「結果を出すチーム」を率いるリーダーが重視すべきたった1つのこと

書いてあること

  • 主な読者:結果を出す良いチームを作りたいが、なかなかうまくいかない管理職
  • 課題:リモートワークでコミュニケーションが減り、これまで以上に難しくなっている
  • 解決策:情報共有を徹底することが、良いチームを作るための基本

1 情報はチームの血液のようなもの

会社ではさまざまなシーンでチーム活動が行われます。上司の皆さんが部下と協力してクライアントに提案することもチーム活動ですが、「提案の目的・内容、クライアントの意向」などの情報が共有されていないとチームワークが乱れ、良い結果につながりません。つまり、

情報はチームの血液であり、スムーズな「情報共有」が重要

です。リモートワークが進んだり、チャット前提のコミュニケーションが普及したりしている現在、チームの情報共有はこれまで以上に重要な課題になりました。

皆さんはチームのリーダーの立場ですが、もし、「チームがうまくいっていない」と感じていたら、この記事を読んでみてください。チーム内において情報共有する上で大切なポイントを紹介していきます。

2 チーミングは最初が肝心!

1)リーダーズインテグレーションとは?

リーダーが最初に行うのが「リーダーズインテグレーション」です。リーダーズインテグレーションとは、

チームが形成された直後に行う“情報共有のためのキックオフミーティング”

です。

チームの進化過程を示した「タックマンモデル」によると、チームは形成してもすぐには機能せず、混乱と統一のフェーズを経験します。形成当初の混乱は、情報格差から生じがちです。まだ情報の伝達ルールが整っていないので、「他のメンバーは知っているのに、私には情報を与えられていない」と、不公平感や臆測が生まれやすいのです。そこで、リーダーとメンバーが最低限の情報を共有するために、リーダーズインテグレーションが必要になるのです。

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2)リーダーズインテグレーションの際の注意点

リーダーズインテグレーションで大切なことは、メンバーが「知っているはず」だという先入観を持たず、素直に自分が知りたいことと、メンバーに知ってほしい情報を共有することです。例えば、「自分はせっかちな性格である」などと伝えます。また、メンバーには、

  • チームについて知っていること、聞きたいこと
  • リーダーについて知っていること、聞きたいこと

を挙げてもらい、それにリーダーが答えることで心理的安全性を確保します。

3)リーダーのコミットメント

リーダーズインテグレーションで、皆さんはメンバーにコミットメントをします。これにより、皆さんがリーダーであることをメンバーに知らしめ、基本的なルールを共有することができます。コミットメントの例は次の通りです。

  • 快適なチーム活動を約束する
  • 常にリーダーとしての威厳を持って活動することを約束する
  • メンバーの業務状況、家庭生活に配慮することを約束する
  • 時間厳守を約束する(無駄に活動を長引かせない)
  • 定期的に活動の進捗を伝えることを約束する
  • 中立な立場で指揮を執ることを約束する
  • 独断しないことを約束する
  • チーム活動を周囲の雑音から守ることを約束する
  • チーム活動の責任はリーダーである自分が負うことを約束する
  • 正当な権利は、リーダーである自分が上司と交渉することを約束する

3 「ジョハリの窓」を意識した情報共有

チームが動き始めてからの情報共有については、「ジョハリの窓」を参考にします。心理学者のジョセフ・ルフトとハリー・インガムが考案したもので、両者の氏名に由来して「ジョハリの窓」と呼ばれます。コミュニケーションにおける気付きのモデルとして有名ですが、チームの情報共有にも応用することができます。

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互いのことは活動を続けるうちに分かってきますが、コミュニケーションをサボると「開放の窓」が広がりません。そこで、

  • リーダーが、チームに関する全般的な情報を積極的に共有して、「隠された窓」を小さくする
  • メンバーから質問や指摘を受けて、「盲目の窓」(問題点)を小さくする

ようにしていきましょう。

以上(2024年1月更新)

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画像:pixabay

都市部の優秀な“同志”を割安で採用〜「地方副業」マッチングサイト活用のススメ

書いてあること

  • 主な読者:業務改善や販路拡大などの課題を抱えている地方企業の経営者
  • 課題:優秀な人材を採用して知見を得たいが、どのような方法があるか分からない
  • 解決策:地方副業のマッチングサイトを用いて、都市部の人材を副業人材として招く。求める人物像を固定せず、企業の課題を掲載すれば、応募者が解決策を提案してくれる

1 地元の正社員採用に限界を感じたら、都市部の副業人材を!

  • これまで、地元に住んでいる人を正社員として採用してきたけれども、それだけでは自社が抱える課題を解決できない
  • 販路拡大や自社PRなど新たな取り組みを始めたいが、社内に知見がなく、専門的な人材を採用するにも高額な人件費をかけることができない

そんな悩みを抱える地方企業の経営者にお勧めするのが、

都市部の優秀な人材に、原則、オンライン勤務という条件で業務委託する「地方副業」マッチングサイトの活用

です。都市部で働く年収1000万円クラスの優秀な人材も、月額数万円程度でサポートしてくれる、オトクな仕組みです。しかも、今は応募者の数が圧倒的に多い「買い手市場」です。1件の募集につき15~18人の応募があり、何人と面談しても追加料金がかからないのが一般的となっています。もちろん、採用してみてマッチしないと感じたら契約を打ち切ることもできます。

ただし、応募者に“同志”として自社の成長に貢献してもらうためには、自社の考えや活動に共感してもらい、働きやすい環境を整えるなど、幾つかの注意点もあります。

この記事では、地方副業のマッチングサイトを運営する4社・団体の担当者に聞いた、地方企業が都市部の優秀な副業人材を募集・採用する際のポイントや、副業人材の動向などを紹介します。また、副業人材を活用した地方企業の成功事例も掲載しています。

自社に新しい風を吹き込み、成長を軌道に乗せるための起爆剤としての副業人材の活用を、ぜひ、ご検討ください。

取材を受けてもらったマッチングサイトを運営する会社・団体は、以下の通りです(取材の時期が早かった順に掲載)。

YOSOMON!:NPO法人ETIC.(エティック)(東京都渋谷区)が運営

■YOSOMON!■
https://yosomon.jp/

Skill Shift:みらいワークス(東京都港区)が運営

■Skill Shift■
https://www.skill-shift.com/

HiPro Direct for Local(旧:Loino):パーソルキャリア(東京都千代田区)が運営

■HiPro Direct for Local■
https://talent.direct.hipro-job.jp/talent/for-local/top/?utm_source=Loino_close&utm_medium=referral&utm_campaign=Loino_close_001

サンカク:リクルート(東京都千代田区)が運営

■サンカク■
https://sankak.jp/

2 副業人材の採用は双方にwin-winなシステム

地方副業は、企業側、副業人材側の双方にメリットがあります。地方副業のマッチングサイト運営者に聞いた、企業側、副業人材側のそれぞれがマッチングサイトを利用する理由としては、次のようなものがあります。

1)企業側がマッチングサイトを利用する理由

1.正社員よりも低価格、短期間で優秀な副業人材に仕事を依頼できる

副業人材の応募者の平均年齢は30~40代が7割以上で、正社員が6割程度、フリーランスが4割程度といいます。正社員の人が自身のスキルを試すために副業をはじめ、慣れてきたらフリーランスに転身するケースもあるそうです(Skill Shift)。特に、30代後半が年齢のボリュームゾーンとなっており、現場で働きつつ、マネジメント経験もある人材が中心となっているといいます(サンカク)。本業での年収は600万円超が7割近くを占めており、2割は1000万円超と、本業である程度の実績があり、十分な稼ぎのある人が応募しているそうです(Loino)。こうした優秀な人材にもかかわらず、副業人材に支払う月額の報酬は、Skill Shiftでは3万~4万円と、正社員よりも割安で仕事を依頼することが可能です。

マッチングサイトには、採用の有無にかかわらず案件の掲載費用が発生するものもあれば、案件の掲載や副業人材との面談までは無償で、副業人材を採用した段階で費用が発生する成果報酬型のものもあります。例えば、サンカクの場合、副業人材とマッチングした場合に費用が発生しますが、案件を募集する文面の作成や応募者との座談会、面談に関しては、無償でサポートを受けることができます。

採用期間も「原則1カ月単位」(YOSOMON!)、「半年以上のプロジェクト」(サンカク)などで、募集した案件の事業が終了したり、マッチング後に事業がうまく進まなかったりした場合、速やかに契約を解除できます。

後述しますが、応募者の多くは、報酬目当てではなく、募集企業への共感や、地方への貢献、自らのスキルアップなど、高い“志”を持っているので、共に成長できる“同志”を見つけられる可能性が高いといえるでしょう。

2.買い手市場となっているため、人材を選択する幅が広い

全てのマッチングサイトの担当者が口をそろえて話すのが、「今は買い手市場」ということです。サイトや案件によっても異なりますが、1件の募集に対して、15~18人程度が応募してくるといいます。また、応募者は企業の思いに共感して、企業に貢献できる自分のスキルを理解した上で応募するため、「質」が高いそうです。

どのマッチングサイトも、自社都合で募集を取り下げるケースなどを除き、ほとんどの場合は人材を採用できているとのことです。中には、副業人材との座談会や面談の結果、副業人材から良いアイデアがたくさん出たため人数を絞りきれず、当初の予定よりも多く副業人材を採用するケースもあるそうです。

もし、人選が難しい場合は、募集内容に適した能力や意欲の高い人材を、マッチングサイトの担当者が選んで薦めてくれることもあります。

3.面談だけでも優れた知見やアイデアを得ることができる

一般的に、マッチングサイトは何人の応募者と面談しても追加料金がかからないので、時間さえ都合がつけば、応募者全員とオンラインで面談することが可能です。「それぞれの募集案件で、少なくとも5人の副業人材を集めて座談会を開いているケースもあります」(サンカク)。

また、面談では応募者側が募集内容に応じた提案をしてくれるため、提案を聞くだけでも参考になるとして、「応募者全員と面談をした旅館業者もいる」そうです(Skill Shift)。

4.自社が抱えている課題を明確にできる

副業人材の採用活動を通して、経営者が考えている自社の最優先課題に潜んでいる本質的な課題が見つかったり、新たな課題を解決するための方法が分かったりすることも少なくないようです。

企業が副業人材を募集しようとする段階では、「『DX化を進めたい、販路を拡大したい』など、思いはあるものの、必要な機能や人材などの明確な要件定義ができていないことが多い」といいます(サンカク)。このため、マッチングサイト運営者のサポートや応募者からの提案によって、本質的な課題や、課題解決のために必要な人物像や解決策が導き出されるケースが多いようです。

2)副業人材側がマッチングサイトを利用する理由

1.企業への共感

マッチングサイト運営者によると、副業を志望する理由として、その企業への共感や、その企業を応援したいという気持ちで応募する人が多く、「報酬が第一」の人はとても少ないといいます。

中には、「副業先の企業にそのまま転職したケースもある」そうです(Skill Shift)。

2.地域貢献、地方創生

自分の出身地や住んだことがある場所、旅行で訪れて気に入った地域など、思い入れのある地域の企業に、移住・転職を伴わず貢献できることを魅力に感じて応募する人も少なくありません。

「将来的に地方への移住や出身地に戻ることを検討しており、その地域を知る足掛かりとして副業を始める人や、地方の人とのつながりを楽しんでいる人もいる」(Loino)、「もともと地方の出身者で、地元とのつながりを持ちたい、都市部で得たスキルや経験を還元したいという思いを持った人もいる」(サンカク)そうです。

3.キャリアアップ

正社員として勤務している企業では経験できないような、経営企画などの業務を副業として行うことで、自らのキャリアアップにつなげることを目的としている人もいるそうです。

「副業人材にとっては、経営陣と直接仕事のやり取りができ、自分のアイデアで会社が変わっていく様子を目の前で実感できることがメリットになる」といいます(サンカク)。

中には、「マネジメントになった人事部門の部長クラスの人が、現場の感覚を忘れないために応募するケースもある」そうです(Loino)。

4.日常では得られない体験

日常の中では得られない体験を求めて、地方副業に応募するケースもあります。

例えば、Skill Shiftでは、ツーリズムと絡めた副業体験として、福島県いわき市で2泊3日のクラフトビール開発ツアーと、参加者によるクラフトビール発展のためのアイデアのプレゼン大会を開催しました。

また、スポーツによるまちおこしとして、アメフト社会人リーグ・Xリーグのクラブチームの広報・PRの副業案件もあります。他の副業案件と比較して謝礼が低額となる代わりに、オフィシャルポロシャツの贈呈や練習・試合観戦の特典があり、通常の副業にはない珍しい体験といえます。

他にも、漁業・水産業者向けに特化した地方副業のマッチングサイトである「GYOSOMON!」(ギョソモン!)では、副業人材への報酬は金銭ではなく「魚」となっています。このサイトはYOSOMON!が共同で運営しており、「応募者は、副業の報酬として、ご近所などに配らないといけないほどの大量の魚が送られてくるという、日常ではできない体験に魅力を感じる人が多い」といいます。

3 副業人材を募集・採用する際の勘所

1)自社のファンになってもらう

副業人材に共感してもらうためには、自社のファンになってもらえるPRを行うことが重要です。例えばLoinoでは、募集の文面を作る際に、「企業が目指している姿や、社内の人が気付いていないような、企業の魅力を掲載するようにしている」といいます。また、副業人材との面談でも、企業の実現したいことや、企業ならではの魅力を話すとよいそうです。

2)募集する業務を絞るよりも課題を示す

副業人材でマッチングに成功する秘訣は、「業務のアウトソースとは異なる」ことを意識し、「経営課題を一緒に考えてくれるパートナーというイメージで採用すべき」といいます(Skill Shift)。

募集に際しても、「これをしてくださいと細かく決めるより、今、企業がどんなことに取り組んでいて、どんな困り事があるのかを掲載して、協力、支援をしてほしいというニュアンスの文面のほうがよい」そうです(YOSOMON!)。

3)経歴や肩書だけで選ばない

マッチングサイト運営者の多くは、採用に関しては、経歴や肩書にとらわれず、熱意や提案内容を重視すべきといいます。

「経歴や条件面よりも、企業や地域への思いがどれだけあるか、企業の課題に対してどんなアイデアで解決できるかという視点で選考をしている企業が、副業人材とうまくマッチする」(Skill Shift)、「副業人材側も企業の募集案件をきちんと読み込んだ上で応募をしているので、経歴や条件面よりも、面談を通じての相性・フィーリングで採用する人材を判断するほうがマッチする」(YOSOMON!)とのことです。

また、「上から目線」の応募者は避け、“同志”としてふさわしい人材を選んだほうがよいようです。例えば、青森県のある企業では、「面談をした応募者の『一緒に汗をかきましょう』という言葉を聞いて採用を決めた」そうです(サンカク)。

4)既存の社員を巻き込む

副業人材の働き方としては、経営者のブレーンのような形で相談相手になる場合と、既存の社員と協業する場合があります。

既存の社員と協業する場合、社員が副業人材の存在に反発して、マッチングがうまくいかないケースもあるようです。

副業人材を採用する場合、ノウハウを社員に落とし込むことも大切なので、副業人材との面談は、経営者だけでなく、現場の社員も参加できるとよいでしょう。事前に社員のコンセンサスを得ておき、「社長が思いつきで変なことを始めた」と思われない状態からスタートすべきといえます。

5)副業人材の稼働時間を考慮する

副業人材の場合、本業以外の時間帯で稼働するため、自社の就業時間外や週末にやり取りをすることがあります。オンラインでも円滑にやり取りするために、チャットツールなどの用意は必須になります。副業案件によって異なりますが、週1回~月1回の頻度でオンライン面談を開き、それ以外はチャットツールを活用して、副業人材とやり取りを進めているケースが多いといいます。

課題だけ明示する形であれば、副業人材のほうで必要な作業を、自分でスケジュールを立ててやってくれるようになります。

6)時には顔合わせも必要

副業案件の多くはウェブマーケティング、ECサイトの強化、事業戦略の立案など、リモートワークでも進められるものですが、お互いの理解を深めるためにも顔合わせは必要です。

企業によっては、プロジェクトを始める際に副業人材を企業側の費用負担で現地に招き、顔合わせをして親睦を図ったり、設備や工場を見学してもらったりして、自社への理解を深めてもらう取り組みをしているところがあります。副業人材の側から、現地で顔を合わせることを希望するケースも少なくないようです。

4 副業人材の成功事例

1)副業人材がファシリテーターになって社員のアイデアを募集(Loino)

来客数増加を課題にしていた、地域に数店舗を展開するスーパーマーケットが採用した副業人材は、既存の社員からのアイデアを募集することを提案しました。副業人材がファシリテーターになって社員を集めた会議を開催したところ、社員からさまざまなアイデアが出され、実際に採用したアイデアも生まれたそうです。

会議を行うことによって、社内コミュニケーションの活性化にもつながったといいます。

2)ECサイトの全面改修などで売り上げが前年度の17倍に(サンカク)

石川県のある和菓子製造販売会社では、ECサイトのテコ入れが課題となっていました。当初、経営者はSNSの活用によるテコ入れを想定して副業人材を募集しましたが、応募者を集めた座談会では、応募者側からサイトの改修などさまざまな提案が出て、応募者同士でも提案のブラッシュアップが行われるなど、盛り上がりを見せたといいます。

そこで経営者は座談会に参加した応募者5人を、それぞれ担当分野を決めた上で採用し、社内の若手社員数人とともにプロジェクトチームを結成。ECサイトの全面的な改修だけでなく、デジタルマーケティング戦略の上流から再設計し、企業のウェブページとECサイトを含めて最適化に取り組んだことで、ECサイトによる売り上げは前年度の17倍に達したそうです。

劇的な成果を目の当たりにして、既存の社員のモチベーション向上や育成にもつながり、新たなスキルを身に付けようと、自ら勉強を始める社員も現れるようになったといいます。

3)蓄光グラスの販売強化で副業人材の本業にも貢献(Skill Shift)

岐阜県でサンドブラスト(砂などの研磨剤を吹き付ける加工方法)や蓄光技術を生かした「月光グラス」の販売、OEM生産を手掛ける会社では、OEMに頼らない新商品の開発や自社の認知度向上を目的に、副業人材を募集しました。

募集の結果、キャンプに関心のある方が副業人材としてマッチングし、蓄光して暗い場所で光る月光グラスがキャンプで映えるのではないかといった点や、夜の時間を豊かにできるのではという観点から、新商品の開発やPRを一緒に進めたといいます。

また、副業人材が本業で勤務している商業施設でも、イベントを開催して月光グラスを売り込むことができたため、本業にも貢献ができた事例となります。

5 (参考)副業・兼業に関するデータ

地方副業の背景や、リクルート「兼業・副業に関する動向調査(2022)」から、ふるさと副業(回答者自身の住まいとは異なる地域での兼業・副業)への関心について紹介します。

1)地方副業が活性化した背景

地方副業が活性化した背景には、2018年1月に厚生労働省によるモデル就業規則の改定を受け、さまざまな企業が副業・兼業の解禁を打ち出したこと、2019年6月に政府が「まち・ひと・しごと創生基本方針2019」で、副業・兼業も含めた多様な形態を通じて、地域企業に関わる「関係人口」(移住や観光以外の地域と多様に関わる人)の創出・拡大を掲げたことなどが挙げられます。さらに、2020年以降のコロナ禍でリモートワークが普及し、地方移住や副業・兼業、ワーク・ライフ・バランスの関心が高まったことも背景にあります。

実際に、Skill Shiftでは、2017年12月のサービス開始以来、副業・兼業の解禁やコロナ禍などのターニングポイントをきっかけに、副業人材の登録者数が大幅に増えています。

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2)「ふるさと副業」への興味

リクルート「兼業・副業に関する動向調査(2022)」によると、ふるさと副業に関しては、約半数の回答者が「非常に興味がある」「興味がある」と回答しています。

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3)「ふるさと副業」に興味がある理由

「自分に関わりのある地域に貢献したいから」がほぼ半数を占め、「地域問わず、地方創生に興味があるから」と「自分の経験や能力を地方企業で活かしたいから」が続きます。

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4)「ふるさと副業」で希望する働き方

テレワーク・現地訪問のいずれかで働きたい割合の合計と、両方を併用して働きたい割合がほぼ同数となっています。

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以上(2024年1月更新)

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画像:tiquitaca-Adobe Stock

社員の「やる気」は完璧を求めず、割り切って損切りすることも必要な理由

書いてあること

  • 主な読者:社員のやる気を高めて、活気ある組織を作りたい経営者
  • 課題:社員のやる気は流動的で、不満に感じていることのレベルも本当にさまざまである
  • 解決策:全社員のやる気が同時期に高まることはない。優秀な社員のケアを優先する

1 社員の「やる気」は完璧を求めない

経営者にとって、社員の「やる気」は重要であると同時に厄介な問題です。経営者と社員とでは仕事に向き合う姿勢が違うので、経営者の思いを全力で社員にぶつけても、それを受け止められる社員は一部に限られます。経営者としては、同じ熱量で語り、ビジネスを進めていきたいのですが、これは高望みというものです。

となると、別のアプローチで社員のやる気を高める必要があります。具体的な方法はさまざまですが、根本にあるのは、

社員の不満足を解消し、自己実現をサポートすること

であり、これはハーズバーグの「2要因理論」や、マズローの「欲求段階説」といった理論でも裏付けられています。

もう一つ大切なことは、全社員のやる気が同時期に高まることはないという事実です。やる気はとても気まぐれで、「ある時、ある社員のやる気は高いが、別の社員は低い」というのが常です。そのため、

経営者は社員の「やる気」に完璧を求めず、高くあるべき社員が高ければいい

という、ある意味で損切りの感覚を持つことが大切です。

2 不満足の解消が不可欠だが……

1)ハーズバーグの「2要因理論」とマズローの「欲求段階説」

社員のやる気を考える際、よく紹介されるのがハーズバーグの「2要因理論」とマズローの「欲求段階説」という2つの理論です。これらの理論を紐解くと、不満足を解消しなければ、社員のやる気は高まらないことが分かります。

まず、ハーズバーグの2要因理論では、

  • 衛生要因:満たされないと不満になるが、満たされても満足になりにくい
  • 動機付け要因:満たされると満足になるが、満たされなくても不満になりにくい

に注目します。

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次にマズローの欲求段階説では、人の欲求として5つを段階的に示していますが、これらは、

  • 低次の欲求:生理的欲求、安全の欲求、社会的欲求
  • 高次の欲求:尊厳の欲求、自己実現の欲求

といったように分かれます。

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2)2つの理論に共通する「不満足の排除」

2つの理論について確認しておきたい重要なポイントは、

2要因理論では衛生要因が満たされなければ、満足の要因にアプローチしてもあまり意味がなく、欲求段階説では低次の欲求が満たされなければ、高次の欲求が刺激されない

ということです。

ところで、自分で選んだ組織に所属しているのだから、衛生要因や低次の欲求は、ある程度、満たされているはずです。にもかかわらず、このレベルさえ満たされていない社員がいる場合、その社員のやる気を高めたいなら、人間関係や職務を根本的に変える必要があるでしょう。

  • 配置転換をして、現在の人間関係から解放させる
  • 職務変更をして、適正の再発見をする

一方、これを言っては元も子もありませんが、

  • どんなに素晴らしい会社にも、一定の「アンチ」がいる
  • 衛生要因や低次の欲求であっても、完璧に満たされている社員は少ない
  • 衛生要因や低次の欲求が満たされていない社員は、会社を大事に考えていない
  • 社員自身も、現状を変えるための努力を何もしていない可能性がある

ことも事実です。となると、衛生要因や低次の欲求さえ全く満たされていない社員は静観するというのも、厳しいようですが、一つの選択肢です。

ちなみに、社員のやる気を高めるためにコミュニケーションを良くし、発言の機会を与えることが大事といわれます。しかし、衛生要因や低次の欲求さえ全く満たされていない社員については、よほどうまく働きかけないと発言せず、沈黙するだけに終わるでしょう。

3 自己実現は1対1の関係から

満足要因や高次の欲求が満たされていない社員の扱いは、前述した衛生要因や低次の欲求さえ全く満たされていない社員とは違います。この社員は、

  • 実力ややる気があるのに、それを発揮できる機会に恵まれていない
  • 本来やるべきでない仕事に忙殺され、結果を出せていない

といった状況に陥っている可能性があります。最悪の場合、

自分の実力を活かすチャンスがもらえる会社に転職しよう

ということになってしまい、会社として大きな損失です。

そうした社員は既に社内で一定の地位にあると思います。昔ながらの考え方なら、「自分を引き上げてくれた会社で定年まで勤める」ということですが、現在の状況は違っており、簡単に転職してしまいます。

こうした社員を引き留めるのは容易ではありません。優秀な社員ほど刺激を求め、新しい状況に身を置きたがるので、経営者は社員に刺激を与え続けなければなりません。具体的には、

経営者が1対1で本気で話を聞き、チャンスを与える

ようにします。その際、「社員の意見を聞くことが大事」との指摘がありますが、社員としては優秀だが、経営者から見れば不十分というレベルなら、その必要もないかもしれません。それよりもむしろ、足りないと思える点を丁寧に伝え、それを克服する手伝いをしてあげるのがよいでしょう。

いずれにしても、自己実現を目指すようなレベルの高い社員のやる気を高めたければ、個別のアプローチが必要であり、しかもその適任者は経営者となります。先ほどとは全くトーンが異なり、

このレベルの社員のやる気が低い責任の多くは経営者にある

と考え、本気で取り組むべきことです。

以上(2024年1月更新)

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画像:eamesBot-shutterstock

【文例付き】2024年4月1日から 労働条件通知書はどう変わる?

書いてあること

  • 主な読者:労働条件をめぐるトラブルを避けたい経営者、人事労務担当者
  • 課題:2024年4月1日以降発行の労働条件通知書に、どう記載すればよいのか分からない
  • 解決策:就業場所、業務内容は「変更範囲」も明示する。パート等の契約更新は「上限」を明らかにし、「無期転換の申込機会」についても記載する

1 労働条件通知書などで明示する内容が変わります

会社は社員(正社員、パート等)と労働契約を締結する際、労働条件を「労働条件通知書」などで明示しなければなりません。明示すべき労働条件は労働基準法などで決まっているのですが、2024年4月1日からは、明示すべき労働条件が、図表1の赤字部分の通り変わります。

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2024年4月1日以降に労働契約を締結する場合、会社は、

  • 就業場所、業務内容の「変更範囲」
  • 契約更新の「更新上限」
  • 無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」

についても社員に明示しなければならず、違反したら「30万円以下の罰金」の対象となります。以降で、詳細を確認していきましょう。

なお、現在雇用している社員については、労働条件通知書を交付し直す必要は原則ありません。ただし、契約期間の定めがあるパート等(以下「有期パート等」)については、契約更新の都度、労働条件を明示する必要があるので、2024年4月1日以降に契約を更新する場合、上記の項目を追加した労働条件通知書を交付しなければなりません。

2 就業場所、業務内容は「変更範囲」も明示

1)改正のポイント

就業場所、業務内容については、現行のルールでは「契約締結時」の条件だけを明示すればよいのですが、2024年4月1日から「変更範囲」も明示しなければなりません。

変更範囲といっても、想定される就業場所や業務内容を1つずつ記載する必要はなく、

  • 会社の定める場所
  • 会社の指示する業務

といった書き方もできます。ただ、記載内容があまりに漠然としているといけません。特に就業場所や業務内容がある程度限定される「限定正社員」の場合は、

  • 就業場所の一覧を別紙で交付する(地図や組織図など)
  • 業務内容をおおまかなカテゴリーで分けつつ、簡単な概要を記載する

とよいでしょう。

なお、「労働条件通知書に記載漏れがあった」「他の社員の業務を代替してもらう必要が出てきた」「傷病や育児・介護などで予定通りに働けなくなった」といった事情で、労働条件通知書に記載していない条件での勤務を社員にさせたい場合、

社員に変更理由を説明して同意を得た上で、新しい労働条件通知書を交付

する必要があります。

2)労働条件通知書の記載例

2024年4月1日以降の労働条件通知書の記載例は次の通りです。

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なお、記載例では触れていませんが、社員にリモートワークを命じる可能性がある場合は就業場所に「社員の自宅など」を加えておく、在籍出向をさせる可能性がある場合は業務内容に「出向先の命じる業務」を加えておくようにします。

3 契約更新の「更新上限」の明示

1)改正のポイント

会社は有期パート等を雇用する場合、契約締結時に「契約更新の基準」を明示する義務があります。現行のルールでは「更新の有無」「更新の判断基準」「その他留意すべき事項」を明示すれば足りますが、2024年4月1日からは、これに加えて

更新上限の有無とその内容(通算契約期間または更新回数について)

を明示する必要があります。

通算契約期間は「契約更新を繰り返した場合、通算で最大何年働けるか」、更新回数は「最大何回まで契約を更新できるか」という意味です。労働条件通知書には、これらの上限があるかないか、上限がある場合はその内容(◯年、◯回など)を記載する必要があります。

なお、更新上限の定めがない労働契約を締結していたが、次の契約から上限を「新設」する場合、あるいは更新上限を次の契約から「短縮」する場合、

その理由をパート等にあらかじめ(新設・短縮をする前のタイミングで)説明

しなければなりません。

2)労働条件通知書の記載例

2024年4月1日以降の労働条件通知書の記載例は次の通りです。

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2024年4月1日以降に新たに設ける「更新上限の有無」の記載欄には、通算契約期間または更新回数に上限があるかないか、上限がある場合は具体的な内容を記載します。ちなみに、更新回数は、会社と有期パート等との認識さえ一致していれば、「最初の契約から数えた回数」でも「残りの更新回数」でも構いません。

なお、通算契約期間の上限を定める場合、「無期転換」に注意しましょう。無期転換とは、

有期パート等の通算契約期間(同じ会社でのもの)が5年を超えた場合、その有期パート等が会社に申し込むことで、契約期間の定めのない「無期契約」に転換できるという制度

です。会社は無期転換の申込みを原則拒否できないので、そもそも有期パート等の長期雇用を想定していない場合、通算契約期間の上限は5年未満に設定しておいたほうが無難です。

また、記載内容ではありませんが、実際に有期パート等に労働条件通知書を交付する際は、

「必ず更新上限まで契約を更新するわけではない」旨を確実に伝える

ようにしましょう。契約を更新しない場合に有期パート等とトラブルになるのを防ぐためです。

4 無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」の明示

1)改正のポイント

前述した通り、有期パート等は通算契約期間が5年を超えると、会社に無期転換の申込みをする権利(無期転換申込権)を得ます。現行のルールでは無期転換について明示する義務は特にないのですが、2024年4月1日からは、無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングごとに、有期パート等に無期転換の「申込機会」「転換後の労働条件」を明示する必要があります。

  • 申込機会:無期転換の申込みができること
  • 転換後の労働条件:労働条件の変更の有無、転換後の労働条件の一覧または変更箇所

「無期転換申込権が発生する契約更新のタイミング」は、契約期間の長さによって異なります。図表4は1年ごとの契約更新の場合と、3年ごとの契約更新の場合を比較したものです。どちらも、グレー部分の有期契約が開始するタイミングから、無期転換の申込みが可能になります。

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グレー部分の契約期間中に申込みをした場合、その有期契約が満了するタイミングで無期契約に転換します。

2)労働条件通知書の記載例

2024年4月1日以降の労働条件通知書の記載例は次の通りです。

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2024年4月1日以降は、新たに「無期転換に関する事項」の記載欄を設ける必要があります(有期パート等が無期転換申込権を得ていなければ不要)。また、「更新上限の有無」を記載する際などに「契約更新の状況(現在○年目など)」も併せて記載しておくと丁寧です。

無期転換申込機会については、無期転換の申込みをした場合、いつから無期契約に変わるかを、具体的な日付(◯年◯月◯日)を明らかにして記載しましょう。

転換後の労働条件については、労働条件の変更があるかないかを明らかにした上で、転換後の労働条件の一覧や変更箇所を「別紙」で明示するとよいでしょう。「契約期間」以外の労働条件を変更しない場合、「無期転換後の労働条件は本契約と同じ」などと記載します。

以上(2024年1月)
(監修 ひらの社会保険労務士事務所)

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タワマン節税にメス、生前贈与改正。 大きく変わる相続・贈与税対策を解説

書いてあること

  • 主な読者:子供や孫などへの相続対策を行っている、または検討している人
  • 課題:一般的な税金対策に改正が入ったり、入ると見込まれたりしている
  • 解決策:近年の動きとして「暦年贈与・相続時精算課税・マンション節税・一括贈与(教育資金、結婚・子育て資金)」の制度改正を押さえる

1 改正が頻発している相続・贈与税

近年影響の大きい改正が頻発している相続・贈与税。生前贈与の非課税枠が縮小したり、タワマン節税にメスが入ったりと、これまで有効だった税金対策の効果が薄れたり、そもそも実施できなくなったりしています。

具体的に、どのような改正が入っているのか、または入る見込みがあるのか、この記事で分かりやすく紹介します。注目するのは、

暦年贈与・相続時精算課税・マンション節税・一括贈与(教育資金、結婚・子育て資金)

です。

2 暦年贈与

暦年贈与とは、1月1日から12月31日までの1年間(暦年)で、贈与額が110万円以下ならば贈与税がかからないというものです。毎年非課税で110万円を子供や孫などに渡せるので、将来的に発生する相続税の負担が減ります¥。ただし、亡くなる前の一定期間に行った生前贈与については、110万円以下も相続税の課税対象となります。この一定期間を加算期間と呼び、

2024年1月1日以降の贈与については、加算期間が3年から7年に延長

されました。改正後は、亡くなる前1~3年の間に行われた生前贈与は全額、4~7年の間に行われた生前贈与はその期間の贈与総額から100万円を差し引いた金額が相続税の課税対象となります。

暦年贈与は一般的な相続対策ですが、加算期間の延長や後述する相続時精算課税の改正(基礎控除の創設)によって、2024年以降は相続時精算課税制度を選択した場合の方が、より節税効果が高くなるケースが多く発生することが見込まれます。暦年贈与と相続時精算課税どちらを選ぶか、慎重に検討しましょう。

3 相続時精算課税

相続時精算課税とは、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子・孫への生前贈与について、2500万円までは贈与税がかからず、相続時に生前贈与分もまとめて相続税を計算するものです。生前贈与した金額の累計が2500万円を超えた場合は、超えた部分に対して一律20%の贈与税がかかります(この贈与税は、相続税を計算する際に相殺されます)。

2024年1月1日以降、

相続時精算課税制度で使える「年間110万円の基礎控除」が創設

されます。2024年1月1日以降に相続時精算課税制度を選択して贈与を行った場合、年間110万円以内であれば贈与税はもちろん、相続税もかからなくなります。加えて、贈与税の申告も不要です。従来は、相続時精算課税を選択すれば、少しでも贈与があれば、贈与税の申告が必要だったため、利便性がよくなりました。

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4 マンション節税

マンション節税とは、市場での売却価格と通達に基づく相続税評価額とが大きく乖離(かいり)するというタワーマンションの特徴(一般的に高層階ほど価格は高額になるが、相続税評価額に反映されにくいなど)を生かした相続税のスキームです(2023年10月時点)。

まず相続税の計算をする際は、被相続人(亡くなった人)が所有していた全ての財産に対して、税金がかかる対象となる金額を算出します。相続税が発生する場合、被相続人の財産の価額は、国税庁が定めている評価基準(財産評価基本通達)によって決められます。この評価額が高いほど相続税の税額が高くなり、評価額が低くなるほど、税額は低くなります。そのため、タワーマンションには節税効果があると考えられていきました。

2024年1月1日以降、財産評価基本通達の改正が行われ、相続税評価額の計算方法が変わり、マンションの相続や贈与に影響が生じると考えられています。

今回予定されている改正では、

実勢価格(実際の取引が成立する価格)との乖離が1.67倍以上になる場合においては、「相続税評価額×乖離率×0.6」で評価される

と見込まれています。新たな基準が盛り込まれることによって、相続税評価額は実勢価格の4割から6割になるように検討されています(改正前は2割程度という事例もあった)。相続税評価額が上がると、それに伴い相続税も高くなるため、従来に比べて相続税対策としての効果が少なくなる可能性が高いです。

5 一括贈与(教育資金)

教育資金贈与の非課税制度とは、親から子、祖父母から孫など直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合、1500万円までは贈与税が非課税になるものです。2023年3月31日が適用期限でしたが、3年延長され2026年3月31日までとなりました。

また、贈与者が死亡した時点で、贈与を受けた教育資金が残っていた場合の残額の取り扱いについて、いままでは受贈者(贈与を受けた孫など)が23歳未満・学生(教育訓練を受けている場合を含む)の場合には相続税の課税対象ではありませんでした。しかし、2023年4月1日以後の一括贈与については、

贈与者の死亡の際の相続税の課税価格の合計額が5億円を超える場合には、受贈者が23歳未満・学生の場合でも、「残額」は相続財産に加算

され、課税対象となります。

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さらに、受贈者が30歳に達した時点で贈与された教育資金が残っている場合は、贈与税が課されます。その際に適用される税率について、これまでは特例税率(低い税率)が適用されていましたが、

2023年4月1日以後の贈与については、一般税率(通常の贈与税率)が適用される

ことになっています。

6 結婚・子育て資金一括贈与非課税措置の見直し

結婚・子育て資金の一括贈与とは、父母などから結婚・子育て資金の贈与をうけたときに1000万円まで贈与税が非課税になる制度です。2023年3月31日が適用期限でしたが、2年延長され2025年3月31日までとなりました。

また、受贈者が50歳に達した時点で贈与された結婚・子育て資金が残っている場合などには、贈与税が課されます。その際に適用される税率について、これまでは特例税率(低い税率)が適用されていましたが、

2023年4月1日以後の贈与については、一般税率(通常の贈与税率)適用される

ことになっています。

以上(2024年1月作成)
(執筆 南青山税理士法人 税理士 窪田博行)

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“組織”の本質を理解する~企業をより良く変えるための組織論~

書いてあること

  • 主な読者:現状の組織に課題を感じ、再編などを検討している経営者
  • 課題:同調圧力が生じたり、集団思考(グループ・シンク)に陥ったりして、マンネリ化や誤った意思決定が行われるため、組織変革がうまくいかない
  • 解決策:意思決定に携わる参加者を変える、あえて反対意見を出させるなど、組織を硬直化させない工夫が必要

1 組織変革がうまくいかない原因

企業における組織上の問題というと、どのようなものを想像するでしょうか? 例えば、「従業員のモチベーション低下」や「コミュニケーション不足」は組織の規模や形態を問わず取り上げられがちな課題かもしれません。

こうした足元の課題解決も大切ですが、その一方で、より根本的な対策を講じるためには、もう一歩踏み込んで「組織」のあり方を考える必要があります。

この記事では、組織上の問題を検討する上で参考となる経営組織論の視点から、次の問題を取り上げ、解決策の一例を提案します。

  • 誤った意思決定が行われる
  • 組織変革がうまくいかない
  • 働き方が多様化している

2 組織による誤った意思決定が行われる要因は?

1)集団における意思決定の落とし穴

一見、組織内での集団による意思決定は、個人による意思決定よりも合理的で、より成果の上がる決定ができると考えられがちです。しかし、常に正しい判断や質の高い意思決定が行われるわけではありません。組織内での集団による意思決定は、個人であれば恐らく行わないような誤った判断をしてしまうときがあります。

2)同調圧力と集団思考

個人の場合における意思決定と組織における意思決定が大きく異なる要因の1つに「同調圧力」があります。同調圧力が組織内に見られる場合、ある参加者が正しい意見を出したとしても、「多数の参加者の意見と異なる」と感じて自己の意見の正当性を否定し、他の参加者の意見に従ってしまうことがあります。

もう1つ、集団での意思決定において注意しなければならないのは「集団思考(グループ・シンク)」です。集団思考とは、集団での意思決定を行う場合、集団としての合意を優先するあまり、「集団構成員への批判抑制」「自集団の過大評価」「外部集団の過小評価」など誤った情報処理をしてしまい、結果として不適切な決定が下されることをいいます。

集団思考が発生する要因はさまざまですが、例えば、

  • 意思決定を行う集団の結び付きが強い場合
  • 外部から隔離されるなどして、情報収集が困難な状況である場合
  • 優秀で強いリーダーシップを発揮するリーダーが存在する場合

に発生しやすいといわれています。こうした集団内では、絶対的なリーダーの意見に従う傾向が強まります。その上、情報収集ができないために、意見の妥当性を慎重に検討することなく意思決定が行われてしまうこととなります。その結果として不適切な意思決定を生んでしまうのです。

3)集団における誤った意思決定を避けるには

1.誰かが集団とは異なる意見を述べる

同調圧力の発生は心理学的観点から見ると、「他の参加者と違う意見を述べることで、集団内での自己の評価が下がるのではないか」という恐怖感が影響しているといわれます。この同調圧力を緩和するには、集団とは異なる意見が言いやすい状況をつくり出すことが最も基本的な対策となります。集団と異なる意見を言う参加者がいれば、他の参加者も「自分だけが違う意見を持っているわけではない」と考え、集団内であっても自分の意見が言いやすくなるからです。

2.意思決定の場の参加者を変える

いつも同じメンバーで意思決定を行っていると、集団の凝集性が高まり、集団思考が発生しやすくなります。組織における集団思考を回避するためには、意思決定を行うメンバーを変えることですが、メンバー全員を毎回変更するのは難しいかもしれません。

そこで、経営者の目から見て、意思決定やアイデアがマンネリ化しているなど集団思考の兆候が見られる場合は、若手従業員などを会議に参加させるなど、経験や役職にとらわれずメンバーを同じ人で固定しないことで、意思決定の過程に多様性を持たせることも重要なポイントです。

3 組織の永遠の課題である組織変革を実現する

1)組織が変わることの難しさ

組織変革は、企業が生きながらえるためには常に直面する課題です。コロナ禍など企業を取り巻く外部環境や企業自身の内部環境の変化、あるいは新規事業進出・既存事業撤退などさまざまな要因により、企業は常に新しい組織像を求められます。

しかし、既存事業を行うために完成された組織を変えることは、非常に困難を伴う取り組みです。これには、「組織には変わることを拒むという性質がある」ためです。組織変革について考える際には、まずこの性質について「組織全体のレベルでの問題」と「個人レベルでの問題」に分けて理解する必要があります。

1.組織全体のレベルでの問題

組織変革を強く意識せずに、特段の取り組みを行わない場合、組織は既存事業の強化など「現在の組織構造を強化する」傾向があります。

例えば、設備投資は、その事業をより効率的に行うことのできる設備などが対象になります。人事面では、その事業に対する高い能力を有する人材を採用したり、そうした能力を少しでも高めることができるように教育・訓練をしたりするはずです。

また、指揮命令系統や部課などの組織構造も、既存の事業などに最適なものに形成されていきます。さらに、従業員の行動様式に影響を与える組織文化も、事業遂行に適したように形成されていきます。

このような「現在の組織構造を強化する」という流れは、今の組織構造を変化させる組織変革にとっての大きな障害となります。

2.個人レベルでの問題

組織全体のレベルとは別に、実際に組織を動かす従業員などの中にも変わることを拒む性質があります。これは、組織にいる従業員の特徴というよりは、むしろ人が本質的に持つ特性といったほうがいいかもしれません。

人が変化を好まない理由の大きな要因に、「先が分からないという不安感」があります。例えば「変革に伴って業務内容が変わるが、私にできるだろうか?」「今までの業務では高い評価を得られたが、新しい業務でも同様に高い評価を得ることができるのか?」「業務量が増えるのではないか?」など、新しいことに対してはさまざまな不安がつきものです。その結果、「先の分からない『変化』よりも、現状のままがいい」という気持ちが強くなってしまうのです。

組織変革の難しさは、組織全体のレベルでの変革と個人レベルでの変革を、バランス良く行わなければならない点にあります。しかし、実際の組織変革への取り組みを見ると、制度面の変更など、比較的容易に取り組むことができる組織全体のレベルでの変革には注意が払われているものの、個人レベルでの変革については、十分な注意が払われていないことが多いようです。

2)個人レベルでの変革を行う際の基本的な考え方

個人レベルでの変革を行う際の基本的なポイントは次の通りです。

  1. 組織変革の必要性(現状のままでいることは許されない理由など)を理解させる
  2. 組織変革を通じて実現する新たな組織像や、そのためにどのように変わる必要があるかという具体的な方向性を示す
  3. 組織変革の成果を実感させる
  4. 1.~3.の取り組みを継続する

1.で「現状のままがいい」という甘えを絶ち、真剣に組織変革に取り組まなければならないという事実をしっかりと認識させます。2.で「先がどうなるか分からない」という不安感を払拭するとともに、自身が組織変革のためにすべきことを具体的に示すことで、組織変革に取り組みやすい状況をつくります。3.で具体的な成果を通じて組織変革の正しさなどを実感させ、組織変革に取り組もうというモチベーションを高揚・維持させます。そして、4.で従業員の心の中に時折頭をもたげてくる「以前の状況に戻りたい」という気持ちを抑え、継続的に組織変革に取り組んでもらうようにします。

個人レベルでの変革において、経営者が注意しなければならないのは、「分かっている『はずだ』」という思い込みです。規模が小さな企業では日常のコミュニケーションを図りやすいこともあり、経営者は「何度も言わなくても、従業員は分かってくれているはずだ」と思いがちです。しかし、これでは個人レベルでの変革は実現できません。「常に、組織変革の必要性や、熱意を持って新たな組織像を語り続ける」といった姿勢が必要なのです。

4 多様化する働き方に対応する組織づくり

1)多様化する働き方

コロナ禍を経て「従前と同じやり方では、業務をスムーズに進められなくなった」など、組織上の問題を感じる経営者は少なくありません。その背景には、リモートワークやオンラインミーティングが普及し、「お互いの顔が見えない離れた場所で働いているため、コミュニケーションが取りにくくなった」といった要因が挙げられます。

こうした環境の変化に対応しながら、組織運営をスムーズに行っていくためには、さまざまな対策を講じることが求められます。ここでは「組織のライフサイクル」という考え方を基に、多様化する従業員に対応するための問題を考えてみます。

2)組織のライフサイクル

組織の変遷は、「誕生・成長・衰退」といったライフサイクルで表すことができます。ライフサイクルの段階区分はさまざまな定義がありますが、ここでは「1.起業段階→2.共同化段階→3.公式化段階→4.精巧化段階」と仮定して話を進めていきます。また、段階ごとに、戦略・マネジメントスタイル・リーダーシップの在り方などさまざまな特徴が見られますが、組織という視点から簡単にその特徴を紹介します。

1.起業段階

組織が誕生したばかりであり、規模が小さいことから組織の柔軟性は高く、組織的な活動というよりは、むしろ個々の従業員、特に経営者(この時点では創業者である場合が多い)の個人的な資質や魅力に強く依存しながら事業が展開されます。また、創業者の理念や夢(それを形にした企業理念など)に対する熱い思いが従業員の間で自然に共有されており、従業員はそうした要因に強く動機付けられながら業務に携わります。

2.共同化段階

組織の規模が大きくなってくるため、次第に経営者の個人的な資質や魅力に依存した組織運営が難しくなっていきます。また、人材も多様化してくるため、創業者の理念や夢を自然と共有することも難しくなってきます。そのため、経営者に求められる能力としては、組織を運営していく上で不可欠なマネジメント能力の重要性が増してきます。

3.公式化段階

組織の規模が拡大していくとともに組織内での活動が幅広くなり、経営者がマネジメントできる範囲も限られるようになってきます。組織内において経営者からの権限委譲が進み、それに伴って組織は部門ごとに分割されるなどして、組織区分の明確化や組織の階層化が図られ、官僚的組織が形成されていきます。また、経営者の役割は、マネジメント業務から戦略の策定など、組織活動の方向付けを行う役割が中心になってきます。

4.精巧化段階

官僚的組織が定着するに従って、セクショナリズムや責任回避といった官僚的組織のデメリットが顕在化し、組織の硬直化が進みます。こうした問題を解決するためには、プロジェクトチームやタスクフォースなどの横断的な組織制度を導入するなど、組織の柔軟化・活性化が重要な課題となります。

3)組織のライフサイクルから問題を考える

一般的に、組織の成長は「従業員数の増加」を1つの基準として語られます。しかし、これは単に従業員数の増加という視点だけではなく、それに伴う「従業員の多様化」という問題を考える際にも参考にすることができます。例えば、規模は決して大きくない中小企業においても、従業員の多様化などが原因で組織のライフサイクルと同様の特徴(問題点)が見られるケースは少なくありません。

組織のライフサイクルに準じて考えると、中小企業が特に注意しなければならないのは、起業段階から共同化段階に至る過程かもしれません。中小企業の中には、企業経営の大部分を経営者の個人的な資質や魅力に依存しているといった、起業段階が未成熟な組織のままでとどまってしまっている場合が少なくないからです。

しかし、起業段階の未成熟な組織が成り立つのは、従業員の多くが創業当時のメンバーであり、創業者の理念や夢に対する熱い思いを共有できているといった要素に負うところが大きいのです。創業当時から苦楽を共にしている従業員の間には親密なコミュニケーションが図られています。そのため、例えば「自身の担当業務ではなくとも、他の従業員が困っていたら協力を惜しまない」というように、指示がなくても相互補完的に業務を遂行するなどしているため、未成熟な組織であっても組織として成立し得るのです。創業者の理念や夢を共有できているからこそ、従業員は「それを実現したい」という思いから、未成熟な組織の中でも高い貢献意欲を持って進んで業務に取り組むことができます。

規模自体はそれほど大きくなくとも、従業員や働き方の多様化が進めば、その中で創業者の理念や夢を自然と共有することは難しくなってきます。従って、組織運営をスムーズに行っていくためには、何らかの施策を講じる必要が出てきます。

例えば、「創業時の理念や夢を共有できるように、従業員に熱意を持って説き続ける」といった対策を再強化することも有効かもしれません。その一方で、自社の状況を勘案しながら組織のライフサイクルを参考に、新たな組織づくりに取り組むことも有効な対策の1つとして検討することができるでしょう。

以上(2024年1月更新)

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【規程・文例集】自社に合った「役員規程」に仕上げるためのポイント

書いてあること

  • 主な読者:役員規程を整備していなかったり、ひな型をそのまま使ったりしている経営者
  • 課題:自社に合った役員規程にするために、どこを見直せばよいのか分からない
  • 解決策:役員の定義、役員規程の適用範囲、辞任、機密保持義務などを見直す

1 大きな権限を持つ役員にルールがないのは不自然です

「就業規則」はあるのに「役員規程」はない、そんな会社が少なくありません。労働基準法で10人以上の社員がいる会社には、就業規則の作成が義務付けられている一方、役員規程には、会社法などによる義務がないというのが背景にあるのでしょう。

しかし、役員は経営の中枢であり、権力や影響力が大きいわけですから、それを規定する役員規程がないのはガバナンスの面でまずいわけです。改めて整理すると、役員規程とは、

役員に共通して適用されるルール(役員の選任・就任、退任、執務条件、責務など)について定めた、いわば役員用の就業規則

です。特に、親族以外の役員がいるオーナー経営者にとって、役員規程は重宝するでしょう。

また、役員規程を作成する際に、インターネットや書籍のひな型をそのまま使うのはお勧めできません。役員構成などは会社によって異なるわけですから、役員規程も自社の実情に合ったものであることが必要なのです。

そこで、この記事では、

役員規程のひな型に通常盛り込まれている条項を「1)条文例」として紹介し、弁護士の視点から条文について「2)追記・修正案」と「3)解説」を記載

していますので、ご確認ください。なお、役員規程の作成・見直しをする際は、それと併せて、

役員と締結する委任契約に、役員規程が適用される旨の条項を盛り込んでおく

ようにしましょう。

2 「役員」の定義:自社の役員構成に合わせて修正する

1)条文例

第●条(役員の定義)

「役員」とは、株主総会で選任された取締役をいう。

2)追記・修正案

第●条(役員の定義)

「役員」とは、株主総会で選任された取締役および監査役をいう。

3)解説

役員構成は、会社によって異なるため、自社の役員がカバーされるように、適宜修正します。

3 役員規程の適用範囲:非常勤役員への準用について明記する

1)条文例

第●条(適用範囲)

本規程は、常勤の役員に適用する。ただし、必要があるときは、本規程の一部を非常勤役員に準用することがある。

2)追記・修正案

第●条(適用範囲)

本規程は、常勤の役員に適用する。ただし、本規程その他の書面で別途の定めがある場合には、本規程の一部を非常勤役員に準用することがある。

3)解説

役員規程の適用範囲については、特に決まったルールはないので、どのように定めても構いません。実務上は、「常勤役員のみ」を適用対象とするのが一般的です。

なお、非常勤役員への準用を定める場合、単に「必要があるとき」などとすると、どのような場合に準用が認められるのか分かりません。そのため、「本規程その他の書面で別途の定めがある場合」などとして、準用に明文の根拠を要求するように修正することが望ましいでしょう。

4 役員の辞任:辞任の事前通知期間を適切に定める

1)条文例

第●条(辞任)

役員が辞任する場合は、原則として2カ月前までに社長に届け出るものとする。

2)追記・修正案

第●条(辞任)

役員が辞任する場合は、原則として3カ月前までに社長に届け出るものとする。

3)解説

役員が辞任する場合、会社の業務運営に支障が出ないように、引き継ぎが確実に行える準備期間が必要です。準備期間としてどの程度の期間を確保すべきかについては、取締役の担当業務の内容や、後任者を確保できる見込みなどによって異なります。そのため、ひな型に記載された準備期間が短いと感じられる場合には、延長しておくとよいでしょう。

なお、会社の裁量により、所定の期間よりも短期間での辞任を認めることはできます。

5 役員の定年:退任時点を明記する

1)条文例

第●条(定年)

役員の定年は、原則として次に定める通りとする。

  1. 社長:70歳
  2. 取締役:65歳
  3. 監査役:65歳

2)追記・修正案

第●条(定年)

1)役員の定年は、原則として次に定める通りとする。

  1. 社長:70歳
  2. 取締役:65歳
  3. 監査役:65歳

2)事業年度の途中で定年に達した場合には、その日以降最初に到来する定時株主総会終了の日をもって退任するものとする。

3)解説

定年となる年齢を記載しているだけでは、いつ退任するのかがはっきりしないため、退任時期を明確にしておくべきです。退任時期については、取締役に欠員が生じないように、定時株主総会のタイミングに退任時期を合わせるとよいでしょう。

6 機密保持義務:別途NDAを締結して定める

1)条文例

第●条(機密保持)

役員は、職務上知り得た会社の機密情報を、正当な理由なく会社の内外に開示または漏洩してはならない。

2)追記・修正案

第●条(機密保持)

役員は、職務上知り得た会社の機密情報を、正当な理由なく会社の内外に開示または漏洩してはならない。また、役員は、会社との間で秘密保持契約書を締結し、その定めに従わなければならない。

3)解説

役員としての機密保持義務については、別途秘密保持契約書(NDA)を締結し、その中で詳細にルールを定めておきます。NDAで定めるべき事項は、次のようなものです。

  1. 機密情報の定義
  2. 例外的に開示を認める場合
  3. 退任後の機密情報の取り扱い
  4. 機密保持義務の存続期間など

以上(2024年2月更新)
(監修 弁護士 坂東利国)

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【労働条件の変更(4)】「労働契約」による労働条件の不利益変更

書いてあること

  • 主な読者:賃金引き下げなど、いわゆる「労働条件の不利益変更」を検討している経営者
  • 課題:労働契約の変更手続きの流れが分からない
  • 解決策:労働協約や就業規則に定めのない労働条件を変更する場合や、就業規則を下回らない範囲で労働条件を変更する場合、社員の合意を得て労働契約を変更する

1 労働協約や就業規則に定めのない労働条件を変更する方法

会社の経営状況や働き方の変化などを理由に、労働条件を引き下げることを「労働条件の不利益変更」といいます。労働条件を変える場合、労働組合がある会社なら「労働協約」の変更、労働組合がない会社なら「就業規則」の変更で対応するのが通常ですが、

労働協約や就業規則に定めのない労働条件を変更する場合などは、「労働契約の変更」が必要

です。また、変更の際は

  • 個別の社員との交渉・合意などを、正しい手続きで進めること
  • 就業規則の変更と労働契約の変更の使い分けなど、必要なポイントを押さえること

が大切です。以降で詳しく見ていきましょう。

2 労働契約とは?

労働契約とは、社員が会社から与えられた仕事をする代わりに、会社が社員に賃金を支払う契約です。労働契約を締結するに当たり、会社は次の事項を労働条件通知書などで社員に明示しなければなりません。なお、2024年4月1日以降は、図表1の赤字の内容を新たに明示する必要があります。

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労働契約の効力が及ぶのは、

労働契約の当事者である社員のみ

です。そのため、特定の社員の労働契約を変更しても、他の社員の労働条件は変更されません。労働契約の変更によって不利益変更を行う場合、変更する労働条件が、労働協約や就業規則に定めがある内容か否かで対応が変わります。まず、

労働協約や就業規則に定めのない労働条件を変える場合、労働契約を変更する必要

があります(契約期間、契約の更新基準(有期の場合)、就業場所など)。

次に、労働協約や就業規則に定めのある労働条件を変える場合です。労働協約、就業規則、労働契約の力関係は、

「労働協約>就業規則>労働契約」という力関係

があります。労働協約や就業規則よりも不利な労働条件を定めた労働契約は無効ですので、原則として労働協約か就業規則を変更しない限り、不利益変更はできません。ただし、法令上、「労働契約の労働条件が就業規則を上回る場合のみ、労働契約は就業規則に優先する」というルールがあるので、

就業規則を上回る部分の労働条件を変える場合は、労働契約を変更する必要

があります。なお、労働協約との関係では、たとえ労働契約の労働条件が労働協約を上回っていても労働協約が優先するという考え方が有力です。その場合は労働協約を変更しない限り、社員の労働条件は変えられません(社員が労働協約の対象とならない非組合員である場合を除く)。

3 労働契約による不利益変更の流れ

1)労働条件の不利益変更を行うことについて社員と交渉する

労働契約は会社が一方的に変更できないので、会社と社員の合意によって変更します。そのため、労働条件の不利益変更を行うには社員との交渉が必須です。

交渉の進め方などは当事者の自由ですが、通常は会社が労働条件の新旧対照表を作成し、変更が必要な理由を社員に説明します。例えば、賃金を引き下げる場合は賃金額の新旧対照表を作成し、変更が必要な理由(勤務成績が目標の○%に満たず、指導を継続しても改善が見られないなど)を説明するといった具合です。

2)労働条件の不利益変更を行うことについて社員の合意を得る

会社と社員が合意すれば、新しい労働条件が適用されます。「言った、言わない」のトラブルを防ぐため、「合意書」(任意の書式)を取得するのが無難です。合意書には、社員自身が署名する欄を設け、さらに、

社員が労働条件の変更について理解した上で合意する

などの文言を入れておくとよいでしょう。社員から「内容をよく理解せずに合意した」「会社の説明が不十分で、内容を誤解した状態で合意した」などと言われないようにするためです。

4 労働契約による不利益変更のポイント

1)社員の言い分も聴きながら交渉する

労働条件の不利益変更について社員と交渉する場合、会社と社員の立場の違いに注意しましょう。例えば、

「不利益変更を拒否したら、会社に居づらくなるのではないか」という不安から、本当は不利益変更に応じたくないのに、無理をして同意するケース

があります。その場の交渉は無事に終わっても、後に不満を募らせた社員がユニオンなどに駆け込み、「会社から不当な労働条件を強いられた」などと主張することがあります。

ですから、交渉の際は、必ず社員の言い分も聴くようにしましょう。例えば、「勤務成績が目標の○%に満たず、指導を継続しても改善が見られないため、月給を○円引き下げる」といった場合であれば、目標を達成できない理由などについて社員の言い分を聴きます。場合によっては引き下げ額の見直しや引き下げの撤回などを検討するようにします。

2)ケースに応じて、就業規則の変更と労働契約の変更を使い分ける

前述した通り、就業規則と労働契約の間には、

  • 原則:就業規則が労働契約に優先する
  • 例外:労働契約の労働条件が就業規則を上回る場合、労働契約が就業規則に優先する

というルールがあります。

例えば、就業規則で月給を25万円と定めている会社が、特定の社員と月給を30万円とする労働契約を締結することは問題ありません。また、月給が就業規則の25万円を下回らなければ、就業規則を変更せず、労働契約の変更によってその社員の月給を引き下げることも可能です。

同じ「賃金引き下げ」という不利益変更であっても、就業規則の変更で対応するか、労働契約の変更によって対応するかはケースによって使い分けるとよいでしょう。基本的なイメージは、

  • 賃金を一律的に引き下げるなら、就業規則を変更する(会社の業績が悪化した場合など)
  • 特定の社員の賃金だけを引き下げるなら、労働契約を変更する(社員の成果が著しく低い場合など)

です。

以上(2024年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 小出雄輝)

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画像:G-Stock Studio-shutterstock

【労働条件の変更(3)】「就業規則」による労働条件の不利益変更

書いてあること

  • 主な読者:賃金引き下げなど、社員の「労働条件の不利益変更」を検討している経営者
  • 課題:就業規則の変更手続きの流れが分からない
  • 解決策:労働組合が組織されていない(労働協約を交わしていない)場合は、就業規則の変更によって労働条件を変更する

1 労働組合がない会社が、社員の労働条件を変更するには?

会社の経営状況や働き方の変化などを理由に、労働条件を引き下げることを「労働条件の不利益変更」といいます。労働条件を変える場合、労働組合のある会社であれば「労働協約」の変更で対応するのが通常ですが、

御社に労働組合がない場合、社員の労働条件を変えるには、原則として「就業規則」の変更が必要

になります。また、変更の際は

  • 過半数労働組合や過半数代表者からの意見聴取などを、正しい手続きで進めること
  • 就業規則の変更の合理性など、必要なポイントを押さえること

が大切です。以降で確認していきましょう。

2 就業規則とは?

就業規則とは、賃金や労働時間など一定の労働条件をまとめた職場のルールブックです。社員数が常時10人以上の会社(実際は本店・支店などの事業場単位)の場合、作成は義務です。

就業規則に記載する事項は次の3つに分かれています。なお、「就業規則(本則)」とは別に、「賃金規程」などを別規程で作成する会社は多いですが、法令上は、本則も賃金規程なども全て就業規則に当たります。

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就業規則の効力が及ぶ範囲は、

就業規則の中で適用対象として定めた全ての社員

です。例えば、就業規則の中に「本規程は正社員に適用する」という定めがある場合、正社員にのみ効力が及びます。なお、正社員と異なる労働条件が適用される社員については、そうした社員を適用対象とする「パートタイマー用就業規則」などを別に作成すれば問題ありません。

労働組合がない会社の場合、社員の労働条件は、就業規則か労働契約によって決まりますが、

この両者の間には「就業規則>労働契約」という力関係

があるため、労働契約を変更しても、社員には就業規則の労働条件が引き続き適用されます。つまり、

就業規則のある会社が社員の労働条件を変える場合、まず就業規則を変更する必要

があるわけです。ただし、例外として、

労働契約の労働条件が就業規則を上回る場合のみ、労働契約は就業規則に優先

するというルールがあり、この場合は労働契約の変更で対応することになります。

3 就業規則による不利益変更の流れ

1)新しい就業規則を作成する

本来、会社は社員と合意せずに、就業規則の変更による不利益変更を行うことはできません。しかし、社員の不利益や労働条件を変える必要性など、いくつかの要素に照らして就業規則の変更が合理的といえる場合、社員と合意しなくても不利益変更が可能です。

合理性の判断のポイントは、第4章で事例を交えて紹介しますが、まずは経営者や人事労務担当者が、合理的かどうかを自己判断しながら新しい就業規則を作成することになります。

2)過半数労働組合や過半数代表者から意見を聴取する

就業規則を変更する場合、過半数労働組合(社員の過半数で組織される労働組合)から意見を聴取しなければなりません。過半数労働組合がない場合は過半数代表者(社員の過半数を代表する者)から意見を聴取します。なお、過半数代表者は、次の要件を満たす必要があります。

  • 管理監督者(労働基準法の「監督もしくは管理の地位にある者」、労務管理について一定の責任・権限を与えられている管理職など)でないこと
  • 就業規則に関する意見聴取のために選出されることを明らかにした上で、投票や挙手などによって選ばれた者であること

意見を聴取する際は、意見を聴取される者の氏名、意見の内容、聴取した日付などを書き込める「意見書」(任意の書式)を作成します。

なお、会社と意見を聴取される者が、変更内容について合意することまでは求められていません。つまり、

反対意見が出たからといって、就業規則の変更が無効になるわけではない

ということです。

3)変更した就業規則を所轄労働基準監督署に届け出て、社員に周知する

変更した就業規則は、過半数労働組合または過半数代表者の意見書を添えて、所轄労働基準監督署に届け出ます。書面で直接提出するか、「電子政府の総合窓口(e-Gov)」を使用できる環境にあればデータで送付します。

届け出が完了したら、変更した就業規則を社員に周知します。

就業規則を社員に周知しないと、新しい労働条件が社員に適用されない

ので、注意が必要です。例えば、オフィス内に就業規則を掲示しても、ほとんどの社員がリモートワークをしていて内容が確認できない場合などは、周知したことになりません。社内のイントラネットなど、社員が閲覧しやすい場所・方法で、就業規則のデータを掲示する必要があります。

■電子政府の総合窓口(e-Gov)■

https://www.e-gov.go.jp/

4 就業規則による不利益変更のポイント

1)「就業規則の変更が合理的か」が重要

前述した通り、会社が社員と合意せずに、就業規則の変更による不利益変更を行う場合、その変更が合理的である必要があります。具体的には、次の要素に照らして合理性を判断します。

  • 社員の不利益が大き過ぎないか
  • 労働条件を変える必要があるか(経営上の理由など)
  • 内容は適切か(変更の方向性、不利益の緩和措置、一般的な同業他社の状況など)
  • 労働組合等との交渉を行っているか
  • その他、就業規則の変更に当たって考慮すべき事情を見落としていないか

例えば、「仕事内容を基準にしたジョブ型の人事制度にしたいので、成果や仕事内容との関係性が薄い住宅手当を廃止する」という不利益変更の場合、次のような対応をしていれば合理的といえるかもしれません。

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図表2の場合、「住宅手当を廃止することによる社員の不利益が大きい」のがネックですが、会社としては競争力を上げるためにジョブ型の人事制度への切り替えが不可欠と考えているのが難しいところです。そのため、

住宅手当を廃止する代わりに、調整給を一定期間支給するという落とし所によって、社員の不利益を緩和し、合理性を担保する

という対応になっています。

就業規則を変更する場合、変更に当たって会社が考慮した要素を、図表2のような形であらかじめまとめておくと、過半数労働組合や過半数代表者も、意見を述べやすいかもしれません。

2)必要であれば個々の社員の合意を得る

第3章で紹介した手続きを踏めば、会社と社員が合意しなくても就業規則を変更できますが、変更の内容によっては反感を覚える社員もいるでしょう。社員とのトラブルを回避したいのであれば、

個々の社員の合意を得た上で就業規則を変更し、あくまで反対する社員については個別の労働契約によって就業規則と異なる労働条件を定める

というのも1つの方法です。

以上(2024年2月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 栗原功佑)

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画像:garagestock-shutterstock

既存の壁を突破せよ! 新規事業に必要な「異端の革新力」

書いてあること

  • 主な読者:一緒に新規事業を担う社員を育てたい経営者
  • 課題:多くの社員は変化を拒む。新規事業を考える「脳みそ」を持っていない
  • 解決策:経営者自身が「よそ者・ばか者・若者」+αの視点で人選する

1 アンゾフのマトリクスを参考とした展開

多くの企業は単一の事業で収益を上げています。限られたリソースを一点に集中し、改善を繰り返している経験は強みとなります。しかし、その事業が苦戦すると他にカバーする事業がないため、一気に業績が悪化します。

ですから、社長は常に新しい事業展開を検討し、試していかなければなりません。まずは「アンゾフのマトリクス」で事業展開の類型を確認しましょう。このマトリクスでは、市場浸透(既存市場×既存製品)、新製品開発(既存市場×新製品)、新市場開拓(新市場×既存製品)、多角化(新市場×新製品)の4つの象限で考えます。

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既存市場と既存製品の組み合わせは、いわゆる「金のなる木」(成長性は低いが、安定した収益を上げる事業)です。ここを確保している企業は0(ゼロ)から起業する場合と違い、安定した基盤の上に新規事業を立ち上げられるメリットがあります。ただし、既存事業を守ろうとするあまり、新規事業を攻めきれないという問題もあります。

一方、既存事業を縮小・廃止しつつ、新市場で新製品・サービスを展開する「多角化や事業転換」といった戦略もあります。新規事業に向けたより抜本的な取り組みです。

多角化や事業転換に成功すれば収益拡大の余地は広がりますが、未知の分野への進出となります。そのため、新製品開発や新市場開拓を経由して多角化に進み、事業化のめどが立ったら事業転換戦略に進むのが定石です。

2 人選は「よそ者・ばか者・若者」+α

いずれにしても、新規事業を推進すると、変化を嫌う社員はストレスと恐怖を覚えます。こうした社員も巻き込みながら新規事業を推進していくためのポイントは、「新規事業の担当者にこれまでとは違うタイプの社員を配置する」ことです。

具体的には「よそ者・ばか者・若者」です。さらに、それぞれの社員に+αの力が備わっていると理想的です。

  • よそ者×配慮:自社の常識に縛られないが、周囲の人に配慮できる
  • ばか者×知識:信じた道を突き進むが、直感だけではなく経験や知識の裏付けがある
  • 若者×したたかさ:あり余るエネルギーがあり、それを集中すべきところを感じ取る

よく「創業者と2代目とでは、求められる資質が違う」といわれますが、これは新規事業の場合でも同じです。市場浸透・新製品開発・新市場開拓をうまく進められるのは、その事業をよく知っている社員です。

一方、多角化・事業転換では、既存事業を否定することもあるため、従来とは異なる目線を持った社員でなければ、うまく進めることは難しいかもしれません。そのため、「よそ者・ばか者・若者」が必要です。

3 外部との出会いを後押しし、予算配分は機動的に

新規事業を成功させるために重要なのは外部のパートナーであり、その出会いを増やさなければなりません。事業展開の担当者がセミナーや会合などに自由に参加できるようにします(有料であってもその予算は確保する)。

また、予算はあらかじめ枠を設定しておくものの、それありきで運用しないようにします。状況の変化によって予算が余ったり、不足したりすることは頻繁です。必要な予算か否かは社長も参加して厳しく選別するものの、機動的な動きも必要です。

4 事業展開が進むか否かは経営者次第

既存事業を損なわないように、事業展開をしていくことは簡単ではありません。事業展開には社長も絡みますが、既存事業の兼ね合いで100%注力するのは難しいため、起業家マインドを備えた社員が必要です。

事業展開を担当する社員は、少なくとも社内では優秀です。事業展開を担当することになれば、既存事業で手薄なところも出てきますが、そこをカバーする組織づくりも並行して進めていく必要があります。こうして何らかの事業展開を進め、それが成功しても失敗しても、その結果を示すことで、一部の社員に「与えられた仕事をするだけではない」という感覚が芽生えていくでしょう。

社長は、事業環境の変化がますます急速になっていることを実感しているはずです。そうした中で生き残るためには、自由な発想で事業展開を考える社員が必要です。そして、そのような社員を育てられるか否かは、経営者のマネジメントにかかっています。

以上(2024年1月更新)

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画像:Vera NewSib-shutterstock