【労基署の臨検】送検される会社は全体の何パーセント? 労働基準監督年報で確認してみた

書いてあること

  • 主な読者:労働基準監督署の臨検監督について知りたい経営者、人事労務担当者
  • 課題:自社に調査が入る可能性や、送検される可能性がどのぐらいあるのか分からない
  • 解決策:厚生労働省「労働基準監督年報」でおおよその傾向を理解する。2022年のデータによると、調査が入る可能性は4.49%、送検される可能性は0.02%

1 ウチの会社にも労働基準監督署がやって来る?

労働基準監督署(以下「労基署」)による臨検監督(以下「臨検」)とは、

労基署の労働基準監督官(以下「監督官」)が会社(事業場)を訪問するなどして、労働基準関係法令に違反していないかをチェックすること

です。厚生労働省「令和4年労働基準監督年報」によると、2022年中に実施された臨検の状況は次の通りです。

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適用事業場382万3470件のうち、実際に臨検が実施されたのは4.49%、違反があったのは2.93%、司法処分を受けた(経営者などが検察庁に送検された)のは0.02%です。このパーセンテージだけを見ると、自社に臨検が入ったり、送検されたりする可能性は低そうです。ただし、押さえておきたいのは、

2024年4月に「労働時間」「労働条件の明示」など、労働基準法関連の重要な法改正があった関係で、今後、労基署の動きが活発になる可能性がある

ことです。以降では、図表1の労働基準監督年報のデータをもう少し細かくひもといて、労基署の臨検に関する現在の状況を探っていきます。

2 流れをもう一度! 定期監督や申告監督の件数は?

現在の臨検の状況についてイメージがつかみやすいよう、定期監督等(定期監督+災害時監督)と申告監督のフローと件数を整理したのが図表2です。

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前述した通り、司法処分(送検)までいくケースはまれですが、ただ送検されるだけでなく、会社名や違反内容が厚生労働省ウェブサイトで公表されるという、会社にとっては無視できない事態も招きます。

ちなみに、2023年3月1日から2024年2月28日までの公表事案を見ると、

1年間で約400件の会社が、賃金不払いや安全衛生管理の不備などで送検

されています(厚生労働省「労働基準関係法令違反に係る公表事案(2024年3月31日掲載)」)。

■厚生労働省「労働基準関係法令違反に係る公表事案(下記URLのページ中段)」■
https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/151106.html

3 どのような業種の会社が臨検の対象になりやすいのか?

臨検の種類ごとに、2022年の実施件数が最も多い業種を見ていくと、

  • 定期監督等(14万2611件) → 建設業(4万9284件)
  • 申告監督(1万6639件) → 商業(2641件)
  • 再監督(1万2278件) → 製造業(4546件)

となっています。重大な労働災害が起きやすい業種や、労働基準関係法令の違反が多い業種は、臨検の対象となりやすいようです。

なお、厚生労働省は各年度の労働に関する施策の方針を示した「地方労働行政運営方針」を公表していますが、2024年度については、

2024年4月より「時間外労働の上限規制」の適用対象となった建設業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)についても監督指導を行っていく旨

が示されています。ただし、こうした事業・業務については、「取引慣行などの関係で個々の事業場だけでは長時間労働の是正が困難な場合がある」とも言っていて、指導については慎重を期して行っていく方針のようです。

業種以外では、会社のライフサイクルなども関係することがあります。例えば、成長期にあり、従業員数を大幅に増やしている企業などは、労務管理が煩雑になりやすく、申告監督などが入りやすい傾向にあるようです。

4 どんな法令違反が指摘されている?

ここまで、調査・臨検の種類やフローなどを中心に紹介してきましたが、

大切なのは、日ごろからきちんと労務管理を行い、調査・臨検を受けることになっても、法令違反なしで完結すること

です。定期監督等と申告監督で法令違反として指摘される項目の上位5つを確認してみましょう。

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定期監督等では幅広い分野で法令違反が指摘されているのに対し、申告監督では賃金不払いが圧倒的に多く指摘されています。定期監督は違反の対象が絞り込まれているわけではないため、全般的に調査され、その中で違反が見つかったりします。一方、申告監督は、

特に退職者から残業手当の不払いなどの申告があるので、賃金不払いに集中しやすい

のです。

以上(2024年6月更新)

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画像:pexels

労働条件明示のルール改正で知っておくべき事項

労働契約を締結する際、使用者は労働者に対し、労働条件を明示しなければなりません。有期労働契約の場合には、契約締結時だけでなく、更新のたびに明示が必要です。この労働条件明示のルールは、労働基準法第15条第1項に定められているもので、令和6年4月に改正されました。ここでは、新しく追加された明示事項や、正しく理解しておきたいことを、具体的にまとめます。

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【労基署の臨検】 監督官は書類のどこを見る? 36協定、労働条件通知書などのチェックポイント

書いてあること

  • 主な読者:労働基準監督署の臨検監督について知りたい経営者、人事労務担当者
  • 課題:事前対策を講じたいが、何をチェックすればいいのか分からない
  • 解決策:まずは2024年4月法改正に関連する「36協定」「労働条件通知書」を確認、その他「就業規則」「法定四帳簿」「健康診断結果」などもチェック

1 2024年4月法改正で、労働基準監督署の動きが活発に?

会社が労働基準関係法令に違反していないかをチェックする

労働基準監督署(以下「労基署」)の臨検監督(以下「臨検」)

は、年に17万1528件実施されています(厚生労働省「令和4年労働基準監督年報」)。そして2024年度は、次の2つの法改正の関係で、労基署の動きがさらに活発になる可能性があります。

  • 2024年4月から、建設業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)にも「時間外労働の上限規制」が適用(いわゆる「2024年問題」)
  • 2024年4月から、労働契約の締結時に、労働条件として明示する事項が追加

臨検では、労働基準監督官(以下「監督官」)が会社を訪問するなどして、36協定、出勤簿、賃金台帳、就業規則などさまざまな書類をチェックします。できれば、臨検が入る前にセルフチェックをしておきたいところですが、

監督官が書類のどこを見るか分からないので、対応ができない

という会社がほとんどでしょう。そこで、この記事では社会保険労務士監修のもと、労基署の臨検で指摘を受けやすい書類と、そのチェックポイントを紹介します

2 労基署の臨検で指摘を受けやすい書類は?

2022年に実施された臨検(17万1528件)のうち、大部分を占めるのは定期監督等(14万2611件)で、主に次のような違反が指摘されています(厚生労働省「令和4年労働基準監督年報」)。なお、赤字部分は、前述した2024年4月からの法改正に関連する項目です。

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これらの違反は、主に監督官が次のような書類をチェックする過程で見つかります。まずは、2024年4月法改正に関係する「36協定」「労働条件通知書」から始め、順番に書類のチェックポイントを見ていきましょう。

  • 36協定(社員に時間外・休日労働を命じる場合に必要な労使協定)
  • 労働条件通知書(社員と労働契約を締結する際、労働条件を明示するための書類)
  • 就業規則(社員数10人以上の場合、作成が義務付けられている職場のルールブック)
  • 法定四帳簿(労働者名簿、賃金台帳、出勤簿、年次有給休暇管理簿)
  • 健康診断関連の書類(健康診断結果、医師の意見書など)

3 36協定のチェックポイントは?

36協定は、会社と社員側の代表(過半数労働組合や過半数代表者)が締結し、労基署に届け出ることで初めて効力を生じます。この社員側の代表についてですが、労基署の臨検では

監督官が一般の社員に対し、「誰が社員側の代表ですか?」「どうやって代表を選出しましたか?(例:多数決)」などと、抜き打ちで質問をするケース

があります。ですから、自社の36協定について正しい情報を社内に周知徹底しておきましょう。また、協定の有効期間は1年間ですので、更新を忘れていないかも要チェックです。

さらに前述した通り、2024年4月から、建設業などにも時間外労働の上限規制が適用されています。上限規制に違反する36協定の締結や残業命令は認められないので注意が必要です(図表2)。

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4 労働条件通知書のチェックポイントは?

労働条件通知書は、社員を雇い入れる際などに必ず書面で交付する必要があります(ただし、社員が希望した場合はメールも可)。また、前述した通り、2024年4月からこれまでの労働条件と併せて、次の内容を明示することが義務付けられています。

  • 「契約更新に関する事項」を記載する際、「更新上限」についても明示する
  • 「無期転換に関する事項(新設)」を記載する際、無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」について明示する(通算契約期間が5年超のパート等が対象)
  • 「就業場所」「業務内容」を記載する際、契約締結時の内容だけでなく、配置転換等の際の「変更範囲」も明示する

古い労働条件通知書のフォーマットを使い回している場合、早期に修正が必要です。なお、フォーマットを見直す際は、念のため次のような内容についても確認しておきましょう。

  • 時間外労働が1カ月60時間を超える場合の割増賃金率が正しいか(2023年4月から、中小企業も「25%以上」から「50%以上」に引き上げられている)
  • パート等の場合、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」「相談窓口」も明示しているか(労働基準法ではなく、パートタイム・有期雇用労働法に基づく明示)

5 就業規則のチェックポイントは?

まず、社員が10人以上の会社なのに、就業規則がない(または作成しているが、労基署に届け出ていない)のは違法です。また、就業規則は社内に周知して初めて効力を生じるので、

テレワークの社員がいるのに、就業規則はオフィスに紙の状態でしか置いていない

というのもNGです。

加えて、労基署の臨検では、

法改正があったタイミングで、就業規則の変更と届け出がちゃんと行われているか

が厳しくチェックされます。ここ数年の法改正であれば、例えば次のような内容について、適正なタイミングで変更と届け出がちゃんとなされているかを確認しておきましょう。

  • パワハラがあった場合の相談窓口について(2020年6月から)
  • 育児休業の分割取得や出生時育児休業の取得について(2022年10月から)
  • 時間外労働が1カ月60時間を超える場合の割増賃金率について(2023年4月から)

なお、就業規則を変更する際は、「就業規則本体」に加えて、「変更届」「社員側の代表(過半数労働組合や過半数代表者)の意見書」を労基署に届け出ます。これらについても労基署が受理の押印をした会社控えがあるか、確認しておきましょう。

6 法定四帳簿のチェックポイントは?

労働者名簿、賃金台帳、出勤簿の3つは「法定三帳簿」と呼ばれており、最近はこれに年次有給休暇管理簿を加え、「法定四帳簿」と呼ぶことがあります。いずれも、法令で定められた項目を記載の上、3年間保存することが義務付けられています。労基署の臨検では、

ほぼ必ず提出を求められる重要書類で、法令上必須の項目が記載されていないと、是正勧告の対象になる可能性が高い

ので注意が必要です(図表3)。

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加えて、賃金台帳と出勤簿については、次のような点にも要注意です。

(賃金台帳)

  • 長時間労働が続いているのに、「固定残業代だから」と残業代を一律支給にしているなど、違和感がある賃金台帳が提出されると、監督官から指摘が入ることがある
  • 賃金から「積立金」「社宅料」などを控除している場合、労使協定の締結について指摘が入ることがある
  • パート等を含め、時給が最低賃金を下回る社員がいないか確認されることがある(都道府県ごとの「地域別最低賃金」は、2023年10月から全国加重平均額で1004円)

(出勤簿)

  • 「始業・終業時刻や休憩時間が一律」など、違和感がある出勤簿が提出されると、監督官から指摘が入ることがある(パソコンのログとの照合を求められることも)
  • 始業前などに「清掃」や「制服への着替え」が必要な場合、その時間が労働時間に含まれているか確認されることがある

7 健康診断関連の書類のチェックポイントは?

会社は、社員を雇用した際の雇入時健康診断や、年1回の定期健康診断などを実施しなければなりません。労基署の臨検では、

  • 各社員の健康診断結果を作成し、一定期間保存しているか(原則5年間)
  • 「異常の所見」があった場合、健康診断をしてから3カ月以内に、就業上必要な措置(時間外労働の制限など)について医師等の意見を聴取しているか
  • 社員数が50人以上の場合、定期健康診断結果報告書を提出しているか

などをチェックされる可能性があります。

ちなみに、社員数が50人以上になってくると、健康診断以外にも「ストレスチェックの実施」「産業医や衛生管理者の選任」「衛生委員会の設置」など、安全衛生関連の実務が増えていきます。これらの実務もチェック対象になり得るので注意が必要です。

8 書類以外も何かチェックされる?

ここまで、労基署の臨検でチェックされる可能性のある書類についてお話ししてきましたが、実際の臨検では、書類以外についても監督官のチェックが入る可能性があります。

例えば、建設業や製造業などの場合、工事現場や工場などの現場確認が行われることがあります。現場確認では、重機や手すりといった各種設備が労働安全衛生法の基準にのっとったものであるかなどについて確認されます。

また、サービス業のようなホワイトカラーでも、申告監督などの場合は、会社の提出した書類と従業員の実態に乖離(かいり)がないかを確かめるため、監督官から社員に対してヒアリングが行われるケースもあるようです。例えば、「1カ月のうち時間外労働がどの程度あるか?」「最近、労働災害に遭った人はいないか?」といった質問が考えられます。

以上(2024年6月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:pexels

【開催の模様を掲載しました】5/28(火)ChatGPTの無料ウェビナーを開催しました

大好評でした! ご参加の皆さまありがとうございました
このウェビナーの開催の模様は、下記の別記事でご紹介しています。ぜひお読みください

 

以上(2024年5月作成)

画像:日本情報マート

【労基署の臨検】 臨検の種類は? 厳しさは? 「指摘を受けたら真摯に対応」が鉄則!

書いてあること

  • 主な読者:労働基準監督署の臨検監督について知りたい経営者、人事労務担当者
  • 課題:そもそもどういう調査なの? リスクはあるの? 
  • 解決策:会社が労働基準関係法令に違反していないかの調査。違反は送検や会社名公表の対象だが、通常は真摯に是正・改善に取り組めば問題ない

1 そもそも「臨検(リンケン)」って何?

ある会合で、A社の社長が他の経営者に

「ウチの会社に臨検(リンケン)が入ったんだよ。しかも、アポイントもなく突然……」

と愚痴っぽく話しています。どうやら、労働基準監督署(以下「労基署」)の職員が会社にやって来て、出勤簿、賃金台帳、就業規則、36協定などを見せるように言われたようです。

社長が「忙しいから困る」と拒否しても、職員は「私たちには捜査権や逮捕権がある」の一点張り。詳しく話を聞くと、A社ではかなりの残業代の未払いが発生しており、そのせいで社員の1人が労基署に駆け込み、抜き打ち調査が行われたようです。

というのが、労基署の「臨検(リンケン)」の一般的なイメージです。正しくは「臨検監督」(以下「臨検」)。簡単に言うと、労基署の労働基準監督官(以下「監督官」)が、会社を訪問して各書類を確認するなどして、労働基準関係法令に違反していないかチェックすることです。

労働基準関係法令:労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法、じん肺法、家内労働法、賃金の支払の確保等に関する法律など

臨検で重大な違反が見つかり、送検された会社をニュースなどで目にした経験もあると思いますが、臨検がどのように行われるのか、その実態は意外と知られていません。一方、

2024年4月に「労働時間」「労働時間の明示」など、労働基準法関連の重要な法改正があった関係で、今後、労基署の動きが活発になる可能性がある

ため、今のうちにイメージを押さえておきたい経営者は少なくないはずです。以降で、社会保険労務士監修のもと、普段はなかなか聞けない労基署の臨検の舞台裏を紹介します。

2 労基署の臨検って、突然やって来るの?

労基署の臨検は、

  • 定期監督:労基署の年間計画に基づき、毎月対象の会社を選定して実施
  • 申告監督:社員(退職している社員を含む)からの申告に基づき実施
  • 災害時監督:重大な労働災害が発生した際、原因の究明や再発防止の指導のために実施
  • 再監督:是正勧告を受けた会社の状況が改善されているかを確認する場合に実施

の4種類に分類されます。

定期監督の場合、通常は事前に監督官から、会社を訪問する(または経営者などに労基署に来るよう求める)旨の書面が送られ、用意すべき書類や日時が指定されます。時間もある程度決まっていて、おおむね2~3時間です。

一方、申告監督や災害時監督の場合、事前の連絡なしに抜き打ちで行われることが多いですが、労基署が申告者を保護する目的で、定期監督を装い事前に連絡するケースもあるようです。

監督官は、司法警察職員として会社を捜査する権限を持っているので、

監督官が臨検にやって来たら、原則として拒否することはできません

が、経営者が不在で臨検が実施できないなど、延期が認められるケースもあるようです。

3 具体的にどういう違反をチェックするの?

2022年に実施された臨検(17万1528件)のうち、大部分を占めるのは定期監督等(14万2611件)で、主に次のような違反が指摘されています(厚生労働省「令和4年労働基準監督年報」)。

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「健康診断」「安全基準」「労働時間」など、社員の健康や安全に直接影響を及ぼす違反が指摘を受けやすくなっています。特に、赤字にした「労働時間」については、

2024年4月から、いわゆる「時間外労働の上限規制」が建設業、自動車運転業務、医師、砂糖製造業(鹿児島県・沖縄県)にも適用

されるようになり、今後これらの事業・業務に対する監督が厳しくなる可能性があります。同じく赤字にした6位の「労働条件の明示」も、法改正に関する項目なので注意が必要です。

2024年4月から、社員の雇入時や契約更新時に、「就業場所・業務の変更範囲」「契約上限の有無とその内容」「無期転換の申込機会と転換後の労働条件」を新たに明示

しなければならなくなっています。

4 臨検の種類や監督官によって厳しさが違う?

一概には言えませんが、臨検の種類ごとに厳しさの順位を付けるとすると、

  • 監督官が指導した後に改善されているかを確認する「再監督」
  • 重大な労働災害が発生したために実施する「災害時監督」
  • 社員の求めにより実施する「申告監督」
  • 計画で実施する「定期監督」

となるでしょう。

また、監督官によって厳しさが異なるケースもあり、経験豊富な監督官の場合、会社の事情を考慮して、現実的な解決策を提案してくれることもあります。例えば、賃金未払いについて、会社の財務状況などを考慮し、支払いまでの期限を長めに設定してくれるといった具合です。なお、社会保険労務士などの専門家は、労基署の臨検に立ち会ってくれることがあるので、会社だけで監督官に対応するのが不安な場合、相談してみるとよいでしょう。

5 違反があったら即座に送検されてしまうの?

監督官は、会社が労働基準関係法令に違反した場合、経営者などを地方検察庁に送検する権限を持っています。ただ、即座に送検されるのは相当悪質なケースに限られ、通常は

監督官の指導に従い真摯に是正・改善に取り組めば、「送検なし」で完結することが多い

です。監督官の指導は次のような流れで行われます。

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監督官は会社に対し、労働基準関係法令に違反した場合は「是正勧告書」、違反はないが労務管理の改善が必要な場合は「指導票」を発行します。どちらも是正・改善すべき事項とその期日が記載されています(書式については後述)。

会社は、期日までに是正が完了したら「是正報告書」、改善が完了したら「改善報告書」を監督官に提出します。ちなみに、是正・改善どちらの場合も、

期日は是正勧告書(または指導票)の発行から、おおむね1~2カ月後

です。間に合わない場合は必ず監督官に連絡し、対応する意思があることと現在の状況を伝え、期日の相談をします。なお、労働基準関係法令に違反した場合、期日までに是正報告書を提出しない(または労基署が催促しても回答しない)など悪質な対応をしていると、再監督を経た上で、

「地方検察庁に送検される」+「厚生労働省ウェブサイトで会社名が公表される」

というペナルティを受ける恐れがあります。ちなみに、期日までに状況を是正・改善し、監督官への報告が無事終了した場合であっても、何年か経ってから、状況をチェックするため再監督が実施されることがあります。ですから、

一度是正・改善したら終わりではなく、その状況を維持する(可能ならさらに改善する)

という意識が大切です。

6 是正勧告書や指導票ってどんなもの?

最後に、社会保険労務士が作成した是正勧告書と指導票の一例を紹介します。

まずは是正勧告書です。

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是正勧告書には、違反があった法条項等、違反事項、是正期日が記載されています。ただし、どう是正すべきかは載っていないケースが多いので、不安な場合、監督官や専門家に相談しましょう。また、「不足額については、遡及して支払うこと」などの記述がある場合、トラブルにならないよう、「いつからいつまでの分を支払うか」などについて、監督官と認識を共有しておきましょう。

次は指導票です。

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指導票には、労働基準関係法令の違反に関する事項はなく(そもそも違反していないので)、指導事項とその報告期日が記載されています。指導票の未提出は送検の対象になりませんが、再監督が入る可能性がありますから、こちらも必ず期日までに提出しましょう。

会社は、是正勧告書に対しては「是正報告書」、指導票に対しては「改善報告書」を作成して、監督官に提出します。どちらの報告書も監督官から紙で手渡しされたものに記入しますが、一部の都道府県労働局ウェブサイトでは書式のデータが公表されているので、「手書きは面倒」という場合、そちらを活用するとよいでしょう。

■鳥取労働局「是正・改善 報告書様式」■
https://jsite.mhlw.go.jp/tottori-roudoukyoku/newpage_01118.html

なお、是正報告書・改善報告書については、ただ報告書に「いつ、是正(改善)しました」と記載するだけでなく、是正(改善)したことを証明する資料を別紙で提出する必要があります。

(例1)未払い賃金の是正に関する資料:賃金台帳、給与支給明細書など

(例2)機械の安全基準の是正に関する資料:是正した状況が確認できる写真など

以上(2024年6月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:pixabay

リーダーの「前向き発想」で組織は強くなる/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』(11)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
  • 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。

1 より早くリーダーに抜てきされた人ほど陥りがちな失敗とは?

今シリーズ『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』も今回を含めて残り2回となりました。引き続き、管理職・リーダー側の皆さんがすぐにでも取り組むべき3つの習慣をご紹介していきます。

これらは昭和生まれのリーダーはもとより、「自分は一応昭和生まれだけど、まだ30代だから大丈夫」という人にも、「自分はぎりぎり平成生まれだから平気」と考えている人にも、身に付けていただきたい習慣です。

第3回から第5回までは『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』3つのうちの1つ目の「傾聴」について、第6回から第9回までは2つ目の『褒める』についてお話ししました。

前回第10回に引き続き、今回は3つ目の「前向き発想」についてお話ししていきます。

前回は、いつの時代もリーダーには「前向き発想」が求められているということ。とはいえ「一生懸命頑張ったけれど、目標を達成できなかった」といった状況の直後にいくら鼓舞されても、すぐに切り換えられないメンバーもいることを忘れてはいけないとお伝えしました。

一線で活躍するプロやトップアスリートならいざ知らず、世の中は簡単に気持ちが切り換えられる人ばかりではないと考えるべきでしょう。個人差もあります。メンバーの中には気持ちの切り換えが上手にできない人、長く引きずってしまう人がいるはずです。

また、目標達成への意欲が強く、それにふさわしい努力を重ねてきたからこそ、悔しくて簡単に気持ちを切り換えられないという人もいるかもしれません。

こうした一人ひとりの状況が分かっていないリーダーは暴走しがちです。

「どれほど努力してきたにせよ、出てしまった結果は変わらない。だったら次に向けて一秒でも早く気持ちを切り換えるしかないじゃないか、なにをモタモタしているのだ」と。

メンバーに対しても自分と同じスピードで気持ちの切り換えを要求してしまうと、誰もついていけないばかりか、チーム全体がすっかり疲弊しかねません。これではチームとして次の成果は上がらないでしょう。

個人として優秀で、より早くリーダーに抜てきされた人ほど陥りがちな失敗です。

「頑張ったのに結果が出なかった」ときに、リーダーが最初にするべきことは「メンバーの今の気持ちをしっかりと受け止める」こと。その上で「前向き発想」の言葉で次に向かって鼓舞すること。それが次の成功への近道なのです。

2 まずはメンバーの何人かに声をかけ、本音を聞いて受け止める

前回投げかけた質問の

1)全員で(あるいは個人が)一生懸命頑張ったけれど、目標を達成できなかった

ケースについて、リーダーとしてどのように声をかけてあげるべきかについて振り返ってみました。

続いて宿題とさせていただいた、2)3)についても見ていきましょう。メンバーが次のように思っている、あるいは口に出したとき、リーダーとしてはどのように声をかけてあげればいいでしょうか。

2)この目標達成は正直言って難しいですね

3)〇〇が邪魔して目標達成できそうにありません

みなさんの答えはどうでしょう。

2)も3)も、まずは1)と同じようにメンバーの気持ちを想像してあげましょう。

リーダーとしては、メンバーが端から達成を諦めているように感じたかもしれませんが、彼らが前向きではないとは必ずしも言い切れません。前向きな気持ちはすごくありながらも、少し気後れして弱気になっているだけなのかもしれないのです。

そんなときにリーダーが即座に、「何を言っているんだ、目標は達成するためにあるのだろう」「後ろ向きなことを言うな、士気が下がるじゃないか」などと声をかけたらどうでしょう。彼らのやる気を引き出せるでしょうか。

そこでメンバーの何人かに声をかけて、本音の部分を聞いてみてはどうでしょう。ただし、リーダーは発言に対して一切否定することなく「なるほど、そうか」と受け止め、ひたすら傾聴するのみです。

まずは発言した本人に「〇〇さんは、本当のところどう思っていますか?」と聞きます。次に他のメンバーにも「同じような気持ちの人はいますか?」「〇〇さんはどうですか?」と声をかけましょう。

最後のほうでは一番戸惑っていそうなメンバー、ふだんから本音を言えていなさそうなメンバーを指名してみましょう。そして「他にも意見はありませんか」と広く本音の意見を募るのです。

そうして2)や3)の言葉に表れたメンバーの不安な気持ちを、しっかりと受け止めてあげてください。

3 リーダーが道筋を示すだけでなく、メンバーにも考えてもらう

広く本音を聞いていくと、「目標は達成したいのだけれど、今回ばかりは数字が大きすぎて自信がない」といった達成意欲の存在を表明する意見が飛び出してきます。

彼らの気持ちが全くもって後ろ向きなのであれば、既に職場を離れている可能性が高いのではないでしょうか。そうでないということは、前向きな気持ちがどこかにあって、それぞれに奮闘してくれているのです。

前向きな気持ちがあるという点では一致しているのだと分かれば、あとはリーダー次第です。「前向き発想」の言葉とともに、達成への道筋を示して背中を押してあげましょう。

2)であれば例えば、「確かにこの目標達成はかなり厳しく感じますよね。私も簡単だとは思っていません。でももし頑張って達成できたら、会社もみんなも成長できて次のステージに行けると思うのです。一人ひとりが成長できるだけでなく、きっと次回の賞与にも反映できるでしょう」

「例えば〇〇に対して、〇〇という取り組みをしてはどうでしょうか。少し可能性が見えてきませんか」と。

3)であれば、「〇〇が邪魔しているのは確かですね。確かに大きな障害です。そこで発想を変えて、逆に何があればもしかしたらできそうかを考えてみましょう」と。

リーダーから具体案や道筋を示すのもよいのですが、ぜひメンバーにも考えてもらいましょう。自分たちで考え出した案のほうがやる気も違ってきますし、考えることで彼らの成長にもつながります。

現場で日々格闘しているからこそ思いつくアイデアがあるはずです。目標達成への可能性が見いだせたなら、実行計画は実際に取り組む彼らに立ててもらったほうが実現性も高いでしょう。

アイデアが何も出て来なかったり、行き詰まったりした際には、リーダーが高い視点や新たな視点を示してあげましょう。「こういう方向から考えてみてはどうだろう」と。

シリーズの第1回でも触れたように、リーダー自ら実行計画を立てて強引について来させるのではなく、メンバーの個性を尊重し、彼らがやる気の持てる実行計画を立てられるように支援する。それこそが、これからのリーダーに求められる姿です。

4 一度困難を乗り越えた組織は、人が成長し、どんどん強くなれる

このようにしてリーダーが「前向き発想」で個人やチームを支援し、困難と思えた状況を乗り越えられたとしましょう。一人ひとりが深く関わったぶん、彼らは仕事において成長し、自信もつけているはずです。

そこに新たな困難と思える状況がやってきたらどうでしょう。彼らはまた尻込みをするでしょうか。中には「また来ましたねー、やってやろうじゃないですか」と笑いながら戦いに燃えるメンバーが出てくるかもしれません。

みんなで力を合わせて大きな困難を克服できたという成功体験は、何にも代えがたいものです。何人かが「今回もやってやろう!」と言い出してくれれば、少し腰の重いメンバーもついていってくれることでしょう。

となればリーダーがやるべきことは、「前向き発想」の言葉で応援の旗を振り続け、側面や後ろから足りない部分を支援してあげるだけです。

前回も申し上げましたが、「前向き発想」の言葉の正解は1つとは限りません。場面や相手によっても異なりますし、投げかける側のあなたの気持ちや発想によっても変わってきます。

AIがいくら進化しても敵わない、あなたならではの一言で、メンバーのやる気を引き出すことができるのです。

こうして困難を乗り越えていくことを覚えた組織は、人も成長し、ますます強くなっていくことでしょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回はいよいよシリーズの最終回です。全体を振り返ってまとめながら、みなさんが実践していくに当たってのアドバイスを追加したいと思います。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』および『なぜ社長の話はわかりにくいのか』(いずれもPHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。前者はキャリア選択でお悩みの方に、後者はリーダーやトップをめざしている方にお薦めです。

『新スペシャリストになろう!』 https://amzn.asia/d/e8GZwTB

『なぜ社長の話はわかりにくいのか』 https://amzn.asia/d/8YUKdlx

以上(2024年5月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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画像:PureSolution-Adobe Stock

【中堅社員のスピーチ例】ポジティブ日記をつけてみよう

おはようございます。朝から少しネガティブな話になりますが、皆さんは仕事でストレスを抱えたとき、どのように対処していますか? 難易度の高い仕事に苦戦していたり、残業が続いて自由な時間が取れなかったりと、ストレスの原因は至るところに転がっています。

もちろん、仕事をこなせるよう勉強したり、休みを取って疲労回復に努めたりと、ストレスの原因を解決することが重要なのですが、それはそれとして、今現在抱えているストレスと上手に付き合っていくことも大切です。ストレスを抱え続ければ、心に余裕がなくなってミスもしやすくなるし、言葉や態度にも余裕のなさが表れ、周囲も気を使います。健康にも良くありません。

私自身も最近、仕事が立て込んで残業が続き、ストレスで心の余裕がなくなり、周囲にも迷惑をかけました。このままでは良くない、何か上手にストレスと付き合う方法はないかと、週末そのヒントを探っていたのですが、1つ面白そうなものを見つけました。それが「ポジティブ日記」です。

ポジティブ日記とは文字通り、1日の出来事の中で、ポジティブな内容だけをつづった日記です。「難しい仕事を成し遂げた」「同僚や取引先に感謝された」、あるいは「オフィスを掃除して気持ちが良かった」「自分へのご褒美に買ったお菓子がおいしかった」など、内容はポジティブなものなら何でもOK。文章の長さも自分が理解できるなら、今述べたような「一言」レベルで十分です。

最近では、スマホのアプリで簡単にできるポジティブ日記も登場しています。試しにやってみましたが、自分だけではポジティブな出来事が思いつかない場合、アプリがヒントとなる文例をくれたり、日記につづった内容の「ポジティブ度合い」を100点満点で採点してくれたりするので、使いやすいし、楽しんでできそうです。

なぜ、このポジティブ日記を皆さんにもおすすめするのかというと、私たちはストレスを抱えると、「自分は頑張っているのに……」と、物事をついネガティブな方向に考える癖があるからです。例えば、「頑張っているのに、うまくできない」「頑張っているのに、感謝されない」「頑張っているのに、いいことがない」といった具合です。ただ、それって実は、ストレスのせいで視野が狭くなっているだけの場合も少なくなく、あえてポジティブな内容だけを日記につづってみると、視野が広がり、意外と「自分の頑張りは報われている」ということに気付けるのです。

「そんなものは、単なる気休めだ」という人もいるかもしれませんが、私は人が成長するためには、まず「自分で自分を認めること」が大切だと考えます。私は、今日のポジティブ日記に「ストレスと上手に付き合うヒントを、朝礼で皆に共有できた」とつづります。それは単なる気休めではなく、あえて自分を褒め、「明日はもっと頑張ろう」と言い聞かせることで、成長のためのエネルギーにまきをくべるためなのです。

以上(2024年5月作成)

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画像:Mariko Mitsuda

【残業代の計算問題】 変形労働時間制やみなし労働時間制の場合はどう計算する?

書いてあること

  • 主な読者:変形労働時間制やみなし労働時間制を導入している会社の経営者、労務担当者
  • 課題:日によって労働時間が異なるなどで、残業時間の計算がイメージしにくい
  • 解決策:変形労働時間制は「法定労働時間の総枠」などを基準に考える。みなし労働時間制は「みなし労働時間の長さ」「事業場内の労働の有無」などに注意する

1 変形労働時間制などは残業代の計算が複雑

残業代の計算は意外と複雑で、特に「変形労働時間制」や「みなし労働時間制」を導入している会社は要注意です。

  • 変形労働時間制:1カ月や1年など一定の期間内において、総労働時間を定め、その期間を平均して法定労働時間を超えない範囲で、1日10時間や1日6時間など労働時間を弾力的に設定したり、始業・終業時刻の決定を社員に委ねたりできる制度
  • みなし労働時間制:労働時間が把握しにくかったり、仕事が専門的で会社が具体的な指示を出しにくかったりする場合に、実際の労働時間ではなく労使協定などで定めた特定の時間(みなし労働時間)を働いたとみなす制度

変形労働時間制は、日によって社員の労働時間が異なるので、残業時間の計算がしにくいケースがあります。また、みなし労働時間制は、残業代が発生しないと思われがちですが、実は法定労働時間を超えるみなし労働時間を定めた場合など、残業代が発生するケースがあります。

そこで、この記事では間違えやすい残業代の計算ルールをQ&A形式で3つ紹介します。次の用語は重要なので、問題に取り組む前に押さえておきましょう。

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なお、残業代については明確な定義がないので、この記事では

所定外労働(時間外労働、休日労働、深夜労働、所定外の法定内労働)に対する賃金

を残業代として扱います。

2 1カ月単位の変形労働時間制における残業代の計算

1)問題

Aさんが勤める会社では、「1カ月単位の変形労働時間制」を導入しています。

  • 1カ月単位の変形労働時間制:1カ月以内の一定の期間(「変形期間」といいます)における週の平均労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)以内であれば、法定労働時間を超える所定労働時間を設定できる制度

1カ月単位の変形労働時間制では、変形期間内の所定労働時間の合計が、

法定労働時間の総枠=週の法定労働時間×変形期間の暦日数÷7日

を超えると、超過時間分の労働が時間外労働になります。Aさんの労働条件は次の通りです。

  • 変形期間:毎月1日から末日までの1カ月(31日)
  • 法定労働時間:1日8時間、1週40時間
  • 法定労働時間の総枠:177.1時間(40時間×31日÷7日)
  • 所定労働時間:後述のシフト表の通り
  • 法定休日:日曜日
  • 賃金体系:日給月給制(1カ月単位で賃金を計算し、その後不就労分の賃金を控除する)
  • 1時間当たりの賃金額:1500円(便宜上、これを残業代の算定基礎額とする)
  • 割増賃金率:時間外労働が25%、休日労働が35%、深夜労働が25%

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ある月に、Aさんは次の勤怠管理表の通り働きました。この月のAさんの残業代はいくらになるでしょうか? 本来のシフト表と比較し、赤字の部分に注目しながら考えてみてください。

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2)答え:4万5413円

1カ月単位の変形労働時間制で時間外労働になるのは次の3つのケースです。

  • 1日単位:所定労働時間が8時間を超える日は、その所定労働時間を超えて労働した時間。それ以外の日は、8時間を超えて労働した時間
  • 1週単位:所定労働時間が40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超える週は、その所定労働時間を超えて労働した時間。それ以外の週は、40時間(特例措置対象事業場は44時間)を超えて労働した時間(1日単位で時間外労働となる時間を除く)
  • 変形期間単位:法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(1日単位または1週単位で時間外労働となる時間を除く)

また、法定休日に働いた場合はその時間全てが休日労働、原則として22~5時までの間に働いた場合はその時間全てが深夜労働になります。

これを基に考えると、この月のAさんの所定外労働は次の通りとなります。

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次に1日単位、1週単位、変形期間単位で所定外労働がどう発生するのかを見ていきましょう。

1.1日単位

2日(月)は、9~19時までの9時間(休憩1時間を除く)が所定労働時間、9~21時までの11時間(休憩1時間を除く)が実労働時間です。所定労働時間が8時間を超えるので、所定労働時間を超えた2時間(11時間-9時間)が時間外労働になります。

4日(水)は、9~16時までの6時間(休憩1時間を除く)が所定労働時間、9~21時までの11時間(休憩1時間を除く)が実労働時間です。所定労働時間が8時間を超えないので、8時間を超えた3時間(11時間-8時間)が時間外労働になります。

18日(水)は、9~15時までの5時間(休憩1時間を除く)が所定労働時間、9~17時までの7時間(休憩1時間を除く)が実労働時間です。実労働時間は所定労働時間を超えていますが、8時間を超えないので、1日単位では時間外労働は発生しません。

29日(日)は、9~18時までの8時間(休憩1時間を除く)全てが休日労働になります。

31日(火)は、9~16時までの6時間(休憩1時間を除く)が所定労働時間、9~23時までの13時間(休憩1時間を除く)が実労働時間です。所定労働時間が8時間を超えないので、8時間を超えた5時間(13時間-8時間)が時間外労働になります。また、22~23時までの1時間は深夜労働になります。

2.1週単位

1日(日)から7日(土)までの第1週は、実労働時間(47時間)から所定労働時間(40時間)を差し引くと、7時間になります。ただし、第1週では

1日単位で5時間(2日(月)の2時間、4日(水)の3時間)

をすでに時間外労働としてカウントしています。ですから、これを除いた2時間(7時間-5時間)が、1週単位での時間外労働になります。

3.変形期間単位

変形期間内の実労働時間(190時間、休日労働を除く)から法定労働時間の総枠(177.1時間)を差し引くと、12.9時間になります。ただし、変形期間内では

  • 1日単位で10時間(2日(月)の2時間、4日(水)の3時間、31日(火)の5時間)
  • 1週単位で2時間(第1週の2時間)

をすでに時間外労働としてカウントしています。ですから、これらを除いた0.9時間(12.9時間-10時間-2時間)が時間外労働になります。

また、これとは別に所定外の法定内労働も発生します。法定労働時間の総枠(177.1時間)からシフト表に定めた労働時間の合計(174時間)を差し引いた時間(3.1時間)がそうです。

以上から、この月のAさんの残業代は

4万5413円=1500円×(12.9時間×1.25+8時間×1.35+1時間×0.25+3.1時間×1)

となります(1円未満の端数が生じた場合、50銭未満は切り捨て、50銭以上は切り上げ)。

3 フレックスタイム制における残業代の計算

1)問題

Bさんが勤める会社では、「フレックスタイム制」を導入しています。

  • フレックスタイム制:3カ月以内の一定期間(「清算期間」といいます)についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で始業・終業時刻の決定を社員に委ねる労働時間制度

フレックスタイム制では、あらかじめ

清算期間内の総労働時間(1日8時間×清算期間内の所定労働日数など)

を定めます。この総労働時間が、フレックスタイム制における所定労働時間になります。また、清算期間内の実労働時間が、

法定労働時間の総枠=週の法定労働時間×清算期間の暦日数÷7日

を超えると、超過時間分の労働が時間外労働になります。なお、清算期間が1カ月超3カ月以内の場合のみ、「清算期間の開始日から1カ月ごとに区分した各期間の実労働時間が、週平均50時間を超えた場合も時間外労働になる」というルールがありますが、ここでは詳細は割愛します。

Bさんの労働条件は次の通りです。

  • 清算期間:毎月1日から末日までの1カ月(31日)
  • 法定労働時間:1日8時間、1週40時間
  • 法定労働時間の総枠:177.1時間(40時間×31日÷7日)
  • 総労働時間:176時間(8時間×清算期間内の所定労働日数(22日))
  • コアタイム:10~15時
  • フレキシブルタイム:6~10時、15~19時(ただし、上司から許可を得た場合はフレキシブルタイム外の時間も働くことが可能)
  • 法定休日:日曜日
  • 賃金体系:月給制(総労働時間分の賃金を、実労働時間との過不足に応じて調整する)
  • 1時間当たりの賃金額:1500円(便宜上、これを残業代の算定基礎額とする)
  • 割増賃金率:時間外労働が25%、休日労働が35%、深夜労働が25%

ある月に、Bさんは次の勤怠管理表の通り働きました。この月のBさんの残業代はいくらになるでしょうか? 赤字の部分に注目しながら考えてみてください。

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2)答え:2万9288円

清算期間が1カ月以内の場合、法定労働時間の総枠を超えて働いた時間が時間外労働になります。また、法定休日に働いた場合はその時間全てが休日労働、22~5時の間に働いた場合はその時間全てが深夜労働になります。

これを基に考えると、この月のBさんの所定外労働は次の通りとなります。

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29日(日)は、9~18時までの8時間(休憩1時間を除く)全てが休日労働になります。

30日(月)は、22~23時までの1時間が深夜労働になります。なお、時間外労働については清算期間単位で判断するので、1日単位では発生しません。

清算期間単位では、清算期間内の実労働時間(183時間、休日労働を除く)から法定労働時間の総枠(177.1時間)を引いた5.9時間が時間外労働になります。また、法定労働時間の総枠(177.1時間)から清算期間内の総労働時間(176時間)を引いた1.1時間が所定外の法定内労働となります。

以上から、この月のBさんの残業代は

2万9288円=1500円×(5.9時間×1.25+8時間×1.35+1時間×0.25+1.1時間×1)

となります(1円未満の端数が生じた場合、50銭未満は切り捨て、50銭以上は切り上げ)。

4 みなし労働時間制における残業代の計算

1)問題

Cさんが勤める会社では、「事業場外労働に関するみなし労働時間制」を導入しています。

  • 事業場外労働に関するみなし労働時間制:社員が事業場外で働き、労働時間の把握が困難な場合に、所定労働時間または業務に通常必要な時間を働いたものとみなす制度

事業場外労働に関するみなし労働時間制では、法定労働時間を超える時間を業務に通常必要な時間として定めると、超過時間分の労働が時間外労働になります。また、原則として社員の労働時間の把握は不要ですが、社員が事業場内と事業場外の両方で働くときは、

  • 所定労働時間をみなし労働時間とした場合、事業場内の労働時間の把握は不要で、「みなし労働時間を働いた」とみなす
  • 業務に通常必要な時間をみなし労働時間とした場合、事業場内の労働時間を把握しなければならず、「事業場内の労働時間とみなし労働時間の合計時間を働いた」とみなす

という、少し変わったルールが適用されます。

Cさんの労働条件は次の通りです。

  • 法定労働時間:1日8時間、1週40時間
  • 所定労働時間:9~18時までの8時間(休憩1時間)
  • みなし労働時間:9時間(業務遂行に通常必要となる時間)
  • 法定休日:日曜日
  • 賃金体系:月給制(原則としてみなし労働時間分の賃金を支払う)
  • 1時間当たりの賃金額:1500円(便宜上、これを残業代の算定基礎額とする)
  • 割増賃金率:時間外労働が25%、休日労働が35%、深夜労働が25%

Cさんは、事業場外労働に関するみなし労働時間制の適用を受けており、通常は勤怠管理表に記入しません。一方、事業場内で働いた時間については、勤怠管理表に記入しています。ある月に、Cさんが事業場内で次の勤怠管理表の通り働きました。この月のCさんの残業代は事業場外の労働も含めいくらになるでしょうか? 赤字の部分に注目しながら考えてみてください。

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2)答え:9万5925円

今回の事例では、業務遂行に通常必要となる時間(9時間)をみなし労働時間としているので、事業場内で仕事をした場合、「事業場内の労働時間とみなし労働時間(9時間)の合計時間を働いた」とみなします。

また、法定休日に働いた場合はその時間全てが休日労働、22~5時の間に働いた場合はその時間全てが深夜労働になります。

これを基に考えると、この月のCさんの所定外労働は次の通りとなります。

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4日(水)は、9~10時までの1時間とみなし労働時間9時間の計10時間を働いたとみなされます。ですから、2時間(10時間-8時間)が時間外労働になります。

14日(土)は、9~11時までの2時間+みなし労働時間9時間の計11時間を働いたとみなされます。なお、13日(金)の時点で第2週の時間外労働を除いたみなし労働時間の合計が40時間(8時間×5日)で法定労働時間に達しているので、11時間全てが時間外労働になります。

22日(日)は、9~12時までの3時間+みなし労働時間9時間の計12時間を働いたとみなされます。ですから、12時間全てが休日労働になります。

31日(火)は、19~23時までの4時間+みなし労働時間9時間の計13時間を働いたとみなされます。ですから、5時間(13時間-8時間)が時間外労働になります。また、22~23時までの1時間は、深夜労働になります。

他20日間については、1日当たり1時間(9時間-8時間)の時間外労働が20日分発生します。

以上から、この月のCさんの残業代は

9万5925円=1500円×(38時間×1.25+12時間×1.35+1時間×0.25)

となります。

以上(2024年6月更新)
(監修 社会保険労務士法人AKJパートナーズ)

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