再び、民泊がアツい! 要件緩和・インバウンド回復で注目を集める民泊事業で成功するポイントとは?  

書いてあること

  • 主な読者:宿泊・住宅事業経営者、不動産を所有している経営者、金融機関担当者
  • 課題:民泊が注目を集めているのは分かるが、成功するポイントを知りたい
  • 解決策:立地や建物にあったプランを打ち出す。その上で利用者との「気張らないコミュニケーション」が人気の鍵になる

1 注目を集める民泊。成功するポイントは?

今、民泊が再び注目されています。2022年10月に日本への入国規制が緩和され、日本政府観光局(JNTO)によると2023年5月の訪日外客数は約190万人(推計値。コロナ禍前の2019年同月比68.5%)と、着実にインバウンド需要が回復しています。

訪日外国人の受け皿の一つである民泊の届出住宅数は、2020年の2万1385件をピークに減少に転じた後、2022年10月から徐々に増加し、2023年5月15日時点で1万9208件となっています。このまま外国人観光客が増え続けると、民泊の需要が供給を上回ることが想定されます。

現に、2023年2~3月末における全国の民泊宿泊者数は約25万人(前年同期比179.3%)に増えています。

そうした未来を見据え、国は民泊参入の要件を緩和します。民泊運営を行うには国土交通省に「住宅宿泊管理業者」として登録する必要がありますが、そのためには

宅地建物取引士、マンションの管理業務主任者、賃貸不動産経営管理士いずれかの資格か、2年以上の住宅取引や管理の事業経歴が必要

です。

この厳しい要件が参入の大きなハードルとなっていましたが、今後は、

通信講座20時間と講義7時間の実務講習を受け、修了試験に合格すれば資格が与えられる

ように要件が緩和されます。国土交通省によると、2023年12月または2024年の1~3月頃には実際に講習が始まる予定とのことです。

このように注目を集める民泊ですが、空き物件や空室を民泊にすればすぐさま利用者で埋まるというわけではありません。民泊事業を成功させるには、

利用者が民泊に何を求めているか

を理解した上で運営することが重要です。

この記事では、民泊仲介大手Airbnb(エアビーアンドビー)の広報部長・松尾崇氏(以下、松尾氏)へのインタビューや、コロナ禍でも客足を伸ばした事例から、「今民泊を運営するならどうすれば成功するか」を紹介します。

2 利用者は「どんなところに泊まりたいか」

1)大都市や観光スポット以外は難しいと思われがちだが……地方の古民家に熱視線

民泊事業で成功するために重要なものの1つは立地です。大都市や観光地の需要が高く、都道府県別の宿泊者数を見ると東京都が最も多く、次いで北海道、大阪府となっています。

こうした立地に恵まれた場所では、今年に入って「1泊7万円」という高単価にもかかわらず、すぐに予約で埋まったり、部屋によっては客室単価を上げてもコロナ禍前のピーク時期より高い売り上げを記録したりするケースもあります。これを聞くと、地方の特に観光スポットのない立地では民泊は難しいのではと思われがちですが、地方にも十分勝機はあるといわれます。

松尾氏によると、

「今は外国人観光客のリピーターが増えているが、東京・大阪・京都といった有名なスポットではなく、地方の日本的なたたずまいの古民家に長期滞在するケースも増えている」

といいます。

2)「古民家に泊まって交流したい」というニーズの高まり

今、20代~30代の若い外国人観光客や日本人旅行者の中には、旅行先を選ぶ際に写真映えするか、どういう雰囲気で旅ができるかも重視する傾向があります。「あの有名な観光スポットに行きたい」「あの有名な温泉に入りたい」といった従来のニーズの他に、

こういう雰囲気の場所に泊まりたい、友人や大切な人、家族とこういう場所で時間を過ごしたい

というニーズで宿泊先を選ぶケースが増えているということです。

松尾氏によると、

「周囲に有名な観光スポットがなくても、その地域の人と交流し、日本の文化や伝統を体験できるという理由で地方の古民家が好まれている。エアビーアンドビーに掲載されている建物自体も蔵造りや茅葺き屋根古民家や歴史ある建物など、バラエティに富んでいるのも大きな魅力」

といいます。

また、地方の古民家が好まれる理由として、

日本の地方自体の魅力が広く知られるようになった

というのも大きいとのことです。

「日本は地方に行けば景観が良く、地形や自然環境も多岐にわたり、その土地ならではの風景があります。しかも、有名ではないにしても温泉や歴史的建造物、神社仏閣、果樹園など、たいてい観光に適した場所があります。人も優しく、地元の人だけが通うような美味しいお店があったりもするのです。エアビーアンドビーでは日付や旅行先を入れなくても宿泊施設を検索することができ、『ビーチフロント』や『最高眺め』といった60以上あるカテゴリからニーズに適した所を選ぶことができるため、旅行先が分散化され、必ずしも観光地ではないところに予約が入るようになっています」(松尾氏)

こうした知られざる地方の楽しみを味わえるのも、民泊の大きな魅力です。有名な観光スポットのない場所には、そもそもホテルや旅館はないことが多いためです。

エアビーアンドビーが2023年7月に発表したデータによると、2022年には日本国内のホテルがない地域で宿泊をした旅行者は6万7000人を超えています。

3)自治体も古民家活用を支援

ここ最近、古民家のリノベーション技術が確立されてきたことも需要が高まっている大きな要因です。昔ながらの日本家屋といえば隙間が多く寒いというイメージが先行しがちですが、昨今では床も壁も断熱材を組み込むことで冬は暖かく、夏は涼しい快適な居住環境を確保することができるようになっています。

松尾氏によると、こうした古民家の快適性が上がったことにより、

「日本人の若い人も古民家民泊を利用する人が増えている」

といいます。

エアビーアンドビーでは2023年7月、世界遺産に登録されている富山県南砺市の五箇山・菅沼集落の合掌造りに無料で宿泊できるキャンペーンを開催。地元の郷土料理や和紙づくりなどの地元体験を通じて、古民家民泊の魅力を世界に発信しています。

こうした古民家民泊の需要に対し、自治体も古民家再生に力を入れています。

兵庫県では、2007年から「古民家再生促進支援事業」を実施。県内の古民家所有者から申請があれば専門家を派遣して建物調査を行い、再生手法の提案などを行っています。そのうち宿泊体験施設や地域活動・交流拠点として再生するもので、改修工事費が500万円以上掛かる場合は補助金を出して支援しています。

■兵庫県「古民家再生促進支援事業」■
https://web.pref.hyogo.lg.jp/ks26/wd27_000000038.html

4)地方の民泊事業参入は今がチャンス?

地方の民泊に外国人観光客や日本人旅行者のニーズが高まり続けると、その需要に対して供給が足りなくなる可能性があります。民泊はコロナ禍で事業を廃止するところが増加し、数が絞られました。

またそもそもの問題として、この記事の冒頭で紹介したように住宅宿泊管理業者の資格を取得するには高いハードルがあり、民泊を始めたいが自分ではなかなか始められず、委託しようにも地方には住宅宿泊管理業者が少ないため見つからず、開業を断念するといったケースもありました。

民泊は日常的な清掃や利用者とのコミュニケーションが必要不可欠なため、離れた都市部の住宅宿泊管理業者では、地方の物件の対応は困難です。

今回、住宅宿泊管理業者の要件が緩和されることで、地方での開業もしやすくなります。要件緩和となったタイミングで早めに資格を取得し、住宅宿泊管理業者が少ない地方で開業することで、「地方の古民家に泊まりたい」という潜在的なニーズに応えられる可能性が高くなるでしょう。

3 成功の肝は気張らないコミュニケーション

民泊運営で多くの利用者に選んでもらうためには、外観や内装を明るいライティングで撮影し、そういった写真を数多く掲載するといった見映えの部分も大事ですが、もっとも大事なのは、

利用者との密なコミュニケーション

といわれます。これは利用者に好まれ、高い宿泊率を維持するのにも重要な要素です。松尾氏によると、

「エアビーアンドビーでは外観や内装よりも、利用者と宿泊前から(場合によっては宿泊後も)メッセージのやり取りをこまめにすると人気が出やすく、レビューも高い傾向にある」

といいます。交流を目的にしている外国人観光客としては、こうしたやり取りだけで大きな満足感を得られるというわけです。

とはいえ複数の住宅を管理する場合、一人ひとりの利用者との丁寧なやり取りは負担が大きいでしょう。この点について、松尾氏によれば、

「利用者が事前に欲しているのは、例えば『到着時に分かりやすい目印があるか』『朝7時からやっているカフェはあるか?』『近くにおいしいお店はあるか?』といったごくシンプルなやり取りだったり、快適に過ごす上で必要な周辺の地元ならではの情報です。こうした情報を共有するだけならさほど負担は大きくありません。複数管理しているプロの方でも、利用者が行くべき・見るべきものを教えてくれるところは人気があります」

とのことです。

エアビーアンドビーでは、チャットで文面を打ち込むと即座に72言語の一つに精度高く自動翻訳され、外国人観光客と気軽にやり取りすることが可能になっています。

そしてこうしたコミュニケーションで成功しているケースに必ず共通しているのが、

気張らないこと

だといいます。

「利用者に対してあれもこれもと気負って、かしこまったやり取りはあまり必要ではありません。普段の気軽な感じで『あそこの店のあんパンはおいしいからおすすめですよ』『あの美容室は雰囲気がいいから行ってごらん』と、地元ならではの情報を知っていて、かつ自然体で教えてくれるホストは評価が高いです。その上で、部屋のテーブルに『ようこそ』と書かれた手紙を一つ置いておくだけで、利用者は求めていた温もりを感じてリピートしてくれやすくなります」(松尾氏)

4 日本人利用者がコロナ禍でさまざまな利用方法に気づいた

1)コロナ禍で民泊の利用用途が広がった

ここまで主に外国人観光客を意識したポイントをお伝えしてきましたが、民泊の利用者は日本人(日本国籍を有する者)が多くを占めます。

冒頭で紹介した2023年2月~3月末における全国の民泊宿泊者数約25万人のうち、外国人は約9万人(前年同期比1645.4%)、日本人は約16万人(前年同期比118.8%)です。2019年2~3月末は日本人の利用が約9万人だったので、コロナ禍前よりも日本人の利用が増えています。

これは、コロナ禍によって日本人が、

民泊の多様な利用方法を知ったから

だといわれます。

まずコロナ禍では、人々は他人との「密」な会話や、エスカレーター、エレベーターといった他人との接触を避ける宿泊先として民泊が注目されました。加えて、友人や恋人と気兼ねなく過ごす空間としての需要も高まり、女子会や誕生会、飲み会などに民泊が利用されるようになったのです。

松尾氏によれば、こうした旅行以外の利用について、コロナ禍直後は都市部の住宅が好まれていましたが、次第に都市部から80キロメートル圏内(首都圏近郊では湯河原など)の郊外や観光地の利用も増えていったそうです。

こうして多くの人がコロナ禍を通じて民泊の多岐にわたる利用方法を知り、民泊の魅力を体感したことで、今後も日本人の利用者が増えていくといわれます。

松尾氏によれば、コロナ禍当初はエアビーアンドビーのウェブサイトで多く検索される日本語のキーワードとして「Wi-Fi」「エアコン」「キッチン」「無料駐車場」など、長期間のワーケーションを連想させるものが増えたといいます。ワーケーションとは、Work(仕事)とVacation(休暇)を組み合わせた造語で、普段の職場や自宅とは異なる場所で仕事をしながら、自分の余暇の時間も過ごすことです。

現在では長期間利用の用途は多岐にわたるようになり、エアビーアンドビーでの長期滞在(28泊以上の宿泊予約)の宿泊数は、2023年第1四半期だけで見ても予約総泊数の約20%を占めているそうです。

民泊で成功するには、場所や宿泊施設の特性など複数の要素を考慮しながらも、こうした利用者のニーズを察知し、それに対応したサービスを打ち出したり、対応可能であることをアピールしたりすることが重要です。

2)コロナ禍でも売り上げを伸ばした民泊サービス

民泊の総合支援会社であるmatsuri technologies(マツリテクノロジーズ)は2020年5月、都心の住宅を中心に、お試しで同棲したいカップル向けに「おためし同棲」サービスを立ち上げました。

1カ月単位の短期契約を前提としたサービスで、敷金や礼金、仲介手数料などの初期費用を掛けずに、家具や家電の用意された住宅で同棲ができるというものです。

不動産のように2年間の賃貸借契約ではなく、保証人も不要なため、始めやすく途中でやめやすいというメリットが多くの注目を集めました。家具や家電があらかじめそろっているという民泊ならではの特色を生かしたサービスといえます。

以上(2023年9月作成)

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【債権回収(6)】債権回収が有利になる契約書の定め方

書いてあること

  • 主な読者:必要な事項を契約書に定めて、債権回収のリスクを低減したい経営者
  • 課題:具体的にどのような条項を定めたらよいのか分からない
  • 解決策:「期限の利益喪失」「約定解除」は必ず、「担保権」はできれば定める

1 信用できる相手でも契約書を交わしましょう

「信用できる相手だから」といって、契約書を交わさずに取引していないですか? これはビジネスを進める上でとても危険なことです。口約束だけの状態でお金のトラブルになってしまったら、双方が「言った、言わない」を主張してもめてしまいます。裁判に発展した場合も、債権回収の根拠を立証するのが難しく、敗訴してしまうことさえあります。そのため、

必ず契約書を交わす

ことが不可欠で、さらに、

  1. 支払条件(弁済条件):定められた期日に確実に支払いをしてもらえるようにしておく
  2. 期限の利益喪失:支払期日前でも債務履行(支払い)を促せるようにしておく
  3. 約定解除:一定の事態が生じた場合に契約を解除できるようにしておく
  4. 担保権:回収不能となった売掛債権を担保で回収できるようにする

の4つについて定めたいところです。

この記事をお読みになっていただければ分かりますが、お金を払わない相手が悪いのに、それを取り返すまでには「もどかしい」ともいえる手続が必要です。そして、債権回収を進める上で契約書が重要な役割を果たします。

2 基本的だが重要な「支払条件(弁済条件)」

基本的ですが、支払条件(弁済条件)の記載はとても大切なことです。例えば、契約書に取引代金の総額が記載されていたとしても、

  • 支払期日がいつなのか
  • 取引代金は一括して支払われるのか
  • 取引代金の支払いには条件があるのか(物を先に提供することが条件であるなど)

といったことが明記されていないと、債権者の想定通りに債務者が代金を支払わないことがあります。こうしたことがないように、支払条件について明確に契約書に定めておきましょう。

3 「期限の利益喪失」と「約定解除」

1)「期限の利益喪失」と「約定解除」の考え方

例えば、業界関係者などの情報で取引先が支払期日前に不渡りを出すことが分かっていたら、こちらとしては納品した商品だけでも回収したいと考えます。ところが、原則としてそれはできません。なぜなら、

債務者が不渡りを出しても、支払期日まで弁済する義務がない(期限の利益)

からです。なんとも納得できない状況なわけで、そうならないためには、

契約書で先手を打つ

必要があります。具体的には、不渡りなど一定の事態が生じた場合、

債務者に支払期日前であっても債務を弁済する義務を生じさせ(期限の利益喪失条項)、債権者が直ちに契約の解除権を行使できる(約定解除条項)

ようにしておくのです。

ここで約定解除という言葉が出てきたので説明します。契約の解除には、

  • 約定解除:契約書に定められた条件に該当する場合の解除
  • 法定解除:債務者に法律で定められている「債務不履行」などがあった場合の解除

があります。約定解除とは、「不渡りを出したとき」など、契約書で定める条件に該当した場合に契約を解除できるものです。また、法定解除の条件の一つである債務不履行には、

  1. 履行遅延:支払いが遅れているなど
  2. 履行不能:支払うことができないなど
  3. 不完全履行:一部しか支払われていないなど

の3つがあります。

法定解除の場合は、債務不履行があっただけでは、解除権の行使はできず、履行の催告などの手続きを経なければならないので、約定解除条項を定めておく方が、有利となります。

2)契約書における「期限の利益喪失」と「約定解除」の規定例

期限の利益喪失と約定解除は、契約書には次のように定めます。

第○条(期限の利益喪失)

乙(買主)に次の各号のいずれかの事由が生じた場合、乙は甲(売主)の通知催告がなくても、本契約上の甲に対する債務につき当然に期限の利益を失い、本債務の全額を直ちに弁済する。

  1. 1度でも支払いを怠ったとき
  2. 手形、小切手不渡りの事実のあったとき
  3. 破産、民事再生、会社更生、特別清算などの申立てをし、または申立てがなされたとき
  4. 差押え、仮差押え、仮処分、担保権の実行としての競売申立て、租税滞納処分その他これらに準じる手続の開始がなされたとき
  5. 監督官庁より事業停止命令を受け、または事業に必要な許認可の取消処分を受けたとき
  6. その他本契約に定める条項に違反したとき
  7. 資産、信用または支払能力に重大な変更が生じたとき
  8. その他前各号に準じる事由が生じたとき

第◯条(約定解除)

乙に第○条各号(上の第○条(期限の利益喪失)条項の各号を指します)のいずれかの事由が生じた場合には、甲は催告なくして、直ちに本契約を解除できる。

なお、期限の利益喪失には、上の例のように「請求しなくても当然に期限の利益を喪失させる」定め方と、「一定の事実が発生した場合に、自社からの請求により期限の利益を喪失させる」定め方があります。後者の場合、通常、自社から「内容証明郵便」でその旨を通知し、期限の利益を喪失させます。

3)「倒産解除特約」の有効性

前述した期限の利益喪失の条項において、「3.破産、民事再生、会社更生、特別清算などの申立てをし、または申立てがなされたとき」と示しましたが、こうした定めを「倒産解除特約」と呼びます。

倒産解除特約については、会社更生手続の場合に無効とする最高裁判例(最判昭和57年3月30日)や、民事再生手続の場合に無効とする最高裁判例(最判平成20年12月16日)があります。また、破産手続については、無効とする地裁判例(東京地判平成21年1月16日)もあります。

そのため、「倒産解除特約を定めれば安心」というわけではなく、その有効性については議論の余地があることを認識しておきましょう。実際には、

倒産解除条項ではない解除条項で解除をする、あるいは当該条項を交渉材料にして合意解約する

ことが、無用な争いを避ける上で望ましいといえます。

4)約定解除の効果

約定解除をすると、売主(債権者)には次の行為が認められます。

  1. 納入済み商品(継続的契約の場合は代金未払い分のみ)の引き揚げ要求
  2. 未納品の出荷停止

「回収できるうちに、回収できるものを回収する」というのが債権回収の基本ですから、商品の引き揚げができる約定解除は効果的です。ただし、

約定解除をしても、返還請求権が売主に発生するだけで、強引に商品を引き揚げることまでは許されない

ことに注意が必要です。「自力救済の禁止」といって、債権者が裁判などによらず強制的に力を行使することは禁止されているからです。場合によっては、窃盗罪、恐喝罪の刑事事件にもなりかねません。そのため、商品の引き揚げは、買主(債務者)の同意を得た上で行うほうが無難です。具体的には、

  • 甲(売主)が本契約を解除したとき、甲は未納品の商品については引渡義務を免れ、納入済みの商品については返還を求めることができる
  • 乙(買主)が甲より商品返還を求められた場合、乙は速やかにこれに協力しなければならない

といった具合です。

こうすると、買主に対して、商品の引き揚げの承諾を取り付けやすくなりますし、買主の明示の承諾がなくても、黙認していれば引き揚げはできますが、後に同意の有無に争いが生じた場合、窃盗罪などに問われる恐れがあります。そのため、

同意が得られない場合は商品の返還請求訴訟を起こす必要がありますが、判決が下されるまで商品を執行官に保管してもらうために、占有移転禁止の仮処分を申し出る

などの保全策を講じなければなりません。

5)契約書に「解約条項」も定める

解約とは、

当事者の一方の意思表示により、将来に向かって解約するというもので、「3カ月前に通知すれば解約できる」

といったように定めるものです。約定解除に該当する状態に至らなくても、取引先の倒産を察知した場合などに行使することができます。

4 「担保権」の効果と定め方

1)担保権とは

担保権には、

  • 約定担保:抵当権や連帯保証のように契約書によって発生するもの
  • 法定担保:先取特権のように当然に発生するもの

があります。

約定担保についてもう少し説明します。例えば、初めての取引や、少し不安を感じる相手(実績がないなど)との取引の場合、将来、売掛金などの回収ができなくなるかもしれないと心配なものです。そうしたときは、

不動産を差し押さえたり、経営者個人から債権を回収したりできるようにする

ことが、担保の設定となります。

2)物的担保と人的担保

担保権には、物的担保と人的担保とがあります。

物的担保とは、

債務者や債務者以外の第三者が持つ特定の財産から、優先的に弁済を受けられるもの

です。物的担保の対象になるのは、主に不動産と債権です。その他、機械、商品、有価証券、ゴルフクラブ会員権、船舶、自動車、工場財団なども対象になります。不動産を担保にする場合、登記と実態の両方をチェックすることが重要です。登記のチェックは不動産鑑定士や司法書士、土地家屋調査士などに依頼できます。また、実態のチェックは、どのような不動産なのかを実際に目で確かめる必要があります。

人的担保とは、

債務者以外の第三者から、債務者に代わって弁済を受けることができるもの

です。人的担保の代表的な制度が「保証」です。保証とは、

主債務者が債務の弁済ができない場合に、主債務者に代わって保証人が債権者に弁済すること

であり、代表者個人の連帯保証などがあります。

3)契約書における「担保権」の規定例

担保権は、契約書には次のように定めます。

第◯条(担保権の設定)

担保権を次の通り設定する。

  1. 乙(買主)は、甲(売主)のために、甲に対する売買代金支払債務を担保するため、乙の所有する土地(〇〇県〇〇市〇〇町〇―〇―〇所在)に抵当権を設定するものとし、甲乙間において別途抵当権設定契約書を締結する
  2. 丙(連帯保証人)は、乙(買主)の連帯保証人として、本契約に基づく甲(売主)の乙に対する一切の債務を極度額◯◯円の範囲で連帯して保証する

なお、物的担保や人的担保の差し入れについて了承が得られても、優先する物的担保が設定されていたり、保証人に全く資産がなかったりする状況では債権が回収できないため、事前の調査は不可欠です。

4)民法改正による保証ルールの変更

2020年4月1日施行の改正民法によって、保証に関する民法のルールが大きく変わりました。まず、個人(法人は含まれません)が保証人になる根保証契約(将来発生する不特定の債務まで保証する契約 )については、

保証人が支払責任を負う上限額である「極度額」を定めなければ、保証契約は無効

となります。また、個人が事業用融資の保証人になろうとする場合、公証人による保証意思の確認を行わなければならないことになりました。かかる意思確認の手続を経ずに保証契約を締結しても、その契約は無効となります。

その他、個人が保証人になる根保証契約について、保証人が破産したり、主債務者または保証人が亡くなったりすると、元本が確定し、その後に発生する主債務は保証の対象外となることが定められました。

さらに、保証人になることを主債務者が依頼する際の情報提供義務や主債務の履行状況に関する情報提供義務、主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務が定められました。

きちんとした手続きを経ないと無効になる場合もありますので、保証のルールを把握しておきましょう。

以上(2023年9月更新)
(監修 有村総合法律事務所 弁護士 有村佳人)

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画像:Mariko Mitsuda

【朝礼】今の頑張りは、過去の自分さえ輝かせる

おはようございます。この会社を退職していく社員がいます。残念なことですが、新天地でのさらなる飛躍を期待しています。忘れないでほしいのは、退職してもこの会社にいた事実は変わらないこと、そして、新天地でもこの会社の元社員という肩書を背負い続けるということです。

これは、今この会社で働いている皆さんにとっても同じことがいえます。皆さんもまた、この会社の社員という肩書だけでなく、過去に勤めていた会社や、出身校に所属していたという歴史を背負い続けるのです。

そのことをよく理解してもらうために、少し昔の話ですが、サッカー元日本代表のゴールキーパー・楢﨑正剛(ならざきせいごう)さんのエピソードを紹介します。楢﨑さんは1999年に、所属していた横浜フリューゲルス(以下「横浜F」)というチームが消滅してしまったため、当時の名古屋グランパスエイト(以下「名古屋」)への移籍を余儀なくされました。楢﨑さんはその後の約20年間、他チームからのオファーを断り続け、引退するまで名古屋でプレーし続けました。

楢﨑さんが移籍をしなかった大きな理由が、かつて所属した「横浜F」の存在でした。サッカー選手は、選手紹介などの際に、前の所属チームも記載されることが少なくありません。楢﨑さんは、なるべく長い間、前の所属チームの欄に「横浜F」の名前を残したいという思いで、移籍を断り続けたといいます。

実際に、楢﨑さんが日本代表や名古屋で活躍するたびに、すでに消滅した「横浜F」の名前が登場しました。そのことで、横浜Fの存在を忘れていた人や、存在自体を知らなかった人に、かつて日本代表ゴールキーパーを育てた強豪チームがあったことを認識してもらえたはずです。そして、「あの楢﨑さんが所属したチーム」として横浜Fは語り継がれ、かつての所属選手やファンが誇りを持ち続けることにもつながったでしょう。

楢﨑さんのように、私は皆さんにも、今この会社で頑張って評価を高めることが、前の会社や出身校の評価を高めることにつながるのだということを意識してもらいたいです。そして、前の会社や出身校の評価が高まれば、今度は逆に、皆さんが「あんなすごい会社や学校にいたんだ」と評価されるケースも出てきます。皆さんは過去を書き換えることはできませんが、その過去の評価は、今の頑張りによって変えられます。つまり、今の頑張りは、過去の自分さえ輝かせることができるのです。逆に、皆さんが何か問題を起こせば、今だけでなく、過去の自分の評価まで下がってしまうこともありますから、そこは注意が必要です。

「今の自分だけが自分だ。過去は関係ない」という考えの人もいるでしょう。ですが、どんな人も過去が積み重なって今の自分があります。過去に縛られる必要はありませんが、楢﨑さんのように、過去を誇りに思うからこそ湧いてくる力があるというのもまた事実なのです。

以上(2023年9月)

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画像:Mariko Mitsuda

【業務効率化】紙の出勤簿はもう限界?スマートロックなどを使った“今どき”の勤怠管理

書いてあること

  • 主な読者:勤怠管理業務の効率化を図りたい経営者、労務担当者
  • 課題:従業員の働き方が多様化。労働時間の適正把握は重要だが手間がかかる
  • 解決策:入退室管理システムやクラウド型勤怠管理システムの導入、連携を検討する

1 働き方の多様化。勤怠管理も見直してみませんか?

始業・終業時刻を「紙の出勤簿に手書きする」「タイムカードに打刻する」「エクセルファイルに入力する」など、“昔ながら”の勤怠管理を今も続けている会社は少なくありません。ですが、フレックスタイム制や時短勤務などで、従業員の働き方がバラバラになってくると、もはやこうした勤怠管理では対応しきれなくなってきます。

働き方の多様化に勤怠管理が追いついていない会社では、従業員、労務担当者、経営者それぞれが、次のような不便さを感じているはずです。

  • 従業員:始業・終業時刻や休憩時刻を毎日記録することが面倒
  • 労務担当者:記入漏れや記入ミスが起きやすく、データを転記したり集計したりする際の確認・修正に相当の時間を取られる。給与支払いに直結する業務だけにミスは許されず、気苦労も絶えない
  • 経営者:全従業員が始業・終業時刻や休憩時刻を毎日記録する作業時間は非生産的な時間。労務担当者の業務効率化のネックにもなる

そこで、この記事ではこうした不便さを解決するための方法として、「ICカードなどを使ったオフィス向け入退室管理システム」「さまざまな打刻方法に対応するクラウド型勤怠管理システム」などを活用した、“今どき”の勤怠管理を紹介します。

2 オフィス向け入退室管理システム(スマートロック)

オフィス向け入退室管理システムは、スマートロックとも呼ばれます。ドアの解錠や施錠を、ICカードやスマートフォンなどをリーダーにかざして行えるようにしたもので、権限を持たない人の入退室を制御できます。

煩雑になりがちな鍵の管理が不要になり、鍵の紛失や不正な複製のリスクもなくなります。

既存のドアは取り換えず、錠の開け閉めを行うサムターンの上に後付けするタイプや、シリンダーそのものを交換するタイプがあります。

サービスによっては、記録される入退室のログ情報を勤怠管理の目的で使用できるタイプもあります。中には、自社で利用している勤怠管理システムとCSVファイルなどを介さずに、APIで直接連携できるものもあります。サービスの例は次の通りです。

■Photosynth(フォトシンス)「Akerun(アケルン)入退室管理システム」■

https://akerun.com/entry_and_exit/

■アート「ALLIGATE(アリゲイト)」■

https://alligate.me/

■ビットキー「bitlock(ビットロック)」■

https://www.bitlock.jp/

■Qrio(キュリオ)「カギカン」■

https://kagican.jp/

■美和ロック「PicoA(ピコア)」■

https://www.miwa-lock.co.jp/tec/products/picoa.html

3 クラウド型勤怠管理システム

労働時間や残業時間の打刻・集計、シフト勤務への対応、休暇管理、年次有給休暇の自動付与、ワークフローによる申請・承認、ICカード(社員証、交通系ICカードなど)やスマートフォン(モバイルアプリ)による打刻などに対応したクラウドサービスです。サービスの例は次の通りです。

■ヒューマンテクノロジーズ「KING OF TIME」■

https://www.kingoftime.jp/

■マネーフォワード「Money Forwardクラウド勤怠」■

https://biz.moneyforward.com/attendance/

■ラクス「楽楽勤怠」■

https://www.rakurakukintai.jp/

■jinjer「ジンジャー勤怠」■

https://hcm-jinjer.com/kintai/

■デジジャパン「Touch On Time」■

https://www.kintaisystem.com/

■DONUTS「ジョブカン勤怠管理」■

https://jobcan.ne.jp/

■アマノビジネスソリューションズ「clouza(クラウザ)」■

https://clouza.jp/

4 客観的なエビデンスとしての記録が重要

会社(使用者)には、従業員の労働時間を適正に把握する義務があります。単に1日何時間勤務したのかを把握するのではなく、労働日ごとの始業・終業時刻を、客観的な方法(タイムカード、パソコンの使用時間の記録など)で確認し、それを基に何時間勤務したのかを計算しなければなりません。

紙の出勤簿やエクセルファイルを使った社員からの自己申告も、労働実態の調査などを併せて行う場合については認められますが、前述した通り、従業員の働き方が多様化している昨今では、1人1人の労働実態を調査するのが大変です。労働時間の把握漏れなどによって、従業員とトラブルになったり、労働基準監督署の“臨検”で指摘を受けたりするリスクもあります。

この記事で紹介した、スマートロックやクラウド型勤怠管理システムは、こうしたリスクを低減する上での助けになります。どこかで“昔ながら”の勤怠管理に見切りをつけて、見直しを検討してみてはいかがでしょうか。

以上(2023年9月更新)

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【業務効率化】FAX業務をペーパーレス化しよう

書いてあること

  • 主な読者:FAXの送受信はやめられないが、効率化したい経営者
  • 課題:FAX機・複合機のある場所に行かないと送受信できない状況を打開したい
  • 解決策:PC-FAX、インターネットFAXを使って「紙」のやり取りをなくす。EDIやWEB受発注システムなど、他の手段に切り替えられないか検討する

1 FAXの送受信、「紙」のやり取りをなくしませんか?

「使い慣れているから」「相手に合わせないといけないから」といった理由で、なかなか見直しが進まなかったFAX業務。コロナ禍を経て、

FAXの送受信のためだけに出社しなければならない状況は変えるべきだ

と感じた人も多いでしょう。

見積書や注文書など受発注に関する書面をFAXでやり取りする商習慣が根強い業種では、一足飛びにFAX業務を廃止するのは難しいかもしれません。しかし、

「紙」のやり取りをなくすだけなら、自社の環境を変えることで実現可能

です。その上で、FAXを他の手段に切り替えられないか、検討してみてはいかがでしょうか?

2 「紙」のやり取りをなくす方法

1)既存の複合機のPC-FAXを利用する

PC-FAXは、ネットワーク接続対応の複合機とパソコンとを連携してFAXを送受信する機能です。既にネットワーク接続対応の複合機があるのに、PC-FAXを使いこなしていないだけならば、複合機メーカーのマニュアルやサポートを頼りに、比較的容易に設定できます。

FAXを送信する際は、パソコンから印刷するのと同じ手順で、文章や画像などのファイルをそのまま送信データとして選択できます(紙の文書を読み取って送信することもできます)。また、受信したFAXは、PDF形式などのファイルに変換され、所定の場所に保存したり、メール添付で所定のメールアドレスに転送したりできます。

従前と同様、電話回線(FAX回線)を使うため、その分の通信費はかかりますが、印刷をしなければ完全ペーパーレス化も可能なので、印刷費(紙やインク、トナー代)を抑えられます。

なお、社外から社内のネットワーク環境にアクセスするためには、VPN接続やリモートデスクトップを使うなど、PC-FAXとは別に設定が必要です。

2)新たにインターネットFAXを利用する

インターネットFAXは文字通り、インターネットを通じてFAXの送受信を行うサービスです。サービス提供会社からFAX番号を取得し、メールアドレスを登録すると、そのメールアドレスを使ってFAXを送受信できるようになります。

FAXを送信する際は、登録したメールアドレスから、文章や画像などのファイルを添付して送信します。また、受信したFAXは、PDF形式などのファイルに変換され、添付ファイルとして登録したメールアドレスに届きます。

電話回線(FAX回線)を使わないため、その分の通信費はかからず、FAX機や複合機がなくてもFAXを使えるようになります。印刷をしなければ完全ペーパーレス化も可能なので、印刷費(紙やインク、トナー代)を抑えられます。例えば、次のようなサービスがあります。

■アクセルコミュニケーションズ「メッセージプラス」■

https://www.messageplus.jp/

■エディックワークス「faximo(ファクシモ)」■

https://faximo.jp/

■Karigo「秒速FAX」■

https://fax.toones.jp/

■グラントン「03FAX」■

https://03plus.net/03fax/

■j2 Global Japan「eFax」■

https://www.efax.co.jp/

■日本テレネット「MOVFAX(モバックス)」■

https://movfax.jp/

■ヤマトシステム開発「どこでもMyFAX」■

https://www.nekonet.co.jp/service/dokodemo-myfax

3 FAXに代わる他の手段

1)「中小企業共通EDI標準」の利用を検討する

EDIは、Electronic Data Interchange(電子データ交換)の略語で、主に企業間(BtoB)の電子商取引で利用されるため、「企業間電子データ交換」ともいわれます。

受発注や納品を行う際、紙の帳票や請求書などを発行するのではなく、専用回線やインターネットを通じて電子データをやり取りするシステムで、データをやり取りする企業間で標準化された書式を利用します。紙の書類を作成しなくてよいので、データで管理でき、業務の効率化や経費の削減を図ることができます。

「中小企業共通EDI標準」は、中小企業庁の委託事業(受託者:ITコーディネータ協会)として2018年3月に初版が公開されたクラウドサービスです。バージョンアップが重ねられ、2023年5月には、適格請求書等保存方式(いわゆるインボイス制度)に対応したver.4.1版が公開されました。同事業に参加したITベンダーを中心に結成された「つなぐITコンソーシアム」の会員企業などが、対応製品・サービスを開発、提供しています。

中小企業共通EDI標準対応のアプリとプロバイダーを利用する企業同士であれば、比較的少ない手間でEDIによる取引が始められます。

■ITコーディネータ協会「中小企業共通EDIポータルサイト」■

https://www.edi.itc.or.jp/

■つなぐITコンソーシアム■

https://tsunagu-cons.jp/

2)WEB受発注システムの利用を検討する

WEB受発注システムは、従来行っていた紙や電話などでの受注業務(伝票処理)、FAX・電子メール・電話での発注業務などをシステム上で完結できるサービスです。

受発注業務は業種や企業によって違いがあり、システムに求められる要件もさまざまです。請求管理、在庫管理など関連する管理業務との連携がうまくできるかどうかが重要といえるでしょう。例えば、次のようなサービスがあります。

■アイル「アラジンEC」■

https://aladdin-ec.jp/

■アクロスソリューションズ「MOS」■

https://www.mosjapan.jp/

■インフォマート「BtoBプラットフォーム 受発注」■

https://www.infomart.co.jp/asp/index.asp

■オザックス「マルチプラットフォームシステム(MPS)」■

https://www.ozaxitlab.jp/products_search/list002/item_1

■CO-NECT「CO-NECT」■

https://biz.conct.jp/

■ラクス「楽楽販売」■

https://www.rakurakuhanbai.jp/

■ラクーンコマース「COREC」■

https://corec.jp/

4 便利なサービス 比較のポイントは?

1)使いやすさ

本格導入した際に今まで通りの流れで業務が遂行できるかどうかがポイントです。トライアル期間が設けられているサービスも多いため、直感的に操作できるか、機能が多く複雑過ぎないかなど、使い勝手を確認しましょう。

2)セキュリティー

インターネットFAXなどのウェブサービスを利用する場合、情報漏洩対策がしっかり取られているかがポイントです。不正アクセスやマルウエアへの感染対策など、事前に確認しましょう。

以上(2023年9月更新)

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やらないと損! 経費精算で必要なインボイスの基礎を今すぐ社員に伝えよう

書いてあること

  • 主な読者:経理担当者と経費精算をしている全ての社員
  • 課題:インボイスの開始で、新たに経費立て替え時のチェック項目が増える
  • 解決策:登録番号、適用税率、税率ごとの消費税、宛先の記載の有無を立て替えた社員が立て替え時に確認する

1 全社員に関わるインボイス

2023年10月1日に始まるインボイス制度は、経理部門はもちろん、会社で働くすべての人に関わってきます。見落としてはいけないのが、

  • 外出や出張にかかる「旅費交通費」
  • 消耗品や書籍の「購入費」

などです。これらを立て替える際に受け取った領収書や請求書がインボイス(インボイス登録事業者が発行できる請求書など)でないと、

会社が納税する「消費税」の負担増

につながります。厳しいのは、支払先がインボイス登録事業者であっても、

記載事項に不備があるとインボイスとは認められない

ことです。もし、インボイスの記載項目に不備があり、それが経費精算時に判明した場合、その対処(発行先に再発行を求めること)は実務上現実的ではありません。ですから、社員が立て替えた時に、インボイスであるかどうかをチェックする必要があるのです。

具体的な注意点をこの記事で分かりやすくまとめますので、社員の方に回覧するなどして、周知徹底することをおすすめします。

2 従業員がすべき4つのチェック項目

経費を立て替えた際のチェック項目は、次の4つです。

□登録番号(T0000000000000_業者ごとに異なる)の記載があること

□適用税率の記載があること

□税率ごと(8% or 10%)に区分した消費税の記載があること

□宛先は、事業者名であること(事業者名でなく、個人名の場合には経費精算書が必要になります)

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ただし、最後の宛先は、

不特定多数が利用する飲食店やタクシー、小売業(コンビニやスーパーなど)などについては、省略されていてもインボイス(適格簡易請求書)として認められる

ことになっています。

3 インボイスをもらわなくても良いケース

次の取引はインボイスをもらわなくても大丈夫です。

  • 3万円未満の公共交通機関(バス、鉄道または船舶)による旅費交通費
  • ※飛行機はこの対象から除かれるため、インボイスが必要。

  • 3万円未満の自動販売機や自動サービス機(コインロッカーやコインランドリー、ATM手数料など)による商品購入費

上記の取引以外は、原則として、どんなに少額でもインボイスの保存が必要です。

4 どういうときに注意が必要か

基本的に大手百貨店や法人タクシーなどは、インボイス対応が徹底されているので心配ないかもしれません。逆に、注意が必要なのは、

支払先が飲食店、個人商店、個人タクシーなどのケース

です。インボイス登録事業者であっても、記載事項に不備がある場合(お店によっては、印鑑で対応している事業者もある)も想定されますので、インボイス受領時にチェックしましょう。なお、コンビニなどフランチャイズ展開しているチェーン店などは、店舗ごとにインボイス登録が必要です。大手コンビニの店舗であってもインボイス発行事業者でないケースもある点は知っておきましょう。

また、

クレジットカードで決済した経費

については、請求明細ではなく、決済先ごとのインボイスが必要になります。特にクレジットカードを利用してオンライン決済した場合、インボイスのダウンロードは忘れずに行うようにしましょう。

以上(2023年9月作成)
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

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仕事はできるが態度が悪い問題社員。辞めさせたくなければ解雇する前に手を打つべし!

書いてあること

  • 主な読者:仕事はできるが、勤務態度が悪い社員に困っている経営者や人事労務担当者
  • 課題:解雇もやむを得ないが、仕事はできるのでいなくなった後の影響が大きい?
  • 解決策:「服務規律違反」には毅然と対処しつつ、「解雇する前」の段階で手を打つ

1 優秀だけど問題が多い社員。残すかどうか?

仕事はできるが、短気で口が悪い、上司の命令に従わない、遅刻が多いといった問題の対応は難しいものです。ただの問題社員なら、場合によっては辞めてもらう(解雇する)という選択肢がありますが、相手が会社の中核を担う優秀な社員だと、辞めた後の影響が心配です。とはいえ、優秀だからといって問題社員を放置するわけにはいきません。

このようなケースにどのように対応すべきかについて、次の2つを紹介します。

  • 誰が相手でも「服務規律違反」には毅然と対処する
  • 辞めさせたくないなら「解雇する前」の段階で手を打つ

2 誰が相手でも「服務規律違反」には毅然と対処する

就業規則には「服務規律(社員が守るべき基本的な行動規範)」があります。誰が相手でも「服務規律」を厳格に適用することが基本です。その上で、勤務態度が悪い社員には次のような流れで対処します。

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図表のうち、2)については労働条件通知書、雇用契約書や就業規則への定めが、3)から5)については就業規則への定めが必須です(ただし、1)については特に定めは不要)。

また、5)の「普通解雇」とは、

社員としての適性がない(能力、健康状態、勤務態度などに問題がある)ことを理由とする解雇

です。問題社員に対処する場合、「懲戒解雇」をイメージする人も多いでしょうが、懲戒解雇は原則、横領やハラスメントなど重大な問題行為を対象とした処分なので、単に勤務態度が悪い社員に対して行っても無効となる可能性が高いです。

図表のケースであれば、1)から4)までの行程を経ても社員の勤務態度が改善されなければ、5)の普通解雇は免れないという考え方です。逆に言えば、

1)から4)までの行程で社員が問題行為を起こさない状況をつくれば、解雇する必要はなくなる

ということになります。次章では、「『解雇する前』の段階で手を打って社員を会社に残す」という観点から、図表の各行程のポイントを紹介していきます。

3 辞めさせたくないなら「解雇する前」の段階で手を打つ

1)注意:問題行為は必ず注意する。ただし、社員の言い分も聞く

社員の勤務態度に問題があれば、まずはその上司が「君の言動は間違っている。改めなさい」などと注意します。大切なのは、「問題行為を発見したら必ず注意する」という姿勢です。時によって対応がまちまちになると、せっかく注意をしても社員から「今日は、上司の機嫌が悪いから注意されたのかな」などと、軽く受け取られる恐れがあります。

また、注意する際は社員の言い分も聞きます。例えば、仕事の進め方について上司の命令を聞かない社員は、もしかしたら自分のやり方のほうが合理的だと思っているかもしれません。実際にそうならば、

「君のやり方のほうが良さそうだ、今回はそれでやってみよう。ただし、次回から自分の考えを試したい場合は事前に相談してくれ」

と社員の意見を取り入れつつ、相談を怠ったことを注意します。

繰り返し注意しても改善が見られない場合、

「注意書」「指導書」などの形で、どのような注意をしたかを書面で残しておく

と、「言った、言わない」のトラブルになるのを防げます。

2)配置転換など:問題行為を起こしにくく、能力を発揮できる状況をつくる

注意しても社員の勤務態度が改善しなければ、

  • 短気で口が悪い社員は、他の社員と関わらずに1人でできる業務を与える
  • 上司の命令に従わない社員には、思い切って権限を移譲してみる
  • 遅刻が多い社員は、「9時始業、18時終業」などの均一的な労働時間管理が適していない可能性を考え、働く時間を自分で決められる「フレックスタイム制」を適用する

といった具合に、配置転換や労働条件の変更を検討します。社員の勤務態度を改めさせるというよりも、社員が問題行為を起こしにくい状況をつくるイメージです。

ただし、例えば「問題行為は起きにくいが、単純作業しか行わないポジションに就ける」といった配置転換は、場合によってはパワーハラスメントになる恐れがありますし、優秀な社員を活用し続けたいという会社側の意図にも反します。ですから、

社員が「どうすれば問題行為を起こしにくいか」だけでなく、「どうすれば能力を発揮しやすいか」も考慮した上で、配置転換などを実施することが大切

です。

3)懲戒処分:貢献度に応じて処分を軽減しつつ、警告を忘れない

配置転換などをしても効果がなければ、就業規則の懲戒事由に基づいて懲戒処分を検討します。懲戒処分は、一般的に次の7種類に分けられます。なお、社員の問題行為に対して重すぎる懲戒処分や、弁明の機会を与えずに行った懲戒処分は無効になり得ますので注意が必要です。

  • 戒告:厳重注意を言い渡す(懲戒処分として行うので、前述した「注意」とは異なる)
  • けん責:始末書を提出させ、将来を戒める
  • 減給:一定期間、賃金額を下げる
  • 出勤停止:数日間、出勤することを禁じ、その間は無給とする
  • 降格:役職の罷免・引き下げ、または資格等級の引き下げを行う
  • 諭旨解雇:退職届の提出を勧告した上で、退職届の提出がなければ解雇とする
  • 懲戒解雇:即時に解雇する

一概には言えませんが、単に勤務態度が悪い社員に対して懲戒処分を行う場合、

一般的には「1.戒告」から「3.減給」あたりが妥当(「口が悪い」が行き過ぎてパワハラに当たる指導を繰り返した場合などは、「4.出勤停止」「5.降格」もあり得る)

です。実際は、「当該行為の動機、目的、方法、頻度等の行為態様」「会社に与えた損害や周囲への影響」「社員の過去の処分歴・指導歴や反省態度」「会社側の落ち度」「社員の会社への貢献度」などを考慮して慎重に判断します。例えば、社員が過去に新サービスを立ち上げたなど、客観的に評価できる実績がある場合、

その貢献度を考慮して、処分を引き下げること

が可能です。とはいえ、単に処分を軽くするだけだと社員が増長する恐れもあるので、

「今回は、君のこれまでの会社への貢献度を考えて軽い懲戒処分とする。ただ、今後勤務態度に改善が見られなければ、次はより重い処分を科す用意がある」

といった具合に、社員が反省しない場合の警告もします。

4)退職勧奨:退職を促しつつ、社員に反省の意思があれば雇用継続を検討する

懲戒処分後も状況が変わらなければ、「退職勧奨」の実施を検討します。退職勧奨とは、

会社から社員に自主退職を促し、社員が同意した場合に退職させること

で、一般的な流れは次の通りです。

  • 「注意」「配置転換など」「懲戒処分」を実施したが状況が改善しなかったため、会社としては社員に自主退職してもらいたいと考えている旨を伝える
  • 退職勧奨に応じる場合の条件(退職金の支払い、年次有給休暇の消化など)について説明する
  • 社員に退職勧奨に応じるかを確認し、応じた場合に退職が成立する

退職勧奨は、会社が一方的に労働契約を解除する解雇と違い、社員に退職を強制するものではありません。ですから、

仮に社員がこの時点で「退職したくありません、これまでの勤務態度を改めます」などと言ってくるようであれば、反省の様子によっては雇用を継続する

という選択肢もあります。逆に、ここでも社員が反省せず退職勧奨にも応じない、あるいは「勤務態度を改める」というのが口だけで、その後も改善が見られないといった場合、解雇せざるを得ないという判断になります。

5)普通解雇:この行程まで来たら雇用継続は諦める

退職勧奨後も改善が見られなければ、「普通解雇」の行程に移ります。労働基準法では、

普通解雇に限らず、解雇はその30日前に解雇予告をして実施しますが(解雇予告手当を支払えば日数を短縮可)、一度解雇予告をしたら会社の意思で撤回することは不可

です。つまり、普通解雇を決定したら、社員の雇用を継続するのは諦めなければなりません。繰り返しになりますが、どれだけ優秀であっても、この行程まで来て勤務態度に改善が見られないような社員を雇用し続けることは、企業秩序を危うくします。企業秩序と社員の定着、両立できればそれが一番ですが、

いざ両立が難しくなったときは、企業秩序を優先するという姿勢を貫くこと

が大切です。

以上(2023年10月)
(監修 弁護士 田島直明)

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追突事故防止の徹底~車間距離の確保~(2023/9号)【交通安全ニュース】

活用する機会の例

  • 月次や週次などの定例ミーティング時の事故防止勉強会
  • 毎日の朝礼や点呼の際の安全運転意識向上のためのスピーチ
  • マイカー通勤者、新入社員、事故発生者への安全運転指導 など

交通事故で最も多いのが追突事故です。ご自身や身近な人で追突事故を経験されたという方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ちょっとした追突でもその衝撃力は人体にとって大きなものです。追突されて頸椎捻挫やその後遺症などで辛い思いをしている人も多くいます。

今回は、追突事故を起こさない、巻き込まれないために気を付けたいことについて考えます。

追突事故防止の徹底

1.追突事故の件数と発生要因

◆交通事故の3割が追突事故

下図の類型別交通事故件数では、追突事故が9.2万件と最も多く、全体の31%を占めています。つまり追突事故は交通事故の中で身近に起きる事故と言えます。

類型別交通事故件数

出典:警察庁「令和4年中の交通事故の発生状況について」から当社作成

◆追突事故の三大要因

追突事故発生の人的要因では、 「脇見運転」「判断の誤り等」「漫然運転」の3つの要因で全体の78%を占めています。

追突事故の三大要因

出典:公益財団法人交通事故総合分析センター「令和4年版交通統計」から当社作成

運転中に「周りの風景などに気を取られてしまった」「前車が急減速しないと思い込んでいる」「運転以外のことを考えたり、ぼんやりとしてしまう」といったことに覚えはないでしょうか。この3つの要因は運転者の誰にでも起こり得ることです。

上記要因を考えると、追突事故は運転への集中力が低下してしまったときに起こると言えます。

従って、追突事故を防止するには、体調に気を配り、ハンドルを握ったら運転に集中できるように日頃から準備しておくことが大切です。

2.車間距離の確保

追突事故を防止するためには運転に集中していることが大切ですが、いくら気を付けていても時には集中が途切れてしまうこともあります。

そこで重要なのが、十分な車間距離を確保して運転することです。前車の急減速、急停車に気が付くのが少し遅れたとしても、十分な車間距離を確保して運転していれば、追突するリスクが軽減できます。

車間距離の確保

しかし、車間距離が重要だといっても走行中に車間距離を適切に保つことは意外と難しいものです。いつの間にか車間距離を詰めてしまっていることもあるのではないでしょうか。

参考に、車間距離の取り方の一例を紹介します。

<車間距離の取り方~時間をカウントする方法~>

道路沿いの標識や電柱などを目印とし、前車が目印を通過した時点から自車が通過するまでの時間を数えます。

一般道路であれば2秒以上、高速道路であれば3秒以上が車間距離の目安です。早く数え過ぎないよう「ゼロイチ、ゼロニ、ゼロサン」とゼロを付けて数えることがポイントです。

車間距離の取り方

昨今、前車との車間距離を詰めて運転しているとあおり運転を疑われることも多くなっています。

またそれがトラブルに発展することもあるので車間距離を意識することが大切です。

3.追突されない心がけ

追突される要因の一つとして前車との十分な車間距離を確保していない点があげられます。車間距離を詰めすぎると、加速・減速の速度変化が多くなり、運転操作等の余裕もなくなります。

十分な車間距離を確保して、次の運転を実践しましょう。

追突されない心がけ

  • ブレーキを踏む前に後方確認する。
  • 減速や停止の合図を早めに送る。
  • 車線変更するときは周りの交通状況に配慮する。

以上(2023年9月)

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【業務効率化】営業担当者の内勤業務を軽減する取引関連書類のペーパーレス化

書いてあること

  • 主な読者:営業担当者が社内にいることが多いと思っている経営者
  • 課題:営業担当者の内勤業務を効率化させたい
  • 解決策:まずは見積書・請求書・発注書などの取引関連書類のペーパーレス化を行う

1 御社の営業担当者、書類の処理に忙殺されていませんか?

「うちの営業担当者は、社内でデスクワークをしている時間が長いな」と感じている経営者の皆さん。その大きな要因として、

内勤業務における書類のペーパーレス化が進んでいない

ことが考えられます。紙文化から脱却しない限り、営業担当者は

会社に戻って取引関連の書類を作成したり、顧客情報を確認したりすることに忙殺される

ことになります。この状況を改善し、ペーパーレス化を推進すれば、次のようなメリットもあります。

  1. 業務の効率化
  2. 好事例のノウハウ共有化とアップデート
  3. コストの削減
  4. 上司や経理とのリアルタイムでの情報共有
  5. 社内スペースの有効活用
  6. 環境負荷の低減

この記事では、営業担当者の業務効率化に焦点を当て、ペーパーレス化によって得られる6つのメリットと、ペーパーレス化を行う4つの方法についてご説明します。

2 ペーパーレス化で得られる6つのメリット

1)業務の効率化

情報が場所に縛られなくなるメリットは絶大です。リモートワーク中でも情報の確認ができるようになるなど、業務の大幅な効率化が期待できます。

外出先でも閲覧や情報入力ができるようになることはもちろん、紙の書類を1ページずつめくらなくても、検索すれば結果がすぐ見つけられるのでとても便利です。さらに、情報の抜け漏れについても、紙での管理と比べ「見える化」しやすくなります。

2)好事例のノウハウ共有化とアップデート

営業に関する提案書などは、書き手によって成果に差が出やすいものです。また、請求書や発注書を送付する際にちょっとした文章を添えられる営業担当者は、取引先から良い印象を得ることができます。

こうした営業に関連する書類は、好事例を基に書式をテンプレート化すれば、全ての営業担当者の書類作成能力をレベルアップできますし、省力化にもつながります。テンプレート化は紙ベースでもできますが、ペーパーレス化すればテンプレートを日々改良できるメリットも得られます。

3)コストの削減

紙に印刷するコストをはじめ、印刷物や封筒の印刷費・郵送費などを削減できます。また、個人情報が含まれた紙の資料を廃棄する場合はただ捨てるわけにはいかず、シュレッダーで裁断したり、溶解処理を依頼したりする必要があります。こうしたコストも、ペーパーレス化を進めることで削減できます。

4)上司や経理とのリアルタイムでの情報共有

見積もりや請求といった営業事務を紙ベースで行う場合、こうした書類は営業担当者それぞれの管理となります。営業担当者は作成した書類を持って、

  1. 上司の承認を得る(場合によっては上司の上司からの承認も得る)
  2. 経理に回す

といった作業が発生します。この点、見積書や請求書をペーパーレス化すれば、上司や経理担当者とも手軽に共有して「見える化」でき、不正の防止にもつながります。

5)社内スペースの有効活用

営業関連の過去の書類をペーパーレス化すれば、紙の書類の置き場所をなくすことができます。空いたスペースは福利厚生などに活用することができるかもしれませんし、オフィス全体のスペースを縮小できればコスト削減につながります。キャビネットなどに溜まった書類整理の作業も削減できます。

6)環境負荷の低減

紙の印刷物が不要となることで紙の消費量が減り、環境負荷の低減につながります。ペーパーレス化はSDGsにもつながる取り組みであり、実際に使用する紙の削減率といった数値化目標や実績を掲げ、社会貢献をアピールしている会社や団体もあります。

3 ペーパーレス化を行う4つの方法

実際にペーパーレス化を進める方法について、取り組みやすい順に説明します。

1)データスキャンによるPDF化

最もシンプルなのがこの方法です。既存の紙の書類をスキャナや複合機などでスキャニングし、PDFの形でデータ化していきます。紙の書類をPDF化した場合の利便性を高めるポイントが2つあります。

1.ファイル名の付け方の統一

この場合に重要なのはファイル名の命名規則です。どのような情報が含まれているのかファイル名から分かれば、検索性が飛躍的に高まります。ファイル名に含める情報の例としては、ファイル作成日、顧客名、書類種別、バージョン(改版がある場合)などが挙げられます。例えば、2023年9月20日に作成したA社の見積書の、2度目の修正データであれば「20230920_A社_見積書_C.pdf」といった命名を行うとよいでしょう。

こうした命名規則を採用する場合は、データ作成者によって入力のブレが生じないよう、明確にルールを規定し、運用していく必要があります。

2.PDFの中身の文書を検索可能にする

ファイルの中身まで検索対象にする場合、「OCR」を活用するとよいでしょう。OCRはOptical Character Recognition(光学的文字認識)の略で、スキャンした文字を認識してデータ化する手法、またデータ化された情報のことを指します。OCR処理を行うことで、完全ではありませんが、内容についても検索対象とすることができます。

Adobeが提供するAdobe Acrobatを使用すると、画像から作成されたPDFファイルに対してOCR処理を行い、文章の文字認識およびAcrobat上での文字列コピーが行えるようになります。自動処理のため、特に手書きの認識精度についてはあまり期待できませんが、検索のヒントにはなるでしょう。より高い精度を求める場合は、専用のOCRソフトが必要になります。

2)WordやExcelなどのオフィスソフトの活用

新規の書類やデータのペーパーレス化を行う場合は、Word(ワード)やExcel(エクセル)などのオフィスソフトを使うことを検討してもよいでしょう。

ビジネス用途ではMicrosoft Officeの普及率が圧倒的なので、これらのソフトで作成されたデータは汎用性も高く、取引先も使用している可能性が高いです。取引先に対して、WordやExcelに入力した情報をメールやメッセージングソフトで送付し、取引先から内容を追記して送り返してもらう、というワークフローを構築することも可能です。

ただし、これらのソフトが苦手とするのが、複数人が1つのファイルを扱う場合です。各人が同じファイルに同時に書き込みを行った結果、他の人が入力したデータを上書きして消してしまうことは珍しくありません。

3)クラウドの活用

複数人が1つのファイルを扱う問題の解消のために、DropboxやGoogleドライブなどのクラウドストレージにファイルをアップし、履歴データを残して修正する方法があります。

また、Word/Excelの代わりに、Googleが提供するビジネスツールGoogle Workspaceの1機能であるGoogle ドキュメント/Google スプレッドシートを使うことも一策です。複数人が同時にデータにアクセスして情報を書き込むことができます。

Google ドキュメント/Google スプレッドシートは、それぞれWord/Excelと互換性がありますので、これまでWord/Excelを使っていた会社も、容易に移行できます。

4)専用ソフト(システム)・会計ソフトの活用

より専門性の高いデータの場合、専用のソフトやシステムを導入する方法が考えられます。専用のアプリケーションが多数存在するので選択肢は豊富ですが、自社のデジタル化が不十分な段階で高度なソフトを導入しても使いこなすことは難しいので、段階的に導入を図っていきましょう。

この他、営業に関する情報に関しては、営業管理ツールであるSFA(Sales Force Automation)や、顧客管理ツールであるCRM(Customer Relationship Management)の活用により、顧客情報や案件情報、事例共有などのデータを見える化し、効率的な企業活動、営業活動を行うことができます。

4 ペーパーレス化のための課題とデメリットにも留意を

ここまでペーパーレス化によるメリットを挙げてきましたが、デメリットもあります。よく聞かれるデメリットについて述べていきます。

1)情報が見づらい

B4判やA3判いっぱいに印刷された数値資料など、大判の印刷を前提としたデータは、ディスプレイ上での確認では可読性が大幅に落ちてしまいます。こうしたデータはA4判に収まるようにフォーマットを調整するなど、ペーパーレス化を前提として情報の見せ方を変更しましょう。

2)データ消去のリスク

紙の書類の場合は現物が存在するため、きちんと管理を行っていれば紛失のリスクは低いです(盗難や紛失のリスクはゼロではありません)。

一方、データはうっかり消去してしまうリスクが高まります。また、社内サーバに保管していた情報が落雷によって全て消えてしまうというケースを目にしたこともあります。こうしたリスクは、情報のバックアップ体制を整えることである程度回避できますが、運用コストの増大を招くケースもあります。

3)運用コストの増大

ペーパーレス化を進めれば削減できるコストがありますが、逆に増えるコストもあります。例えば、バックアップやストレージのコストは、データの増加に伴って年々増大していきます。書類データは基本的に画像になるため、テキストデータに比べるとデータ量も増えがちです。また、セキュリティー対策にもコストがかかります。

4)避けて通れない印鑑の電子化

見積書や請求書についてまわる「印鑑」の問題も見逃せません。ペーパーレス化を図っても、承認の段階で一度印刷、捺印(なついん)を受けて、紙になった書類を再度データ化するというのは、多大なムダであることはお分かりいただけるでしょう。

電子印鑑のサービスも増えてきており、紙を経由しない完全ペーパーレスのワークフローも現実のものとなりつつあります。こちらは顧客とのやり取りが発生する事柄のため、自社だけでは解決しにくい面はありますが、社会的にも脱ハンコの流れは進んでいます。

5)電子書類の保持義務

ここまで実運用の話に絞ってお話ししてきましたが、電子データの保存・保持についても配慮が必要です。すでに国では電子帳簿保存法やe-文書法といった法律が整備され、ペーパーレス化の推進に向けた法的な整備も進みつつあります。

今回取り上げた営業関連の書類に関して、見積書や契約書、納品書等は電子帳簿保存法の対象となり、7年間の保存が義務付けられています。専用ソフト・会計ソフトの中には、電子帳簿保存法に対応したものもあります。

なお、電子帳簿保存法について詳しくは国税庁の特設サイトをご参照ください。

■国税庁「電子帳簿等保存制度特設サイト」■

https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/tokusetsu/

以上(2023年9月更新)

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【業務効率化】会議用資料をペーパーレス化しよう

書いてあること

  • 主な読者:会議用資料の準備や保管にかかるコストを削減したい経営者
  • 課題:紙の会議用資料の印刷や配布に時間がかかっている。保管にスペースを割いている
  • 解決策:ノートPCやタブレット端末を配備して、紙をなるべく減らしていく

1 会議用資料、「紙」で配るのをやめませんか?

「横に並べると比較しやすいから」「手書きでメモが取れるから」「ずっと前から紙だから」といった理由で、紙で配られてきた会議用資料。しかし、コロナ禍を経てオンライン会議が増えたことなどで、

事前に必要な情報さえ連携されていれば、わざわざ紙を配る必要はない

と実感した人も多いでしょう。

会議の関係者(参加者)に必要な情報をデータで連携すれば、

  • 会議用資料の印刷、配布など準備にかかる人件費を削減
  • 会議用資料の印刷(紙・インクなど)や、保管にかかるコストを削減
  • 紙を使わない分だけ環境負荷を軽減

できます。

会議用資料をすべてデータで連携する「完全ペーパーレス化」は、一気には難しいかもしれません。まずは、紙の会議用資料の「裏側」にあるコストを認識することから始めましょう。その上で、紙をなるべく減らしていく「ペーパーレス化」を検討してみてはいかがでしょうか?

2 「紙」をなるべく減らしていく方法

1)ノートPCやタブレット端末を配備し、必要な資料はデータで連携する

ノートPCやタブレット端末を配備して、会議用資料を印刷して配る代わりに、データで連携するようにします。

会議用資料をパワーポイントなどで作成し、人数分印刷して座席に置いておくという会社もあるかもしれませんが、データとして連携すれば、関係者は自分のノートPCやタブレット端末で資料を閲覧できます。

会議の直前で資料にミスが見つかった場合でも、すぐに差し替えが可能です。

2)情報の更新が頻繁な場合は、オンラインで共同編集可能なドキュメントを活用する

プロジェクトの課題管理表などのように、会議用資料として連携したい内容が頻繁に更新される場合は、GoogleやMicrosoftなどが提供する、オンラインで共同編集が可能なドキュメントを活用してみましょう。関係者とドキュメントを共有すれば、メールで添付ファイルをやり取りすると起こりがちな、どのファイルが最新なのかが分からなくなる事態を避けられます。

例えば、次のようなサービスがあります。

■Google ドキュメント■

https://www.google.com/intl/ja_jp/docs/about/

■Microsoft OneNote■

https://www.microsoft.com/ja-jp/microsoft-365/onenote/digital-note-taking-app/

■Dropbox Paper■

https://www.dropbox.com/ja/paper

■Evernote■

https://evernote.com/intl/jp/

3)投影資料と配布資料は全く同じでなくても構わない

会議中にプロジェクターで投影(オンライン会議ツールの画面で共有)する資料は、見た目のインパクトを狙って、パワーポイントのアニメーション機能を使ったり、動画を埋め込んだりすることがあるかもしれません。こうした投影資料はファイル容量が大きくなりがちで、そのまま配布資料としてデータで連携する際は注意が必要です。

配布資料で最も重視すべきことは読みやすさです。一方、インパクトが必要な部分もあるため、アニメーション機能や動画の埋め込みは最小限にしたほうが無難です。パワーポイントのファイルをPDF形式に変換することで、ファイル容量を小さくできる場合もあります。

4)クラウド型のペーパーレス会議システムを利用する

クラウド型のペーパーレス会議システムは、サービス提供事業者がデータセンターに構築したシステムを利用するものです。

自社でノートPCやタブレット端末を配備するなど、環境を整えればすぐに利用を開始できます。有料サービスですが、簡単な操作で会議用資料を関係者に連携したり、閲覧権限などの設定をしたりすることが可能になり、ペーパーレスでの会議の利便性が向上します。

例えば、次のようなサービスがあります。

■日本インフォメーション「スマートセッション」■

https://www.nicnet.co.jp/next/smartsession/

■富士ソフト「more NOTE」■

https://www.morenote.jp/

■キッセイコムテック「Smart Discussion」■

https://smartdiscussion.jp/

■MetaMoJi「MetaMoJi Share for Business」■

https://product.metamoji.com/share/

■エステック「ECO Meeting」■

https://ecomeeting.jp/

■NECソリューションイノベータ「ConforMeeting」■

https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sl/conformeeting/

5)インタラクティブホワイトボード(電子黒板)を活用する

インタラクティブホワイトボード(電子黒板)は、パソコンの画像を大画面に映し出し、その画面上で直接操作したり、書き込んだりすることができる、ディスプレータイプやプロジェクタータイプのICT機器です。大画面とオンライン会議の画面が連動しており、カメラやマイクが内蔵されているタイプのものもあるため、特に対面とオンラインの併用会議で効果を発揮します。

例えば、次のような製品があります。

■日本電気(NEC)「Brain Board」■

https://jpn.nec.com/products/ds/solution/allbrains/bb_top.html

■リコー「インタラクティブホワイトボード(電子黒板)」■

https://www.ricoh.co.jp/iwb/

■アイリスオーヤマ「AIインタラクティブホワイトボード」■

https://www.irisohyama.co.jp/b2b/iot/products/interactive-whiteboard/

■テクノホライゾン「ELMO Board」■

https://www.elmo.co.jp/lp/elmoboard/

■LED TOKYO「SHIROBAN」■

https://iwb.led-tokyo.co.jp/

3 便利なサービス 比較のポイントは?

1)使いやすさ

本格導入した際に今まで通りの流れで会議の進行ができるかどうかがポイントです。ペーパーレス会議といっても、会議の流れは変わりません。トライアル期間が設けられているサービスも多いため、直感的に操作できるか、機能が多く複雑過ぎないかなど、使い勝手を確認しましょう。

慣れるまでは、紙の使用を全て禁じる必要はありません。資料の中で重要だと思った部分は各自の判断でプリントアウトするなどすれば、導入したサービスの定着にもつながるでしょう。

2)セキュリティー

情報漏洩対策がしっかり取られているかがポイントです。不正アクセスやマルウエアへの感染対策はもとより、ノートPCやタブレット端末に情報を残さないように設定できるかなど、事前に確認しましょう。

以上(2023年9月更新)

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