休めといっても休まない社員に休暇を取らせる効果的な方法

書いてあること

  • 主な読者:休暇制度は整備しているのに社員が休んでくれずに困っている経営者
  • 課題:社員が周囲への遠慮などから、なかなか休暇を取得しようとしない
  • 解決策:社員が気兼ねなく休める雰囲気をつくりつつ、半日・時間単位の休暇も導入する

1 仕事をしながら休暇を取ってもいい!

適度に休み、心身のコンディションを整えて仕事のパフォーマンスを上げる。何の異論もないところですが、なぜか休まない社員がいます。どうやら、

  • 周囲が忙しそうなのに自分だけ休めない
  • 休むといっても引き継ぎをするのが面倒

などと考えているようなのです。こうした社員は、

この会社は、いざというときに周囲のサポートを当てにできない

と考えており、ちょっとした気持ちの変化で文句を言ったり、ライフイベント(結婚や出産、介護など)の発生によって転職を決意したりします。そうならないために、

  • 雰囲気づくり:休暇を歓迎し、上司も快く部下の休暇を承認する
  • 休暇制度の見直し:半日休暇などを検討する

を進めることをご提案します。なお、休暇取得を促進するのは、決して甘い組織をつくりたいわけではなく、メリハリのある働き方の実現するためです。

2 休暇を取りやすい雰囲気づくり

1)休暇は楽しい!

「休暇は楽しい!」という雰囲気をつくりましょう。「え、そんなことでいいの?」と思われるかもしれませんが、とにかく休暇を取得する社員には明るく接し、プライベートに深入りしない程度に「いいね! どこに行くの?」「何の映画を見るの?」など、休暇を歓迎します。

もちろん、経営者自身も休みを取りましょう。差し支えなければ、自分の休暇の過ごし方をみんなに話して、

仕事もプライベートも大切にする会社であることをアピール

します。

2)上司(管理職)を巻き込む

休暇を申請したら上司がいい顔をしなかった。あるいは、上司がいつも残業しているのに自分だけ休むのは気が引ける……。こんな職場では部下は畏縮して休暇を取得できません。

そこで、経営者は、上司に部下の休暇取得を促進するように指示します。人事考課の中に、

部下の年休(年次有給休暇)の取得率を対前年度比で◯%向上させる

ことを加えるのもよいでしょう。

また、部下が遠慮しないで済むよう、上司自身にも休暇を取らせましょう。例えば、マネジメントが苦手で1人で仕事を抱え込んでしまう上司には、「それは君がやる仕事ではない」と伝え、部下に振るよう指導します。そうすれば、休暇のための時間は案外簡単に捻出できるものです。

3 休暇制度の中身を見直す

1)半日単位・時間単位の休暇にしてみる

半日単位や時間単位の休暇は、比較的、取得しやすいです。仕事とプライベートの用事(子どもの送り迎えや家族の介護など)を交互にこなす社員は多いですし、旅行先でレジャーを楽しみながら合間に仕事をしたい社員にとってもうれしいものです。

年休については半日単位で付与できますし、過半数労働組合(ない場合は過半数代表者)と労使協定を締結すれば1時間単位でも付与できます。会社が独自に就業規則等で定める特別休暇についても、内容によっては半日単位・時間単位を検討してみましょう。

2)休暇取得日をあらかじめ指定する

休暇取得日をあらかじめ指定するのも一策です。年休の場合、

付与日数が年10日以上の社員(基本は正社員)については、そのうち5日まで会社が休暇取得日を指定して取得させる義務

があります。会社命令であれば、社員も周囲に遠慮せず休むことができます。

また、会社が年休取得日を計画的に割り振る「計画的付与」という制度もあります(労使協定の締結が必要)。社員が休暇を取得する日が事前に分かるので、同僚は協力してフォローすることができます。ただし、一度割り振った休暇取得日を後から変更することはできません。

休暇取得日を指定する場合は、ゴールデンウイークや夏季休暇、年末年始などに合わせて長期休暇を実現させるのもよいでしょう。例えば“年末年始が10連休以上”となれば、社員はそれを1つのゴールとして頑張ることができます。なかなか休暇が取得できない社員でも、夏季休暇や年末年始などであれば休みを取りやすいでしょう。

3)取得時季や目的が明確な特別休暇を利用する

休暇には、法令で定められている「法定休暇」と、会社が独自に設定する「特別休暇」があります。特別休暇は、取得時季や取得目的が明確な場合が多いことが特徴です。原則としていつでも取得できる年休よりも、特別休暇のほうが取得しやすいという社員も少なくないようです。

例えば、次のような特別休暇があります。

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ちなみに、図表の赤字の休暇は、「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」という助成金と関わりがあります。

図表の赤字の休暇のいずれか(有給のものに限る)を導入し、就業規則等で前述した「年休の5日取得」の規定を整備するなど一定の取り組みをすると、最大480万円

を受給できる可能性があります。興味のある人は、厚生労働省のウェブサイトをご確認ください。なお、2023年度の助成金の申請期限は、2023年11月30日までです。

■厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)」■

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120692.html

以上(2023年9月更新)

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画像:pixabay

【朝礼】藤井聡太八冠の言葉に学ぶ2つのこと

皆さん、おはようございます。今日は、10月11日に見事、全タイトル制覇を達成した将棋の藤井聡太八冠についてお話したいと思います。

その日、前人未到の偉業を成し遂げた藤井八冠は、その後の記者会見で今後の目標などを尋ねられたとき、何度も「面白い将棋を指したい」というフレーズを口にしていました。それがとても印象に残っています。「面白い将棋を指すこと」が、藤井八冠が理想とする「あるべき姿」であり、やりたいことなのだろうと思いました。

振り返ってみると、藤井八冠は、過去にインタビューで「勝つためには、いかに最善に近づくことしかない」という趣旨の言葉も残しています。

勝って強くなる、面白い将棋を指す、そのためには、余計なことをごちゃごちゃ考えず、「最善に近づく」ことを愚直に突き詰め、実践していく。そうしたとても真っ直ぐなシンプルさを、私は藤井八冠に感じています。将棋に専念しようと高校を中退したことも、この真っ直ぐさの表れではないかと思えます。

これと似ているのが、今年も大活躍した野球の大谷翔平選手です。「世界一、野球のうまい選手になりたい」という大谷選手は、その「あるべき姿」のために真っ直ぐです。彼は打者として、「どんな場面でも、ボール球は見送る。ストライクが来たら振る」という趣旨の言葉を残していますが、藤井八冠の真っ直ぐでシンプルな「最善に近づく」と通じるものがあるのではないでしょうか。

私は藤井八冠や大谷選手の真っ直ぐなシンプルさから2つのことが学べると感じています。

1つは、「あるべき姿」を持つことの大切さです。目標や目的よりもっと高いイメージで持つ、いわば人生においての「あるべき姿」です。どのようなことをやりたいか、成し遂げたいか。どのような人生を送りたいか。大げさに聞こえるかもしれませんが、それは、自分自身の大事な芯、基準、拠りどころ、そうしたものになります。

もう1つは、「あるべき姿」に向かう「真っ直ぐでシンプルな強さ」です。誰かと比べたり周りの目を気にしたり、プレッシャーを感じすぎたりと、そういう余計な雑念を入れず、「いかに最善に近づくか」ということだけを突き詰める。この真っ直ぐでシンプルな強さが、私は好きです。

皆さんは、どうでしょうか。「あるべき姿」を持っていますか。いきなり「あるべき姿」と問われても考えにくいかもしれません。そういう人は、自分はこれから先、何を大事に生きていきたいか。10年後、どうなっていたいか。そうしたことを一度、真剣に考えてみるとよいでしょう。

また、「あるべき姿」を持つことに年齢は関係ありません。何歳からでも、「あるべき姿」を持ち、真っ直ぐに向かうことはできるはずです。すべて、自分次第だと私は思います。

あと2カ月で2023年も終わります。皆さん、今年のうちに、一度、あなた自身の「あるべき姿」を考えてみてください。

以上(2023年10月)

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画像:Mariko Mitsuda

親が認知症に……財産管理は大丈夫?超高齢社会の今、押さえておきたい「家族信託」のポイント

書いてあること

  • 主な読者:高齢の親が認知症になった場合の、親の財産管理が心配な人
  • 課題:家族信託を利用したいけれど、内容がよく分からない
  • 解決策:財産を信託する(管理や処分を任せる)「委託者」、信託される「受託者」、信託の利益を受け取る「受益者」の関係に注目し、3種類の信託方法を押さえる

1 もはや他人事ではない認知症。親がなっても大丈夫?

いまや日本は、65歳以上の高齢者が全人口の約3割を占める超高齢社会。そして、2025年には高齢者の約5人に1人(約700万人)が認知症を発症するとの推計もあります(厚生労働省「認知症の人の将来推計について」)。

仮に何の対策もしていない状況で自分の親が認知症になってしまった場合、特に困るのは親の財産の管理です。認知症で記憶力や判断能力が低下してしまうと、次のような状況に陥ってしまうリスクがあります。

  • どのような財産があるのか誰も分からなくなってしまう
  • 預貯金が引き出せず、生活や医療・介護の費用を親族が立て替えざるを得なくなる
  • 所有する不動産の売却や活用ができない状態になる
  • 遺言などによる相続対策が困難になる
  • 詐欺や悪徳商法に引っかかりやすくなり、財産を失う恐れがある

こうしたリスクに備える上で知っておきたいのが「家族信託」です。家族信託とは、

親(委託者)が認知症の発症などのリスクが高まる老後に備え、あらかじめ信頼できる家族(受託者)に、財産を信託する(管理や処分を任せる)制度

です。これにより、親(委託者)は、元気なうちは自身の指示に基づく財産管理を、たとえ認知症になって判断能力が低下しても、自らの意向に沿った財産管理をしてもらえます。以降で基本的なルールを確認していきましょう。

2 「家族信託」のポイント

1)家族信託の方法は3種類

家族信託は、信託法に基づく財産管理のスキームで、財産を信託する「委託者」、信託された財産の管理や処分を行う「受託者」、財産の管理や処分によって生じる利益を受け取る「受益者」の三者によって構成されます。信託の方法には次の3種類があります。

1.契約による信託

委託者と受託者の間で、

委託者が受託者に対し財産の処分(財産の譲渡や担保権の設定)を行う、受託者が一定の目的(委託者の意向)に従い財産の管理や処分を行うという契約を交わす方法

です。これを「信託契約」といい、契約を締結することで信託の効力が生じます。

信託契約の期間終了を「委託者(親)が死亡するまで」とし、契約終了後の残余財産の帰属先を「受託者(家族)」に指定しておくことで、遺言を残すのと同様の効果を得られます。

2.遺言による信託

委託者が、

自分が死亡したら全財産(または特定の財産)を信託財産に入れ、その管理を受託者に任せるという遺言を残す方法

です。遺言の効力が生じることで信託の効力も生じます。

遺言ですから、委託者(親)の意向だけで成立します。死亡するまでは発動しないので何度も書き換えることが可能です。受託者(家族)に「後のことは任せる」ということを事前に伝えておくのが通常ですが、別に受託者(家族)の了解を得る必要はありません。

ただし、受託者となる者の知らないうちに、遺言によって受託者とされることがあり得ますので、受託者による信託の引受け(受託者への就任承諾) が必要になります。また、遺言による信託の場合、民法で定められた方式(自筆証書、公正証書、秘密証書)で手続きを進めなければなりません。

3.信託宣言による信託

委託者が、

自分の財産を信託財産に入れ、所有者としてではなく受託者として管理するという意思表示(信託宣言)をする方法

です。信託宣言は、書面または電磁的記録(以下「書面等」)で行いますが、書面等をどのように作成するかによって、いつ効力が生じるかが変わります。

  • 公正証書または公証人の認証を受けた書面等(以下「公正証書等」)による場合

公正証書等を作成することで信託の効力が生じます。

  • 公正証書等以外の書面等による場合

「受益者」になるべき第三者を指定し、その第三者(複数いる場合はうち1人)に対し、確定日付のある証書(内容証明郵便など)により、信託がなされた旨とその内容を通知することで信託の効力が生じます。

契約による信託や遺言による信託の場合、「委託者=受益者」となるのが一般的ですが、信託宣言による信託では「委託者=受託者≠受益者」となるのが特徴です。

例えば、委託者(親)が自分の財産を受益者(家族)のために、受託者として管理するという信託宣言を前述した所定の手続きによって行うと、財産権は移転しますが、財産の管理や処分は引き続き委託者=受託者(親)が行えます。ただし、税務上は「みなし贈与」として贈与税の課税対象となるので注意が必要です。

2)家族信託を行うメリット

家族信託にはさまざまなメリットがありますが、ここでは「契約による信託」を例に、次の2つを紹介します。

1.生前の財産管理から相続発生後の資産承継・財産管理まで賄える

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親が元気で判断能力がある間、財産管理を誰かに任せる場合は、委任契約を結ぶのが一般的です。ただ、その後、認知症を発症してしまうと、財産管理を行えるのは後見人だけになるため、成年後見制度を利用することになります。さらに死亡して相続が開始されると、遺言があれば遺言執行者(遺言執行人)によって資産承継・財産管理の手続きが行われることになります。

この点、家族信託は、これらの一連の機能をワンストップで果たすことができます。さらに、遺言書とは違い、相続人が死亡したあとの2次相続、3次相続など数次相続について、どの財産を誰に承継させるか指定しておくことも可能です。相続人同士が遺産分割協議でもめて相続手続きが難航するのを防ぐことも期待できます。

2.財産管理が委託者の判断能力の低下に左右されない

親が認知症を発症してしまうと、預金口座が凍結され、お金を下ろすことができなくなります。また、自宅などの不動産(土地・建物)を売却することもできなくなります。そうなった場合に利用できるのが成年後見制度ですが、家族(親族)が成年後見人等に選ばれるとは限らず、親族以外の専門職(司法書士や弁護士)が成年後見人等になるケースが多いのが実情です。

この点、家族信託は、委託者(親)は信頼できる家族に財産管理を任せることができますし、受託者(家族)は委託者(親)の判断能力の低下に左右されず、不動産の売却や活用などを行うこともできます。また、成年後見制度では、毎年の家庭裁判所への報告が必要になり、財産の管理運用や処分が制限されることがありますが、家族信託の場合はこの報告も不要です。

3 主な相談窓口

家族信託について分からない点や具体的な手続きは、司法書士や弁護士などの専門家に相談するとよいでしょう。

家族信託普及協会のウェブサイトでは、同協会の研修を修了した「家族信託コーディネーター」や「家族信託専門士」を検索することができます(家族信託普及協会が直接の相談を受け付けているわけではないのでご注意ください)。

「家族信託コーディネーター」は、相談者と専門家との間に立って、相談者の要望を整理したり、信託スキームの提案をまとめたりするなど、橋渡し的な役割を担います。「家族信託専門士」は、家族信託の組成を具体的に進めたいという依頼を受け、専門士業として具体的な契約書作成等の実務を担います。

■家族信託普及協会■

https://kazokushintaku.org/

4 信託銀行などの「遺言信託」と家族信託は全く別のもの

最後に、よく家族信託と混同されやすい、信託銀行などの「遺言信託」についても補足しておきます。「信託」という言葉の響きは同じでも、「家族信託」とは目的や内容が全く別のものです。

法律上の「遺言信託」は、第2章で紹介した「遺言による信託」、つまり遺言の中で信託を設定する家族信託のことを指します。

一方、信託銀行などが提供している「遺言信託」は、遺言書(公正証書遺言)作成の相談から、遺言書の保管、遺言者死亡後の財産目録の作成、遺言の執行まで相続に関する手続きをサポートするサービスです。家族信託とは違い、相続にまつわる一連のさまざまな手続きを信託銀行などに任せることになります。

「遺言信託」のサービスについて、詳細は信託協会のウェブサイトをご参照ください。

■信託協会「遺言信託」■

https://www.shintaku-kyokai.or.jp/products/individual/assetsuccession/testament_inheritance.html

以上(2023年9月作成)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像: kabu-Adobe Stock

その写真、掲載しても大丈夫?注意が必要な著作権・肖像権

書いてあること

  • 主な読者:自社のウェブサイトやSNSなどを通じて社内外へ情報発信を担う広報担当者
  • 課題:写真を掲載してビジュアルを充実させたいが、意図しない権利侵害が不安
  • 解決策:どういった場合に権利侵害になる恐れがあるのか、写真の著作権・肖像権について理解する

1 写真の権利についてしっかり理解していますか?

社内外へ情報を発信するとき、ビジュアルを充実させる写真は欠かせません。スマホで撮った写真をSNSにアップするのを誰もが日常的に行っている今、

他人が撮った写真を勝手に使ったり、被写体となった人の許諾を得ずに、個人が特定されてしまう載せ方をしたりするのはNGだというのは、もはや常識

でしょう。とはいえ、なぜNGなのか、写真や被写体の権利についてしっかり理解していない人も多いのではないでしょうか。

写真は著作権で保護されており、正しく扱わないと撮影者の権利を侵害することになります。また、被写体が人の場合は肖像権の問題が絡んできます。

これらの権利を侵害すると、損害賠償請求を受ける事態になってしまう恐れがあります。また、著作権侵害で刑事告訴された場合、罰則として、10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはその両方が科されることになるかもしれません。さらに、法人の業務に関して著作権侵害があったときは、行為者だけでなく法人にも3億円以下の罰金が科されます。

この記事では、注意が必要な「写真の著作権」「被写体となった人の肖像権」に焦点を当て、広報担当者として押さえておきたい基本的なポイントを、具体例を交えて解説します。

2 写真の著作権:写真は撮影者の著作物

他人が撮った写真を勝手に使うのがNGな理由は、

写真は撮影者の著作物であり、著作権の保護の対象

だからです。

著作物とは「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」をいいます。写真も、著作権法で著作物の一つとして例示されています。

例えば、風景や料理などは、それ自体は著作物ではないですが、それを撮影した写真は撮影者の著作物として保護の対象となります。

なお、外国の著作物にも同じように著作権があり、「ベルヌ条約」や「万国著作権条約」によって各国が保護し合っています。日本はどちらの条約も批准しており、「外国人が撮った写真ならば、日本の著作権法は関係ない」という考えは誤りです。

3 被写体となった人の肖像権:プライバシー権の侵害は要注意

人が被写体の場合は肖像権の問題が絡んできます。肖像権とは、

自分の顔や姿を許可なく撮影されたり、自分が写った写真や画像、動画を無断で使用したり公表されたりしない権利

です。肖像権については、個人情報保護法の個人情報の定義と重なる部分がありますが、法律上明文化された権利ではなく、裁判例で認められ、保護されている権利です。

肖像権には、プライバシー権とパブリシティ権の2つの側面があります。いきなり写真を撮られたり、その写真がSNSでさらされたりすることがプライバシー権の侵害なのは言うまでもありません。また、芸能人やプロスポーツ選手など著名人の肖像は一定の経済的価値を生むため、実務上は、芸能プロダクションや所属チームなどがパブリシティ権として管理し、無断使用を禁止しています。

被写体から個人を特定できる場合、被写体となった本人に写真の使用や公開の許諾を得るのが筋です。人が写っている写真を使いたい場合は、撮影者の責任において権利処理(撮影だけでなく公開の許諾)がなされているものを使いましょう。

4 よくあるケース別 写真の権利に関する注意点

1)画像素材サイトからダウンロードする場合

画像素材サイトには「Adobe Stock」「PIXTA」「Shutterstock」「iStock」などがありますが、こうしたサイトからダウンロードする写真は、各サイトの利用規約や使用許諾契約に定める範囲内で、許諾を受けて、自社のウェブサイトや印刷物などに使えます。

注意が必要なのは、商用利用が可能かどうか、撮影者の情報を掲載する必要があるかどうか、二次加工が可能かどうかといった条件です。有償の写真を購入したから何をしても良いというわけではなく、利用規約や使用許諾契約に従って適正に取り扱わなければなりません。

また、画像素材サイトにアップロードされている素材が、そもそも第三者の著作権を侵害したものではないかということにも気を付ける必要があります。

2)自分以外の社員が撮った場合

自分以外の社員が撮った写真は、業務の一環として撮ったものか、私的に撮ったものかによって誰が著作者なのかの判断が変わります。

社員が業務の一環として撮った写真であれば、一般論としては、著作権法第15条第1項の「職務上作成する著作物」に当たり、会社(法人等)が著作者となります。こうした写真は、会社が自由に自社のウェブサイトや印刷物などに使えます。

一方、社員が私的に撮った写真は撮影者である社員の著作物ですから、利用目的を伝え、許諾を得て使うのが筋です。それ以外の用途に無断で使うのはNGです。例えば、社内報に掲載する写真を社員から提供してもらう場合などは、後でトラブルにならないように注意しましょう。

3)カメラマンに発注して撮ってもらう場合

カメラマンに発注して写真を撮ってもらう場合、撮影業務に関する委託契約の中で、「著作権の帰属」「利用目的」についても決めることになるでしょう。著作権を委託者である会社に帰属させる(移転する)という契約もあり得ますが、ここでは、受託者であるカメラマンに著作権を帰属させたままにする場合の注意点を紹介します。

納品された写真を二次加工したり、発注時とは異なる用途で利用したりする場合には、撮影者の許諾を得る必要があります。例えば、ホームページ用に撮影してもらった写真を、プレスリリース用にちょうどよさそうだからといって無断で一部分を切り抜いて使うのは、撮影者の同一性保持権(自分の著作物の内容または題号を自分の意に反して勝手に改変されない権利)を侵害することになります。なお、用途が増えれば、その分、追加料金が発生します。そのため、著作者人格権を行使しないことを合意することも考えられます。

また、委託者以外に対する許諾を禁止する場合や、撮影者自身による利用を禁止する場合は、その旨を契約内容に盛り込んで双方が合意する必要があります。

4)人が写っている場合

たとえ被写体として意識していなくても、人が写っている場合、肖像権が問題になる恐れがあります。

デジタルアーカイブに関わる研究者や実務家らによって組織されるデジタルアーカイブ学会では、「肖像権ガイドライン~自主的な公開判断の指針~」を取りまとめ公表しています。

同ガイドラインでは、非営利目的のデジタルアーカイブ機関が所蔵している写真をインターネットなどで公開する場合を想定し、次のステップで、公開に適しているか、一定の判断基準が示されています。

  1. 知人が見れば誰なのか判別できるか?(デジタル拡大すれば判別できる場合も含む)
  2. その公開について写っている人の同意はあるか?(撮影の同意だけでは足りない)
  3. 公開によって一般に予想される本人への精神的な影響をポイント計算すると何点か?

詳細は割愛しますが、写真に写っている人が誰なのか判別できない場合や、写っている人が公開に同意している場合であれば、肖像権の侵害にはなりにくいと考えられます。

例えば、写り込んだ人の顔にぼかしを入れるなどの処理は、誰なのか判別できないようにすることで肖像権の問題を回避するための一つの手段といえます。

5)他人の著作物が写っている場合

たとえ被写体として意識していなくても、他人の著作物が写っている場合、その著作権侵害に当たるでしょうか? この点は、著作権法第30条の2「付随対象著作物の利用」で規定されています。

同条文などを解説した、文化庁「いわゆる『写り込み』等に係る規定の整備について」によると、次のような場合は、著作権侵害には当たらないとされています。

  • 写真を撮影したところ、本来意図した撮影対象だけでなく、背景に小さくポスターや絵画が写り込む場合
  • 絵画が背景に小さく写り込んだ写真を、ブログに掲載する場合

一方、次のような場合は、原則として著作権者の許諾が必要となります。

  • 本来の撮影対象として、ポスターや絵画を撮影した写真を、ブログに掲載する場合
  • 漫画のキャラクターの顧客吸引力を利用する態様で、写真の本来の撮影対象に付随して漫画のキャラクターが写り込んでいる写真をステッカー等として販売する場合

6)AIを使って生成された画像の場合

AIを使って生成された画像などは、原則として著作権法上の著作物とは認められません。もっとも、文化庁は、AIを使って生成された画像について、既存の画像(著作物)との類似性や依拠性が認められれば、著作権侵害に当たる恐れがあるとの見解を示しています。

なお、写真の創作性について、この記事では詳しく触れませんが、定点カメラで機械的に撮影された写真など創作性がない場合は、著作物とは認められない場合もあります。

5 参考

1)法令

■著作権法■

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=345AC0000000048

■文化庁「いわゆる『写り込み』等に係る規定の整備について」■

https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/hokaisei/utsurikomi.html

2)条約

■文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(抄)■

https://www.cric.or.jp/db/treaty/t1_index.html

■万国著作権条約パリ改正条約■

https://www.cric.or.jp/db/treaty/bap_index.html

3)判例

■最大判昭和44年12月24日刑集23巻12号1625頁:京都府学連事件■

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51765

■最一小判平成17年11月10日民集59巻9号2428頁:法廷写真事件■

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52388

4)その他

■著作権情報センター(CRIC)「著作権って何?(はじめての著作権講座 )」■

https://www.cric.or.jp/qa/hajime/

■デジタルアーカイブ学会「肖像権ガイドライン~自主的な公開判断の指針~」■

http://digitalarchivejapan.org/bukai/legal/shozoken-guideline/

■文化庁「令和5年度著作権セミナー『AIと著作権』■

https://www.youtube.com/watch?v=eYkwTKfxyGY

■文化庁「写真の撮影 | 著作権契約書作成支援システム」■

https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/c-template/type06_precution.php

以上(2023年10月作成)
(監修 三浦法律事務所 弁護士 磯田翔)

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画像:andranik123-Adobe Stock

早くて安い。アイデア続々、トレーラーハウスを使った新事業。意外と細かいルールに注意

書いてあること

  • 主な読者:既存事業の販路拡大や新規事業の開発を考えている経営者
  • 課題:トレーラーハウスで事業展開できるかを知りたい
  • 解決策:事業プランの作成と設置場所の確保をしつつ、製造・販売会社に相談。車両とみなされるように適法な設置をする

1 コツを押さえてトレーラーハウスで新事業に挑戦!

トレーラーハウスとは、

タイヤの付いたシャーシ(車台)の上に居住空間(上物)が乗っている工作物で、車でけん引して移動するもの

です。サイズや重量が道路運送車両の保安基準に適合する場合は、車両(被けん引自動車)として道路を走行できます。車両扱いとなれば、

  • 固定資産税の課税対象にならない
  • 建築確認の申請が必要ない
  • 市街化調整区域など建築に規制のかかる土地にも設置できる

などのメリットがあります。土地さえ確保できれば、建築物を建てるよりも安く早く店舗を開設でき、販路拡大や新規事業に挑戦しやすくなる可能性があります。実際、トレーラーハウスを活用したビジネスは広がっていて、近年特に注目されているのが、グランピングやホテルなどの宿泊施設や飲食店としての活用、市街化調整区域での事務所設置などです。

ただ、トレーラーハウスは、設置方法によっては車両ではなく、建築物として扱われる場合もあります。実際には適法ではない設置がされた使用例も少なくないようです。

せっかくの新事業が法的な問題でつまずいてしまうのは、もったいないことです。トラブルを最小限に抑えるため、この記事では、

  • トレーラーハウスを設置する際の法的な注意点
  • トレーラーハウスの店舗を開業するまでのステップ
  • トレーラーハウスの事業例

について紹介します。

2 トレーラーハウスを設置する際の法的な注意点

トレーラーハウスは、日本建築行政会議(JCBA)により「車両を利用した工作物」とされ、設置方法によっては、建築物とみなされることがあるので、注意が必要です。

なお、日本建築行政会議とは、建築基準法に関わる特定行政庁と指定確認検査機関を会員として設立された行政会議で、建築基準法の解釈や審査・検査の統一化などを図っています。

1)建築基準法上、建築物とされないトレーラーハウスとは

トレーラーハウスが建築物とみなされないためには、次の3つの条件を満たす必要があるとされています。

  1. 随時かつ任意に移動できる状態で設置すること
  2. ライフラインとの接続が工具を使用しない着脱方式であること
  3. 適法に公道を走れること

この条件は、1997年に建設省(現国土交通省)の通達により、バスやトレーラーハウスなどを建築基準法第2条第1号で規定する建築物として取り扱うとされ、それを逆説的に解釈したものとなっています。

建築物として取り扱う場合は、次のいずれかに該当するものとなります。

  • トレーラーハウス等が随時かつ任意に移動することに支障のある階段、ポーチ、ベランダ、柵等があるもの
  • 給排水、ガス、電気、電話、冷暖房等のための設備配線や配管等をトレーラーハウス等に接続する方式が、簡易な着脱式(工具を要さずに取り外すことが可能な方式)でないもの
  • 規模(床面積、高さ、階段等)、形態、設置状況から、随時かつ任意に移動できるとは認められないもの

なお、

  • 事前に建築確認申請を行わず、車両とされる条件も守っていない場合
  • 使用中に「随時かつ任意に移動できない」設置になった場合

は、その時点で違法建築物となります。違法建築となった場合、建築物の改築、移転、除却などの命令を受け、是正しない場合は、懲役や罰金の罰則が科されることもあります。

2)「道路運送車両の保安基準」上のトレーラーハウスとは

トレーラーハウスは、

住居、店舗、事務営業所、公共施設等として使用するための施設・工作物を有する被けん引自動車であって、その大きさが「道路運送車両の保安基準」第2条の制限(長さ12メートル、幅2.5メートル、高さ3.8メートル)を超えているもの

です。保安基準を超えた大型のトレーラーハウスは、設置予定地の運輸局に基準緩和の認定を申請し、管轄する国道事務所などで特殊車両通行許可を取得することで公道を走行できるようになります。

なお、保安基準第2条の制限以内のトレーラーハウスは、車検を取得する必要があります。

3)都市計画法上、トレーラーハウスが設置できる場所とは

都市計画法上、市街化調整区域では建築や特定工作物の建設が規制されますが、トレーラーハウスは建築物に当たらないため、設置基準を満たしていれば設置できる可能性があります。

ただし、自治体によってはトレーラーハウスであっても設置が禁止されている地域があります。また農地の場合、管轄する農業委員会への確認が必要となります。

3 トレーラーハウスの店舗を開業するまでのステップ 

トレーラーハウスの価格帯は、土地代を別にして、本体の製作費、運搬費、設置諸費用、自動車税等、トレーラーハウスの法的基準の整備や普及を図っている日本トレーラーハウス協会(以下「協会」)への申請費などを合計し、600万円から1000万円ほどになるようです。特に本体は安いものであれば、1台200万円前後で購入できるものもあるそうです。

■日本トレーラーハウス協会■

http://www.trailerhouse.or.jp/

1)設置したい場所を確保し、内装などイメージを固める

トレーラーハウスを使ったビジネスをする際は、まず設置する土地の確保が必要です。例えば、大自然を満喫するグランピングルームをつくりたいと思っても、確保した場所までトレーラーハウスを運搬できないとなると本末転倒です。トレーラーハウスを使ったビジネスコンセプトにふさわしい場所を探しましょう。

2)事業内容が決まったら許認可や申請先などを確認する

土地が決まったら内装などのイメージを固め、許認可や申請の必要な事業であれば、その確認も必要です。例えば飲食店や宿泊施設であれば、食品衛生管理者資格や旅館業の営業許可の取得、所轄の保健所と消防署への申請が必要になります。

なお、車両であるトレーラーハウスは消防法の適用外ですが、トレーラーハウスでの宿泊施設が増加していることから、一部の自治体では消防法が適用されるケースも出てきているそうです。そのため協会では、用途によっての防火基準を定めています。また、製造・販売メーカーは国土交通大臣が認定した防火材料で製作し、無線式警報装置を設置するなどの対応も行っているようです。

また、協会では許認可が必要となる運送・飲食・宿泊などの事業は、は「車検付トレーラーハウス」に限定します。

3)製造・販売会社に相談する

設置はトレーラーハウスの製造・販売を行っている会社に相談するとよいでしょう。協会では、加盟会社をウェブサイトで公開しているので、設置場所に近い地域の会社を探すことができます。トレーラーハウスは製作場所から設置場所まで運搬しなければいけないため、両者が近いほうが運搬コストを抑えることができます。

4)購入か、リースかを決める

購入は新品の場合は納品までに1、2カ月ほどかかるそうですが、中古の場合はもっと早くなるそうです。

また、イベント出店などの一定期間のみの設置でリース利用をしたい場合は、リースを行っている製造・販売会社か確かめてから連絡しましょう。

5)日本トレーラーハウス協会の調査を受ける

相談を受けた製造・販売会社は協会にトレーラーハウスを設置する際に形状や設置場所などに問題がないかを確認します。

6)設置場所まで運搬・設置してもらう

トレーラーハウスは製作現場から設置場所まで運搬され、到着すると設置作業に入ります。設置場所にもよりますが、設置は数時間から半日程度で終わるそうです。設置後、不備がないか協会の設置検査(図表参照)を経て、受け渡しとなります。

なお、協会は設置検査報告とともに、適法に移動できることを証明する公的な書類(車検証または基準緩和認定書と特殊車両通行許可症証)をトレーラーハウス内に常備しておくことを勧めています。

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7)撤去・移動の際には

トレーラーハウスは給排水、ガス、電気、電話などの配線や配管が工具を使わずに着脱可能であることが前提のため、別の場所への移動も容易です。運搬に関しては発注した製造・販売会社に相談するといいでしょう。

4 トレーラーハウスの事業例

実際に中小企業がトレーラーハウスを活用して事業を行っている例を紹介します。

1)宿泊施設

1.グランピング施設:Tiny Cabin TATEGU 軽井沢御代田

建具屋の花咲(東京都板橋区)は、「アウトドアが体験できるトレーラーハウス」というキャッチフレーズでグランピング施設を軽井沢で開業しています。2区画の森の中に1台ずつ設置して、木の素材を活かしたデザインにするなどし、非日常感を演出しているそうです。2区画は、屋外BBQエリア、薪サウナなどが設置されている区画と、ドッグラン、電気サウナなどが設置されている区画とになっているそうです。

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2.トレーラーホテル:Trail inn

トレーラーハウスの製造・販売や宿泊施設を運営するヒーローライフカンパニー(東京都港区)は、自社工場で製作した木質ユニットを活用したトレーラーハウスを使い国内9カ所のトレーラーホテルを運営しています。1台を1室として独立して、セルフチェックインで入室できるようです。

2)飲食店

1.バー:BAR GREEN ATSUMA

BAR GREEN-厚真-(北海道勇払郡厚真町)は、トレーラーハウスのバーとして同町で運営しています。かつてバーテンダーだった職歴を活かしてトレーラーハウスのバーを開業したといいます。店内にはDJブースもあり、CDやレコードを持ち込むことができるそうです。

2.カフェ・ステーキ:隠れの宮 あさごろも

隠れの宮 あさごろも(愛知県蒲郡市)は、トレーラーハウスのステーキ店として同市で運営しています。三河湾を眺めながらゆっくりブランチを楽しむ」をコンセプトにした店で、狭くてもメニューを充実させた店をつくりたく、トレーラーハウスなら自由に設計できると思って開業したそうです。

3)事務所

運送会社「阪神ロジテム」(兵庫県西宮市)は、事務所と乗務員の休憩施設を併設する岡山営業所(岡山県倉敷市)を、2台のトレーラーハウスにしています。一般的に、トラックなどの車両保管場所は建物を建てられない市街化調整区域であることが多く、従来の岡山営業所は車庫と営業所が約2キロメートル離れていました。そのため、飲酒チェックや車両の様子を報告する「乗務前点呼」を行う際、ドライバーは駐車場に出勤しトラックを点検した後に、点呼のためにマイカーで営業所まで移動し、再び駐車場へと戻る必要があったそうです。

車庫と同じ敷地内に営業所を設置することで、ドライバーの負担が大幅に軽減され、経費削減にもつながったといいます。

4)トレーラーハウス製造・販売

トレーラーハウス事業への進出が増えているのが住宅メーカーだといいます。住宅メーカーは自社の建築や販売のノウハウを活用できるので、新事業として参入しやすいそうです。住宅メーカーがトレーラーハウス事業に参入した例を紹介します。

1.住宅メーカーのノウハウを活かし製造・販売

住宅メーカーのアースデイ・システム(広島県福山市)は、一般住宅並みの構造や建材を採用して耐震性、快適性を持たせたトレーラーハウス「DASH‐BASE」を製造・販売しています。店舗・オフィス用と風呂など水回り設備付きの住宅用を用意。別荘や庭に置ける趣味の部屋を持ちたい個人や初期投資を抑えて店舗を構えたい飲食店、理美容院などの需要を取り込む狙いだそうです。

2.トレーラーハウス製造・販売企業と代理店契約を結ぶ

狭小地の住宅建築が得意分野で、デザイナーズ戸建賃貸住宅の設計施工を手がけるエーテル(岐阜県多治見市)は、トレーラーハウス製造・販売のカンバーランド・ジャパン(長野県長野市)と代理店契約を締結し、トレーラーハウスの専門展示場を開設しました。住居タイプを1台、店舗タイプ1台、床暖房完備の寒冷地仕様1台の3台の屋上付きトレーラーハウスを展示しています。また、法人利用についてはリースやレンタルにも対応する他、不要になった場合の売却もサポートするそうです。

以上(2023年10月作成)

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【中堅社員のスピーチ例】仕事を回すための“いい加減”

おはようございます。私が今年度の初めに課長を拝命してから、半年が経ちました。以前は上司から与えられた仕事をこなしていればそれでよかったのが、今は自分の仕事をこなしながら、部下にも仕事を割り振って部署全体を回していかなければならない立場になりました。皆さんもご存じの通り、失敗することもあった半年間ですが、今日はその中で1つ学んだことをお話しします。

皆さんは、「使う者は使われる」ということわざをご存じでしょうか。「誰かに仕事を頼む際は、準備が必要だし気苦労も多い。だから、人を使う立場の者は、実際には使われているようなものである」という意味です。

私は、管理職になってから最近まで、この「使う者は使われる」状態に陥っていました。部下に仕事を頼む際に、仕事のやり方をペーパーにまとめたり、間違っているところがあればマンツーマンで指導したりと色々と気を回しているうちに、自分のために割ける時間が少なくなってしまったのです。それが管理職の役割だと自分に言い聞かせつつも、「本当にそれでいいのか」と悩んだ時期がありました。

そんなときに、ある出来事が起きました。部下に新しい仕事を頼もうとした際、普段ならペーパーを作るところ、どうしてもそれを作る時間が取れなかったのです。やむを得ず、私は過去の成果物を部下に渡し、「大体こんな感じでやって!」というザックリした指示を出しました。

他の用事を済ませた後、「仕事の頼み方が“雑”過ぎたかもしれない。大丈夫かな」と、申し訳なさや心配を抱えつつ部下のもとに戻ったのですが、いざ戻ってみると、部下は私が頼んだ仕事をほぼ完璧な形でやり遂げていました。ペーパーを準備しなくても、過去の成果物を見せるだけで、彼は仕事のイメージをつかんでいたのです。

もちろん、指示を出したのは、彼ならある程度できるはずと思ったからですが、救われた気持ちでした。同時に、「これまで他の人に仕事を頼む際は、自分なりに完璧に準備しておかないと気がすまなかったが、それは自己満足に過ぎないかもしれない。良い意味で“いい加減”にできれば、もっと仕事は回せる」ということを学んだのです。

細かく管理しなくても仕事をこなせる部下のために必要以上に時間を割くのは、その人の力量を疑っているともいえます。だったら、おおまかな指示だけ与え、後は信じて任せるのもありだと考えました。もちろん、それによって空いた時間は無駄にはしません。まだ仕事に不慣れで細かい管理を必要とする人には、より多くの時間を割くようにしますし、外に出て勉強するなど自分のための時間を確保することも忘れません。

何に対し、どれだけ時間を割くのが適切なのかを常に考えながら、下半期も頑張ります。ただ、まだまだ半人前の管理職ですから、皆さん、私の指示や指導が「ずさん」だと思ったら、そのときは遠慮せずに言ってくださいね。

以上(2023年10月)

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『傾聴』の基本“姿勢”とは/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』(4)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
  • 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。

1 『傾聴』には“姿勢”と“技術”が必要

今シリーズでは、ここ10年ほどで“真逆”と言えるほどに変化しているビジネス上の価値観を取り上げています。

それは30代後半~50代の昭和生まれ世代の管理職と、現場を任されている平成生まれ、とりわけ「Z世代」とのギャップであり、同時に「世界とのギャップ」として表れています。

シリーズでは、社内で現在リーダーを担っている皆さん、今後担っていくであろう皆さんに、このギャップを埋めていただくために必須のコミュニケーション習慣をご提案しています。

「自分はもうすぐ定年だから今さら変わらなくていい」と考えている中高年の方も、人生100年時代の後半を、若い世代の人とも楽しく生きていただくためにぜひとも身に付けておきたい習慣です。

さて、前回は習慣その1として『傾聴』を取り上げました。私が講演や研修の際に行っているロールプレイング、また夫婦の会話の事例から、「傾聴である」と「傾聴でない」状態を比較して違いをご紹介しています。

『傾聴』は“コーチング(注)”の基本でもあると申し上げました。身近な人との会話からでもよいので、ぜひ一度試してみてください。変化の激しい時代に、会社組織の中の一人ひとりの社員が自律的に判断し行動できるようになるためには、コーチングは有効です。

(注)コーチングとはティーチングのように一方的に教えたり、指示命令したりするのではなく、適切な質問を投げかけることで、次第に本人の中に既にある気付きを浮かび上がらせる手法です。

事例として紹介した夫婦の会話の中では、後者の夫は意識的にか無意識にか、『傾聴』における【承認】や【共感】の手法を使っていました。

『傾聴』には“姿勢”と“技術”が必要です。その手法を知り、意識的に使えるようになれれば、人間関係はとてもスムーズで良好なものに変わります。職場の上司と部下の関係も、人生のパートナーや友人との関係も、良好なものに変えられるのです。

2 『傾聴』はまず、相手の話を真剣に聞こうとする“姿勢”から

『傾聴』のゴールは、相手の話を余すところなく引き出すことです。そのためにまず大切なのが“姿勢”です。

前回ご紹介した「傾聴である」状態と「傾聴でない」状態の比較での、「傾聴でない」状態の“姿勢”を思い出してください。

パソコンなど他の作業をしながら聞く、相手のほうに体を向けない、相手の目を見ないで聞くなどは論外です。その時点で相手はこう思うでしょう。「この人は私の話を真剣に聞くつもりがないらしい。話したい気持ちがすっかりなくなってしまった」と。

『傾聴』の基本“姿勢”は、相手の話を真剣に聞こうとしている姿を見せることです。

姿勢1)相手のほうに体を向け、適度に視線を合わせながら聞く

姿勢2)最後まで聞こうとする(途中で遮る、決めつける、まとめたがる、結論を急がせるなどはNG)

1)の際の理想の姿は、互いに座った状態で、真正面より、机の角を挟んだ隣の関係です。立った状態では落ち着かないですし、真正面は相手と戦う位置関係になりがちです。相撲では向かい合って見合いますし、刑事が被疑者を取り調べるときも真正面です。時には隣同士でもいいですが、互いの表情や反応が見づらい欠点があります。

目線もあまり相手の目を見つめすぎると、相手は戦いを挑まれているような気持ちになるものです。知らない犬など動物の目を見続けると、ほえたり襲ったりしてくるのと同じです。時々目線を外すようにする。また鼻のあたり、あるいは眉や口元のあたりを見ると、相手はこちらを見てくれていると感じるけれど、見続けられているような緊張は感じないようです。

せっかちな人は、2)のカッコ内のNGをやりがちではないですか。逆の立場を想像すれば分かりますが、話を途中で遮られたり、一方的に決めつけられたり、「要するに〇〇ということでいいですか」と先走られたり、「で、で、で、結論は?」と急かされたりすると話しづらいものです。話す相手が上司となればなおさらでしょう。

むしろ相手の話が途切れたら、聞き手のほうから「話したかったことは以上ですか? 全部話せましたか? 続きがあれば聞きますよ」と添えるくらいの配慮が欲しいところです。

3 話の緊急度を確認しながら、じっくり話を聞ける環境を作る

とはいえ、上司の皆さんからはこんな声も聞こえてきそうです。「自分も抱えている仕事がたくさんあって忙しい。いちいちゆっくり話など聞いていられない」「部下の話を聞きたいのはやまやまだが、たくさんいるので一人ひとりの話をゆっくり聞く時間を取れない」

そういう上司の皆さんは、上司=管理職の本来の仕事を忘れてしまっていませんか。

組織とは1人でできないことを、多くの人がそれぞれの強みを活かしながら手分けして、また協力して頑張ることで成し遂げるために存在します。となれば上司にとって優先するべき仕事は、部下の報告・相談・連絡を聞いて、時に励まし、時に助言し、頑張りや良い結果を褒めてさらにやる気を引き出すことではないでしょうか。

シリーズの冒頭で申し上げたように、職場や上司に求められるものはここ10年で大きく変わりました。職場にはより「個性の尊重/助け合い」を、上司にはより「丁寧な指導/褒める/傾聴」を求めているのです。

現実には上司の皆さんも雑多な業務を抱えていて、締め切りに追われているかもしれません。そんな折に突然部下が「すみません、ちょっといいですか。相談があるのですが」とやってきたら、あなたならどうしますか?

例えば、次の2つの対応では、どちらがよいでしょうか。

A.今忙しいので、仕事をしながら聞かせてもらいます。できるだけ簡潔にお願いします(と告げて、仕事の手を動かしながら相手のほうを見ないで聞く)

B.(相手のほうに体を向けて)実は今、〇時締め切りの〇〇の仕事をしているのだけど、まずはポイントだけでも聞かせてくれますか? その上で詳しい話を今聞いたほうがいいか、後で時間を取ってじっくり聞いたほうがいいか、緊急度を相談した上で決めるのでどうでしょう?

部下は、B.のほうが相談しやすいことでしょう。「緊急度を相談した上で」と上司が一方的に決めつけていない点も重要です。

上司から「そんな緊急度の低い話は後にしてくれ」と頭ごなしに言われたら、部下はどう思うでしょうか。「緊急度は自分では判断できないけれど、上司に言えばきっと怒られる。だったらそもそも相談するのを止めよう」となるはずです。

もちろん相談しないで、後で緊急度が高かったと分かれば、「なぜ相談しなかったんだ」と怒られるのでしょう。これでは部下の判断力も鍛えられないばかりか、モチベーションは下がっていくばかりです。

現場のことを一番分かっているのは部下のほうです。緊急度は上司と部下が互いに相談した上で判断するべきです。そうすれば、部下の判断力も育って無駄な急ぎの相談もなくなり、モチベーションも上がっていくことでしょう。

4 一度、相手の話を最後まで100%聞いてみてください

先ほどのB.のように、部下からの相談をまずはポイントだけを聞いた上で、緊急度を相談し、重要だけれど数日中に詳しい相談を聞けばよいと判断したとしましょう。そこで次の2つの対応では、どちらがよいでしょうか。

C.今日なら夕方〇時から30分くらい取れると思うからそこでいいかな。

D.今日なら夕方〇時から30分くらい取れると思うけれど、あなたの予定はどうですか。30分で足りるかな。時間が合わなかったり、時間がもっと必要だったら、明日でも大丈夫かな。私のスケジュールを見て、あなたの可能な時間に入れておいてくれますか。もし関連する資料などあれば、送っておいてください。それまでに見ておきます。

こちらも後者のD.のほうがより適切でしょう。相談内容を知っているのは本人です。相談の習熟度にもよりますが、必要とする時間も本人に判断させてみましょう。早く終われば切り上げればいいだけですし、本人も次は短時間にすればよいと学ぶでしょう。時間が足りない場合は、そのまま延長できなければ改めて予定を組めばいいのです。

今回、『傾聴』の基本“姿勢”を知って、自分はこれまで『傾聴』ができていなかったなと気付いた方は、とにかく一度、相手の話を最後まで100%聞いてみることにトライしてみてください。

100%話し終わった後の相手の満足そうな表情を見られ、改めて自分がこれまで十分に『傾聴』ができていなかったことに気付かされます。同時に相手はあなたに話せば最後まで話を聞いてくれるという安心感を覚え、これからも何かあればすぐに相談してくれる関係に変われると思います。

最後まで相手の話を聞くことで、もう1つ気付くことがあります。本人が話している途中で「あっ」という表情になって、途中で自ずと答えが見つかることが少なからずあるのです。

話を聞いてもらっているうちに問題点が整理されて、何が課題で自身が何をするべきかが見えてくるのです。そんな表情になったらこう声をかけてみましょう。「それで、あなたはどうすればいいと思いますか?」

自分で考えて出した答えを元にやるのと、上司からの指示命令通りやるのでは、天と地ほどの差があります。前者は本人の成長につながります。これを繰り返せば社員一人ひとりがそれぞれ自律的に考え、行動できる組織へと変われるのです。

「今回、私に話しているうちに自分なりの答えが見つかったみたいですね。緊急のときはもちろんすぐに相談してほしいですが、余裕があれば私に話すつもりで自分の中で一度整理してみてください。そうすれば相談するまでもなく答えが見つかるかもしれませんよ」

相談ではなく本人が考えて出した答えを宣言してもらう、あるいは任せて行動してみた結果を事後報告してもらう。いずれにしても、部下は育ち、上司であるあなたは他の仕事に集中する時間をもてるようになるでしょう。

上司がただ『傾聴』するだけで、上司と部下の関係が互いにハッピーな状態に変われるかもしれないのです。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回は、『傾聴』の“技術”とその上手な使い方について実践的にお話ししていきたいと思います。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

以上(2023年10月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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【債権回収(21)】通常訴訟による債権回収

書いてあること

  • 主な読者:訴訟提起による債権回収を検討している経営者
  • 課題:訴訟を起こすことのメリットやデメリットをしっかりと押さえておきたい
  • 解決策:判決で決着がつくが、それまでに時間とコストが掛かる。また、相手に支払う資産があるか、判決に従うかは別の問題となる

1 訴訟による債権回収

相手から任意に支払いを受けることが難しい場合、

裁判所の判決ではっきりした決着をつける(和解もある)のが訴訟

です。訴訟では、裁判所が争点となった債権債務の存在や金額を判決によって判断します。また、他の制度のように金額や債権の種類に制限はありません。そして、判決が出て控訴等がなされず確定すれば、その判決は「債務名義」と呼ばれ、「強制執行」ができます。

ただし、本格的に訴訟を提起する場合、弁護士に依頼して準備する必要があり、コストが掛かります。また、個別の事案によりますが、

訴訟提起から判決に至るまで1年以上掛かる

ことも少なくありません。その間に相手の財産状況が悪化したり、財産を隠匿されたりすると、勝訴したとしても回収できなくなる恐れがあります。そうした事態に備え、訴訟を提起する場合は仮差押えや仮処分なども利用しておくことが考えられます。さらに、裁判所から判決を得る場合は、売掛金などの存在や金額について、契約書、発注書、注文請書、納品書、請求書などによって証明しなければなりません。特に、取引先が作成した書類は重要な証拠になります。

訴訟のメリットとデメリットは次の通りです。これらを考慮して別の手段も検討しつつ、訴訟を提起するかを判断しましょう。

【訴訟提起のメリット】

  • 取引先と争いがある場合、終局的な解決を図ることができる
  • 勝訴判決を得れば、その判決に基づいて「強制執行」ができる

【訴訟提起のデメリット】

  • 訴訟を提起する場合、弁護士費用などの相応のコストが掛かる
  • 勝訴判決を得るためには、十分な立証が必要になる
  • 判決を得るまでに時間がかかる

2 訴訟の流れ(民事訴訟の場合)

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訴訟を提起する場合、まず訴状と証拠書類一式を裁判所に提出します。裁判所は、請求をする当事者(原告)が提出した訴状や証拠書類を審査し、相手方となる取引先(被告)に対し、訴状や期日呼出状を送達し、被告に反論があれば、反論をするように求めます。これに対して、被告は、反論となる答弁書や証拠を裁判所と原告に提出して、期日に出頭します。

期日では、裁判所が原告と被告の双方の主張を聞いて証拠を調べます。さらなる反論や追加の主張がある場合、必要に応じて複数回の期日が開催されます。個別の事案によりますが、このように書面および証拠のやり取りを通じて争点を絞り込んでいくやり取りがおおむね半年から1年程度続きます。

その後、双方の主張や証拠がおおむね出そろったものの、証拠書面だけで判断ができない場合は証人尋問が行われます。証人尋問が終わり、双方の主張や証拠が出尽くしたところで、審理を終結して判決がなされます。ただし、訴訟の進行状況により、裁判所から和解を勧められ、途中で和解が成立して訴訟が終了することもあります。以上のように、訴訟提起から判決までの期間は1年から1年半程度掛かることが通常です。

3 他制度との比較

訴訟に準じる手続として、民事調停、支払督促、少額訴訟などがあります。これらも裁判所を利用しますが、より簡易な手続となっているので検討してみてください。

1)民事調停との違い

裁判所を利用した話し合いの制度として、「民事調停」があります。民事調停は、簡易裁判所の裁判官と民間の有識者(弁護士や不動産鑑定士など)から選任された調停委員が間に入って、話し合いで解決を図る制度です。通常2~3回の期日で解決するものとされているため、訴訟と比較して時間や費用も掛からないというメリットがあります。

しかし、相手が全面的に争う姿勢の場合、話し合いによる解決の余地はなく、調停を申し立てる意味はないといえます。

2)支払督促との違い

形式的な書面審査のみで申し立てることができる制度として、「支払督促」があります。訴訟のように期日が開かれず、債務者から異議が出なければ、申し立てた通りの債務名義が得られるため、簡易迅速な手続きであることがメリットです。裁判所に納める収入印紙も訴訟の半分で済みます。

しかし、相手方に異議があると通常の訴訟に移行するデメリットがあります。そのため、相手が全面的に争う姿勢の場合、余計に時間が掛かることや、相手方住所地を管轄する裁判所での手続になるなどの不利もあり、初めから訴訟を提起することが考えられます。

3)少額訴訟との違い

請求金額が60万円以下の場合には、1回の期日だけで主張と立証を行い、裁判官が判決を出す制度として「少額訴訟」があります。

しかし、相手方が少額訴訟による審理を希望せず、通常訴訟に移行させたいとの申し出をした場合、通常訴訟に移行してしまうデメリットがあります。

以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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画像:Mariko Mitsuda

【債権回収(20)】少額訴訟手続の利用

書いてあること

  • 主な読者:60万円以下の債権を迅速に回収したい経営者
  • 課題:通常の訴訟のような時間、費用を掛けたくない
  • 解決策:少額の場合に有効だが、判決が不服でも控訴はできない

1 少額訴訟手続を利用する意義

少額の債権をスピーディーに回収したい場合、「少額訴訟手続」を利用するのも1つの方法です。少額訴訟手続とは、

簡易裁判所において、60万円以下の金銭債権の支払いを求める訴えについて、原則として1回の審理で争い事を解決する特別な手続き

です。もともとは市民同士の小規模な争いを迅速に解決するために設けられた制度であり、法廷ではなく、ラウンドテーブルで手続きが行われることも特徴です。また、

少額訴訟手続における「確定判決」や「仮執行宣言を付した少額訴訟判決」は「債務名義」の1つ

です。債務名義とは、「強制執行」をする根拠となる文書であり、「債権債務の存在を公に認めるもの」です。また、強制執行とは、「判決によって債務の履行が決まっているのに相手がそれに応じない場合、国家の強制力によって判決で命じられた内容を実現する」ことです。通常の訴訟では、勝訴して、確定判決を得るまでに時間とコストが掛かりますが、

60万円以下ではあるものの、少額訴訟はスピーディーな債権回収が期待

できます。少額訴訟のメリットとデメリットは次の通りです。

【少額訴訟のメリット】

  • 原則、1日で終了する
  • 勝訴判決には必ず仮執行宣言が付くので、すぐに強制執行が可能
  • 自分で手続きをすれば弁護士費用は掛からない

【少額訴訟のデメリット】

  • 判決に不服でも、その上の裁判所(地方裁判所)に控訴できない(当該判決を下した簡易裁判所への異議申立てはできる)
  • 被告が通常の訴訟に移行することを求めた場合、少額訴訟はできない

2 少額訴訟手続の流れ

少額訴訟手続の流れは次の通りです。

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1)訴状、証拠書類の提出

債権者は、簡易裁判所に訴状と証拠書類を提出することで、60万円以下の金銭債権について、簡易裁判所に少額訴訟を求めることができます。ただし、1人が1年間で同一の簡易裁判所に少額訴訟を申し出ることができる回数は10回までです。

少額訴訟は原則として1回の期日で審理を完了するため、期日までに自身の主張を基礎付ける証拠をすべて提出する必要があります。

2)審理と和解

相手が少額訴訟に応じる場合や、答弁書を提出せず期日に裁判所へ出頭しないなど、期間内に通常の訴訟手続に移行する申述がない場合は、少額訴訟の審理が行われます。

前述した通り、少額訴訟の審理では、最初の期日までに、債権者と債務者の言い分と証拠を提出します。証拠は最初の期日に調べられるものに制限されます。従って、「争いの内容が複雑」「調べる証人が多い」など1回の審理で終わらないと予想される場合、裁判所の判断で通常の訴訟手続に移行される場合もあります。

なお、少額訴訟あるいは異議後の通常の訴訟においても、話し合いにより、途中で和解することができます。和解が成立すると、裁判所書記官がその内容を記載した和解調書を作ります。和解調書の効力は確定した判決と同じなので、相手が和解で約束した行為をしない場合、もう一方は、裁判所に対して強制執行の申立てができます。

3)判決

判決の言い渡しは、相当でないと認められる場合を除き、口頭弁論の終結後、直ちに行われます。確定すると、判決の内容を争うことができなくなります。また、債権者の言い分が認められた判決には、「この判決は、仮に執行することができる」という仮執行宣言が付されます。

なお、少額訴訟の判決では、通常の民事裁判のように原告の言い分を認めるかどうかを判断するだけでなく、一定の条件の下に分割払い、支払猶予、訴え提起後の遅延損害金の支払免除等を定めることができます。

4)控訴の禁止と異議

少額訴訟の判決に対しては、同じ簡易裁判所に異議の申立てができるだけで、地方裁判所に控訴することはできません。

異議の申立ては、判決書または調書の送達を受けた日から2週間以内に行います。適法な異議があったときは、少額訴訟の判決をした裁判所と同一の簡易裁判所において、通常の手続きにより審理および裁判をします。異議後の訴訟においても反訴を提起できない、異議後の訴訟の判決に対しては控訴できない等の制限があります。

5)費用

裁判所に納める費用(申立ての手数料)は、訴訟の目的の価額が100万円までの部分は、10万円ごとに1000円です。従って、目的の金額が60万円の場合は6000円です。また、これに加えて郵便切手代が必要となります。

以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 渡邉和也)

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【債権回収(19)】当事者間で一定の結論が出ている場合に有効な「即決和解制度」

書いてあること

  • 主な読者:債権債務について相手とある程度の合意に至っている経営者
  • 課題:当事者だけでは不安なので、裁判所が関与する形で和解したい。裁判は避けたい
  • 解決策:即決和解で裁判所の関与の下で和解する。和解調書は判決と同様の効力がある

1 即決和解を利用する意義

即決和解とは、「裁判上の和解」の一種で、

当事者が民事上の争いについてある程度の合意がある場合に、裁判所へ申立てをして裁判上での和解を行う制度

です。訴訟の提起前に行われるので「裁判前の和解」とも呼ばれます。ちなみに、示談など裁判所が関与しないものを「裁判外の和解」といいます。

即決和解の場合、裁判所が作成する和解調書は「債務名義」として、判決などと同様の強い効力があります。債務名義とは、「強制執行」をする根拠となる文書であり、「債権債務の存在を公に認めるもの」です。強制執行とは、「判決等によって債務の履行が決まっているのに相手がそれに応じない場合、国家の強制力によって判決等で定められた内容を実現する」ことです。

これに対して、示談(=裁判外の和解)の場合、それだけで強制執行はできません。相手が、考えを変えて、任意に債務を履行しない場合、訴訟を提起する等して債務名義を取らなければなりません。即決和解の方が一段効力が強い、といえます。

即決和解のメリットとデメリットは次の通りです。

【即決和解のメリット】

  • 判決と同じ効力が認められる
  • 裁判所に支払う費用は低額で済む
  • 金銭請求に限られない

【即決和解のデメリット】

  • 当事者間で合意があることが必要
  • 和解条項(案)の作成や書類の提出、各種目録の作成などの手間がかかる
  • 申立てから和解期日指定まで平均1カ月程度を要する

メリットで紹介した「金銭請求に限られない」について補足をします。当事者の合意を債務名義にする方法の1つに、「強制執行受諾文言付きの公正証書を作成する」がありますが、この金銭債権に関する合意でしか使えません。これに対して、即決和解は金銭債権に限らず、建物の明渡しなどについても使うことができます。

2 即決和解手続の流れ

即決和解の流れは次の通りです。

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1)当事者間での事前の話し合い

即決和解を申し立てる前提は、「民事上の争いがあり、これを当事者間で話し合って、和解条件に折り合っていること」です。この条件を満たせば、債権者と債務者のどちらからでも申立てができます。

2)即決和解の申立書の提出

即決和解の申立ては、相手の住所か主たる営業所の所在地を管轄する簡易裁判所に対して行います。申立書には、紛争の内容を記載する他、合意に至った内容を和解条項(案)として添付します。その他の書類や、和解調書に添付するための目録(当事者目録や物件目録など)の提出が必要になることもあります。

3)和解期日までの準備

申立てがあると、裁判所において申立内容の審査を行う他、書類の追完を申立人に求めたり、和解条項の修正を依頼したりします。

その後、裁判所は当事者の希望を聞いて和解期日を指定します。その際、相手方が裁判所に出頭できる日は、申立人において確認することが求められます。

4)和解期日

和解期日では、当事者双方が和解条項について合意し、かつ、裁判所が相当と認めれば、和解が成立します。裁判所は「和解調書」を作成して当事者に交付します。

5)和解調書の効力

即決和解の手続により作成された和解調書は、確定判決と同一の効力を有します(債務名義になります)。従って、和解調書に基づいて強制執行が行えます。

6)費用

裁判所に納める費用(申立ての手数料)は、原則1件につき収入印紙2000円です。

その他、送付手数料として、郵便切手が必要になりますが、管轄裁判所や当事者の人数などによって納める金額が異なりますので、事前に裁判所に確認しましょう。

なお、東京簡易裁判所では、郵便切手645円(相手方1名につき(内訳:500円切手1枚,50円切手2枚,20円切手2枚,5円切手1枚)とされています。

7)速やかに即決和解を得たい場合

即決和解は、簡易裁判所でしか扱わない簡易裁判所の専属管轄となります。一般的には上記2)に記載した通り、相手の住所等を管轄する簡易裁判所に申し立てます。しかし、実務上、簡易裁判所の事件継続が多く、先の期日でなければ裁判期日が入らないこともあります(東京簡易裁判所などは、2~3カ月先になる場合もあります)。速やかに即決和解を得たい場合、相手方と協議して、別の簡易裁判所を探し、そこで即決和解をする管轄の合意を取って申立てをすれば、2~3週間で期日が入り、速やかに即決和解を得ることができます。

以上(2023年9月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:Mariko Mitsuda