されることもあります。こうした規程やマニュアルは、社員の日ごろの活動のよりどころにもなります。

4)社員教育

コンプライアンスガイドライン(企業倫理規程)などの書類は、整備するだけでは不十分です。そこで明らかにされている企業のコンプライアンス経営の考え方が、日々の活動に活かされなければなりません。企業は社員がコンプライアンスに対する高い意識を持つことができるよう、コンプライアンス教育を行う必要があります。

5)モニタリング

モニタリングとは、実際にコンプライアンス経営が行われているかを確認・改善する行為です。顧問弁護士に一任するとよいでしょう。なお、社内に法務部門のある企業では、法務がコンプライアンス部門を兼務する場合もありますし、コンプライアンスを別部門とする企業もあります。自社で無理なく機能できる手段を取りましょう。

3 ISO26000に基づくコンプライアンスへの対応

「ISO26000」は、ISO(国際標準化機構)が発行する国際規格です。規格の認証は不要で、民間・公的・非営利のさまざまな組織を対象とした「社会的責任に関する手引」として利用できます。組織の規模を問わず活用できるように作成されており、中小企業でもISO26000を参考としながら、自社に合わせた柔軟な対応が可能です。なお、ISO26000を基にした日本産業規格(JIS)「JIS Z 26000」も制定されています。

ISO26000では、社会的責任にまつわる課題とその説明、課題の解決に向けた行動や組織に期待されること、組織が社会的責任を遂行するための具体的な行動などが規定されています。組織が果たすべき社会的責任のうち、特に重要性が高い7項目は「社会的責任の中核主題」として、主題の解説・実践に当たってのポイント・具体的な取り組み方法がまとめられています。

ISO26000の中核主題ごとに、中小企業の留意すべき点と取り組み例は次の通りです。

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4 コーポレートガバナンス

ここまで説明してきたコンプライアンスと同じく耳にする言葉として、コーポレートガバナンス(企業統治)というものがあります。定義は人によってさまざまですが、一般的には経営者の暴走を未然に防ぐため、経営者を監視・監督する体制をいいます。

経営者がコーポレートガバナンスの下で適正な経営を行っても、社員が経営者の意向を無視してコンプライアンスに反する不正を行えば企業に損失が出ます。コンプライアンス体制が構築されていても、経営者が暴走し不適切な事業を行えば同じことです。従って、コーポレートガバナンスは、コンプライアンスと併せて、企業の健全な運営・中長期的な成長のための両輪といえます。

日本取引所グループは、このコーポレートガバナンスの指針として「コーポレートガバナンス・コード」というものを発表しており、企業が上場する際にはガバナンスの構築・整備状況が審査対象になります。

他方、コーポレートガバナンス体制の構築・実施や、コーポレートガバナンス・コードの実施は、法的な義務ではありませんし、短期的に売上・利益の向上に直結するものでもないため、比較的小規模な企業がはじめから大企業のような重厚な体制を構築する必要はありません。中小企業が、コーポレートガバナンスにどの程度の手間やコストをかけるかは、企業の中長期的成長に不可欠なものだという観点から、規模・成長ステージに応じて、構築・整備していくことが重要です。

以上(2023年10月更新)
(監修 のぞみ総合法律事務所 弁護士 鈴木章太郎)

pj60026
画像:pixabay

【朝礼】自分の悪いイメージを払拭するたった1つの方法

私たちは、仕事やプライベートで関わる人に対し、無意識のうちに「〇〇な人」というイメージを持つことがあります。優しい人、怖い人、面白い人、退屈な人、いろいろありますね。ただ、それらのイメージはあくまで自分がつくり上げたもので、実態とかけ離れていることも少なくありません。歴史上の人物を例に一つ話をします。

皆さんは、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」という言葉を聞いて、誰を思い浮かべますか。おそらく、多くの人が「マリー・アントワネット」と答えるでしょう。18世紀にフランス王妃となるも、フランス革命により処刑台に追いやられた悲劇の女性です。大変な浪費家だったとされ、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」は、王妃としてぜいたくな日々を送る彼女が「民衆がパンを食べられずに苦しんでいる」と告げられた際に発した言葉として有名です。

ですが、実はこれは誤りとされています。先ほどの言葉は、フランスの思想家ルソーの自伝に記されたものですが、それが出版された頃のマリー・アントワネットは、まだフランス王妃になる前の10歳ぐらいの少女なのです。にもかかわらず、彼女の「浪費家」というイメージが強すぎるせいで、本当は他の誰かが口にした言葉が、彼女が言ったものと200年以上誤解されているのです。ちなみに、彼女が本当に浪費家だったのかも実は定かではなく、飢饉の際、彼女が宮廷費を削って寄付をしたという話もあるのです。

このように、「〇〇な人」というイメージは、大きな誤解を生むことがあります。ビジネスでも、意図せずに相手から悪いイメージを持たれてしまうケースというのはよくあります。

例えば、若手社員が上司に同行して、取引先との商談に臨む場面を想像してみてください。商談は上司メインで話が進むため、若手社員は「上司の邪魔にならないように」と、口を挟まず黙っています。しかし、相手は、若手社員が全く話に入ってこないのを見て、「この人は全く発言しないけど、何しに来たのかな」「話に入ってこないということは、半人前なんだな」と、ネガティブなイメージを持つかもしれません。

こうしたネガティブなイメージを払拭するための方法は、たった1つ。相手と積極的に話して、相手が自分に対して抱いている「○◯な人」というイメージを塗り替えるのです。「怖いと思っていた人が、話してみたら意外と優しかった」というのはよくある話です。

先ほどの商談であれば、事前に上司に相談して自分がメインで話をするパートをつくってもらったり、気になる点を相手に質問してみたりするとよいでしょう。多少拙い部分があっても、一生懸命話そう、話を聞こうとしてくる人には、相手も好意的なイメージを持つものです。「もしも嫌われたら……」と何もしないでいるのが一番よくありません。自分のイメージは自分から相手にアタックしてつくるのです。

以上(2023年10月)

pj17159
画像:Mariko Mitsuda

【債権回収(23)】取引先が「民事再生手続」を申立てたら債権はどうなるのか?

書いてあること

  • 主な読者:取引先が「民事再生手続」を申立てた場合の対応を知りたい経営者
  • 課題:何ができるのか分からないし、そもそも債権が回収できるのか不安
  • 解決策:強制執行ができなくなる場合がある。一定の条件のもと、相殺と担保権の実行が認められ、中小企業の救済措置もある

1 「民事再生手続」の位置付け

取引先が民事再生手続を申立てた場合、自社の債権は大きな影響を受けます。そのため、取引先の民事再生手続の申立てに備えて、事前に何ができるのかを知っておく必要があります。その前提となる情報として倒産処理の手続を整理します。

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会社が債務超過などで倒産した場合、その手続は、

  • 私的整理:裁判所を利用しない
  • 法的整理:裁判所を利用する

に大別されます。法的整理はさらに、

  • 清算型:会社の清算を目的とする
  • 再建型:会社の再建を目的とする

に大別されます。

民事再生手続は、

株式会社の他、個人や株式会社以外の法人においても利用できる制度

になります。財産の管理・処分権は原則として債務者が有することとなっており、各種手続も同じ再建型の手続きである会社更生手続よりも柔軟です。

では、民事再生手続の基本的なポイントを紹介していきます。

2 民事再生手続における債権の分類

民事再生手続では、債権を4つに分類します。

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商取引上の債権の多くは再生債権です。再生債権は、「債権は○%カットされる」など権利変更の対象になります。一方、共益債権・一般優先債権は再生手続によらず、随時弁済を受けることができます。また、詳細は省略しますが、通常の商取引では開始後債権に該当するものは限られます。

上記の他、「再生手続開始後の利息請求権」や「再生手続開始前に劣後的債権とすることを合意した債権」などは、劣後的取扱いのされる再生債権となります。

3 民事再生手続の概要

民事再生手続の主な流れは次の通りです。図の黒塗りの部分については以降で詳しく紹介しています。

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1)裁判所による保全処分・中止命令等

会社を再建するには、債務者が所有する財産の散逸を防がなければなりません。そのため、民事再生手続の申立てから開始までには、債権者などの権利行使を制限するさまざまな定めがあります。例えば、裁判所は、一部の債権者のみに弁済したり、各債権者が自己の債権回収を進めたりすることを防ぐため、申立てまたは職権で仮差押え・仮処分その他の必要な保全処分ができます。加えて、こうした個別の対処では不十分な場合に備えて、

再生手続開始の決定までの間、全ての再生債権者(再生債権の権利者)に対して、強制執行などを包括的に禁止する

こともできます。

例外的な債権回収方法は後述しますが、

再生債権に関しては、民事再生手続申立て後は、基本的に認可を受けた再生計画によらずに弁済を受けることは難しい

と考えておいたほうがよいでしょう。

2)再生債権の届出

再生債権者は、民事再生手続の開始決定時に定められた債権届出期間内に、裁判所に自らの債権の内容等を届け出なければなりません。

再生債務者(再生手続の対象者)は、届出があった再生債権について、その内容などの認否を記載した認否書を作成します。原則、この認否書の内容に基づいて各再生債権者の債権の額などが調査・確定されます。再生債務者は、届出がない再生債権があることを知っているときは、それも再生債権に含める必要があります。

3)再生計画案の決議・認可

再生計画とは、

再生債務者の再生を図るための取り組みなどを定めた計画

のことです。再生計画には、全部または一部の再生債権者の権利を変更する条項、共益債権および一般優先債権の弁済に関する条項などが定められます。再生債権者から見ると、「債権は○%カットされる」など、権利変更の内容が定められた計画です。

再生債務者などが裁判所に再生計画案を提出すると、裁判所は書面などによる決議または債権者集会による決議に付します。このとき、再生債権者は再生債権額などに応じて議決権を有します。再生債権者にとっては、意思表示ができる数少ない機会です。

可決要件は、債権者集会に出席している再生債権者または書面などによる議決権を行使した債権者の頭数による過半数の賛成と、議決権総額の2分の1以上の議決権を有する者の賛成の双方が必要となります。

4 民事再生手続中の取引先から債権回収する手立て

1)債権債務の相殺

再生債権者が再生債務者に対して債務がある場合、

債権届出期間内であれば、双方の債権債務を相殺

できます。相殺できる債権債務には一定の条件があります。主な条件は次の通りです。

  • 自働債権(相殺の意思表示をする側の債権。この場合は再生債権者)の弁済期が再生債権届出期間満了前までに到来していること。受働債権(相殺の意思表示をされる側の債権。この場合は再生債務者)の弁済期間が到来している必要はない
  • 再生債権者による相殺の意思表示が、再生債権届出期間内に相手方に到達していること

2)担保権の行使

民事再生手続開始の時点で、

再生債務者の財産に設定されている担保権(特別の先取特権、質権、抵当権、商事留置権)を有する者は、その目的である財産については「別除権」を有し、民事再生手続によらずに行使できる

とされます。そのため、上記に該当する担保権を有していれば、競売などを通じて債権回収できる可能性があります。

「特別の先取特権」は、「動産売買の先取特権」と「不動産の先取特権」に分けて詳細が定められています。動産売買の先取特権の場合、例えば、

再生債務者が自社から仕入れた商品を転売している場合、再生債務者が転売先に対して有する売掛金などの債権を、裁判所の債権差押命令によって差押さえて債権回収できる

場合があります。こうした方法で全額弁済を受けることができない場合は、不足する部分について、再生債権者として権利を行使することができます。

なお、一般の先取特権は別除権とはなりませんが、これによって担保される債権は、一般優先債権として、再生手続によらずに随時弁済を受けることができます。

3)その他の手立て

ここで紹介する手立ては再生債務者の申立てや裁判所の職権によるものなので、債権者が主体的に始めることはできません。しかし、債権回収の可能性がある手立てなので紹介します。

1.中小企業者の債権に対する弁済の許可

再生債務者を「主要な」取引先とする「中小企業者」が、再生債権の弁済を受けなければ事業継続に著しい支障を来す恐れがあるとき、裁判所は再生計画認可の決定が確定する前でも、再生債務者などの申立てや職権によって、その全部または一部の弁済を許可することができます。

なお、「主要な」や「中小企業者」について絶対的な基準はなく、中小企業者と再生債務者のその規模や、再生債務者への依存度(取引高の規模)などが考慮して決められます。

2.少額債権の弁済の許可

「少額」の再生債権を早期に弁済することで民事再生手続を円滑に進められるとき、または「少額」の再生債権を早期に弁済しなければ、再生債務者の事業継続に著しい支障を来すときは、裁判所は再生計画が認可される前でも再生債務者などの申立てによって、弁済を許可することができます。

なお、「少額」についても絶対的な基準はなく、再生債務者の規模、債務の総額、弁済能力、弁済の必要性などが考慮して決められます。

以上(2023年9月更新)
(監修 Earth&法律事務所 弁護士 岡部健一)

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画像:Mariko Mitsuda

フリーランスともめたらどうする? トラブル事例と解決のポイントを弁護士が解説

書いてあること

  • 主な読者:フリーランスとトラブルなく取引したい経営者
  • 課題:曖昧な条件でフリーランスに依頼してしまう。社員のように指揮することもある
  • 解決策:フリーランスは社員ではない。良い意味で一線を引いて真摯に付き合う

1 フリーランスとの取引増加、トラブル対応は大丈夫?

近年は、雇用にとらわれず、フリーランスなどに業務委託をしてリソースを確保するケースが増えてきました。新しい組織のあり方としてますます進みそうですが、条件面などでのトラブルが多いので注意が必要です。フリーランスはあくまでも外部の人材なので、取引先の会社と契約するように細かく条件を決める必要があるのです。

フリーランスとの取引については環境整備も進んでいて、2021年3月26日には「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以下「ガイドライン」)が策定されました。そこでは、フリーランスとの取引における労働関係法令(労働基準法、労働組合法など)、独占禁止法、下請法上のルール適用の在り方を詳細に定めています。

ガイドラインは、労働関係法令、独占禁止法、下請法といった既存の法律の適用の在り方の明確化でしたが、新たな規制として、2023年4月28日には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス・事業者間取引適正化等法)が成立し、5月12日に公布されました。施行は2024年11月までに開始の予定ですが、フリーランスを活用する会社は意識しなければならない法令です。

この記事では、ガイドラインなども意識しつつ、フリーランスと取引する際に特に重要なポイントを解説していきます。

■内閣官房「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」■

https://www.cas.go.jp/jp/houdou/20210326guideline.html

■e-GOV「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」■

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=505AC0000000025_20241111_000000000000000

2 フリーランスが社員みたいな扱いになることもある

業務委託契約であっても、就労実態などから次の2つが認められる場合、フリーランスであっても「労働者」とみなされます。これを「使用従属性」といいます。

  1. 指揮監督下の労働である(仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、拘束性の有無、代替性の有無を基に判断)
  2. 報酬の労務対償性がある(報酬が、発注者等の指揮監督の下で一定時間労務を提供していることに対する対価と認められるかを基に判断)

加えて、事業者性の有無(機械、器具、衣裳等の負担関係、報酬の額、商号使用などを基に判断)や専属性の程度(特定の発注者等への専属性が高いと認められるかを基に判断)も、フリーランスの「労働者性」を補強する要素になります。

労働基準法上の「労働者性」を確認する場合、次の図表を見ると分かりやすいです。

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フリーランスが労働者とみなされて労働関係法令が適用されると、次のようなリスクが生じます。

  • 稼働時間に応じて割増賃金を支払わなければならなくなる
  • 業務委託契約の解消について、フリーランスから不当解雇を主張される

フリーランス・事業者間取引適正化等法は、フリーランスを「事業者」として扱う法律ですが、この労働者性の解釈については、フリーランス・事業者間取引適正化等法の成立によっても変わるものではないでしょう。

3 悪気はなくても「上から目線」で依頼していることがある?

フリーランスとの取引では、会社の規模や業種を問わず独占禁止法が適用されます。発注者側である会社は受注者側であるフリーランスよりも優越的な立場にあることが多く、そうした地位を利用してフリーランスに不利益を強いると、独占禁止法の「優越的地位の濫用」に違反する恐れがあります。具体的には、ガイドラインで次の12の行為類型が挙げられています。なお、一部の行為類型は下請法の適用も受けます。

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独占禁止法との関係では、「優越的地位の濫用」の規定に違反した場合、次のような制裁を受けるリスクがあります。

  • 排除措置命令(違反行為をやめさせ、正常な状態に戻すための措置を命じること)
  • 課徴金納付命令(継続的に優越的地位の濫用行為を行った場合)
  • 損害賠償請求、差止請求

また、資本金が1000万円超で、フリーランスとの取引内容が「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」に該当する会社は、下請法も適用されます。その場合、所定の取引事項を記載した書面を交付することが義務付けられます。これを怠ると50万円以下の罰金に処される恐れがある他、勧告や会社名の公表などのペナルティーが課されます。

なお、フリーランス・事業者間取引適正化等法は、下請法よりも適用範囲が広く設定されているため、同法の施行後は、ガイドラインよりもフリーランス・事業者間取引適正化等法への対応を優先すべきでしょう。

4 決めることは双方のため。業務効率化にもつながる

独占禁止法、下請法の関係もありますが、フリーランスに発注する際は必ず書面の契約書を交わしましょう。特に、フリーランス・事業者間取引適正化等法では、書面に限りませんがフリーランスへの発注には広く取引条件の明示が義務付けられています。

フリーランスが条件を細かく確認してくることについて、「私を信用していないのか?」と気分を害する経営者がいるかもしれません。しかし、フリーランスには社員のような手厚い補償がありませんし、自身が体調を崩すなどして働くことができなくなれば収入もありません。身一つで仕事をしており、契約にないことをサービスで行うような余裕はないのです。そのため、フリーランスに依頼するときは発注する業務を明確に切り出し、契約書に落とし込むことが礼儀でもあるのです。

また、意外なことですが、フリーランスと取引をすることで業務効率化が実現することがあります。フリーランスはさまざまなITツールを使ってクライアント(この場合は自社)とコミュニケーションを取ったり、請求業務を効率化したりしています。フリーランスが利用しているITツールを自社も導入したり、日ごろのコミュニケーションの方法や時間に対する考え方を吸収したりすることは、自社にとってプラスになります。

以上(2023年10月更新)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 堀田陽平)

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画像:pixabay

【債権回収(22)】判決に従わない債務者から強制的に債権回収する「強制執行」

書いてあること

  • 主な読者:裁判に勝訴したのに、相手が債務を履行せずに困っている経営者
  • 課題:強制的に債務を履行させる方法がないのか知りたい
  • 解決策:「強制執行」による債権回収が可能だが、相応の時間とコストがかかる

1 判決を得ても債権回収できない場合の強制執行

裁判で勝訴をしても、相手が判決に従って弁済するとは限りません。そのような場合、「強制執行」を行う必要があります。強制執行とは、

判決内容に基づいて債務の履行をすべきなのに相手がそれを行わない場合、改めて裁判所に「強制執行の申立」をして、国家が強制的に判決で命じられた債務の履行を債務者に行わせること

です。強制執行は、民事執行法で定められた「民事執行」の1つで、

  • 金銭執行:金銭の支払いを目的とする
  • 非金銭執行:物の引渡しを目的とする等、金銭の支払い以外を目的とする

に分類され、対象となる財産や目的などによって細分化されます。

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この記事では、比較的事例の多い不動産執行(強制競売)と債権執行を紹介します。なお、強制執行には相応の時間とコストがかかります。そのため、担保を設定するなど、訴訟や強制執行によらずに債権回収ができる準備をしておくことも大切です。

2 強制執行をするための3点セット

強制執行には、

  1. 債務名義
  2. 執行文
  3. 送達証明書

の3点セットが必要です。

まず、債務名義とは、

強制執行によって実現されるべき請求権の存在・範囲、債権者、債務者を示す公の文書

です。債務名義には、確定判決の他、執行証書(公正証書)や和解調書などがあります。

この債務名義とセットになるのが執行文です。執行文とは、

債務名義の執行力を公的に証明する文書

です。なお、債務名義のうち、「少額訴訟の確定判決」「仮執行宣言付少額訴訟の判決」「仮執行宣言付支払督促」については、執行文がなくても強制執行ができます。

最後は送達証明書です。強制執行をするには、債務名義が債務者に送達されている必要があります。そこで、確かに送達されていることを証明する送達証明書が必要なのです。

3 不動産執行(強制競売)の概要

1)強制競売と強制管理とは

不動産執行には、

  • 強制競売:不動産の売却によって金銭を得るもの
  • 強制管理:不動産から得られる収益(家賃収入等)によって金銭を得るもの

があります。債権者は強制競売と強制管理のいずれか、もしくは併用を選択します。実務では、強制競売が選択されるケースが多いため、裁判所のウェブサイトを基に強制競売の手続きを紹介します。

2)不動産執行の申立

不動産執行の申立は書面で行います。書式例は、東京地方裁判所や大阪地方裁判所のウェブサイトに掲載されています。申立先は、目的不動産の所在地を管轄する地方裁判所となり、その裁判所を「執行裁判所」といいます。

3)開始決定・差押え

申立が適法なものと認められたら、執行裁判所は不動産執行を開始する旨および目的不動産を差押さえる旨を宣言します。

開始決定がされると、裁判所書記官が管轄法務局に目的不動産の登記簿に差押えの登記をするように嘱託します。また、債務者および所有者に開始決定正本が送達されます。差押えの効力は、強制競売の開始決定正本が債務者に送達されたとき、もしくは送達前に差押えの登記がされたときに生じます。

なお、差押えをされると、債務者は目的不動産を処分できなくなります。ただし、競売の手続きを経て買受人が決まり、買受人がその代金を納付して不動産を取得するまでは、通常の用法に従って目的不動産を使用することができます。

4)売却の準備

裁判所は執行官や評価人に命じて、目的不動産の詳細を調査します。この結果に基づき、裁判所は不動産の売却基準価額を定めます。また、物件明細、現況調査報告書、評価書を作成して一般の閲覧に供します。

5)売却実施

裁判所書記官が、売却の日時、場所、売却方法などを定めます。売却方法はさまざまですが、1回目の売却方法は定められた期間内に入札をする期間入札で行われます。裁判所書記官は、売却すべき不動産の表示、売却基準価額、売却の日時、場所を公告します。

6)入札から所有権移転まで

入札は、公告書に記載された保証金を納付し、売却基準価額からその20%相当額を差し引いた価額(買受可能価額)以上の金額でしなければなりません。最高価額で落札して売却許可がされた者(買受人)は、裁判所が通知する期限までに代金を納付します。納付代金は、入札金額から保証金額を引いた額であり、代金の納付をもって買受人は目的不動産を取得します。

なお、所有権移転等の登記の手続きは裁判所が行いますが、手続きに要する登録免許税等の費用は買受人の負担となります。

7)不動産の引渡し

不動産の引渡しが行われます。引き続き居住する権利のない人が居住している場合、その人に明渡しを求めることができます。この求めに応じないときは、代金納付後、6カ月以内であれば、裁判所に申立てて明渡しを命じる引渡命令を出してもらえます。引渡命令があれば、執行官に強制的な明渡しの手続きを取るように申立てることができます。

8)配当

裁判所が、申立てをした債権者や配当を要求した他の債権者に売却代金を配ります。原則として、抵当権を有している債権と、債務名義しか有していない債権とでは、抵当権を有している債権が優先されます。また、抵当権を有している債権の間では、抵当権が設定された日の早い順に優先されます。債務名義しか有していない債権の間では優先順位はありません。

4 債権執行の概要

1)債権執行とは

債権執行とは、

金銭の支払いまたは船舶もしくは動産の引渡しを目的とする債権(動産執行の目的となる有価証券が発行されている債権を除く)に対する強制執行

のことです。例えば、債務者の銀行預金を差押さえて債権回収を図る場合などです。ここでは裁判所のウェブサイトを基に債権執行の手続きを紹介します。

2)債権執行の申立て

債権執行の申立ては書面で行います。申立先は、債務者の住所地を管轄する地方裁判所ですが、住所地が分からないときは、差押さえたい債権の所在地となります。その裁判所を「執行裁判所」といい、「銀行」のように差押さえたい債権の債務者を「第三債務者」といいます。

3)差押命令

裁判所は、債権差押命令申立てに理由があると認めるときは、債務者に対して債権の取立てその他の処分を禁止し、かつ第三債務者に対し債務者への弁済を禁止すること等を内容とした差押命令を発し、債務者と第三債務者に送達します。差押えの効力は、差押命令が第三債務者に送達されたときに生じます。

4)差押え

執行裁判所は、差押さえるべき債権の全部について差押命令を発することができます。例えば、請求債権が250万円で、被差押債権が300万円の場合、差押えの効力は300万円全額に及びます。

また、給料その他継続的給付に係る債権の差押え効力は、差押債権者の債権および執行費用を限度に、差押え後に受けるべき給付に及びます。なお、給料などについては「差押禁止債権」として、債権額の一部の差押えが禁止されています。「差押禁止債権」の概要は次の通りです。この他、国民年金・厚生年金、児童手当給付金、生活保護給付金等については、個別法により差押え自体が禁止されています。

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5)取立て(または配当)

債権差押命令が債務者に送達された日から1週間(給料等の差押えの場合については4週間)を経過したときは、債権者はその債権を自ら取り立てることができます。ただし、第三債務者が供託をした場合、裁判所が配当を行うので直接取り立てることはできません。

5 財産開示手続の概要

財産開示手続とは、

債権者が債務者の財産に関する情報を取得し、強制執行の実効性を高めるための制度

です。債務者が裁判所の指定する財産開示期日に出頭し、自らの財産状況を陳述する手続になります。

これまでの財産開示手続は、債務者が出頭しなくても30万円以下の過料の制裁を科されるリスクしかなかったことから、債務者が財産開示手続に出頭しないことが少なくなく、実効性に疑問がありました。そのため、なかなか利用される制度ではありませんでした。

このような問題点を踏まえて、民事執行法が2020年4月1日に改正(施行)され、

財産開示手続に出頭しなかったり、債務者が財産状況について虚偽の陳述をしたりした場合、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科される

ようなりました。そして、法改正後、

裁判所の財産開示の呼び出しに応じなかった債務者が民事執行法違反で書類送検される

ケースも出てきました。

このように、財産開示手続に出頭しなかったり、虚偽の陳述をしたりすることによる刑事罰の定めが心理的なプレッシャーになり、今まではあまり利用されていなかった財産開示手続が今後、強制執行を実効化するために利用される機会が増えるのではといわれています。そのため、強制執行を検討するにあたって、このような手続きをきちんと知っておきたい場合には、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 平田圭)

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画像:Mariko Mitsuda

【かんたん消費税(1)】 インボイス制度で注目度が増す消費税を学ぼう

書いてあること

  • 主な読者:消費税の全体像をざっくり知りたい経営者
  • 課題:消費税は法人税とは異なる独自の計算方法で納税額が計算されるため、どのような仕組みの税金なのかあまり分かっていない
  • 解決策:消費税は負担する人(消費者)と国に納付する人(納税義務者) が異なる。取引も課税されるもの、されないものなど扱いが決まっているなどテーマごとのポイントを押さえて全体像を把握する

1 消費税って、どんな税金?

消費税は利益に関係なく課されます。そして、消費税を負担する人(消費者)と消費税を国へ納付する人(納税義務者)が異なる間接税です。

そのため、消費税は利益計算とは異なる独自の計算方法や業務上の注意点があります。これらの点や、消費税の全体像を押さえる上で必要になる基本的なポイントを、次のコンテンツで紹介します。

2 2023年10月に始まった「インボイス制度」への対応

今まで消費税が免除されていた事業者(免税事業者)への影響が、報道などでも大きく取り上げられているインボイス制度ですが、実際は免税事業者に限らず、すべての会社にさまざまな影響や対応が必要になります。インボイス制度への対応や影響について、次のコンテンツで紹介します。

3 消費税を納めないといけない会社と、納めなくてもよい会社

会社は消費税を納めなければなりませんが、取引の規模などによっては免除されます。消費税が免除される会社が、これを見逃すと損をするので、しっかりチェックしましょう。また、インボイス制度が始まった2023年10月1日以後は、相手の規模によって自社の消費税負担が重くなったりします。消費税が免除される免税事業者の詳細やインボイス制度について、次のコンテンツで紹介します。

4 消費税はすべての商品や取引に課されるものではない

消費税は、取引内容によって次のように区分されます。

  • 消費税が課されるもの(課税取引)
  • 消費税が課されないもの(課税対象外取引)
  • 政策上の理由などで消費税が課されないもの(非課税取引)
  • 輸出取引(輸出免税取引)

相手からもらったインボイス等や自社が発行するインボイス等を確認し、課税区分に間違いがないかチェックしましょう。また、海外取引をする会社の場合は、輸出と輸入で消費税の取り扱いが全く違ってきます。取引の区分や海外取引(輸出と輸入)の取り扱いについて、次のコンテンツで紹介します。

5 消費税の計算方法は、「原則課税」と「簡易課税」の2種類

消費税の納税額は、預かった消費税から支払った消費税を差し引いて計算します。預かった消費税とは物を売ったり、サービスを提供したりした場合に預かる消費税をいい、「仮受消費税」と呼びます。一方、支払った消費税とは物を買ったり、サービスの提供を受けたりした場合に支払う消費税をいい、「仮払消費税」と呼びます。

納税額の計算方法には、原則課税と簡易課税とがあり、大きな違いは支払った消費税(仮払消費税)の集計・計算方法です。仮払消費税の計算は、仕入税額控除といい、原則課税の場合、非常に複雑な仕組みになっています。一方、簡易課税を選択できるのは売上規模が一定以下の小規模な会社に限られており、原則課税に比べて計算が楽な方法です。

インボイス制度導入後は、「適格請求書発行事業者」からインボイスを発行してもらうことが、仕入税額控除の条件になるので、どのような仕組みか理解しておきましょう。消費税の計算方法について、次のコンテンツで紹介します。

6 税率が2種類あること、覚えていますか?

消費税の税率は、商品の種類によって10%と8%の2種類あります。軽減税率とは、

特定の商品については税率を低くする(8%にする)

ことですが、導入から数年が経過して慣れもあるのか、8%で処理することを忘れてしまうなどのミスも散見されます。いま一度、対象商品を見直し、間違いやすいケースや注意点を確認してみましょう。消費税の軽減税率について、次のコンテンツで紹介します。

7 法律で義務付けられている、値札などの価格表示方法

消費税については、商品やサービスの価格の表示ルールが決まっています。これを「総額表示義務」といい、事業者が消費者に価格を表示する場合は、

消費税額を含めた価格(税込価格)で表示しなければならない

ことになっています。総額表示をしないで税抜表示のままにしていても罰則はありませんが、法律に違反していることに変わりはありません。また、消費者からの信頼を損なう原因にもなりますので、もし税抜表示のままにしている場合には、すぐに総額表示で対応するようにしましょう。消費税の表示ルールである総額表示について、次のコンテンツで紹介します。

8 消費税の経理処理は、税込と税抜の2種類

消費税の経理処理は、

  • 税抜経理:消費税を売上高や経費とは「区別して」仕訳する方法
  • 税込経理:消費税を売上高や経費に「含めて」仕訳する方法

の2種類があります。税抜経理と税込経理は好きなほうを採用できますが(消費税の免税事業者は税込経理のみ)、メリットとデメリットがあるので有利な方法を選択したいものです。消費税の経理方法について、次のコンテンツで紹介します。

9 資金繰りにも影響大。消費税の確定申告と中間申告

消費税の申告は、年に1回決算のときだけやればいいわけでなく、

  • 確定申告
  • 中間申告

の2種類があり、中間申告については、前期の納税額の大小によって必要な回数が変わります。一番多い場合は、毎月申告納税しなければなりません。消費税は、法人税と違い、「赤字」であっても納税が必要になることが多い税金のため、資金繰り面でも注意が必要です。消費税の申告については、次のコンテンツで紹介します。

以上(2023年10月作成)

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画像:kai-Adobe Stock

テレワークをめぐる世代間ギャップが露わになってきた問題/今どきの若手社員のトリセツ~上司や先輩に贈るストレスマネジメントの処方箋 Vol.11

近年、職場の上司や先輩(いわゆるオトナ世代)は、若手社員の言動を理解できないイライラ、腑に落ちないモヤモヤを抱えつつも、指導の際は「パワハラ」と感じさせないように、気遣いや遠慮が求められるようになりました。
そもそもオトナ世代が若手にストレスを感じる原因は、オトナの考えと、若手の行動とのすれ違いによるものがほとんどです。しかし、若手に対して「けしからん!」と怒ったり、「理解できない!」と嘆いたりしていたことを、冷静に分析するだけでスッキリすることもあります。

本連載は、拙著「イライラ・モヤモヤする 今どきの若手社員のトリセツ」を一部抜粋し再構成してお届けします。

  • オトナ世代が違和感をもつ若手社員の言動を具体的にピックアップ
  • ギャップやストレスの正体を分析
  • 円滑なコミュニケーションや適切な指導法を考察

という3ステップで、指導の妨げとなるストレス解消のヒントを探っていきます。

1 え? 君が在宅で、こっちが出社って……

オトナのイライラ・モヤモヤ
え? 今日も在宅なんだ? いや、テレワーク自体を否定するつもりはないよ。だからって、そんなに目一杯在宅勤務するのもどうかと思う。同じ部署内でも、在宅で仕事できる人とできない人もいるわけだし。テレワーク嫌いの上の目とかもあるし。こっちは、そうやっていろいろバランスとりながら、仕方なく出社してるってのに……。

若者のホンネ
テレワークが認められているのに、うちの職場の在宅勤務しにくい雰囲気って何なんですか? バランスとって出社しろとか、ホント意味分かりません。このご時世でいえば、もはやテレワークは常識。どうせ在宅だとサボってるって思ってるんでしょうけど、ちゃんと働いてますって。

コロナ禍によって、一気に広がったテレワーク。2023年5月からコロナは5類感染症に移行しましたが、出社に切り替える企業もあれば、逆によりリモートに舵を切る企業もあり、テレワークに関する企業の考えはまちまちです。そんなふうに企業間での温度差が浮き彫りになってくる中、企業内におけるテレワークの利用に関しても、世代間ギャップがより顕在化してきています。

「うちの部署は在宅は無理だよな!とか勝手に決めつけるの、やめてほしい」「対面でしかコミュニケーションをとれない時代遅れの人には、職場から早々にいなくなってほしい」などなど、テレワークに消極的なオトナ世代に対して、テレワークに積極的な若者の言動は辛辣です。
確かに「やっぱり出社して顔を突き合わせて働くのがいちばん」「リモートでちゃんと仕事ができるのか?」などと、テレワークで働くことに否定的な旧来型のオトナ世代が少なくないという事実は否めません。

2 まだらテレワーク問題

こうしたテレワークをめぐるすれ違いに拍車をかけているのが、「まだらテレワーク」による職場の不協和音でしょう。まだらテレワークとは、例えばA部署は出社でB部署は在宅といったふうに、社内に出社して働く人とテレワークで働く人が混在している状態を指します。

ある調査によると、出社勤務している人が、在宅勤務している人に対して思っていることは、「通勤しなくていいので羨ましい」「仕事をサボっていそう」「コミュニケーションがとれなくて仕事しにくい」「テレワークしている人のせいで業務負担が増え不公平に感じる」などなど。テレワークを利用している人たちに対して、釈然としない気持ちを抱いている。そんな空気が漂っています。

「人事部門では、給与業務のスタッフは出勤せざるをえないし、経理部門の一部の担当者は、月末は毎日出勤している。それ以外のスタッフはほとんど在宅勤務。出社している社員からは、『なんで私たちだけが出社しないといけないの』という不満の声があがってきていた。最近では、『テレワークができないなら人事異動させてください』と申告する社員まで出ている」。これは、ある企業の中間管理職の切実な声です。

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3 中間管理職オトナ世代の板挟み

テレワークに消極的なオトナの多数派は、実は自分もテレワークしたいけど、テレワークに関する職場の不公平感が気になってやむをえず出社、と考えているんじゃないでしょうか。
なおかつ、オトナ世代の上席にいる上司層は、年齢的にも出社派比率がより高いわけです。上が出社するから、自分も渋々出社するという忖度系オトナ世代も相当数います。

こうした中間管理職オトナ世代は、「こっちだって、できることなら在宅がいいに決まってるじゃん。だけど、バランスってものがあるでしょう」と、職場全体に気を遣って出社する。あるいは、「上が出社するから渋々出社してるんだよね、だからって、自分と同じような目に遭わせるのもどうかと思うから、君たち若手のテレワークはOKしてるでしょ」と、自分の上司と若手の板挟みの中で出社するーー。こんな悩ましい状況に頭を抱えるオトナがけっこういるのです。
だからこそオトナは、自分の権利とばかりに、能天気にテレワークをしたがる若者にイライラ・モヤモヤするんです。

4 テレビ会議、カメラオンにしてほしいんだけどなぁ

そんな能天気な若者のテレワークを容認したらしたで、これまたイライラ・モヤモヤする問題が発生します。その代表格が、オンラインでのテレビ会議におけるカメラオフ問題でしょう。

オトナのイライラ・モヤモヤ
オンラインのテレビ会議だって立派な会議なんだから、そりゃあ、顔は出さなくちゃいけないでしょ。ていうか、なぜ「声」だけで参加してもいいではないかという発想になるのかが、分からない。でも、うかつに顔出しを強制したら、パワハラとか言われかねないし……。ったく、めんどくさいったらありゃしない。

若者のホンネ

在宅勤務で普段着のときだってあるし。そういう柔軟な働き方がテレワークのいいところじゃないですか。そもそもオンラインで実施するのに、会議に「顔」を出さなくてはならない意味が分からないんですけど。ちゃんと聞いて、ちゃんと発言すれば「声」だけ参加でもよくないスか。

こうしたオトナ世代と若手社員のすれ違った声にもあるように、若手社員ほど、テレビ会議で顔を出したがらないという悩みをオトナ世代からよく聞きます。

5 エヴァンゲリオンを彷彿とさせるサウンドオンリー

「エヴァンゲリオンのゼーレ状態っていうか。とにかく無機質な会議で……」と語る管理職もいました。声は聞こえるものの、画面には「サウンドオンリー」と書かれた文字が映るだけ。大ヒットアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」によく登場した会議風景と、画面オフのテレビ会議は、確かにそっくりです。

ある調査のデータで、「あなたはテレビ会議で自分の顔を映していますか?」と質問したところ、「毎回映している」「どちらかというと映している」の合計が61.3%。
6割以上は顔出しをしていますが、逆に、残りの約4割は顔出しに消極的でした。ちなみに同調査によると、オンライン会議を行う際に「相手の顔が見えているほうが話しやすい」と回答した人が、71.7%もいました。おいおい、自分は顔出しNGなのに相手には顔出ししてほしいんかい、とツッコみたくもなります。

実際に、テレビ会議で進行役を務めたことがある人なら実感できると思いますが、相手の顔が映らない、誰からも反応がない状態で一方的に話すのは、とてもやりにくいものです。オトナ世代のほうが会議の進行をする機会が多いでしょうから、この観点からも顔出ししてほしいと考えるのは自然でしょう。
顔出ししたくない若者を、どうやったらパワハラと言われずに説得できるのか。ここもイライラ・モヤモヤする悩ましい問題です。

6 イライラ・モヤモヤ解消法

個人的な見解ではありますが、テレワークはできるかぎり推進されてしかるべきだと思います。ご存じのように、コロナ禍がなくとも企業活動のデジタル化は急務です。周回遅れとも言われる日本社会のデジタル対応を進める必要はおおいにあります。

だからこそ、まずはテレワークについてのルールを整えましょう。ある程度は不公平感を緩和でき、経営層からも理解を得られるはずです。例えば週何回のテレワーク利用が妥当とか、ルールを作って共通認識化していく。ここから始めませんか。

また、これはテレビ会議における画面オンオフも同じです。はじめから「テレビ会議では顔出ししよう」とルールで決めておけばよいのです。え、顔出しの強要ってパワハラじゃないの?と思われるかもしれませんが、専門家の見解はこうです。
対面会議の代わりとして行われるテレビ会議において、「顔を出すように」「カメラをオンにしてください」と伝えることはパワハラにはならないと考えられる。会議の効率化や有用化という観点から、顔出しの要求は不当なものとは言えないーー。正当にリクエストしてよさそうです。
そして、あらかじめルール化しておくことは、会議の場面で伝える必要がなくなる=パワハラと思われる言動を抑止するという効能があります。

ただし、テレワーク問題もテレビ会議問題も、ルール化するうえで、できるだけ「言い方」には留意しましょう。これは法的な観点というより、若手の納得度合いの観点です。相手が飲み込みやすいような点を伝えていくことが効果的。自組織でのカルチャーとして根付いていくとベストです。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年10月19日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

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飲食店の東京進出はリスキー?まずは地域ナンバーワンシェアを目指そう!

書いてあること

  • 主な読者:事業が軌道に乗ってきて、今後の方向性を検討している地方の飲食店経営者
  • 課題:東京進出したいが、競争率や家賃が不安。でも、今の地域にいたまま成功できる?
  • 解決策:ランチェスター戦略の「局地戦」に注目し、地域ナンバーワンシェアを目指す

1 東京進出はリスクだらけ?

事業が軌道に乗ってきたら東京に進出して、ウチの店の味がどこまで通じるか試したい! このように東京進出を夢見る飲食店経営者は少なくないでしょう。店舗が大きな売り上げや利益を上げている場合、マーケットの大きい都会に進出して会社を飛躍的に成長させたいというのは当然の考えです。

ですがご用心。安易な東京進出には、さまざまなリスクが付いて回ります。例えば、

  • 飲食店で言えば、現在の東京は店舗数が飽和状態に近く競争が激しい
  • 好立地物件の家賃相場が地方に比べて高い
  • 地元ならではの食文化や慣習、地産地消などを名物にしている店の場合、東京や全国区で通用するかは不透明
  • 地元ならではの食材を売りにしている場合、原材料の確保や物流コストが掛かる
  • 激化する競争環境の中で、各社がSNSなどを使った熾烈なマーケティング合戦をしており、対抗するには多くの手間とマーケティング費用が必要になる

といった具合です。

こうしたリスクに対して、十分な準備が整わないのであれば、

現在店舗のある地域でナンバーワンを取る

ことをお勧めします。これはビジネス用語の「ランチェスター戦略」における「局地戦」を基本とした考え方です。局地戦とは、地域や限定的な市場にあえて戦力を集中投下し、その市場におけるシェア拡大を図り、東京など大都市圏に進出するよりも高い収益性を上げるというものです。

実際に、この局地戦を制して成功した会社の事例は数多くあります。この記事ではそうした事例を挙げつつ、「今の時代に地域ナンバーワンシェアを取るには」という観点で具体的な手法を紹介していきます。

2 「局地戦」を制して成功した会社の事例

1)北海道でコンビニシェアナンバーワンの地位を確立した「セイコーマート」

セイコーマートは、北海道内で1090店(2023年7月時点)を誇るコンビニエンスストアです。日本におけるコンビニの3強であるセブンイレブン、ローソン、ファミリーマートをしのぐ店舗数で、北海道ではシェアナンバーワンです。

セイコーマートは北海道でのシェア拡大を徹底し、地域特化のうまみを生かした戦略によって差異化を図っています。これこそランチェスター戦略における「局地戦」の好事例といえるでしょう。

セイコーマートが行っている差異化戦略は次のようなものです。

  • 店内で調理を行うイートインコーナー「HOT CHEF (ホットシェフ)」を提供
  • 大手が出店しないようなへき地や離島にも出店
  • 安価で多種多様な総菜を含めた豊富な商品ラインアップ

ホットシェフは、各店舗にある店内調理場で総菜や弁当を作るというサービスです。大手コンビニのように揚げたり温めたりするのではなく、専任担当者が厨房に立ち、出来立てを提供しています。

本来であれば、余分な人員が必要で、売り場スペースも減る店内調理は、効率性やスピードが重視されるコンビニ経営には不都合で、実際、大手コンビニでは店内調理場はほとんど見かけません。

しかし、ここで北海道ならではの事情が関わってきます。例えば、北海道はへき地や離島が多いですが、こうした地域への出店では、長距離輸送によって店に商品が届いてからの販売時間が短くなったり、天候悪化で客足が止まったりすると大量の廃棄食材が出てしまうケースが少なくありません。

ですが、セイコーマートの場合、主軸サービスであるホットシェフが、保存のきく冷凍食材を、その時の客足に応じて調理するスタイルのため、食品ロスが少ないのです。これにより、へき地や離島でも効率的な店舗経営が可能になっています。

また、安価で多種多様な総菜を含めた豊富な商品ラインアップも大きな強みです。大手コンビニは全国、特に大都市圏に多くの店舗を展開しているため、統一された商品は都市型にならざるを得ません。

一方のセイコーマートは北海道に特化することで、北海道の客層に合わせたラインアップを提供できます。前述したように飲食店のように利用する層や、食品スーパーの代わりに使うニーズもあります。そのため同社では、数十種類に及ぶ1人用の総菜を安価で提供しています。また、北海道の原料を使ったカップ麺やお酒のつまみ、アイス、北海道限定ビールなど、北海道ならではの商品も多く陳列されています。これも大手に比べて大きな差異化要因です。しかも、北海道で作られたものを使って自社工場で製造しているので、安さを維持できています。

なお、セイコーマートの出店地域には飲食店が少ないエリアもあります。そうしたエリアでは、セイコーマートのイートインコーナーが、温かい食事を取りながら家族や知り合いと団らんする飲食店の代わりになっているようです。

2)地域一番店を目指す「炭焼きレストランさわやか」

さわやかは、静岡県内で34店舗(2023年8月時点)を経営する、「げんこつ・おにぎりハンバーグ」を主力商品にしたレストランです。

さわやかが行っている差異化戦略は次のようなものです。

  • メニュー数を絞り「げんこつハンバーグ」「おにぎりハンバーグ」に一点集中
  • 出店を静岡県内に限定することで希少性や地域密着性を演出

さわやかは「ハンバーグがおいしい店」として有名で、静岡県に来たら必ず食べる人も多く、食べるために静岡県に来るというケースもあるほどです。

ここまでイメージ戦略に成功している理由の1つが、主要メニューを「げんこつハンバーグ」「おにぎりハンバーグ」に絞り込んだことです。メニューを一点集中させ、その分、味や品質に徹底してこだわることで、他社との差異化を図っているのです。

肉はオーストラリア南東部の指定牧場で育てた牛のみを使用し、静岡県にある自社工場でハンバーグを製造しています。さらに各店舗で、毎日開店前にハンバーグの焼成条件や鉄板加熱条件、利用客に提供するのと同じやり方でハンバーグの提供を行い、試食して問題がないことを確認しています。これも、メニューを絞り込んでいるからこそできることです。

また、調理や提供のオペレーションも簡略化できるため、スタッフの負担も軽減され、丁寧な調理や接客に集中できます。

さらに、静岡県限定で店舗展開することで県外の利用客に「希少性」を印象付け、また静岡県産の食材を使ったサイドメニューを提供するなど「地域ならでは」を押し出すことで、県内の利用客の好感度も上げています。

こうしたイメージ戦略や、前述したメニューの一点集中による味や接客の質向上により、「常に行列ができる店」「休日にはディズニーランドを超える待ち時間」などとして、メディアでも取り上げられるようにもなりました。

3 局地戦の具体的な手法

1)狭い地域に集中展開する「ドミナント出店」

局地戦で打って出る場合に重要な考え方が、

狭いエリアに高い密度で集中出店する「ドミナント出店」

です。これは1店舗目が繁盛している場合、2店舗目、3店舗目をどこに出店するかを検討する際に役立つ考え方です。

ドミナント出店の成功例を見てみましょう。これは、ある美容室の事例です。開業当初から丁寧な接客などで大きな利益を上げていたその店には、駅を挟んで反対側に強力なライバル店がいました。

そこで、この店が取った戦略がドミナント出店です。常日頃、駅の反対側を利用する人が自店を利用するのは考えにくいと判断し、2店舗目も自店がある、駅の手前側に出店したのです。さらにチラシを駅の手前側で集中的に配布しました。地の利の悪い地域ではなく、利用客のニーズや年齢層、行動パターンなどをある程度把握しているエリアに販促費を集中投入したのです。

3店舗目、4店舗目も同じエリアに出店したことで、

  • 予約にあぶれた利用客に近くの別店舗を紹介できる
  • 人員が足りない場合に近くの店舗からヘルプを呼べる
  • 人員や地域を統括するマネージャーの移動時間が抑えられる
  • スタッフ同士が店舗をまたいで円滑にコミュニケーションを取れる

ようになりました。こうした取り組みの結果、この美容室は自分たちのエリアでシェアナンバーワンを取ることができたのです。

このように地域を絞って集中展開することで、集客や採用、マネジメント、さらには販促やマーケティングのコストを安く抑えられるのです。飲食店であれば、仕入れや配送の効率化による影響も大きいでしょう。

ただし、ドミナント出店をする場合、自店舗同士で利用客の「奪い合い」が起きないようにすることが大切です。事例の美容室の場合、「30代以上の男性向け」「髪質向上特化」などといった形で店舗ごとの個性を出し、グループ自体のブランドは維持しながらも自店舗同士が食い合わないようにしました。こうすることで、例えば、主婦の利用客がいたらその夫に「30代以上の男性向け」の店舗を紹介するといった、潜在顧客の掘り起こしや誘導も可能になります。

2)地域に特化したSNSマーケティング

WebやSNSマーケティングの激戦区である大都市圏とは違い、地方の店舗ではこうしたマーケティングに注力できていないケースが多いといわれます。つまり自社が取り組めば、競合他社と差異化を図り、地域シェアナンバーワンを取りやすくなるということです。

地域に根差したSNSマーケティングの一例としては、

インスタグラムを使った認知・集客

があります。インスタグラムは女性や主婦層の利用が多いといわれ、飲食店や美容室、ペットショップなど多くの店舗がその効果を期待できます。

ここ最近、注目を集めている手法が、インスタグラムの「いいね」機能を使った集客です。具体的な方法は次の通りです。

  1. シェアを取りたい地域の他の店舗に訪れた人、コメントをしている人を見つけ、その人の投稿に「いいね」をする。この際、最初はプライベートな投稿よりも、同様に地域の店や話題を紹介している投稿がよい。紹介している店が同業他社でも問題ない
  2. 「いいね」がその人に通知されるので、一定の割合でフォローをしてもらえる(潜在的な利用客の獲得)
  3. 後は店舗の内装や商品・サービスの紹介、開店日のカレンダーなどを定期的に投稿しつつ、24時間で投稿が消えてしまう「ストーリー」という機能を使ってタイムセールや新商品・サービスのキャンペーン情報などを宣伝する

タイムセールでは、地域の競合他社の近似商品・サービスよりも安くしたり、内容の良さをアピールしたりするのが有効です。

この記事では、見映えがする投稿(いわゆる「インスタ映え」)のポイントについては割愛しますが、一般的に投稿をする際は、商品やサービスの写真をメインに据え、商品と同系色の背景や文字を用いて、商品名や価格、セールの日時を記載するのが効果的といわれています。

3)ローカル局のテレビCMを利用してみる

地域に特化した差異化戦略として、テレビCMを打つというのも一策です。テレビCMと聞くとお金が掛かるイメージがありますが、テレビ局を

  • 主に東京にある大手キー局
  • 名古屋や大阪などの準キー局
  • 一定の地域を放送エリアに持つローカル局(地方局)

に分けて見ていくと、実は必ずしも高額というわけではありません。

ローカル局は放送エリアも限定的になるため、地域に密着した広告を打つことができ、さらにキー局や準キー局に比べてCMを流す放映料も安くなります。15秒のCMを1回流すのにキー局が数十万~100万円以上掛かるといわれる一方、ローカル局の場合は大体1万5000~数万円が相場といわれます。なお、CM放映料については地域、時期、季節、放映する期間や時間帯、放送回数などによって変動するため、CMを打ちたい地域のローカル局に問い合わせ、料金や放映期間を決める必要があります。

ここまでの話で、「地方のテレビCMを見る人は少ないのでは?」「テレビCMを見た人への広告効果はあまり期待できないのでは?」と思った人もいるでしょう。その懸念は正しいです。ただ、このローカル局のテレビCMを使った手法は、CMそのものの広告効果を狙うのではなく、

CMを打っているという既成事実を作るためのもの

です。具体的に言うと、CMを打っている期間、店舗の壁や外から見えやすい場所に「テレビCM放映中!」などのポスターやチラシを置くだけでいいのです。

CMで紹介しているというだけで、利用客はその会社に「箔」を感じますから、結果、競合他社の近似商品やサービスとの差異化を図ることができます。「CMで話題になっているらしい」というイメージは、それだけで大きいものです。

この箔付けが主目的なので、実際のCMの内容については凝ったものを製作する必要はありません。有名人などは起用せず社長や店長、社員が出演するのでもいいですし、そういった撮影などをせずに写真や文字、アナウンスだけでも十分です。

そうすることで、CMの製作費も低く抑えることができ、安価でその地域において優位になるマーケティングを展開することができるのです。

以上(2023年10月作成)

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画像:beeboys-Adobe Stock