書いてあること

  • 主な読者:経営理念を活用して企業をイメージアップし、採用などにつなげたい経営者
  • 課題:経営理念の理想は高いけれど、抽象的なので自社の魅力や特徴を伝えにくい
  • 解決策:経営理念に合致したデータを選んで数値で示す。経年の変化や今後の目標も示せると説得力が増す。対外的には分かりやすいなどの“見せ方”の工夫も重要

1 抽象的な経営理念を数値化して武器にする

「経営理念」のない企業はほとんどないですが、経営理念を社内外にきちんとPRできている企業は少ないです。それは、

経営理念は素晴らしい理想を掲げる一方、抽象的で伝えにくい面があるから

です。そこで、この記事でご提案するのが、

モヤっとした経営理念を数値化して、自社の魅力や特徴の具体的なイメージをつかみやすくする

ことです。そうすれば、

  • 経営理念の対外的なPRに説得力が増し、採用活動などで成果につながる可能性がある
  • 従業員に対して、経営理念に基づいた具体的な行動を促すことができる

ことが期待できるでしょう。

今回は、次の4つのテーマに関する経営理念の数値化の方法と、その数値の“見せ方”の工夫の一例を紹介します。

  1. 地域・社会貢献
  2. 環境保全への貢献
  3. 従業員の幸福
  4. 三方よし

2 地域・社会貢献に関する経営理念の数値化

1)社会貢献活動費

ボランティア活動やNPO法人への寄付など、社会貢献に関する支出額を示すことができます。

1.数値化の方法

経済団体連合会(経団連)は1990年に、経常利益や可処分所得の1%相当額以上を目安に社会貢献活動に支出することを目指した任意団体「1%(ワンパーセント)クラブ」を設立し、2017年度まで調査結果を公表していました(2019年からは「経団連1%クラブ」として経団連の下部組織の位置付け)。調査では、社会貢献活動支出額を、次の2つの合計額としていました。社会貢献活動費を数値化する際の参考にしてくだい。

  1. 各種寄付(金銭寄付(政治寄付を含む)、現物寄付、施設開放や従業員派遣などを金額換算したものの合計)
  2. 自主プログラム(各社が独自またはNPOなどとの協働などにより実施した社会貢献プログラム)に関する支出

2.“見せ方”の工夫

主な活動費はどのような使途で、どのように貢献したかを併せて公表すると、体外的なPR効果が高まるでしょう。くどくならない程度に、支援先の人の感想なども添えると、よりPR効果を発揮するかもしれません。

2)地域内の雇用貢献度

自社の企業活動によって、雇用面で地域にどの程度貢献しているかを示すことができます。

1.数値化の方法

計算式は、

自社の従業員数 / 地域内の総従業員数 × 100

で求められますが、業種を絞って

自社の従業員数 / 地域内の該当業種の従業員数 × 100

で求めることもできます。

地域内の従業員数は、5年ごとに行われる経済センサス-活動調査から引用できます。調査では、市町村別、業種別の従業員数も公表しています。直近の調査は2021年に行われており、2023年3月までに都道府県別、業種別(一部)の従業員数が公表されています。

■経済産業省「経済センサス-活動調査」■

https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/census/index.html

2.“見せ方”の工夫

単純に地域内に占める比率を「%」だけで数値化すると、1%にも満たず、数値に迫力が出ないことも想定されます。例えば、対外的なPRの場合は、「市内の0.67%に当たる労働者を雇用」とするよりも、「市内の労働者の150人に1人が当社の従業員」のほうが印象に残りやすいかもしれません。

3)地域内での購買・調達比率

自社の購買額や調達額のうち、地域内の取引先から購買・調達した割合を数値化することで、地域への貢献度を示すことができます。近年は「地産地消」が注目され、地域経済の活性化が重視されているため、PR効果も高いとみられます。

1.数値化の方法

計算式は、

自社の地域内の取引先からの購買額・調達額 / 自社の購買額・調達額の総額 × 100

で求められます。

2.“見せ方”の工夫

自社の地域の定義を同一市町村に限定すると、どうしても比率が低くなってしまいます。同一都道府県にまで地域を広げて数値化するとよいでしょう。

4)地域に対する納税額

都道府県や市町村への納税額を公表することで、地域の住民サービスの向上への貢献を示すことができます。

1.数値化の方法

企業は、資本金や従業員数、法人税額や所得額などに応じて、都道府県や市町村に法人住民税や法人事業税を納税しています。納税額そのものの公表が難しければ、納税額の伸び率を示してもよいでしょう。

2.“見せ方”の工夫

納税額を、地元の市町村での特定の支出額と比較してみるのも一策です。例えば、子育て支援に力を入れている企業であれば、自社の納税額が、地元の市町村の小学校の「就学援助制度の○人分に相当する額」といった表現を加えると、地域への貢献度を実感してもらいやすくなるかもしれません。

3 環境保全への貢献に関する経営理念の数値化

1)二酸化炭素(CO2)・温室効果ガス排出削減量

地球温暖化や気候変動問題の要因とされているCO2・温室効果ガス排出の経年の削減量を数値化することで、環境保全への貢献度を示すことができます。

1.数値化の方法

CO2や温室効果ガスの排出量の算出方法は環境省が公表していますが、やや複雑ですので、まずは電力使用量からCO2排出量を算出して、経年の変化を数値化することをお勧めします。計算式は、

(電気使用量 - 比較年の電気使用量) × 契約している電力事業者の排出係数

で求められます。電力事業者ごとの排出係数は以下のウェブサイトに掲載されていますので、ご参照ください。

■環境省「温室効果ガス排出量 確定・報告・公表制度 電気事業者別排出係数一覧」■

https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc

なお、企業活動による全てのCO2・温室効果ガス排出削減量を数値化したい場合は、環境省の以下のウェブサイトをご参照ください。

■環境省「温室効果ガス総排出量 算定方法ガイドライン」■

https://www.env.go.jp/policy/local_keikaku/data/guideline.pdf

■環境省「温室効果ガス排出量 確定・報告・公表制度 算定方法・排出係数一覧」■

https://ghg-santeikohyo.env.go.jp/calc

2.“見せ方”の工夫

林野庁のウェブサイトによると、36~40年生のスギ1本あたり(1ヘクタールの森林に1000本のスギがあると想定)、年間約8.8キログラムのCO2を吸収すると推定されています。CO2削減量を「スギ○本分に相当」などと表現すれば、削減効果をイメージしやすくなるでしょう。

2)再生可能エネルギー利用比率

太陽光・風力・地熱・中小水力・バイオマスといった再生可能エネルギー(以下「再エネ」)をどの程度使用しているのかを数値化することで、環境保全への貢献度を示すことができます。

1.数値化の方法

再エネを利用するには、自社で再エネの発電施設を設置する方法もありますが、小売り電力事業者との契約について、再エネを電源としたプランに切り替える方法もあります。電力事業者によっては、プランの選択によって再エネの割合を決めることも可能です。無理のない範囲で、どれだけ再エネに切り替えるかを決めましょう。

再エネを提供している事業者(再エネを導入している自治体や事業者も含む)は、環境省の次のウェブサイトで紹介しています。

■環境省「再エネスタート 自治体・事業者等の取組み一覧」■

https://ondankataisaku.env.go.jp/re-start/list/?utm_source=re-start&utm_medium=howto05&utm_campaign=2022cc&utm_term=re-start&utm_content=howto05

2.“見せ方”の工夫

前述のCO2削減量と同様に、再生エネの利用に伴うCO2の削減効果を、スギの本数などで示すことができます。

3)環境保全のための投資額

環境保全のための投資額を数値化することで、環境保全への貢献度を示すことができます。

1.数値化の方法

環境省の「環境会計ガイドライン2005年版」では、「環境保全コスト」について、「環境負荷の発生の防止、抑制又は回避、影響の除去、発生した被害の回復又はこれらに資する取組のための投資額及び費用額」と定義しています。

具体的には、自社の事業領域では、

  • 地球温暖化防止や省エネ
  • 資源循環(産業廃棄物処分も含む)
  • 環境保全につながる製品などの研究開発コスト
  • 通常の財やサービスの購買・調達額と、環境保全機能を付加した財・サービスの差額

などが該当します。また、自社の事業領域の他にも、

  • 社外での環境美化や環境保全に取り組む団体や地域住民などへの寄付・支援

なども含まれます。

■環境省「環境会計ガイドライン2005年版」■

https://www.env.go.jp/policy/kaikei/guide2005/guide2005.pdf

2.“見せ方”の工夫

前述の社会貢献活動費と同様に、主な投資額はどのような使途で、どのように貢献したかを併せて公表すると、対外的なPR効果が高まるでしょう。

4 従業員の幸福に関する経営理念の数値化

ここで示す数値化の例は、いずれも経理や労務などの担当者が把握できる数値ですので、項目だけを紹介します。

1)従業員への待遇

福利厚生費、平均給与水準(業界平均との比較など)、年間休日数

2)従業員の働きがい

従業員1人当たり生産性、離職率、平均勤続年数

3)従業員の成長への貢献

従業員の教育費(従業員の自己啓発活動への補助も含む)

4)従業員の多様性

男女比率、各年代の比率、最年少から最高齢の従業員の年齢差

5 三方よしに関する経営理念の数値化

社会への貢献と自社(従業員)への貢献はすでに紹介しましたので、ここでは顧客や取引先への貢献に絞って紹介します。

1)顧客満足度、再購入意向度

消費者向けの商品・サービスの広告でもよく示されている数値です。顧客や取引先からの、企業や商品・サービスに対する依存度、信頼度の高さから、自社の存在価値を示すことができます。

1.数値化の方法

一般的に、顧客や取引先にアンケートをする方法が使われています。

2.“見せ方”の工夫

前述したように、消費者向けの広告でも使用されている手法ですので、一般にもなじみのある数値といえます。それだけに、数値を「見る目」も養われていますので、数値だけでなく、調査方法などにまで留意すべきでしょう。調査を行うのは自社ではなく、多少コストがかかっても外部機関に依頼し、数値の信用力を高めるべきかもしれません。

2)平均取引継続年数

付き合いの長い取引先が数多くいるということは、自社が、取引先にとってなくてはならない存在であり続けているということを意味しますので、自社の存在価値を示すことができます。

1.数値化の方法

計算式は、

各取引先との取引継続年数 / 取引先の社数

で求められます。

2.“見せ方”の工夫

商品・サービスによって寿命が異なりますので、自社で最もロングセラーとなっている商品・サービスに限って、取引継続年数を数値化するのも一策です。この場合は、数値を示す際に、商品・サービスを限定していることの断り書きが必要になります。

以上(2023年7月作成)

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