関東大震災から100年の節目に考える 現代の地震リスクの特徴と対策について【PR】

1 関東大震災と現代の地震の想定について

10万人を超える死者が出た関東大震災から9月1日で100年になります。この震災は火災による焼死が犠牲者の9割を占めたことで知られますが、大きな余震の連続による建物の倒壊や津波、土砂災害による死者も多数に及んだ記録もあり、地震が様々な災害に波及したことが分かります。今後、高い確率で起こる可能性がある大地震としては、「南海トラフ地震」、「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震」、「首都直下地震」、「中部圏・近畿圏直下地震」の4つと言われていますが、首都直下地震は南関東で30年以内にM7クラスの地震が発生する確率が70パーセントと予想されており、地震が発生した場合、首都中枢機能の被災が懸念されます。2022年に都が公表した首都直下地震の被害想定では、都心南部を震源に起きると死者最大約6200人のうち、焼死が約2500人を占めると予測しており、延焼の原因になる木造住宅密集地の解消や、漏電火災を防ぐ「感震ブレーカー」の普及など、火災対策を減災の柱に掲げています。しかし、複数回の地震動を考慮していない現在の建物や構造物の耐震基準の問題や、地震時に崖崩れや地滑りの恐れがある多数の土砂災害警戒区域の問題、地盤の液状化が懸念される河川や沼を埋め立てた数多くの「大規模盛土造成地」の問題等への対応も求められます。

関東大震災、阪神・淡路大震災、東日本大震災の比較

出典:内閣府ホームページ「関東大震災100年」 特設ページ
https://www.bousai.go.jp/kantou100/

2 地震リスクの特徴について

日本は世界の0.25%の国土面積でありながら、世界で発生するマグニチュード6以上の地震の約20%が発生しており、全国どこでも地震発生の可能性があると言えます。地震がいつ・どこで起こるかを正確に予測することはできませんが、ある一定期間内に、強い揺れに見舞われる可能性を示した地図(確率論的地震動予測地図)により、地震の発生確率を確認することが可能です。なお、地震の発生確率と、自然災害や事故などの発生確率とを比較してみると、日本の太平洋側の地域は26%以上の確率となっていますが、これは交通事故で負傷する確率(24%)を上回っています。0.1%未満~3%といった確率の低い地域もありますが、それでも火災や大雨で被災する確率に近い値であるため、地震は避けられない自然災害であり、身近なリスクと捉える姿勢が必要です。

今後30年以内にあう自然災害や事故などの発生確率との比較

【確率論的地震動予測地図】
今後30年以内に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率の分布図

出典:内閣府「広報ぼうさい51号」

また、地震による影響も企業の規模特性に応じて様々であり、建物の倒壊や焼失、土砂災害や液状化等による財産損失や事業中断に加えて、大切なデータや従業員等を失う可能性も考えられます。また、従業員や第三者の死傷に伴って、施設賠償責任や安全配慮義務違反による使用者責任を問われる可能性もありますし、取引先の倒産や事業中断による貸倒れや取引中断の影響を受けることも想定されます。実際に、東京商工リサーチによる2023年のデータでも震災関連倒産2019件のうち、東京の企業が587件と約1/3を占め、2021年のデータでは直接的に被害を受けていない企業の倒産が90%を占める結果が出ており、サプライチェーンの分断による影響の大きさが伺えます。

「東日本大震災」関連 企業倒産(2023年2月28日現在)

出典:株式会社東京商工リサーチ「「東日本大震災」関連倒産」より

3 平時のリスクコントロール対策について

リスク対策は想定する地震発生の場所・時間・規模や、企業の規模特性によって異なりますが、平時においては、キャビネットやパソコンの固定、データのバックアップ等の対策を行うと共に、有事に備えてハザードマップを見て避難場所や避難経路を確認し、安否確認の連絡方法や緊急時の主要連絡先一覧、消化設備や防護安全設備、非常用物品の備蓄や持ち出し品リスト等を作成しておく事が重要です。また、防災訓練を普段から実施して消化設備の使用方法や応急処置方法等を自社内で共有すると共に、地震は広範囲に被害が広がる可能性があるため、日頃から地域の防災訓練にも参加するなど、自社だけではなく、周辺企業や地域住民と協力する共助の体制構築が重要です。それらの有事に備えた全社的な活動は危機管理規程やBCPに落とし込み、教育・訓練を通して現場に周知することが重要であり、中小企業の場合は事業継続力強化計画(ジギョケイ)の認定を受ける事で、リスク対策を目的とした設備投資に対する低利融資や税務面での優遇措置、保険の割引等が適用される可能性があるため、積極的な利用が求められます。

4 有事のリスクコントロール対策

有事に損失を最小化するには、予め有事の対応方針を明確化し、必要な準備を行うと共に、BCPや危機管理規程等に基づいた適切かつ迅速な対応が求められます。基本的に最優先されるのは安全であり、業務中の場合は、自分の身の安全を確保した上で、自衛消防対応として初期消火・ケガ人の救助・被害の拡大防止や避難誘導を行う必要があります。自衛消防対応後は、役割を分担して初動対応を行います。初動対応は、安否確認、被災状況確認、事業所状況確認等の「状況把握」、職員等の支援、設備の復旧手配、地域周辺対応等の「安全確保」、お客様への報告、業務関連情報の収集、災害広報、復旧対応等の「特別対応」の3つに分けられます。初動対応後は日常業務への復旧が必要ですが、ヒト・モノ・システムなどの経営資源が満足に揃わない可能性があるため、業務に優先順位をつけて優先度の高い業務に経営資源を集中する対応が求められます。

事業継続力強化計画×保険パンフレット

※事業継続力強化計画×保険パンフレット https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/download/pamflet/hoken.pdf
(出典:中小企業庁ウェブサイトより https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/antei/bousai/keizokuryoku.htm

5 地震リスクのファイナンス対策について

地震は多くの企業に致命的なダメージをもたらすリスクであり、財務対策としての保険の必要性は非常に高いと考えられます。しかし、地震に伴う財産損失や賠償責任、事業中断に関わるリスク等を全て保険に移転するのは難しい場合があります。理由としては、そもそも保険会社の引き受けの制限や、引き受けても保険料が非常に高額になることが想定されるからです。そのため、まずは積極的なリスクコントロールで損失を最小化し、出来る限り財務力を高めて保険の効率化を図ることが重要ですが、必要に応じて、保険以外の資金調達方法も検討することが求められます。具体的には、有事の際の融資予約や有事の際に返済が免除される金融商品の活用、実損額を支払う保険ではなく、一定の地域で一定の震度の地震が発生した場合に、予め設定した金額を支払うデリバティブ商品の活用等が考えられます。何れにしても、地震大国である日本では、企業は地震による巨額の損失に備えた何らかの財務対策が求められるでしょう。

【損保ジャパン BCP地震補償保険】

https://www.sompo-japan.co.jp/hinsurance/risk/benefit/speq/

被災時における損害保険・火災共済の貢献度

出典:中小企業庁 2019年版「中小企業白書」

以上(2023年9月)

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提供:ARICEホールディングスグループ( HP:https://www.ariceservice.co.jp/
ARICEホールディングス株式会社(グループ会社の管理・マーケティング・戦略立案等)
株式会社A.I.P(損保13社、生保15社、少額短期3社を扱う全国展開型乗合代理店)
株式会社日本リスク総研(リスクマネジメントコンサルティング、教育・研修等)
トラスト社会保険労務士法人(社会保険労務士業、人事労務リスクマネジメント等)
株式会社アリスヘルプライン(内部通報制度構築支援・ガバナンス態勢の構築支援等)

日本の植物分類学の父・牧野富太郎。植物愛に満ちた彼の、対人間関係にも通じる一言とは?

世の中に”雑草”という草は無い

牧野富太郎氏は「日本の植物分類学の父」ともいわれる、世界的な植物学者です。自らを「草木の精かも知れん」と言うほど、子供の頃から植物が好きで、一生を植物の採集・分類・図鑑作成に費やしました。1862年から1957年までの94年の生涯で、牧野氏が命名した新種や新品種などの植物は、1500種以上とも、2500種以上ともいわれています。NHKの連続テレビ小説「らんまん」(2023年度前期放送)の主人公のモデルとしても有名です。

冒頭の言葉は、「樅ノ木は残った」や「赤ひげ診療譚」などの著作で知られる小説家の山本周五郎氏が雑誌の編集記者だった時代に、対談した牧野氏から言われたとされています。まだ20代の山本氏が対談中に「雑草」という言葉を口走ると、牧野氏はなじるように冒頭の言葉を述べ、「どんな草にだって、ちゃんと名前がついている」と指摘。さらに、「世の中の多くのひとびとが“雑草”だの“雑木林”だのと無神経な呼び方をする。もしきみが、“雑兵”と呼ばれたら、いい気がするか」ととがめられ、山本氏は「これにはおれも、一発ガクンとやられたような気がした」と振り返ったエピソードが残っています。

牧野氏が山本氏をとがめた理由は、自分が愛する植物に対する無神経さに憤っただけではないはずです。なぜなら、牧野氏は講演などで、しばしば「草木でさえ思いやるようにすれば、人間同士は必然的になおさら深く思いやり厚く同情する」と語り、人間愛、博愛心を養うために、草木に対して愛情を持つことを勧めていたからです。

そもそも、“雑草”という言葉は、「人為的ではなく自然に生えた草」「名前が分からない雑多な草」「目的の栽培植物以外に生える草」などを指しますが、どれも自分にとって有用かどうか、邪魔かどうかといった“人間都合の目線”を含んでいます。人間が大切に栽培している農作物と同様か、それ以上に必死に生きている草の立場は、全く考慮されていません。また、薬草などのように、“雑草”扱いしていたものが、後になって人間にとって有用だと分かることもあるものです。

人間にとって有用かどうか、という観点は、結果が求められるビジネスの世界においては、ごく当たり前の評価軸です。社員が会社に対する貢献度で評価されるのも当然のことです。ですが、現時点で社員としての評価が低いからといって、その人を“雑兵”のように見なし、態度や扱いにも露骨に表すことは、それとは全く別の次元の話です。むしろ、同じ組織の仲間である以上、上役は評価の低い社員ほど愛情を注いで、会社に貢献できるように導いていくべきではないでしょうか。

草木は水やりをすれば大きく育ちます。人が世話をしない“雑草”だって必死に伸びようとします。会社に貢献できない社員に対して、イライラするときこそ、社員の未来に思いをはせ、愛情をもって接してみてはいかがでしょうか。

出典:「周五郎に生き方を学ぶ」(木村久邇典、実業之日本社、1995年11月)、
「牧野富太郎自叙伝」(牧野富太郎、講談社、2004年4月)

以上(2023年8月作成)

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外出中やリモートワーク中の社員を災害からどう守る? オフィス外で必要な防災対策

書いてあること

  • 主な読者:外回りの営業やリモートワークの社員が多い企業の経営者
  • 課題:自宅、訪問先、車内などオフィスの外で働く社員を災害から守りたい
  • 解決策:普段からどのような備えが必要なのか、災害発生時にはどのように対処すべきかをシーン別に整理して周知する

1 再確認! オフィス外での防災対策チェックリスト

これまで、防災対策といえば社員全員がオフィスで働いていることを前提に考えられてきました。しかし、働き方が多様化した今、御社の防災対策は現状のもので万全といえるでしょうか?

例えば、社員が外回りの営業中やリモートワーク時に災害が発生したときには、オフィスから離れ離れになっている社員に一斉に指示を出すことが難しく、社員それぞれが自分で判断し、行動しなければならない場合があります。

まずは、下記のチェックリストを基に、日ごろの防災対策についてどのくらい社員に周知・徹底ができているかを確認してみましょう。

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この記事では、外回りの営業先やリモートワーク中など、「オフィス外」で働く社員に周知・徹底をさせたい防災対策について説明していきます。

2 オフィスの外にいるときに災害が発生したら?

ここでは、官公庁や自治体、各種企業などが提供している防災情報を参考に、外出中に災害が発生した際の対処法について説明します。いざというときに落ち着いて対応できるように、あらかじめ社員に周知しておきましょう。

1)地震が発生したときは?

1.オフィス街・繁華街・住宅街

速やかに建物や電柱などから離れるようにします。カバンなどでガラスや看板などの落下物から身を守りながら、公園などの広い場所か、耐震性の高い建物に避難するようにしましょう。

また、住宅街では、門や塀が倒れてくる可能性があるので、近づかないようにしましょう。

2.地下街

柱や壁のそばで揺れが収まるまで待つようにします。停電した場合でも、非常照明がつくまではむやみに動かないようにしましょう。

また、混雑による転倒や将棋倒しなどの事故を避けるために、1つの非常口に殺到せず、落ち着いて地上に出ましょう。

3.電車の中

電車は地震計や緊急地震速報のデータなどを基に、強い揺れを観測した際には緊急停車します。急ブレーキのはずみで転倒しないように、手すりやつり革にしっかりつかまるようにしましょう。座っている場合には、進行方向に近いポールなどにつかまると体勢が安定します。

また、反対側の電車に接触したり、電線で感電したりといった事故を避けるために、勝手に降車せず、乗務員や駅員の指示を待ってから降車するようにしましょう。

4.車の運転中

運転中に地震が発生したときは、追突事故などを避けるために、ハザードランプを点灯して徐々にスピードを落とし、道路の左側に寄せて停車します。慌てて車外に出ると、対向車や後続車に接触したり、落下物に巻き込まれたりする危険があるため、揺れが収まるまではカーラジオやスマートフォンで地震情報や道路交通情報を聞きつつ車内で待機しましょう。

やむを得ず車を置いて避難する場合には、緊急車両や救援車両の通行の妨げにならないように、道路外の場所、もしくは道路の左側に寄せて駐車しておきましょう。いざというときに移動させられるように、ドアはロックせずに、キーは運転席などの目立つ場所に置くか、差したままにしておきましょう。

5.エレベーターの中

揺れを感じたら、行先階のボタンをすべて押し、最初に止まった階で降りるようにします。もし、閉じ込められてしまったら、非常ボタンを押して管理会社に連絡を取るか、消防や警察に連絡して救助を待ちます。

2)水害が発生したときは?

1.建物の中にいる場合

台風や大雨などによって引き起こされる土砂災害、洪水、浸水といった水害にも注意が必要です。水害が発生した際に、マンションなどのように頑丈であったり、浸水する可能性が低かったりする建物の中にいる場合は外に出ようとせず、2階以上など高い場所に移動して水が引くまで待つようにしましょう。

もし、建物の外に出て避難するときには、次のようなことに注意が必要です。

  • 避難所に行くときは、できる限り複数人で固まって移動する
  • マンホールや段差、側溝の有無を確認しながら移動する
  • 水位が膝のあたりまで上昇している場合は、移動をやめて近くの建物へ避難する

なお、水害は地震とは異なり、発生した際の被害をある程度予測できます。あらかじめ、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」などで、自宅が浸水する危険性はないか、最寄りの避難所がどこにあるのかなどの情報収集をしておきましょう。ハザードマップポータルサイトは、自治体が作成・公開している「わがまちハザードマップ」以外にも、現在地の情報や地図上からその場所のハザードマップを確認できるため、外出先でも役立ちます。

■国土交通省「ハザードマップポータルサイト」■
https://disaportal.gsi.go.jp/

2.車の運転中

局地的な集中豪雨などが頻繁に発生する昨今では、車の運転中に大雨に遭遇する可能性もあります。冠水した道路で、水深が車の床面を超えると浸水してエンジンが故障したり、水圧でドアが開かなくなったりする危険性があります。

特に、高架下、立体交差などのアンダーパスといった周辺の土地よりも低い場所に入ってしまうと浸水して車が動かなくなり、立ち往生する危険性が高いため、このような場所は避けて移動しましょう。

万が一、車内にまで浸水した場合には、慌てずに車を停めてすぐにエンジンを停止させましょう。その上で、いきなり道路に出るのではなく、片足を出して水深を測りつつ、進んできた方向に歩いて戻るようにしましょう。

3 外出先やリモートワークでも利用できる防災対策

1)自宅や車に置ける防災備蓄品

企業向けに防災備蓄品を提供している企業の中には、リモートワークの浸透を踏まえて本棚に収納できるサイズや、車に積めるサイズの防災備蓄品を提供しているところもあります。リモートワークを行う社員にも最低限の備えをしてもらうために、会社で購入費用を補助したり、防災備蓄品を配布したりできると良いでしょう。

例えば、アスクル(東京都江東区)では、ニューノーマル防災用品として、椅子にかけて収納できる防災備蓄品セットや、本棚に収納できるA4サイズのファイルにまとまった防災備蓄品セットを販売しています。

■アスクル「ニューノーマル防災用品」■
https://www.askul.co.jp/sf/bousai/00/0/

2)安否確認サービス

さまざまな企業が提供している安否確認サービスですが、災害発生時に限らず、連絡網や健康管理ツールとして平常時でも利用できたり、自動で安否確認メールを配信したりするサービスを選ぶと、いざというときにも慌てずに対応できます。

例えば、リロクラブ(東京都新宿区)では、安否確認システムの「Relo安否コネクト」を提供しています。あらかじめ条件を設定しておくことで、地震や気象情報と連動して自動で安否確認メールを配信することもできるため、管理者による手動配信の負担を軽減できます。

また、健康状態の報告や社員向けアンケートのテンプレートなど、災害発生時だけに限らず、平常時の連絡手段として利用できる機能も備えています。

■リロクラブ 安否確認システム「Relo安否コネクト」■
https://www.reloclub.jp/crisis-management/safetycheck/

3)リモート環境でもできる防災訓練サービス

これまでは防災訓練というと、社員全員がオフィスに集まって行うのが主流でしたが、リモートワークの浸透を受けて、オンライン会議システムなどを利用してリモート環境でも防災訓練ができるサービスがあります。

例えば、レスキューナウ(東京都品川区)ではリモート防災訓練のサービスを提供しています。アンケートやチャット機能などを活用して防災訓練を行うことができ、録画機能もあるため、当日に防災訓練に参加できなかった社員にも共有してもらうことができます。

■レスキューナウ「アドバイザリーサービス(リモート防災訓練)」■
https://www.rescuenow.co.jp/riskmanagement/advisory05

以上(2023年9月)

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賃金未払企業への国の対応

厚生労働省は、令和4年(令和4年1月から令和4年12月まで)に賃金不払が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した監督指導の結果を取りまとめました。

この公表は、従来、支払額が1企業当たり100万円以上の割増賃金不払事案のみを集計していましたが、今回から、それ以外の事案を含め賃金不払事案全体を集計しています。

本稿では、厚生労働省が公表した結果をご紹介するとともに、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化の取組について」に基づき、労働基準監督機関が賃金未払企業に対して徹底するとしている主な取組などをご紹介して参ります。

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賃金未払企業への国の対応

厚生労働省は、令和4年(令和4年1月から令和4年12月まで)に賃金不払が疑われる事業場に対して労働基準監督署が実施した監督指導の結果を取りまとめました。

この公表は、従来、支払額が1企業当たり100万円以上の割増賃金不払事案のみを集計していましたが、今回から、それ以外の事案を含め賃金不払事案全体を集計しています。

本稿では、厚生労働省が公表した結果をご紹介するとともに、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化の取組について」に基づき、労働基準監督機関が賃金未払企業に対して徹底するとしている主な取組などをご紹介して参ります。

1 労働基準監督署の指導結果

①令和4年に全国の労働基準監督署で取り扱った賃金不払事案の件数、対象労働者数及び金額は次のとおりです。

令和4年の賃金不払事案

②労働基準監督署が取り扱った賃金不払事案(上表)のうち、令和4年中に、労働基準監督署の指導により使用者が賃金を支払い、解決されたものの状況は次のとおりです。

令和4年の賃金不払事案のうち解決されたもの

※令和4年中に解決せず、事案が翌年に繰り越しになったものも含まれます。
※倒産、事業主の行方不明により賃金が支払われなかったものも含まれます。
※不払賃金額の一部のみを支払ったものも含まれます。

(厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和4年)」)

2 労働基準監督機関における対応

厚生労働省では、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化の取組について」(令和3年12月27日閣議了解)などに基づき労働基準監督機関による次のような取組を徹底するとしています。また、倒産、事業主の行方不明により解決が困難な事案については、「賃金の支払の確保等に関する法律」(昭和51年法律第34号)に基づく未払賃金立替払制度の迅速かつ適正な運営に努めていくとしています。

  1. 最低賃金違反や賃金・残業代の不払が疑われる事業場に対して、監督指導を実施し、是正を図る
  2. 毎年1月から3月までの「集中取組期間」において、最低賃金の遵守徹底を図り、賃金の引上げについて検討がなされるよう、賃金引上げや転嫁対策関連の施策の紹介を行う。
  3. 賃金不払をはじめとした基本的な労働条件の履行確保を図るため、定期監督(年間10万事業場以上実施)において、賃金引上げの意向や労働条件の改善状況を確認する。
  4. 労使において賃金の引上げを行うとの取決めを行ったにもかかわらず、賃金支払が履行されず、労働基準監督機関による度重なる指導でも是正しない事業場や、定期賃金や割増賃金を適切に支払わず、同様の法違反が繰り返される事業場については、司法処分を含め厳正に対応する。

3 さいごに

2020年の改正民法施行に伴う労働基準法改正により、賃金の消滅時効期間が原則5年(旧法では2年)、当分の間は経過措置として3年に変更されました。既に改正法施行から3年が経過し、2023年度以降は丸々3年分の未払賃金請求が生じ得ることとなります。

つまり、残業手当などの未払いが生じ、請求が行われた場合は、請求対象期間が1年分増えることになります。

また、2023年4月1日からは、中小企業でも月60時間超の時間外労働に係る割増賃金率が50%以上へと引き上げられており、未払賃金の請求金額が多額になる恐れもあります。会社としては、これまで以上に未払賃金対策に取り組み、リスク回避を図っていく必要があります。

※本内容は2023年8月10日時点での内容です

(監修 社会保険労務士法人 中企団総研)

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職場で盗難事件が発生したら、すぐ警察に通報すべきですか?

書いてあること

  • 主な読者:職場で盗難が起きた場合の対応を知っておきたい経営者、労務担当者
  • 課題:盗難は許せないし、被害者には真摯に向き合いたい。でも、大ごとにはしたくない
  • 解決策:被害者と足並みをそろえ、情報が拡散しないようにする。警察への届け出などについては、被害者の意向を尊重して決める

1 職場で盗難! しかも、犯人は社員……!

職場のロッカーに入れていた財布が社員の誰かに盗まれた……。こうした職場の盗難は本来あってはならないことですが、万が一のときに素早く、冷静に対応できますか? 対応が遅れると、被害者が「財布を盗まれた!」と大声で騒ぎ立てて社内が混乱し、SNSに「ウチの職場で盗難が起きた」と書き込む社員も出てくるかもしれません。

「盗難は許せないし、被害者には真摯に向き合いたい。でも、大ごとにはしたくない」というのが経営者や労務担当者の本音ではないでしょうか。この記事では、職場で盗難が起きた場合の基本的な対応を紹介していますので、万一の備えとしてご活用ください。

  • 盗難が起きにくい状況を作る
  • 相談窓口を事前に決めて情報を一元管理する
  • 被害者などへの聞き取り調査は焦らずに行う
  • 警察への届け出は被害者の意向を尊重して決める
  • 捜査には協力するが、他の社員への配慮も忘れない
  • 処分後の情報開示は最低限にし、再発防止に努める

2 盗難が起きにくい状況を作る

職場で財布などの盗難が起きやすい場所はロッカールーム(更衣室)です。作業服や制服に着替える必要があって、なおかつロッカールームを使用する時間が社員によってバラバラだと、盗難は起きやすくなります。

ロッカールームでの盗難防止策として有効なのが「防犯カメラ」の設置です。ロッカールームにカメラを設置するのは、プライバシーの問題もあってハードルが高いですが、入口付近に設置するだけでも、「誰が、いつ出入りしたのか」が証拠として残ります。カメラの設置が難しければ、最低でもロッカーを鍵付きにしましょう。

また、この他にも、例えば、ジャケットを脱いで椅子にかけたまま離席し、ジャケットのポケットに入れていた財布を盗まれるといったケースがあります。貴重品は常に身に着けておくことを社員に周知徹底しましょう。

3 相談窓口を事前に決めて情報を一元管理する

万が一盗難が起きた場合、大切なのは「盗難に関する情報がむやみに拡散されないようにする」ことです。盗難に関する情報がむやみに拡散されてしまうと、被害者のプライバシーを害するだけでなく、犯行発覚を恐れた加害者が証拠隠滅を図ったり、被害者を脅迫したりするリスクが生じるためです。

そのために、盗難が起きた際に被害者が最初に連絡する相談窓口を決めておきます。例えば、

社内の不正行為全般に関する相談を受け付ける「内部通報窓口」

などがその役割を果たします。内部通報窓口は、公益通報者保護法で社員数301人以上の会社に設置が義務付けられている窓口ですが、設置義務のない中小企業でも、いわゆる「ハラスメント相談窓口」の対応範囲を拡大して、幅広い相談を受け付けるようにしているケースがあります。

なお、窓口の存在を社員が知らなければ意味がないので、就業規則等で窓口について定めた上で、担当者の連絡先や連絡方法を社内ポスターで掲示するなどしましょう。

また、いざ盗難が起きると、気が動転した被害者が、相談窓口を介さず自分の上司や同僚などに直接相談するケースもありますが、こうした場合は同僚などから相談窓口に報告させるなどして、情報を一元管理できるようにします。

4 被害者などへの聞き取り調査は焦らずに行う

盗難の相談があったら、まず相談してきた被害者に聞き取り調査をします。具体的には、

  • いつ、何を、どういう状況で盗まれたのか(できるだけ具体的に)
  • 加害者の心当たりはあるか(ある場合、その根拠は何か)
  • 盗難に関することを誰かに相談したか(相談した場合は誰にしたか)

などを確認します。同時に、被害者には「会社が対応するので、許可があるまで盗難に関する情報を周囲に漏らさないように」と伝えます。すでに事情を知っている社員がいる場合はその人についても同じことを伝えます。

加害者について根拠となる証拠(防犯カメラの映像や、目撃者の証言など)があるならば、加害者と思われる社員に事情を聞きます。ただし、最初から加害者扱いしたり、語気を荒らげたりせず、相手にも弁明の機会を与えながら話を聞きます。特に、弁明の機会を与える手続きをおろそかにすると、後述する懲戒処分などが無効になる恐れがあります。

5 警察への届け出は被害者の意向を尊重して決める

社員への聞き取り調査によって加害者が分かっていても、そうでなくても、盗難の疑いがあれば警察に被害届や告訴状を出すことができます。単に被害を受けたことを届け出るのが「被害届」、犯行者の刑事処罰まで前提として届け出るのが「告訴状」です。

警察に届け出るか否か、被害届と告訴状のどちらを選択するのかは、

  1. 被害者の意向
  2. 盗難の悪質性

を基に判断します。

優先すべきは「1.被害者の意向」です。仮に被害者が「大ごとにしたくないから、警察に届け出ないでほしい」と言ってきたら、その意向を尊重するのが基本です。逆の場合もしかりです。ただし、「2.盗難の悪質性」によっては、被害者の意向に反してでも、届け出るべきケースがあります。具体的には、「被害者が過去にも職場で盗難の被害に遭っている」「他にも被害に遭っている社員が複数いる」など、放置すれば企業秩序を危うくするケースがそうです。

こうした場合、

「窃盗」ではなく、「建造物侵入」として警察に届け出る

という方法があります。「建造物侵入」とは正当な理由なく建造物に侵入することで、社員が会社の建造物内で盗みを働くことも、「正当な理由のない建造物への侵入」とみなされます。建造物侵入の場合、被害者は会社になるので、警察に届け出るか否かは会社が決められます。

なお、警察に届け出ない選択をした場合も、加害者が分かっているならば、その者には毅然とした態度で臨みます。具体的には、

「今回は被害者の意思を尊重するが、次に同じ犯行をした場合は警察に届け出るし、会社としても重い処分を下す用意がある」

といった旨を伝えます。

6 捜査には協力するが、他の社員への配慮も忘れない

警察への届け出が受理された場合、

  • その時点で加害者が分かっていれば、加害者は警察に出頭して取り調べを受ける
  • その時点で加害者が分かっていなければ、警察が会社を訪問して現場検証を行う

ことになります。後者の場合、当事者以外の盗難の事情を知らない社員に、必要以上に不安を与えないように配慮します。

具体的には、警察が届け出を受理して、現場検証を行う前に、社員に一定の説明を行って協力を要請します。現時点で会社として把握していることを伝えますが、開示する情報は「社内で盗難が発生したこと」など必要最小限にとどめましょう。「誰が被害者か」「盗難物が何か」などの情報が拡散してしまうと、被害者のプライバシーに関わりますし、「犯行者しか知り得ぬ情報」が漏れると捜査に支障を来す恐れもあります。警察が捜査を開始した後は、事件への対応は基本的に警察の手に委ねる形になります。

7 処分後の情報開示は最低限にし、再発防止に努める

警察の捜査が終わったら、会社側でも加害者に対する懲戒処分を検討します。警察への届け出と同様、「1.被害者の意向」「2.犯罪の悪質性」が検討のポイントになります。被害者が処分を望んでいない場合、その意向を尊重して厳重注意だけで済ませることもできますが、悪質性の高いものについてはこの限りではない、という意味です。

ただし、懲戒処分を与えるにしても、犯行の内容に対して重すぎる処分は無効になるので、「盗んだ額はどの程度か」「反省は見られるか」などを考慮して慎重に処分内容を検討する必要があります。なお、就業規則等に懲戒事由に関する規定があることが大前提です。

処分に関する手続きが終わったら、最後に、二度と同じような事案が起きないよう再発防止に努める必要があります。基本は、

  1. 発生した盗難事件に関する情報開示
  2. 会社として「盗難を許さない」旨の再周知

です。

1.については、犯行者が特定され、犯行者に対する処分が確定した後に行います。ただし、社員に開示する情報は「社内で盗難が発生したこと」など必要最小限にとどめましょう。「加害者や被害者の氏名」「盗難物の具体的な内容」「加害者の処分内容」などはプライバシーに関わるので、基本的に開示は避けるべきです。

2.については、会社の就業規則等の懲戒事由について改めて全社員に説明し、犯罪行為をした場合、ことと次第によっては「懲戒解雇」のような重い処分を下す可能性があることを周知します。

以上(2023年9月作成)
(監修 弁護士 八幡優里)

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上司の皆さん、「Z世代」と話せると楽しいですよ/武田斉紀の『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』(2)

書いてあること

  • 主な読者:会社経営者・役員、管理職、一般社員の皆さん
  • 課題:最近話題のZ世代(1990年代後半以降生まれで会社においては20代前半くらいまで)だけでなく、それ以前の平成生まれ(30代前半くらいまで)の世代と、現在経営や管理職を担っている昭和世代との世代間ギャップが注目されています。それは価値観の違いやコミュニケーションの違いとして表れ、変化や多様性が求められる昨今、日本企業において深刻な経営の足かせとなりつつあるようです。
  • 解決策:まず会社においてZ世代を含む平成生まれと昭和生まれの世代背景を整理しながら、ギャップを埋めるための「価値観の変化」を明らかにします。その上で、筆者が多くの講演や企業研修で紹介してきた『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』を実践的に指南します。

1 なぜ「Z世代」が注目されるのか

「Z世代」という言葉をよく耳にするようになりました。1990年代後半以降生まれで、20代前半から中盤くらいまでを指しています。皆さんの会社の新入社員から20代後半くらいまでの世代です。

ではなぜ彼らが注目されているのでしょうか。理由は3つあると考えます。1つ目は若い消費世代であるということ。一般消費財を扱う多くの会社にとっては「主要購買層の1つ」です。

民放テレビ番組を見ていればわかりますが、ドラマもバラエティーも「Z世代」を意識したものが多く、お年寄り相手の番組はNHK以外ではほんの一握りしかありません。可処分所得も資産においても高齢者のほうが明らかに持っているじゃないかと言いたいところですが、末永い顧客という意味では明らかに若い人に分があります。

実際は若者のテレビ離れは言われて久しく、彼らにテレビを見てもらうために各局は日々頭を悩ませています。人生100年時代がもう少し現実になってくれば、年配者向けの番組も今より増えてくるのかもしれませんが。それでも若い層がもたらす生涯価値(ライフ・タイム・バリュー)は、他の世代への波及効果も含めて甚大と言えるのです。

「Z世代」が注目される2つ目の理由は、会社内において「中心的な働き手」として次代を背負っていく存在だからです。この点を否定する人はいないでしょう。

会社は1年で1歳年を取ります。定年制が延びたとしても、いずれ上の世代は会社を去り、下の世代が主役となって受け継ぐことになります。

つまり、彼らを活かして伸ばせるか否かが、今後の会社の成長力を決定付けると言えるでしょう。

ただここまでは「Z世代」という呼び名を除けば、以前から若手社員に期待されていたことと同じです。

「Z世代」より上の世代の方たちも、かつてはこの2つの意味では注目されてきたはずです。誰もが通ってきた道です。

2 昭和世代と明らかに異なる「Z世代」

さて問題は最後の1つです。それは、彼らが「昭和世代とはかなり異なる価値観を持っている」という点です。時代が移ろえば価値観も移ろうのは世の常ですが、ここ10年ほどで“真逆”と言えるほどに変化しているのです。

その点については第1回でも触れました。おさらいしておきましょう。

30代後半~50代が占める管理職のほとんどは昭和生まれ(1988年まで、大体35歳代後半以上)でしょう。現場を任されている平成生まれ(大体35歳前半まで)、とりわけ20代前半から中盤くらいまでの「Z世代」とは、幼少期から過ごしてきた環境や教育が全くと言っていいほど異なっています。

例えば新入社員が理想とする職場像、上司像はこの10年で大きく変化しています。

昭和世代の上司が育ってきた時の「情熱/引っ張る/厳しい」「活気/鍛え合う/目標の共有」といった価値観は「Z世代」の新入社員にはあまり支持されていません。彼らは「丁寧な指導/褒める/傾聴」「個性の尊重/助け合い」を求めているのです。

3 従来の価値観による指導では、若手社員は育てられない

私は「Z世代」という言葉が出てくる少し前から、変化に気付いていました。ある時、取引先の上司の立場にある方からこんな話を聞きました。

ある日のこと。上司が重要な取引先の社長との打ち合わせに、ベテラン社員を同行させる予定が急遽その社員が行けなくなり、代わりに若手社員を連れて行くことにしたそうです。上司は彼に言いました。「こんなに早くあの社長に会えるなんてラッキーだよ。途中であなたにも話を振るから2~3質問してみなさい。またとないチャンスだよ、よかったね!」と。

すると若手社員は困ったようにこう返しました。「突然そんなことを言わないでください。だったら前日からその会社のことを調べて十分な準備もしたのに。もし失敗したら恥ずかしいし、会社にとっても損失じゃないですか」と。まさかの反応に上司はあっけにとられ、こう告げたそうです。

「チャンスなんて突然来るものだよ。そこで取りに行かない人に二度とチャンスは来ないから!」

上司の言い分はある意味正論です。チャンスは突然訪れることが多いものです。ですが、今の若手社員は褒められて育ち、失敗することに慣れていません。むしろ十分な準備をして備えることを期待されて育っているのです。それを思えば、若手社員の反論も理解できます。

因みに仕事に一生懸命に向き合っていた彼は、前日に言われていれば寝ないでも準備するつもりだったそうです。最後の上司の突き放した言葉は相当ショックだったようで、やる気も上司との信頼関係も失くしてしまいました。

その上司はどのように若手社員を指導すればよかったのでしょう。例えば「あなたの育成のために突然重要な取引先に連れて行って、社長への質問を求めることもあるかもしれないから日頃から準備をしておいてください」「一度私が社長役をやって練習してみましょうか」

そこまでしなければいけないのかと思われるかもしれません。けれども次世代を担う人材に上司たちの時代の価値観を押し付けても育たないのであれば、彼らの価値観である「丁寧な指導/褒める/傾聴」に少しでも寄り添うべきではないでしょうか。

4 なぜ上司が、わざわざ「Z世代」を理解しないといけないのか

会社内において「Z世代」は「中心的な働き手」として次代を背負っていく存在である以上、上司は育成するために彼らが育ってきた時代の価値観を理解する必要があります。

とはいえ50代後半以降の方の中には、「自分はあと数年で定年だし、年長のこちらから寄り添う必要などない。目をつぶってやり過ごせばいい」と考えている方もいるでしょうか。

定年後を「昭和世代」だけで固まって過ごすつもりなら、それで回避できるかもしれません。が、あなたが動けなくなった途端、面倒を主に見てくれるのは「Z世代」以降の人でしょう。

頑固で話の通じない老人として内心嫌われながら最期を遂げるのか。あるいは若い世代の介護士さんや、お孫さんたちに愛されながら穏やかな最後を過ごすのか。

後者でありたいのであれば、やはり若い世代、「Z世代」以降の価値観を理解する必要がありそうです。

5 若い世代、「Z世代」と話せるとシンプルに楽しい

それに、私の体験談から申し上げれば、「Z世代」と話ができると実に楽しいですよ。

私には娘が2人いるのですが、たまたまどちらも「Z世代」です。私は、彼らが「丁寧な指導/褒める/傾聴」「個性の尊重/助け合い」といった、昭和世代の私とはほぼ真逆の価値観の中で育っているのだと、ある時に気が付きました。

以来、個性を認めて伸ばすことを意識し、それぞれの話に真剣に耳を傾けるように心掛けました。親として一方的に説教をするのではなく、多少はらはらしても本人自身が気付くまで我慢して待つ。失敗は本人が一番分かっているので責めたりせず、前向きな言葉を掛け、できるだけ褒めて接してきたつもりです。

結果として2人とも、私とは全く異なる、それぞれが見つけた好きな世界を仕事に選び、社会に出て独立しています。自分が知らない世界にいるからということもありますが、彼らの話を聞いているだけで楽しいし、とても刺激的です。

娘にとって父親は、母親に比べれば思春期以降は遠く疎ましい存在でしょう。けれど私に話せば頭ごなしに否定することも説教することもなく、最後まで話を聞いてくれると分かっているからでしょう。「話したいことがあったらいつでも聞くよ」と言って後は放任していますが、よく日頃の職場の悩みを打ち明けてきます。「聴いて」「教えて」「どう思う」「相談に乗って」と。

もちろん母親に相談することと、父親の自分に相談することは異なるでしょう。でも、そういうものだし、本人がよければそれでいいのです。職場でも同じ。

信頼できる上司がいたとしても、上司に相談したいことと個々の先輩に相談したいことは違います。それでいいのです。そのために先輩たちもいるのですから。

先輩が解決できるなら、わざわざ上司が出しゃばる必要はありません。必要と思えば先輩が本人の許可を得て上司に報告してくれるでしょう。上司は先輩が担ってくれたその分の時間を、上司にしかできない他の業務に向ければいいのです。

若手社員とまだ十分な関係が築けていないという方は、彼らの話をひたすら聞いてあげる「傾聴」から始めてみてください。社会人としての経験の差はあっても、生きてきた世界や趣味、日頃の生活を含めれば一人ひとりが自分とは異なる世界を持っています。そのことを認めて話を聞いてみるだけでも楽しいものですよ。

「Z世代」をはじめとする若い世代は、昭和世代と違い、小さい頃から携帯電話やパソコンといったデジタルに触れ、分厚いトリセツ(取扱説明書)などなくても触っているうちに使いこなせる世代です。SDGsやESG、DEIといった価値観もすんなりと受け入れており、あなたと「世界とのギャップ」も埋めてくれます。

彼らはデジタルネイティブとして、世界の価値観を先んじて吸収する存在として、上司の仕事を助け、チームに刺激をもたらしてくれることでしょう。

上司の皆さんは、彼らの価値観に寄り添って話しかけていったほうが、仕事の上でも人生の上でも、豊かに暮らせそうです。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。次回からは、具体的な『次世代リーダーに必須のコミュニケーション習慣』についてお話ししていきたいと思います。

<ご質問を承ります>

ご質問や疑問点などあれば以下までメールください。※個別のお問合せもこちらまで

Mail to: brightinfo@brightside.co.jp

以上(2023年8月作成)
(著作 ブライトサイド株式会社 代表取締役社長 武田斉紀)
https://www.brightside.co.jp/

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【SDGs】脱炭素だけじゃない。「生物多様性」で中小企業が取り組める活動事例

書いてあること

  • 主な読者:生物多様性の保全、脱炭素化の次のステップに関心のある経営者
  • 課題:自社の活動と生物多様性の保全の関係が見えないため、どのようなことに取り組めば良いのかが分からない
  • 解決策:部門ごとなどの活動に落とし込んで、生物多様性の保全に貢献できそうなものを見つけて取り組んでいく

1 脱炭素の次は「生物多様性の保全」が目標です

環境に配慮した取り組みとして、脱炭素はある程度できたので、次に注目されるテーマにも目を向けたい……

そんな先進的な中小企業に対して、次のステップとしてご提案するのが、

生物多様性の保全

です。気候変動対策と生物多様性の保全は密接に結びついていて、気候変動対策を進めていく上でも、生物多様性の保全・回復が大きな支えになります。

国内でも、一部の自治体では、独自の認証制度や助成金を設けて生物多様性の保全に取り組む企業を評価する動きもあります。そのため、先んじて対応できれば、他社との差異化を図ることができます。

この記事では、生物多様性の保全が必要な背景を踏まえて、具体的な取り組み事例や国が発行しているガイドライン、自治体による制度の紹介など、企業がこれから生物多様性の保全に取り組む際のヒントを紹介します。

2 なぜ、「生物多様性の保全」が注目されるのか?

1)世界的な動き

生物多様性の保全に向けて、2021年6月に開催されたG7サミットでは「30by30(サーティ・バイ・サーティ)」という目標が約束されました。この目標は、生物多様性の損失を食い止め、回復させるために、2030年までに各国で陸と海の30%以上を自然環境エリアとして保全しようとするものです。

また、世界経済フォーラムでは2020年に、世界のGDP(国内総生産)の50%以上(44兆米ドル)は、全ての自然環境、そして生物多様性に高く依存していると報告されています。

2022年12月には、52カ国330以上の企業と金融機関(総収入で1.5兆米ドル以上)が各国の政治リーダーに対し、全ての大企業および金融機関は2030年までに生物多様性への影響と依存度を評価し、開示することを義務付けるよう要請しました。

前述の通り、気候変動対策と生物多様性の保全は密接に結びついており、生物多様性の損失は気候変動に次ぐ深刻な危機であると受け止められています。世界経済フォーラム「グローバルリスクレポート 2023」によると、今後10年間でリスクと考えられる上位10位の項目の中で、生物多様性の損失や生態系の崩壊が4位、天然資源危機が6位に位置づけられています。

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2)日本国内での動き

環境省では、前述の「30by30」達成に向けて、企業、民間団体・個人、地方公共団体などの取り組みで生物多様性の保全が図られている地域を国が認定する制度の「自然共生サイト」を立ち上げました。

認定区は、OECM(国立公園以外などの保護地域以外で生物多様性の保全が図られている地域)として、国際データベースに登録される計画です。

認定そのものは企業の利益には直接影響しないとされていますが、企業が行う生物多様性の保全への貢献などは投資家の判断材料にもなりつつあります。また、自社では土地を持っていなくても、他の地域の自然共生サイトの保全活動に協力する企業・団体などには国が「貢献証書」の発行を検討するとしています。

■環境省「自然共生サイト」■

https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/kyousei/

現状は生物多様性の保全に取り組まないからといって何かしらの罰則があるわけではありませんが、将来的に、生物多様性の保全に取り組まない企業は市場から取り残されるリスクもあり得ます。

では、具体的にどのような取り組みで生物多様性の保全に貢献できるのかを、次章で紹介していきます。

3 生物多様性の保全の取り組み例

1)製品の購入で生物多様性の保全に貢献:木になる紙ネットワーク

環境に配慮した製品を使うことは、業種や業態を問わず、生物多様性の保全に貢献する分かりやすい取り組みです。例えば、一般社団法人の木になる紙ネットワーク(東京都文京区)では、紙製品に関わる調査、認証などを手掛けており、同法人が認証した「木になる紙」シリーズの製品の利用促進を後押ししています。「木になる紙」製品は間伐材が原料となっておりコピー用紙をはじめ、名刺用の台紙やファイル、封筒などがあります。

製品の売上高の一部が原料となった森林の所有者に還元され、森林整備を支援できる仕組みです。例えば、A4サイズのコピー用紙を一箱購入した場合で、約52円が森林所有者に還元され、約20平方メートルの間伐や約9キロの二酸化炭素の吸収に貢献できるとしています。

この製品は中小企業に限らず、官公庁や小中学校にも購入されており、森林所有者への累計還元金額は2億円に上るそうです。

紙製品はどの企業にとっても身近ですし、生き物や自然資源と直接関わりがない企業でも比較的取り組みやすい事例と言えるでしょう。

2)ミツバチ専用の水飲み場で生物多様性の保全に貢献:一言主神社

海外の都市では、建物の外壁に鳥の巣箱や、ハチが住むための穴を作り、生き物が住みやすい環境づくりを進めているところがあるといいます。

国内での類似した事例として、例えば、一言主神社(茨城県常総市)では、ミツバチ専用の水飲み場を設置することで、ミツバチとの共存に取り組んでいます。

参拝客から「ハチが多くて怖い」などの相談を受けたことをきっかけに、ミツバチ用の水飲み場を設置したことで、参拝客とハチの共存を実現しています。水飲み場は長さ30センチほどの竹の空洞にこけと小石を敷き詰め、こけが湿る程度の水を細い竹を使って引き込む仕組みとなっています。

植物の受粉を担い、生態系の維持に貢献するミツバチをこのような形で保護することは生物多様性を守る1つの取り組みと言えるでしょう。

3)取引先の選定で生物多様性の保全に貢献:ボンタイン珈琲

生物多様性の保全は、自社だけの問題に限らず、原材料の調達先といった取引先がどのような活動をしているか把握することも大切です。

例えば、ボンタイン珈琲(愛知県名古屋市)では、持続可能な栽培に配慮した(サステナブル)コーヒーの提供に注力しています。

コーヒー農園と取引する際のポリシーにトレーサビリティー(食品の生産・加工・流通販売までの過程を記録し、製品からさかのぼって確認できるようにすること)だけでなく、その農園が自然環境の維持・保全に配慮しているかどうかを基準にしているといいます。

また、栽培地の自然環境保全について説明するなどの環境教育をブラジルの子ども向けに行い、現地の自然環境を守ることにつなげているそうです。

4)原材料の還元で生物多様性の保全に貢献:ニッシンイクス

植樹などの緑化活動も、生物多様性の保全に関わる大切な取り組みです。

例えば、ニッシンイクス(山口県周南市)では、「森からいただいた広葉樹を、いただいた量だけ森にお返しする」ことを掲げて、広葉樹の持続可能な活用を行う「ikumoriプロジェクト」に取り組んでいます。

このプロジェクトは、北海道産の広葉樹をできるだけ無駄なく効率よく使用したフローリングや壁材を製造販売し、使用した資源量に見合う苗木を北海道の地に再び植樹するものです。

第1期となる2021年12月から2022年6月までの期間では、製品に使用した量に見合う170本分を植樹したとしています。

このプロジェクト以外でも、同社では国産材の活用に取り組んでおり、国産材を有効利用することは健全な森林整備だけでなく、土砂災害の防止や生物多様性の保全など、森林が持つ多面的機能の維持にも貢献できるとしています。

5)地産地消で生物多様性の保全に貢献:日本料理小伴天

地元の食材をその地元で消費する地産地消も、地域の食材を守るという意味合いで生物多様性の保全に貢献できる取り組みです。

例えば、日本料理店の小伴天(愛知県碧南市)では、食材の地産地消にこだわった料理づくりに取り組んでいます。

創業当時と比べて輸送手段が発達したことで、いっときは全国から食材を取り寄せていましたが、顧客からの声をきっかけに、改めて地産地消にこだわった料理づくりを再開したといいます。

地産地消は、消費者にとっては身近な場所から新鮮な食材を得ることができる、生産者にとっては耕作放棄などを防いで地域の食材を継承できるメリットがあります。また、生産地から消費地までの輸送距離が短いため、輸送に伴い発生する温室効果ガスの排出量が削減できるため、環境への負荷を軽減できることも大きなメリットです。

6)中小企業の連携で生物多様性の保全に貢献:湖南 企業いきもの応援団

中小企業が単体で生物多様性の保全に取り組むとなるとハードルが高くなりがちです。そのようなときは、地域の中小企業同士で連携することも一策です。

例えば、湖南 企業いきもの応援団(滋賀県草津市)では、滋賀県湖南地方の中小企業が行政や研究機関と連携し、地元河川である狼川の水質や生物の調査に取り組んでいます。

この調査によって、在来種や外来種の動向を取りまとめて報告することで、県の自然保護施策への貢献や、社員の環境教育につなげているといいます。

地域の中小企業同士で行政や研究機関と連携する形であれば、コストやマンパワーなどの取り組みのハードルを下げ、異業種、同業他社との交流も図れるため、より大きな活動を展開できる事例と言えるでしょう。

4 生物多様性の保全に関する認証制度・助成金

国や自治体の中には、企業のイメージアップにつながる認証制度や助成金など、生物多様性の保全を推進するための支援策を設けているところがあります。皆さんの地域にも支援策があるかもしれませんので、自治体や金融機関に相談してみるとよいでしょう。

1)愛知県「あいち生物多様性企業認証制度」

愛知県内に本社または事業所を置いており、生物多様性に関して優れた取り組みを実践している企業を県が認証する制度です。

生物多様性の保全に貢献する取り組みを行っている企業への認証と、地域への広がりや継続性があるなど、特に優れた取り組みを行っている企業への優良認証の2つの認証区分があります。

認証を受けることで、認証企業マークを自社のPRに利用できたり、企業名が愛知県自然環境課のウェブサイトで公表されたりするといったメリットがあります。

■あいち生物多様性企業認証制度■

https://www.pref.aichi.jp/soshiki/shizen/biodiversity-certification.html

2)滋賀県「しが生物多様性取組認証制度」

生物多様性の保全と自然資源の持続的な利活用に取り組む企業を認証することで、企業の取り組みを見える化し、生物多様性の保全の普及啓発を図るための制度です。認証を受けた企業は認証マークを利用できるだけでなく、企業名が認証事業者として滋賀県のウェブサイトや自然環境に関するイベントなどで紹介されることで、企業のPRやイメージアップにつながるとしています。認証事業者数は、2018年度から2022年度までの期間で企業やNPO法人などの団体を合わせて75者となっています。

■しが生物多様性取組認証制度■

https://www.pref.shiga.lg.jp/ippan/kankyoshizen/shizen/14003.html

3)長崎県「緑といきもの賑わい事業」

希少野生動植物の保護増殖や生物の生息・生育空間の創出といった生物多様性の保全に関係する事業に対して、工事請負費や資材購入費などの経費を補助するものです。中小企業の場合は、上限が30万円、下限が10万円の補助金額となっています。

■長崎県「緑といきもの賑わい事業」■

https://www.pref.nagasaki.jp/bunrui/kurashi-kankyo/shizenkankyo-doshokubutsu/midoriikimono/

5 生物多様性の保全に関する参考資料・関連団体

1)環境省「生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)」

企業の活動と生物多様性の保全がどのように関わるかを業種や部門ごとに示した上で、企業が生物多様性の保全に取り組む際の手順や、実務担当者向けのQ&A集(例:生物多様性の保全に取り組まないとどのようなリスクがあるのか)などが掲載されています。

■環境省「生物多様性民間参画ガイドライン(第3版)」■

https://www.env.go.jp/press/press_01452.html

2)JBIB(企業と生物多様性イニシアティブ)

味の素(東京都中央区)や花王(東京都中央区)、鹿島建設(東京都港区)などの大手企業40社が中心となって構成されている団体です。企業と生物多様性に関する研究・実践、生物多様性保全の取り組みを促進するための提言・啓発などに取り組んでいます。

ウェブサイトでは、会員企業による生物多様性の保全に関する取り組み例の紹介をはじめ、企業がこれから生物多様性の保全に取り組もうとする際のヒント集や、「生物多様性に配慮した企業の水管理ガイド」などを掲載しています。

■JBIB■

https://jbib.org/

以上(2023年8月作成)

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ECサイトを開設・運営するにあたって知っておきたい基礎知識~サイト運営編~

ECサイトをトラブルなく開設・運営するための法律知識」では、民法や消費者契約法に基づき、「利用規約」の重要性などを紹介しました。
続く今回は、ECサイトの運営でも特に問題になりやすい

  • 個人情報の管理
  • 著作権や商標権等の知的財産権の保護
  • メールマガジンの送信

について、要点を分かりやすく説明していきます。

1 個人情報の管理

ECサイトの運営において、ユーザーから収集する個人情報を適切に管理することは極めて重要です。万一、個人情報が漏洩してしまうと、ユーザーの信頼を失うばかりか、損害賠償責任などの法的な問題も生じます。
法律上、個人を識別できる情報であれば、メールアドレスだけでも個人情報となりますので、

  • 個人情報にアクセスできる社員を限定する
  • セキュリティ対策ソフトを導入する

などの措置が必要です。
情報漏洩の原因としては、ウイルス感染や社員の誤操作・誤送信などが多いので、社員へのセキュリティ教育(不審なメールを開かない、リンクをクリックしない、ファイルをダウンロードしないなど)を通じて、リスクを低減していきましょう。

2 著作権や商標権等の知的財産権の保護

通常、ウェブサイトのデザインやそこで使われている画像、ロゴなどには著作権や商標権が発生しています。ネット上にあるとはいえ、ECサイトを作成する際に他社のデザインを模倣したり、無断で画像や文章などを使ったりすることはできません。
よくみられるのは「著作権フリーの素材は完全に自由に使える」という誤解です。著作権フリーといっても著作権が消滅しているわけではなく、

単に著作権者が不特定多数の人に広く使用許諾をしているだけ

です。利用規約を確認してみると、

  • 商用利用を全く認めないケース
  • 商用利用には事前許諾が必要なケース
  • 素材を使う場合に著作者名やサイト名の明記が必要なケース

などの利用条件を定めている場合が多いはずです。以上のように、著作権フリーの素材であっても著作権侵害となることがある点に注意しましょう。
なお、詳細は省略しますが、文章の場合は「引用」が認められるケースもあります。ただし、この場合、引用した箇所が分かるようにする、引用元を明記する、全体として引用した内容が「従」の位置付けである(「主」ではない)といった条件を満たす必要があります。

3 メールマガジンの送信

メールマガジン(以下「メルマガ」)はECサイトの利用を促すための一般的な方法ですが、ここでも注意点があります。例えば、自社商品のセール情報を伝えるような、広告や宣伝のためのメルマガは、特定電子メール法や特定商取引法による規制を受けます。具体的には以下の通りです。

  • オプトイン規制:メールアドレスを取得する際、ECサイトの運営者からメルマガを送信することについて同意を取得する
  • 記録保存義務:同意を取得したことを記録として保存する
  • 表示義務:メルマガを配信する際、定められた内容を記載する
  • オプトアウト規制:メルマガを希望しない旨の連絡を受けたら、配信を停止する

厳密には特定電子メール法と特定商取引法とは、規制の目的や内容、対象などが異なりますが、この記事では規制の概略を分かりやすく知っていただくために、あえて分けずに説明します。それでは、詳しく確認していきましょう。

1)オプトイン規制

メルマガを配信する場合、ユーザーから個人情報を取得する(ユーザー登録してもらう場合を含む)際に、その旨の同意を得なければなりません。ECサイト上で同意を得るための代表的な方法は以下の通りです。

1.チェックボックスを設置して同意を得る
例)☐ 当社からのサービスやセミナーの案内メールの送付に同意します。

ECサイトにユーザー登録をしてもらう際、チェックボックスを設置するのはよくある実装です。この場合、デフォルト(初期設定)でチェックボックスにチェックを入れておくこと自体に問題はありません。ただし、チェックを外さなければ同意したことになる旨を記載し、かつ、容易に認識できるようにフォントサイズを大きくしたり、フォントカラーを変えたりして視認性を高めることが望ましいです。

2.チェックボックスを設置しないで同意を得る
例)下記の「ユーザー登録のボタン」をクリックすると、自動的に当社からのメールマガジン(サービス案内など)にも登録されます。

チェックボックスを設置しない場合、上記のような文言で同意を得ます。この場合も、フォントカラーを変えたりして、同意取得に関する文章の視認性を高めることが望ましいです。

2)記録保存義務

特定電子メール法や特定商取引法では、前述したオプトイン規制でユーザーから同意を得たことの記録を保存することが求められています。
まず、保存内容としては、

  • 同意を得た時期と方法など
  • 同意を得た際の書面、メール、ウェブサイトの画面(フォームなど)

となります。また、保存期間(特定商取引法で定められている期間)は、

メルマガを送信した日から3年間

となります。
実務上、社内の担当部署や連絡窓口となる部署を決めておき、当該部署で保存方法等を検討するような運用が多いと思われます。

3)表示義務

メルマガには以下の情報を表示しなければなりません。

  • 配信者の氏名または名称。ただし、サービスを提供しているウェブサイト名やサービス名などでは、「配信者の氏名または名称」を表示したことにならない
  • メルマガの受信拒否ができる旨
  • 受信拒否の通知をするための配信者のメールアドレスまたはURL
  • 配信者の住所、苦情・問い合わせなどを受け付けることのできる電話番号、電子メールアドレス、URL

一般的には、メルマガの最後に次のような表示をします。受信者(ユーザー)が分かりやすいように、できる限り、本文の最初または最後に記載することが望ましいです。なお、住所、TEL、E-MailをURLのリンク先に記載し、URLだけを記載する方法で問題ありません。

株式会社○○
問い合わせ先
住所:東京都〜〜〜
TEL:00-0000-0000
E-Mail:aa@aa.jp
URL:https://

4)オプトアウト規制

オプトアウトの方法には次のようなものがあります。

  • メルマガへの返信:配信停止を希望する場合は、その旨を本メールにご返信ください
  • URLから配信停止:配信停止は「こちら(配信停止設定ができるURL)」から
  • メールで通知:配信停止を希望する場合は、aa@aa.jpまでご連絡ください

4 その他~特定商取引法の改正について

このほか、改正特定商取引法の施行に伴って、2022年6月1日からECサイトで購入の申込みをする「最終確認画面」において、ユーザーが「注文確定」の直前に以下の各契約事項を簡単に最終確認できる表示が義務付けられました。最終確認画面とは、

ユーザーがサイトの画面内に設けられている申込ボタンなどをクリックすることで、契約の申込みが完了することになる画面

です。要するに、商品の購入ボタンをクリックすると現れる画面です。

1.分量
商品の数量、役務の提供回数などのほか、定期購入契約の場合は各回の分量も表示します。

2.販売価格・対価
複数商品を購入するユーザーに対しては支払総額も表示し、定期購入契約の場合は2回目以降の代金も表示します。

3.支払の時期・方法
定期購入契約の場合は各回の請求時期も表示します。

4.引渡・提供時期
定期購入契約の場合は次回分の発送時期などについても表示します。解約手続との関係があるためです。

5.申込みの撤回、解除に関すること
返品や解約の連絡方法・連絡先、返品や解約の条件などについて、顧客が見つけやすい位置に表示します。

6.申込期限(期限のある場合)
季節商品のほか、販売期間を決めて期間限定販売を行う場合は、その申込期限を明示します。

以上
(執筆 リアークト法律事務所 弁護士 松下翔)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2023年8月28日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

※上記内容は、株式会社日本情報マートまたは執筆者が作成したものであり、りそな銀行の見解を示しているものではございません。上記内容に関するお問い合わせなどは、お手数ですが下記の電子メールアドレスあてにご連絡をお願いいたします。

【電子メールでのお問い合わせ先】
inquiry01@jim.jp

(株式会社日本情報マートが、皆様からのお問い合わせを承ります。なお、株式会社日本情報マートの会社概要は、ウェブサイト https://www.jim.jp/company/をご覧ください)

【朝礼】仕事で判断に迷ったら、自分の原点に立ち返ろう

おはようございます。8月は英語でAugustですが、その語源は古代ローマ帝国の初代皇帝アウグストゥスであることを知っていますか。彼は暗殺された養父で大伯父のユリウス・カエサルの跡を継いで古代ローマを共和制から帝政に切り替えた人物です。なお、紀元前27年から始まった古代ローマ帝国は、後に西ローマ帝国と東ローマ帝国に分かれ、西は476年まで、東は1453年までの長きにわたって続きました。

カエサルの跡を継いだとき、アウグストゥスはわずか18歳でしたが、彼はその時点で「大きな領土の平和を維持するには、共和制ではなく、指揮命令系統が一本化された政治をすべきだ」という養父の信念を受け継いでいました。当時、ローマの領土は、地中海一帯から北は現在のフランス、イギリスにまで広がり、多くの民族が住むようになったため、政治的判断に時間のかかる共和制では、統治がしにくい状況だったのです。

一方で、アウグストゥスは、性急な変革を行って暗殺されたカエサルの二の舞にならないよう、慎重に事を進めました。彼は数々の政敵を倒して確固たる地位を築くも、独裁者として糾弾されないよう、「共和制の復活」と称して与えられていた特権を一度返上します。こうして民衆の支持を集めつつ、一方で自分が政治的影響力を失わない重要なポジションに就き、周囲から反発を受けない形で共和制を指揮命令系統が一本化した体制へと移し替えました。これが帝政の始まりです。

アウグストゥスのやり方を「ずるい」と見るか「したたか」と見るかはさておき、大切なのは、彼が「国の指揮命令系統を一本化して平和を守る」という原点を忘れなかったことです。18歳という若さで政治の世界に飛び込んだ彼がのし上がる上で、この原点への思いが支えになったことは想像に難くありませんし、国の将来的なビジョンが見えていたからこそ、それを成し遂げる確実な方法として、一度特権を返上するなどというからめ手を思い付けたのでしょう。

私にも経営者として仕事をする上での信念がいくつかありますが、その1つに「経営理念を守り抜く」というものがあります。何か判断に迷うことがあったら、「今やろうとしていることは経営理念に沿っているのか」と自問自答するようにしています。経営理念は、代々当社の経営者が受け継いできた志であり、何かあったときに私が立ち返るべき原点なのです。

皆さんにもそれぞれの原点があるはずです。当社に入ったときに、「この会社でこういう仕事をしたい」という志を抱いていませんでしたか。その原点を忘れず、「自分は何のために今の仕事をしているのか」「かつて抱いた志から外れた仕事をしていないか」ということを考えれば、芯がぶれることはありません。変化の激しい時代だからこそ、それぞれの原点を忘れず仕事に取り組んでいけば、アウグストゥスのようにいつか大きなことを成し遂げられるかもしれません。

以上(2023年8月)

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画像:Mariko Mitsuda