建設業2024年問題。人手不足を解決するための働き方改革のポイント

書いてあること

  • 主な読者:「建設業2024年問題」に危機意識を持っている経営者・人事労務担当者
  • 課題:長時間労働を改善したいが、業界の慣習などもあってどう対応していいか分からない
  • 解決策:人手不足の原因を掘り下げ、賃上げや業務のDX化、アウトソーシングなどを行う

1 建設業2024年問題をどうやったら乗り切れるのか?

建設業2024年問題とは、働き方改革関連法によって、

これまで適用を猶予されていた建設業にも、2024年4月1日から「時間外労働の上限規制」が適用されるようになること

です。労働基準法では時間外労働について「原則1カ月45時間、1年360時間までを上限とする」などのルールを設けています。建設業の1カ月の所定外労働時間(就業形態計、年平均)は、2019年以降は働き方改革の影響もあってやや減少したものの、2003年(9.8時間)から2022年(13.8時間)の20年間では増加傾向にあり、2022年時点では調査産業計(10.1時間)よりも3.7時間多くなっています。

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建設業の場合、例えば、

  • 社員の高齢化が進む一方、職場のイメージなどから若手がなかなか入ってこない
  • 工期の関係で、月曜日から土曜日の週6日勤務が当たり前になっている
  • 日中は現場で作業し、夜、会社に戻ってから事務作業を行うのが常態化している

といった会社などは、長時間労働に陥りやすい傾向があります。このままでは建設業2024年問題への対応が難しいのが実情です。そこで、この記事では、建設業2024年問題を乗り切るためのポイントを3つ紹介します。

  • 時間外労働の上限規制の内容を押さえる
  • 人手不足の原因を掘り下げて考え、働き方改革につなげる
  • 賃上げや業務のDX化、アウトソーシングなどの施策を打つ

2 時間外労働の上限規制の内容を押さえる

まずは、時間外労働の上限規制の内容を正確に押さえましょう。そもそも

時間外労働とは、法定労働時間(原則1日8時間、1週40時間)を超える労働のこと

です。本来、社員は法定労働時間しか働けませんが、会社が社員の代表(過半数労働組合または過半数代表者)と通称「36(さぶろく)協定」と呼ばれる労使協定を締結し、所轄労働基準監督署に届け出れば、原則36協定に定めた時間数の範囲内で社員に時間外労働を命じられます。

法改正前は、社員に命じられる時間外労働の時間数について具体的な上限が定められていなかったのですが、建設業の場合、2024年4月1日から図表2のように上限が設定されます。

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この上限規制は、

2024年4月1日以後に効力を発生する36協定について適用

されます。2024年3月31日以前に効力を発生した36協定がまだ有効な場合、その協定に定めた有効期限までは時間外労働の上限規制は適用されず、次に締結する36協定から適用されます。時間外労働の上限規制に違反した場合、労働基準法により、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象になります。

3 人手不足の原因を掘り下げて考え、働き方改革につなげる

建設業は、工期が決まっている上に、下請が元請に合わせて働かないといけないケースが多いため、長時間労働にメスを入れにくい業界といわれています。そこで、

今の状況のまま労働時間を減らすのではなく、人手を増やし1人当たりの作業量を減らす

という発想で長時間労働の改善を考えてみましょう。まずは人手不足の状況の整理です。建設業における職業別就業者数の推移を見ると、全体の就業者数は2003年(604万人)から2022年(479万人)にかけて125万人減少しています。就業者の多くを占める技能者も、2003年(401万人)から2022年(302万人)にかけて99万人減少しています。

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次に注目したいのが、

若手がなかなか入らず、就業者の高齢化が進行している

という状況です。建設業における55歳以上の就業者の割合は、2003年(26.0%)から2022年(35.9%)にかけて9.9ポイント増え、逆に29歳以下の割合は、2003年(17.7%)から2022年(11.7%)にかけて6.0ポイント減っています。しかも、55歳以上の割合は全産業を上回り、逆に29歳以下の割合は全産業を下回るという状態が20年間ずっと続いています。

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従って、人手不足の解消に当たってはまず

いかに若手の入職率を向上(または離職率を低下)させるか

を考えることが大切です。少々古いデータになりますが、若手の建設技能労働者が入職しない、または離職する原因としては、「収入の低さ」「仕事のきつさ」「休日の少なさ」「作業環境の厳しさ」などが関係しているケースが多いようです。

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これらの問題を解決し、若手の入職率を向上(または離職率を低下)させることができれば、人手不足の解消につながるでしょう。仮に即座に若手の採用などにつながらなくても、

「仕事のきつさ」「休日の少なさ」などを改善する取り組み自体が、既存社員の長時間労働の改善につながりやすい

ので、やってみる価値は十分あります。次章で具体的な取り組みの内容をいくつか紹介します。

4 賃上げや業務のDX化、アウトソーシングなどの施策を打つ

1)賃上げ

冒頭でも軽く触れましたが、建設業では「工期の関係で、月曜日から土曜日の週6日勤務が当たり前になっている」という会社が少なくありません。ただ、これは工期だけの問題ではなく、

建設業に日給制の会社が多く、週6日勤務しないと生活給を確保できない

という社員側の事情が絡んでいるケースもあるようです。もし、今よりも単時間労働分の賃金を上げることができれば、生活給を当てにしている既存社員の時間外労働を減らしつつ、前述した若手の「収入の低さ」「休日の少なさ」などに対する不満を解消できるでしょう。

厚生労働省が毎年3月ごろに公表する「賃金センサス(賃金構造基本統計調査)」には、賃金や賞与に関するデータが、会社の規模や産業、社員の属性(性別、年齢、勤続年数、役職、職種など)に応じて細かく分けられています。例えば、建設業の「所定内給与額(基本給など)」は、2022年時点で1カ月当たり33万5400円です(一般労働者の場合)。

自社の賃金が世間相場を下回っている場合、賃上げを検討してもよいかもしれません。ただ、基本給などの固定的な賃金は一度上げると簡単に下げられないので、慎重を期すなら、まずは

支給要件を満たす社員に対して支給する「手当」の増額

で対応するとよいでしょう。建設業であれば、現場作業に従事する社員に支給する「現場手当」や、建築士・土木施工管理技士などの有資格者に支給する「資格手当」などがそうです。雪が多い地域では、除雪作業を行う社員に手当を支給するケースなどもあります。

2)業務のDX化、アウトソーシング

建設業の会社の中には、業務のDX化を図ることで長時間労働の改善を図っているところが数多くあります。例えば、

  • 施工管理アプリを導入し、オンラインで図面上にメモや写真を残せるようにすることで、会社に資料を取りに戻ったり、印刷したりする手間を削減する
  • 測量や土量算出を、人力ではなくドローンやレーザースキャナーを活用して行うことで、現場の社員の負担を軽減する
  • 発注者・元請・下請間の連絡を、オンライン会議システムで行うようにすることで、日程調整や移動にかかる時間を削減する
  • 社員にタブレット端末を貸与し、現場での作業を終えた後、会社に戻らなくても事務作業を行えるようにする。クラウド勤怠管理システムも導入し、打刻も現場で行う

といった取り組みがあります。また、これまで現場の社員がやっていた業務を、別部署や外部の業者にアウトソーシングしている会社もあります。例えば、

  • 現場の社員が行っていた安全書類等のチェックを別部署に委託する
  • 3D施工図の設計を外部のCADオペレーターに委託する

といった取り組みがあります。業務のDX化、アウトソーシングの取り組みは、前述した若手の「仕事のきつさ」「作業環境の厳しさ」などの不満解消につながるでしょう。なお、これらの取り組みについては、国土交通省が詳細な事例集を公表していますので、興味がある人は下記URLからご確認ください。

■国土交通省「建設業における働き方改革推進のための事例集(下記URL下段)」■
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_fr1_000001_00050.html

3)元請との関係調整

社内で働き方改革を推進したくても、取引先との関係が影響してなかなか前に進まないというのは、どの業界でもある話です。建設業の場合、前述した通り、下請が元請に合わせて働かないといけないケースが多いなど、「元請>下請」という力関係になりがちです。

下請法などにより、元請と下請は対等な関係で取引できるようにルールが整備されていますが、なかには力関係を盾に、元請が下請に理不尽な要求をのませようとする悪質なケースもあります。

社員を守るためにも、明らかに理不尽な要求に対しては泣き寝入りせず、毅然とした対応を取ることが大切です。もしも元請・下請間でトラブルになりそうなときは、次のような相談窓口を活用しましょう。

■中小企業庁「下請かけこみ寺」■
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/kakekomi.html
■公正取引委員会「独占禁止法相談ネットワーク」■
https://www.jftc.go.jp/soudan/index.html

4)「3K」のイメージを払拭する

採用活動社内の働き方改革を図ることができたら、それらを若手の求職者に上手に伝えることが大切です。

例えば、賃金額が世間相場よりも高かったり、ユニークな手当を導入したりしている場合、求人情報でしっかりPRしたいところです。

また、建設業は、いわゆる「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージを持たれがちですが、前述した業務のDX化などが進む中で、社員の働き方は変わりつつあります。施工管理アプリやドローンを使って事業を行っている場合などは、その様子を動画で撮影して、会社のウェブサイトやSNSなどで視聴できるようにすると、若手が興味を持ちやすいかもしれません。

以上(2024年1月作成)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:noppadon-Adobe Stock

【中堅社員のスピーチ例】今年こそ「竜頭竜尾」を貫こう

皆さん、あけましておめでとうございます。早速ですが、今日は私の新年の抱負を聞いていただきたいと思います。「私は今年2024年中に、今のわが社にない新サービスを立ち上げます!」

あれ……なんだか苦笑する声が聞こえますね。無理もありません。覚えてらっしゃる人もいるかと思いますが、実は私、昨年2023年の1月にも「新サービスを立ち上げる」という、今と全く同じ抱負を述べたのです。そして、あろうことか、本来なら2023年中に達成すべきだったその目標を、途中で投げ出してしまいました。

最初はわが社に何が足りないかを分析したり、同業他社が集まる展示会を見に行ったりと自分なりに動いていたのですが、途中から目の前の業務が忙しくなって次第にやる気が薄れ、諦めてしまったのです。昨年の1月に抱負を述べた自分を思い起こすと、正直「口だけで終わってしまった」と、恥ずかしい気持ちでいっぱいです。

「竜頭蛇尾(りゅうとうだび)」という四字熟語がありますよね。頭は立派な竜なのに、尾は細くて弱そうな蛇。最初は勢いが良くても、最後は尻すぼみで勢いがなくなってしまうという意味で使われます。昨年の私がまさにそれでした。新年の初めにあったエネルギーが、時間とともになくなっていく自覚があり、たびたび「業務が忙しいのは皆同じじゃないか、頑張れよ」と自分に言い聞かせるのですが、結局最後は気持ちが折れてしまって自己嫌悪になりました。

2024年も同じことを繰り返すわけにはいかない。どうにかやる気を持続させたい。色々考えた結果、私はその方法を一つ思いつきました。それは、「毎日を新年の初めのような気持ちで生きる」というものです。新年の初めのような節目のタイミングというのは、大げさに言うと自分が生まれ変わったような感覚になり、誰でもやる気に満ちあふれています。

だから、今年の私は「2024中に新サービスを立ち上げる」という目標を毎日自分に言い聞かせ、目標達成のために毎日やるべきことを決めて1日ずつ全力で取り組みます。42.195キロを走る際、1回きりの長距離走ではなく、全力の短距離走を何回も繰り返してゴールにたどり着くようなイメージです。何だか幼稚に聞こえるかもしれませんが、気持ちを強く持ち続けられない人間が志を貫くには、まず仕事に対する向き合い方を変えなければならないと考えました。

先程「竜頭蛇尾」という四字熟語についてお話ししましたが、今年の私のテーマは言ってみれば「竜頭竜尾(りゅうとうりゅうび)」です。頭は立派な竜で、尾も立派な竜。今年2024年の干支も「辰(たつ)」ですが、地上から天空を目指して登り続ける竜のように、目標に向かって走り続け、年の最後に「よく頑張ったな」と自分で自分を褒められる一年にしたいと思います。今年こそ口だけで終わらせず、来年この場で皆さんに良い報告ができるよう頑張ります。

以上(2024年1月)

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画像:Mariko Mitsuda

【規程・文例集】最新法令に対応した「就業規則」のひな型

書いてあること

  • 主な読者:古い就業規則を使っていて、内容をブラッシュアップしていない経営者
  • 課題:就業規則は内容が多岐にわたるため、具体的にどう見直せばよいのか分からない
  • 解決策:「絶対的必要記載事項」「相対的必要記載事項」を中心に、就業規則全体を見直す

1 就業規則の見直しは絶対的必要記載事項から

就業規則とは、賃金や労働時間などの労働条件、職場内の規律などについて定めた会社のルールブックで、常時10人以上の社員が働く事業場では作成・届け出が義務付けられています。本来は「法改正、社員数の増加、働き方改革」など、自社の状況や制度の変化に応じてブラッシュアップしていく必要があるのですが、実際は、

  • 社歴が長く、労使関係が落ち着いているので、就業規則を見直す必要性がない
  • 問題が起きると都度、経営者が判断しているので、就業規則に落とし込む必要がない

といった理由から、古い就業規則をそのまま使っている会社が少なくありません。ただ、こうした運用は、大きなトラブルが起きた場合にリスクです。

就業規則の記載事項は次の3つに分かれており、特に「絶対的必要記載事項」「相対的必要記載事項」が、最新の法令に基づく内容で漏れなく定められているかを確認するのが先決です。

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次章では、就業規則のひな型を紹介します。ここまでの内容を踏まえた上で、自社の就業規則の見直しにご活用ください。

2 就業規則のひな型

以降で紹介するひな型は一般的な事項をまとめたものであり、個々の企業によって定めるべき内容が異なってきます。実際に就業規則を作成する際は、必要に応じて専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。

【就業規則のひな型】

第1章 総則

第1条(目的)

この就業規則(以下「本規則」)は、株式会社○○○○(以下「会社」)の従業員の労働条件、服務規律、その他就業に関して必要な事項について定めたものである。会社と従業員は本規則を遵守し、会社の発展に寄与するものとする。なお、本規則に定めのない事項は、労働基準法およびその他の関係法令によるものとする。

第2条(適用範囲)

本規則の適用を受ける従業員は、第3条および第4条の手続きを経て、会社と期間の定めがない労働契約を交わした従業員とする。期間に定めのある労働契約を交わした短時間勤務従業員は別途定める「パートタイマー就業規則」(省略)、期間に定めのある労働契約を交わした従業員は別途定める「契約従業員用就業規則」(省略)の適用を受けるものとする。また、パートタイマー就業規則および契約従業員用就業規則で規定する「無期労働契約への転換」によって無期労働契約に転換した従業員は、本規則の適用を受けず、転換後も各々の規則を適用とする。

第2章 採用、異動

第3条(採用の手続き)

会社は、就職を希望する者の中で、次の各号に定める書類を提出した者の中から、面接その他一定の選考試験により採用者を決定する。ただし、状況により、会社はその一部の書類の提出を求めないことがある。

  1. 履歴書
  2. 職歴のある者については職務経歴書
  3. 写真(提出日前3カ月以内に撮影したもの)
  4. 学校の卒業証明書または卒業見込証明書および成績証明書(原則として新卒者のみ)
  5. 会社が指定した資格証明書のコピー
  6. 在留カードのコピー(在留資格を有する外国人のみ)
  7. その他、会社が指定する書類

第4条(採用時の提出書類)

1)従業員として採用された者は、採用日から2週間以内に次の各号に定める書類を提出しなければならない。ただし、状況により、会社はその一部の書類の提出を求めないことがある。

  1. 誓約書
  2. 身元保証書
  3. 住民票記載事項証明書。個人番号(マイナンバー)が記載されているものの場合は、第8号の書類を提出する必要はない
  4. 通勤経路図
  5. 入社の年に給与所得があった者については、源泉徴収票
  6. 基礎年金番号が確認できる書類(基礎年金番号通知書など)の写し、雇用保険被保険者証(職歴のある者)
  7. 給与所得の扶養控除等(異動)申告書
  8. 個人番号(マイナンバー)カードの表裏面の写し、または個人番号(マイナンバー)の通知カードの写し。なお、個人番号(マイナンバー)カードの表裏面の写しの場合は、第9号の書類を提出する必要はない
  9. 自動車運転免許証または旅券の写し(有効期間内のもので、顔写真、氏名、住所、生年月日が分かるもの。ただし、交付されている場合に限る)
  10. 健康診断書(提出日前3カ月以内に受けたもの)
  11. その他、会社が指定する書類

2)前項の提出書類の記載内容に変更があったときは、速やかに所属長に届け出なければならない。

3)会社は、第1項の提出書類を人事労務に関する手続きおよび人事労務管理のために利用するものとし、その他のために利用する場合には従業員から同意を得るものとする。

4)前各項の規定にかかわらず、個人番号(マイナンバー)および個人番号(マイナンバー)をその内容に含む個人情報(以下「特定個人情報等」)の利用目的や取り扱いは、別途定める「マイナンバー(特定個人情報)取扱規程」(省略)によるものとする。

第5条(試用期間)

1)会社が新たに採用した従業員については、採用日から3カ月間を試用期間とする。

2)採用過程や入社後の業務遂行状況等を考慮し、会社が適当と認めたときは試用期間を短縮または延長することがある。なお試用期間の延長は、3カ月を限度とする。

3)試用期間は勤続期間に算入する。ただし、賞与の算定対象期間には含まれない。

4)パートタイマー就業規則に規定する一般従業員への転換(正社員転換)制度により、本規則が適用となる従業員については、試用期間はなしとする。

第6条(採用取消事由)

1)試用期間中の従業員が次の各号のいずれかに該当し、本採用が適当でないと認めるときは、会社は本採用を行わない。ただし、改善の余地がある等、特に必要と認めた場合に限り、会社は試用期間を延長し、採用の取り消しを留保することがある。

  1. 遅刻、早退、欠勤等の不就労が多く、出勤状況が悪いとき
  2. 上司の指揮命令に従わない、また報告や連絡を行わない等、組織の秩序を乱す行動態度が見られるとき
  3. 同僚や周囲の従業員とコミュニケーションを取ろうとせず、職場内で協調して働くことができないとき
  4. 必要な教育を行っても会社が求める能力に足りず、また、改善の見込みが低い等業務習得能力が不足すると認められるとき
  5. 重要な経歴を偽っていたとき
  6. 心身の健康状態の悪化により、本採用後の就労が困難と認められるとき
  7. その他上記に準じるまたは解雇事由に該当する場合

2)採用の日から14日を経過した者の採用の取り消しについては、第48条(解雇予告)の規定を準用する。

第7条(異動)

1)業務上の必要がある場合は、会社は従業員に人事異動を命じることがある。人事異動を命じられた従業員は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

2)人事異動の種類は次の各号に定める通りとする。

1.配置転換

 同一事業場内における所属部門や担当業務等の異動をいう。

2.転勤

 勤務地の変更を伴う所属部門や担当業務等の異動をいう。

3.出向

 会社の従業員が社命によって関係会社その他で勤務することをいう。出向については、別途定める「出向者取扱規程」(省略)に基づくものとする。出向先での労働条件等については個別に定める。

4.転籍

 会社の従業員が社命によって関係会社その他へ籍を移し、勤務することをいう。転籍は、本人の同意を得るものとする。転籍先での労働条件等については個別に定める。

第8条(赴任)

異動を命じられた従業員は、次の各号に定める期間内に赴任しなければならない。

1.住居の移転を伴う異動

 発令日より原則として2週間以内

2.住居の移転を伴わない異動

 発令日より原則として1週間以内

第9条(業務の引き継ぎ)

異動を命じられた従業員は、会社が指示する期間内に速やかに後任者に業務の引き継ぎを行わなければならない。後任者がいないとき、あるいは後任者の着任が遅れるときは、速やかに所属長に業務の引き継ぎを行うものとする。

第3章 服務規律

第10条(服務規律の基本原則)

従業員は、会社の指揮命令に従い、職務上の責任を自覚し、互いに協力して誠実に職務を遂行するとともに、職場の秩序の維持に努めなければならない。

第11条(服務心得)

1)従業員は、次の各号に定める事項を遵守しなければならない。

  1. 勤務時間中は誠実に業務に励み、正当な理由なく無断欠勤および遅刻、早退、私用外出等をしないこと
  2. 許可なく業務以外の目的で会社の施設、物品などを使用しないこと
  3. 職務に関して自己の利益を図り、または会社の取引先から不当に金品を借用し、もしくは贈与を受けるなどの私的な利益を受けようとしないこと
  4. 整理整頓を徹底し、清潔な職場を心掛けること
  5. 日ごろから健康管理を怠ることなく、自己保健義務を果たすこと
  6. 会社の一員としての自覚と品位を持ち、会社の名誉または信用を傷つける行為をしないこと
  7. 酒気を帯びて就業したり、自動車を運転したりしないこと
  8. 勤務時間中に、職務上の必要がないにもかかわらず電子メールやSNSを私的に利用しないこと。また、職務と関係のないウェブサイトを閲覧したりしないこと
  9. 他の者の業務を妨げないこと
  10. 他の者の就業環境を害さないこと
  11. 業務上の都合により、担当業務の変更または他の部署への応援を命ぜられた場合は、正当な理由なく拒まないこと
  12. 会社の許可なく、会社の文書類または物品を社外の者に交付、提示しないこと
  13. その他、職場の風紀・秩序を乱す行為をしないこと

2)従業員が会社施設内において政治活動、宗教活動、集会、演説、放送をし、または文書の配布、掲示をしようとする場合は、事前に会社の許可を受けなければならない。

第12条(機密保持)

従業員は、自己の担当であるか否かを問わず、業務上知り得た機密を第三者に開示または漏洩もしくは自らのために利用してはならない。退職後も同様とする。

第13条(副業・兼業)

1)従業員は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

2)従業員は、前項の業務に従事するときは、事前に会社に届け出を行うものとする。手続きの方法等については別途定める「副業・兼業取扱規程」(省略)によるものとする。

3)会社は、従業員が第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止または制限することができる。

  1. 労務提供上の支障がある場合
  2. 企業秘密が漏洩する場合
  3. 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
  4. 競業により、企業の利益を害する場合
  5. 過度な長時間労働が見込まれる場合

第14条(ハラスメントの禁止)

従業員は、国籍、信条、性別、性的指向、性自認、職務上の地位・権限・職権、雇用形態に関係なく、職場において相手の人格や尊厳を尊重し、ハラスメント(セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント、パワーハラスメントなど)並びにそれらと疑われる行為をしてはならない。ハラスメントの防止については別途定める「ハラスメント防止規程」(省略)によるものとする。

第4章 労働時間、休憩、休日・休暇

第15条(勤務時間、休憩)

1)1週の労働時間は40時間、1日の労働時間は8時間とする。

2)始業時刻、終業時刻および休憩時間は次の通りとする。ただし、業務上やむを得ない事由がある場合には、労働時間が8時間を超えない範囲で、始業時刻、終業時刻、または休憩時間を変更することができる。

  1. 始業時刻:午前8時、終業時刻:午後5時
  2. 休憩時間:午後0時から午後1時まで

第16条(休憩時間の自由)

従業員は、休憩時間を自由に使用することができる。

第17条(出勤、退社)

1)従業員は、始業時刻に所定の方法に従ってその時刻を記録しなければならない。

2)退社は終業時刻に自己の管理する物品を整理整頓した後、所定の方法に従ってその時刻を記録しなければならない。

第18条(遅刻、早退、欠勤)

1)従業員は、遅刻、早退、欠勤しようとするときは、その前日までに所属長の承認を受けなければならない。ただし、やむを得ない事由により事前に所属長の承認を得ることが困難な場合は、当日の始業時刻までに電話などの方法により連絡し、出勤後に速やかに承認を得なければならない。

2)私傷病による欠勤が連続して3日を超える場合、会社は従業員に医師の診断書などの提出を求めることがある。

第19条(私用外出)

勤務時間中に私用による外出を希望する従業員は、あらかじめ所属長の承認を得なければならない。

第20条(公民の権利)

従業員が、選挙権の行使や裁判員としての職権行使その他、公民としての権利を行使するために必要な時間を請求するときは、会社は公民権行使に必要な時間を与えるものとする。ただし、業務上の理由により、権利の行使を妨げない限度において従業員が請求した時間を変更することがある。

第21条(休日)

1)休日は次の各号に定める通りとする。

  1. 土曜日、日曜日(日曜日を法定休日とする)
  2. 国民の祝日
  3. 会社創立記念日(○月○日)
  4. 年末年始(原則として12月30日から1月3日までの5日間)
  5. その他、会社が指定する日

2)前項の休日のうち、法定休日を上回る休日は所定休日とする。

3)業務上、その他必要があるときは、第1項第1号については、休日を週1日確保した上で、事前に通知指定した日と振り替えることがある。

第22条(時間外労働)

1)業務上必要がある場合は、所定労働時間を超えて労働を命じることがある。

2)法定労働時間を超える時間外労働は、従業員の過半数を代表する者との労使協定の範囲とする。

3)第2項に定める時間外労働は、労働基準法およびその他の関係法令における時間外労働の上限を超えることはない。

4)満18歳未満の従業員に対しては、原則として時間外労働を命じることはない。

第23条(代替休暇)

会社は、1カ月(別途定める「賃金規程」(省略)による賃金の計算期間)の時間外労働が60時間を超えた従業員に対して、従業員の過半数を代表する者との労使協定に基づき、次の各号に定める代替休暇を与えるものとする。

  1. 代替休暇を取得できる期間は、直前の賃金締切日の翌日から起算して翌々月の賃金締切日までの2カ月間とする。
  2. 代替休暇を付与する単位は半日または1日とする。この場合の半日とは、始業時間から始まる連続した4時間、または終業時間から遡る連続した4時間をいう。
  3. 代替休暇の時間数は、1カ月60時間を超える時間外労働の時間数に換算率を乗じて得た時間数とする。この場合において換算率とは、代替休暇を取得しなかった場合に支払う割増賃金率50%から代替休暇を取得した場合に支払う割増賃金率25%を差し引いた25%とする。また、会社は、従業員が代替休暇を取得した場合は、取得した時間数を換算率(25%)で除した時間数については、25%の割増賃金の支払いを要しない。
  4. 前号の代替休暇の時間数は、前々月および前月の代替休暇の時間数を合算して半日または1日とすることができる(この場合は前々月の時間数を優先する)。また、代替休暇の時間数に半日または1日に満たない端数がある場合で、その満たない部分について従業員が第29条第3項の時間単位年休の取得を請求する場合は、当該時間単位年休と併せて半日または1日の休暇として与えることができる。この場合、会社は代替休暇と時間単位年休を区別して管理する。
  5. 代替休暇を取得しようとする従業員は、1カ月に60時間を超える時間外労働を行った月の賃金締切日の翌日から5日以内に、別途定める「代替休暇の取得申請書」(省略)を所属長に提出しなければならない。代替休暇の取得申請書が提出された場合は、支払うべき割増賃金額のうち代替休暇に代替される賃金額を除いた部分を、通常の賃金支払日に支払うこととする。ただし、当該月の末日の翌日から2カ月以内に代替休暇が取得されなかった場合には、取得されないことが確定した月に係る割増賃金支払日に残りの25%の割増賃金を支払うこととする。
  6. 従業員が代替休暇の取得申請書を前項前段に定める期限までに提出しなかった場合は、会社は当該月に行われた時間外労働に係る割増賃金の総額を、通常の賃金支払日に支払うこととする。

第24条(休日労働)

1)業務上必要がある場合は、休日に労働を求めることがある。

2)法定休日の労働は、従業員の過半数を代表する者との労使協定の範囲とする。

3)第2項に定める休日労働は、労働基準法およびその他の関係法令における休日労働の上限を超えることはない。

4)満18歳未満の従業員に対しては、原則として休日労働を命じることはない。

第25条(災害など非常時の特別措置)

火災・地震・暴風雨・洪水、設備の爆発などの事故、感染症の流行その他避けることのできない事由により臨時の労働の必要がある場合は、会社は第22条および第24条にかかわらず労働基準監督署の許可を受けて、妊娠中および産後1年を経過しない女性従業員(以下「妊産婦」)を除く全ての従業員に時間外労働、休日労働、深夜労働(午後10時から午前5時までの間の労働。以降、同じ)を命じることがある。

第26条(割増賃金)

時間外労働、休日労働、深夜労働に対して、「賃金規程」(省略)により割増賃金を支払う。

第27条(妊産婦の特例)

妊産婦が請求した場合には、会社は時間外労働、休日労働、深夜労働を命じることはない。

第28条(出張等の勤務時間および旅費)

1)従業員が、会社の命令により出張その他社外で勤務する場合において、勤務時間を算定し難いときは、原則として第15条に定める時間を勤務したものとみなす。ただし、所属長があらかじめ別段の指示をしたときはこの限りではない。

2)前項の業務が所定労働時間外に及ぶ場合は、当該業務の遂行に通常必要とされる時間を勤務したものとみなす。

3)従業員が社用により出張する場合は、別途定める「出張旅費規程」(省略)により旅費を支給する。

第29条(年次有給休暇)

1)会社は、6カ月以上継続勤務し、所定労働日の80%以上出勤した従業員に対して、次の表の通り勤続期間に応じた日数の年次有給休暇を付与する。この休暇期間中については、所定労働時間を労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う。

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2)年次有給休暇を付与する基準日は、入社日から起算して6カ月が経過した日から1年ごとに区分した各期間(最後に1年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日とする。

3)年次有給休暇は、原則として労働日単位で付与する。ただし、従業員の過半数を代表する者との労使協定に基づき、一つの年度について5労働日分を限度に、1時間単位の年次有給休暇(以下「時間単位年休」)を付与する。時間単位年休の場合、1労働日を8時間と計算し、5労働日分で40時間とする。

4)年次有給休暇(時間単位年休を含む。以下、この条において同じ)を請求する従業員は、原則として3日前までに所属長に、別途定める「年次有給休暇の取得願」(省略)を提出しなければならない。

5)年次有給休暇は、原則として従業員が指定した時季に付与する。ただし、事業の正常な運営に支障があるときは、会社は従業員の指定した時季を変更することがある。

6)会社は、労働基準法第39条第7項に基づき、従業員に対して、時季を指定して年次有給休暇を付与することがある。

7)第1項の出勤率の算定に当たっては、年次有給休暇を取得した期間、産前産後の休業期間、育児休業期間、介護休業期間および業務上の傷病による休業期間は出勤したものとして取り扱う。

8)年次有給休暇は、権利発生から2年の間において取得することができる。

第30条(産前産後の休業)

1)6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性従業員から請求があったときは、産前休暇を与える。

2)産後8週間を経過しない女性従業員は就業させない。ただし、産後6週間を経過した女性従業員が請求した場合において、当該女性従業員について医師が支障ないと認めた業務に就かせることができる。

3)第1項および第2項の休業期間は無給とする。

4)妊娠中の女性従業員が請求した場合、他の軽易な業務に転換させる。ただし、業務に適する軽易な業務がないときには請求しても応じないことがある。

第31条(母性健康管理のための時間内通院)

1)妊産婦が母子保健法に定める健康診査または保健指導を受けるために請求した場合、会社は次の各号に定める範囲において母性健康管理のため、時間内通院を認める。

  1. 妊娠23週までは4週間に1回
  2. 妊娠24週から35週までは2週間に1回
  3. 妊娠36週以後出産までは1週間に1回
  4. 医師または助産師(以下「医師など」)が、第1号から第3号までと異なる指示をしたときは、その指示により必要な時間

2)母性健康管理のために勤務していない時間は無給とする。

第32条(通勤緩和)

1)妊産婦が通勤による心身の負担を軽減するために請求した場合、会社は出社時および退社時について、各々30分の遅出および早退を認める。

2)通勤緩和の時間は無給とする。

第33条(疲労回復のための休憩)

1)妊産婦が業務による疲労回復のために請求した場合、会社は第15条第2項第2号の他に適宜休憩を取ることを認める。

2)業務による疲労回復のための休憩は無給とする。

第34条(医師などの指導による措置)

1)妊産婦が医師などから勤務状態が健康に支障を及ぼすとの指導を受けた場合であって、妊産婦より申し出があった場合は、会社は当該妊産婦の意見を聴いた上で、次の各号に定める措置を講じる。

  1. 担当業務の変更
  2. 心身の負担が小さいと会社が認める業務への転換
  3. 所定労働時間の短縮
  4. 休業

2)前項第4号の休業は無給とする。

3)所定労働時間の短縮の適用を受ける期間については、賃金規程に基づく基本給を時間換算した額を基礎とした実労働時間分の基本給を支給する。

第35条(育児時間)

1)生後満1年に満たない生児を育てる女性従業員は、あらかじめ所属長に申し出て、勤務時間中に1日について2回、1回につき少なくとも30分の育児時間を受けることができる。

2)育児時間は無給とする。

第36条(生理日の休暇)

1)生理日の就業が著しく困難な女性従業員から請求があったときは、必要な期間の生理日の休暇を与える。

2)生理日の休暇は無給とする。

第37条(育児休業および介護休業)

会社は、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」に基づき、育児休業および介護休業、その他の両立支援策を講じる。育児休業および介護休業、その他の両立支援策については、別途定める「育児休業等に関する規程」(省略)および「介護休業等に関する規程」(省略)によるものとする。

第38条(特別休暇)

1)会社は、従業員が次の各号のいずれかに該当する場合は特別休暇を与える。特別休暇に対して、会社は所定労働時間を労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う。

  1. 本人が結婚したとき:5日間
  2. 配偶者が出産したとき:1日間
  3. 配偶者、本人の父母、子が死亡したとき:4日間
  4. 本人の祖父母および兄弟姉妹、配偶者の父母が死亡したとき:2日間
  5. 配偶者の祖父母、兄弟姉妹が死亡したとき:1日間
  6. 夏季休暇:7月1日から9月末日までの間に3日間
  7. 誕生日休暇:従業員の誕生月に1日間
  8. 裁判員に任命されたとき:会社が必要と認めた日数

2)会社は、必要に応じて前項に定める事由を確認するための書類の提出を求める場合がある。

第5章 賃金、賞与、退職金

第39条(賃金および昇給、賞与)

賃金および昇給、賞与は、「賃金規程」(省略)によるものとする。

第40条(退職金)

退職金は、別途定める「退職金規程」(省略)によるものとする。

第6章 休職、退職、解雇

第41条(休職)

1)会社は、従業員が次の各号のいずれかに該当する場合に休職を命じることがある。

  1. 私傷病その他従業員の都合による欠勤が、継続、断続を問わず日常的に支障を来す程度(おおむね1カ月)続くとき
  2. 精神、身体の疾患により労務提供が不完全なとき
  3. 第7条第2項第3号の定めにより出向するとき
  4. その他、特別な事情によって休職を命じる必要があると会社が認めたとき

2)試用期間中の者、嘱託社員については、休職は適用しない。

第42条(休職期間)

1)休職期間は次の各号に定める通りとする。

1.第41条第1項第1号および第2号による休職

 勤続期間が2年未満の者:6カ月

 勤続期間が2年以上5年未満の者:1年

 勤続期間が5年以上の者:1年6カ月

2.第41条第1項第3号による休職

 出向している期間

3.第41条第1項第4号による休職

 会社が必要と認める期間

2)前項第1号の勤続期間は、雇用期間の定めのない従業員としての勤続期間とする。ただし、試用期間は含まれない。

3)休職期間は、原則として、賞与、退職金等の算定対象となる勤続期間に通算されない。ただし、第29条に定める年次有給休暇の付与に関する勤続期間には通算する。

第43条(休職中の賃金)

1)休職期間中は無給とする。

2)住民税、社会保険料は休職中でも発生するため、従業員は、毎月末日までに所定の金額を会社が指定する金融機関口座へ振り込みにて支払うものとする。振込金額等の詳細については、休職開始前に従業員に通知する。

第44条(復職)

1)休職期間の満了前に休職事由が消滅した場合には、従業員は速やかに総務部に、別途定める「復職願」(省略)を提出しなければならない。会社は、復職願を受け取るに当たり、必要に応じて会社の指定した医師による診断結果の提出を命ずることがある他、診断書を発行した医師に対する面談を求めることがある。

2)会社は、復職願を受理し、休職期間中に休職事由が消滅したと確認できたときは、原則として前職務に復職させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難または不適当な場合には前職務と異なる職務に配置することがある。なお、職務の変更に応じ、労働条件も変更する場合がある。

3)第41条第1項第1号および第2号により休職した者が復職し、その後6カ月以内に同一または類似の事由により再び休職した場合には、休職期間は引き続いているものとみなす。

4)休職期間の満了までに復職できない従業員は、休職期間満了の日をもって自動退職とする。

第45条(定年)

従業員の定年は満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。ただし、従業員が希望し、解雇事由または退職事由(第46条第1項第1号を除く)に該当しないときは、会社が別途定める「労働条件」(省略)にて満65歳まで再雇用する。

第46条(退職)

1)従業員が次の各号のいずれかに該当する場合は、次の各号に定める日を退職の日とする。

  1. 定年に達したとき:定年に達した日の属する月の末日
  2. 死亡したとき:死亡した日
  3. 従業員が自己の都合により退職を申し出て、会社がこれを承認したとき:会社が退職日として承認した日
  4. 会社が転籍を命じ、従業員がこれを承諾したとき:会社が命じた転籍日の前日
  5. 第41条に定める休職を命じられた従業員が、休職期間の満了までに復職できないとき:休職期間の末日
  6. 従業員が届け出および連絡なく欠勤を続け、その欠勤期間が1カ月を超え、所在が不明のとき:欠勤期間が1カ月を経過した日

2)自己の都合により退職を申し出る従業員は、退職希望日の14日前までに、総務部に別途定める「退職願」(省略)を提出しなければならない。会社の承認を受けるまでの間、従業員は従前の業務に従事しなければならない。

第47条(普通解雇)

会社は、従業員が次の各号のいずれかに該当した場合に解雇することがある。

  1. 勤務成績または業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できないなど、就業に適さないと認められたとき
  2. 勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、従業員としての職責を果たし得ないと認められたとき
  3. 業務上の負傷または疾病による療養の開始後3年を経過した日において、従業員が労働者災害補償保険法に基づく傷病補償年金を受けているとき、または受けることとなったとき(会社が労働基準法に基づく打切補償を支払った場合または労働者災害補償保険法に基づく打切補償を支払ったとみなされる場合はこの限りではない)
  4. 精神または身体の障害については、適正な雇用管理を行い、雇用の継続に配慮してもなおその障害により業務に耐えられないと認められたとき
  5. 事業の運営上のやむを得ない事情、または天災事変その他これに準ずるやむを得ない事情により、事業の継続が困難となったとき
  6. 事業の運営上のやむを得ない事情、または天災事変その他これに準ずるやむを得ない事情により、事業の縮小・転換または部門の閉鎖などを行う必要が生じ、他の職務に転換させることが困難なとき
  7. 試用期間における作業能率または勤務態度が著しく不良で従業員として不適格であると判断されたとき
  8. その他、前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき

第48条(解雇予告)

従業員を解雇する場合、会社は労働基準法に基づき30日前に予告をするか、または予告に代えて平均賃金の30日分以上の解雇予告手当を支払う。ただし、労働基準監督署長の認定を受けた場合、および次の各号のいずれかに該当する従業員を解雇する場合はこの限りではない。

  1. 日雇いの従業員。ただし、1カ月を超えて引き続き雇用される従業員を除く
  2. 2カ月以内の期間を定めて使用する従業員。ただし、その期間を超えて引き続き雇用される従業員を除く
  3. 試用期間中の従業員。ただし、14日を超えて引き続き雇用される従業員を除く

第49条(解雇理由の証明書)

会社は、解雇する従業員から請求があった場合は、解雇の理由を記載した証明書を交付する。

第50条(解雇の制限)

会社は、次の各号に定める期間中は従業員を解雇しない。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合で労働基準監督署長の認定を受けた場合は除く。

  1. 業務上の負傷または疾病により欠勤する期間、およびその後30日間。ただし、業務上の負傷または疾病による療養の開始から3年を経過しても傷病が治癒せず、労働基準法に基づく打切補償を支払った場合または労働者災害補償保険法に基づく打切補償を支払ったとみなされる場合はこの限りではない
  2. 産前産後の休業期間およびその後30日間

第51条(退職または解雇時の義務)

1)退職または解雇された従業員は、会社の指示する期間内に速やかに後任者に業務の引き継ぎを行わなければならない。

2)退職または解雇された従業員は、身分証明書、社員記章、携帯電話など会社からの貸与品を直ちに返納しなければならない。また、会社に債務のあるときは退職または解雇の日までに完済しなければならない。

3)退職または解雇された従業員は、退職または解雇の日以後、在職中に知り得た業務上の機密事項を他に漏らしてはならない。

第7章 賞罰

第52条(表彰)

従業員が次の各号のいずれかに該当する場合は、会社はその都度審査の上で表彰することがある。表彰は賞状の他、賞品または賞金を授与して行う。

  1. 業務上有益な創意工夫、改善を行い、会社の業績に貢献したとき
  2. 品行方正で業務熱心であり、従業員の模範とするに足りるとき
  3. 事故や災害などを未然に防止し、または非常事態に際し適切に対応し、被害を最小限にとどめるなどの功労が顕著であったとき
  4. 社会的な功績があり、会社および従業員の名誉となったとき
  5. その他、表彰に値する善行または功績があると会社が判断したとき

第53条(懲戒の種類)

懲戒はその情状により、次の各号の区分に従って行う。

1.けん責

 始末書を提出させ、将来を戒める。

2.減給

 始末書を提出させ、減給する。減給は1回の額が平均賃金の1日分の50%を超えることはなく、また減給の総額が賃金規程による一つの賃金の計算期間における賃金総額の10%を超えることはない。

3.出勤停止

 始末書を提出させ、出勤停止を命ずる。出勤停止は7日間を限度とし、その間は無給とする。

4.降格

 始末書を提出させ、役職の罷免・引き下げ、資格等級の引き下げのいずれか、または両方を行う。この場合の賃金は、賃金規程に従い、降格後の役職、資格等級に対応した金額となる。

5.諭旨解雇

 退職願の提出を勧告する。ただし、応じない場合は懲戒解雇に処する。情状に応じて退職金の全部または一部を支給しないことがある。

6.懲戒解雇

 即時に解雇する。原則として退職金の全部を支給しない。この場合、労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当を支給しない。

第54条(懲戒の事由)

会社は、従業員が次の各号のいずれかに該当する場合は、その程度に応じて、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇に処する。

  1. 就業規則、社内規程、通達に違反したとき
  2. 正当な理由なく、無断で遅刻、早退または欠勤を繰り返したとき
  3. 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき
  4. 正当な理由なく、無断でしばしば職場を離れたとき
  5. 職務、勤務に関する諸手続きを怠り、または不正に偽ったとき
  6. 素行不良で、会社内の秩序または風紀を乱したとき
  7. 会社を誹謗(ひぼう)中傷し、または虚偽の風説を流布・宣伝したとき
  8. 会社に所属する個人の名誉・信用を傷つけたとき
  9. 性的な言動によって他人に不快な思いをさせたり、職場の環境を悪化させたりしたとき。または、性的な関心を示したり、性的な行為をしかけたりして、他の従業員の業務に支障を与えたとき
  10. 妊娠・出産・育児に関する不適切な言動により、他人に精神的・身体的な苦痛を与えたり、また他の従業員に不利益を与えたりして、就業環境を害したとき
  11. 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景とした不適切な言動により、他人に精神的・身体的な苦痛を与えたり、また他の従業員に不利益を与えたりして、就業環境を害したとき
  12. 業務上知り得た機密を、不正に第三者に開示または漏洩もしくは自らのために利用したとき
  13. 重要な経歴を詐称して雇用されたとき
  14. その他、前各号に準ずる程度の不都合な行為があったと会社が判断したとき

第55条(懲戒解雇)

1)会社は、従業員が次の各号のいずれかに該当する場合は懲戒解雇に処する。懲戒解雇された従業員には、原則として退職金の全部を支給しない。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、諭旨解雇または降格にとどめることがある。

  1. 重要な経歴を詐称して雇用されたとき
  2. 正当な理由なく無断欠勤が14日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき
  3. 正当な理由なく、無断で遅刻、早退または欠勤を繰り返し、再三にわたって注意を受けても改めなかったとき
  4. 故意または重大な過失により、会社に重大な損害を与えたとき
  5. 会社内において刑法その他刑罰法規の各規程に違反する行為をし、その犯罪事実が明らかとなったとき
  6. 素行不良で、著しく会社内の秩序または風紀を乱したとき
  7. 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度などに関し、改善の見込みがないと認められたとき
  8. 相手方の望まない性的言動により、円滑な職務遂行を妨げ、就業環境を悪化させ、またはその性的言動に対する相手方の対応によって、一定の不利益を与えたりするような行為をしたとき
  9. 職務上の立場を利用して交際や性的な関係を強要したとき
  10. 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品などを使用し、会社に損害を与えたとき
  11. 会社における職務上の地位を利用して私利を図り、または取引先などより不当な金品を受け、もしくは求め、または供応を受けたとき
  12. 私生活上の非違行為や会社に対する誹謗中傷などによって会社の名誉・信用を傷つけ、業務に重大な悪影響を及ぼすような行為があったとき
  13. 会社の業務上重要な機密を外部に漏洩して会社に損害を与え、または業務の正常な運営を阻害したとき
  14. 酒気帯び、あるいは酒酔いの状態で自動車を運転したとき
  15. 特定個人情報等を不正に取得、利用、提供したとき
  16. 非違行為に対し、再三の注意、指導を受けたにもかかわらず、なお改悛(かいしゅん)の見込みがないとき
  17. 前条に準ずる行為において、その情状等に悪質性があると判断される場合
  18. その他、前各号に準ずる程度の不都合な行為があったと会社が判断したとき

2)会社は、諭旨解雇または懲戒解雇事由に該当し、実際に諭旨解雇または懲戒解雇になる恐れがある従業員に対し、原則として事前に弁明の機会を与える。

第8章 安全衛生

第56条(安全衛生の遵守事項)

会社は、従業員の安全衛生の確保および改善を図り、快適な職場の形成のため必要な措置を講ずる。職場の安全衛生については、別途定める「安全衛生管理規程」(省略)によるものとする。

第57条(就業禁止)

1)会社は、次の各号のいずれかに該当する従業員の就業を禁止する。

  1. 病毒伝ぱの恐れのある伝染病の疾病に罹患した者
  2. 心臓、腎臓、肺などの疾病で労働のため病勢が著しく増悪する恐れがある疾病に罹患した者
  3. 前各号に準ずる疾病で厚生労働大臣が定めるものおよび感染症法等で定める疾病に罹患した者

2)会社は、前項の定めにより就業を禁止しようとするときは、あらかじめ、会社が指定する医師の意見を聴くものとする。また、従業員は、前項に該当する恐れがあるときは、直ちに会社に届け出なければならない。

3)第1項の定めにより就業を禁止された期間は無給とする。

第58条(健康診断)

1)会社は、従業員に対し、入社時および毎年1回定期的に健康診断を行う。

2)会社は、前項の健康診断の結果を本人に速やかに通知する。結果に異常の所見があり、会社が必要と認めるときは、就業の禁止、配置の転換、その他必要な措置を命ずることがある。

第59条(医師による面接指導の実施)

1)会社は、第22条の時間外労働および第24条の休日労働の合計が1カ月当たり80時間を超えた従業員から申し出があった場合には、医師の面接指導を受けさせるものとする。

2)前項の他、労働安全衛生法およびその関係法令において必要とされる場合、医師が必要と認めた場合、会社が必要と判断した場合等において、面接指導を実施することがある。

第9章 災害補償

第60条(災害補償)

従業員が業務上の事由または通勤途中に負傷し、疾病にかかり、または死亡した場合の災害補償や保険給付については、別途定める「災害補償規程」(省略)によるものとする。

第10章 個人情報の取り扱い

第61条(従業員個人情報の取り扱い)

1)会社は、適正な雇用管理を行うために必要な範囲において、従業員およびその家族から適正な方法で入手した情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述などにより、特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む。以下「従業員個人情報」)を利用し、または法令の範囲内において第三者に開示する。

2)前項にかかわらず、特定個人情報等の取り扱いは、別途定める「マイナンバー(特定個人情報)取扱規程」(省略)によるものとする。

第62条(従業員個人情報の管理責任者)

従業員個人情報の管理責任者は総務部長とする。

第63条(従業員個人情報の開示請求)

1)従業員は、会社に対して自らの従業員個人情報の開示を求めることができる。

2)会社は、従業員から従業員個人情報の開示を求められたときは、速やかにこれを開示する。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合は、従業員個人情報の全部または一部の開示を拒否することができる。

  1. 法令に違反することとなる場合
  2. 本人または第三者の生命、身体または財産の保護のために必要がある場合
  3. 雇用管理に重大な支障を来す恐れがある場合

3)従業員個人情報が開示された結果、当該従業員個人情報に誤りがあることが判明した場合、会社は当該従業員に通知し、同意を得た上で従業員個人情報を修正する。

第64条(従業員が退職などをした際の従業員個人情報の取り扱い)

退職などの事由により、会社と従業員の雇用関係が消滅した場合、会社は法令で定められている期間において、当該従業員の従業員個人情報を管理し、その後は検証可能な方法による完全な廃棄処分を行う。

第65条(顧客個人情報の取り扱い)

1)会社が保有する従業員個人情報以外の情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述などにより、特定の個人を識別することができるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを含む)を「顧客個人情報」という。

2)従業員は、別途定める「個人情報保護規程」(省略)を遵守して、適切に顧客個人情報を利用しなければならない。

第11章 雑則

第66条(慶弔見舞金)

会社は、従業員の慶弔、被災の際は別途定める「慶弔見舞金規程」(省略)により、それぞれ祝金、弔慰金、見舞金を支給する。

第67条(損害賠償)

従業員が故意または過失によって会社に損害を与えた場合、会社はその全部または一部の賠償を求めることがある。従業員の退職後に、その者の行為が故意または過失によって会社に与えた損害の原因であると判明した場合も、その損害の全部または一部の賠償を求めることがある。

第68条(改廃)

本規則の改廃は、取締役会において行うものとする。

附則

本規則は、○年○月○日より実施する。

以上(2024年2月更新)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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画像:ESB Professional-shutterstock

「【何を】褒めるか」の5つのターゲットとその活用テクを伝授/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』(7)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
  • 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。

1 相手を「褒める」ときに、【何を】褒めるのがベストか意識できていますか?

今シリーズでは、昭和生まれの管理職・リーダー世代と、平成生まれ、とりわけ「Z世代」との価値観に、ここ10年ほどで“真逆”といえるほどのギャップが生まれていることを取り上げています。

世界のビジネス上の価値観は、平成生まれや「Z世代」の価値観のほうに寄っており、会社の成長を今後も目指すためには管理職・リーダー側の皆さんが、価値観やコミュニケーション習慣を見直す必要に迫られているのです。

『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その1の『傾聴』に続いて、前回第6回からは、その2『褒める』を取り上げています。

『褒める』は各社における35歳くらいから以下の平成生まれや、新人や若手の「Z世代」が育ってきた環境を象徴するキーワードの1つです。彼らは昭和生まれの『叱る』ではなく、『褒める』ことを優先した教育を経験しています。

同時に『褒める』は、『傾聴』と同様にグローバルで互いを尊重し合うDEI(=Diversity:多様性, Equity:公平性, Inclusion:包括性)にもつながっており、昭和世代にとって「人を褒めるなんて恥ずかしくて自分には無理」と逃げている場合ではなくなっているのです。

今回は、『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』その2の「褒める」について、「【何を】褒めるか」の5つのターゲットとその活用テクを伝授したいと思います。

皆さんは相手を「褒める」ときに、【何を】褒めるのがベストかを意識できていますか?

2 ①「見た目や持ち物」を褒める vs ②「内面や行動」を褒める

①「見た目や持ち物」を褒める [初対面向き]

見た目や持ち物は比較的簡単に【何を】が見つけられます。早ければ会った瞬間に見つけられるので、[初対面向き]ともいえます。

例えば、「髪形が決まっていますね。かっこいいなあ!」「素敵な時計ですね。こだわってますねー」「笑顔が素敵ですね!」といった感じ。相手は照れ臭そうですが、まんざらでもない様子でうれしそうです。

一瞬で気付けるほど目立っている見た目や持ち物は「ここを褒めて」と言っているようなものです。出会った瞬間から探すことを意識していればすぐに見つかります。

本人が普段からこだわっている可能性が高いので、そこを声に出して言うだけで、相手は「わかります?」という気持ちになって互いの距離が一気に縮まります。

なかんずく初対面同士が集う会合などで有効です

が、相手はうれしさのあまり褒めたこだわりポイントについて語り続けるかもしれません。その際はタイミングを見て「いやあ、私のほうが詳しくなくてすみません。勉強になりました、ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」と告げて、次の方との出会いに進めばいいでしょう。

社内でも新人や異動してきた社員を迎える際に有効です。ただし①「見た目や持ち物」を褒めるには、注意するべき点もあります。特に意識してほしいのはセクハラ(セクシャルハラスメント)への配慮です。セクハラか否かの判断基準は、自分側ではなく相手の中にあります。

例えば、「おしゃれだね」まではよいとしても、その後に「今日はデートなの?」と続けると、セクハラになる可能性があります。「髪切った? 何かあったの?」も同様です。仕事に関係ないプライベートは個人の自由、余計な詮索をしてはいけません。

男性が女性の服装や髪形を褒めるのは、かなり高度なテクニックが必要なのでお薦めしません。パートナーや家族を褒めるときでも失敗しがちです。「その服、素敵だね」と褒めても「2回目だけど」と返されたり、「髪切った? 似合うね」と褒めても「切ってない、まとめただけだけど」と返されたりすることはママあります。

また、相手が複数いるのに1人だけに「おしゃれですね」「髪形が似合ってますね」と褒めると、他の人は自分はそうではないのかなと不機嫌になってしまうかもしれません。

②「内面や行動」を褒める

①とは対照的に、内面や行動はすぐにはわかりません。だからこそ、②の「内面や行動」を褒めるがはまると、相手は「普段から自分のことをよく見てくれているんだな」と感じて相互の信頼関係が高まります。組織においては上司と部下の関係構築に向いています。

例えば、「〇〇さんは後輩の面倒見がいいですね、優しいんですね」「〇〇さんはいつも仕事が丁寧ですね」「〇〇さんはいつも字がきれいですね」といった感じです。

「内面や行動」を褒めるポイントの見極めは、普段から相手の良いところを見つけてあげようと意識していれば、難しいことではありません。見つかったら素直に言葉に出して届ければいいのです。「内面や行動」は何度褒めてあげても構いません。

「何度も言っちゃうけど、〇〇さんは本当に仕事が丁寧ですね」と言えば、相手はそれを強みに感じて自信になり、もっと上を目指してくれることでしょう。褒めることで一人ひとりが育っていくのです。

3 ③「変化や成長」を褒める ④「貢献」を褒める

これらは②「内面や行動」を褒めるの発展形といえるでしょう。

③「変化や成長」を褒める

②の「内面や行動」の中でも、目立った③「変化や成長」を褒めます。それには長期的な関係が前提となりますが、半年、1年と長い付き合いだからこその大きな効果を発揮します。

例えば、「今日の朝会の司会、前回より良かったですよ」「企画書の書き方がこの1年ですごく上手になりましたね」といった感じです。褒められた本人はうれしくなって、もっと上を目指そうと心に誓うのではないでしょうか。

朝会など毎週、毎月実施するものであれば、長期でなく1週間、1カ月でも可能です。とにかく本人の「変化や成長」を、つぶさに観察しておいてあげることが大切なのです。

④「貢献」を褒める

「貢献」を測るにも③と同様に長期的な関係が前提となります。期間が長ければ長いほど、“褒める”ことの効果は大きいといえるのではないでしょうか。

例えば、「今回も目標達成できたのは〇〇さんのおかげですよ」「〇〇さんの気遣いで、私は救われました」といった感じです。

個人や組織への「貢献」を褒められることは、本人にとっては「この仕事をしていてよかった」とやりがいに思えるレベルの喜びでしょう。褒める側は、本人の貢献への感謝を正直に述べたまでですが、そのことが本人の仕事や会社へのエンゲージメントを想像以上に高めるケースがあるのです。

4 ⑤「ナンバーワン」だけでなく「オンリーワン」を褒める

結果を出した「ナンバーワン」のメンバーは、ラッキーがあったとしても褒めてあげましょう。それなりの数の競争相手がいればラッキーだけで「ナンバーワン」は取れません。ラッキーだって努力の結果かもしれないのですから。

そして

「ナンバーワン」のメンバーと同時に、プロセスも含めて「オンリーワン」の貢献や成長をしたメンバーを褒めることも重要です。

人は「誰にでもできる仕事」より、「自分にしかできない仕事」にやりがいや自身の存在価値を感じるものです。

例えば、「〇〇さんの気遣いあっての△課ですよ」「〇〇さんのサポートがあったから、頑張ってこられました」と、「オンリーワン」の言葉を添えられたらこの上ない喜びでしょう。④の「貢献」を褒めるの喜びに加えて、現在の仕事を“天職”とまで思えるかもしれません。

仕事や会社へのエンゲージメントはいうに及ばず、上を目指して自らどんどん成長して、周囲や会社により良い影響を与えてくれることでしょう。

もちろん、会社としては〇〇さんが病気で急に休むことになっても十分に回る組織でなければなりませんが、一人ひとりの「オンリーワン」の個性が生きている職場こそ、輝いている職場なのだと思います。

以上、今回は「【何を】褒めるか」の5つのターゲットとその活用テクをご紹介してみました。

最後までお読みいただきありがとうございました。次回は、「相手を【どのように】褒めればいいか」をテーマにお話ししていきたいと思います。

<ご質問を承ります>ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで
Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

※武田が以前上梓した書籍『新スペシャリストになろう!』(PHP研究所)が、ディスカヴァー・トゥエンティワンより電子書籍として復刻出版されました。キャリア選択でお悩みの方にお薦めです。

https://www.amazon.co.jp/dp/B0CMCW1FVY/

以上(2024年1月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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社長の言葉と泥臭さが学生に受ける!インターンシップで採用するためのヒント

書いてあること

  • 主な読者:採用活動の一環としてインターンシップを実施したい経営者
  • 課題:インターンシップをしたことがないし、知名度がないので参加者が集まるのか不安
  • 解決策:大まかな流れを押さえつつ、「現場感」「短期集中」を意識する

1インターンシップは採用チャンス!

かつてはインターンシップを採用選考に組み込む「インターンシップ採用」は御法度でしたが、2025年卒生(2023年4月時点で学部3年生)からは条件付きで緩和されます。ということで、各社ともインターシップ採用を取り入れようとしています。そして、このインターシップ採用、実は中小企業にとってはチャンスです。なぜなら、

中小企業のインターンシップは実践的で、社長が泥臭く語りかけることができる

からです。特に、起業前の就業先を探している学生や、実業に触れたい学生には魅力的ですし、就業体験を経た上での採用なら入社後のミスマッチも防ぎやすくなります。

この記事では、中小企業がインターンシップ採用に取り組む際のポイントを3つ紹介します。

  • インターンシップ採用の大まかな流れをつかむ
  • 泥臭く、「現場感」を前面に出す
  • 「短期集中」を意識しつつ、ある程度柔軟に対応する

2 インターンシップ採用の大まかな流れをつかむ

文部科学省・厚生労働省・経済産業省「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」では、学生のキャリア形成支援活動が図表1の通り、4つに類型化されています。いわゆる「インターンシップ」はタイプ3とタイプ4ですが、タイプ4は主に理系大学院生を対象とするので、

多くの企業に関係するのはタイプ3の「汎用的能力・専門活用型インターンシップ」

です。

画像1

2025年卒生から、タイプ3とタイプ4で得た学生の情報を採用活動で利用できるようになっています。具体的には、

インターンシップに参加した学生に求人案内を送る、選考過程を一部免除するなど

といったことができます。ただし、そのためには産学協議会(日本経済団体連合会と大学関係団体等の代表者により構成)基準に準拠した、図表2の5つの要件を満たす必要があります。

画像2

5つの要件を満たすことが理想ですが、これらは法律のような強制力があるものではないので、しゃくし定規に従う必要はないともいえます。それよりも、中小企業は学生に自社の良さをアピールできるプログラムの検討に注力するべきでしょう。以降では、中小企業がインターンシップを実施する上でのポイントを紹介します。

3 泥臭く、「現場感」を前面に出す

インターンシップの参加者を集めるには、

大学のキャリアセンターや就活サイト、自社ウェブサイトなどで時期や期間、内容などの要項を告知する

といった方法があります。ただ、形式的な内容を出しても学生の興味はひけないので、より現場感のある発信をすべきです。例えば、外構工事業を営むある会社では、自社ウェブサイトで、

  • そもそも外構とは何なのか
  • スタッフの1日の仕事の流れ
  • 職場で達成感や満足感が得られる理由

などを、イラストや写真付きで分かりやすく紹介しています。また、SNSの動画サイトで自社の事業や社員の仕事内容をアニメーションで紹介しており、動画の最後にインターンシップや会社訪問を常時受け付けている旨と受付用の連絡先を記しています。こうした募集は、

業界に興味があるけど、自分が実際に仕事をするイメージが湧かない。もっと“現場感”のある話が聞きたい

という学生の興味をひくはずです。

こうして参加者を集めることができたら、時間がゆるす限り社長も参加者と交流しましょう。中小企業の魅力は社長の魅力でもあります。社長が語る内容は、学生にとってかなりエキサイティングなはずですし、恐らく大学の講義では教えてくれないもののはずです。

なお、最近はオンラインでインターンシップを行うケースも増えています。オンラインにするか対面にするかについては、内容によって次のように使い分けるとよいでしょう。オンラインと対面を交互に行うのもよいでしょう。

  • オンライン:会議や説明、情報収集、個人の作業など
  • 対面:職場の見学、クライアントへの訪問、社員のサポートなど

4 「短期集中」を意識しつつ、ある程度柔軟に対応する

インターンシップはやりたいが、本業が忙しくてなかなかリソースを割けないという会社は少なくありません。そんな場合におすすめしたいのが「1dayインターンシップ」です。

1dayインターンシップとは、文字通り、1日限りのプログラムであり、インターンシップにあまり時間を割けない場合に有効です。また、何日もかけてダラダラとインターンシップを行うよりも、充実した1日を過ごしてもらいつつ、自社に興味を持ってくれた学生に個別にアプローチするほうが中小企業にとっても効率的です。

例えば、情報通信業の会社が行う1dayインターンシップのプログラム例としては、

  • 午前:IT業界の現状や将来像に関する説明会
  • 午後:要件確認、設計、プログラム、テスト、完成報告を疑似体験

といったものが考えられます。一方、1dayインターンシップを基本としつつ、意欲のある学生に対しては必要に応じて中長期のインターンシップを実施するという方法もあります。例えば、建設業などを営むある会社では、

  • 工場見学、ものづくり体験:数時間から1日
  • より実践的な業務体験(ポンプの分解点検、レーザー加工など):5日から2週間

といった具合に、インターンシップの実施期間について複数の選択肢を設けています。会社が割くべきリソースは増えますが、選択肢を設けることで、より意欲のある学生を見つけやすくなるメリットがあります。なお、この会社ではインターンシップを実施する際、

会社が事前にあれこれ決めず、学生の希望に合わせてどんな内容にするかを検討していく

という方法を取っています。大企業の場合、参加人数の関係で日程や内容をある程度画一的にせざるを得ませんが、この辺りを柔軟に調整できるのは、中小企業ならではの強みといえます。

5 (参考)インターンシップの日数、学生側の要望など

最後に、「リクルート 就職みらい研究所」が2025年卒生に対して実施したアンケート調査(2023年9月実施)から「インターンシップ等の内容別参加日数」「インターンシップ等に参加して良かった点(参加日数別)」のデータを紹介します。インターンシップ等の内容別参加日数は図表3の通りです。どのような内容のインターンシップであっても、日数については「1日以下」で実施するケースが多いようです。

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インターンシップ等に参加して良かった点(複数回答)は図表4の通りです。参加日数に関係なく、学生はインターンシップを通じて「業種や仕事などについて具体的に知れる」ことを、特に期待しているようです。

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以上(2024年1月)

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画像:unsplash

【中堅社員のスピーチ例】ライト兄弟を成功に導いた「ライバル」

いよいよ12月になりました。今日は飛行機の発明で知られる、米国のライト兄弟の話をします。なぜ12月にライト兄弟なのかというと、今から120年前の1903年12月17日、この2人が世界初とされる、動力飛行機による飛行を成功させたからです。実は「世界初」という部分については諸説あるようですが、いずれにせよ「空気よりも重い機械を空に飛ばす」という、当時としては考えられないレベルの偉業を成し遂げた兄弟です。

ライト兄弟の本業は自転車屋で、元々は飛行機とは特に縁のない人たちでした。ですが、自転車の小売りや修理を請け負う傍ら、自分たちのオリジナル製品を作って成功を収めるなど、乗り物への造詣が深かった彼らは、あるときドイツの航空研究家オットー・リリエンタールがグライダーによる飛行を成功させたニュースを耳にし、空の世界に興味を持ちます。その後、リリエンタールが実験中に墜落死したことを知ると、「高い所から風に乗るグライダーではなく、平地から自力で飛び上がれる乗り物を作れないか」と考え、飛行機の発明に本格的に乗り出したのです。

まずはリリエンタールをはじめとする先駆者たちの航空資料などを基に飛行の基本を勉強するところから始め、さらに自分たちの本分である自転車を改良した装置を使って空気の抵抗を測定したり、自転車の部品を使って数百種類の翼の模型を作ったりと、飛行機を飛ばすための研究を地道に続けました。

そして、何百回にも及ぶ飛行実験のデータを蓄積し続け、とうとう1903年12月17日、ライト兄弟は12馬力のエンジンを搭載した飛行機「ライト・フライヤー」を空に飛ばすことに成功します。彼らが飛行機の発明に乗り出してから、約7年の歳月が過ぎていました。なぜ、彼らは最後まで諦めなかったのか。色々な考え方があるでしょうが、私はライト兄弟にとって負けたくない「ライバル」がいたからだと思っています。

それは、先ほどの話にもあったリリエンタールです。彼は、墜落による非業の死を遂げながらも、亡くなる直前に「成功のためには、犠牲を払わなければならない」という趣旨の言葉を残しています。リリエンタールは自分の死を悲観せず、最後まで人類が空を飛ぶ未来に思いを馳せていたのです。ライト兄弟は彼の死をきっかけに飛行機の発明に本格的に乗り出していますから、もしかしたら失敗でくじけそうになったとき、「リリエンタールだったらここで弱音は吐かない。我々も負けてたまるか」と、自分たちを奮い立たせていたのかもしれません。

誰かは内緒ですが、私にもこの会社に負けたくないライバルがいます。自分がくじけそうになったとき、「あの人だったらここで弱音は吐かない」と自分を奮い立たせるようにしています。もし皆さんの中に、私のことをそのように思っている人がいてくれたらうれしい限りです。これからもいい仲間、いいライバルでいてください。

以上(2023年12月)

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画像:Mariko Mitsuda

全国各地に広がる「子ども食堂」に企業はどんな支援ができる?

書いてあること

  • 主な読者:子ども食堂の支援を通して地域貢献などを検討している経営者
  • 課題:企業ができる支援策や、支援をする際の相談先を知りたい
  • 解決策:物品の寄付以外にも、場所の貸し出しや学習体験の提供といった支援策がある。子ども食堂を支援するNPO法人や地方自治体が相談先となる

1 全国各地で広がる子ども食堂 その役割は?

子どもが1人でも行けて、無料あるいは低価格でご飯が食べられる「子ども食堂」。発祥は、2012年に東京都大田区で「気まぐれ八百屋だんだん」を経営していた近藤博子氏が、家庭の事情で食事が作れない家の子どもに対して、「だんだんワンコインこども食堂」として低価格で夕食を提供したことだとされます。この活動が東京都豊島区で子どもを支援する「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」の栗林知絵子氏の目に留まり、子ども食堂を知ってもらうための講演会やシンポジウムの全国ツアーが行われました。

加えて、子どもの孤食問題の認知拡大、コロナ禍で経済的に困窮する家庭が増えたことなども背景に、子ども食堂は全国各地に広まっていきました。全国こども食堂支援センター・むすびえの「こども?堂全国箇所数調査2022結果」によると、2018年には2286カ所だった子ども食堂は、2022年に7363カ所となっています。

子ども食堂の箇所数の推移"

昨今は国や地方自治体が予算を投入したり、地域の子ども食堂をリストアップしたりして、寄付先を募るといった支援の動きもあります。しかし、元々は民間発の取り組みなので、費用や食材などの調達、開催場所の確保が課題であり、企業の支援が求められています。

一方、別の視点では、

子ども食堂を「食事の提供だけでなく、地域の大人と子どもが交流し、お互いに経験を広げることができる場所」

と捉え、子ども食堂と共同してイベントを開催し、地域貢献や企業の人材育成につなげるなどの新しい支援の形に取り組む企業も出てきています。

この記事では、子ども食堂への支援に取り組む企業の事例や、企業が子ども食堂への支援を検討する際に相談、問い合わせ先となる窓口団体などを紹介していきます。

2 子ども食堂の課題・企業による子ども食堂への支援事例

1)子ども食堂の課題

「こども食堂の現状&困りごとアンケートvol.8 結果報告」によると、子ども食堂での困りごと(上位10回答)は次の通りです。このアンケートは、全国こども食堂支援センター・むすびえが、全国各地の「子ども食堂の地域ネットワーク」および「子ども食堂ネットワーク」とつながる子ども食堂を対象に行ったものです。

子ども食堂での困りごと

子ども食堂の課題はさまざまですが、例えば、運営資金やスタッフ、会場の不足などは企業による支援の余地があるといえます。企業による具体的な支援策としては、次のようなものが挙げられます。

企業による子ども食堂への支援策の例

以降で実際の企業事例を見ていきましょう。

2)子ども食堂で出前授業を実施:エナリス(東京都千代田区)

電力の需給管理や電力卸取引などを手掛ける同社では、東京都港区にある「みなと子ども食堂」の中で開催している学習会で出前授業を開催しました。

授業は電力の需要予測をテーマに、電気に関する基礎知識を説明した後、自宅、コンビニ、学校で一日の中でいつ、どのようなときに電気を使うかのワークを行いました。

出前授業によって子どもに新しい興味が生まれ、子どもの未来や電力業界の成長の芽につなげることが狙いとしています。

3)自販機の設置、売上で子ども食堂を支援:ダイドードリンコ(大阪府大阪市)

同社では、売上金の一部を地域の子ども食堂に寄付できる寄付型の自動販売機を展開しています。同社の自販機設置について解説するウェブサイトでは自治体や企業での自販機導入事例を紹介しています。導入した企業によると、地域貢献の方法として寄付型の自販機の設置が検討しやすいことや、飲料を購入するだけで気軽に地域貢献につながるため、社員に意識付けができることがメリットといいます。

また、自治体によっては同社と協定を締結している場所もあります。例えば、愛媛県新居浜市では「こども食堂等子どもの居場所を支援するための協働に関する協定書」を締結し、地元企業に自販機を設置してもらうことで子ども食堂への支援に取り組んでいます。

4)飲食店と連携して子ども食堂を推進:テンポイノベーション(東京都新宿区)

飲食店物件に特化した不動産業を手掛ける同社では、東京都内の飲食店で子ども食堂を開催する取り組みである「お店のこども食堂『みせしょく』」を、2019年から取引先の飲食店と共同で展開しています。

子ども食堂は、地域のボランティアが運営するケースが一般的なため、食材の調達、開催場所の確保、開催の告知などの負担が大きく、継続して開催することが難しくなる場合があります。一方で、飲食店で子ども食堂を開催することによって、食材の調達や開催場所の確保といった課題を解決でき、いつ、どこでも子どもがおなかと心を満たせる環境が整うといったメリットがあります。

なお、子ども食堂の活動資金は同社の企業利益から充てられており、2023年8月末時点で57店舗の参加実績があります。

5)居酒屋でチャリティーメニューを展開:ファイブグループ(東京都武蔵野市)

居酒屋・ダイニング経営を手掛ける同社では、吉祥寺で子ども食堂を定期開催しています。

店舗に来店した顧客が「子ども食事券」を購入して店舗に置き、その食事券を使って子どもは無料で食事を摂ることができるという仕組みになっています。

また、活動費は顧客が購入する食事券以外にも、グループ店舗で展開しているチャリティーメニューの売上金額を充てています。

子ども食堂の活動を通じて、リピーターの来客が増えて店舗の売上に貢献したり、社会貢献の取り組みに共感したとして、入社を希望する学生が増えて人材確保につながったりするなど、地域貢献に限らず企業にとってもメリットが大きい事例といえるでしょう。

6)社員寮を子ども食堂の会場として提供:西松建設(東京都港区)

同社では、福岡県大野城市にある社員寮の食堂を子ども食堂の「おおのじょうこども食堂みずほ町」の会場として提供しています。

この子ども食堂はNPO法人チャイルドケアセンターが開催している子ども食堂で、子ども食堂を定期的に開催できる会場が確保できなかったり、食材や備品を保管する場所が無かったりしたという課題をきっかけに、西松建設がチャイルドケアセンターに支援を申し出たことで実現したそうです。

社員寮に外部の団体が入ることのリスク管理は、次のような対応を取っているといいます。

  • 施設のセキュリティ:建物の解錠・施錠は寮の管理人のみが行う
  • 食中毒、ケガなどのトラブル対策:保健所主催の食品衛生管理・食中毒予防関連の研修の受講、参加するスタッフや子どものNPO活動総合保険への加入
  • 運営団体の信頼確保:チャイルドケアセンターが子ども支援や子育て支援に取り組んできた実績を示す資料の確認

7)自社の運営施設で子ども食堂を開催:ラグジュアリー(福岡県福岡市)

賃貸管理や保育園の運営などを手掛ける同社では、同社が運営する「コワーキングサロン&カフェラウンジ 四季のいろ」で子ども食堂を開催しています。子ども食堂では、カレーなどの食事提供と併せて、書道や英会話、プログラミング教室も催しています。

学校の授業では教わらない体験を通じて子どもに学ぶ楽しさを知ってもらうとともに、施設に集まった子ども同士で一緒に学ぶことで、学校外でのコミュニティ作りや友達づくりを支援する狙いがあります。

3 子ども食堂を支援するときの相談、問い合わせ先となる団体

1)全国こども食堂支援センター・むすびえ

全国各地の子ども食堂を支える団体への支援、子ども食堂を応援したい企業・団体との協働事業、こども食堂が全国にどのくらいあるか調べるなどの調査研究を手掛けています。企業・団体が子ども食堂を支援するに当たり、次のような例があります。

  • 社内や施設内への寄付付き自動販売機の設置、古本の寄付
  • 寄付付き商品の企画や、イベントでの売り上げなどを寄付するための支援
  • 食材や備品などの物資、商品を子ども食堂に提供するための仲介
  • 子ども向けの食育、健康教育、アート体験など企業が手掛ける体験プログラムを子ども食堂に提供するための仲介
■全国こども食堂支援センターむすびえ■
https://musubie.org/

2)全国食支援活動協力会

「こども食堂サポートセンター」の運営や、子ども食堂への支援マッチングなどを手掛けています。同団体のウェブサイトでは、企業連携の事例を紹介しており、王将フードサービスによる商品売上代金の寄付や、アサヒ飲料による飲料と絵本の寄付といった事例があります。

■全国食支援活動協力会■
https://mow.jp/

3)地方自治体による子ども食堂の開設・寄付に関する相談窓口

市区町村によっては、ウェブサイト上で子ども食堂の開設や寄付に関する相談窓口をはじめ、その地域内にある子ども食堂の一覧や、どのような支援を必要としているかの情報を公開している場合があります。また、自社で子ども食堂を開設する場合の手続きや開設に伴う助成金制度がある場合もあるので、最寄りの自治体のウェブサイトを確認してみるとよいでしょう。

以上(2024年1月)

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画像:hasegawa risa-Adobe Stock

「解雇」の種類と基本ルール

書いてあること

  • 主な読者:「解雇」の基本的なルールを知りたい経営者
  • 課題:解雇にはさまざまな種類があり、また基準も曖昧なので分かりにくい
  • 解決策:就業規則に定める。会社や社員の状況から解雇が本当に妥当かを検討する

1 解雇のハードルは高い、ルールを押さえて慎重に

「解雇」とは、使用者(会社)が労働契約を一方的に解約することです。多くの会社にとって解雇は身近なものではないですが、雇用の考え方やルールが変化する中で、今後は解雇の在り方も変わっていくのではないかという声があります。例えば、「ジョブ型雇用が浸透していくと、能力が仕事に追いつかない社員を解雇する会社が増えるのではないか」といった具合です。

ただ、注意しておかなければならないのは、

少なくとも今の日本の法制度では、解雇が認められるハードルは高く、慎重に手続きを進めないと、社員と訴訟などのトラブルになるリスクがあること

です。トラブルを防ぐには、次のような解雇に関する基本ルールを押さえる必要があります。

  1. 解雇の種類(普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類)
  2. 解雇全般に共通する基本的なルール(解雇権濫用法理など)

2 普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の違い

1)普通解雇

普通解雇とは、

病気やけが、能力不足などを理由に、社員を解雇すること

をいいます。「社員が会社に対し、労務を提供できなくなった場合に行われる」というのがポイントです。普通解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 社員が病気やけがで就業不能になった
  • 社員の勤務成績が会社の求める水準に達しない状態が続いた

2)整理解雇

整理解雇とは、

経営危機の状態にある会社が、余剰人員の削減を目的として社員を解雇すること

です。「社員の能力不足などに関係なく、経営上の理由で実施される」というのがポイントです。整理解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 会社の収益が不況による販売不振で著しく悪化した
  • 会社の設備などが災害で大きく損傷し、事業の縮小を余儀なくされた

3)懲戒解雇

懲戒解雇とは、

極めて悪質な規律違反や非行があったときに、就業規則にのっとり、懲戒処分として社員を解雇すること

です。「重大な問題行為をした社員を罰する目的で行われる」というのがポイントです。懲戒解雇が行われる主なケースは次の通りです。

  • 社員が会社の名誉を害する犯罪行為や重大なハラスメント行為をした
  • 社員が重要な経歴を詐称して入社した
  • 社員が正当な理由なく、無断で遅刻、早退、欠勤を繰り返した

3 解雇の基本的なルール

1)解雇権濫用法理

解雇権濫用法理とは、

「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」であると認められない場合、解雇は不当解雇として無効になるというルール

です。この解雇権濫用法理は労働契約法第16条に明文化されています。

1.客観的に合理的な理由

客観的に合理的な理由とは、

客観的に見て解雇はやむを得ないといえるだけの具体的理由のこと

です。例えば、社員の著しい能力不足、契約義務違反、経営上の必要性などがそうです。なお、多くの裁判例では、「就業規則の解雇事由に該当するかどうか」が、解雇の客観性・合理性を肯定する重要な基準になっています。つまり、就業規則に解雇事由に関する規定がないと、不当解雇と判断されるリスクが高いということです。

2.社会通念上相当

社会通念上相当とは、

社員の行為や状況に照らして、解雇が妥当であるかということ

です。例えば、「たった1回の少額な納品ミスで能力不足と判断し、解雇する」というのは厳し過ぎて、社会通念上相当とはいえません。

2)解雇ができない期間

会社は次の期間中、社員を解雇することができません。

  1. 業務上の病気やけがで療養するために休業する期間と、休業終了後30日間
  2. 産前産後休業の期間と、休業終了後30日間(女性社員のみ)

ただし、1.の場合、療養開始後3年を経過しても治癒しなければ、平均賃金の1200日分の「打切補償」を支払うことで、解雇制限が解除されます。また、天災事変などによって事業の継続が不可能となった場合も同様です。なお、平均賃金とは、算定事由発生日(けがをした日や病気が判明した日など)以前の直近3カ月間の賃金総額(賞与等を除く)を、算定事由発生日以前の直近3カ月間の総日数で除した金額です。

3)解雇予告と解雇予告手当

原則として、解雇は事前に予告して行わなければなりません。これを「解雇予告」といいます。解雇予告は少なくとも30日前にしなければなりませんが、「解雇予告手当(平均賃金)」を支払えば、その日数分、解雇予告期間を短縮できます。

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また、例外として、懲戒解雇など社員に帰責性があって解雇する場合や、天災事変により事業の継続が不可能となった場合、解雇予告なしに解雇することが可能ですが、その際は会社を管轄する労働基準監督署の事後認定を受けなければなりません。

4)即時解雇が認められている社員(例外あり)

次の社員は、解雇予告や解雇予告手当の支払いを経ずに解雇することができます。ただし、一定の条件を満たすようになると、解雇予告などが必要となります。

  1. 日雇いの社員(1カ月を超えて使用された場合を除く)
  2. 2カ月以内の期間を定めて使用される社員(定めた期間を超えて使用された場合を除く)
  3. 4カ月以内の期間を定めて季節的業務に従事する社員(定めた期間を超えて使用された場合を除く)
  4. 試用期間中の社員(14日を超えて使用された場合を除く)

5)原則として契約期間中の解雇は認められない

パート等の有期契約社員を契約期間の中途で解雇することは、やむを得ない事由(天変地異や会社の倒産、パート等の重大な非違行為など)がある場合を除いて認められません。解雇する場合も、会社に過失があれば、損害賠償責任を負う恐れがあります。

6)その他

この他、労働基準法や育児・介護休業法、男女雇用機会均等法により、

  • 国籍、信条、社会的身分を理由とした解雇
  • 妊娠や出産などを理由とする解雇
  • 育児休業・介護休業などを取得したことを理由とする解雇

が禁止されています。

以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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画像:Maxx-Studio-shutterstock

経営危機でもハードルが高い整理解雇を成立させるために必要な4つの要素

書いてあること

  • 主な読者:経営状態が厳しく、社員の整理解雇を検討する経営者
  • 課題:整理解雇は有効性の判断が厳しい。対象となる社員のためにしっかりと対応したい
  • 解決策:整理解雇の成立を左右する「4要素」を押さえつつ、適法に行った証拠を残す

1 経営危機下に行う「整理解雇」

整理解雇とは、

「会社が経営危機に陥った」「特定の事業部門を廃止することになった」など、経営上の理由から、余剰人員を削減するために行う解雇(リストラ)

です。整理解雇で注意しなければならないのは、

社員側に落ち度がない解雇なので、普通解雇(能力不足などを理由とした解雇)よりも、「有効」と認められるハードルが高い

という点です。裁判などで整理解雇が「無効」になったケースは少なくなく、会社が敗訴した場合、解雇した社員から係争中の賃金の支払いや損害賠償を求められることもあります。

こうしたトラブルを防止する上でのカギとなるのが、

「整理解雇の4要素」と呼ばれる、整理解雇の成立を左右する4つの要素

です。経営者にとっても経営危機による整理解雇は無念であり、だからこそ実施する際は適法に進めなければなりません。以降で4要素の考え方を詳しく紹介するので、確認してみましょう。

なお、4要素を押さえることは大切ですが、実務では訴訟になった場合などに備え、「適法に整理解雇を行った」といえる証拠を残しておくことも重要です。次のような証拠がないと、裁判で「整理解雇ついて十分に検討していない」と判断される恐れがあるので注意しましょう。

  • 人員削減の必要性があると判断した経営会議の議事録、整理解雇の計画書
  • 解雇を回避するための措置(経費削減、人件費削減、配置転換・出向、希望退職の提案等)に関する検討や実施の記録
  • 被解雇者の選定基準が分かる資料、人事考課表
  • 対象社員、労働組合への説明に用いた資料、協議の議事録

2 整理解雇の成立を左右する「4要素」

前述した通り、整理解雇は社員側に落ち度のない解雇であるため、裁判では次の4要素を考慮し、普通解雇(能力不足などを理由とした解雇)よりも、解雇が有効かを厳しく判断します。

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過去には、これらを「4要件」として「どれか1つでも欠ければ整理解雇は無効になる」と判断した裁判例がありますが、最近は「4要素を総合的に考慮して妥当といえなければ無効になる」という考え方にシフトしています。

3 要素1:人員削減の必要性

人員削減措置が経営上の必要性に基づいているかを判断します。人員削減の必要性がどの程度あるかがポイントです。レベルは次の4つに分けられ、1.が最も必要性が高く、4.が最も低くなります。

  1. 「倒産必至」の状態
  2. 「客観的に高度の経営危機」下にある状態
  3. 「会社の合理的運営上やむを得ない必要性」がある状態
  4. 「経営方針の変更等により余剰人員が生じる」状態

過去には、1.の「倒産必至」の状態でなければ、人員削減の必要性は認められないとした裁判例がありますが、最近は認められる範囲が広がっています。その代わり、人員削減の必要性のレベルに応じて、「要素2:解雇回避努力義務の履行」のレベルが変わってきます(詳細は後述)。

人員削減の必要性が否定される典型例は、(特に1.の「倒産必至」、2.の「客観的に高度の経営危機」にある状態で)人員削減を行いながら、次のような矛盾する行為をした場合です。

  • 大幅な賃上げを実施した場合
  • 多数の新規採用を実施した場合
  • 高額な配当を実施した場合

4 要素2:解雇回避努力義務の履行

整理解雇を回避する努力を尽くしているかを判断します。整理解雇前に次の3つを検討・実施しているかがポイントです。

  1. 経費の削減(広告費、交際費などの削減)」
  2. 人件費の削減(役員報酬の削減、残業削減、昇給停止など)
  3. 解雇回避措置(新規、中途採用の停止・縮小、配置転換・出向・転籍の実施、提案、希望退職者の募集など)

こうした手段を講じずに、いきなり整理解雇に踏み切っても、基本的には無効となります。ただし、前述した通り、「要素1:人員削減の必要性」のレベルに応じて、会社に求められる解雇回避努力義務の履行のレベルは変わってきます。

例えば、1.の「経費の削減」や2.の「人件費の削減」をしても経営危機から立ち直れない場合、3.の「解雇回避措置」は必ずしも求められません。逆に会社が経営危機の状態になければ、3.の措置は強く求められます。

5 要素3:人選の合理性

被解雇者を選定するための合理的な基準を設定し、公正に適用しているかを判断します。被解雇者の選定基準が、次の3つを満たしているかがポイントです。

  1. 明示的な基準設定(選定基準が社員に明示されているか)
  2. 基準自体の合理性(整理解雇がやむを得ないといえる選定基準になっているか)
  3. 基準適用の相当性(選定基準が公正に適用されているか)

1.の「明示的な基準設定」については、選定基準が社員に明示されている場合、人選は合理的だと判断されやすくなります。

2.の「基準自体の合理性」については、勤務成績(欠勤日数、遅刻回数など)、会社への貢献度(勤続年数など)、再就職の可能性を踏まえた経済的打撃の低さ(例:対象年齢が30歳以下)などを基準にすると、人選は合理的だと判断されやすくなります。

3.の「基準適用の相当性」については、合理的な選定基準があるのに、気に入らない社員を整理解雇の対象にするなど恣意的な運用をした場合、整理解雇は無効と判断されやすくなります。

6 要素4:手続きの妥当性

被解雇者などに十分な時間をかけて丁寧な説明を行ったかを判断します。整理解雇の前に、次の2つを実施しているかがポイントです(2.は労働組合がある場合のみ)。

  1. 被解雇者に対する整理解雇の必要性と時期、希望、方法についての説明、協議
  2. 労働組合に対する整理解雇の必要性と時期、希望、方法についての説明、協議

1.も2.も、整理解雇の有効性に与える影響が小さいとされています。ですが、整理解雇の有効性の判断は分かりにくいですし、訴訟などのトラブルを事前に回避するという意味でも実施しておいたほうがよいでしょう。

特に「要素3:人選の合理性」については、「合理的な基準」の判断が難しいので、そこで社員の納得が得られなくても、説明、協議によって会社の誠意を見せるようにします。また、「要素1:人員削減の必要性」が低いような場合、配置転換の意向も確認しておくことも重要です。

なお、労働組合との労働協約の中に「整理解雇についての協議条項」が定められている場合、協議事項に反する整理解雇は認められないので、労働組合がある会社は注意が必要です。

以上(2023年12月更新)
(執筆 日比谷タックス&ロー弁護士法人 弁護士 堀田陽平)

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画像:Halfpoint-Adobe Stock

うつ病やハラスメントなどケース別 トラブルになりにくい「解雇」の進め方

書いてあること

  • 主な読者:解雇についてトラブルになりがちなポイントを知っておきたい経営者
  • 課題:解雇の基本的なルールは理解しているが、具体的に何が危険なのかが分からない
  • 解決策:解雇のシチュエーション別にトラブル回避のポイントを押さえる

1 解雇の種類ごとにトラブル回避のポイントがある

「解雇」は、使用者(会社)が労働契約を一方的に解約するという特性上、労使トラブルが起きやすい分野です。解雇の基本的なルールは労働契約法や労働基準法に定められていますが、実際にトラブルを回避するためのポイントは、

  1. 普通解雇:病気やけが、能力不足などを理由とした解雇
  2. 整理解雇:経営危機の状態にある会社が、余剰人員を削減するために行う解雇
  3. 懲戒解雇:極めて悪質な規律違反や非行があったときに行う、懲戒処分としての解雇

のそれぞれで異なります。以降で解雇の種類別に、トラブル回避のポイントを紹介します。

2 普通解雇をめぐるトラブルを回避するには?

1)社員が病気やけがで働けなくなり、休職期間が終わっても復職できなかった場合

多くの会社は、社員が私傷病(プライベートの病気やけが)で働けなくなった場合、一定期間労働を免除する「休職制度」を設けています。就業規則で定める休職期間を超えても社員が復職できない場合、解雇を検討するのが一般的です(就業規則に「復職できない場合、自然退職となる(自動的に労働契約が終了する)」などの定めがある場合を除く)。ただし、その際、

  1. 復職が可能なのに、休職期間満了を理由に解雇する
  2. 長時間労働やハラスメントでうつ病になった社員を、休職期間満了を理由に解雇する

などの対応をすると、不当解雇になる恐れがあります。

1.については、医師が復職できると言っているのに、会社が復職を認めない場合などに不当解雇になる恐れがあります。医師の意見を尊重し、慎重に復職の可否を判断する必要があります。

2.については、うつ病が労災認定されると、業務上の事由による病気ということで解雇制限(休業期間中とその後30日間は解雇が認められない)が掛かります。うつ病の社員に休職制度を適用する場合、長時間労働やハラスメントでうつ病になった可能性も考慮して休職させ、労災認定を受けたときは、「休職」扱いから「業務上の事由による休業」扱いに変更します。

2)社員の勤務成績が会社の求める水準に達しない状態が続いた場合

能力不足から勤務成績が著しく低い社員を普通解雇にする場合、

  1. 特定の能力を期待したわけではない社員を、いきなり解雇する
  2. 期待していた能力の不足と関係のない事情で解雇する

などの対応をすると、不当解雇になる恐れがあります。

1.については、専門職でない一般社員や新入社員の場合、普通解雇が難しくなります。まずは能力を発揮できる業務に配置換えしたり、教育して能力を引き上げたりするよう努めます。それでも改善の見込みがない場合、初めて普通解雇が認められる余地が出てきます。

2.については、専門職のように一定の能力があることを条件に採用した社員でも、雇用した後で業務内容が変わったなど、能力以外に勤務成績が下がった理由がある場合、普通解雇が難しくなります。ですから、勤務成績が下がったタイミングに着目し、それと近い時期に就業環境の変化がなかったかなどを確認してから、普通解雇を検討します。なお、

2024年4月1日からは、雇用した後で業務内容が変わる可能性がある場合、社員を雇用する時点でその変更の範囲を明示しなければならなくなる

ので注意してください。

3 整理解雇をめぐるトラブルを回避するには?

1)不況による経営不振で、会社の収益が著しく悪化した場合

整理解雇は社員に明確な落ち度がなくても行うことがあるため、裁判では次の「整理解雇の4要素」に照らして、解雇が妥当かを厳しく判断します。

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4要素を全て満たさなければいけないわけではありませんが、整理解雇の4要素を総合的に考慮して整理解雇が妥当といえないと、不当解雇になる恐れがあります。

2)会社の設備などが災害で大きく損傷し、事業の縮小を余儀なくされた場合

1)と同じく、整理解雇の4要素を考慮して、解雇が妥当かを判断します。なお、災害による整理解雇では、労働基準監督署の事後認定を受けることで、解雇予告(または解雇予告手当の支払い)がなくても解雇が認められる場合があります。ただし、認められるのは、

  • 会社の施設・設備に直接的な被害があり、事業を継続できなくなった場合
  • 取引先や鉄道・道路に被害があり、原材料の仕入れや製品の納入などが不可能になり、取引先への依存度、輸送経路の状況、他の代替手段の可能性、災害発生からの期間などを考慮しても、事業を継続できなくなったといえる場合

などに限定されます。

4 懲戒解雇をめぐるトラブルを回避するには?

1)社員が会社の名誉を害する犯罪行為や重大なハラスメント行為をした場合

懲戒解雇については、懲戒処分の程度(処分として重過ぎないか)や有効性をめぐって、会社と社員がトラブルになることが少なくありません。そのため、懲戒解雇は社員が何をしたかに関係なく、次の5点を満たした上で検討する必要があります。

  1. 就業規則に懲戒解雇の事由について明記している
  2. 懲戒解雇がやむを得ないほどの合理性を有している
  3. 解雇の妥当性を証明する証拠がある
  4. 処分前に対象者に弁解の機会を与えるなど、適正な手続きを経ている
  5. これまでに同種の事案があった場合、懲戒解雇より軽い処分が行われていない

特に2.については

社員の問題行為が刑法に抵触するレベルでないのに懲戒解雇すると、不当解雇になる恐れ

があるので、注意が必要です。懲戒解雇が妥当かどうかは個別の事案ごとに判断されるので一概には言えませんが、イメージは、

  • 横領や窃盗、強制わいせつ罪に当たるレベルのセクハラなどの場合、懲戒解雇が認められる余地がある
  • 性的な冗談やしつこく食事に誘うレベルのセクハラなどの場合、懲戒解雇は処分として重過ぎるので基本的に認められない

です。

なお、社員がプライベートで犯罪行為やハラスメント行為をした場合、原則として懲戒解雇は認められません。ただし、会社に著しい損害が出た場合(会社名が公表されて会社の信用を傷付けた、免停で業務を行えなくなったなど)、懲戒解雇が認められる余地が出てきます。

2)社員が重要な経歴を詐称して入社した場合

業務に必要な資格や免許など、重要な経歴を詐称して入社した社員を懲戒解雇にする場合も、

他の業務への配置換えなどを検討せずに、いきなり解雇すると、不当解雇になる恐れ

があります。ただし、会社に著しい損害が出た場合(配置転換をしても社員が能力を発揮できず、代わりの人材を新たに採用しなければならないなど)、懲戒解雇が認められる余地が出てきます。配置転換しても能力が発揮できなければ、懲戒処分よりもハードルの低い普通解雇にするのも1つの方法です。

3)社員が正当な理由なく、無断で遅刻、早退、欠勤を繰り返した場合

無断での遅刻、早退、欠勤は本来許されない行為ですが、

一度仕事をさぼっただけで懲戒解雇にするなどの行き過ぎた対応は、不当解雇になる恐れ

があります。けん責(始末書を提出させ、将来を戒める)や減給などの懲戒処分を行っても、依然として社員が遅刻や早退を繰り返す場合、初めて懲戒解雇が認められる余地が出てきます。

ただし、懲戒解雇が認められるのは遅刻、早退、欠勤に正当な理由がない場合です。例えば、社員が長時間労働やハラスメントでうつ病になってしまい、遅刻、早退、欠勤の連絡ができないといったケースでは、懲戒解雇は認められません。

5 その他の労使トラブル回避のポイント

1)解雇について説明を求められた際は、発言に注意する

解雇の通告後、改めて「解雇に至った経緯や理由を教えてほしい」と説明を求めてくる社員がいます。その際に、会社の手続き漏れや失言を誘うような質問をしてくることがあります。また、社員が弁護士や労働組合に相談している場合、交渉の内容をICレコーダーなどで録音しながら、会社側の落ち度について言質を取ろうとすることもあります。

会社側の対応としては、

  • 経営者1人だけで対応するのではなく、人事担当者なども交え最低2人以上で交渉に臨む
  • 相手の質問に明確に答えられない場合、曖昧な回答をしたり、臆測で発言したりせず、後日書面で回答するなど機会を改めて回答する旨を伝える

などが重要になります。

2)退職する社員の秘密情報の持ち出しを制限する

退職する社員が秘密情報の記載された資料などを外部に持ち出した場合、解雇をめぐってトラブルになった際、その社員が、会社への報復のために秘密情報を利用するリスクがあります。

会社側の対応としては、

  • 就業規則に資料の持ち出しを禁止する規定を設ける
  • 「退職に際しての情報保護に関する誓約書」などを事前に社員に提出させる

などして、資料の持ち出しを制限することが重要になります。

3)解雇予告通知書を渡す際は、社員の受け取り拒否に備える

解雇は、社員に解雇予告の通知をしてから30日後に成立します(解雇予告手当を支払った場合は、その分日数を短縮可)。通常は、「解雇予告通知書」などの書面で通知します。社員が通知書の受け取りを拒否した場合の対応が気になりますが、口頭またはメールで解雇予告通知である旨を伝達すれば、その時点で通知書を受け取った扱いになります。

もし、相手が解雇予告通知書の受け取りを拒否した場合、

通知書に、解雇予告をした日時と受け取り拒否に至る経過をメモ書きし、メモ書きした当人の署名押印をした上で保管

します。なお、メモ書きの内容に客観性を持たせるために、解雇予告通知書を渡す際は最低2人が同席するようにします。

4)解雇の場合の退職金の扱いに注意する

解雇の場合も、就業規則で退職金の支給対象になっている社員には、退職金を支払う必要があります。普通解雇や整理解雇の場合、退職金を支払うのが一般的ですが、懲戒解雇の場合、退職金の全額または一部を支給しないケースが多く見受けられます。ただし、

退職金には賃金の後払い的な意味合いもあり、長年の勤続の功を打ち消す重大な背信行為がなければ全額不支給は認められないとした裁判例もある

ため、この辺りは慎重な判断が求められます。

退職金のトラブルを回避したい場合、処分を懲戒解雇から諭旨解雇に引き下げるという方法があります。諭旨解雇とは、

本来なら懲戒解雇となる社員に、会社が退職を勧告し、退職願を提出させて解雇または退職扱いにする、会社の温情的な措置(退職扱いの場合は「諭旨退職」と呼ぶことが多い)

です。なお、社員が退職願の提出勧告に応じなければ、通常は懲戒解雇になります。一般的に、

  • 懲戒解雇は、退職金を全く支払わない
  • 諭旨解雇は、退職金の全部または一部を支払う

という対応になります。なお、諭旨解雇を行うには、諭旨解雇に関する規定などを就業規則に定める必要があります。

以上(2023年12月更新)
(監修 弁護士 田島直明)

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